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銃声の証明

#ダークセイヴァー #同族殺し

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#ダークセイヴァー
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#同族殺し


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 「やあ、皆さんお疲れ様なのです。天翳・緋雨です。あー、別に覚えなくて大丈夫ですよー」
 どこか緊張感の無い、中性的な少年がぺこりと頭を下げた。先程から猟兵がミーティングルームに現れる度にぺこぺこと笑顔で挨拶している。
 「あ、そろそろいいかなー?ちょっと待って下さいねー」
 緋雨は皆がそれぞれのスタイルで着席したのを確認すると、集中するように目を閉じた。
 「はい、お待たせ。今回の舞台はダークセイヴァー。資料をどうぞ」
 瞼を開いて喋りだすと、どこか目付きや口調まで変わった様な。説明モードかもしれない。

 「ピエゾと呼ばれる地域にあるこのお館で吸血鬼同士の抗争が起きてます。上手くいけば双方の吸血鬼を葬る事が出来るかも知れない。その分、注意して欲しい事もあります」
 緋雨の背後にあるプロジェクターが建物を映す。石造りの堅牢な、城とも見紛う館。そこに帽子を被った男のアイコンがに重なる。
 「ヴェルハディスという吸血鬼の居館でした。ただ、彼は訪問客であった吸血鬼を殺してしまい、彼らの世界でもタブーで大騒ぎになりました。そして周囲の支配者が一斉にピエゾに押し入りました」
 どうやらお家騒動らしい。
 「ヴェルハディスは深手を負いましたが滅びずに落ち延びました。支配者連合は地理に疎い事が災いして、追い切れなかった。そしていつまでも全員集合って訳にはいかないから、ローザリアという吸血鬼を独り立ちさせる事にして護衛を置きました」
 帽子アイコンが館の外の暗がりへ。そして黒衣の少女のアイコンが館へ。館の周囲にモブっぽい表情ナシの顔アイコンが並ぶ。

 「ヴェルハディスが館に襲撃をかける場面が予知できました。彼は弱っていて、護衛を蹴散らしてローザリアを討てる程の力はありません。ゲリラ戦で行こうと思っているのかも。ここに加勢します」
 ここまで言うと、緋雨は少し間を置いた。皆が情報を整理する為の時間だろうか。

 「まずはヴェルハディスがローザリアと戦えるように館の護衛を蹴散らしてお膳立てして欲しい。ここが第一目標です。ちょっとややこしくてゴメンネ?資料にも目を通して下さいね。…タフな任務だけど、きっと皆なら出来ると思う」
 少年の胸の前に機械仕掛けのハート型をしたグリモアが浮かび上がる。
 「さあ、準備ができた人から転送するよ。よろしく!」
 バンダナを解き放って第三の瞳を発動した緋雨が微笑んだ。


らむね。
 お久しぶりかはじめましての完全二択です。らむねです。
 今回はヴァンパイアハントとなりました。前回がドラゴンハントですのでハント繋がり?

 第一章:館の護衛をはぐれ吸血鬼と殲滅。
 第二章:三つ巴の戦いで吸血鬼を討つ。
 第三章:残りの吸血鬼と頂上決戦。

 大まかな流れはこうなります。

 ヴェルハディスは吸血鬼からも敵視され、孤立無援です。
 一方でローザリアには後援がいますからローザリア → ヴェルハディスの順がリスクが少なそうではあります。

 承認されましたら、第一章断章記載の上で開始となります。よろしくお願いいたします。
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第1章 集団戦 『異端の神を崇拝する教徒』

POW   :    未来を捨てよ。さすれば力を与えられん。
自身の【正気を捨て、血に濡れた短剣】が輝く間、【狂気を含まれる短剣】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
SPD   :    命を捨てよ。異端の神々は我らを救うであろう。
【攻撃、そして死を受け入れ】【死こそ神に近づけるという】【教団の教えを信じ込む事】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
WIZ   :    崇めよ。讃えよ。吸血鬼すらも屠るは神々の力のみ。
【狂った信仰】を聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する。

イラスト:森乃ゴリラ

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


【それは平穏にも安全にも遥か遠く…】

 ピエゾと呼ばれる地域の山間部にある石造りの館。其処は敷地の大部分に石畳や砂利が敷き詰められて少し異彩を放っている。広大な庭と敷地外を区分するように周辺部分には気が生い茂っているが、館周辺は見通しも良く潜伏には向かないだろう。

「ヴェルハディス…なんと忌々しい男…!」
 ローザリアの唇から零れ落ちる呟きには呪詛に近い響き。主を追い出して占拠したは良いものの、この館は厄介に過ぎた。仕掛けが多いのだ。各所に仕込まれた罠の数々は吸血鬼を滅する事こそないものの、滞在する気持ちを大きく削ぐことは確かで彼女の後見者達は後事を託すと早々に立ち去っていた。
「相当疲弊したでしょうに、こんなに早く現れるなんてね…」
 彼が旧知であった吸血鬼を討ち滅ぼした後、周囲の支配者達は疾く動いた。滅する迄あと一歩と云う所まで追い詰めた筈だった。それが、ローザリア独りとなると急襲である。果断ではあった。

「館内での立ち回りは不利ね。庭で迎え撃ちなさい」
 少女の指示に下僕が動いた。下僕の声掛けでぞろぞろと何処か生気に欠けた統率の取れない人の群れが庭に位置取っていく。
「今回手柄を立てたモノは従卒に引き上げます。励む様に」
 バルコニーから少女が告げる。囁く様な喋り方だったが良く通る声で全員に届いたようだ。歓声とそして熱狂が庭を包む。
 庭にいるのは異端の教徒。この吸血鬼が席巻する世界で望みを失くしてしまった人々だった。彼らは人類の未来よりも自己の存続を望んだ。吸血鬼の元に跪いて隷従を誓った人々だった。その選択で、ヒトを辞めてしまったとしても…。 


 猟銃の様なライフルを抱えた黒帽の男が踏み込もうとしているのはそんな場所だった。


【MSより】
・異端の教徒は残念ながらオブリビオン化して、救済の道はありません。
・教徒の数は大変多く、その上バルコニーから時折ローザリアが支援します。
・ヴェルハディス単騎では殲滅できず、いずれ撤退する羽目になります。
・緋雨の予知では共闘を持ち掛ければヴェルハディスは乗るであろうという事です。
(但し、ヴェルハディスを狙った場合は必ずその場で離脱します)

 この戦いの目的は「館にいる異端の教徒の人数を大幅に減らし、ローザリア側の戦力を削ぐこと」です。彼女は消耗した相手を万全の状態で迎え撃とうとしています。

 まずは皆さんの奮闘でこの戦局に介入して下さい。素敵なプレイングをお待ちしております。
 
 
 
ルベル・ノウフィル
吸血鬼は憎き敵ですが
僕は理性的に狩る事ができますとも

ヴェ……、ヴェル様?
僕ははぐれものの人狼
貴方様が殺害した吸血鬼は、僕の敵でした
敵を殺してくださって感謝しております
僕はあのローザ……なんとかも殺したいので、利害が一致いたします
共闘しましょう
嘘は言ってない

ヴェル様を庇う
盾は使わず負傷して信頼を得る策

UC花焔乱舞
教徒のみを対象に

自己の存続を望むとは嘆かわしい
間違っているのでございます
自己を存続させるのをおやめなさい
その瞬間、全てから解放されて楽になれるのです

「抵抗する必要はございません。命を捨てておしまいなさい、死を受け入れなさい。それは解放……死はお前達を救うでしょう。正しき道はこれにあり!」



 【もしもこの気持ちを記したならばきっと文字数が】
 境界を示す針葉樹の隙間を抜けて敷地に踏み込んだ其処は、チェスの盤面を思わせる広大な庭だった。敷き詰められた石畳の濃淡の色合いが格子柄で、交互に並んだ白と黒のマスの様だった。
 ルベル・ノウフィル(星守の杖・f05873)はスキップするが如く颯爽と歩を進める。踏むなら何となく黒のマスがいいかな?等と思いながら。

「ええと……? ヴェル様? 僕ははぐれの人狼でございます。貴方が殺害した吸血鬼は僕の敵でした。感謝しております」
 館に踏み込んで異端の教徒に立ち向かわんとするヴェルハディスへと語りかける。相貌は朗らかで、けれど何処か艶めかしく。

(憎き憎き憎き憎き憎き(以下略)吸血鬼が二匹も!ええ、僕は冷静であります。とてもとても理性的ですとも) 殺意と愉悦に沸騰しそうな心を宥め賺しながら黒帽の吸血鬼を見ると、とても怪訝な顔をしていた。そして異端の教徒はお構いなしに刻々と迫る。

 ルベルの双眸が凄絶な輝きを宿し、全身が火精に彩られて紅に染まる。そのまま間合いに入る直前であった異端の教徒達へと身を投げる様に軽やかに飛翔。ユーベルコードである【花焔乱舞】だった。少年は小柄ながら身体操作に優れ、一歩目が抜群に早い。更に纏った火精の助力もあり教徒達隙間を縫うように雷速で駆け抜ける。彼らの殆どは反応できなかった。粗末な礼装が燃え上がり、絶叫が上がった。
 開幕としては上々であろうと思いながらも軽やかにターンしてヴェルハディスへと襲い掛かる教徒をも血祭りにあげる。

「そして、あの……ローザなんとかも滅したいので、利害が一致致します。共闘しましょう?」 
 いずれ貴方もね?とは口に出さない。嘘も云ってないし自然で完璧なお声掛けだ! と自画自賛しつつ上目遣いで小首を傾げるように黒帽の吸血鬼に告げた。応えは弾かれる様な哄笑だった。

「よかろう! 一時の競演と行こうか。ローザリアの支援には気を付けよ」
 ルベル以外にも参加した猟兵達がそれぞれの流儀で共闘を申し出たり、行動で示したりしていた。各地で戦端が開かれている。ヴェルハディスも戦場に響く声で共闘を告げた。

  猟兵各自が奮戦し、教徒達を血祭りにあげていく。ユーベルコードは精神に働きかける系統のものこそ効果を発揮する迄に手間取っていたが、ルベルの【花焔乱舞】は戦場を紅く染めた。我が身を賭し、払う対価も尋常ではない。それだけに凄絶な輝きであった。
 教徒達は人を既に辞めているから身体が燃えただけで即死とはならない。少年にはそれが苦しみを長引かせているだけの様に見える。どうせ勝てないのに。もう、死ぬのは確定事項(彼がそう決めた)なのに……。

「抗うのを止めて受け容れなさい。死の開放はお前達を救うでしょう」
 正しき道は其処にある。彼らは道を違えたけれど。死に逝くモノにだけ見せる優しい笑みで、彼は告げた。それに応えるのは悲鳴と絶叫と、そして呪詛の声。ルベルは信念に従い、一人ずつ確実に葬っていく。労わる様に、そして愛でる様に。

 黒き竜人が、拘束具を纏った少女が、中性的なオラトリオが、参加した猟兵達が戦場を駆け抜ける。猟兵とヴェルハディスの活躍は目覚ましく、大勢は決した。館の二階部分のバルコニーから時折、閃光が迸る。ヴェルハディスを庇う様にして遮った際の被弾が、少年の唯一の負傷だった。 

 次なる戦いへの期待に、少年の鼓動は高まるばかりだった。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

フェルメア・ルインズ
◎アドリブ連携歓迎
禁忌なのに同族を殺すとは、何か余程腹に据えかねたのか?
まぁ、何にしろ好都合だ
存分に利用させてもらうとするか

よう、同族殺し! あの女吸血鬼を殺すんなら協力するぜ!
それまでは共同戦線ってのはどうだ?

■戦闘
オブリビオン化してるんなら遠慮はいらねぇな
覇気による【オーラ防御】の障壁で攻撃を防ぎつつ接近、そのまま
敵を掴んだら【怪力】で振り回して、周囲の奴ら全員を【なぎはらい】
吹っ飛ばしてやる
バルコニーから攻撃が飛んできたら、掴んだ【敵を盾にする】事で防ぐか

つーか信仰やら指示やら、うるせぇな……
【UC】を敵陣に向けて放ち、一切の音を消して静かにしてやるよ
もし抵抗できずに眠ったら儲けもんだな



 針葉樹の森を抜けていく。拘束具により身体の可動範囲が制限されるため、尖った葉がチクチクと刺さる。うんざりした気分になっていたフェルメア・ルインズ(拘束されし魔神・f21904)は視界が開けると思わず歓声を上げた。
 庭には濃淡のある石が敷き詰められ、チェスの盤面の様にも見える。実際に兵士を配置すれば一勝負できそうではある。他の猟兵と比べると少し移動に手間取ったため、既に戦闘は始まっていた。出遅れた感がちょっと悔しいが、大活躍して目立てば問題無いと思い直す。

 そこにいきなり黒き竜人が尾で弾き飛ばした異端の教徒が吹き飛ばされてきた。足元に着地して、バウンドする。悲鳴が聞こえた。そして、次々と押し寄せる教徒達。其処は、2体の吸血鬼と猟兵が争う戦場だった。
(同族殺しは禁忌だろうし尋常じゃ無いがまあ、事情はあるんだろう。何にしろ好都合だから利用しない手は無いよな)
 一見すると腕白盛りの少女という風情のフェルメアは思案するとうむうむと頷いた。

「ほいっと」
 そして足元に蹲った教徒を蹴り上げると宙に浮いた身体をキャッチ。情けない悲鳴が上がる。
「いーくーぞぉぉぉぉっ!」
 彼女は人間離れした怪力の持ち主だが、拘束具がある。ホントは片手で余裕なんだよなと思いつつ、両手で教徒の脚を抱え込んでくるりと回る。悲鳴が絶叫に変わり周囲へと振りまかれる。所謂ジャイアントスイングである。踏み込んで押し寄せる教徒達にぶつけると身の毛もよだつような音がした。絶叫が、途切れる。
 身体が千切れて軽くなると別の教徒を捕まえて振り回す。教徒は人間の枠からはみ出してオブリビオン化しているから、かける情けは無い。周囲から歩行すら困難かと思われていたフェルメアは予想を裏切りまくっては大暴れし、教徒に苦鳴と絶叫を上げさせた。ちょっとご機嫌になっている。

