アルダワ魔王戦争7-B〜電光石火を斬り抜いて
「さて、迷宮も丸裸になったわけだが」
ダークゾーンが全て取り払われたファーストダンジョン。
とはいえ、いまだ災魔は健在で、頭上の学園を脅かさんとしている。
「場所は石化罠が発動し続けているフロア」
宝石を削ったような姿の獣のオブリビオンがそこにいる。
今回の目的はその撃滅だ。
「石化から逃れる術はない。指先、足先。表皮から始まり、四肢の骨を石は蝕んで、やがて肺に心臓、脳までもを石と化すだろう」
そうなる前にオブリビオンを倒さねばならない。が、石化に鈍る体に対して、オブリビオンは素早い動きを武器とする。
石化への完全な耐性を持ち、鈍る猟兵など動かない獲物としか考えないだろう。
「それは、各々でどうにかしてくれ」
投げやりに言う。
強度は確かなものらしく、無理矢理動かして転んでも粉々になることはないらしい。
オブリビオンの攻撃では流石に分からないが。
「既に蒸気幽霊達が石像になってしまっている。彼らも余裕があれば回収してくれ」
もしかしたら、癒す方法があるかもしれない。貴重な戦力だ。
見捨てる理由はない。
「まあ、あまり長居して、石像になってしまわないよう気を付けてくれたまえ」
展覧会を開く予定はないからね。
というのは挑発か激励か。
ともあれ、いささか不穏な言葉と共に猟兵達は転移の光を受けていった。
●
青と黒の菱形がならぶ盤目じみた床。暗く冷気の漂うだだっぴろい広間に石像が無造作に並んでいる。
石化した蒸気幽霊達。
そのなかを青き宝玉の狼達が群れを成していた。
オーガ
石化です。
結構、良いですよね。対策がなければ大成功は難しいです。
それではよろしくお願いします。
第1章 集団戦
『ジェムビースト』
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POW : 宝石一閃
【超高速で対象に接近した後、爪】が命中した対象を切断する。
SPD : ジェム・オーバーロード
【超高速で対象に接近した後、身体】を巨大化し、自身からレベルm半径内の敵全員を攻撃する。敵味方の区別をしないなら3回攻撃できる。
WIZ : スティレットレーザー改
【超高速で対象に接近した後、敵意を向ける事】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【超光速で対象を追尾する誘導レーザーの弾幕】で攻撃する。
イラスト:嵩地
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
シキ・ジルモント
◆POW
これが石化か…確かに時間はかけられそうにない
一体ずつ倒していくのでは時間がかかりすぎる、逃げ回る敵を追うのは動きが鈍れば難しい
それなら向かってくる敵を複数まとめて迎え撃つ事で、戦闘時間の短縮と命中率の確保を狙う
交戦しつつ敵を観察、数に任せて包囲するならあえて囲ませ攻撃を誘う
素早い敵も、攻撃する為に接近する事がわかっているなら動きは読みやすい
接近してくる敵集団へ『カウンター』でユーベルコードを発動、『範囲攻撃』で一気に片付ける
石になった蒸気幽霊は積極的に回収を行う
早く戻らなければ自分も彼等の二の舞、長居は出来ないと分かってはいる
それでも石化を治せる可能性があるなら、できる限り連れ帰りたい
ホルスターの留め具を外す指が軋み上げる。
「……なるほど」
シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)は、青い光を湛える双眸を細めるように、その異常に眉根を寄せる。
このフロアに足を踏み入れて、そう時間は経ってない。にも拘らず、シキの体は妙な感覚を患っていた。
伝達が鈍い。というよりは反応が鈍い。表面こそ変化はないが、確実にシキの体を、石化という呪いが蝕んでいる。
「これは、確かに時間を掛けられそうにはないな」
呟く。周りに蒸気幽霊の石像があるが少なくとも、それら全てを運び出すことは出来ないだろう。
