アルダワ魔王戦争6-C〜諦めるか、それとも
●グリモアベースにて
「いよいよダンジョンも深まってくると、厄介な敵が出てくるものだな。いや相手が大魔王となれば当然ではあるのだが……」
猟兵たちへ語っていたプルート・アイスマインドの声音が、曇る。
迷宮に魔力を供給する巨大蒸気反応炉。それとともに姿を見せた大魔王第五形態『モルトゥス・ドミヌス』の無法の力を考えれば、プルートの反応も自然なものと言えた。
放った言葉を現実のものとする――その力の恐ろしさは計り知れない。
「巨神のごとき威容に違わず、強大な敵となるだろう。おまけに奴はこちらが転移していくのを待ち構えている。先手を取られることは避けられない」
大魔王からの先制攻撃を上手く防ぎ、反撃へと繋げる。
それが何よりも大事になると、プルートは猟兵たちへ強く伝えた。
そして、その場のどこからでも見えるだろう巨大蒸気反応炉には手を出すな、とも。
「広大な迷宮に魔力を供給している蒸気反応炉は、当たり前だが内部に莫大な魔力を秘めている状態にある。下手に破壊すれば地下迷宮はおろか地上の魔法学園すらも消し飛ぶほどの大爆発を起こしてしまうだろう。そうなっては本末転倒だ」
守るべきアルダワ魔法学園を崩壊させてしまう。
そんな災禍を引き起こすわけにはいかない。だから蒸気反応炉にはノータッチを貫き、あくまで大魔王の討伐に注力すべきだとプルートは言った。
「モルトゥス・ドミヌスを倒せば、最奥に潜む大魔王の真の姿も見えてくる……アルダワに平和をもたらすために、猟兵たちよ、頼んだぞ!」
言の葉を操る魔王を討つために――猟兵たちは、膨大な魔力渦巻く戦場へと転移した。
●裁定者
ごうん、ごうん、ごうん。
規則的に響く重い音が、広い空間に散っては沈むように消え入る。
魔力を生みつづける蒸気反応炉――その圧倒するような巨大な佇まいを背にして、大魔王『モルトゥス・ドミヌス』は全身を包む禍々しきオーラを迸らせた。
「『贄共』よ『見事』である!」
「『汝ら』は『死すべき』『宿命』を『再び』今『覆しつつ』ある!」
薄暗い空間に響くのは――称賛の言葉。
しかし、その高らかな声は、次の瞬間には絶望を宣告する。
「『だが』、『諦めよ!』『諦めよ!』」
「『我』は、『第五形態』にして『裁定者』、『モルトゥス・ドミヌス』!」
空間に反響する、『裁定者』の声。
ちらりちらりと瞬く光――転移してきた猟兵たちを見ながら、大魔王は哄笑にも似たその声で、大気を震わせた。
「『我が言葉』は『全て』『真実』となる!」
「『万に一つ』も『勝ちの目』は『無し』!」
「『贄共』よ、『汝ら』の『強き意思』は、『我が』『糧食』と『なる』のだ!」
星垣えん
星垣えんでございます。
待ち受けるは、絶対の言葉を持つ大魔王。
その言葉を、皆さんの力で覆してください。
今シナリオは『敵のユーベルコードへの対処法を編み出す』ことでプレイングボーナスが与えられます。
大魔王からの先制攻撃をどう防ぎ、反撃するか。
そこに注力すると、判定が有利になって良い結果を得やすくなります。
使ってくるユーベルコードは猟兵たちが使うユーベルコードと同属性のものになるので、その辺りも考える要素になるかもしれません。
それでは、皆様からの宿命を覆すプレイング、お待ちしております。
第1章 ボス戦
『大魔王第五形態『モルトゥス・ドミヌス』』
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POW : 『貴様らの攻撃は我が肉体には届かぬ』
無敵の【全身を包む『裁定者』のオーラ】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
SPD : 『己の力にて滅びるがいい』
【ユーベルコードをも『喰らう』両手】で受け止めたユーベルコードをコピーし、レベル秒後まで、ユーベルコードをも『喰らう』両手から何度でも発動できる。
WIZ : 『裁定者に仇為す者には災いあるのみ』
【悪意と魔力に満ちた言葉】を向けた対象に、【放った言葉を現実化すること】でダメージを与える。命中率が高い。
イラスト:東
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
レイ・アイオライト
傲慢もここまで来ると呆れるわね。
……言葉が真実になる力、覆してみせるわよ。
敵の腕から逃れるために『闇ノ足音』に影を纏わせてブースターとして利用、超速で退避するわ。(早業・空中戦)
おそらくあっちも追ってくるでしょう。
こちらに手を伸ばそうとしたときが好機よ。
UC発動、【闇影ノ隣人】。大魔王を模した影の塊を目の前に出現させる。
喰らうといいわ、大魔王。アンタ自身の影をね。喰らった瞬間、同位体であるアンタにもそのダメージが移される。
狼狽えたところに影から飛び出すように『闇に紛れて・目立たない・暗殺』よ!
