4
愛し愛せど、愛されど

#サクラミラージュ

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#サクラミラージュ


0




 可愛い可愛い、竜がいた。
 とても優しくて、穏やかで、ひとの為を想う竜が。
 こんな子がばけものだって?
 こんな子が、世界を滅ぼすって?

 ――そんな筈がない。そんなわけがない。
 この子を捕まえ、殺すと言うのなら――。



 グリモアベースにて、ネルウェザ・イェルドット(彼の娘・f21838)は集まった猟兵に礼を述べる。今回はサクラミラージュにて、影朧退治を依頼したいのだそうだ。
「……で、それが少し訳有りなようでねぇ」
 彼女はぽんと小さなモニターに、帝都の風景を映し出す。
 画面いっぱいに広がるのは少し大きめの館。映像が進んでとことことその門から出てきた少年は、案の定よく整えられた――如何にも『富裕層の息子』といった格好をしていた。
「この子の名前は椎田・春吉君……ハルヨシ君でいいかな。まあ見ての通り、帝都のお金持ちの家の子だよ。一見ごくごく普通の少年に見えるかもしれないけれど……」
 ぽん、とモニターの映像が切り替わる。
 薄暗い部屋、そこにもぞもぞ動く影。おそらく先程の館の中なのだろうが、この映像ではどこからどう進めば入れる部屋なのかは見当もつかないだろう。
 そんな部屋で蹲る、ほんのりと桜色をしたその巨体は――生物の目玉らしきものを光らせてこちらを向いた。
「……影朧を、匿っているようでね」

 ネルウェザは一度モニターを仕舞い、予知の内容を語る。
「この子、かなり甘やかされて育ったらしくて……その、お友達がいないんだとか。それである日一人で探検だーなんて館の裏山に行ったとき、足を滑らせ頭を打つところをあの影朧に助けられて……」
 そこから、友達になってしまったのだ、と。
「ハルヨシ君自身は、あれが影朧だとは思っていない。おそらく、ペットを飼ってはいけないときつく言われてもなお拾った犬を可愛がりたい、というような……そういう認識で、隠し部屋に影朧を匿っているんだ。だから当然、隠しているものを見せてくれと言っても見せてくれないだろう」

 ではどうやって。そんな疑問が出る前に、ネルウェザは一枚のビラを取り出した。
 そこには『ツイダ展』というシンプルな文字と、何やら抽象的な模様がひとつ。
「この椎田家というのは少し名の売れた芸術家の一家らしくてね。ハルヨシ君はそんなに興味がないようだけれど、息子ということで参加するはずだから……まずは彼の気を引いて、匿っている影朧の場所へ案内してくれるよう誘導してほしいんだ」

 ネルウェザはふわりとグリモアを浮かべ、転送の準備を始める。
「さて、それでは準備が出来た人から送るよ」
 そんな笑みの後、ふわふわと光が回れば――猟兵の視界は、白く白く染まっていくのだった。



 猟兵が辿り着いたのは、出発前に見た通りの大きな館。周囲にはちらほらと人が集まっており、館の門は来客を歓迎するように開け放たれていた。
 中へ入れば、壁を彩る絵、絵、絵。
 そして建物自体もかなり特殊なようで、壁は不思議な角度で部屋を囲み、柱は支えというよりは作品の一部、といったような具合に複雑な曲線を描いていた。

 ふと、部屋の隅。
「むぅ……」
 大人だらけの会場の中、頬を膨らせた少年。おそらく彼が『ハルヨシ君』だろう。
 彼の手には歪な紙飛行機のようなものが握られ、高価そうな服はくしゃくしゃと皺を浮かべており――かなり、退屈そうだ。
 影朧の居場所を突き止めるため、まずは彼の気を引かなければ。


みかろっと
 こんにちは、みかろっとと申します。
 今回はサクラミラージュにて、お友達のいない少年に近づき影朧を退治するシナリオです。
 第一章、抽象的アートの展覧会で一人退屈している少年の気を惹いてください。少年は芸術に興味がなく、どちらかというと外で遊ぶほうが好きです。年相応に夢も見ます。
 第二章、少年の信頼を得るため少しお出かけです。お金持ちの息子なので少し護衛も兼ねて頂くようになります。
 そして第三章にてボス戦をクリアできればシナリオクリアです。

 ご参加お待ちしております!
42




第1章 日常 『極彩の館』

POW   :    細かいことは気にせず力いっぱい楽しむ。

SPD   :    その場に馴染めるよう気を使いつつ楽しむ。

WIZ   :    何かハイカラな楽しみ方を思いついてみる。

イラスト:cari

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

カビパン・カピパン
グリモアベースでの話が途中で面倒になり、話半分に抽象的アートの展覧会に到着し絵を眺める。
「何この絵。意味わかんない」
芸術への理解が難しく、他の来客も同様のことを思うも言えないことをはっきりという。
「まるで子供の絵じゃない、そして何この建物のセンス?」
会場は凍り付いた。
絵をディスりながら回る、そして例の少年と目が合う。

「芸術って退屈ね」
金持ちと貧乏は磁石のように引き合うものがあるのだろう。
芸術をディスる話は盛り上がる。
「私ね、教皇なの」
「嘘」
必死になって真実だと告げるが「またまたぁ」と少年は取りあってくれない。挙げ句の果てには「漫才師でしょう?」とか言う始末。
ファーストコンタクトは良好のようだ。



「……何この絵。意味わかんない」
 展覧会のど真ん中、人々がぐぬぬと各々目を凝らしていた最中。何ともストレートにそんな言葉を放ったのは、猟兵カビパン・カピパン(女教皇 ただし貧乏性・f24111)であった。
 周囲の客は思わず彼女の通る道を開け、ひそひそと小声でざわつき出す。
 グリモアベースでの話が途中で面倒になった彼女は、細かい内容までは聞かぬまま話半分でここに訪れており――この展覧会を開いた人物が少し名の売れた芸術家であろうと、会場の空気がすうっと冷え始めていようと、何ら意に介すことはないようだった。

「まるで子供の絵じゃない。そして何この建物のセンス?」
 絵の具をぶち撒けたような絵画、ぐねぐねと曲がった柱。それら全てを酷評しながらカビパンが会場を歩き回れば、会場はみるみる凍りついていく。
 ――そして、ふと。
 カビパンが部屋の隅、絵画が少なく人気のない一画へと辿り着けば。そこにはぷくうっと頬を膨らせ如何にもつまらなそうにしている件の少年、椎田・春吉の姿があった。
 カビパンはそちらへ歩み寄り、目線を合わせて口を開く。
「芸術って退屈ね」
 理解が無くとも退屈であろうともハルヨシにとってそれは『自分の肉親の作品』であるはずなのだが、不思議と彼がカビパンのコメントを否定することはなかった。
「うん、退屈。こんなののどこがいいのか分かんない」
 続き、こんなもので飯を食い、服や家を飾る家族が不思議だ、と。

 するとカビパンは少し饒舌に、周囲の絵画や建物のデザインを貶しては話を盛り上げていく。金持ちの息子と貧乏人、そんな正反対の二人はどこか磁石のように引き合うものがあるようだった。
 ハルヨシの顔に笑顔が浮かんでくれば、彼の興味はカビパン自身に移る。
「……お姉さんはどういう人なの?」
 そんな質問に、カビパンは誇らしげに微笑んで。
「私ね、教皇なの」
「偉い人……ってこと? えぇ、嘘でしょ?」
 ぷふっ、とハルヨシが軽く吹き出す。カビパンが必死になって真実だと告げても、彼は全く取り合わず――それどころか、冗談だと思いこんでけらけら笑っていた。
「お姉さん、実は漫才師か何かでしょう?」
 挙げ句の果てにそんな事を言い出して、ハルヨシは楽しそうに笑い続ける。むすっと膨らせていた頬も、今は楽しそうに緩んで薄紅に染まっていた。

 ――ファーストコンタクトは良好のようだ。
 カビパンは心の中でそう頷きながら、暫しハルヨシと他愛もない会話を続けるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルナリリス・シュヴァリエ
私はハルヨシ様に興味を抱いています
どうして?と言われると……うーん、困りました
だって、貴方に興味を抱くのに理由は要りませんから。