石化の進行速度もあるが、それ以上にそう判断した理由は別にある。
それは彼がホルスターの留め具を外した、その理由と同じくする。
コヅ、ガカカ。と硬質な高鳴りがシキの周囲に響いているのだ。蒸気幽霊の痕跡か、わずかに濡れた石の床を何かが駆ける。
宝玉の体をもつ狼の群れ。それらが石の床を叩いて、さながら霰が岩肌を打ち鳴らすかのような音の雨を降らせている。
数は十、そこいら。
時間が経てば経つほどに、数は増えていくだろう。
そうなれば、じり貧だ。
手早く済ませなければいけないが、しかし、足はあまり役に立たない。
一歩、足を出すのも緩慢に過ぎる。その時間で、宝玉の牙が何度、胴体に突き刺さるのか分かったものでは無い。
だから、シキは動くことを放棄した。
「爪と牙、なら対処はシンプルだ」
どれほど素早く動こうが、結局、シキを攻撃するためには接近戦しかできない。ならば、追う必要はない。
ただ、迎え撃てばいいだけだ。
ぎこちなく動く腕を持ち上げる。額に触れた銃身の冷たさに集中を研ぎ澄ませ、全方位へと注意を配る。
棒立ちで多数を迎え撃つ。
まるで簡単な事のように語ったが、カウンターとしてのこの作戦は、手に納めた銃器だけが迎撃の頼り。
もし、対処が遅れたならば、途端に無数の獣の牙爪がシキの体を引き裂くだろう。
だからこそ、耳朶を喧しく叩く宝玉の雨を聞き逃さない。
カン、ゴカカ。と床を打つ爪の音は素早い、が、余力を残したリズムにも感じられていた。そして、シキはその一瞬。
「……っ!」
ド、カッ! と弾ける踏み込みの音を捉えていた!
それはシキの背後、死角からの奇襲。その一体を先駆けにして、青き獣がシキへと殺到するっ!
瞬間、シキの体は動かなかった。
いや。
動けなかった。
動こうと反射的に指令を受けた体は、鈍り軋み、動作を遅らせる。
その間に、宝玉の狼は、そのあぎとを開きシキの頭蓋を噛み砕かんと、飛びかかっていた。
その開いた口の中へと、銃口が滑り込んだ。
パ。
短い射撃音。
放たれた弾丸が、石の舌の上を駆け。
振り返った訳ではない、振り返る機敏さなど失われている。
だから、シキは転ぶように足を滑らせ、体勢をわざと崩し、手首のスナップと握力で引き金を引いたのだ。
ゴ、ガガ。更に2発、その口へと弾丸が滑り込み、宝玉の首を内側から砕き割る。
転んだ衝撃を反動にして体を跳ね上げる。なにも石像になったわけじゃない。コンマ1秒の攻防に競り負けるだけで、初動さえ上回ったなら、先んじて動くだけだ。
加速した感覚のなかで、シキの銃を握る両腕が、ほぼ同時に放たれるような連射に跳ね上がる。
だが、それを下ろす必要は無い。
周囲に散らばったのは、シキの体ではなく、獣の形を残しながらも、起き上がることの無い青い宝石だった。
大成功
🔵🔵🔵
セゲル・スヴェアボルグ
まぁ、逃れられない上に石化を遅らせるような手段もないからな。
動けるうちに数を減らしていくしかあるまい。
動悸、息切れ、きつけ、めまい、目のかすみ……
まぁ、疾病のような症状が色々起こるだろうが、最悪、石となったとしても、UCが発動すれば問題はない。蒸気幽霊諸共、連れ出してもらえばいいしな。
幸いにも、向こうからわざわざ接近してくるからな。
無駄に移動する必要はなさそうだ。
とは言っても、流石にバラバラの石ブロックにされるのは御免だがな。
爪が当たる前に、向こうの高速接に合わせて槍を構えておく。
自重と速度で自滅して貰うとしよう。
槍が足りなければ具現化して増やせばいい。
やるだけやったら、後はUCに任せるぞ。
全身衣服を纏ったままに海に放り出されたような感覚だった。
固い、というよりも重い。
「こりゃあ、わりとキツい」
石突で床を叩いて、それを杖に膝をついた重い体を起こす。
その衝撃に刃の根元にまで深々と突き刺さった宝玉の狼が、溶けたアイスキャンディのようにバラバラと落ちるが、もう動かないそれを警戒する必要もない。
ほう、とセゲル・スヴェアボルグ(豪放磊落・f00533)は、太い頸孔を響かせるように溜め息を吐き出す。
