アルダワ魔王戦争6-B〜祭歌の中心
●迷宮、奥深く
ファーストダンジョン。
中層からやや進んだ先で、そのエリアは発見された。
石造りで出来た遺跡。
神殿と思われるその建物はもはや誰もおらず、なぜそこにあるのかも要として知れない。
ただ朽ちた女神像がひっそりと佇み、何処からか湧いた清水がコンコンと、噴水跡の窪地に貯まっていた。
今までの迷宮の喧噪とは裏腹に、そこには静けさが漂っていたのだった。
●グリモアベースにて
「皆様、アルダワにおける魔王戦争、お疲れのことと思います。新たなエリアが判明しました」
深々と頭をさげ、ライラ・カフラマーンは居並ぶ猟兵達に興味深いエリアが発見されたことを知らせる。
「そこは女神像がある過去の遺跡でして、おそらく大魔王に対するなんらかの効果、多分封印を強める結界だったのかと思われます。そんな場所が発見されました」
ライラの説明によると、そこには大魔王を封じるための女神像があったらしい。
が、それはすでに効力を失い、魔王に対する作用は残っていないらしい。
「ですが封印の余波でしょうか、そのエリアは魔物の生息は確認できず、また別のエリアからやってくるという報告も上がっていません」
いわゆる安全地帯、ファーストダンジョンに置ける中間地点の役割を果たしていた。
「戦争も魔王の居ると思われる場所までもう少し、という所まで来ました。しかし皆様の疲れも見え始める頃でもあります。一度このエリアで休憩を取り、最後の戦いに備えて鋭気を養うのも一つの手かと思います」
ライラが杖の先で地面を軽く叩くと、霧が変化し姿を形どる。
それはファーストダンジョンの迷宮。
その奥で発見された女神像が映し出されている。
両手を下げ、目の前に立つ者を迎え抱擁するような、そんな厳かな感じだ。
何処からか漏れた光りが遺跡の隙間から女神を照らし、神聖な感じを増幅している。
「これからのこと、これまでのこと、アルダワ戦争における自分を振り返る良い機会です。気休めかもしれませんが……いえ、困った時の神頼みとも言うのでしょうかね? ともあれ、休息するには好都合の場所です。魔王討伐に向かう方々は、そこで祈りを捧げ思い思いの休息を取るのが良いでしょう」
そう言ってライラは、深々とまた頭を下げたのだった。
妄想筆
妄想筆です。戦争に参加されている方々、お疲れ様です。
魔王の喉元まであと少しという感じですね。
この依頼は日常シナリオ、一章のみ。魔物が一切出てこない章となります。
祈りを捧げ、過去の魔王戦に思いをはせるのも良し。
祈りを捧げ、打倒魔王を未来に誓うも良し。
魔物が出てこないこのエリアで、休息を取るのも良し。
しばしの休憩をくつろいでください。
良い感じに祈りを捧げると、何か良いことがあるかもしれません。
祈りを捧げないからといって失敗になるわけではありません。
参加お待ちしております、よろしくお願いします。
第1章 日常
『女神の祭壇に祈りを捧げよう』
|
POW : 女神像に舞踊や歌を奉納して、祈りを捧げる
SPD : お供え物として、美味しいお菓子などを用意して祈りを捧げる
WIZ : 願い事を書いた絵馬等を女神像に奉納して、祈りを捧げる
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
静けさが迷宮に染み入る。
ここまできた迷宮探索、その喧噪が嘘のように静かであった。
石畳から草が見え隠れする道をまっすぐに、神殿を目指すと左右には草花が目についた。
時折りその隙間から、動物たちの姿も見える。
魔物が渦巻くこの迷宮に、野生の獣が生息しているとは、ずいぶんと逞しいことだ。
門をくぐり中に入ると、噴水跡が見えた。
すでに噴水の機能は失われてはいるが、清水がその跡を満々と蓄え、ひび割れた隙間から石畳の喉を潤していた。
更に先へと進む。
神殿内部は朽ちてはいるが、荒れ果ているという訳でもない。
長椅子は埃を被ってはいるが、座れないということはなさそうだ。
祭壇に女神像が見える。
朽ちて片翼になった彼女が、猟兵達を待ち受けていた。
己の慣習による祈りを捧げても良いし、願掛けをしても良い。
迷信は信じないと一笑にふし、そこら辺に横になるのも結構であろう。
ともあれ、ここは魔物が出ないらしいのは事実だ。
休んでいくのに好都合な場所であるのは違いない。
エウトティア・ナトゥア
※アドリブ・連携歓迎
おお、これはよい。少し休もうと思っていたところじゃ。
暫しこの静謐を湛える神殿で休むとするかの。
それにしてもダンジョン内にこのような場所があるとはのう。マニトゥや、ちとこの辺りを見て回るかの?
