季節の変わり目御用心
「……四季盛り、というのがあってな」
サムライエンパイアにある食事処のメニューなんだが、と日長・永之介(羅刹の戦場傭兵・f22351)が話し出す。
「春なら筍、夏なら枝豆、秋なら南瓜、冬なら牛蒡……まあ、旬の食材を使って美味い飯を出すってんならどこもやってるもんだと思うが」
その食事処は他とは少しばかり趣向が違うということで。
「例えば今は……まあ、一応冬っつーことで例にあげるがな。旬になりたての鯛を煮付けて、秋からじっくり仕込んだ茄子の糠漬けを飯に添えて、夏に干して保存しておいた鮑で汁物をつくり、春摘みの苺の甘煮を使った寒天寄せがついてくる」
つまり、春夏秋冬、それぞれの旬のものを必ずひとつは使ったメニューを一つの膳に、一汁三菜にして提供することを信条としている店だということである。
「……家でやる分にゃ当たり前のことなんだが。それを当たり前にやって、全て客に出せる味に仕上げて出してくる。それをどの季節でもうまくやってみせるってんで、知る人ぞ知る店……ってわけだ」
店で出すならば、必要な量は尋常じゃない。後の季節で出すために、その日の分の仕込みとは別に大量の保存食を仕込んでおくので、定休日を設定していても、大体は保存食作りが理由だったりするらしい。
「まあ、それだけ手間暇かけている分、何が出ても美味い店なんだが……」
どう表現したものか、と言葉を探す間があって。
「今、その店の四季盛りがな。……全部、旬の味で出てくる」
先の例を元に説明するならば。鯛の刺身に、秋茄子と鯵の天ぷら、鮑が潮汁になり、苺も摘みたて。すべて新鮮な食材で調理してこそ美味しい筈の組み合わせで、全て旬に味わうのと同じくらい美味いのだ、と。
「……美味い分にはいいことなんだが」
それらの原因はオブリビオン達が現れたせいだろう、ということである。
信長軍が駆逐されても、全てのオブリビオンが消えたわけではないのが実情。平穏のように見せかけて異常が発生していれば、それはオブリビオンが現れたという証拠であり、こうして予知として現れるのだ。
「最終的には。その原因であるオブリビオン達を退治するのが、今回の仕事の目的になる」
しかし異常はわかっていても、敵の正体や、拠点としている場所についての情報が判明していない。
「予知として食事処が出て来たってことは、そこに何か手掛かりがあるってことなんだがな……」
中途半端な情報で悪いな、と頭をかきながら永之介が続けている。
「ともかくだ。今、その食事処は繁盛しているらしい。どれもが新鮮な食材、どれもが旬の美味さ。そこに店主の腕が重なれば何でも美味いってわけだからな……」
竹林に囲まれた、やや不便な立地のおかげで、行列ができるほどではないらしいのだが。
「いつもなら料亭並みにゆっくり食えるが、かきいれどきの大衆食堂くらいの込み具合……って説明で伝わると助かるんだが」
騒がしい程でもないが賑やか、といった状態なのだろう。
「それだけ情報も集まっているだろうから……調べるところからはじめて来てくれるか」
勿論、美味い飯はしっかり食べてこい。そんなところに念を押して、送り出されるのだった。
シヲリ
シヲリです。
12本目になります。
第2章は集団戦、第3章はボス戦となります。
第1章で情報を集めようとすれば事前に詳細を知れるため、オブリビオン達の拠点への襲撃が可能になります。
●第1章「竹林にある食事処」
普段は知る人ぞ知る程度で客足の少し残念な店だが、美味しい料理を出してくれるのは間違いない。
現在は異常のおかげでいつも以上に美味しい料理が提供できているため、繁盛している。
店主は現状が続くことがおかしいことも理解している一般人。(オブリビオンとは無関係)
折角だから今のうちに稼いでおこうと実直に店を切り盛りしている。
他の客も居ます。
従業員も居ます。
●お食事を楽しむ際は
基本メニューは以下の4通りで、どれも白飯はついています。
春の四季盛り……鰹のたたき、白菜の柚子漬け、茸汁、梨と葡萄の盛り合わせ。
夏の四季盛り……烏賊と里芋の煮もの、鰆のかぶら蒸し、蟹汁、南瓜のプリン。
秋の四季盛り……鮭の塩焼き、冬瓜の水晶煮蟹あんかけ、筍の味噌汁、お汁粉。
冬の四季盛り……鯛のお造り、秋茄子と鯵の天ぷら、鮑の潮汁、苺の練乳がけ。
どうしても苦手なものがある場合は好みと一緒に伝えれば、その部分を改変して提供してくれると思われます。
●プレイング締切について
基本的には常時受けつけています。
連絡事項がある場合はマスターの自己紹介ページ【告知】欄にて記載しておりますので、プレイング送信前に一度ご確認いただけますと助かります。
プレイングをお待ちしています。
第1章 日常
『竹林にある食事処』
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POW : 不思議な懐石料理を食べる
SPD : 珍しい郷土料理を食べる
WIZ : 見たことのない和菓子を食べる
👑5
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
宴・段三郎
【POW】
ほむ…旬の味が毎回とな…献立も面白いのう…さっそく聞き込みせねば(じゅるり)
(本心)久方ぶりの懐石料理、たんと食いたいのじゃ
【行動】
まずは先付を食べ、椀物の鮑の潮汁を頂き、向付の鯛のお造り、焼き物の天ぷら、最後にいちごと食べてゆくかの
それにしても美味いのう…聞き込み…うむ、主人に直接聞いておくかの。主人の休憩でも見計らって、天下自在符を見せてから聞いてみるかの。
馳走になった礼と、どこで材料を仕入れておるか、最近変わったことが身に起きてないか、聞いておこうかの。
客の話や主人の会話にも【聞き耳】を念のためかけておくかの
フォーネリアス・スカーレット
オブリビオンが居るなら殺す。例外はない、皆殺しだ。店主はオブリビオンではないな……なら用はない。オブリビオンは何処だ、何処に居る……この喧騒の中から有益な情報を引き出すことは容易ではないが不可能でもない。その訓練はしている。
この混雑状況なら相席も不自然ではあるまい。浪人風の外套を纏い、暗黒非合法探偵行為を行う。
最優先は怪しい場所の調査か。頭の中の地図に怪しい場所にピンを打つ。その中心にオブリビオンは居る。
注文をしなければ不自然か。では、秋の四種盛りでいいか。味に煩いつもりはないが、鮎の塩焼きは好きだ。昔ほど美味しいとは感じなくなったがな。
草野・千秋
旬を問わない美味しい料理が出てくるというのも不思議な気はします
確かに旬のものは美味しくて栄養もあって食べると元気になるんですが
エンパイアで常に旬のものというのもちょっとびっくりですよね
僕は秋の四季盛りがいいですね
鮭が好きなんですよ
やっぱりお魚に脂がのっていて美味しいのは秋冬です
鰹もほんとは戻りガツオも脂が乗ってて美味しいんですが
こちらの世界でも春の鰹は縁起がいいとされてるんですか
人間だれしもどの世界でもゲンを担ぎたくなってしまうんですね
なんとなくしみじみ
本当だったらいつだって繁盛してほしいですよね店主さん
旬の食材とはいえど料理する人の腕前次第なのですから
コミュ力、情報収集でそれとなく耳を傾け
鹿村・トーゴ
店主もなんか変って思ってるそうだが今は稼いどこ!ての商魂逞しーぜ
相棒の鸚鵡ユキエは店の屋根に待機
人間以外の変なの見たら教えて?
折角だし食べていこ
この冬の、ってお願いできる?(貝が苦手なんで魚のすましに変えて貰えると有難いけど…と伺う)
…んむ、美味しい…(じーん)
実は猫舌
【情報収集】にお客とだべる
しっかし山で魚介類が旨いってのすごいな…早馬とか使ってんのかね?
馴染みらしい客に
>すごい流行ってんなあ、昔からこうなの?
他客の会話にも【聞き耳】
店側の人に
>無理聞いてくれてあんがと
美味しかったよー
調理こなすのも材料揃えンのも難儀なんだろうね
ホントどやって…って感心しちまった
やり手が居るのかい?
アドリブ可
ステラ・エヴァンズ
刀也さん(f00225)、ノーラちゃん(f17193)、翔君(f03463)の家族で参加
WIZ判定
家族で初めてのお出かけ…少しドキドキ致しますね
お料理は『春の四季盛り』を
舌鼓を打ちつつ、子供達の許可をとって苺や煮物なんかを少しいただきます
逆に欲しいと言われれば素直に出しましょう
刀也さんからは筍……ぇ、あーん?
子供の前なので恥ずかしさは尋常ではありません……あーんで頂きますけれど
…あーんの仕返しでもしてみせましょうか
そんな風に家族で過ごしつつ
本当に贅沢ですし美味しいですね
こんな良い食材、何処でとられてくるんですか?
なんて店員さんを呼び止めて少しお話を聞いてみましょうか
※アドリブご自由に
ノーラ・カッツェ
ステラママ(f01935)と刀也パパ(f00225)と翔(f03463)と一緒に。
家族揃ってのお出掛けは初めてね。ふふっ、すごく楽しみだわ。
お料理は…。そうね。私は『夏の四季盛り』を。
あ、お箸使うの苦手だから…。スプーンとフォークがあればお願いしてもいいかしら?
ステラママには煮物をお裾分けしつつ、葡萄を1つもらって。刀也パパからもお刺身を少し貰う代わりに煮物をお裾分けするわ。
…それにしても、2人とも本当に仲が良いわね。
え…私達もするの…?そ、それじゃあ…あーん…。あ、苺美味しい…。
お礼に翔も南瓜プリンどうぞ。はい、あーんして?
家族と楽しくご飯を食べながら私は店内の会話に聞き耳を立ててみるわね。
香坂・翔
刀也(f00225/呼び方はおとーさん)、ステラ(f01935/おかーさん)、ノーラ(f17193/お姉ちゃん)の家族で参加
SPD判定
家族初のお出かけー!
美味しいご飯食べるぞー!
料理は冬の四季盛り
肉無いのかー
生の魚って故郷のダークセイヴァーじゃ食べる機会無かったなー
お姉ちゃんのプリン美味しそー
おかーさんの葡萄におとーさんの筍ご飯も……誘惑が多いー
あーんする両親を見て仲良しだなーと
俺もお姉ちゃんにすれば良いのかなー?
お姉ちゃん食べるー?って苺をあーんしてみる
出されたらあーんして食べるー!
他の客に近場に海とかあるのか、等周辺の地理とか聞いてみる
※家族に餌付けされてます。アドリブご自由に
御剣・刀也
SPD行動
ステラ(f01935)、ノーラ(f17193)。翔(f03463)の家族で参加
家族皆揃っての食事か
それだけでも楽しみだが、美味い物が食べられればさらに文句ない。
さて、俺は何を食べようかな
筍ご飯定食(筍の炊き込みご飯、みそ汁、お新香、刺身の盛り合わせなど)を注文する
息子の翔と娘のノーラが興味深そうに見ていたら、箸でとって二人の所に少しだけおすそ分けする
ステラが食べたそうにしてたら、箸でとって口元にもっていってあーんして食べさせてあげる。
ステラが反撃してきても、特に慌てずあーんとぱくりと食べる
「家族揃ってこういうところに食事に来れるのはいいことだよな。飯も美味いし言う事無しだ」
牧杜・詞
お料理は【冬の四季盛り】を選ぶわ。
「他のも魅力的だけど、いちごには勝てないわ」
お客さんは多いみたいだし、騒がしさもあるっぽいけれど、
そこは気にせず、食事は自分のペースでしよう。
「期待していたけど、それよりずっと美味しい…。」
とりあえず食事は楽しむけど、
いっしょに常連さんっぽい人にお話も聞いてみるわね。
「ね、ここっていつもこんなに新鮮なものばかりなの?」
はじめてのお客さんとして、
お料理雑談から入って、情報収集してみよう。
「いつもと違うんだ?」
「ふぅん……
そうなると、何かこの辺りでかわったこととかものとか、あったのかな?」
もし時間ありそうなら、ご主人にもお話聞きたいな。
「これ、どこで採れるの?」
店に入る前、少し離れた場所でユキエを空に放つ。
「人間以外の変なの見たら教えて?」
そう告げる鹿村・トーゴ(鄙村の外忍・f14519)の頭上をくるりと旋回飛行してから、目的地である店の屋根へと向かっていく。相棒は今日も賢くて、全てを言葉にしなくても察してくれる可愛い存在だ。
「あとで美味いもんたべさせてあげないとね」
言いながら食事処へと足を進めていく。徐々に厨房からもれる美味しそうな香りが鼻をくすぐって、腹の虫が鳴ってしまいそうだ。
「ユキエが食べられそうなものがあったら、包んでもらえたりしないかなー?」
品書きはしっかりチェックしようと心に決めた。
「ほむ……旬の味が毎回とな……」
品書きの札を眺めて吐息を零す宴・段三郎(刀鍛冶・f02241)の瞳は期待に輝いていた。
「献立も面白いのう……」
四季盛りと書かれた板しか下がっていない。
今は春夏秋冬それぞれの文字を冠にした四枚の板が下がっているが、普段からそれしかないのだろうか?
「さっそく聞き込みせねば」
その呟きは異常に関するもの、つまり仕事に関係するもののはずだけれど、段三郎の視線は既に従業員が運んでいる膳へと注がれている。
何せすでに店の中、客席に案内された後だ。隣の卓で食事に勤しんでいる者の膳も気になって仕方ない。
「ご注文は? 春夏秋冬どれも選べますよ!」
膳を運び終えた従業員が帳面片手に寄ってくる。
「冬を頼む」
「かしこまりました!」
勿論迷うことなく注文する段三郎である。グリモアベースで仕事の案内を聞いてからずっと、久方ぶりの懐石料理が食べられると楽しみにしていたのだ。
(たんと食いたいのじゃ)
先ほどから鼻腔に届けられる磯の香りに唾が溜まって仕方ない。
(……おかわりは可能じゃろうか)
注文時に聞けばよかったと、少しばかり後悔が浮かぶ。
「冬一人前入りました!」
けれど食事だけの為に来たわけではないのだ。従業員の元気の良い声を聞きながら、しばし周囲へと意識を向けることにした。
(オブリビオンが居るなら殺す)
その衝動を言葉に出来ないことが難しい。行動に移せないことがもどかしい。得物から手を離しておかなければいけない状況が不満だ。
けれどフォーネリアス・スカーレット(復讐の殺戮者・f03411)は敢えてこの状況を受け入れる。身の内から今にも滲み出そうな殺気を抑えることに苦心する。
オブリビオンに対峙する際、己の力をより強く見せる装束を身に着けて。いつも通りに音を抑える機能を持たせたブリガンダインを身に着けて。サムライエンパイアの中で寄り浮かないように、浪人風の外套を身に着けて。
フォーネリアスは猟兵だ。だからどの世界にも違和感なく溶け込むことができる筈だけれど。外套を用いるのはその衝動を身の内から溢れさせ過ぎない配慮、そのスイッチを切り替える役目も兼ねている。
フォーネリアスがオブリビオンに向けるものは感情という枠を飛び越えて本能を突き動かすほどの強い衝動だ。それは格好の違和感を、世界を隔てた文化の違いを紛らわせることができていても、その殺意と気迫と経験を供えた衝動全てを隠しきれるものではない。
だからフォーネリアスは訓練を欠かさない。
オブリビオンを皆殺しにする武力を鍛える。
オブリビオンを見逃さぬ為の感覚を鍛える。
オブリビオンに辿り着く為の技術を鍛える。
常在戦場とばかりにそれは常に展開されていて、今なおこの食事処の中に在ってフォーネリアスはオブリビオンを探し続けている。
(オブリビオンである限り例外はない、皆殺しだ)
店内は混んでいて、気配も声も動きも様々だ。
厨房で腕を揮う料理人達は得物となる包丁や鍋を振るうけれど、そこに殺意が存在するわけがない。
(店主はオブリビオンではないな……)
なら用はないと、除外する。
客席の合間を行き交う従業員達の足運びは洗練されているが、それは客の邪魔をしない、長く待たせないための技術であって戦いの為のものではない。
(これも違う)
やはり用はない。
既に食事に向かっている客、注文する客、席に案内される客……周囲に警戒を向けている者はいるけれど、フォーネリアスが警戒を向けることはない。
(……同業か)
召喚前に見かけた猟兵であることにすぐに気付く。自分同様に情報を得ようとしているのは明らかだ。
(オブリビオンは何処だ、何処に居る……)
店内に居ないことに安堵ではなく落胆を覚える。衝動を振るう先がなくて物足りない。
しかしやることがないというわけではない。
「お客様、相席よろしいですか?」
案内の従業員に席を示されて、素直に席に着くことにするのだった。
「4名様ですね、少しお席を動かしてきますので、お待ちいただけますか」
揃って訪れた猟兵達を見た従業員が一礼をしてから、すぐに客席の調整へと向かっていく。
「……分かれての案内を提案されることもある、と耳に挟んだことがあるのですが」
勿論その提案がもたらされた場合は、4人で座れる卓が空くまで待つと答えるつもりでいたステラ・エヴァンズ(泡沫の星巫女・f01935)である。思わず呟いた彼女の腰をそっと抱き寄せる御剣・刀也(真紅の荒獅子・f00225)から小さく笑い声が漏れた。
「それだけ、俺達が家族に見えるって事だろう」
いいことじゃないかと耳元に返す。妻の頬が淡く染まることなど気にしない。
そんな夫婦のやり取りを背に、くいと袖を引かれた香坂・翔(紅の殺戮兵器・f03463)が隣のノーラ・カッツェ(居場所を見つけた野良猫・f17193)に視線を移す。
「どーしたの、お姉ちゃん」
楽しみで待ちきれなくなっちゃったの? と屈託なく笑う弟にそうじゃないと軽く首を振る姉。
「勿論、すごく楽しみだけど……」
今は振り向かないように、という気遣いのつもりなのだが。
「大丈夫だよー、いつも通りじゃない?」
「……そうね」
見上げるオレンジの瞳に温かな陽射しを感じて、確かに翔もいつも通りだと頷く。
(家族揃ってのお出掛けは初めてで、どこか緊張していたのだけれど……)
皆一緒なのだから、緊張するのが馬鹿みたいだと気付いて。知らず力を込めてしまっていたぬいぐるみを抱きしめる腕が少し、緩んだ。
「いつも通りでいいらしいぜ」
なんて囁きが耳元で響くものだから、火照りを抑えようと必死だというのに全く収まる気配がない。
ノーラの緊張がほぐれた様子に安堵する気持ちもあるし、母として気にかけていた分の緊張もこれで解れると、そう思っていたというのに。
(これでは少しのドキドキどころではありません……!)
