アルダワ魔王戦争7-A~終わらない舞踏会
●イミテーション・ダンスホール
時に勇ましく、時に厳かに、時に優しく。
ピアノ、バイオリン、チェロ、トランペット、アコーディオン、etc――。
様々な楽器の奏者が奏で続ける音楽に合わせて、ドレスやタキシードで着飾った多くの人々が踊っている。彼らは一様に、目元を覆う仮面を着けていた。
『楽しい、楽しいわ! ここ、すごく楽しい!』
そんな踊りの輪の中心では、不思議な色の髪を持つ少女が、仮面を着けず楽しそうな笑顔を浮かべて踊っていた。
『ここは『おともだち』がたくさんね!』
少女の目には、周りで踊る人々は『おともだち』と映っている。例えそれが、絵画の中の存在でしかないとしても。
『ずっと、ずーっと、みんなとここでおどっていたいわ』
そこは、絵画の中の作られた仮面舞踏会。
楽しい楽しい――終わりなき、ダンスパーティー。
●地下舞踏会へ
「ねえ、踊った事はある?」
集まった猟兵達に、レネシャ・メサルティム(黒翼・f14243)は開口一番、何故かそんなことを訊いてきた。
勿論、何の意味もなく訊いたのではない。
「これから話す事に、関係があるのよ」
はじまりの迷宮――第7層。
アルダワ地下迷宮最深部の中でも深層と言えるであろう一角に、幾つもの絵画が並んでいる回廊がある。
それらの絵画は、呪われた絵画だ。
通りかかった人を取り込み、中の災魔が殺すと言うトラップ。
「呪われた絵画の1つに『舞踏会』とタイトルがついているものがあるわ」
その名の通り、仮面で顔を隠した人々の舞踏会を描いた絵画。
中は絵画そのままの、舞踏会場。
「絵画の中の世界はね。描かれた絵画の雰囲気に左右される特性があるの。今回の絵画の中は、取り込んだ相手を何となく踊りたくさせる類の効果があるみたい」
そんな絵画の中にいるのは、楽の感情以外を持たない『失敗作』。
嘗て迷宮に廃棄され、そのままオブリビオンとなった少女の姿の機械人形には楽の感情しかなく、廃棄されても誰も恨まず『おともだち』を求めているそうな。
踊りたくなる絵画の中の舞踏会。
楽の感情しか持たぬ失敗作。
「害はなさそう? そうだったら良かったのだけれどね」
楽の感情しか持たぬ故に、失敗作は絵画の雰囲気に当てられ踊り続ける。
絵画の中の人々を、おともだちとして。そして、誰かが取り込まれれば、それもおともだちとして。
「ずっと、ずっと踊り続ける。その誰かが、疲れ果てて動けなくなってもね」
命尽きても終わらせない――終わらせたくない舞踏会。
まさに死の舞踏。充分に罠だ。
「だけどね。絵画の中に入ってきたのが猟兵でも、踊るなら、失敗作にとっては一緒に踊る『おともだち』になるのよ。誰かが踊っている限り、失敗作は踊り続ける」
おともだちと踊れる楽しさに、掌から蒸気を出すことも忘れて。
「だから、踊った事があるか訊いたのよ」
絵画世界の踊りたくさせる雰囲気の作用は、猟兵ならば抗う事は可能だろう。
だが、踊った方がいいのだ。踊りながら偶に攻撃するくらいなら、失敗作が踊る楽しさを忘れる事は無いのだから。
折しも、時期は他の世界ではバレンタインの頃だ。
「オブリビオン付きの舞踏会だけどね――好きなように踊ってきて?」
私は踊った事は多分ないけれど。
なんて言いながら、レネシャは猟兵達を送りだした。
泰月
泰月(たいげつ)です。
目を通して頂き、ありがとうございます。
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、『アルダワ魔王戦争』の戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
7-A『絵画展覧会』です。
今回のプレイングボーナスは『絵画世界の雰囲気に合わせた戦い方をする』です。
絵画のタイトルは『舞踏会』。
絵画世界の雰囲気は、なんとなく踊りたくなる、です。
オブリビオンは『失敗作』。
楽の感情しか持たぬ故に、絵画世界の踊りの楽しさにハマっています。
だったらこちらも踊り倒してやりましょう。
ソロでもペアでもグループでも。踊りの種類も問いません。
踊りの事はあまり詳しくないので、拘りがあるなら細かく指定して頂いた方がいいかもしれません。
どんな曲調のBGMで踊りたいとかも、著作権に引っかからない範囲でOKです。絵画の中の楽団員が何とかしてくれます。
踊りながらの攻撃は特に書いてなくても、まあ何とかなります。
丁度バレンタインの時期ですし、オブリビオン付きでもよろしければ、ダンスパーティー代わりにでもどうぞ。
プレイングは、2/16(日)8:30~でお願いします。
2/19(水)~20(木)で公開予定です。
描写人数は、再送なしで可能な限り頑張ります。
ではでは、よろしければご参加下さい。
第1章 ボス戦
『失敗作』
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POW : わたしのだいすきな『おともだち』!
無敵の【虹色の髪を持つ『おともだち』 】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
SPD : あなたもわたしの『おともだち』?
【掌から噴き出す魔導蒸気 】で受け止めたユーベルコードをコピーし、レベル秒後まで、掌から噴き出す魔導蒸気 から何度でも発動できる。
WIZ : だいすきな『おともだち』、はぐはぐ!
【掌から灼熱の魔導蒸気を噴きつつの抱擁 】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を魔導蒸気で満たし】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
イラスト:楠なわて
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠セロ・アルコイリス」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
オブシダン・ソード
【剣と帽子】
いつもの魔術師っぽいフードとマントで
これが僕の正装なので!
…いやーもちろん上達はしてるよ
うんうん、練習する機会は一切なかったけど、ほら、イメトレとかで…
周りの空気と衝動に合わせてアメリアと踊るよ
この辺りはほんと専門外だからひたすら彼女に合わせる
ジルバ?ワルツ?よくわかんないけど楽し気な音楽だと乗りやすいなぁ
無理に敵の方はみないで、対応もアメリア任せ
――えっ何その大技、決まったらかっこいいけれども
わかったよ、やってみよう。いや実際君は軽いと思うよ、ほんとほんと
彼女を持ち上げてくるっとターン
遠心力に負けないように、円を描かせてあげる
決めの一撃で足りなそうなら僕も合わせて蹴り付けにいくよ
アメリア・イアハッター
【剣と帽子】
ドレスでしっかりお洒落して、皆でダンス、舞踏会!
ふふ、ダンダン。前にも一緒に踊ったことあるけど、覚えてる?
あれから上達したか、見せてもらおーかな
手を差し出して、舞踏へのお誘いを
基本的には私が主導して、2人で手を取り社交ダンス
足さばきに注意してゆっくり教えながらステップステップ
楽しく笑顔で踊りながら、さりげなーく敵の近くへと寄って行こう
少しずつテンポアップしていって……ちょっと大技やってみようか
私を持ち上げて、くるっと回ってちょうだいな
大丈夫大丈夫、わたし軽いから! 軽いよね?
敵の側で回してもらい、その勢いも乗せたままUCを発動
回し蹴りを決めちゃおう!
勢いそのまま回ってバトンタッチ!
