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老詩人に幕は降り

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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●『村』
 此処では重い足枷をひとりひとりが墓まで引き摺りて
 娘たちは望みも恋も心にはぐくむことさえできず
 情け知らぬ支配者の気まぐれに花散らす
 老いゆく父の支えになるはずの息子たちはあばら家から攫われ
 奴隷の群に入れられる

 嗚呼、夜がこんなに永い
 朝は何処へ消えたのだろう
 歩みし道を振り返れば 其処もまた闇に閉ざされているのだ

●黄昏
 雪の中を、亡者の群れが追ってきている。

 其の知らせが齎されると、ぼろ馬車の中で身を震わせていた人々は瞳を絶望の色に染めた。彼らはヴァンパイアに支配されし故郷を捨て、山をひとつ越え一昼夜逃げ続けていた。
 向かう先の領地ではつい先日、何処からか勇士たちが現れて吸血鬼を滅ぼし、圧政から解放してくれたと聞く。
 其処まで辿り着ければ……そう提案し、此処まで彼らを導いてきた賢き老詩人は道すがら体調を崩し、伏せっていた。傍らには痩せぎすの孫娘がぼろを纏い、座っている。虚空を見つめ、どこか浮世離れした孫娘はまるで何処かへ魂を置いてきてしまったかのようで、感情の窺えない虚ろな瞳でぼんやりと人々を見つめていた。
 孫を案じ視線を巡らせながら、老詩人は今ひとたび身を起こす。喘鳴の合間に声がようやく漏れる。

「わしを、置いていけ」

 亡者たちの気を引き、時間を稼ごう。
 人々は顔を見合わせ、……孫娘は彫像のように無表情に其れを見ていた。

●グリモアベース
「死兆星というものがございます」
 ルベル・ノウフィル(星守の杖・f05873)が床に膝を付き、猟兵を見上げていた。
「老詩人の目は確かに死兆星を視ているのでしょう。僕が予知したのは、彼の死に際に現れるオブリビオン……、幻想術師『パラノロイド・トロイメナイト」

 ルベルは説明する。
「かのオブリビオンは、求められるがままに相手に眠りを施す異形」
 異形は、眠り姫にかけられる魔法の如く、死の運命にある者に醒めない眠りを齎す異形である。眠りとは、文字通りの眠り。生命を奪わず、ただ眠らせるのだ。
 異形は、『せめて最期は安らかなれ』と、救済を求める者の前に現れる。
 眠りが必要だと判断している間は邪魔者を排除しようと攻撃をしてくる。だが、眠りが不要である事を納得させれば自ら骸の海へと還ることすらあるという。

 ルベルは囁いた。
「ダークセイヴァー。人類は100年ほど前にすでに闇の勢力に敗北を喫しています。村や領地では圧政が敷かれ、人里離れれば魔獣や異形が犇めいている世界。
 なれど、人々は其の世界の片隅で身を寄せ合い、温もりを分け合い……、
 まだ、生きているのです」

 ルベルは静かに頭を下げた。
「どうか、亡者の軍団に襲われようとしている人々をお救いください。
 僕は皆様と共に戦うことができませんが、馬車の近くへと皆様を転移させましょう。
 人々を、ひとりでも多く、助けてあげてくださいませ」

 ダークセイヴァー出身の人狼は集めた情報のすべてを公開する。
「一般人が馬車の内外に計12人います。うち2名は民にヴァンパイアに屈せぬ精神を説き続けてきた老詩人アレクサンドルと感情の乏しい5歳の孫娘、ゾフィー。
 馬車を引くのは痩せ衰え疲労した2頭の馬……走る力はもうありません。
 彼らは北の雪山を越え、現在はまばらに生えた林の中、未舗装の道をクッションの無いぼろ馬車で南へと向かっています。
 南には圧制から解放されたという噂の領地がありますが、噂が事実かどうかは不明です。また、辿り着いた際に難民として受け入れてもらえるかどうかも不明です。
 食糧や水は乏しく、人々は満足に栄養の摂取ができていません。老詩人以外にも体調を崩している者が何人かいます。
 そして、北方からはヴァンパイアが放った追手の群れが迫っています」

 沈黙。

「難しい状況です。
 後味の悪い結果になる可能性もございます。
 僕は皆様に強くお願いすることはできません。ただ、」

 ……もしも依頼を受けてくれるなら、人々の心に希望を届けて欲しい。

 そう呟くと、ルベルは猟兵を現地へと導くのであった。


remo
 おはようございます。remoです。
 初めましての方も、そうでない方もどうぞよろしくお願いいたします。
 今回はダークセイヴァーの世界での冒険です。

 1章は馬車の近くに転移されたところからスタートします。
 2章は集団戦、3章は異形がやってきます。
 プレイングは自由に書いてくださいませ。

 キャラクター様の個性を発揮する機会になれば、幸いでございます。
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第1章 冒険 『反逆者の手引き』

POW   :    護衛として付く、見回りをする。

SPD   :    馬車を改造する、人々を運ぶ。

WIZ   :    安全な新天地を探す、人々を宥める。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 老アレクサンドルが生まれた時、すでに人類は闇の勢力に敗北していた。
 だが、親世代は光ある時代を知っていた。彼らはアレクサンドル少年の頭を撫でては『いつか闇を追い払ってやる』と語っていたものだ。
 あれから何年が過ぎたことだろう。
 年月が過ぎるにつれ人々は疲弊し、心は折れていった。

 晨星は落落とし、鴻爪は雪泥に遺らず。

 四季がひとつ巡るたび見知った顔が消えていき、希望のない現実が当然のものとして受け入れられていく。心は折れていくのだ。

 アレクサンドルは人々に闇の理不尽さと本来の人類のあるべき姿戻るべき世界の在り方を説き、支配に抗う心を鼓舞し続けてきた。
 其れは、永久に訪れぬ雪の果てに夢を見るよう説くにも似て、彼は思うようになった。己が永き戦いに終焉を。
 彼には人々に示すべき自己の姿があった。彼は折れた心の内を隠さねばならぬ。彼の心はすでに死による安寧をこそ救いと考えるまでに達していた。
 だが、最期までアレクサンドルは闇に折れぬ心であった、そう思わせ死なねばならぬ。
 顔を見合わせる人々の間を昂然と顔をあげ、苦しい吐息の下でもう一度言おうとした。

 と、其の時。


 馬車の外で騒ぎが起きた。
リーヴァルディ・カーライル
…事前に大量の水や食料、温かい毛布等
必要な物資を【常夜の鍵】の異空間に入れておく

…警戒されないよう武装せずに馬車に近づく
自分達が猟兵という吸血鬼や怪物を討つ者である事、
亡者に狙われているこの馬車を救いに来たことを告げ、
【常夜の鍵】から物資を取り出して皆に配り信頼を得る

…信頼を得られたら体調を崩した者の治療を試みる
救助活動で培った観察眼で患者の症状を見切り、
重体の者から順に同意を得た上で【限定解放・血の聖杯】を使用
自身の生命力を吸収して力を溜めた血を一滴、患者に垂らす

…私は聖なる者では無い
彼らが起こす奇跡を、この呪われた力で模倣するだけ…
…それでも生きたいと願うなら。私の治療を受け入れて欲しい


宮落・ライア
うむ!とりあえず毛布幾つか持参して馬車に投げ入れるかな!
次は馬の代わりになって【ダッシュ】【怪力】で馬車を引くのだよ!
はっはー馬よ馬ー。がんばったなー。
あ、そだ。ボクはフードのついたローブを着ていくぞ。
【侵食加速】の代償で流血引いてもばれない様にね。
【激痛耐性】もあるぞ。

あーっはっはっはっはっは!いざ行かん新天地へ!
噂に希望を見出したんだ。存分に希望を抱いてよいぞ。

んーでもこの噂の真偽が気になるー。
ま!それで止まる訳にも行かないからゆくぞゆくぞ!


