#アリスラビリンス
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「音楽の国にオウガが攻めて来ているんだよー!」
耳がぐるぐるぶんぶん大暴れしているので、どうやら随分と慌てているらしい、宇塚・ノトル(時計ウサギの戦巫女・f22195)が大声で猟兵達に人手を募っている。
「オウガのボスがね、魔法のランプを手に入れちゃったんだよ!」
平和に過ごしていた音楽の国に攻めて来たときは、そのボスであるオウガと、その手に抱え込まれた魔法のランプ、それだけだったらしい。
だからその国の愉快な仲間達である妖精達も、数の差があるなら大丈夫、戦うことで彼等を追い出そうとした……のだけれど。
「そのボスはね、もともと、たーっくさん魔力を持っていたみたいなんだよ」
魔法のランプはその名の通り、魔法の力で全てを叶えてしまうのだ。
オウガの魔力は膨大で、魔法のランプからはすぐにたくさんの悪魔達が呼び出されてしまったのだそう。
「蒼、翠、緋……三種類の悪魔がどんどん呼び出されて、すぐに大軍勢になっちゃったんだよ!」
たちまちボスの姿は悪魔達の向こうに消えて、今なお妖精達は音楽の国を守ろうと戦い続けている。
「僕の予知はその、戦っているところからしかはじまってなくて……ボスがどんなオウガなのか、正確な所はわからないのが申し訳ないんだよ」
なんとか、ランプから悪魔達が呼び出される瞬間は見えたのだけれど。
「ボスのオウガはまだ、ランプの力で悪魔達を呼び出す事しかしてないみたいで。たっくさん呼び出せるほどの魔力を持っている、くらいしかわからなかったんだよ。本当に、そこはごめんなさいなんだよ……!」
しょんもりと耳も垂れさせながら、ノトルが勢いよく頭を下げる。
「今も妖精さん達が戦っているんだけど、悪魔達はまだ増え続けているみたいなんだよ」
このままだと、音楽の国がオウガ達のものになってしまうまでそう時間はかからないだろう。
「とにかくボスを止めないと、戦争レベルの戦いは終わらないと思うんだよ」
ランプの本体を止めなければ、悪魔は呼び出され続ける。
ボスそのものを戦いに参加させなければ、ボスの魔力は悪魔達の召喚に使用され続け、やはり敵の数が増え続ける。
妖精達だけでは悪魔達と戦うのが精いっぱいで、ボスに辿り着くまでの力が足りない。
敵が増え続ければ、それさえも対応できなくなるタイミングがきっときてしまう。
まず猟兵達は妖精達と協力して、ボスの近くに辿り着くための活路を斬り開く必要があるだろう。
「あっ、ボスを倒したら、音楽の国でゆっくり過ごす時間もとれると思うんだよ!」
何よりオウガ達を倒した猟兵達の事を歓迎してくれるだろう。
「僕も終わった後、皆を労う準備をしておくから……って、そんな事より戦う準備はもう大丈夫っ!?」
音楽の国がどんなところか、なんて説明を始めようとしたノトルだけれど、今なお大変な状況であることを思い出したらしい。耳もぷるぷると慌てている。
「用意ができ次第皆を送り届けるからねっ、よろしくお願いするんだよー!」
シヲリ
シヲリです。
13本目になります。
●第2章
ボス戦になります。
道を開いた先で強者を待っているボスと魔法のランプ本体と決着をつけます。
残っている悪魔達は、愉快な仲間達である妖精達にほぼ任せることになります。
●第3章「白兎とアリスの舞踏会」
日常になります。
平和になった不思議の国でダンス・パーティを楽しみましょう。
カップルで淑やかに、グループで賑やかに。
楽しい空気に誘われておしゃべりでも。
予知を担当しております宇塚・ノトルが会場の端の方に細やかなお茶の支度を整えますので、休息場所としてご利用ください。
お声がけがあればお話し相手等もさせていただきます。
●愉快な仲間達
全体的にデフォルメされたヒト型の妖精達。
全員、身長は1mくらい、老若男女様々で、耳が長い。
とにかく音楽に関わることが大好きな者達。
戦いに参加する際の行動は以下の通りですが、決定力には欠けています。
ボスそのものとの戦いには力不足です。
舞踊の得意な者は扇を盾に巡り前衛を。(受け流しと回避)
演奏の得意な者は楽器を得物に中衛を。(物理攻撃と鼓舞)
歌唱の得意な者は音符を飛ばし後衛を。(魔法攻撃と回復)
●蒼の魔法
首無き蒼の魔人は弓を持っている。
水を、風を、雲を、陽と……戦いに利用して敵を近づけぬうちに射貫くだろう。
●翠の魔法
首無き翠の精霊は杖を持っている。
蔓を、葉を、種を、翅と……力を借り自身を守りながらも敵を翻弄するだろう。
●緋の魔法
首無き緋の騎士は剣を持っている。
炎を、熱を、光を、鎧と……自ら直接用いることで敵を斬る戦いを好むだろう。
●プレイング締切について
基本的には常時受けつけています。
連絡事項がある場合はマスターの自己紹介ページ【告知】欄にて記載しておりますので、プレイング送信前に一度ご確認いただけますと助かります。
プレイングをお待ちしています。
第1章 集団戦
『魔法のランプ』
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POW : 蒼の魔法
【魔法のランプ】から、【天候】と【弓】の術を操る悪魔「【蒼穹の魔人】」を召喚する。ただし命令に従わせるには、強さに応じた交渉が必要。
SPD : 翠の魔法
【魔法のランプ】から、【自然】と【成長】の術を操る悪魔「【翠苔の精霊】」を召喚する。ただし命令に従わせるには、強さに応じた交渉が必要。
WIZ : 緋の魔法
【魔法のランプ】から、【獄炎】と【剣】の術を操る悪魔「【緋衣の騎士】」を召喚する。ただし命令に従わせるには、強さに応じた交渉が必要。
イラスト:ゆりちかお
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
鈴木・志乃
……どうでもいいけど私の話聞いてくれる?
(全ての空気を無視してUC発動)
私恋人がいるんですけど贈り物がね、おかしいんですよ
(オーラ防御展開 第六感で攻撃見切り回避)
欲しいものなんて言ってないハズなのにピンポイントで好み当てて来るというか
(悠々と敵とその周囲に油をぶちまけて転ばせようと)
以心伝心か? ってぐらい考えが似通っててですね
(高速詠唱全力魔法で焼却)
いやたまにいや結構な頻度でパンチしたくなりますけど
(早業念動力で光の鎖を操り炎の中に敵を捕縛)
いや実際コイツで殴ったこともあるんですけどね
(鎧砕き出来る魔改造ピコハンでぶっ叩く)
まぁ兎角好きなわけです
(以下腹立つ惚気と攻撃が続く)
翠の精霊は唯一の女性体だから、というわけではないのだけれど。
「どうでもいいけど私の話聞いてくれる?」
鈴木・志乃(ブラック・f12101)が話しだす。発声方法もなれたもので、志乃の声はどこまでも聞きやすく響いている。
首が無い? 耳がない? じゃあどうして私がわかる?
聞こえなくてもいい、むしろそれが喜ばしい、楽しいのは私だけでいい。
「私恋人がいるんですけど」
必要なのは恋バナであって会話ではない。
必要なのは話し続けることであって聞き手ではない。
必要なのは私の気持ちと声と武器と……とにかく私自身。
だから志乃は一方的に己の恋の話を、恋愛にまつわる話を繰り広げていく。
「贈り物がね、おかしいんですよ」
翠の精霊が杖を掲げるのを、オーラを高めて見極めながら。
首がないと目が無くて、視線の先がわからない。
ヒトならば、生き物ならあるだろう予備動作を見出すのが難しい。
だからどこまでも防御を固めて。
だからどこまでも感覚を研ぎ澄ませるしかない。
「欲しいものなんて言ってないハズなのにピンポイントで好み当ててくるというか」
思い浮かべるのはいくつかの贈り物。
「例えば千羽鶴……五色だけで終わらずに橙を入れてくるのとかどう思う?」
そう語る志乃の瞳が煌めいて、その色彩を強く主張する。志乃の恋人は祈りを込めながら志乃の色彩を折ったのだ。
「その様子を想像するだけでまた随分と想われてる気もするんですけどね」
恋人が使う符を強く思わせる五色の中に、志乃の色彩を含めるその意図を考えるだけでもこみ上げるものがあるのだと続けて。
これは惚気である。どこまでも恋人自慢である。愛されている事実を綴りながら思い返し愛に浸る。
その志乃は油断しているように演技をしている。話す行為そのものを楽しんでいるようでいて、しかしながら油を器用に周囲へとぶちまけている。
勿論、翠の精霊の周囲にである。守りを厚くしたことで、話し続けることで翠の精霊達の動きは鈍っているのだから。
自由に動ける志乃にとって、演技も含めて造作もないことなのだ。
「時折、いや結構。以心伝心か? ってぐらい考えが似通っててですね」
志乃も鶴を贈った。千羽ではなく36羽。やはり恋人を想い祈りを込めて折った。
意味を籠め返して、手を繋ぎ共に先に向かう願いを籠めて。
「いやたまに」
撒き終わった油に魔力を全力で込めた火炎魔法で火をつける。魔法の油は良く燃える。
翠の精霊は動きが遅い、けれど彼女達の操る植物達は完全に影響下に無いのかどこか動きが本来のもののようにも思える。
志乃に近づく前に、燃え上がる油とその火炎に焼き尽くされようとしているけれど。
「……いや、結構な頻度でパンチしたくなりますけど」
添えられた言葉を思い出して、得物を握る手により力がこもる。魔改造されたピコハンが、持ち主の手の中ゆえに軽い音を立てて。
手を繋いだ先で、願いを重ねた先に見える恋人の纏う色。
その意味を、思い出しかけて。
気付けば志乃のもう一方の手から光の鎖が伸びている。志乃が仕掛けた炎を志乃が怯えるはずもなく、光の鎖は迷わずに、翠の精霊達を捕らえていく。
「いや実際コイツで殴ったこともあるんですけどね」
わかりますこのイラつきに近い感情が。同意を求める言葉はただの形式だ。
聞き手に目の前にいると思わせる、仲間と思わせる油断の為の言葉。
けれど答えを聞く前に、そもそも話せぬのだから問答無用で翠の精霊に叩き込む。
志乃が振るう分にはどこまでも軽く、どこまでも気軽な相棒。
首持たぬ精霊はどこまでも言葉を発しない。志乃の話を遮ることはできない。
ずしりとした重みを真直ぐに喰らい倒れても、悲鳴も上がることはない。
ダメージが多ければ消えていく。魔力として戻るのか、それとも。
空気に溶けるように薄まる翠に、志乃がひとつの区切りをもたらす。
「……それほどに遠慮なく好きなわけです」
感情を繕わなくていい相手、想いを飾らずにいられる相手。
「まだまだ続きがあるんですけど、次はだれが相槌をくれますかね」
やはり形式、やはり演技。語られる想いはまごうことなき本物。
杖を掲げ志乃を示し蔓鞭を葉の刃をむけようとする翠の精霊を見据えて、志乃が改めてピコハンを構える。
「安らげる素敵な寝床の話に、思い出を示す靴の話」
話は終わっていないから、翠の精霊達の動きは鈍いまま。
「お題を選ばせてあげてもいいですよ」
その代わり、最期まで聞いてもらいますから。
大成功
🔵🔵🔵
逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)と
ふふ、悪魔。悪魔ですか
実に不思議なものですね
この国にもこうした悪魔という概念があるのですか
いえ、オウガのことを思えばそこまで不思議ではないでしょうか
ザッフィーロと背中合わせに立ち
互いに死角をなくし「高速詠唱」しながら敵らを睥睨しましょう
ええ、頼りにしていますよ
「範囲攻撃」「属性攻撃」「マヒ攻撃」をのせた
【天撃アストロフィジックス】にて敵を攻撃します
「緋の魔法」へは「激痛耐性」「火炎耐性」「オーラ防御」にて攻撃を防ぎつつ
妖精たちへ攻撃が向けられた場合は敵へ「吹き飛ばし」「衝撃波」でけん制を行い
かれが庇いに赴けば援護を行いましょう
どのような敵でも、倒すのみですとも
ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と
悪魔の軍勢か
妖精達を護りながら戦えれば良いのだが…数が多いか
だが、出来るだけ負傷者を出さぬ様動ければと思う
戦闘と同時に切り込まんと足を踏み出しかける…も
周囲の敵を見れば足を止め、宵に背を預ける様に立ち70体に分けた炎の狼【狼達の饗宴】を放って行こう
…数が多いからな。分断されては大変だろう?それに、無茶はせんと決めたから、な
妖精達に攻撃が直撃しそうな際は召喚した狼を敵へ向け『かば』い守って行こう
俺と宵の元に向かう攻撃は手に展開した光の盾にて『かば』いメイスにて『怪力』任せの『カウンター』を
これだけの悪魔を召喚できる魔力を持つオウガ、か…
さて、この先にはどの様な敵が居るのだろうな
炎そのものを織り込んだようなマントが、風もないのにたなびいている。
妖精達に剣を振るう緋の騎士達。その剣を見る限り、戦い方を追う限り、遠距離攻撃を得意とはしていないと、考えてしまっていいものだろうか。
「ふふ、悪魔。悪魔ですか」
どこまでも剣戟で戦おうとするその様子は、見た目通り騎士のよう。魔法のランプから呼び出されている彼らは確かに悪魔の筈で、その姿形は一時的な、まやかしのようなものだというのに。
「実に不思議なものですね……」
逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)の視線の先で、戦いは今も繰り広げられている。
「この国にもこうした悪魔という概念があるのですか」
悪魔である、悪魔の筈だ。その言葉の響きから、そこに含まれる意味合いから、もっと卑怯で、ずるがしこい戦い方をするものを想像してさえいた。
「……悪魔の軍勢か」
ザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)にしてみれば特に、その概念は気になるところである。この言葉は存在の定義というよりも概念を示すものだ。人々は罪や穢れを悪魔と称して厭い、祓う為に祈り、時に利用しながら時を過ごした。悪しきと思われることを総称する言葉と言い換えてもいい。