●剣と帽子
「ダンダン、覚えてる?」
「ん?」
アメリア・イアハッター(想空流・f01896)に問われて、オブシダン・ソード(黒耀石の剣・f00250)が目深に被った魔術師然としたフードの中で目を瞬かせた。
オブシダンがアメリアと何処かに出るのは、これが初めてではない。
だから、いつの事だろうと言う疑問がよぎって――。
けれども、オブシダンがそれを口にする前に彼の中で疑問は消えた。
絵画の中の舞踏会と言うこの空間。そしてフィッシュテールの赤いドレスと帽子に羽根飾りをつけたアメリアの姿を見れば、答えは自ずと出る。
「前に一緒に踊ったことだね」
「そうそう。あれから上達した?」
その答えに満足そうに笑みを浮かべて、アメリアはフードの中のオブシダンの顔を覗き込むように上目遣いで訊ねる。
「……いやー……もちろん上達はしてるよ?」
している筈である。あれだけトレーニングしたのだ。オブシダンの頭の中で。所謂、イメトレと言うやつである。
実際に踊って練習する機会なんて――なかった。
そんなオブシダンの胸中を見抜いていたのだろうか。
「ふふ。それじゃ、見せてもらおーかな」
アメリアは笑ってオブシダンの両手を取ると、踊りの輪の中へと入っていった。
「ダンダン、曲調どうする?」
「ジルバ? ワルツ? よくわかんないけど楽し気な音楽だと乗りやすいなぁ」
この答えの時点で、踊り慣れてないのがバレバレだったりするのにオブシダンは気づいていただろうか。
「じゃあ、3拍子の軽快なのおねがーい!」
しかしアメリアはそこを追求せず、周囲の楽団へと声を張り上げる。続いていた音色のリズムと音色が、ほどなくリクエスト通りのものへと変わっていった。
「じゃあ、ダンダンはまず左足からね」
ステップの説明をしながら、手を引きゆっくりと踊るアメリアに、オブシダンもたどたどしくも素直について踊る。
「ダンダンはそこでストップ。で、私がスピンから背中に回って」
アメリアが楽しそうに笑って回れば、ドレスのスカートが花咲くように広がる。それを支えて背後に回ったオブシダンのマントの裾も、ふわりと広がる。
次第にオブシダンも拙さが消えて、2人の踊りのテンポが曲に合わせて上がる。軽快に靴音を鳴らしながら――次第に失敗作へ近づいていく。
丁度、他の猟兵達に見とれているようで、踊りも忘れて固まっていた。
『ねえ――あなたたちも楽しい?』
2人に気づいた失敗作の声に、警戒の色などまるでない。
「ええ、楽しいわよ。ね、ダンダン?」
「そうだね。楽しくなってきた」
そんな2人の答えに満足気に頷くと、失敗作はまた踊り出した。
「そろそろ頃合いね。私を持ち上げて、くるっと回ってちょうだいな」
その様子を見たアメリアが、小声でオブシダンに告げる。
そうしたら、蹴り入れるから、と。
「――えっ何その大技、決まったらかっこいいけれども」
「大丈夫大丈夫、わたし軽いから!」
フードと前髪で相変わらず瞳は見えねど驚いたと判るオブシダンの反応に、アメリアは笑って返す。
「――軽いよね?」
そこが気になって念を押してしまうのは、乙女の性と言うものだろう。
「わかったよ、やってみよう。いや実際君は軽いと思うよ、ほんとほんと」
じっと見てくるアメリアにこくこく頷いて、オブシダンはその両手を少し強く握る。
そして、オブシダンは靴底をダンッと鳴らして力強くステップを踏むと、繋いだ両手でアメリアの身体を引っ張り上げた。
合わせてアメリアも、両足で石畳を蹴って跳んでいた。
浮き上がったアメリアの身体にかかる遠心力に負けないよう、しっかりと手を握ってオブシダンがくるっとターン。
「ちょいさ!」
――空蹴。
アメリアの足先が、円弧を描く。
『!?』
吸い込まれるようにアメリアの靴が、そこにいた失敗作を蹴り飛ばした。
メギョッと鈍い音がして、失敗作が吹っ飛んでいく。
それを横目に見ながら、オブシダンは今度は遠心力に少し逆らってターンの勢いを殺しながら、アメリアを安全に着地させる。
その直後だ。
『なにっ? なにっ? いまのすごい踊りね! 楽しい!』
相変わらずの楽しそうな顔で跳ね起きた失敗作が、はしゃいだ声を上げたのは。
「取り敢えずは、このくらいにしといた方がいいかな?」
必要ならば自身も蹴りで追撃を考えていたオブシダンだが、失敗作の様子と開いた距離を見て小声で呟く。
「そうね。折角だから、もう少し踊って様子をみましょ」
アメリアもひとつ頷くと、再びオブシダンの手を引いて踊りの輪へ戻っていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
フォルセティ・ソルレスティア
【ペア/f00964】【SPD】(連携・アドリブ可)
「仮面付けると、ちょっと雰囲気変わるよね」
フィオ姉ちゃんと仮面舞踏会に参加だよ。もちろんタキシード着用だね。
【行動】()内は技能
(楽器演奏)で培ったリズム感で、(ダンス)のステップを踏んでいくよ。
フィオ姉ちゃんがリードしてくれるから安心だし、何より息ぴったりだもん。
「むー、そんなことしないよ。…うん、分かったよ」
ステップで失敗作に少しずつ接近していくね。
ナチュラルスピンターンを決めた後に、流れの中で(高速詠唱)でクラロ・デ・ルーナを放つよ
その後も自然にワルツを踊り続け、失敗作が踊りや睡魔で混乱している隙にドンドン攻撃を重ねるんだ!
フィオリナ・ソルレスティア
【ペア/f05803】【WIZ】(連携・アドリブ可)
「あら、フォルセティは中々似合っているわよ?」
フォルセティと一緒に仮面舞踏会へ。ワルツで優雅に踊りながら戦う。
■気持ち
弟と踊るのが嬉しいけど、そんな素振りは全くみせない
■行動
弟と[手をつなぎ]華麗にステップを開始
優雅にターンをしながら[ダンス]を楽しみ優しくリードしていく
「足踏んだりしないでね、フォルセティ。…ターンの合間に攻撃して」
ステップを踏みながらさりげなく失敗作に接近し、こっそり髪飾りに手を当て
【眠れる森の美女】で睡眠電波を拡散。失敗作が睡魔に抗う隙に弟に攻撃させる
「いいわよ、その調子」
直ぐに電波を止めて踊りながら距離をとっていく
●仮面姉弟
「仮面付けると、ちょっと雰囲気変わるよね」
そう言うフォルセティ・ソルレスティア(星海の王子様・f05803)の雰囲気は、普段の彼を知る者からすれば、ちょっとどころではなく変わっていた。
絵画の中の踊り手たちに合わせて目元を覆う白い仮面を着けているから?