それは紙飛行機ですか?
なんで、と言われると……困ります
一緒に遊びたいなって思うのにも、理由は要りませんから。

楽しくない?
別に、と言われると……え、困るんでしょうって?当たり
だって、もっと楽しい遊びに誘いたくなるのに理由は要らないのです。

もっと楽しい遊び、つまり冒険(UC『異世界転送』)について聞かれたら、熱く語ります。
TVや映画でも見た事がない美しい世界、
個性的な楽しい人々で賑わう酒場、
巨大迷宮に潜む恐るべきモンスター達……
ハルヨシ君が興味を持ってくれたらと思いつつ。



 会場に軽く足音を響かせるハルヨシ。しかしそんな上機嫌も、つまらない芸術に囲まれて外に出られないことを思い出せばだんだんと曇っていく。
 くしゃくしゃの紙飛行機をポケットから取り出しまた頬を膨らせたハルヨシの元へ、ふわりと金髪を靡かせ近づくルナリリス・シュヴァリエ(変態殺しの聖剣士・f25397)の姿があった。
「お客さん……じゃ、ないね」
 絵画を眺めることなく近づいてきた女性の姿に、ハルヨシはこてりと首を傾げる。絵に興味が無いのかと彼が問えば、ルナリリスは溌剌とした笑みで口を開いた。
「私はハルヨシ様に興味があるのです」
「……ぼ、僕? どうして?」
 予想外の答えに目を丸くしたハルヨシへ、ルナリリスは少し眉を下げて答える。
「そう言われると……うーん、困りますね。だって、貴方に興味を抱くのに理由は要りませんから」
 ハルヨシはぽかんとしたまま、言葉を詰まらせて頬を赤らめる。そして彼の背後、後ろ手に隠された白いものがくしゃりと音を立てれば、ルナリリスはそちらを指して問いかけた。
「それは紙飛行機ですか?」
 するとハルヨシが手を更にぎゅうと隠し、なんで、と問い返す。ルナリリスは先程と同じ調子で困った表情を浮かべ、更に続けた。
「一緒に遊びたいなって思うのにも、理由は要りませんから」
 変な人、とハルヨシが呟く。友達のいない彼にとって、こうも理由無く近づき話しかけてくれる人などそうそういないものだ。
 そんな思いもあり半信半疑なハルヨシの手元から――はらり、と皺だらけの紙飛行機が離れて。
 ルナリリスは手に取った紙飛行機を少し伸ばし、ハルヨシから三歩ほど距離を取る。ひゅうと軽くルナリリスが紙飛行機を飛ばせば、ハルヨシは慌ててそれを空中で掴み投げ返した。

 狭い会場の中、人気のない開けたエリアで数回紙飛行機が往復する。ハルヨシが嬉しさと困惑を混ぜたような複雑な表情を浮かべれば、ルナリリスはふと彼に近づいて。
「……楽しくない、ですか?」
 ハルヨシは別に、と目を伏せて答える。しかしルナリリスが再びうーんと先程の調子で息を吸い込んだ瞬間、彼はぷふっと小さく吹き出して笑った。
「また、困るんでしょう」
 これで三度目。本当に不思議な人だとハルヨシが零せば、ルナリリスは微笑んで言葉を紡いだ。
「だって、もっと楽しい遊びに誘いたくなるのに理由は要らないのです」
「……もっと楽しい、遊び?」
 何それ、と問いの声が上がる。
 するとルナリリスは突如何かに火が付いたように、自分の故郷のことを熱く語りだした。
 本や映画でも見たことがない美しい世界。個性的な楽しい人々で賑わう酒場。巨大迷宮に潜む恐るべきモンスター達――そんな冒険譚や夢物語のような話に、ハルヨシは興味津々といった様子で瞳を輝かせていく。
 ルナリリスは次々にそんな話を続けながら、少年の幼い好奇心を擽り続けるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シャルロット・リシュフォー
歌を歌う者の立場からすると
芸術に興味がない、というのもちょっと寂しいですね
この展覧会の絵も、素敵な作品がありますのに

ともあれ、まずは気を引かなくては始まりませんね
「こんにちわ。あなたも招待されて来たのです?」
「私、もうぐるっと一周して見るものがなくなってしまいました」
「せっかく天気が良いのですから、外に出たら気持ちよさそうなのに」
と話しかけて『私も退屈してます』アピールです

それで向こうから外に行きたい、と言い出してくれたらそれに乗るです
ダメならもっと直接的に誘いましょう
「私、これでもかくれんぼとか得意なんですよ?どうせなら外で遊びませんです?」

【アドリブ歓迎】



 ハルヨシは相も変わらず、会場のそこかしこに飾られた絵や建物の造形をつまらなそうな表情で流し見る。猟兵との会話や触れ合いで心が弾んでいようと、彼の興味は芸術には一切向いていないようであった。

 会場を歩くシャルロット・リシュフォー(歌声アステリズム・f00609)は、そんな彼を見て少し肩を竦める。歌を歌う者、芸術を人々に伝える者の立場からすれば――年若いとはいえ芸術に興味のないハルヨシの姿には、少し寂しいというものだ。
 人々がうぅんと唸り見つめる絵をちらと見ながら、シャルロットはハルヨシのいる場所、絵の少ないエリアへと近づいていく。
 ――何はともあれ、まずはあの少年の気を引かなければ。
 さり気なく距離を詰めたャルロットは少し屈んでハルヨシと目線を合わせ、柔らかな笑顔で声を掛けた。
「こんにちは。あなたも招待されて来たのです?」
「え?」
 きょとんとするハルヨシに、シャルロットは小さく息をついて続ける。
「私、もうぐるっと一周して見るものがなくなってしまいました」
 彼女がそう告げれば、ハルヨシは驚いたような顔を見せた後――すぐに、訝しげな表情へと変わる。よく見ていられたね、途中で飽きなかったの、と問う彼に、シャルロットは微笑んだままで答えを返した。
「ええ、素敵な作品も見られましたから」
 するとハルヨシはふうん、とつまらなそうに、しかし僅かに嬉しそうな表情を混ぜて相槌を打つ。幾ら興味がなく退屈なものでも、自分の家族の作品を直球で褒められると少しは嬉しいのだろう。
 しかし、興味がないものはないのだ。ちらちらとハルヨシの視線が動く先は会場の出口で、すぐにでも外に出たい、という気持ちが分かりやすく表れていた。

 シャルロットは軽く腕を伸ばし、ハルヨシの見遣る方に視線を動かして口を開く。
「せっかく天気が良いのですから、外に出たら気持ち良さそうなのに」
「……お姉さんも、そう思う?」
 ハルヨシの目がきらと輝く。
 シャルロットの退屈アピールは同じく退屈しているハルヨシからかなりの共感を得たようだ――が、彼の視線はふと出口から少し離れたところへ移った。
「駄目なんだ。出たいんだけど……今日はここに居てって言われてるから」
 そう言ってハルヨシは、この展覧会が家族の主催だと改めて説明する。甘やかされ可愛がられているとはいえ――否、可愛がられているが故に、この展覧会で家族の作品を鑑賞し楽しむよう言われているらしい。

 それでも、少しでも楽しく遊べれば退屈も紛れるだろう。シャルロットは周囲を見渡し、触っても大丈夫そうな彫刻の並ぶ方へとハルヨシの手を引く。
「……ぼ、僕ああいうの興味ないし……」
 そう言葉を濁すハルヨシに、シャルロットは笑顔で振り向いて。
「私、これでもかくれんぼとか得意なんですよ」
「かくれんぼ……」
 ――この人は芸術とかいう退屈なものを無理矢理楽しませる気ではない。そう察したハルヨシはぱっと明るい表情を見せ、シャルロットの後を追いかけるように足を動かした。

 変な彫刻に身を隠し、もういいかい、もういいよと楽しそうな声が響く。
 周囲の人々も思わず顔を綻ばせる中、少年はシャルロットと共に少し違った視点で展覧会を楽しむのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニコ・ベルクシュタイン
ふむ、俺は俺で素人なりに物書きをしているが
何にせよ好悪で評価されるよりも
そもそも興味を持たれない事の方が堪えるな
作者たるお父上も、寂しく思われているのではなかろうか

