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鳥籠に花降りやまぬ

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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●鳥籠に花降りやまぬ
 少女は思う。

 かみさまは本当に居るって信じてた。
 だから父に殴られ続けていた時、かみさまが助けてくださったの。

 少年は思う。

 かみさまは居たんだ。
 母さんは泣きながら僕を売ったけど、それは僕が幸せになる為だから、母さんを憎まない。

「君は新しい家に迎えられるからね、それまでは此処で暮らしましょう」
「大丈夫、あなたはとても綺麗だから、すぐに新しい家族ができるわ」
「それまでは、此処でみんなと過ごすんだよ」

 あたたかい食事、ふかふかのベッド。綺麗な服に優しい人々。
 ――ああ、かみさま、ぼく達は幸せになれるんですね。

●その鳥籠を壊すのは
「ダークセイヴァーで事件だよ」
 グリモアベースに集まった猟兵達を迎えた揺歌語・なびき(春怨・f02050)。転送先となる闇の世界が背後に広がるのをちらりと見たあと、事件の内容を語り始めた。
「とある街の大きな教会で、子供が集められてる。飢饉でやむなく売られたり、虐待を受けて家出したとか、理由は様々なんだけど。共通してるのは、全員がとても綺麗な顔立ちをしてるってこと」
 穏やかな口調で話を続けるが、なびきの表情はかたい。
「教会では、彼らを子供が居ない貴族階級の家庭に斡旋してる。そういう家庭から紹介料として受け取った高額なお金を、教会で子供達を保護する資金に充ててるんだ」
 要するに人身売買だ。それだけならまだ、子供達は新しい家で幸せに暮らしていると思えるかもしれない。
「必ず子供達全員が新しい家庭に迎えてもらえる訳じゃない、むしろ僅かな人数だけだ。……オブリビオンが、子供達を殺してる」
 犠牲者は既に出ている、これ以上の猶予はない。
「まず、君達には子供達の救出を頼みたい。どんな方法でも構わないよ。教会への突入方法や関係者を捕まえるより、子供達をどう説得するかが問題だからね」
 清潔な衣類、美味しい食事、安心して眠る場所を与えられた子供達を、どう救うべきか。
「幸い街の人達は教会を怪しんでいるし、助力を求めるメリットは十分ある。余裕があればそういう交渉をする人も居ると助かるよ」
 子供達を救出したあとは、オブリビオンの討伐が目標となる。
「中庭にある共同墓地を突っ切った奥に、そいつは居る。けど共同墓地には、そいつに殺された子供達の死霊が彷徨ってる」
 彼らを無視して辿り着くのは不可能だと言いきってから、困ったように笑みを浮かべた。
「胸糞悪い話だよね、本当に。でも、君達にしか頼めない。このまま殺される以外に、彼らにはもっと色んな未来があるはずだから」
 桜の瞳が瞬き、いつものようにそっと猟兵達を手招きする。
 猟兵達を送り出す場所は、異端の神々が蔓延る暗い世界。


遅咲
 こんにちは、遅咲です。
 オープニングをご覧頂きありがとうございます。

●成功条件
 子供達を救出し、全てのオブリビオンを撃破。

 どの章からのご参加もお気軽にどうぞ。
 皆さんのプレイング楽しみにしています、よろしくお願いします。
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第1章 冒険 『籠の中の小鳥達は』

POW   :    正面突破で救出を試みる

SPD   :    潜入して救出を試みる

WIZ   :    捕虜の手当などをする

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

アリウム・ウォーグレイヴ
アドリブ歓迎

私は村人への交渉に当たりましょう。
先ずは村長、又は村一番の実力者の元へ。
信用してもらえるようにホワイトナイトを使用し、傍らに侍らせながら化物を追ってきた狩人とでも自己紹介。
口調はなるべく穏やかに、『礼儀作法』を駆使して失礼の無い様に対応します。
教会での悪事と目的の化物討伐を伝え、これから救助する子供たちへの説得のご助力と保護をお願いします。
またもし可能であれば引き取られた子の親の居場所を『情報収集』します。
亡くなられた子の親への報告に必要になりそうですから。
もう既に引き取られていて生きている、と嘘をつくのは容易いですが、私は……。

いけませんね。
迷うのは救助してからにしましょう。



 猟兵達は昼間も陽の射さない闇の世界に足を踏み入れる。
 街の奥で静かに佇む古い教会は、小さな寄宿舎か学校のようにも見えた。
「さて、まずは協力が必要ですね」
 場所を確認したアリウム・ウォーグレイヴは、教会を見上げてから街の中心部へと戻る。

 白銀の騎士を連れた彼が赴いた先は、街一番の実力者の屋敷だった。
 来訪時、整った身なりで使用人にも礼儀正しく話しかけた彼の行動は正しい。通された部屋で暫く待っていると、ふっくらとした外見の穏やかな表情をした男が現れる。
「やぁやぁ、旅人とは珍しい。バケモノ退治の途中だとか」
「はい、その化物はこの街に潜んでいます。それと、もうひとつ。この街で秘密裏に犯罪が行われています」
「と、いうと?」
 すっと目を細める男をまっすぐ見て、アリウムは戸惑うことなく答える。
「人身売買です。街の奥に教会に集められた子供達が、養子の斡旋と称して高額な金額で売り払われているのです」
 ふむ、と男は自分の口髭に触れながら首を傾げた。
「彼等は一年ほど前から居ついていてね。傷ついた子供だけを保護しているようだから、私も多少援助しているが。なるほどなぁ、養子の斡旋……だが、奴隷ではなく養子なんだろう?そんな金額を出してでも子を迎えたいという親が居て、家族を望む子供達が居るのなら、そこまで悪いものでもないんじゃないか」
「それだけではありません、殆どの子供は教会に潜む化物に殺害されています」
「……それは、穏やかではないな。本当ならね」
 アリウムを見つめる男の視線は、旅人の話を信じていいのか考えているのは明らかだった。男の心の動きを素早く感じ取ったアリウムは、言葉を尽くす。
「身元が不確かな者から突然このような話を聞かされれば、誰でも疑うでしょう。ですが今この瞬間にも、罪のない子供達が命を失うかもしれません。化物を野放しにしていれば、いずれ子供達だけではなく、この街の住民にも被害は及ぶでしょう」
「ふむ。もしそうなら、君は私にどうしてほしいのかな?」
「子供達を救出した際、この街での保護をお願いしたいのです。もし私の話が嘘なら、これまで通り彼らは教会で暮らせます。幸い、化物を討伐しに来たのは私だけではありません。その実力は保証します」
「もし君の話が嘘だったなら、君達をまとめてこの街から追い出すだけで事は済むと」
 こくりと頷き、更にアリウムは説得にかかる。
「この街を多少散策してわかったのは、住民は困窮しておらず、互いに助けあい、闇に包まれようとも穏やかに生活しているということ。それは貴方が尽力してきた証拠とお見受けします。貴方にしか、私は協力を頼めないと確信しました」
 どうかお願いします、と青年は頭を下げた。

「これで準備は整った、か」
 アリウムの熱意を汲んだ男は、協力に応じることを約束してくれた。
 同時に、引き取られていったとされる子供達の親の居場所を探すことにも力を貸すという。
 仮に親が見つかり彼らに報告する際、貴方の子供は生きて幸せに暮らしている、と嘘をつくのは容易い。だが、
「……いけませんね、迷うのは救助してからにしましょう」
 青年は、曇りがちになる表情を意識的に作り変えようとする。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィルジール・エグマリヌ
子供は皆大切にすべきだと思う
私も大事に育てられたからね
1人でも多く救えれば良いな

闇に紛れる色の外套羽織り
裏口など探し教会へ
下見に来た振りして子供達と話そう
せめて今の環境に疑問持たせ
仲間達が行う説得の足掛かりに成れば

此処は養子を斡旋しているそうだね
本当は忍び込むなんて駄目だけれど
普段の君達を知りたかったんだ
陰で辛い思いをしていないか心配で
でも大丈夫そうだね、良かった

ねえ、君たちは
居なくなったお友達が新しい家族と
幸せに暮らしていると思うかい
その子達から便りは届いた?

