アルダワ魔王戦争9-A〜おしまいは願いの大魔王
●大魔王最終形態
ファーストダンジョン、最深部。はじまりの玄室の玉座に座すのは大魔王。
その姿はこれまでの他の形態に似ていて、そして何処かは異なる明らかなる異形。
翼も左右で違い腹から下は獣のような竜のような混ざりもので、そして上半身は人のようを持つ。胸に輝く赤い宝石は禍々しく、全体で見れば異形すら感じる程に美しく整った魔神は、静かに呟く。
――好きに、望むがよい。好きに、願うがよい。
『希望』はそれを抱くものが知的生命体である証左。大魔王は肉のみではなく希望を喰らい、それを自身の力と変える。
故に彼は自身を打ち破ろうとするもの達の希望を歓迎する。その希望全てを聞き届け、それを糧とする為に。
それはこの世の全てを喰らうもの、大魔王最終形態『ウームー・ダブルートゥ』の本質だった。
「さて、いよいよ決戦だ」
ヴィクトル・サリヴァン(星見の術士・f06661)はこれまでにない緊張した面持ちで集まった猟兵達に説明を始める。
「ファーストダンジョン最深部、大魔王の玉座で大魔王は猟兵達の到着を待ち構えている。当然ながらこれまでの形態と同様に非常に強力。油断なんてできないだろう」
まあ今更油断なんてする皆じゃないだろうけどもね、とシャチのキマイラは首を振る。
「能力についてだけれども……これまでの大魔王以上に厄介だ。敵対する者の『希望』……願いや望み、祈りを自身の強化に使ってくる。それに戦場に迷宮を構築して妨害もしてくるんだけど、この迷宮は壁に触れると急速に若返ってしまう。下手したら戦う前に戦えない年齢まで若返らせられてしまうから注意が必要だ。そしてもう一つ、これまでの形態の大魔王を召喚してくる。こっちが恐れる大魔王の形態という制限はあるんだけれども、恐れてない場合は全部召喚してくるから注意してね」
どれも非常に厄介だけれども抜け道はあるはずだと、ヴィクトルは頭を掻き、そして猟兵達の眼を見まわす。
「希望を喰らう存在……大魔王にはこれ以上ない位のぴったりな特性だ。だけど皆ならそレスラモン乗り越えて打ち克てる、そう信じてるよ」
そしてヴィクトルは首にかけた鍵のグリモアへと意識を集中させる。そして溢れ出る光が猟兵達を大魔王の戦場へと誘った。
寅杜柳
オープニングをお読み頂き有難うございます。
最後に(上半身)人型になるのは定番。
このシナリオは大魔王の玉座にて大魔王最終形態『ウームー・ダブルートゥ』との決戦を行うシナリオとなります。
また、下記の特別なプレイングボーナスがある為、それに基づく行動があると判定が有利になりますので狙ってみるのもいいかもしれません。
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プレイングボーナス……『敵のユーベルコードへの対処法を編みだす』。
(敵は必ず先制攻撃してくるので、いかに防御して反撃するかの作戦が重要になります)
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それではご武運を。
皆様のご参加をお待ちしております。
第1章 ボス戦
『『ウームー・ダブルートゥ』』
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POW : ホープイーター
【敵対者の願い】【敵対者の望み】【敵対者の祈り】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD : ホープブレイカー
【敵が恐れる大魔王形態(恐れなければ全て)】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ : ホープテイカー
戦場全体に、【触れると急速に若返る『産み直しの繭』】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
イラスト:hina
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ソラスティベル・グラスラン
ふふ、可笑しなことを言いますね
まだわたしは倒れても、諦めてもいません
奇跡に……『希望』に縋るまでもなく
貴方を倒すための力は、最初からこの手にあります!!
