Happy Birth×Dead to You
●End of Story
「あった!!」
静寂だらけの国に響いた唯一の声。
はち切れそうなほどの歓喜を上げた少女は、細く伸びやかな手足をめいっぱい動かして、きらきら輝く明るい茶色の目をただ一点に注ぎ、ひた走る。
周りには誰もいない。時々、壁にするりと誰かのシルエットが浮かんで、動いて。そして気付けば消える国の中、どんどん近くなる石畳の広場、そこの中心に位置する噴水の手前にぽつんと存在するアレこそが。
「見つけた、やっと見つけた――私の扉!!」
アァ~リス~ウ……。
遠くからぬるりと響いてきた声に少女は顔を引きつらせ、脇道に飛び込んだ。早鐘を打つ胸を押さえ必死に息を整えた後、サッと顔を覗かせて来た道を確認し、何もいないのを確認すると、すぐに走り出す。
下り坂で勢いに乗り過ぎて足がもつれそうになっても、スピードは緩めず、ぐいっと顔を上げて石畳を蹴り跳んでと、『自分の扉』を目指してひた走る。
目はすぐに輝きを取り戻し、頬も林檎色に染まっていった。
扉という形で見えるハッピーエンドは、あそこに。
もうすぐ手が届く。
立ち止まったりなんかしない。
走って走って、手を伸ばして。あのドアノブを掴んで――。
「私は、家に帰るの!!」
しかし、アリスは扉を潜る事なく物語を終えてしまう。
“あの扉を潜っても、自分にハッピーエンドなんてものは存在しない”。
それを思い出したアリスの心は絶望でぽっきりと折れて――。
●Happy Birth×Dead to You
「アリスの絶望を知り、彼女を追いかけていたオウガは大喜びです。……いえ、それが“食事が出来る”といった類ではなく」
ダグラス・ブライトウェル(Cannibalize・f19680)は困り顔で笑み、語る。
追いかけられていたアリスの扉が存在するのは、ひどくシャイな住人たちが姿を見せては消える、年がら年中静かな『影絵の国』。オウガはそこをアリスの昏い記憶を映した『絶望の国』に塗り替え、アリスにオウガへの変異を誘うのだという。
「困った事にこのオウガ……『トラウマン』は、アリスの負の感情を引き出す事を得意としたオウガなんです」
トラウマンの胸部にある眼は心の傷を見透かすもの。となれば、絶望して心が折れたアリスから負の感情を引き出すなど、トラウマンにとっては息をするのと同じだ。
では、アリスの絶望とは。
猟兵たちからの問いに、ダグラスは「それがですね」と指先で顎をさする。モスグリーンの目が、かすかに剣呑な色を帯びた。
「両親……特に、母親からの精神的虐待です」
トラウマンの力によって映された絶望――予知の中で視えた母から娘にかける言葉には、子が何をしているか・何を考えているのかを徹底的に管理・支配する表情ばかり。
おはようロッテ。
ああだめよ、何しているの。そんな太腿が出るようなパンツスタイルは止しなさい。色も似合ってないわ。この間買ってあげたブルーの、脚がしっかり隠れるやつになさい。
いってらっしゃい。
学校に着いたらママにメールよ。いいわね。下校のメールも忘れないこと。
お帰りなさいロッテ。
今日は学校でどんな授業があったの? お昼は誰と一緒に食べたのかしら。
……ねえロッテ。さっき外で一緒だった男の子は? ママの知らない子だったわね。
そう、上のクラスの。陸上選手を目指して? ああ、なんだ。それならいいのよ。
――どこへ行くのロッテ。
駄目でしょう、出掛ける時はママにどこへ行くのか、誰と行くのか、事前に言うって決めた筈よ。それで、どこへ、誰と……映画館? どの映画――ああ、ああ、ダメダメ絶対に駄目よあんな乱暴な映画!
そんなものを観ようとするなんてどうしたの? 誰の影響?
シャーロット! ママを悲しませないで!!
「母親にとっては我が子に対する愛情なのかもしれませんが、自分というものを否定され続ける自由の無い人生は、ゆっくり殺されるようなものでしょう」
良くない人だ。記憶の無い男は静かに目を細め呟いた後、ですから、とニコリ笑ってグリモアを輝かせる。
「このままだと彼女の人生は『絶望の国』で終わり、人間ではないものとして第二の生を歩む事になるでしょう。それを防ぎ……そして、彼女を絶望から救ってください」
元の世界、そこでの記憶を思い出した事でアリスの心は折れた。
折れたが――心そのものは、消えてはいない。
救うチャンスは、まだ残っている。
東間
閲覧ありがとうございます、東間(あずま)です。
生き延びて死ぬか、死んで別物になるか、それとも。というお話。
●プレイング受付期間
個人ページトップ及びツイッター(https://twitter.com/azu_ma_tw)でお知らせします。プレイング送信前に一度ご確認くださいませ。
受付期間外に届いたプレイングは公平さを保つ為に不採用としております。ご了承ください。
●一章 ボス戦『トラウマン』
アリス=シャーロットの記憶を反映し、『影絵』から『絶望』に塗り替えられた国での戦いになります。
戦場は扉のある噴水広場。広場なので凄く広い。安心。
戦闘中、絶望したシャーロットは絶望の国を漂っており、戦闘に巻き込む心配はありません。影絵の住人たちは姿を消しています。
二章は『クッションの海を越えて(冒険)』。
絶望の国を漂う中クッションの海に消えたロッテを探す事になります。
三章は『自分の扉』の前に立ちはだかる『虹色雲の獏執事(集団戦)』です。
●アリス=シャーロット
10代前半の少女。ブルネットの髪に明るいブラウンの目。細身。
愛称ロッテ。
●お願い
複数人参加はキャパシティの関係で【二人まで】。
二人参加の方は迷子防止の為、【グループ名】もしくは【相手の名前とID】の明記をお願い致します。
プレイング送信日=失効日がバラバラだと、納品に間に合わず一度流さざるをえない可能性がある為、送信日は統一してくださるようお願い致します。
日付を跨ぎそうな場合は、翌8:31以降の送信だと〆切が少し延びてお得。
以上です。
皆様のご参加、お待ちしております。
第1章 ボス戦
『トラウマン』
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POW : 集まれ、心の闇
【周囲のアリスの負】の感情を爆発させる事により、感情の強さに比例して、自身の身体サイズと戦闘能力が増大する。
SPD : トラウマツールモード
【体の一部をアリスのトラウマを刺激する道具】に変形し、自身の【狙うアリスの記憶が一部戻ること】を代償に、自身の【攻撃力と相手の心を追い詰める力】を強化する。
WIZ : Hurtful cinema
戦闘力のない【が壊れない、アリスの心を映すスクリーン】を召喚する。自身が活躍や苦戦をする度、【思い出したくない記憶の断片を映す事】によって武器や防具がパワーアップする。
イラスト:純志
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠リカルド・マスケラス」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●Scar × Red
すぐに消えるシルエット。遠いようで近い、奇妙な距離感で響く声。
思い出した傍から周りに映し出される記憶の断片、その全てがシャーロットの足を完全に止めていた。足を止めた少女の姿は、すぐに大きな影に包まれる。
「コレガ、アリスノキオク? ロッテ? シャーロット? フウン、フウ~ン?」
これは人を食べるモンスターだ。
シャーロットは解っていたが、動かない。動けない。――動きたく、ない。
「ネエ、ロッテ。オイシソウナ、ロッテ」
シャーロットの背後に立つトラウマンは大きな体を曲げ、背後からぐるんと顔を覗き込んだ。青白くなった肌。何かから目を背けるように、石畳だけを見つめる目。
「モットオシエテヨ?」
赤い光で模られた白眼が、心を暴く。
みんなのママは自分の子供がだめなことをしたり、何かできない時、テーブルや壁を何度もトントントントン叩いたりしない? 大きな大きな溜息をついたりしない?
男の子と一緒に帰ってきたら、その子のことを色々聞いてくるの?
出かけることを報告し忘れてたから、友だちとアクション映画を観に行こうとしたからって、バスルームに閉じ込めるのかな?
みんなのパパは? そんなママを見て頷くの? 笑うの? ママの言う通りにすれば大丈夫だよって言うの? それともママに――……ねえ。パパって、ママに何て言うものなの?
いいな。
いいな。
わたしもそんなママとパパがよかった。優しくて温かいママとパパがほしかった。
そういう家が、ほしかった。
――そんな素敵なもの。わたしには。ない。
「私を食べるなら、お願いが。あるの」
「ン? ナニ?」
ぴたりと動かなくなっていたシャーロットの目は、まだ石畳を見ている。
トラウマンの鋭い爪が髪を弄って遊んでいるが、それを払う様子はない。
「痛いのとか、恐いのは、短くして。できれば、一瞬でおしまいに、して」
「……ソレダケ?」
こくん。頷いた少女の肩が、震え出す。
「だって私、どっちの世界にいたって死ぬじゃない。……いいことなんて、一個もない」
ぽろり。こぼれ落ちた涙は滴なのに熱かった。言葉にしようとしたものが、溢れる感情と一緒になって喉の奥でつかえて、出てこない。胸をかきしだくようにして、ようやく言えたのは。
「最後の最期くらい、死ぬ時くらい自由にしても、いいでしょ?」
ねえ。おねがい。
ぐしゃぐしゃの笑顔と、かぼそい声で向けられた願いごと。
その脆さと輝きにトラウマンは歓喜の声を響かせた。両手を打ち鳴らし、真っ赤な爪から音を立てて。ドスンバタンと飛び跳ねる。
「ヤメタヤメタ! ネェロッテ、キミハイッショダ! キミモオウガニナロウ! ヒャーハハハ!!」
オメデトウ! オメデトウ、シャーロット!
キョウハ、キネンビ! キミノメイニチ! キミノバースデー!!
「――え? や、やめ、た……? まって……なに……」
シャーロットの大きく見開かれた目から、新しい涙が溢れて伝って、落ちていく。
叶えてくれるんじゃなかったの? 解放されるんじゃなかったの?
トラウマンは顔の前で右手を左右にべろべろ動かし、体を曲げた。見上げるシャーロットの鼻先すれすれ。紫色のモンスターの口が大きく横に広がって見事な三日月笑顔を形作る。
「シャーロット、オウガニナル。ダカラシャーロットハ、シヌ。デモオウガニナッタ。ツマリウマレカワッタ。ダカラメイニチ。ダカラバースデー。ワカル?」
ゆらりと白い頬に近づいていく、真っ赤な爪。
その先端が、あと少しで少女の頬に触れる――その時。
彼岸花・司狼
一番身近な場所が檻になる、か。
排除すれば終る訳じゃ無いところがまた面倒なことだが
選択は無数に在る。
反抗か、服従か、それとも逃避か?
どれであろうと、自分で『選ぶ』ことに意味があるんだ。
まずはUC:虚無と終焉で技能値を上げながら【闇に紛れ】、
【存在感】と【目立たない】のバランスを変えつつ位置を掴ませないよう攪乱。
首を狙いつつ、敵の攻撃は【見切り】と【残像/野生の勘】で捌き
捌けなかった分は【激痛耐性/継戦能力】で堪え、
【ダッシュ/カウンター】で【捨て身の一撃】をお返し。
隙があれば【傷口をえぐる2回攻撃】で既に出来た傷を狙って行く。
おめでとう、今日は『お前の』命日だ。
いちいち記念してやる気はないがね。
フリル・インレアン
そ、そこまでです。
これ以上シャーロットさんをいじめさせません。
ふ、ふえぇ、そういえば私もアリスでした。
ターゲットを私に変えても心の闇は・・・
ふえぇ、いっぱいありますよ。
どうしましょう、私のせいでトラウマンさんがどんどん大きくなってしまいます。
ふぇ、あ、アヒルさんこんなときに何をするんですか。
いくら私でも怒りますよ。
あ、そうですね。
心の闇は自分自身で抱え込むからどんどん大きくなるんですよね。
こうして、適度に発散させればいいんですね。
でも、少し大きくなってしまったトラウマンさんは、そうですお洗濯の魔法で心の闇を落としてしまえばいいんです。
「そ、そこまでです。これ以上シャーロットさんをいじめさせません」
かすかに緊張や怯えが出てしまったけれど、今の声は確かに届いている筈。
フリル・インレアン(大きな帽子の物語はまだ終わらない・f19557)は両手をぎゅうっと握り締め――ぬ、と、こちらを振り返ったトラウマンに内心「ふえぇ」と声を上げた。
「マタアトデ、ロッテノカナシイハナシ、イッパイシヨウ」
ダッテ、“タクサン”“アル”ンダモンネ?
悲しげに項垂れ、頷いたシャーロットの周りで一瞬だけ揺らいで見えた虹色。ふわふわと上昇を始めたシャーロットを後ろに、トラウマンはフリルを見て頭をごきん。横に倒し、ニタアと嗤う。
「テキダナ? デモ、オイシソウ? ……アア! オマエ、アリスダ!」
「ふ、ふえぇ、そういえば私もアリスでした」
たまらず声を上げてしまったが、ターゲットを自分に変えても心の闇なんて――と思っていたフリルは、ぐぐぐ、と体を大きくしたトラウマンに口を丸くする。心の闇、いっぱいありました。
「どうしましょう、私のせいで……痛っ、痛いですアヒルさん、いくら私でも怒――ふえぇ、やめてくださいぃ」
自分を余所に慌ただしい一人と一羽を前に、もりもり大きくなったトラウマンは首を傾げ――ざわり。何かを感じて振り向くが、そこには絶望に染めた暗い街並みがあるのみ。
「? キノセイカ」
「使えない目を持っているんだな」
「!?」
音もなく浮かんでは消え、“いる”のに“いない”と錯覚させる奇妙な存在。もとい彼岸花・司狼(無音と残響・f02815)の姿が“見えた”と思ったら、音もなく暗がりに沈むようにして“見えなく”なる。
それだけではない。トラウマンは二つの目をぐりぐり見開いた。
「オマエハ、アリスジャナイ。シャーロットミタイナ、“カワイソウ”デモナイ」
ぐにゃりと歪んだトラウマンの胴が平屋戸建ての外観に変わった瞬間、まだいくらか近い距離にいるシャーロットが体を強張らせたのが見えた。グレーの屋根と水色の壁。あれが少女にとって一番身近な場所である筈の、何よりも恐ろしい檻<家>。
「排除すれば終る訳じゃ無いところがまた面倒なことだが……選択は無数に在る」
聞こえているんだろう、と確認はしない。点いては消える灯りのように、司狼はトラウマンを翻弄しながら“無数”の中から反抗、服従、逃避の三つを提示する。俯いたままの少女はその先を想像しただろう。
「どれであろうと、自分で『選ぶ』ことに意味があるんだ」
そこで待つものが幸せでなくとも、選んだものは、歩んだ道は無価値ではない。
自分の顔面を抉りに来た四本の爪を躱し、軽く石畳を蹴って横に飛べば、標的を逃したトラウマンの顔が怒りに歪んで――ずず、と低くなり始めた目線に気付きギョッとする。ぺし、ぺしぺしっ。肩や背中をはたいていく小さな掌は、心の闇の落とし方に気付いたフリルの手。
「こうして適度に発散……お洗濯の魔法で心の闇を落としてしまえばいいんです」
そうですよね、アヒルさん。フリルの声にアヒルさんが「グワッ!」と鳴いて両翼を広げれば、小さくも確かに刻まれた傷痕へ司狼も“ざくり”と一撃。一人の少女が怖れる“檻”が崩れ、元に戻っていく。
「ジャマスルナ! キョウハ、ダイジナヒニナルンダ!!」
「そうだな、おめでとう。今日は『お前の』命日だな」
いちいち記念してやる気はないがね。
どこかの誰かさんと違ってな。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
エドガー・ブライトマン
そう、今日は記念日
命日でもオウガになる日でもなく、新しい自分になる日さ
ご機嫌よう、ロッテ君。聞こえてる?