それもある。それ以上に違うのが――びしっと決めた黒タキシード。普段の少女と見紛うフォルセティの恰好とは、あまりにも異なる。
「あら、フォルセティは中々似合っているわよ?」
そう返したフィオリナ・ソルレスティア(サイバープリンセス・f00964)も、普段の学園服ではなく銀糸で彩ったドレス姿である。
――弟と踊れるのが嬉しくて、つい服装まで気合が入ってしまっていた。
「それじゃ――そろそろ行くわよ」
「うん」
なんて内緒の話は目元を覆う黒い仮面で隠して。フィオリナはフォルセティの腕に自分の腕を絡めると、踊りの輪へ加わっていった。
ソルレスティア家は、代々宮廷魔術師を輩出してきた家系である。
その次期当主であるフィオリナは、こうした社交の場での作法は身についている。その中には――ダンスも含んでいた。
一方のフォルセティもダンスは嗜んでいるが、それ以上に高いレベルで楽器演奏の技術を持っている。音楽的な素養は十分と言えよう。
故にか、ソルレスティア姉弟のダンスは、次第に早いリズムになっていく。
「足踏んだりしないでね、フォルセティ」
「むー、そんなことしないよ、フィオ姉ちゃん」
自然とリードする側になっていたフィオリナの言葉に、フォルセティがぷぅと軽く頬を膨らませた。
弟のそんな表情に思わず緩みかけた口元をキッと結んで、フィオリナはステップを踏んで優雅にターンしてみせた。ドレスの裾が、ふわりと広がる。
その手を支え、ターンを終えた姉の手をフォルセティが引き寄せる。
フォルセティとて、姉のリードには安心している。
ただ、ああ言われるとちょっと面白くないだけで。
すっかり2人の世界だが、2人とも姉弟水入らずで踊っているだけではなかった。
「……私が眠らせるから。次のターンの合間で攻撃して」
「……うん、分かったよ」
ひそひそと、顔を寄せてタイミングを確かめ合い、横目でちらり。
そこにいるのは、一人でも楽しそうにくるくると踊っている失敗作。悟られないよう踊りながら、十分に間合いを詰めた。
フォルセティから片手を離すと、フィオリナは髪飾りに手を伸ばす。
――夢の中で逢いましょう。
フィオリナが胸中で呟いた直後、失敗作の足が絡んでもつれた。
『あら? ――?』
つんのめって踊りを停めた失敗作が、そのまま固まる。その表情は楽し気に笑ったままで、瞳も開きっぱなしで固まっていた。
眠れる森の美女――プリンセサ・ドルミエンテ。
フィオリナの髪飾りから放たれる、指向性を持つ電波。それは生物無生物問わずに意識を睡眠状態へと落とす眠りの業。
その力でフリーズした失敗作に、2人は片手だけ繋いだナチュラルスピンターンでさらに距離を詰める。
「放て」
すれ違いざま、開いた掌を向けてフォルセティが短く告げた。
放たれる閃光と衝撃――クラロ・デ・ルーナの高エネルギー波の直撃を食らった失敗作の身体が、宙を舞う。
『ふわっ!?』
同時に、フィオリナは髪飾りから手を離して眠りの電波を解除していた。
『なに、いまの? ぴかーっってしてどーんって! すごいダンスね!』
受け身も取らずに落ちた失敗作だったが、興奮した様子で目を丸くして跳び起きる。今の攻撃も、踊りの一環と思っている様子だ。
「いいわよ、その調子」
「フィオ姉ちゃん、なんで? ドンドン攻撃して――」
逸るフォルセティの手をぐいと引いて、フィオリナは近くに引き寄せる。
「焦らないでフォルセティ。この距離だと、普通に攻撃とみなされるかも」
フォルセティのクラロ・デ・ルーナであれば、気づかれた所で避ける暇などない。フィオリナのプリンセサ・ドルミエンテも、この距離でも届くだろう。
だが、そこまで焦る必要はない。まだまだ舞踏会は続くし、他の猟兵達もいるのだ。
「この調子で次を狙うの。だからもう少し、踊ってよ」
「わかったよ、フィオ姉ちゃん」
確実な次の攻撃の機会を得る為に。フィオリナは頷いたフォルセティの手を引いて、再び踊りに戻っていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
鎧坂・灯理
【双龍】
なんか前にもこういう戦場あったな……キマイラフューチャーだったか?
ダンスなら踊れる これでも名家の出だよ
家からすれば失敗作らしいが はは、ちょうどいいな
踊ろう、メアリー 私の手を取って
演目はワルツ 彼女の右手をとり、左手を背に回す
滑るように移動し、常に動く先へ顔を向け、立ち止まる時は彼女の顔を見る
回転する際には握った手を上へ、足はつま先に力を込めて
エスコートする女性に決して無理をさせないのが重要だ
柔らかく、静かに、メアリーの美しさを引き立てる様に踊る
貴様に彼女の手を取らせる気は無いよ
蒸気も邪魔だ 彼女が見えにくくなるだろう
舞台は私が用意するさ 引っ込んでろ
ヘンリエッタ・モリアーティ
【双龍】
踊っていい仕事なんてラッキー!
踊りはそりゃもう、商売柄ね。「会議は踊る、されど会議は進まず」ってねぇ
私もきょうだい(人格)の中じゃ失敗作って今でも思う。そう言われてたし
でも、灯理とおそろいならいいかなって思うの!寂しくないもの!
灯理の手の上に恭しく手を置いたのなら【社交界の薔薇】で盛大なドレスを
二人で踊るのはワルツ――あら。ちゃぁんとエスコートが何か知ってるのね
脚を踏まないように、歩幅は狭く、導かれるまま
華になるのは私だけど、灯理のしなやかさも魅せていかないと
――「旦那」は立てるものだから。
アー、ごめんなさい
灯理のそばでしか踊れないの
――失敗作(おひとりさま)にかまってあげられないわぁ
●双龍円舞
絵画の中の舞踏会。
「本当に皆踊ってるわね。踊っていい仕事なんてラッキー!」
その踊りの輪の中に、既に他の猟兵達も加わっているのを見て、ヘンリエッタ・モリアーティ(円還竜・f07026)が心なし弾んだ声を上げる。
「前にもこういう戦場あったな……」
ヘンリエッタの後に続きながら、鎧坂・灯理(不死鳥・f14037)はここではない別の世界でみたとある戦場を思い出していた。
とは言え、似て非なる戦場だ。かつての様に観客を湧かせる必要はなく、ただ純粋に踊りを楽しんでもいい。
何より最も大きな違いは――今日の灯理にはダンスパートナーがいる。
「前にも? じゃぁ、踊れるのね?」
その声に考え事から引き戻されれば、ヘンリエッタがどこか面白がるような笑みを浮かべて灯理を見ていた。
もしかして、知られているのだろうか。
その別の世界の戦場の時、灯理がダンスを仮面執事に任せていた事を。
「勿論だとも。メアリーは?」
そんな内心はおくびにも出さず、灯理はヘンリエッタに訊き返す。
「そりゃもう、商売柄ね。『会議は踊る、されど会議は進まず』ってねぇ」
返ってきたのは、そんな答え。
踊りは踊りでも、意味は違う。けれども灯理は小さく笑みを浮かべて、ヘンリエッタへと手を伸ばした。
「踊ろう、メアリー。私の手を取って」
「――はい。喜んで」
灯理の掌の上に手を置くと同時に、ヘンリエッタの姿が変わる。絢爛豪華ながら足の動きを妨げない真紅のドレスへと。
社交界の薔薇――グランギニョルローズ。
戦闘力も高める業だが、ヘンリエッタは灯理との踊り着飾る為だけに、惜しげもなくその力を行使していた。
――着飾るのは、「旦那」は立てるものだから。
――タン、タン、トン。
ワルツの音楽に合わせて踊る2人の足音が重なる。
灯理の手がヘンリエッタの手を取り、反対の手を背に回し支えた状態で、脚を踏まないように歩幅を合わせて滑るように移動する。
「……」
動く先へ向けていた顔をヘンリエッタに向けて立ち止まる合図を送れば、ヘンリエッタはさらに視線で何かを返してきた。
答えの代わりに、灯理は爪先に力を入れて足を止め、手を握った腕を軽く掲げる。
ヘンリエッタがくるりと回れば、ドレスのスカートが薔薇の様に広がった。
「ちゃぁんとエスコートが何か知ってるのね」
「これでも名家の出だよ」
笑って囁くヘンリエッタに、灯理が目を細めて返す。
エスコートする女性に決して無理をさせない――重要な基本を、灯理の動きは忠実に守ったものだ。