だが春吉少年には其れも関係なかろうな
子供は…俺自身に子供時代の経験が無いので扱いに困るが…頑張ろう
興味のない所に無理やり連れて来られては、誰でも面白くはあるまいて

「退屈かい?少年」
さりげなく声を掛けつつ様子を伺う
会話に応じてくれそうならば
「君の興味は今どんなことにあるのかな?」
「折角だから楽しい話をしよう、良ければ教えて欲しい」
と、情報の引き出しを試みる

春吉少年の話は原則として全肯定
楽しげに相槌を打って話を弾ませ
距離を縮めておく



 彫刻の間を回るハルヨシの表情は、だんだんと心底つまらないといった様子ではなくなっていく。しかしそれは猟兵が彼に話しかけ、遊んでくれたからであり――決して、芸術を理解し、興味をもったわけではない。
「ふむ……」
 ニコ・ベルクシュタイン(時計卿・f00324)は頤に指を添えて考え込む。
 好きでも嫌いでもなく、ただそもそも興味がない。まだ幼い少年故に仕方のないことなのかもしれないが、ニコも素人なりに物書き――つまり絵画や建築と名は違えど同じ、表現を他に伝える者だ。そんな彼の立場から見れば、親の作品にさえ心を動かさないハルヨシの認識は多少堪えるというものだった。

 作者たるお父上も、寂しく思われているのではなかろうか――そんな想いがニコの頭を過ぎる。
 しかしハルヨシは作品を批判する声を否定することもなければ、退屈を隠して楽しそうな表情を作ることもない様子だ。おそらくあの少年にとっては、親の想いも自分には関係のないことなのだろう。
 ならば無理矢理にその想いや芸術を押し付けるのではなく、自然に心を開かなくては。
 ヤドリガミであり子供時代の経験がないニコは幼い少年の扱いに少々思案しつつも、堅い表情をほんの少し緩くして意識を切り替え、ハルヨシの元へと歩き始めた。

 ――何より、興味のない所に無理矢理連れてこられては誰でも面白くはあるまいて。
 こつ、と靴音を止めたニコは小さく息を吸い込んで。
「退屈かい? 少年」
 ニコがさり気なく声を掛ければ、ハルヨシはこくりと頷く。
「うん、とっても退屈。お兄さんは絵、見ないの?」
 そう、ハルヨシは周囲の彫刻や絵画を指して溜め息混じりに答える。ニコはそっと目線を合わせるように屈むと、軽く頷いて話を続けた。
「なら、折角だから楽しい話をしよう。君が今興味を持っていることはあるかな」
 ニコが柔らかく問うと、ハルヨシは何かを言いかけて口を噤む。
 小さく『あれは秘密だし』という声が漏れた後、ハルヨシはくしゃくしゃの紙飛行機を取り出してニコに見せた。
「これ、最近覚えたんだ。何回も折り直したから不格好だけど」
 するとニコは口角を僅かに上げ、凄いな、と一言賛辞を述べる。その言葉に嬉しそうな笑みを浮かべたハルヨシは、更に本の話や宇宙の話を次々に広げていった。

「それで、最近――」
 ふと、少年の浮ついた口が『友達』の話題を紡ぎかける。それは先程ぐっと飲み込んだ、彼の秘密の話であった。
 ハルヨシはは慌てて口を押さえ、忘れてほしいと首を振る。
 今すぐ無理に聞き出すことはあるまい、とニコが一度その話を流してやれば、ハルヨシは再び自分の興味の話を始めた。

 この調子なら、彼が素直に『友達』のことを話してくれるのも時間の問題だろう。
 お菓子の話、花の話、鳥の話――ニコは楽しげに相槌を打ちながら、だんだんと少年との距離を縮めていくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ファルシェ・ユヴェール
抽象画というものは不思議ですね
作者の人柄や立場、時代背景、技法
把握してなお理解し読み取るのは難しく
感覚だけで良さを感じるには作者に近い感性が要る
興味の無い子にとっては尚更判らない物でしょう

彼が会場を離れられぬならば
先ず全体を見て回り
タイトルの面白い作品、特徴的な図形がある作品等を覚え置き
それから隅で不貞腐れている子に声を掛けます

ふふ、退屈そうですね
けれど例えば……此処に怪盗からの予告状が来たら?
此処に並ぶ作品のどれかに宝石が隠されている
その作品とは?
名探偵はハルヨシ君、貴方です!

会場内を回って作った謎解きゲーム
彼が乗ってくれれば、傍目には熱心に作品を見て回るようにも見えて
一石二鳥ではないかと



 小気味良い靴音が響く。造花と宝石に飾られた煌びやかな衣装を纏うファルシェ・ユヴェール(宝石商・f21045)は、絵や彫刻、建物の造形に見入っていた客の視線を少しばかり奪いながら会場を巡っていた。
 彼は徐に、観客のいない一つの絵の前で立ち止まる。
 絵の具をただ叩きつけたような色の塊と謎の線が幾つも交差するそれの下には、『現実』――題名と思われる文字を書いたプレートがぽつり。そのまま隣へ、隣へと足と視線を動かしていけば、これまた色彩豊かな絵の下に『慈愛』や『明暗』といった漠然としたテーマばかりが並んでいた。
 ファルシェは先ず不思議、という感想を抱きつつ、抽象的な絵画の数々を真剣に見つめる。明確な人や物が描かれていない色の集まりは、作者の人柄や立場、その手から生まれる技法、それを囲む時代背景――そういったものを把握しても尚、理解し読み取るのは難しい。
 こういったものはおそらく、感覚だけで良さを感じるには描いた作者に近い感性が必要であり――息子とはいえ年若く興味のないハルヨシにとっては尚更判らないものだろう。

 絵とその下の文字を眺めつつ、ファルシェは何かを紙に書き記して奥へと進んでいく。すると彼はその先、年齢層の高い客の中でひとり不貞腐れる件の少年、ハルヨシの姿を見つけた。
 多少機嫌は直っているようだったが、やはり外に出て遊びたいのだろう。その目は会場の出口に移っては輝き、周囲の作品に戻ってすんと伏せられるのを繰り返していた。

「ふふ、退屈そうですね」
 常の笑みを浮かべて声を掛け、ファルシェは申し遅れましたと手短に名乗って丁寧に一礼する。慇懃な態度と仕草にハルヨシは一瞬家族の知人や取引先の顔を頭に並べて背筋を伸ばすが、その装いが帝都らしくないことに気づくとすぐに表情を戻し頷いた。
 本当に退屈、早く帰って遊びたい。そうぶつぶつぼやくハルヨシに、ファルシェはそっと近づいて一枚の紙を差し出して。
「例えば……此処に、怪盗からの予告状が届いたら如何でしょう」
 するとハルヨシの目がきらっと輝く。オフホワイトの紙にすらりと並ぶ文字は、幼い少年の心をこれでもかと擽るアトラクションだった。
『今宵、絵に隠された宝石を頂きに参上する。これは、この手紙を受け取った君への挑戦状だ。私より早く見つけられるものなら、見つけてみると良い――怪盗Yより』
「か、怪盗……!!」
「さあ、名探偵はハルヨシ君、貴方です!」
 興奮したハルヨシがぺらりと紙を捲れば、そこには幼い少年でも十分解けそうな――ファルシェがこの会場に飾られた作品の題名から作った、簡単な謎解きゲームがひとつ。
 ハルヨシはわぁっと無邪気な笑みで会場の作品に視線を動かすと、予告状を握りしめて早速駆け出していった。

「は、ハルヨシがあんなに楽しそうに絵を……」
 そんな呟きにファルシェが振り向くと、少し離れたところでうっすらと涙を浮かべる女性が目に入る。歳を重ねていながらもどこかあの少年に似た外見から察するに、ハルヨシの母親か姉妹だろう。
「やっぱり、無理に押し付けるよりああやって触れさせたほうが良かったのね」
 そう苦笑して、女性は壁の絵をひとつ外す。気づけば時計は既に展覧会の終了時刻を指しており、周囲にいた客が満足そうに帰っていくのが見えた。

 ――そして、少しして。
「お兄さん! 見つけたよ!!」
 無邪気な声が近づく。小さな宝石を握りしめるハルヨシにファルシェはおめでとうございます、と微笑んで小さな拍手を送ると、また丁寧に一礼して会場を後にするのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『お忍びをサポート』

POW   :    疲れたときは任せろ!