此処は家でもなく食事処で公衆の面前だと、心を強く持って刀也に鋭い視線を向けようとするステラ。
「真剣な顔も悪くないが、まだ先の話だろ?」
戦いの事を示唆しながらも刀也の視線は甘いので、どうにも維持することができない。
(早く席の準備が終わりませんでしょうか……!)
それかせめて腰を抱く手を離してもらえればと思いはするのだけれど。それを言い出せない時点でステラも同類なのである。
衝動を抑える程に五感が鋭くなっていく。
オブリビオンはどこかに居る筈なのだ。フォーネリアスが今にも力を奮いたい本能を抑えつける程、店内で繰り広げられる全てを知覚出来るようになっていく。
賑やかな中、つまり喧騒の中から有益な情報だけを拾い上げるには集中が必要だ。容易ではないとわかっているが、フォーネリアスは目を閉じて、腕を組み集中の為に更に意識を研ぎ澄ませていく。
平常な思考を、冷静な認識を、衝動の熱を武装の内に、身体の内に抑えて、抑えつけて……
(訓練をしているのだ、不可能ではない)
この衝動を抑え込んだその先で、全てを曝け出し本能のままに振る舞えるその時があるのだと思えば。
「……えっと、注文したほうがいいと思うよ?」
相席の相手から声がかかる。ゆっくりと目を開き声の主を見れば、草野・千秋(断罪戦士ダムナーティオー・f01504)、先ほど気配でも確認した通り猟兵である。
「確かに不自然か」
ちらりと壁の品書きに視線を向けるフォーネリアス。
「では、秋の四季盛りでいいか」
味に煩いつもりはないのだが、この席に座る前、ちらりと見えた鮭が印象に残っていたのだ。鮎の塩焼きを好ましく感じる、その感覚を思い出していた。しかし今日の四季盛りの中で塩焼きは鮭だけのようだったので、せめて塩焼きだけでもと考えた次第である。
「鮎なら夏を頼んだのだがな……」
ぽつりと零れた声は兜の中でかき消えるはずだったのだけれど。
「お出しできますよ?」
千秋が呼んでいた従業員が、帳面片手に首を傾げてフォーネリアスに視線を向けている。少量だが鮎も仕入れているとのことで。
「ただ、主菜としてお出しすることになります。店主の信条から、夏の四季盛りとさせていただきますけれど」
それでも、よろしいですか?
ギギギ、と音がしそうな全身鎧のフォーネリアスを前に、千秋は内心でほっと息を吐く。
表情が読めない相手なので、声をかけていいか、そのタイミングもわからなかったのが実情である。
時々兜の隙間から眼光らしきものが光ったりするものだから、寝ているわけではないことはわかっていたのだけれど。
(自分も戦闘形態になれば落ち着けるかもしれないとか、何度思った事か……!)
変身ベルトを起動しようと思った回数は、店に入ってから今までにすでに十回を超えている。千秋も猟兵なので、フォーネリアスが何か常に展開しているのはわかるのだ。
それが自分に向けられていないとはいっても、落ち着かないのである。
「あっすみません、僕は秋の四季盛りがいいですね」
お願いします、と従業員に注文を告げる。
「鮭が好きなんですよ。やっぱりおさかなに脂がのっていて美味しいのは秋冬ですよね」
楽しみにしてますね、と告げて微笑み従業員の背を見送る千秋に横から声がかかる。わかってるじゃねえか、と笑うその客はどうやら料理が来るまでの暇つぶし、話し相手を探していたようで。
「鰹もほんとは戻りガツオも脂が乗ってて美味しいんですが……そういえば、こちらの地域でも春の鰹は縁起がいいとされてるんですか?」
何か情報を持っているかもしれないと、千秋もそのまま対応することにする。
頷き返されて、よく知ってるなと褒められるとなんだか気分も上がってくる。
「人間だれしもどの世界でもゲンを担ぎたくなってしまうんですね」
春の四季盛りのたたきも興味が出て来たけれど、しかし頼んだのは秋の四季盛りだ。言葉通り鮭が好きなこともあるけれど、名前に秋の字が入っているからこそ。自身と近しく感じたメニュー、というのも理由だったりするのだ。
ひとしきり旬の魚の美味しい食べ方談義が続いて、ふと首を傾げる千秋。
「さきほど褒めて下さいましたが、貴方の知識には及びませんね」
尊敬します、と持ち上げてみる。料理が楽しみ過ぎてつい魚の語りを続けていたわけだけれど、相手も相当な知識量だと思ったのだ。
「今日の海のは俺が持ちこんだ奴だからな」
「……え?」
偶然だが、まさかの情報源その人である。どうした、と尋ねてくる相手に慌てて微笑みを返す。
「それは僕なんてまだまだだと思うわけですよ。そして期待も高まりました」
材料を揃える方達も認める味が、この場所で食べられるということでしょう? この後届く料理が待ち遠しいと告げれば狙い通り、相手の相好が崩れた。
「それにしても不思議ですよね」
季節を問わずに旬のおいしい料理が出てくるという噂を聞いてきたのだと切り出してみる。随分と話し込んでいたのだ、欲しい話に、もうすぐで手が届く筈。
四季盛りに使われているのは旬の新鮮なものばかり。では本来の四季盛りで提供されるべき保存食がどうなっているのかというと。
秋野菜の糠漬けは茄子、大根、人参と三色の彩りが揃っているし、干した茸達は戻して甘辛く煮付けてある。
鯵の干物は焼いて解して湯通しした葉物と、烏賊の干物はあぶったものを細く割いてたたき胡瓜と共存している。
常よりも混んでいるために提供までの時間を長く感じてしまうだろうからと、待ち時間も口寂しくないようにと、1人に1つ、先付がわりに小鉢が渡されていたりする。
そもそも、四季盛りそのものが日替わりのようなものだ。だからきっとこれらの小鉢も今日だけで、明日はきっとまた違う品が提供されることになるのだろう。
「どの小鉢にいたしますか?」
選べますよ、と従業員に説明され、選択を迫られたトーゴが目を瞬かせた。
(変って思ってても商売は休まないところが商魂逞しーぜ、って……)
それだけじゃなかった。ここの店主はそれ以上だったと認識を改める。
「うーん……鯵と茄子は天ぷらに入ってるし」
残り二つの選択肢で暫く迷って、結局は直感に頼ることにする。
「それじゃ茸で。あっそうだ。オレ、貝が苦手なんだけど魚のすましに変えてもらえたりする……?」
壁にかかる品書き、冬の四季盛りの札を示しながら問えば可能だと微笑みが返される。他より少し待たせることにはなるけれど、と注釈が続いたものの、鰻の肝すいに変えてくれるとか。
「えっそれ大丈夫なの?」
蒲焼の香りはしていないけれどどこに、と首を傾げるトーゴ。景気よく振舞いすぎではないだろうかとも思う。
「今、美味しい物ばかり入ってくるんですけどね」
微笑む従業員だが、少しだけその眉尻が下がっている。一定の量が揃わないとメニューとして平等に提供できないと、あぶれたままで生け簀に放ってある鰻らしく美味しく食べてもらえる方がいいとのことだ。様々な旬の食材が多く入る今、多様に対応できるのはいいことだとも思っている、等と愚痴なのか職場自慢なのか、ちょっとした話が続いている。
「……ああ、だから小鉢があるんだねー」
「そうなんです、お客様みたいな注文にもお応えしたいと、店主も料理人も、常々申しておりますから」
混んでいるだけではなく、臨機応変に対応するための場繋ぎとしても役立っている、ということらしかった。
甘辛い茸を少しずつ口に含む。しっかりとした味付けだからこそ、ほんの少しでもしっかりと味わえるし、何より噛むほどに茸の旨味が口の中に溢れてくるようだ。
(すでに飯が欲しいのじゃ)
茶漬けにしても美味そうだ、と考えてしまうあたり既に舌が魅了されている段三郎である。しかし膳が来るのはもう少し先だろう。冬の中で時間がかかるのは天ぷらだ。揚げる音が聞こえはしないかとつい耳をそばだてて、従業員の行き交う様子にもつい視線を向けてしまう。
(いかんのう、話を拾わねば)
茸を新たに口に運びながら、意識をどうにか別の場所へと向けていく。
「他のも魅力的だけど、いちごには勝てないわ」
その言葉に続けて冬の四季盛りを注文した牧杜・詞(身魂乖離・f25693)は烏賊と胡瓜の小鉢を受け取り楽しみに膳を待つことにする。
周囲の騒がしさは特に気にならない。客足が多いことはいいことだし、なにより賑やかなのはいいことだ。初仕事の緊張も、おかげで随分と解されていく気がする。
そう、初仕事なのだ。出来るなら他の猟兵も多く居る方が安心だと、そんな理由で飛び込んだと言っても過言ではない。
(もちろん、食事も期待しているのよ)
折角なら楽しみが多い方がいいに決まっている。そもそも、グリモアベースで受けた案内の時点で果物が食べられると知っていたのだ。それを聞いたら行くしかないではないか。
(梨と葡萄も気にはなったのよ?)
けれど。
「いちごには勝てないの」
誰にともなく、呟いた。
注文を伝えに離れた従業員の背を見送ってから、ぼんやりと考えるのはやはり輸送のことだ。
「しっかし山で魚介類が旨いってのすごいな……早馬とか使ってんのかね?」
あえて声に出すのは意味がある。
「あんちゃんここらは初めてか?」
「そうなんだー。おっちゃん詳しいの?」
狙い通り馴染みらしい客がトーゴに話しかけてくる。内心やったと思いながら笑顔を向けて会話に興じる。既に食べ始めている者も時折こちらに耳を傾けているのを感じるので、会話を楽しみに来る者も多いらしいと見当をつけながら人好きのするだろう笑みを絶やさないよう気に掛ける。
「すごい流行ってんなあって入ったんだよね」
昔からこうなの? と首を傾げれば周囲の客も笑い返してくれている。
「先週くらいからだなあ」
「そうそう、ちょいと海に近い方で季節が迷子になってるって評判でなあ」
「季節が迷子ってあんた、妙にうまいこと言ってからに」
「だから飯もうまいってもんだろ」
「「「違いねえ!」」」
勝手に盛り上がる客達が方々で話を続けているわけなのだが。
「それ、季節が迷子ってオレも知りたい!」
じっと皆の様子を伺い、一番詳しそうな一人に話しかける。他にもいくつかの単語が飛び交っていたけれど、最も気になる言葉だと、トーゴの勘が告げたから。
「冬の四季盛り、お待たせいたしました!」
油紙の上で、まだパチパチと微かに音がする。ごゆっくりどうぞとの従業員の声もすでにどこか遠くに感じる。それほど段三郎の意識は膳の上の品に向かってしまっていた。
「待っていたのじゃ」
油のきれが丁度よいタイミングになるまでは、とじっと天ぷらに意識を向けながらも汁椀を傾ける。本日の四季盛り4種の汁のうち2つが海の幸を利用している。だからこそ店中に強く広がっていた香りをより近くから、深く吸い込みながら舌に踊る貝の旨味。調理時はまるごと、提供前に食べやすい大きさに切り分けられた鮑を一切れ口に含む。薄切りだけれど中心だった部分程柔らかさが楽しめる。表面はやや硬くなっているが、それもまた食感を楽しむアクセントになっていた。
鯛には紫蘇の実や小葱などの薬味が数種類。皮の湯引きも細切りで食べやすくなっている。もっちりとした食感を楽しみながら白飯がすすむ。
「それにしても美味いのう……」
そろそろ油もきれて天ぷらも食べ頃だろうか。音が途切れた頃合いを見計らって塩をかるくつける。天つゆもあるが、一口目はシンプルに食べたかったのだ。
サクッ♪
音だけで美味い。遅れて味覚に旨味の詰まった鯵の汁が溢れてくる。天つゆに漬けるなんてもったいない。
(そちらは茄子専用にしてしまおうか?)
思いながらも鯵の天ぷらが消えていく。最後の一口となったギリギリのところで段三郎は気付いてしまった。卓の隅に「タレ」と書かれた小瓶を。
慌てて天ぷらの皿を見る。小ぶりな鯵の天ぷらは、もうひとつあった。茄子も小ぶりで二つあることに安堵する。
そして改めて、持ったままでいた飯の椀を見下ろす。見なくてもわかっていたのだが、だいぶ軽くなっている。
「……やはり飯のおかわりは避けられぬと思うのじゃが」
別料金でも構わないから、試しに願い出てみようか。
「お待たせ致しました、この後順に運びますので……目の前失礼いたします」
まずステラに届けられたのは春の四季盛り。鰹のたたきそのものがつまの上に美しく整列している。タレのベースは透き通った茶色。微かに香る柑橘の香りは白菜の柚子漬けとはまた別のもの由来のようだ。好みで味を調えられるよう薬味だけを盛り合わせた別の皿が添えられている。刻んだ葱、すり下ろした生姜、薄切りの大蒜、細切りの紫蘇と茗荷……直接振りかけても、タレと混ぜても。好きな食べ方が可能らしい。
ノーラの前には夏の四季盛り。輪状に切られた烏賊と六方むきの里芋が揃ってやさしい茶色に染まっている様子は見るだけでほっこりさせてくれる。添えられたさやえんどうが引き締めてくれるから余計にそう感じるのかもしれない。
冬の四季盛りが翔の前に運ばれてくる。
「肉無いのかー」
言葉では残念そうに言ってはいるけれど、届けられた膳の主品である鯛に目を輝かせている。尾頭付きの盛付けがやはり珍しいということだろうか。
「生の魚って故郷のダークセイヴァーじゃ食べる機会無かったなー」
そもそも新鮮な魚を見る機会というのがそう多くない。生きていた状態そのままも思い起こせる状態で出て来る、というのもなんだか不思議だ。
「この盛り方……目出度い時や見栄えをよくするためにやるものなんだが」
尾頭付きについて、刀也が説明を始めるが、しかしなぜそれが提供されることになったのか、わからずに首をひねる父息子。
「お祝いだったっけー?」
「注文は普通だったな」
記憶を振り返る刀也には、心当たりは一つしか出てこない。
「家族初のお出かけー! 美味しいご飯食べるぞー!」
そうやって、終始はしゃいでいた翔の声はたしかに厨房まで届いていたのかもしれない。
「……まあ、料理人の興が乗ったのかもしれないし、楽しめるなら悪いことでもないだろう」
「うん、面白いよねー!」
そんなやりとりを見計らったかのように、刀也の前にも筍ごはんを主軸にした定食が運び込まれる。
1人用の小さな土鍋の蓋を開け布巾をどかせば、湯気と共に艶のある筍が姿を見せる。杓文字で軽くかき混ぜる程に出汁と醤油のおこげの香りが卓に広がる。刺身は秋の四季盛りでも主役を飾る脂ののった鮭を主体に、かんぱち、烏賊、海老と盛り合わせられている。香のものは夏のオクラと胡瓜で粘りを持たせた浅漬け、お汁粉は外せないとばかりにしっかりと膳の上で主張している。
白飯のかわりに味噌汁はシンプルなものになっていたが、どんな注文にも四季を揃える店主の趣向が凝らされている。どうやら同卓の家族がそれぞれに春夏冬の四季盛りを頼んでいるからと、意地でも秋の四季盛りに寄せたようだった。
鯛と茸で白飯をかきこんでから、丁度いい温度になった肝吸いの椀を傾ける。
一人分だけ特別に仕上げられたと知っているから、よりゆっくりと味わう手に力がこもる。飲み込むその瞬間はつい目を閉じて味覚に集中してしまったトーゴである。
「……んむ、美味しい……」
ほう、と吐息が零れるのも止められない。天つゆは軽く温められているが熱い程でもなく、まだ熱い天ぷらをじゅわっと浸せば猫舌のトーゴでも食べられる丁度よい具合へと変えてくれた。
シャクッと、はっきりとした歯触りが残る程度。けれど出汁の効いたつゆの旨味もしっかり絡まり美味い。
(もう一人前頼んで、そのままユキエに持っていきたい……!)