「尤も――家からすれば失敗作らしいが」
「なら、おそろいね」
自嘲的な寂笑を浮かべた灯理の右目を覗き込み、ヘンリエッタは笑って告げた。
「私もきょうだいの中じゃ失敗作って今でも思う。そう言われてたし」
ヘンリエッタのいう『きょうだい』は自身の中にいる、他の人格。
一つの脳は四人分。その中でも優劣があるのなら――名家故の灯理の労とは違うものがあるのだろう。
「でも、灯理とおそろいならいいかなって思うの! 寂しくないもの!」
それでもヘンリエッタは、おそらく灯理にしか見せないであろう笑顔で笑ってみせていた。だって、「旦那」は立てるものだから
「はは、ちょうどいいな」
笑み返して灯理が止めていたステップを再開すれば、ヘンリエッタもそれに続く。
灯理はヘンリエッタの美しさを引き立て華と咲かそうと。
ヘンリエッタは灯理のしなやかさを魅せていこうと。
互いに相手を引き立てようと、2人は踊り続ける。
柔らかく、静かに。
『すごい……楽しそう……』
その動きは、失敗作に瞳をキラキラと輝かせ釘付けにさせる。
それでも――それ以上に、見つめる以上に近寄らないのは、近寄れないからだ。
「舞台は私が用意する」
誰が為の戦場――アシンメトリー。
戦場を書き換える、灯理の術。この絵画世界全てを上書きする事は出来ずとも、2人の踊りに邪魔が入らないようにする程度ならば充分可能だ。
「メアリーが見えにくくなるから、引っ込んでろ」
「アー、ごめんなさい。灯理のそばでしか踊れないの」
『いいの! みてるだけでも、楽しそうだから!』
自信を失敗作と笑った2人のダンスを、おひとり様の失敗作は、その輪に入れずとも楽しそうに眺め続けていた。
他の猟兵の攻撃が飛んできて、吹っ飛ばされるまで。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ラフィ・シザー
アナンシ(f17900)と
仮面舞踏会かぁ…踊るのは大好きだけど舞踏会にはパートナーが必要だよな?
という事でアナンシ。よろしくな!
アナンシは踊った事はある?
あるとしてもアナンシなら男性役だろうから俺が女性役をするぜ?
アナンシは背も高くてカッコいいから男性役の方が似合うしな!
それじゃあ俺は衣装も少し変えて…。
よし、これで準備完了♪アナンシリード頼むぜ!
ゆったりとダンスを踊りながら目的のオブリビオンに近づいて。【ダンス】【礼儀作法】
ふふ、踊りながら戦うのは慣れてるからな。
さぁ、少し激しいダンスになるがオブリオンの君も踊ろうじゃないか!【挑発】
UC【Dancing Scissors】!!!
アナンシ・メイスフィールド
ラフィ君f19461と
舞踏会かね
上手く踊れるか解らないけれども…精一杯お相手させて貰うのだよ
そうタキシードを身に纏い手を差し出せばワルツの音楽にあわせラフィ君とステップを踏もう
記憶の限り踊った事はない筈なのだけれども…記憶を失う前の私には経験があったのかもしれないね
自然と動く体に少々驚きながらラフィ君と敵へ近づけば至近から視線を向け【贄への誘い】
地から生じた蜘蛛の足にて敵の動きを止めんと試みよう
ふふ、ラフィ君が君と踊りたいと言うのだよ
踊ってあげてはくれないかね?
そう笑みと共に『早業』で剣を引き抜けば敵の急所を狙い『暗殺』を試みよう
楽しい時間は終わりなのだよ
さあ、骸の海に還り給え
●蜘蛛が誘い兎が踊る
優美ながらリズムのはっきりとした音楽に合わせて、踊る人々。その中には、既に他の猟兵達の姿もある。
「これは、舞踏会かね」
「ああ、仮面舞踏会だな」
首を傾げたアナンシ・メイスフィールド(記憶喪失のーーー・f17900)の隣で、ラフィ・シザー(【鋏ウサギ】・f19461)がこくりと頷く。
「俺、踊るのは大好きなんだ。けど舞踏会にはパートナーが必要だよな?」
「ふむ。一人で踊るダンスと言うものもあった気がするのだが……」
もの言いたげに見上げるラフィの視線を浴びながら、アナンシは顎に手を当てて、考え込むように呟いた。
「あれ? アナンシ踊った事ある?」
それを聞いたラフィが、目を丸くする。
「……覚えている限りでは、ないのだよ」
問われてアナンシも、あの日の海沿いの街まで、覚えている、遡れる限りの記憶を探ってみたが、踊った経験と言えるものは思い出せなかった。
「経験はないが、ラフィ君の言わんとすることは判っているよ」
そう言うとアナンシは、いつも羽織っているインバネスコートを脱ぐと、代わりに何処からともなく出てきたタキシードを羽織った。
「それじゃあ俺は衣装も少し変えて……と」
それを見たラフィは、裾丈の長い上着を手に取る。
「ラフィ君も着替えるのかね?」
「ああ、俺が女性役をするよ。アナンシは背も高くてカッコいいから、男性役の方が似合うしな!」
首を傾げたアナンシに、ラフィが笑顔で返す。
元々ラフィが細めなのもあって、いつもの執事の様な出で立ちの上に裾丈の長い服を羽織っただけで、遠目には小柄な女性と思えるシルエットになりそうだ。
「よし、これで準備完了♪ アナンシ、リード頼むぜ!」
「上手く踊れるか解らないけれども……精一杯お相手させて貰うのだよ」
アナンシが差し出した手を両手で取ると、ラフィはぐいぐいと引きながら踊りの輪の中へ入っていった。
入りこそラフィが腕を引いていたが、踊り始めればその立ち位置は逆転した。
ゆったりとした曲調に合わせて、リードしているのはアナンシの方だ。ラフィが軽やかに踏むステップにも、遅れる事無くついていく。
「アナンシ、本当に踊ったことないの?」
「記憶の限りはね……記憶を失う前の私には経験があったのかもしれないね」
目を丸くして訊いてくるラフィーに、アナンシが微笑を浮かべて頷く。
アナンシ自身、少なからず驚いていたのだ。どう考えても記憶には無いのに、いざ踊ってみればこの身体は自然と動いているのだから。
身体が覚えている、と言う類であろうか。
だとしたら――もしかしたらアナンシの失った記憶には、身体が覚えるほどに踊った経験があったりする、のかもしれない。
「そういうラフィ君こそ、慣れているようだね」
戻らない記憶は棚に上げ、アナンシは目の前のダンスパートナーに意識を戻す。
「ふふ、踊りながら戦うのは慣れてるからな」
そう笑って返しながら、ラフィはちらりと横目で視線を向けた。
アナンシも、視線だけで頷き返す。
『ねえ、おどらない? きっと3人でおどっても楽しいわ!』
踊りの楽しさに捕らわれた失敗作の方から2人に気づくまで、近づいけていた。
「いいぜ! 少し激しいダンスになるが、君も踊ろうじゃないか!」
『うん! おどりましょ!』
ラフィが挑発的な笑みを浮かべて告げれば、失敗作は目を輝かせて近づいてくる。
「そうそう。ラフィ君が君と踊りたいと言うのだよ。警戒せず此方へ来てくれ給えよ」
そんな失敗作に視線を向けて、アナンシはアイスブルーの瞳をすっと細める。
『わぁ!? なーにこれ?』
次の瞬間、失敗作の周りの地面から幾つもの蜘蛛の足が生えてきた。
――贄への誘い。
蜘蛛の神としてのアナンシの力の一端。
『ううん、この子たちも踊りたいの?』
ワサワサと動いで踊りの邪魔をする蜘蛛の足。その動きを、失敗作は踊りたいのに踊れない――と受け取ったようだ。
『うん、いっしょにおどりましょう! あなたも』
踊るのが楽しくて、その楽しさしか考えられていない。
『楽』以外の感情がないからこその――反応。
「ああ、踊ろうぜ! 踊れ! 踊れ! 踊れ!」
そんな失敗作の笑顔を見ながら、ラフィは踊る。蜘蛛の足蹴って、跳んで、跳ねて、回って。黒い耳が揺れる度に増えるのは、細身の鋏――『pure』。
無数の鋏が降り注ぎ、蜘蛛の足に囲まれ抜け出せない失敗作を幾度も斬り裂いた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
戀鈴・シアン
【硝華】アドリブ◎
たまにはビシッとタキシードに
亡き父から譲り受けた外套を羽織る
ベネチアンマスクも携えて
イト、踊りに行こうか!