トリテレイア・ゼロナイン
避難民の窮状、騎士と振舞うものとして見過ごすわけにはいきません
彼らの姿を見かねて助太刀をしに来た遍歴の騎士として「礼儀作法」で信用を得て護衛に付きましょう

まずは馬を休ませないといけませんね。私が「騎乗」する機械馬に馬車を曳かせ、馬の負担を減らしましょう。機械の「怪力」で速度も多少は上がるはずです

休憩を取るときにでも避難民に自分達(猟兵)が来たからには安心してくださいと「鼓舞」して精神の安定を図ります

特に弱っているアレクサンドル様と孫娘のゾフィー様へは、騎士道物語から模倣した「優しさ」を込めて「手をつなぎ」勇気づけなくては…

避難民達の身体のケアは口惜しいですが他の方にお任せするしかありませんね…


有栖川・夏介
※アドリブ歓迎

護衛をします。
罪のない者の命を奪うことは、できるだけしたくない。
助かる命があるのなら、1人でも多く助けたい。
「あなた方が生きたいと願うなら、私はいくらでも力になります」

周囲を警戒しつつ、体調を崩している人たちの看病をします。
昔勉強した【医術】が、少しでも役に立つとよいのですが……。

それにしても、孫娘のゾフィー、こんなにも感情に乏しいとは思わなかった。
俺もあまり表情が変わらないが、5才の少女でこの状態はつらいな。
彼女が笑って過ごせる世界にしたいものですね……。


ラスベルト・ロスローリエン
時として生の道は死の道より峻厳かもしれない。
それでも、道半ばで消えゆく命のともし火を見捨てるなど……

◇WIZ 自由描写歓迎◇
御老体を始め皆に“四季の雫”を振舞い【コミュ力】と共に励ます。
一口で【勇気】が心の芯まで暖めてくれるからね。
表情から彩りを失った幼子には僕の外套を肩に掛けよう。
『どうか死告の星ではなく生寿ぐ星を仰ぎ見て欲しい。南天に瞬く竜骨の座――南極星を』

移動を再開したら杖に光を灯し徒歩で先行き先導役を務める。
少しでも楽な道を辿れるよう林の木々に尋ねてみようか。
亡者の襲撃に備え人々が身を隠せそうな場所も予め【地形の利用】で探しておきたい。

さあ、進もう……険しくも命繋ぐ南天に伸びた道を。



●先触
 男は昏い空を不安げに見上げ、遅々として進む馬車を見守る。
 吐く息が白い。
 村を出た時2台あった馬車の1台は北山ではぐれ、先刻、馬に乗り1人が奇跡的に追いつき、合流を果たした。その者は震えながら語った。

 後続の馬車の者たちは亡者に襲われ、全滅した。
 殺された者は新たな亡者となり、追手の群れに加わったのだ、と。

 最後まで告げると、彼はそのまま絶命した。

●接触
 今にも背後に亡者の群れが見えるのではないか。
 そうでなくても、人里離れた地は異形と魔獣が蔓延る危険地域だ。左右の林から突然何が出て来るかわからない。
 処刑台の順番を待つような気分で男はかじかんだ手で鍬を握る。全く生きた心地がしなかった。

 と、足音がした。
 ビクりと心臓が跳ねる。
「何者だ!」
 誰何する。声は怯えの色を隠そうとし、けれど隠しきれない。

 が、

「猟兵だぞ!」
 返ってきたのは、場違いに明るい声で胸を張る声だった。
 フーデッドローブ姿の宮落・ライア(英雄こそが守り手!(志望)・f05053)である。ライアのユーベルコードには稀に流血を伴う技があるための配慮であった。

「……!?」
 彼は猟兵の存在を知らない。そのため、突然現れた娘に戸惑うばかりであった。邪悪な気配はしない――だが、人ならぬ者は見た目では判断できぬ。
 油断さえ近づいてきて本性を顕す異形かもしれない。鍬を握る手に力を籠め、警戒を強める。其処へ、もう1人少女が闇の中から進み出た。リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)だ。

「私たちは、猟兵――闇の眷属を討つ者」
 端的に伝えられれば、猟兵の存在を知らぬ男も若干警戒を解き、目を瞬かせた。年若き女2人は武器を持っていない。果たして異形か、それとも。
 男の脳裏によみがえるのは、南の地を救った『猟兵』と名乗る者たちの英雄伝。噂では彼らは突然、困窮する民の前に現したのだという。
 今、まさに。自分の目の前にいる者のように。

「闇の眷属を討つ、だって?」
 問えば、リーヴァルディはコクリと頷いた。
「……ん。他にも、仲間がいる。皆あなたたちを救いにきた」

 後ろから仲間たちが姿を見せた。

(避難民の窮状、騎士と振舞うものとして見過ごすわけにはいきません)
 騎士の装いをしたウォーマシントリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)はなんと機械仕掛けの白馬に騎乗している。
 颯爽と馬から降り、巨躯を折り曲げ膝を着き、恭しく一礼する。

(罪のない者の命を奪うことは、できるだけしたくない。
 助かる命があるのなら、1人でも多く助けたい)
 有栖川・夏介(寡黙な青年アリス・f06470)は馬車の中へと視線を向けた。
「医術の心得があります。
 あなた方が生きたいと願うなら、私はいくらでも力になります」
 瞳は、人を救う意思を何よりも強く伝えていた。

 古木の杖に光を灯したラスベルト・ロスローリエン(灰の魔法使い・f02822)が三角帽子を取り挨拶した。先端の尖った耳があらわになる。
「此処に揃いし者は実力者揃い。亡者の群れを恐れることはないよ」
 安心するよう言いながら、彼らは馬車を止めさせる。そして、中を覗き込む。

 ライアは持参した毛布を馬車に投げ入れた。
「毛布いっぱい持ってきたよ!」
 ライアは他の仲間たちに中を任せ、外を警戒しつつ馬へと歩み寄る。
「はっはー馬よ馬ー。がんばったなー」
 ライアは馬に手を伸ばす。たてがみがざらりと手にまといついた。痩せた馬の首を撫でると落ちくぼんだ目がそっと伏せられた。睫が長い。短いいななき。
「もう大丈夫!」
 馬の首に顔をうずめ、ライアは笑う。

 微かに震える体は温かい。
 吐く息は白くふわりと大気に広がり、薄く溶け消え。
 疲労し、震えながら雪の中を今、生きている。

●旗を振る者
 夏介は昔は医者を目指した身であった。
「症状の重い者が、先」
 リーヴァルディが囁く。夏介は頷いた。
(この人たちを)
 何もしなければ、助けられない。手を尽くしても、そうかもしれない。
 判断ひとつ、選択ひとつで生命は掬い手から零れる。
(助けられるか)

 夏介は馬車の中、壁にもたれるようにしている人々を順に診ていく。目をあわせ、体調を聞きながら脈と呼吸数を診ていった。
 アレクサンドルの腕も取り、脈を測る。欠損。同時に胸元を確認し、呼吸数も測った。心音も取る。夏介はちらりと仲間を見る。表情には出さないが、其の目が厳しい状態を語る。

 リーヴァルディは宝石めいた瞳を眇め、無言で頷いた。そして、呟く。
「……限定解放。傷ついた者に救いを……」
 瞬間的に吸血鬼化する。周囲の人々が目を瞠った。
「『血の聖杯』」
 生命力を凝縮した赤い血液を見せた。

「……私は聖なる者では無い。
 彼らが起こす奇跡を、この呪われた力で模倣するだけ……」
 死にゆかんとしていた者は呆然と其の姿を見つめた。

 少女は、死を齎す闇のような姿で。
 ……だが。
 少女は、彼を生かすと言っている。

 其れは彼にとって、悪魔の囁きにも思え。
 あるいは、天の導きのようにも思え。

「……それでも生きたいと願うなら。私の治療を受け入れて欲しい」
 リーヴァルディは真摯な瞳で答えを待つ。
 アレクサンドルはしばし躊躇った。

「何を迷っているんだい? 早く」
 促すのは傍にいた中年の男だ。
「プーシキンさん、あんたがいてくれないとあたしたち困るよ」
 プーシキンとはアレクサンドルの姓であろう。同じくアレクサンドルを励ます様子を見せるのは、中年の女だった。

 アレクサンドルは受け入れた。症状が若干改善した様子。
 夏介は診断する。まだ予断を許さない。

「時として生の道は死の道より峻厳かもしれない。
 それでも、道半ばで消えゆく命のともし火を見捨てるなど……」
 穏やかな声と共に爽やかな果実の香りが仄かに馬車の中を充たした。
 視線が集まる。ラスベルトが透き通るような清涼な水を器に注いでいた。
 そして、馬車の中にいる全員へと配る。
 只の水ではあるまい――彼を知る猟兵は固唾を呑み見守る。
「森の民秘伝の果実水だよ」
 エルダールは微笑んだ。
 四季の雫だと言い、差し出された果実水を馬車の内外にいる人々が飲めば、勇気が湧きあがり心の芯まであたたまるよう。

