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誰が墓場鳥を殺したか?

#スペースシップワールド #小夜鳴鳥(ナイチンゲール)号

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#スペースシップワールド
#小夜鳴鳥(ナイチンゲール)号


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●螺子は巻かれど
 小夜鳴鳥(ナイチンゲール)号。スペースシップの中でもかなりの古株だ。
 多くの困難なミッションを乗り越えたことから、他船からの信頼も厚かった。
 それがある日、突如消息を絶った。
 古馴染みらが総出で捜索したが……船員はおろか船の痕跡すらも未発見に終わった。

 デブリや隕石群に撃墜されたならば、破壊片がある。
 船に異常が起きたならば、そのデータログが遺る。
 悪意ある闖入者が居たならば、そいつはどこへ消えたというのだ。
 ついにはオカルトめいた噂すら囁かれ――いつしか、誰もがそれを忘れ去った。

●歌は流れず
「その消息不明の船が発見されちゃったわけよ」
 グリモア猟兵、白鐘・耀は浮かない調子で言った。珍しく、その眉間にシワが寄っている。
「まあ結論から言うと、"おそらく"オブリビオンの仕業ね。"多分"船員は全員死んでるわ」
 妙に不確定な言い方はなにゆえか? 耀はこう説明する。
「私が予知したのは、えーと……なんていうの、小惑星群ていうのかしら? まあとにかく、見つかりづらいところに船が浮いてた。ただそれだけなのよ」
 船内で何があったのか、そして今どうなっているのか。
 ――誰が"何を"しでかしたのか。Where以外の全てが欠けている、というわけだ。

 しかしグリモアを通した予知があった以上、オブリビオンの関与はまず確実。
 耀の疑念は、それとは別のところにあるらしい。
「なーんかきな臭いのよねえ……まあ、私は送り出すしかないんだけどね」
 転移先はナイチンゲール号の船内、資材搬入口になる。
 下手をすればオブリビオンの待ち伏せ、あるいは罠がいきなり襲いかかるかもしれない。危険な任務だ。
「それでも、放っておくわけにはいかないわ。もちろん危険を排除する意味もあるけど、でも……」
 言いかけて、耀は瞼を伏せた。思うところあるのか、しばし沈黙する。
「……もし仮に船の人たちが死んでるなら、そのままにしとくのは寝覚めが悪いでしょ」
 ためらいがちな言葉の裏には、彼女の事情が感じさせられた。

 もはや彼らを捜そうとする者は、この世界には誰もいない。
 ゆえに箱は閉じられたまま。誰かがそれを開かねば、謎は謎のまま終わるだろう。
「事実がどうあれ、まず間違いなくオブリビオンはそこにいる。とにかくそれを倒すことが最終目的なのは事実よ」
 自らに言い聞かせるように、耀は言う。肩をすくめて火打ち石を構えた。
「面倒ばっかり背負わせちゃうけど、お願いね。あんたたちなら出来ると信じてるから」
 小気味よく火打ち石が鳴る。それが、転移の合図となった。


唐揚げ
 フー・キルド・唐揚げ? いえ死んでません、唐揚げです。
 オープニング、いかがでしたか。エッ、読んでない?
 そんな方のために、シナリオのまとめです。

●目的
 旧型宇宙船『ナイチンゲール号』の内部探査。
 (船内のどこかにいるであろう)オブリビオンの撃破。

●敵戦力
 ???(最低でも1体。途中で集団戦の可能性も)

●備考
 謎解き要素あり(シナリオクリアには不要。詳しくは以下をご参照ください)

 では謎解き要素について。
 備考にもありますが、これはシナリオクリアの必須要素ではありません。
 このシナリオでは、『ナイチンゲール号で何が起きたのか』を解明するとその後の展開がある程度変化します。
 といっても戦闘がオミットされるとか、解かないと不利になるわけでもありません。
 なので、面倒だったり文字数に余裕がなければ省いて全然OKです。
 章ごとの目的をクリアすれば道は開けますし、敵も現れます。ごあんしんください。

 謎の解明に挑まれる場合。
 シナリオでは船に搭載されたAI『D-234S』が音声を通じて猟兵に語りかけます。
 このAIに質問をすれば、当時の船内に関する手がかりを得られるでしょう。
 それをもとに推理することで、真相に辿り着けるかもしれません。
 他参加者様のリプレイにも注意しつつ、手がかりを集めてみてください。

 繰り返しますがこれはお遊び、任意の要素です。
 普通に進めるだけでも、最後の戦闘で謎は明かされます。
 なので難しく考えず、ロールプレイやキャラ立ての一環として考えてみてください。

 では前置きはいい加減にして。
 皆さん、苦いコーヒーを飲みながらよろしくお願いします。
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第1章 冒険 『甘く漂う未知の香り』

POW   :    通気口の中に直接入って探す。

SPD   :    五感を駆使して風の強さや臭いの強さで探す

WIZ   :    艦の図面を確認して普段利用されない部屋を特定して探す。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●探索開始
 転移先に危険はなかった。……ひとまずは、だが。
 照明が機能していないのか、暗い資材搬入口には異常も見当たらない。
 強いて言うならあちこちの部材が経年劣化を起こしていることぐらいか。
 ここが地上の施設なら、埃がうず高く積み上がっていることだろう。
 だが宇宙船の内部ともなれば埃も少なく、無機質なまでに清潔を保っていた。