「よう!同族殺し!共同戦線と行こうぜ。協力してやる」
 黒帽の吸血鬼にどこか憎めない笑顔で朗らかに告げる。彼は一瞬微妙な顔つきになったが「違いない」と小さく呟いた。
「よかろう! 一時の競演と行こうか。ローザリアの支援には気を付けよ」
 他の猟兵からも申し出があっただろう。そして猟兵は彼を害する行動をとっていない。ヴェルハディスも戦場に響き渡る声で猟兵達に告げた。

「どんだけいやがるんだコイツら。段々ダルくなってきた」
 混戦ぶりが増してくるとフェルメアはユーベルコードである【逃れえぬ安息】を発動した。自身の周囲のオブリビオンを眠らせて無力化する強力な効果を持つ結界である。闇を統べるモノの権能であろうか。しかし教徒達が皆で紡いだ聖句の効果かなかなか眠りに就くものは居ない。拘束具は彼女の呪力すら大幅に減ずる効力を持っているからかも知れない。ローザリアに至っては鼻で笑って退ける始末であった。封印指定を受けていて厄介だと感じるのはこんな時だ。
「ちぇっ、効いたら儲けもんだったんだけどなー」 

 人狼の少年が、黒き竜人が、中性的なオラトリオが、参加した猟兵達が戦場を駆け抜ける。猟兵とヴェルハディスの活躍は目覚ましく、もはや戦況は覆らない。館の二階部分のバルコニーから時折、閃光が迸る。オーラで身を護るようにはしていたが、直撃すると死ぬ事は有り得ないがしばらく身動きできなくなってしまう。フェルメアは自身が標的にされた時は教徒達の身体を盾としてちゃっかりと難を逃れていた。  

「さぁて、次は女ボスといこうか!」
 闘いの疲れを感じさせずに少女は微笑んだ。好戦的な笑みだった。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

鈴木・志乃
ローザリアを倒そうってんなら
一時共闘と行こうじゃないの!って
声高らかに叫ぶね

ダークセイヴァーは私の故郷、これ以上好き勝手させられてたまるかってんですよ
【オーラ防御】展開
【第六感】で攻撃を【見切り】光の鎖で【早業武器受け】
【カウンター】として横一閃で【なぎ払い】攻撃しつつ
なんとか敵陣深くまで潜り込みたいね

入って行けたらUC発動
ヴェルさんは近寄んなよ、危ないから!
【全力魔法、精神攻撃、催眠術、ハッキング】
さあその認識能力を侵してやる
お前たちの敵はローザリアと隣の教徒達だよ
さ、存分に斬り合いなさいな……

まったく血は大嫌いだってのにね!

アド連歓迎



【輝ける者は舞うが如く】
 緩やかな飛翔で針葉樹を抜けると、そこは戦場だった。館の庭に敷き詰められた石は升目の配置で濃淡を表現しており、まるでチェス盤の様でもある。鈴木・志乃(ブラック・f12101)は思わず顔を顰めた。

「まったく……血は大っ嫌いなのに」
 純白の羽根を持つ、どこかボーイッシュな印象を抱かせるオラトリオである。身を置くのが戦場であり、彼女の潔癖さや機能性重視の服装のせいかも知れない。恐らくドレスアップすれば目にする者を魅了するのであろう。今は凄惨な戦況にちょっと困った様な顔をしていた。

「おっと…」
 異端の教徒達が彼女を視認し、聖句を叫びながら駆け寄ってはナイフを振りかざす。猟兵の中ではナイフが通用しそうに見えたのであろう。しかし一歩引いただけに見える小さな動きで間合いを外されていた。刃先が何かに触れたように燐光を放つ。彼女が纏うオーラだった。攻撃と認識されたモノに対し機能する意志力の鎧。
 それを何なのか理解できないまま、次々と教徒が押し寄せる。聖者はいつの間にか発現した光の鎖を振りつつくるりと優美に旋回。その一動作だけで教徒が押し戻され、光の刃に斬り付けられた様に苦鳴があがった。

 「武」は「舞」にも通づる事もあるという。一見、早くは見えない舞うが如き立ち回りで志乃は戦場を駆ける。実際には無駄を極限まで省いた洗練された挙動であり、教徒達は追い切れない。聖痕と纏った概念武装を輝かせて歩を進める彼女に近寄る事すら出来ず被害を増していくだけだった。無造作に海を割るが如く戦場を切り裂いていく。

「ヘイ!一時共闘と行こうじゃないの!」
 思わず目を留めたのであろうヴェルハディスと視線が合うと、志乃は告げた。ウィンクを添えて。
「よかろう! 一時の競演と行こうか。ローザリアの支援には気を付けよ」
 他の猟兵からも申し出があっただろうし、彼女の行動もそれを裏付ける。ヴェルハディスも戦場に響き渡る声で猟兵達に告げた。黒帽の吸血鬼に手を振って応える。

「そろそろいいかなー」
 頃合いかと見計らうと志乃はユーベルコードを発動した。暫定的に【UNKNOWN】と名付けた権能。身に纏う燐光が光輝となり、周囲に放たれた。範囲内にいた教徒達は反射的に一瞬身を竦めたが、傷を負った様子は無い。しかし、効果はあった様だ。教徒達は志乃を護るかの様に身を翻すと露払いをすべく先陣を切り始めたのである。
「さあ、存分に斬り合いなさいな」
 教徒達は信仰と聖句によって意志力を強固なものにしていたハズだった。彼女の聖光は一時的とはいえそれを打ち破った。同士討ちが沸き起こる。

 人狼の少年が、黒き竜人が、拘束具を纏った少女が、中性的な少年兵が戦場を駆け抜ける中での、思わずローザリアも眼を瞠る戦況の変化だった。バルコニーから志乃に向けて放たれる閃光が頻度を増すが、本気で無いのは明らか。こちらの手の内をなるべく曝して置きたいのだろうが、それも既に読めていた。泰然と、優美に歩を進める志乃の周囲で燐光を放つと共に無力化されていく。戦況は、既に決した。

 志乃の関心は今後の盤面の展開へと移っていた。本番は、これからだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ミスト・ペルメオス
【POW】

…やれるだけのことを、やるのみです。今は。

歩兵装備を纏って任務に参加。
今回は己の愛機を駆っての参戦は不当と判断、致し方ない。

まずは吸血鬼の一方と共闘し、もう一方の吸血鬼とその手勢を討つ…。
戦術的には有効な判断。オブリビオンの打倒に遠慮は要らない。
…たとえ最初に倒すべき集団が、この世界に生きる人々の成れの果てだとしても。

念動力を各種装備の制御や周辺の情報収集・気配察知などに活用しつつ。
スラスターを併用した飛翔、跳躍、滑走、フェイントを混ぜた立体的な戦闘機動で敵集団を翻弄。
その合間を縫って【オープンファイア】、重熱線銃とアームドフォートの大火力を投射していく。

※他の方との共闘等、歓迎です



【黒い鳥は羽ばたかずとも】
 ふわりと浮遊させた身体で木々の合間を抜けると、そこは石畳の庭だった。館の前の広大な空間は濃淡の石が交互に敷かれ、チェス盤を想起させる。ミスト・ペルメオス(銀河渡りの黒い鳥・f05377)もまた、戦場に足を踏み入れた。

「今はやれるだけのことを、やるのみです」
 黒鳥と呼ばれる愛機の投入は、今回は見送った。一見小柄で荒事に向かなそうに見える少年。但し、抱える銃器はライフルよりも大きく、携行するアームドフォートの砲身もまた剣呑な輝きを湛えている。装備こそ大がかりだが、斬り付ければ倒せそうだと感じた教徒達が大挙して押し寄せる。

 しかし、それは叶わなかった。大きな技術水準の隔たりは、時に観測者に魔法と感じさせることがあるという。念動力を自身や火器の姿勢制御に活用するミストは重装備ながら圧倒的な機動力を誇る。引き付けた後で後方へとふわりと舞い上がりながら撃ち降ろされた斉射は壮絶だった。重熱線銃と腰部マウントされた双砲身からの同時射撃。教徒達が絶叫と共に吹き飛ばされる。場が、凍り付く。

「これが、この世界の人々の成れの果て…ですか」
 感傷が掠めたのも、ほんの一瞬。対人と考えたなら過剰とも云える火力。しかし、彼らは既にオブリビオン化していた。その証拠に、即死した者は殆ど居ない。ヘルメットのバイザーに表示される各種数値や戦況を確認しつつ、自身の立ち回るイメージを構築していく。

 自らを鼓舞しようと聖句を唱え、少年に斬り付けようとする教徒達。向けられる火力は膨大。しかし、耐え抜いて誰かのナイフが身体に届いたなら。戦況を覆すことを夢見て熱に浮かされた様に迫る。前へ、前へ……! 痛みと熱さの果てに遂に届いたと繰り出される一閃は彼の纏った力場に阻まれた。驚愕の表情のまま撃ち抜かれる教徒。ミストの武装は火力と機動力だけでなく、防御力も兼ね備えていると思い知らされた瞬間だった。けれど、教徒達はこの戦場で来訪者を討てなかったならば帰る場所など無いのだ。より多く、より強く! 命中させたなら、何かが変わる。決死の進軍が続く。

「良い気概です。けれど、それだけだ」
 囲まれたと見せかけて、上空へ。逃げると思わせてからの、全力射撃。装填や弾数管理、そして予測を超えた敵の行動への数値修正。為すべき事は多い。目まぐるしく変わっていく状況の中で戦況を操作しつつ盤面を見据える。

 黒き竜人が、拘束具を纏った少女が、中性的なオラトリオが、人狼の少年が、参加した猟兵達が戦場を駆け抜ける。猟兵とヴェルハディスの活躍は目覚ましく、教徒達は殆ど手傷を負わせる事すら出来ず数を減じていく。しかし、消耗はあった。弾数も体力も無限ではない。

 今後「黒鳥」を投入するのか、補給のタイミングはあるのか。少年兵は戦況を見据えつつ思案するのだった。 

成功 🔵​🔵​🔴​

ワズラ・ウルスラグナ
横槍を入れて漁夫の利を狙うか。
それもまた戦いだな。
そうしなければならんほどの強敵であるなら幸いだ。

やる事は規定通り、庭に向かって教徒達の殲滅
教徒達の攻撃の他、館の罠、ローデリアの横槍対策にも戦獄龍障鱗を用いる
今回の俺が言うのもなんだが、意識外からの攻撃は厄介に過ぎるからな

基本的には一人ずつ確実に潰していく
囲まれそうなら剣と焔で薙ぎ払う
戦獄龍障鱗が有効なら、多少強引に突っ込んで一気に数を減らすのも良い
短剣に注意したいが手持ちが一本とも限らん、油断無く対応しよう

どうせ戦わされるのなら絶望にでも抗えば良かったと思うのだがな
今更詮無き事だ
悪いが、人の身を捨ててまで望んだその命、奪わせて貰おう



【黒龍舞踏(武闘)会開催中】
 火焔を纏った双翼が翻る。光すら吸い込みそうな漆黒。巨躯が緩やかに躍動する。一際樹齢の長そうな高い針葉樹をよじ登ってからの滑空だった。なるべく樹を傷つけまいとの配慮だった。

「横槍からの漁夫の利……。それもまた闘いか」
 利に従わねばならない程の強敵だということか。大捕り物と行きたい所だ。ワズラ・ウルスラグナ(戦獄龍・f00245)は獲物を思い描きながら着地態勢に入る。轟音が館の広大な庭に響き渡る。濃淡の交互に区分けされた枡目はチェスの盤面を連想させた。今はその盤面に降り立ち、雑兵退治という所だろうか。

 ワズラは闘争を愛し、渇望し、満喫する。眼前に立ちはだかる異教の信徒達は単体では戦獄龍には遠く及ぶまい。しかし、数も力である。更に作戦があるならば打ち倒す際の励みにもなる。ナイフ以外にも奥の手はあるのか。興味は尽きない。

「さあ、どう挑む? この戦獄龍に見せてみよ」
 金の瞳を煌めかせて、敵に問う。教徒達は一瞬呑まれた様に立ち竦むが、聖句を唱えるとナイフを腰だめに突進してきた。
「そうだな。囲むのも良いな」
 包囲が妥当だと称えつつも。長大な尾を振り回した。信徒が悲鳴と共に宙を舞う。包囲作戦に対する彼の答えだった。そして眼前で棒立ちになった信徒へ長大な鉄塊剣を振り下ろす。ナイフの刃先で受け流そうとした信徒の腕ごと叩き折り、地に這わせた。振り終わりを狙う信徒が居る。其処へ火焔を振り撒いた。火だるまになった信徒が地を転げる。空気が、変わる。

 尋常な方法では崩せないと、信者達の聖句を唱える声が叫びに変わる。吠える様に信者達はナイフを振りかざして間合いを詰めた。数を頼りにした全周囲からの突進である。
「おう。良い闘志だ」
 ワズラが吠える。信徒達の雄叫びを一瞬掻き消した。それに負けじと突進した信徒達が渾身の力を込めたナイフで斬り付ける。漆黒の鱗に弾かれるが、ならば更に渾身の一撃をと力を籠める。そんな光景が各所で繰り広げられる。今や多くの信徒がワズラに斬り付けていて戦獄龍はあちこちで防戦一方だ。気勢が上がる。

「黒龍が、あちこちに……!?」
「まあ、気付くよな」
 轟音がした。信徒の一人が鉄塊剣で叩き潰された音だった。目前のワズラに斬り付けていた所に背後から鉄塊剣の一撃を喰らったのだ。信徒達が思わず周囲を見る。黒龍は戦場のあちこちにいた。様々なポーズで戦闘意欲を示している。そんな中で鉄塊剣が繰り出される度に壮絶な破壊音が轟く。絶対に我が身に受けたくない様な音だった。

 それは彼のユーベルコード【戦獄龍障鱗】であった。先程咆哮した際に仕掛けておいたのだ。ローゼリアの妨害に対する対策でもある。致命の一撃を繰り出してくるのが本物で、残りは分身のようなものらしい。しかし信徒の攻撃では分身を打ち破れない。そして、分身に紛れて繰り出される本人の攻撃が信徒を一人ずつ葬っていく。丁寧に、そして確実に。雄叫びは絶叫に変わっていた。