もし息災ならきっと君達に
会いに来ると思うんだ
自分はこんなに幸せになれたから
君達も大丈夫って

ねえ、君達はこの教会のこと
本当に信じているの



 昼にも関わらず、教会は誰もが眠っているような静けさをたたえている。
 ヴィルジール・エグマリヌは闇色の外套を纏い、人々の目を盗んで裏口を探し出す。初めは屋内でかつこつと響いていた足音も、徐々に聞こえはじめる子供達の声に紛れていく。
 周囲に大人が居ないのを確認し無人の小部屋から、廊下でたむろする子供達に声を掛けた。
「ねぇ、君たち。ちょっといいかな」
「なあに?お兄さんもここの人?」
「いいや、私は違うんだ。そうだな……うん、手品師だよ」
 ちょっと見ていてね、と子供達の目線に合わせて長身を屈ませると、ヴィルジールは小型の玩具めいた機械を数十体手元に出現させた。
 ダークセイヴァーでは見慣れぬ色形の金属製の機械はふわりと浮かびあがったのち、その場で不思議なダンスを披露する。
 わぁ、と目を輝かせた子供達が歓声を上げる。青年がそっと人差し指を唇に当てて静かにするようお願いすれば、子供達は素直に大人しくダンスを眺めていた。
 彼らの心を掴んだと察知して、本題に入る。
「本当は忍び込むなんて駄目だけれど、普段の君達を知りたかったんだ」
「ふだんの、あたし達?」
「うん。此処に来てから、陰で辛い思いをしていないか心配で。でも大丈夫そうだね、良かった」
 子供達の幾人かは体に怪我の痕が残るものの、丁寧に包帯を巻かれている。衣服も似たようなデザインのシンプルな物を着ていたが、その身なりは清潔だ。栄養状態も、街の住民の子供達とさして変わりないように見える。
「辛くなんてないよ、大人はみんな優しいし」
「そうそう、毎日あったかいスープとパンが出て、お腹いっぱい食べていいんだ」
「毛布もふかふかなのよ。寝る前はシスターが本を読んでくれるの。それに、私達に新しい家族をくれるんだって」
 口々に自分達の待遇を話す彼らの表情は明るい。そんな子供達に、碧の瞳を細めて笑いかける。
「新しい家族に会えるまで、此処で待っているんだね。君達はいい子だね」
 そう語ってから、ねぇ、と言葉を続ける。
「君たちは、居なくなったお友達が新しい家族と、幸せに暮らしていると思うかい」
 ふいに投げかけられた問いにきょとんとした顔をする子供達は、互いの顔を見て小首を傾げる。
「幸せだよね」
「だってみんな、すごく嬉しそうだった」
「かわいくおしゃれして、じゃあねって手をふったもん」
「その子達から便り……手紙は届いた?」
 手紙と言われて、一人の少年が何かを思い出そうとするように考え込む。それから小さく首を横に振った。
「もし元気で幸せなら、きっと君達に会いに来ると思うんだ。自分はこんなに幸せになれたから、君達も大丈夫って」
 彼らに自分の意図が伝わるよう、言葉を都度言い換えながらヴィルジールは優しく語りかける。自身も大切に育てられた生い立ちから、傷ついた子供達がこれ以上裏切られてほしくはなかった。
「ねえ、君達はこの教会のこと、本当に信じているの」
 どこまでも優しい声色からは、子供達を追いつめようとする意志は感じられない。手品師の言葉に、彼らは困ったような表情を浮かべた。

成功 🔵​🔵​🔴​

クイスリング・ブルーメ
【SPD】
妖精はいつだって子供達の味方さ。

子供以外の人目を避けてこっそりと飛んで、窓や扉の隙間から侵入。
もしくは、中の様子を見て、子供達だけがいる部屋の窓をノックノック。

『やあやあ、キミたちはじめまして』
『ここで何してるの?』

と友好的に話してみる。
家族に会いたくない子がいたら、その子に優しい嘘をあげるよ。

『それなら、ボクについてくるかい?』
『ボクは妖精、道なき未知の案内人』
『この世界の空は暗くても、美しいものはたくさんあるさ』
『だからどうだい?』

親を望む子は他の猟兵が救うだろう。
でもここにきて救われた子は、この場所を家と呼ぶはずだから。
冒険へ誘おう、帰る場所がなくなろうとも、道はあるんだから。



 人目を避け、暗闇を縫うように教会の壁や物陰に沿って飛ぶフェアリー、クイスリング・ブルーメ。
 隙間の開いた窓や扉はないかと慎重に探し、窓の外からこっそりと様子を覗く。
 すると見つけた部屋の中には、本を読んだり退屈そうに小さなボールを投げ合ったりする少年少女が居る。大人が居ないのを確かめてから、手にした鍵杖でコンコンとノックノック。
 窓辺で読書をしていた少女が目を見開くので、愛らしい笑みを浮かべて手を振った。続々とクイスリングに気付いた彼らが騒ぎ出さぬよう、シーッと指を立ててから、窓を開けるようジェスチャーで頼みこむ。
「やあやあ、入れてくれてありがとう!キミたち、はじめまして」
「あなた、天使様?」
「ボクは妖精さ!」
 一礼するようにくるんとその場で一回転する小さな来訪者に、少年達は興味津々らしく、全員が彼女を囲んでその姿を見つめている。
「妖精って本当に居るんだ」
「小さいなぁ」
「よく言われるよ。キミたちはここで何してるの?」
 ピンク色の変わった形のフードを揺らす妖精にそう訊かれ、少年達は自分達の境遇を話しはじめる。
「俺は親に売られたんだ。自分から逃げ出した奴も居るし、親が死んでどうにもならなくなった奴も居るな」
「自分で言うのも変だけど……あたし達って皆、顔が綺麗でしょ?養子として貴族階級の家庭が貰ってくれるまで、此処で順番を待ってんのよ」
「金持ちの家に貰われるから、普段から清潔にしろとかうるさいけど。食事はあるし、寝床もあるから不満はないよ」
 ふぅん、と赤い瞳を瞬きしてから、クイスリングは朗らかに問う。
「キミたちは、新しい家族が楽しみかい?」
 返事は、すぐに返っては来なかった。年頃の彼らは目をそらしたり、ぎこちなく笑ってみたりと、曖昧な反応を見せる。
「正直、ね。あまり期待はしていないの。私達よりも幼い子の方がずっと可愛らしいし、順番は遠いと思う。それにもう、ぶたれるのはうんざり」
「僕も……邪険にされるのは沢山だ。それなら此処で暮らして、小さい子達の面倒を見るのもアリかなって」
 もう随分前に、あたたかな家を望むことを諦めているのかもしれない。彼らの瞳に昏いものを見た妖精は、花のように笑った。
「それなら、ボクについてくるかい?」
「ついてくって……?」
「此処を出て、旅をしてみないかってこと!ボクは妖精、道なき未知の案内人。この世界の空は暗くても、美しいものはたくさんあるさ」
 鼓舞するように煌く翅で部屋を飛び回る妖精は、優しい嘘を咲かせる。少年達の幸福な終演の為に。
「美しいもの、かぁ」
「……そういうのも、いいかもな」
「妖精さんが現実に居るんだもの、この本みたいな出来事だって、あるのかもね」
 親を望む子は他の猟兵が救うだろう。けれどもう望まなくなった彼らは、此処を家と呼ぶだろう。いや、呼んでしまう。
「ボクがついてる!キミたちはきっと美しいものを見つけられるよ。だからどうだい?」
 冒険へ誘おう、帰る場所がなくなろうとも、道はあるんだから。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヘンリエッタ・モリアーティ
【WIZ】
子供を、――いいえ、それもこの世界。
必ずどこかに得をする人がいて、損をする人がいるのはどんなお伽話でもあることだけど、……だからといって、【私が】見過ごしていいわけではないわ。

じゃあ、毒を以て毒を制すで、行きましょう。
【医術】と【世界知識】がありますので、忍び込んだ後は、医師として子供たちに触れ合います。
子供はそれこそ、神父や教師、先導者、に弱いから。

【親愛なる右腕】で、モランを呼び、この小さなドラゴンに子供たちを逃がす際は【目】になってもらうわ。
ええ、そうね、あなたたちは幸せね。
さあ、沢山いる皆を【外で】、私たちが看てあげる。
幸せに暮らしていくために、体は元気じゃないと、ね?