『複数の生命反応を検知しました。船舶識別信号……確認不能』
 と。そこで、どこからか機械音声が響いた。
 同時に、照明がバチバチと不安な音を立てて再起動、周囲を照らし出す。
『おはようございます。当船は登録名・ナイチンゲール号、私は航行補助AIのD-234Sと申します』
 どうやら、船に備え付けられた人工知能のようだ。意外にも、電源系統は未だに活きているらしい。
 するとかすかに、通路の奥から甘い匂いが漂い始めた。
 一方、その変化に気付かぬ様子でAIは告げる。
『船内非常時規定第四項に則り、あなたがた所属不明者に支援を要請します』
 船内各所に音声認識装置が内蔵されており、呼びかければAIとの対話が可能だ。
 猟兵がその言葉の意味を問えば、D-234Sは説明を続ける。
『現在当船は、何者かの破壊工作により航行不能状態に陥っています。全乗船員の信号が途絶しているため、事態を解決しうる人員が船内に確認出来ません。破壊工作の影響で、私自身も一時的に機能不全に陥っていました』
 AIは補足する。
『補助AIである私、D-234Sには解決のための能力と権限が与えられていません。非常時規定によれば、それが可能であろう人員に復旧支援を要請できる、とあります』
 つまりこうだ。
 この船はグリモア猟兵の見立て通り、何者か――十中八九オブリビオン――のせいで機能を喪失している。
 D-234Sも機能不全を起こしていたため、事態を把握できていない。
 そしてこれに対処すべき船員は、居場所はおろか安否も確認できない……と。

『船内見取り図など、必要な情報は逐次提供いたします。どうかご協力をお願い出来ないでしょうか?』
 AIは、感情を覚えさせぬ声で締めくくった。年代の古さを感じさせられる。
 とはいえ、船内AIが機能復旧していたのは渡りに船というべきだろう。
 唯一の暗く長い通路の照明が、奥へ奥へと順番に点灯していく。
 まるでそれは、猟兵を迎え入れるように――あるいは、誘蛾灯のように。
 時折チカチカと点滅する白色灯の輝きは、どこか不気味だった。
甘夏・寧子
【SPD五感を駆使して風の強さや臭いの強さで探す】
宇宙のコマドリ……いや、小夜鳴鳥だったね。ごめんごめん。せめて『スズメ』だけはどうにかしないとね。
船内の見取り図を元にこの甘い匂いを辿ろうか。風の通り道になりそうな通風口があれば調べておきたいね。
それと……開けられそうな扉は少しでも開けておきたい。…………何かあるかもしれないだろう?
確かめておきたいんだ。『矢』は抜け落ちたのかどうか。



●手がかり
 立体投影された見取り図を手がかりに、通路を進む甘夏・寧子(錦鈴の女・f01173)。
 人工重力システムはまだ復旧途上らしく、その煌めく金髪をふんわりと宙になびかせている。
「宇宙のコマドリ、ね。まあ縁起が悪い」
 呟きにAIが機敏な反応を見せた。
『当船の登録識別名はナイチンゲール、です。コマドリではありません、お間違いないよう願います』
「ごめんごめん、小夜鳴鳥だったね」
 機械らしからぬ訂正に肩をすくめる寧子。だがすぐさまその表情は引き締まった。
 脳裏によぎるのは、多くの人々が知るありふれた童謡の一節。
(せめて『スズメ』だけはどうにかしないと、ね)
 心の中でそう呟き、神経を尖らせる。翼を見せぬとて、彼女はオラトリオだ。風を読み、その匂いを捉えることなど造作もない。

 通路を進み、目についた通風孔を調べるうち、彼女はほどなくして理解した。
(おかしいね。通風孔の配置と、空気の流れが一致しない)
 万能動力機械「コアマシン」があれば生存に必要な物資はおろかエネルギーも生成出来るとはいえ、資源の浪費は愚策だ。
 ゆえに大抵のスペースシップ……特にこのナイチンゲール号のような船ならば、空気を濾過循環させる機構はあって当然と言える。
 だが風向きは逆の結果を示している。おまけに、循環装置へ船内大気を送り込むための通風孔は、全て内部経路が封鎖されていた。
(これじゃあ、空気は淀むばかりだ。破壊工作、ねえ)

(それだけじゃない、この匂いだ)
 目についた扉を一つ、また一つと開扉しながら、寧子は思案する。
 甘ったるい鼻につく匂い。濃厚なケーキでも作っているのか? まさか。
 ……おそらくこれは、ガスだ。それも非即効性の検知しにくいタイプだろう。
 分析出来るようなものは持ち合わせていないため、詳しい組成や効果のほどはわからない。まあもちろん、ろくなものではあるまい。
 いかなるガスであれ、猟兵たちならば影響を受けることはまずない。戦闘を想定してここに来ているのだから。
 だが、このガスが漂うなかで船員たちが暮らしていたのだとすれば……。