確かに超自然的存在だと言われれば、わからなくもない。目の前で繰り広げられる緋の騎士だけでなく、別所でみかける翠の精霊も蒼の魔人も、同じ魔法のランプから呼び出されている。具現化したことで、これまでの赦しで追いやられた悪魔が皆こうして見えるものだったとしたら……考えは尽きない。
「……いえ」
宵の呟きがザッフィーロの思考に入り込む。無意識に、今まさに足を踏み出そうと、戦場に切り込もうとしていたザッフィーロの足が止まった。
赦す名目で慈悲を与え、悪魔達を世界から祓う。そう在るべきザッフィーロの身は宵の言葉になら応えるし、止まる。
「そう、か」
本能的に動こうとしたザッフィーロに考える余裕が生まれる。
「……数が多いか」
騎士達と妖精達の激突の範囲は広い。背の高さの違いはある。特徴的な色彩の悪魔達は敵味方の識別に困ることもない。ただ、戦闘を続けている中に邪魔をする形になってしまえば妖精達に被害が出る可能性がある。
妖精達を護りながら戦えたら、と思考をめぐらせるザッフィーロだが、それが難しいことは理解していた。今なお騎士達が増えているのが、戦場に溢れる熱気で察せられるのだ。
ファランクスでも作り上げようというのだろうか。緋色の壁が、翠の壁が、蒼の壁が、そこかしこで作り上げられている。
自分達の存在を差し置いて、敵の在りようを否定するつもりはない。背中合わせに立つザッフィーロも、宵自身も今でこそヒトの形をしているけれど、その本性は違うのだから。
「オブリビオンのことを、オウガのことを思えばそこまで不思議ではないでしょうか」
ただの言葉遊びのようなもの。この戦いの中に入り込むタイミングを計るための時間合わせ。星の巡りを照らし合わせて、その瞬間を待つための娯楽。
二人揃っての詠唱はこの後に繰り広げる大技の前準備。互いの源を重ね合わせるように、揃いの指輪が光る手を繋ぐように。
「太陽は地を照らし、月は宙に輝き、星は天を廻る」
力が巡る。宵の詠唱に倣うように二人のまわりを巡る。
「俺は物故肉はやれぬが……」
力は廻る。ザッフィーロが重ねた言葉にあわせて力が増す。
「そして時には、彼らは我々に牙を剥くのです」
いくつもの光が舞い降りる。知らず天から降り注ぐ、陽射しの中でも眩しくある星の光。的を探し求めて、けれどまだ観測者達の周囲で半球を成す。
「子羊ならばあそこに居る」
宵の維持する空間に生まれ出でる炎の獣。二人の周囲を護るようで、飢えた視線をぎらつかせ。道標の二人は物だと教え込まれた狩猟者達はただ、合図を待つ。
「さあ、宵の口とまいりましょう」
宴の始まりを告げるのは宵。狼達が喰らうべき敵を、肉を、糧を、その星の光で捕らえ光らせ目印になる。
「……精々暴れて来い」
ザッフィーロが、群の主が許可を出す。獣達は目印に、他の全てに目もくれず、迷うことなく散っていく。
星は妖精達を襲わない。違わず緋の騎士だけを明るく照らし、射抜いた騎士の身動きを封じていく。二人を守るように在った半球はすでになく、宵は代わりにオーラを張る。
「分断されては大変だ」
杖を握る宵の手に振り返りもせず軽く触れて。ザッフィーロが傍に在ることをその仕草で示す。
その余裕のある態度に非難の言葉を送るべきか思案する宵は、けれど新たな緋の騎士が放つ炎に備えることを優先している。
「無茶はせんと決めたから、な」
その沈黙から察したらしい。
「大丈夫だ」
囁き声にも思えるほど小さくとも、この近さなら互いの耳に届く。ザッフィーロの視線も宵に向いてはいない。
放った獣達の一部を妖精達の護りに回す。まだ、彼等を後方に下げる段階が済んでいない。
「……頼りにしていますよ」
騎士が放つただの現象ではなく、獣の形をした炎がザッフィーロの意思の通りに滞りなく進めるよう、宵は妖精達の頭上に衝撃派を放っていく。
高さの違いは重要だ。騎士だけを吹き飛ばせればいい。狼達のが跳びあがらぬうちに。
「彼等ごとでも構わない」
共に獣を吹き飛ばせば、それだけ離れた場所へも早く移動できるとは、ザッフィーロの言。
声はすぐ横を通る。本性を隠す手袋の近くから顕現した盾が駆けてきた騎士を迎え撃つ。
すぐにその背に背を返し、死角を失くしながら宵が問う。
「狙い通りの位置に行けるか、保証はしませんよ?」
メイスが空をきる音に、騎士が倒れるだろう近い未来を知る。
「このまま留められるよりいいだろう」
これだけの悪魔を召喚できるオウガに思いを馳せているらしい。
確かに悪魔はまだ増えている。大技を使って一角を崩してなお、勢いは止まらない。
「強引な手も必要と、そういうことですか」
二人だからできることだと、ザッフィーロの声音に、言外に含まれている。
「やってみせますとも」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
彩波・いちご
【恋華荘】
音楽の国と聞くと、守らなければって思います
これでもアイドルの端くれですしね
なので
「詞さん、今回は力を貸してくださいね?」
斬りに行く詞さんを援護させるため、【異界の抱擁】で触手を召喚
ランプの悪魔に絡みつかせて動きを拘束
こちらも触手で締め上げていきますが、攻撃は詞さんに任せてもいいですね
…あの技確か、味方巻き込まないと寿命削るはず…なら
触手の暴走に見せかけて、戦闘の邪魔をしない程度に多少詞さんを巻き込むように触手をコントロール
味方(触手)に攻撃当てさせて、詞さんに反動が行かないように…
「すみませんっ。制御が甘くて…」
詞さんには気づかれないように、こちらのミスだと謝っておきますね
牧杜・詞
【恋華荘】
いちごさんとペアで戦う……。
猟兵になったんだから、組んだっておかしくないか。
「まぁ『こんなこともある』ってことよね。」
守るのは音楽の国、か。
刃物以外の芸術的なことにはあまり詳しくないけれど、
滅ぼされる理由がありそうにはみえないし、
守りたいって人もいるしね。
そして敵はランプの悪魔。
やっぱり、思いきり『殺せる』のは、ありがたいわ。
「あなたは生きているのかしら?」
攻撃は【九死殺戮刃】を使用。
いちごさんの触手がわたしを狙ってこない限りは、味方への攻撃はなし。
寿命? わたしのでよければ、もっていけばいい。
触手が襲ってきたら、容赦なくというか、
見境なく切りつけるよ。
「襲ってくるのが悪い。」
「守るのは音楽の国、か」
戦いを繰り広げる妖精達を見るけれど、牧杜・詞(身魂乖離・f25693)にはどこかピンと来ない。
(刃物以外の芸術的なことにはあまり詳しくないけれど……)
ただ、足運びにどこか規則性があるような、ないような。戦い方の観点から思うことはいくつかみつかる。テンポを乱さないようにステップを踏む様子を自分が行うイメージはあまり沸かないのだけれど。詞は相手のペースを乱す方が得意だと、自分自身を認識しているから。
(でも、滅ぼされる理由がありそうにはみえないし)
それこそ平和な国だったと聞いた。だからこそ攻めてくるのだというなら、理由の有無は関係なくなるのだろう。
「音楽の国と聞くと、守らなければって思います」
彩波・いちご(ないしょの土地神様・f00301)の声が聞こえて振り返る。
「これでもアイドルの端くれですしね?」
浮かぶ微笑みはまさにファンを魅了するものだ。
(こんな風に、守りたいって人もいるしね)
頷いて、改めて悪魔達の方に向き直る詞の背を、いちごの声が追いかける。
「詞さん、今回は力を貸してくださいね?」
殺戮刃物を掴む手に改めて力が籠もる。
(いちごさんとベアで戦う……)
その場での一時的な協力戦ではなく、はじめから、協力前提で請けた仕事。その事実を思い返す。
一対一でもなく、多対一でもなく。自分だけじゃな、「二」で在り続ける戦い。
(猟兵になったんだから、組んだっておかしくない)
だから請けたのだ。貸せる手があるなら貸そうと思えたのだ。
猟兵になってからの戦いの経験を、少しずつ重ねていくのにも、丁度いいから。
「まぁ『こんなこともある』ってことよね」
悪魔達は多い。妖精達も多い。その中に「二」として混ざりに行く。
詞の背を追うように、いちごは自身の影を伸ばす。
「ふんぐるいふんぐるい……」
否、影から眷属を呼び出しているのだ。
「星海の館にて微睡む我が眷属よ!」
数も長さも関係なく呼び出される触手は皆紫色で、妖精達を避けながら悪魔達へと向かっていく。
緋の騎士が炎を放ち燃やそうがすぐに補充され、断ち切られてもひるまずそのまま伸びていく。
あくまでもいちごが呼び出したものだから、痛みなどは伝わってこない。確かに契約した存在だけれど、個であり群である触手に欠損はきっと無意味だ。
翠の精霊が蔓で詞を絡めとろうとする様子に先回りこちらから絡めとる。葉の刃が斬りつけてくるが騎士の剣と同じ、そのまま伸びるだけ。
(詞さんを援護するためなのですから)
触手達が行うのは迎撃に限らない。隙を見つければすぐに悪魔達を絡めとろうと動き出す。
緋の騎士の脚を捕まえ、転ばせて剣を奪う。
翠の精霊の腰を巻き取り、翅を粘液で絡めとる。
蒼の魔人も巻き込んで、悪魔達の動きを封じていくのだ。
「邪魔なんてさせませんよ」
触手達に絡めとられた悪魔達は、少しずつその身を締め上げられる。
少しずつ動きが鈍っていく。
その隙を、詞の刃物が鈍い光を放ち、斬りつけ続ける。
首のない悪魔達はどこを斬りつけていいのか、最初こそ戸惑いはあったけれど。
例えば関節。武器を持つなら腕を。歩き駆けるなら足を。動かぬよう、その場所を殺せばいい。
数度の試行で、斬りつけるべき場所を見出す。腑分けよりも簡単だ。どの悪魔も、結局は人の形に似ているのだから。
「あなたは生きているのかしら?」
過去であるオブリビオン、過去がある限り生み出されるオブリビオン。
この悪魔達だって、魔力ある限り生み出されている筈で。
一体一体の動きを止めていきながら、その手ごたえも感じているけれど。
トドメを突かれたと判断した途端、空をきるように悪魔達は消えていく。
翠の靄に。時に、緋や蒼の靄が混ざったような気もするけれど、命を終わらせる方に夢中で、あまりはっきりとは覚えていない。
ただ、存在を確実に終わらせていく。
思いきり刃物を振るえる。
(やっぱり、思いきり殺せるのは、ありがたいわ)
一対一で、たった一つの為に入念な準備をして、その瞬間を味わうのも好ましい。それが一番だと思っていたこともあるけれど。
こうして、ただ力を揮うだけ、刃を振るう度に終わりを生み出し続ける爽快感と言ったら。
勿論わかっている、これは一人では成し得ない事。
(……ひとりより、戦いやすい)
いちごの援護があるから今があることも、わかっている。
ただ揮い続けたい欲求のままに刃を振るう。獲物を見据えて瞳が輝く。
何かが減る感覚はあるけれど、そんなこと。
(この感覚に比べたらどうってことないわ)
私の寿命でよければ、好きなだけもっていけばいい。
(……あの技は、確か)
攻撃は詞に任せ援護に徹しているということは、常に詞の動きを、状況を把握し続けるということ。だからいちごが気付くのは当たり前だ。
大きな利を得る為にはそれだけの代償が必要だ。詞は猟兵になりたてだと言っていたこともある。いくらいちごが触手達で悪魔達の動きを制限していることを差し引いても。詞の動きは速すぎる。
(味方を巻き込まないと、寿命を削るもののはず……)
ならばと呼び出すのは新たな触手。いちごには何の制限もないのだから迷う部分はひとつもない。
「えっ!?」
アイドルとしての声量を活かす。
舞台に立つ者としての演技力を活かす。
あくまでも想定外だと思わせる為に、ほんの少しだけ、他の触手にも敢えて隙を作らせる。
悪魔達が触手達の拘束に打ち勝ったとでもいうように、その拘束を担う触手達を緩ませる。
すぐに、新たに呼び出した触手を忍ばせるけれど、緩んだ触手は詞に向けて……狙わせる。
(詞さんは、迷っていないようですけど)
悪魔達を斬りつける動きに躊躇いがない。いちごに刃を向けてこない。
(反動は、無い方がいいに決まっているじゃないですか……)
敵味方がわからなくなったかのように、迷う一部の触手。その周囲の触手をわざと波打たせる。迷っているように、つられそうだというように。
それさえも気にせずに詞は刃を振るっているけれど。
「……すみませんっ! 制御がっ!」
気を付けて! そう詞に向かって叫びながら触手で詞を襲う。悪魔達と同じように、その動きを抑えようと、絡みつこうと周囲から。
「ッ!」
声の為か、それとも脚に触れたからか、真実はわからずとも詞の刃が触手に向かう。ほんの一瞬だけ、殺気のようなものがいちごに向けられる。
「襲ってくるのが悪い」
ただ、攻撃の邪魔に思ったのか、触手そのものへの抗議か、ただすべて的だと認識したのか……わからないけれど、いつもとは違う鋭い声。謝らないから、と素っ気ない言葉も続いている。
「あっ……でも、よかった」
けれど、いちごとしては狙い通りの結果なのだ。詞が味方を攻撃した事実が生まれればそれでいいのだから、安堵の息を添えておこう。
「制御が甘くて……すみませんっ!」
動きを鈍らせ阻害すれば有利になる。
目印をつけて敵味方の識別を行って。
妖精達を引かせ道の先を斬り開いた。
猟兵達が走り抜けた先に、魔法のランプが、魔力を注ぎ続けるオウガが。
強き者を、猟兵達を、待っている筈。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『獄炎薔薇竜カタストローフェ』
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POW : 破滅の蒼き炎
【なにかに接触すると大爆発を起こす蒼炎の弾】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD : 心躍る闘争を!