「もう、手詰まりか?」
 戦獄龍が問う。これ以上の答えが出せないなら、残念だが命を奪うと。信徒達は決死の覚悟で応えようとするが、彼の攻勢を凌いで反撃に転ずる解は見出せなかったようだ。戦局は、決した。

 拘束具を纏った少女が、中性的なオラトリオが、人狼の少年が、重火器を携えた少年兵が、参加した猟兵達が戦場を駆け抜ける。猟兵とヴェルハディスの活躍は目覚ましく、教徒達の勝算は時を増す毎に減っていくようだった。

「さあ、高見の見物もそろそろ終わりだろう?」
 こちらの情報収集に徹したローゼリア。奥の手を隠したままのヴェルハディス。戦いは新たな展開を迎えようとしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

吾喜内・来世(サポート)
「情けは人の為ならず! 困ったときはお互い様だ!」
女性的な身体に男性的な言動、陰鬱な外見に陽気な性質を持った桜の精です。
善意と正義感に従い、世の不条理や他人の不幸を掃う為に行動します。
心根が素直な為、敵の言葉に迷ってしまうこともありますが、事件解決という目的は忘れずに遂行しようとします。

「祖なる桜が一柱。請いて願いて奉る」
ユーベルコードは状況に応じて使い分け、攻撃と防御はそれ任せです。
本人は援護や救助の役割を主に担当します。装備の薬からその場面で最適なものを選び、自分や味方、敵にすらも服用させます。

アドリブや他者との絡みは大歓迎です。
やりやすいように、自由に動かしてください。



 針葉樹の森を抜けると、そこは広大な庭だった。残念ながらこの地域には桜は無いらしい。枡目で区分けされた石畳は濃淡の二色で、彼女には碁や将棋の盤面に見えた。

「は~、綺麗なモンだねぇ!」
 手を翳して見回すお屋敷や庭は相当に手が掛かっていそうで、手入れする者の仕事ぶりを感じさせた。それが戦場になってしまうのは少し勿体無い位に。
「おおっと、お仕事お仕事。荒事は苦手だけど、役に立つよ~。薬が入り用なら云っとくれ!」
 どこか朗らかで陽気な口調で周囲の猟兵に告げたのは、吾喜内・来世(サクラキメラ・f22572)常桜の咲く世界から訪れた桜の精。髪を縁取る桜の枝葉は見る者を惹き付けるだろう。内気で陰鬱そうな仕草と裏腹の明るさだった。

 猟兵は各自のスタイルで奮戦している。圧倒と云っていい者も多い。異教の信徒達は当然彼女の元にも押し寄せた。勝てそうに見えるというのもあるかもしれない。他の猟兵との交戦から逃れてきたものも居た。
「あっれ~? 僕狙われちゃってる~? 人気者は辛いなあ!」
 ナイフで斬られたらもっと辛くなっちゃう。そんな素振りで来世は樹木の精に助力を乞う。来世と似た雰囲気の樹人が続々と顕現した。石畳の上に、突如林が出来る。

「は~い、んじゃ君らはこれね?カリカリしてっと良くないぜ!?」
 すれ違い様に口に含ませていくのは手持ちの秘薬。「白秋」と名付けた薬が司る効能は安楽。聖句や信仰で掻き立てた闘争心が薄れ、損なわれていく。
(そして、結果として他の猟兵による攻撃の餌食となった)

 黒き竜人が、拘束具を纏った少女が、中性的なオラトリオが、人狼の少年が、重火器を携えた少年兵が、参加した猟兵達が戦場を駆け抜ける。猟兵とヴェルハディスの活躍は目覚ましく、来世が直接手を下さずとも秘薬で弱体化させるだけで刻々と数を減じて行く。もはや、盤面は覆らない。

「ま、こんなもんだよね~。さあ、次いこ~!」
消耗はあれども、被害は軽微。これからが正念場となりそうだった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 ボス戦 『ローザリア』

POW   :    ブラッディエンハンス
戦闘中に食べた【他人の血液】の量と質に応じて【全身の細胞が活性化し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD   :    プライド・オブ・ヴァンパイア
【闇の魔力】【血の魔力】【影の魔力】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
WIZ   :    ダークネスイリュージョン
自身からレベルm半径内の無機物を【闇】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。

イラスト:みろまる

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は十六夜・巴です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


【異端の教徒たちの追憶】
 吸血鬼を崇拝し、崇める。それは幸薄い者の多いこの世界でも異端。吸血鬼は、この黄昏の世界を統べる。力の象徴でもある。けれど、人々を救ったりはしない。
 それでも縋るものには不遇の者が多かった。家族と、友と、仲間と支え合えなかった者。夢を、願いを、祈りを胸に抱けなかった者。世界に愛を、夢を、希望を見出せなかった者。それは、弱さではあったかもしれない。けれど罪と断ずるには余りに酷ではあった。

「もう苦しまなくてよいのでございます。死は救いであり、解放なのです」
 人狼の少年の囁きはどこか優しい。

「しょうがないよな。今回はここで終いだ」
 拘束具の少女は次はうまくやれよと言いたかったのかもしれない。

「大変かも。辛いのかも。でもそっちはダメだよ」
 オラトリオの少女は同じ側に立てたならならと残念そうに。

「もっと早く出会えたなら、何か変わったのかもしれませんね」
 少年兵はトリガーを引きながらも痛みを胸に刻みつつ。

「戦わされるなら、絶望に抗えたら良かったな」
 漆黒の竜人は次はそうしようぜと微笑んだようだった。

「今回は敵同士になっちゃったね、仕方ないね」
桜の精はこの世界にも幻朧桜が咲けばと願う。

 到底勝ち目の無い盤面に送り込まれた信徒達は、一人ずつ葬られて終焉の刻を迎えていく。救い在れと願う猟兵達。全ては、白と黒に染め上げられて……。

【吸血姫は振り向かない】
 信徒達が勝てるとは微塵も思っていなかったのは確かだ。けれど手傷を負ったならいい。疲弊したならいい。手札を晒したならいい。そう思っていた。
 武力とは誇示するモノである。効果的な場面で投入する事で後に戦わずして勝利出来る事もある。相手に「勝てない」と思わせる事が大事なのだ。

 しかし、信徒達は相手の情報をあまり引き出せなかった。それどころか逃げ帰った者も居た。
 しかし、ヴェルハディスは力の差を見せつけても「勝敗は挑まねば分からぬ」と挑んでくる。

 舐められている。ローザリアはそう思わざるを得なかった。もう一度、力を誇示する必要がある。数人の猟兵(と呼ばれているらしい奴等)と疲弊したはぐれ吸血鬼が結託した所でこちらの優位は揺るがないと示す必要があった。

「出陣します。用意なさい」
 従者に告げる。そして、逃げ帰った信徒の処置を告げるのも忘れなかった。纏うのはお気に入りの決戦用礼装。入念に身嗜みを整える。彼女にとって、そこは舞台だった。

【次戦に向けて】
「休養が要る。僅かばかりだがな」
 黒帽の吸血鬼が告げた。彼も補給を要するのだろう。猟兵にも弾薬の補給や、給水、武装のメンテと有益な時間になる。束の間の休養となるだろう。
「どうせあの姫さんもお洒落に時間がかかる。すぐに来たりはしない」
 自信満々の口調である。吸血鬼の常識なのだろうか?
「半刻程がよいだろう。そちらが来なくても我は仕掛けるが」
 囁くように告げると吸血鬼は森へと消えた。


【MSより】
 信徒戦、お疲れ様です。次戦はローザリアと雌雄を決する事となります。

・第一章で使ったユーベルコードを打ち破る策をローザリアは思い描いているかもしれません。
・ヴェルハディスも共闘の形を取っていますし今回はこちらに仕掛けませんが、猟兵の戦力を分析してはいます。
(彼を標的にしたり攻撃に巻き込んだりすると、その場で戦線を離脱するでしょう)
・吸血姫はとてもつよいので三種のユーベルコードを自在に使いこなすと思って頂いた方が宜しいかと。
(判定は、選択されたユーベルコード一種を基準とさせて頂きます)

それでは、善き闘争を。素敵なプレイングをお待ちしております。
 
フェルメア・ルインズ
◎アドリブ連携歓迎
ほぉ……吸血鬼ってのはいけ好かない奴らばかりだと
思っていたんだがな
なかなかどうして気風が良いじゃねぇか

よし、気に入ったぜ! 同族殺し、いや、ヴェルハディス!
前衛は任せときな!

■戦闘
お前も闇を使うのか、面白いな!
ここは敵の攻撃や吸血を手枷や首枷による【武器受け】で防ぎつつ、
隙を見て【UC】による魔力弾を当てて互いを闇の鎖で繋ぐ
闇と言ってもオレの魔力で作った闇鎖だ、簡単に操作できると思うなよ

そのまま闇・血・影の魔力を奪いながら【怪力】で
鎖を掴んで振り回す事で周囲に叩き付けてやる

まぁ、闇の魔力に詳しいなら鎖の術式にも干渉して来そうだけどな
その隙が命取りなんだよ
今だ、ヴェルハディス!



【魔神ちゃんは止まらない】
 フェルメア・ルインズ(拘束されし魔神・f21904)が再び館の敷地に足を踏み入れた時、二人の吸血鬼の対峙は始まっていた。ローザリアは打って出た。罠の多い館での戦いを嫌った形だった。
 吸血姫は周囲の敷石を巻き上げて闇へと同化させていく。それを纏って動かしながら戦うのが彼女のスタイルだろうか。更に纏う魔力を高めたのか、鬼気とでもいうような形容しがたい気配を湛えている。

「なかなかやりますわね。まあ、景気付けと参りましょうか」
 バルコニーから吸血姫の下僕が信徒を放り投げた。恐らく前回の戦いで逃げ帰った者だろう。腕を組んだまま嫣然と微笑むローザリア。彼女が纏う闇が蠢いて、信徒をキャッチ。五体の砕ける音と共に悲鳴が断末魔の絶叫へと変わり、不意に途切れた。「闇」が搾り上げる様に圧搾した信徒は原型を留めておらず、彼女はその信徒から生き血だけを啜る様にして打ち棄てた。
「あら? お気に召さない? 他に使い様も無い。ならばここで役立てないとね?」
 吸血姫は血を得る事で一時的に力が増すようだった。鬼気が更に増す。制裁と戦闘力増強を兼ね、こちらの戦意を挫く意図もあるのかも知れない。

「粗野に過ぎる。そして隙だらけだな?」
 抜き打ちの様にして放たれた猟銃からの二連撃。それは三人目の信徒を放り投げた下僕の胸を穿ち、無力化した。そして、もう一つの弾丸は吸血姫が纏った闇に阻まれる。生き血を啜り、口元を紅く染めた吸血姫が嘲弄する様に微笑む。

「アイツはいけ好かないが、お前は気風が良いな。気に入った。前衛は任せときな!」
 フェルメアはヴェルハディスへと告げると、間合いを詰めた。他の猟兵も自身を活かす位置取りをしつつ隙を伺う。黒帽の吸血鬼は周囲の敷石を銀の蝗の群れへと変換しつつ機を測っているようだ。様々な投射武器が行き交い、吸血姫の闇がそれを阻む。
 フェルメアが間合いに入り込んだと思った瞬間、目の前が暗くなった。「闇」が周囲の光を遮りつつ、迫ってくる。手枷ごと両腕を振り回して迎撃すると「闇」は弾かれた様に遠のいた。
 背筋に悪寒が走る。両腕を振り抜いたフェルメアの背後に回り込む様に襲い来る「闇」を首枷で受ける。どこか硬質な音がした。この拘束具は彼女を封ずるものであり、容易く壊れたりはしない。今まで出会ったどんな敵の攻撃にも耐えた。
 一見すると不自由で窮屈そうに見える拘束具で、彼女は次々と「闇」を迎撃した。様々な角度から繰り出される攻撃に対処する術を既に持ち合わせている様で、判断に迷いが無かった。ちょっと手首や足首が痛いのは内緒だ。

 ヴェルハディスが時折放つ魔弾。そして猟兵達が仕掛けていく攻勢で、吸血姫が纏う「闇」の対処能力の高さが際立つ。認識している攻撃に対してはほぼ確実に防げる様だ。一方で誰か一人を的に定めて押し込む様な攻勢をかけるが、周囲のアシストがそれを阻む。膠着状態が続く。何処かが崩れれば一気に傾きかねない、危うい均衡。
 ヴェルハディスがどれだけ力を隠しているかは未だ不明だが、吸血姫の現在のスペックで単純な火力では上回っている様だ。力比べでは押され、戦闘経験や技術で凌いでいる印象がある。
 
 猟兵が圧される局面が増えた為、フェルメアは意を決して前に出る。周囲の猟兵の攻勢に合わせて弾丸の様に間合いを詰める。急加速に応じたのは壮絶な応撃だった。彼女も怪力を誇るが、小柄で軽い。吹き飛ばされる身体のバランスを取り、踏み留まる。吸血姫の嘲笑。

「お前の闇も面白いが、オレの闇はどうかな?」
 口元の血を拭い、フェルメアもお返しの様に微笑んだ。迎撃された際に撃ち込んだ闇の魔力弾。それは彼女のユーベルコード【貪欲の闇鎖】の起点となる一撃だった。爆破そのものにローザリアは耐えたが、闇の鎖は見事にお互いを繋ぐ。そして、その鎖は吸血姫から魔力や生命力を奪う。彼女の笑みが初めて歪んだ。
 吸血姫は激昂して、鎖を振り回した。渾身の力だった。フェルメアでさえ、引きずられ、時に宙に浮く。
「お気に召した様で何よりだ!」
 不敵な笑み。互いを繋ぐ。それは相手を逃がさないと同時に、自身も逃げられないという事。吸血姫が放つ魔弾をフェルメアは全て防いだが、それでも鎖を引かれれば力負けした。宙を舞い、時折地に叩きつけられる。しかし、勝負どころだと鎖から奪取するチカラで耐える。彼女が耐える時間が長ければ長くなる程、猟兵達のリスクが下がりチャンスが生まれる。実際に、均衡はこちら側に傾き始めていた。