「ん?」
 居住区にある扉の一つを開けようとしたところで、寧子は訝しんだ。
 これまでの扉はスイッチを押すか、電源が落ちていても手動操作で開けた。
 が、このドアは固く閉ざされており、びくともしない。
『申し訳ありません。そのドアはロック機能の故障により閉鎖されているようです』
「ふうん、そうかい」
 D-234Sの言葉を聞き流しつつ、寧子は思案する。……あの手ならば行けるか?
「ここをこうして……っと。ようし」
 賞金稼ぎとして多種多様な依頼を請ける彼女にとって、故障したドアを紳士的に開ける"裏技"など、身につけていて当然。
 赤いランプが緑に切り替われば、あとは手動操作で開くことが出来た。
 中を検分し、その惨状を見た彼女は肩をすくめる。

「――ああ、やっぱり。『矢』は抜けちゃいなかったか」
 部屋の中には乗船員の死体がひとつ。相当に苦しみ悶えて死んだのだろう。
 そこら中にひっかき傷と血反吐がこびりつき、しかし死体に外傷は一切なかった。
 天井灯は、不気味にバチバチと点滅を繰り返している……。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユエイン・リュンコイス
【WIZ】何かが起こった、か。敵を倒すにも真相を知るにも、まずは情報収集が先決かな。

【情報収集】で「船内見取り図」と「異常発生からの経過時間」をAIに聞くよ。経過した時間にもよるけど、相当昔みたいなのに甘い匂いを放ち続けているのはおかしいからね。
あと船員ごとの、「通信が途絶した場所と時間」も分からないかな? 全員が同時多発的に消えたのか、それともある地点から広がる様に途絶したのか。それが分かれば異変の起きた場所は絞り込めるかもしれないね。
上記が分かればそこを中心に、でなければ順番に船内を探索。生死、遺体の有無含めてね。
「こういうミステリ的なのは嫌いじゃないんだ…勿論、物語としてはだけどね」



●疑惑
「こういうミステリ的なのは嫌いじゃないんだ。勿論、物語としてはだけどね」
『同意いたしかねます。当船に起きているのは緊急事態です』
「だろうね。だからボクらは来たんだから」
 ユエイン・リュンコイス(黒鉄機人を手繰るも人形・f04098)とD-234Sのやりとりは、一見すると人間を真似る機械同士のそれに思える。
 だが見る者が見、聞くものが聞けば、AIはともかく人形少女はそうでないとわかるだろう。
 じっくりと時間をかけ、手薄な場所から調査するユエインの声には、オブリビオンに対する警戒と苛立ちが感じられた。

「ところで、D-234S。まだいくつか聞きたいことがあるんだ」
『なんなりとお申し付けください』
「キミは何者かによって破壊工作が行われたと言ったね。具体的に、それが発生したのはいつごろなのかな?」
 スペースシップの航行を補助するAIは、船ごとに差異はあれど船内のほとんどの任務に携わるのが基本だ。
 たとえば資源の管理、コンピューターの動作確認、船周辺宙域の警戒探知だとか。
 船内生活を健全に維持することもその仕事の一つである。
 宇宙の旅では、時間感覚は容易に失われる。
 海洋を征く船舶ですら、曜日感覚を失わないよう、決められた日に同じ献立を供する規則もあるぐらいだ。
 ゆえにAIならば、いつ、どこで、どういった出来事があったのか。秒単位で参照出来るのが自然である。

 ……が。
『申し訳ありません。その質問にはお答えいたしかねます』
「へえ、どうして?」
『事態の復旧には無関係であり、かつ船内記録の参照には権限が必要であるためです。そこまでの権限は、非常時規定でも許可されていません』
 もっともらしい理屈だ。だがどこか違和感がある。
『……加えて』
 ユエインの沈黙に押されるように、AIが続けた。
『私も発生直後に機能不全に陥ったため、経過時間に関しては正確性を欠きます。不用意なデータにより、皆様の活動を妨害するのは本意ではありません』
「そう。じゃあそうだね、乗船員が信号を途絶した場所と、時間はどうかな?」
『…………』
 沈黙があった。それはデータ参照のためか、あるいは。
『記録の部分的な復旧が出来ました』
「それも秘匿情報かい?」
『いえ。乗船員の信号途絶はほぼ同時刻となっています。各船員の信号最終地点を見取り図に反映いたします』
「ありがとう」
 立体投影図に目を見やる。居住区を中心に、コクピットブロックにもいくつか。
 あちこちに、信号途絶を知らせる光点が点灯した。位置も何もかもバラバラだ。
「普段通りに生活していたら、いきなり一斉に信号を途絶、ってところかな」
『そのようなご理解で問題ありません。お役に立てたでしょうか?』
「ありがとう。何も分からないということがわかったよ」
『恐縮です』
 皮肉にも動じない、無機質な声。