 数人分のベッドが並ぶ寝室で、真新しい包帯を巻き直してもらった少女が感謝を伝える。
「先生ありがと!」
「ええ、どういたしまして」
 するりと忍び込んだヘンリエッタ・モリアーティは、医師として子供達に接することで交流を深める。
 毒を以て、毒を制す。物腰柔らかな彼女が、今日新しくこの教会にやってきた医師なのだと告げれば、まだ幼い子供達はそうなのかと素直に受け入れてくれた。
「ねぇ先生、この子、頭がいたいっていうの。シスターをよぶ?」
「大丈夫、すぐ診てあげるわ。シスターにはあとで私から言っておくから」
 少女が連れてきた少年はクマのぬいぐるみを抱きしめて、今にも泣き出しそうな表情でヘンリエッタを見た。
「こんにちは。頭のどの辺りが痛いのかしら」
 穏やかな笑みに安心した彼が、おずおずと痛む個所を指差す。女は少年をベッドに座らせ聴診器を取り出した。
「咳は出てない?それと、痛みはガンガン打たれるような感じ?」
「ちょっとだけ、ゲホゲホする。いたいのはね、キーンって」
 ぽつぽつと症状を答える彼に、他にどんな症状が出ているか、てきぱきと確認しながら診察は進んでいく。
「風邪気味なのね、お薬を出さないと。それに……」
「それに?」
「他の子達に風邪をうつっているかもしれないわ。皆、診療所で診てもらった方がいいわね」
 自分が病気をうつしてしまったのか、不安そうな少年の頬を、女は優しく撫でる。
「大丈夫、酷い病気なんかじゃないわ。小さい子にはよくあることなの。健康診断もしなくてはいけないしね」
 そう微笑って、診察の様子を見ていた子供達に声を掛ける。
「皆を呼んできてくれるかしら、一緒におでかけの時間よ」
 おでかけ、という言葉に目を輝かせる子供達だったが、一人の少年が不思議そうにヘンリエッタを見つめる。
「そんなのシスターからきいてないよ」
「シスターは私が来ることを皆に伝え忘れていたようだし、きっと今日の予定を言うのも忘れていたのね」
 困ったような笑みで返せば、少年はそれでも疑うような顔をする。
「でも、教会から出ていいっていわれてない。あぶないから、出ちゃだめなんだよ」
 教会の大人を信頼しているのだろう。ヘンリエッタは彼のまっすぐな瞳から決して視線を逸らさない。
「そうね、外は危ないもの。あなたの言う通りだわ。でも、ここで幸せに暮らしていくために、体は元気じゃないと、ね?」
「……大人の人は、だれか来てくれる?」
「ええ、勿論。まずあなたのように小さい子達を連れて、私が先に診療所に行くの。でも、あとから大人が、大きい子達を連れて一緒に来てくれるわ」
 にこりとする新しい医師に、少年はまだ疑問を抱いているようだったが、渋々といった様子で頷いた。

「モラン、少しでも気配があれば教えて」
 召喚した飼い竜に目付けを言いつけ、ヘンリエッタは幼い子供達を連れて慎重に出口を目指す。
 必ずどこかに得をする人がいて、損をする人がいるのは、どんなお伽話でもあることだけど。
「――だからといって、『私が』見過ごしていいわけではないわ」
 女が繋いだ幼い手は温かく、そっと彼女の手を握り返してきた。

成功 🔵​🔵​🔴​

アンバー・ホワイト
‪他の猟兵と連携‬
‪正面突破で救出を試みる‬

わたしは、虐待や貧困から逃れて教会に来て幸せに暮らしてる子に掛ける言葉をもっているのか…?
家族ってしあわせなんだろう!家に帰れるぞ!そう、わらって返してしまう、きっと
家族を知らないから、家族の闇なんて知らないから、新しい家族との、あたたかな時間しか知らないから
言葉詰まってしまう

かみさまなんて、いない。けれど、かみさまのような人は、この世界にたくさんいるんだ
未来は、切り開くもの。誰にだって、切り開けるはずだ。こんなところで食い殺されてはいけない
希望を胸に、ここから逃げ出して欲しい
それだけでも伝えることが出来ればと…
小さな願いを、祈りを、子供たちに託して



 教会の入口の前で、アンバー・ホワイトは一人立っていた。
 他の猟兵達は既に忍び込み、それぞれが役目を果たしている頃だ。自分が動くのは、今。
 チャイムを鳴らした幼いモノクロの少女を見て、扉を開けた女が微笑む。
「あら、こんにちは、可愛らしいお嬢さん。どうしたの?……もしかして」
 貴方も、と言いかけた女を突き飛ばし、屋内へ招かれる前に勢いよく飛び込んだ。
「なんだ君は!?」
「子供たちはどこだ。お前たちのせいで犠牲になってしまう子供たちは、どこにいる」
 突然の少女の襲撃に慌てふためく大人達に白銀の槍を突きつけ、アンバーは教会の中を駆け抜ける。
 騒がしさに気付いた子供達が顔を出し始めると、彼らに向かって声をあげた。
「ここは安全なんかじゃない、きみたちは殺されるんだ!今すぐここから逃げてくれ!」
 教会の外には協力に応じた街の有志が待ち構えており、子供達を保護する準備は整っている。
「殺されるってどういうこと?」
「ねえシスター、ころされるって、なに」
「ぼく達死んじゃうの?」
「やだよ、やだ、そんなのやだ!」
 アンバーを捕まえるとする者達の他に、何人かの大人は子供達を宥めようとするが、猟兵達によってこの鳥籠に疑問をもった彼らは出入口へと一目散に走りだしていく。

 竜の少女は、迷っていた。
 虐待や貧困から逃れて幸せに暮らす子供達に、掛ける言葉が見つからなかったから。
 家族はしあわせなもので、子供は傷つけられることはなくて、苦しむことはなくて、そんな風に育ててもらったから。新しい家族との、あたたかな時間しか知らないから。
 けれどこの場所において、それは偽物だ。この家に囚われた子供達は、オブリビオンに食い殺される。
「(かみさまなんて、いない。けれど、かみさまのような人は、この世界にたくさんいるんだ)」
 籠の中を追い出された竜は、それでも光を知っている。

 アンバーが派手に暴れれば暴れるほど、逃げ出す子供の数は確実に増えていく。
 小さな部屋の前を通りがかった時、ヒッと小さな悲鳴が上がったのを彼女は聴き洩らさなかった。大人が追ってこないことを確認してから、静かにその部屋に入る。
 部屋の奥で身を縮こませる少女は怯えきっていて、その足は擦りむいていた。
「こわがらせてしまって、ごめん」
 白から黒へと変わりゆく角を持った竜の姿は、少女にどう見えていただろう。
 ゆっくりとその場に座り、アンバーは目を閉じる。胸元から溢れるあたたかなやわらかい光は、少女の足の傷口を包み込む。
「あ……」
「これでもう、痛くない」
 こてんと首を傾げ微笑う竜に、少女は頭を下げる。それから、問うた。
「此処では、私は幸せになれないの?」
「……うん」
「……そう」
 泣き出しそうな笑顔を見せた少女に、アンバーは告げる。
「未来は、切り開くもの。誰にだって、切り開けるはずだ。こんなところで食い殺されてはいけない」
 琥珀の瞳はまっすぐに少女を見る。
「希望を胸に、ここから逃げ出してほしい」
 小さな願いを、祈りを、竜は託した。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『残影』

POW   :    怨恨の炎
レベル×1個の【復讐に燃える炎の魂】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。
SPD   :    同化への意思
【憐憫】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【異形の肉塊】から、高命中力の【絡みつく傷だらけの手】を飛ばす。
WIZ   :    潰えた希望の果て
【悲観に満ちた絶叫】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 子供達が逃げ出し、関係者達が纏めて街の集会所に押し込まれた結果、教会はがらんどうとなった。
 生者が居なくなった今、猟兵達は中庭の共同墓地へと足を踏み入れる。
 暫くすると、かぼそい囁き声が中庭いっぱいに広がり始めた。