(マニトゥに騎乗してお散歩)
うむうむ、こうやって異国の名跡を見聞するのも旅の醍醐味じゃな。
清浄な空気に精霊たちも安らいでおるわい。
これはこの地の女神様かのう?
折角じゃ、今も戦っている皆の為に祈るとするのじゃ。
わしらの作法じゃが、なにこのようなものは気持ちが大切なのじゃよ。
祈請の風と共に、精霊を讃える故郷の歌と踊りを奉じますのじゃ。
叶いますなら、皆に少しばかりの幸運を授けてくだされ。
アルダワ魔王戦争。
その戦線に参加していたエウトティア・ナトゥアは、うち捨てられた神殿の遺跡へと辿りついたのだった。
見たところ、魔物の気配は無い。
数々の戦いを乗り越えてきた彼女は、しばしここで休むことを決める。
「それにしてもダンジョン内にこのような場所があるとはのう」
巨狼マニトゥに跨がりながら、エウトティアは辺りを興味深く見渡す。
思えば敵を発見する斥候として、辺りを注意深く見つめてきた迷宮探索ではあったが、気にせず辺りを眺める余裕が生まれるのは久方ぶりのことであった。
巫女である彼女にとって、このエリアの空気は好ましく感じられた。
静かで、厳かで、死を感じさせない。
静謐を湛える神殿。
荒れた建築物からは、しかし緑が見え隠れし、そこに自然の息吹を見ることが出来た。
世界を侵食しようと企む魔王の本拠地において、このような景観を拝めるのは何とも皮肉なことであろう。
歩くマニトゥの傍を、小動物が走り過ぎていった。
自分を、狼を警戒していないのだ。
魔物……敵となるものが存在していないのだろう。
「清浄な空気に精霊たちも安らいでおるわい」
ここにいるだけで精神が回復する、そんな気持ちがわき上がっていた。
噴水跡の清水で喉を潤すと、エウトティアは神殿内部へと進んだ。
朽ちた神殿内部。その中にある女神像に目をやった。
「これはこの地の女神様かのう?」
アルダワの建築に詳しくない彼女ではあるが、これが聖なる物を象徴したもので有ることは想像がついた。
自然、腰を落として恭しく拝謁の礼を取る。
形が喪われても、荘厳さは失われてはいない。
マニトゥも四肢を伏し、黙ってその場で女神像を見上げるのだった。
立ち上がり腰袋を探ってはみたが、彼女の顔を優れない。
「ふうむ、弱った。何か捧げ物をと思ったが、御方の口に合うような物は見つからぬな」
はて弱ったどうしようとエウトティアは悩み、そして思いついた。
女神像の前に進み、杖を持って恭しく頭を下げる。
「この地に眠る女神殿、儂はエウトティア・ナトゥアと申す者、こちらに控えるは我が姉妹マニトゥ。無作法者ゆえ捧げ物は持たざる行為、誠に失礼と存じます。手慰みとは思いますが、代わりに奉納の舞いを披露致しますのじゃ」
そして顔をあげ、杖をくるくると回しながらエウトティアは舞い、歌う。
神殿外部からそよ風が流れ込み、彼女と女神像へふわりと清浄が回遊した。
草木がざわめく それは風の便り
我らは語らず 静かに祈るばかり
火よ燃えろ 生命の如く
大地よ育め 生命をささえよ
雨よ 頬から涙を拭い去り
そして水をたたえて 我らに笑顔をもたらさん
風よ吹け あの地平の先に
火と地と水のぬくもりをかかえて
我らの同胞の元へと
奉納の舞が終わり、エウトティアは杖を前に黙祷を捧げる。
故郷に伝わる歌、それに戦勝の祈願を込めて彼女は舞った。
肩が上下に息をしていた。
「ふむ、休みにきたはずなのに疲れてはいかんな」
よいしょ、と腰をおろしマニトゥの躯を枕に、エウトティアはその身を預けた。