ついでにトラウマン君もご機嫌よう
陰湿な嫌がらせみたいなのはそのへんにしたまえ
ロッテ君をキミに渡してやるワケにはいかない
この剣でトラウマン君に立ち向かおう
体の一部が何か道具に変形したならば、それを狙って貫く
《激痛耐性》があるみたいだから
多少の傷では気に留めないし、そもそも気づかない
トラウマだとか、私にはそういうのは解らない
覚えてないものは存在しない
共感も出来ない
それでもね
ひとのこころの危ういところを狙うキミの仕業
私は見過ごしてやらない
“Jの勇躍”
ロッテ君の最期は、キミが齎すものじゃあないハズさ
「チガウチガウ。キョウハ、“カワイソウナアノコ”ノ、キネンビナンダ」
ニタニタ嗤うトラウマンが指した先には、ついつい扇ぎたくなる速度で飛んでいくシャーロットの姿。緩やかな飛行だ。少女の耳にトラウマンの声はよく届いただろう。そして。
「そう、今日は記念日。命日でもオウガになる日でもなく、新しい自分になる日さ」
絶望に染まった国の中で一際明るかったこの声も、しっかり届いた筈。
ぴくりと動いた肩に、太陽と青空を一緒にしたような美貌が笑む。
「ご機嫌よう、ロッテ君。聞こえてる?」
エドガー・ブライトマン(“運命”・f21503)の挨拶に、前髪と影で隠れた頭がほんの少し動いた。前髪の隙間から覗いた濡れた瞳へエドガーはニコリと親愛の笑みを向けた後、ついでにトラウマン君もご機嫌よう、と笑いかけた。ただし。
「陰湿な嫌がらせみたいなのはそのへんにしたまえ。ロッテ君をキミに渡してやるワケにはいかない」
――しゃんっ。涼やかな音と共に薔薇を“咲かせて”の宣戦布告付き。
白銀の細身剣を向けられたトラウマンも、ギザギザ歯がびっしり並ぶ笑顔を浮かべた。ぐにゃあっ、と勢いよく捻れた両腕が、ぽんっ。何種類ものレディース服がくっつき、ひらひらり。
ママ。
零れたのがひどく小さな声でも、王子様の耳はか弱き者の声を聞き逃さない。
石畳凹ませ突進してきたトラウマンに真っ直ぐ飛び込み、紫の暴風に頬を掠められたのと同時、鋭く貫いた。
「トラウマだとか、私にはそういうのは解らないんだ」
ベージュのセーター。フォーマルなスーツ。ぼろりと崩れ消えゆく服にエドガーは何も感じない。自分が覚えてないものは存在しないのだから、ないものに共感出来ない。
「それでもね」
青空の双眸が爽やかに輝いた。
「ひとのこころの危ういところを狙うキミの仕業、私は見過ごしてやらない」
鮮やかな白と上品な青。ふわりと踊ったマントが重力に従って石畳に落ちる、その刹那。翔た色は金と白銀。二色が鮮やかな軌跡を描いた一瞬の後、トラウマンにくっついていた服全てが両断され、紫の体に傷跡だけを残して消えていく。
「ロッテ君の最期は、キミが齎すものじゃあないハズさ」
誰かが、何かが導く事もあるだろう。止める事もあるだろう。
けれど、選んだドアのノブを回すのは他の誰でもない――傷だらけの心を抱えたひとりの少女。シャーロット、唯一人。
大成功
🔵🔵🔵
エンジ・カラカ
賢い君、賢い君、絶望だって。
絶望に囲まれて希望に満ち溢れて
希望に囲まれて絶望に満ち溢れたコレも君も関係ないねェ。
アァ……アリスも惑わなければイイのに。
受け入れて、しまえばイイのに。
何を?サァ?
コイツの名前は知らない知らない
ケド、賢くなさそう。
賢い君、賢い君、行こう行こう。
コレの心を追い詰めるコトは出来ない。
トラウマが無い!
と、言えば嘘になるねェ。
トラウマはあるヨー。
でも君がいるからなんてコト無いサ。
賢い君の毒と真っ赤な糸を操って、そらからおまけに宝石も。
毒と毒と毒。毒塗れ。
薬指の血を代償に君と一緒にどこまでも。
君と一緒ならなんてコトない
アァ……アリスにも誰かいれば良かったのに。そうだろう賢い君
「賢い君、賢い君、絶望だって」
絶望に囲まれて希望に満ち溢れて。
希望に囲まれて絶望に満ち溢れたコレも君も関係ないねェ。
エンジ・カラカ(六月・f06959)は今日も今日とて楽しげに。賢い君とのお喋りは絶やさず絶望の国に飛び込んで、ふわふわゆらりと飛んでいく“アリス”を見る。ちょっと遠くなった? でも賢い君ならすぐ届くよねェ。
(「アァ……アリスも惑わなければイイのに。受け入れて、しまえばイイのに」)
――“何”を?
(「サァ? 知ーらない」)
笑ったままの瞳に新たなトラウマ顕したオウガを映す。大きな体の前に白くつるつるした、半開きのドアをくっつけた紫色が一つ。ドアの隙間から見えたタイルの床にシャワーカーテンとバスタブ。一般的なバスルームに、エンジはただ「ふぅん」と笑む。
(「コイツの名前も知らない知らない。ケド、賢くなさそう」)
だってそんなものくっつけていようといなかろうと、賢い君とコレには関係ない。
「賢い君、賢い君、行こう行こう」
「アア。オマエモ、ロッテノキネンビノジャマ、スルヤツダナ?」
ぎょろり。赤い光の輪郭を持つ真っ白な目がエンジに注がれる。
オマエノキズハ、ドンナキズ?
トラウマンがのたのた走るように一歩踏み出す。その度に石畳がズドンぼごんと音を立てて窪むが、エンジはゆらゆら笑って鬼ごっこをするように走り回る。
「キズ? コレの心を追い詰めるコトは出来ない。だってコレにトラウマが無い!」
――と、言えば嘘になるねェ。くるり回って振り返ったその顔には、見えない底までふわふわ落ちていくような笑みがある。
「トラウマ? あるヨー。でも君がいるからなんてコト無いサ」
だから、コレの心を追い詰めるコトは出来ない。
左手薬指。そこにある“賢い君に捧げ続けた証”からまた誓いを生んで、それから真っ赤な糸にオマケに宝石も。ほらほらあげるヨーと、笑顔で大盤振る舞いした毒と毒と毒がバスルームのドアを、角を、片手の爪をじゅううと溶かした。
「アアアァァアア!」
ぐわんぐわんとうねるように響いた悲鳴にエンジはあれあれ? と笑みを向け、薬指から滴る滴に目を細める。キレーな赤だ。
「君と一緒にどこまでも。君と一緒ならなんてコトない。アァ……アリスにも誰かいれば良かったのに。そうだろう賢い君」
何せエンジは、賢い君と一緒なら天国も地獄も関係ない。
どこであろうと生きる。どこであろうと死なない。
そんな誰かがシャーロットにもいたら――あの少女は、どう生きただろう。
大成功
🔵🔵🔵
アビ・ローリイット
何が幸せか、
つーかどっちがマシか?
考えんのにも時間が必要かもね
最後には君が選びゃいいけど。そんくらいなら誕プレにあげる
【POW】
アリスへ声を届かせる気はなく戦いに集中
へえ、まだでっかくなんだ
俺そういうの好み。ポイッとハルバード放り出して【悪癖】身軽に肉弾戦仕掛けてこう
サイズアップで潜る隙間の増えた腕を振りかぶる瞬間とか狙い『フェイント』交えた『ダッシュ』で接敵、『カウンター』『グラップル』で攻撃を
殴るとぐにょっとしそうじゃね
そのへんもたのしみつつ
懐入ったり駆け上ったりするから、他の猟兵にとっての囮役でもいっかなつう感じ
飛んでったアリスについて)
散歩も悪くねーよな。自分でこの世界を見て、それから
「でけー声」
トラウマンの悲鳴にアビ・ローリイット(献灯・f11247)は思ったままを呟いた後、盛大に溶け落ちた紫色や爪などをハルバード片手にひょいっと避けた。
あのアリスにとって“何が”。母に全てを支配される世界と、オウガが蔓延る世界の“どっちがマシ”か。
多分これは究極の二択というやつだ。それも心が“しんどくなる”タイプの。だから考えるのにも時間が必要なんだろう。――アビにとってあのアリスが抱えているものはそういうものだから、特別な言葉を、声を届かせる予定は今の所ないけれど。
「最後には君が選びゃいいけど。そんくらいなら誕プレにあげる」
誕生日がいつか知んないけどさ。ラフに零した次の瞬間にはもう、アビの意識はじゃれ甲斐のありそうなオウガに集中していた。溶かされた爪を庇うようにしていたトラウマンの口が大きく嗤うのを、ただ双眸に映す。
「アア、ロッテ。キミノタンジョウビハ、ドウダッタ?」
素敵なバースデーケーキ。お祝いの火を揺らす蝋燭。
バースデーソング。プレゼント。おめでとうのキスやハグ。
ソンナモノ、ナカッタンデショ?
その言葉がシャーロットにどれだけ刺さったか示すように、ぐっ、ぐっ、とトラウマンの体が盛り上がる。ヒャハ、ヒャハハ。自分をぐにゃりと見下ろし嗤う紫色に、アビも歯を覗かせて笑った。ぶん、と尻尾が踊る。
「へえ、まだでっかくなんだ。俺そういうの好み」
そこらの家ぐらいあんじゃん。ハルバードをポイッと放り、獣の足で石畳を蹴る。
ガランガランと派手になる音をBGMに、爪を無くした片手とまだ無事な片手が振り上げられ、ガシリとタッグを組んだ。アビの片足にもぐっと力が入り、体の重心が右にかかって――。
「ロッテハ、アゲナイ!!」
一気に落とされた紫色。石畳がクッキーのように割れ砕け、そこにアビも――イナイ!? ギョッとしたトラウマンの目が、今度は足にずどんと走った痛みでウギイと歪んだ。
足から膝、膝から腕へと駆け上っていくアビの勢いは容赦ない北国の風めいて。移動で適当な所を掴むついでに拳や蹴りを叩き込み、表面の柔らかさとそのすぐ下にあった固さに「へえ」と笑いながら、上へ上へ。いい具合に残ってんじゃん、と角まで跳び、そこで全体重とスピードを思いきり乗せてトラウマンを後ろへ倒していく。
空っぽの表情を浮かべたアリスは、まだ、見える。
提示された道はどちらも軽くはないけれど。
「散歩も悪くねーよな」
自分でこの世界を見て、“それから”でも。
別に誰が怒るわけでもなし。それくらいの自由は、ある。
大成功
🔵🔵🔵
コノハ・ライゼ
……は、イッショですって?
ナンか知らないケド無性に腹が立つ
こーゆーのは直でぶん殴るに限る
右人差し指の「Cerulean」に口付けナックル形状へ
コレはオレの心だからネ、殴るならコレがイイ
敵の動き読み攻撃『見切り』
『第六感』併せ致命傷避け受け流してくヨ
傷追うのは計算のウチ、血は落ちる前に【紅牙】の糧にしCeruleanを喰らう牙状へと変えよう
『カウンター』気味に敵の口狙い一撃
すぐさま振り払い『2回攻撃』で『傷口えぐる』ようもう一撃
苦しんで苦しんでやっと一つの願いを絞り出した子供と
ただの下衆を同列に語る
そんなお口ナイ方がイイじゃない?
念入りに捩じ込み『生命力吸収』
まだまだ、こんな痛みじゃ済まなくてよ
ずううん、と地響きに似た音を立てて倒れゆくトラウマンを見て、コノハ・ライゼ(空々・f03130)の胸は一瞬だけスッとした。一瞬だけで終わったのは、あの紫色のデカブツが言ったものが脳内で再生されたせいだ。
キミハイッショダ!
「……は、」
ナニがイッショですって?
吐き出した笑みは冷たく刺すように。駆ける速度は自然と上がっていく。
右人差し指に絡む『Cerulean』に口付ければ“開いた”魔鍵がコノハの心を映した。ナックル形状になったのを見て「イイじゃない」と浮かべた笑みは獰猛な色を含み、ゆらゆら起き上がったトラウマンへ向く。
「直でぶん殴ってあげるわ」
「イラナイ。ロッテ、ロッテ! ママニ、タタカレタコト、アル?」
飛び続けているシャーロットは答えない。ただ首を振って、振って、振って。ぎゅう、と縮こまった時、トラウマンの体が一回り大きくなった。それをトラウマンは「ソウカア」と嗤い、コノハは「……そう」と目を細める。
「ロッテハオウガニナルンダ。ジャマ、スルナ!」
「――はぁ?」
爪全てをなくして、よくよく見れば先端がでろりと溶けてもいた片手が地面を砕く。手の動き、爆ぜるように飛び散る破片。感覚に従ってそれらの“相手をした”コノハの目が、トラウマンの目と合った。
もう一方の。まだ無事だった手が、真っ赤な爪が、ぐぱあ、と口を開いたイソギンチャクか何かのように開かれ一瞬で迫る。肌に刻まれた赤い筋、鋭く走った痛みに、しかしコノハは底冷えのする笑みを浮かべていた。
流された血をそのまま落とすなんて、そんな勿体ない事はしない。新鮮な証でもある鮮やかな赤色は、右手を彩る殺意満々な『Cerulean』のゴチソウに。一口目、二口目。流れ来るままに血を喰らい、“牙”となった右手は、巨体躱すその瞬間に紫色の顔面へと添えるだけ。
「苦しんで苦しんでやっと一つの願いを絞り出した子供と、ただの下衆を同列に語るそんなお口――ナイ方がイイじゃない?」
よく研いだ刃物で紙を切るように、下から上へ。スパッと来た手応えにコノハは笑み、トラウマンが裂かれた痛みを悲鳴に変えるより速く、空中で体を捻ってもう一回。
「ァ、ア――!!」
美味しい食事に“おかわり”はつきもの。一度で終わったりなんてしない。
食材がこういうタイプの場合は、特に。
「まだまだ、こんな痛みじゃ済まなくてよ」
アンタが無遠慮に抉ったあの子の苦しみは、きっと。もっと。
大成功
🔵🔵🔵
アリア・モーント
わたしの可愛い明ちゃん(f00192)と!
本当に一緒なのかしら?