フォルク・リア
「言葉が現実になるなら神にも等しい力だが。
それが魔力によるものなら何の事はない。
ただの魔術と大差ないだろう。なら、付け入る隙は十分にある。」
「裁定者と嘯く割にやる事は力に任せた蹂躙か。
まあ、それは俺も同じだが。
俺の術でお前を下す。その裁きは覆せはしない。」
決して退かない【覚悟】で臨み。
此方の言葉を信じさせる【催眠術】にかけて
敵の言動を注意深く観察して内容を【見切り】
発し終える前にそれを否定して【言いくるめ】る。
(こんな安い【だまし討ち】みたいな手が通じるとは
思わないが虚をつくにはこの方が良い)
敵の虚を突く事が出来たらその隙を逃さず
【高速詠唱】で死々散霊滅符を発動。
敵の全方位から爆撃を仕掛ける。
ソラスティベル・グラスラン
今更どのような言葉を宣おうと、退く気はありません
ここまで来たのです…もはや、わたしたちにとって絶望は絶望足り得ない
最下層まであと一歩!勇気と希望を胸に進むのみです!!
今までの戦いと同様に、正面から一歩
オーラ防御で守り、第六感・見切りで攻撃が弱い場所へ跳ぶ
怪力・盾受けで受け流し、気合いで耐える!
どうしました、大魔王よ
わたしはまだ『立っています』よ!!
継戦能力で耐え、一歩ずつ前進
見た目は無防備に見える防御重視の【勇者理論】
着実に距離を詰め、恐怖を与える
わたし一人倒せない、貴方の『裁定』はその程度なのですかッ!!
無敵を否定、恫喝し更に恐怖を
大斧で大魔王を吹き飛ばし
―――『退き』ましたね?
攻撃は、通る
水鏡・怜悧
詠唱改変省略可
人格:ロキ
まずはオーラをどうにかしなくてはいけませんね
「裁定とは善悪を裁いて決めることなのですよ。故に裁定者は善でも悪でもなく中立でなければなりません。だから貴方は裁定者ではありません」
言いくるめの挑発でしかありませんが。少しでも疑念を抱けば突破口は見えるはず
「貴方が大魔王だからではありません。貴方は他人に悪意を向けた。だから貴方は悪なのですよ。私と同じ、ね」
情報収集でオーラを観察し、綻びがあればUCで真っ直ぐ触手を伸ばしてオーラを貫き、掴んで投げ飛ばします。投げられずとも鎧を掴めば部位破壊にはなるでしょう。回避は考えません。致命傷でなければ後でUDC化して回復できますので。
雨咲・ケイ
まさに大魔王という名に相応しい風格ですね……。
ですが、ここで退くわけにはいきません。
何としても骸の海に帰って頂きます。
【POW】で行動します。
敵の先制攻撃には【オーラ防御】と【盾受け】で守りを固めつつ
「大魔王、アナタが過去(オブリビオン)である以上、
絶対に無敵ではありません。
既にアナタではないアナタ達は全て猟兵に倒されています。
これからアナタも私達に倒されますッ!確実にッ!」
と揺さぶりをかけオーラの弱体化を狙います。
そして【グラップル】による接近戦を仕掛けましょう。
敵が近接攻撃を放ってきたら、アリエルの盾を輝かせて
【目潰し】を仕掛け、怯んだ所で【光明流転】を放ちます。
アドリブ歓迎です。
ミリア・ペイン
私はね、とても諦めが悪い性格なのよ
お前が無様に散る姿を見届けるまで死ねないわね
【WIZ】《黒き怨恨の炎》
【オーラ防御】を展開【呪詛耐性・狂気耐性】の術式も付与し悪意に対する抵抗を高め
此方も【挑発】で対抗しつつ自我を保ち、言葉には【呪詛】の念を込め挑発を強化【精神攻撃】で奴の呪言を相殺
『御託はいいからさっさとかかってきなさい
お前の下らない前口上に付き合ってる暇はないの
…口だけ達者で実力は伴っていないのかしら?