その動作ひとつとっても、どことなく疲労が見えるのは、肺の活動すら蝕まれつつあるからか。原理はともかく、分かっているのは早くこの場を離脱しないとセゲル自身も蒸気幽霊と同様に石像となってしまうということなのだが。
「そら、次だ」
この調子なのだ。
戦闘の音に導かれたのか、特有の伝達方法があるのかは分からないが、駆け寄ってくる狼の硬質な足音にセゲルは逃げる素振りすら見せず槍を掴む。
いや、掴めず床へと、ガランと音を立てて転がったそれを一瞥して、セゲルは飛び込んできた高速の牙に空の手を差し出す。
瞬間、砕けるのはセゲルの腕ではなく、獣の胴体だ。何も掴んでいなかった筈の手には槍がひとつ握られ、しかし、床にはまだその槍が転がっている。
「は……眩む」
酩酊したように視界が揺れる。酸素を求める心臓は激しく脈打ち、発汗が漸く全身で行われ始める。
だが、青い獣にとってはただの好機でしかない。容赦なく飛びかかってきた狼にセゲルは、床に落ちた槍の竿を砕かんばかりに踏み抜いていた。
ゴ、ガアァンッ! と猛烈な音と共に、跳ね上がった槍の穂が、丁度大顎を開いた狼を貫く。
「露払いも、楽ではないな」
背後から遅い来る狼を、握る槍では間に合わないと、空の手を振って更にもう一本を召喚し、そのままに狼の体の上に突き落とした。
動くのでなく、相手の動きに合わせて手段の取捨選択を繰り返す、経験に任せたような荒業。
込み上げる吐き気やら頭痛やらを押し込めて、次の対処へと移ろうとした、その時。
世界がガクンと揺れた。
ゴ、と音を響かせたのはセゲルの足元。いや、正しくはセゲルの足そのもの。
見れば、いつの間にか足のふくらはぎ辺りが抉り取られている。痛覚すら鈍麻しているのか。
世界が揺れたのでなく、体が崩れた、と気付くことすら遅れる程に脳が鈍い。
石化、それを遅らせる事もなく戦えば、そうなるのは明白ではあった。
当然の結果として、セゲルはただ駆られる側へと立たされた。
「ここまでか」
とはいえ、なんの方策も無しに、無謀に出ているわけではない。ただ、実質的な自分の敗北も許容範囲だったというだけの話。
膝を折り、もはやぼんやりとした世界しか映さない瞳で、狼の群れを見る。
今まさにセゲルを仕留めようとし、砕かれる、狼の群れを。
「なら」
深く息を吸い、吐く。
ボヤける視界にもその輪郭だけは知れた。いや、そこに降り立ったモノの姿は、そもそも不完全に顕現していた。
万全であってもはっきり明瞭にその姿を捉えることは出来なかっただろう。
だが、その大きさで、その朧な姿を見紛うはずもない。
青き巨竜。
「後は任せるか」
笑うように目を瞑る。
セゲルをして、前座とすら思わせる力が狼達を蹂躙していった。
大成功
🔵🔵🔵
夜羽々矢・琉漣
石化か…どこぞの邪神の権能を思い出すね。
フロアに入ったらすぐにUCを発動。搭乗したうえで召喚したロボットを自動操縦にして、石化が手足に及んでも行動できるようにする。
機体の腕部には頑丈な外装の爆弾を複数個装備。過度の破損及び機体からの脱落を起爆条件に設定して、敵の攻撃に対してワザと当てにいくように自動操縦のプログラムを設定する。自分の攻撃で纏めて吹っ飛べ。
腕部には防御力場(オーラ防御)を張っておくけど…爆発の影響がどこまで出るかな…。余裕があれば石になった幽霊たちの回収もしたいね。
全身が跳ねる衝撃に揺られながら、夜羽々矢・琉漣(コードキャスター・f21260)は、遂に指の開閉すら儘ならなくなった腕で、天井に頭をぶつけそうになった体を支えて、モニターに目を走らせる。
「指も使えない、石像になれば維持できるかが不安要素だが」
それまでに出口へと行き着くよう計画している。順調にいけば問題ないだろう。
と分析をしながら、しかし。彼は足を動かしていない。そもそも、動かせる状態ではない。
モニターに流れるログと外部映像を注視しているが、しかし、それに介入して操作することは無い。
ただ、ログと映像は絶えず動いている。
なら、今、彼が何をしているのか、と言えば。
何もしていないのだ。
正しく、語弊無く、言い方を変えれば、『既に手は打ってある。あとは並べたドミノが思い通りの絵柄を描くか、高みの見物をしている』あたりだろうか。