流石に汁ものは難しいだろうけれど、丁寧に骨も取り除かれている鯵の天ぷらも食べさせてやりたい。今だって店の屋根の上で警戒を続けてくれている筈なのだ。潮汁のかわりに肝吸いを出すような店主だ、家族のように大事な相棒の為だと伝えれば、頼みを聞いてくれそうな気がする。
(うん、すぐ食べさせるわけだし、頼むだけ頼んでみよう!)
茸汁はとろみがついていて、ゆっくりと流し込めば身体を芯から温めてくれる。微かな香ばしさに首を傾げて、具を一つずつ確かめるように食べすすめれば。一部の茸は焼いてから使われているらしい。旨味を増す一手間が垣間見えた。
(こんな方法もあるのですね)
こうして家族皆での外食は本当に贅沢で、美味しくて、楽しくて。そう思ってすぐ、家でもこの味を再現できないだろうかと考えてしまう。
それは大切な家族の為に。刀也の妻として、二人の子供達の母として、ステラ自身が己をそう捉えていて、そう在ろうと望んでいるからに他ならない。
皆がそれぞれに違う膳を頼んだことを思い返し、それぞれ違う彩りを見せてくれる料理達を見渡す。
(味を知るには、レシピを知るには……やっぱり、分けてもらうのが一番なんですよね)
そんな建前を用意したステラは、けれど自分で気付いてもいる。
(全部、美味しそうなんですよね?)
全て試してみたい、と思ってしまったことに……さて、このあとどうすべきだろう?
「気になるのはどれだ?」
子供達の視線に気づいた刀也がそれぞれの向かう品を一つずつつまみ上げていく。
翔には先ほども話題にしていた刺身の中でも肉厚な鮭を。肉に近いかどうか、という基準では物足りなく思うかもしれないが、淡白な鯛に比べれば脂の度合いで随分と違った感覚が得られるだろうと思う。
「ありがとー!」
しかしそれない視線をもう一度追えば、一人違う色の飯、つまり筍ご飯が所望のようで。
「茶碗を少し寄せにこい」
分けてやるから、と言えば喜々として茶碗が差し出されるので、添えられた小ぶりのしゃもじでひと掬い。
「やったー、だってこの茶色い所が美味しそーで!」
「おこげに目をつけるとは」
やるな、とつい褒め言葉に繋げる刀也。ひとつひとつは少しずつなのは、刀也自身大喰らいの自覚があるからだ。それでも分け与えるのはひとえに子供達への愛ゆえに、といった所である。
「ノーラは……生と煮物で烏賊を食べ比べるか、無難にかんぱちをすすめるが」
すでにおすそ分けとして煮物を刀也の小鉢に移している娘に選ばせることにする。かんぱちが無難と称したのにも理由がある。海老と烏賊の食感は好みがわかれるところだと思うのだ。食べつけていないと尚更である。
「おとーさん、お姉ちゃんに選ばせるってずるくない?」
父の気遣いを本能で察しているのか、翔の声はどこかからかうような、わざと拗ねて見せているようにも聞こえる。
「筍ご飯もやっただろう」
「そーだった!」
特別でもなんでもないぞ、と返せばあっさりと引き下がる所はただやり取りを楽しんでいる証拠だ。
「……じゃあ、かんぱち?」
やり取りを見ていたノーラは無難という言葉に隠された、父の気遣いを正しく選び取るのだった。
「期待していたけど、それよりずっと美味しい……」
千秋が話していた漁師との会話を耳にして、トーゴが作り上げた話しやすい空気に便乗しながら、相席になった客とそれぞれの膳について語り合う詞。
「ね、ここっていつもこんなに新鮮なものばかりなの?」
常連だと語る老夫婦の孫が詞と年が近いらしい。嬉しそうに会話に興じてくれている。どうやら幼い話しぶりの方が喜んでくれるようで、少しだけ意識した詞の声音も高くなる。
(いつもはもっと家庭料理に近いことも多いけれど、盛付けが料亭みたいに丁寧……か)
その分、思考は冷静に状況を判断しようと考えを繰り広げていたりする。確かにお造りやらたたきやらが一般家庭の食卓に並ぶことは稀だ。
「そっか、いつもと違うんだ?」
トーゴの上げた言葉を思い出す。海に近い方で季節が迷子。……果たしてどういうことなのか。
他の卓でも皆同じ話をしているでしょうねと、穏やかに笑いながら老婦人の方が答えをもたらしてくれる。
「急に冬に戻ったように寒くなったと思えば、翌日は夏みたいに暑くなる……?」
その気温変化の過程で、春のようになったり、秋のようになったり。とにかく季節が定まらない、目まぐるしい状態の地域があるのだという。
「春だけは、他より少し長いみたいなのだけれどねえ」
もうすぐ春だからかしらねえ、とのんびりお茶をすする老婦人はどこか楽しげだ。
「いつもと違うことに、不安はないの?」
気になったので聞いてみた詞に、老婦人はお茶目な笑顔を深める。
「お気に入りのお店で、美味しいものがいつもよりたくさん選べるからねえ」
この年になると楽しみはこれくらいだ、と笑う。
「ふぅん……」
そういうものなのか、それともこの目の前で笑う老婦人が単に動じ難い性質なだけなのか、詞には比較対象も経験もないのでわからない。
「この辺りでかわったこととか……って、この店が一番変わってる、ってことなんだ」
そういうことになるわねえ、と頷かれた。
鰆のかぶら蒸しを見てもピンと来ないのは見慣れないからだろうか。手を止めて首を傾げるノーラにステラが微笑む。
「掬ってみればわかりますよ」
恐る恐るスプーンを差し込めばするりと沈んでいく。元々苦手だからと箸ではなくスプーンとフォークを頼んでいたのだが、これは慣れた者でも少し難しいかもしれないと考えてしまった。
「……!」
そして運んだその一口に声なき驚きがもたらされる。
蕪は知っていた。けれどこんなに柔らかい口あたりになるなんて。僅かに目を見張る娘の様子にステラの目元が和んだ。
「蟹の殻はとってしまいましょうね」
手を出してもいいだろうか、とノーラに確認を取ってから汁椀を受け取り楽し気に世話を焼くステラは、美味しく楽しんでもらうために何かできることが嬉しくて仕方ないのだ。
「口元が留守になってないか?」
見かねた、というよりも丁度いい機会だと口元に笑みを浮かべて。刀也が筍ご飯をステラへと差し出す。
「……勿論、食べています……ぇ?」
当たり前じゃないですか、と顔をあげたところに差し出されたそれにステラの目が瞬く。
「え、っと……あーん?」
子供の前だとか、他にも客はいるだとか、従業員だって容易に見られる状況だとか。考えることも多いし恥ずかしさは間違いなくあるのだけれど。
(そんな楽しそうに微笑まれたら……拒否できるはずがありません……)
尋常ではない恥ずかしさを必死に抑え込んで口を開くステラ。顔が熱いことは絶対に勘違いじゃないと思うのだけれど、それ以外の選択肢が選べるわけもないのだ。
「……」
「どうだ、美味いだろう」
さっきは欲しそうにしていたからな、と続く台詞を、咀嚼しながら聞き終えて。
「……美味しいです」
感謝の言葉の後にそう続けてすぐ、絶妙なバランスで全ての薬味をのせたたたきを一切れ、刀也へと差し出し返すステラ。
「早く食べて頂かないと、タレが勿体ないことになってしまいますよ?」
同じ恥ずかしさを味わえばいいとばかりに、微笑んで見せた。
「……ん」
あーん、と言われる前に自分から食いつけば、ぴくりと箸が震えている。勿論それくらいで刀也がたたきを落とす筈がないし、妻の照れた顔を見逃すはずもない。
じっくりと反応を見ながら咀嚼する刀也の視界は完全にステラしか映していない。
「本当、仲良しだねー」
そんな二人の様子を眺めながら箸を進めていた翔がノーラの膳に改めて視線を向ける。
「俺もお姉ちゃんにすれば良いのかなー?」
「え……」
じっくりとかんぱちの味を確かめながら他の卓の会話へと意識を向けていたノーラの反応が少しだけ遅れる。
「お姉ちゃん食べるー?」
もう少し気を抜いてもいいんだよー、なんて言葉を何気なく添える翔もなんだかんだで聞き耳を立てていたりするけれど。そんなそぶりは全く見せずにとろりと練乳がかかった苺をノーラの口元へと差し出した。
刀也とステラがあーん合戦をしていることにも気付いたノーラもそこで事態を理解する。
「私達もするの……?」
両親の特権だと思っていた、とばかりに瞬かせて首を傾げるけれど、翔の手が下がるなんてこともなく。
「そ、それじゃあ……あーん……」
「うん、おいしいよー!」
俺もさっき食べたからね! と笑う翔に頷きながら小さく喉が鳴って。
「あ、苺美味しい……」
もっと酸っぱいもののイメージがあった。冷やされていないからなのか、練乳がかかっているからか。
そわそわと視線を向けてくる翔に、ノーラの口元に小さく笑みが浮かんだ。
「……翔も食べる?」
「!」
そういえば南瓜プリンを見ていたな、と思い出したから、スプーンでひと掬い。
「はい、あーんして?」
「食べる―! あーんっ!」
残りは苺を残すのみ。すぐには難しかろうと従業員に視線を向ければ、飯のおかわりを持ってきてくれた1人が何でしょうかと寄ってくる。
「忙しいようじゃし、大袈裟にはしたくないのでな」
声を潜めて天下自在符を見せる段三郎。平伏しようとしたところを慌てて止める。
「美味い飯を馳走になった礼をしたいだけなのじゃ。それほどの腕を持つ料理人……店主なのかえ? 主人の手があいた時に少しでいい、時間を貰えぬかと思うての」
引き抜きなどではないからの、と念を押して伝言を頼む。
「……もうしばらく、舌を楽しませてもらうとするのじゃ」
丁寧にヘタを除かれたつやつやの苺に楊枝を刺して、にんまりと笑った。
「……それにしても、2人とも本当に仲が良いわね」
照れたステラを揶揄っているようで、その実本気で口説き文句を連ねている刀也。そんな中の良い両親を見ながらノーラが呟く。
「なーにお姉ちゃん、苺じゃ足りなかった?」
俺もちょっと狙ってるんだよね、おかーさんの葡萄。なんてとぼけた台詞の翔に不思議と肩の力が抜ける。
「そうね、私も気になっているわ。翔もなのね?」
「うん。一緒だねー?」
笑顔が向けられて、笑顔を返して。こうして家族になって。
両親である二人の仲の良さは姉弟も認めるところだけれど。
誰かといることを楽しんで、誰かと過ごす時間を守るための行動も自然とできるようになっている、そんな二人も間違いなく、仲の良い姉弟だ。
そのまま、仲良し夫婦のやり取りを見守ったり、他の卓の会話を聞いてみたりとしていたのだが……
「……ねえ、翔」
「おかわりできないのかなー?」
「それは後でお店の人に聞きましょう。今はステラママと刀也パパを見て」
「え、いつも通りなだけじゃないの?」
「あのままだと、お互いに食べさせあって、無くなりそうなのよ……」
なにがどうしてそうなったのか、食べさせ合いっこはまだ続いている。
姉弟が気にしていた葡萄が、家族の卓上から絶滅の危機である。
「大変だ! おかーさん、その葡萄俺にもちょーだい!」
「翔、それはちょっと急じゃないかしら?」
「お姉ちゃんはいらないの?」
「……気になるわね。ステラママ、私の煮物と交換して?」
新たに展開されるお裾分け大会を眺めながら刀也が小さく笑う。
「家族揃ってこういうところに食事に来れるのはいいことだよな。飯も美味いし言う事無しだ」
自分で作る飯を振る舞うのも、愛しい女の手がけた料理も、子供達が手伝ってくれた料理もどれも違う美味さがあって。
そして今日、こうして皆がゆっくりと過ごす時間の過ごしやすさと囲む飯の美味さを知った。
「そろそろ仕事を思い出すとするか?」
そうステラに伝えるころには、家族皆の膳もほとんど空になっていた。
この食事処のある竹林から海のある方角に向かって進んだところに、件の異常が存在しているらしい。
海と、海に流れ込む川の恵みで生計を立てる者。
潮の影響がない場所で畑を耕し生計を立てる者。
果樹や茸が育つ森の恵みを使い生計を立てる者。
この竹林よりも様々に恵みの揃いやすいその土地ではいま、春夏秋冬の四季が定まらないまま不安定になっているとのこと。
本来であれば徐々に春めいて温かくなる筈のその土地は、ある日突然吹雪に襲われ冬になった。
地面がぬかるむ程の暖かさが訪れ、日が天高く昇るころには皆汗がふきだすほどの夏になった。
過剰な暑さを抑えるための吹雪が吹いたと思えば、境界にあたる土地が秋めいて彩りを増した。
冷えすぎて困っていた土地に再び温もりが訪れたかと思えば、誤解した春の花が綻びはじめた。
毎日が春夏秋冬どれになるのかわからない。
次第に水辺に棲む生き物たちが、畑や森でタイミングを伺っていた植物たちが、定まらぬ季節に翻弄されるまま、生を謳歌するために最も活動的な状態へと変化する。
本来では春を待ち望む季節であるからこそ、春の状態を維持する期間は少しだけ長い。
しかしそんな土地こそ翌日にはすぐに冬に塗り替えられ、急な温度変化に対応できなかったモノがいくつも凍った状態で発見される。
例えば水、例えば箱、例えば布。
凍ったそれらは遠隔地への輸送に非常に役に立ったのだ。
それこそ、この食事処に新鮮な魚を仮死状態で届けることができるくらいには。
纏められた情報を元に、更に異常な気候変化の起きた場所を聞きだしていく猟兵達。
そして、その中心となる場所こそが……これから戦いに赴くべき場所。
オブリビオン達の拠点である。
美味な食事の礼を告げたり、物足りない分として追加で頼んだり、別に頼んだ包みを抱えたりと思い思いに過ごしてから、猟兵達は食事処を後にする。
彼等の背に、店主も従業員も何も問うことはしなかったけれど。
近いうちに客足が落ち着くだろうことは、感じとったようである。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 集団戦
『『雪女』雪華』
|
POW : 氷柱散華
【巨大な氷柱】による素早い一撃を放つ。また、【自壊させて大量の氷柱や氷刃にする】等で身軽になれば、更に加速する。
SPD : 雪華輪
自身が装備する【冷気吹き出る雪結晶】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
WIZ : 我が身は雪と共に在りて
肉体の一部もしくは全部を【吹雪】に変異させ、吹雪の持つ特性と、狭い隙間に入り込む能力を得る。
イラスト:リタ
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
かつてはただの古びた家屋だったはずのその場所は、氷で覆われ、氷で塞がれ、氷しか見えなかった。
差し込む陽射しを反射して輝くその場所は、今は氷の城であるかのように佇んでいる。
「冬ですよー」
「雪ですよー」
「氷ですよー」
「「「春様の天下の為、皆さん凍えて下さいねー」」」
門番はいない。しかしそれを気にする者はいない。
「雪華はあちらにいきますねー」
「雪華はこちらにいきますねー」
「雪華はそちらにいきますねー」
「「「春様の力が滞りなく発揮できるよう、冬を増やしておきますねー」」」
ここに潜むは妖怪変化。
季節を操る魑魅魍魎。
「働かなくていいのですー」
「外出禁止でいいのですー」
「家籠もりがいいのですー」
「「「春様の領地を増やしに、皆で今日も吹雪きますー」」」
訪れるものは全て、全て。
凍らせて、動きを止めて、活動を止めてしまえば全て、煩わしい全てから離れられるのだから。
昼食を終えて、道を辿り。
こうして拠点の近くへと辿り着いたころにはそろそろ陽も傾きかけていた。
遠目に猟兵達が見たその数に、正確な所はわからない。
しかし雪女と呼べるだろう者達が、何名も出入りしているのが見えるこの地こそが、彼らの拠点なのだろう。
空は赤く、夜はもうすぐ……氷に覆われた城は今、赤く夕日に染まっている。
呼吸を揃えて、襲撃を行うなら。
まさに、よい頃合いだと言えるのかもしれない。
牧杜・詞
まだまだ猟兵になりたてて、
どこまでできるのかは解らないけど、
この衝動を抑えずにすむのは、すこし、安心するわね。
ほんとうは、ひとりずつ、が理想なんだけど、
敵も味方もこれだけいると、そうもいかないし、
こういうのにも、慣れていかないといけないのよね。
それに、めいっぱいなにかを殺せる機会なんて、
こういうことでもないとないし、ここは楽しませてもらおう。
武器の殺戮刃物は、白鞘の短刀
【クロックアップ・スピード】を使って、自らの速度を強化。
「いくよ。」
【全力魔法】と【部位破壊】を使って、
相手の首を切り裂いて、血を噴き出させたいな。
「あなたたちは、血も冷たいのかしら?」
戦闘後は、愛おしそうに短刀に頬を寄せます
(ほんとうは、ひとりずつ、が理想なんだけど)
それはかつて牧杜・詞(身魂乖離・f25693)が得意としていた、生業としていた戦い方が理由だ。慣れた戦い方が最も実力を発揮できるのは誰にだって言える事だろう。
けれど今の詞は猟兵で、敵の数は数え切れず、味方の数も定まらず……乱戦になることは間違いなさそうだ。
詞は猟兵になったばかり。手に入れた力は徐々に身体に馴染み始めているけれど、不慣れだと感じる部分はまだ多い。
立場が変わっても、力が変わっても、結局は同じことの繰り返しでもあるけれど……存在が多いという今の状況は、まだ、慣れていない。
(それでも、なったからにはできることをしないと)
慣れていかないといけない、時間は巻き戻せない、今の自分を受け入れるしかない。
(どこまでできるのかは解らないけど……)
今の相棒、白鞘の短刀、その柄をぎゅっと握りしめる。
オブリビオンに向けて振るう刃はどんな手応えが得られるだろう。
絶対的な正義を翳して振るう力にどんな感情が浮かぶのだろう。
そんな正常な思考を、思い浮かんだままに並べてみたけれど。
(そんなことより、なによりも)
白鞘から刃をすらりと抜き放つ。
詞はずっと、雪華達しか見ていない。
はやく振るおう。
はやく刻もう。
はやく血を。
獲物は多い、的は多い、灯火は多い。
はやく、はやく、はやく……今の力で、この刃を、振るいたい……!