 和らぐ空気の中、トリテレイアは窮屈そうに馬車の天井を気にしながら、アレクサンドルへと歩み寄った。
「私は旅の騎士でございます」
 アレクサンドルに一礼してみせれば、瞳が驚き瞠られた。其れは、まるで御伽噺の中に登場する空想上の勇士が実体を得て己が前に姿を現したかのような衝撃だった。
「どうか死告の星ではなく生寿ぐ星を仰ぎ見て欲しい。南天に瞬く竜骨の座――南極星を」
 灰の魔法使いもまた歩み寄り、アレクサンドルへと語りかける。
「ヴァンパイアの追手は、私たちがすべて滅ぼす」
 リーヴァルディが宣言した。

「此れは、現実なのだろうか」
 老人は息を吐くように呟いた。
 彼は、長い人生の中で民へと支配者への不羈の精神を説き続けてきた。
 そして雑草のように摘み取られる民を見てきた。
 雪が降れば人は凍死した。
 病を得れば人は弱死した。
 彼は旗を振りながら敗北を積み重ねてきた。
 今も逃避行の中で多数の生命が失われ、追い詰められていた。

「果たして、現実なのだろうか」
 老人は少し息を弾ませ、再び、呟いた。

 孫娘のゾフィーは壁際に置物のように固まっている。
 微動だにしない姿へ騎士は鋼の手を差し伸べた。
 ぼんやりとした目が何かを探すように手を見つめた。そして、騎士の顔を見上げる。神秘的な緑のセンサーが穏やかな光を湛えていた。
 無機質な光。だが、不思議とあたたかだ。

 騎士はもう片方の手でゾフィーの手を取った。そして、差し伸べた手へと導き、重ねてみせる。鋼の手はひんやりと冷たい。孫娘は何も言わなかった。
 ラスベルトが孫娘の肩にやわらかに濃灰の外套を掛けると、やはり何を考えているかわからない瞳でぼんやりと其れを見る。

「孫娘は、心を閉ざしてしまっているのです」
 若干息を落ち着かせながらアレクサンドルが言った。
「無理もない。この娘は、生まれてからずっとこの絶望の世界しか知らないのだから……哀れなことです」
 詩人は世界を絶望の2文字で表した。
「……っ」
 そして、慌てて周囲を窺う。気にした様子の者がいないと知ると、安堵したようだった。
(自分の発言が民に及ぼす影響をかなり意識しているようだ)
 ラスベルトは洞察する。

●一夜
 夜の帳が降りる。

 馬車の外では、簡易的な野営の拠点が設置されていた。
 リーヴァルディが自らの血液で作成した魔法陣から大量の水と食料、そして温かな毛布などの必要物資を提供すると、トリテレイアとライアが其れを運ぶ。物資を元に眠る場所を設置し、火も起こす。

 馬車の中では、ラスベルトが灯を提供し、夏介の診察が続いていた。夏介はアレクサンドル、そして熱のある4人と熱のない2人を馬車で寝かせ、他の人々を降ろし、外の寝所で眠ってもらうよう頼みこんだ。

 馬車から降りる人々は不安げな顔で周囲を見渡す。今にも木陰から闇の生き物が飛び出してくるのではないか、と。
「安心してください、わたしたちは闇の生き物の討伐経験が豊富なのです」
 トリテレイアが鼓舞する。其の言葉は事実であるがゆえに説得力を伴った強い響きを持っていた。
 リーヴァルディも頷く。
「必ず」
 短い言葉だった。
 だが、其の響きは神聖な誓いの響きを伴っていた。
 人々は少女の纏う気配に気づいていた。

 闇と戦う。滅ぼす。
 強い意志。
 其れは、闇を一条確かに照らし出す強き光にも似て。

 食事ができる者には食事が振舞われる。
 猟兵たちもまた、順に焚火を囲み食事を摂った。

 夏介は簡易的焜炉を使い豊富な水を次々と沸騰させていく。500ccにつき4.5gの割合で食塩を溶かし、配った。
 馬車の入り口には軽く毛布を掛けた。
「排泄はそちらです」
 専用の排泄場所も設けた。
「飲むと、排泄が増えます。
 皆さんの仕事は飲み、排泄をし、それ以外は体を横にして目を閉じて休むことです。眠れなくても目を閉じ、体を休めてください」
 人々は素直に従った。

 夏介は内外を出入りし、夜を過ごす人々の様子を見守る。
 炎を多用し、毛布もふんだんに使い、人々のまわりの空気をなるべく温めた。
(それにしても、孫娘のゾフィー、こんなにも感情に乏しいとは思わなかった。俺もあまり表情が変わらないが、5才の少女でこの状態はつらいな)

「彼女が笑って過ごせる世界にしたいものですね……」
 魂を持たぬ人形のように変わらぬ表情のゾフィーを思い、夏介は心をいためた。

●馬車行
 翌朝、元々症状が軽かった者たちはほぼ快癒した。
 悪化した者はいなかった。
 猟兵たちは相談し、移動を決定する。

 トリテレイアが馬車に機械馬をつないだ。
「ロシナンテⅡ号です」
 紹介する。
「ボクも負けないぞ!」
 ライアは謎の対抗意識を燃やしていた。そして馬のハーネスを外すと、なんと自分の体にぐるりと装着した。
「な、なにを」
 ぐい、と軽々引いて見せる。馬車が動いた。どよめきが起きる。

「あーっはっはっはっはっは! いざ行かん新天地へ!
 噂に希望を見出したんだ。存分に希望を抱いてよいぞ」
 内心で南方の地の噂に一抹の不安を感じつつ、ライアの声はひたすら明るい。
 常夜の世界にひととき異世界の真昼の太陽が気まぐれに遊びにきたような、そんな笑い声であった。
 孫娘が其の姿に幽かに笑みを零したように見えて、ライアは手を振った。
「……」
 一瞬の沈黙。
 和やかな空気が気まずく固まった。
「あの娘は、いつもああなのです。悪気があって無視しているわけでは」
 そっと呟く者がいた。其れは猟兵への無礼を詫びるような申し訳なさそうな声であった。
「んー……、ま! ゆくぞゆくぞ!」
 ライアは明るく声をあげた。

「移動を再開する。ただし、ゆっくりと」
 馬車を引くライアとロシナンテⅡ号の隣を馬車を引かぬ馬がのんびりと歩む。
 馬車の中には未だ回復しえぬ者と休息が必要な者を入れ、歩ける者は外を歩く。外側を守るように猟兵たちが護衛する。
「さあ、進もう……険しくも命繋ぐ南天に伸びた道を」
 先導する若きエルダールは時折、林の木々へと声をかけながら道を選んでいたがやがて足を止め、背後の馬車と、馬車周りの人々を見て少し考える様子を見せた。
「どうも、亡者の群れが追い付いてくるようだ」
 木々の間を東に抜ける。岩場に出た。
「此処で迎え撃つ。人々には戦いが終わるまで、あちらに避難してもらおう」
 示す先には岩場の裂け目のように口を開いた自然の洞窟。
「私たちは此処で亡者を迎え討ちます」

 猟兵たちは洞窟を背に布陣し、戦いの準備をする。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『篝火を持つ亡者』

POW   :    篝火からの炎
【篝火から放たれる炎】が命中した対象を燃やす。放たれた【赤々と燃える】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD   :    篝火の影
【篝火が造る影に触れた】対象の攻撃を予想し、回避する。
WIZ   :    新たなる亡者
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【自分と同じ姿の篝火を持つ亡者】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●昼過
 空は厚い雲に覆われていた。時刻は昼を過ぎ、すでに仄暗い。
「来た」
 声があがる。

 緩慢に。
 左右にゆらり、ゆらり。
 頼りなく揺れながら。
 のたり。のたり。
 泥のようにゆっくりと。
 木々の隙間から次々と、次々と。
「多いぞ」
 誰かが呟く。

 夥しい数。染みのように湧き出て視界を埋め尽くすほどに姿を見せる幽鬼の影。
 篝火が哀しく揺らめいていた。

 洞窟の入り口から孫娘がそっと顔を覗かせた。
 無言で見つめる瞳は、感情が見えない。

 背後には、民を隠した洞窟。
 圧倒的な数の亡者たちを相手に、防衛戦が始まる。
リーヴァルディ・カーライル
…ん。本当は【常夜の鍵】に避難させた方が良い
だけど“彼ら”を遺していく訳にはいかない
…皆を危険に晒すのは私の我侭。絶対に護り徹す…

事前に【常夜の鍵】を装備と洞窟付近に刻み
呪詛で出入口が繋がるよう設定しておく

敵の行動を見切り攻撃を回避するように行動
存在感を消す魔力を溜めた短剣を怪力任せに投擲し
大鎌の刃だけを【常夜の鍵】を通して短剣から出して
敵の傷口を抉り生命力を吸収する2回攻撃で仕留める

…これでもう迷い出る事は無い
埋葬は全てが終わってからになるけれど…安らかに眠って

倒した死体は【常夜の鍵】で回収し短剣だけ取り出す
第六感が避難民の危険を感じたら即座に洞窟まで転移

…まだここは危険。それでも、見たい?


