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我を忘れる絶品ラーメン

#UDCアース

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#UDCアース


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●すべてを過去にする美味さ
「こないだ駅前にまた店ができたわけ。1号店のオープンからそんなに経ってないはずなのに。大躍進だろ?」
 正午過ぎ、とある会社の休憩室。目の前にいる相手に向かって、背広姿の男が捲し立てていた。
 男は手遊びをしながら、相槌を打つ。ちらちらと顔色を伺いながら、店について語れる機会が来るのを待つ。相手の手が机に置かれると、彼は続きを話した。
「もちろん、美味い。博多の最先端を持ってきましたよって感じ」
 すると、男は食事を再現しはじめる。空のどんぶりにふぅふぅと息を吹きかけ、何も掴めない箸で麺を挟んで啜った。涎を飲む音がした。
「独特なんだ、クセが。俺が食通でやってるのは知ってると思うけど、その俺も唸る味。スープがさ、今までに飲んだことない味がするんだよ。麺もきっちり仕上がってて、おまけにチャーシューや薬味まで美味い。すごいよなぁ」
 食器を置くと男は腕組みをして、細い目で宙を見た。ラーメン屋での体験を記憶から取り出して深く頷いた。
 何も話しかけられていないのにもかかわらず、男は顔を相手へ戻した。
「準備? そうだなぁ。極端かもしれないけど、何も食べないことだな。ほら、空腹は最高のスパイスっていうだろ?」
 聞かれてもない質問の返しを、理由もつけてべらべらと話し出す。おそらくそういった質問が来るものと信じて疑わなかったのだろう。議論で相手を責め立てるように、男は身振り手振りまで使って激しく話題に食らいついた。
 そこへ、男の同僚が通りかかった。彼は怪訝な表情を浮かべると、近寄って男の肩を掴む。
「佐山、お前なにやってんだ?」
 ぐらぐらと揺らしてみるが、佐山と呼ばれた男は変わらず話を続けている。佐山の同僚の声が強くなる。
「さっきから自分相手になにを話してるんだよ!」
 佐山の正面には、ガラスの壁があるばかりだった。

●グリモアベース
 世界が交わる不可思議な空間のなか、木鳩・基(完成途上・f01075)は膝を抱えて項垂れていた。
 猟兵の一人が声をかけると顔を上げ、弱々しく立ち上がる。
「いや、噂としては確かめなきゃなと思うんですけど、今回はショックの方が強くて。近々行こうと思って楽しみにしてたのに……」
 不貞腐れながら、彼女は一枚のチラシを力なく猟兵へ突き出した。
「邪神絡みの噂です。このラーメンチェーン、何か裏があるみたいですよ」
 チラシを見ると、黒い器に盛られたラーメンが目に飛び込んでくる。熱気に溢れる煽り文と仕上がりの良い写真が食欲をそそる。間違いだと思えてくるほど、何の変哲もない内容だった。
 手帳を開いた基は情報を確認する。
「この店は、最近開業したばかりのラーメン屋さんです。本格博多とんこつラーメンを謳ってるんですけど、実際宣伝文句に劣ることなく絶品だそうです。どの店も開店前から行列が生まれて、新店舗ができる勢いも凄まじい。業界からも注目されてる稀代のルーキー……はぁ」
 つらつらと誉め言葉を並べているうちに、彼女の顔に悔しそうな表情が現れた。本当に何もなければ、今頃は彼女もこの味を楽しめていたはずだった。
「実は、このラーメン屋にまつわる都市伝説が流れてるんです。なんでも、あの店のとんこつラーメンは食べた人をおかしくさせるみたいです。……いや、わたしだってくだらないなと思いましたよ、最初は」
 猟兵たち何人かの刺すような視線から、基は手帳へと逃れる。
「でも、同時に妙なことも起こってまして。チェーン展開してる地域で、奇行を取る人がたくさん出てるんです。その人たち、そこのラーメン以外何も食べてなかったんですよ。何かおかしいと思いませんか?」
 異常行動について、詳細が語られる。店のラーメン以外のすべての食品を拒む他、突然行動を止めて店に向かったり、執拗に店を薦めたりする者が増加しているそうだ。なかには栄養失調で倒れる者や、暴力に及ぶ者まで現れる始末だ。
「もしかすると、背後にオブリビオンが関係してるかもしれません。なんにせよ原因を明かして、黒幕がいるならそいつをとっちめてください」
 そこまで言うと彼女は鞄から地図を広げた。店舗がある地点が円で囲まれているらしく、地図上には十数の丸が書き込まれていた。
「まずは、ラーメンに関する調査をお願いします。おそらく、何か変なものがラーメンの材料として加えられているはずです。侵入とか聞き込みとかでそれを探っていってください。方法はお任せしま――」
 はっと何かに気づいたような表情をすると、基は目を鋭くして猟兵たちを見つめた。
「実食が必要ならそうしてくれても構いませんが、間違っても美味しくいただいちゃダメですからね。絶対ですよ!」
 確実に何か異常はある。口にするのならば、警戒するに越したことはない。慌てて挟んだ注意を言い終え、彼女は息を吐いた。
「とにかく、本当に怪しいラーメンなら野放しにはできません。張り切っていきましょう!」
 手帳をポケットに入れると、両手を胸の前で合わせる。パチンと快い音が鳴った。


堀戸珈琲
 どうも、掘戸珈琲です。
 寒い季節にはラーメンが合いますね。

●最終目標
 怪奇現象の原因の特定、及び原因の撃破。

●第一章について
 ラーメンチェーンの各店舗、スタッフ、常連客を調べ、原因を追及します。
 ラーメンの味はとんこつです。実食は可能です。

●シナリオフレームについて
 第一章、第二章の冒険フラグメントの後、第三章でボス戦となります。
 第二章では儀式を阻止するために奔走する内容を予定しています。

 それでは、みなさまのプレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『とんこつ原理主義あるいは福岡よりの刺客』

POW   :    厨房や生産施設に押し入って物的証拠を探す等

SPD   :    実食して味覚や嗅覚を頼りに異物の正体を類推する等

WIZ   :    生産者や愛好者への聞き取りを行って手掛かりを探す等

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

花凪・陽
らーめん……あれ本当に美味しいよね。そんな美味しいラーメンで悪いことするのは許せないよ。しっかり事件を解決しないと。

判定:WIZ
まずはラーメンを食べた人に聞き込みをするね。
すっかり何かにやられてるかもだから、必要なら【催眠術】【誘惑】でこちらの言うことを聞いてもらうよ。
ねえねえ、あのラーメンどんな味がしたの?変な味がしなかった?

お店近くで待機して、材料を卸している業者さんにも同じように聞き込みをするね。
変わった材料を使ってない?材料を用意してるのは普通の業者さん?
もし何かまずいものが使われてたら、UDCに頼んで被害者を回収してもらうべきかな。

何か分かれば他の猟兵とも協力するよ!


バラバ・バルディ
(アドリブ、絡み、他諸々歓迎)
ほぉほぉ、“ラーメン”とな?ラーメンとは確か、あの色のついた糸のようなやつじゃったかな?……ぬぬ、わしの手と口じゃ、ちと食べづらそうじゃなあ……。
【WIZ】
しかし、気になる。気になるのう。とんこつラーメンっていうのは、そんなに美味いものなのかのぉ?……よし、これは実際に聞いてみるしかなかろうな!そうと決まれば早速店に行って張り込みじゃ。出てきたモンを捕まえて、根掘り葉掘りじっくりことこと詳しく教えてもらおうぞ!ぬははっ!楽しみ、楽しみじゃなあ~……っとそうじゃ、誰ぞが店から出てくるまで【地縛鎖】でこの辺りの情報も吸い上げとくかの。うむうむ、保険は大事じゃからなあ。



