アルダワ魔王戦争8-C〜己の闇を恐れよ
●真なる心の闇に従え、さもなくば抗え
憎しみ、妬み、焦燥感。
人の心とは簡単に揺らぐものだ。心から負の感情が溢れ出せば、己を見失い暴走する。
生ある者ならば、誰しもがその可能性を所持している。
私は鏡。私はお前の闇を映そう。
私は鏡。私はお前の現実を映そう。
お前に訪れたかもしれない姿を、お前が隠している姿を、お前の真実の姿を。
●赤と青の扉~鏡の間~
「『己の闇を恐れよ』」
ローズウェル・フィリンシア(太陽と月の神子・f09072)は、突然その言葉を呟いた。
「……以前何処かから聞いた言葉です。清き心の反対側には、必ず悪しき心が存在し、それはちょっとした切っ掛けで簡単にひっくり返ってしまう……と」
その言葉に恐怖を感じたのか、ローズウェルは深呼吸を一つ行ってから、集まった猟兵達に説明を始めた。
「……皆さんに向かって頂く場所は、不思議な扉が佇む場所です。扉を開くと敵がいるのですが、私は扉の手前までしか移転させる事ができません」
直接戦場へ送る事ができない理由は、その扉の力にあるという。
「同じ場所へ辿り着くにも関わらず、扉は二種類存在しているのです。皆さんは赤い扉と青い扉、どちらかを選んで戦場へ向かって下さい」
全員が同じ扉を選ぶ必要はなく、個人の判断で選択して貰って問題はない。だが、選択をするにしても慎重に選んで欲しいとローズウェルは注意を呼び掛ける。
「赤の扉を潜ると戦場の敵は『攻撃力が超強化』され、逆に青の扉を潜ると『防御力と耐久力が超強化』されて襲って来るそうです。……どちらが超強化された敵を選び、それに対抗するか、よく考えてから扉を潜って下さいね」
では、どちらかの扉を選んだとして、戦場には誰が待ち受けているのか。
「今回皆さんが戦う相手は、邪悪な鏡です。鏡そのものは攻撃を行いませんが……その代わり、鏡に映った人の『偽物』を召喚し、その偽物に自分を守るよう指示し、戦わせるそうなのです」
偽物は姿形が本物と瓜二つだ。しかし、その内面は邪悪なものと化しており、災魔――オブリビオンとして活動を行う。
「勿論ですが、偽物にも不思議な扉の効果は反映されています。不利な状況かもしれませんが、どうか恐れず立ち向かい、鏡を破壊して下さい……!」
説明は以上となります、とローズウェルは一度礼をすると、自身のグリモアを輝かせた。
「己の事は己が一番知っているでしょう。……どうか、鏡に惑わされないようお気を付けて下さい。それでは皆さん、ご武運を」
己の闇を恐れよ。されど恐れるな、その力。
ののん
お世話になります、ののんです。
●状況
『アルダワ魔王戦争』の戦争シナリオとなります。
1章で完結します。
●戦場ルールについて
赤の扉、青の扉がありますが、どちらを選んでも敵の種類(シャドウミラー)は変わりません。
OPをよく読み、プレイングには必ず『どちらの扉を選んだのか』を記入して下さい。
敵は『邪悪な心を持った、姿形が瓜二つの偽物』を召喚し、己の守護をさせます。
偽物の雰囲気や口調についてご希望があればお書き下さい。特になければ無言のまま襲い掛かる様子を描写すると思います。
今回は『超強化された能力に対抗する』行動を行えばプレイングボーナスとなります。
●プレイングについて
受付期間は特に設けておりません。
キャラ口調ですとリプレイに反映しやすいです。
お友達とご一緒する方はIDを含めた名前の記載、または【(グループ名)】をお願い致します。
同時に投稿して頂けると大変助かります。
申し訳ありませんがユーベルコードは基本的に【選択したもののみ】描写致します。
以上、皆様のご参加お待ちしております。
第1章 ボス戦
『シャドウミラー』
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POW : 力の影
【鏡に映した相手を歪め力を強化した偽物】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
SPD : 素早さの影
【鏡に映した相手を歪め素早さを強化した偽物】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ : 知性の影
【鏡に映した相手を歪め知性を強化した偽物】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
イラスト:イツクシ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠マリアンネ・アーベントロート」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
静寂に包まれた空間に佇む猟兵達。
目の前にあるのは、猛々しい赤色の扉と、凍るような青色の扉。
赤を選び、全てを破壊する力を得た敵と戦うか。
青を選び、城塞の如き鋼鉄の体を得た敵と戦うか。
果たして自分はどちらを選ぶべきか?