このフロアに入った瞬間に、もう、彼はやるべきことを済ませていたのだ。
つまり、ドミノの最初の一枚を押す、という事。
石化。
その言葉に彼が想像するのは、どこぞの邪神の権能。
「発端もなく石化なんて結果だけ押し付けるだなんて、気持ち悪いが」
ガスでも、光線でもない。そもそも、この攻撃にも似た現象は、何から放たれているのかも説明されず、そして、僅かに指先に痺れを感じた彼がそれを看破することもできない。
「まあ、やる事は変わらない」
琉漣の対処は素早かった。電脳魔術の輝きが彼を呑み込むように、周囲に陣を描くように乱れ狂う。
電脳と現実のはざま、そこに浮かべた実行ボタンを押す。それだけで、光の嵐ともいうべきだった流星群が、統率を見せ始めた。
大漁の無機物が電脳世界からはじき出されて複雑に嚙み合っていく。
無機物の塊は蕾が開くように膨れ上がり、怪物の顎のように琉漣を呑み込んで、どこをどう繋ぎ合わせたのか、四つ足の機械獣がその場に君臨していた。
その胴体。さながら心臓に当たる部分へと、琉漣は収納されていた。いや、搭乗というべきではあるのだが、既に自動運転に切り替え、複数の行動条件を組み合わせて有機的に自動するこのロボットの中ですることはもうない。
モニターから流れる情報を処理するだけ。前述通り、何もしていない。機内へと回収した蒸気幽霊の石像たちと実際何も変わらないのだ。
「ああ、損耗より俺の石化が早いか」
ゴウン、ガオン、と機体を揺らすのは、この巨大な鉄の獣が走る衝撃だけではない。モニターの端に青い水晶じみた残骸が吹き飛んでいく。
爆弾を装備させた外装が、ジェムビーストの攻撃に脱落して、宝玉の獣たち諸共に起爆したのだ。
変則的な炸裂装甲。彼の言う損耗とは詰まる所、爆発する外装の残りという事だ。オーラによって自爆の衝撃を幾らか和らげているが、やはり全てを吸収する事は出来ない。
無事な腕部で道すがらに石像を回収しながら、自動操縦が優先事項を少しづつ切り替えていく様子をモニターに見る。内部の琉漣の石化状態を観察し、フロアの予想規模と比して一定のラインを超えたのだろう。
石像回収を下位に、フロア踏破を上位に。
「成果は上々か」
ジェムビースト達は、さながら群れで大型獣を狩るように攻撃を加えてきてはいるが、それでもその牙をこの機械獣の喉元に突き立てる事は適わないでいる。そして、その間にも石像を回収していた琉漣は呟く。
あとは、ただ駆け抜けるだけだった。
大成功
🔵🔵🔵
九十九曲・継宗
敵は素早く、こちらは徐々に鈍くなっていく
となれば、やることはシンプルです
身体が石化するより早く、敵よりさらに早く動き、斬り捨てるのみ
脚部に内蔵された車輪を限界まで稼働し最初からトップスピードへ
十分な加速を得られたら、宙に身を投げるように前へ跳びます
一度勢いがついて跳んでしまえば、後は脚が石化しようが関係ありません
着地も考えずに敵の群れへ飛び込み、『なぎ払い』、『二回攻撃』し、目にも止まらぬ『早業』で多くの敵を斬り飛ばします
戦いが終われば、蒸気幽霊の救出へ
余裕はあまりありませんが、鞘に納めた刀を杖代わりになんとか救出をしましょう
ギュ、ガ。と脚部が震える。
体内の機構が、内側から弾け飛ばんばかりに、限界稼働する。
地面を蹴る衝撃も反動にして、九十九曲・継宗(機巧童子・f07883)は己の体を前方へと弾き出した。
彼は、厳密には人ではない。ミレナリィドール、いや、絡繰人形と呼ぶべきか。ともすれば、服に着られるように不格好になりかねない、体と比べ尺の大きな和装を着こなすその脚部は、車輪機構が猛烈な回転数に火花を散らし、地面を駆けていた。
一言でいえば、エンジンを積んだローラースケートのようなそれは、一歩から継宗をトップスピードに乗せていた。
「来ましたね」
継宗の石化への対処は、至極シンプルなものだ。
つまり、動きが鈍る、その前に全速力で駆け抜ける。脚部の耐久が加速に負けるか、否か、という所に至るまで走力を引き出しながら、継宗は前方、遠くに青の姿を捉えていた。