●隠れているのは
 ラーメン屋の陰に一体のシャーマンズゴーストと一匹の妖狐が身を潜めていた。
「ラーメンとは確か、あの色のついた糸のようなやつじゃったかな? わしの手と口じゃ、ちと食べづらそうじゃが……あんな行列ができるなら、よっぽど美味いのかのう」
 バラバ・バルディ(奇妙で愉快な曲者爺さん・f12139)は手許をじろじろと見た。片手には地縛鎖が握られ、魔力とともに土地の情報を吸い上げ続けていた。
 顔を正面を向ける。視線の先には、店の出入口から伸びる列があった。開店直後から繁盛しているようで、入店には結構な忍耐と時間が必要そうだった。
「うん、本当は美味しい食べ物なんだ。だから、ラーメンで悪いことをするのは許せないよ」
 ひょっこりと身を覗かせ、花凪・陽(春告け狐・f11916)は言葉を返す。正義感による緊張顔で出入口を凝視していると、内側からドアが開いた。
 店から出てきたのはカップルらしき若い男女の二人組だ。会話も交わさず、ふらふらとこちらとは反対の方向に歩いていく。
 視線を合わせて頷くと、二人は店の陰から足を踏み出す。早歩きでカップルの前へ回り込み、立ち止まって道を塞いだ。
「ねぇ! あのラーメンどんな味がしたの? 味に特徴とかってある?」
「美味いんじゃろう、とんこつラーメンとやらは。わしらに教えてくれんかのう?」
 次々と放たれる質問に、カップルは虚ろな顔つきから覇気を取り戻して饒舌に語り出す。おそらく、『布教』のチャンスだと思ったのだろう。
「あそこのラーメンは風味がちょっと違うんだよ。スープは濃厚で深いけど、全然くどく感じないし」
「麺もいいわよね! 噛めば噛むほど、旨みが引き出されるっていうか!」
「それじゃあズバリ、何が入ってるの?」
 陽の問いに、彼らはうーんと首を捻った。
「……それはわかんないかな。でも美味しいのは間違いないから、君たちも食べてみるといいよ!」
 何かを隠している様子は見られない。味覚に精通していない以上、スープの内容物を答えさせるというのは無理な話かもしれない。
 行き詰まりを感じる二人だったが、一台のトラックが店の駐車場に入っていったのを見て目の色が変わる。従業員入口の近くに停まったことから考えて、追加の材料を搬入しに来たトラックだろう。
「バラバさん、あっちに行こう!」
 バラバに先駆けて、陽はトラックへと向かう。
「承った! まあ、あの業者からいろいろ詳しく聞かせてもらおうか。楽しみじゃなあ~……!」

 ちょうど荷卸しにかかっていた運転手を見つけると、陽は質問を投げかけた。
「あの、すみません。この店の材料で変わったものってあったりするかな?」
 突然声をかけられ、運転手はしばらく面食らっていた。
「そう言われても、こっちも仕事ですからね。機密があって――」
 もっともらしい理由で反論しようとするが、唐突にそんな気が心から消え失せる。彼の顔にはぽかっとした表情が浮かんでいた。
「できれば、教えてほしいんだけど……」
 間髪入れず、陽がもう一押し。妖狐が発する誘惑的な魅力に勝てなかった彼は、うっかり口を滑らせた。
「前にちらっと見えたんですけど、パサパサになった草とか、黒い石の入った瓶とかがありましたね。……あと、鳥の頭蓋骨みたいなのも」
 とんこつラーメンの材料には不自然そうなものが並ぶ。こだわりのある調味料なのかもしれないが、少なくともそれで採算が取れるとは思えない。
「ふむ、まるで古い時代の薬の材料みたいじゃな……」
 顎に手を添えて一考すると、バルバは陽へと向いた。
「陽嬢。まだ予測じゃが、この事件の首謀者はわしの同類かもしれぬ」
「……どういうこと?」
「実は、わしが地縛鎖で情報を集めているとき、わしの魔力に近い力を感じ取ったのじゃ。単に偶然かと思っていたが、この世界で時代錯誤な珍品を混ぜているならそうかもしれん」
 敵は、魔術に長けたシャーマンズゴースト。その可能性を、バルバは俯いて呟いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ブランシュ・シコ
【SPD】
ラーメンっていうんだ。
食べた事ないけど、ほんとはおいしい食べ物なんだろね。

ブランシュはね、ラーメン美味しく食べてみようとおもうよ。
ストップ、食べるだけじゃないから安心してね。

『フライング』はブランシュから削った時間の分だけ未来を予知できるの。
だから……ええと、予知で見た佐山さん?
佐山さんがラーメンを食べてから、幻覚みるようになった時間だけ
ブランシュの時間を削って未来を見る。

ラーメンを食べたら猟兵でもどうなるのか、わかるとおもうし……
『フライング』をやり直せば、ラーメンを食べ直してどの部分が体に悪いのかを調べられるとおもう。

おなかすいてるのにひどいよね。たべてもたべてないんだもん。


ユキ・パンザマスト
オブリビオン絡みの拉麺の調査ってんなら、実食してみましょうかね!
こちとら口内体内に刻印あるんで、多少の無茶は通せる身です。
最近は塩ラーメンに嵌まってますが、とんこつも良いものですよね!

食通が今まで飲んだことのない味っつースープを中心に、麺も具材も良く噛んで、正体判じてみましょうか。
オブリビオンやUDCが直接与える影響ならば、舌や上顎、下腹の刻印が処理、軽減をしてくれるでしょう。
野生の勘を働かせて、刻印でも対処しきれねえ害だ、と感じた場合、
忠告に従ってその時点で切り上げましょうか。
が、刻印使えば害にならないなら、大食いで完食しちまいます!
喰えないものは喰わないけれど、喰えるものならば残さず喰う!



●非実食、実食
「店員さん、とんこつラーメンをお一つお願いします」
 それを聞くと、店員はきょとんと戸惑った顔をした。テーブル席の彼女らへと注文を聞き直した。
「ブランシュはだいじょうぶ」
 二人組の片割れであるブランシュ・シコ(白い人狼・f12074)が強く答えると、再び店員は困り顔になった。不可解ではあるが渋々了承し、端末に打ち込んだ情報を繰り返し確認してからどこかへと引っ込んでしまった。
 対面に座るユキ・パンザマスト(暮れ泥む・f02035)の狼の耳が、好奇心でひそひそと揺れる。ラーメンだと最近は塩が彼女のブームだが、とんこつもそれはそれで良い。ラーメンの到着をそれなりに楽しみに待つ。
 テーブルの端をトントン叩き、なんとなく時間を持て余したユキがブランシュに尋ねる。
「本当に何も食べなくていいんです? ま、無茶できないなら仕方ないですけど」
 質問を受け、ブランシュの狼の耳もぴくりと動く。彼女は首を横に振った。
「ううん。美味しく食べてみる。きっと、ほんとは美味しいものなんだろうし」
 ぴらりと一枚の紙を取り出す。そこにはグリモア猟兵が予知で見た、佐山という男の似顔絵が描かれていた。
 彼は確実にこのチェーンのラーメンを食べる。それを確信して頷くと、彼女は『フライング』を発動する。
 瞳の奥で、情景が再生される。器に盛られたラーメンが目の前にある。佐山の未来を追体験する、精密な予知だ。ただし、寿命を削るという大きなデメリットは存在するが。
 ちょうど、ブランシュの知りたい一幕が始まる。
 映像のなか、佐山はまずレンゲを取ると、それでスープを掬って飲んだ。旨みのある豚脂が喉を伝い、熱を保って流れていくのが感じられた。
 同時に、頭が鈍くなる感覚を覚えた。何度もスープを飲んでいたいという暗示の呪文が繰り返されるかのようだった。ぼーっと硬直し、他の物事への関心が薄れていくのがわかった。
「やりなおし」
 呟いて、彼女は仕切り直す。再度、映像へと潜る。
 ラーメン一つ食べるのにも、分岐というものはいくらでもある。食べ始める前の一点へ戻ると、今度は麺に箸を突き立てた。
 ずるずると啜る音が続く。麺の触感の近くで、またしても硬直する感覚が蘇った。
 その後、細かく具材に分けてやり直してみるが、結果は同じだ。どこを食べても洗脳される感じが佐山を襲い、それは絶対に引き離れなかった。
「どうでした?」
 一連を見守っていたユキがまた尋ねた。
 ブランシュはゆっくり目を瞑り、背もたれに身を預けた。
「どこが体に悪いのか見たけど、全部が悪いのかもしれない。どこを食べても、ふつうの人にはダメかもね」
「なるほどねぇ。全体が害なんですね」
「美味しかったけどね」
 会話の最中、ゴトンと黒い器がテーブルに置かれた。実物のとんこつラーメンだ。
「それじゃ、ブランシュさんイチオシのラーメン、食べてみましょうか」
 ユキは目を光らせ、手を胸の前で合わせた。
「いただきます」
 箸を手に取ると、ユキはまず焦げ目の付いたチャーシューを挟んで口まで運んだ。肉に染み込んだ味が舌の上で踊る。
 そのとき、浮遊感に似た不気味な心地よさがユキを包んだ。
「あー、これのことですか」
 抵抗手段が無いなら、意識はだんだんと別のものに乗っ取られるだろう。そうした直感が頭を凄まじい速度で通過する。
 ただ、このユキに敵う毒性ではないな、と彼女は心の中で笑った。
 舌、上顎、下腹。それぞれに刻まれた印が、感覚を無害なものに変換していく。刻印は赤々と、藪椿を示していた。
「このまま一気に行っちゃいましょうか」
 続けざまに麺へと箸を移し、普段の食事のようによく噛んで飲み込む。麺の裏にも、確かに毒物のようなものが含まれている。それが何かまでは掴み切れないが、どこかちぐはぐな感じがした。
 一つ一つを精査して食べるうちに、具材はなくなっていた。器を持ち上げると、彼女は口をつけたままそれを傾ける。
「はーっ、ごちそうさまでした」
 満足気に息を漏らすと、器は空になっていた。
 最終的には、ラーメンの構成すべてに毒物らしきものが混ざっているのがわかった。
「いいなぁ。ブランシュ、食べても食べてないんだもん。お腹すいてるのに」
 ユキを眺め、ブランシュが羨まし気に言った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