全身を【地獄の蒼き炎】で覆い、自身の【強者との戦闘を楽しむ意思】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
WIZ : 地獄へと誘う薔薇の舞
自身の装備武器を無数の【炎の如き熱を持った薔薇】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
イラスト:ハギワラ キョウヘイ
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
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| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
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| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「ノーラ・カッツェ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
猟兵達が悪魔達を掻い潜り駆け抜けた先で待つその姿は、まさしく強者の器。
高温を示す蒼き炎が、その体表のどこかを、常に走り続けている。
「……待ちわびていたぞ」
ゆるりと猟兵達へとむけるその片目を覆うのは薔薇。その背に負う大輪もまた紅き薔薇。腹の底から響かせるような声にあわせ、花弁も舞う。
「魔力を注ぎ込み続けることにも飽いたところだ」
ランプを抱くその身は蔓を集めたように絡まり合うようで。けれどしなやかさだけでなく。光の照り返しが鋼の強さもうかがわせる。
「待つほどの強さを、その価値を、我に見せてくれるのだろう?」
愉悦と期待の混じる声音に呼応するように。蒼き炎も揺らぐ。花弁も鮮やかさを増す。
「我が望むは強き糧。猛き武、聡き知、麗しき美、折れぬ心……強者と立つ者こそ美味なる贄よ」
悪魔達はまだ、新たに呼び出され続けている。
「我が名は獄炎薔薇竜カタストローフェ……強きを喰らい、弱きを破棄捨て、常に孤を抱く身」
どこまでも暇つぶしだと、ただ作業の結果として増え続ける悪魔達で示している。
「主らは塵芥か、我が喰らうに値するか」
その時はじめて、カタストローフェの目が、猟兵達の一人一人を映した。ただ漠然と顔を向けていただけの片目が、光を強くする。
「光栄に思うがいい……我自らが見極めてやるのだからな!」
蒼き魔人も、翠の精霊も、緋の騎士も。妖精達に向かっていく。
悪魔達は妖精達を抑え込む。
妖精達は悪魔達を抑え込む。
戦争の中心にぽかりと空いた広場の中で。
猟兵達は、カタストローフェと対峙する。
例えば武、荒れ狂うほどの魔力を解放すれば大抵の挑戦者は地に伏した。
例えば知、見通せば大抵の情報は手に入るせいで驚きを得たことがない。
例えば美、芳しき香で誘えば骨抜けるために油断と隙は思うままだった。
例えば心、傲慢な態度は人を寄り付かせず、戦いを好む嗜好は人を選び、強者を求める理想は理解を得られない。
カタストローフェは孤独を望んだわけでなく、ただそう在らざるを得なかった。
強き者が正しく、弱き者は喰らえばいい。
孤独だけが常に在った。
会話らしい会話は戦いの中でだけ。
最も饒舌なやりとりは力を比べるその時間だけ。
どれほどの武を、知を、美を、持ちうる全てでねじ伏せようが、その心は……
鈴木・志乃
……はぁ、バカらしぃ。AHOKUSA。
なんでアンタの為に真面目に戦闘しなきゃなんないわけ?
待ちわびてたんなら最初っから表出て来なさいよ
この無能将軍
アンタにゃこいつがお似合い、だっ!
(心底舐め腐った顔からの小馬鹿にした態度で挑発かーらーのー)
UC発動【精神攻撃、マヒ攻撃、毒使い】
私ねー、戦いって大ッッッ嫌いなんですよ
血とか炎とか切った張ったとかホント勘弁して!
あんたみたいな戦闘狂こそこのギャグ技が相応しい
(※どう考えても毒ガス充満してますありがとうございました)
あっ私は【オーラ防御】展開しときますので
どうぞごゆっくり
出口にトリモチと油の罠設置【罠使い】
引っかかったら【全力魔法】で燃やします
「……はぁ、バカらしぃ。AHOKUSA」
鈴木・志乃(ブラック・f12101)が吐き捨てる。
(行儀が悪い? 知ったこっちゃない)
唾を吐きかけられるならやってみせたっていい。流石に至近距離で、カタストローフェの巨体相手には難しい。気持ちの上ではもう何十回と実行しているのだけれど。
そもそもオブリビオン相手に、これから倒れる相手に礼儀なんて気にする必要がない筈だ。
「なんでアンタの為に真面目に戦闘しなきゃなんないわけ?」
延々と戦わせられて、話し続けて、やっと道が開いたと思えばこの上から目線である。確かに視線の高さはあるが、だからなんだというのだ。
「待ちわびてた?」
思考のままに言葉が滑り出ていく。
「そんなら最初っから表出て来なさいよ」
全く意味が解らない。道場破りでも模擬戦でも、戦う方法はいくらでもある。
「戦いたいなら相手の前にすぐに出てくればいい。ああ、試練を潜り抜けた強者だけが戦えるとかステレオ過ぎて今更流行らないからいちいち聞きたくない。仲間を使って疲弊させて? そんな状態の相手と戦う? 何様だっての。待つ意味ゼロ。強いやつと戦いたいなら全力が出せる状態で向かいあいなさいよ」
何のためにやりたくもない戦闘に近い行為を続けて来たのか。
直接手ごたえを感じるような行為が嫌いだ。
魔法はいい、離れていても狙える。
罠はいい、道具という壁ありきだ。
相棒のピコハンは志乃自身が使っている限りただのオモチャの手応えでしかない。そうなるように改造した。
身体を動かすことそのものは嫌いではない。でも怪我は駄目だ。
どれだけ動いてもかすり傷ひとつ追わないようにと選んだオーラ防御は本当に便利だ。
何も持っていない、構えていないようでいて思い通りに万全の膜を纏える。
(そうじゃない、今考えるべきはこれじゃない)
見下ろされるなら見下す。
苛立ちを持って苛立出て。
心底舐め腐った顔を見舞ってやろう、小馬鹿にした態度を見せつけよう、だから志乃は全てを盛った挑発を叩きつける。
「この、無能将軍」
八つ当たりだろうがなんだろうが、これは演技でも何でもない、本気で本音のぶつかり合いだ。
「アンタにゃこいつがお似合い、だっ!」
「我は」
カタストローフェを中心に地面がせり上がる。志乃の口上はずっと続いていて、口を挟む隙はなかった。あくまでもパフォーマンスとして繰り広げられたからこそ吟味して耳を傾けるという変に律儀な態度を取っていたカタストローフェは反応が遅れた。
自身が纏う蒼き炎から生み出された弾がいくつも飛び出し、志乃達猟兵を狙う。けれど遅れた分はすべて新たに生み出された迷路の壁に阻まれる。生み出されるそばから蒼炎の弾が爆発し破壊するけれど、今はまだ迷路を構築しているタイミング、新たな壁が産みだされるばかりで簡単に突破をさせていない。迷路が一度完成するまではこの状態が続く可能性がある。
「私ねー、戦いって大ッッッ嫌いなんですよ」
額に汗がにじむ。意識を保っていないと押し負けそうな緊張状態でも、志乃はカタストローフェを挑発する。
(ハッキングと同じだ)
この場合は守る側かもしれないけれど。どちらにしてもシステムを構築するように迷路を仕上げてしまえばいい。時間稼ぎなのは最初から分かっている。
「血とか炎とか切った張ったとかホント勘弁して!」
完成したらすぐに発動するように毒ガスの準備も並行している。動けば罠、壊せば罠、止まっていても罠。迷路の中に放り込まれたカタストローフェが何をしても罠に見えるように幾重にも仕掛けを施していく。
「あんたみたいな戦闘狂こそこのギャグ技が相応しい」
配信用に動画撮影でもしようか、なんて軽口を挟む。
カタストローフェの声は聞こえない。爆発音が繰り返されて、きっと互いの声は届いては居ないのだろう。
志乃も周囲を見る余裕がない。妖精達が戦う悪魔達の中でも蒼の魔人達が、天候を操作して雷鳴を轟かせているせいかもしれない。
蒼の炎に呼応して、爆発に寄り添うように。それは攻撃ではないようだけれど、召喚主であるカタストローフェの強さを演出するように。
「当事者どんどん埋もれてるけどね!」
少しずつカタストローフェの姿が壁の向こうに消えていく。迷路はそろそろ仕上げに入った。
毒に、麻痺に、出口に辿り着くまでずっと繰り返される単調でリズミカルで時折不意を突くトラップの嵐に辟易すればいい。
「負けたら喰らう? アンタにゃ失敗料理でも生ぬるい」
迷路の完成と同時にオーラを纏いなおす。いつ出てきても対応できるように守りは固く。
(この迷路だけで終わりなんて誰も言ってないからね)
あの巨体相応のトリモチや油は面倒だが、直接戦うより何倍もマシだ。
出来る限りの時間を稼いで、敵と同じことを返してやる。
迷路が幾度も振動する事実に気付きながらも、志乃はギリギリまで罠を仕掛け続ける。爆発による破壊は試み続けられているらしい。気配の移動も感じるけれど。
いつ出てきてもおかしくないのだ。
「どうぞごゆっくり」
聞こえないだろうけれど、迷路の中で苛立っているだろうカタストローフェに向けて呟く。
「待ちわびたって返してあげる」
大成功
🔵🔵🔵
彩波・いちご
【恋華荘】
「貴方に見極めてもらう必要はありません…私はそもそも貴方の求める強者ではありませんしね?」
私は強さを誇るつもりはありません
大切な人を守れれば十分ですから
…そう思い、ちらりと詞さんを見ます
彼女が気圧されていないなら、私は彼女が戦いやすいよう援護をするまで
音楽の国に相応しく、私の魔法のステージ御覧あれ
【幻想よりきたる魔法の演者】にて魔法のオブジェクト生成
作るのはスモーク…煙幕
今回のプリマは詞さんですから、彼女の動きを敵から隠す煙のオブジェクトを撒きます
敵の視界を奪う目くらましに、敵の炎の攻撃を煙でかき消したりと
自在にオブジェクトを操り詞さん支援
「弱くとも支え合って、私達は戦うんですよ」
牧杜・詞
【恋華荘】
わたしはわたし。
あなたに見極めてもらう必要もないわ。
強き糧も猛き武も聡き知も麗しき美も折れぬ心もない。
でもだから、あなたに勝てないということじゃない。
これまでも、わたしより強いやつはたくさんいた。
だけど、わたしはいまここに、あなたの前にいる。
あなたのような、自らの力に絶対の自信を持つ人を、
騙り欺き眩まして、闇に還して生きてきた。
今回は、どうかな?