(この衝動を抑えずに済むのは、すこし、安心するわね)
指を鳴らす。
ほんの微かな、針が落ちる程度の僅かな音が詞の境界。
他の猟兵達の戦いの音が気にならなくなった。
雪華達の声もただのBGMにしか思えない。
見据えた雪華の位置を覚え、そこに至るまでの障害を全て無機物に捉えて、詞の世界は己と雪華のふたつだけ。
「いくよ」
駆け出す足音は最小限。技能に頼らず身に着けた身のこなしを、新たな力に乗せる。
かつての詞の動きを、滑らかに滑らせる刃の動きを、しなやかに閃かせる腕の動きを、無駄なく駆ける脚の動きを。
一対一。
詞が最も得意とするのは正面からの戦いではない。
圧倒的な速さを得れば死角をとれる。
見据える灯火がひとつなら、見出せる位置は多い。
雪の結晶が生み出されているけれど。どれもがゆっくりと見えるのは、それだけ詞が余裕を胸に抱いているから。
「……遅い」
愛刀に望むのはその場所を確実に捉え破壊するその一点のみ。
念のために、確実な重さを持たせるために魔法を乗せる。
急所に迷いなく滑らせるために視線で定める。
雪結晶がもたらす冷気の粒も視えるような感覚に包まれながら、辿り着くは冷たい灯火、その細い少女同様の首。
刃が走る。一閃に見えるその瞬間に発動するのは殺戮の真骨頂。赤い華が噴き出るように花弁を散らす。
「あなたたちは、血も冷たいのかしら?」
詞のその声もまた高速の世界の中の瞬きの間で、花弁は詞にかかる前に、答えがもたらされる前に、詞は次の雪華を見定めている。
敵が多いなら、ひとつずつ殺せばいい。
ひとつを狙い、ひとつを殺し、またひとつを見つけ、ひとつを狙い、ひとつを殺し……
不慣れな世界を得意な世界に切り分けて、得意なことを繰り返す。
赤い華を咲かせよう。
命の証、殺した証、楽しんだ証、一輪、二輪、三輪……
いくつ、摘んだら、終わるかな?
喧騒が終わるまで。冷たい灯火が消えるまで。
愛刀を愛でるのはお預けだ。
大成功
🔵🔵🔵
宴・段三郎
……………寒いんじゃが?
………どれ、暖かくしてやろう
【行動】
そういえば氷属性の妖刀は今まで鍛刀したことがないから、これを機にやってみるかの。
せっかくじゃから派手にやるかの
使用する妖刀は
号 『火雷毒王』
号 『夜』
号 『化生炉』
まずは二刀流。
火雷毒王と夜で切り込む。
夜の鯉口を鳴らして、空を本当の夜空にし、【範囲攻撃】で敵を串刺しにするかのう。
そして夜空になった瞬間に、火雷毒で妖刀の刀身を生成し【属性攻撃】で火属性を付与して串刺しにするのじゃ。威力は凄まじいので扱いには重々気をつけるのじゃ。
敵の攻撃には【見切り】で対応し、距離をとって回避をするかのう。
最後は化生炉の炎で敵を妖刀へと鍛刀する。
「……………寒いんじゃが?」
氷の城を遠くに臨むまではよかった。しかし、城に近付くほどに雪華が増える。
雪女が多いということはつまり、吹雪いているのである。
数多くいる雪華を個別に倒すだけならそこまで近付かなくてもいいのだけれど、宴・段三郎(刀鍛冶・f02241)はその手段をとらなかった。
特別寒さに強いというわけではない。ただ段三郎は刀匠として炎を扱うことができる。
「……どれ、暖かくしてやろう」
ならばその冷気に真っ向から抗ってみせようではないかと、そんな理由でここまで近づいていったのである。
「何よりのぅ」
段三郎に気付いた雪華達が、雪結晶を操りながら包囲網を形成しようと集まりだした。
春を前にしたこの季節、異常気象の中。見るからに異常の中心とわかる氷の城に進んで近付く者は居ないはずだった。
しかし、猟兵達はこうしてやってきている。
だから雪華達も警戒しているのだ。
「邪魔をするならー」
「凍らせるのー」
段三郎に集う様子は、その声はどこか軽薄な響き。けれど雪華達の数も、その雪華達が操る雪結晶の数はおびただしく、けして軽いものではない。
「気安過ぎはしないかのぅ」
おなごはもっと淑やかなものと思うていた、と小さく呟く。ただ感想が漏れただけだ。冷気を進んで取り込みたいわけでもなく、ただ雪華達の位置を把握するために感を研ぎ澄ませる。
冷気が段三郎の周囲に揃い、内なる存在を凍らせようと、いくつもの結晶が、雪華が、覆いを作らんと動き出す。
「せっかくじゃから」
しかし、先に鳴らすは夜の鯉口。
覆いきられる前に、段三郎が見渡す全てを夜の帳に隠していく。
「派手にやるかの」
徐々に闇に染まるはずの世界を、ただ早送りしただけだ。夜闇に紛れるのが得意な猟兵が更に動きを鋭くさせる、その補助にもなっている。
まだ段三郎は動いていない。急な視界の変化に戸惑う雪華達が見出そうとその場をみれば、流星の様な刀の閃きが走った。
空でなく地から流れる星は、瞬時に生み出された刀身は段三郎の、地国の生み出す星となる。
「集うからこそ狙われる。個だと侮るなかれ……そうじゃの?」
赤き炎は炉の炎。けれど星が纏えば尾羽のごとく。飛び立つ先は雪華の連なり。
幾重にも雪華を貫いて、飛べる限り落とす。
「油断は隙じゃな、忠告は今更じゃろうが」
「雪華がやられたの」
「雪華がとられたの」
「雪華がたおれるの」
けれど雪華はまだ多い。
「これでも恐れぬかえ?」
くふふ。段三郎が笑う。いや、今は地国としての顔なのだろう。
「活きのいい素材は嫌いではないのじゃ」
既に、雪華達を敵とは見ていない。対等なものと認識していない。
視点は低い。けれど本能でその視線を感じとった雪華達は雪結晶を刃として段三郎へと向け始める。
「じゃじゃ馬も、扱いきってこそ腕がなるというものよ、のぅ」
結晶は見切られ続ける。下がる段三郎はただ雪華達を見て、新たな刀身を生み出し、捌きだす。
「氷属性の妖刀は鍛刀したことがないからの、丁度いい機じゃ、やってみるかの」
ただ多すぎる素材は邪魔なだけ。素材の癖を知るために、余分な素材を退かすために、星を生み出し貫き放つ。
「おんしゃ共は、どんな癖を、どんな形に変わるのかえ?」
生まれ変わるが楽しみじゃのうと、優しささえ思わせる笑みを浮かべて。段三郎が完成形に、思想の先に手が伸びれば。
化生炉が閃く。炎を纏う、物量で押し通る、刃であり槌。
「わしが新たな名を、新たな号をきざんでやるのじゃ……鍛刀」
圧倒的な熱に、知らぬ間に壁へと追い込まれた雪華数体が身を竦ませる。
ゆっくりと追っているようで、しかし高速の足運びで逃げ場を奪われた雪華達に、生まれ変わりを誘う炎が襲い掛かった。
大成功
🔵🔵🔵
ドゥルール・ブラッドティアーズ
共闘NG
グロ描写NG
SPD
あら、可愛らしい子達❤
氷って素敵よね。凍らせれば全てが美しいまま。
でも、温もりが無いのは寂しいわ
【オーラ防御・氷結耐性】で彼女達の攻撃に耐え
守護霊の憑依【ドーピング】で戦闘力を高め
『無情なる刻』で14秒の時間停止
【吸血・早業】で一人でも多くの雪女に
快楽の【呪詛】を注ぎ、集中力を奪う事で
雪結晶を念力でバラバラに操るUCを無力化するわ
私は時間も凍らせる事が出来るし
貴女達の心と体を蕩けさせる事も出来るの
彼女達を【誘惑・催眠術・全力魔法】で魅了。
太ももから足の付け根へと指を這わせ【慰め】ながら
濃厚なキスで【生命力吸収】
穢れも知らなさそうな白い肌……
たっぷりと愛を教えてアゲル❤
夜闇に紛れて女がひとり。ドゥルール・ブラッドティアーズ(狂愛の吸血姫・f10671)は密やかに足を忍ばせる。
「あら、可愛らしい子達?」
急な変化に惑う雪華達に、その視線を向け続ける。
「氷って素敵よね。凍らせれば全てが美しいまま」
雪華の周囲を舞い踊る雪結晶の美しさにもほぅと、吐息を零して。
「……でも、温もりが無いのは寂しいわ」
だから、教えてあげなくちゃ。
「ねえ……?」
声をかけてすぐに向けられた冷気も、歓迎のひとつと捕らえて耐えきる。
それくらいできなければ彼女達を救い出す事なんて、出来ないと思うから。
「大丈夫、怖くないのよ?」
雪華達の視界に、瞳にドゥルール自身が映り込んだことを確認して刻を止める。
(さあ、私の愛を受け入れればいいの……)
一人でも多く、ドゥルールの腕の中へ。
誘って、惑わせて、呪いを注ぎ込んで。
奪うのは力と、意識と、主への忠誠心。
口付けを媒介に、どこまでも奪っていく。
凍える冷気を纏う雪華達の身体は、けれど温もりを持つ血が流れているから、それを存分に吸い上げる。
集中力をかき乱せば雪結晶はただ浮遊するだけの飾りとなった。
刻が再び動き出す。
「……ねえ、着いてきてくれるでしょう?」
まだぼんやりとしたままの雪華達に声をかけていく。
「私は時間も凍らせることができるの」
その甘い言葉で仲間の意識を植え付けて。
「貴女達の心も体も、蕩けさせることもできるの」
更なる熱を滲ませる。
瞳に魅了の魔力を、催眠の魔法を乗せて、雪華達を心を順に射貫く。
気付けば、数体の雪華がドゥルールの虜になっていて。
夜闇の帳の向こうへと、消えていった。
その後のことは誰も知らない……ほんの短い隙間の話。
大成功
🔵🔵🔵
ステラ・エヴァンズ
刀也さん(f00225)、ノーラちゃん(f17193)、翔君(f03463)ので引き続き参加
相手が女性で刀也さん大丈夫かと思いましたが…要らぬ心配だったようです
では、皆さんご存分に…傷は必ず私が癒します
ノーラちゃんが刺した傷は治癒しておきましょうね
皆の様子を見つつ怪我があれば範囲攻撃を応用して治癒の雨を降らせます
後は全力魔法で炎属性の衝撃波を飛ばしたりして吹き飛ばすなりしましょう
主に相手の隙を作るのが目的です
氷には炎、夜も近しいとの事で…灯りにもなりますでしょう?
吹雪?…ああ、私氷結には耐性がありますので気に致しません
攻撃も気にしません…私には守ってくださる方ががおりますので
※アドリブご自由に
香坂・翔
刀也(f00225/呼び方はおとーさん)、ステラ(f01935/おかーさん)、ノーラ(f17193/お姉ちゃん)の家族で参加
SPD判定
おとーさん、女の人が相手だけど大丈夫かなー?
家族と一緒に戦うの初めてだけど、共闘自体は慣れてるし、おかーさんはおとーさんに任せるとして、俺はお姉ちゃんのフォローに回ろうか
UC咎人の怨念で敵の集まっている所に真空波を巻き起こし、ダメージを与えた所に高速移動で一体ずつ撃破
お姉ちゃん周囲見てなさそうだし、お姉ちゃんの死角の敵から倒しておこうか
ランスで攻撃したらUC獣の習性
威力あげて確実に潰していかないと
敵の雪結晶は軌道を見切りながら真空波で纏めて薙ぎ払うよ
※アドリブ可
ノーラ・カッツェ
ステラママ(f01935)と刀也パパ(f00225)と翔(f03463)と一緒に。
家族の皆で戦うの…こっちも楽しみにしてたのよね。
相手は女の人だけど…。刀也パパ、大丈夫?
とりあえず細剣をお腹に刺して…呪いの力で高速戦闘を可能にしたらあとは敵を目掛けて防御も回避もまったく行わずに突撃するだけ。
捕らえた獲物には細剣を【串刺し】にして【傷口をえぐる】ことで確実に仕留めていくわ。
あれ…お腹の傷が治ってる…。それに敵の攻撃がこなくて動きやすいわ。
…いつの間にか皆に守られてたのね。
それじゃあ私もみんなの負担を少しでも減らすために…。1体ずつ…。確実に…。1人でも多く…。
殺してあげなくちゃ。
御剣・刀也
ステラ(f01935)、ノーラ(f17193)。翔(f03463)の家族で参加
家族水入らずに邪魔しやがって
俺の家族を傷付けるなら、女、子供だろうが容赦しねぇ
纏めて斬り捨てる
氷柱で突進してきても、焦らず第六感、見切り、残像で避けて、カウンターで一匹ずつ斬り捨てる。
自分ではなく、家族を狙おうとする奴は優先的に斬り捨てる。情けも容赦もなく、確実に
「俺の家族に何しようとしてやがる?てめぇら、そんなに死にてぇなら、一匹残らず殺してやる!」
「家族水入らずに邪魔しやがって」
明らかに怒気を含めた御剣・刀也(真紅の荒獅子・f00225)の声が聞こえる。その顔は今は見えないけれど、声音でもわかる程に不機嫌が表に出てしまっているのだろう。強者との戦いや家族を除いて、他の何事にもそう執着を見せることはない刀也だけれど。やはり家族が傍に居るからこそ、戦いの前から飛ばす殺気のレベルが違う。
(おとーさん、女の人が相手だけど大丈夫かなー?)