佐々・真子
同行:f04538

と、いうわけで今流行りのラーメン屋に一緒に行きたかったんですけどー……どうも行こうとしていたラーメン屋さん、怪しいものが混入しているらしくて、上から捜査するように言われちゃったんですよね

チガヤさんと約束していたお昼の約束がお仕事になっていてぷんむくれです

だけど、そうもいっていられないし工場とかから直接搬入している(輸送業者を介さない)材料搬入の車に影の追跡者を送り込むよ

後は私のあるかなきかのコミュ力で頑張る!

でもいざというときは、助けて、チガヤさん!
私に戦闘力を期待しないでね
逃げ足は自信あるんだけどね

チガヤさんがラーメンから離れられなくなったら精神鑑定(物理)だよ


チガヤ・シフレット
同行:f12501

っくぅ、せっかく真子と食べに来るのを楽しみにしていたというのに……。
おのれ、邪神め。こういうしょうもないことは許さんぞ。

ともあれ調査といこう。私は細々したことは苦手なので、裏の方は真子に任せて……いざ、実食!
いや、なに、抜け駆けして食べたいとか、そういうのじゃないからな、お仕事だからな?

店内で、他の客のことを観察しながら、実際に食べてみるとしよう。
豚骨ラーメンということだが、変なものは混ざっていないかゆっくり吟味しながら。
毒物などなら耐性も多少の知識もあるからな。

真子に危機が迫れば慌てて駆け付けよう!
ラーメンにとりつかれてしまったときは……頼むぞ……。



●暴走に変わるブーム
「ったく、せっかく真子と食べに来るのを楽しみにしていたというのに。おのれ邪神め……!」
「チガヤさん、愚痴が漏れてますよ」
 通されたカウンター席で、チガヤ・シフレット(バッドメタル・f04538)は口をつぐんだ。通信機を介して、佐々・真子(無個性派女子(主張)・f12501)の声が聞こえたからだ。
 真子が待機しているのはラーメン屋の駐車場。荷卸し作業中のトラックを遠目に見ていた。
「私だってお昼の予定がお仕事になっちゃって悲しいんですよ」
 ぷくっと頬を膨らませる。それに、と彼女は続けた。
「チガヤさんはいいじゃないですか。ラーメン食べれるんですから」
「なっ、いや、これお仕事だからな? 抜け駆けとかじゃないからな?」
 焦りながら、チガヤは行動の意味を訂正する。
 そう、あくまで目的は調査だ。チガヤが店内でラーメンの調査で、真子は材料搬入のトラックの追尾。正面からぶつかっていくのが適役だからこの役目を引き受けたのだと自身を納得させているうちに、真子から新しい報告が入る。
「そろそろトラックが発進しそうです」
 荷卸しを終え、運転手が運転席へと戻っていく。
 一度深呼吸をして瞬きする。静かな声で、チガヤはぽつりと零した。
「とにかくだ。裏は任せたぞ、真子」
「わかってます」
 トラックが発進する。運転席の上には、黒い人型が張り付くように座っている。真子が召喚した影の追跡者だ。トラックから振り落とされることもなく、黒い人型は真子へと視界を伝えていた。
「今は道路を走ってます。しばらく状況は変わらなさそうですね」
「了解。こっちはちょうど来たところだ」
 呟くように話すチガヤの前に、店員がどんぶりを置いていく。並々と盛られたとんこつラーメンが熱気を発していた。確認として軽く周囲を見回してみるが、特に怪しい動きをする者もいなかった。
 いざ、実食。黙って箸を突っ込み、麺を掴んで啜る。
 スープが絡みついた麺の裏に、何か別の風味が感じられた。別班から報告のあった材料だろうか。確か、ラーメンの構成となるすべての食品に異物が混ぜられているという報告もあったか。
「催眠に用いる類いの毒物か……?」
 一旦食事をやめ、落ち着いて思考する。混入しているだろう素材が頭の片隅にちらほらと浮かんだ。前提知識の上でよく吟味して食さなければ、濃厚なとんこつスープが丸ごとかき消してしまうだろう。
「チガヤさん!」
 張り詰めた真子の声が飛び込んできた。
「トラックが高層ビルの近くに停まりました!」
 到着場所は、地域では高層建造物が並ぶ地帯のなか。ある一つのビルの傍らだった。
 真子の予想では工場に着くものだと思っていたが、そうではないらしい。ビルも運送会社のものではなさそうで、何やら格式高そうな雰囲気が漂っていた。
 近辺にあったドアが開く。ひょこひょこと、シャーマンズゴーストに似た形状の怪物が現れた。
「ここ、敵がいるみたいです」
 仲間の推測を元に、彼女は呟く。
「なら、敵の本拠地か」
「わかりませんけど、可能性はありますね」
「なんにしても、人を集めて向かった方がいいかもしれないな」
 早々に食事を切り替え、チガヤは会話に集中する。これ以上、毒入りラーメンを食べ続ける理由はない。
「真子、道順はわかってるよな?」
「はい、トラックも最短ルートだったみたいですし――」
 そこで、息を飲む声が聞こえた。
「真子、どうした!」
 彼女の危機を悟ったチガヤは席を立ち、足早に外へと向かう。粗雑に勘定を済ませるとガラス戸を押し開けた。
 一瞬、チガヤは外の光景を見て呆然とした。街の中心部の方角から、眩い光が空を縦に断ち切っていた。光は禍々しい紫色をしていた。
 はっと我に返り、真子の待機地点へ駆ける。真子は腰を抜かしてへたり込んでいた。現象に驚いただけと知り、一つ心配事が減った。
 すぐ脇で事件が発生している以上、安心などできなかったが。
 ふと、チガヤは周囲を見た。
 さっきまで列に並んでいた何割かが、光の方角へと歩いていく。店の中からも人が飛び出し、流れへと加わった。
「……吸い寄せられてる?」
 おそらく、歩き出したのはラーメンを食べた者たちだろう。
 詳しい理屈はわからないが、今はあの光を止めるのが最優先だろう。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第2章 冒険 『摩天楼を駆けろ!』

POW   :    妨害を恐れず最短距離を駆け上がる。

SPD   :    身を隠し、見つからないように屋上を目指す。

WIZ   :    警備や罠を回避する方法を考えてみる。

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●光の源へ
 突如として発生した紫の光。それに集まるように、ラーメンを食べたであろう人々が歩き出した。
 混乱の中、それでも猟兵たちは光の発生源を突き止める。
 猟兵の一人が特定した高層ビル。その屋上から光は天に伸びていた。人々もこのビルに集合しているようで、正面玄関から続々と進んでいく。エレベーターに載せられ、一気に屋上に向かうらしい。
 猟兵たちも上へ昇るため、まずは安全な侵入経路を確保する。幸い、トラックが停車した近辺のドアの警備は薄い。簡単に護衛のUDCを撃破し、颯爽と建物内へ入る。ざっと見渡して見ると、建物自体は極めて一般的なオフィスビルのようだ。
 人々を止めるには、まず屋上へ辿り着く必要がある。この先も罠や警備、または半ば暴徒と化した人々で埋め尽くされているのは想像に難くない。
 回避か、強行突破か。取る行動は猟兵たちによって千差万別だろう。
江戸川・律
【バイク】で急行
紫の光を放つ高層ビルを少し離れたところから
眉をひそめて見上げます

たく時間が無いわ!タダでさえ出遅れてるわ!!
何より、俺、ラーメン喰ってないわ!!
ホントやってられん!!