『さみしい、かなしい、なんで』
『ぼく達はしあわせになれたはずなのに』
『どうして』

 うつくしかったはずの顔は闇に融けたように見えない。
 亡者となった少年少女達は、怨嗟の声を響かせる。

 ――今こそ、もうひとつの鳥籠を壊す時。
アリウム・ウォーグレイヴ
アドリブ歓迎

子供が犠牲になるという事実に改めて胸が痛みます。
既に私にできる事は多くはありません。残念です。

戦闘では私は中衛として位置し、ホワイトファングにて前へ出る猟兵の援護に入ります。
『属性攻撃』で少しでも相手の動きを阻害できると良いのですが。
もし前衛の動きが危うい場合は私も前へ。
ホワイトパスで相手の動きを予測し、『激痛耐性』『呪詛耐性』で仲間を『かばう』事を心がけます。

私は弱い人間です。
彼ら、子供たちの悲劇に憐憫の感情を抱かずにはいられない。
一体、一体倒す事に大きくなる胸の痛みがその証拠です。
それでも彼らを加害者にさせないためにもここで終わらせます。


尭海・有珠
本来なら幸せになれたんだろうな
迎える者達が君達のことを幸せにしてやろうと思っていたならな
「でもそうはならなかった。それが結果だ」
殺す方が簡単で、助けることは難しいな
可哀想にとは思うが、救う方法にも手段にも疎い私に出来ることは
君達を再度殺して、此処から解放してやることだけだ

遠巻きに力を揮うのは彼らに誠実ではない気がして、戦場に飛び込み相対しよう

剣『海昏』で攻撃を払い除けながら詠唱し
【属性攻撃】で威力を微増した『氷棘の戯』でもって貫く
墓地には傷つけぬよう、空いた片手を振ってのコントロールも忘れない

これではまるで血の杭のようだが、君たちを霧散させる術だ
少なくともこれ以上痛く辛い思いはせずに済むだろう



 帰る場所を永遠に喪った、子供達の泣き声が墓地を包む。
 レンズの向こうに潜む冬の湖の瞳は、アリウム・ウォーグレイヴの心の痛みを表すようだった。
「既に私にできる事は多くはありません……残念です」
 本来なら幸せになれたのだ、迎える者達が彼らを幸せにしてやろうと思っていたなら。
「でも、そうはならなかった。それが結果だ」
 尭海・有珠が静かに亡者に告げる。救う方法にも手段にも疎い自分ができることは、
「君達を再度殺して、此処から解放してやることだけだ」
「はい、ここで終わらせましょう」
 波うつ黒髪を靡かせ、有珠が敵影へと駆け出すのをきっかけに、アリウムが雪のように白い刀身の切っ先を子供達に向ける。
「どうか、動かぬよう」
 ひやりとした冷気を刀身に纏わせれば、切っ先から放たれる氷の弾丸。音もなく撃ち込まれたソレは、亡霊の身体を瞬時に凍らせた。
『つめたい、さむい、ひどいよ』
『たすけて、いたいのもうやだ、パパ、やめて』
 凍結の魔法は彼らの心も凍らせているのだろうか、闇に融けてしまった顔から表情は読み取れない。けれどアリウムには、彼らの声は痛いほど聴こえている。
「……すみません、とても苦しいですよね」
『ひどいよ、なんで』
『きらい、きらいよ、あたし達はなんにもしてないのに……ッ!』
 叫ぶ少女の絶叫を海底の彩をもつ剣で払う有珠が唱えるのは、水の精達への号令。
「群れよ、奔れ、」
 空中に現れたおびただしい数の朱い氷雨は、美しい棘となって一斉に彼らの頭上に降り注ぎ、穿つ。
『いやああああッ』
『いたい、いたいよ、たすけて、かあさん』
 容赦なく降り注ぐ朱い棘の雨から逃げようと子供達は身をよじるが、凍結による拘束で思うように動けず、突き刺すような痛みを全身に受ける。
「これではまるで、血の杭のようだな」
 それでも有珠は穿つ手を止めず、海に揺蕩う瞳は亡者を見つめ続ける。
「少なくとも、これ以上痛く辛い思いはせずに済む」
 空いた片手で、ふわりと糸を紡ぐように宙を薙ぐことで雨を操作。そのせいか、雨は子供達にのみ降り注ぎ、墓地には傷一つついていない。
 遠巻きに力を揮うのは誠実ではない気がして、愛剣を手に戦場を奔り、斬る。穿つ。せめて、自らの手で彼らを霧散させる。
『どうして』
『ぼくらは、幸せになりたかっただけで』
「……ッ」
 嘆きの声を残して少年少女が一人倒れていくごとに、アリウムの胸は悲痛で張り裂けていく。
 自分は弱い人間だ。悲劇に巻き込まれた彼らに、憐憫の感情を抱かずにはいられない。
 ――けれど、呪われた彼らをこのまま残していくような真似はできなかった。
 白銀の剣を下ろし、指先からそっと弾丸をもう一度。彼らが加害者にならない為に。
『あ……』
 胸元に撃ち込まれた氷の華に、少年が小さく吐息をもらすせば、その影は段々と小さくなる。
「それでいい。君達は、よく頑張った」
 子供達に語りかける少女の声色はとても優しく、幼子を眠らせるゆりかごのようだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ヘンリエッタ・モリアーティ
【POW】
……彼らは被害者だわ、彼らは虐げられた存在だわ、辱められ、苦しめられた――【私】と、同じ。
でも、ちょっと運命が違っただけ。それだけ、なのよ。

【ブラッド・ガイスト】を【モラン】に施して、
黒い槍に成った彼で、怨根の炎を振り払い、貫いて、打ち消してみせるわ。
彼らのことだって貫いてみせる、胸が裂けそうになるけれど、
【なぎ払い】で槍を振り回した後、彼らを【串刺し】にしていく。


泣かないで、もう、嘆かないで。
こんな世界に、いつまでも囚われないで。
――どうか、次の世界では、優しい世界で幸せになって。
本当の幸せが、あなたたちに訪れるよう、戦うから。
祈るように、恐れずに、彼らを葬ることにしましょう。


アンバー・ホワイト
どうして、どうして、
君たちを殺さなくてはいけないんだ
幸せに羽ばたいていくはずだった、君たちを
こんな恐ろしい鳥籠、壊さなくては
もう二度とこんなに事がないように、悲しいことが起こらないように

あのね、わたしも鳥籠にいたんだ
でもね、今のわたしは鳥籠を壊す者
‪鳥籠が、もう何も捉えることの無いように‬
‪もう誰も、傷つくことの無いように‬
ぶち壊してやるから
恐れることは無く真っ直ぐに見据えて
死者の声に耳傾けて

さあ、雪の焔に焼かれておくれ
雪の花びらと一緒に踊りながら、疲れ果てて眠っておくれ
どうか、どうか、その先に幸せがあるように、希望が巡るように、祈りながら
指揮するように指先から雪を降り注がせて
真っ白に真っ白に