扉を開けば、大きな鏡が待ち受けているだろう。
そしてその鏡を守護しているのは――堕ちた自分自身だ。
ナザール・ウフラムル
扉で攻撃力は上がっても速度は相手のUCじゃないと影響出ないっぽいな。じゃあ、赤の扉で。
俺の周囲の大気の屈折率を弄って相手が目測を誤りやすくなるようにしつつ(【残像】)、俺自身も強化した【視力】で攻撃を【見切り】、相手の攻撃の回避を重視する。
当たらねぇ攻撃に意味は無し、ってな。
UCで「触れるものを切り裂く冴え冴えとした風」を纏った後は、相手の攻撃を回避しながら、つかず離れずの位置取りをして風の刃で削り取っていくように攻める。
写し取ったのは姿形だけか?それなら、災魔として存在するお前に、精霊たちが力を貸してくれることはねぇだろうよ。
ナザール・ウフラムル(草原を渡る風・f20047)は赤色の扉を開き、奥へと進んだ。広々とした空間に太い柱が数本。なんとも殺風景な部屋だ。
勿論、ここはただの通り道などではない。部屋の真ん中には例の大きな鏡が佇んでいる。
鏡はナザールを映すと、突然怪しく輝き出した。直後鏡の中から現れたのは、誰かの足、誰かの腕、誰かの頭。その『誰か』とは、とても見覚えのある姿であった。
「なるほどな」
ナザールのその短い一言が全てを物語っていた。
表情を変える事無く、視線だけを動かし相手の姿を隅々と確認する。何もかもが同じだった。……確かにあれは、鏡に映ったそのままの『自分自身』だ。
ただ、同じであるのはあくまで姿形だけ。殺気に満ちた目と荒んだ風の空気から、中身は全くの別人である事が窺える。
「じゃあ、来いよ」
挑発するように声を掛ければ、偽物は紫色の強大なオーラで自分の体を包み込んだ。否、あれはオーラではない、風だ。吹き荒れる風が台風を作り、敵という敵を全て切り刻もうとしているのだ。
「でかけりゃ良い……ってものじゃねぇんだけどな」
お手並み拝見だ、とナザールも自身の体に風を纏う。冴え冴えとした風と共に、彼は舞うように偽物へと接近を試みる。
強大な台風から無数の風の刃が襲い掛かる。狙うは本物ただ一人。しかし、無数の刃が降り注いでいるにも関わらず、何故かナザールには傷一つも付かない。当たっていない、という訳ではない。確実に風の刃は彼の腕や肩、腹部、脚と接触しているのだ。それであるのに、傷が付いていないのだ。
「お前のそれは……精霊の力じゃないのか? それとも脳筋にでもなっただけか」
所詮は偽物。力を貸してくれるはずの精霊たちまでは写し取る事はできなかったのだろうか。風の刃はナザールの残像を狙い、空を斬る。それに紫色の風はナザールにとっては目立つ色だった。すい、と容易に避けてみせた。
「どちらにせよ、災魔として存在するお前に、精霊たちが力を貸してくれることはねぇだろうよ」
台風の威力が緩んだ一瞬を逃さず、ナザールは本物の力――精霊たちによる風の刃を放つ。隙間を縫う様に風の刃は泳ぎ、台風の目である偽物へと到達すると、パァンと弾けるように風が爆発し、その体を切り裂いた。
風に喰い尽くされた偽物の体が突然真っ黒に染まったかと思えば、ぱりんとガラスのように割れ、静かに砕け散った。
ぴしり、鏡にひびが一つ入る。
大成功
🔵🔵🔵
ガルディエ・ワールレイド
【青の扉】
◆心情
名誉を求める心は虚栄に通じ、弱者守護の願いは傲慢に通じるだろう。
況や戦いを好む気質は戦場の狂気と隣合わせだ。
(特に喋らせる必要はないが、何となく雰囲気から虚栄や傲慢、狂戦士としての気質を持つ偽物なのだろうと察する)
お前が持つ心の一面は恐ろしい。
それは確かに俺に有るものだから。
だが、決して、お前の力は恐れない。
心の闇に呑まれた剣で、真の強さを得られると思うなよ!