オーラ防御・盾受けで守り、攻撃を見切り怪力で受け流す
第六感で最善の生存手段を察知し継戦を
只管に耐え延びて前進、己の大斧を叩き込む為に
願いも、望みも、祈りも不要
それら『希望』は弱き民のもの
『勇者』とは勝利を願われ、望まれ、祈られる者
逆は無く、その全てに応え立ち向かう者
故に、いつだって勇者が手に取るのは、己が内にあるものでした
それは―――【勇気】
さあ、大魔王よご覧あれ!わたしの持つ輝きを!
今までの旅路で築いてきたわたしの全てが、貴方を討ち倒すッ!!
●希望を砕くもの
転送された猟兵達は、酷い圧迫感をその身に感じた。
それを発しているのは眼前の大魔王最終形態『ウームー・ダブルートゥ』、恐ろしく整ったその顔が口を開く。
『さあ、好きに望むがよい。それを糧にし、砕く事こそ我が役割』
「ふふ、可笑しなことを言いますね」
ソラスティベル・グラスラン(暁と空の勇者・f05892)はどこか傲慢にすら見える自信に溢れた表情で穏やかに返す。
奇跡などなくとも彼女はまだ倒れても諦めてもいない。
――だから、希望に縋るまでもない。
『さあ、始めるか』
大魔王のその手に力が収束し、斧を形作る。それはソラスティベルの得物と瓜二つ、黄昏の竜族の伝承に伝わるそれこそが彼女の力の象徴だとでも言うかのように、魔王は事も無げに構え、そしてソラスティベルに飛び掛かる。
霹靂の如き一閃は全てを力づくでねじ伏せ叩き割る暴力の具現。
「貴方を倒すための力は、最初からこの手にあります!!」
大魔王の斧を全力で見切り、衝撃を抑えながらソラスティベルは吼える。
願いも望みも祈りも不要。なぜなら『希望』は弱き民のもの、彼女の目指す勇者は勝利を願われ、望まれ、祈られる存在だ。
それらすべてに応える者、それこそが勇者。
その為には何が必要か――いつだって勇者は己が内にある『勇気』を手に取り、前に進む。
彼女の希望を糧にし、強化された斧の連撃を直撃だけは盾で逸らすようにしてながらソラスティベルは前に進む為の機会を窺う。
だが、彼女の怪力を以てしても大魔王の攻撃を凌ぎ切るには限界があった。握力が限界を迎え、緩んだ瞬間に盾が弾き飛ばされる。
さらに振るわれる大魔王の斧。そこでさらにソラスティベルは勇気を以て一歩踏み出す。巨大斧の刃の内側、潜り込んだソラスティベルは腰だめに構えた蒼雷纏う斧を振り上げる。
「さあ、大魔王よご覧あれ! わたしの持つ輝きを! 今までの旅路で築いてきたわたしの全てが、貴方を討ち倒すッ!!」
我が名は神鳴るが如く――万来を齎すその名を唱え、ソラスティベルの全力の一撃が大魔王の肉体を真下から斬り裂く。
後方に飛び退き回避しようとした魔王だが間に合わない。その肉体を斬り裂かれ、どろりとした血が零れる。
『成程。それが勇気、か』
しかし大魔王は堪えた様子もなく、淡々と呟いた。
だが、ファーストアタックは見事に決まった。次の猟兵に託し、ソラスティベルは一旦後退した。
成功
🔵🔵🔴
刹羅沢・サクラ
十文字さん(f23333)と参加 あたしの願いは、友の心残りを断つこと。即ち、斬る事に変わらず あの人の影を見せてくれるというのなら、あのおぞましき剣術がとんでくるのでしょうか 然もありなん。一度、全力で戦ってみたかった…… 【見切り・第六感・残像】で以て可能な限り回避 【オーラ防禦】を宿した鱗尖紋に防御は任せ、技術的な防御は捨てます 何度もその背を追った。目に焼き付いたものは忘れない。 なるほど、恐ろしいな……これが十文字さんの獣ですか。 覚えのあるほうを、優先して相手にしていきましょう。 【鴇追雷穿華】これは、あなたの姉に貰った力だ……わかるまい、な
十文字・武
刹羅沢・サクラ(f01965)と参加
オレの願いとしてはオウガから解放されヒトになる事だが……あぁ、そう来るか
オレの中に眠る魔獣の声は聞こえず、奴の中にアイツを感じる
魔獣の力を取り込み圧を増した大魔王の先制を【なぎ払い・武器受け】でいなせ
あぁ、何故攻撃が読まれるか解らんか?