 猟兵達が一気に仕掛ける。そしてフェルメアも遂に一瞬の隙を突いて吸血姫の体勢を崩す事に成功する。高笑いと共に鎖を引き寄せて振り回す。今度は吸血姫が宙を舞う番だった。呪詛の苦鳴が響く。
 ローザリアはこの闇の鎖を断ち切らないと戦況を覆せないと判断したようだ。鎖を両手で掴むと鬼気を極限まで高める。そして引き千切った。口元に微笑。

「まあ、お前ならそのうち切ると思っていたさ。でも、その隙が命取りだ!ヴェルハディス、奥の手を出すなら今だぜ!」
フェルメアも微笑んだ。そして腕を振り下ろす。それは押し包む様な攻勢が始まり、吸血姫の終焉を告げる契機となった。 
 
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルベル・ノウフィル
綺麗なお姫様、さあ僕と踊りましょう

僕の主義として結果的に敵が狩れれば良い
他の方への攻撃を積極的に庇います(早業、オーラ防御、盾は温存で使用なし)

お食事は済みました?女の子は準備に時間がかかるのですよね、存じておりますよ
念動力で彩花を踊らせて殺意の刃をプレゼント
痛悼の共鳴鏡刃を投げましょう
この子も喜んでおりますな

無機物は、床とかでしょうか
この黒いタイルは僕のお気に入りですのに

UC写夭
自身からレベルm半径内の無機物を【闇】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。

同じ技で対抗しましょう、念動力と早業で闇を操り味方に有利なよう戦場操作
お前が変換した闇は僕のモノ
ね、僕。お前より巧いでしょ?
くふふ



【人狼は闇と戯れ、そして踊る】
 ローザリアは広大な庭に出陣(館内の罠を嫌っての選択であろう)すると共に、バルコニーから先程の戦いで敵前逃亡した信徒を次々と放り投げさせた。吸血姫は周囲の敷石を巻き上げては「闇」へと変化させ、押し包む様に掴むと圧搾した。絶叫が空しく響く。
「お前達も果物を絞って飲むでしょう? それと同じこと」
 酷薄さを湛えた深紅の瞳がそう語った様だった。それは栄養補給であると同時に、力を一時的に増強するものであるらしい。身に纏った鬼気が更に増した。ヴェルハディスも周囲の敷石を巻き上げて銀の蝗の群れへと変貌させていく。双方共に攻防一体の備えと云えるだろう。ヴェルハディスとの対峙に猟兵達が加わった形で戦端が開かれる。

(やはりそういう使い道……。黒石がお気に入りでしたのに……)
 無機物を庭に敷き詰める。それも武装の一つなのだろう。意識の端で信徒の行く末を悼みもしたが、少年にとってオブリビオンは例外無く討つべき対象である。そこは素早く切り替えていく。
「お食事は済みましたか? 女の子は色々と手間をかけるのですよね。存じておりますよ」
 綺麗な仕草で恭しく一礼。面を上げて吸血姫を見据えた時には彩花と名付けられた呪符が周囲に展開され、個別の軌道で放たれていた。そして応射の魔弾が放たれた時には、その場から消えた様に急加速していた。いつの間にか短刀も放たれている。吸血姫には何かのトリックの様に映っただろう。

 漆黒の竜人や拘束具の少女が牽制を掻い潜りながら間合いを詰める。それを横目にルベルは戦場を縦横無尽に走る。念動力で操作された呪符と短刀は機を窺う様に滑らかに、そして吸血姫を囲む様に宙を舞う。しかし、彼女が纏った「闇」に弾き返される事が多く、なかなか直撃とはいかない。
 一方で人狼としての瞬発力と武術の素養を伺わせる身体操作の巧みさで、ルベルは吸血姫の攻撃を避けていた。彼女にはこちらの動きが読めていない。反射神経や知覚力の高さを示す一方で、相手を追い詰める為の発想や技術の蓄積に欠けているのは明らかだった。

「お嬢様、お上手ですね! 僕と踊りましょう」
 悪意が滴る様な一見無邪気な笑みは身体を張った挑発でもあり、彼の性分でもあろう。闘争の昂揚は少年を研ぎ澄まして高みへと引き上げていく。応ずる吸血姫の笑みは華やかではあれど、どこか怒気を含み結果として彼女の注意を惹くことに成功していた。猟兵達の前衛陣が一息つける、値千金の時間だ。スペックで力押ししてくる彼女の攻勢に鋭さは無い。しかし、無尽蔵かと思わせる魔力や次第に容積を増す「闇」に次第に押し込まれつつある様ではあった。こちらの誰かが動けなくなる事で一気に崩れてしまいそうな、そんな均衡。ルベルも流石に無傷とはいかず、時折危険な一撃が掠める。

「その業は善いですね。僕は気に入りましたぞ」
 戦局を憂いて、少年は賭けに出る。ローザリアのユーベルコードを模倣する【写夭】の使用。彼の戦闘経験とセンスであれば真似るのは可能だが、自身の周囲の無機物を従えるのに必要なのは魔力であり、お互いの支配圏が重なれば魔力比べとなる。有利とは限らない。ローザリアも児戯を目にした様に嘲笑する。
 しかし、発動速度と精度ではルベルに分があった。支配圏が重なると、ルベルが素早く崩す。それを慌ててローザリアが取り返すという形だ。

「どうです? 上手いものでしょう?」
 飛び切りの笑みだった。猟兵達が押し込まれそうになると、献身的に阻んで護る。吸血鬼を討つ気持ちには微塵も揺らぎが無い。けれど、それは共に戦う者の犠牲が前提であってはならない。結果として勝てばいい。誰も喪わせない。誓いにも似た気持ちがある。猟兵達は消耗しつつも態勢を整えて、攻勢に出る機が熟すのを待つ。ヴェルハディスも力勝負では押され、技術や経験で凌いで勝負の時を計っている。

 転機が来た。拘束具の少女が仕掛けた互いを繋ぐ鎖。振り回される少女を護るようにルベルが念動力を駆使、漆黒の竜人が突貫する。ヴェルハディスが空中から仕掛ける。果敢な少女の挑戦を活かすべく猟兵が次々に仕掛ける。「闇」が削られてローザリアの対処能力が飽和していく。
 遂に、拘束具の少女は地を踏みしめて吸血姫を逆に振り回した。呪詛の声と共にローザリアは荒々しく鎖を引き千切る。しかし、その瞬間は隙だらけだった。吸血姫が初めて見せた、そして唯一の失策。見逃す者は一人として居ない。
 少女が両腕を振り下ろすように鼓舞すると、終わり無き攻勢が始まった。吸血姫が力尽きるまで続く闘舞だった。

 

成功 🔵​🔵​🔴​

ワズラ・ウルスラグナ
観察されていたか。
実に善い。此方も予知を頼りに対策を練っているからな、それで漸く対等だ。
ならばあとは実力勝負。心して挑ませて貰おう。

敵は主に自己強化を扱う
なら戦獄龍気焔で対抗する
敵が強い程俺は強化され、昂ぶる事で更に強化される
闇を操るなら俺は気焔の光熱を纏う

此方は観察が足りていないのでな
戦いながらも情報を集め、戦闘知識として集積し利用する

足下を闇にされた場合は飛ぶが、仲間を巻き込みかねないので飛翔速度は抑える
逆に助けとやれたなら良いが
特にヴェルハディスだな
どの道討たねばならぬ相手だ、なら負い目など邪魔なだけ
共闘するのなら全力で支え合うべきだ

吸血鬼達にそれぞれ別の意味で宣言する
さあ、俺と殺し合え



【獄炎は此処に在り】
 再び踏み込んだその場所は、ワズラ・ウルスラグナ(戦獄龍・f00245)にとって楽園だった。二人の吸血鬼が対峙し、雌雄を決しようとしている。強大な吸血姫、そして彼女に次ぐ位置の黒帽の吸血鬼、第三勢力の猟兵達という構図。しかし、この場では利害が吸血姫を孤立させる。予知のタイミングの妙であろう。苛烈な闘争が彼を待っている。

 吸血姫が信徒をジュース扱いしたのは看過した。弱者として搾取される悲哀はあろう。しかし、それは彼らの選択の末でもある。ヒトを捨てて「過去」に与した以上、避けるのが難しい結末ではあった。
「ふむ。身嗜みに腹拵えか。万全という訳だな」
 決戦用の礼装、そして前戦での様子見。生き血を啜るのは戦闘力増強の意味合いもあろう。周囲の敷石を巻き上げ「闇」として纏うその様相すら、ワズラに取って歓迎すべき事態であった。この戦いは恐らく今回限り。ならば全力の彼女を討ち斃したいものだ。血が、滾る。

 前衛型の猟兵が駆け出していき、戦端は開かれた。迎撃する様な「闇」の躍動。猟兵達が自身を活かす位置取りをして数々の投射武器が、弾丸が打ち出される。吸血姫は「研鑽とは弱者が積み重ねるもの」と言わんばかりの無造作さと無防備さだった。それでも生来の知覚力と反射速度のみでヴェルハディスの魔弾や猟兵の攻勢を凌いでいく。ワズラ自身も鉄塊剣で「闇」に殴りかかったが刃毀れした程であった。
 
「素人同然でありながら、これ程か……!」
 ワズラの愛剣である暴風龍サルヴァは業物とも銘剣とも言い難い、長大で武骨な剣だ。しかし、彼と幾多の戦いを超えて彼が扱う「戦獄」とも呼ばれる獄炎を流し込まれ続ける事で只の鉄塊の枠からとうに外れていた。相手の力量を図り、超えていく。それも彼の流儀ではあるが、当初の見込みが低すぎたかもしれない。
 纏う戦獄を更に練り上げて高め、撃ち込んでいく。彼の戦闘経験なら、裏をかいて直撃を狙うことも出来たかも知れない。虚を突く事も、隙を伺って不意を打つ事も出来たかも知れない。しかし、それは彼の流儀ではない。格上であっても、強大であっても己を高めて凌駕していく。それが戦獄竜の在り方だった。

「さあ、俺と殺し合え!」
 己を貫きつつ、戦線に貢献するとなると彼の役割は「本命を兼ねた陽動」となる。本気で仕掛け、徹ったならば良し。防がれたとしても他者の布石となれば良い。機を図り、常に最大戦力を叩き込む。
 吸血姫が闇であるならば、彼は獄炎であった。纏う戦獄と愛剣とワズラ。三位一体を謳う彼の攻勢に偽り無し。紅蓮を纏いて空を駆ける彼は無視することの出来ない圧を以って肉薄し、吸血姫は必ず対処を要された。巨体で高速移動し、鉄塊剣を叩き込んでるワズラの一撃は膨大な質量を誇る。「闇」で阻まねば吸血姫と云えど無事では済ませないという迫力があった。

 吸血姫は強かった、と云えるだろう。猟兵が戦闘不能に追い込まれなかったのは、彼女の戦闘経験の浅さが大きい。確実に仕留める手腕に欠けていた。一方で、猟兵達の即興の連携の賜物でもあった。前戦で肩を並べた者も多く、使用するユーベルコードに差異はあれどイメージを共有しやすかった事もある。言葉を交わさずとも、彼らを結ぶ連携は有った。第二勢力と第三勢力が手を結び、包囲して攻勢をかけても有効打を与えられないまま戦況が進んでいく。疲労や、攻撃手段の枯渇が次第に見えてくる。ワズラの纏う獄炎は激しさを増し、稲妻の如き迸りを見せる迄高まっていたが、未だ「闇」を打ち破れていない。ヴェルハディスも奥の手を隠しつつも機を図っている様だった。機が熟すのを待つ者がいる一方で、疲弊しつつある者もいる。そして、誰か一人でも欠けたなら、均衡は崩れそうでもあった。

「そろそろ仕掛けねばならんか」
 そう思った矢先である。人狼の少年が、流れを変えようと吸血姫のユーベルコードを複写した。支配力では劣れど、操作の巧みさで一瞬は「闇」を崩せる。光が見えた気がした。ワズラも雷光の如き獄炎を纏って空を駆ける。味方を巻き込みかねないと控えていたが、勝負処と速度を増す。
 拘束具の少女が仕掛けた闇の鎖は互いを拘束し合う諸刃の剣。活かそうとヴェルハディスが、猟兵達が仕掛ける。ここを逃すと好機は来ないかもしれない。ワズラも
サルヴァに纏わせた獄炎を極大化させ、更に長大になった紅き刀を渾身の力で叩き込む。何度もは使えない、奥の手だった。これ迄で最大規模の攻勢に吸血姫の纏う「闇」と彼女の知覚力は対処に奔走させられる。
 拘束具の少女の高笑いが響いた。闇の鎖の主導権が逆転、吸血姫が振り回される。嘲笑に耐えられたなら、地に伏すを恥辱と思わないならば。そこから逆転も有り得ただろう。しかし、ローザリアは誇り高かった。鎖に拘束されるを善しとせず、引き千切った。それは、彼女が唯一犯した失敗であったろう。見逃すものは皆無。

「見事だった。単身で超えられなかった事が唯一つの心残りよ」
嬲る様な戦いは御免だった。覆らない戦局へ、最期まで彼女らしく在った戦いぶりへと別れを告げる様に、戦獄竜は終結を告げる一撃を叩き込んだ。
    

成功 🔵​🔵​🔴​

柊・はとり(サポート)
※アドリブ連携歓迎、御自由に

また事件かよ…
俺は柊はとり
歩けば事件に遭遇する呪われた体質のせいで
殺された後も嫌々高校生探偵をやっている探偵ゾンビだ
謎解きは特技だが好きじゃない
この場に居合わせたのも偶然だろうが
関わっちまった以上は解決に尽力する
性格は察しろ

ちなみにこいつ(剣)はコキュートス
人工知能程度の会話ができる
『事件ですね。解決しますか? 柊 はとり』
うるせえ

●戦闘
コキュートスは莫大な負担と引き換えに
戦う力を与える氷の魔剣だ
基本的に代償のある技しか使えないが
高火力を出せる超攻撃型の前衛だと思っとけ
探偵要素はかなぐり捨てていく

弱点は脳
頭さえ無事なら何してもいい
痛覚はあるがいずれ再生する
人命最優先



【彼は戦場でも『探偵』を辞められない】
 柊・はとり(死に損ないのニケ・f25213)が踏み込んだ戦場で目にしたのは、先程の戦いで逃亡した異教の信徒達がローザリアの贄となる所だった。
「嫌なモン見せやがって……」
 周囲の敷石を「闇」へと変換していく吸血姫は、その「闇」を以って信徒を圧搾した。口元を紅く染めた彼女が流し目で微笑んだ気がした。
『個体名:ローザリアが 好意的ですね? 柊 はとり』
「ジョークとしても笑えないな。このポンコツめ」
 首筋に大きな、二度見してしまいそうな縫い跡のある、痩身の少年。高校生くらいだろうか? かつては制服であっただろうブレザーやスラックスを身に着けている。
 先程彼に話しかけたのは手元の大剣のようだった。ポンコツ呼ばわりに反論している気配がしたが、心の底からどうでもいいので聞き流す。

「さて、どう立ち回るか……?」
 戦端が開かれ、前衛組が疾走していく。後衛が投射武器を展開、牽制をしていく展開。そんな中ではとりは戦況を見つめる。手にした大剣『コキュートス』は偽神兵器として絶大な破壊力を誇るが、要求される対価も膨大であった。彼の朽ちかけた身体は偽神細胞のアシストが在るとはいえ、継戦能力に難があった。ここぞという時に渾身の攻撃を叩き込むスタイルと云えるだろう。
 しかし、戦況は彼を放っては置かないようだった。吸血姫が間合いを詰めつつ「闇」を繰り出してくる。纏った漆黒の虚無が突き出した右腕を支点に螺旋の軌道で一気に眼前へと迫る!