影の巨人、無邪気なゴーレム、人食いオーガ
わたしはアリス、あの子もアリス
貴方とは違うのだわ
ねぇ、シャーロット
可愛い貴女、素敵なアリス
悲しくて可哀そうなロッテ
貴女にはお歌が必要なのだわ?
恋のように甘くて素敵な
心弾ませ、勇気をくれる
一歩を踏み出す灯が
ママもパパも関係ないのだわ
だって貴女は貴女だもの!
【恋歌狂奏曲「Viburnum」】
明ちゃんに守りはお任せするのよ?するのだわ!
代わりにわたしのお歌はロッテと明ちゃんに
歌姫の【歌唱・鼓舞】で力をあげる
【ダンス】するように軽やかに
恋のナイフで【傷口をえぐる】のは女の子の秘密の嗜みなのだわ
辰神・明
アリア(f19358)お姉ちゃんと
一緒じゃない、です
シャーロットさんの……辛いこと、怖いこと
それを知った上で、笑うなんて!
シャーロットさんと、あなた達は、違うって……メイは、思うから!
『大切なともだち』を発動
アリアお姉ちゃんの、お歌の邪魔、させません……!
はい!守りは、メイにお任せ……なのです、です!
クマさん、リスさんに
アリアお姉ちゃんを【かばう】ことを、優先してもらいます
余裕があるなら……お顔の目、中央の目を
【先制攻撃】【部位破壊】【傷口をえぐる】でドッカーンです!
メイは!おこなの、です!
アリアお姉ちゃんの、綺麗なお歌
……シャーロットさんにも聞こえたら、いいな
独りじゃないよ、って
アリア・モーント(四片の歌姫・f19358)が心底不思議そうに零した疑問へ、辰神・明(双星・f00192)はそっと唇を噛み、桜色の瞳を震わせた。
「影の巨人。無邪気なゴーレム。人食いオーガ。わたしはアリス、あの子もアリス。貴方とは違うのだわ」
どこまでも透き通った青色がトラウマン<貴方>を見て笑う。
“ねえ、本当に一緒なのかしら?”。
「イッ」
「一緒じゃない、です」
ぷるりと首を振った明――メイの瞳はかすかに濡れていた。けれど、ここから遠ざけられつつある見知らぬ少女への想いが、傷を負った恐ろしいモンスターを“正面から見る”パワーに変える。
「シャーロットさんの……辛いこと、怖いこと。それを知った上で、笑うなんて! シャーロットさんと、あなた達は、違うって……メイは、思うから!」
「ふふ、よくぞ言ったのだわ! さすがわたしの可愛い明ちゃん!」
アリアは小さく震えていた白い手をぎゅっと握り、輝くばかりの笑顔をシャーロットにも向ける。
シャーロット。可愛い貴女、素敵なアリス、悲しくて可哀そうなロッテ。傷だらけで生きる、ひとりぼっちのロッテ。
「ねぇ、貴女にはお歌が必要なのだわ。恋のように甘くて素敵な。心弾ませ、勇気をくれる、一歩を踏み出す灯が!」
そこにママもパパも関係ない。許可なんて必要ない。
だって貴女は貴女。たった一人の、シャーロット!
「守りはお任せするのよ? するのだわ!」
「はい! 守りは、メイにお任せ……なのです、です!」
ぽん、ぽぽんっ。メイの“お願い”に応えて参上した巨大もふもふクマと、同じく巨大もふもふリスが、二人の前でむんっとファイティングポーズ。
「アリアお姉ちゃんの、お歌の邪魔、させません……!」
二匹揃って走り出したその後ろでは、アリアの唇から紡がれる恋の歌が、絶望の国を伸びやかに駆けていく。心のままに紡ぐ歌は、ロッテとメイへのプレゼント。
(「明ちゃんも、貴女も。誰にも、何にも負けないのだわ!」)
「――サセ、ナイ」
ぬう、と体を起こしたトラウマンの口が。斬り裂かれて奇妙な形になった口が、聞き取れない言葉を紡いだ途端、背後に長方形の白い幕が浮かび上がる。3、2、1と始まって終わったカウントダウンの後、そこにはベッドに腰掛けて泣くシャーロットと、少女の前で膝をつく一人の女性が映し出された。女性はシャーロットの手を。きつく握り締めたそこを、何度も何度も撫でる。
『どうしたの、シャーロット。泣くような事なんてないのよ?』
『ママのした意味を理解出来る時が来るわ』
『じゃあ、ママはアレを燃やしてくるから。少し休んでいなさい』
『――はい』
パタン。女性が出ていった後、シャーロットの両目からぼろぼろと大粒の涙が溢れていく。開いた掌に残る紙切れ、そこに綴られた文字に声を上げて泣きそうになるのを、枕に顔を埋めてかき消そうとする。
“これは何? シャーロット”
“こういうものを渡されたら、次からはママに言いなさい”
“ああ、ラブレターだなんて……この年で……穢らわしい……”
“大丈夫、大丈夫よシャーロット。ママがちゃあんと守ってあげるわ”
――ごめんなさい。とても素敵な言葉だったのに、ママに見つかって、びりびりにやぶられたの。だからもう貰わない。貰っちゃいけない。貰ったら、壊される。
響く声。暗くなっていくスクリーン。完全な闇になったそれを背後に、トラウマンはヒャハハと体を揺らす。
「ロッテハヤッパリ、カワイソウ! アイモ、コイモ、モラエナイ!」
「……! もう……メイは! おこなの、です!」
声を上げたメイにアリアは笑顔で頷いて、くるりとターン。クマとリス、頼もしきもふもふ二つと怪獣映画さながらのバトルを繰り広げるそこへ、ステップを踏みながら飛び入り参加する。
一瞬トラウマンと目が合うが、そこへクマがもふんっと腕を突っ込んだ。紳士的ガードと同時に、リスもぴょんっとジャンプしてもっふり尻尾でびたーん! とトラウマンの顔面を強打した。
「アアアア! メ、メガイタイ!」
その隙にアリアは不思議と抉れていた膝や腕を「そこなのだわ」とザクリ。恋の歌に似合わないなんて苦情は受け付けない。だってこれは女の子の秘密の嗜み、恋のナイフだもの。
痛いと暴れるトラウマンをクマとリスがガッシリと押さえ、アリアも加わる様を見つめながら、メイは祈る。願う。
(「……シャーロットさんにも、アリアお姉ちゃんの、綺麗なお歌……聞こえてたら、いいな」)
独りじゃ、ないよ。
ここに、いるよ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ミリア・ペイン
ねえ、アリスさんはご両親の事を心から憎んでいるの?
本当は仲良くしたい…本心を伝えたいって、心の何処かでは願っているのでは無くて?
私、貴女とお話がしたい、すぐ追いつくから…少しだけ時間を頂戴?
【WIZ】《黒き怨恨の炎》
…人のトラウマを抉って何が楽しいワケ?
この上なく不愉快で目障りだわ…退け!
炎を複数合体で強化【先制攻撃】で速攻を
スクリーンが写し出されたら幾つかの炎を画面に纏わりつかせ妨害
お返しに此方も【呪詛】を込めた炎で【精神攻撃】で内面から破壊してあげるわ
防御の際は【オーラ防御】でバリアで守護しつつ【呪詛・狂気耐性】の加護も付与し精神も保護
…喜びなさい、今日はお前の命日記念日になりそうよ
「ねえ、アリスさんはご両親の事を心から憎んでいるの?」
こつん。
ミリア・ペイン(死者の足音・f22149)の足音が、不思議な存在感をもって響く。
真っ赤な双眸が戦場を――こちらを見つめる眼差しと、交差する。
「本当は仲良くしたい……本心を伝えたいって、心の何処かでは願っているのでは無くて?」
「ナニヲ、」
「黙って。お前に言ってないわ」
大きなもふもふたちを突き飛ばしたトラウマンを赤が射抜く。そこにあるのは、オブリビオンに対する底無しの純粋な殺意だけ。それが瞬き一回を挟んで、和らぐ。
「私、貴女とお話がしたい。すぐ追いつくから……少しだけ時間を頂戴」
独りの少女へ言葉を届けた後、ミリアの表情は再び冷たいものへと変わる。ヒャハハと嗤うトラウマンの後ろに現れた白い幕。カウントダウンが映し出されれば――ああ、また。シャーロットの心が、記憶が、暴かれる。
『ごめんなさい、ごめんなさい、ママ! ごめんなさい!』
ドアの前、シャーロットは両手をぎゅっと握り締め、謝り続ける。
約束をやぶってごめんなさい。アクション映画を観ようとしてごめんなさい。もうしない。約束、必ず守るから。何がいけなかったのか、どうすべきかを謝罪と共に口にして――だから、と声を震わせる。
『スマホだけでも……お願い、使わせて……みんなに、行けなくなったって連絡を……』
『大丈夫よロッテ。それはママがしておくから』
急に熱が出たって事にしましょうね。そうすればお見舞いに来る事もないでしょう? うつったらたいへ――。
「……人のトラウマを抉って何が楽しいワケ? この上なく不愉快で目障りだわ……退け!」
ミリアの周りを覆い尽くした青く黒い炎の群れ。溢れるほどの薄暗いモノを吼えちらかすように現れた悪霊の魂が、心映しのスクリーンに食らい付いた。映像も音声も激しく乱れるのに合わせて、悪霊たちも乱舞する。
「ナニスルンダ!」
より鋭く大きくなった“残っていた”爪で。ヤマアラシの針のように数を増やして広がる歯で。悪霊たちの妨害に抗うトラウマンの目がミリアに向く。オマエノセイデ、トチュウデオワッタ。怒りの表情をミリアは「それが?」と言いたげな、無の表情で受け止めて――“なかから”燃やす。
「ィ、アア、ア……!?」
ぼおお、とトラウマンの胸部、心暴く目から炎が溢れ出した。ヤメロ、ヤメロ。騒ぐ声は呪詛に満ちた炎を消すに至らない。目から放射線状に広がっていた亀裂が、ばき、ぱきりと数を増やしていく。
「ヨセ、ヨセ!!」
「何を言ってるの? ……喜びなさい、今日はお前の命日記念日になりそうよ」
それは、めでたい事なんでしょう?
大成功
🔵🔵🔵
カイム・クローバー
『死ぬときくらい自由に』だって?――そいつは違うな。
シャーロットにはこれから幾らでも自由がある。自由の掴み方ってやつを教えるぜ。
ま、ちょっと待ってな。このデカブツをぶちのめしたら直ぐに追いつくからよ。
図体がデカくなるのは歓迎だ。的がデカイ方がやり易い。
派手に暴れるのを【見切り】と【残像】で躱しつつ、二丁銃にて【二回攻撃】と銃弾に紫雷の【属性攻撃】を這わせ、数発叩き込む。
動きが鈍いんじゃないか?飯ばっか食って運動不足だと身体に悪いぜ?【挑発】しつつ。
距離の有利を使い、デカブツの身体の一部を伝って、頭上から魔剣を顕現してUC。
バースデーにお前は呼ばれちゃいない。ま、一応、宜しくは伝えといてやるよ
命そのものを燃やされる痛みでトラウマンが暴れる度、怒声と悲鳴の入り交じった声が、踏み割られる石畳の音が響き渡る。暴力的な音量で来る全てを、カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は余裕たっぷりの笑みで流していた。
「シャーロット」
名を呼んだのを切欠に、恐ろしいものを爽やかに拭う声が絶望の国をわたり始める。
「『死ぬ時くらい自由に』、って言ったな。――そいつは違うな」
そう言い切って笑む瞳は、ぬう、とカイムの方を向いたトラウマンだけを映していた。手は、神すら喰らう牙を宿した魔剣の柄へ。
「シャーロットにはこれから幾らでも自由がある。その掴み方ってやつを教えるぜ」
と言っても、今の状況は自由の掴み方教室の場に相応しくない。
そもそも、ここは絶望した心を休める場にすらならない。
だからカイムは笑う。手にした魔剣をぐるんと回し、構え、石畳を蹴る。
「ま、ちょっと待ってな。このデカブツをぶちのめしたら直ぐに追いつくからよ」
「オイツク? オイツイテドウスル? ドウヤッテ、ロッテニ“ジユウ”ヲ、アゲルノ? ママヲコロス? パパモコロス? デキナイ、デキナイ! ダッテコロシチャッタラ、ロッテハ、ホントウニ“ヒトリボッチ”!!」
ずん、とトラウマンの体が大きくなった。腕や足から、ぎちぃっと力宿った音がする。明らかにパワーを増した敵の姿に、しかしカイムは歓迎だと笑って跳んだ。それだけデカいと足場にも的にもなって実に良し。噛み付きに来た頭のてっぺんなど、特に適している。
そこをびたんと叩き潰しにきた掌を避けて。ぎょろぎょろとした眼差しをスポットライトのように浴びて。貫き潰そうとする爪には己が身ではなく残像だけを。そして、トラウマン自身には空気つんざく音と共に紫雷の弾丸を幾つか叩き込んでやる。
「ギイ、イッ!?」
「動きが鈍いんじゃないか? 飯ばっか食って運動不足だと身体に悪いぜ?」
――まあ、デカくなった“だけ”だしな。
たまらず膝をついた巨体へ、空中で体勢を整えながら溜息混じりに見舞った挑発はたっぷり濃厚。心からのサービスにトラウマンの目がきゅっと小さくなって、ぐわああっと広がった。
「ワタサナイ、ワタサナイ! アリスハ、ロッテハ、オウガニナルンダ! オナジニナル! イッショニナル! アアアアアァァーーーーッ!!」
「はいはい」
叫びながら跳躍したトラウマンが突き出した手。もう一つの牙めいた爪。それを魔剣の剣身で受け止め、落下しながら滑らせる。すぐそこで散った火花が、振り上げられた魔剣の軌跡を追いかける。
「バースデーにお前は呼ばれちゃいない」
全力をこめ、紫色の脳天へ。
ずむ、と沈み込んだ魔剣はそのまま真っ直ぐ地面目指して落ちていく。
白眼の間を過ぎ、牙群れる口を裂き、亀裂と出会えばそれを更に開いて胸部の眼を割って、また亀裂と繋がって――紫色の巨体が、ばきばきめりめりぶちぃぃッ、と、右と左に分かれた。
振り返ったカイムが見たのは、それぞれ違う方向に倒れていく右と左。
ぁあ、と。かすかにした声は、どっちが出したものだろう。
「……ま、一応、宜しくは伝えといてやるよ」
シャーロットを傷付けるデカブツはもういない、ってな。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 冒険
『クッションの海を越えて』
|
POW : 片っ端からクッションを投げ飛ばして進みながら探す。
SPD : 沈む前に踏み出しクッションの海を走り抜けて探す。
WIZ : クッションの動きから居場所を想定して飛び込んで探す。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●Deep × Flow
水風船が割れる。水が溢れて広がって、染み込んで。やがて見えなくなる。
そんな風にしてトラウマンの巨体が滅んだ時、シャーロットを包んでふわふわ飛ばしていた何かも、ぱちんっと弾けて消えた。
小さな悲鳴と共に、少女の体は当然下へと落ちていく。
空へと手を伸ばしても、そこには何も無い。
哀れシャーロットは真っ逆さま――。
ぼふんっ!