SPD   :    隠密行動なら任せろ!

WIZ   :    案内は任せろ!

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 日は傾き、向こうの空が橙に染まり始める頃。
「父様、ちょっとでいいから!」
「ううむ、しかし……」
 椎田家の門の前では、ハルヨシがしつこく駄々をこねる姿があった。

 今からでも外で遊びたい。帝都のどこかに出掛けたい。そんな少年の要求に父親は眉を顰めつつも、可愛い息子の頼みだと葛藤しているようだった。
「もう暗くなるし危ない。それに、今日は色んな人に遊んでもらったんだろう?」
「うう……じゃ、じゃあ、あの人達と一緒なら?」
 あの人達――つまり、猟兵。彼等ならば信頼できるか、と父親は少し表情を緩める。するとハルヨシはその表情の変化を見逃さず、それなら良いんだね! と父親に詰め寄った。
 父親は思わずこくりと頷いてしまう。するとハルヨシはわーいと両手を上げ、帝都の繁華街へと駆け出していってしまうのだった。

 ――あの人達のおかげで展覧会も少し楽しかったし、こんな時間にも出掛けられる。ハルヨシはふんふんとご機嫌に鼻歌を歌い、繁華街へと向かっていく。
 ふと、彼はポケットからくしゃくしゃの紙飛行機を取り出して。
「あの人達なら、僕の『友達』……助けてくれるかな」
 そう呟いてくるり振り向くのは、父親がとぼとぼ戻っていく我が家。ハルヨシは小さく息をつきながら紙飛行機をポケットに戻すと、猟兵を探しながら歩き出していった。



「ええと……犬の餌じゃ駄目だよね」
 そう呟いて、ペットショップを離れる。
「野菜……って食べるのかな」
 そう呟いて、八百屋を離れる。
 ハルヨシは明らかに自分で使いそうにないものばかりを見つめながら、うーんと悩んで次々店を回っていた。

 ――そんな中。
「……あいつ、椎田のお坊っちゃんじゃね?」
 ハルヨシは幼い子供とはいえ、有名な芸術家の息子。故にこんな時間に変装もせず一人で街を歩けば、良からぬことを企む者の一人や二人は出てきてしまうものだ。
 ハルヨシの信頼を得て、彼が隠している『友達』に辿り着くため――そして、彼自身を無事に家に帰すため、一緒に夕方の街での買い物を楽しもう。
カビパン・カピパン
「余計なリッチは身を滅ぼしますわよ」
父親が許しても、買い物はカビパンが許さなかった。
自らが体験した、貧乏性エピソードを春吉に言い聞かせる。
「食料調達は自分でやりましょう」
二人で釣りをすることに。
途中現れた、良からぬ輩は【女神のハリセン】でツッコミし、改心させた。
やっぱ漫才師なんじゃ…

「やった、釣れた!」
竿も木の蔦で作り、釣り餌採集から仕掛けに虫を付け替えさせる作業も春吉にやらせて魚が釣れた。
「春吉君は今まで、自分の力で物事を達成したことはなかったでしょう?苦労したから嬉しく感じるんですよ」
「え、それを教えるために」
「悪くないでしょう」
春吉もふっと微笑んで
「うん」
極上の笑顔をうかべて笑った。



「あ、これなら……!」
 ハルヨシがすっと手を伸ばそうとしたのは、明らかに子供が買うような値段ではない豪華なケーキ。見ていた店員もぎょっと目を丸くするが、ハルヨシの顔と手に握りしめた財布を見るや否や納得したようにああ、と声を上げていた。

 そして『これください』という声が響く――寸前。
「余計なリッチは身を滅ぼしますわよ」
 そう諭すように、カビパン・カピパン(女教皇 ただし貧乏性・f24111)がハルヨシの前に現れる。店員は一瞬肩を落としかけたが、幼い子供に大金を使わせずに済んだからか内心ほっとしたような様子であった。
 しかし、ハルヨシは止められたことでむっと頬を膨らせる。彼は見覚えのある顔に向き直り、ええと、と一拍置いてから言い返した。
「さっきの漫ざ……じゃなかった、教皇のお姉さん……だよね。このお金は父様が何買っても良い、って言ってくれたんだからいいでしょ?」
 するとカビパンは首を振り、一旦ハルヨシを店から連れ出し遠ざける。

 そこから語られるのは、彼女が嘗て体験した貧乏性エピソード。幾らでもお小遣いが貰えるお坊っちゃんには中々経験できない話の数々は、次第にハルヨシの表情を真剣かつ神妙なものに変え始めていた。

 ……少しして。
 一通り言い聞かせたカビパンは、ハルヨシと共に街の外れへと赴く。
 さらさらと水の流れる川の前、彼女は周囲の木々や草花を指して口を開いた。
「食料調達は自分でやりましょう」
 こくり、とハルヨシが頷き、財布を仕舞おうとした瞬間。

 がさがさっ! と向こうの茂みが激しく揺れ――二人の覆面姿の男が飛び出した。
「その財布を寄越……」
 ――スパーン!! と小気味良い音がこだまする。ハルヨシに近付こうとした男達はカビパンに頬を打たれ、呆気なく茂みの向こうへと戻されてしまった。
 ふと、ハルヨシがカビパンの手元を見ると。
 彼女の手に握られていたのは――ハリセン、だった。
「お姉さん、やっぱり漫才師なんじゃ……」
 そんな疑惑の目を向けつつ、ハルヨシは取り敢えず周囲の自然に視線を戻す。
 食料調達、といっても――『友達』にあげるのに、そのへんの草や木の実では少し映えない。そう心の中でぼやきながらハルヨシが眉を顰めていると、カビパンは近くの木の根元から一本の蔦を拾い上げた。
「……これで釣りをするんですよ」



「やった、釣れた!」
 そんな、楽しそうな声が上がる。
 木の蔦で作った釣り竿の先には、掌サイズの魚がびちびちと必死に身体を動かしていた。
 釣り竿から餌の採集、さらにはそれを付けて川に投げ入れるまで――全て、カビパンは敢えてハルヨシ自身に体験させて見守る。最初は気持ち悪いだの堅いだのと文句を垂れていたハルヨシも、今となっては純粋に釣りを楽しむ少年の顔をしていた。
 お姉さん、見てみてと魚を掲げるハルヨシへ、カビパンはまるで聖人のような――否、聖人の微笑みで語りかける。
「春吉君は今まで、自分の力で物事を達成したことはなかったでしょう? 苦労したから嬉しく感じるんですよ」
 ハルヨシは魚に視線を落とし、そしてカビパンの顔を見て。
「……それを教えるために、釣りを?」
「悪くないでしょう」
 カビパンの言葉に、ハルヨシはふっと微笑んで確かに頷く。
 彼の顔に浮かんだのは、とても純粋で子供らしい極上の笑顔であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シャルロット・リシュフォー
今回集まったメンバーでは、私は一番年下…つまりハルヨシ君と一番年が近いようです?です?
なら、私は陰ながらではなく堂々と同道させてもらうです。
彼のお父様も私達が目付をするということで許してくれたそうですし

道中ではそうですね、家族の話とか聞いてみたいです
「ハルヨシさんのお父様はどんな方なのです?」
「それじゃあお仕事忙しそうですっ。普段はどんな遊びを?」
信頼度を上げるためにコミュニケーションを取りつつ、可能なら『友達』の事に言及しそうな話題に誘導したいですのね

不埒者は……正直過剰戦力な気もしないでもないですけど
万が一手を出してきたらハルヨシ君を連れて退避と防御に専念しますの

【アドリブ歓迎】



 手に袋を下げたハルヨシは、同道を堂々と申し出たシャルロット・リシュフォー(歌声アステリズム・f00609)と共に夕暮れの街を歩く。歳の近い二人が並んで店を回る姿は、まるで姉弟のようであった。
 ハルヨシはあれこれ買うものを悩んでシャルロットに助言を乞いつつも、『誰』に贈るものかは内緒と言ってなかなか話さない。そうして次々悩んでいる内に、二人はいつの間にか賑やかな人混みから遠ざかっていった。