くそぅ…人が多すぎて
ちんたらしてたら間にあわねぇ…
こうなったら
ド派手!に、最短距離!!で屋上に向かってやる

えっ何するかって?
見てな今から無茶苦茶するから!!

ゴーグルを付ければ、助走距離を十分に取り
フルスロットでビルの壁に向かってアクセルをまわし
『地形利用』と『念動力』を併用した【壁走り】で
一気にビルを駆け上がっていきます

えっ普通に『念動力』で浮いて上がればいいって
ノリと勢いの派手な演出だよ

アドリブ共闘巻込みOKです



●最短経路へ
 人が減ってがらんどうの街道を、一台のバイクが喧しく疾駆する。向かい風に吹かれ、操縦者の黒いジャンパーがはためいた。
「出遅れた! 時間が無ぇ!」
 バイクに跨った江戸川・律(摩天楼の探求者・f03475)が叫ぶ。視界の端に紫の光を認め、眉をひそめながら位置の把握を続ける。着実に、目的へは接近する。
「結局ラーメン食えなかったし! ホントやってらんねぇ!」
 また大声が街に響く。件のラーメンの悔しさと焦燥感が表に流れ出ていた。
 バイクは十字路に差し掛かる。光の方向へカーブを切ろうと、身体の重心に意識を移そうとした。
 しかし、気配を感じてそれを止め、急ブレーキを掛けるに変える。車体ごと身体が前に引っ張られ、しばらくしてからどすんと停車した。
 僅かに前進して進行方向を覗く。奇怪な光を放つ建物が正面に見える。直線の道路はこちらまで伸びていた。
 けれど、一筋縄で進めそうにはない。道路は何十人もの人々で溢れ、自動車がまともに走行できるだけのスペースは既に失われていた。ちらほらと隙間は見えるが、混雑しているのには変わりない。
「ちんたらやってたら間に合いそうにないな……」
 数秒の迷いの後、エンジンを吹かす。円を描いて方向を転換すると、ビルと向き合う格好になった。
 こうなったら、腹を括るしかない。意思の現れのように、律はゴーグルを装着した。
 直後、アクセルを限界まで回す。後方への慣性を受けつつも、急発進はそれを破って前方に身体を連れていく。風だけが彼を取り囲んだ。
 車体を持ち上げてウィリーの姿勢を取ると、律は群衆の隙間を狙って突っ込んだ。
「ほら、どけどけどけ! 今から滅茶苦茶やるから黙って見とけ!」
 こちらとて、無実の人間を轢きたくはない。脅すように叫ぶと、背後からの追突物に気づいた人々は蜘蛛の子散らすように逃げ出した。操られていても、本能的な危機感は作用するらしい。
 人が避け、道ができる。即座にウィリーの姿勢を解く。フルスロットを継続し、そこを猛スピードで駆け抜ける。
 いよいよ壁は目の前に迫った。
「派手にやってやるぜ!」
 ハンドルを握り締め、律は目を瞑る。車輪に向け、空中を回転するイメージを発した。
 すると、あわや激突というタイミングでバイクの車体は宙へと浮いた。空転するタイヤをよそに、エンジン音が響いていた。
 立て続けに、壁を走るイメージを思い描く。宙に浮いたバイクは壁に着地し、そのまま平らなコンクリートの上を走り出した。
 それらを可能にしたのは、律自身が備え持つ念動力だった。
「このまま屋上まで! 最短距離だ!」
 念動力で上昇するだけでもよかったが、こういうのは勢いが大切だ。超常に超常で対抗するなら、最大限派手にやりたい。
 爆音を発しながら、律のバイクは彼を上へと運んでいった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ブランシュ・シコ
【SPD】
光だ。あれだね。
ラーメンていう餌でおびきよせた魚を釣る、竿みたいだね。

見つからないように屋上にいくのは速くてもむりかな。
目がいっぱいあったら、目がまわるくらい速くてもわかっちゃうからね。
だけどすごく速く行けば……屋上にいる何かにお知らせされる前に行けるかも。

うん、非常階段を『ダッシュ』で登る『ランナー』になるよ。
じゃまされたら走り抜けるついでにふきとばすからね。

あそだ。
ラーメン食べた魚じゃなかったヒトはエレベーターで上がるよね。
屋上の前の階でエレベーターの乗るスイッチ押して、えーと。
スイッチおしたとこのスキマに小石詰めておこ。
エレベーターはここでおわり。うんラーメン食べたヒト大丈夫。



●非常階段のランナー
 光と、集まる人。釣り上げるための竿と、ラーメンっていう餌でおびき寄せられた魚みたい。そういえば、光でおびき寄せられる魚もいるんだっけ。だとしたら、光は光なのかな。
「ま、いいや」
 ぼんやりと考えながら、ブランシュ・シコ(白い人狼・f12074)は非常階段を駆け上がる。灰色の景色を著しい速度で通り過ぎていくのに比べ、彼女の時間は悠然と流れていた。
 右足で段を蹴り、二、三段ほど抜かして左足でもう一度蹴る。それを何度も繰り返す。踊り場に繰り出すと大きく跳躍し、壁を両足で踏みつけ、バネの要領でまた宙へ跳ぶ。鋭角を描くような軌道を経て、右足で着地する。それらを重ね、ブランシュは階を上る。
 突然、視界に黒い影が映り込む。目を凝らして見てみると、シャーマンズゴーストに似た小型のUDCらしい。敵の配下だろう。物音に気づいて寄って来たのか、それはブランシュの進行路に腕を広げて立ち塞がった。
 けれど、彼女にとっては障害物ですらなかった。
「じゃま」
 床を蹴って空中で体勢を変え、両足を突き出す格好になる。加速のついた蹴りはUDCの肉体に無慈悲に突き刺さった。同時に、ブランシュは敵そのものを足場にして反対方向へ跳んだ。
 二重の攻撃により小型UDCはパチンコの玉のように弾き飛ばされ、受け身など取る暇もなく壁に叩きつけられた。
「さ、いこっか」
 ぶっ飛ばした敵に目もくれず、彼女は再び走り出した。

 いくつかの罠や監視を体当たりや蹴りで無力化しながら走るうちに、ブランシュは外の空気の匂いを感じ取った。もうすぐ屋上だ。
 そのとき、行き先から足音がした。一人ではない。十数人のまとまった足音が階段に向かってくる。
 さすがに相手はできない。ブランシュは急ブレーキをかけ、陰に身を潜める。
 活力のない音が上へ行った。推測するに、エレベーターに載せられた人々だろう。
 このまま後をつけようかと考えたところで、ある考えが浮かんだ。
「あ、そだ」
 スタートを切って駆け出すと、階のエレベーター乗り場を探す。目と鼻の先に、それはどっしりと構えていた。
 通り過ぎざまに連続でボタンを押し、複数のエレベーターの扉を開けさせる。下の階へ降りていくまでになんとか間に合ったらしい。
 ブランシュはボロ切れのような衣服のポケットから大人の親指サイズの石を取り出し、扉の溝へ順番にそれを詰めた。しばらくして扉は閉じようとするが、石がつっかえて上手く閉まらない。
「これでエレベーターは終わり。とりあえず、後の魚……ヒトたちはだいじょうぶだね」
 エレベーターを使用不能に追い込んだところで、ブランシュは後続の猟兵たちを待った。

成功 🔵​🔵​🔴​

佐々・真子
同行:f04538

せ、潜入作戦って……私、普通の高校生なのになぁ
そんな技能ないですよー……本部はこの建物の建設時の設計図を入手して回してくれないですかね

【WIZ】
本部から建設時に申請される図面を回してもらって基本設計を理解します。
その上で、普段使いする中ここを通れば不便、というルートを潰していきルートを策定しましょう。
あとはチガヤさんについていきます。

ひ、必死で足音は消そうと努力しますよ?
もちろん、臆するあまり、逆にはやるあまり足元を見ず躓くような真似はしたりしません!