地面と激突した割りにはやわらかで、空気を含んだ音。同時にぽん、ぽぽんっと宙を舞ったのは、無地やギンガムチェック、パッチワーク。四角形や丸い形をしたクッションだった。
水道管ならぬクッション管でも破裂したのかと思う程のクッションは、なぜか家々から溢れ出ていた。
窓から、ドアから、煙突から。溢れたクッションが道を埋め海を創るそこへ落ちたシャーロットは、ぽかんとした顔を覗かせていた。大きなクッションを握って戸惑う様は、貧相な筏で大海原を漂流する事になった登場人物のようで――事実、クッションの海は緩やかな流れを作り、シャーロットを“運んでいる”。
「――……わたし」
どうしたら、いいの。
食べられなかった。それはきっといいことなのに。助かった、はずなのに。
これからどうしたらいいのか、全然わからない。
この世界には恐ろしいモンスターがいて。
でも、私の扉を潜った先――“私の家”も、こわくて。
どうしたらいいの。
どうすれば、上手くやれるの。
どうすれば、殺されないですむの。
どうしたら――生きていけるの。
「……こわい。こわいの」
シャーロットはクッションの海流に逆らえない。
呆然とした表情で、涙で目を濡らして。ただ、漂う。
けれどクッションに顔をうずめず、両手で顔を覆いもせず、クッションの海に沈んで帰ってこないという事もない。顔を上げたまま、こわい、こわいと心を露わにする。
“それ”は、これまで言えなかった“サイン”。
心の中で叫び続けていたもの。
自然と溢れて言葉となっているその事実に、少女はまだ気付いていない――。
彼岸花・司狼
上手く生きなきゃいけない、と考える程
上手く生きられなくなるものだ。
オレは荒事しか向いてない…否、本当にソレしか出来ない。
故に日向では上手く生きられないが、こういった場所なら問題は無い。
結果に何を望むのか、捨てられない要素は何か、そのために何をやるか、やれるのか。
そこまでは助言できないが…親も人間、必ず正しいことなどあるものか。
例えそれで拗れても、譲れないならぶつかるしかないんだ。
クッションの波は【継戦能力】による持久力任せのダッシュ移動。
どうしても体力が持たない場合はUCによる増大分でカバーする。
先に不安を持たない人間なんてそういない。
故郷じゃ…明日が来るかも、保証してくれないしな
フリル・インレアン
シャーロットさん、逃げてはダメです。
今のまま何もしなければ、ずっと同じ状況が続くだけです。
クッションから飛び降りるのは怖いかもしれません。
ですが、周りをよく見てください。
あなたの周りには多くの方が手を差し伸べてくれているんです。
先ほどのトラウマンさんも手を差し伸べていたんです、悪意を持ってですけど。
それらの差し伸べられた手を見極めて掴むのは、シャーロットさんがしなければいけないことなんです。
そういえば、アヒルさん、私はあの時アヒルさんから差し伸べられた手というか翼を掴んだことは後悔していませんよ。
猟兵として生きる道はちゃんと選んで掴んだつもりですからね。
さばぁ、ならぬ、もそ、もそそ。
“命は”助かったばかりというシャーロットにとって、間近でしたその音は恐ろしいものの前触れにも思えたのだろう。捕まっていたクッションの上へと慌てて上っていく。
と、同時。クッションの海から大きな帽子が顔を覗かせた。
「え?」
すると今度は、ぽすっ、ぽすっ、ぽすっ――と軽快な音を残しながら近づいて来る人影ひとつ。音の直後、クッションが元気にぽんぽん跳ね飛んで。
「邪魔するぞ」
クッションだらけとはいえ足元は不安定だろう。しかしやって来た司狼はそれを感じさせない。
ぽかんとしているシャーロットの傍では、大きな帽子の下から今度は銀糸がふわり。その隣に鳥形の何かも、ぽすんっ! と顔を出した。
「ふえぇ、到着です……」
「大丈夫か」
「だ、大丈夫、です……」
フリルがクッションに体を預けている間に司狼はシャーロットを見る。やって来たのが恐ろしいモンスターと戦っていた存在だと気付いたのか、戸惑いを浮かべてはいるが、血相を変え逃げ出す様子はない。
「はぁ、はぁ……あ、あの、シャーロットさん……」
「な、なに?」
フリルは息を整え、じ、と少女を見る。そして告げたのは「逃げてはダメです」という――普段のフリルを知る者が聞いたなら少し驚いたかもしれない、強めの言葉。
「今のまま何もしなければ、ずっと同じ状況が続くだけです」
「わ、わかって、る……わかってる、けど……」
でも――。
視線をそらし、指先はクッションを握り締めて。脳裏に『親』という“恐れ”が浮かんでいるのだろう。それでも。フリルは困ったような表情で見上げ、続けた。
「ここから飛び降りるのは怖いかもしれません。ですが、周りをよく見てください。あなたの周りには多くの方が手を差し伸べてくれているんです」
クワッ!
シャーロットの視線が動くより早く、アヒルさんが真っ白な翼をシャーロットの手にぱさっ! 差し伸べているというより被せているな、という司狼の声に、ふえぇ、と困った声が続いて――ごほん。
「先ほどのトラウマンさんも手を差し伸べていたんです、悪意を持ってですけど」
「――……うん」
母親も、“手を差し伸べて”はいるが、差し伸べた先に自分の都合しか用意していない。
トラウマン。母親。
――それから。
シャーロットに差し伸べられる手は複数あるだろう。その中から一つを見極めて掴むのは“シャーロットがしなければいけない事”なのだと、フリルは一生懸命伝えていく。
「わたし、が……」
そう呟いたシャーロットの目は、アヒルさんの翼が被さっている自分の手を見つめているようで。
(「……そういえば」)
アヒルさん。
フリルの視線にアヒルさんがすぐ気付く。
(「私はあの時アヒルさんから差し伸べられた手というか翼を掴んだことは後悔していませんよ。猟兵として生きる道はちゃんと選んで掴んだつもりですからね」)
シャーロットさんは――掴めるでしょうか。
フリルが口を閉ざし見守る間、司狼はシャーロットが溢したものを思い出す。
「……どうしたらいい。どうすれば上手くやれる。そう言ってたな」
おずおずと向けられた視線を、長い前髪の下から僅かに覗いた碧色が受け止める。
司狼は何を考えているのか読めない表情のまま、“そう”考える程――“上手く生きなきゃいけない”という思いが、上手く生きられなくなる要因になるのだと語る。
「オレは荒事しか向いてない……否、本当にソレしか出来ない。故に日向では上手く生きられないが、こういった場所なら問題は無い」
こう生きなければという考えは持っていないが、自分の性質が“何か”は理解している。
だからこそ、司狼はそういった場所に身を置いて生きている。
「結果に何を望むのか、捨てられない要素は何か、そのために何をやるか、やれるのか。
そこまでは助言できないが……親も人間、必ず正しいことなどあるものか」
「え……」
親というものを初めて他人に否定されたのか。――否。誰にも“自分の親が何をしているか”言ってないのだろう。故にシャーロットは、そんな言葉初めて聞いた、というような顔をしていた。
「例えそれで拗れても、譲れないならぶつかるしかないんだ」
己の意志で選んだ先に衝突があったのなら、そこにあるのは決して悪い面だけはない。
自ら選び、掴んだという過去の証だ。
「……とはいえ、先に不安を持たない人間なんてそういない。俺の故郷じゃ……明日が来るかも、保証してくれないしな」
自分と同じ年頃のこの少女が見る明日は、どんな景色をしているのか。
静かに見つめていた時、ふいに“下”が揺らいだ。
「?」
「ふぇ、何ですか?」
クッションの海面が、ふわん、と大きくたわむ。その大きさはラクダのこぶのよう。
ぽかんとしているシャーロットの前、二人と一羽の周囲は別の流れへと変わり――ふかふかざぶさぶと、遠ざかっていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アビ・ローリイット
わお。たのしいな、これも
涙の洪水みたい
【POW】
ざぶざぶ泳いでっと絶望の国だなんて嘘なんじゃ、って気分になる
いや、忘れてねーよ
『祀』の小人たちに一緒に掻き分けさせて効率上げよう。必要ならクッションの波を燃やして
まだ死にてーか分からないって。あの子は燃やしちゃダメだから
あんま会って言えることもないし、誰か急ぎの人がいりゃその手伝いでもいい
アリス……シャーロットだっけ
殺してあげよっか
なんて
ワケ分かんないよな
言い付け通りやってきて。今になって自分で選べ、なんてさ
決まんねーならとりあえず生きてみて、後で決める手もあるよ
俺はそうしてる(生死を決める権利がある。それってすごく、自由で強くて楽だから)
次々にクッションが溢れて流れを作る“海面”へ踏み出せば、そのままどぼんっ――と思いきや。
「わお。たのしいな、これも」
アビは肩から上を覗かせて八の字眉の下でニヤリ。
随分とカラフルなこの海は、自分を持ち上げるくらいの強さはあるらしい。
「涙の洪水みてー」
住む者がそもそもいたのかわからない家々を見てから、アビはざぶざぶ泳いでみる。意外と泳げる上に水ではなくクッションだから、冷えるどころかぬくいときたものだ。
(「絶望の国とか嘘なんじゃないの」)
名前何つったっけ、と周りを見てもヒントになりそうなものは見当たらない。ふーん、と前を向いてから、あ、と小さくぱちり。“海中”から引っ張り上げたハルバードをクッションの上へ放る。
空中で端から炎の欠片に変わり、クッションへ落ちる頃には薄青い炎の小人へと。
泳ぎの邪魔になるクッションは小人たちが燃やし炭に変え、泳ぎやすくなった所をアビは泳ぐ。そして見えた人影を指差し振り返った小人を、両手でわしゃっと集めた。
「まだ死にてーか分からないって。あの子は燃やしちゃダメだから」
願われたら、叶えられるだろうけど。
泳いでくる自分のシルエットはよく見えたらしい。あ、という顔をした少女の手前までのんびり行くと、向こうは一人で使うのに丁度良さそうな大きいクッションへ上半身を預けていた。
あなた、あそこにいたひと。控えめな声に、アビは「そ」とだけ返す。
「アリス……シャーロットだっけ」
「う、うん」
「殺してあげよっか」
いい天気ですね。そんな気安さで告げたものに、ブラウンの瞳が少しだけ見開かれた。
「――……そう、してくれるの?」
呟いた視線は余所へ。希望を見出したというより、提示したものに迷うような声にアビは「なんて」と言って、タイミング良く浮上してきた棒状クッションを掴む。U字状に曲げ首の後ろへ置いて、ごろり。
「ワケ分かんないよな。言い付け通りやってきて。今になって自分で選べ、なんてさ」
ガチガチの不自由を歩んでいた所へ現れた自由は、どれもこれも、先が見えないものばかり。だったらさ、と視線だけを向ける。
「決まんねーならとりあえず生きてみて、後で決める手もあるよ」
「え……」
とりあえずで、いいの? 今じゃなくて、いいの?
滲んだ色が迷いと共にブラウン色の中を右往左往するのを見てから、アビは琥珀色を空へと向け、流れに身を任す。
「俺はそうしてる」
他人という誰かではなく、自分に“自分の生死”を“決める権利がある”。
それは思うよりずっと自由で、強くて。そして、楽だから。
大成功
🔵🔵🔵
エンジ・カラカ
賢い君、賢い君、アノコもいるなァ……。
あーんなに暗い顔して、どーする?どーしよ。
うんうん、そうしよう。
狼の足は速い。狼は身軽。
クッションの山だって簡単に移動できるサ。
おーい。なーんでそんな顔してる?
たーのしいコト思い浮かべよう。
たーのしいコト考えると楽しくなるなる。
アァ……ワケアリ?
タイセツ、はいないのカ。
コレには賢い君がいる。
真っ赤な糸を操って、クッションを退けよう。
賢い君は賢いからネェ。
賢い君みたいにタイセツがいれば、イイのに。
トモダチは?コイビトは?
お前は一人ぼっち?
一人ぼっちならタイセツを作ればイイヨ。
悩みを言えるタイセツ。
ダレカと一緒にいるのはタイセツなコトー。
知ってた、知ってた?
「賢い君、賢い君、アノコもいるなァ……」
落ち着きのないクッション海流に出来た小さなクッション山の上、腰を下ろしていたエンジは、じぃーーと一点を見つめ内緒話の真っ最中。
生き延びたアリスだ。
けれど、あーんなに暗い顔をして。
「どーする? どーしよ」
賢い君に訊ねれば、答えはすぐに見つかった。
「うんうん、そうしよう」
立ち上がった拍子にクッション山がもそりと崩れるけれど、身軽で足も速い狼の前では障害にすらならない。
ひゅ、と飛んで、その先にあった次のクッション山を足場に着地して、また飛んで。
着地する度に足元が奇妙な感覚を伝えてくる。面白いねェ面白いねェ。賢い君に笑いかけ、賢い君を連れて目指すゴール地点は、ぼんやりとした存在感を漂わすアノコの所。
高く飛び過ぎたら、クッション流す家の壁から生えていた鋼色の看板――その棒をちょっと掴んで、ぽーん。
「おーい。なーんでそんな顔してる?」
「え? ……?」
頭上からの声にアノコ――シャーロットが周りを見て、顔を上げて。ぱちっ。今まさに上からやって来るエンジを見てぽかんとしている間に、エンジはシャーロットの近くにあったクッションの山へ、ぽすっ、と着地した。
腰を下ろした時に見えない所でクッションがずれたらしい。ほんの少し沈んだが、エンジは意外と快適なそこに腰を落ち着けたまま、にこー、と笑む。
「たーのしいコト思い浮かべよう。たーのしいコト考えると楽しくなるなる」
「たの、しい……」
「アァ……ワケアリ?」
ゆっくり下へと向いた顔。小さな頷き。
うーん、それじゃあ。
「タイセツ、はいないのカ? コレには賢い君がいる」
目の前を横切った赤色をシャーロットの目が追う。
エンジと繋がる赤い糸は、一つ二つとクッションを退けていく今日も賢い『賢い君』。
「あなたの……?」
「うん。コレのタイセツな、賢い君。賢い君みたいにタイセツがいれば、イイのに。トモダチは? コイビトは? お前は一人ぼっち?」
「あ、えと……こい、びとはいないよ。友だちは……いる、けど……」
でも。シャーロットが再び下を見て。クッションを指先が小さな動きで弄くる。
それじゃァ、と言った口が弧を描いた。
「一人ぼっちならタイセツを作ればイイヨ。悩みを言えるタイセツ」
「……これから?」
「うんうん」
遅いかどうかなんて、どうでもいい。今までが一人ぼっちなら、この後に作ればイイ。ただそれだけなのだ。頷いたエンジの視線はクッションを退け終えた賢い君へと注がれる。
「ダレカと一緒にいるのはタイセツなコトー。知ってた、知ってた?」
コレはソレを知ってたんだ。
ブラウンの瞳も賢い君を見つめて――たいせつ、と呟いた時。
「うん?」
「あ、流れが……」
「ヘーキヘーキ。またねェ」
ひらひら、ひらり。左手と賢い君が、仲良く手を振った。
大成功
🔵🔵🔵
ミリア・ペイン
…すべてを諦めて絶望するにはまだ早いわ
安直に死を選ぶなんてお馬鹿さんのする事よ
【WIZ】《冥き深淵の守護者》
【第六感】で何となく目星をつけて探索を
邪魔なクッションは【念動力】で弾き飛ばしていきましょ
守護者にも手伝ってもらうわ
そうね、私から解決策を一つ提示させて頂くわ
大喧嘩する事よ
あら、私は大真面目よ
此処まできたらもう穏便な手段なんて存在しないわ
感情のまま気持ちをぶつけるしかない
相手の気持ちなんて…後の事なんか考えなくていい
泣き喚いたって構わない、嫌な気持ちを全部吐き出すの
取り繕う必要なんてない、貴女は意志を持った人間なのだから
勇気が必要かもしれないけどね
…だってこのままじゃ悔しいじゃない?