「うっせえ…。コキュートス、起動!『凍獄』」
 はとりは物臭そうに大剣を振り下ろす。あまりにも無造作に。
 瞬間、「闇」が白く凍え、崩れた。発動の予兆すら伺わせない圧巻の起動速度で大剣の軌道に沿って凍気が駆け抜けて行く。吸血姫が纏った闇を次々と破砕して彼女自身へと迫る。間一髪で躱す。はとり本人以外が唖然とする様な破壊力だった。ローザリアの警戒心が跳ね上がる。

 そんな状況を他所にコキュートスからのシステム音声に耳を傾けるはとり。今の一撃は絶大な威力を発揮した。しかし対価も大きい。はとりの質量の10%がコストとして支払われた。身体を締め上げる様な、臓腑を絞られる様な痛みがある。もしかしたら、一瞬苦痛だけが意識を埋め尽くしていたかも知れない。
「っつつ……! 何度もは撃てないな」
『はとり あと2度が限度でしょう。 原形を保てなくなってしまいます』 
「あー。分かってるよ、そんくらい」
 苦痛に二つ折りになっていた身体を伸ばして視線を上げれば、戦況は進んでいた。吸血姫も、猟兵も、代償ありきの超破壊力だと理解したのだろう。幾人かが援護の動きを見せていた様だ。ローザリアも牽制が無力化されかねないため手出しはしてこないが、常にこちらを意識した立ち回りだ。

 戦況は吸血姫が押し気味に進めている。各個撃破とならないのは彼女の戦闘経験の浅さもあっただろう。猟兵の立ち回りの巧さでもある。一方で、猟兵の攻勢は殆ど危なげなく対処されていた。直撃すれば有効となるであろう攻撃手段は多い。しかし、大半は「闇」が阻んだ。今までで一番有望と云えるのは先程のコキュートスから放たれた凍気である。
 切り札であれば、「闇」へも対処できると誇示した。時折コキュートスを構えてはフェイクをかける。それで何度か他の猟兵が「闇」に押し包まれそうになるのを防ぐことが出来た。しかし、次第に「虚」であるとバレる。だが、気軽に撃てる一撃では無い。支払うコストが無くなってしまえば、彼はフェイクですら役に立てなくなる。

「見切れ……。展開を……!」
 勝負処か、その起点となる一撃とするべきだった。その為に猟兵達に負担を強いたとしても。「かつて」の観察力は無いと知っている。知っている。けれど、切望しつつ戦況を見据える。他の猟兵も時折コキュートスの一撃を匂わせる様な立ち回りをしつつ、はとりが孤立しない様に配慮している。ヴェルハディスも即興とは思えない様な連携を時折見せる。鈍った、どこか遠い五感を呼び覚ます様に高めていく。フレーム越しに蒼い瞳が鋭さを増していく。

 戦況を憂いて人狼の少年が吸血姫のユーベルコードを複写した。支配を奪うまでは行かなくとも、刹那「闇」を削る。拘束具の少女が突貫した。闇の鎖が吸血姫と彼女を結ぶ。ローザリアは鎖の拘束を嫌い、振り回す。少女の挑戦を活かそうと、猟兵達が躍動する。はとりも動いた。二度目の凍獄の発動。ローザリアの対処能力が飽和しそうになる。
 痛みで染まった意識を取り戻すと、ローザリアが鎖で振り回される番だった。少女の高笑い、そして恥辱に塗れる吸血姫。彼女は鎖を引き千切る事を最優先とした。他を振り捨ててまで。戦局は、見えた。

 次々と繰り出される猟兵の攻勢。ヴェルハディスも切り札を投入しようという構えだ。はとりもコキュートスに三撃目のコマンドを指示した所だった。この一撃を繰り出したら、もう動くのも難しいだろう。しかし、この一撃で終わる。この推測は、もう外れない。  

成功 🔵​🔵​🔴​

ミスト・ペルメオス
【WIZ】

敵オブリビオン、吸血姫…わざわざ吸血鬼との“共同戦線”を張らねばならないほどの敵。
愛機たる機械鎧は…しかし、やはり今は不適。

念動力と歩兵装備を駆使して戦いに臨む。吸血鬼とは互いに足を引っ張らなければそれで良い、程度。
基本は先と同じくスラスターも活用した飛翔、跳躍、滑走をしながらの射撃戦。
…それに対応してくるというのなら。
念動力を最大限に発揮、攻防にも直接利用。
【サイキック・フィールドシューター】。
銃砲の火力投射に混ぜ込む形でサイキック・エナジーを投射、攻撃と自身に有利な力場の展開を同時に実施。
“闇”が回避しきれないのであれば、自らの念動力を以て打ち破る。

※他の方との共闘等、歓迎です



【魔弾の射手は盤面を見据える】
 二人の吸血鬼が対峙し雌雄を決しようとしている戦場にミスト・ペルメオス(銀河渡りの黒い鳥・f05377)も足を踏み入れていた。吸血鬼は個体として見れば傑出した存在である。愛機で対応したい気持ちもあったがミストは今回の戦闘に不適格と判断。しかし、優秀なパイロットは兵士としても傑出した存在である事も多い。多種多様な武装を習熟し素早い戦況判断力を備えた彼らはどんな戦場に身を投じても結果を出す勝利請負人であることもまた多い。

 逃げ帰った使徒達が吸血姫の贄となった一幕は看過した。心が軋んだが、この場で討ち取れば犠牲者は二度と出ない。
 ヴェルハディスとは共闘の形を取っている。好意的な猟兵も割り切って立ち回る猟兵もいるが、ミストとしては歩兵装備での攻撃に巻き込まねば良いと考えていた。黒帽の吸血鬼は割と律儀な印象で互いを活かすような位置取りを心掛けている様に見える。牽制や支援と思える行動も多く、切り札の使い所を見定めている様に感じた。

「さて、どんなものか」
 ミストは重熱線銃の照準を吸血姫に合わせ、アームドフォートのセレクタを実弾モードにして斉射。吸血姫の「闇」の対処能力を見つつ、あわよくば手傷を負わせようという威圧射撃だった。
 ローザリアはミストが携帯する火器に十分な注意を払っていたようだ。この世界に流通する銃よりも遥かに高性能な銃器ではあるが、銃口から直線的に発射されると理解して弾道を遮る様に「闇」を翳して無力化した。嘲弄の笑みを投げかけて。
 「銃は効かない」と思わせたいのだろうとミストは判断。熱線は実弾より回避が困難であることが多いが、実弾の貫通力こそが彼女により脅威を与えたように見えた。ヴェルハディスの放つ魔弾もあっさりと防がれている。調べてみる価値はありそうに思えた。
 
 前衛組が果敢に仕掛け、後衛組が投射武器で牽制するという展開になった。前衛は多大なリスクを背負っているが、彼らが吸血姫に対処を強いなければ個別撃破される可能性が跳ね上がる。後衛は有効な攻撃手段を模索しつつ、前衛が孤立しない様に配慮して立ち回る。均衡はなかなか崩れない。
 ミストは高火力と高機動力を併せ持つ。意識外からの射撃であれば有効であろうとスラスターの噴射に念動力のアシストを加えたアクロバットな機動で様々な狙点から仕掛けた。熱線もレーザー状・扇形・三点など。実弾も高速弾・散弾・徹甲弾など切り替えては反応を見る。要塞の様な防衛能力だった。
 個人の携帯火器では「闇」を打ち破るのは困難だと判断せざるを得ない。徹甲弾が一番相性面で有利ではありそうだった。猟兵の攻撃手段では大剣使いの凍気がかなり有効だったが、繰り出すのに生命を削るレベルの対価が必要な様だった。漆黒の竜人の鉄塊剣も質量を押し付けるという意味で有効そうだ。「闇」は魔法に近い属性程防ぎやすいのかと推測する。 

「対処が困難なら、打ち破るのみ」
 ミストもユーベルコード【サイキック・フィールドシューター】の使用を決断。火器や姿勢制御にも用いていた念動力を高めていく。精神力に依存する為、長時間の使用には向かない切り札だ。射撃に交えて、高めて収束させた念動力を放つ。空間が歪んだかと思わせる程の重力波が襲い掛かり、吸血姫も顔色を変える。
 辛くも回避されたが、構わない。重力波の痕跡は着弾後も残り、その痕跡を有効活用できるのはこの戦場ではミストのみだった。猟兵達も察して対応する判断力は持ち合わせていた。
 何度も放てる業では無い。だが、撃ち込んだ箇所に踏み込むと吸血姫も挙動が乱れる。そして、盤面を見据えた差し合いならばミストは自信があった。残弾を意識しつつも一手ずつ標的を追い込んで行く。

 疲労が、消耗が猟兵達に圧し掛かる。吸血姫はまだ力を残している。けれど、盤面を整えつつあるのは猟兵達であった。戦況を憂いての各自のユーベルコード使用。人狼の少年が「闇」操作を模倣しハッキングを仕掛ける。拘束具の少女は闇の鎖での吸血姫の拘束を仕掛ける。漆黒の竜人が雷光の様な火焔を纏い、宙から急襲する。屍人の大剣使いが二度目の凍撃を振り絞るように放つ。勝負を賭ける刻が来ていた。ミストも猟兵達を巻き込まぬよう、退路を阻む様に念動力を放つ。

 遂に。遂に、吸血姫の対処能力は飽和した。闇の鎖で振り回されて宙を舞う。襲い来る全力攻撃の最中に拘束を引き千切ったのは矜持か。しかし、彼女が自由と共に手に入れたのは膨大な隙だった。見過ごすものなど居ない。ミストの熱線銃が、双砲身から放たれる徹甲弾が、闘いの終焉を告げた。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『暴食卿『ヴェルハディス』』

POW   :    血の追跡者
自身の【存在を知覚した者の意志力と生命力】を代償に、【次元すら越えて対象を猛追する異形の餓狼群】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【“腐食”の呪いを帯びた咆哮と牙、爪】で戦う。
SPD   :    奈落の王
自身からレベルm半径内の無機物を【あらゆる存在を貪欲に喰い尽くす無数の銀蝗】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
WIZ   :    “何人も死より逃れること能わず”
【あらゆる“障害”を接触即時消滅させる魔弾】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【七度その身を貫くまで止まらぬ呪いの弾丸】で攻撃する。

イラスト:らぬき

👑8
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はレナ・ヴァレンタインです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


【活路を自ら閉ざそうとも】

 ヴェルハディスの放った異形の餓狼軍が吸血姫を追い続け、脅かす。

 拘束具の少女は再び闇の鎖を放った。今度は振り解けない。 

 屍人の少年探偵は氷の煉獄を発動。吸血姫を「闇」ごと白く染め、粉砕した。

 少年兵は身体再生を開始した吸血姫を再び重厚な火器で破壊していく。 

 人狼の少年は「闇」の支配を刻々と剥がしていく。再び纏おうとも、何度も。

 戦獄龍は火焔纏いし鉄塊剣で吸血姫の再生を阻む。四肢を跳ね紅蓮に染める。


 ローザリアは、簡単に力尽きはしなかった。猟兵達の攻勢で身体を破壊されながらも間合いを外しては再生し、再び闇を纏おうとする。継戦能力が限界に近付いている猟兵達も増えてきた。追い込み切れなければ無限に近いとも称される再生力を元に、この劣勢すら覆しかねないしぶとさがあった。苦鳴を漏らしながらも、不敵な笑みは失わない。不覚を取ったが、諦めてはいない。

「終わりの刻だ。朋友を葬った業だ、貴様でも滅びは避けられん」
 ヴェルハディスが弔辞の様に告げた。猟銃から放たれる魔弾は今迄とは比較にならぬ鬼気を纏い、空を駆け抜ける。猟兵達を巻き込まない様に配慮された閃光は吸血姫の両腕を破壊して心臓を喰い破る様に貫通すると弧を描き、弾道を阻もうと振り上げられた両脚を次々に破壊して腰椎を砕いて抜けた。再度弧を描くと額を貫通。吸血姫の呪詛の絶叫が上がる。
 猟兵達の支援を活かし、再生速度を上回る破壊力を発揮したのは彼の切り札であるユーベルコードなのだろう。頭部を破壊した事で再生速度すら目に見えて落ちた。

「仮初めの戦友よ。勇敢なモノ達よ。抜け駆けを許せ。この者を喰らわねば、貴様らの相手すら儘ならん」
 猟兵達から距離を取りながら、銀の蝗の群れに吸血姫の再生する四肢を喰わせながら、『暴食卿』と呼ばれた吸血鬼は告げた。
 
「次はオレを討つのだろう?それくらいは知っているとも。館で待つ。再度備えた上で来るがいい。貴様らを喰らう事が出来たなら、力を蓄えつつ領主共すら討つ手段を手に入れられる。そんな気がするのだ」
 吸血姫を贄に、再起を。闘いを辞めない男の眼差しが其処には、在った。

「さあ、雌雄を決しよう。善き闘争を」
 ヴェルハディスは笑顔で告げた。


【暴食卿と呼ばれる男】
 この黄昏の世界で。支配が完成した筈の世界で。ヒトを飼いつつのこの生活はいつまで続くのだろう?オレ達が過去からの尖兵なら、何故この世界は「過去」に敗れ去って朽ちて行かないのだろう?
 何かが足りていない。何かを満たしていない。それなのに領主達はお山の大将気取り世を謳歌したような素振りだ。
 この闘いは、いつ終わるのだろう?いつの間にか、飽きていた。厭っていた。領主達は本当に、本当に牙を持つ戦士達なのだろうか?