あなたの命は【命根裁截】で刈り取らせてもらうよ。
複数での戦いは慣れていないけど、心強くはあるし、ね。
いちごさんの【幻想よりきたる魔法の演者】のサポートを受けながら、
相手の死角をついていきます。
「生き残るのは強いからじゃない。臆病だからよ」
迷路が完成に向かうまでの間、他の猟兵達も行動を起こしていた。
「貴方に見極めてもらう必要はありません」
戦いに赴く回数は確かに多い。経験も積んでいる。そう言った意味では、今存在する猟兵達の力を、示される指標としての数字を比べたら。確かにトップクラスの力はあるという自覚はある。
けれど彩波・いちご(ないしょの土地神様・f00301)は自身を過信したりはしない。
「……私はそもそも貴方の求める強者ではありませんしね?」
嫌味のつもりはなく、本気でそう考えている。カタストローフェの言い分を振り返るに、彼が求めるのは力のぶつかりあい。それも何かしらを誇り、それを周囲に憚らず喧伝するような者を求めているらしい。
それこそ、カタストローフェそのものと同じように。驕り高ぶり見下すような。
カタストローフェからの返答はない。迷路の破壊に精を出す竜は猟兵達の言葉を受け止めてはいない。
対応に追われているからにも見えるが、これほどの魔力を持つ存在ならは本気を出せば会話くらいできるはずで、ただその意思がないだけとも取れる。
一方的に強者として君臨する予定だったのだろう竜の本心はわからない。
一方的に訪れて、襲って、待って、勝手に決めつけてくる存在なのだから、そもそもオウガなのだから、猟兵達は実直に付き合う義理はないのだ。
(私は強さを誇るつもりはありません)
もしこれが伝わったとしても、理解されないだろう言葉。別に口にしなくても、いちご自身が胸に秘めて行動の軸にすればいい信条のようなもの。
カタストローフェに聞こえても意味はないだろうけれど、共に戦う牧杜・詞(身魂乖離・f25693)に聞かせるにはどこか気恥ずかしい言葉。
だから明確な声に、音にはせず、胸の内だけで言葉を綴る。
(大切な人を守れれば十分ですから)
カタストローフェに向かうための準備を進めるために、視線に熱を籠めすぎないように気をつけながら、詞に対の青を向ける。
(わたしは、わたし)
闇に紛れる為には殺さなければいけないものが多かった。気配、感情、人格……命を殺すためには、殺しておかなければならないものが多かった。
猟兵になって日が浅いからこそ、詞は知っている。強さは簡単に推し量れないことを知っている。
(あなたに見極めてもらう必要もないわ)
そもそも、誰かの評価を必要としたことなんてない。
不慣れが残る今の生活を、自分の状況を自覚している。
その上で出来ることを模索して挑戦して今も殺戮刃物を握っている。
(強き糧も猛き武も聡き知も麗しき美も折れぬ心もない)
それを全て持っているのだと、カタストローフェは思っているのかもしれない。
だからこそ、己以外を見下す、あんな態度がとれるのかもしれない。
(でも、だからなに?)
強そうだとか、弱そうだとか、確かに相対してわかることはある。確かに強そうだとは思った。
(あなたに勝てないということじゃない)
詞は知っている。
純粋な力比べでは勝てない標的が居た。知恵をもって弱点を見せない標的が居た。美の虜を利用して防御を暑うする標的が居た。常に気を張り続け隙を作らない標的が居た。
(これまでも、わたしより強いやつはたくさんいた)
気配を殺して気付かずに、感情を殺して意図を読ませずに、人格を殺して限界までの道を伸ばした。そうすることで全て、必要な隙を作り上げて殺した。
(だけど、わたしはいまここに、強き糧を求めるあなたの前にいる)
迷路の出口に仕掛けられていく罠を見続ける。その全てが綺麗に決まったら、どのタイミングで隙が生まれるか、罠を見ながら思考する。
カタストローフェのような存在は、確かに同じではなくても、近い存在はいくつも見てきた。
(自らの力に絶対の自信を持つ人は、それを挫かれた瞬間が狙い目)
武があるように騙り、知恵を繋ぎあわせめぐらせ欺き、美に向かい引き付けられる視線を逸らして眩まして、そのほんの小さな隙を利用して、闇に還して生きてきた。
詞の様子に頷いたいちごが手をかざす。指揮をとるように戦場を滑らせるその手に合わせて、詞の動きをより円滑にするためのオブジェクトが生みだされていく。
意思を持つかのように膨れ上がる煙はいちごの思うままに形を変えていく。
音なく駆ける詞の足運びを隠す。迷路の振動が出口まで近づいてきているのがわかるから、出会いがしらに一撃を繰り出せるタイミングを計るため、その場所に向かっている彼女の進む道を彩っていく。
ステージの演出にも使われる煙はその色彩も様々だ。
詞の行く手を遮らないよう、悪魔も要請も煙のクッションに遮られる。
カタストローフェが現れるまでは一直線に、竜の気配が近くなるほどに複雑に。
詞の視界を遮らず、けれど敵の視界を塞ぐはずの高さに煙は浮かび上がっていく。
「音楽の国に相応しく、私の魔法のステージに変えてあげます!」
妖精達が、そのいちごの言葉に目を輝かせたことに気付いたのか、どうか。
悪魔と戦うだけで手いっぱいだったはずの妖精達の一部が、詞とは離れた場所のオブジェクトを利用し始める。
(今回のプリマは詞さんです)
でもこのステージは、戦場は、たった一人の為のものだけではない。詞の援護をするためだけでなく、音楽の国らしく、戦いの気分を盛り上げるためだけのオブジェクトも生み出している。
ふわりと浮かぶ音符は、ただの煙の集合体だけれど。ふわりふわり、ゆっくりと動くその流れと死角を利用するのは舞うのが得意な妖精達。
煙の音符にあわせて、歌の音符を飛ばす妖精達はカタストローフェの、悪魔達の死角を増やす。巡り巡って、詞の駆けるべき道に彩りが増えていく。
迷路の出口から蒼き炎が垣間見える。はじめに見た時よりもより全身を多く蒼が増えている。
「我をここまでコケにするとは……」
憤慨とは違う。どこか楽しそうにも聞こえる声音。それだけ猟兵達との闘いに楽しみを見出しているからだろうか。この後に続く戦いに期待が浮かぶのだろうか。
既に毒も麻痺も喰らっている筈だけれど、まだ、動きを止めるほどにはなっていないようで。
ずるりと、油に滑る様子すら低く笑い声にも聞こえる声を洩らすあたり、どれだけ戦いに狂っているのだろう。
カタストローフェは罠にかかる度、戦いへの期待を強くする。全身の炎がより蒼く燃えていく。
緋の騎士が構える剣に、カタストローフェと同じ蒼の炎が灯っている。
気付いたいちごは、オブジェクトをより広範囲へと広げていく。悪魔達と戦う妖精達の元へ、その炎を煙で巻き込みかき消すために。
同時に、詞の舞台も広がっている。
「さあ、御覧あれ♪」
自然と、歌うような節をつけていた。
用意された舞台を駆けていた。
いちごの生みだす煙が、音符が。進むべき道を示してくれた。
勿論詞自身、どう進めば死角から狙えるか、考えながら駆けていた。
カタストローフェが出てくる場所は明確だ。迷路の出口は猟兵達全員に分かりやすくできていた。何せ罠が多かったのだから。
(今回は、どうかな?)
1人ではない戦いで、どれだけ自分の力を引き出せるか。慣れないなりの策を用意したつもりだ。
いちごは全面的にサポートしてくれている。それが心強いと思えている。1人じゃない、という状況に慣れようと意識していることは勿論だけど、思っていたよりすんなりと、この状況に馴染み始めている。
迫ってくる蒼炎の弾を、オブジェクトを利用して躱す。カタストローフェの視線はこちらに向いているわけじゃないが、竜は己の展開できる方角全てに攻撃を放っているようだった。
竜にしてみれば全方位が敵という状況は間違いではない。悪魔達は竜の魔力を利用して呼び出されたものであり配下なのだから、探知するまでもなく戦場でどこにあるか、わかるのが当たり前なのかもしれない。
事実猟兵達、妖精達にしか向かってこないのだから。
(……よかった)
標的以外に意識を向けるなんてこと、きっと今までの詞ならやらなかった。妖精達に向かっただろう蒼炎の弾の先に一瞬だけ意識を向ける。いちごの生みだした煙の音符が向かっている。妖精達の音符だけでは圧し負けそうな状況を助けている。
(なら、私は私が出来ることをやるだけ)
多数の居る戦場で意識を別に向けるなんて命取りだと知っていた。でも、今は味方がいるからそれができる。
迷路の外側を駆けあがり、カタストローフェの後方に辿り着く。殺戮刃物を振りかぶる。
籠めるのは、瞬間的に膨れ上がる殺意。これまでの人生で、幾度も得物を狩る時に抱いた殺意。刃そのもので生み出す傷ではなく、身の内に在る命へ照準を合わせる為の殺意。
「あなたの命、刈り取らせてもらうよ」
斬りつける瞬間に初めて声を届ける。
炎で覆われたカタストローフェの身の内、奥深くまで殺意を侵入させる。
「ほう……我の生命に干渉するか……」
面白い、そんな呟きと共にカタストローフェの首がぐるり、詞へと向けられる。
(一撃とはいかないか)
けれど敵の言葉を信じるなら、確かにダメージにはなっている。外観に傷らしい傷をつけない技術は死因を誤魔化すためのかつての技術をもとにしたもの。
表に見えないからこそ、確かにこの竜に一手喰らわせた証拠だ。その筈だ。
跳び退り、距離をとる詞。すぐにいちごの煙が詞の居場所を隠して紛らわせる。
「か弱き見目に、それだけの生命力を秘めるとは」
カタストローフェにしてみれば、人は全てか弱く見えるだろうに、なんて悪態をつきたくなるけれど。
「生き残るのは強いからじゃない。臆病だからよ」
強さが全てじゃない、と言ってやりたかった。すぐにその場を移動して、気配を音の中に紛れさせていく詞。
「弱くとも支え合って、私達は戦うんですよ」
スピーカー型のオブジェクトが複数、カタストローフェの周囲に並ぶ。響くのは勿論いちごの声だ。詞の気配を更に、音に紛れさせていく。
(何度だって繰り返す)
再び死角をとるために移動をはじめながら、詞はその瞬間の為の殺意を身の内で育てていく。
その命を、刈り取りきれるまで。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
火土金水・明
「この世界を守るために、あなたを倒します。」「相手が飛翔するのでしたら、こちらも空を飛ぶまでです。」
魔法の箒に跨って【空中戦】の技能を使用します。相手に逃げられないよう【限界突破】で飛行速度を上げます。
【SPD】で攻撃です。
攻撃方法は、【高速詠唱】し【破魔】を付け【フェイント】を絡めた【全力魔法】の【螺旋強襲】で『獄炎薔薇竜カタストローフェ』を攻撃します。相手の攻撃に関しては【見切り】【残像】【オーラ防御】【火炎耐性】でダメージの軽減を試みます。
「(攻撃を回避したら)残念、それは残像です。」「オブリビオンは『骸の海』へ帰りなさい。」
アドリブや他の方との絡み等はお任せします。
鈴木・志乃
そんなに戦いたいんだ
いいよ、やろうか、どっちかの魂が燃え尽きるまで
祈願成就の神子、シノがその願い、聞き届けた
UCで光の鎖を召喚
これ、神様から貰ったものなの
能力は私の心持次第だけどね
『君が望む未来と今を繋げて見せなさい』って、そう言われてる
可能なら貴方の心を孤独から解き放ってあげたかったけど
……私が出来るのも、戦うことぐらいね
高速詠唱全力魔法でオーラ防御展開
第六感で攻撃を見切りスライディングで回避しつつ
早業念動力で光の鎖を巻きつけて捕縛、絞殺する
相手が強い? だから何?