連戦の疲れがどっと出たのか、瞼が重くなってくる。
横になりながら女神像を見れば、子守をする慈母のようにも見える。
「のう、女神様。叶いますなら、皆に少しばかりの幸運を授けてくだされ」
背に相棒のぬくもりを感じながら、エウトティアは安心しきったように眠りにつくのであった。
大成功
🔵🔵🔵
テイラー・フィードラ
休息、か……今の私にも、必要であろうか。
とはいえ私はよかろうと、フォルティにも疲弊の色は見える、か。
仕方なし、一時呼吸を整えるとするか。
愛馬たるフォルティに水を飲ませ、熱を吐き出させながらも安楽にするよう指示する。此度の戦争ではフォルティに頼り続けていた。多少の暇は良い事だろう。
さて、祈り、であるか。私自身、そう許されぬ身であろうが、それを行っても良いのであろうか。
……いや、今はその様な事を考えるべきでないな。
その場にしゃがみ込み、かつての国で行われて忌々しく思っていた宗教の黙祷を捧げよう。戦陣切り敵を討ち、かつての平和を取り戻さねば。此処然り、竜に滅ぼされし国然り、取り戻さねば。
迷宮を踏破してきたテイラー・フィードラは愛馬フォルティの様子を見ていた。
その息は荒く疲労が見える。
無理も無い。ここまで戦い続けてきたのだ。
「休息、か」
これから先、長陣が予測される行程で、馬を走り潰すは愚の骨頂。
グリモア猟兵からここの場所を聞き、テイラーは暫し休息をとることにしたのだった。
清水を飲む愛馬の背を撫でてやり、好きなほど飲ませてやる。
口には出せぬが、よほど疲れていたのであろう。
フォルティは噴水の湧き水に口をつけ、離れようとはしなかった。
「やはり休息が必要だな」
好きなようにしろ、と彼はその場を離れ辺りを散策することにした。
独りで迷宮を彷徨くのは自殺行為に等しいが、ここに魔物の気配は感じない。
ときおり草木がざわめくが、剣をふる必要も無い小動物が顔を覗かせるだけだ。
ここは一体どういった場所であったのか。
もちろん、彼らは知るよしもないだろう。
テイラーも興味はない。
大切なのは今。そしてそれを足がかりにして未来を掴むことだ。
この休息も停滞などではない。
戦いのまえに鋭気を養う、その必要があるだけだ。
道と思われる路を進み、やがてテイラーは神殿内部へと入っていった。
神殿へと入り、テイラーは女神像を仰ぎ見る。
埃まみれの神殿、祭壇、そして女神像。
「祈りか……」
それらを眺めながら、テイラーはしばし物思いにふける。
祈るという行為。
実のところ、テイラーは祈りを捧げるということを好ましくは思ってはいない。
あの時、多くの民が神の名を叫んで慈悲を請うた。
だがその願いは届かず、王国は灰燼と化したではないか。
所詮神など、偶像に過ぎん。
己の手をじっと見つめるテイラー。
祖国再興。
その悲願を胸に、この手を血で染めてきた。
好ましくないモノと盟を結ぶこともした。
神からすれば、自分という存在は背を向けた愚か者であろう。
そのような者からの請願を、誰が聞き届けるというのだ。
自然と、自嘲気味に嗤っていた。
その背にぶるると馬の鳴き声が聞こえる。
「フォルティ」
振り向けば愛馬の姿。
「どうした、もう休憩はすんだのか」
近づくテイラーに、愛馬はその鼻面をこすりつけてくる。
そのたてがみを愛おしく撫でるテイラー。
「お互い、いかつい顔になったな」
思えばフォルティともずいぶん戦場を駆け巡ったものだ。
自分の腕と、彼の馬面に目を細める。
どこかしこにつく刀傷、古傷、傷痕。