 共に酒を飲み、戦闘論を交わす領主がいた。一番見込みのあるヤツだった。コイツは本当に強い者だろうか?試した見たくなった。討ち斃して超えていけるなら、次々と喰らっていこうと思った。喰らう度に力を増して、この世界を終わりにするのだ。
 弱者を狩り続ける事に、飽きていた。繰り返しの日々に飽きていた。

 さあ、征こうか。先に道は無くとも……。
 

【MSより】
 吸血姫戦、お疲れ様でした。次戦はヴェルハディスとの戦いとなります。

・ヴェルハディスは館の各所に仕込まれた罠の仕掛けを軸に、各個撃破を狙う基本戦略です。館の内部では、猟兵全員が集っての連携は難しいでしょう。

・ヴェルハディスはかなりの力を取り戻しており、猟兵達の前に全てのユーベルコードを駆使して立ち塞がります。
(猟兵側のユーベルコードは一種で判定させて頂きます)
 
・ヴェルハディスにはローザリア程の防御力も再生力もありませんが、狩人の様に知恵と狡猾さを武器に立ち回ります。“何人も死より逃れること能わず”によって、次々と猟兵達を無力化しての壊滅を狙います。
(判定上は成功であっても、傷を負う演出は有り得ます)

・プレイングにつきましてはユーベルコード“何人も死より逃れること能わず”の対策にボーナス判定とさせて頂きたく存じます。

 素敵なプレイングをお待ちしております。
フェルメア・ルインズ
◎アドリブ連携歓迎
善き闘争を、か……
本当にオブリビオンにしておくのが
勿体ないほど清々しい奴だな

■戦闘
まずは【UC】による炎で、餓狼も銀蝗も半端な罠も
全て【焼却】して敵を追い詰めていく
まぁ流石に建物が崩れない程度で火は消すけどな

後は魔弾だが、悪いが速度や軌道は見せてもらった
弾道を【見切り】、致命傷を避けつつ拘束具にも当てる事で
この邪魔な“障害”を消滅させてもらおうか
半分程でも無くなれば、後は残りの封印術式に干渉
拘束を解除して【真の姿】を解放!
消滅した分もすぐに戻って再拘束されるだろうが
この戦闘ぐらいは余裕だ!

これがオレの奥の手だ!
そのまま炎で魔弾も溶かし、正真正銘本気の【UC】を
喰らわせてやる!



【魔神ちゃんは燃えている。そして燃やしている】
 束の間の休息を終え、再び館へ。躊躇いなく館へ踏み込もうとする者と、館を破壊出来ないかと考える者に分かれたが、フェルメア・ルインズ(拘束されし魔神・f21904)は前者であった。侵入優先組と目配せをしつつ正面扉を開けた。薄暗い館内を進んでいく。
「善き闘争を、か……」
 清々しいヤツだと思った。この手で討たねばならない事を惜しむ気持ちも何処かに在った。しかし、彼のモノを討たねばこの遠征に終わりも無い。暴食卿を此処で見逃したなら後々への禍根となるだろう。討ち斃した全ての相手を喰らい、力を増して「現在」に立ち向かい続ける存在となろう。万が一にも逃してはならない。

 入口正面から先には吹き抜けと広大な空間があり、二階への左右に分かれる階段があった。一階には食堂や応接間等があり、二回に客室等があるのだろう。潜んで待ち伏せるならば二階かな? と思ったフェルメアは他の猟兵と視線で意思疎通をしつつ階段を登って行く。
 両掌に炎を灯す。地獄の炎は蒼く、彼女が振り回す両腕から放たれて館内を青白く染める。拘束具や鎖の軋む音を伴って移動するフェルメアにとって隠密行動は至難であり、当初から構想に無い。隠密行動が得意な猟兵を活かすべく囮になるつもりだった。そして、全ての障害を灼き尽くして進むと決めていた。罠が在ろうとも、ヴェルハディスの攻勢が在ろうとも。

 階段の踊り場にある甲冑の騎士像を燃やす。甲冑の隙間から矢が放たれる仕組みだった様だ。機構ごと焼き尽くす。時間はかかるが、着実に追い詰める。そう決めていた。彼女のユーベルコード【焼滅の業火】は命中したものを灼く一方で消去も任意であり、延焼に困る事も燃焼による酸欠の心配も無い。

 二階へ到達すると、ドアを燃やしつつ無造作に客間の一つへ入る。調度品に火箭を向けていると背後の入り口側から猛烈な悪寒。目立つ上に仕掛けを破壊していた為、早々に目を付けられたのだろう。天井に足を付け、こちらを見下ろすヴェルハディスの眼光があった。振り返った時には足元から異形の餓狼群が迫り、押し包む様に銀蝗の群れが羽音を響かせる。
 拘束具を苦にしない仕草でフェルメアはくるりと回る。周囲に蒼い火焔が振り撒かれ、命中した餓狼も銀蝗も燃え尽きていく。しかし、全部迎撃とは行かなかった。拘束具で受けるべく身体を動かすが、可動範囲は限られている。足先に餓狼が喰い付き、肩や肘に銀蝗が喰い付く。思わず苦鳴が漏れた。暴食卿が含み笑いと共に猟銃から魔弾を放つ。気を抜いたつもりは無かったが、初手は万全の態勢で仕掛けてきた形だ。短時間で決めるという強い意志を感じた。

 苦痛はあった。けれど、慌てない。万全の仕掛けであろう。けれど、乱れない。これ位させないと逃がしてしまう。痛みは必要経費だった。フェルメアは魔弾が自身に迫る瞬間も笑っていた。
 壁に向けて両腕から放つ奔流の火勢を更に強める。壁から反射する様に跳ね返った地獄の炎はフェルメアを包むが、灼きはしない。燃え尽きるのは餓狼群と銀蝗だけである。最小限の手傷で包囲を解いたフェルメアに魔弾が迫る。
「弾道も弾速も、見せて貰った!」
 弾速はかなりのものだ。追尾性能も恐ろしい。だが、目で追えない程では無い。腕で遮る際に手首を撃ち抜かれる。けれど、弾道には拘束具もあった。首筋に魔弾が迫る。一瞬視界が黒く染まる。しかし、拘束具も掠める。暴食卿は好機と天井を蹴り、急襲する。
 弧を描いた魔弾が今度は額に迫る。ヴェルハディスが吸血による止めを狙おうと少女の両肩に手を伸ばす。フェルメアを封じている拘束具が軋んだ。
 
 拘束具は彼女の全力を封ずるモノである。彼女の自由を妨げるモノである。そして、彼女がこの世界に在る為のバランスを取るモノでもある。脅威度が刻々と増す暴食卿の暗躍を止める、その為の抑止力として。そして傷を負い捕食されるという危機に対する抗力として。更に魔弾の「障害を消滅させる」という特性を利用して。この瞬間だけ、封印呪式の係数が軽くなる。フェルメアにとってはそれで十分な程に。

「ふぅん。随分情熱的なんだな?」
 蠱惑的な微笑は鬼気すら纏い。フェルメアは自由になっていた。今度は退こうとする暴食卿に、見上げるようにして手を差し伸べる。蒼い火箭が奔った。七度身体を貫く筈の魔弾も、迫りくる餓狼も銀蝗も燃え尽きていた。魔神の、真の姿だった。ヴェルハディスの存在により、束の間の認知を承けた仮初めの真実。

「逃げんなよ。一緒に踊ろうぜ?」
 思わず、吸血鬼が距離を取った。周囲の銀蝗を灼かせることで、辛うじて自身は燃えずに済んでいた。餓狼と銀蝗の多方面攻撃から、魔弾で牽制。しかし、燃え尽きてしまう。魔弾も手傷は与えるが七度身体を貫く間の、弧を描く瞬間に燃え尽きる。打つ手が無い。
「貴様……! 何者だ!?」
「ゴメンな。内緒なんだ」
 他愛無い会話。最後かもしれない会話。視線と思惑が交錯する。

「今は、刻では無いか。……貴様等の様に、在れたなら……」
 吸血鬼は、退いた。短時間で彼女を倒す事を諦めた逃走。そして、彼女の顕現が短時間であろうという読みに賭けた逃走であった。独白は、どこか虚しく。
「いいトコ突いてやがる」
 ダメージは、あった。しかし、力を示した。ヴェルハディスは彼女を避けて他の猟兵を積極的に狙うだろう。
 けれどフェルメアに対抗措置が在った様に、他の猟兵達にも手札がある。個の戦闘力であれば間違いなく吸血鬼に分がある。それでも予知に基づく手札の多さ、相性の優位さで相手を討つのが猟兵である。いずれヴェルハディスは各地で苦戦し、入り口前の吹き抜けに追いやられる。そんな展開が読める。その時に覚醒が終わり、封印が戻っていようとも大局は変わらない。

 各所の戦いの末に、玄関前の吹き抜けにて最後の対峙。ヴェルハディスは最後まで戦士であった。フェルメアが封を解くべきだと判断した相手でもあった。敬意と一抹の寂しさを抱き、少女は吸血鬼を灼いた。猟兵達の包囲を破れず、再生能力の限界を超え、黄昏の反逆者は塵へと還った。

 少女は、彼の最期の独白を。時折思い出すのかも、知れない。

成功 🔵​🔵​🔴​

ワズラ・ウルスラグナ
言葉は不要か

基本戦術は焦土作戦だ
魔弾が再生も障害として認識するかも知れず、かつ何発放たれるかも分からん
加えて館の罠や別の技まで使うとなればこれしかあるまい
各個撃破を企むのなら乗ってやる、俺とて仲間を巻き込む心配もなくなるからな

魔弾及び罠等を戦獄龍火輪で焼き払う
敵視界を遮る事でも魔弾対策とし、銀蝗・餓狼も焼き尽くす
無機物をも灰燼に帰す事で銀蝗の発生源も減らす
完全な対策にはならんだろうが強者且つ知恵者相手に長期戦は臨めん、対応される前に一撃を浴びせる心算で突っ込む
考える暇を与えぬ事で賢者に愚者が勝る事も有ると知らしめてやろう

飽くなき闘争を望むならいずれ何処かでまた語らおう
善き闘争を
そして善き決着を


柊・はとり
…成程な
どんな立派な志を持ってようが
奴の思考は無差別殺人鬼のそれだ
望み通り終わりにしてやる
UC【第三の殺人】を発動

コキュートスの暴力的な斬撃は館ごと破壊する
中に入らず外側から破壊していけば
奴も出てこざるを得ないだろ
第一俺は嫌いなんだよ、こういう館が

あらゆる障害を消滅させる魔弾と
接触者を凍らせ攻撃を軽減する炎
完全に矛と盾だな
俺は事件を解決するぞ
あんたは俺達を餌にするって?
どっちの意思が勝つかやってみろ
【殺気】と【属性攻撃】を強め受け止める

寿命なんて最初からマイナスだ
俺は死なない
死ねないんだよ

弾の飛んできた方に奴が居る筈
全力で無差別攻撃を放ち破壊する
謎は解けたか?
俺は往く
過去なんかに敗けてられるか



【燃え盛る闘志は紅蓮の様に、凍て付く決意は蒼焔の様に】
 束の間の休息を終えると、再び館へ。猟兵達は躊躇いなく館へ踏み込もうとする者、館を破壊出来ないかと考える者に分かれた。ワズラ・ウルスラグナ(戦獄龍・f00245)と、柊・はとり(死に損ないのニケ・f25213)はどちらかというと後者であった。ワズラは無機物を片端から破壊という思考であったが、はとりは館を破壊すれば探す必要すらないという思考であった。玄関である両開きの扉を開くよりも先に周囲の壁面を調べだした二人は、お互いの意図を概ね同時に理解した。どちらともなくユーベルコードを発動、壁面へと放つ!
 ワズラが放つは【戦獄龍火輪】 彼が纏う地獄である「戦獄」を極限まで燃やして放つ業の一つであり、超常の加護を無くして耐えられる物質は無いと云える程の苛烈な焔だ。
 はとりが纏うは【第三の殺人】という呼称の業。絶凍の大剣であるコキュートスとアクセスし、蒼く凍て付く炎を纏って立ち塞がる全てを粉砕する。
 玄関脇の左右の壁面で二つの破壊の極致が共演する。それは、壮絶な光景だった。しかし……。壁の表面は削れているものの、破壊には至らなかった。
「これは……予想の範囲ではあるが」
「なんだって!? これだからこういう館は気に入らないんだ」
 何処か悟った風情のワズラと、不機嫌そうに壁を蹴りつけるはとり。力強く蹴り過ぎて爪先を抱えて呻いているはとりを横目に、ワズラは思案してドアに獄炎を放った。ドアは白い火花を零して、燃え失せた。
「成程、壁は館の外殻として強化してあるのだな」
 ワズラが呟く。館は最終防衛拠点なのだろう。外敵の襲撃があっても籠る事が出来る様に、結界に近い造りとなっているようだ。一方で出入口であるドアにはそこまでの強度を持たせてはいないのだろう。緋雨の予知内容では館内部の罠の情報が極度に少なかったのだが、これも一因かも知れない。
「ふぅん。壁は内部と外部を概念的にも隔てる、と。ドアがこの調子なら内部の無機物は……」
「破壊可能だろうな。ヤツの罠も銀蝗の発生源も悉く除去してやろう。三種の飛び道具を自在に駆使するなど厄介に過ぎる。これで面白くなるな」
「そいつはいいな。オレ達に気付くのが遅ければ、館は閑散とする。直ぐに気付くなら探す手間が省ける」
 思考を形にする様に言葉を重ねるはとりとワズラ。流儀は異なれど、双方とも接近戦を信条として間合いに入れば絶大な破壊力を発揮するタイプである。通じ合う部分もあった。
「ほう。観察力に秀でた知略型かと思っていたが。こういう案はどうだ?」
「流石だ。オレの得意とする所だ、任せてもらおう」
 ワズラが相談する様に耳打ちすれば、はとりも意地の悪い笑みを見せて応える。今後に活きる布石なのであろう。二人は互いの分担を決めて、館へと足を踏み入れた。