俺の格好、変じゃない?
ちゃんとネクタイ結べてる?
エスコートしますよ、お姫様
誰より美しいキミの手をとって
踊りは不慣れで辿々しいかもだけど
たまには格好つけさせてよ
踊りはやめずに、想像、創造
鋭利な硝子の刃を浮かべ
揺れるたび光を反射して、煌めいて
花弁と共に敵を突き刺す
割れた破片は踊るように 舞うように 対象へと纏わりつく
踊りながら笑顔で逝けるなら、本望でしょ
……イト、疲れた?
浮かない様子の真意は汲めない
けど、元気になってほしい
硝子細工の薔薇を一輪、渡してみる
笑顔の花が咲くといいな
戀鈴・イト
【硝華】アドリブ◎
僕に似合うか不安だけれど
真白のドレスに身を包む
亡き母がよく着ていたもの
長い髪を結い上げてベネチアンマスクを
きゅう、と胸が鳴く
格好いいよ、シアン
薄紅の頰緩めてネクタイを細指で手直し
ふふ、これでもっと格好良くなった
お姫様になれないけれど
君がそう扱おうと努めてくれる気持ちが嬉しいな
内心に留めて感謝伝え
よろしくね、王子様と手を取る
君が為、美しく咲いて魅せるよ
軽やかなステップに舞う虹色花弁
踊る花弁の中逝ける最期は、きっと綺麗だ
本物の王子様のよう
偽物のお姫様はいつまで君の隣に居られるかな
不安隠し微笑む
泣きそうな戀心は胸内にのみ咲く
大好きだよ
気付いて
嘘、どうか気付かないままでいて
●光と硝子の輪舞
(「……僕に似合うかな」)
戀鈴・イト(硝子の戀華・f25394)が、純白のドレスの裾を少し不安げに摘まむ。
が着ているのは、真っ白なドレス。
亡き母がよく着ていたもの――形見の品だ。
されども、ドレスが包むイトの身体は、男のそれだ。どれだけ女性と見紛う容姿をしていても、長い髪を結いあげ着飾っても、その事実は隠せても変わらない。
「……」
どうにもならない想いと迷いが顔に出ないよう、イトは目元から頬まで覆うマスクを顔に着け――。
「イト!」
突如背中にかかった戀鈴・シアン(硝子の想華・f25393)の声に、イトの肩がビクンと跳ねた。
「たまにはビシッとしてみた――つもりだけど、俺の格好、変じゃない?」
青い瞳をまっすぐ向けるシアンがタキシードの上に羽織っているのは、亡き父――2人を造った硝子職人の外套。
その姿を見たイトの胸が、きゅう、と鳴くように締め付けられるのは――。
「――格好いいよ、シアン」
「良かった! ちゃんとネクタイ結べてる?」
そう絞りだしたイトに、シアンが首を傾げて訊ねる。
「あ、待ってね」
見れば少し曲がっていたネクタイを整えようと、イトが細指を伸ばす。
先にマスクを着けていなければ――薄紅に染まった頰を見られていただろうか。
「ふふ、これでもっと格好良くなった」
「ありがと。それじゃ踊りに行こうか!」
にこりと破顔して、シアンも目元から頬まで覆うマスクを着ける。
「エスコートしますよ、お姫様」
「ありがとう。よろしくね、王子様」
そう扱おうと努めてくれるシアンの気持ちを嬉しく思いながら、イトはそれを表に出さずに、差し出された手を取った。
――どこかの世界の、昔の話。
繊細な腕を持つ、硝子細工職人の男がいたそうだ。
ある時、男は一つの硝子細工のスイートピーを造った。硝子の造花だけではなく、それを活ける硝子の花瓶も共に。
その2つを贈り物として、彼はある女性に想いを告げた。
程なく2人は仲睦まじい夫婦となり――。
それから、長い時が流れた。
硝子華はイトに、硝子瓶はシアンに。2人を父母と呼ぶ子達が、現在を生きている。
「えっと……こう?」
「無理しないでいいのに」
不慣れながら辿々しいステップで踊るシアンに、イトが微笑む。
「たまには格好つけさせてよ」
何より大切で、誰より美しいイトが前にいるのだ。
シアンだって、意地のひとつも張りたくなる。
だけど――。
「シアン、いたよ」
「だね」
離れたところで踊る失敗作。この舞踏会を無邪気に罠と変える存在を、2人とも忘れていない。
握ったイトの手を離さず踊り続けながら、シアンが脳裏に思い浮かべて、想像し、創造すれば。2人の頭上に、幾つもの鋭利な硝子の刃が現れる。
「君が為、美しく咲いて魅せるよ」
軽やかにステップを踏みながら、イトの口が光を呼ぶ。
色彩七つの聖光が、創造された硝子の刃を輝かせ、2人を照らす。
「煌めいて、斬り裂いて、貫け」
「花弁よ、軽やかに踊れ」
シアンが硝子の刃群を放ち、そこにイトの虹に煌めく硝子の花弁が混ざる。
想華の硝刃――イノセント・アルクス。
虹の戀華――マイディア・シャワー。
降り注ぐ七彩の光が幾つもの硝子の刃群と花弁で乱反射され、様々に確度を変える。
『すっごーい! きれいね、きれいね!』
光と硝子の輪舞が、その楽しさに目を奪われる失敗作の華奢な身体を、容赦なく刺し貫いていった。
「笑顔で逝けるなら、本望でしょ」
(「お姫様になれない偽物のお姫様は、いつまで君の隣に居られるかな」)
硝子の刃群を操るシアンの横顔は、本物の王子様のようで。見つめるイトの中で、内に留めた不安がまた首を擡げる。
されど――。
表情の半分は見えなくとも、同じ主に作られた存在だ。
「……イト、疲れた?」
浮かない様子の真意は汲めなくても、イトの様子がおかしい事にシアンが気づく。
「ううん。大丈夫」
「そう? それなら――笑ってよ、お姫様」
曖昧に微笑むイトに、シアンは硝子の刃の一片を、硝子の薔薇へと変えて手渡す。まるでかつて父がした事をなぞるように。
元気になって、笑って欲しいから。
――大好きだよ。
――気付いて。
そんな本音を口に出せたなら、楽になれるだろうか。
いいや。そんなことはないのはわかっている。言葉にしたところで、イトのちぐはぐな心と身体はどうにも変わらないのだから。
(「僕はお姫様にはなり得ない」)
イトの本体である硝子華。かつてそれを贈られた、母の様にはなれないのだから。
(「――嘘。どうか気付かないままでいて」)
泣きそうな戀心では、本音も嘘も声に出せなくて。イトはもう、仮面を外したら自分が今どんな顔をしているのか、わからなかった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
マリアベル・リリー
マリー、おどるのはだいすきなのよ
あなたもお人形なのね
それじゃ、マリーと踊りましょう?