【第六感】を研ぎ澄まし現実化した言葉の攻撃を回避
装備の杖を【念動力】で操り【鎧無視攻撃】で悉くぶち抜く
隙を見てUCを、炎を強化合体させ最大出力
良く回るお口を封じてやりましょう【部位破壊】
ルパート・ブラックスミス
先制攻撃でこちらのUCを吸収、反射。
つまりどうあれ奴はこちらの攻撃を受け止めにかかると。
愛機こと専用トライクに【騎乗】。
今回必要なのは翻弄するためではなく一瞬でも早く奴に届かせるスピード。最短距離を【ダッシュ】。
斬り落とせ、ニクス。
受け止める為に突き出された両腕を、予め【投擲】していたニクスこと爆槍フェニックス【誘導弾】にて【部位破壊】。
同時に愛機をUC【炎吹きて蒼駆せし半身】形態に変形。
更に鎧内の燃える鉛を供給、後部からブースターとして【武器改造】し噴出!
【限界突破】した加速を乗せた大剣で【串刺し】にする!
その減らず口は、これ以上叩かせん!
【アドリブ歓迎】
アリス・セカンドカラー
おまかせプレイング。
何故か上下逆さまで転送され、重力さんの早業の先制攻撃で頭から地面に落下。
ぐきぃ!と人体が発してはいけない音と曲がってはいけない方向に曲がる首、いきなりの出落ち(精神攻撃/盗み攻撃)で魔王が呆然と“言葉を失ってる”隙に幽体離脱(封印を解く)して地中に潜る(物を隠す/目立たない)。遠隔透視(第六感/視力/聞き耳/情報収集)で地上は視える。
そして、地中からの暗殺を仕掛ける形で大食いな『夜』で捕食する。悪意だろうが魔力だろうが言葉だろうがすべてはエネルギーだ、ならばこの『夜』はその遍くエネルギーをすべて喰らい簒奪(盗み攻撃)し力溜めしてドーピングで限界突破。
『夜』に堕としてあげる♡
イデア・ファンタジア
見た目は今までで一番大魔王っぽいわね。中身はどうだか知らないけど。
肉体を傷つけられないなら、傷つけない攻撃をすればいいのよ。
封印されている間に知恵をつけたみたいだけど、センスの方はどうかしらね?
あなたの想像力を、その『色』を奪う!白痴に戻りなさい、大魔王!
『空想喰らい』で大魔王の想像力を絵の具として奪い取るわ。……うわ、ひっどい色。
後は質問攻めして混乱させましょう。裁定者って何?どうして無敵なの?ってね。
オーラが弱まった……今だよ!