 ユエインは思案する。
 光点ポイントのいくつかは、ここに来るまでに通り過ぎてきた。当然だが乗船員はいない。
 むしろ飲みかけのコーヒーカップ(杯の中のそれは腐敗し悪臭を放っていた)や転がった道具など、まさに普段通りの生活をしていた痕跡ばかりがあったのだ。
(一瞬で船の機能を奪うようなトラブルに対して、古株と呼ばれる船の乗組員がなんの対処も出来ずになすがままにされるだろうか)
 無論、否だ。
 相手がオブリビオンでも、一撃で船を、しかも無事なまま機能喪失させることなど不可能に近い。
 ましてや歴戦の船乗りたちだ。混乱はあれど、即時の対応行動は取れただろう。

 ――オブリビオンが、『外部から』攻撃を仕掛けていたならば。
「……ところで、ここだけ誰もいなかったようだね」
 光点のないあるポイントを指差すユエイン。
『そこは動力室です。緊急時以外は船員も立ち入りを禁止されています』
「なるほど」
 その緊急時が起きたというのに? 誰一人がそこに近づかずに姿を消したと?
 疑惑は募る。
 この事態に。そして、不確定なデータばかりを提供するD-234Sに対して。
(動力室を調べよう、なんて言ったらまた反対してくるんだろうね、このAIは)
 言葉に出さぬまま、ユエインは思った。
 ある意味で目指すべきポイントは決まったとも言える。

 彼女を含めた一同のもとに、寧子の発見が伝わるのはそのすぐあとだった。
 立体投影図に表示された光点と、死体の発見現場は一致しない。
 つまりその人物は、信号が途絶してから部屋に入ったということであり……。
 死体の階級章は、彼がこの船の長であったことを示していた。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

御狐・稲見之守
よもや星の海原を行く船でこんな怪談とはのう。あさて、船長殿はなにか記録を残してはおらんかの? 航海日誌など付けているものであろうに……そこはD-234Sや他の猟兵に任せてワシは探索を進めよう。

[POW]それでは式神符を通風口に潜らせてみようぞ…追跡する対象は甘い匂いの元じゃ。可能であれば通風口から動力室へと向かってみるのも良し。ワシは自分の足で動力室へ向こうてみるかの。あー、えーあい殿案内を頼みたい。

見つかった屍は船長のみ、他の屍はあるべき場所になく、船の心臓たる動力室で死した者も記録上なし。真実は何処にありや? 猟兵皆は知らんと欲す。



●闇にうごめくもの
「消えた船員、そして苦悶し果てた船長の死体とな。いやはやなんとも怪談じみた話しよの」
 御狐・稲見之守(お稲見さん・f00307)は、どこか楽しむような声音で言う。
 話し合う猟兵らの視線が彼女に集まる。彼女は肩をすくめた。
「ワシに意見を求めとるんかの。まあ、こういうときは船長殿の懐でも漁ってみるのがよかろうて」
 彼女の鶴の一声が決め手となり、遺体および発見現場の捜索が確定した。
 が、それを言い出した彼女は、まったく別の方角へ向かう。
「あさて、えーあい殿よ。道案内をお願いしたいのじゃが」
『見取り図では不足でしょうか? ではナビゲートを行いましょう。目的地をご指定ください』
「うむ。動力室に向かいたいのじゃ」
 ……沈黙。稲見之守は、天井を見上げたままあるかなしかの笑みを浮かべて小首をかしげた。
「フムン、なんぞ悩み事かの。くわばらくわばら」
 おもむろに袖口から手をにょきっと出してみれば、剣指に挟むは数枚の霊符。
「小さきことは便利哉。ほれ式よ、働いとくれ」
 密やかな声で呪を唱え、ふう、と霊符に息を吹きかける。
 するとそれは超小型の式神に変じた。フェアリーよりもさらに小さい。
 ちらりとキツネ目が周囲を伺う。監視カメラの類、なし。
 それを確認した上で、彼女は頭上の通風孔へ式神を送り込む。

『……おまたせしました、申し訳ありません。当船は現在、最小限のエネルギーで機能を維持しているため、一時的なパワーダウンが……』
「ああ、そういうのはよいよい。道案内しとくれればそれでええゾ」
『動力室への接近は推奨されません。案内はいたしかねます』
「なぜじゃ? ぱわーだうんを起こしとるんなら、ワシらが赴いてえんじんだのを修理することもできように。おかしいのう」
『船内規定が……』
 理屈を並べるD-234Sの声音に、ころころと鈴の鳴るような笑い声を漏らす稲見之守。
 それはAIをからかって遊んでいるようにも、挑発しているようにも思える。