◆戦闘
武装は魔剣レギアを両手で構える一刀流。
《見切り/武器受け》により受け流しや、更に《怪力》も加えた弾き返しで防御。
そして勝負所での【戦場の剛刃】を狙う。
敵は超防御力を持つが故に、それに頼る瞬間が来ると信じて機を伺うぜ。
青の扉を潜り、戦場へと足を踏み入れるガルディエ・ワールレイド(黒竜の騎士・f11085)。巨大な鏡に映った己の姿がひとりでに動き出した瞬間と同時に足を止め、自ずと身構えてみせた。
味方ではない事は明らかだ。鏡からゆらりと現れた黒き騎士――否、あれは騎士なのだろうか? あれは騎士なんて誇り高きものではない。あの動きと振る舞いは……狂戦士と呼んだ方が正しいだろうか。
「……お前が持つ心の一面は恐ろしい」
ガルディエはこちらに歩み寄って来る狂戦士、自身の『偽物』へと言葉を投げ掛ける。確かにあれは災魔である鏡が映した偽物だ。所詮幻影に過ぎない。しかし彼は、だからと言って切り捨てるという事はできなかった。
あの偽物もまた、自分自身の一つである。そう彼は感じ取った。
「況や戦いを好む気質は、戦場の狂気と隣合わせだ。……俺はお前を否定しない」
受け入れた上で、お前を超えてみせる。
「決してお前の力は恐れない。……心の闇に呑まれた剣で、真の強さを得られると思うなよ!」
二人の黒き騎士は魔剣レギアを構え、同時に地を蹴り上げた。
先に仕掛けたのは偽物だった。一手早く魔剣を振り上げ、ガルディエに向けて乱暴に切り捨てるように振り下ろす。弾くように横から薙ぎ払うガルディエ。攻撃に転じようとも、相手の次の一手が早く、防御に徹する事しかできない。
攻撃が早いとはいえ、その一撃一撃は荒々しく、力は想像よりも強くはない。しかし鍔迫り合いで刃を押し切り攻撃を試みても、簡単に弾かれてしまう。
「(なるほど、そうか)」
一度距離を取り、態勢を整え直すガルディエ。
何度か刃を交えて知る事ができた情報。それは偽物が『貪欲に攻撃を続ける事により超防御を得る』戦法を用いていた事だ。確かにこれでは相手に傷一つ付ける隙もなければ、無理に攻撃に転じた所で自らも傷を負ってしまう。
「(それなら、俺はこうするだけだな)」
ガルディエは決意を固めると、魔剣を後ろへ振り被りながら偽物へと勇敢に駆ける。勿論、超防御を持つ偽物にはその一撃は効かなかった。刃と刃の交わった大きな金属音を響かせながら攻撃は防がれてしまい、二人の力任せの鍔迫り合いは再び始まった。
「……うおおおおおっっ!!!」
ガルディエは吼えた。まるでこうなる事を望んでいたようだった。魔剣から赤き魔力が噴き出し、ガルディエの力はとうとう偽物を上回る。――しかし、その刃が偽物の体へ傷を付けようとする様子は一向に感じられない。代わりに偽物の体は徐々に後方へと押し出されていく。
「扉の力とはいえ、聞いた通り、お前のガードは、確かに固い。……だが、全てが荒すぎて……目的を、忘れていないか?」
押されていく偽物の背後へ徐々に近付いてくるもの、それは鏡。
騎士たるもの、己の為すべき事、守るべきものを見失ってはならない。
「残念だ」
偽物が鏡へ振り向いたその一瞬、赤き魔力によって強化された複合魔剣レギアは、偽物の魔剣を弾くと、鏡ごと横一線へ力強く薙ぎ払った。
成功
🔵🔵🔴
凶津・眞
アドリブ・連携歓迎
赤の扉を開く
偽物の口調は常に真剣な感じで
いやー偽物とはいえ流石俺だ、顔がいい。
さてと、冗談はここまでだ。普通にやりあっても火力で押しきられるのがオチだ。だから刀や斧を使って防御主体で立ち回る。打ち合いながら偽物の攻撃パターンを学習力で見切る。