「どうして、どうして、君たちを殺さなくてはいけないんだ」
 さざめきのように響く泣き声に、アンバー・ホワイトは悲痛な胸の内を思わず吐き出した。
 幸せに羽ばたいていくはずだった子供達は、死後もこの鳥籠に囚われている。
「彼らは被害者だわ、虐げられた存在だわ」
 辱められ、苦しめられた――『私』と、同じ。ヘンリエッタ・モリアーティは、嘆く子供達にいつかの自分を重ねる。
「ちょっと運命が違っただけ……それだけ、なのよ」
 そう呟いたのち、愛しい飼い竜の名を呼ぶ。ヘンリエッタの右腕から滴る赤い血を吸ったモランは黒い槍へと姿を変え、彼女の手にしっかりと馴染む。
『あなた達もひどいことするの』
『いやだ、もうぼくは、あんな目に遭いたくない』
『全部、全部全部ゆるさない』
 向けられた武器に怯える子供達の周囲に、ボッボッと音を立て、仄暗い焔がいくつも浮かびあがった。怨念と復讐に満ちた色は決して美しいとは言えず、激しく燃え盛り二人を襲う。
 眼前に迫る焔目掛けて駆けたヘンリエッタが、黒槍を勢いよく薙ぐことで熱はかき消える。その勢いのままに子供達へ肉薄し、一気にぶすりと身体を突き刺した。
『うわぁああッ』
『いたい、いたい、なんで』
「ええそうね、痛いわよね、酷いわよね。……あなたたちは悪くないわ」
 次々に子供達を串刺しにしながら、ヘンリエッタは銀の瞳で泣き叫ぶ彼らを優しく見つめる。
「泣かないで、もう、嘆かないで。こんな世界に、いつまでも囚われないで」
 ――どうか、次の世界では、優しい世界で幸せになって。
 彼らに本当の幸せが訪れるよう一人一人に語りかけ、女は迷いなく槍で幼い亡者を穿つ。崩れ落ちていく肉体を抱き寄せては、頬をするりと撫でた。
『こんなはずじゃなかったのに』
『たすけてほしかっただけよ』
 潰えた希望に縋りつくように、子供達の叫びは止まらない。アンバーは彼らの言葉を一言も聴き洩らさないように耳を傾ける。
 そうして自分の唇から零れ落ちていく言葉を彼らに届ける。
「あのね、わたしも鳥籠にいたんだ。でもね、今のわたしは、鳥籠を壊す者」
 もう誰も傷つくことのないように、鳥籠を出て猟兵と成った竜の子は覚悟を宿す。
「ぶち壊してやるから」
 琥珀の双眸はまっすぐ子供達を見据え、同じ彩をした石を施した宝剣を一度だけ天に翳す。剣は白く煌く雪の華となって、アンバーの周囲を舞う。
 指先に集う六華をそっと亡霊達に向けると、無数の白の花弁はその身体をつめたくあわく灼き尽くす。
「さあ、雪の焔に焼かれておくれ。雪の花びらと一緒に踊りながら、疲れ果てて眠っておくれ」
 謡うように、指揮者の竜は少年少女を最期のワルツへいざなう。
『あつい、さむい、つかれた』
『もう、ねむい』
 融けた瞼を静かに伏せていく子供達に、アンバーはおまじないの呪文をかける。
「おやすみ、おやすみ。いとしい君たち」
 女は槍を揮い、竜は雪を踊らせた。
 閉じ込められたいのちを正しく巡らせる為に、祈って。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ハイドランジア・ムーンライズ
ははあ、話を聞いて来て見りゃ。
我が麗しの故郷は変わらず今日もクソッタレだなあオイ!

あん?『どうして』?
んな事ぁ知らねえな。だが、今お前らが二度も死ぬ羽目になる理由は簡単だ

俺に殺されんだよ!
苦しいよなあ悲しいなあ!だが知ったこっちゃねーな!
俺の呼んだ化物共に食い殺さちまえ!
同情なんてしねえよクソガキ共!カカカカカ!

攻撃?
オーラ防御……は、良いや。止めた。
好きなだけ燃やして引き裂いて叫んで来いよ。俺ぁその程度じゃどうこうならねえがな?




(…殺しに来た俺を嫌って憎む権利位ぇ、こいつらにだってある筈だ。自己満足だけどよ。せめてそれ位認めてやらねえでどうするよ。……他に、何も、してやれやしねえってのに…)



 悲嘆の声がこだまする墓地に踏み込んだ美しい貌の少女は、亡霊と化した子供達の姿をその瞳に映す。
「ははあ、話を聞いて来て見りゃ……我が麗しの故郷は、変わらず今日もクソッタレだなあオイ!」
 ハイドランジア・ムーンライズは苦虫を噛み潰したような表情で吐き捨てた。
『ぼくたちなんにもしてないのに』
『わかんない、なんで』
『どうして』
「あん?『どうして』?んな事ぁ知らねえな」
 縋るような問いかけを振り払うように首を軽く捻り、一歩、また一歩踏み出す。
「だが、今お前らが二度も死ぬ羽目になる理由は簡単だ」
 その身から赤と黒の泥濘が滴り落ち、咲いたのは淡い彩の紫陽花。
「俺に、殺されんだよ!」
 ハイドランジアが目を見開いて叫ぶと同時に、美しい花は散る。散った先から生まれた新たないのちは、無数の異形の蟲だった。
 ヒトの貌を持った蝗の群れは一斉に子供達に襲いかかり、宿した蠍針で刺し貫く。
『いやあああッ!』
『痛いいたいイタイ』
「苦しいよなあ悲しいよなあ!だが知ったこっちゃねーな!俺の呼んだ化物共に食い殺されちまえ!」
 おぞましい蟲の群れに纏わりつかれ、幼い亡者はハイドランジアに向かって泣き叫ぶ。
『こわいよぉやめてよぉ』
『もうやだ、やだぁ』
「同情なんてしねえよクソガキ共!カカカカカ!」
 尚も高笑いを続け異形を使役する彼女に、子供達は明らかな憎悪と敵意を向け、叫ぶ。
『わたし達はわるいことしてない』
『きらい、キライ、嫌い』
『おまえも、同じ目にあえ……ッ!』
 戦いの最中だけではなく、生前に受けた痛みも全てハイドランジアに返すように、絶叫を叩きつける子供達。
 紫陽花を戴く令嬢は、すっと目を細める。オーラの壁を作り上げようと掲げた掌を、そっと降ろした。
「良いや、止めた」
 ――防御など、必要ない。
「好きなだけ燃やして引き裂いて叫んで来いよ。俺ぁその程度じゃどうこうならねえがな?」
 肌に幾千も走る赤、身体のいたる場所に打ちつけるような痛み。嗚呼、それでも。
 殺しに来た自分を憎む権利くらい、彼らにだってある筈だ。たとえこれが自己満足でも。
「(せめてそれ位、認めてやらねえでどうするよ)」
 他に、何も、してやれやしないのだから。

成功 🔵​🔵​🔴​

アリウム・ウォーグレイヴ
アドリブ歓迎

子供達の無念を受け止めるために、私も前へ。
私にできる事は少ない。故にできる事があればしたいのです。贖罪の様に。
武器やホワイトパスを使用し、冷静に、一人ずつ確実に倒していきます。
『全力魔法』を使用して苦しみなく逝けるよう善処します。
身勝手な願望と思いつつも、彼ら子供達に救いある未来が訪れる事を『祈り』続ける事しかできません。

目を背け、耳を塞ぎたくなる現状です。
仲間の猟兵や、私の攻撃で悲劇の子供達が苦痛に啼き、怨嗟を響かせているのですから。
それでもここで止まる事は許されません。心が出血し痛みを訴えようとも。
猟兵としての、騎士を自称している私に課せられた義務として、ここで全て終わらせます



 この無念の嘆きを、己は正面から受け止めないのか?
 ――いいや、ありえないだろう、絶対に。自分の心が叫んでいることに気付いた時、青年は前に出ていた。
『痛い、痛いよ』
『なんで』
『ゆるさない、ゆるさない』
「……ええ、許せないのでしょうね」
 ずるりと伸ばされる傷だらけの腕に、一度だけ触れる。けれど強大な魔力によって研ぎ澄まされた五感が、身体を完全に絡めとられる前にするりと抜け出すよう動かした。
 アリウム・ウォーグレイヴはゼラニウム舞う刺突剣を操り、鋭い一撃で亡霊を貫いては、確実にその数を減らしてゆく。
『やめて』
『俺達はなにもしてないだろう』
『痛い』
『ひどいよ』
「そう、貴方がたは何一つ悪くありません」
 悲劇に遭った子供達が、味方の猟兵や自分の攻撃で苦痛に啼き、怨嗟を響かせている。その事実を突きつけられながら戦う青年は、喉元から吐き出しそうな弱音をぐっと飲みこむ。
 悪逆が引き起こしたこの惨状から、今すぐにでも目を背け、耳を塞ぎたい。
「けれど、それでもここで、私が止まる事は許されません」
 これは贖罪なのだと。よわい心を叱咤するように、叫んだ本当のこころを呼び覚ますように。アリウムは蒼氷の瞳を子供達に向け、誓いを口にする。
『なんで』
『あたしたちがあんたに何したの』
『こんなのおかしい』
「はい、間違っています。ですから、間違いは正さなくてはいけません」
 悲痛な叫びをまっすぐに受け止め続けたあまり、このまま心が血を流し、どれだけ激しい痛みを訴えても。
「猟兵としての……騎士を自称している私に課せられた義務として、ここで全て終わらせます」
 純白の花吹雪が追い風のごとくアリウムの背を押し、亡霊の群れを一瞬で吹き消す。
『ねぇ、』
 闇に融け残った少年が問うて、青年に縋ろうと手を伸ばす。
『あなたは、』
 青年は剣の切っ先を向けたまま駆けて、少年の左胸を穿った。
『一緒に居てくれないの?』
「……ええ」
 花吹雪に融けてしまう前に、その身体を最後に抱きしめた。純白の花弁が残らず消えていく最中、よわくやさしい一人の青年は表情を歪ませる。
「どれだけ身勝手でも、」
 願っていいじゃないか。
 彼らに救いある未来が訪れることを、誰かが祈り続けたっていいじゃないか。