それが貴方を助けるのを妨げる理由にはならない、絶対に
今度ばかりは血も気にしない
戦うのは嫌いだけど、それ以上にもう、アンタが心配だ
「そんなに戦いたいんだ」
毒も、麻痺も喰らわせた。思いつく限りの罠をしかけて、その罠全てにかかっても、まだ戦おうとするカタストローフェは、狂っている。
「いいよ、やろうか」
戦いたくなんてないと、戦いなんて嫌いだと、そう思って仕掛けた全てをもってしても、その狂いが止まらないなら。
鈴木・志乃(ブラック・f12101)は意識を改める。強引に捻じ曲げてでも戦いを戦いではなくすために行動していた己の姿勢を、正しくカタストローフェに向き合わせることに決める。
「どっちかの魂が燃え尽きるまで」
その言葉に、真正面から立ち向かわれる、その戦いの予兆に。
カタストローフェの目が、薔薇に覆われていない片目が、狂ったままで輝いて。
「祈願成就の神子、シノがその願い、聞き届けた!」
舞台の中を、空中にまで広がる煙の音符の影を縫うように飛びながら、火土金水・明(夜闇のウィザード・f01561)は意思を強くする。
「この世界を守るために、あなたを倒します」
長く伸ばしたポニーテールがなびくその姿は黒き流星のよう。跨る魔法の箒はセオリーに違わず魔女の要素を発揮する。
唯一、一般的なイメージとの相違をあげるとするなら、その柄の先に、穂とは反対側に仰々しく取り付けられたドリルの存在だろうか。
明は宙を跳び回りながら、その速度を徐々に上げていく。身体を、視界を、速さに慣らし備えていく。
「相手が飛翔するのでしたら、こちらも空を飛ぶまでです」
毒や麻痺をくらおうと、カタストローフェがその能力を失った証拠にはならない。警戒を重ねこうして備えることで、万が一の可能性を、逃走の道を塞ぐ役を担う。
明が速さを増すほど、詠唱も短く練度が高まる。
明が速さを増すほど、ドリルの回転数が上がる。
明が速さを増すほど、全てが補い合い上昇する。
明の気配は意図して隠されているわけではない。むしろ強くその存在をアピールしているかのように濃密な魔力を示している。明は魔女で、今は魔女としての戦いに身を投じているのだから。魔力が多いと語られたカタストローフェは確かに竜だけれど、その魔力こそが興味の対象でもあった。
(魔力比べなんて、いいと思わない?)
この戦場に召喚されて、その魔力の質を感じ取って、つい心が躍ってしまったことは否定できない。
悪魔を呼び出し操るなら、破魔の力は、聖なる力は効くだろう。魔女は必ずしも悪ではなく、ただ魔力をうまく扱う者の総称のようなもの。だから明は聖なる力も扱える。
速度を増すほどに練り上げた、ドリルと共に回転し、明の中を巡り続ける魔力にその属性を添える。カタストローフェがどんな護りを持とうとも、その全てを貫き通すための一撃へと変える為に。
ワイヤーとも違う、けれどそれ以上に思い通りに操れる光の鎖は、そう意識するだけで志乃の手のうちに現れる。
「これ、神様から貰ったものなの」
神子だと先に名乗った通りだ。先の迷路と罠を仕掛けている間は直接対峙していなかったも同じだから、改めて名乗った。
本気で戦いに向き合う時にあげる名乗りと、その時に扱う得物。
(能力は私の心持次第だけどね)
その事実は胸の内だけに収めておく。
神様の言葉は、いつだって思い出せる。
(『君が望む未来と今を繋げて見せなさい』って、そう言われてる)
その言葉でどれだけ、志乃の可能性が広がったか。そのとき、自分の視野が広がる感覚がして、身の内が物足りなくなった気がして。
その時きっと、器としての何かに変化があったのだと、今なら思える。
それまでは、ただ。鎖と聞くだけなら、それこそ縛り付ける為の道具としてしか見れなかったのではないかと思う。
どちらかと言えば、悪いことに使うイメージが強かった。
けれど、繋げる、繋ぐ、繋がっていく。
そんな役割を示された時、鎖はただの道具ではないと、受け入れることができていた。
強固な鎖で悪しきものと縛りつけられている場合は、確かに良い状態とは言えない。
けれど善いものと繋ぎ合わせるなら。強固な鎖は、とても心強いものとなる。
「目の前で罠をしかけるとは、我も侮られているのか」
過去に想いを馳せている間に、カタストローフェが会話する余裕を取り戻したらしい。
やはり竜の身体だからか、炎を用い、植物を用い、魔力の豊富な存在だからか、効果を薄れさせる術にも長けていたのかもしれない。
「だとしたら、どうだっていうの」
入念に張り巡らせたオーラで蒼炎の弾を防ぎながら尋ね返す。最も近くにいる志乃は、会話もし放題だと言っていい。
他の猟兵の為に隙を作る囮のような役目でもあると、そんな自覚も持っている。
カタストローフェの言葉選びは責めるものの筈なのに、喜色が混ざっているように聞こえるせいで、返す言葉もどこか軽いものになっていた。
「我を侮るだけの強き者なら、歓迎するだけだ」
「……またそれ」
身体を地に滑らせて、転がって、それでもわざとらしい身振りを足した。
どこまでも戦いを愛する、力を欲するカタストローフェのその願いがやはり、理解できない。
願いを効き届けはしたけれど、理解とは別だ。それで成就の条件を損なうわけではないのだから、志乃の自由でいい部分だ。
「可能なら貴方の心を孤独から解き放ってあげたかったけど」
こんなことを言っても、まともな会話になるとは思えない。けれど言わないと気が済まない。
「……私が出来るのも、戦うことぐらいね」
本当に、それしか、成就の道はないらしいので。
(だけど、裏で仕掛けを施せてこそ)
よく練り上げた魔力をいくつか、切り離していく明。ドリルがなくともぐるぐるとめぐり続けるその魔力の質は十分で、そこに明自身が己に展開しているオーラを纏わせていく。
魔力はその質によって持ち主の気配を色濃く宿す。球状のオーラの中で今もなおめぐり続ける魔力は全て、明の気配に近しいものだ。
満足の行く仕上がりに頷いて、四方へと放つ。分身とまではいわないけれど、遮蔽物のある今の状況であれば、少し視線を逸らしたり、気を惹くくらいの効果はきっとあるはずだ。
「埒が明かぬ」
その気配の分散に気付いたのか、何が切欠だったのかはわからない。カタストローフェの身が動こうとする気配を感じる。
蒼き炎が、煙を燃料の足しにするかのように燃え上がる。視界が一部開けていく。
猟兵達にしてみれば、標的が見えやすくなった、とも呼べる状況だ。一回り分の周囲の障害物はけされてしまったけれど、しかし狙い撃つには都合のいい状況で。
(今ね)
散らしておいた、フェイントの為の仕掛けを。切り離した魔力をカタストローフェに向けて放つタイミングを計っていたのだ。
すべて同時ではなく、規則正しい階段とも別で。ランダムに見えるとうに直感的に、カタストローフェへと向かわせる。
そして明自身も、最高の状態に回転を極めたドリルと共に、カタストローフェへと向かう。
魔力が近づくほどにカタストローフェの口が開く様が見える。襲い来る存在をそのまま糧にするかのような態度に、強き者と認められた、その可能性に気付く。
(ふさわしいと思われたなら光栄と、そう言ってあげてもいいわよ?)
全てが終わったら、勝利を確信したらではあるけれど。
魔力にも破魔の力は宿っている、喰らうと言うなら中から食い破れる可能性もあるはずだ。
明自身の攻撃が辿り着くその瞬間までに油断を作れると信じて、最後の直線を、宙を飛び突き進む。
(オブリビオンは骸の海へ帰りなさい)
この先も空を自由に飛べるなんて、そんなことは許さない。
「貴方はこの地に縫い止められて、もうすぐ終わりを迎えるの」
明の攻撃にあわせて、光の鎖はカタストローフェに巻きついていく。
この地に、墓場となる場所に、近い未来に強く繋ぎあわせて、縛り付ける。
戦うことを望むカタストローフェと、それに応えて戦う志乃。
望む未来はこの国の防衛。繋ぐ先はきっと、骸の海。
「……相手が強い? だから何?」
強さを比べて、勝敗を決めて、そこまでなら別に、気にも留めない。
けれど更なる力の為に勝利者として敗者を喰らう存在に、勝利こそが正しさの証明だと言わんばかりのこの竜に。気遣いなんて望めない。
けれど。
「それが貴方を助けるのを妨げる理由にはならない、絶対に」
志乃は、カタストローフェの心を、共に過ごす者のいない、わかり合えるものの居ないその孤独から解き放ってやりたかった。
けれどカタストローフェは望んでいなかった。仕方がないから、それしか道がないから。
(今度ばかりは血も気にしない)
気にしたら、救えない。この孤独な生から解放してやれない。
「……戦うのは嫌いだけど。何度戦っても好きにはなれないけど。それ以上にもう、アンタが心配だ」
鎖を締めて、少しずつその行動を縛る。
終わりに、近づけていく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)と
ザッフィーロの方こそ気を付けてくださいね
僕にとって勇ましく強く美しいきみ
いえ、バックアップは抜かりませんが……
惑わされては一大事ですからと杖を構えましょう
強大でさぞ勇猛で鳴らす方とお見受けしますが
ふふ、僕のザッフィーロに手出しはさせませんよ
敵の攻撃は「オーラ防御」と「見切り」で受け流すように努めつつ
死角からザッフィーロを襲う花弁は「衝撃波」にて「吹き飛ばし」ましょう
ザッフィーロの攻撃に合わせて
「高速詠唱」「一斉発射」「2回攻撃」「全力魔法」「属性攻撃」を付加した
【天航アストロゲーション】にて敵を撃ち抜かんとします
僕の目の前で危害など加えさせはしませんとも
ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と
強く美しい者を望むか
ならば宵、前に出るなよとついぞ宵の前に出つつメイスを握ろう
俺にとって力も心も強く美しい者はお前しか居らんからな
お前が狙われるだろうと、そう声を
…ん?惑わされる訳なかろう?お前という導が居るのだからな
お前こそ俺以外を見るなよ?
向かい来る花弁は『オーラ防御』と『破魔』、そして『盾・武器受け』にて叩き落としながら宵を『かば』いつつ
【狼達の饗宴】を呼び出し、花弁毎敵を焼かんと試みよう
だが捌ききれぬ花弁を散らす攻撃と共に聞こえた宵の声を捉えれば思わず笑みを
それは俺の台詞だというに…本当にお前は
さあ、強さ故の孤が辛いならば、終わりにしてやろう
…大人しく骸の海に還るといい
カタストローフェが糧に望むその条件は、まさに。
((奪わせはしない))
ザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)はメイスの柄を握りしめ、逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)は杖を握る手にさらに力を籠めた。
2人が共にその身の内に留めた言葉は「強さ」と「美しい」その2つだ。
「強く美しい者を望むか」
確かに、強さに溢れる存在は、悪しき者にしてみれば格好の糧なのだろう。その上で美しさがあればより美味に、魅力的に感じるのかもしれない。
堕落した結果悪魔に身をやつした者達を見聞きしてきた身として……そう言えれば、より格好をつけられるかもしれないけれど。
(今の俺は1人の男だということだ)
ただ宵の側を、隣を奪われぬために力を振るうことを決意するばかりだ。赦しを与え今生を終わらせるための力であるとか、穢れという柵から解き放ち来世への旅路を見送るとか、そんな、在るべきと示された道、理由は今、心底どうでもよかった。
ただ、ザッフィーロにとっての唯一を背に庇おうと前に出る。
「ならば宵、前に出るなよ」
ほんの一瞬さえも、カタストローフェの視界に映す時間を減らそうと、魅入らせなどするものかと、壁に、盾に、護りに徹するのだと示す。
「俺にとって力も心も強く美しい者はお前しか居らんからな」
悪魔達との対峙とは違い、切り込みに向かおうなんて、そんなことはしない。
「……ザッフィーロの方こそ」
先に触れてくれたその手に返礼をするように、宵はザッフィーロの背に少しだけ、触れる。
(狙われるだろう、なんて君は言いますが)
同じ想いを伝える為に、自分だって心配しているのだと返す為に。
「気を付けてくださいね……僕にとって勇ましく強く美しいきみ」
想いを言葉にしておくことを忘れない。今は背を返すことが出来ないかわりだ。死角を補い合う戦いは共に在る為に必須で、自然と互いにそう在るようになった一つの証だけれど。
今は、カタストローフェを脅威と定めているからこそ。共に立ち向かう。
悪魔達を生みだす元凶は、悪魔であり竜でありオウガでありオブリビオンであり……互いの唯一を奪おうとする敵なのだから。
(バックアップは抜かりませんが……)
ただ、魔人も精霊も騎士も、有象無象の認識に落としただけ。全力で、カタストローフェを倒す意思を重ねただけ。
「……惑わされては一大事ですから」
「……ん?」
心外だ、と続くときの拗ねた声音が返ってくる。振り返りはしないけれど、きっとその表情も予想通りなのだろう。
(こんな時だと言うのに、きみは)
いつも通りだと微笑みそうになる。
「惑わされる訳なかろう? お前という導が居るのだからな」
星を辿り道を示す、光をもたらし先を照らす、想いを繋ぎ変化を誘う。その本性通りに眩しいお前が。
「お前こそ俺以外を見るなよ?」
「僕の目指す先は、揺るぎなく青い輝きの傍にしか在りませんよ」