ワルツがいいわ、三拍子でくるくる
スカートをつまんでお辞儀して、レディになってほほえむの
アン、ドゥ、トロワ、アン、ドゥ、トロワ
デビュタントのワルツは左回り
ねえ、たのしいでしょう?
……ねえ、あなた、ステップがめちゃくちゃなのよ
せっかくのワルツ、もっとゆうがに、気品がなくちゃ
りっぱなレディになれないの
つまらないわ
あなたとじゃ、ぜんぜん素敵に踊れない
「あなたも、おともだちじゃないのね」
伸びてくる腕を無銘の大鎌を無造作にひとふるい
子供の猜疑心からの癇癪でバロックレギオン召喚
「クララも言ってるのよ。あなたはいらないって」
●レディか、ともだちか
独りで――絵画の中の踊り手とは踊れても一人で――踊り続ける失敗作の前に、真っ赤なドレスがふわりと現れる。
「あなたもお人形なのね」
『あなたも、そうなのね』
目の前に来たマリアベル・リリー(Baroque heart・f24953)を見るなり、失敗作の瞳が輝いた。
『ねえ、わたしと――』
「今は一人ね? マリーと踊りましょう? マリー、おどるのはだいすきなのよ」
失敗作の声を遮って、マリアベルはレディらしく両手でスカートの端を摘まんで、ちょこんとお辞儀をして微笑んでみせた。
『わたしも、おどるのすき! たのしい!』
もう何人もの猟兵達に声をかけても、踊れずにいただろう。
失敗作はマリアべルの誘いに、心底楽しそうに小さな両手を取った。
ふわり、ふわりと、鮮やかな金髪と虹色の髪が揺れる。
「アン、ドゥ、トロワ、アン、ドゥ、トロワ」
響く音楽に合わせてマリアベルが口ずさむリズムは3拍子。
「デビュタントのワルツはね、ターンは左回りよ」
失敗作を導くように、くるりくるりとマリアベルの足がステップを刻む。
「ねえ、たのしいでしょう?」
『楽しい! だれかといっしょにおどるの、楽しいわ』
微笑むマリアベルに、失敗作も笑顔を見せる。
――カチャンッ。
そこに響く、何かがぶつかる音。
気にしなければ気にならない程度の音だけれど、踊りの中で耳障りと言えば耳障り。
それは――失敗作が自分の足を絡めて立てた音。
――カチャンッ。
また、同じ音。この後も何度も鳴るだろう。当の失敗作自身が、それを何とも思っていないのだから。
だけど。
「……ねえ、あなた、ステップがめちゃくちゃなのよ」
マリアベルの表情から微笑みが消えて、眉がきゅっと寄せられる。
「せっかくのワルツなのよ。もっとゆうがに、気品がなくちゃ。そんなステップじゃ、りっぱなレディになれないの」
『れでぃ? それは、楽しいもの?』
怒りの情がないから、失敗作はマリアベルの機嫌が悪くなった事に気付けない。
露わになった、2人の決定的な違い。その違いはマリアベルにとって、許容できるものではなかった。
「つまらないわ。あなたとじゃ、ぜんぜん素敵に踊れない」
笑顔の消えたマリアベルの胸中に生まれる、幼さ故の猜疑心。
「あなたも、おともだちじゃないのね」
冷たく告げて、マリアベルは一方的に手を離す。
『どうしてそんなこというの? もっとおどろ――』
ガチャンッ!
なんでと目を丸くしながら失敗作が伸ばした腕は、何処からともなくマリアベルの手に現れた血塗れの大鎌に弾かれた。
「いらない! クララも言ってるのよ。あなたはいらないって!!!」
マリアベルがクララと呼んだ古びたくまのぬいぐるみから、おぞましき怪物――バロックレギオンが現れ、失敗作に襲い掛かる。
マリアベルは気づいていたのだろうか。
その癇癪は、自身が口にしていた『レディ』には程遠いものだと――。
大成功
🔵🔵🔵
御園・桜花
「可愛いラーキス(踊子)さん…貴女の望みがいつか世界の望みと交わりますように」
桜鋼扇を頭上に掲げ
バサバサ開閉しながら拍子を取り
軽くスカートを摘みあげ
タップダンスしながらUC「魂の歌劇」使用
踊子の注意を散漫にしながら歌の合間に桜鋼扇の拍子に合わせ属性攻撃
少しずつ踊子を削っていく
踊子からの攻撃は見切りや第六感で踊りながら避ける
踊子が倒れたら側に寄り
「踊るのが好きな貴女にはラーキスという名前が相応しいと思いますが、どうでしょう」
「踊るのは楽しかったでしょう?ではお互い名前を呼び合ってその感想を言い合うのは?楽しいことは他にもあると知りましょう、ラーキス」
「私は桜花…いつかまた会いましょう、ラーキス」
御乃森・雪音
【WIZ】アドリブ共闘歓迎。
頑張ろうかしら。
踊る、なら得意だしね。
「あらまぁ、本格的ねぇ…ハリボテだけど」
社交ダンスを取り入れて場の雰囲気に合わせつつ、ソロでってことになるけど。
せっかくだから攻撃も合わせて。
【La danza della rosa blu 】を使って踊りながらこの世界を終わらせましょ。
「さぁ、そろそろラストダンスかしら?」
空虚で素敵なダンスホール、次に進むために夢は覚まさないとねぇ。
リインルイン・ミュール
踊りは初めてなのですが……
下手でも楽しんだもの勝ちとして、楽しくいきまショウ!
楽曲形式はロンド、只管明るい曲調で
実際にこの形式の舞踊があるかは知らないのですが、形式だけなら概ね丁度良いかと
くるくる、くるくる
延々と巡る楽しい音、聴いて感じるままに動いているだけでも楽しくて、ずっと跳ねて廻っていられそう
くるくるがてら鞭状にした剣を時々振るい、ステップと共に光焔で穿って心を読んで
ワタシの楽しいにキミの楽しいを共鳴させて、ええ、とっても楽しい時間デス!