 こつこつと心地よい靴音が揃う。そんな道中、シャルロットはさり気なくハルヨシにひとつ問いかけた。
「そういえば……ハルヨシさんのお父様は、どんな方なのです?」
 するとハルヨシはうーん、と一拍置いて。
「……変な人。僕のことは大好きなくせに、僕が興味ない変な絵とか像とかばっかり見せてくるし。でも沢山お金を稼いでるから……何でも好きなもの買ってくれるしお小遣いもくれるよ」
 ほらね、とハルヨシはぱんぱんの財布を開いてみせる。つやつやの革から覗くのはひと目で分かる程の大金で、近くを歩いていた人も一瞬目を奪われながら通りすがっていった。

 そして同時に、シャルロットは物陰で何かが動くのを察する。
 明らかに、こちらを狙う気配。しかしシャルロットがその方向へ確かに視線を向け、見つめれば――覆面を付けた怪しい男達が、慌てて逃げていくのが見えた。
 大方、ハルヨシの財布が目当てだったのだろう。
 なんと不埒な、とシャルロットは小さく息をついて話に戻る。
「沢山お金を……それじゃあお仕事忙しそうですっ」
 シャルロットの言葉に、ハルヨシはこくりと寂しそうに頷く。
 しかし、『でも今は』と言いかけたハルヨシは――少しだけ悩んでから、シャルロットに近づいて声を潜めた。
「……これから言うことは秘密だよ」

 こそこそ、とハルヨシはシャルロットの耳元で小さく小さく言葉を紡ぐ。
 家を抜け出して、人気のない山に行ったこと。
 そこで少し危ない目に遭って、『友達』と出会ったこと。
 そしてその『友達』が――誰かに命を狙われていると言うから、家族にも内緒で家の奥に匿っていること。

 これ以上はお姉さんにも秘密、とハルヨシが顔を離してシャルロットに向き直る。その表情はとても真剣で、先程の話が彼自身にとって嘘ではないのだと告げていた。
「あの子は外に出られないから……僕が何か買ってあげようと思って。お姉さん、手伝ってくれる?」

 彼の話をここに来る前――グリモアベースでの話と照らし合わせれば、それがハルヨシと同じような『人』でもなければ、ずっと『友達』でいられるものでないことは明らかだった。
 しかし、ここで諭してしまってはシャルロットまで『命を狙っている誰か』にされかねない。
 ここで信頼を得るため、そして何より、今この瞬間だけでも彼を悲しませないために――シャルロットは、優しい微笑みでこくりと頷いていた。

 そして、二人は通り過ぎた商店街に再び爪先を向ける。
 シャルロットは改めてハルヨシと共に、『友達』へのプレゼントを買いに歩き出すのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルナリリス・シュヴァリエ
私はハルヨシ様と一緒に行動して、荷物持ちを担当します。
もちろん他に一緒に行動される方々がいれば
話をあわせますし、協力も惜しみません。

繁華街には中々来られないのですよね?
では欲しい物は全部、買って帰りましょう。
もし邪魔しようとする相手がいれば、この聖剣アストライアで一掃
……という訳にはいきませんか。目立ってしまいますね、仕舞っておきます。

ですがハルヨシ様が手にした一時の自由、大切にしてあげたいものです
そんな思いで説得を試みて、邪魔しないように呼び掛けてみます。
UC『演説下手』で説得も苦手ではありますが
相手が何と言おうと、何をしようと
ハルヨシ様を行動を共にして守ることを優先します。友達ですから。



 ハルヨシの荷物は少し増え、軽く弾んでいた靴音が僅かにその速度を緩める。隣を歩いていたルナリリス・シュヴァリエ(変態殺しの聖剣士・f25397)は一度彼を呼び止めると、笑顔で荷物持ちを申し出た。
「少し持ちますよ、ハルヨシ様」
「……いいの?」
 遠慮を見せつつも、ハルヨシは荷物を半分ほどルナリリスに差し出す。
 するとルナリリスはそのまま、ハルヨシの荷物の殆どを腕に抱えてすっくと立ち上がった。
「わ、そんなに持たなくてもいいのに」
 幼いなりに気遣いを見せるハルヨシに、ルナリリスは優しくいえいえと首を振る。
「繁華街には中々来られないのですよね?」
「……そ、そうだけど」
「では欲しいものは全部、買って帰りましょう」
 そう言ってルナリリスが視線を動かした先は、玩具や菓子の並ぶ店の数々。思わずハルヨシは財布を出してそちらへ足を踏み出しかけるが、しかしぐっと踏み留まって財布を懐に戻した。

「欲しいものはいっぱいあるけど……今は――」
 その続きを慌てて抑え込む。だが彼は少し『この人なら大丈夫かな』と考え込みながら呟くと、ルナリリスに向き直って小さな声で告げた。
「今は、友達のプレゼントを買いたいんだ」
 だから手伝ってほしい、と続ければ、ルナリリスは勿論といった笑みで一つ頷く。
 もしも彼を狙う輩が居ようものなら――と携えた聖剣に目を向けるが、只でさえ顔の知られているハルヨシと猟兵であるルナリリスがこの賑やかな街道で派手に目立ってしまえば、流石に買い物どころではなくなってしまうだろう。
 ルナリリスは聖剣から視線を外しつつ、荷物を抱え直してハルヨシと共に歩き出した。

 あれは、これはと助言を求めながら品物を選ぶ姿を微笑ましく見守る道中――周囲にいた、恐らくハルヨシを知っているのであろう人々があらあらと微笑みを浮かべて近寄ってくる。
 孫を見つけた祖父母のような表情は何とも和むものではあったが、今はそれに巻き込んで時間を奪われるわけにはいかない。
 ルナリリスはユーベルコードの力を纏いつつ、ハルヨシに近づく人々の行く手をさり気なく阻んで声を掛けた。
「……申し訳ありません、ハルヨシ様は今お忍び中でして。今は少し自由にさせてあげて下さい」
 にこり、と彼女が微笑めば、ハルヨシを囲もうとしていた人々は仕方ないと散り散りになっていく。そんなことなど露知らず、ハルヨシは更に品物を選んではむむむと悩み続けていた。

 その一歩後ろに付きながら、ルナリリスは助言と護衛、そして荷物持ちに徹してハルヨシを見守る。
 そうしてようやく桜色の髪飾りを買ったハルヨシは、笑顔でルナリリスに礼を述べるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニコ・ベルクシュタイン
ふむ、不埒な輩の魔の手が迫る可能性も視野に入れねばならぬのか
幸い俺の身なりは其れなりにがっしりとした成人男性という事で
ハルヨシ少年と共に居るだけで所謂「ボディガード」になるかな
お父上からも信頼を置いて貰っているようだし、其れを頼りに
ハルヨシ少年への同行を申し出ようか

先程は楽しい話を聞かせてくれて有難う、と礼をしつつ
「誰への」買い物かと単刀直入に問う
自分の買い物であればそうも迷うまい、であれば他人宛てと見るべきだ
誰にも口外はせぬ、あくまで買い物の手伝いの為だと付け加えて
其の上で無理強いはせず、聞き出せる範囲で情報を得たら
本当に必要になるものを二人で見繕おう

金ならある?はは、其の台詞はまだ早いぞ!