カイム・クローバー
随分ファンシーな乗り物に流されてるじゃねぇか。子供が喜びそうな催しだが、肝心のアリスは泣いてる最中なんでね。…土産の一つでも持っていくか
クッションに飛び乗って乗り越えていく。必要に応じてUC発動。
とりあえずはシャーロットのクッションに飛び乗れるように動くぜ。
そうそう、その前にフカフカのクッションの一つでも土産に持っていく。子供だろ?何か抱き締めてりゃ多少は落ち着くんじゃねぇか?
飛び乗ったら、気安く声を掛けて。話を聞くぜ。言いたい事も悲しい事も吐き出しちまえ。全部。
その上でよ…自由の掴み方を教えるぜ。反抗する事。…そうだな、友人は多い方か?家出なんてどうだ?母親、目を回してぶっ倒れるだろうぜ。
「――……向こうね」
ミリアの視線が向いた途端、そこにあったクッションの波が左右に弾け飛んだ。数が減っただけ進みやすくなったそこを、ミリアは器用に渡っていく。
時々“そこにあったものが減った”ような海流と出会いながら、そこをしっかり利用して。必要な時は『死神』と『兎』にも手伝ってもらって――。
(「見つけた」)
子供一人が乗っても逞しく漂い続ける大きなクッションの上。そこに座るシャーロットは、クッションの海に流され始めた時と比べて、少しばかり顔つきが変わっているように見えた。
けれど。立ち上がるには、もう少し。
そんな印象にミリアは短く息を吐く。余計なモノが現れたら、あの少女は自ら人生を捨てかねない。
(「……すべてを諦めて絶望するにはまだ早いわ。安直に死を選ぶなんてお馬鹿さんのする事よ」)
海の上を行く赤い双眸はぼんやりと。しかしその色にしっかりとシャーロットを映し、守護者を解除して――ふいに感じた風の流れへと視線を向ける。よっ、と軽く手を挙げ笑顔を浮かべるのは、“空中から”駆けてきたカイムだった。
たまたま居合わせた者同士、そのままシャーロットの元へとやって来た二人をブラウンの瞳が見つめる。何か言うのではなく、二人が口を開くのを待つような空気。話を聞く、という心になっているのだとカイムは察した。未だ海流の上だが――少しずつ、変わってきている。
よぉ、シャーロット。気安くかけた声は、相変わらず明るくて。
「言いたい事も悲しい事も吐き出しちまえ。全部。その上でよ……おっと、そうだ」
ほら。カイムは抱えていたクッションをシャーロットへ差し出した。わからないながらも受け取った少女へ、カイムは土産だと笑いかける。それに何か抱き締めていれば多少落ち着く事もある。それは“考える事”を支えてくれるだろう。
「あ……ありが、とう」
ええと。少し困ったような表情でカイムを見上げていたシャーロットの、クッションを抱き締めている手に。ほんの少し、力が入って。
――アクション映画。みんなと、観たかった。
とてもとても小さな声で吐き出された“悲しかった事”が、他のものも引っ張り上げたのか。シャーロットの目がじわりと潤み、雫を流し始める。
「ご、ごめ、なさ……泣くつもり、なくっ、て……!」
「気にするな。いいんだそれで」
涙はクッションで拭いてしまえばいい。何せここには、文字通り溢れるほどにある。
ぎゅうぎゅうとクッションに顔をうずめたシャーロットを、ミリアは暫く見守った。少しして落ち着いてから、そうね、と人差し指を立てる。
「私から解決策を一つ提示させて頂くわ」
「なに……?」
「大喧嘩する事よ」
えっ大げんか?
そいつはいいな!
見事に重なった声にミリアは表情を変えず、カイムは笑い、シャーロットはカイムとミリアを交互に見る。え、あの、とクッションから離れた片手がどこへ行こうか迷うように動いた。
「け、けんかって……」
「あら、私は大真面目よ。此処まできたらもう穏便な手段なんて存在しないわ」
感情のまま気持ちをぶつけるしかない。その時に相手の気持ちなんて――後の事なんか考えなくていい。向き合ったその瞬間抱えているものを、沸き上がったものをぶつければいい。
「泣き喚いたって構わない、嫌な気持ちを全部吐き出すの。取り繕う必要なんてない」
貴女は意志を持った人間なのだから。
その言葉に、シャーロットの喉がひく、と動いた。
そういう事をしていい。駄目なんて事はない。やって、いいんだ。
「勇気が必要かもしれないけどね」
「……う、うん……それは、すごく、思う」
「けど、やらない手はないぜ。……そうだな、友人は多い方か?」
「え?」
シャーロットが小さな声で名前を挙げながら、指を使ってカウントしていく。一人、二人、三人――ぽつぽつと増えていった数は、少なくはないが多くもない。しかし無でない事にカイムは「よし」と明るく言った。
「それじゃあ……」
家出なんてどうだ?
「いっ――!?」
飛び出しかけた言葉を呑み込んで、それから恐る恐る「家出?」と発したシャーロットにカイムはそうだ家出だと笑顔で繰り返した。
「自由の掴み方を教えるって言っただろ? 反攻するんだ。母親、目を回してぶっ倒れるだろうぜ」
「そ、それは、そうだけど……!」
「そっちも悪くないわね」
「ええっ!?」
目を丸くして自分を見たシャーロットへ、ミリアはほんの少しだけ首を傾げた。
「……だってこのままじゃ悔しいじゃない?」
シャーロットが歩んだ人生は10年と少し。両親と比べれば当然短いが、だとしてもその年月は、シャーロットという個が生きてきた年月。シャーロットだけの、時間だ。
大喧嘩。
家出。
増えた選択肢を噛み締めるようにシャーロットの視線がクッションに向いて――“下”の違和感に気付いたミリアとカイムを、違和感のもとである海流がゆらりゆらゆら、運び始める。
そして、おーい、と声がした。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
エドガー・ブライトマン
ロッテくーん
やあ、ようやく話が出来るねえ
クッションの海に見えるキミへ手を振って
この波のカンジ、何か覚えがあるな
――そう、ヒーローズアースでサーフィンした時だ!
あのときは確か、こうバランスをとって……
流れに上手く乗りつつ、ロッテ君の方へ近づいていく
声が届くなら、クッションに乗ったままでも話しかける
ロッテ君、なりたい自分になるんだ
これをしたい、あれを見たい
そのすべてがキミのもので、大切なことさ
キミの運命はまだ決まっていない
キミの母上は確かに怖いかもしれない
私も母上がちょっと怖いときもあった。怒られた時とか
でも負けちゃいけない
大事なキミの気持ちを伝えるんだ
きっとキミの生き方は、自ずと見えてくるハズさ
コノハ・ライゼ
いつもならもふっと沈みたいトコだけど
……ヤでしょ、子供が泣くのは
波乗りの要領で不安定さを凌いで
乗りつつ方向変えつつで行くヨ
【黒管】喚びくーちゃんと『追跡』しよう
時にはくーちゃんに手伝ってもらって体勢整えるねぇ
ねぇロッテ、よく耐えたネ
もう大丈夫、ここでは思い切り声を上げてイイ
そして生きたいと望むなら
この先ひとつだけ勇気をもってみない?
今上げた声を、パパやママにも届ける勇気
最初は上手くいかないかもしれない
ケド笑って過ごせる日々は、必ずくるから
だって子供は幸せじゃなくっちゃ
どの世界の誰にだって、君を不幸にする権利などナイ
……全部育ててくれたヒトの受け売りだけどネ
今はオレも、そう思う(思いたいンだ)
「おーい、ロッテくーん。……おや、あの辺りで流れが分かれているようだ」
「でもまぁ余裕デショ。お互い、波に乗るのはコレが初めてじゃないし?」
ね、くーちゃん。
追跡から戻った小さな黒狐を指先で遊ばせ笑うコノハに、クッションの海に見えた少女へ手を振っていたエドガーは「そういえばそうだったね!」と笑う。波の感じに覚えがあるなと思っていたのだが、やっと理由がわかった。
青い空。青い海。白い雲と波飛沫。きらきらと眩しい太陽。
ヒーローズアースでサーフィンをしたあの時は、何やら緑色をした好敵手がいたような。それと、確か。
「こうバランスをとって……うん、行ける。問題無しさ!」
「それじゃ、このままあの子のトコまで行っちゃいましょーか」
太陽のような笑顔と、自由な風めいた笑顔が交差して。その片方。紫雲の下で薄氷が密かに痛みを浮かべた。
いつもなら、こういう場所を前にしたらそのまま沈みたいと思うところ。あたたかでやわらかなそこに身を預けて、もふっと、ふわっと。けれど見てしまった。聞いてしまった。まだ10年と何年かしか生きていない子供が、こわい、こわいと泣いていた。
(「……そーいうの、ヤでしょ」)
「お邪魔するよ、ロッテ君。やあ、ようやく話が出来るねえ」
ふわりと近くのクッションへ乗ったエドガーを、シャーロットはまじまじと見つめていた。王子様みたい、と零れた声に王子様だからねと綺麗なウインクを返せば、ブラウンの瞳がほのかに輝きを帯びた。
「ねえロッテ君。まだ、迷ってるかい?」
優しい問い掛けに、ロッテの細い肩がしゅん、と落とされる。
「色んな人が来てくれて、色んな言葉をもらったのに……ご、」
「はいストップ。謝るコトなんてないから」
目の前にずいっと現れた星形クッションの向こうから、コノハの笑顔が現れる。
迷ってるのはちゃんと考えてる証拠。いいこじゃない、と笑顔でクッションをぽんぽんと押し付ければ、白い頬が、かぁ、と赤くなっていった。
気持ちが上向きになった気配にエドガーは「ふふ」と笑って、シャーロットと目線が同じになるよう腰を下ろす。
「ロッテ君、なりたい自分になるんだ」
これをしたい、あれを見たい。着たい服がある、アクション映画が見たい。その全てが“シャーロットのもの”。それはこの世に一つだけの大切なことさ、とエドガーは微笑む。
「ロッテ君。キミの運命はまだ決まっていないよ」
綴られた物語は既に運命を終えた後のものだから、変えようがないけれど。今を生きているシャーロットの運命は、シャーロットの母親にも神様にも定める事は出来ない。
「キミの母上は確かに怖いかもしれない。私も母上がちょっと怖いときもあった」
怒られた時とか。
ぽそっと足された言葉にシャーロットが小さく噴き出した。慌てて謝ろうとするのを、いいのさと笑顔で止めて――ほっとした様子の瞳を、真っ直ぐ見る。
「でも負けちゃいけない。大事なキミの気持ちを伝えるんだ」
きっとキミの生き方は、自ずと見えてくるハズさ。
キミなら大丈夫だよ。
大きなモンスターが暴れていた時と変わらない光さすような声が、ロッテの中の何かを解いていく。まあるくなった瞳が潤んでいって、瞳いっぱいを濡らしたものが涙となって流れ始めた。
最初のひとしずくがクッションを濡らす。ぱたぱた、ぱたぱたと落ちる涙をシャーロットは両手で拭って止めようとして、けれど止まらないから、クッションに顔を押し込んだ。
ああ。ふかふかの向こうから、小さな小さな泣き声がする。
「ねぇロッテ」
名を呼んだコノハは微笑んでいたけれど、やっぱり子供が泣くのは、どうにも苦しくてならない。
多分それは、顔に出ていただろう。クッションで見えなくて良かったと、ほんの少し思うと同時――きっとこの子は、どうしようもなく涙が出る時はこうしていたのだと感じ取る。
母親に聞かれないように。
溢れて爆発して、周りに知られないように。
何度も、何度も。何年も。
「よく耐えたネ。もう大丈夫、ここでは思い切り声を上げてイイ。そして生きたいと望むなら、この先ひとつだけ勇気をもってみない?」
ね? 優しい声に、クッションの向こうで啜り泣いていた少女の頭が僅かに動いた。そして、もぞ、と顔を上げれば、くしゃくしゃの泣き顔が少しずつ姿を見せていく。
「ゆう、き……?」
「そ。今上げた声を、パパやママにも届ける勇気。最初は上手くいかないかもしれない。
ケド笑って過ごせる日々は、必ずくるから。だから、勇気を持ってみて。だって子供は幸せじゃなくっちゃ」
この世に生まれて、生きていく小さな命。
子供を取り巻くそこにあたたかなものや幸いが一つもないなんて――。
「どの世界の誰にだって、君を不幸にする権利などナイ。……全部育ててくれたヒトの受け売りだけどネ」
どう? そっと伺えば少女の涙は止まり始めていて。
「……そのひと、強くて、すてきだね」
「うん、私もそう思うよロッテ君。それに、素敵な言葉だ」
「ありがと。今はオレも、そう思う」
子供は、幸せになっていい。
(「――そう、思いたいンだ」)
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アリア・モーント
わたしの素敵な明ちゃん(f00192)と
愛らしいロッテ
思い出せない間はとっても幸せだったかもしれない
でもね
それではいけないわ?
いけないの
知るのも生きるのも
怖くてたまらないわ
でもロッテ
貴女はアリスになった
それって生まれ変わったってことよ
素敵なアリス、シャーロット
ママはこんな海に来たことがあるかしら?
心をときめかせて一つの扉を探す冒険をしたことは?
怖いなら踵を三回鳴らして心に勇気を
ときめきを燃やして歩き出すのよ
明ちゃんとっても上手なのだわ!
上手くする必要なんてないの
怒られるならママとパパが間違ってるわ
だって貴女みたいな素敵な女の子この世に一人しかいないのだもの
だから…たくさん遊んだら帰りましょう?
辰神・明
アリア(f19358)お姉ちゃんと
怖いこと、辛いこと
思い出すのは……とっても苦しいです、よね
でも……全部忘れたままは、悲しいの……なのです
怖いことだらけでも
キラキラとした思い出も、あると思う、から
今までの冒険の日々だって
シャーロットさんだけの、大切な思い出
アリアお姉ちゃんの言葉にならう様に
踵を三回、こんこんこんって
前へ進む為の、素敵なおまじない……です、ね!(わーい!