思えば、遠くに来たものだ。
踵を返し、女神像を見るテイラー。
国を再興するために、利用できるものは利用してきた。
それがたとえ藁であろうとも、自分とフォルティが生き延びれられるなら、頭を下げるのも一時の恥であろう。
「女神よ、私に力を。戦乱を終わらせる加護を与えてくれたまえ。そして平和を。魔物を討ち、人々が平穏無事に暮らせる世を取り戻さんことを」
剣を置き、両手を組んで祈りを捧げるテイラー。
フォルティは主君の祈りに鳴かず、その場にたたずむ。
古き女神像は何も語らず、二人を見下ろしているのであった。
大成功
🔵🔵🔵
樹・さらさ
【POW】アドリブ連携歓迎
祈りか。
このような場ならそれが必要ということなのだろう。
さて、何ができるか…剣舞でも捧げさせてもらおうか。
愛用の剣を抜き、フェンシングと円舞曲を組み合わせ、あまり広く場所を取らぬように気を付けて。
何を祈るか。
我らの勝利を。
そして…誰かの大切な人が想い人の処へと無事に帰られる事を。
まあ、出来る事はそれ位だろうね。
静閑な神殿で独り、樹・さらさは女神像に祈る。
自分たちの勝利を。
そしてこの戦いが終わり、無事に帰られる事を。
戦いへと赴く剣士の祈りを捧げ、樹はゆっくりと立ち上がる。
なにしろ猟兵として戦争に参加するのは初めてだ。
不慣れ、不安になるのは仕方が無い。
祈りを捧げることでそれが晴れるなら、たやすいことだ。
「舞台と同じ、とい訳にはいかないだろしね」
ゆっくりと立ち上がり、剣を抜いてその刀身を眺める樹。
演劇用の剣では無いそれは、彼女の晴れない心を払拭するように、陽を反射して輝いていた。
手を伸ばし、足を拡げてカツカツと歩き足場を確認する。
この広さなら問題ない。
「君よ、どうかそこで見ていて欲しい。私の舞を。そして、勝利の女神の微笑みを、私にむけてくれることを」
女神像にむかって一礼し、樹は優雅に舞踏を捧げるのであった。
観客は一人。されどスタアは手を抜かず。
此処は舞台にして戦場、神楽を舞うは妙なる王子。
美しき姫君に剣を捧げ、剣士は踵を打ち鳴らす。
くるりと、回りて剣の一刺し。
くるりくるりと回りて剣の二刺し。
上に掲げて攻めを防ぎ、腕を回して剣を下ろす。
体勢を崩した見えない敵に、樹の鋭い斬撃が打ちのめす。
両手で祈るように剣を持ち、後ろを振り返て仰ぎ見る。
そこにいるは麗しき君、黙して語らぬ女神像。
カツカツと踵を鳴らして片足を上げる。
左手は前に、右手は上に。
素早く跳び上がって振り返りながらたたき斬る。
不埒者がまた一人、剣士によって成敗された。
地に沈むように樹はしゃがみ、何も語らず目を瞑る。
それは黙祷。
勝利と愛しき君に捧げる、剣の舞であった。
肩が大きく動き、息はわずかに荒い。
樹は剣を納め、女神に恭しく一礼した。
彼女は奉納の舞を気に入ってもらえただろうか。
女神は何も語らない。
ただ黙ってこちらを見つめているだけである。
「まあ、私に出来る事はこれ位だろう」
この先、どんな悲劇が待ち受けているか、彼女にはわからない。
だが舞台の幕が上がれば、どんなアクシデントが起ころうとも、客の前でうろたえないのが歌劇芸人である。
この戦い、無様な姿は晒したくは無い。
その誇りを胸にしまい、樹は女神の神殿をあとにするのであった。
大成功
🔵🔵🔵
新山・陽
そこにあなたがいたとして、私が長年そこにいたらと考えますと、まず長椅子を拭きたいのです。自身の領域が埃っぽいなど、卓上が散らかる席に他人を招くようで、いささか据わりが悪いから。