互いに、速度を武器にするもの。
遠くと思っていたその影は、正しく瞬く間に距離を詰めていく。
「ふ……っ」
僅かに感覚に鈍りを感じる継宗は、速度のままに自らの体を宙へと投げる。疾走するままに砲弾がごとく、跳び出したのだ。
頬を過ぎた風に、編んだ髪が引かれる感覚を感じながら、継宗は腰に据えた刀の柄を握る。
瞬間、ジェムビーストたちの姿が膨れ上がった。
急速に距離を詰めた遠近感の狂いだけではない。互いに超高速の接近を仕掛けながら、飛び込んでくる継宗にジェムビーストが迎撃の準備を間に合わせていたのだ。
「――っ!!」
発声器官をもたないのか。吠える様に響いた音は、その全身をこすり合わせるような甲高い不快音だった。
だが、耳を劈くようなそれに継宗は勢いを緩めない。
そも、宙に躍り出た瞬間から、彼自身もその放物線の軌道から逃れる術を持たない。
巨大化した蒼玉の狼。空間を埋めるような爪の薙ぎ払いが放たれる。
それに、先んじて継宗は、刃を抜き放っていた。
ズ、カカ、と宝石の爪が鋭利な断面を見せて吹き飛び、更に、彼がその水鏡のように平面を見せる断面を別つように刃を奔らせる。
「っ――!!」
そのまま、腕を伝う様に巨大な体の下へ潜り込み、腹を掻っ捌いていた。これが血の通う獣であれば、血の雨を浴びている所ではあるが、洗濯の心配をする必要はない。
心配の代わりに着地の直前、休めていた車輪を再び全力稼働させる。僅かに動きの鈍る車輪を無理やりに回転させるそれは、周囲の絡繰から悲鳴を上げさせながらも、しかし、まだ、動く。
更に、疾く!
ギュ、カカっ!! と。
巨獣たちの爪を掻い潜り、地面に縦横無尽な火花の軌跡を描きながら、継宗の振るう刃が宝玉の塊を切り分けていく。
刃の描く道と火花の描く道が、青い爪の輝きと合わさり、複雑な弧を描き絡み合う。
余人が見たのであれば、それは目にも止まらず、緻密な光の芸術にすら見えたかもしれない。
そんな超高速の攻防の中で膝をついたのは継宗であった。
大きく振り切った刃を真横へと伸ばし、空かした手で地面を抑える様に着地の衝撃を和らげる。
彼は、凍り付いたような両脚を崩し、がらがらと崩壊していく蒼く澄んだ岩石を見上げていた。
拮抗する一瞬。高速の戦闘を勝利したのもまた、継宗であった。
息を吐く、そんな時間すらも冗長に感じる程の、刹那の剣戟の中で傷ついた体を、鞘に刃を収めた得物を杖代わりに、立ち上がる。
かつ、とつま先で地面を叩いてみる。感覚が薄い。まるで、動かし方を忘れたような、そんな自分の物ではないような感覚。
動けはするが、高速機動は無理だろう。再び囲まれてしまえば、その時は抵抗すら難しいかもしれない。
「とはいえ、見捨てていく訳にもいきませんからね」
継宗は、逡巡する時間も無く、程近くにあった石像を半ば引きずるように抱える。今の状況では、文字通りの大荷物ではあるが、しかし、だからと言っておいていく選択肢は彼にはない。
鈍る体に疲労を感じながらも彼は、さて、一秒すら惜しい、と青き瓦礫の隙間を抜けていった。
大成功
🔵🔵🔵
銀山・昭平
テフラ・カルデラさん(f03212)と一緒に挑戦するべ。
とにかく早期決着を目指すべな!おらはテフラさんに石化対策を任せて、攻撃に集中するべな。
【降魔化身法】で肉体を強化、更に素早く行動して、敵には手裏剣の一撃を確実に当てるべ。
【武器改造】でとにかく数撃ちゃ当たるように投射速度も上げて少しでもダメージを与えていくべな。
……だいぶ数が減ってきたべ。このうちに蒸気幽霊たちも回収……げほっ、なんか思った以上に動きづらいべ。
……しまった、代償の呪縛を計算にいれてなかった……べ……(そのまま石像に)
あ、ありがとうだべ、急いで戻らないと……(しかし帰る途中ジェムビーストに群がられ……)
※アドリブ等歓迎です
テフラ・カルデラ
銀山【f01103】と同行
※アドリブ可
石化しちゃうフロア…石化に対抗しつつも敵を倒さなければいけませんね…
銀山さんが攻撃するのでこちらは『癒しの鳴き声』で石化を治療します!