ここなら……お母さんもお父さんも、居ません
クッションを思い切り投げて
怖い気持ちも、今までの辛さも
みーんな!飛んでけーってしませんか、です?
上手くなくていいの
好きな様に遊びましょう、です!
遊び終わったら、一緒に……扉に行きましょう?
時々ぽこん、と揺れて、右と左へ枝分かれ。そんなクッションの海流に乗ってやって来たのは、シャーロットと年が近い少女二人。
大きなクッションの上に座るシャーロットへ、メイはぺこりと頭を下げて。アリアはスカートの裾を摘んで礼をして。
「こんにち、は。シャーロットさん」
「ねぇロッテ、お邪魔してもいいかしら?」
「あ、どうぞ」
二人の挨拶に感化されてか。す、と片手を動かして「どうぞ」をしたシャーロットが、はっ、として頬を赤くする。わたしのクッションじゃ、ないけれど。付け足された小さな声に、アリアはにっこり笑って「私のクッションでもないのだわ」と声弾ませ、自分とメイに一つずつクッションを確保すると、ふんわり腰を下ろした。
カラフルなクッションで出来た海の上。三人の少女。この世界でなければ、それは年頃の少女たちが始めた秘密のお泊まり会に似て――けれど。
「愛らしいロッテ」
アリアは自分を見つめる少女へと淡い空色の目を細め、微笑みかけた。
この世界に喚ばれて、生きた世界の事を――自分がどこの誰か思い出せない間は、とっても幸せだったかもしれない。恐い母親、風見鶏のような父、帰りたくない家の事。心を苛む全てを忘れていたのだから。
「でもね。それではいけないわ? いけないの」
紡ぐ言葉は夢の世界へ旅立つ前のお楽しみを輝かせるものではなく、シャーロットという命が未来へ迎えるようにと、その為だけに紡がれて。
かすかに呼吸を震わせながらも耳を傾けるシャーロットに、メイはクッションをぎゅ、と抱えて、「シャーロット、さん」と口を開く。
「怖いこと、辛いこと。思い出すのは……とっても苦しいです、よね。でも……全部忘れたままは、悲しいの……なのです」
シャーロットがこれまで歩んできた人生が、いつから怖くて苦しいものになったかはわからないけれど――それでも、キラキラとした思い出もあると。そう思うから。シャーロットが“あちら”で過ごした時間全てが“そう”とは、思いたく、ない。そして。
「今までの冒険の日々だって、シャーロットさんだけの、大切な思い出……ですよ」
この世界で『アリス』だったシャーロットが出会った生き物。愉快な仲間。風景。
狂気と地獄の中でもキラキラと生きる命は、誰も侵せないシャーロットだけのもの。
二人の言葉をじっと聞いていたシャーロットの視線が、そっと落ちる。視線の先にはなかなか消えない皺がついたクッション一つ。そこから、今度はクッションを流し続けている周りの家々を見た。
クッションを流しているのでなければ、ごくごく普通の街並みだ。煉瓦や石造りの、歴史を抱えていそうな――UDCアースやヒーローズアースのヨーロッパを思わす、無人の風景が広がっている。
「……この国で、ね。影絵の人を見たの」
自分の扉を目指して夢中で走っていたから、きちんと見たかというと、そうでもない。彼らは真っ黒で、目や鼻はなく、でも口はぽかりと開いていた。そして影絵だからか、彼らの声を聞いた記憶はなくて。
出会ったのは一瞬だけ。
それも、シャーロット<自分>だけの大切な思い出。
「知るのも生きるのも、怖くてたまらないわ。でもロッテ。貴女はアリスになった。それって生まれ変わったってことよ」
アリアはすっと立ち上がり、両腕を広げる。
ねえ素敵なアリス、シャーロット。
ママはこんな海に来たことがあるかしら?
心をときめかせて一つの扉を探す冒険をしたことは?
クッションの海を舞台に、歌うように言葉紡いだアリアはぱちりとウインクをした。
「怖いなら踵を三回鳴らして心に勇気を。ときめきを燃やして歩き出すのよ」
「かかとを、三回?」
「ええ、そう!」
「アリアお姉ちゃん……こ、こう、です?」
こんこんこんっ。
立ち上がった明が踵を鳴らせば、とっても上手なのだわとはしゃぐ声。
前へ進む為のおまじないは、誰にでも出来る素敵なおまじない。
メイはふんわりと目を輝かせ、その眼差しにシャーロットがそろりそろりと立ち上がる。
「あ、わっ……」
そこがやわらかだったせいか、シャーロットがバランスを崩す。はしっとその体を支えたのはアリアとメイで。大丈夫? 大丈、夫、ありがとう。短い会話の後に、こん――こん、こん。三回、音がした。
「……できた」
嬉しそうな。それでいて、ほっとしたような。
やわらいだ表情にメイも微笑み、傍にあったクッションを持ち上げる。
「ここなら……お母さんもお父さんも、居ません。クッションを思い切り投げて、怖い気持ちも、今までの辛さも『みーんな! 飛んでけー』ってしませんか、です?」
「……クッション、投げちゃうの?」
「名案だわ! どこかの世界では、学生が旅行先で必ずやるイベントだって聞いたのよ?」
アリアも周りをきょろきょろっと見て、わたしはこれ! とメイの隣で満面の笑み。
そして二人は仲良くきょろきょろし始める。一点へと注いだそこにあったクッションを取ると、シャーロットの胸へ、ぽすん。やわらかで、あたたかなそれを届け、笑う。
「シャーロットさん」
「シャーロット」
上手くする必要なんてない。
上手くなくていい。
好きなように遊ぼう? 生きよう?
「怒られるならママとパパが間違ってるわ。だって貴女みたいな素敵な女の子この世に一人しかいないのだもの。だから……まずはたくさん遊びましょう?」
「いっぱい遊び終わったら、一緒に……扉に行きましょう?」
大丈夫。
大丈夫。
一緒にいるから。
ひとりじゃないから。
みんながいるから。
いくつもの言葉が染み込んで、ひびだらけだった心を繋いでいく。
「わた、し……わたし……っ」
かえ、る。
つかえそうになった喉から、溢れる感情を声にして――ぺしんっ。感情が溢れるせいであまり飛べずに終わったクッション投げ一号の後、ぽん、ぽんぽんっと、次々にクッションが飛んだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 集団戦
『虹色雲の獏執事』
|
POW : 「邪魔が入るようですね。番兵さん、出番です」
自身が【自身や眠っているアリスに対する敵意や害意】を感じると、レベル×1体の【虹色雲の番兵羊】が召喚される。虹色雲の番兵羊は自身や眠っているアリスに対する敵意や害意を与えた対象を追跡し、攻撃する。
SPD : 「お疲れでしょう。紅茶とお菓子はいかがですか?」
【リラックス効果と眠気を誘う紅茶やお菓子】を給仕している間、戦場にいるリラックス効果と眠気を誘う紅茶やお菓子を楽しんでいない対象全ての行動速度を5分の1にする。
WIZ : 「外は危険です。こちらにお逃げください」
戦場全体に、【強い眠気と幻覚を引き起こす虹色雲の城】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
イラスト:ロクイチ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●Farewell × Ceremonial
シャーロットや猟兵を乗せたクッションの海流は、たわんで分かれてを繰り返した後、彼らをひとつの終着点へと運んでいく。
そこはアリスだった少女の傷が開かれた場所。
元いた世界へ繋がる、唯一の扉が存在する噴水広場。
――そこは今、クッションの海も目じゃないほどのふわふわもこもこで賑わっていた。
ぱたぱたと上下左右に揺れる、まろやかなラインを描く黒い耳。
喋った時などに、むにむにゅと動く黒い鼻先。
蝶ネクタイをきちんとつけて、忙しい忙しい、大変だ大変だ――と、とたとたぱたぱた動き回る黒獏たちは、そのボディをきらきら輝く虹色のふわふわもこもこで包んでいて。
「わぁ、かわいい……」
その姿、様子に、シャーロットは泣き腫らした目を輝かせる。
途端、黒獏たちが一斉に振り返った。
「あそこにおられるのはアリス様では?」
「なんと喜ばしい! これでパーティを始められる!」
「心をほぐし夢へといざなう紅茶にクッキー、スコーンをご用意致しましょう」
「さあさあアリス様、そのような所ではなくコチラへどうぞ」
「そして旅立ちましょう」
「? ……旅、立つ?」
黒獏たちの言葉に覚えた疑問が、奇妙な引っかかりを発信する。
どうして“旅立つ”なの?
“どこ”へ旅立つっていうの?
“帰る”んじゃあ、ないの?
それは心の中に響いた声の筈なのに、黒獏たちは耳や鼻先の動きをぴたりと止め、静寂を広げ始めた。水を打ったように静まりかえったそこに、いけません、と黒獏の声ひとつ。
「何を仰るのですアリス様。帰る、だなどと」
「あなたは“コチラ側”へ来るのですよ」
「トラウマン様はどうやら失敗したようですが……我ら虹色雲の獏執事。あなた様が立派なオウガになれるよう、尽力致します」
さあコチラへ。
黒獏たちが手を伸ばす。
どうぞ。どうぞ。
怖い事などありません。
我々が共におります。共に生きます。
さあ。さあ。
噴水広場にオウガたちの声が木霊する。重なった声は脳に直接響くようで――けれど。
「いや」
その一言が、オウガたちを黙らせた。
「……ずっと何もできなかったわたしが、帰って何ができるかわからない……」
両親に言いたい事を言えるかどうか。
伝わるのか。わかってもらえるのか。変化は起きるのか。
何もかもが、わからない。
けれど、やりたい事がある。やってみたい事がある。
買ったきりクローゼットにしまったままのショートパンツには、何を合わせたらいいだろう。カーチェイスと肉弾戦が凄いって噂のアクション映画は、DVDは出ているの? 動画配信は? 素敵な言葉を贈ってくれた子には――嬉しかったって、まずは伝えたい。
「お泊まり会も、してみたいし、電話で夜遅くまでお喋りだって、したいの……だから、オウガにならない……この世界に、残らない……!」
そこの扉を通って、わたしは、家に帰るの!
静まりかえった広場に響いた声は震えていたけれど、ほんの少し潤んだ瞳は、扉の前を塞ぐ黒獏の群れに注いだまま。目の前を見つめる勇気を得た少女は両手をぎゅっと握り締めて――猟兵たちの顔を、そうっと見る。
「あ、あの……あなたたちの力を、また、借りてもいい……?」
立ち上がる事を覚えたばかりの少女がこぼしたSOS。
真っ先にNOを示したのは黒獏たちで。それから――。
辰神・明
アリア(f19358)お姉ちゃんと
シャーロットさんが、決めたんです
怖くても、それでも……勇気を出して、決めたこと
それを邪魔しちゃ、めーっ!なのです、です!
は、はい!
メイ達は、シャーロットさんの友達、なのですよ
だから……ヒツジさん、じゃなくて
バクさんから、アリアさんとシャーロットさんを、守るの……!
【ひとりじゃないよ】を使います、です
シャーロットさんに、安心を
アリアお姉ちゃんが……思うまま、歌えるように
メイとぬいぐるみさんで、いっぱい【かばう】の、頑張る……です!
後を、頼むって
アリアお姉ちゃんの信頼、メイはこたえたい……!
ぬいぐるみさんも一緒、です
だから……シャーロットさん、一緒に帰りましょう?
アリア・モーント
可憐でかわいい明ちゃん(f00192)と!
ええ、もちろんよ、シャーロット
可愛いアリス、わたしの同胞!
貴女の力になるのだわ!
ごきげんよう獏さん?
素敵な紅茶に素敵なお菓子
貴方はとっても素敵だけれど
ロッテはわたしたちのお友達なのよ
世界の理はわたしのもの
【歌唱】による風【属性攻撃】の刃を【先制攻撃】として放ったら【ダッシュ】して接近
…明ちゃん、あとは頼むのだわ?
【忘我狂殺曲「Tuberose」】
ふ、ふふ…あはは!!
さあ、たくさん遊んでくださいな?
風と水の刃の魔法にわたしの刃で【傷口をえぐる】ように
のろまな獏さんが、歌姫に触れると思わないでくださる?
ねぇ、ロッテ
帰りましょう。わたしたちと、一緒に
「アリス様は混乱しておいでだ」
「猟兵から引き離せ」
「取り戻すのだ」
「帰してはならない」
きらきらとした虹色や可愛らしい外見を台無しにする台詞は、奇妙なほどに真っ直ぐな使命感を漂わせあちこちから湧いた。
わらわら向かってくる獏執事の波にシャーロットの足が後退る。それでも口をぎゅっと結んで一歩踏み出そうとした少女の背に、あたたかな手が触れた。
「ええ、もちろんよ、シャーロット。可愛いアリス、わたしの同胞!」
わたしたちが貴女の力になるのだわ! アリアが舞台の幕開けを告げ、メイもシャーロットの前に立つと獏執事の波をむぅっと睨む。
沢山の怖いものに囲まれ生きてきたシャーロット。立ち上がる事は出来ても、怖いものは怖いままだろう。それでも勇気を出して“帰る”と決めた意志を、行動を、あの獏執事たちは全く見ようとしない。
「シャーロットさんが、決めたんです。それを邪魔しちゃ、“めーっ!”なのです、です!」
「そういう事なのよ。そしてごきげんよう獏さん? 素敵な紅茶に素敵なお菓子。とっても素敵だけれど、受け取れないわ。だってロッテはわたしたちのお友達なのよ」
「は、はい! メイ達は、シャーロットさんの友達、なのですよ」
だから戦う。少女が手にした“帰る”という願いを、叶える為。
アリアが駆ければ可憐に重なる紫陽花色の裾がふわりと広がって、紅の髪もくるくる踊る。唇から紡ぐ歌で力を招き、いつも以上の切れ味を得た刃で擦れ違いざまに虹色をひとつ斬り裂き、振り返った。
「……明ちゃん、あとは頼むのだわ?」
大丈夫。任せられる。あの子は優しい強さも持った、可憐で可愛い子。
アリアからの信頼にメイは一切迷わず頷いた。
「アリアお姉ちゃん、いっぱい歌ってください、です!」
何をするかわかったから『後を頼む』という言葉の重さを――アリアからの信頼を、メイはしっかり受け止める。それにアリアは笑顔を浮かべ、更に歌声を響かせた。
「ふ、ふふ……あはは!!」
アリアを中心に風が吹き、水が踊る。燕のように鮮やかに駆けるたび、虹色がぽん、ぽぽんっと弾けた。獏執事と共に虹雲が消える風景はまるでゲームの一場面。アリアが踊った後は、虹が途切れてぽかりと道が生まれていく。
「さあ、たくさん遊んでくださいな?」
「すごい……!」
無意識に零したシャーロットは、いつの間にかメイ以外の誰かにも囲まれているのに気付き――え、ぬいぐるみ? と目を丸くした。犬、猫、熊、兎、他にもいっぱい。周りを固める彼らはメイの大事なお友だち。
優しい心を持ったぬいぐるみの一つ、ライオンがアリアを背後から襲撃しようとした獏執事をその厚いボディでぼすんっと弾き飛ばせば、虹色は「あーれー」と飛んでいき、くるり宙を舞ったアリアが斬り裂いて抉って――澄んだ青色が、ゆるり細められる。
「のろまな獏さんが、歌姫に触れると思わないでくださる?」
「おやおや! ではコチラはいかがでしょう?」
――ふわ。ふわふわ。ふわわわわっ。
びっくりおもちゃのように膨らんだ虹色雲がどんどん大きくなって溢れて、気付けば柔らかな夢色通路の上。絶望の国なんて、どこにも無い。
「え、う、嘘っ……! ここどこ? 私の扉は……!」
「そんなものはいいのですアリス様」
「どうぞごゆっくりお休み下さいアリス様」
その間に全て片付けて、と続ようとした姿は、大きなカバぐるみがシャーロットの視界から隠し、言葉そのものはアリアが魔法と刃のセットでお終いに。
その中に迷宮の想像主もいたのだろう。虹色雲がぽふぽふと消え、崩れ始めた。その向こうから見えた国の風景に笑顔を取り戻したシャーロットへ、手が、差し出される。
「ねぇ、ロッテ。帰りましょう」
「ぬいぐるみさんも一緒、です。だから……」
「うん。必ず、帰るから!」
始まったばかりの帰り路を阻むものがあろうとも、決して途絶えさせはしない。
声は心と共に弾み、次へと繋がっていく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ミリア・ペイン
力を貸せ、ぐらい言ってくれた方が面白かったのだけど…冗談よ
さ、そうと決まれば長居は無用ね
…突っ切るわよ"シャーロット"さん
【WIZ】《黒き怨恨の炎》
アリスを庇い【第六感】で迷路の出口を感知、敵の奇襲に警戒
炎は分裂させ自分達の周囲に配置【オーラ防御】
自身は【狂気耐性】で守りアリスが惑ったら頬を抓って【挑発】で喝を
『コラ、貴女の覚悟はそんなものだったの?