レイチェル・ケイトリン
おてつだいするね。

ほかのひとのうしろで念動力と吹き飛ばしの技能でサイコキネシスをつかって敵を攻撃してふっとばすよ。

みんなの影をふまないように念動力でちょっとういて、わたしの攻撃をよけられないようにするよ。

敵からの炎もふっとばしてふせぐね。
ほかの猟兵さんへの炎もかばう技能もつかってふせぐよ。

やっつけられた敵がいたら、その体とか灰とかはサイコキネシスでとおくにはこんじゃうよ。
「亡者が篝火を突きつける」と起き上がるみたいだからそれがとどかないとこにね。

死の星、お年寄りだもの、きにしなくていいとおもうの。

ルベルさんはね、天寿をまっとうしたやすらかなねむりを予知したんだから。

それをまもるためがんばるよ。


トリテレイア・ゼロナイン
敵の数が多い…洞窟に陣を敷くより此方から打って出たほうが良いかもしれません

機械馬に「騎乗」し馬上槍と盾を構えての突撃(ランスチャージ)を敵集団に行います
放たれる炎を「盾受け」「武器受け」でいなし、「怪力」で振るう槍と馬の「踏みつけ」で蹴散らします

敵集団の中央にたどり着いたら馬から飛び降り、片足を軸としてもう片方の足のスラスターを点火、「スライディング」しながら回転し、全周の敵に全格納銃器の弾丸を浴びせます、なるべく多くの敵を巻き込めるよう、発射数は惜しみません
もし同じく敵陣に突っ込む猟兵がいれば隙を「かばう」ことで援護します

私たちの戦いぶりを見て避難民の心に希望の灯を灯せればよいのですが…


有栖川・夏介
※アドリブ歓迎

私たちがここで倒れたら、背後にいる彼らは……終わり。
ここで終わらせるわけにはいかない。
なんとしても護りきります。
処刑人の剣を構えて【覚悟】

篝火の亡者…炎の攻撃が厄介ですね。
洞窟内にいるとはいえ、延焼した炎が彼らを襲わないとも限らない。
早めにカタをつけなくては。
【第六感】と【見切り】で敵の攻撃をいなしつつ、【咎力封じ】でその攻撃を封じます。
外したとしても、炎の威力を弱めることができていれば、他の猟兵の方々も動きやすくなるはず……。

残りは剣での【傷口をえぐる】攻撃。
手加減をする気はありません……!
「……サヨナラの時間です」


ラスベルト・ロスローリエン
既に命失いし君達を憐れむ余裕はない。
風に舞い散る草花の如く土に還りたまえ。

◇WIZ 自由描写・連携歓迎◇
洞窟の入り口を“界境の銀糸”で塞ごうか。
少女には笑顔を向け奥に戻るように促す。
『さ、祖父君……お爺さんのところに戻ると良い』

数で押し切られる前に無理をしても討ち減らさねばなるまい。
不浄の炎を【見切り】で避けつつ戦友に背中を預け共に前に出るよ。
一体でも多くの亡者を捉えたら【高速詠唱】【全力魔法】で“永久の白緑”に《落命花》を咲かせ群れを包む。
『黄泉への帰路は送葬の花で飾ろう――散華せよ』
仲間の動きに合わせて常に幽鬼の数を削げる位置から白き花弁を放ちたいね。

……さて。いよいよ夜の帳が下りるか。


ヴィゼア・パズル
顔覗かせるのであれば充分に感情は持っている。希望は失わせない
【wiz】使用、連携重視絡み歓迎

数多かろうと個の集合体。
敵を弱らせ仲間が仕留めやすい様に次々に弱らせる
…まぁ、倒してしまっても、構わないだろう?
【地形を利用、敵を盾にする】事で攻撃回避し【カウンター】にて【マヒ、二回、属性攻撃】の【鎧砕き、全力魔法】を叩き込む。

…倒す度に操られる…術者を優先する必要があるな。
【空中戦】使用。浮かび対象へ向け雨を降らせよう
空気圧の…弾丸の雨だ


宮落・ライア
背水の陣ってやつ?
ま!そんなのじゃなくても退くって言うのは性にあわないんだけどね!

さぁ切り込もういざ切り込もう!
道を阻むのならヒーローがその全てを切り倒そう。

【ダッシュ】【見切り】【庇う】で放たれる炎を切り捨てながらいくのだよ。
近づけたのなら脳筋十八番の【怪力】【薙ぎ払い】【衝撃波】【剣刃一閃】で切り払うのだよ。


ノエマ・アーベント
最期は安らかなれと願うこと、それ自体は悪くない
でも覚めない眠りの中に居続けるのは、ある意味、死よりも質が悪いわね
命の灯火がまだ消えていないなら、救える命を助ける為に、私たちは最大限の務めを果たすだけ

亡者を洞窟に近付けないよう、積極的に仕掛けて注意を引き付ける
まず【殺気】を放って意識を向けさせ、複数敵に対応すべく【錬成カミヤドリ】を発動
本体の振り子ギロチンを複製し、それらを操りながら敵を攪乱させて仲間を援護
亡者が【篝火の影】で回避を試みようとした場合、【第六感】で相手の動きを予測し、回避しようとした位置にもう一つのギロチンを飛ばす

その火は命を照らすもの。そこに希望があるのなら、私は決して諦めない




 洞窟を背に庇い、守る猟兵は8人いた。

 リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)。
 レイチェル・ケイトリン(心の力・f09500)。
 トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)。
 有栖川・夏介(寡黙な青年アリス・f06470)。
 ラスベルト・ロスローリエン(灰の魔法使い・f02822)。
 ヴィゼア・パズル(風詠う猟犬・f00024)・
 宮落・ライア(英雄こそが守り手!(志望)・f05053)。
 ノエマ・アーベント(黄昏刻のカーネリア・f00927)。


「…ん。本当は鍵を使い、異空間へと避難させた方が良い。
 だけど“彼ら”を遺していく訳にはいかない。
 ……皆を危険に晒すのは私の我侭。絶対に護り徹す……」
 短剣に血液で魔法陣を描きながら。
 振り返る洞窟の入り口には血液で描かれた魔法陣があった。

「ん。此れで繋がる……」
 リーヴァルディが呟いた。

 ラスベルトも銀の蔦の種子を芽吹かせ、洞窟の入り口をふわりと覆う。
「此の糸は決して絶ち切れない」
 2人は顔を見合わせる。
 互いに、仕掛けた技の詳細は知らぬ。だが、互いの意図は判っていた。
 守るため、だ。


「私たちがここで倒れたら、背後にいる彼らは……終わり。
 ここで終わらせるわけにはいかない」
 夏介は洞窟の中の人々を思う。
 一夜とはいえ、彼は全ての人を診た。失われかけた生命は繋がれていた。守り切れば生存の可能性が高いコンディションの彼らが今、背後にいる。

「敵の数が多い……洞窟に陣を敷くより此方から打って出たほうが良いかもしれません」
 トリテレイアは唸った。
「数で押し切られる前に無理をしても討ち減らさねばなるまい」
 ラスベルトが戦友に同意する。

「数多かろうと個の集合体」
 ヴィゼアがヒゲをピンとした。ケットシーの青い瞳が青空のように晴れ晴れと亡者の軍団を見ていた。

「最期は安らかなれと願うこと、それ自体は悪くない」
 ノエマが黄昏色の朧げな目で洞窟を見ていた。其の奥に横たわっているであろう老人を思う。
「でも覚めない眠りの中に居続けるのは、ある意味、死よりも質が悪いわね」