(相手は女の人だけど……。刀也パパ、大丈夫?)
率先して家族の前を進むその背を心配そうに見つめる二対の目。香坂・翔(紅の殺戮兵器・f03463)とノーラ・カッツェ(居場所を見つけた野良猫・f17193)が示し合わせたかのように視線を交わして、その後ろを進むステラ・エヴァンズ(泡沫の星巫女・f01935)を振り返る。
((どう思う?))
子供達のどこか似た仕草に和んで微笑みを浮かべそうになったステラだけれど、戦いの前だからと改めて気を引き締める。姉弟が城に近付きながらもこうして余所見が出来るのは、ひとえに先を進む刀也が居るから。勿論ステラも周囲に気を配っているし、子供達だって気配を探りながらなのは、皆互いにわかっているのだけれど。そこに信頼があるからこそ、今もこうしてやり取りがある。
(私も。相手が女性で刀也さん大丈夫かと思いましたが……)
ステラも子供達同様に気にかけてはいたのだ。けれど今の刀也の様子を見れば。
(要らぬ心配だったようですよ)
浮かべるのは安心させるための微笑みだ。姉弟がまた揃って刀也の背を見つめて、もう一度ステラの微笑みを見つめて。うん、と頷いた。
「では、皆さんご存分に……傷は必ず私が癒します」
ステラの声を合図に各々が得物を構える。既に雪華達はこちらの出方を伺いながら、巨大な氷柱を生み出し続けている。
勿論、狙いは猟兵達に違いなく、一番に駆け出すのは獅子吼を閃かせる刀也だ。
「俺の家族を傷付けるなら、女、子供だろうが容赦しねぇ……!」
突撃に近いように見えるけれど、ステラが周囲の警戒を崩さないように、ノーラも翔も慌てない。
刀也の強さを知っている。共に戦う機会はこれまでなかったけれど、それ以外を共に過ごす時間で分かることだってある。
精神的な、信条的な部分の心配も、今の言葉で、その力強い背中で真実の安堵に変わったから。其々が思う役目の為に動き出す。
(家族の皆で戦うの……楽しみにしてたのよね)
刀也が開いた道を追う前に、ノーラはレイピアの切っ先を自身に向ける。悪夢が望む鮮烈な華はすぐにノーラを飾り、花弁が舞う幻想の瞬きがノーラの全てを膨れ上がらせる。
速さがかわる。速さを乗せた鋭さが威力を増す。痛みを狂気が覆って、ただ敵を的だと受け入れる。
誰が一緒だろうとノーラの戦い方は変わらない。
「ねえ、隙だらけよ?」
雪華達は雪結晶の操作ばかり気にして、自身の身体をおろそかにしているようにしか感じない。
「数がそんなに大事なの?」
ただ速さに身を任せて懐に入り込む。尋ねるその瞬間は、既に悪夢が雪華を貫いている。
手首を捻る。悪夢を捩る。傷口を抉り。覗き込む。
「留守はいけないわ」
優しい声音で囁きかけても、その雪華はもう物言わぬ身体。
「もうおしまいなのね」
知っていて、唇が笑みを形作る。
次の雪華に問えばいい。
「留守番はどこかしら」
返事がもらえるまで、何度でも入り込めばいい。
敵の懐に。隙だらけのその胴に。悪夢を忍び込ませて、鍵を開けるように捩って、開いた傷はきっともっと鮮烈な赤。
(家族で一緒に戦うのって初めてだけどさ)
刀也の背を、ステラの視線を感じながら翔は思う。二人は離れてはいるけれど。互いがどこで何をしているか、絶対に把握している筈。
(どーしても危険な時があれば勿論かけつけるけど)
誰かと戦う事そのものに慣れている自負がある。誰かの戦い方を知って、その邪魔をしないように、フォローできるように立ちまわることは得意だと思う。
頭で考えることもあるし、本能で察せられることもある。それは相手との関係にも影響されるけれど、気を使っているとかそんなわけでもなくて、そうやって効率よくなるならそれが一番だと思っているからこそ。
ただ、今は。そう簡単に何か危険に陥るわけがないと思う。そんなことは許さないと互いに思っているような二人だから。
(特に、おとーさんだからねー)
いつみても背しか見えない気がするけれど、間違いなく、意識は家族皆に向けていると分かるのだ。ステラだけではなくて、姉と自分がその対象にちゃんと含まれていると知っている。
(だから、おかーさんはおとーさんに任せるとして)
雪華の数は多い。刀也だけでもなんとかなるなんて父自慢をしたい気持ちもあるけれど。今日は皆戦うことそのものも楽しみにしていたのだ。
(俺はお姉ちゃんのフォローに回ろうか)
お互いに少しずつ役割分担して、それがきっと丁度いい。
刀也が駆けたあと、ノーラが突っ込んで行こうとする先に翔も足を進める。これまでに倒した怨念を呼び起こして、咎として身に纏う。
神経が研ぎ澄まされる。姉に寄り添うように、名の通りに翔。
戦場に新たな赤い華が咲き続けている。その身に秘めた半分のヴァンパイアの血が勝手にそれを感じ取る。
多くは雪華のもので、気になるほどの事でもない。
けれど愛しい娘の、ノーラの血はそのままにしておくつもりはない。
(ノーラちゃんが刺した傷は治癒しておきましょうね)
必要なことだと分かっているから、止めない。
その赤い華は確かに可愛い娘の魅力をより鮮やかに彩るけれど、心配なことにも変わりなく。
ステラの全身が青白く光り出す。地上の星は夜闇に請い願う。
(少し早いかもしれませんが……灯りにもなりますでしょう?)
怪我する傍から癒せばいい。怪我を瞬きで幻想に変えてしまえばいい。戦いは始まったばかりだけれど、英気は十分に養ったのだから。
癒しの光は流星になって降り続ける。
家族を想う愛を軸にして、勝利への願いで星の光をより大きく育てて。癒しの光は戦場に広く降り注ぎ続ける。
星が降る。光が降る。愛が降る。
正確にはまだ婚約者だけれど、家族として過ごす今は特に、伴侶だと強く感じとれる、ステラのもたらすもの。
無茶ではないからと腕を伸ばすのだろう。
得意だからと自分からこなすのだろう。
慣れているから……耐えるのだろう。
疲労の蓄積を甘く見ない方がいい。確かに動く必要は少ないだろうが、これだけの技を見せつけて、狙われない方がおかしい。
雨が降る中、中心を目指す。
「退けよ!」
振るえば何かが倒れる。氷柱だったかもしれないがどうでもいい。
気配が揺らぐ前にすぐ傍に戻るには、最短を駆け抜けるのが一番だ。
急がずとも対処できるだろうとは知っている。
「俺の家族に」
言いながらも刃を振るう。
ノーラの前にいた雪華からの振り向き様の氷刃、避ける以前に雪華もろとも斬り捨てた。
必死にならずとも、倒れないことは知っている。
(俺の伴侶は、強い)
刀也はステラの強さを知っている。
「何しようとしてやがる?」
ステラの前に集う雪華達に振るう連撃は、獅子吼が閃く度、地に赤い華を咲かせていく。
ただ、弱る姿を見たくないだけだ。
傷つけられてはいない。
「てめぇら、そんなに死にてぇなら」
ステラもノーラも、自ら疲労に、自ら傷に、手を伸ばしているのは知っている。
けれど長く見ていたいわけじゃない。
癒され傷は塞がっても、失った血は戻らない。
癒し続ける限り、疲労はひどく重なっていく。
「一匹残らず殺してやる!」
闇色の風は、流星の灯りをもってしてもあまり目立つことがない。
夜闇に染まった戦場で、視線は灯りを求めてしまうもの。だから翔の放つ真空波は密やかに雪華達を襲う。
雪華の隙ばかり見据えるノーラ、その後方に迫る雪華。集う雪華達に纏めて衝撃を与えれば、敵は揃って体勢を崩した。
(ほらね)
一体ずつ、速さを乗せたランスで貫いていく。刀也が斬り倒しながら道を開いてステラの傍へ戻る様子に、声にはならない笑みがこぼれる。
真直ぐステラの元へと駆けているようで、翔の狩れる個体、動線に重ならない範囲で、けれどノーラに向かう雪華を斬っていた。
(おとーさんも減らしてたし、もーすこしかな?)
ノーラの死角に残る雪華にまた、ランスを向ける。どこに当てれば更に体勢を崩すのかを覚えれば、更に狙いやすくなる。
「覚えたよ?」
口の中でだけ呟く翔の足運びは森に潜む獣に近い。
(お姉ちゃんの狩りを、邪魔させはしないからね)
最も頼りにしている背が、目の前にある。
離れていても同じ戦場、それだけでも心強いのに。近ければ近い程胸の内があたたかい。
雪華達の放つ吹雪が、変化してまで繰り出した細かな結晶が星の光を浴びて煌めく。入り込もうと、傷を生もうと隙を伺うそれを、けれどステラは薄く微笑むだけで視線さえも向けはしない。
耐性があるから。傷はすぐに塞ぐから。それだけではなく。
「……私には守って下さる方がおりますので」
すぐ傍で剣戟が聞こえる。獅子吼が奏でる音は様々だ。
鈍い音は雪華だろう。澄んだ音は氷だろう。ステラに集う敵影を全て、ステラに届かせる前に殲滅する独特の拍子。
ステラに届くのはその戦いの音だけだ。
刀也の足運びに耳を澄ませる。迷いのない動きに無傷と知る。
攻撃こそ最大の防御とばかりに駆けていったノーラの居場所を探れば、翔が傍で立ち回る様子も知れて。
(ノーラちゃんも、翔君も。怪我はないようですね……)
安堵の息を零す暇も魔法を練り上げる時間に変える。
星の光を燃やし空に溶けさせるほどの熱を。
闇を照らし新たな灯火となれるほどの光を。
雨が止んでも夜闇は完全には戻らない。
ステラの放つ炎の衝撃波は、絶えず戦場のどこかを照らしているから。
(あれ……?)
次の雪華を。けれど捕らえるまでの時間に猶予が生まれたその時。
(お腹の傷が治ってる……)
痛みを誤魔化し覆う狂気の必要がなくなったからか、ノーラの意識が常のそれに近くなる。
触れずとも、身体を巡る血の勢いくらいわかる。華を咲かせ続けたままでは次第に身体が鈍るのに、それがない。
雪華を狩る。反撃がない、むしろバランスを崩したそれは獲物というよりただの的。
(それに敵の攻撃がこなくて動きやすいわ)
また次の雪華に悪夢を突き刺し捩り込む。身体はただ突入を繰り返す。けれど意識を神経を広く広げる。怪我はなくなったけれど、身体は研ぎ澄まされたままだからそれができる。
(ステラママの炎の熱)
気付けば、視界でもそれを認識する。
(翔はすぐ傍に居る)
ノーラが咲かせる華の近くで、別の華が咲いている。
(刀也パパの放つ音)
気合のこもる一閃が、力強い撃が地を震わせる気配を感じる。
背を押されるようにして、悪夢がまた次の雪華を捉える。
(……いつの間にか皆に守られてたのね)
気付けた。感じとれた。いつもの私のままで。
「それじゃあ私も」
できることはひとつだけ。いつもの私のまま続けるだけ。皆の負担を減らす道は変わらない。
「1体ずつ……」
貫いて。
「確実に……」
抉り開いて。
「1人でも多く……」
殺してあげなくちゃ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鹿村・トーゴ
ふーん
店のご馳走のネタはこれかぁ
UDCで聞く冷凍保存てやつ?
今は季節ごちゃ混ぜの時もあるって程度だが
あの雪女の物言い…絶対深刻な事になるよな
年中冬で飢饉とか最悪だろ
ユキエ、昼間はご苦労さん(頭と首を搔き、撫ぜてやる
いいもん食べたし
さ、ひと仕事しよーかね
指定UC
低い姿勢で騎乗したまま敵に接近
敵UCには【念動力/投擲/追跡】で
活用した手裏剣数枚で撃ち抜き相殺+手にしたクナイで弾く/躱す【武器受け/野生の勘】
敵には騎乗のまま手にしたクナイで刺し斬り付け【暗殺】
白猪(術で変化したユキエ)も牙と後足蹴り上げて攻撃
話、通じるかな?
雪女と会話出来ればあんたらのご主人はどこって聞こうか
ま、…近くにいそうだけど
「ふーん、店のご馳走のネタはこれかぁ」
鹿村・トーゴ(鄙村の外忍・f14519)が思い返すのは新鮮な魚。お造りで食べた鯛の鮮度を思えば確かにな……と、思えるわけだ。
海の魚は凍らせて届いたというなら、UDCで聞く冷凍保存というやつだろうかと納得し頷いておく。
羽毛がふわりと頬をくすぐる。どうしたの、とでも問うようにユキエがトーゴの様子を伺っている。
「ユキエ、昼間はご苦労さん」
空いた方の手で掻き、流れにあわせて撫ぜてやる。腹も満たされご機嫌なユキエは冷気も気にせずトーゴにされるがまま、機嫌も上々。
「そうだな、いいもん食べたし」
ユキエには多い分はトーゴが美味しくいただいたわけで、いつもより満腹感が強かったりもしている。
「さ、ひと仕事しよーかね」
腹ごなしにもちょうどよさそうだよなと微笑めば、ユキエがふわり、飛び立つ。
頭上で一度旋回し、トーゴの後ろへ回ってから、くるり。足の合間に降下する。
「依り代はここに」
ユキエの真白の羽毛が膨れ上がる。柔らかで繊細な手触りが強さを示す毛並みに変わる。短く、どこかザラリとした手触りは常の姿と違うけれど、色は同じだ。
瞳の色はそのままに鋭さを増した。足爪と嘴のときでさえ鋭く光っていた黒曜は全てを支える蹄と、刃でもある牙へ変わる。輝きだけでなく、硬さも同じだ。
変化を終えた瞬間、既にトーゴはユキエの上にいる。跳び乗る必要もなく、ふわり浮き上がるように視線の位置が変わる。
移動の邪魔を減らすために身を伏せる。しっかりと跨る脚の緊張で、ユキエもすぐにタイミングを把握する。
滑空の勢いのままに走り出す。共に過ごしてきた時間は明確な合図を必要としないのだ。
近付くほどに冷気が強くなる。雪結晶には近い動きで手裏剣を放っていく。狙い投げてひとつ、念動力で軌道を変えてふたつ、追尾させてみっつ。
避けるより駆け抜ける方がはやいと、ユキエは戦場を駆ける。向かう正面に雪華が入れば牙を向ける。首の角度を変えるだけでも十分に刃となる。
「いったぁー!」
接近にあわせてトーゴのクナイも雪華を襲う。近すぎる冷気を元に追加された雪結晶を弾けば念力も乱れるらしい。その隙を利用したユキエが噛みつく。
(無防備だね)
固定されてしまえば刺す場所も選び放題。トーゴのクナイが急所を突けば、ユキエが雪華を足蹴にして、その勢いを使って方向を変える。
雪華が多い今なら、ただ直進するだけの獣に収まらないでいい。トーゴも体重移動を合わせて、向かう先へ呼吸を合わせる。
言葉はいらない。一体化している今は互いの動きで意思が伝わる。
黄芭旦の姿で、離れていてさえできることが、共に駆ける今出来ないわけがないのだから。
(今は季節ごちゃまぜの時もあるって程度だが)
駆けながら斬りながら、考えるのは雪華の言葉。
身体はユキエと共に雪華狩りに終始している、ユキエは徐々に雪華の動きをよめるようになったからこそ余裕が生まれはじめたから。
(年中冬になったら、飢饉とか……絶対深刻な事になるよな)
そうなったら最悪だ。けれど雪華達の主人がどんなオブリビオンなのか、それがまだ、見えない。
(……話、通じるかな?)