 街はもう薄暗く、朱の空も少しずつ藍を混ぜて星を瞬かせていた。
 子供はもう帰る時間。そう告げるように天と地を指す大時計の針を見遣りながら、ニコ・ベルクシュタイン(時計卿・f00324)はハルヨシの元へ歩み寄る。
 ゴーン、と重い鐘の音が鳴る中、ニコは小さくハルヨシに呼び掛けてから話し始めた。
「……少年、先程は楽しい話を聞かせてくれて有難う。まだ悩んでいるのかな」
「わ、さっきのお兄さん」
 ハルヨシは手に取ろうとしていた桃色のリボンから一度離れ、ニコに向き直って答える。
「もう少し考えたくて……大丈夫、真っ暗になるまでには帰るから」
 そう少し口ごもって服の裾をくしゃくしゃと握るハルヨシに、ニコは柔らかな笑みで一度頷く。しかし一人では危険だとニコが同行を申し出れば、ハルヨシはにっこり笑ってそれを承諾した。
 成人男性の姿をとるニコは其れなりに精悍な体躯をしており、裕福な少年の隣で凛と立つその姿はボディーガードのようにも見える。そんな彼がちら、とひとつ先の店の影に視線を向ければ――こそこそとハルヨシの様子を伺っていた何者かが、あれは流石に襲えないと舌打ちをして何処かへ去っていく気配がした。

 ――日が落ちるまでそう時間はない。
 それでも未だ唸り悩み続けるハルヨシに、ニコは少し考えてから問い掛ける。
「少年。それは『誰への』買い物か……訊いても構わないか?」
「えっ?」
 ハルヨシはびくっと肩を震わせ、選ぼうとしていた鞠をころりと落としそうになる。ニコはそれをそっと少年の手に戻しつつ、更に続けた。
「自分の買い物であればそうも迷うまい。となれば其れは他人宛て……だろう? 大丈夫だ、誰にも口外はせぬ」
 飽く迄も買い物の手伝いの為だ、とニコが付け足せば、ハルヨシは品物選びよりも悩んでからぐっと声量を小さくする。そしてニコの耳元に顔を近づけると、絶対に誰にも内緒だよ、と一言置いてから話し出した。

「……少し前、僕を助けてくれた『友達』。すごく可愛い竜なんだ。今は誰かに命を狙われてて外に出られないから、せめて秘密部屋の中でも楽しめるものを買ってあげられたらと思って」
 絶対内緒だからね、と念を押すハルヨシに、ニコは口角を上げて頷く。彼は話してくれて有難う、と礼を述べて立ち上がるや否や、再びハルヨシと共に商店街を歩き出した。
 本当に必要になるもの――その『友達』が本当に喜んでくれそうなものを見繕おうとニコが言葉を紡げば、ハルヨシは勿論、と笑みを浮かべて懐に手を突っ込む。
 その小さな手が取り出した財布は、子供のものとは思えない光沢と重量をしていた。
「……お金なら沢山あるよ!」
「はは、其の台詞はまだ早いぞ!」
 何故か誇らしげに告げたハルヨシへ、ニコは言葉を返して笑う。こつこつと鳴る靴音は、だんだんと速さを合わせて揃っていった。

 ならばとびきりの贈り物を、と商店街を巡り、二人はあれこれ急ぎつつもじっくり、じっくりと店に並ぶ商品から買うものを選んでいく。
 そうしている内にも太陽はゆっくりと向こうに沈み、大時計の鐘がまたゴーン、ゴーンと重い音を響かせ夜を告げるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『正常を望む者』

POW   :    わかってる、“自分”が何をしていたのか知っている
【理性を優先する自分と】【本能を優先する自分の】【記憶が混雑すること】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD   :    食べたい、壊したい、満たされたい
自身の【瞳】が輝く間、【爪や牙やブレス】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
WIZ   :    あなたを助けたいの
【桜色のブレス】が命中した対象を高速治療するが、自身は疲労する。更に疲労すれば、複数同時の高速治療も可能。

イラスト:黒無

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はサフィリア・ラズワルドです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ――この人達なら、あの子を助けてくれるかな。
 プレゼントを手いっぱいに抱え、猟兵に礼と別れを告げる寸前、ハルヨシは考え込んですうと息を吸い込む。
「ねえ、お兄さん、お姉さん……もうひとつ、お願いしたいことがあるんだ」
 ハルヨシは続ける。
 そのお願いとは――大切な『友達』を、自由に生きられるようにすることだった。

 山の中で助けられた後、『友達』は誰か――恐らくは、影朧だと気づいた帝都桜學府の者だろう――に攻撃され、ハルヨシと共に彼の家へと逃げ込んだ。そして金や玩具はあれど遊んでくれる者のいなかったハルヨシは、優しく接してくれるその『友達』と話し、遊び、今も家の地下にある隠し部屋に匿っているらしい。
 しかしこのままでは『友達』はいつか殺されてしまう。
 このプレゼントも、無駄になってしまう。

 あの友達と同じように、展覧会で遊んでくれたり、商店街に一緒についてきてくれたりと優しくしてくれた猟兵達なら――そう信じて、彼は真剣な表情で言った。
「お願い、あの子を助けて」
 ハルヨシはそう懇願して家の裏、しっかりとカモフラージュされていた地下への入り口へと猟兵を招き入れた。



 暗い階段を降りて、ハルヨシはポケットから小さなランタンを取り出す。
「ここが僕の隠し部屋で――」
 そう紹介しながらぱち、と照明を付けた瞬間、ハルヨシは絶句した。

 賑やかに飾られたその部屋は、明らかに何かが暴れまわったように荒れている。爪痕、焦げた壁、切り裂かれた絨毯。そしてその中央で蹲る桜色の竜へ、ハルヨシは慌てて駆け寄っていった。
「一体、だれがこんなこと……!? ねえ、大丈夫!? しっかりして!!」
 そう声を掛けたハルヨシは――ドゴッ!!! と勢いよく壁に叩きつけられ、動けなくなってしまう。しかし意識はあるらしく、なんで、とただ訳も分からぬまま竜に問いかけていた。

「ああ……違う、違う。わたしは、この子が好きなのに……違うの……」
 その竜は――影朧は、明らかに様子がおかしかった。
 この部屋で暴れまわったのも、今彼を吹き飛ばしたのも、自分の意思ではない。そう否定するように首を振っては、鋭い爪を振り回して部屋を傷つける。
「ああ……おなかがすいた、おなかがすいた――たべなきゃ……たべなきゃ」
 みるみるヒートアップしていく破壊活動。このままではこの部屋どころかハルヨシの家まで滅茶苦茶にされてしまうだろう。

 これ以上放っておくのは危険だ。
 猟兵が一歩踏み出せば、ハルヨシは動けぬ身体に息を詰め込み、震える声で叫び出す。
「その子は……、いつもは、優しいんだ……!! ばけものなんかじゃない、だから……だから殺さないで!!!」
 ……おねがいします、助けてください、と声がか細くなる。
 そんな中でも竜は暴れ回り――ハルヨシと同じく、『助けて』と猟兵に懇願していた。

 家をこれ以上破壊されない為、そしてこの世界の為にも、あの影朧は倒さなければならない。
 しかしこのまま影朧を殺してしまえば、ハルヨシはひどく悲しむことだろう。
 彼を説得しつつ、地上で騒ぎが起きる前にあの影朧を止めなければ。
カビパン・カピパン
【女神のハリセン】を春吉に振り下ろす。
スパーンと快音が響き、不安を払拭し癒しを与える。

「ツッコミをしてあげましょう」
「ツッコミって…」
「道を踏み外した人々にツッコミをいれるのが教皇です。
大丈夫あの子を殺めることはしませんよ、約束します」

どうしてこの人は、今も笑えるように感じさせるのだろう。
思えば、展覧会から護られているのだと気がついた。
輪から孤立せぬように、気を使ってくれていたのも感じる。
買い物で襲われそうになった時も、釣りの時もずっと傍にいた。

その人が言うのだ。ならば何を恐れる必要があるのか、大丈夫と言うなら大丈夫なのだ。

「友達に、自由をね」
転生に導くため、ツッコミのため竜に向き合う。



 竜の暴れ回る音が響く中、か細い声と咽び泣く声が混じって消えていく。ころさないで、ころさないでと繰り返すハルヨシの小さな頭へ――突如、スパァァァン!!! と快音が響いた。
「うぇっ!?」
 良い音の割にはあまり痛みがない。寧ろ、彼の心には不安や焦りがすっと飛んでいくような安心感が生まれていた。
 不思議そうにハルヨシはゆっくり顔を上げる。そこには、ハリセンを手にしたカビパン・カピパン(女教皇 ただし貧乏性・f24111)が立っていた。
「お姉さん……」
 ハルヨシはきゅっと口を横に結び、また泣きそうになる。あの子に何をするのかと問い掛けるように彼がじっとカビパンを見つめれば、彼女はふっと微笑みながら口を開いた。
「あの子に、ツッコミをしてあげましょう」
「つ、ツッコミって……?」
 思わず首を傾げるハルヨシに、カビパンは一度向き直って続ける。
「道を踏み外した人々にツッコミを入れるのが教皇です。大丈夫、あの子を殺めることはしませんよ」
 そして彼女は――約束します、と一言言い切った。
 ハルヨシはぐっと涙を堪え、黙り込む。不安にどくどくと鳴っていた鼓動が鎮まっていくのを感じながら、じっとカビパンを見つめたままで。