(アドリブ絡み歓迎)
可能なら私もグラフィティスプラッシュ(奪った絵の具は使わないよ!)で援護しましょ。想像力を失った今なら適切な言葉を選べないでしょう。
「『我』に『手向かう』か、『愚者ども』!」
溢れ出る魔力を漂わせる、大魔王の巨躯。
転移してきた猟兵たちの姿を認めたモルトゥス・ドミヌスは、鋼のように重々しい両手を前に差し向けた。
レイ・アイオライトは涼しげにその姿を睥睨し、両足に纏う靴『闇ノ足音』に背中の傷痕から影を注ぎこむ。
「傲慢もここまで来ると呆れるわね……言葉が真実になる力、覆してみせるわよ」
靴に充填された影が爆ぜ、レイの体が浮いた。宙を舞った体は長い影の軌跡を作りながら、ロケットのように吹っ飛んでモルトゥス・ドミヌスから離れてゆく。
「『裁定者』からは、『逃れられん』!」
即座にレイを追う大魔王。
超速で退くレイに負けぬ速度で迫り、鉤爪のような手をレイに振り下ろした。
――その瞬間、銀髪の暗殺者はしたり顔を浮かべる。
「そうね、逃げられないでしょうね。でも……」
レイの赤い瞳が、眼前の敵の全貌を写し取る。すると彼女の背中から水が湧くように影が湧いて、大量の黒影がモルトゥス・ドミヌスそっくりに形成された。
「はなから逃げるつもりはない。喰らうといいわ、大魔王。アンタ自身の影をね」
「『我』の『影』だと!」
くすりと笑むレイの眼前で、大魔王の手が影を切り裂く。
影はいともたやすく両断された。
そして――。
「ぬぅ!?」
攻撃したモルトゥス・ドミヌス自身の体にも、亀裂が走る。
レイの生んだ影の塊は、まさしく相手の『影』。影が受けたダメージを転写された大魔王の体が大きく揺れた。
そこへ、宇宙バイクのエンジン音が高らかに響く。
「盛大に噛まれたようだな。大魔王」
大型のトライクを駆って現れた、ルパート・ブラックスミスだ。
鎧のヤドリガミは一体化した愛機で風を切り、もはや『走る』というよりも『飛ぶ』ような速度でモルトゥス・ドミヌスに吶喊した。
「『正面』から『向かってくる』か、『愚か』な!」
疾走してくるルパートを止めるべく、その両手を突き出す大魔王。
けれど、その手がルパートのユーベルコードを喰らうことはなかった。
彼方より飛来した、蒼炎を纏う槍――『爆槍フェニックス』がモルトゥス・ドミヌスの両手を貫き、破壊したからだ。
「『我』の『腕』……が……!」
「上出来だ、ニクス」
前もって投げ飛ばしておいた魔槍を掴み取り、収めるルパート。同時にトライクに自身の蒼く燃える鉛を纏わせて強化変形させ、フルスロットルで突進する。
「『悪あがき』を! 『汝ら』に『勝ちの目』など!」
「その減らず口は、これ以上叩かせん!」
燃え滾る鉛を後方へ噴射し、加速したルパートが大剣をかざす。
弾頭のように駆けるトライクは大魔王のがら空きの懐へと潜りこみ、ルパートが突きこんだ刀身が深々とその体を穿った。
モルトゥス・ドミヌスの体に刻まれた亀裂が、音をたててひろがる。
だが下半身の触手がわずかたたらを踏んだ程度で、大魔王は体勢を持ち直した。両腕は落ちたが依然としてその強大な魔力は健在である。
「『我が腕』を『落とす』『意気』、『称賛』するぞ『猟兵』よ!