「ま、見取り図はあるのじゃからそれでよい。徒歩(かち)にて向かうまで。ワシらは真実を知りたいのじゃからナ」
『それは私も同じです。この事態を把握し、復旧することが――』
「否よ」
 ぴしゃりと狐神は言った。
「ワシらが欲するは"真実"ぞ。消えた屍の謎、遺された屍の謎、そして」
 キツネ目が不気味に煌めく。
「"誰が小夜鳴鳥を殺したか"、をな」
『…………申し訳ありません。抽象的表現にはいささかの不理解がございます』
「あ、そ」
 動力室へと歩みを進める稲見之守。徐々にだが、甘ったるい匂いは強まっていく。
 通りがかる無人のフロアには、やはり乗船員たちの生活の残滓が残されていた。だがあるべき屍も、生存者も、どこにもない。
 ――だが、ひとつだけ変化があった。
「これはこれは、ほほう」
 通路の端や開けっ放しの部屋の床に、作業用のジャンプスーツや船員用の制服がぽつりぽつりと転がっているのだ。
 脱ぎ散らかした、というふうではない。まるで、中身が消えて失せたかのような……。
 されど屍は影も形もなし。
「ところでえーあい殿よ、案内を拒む割にワシを無理やり止めたりはせぬのだな?」
 やや間をおいてD-234Sが応じる。
『私はあくまで船内生活を補助することが役割です。能動的に船内生活者の行動を阻害することは出来ません』
「なるほど、なるほど。小間使いとはどの世界でもそういうものよのう」
 曖昧にそう答え、歩みを進める。
 頭上と足元に設置された電灯は、不穏さを煽るようにチカチカ瞬いていた。
("えーあい"が、船の乗組員を阻むはずはなし。道理よな)
 片目を閉じ、沈思黙考する稲見之守。『もし仮に』人工知能がそんなことを働いたら、私はあなたの敵です、とアピールしているようなものだ。
(なんぞか起こると期待してみたが、ワシのほうには何もなしか。となると――)
 そこでぴくり、と耳が動いた。
「えーあい殿よ、この船には乗組員はいないのであったな?」
『皆さんの他には』
「では生物はどうなのじゃ? ほれ、ぺっとだの何か畜産しておるだとか」
『それも存在しません。生体反応は一切ありません』
 その言葉に満足気に頷く稲見之守。そして近くにあった通風孔の闇の奥に目を向ける。

「では、"今しがたワシの式神を食ろうたのは生き物ではない"ということじゃナ」
 別経路で動力室へ向かっていた式神は、その途中で反応が消失した。
 霊的な接続により、稲見之守はそれを感知できる。
 そしてこの船に生物はいない。であれば……式神符を喰らったのは、"何"だ?
「さて、鬼が出るか邪が出るか。ふふ」
 尾を揺らし、霊符を構えながら不敵に笑う。
 そして通風孔の奥。深き闇のなかで――何かが。蠢いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

メイスン・ドットハック
【WIZ】
原因、と言われてものー
正攻法では早々な情報は集まらんじゃろーのー

AI『D-234S』に船内の監視システムがある場所を聞きだし、場所に行く
セキュリティがあった場合、ロックにハッキングを仕掛けて解錠を試みる(ハッキング、鍵開け)

船内の監視システムから、船内で一体何があったかカメラから情報を集める(ハッキング、情報収集)
可能であるならば、ロックがかかって、進めない部屋などのロックを解除して仲間を支援しておく(ハッキング、鍵開け)


玄崎・供露
サヨナキドリ、な……さて。こいつはどっちなんだろうな。本物か作り物か……つってな。俺にゃ関係無い話だ

【WIS】情報、情報、情報が足りない。情報収集に徹する。

D-234Sとやらに『乗員名簿』『機体内部の地図及び船体図面』のデータを要求。……ついでに「ハッキング」技能で裏取りも行う、無論バレないように慎重に、な。悪いとは思ってるよ。

「それとあと一つ。あんたが正気であるっつー確証はあるか?」

※アドリブなどご自由にお願いします



●闇にさまようもの
 同時刻、ナイチンゲール号・中央制御室。
「……OK、見られたり聞き耳立てられてる様子はないみたいだ」
 部屋の各所を慎重に調べていた玄崎・供露(テクノマンサー・f05850)は、確信を以て断言した。
 一方、おかっぱ頭の少女……すなわちメイスン・ドットハック(引きこもり志望ハッカー・f03092)も、その言葉に頷く。
「囮役なんてめんどーじゃからのー、あの神様が自分から請け負ってくれてよかったのじゃ」
 二人は、早々に正攻法での探索を諦めていた。
 いや、正しくは考えを切り替えた、というべきだろう。
 情報が足りない。されど質問に対するD-234Sの答えは、それらしい理屈を伴う『NO』か『Dodge』かのどちらかだ。
「ま、当たり障りないことには正直に答えるようで助かったのはたしかじゃ」
「求められればいくらでも歌う、ね。まるで童話の小夜鳴鳥そのものだな」

 二人の要求――つまり『船内の監視システムや乗員名簿を参照できる場所、もしくはデータそのもの』に対して、D-234Sはこう回答した。
『申し訳ございません、データが膨大かつ復旧途上のため、そのものをお渡しすることは不可能です。が、保管場所の座標をお送りいたします』
 あっさりとAIはその場所……つまり、この中央制御室の座標を開示した。
 補助AIとしては当然の行動だ。そもそも事態の解決と支援を要求したのはあちらなのだから。
「けどどうにもひっかかるんだよな」
「なんじゃ、痕跡はしっかり消してきたのじゃろう?」
 供露の呟きに、メイスンは口をとがらせた。面倒事はごめん、と顔に大きく書いてある。
(……最初から誘い込むつもりだった、とかかね)
 口に出さずそう考える供露。だが、もし仮にD-234Sが何か企んでいたとしても、二人はその裏をかけているだろう。
 あからさまに動力室へ向かった稲見之守……AIの注意はそちらに向いていた。
 加えて電脳魔術士である二人にとって、補助AIの知覚範囲をかいくぐることなど造作もない。
「てっきりセキュリティがガチガチだと思ったんじゃがのー」
 柱型の中央コンピュータにアクセスしながら、やや退屈そうにメイスンが言う。
 面倒が起きないに越したことはない。だが拍子抜けに過ぎる。その理由はなんだ?