 二階の各地で破壊と闘争の気配が時折発生する。それを無視して二人は一階部分の調度品や罠を破壊していく。丁寧に。確実に。呪いの波動を放射する絵画があった。落下する仕掛けで各所に刃を仕込まれたシャンデリアがあった。毒針が仕込まれた手すりや、槍衾が待ち構える落とし穴があった。罠の祭典である。獄炎はテーブルやイスすらも火花と共に灰塵へと変え、蒼焔は全てを凍て付かせて破砕していく。
 他の猟兵も不利になれば退くだろうと、心配はしていなかった。手傷を負うとも、必ず暴食卿を追い詰める。束の間とはいえ同じ時同じ場所に集い、戦った。吹き抜け部分に誘導し、包囲殲滅するというプランが共通認識だと感じていた。

 ワズラとはとりが一階で地道な焦土作戦に従事しているのは手札の相性による部分が大きい。餓狼には耐えればよい。銀蝗はやられる前に破砕。しかし、魔弾に一方的に優位を取れる目算が立てづらく、一発勝負になる可能性が高いからだ。双方とも勝敗を決しうる切り札はある。ヴェルハディスが無傷で耐えうる事は想像しづらい一撃必倒の業だ。
 しかし、この場は強さを競う為のものではなく、吸血鬼の理からすら外れて強さを追い求め始めた男の歩みを止める為のものだ。
 数多の技を使いこなし、多くの世界を渡り歩き。「過去」からの使者を殲滅する為だけに集う。そんな猟兵達を、彼は目の当たりにした。此処で逃してしまえば更なる強さを手に入れてしまう危険性がある。それは、他の吸血鬼と比べても格段に高いと云わざるを得ない。絶対に仕損じてはならない。勝ちの目を丁寧に、一つずつ潰していく。そんな決意があった。

「貴様か……!」
「もはや言葉は不要」
 手傷を負ったヴェルハディスと接したのはワズラが先だった。【戦獄龍火輪】が放つ輝きはプラズマの如く、展開された銀蝗の群れの大半を消滅させる。餓狼が足元から迫り活力を奪って行くが、折り返して来た所で灼き尽した。魔弾が、迫る。ワズラは、踏み込んで加速した。魔弾が肩口を突き抜けた。長大な鉄塊剣を槍の様に構え、自身が弾丸と化したかのように暴食卿へと迫る。ヴェルハディスは壁を蹴り、天井を足場にして往なす様に間合いを取り続ける。後ろから来た弾丸が、膝を貫いて抜ける。委細構わぬという風情でワズラが猛追。弧を描いた弾丸が吸血鬼の向こうへと消え、外套の全面から突如現れる。その弾道に被せる様に鉄塊剣を突き出す。魔弾は消えないが、鉄塊剣の先端が外套の肩口を捉え、余波で錐揉みした吸血鬼を壁に叩き付ける。交差した両腕を弾丸が貫き、分厚い胸板を抜けていく。これで、五回。段々と着弾点が急所に近くなる。身を翻した脇腹を貫通する。六回。
 ワズラは愛剣サルヴァに闘気を結集すると、吠えた。己が身体、纏いし戦獄、携えし愛剣を以て三位一体と成す。剣を抱く様にしたワズラの身体で獄炎が燃え盛る。刮目して相対する七度目の魔弾との対峙。魔弾は、力尽きた様に消えていた。
 態勢を立て直したヴェルハディスが迫る。魔弾に六度貫かれた。好機ではあっただろう。しかし、己が尊厳を賭けて魔弾に立ち向かい、克ったワズラの闘気は燃え盛り絶頂にあった。攻撃手段の全てが燃え尽きていく。ヴェルハディスは自身を強化して戦う近接型ではない。多彩な攻撃手段で相手を削る遠距離型だ。繰り出した拳は超常の威力を示してワズラを打ち据えた。ワズラの意識を多少なりとも揺らしたかも知れない。しかし、微笑と共に繰り出された応撃は想像を絶した。吸血鬼が壁に打ち付けられる。獄炎でも、蒼焔でも壊せなかった壁に。そして追い打ちの獄炎。苦痛に耐える為の絶叫が上がる。ヴェルハディスは、戦線を離脱した。ワズラは追わない。魔弾のダメージと、そして真なる目的の為に。呼吸を整え、傷を獄炎で補っていく。
 
「貴様、何故此処に…?」
「判ってるんだろ?謎を一つ解いた」
 打ち据えられたヴェルハディスが対峙したのは、館の裏側に近い通路。大剣を携えて蒼い焔を纏った屍人の少年が立っていた。大剣以外は手強そうに見えないが、吸血で力を補う事が出来ない。そんな風に判断したのではないかと、はとりは推測。
「其処を退け!」
「お断りだ。抜け道があるんだろう?」
 ヴェルハディスの顔色が変わる。個の総合力でいえば、屋敷内に居るモノの中でこの吸血鬼が群を抜いているだろう。しかし、予知と分析と予測の基に必勝を期して集う猟兵達は、この場限りでは彼の存在を超え得る。各地で苦戦してきたのだろう。逃走を意識したのだろう。ワズラと打ち合わせて、二つの逃走経路を抑えた。隠し通路を暴くのは彼の得意分野であり、観察と分析と推測で難なく見つけることが出来た。何が有ってもこの場は退かないと決めていた。
「貴様一人で阻めると思うか?退くなら命は奪わん」
「奪うイノチなんて端から無いのさ。最初からマイナスだ」
 恐らく、はとりのコトバの意味の全てを理解はできなかっただろう。それでも、不退転の決意は伝わる。蒼い大剣「コキュートス」を無造作に握り、歩を進める。
『偽神細胞、再起動します はとり 長期戦は 危険です』
 コキュートスのシステム音声が脳内に響く。それは向こうも同じ事。警告を容れるがはとりは慌てない。追い詰められつつあるのは吸血鬼の方なのだ。
 朽ちた身体を削り取る様に。糧として燃え盛る様に。刹那の凍神が顕現したかの様に、はとりは歩む。昂ぶる戦意に身を捩る程の激痛も何処か遠く。餓狼が掠めても奪えるモノなど、無い。銀蝗が身体を掠めようとも頭部だけ守る。魔弾が身体を七度貫く間も、吸血鬼だけを追う。背後に通さない様に、ただ後退させる。凍気が当たらなくてもいい。下がらせる。退かないなら、この場で終わらせるだけだ。
 一連の攻防で、はとりは暴食卿の攻勢に対する解を示した。しかし、ヴェルハディスには見出せなかっただろう。この少年を退ける為の、解を。
「俺を倒す算段は立ったか? 往くぞ。お前らなんかに、「過去」なんかに負けてられるか」
 暴食卿は、退いた。退いてしまった。熱の無い、少年の気迫に。彼にとって絶望的な迄に相性が最悪だった故に。少年が払う対価の重さを、戦える時間を見切れなかった故に。戦士のリスクに挑む果敢さよりも、狩人のリスクを避ける慎重さを持ち合わせた男だった。彼には、猟兵が集いし死地を突破出来ない。

 各所の戦いの末に、玄関前の吹き抜けにて最後の対峙。ヴェルハディスは最後まで戦う者であった。その場にワズラとはとりの姿は無い。万が一の可能性すら残さない。そんな包囲だった。そして、二人がその場に居なくとも布陣は効果を発揮するだろう。
 猟兵達の包囲を破れず、再生能力の限界を超え、黄昏の反逆者は塵へと還った。ピエゾに端を発した騒乱は、ここに解決した。猟兵達は時折、思い出すかも知れない。彼の者が、魔弾を放つ際の銃声を。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ミスト・ペルメオス
【SPD】

…やるしかないか。

最後まで機械鎧は持ち出さず、念動力や歩兵装備を頼りに作戦に従事。
“暴食卿”、何とも油断ならない相手だと警戒を強めつつ。

情報端末と念動力を併用・応用し、屋敷の罠や内部構造、可能なら暴食卿の位置も捜査・探知しつつ進行。敢えて急がず慎重に。

忌まわしい餓狼や銀蝗の襲撃、障害をものともしない凶悪な魔弾。
感知し次第【シュラウド・ジャンプドライブ】、館の内外問わず瞬間移動を繰り返すことで攪乱を試みる。
加えて餓狼や銀蝗は各種射撃武装により迎撃・掃射。消耗は承知の上で、しかし…

捉えさせなければ…ッ!

機を見て暴食卿の至近に瞬間移動。
全武装の射撃を一息に叩き込み、即座に離脱する。



【閃きと煌めきの果てに】
 束の間の休息を終えると、館へと戻る。緋雨に見通せなかったか、館内の情報は殆ど無い。それでも暴食卿の戦闘スタイルが分るのは有難かった。
「やるしかないか」
 ミスト・ペルメオス(銀河渡りの黒い鳥・f05377)は呟きつつも脳内で構築した攻略プランを吟味する。戦場を渡り歩いた幾多の経験に当てはまる部分があるか、実際に相対して判断すべき箇所があるかを。これから踏み込むのは三種の飛び道具を駆使する吸血鬼が潜伏する空間。特に魔弾は厄介で、彼の得意とする念動力による障壁や弾道予測による回避を無効化してしまう可能性が高かった。
 今回ミストが考案した作戦はリスクはあるが、全ての攻撃手段に対処しうるのは魅力的であった。但し、情報収集は必須であった。音声コードにてマシンヘルムのバイザー部分に情報管制システムを起動。館へと足を踏み入れる。前後して人狼の少年やオラトリオの少女、拘束具の少女が踏み込んでいた。皆が二階部分の探索・制圧にあたる様で目線や仕草で分担する方向を大まかに決めていく。屍人の少年と漆黒の竜人には何か作戦がある様だった。

 バイザー内の表示をセットした入力装置や音声で刻々と補足していく。銃を構えたままでも念動力で各種ボタンを操作できるため、死角は無い。センサーの設定を刻々とカスタマイズしてなるべく不意を打たれない様にしつつ、歩を進める。そして、目立たない様に超小型センサーをそっと各所に仕込んでおく。慌てずに確実に、自身の領域を増やす様に。

 角を曲がり別の通路へと踏み込む際に、センサーが警告する前に。不意に、予感が告げた。天井に向けて愛銃から熱線を放ち、バックステップ。ほぼ同時だっただろうか? 迫りくる餓狼と銀蝗の群れが舞い降りて、ミストを追う様に進路を変える。そして、銃声。それらに紛れながら追い越す様に呪いの魔弾が迫り来る! 体感速度が加速する。
 まず、神業の様な速さで弾道に合わせて放たれた熱線は突き抜けた。念動力で形成された障壁でも阻めない。回避機動の最中に警告音と共に激痛。動脈は避けたようだが、脚部に損傷。更に餓狼と銀蝗が殺到する。

『アクセス……』
「消えただと……?」
不意に、ミストの姿が消える。それはユーベルコード【シュラウド・ジャンプドライブ】に拠る転移。ヴェルハディスが、餓狼が、呪弾が、ミストを見失う。一旦、館外へと転移したミストは深呼吸。彼のサイキックで築く障壁は、暴食卿の攻撃手段に対してあまり有効では無い。それが確定した。しかし、弾速ならこちらの方が上。そして障壁構築に注いでいたサイキックを機動力と攻撃力に注ぎ込む。これからはお互いのスピード勝負になる。認識速度、反射速度、そして決断の速度の。
 設置した小型センサーの反応を見る。まだ気付かれていない可能性が高い。腰部装着型の二門のアームドフォートは実弾をチョイス。ゲートを展開して、再び館内へ転移。景色が変わるとほぼ同時に掃射。背後を取った筈が、吸血鬼は雷速の反応で応射。熱線が捉えた手応えはあった。実弾も何発かは捉えていただろう。そして、ヴェルハディスの応射がこちらに届く前に館外へ転移。景色が、変わる。消耗も激しい。

 歯を食い縛る様にして再び館内へ。今度は上部を取る。撃ち下ろす様に掃射。ヴェルハディスはゲートと転移の因果関係に気づいた。既にこちらを見ている……! 掃射の熱線が、弾丸が回避しつつある暴食卿を捉える。呪弾だけが放たれ、こちらに迫る。高速で転移して避ける。
 ミストは再び、吸血鬼の背後へゲートを展開。吸血鬼は読んだと凄絶な笑みで餓狼と銀蝗を周囲に展開。必殺の陣で迎え撃とうとする。しかし、振り返った彼の更に背後を取る様にしてもう一つのゲートが僅かな時間差で出現。
「囮だと……!!」
「最大火力、シュート!」
 今度こそミストは勝負を賭けるべく、全ての銃器を熱線モードにして同時発射していた。更に念動力も叩き付ける。ローザリアの様な防御手段は、彼には無い。刹那の隙に叩き込んだ火箭は全て命中、吸血鬼の身体を大いに削った。再生しながらヴェルハディスは間合いを取る。
 この組み合わせはお互いの攻撃が殆ど通る。攻撃手段の多さと破壊力、純粋な反応速度と耐久力であれば、間違いなく吸血鬼に軍配が上がるであろう。しかし、駆け引きに秀で、転移能力と弾速という自身の強みを活かし切ったミストが一方的に損傷を与える展開となっていた。一度も読みを通せていない吸血鬼には打ち破るイメージが作れない。決死の突貫を敢行してもミストは転移して離れるだけである。実際はミストの負担も消耗も激しく、弾数は無数では無い。しかし、そこを読み切れない。