ユキエが捕らえたタイミングで、生殺与奪の権利がこちらにある状況ならば。尋ねてみてもいいだろうか。
(もう少し、数を減らしてからだけどな)
また一体の雪華に斬りつける。意識だけが戦いとは別のものを見ている。
目は雪華を、手は雪華を、足はユキエに。向ける先は違うまま。
(にしても、冬を作るこいつらの言う「春」か)
聞くならその主人の居場所だろうか?
ちらりと城を視界に入れる。雪華はまだ出てくるようで、突入はまだ出来そうにない。
(ま、そこに居そうだけど)
それでも疑問が残るのだ。冬の象徴にも見える氷の城の中から指示を出す、春とは。
大成功
🔵🔵🔵
草野・千秋
昔この世界には戦争もありましたけれど
まだまだエンパイアの世界は完全に平和とは言えないようです
季節がコロコロと変わってしまうなんて
そんなの困ってしまいますよね
体も心も調子を崩してしまいそうです
美味しい四季盛り食べて腹ごしらえしたのなら
猟兵のお仕事頑張らないと、ですね
(きりっ)
UCを展開させつつ射撃
武器改造で炎の属性攻撃を範囲攻撃に付与して
炎の攻撃をばらまく
吹雪にだって負けませんよ僕達は!
部位破壊とスナイパーで氷柱も叩き壊す
本当は僕どちらかと言うと
接近戦の方が得意なんですけどね!
数が少なくなってきたら怪力、2回攻撃、グラップルで各個撃破
「本当は僕、どちらかと言うと」
駆けながら声を張り上げるのは、気合を籠める為だ。
「接近戦の方が得意なんですけどね!」
不得意というほどではない。出来ないわけではない。ただ状況が許すなら得意な方を選ぶだけだ。
声を張り上げることで雪華達の気を引いて、少しでも多く狙い撃とうと、草野・千秋(断罪戦士ダムナーティオー・f01504)はordinis tabesの引き金をひき続ける。
(思っていた以上に数が多いですよね)
この世界で戦争があったのは半年前だ。確かにあの時多くの戦火は沈静化されたけれど。
(まだまだ完全に平和とは言えないようです)
だから少しでも早く、この異常が終わるようにと願って戦場を駆ける。
駆けながら、雪華達の誘導が出来ないか考える。
牽制射撃で移動を促す。その場所からは退かせても、集めるには少し物足りない。
炎を纏わせ範囲を広げる。氷を解かす勢いにまで高めれば、氷柱が追加されて壁ができる。
雪華ではないけれど、障害物であることにはかわりない。
千秋の的が増えるだけだ。巨大な氷柱にも熱を向ける。弾を向ける。ひとつひとつは小さな銃弾であっても、数の暴力で叩き壊すことができる。
「せっかく凍らせたのにー」
「せっかく冷やしたのにー」
溶かされるくらいなら、壊されるくらいならと、雪華達は自らの意思で氷を細かく刻む、薄い刃を生み出して千秋に向けてくる。
意図したものであれば思い通りなのだと勝ち誇った笑みを浮かべようとする彼女達は、けれど千秋の射撃が止まらないことを忘れている。
「隙をありがとうございます!」
刻まれた氷の隙間から雪華達を狙い撃つ。駆けながら、その位置を変えることで千秋を狙う氷を消費させていく。
「吹雪にだって負けませんよ僕達は!」
美味しい四季盛りを食べて腹ごしらえもしたのだから、体力も気力も十分にあるのだと、やはり声を張り上げる。
ひとところに留まらない千秋は射撃を止めない。氷柱を、雪華を狙い撃つことを止めない。
氷柱を自在に操る雪華が減れば氷も減る。
雪華の動きが鈍ればす気は更にできる。
集中を欠いた雪華は、時に氷を細かく砕きすぎて、雹や霰のようにも思えるその数は多すぎて、既に吹雪と大差ないものを作り上げる。
鋭利な刃の斬撃と、小さな礫の目くらまし。
「だからどうしたって言うんですか?」
火炎の出力を上げる。摂取したエネルギ―を燃やし尽くすほどの勢いで熱を生みだせば、細かな礫は千秋に触れる前に溶ける。
雪華達の数は徐々に減っているから、その冷気の勢いも減っている。
(今なら近付けますね!)
射撃はやめない。ただordinis tabesを片手で構える瞬間を作るだけ。ほんの少しの間くらいは、反動だって抑え込める。
握った拳を撃ちこんで、反動を利用して身体を捻る。
振り返り様に別の雪華を掴み、絞める。
「僕、ずっと言ってましたよね?」
声をかけた目の前の雪華に聞こえているかはわからない。その目はもう閉じていて、千秋を映しているかもわからない。
もう、こときれているかもしれないけれど。
「接近戦の方が得意だ、って」
後は、一体ずつお相手させてもらいます、ね?
大成功
🔵🔵🔵
フォーネリアス・スカーレット
「ドーモ、オブリビオンスレイヤーです。安心せよ、貴様はもう二度と動く必要は無い」
宣戦布告を兼ねた挨拶で注意を引く。だが、仕掛けはその前に済ませている。先に投擲した手榴弾……いや、水風船とでも言った方が良いか。これを気取らせない為の挨拶だ。
地面に落ちた水風船は中身を、揮発性の高い油を撒き散らす。いかに極寒の地と言えども、油に引火しない道理はない。
「やはり、この手に限るな」
後はそこに炎剣を投げるだけだ。吹雪で消火されないように、無尽の鞘から追加の油風船を次々と投げる。
「皆殺しだ、例外は無い。一匹とて逃がさん」
どこかに向かい腕を振る。
狙いは高く、狙いは遠く。
身体は前に、振るは上に。
儀式のようにも見えたのは、フォーネリアス・スカーレット(復讐の殺戮者・f03411)が静かに、無言でそれを為していたから。
視線の向かう先は見えないけれど、意味があるようには思えない。
少なくとも、雪華達はそう判断したらしい。
「凍りたいなら望むまま―」
「震えたいなら止っててー」
「寒さマシマシ大振舞いー」
全身を覆う鎧から、さっきは既に発せられていない。
だから雪華達は誤解した。
フォーネリアスの鎧はただの飾りだと。
先の動きはただの悪あがき。怯えから来る無為なものと。
察せないから誤解した。
「ドーモ、オブリビオンスレイヤーです」
鎧の中で反響しながら膨れた声は、妙なくらい単調で。逆に丁寧に聞こえてしまった。
だから雪華達は遅れた。
「安心せよ、貴様達はもう二度と動く必要は無い」
言葉の意味を理解することに。
巨大な氷柱を生みだすことに。
最も必要な警戒を忘れ去って。
ただ、フォーネリアスの宣戦布告を。妙にゆっくりと響く挨拶に耳を傾けた。
(だが、仕掛けはその前に済ませている)
フォーネリアスの思考は、雪華達の冷気を貰わずとも、冷えている。
熱い復讐心も身の内でくすぶっているけれど、少なくとも、目の前の雪華達には不要なものだ。
殺気を向ける必要がないから出さないだけだ。
おもむろに取り出した魔法剣は、フォーネリアスが最も使い勝手が良いと評するありふれたもの。
それを剣として構えるでもなく……ぽいと、軽く放る。
「「「雪華には届きませんよー」」」
一応とばかりに氷柱を呼び出した雪華達が、その影からフォーネリアスを笑う。
愚かなオブリビオン達は、けれど直後に真実を知る。
パシャン……ッ!
液体の入った袋の、落下音。
最初の一投。見えない速度で、どこまでも高く遠く放り投げていたもの。
それだけなら武器ではない。だから警戒は薄まった。
破裂しなければただの油。
それが魔剣の上に、落ちてきた。
「「「!?!?!?」」」
瞬時に燃え上がる業火。揮発性の高い油が、落下の衝撃で破裂した袋から広がっていく。
突然すぎる出火に反応が鈍る雪華達を気にするなんてことをフォーネリアスがするはずがない。
ただ黙々と、炎の中に、炎の縁に、より広げる為に。
同じ袋を投げつけていく。
「やはり、この手に限るな」
魔剣は後で拾えばいい。
呆れるほどの数を用意した油風船を、ただの作業動作で投げ込んでいく。
雪華を囲むように。熱を高めるように。
ただ油を増やし、ただ炎を燃やすだけ。
氷があろうと意味はない。油があれば燃えるのだ。
水の中でも、燃料があれば炎は燃えるのだから。
叫び声も騒ぎ声も、雪華達のものであれば気にしない。
ただ吹雪が来ないかどうかだけ、兜の内から視線を向ける。
無尽の鞘からは油風船が出てくる。
出てくる限り投げつける。
炎の範囲を広げて、雪華達を少しでも多く巻き込んでいく。
「皆殺しだ」
次々と投げ込む。
(遮蔽空間であればもっとよかった)
それを補うための油を、ただ注ぎ続ける。
「例外はない。一匹とて逃がさん」
殺気はない。
狂気はある。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『怠惰と眠りの春眠』
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POW : きちぃ
【圏】を巨大化し、自身からレベルm半径内の敵全員を攻撃する。敵味方の区別をしないなら3回攻撃できる。
SPD : ねみぃ
【吐息】から【桃色の霧】を放ち、【睡眠】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ : たりぃ
【寝ながら楽して君臨したい】という願いを【生きとし生けるものの深層心理】に呼びかけ、「賛同人数÷願いの荒唐無稽さ」の度合いに応じた範囲で実現する。
イラスト:津奈サチ
👑7
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「テルプ・ステップアップ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
戦場は、氷の城の前。
雪華達の悲鳴が幾度も響く。
夜闇の中で、春を呼ぶ。
雪華が減る度、城が溶ける。
雪華が倒れて、城が濡れる。
雪華が消えて、城が開く……
「……ふぁ……」
ふらりと歩く、その歩みは。どこか酔っ払いに似ている。
口元を覆う、その手は。零れる吐息を隠すようで隠していない。
「なんだぁ……ねみぃって……言っておいただろぉ……」
「「「春様春様春様ー!!!」」」
助けてと、待っていたと、僅かに残る雪華達が手を伸ばす。
「たりぃ……うるせ……」
どこまでも気怠げに、春と呼ばれた鬼は城から歩み出る。
「なんだぁ……冬にしろっていっただろぉ……」
戦い続ける猟兵を見る。
今にもこと切れそうな雪華を見る。
「……んん?」
徐々に、鬼の目が、金の瞳が露わになっていく。
真夏の日差しを思わせるような強い色。
涼し気な青の衣には、春の象徴、桜の花弁。
双圏を肩にかけて、どこまでも怠そうなまま。
「雪華ぁ?」
じろりと、慕ってくる部下達をにらむその目は怒りを含む。
「確かに加減を間違って、夏にしたのはこっちだがぁ? 冬に戻せと言ったよなぁ?」
凍えさせて、冬の中に閉ざして。
急な春に、温かさに堕落させて。
その繰り返しで人々を弱らせて。
そろそろ仕上げの頃合いだ……と、そんな予定だった筈。
騒がしいから宴かと。
全て整った報せだと。
欠伸噛み殺し来てみれば……活きのいい、雪華ではない者達ばかり。
「……めんど……寝てたいけど、まぁ」
双圏を構える鬼の目は、既に冴えているようで。
「疲れてるんなら、遊び甲斐はある、かぁ」
ちょっとくらいなら、構ってやると。
猟兵達の前で、笑った。
草野・千秋
寝ながら楽して生きていたい?
いいえ、人は勤勉に生きるべきなのです
もちろん必要な休みは挟むべきですが、それはあくまで休憩
怠惰な事を考えていては世の中は回りません!
春よりも冬は睡眠が捗ると聞きますが
冬はいつしか明けて恵みの季節の春は来るのです
宴は頑張った人の為にあるのですよ
鬨の声を上げるように、勇気をもって味方を鼓舞
UCを発動、防御力を上げましょう
いつでも味方をかばえるように、自分も前線で戦えるように身構えます
怪力、2回攻撃、グラップルで接近戦、叩きのめします
敵攻撃は第六感、戦闘知識でかわそうとします
自分に当たるなら盾受けと激痛耐性で受け流します
味方に当たるならかばう
大丈夫でしたか!?
御剣・刀也
ステラ(f01935)、ノーラ(f17193)。翔(f03463)の家族で参加
惰性と眠り?
そんなもんどうでもいい。俺の家族を傷つける奴はつぶす
何でも来い。今の俺は怒りに酔って眠りなんて吹き飛ばせそうだ。
圏を巨大化させて攻撃してきたら、振り下ろしなら見切り、残像で避け、薙ぎ払いならしゃがみ込んで避ける
第六感で振り下ろしか薙ぎ払いか予測し、避けたら勇気で追撃を恐れず、ダッシュで踏み込んで捨て身の一撃で斬り捨てる
家族を攻撃しようとしたら、凄まじい殺気を放って気を引く
「おい、どこ見てやがる?お前の相手は俺だろ?俺の家族に、傷一つでもつけてみろ?地獄に送っても殺してやる!」
ステラ・エヴァンズ
刀也さん(f00225)、ノーラちゃん(f17193)、翔君(f03463)で引き続き参加
…ここは私も特攻……あ、却下ですか?
ふむ、それならば皆さんが怪我をせぬよう力を使うと致しましょう
護星結界にて味方全員に結界を
眠り?…霧も結界がはね除けてくれるとは思いますが…念のため破魔の念を結界に練り込んでより強固なものにしておきましょうか
家族の誰も傷つけさせません…必ず守ります
後は後方支援
皆さんが攻撃しやすいよう敵が隙を作りやすいようにちょこまかと動いて四方八方から攻撃
雷をのせた衝撃波を放ちます
煩わしくて少しでも意識を乱れさせられたなら万々歳です
鬼さんこちら、手の鳴る方へ…でしょうか
※アドリブご自由に
ノーラ・カッツェ
ステラママ(f01935)と刀也パパ(f00225)と翔(f03463)と一緒に。
家族と一緒って凄く心強いわね。
…そうよね、あなたも私にとっては家族だもの。一緒に戦いたいわよね。それじゃあ…今日もよろしくねSehnsucht。
Sehnsuchtは肉球弾で鬼の足止めをしたり、家族への攻撃を逸らしたりでサポートをお願いね。守るものは増えたけどやることはいつも通り。頼りにしてるわよ。
私もいつも通り。防御も回避も捨ててただ突撃するのみね。上手く接近出来たら鬼の両腕を細剣の【串刺し】で【部位破壊】を狙おうかしら。
まだまだ狩りを楽しむ為に…逃げる足だけは残してあげる。ふふっ、鬼がどこまで逃げるか見ものね。
香坂・翔
刀也(f00225/呼び方はおとーさん)、ステラ(f01935/おかーさん)、ノーラ(f17193/お姉ちゃん)の家族で参加
あれが『春様』かー。また女の人なんておとーさんやりにくそー…でも無さそうだね
ま、あいつ倒して終わりだって言うなら、さっさと終わらせるかー
俺も今回は全力で行こーっと
戦闘中は無表情
UC咎人の怨念で高速移動して接敵し、ランスでダメージ与えながらUC獣の習性で威力増大
敵の攻撃は見切りながらいなしていく
桃色の霧はUCの黒い真空波でかき消す
俺達との戦いは楽しめたか?
そんなに眠いんならさ、骸の海で眠ってなよ
おやすみ、『春様』?
※アドリブ可
鹿村・トーゴ
寒暖いじりの張本人はあんたかー
確かに人間、季節が狂うと参るからな
オレ普通の季節好きだし
人間の味方しよ
へー…構ってくれるんだ?あんた面倒くさがりっぽいのに有難いね
手裏剣幾つかを【念動力】でフォローし【投擲】しつつ接近
防御は手に持ったクナイで敵武器を【武器受け】活用し弾く・軌道を変える、【野生の勘】で躱す
攻撃を食らったら【激痛耐性】で耐えて
クナイにUC空嘴の威力を乗せ
>刺し、斬り付けて攻撃
>少し距離があれば狙いを付け【投擲】して攻撃
主のあんたが倒れたらこの氷の城も雪ん子の娘も綺麗さっぱり消えんのかね?
それなりきれいな城だけどこの辺には要らないモンだからさ
残るなら解体、しないとなー…?
アドリブ可です
牧杜・詞
次の標的はあれ?
切り心地は良さそうな感じね。
疲れてる?
誰かを、何かを『殺せる』楽しい時間に、何を言っているのかしら?