 ――どうしてこの人は、こんな時でも笑えるように感じさせるのだろう。
 そう心で呟けば、同時に彼女と初めに出会ったあのつまらない絵の展覧会を思い出す。
 今思えば、この人は展覧会からずっと護ってくれていた。友達どころか共感できる人もいなかったあの展覧会で、孤立し退屈しないように気を遣ってくれていた。
 買い物の時だってそうだ。怪しい人達に襲われそうになった時も、釣りを体験していた時も、ずっと傍にいてくれた。
 その人が、あの子を教皇として『ツッコミ』で正し、殺めないと約束してくれたのだ。ならば――何を恐れ、不安に思う必要があるのか。
 彼女が大丈夫と言うなら、大丈夫なのだ。

「わかった……お姉さん、僕、信じるから。だから……お願いします」
 ぐしぐしと袖で涙を拭い、ハルヨシは笑顔でカビパンに『友達』の救済を願う。
 カビパンはこくりとひとつ頷くと、ハリセンを構え直して竜の方へと踏み出した。
「友達に、自由をね」

 ふわり、と金の髪が揺れるとほぼ同時、カビパンは暴れる竜のすぐ近くまで一気に接近する。竜は苦しそうな表情でガリガリと床を抉りながら、悲鳴混じりの声を上げてカビパンの方を向いた。
「こない、で――」
 ヴンッ!! と重い爪がカビパンの右横の空気を裂く。竜は人を傷付けたくない意思こそあるものの、空腹や本能からくる捕食行動がそれに勝り、無理矢理身体を動かしているようだった。
 すかさず、もう片腕の爪が鋭く煌めく。カビパンは自らの第六感に任せて思い切り真下に屈むと、そのまま足を大きく前へ動かし、竜の上半身を潜った。

 隙の生まれた竜の隣で体勢を整え――カビパンは、ハリセンを大きく振り被る。
 転生に導くため、ツッコミのため、その手にユーベルコードの力を込めて。
 ――スパーン!!!
 女神のハリセンが竜の頭部にヒットすれば、部屋には見事な快音が響き――竜の、影朧の心を癒やして鎮める。その瞬間、竜は僅かに『理性を優先する自分』を取り戻すことができていた。

 竜は遠くのハルヨシ、そして『ツッコミ』を入れてくれたカビパンを見つめ、小さく笑う。
 そして破壊と捕食の本能が収まったその一瞬に、竜はとても、とても穏やかな顔で――『ありがとう』と呟くのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シャルロット・リシュフォー
殺すのではないです

影朧は転生できない程悲しい思いをした魂
現世に留まり傷ついた心を癒やし…生まれ変わる準備をする
その手伝いが、私達生きている人達の役目です
だから、ハルヨシさんの行いは間違いではなかったと思います
あなたの優しさは確かにこの子を救った
(金銀の二刀を抜き放ち)

同時に
始まりから傷つき歪んでいる影朧は
生者を傷つけずには居られない
そのズレに苦しまぬ様
輪廻に戻してあげましょう
「この子も、あなたを傷つけたくないでしょうから」(そうだと言って)

…もう一つ
生者を救えるのは生者だけなんです
幾ら優しくても
死者はあなたを助ける事は出来ないです、ハルヨシさん
辛くても
生きた家族と向き合って下さい
(悲しそうに)



 竜は再び湧き上がってくる本能を堪えるように、ぎゅうと顔を顰めて目を瞑る。その口元からはきらりと桜色の光が漏れ――直後、光線となってハルヨシに襲い掛かった。
 しかし、ハルヨシの身体が吹き飛ぶことはない。
 ドラゴンブレスにも見えたそれは間違いなく『癒やし』の力であった。

 僅かに回復した身体に手を当てて、ハルヨシは猟兵に語りかける。
「ほら……ほら、あの子は優しいんだよ。だから、殺そうとしないで」
 そう声を震わすハルヨシの元へ、シャルロット・リシュフォー(歌声アステリズム・f00609)がそっと近づく。そして彼女は優しく諭すように、ハルヨシに向かって言葉を紡いだ。
「殺すのではないです。あの子は……ハルヨシさんのお友達は――」
 転生できない程に悲しい思いをした魂、影朧と呼ばれる存在なのだと、シャルロットは静かに真実を告げる。
 それを確かに聞いたハルヨシは息を震わせ、目を見開いた。
 驚きと同時に、理解したのだ。
 あの竜が影朧なら、山で攻撃してきた人達は何も間違ったことはしていなかった。寧ろそれを匿い、隠していた自分は――そう、ハルヨシの顔が青ざめかける。
 しかし、シャルロットはそんな彼に、ゆっくりと首を振りながら話を続けた。
「現世に留まり傷ついた心を癒やし……生まれ変わる準備をする。その手伝いが、私達『生きている人達』の役目です」
 だから、影朧に寄り添い守ろうとしたハルヨシの行いは間違いではなかった。

 ――あなたの優しさは、確かにこの子を救った。
 金銀の二刀を抜き放ち、シャルロットはそう言い切る。
 そして、竜の方へ向き直り――彼女は、ユーベルコード『シャイニング・ロンド』を発動した。

 自らの身に護りの力を纏い、両の手に握る剣へ浄化の力を纏わせて、一歩踏み出す。
 優しい心を持ちながらも生者を傷付けずにはいられない、理性と本能の大きなズレ。それに苦しむ魂を解き放ち、輪廻へ戻す為に。
「この子も、あなたを傷つけたくないでしょうから」
 シャルロットは蹲る竜の背へ剣を振り抜く。その後ろでハルヨシが思わず手で顔を覆う中、桜色の身体には深く深く二つの刃が食い込んだ。
 しかし、それが惨たらしく肉を裂き、部屋に赤を散らすことはない。
 シャルロットの一撃は確かに竜の命を削りつつも、魂を鎮め、癒やす力を伝えていく。肉体と精神が転生へ向かうのを感じながら、竜はふっと僅かに表情を緩ませて床に崩れた。
 反撃が来る様子はない。浄化されたこの僅かな瞬間を噛みしめるように、竜はただ穏やかな顔で目を閉じていた。

 恐る恐る顔を上げるハルヨシの方を振り向いて、シャルロットは再び彼に語りかける。
「……もう一つ。生者を救えるのは、生者だけなんです。幾ら優しくても、死者はあなたを助けることは出来ないです、ハルヨシさん」
 ハルヨシはぐっと唇を噛んで黙り込む。シャルロットは小さく息を吸い込むと、更に自身の考えを真っ直ぐに告げた。
「辛くても、生きた家族と向き合って下さい」
 悲しそうに、そう紡げば。
 シャルロットの言葉に、ハルヨシは堪えきれずぽろぽろと涙を零す。しかし彼はどうにかこくりと頷き――竜との別れを、受け入れ始めるのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルナリリス・シュヴァリエ
この影朧を助けたいのですね、わかりました
ハルヨシ様の友達ということは、私の友達でもあるってことです
名は何と?