接敵時は【先制攻撃】で問答無用で爆撃
…お前達の望むアリスはもう何処にもいない
彼女はこれから家に帰るの、邪魔しないで頂戴
広場で啖呵を切った時…格好よかったわ
大丈夫、貴女はもう"自分"を持ってるもの
弱い貴女はもう死んだの、此処から新しい物語を始めるのよ
コノハ・ライゼ
ダメな訳、ナイじゃない?
その勇気、チップには十分過ぎるもの
大盤振る舞い期待してちょーだいな
ロッテに怪我させる様子はナイようだけど
近付くのも邪魔して『かばう』ヨ
だってヤな奴と会話すんのは疲れるデショ
漠が迷路を作ったら【黒喰】喚んで影狐に食べさせちゃいマショ
逃げない相手(迷路)はつまんないケド
喰らい甲斐だけはありそうだもの、残さず食べちゃって
その隙に漠達へ「氷泪」から『範囲攻撃』で紫電奔らせ『2回攻撃』へ繋げるわ
お得意の『傷口をえぐる』『生命力吸収』は目立たないようこっそりと
可愛い子に見せたくないもの
ねぇロッテ、もう一度言わせて
あの人をすてきと言ってくれた事
勇気を見せてくれた事
アリガトね
脆くなって崩れゆく虹雲の下には何もなかった。虹雲の城に思ったより高く持ち上げられていた――それを理解したシャーロットの体が宙に浮き、傾く。
「あ、」
零れた声が悲鳴になるより早く、下から伸ばされた手がシャーロットを守る。受け止められ、手を添えられて。来ると思った痛みは決して訪れない。
「大丈夫よ。目を開けなさい」
「そうそう。帰るんデショ?」
静かな声と優しい声。恐る恐る開いた先には、じ、と注がれる赤色の無表情と悪戯っぽく笑う薄氷色。
目を開いたシャーロットの顔はミリアとコノハを見て明るさを取り戻し、ブラウンの目も飴色のように煌めいた。その目が獏執事の向こうに覗いた『自分の扉』を見て――お願い、と届いたのは小さな声。
「あの……あそこまで、連れてって、ほしくて……」
「イイよ。っていうかネ、ダメな訳、ナイじゃない? その勇気、チップには十分過ぎるもの」
遠慮なんてしないの。からり笑ったコノハの言葉に、シャーロットも無表情だが同意見。
「力を貸せ、ぐらい言ってくれた方が面白かったのだけど……」
「え」
――冗談よ。ミリアは静かに返し、目を丸くしていたシャーロットに手を差し出す。
「さ、そうと決まれば長居は無用ね」
「執事っていう割りにはヤな奴ばかりだしネ。ロッテ、大盤振る舞い期待してちょーだいな」
獏執事の群れを見て笑うコノハの双眸には不思議な煌めきが踊って――アリス様アリス様と、波の音のように打ち寄せてくる声と虹色を打ち消すように、シャーロットの手がミリアの手に重ねられる。
「……突っ切るわよ"シャーロット"さん」
「うん!!」
駆け出した“アリス”を取り戻そうと獏執事たちがわあっと殺到した。コノハはそれらを刃で払い、すらりとした足で蹴り飛ばし――アラごめんあそばせ、なんて言って舌を出す。
「むむ、止まらないというのですね……! ならば!」
「ここは! 二人がかりで!」
群れの中からぴょこんっと飛び出し、他の獏執事の頭を足場にジャンプした二体が空中で身をぐぐっと縮こまらせ――ばっと開いた瞬間、分厚い虹雲が周囲を覆って城と化した。
「張り切って建てちゃってまァ。……おいで。逃げない相手でつまんないだろうケド、喰らい甲斐だけはありそうヨ」
コノハに喚ばれた影狐が大きく口を開ける。むしゃむしゃ、ばくり。時々光と共に弾ける音をさせながら虹雲の壁や通路を――そうでない虹雲も食べてしまったような。けれど眠気を何とかしようと目を擦るシャーロットには、幸い見られていない。
「……こっちね」
ミリアは影狐が喰らって開けた壁の穴から顔を出し、辺りを“探って”感じた方へとシャーロットを引っぱっていく。その周りでは無数の魂が炎となって浮いていて、アリス様っ! と飛び出した一体を早速骸の海へとご案内。
「んん、何……わっ」
魂の一つと目が合ったシャーロットはギョッと目を覚まし――また、うとうと。
「ごめん、なさ……わたしも、たたか、え、た……ら」
あれぇ、ベッドがある。手を繋いだままのミリアを引っぱろうとする先には、ウェルカムと両腕を広げる獏執事が一体。任せてとそちらへ向かったコノハに頷き、ミリアはロッテ、と白い頬を指先で抓った。
「い、いひゃい」
「コラ、貴女の覚悟はそんなものだったの?」
「う、ううん、ううん。絶対に帰る」
「それでいいわ。……聞いたでしょう」
角の向こうに潜んでいた獏執事が何か言う前に炎が彼らを喰らっていった。あぁぁ、と、どんどんか細くなっていく悲鳴を赤い眼差しが冷たく見下ろす。
「お前達の望むアリスはもう何処にもいない。彼女はこれから家に帰るの、邪魔しないで頂戴」
そ。やっと立ち上がれた女の子の邪魔したらダメでしょ。
コノハの囁きは氷牙零す視線を浴びた獏執事だけが聞いていて。特別サービスと少しばかり深く“頂いて”から戻れば、影狐の食事もだいぶ進んだ為か、シャーロットはしっかりと目を開けていた。
「ねぇロッテ、もう一度言わせて」
「?」
「あの人をすてきと言ってくれた事。それから、勇気を見せてくれた事」
アリガトね。
やわらかな言葉に頬を染めた少女は、どこにでもいるごく普通の子供で。けれど広場で啖呵を切った時の姿は――そう。格好よかった。ほんと、と目を瞬かせたシャーロットにミリアはほんとよと表情を変えず言って、崩れゆく城の中、少女の手を引いて行く。
「大丈夫、貴女はもう"自分"を持ってるもの。弱い貴女はもう死んだの、此処から新しい物語を始めるのよ」
そして始まった物語はもう、誰にも止められない。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
エンジ・カラカ
アァ……言えたネ。言えた。
うんうん、帰ろう帰ろう。
賢い君、賢い君、帰りたいって。
手伝う?手伝おうそうしよう。
お茶?コレは甘い物は嫌い嫌い。
薬指の傷を噛み切って、君に食事を与える。
お茶やクッキーよりも甘くて美味しいこの食事
君も大好物なンだ。
まとめて来てもイイヨー。
おびき寄せである程度まとめて、戦いやすいようにしよう。
先制攻撃とそれから属性攻撃。
属性攻撃は君の毒。コッチも甘くて美味しいヨ。
たーっくさんいても怖くない怖くない
鬼サン、コチラ
オオカミの足はとーっても早い。
毒もじわじわ効き始めた?
帰りたいって言ってるカラ、コレは手伝うだけサ
帰ったら何する?何する?
たーのしいコトが待ってるとイイネ
崩れながら消えていく虹雲の城から、シャーロットは猟兵の手を借り飛び降りた。着地してすぐ顔を上げれば、自分を“持て成そう”とする獏執事たちが虹色ボディをきらきらふわふわさせながら、ぴょんぴょんとことこ――。
「アリス様」
「アリス様」
向こうはどうしたって変わらない。
けれど自分だってそうだ。変わった事で、変わらないものを得た。
「アリスって呼ばないで! 私の名前はシャーロット! あなたたちを超えて、家に帰るんだから!!」
「アァ……言えたネ。言えた。うんうん、帰ろう帰ろう」
上から降ってきた声にシャーロットは思わず空を見る。わ、と丸くなった目と口に、楽しげに「ハロゥ」とひらり手を振って笑うのは月の色。
「最初のもだけど、今のもヨカッタ。そうだよねェ、賢い君、賢い君」
エンジは左手薬指へと唇を寄せて、眼下で「上だ」「気を付けろ」「アリス様の確保を」と賑やかな虹色に目を細める。賢い君、賢い君、帰りたいって言ってるけどふわふわした虹色がいっぱいだ。“手伝う”? 手伝おうそうしよう。
秘密で楽しいお喋りを終えるやいなや薬指に歯を立てる。噛み切った所から溢れた鮮血が、お茶やクッキーよりも甘くて美味しい『君』への御馳走、大好物。
ひらり。風に揺れるスカートのようなラインを描いて踊った『賢い君』を、すとんっと着地したエンジは満足げに見遣り前を見る。ふわふわの虹色がイチ、ニイ――。
「我々からアリス様を奪う不届き者め! 番兵さん、番兵さーん!」
もっとふわふわの虹色羊が、っぽん! ぽぽぽ、ぽんっ!! と現れた。エンジはぱちり瞬きしてからニコリと笑顔。増えたって関係ナイナイ。
「まとめて来てもイイヨー」
突っ込んできた一体の上をひょいと飛び越え、薬指と繋がる君をふんわり踊らせ――にやり。
コッチも甘くて美味しいヨ。メェメェ鳴く羊も獏執事も撫でるように見つめ、黒い狼は笑顔で駆け回る。気遣う少女の視線に怖くない怖くないと手を振り、真っ赤に煌めく『君』と一緒に――。
「鬼サン、コチラ。……アァ、美味しい?」
くう。うう。呻いて足を止め、こてんと転がり始めた執事と羊たち。その上をひょーいと軽やかに飛び越え着地と同時、ぽふん、と倒れた姿が消えた。
「あ、ありがとう」
「コレは手伝っただけサ。ねェねェ、帰ったら何する? 何する?」
沢山やりたい事を言っていた気がする。色々予定があるなんて楽しそうだ。指折り数える少女にエンジはにこりと笑って、薬指をこそりと動かす。近寄っていた一体が、ぷつん、ぽふん。
「どうしたの?」
「何でもナイ。たーのしいコトが待ってるとイイネ」
大成功
🔵🔵🔵
アビ・ローリイット
そっか。もう選んだんだ
つえーね
そっちの君らはクビだって。左団扇の隠居生活うらやま……
おっ増えた
えっまだ増える?
わくわく見守るも敵意害意がお留守じゃ増えない系?