『殺したい』というその衝動のままに鬼を敵と認知。
きっと強いのだろうけれど、ひとりならわたしの領域。
刈り取らせてもらうよ。
味方? もいるけれど、連携するというよりは、
隙をついていくほうが得意、ね。
【命根裁截】と【部位破壊】を組み合わせて使って、
急所、できれば首を狙って行くわ。
「眠いなら、寝ていていいわ。ずっとね。」
わたしに殺されれば、身体に傷はつかない。
綺麗なままで、ずっと眠っていられるわよ。
戦いが終わったら、
愛用の短刀に愛おしそうに頬をよせ、薄く笑うね。
「おやすみなさい。」
フォーネリアス・スカーレット
「ドーモ、オブリビオンスレイヤーです。安心せよ、貴様はもう永遠に寝ていられる」
油風船を高々と振りかぶり、投げる。先の戦闘を見ていれば反応はするだろう。通るのなら焼き殺してもいい。だが、これはフェイントだ。
こちらに注意を引き、アズールに側面から奇襲してもらう。彼女も炎の化生、火でダメージは受けない。
その隙に肉薄し、芯断ちを叩き込む。後はいつも通りだ。電磁居合斬り、地獄焼き、楔打ち、神喰いと繋ぐ恐れ喰らいのコンボだ。
「行こう、アズール=サン。次のオブリビオンを殺しに」
無論、僅かに残る雪華達も忘れず殺す。皆殺しだ。
「寝ながら楽して生きていたい?」
眠気を全く隠さないその様子が、草野・千秋(断罪戦士ダムナーティオー・f01504)には許せない。
「いいえ、人は勤勉に生きるべきなのです」
だから弁説を重ねる。人の形をしている限り通じると信じているから。
「あぁ?」
鬼はその言葉に怒気を向ける。それこそが鬼にとって憎きものと、瞬時に巨大化した双圏が物語っている。
「なんだぁ、お前」
金の瞳が太陽の燃える様を、熱さを湛えて夜空の下、強く輝いて。千秋の言葉を、言葉を発した千秋自身を睨みつける。
「もちろん必要な休みは挟むべきですが、それはあくまで休憩……って」
寸でのところで回避した千秋はその時になって鬼の視線の強さに気付く。熱い思いを、共に戦う味方への鼓舞を、勇気を更に盛り立てる為の言葉は同時に千秋の強化にもつないでいくためのものだ。
戦い、そして庇える十分な力を得るための準備段階の筈で、しかしその途中で既に千秋そのものがターゲットにされている。
「人に尋ねておきながら、攻撃するなんて、礼儀を教わっていないのですか!」
避けながらいうことではないが、咄嗟にあげた声はそんな指摘。弁舌を遮られたことで少し、自棄になっていたと思った時にはもう遅い。
「うるせ」
圏が更に振るわれる。千秋を狙って、近くに立つ猟兵を狙って。双圏はただ鬼の感情のままに振るわれる。
「春様」
「春……」
「はるさ、ま」
敵も味方も関係なく、ただ千秋の声が聞こえてくる方角に振るわれる。
残っていた雪華もまた、圏によって斬り抜かれる。
「どいつもこいつも、うるせ」
雪華の言葉は届いていない。何故か、千秋の言葉は届いている。
慕う声よりも、窘める声が届いている。
「寒暖いじりの張本人はあんたかー」
冬を生みだす雪華達に、春様と呼ばれる鬼。なぜ加減を間違えると夏になるほどなのかという点に疑問は残るけれど、それも外見や力の揮い方で事情が分かるような気がする。
(まあ、聞いても教えてもらえそうにないけどな)
先の言葉が届いていないことを確認して、鹿村・トーゴ(鄙村の外忍・f14519)は軽く肩をすくめる。トーゴの頭にもある通り、春の鬼にも角が在った。成程もとは同じ羅刹だったのかもしれないと、推測することならできる。
「人間、季節が狂うと参るからな。オレ普通の季節好きだし」
一応だ。声が届く可能性がある限りは言葉にして吐き出しておく。種が近いなら、目に留まるかもしれない、その可能性はゼロではない。四季を楽しむ、この世界の風習が乱されることに思うところがあるのも本心だけれど。
「人間の味方しよ」
あえて、種族についてを強調する。
(聞こえてはいるみたいだけど?)
それよりも気になるのは別の言葉、ということらしい。ならば他から推測するまでだ。
衣装の品が良いことから、良い家の出なのだろうと思う。あれだけ睡眠を求める様子に、つい目が逸れがちになるけれど。
足運びは令嬢のそれではない。武芸者のものだということには違いなく。トーゴのように隠れ里のような特化した場所ではなく、もっと街の、それこそ身分の上ではいい家で暮らしていたのだろうとも感じられる。
(だってさあ、目線が常に上からだ)
雪華達にとっては慕える上司だったのかもしれないが、結果はこの通り暴君だ。猟兵ではなく、慕う鬼に殺された骸から目を逸らす。
手裏剣を鬼に向けて放ちながら近づいていく。双圏を闇雲に振るうようにも見えているし、隙だらけのようにも見えるけれど油断はできない。それこそ敵を、つまり猟兵達を欺く戦いの技術かもしれないからだ。
「へー……構ってくれるんだ?」
死角から放ったはずの手裏剣が圏に跳ね返される。それが技術なのか本能なのか。どちらにしても武芸の素養が高いことがわかる。どれほど怒りを滲ませていても、警戒はやはり、全方位にあると言って良さそうだ。
「あんた面倒くさがりっぽいのに有難いね」
あえてそれまでよりも声量を抑えた呟きを、鬼の背に向ける。
圏が再び迫ってくる。挑発を受け取ってくれたとみていいだろうか。
「……っと!」
クナイで受けて、どうにか軌道を変えた。魑魅魍魎と化してなおこれだけの技術だ。真面目に鍛錬したらもっと、と考える程。やる気のない様子をありがたがるべきか残念に思うべきか迷うことになる。
「……疲れてる?」
心底不思議そうな呟きが漏れる。その声の主はじぃと鬼を見すえる牧杜・詞(身魂乖離・f25693)で、その目はただ楽しそうな輝きを秘めている。
(何を言っているのかしら?)
首を傾げたいくらいだけれど、見るからに隙の無くなった鬼を相手に無駄な動きを見せるつもりもない。ただ、愛用の殺戮刃物をすらり、構え直すだけに留める。
(次の標的はあれ、ね)
残り少ない雪華を確実に仕留める為、周辺警戒は続けている。今は近くに居ないから、鬼に意識を向けているだけだ。
雪華よりも体格がいい。肉付きがいい。
(……切り心地は良さそうな感じね)
雪華達が倒れることで乱戦状態は解除され始めている。気配はなるべく殺しているけれど、身を隠す場所はそう多くない。雪華達が生みだし、残した氷柱も、その雪華達が倒されたことで溶け始めている。なにせ戦場だ、火炎を用いる仲間が多いこともあるが、戦いの熱気も絶えていない。
ただ、敵と認識した鬼をじっと、その身のこなしを見極めようと視線を向ける。
熱を殺して、足音を殺して、ただ静かに潜むように。少しでも気配を小さく。
(誰かを、何かを。殺せる楽しい時間なのに)
楽しくて仕方ないのに、どうして疲れているなんて言うのだろう。詞には理解できそうにない。
(こんなに高揚するのに)
それにしても。鬼は、たったひとりだ。
(なら、わたしの領域、獲物よね)
殺したい。強かろうが関係ない。だってひとりなのだから、一対一の技術を積み重ねた私にとって、格好の獲物。
(刈り取らせてもらうよ)
だから早く、隙を。
「あれが『春様』かー」
別に眩しいというわけではないけれど、手を庇の形にして鬼の容姿を眺める香坂・翔(紅の殺戮兵器・f03463)は、ちらりと御剣・刀也(真紅の荒獅子・f00225)に視線を送る。
(また女の人なんておとーさんやりにくそー)
既に走り出している背中に、どうしてか笑みが浮かんでしまう。
(……でも無さそうだね)
先の言葉を思い出す。迷わず守りに駆ける姿と一緒に、その頼もしい背中も。
敵の在りようではなくて、どこまでも家族中心に物事を捕らえてくれる父の姿勢は、こうして改めて目の当たりにするとくすぐったいようにも思うのだ。
「それより、追いかけなきゃねー?」
ランスの柄を握りなおす。まだ残っている雪華達が倒される様を見て、その背を追って。
ないとは思うけれど、念のために倒れた雪華の絶命を確認しながらだ。
(ま、あいつ倒して終わりだって言うなら、さっさと終わらせるかー)
咲いた赤い華の花弁を二重にしながら。
「俺も今回は全力で行こーっと」
敵は一人だと言っていい。
一人分の死角を探せばいい。
敵数が多いからこそ、共闘はフォローする側に回っていただけ。翔も狩り人であることに変わりない。得物の色は、受け継いだときから褪せることなく赤いまま。
雪華を斬り捨てながら、ただ面倒な敵を斬るために駆ける。その一体の鬼は強さを示しているけれど、刀也にしてみれば面倒なだけだ。
(惰性と眠り?)
だらけた様子だとか、身のこなしから察せられる強さだとか、信条を破る女性体だとか。
(そんなもんどうでもいい)
雪華達との闘いでは数こそ面倒に思いはしたが、迷いなんて少しも浮かばなかった。今更鬼一体相手に迷うはずがない。
(俺の家族を傷つける奴はつぶす)
それ以外何を思えと言うのだろう。
先に穏やかな時間を過ごしたせいで、戦いが後にあるせいで、刀也の機嫌は良くはない。
戦いが後に在るのはわかっていた、異常の原因が在るのはわかっていた、実際に戦うその時まで、正しくは食事を終えるその時まで、本当に穏やかな時間だったせいで、そのまま続く気さえしていたくらいだ。わかっていたが、やはり気分は良くはない。
自分一人ならここまで全力ではなかっただろう。女子供を斬るのは好まない。しかし一度請けた仕事として最低限の動きのみで振るう力を制限した可能性がある。
そもそも敵がどんな相手かわからない仕事は請けなかった、という考えもあるが。
翔の言葉を思い出す。初めての、家族4人揃っての外食で、協力しての仕事だ。だからこそ、揃って家に帰りつくまで、いい思い出にすべきだ。
かすり傷ならまあ、仕方ない。ノーラの腹を刺す自傷も必要なことだから、仕方ないと思うしかない。大怪我なんてもってのほかだ、それが敵によるものなら、なおさら。
そんな結論がわざわざ考える間でもなく刀也の念頭にあるものだから、身体は最も効率の良い動きを模索しながら力を奮う為に動く。
唯一、背には視線を向けることはしない。
数が多い時は別だったけれど。家族としての絆が、触れ合いが、信頼がある。正しく四人の家長である刀也は、背をステラ・エヴァンズ(泡沫の星巫女・f01935)と二人の子供達に任せるとその背で語る。
「何でも来い。今の俺は怒りに酔って眠りなんて吹き飛ばせそうだ」
雪華を斬り飛ばしながら、告げる。
(なんだか、楽しそうですね)
よく似た背中が二つ駆けていくのを見送るステラは、そっと薙刀の柄を握りしめる。
「ここは私も特攻を……」
「ステラママ?」
「……あ、却下ですか?」
気付いたノーラ・カッツェ(居場所を見つけた野良猫・f17193)の声がかかって、ばれちゃいましたかと舌を出す。
「刀也パパも翔も出ているし……私も、行くし」
「心配なんてしていませんよ」
「わかってるけど」
止める意図を含んだ声が聞こえた段階で、すぐに天津星は下げている。言葉にはしていないけれど、それこそ楽しそうな空気に、直接混ざってみたくなっただけだ。
(不謹慎かもしれませんけど、言ってみただけですよ)
混ざってみたいのは本当だ。刀也と、決して本気にはなれないけれど試合うことならあっても。先の戦いで駆け回る3人を見ていて。そこに同じように混ざって、4人揃って駆け出してみたいと、ふと、思いついただけ。
「……ステラママは」
ノーラが言葉を選ぶ様子をじっと待つ。それくらいの余裕はある。刀也の威勢のいい声が聞こえるからわかる。
そわそわと、刀也と翔の戦いを気にしながら。けれどステラの事も気になって進みだせない様子。そこにまだ少し、不安のような気配が見えて。ノーラの背を押すために、納得してもらうためにもう少し、言葉を重ねることにする。
「そうですねえ。三人が協力して戦っている様子に少し、羨ましくなったとでも言いましょうか」
本心も伝えなくては、きっと安心してもらえないだろうと思う。その優しさに見合う態度をとろうと思う。
「でも、私の役目は……」
「私達が、安心して駆け回るための家なんだから」
安心できる護りで、戻ってくるための目印で、背中を、家を守ってくれる要。そんな言葉を尽くしてくれる。
結果として、愛娘がこうしてステラに気付いてくれて、止めてくれて、自分だって今にも駆け出したいだろうに話を続けてくれる。その優しさに嬉しくなって笑みが深くなってしまうのを止められない。
遮られた言葉を飲み込む。いってらっしゃいとお帰りなさいを一番多く言うのはきっとステラで、それは目線を変えればノーラの言う通り。
「ありがとうございます、ノーラちゃん」
ちゃんと、待っていますよ。でもちょっとだけ、移動することくらいは許してくださいね?
片目を瞑って微笑めば、安堵の笑みが返される。改めてその背を押す時だ。
「ノーラちゃんも行くのでしょう?」
「……うん。でも、置いていくわけじゃないよ」
「わかっていますよ」
念を入れてくる様子に破顔する。
(私の娘はこんなにも、優しくて可愛いのですよねえ)
どうやら、内心は気付かれてしまっているようだ。
「刀也パパがさっさと行くから、タイミングを失っていただけよ」
つんと、勢いよく身体の向きを変えて駆け出していく。
「……ふむ、では」
改めて見送る背中は3つ。
「皆さんが怪我をせぬよう力を使うと致しましょう……」
ステラの視線は時に気恥ずかしくなることはあるけれど、いつも暖かい。先ほどまでとは違って、今のノーラは背を押す熱を感じている。
(家族と一緒って凄く心強いわね)
戦い続きで時間を駆けて、狂気は随分と穏やかになっている。勿論今居る場所も戦場なのは変わらない。敵が減って、違う獲物が増えただけ。
得物とは反対側、常に共に在るぬいぐるみが視界に映る。
「……そうよね」
忘れるなんてことはあるわけがない。つぶらな瞳と一瞬、見つめあう。
「あなたも私にとっては家族だもの。一緒に戦いたいわよね」
刀也と翔が開いた道に雪華は居ない。物言わぬ骸に躓かないように駆ければそれでいい。鬼までまだ、もう少し距離がある。
「それじゃあ……今日もよろしくね」
抱きしめて、その感触を確かめてから宙に掲げる。けして放り投げるのとは違う、優しい送り出し方で。
「Sehnsucht」
いつもそばにあるその大切な名前に力を籠める。ひとりではなくなる魔法のトリガーだ。
ほのかに桃色がかった吐息が鬼の唇から零れだす。既に真実の夜となったこの戦場で、淡い霧を見出すのは難しい。けれど既にアズールを呼び出しているフォーネリアス・スカーレット(復讐の殺戮者・f03411)には恐れるものはなかった。
「今更だな」
「何がだぁ?」
不思議そうに首を傾げる鬼は霧を生みだし続けている。話しながら吐き出す行為そのものを器用だとは思うがそれだけだ。
「ドーモ、オブリビオンスレイヤーです」
雪華達には言った気もするが、その雪華はとうに倒れている。ならば鬼は初対面で振る舞うべきだ。だから同じ台詞を繰り返す。
礼儀なんて理由はどこにも存在していない。ただ意表を突きたいだけだ。
「安心せよ、貴様はもう永遠に寝ていられる」
アズールの背の上で、強引にお辞儀する。隙で呼び込んだつもりはない。既にアズールはフォーネリアスの脚となっているから、頭を下げた瞬間を狙われたとしても避けてくれるはずだ。
「なんだぁ、お前」
霧は水分である。何か混ざり物があるからこその桃色で、淡く宙を漂っている。それがフォーネリアス自身を囲もうとする直前にアズールが跳ねて避ける。香りがあるのか、水分そのものを感じ取るのか。狼の本能をいかんなく発揮するアズールにフォーネリアスは絶大な信頼を寄せていて、そのタイミングに身を起こす。アズールから離脱する。
跳ね起きるように。その勢いのまま、下げる合間に取り出した、雪華の炎殺の際に残った油風船を放る。
「……ふぅん?」
雪華を欺いた時と同じようにはならない。鬼の圏が閃いて袋を切り分ける。
油は散り、けれど鬼の身にはかからない。身のこなしに隙が無い。
(別に構わん)
雪華との闘いを見ていたかの判断材料でもあった。先の台詞を思うにただ寝ていたようにも見えるが、配下だと言うなら何かしらつながりはあってもおかしくはない。
(報告をあげているかと思ったが、違うようだ)
それがわかったところで、やることは変わらない。どうせ余り物だからと、そのまま投げ続ける。雪華達に対して投げた時よりは狙う場所を計算しているつもりだ。
圏で切られる前にと、先に回収しておいた炎の魔法剣もさりげなく混ぜる。圏よりも先に剣で袋を斬ればすぐに燃える。炎を散らす。
雪華の時と比べると炎の質は低い。霧が炎の広がりを邪魔している。けれど霧の広がりも炎が邪魔をしている。
「そのまま、話を続けてもらっていいか?」
オレも一緒に担うからと、トーゴが千秋に提案を告げる。クナイに重さを乗せて、一撃の威力をあげる準備をしながら双圏の閃きに二人で立ち向かう。
一対一の構図は、得物のリーチが自在な鬼が有利すぎる。けれど精神的に揺さぶりをかけながら、二人がかりなら。位置取りを変え続けることで味方に有利に運ぶことは可能な筈だ。
忍びは策を一つに留まらせない。気を惹く役、千秋とトーゴの時点で既に二段構え。これは回避と受け流しを担う盾の役目だけれど、二人だからこそ変則的な流れを生みだせる。
二人がほんろうさせることに成功すれば、直接攻撃を仕掛ける者達の切欠が増える。正面から立ち向かう者達の影から死角を突く者もいる。鬼は一人だけれど、得物の大きさ、手数の多さに抑え込むにはこれだけの人数が必要なのだ。
「なあ、主のあんたが倒れたら、あの氷の城もさっぱり消えんのかね?」
ほんの気紛れな会話を、戦いながら当たり前のように向けるトーゴに、鬼は意図が読めず睨み返すしかないようで。
「それなりきれいな城だけどこの辺には要らないモンだからさ」
その言葉は、鬼が負けることを示唆してもいる。
トーゴの生み出す圧縮した空気は、クナイと共に飛び、貫くけれど。その本質は大物破壊にあった。
「残るなら解体、しないとなー……?」
「……わかりました」
そのまま気を惹く方がいい、との助言に頷いた千秋は、中断していた言葉を改めて紡ぐことにする。それは囮になるのと同じだったけれど、他の誰かが傷つくことに比べたら随分良い状況に思えた。憤りに任せて振るわれる圏は範囲が広い、けれど千秋に向かってくるなら、それだけ戦いの方向性は誘導できるというものだ。
(そのためにも、僕は自分を強化しなくては!)