「いいからさっさと仕事しちまおうぜ。俺も手伝うからよ」
 眉目秀麗ながらも醒めた印象を与える供露の瞳には、少々の呆れがあった。
「そりゃもう、戦わずに済むなら程々に頑張るのじゃ」
「同い年とは思えねえな、その自堕落さ」
 軽口を叩き合いつつ、二人の電脳魔術士がコンピュータに向かい合う。
 その周囲に無数のARウィンドウが現れては消え、最適化された二つの頭脳を膨大なデータが駆け抜けていく。
「情報、情報、情報。年代がわかんねえ以上総当たりしかねえなこりゃ」
「データの欠損もひどいからの。んー、でもこれなんかおかしいのー」
 青白い光がハッカーの顔を照らし出す。AIの説明通り、船内のデータには多くの欠損が見られる。
 しかしそれは『破壊された』というよりも『書き換えられた』というほうが正しい。
「誰か俺らみてえなヤツが改竄したってことか? なんのために」
「そりゃあ当然――」
 カチリ。ARキーボードのエンターキーを押し、メイスンが供露へ視線を向けた。
「誰かさんをだまくらかすためじゃろ。と、多分これが事件前後の映像記録じゃな」
「ん。こっちは乗船員の名簿を総ざらいしてみたが、怪しい人物が紛れ込んでたって形跡はねえな」
 船内環境も非常に良好。古株だけあり、乗組員たちの結束も固かったらしい。
 特にそれをまとめあげる船長のカリスマは相当なものだったようだ。
 他に頼るもののない宇宙の旅のなかで、リーダーに対する信頼は重要である。
「それちょっとおかしいのう。ほれ、見てみこれ」
 バイザーに流していた映像を空中に投影するメイスン。それはこのようなものだった。

 映像には、休憩室で語り合う若い男女の姿がある。
『で、船長の容態は?』
 男性の問いかけに、恐らく医療班らしき女性が頭を振った。
『それがさっぱり。検査しようにも、船長が出てきてくれなくて……』
 男は頭を振った。その声音と表情には、どうやら病床と思しき船長に対する不安と心配がありありと感じられる。
『まいったな。治療プログラムはディアスが用意してくれてるのに。なんで部屋から出てきてくれないんだ』
『わからないわ。もしかすると突然のことで、一種の緊張状態にあるのかも。あとでディアスに妙案がないか聞いてみましょう』

「……誰だ? ディアスって」
 供露の呟きに、メイスンは一瞥を送ったあと肩をすくめた。
「どうもあのなんとかいうAIの愛称みたいじゃのー。ほら、D-234Sとか名乗っとるじゃろ? あれ」
「ふうん?」
 型番の『234』を16進数変換すると、『EA』となる。
 D-eaS、転じてディアス。凝った名前をつけるあたり、船員らはAIに愛着を持っていたらしい。
「でもこれ、どこがおかしいんだ?」
「おかしいのはこの先じゃよ」
 映像が早送りされる。ふたつ目のものはこのような内容だった。

 船内居住区、憩いの広場。
 乗船員に連絡事項を告げたり、娯楽用の映像を流すための大型テレビジョンには、健康的な肌色をした船長が映し出されていた。
 問題は、それを見る乗組員らだ。
 彼らは皆殺気立った顔をし、口々に映像に対して罵詈雑言を吐き捨てている。
 そんな剣呑な反応を気にする風でもなく、映像の中の船長は端的に告げた。
『すべてさきほど話したとおりだ。残念だが、もはやこの船に君達を生存させるだけの資源は残っていない』
 一人のやや歳のいった男が叫んだ。
『ふざけんな! だからっててめえは、詐病までして安心な室内に逃げ込んだってか? その大事な資源まで持ち逃げして!!』
『そうよ! 心配していた私達の気持ちはどうなるの!?』
『信じていたんだぞ、あんたのことを!!』
 船員らは激高し、映像越しに船長に怒りをぶつける。だがヴィジョンの中の船長は、いささかも表情を崩さない。
『諸君らには申し訳なく思っている。だがディアスが君達の生活を管理してくれるだろう。あるいは資源が尽きる前に救助が間に合えば……』
 パイロットらしき船員が激怒した。
『その救助がめったに来ない場所に進路を取ったのはあんただよなあ!?』
『ディアスの判断通りに進んでれば、今頃ランデブーポイントに到達してたはずだ!』
『何もかもあんたのせいだ! このクソ野郎!!』
 もはや過激デモじみたありさまで吼えたける乗組員たち。
『諸君らには申し訳なく思っている。だがディアスが君達の生活を管理してくれるだろう。あるいは資源が尽きる前に救助が間に合えば……』
 誰かが怒りに任せ、ヴィジョンの電源を乱暴にオフにした。
 彼らの怒りがすすり泣きに変わる頃、映像は終了した。