後は相手がやりやすいように隙を作り、そこに打ち込んできた相手の攻撃をマントを使ったベクトルの操作でカウンター。
さてと、出番だベルゼビュート。偽物はその鏡と一緒に腐り果てろ。
凶津・眞(半機半妖の悪魔召喚士・f23195)は赤の扉を選んだ。鏡に映った自分の姿がにやりと微笑む。
「(何だよ俺……いくら顔が良いからって無意識ににやけるなんて)」
そう思い込んだ瞬間、鏡の中の自分自身がこちらへ向かって歩み寄ってきたではないか。
「(あぁ、なんだ)」
本物の眞は『初めてにやけた』。やはり先程の自分は微笑んでなどいなかった。微笑んだのは鏡の中の偽物だけだったようだ。
おかしいと思った、と肩をすくめて溜め息を吐く。偽物も同じように溜め息を吐く。……しかし、彼はもう鏡の中の住人ではない、『もう一人の眞』という存在だ。故にあの溜め息は、呆れた様子を表すものだ。
「さて、どちらが顔の良い方なのか決めようか。本物の方が写真よりも良い……なんて話もあるけどな」
「……冗談はそこまでだ」
二人の顔から、同時に笑みが消え去った。
先攻を取ったは偽物の方だった。急接近を図り、大きく振り被った魔斧を眞の頭上へ振り落とす。何とか眞も魔斧で対抗し攻撃を防いだものの、力の差は圧倒的だった。
このままでは押し負ける。そう本能が訴え掛け、反射的に相手の魔斧を横へと薙ぎ払い受け流す。
「鏡の効果が随分と効いてるようだな……」
流石、攻撃力が超強化されているだけあって、なかなか攻撃に転じる隙を見付ける事ができない。一つ一つの攻撃を受け止め、受け流す度に腕が痺れる。これでは時間の問題だ。
「(……粗方パターンは分かった。次で賭けに出る)」
一旦後方へと引き下がり、身を屈める眞。偽物はオーラで強化された魔斧を力強く振り落としてきた。しかし眞は自身の握る魔斧で防ぐ事などせず、代わりに利用したのはマントだ。
翻したマントに触れた魔斧はその布を引き裂いた。しかし不思議な抗力によって魔斧の軌道は変わり、眞の体を避けるような動きを見せながら地面へ刃を突き刺す。
「出番だ、ベルゼビュート」
ガラ空きとなった相手にサモン・コントローラーがすぐさま反応する。眞の背後に突如現れたのは巨大な悪魔――地獄の君主ベルゼビュート。
悪魔は偽物へ腕を向けた。その腕が相手の肩に触れた途端、肩は溶け、崩れていく。そう、腐敗したのだ。
腐敗の呪いは瞬時に全身へと伝わり、偽物の体は跡形もなく崩れ、ぐしゃりと消え去っていった。
「以外とあっさり、だったな……」
悪魔を還し、再びマントを羽織る眞だが、その自身の片腕には大きな傷が刻まれていた。偽物の一撃を完全には避け切れなかったようだ。悔しいがここは一旦下がり、腕の回復を待とう。
こうして彼は偽物は破る事ができたのだが、鏡への攻撃は届かない結果となってしまった。
苦戦
🔵🔴🔴
銀山・昭平
●プレイング
どちらを選んでも、厄介なのは変わらねぇが……おらの戦い方を考えれば、恐らく赤の扉の方なら強化されても互角程度にはなると思うべな。長期戦は厳しいべ。
◆戦闘
というわけでおらも【即席絡繰強化術】で手裏剣の威力を高めて戦うべな。
相手の攻撃の一発一発が致命傷でも、当たらなければ問題ないべ。相手の機動を【マヒ攻撃】で奪うのも狙うべな。
そして【暗殺】で偽物のおらにそっと近づいて急所を狙う……けどそれは向こうも考えてるだろうし、そこには十二分に気をつけて戦わねぇとだべ。
特に偽物の手裏剣は確実に叩き落とすべ。
※偽物の口調は、本物と同じく……ただし、欲望を満たすことに執着している感じでお願いします。
「はぁ……思ったよりそのまんまなんだべなぁ」