 疲労も極限に近づいていたが、ミストは念動力も併用してのフルアタックをしつつ全速前進。苦痛を微塵も見せずに悠然と追い撃ちの構え。これで、吸血鬼は退いた。圧力に屈した形だった。ミストは呼吸を保ちつつも各種センサーをチェック。待ち伏せや騙し討ちは無さそうだった。
 唯一といってもいい射手同士の対決で、手札を活かしてほぼ一方的に撃ち勝った。再生を要する手傷を与え、心理的にも圧倒した。上々の結果と云っていいだろう。屈み込みたくなる程の疲労はあったが、後に備えなければならない。他の猟兵も対抗策が機能すれば、暴食卿は恐らく一階の吹き抜け部分に追いやられるだろう。包囲したならば、もう、ヴェルハディスには覆す手段は無い。大勢は決していた。

 最終決戦でもミストの僚友を巻き込まない様に配慮した銃撃は吸血鬼に多大なダメージを与え、彼を塵へと還した。しかし、幾度となく少年兵へと迫った呪弾とその発射音は印象に残っていた。彼は時折、それを思い出すのかもしれない。 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルベル・ノウフィル
餓狼と追いかけっこを楽しみましょう
そぉれ僕はこっちですよ、わぅわぅ
こういうの鬼事というのですよね

魔弾は餓狼を盾にするように身を隠し、僕に届かぬようオーラ防御をしておきましょう
それで防げぬと判断したら早業でUC黒水
全身を水に変えて貫かれるたびに分裂し、無数の小さな水滴となり念動力で飛ぶ

本当は墨染を遊ばせてあげるつもりでしたのに
厄介な能力のおかげで……ええ、墨染も遊ばせてあげますよ! 待っていなさい

念動力でトンネル堀りをして敵の足元を崩しましょう
一撃失礼いたしますよ
人型に一瞬戻り、墨染を低く振る
僕は足の腱を狙うのが好きですが
墨染は首を好みます

足元を抉るように斬り、余裕があれば斬り上げてみましょう



【童子の様に、刺客の様に】
 束の間の休息、そして再転位。心配そうな緋雨に呑気に手を振ってから館の近辺に出現したのは、ルベル・ノウフィル(星守の杖・f05873)であった。必ず滅すると決めている吸血鬼との、共闘を経ての最終決戦。様々な対応を見せつつも館へと侵入した猟兵達の中でも、彼の仕草は能天気と見紛う程の呑気さであった。討つと決めた微塵も揺るがない殺意と闘争の昂揚に身を委ねる愉悦が、溶け合う様に共存している。結果として鼻歌交じりの軽快なスキップとなっていた。
 先発の侵入組は概ね暴食卿の振るうユーベルコード(主に呪いの魔弾)への明確な対策があるのであろう。先に二階部分を洗い出しておこうという意図が一致し、最小限の意思疎通で各自が方向を定め散って行く。個別の行動にはリスクがある。だが、機動力を駆使したり広範囲の攻撃を繰り出したりすれば同士討ちのリスクは跳ね上がる。個別で挑み一階吹き抜け部分に誘導するか追い立てるのが最上で、形勢不利となり危機に陥った場合には引きながら合流を計るのが良いだろうという事で概ね思惑が一致していた。後発の猟兵は戦況を優位にするべく館に働きかけられないかと試みる様だった。

 護符による簡易結界を構築し、死霊の囁きに耳を傾ける。絵画から射出される毒針や物陰から打ち出される魔弾等はそれで防げていた。この手の館には慣れており、予測が立つことも度々あった。そんな最中で突然、気配を感じた。ルベルは予感を疑わない。
「来ましたね……?」
 反応したように小さく耳が揺れた。こちらが知覚したのが引き金になったかの様に餓狼の群れが押し寄せてくる。少年は、笑った。
「こっちですよ~! 鬼ごっこでございますね?」
 狼へと変化し、餓狼と戯れる。時に壁を蹴り、奔放な動きで元来た道へと。未だ姿を見せない暴食卿との位置関係が変化していく。魔弾は未だ来ない。餓狼が活力を少しずつ奪い去って行くが、討つべきは使役者であろうと戯れ続ける。
 不意に銀の煌めきが見えた気がした。同時に、銃声。ルベルが変化していた間に天井を移動していたのであろう、上から撃ち下ろすような呪弾。ステップで躱しつつ、念動力で障壁を構築。しかし、取り囲む餓狼を突き抜けるようにして魔弾が迫り、障壁すら無効化して迫る!
「なんだと……!?」
「何のことは無い、ちょっとした魔術でございます」
 結果として、呆然とするのは暴食卿だった。ルベルのユーベルコード【黒水】は名前の通りに彼を液体化した。魔弾が両断して、ぱしゃんと二つに分かれる。そしてふるふると波打つ様に移動していく。

 ヴェルハディスはブラックタールという種族を知らない。変容した黒い水がルベルそのものであるならば悉く消し去れば倒し得る筈ではあるが、決断できず迷ってしまった。迷いが自身で操作する銀蝗の動きを止めてしまう。その間に餓狼は追い続けるものの、呪弾は七度貫通して役割を全うして消え去っていた。ほんの、二秒か三秒程であっただろう。しかし、全力を賭けての奇襲からの包囲は失敗していた。不意に、刀身の煌めきと共に餓狼たちの気配が消える。更に手札を失ってしまっていた。 
 征くか、退くか。与えた損傷が皆無である筈はない。手傷は負わせた筈だ。しかし、どれ程の力を残しているか全く読めなかった。決着を付ける為のイメージの構築に迷ってしまった。彼は、この世界では闘争を身上とするモノであっただろう。人狼の少年と同等に戦闘経験を積んだなら恐るべき手練れになっていた可能性はある。しかし、ルベルからすれば未知のモノへの対処が甘すぎた。今度は、ルベルが待ち構える側となる。
 暗がりへと張り付けた霊符に宿る死霊へと簡潔に指示を出し、自身は無念無想の境地へ。餓狼による探知を欺くためである。こちらが感知しなければ、襲われ様が無い。死霊の探知外へと退いたなら、他猟兵と合流を計る。間合いに入ったならばもう一撃を見舞う。そう決めて、心を空と成し待つ。待つ事には、慣れていた。暴食卿は間合いへと入らずに消えていた。
 ヴェルハディスとルベルの相性であれば、多くの点で暴食卿が勝り、尋常の手段であれば彼の優位は動かない。しかし、ルベルは吸血鬼を「識って」いた。彼らの恐ろしさも、限界も。駆け引きに持ち込み、優位な状況を演出した。本質が狩人である彼には犯せないリスクだったのだろう。再度の対峙に備える時間も無い以上、今度はルベルが追い立てる側である。他の猟兵も様々な手段を以って呪いの魔弾を攻略するだろう。大勢は決した様なものだった。
 
 最終決戦にてルベルは黒い水の形態で乱戦を掻い潜り、足元から急襲。愛刀である墨染の犠牲者リストに新たな名前を刻む事に成功した。厄介な能力で立ち塞がり、普段使わないユーベルコードでの対処を引き出した相手ではあった。けれど、彼にとっては多くの退けた標的の一人でしかない。いつか、彼の追い求める力の対価として消え去るのかも知れない。

成功 🔵​🔵​🔴​

鈴木・志乃
……もし、この戦いにあたしが勝ったら。
あなたの敗因は『呪った』ことだ。
解呪や禊は、得意分野でね。

UC発動
とは言え最初は呪いで弱ったフリをしよう。
思い通りに戦えず、苦戦し、弱り、咳き込む。
光の鎖での【武器受け】から【カウンター】を狙って……直接ダメージは僅かに張った【オーラ防御】で防ぎつつも、その呪いはしっかり頂く。

十分に自身が強くなれたと判断したら【第六感】でタイミングを【見切り】【高速詠唱】の【全力魔法】で【破魔】の力を籠めた浄化の炎を敵に向かって解き放ち、一切合切【なぎ払う】。
【念動力】で味方を燃やさない魔法の油をぶちまけ、さらに【焼却】。
……さっきまで仲良くやってたのにねぇ。



 束の間の休息を経て、再転位。館内の詳細な情報は無いが(予知で見切れない要素があったという事だろう)暴食卿のデータは確りと在った。庭での対峙が功を奏しているのかも知れない。鈴木・志乃(ブラック・f12101)もまた、他の猟兵の様に大扉を通り抜けて館内へと足を踏み入れる。館外で今後の対策を講じてから侵入しようと云う者もいた。
 館内には多種の罠が存在するとの事だが、それよりも脅威であるユーベルコードへの対策こそ肝要であろう。時に配信者として振舞い、トリックスターの様な要素も持ち合せた志乃であったが、この場では聖者としての要素が大きい。闇を滅し、魔を打ち払う。それもまた、彼女の在り方の一つであった。

 周囲への確認を怠らない様に配慮しつつユーベルコード【呪いは祈り】を発動。闇の呪力すら祝福へと変える、強力なユーベルコードだ。彼女を純白の燐光が包む。ヴェルハディスがこちらを見つけようが構わない。志乃は進むだけである。
 不意に、気配を感じた。餓狼の群れが正面から駆けてくる。吸血鬼を知覚した瞬間から顕現し機能する存在である餓狼を差し向けるためにわざと気配を漏らしたのであろう。気配は、消えていた。志乃はオーラの障壁を構築し、接近を阻む。本来であれば餓狼が周囲を駆けまわるだけで活力が次第に奪われていくが、餓狼の本質は呪詛である。彼女のユーベルコードにより近づけば近づく程に弱体化していく。
 
 銃声と同時に頭上から銀の煌めき。銀蝗の群れが押し寄せる最中を呪いの銃弾が追い越して迫り来る。志乃は膝を付いて蹲った。餓狼から活力を奪っている事にヴェルハディスが気付くタイミングを少しでも遅らせる為に。敵を欺く演技もお手の物だった。
 餓狼が対象の足を止めた。魔弾も命中している。光の鎖で身を護ろうとしているが銀蝗の対処に奔走させればよい。ヴェルハディスは血を啜ろうと一気に迫る。猟兵とやらは何人もいる。短時間でこのオラトリオの少女を喰らえたなら今後の展開が優位になる。聖者を喰らうのは格別であろう。……聖者!? 猛烈な悪寒が湧き上がる。
「あ。気付いたかな?もう遅いけど」
 顔を上げた志乃と、視線が交錯した。負傷に耐えているとは思えない、穏やかな眼差しだった。纏う燐光は眩さを増していた。コイツは危険だと理解し、全力で退く。雷速の反射で転進した暴食卿を追う様に、囁きが聞こえる。聖者の詠唱だった。詠唱がもたらすモノは、燃焼。発動した瞬間に、通路が深紅に染まる。魔を打ち破る破邪の火焔だった。展開した銀蝗も呼び起こした餓狼達も燃え尽きていく。黑い外套も帽子も役に立たなかった。纏った礼装すら機能せず、ただ存在そのものを灼く。
 ヴェルハディスは仕掛けた全てを一瞬で覆され、一度の邂逅で甚大な損傷を受けていた。退かなければその場で滅していた可能性すらある、浄化の炎。再度挑むとしても打てる手は殆ど無い。思い返せば銀蝗だけは僅かに機能してたように思う。けれど、それすら先に当てなければ燃やされてしまうだろう。死を賭して勝ちを拾う様な相性である事は明白であった。他の猟兵から当たった方がいいかもしれない。

 ヴェルハディスは、退いた。志乃は猛追を避けた。ユーベルコードにより呪いを取り込んで強化されている。けれど、罠の全てに対処できるとは限らない。出会う度に退かせて、一階の吹き抜けに追い込めればよいと考えていた。そして、これは猟兵達の共通認識でもあろう。 

「貴様は、貴様らは! 何故、対策を持っている? 俺の全てを賭けた手札に……!」
「それが『猟兵』というモノだよ。さっきまでは仲良くやれてたのにね」
 一階の吹き抜けで再度の対峙。闘いに明け暮れた、力を渇望した吸血鬼が吠える。志乃は微笑と共に穏やかに返した。眼差しが、決別を告げていた。この「らしさ」があまり無い吸血鬼に救いあれと、願う。最後まで戦おうとするならその願いに沿う事も出来るだろう。けれど、見逃す事は出来ない。
 恐らく、逃走を意図したが後詰の猟兵に阻まれたのだろう。屍人の大剣使いと漆黒の竜人だろうか。そして、志乃が対峙している間に他の二階探索組の猟兵も追いついてくる。包囲は完成していた。

「俺が戦いに明け暮れた舞台は、狭かったという事か……! 貴様等の様に、在れたなら……」
「そうだね。そうだったら良かったね」
 勝ち続けたい男が勝てない理由に気付いてしまった悲哀があった。それでも一矢報いようと猟銃に弾を込める。咆哮と共に、銃声。志乃に向けて放たれた弾丸は呪詛を籠めない通常弾だった。勿論、ユーベルコードでは無効化出来ない。しかし、纏ったオーラが阻む。
 猟兵の包囲の下、最後の攻防が始まっていた。此処が死地と悟り、決死の戦いを繰り広げる暴食卿。包囲が完成する前の対峙でその戦いが出来ていたら、何処かで結果は変わっていたかも知れない。しかし、戦力上の劣勢を自らの手札で覆すのが猟兵である。各地で退くことを決断させる闘いをしていた。
 志乃は救い在れと願い、最後まで抗った吸血鬼を浄化の炎で灼いた。他の猟兵の攻撃も次々と身体を捉え、再生の限界を迎えるとヴェルハディスは消えた。最期に向けられた猟銃の撃鉄は、引かれず。吸血鬼狩りは、完結した。
 
 


 

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年04月20日


挿絵イラスト