成功 🔵​🔵​🔴​

ジロリア・アンブッシュ
聞こえるわ、あの人(亡夫)の悲嘆が。
この有様を為した者への、怒りの咆哮が。

……大丈夫よ『あなた』、私が全部どうにかしてくるから。

子供達に祈りを捧げつつ、【葬霊彼岸花】使用。
(手袋を外した)右手の火傷跡(聖痕)が変じた彼岸花の花弁に、左手の霊符の力を上乗せ。
亡者となった子供達を覆う負の呪的要素を抜き取り、残された魂に痛みを与える事無く安らぎを与え成仏させる。

「もう、大丈夫ですよ」

一人一人、伸ばされた手を取り、目線を合わせ、声に耳を傾け、落ち着かせるように頭を撫で、安心させるよう微笑みかける。

憐憫が自らを傷付ける刃となろうとも、全てを受け止め向き合い、そして救う。
あの人なら、そうした。
ならば私も。



「聞こえるわ、あの人の悲嘆が。この有様を為した者への、怒りの咆哮が」
 教会で子供達の世話をしていたシスターとは、似て非なる白無垢に身を包む女が墓地に降り立つ。
 ジロリア・アンブッシュには確かに聞こえている、誇り高く生きた夫の声が、この耳に。
「大丈夫よ『あなた』、私が全部どうにかしてくるから」
 静かに想い人に告げて、ジロリアはたったひと時も迷うことなく子供達へと歩み寄る。
『あんたもひどいことするんだろ』
『イヤだ』
『来ないでよ、来ないで……ッ』
 拒絶の言葉と叫びを放たれようと、歩みを止めることなく右手の手袋を外せば、愛する男が遺した火傷の痕から咲き誇る大輪の彼岸花。はらりと落ちる花弁の群れは淡く紅に輝き、霊符を持つ左手をそっと右手に添えれば、花弁はやわらかな彩のまま子供達に触れる。
『ヒッ』
「怖がらないで」
 恐怖に囚われた少女の、何処にあるかもわからない双眸をしっかりと視て、女は微笑った。
『……痛く、ない』
『いたくない』
『なんで?』
「ええ、そう、痛くないでしょう?」
 口々に戸惑う声を洩らす子供達。彼らを静かに送る為の花は負の呪的要素を抜き取り、残された魂に安らぎを与え、成仏させる力を持つ。それは決して、彼らに痛みを与えることはない。
「もう、大丈夫ですよ」
 女が子供達に浮かべたそれは、いつか自分達を抱きしめてくれた、愛してくれた誰かの微笑みだった。
『おかあさん』
『おばあちゃま』
『ママ、ママ』
『ねえちゃん……ッ』
『母さん』
「ええ、ええ、大丈夫。怖かったでしょう、寂しかったでしょう。もう、大丈夫ですよ」
 次々に伸ばされる傷だらけの青白い腕は奪いあうようにジロリアを囲み、少年少女達は求めていた者の名でただひたすらに聖女を呼ぶ。
 ジロリアは一人一人の手を取り、呼ぶ声に言葉を返し、頭を撫で、一人も零れぬよう全てに応えてゆく。
 ――『あの人』が生きていたならば、きっとこうしたから。
『うれしい、うれしい』
『おかあさん、やっとあえた』
『ママ』
 女が応える度に、一人、また一人と、淡い光を遺して幼い亡者は消える。
 紫の眼差しは全ての子供達が眠りにつくまで、いつまでも優しく、愛おしげに見つめていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『救済の代行者・プレアグレイス』

POW   :    黒死天使
【漆黒の翼】に覚醒して【黒死天使】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD   :    鏡像の魔剣・反射
対象のユーベルコードを防御すると、それを【魔剣の刃に映しとり】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。
WIZ   :    鏡像の魔剣・投影
【魔剣の刃に姿が映った対象の偽物】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はリーヴァルディ・カーライルです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 やっと、本当の静けさを取り戻した共同墓地を抜けた先、常闇の筈の世界で鈍く輝く物が見える。
 踏み込んだ猟兵達の足元には、真っ赤に咲き誇る様々な種の華、花、ハナ。

 噎せ返る香りを放つ赤い花畑の中心に立つそれは、首の無い異形の女神を模しており、巨大な祭壇のようだった。
 祭壇にも溢れる赤色の上で、佇む者が居る。

「ああ、いらしたのね」

 純白の翼を広げたうつくしい少女が、青い瞳を細めて微笑んでいた。祭壇の赤色の正体は、夥しい程に敷き詰められた薔薇の花。
 少女の黒髪と漆黒のドレスを飾るように咲く花は、彼女が啓示を受けた者であることを示す。けれどそれは、とうに昔の話だろう。

「今日は随分騒がしいと思ったの。ええ、きっと此処まで来ると思ったわ。あの子達は救われていたのに、貴方達が台無しにしたのね」

 残念そうに眉を下げるも、その笑みは絶えることはない。
 小鳥が囀るように紡ぐ音色は、どこか愛らしかった。

「なんてことでしょう、可哀想な子供達……嗚呼、でもいいの。構わないわ。わたくしは貴方達を赦してあげましょう」

 少女はその姿に似つかわしい、黒く禍々しいオーラを放つ剣を撫でて、小首を傾げる。

「だって……貴方達が、わたくしに救われたかったのでしょう?」

 なおも偽りの救済を施そうとする堕天使に刃を向けるのは、誰だ。
ヴィルジール・エグマリヌ
其の救済が子供達を傷付けたことに
未だ気付かないのだね
君の邪な魂にこそ救済が必要だ

愛を込めて首を切る事が救済なら
私にも出来るよ、試してみる?
仲間が近くにいるなら
其方との連携も意識しようか

攻撃に使用するのは
眠れぬ夜の揺籃歌
鋸たちをバラバラに動かして
彼女を斬りつけよう
防御出来ないくらい激しく、ね
もし攻撃を拝借されたら
剣を盾にして防ぎたいな

可能なら鋸が時間稼ぎしている間に
M57で敵の弱点や動きを解析して
戦闘に有効活用したく

隙を見つけたら暗殺の技能活かし
敵の損傷部に剣で捨て身の一撃
其の傷口を抉ってあげよう
艶やかな花の君に、冷たい死の祝福を

二度も捨てられた子供達には
いつか安らぎが与えられる事を希う


アリウム・ウォーグレイヴ
アドリブ歓迎

ここに貴方の言う救いはありません。あるのは恐怖と悲哀だけ。
犠牲になった子供達やそのご両親のためにも、今ここで討たせていただきます

牽制の『槍投げ』から『串刺し』を狙います。
当たらなくても良い。敵が気を取られている間に魔法を放ちつつ、接近戦を挑みます。
近づく事ができたならホワイトパスを使用し、氷華で敵に隙を与えないように攻撃したいですね。
敵からの攻撃は『氷結耐性』や『激痛耐性』の各種耐性で無理矢理無視します。


赦しも救いも私にとっては甘露の様に魅力的なものです。
しかし討った子供達の思えば、それらを乞う事はできません。
祈る事しかできない無力な私にその資格はない。この苦汁を傷として背負います