正義の心は、挫けないことを示して見せる。
すうと、息を吸い込む。
「怠惰な事を考えていては世の中は回りません!」
声を張り上げる。歌唱で鍛えた腹式呼吸が此処で役に立っている。鬼は確かに千秋の声を認識している。圏が迷いなくこちらに向かって振るわれる。
「春よりも冬は睡眠が捗ると聞きますが、冬はいつしか明けて恵みの季節の春は来るのです」
「まどろっこしぃんだよ」
例えば教師が生徒に物事を教えるようなもの、だろうか。勉強嫌いの子供が癇癪を起こしているような。
「宴は頑張った人の為にあるのですよ!」
声を張り上げながら、短くとも向けられる返答を聞き逃さぬよう耳を澄ませながら。千秋は次に向ける言葉をどうすべきか思考する。
鬼の、よくない琴線に触れた事だけはわかる。それをより的確に絞り込んで、より周囲を見えなくさせるために。
味方の攻撃が有利になるように。
(ここは防御力一択ですね!)
視線は双圏を捉える為に離さない。身体は躱すために、受け流すために、少しでもダメージを減らすために、フットワークを軽く、鬼の意識を惹きつけ続ける為に倒れるわけにはいかないからと、無意識に時間を引き延ばすための全てをつぎ込んでいく。
襲撃を襲撃のままで終わらせるなら、急所を狙うのは必須事項だ。
命に関わる部位こそがそれで、人型ならば首だろう。特に細いからこそ弱い場所でもある。
掻い潜って切らねばならないことはあっても、守りを厚くされることはあっても……鬼の身を包むのは鋼ではないから、斬りつけるには鬼の得物を、鬼の身のこなしを乗り越えればそれでいい。
(そう簡単ではないことくらいわかっているけれど)
最も狙いたい部位、と思う程度に今は留めておく。双圏は大きい。詞が愛刀と共にその命を刈るならば、懐に入らなければならない。
そう、思っている間に圏が巨大化していく。
「……眠いなら、寝ていていいのに」
「……ッ!」
フォーネリアスがもたらす単調な攻撃に時折紛れる魔法剣。フォーネリアスのそれは鬼にしてみればうっとおしいだけだったかもしれない。あまり動じた様子を見せなかったけれど、しかし慣らしたからこそ意味はあった。
フォーネリアスを跳ね上げた際に離脱していたアズールの奇襲。炎を纏う身は炎を恐れない。だからこそ鬼の体勢が崩れる。
(その隙こそを待っていた)
それまでの動きを、慣性をかなぐり捨てて肉薄するフォーネリアスの手には焔繋が在る。鞘ごとの加速を利用した初撃が鬼の脳までも震わせ思考を揺らがせ闘志を削ぐ。刃ではない鞘のまま、しかし切り抜く。
鬼の圏を扱う手が閃かせようとする瞬間も惜しむように、もう一方の手に握りこんだ魔法剣を突き立てる。油はかかっていないとしても、これは炎の魔剣。燃やすのに支障はない筈だ。
しかし狙いの全てを繰り広げる前に鬼が身を捻る。条件は揃えていた筈だが、近付きすぎたことで吐息そのものが視界を遮るなんて予想は出来なかった。
(呼吸は止めていた)
睡魔は来ない、しかしどこか霞む視界の向こうで鬼が笑う。
「使い方、面白いなぁ」
だから試してみたんだ、と。鬼は笑う。圏がフォーネリアスに迫る。アズールの援護を受けて鬼から共に跳び退った。
その隙間に翔のランスが入り込む。穏やかに浮かべる笑みも、家族に向ける無邪気さもその顔には見当たらず、ただ無があるだけ。全ては翔がランスを振るうそのことにのみ注がれている。纏う怨念が翔の持つ鮮やかな色彩を隠し、夜に紛れさせていたから隙を突けている。
圏は今振り抜かれたばかりで、その先で刀也が獅子吼を手に相対している。もう一方の圏はノーラに向いているが、その隙間から鬼の懐に入りこもうとノーラがその身を滑らせてきている。少しでも圏のサイズを変えれば簡単に傷つけられる、そのギリギリを利用して。
防御も回避もなく、ただ真直ぐに鬼に近づくために進むその様子はとても無防備に見えるけれど、星の輝きが共に在る。ノーラ、刀也、翔だけでなく、この戦場で戦う全ての猟兵達全員が同じ護りに包まれている。
(霧も、結界がはね退けてくれると思いますが……)
疑問ではなく、前提の形で折り込む想いは結界をそのものの存在をより強固にしていく。ステラの想像が全ての鍵となるのだから、想像が、より強い想いがあれば強さも可能性も同じだけ広がるのだ。
霧をはね除けるのは当たり前。だからもう、仲間は皆眠りこまないで戦える筈だ。
怪我を防ぐからこその結界だ。だから家族だけでなく、誰も傷つけさせやしない。
守りの加護は星が齎すもので。だから結界は皆星の光を纏い、視界を広げている。
「……念のために……」
籠めるのは巫女としての祈り。破魔の力が練り込まれれば、より強固な鎧となる。
「おい、どこ見てやがる?」
猟兵達が纏う光は、護られるべき者達の目をくらませることがない。ひとつひとつはそう強くなくとも、数が居れば眩しく感じることもあるだろう。
光を刃に反射させ目くらましに利用する刀也は、眇めるように目を細めた鬼がステラを見つけ出したことに気付く。星の祈りを辿れば容易なことだから。
「お前の相手は俺だろ?」
強引だろうと相手をさせる。獅子吼を振りかぶるそれは圏に対するカウンターだ。持ちうる全ての殺気をその一撃にあわせて踏み込む。
「俺の家族に、傷一つでもつけてみろ?」
振り抜いた者とは別、もう一方の圏が刀也に向かう。捨て身の一撃はそれを避ける動きを伴わないけれど、刀也はそれで構わない。
ステラの護りがあると分かっていて、翔とノーラが、双圏の無くなった死角から刃を向けていることを知っている。隙を突こうと狙う者は二人だけに留まらない。
「地獄に送っても殺してやる!」
家族への信頼だけでも十分に、防御を捨てた振りぬきを行うに値する。ただ刀也はこの一手で瞬間的に敵の気を引ければいいのだ。
その隙を狙う者達の攻撃を全て、鬼は受けることになる筈だ。鬼の迎え撃とうとする動きも、隙を突いて勢いを殺してしまえばいい。
桃の霧が足掻くようにふりまかれるけれど、翔の真空波がすぐに散らしかき消して夜のままに戻していく。
(おかーさんの光があるから、もう真っ暗じゃないけどね)
表情は動かさないままに次の隙を狙う。次の狙う場所はと鬼を見れば、Sehnsuchtがその足元にしがみついていた。
肉球弾を放ちながらノーラと共に隙間を掻い潜り、賭けに出たのだ。Sehnsuchtはあくまでもサポートで、ノーラに向かう吐息を散らし圏の軌道を逸らす役目。鬼に真直ぐ向かおうとするからこそやるべきことも単純だ。隙を生みだそうとする仲間は多い、最も鬼の近くで圏を捌き殺気をコントロールするのは父である刀也だ。しかしそれだけでは足りない。
鬼が狙う方角を絞るべきだとトーゴと千秋が気を逸らしながら攻撃を仕掛ける、時に近く、ときに離れて緩急をつける形ではあるが、護りが熱くなったことでその動きも大胆になっていく。
その時点で3人。猟兵達の奮闘の結果だけでなく、鬼自身が最期をおくったこともあり周囲にもう雪華はなく、鬼にしてみれば敵味方の区別は不要になったからこそ圏を振るう勢いは増した。
フォーネリアスも油袋が尽きたらしい。既に鬼の周囲は局部的に乱戦だ。炎をある程度操作できてもこれ以上は難しい。アズールと分かれ、隙あれば刻むとばかりに囲む役へと混ざっていく。
その隙間を、他の猟兵に比べれば小柄なことを活かして潜り込むのだ。突撃ではあっても、仲間ごと刺しては鬼と同じ。刀也がさりげなく動線を譲ってくれていることも、今は先に気付けた。
「まだまだ狩りを楽しむ為に……逃げる足だけは残してあげる」
Sehnsuchtの放つ肉球弾で仕掛けたフェイントにあわせて向けるレイピアがその脚に向かう。
「ふふっ」
どこまで逃げるか見ものだと、見ていてあげるとその瞳に色濃く狂気を滲ませる。
「わたしに殺されれば、身体に傷はつかない」
追いこんだ先で、鬼に囁きながら突き立てる詞。
どれだけ早くても撃は3回。
ステラが引き付けいなす隙を利用した最大のチャンスをものにするための誘惑は、けれど鬼にしてみればそうではなかったようだ。
「生きてこその惰眠、生きてこそ感じられる睡魔だろぉ?」
話にならねぇ、との声に圏が詞の背後に迫る。大きくするのが自在なら、元のサイズに近づけることだって自在。その勢いを使えば諸刃の部位は凶器になる。
「残念」
言いながら余裕の笑みを浮かべた詞だけれど、内心は鬼の気迫に僅かに心を奪われていた。
翔の仕掛けた隙に離れる。奪われた心の内訳は恋愛のような優しいものではなくて。
(生きていたいと感じるなら、それこそ……)
殺し甲斐がある!
殺戮刃物を握る手が興奮で奮えた。
「鬼さんこちら、手の鳴る方へ……」
あえて天津星を振る勢いを、鋭さを抑えていた。それまで前に出ず、後方から護りと支援に徹していたステラは鬼を吊り上げることに成功したのだ。
手負いだからこそ、その力が研ぎ澄まされることは知っている、けれど詞だけでなく、ノーラも、翔もその刃を研いで機を伺っていると分かる。気を惹いて、同時にその武を示して退路を狭めて、ステラに向かう道だけを開けた。
罠だということは皆わかっている。けれど鬼にしてみれば、そこにしか逆転の道はない。
迷いなく、足の怪我をおしてステラに圏が向かえば天津星に雷が走る。
「殺してやるって言ったよな」
ステラに圏が届く前に、刀也の獅子吼が鬼の身に走る。
「ねえ、俺達との戦いは楽しめたか?」
無表情のまま、瞳に強い感情は煌めかず、声も単調で。鬼を貫き地に縫いとめたランスは更に赤く染まる、柄に色が滲み濃さを増す。翔の声に鬼の金が輝いたから、まだ息はあるのだろう。
「そんなに眠いんならさ、骸の海で眠ってなよ」
優しい寝床かどうかは知らないけどね。興味がないとばかりにやはり声の調子は変わらない。翔にしてみれば、今大切にしている者達の場所はともかく、敵である鬼に情は向かわない。ただ、動かなければいいと考えた結果が、鬼の台詞と重ねてその言葉に至らせただけ。
ぐり、とランスを握り抉るように押し込む。痛みかトドメか、現と骸の海の境界か、その所在の切り替わる瞬間を示す痙攣を見届ける。
「おやすみ、春様?」
得物だけれど、生きるための戦いとは違う相手。狩ったけれどその命を分けられ糧にするわけでもない相手。倒した証を示すために綺麗に保存なんてことも不要で、丁寧な殺し方なんてしてあげる義理はない。
うん、と頷くその時はもう、鬼の身のどこにも力は籠もっていない。間違いなく狩れた筈。
「おとーさんに追いつくにはまだまだだねー」
殺気を霧散させた刀也に向けるその表情には、笑みが浮かんでいた。
愛刀は赤く染まらない。だから頬をよせることも厭わない。どこまでも詞の手にしっくりくるその柄を常とは違う形で握りしめて、振るった時間を、共に過ごした時間を労わる。
(今日もよく、殺して、壊した……楽しい時間だったよね)
唇には薄く笑みを浮かべる。愉悦に近く、充実を示す。刃は詞の体温に馴染んでいるのか冷たくは感じない。
「……綺麗なままで、ずっと眠っていられたのに」
直接狩れなかったことは残念だけれど。
「……おやすみなさい」
鬼の倒れた場所に背を向けて、けれど言葉だけは小さく、告げる。
「皆さん、怪我は大丈夫ですか! ……よかった」
終わったことに安堵して、千秋が姿勢を楽にする横で、トーゴが城を振り返る。廃墟の氷は解けて、元の古びた屋敷が顔を見せている。
「解体はー……」
どうしようかと声を上げようと腹に力を入れたところで、中の虫が鳴いた。
「……ユキエ、一通り見たら戻って来ていいぞー」
しかるべきところに報告をするだけでもいいだろうと思いなおしたのだ。
「終わったらお腹空いちゃったよねー」
その虫に同意するように、翔が笑う。
「戻ったら朝御飯の時間でしょうか」
ステラが言うように、朝日が昇り始めている。
「外食も、美味しかったけど……」
両親の作る食事が美味しいと言いかけて、ステラの視線に気づく。照れて言葉を止めるノーラ。
「今から戻れば、店もあいてそうだがな」
刀也が戻る道を見据えて呟く。夜通しずっと戦っていたのだ。皆夕食を摂り逃していたし、このままグリモアベースに戻ると朝食にも遅い時間になるだろう。
体力にも余裕のある刀也としては、戻ってから食事を準備することも否やはないのだが。子供達の成長を思えば、ここで食事をしない理由はない、むしろ食事していくべきだ。
「……水入らずの仕切り直しだ」
召喚地点に戻ることも考えれば丁度いい、という建前を添えておく。
「客足少ないタイミングだったらユキエも中に入れさせてもらえるかも」
頼んでみようか、と乗り気のトーゴはユキエと一緒に自分の腹も撫でつ。
「そうか、旬の食材に溢れた今の状況も終わってしまうんですね。本来の状態に戻る……今のうちに、もう一度楽しんでもいいですよね!」
今度は本来の季節に近い恵みの春のを、春の四季盛りにしようと千秋が笑顔を浮かべる。
「行こう、アズール=サン。次のオブリビオンを殺しに」
既にフォーネリアスは道を戻り始めていた。
大成功
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