だが『汝ら』の『未来』は『変わらぬ』!」
希望などない――と断ずるかのような災禍の声が、空間に響き渡る。
受ける感覚だけで、猟兵たちはその声がただならぬものであると感じ取った。現実へと変わるという無法の力なのだろう、と。
けれど、ミリア・ペインの人形じみた無表情は微動だにしなかった。
「御託はいいからさっさとかかってきなさい。お前の下らない前口上に付き合ってる暇はないの……口だけ達者で実力は伴っていないのかしら?」
言下、繰り言のような呪文を唱えたミリアの前に防壁が張られる。
言葉などに屈指はしない。そう語るかのようにミリアの佇まいは凛然としていて、そしてそれは白きローブを羽織る魔術師――フォルク・リアも同様だった。
「言葉が現実になるなら神にも等しい力だが。それが魔力によるものならただの魔術と大差ないだろう」
「『浅慮』である! 『我が裁定』を『軽んじる』ならば『天罰』が『降ろう』!」
フォルクの言も切れぬうちに、大魔王の口蓋から魔に満ちた声が発せられる。
すると音が消えるや否や、降りそそぐ鋼刃がミリアに襲いかかった。ミリアが素早く横に飛び出したことで鋼刃は石の床に突きたてられるだけだったが、言葉のとおり天から罰を降らせた大魔王は哄笑する。
「『汝ら』の『運命』は『我が掌中』! 『訪れる死』は『変わらぬ』!」
「裁定者と嘯く割にやる事は力に任せた蹂躙か。まあ、それは俺も同じだが」
からからと笑い立てる大魔王へ、冷ややかな声をぶつけるフォルク。
ゆっくりと自身へ向くモルトゥス・ドミヌスの顔へ、フォルクは指を向けた。
「俺の術でお前を下す。その裁きは覆せはしない」
「『否』! 『裁定者』は『汝』では『ない』! 『分を弁えぬ』『不敬者』は――」
「平伏せよ、とでも言うのか? ありえんな」
「――!!」
モルトゥス・ドミヌスのひらきかけた口が、芝居のように固まる。
フォルクが並べた言葉は、まさにその口が発しようとしていた未来だった。言動から鮮やかに言葉を盗まれた大魔王はそのとき確かに意表を突かれ、動揺したのだ。
その一瞬を、フォルクは逃さない。
「死より出でて死を招く、呪いを携えしもの。中空に散じ、我が敵を闇に葬れ」
振り上げたフォルクの腕、その翻るローブの袖から大量の呪符が宙に散らばる。敵を囲んだ呪符は次々とモルトゥス・ドミヌスの体に張りつき、爆発した。
「むぅぅ……!」
連続する爆発。呻く大魔王の体が沈み、強固な体表にヒビが走る。
ミリアはそこへ、手に持った短杖をぶん投げた。特段に肩が強いわけでもないミリアの投擲は緩い放物線だ。しかし念動力が加わった短杖は途中で急激に軌道を変えて、豪速球よろしく大魔王をぶち抜いた。
「グオオ!!」
「裁くのがお前の仕事なら、裁かれることは少ないでしょう? だから私がお前を裁いてやるわ。そうね……火あぶりとかどうかしら?」
ミリアの周囲に無数の黒炎が灯り、ひとつふたつとより合わさる。
やがて巨大な漆黒へと形を転じると、ミリアはその炎球をモルトゥス・ドミヌスの口の中へと放りこんだ。
「ガアア! 『我が声』が、『我が言葉』が!」
口蓋にて暴れまわる黒炎に、のたうつように上体を上下させる大魔王。
猟兵たちの攻めが通っている。着実に大魔王は弱っている。
確かにそう思える光景――に、はるか上方から高速で何かが降ってきた。
「ふふ、言葉責めが得意な大魔王さんなのね。いいわね」
いけないことを考えている顔をしている、アリス・セカンドカラーである。
中空に転移するかたちになったアリスは、ひゅーんと降下していた。
……というか頭から落下していた。
「どうして逆さまで転移しちゃったのかしらね。このままじゃグロ画像――」
ぐぎぃ!!!