石化の進行が止まるわけではないですが、このまま二人とも石像と化すよりはマシですね!にゃ~ん♪
銀山さんがどんどん撃破していく間に石化した蒸気幽霊さん達を回収しましょうか!
よいしょ…よいしょ…
いくつか回収できましたが…あわわ!?銀山さんが石化しちゃってる!
治療しなくちゃ…にゃ~ん♪
だ…大丈夫でしたか?間に合ってよかったのです♪
わたしも石化の進行が危ういので戻りましょうか…?
(石化フラグ達成はお任せします)
「にゃ~ん♪」
という、なんとも場にそぐわない、猫の鳴き真似を背に受けながら銀山・昭平(田舎っぺからくり親父・f01103)は、肉体を強化しながら宝石の獣と向かい合っていた。
「回復ありがとうだべ!」
「いえ、二人とも石像に化すわけにもいきませんから!」
昭平が背に守る様にしているテフラ・カルデラ(特殊系ドMウサギキマイラ・f03212)がそう叫ぶ。手裏剣を立て続けに擲ちながら、大柄な体を素早く動かす昭平が狼の数を減らしていくのを、回復し援護しながら周囲を見回す。いくつか回収できそうな石像が転がっている。
「おらはもう大丈夫だで、石像の方お願いするべ、テフラさん」
「っ、はい! りょうかいです!」
もう、一人で問題なく全滅可能と考えた昭平は、彼女の視線を鑑みて、そう声を投げたのだった。
ひとまず、狼の一陣を迎撃し終えた後。
「お、ん?」
「いしょ、と」
少し離れてテフラが石像を引きずっている死角で、昭平がひょっと、声を上げる。
「なんか、思った以上に」
動きづらいべ、と言おうとした声も凍るようだ。
石化にしても急に進行速度が上がることがあるのか? と焦りながらも、反面冷静に分析をして、気付く。
「し、ま」
体の強化状態が消え、代償の呪縛によって僅かにあった石化への耐性がほぼ掻き消えているのか。
頭痛が酷い。脳が割れるような痛みにも、叫ぼうにも肺が息を吐き出してくれない。自分の体が自分の物ではなくなっていく感覚の中で、昭平が出来たのは一歩足を踏み出す、それだけだった。
ガズン、とその音に気付いて振り返ったテフラの視界に、ほぼ石像と化しつつある同行者の姿。
「あ、ずる……じゃない、治療しなくちゃっ」
本音が漏れつつも、猫の声真似を発して昭平を癒すも、しかし、完全に石化が解けるわけではない、若干の回復と、僅かな遅延。
「わたしも石化の進行が危ういので戻りましょうか?」
大丈夫でしたか? と様子をうかがいながらも、自らも手足の感覚の鈍麻を感じていた。
ゾクゾクと倒錯感情が沸くのを隠しながらも、喉が渇ききったような痛みと血の味じみた鉄臭さに、結構なピンチである事も自覚する。
そんな彼女の提案に、昭平は頷いた。
「あ、ありがとうだべ。んだな、急いで戻らないと……」
正直にいえば、もう一刻の猶予もない。
蒸気幽霊の回収も諦め、昭平の体を支えるように来た道を戻ろうとした、その時。
「……あ」
二人を囲まんとする石の足音が、群れとなって聞こえていた。
絶望の足音が彼らを追い詰め。
その後、彼らの姿を見た者は誰もいなかった。
ことも無く。
「いや、参っちまったべ」
「……助けてもらっちゃいましたね」
まあ、バラバラにされる前に、他の石像と一緒に適当に回収されたのち、猟兵的運命か、否か。無事回復に至っていた。
ひとまず、成果は皆無ではあるものの、一安心である。
苦戦
🔵🔵🔴🔴🔴🔴
アルナスル・アミューレンス
ふぅん。
ガスとかじゃなくて、魔術的なあれこれなんだねぇ。
まぁ、何とかなるかな。
なるほど、先っぽの方から。
末端や表層から固まるなら、次から次へ入れ替わればいいだけの話。
時間稼ぎは十分に出来るさ。