オレがソイツと何年付き合ってきたと思う?
墓穴を掘ったな大魔王。アイツの癖が出てるぜ【戦闘知識】
知り抜いた餓えた獣の憑いた大魔王の攻撃を【おびき寄せ・激痛耐性】で耐えろ
サクラの知る怖ましき剣術と、オレの知るヤツの癖
互いに互いを時にかばい時に相手に任せ、この強大な敵へ抗おう
そうして作り出した隙を得れば、指定UC発動
喰らいな、大魔王
一撃を受けた大魔王の手から竜の巨大斧が崩れ去った。けれども大魔王の赤き宝石が妖しく輝くと、その右手には日本刀が出現。
(「あたしの願いですか」)
その刀は、刹羅沢・サクラ(灰鬼・f01965)がかつて共に戦った友のそれと同じ。
さらに大魔王の左腕に狼のような形状の黒いオーラを纏わりつく。その腕には奇妙な存在感があった。
「……あぁ、そう来るか」
そして大魔王の左腕を見た十文字・武(カラバ侯爵領第一騎士【悪喰魔狼】・f23333)は呟く。
彼の願いはその身に融合したオウガから解放されること。だからこそ、彼の裡から魔獣の声が消え、大魔王にその気配を感じる今の状況は大魔王の能力が正しく機能している事の証左だろう。
『その希望、貴様達の願いで捻じ伏せてやろう』
魔獣の力を自身に重ねた大魔王は二人の間に飛び込み無手の左を武に無造作に叩きつけようとする。その圧は武自身が敵に振るっていたもの以上、妖刀で薙ぎ払うようにいなすが、手に伝わる衝撃は長くはしのげない事を示している。
動作の起こりは見えなかった、けれどもサクラは感覚に従い無意識に近い形で反応、武への攻撃と同時に振るわれた右の刃を飛び退いて回避する。さらに流れるように大魔王の刃が閃きサクラの首を狙う。けれど彼女は刃を通さぬまじないを込めた蛟の鱗の紋様にオーラを重ね、更に力を逸らす事で致命傷を防ぐ。
それは友の心残りを断つこと、あの人を斬る事。共に戦いながらも一度全力で戦いたいと願っていたその願いを叶え、己の力に加えた大魔王はとてもおぞましく、そして強大だ。
二人は飛び退き距離を取り、息を吐く。太刀筋は矢張り恐ろしく正確、彼女が切望し、追い続けたその背と同じであり、
「なるほど、恐ろしいな……これが十文字さんの獣ですか」
元々おぞましさすら感じる程に研ぎ澄まされていたそれに獣の膂力を乗せた大魔王の連撃は、二人に一息すら吐かせぬ程に恐るべきものとなっている。
だけれども、それは想定の範囲内。二人は再び飛び込んできた大魔王への対応に意識を切り替える。
数合剣戟と魔獣の腕のやり取りが続く。
何度もオウガの腕を振るい、武に叩きつけるが倒すには至らない。致命的な攻撃を全て防いでいるのだ。
「あぁ、何故攻撃が読まれるか解らんか?」
意味が分からないというような表情の大魔王に武は言い放つ。
「オレがソイツと何年付き合ってきたと思う?」
彼が宿した魔獣と付き合った年数、そして経験。それまでは大魔王も奪えない。魔獣の攻撃の癖は魔獣自身を除けば武が一番よく理解している。
けれど、知り抜いた餓えた獣の攻撃は大魔王の力も加わって恐ろしいものとなっている。癖を理解していても完全回避は困難、攻撃の度に少なくない傷と、気力をごっそり削られていく感覚がある。
「墓穴を掘ったな大魔王、アイツの癖が出てるぜ」
だけれどもそれを噛み殺し、武は嘯く。そんな彼に大魔王は右の刃を振るおうとするが、その間にサクラが割り込みその刃を逸らす。