ですが、何事にも終わりはあります
楽しい時間にも終わりは来て、楽しかったね、また今度ね、ってなるものデス
ですから続きは他の方……もしくは、骸の海の彼方にて
ガーネット・グレイローズ
基本ソロですが、共闘アドリブ歓迎です
あれは自動人形…魔導蒸気兵器の失敗作か。あのような子達が、まだ迷宮の中を無数に蠢いているのだな。
ダンスなら、私もちゃんと踊れるさ。一応、貴族の娘だからな。さあ来なさい、一緒に踊ろう。顔の半分を覆う仮面をつけたら手招きをして相手を誘き寄せ、ゆったりしたワルツに合わせてステップを刻む。〈第六感〉を駆使して相手の動き方を読み取って疲れない動きを心がけ、繋いだ手からブラッドエーテルを介して〈生命力吸収〉の波動を流し、力を温存しつつ相手の劣化を加速させよう。敵の動きが鈍ってきたら〈メカニック〉でコアとなる歯車の位置を探り、【烈紅閃】の抜き手で破壊を試みるぞ。
木元・刀
愛用の改造制服を脱ぎ、タキシードを着用。
失敗作、ですか。
人類の視点から見れば、そうなりますね。
でも、母さんや兄さんは、きっと怒るでしょうね?
生物に失敗作はない、って。
せめて、幸せな終焉を演出して差し上げましょう。
お嬢さん。僕と踊っていただけますか?(礼儀正しく、手を差し出して)
定番中の定番、クラシックなワルツを。
彼女を引き寄せ、手を取って、UC発動準備。
蒸気は無機物ですから。
小さな竜巻に変えて、異次元に飛ばしましょう。
……少しくらいの熱傷は、顔に出さず気合でやりすごしますよ。
紳士たるもの、女性に恥をかかせるわけには、ね。
満足してくれたでしょうか?
できれば幸福の絶頂で、UCに包んで、骸の海へ。
●心躍るケモノ
「これが舞踏会デスカ!」
舞踏会場に現れた猟兵達の中に、ケモノがいた。
ケモノである。獣とは言えない。
四つ足の獣の様な姿を取ってはいるものの、リインルイン・ミュール(紡黒のケモノ・f03536)の種族としてはブラックタールなのだから。
その体に体毛はなく、リインルインは獣頭を象った仮面と獣脚の籠手でケモノの形を取っているに過ぎない。自称、どろどろ系女子。
「踊りは初めてですが……下手でも楽しんだもの勝ちとして、楽しくいきまショウ!」
黒銀色の銀剣の尾を左右にぶんぶん揺らして、リインルインは踊りの輪の中へと駆け出していく。
それでも大騒ぎになるどころか、仮面を着けた絵画の踊り手たちは、リインルインを気にした風もなく踊り続けていた。
●その名に思うこと
「魔導蒸気兵器の失敗作か」
ガーネット・グレイローズ(灰色の薔薇の血族・f01964)がその姿を目にした時、失敗作は既にボロボロと言って良かった。
他の猟兵達が踊りながら、少しずつ加えた攻撃のダメージが蓄積している。
それでも――楽しそうに踊っている姿は、確かに失敗作と言えよう。
「人類の視点から見れば、そうなるんでしょうね」
聞き覚えのある声に、ガーネットが振り向けば、長い銀髪を束ねた長身の男がいた。
「ん? ……もしかして、刀か?」
「どうも」
知った顔も来ていた事に驚くガーネットに、木元・刀(端の多い障害・f24104)は小さく頭を下げて――。
「なんで、失敗作なんでしょうね?」
顔を上げるなり、刀はそんな疑問を口走った。
「母さんや兄さんは、きっと怒ると思うんですよ。生物に失敗作はない、って」
母と兄がと言いながらも、刀の声は自身も怒りを覚えていそうな声色をしていた。
それは――失敗作と呼ばれるあの人形は、恐らく知らない感情。
「さて、な。確かな事は、あのような子達がまだ、迷宮の中を無数に蠢いているのだと言う事だな」
刀の疑問に頭を振って、ガーネットは告げる。
今、アルダワの地下迷宮は、無尽蔵に災魔が発生している状況だ。
ガーネットが告げた通り、その中には敵になった人形もいる。失敗作が他の何処かにもいても、何もおかしくはない。
「せめて、此処だけでも幸せな終焉を演出して差し上げましょう」
「そうだな」
刀の言葉に頷いて、ガーネットは顔の半分を隠す仮面を着けた。
●踊り手として
「あらまぁ、本格的ねぇ……ほとんど、ハリボテだけど」
絵画の中の舞踏会。
御乃森・雪音(La diva della rosa blu・f17695)はそれを、ハリボテと称した。既に輪に加わっている猟兵以外、大半が紛い物であると言う点で、正しい。
(「でも、踊りは本物ね」)
そうと見抜けるだけの目を、雪音は持っている。
それ故に――火がついてしまう。
「頑張ろうかしら。踊る、なら得意だしね」
生まれた家は日舞の家元。その家を継ぐ気はないとは言え、歌とダンスは今でも雪音の支えであり武器であるのだから。
雪音の足が、舞踏会場へと踏み込んだ。
●
そして――最後の踊りが、幕を開ける。
●光が暴くもの
「明るい曲調、良いデス!」
只管に明るい曲調に合わせて、リインルインは見様見真似でなんとか踊っていた。
響いている楽曲は、良く聞けば主となる1つの旋律が繰り返されていた。
所謂、ロンドと呼ばれる形式のものである。
「成程。これは楽しいものデスネ。ずっと跳ねて廻っていられそうデス」
何度も何度も、延々と巡る楽しげな旋律を聴いて、その音に感じるままに動いているだけでも、リインルインは楽しかった。
この絵画世界には、踊りたくさせる作用がある。
(「この楽しさ、それだけではないデスネ」)
感じている楽しさは外から押し付けられたものではない――リインルインは、そう確信していた。
『あなたは、なあに?』
そんなリインルインに、失敗作が声をかけてくる。
「ワタシは――踊りに来た女子デスヨ」
問われてリインルインは、少し考えそう答える。この姿で女子と称して、どう返すか――その反応を見るのも兼ねて。
『あなたも、楽しい?』
だけど、失敗作はリインルインの姿になんの違和感も持たず、気にしたのは楽しいかどうかと言う点だけであった。
「ええ、とっても楽しい時間デス!」
『そうよね! 楽しいわよね! ね、おどりましょう』
だからリインルインが声を弾ませれば、失敗作も声を弾ませる。
「ワタシの楽しいにキミの楽しいを共鳴させて下サイ!」
鞭状にした銀剣を尾の代わりにくるんくるんと回して楽しさを現しながら、リインルインが一つ光を放つ。
穿ち暴く光焔――リベレイション・フラムグリント。
くるくると回る失敗作を光が撃ち抜けば、その思考や身体情報がリインルインの中に流れ込んできた。
「これは……」
その情報に、リインルインが絶句した時、楽器とは違う音が聞こえて来た。
●桜の歌
カシャン、シャキン。
『なんのおと?』
鉄のこすれる音が響いて、失敗作が視線を巡らせる。
その音は、御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)が頭上に掲げた鉄扇を開いて閉じてを繰り返している音だ。
桜花が立てている音は、リズム。
開閉の音で拍子を取って、反対の手で軽くスカートを摘みあげ、靴底を打ち鳴らす。
――タップダンス。
『あしをならしておどるのね? たのしそう!』