ち、チガヤさん、早いです……っ


チガヤ・シフレット
同行:f12501

真子が無事でよかった。
上手く敵地も見つけてくれたしな。
あとは潜入して、親玉を叩くだけだ。協力し合って屋上まで行くとしようか!
「真子君、潜入作戦だ、抜かりなく!」

【SPD】
裏口とかがあれば一応そっちから回るとしよう。
鍵がかかっている場所は【鍵開け】で。ダメなら無理矢理壊せばいけるな?
あとは可能な限り見張りやらに見つからないように隠れつつ。
私が先行して進んでいくとしよう。【第六感】で多少は勘が働くといいのだが。

ついでに、何か情報でもないか少しくらい探してみるか?
何か面白いものでも隠されてないかなぁ。



●潜入作戦
「うぅ……ここからどうすれば……?」
 不安気な表情を浮かべ、佐々・真子(無個性派女子(主張)・f12501)はきょろきょろと辺りを見渡した。侵入には成功したが、ここが敵地であるのには変わらない。
 固まって動くまいとしている真子の肩を何者かが掴んだ。
「ひっ!?」
「おいおい……私だ。少しは落ち着け」
 チガヤ・シフレット(バッドメタル・f04538)は肩を竦め、瞬発的に跳ねてしまった真子との距離を詰めた。
「あ、ありがとうございます……」
 ほっと一息ついたところで、彼女の服のポケットが揺れた。真子はすかさず端末を取り出し、画面を何回かスワイプする。白い背景の上に線で図面が描かれている。
「何だ?」
「組織からの連絡です。……この建物の設計図ですね」
 ラーメン屋からの移動時にUDC組織の本部へ申請していたものだ。
 画像を拡大表示し、細かな点も読み込んでいく。基本設計をあらかた頭にインプットすると、書き込みツールを起動した。日常では使われていなさそうな経路をどんどんと潰していき、ルートを絞り出す。
 しばらくの時間を置いてから、真子はチガヤを振り返った。
「チガヤさん、完成しました」
 声をかけられたチガヤは端末を覗き込む。多少の分岐は残されているようだが、行くべき道ははっきりしていた。
 よし、と小さく呟き、彼女は真子に向き直る。
「真子君、潜入作戦だ。抜かりなく」
 マップとルートを記憶して、彼女は足を踏み出した。
「そんなこと言われても……。私、普通の女子高生なんだけどなぁ……」
 後方に控える真子は、また不安そうに眉を寄せた。

「ち、チガヤさん……早いです……っ」
 必死で足音を殺しながら、真子がチガヤの後を辿る。その足取りは確かで、臆したり焦ったりして躓くような心配はなさそうだ。
 ただそれでも、チガヤのペースが早い。彼女が障害物を取り除くのに時間は掛からず、てきぱきと作業をこなす。
 真子が物音を立てず慎重に移動するその先で、がちゃりと鍵のかかったドアが開く音がした。
「開いたぞ」
 チガヤは小声で真子に囁く。鍵開け道具を収納すると、少しだけ隙間を開けて移動先を覗いた。
 幅の広い廊下が見える。そこにはシャーマンズゴースト型UDCが一体、身の回りを伺いながら動いていた。油断しているのか、どこか退屈そうだった。
 相手の視線が他所へとずれた瞬間を、チガヤは見逃さない。
 ドアノブを掴んで後方へ引き、まずは身構えるだけのスペースを確保。そこからすかさず乗り出し、設置されていたインテリアの陰へと身を滑らす。静かにスライディングを決め、ぐっと壁に貼りつくような姿勢を取った。
 敵はチガヤに気づいていないようだ。
 彼女は前へ向く。だが、生じた物音により、後方を見返すことになった。
 ドアから身を乗り出した真子が状況を推し量っている。キィと、微かに金属的な音が鳴った。
 未だ、敵はそっぽを向いたままだ。それをいいことに、真子は廊下へと飛び出した。彼女なりの最善を尽くしたつもりだが、それでも動きには粗が見られた。
 危険だ。そう瞬間的に判断したチガヤは陰から姿を見せ、彼女の腕を掴んで半ば強引に物陰へと引きずり込んだ。
 気配を察知した監視役のUDCがばっとそちらを向いたのは、ちょうどその直後だった。
 チガヤは真子の口許を押さえ、荷物を抱えるような格好で時間が過ぎるのを待った。緊迫感が体を支配していく。が、それはもう慣れ切った感覚だ。
 五秒ほどが経ったとき、UDCはくるりと背を向けて元の位置に戻っていった。
「す、すみません……」
「いや、私にも落ち度がある。けど、今は突破できたことを喜ぼう」
 気を落とす真子の肩を、チガヤはぽんと軽く叩いた。
「先を急ぐぞ」
「……はい」
 気持ちを切り替え、二人は再び屋上に向かって足を進めた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

花凪・陽
いきなり人が吸い寄せられてる……まずは発生源を止めにいかないと!

判定:WIZ
とにかく冷静に、一つ一つ罠や警備をかいくぐっていくよ
暴徒化してる人たちにどの程度効果があるか分からないけど【催眠術】で動きを止められないかもためしてみるね

元々は一般的なオフィスビルなら構造自体は普通のはず
死角になりそうな部分や罠が設置しやすそうな場所、身を隠せそうな場所に検討をつけながら対策していくね
もしオブリビオンや壊せそうな罠があるなら【ウィザード・ミサイル】でどんどん壊していくね

ラーメンに変な材料が使われてたのは分かったけど……事件が解決したら被害者は全員保護して解毒しないと
これ以上酷いことにはさせない!


バラバ・バルディ
【SPD】
うーむ、やはりシャーマンズゴーストが相手じゃったか!あやつらとまともにやり合うのは、ちと骨が折れるのう……骨だけにな!ぬははははっ!
いや、すまんすまん、つい言わずにはおれなんだ。しかし、わしではあの数を相手に戦うのは難しかろうというのは本心じゃ。
その上わしはこの通り、目立つからのう!人々に紛れて進むのも無理じゃろな。
ゆえに、わしはなるべくあやつらと鉢合わせせんよう【情報収集】しつつ、皆が切り開いた道の後ろを歩ませてしよ。
ほっほっほ!安心せい、万一の時はわしも『からくり人形』でサポートするからの!