およそ日常生活では聞こえないだろう恐ろしい音を発して、アリスはごろんと床に横倒しになった。ありえない鋭角で曲がる首は誰が見てもヤバかった。
「……」
壊れた人形みてーに伏してる物体を、無言で見下ろすモルトゥス・ドミヌス。
気づいたら何か死んでる――そんなシチュエーションで言うべき言葉を大魔王は持っていなかった。ミリアの攻撃で顎とかもボロボロだし。
モルトゥス・ドミヌスはくるっと他の猟兵たちへ向き直った。
「『汝ら』にも『すぐに』『死』を――」
「え、待って? 別に死んでないけど?」
「!?」
ふいに響くアリスの声――と同時に、床の細い隙間から『夜闇』が染み出した。
澄み渡るような闇が一帯を覆い、モルトゥス・ドミヌスを包みこむ。死んだふりをしている間に地中に潜ったアリスの幽体が、ユーベルコードを発動していたのだ。
「オオォ……『これ』は『何』だ!」
「魔力だろうが言葉だろうが、何かをもたらすならそれはエネルギー。ならばこの『夜』は遍くエネルギーを喰らって簒奪してやるわ♡」
「グアアァ……!?」
アリスの声に呼応して、蠢く『夜』。
魔力を喰らわれたモルトゥス・ドミヌスは、崩れるビルのようにぐらりと傾ぐ。
しかしそれでも倒れるには至らない。
「『我が肉体』、『汝ら』に『滅ぼすこと』は『できぬ』!」
ひときわ大きな、腹の底を震わすような声が轟き、大魔王の体にまとわりついていた『夜』が吹き飛ばされる。
アリスのユーベルコードが晴れたその体には、紫紺のオーラが鎧のように張り巡らされていた。バリアのように漂うオーラがアリスの『夜』を弾いたのだ。
凄まじい魔力の奔流を目の当たりにしたイデア・ファンタジアは、あおられる白い長髪を手で押さえる。
「なんだか見た目は今までで一番大魔王っぽいわね」
「まさに大魔王という名に相応しい風格ですね……。ですが、ここで退くわけにはいきません」
「ケイさんの言うとおりです。最下層まであと一歩! 勇気と希望を胸に進むのみです!!」
光り輝く小盾『アリエル』を構える雨咲・ケイの覚悟に、ソラスティベル・グラスラン
が黒翼の盾『モナーク』をかざして呼応する。
迷宮の果ては近い。そして眼前の大魔王の果ても近いはず。
そう思えばこそ、敵の無敵のオーラを前にしても猟兵たちの足が怯むことはなかった。
「しかし、まずはオーラをどうにかしなくてはいけませんね」
後ろから冷静な声を投げたのは、水鏡・怜悧だ。
怜悧はその緑の瞳でじっとモルトゥス・ドミヌスを観察しているが、敵の紫紺のオーラには一分の隙も見えなかった。おそらくはどう攻めようが跳ね返されるだろう。
それは、怜悧だけではなく皆もわかっている。
わかったうえで、ソラスティベルとケイは前に踏み出した。
「『あがきようもない絶望』に『汝ら』は『抗う』か!」
「今更どのような言葉を宣おうと、退く気はありません。ここまで来たのです……もはや、わたしたちにとって絶望は絶望足り得ない!」
「この場で、アナタには骸の海に帰って頂きます!」
「『言葉』は『勇猛』だ! だが『行動』でも『示せる』か?」
前進する二人へと、モルトゥス・ドミヌスの攻撃が迫る。無敵のオーラを纏った触手が長大な鞭のように伸びて、あらゆる方向から叩きつけられる。
が、ソラスティベルとケイは連撃をモナークとアリエルで受け、オーラを漲らせた体で強打に耐えた。
それどころか、ソラスティベルの体は前へと進んでゆく。
着実に、前へ。
「『馬鹿』な! 『なぜ』『止まらぬ』!」
「どうしました、大魔王よ。わたしはまだ『立っています』よ!!」
その身を嵐のような攻撃に晒しつつ、突き進むソラスティベル。
勇気と気合、そして根性。
胸の内に灯り、自分を支える勇者の理論――それさえあれば少女の体は揺るがぬ鋼になり、脚は休みを知らぬ車輪となり、心は陰ることない太陽になる。
「わたし一人倒せない、貴方の『裁定』はその程度なのですかッ!!」
「ヌウッ……!」
強く踏み出した脚と咆哮。ソラスティベルの気迫に押されたモルトゥス・ドミヌスが俄かに触手の動きを緩め、じりりと後退する。