 胸のまえで掌をそっと天に向ける。
 舞い降りた雪は淡く溶け、消えた。
 ふわり、と。

「命の灯火がまだ消えていないなら、救える命を助ける為に、私たちは最大限の務めを果たすだけ」
 仲間たちが頷く。

 篝火の熱が群れとなりひたひたと押し寄せる。
 8人分の熱もまた、其れを迎え撃とうとしていた。
 戦場に雪が降る。
 孫娘が其れを見ていた。

「その火は命を照らすもの。そこに希望があるのなら、私は決して諦めない」
 囁きはしずかに戦場の風に攫われて。

 8人は前を見る。
 希望の道は失われていない。


 亡者の群れはもはや真黒の壁のようだ。ゆらゆらと篝火が壁の隙間を蠢いている。道を阻むのはたった8人だ。まるでそんな声が聞こえるかのように厚い壁が押し寄せる。

「既に命失いし君達を憐れむ余裕はない。
 風に舞い散る草花の如く土に還りたまえ」
 ラスベルトが冷然と告げる。其れが始まりとなった。

「背水の陣ってやつ?
 ま! そんなのじゃなくても退くって言うのは性にあわないんだけどね!」
 ライアはからりとした笑顔で言うと勇ましく大剣を構え、叫びながら走り出す。

「我が剣は人々の安らぎの夜のために! 我が盾は人々の希望の朝のために!」
 トリテレイアも機械馬に騎乗すると馬上槍と盾を構え、騎乗馬を走らせた。

 リーヴァルディは無言で駆ける。闇が目前にある。夜と闇を終わらせる誓いが心を駆り立てる。其れを為せと。

「頼もしい仲間たちだ」
 ヴィゼアがひげを撫でる。と、新しく表れた小さな人影に気付く。
「おてつだいするね」
 見ると、穏やかな空のような色を瞳に宿した女の子――レイチェルがいた。

 厳重な守護の仕掛けが施された洞窟の入り口にいる孫娘に夏介は視線を向けた。娘は何を想うのか。其れは、わからなかった。だが、
「顔覗かせるのであれば充分に感情は持っている。希望は失わせない」
 ヴィゼアが孫娘をちらりと見て言った。

「なんとしても護りきります」
 頷き、夏介は処刑人の剣を構える。覚悟が其処にあった。
 
 前線で炎が暴れていた。味方が黒壁に斬り込んでいる。

 篝火を見て夏介は眉をひそめる。
「炎の攻撃が厄介ですね」
 洞窟の中にいる人々に延焼の危険はないか。彼は懸念する。
「早めにカタをつけなくては」


 亡者たちは昂る。
 圧倒的な大多数の軍団を持って弱きものたちの生命を今まさに摘み取らんとしているのだ。
 と、其処へ、雪がしずかに空気を冷やすのを生ぬるいとばかりに鋭く放たれる冷気にも似た気配があった。

 すべての篝火を吹き消し、宴を終焉に導かん。

 そんな意思を感じ亡者たちが視線を向けると、刑具が宙に並んでいた。沢山の命を奪ってきたのだと視る者に訴えかけてくるような其れらの並ぶ姿は戦場を断首台へと変えたようだった。
 ノエマの操るギロチンである。
 カク、カクと順に角度を変えた其れらは亡者たちの上空を舞い、気まぐれに降下しては篝火を掻き消し、黒い壁を崩していく。
(数が多いなら、その分此方も数で)
 ノエマはすべてを巧みに操り、群れを攪乱する。
 敵群は混乱に陥った。


 風のように銀色が奔る。
 弾丸めいて飛び出したリーヴァルディは毅然と黒壁を斬り崩す。
 白月めいた刃が踊れば夜の漆黒が刈り取られた。
 輪舞曲流れる中を只決められたステップを踏むが如く。
 定められた動きだと言わんばかりに刃は振るわれ、闇を斬る。

「……ん」
 少女は突出に気付く。だが、其れが何だと言うのだろう?
 敵の攻撃を軽やかに見切り、ワンステップで避けた。
 存在感を消す魔力を溜めた短剣を恐るべき膂力で投擲する。
 回避した亡者をあらたな刃が貫く。
 大鎌の刃が短剣から生えていた。
 敵の傷口を抉る。連撃。

 リーヴァルディは短剣だけは手に残し、『常世の鍵』に倒した死体を回収していく。
「……これでもう迷い出る事は無い。
 埋葬は全てが終わってからになるけれど……安らかに眠って」


 敵群が混乱している。ライアが口の端を吊り上げた。
「さぁ切り込もういざ切り込もう!」
 フードがはらりと後ろへ流れた。青いリボンが元気に揺れる。負けじと陽気を振りまき輝くのは太陽のように元気な赤い瞳だ。
「道を阻むのならヒーローがその全てを切り倒そう!」
 言いながら大剣を豪快に振れば、数体の亡者が切り払われ、後続を吹き飛んでいく。
「ここに!」
 横からの炎をライアは避けずに剣を一閃させる。衝撃が波となり、炎を吹き散らしてしまう。
「ヒーローが! いるぞ!」
 吐く息が白かった。雪は降っていた。後ろに守るべき生命があった。
 そんなの、慣れていた。
「はっ!」
 ひややかな戦場の空気を圧倒するほどに身のうちは熱く燃えていた。恐るべき膂力を持って振られる刃は次々と炎を切り捨てていく。
「ただの! 雑魚に!」
 やられるわけが、ないじゃないかと言う叫びに、仲間たちは笑顔になる。


「ライア様は元気ですね」
 やわらかに笑む気配と共にトリテレイアは槍をただ構え、速度に乗り突き抜ける。ただ駆け抜けるだけで亡者の陣はずたずたに切り裂かれた。
 元より、統制など取れていない軍団だ。一溜まりもない。
 恐れ慄き、なんとか迎撃しようと四方八方から炎が放たれるのにも全く堪える様子もなく悠然と走り抜け、引き返してはまた群れを乱す其れは、夜闇を切り裂く雷光にも似た鮮やかな突撃であった。

「大技を披露しましょう!」
 散々に引っ掻き回したのち、トリテレイアは騎乗馬から飛び降り、片足を軸に立ちもう片足のスラスターを点火させる。堂々たる騎士が吹き荒れる嵐のように回転し、格納銃器の残弾全てを惜しまずに発射する。

 近くにいたライアが慌てて距離を取った。
「私たちの戦いぶりを見て避難民の心に希望の灯を灯せればよいのですが……」
 回転を止め、トリテレイアが呟く。
 亡者の軍団はかき乱され、黒い壁は崩され大きな穴が開いていた。

「あまり過激な戦い方をすると逆に怯えさせてしまうのではないかい?」
 背後からの炎を危なげなくひらりと避けながら灰の魔法使いが笑みを浮かべていた。
 再び彼らを包囲しようとじりじり四方から迫る亡者の群れを一瞥し、2人は背中合わせに笑う。


 数が多いと言っても、限りはある。

 三角帽子のエルダールは腕に絡みつく若木に呼びかける。
「さ、そろそろ仕事を頼めるだろうか?」
 若木はかつて森の都から救い出した樹霊が宿る。白花を風に震わせ、友は応える気配を示した。頷きひとつ、魔法使いは周囲を睥睨する。
「黄泉への帰路は送葬の花で飾ろう――散華せよ」

 エルダールが謡うように詠唱を始める。
「やがて大いなる嵐の前に全ての草木は空しく枯れ」

 花は風に散るものならん。
 
 高速で練られ、完成されていく術式。名も無き白花の花弁が儚げに宙を舞う。

 ひらひら、ひらり。

 舞う花弁は20m半径内の亡者たちにやわらかく触れ――触れた端から、亡者たちは雪のように溶けていった。
「大地に再び命芽吹くその時まで、落ちよ墜ちよ儚き命」
 闇の影を溶かしていく其れを、落命花という。
 

 篝火が造る影を踏まないよう、レイチェルはふわり、と宙に浮く。
(わたしの攻撃は、よけられないよ)
 そして、念動力で味方に倒され、形をとどめている亡者たちの死体を浮かす。仲間たちを狙っている敵にぶつけ、ひそやかに援護しているのだ。

 ヴィゼアは仲間が仕留めやすいようにと支援の意識を持ち、レイチェルと連携して亡者たちへと魔法を放つ。
 支援のためであった其の力は、確たる実力を伴い放たれた。また、亡者たちはそれほど強固な防護を備えていなかった。そのため、弱体のための魔法により亡者たちは次々と倒されていく。
「……まぁ、倒してしまっても、構わないだろう?」
 ヴィゼアは笑った。

「ところで、其れは使えるな」
 ヴィゼアがレイチェルに言った。
 レイチェルが目を瞬かせる。
「盾にしてしまえばいい」
 ヴィゼアは茶目っ気混じりに片目を閉じてみせた。レイチェルが瞳を理解の色に染め、頷いた。