(バラバは後ろから皆を応援しつつ、こそこそついてきます。見つかったら人形で払いのけます。)



●構わず真っ正面へ
「どいてくれないかな?」
 暴徒化していたはずの男はぴくりと体を震わせると、静かに一歩下がった。まどろんだ思考にも、催眠性を伴った声は突き刺さるようだ。
 花凪・陽(春告け狐・f11916)は顔も向けず、男の脇を通る。エレベーターが停止してから、ちらほらと自力で上ってきたらしい一般人たちを見かける。対処自体は簡単だからいいものの、あの状態は異質そのものだ。
「ラーメンに変な材料が使われてたのはわかったけど……事件が解決したら被害者は全員保護して解毒しないとだね」
 これ以上、酷いことにはさせない。
 陽が正義感を心に宿す一方で、バラバ・バルディ(奇妙で愉快な曲者爺さん・f12139)が軽快に彼女を追う。
「それにしても、やはりシャーマンズゴーストが相手のようじゃな。まともにやり合うと面倒じゃが、臆せずにゴー、ストレートじゃ……ゴーストだけにな!」
 陽から、黙って白い目線が送られた。それが身に突き刺さるのを感じると、バルバは誤魔化すように笑った。
「ぬははは、すまんすまん、つい言わずにはおれなんだ。ときに陽嬢」
「今度はどうしたの?」
 呆れたようにじとっとした目になりながら、陽は振り返る。また洒落かと思っていたが、バルバの声のトーンは格段に落ち着いていた。
「この先、また罠があるようじゃ。警戒を頼む」
 握られた地縛鎖が彼に脈々と情報を伝えていた。
 バルバからの報告を受けた陽はこくんと頷き、周囲に気を配った。
 ふと、壁に埋め込まれた消火器が目についた。
「……これかな?」
 ある程度の距離を取って、片方の掌をそこへ向けた。また一方の手をそっと添えると、手から煌々と燃え盛る炎の矢が放たれる。
 緋色の矢が消火器に命中した瞬間、乾いた音と同時に爆発が起き、もくもくと灰色の煙が生じた。消火器の成分からは考えられない色だ。
「危なかった……。もしかして、爆弾?」
「センサーでボンっとなるヤツかのう。いやはや、助かったわい」
 飛び散った破片を拾い上げてじろじろと眺め、爆発音が敵を呼び寄せないうちに二人はそそくさとその場から去った。

 しばらく歩いていると、バルバが敵を感知した。情報に従って陽は角から行く先を覗いた。
 監視役と思われる配下の怪物が、廊下の真ん中に鎮座している。動く気配はなく、また意識もしっかりとしているようだ。
「どうしよう、ここを通らないとかなり遅れちゃうよ……」
 顎に手を添えて思案する陽の隣で、バルバが小さく笑った。
「陽嬢、思いつきがあるのじゃが、少しいいかのう?」
 愉快そうに言う彼は、自身のからくり人形を抱えていた。

 鳥のくちばしに似た尖った口が、ぴくりと動いた。UDCは立ち上がり、傍らに置かれた杖を取って走り出す。
 目の前で人影が動いていたのだ。通路を左から右に行った影を追いかけ、角から身を乗り出す。
 自身の体に糸が巻き付くのを、そのとき感じ取った。傍目で影が行った方向を見やる。そこにはただ、操り人形が直立していた。
「今じゃ!」
 バルバが指を曲げて腕を引き、操り糸を手繰り寄せた。締め付けられ、UDCは身動きが取れなくなる。
「私たちの邪魔をしないで!」
 陽の発した言葉の後、UDCの視界はきらりと輝きに包まれた。
 六十もの炎の矢が、UDCめがけて飛来する。触れる空気を燃やし尽くし、ごうっと唸った。
 掠っても身を焦がすような尾を泳がせ、矢は次々とUDCに中る。炎はみるみるうちに衣服へと燃え移り、息つく間も与えずにUDCを飲み込んだ。
「ナイスコンビネーションだよ!」
「ほっほっほ。そちらこそ、わしに合わせてくれてありがとうな」
 断末魔を発した敵が炎ごと消え去るのを見届け、陽とバルバは屋上へと急ぐ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『大神霊』

POW   :    大神霊分裂増殖撃
自身の身体部位ひとつを【シャーマンズゴースト】の頭部に変形し、噛みつき攻撃で対象の生命力を奪い、自身を治療する。
SPD   :    大神霊巨鳥進化撃
【大神霊としての尊厳】に覚醒して【頭部と鬣はそのままに、燃え盛る巨鳥】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    大神霊超常災害撃
「属性」と「自然現象」を合成した現象を発動する。氷の津波、炎の竜巻など。制御が難しく暴走しやすい。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は火奈本・火花です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●濃厚な永遠を君に
 各々の方法で、猟兵たちは屋上に辿り着いた。硬く冷たいコンクリートに立ち、屋上の光景を目に焼きつける。
 紫の光は、屋上に描かれた円状の魔法陣から発生していた。幾何学模様から構成されたその上には、影響されてしまった人々が倒れている。目を凝らすと、彼らの手足は徐々に鳥のようにように鋭いものに変わっていた。
「……君たちかい、こそこそ動き回っていたのは」
 魔法陣の奥で、ローブを羽織った大型のシャーマンズゴーストがこちらを見つめていた。蜜のような色で煌めく瞳にどういった感情が内包されているのか、まるで読み取ることができない。
 『大神霊尊敬教会』所属、シャーマンズゴースト型UDC『大神霊』。組織の目標である全人類のシャーマンズゴースト化を達成しようと各地で騒動を巻き起こすオブリビオンだ。
「私とて、乱暴がしたくてやってるわけじゃないんだよ。ほら、証拠に彼らの欲求を満たしてあげていただろう? 仲良くなりたいんだよ、私は」
 床に転がる一人の顔を骨に似た手で撫で、大神霊は語り続ける。
「私と同じ姿になれば、より幸せになれる。とんこつラーメンを共有しているときの彼らはとても幸せそうだったろう? それと同じだよ。彼も彼女も望んだことなんだ、これは」
 彼は素っ頓狂な説法を継続する。
 猟兵たちに向き直ると、握っている杖で床を叩いた。倒れている人々が浮かび、収容する檻が屋上の端に生まれる。風が起き、人々は檻の中へ吸い込まれていく。
「邪魔するなら、排除させてもらうよ。……彼らのためにもね」
 魔導服から蜜色のしゃれこうべを取り出して、杖を握り直す。おどろおどろしい雰囲気を纏い、大神霊は猟兵たちへと襲い掛かった。
江戸川・律
△彼の目的

爆音を響かせながら
派手に屋上に到達すれば
此方に注意を引きます

『俺参上!!』

一瞥して状況を把握
被害者が檻に回収されて居るのを確認すれば

ニヤッと不敵に笑います

ありがとう!
すげぇやり易いよ!

【早業】【全力魔術】【誘導弾】【高速詠唱】【念動力】使用

懐からルーン文字を刻んだカードを取り出せば
宙に撒き起動コマンドを口にします

一瞬でカードが燃え上がり110発の火球が円を描くように宙に舞います

さぁルーン魔術の妙技をくらいな!!

大精霊に向けて
全弾火球を投擲
当たる直前…
足元の魔法陣に向かって方向を変えます

さて魔法陣を破壊出来るかな?

アドリブ共闘歓迎です



●彼の目的は
 紫の光を挟んで、大神霊と猟兵たちが対峙する。それぞれが己の得物を構え、空気は一気に張り詰めたものになっていた。
 その最中、静寂を壊すような音が遠くから響く。
 機械類が発する、無機質だが熱を含んだエンジン音。聞き間違いだと思われた音はだんだんと大きくなり、空気の揺れすらも伝わってくる。次第に、音は怪物の唸り声に近い騒音に変わる。横殴りするような凶暴性を以てして、微かな雑音が塗り潰された。
 音が最大まで高まった直後、それは一転して活力を失う。そのとき、空中には黒い影が姿を現した。
「俺、参上!」
 バイクに跨る江戸川・律(摩天楼の探求者・f03475)が、空を背景にして叫んだ。口許は焦りにより、若干の歪みが見える。壁を走る推進力を保って屋上に飛び出したおかげで思っていたよりも大きく跳んでしまったようだ。宙ではタイヤが凄まじい勢いで空転し続けていた。
「なっ、何なんだ君は!?」
 ド派手な登場に、大神霊は目を奪われる。
 気を引くことには成功。とりあえず第一段階クリア、とハンドルを強く握りながら律は思う。彼は続けて、戦場となった屋上をゴーグル越しにざっと一瞥した。
 広い屋上の中央部には紫色の光を放つ魔法陣が描かれている。既に屋上に集合していた被害者たちは端にある檻の中だ。巻き込む心配は不要だろう。
 瞬間的な確認を済ませ、律はにっと不敵な笑みを浮かべた。
「……なるほどな。ありがとう。すげぇやり易いよ!」
 彼はハンドルを離した。同時に車体を蹴って出て、彼単体での滞空時間を延ばす。
 ばっと懐から厚いカードの束を取り出し、腕を振ってそれらを宙に撒く。空間をカードが埋めたのは一瞬の出来事であり、まさしく早業だった。表面には、射手座のルーン文字が刻まれていた。
「力ある文字よ! 俺の敵を焼き払え!!」
 起動コマンドを口にした途端、カードの端で火が起こる。数秒も経たないうちに火はカードを包み、その余勢のままくるくる回転し球に成った。発火現象はすべてのカードで発生し、総計110発の火球が出現したのだった。
「さあ、ルーン魔術の妙技を食らいな!!」
 重力に従って落下しながら、律は大神霊を指で指した。
 火球群は一斉に、彼が示した敵へと向かう。大量の熱が一直線に空気の中を過ぎ、ごうっと空気の焦げる音がした。
「派手好きなだけじゃないようだ。が、防げないことはないよ!」
 かんっと大神霊は地面に杖を打ち下ろす。すると、水の粒で構成された小規模な竜巻が彼の前で展開する。水の竜巻――火に対し、相性が良い。
 だが同じくして、律は指を下に曲げていた。火球は全弾、屋上の床へ直下した。
「誰が攻撃だって言ったよ」
 律が着地を決めた頃には、煙が屋上の中心から立ち昇っていた。それが晴れると、破壊された魔法陣が露わになる。もう光を放ってはいなかった。
 少ししてから地上を見下ろす。ビルの入口付近から人々が出ていくのが見えた。ラーメンの影響を受けただけの被害者たちは解放できただろう。……檻の中の人間たちは依然としてあのままだが。
「……面倒なことをしてくれたね」
「ただ破壊しようもんなら、絶対妨害してただろ?」
 苛立ちに身を震わせる大神霊を前に、律はにやりと笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