相手の太刀筋を見切る、それについてはサクラも同様だ。悍ましい太刀筋を見切り回避し、或いは銀鵲と名付けた刀で上手く凌いでいた。何度もその背を追い目に焼き付いたその太刀筋、心残り。斬りたいと心底焦がれ、乗り越えようとしていたからこそ次に何が来るかを読むことができる。
左の腕による攻撃を武が抑え、右の刃をサクラが抑える。入れ代わり立ち代わり、其々が対応できる大魔王の攻撃を防ぎ立ち向かう二人は、遂に隙を作り出すことに成功する。
攻め気に逸った大魔王が強引に前に出、両手の刃と爪を振るう。だがそれを読み切っていた二人は同時に飛び退き、不意を突かれ大魔王が僅かに体勢を崩した。
ここだ、サクラが炎を帯びた短刀手裏剣を投擲、それらは弾かんとした大魔王の刃をすり抜け、大魔王の胴に突き刺さる。
「これは、あなたの姉に貰った力だ……わかるまい、な」
青白い狐火が大魔王の体を包む。既に滅んだ同業の妖狐達――友の姉もその中の一人の無念を力にしたその炎は大魔王の体から離れまいとするかのようにその身を燃やしていく。
そして妖狐の炎が消えぬうちに武の刃が狼を模した黒炎の剣気を纏い、一閃。
「喰らいな、大魔王」
貪り喰らう黒炎の魔狼の巨大な顎は大魔王の左腕に喰らいつき、そしてそれを消失させた。
それと同時に獣の声が武の体の内から聞こえる。大魔王のユーベルコードの効果が切れたのだろうか。
いずれにせよ、代償を以て放った一撃の反動は大きい。武は大魔王の戦闘領域から一旦サクラと共に離脱した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
秋月・信子
●SPD
希望を喰らい、全てを喰らい、アルダワを闇で覆おうとした大魔王…
え…私が最も恐れる我…?
その問いで脳裏に過ったのは第四の大魔王
新たな『魔女』として私を取り込もうとする不定形の一撃を【第六感】で回避し、その【カウンター】として【焙烙玉”彩”】を投げ入れ、爆発の【衝撃波】でその身体を【吹き飛ばし】て体勢を立て直します
これは大魔王のUCが生み出した『影』
それなら、倒しても倒しても切りが無い…
身体が離散している間に、最後の大魔王に向け銃口を狙い定めます
狙うは…胸部の宝石
再び形作る第四の大魔王を背後にボルトアクションライフルに【破鎧の魔弾】を形成
「…塵は塵に、灰は灰に、過去は過去に還りなさい」
アルドユガ・フラルフラル
余が最も恐れる大魔王は第四
あれほど王という権能の醜悪面を体現した存在は無かろう
また無から大軍造る王とは脅威であり羨望でもある
が召喚後は
二つの王戴く軍なぞ烏合の衆以下と考え改める
大魔王に先制取れずともUCで出現した軍に先制させぬ事は可能な筈
敵軍を見切り
勘と残像とフェイントで躱し
盾バッシュ切り崩しからの範囲+なぎ払い+衝撃波
乱戦化する戦場を戦闘知識で逆利用し大魔王×2に対して敵を盾に
目立たず最終形態まで接近
UC発動+属性攻撃の全方位雷撃で雑兵一掃&高速ダッシュ奇襲
狙うは胸の宝石
勇気と覚悟こめた捨て身の一撃
「大魔王よ、貴様が叶えずとも世界は自ら祈りを未来へと変えてゆく!今貴様を討つこの剣の如くに!」
左腕を失くした大魔王は痛みなど感じていないような無表情で二人の猟兵を見下ろす。
(「希望を喰らい、全てを喰らい、アルダワを闇で覆おうとした大魔王……」)
その一人、秋月・信子(魔弾の射手・f00732)は眼前の存在を前に、その存在感に圧倒されぬよう心を強く持つよう意識していた。その隣で戦闘態勢を取っているエルフの少年、アルドユガ・フラルフラル(とっとこ冒険道・f18741)も同様であろう。