「では、先に」
 夏介が2人の作戦を聞き、先駆けする。


 孫娘へと声がかけられた。
「……まだここは危険。それでも、見たい?」
 リーヴァルディが立っていた。
 そっと膝を付く。静かな瞳だった。

 風が吹いていた。
 軽く帽子を押さえ、ラスベルトも洞窟の入り口へと戻ってきていた。
 孫娘に笑顔を向ける。
「さ、祖父君……お爺さんのところに戻ると良い」
 孫娘が洞窟の奥へと走っていく。

 2人は顔を合わせ、前線へと戻る。


 夏介が前線へと駆ける。
 前方から迸る炎をワンステップで避け、また駆ける。 
 彼の第六感が告げる――影を避けよ。
 夏介は跳んだ。
 空中でユーベルコードを発動させれば、亡者の群れへとしゅるりと高速ロープが放たれる。触れるだけで充分だった。『咎力封じ』はのびやかなる呪縛となり敵群の動きを封じる。

「手加減をする気はありません……!」
 血のように赤く、瞳が煌めいた。
 処刑宣告にも似た其れは心を失くした亡者にすら恐怖を覚えさせ、付近の亡者たちが一歩後ずさるほど。だが、逃されることはない。
「……サヨナラの時間です」
 声と共に月の弧を描くように白刃が閃いた。冴え渡る剣技は亡者の影を抉るように斬り取り、其の妄執に終止符を打つ。

「お見事」
 ヴィゼアはふわりと宙に飛ぶ。
 レイチェルが夏介が束縛した亡者たち、そして斬り倒されて動かなくなった亡者たちを浮かす。何体もの亡者たちをヴィゼアを亡者たちの目から隠し、炎から守る盾として並べていく。

 レイチェルの支援に目を細めながら、ヴィゼアは周囲の大気を調律するように指揮杖をくるりと遊ばせる。
「傘すら貫く雨を与えん」
 風が渦巻く。鋭い鎌鼬が圧縮され弾と変じる。指揮者は高らかに宣言した。
「空気圧の……弾丸の雨だ」
 其の瞬間、レイチェルが浮遊させていた亡者の盾を解放する。盾が落ちながら穿たれる。盾を穿ったのちもなお勢いの衰えぬ雨が地上へと注ぐ。
 亡者の盾が崩れ、開けた視界の中を地上に降り注ぐのは三桁に届くほどの数の亡者を狩る空気圧の雨。其れは会心の出来栄えで敵軍を壊滅させていった。


 黒い壁はもはや見る影もない。
 しかし、亡者の残党は未だ影を伸ばし、苦しい戦局を打開せんとしていた。

「掃除担当の出番かしら」
 そんな事を呟き、ノエマはギロチンを舞わせる。滑らかに円を描くように戦場を巡らせれば、彼女を囲もうと押し寄せていた亡者の残党の篝火がひとつ、またひとつと消えていった。

 灯が消えていく。

 見守るような瞳は揺蕩うような深い色を宿していた。
 元は、只命を断つ為だけに。
 其の娘は其の為に造られたのだった。

 見つめる世界は今、暮れようとしていた。
 もう、そんなに時間が経っていた。

「ただの、雑魚に……興味はないよ!」
 瞳はぎらりと猛獣の如く、淡い月の光を集めたような艶やかな銀髪を靡かせ、ライアは亡者の群れを薙ぎ払った。
「得意技なんだ」
 ちらりと舌を出し、笑顔を浮かべれる小躯が傍にあった。

 応えようとし――、
 第六感が囁く。足元を見れば影が忍び寄っていた。

 ノエマは素早く後ろへと跳ぶ。影は掠めただろうか? 思いながらも仲間の剣戟に合わせてギロチンを移動させる。
 仲間の攻撃を避けた亡者がギロチンに身を差し出す形でトドメを差された。

 どちらからともなく視線を合わせ、笑む。
 言葉はいらなかった。


「死の星、きにしなくていいとおもうの」
 ぽつり、と呟く。それは静かな声だった。
 生きている者はすべて死ぬ定めにある。
 それが自然で、当たり前なのだと、レイチェルは知っている。

 そして、レイチェルは知っている。
 年若くして災厄に生命を奪われる者もいる。
 年老いてなお平穏の中にあり、健在の者もいる。
 余命を宣告された者がその後十数年と生きることもあれば、
 何年何十年先の未来を疑わなかった者が明日突然に死ぬこともある。
 それは全く不思議な現実であったが、確かなことはひとつ。

 天寿であれば。
 其れは眠りによって生かされるのではなく、全うするのがよい。
 そうでないのであれば、生きればよい。
 どちらでも。眠りはいらない。
 
「まもるため、がんばるよ」
 そのためにレイチェルは此処にいる。


 やがて、亡者たちはすべて動かなくなった。
 彼らは護りきったのだ。

「……さて。いよいよ夜の帳が下りるか」
 ラスベルトが呟く。
 猟兵の第六感が不穏な気配を知らせていた。
「来る」
 リーヴァルディがハッとする。

 夜が、来る。


 洞窟の奥に人々が固まっていた。
 彼らは、夜朝昼と猟兵たちの超人的な能力を目撃し、理解していた。

 彼らは詩人をずっと拠り所としてきたが、
 信奉する詩人もまた、ちっぽけな彼らと同じ生身の人間である。
 特別とは、猟兵のような存在を指す。

 今、彼らの前には異形が現れていた。

 昨日と比べれば格段に良くなった顔色の詩人の前にしずかに、しずかに近づいていく其れに彼らは怯え、震えあがった。
 詩人は己が運命を見たような顔をして近寄る異形を見つめていた。
 其の表情は何処か迷うようでもあり……、

 異形が導きの手を伸ばす。
 と、

「……」
 滑り込む影があった。
 居合わせた大人たちは目を瞠った。

 詩人の前にちいさな孫娘が立ちふさがっていた。
「ゾ、ゾフィー」
 詩人が名を呼ぶ。孫娘が応えた。

「ん」

 其れは何処か、猟兵の少女を真似たような応えであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『幻想術師『パラノロイド・トロイメナイト』』

POW   :    記録■■番:対象は言語能力を失った。
【夢幻の眠りを齎す蝶の幻影 】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    記録■■番:対象の肉体は既に原型を留めていない。
完全な脱力状態でユーベルコードを受けると、それを無効化して【数多の幻想が囚われた鳥籠 】から排出する。失敗すると被害は2倍。
WIZ   :    記録〓編集済〓番:〓編集済〓
対象のユーベルコードに対し【幻惑し迷いを齎す蝶の群れ 】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠鶴飼・百六です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●『老詩人に幕は降り』
 駆けつけた猟兵たちの目の前には、足を止めた異形と、孫娘と詩人、壁際に固まっている人々がいた。

 人々の目は異形でもなく、詩人でもなく、孫娘を見ていた。
 そして、駆けつけた猟兵たちへと視線は移された。

 舞台は整ったのだ。
 役者は交代する。

 猟兵の中にはグリモア猟兵の情報を思い出す者もいるかもしれない。
『異形は、眠りが必要だと判断している間は邪魔者を排除しようと攻撃をしてくる。
 だが、眠りが不要である事を納得させれば自ら骸の海へと還ることすらあるという』

 猟兵たちは人の人生を動かし、
 予知を変えるための行動をすることが、できる。
宮落・ライア
ふふふふふ。あっはっはっはっはっはっは!(喜色満面
いやーまぁいっか! 今この瞬間! 今この場所で! ヒーローはキミ(孫娘)だね。その人(詩人)を救えるのはキミだから。
今君が、その人の前に立って、怪物の前に立っている。
その理由を言ってあげればきっと救える。

たとえここで異形を倒しただけじゃ…またいつか現れるかもしれないからね。


あの人達はちょっとお話の時間だから邪魔者はどいてようね!
【怪力】【侵食加速】でもって洞窟の入り口の方へ即急に吹き飛ばし、【ダッシュ】【二回攻撃】で追撃をかける。

さぁ!また明日、大事な人の顔を見る為に!
また明日、大事な人といる為に!
また明日、大事な人と朝を笑顔で迎えるために!


トリテレイア・ゼロナイン
アレクサンドル様、この異形は「安らかな最期」を願うものの前に現れ文字通りの永遠の眠りを齎すもので御座います
御身がこれまでに背負ってきた労苦を私達が理解することはできないでしょう
ですがあえて言わせていただきます。どうか、貴方に「生きて」と願うゾフィー様に応えてあげてはくださいませぬか
貴方自身のお言葉で、安寧を齎す眠りを拒むのです!