バラバ・バルディ
ほほーぉっ!また相も変わらず珍妙なことを抜かしおる奴じゃのう。皆が望んだことじゃと思うのであれば、このような回りくどい真似をする必要などなかろうに。そも、幸か不幸かをお主に決められる筋合いはない。分からんようなら何度でも言うてやろう、余計なお世話じゃ!

【WIZ】
以前同じような敵と戦ったときに得た知識と『地形の利用』『逃げ足』で敵の攻撃を避けつつ、仲間が時間を要する攻撃をする場合は『挑発』『おびき寄せ』『時間稼ぎ』等で注意を引きつけます。それ以外は仲間を『鼓舞』したり魔法やからくり人形で『かばう』など援護したりします。

しかし、わしもあるいはと思うと……うーむ、ぞっとせん話じゃなあ。ぬははっ!


ブランシュ・シコ
【SPD】
みつけた、わるいやつ。
うん、とんこつラーメンを食べたあとの佐山さんは幸せそうだったかもね。
でもあんな起きてるか寝てるのかよくわからないことになったらダメだよ。
ラーメンは起きてるときに食べるからおいしいんだから。

……こんな話してもいみないね。麺伸びるだけ。

『アンカー』のブランシュは『大神霊』の周りをまわるみたいに『ダッシュ』しながらつよめの衝撃波で攻撃しつづけるよ。

もしかしたら、自分があぶなくなったら嘘ついて鳥なりかけ人間をビルから落とすていうかもしれない。
それされたら怒られるから、すぐにダッシュして檻を逆の方にけとばさなきゃ。

あ。シャーマンズゴーストはトリガラじゃないの?


花凪・陽
こいつが黒幕ね……これ以上被害を出させないためにも倒しきらないと。

【フォックスファイア】を使って攻撃していくね。
【属性攻撃】として自在に操って、敵の動きを制限するようにするつもり。
大神霊超常災害撃を撃ってきても、出来るだけ私の狐火で打ち消せないかも試してみるね。

確かに美味しいものを共有するのは幸せだけど……姿かたちまで共有したいのはおかしいよ。
オブリビオンの理屈は分からないけど……。

戦闘が終わったら被害者達を回収してUDCに送ればいいかな。
元の姿に戻せるといいんだけど……。



●化けの皮が剝がれるとき
 空気中の塵を砕き、衝撃波が大神霊へと飛来する。全方位から飛来するいくつかを、自身の肉体に表出させた頭部で受け止める。だが、連続する攻撃は確実に体に傷を蓄積させていく。
「君らの中にもラーメンを食べた者がいるだろう? だったらわかるはずだ! 私が美味なものを彼らに与え、幸せを与えていたのは事実――」
「うん、とんこつラーメンを食べたあとの佐山さんは幸せそうだったかもね」
 ブランシュ・シコ(白い人狼・f12074)の淡々とした声が彼の言葉を遮った。
 未だ、彼女は大神霊を周回するように走る。竜巻のような風を巻き起こしつつ、ステップの合間に衝撃波を放つ。
 コースがどこであろうが、彼女には関係がない。削られた寿命を捧げて加速し、延々と脚を動かし続ける。それを捕捉するのは至難の業だった。
「でも、あんな起きてるか寝てるのかよくわからないことになったらダメだよ。ラーメンは起きてるときに食べるからおいしいんだから」
 未来を体験したときに見た彼は、とても虚ろだった。あんな状態では自身が幸せなのか否かも判断できないだろう。
「さっきからちょこまかと……本当にうざったい!」
 攻撃を受け続けることに痺れを切らした大神霊は、周回するブランシュの軌道上へと飛び出した。腕に自身の頭部を複製し、やがて来る彼女を待ち受けんとした。
 けれど、それは青い炎によって阻まれる。どこからともなく舞い込んだ狐火が彼の腕を炙ったのだ。十数個の炎の一つ一つが手足を的確に狙い、大神霊の動きに引っ付くように動いた。
「確かに美味しいものを共有するのは幸せだけど……姿かたちまで共有したいのはおかしいよ!」
 遠方から狐火を操りつつ、花凪・陽(春告け狐・f11916)は声を張った。
「あなたたちの理屈はよくわからないけど、本当にあの人たちは儀式を受けるのに同意したの? それに、美味しいものを提供してたって言ってるけど、だったら変なものを混ぜなくてもいいはずだよね?」
 内に秘めた正義感が、狐火と一緒に燃え上がる。矢継ぎ早に繰り出された責めるような問いの後、彼女は弱々しく呟く。
「考えを無差別に押し付けたら、少なくとも仲良くなんかなれないよ」
「うむ、まったくその通りじゃのう」
 バラバ・バルディ(奇妙で愉快な曲者爺さん・f12139)が大きく頷いた。カラカラと装飾を揺らしながら、彼は愉快そうに杖の先端を大神霊へ向ける。
「共通する美味いものを持つのと同様に共通する肉体を持とう、か。また相変わらず珍妙なことを抜かしおる奴じゃのう」
 バラバは虚ろに呟く。見覚えのある敵と変化のない思想に呆れたような表情を浮かべてから、彼は一笑した。
「皆が望んだことじゃと思うのであれば、このような回りくどい真似をする必要などなかろうに。お主自身、受け入れ難いものであることを認識しておるのではないか?」
「そっ、そんなことは――」
「図星じゃろ?」
 子どもをからかうかのように、バラバはくすくすと笑い声を漏らす。それが止むと、彼は一転して刺すような口調で突き放した。
「そも、幸か不幸かをお主に決められる筋合いはない。分からんようなら何度でも言うてやろう、余計なお世話じゃ!」
「私に決められる筋合いはない、だって?」
 ぴくりと大神霊の体が揺れた。
「この状況下じゃ、彼らの命運は私が握っているのを忘れないでもらいたいね!」
 彼が杖を掲げると、人々を閉じ込めていた檻が地面から離れた。風船のように軽々と浮かんだそれは、やがて柵を乗り越えられる高さまで昇った。
「まずいね」
 このままでは、奴が被害者たちを地面に落としかねない。
 瞬間的にブランシュが駆け出す。檻が設置された屋上の端まで距離はあるが、彼女ならそれに追いつくことは可能だった。
 大神霊はそれを見越して、属性を付与した災害を放った。
「さあ、避けられるかな? いや、そんなはずないよね。避けたりしたら間に合わないんだから」
 ブランシュの瞳に激しい閃光が映った。痺れるような音を響かせ、押し寄せるように波状で彼女に迫る。雷の津波――そういった表現が適切だろうか。
 だが大神霊の言う通り、回避行動を取って檻の人々が救えるかは微妙なところだ。ブランシュは痛みを受けてもまだ走れるはずと己を信じ、身構える。
 いよいよ到達するという瞬間、津波とブランシュとの間に何かが入り込んだ。ブランシュは視界の端にその正体を捉える。
 一体のあやつり人形と合成されて巨大になった狐火が津波を相殺していた。
「彼女だけに任せる必要もないからのう」
 バラバは操り糸を遊ばせるように弾ませてみせた。一方で、フォックスファイアを統合して災害の打ち消しを計った陽は、一度大神霊を睨んだ。
「仲良くなりたいとか言っておいて、こんな卑怯なことをやるんだね……」
 呆れたというか、諦めがついたというか。ため息をついた後、からくり人形と狐火が津波を押し殺したのを確認してから、彼女は視線をブランシュへと送る。
「ありがと」
 ぎりぎり聞こえるかどうかという声量で感謝し、ブランシュは前を向く。ばっと裏側へ回り込むと、檻を屋上へと蹴り戻す。多少威力をセーブしたおかげで、檻は戦闘には支障のない位置に落下した。
 策の失敗を受け、大神霊はくちばしの付け根に指先を添えた。
「こうなったら、奥の手を出した方が身のためのようだね」
 ぼそりと呟くと、彼は杖と髑髏を取り落とした。やがて足先から全身が炎に覆われていく。煌々とした輝きが、彼の体を埋め尽くす。
 脚は細く、体は長く。瞬く間に、大神霊は燃え盛る炎に包まれた巨鳥に変貌した。今やその原型は、頭部と鬣にしか残っていない。
「……トリガラ?」
「ぬははっ、そう考えても面白いのう。……おっと、わしは具材にせんでくれよ!」
 首を傾げるブランシュを、バラバが笑った。
 それを制するように、陽が一歩前に歩み出た。
「強化されたみたいだけど、これ以上被害を出させないためにも倒しきらないといけないよね。……皆、行くよ!」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