『――貴様達が最も恐れる我は、何れか?』
「え……私が最も恐れる……?』
大魔王が発した言葉に意表を突かれたように信子が返す。彼女と少年の脳裏に過ったのは一つの姿。
『そうか。その我で希望を砕いてやろう』
その思考を読み取った大魔王の胸の赤き宝石が輝き、大魔王第四形態『ラクリマ・セクスアリス』がその前に姿を現した。
黒くどろどろとした粘液のような肉体に白骨の部位が体を緩く覆い、そして奇妙な子守唄を歌い続ける魔女を浮かび上がらせるその姿。それは紛れもなく二人にとっての恐怖の対象。
けれども。
召喚されたその存在を見てもアルドユガの心は揺らがない。
彼がそれを恐れる理由は、それが王という権能の醜悪な面を体現したかのような存在だから。他者の強大な力を吸い上げて自身のみを守り、攻撃に転ずれば周囲を汚染する毒を撒き散らす。さらには大軍を生み出す能力も脅威――こちらについては王の末裔を自称する彼にとっては羨望もあるのだが。
脅威は挙げればキリがないが、けれども一つの軍において王は一人であるもの。第四形態と最終形態、二つの王を抱く軍など烏合の衆以下と成り下がる。故に、彼が恐れる事は恐れない。
第四形態の毒の体表が泡立ち、豹とイカ、そしてバッタの獣人が溢れるようにして召喚される。
しかし、第四形態の召喚、そこからの獣人達の召喚までには僅かなラグがあった。その間に獣人の軍勢を見切り、真っ先に飛び出してきた豹獣人の斧の一撃を盾で受け逆に押し返して体勢を崩すと、追撃に白金のロングソードから放たれた衝撃波で後続の獣人ごと弾き飛ばす。
しかし、それらを踏み越えて獣人は次々に生まれ出づる。吹き飛ばされた獣人達を足場にバッタ型が跳躍、飛び蹴りを喰らわせようとする。しかし、既にエルフの少年は残像を残し既に走り出していた。
獣人の群をすり抜け、最終形態へと向かうアルドユガ。彼を妨害せんと横合いから巨腕を叩きつけようとする第四形態だが、それはアルドユガのフェイント。腕を振り上げ召喚が途切れた瞬間を見計らい、真紅のマントを翻し第四形態へと飛び込みすり抜け様に胴を斬り裂いた。
第四形態は思い通りにいかなかった苛立ちか、獣人の群を再び体から大量に出現させる。
その姿を見、そして最終形態の方へと視線を移して信子は思う。
これは影だ。最終形態のユーベルコードが生み出した影、だからこそ何度倒してもキリがない。
止めるには術者を倒さねばならないだろう――冷静に状況を観察しながら、彼女は向かってくる獣人達へとサブマシンガンの弾丸をばら撒きながら捕まらぬよう走り出した。
無数に召喚された獣人が、戦場に溢れ空間を圧迫する。恐ろしく悪い視界、ラクリマ・セクスアリスは乱雑に腕を振るい、獣人の中に紛れた猟兵達を吹き飛ばさんとし、ウームー・ダブルートゥはやや離れた位置から召喚された存在達を壁にしながら猟兵達が圧殺されるか、無謀に飛び出し隙を見せる瞬間を待っていた。
大魔王第四形態の視界に、吹き飛ばされた獣人の影から飛び出した信子が飛び込んでくる。魔女を取り込まんとするように信子に対しその巨腕を持ち上げて恐ろしい膂力で振るう。
けれど、その攻撃を読んでいた信子は跳躍し回避、同時に和装のグレネードを置き去りにするように第四形態のの腕に投擲。命中と同時に炸裂したグレネードの衝撃を助けに大きく距離を取った信子は、地形を侵食する魔の毒沼から逃れる事に成功。