「……のー?」
「なんだこりゃ」
 今度は二人揃って呆れていた。信頼される船長がこのざまとは。
 ……いや、二人の感情は、そこに対してではない。別のポイントを向いている。
「あからさますぎるだろ。あんな血色の良いおっさんがのたうち回ってくたばるか?」
「うむー。まあ十中八九、あの映像自体が偽装されたものじゃろうなー」
 供露は船員名簿に目をやる。どの乗組員も、精神・知能・体力それぞれのテストで高評価を記録したものばかりだ。素行評価も高得点が並ぶ。
 普通の市民ならば、あのあと暴動やパニック、そして同時打ちじみた諍いに発展したことだろう。
 しかし、これまで探索してきた船内に、そんな剣呑な痕跡はほとんどない。
「言うまでもないことじゃが、このあと……」
「あのAIが皆落ち着かせたんだろ? ま、わかるよ」
 メイスンはさもありなん、と頷いた。
 信頼厚き船長の裏切り。そこへ手を差し伸べ、彼らに理性を取り戻させたAI。
「まったく、童話そのままだな」
 供露はひとりごちた。おそらくそうして、船員たちは元通りの生活を取り戻したのだろう。
 自分たちを見捨て、部屋に閉じこもった憎き船長と違い、決して裏切ることのない愛すべき機械の管理のもとで。
「……なあ、D-234S。あんたが正気であるっつー確証はあるか?」
 明後日の方を見、供露は言葉を続けた。そこでメイスンが眉間にシワを寄せる。
「! んぁー、めんどーなことになっておるー!」
「うおっ。なんだ?」
 新たに投影されたのは、メイスンがハッキングに成功した監視カメラの、いま現在の映像だ。
 船内の各所に散らばった猟兵たち。そのそれぞれの前、もしくは影で。

 闇が。蠢いていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



 ここで、時系列を整理してみよう。

 まず、猟兵の転移が時間軸の発端となる。
 次にD-234Sからのコンタクトと事情説明。
 なお、通路の奥から『甘い匂い』が漂い始めたのはこのあたりからだ。

 猟兵たちが探索を開始し初めに起きた出来事が、寧子による遺体の発見。
 ユエインが乗組員の位置データと動力室の存在を把握したのは同時刻である。
 ……D-234Sの回答に、明らかな違和感が生じ始めたのもこの頃だ。

 遺体の情報が共有され、部屋と遺体そのものの捜索を稲見之守が提案。
 ナビゲートを拒絶しつつも、AIは要求通りに彼女に追従した。まるで監視するように。
 同じ頃に、供露とメイスンが中央制御室へ潜入、データを閲覧している。

 二人が監視カメラのハッキングに成功したのと、稲見之守の式神が『喰われた』のも、やはり同時刻である。
 蠢く『何か』の脅威。
 その正体を語るには、少々時間軸を前後させる必要がある。
 つまり、遺体と発見場所の捜索に向かった猟兵らが何を得たのか。
 ……彼らに何が起きたのか。それを示しさなければならない――。
ジャガーノート・ジャック
(ザザッ)
――嗅覚センサーにて匂いを検知。やけに甘い匂いだ。――ミッションを開始する。

(ザザッ)
WIZ選択。

死した船員達は何か手記などを残してないだろうか。
この甘い匂いが遅効性のガスだとすれば、メモなどを残す時間はあったと推察する。

また、船員達の信号途絶箇所がわかるのならば、
船員達の途絶信号がない箇所――即ち『船員達が近寄らなかった箇所』も分析できないだろうか。
そこには船員達が寄りつきたくなかった何かがあると推察。割り出せる様なら、そこも確認しておこう。

本機の行動指針は以上、作戦の実行に移る。オーヴァ。
(ザザッ)


ミコトメモリ・メイクメモリア
あまり使いたくない手段だけど、「なにがあったのか」はボクも気になるところだ。
当事者に直接聞くとしよう……

この小さな宝石の欠片は、記憶の欠片の断片でね。船長の遺体があるなら、ここでどんな出来事があったのか、見てみようじゃないか。

《過去を映す記憶の欠片》によって、過去の事象を知る誰かを呼び出し協力してもらい、一体どのようにオブリビオンに襲われ、どのように皆が死んでいったのか聞いてみようじゃないか

……とはいえ、この能力は断片的な記憶しか拾えないから、全部が全部わかるわけじゃないと思うけど、AIクンに、過去の記憶が語った話と実際の記録を照合してもらったりしようかな?