赤の扉を潜った銀山・昭平(田舎っぺからくり親父・f01103)は驚きと関心の両方を含んだ言葉を口から漏らした。
頭の天辺から足先まで全てが同じ存在が目の前に立っている。それも鏡の中ではなく、実在しているのだ。不思議な気持ちにならない訳がない。
ただ、外見は同じであっても、その振る舞いや雰囲気はまるで違うものであった。
「おめぇは何秒楽しませてくれるんだ? 一発で倒れるってのだけは、勘弁して欲しいべ」
豪快に笑うその姿も、確かに身に覚えがある。だが、違う。
「……当たり前だが、やっぱおらじゃないべな」
他人を不快にする笑いなど、自分が見せる訳がない。
「そらそうだべよ、『おめぇであっておめぇでない』。それがおらだべ。最も、この腕っぷしは遥かにおめぇより上だべさ」
「ガキじゃねぇんだ、おらがそうしてやったんだべ。言われなくても分かるべよ」
じゃり、と絡繰手裏剣を握る昭平。
「来い」
その一言を切っ掛けに、偽物との戦闘は突然始まった。
偽物の投げた手裏剣を昭平は冷静に見極め、まずはその一撃を避けてみせた。背後から聞こえたのは壁の崩れた音。相手の投げる手裏剣にはそれだけの力が籠められている事が窺える。
「(流石にあれをモロに喰らったら、一溜りもねぇべな)」
但し動きはある程度読めた。勝率は――ゼロではない。
昭平は一歩、また一歩と前進を始めた。偽物は笑い声を響かせながら再び手裏剣を力強く投げ付けてくる。
今度は避ける動作を行いながらこちらからも手裏剣を投げ付けた。狙ったのは偽物本人ではない、相手の手裏剣だ。いくら力の籠った手裏剣とはいえ、一度弾けば別の方向へと軌道を変えるもの。
手裏剣には手裏剣を。偽物の投げる手裏剣を一つ一つ確実に弾きながら昭平は少しずつ歩み寄る。
「なかなかやるべな! 流石はおらだべ!」
「おめぇ……おらが必死こいて弾いてるだけだと思ってるべ?」
「あン……?」
初めて偽物の表情が歪む。ふと顔を下に向ければ、視界に映ったのは足元や膝に刺さった手裏剣。弾かれた手裏剣がこちらを狙って飛んで来ていた事に気付いていなかったようだ。
「おらだけ狙ったって仕方ねぇべさ。攻撃が馬鹿にデカくてもよ、自分の身ぐらい守れなきゃあ意味ねぇべよ」
刺さった膝から瞬時に広がる痺れ。それでも偽物は手裏剣を投げ続けるが、獲物を狙う集中力がどんどんと薄れていく様子が、投げられた手裏剣の軌道から読み取ることができる。
もはや避ける事も次第に容易になってきた。昭平は最後の手裏剣を弾き返すと、次に構えたのはガトリング砲、シャーク・アヴェンジャー8。
「もうちょい頭が良いと思ったべさ、ちと悲しいべ。……ま、現実はこんなもんだべか」
にぃ、と口元を笑わせた。麻痺によって動きの鈍った偽物と、その後ろの鏡の方へ銃口が向くと、瞬時にトリガーは引かれた。
弾丸の嵐が偽物を襲う。偽物の姿が黒い影となって消えていくと同時に、美しかった鏡にも次々と傷跡が作られ醜くなっていった。
大成功
🔵🔵🔵
グラディス・プロトワン
赤の扉
もし俺の攻撃力が超強化されたら?
その答えがこの偽物…欲望のままに相手のエネルギーを奪い尽くす殺戮機械だ
今にも襲いかかって来そうな獰猛な雰囲気だな
『ヲオォ…美味ソウナえねるぎーダ…!』
こんな奴の食事になる気は無いが、これだけの攻撃力を凌ぎ切るのは難しいか
【武器受け】や【見切り】でなるべく大ダメージを受けるのは避けていきたいが、いずれ押し切られてしまうかもしれん
だが、ある程度の時間が稼げれば十分
偽物は俺を逃さないように組み付いてエネルギーを吸収してくるだろうが、試作型の身体や機構に無茶な高負荷をかけ続けたらどうなるか?