あなたは寛容に無視してくだされば、それで結構。通りすがりのする事です、どうかお気になさらないで。
スーツの上着で椅子の埃をふき取って、『軟水』で汚れを落し、充分に水を含ませ、ボウル状にして草花を集めて入れ、女神像から見えるように置きます。上着つきで恐縮ですが、外の景色を少しさしあげます。
他の方々の声こそ、よく聞こえますよう。私は祈らず、ただ思うだけです。誰かが世界を願うとき、そこにあなたも含まれておりますようにと。
新山・陽が神殿へと足を踏み入れたとき、まず気になったのは中の様子だった。
うち捨てられたから当然とはいえ、埃が目につく場所など、彼女の感覚では受け入れられない現場であった。
ここが仕事場であれば、いや神殿と会社を一緒にするほうがおかしいと人は言うかもしれない。
だが新山にとって乱雑な状況というのは度しがたいものであったのだ。
さすがに全てを片付ける訳にもいかぬ。
せめて座る場所でも、と彼女は長椅子を拭くことを決めた。
だが何分戦時中、このような場所では雑用に足る道具も見当たらない。
「準備不足です。仕方有りませんね」
彼女はスーツの上着を脱ぐと、それで長椅子を拭いた。
当然、上着は汚れて埃がつく。
彼女は女神像に顔を向け、客先で応対するかのように、落ち着いた声で話しかけたのだ。
「あなたは寛容に無視してくだされば、それで結構。通りすがりのする事です、どうかお気になさらないで」
懐から透明の容器を取り出す新山。
中には得体の知れないキューブが入ってた。
容器ごとそれを一振りすると、中身は水で満たされた。
上着を水で湿らせて、彼女は清掃活動を開始する。
丁寧に、埃一つ残さず、湿り気が無くなる度に水を垂らし、彼女は長椅子を綺麗にしていく。
これで良し。
掃除が終わった新山は神殿の外へと出ることにした。
そこで容器から水を溢れさせ、ざぶざぶと上着を洗っていく。
一度絞り、水気を切って様子を確かめる。
見た感じ汚れはついてなそさそうだ。
上着をまとめボウル状に衣服をかたどる。
戻って拭いた先ほど拭いた卓へそれを置くと再び彼女は外へ出た。
向かう先は草木の咲く場所へと。
散策では無い。
クライアントのための仕事は、まだまだ残っているのだ。
彼女が神殿へと戻ってきたとき、両腕に抱えられていたのは、色取り取りの花であった。
それを先ほどのボウルへと花を生ける。
手慰み程度の水を差し入れ、彼女は女神像の向かいの長椅子へと座った。
女神像の祭壇のまえに捧げられた切り花は、差し込む光に照らされて、どこからかふく風によって静かに揺れる。
「上着つきで恐縮ですが、外の景色を少しさしあげます」
一仕事終えた新山の声はどこか誇らしげではあったが、その表情は来たときと同じく変わらなかった。
祈らず、両手を脚の上にのせて彼女はじっと女神像をみつめていた。
「他の方々の声こそ、よく聞こえますよう」
自分は通りすがり。
他の猟兵達が、私より真摯より祈りを捧げてくれるだろう。
だから私はするべきではないのだ。
だがしかし。
「誰かが世界を願うとき、そこにあなたも含まれておりますようにと」
ふと、肩に何かが触れる感じがした。
作業中は気づかなかったのであろう。
シャツに花びらがついていたのだ。
「おすそわけ、ということですか」
肩の花びらをつまんで、生けた花々に目をうつす。
「どうもありがとうございます」
そう感謝の意を示す新山の顔は、嬉しそうだった。
大成功
🔵🔵🔵