誠実に真実を見据えたまま、忠実に道を外れずに、赦しを与え続けている。その本性通りに輝く君の。
「強大でさぞ勇猛で鳴らす方とお見受けしましたが」
カタストローフェが何を言おうと、どんな手を使おうと。
「ふふ、僕のザッフィーロに手出しはさせませんよ」
すぐ目の前を任せられる唯一。失うつもりのない想いの先。
一歩後ろからだからこそ見えることがある。正面は、ザッフィーロが支えてくれる。だからこそ周囲への警戒を、その範囲を広げることができている。
防御のためのオーラを練り上げる、すぐ傍で同様に守りを固めるザッフィーロのオーラとつい同調しそうになるのを止めようと一度は考えて、けれどすぐに思いなおして敢えて寄り添わせる。共に在る時間が増える程にその気配は合わせやすくなるもので、思っていたよりも随分とすんなり、気配を籠めたオーラが混ざる。
(これなら、護りそのものを担うこともできるかもしれませんね)
少なくとも、死角は。ザッフィーロ自身が把握できない方角の穴を埋めることはできそうだ。
そう思った矢先にカタストローフェの負う薔薇が綻びを見せる。花弁が広く、強く、舞い巡る。
二人だけに限らず、猟兵達全てに向かう花弁に見える。けれどカタストローフェが放つ、炎同様に燃える花弁とよく似たものが翠の精霊達からも放たれている。
カタストローフェが放つ蒼炎の弾を後押しする、蒼の魔人。
カタストローフェが高ぶった蒼炎に呼応し纏う、緋の騎士。
カタストローフェが舞わす花嵐と共に咲き誇る、翠の精霊。
猟兵達とカタストローフェの戦いは、妖精と悪魔の戦争にも影響が大きいのだ。
(だからこそ、少しでも早く終わらせなくてはなりません)
ザッフィーロの死角を狙う花弁だけでなく、妖精達を襲う花弁もともに吹き飛ばしながら、宵の意識は更に周囲を覆っていく。
戦場を、自身と同じアストロラーベに例えたら。
戦況も、手に取るように読み取れるはずだから。
聞こえる声は敵に向けたものだと分かっていても、笑みは勝手に浮かび上がる。
(それは俺の台詞だというに……本当にお前は)
互いにその事実は知らないけれど、少し前に宵がザッフィーロに向けたものと、おなじもの。オーラが同調したから心も想いも重なったというわけではない。オーラはあくまでも守りを固めるためのものだ。
互いに向ける想いも、心も、お互いの言葉に向ける同じその感情も。二人が元から重ね合わせてきた全てを示すものであって、たった今初めて揃ったものではない。
これまでだって幾度も互いに向けた想いは、今日もまた、互いの身の内に積み重なり濃度を増していく。それはこれから先も続く長い生の中で繰り返されていく未来でもある。
舞い狂う花弁を受け流し、時に叩き落しながら、後方に、宵の元に辿り着かせまいと、武具を構える手に、身体に更に気合が滾る。
(しかし、キリがないか)
カタストローフェは今既に、動きを封じられている。だからこそ最も手数の多い手段を選んでいるとも考えられる。
新たな悪魔が呼びだされた様子も、気付けばもう見ていないように感じて。
「今なら、食い出もある筈だ」
ザッフィーロの唇が笑みを形作る。
「さあ、強さ故の孤が辛いならば、終わりにしてやろう」
的は、獲物は、たったひとつ。カタストローフェを宵の杖の先が指し示し、ザッフィーロの視線が強く竜を見据え、反撃を見逃すまいと、時を計る。
「彗星からの使者に、ひとつの導が示されて……」
君が僕を導と呼ぶなら。
宵の詠唱が常と変わる。二人のオーラが、気配が混じったからか。先の術とは別の形であっても、自然と必要な形が描き出されていく。
「災いは捧げし贄のみに。空より堕つる時、地平には恵みをもたらす」
一度目の流星群がカタストローフェに降りそそぐ。贄を求めた強者だったものは、これから、贄へと変わるのだ。
「肉が居る、宴を前に逸るばかりの、活きのいい獲物を」
お前が俺の勇ましさを誇るなら。
ザッフィーロの詠唱も変わる。炎の獣達は、再びの顕現に喜びの声を上げて吼える。魔力のかたまりと同様な悪魔達と違い、此度の得物は間違いなく、肉体がある。
「くれてやろう……その牙で、炎で、然るべき形へ変えるのならば」
牙が煌めき、炎が期待に燃えあがる。飢えを満たそうと、獣達は本能に従い食らいつき始めた。
「その美しさで宴を賑やかせ、糧は腹を満たし、人々を外から中から、全てを魅了するのです」
「……どこまでも、喰らい尽くせ」
二度目の流星群は、狩猟者達を器用に避けた。近しい気配を纏う存在を味方とみなし、自然と軌道が逸れたのだ。カタストローフェと、その齧り取られた欠片に向かう。
獣たちの炎と、流星そのものによって、贄は、より美味な恵みへと変わっている筈だ。
「星降る夜は、もうすぐ終わり」
「時が許すその限りまで、楽しむといい」
飢えを満たすことに終始する、宴の参加者達を見やりながら、ザッフィーロはカタストローフェの言葉を想った。
「……大人しく骸の海に還るといい」
これもまた、ザッフィーロが与える、赦しのひとつの形。
大成功
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第3章 日常
『白兎とアリスの舞踏会』
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POW : 弾けるパッションのまま、心のままに踊る
SPD : くるくると素早く踊って注目を集める
WIZ : しなやかにゆったりと踊って雰囲気を味わう
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
オウガたるカタストローフェが倒れれば、魔力の供給は断たれれば。
悪魔とは対極の力をこれでもかと、聖なる力を浴び続ければ。
魔法のランプはもう、ただの古ぼけたランプでしかない。
カタストローフェによって統率されていた悪魔達は、主を失ったことで動きが乱れ始めた。
その隙を妖精達は逃すはずがない。
音楽をこよなく愛する彼らは、リズムを刻めば呼吸を整えることも簡単で。
残った悪魔達はクライマックスを演出するメロディと共に蹴散らされていったのだ。
戦争が終わるころには、妖精達は、戦いながら演奏をする余裕さえみせていた。
音楽を好きなように楽しめる、その時が戻ってきたことを全力で喜んでみせたのだ。
ステップを踏めば、片付けだって楽しく進んだ。
メロディを奏でれば、気分は高まり笑顔になる。
コーラスを響かせて、勝利の宣言をあげた後は。
音楽の国は本来の、平和な姿を取り戻していたのだ。
踊りたい曲を教えてください。お望みのままに奏でましょう。
奏でたい音を響かせてください。共に音を曲に変えましょう。
歌いたい言の葉を見せてください。節をつけて魅せましょう。
喉が渇いた時にはお茶を。
疲れを癒すには甘いものを。
空腹を満たす為の食事だって。
お茶会を整えた給仕役に注文したら、あとは待つだけ。
椅子の背もたれに身を預けて、音を受け入れるだけでも。
全ては穏やかな時間に、楽しい時間に、変わってくれる筈。
かつてこの国を訪れたアリスは、案内役の白兎と楽しいひと時を過ごしたとか。
アリス役の誰かと、白兎役の誰かで。
同じように愉しいひと時を過ごしたなら。
素敵な未来が、繋がっているかもしれない……なんて、そんな噂もあるようで。
お茶会の片隅に、ひそりと置いてある箱の中には。
白兎のつけ耳が、いくつか用意されているとか、いないとか……?
鈴木・志乃
戦争や依頼疲れの息抜きにと思い、参加したはずのお茶会で頭に浮かぶのは竜のこと
今目の前の光景の喜ばしさを、きっと一ミリも理解できなかったであろう彼は骸の海で休めているだろうか
100%答えはノーだ
これだけ世界には強者がいる
まだ見ぬ知に美もある
それを知って満足して逝ける訳がない
……まぁ、次顕現する時には全部忘れているだろうけどね
あぁ、その席には先約がいますので料理も下げないで頂けますか?
えぇ、いますよ、ちゃんと、そこにね
まぁ大人しく食べる姿は思い浮かびませんけど
いいじゃないですか
オブリビオンが、弔われたって
紅茶の好みを問われて、お任せと応えるだけにする。折角の仕事終わりだ、丁度戦争の慌ただしさも抜けてきたところで……息抜きの為、それこそ休息のために居るのだから、考える事は少ない方がいい。
なんとはなしに広場に視線を向ける。素早く国の修復を終えた妖精達は、より賑やかに、精力的に音を楽しんでいる。
此処は音楽の国だ。音楽があるのが当たり前だ。ひとりでも楽しめるけれど、より重ねて、組み合わせれば可能性が広がっていく。
鈴木・志乃(ブラック・f12101)も音楽との関係は浅くない。今日は混ざることは考えていないけれど、こうして見聞きするだけでも楽しめる。それだって、誰かの奏でた音なのだから、結局は、ひとりで楽しむ、というのは違う方法だ。
(彼は、それも理解できないんだろうね)
誰かと共に在る事、誰かと共に成す事、誰かを共に願う事。
望んだことさえなかったのかもしれない。強さに驕って、誰も自分に適わないと決めつけて、そう在ることを当たり前にして。
この国の、あの妖精達の姿を見て。それがどれほど喜ばしいことなのか、分からなかったに違いない。
寄り添い方を知らない筈だ、協力なんて見下した筈だ、全て敵と糧にしか見ない筈だ。
(その生から解放されて、骸の海で休めているだろうか)
最期を与えるか、最期を得るか、戦いの果てで、いつかくる本当の最期まで一時の休息……
(休みを、眠りを贈ったつもりだけど)
それこそ燃える身体をもつあの竜を、燃え尽きる前に止めたつもりだけれど。
「……100%答えはノーだ」
結局は、そんな答えになってしまった。
これだけ世界には強者がいる。こうして志乃が休息を得ているこの間にだって、鍛えて強さを、高みを目指している者は居る。成長は必ずどこかに在る。
まだ見ぬ知に美もある。新しいものは常にどこかで生まれている。知識、命、定義……全てを知ることの難しさは、終わりが見えないことにある。
(それを知って満足して逝ける訳がない)
志乃だけでなく、猟兵達は、その片鱗をあのカタストローフェに見せただけだ。
(……まぁ)
でも、それはこの音楽の国に現れた彼に示しただけだ。
(次顕現する時には全部忘れているだろうけどね)
彼の本当の最期はまだ訪れていない。ただ、骸の海に追い返しただけ。時が来れば、切欠があれば、またどこかに現れる。
(覚えているなら……)
眠っている間に見た夢でも、聞いてみたいものだけれど。
そう、夢だ。彼はきっと夢も知らないのではないだろうか。普段とは違う、かけ離れた想像がもたらす、異世界とも呼べるべき姿形。
意識的に、覚えていない、現実しか見つめない可能性だってあるけれど。
志乃自ら、嫌っている戦いという手段を取ってまで救おうと手を伸ばした相手に、何か変化が与えられていたらいいのに。
(まぁ、無理なんだけど)
それこそ、志乃の夢物語だ。
香りが、志乃の鼻腔を擽った。
紅茶を蒸らす時間が、その香りが広がるのを待つ時間くらいが、思考に耽るのに丁度いい。
「あぁ、その席には先約がいますので料理も下げないで頂けますか?」
給仕役の手が、志乃の正面、誰も座っていない席に控えさせた取り皿やカップを下げようと伸びてきていた。
ゆらゆら揺れる耳に疑問を感じ取って、止めた理由を、意図を紡ぐ。
「えぇ、いますよ、ちゃんと、そこにね」
志乃達が骸の海に送り出した彼は、この地に何も残していない。
魔力の残滓が残っているかも、と適当に嘯いて借りてきたのは古ぼけたランプ。実は、同じテーブルの、その正面の椅子の座面に置いてあるのだ。
ランプは彼の本体ではなく、ただの道具。
とうに召喚能力なんて失っているし、幾度も注ぎ込まれた魔力も全て吹き飛ばされているけれど。他に彼の気配を形だけでも示すものはなかったし、折角だからと使わせてもらった。
「まぁ大人しく食べる姿は思い浮かびませんけど」
志乃の視線を追って、ランプの存在を見つけた給仕役は頷いて、片付けの手を止めた。
同じ紅茶がまだポットに残っているからと、別のカップに注いだものをその席へ。
「いいじゃないですか」
カップが二つ、香りの広がり方も変わる。
「オブリビオンが、弔われたって」
飲み頃になった紅茶を、ゆっくりと口元へ運ぶ。
戦いを終えた身体にゆっくりと染みわたらせるように、喉に潤いをもたらして、少しずつ、身体の内から温めて。
「……?」
小さな皿が置かれた気配に、自然と閉じていた瞼を開く志乃。
角砂糖を乗せるような小さな器に、薔薇花弁の砂糖漬けがいくつか。
勧められるまま、カップの中、紅茶の海に花弁を降らせて。香りごと浸る様子を見つめて。馴染んだところまで見届けて。
もう一度、ゆっくりと……カップを傾けた。
大成功
🔵🔵🔵
彩波・いちご
【恋華荘】
妖精たちの演奏に合わせて私も少し歌を歌いましょうか
優しいバラードを共に
詞さんも聞いてくれるといいのですけれど
1曲披露し終えたら、白兎のつけ耳を持って詞さんの元へ
詞さんの頭にそれを乗せて
ついでに私は【異界の服飾】で自分の服をアリスっぽいデザインのドレスに変身
「白兎さん、1曲ダンスに付き合ってもらえますか?」
かつての伝説にあやかって、これがこの国の正装ですと
笑顔で手を取って、妖精たちの音楽の中に連れ出しましょう
ダンスは私が手鳥足取り、エスコートしながら軽く教え
…でも、ダンスなんて形式よりも楽しく踊る事が大事
「たまにはこういう一時もいいでしょう?」
私は貴方と踊れて楽しいですよ、と笑顔で
牧杜・詞
【恋華荘】
え? なに? 帰るんじゃないの?