佐々・真子
同行:f04538

私には決定打がないんだよねぇ
私はチガヤさんが戦っている間に屋上に出ず隠れていよっと

何もしない?
いえいえ、ちゃあんと働きますよ
隠れていても状況は把握できるし干渉できますもん

シャドウチェイサーを召喚して大神霊の後ろに回り込ませます
影と一体化させて、制御が難しい大技を使用した時に実体化し足を引っ張るんですよ
くすぐっても良いですし目を塞いでも、髑髏を奪ったりとかも
本当に、妨害できるなら何でもいいんです
膝かっくんとか

チガヤさんが絶好の一撃を入れるのに良い機会があればほんの一瞬足を掴んだり目を塞いだりとかもありなのですよ

「チガヤさん、ちょっとですけど機会を作ります」
「今です!」


チガヤ・シフレット
同行:f12501

いよいよ戦いだな?
全く、旨いラーメンでのランチを変に期待させておいて、潰してくれた報いを受けてもらうとしようか!
ラーメンの旨さは共有したいが、お前みたいなものと一緒になるのはごめんだ!

全身の内臓兵器を起動して、一気に銃撃だ。
隠れている真子が気づかれないように、派手に一気に攻め込んでいこう。

【クイックドロウ】【二回攻撃】等を使って初めは攻撃回数重視で、撃ち込みまくろう。
奴が頭部変形させて噛み付いてくるなら、あえてそこを撃ちぬいてやろうじゃないか

真子が隙を作ってくれたら、一気に接敵して【零距離射撃】で威力重視でぶち抜くぞ

「ナイスアシストだ、真子!!」
「これでも喰らって吹き飛べ!」



●一撃
「チガヤさん、大丈夫そうですか?」
「ああ、心配要らない。見えてるだろ?」
 通信機を介し、チガヤ・シフレット(バッドメタル・f04538)は言葉を返す。口許だけが露出しているデザインのフルフェイスマスクからは、口角が鋭くなるのがわかった。
「見えてるから聞いてるんですよ!」
 対する佐々・真子(無個性派女子(主張)・f12501)が居るのは、屋上に出るドアの近くに隠れ潜んでいた。決定打らしい技を持たない彼女なりの選択だった。
「まぁ任せとけ。サポートは頼んだぞ」
 軽い屈伸運動と同時に、全身の内蔵兵器を起動する。改造された両手足の隙間から蒸気が排出され、淡い空に溶けていく。
 準備が完了したところで相手を見やる。
 物言わぬ巨鳥が、全身の炎の羽を紅く燃やして低空を飛行している。翼越しに空を見やる。まだ昼過ぎだというのに、空は茜がかった色に見えた。
「さて、美味いラーメンでのランチを変に期待させておいて、潰してくれた報いを受けてもらうとしようか!」
 冗談めかしてチガヤは駆け出していく。
 滞空する敵に腕を差し出すような格好を取り、腕の各部位からは内蔵された銃が展開する。対UDC装備であるアサルトウェポンが搭載された腕をもう一方の腕で支え、時を同じくして大神霊の下へ滑り込む。
 短い時間の間に乾いた音が連続して鳴る。素早い射撃により、敵の炎の肉体に銃弾が幾発も撃ち込まれた。
「真子、どうなってる?」
 チガヤは屋上の端に立つ黒い人型を見やった。真子が放った影の追跡者だ。真子自身の状況把握と戦況全体の確認のため、敵の射程外で待機しているのだった。
「効いてるは効いてるみたいですけど……あんまり有効打じゃないかもしれません」
「了解した。他の武器も試してみる――」
「チガヤさん、来ますよ!」
 真子の絶叫。ばっと後方を振り返ると、大神霊は翼で殴りかからんとしていた。シャーマンズゴーストの頭部がぷっくりと顔を出し、くちばしを思い切り開いていた。
「黙って食われるほど、私は甘くないぜ!」
 横方向へローリングしつつ、腕を相手へと突き出した。敵が真横を通るというとき、狙いを澄まして二発の銃弾を放つ。
 一発は頬に、一発は長いくちばしを折るようにして命中する。銃弾が当たった大神霊の顔は鳥に似た寄声を発すると、炎の体の中に引っ込んでいった。
「もしかすると、顔が弱点なのかもしれませんね……」
「というよりは、実体があるのが顔だけだから、というのもありそうだな」
 チガヤは一考の後、よし、と声を漏らした。
「真子、露出している頭部を狙うぞ。ここで一気に追い詰める」
「わかりました。それなら……ちょっとだけですけど、機会をつくります」
「頼んだ!」
 再度、チガヤは走り出す。腕を構え、銃を滅多矢鱈に発砲する。大神霊はチガヤに注目し、何回か飛び掛かるような攻撃を繰り返した。
 冷静に攻撃を回避する中、チガヤは大神霊の奥に視線を飛ばす。真子が操る影の追跡者が、大神霊の背後にぴったりとくっついていた。
 大神霊は頭を下げ、翼で何かを包むような姿勢を取った。目を凝らして見てみると、翼の内側では炎が起こり、それが渦を巻いていた。炎の竜巻、とでも呼べるだろうか。炎は力を増していき、燃焼する音が距離を取っているこちらにも聞こえた。
「真子!」
 チガヤの合図を頼りに、影の追跡者が前方に躍り出る。黒い人型は静かに鳥の頭部に回り込むと、鬣から顔によじ登って片目を覆い隠した。
 当然、大神霊は暴れ回る。ただ目を塞がれたことに怒っているだけでなく、内側で形成していた炎の竜巻が暴走しているのだ。
「今です!」
「ナイスアシストだ、真子!」
 真子がつくった絶好の機会。これを逃す手はない。
 チガヤは床を蹴り、大きく跳躍して銃口を携えた腕を敵の顔面に突きつけた。最大火力が、彼女の腕の中で唸っていた。
「これでも食らって吹っ飛べ!」
 鈍い音が響いた。
 大神霊は火花をあちこちにまき散らしながら、緋色を空気の中へと霧散させていった。


 猟兵たちの活躍により、ラーメン事件の被害者は全員が確保され、UDC組織へと輸送された。シャーマンズゴースト化していた人々も元に戻ったという。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年01月27日


挿絵イラスト