グレネードが弾けたその時、別の位置にいたアルドユガはその小柄な体を活かして大柄な獣人達の合間をすり抜け第四形態を掻い潜り、獣人達を隠れ蓑にしながら最終形態の近くへと接近していた。
ここまでくれば十分、というよりこれ以上は物理的に難しい。さらにグレネードで大魔王の意識が其方に逸れたと判断した少年は、ユーベルコードを起動する。
「王の威光は遍く万物を蔽う!」
覇王迅雷、本来彼の血族に伝わる秘技がユーベルコードと化したそれにより光輝くオーラを纏った彼は、最終形態がその光に反応する前に雷光を周囲へ放射、周囲を囲む獣人達を弾き飛ばし大魔王へと高速で飛び込む。狙うは胸の宝石、魔力の中枢と思われるあれを砕けば終わるとの確信があった。
「大魔王よ、貴様が叶えずとも世界は自ら祈りを未来へと変えてゆく! 今貴様を討つこの剣の如くに!」
飛び込む速度には迷いも躊躇いもなく、白金の剣は大魔王に深々と突き刺さった。
『成程、だが足りぬな』
だが、刺さったのは腹。寸前で反応し、大魔王が翼を広げ跳躍した為狙いが僅かに逸れたのだ。
大魔王が健在な右腕を振るい、アルドユガを弾き飛ばす。ロングソードは深すぎたのか大魔王の体に残ったまま。
体勢を立て直すことに成功した信子は狙撃性能の高いボルトアクションライフルライフルに魔弾を装填、雷光により獣人達が弾き飛ばされた事で拓けた空間に飛び込み、最終形態の胸部へと狙いを定める。
照準定める信子の背後で第四形態の体表の魔女が子守歌を歌いグレネードの衝撃で崩れた第四形態の肉体を修復。第四形態と獣人達は信子を止めようと一斉に飛び掛かろうとするが、それよりも彼女が引鉄を引く方が早い。
「これで……撃ち砕いて!」
ライフルから魔弾が放たれる。ウームー・ダブルートゥは右腕でその弾丸を防ごうとするが、魔弾たる所以――全ての装甲を貫き砕く事に特化したそれは、さしもの最終形態でも止める事は叶わない。
右腕を貫通し胸部の赤い宝石に着弾、さらにそれすらも貫き、大魔王の背中から飛び出していった弾丸は命中した玉座でようやく動きを停止する。
中央にぽっかりと穴の開いた赤き宝石は、けれどまだ砕けない。
だがそこに、弾き飛ばされたアルドユガが再び飛び込むと、大魔王の腹に突き刺さったままのロングソードの柄を掴みそのまま駆け上がる。彼の勇気と覚悟は、一度弾き飛ばされた程度では止まらない。刃は腹に刺さったまま宝石まで一直線に斬り裂き、そして刃が赤い宝石に到達した瞬間ぴしぴしと宝石全体に罅が広がる。そして、赤い破片をまき散らし宝石は砕け散った。
『……成程。それは砕けなかったか』
虚ろな呟き、その言葉を最後に大魔王の体はぐらりと傾き、地面に衝突するとまるで石像のように乾いた音を立てて砕け散った。
「……塵は塵に、灰は灰に、過去は過去に還りなさい」
信子は砂のように崩れていく大魔王の残骸を見、静かに呟く。ウームー・ダブルートゥに合わせるかのように、大魔王により召喚された存在は既にその姿を消失させていた。
先程までの大乱戦から打って変わり、静寂を取り戻した玄室には疲労した猟兵達の息遣いが響くばかり。
そして程なくして、その息遣いを吹き飛ばすように猟兵達の勝鬨が響いたのであった。
成功
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