パーティー? ダンス? 特にいいんだけど。
ん? あ、ふぅん……さすがアイドル。歌上手なんだ。
音楽を守りたくなる気持ち、少し解るわね。
って、は!? ウサミミ!? そんなの聞いてないし! かわいいけど!
踊ったことなんてあるわけないじゃない! かわいいけど!
抵抗はしてみても可愛いもの好き。
そしていちごさんの言葉もあって、ウサミミをつけられてダンスへ。
ただ、パーティーもダンスも初体験なのはほんとうで、
男性と手を繋ぐのだって、ほぼはじめて。
いちごさんのリードに、おっかなびっくり、必死についていきます。
照れまくった結果、めいっぱい無愛想になっているのはご愛敬。
妖精達の奏でるバラードのメロディに耳をすませて、彩波・いちご(ないしょの土地神様・f00301)は呼吸を整える。
優しい音はこの音楽の国が平和になったことを示しているようで、その音に乗せるならどんな想いがいいだろうと、少しだけ首を傾げてみた。
丁度、歌唱の得意な妖精達が視界に映る。彼等はいちごの視線を感じた順に歌をハミングへと変えていった。どうやらいちごが歌おうとしているのを感じ取ってくれたらしい。
(ありがとうございます)
微笑みと会釈を向ける。声に出さないのは、今も流れている曲をあますことなく受け止める為だ。それはいちごが歌う準備でもあるし、演奏する妖精達への気遣いでもある。それがわかるからこそ、妖精達はいちごに向ける期待の視線を強くする。
(詞さんも聞いてくれるといいのですけれど)
主旋律も、それを支える音も。覚えたから後は、歌声を重ねるだけ。
呼吸はとうにあわせているから、あとは息を大きく吸い込めばいい。
さあ、ステージを始めよう。
(え? なに? 帰るんじゃないの?)
戦う間には見る余裕のなかった、音楽の国の本来の姿。それを取り戻していく様子を眺めたり、時に手を貸してみたりして。もう猟兵の手は不要だろう、と召喚地点に向けて踵を返そうとしていた牧杜・詞(身魂乖離・f25693)だったけれど。
「パーティー? ダンス?」
気付けば妖精達に背を押され、誘導されてしまっている。いちごは、と先ほどまでいた方へと手を伸ばしてみたが空振りで、慌てて振り返ればそこには居ない。
「えっ、あれ? ……こういうの、私は別に。特にいいんだけど」
表舞台、と強く意識してしまいそうな場所だ。眩しい光が当たる場所だと思う。けれど妖精達を無碍にも出来ずにされるがままに進んでいって。
「ん? あ、ふぅん……」
召喚地点とは別の場所。ダンスパーティーの広場の端にある、お茶会の席。これからステージになる場所がよく見えるその場所に座らせられていた。
響き渡る歌に、優しく広がる声に、演奏に支えられたその音に身を傾ける。一度ついた席を立つような無粋はしない。今は観客になるべきだと、いちごの歌に意識を乗せようと、試してみる。
(……さすがアイドル。歌上手なんだ)
詞も聞いたことのない曲だから、きっと即興なのだと思う。それでも、違和感なく、妖精達の奏でる音に乗せている。協力して一つの音楽が産みだされている。
この国が音楽の国だから、守りたいと言っていたことを思い出す。この国の住民と猟兵で立場は違うけれど、今、いちごと妖精達は同じ音楽を愛するものとして共鳴しているらしい。
詞は、そんな彼らほど音楽に親しんだことはなかったけれど。
(音楽を守りたくなる気持ち、少し解るわね)
こんなふうに、リラックスさせるような、優しい気持ちにしてくれる音なら。壊されそうだと言われたら。
余韻に浸ってくれているらしい様子に、つい微笑みが浮かぶ。目の前にある筈のお茶にも、お菓子にも手を伸ばさずに、目を閉じている詞の元に歩み寄る。
一曲歌い終えたいちごがちらりと視線を走らせれば、察した妖精がつけ耳をひとつもってきてくれた。踊る様なステップで、どんな時でも楽しそうだ。
詞が眠っているわけではないのは知っている。近付いているのもわかっている筈で、ただ自分の音楽に向ける熱に付き合ってくれているらしい。いちごが歌い終えた後、いちごが紡いだ歌詞を繰り返し歌っているのは今は妖精達だ。違いを楽しんでくれているのかもしれないな、と思えば嬉しさもこみ上げるというものだ。
白兎のつけ耳に視線を落とす。自分の髪が一房視界に映り込んで、合う色について考える。
(そうだ、せっかくですから……)
淡い青、つまり水色に、詞の髪色である黒を重ねる。けれど明るい印象を引き出すためにロリータテイストを追加。アリスのようなエプロンドレスを身に纏うことにする。
丁度、詞の目の前についた。
(この耳をつけて……と)
気を許してくれている様子に甘えて、白兎のつけ耳を詞の頭に乗せる。
「白兎さん、1曲ダンスに付き合ってもらえますか?」
手を差し出して、満面の笑みを向けた。
「ダンス?」
喉が渇いただろうから、お茶でも飲むのだろうと思っていたけれど。いちごの気配は正面で止まった。ステージを楽しむために、椅子の向きを変えて居たのでテーブルは詞の横にある。
妖精達の歌を、先ほどまでいちごが紡いでいた歌詞をもう一度楽しんでいた詞は、いちごの場所を少し不思議に思うくらいでしかなかった。
ここはもう、安全な平和な音楽の国だから。……気を抜ける貴重なタイミングだと思ったから。
「って、は!?」
現実は刻々と変化している。頭の上の違和感に手をやれば、ふわりとした手触りが、ふたつ。
「ああ、せっかくのうさぎ耳なんですから、とっては駄目ですよ?」
「ウサミミ!? そんなの聞いてないし!」
なぜか、鏡を持った妖精が詞の横にスタンバイしている。
「かわいいけど!」
真っ白な兎耳が黒髪の上でふわりふわり、揺れている耳は可愛い。詞は改めていちごへと視線を戻す。
「かわいいけど!」
今度はアリス風のドレスを着たいちごのことである。表立ってまでは言わないけれど、可愛いものは好きなのだ。
「これがこの国の正装らしいですよ?」
なんでもかつての伝説にあやかっているとか。そう言われてしまったら、つけ耳をとれるはずがない。
「でも、踊ったことなんてあるわけないじゃない!」
「大丈夫ですよ?」
エスコートしますから、と笑顔で更に、差し出された手が近づいてくる。
「……かわいいけど!」
可愛らしい仕草にも負けて、手を取ってしまった詞である。
「ありがとうございます♪」
「足、踏んでも知らないから……」
気付けば妖精達の歌は終わっていて、ワルツの演奏が始まっていた。
「そう、1、2、3。1、2、3……ほら」
今も出来ていましたよ。と囁くと、視線がふいと逸らされる。
「余所見すると転びますよ?」
「えっ」
慌てたのか、視線を戻そうとする様子と、繋がった手に緊張が走るのが伝わってくる。
「ふふっ、パートナー次第ですけどね」
私はそんな無様なことしませんよ、と微笑みかければ、詞の頬が少し膨らんだ。
「……いちごさん」
ジト目にしようと本人は思っているのだろうけれど、今もまだワルツにあわせてステップを踏んでいる最中だ。真面目にいちごのリードについて来ようとしている詞は表情まで制御できていない。
「形式よりも、楽しく踊ることが大事ですよ」
肩の力、抜けたでしょう?
「そう、かもしれないけれど」
口の中でもごもごと呟いている詞。
「パーティーも、ダンスも初体験なんだから」
緊張するのだって仕方ないのも、ちゃんと伝わっている。男性と手を繋ぐのだって……と、そんな呟きも聞こえていて、どこまでも純情な詞が可愛らしいと思える。
(こうして近いと、無表情でも意味はないんですよ?)
重なる手から脈がわかる、息遣いで緊張がわかる。表情なんて、感情を示すほんの一部で。頬に赤みが走っているのだって、詞は気付いているのかいないのか。
「……たまには、こういう一時もいいでしょう?」
「悪くは、ない……」
精一杯、不愛想を装っている様子も、やっぱり。可愛らしいと思うのだ。
大成功
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逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)と
アリスに扮して舞踏会を楽しみましょう
この手を預けます、ザッフィーロ
きみが導くステップなら、僕はどんなものでも踏んで見せましょう
妖精たちに社交ダンスの定番曲をお願いすれば
ザッフィーロの手に引かれて広い場所へと文字通り踊り出ましょう
ザッフィーロの白兎耳にはかわいらしいですねと微笑んで
ふふ、こうしてきみと踊るのも久しぶりですね
以前よりはお互いずっと上達しましたね、と悪戯っぽく笑って見せながら
はい、僕も同じふうに感じていますよと答えましょう
意図せずとも踊りやすく呼吸がぴたりと合うステップはたいへん心地いいですね
また踊ってくれますよね、白兎さん?