「其の救済が子供達を傷付けたことに、未だ気付かないのだね」
 美しい碧を湛えた瞳を細め、ヴィルジール・エグマリヌは言葉を紡ぐ。そこに満ちていたのは静かな怒りだった。
「君の邪な魂にこそ、救済が必要だ」
「まぁ、わたくしの魂が邪?」
 オブリビオンの少女は意外そうに目を丸くする。さながら、お菓子をつまみ食いした犯人だと言われた時のように愛らしく。
「ここに貴方の言う救いはありません。あるのは恐怖と悲哀だけ」
 アリウム・ウォーグレイヴの脳裏に、悲しみに満ちた亡者の姿がよぎる。それでも、毅然とした表情で槍を構え、覚悟を口にする。
「犠牲になった子供達やそのご両親のためにも、今ここで討たせていただきます」
「そんな、犠牲だなんて、酷いことを言うのね。わたくしはただ可哀想なあの子達に……キャッ!」
 オブリビオンがお喋りを続けようとした矢先、白い短槍が彼女めがけて投げつけられる。翼を羽ばたかせ躱されるのも、アリウムには想定内。
 少女が気を取られた隙に、目の覚めるような氷のオーラを撃ち出すと同時、刺突剣による攻撃を繰り出す。
 魔法剣士が前に躍り出たのと同じくして、死神が召喚するのはおよそ20のアンティーク調の古めかしい鋸。
「愛を込めて首を切る事が救済なら、私にも出来るよ」
 試してみる?と甘く囁き、つっと指先を少女へと向ける。鋸はアリウムを避け、少女のみを四方八方から執拗に斬りつける。
「わたくしに刃を向けるなんて、礼儀がなっていないのね。けれどそんなところも愛らしいわ、貴方達」
 露出した肌にうっすらと浮かぶ赫や漆黒のドレスが破れるのをちらりと見た少女は、鋸を自分の魔剣で振り払った。
「ええ、ええ、わたくしは赦しましょう」
 氷と鋸の嵐を潜り抜けた少女は、純白の翼を舞わせながらアリウムへと魔剣を叩き込む。鈍い音を立て重い一撃が走るも、青年の五感強化によって頬に傷を負わせるだけに留まる。
 けれど少女はそんなことはお構いなしに、近付いたアリウムに、鋸を操るヴィルジールに語りかけた。
「ねぇ、貴方達。貴方達はあの子達とその両親の為に、わたくしを討つといったわね。……それで本当に彼らは救われるの?あの子達は、生きているだけで苦しんでいたのに?」
「何をッ」
「可哀想な子供達。親に売られ、傷つけられたうつくしい小鳥達。彼らはあたたかな食事を、眠る場所を、愛してくれる誰かを求めた、だからわたくしはそれをあげたの。それは、苦しみだけの生から解放する前の下準備よ。一瞬の痛みの前に、出来るだけ優しく、あたたかい毛布で沢山沢山包んであげたわ」
 まるで尊いものを愛おしむように。か弱い生き物を慈しむように。
「わたくしは彼らを救ってあげただけ……貴方達には、あの子達をどう救えたというの?」
 夢見る乙女のごとき笑みを浮かべ首をこてんを傾げるオブリビオンに、アリウムは表情を歪める。モノクルで弱点を探っていたヴィルジールも眉をひそめた。――この少女は、本気で子供達を救っていると思っている。
「あの子達のように毛布には包んであげられないけれど、わたくしは貴方達も救ってみせるわ……ッ!」
 微笑んだ少女が魔剣の刃を向けると、先ほど此方が仕掛けた筈の氷と鋸の嵐が夥しい量となって青年達の前に立ちはだかる。
 少女がふ、と吐息を洩らしたのを合図に、氷と鋸は二人に容赦なく降りかかる。強化された五感を頼りに、あるいは処刑道具の剣を盾にと防御姿勢を取るが、全てを防ぎきることは叶わない。
「ああ、痛いのね。きっと痛いのでしょうね。けれどすぐ終わるわ、終わらせてあげる」
 悲しそうに眉を下げて我が身を掻き抱き、青年達を見つめる純白の翼持つ少女は、慈母神のようだったろうか。
 だからこそ、青年達は迷わない。
「……赦しも救いも、私にとっては甘露の様に魅力的なものです。しかし討った子供を思えば、それらを乞う事はできません。祈る事しかできない無力な私に、その資格はない。この苦汁を傷として背負います」
「嗚呼、そうさ。君に傷つけられなければ、彼らにはもっと幸せな未来を掴むチャンスだって有ったんだ」
 再び自ら召喚した鋸による猛攻で少女を斬り刻む最中、ヴィルジールは戦場に散る花の赤と闇に紛れ接近。露出した白い肌に裂かれた傷口へ剣を一気に突き立てた。
 予想外の動きに体勢を崩した少女の脚を、アリウムがゼラニウム纏う剣で何度も穿つ。
「貴方を倒して、私達は子供達への手向けにする。そして証明しましょう。どれだけ弱くとも、貴方のような神に縋らず、人間は生きていけると!」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ヘンリエッタ・モリアーティ
【WIZ】
救われたかった、なんて、随分大げさだわ。
確かに、……私たちの自己満足を否定はできない。
でも、――今を生きる彼らを、【私たち】を馬鹿にするのはその辺にしておいて。
【魔犬の襲撃】でバスカヴィルを呼ぶわ。彼女の魔剣に映る『あなた』同士で殺し合いなさい。大丈夫よ、『本物』なら、きっと勝てる。
【ロープワーク】で【ワトソン】をワイヤー状に伸ばしてプレアグレイスの近くに飛び移って、【ロックブレイク】で【串刺し】にしてあげる!

……辛い過去があったとしても、未来を生きている人はたくさんいる。
不幸であることを克服した人たちだっている。それが、生きるということよ。
――救われたかったのは、あなたもでしょう?


アンバー・ホワイト
あかい、花…
目が眩みそうになるけれど
瞳逸らさず前へ
籠の主が、こんなに「きれい」だなんて
惑わされはしない、
おまえの赦しなど、求めていない!

星屑の鎖で敵を捉えて、はなさない
鎖を引きながらそれに合わせて踏み出して、
崩れた体に槍の一撃で串刺しにしてやる

捉えられる不安が、支配される恐怖が、わかるか?
偽りの救済など、必要無い!
壊してみせよう、今ここで、トドメを刺す
希望を抱いてと言って聞かせた。わたしはその希望の枷を穿いて開いてみせるんだ!

いつか、いつか、
あたたかな家族で暮らせるような
人が人に売り買いされるなんてことのない世界を、つくりたい
たとえ愚かでも、この手がちっぽけでも
重ねてきた祈りの中で見つけた決意


ハイドランジア・ムーンライズ
……ほれ見ろ。羽根の生えた天使なんざ本当ろくなもんじゃねえ。
奇跡や救済何ざ、ねえ方が良いんだよ。
(真の姿:背の翼が砕け散り消滅する。泥が溢れ返る)


は、浸ってやがんなオイ。
善意と救いの押し売り、相手の都合や気持ちを見る面倒も全部排除で自分の好きなだけ〇〇ってやがんのな。さぞ気分が良-だろーオイ、気持ち良くて良かったなあ?

んじゃ、台無しにしてやる!(ノロワレテ・アレ)

映してパクるなら、パクられても一向に構わん事をすりゃ良いわな!
今回ばっかはお前が適任だ。遠慮なく俺毎叩き付けろ。
泥臭く冗談臭く呪詛たっぷりに何度もだ!

さあ、この有様を前にその御大層ぶった面を続けて見せろよ!
傍目にゃアホその物だがなあ!