じゃあしゃあない。(物理的に)増やそう
いっぱい集まるとでっかくなったり。執事ならそういうサービスしてくれねーわけ
『ダッシュ』『フェイント』で掻き回しつつ
薙ぐ『ハルバード』でまとめて跳ね上げたり『グラップル』でぽいぽいお手玉。作業風景は溝浚い? 目回した羊てーいと投げ一所に集め
枕投げ。面白そうだったんだよなあ
ハルバードでお疲れ様でした【グラウンドクラッシャー】
君はこれから色んなたのしいを新鮮な気持ちで知れるんだもんな
楽しみなよ、シャーロット
扉。私の扉は。
背伸びやジャンプをして場所を確認し、「よし」と唇を結んだシャーロットの前を、ざあっと白と黒を持った大きな影が、石畳を力強く蹴って駆けていく。
「そっか。もう選んだんだ」
つえーね。
は、と息を吐いて告げた言葉は届いていて。ありがとう! と元気な声にアビは面白そうに笑い、そっちの、と、わらわら向かってくる獏執事たちを指す。勢いあまって突っ込んできた一体は、ふわふわボディを掴んで取り敢えず遠くへ放り投げた。
「君らはクビだって。左団扇の隠居生活うらやま……」
「何ですと! 我らはアリス様が立派なオウガになられた後もお世話をするのだ!」
「その為にも猟兵は全て葬り去らねば……ああ忙しい忙しい」
「へー、大変じゃん。で、どうやんの」
足を止め、ハルバードの先端で石畳をごつりと突いて問いかけてきたアビはうっすらと笑む。獏執事たちの眉間に、むむっと小さな皺が刻まれた。
「親しげにしながらも、そちら様も我々からアリス様を……」
「番兵さん、出番ですよ! さあっ、さあっ!」
ぽん、ぽぽんと煙が弾けたそこにキリリ顔の虹色雲羊がメェメェメェ。獏執事の群れと合わせればなかなかの数で、賑やかになった虹色の海に「おっ、増えた」と呟いたアビの犬耳がぱたり。尻尾もふさりと上がって、琥珀色がほのかに輝く。
えっまだ増え――ない。
じわじわ近付いてくる獏執事と、メェメェ鳴きながら石畳をかしかし蹴る羊たちをわくわく見守っていたアビの眉が「なんだ」と、心なしか下がった。
「敵意害意がお留守じゃ増えない系か。じゃあしゃあない」
(物理的に)増やそう。
「今なん――ああぁぁ!?」
「メエェェ~~」
目の前へ飛び込んだアビがハルバードで薙いだ瞬間、獏執事と番兵羊が数体、一気に宙を舞った。それはスコップを突っ込んでの溝浚いのようであり、耕される畑のようでもあり。
やった当人は飛んでる飛んでると上を見て、突進してきた別の羊を横に飛び退いて躱すついでに、退いた先にいた羊たちをハルバードや大きな手で持ち上げ、ぽいぽいメェメェとオウガお手玉に興じ始める。
「あ、そーだ。枕投げ。面白そうだったんだよなあ」
枕ではないが十分立派なふかふか――すっかり目を回した羊も獏執事も、てーいと投げればナイスコントロール。一箇所にこんもりと虹色のお山が出来上がって。どうするの? と見ていたシャーロットへ、こーすんの、とニヤリ笑って跳躍する。
「お疲れ様でした」
張り切って集まって、けれど少女には指一本触れられずに終わるのだから。
思いきり叩き付けた一撃が石畳を破壊し、そこにいた者たちを等しく骸の海へと送っていく。
周りをスッキリさせたアビはゆるりと振り返って、小さく笑った。
「君はこれから色んなたのしいを新鮮な気持ちで知れるんだもんな。楽しみなよ、シャーロット」
「……! うん!!」
我慢していた事。知らなかった事。その全てが扉の向こうで待っている。
それはきっと。祝福のような、何か。
大成功
🔵🔵🔵
彼岸花・司狼
己の家への帰還を願い
生を望むなら否はなし
ならば無事に帰すだけだ
生きるとは望むこと
より良い未来を視、ソコへ辿り着けるよう
この先も良き生を目指すことを願う。
UC:死せる蝶の幻想で攻撃する範囲を拡げながら、【目立たない】ようにUC:強制忘却特性を被せる。
十分な数を狙えるまでバレないように息を潜ませ、遅くなった程度で避けれない程度に狙った相手を囲み切れたら攻撃開始。
先ずは蝶に先行させ、出来た【傷口をえぐる】ように自身の【2回攻撃】で始末する。
執事もわざわざ出てこなれば良いものを
…手に負えん化物でも有るまいし、見つけたら逃すわけがないだろう。
求む答え等、決まり切ってる。貴様らは黙って首を差し出せば良い。
フリル・インレアン
はい、シャーロットさん、その通りです。
お邪魔な獏さん達は私達に任せてください。
ガジェットショータイムです。
楽しそうなお茶会ですけど、水を差させていただきます。
本日は大雨ですので、お茶会は中止です。
あと、ところにより大飴が降るのでご注意ください。
“こわい”と恐れていた自分の家への帰還を願い、“生きたい”とシャーロットが望むのなら、司狼はそれに“否”と唱えはしない。シャーロットの意志と願いを聞いた今は、ただ、あの少女を無事に帰すだけ。
(「生きるとは望むことだ。ならば」)
シャーロットがより良い未来を視、ソコへ辿り着けるよう。
この先も、良き生を目指すことを願う。
故に――。
紅茶の甘い薫り。香ばしいバターはきっと、パウンドケーキとマドレーヌから。チョコレートの気配は指先サイズのブロック形やクッキーからだろう。
石畳の上、トコトコ動き回る獏執事たちはせっせせっせとお茶会の準備を始めていた。
「さあアリス様、コチラへ。我々が用意した最高の紅茶とお菓子で、心身共におくつろぎくださいませ」
「そうすれば猟兵なんぞの言葉に耳を貸す事もありますまい」
「しかし、今回のアリス様は我々を困らせるのがお上手でらっしゃる」
「全くです。手が掛かる分、きっと素晴らしいオウガになられる事でしょう」
「そんなのにならない、絶対、ならないから……!!」
ハッキリとNOを示したシャーロットは、自分そっちのけで進んでいくお茶会準備に戸惑いを浮かべていた。全く攻撃されないのはいいけれど、何だか体がどんどん重くなっている気がする。拳を作るだけなのに、神経や骨が動く事を忘れてしまったかのように、のろのろとしか動けない。
「何で? 帰るって……色んなこと、やるんだって決めたのに……!」
その様子に、獏執事たちはお茶会準備の裏でニヤリと悪い顔。
お茶会を拒めば体は競争中の亀よりも遅く。舌鼓を打てば夢の世界へさあ出発。アリスも猟兵も平等に呑み込むこのユーベルコードは、あの“アリス”を取り戻すのに相応し――。
「死ぬ覚悟は出来たか?」
ふいに訪れたのは、場の温度が一気に下がったような感覚だった。
「妙な事を訊かないでいただきたい」
「そちらこそ」
「……? ??」
獏執事たちは耳をぴんっと立て、何です今のと周りを見てから互いに顔を見合わせ不思議顔。ハテナを大量に浮かべ――そんな事よりお茶会ですよと再びはりきり始めた。
お菓子は沢山あった方がいい。紅茶も色々揃えましょう。
なんたって今日は特別な日。アリスがオウガになる記念日。
記念日には素敵なお茶会を。綺麗なテーブル、ティーカップ。夢見るほどに美味しい紅茶にお菓子を用意して。ああ、“蝶もゆっくり飛んでいる”。
「忙しい忙しい」
「しかしそれを吹き飛ばすほどに楽しい」
「いかにも!」
「やめて、やめて、私は全然楽しくない! だってここは、私の世界じゃないもの!」
「はい、シャーロットさん、その通りです。お邪魔な獏さん達は私達に任せてください」
首を振るにも一苦労のシャーロットに届いた、自分以外の少女の声。目線だけをそちらへ向ければ、きゅっと唇を結んだフリルがいて。あ、と表情を明るくしたシャーロットに、フリルはまあるい瞳を震わせながらもしっかり頷き返した。
二人とは逆にてきぱき動ける獏執事たちは余裕の空気だ。口の先をモニュモニュ動かしてフフンと笑う。
「邪魔と仰る? 我々はただアリス様を心から持て成したいだけだというのに」
宜しければ貴方もどうぞ、と獏執事たちは紅茶やお菓子をこれ見よがしに用意していく。フリルが何をどう選ぼうとこちらが有利――そう信じ切っている。だったら。
「楽しそうなお茶会ですけど、水を差させていただきます」
お茶会準備中の上空に突如音を立てて現れたのは空飛ぶスプリンクラー。
獏執事たちが動きを止め、は、と口を開けて。そこから飛び出すのはきっとブーイング。けれどフリルはそれを待たず、本日は大雨ですので、と、少しばかり震えのある声を響かせた。
「お茶会は中止です。あと、ところにより大飴が降るのでご注意ください」
言い終えた瞬間、ぷしゅっ! と音が弾けて水が――いや。雨と、飴が降る。
滴と固形、二つの“おおあめ”は獏執事も準備中だったお茶会も容赦なく叩き、虹色オウガたちは蝶舞う中でパニックを起こし――……。
“どうしてあの蝶は、あめに打たれない?”
“どうしてあの蝶は、飛ぶのがゆっくりなんだ?”
“どうしてあの蝶に――囲まれている?”
認識した時には、司狼の仕掛けた包囲網は完成していた。己と共に極限まで場にとけこませた蝶はフリルの戦闘相手ではない。“あめ”に打たれぬ蝶の群れは影からの使者。鱗粉が意識を沈め、水晶翅が裂いたばかりのそこを司狼自ら仕留めて行く。
トラウマンが討たれた後、わざわざ出てこなければこうはなるまいに。
己にとって手に負えぬ化け物でない以上、戦場で見つけた敵を逃す理由はない。
それに。
「俺が求む答え等、決まり切ってる。貴様らは黙って首を差し出せば良い」
なぜなら、あの少女は“必要なもの”を手に入れている。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
カイム・クローバー
ハハッ!良い啖呵だぜ、シャーロット。――聞こえたかい?獏共。アリス様は元の世界で戦う道を選んだ。パーティは始まる前からお開きって訳さ。
二丁銃を構えて銃撃。獏のUCは敵意を与えた対象を攻撃するらしい。敵意だけじゃ物足りねぇ。【挑発】も加えて多数の番兵羊の視線を独り占めするぜ。
邪魔者は排除の対象か?気が合うね。俺も仕事の邪魔になる奴はぶちのめす事にしているんだ。
紫雷の【属性攻撃】、【クイックドロウ】を加えてUC。【早業】でマガジンをリロード。【二回攻撃】で今度は【範囲攻撃】をセットにもう一回UC。
『これから』彼女の未来は開けるのさ。オウガ?ハッ、笑わせるならもう少しギャグのセンスを磨くんだな。
盛大に催される予定だったお茶会がこれまた盛大にキャンセルされた瞬間、シャーロットの体は一気に軽くなる。
「――みんなが背中を押してくれた時みたい」
脳裏に過ぎったのは、クッションの海で刻まれた出逢いの全て。そこから今へと辿り着いた少女の目が、“わらわら”と表現するには数を減らしに減らされた獏執事の“向こう”に注がれる。
「あなたたちのもてなしなんて、全部いらない。私がやりたいことじゃないもの!」
「何をおっしゃ――ぷきゅっ」
「ハハッ! 良い啖呵だぜ、シャーロット!」
「あっ……!」
家出のお兄さん!
着地場所にした一体の頭からカイムは跳び、そこか、と笑ってシャーロットの傍へ着地する。カイムだ、と名乗った時は気さくな隣人を思わす雰囲気で。
「――聞いただろう? 獏共」
獏執事たちへと音もなく向けた二丁銃。
浮かべる表情は敵に対するそれ。
「アリス様は元の世界で戦う道を選んだ。パーティは始まる前からお開きって訳さ」
言葉と表情、纏う空気。溢れる挑発は、パーティを開こうとした傍から他の猟兵が破壊していったように自分もそうする、と獏執事たちに宣告していて。それは敵の意識に十分過ぎるくらい火を点けた。
「でしたら今一度、絶望して頂ければ良いだけの事! 素晴らしいお茶会の前に、猟兵血祭りフェスティバルと行きましょう……!」
邪魔者ですよ、番兵さん――!
目をきゅっとつり上げた獏執事に喚ばれ次々に降り立った番兵羊が、愛らしく鳴きながらもカイムを葬らんと群れを成して駆けてゆく。しかし、来る、と心の方も構えていたカイムから余裕の笑みは消えず、駆けながら標的を捉え、銃声と共に無数の紫雷を叩き込んだ。
その鋭さは羊たちに悲鳴を上げる間すら与えない。
喚ばれたばかりの番兵は群れごと消え、後に残ったのは喚んだ張本人のみ。カイムの手は紫雷の音がまだ残る刹那の間にリロードを済ませ、弾丸の雨を重ねて降らす。
噴水広場に轟くのは銃声と悲鳴。そして。
「『これから』彼女の未来は開けるのさ。オウガだ? ハッ、笑わせるならもう少しギャグのセンスを磨くんだな」
そんなギャグじゃあ、パーティを開いたって場がしらけるだけだ。
――ああ。
もう聞こえちゃいねえか。
大成功
🔵🔵🔵
エドガー・ブライトマン
フフ、やだなあロッテ君
力を貸さないワケないじゃないか!
私はきっとキミの力になるよ。最後まで!
今のキミなら言いたいことも言える
やりたいことも出来る
なりたい自分になれるさ!
それをジャマするものは私が払ってあげる
――と、言いつつ出された紅茶やお菓子は頂くよ
食べなきゃ不利になってしまうだろう?だから仕方なく
ウンウン、本当……へえ~コレ美味しいね
私が寝そうになったら、きっとオスカーが頭を突いて正気に戻してくれる
毎朝やってもらっているように
そんな様子を見せたらバク君らも隙を見せてくれるだろう
その瞬間を逃さず、“Jの勇躍”
お茶会タイムはそこまでさ!
最後はロッテ君の背中を見届けたい
キミはなりたい自分になってね
「すごい、あんなにいっぱいいたのに……!」
『扉』の前を通せんぼしていた虹色はすっかりスカスカ――を通り越していた。
今なら。しっかり前を見て駆け出したシャーロットの隣に、きらきらと明るいひかりが飛び込んでくる。
「やあ、ロッテ君」
「王子様!」
ぱっと笑顔を浮かべたシャーロットに、エドガーは右手を胸元に添えて会釈し、さあ行こう、と右手を差し出した。左側は赤き淑女が独占――もとい、“彼女”専用なものでね。
照れくさそうに頬を染めたシャーロットが、ありがとうと明るい声で手を重ね、囁いた。なんだか、まだ信じられない。それは今の状況を自分自身に確認するような声だった。
「だってまだこわいのに、“帰る”って気持ちが全然減らないの」
きっと、たくさんの力を貸してもらえたから。
ありがとうと笑って前を見る少女に、エドガーはきらりとお星様が生まれそうな、明るく爽快なウインクをぱちりっ。シャーロットの手を取り、むむむむ、と耳をぴこぴこ揺らす獏執事が立ちはだかる扉を目指し、歩き出す。
「フフ、やだなあロッテ君。力を貸さないワケないじゃないか! 私はきっとキミの力になるよ。最後まで!」
「最後まで?」
「そう! ロッテ君、今のキミなら言いたいことも言える。やりたいことも出来る。なりたい自分にもなれるさ!」
決意阻もうとする存在を前に響かせた言葉。眠くなっても体が鈍くなっても、“帰る”と前を目指した心と足。願いもSOSも露わに出来た――自由を得た今のシャーロットなら、どんな自分にもなれる。
「それをジャマするものは私が払ってあげる」
たとえそれが、とびきり美味しそうな紅茶やお菓子を振る舞ってこようとも!
「……食べて大丈夫?」
「不利になってしまうようだからね。仕方なくだよ、仕方なく」
エドガーはシャーロットに“口をつけてはいけないよ”とこっそり伝え、どうぞどうぞと振る舞われるままに受け取り、頂くよと微笑んだ。紅茶の薫りはやわらかに鼻孔を抜け、ビスケットはシンプルな味わいだけれど、そこが紅茶との相性抜群で。
「へえ~コレ美味しいね……」
舌鼓を打ちながらこっくりと船も漕ぎそうになれば、ティーポットの蓋で翼を休めていたオスカーがひらりっ。小さなくちばしが頭をつつき、獏執事が耳をぱたぱたさせて笑う。
「おやおや、お連れの燕様はなかなか容赦がないようで」
「毎朝こうしてもらっているのさ。オスカーは私を起こすのが得意なんだよ」
毎朝? 目を丸くしたシャーロットとオスカーが見つめ合う。
その様子に獏執事がニコニコしながらこちらのお菓子も如何でしょう、とプチケーキ並ぶ銀の盆を持ち上げて――ばさりっ。
「悪いけれど、お茶会タイムはここまでさ!」
翻ったマントの音が、一瞬で奔った白銀の軌跡が、幕引きを告げる。
銀の盆が宙を舞い――ぱぁんッ。ふつりと千切れて弾け飛ぶ綿のように、最後のオウガは用意した紅茶やビスケットと共に綺麗さっぱりかき消えた。ほんの一拍遅れて目の前を漂った虹色を、エドガーはふうっと一吹き。
ひゅるり舞った虹色もぱちんと消えて無くなれば、噴水の前にはシャーロットの『扉』が静かに佇むだけ。
●Happy × Birth
扉へと向かうシャーロットの足取りは静かだった。
ドアノブに伸ばされた手は僅かに震えていたけれど、掴み方はがっしりと力強く。
掴んですぐ、ガチャリと音がして。
「……あのね!」
振り返ったその頬は林檎のように赤く、踊るブルネットの下、瞳は熱に加えてうっすら滴を帯びてきらきらと。それから、くしゃりとした笑顔を浮かべて。
「ありがとう」
――ぱたん。
アリスラビリンスとシャーロットの物語は、ここでお終い。
続きは世界の向こう。
シャーロットの手で、綴られる。
大成功
🔵🔵🔵