(「優しさ」を込めてアレクサンドルとゾフィーの「手をつなぎ」合わせて説得する)

オブリビオンとの衝突が避けられないのであれば「かばう」「盾受け」「武器受け」で全力で避難民を守ります
攻撃は剣と盾での殴打で行います
異形には最後まで「礼儀作法」にのっとって対応します


リーヴァルディ・カーライル
…ん。救済の形は1つではない
こんな世界だもの…
安らかな眠りのうちに終わる救いが確かにある事も、私は否定しない

…だけど、それを決めるのはあなたではないし、私達でもない
…アレクサンドル・プーシキン。決めるのは、あなた自身
あなたの物語は、あなたの歩みは、ここで終わりなの?

老詩人の選択を見届ける
…叶うなら、自ら骸の海に還ってくれる事を祈り、
彼の意思が決まるまで敵が暴れるなら、
他の人々を庇えるように敵の行動を見切り、
第六感に従い大鎌をなぎ払い武器で受ける

…後で【常夜の鍵】の中にある遺体を弔い、
多量の保存食を積めるだけ馬車に積んでおく
…ん。救いも大事だけど、その日の食事も大事
後、ゾフィー。それ、誰の真似?


ラスベルト・ロスローリエン
まさかあの子がね……僕達も顔負けじゃないか。
ならば成すべきも定まったようだね。
言葉こそ魔法の源なのだから。

◇WIZ 自由描写歓迎◇
“永久の白緑”を忍ばせ《古森の手枷》で封ずる手筈も整える。
但しそれは全ての言葉が尽きた時だ。

夢魔から御老体に視線を移し語りかけたい。
死の定めに抗いまなこを開く限り夢魔は自ら消え失せるであろう事を。
『御老体。貴方の言の葉に魂を蘇えらせ……いま一度、生命の讃歌を吟じては貰えないだろうか?』
これまで闇深き世界を見続け倦み疲れた事だろう。
それでも身を以て意志を示したおさなごの振舞いに心揺れたならば――どうか。

僕も南天へ至る旅の終わりまで見届け出来得る限りの力添えをするとも。


有栖川・夏介
※アドリブ歓迎

永遠の眠りなど必要ありません。
件のオブリビオンには、躯の海へお還りいただく。

一般人が攻撃されないよう常に間に立つようにします。
【第六感】【絶望の福音】で敵の動きを察知、攻撃をいなしつつ【カウンター】

戦いつつ、人々に訴えかけます。
せめて安らかに、という気持ちはわかります。
きっと私では想像も及ばないくらいのつらいことを、経験されてきたのでしょう。
ですが、それでも最期まで生きるのが…生き抜くのが今日まで残された者の務めです。
「…生きてさえいれば、変えられる」
希望をもて、とは言わない。ですが、絶望だけはしないでほしい。
「……いきましょう」
俺の言葉…届くといいが。


レイチェル・ケイトリン
孫娘さんによりそっていうね。

「大切なひとをまもりたい……その想いをしめしてくれた。
この暗い世界でもしっかりと。すごいね」って。


念動力と吹き飛ばしの技能で敵を攻撃してふっとばすね。

サイコキネシスはつかったりつかわなかったり。

サイコキネシスに対抗して敵が完全な脱力状態になってたら、
ただの念動力の吹き飛ばしは無警戒なところにあてられるし、
ただの念動力の吹き飛ばしに備えたら敵は脱力してられない。

どっちにしてもわたしの攻撃は「事前に見ておけない」の。

ふっとばして距離をとれば敵の攻撃はわたしたちにはとどかない。


わたし、孫娘さんの想いをかなえてあげたいよ。
当たり前のことに勇気が必要なんだもの、この世界では。



●接敵
 有栖川・夏介(寡黙な青年アリス・f06470)は洞窟の中を見渡す。人々は夏介と視線が合うと少し安心した表情をした。ひとりひとりへと、夏介は初診の時を思い出しながら安心させるように軽く笑む。
 あの時は緊張していた。人々は皆知らない顔だった。
 今は、ひとりひとりの名前も言える。

 夏介は壁際の人々を守るように立つ。
「お医者さま」
 すぐ後ろの者が小声で言う。
「バケモノが……あのバケモノは、」
「大丈夫です」
 夏介は前を見たままで断言する。
「保証します。皆さんは、守ります」

 洞窟にふわり、と溢れ、人々へと近寄ろうとしていた幻惑蝶の群れをリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は大鎌で薙ぎ払う。
 宮落・ライア(英雄こそが守り手!(志望)・f05053)がフードを着用し、自己を強化しながら蝶の群れを追い払う。
 選択が終わるまで、手を出させはしない。そんな意思と共に。

 猟兵たちがひとり、またひとりと異形の前へと立ち塞がる。

「まさかあの子がね……僕達も顔負けじゃないか」
 ラスベルト・ロスローリエン(灰の魔法使い・f02822)が仲間たちに肩を並べ、呟く。
「わたし、孫娘さんの想いをかなえてあげたいよ。
 当たり前のことに勇気が必要なんだもの、この世界では」
 レイチェル・ケイトリン(心の力・f09500)が呟いた。
「ならば成すべきも定まったようだね。
 言葉こそ魔法の源なのだから」
 ラスベルトは“永久の白緑”を忍ばせる。いざとなれば古木の枝を絡ませ、捕縛しようと備えながらも、周囲へも提言する。

 力で解決するのは全ての言葉が尽きた時のみ、と。
 仲間たちは頷く。

「ふふふふふ。あっはっはっはっはっはっは!」
 ライアが喜色満面で笑った。
「いやーまぁいっか! 今この瞬間! 今この場所で! ヒーローはキミだね」
 その視線の先には、やはり感情の窺えない表情のままのゾフィーがいた。
「その人を救えるのはキミだから。
 今君が、その人の前に立って、怪物の前に立っている。
 その理由を言ってあげればきっと救える」
 ライアは異形の前に立つ。

「たとえここで異形を倒しただけじゃ……またいつか現れるかもしれないからね」
 オブリビオンは討伐することで一時、骸の海へと還る。
 だが、宿縁ある者が討伐しない限り、再び現れる。
 たとえ此の場で討伐し老人を生かしても、その精神に変化がなければいずれ再び現れることだろう。
 ライアはそう考えたのだ。

●異形
 燻ぶるような白紫の冷気、妖気。どこか優雅に、揺蕩うように。
 碧き体は不定にして流れる水が一時人を模したよう。
 首元にキラリ光を放つは色硝子のような飾石。
 白面に絵筆を軽く遊ばせたような閉じた目と睫が薄墨にかすれ、
 異形はゆらり、と首を傾けた。

 眠りの邪魔をするのだろうか? 眠りを欲したのではないのか?
 そんな声なき声がきこえるようだ。

「アレクサンドル様、この異形は『安らかな最期』を願うものの前に現れ文字通りの永遠の眠りを齎すもので御座います」
 トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)が老人へと声をかける。
 老人、そして周囲の人々がハッとする。
 彼らは、異形が其処にいる理由を知った。

 ラスベルトは穏やかに言葉を紡ぐ。死の定めに抗いまなこを開く限り夢魔は自ら消え失せるであろう、と。
 老人は己が手を見つめた。
 トリテレイアはセンサーに静謐な緑の光を湛え、其の姿を見つめる。

「あの人達はちょっとお話の時間だから邪魔者はどいてようね!」
 ライアはフードを再びかぶる。浸食を加速させると、フードの下で血がひそやかに流れる。しかし、其れを吹き飛ばすほどに鮮烈に宿るのは違えられぬ期待、内に響き続ける祈り、強く狂気に近い決意。
 残りの蝶すべてを剣の衝撃で掻き消すように払いのけ、寄れば斬るぞと念じるように異形を睨めば、異形は気圧されたようだった。

「今、お話中なの」
 待ってほしい、とレイチェルは念動力で敵をやんわりと押しとどめながら、語りかける。なおも近寄れば吹き飛ばそうと考えながら。

 異形は不思議そうにしている。救済を求めたのではないのか。
 救済は不要なのか?
 それとも、救済は必要であるにも関わらず、邪魔をするのか?