そして、私の行動ですが――
一先ずこの破壊を止めないと、ですね。
ハルヨシ様に#かばうを試みた後、#武器受けで攻撃を捌きながら時間を稼ぎます。
可能ならば、#ダッシュで接近して影朧を中心に(影朧を閉じ込める形で)UC#聖域を使用、被害を防ぎます。
そう時間を稼いで、敵の記憶が混雑して『本能を優先する』記憶になるタイミングを#見切り、#気絶攻撃を試みます。

『本能を優先する』記憶が気絶すれば
ハルヨシさまは『理性を優先する』記憶と話ができるかもしれない
それはきっと状況を打開する切欠になる、そう信じて。



 ハルヨシはあれが影朧だと、この世に留まる限り苦しむ存在なのだと理解する。故に――殺さないでと拒む言葉はもう繰り返さない。代わりに彼はただ、友達の救済を願っていた。
 ルナリリス・シュヴァリエ(変態殺しの聖剣士・f25397)はそれに頷いて、未だ自力で立てないハルヨシを安心させるように声を掛ける。
「ハルヨシ様の友達ということは、私の友達でもあるってことですから。……名は何と?」
 桜色の竜を指したその問いは、ハルヨシの言葉を一度詰まらせる。しかし彼は少し考えた後に、でも、と小さな声で答えた。
「……桜の花みたいだから、オウカって呼んでた。本当の名前は教えてくれなかったけど、あの子がそれで良いって言ってくれたから」
 ルナリリスは一度その名を繰り返し、苦しみ暴れる竜の方に視線を移す。名を教えなかった理由や、少年が付けた名を許したその理由を、全て知り得ることは叶わないだろう。

 ――今、あの状態の竜からは。
「おなか、が、――違う、私は――ああ、おなかがすいた!」
 虚ろにそう呟いた竜の瞳が、途端にひどく濁る。口の端から一滴の涎を垂らしたまま、遂に竜はハルヨシに向かって大口を開けて走り出した。
「……っ!」
 ルナリリスはすかさず聖剣を抜き、ハルヨシと竜の間へ割って入る。彼女が鋭く光る竜の牙を刃で受け止め、弾き返した直後――竜は両腕の爪を振り抜いてルナリリスの首を狙った。
 思い切りルナリリスが真下へ屈めば、爪は交差して空振りグォッ!! と低く音を鳴らす。
 思わずひぃと縮こまるハルヨシを背に護りながら、ルナリリスは剣を大きく回し――その柄を、無防備な竜の腹へと叩き込んだ。
 竜は咄嗟に翼を広げるが、しかし間に合わず衝撃のままに押し飛ばされていく。
 その瞬間に体勢を整え、ルナリリスは思い切り竜の方へ駆け出していった。

 竜を追い、ルナリリスはユーベルコードの力を纏う。
 部屋にも、ハルヨシ自身にも、これ以上の被害は出させない。彼女は『聖域』――神聖な魔力障壁へと姿を変え、燐光を放ちながら影朧を囲んだ。
 ドンッ!! と竜は障壁に叩きつけられ、その衝撃で一瞬がくりと気を失ったように崩れ落ちる。清らかな聖域の空気を吸い込んだ竜はすぐに目を覚ますと、先程とは違う澄んだ瞳でハルヨシのいる方を見つめた。

「……元に、もどった……?」
 ハルヨシは床に手を付きながら、ゆっくりと壁の前へと移動していく。大人しく、そして申し訳無さそうな表情を浮かべる竜は――間違いなく、『理性を優先する』人格だけが表に出てきていた。
「ごめんね、きっと、少ししたらまた色んなものを、ひとを傷付けてしまう。だから――」
 ――本能がまた目覚める前に、竜はハルヨシへの感謝と謝罪を述べ、約束を告げる。
 影朧と知らなかったとはいえ、自分を愛し、大切にしてくれたこと。
 命を狙われているなどと、幼いハルヨシに誤解を生ませるようなことを言ってしまったこと。
 そして――転生したら、必ずいつか会いにいく、と。

 竜はぴくりと身を震わせると、ハルヨシに離れるよう言って顔を顰める。
 本能が再び意識を蝕み始める中、竜はこの場を、ハルヨシと話す機会を与えてくれたルナリリスへ深い感謝を述べるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニコ・ベルクシュタイン
壁に叩きつけられたハルヨシ少年を助け起こしながら
真っ先に言わねばならぬ事があると竜に告げる

少年に謝れ、悪い事をしたら「ごめんなさい」と言うのだ

竜の容態や状況がどうあれ、少年を害する行為に対しては謝罪が必要だ
其の上で猟兵として此の影朧の対処をしよう

【葬送八点鐘】で喚んだ死神がかの竜を還すのは
此の世界でこそ可能な「転生」への第一歩だ
反撃で放たれる桜色の吐息は治癒の効果があるというな
ならば其れをハルヨシ少年に向けてやれ

少年が完治したのを確認したら、疲労した所を恐れ入るが
死神をけしかけて引導を渡しに行くぞ
生まれ変わったら、今度こそ少年と共に在れると良いな

許せよ、少年
何時か必ず、君の友達とはまた逢える



 壁際にて、未だ苦しそうに背と腹へ手を当てるハルヨシ。ニコ・ベルクシュタイン(時計卿・f00324)は彼を助け起こしながら、向こうでゆらりと立ち上がる竜へ視線を向けた。
 あの竜の容態や状況がどうあれ、心配して駆け寄ったハルヨシを壁に叩きつけ、怪我を負わせた事実は変わらない。ならば真っ先に言わねばならぬ事がある、と。
「少年に謝れ、悪い事をしたら『ごめんなさい』と言うのだ」
 竜は反抗するようにぎろりとニコを睨む。しかしふうふうと涎を垂らし、尖った牙を覗かせるその口は――剥き出しの本能に反して、何とか理性的に言葉を紡ごうとしていた。

 静かな部屋に、喘鳴に混じる謝罪が微かに響く。
 ハルヨシが食い気味に竜の行いを許せば、ニコは一度頷いて――猟兵として、あの影朧に対処するべくユーベルコードを発動した。
「――鳴り響け八点鐘、彼の者を呼びたもう」
 唱えれば、どこからとも無く気配がして。ニコの召喚に応じた霊は『死を司るもの』――ローブを纏い、鎌を携える『死神』然とした姿をとってその場へと顕現していた。

「……、たべ――た、い」
 うわ言のようにそう呟いた竜が大きく翼を広げる。瞳孔の開いた目はニコとハルヨシを交互に見つめた瞬間、半月のように歪んでどろりと濁った。
 ――来る。
 ニコはハルヨシの前に立ちつつ、喚んだ死神を竜の元へ向かわせる。かの竜を還し、此の世界でこそ可能な『転生』へ導くため――死神は、鎌を構えてふわりと前に進んだ。
 竜が大きく吼えて羽撃き、一直線に向かってくる。それを迎え撃つように、死神は鋭く煌めく牙を目掛けてその手の鎌を水平に振り抜いた。
 ガ、ギィッ!! と一瞬重く止まった音が弾ける。
 飢えた獣のように開いていた口は途端に閉じられ、砕けた牙をぼろりと落とした。
 そのまま、死神は鎌を回して竜の腹へと峰を叩き込む。
 竜が勢いよく吐き出される息をドラゴンブレスに変換しようとした瞬間――ニコは、背に隠していたハルヨシの姿を竜へと見せつけて。
「其れを……少年に向けてやれ」
「……!!」
 肉を融かす熱を纏う筈だった其れは、桜色の優しい吐息となってハルヨシの方へ放たれる。
 暫しの間、温かな光がその身体を包めば。ハルヨシは苦痛に歪めていた顔を緩ませ、二本の足でしっかりと立ち上がれるようになっていた。

 かくり、と竜は力を使い果たしたように床に倒れる。ニコは駆け寄ろうとするハルヨシをそっと静止しながら――死神を、竜へけしかけた。
「許せよ、少年」
 無抵抗の竜へ、死神が鎌を振り下し、引導を渡す。
「……っ!!!」
 ハルヨシが目を見開き、小さく声を漏らす中。
 ――竜の身体は、桜の花弁のように端から散り始めていた。



 ふわり、ふわりと部屋に桜の舞う中で、ニコは竜に語りかける。
「……生まれ変わったら、今度こそ少年と共に在れると良いな」
 反応はない。しかし確かに、竜はとても穏やかな顔で瞼を閉じていた。
 ――が、その一方で。
「おう、か……やだ……いっちゃやだよ……」
 分かっていても、目の前の死は、別れは、辛い。
 この人達の言う通り、死ぬのではなく、生まれ変わる為の一歩なのだと……そう理解していても、ハルヨシは顔をくしゃくしゃに濡らして、散りゆく竜を必死に抱き締めていた。
 ニコはその肩を優しく叩きながら、ハルヨシを安堵させるように小さく言葉を紡ぐ。
「何時か必ず、君の友達とはまた逢える」

 ハルヨシはこくりと頷き、涙を拭う。
 そして――竜の最後のひとひらを握りしめて、猟兵に向かって笑みを浮かべて。
「……お願い、聞いてくれて……ありがとう、ございました。本当に……あり、」
 ぼろり、とまた涙を零し、わんわんと声を上げて泣き出す。

 やがてその声が収まった頃、彼は改めて猟兵に礼を述べ、ゆっくりと外へ――前へ、確かに踏み出していくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年03月02日


挿絵イラスト