それを追うように、ソラスティベルは踏みこんだ。
蒼穹のように晴れやかな、蒼き大斧を振りかぶりながら。
「――『退き』ましたね?」
「グオオオッ!?」
両手で振るった全力の一撃が、オーラの綻びを突いて大魔王の体を捉える。横薙ぎの一閃で吹っ飛ばされた大魔王はその勢いのまま壁に激突して床にずり落ちる。
痛打。
受けるはずのない痛打に、大魔王のオーラは風にあおられた火のように揺らぐ。
ひとときも逃さず敵の動向を観察していた怜悧がそれに気づかぬはずもなく、彼はすかさず声を飛ばした。
「裁定とは善悪を裁いて決めることなのですよ。故に裁定者は善でも悪でもなく中立でなければなりません。だから貴方は裁定者ではありません」
「『我』を、『愚弄する』か!」
苛立たしげに言い返す大魔王だが、オーラの揺らぎは変わらない。打てども倒れぬソラスティベルに与えられた動揺は大きかったようだ。
ならば今こそ、積み重ねる言葉が力を発揮する。
「貴方が大魔王だからではありません。貴方は他人に悪意を向けた。だから貴方は悪なのですよ。私と同じ、ね」
「『悪』? 『否』、『我』は……!」
浴びせられる怜悧の言葉に、声を詰まらせるモルトゥス・ドミヌス。
それを見て、イデアは弾かれたように飛び出した。
一本の絵筆を持って。
「肉体を傷つけられなくてもやりようはあるわ! あなたの想像力を、その『色』を奪う! 白痴に戻りなさい、大魔王!」
剣のように振るったイデアの絵筆が、空を切るように大魔王の肉体を透過する。
しかしミスをしたわけでは、ない。大魔王の体をすり抜けた絵筆の穂先には、しっちゃかめっちゃか色を混ぜたような濁りきった絵具がたっぷりとくっ付いていた。
「……うわ、ひっどい色」
眉をひそめるイデア。
絵筆による一撃、それが彼女のユーベルコードだ。呪いをこめた絵筆は相手の想像力を絵具に変えて奪い取る。その結果として絵筆に乗る絵具の色は様々だが、大魔王の精神の色はどうやらイデアの気に入るものではなかったらしい。
「『我』……は……??」
「ねぇ、裁定者って何? どうしてあなたは無敵なの?」
「『裁定者』……? 『無敵』……?」
手元で絵筆を遊ばせながら尋ねるイデアに、モルトゥス・ドミヌスは何を答えることもできなかった。想像力を奪われた大魔王は一時的に思考力までもが鈍っていた。
その精神状態はすぐさま、肉体を取り巻くオーラにも表れる。
「オーラが弱まった……今だよ!」
「そのようですね」
イデアの合図に応じて、いやそれよりも早く、怜悧がユーベルコードを発動する。
衣服の下から這い出てきた触手は瞬く間に地面を滑り、オーラの揺らぎを貫いて大魔王の触手を絡めとる。力任せに投げ飛ばしたモルトゥス・ドミヌスの体はまたも壁面に飛びこみ、硬殻のような体表のあちこちが無惨に剥がれ落ちてゆく。
「『我』は……『裁定』……!」
「立ち直る暇は与えません!」
「『光』……!?」
よろよろと起き上がりかけた大魔王へ、アリエルを投げこむケイ。小さな盾が放つ輝光に襲われると、無敵のオーラはそれだけで大きく揺らぐ。
追いこまれた大魔王には、もはや己の力を信じることはできなかったのだ。
「大魔王、アナタが過去である以上、絶対に無敵ではありません。既にアナタではないアナタ達は全て猟兵に倒されています。これからアナタも私達に倒されますッ! 確実にッ!」
「『我』が……『滅ぶ』……『否』、『我』は……!!」
懐へ飛びこんできたケイの叫びを頼りに、触手を振るう大魔王。
だが最後の抵抗をケイは難なく、受け止めた。攻撃を軽くいなしてみせると、身を低めて至近の距離まで潜りこむ。
「過去へ還るときです、大魔王」
ケイの拳が、極大の一撃が、モルトゥス・ドミヌスの深奥を打ちぬいた。
それを引き金に、猟兵たちが刻みこんだ傷が縦横無尽に拡大する。やがてその亀裂が全身を埋め尽くしたところで、大魔王は硝子が砕けるように現世から消えるのだった。
大成功
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