「……ん。救済の形は1つではない。
 こんな世界だもの……、
 安らかな眠りのうちに終わる救いが確かにある事も、私は否定しない」
 リーヴァルディもぽつり、と零した。
 彼女は此の世界を生きる者だった。此の世界で、様々な事件に関わってきた。数多くの悲鳴をきき、時には死にゆく生命を看取り、そして救える生命は助けてきた。
 だから、言葉は強く響く。経験が言葉を強く裏付ける。
「……だけど、それを決めるのはあなたではないし、私達でもない」

 レイチェルはしずかに戦術を練る。
 吹き飛ばして距離を取れば、安全が確保できる。
 敵が脱力状態に在れば、無警戒なところにあてて吹き飛ばそう。
 敵が吹き飛ばしに備えたら、脱力状態を解除してくれるから……、

 まわりには頼りになる仲間たちがいた。だから、
(だいじょうぶ)
 其の瞳は自信で溢れた。そして、其れが伝わると異形はぴたりと足を止めた。

 異形はとても珍しいことに、人の持つような感情を一部有していた。また、此処に現れたのも人の生命を奪うためではなかった。異形は、求められるがまま、眠りを齎しにきただけであった。
 言葉を発することは、ない。しかし、待つことに同意はしてくれた。
「ありがとう」
 レイチェルが微笑む。
 そして、ゾフィーにそっと寄り添う。
「大切なひとをまもりたい……その想いをしめしてくれた。
 この暗い世界でもしっかりと。すごいね」
 瞳はひたすらに純粋な色を湛えていた。其れが心からの言葉なのだとゾフィーに伝わった。だから、ゾフィーは瞳の色を強めた。

●言葉
「御身がこれまでに背負ってきた労苦を私達が理解することはできないでしょう」
 トリテレイアが言う。
 夏介もまた、言葉を紡いだ。
「せめて安らかに、という気持ちはわかります。
きっと私では想像も及ばないくらいのつらいことを、経験されてきたのでしょう」

 人はひとりひとり、歩んできた道、耳にしてきた言葉、目にしてきた物が異なる。体験してきた事柄、其れを通してどう感じたか。たくさんの経験をもとに人格がどのように形成され、感性がどのように磨かれるか。
 人は、ひとりひとりが別の生き物だ。
 作り上げられた物語上の人物であればともかく、生の世界を生きる他者への真なる意味での理解とは罷り間違っても出来るなどとは言えないものだった。

「ですがあえて言わせていただきます」
 トリテレイアが言う。
「どうか、貴方に「生きて」と願うゾフィー様に応えてあげてはくださいませぬか」

 視線を促され、見るとゾフィーがじっと彼を見ていた。
 トリテレイアがゾフィーの手を取り、老人の手へと重ねた。
 ゾフィーが口を開いた。
「おじいちゃん」
 滅多に聞くことのない孫の声だった。孫は目を真っ直ぐに向け、言う。
「ゾフィーは、哀れ、じゃ、ない」
 其の瞳が強い意思を宿していた。光を知っているのだと言っていた。
 ちいさな手がぎゅっと祖父の手をつかむ。まるでその手が光を放っているような気さえして、祖父は息をのんだ。

「貴方自身のお言葉で、安寧を齎す眠りを拒むのです!」
 トリテレイアが老人を励ます。

 リーヴァルディも真っ直ぐに、老人を見据える。
「……アレクサンドル・プーシキン。決めるのは、あなた自身。
 あなたの物語は、あなたの歩みは、ここで終わりなの?」
 老人は向けられた瞳に浮かぶ深い色に其の経験の豊富さを知る。己よりもずっと多くの絶望と死に触れている、そんな気がした。

「これまで闇深き世界を見続け倦み疲れた事だろう」
 ラスベルトが言葉を老人へと語りかけていた。
「それでも身を以て意志を示したおさなごの振舞いに心揺れたならば――どうか」
 ラスベルトは帽子を取る。

 膝を折り、視線を合わせれば、真摯な瞳は長い年月を感じさせる深い色を揺らめかせた。年月。経験。叡智。そして、憂い。老人は其の深さに驚く。
 
「御老体。貴方の言の葉に魂を蘇えらせ……いま一度、生命の讃歌を吟じては貰えないだろうか?」
 ラスベルトもやわらかに言葉をかけた。
「生命の賛歌、か」
 今、老人を包んでいる孫の手が温かく、其の瞳はまるで分厚い雲の隙間から垣間見えた星の輝くが如き煌めきを魅せていた。
 どのように讃えればよいだろうか、此の奇跡のような出来事と、目の前の愛しい生命と、溢れる感情を?
 詩人は心を躍らせた。そして、そんな自分に気付いた。
 民を鼓舞するための文言を練るよりも、其れは全く難解にして一心を専念して情熱の全てを注ぎ込むべく楽しい試みに思えた。
 詩作とは、そのようなものではなかったか。
 其れを忘れていたのでは、ないだろうか。

 老人は、頷いた。

●選択
 リーヴァルディは、其の選択を静かに見届けた。

「眠りは、必要ない」
 ついに老人が言った。其の瞳には孫と共に余生を生き抜こうという確かな意思がある。
 老人は、真っ直ぐに異形を見た。そして、頭を下げた。
「呼んでおいてすまないのだが、もう、必要ないのだ」

 異形は不思議そうにした。
 ほんとうに不要なのか、と問いかけるように首をかしげ。

「永遠の眠りなど必要ありません。
 躯の海へお還りいただきましょう」
 夏介が告げた。
 静謐な気配を纏い、異形が彼らを見ている。

 夏介がもう一度、告げた。
「人は迷う者です。逃避を求めることも、あります。
 苦しみにもがき、せめて安らかなる死をと望む、其れはとても当たり前にあり触れたことです」
 けれど、と夏介が言う。
「あなたが齎そうとした安楽は、彼は不要だと言いました。
 患者が求めていないのに、あなたは眠りを齎しますか?」
 もしもそうならば、容赦しない――居並ぶ猟兵たちの目が一様にそう伝える。

 異形はしずかに腰を折る。――承知した、と。
 そして、静かに。溶けるように、其の姿を薄めていく……骸の海へと還るのだ。
 トリテレイアが恭しく礼をして見送る。
 彼らは、戦わずして異形を骸の海に還すことに成功したのだ。

 ライアが人々の目を気にしながら、フードの下の血を拭っていた。傷はすでに癒えていたが、彼女のユーベルコードは代償として出血することがあり、
(やっぱり用意しておいて正解だった)
 ウンウン、と元気に頷くライアに仲間たちは頼もしくも微笑ましく思うのだった。

●弔い
 リーヴァルディが常夜の鍵から遺体を出していた。
 もともとは人であった亡者たち。
 もはや人であった頃の面影もないが……、

「ああ、……ああ」
 駆け寄る者がいた。
 黒い枯れ木のような指にはめられた質素な指輪に手を伸ばし、涙を流している。指輪に触れれば、はめていた指がさらりと崩れた。

 他にも何人かが口元を抑え、嗚咽を零しながら遺体を見ていた。身内の遺体を見つけた者、どこかに身内とわかる形跡がないか探す者。
 リーヴァルディは彼らと共に遺体を弔った。
 其れは、此の闇を生きる者にとっては余りにも身近な光景。
 だから、彼女は此の地で戦い続けるのである。

 嘆き悲しむ人々へ夏介が言葉をかけていた。
「最期まで生きるのが……生き抜くのが今日まで残された者の務めです」
「……生きてさえいれば、変えられる」
 希望をもて、とは言わない。だが、絶望だけはしないでほしい。
 意思が伝わるように、と祈るように言葉は続けられる。
「……いきましょう」

●馬車が往く
 朝を待ち、彼らは再び馬車で進み出す。
 リーヴァルディが常夜の鍵から追加の救援物資を出し、馬車へと保存食を積む。動ける人々やゾフィーも手伝った。
 
「救いも大事だけど、その日の食事も大事」
 リーヴァルディが言うと、ゾフィーが頷く。
「ん」
 リーヴァルディは幽かに瞳を和らげた。
「ゾフィー。それ、誰の真似?」
 くすくす、と周囲の皆が笑いを零す。

「僕も南天へ至る旅の終わりまで見届け出来得る限りの力添えをするとも」
 笑みを浮かべ、エルダールが再び馬車の先導をする。

「さぁ! また明日、大事な人の顔を見る為に!
 また明日、大事な人といる為に!
 また明日、大事な人と朝を笑顔で迎えるために!」
 ライアが明るくハーネスを身に付ける。
「ライア様、やはり馬車を引かれるのですね」
 機械馬を隣に繋ぎ、トリテレイアがしみじみとする。

 元気な馬たちが足取り軽く隣を歩む。背に乗せてもらったレイチェルがたてがみを撫でれば、馬は嬉しそうにいなないた。
 歩く人々は夏介から衛生についての話を聞いていた。彼が学んだ知識は此の世界の人々の命をこれからも救い続けるだろう。
 リーヴァルディは誓いを胸に武器を研ぐ。

 彼らの行先はきっと――、

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月20日


挿絵イラスト