もちろんですよ。僕だけの白兎
ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と
戦の最中から美しい音が聞こえると思ってはいたが…平和になった地にて聞く音楽は更に美しいなと
思わず口元を緩め手を宵へと差し出そう
途中白兎の耳を妖精がもしつけてくれたのならば、照れくさそうに耳を揺らしながら広場へ
繋いだ手から、瞳から宵の心が伝われば意識を共有するかの様な動きでステップを踏もう
…初めてお前と踊った時は緊張したが…今はお前の心が伝わる故にと
美しい宵色の瞳を真っ直ぐ見つめながら笑みを返そう
共に育んできた時間が、このステップに現れていると思うと少々照れるが…と
当たり前だろう?俺の手は俺の宵だけの物ゆえに
だから…なんだ。お前も俺意外と踊るなよ?…俺だけの、アリスなのだから、な
戦っている間も、思い返せば様々な音が飛び交っていた。
物理的に音符の形をしていた、というのもあるけれど。そこに伴う音は確かに美しいものだったとザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)は思う。耳障りがよく、逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)の声を聞き取る邪魔にもならない、美しい音。むしろ宵の声がより映えるような……
「……ザッフィーロ?」
知らず笑みを浮かべていたらしい。勿論、宵の口元に視線が向かっていたからだろう、何かの意図を探るように、近い視線がザッフィーロを射抜く。
(その視線は、今は目に毒だな)
対の銀を宵の紫に重ね合わせて、笑みを深める。
「平和になった地にて聞く音楽は更に美しいなと」
だから手を差し出そう。丁度、音楽はワルツに変わったところだから。
「お相手願っても?」
一曲、とは敢えて口にしなかった。
ほんの少し、着こなしを変えるだけでも印象は変わる。
ほんの少し、身のこなしを変えるだけで印象を変える。
ほんの少し、己という器に手を加えればアリスになる。
宵そのものは変わっていない。己を偽るようなものではなく、ただ見るものの印象をアリスに見せかけるだけ。
そもそもザッフィーロと共にヤドリガミであるのだから、仮初の身体を変えることは容易いのだ。
目線の高さは変えず、ただほんの少しだけそれらしく変えただけ。
「この手を預けます、ザッフィーロ」
差し出された手に、自身の手を重ねる。多少の変化を見せても、変わらぬ銀の視線には同じ熱がこもったまま。
(いえ、今、更に)
重なった手が引きよせられた時、互いの身に纏う香りが近づいた時に熱が強くなったようにも。
「きみが導くステップなら、僕はどんなものでも踏んで見せましょう」
重ねただけの筈の手が、指が、互いに絡まり合う。
踊りやすい場所を求めて二人揃って歩み出せば、妖精達が少しずつ場所を開けてくれる。音楽の国が平和に戻った証のパーティーは猟兵達へのおもてなしであり、感謝の宴でもあるのだ。ゲストが踊りやすいように、けれど穏やかな雰囲気を壊さないように皆が演出に気を使っているらしい。
「……では、定番と呼ばれるものを……」
宵と妖精達のやり取りを聞いて、その声を楽しんでいたザッフィーロの服の裾がくいと引かれる。
差し出される白兎の耳には小さく目を見張るけれど、宵がアリスに扮したことを妖精達も理解した証でもある。その演出のお手伝いにどうだろうか、という提案なのだろう。
「ふむ、不慣れゆえにな。つけてくれるか」
身をかがめて微笑めば、笑顔と共に背伸びする妖精達。違和感がないだろうかと懸命に確認されて、大丈夫だとの言葉にやっと彼等も落ち着いたらしい。
「……まあ、なんだ」
立ち上がり姿勢を戻せば、曲を頼み終えた宵がこちらを見つめている。勢いよく姿勢を戻したわけでも、強い風が吹いたわけでもないのに揺れる耳は、もしかすると感情表現も助けてしまうような代物なのかもしれない。
「かわいらしいですね」
微笑みと共に告げられる言葉に、さてどう返そうかと少しだけ、言葉を選ぶ。
(宵がつけても、俺は同じことを言うだろう)
しかしそれを言ったら藪蛇だ、と思いもする。宵が白兎役ならば、対となるザッフィーロがアリス役にならなければ。
(それを宵が望むなら、やぶさかではない……とは思うが)
示し合わせたわけでもなく、こうして。どちらがアリスで、どちらが白ウサギか自然と決まるなら、これが2人にとってのあるべき姿だ。わざわざ捻じ曲げる必要もないだろう。
「改めて、お手を拝借……俺の眩き一番星のアリス」
「お任せします、僕の頼れる勇敢な白兎」
いつかと同じように、リードはザッフィーロに委ねられた。
こうして踊るのは初めてではない。けれど頻繁に回数を重ねてきたわけでもない。
ただ、互いになじみ深いワルツだから。息の合わせ方を知っているから。タイミングを読み間違えるなんてことはあり得ない。
(きっと、目を閉じていても踊れるでしょうね)
そう思う宵の瞳はザッフィーロの瞳と重なり合ったままだ。周囲の様子が特別視界に入ることはない。妖精達の背が低いこともあるだろうけれど、ただ、互いの姿しか映そうとしないだけだ。
そんな自分の行動に、それに合わせてくれるザッフィーロの様子に、幸せを感じない方がおかしい。微笑みが零れるのも抑えられない。
「ふふ、こうしてきみと踊るのも久しぶりです」
視線を逸らさぬまま、むしろ絡めとるように見つめ続けてくるザッフィーロに、くすりと、少しだけ悪戯めいた笑みを向ける。
「以前よりはお互いずっと上達しましたね」
ダンスの腕前が、ではないことはお互いに分かっている。
「……初めてお前と踊った時は緊張したが……今はお前の心が伝わる故にな」
だからザッフィーロの言葉には想いが籠もる。見つめ合う宵色の瞳は、交わし重ねることで意識さえも重なるように感じるのだ。
すぐ傍に居ると分かるから、振り返らずとも触れられる。
後ろに居ると分かるから、魔力を気配を重ねられる。
それだけの時を共に過ごしてきた二人が、それくらい、出来ないわけがない。
ステップは止まらない。二人の想いが重なる限り、音楽が止らない限り。
「意図せずとも踊りやすく、呼吸がぴたりと合うステップはたいへん心地いいですね」
ザッフィーロのリードに身を委ねることを厭わない宵の紡ぐ言葉に、ザッフィーロの頬が染まる、色白の宵に比べると朱が目立ちにくいその肌色で、それだけの熱を秘める。
「共に育んできた時間が、このステップに現れていると思うと少々照れるが……」
「だからこそ、ではありませんか?」
同じ認識をしていると、その上で互いの在り方を、距離感を認める言葉。宵をよく見れば、頬ではなく髪に隠れた耳が淡く赤い。それはすぐ目の前のザッフィーロにしか気づかれぬものだから、他の誰に見つかるものでもない。
「僕も、同じ風に感じていますよ」
想いそのものを口にするよりも、これまでを認めて、これからを望む言葉を、二人だけの空間で交わし続ける。
一曲目の終わりが近づいている。
「……また踊ってくれますよね、白兎さん?」
ほんの少しの差で、近い距離で見上げられて、ザッフィーロの頷きの仕草に二人の額が軽く触れあう。
「当たり前だろう? 俺の手は俺の宵だけの物ゆえに」
より近い距離で、やはり見つめ合ったまま。
「だから……なんだ。お前も俺意外と踊るなよ?」
より近くなったからこそ、声音も小さく、けれど深く響く。
「……俺だけの、アリスなのだから、な」
丁度、曲が終わる。
「もちろんですよ。僕だけの白兎」
一度止まり、礼を交わし、けれど、次の曲の始まりにまた、身を任せた。
大成功
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エリヴィラ・フォンティーヌ
デリックさん(f09225)と
お誘いありがとうございます
音楽の国…デリックさんにぴったりですね
…噂、ですか?
きょとんとして
妖精達の元へ向かう背中を見送り
このような場所は場違いではないだろうかと少し萎縮
戻ってきたデリックさんとつけ耳に目を見開くと同時に
自分がアリスと呼ばれたことにも驚き
あの、私…踊りの経験が
そもそもこんな華やかな場所に墓石は相応しくないと
無縁だと思っていたから
でもデリックさんならきっと
リズムに乗って優雅に踊るのだろう
その姿は見てみたい
だからおずおずと
差し出された手をとって
私をアリスにしてくれますか?
魔法を掛けてと願いながら
彼のリードに身を委ねて踊る
囁きの意図を探すように彼を見る
デリック・アディントン
エリヴィラ嬢(f16264)と
音楽の国と聞いて是非来てみたかったんだ
一緒に来られて嬉しいよ、ありがとう
お茶を楽しむのも良いけれど…
聞いた噂を少し試してみたくてね
少し此処で待っていてくれるかい?
普段は奏でる側だけれど
今日は妖精たちに曲のリクエストを
持ち歩いている音符チャームを愛おしく撫でて
エリヴィラ嬢には聞こえない様こっそりと
これから先も彼女と過ごせたらと思うんだ
ゆったりと雰囲気のある曲をお願いするよ
箱の中から1つ、つけ耳を取って彼女の元へ
宜しければ一曲、私と踊っていただけますか、アリス?
大丈夫、私がリードするよ
踊りながらそっと耳元へ口を寄せて
噂を内緒話の様に伝えよう
願わくば素敵な未来を君と
「音楽の国と聞いていたからね」
是非来てみたかったんだ、と朗らかに告げるデリック・アディントン(静寂の調律師・f09225)に、エリヴィラ・フォンティーヌ(死と祈りのしるべ・f16264)がゆるりと、お辞儀を返す。
「お誘いありがとうございます」
絹糸を思わせる髪がさらさらと、ヴェールの下で零れ流れて、エリヴィラの仕草にあわせて微かな音を奏で続ける。
「音楽の国……デリックさんにぴったりですね」
デリックの本性、音楽を好むその嗜好を知っているからこそ贈られた言葉は本心からのものだとわかるから。微かな音を、エリヴィラだからこそ奏でる音に耳を澄ませていたデリックは更に喜びを声という、自身が紡ぐ音に乗せる。
「一緒に来られて嬉しいよ、ありがとう」
デリックが好む場所だと知った上で、似合う場所だと言葉にしてくれた上で、こうして共に過ごせることがどれほど嬉しいことなのか。
伝える言葉には、何を選ぼう。
妖精達の奏でる音楽は、合奏に、歌唱に、舞いに伴うステップと様々だ。けれど全てがひとつに重なるように、不協和音にならないように、会場を一つの空間として作り上げているようで。
賑やかだけれど、騒々しいものではなく。この場所なら静かに過ごすことも出来そうだと、そんな風に思う。
会場の端にある茶会の卓を見つけて、なるほど聴くだけ、観るだけを楽しめるようにもなっているのだと、そんな風に納得をしていたエリヴィラにデリックがそっと声をかけた。
「お茶を楽しむのも良いけれど……」
控えめにしていたつもりだけれど、視線が向かう先に気付かれていたらしい。
「聞いた噂を、少し試してみたくてね」
「……噂、ですか?」
エリヴィラは、誘われるままについてきた身で、その噂がどんなものか知らなかった。ただ、デリックが望むものならば、自分にとって悪いものというわけでもないのだろうと、自然にそう受け止めている。
「少し此処で待っていてくれるかい?」
だから、頷いて。エスコートされるままに椅子へと腰かけた。
実際に訪れて、この国に溢れる音楽を全身で感じとって。
この場所なら、と思いながら少しだけ足早に、演奏を続ける妖精達の元へと急ぐ。
(普段は奏でる側だけれど)
奏でることと、言葉を紡ぐことを、同時にしたくはなかった。
音楽で告げることもできるとは思うし、それは確かにデリックらしい方法だと理解もしている。
けれど、出来る事なら、この想いは。
(私自身が紡ぐ言葉だけで、伝えたいんだ)
だからこの国に溢れる音楽が、望む音に近い事は喜ばしいことだ。
常に持ち歩いている音符型のチャームをそっと取り出して、撫でる。今も募る愛おしさは、まだこのチャームにしか向けていないけれど。
これをくれた彼女に、同じように向けられるように、それが認められる立場になりたいと願っている。
「……これから先も、彼女と過ごせたらと思うんだ」
曲のリクエストを確認しに寄ってきた妖精に、こっそりと告げる。待ってもらっているし、今は一時的に離れているから、エリヴィラに聞こえてはいないと思うけれど。
その時が来るまでは、やはりどうしても密やかな行動になってしまう。
「ゆったりと、雰囲気のある曲をお願いするよ」
心得た、とばかりに頷く妖精達に微笑んで。また足早にエリヴィラの元へ戻っていく。
その瞬間の為には必要なことだとはいえ、出来ることなら。共に過ごす時間は長くありたいのだから。
「……?」
いつもより、急ぎ足に見えるその背を見送りながら、思うことは。
共に歩いているとき、同じ時間を過ごす時。デリックは、エリヴィラのはやさにあわせてくれていたのだと、そんな事であったりする。
エリヴィラが興味を示しそうな場所に連れ出してくれたことも、これまでに幾度かあって。そのどれも、エスコートに慣れないエリヴィラに気遣いを見せてくれる、優しく接してくれるデリックが思い出される。今日も、同じようにエスコートしてくれて、ここまでやってきたのだけれど。
とても社交的なデリックは、思えば誰にでも優しいような気がする。そんなデリックの存在そのものが似合う、この音楽の国は。
(私、場違いではないでしょうか……)
確かにこの場は落ち着くことができる場所で、そう思ったことに間違いはないのだけれど。
いつもは常にエスコートしてもらっていて。こうして離れると、なぜか。
急に、その少しの距離が気になってしまったりするのである。
(気にし過ぎているだけかもしれませんけれど)
ふと、小さなきっかけで、ほんの少しばかり萎縮してしまうこともあるのだと、そんなことがあるのだと、エリヴィラは初めて知ったような気がする。
僅かに視線が伏せられているような気がして、けれど慌てている様子は見せたくないからと、呼吸を落ち着かせながらエリヴィラの元へと戻る。
デリックの手には、箱の中から取り出した白兎のつけ耳がひとつ。取れぬように、しっかりと自身の頭にと取り付けてから。
「宜しければ一曲、私と踊っていただけますか、アリス?」
微笑みを浮かべて、ゆっくりと手を差し出せば……慌てて上がったエリヴィラの顔、その藍の目は丸く見開かれていた。
「……アリス……?」
ゆっくりと、咀嚼するように繰り返される言葉の響きにあわせて、デリックは笑みを深めていく。
「貴女の事ですよ、エリヴィラ嬢?」
頭上の兎耳が揺れたのだろう、ぱちくりと瞬きがひとつ、可愛らしい仕草はそのまま眺めて痛くもあるのだけれど。
「あの、私……踊りの経験が」
まだ戸惑いが見える様子に、もうひと押しだろうか、と内心で、思考をめぐらせる。
(こんな華やかな場所に墓石は相応しくないと……)
それこそ無縁だと思っていたエリヴィラである。言葉通り、ダンスの経験はなかった。
(でも、デリックさんならきっと)
音楽を好み、自身でも奏でるこの人なら。リズムに乗ることも得意なのだろう。きっとその姿は優雅なのだろう。自分はきっと見とれるのだろう。
(……その姿は、見てみたい)
見とれる自分自身を想像する時点で、そういうことなのだ。
「大丈夫、私がリードするよ」
そんな、都合のいい言葉まで贈られて。何時だってエスコートしてくれるその手に身を任せることに不安がある筈もなかったから。
だからエリヴィラは、ゆっくりと……緊張から来るほんの少しの震えを抑え込んで。デリックの手に自身の手を重ねた。
「デリックさん」
返事も、勿論言葉にして贈り返そう。
「私を、アリスにしてくれますか?」
どうか、私に魔法をかけて。貴方のダンスに寄り添わせてほしいから。
ワルツの中に、音の海の中に紛れ込んでしまえば。妖精達の演奏に紛れて、囁き声は、互いの間にしか聞こえなくなる。
初めてのダンスへの緊張を少しずつ解きほぐして、エリヴィラの肩から力が抜けた様子に気付いてから。
デリックはそっとエリヴィラの耳元へ唇を寄せる。触れそうで、けれど触れない近さ。
「願わくば、素敵な未来を君と」
見上げてくる藍の瞳が、真直ぐに琥珀の瞳へと重ねられる。その見透かそうとするかのような瞳を綺麗だと感じるし、だからこそ愛おしい。
(君に見透かされるなら、それこそ歓迎するよ)
願いを込めて見つめ返した。
大成功
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