桜花の軽快な足音に、失敗作が瞳を輝かせて誘われる。
それだけでも――気を引く、と言う意味では十分功を奏していたが。
「貴方の一時を私に下さい……響け魂の歌劇、この一瞬を永遠に」
桜花は踊りながら、歌声を響かせた。
魂の歌劇――その歌声は、聞かせるものの魂と感情を揺さぶる。まるで伝承にあるセイレーンの様な、歌唱術。
『う、た? うたっても、いいの?』
楽の感情しか持たぬ失敗作は、桜花の歌声に瞳を輝かせる。
●最終幕
「お嬢さん。僕と踊っていただけますか?」
そこに、失敗作の背後から刀が声をかけた。
「こっちにもいるぞ。さあ来なさい、一緒に踊ろう」
左手からは、ガーネットが失敗作を手招き。
「ソロのつもりだったけど――混ぜて貰おうかしら」
そして右手からは、雪音が。場の雰囲気で、これが最後になろうと察して失敗作を囲む輪に加わる。
『こんなにたくさん……みんなおともだちね! みんなで楽しく、おどりましょ!』
既にひび割れた顔でも、踊りに誘われれば失敗作は楽しそうに笑っていた。
「お嬢さん――手をどうぞ」
そんな失敗作の手を、まずは刀が取って引き寄せる。
反対の手を失敗作の背に回し、歩幅を合わせて滑るように。
『ねえ、楽しい?』
「ええ、楽しいですよ」
そう訊いてくる失敗作に微笑み返しながら、刀はくるんとターンして腕を伸ばして手を離す。2人の指が離れて――。
「おっと。次は私だ」
背中から飛び込んできた失敗作を、ガーネットの両手が受け止めた。
そのままガーネットは失敗作の両手を自分の手と重ねると、やはり自分がリードする側になってステップを刻み踊り出した。
(「一応、貴族の娘である事が戦いに役立つとは――何があるか判らんな」)
胸中で呟きながら、危なげなくステップを続け、同じくターン。
回転の角度を調整して、勢いをつけて失敗作を雪音の方へと放す。
「はい、次はこっち」
雪音が手を伸ばし、失敗作の腕を掴んで引き寄せる。雪音が踊り出せば長い黒髪がゆらりと翻り、飾った青薔薇が青い軌跡を描く。
「リズムはワルツか……変則カルテット? それもありね」
1人を中心に、ペアを変えながらのワルツ。
社交ダンスと見るあまりにもイレギュラーであろうが――逆に言えば、型に縛られない踊りと言う事になる。
雪音の生まれた旧家にいたままでは、こんな経験はあり得なかっただろう。
「3人分、踊って貰うわよ?」
『3にんぶん……つまり3ばい楽しいのね!』
思わず雪音が告げた言葉にも、失敗作は楽しそうに笑っていた。
失敗作の動きは徐々に徐々に、鈍り出していた。
ブラッドエーテル――ガーネットの全身を駆け巡る、サイキックエナジーのエーテル体が、失敗作の手からその力を奪っていく。
――カシャン、カシャン、カシャン。
『~~~♪』
3人の踊りを見て、桜花は足と鉄扇で刻むリズムをワルツのそれに合わせていた。
ついでに、鉄扇に刻まれた桜の模様を輝かせ、風の刃を放ちながら。
『あ、あら?』
次第に、失敗作が足をもつれさせる回数が増えてくる。
「さぁ、そろそろラストダンスかしら?」
La danza della rosa blu――青薔薇の舞。
雪音が踊りながら歌を口ずさめば、その指先から青い輝きが放たれる。青薔薇の鎖が失敗作を貫き、鞭のように打ち据える。
――シュゥ。
ふと、小さな音が漏れた。
ジュゥゥゥウッ!!
失敗作の両の掌から、魔導蒸気が放たれる。
「おっと。こんなものは、必要ないでしょう?」
『? なあに?』
そこに飛び出した刀が、蒸気が広がる前に失敗作の両手を掴んだ。きょとんとした顔の失敗作の両手から出る魔導蒸気が、小さな竜巻と変わって何処かへと飛んでいく。
かと思えば、またすぐに蒸気が失敗作の手から出ていた。
おそらく失敗作の意思ではなく、内蔵された機構の暴走。
「こんなの、必要ないですよ。そんなになっても……あなたは、楽しく踊っていたかったのでしょう」
魔導蒸気が止まるまで、刀は失敗作の手を掴み蒸気を渦巻く風と変え続けた。
――ュゥゥゥゥ――。
やがて、蒸気が止まる。
それでも――刀は熱傷で赤くなった手を離さなかった。
無言で頷く先には、鮮血のように紅い輝きを手に纏ったガーネットの姿。
烈紅閃。
ガーネットの貫手が、失敗作のコアと言える歯車を貫き砕いた。
●そして、幕が下りる
『あ……れ……』
刀が手を離すと、失敗作の膝が軽い音を立てて崩れ落ちる。
蒸気機構の暴走の影響もあってか。地面に着いた手は肘から折れて、失敗作は地面に横たわった。
『なあに、これ……楽しい……ちがう……こんなの、しらない』
痛みもなければ、敗北を悔しがるでも、怒るでもない。
楽しいと思えないものを――『失敗作は』知らない。
「でも、踊るのは楽しかったでしょう?」
そんな失敗作の前に膝をついて、桜花は屈んで顔を寄せた。
『うん……楽しかった!』
満足に動かない身体で、それでも失敗作は楽し気な顔をする。
「ではお互い名前を呼び合ってその感想を言い合うのは? 楽しいことは他にもあると知りましょう」
桜花はまだ無事な失敗作の手を取ると、目を細めてそう告げた。
『なま、え……なんばーじゅうに』
「そんな番号ではなく、踊るのが好きな貴女にはラーキスという名前が相応しいと思いますが、どうでしょう」
名前と言われて制作Noを告げる失敗作に、桜花は別の名を告げる。それは天にある龍の星の並びの中にありて、踊子の意味を持つ星の名でもある。
次に現れる時は――失敗作はその名を知らないとしても。
桜花はその名が、相応しいと思ったのだ。
『らーきす……わたし、らーきす! らーきす……らーき……』
楽しそうに新たな名を三度も連呼して――『ラーキス』は力尽きる。
「もう――せめて私の名前くらい聞いて欲しかったですね。私は桜花……いつかまた会いましょう、ラーキス」
桜花が告げた瞬間、世界が歪んだ。
鳴り続けていた音楽が遠くなり、聞こえなくなる。
気がつけば、そこは迷宮の一角。
「……満足してくれたでしょうか?」
赤くなった己の掌を見つめ、刀がぽつりと零す。
その掌こそ、一つの答え。ラーキスの攻撃を受けたのは、刀一人。最後まで、自分の意思では攻撃してこなかった。
「もうその答えは聞けないデスガ――もっと踊っていたかったかもしれません」
答えたのは、リインルインだ。
穿ち暴く光焔で読み取ったラーキスの感情は、踊りの楽しさでいっぱいだった。それしかなかったのだ。
「ですが、何事にも終わりはあります。楽しい時間にも終わりは来て、楽しかったね、また今度ね、ってなるものデス」
また今度――そう望んだのだろうか。
「可愛いラーキス(踊子)さん……貴女の望みがいつか世界の望みと交わりますように」
桜花が見上げた絵画の中に、虹色の髪はどこにも描かれていなかった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
最終結果:成功
完成日:2020年02月20日
宿敵
『失敗作』
を撃破!
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