「……ほれ見ろ。羽根の生えた天使なんざ本当ろくなもんじゃねえ」
 ハイドランジア・ムーンライズが吐き捨てる言葉は冷たく、その呟きは彼女自身に向けたものだったのかはわからない。
「奇跡や救済何ざ、ねえ方が良いんだよ」
 鈍い色をした歪な翼は砕け散り、付け根からぼたぼたと溢れかえる泥がうつくしい花々の上に落ちてゆく。それはまるで、救いの翼も葬送の華も要らないのだと主張していた。
「折角の綺麗な花畑を、貴女は汚すのね。……でも、いいわ。それもわたくしは赦しましょう、貴女達も可哀想な子供達だもの」
 純白の翼と黒髪を揺らし、オブリビオンはハイドランジアを見てため息をついた。
 あかい花の群れに目が眩みそうになるのを堪え、アンバー・ホワイトはオブリビオンをまっすぐ見つめる。籠の主がこんなに『きれい』な少女だったとは、思ってもいなくて。
 こわばる竜の肩をそっと、ヘンリエッタ・モリアーティが優しく触れる。愛おしい娘が、迷わずこの悪逆に立ち向かう為に、オブリビオンの少女を睨む。
「救われたかった、なんて、随分大げさだわ。確かに……私たちの自己満足を、否定はできない」
 でも。
「――今を生きる彼らを、『私たち』を馬鹿にするのはその辺にしておいて」
「あら、怒らせてしまったかしら」
 女の表情を見ても、先ほど受けた傷をものともしないのか、少女はふふ、と甘く笑んでみせる。
「アレを必ず倒しましょう、アンバー、お嬢さん」
「アンタは……いや、今はそんな場合じゃねえな」
 初めて出会う主人格との挨拶はあとでいい、この胸糞悪い天使を殺すのが先だ。赤と黒、そして背から零れ落ちる泥濘をそのままに、令嬢は人一人分の大きさをした十字架を出現させた。
 親と慕う女の言葉に、竜の子もこくりと頷く。
「うん、倒そう。惑わされはしない……おまえの赦しなど、求めていない!」
 娘の言葉を合図に、ヘンリエッタは一度閉じた目を大きく開き、オブリビオンへと視線を送る。呼び出すモノの名は、バスカヴィル。
「餌の時間よ、我が魔犬」
 大きく吠えた魔犬は一心不乱に敵へと疾駆し、少女の腕を食いちぎらんとする。少女もそのまま腕を奪われる訳にはいかぬと、剣で犬の鋭い牙を防いだ。
「お行儀の悪い仔犬ね!でも、そうね……愛らしいわ。貴女ごと、わたくしが躾けてあげようかしら」
 かのモリアーティを躾けるとは!無知ゆえの恐れ知らずに、ハイドランジアは侮蔑の眼差しを向けて笑い飛ばす。
「は、浸ってやがんなオイ。善意と救いの押し売り、相手の都合や気持ちを見る面倒も全部排除で、自分の好きなだけ〇〇ってやがんのな!さぞ気分が良ーだろーオイ、気持ち良くて良かったなあ?」
「……?ごめんなさい、言葉の意味がよくわからなかったわ。けれど貴女、今とても下品な意味の言葉を使ったのよね?ええ、わかるわ、だってさっきから言葉遣いがよくないもの……というか」
 一瞬きょとんとした少女はどこか憐れむような視線をハイドランジアに向ける。
「ねぇ、貴女、『ソレ』は辛くないのかしら?」
「ハッてめぇをぶっ殺すためならなぁ、今回ばっかはいいんだよ!」
 そう答えたハイドランジアは、先ほど召喚した十字架に『磔になっている』。正確には『問答無用で磔にされている』。真っ赤な花畑の中心で、貌のない怪物が令嬢を磔にした十字架を軽々と持ち上げる、という異様な光景がそこには在った。
「今回ばっかはお前が適任だ。遠慮なく俺毎叩き付けろ。泥臭く冗談臭く、呪詛たっぷりに何度もだ!」
 許可された怪物は十字架を振り上げ、ハイドランジアごと少女へと何度も叩きつける。重力によって勢いのついた一撃は重たく、赤い花弁が散るのと同時に、聖泥をぶわりと撒き散らす。
「ああ、此処まで可哀想だとわたくしも泣いてしまいそうになるわ」
「黙れクソが!!」
 十字架を魔剣で受け止めながら、目に浮かべた涙をぬぐう少女。奇しくも肉薄することになった二人は顔を突き合わせる。その瞬間、令嬢は天使の顔面に唾を吐いた。
「……ッ」
「ちょっとはイイ顔になったじゃねえか、天使サマよ」
 すぐさま唾をぬぐう少女の顔は先ほどと打って変わり、眉は吊り上がっていた。
「貴女がもう少しいい子にならないと、わたくしは貴女を救えなくなってしまうじゃない」
 そう呟いて後退すると、オブリビオンは魔剣の刃を再び輝かせる。現れた魔犬はヘンリエッタの呼んだ魔犬へと襲いかかり、貌のない怪物は無人の十字架を振り回しハイドランジアを攻めたてる。
「いいわ、殺し合いなさい。大丈夫よ、『本物』なら、きっと勝てる」
「さあ、この有様を前にその御大層ぶった面を続けて見せろよ!傍目にゃアホその物だがなあ!?」
 ヘンリエッタは『本物』の愛犬に信頼を託し、ハイドランジアは配下に振り回されながらも挑発を続ける。少女は自分の思い通りにならない猟兵達にしびれを切らし始めた。
「貴女達……いい加減にしないと、わたくしの救いがッ」
「言っただろ、おまえの救いなど、求めていない!」
 魔犬と十字架の間をすり抜けていく、夜色のオーラ。アンバーが放った星空は少女の胴に当たると、宇宙のビッグバンのように盛大に爆発した。
「貴女、愛らしいのにこんなお転婆、いけない……わ……!?」
 取り繕うように笑みを作ってアンバーに語りかけたオブリビオンだが、不意に腕を引っ張られ、がくんと体勢を崩す。竜の猛攻は止まらず、煌く硝子の鎖がしゃらりと音を奏でた。
「わたしは、おまえを、はなしはしない」
「こっの!悪い子、ねぇ!本当は嫌だけど、わたくしが貴女を救えるようにお仕置きしてあげる!」
 腕に巻きついた硝子の鎖を引っ張り返すと、少女の純白の翼は漆黒に変わりゆく。禍々しい黒死天使は魔剣をアンバーの胴を斬り裂こうと振り上げる、その瞬間。
「私の娘を、傷つけるなァ!!」
 ワイヤー状に伸ばされたクランケヴァッフェから飛び移り、竜の子と黒死天使の間に割り込んだヘンリエッタ。勢いを殺すことなく、天使の肩を黒剣で貫いた。
「ッハァ……ッ!!」
 天使の肉体を串刺しにした黒剣をずぶりと抜くと、女は静かに説き伏せる。
「辛い過去があったとしても、未来を生きている人はたくさんいる。不幸であることを克服した人たちだっている。それが、生きるということよ」
 ――救われたかったのは、あなたもでしょう?
 ふらつく身体を赤く染めた黒死天使は、青い瞳になおも昏い光を宿らせたまま魔剣を振るう。
「いいえ、いいえ、わたくしは貴女達を救います、わたくしは救う側、かみさまなのよ……!」
「こんだけこき下ろされてもまだ分かんねえたぁ無様だなあ!そろそろ終わりといこうじゃねえかぁ、カミサマ!」
 振り回される十字架から抜け出したハイドランジアが、手にしたダガーで天使の頭を背後から斬りつける。赤い薔薇と共に、新たな赤色が宙を舞った。
「アンバー!」
 ヘンリエッタの呼ぶ声に、アンバーは白銀の槍を振りかざす。身動き取れぬ黒死天使の少女は最期を悟り、琥珀色の瞳を見据える。
「……わたくしの救済がなければ、彼らはまた飢えに苦しみ、痛みを抱えるの。あなた達はそれを全て救えるのかしら」
 アンバーは大きな瞳を瞬きもせず、青い瞳を見て想いを少女に告げる。
「いつか、いつか、あたたかな家族で暮らせるような!人が人に売り買いされるなんてことのない世界を、つくりたい!」
 たとえ愚かでも、この手がちっぽけでも、重ねてきた祈りの中で見つけた決意。
 星の竜は、幼い牙を少女の胸に突き刺した。
「……そんなの、そんなの無理よ……だって、あたしだって……」
 かつて啓示を受けた少女は、ごぽりと口から血を吐き出すと、涙を流して真っ赤な花畑に埋もれて目を閉じた。


 主が居なくなった祭壇に敷き詰められた薔薇は、少女が消えたのと時を同じくして塵に変わる。
 一陣の風が吹き抜ければ、塵は風に流され、完全に消え失せてしまった。

 もう、此処にかみさまは居ない。傷ついた子供達も、今はもう。
 けれど、この鳥籠に集ったすべての願いが、いつかすべて叶うよう。

 ――花畑のあかい花が、やわらかく揺れた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月27日
宿敵 『救済の代行者・プレアグレイス』 を撃破!


挿絵イラスト