自らの制御が出来なくなれば、俺も偽物のようになってしまうのかもしれないな
もし、今とは異なる選択肢を選び、その未来へ進んでいたとしたら、自分はどうなっていたのだろうか。……くだらないと思いつつも、誰もが一度は考える事だろう。
もし自分が最強の力を求め、極め、最大限に強化されていたら。グラディス・プロトワン(黒の機甲騎士・f16655)の場合、答えはこうだ。
「オ……ヲオォ……」
変わらない外見、黒の機械兵。しかしその中身は大きく異なっている。
『飢えている』。表現はその一言に尽きるだろう。ただただ己の欲望のままに暴走し、誰彼構わず襲い、エネルギーを喰い尽くす。そんな殺戮兵器がグラディスの目の前に現れたのだ。
「ゥ……美味ソウナえねるぎーダ……!」
「……」
己の偽物を見るなり、グラディスは黙ってその姿を自身のメモリに焼き付けた。これが『あったかもしれないもう一人の自分』なのだと、忘れないように。
「……悪いが、お前に喰われる気はない」
用があるのは偽物ではない。鏡なのだ。
しかし偽物がそんな事情を理解する由もない。ただただ獲物を逃がすまいと襲い掛かる。とはいえ知性を失った動きではなく、的確に獲物を狙うその俊敏な動きを見る限り、鏡が映し出したのは姿形だけではない事が分かる。
「腐っても奴は俺自身、という事か」
大きく振り下ろされた相手のサイフォンソードを、自分のサイフォンソードで横から薙ぎ払って弾く。とりあえず防ぐ事に成功はしたが、確かに相手の腕力が超強化されている事を実感できた。これでは、少しでも力を緩めれば防御に失敗してしまうかもしれない。一瞬のミスでも許されない戦いになると見た。
「ヲォ……ショクジノ、ジカンダ……!」
偽物は攻撃の手を止める事なく襲い続け、グラディスはひたすらに重い一撃一撃を弾き、そして回避を行う。勿論、グラディスは考えなしにこのような不利な状況を長続きさせている訳ではない。寧ろ相手の攻撃を誘い、思い切り武器を振るわせているように見える。
「ショクジ、ショクジ……!」
とうとう偽物は武器を振るうのをやめ、グラディスに向けて腕を伸ばした。がっしりとグラディスの腕を掴めば、動きを封じるかのように組み付いた。偽物の体が怪しく輝き始める。これはエネルギーを吸収する前触れだ。
……しかし、一向にグラディスからエネルギーが吸収されていく様子は見られない。時間が止まったかのように誰も動かないのだ。
「……どうした、試作型。その身体が無茶な高負荷に耐えられるとでも思ったか?」
偽物は身体を点滅させたまま動かず、答えを返す事もなかった。己の欲望のままに激しい連撃を繰り返し続けた結果、目的であったエネルギーを吸収する直前にオーバーヒートしてしまったのだ。
だんまりとした偽物の代わりに、グラディスは自身の試作型E.Dシステムを発動させる。
「……美味くはないだろうが、仕方がないな」
グラディスの身体が赤々と眩しく輝く。その輝きがおさまった時には、偽物は崩れるように倒れ、その活動を静かに停止させた。
「制御の難しさは、俺も痛いほど理解している。……制御ができなくなれば、俺も偽物のようになってしまうのかもしれないな」
動かない偽物を背に、グラディスは鏡へと向かう。両手に握ったサイフォンソードを強く握り締めれば、無防備である鏡の中心に向かって深く突き刺した。
割れる音が空間中に響く。ばらりと床に散りばめられる破片。偽物は砂のように姿を消し去り、鏡もまた破片と共に闇に溶けて消えていった。
偽物として現れた存在を否定しつつも受け入れた猟兵達。一つ間違えればあのようになってしまうであろう可能性を心に刻み込み、彼らは迷宮の奥へと進むのだった。
成功
🔵🔵🔴