偽神細胞、拘束制御術式開放――
仕方ないけど、これで「怒涛(ワカレ)」ようか。
自身の躰に取り込んだ偽神細胞の制御を解除。
無尽蔵に湧き出す、「影/水」の様な不定形の異形へと変貌。
「嵐/洪水」の様に溢れ出し、ジェムビーストを襲い、飲み込み、捕食していくよ。
そして、自身の石化しだした自身の末端・表層も自身で捕食し、取り込み、
砕き、再び自身の一部として再構築していくよ。
あぁ、蒸気幽霊の石像は捕食せずに運搬するよ。
零れ落ちていく。
崩れ落ちていく。
さながら、死して腐り落ちるように。
「――拘束制御術式開放」
ボドリ、と黒い粘液状になって落ちた自分の手首を見て、アルナスル・アミューレンス(ナイトシーカー・f24596)はしかし、冷静に「ふぅむ」とつぶやくばかりだった。
「何とか……まあ、なりそうだねぇ」
細かい砂か、澄んだ水か。そんなものを連想させるように腕半ばから地面へと流れていく腕。それは、何かの攻撃によってなっているわけではなかった。
逆。
彼自身が、自分の意思でその体に刻まれた偽神細胞の制御を手放し、人の姿を保つことを止めたのだ。ガスマスクにゴーグル、コートの黒装束の内側に、巨大な扇風機を押し込んだように波打たせて、その輪郭がぐずりと解ける。
石化した手足の先。
感覚の鈍麻した箇所を切り落とすように制御を外し、不定形の異形に変え、自らを捕食して元の形に作り替えていく。
「……影響は皆無ではないみたいかな。浸食速度は早まっているようだけど」
服の内側から染み出る様に、新しく生み出した掌を、ぐ、っと開閉しながらその調子を確かめている。
石化は融けているが、感覚が濁っていく間隔は幾らか短く感じられる。少なくとも石化した事実が耐性を蝕んでいるのは確か。
長くはもたないだろうが。
「うん、十分」
蠢く輪郭を人の形に定めて、アルナスルは自らの周囲で威嚇するように牙を剥きだす宝玉の獣へと視線を戻した。
キィン、と耳を劈く擦過音の遠吠えが彼の皮膚を細かく震わせるが、頓着しない。どちらにせよ、飛び掛かってくるしかできないならば、その爪もその牙も、アルスナルを本当の意味で切り裂くこと等敵わない。
「さ、手早く済ませようかな?」
瞬間、服を残し、その体が掻き消えた。
いやその体は、――『広がった』のだ。
見れば、床に影の如く、粘性の極めて低い液体が薄く這い広がっている。
中心にアルナスルの身に着けていた衣服一式を残して流れたそれに警戒して、ジェムビーストが一歩後ずさる。
もし、アルスナルが声を発する事の出来る状態であれば、呆れるように呟いただろう。
そんな警戒では足りない、と。
瞬間。
まるで黒色のミキサーが瞬間にその場に現れたかのような、天災そのものが吹き荒れた。
竜巻か、炎嵐か。ギュ、ゴァ……!! と立ち上がった黒の描く暴圧の渦は、ほんの数秒で、現れた遠木と同じく忽然と消え失せていた。
正しく瞬く間。元の黒い凪があった。
さながら、台風の過ぎた晴れ間がごとき黒の水面が、液体を床に落とした映像を逆回しするように、中心へと吸い込まれて行き脱ぎ捨てた服を纏って、人へと戻っていく。
そこに、宝玉の獣の姿は一切なく、巻き込まれたかのように見えた石像だけが無事のままに、黒い液体に絡めとられている。
「少なくとも、このフロアから出れば深刻化することは無い、かな」
聞こえているか分からない石像へと語りかけながら、怪物じみた影が進む。
もし、彼を見る誰かがいたとしたら、それを人間だとは伝えることは無いだろう。
だが、自らの固まっていく体を黒に飲み込み、咀嚼し、絶えずに作り替えながら、それでも、人間は進んでいく。
大成功
🔵🔵🔵