●死人に口なし、されど
 惨劇じみた、遺体発見現場。そこに二つの人影あり。
「あまり使いたくない手段だけど……」
 かたや150cmに満たぬ背丈の、あどけない少女が呟いた。
 そんなミコトメモリ・メイクメモリア(メメントメモリ・f00040)のそばに立つもう一人、いや"一体"は異様な風体をしていた。
 体躯は180cmに届こうか、大柄とは言えぬものの、漆黒の鎧姿はそれだけで威圧的。
 黒豹を思わせる意匠は、油断なき戦士の威風を備えていた。
《――嗅覚センサーには依然反応アリ。これが遅効性のガスならば、船員にもメモを残す程度の時間はあったはずだ》
 黒き戦士、ジャガーノート・ジャック(OVERKILL・f02381)の声には常にノイズが混じる。
「そうだね、ボクとしても真相は気になる。やはり、使うしかないか」
 その言葉に、そして表情には、未だ懊悩が残っていた。

 二人の目的は、船長と思しき遺体の調査。そして部屋内の捜索である。
 とはいえ乱暴に触れれば、せっかくの手がかりが無に帰しかねない。
 そこで白羽の矢が立ったのが、特殊なユーベルコードを持つミコトメモリだった。
 ジャガーノートはその護衛、および信号途絶地点のさらなる分析のため同行している。
《――ミコトメモリ。本機は君の決断に敬意を表する》
「なんだい、藪から棒に。心配させてしまったかな?」
 宝石めいて輝く欠片を手に、瀟洒な美姫はいたずらっぽく笑った。
《――本機には、些か形容しがたい。ただ、それを伝えたくなっただけだ》
「ふふ。ならボクは、キミのその言葉に感謝を示そうか」
 そして言葉を続けた。
「それと、こうして此処に居てくれることを」
《――Copy that.本機の存在が助けになっているならば、幸いだ》
 つかの間の会話を終え、ミコトメモリは表情を引き締める。
 そろそろ、仕事にとりかかる時間だ。

 超常のユーベルコードは千差万別、多種多様な効果を持つ。
 ミコトメモリのそれは、名が体を示すというべきか、『記憶』を司るものが多い。
「ここで何があったのか……キミは何をしたのか。ボクに見せて、聞かせて」
 優しく語りかけるような声音は、無残な遺体に向けられていた。
 しゃがみこんだ彼女が宝石片……正しくはピース・オブ・メモリアと呼ばれるそれを差し出すと、欠片はほのかに光を放つ。
《――これが、突破口になるといいのだが……》
 屹立したままそれを見守るジャガーノート。本質が電子存在たる彼ならば、ただそうしているだけで膨大な演算が可能だ。
 が、分析の進捗は芳しくない。なにせ、信号が一切見出だせなかったのは、この部屋自体と『動力室』と目されるポイントの二つのみ。
 ――やはり、虎穴に入る他なし、か。しかしだとすれば、そこへ向かった稲見之守は……。

 沈思黙考は、幻影の出現によって打ち切られる。
 遺体から幽体離脱めいて立ち上がったその姿は、無残なそれとは真逆だった。
 清潔に着こなされた制服と、いくつもの勲章。
 あごひげをたくわえた、4・50がらみの男と思しき顔立ちは凛々しくも厳しい。
 かこの幻影とて、双眸は確固たる意志の光をたたえていた。
「……きっと、立派なキャプテンだったのだろうね」
《――本機も同意する。必ず手がかりを遺してくれているはずだ》
 過去のヴィジョン、すなわち幻影の船長は二人の姿を見て取ると、まずジャガーノートに敬礼をした。
 そして片膝を突いてしゃがみこみ、ミコトメモリと目線を合わせた上で敬礼。そして彼女たちが口を開く前に、その表情から何かを察した。
『……そうか。船員は誰も、遺っていないのだな』
「ああ。ボク達は、その謎を解き明かすためここへ来たんだ。けれど、AIクンは無事……」
 と、ミコトメモリが言いかけた瞬間。
 理性的に思えた幻影はとたんに険を帯び、掴みかからんばかりの勢いで叫んだ。
『無事? あの悪魔が! なんということだ!!』
「なっ」
 突然の剣幕にたじろいだミコトメモリと幻影の間に、ジャガーノートが割って入る。
『おお、神よ……なんということか! これでは全て奴の思うがままではないか……!』
《――ナイチンゲール号の船長よ。本機はシリーズネーム「ジャガーノート」、機体識別名「ジャック」だ》
 幻影の血走った目が、黒き戦士を睨めつける。鎧の下の反応は知れぬが、表向き彼は一切たじろがず、ノイズ混じりの音声を続けた。
《――その悪魔と呼ぶのは、識別名『D-234S』、すなわちこの船の航行補助AIで間違いないのだな?》
『そうだとも!!』
 血を吐くような叫び、そして幻影は実際に吐血する。"過去の"ヴィジョンである以上、本人が味わったであろう苦痛もまた過去であるがゆえに。
『おお、忌まわしき者。何がディアス(DeaS)か。あれは死神(Death)だ! なぜ私達はあんなものを招き入れてしまったのか!!』
 ジャガーノートは背後のミコトメモリを一瞥した。
 ミコトメモリは困惑しながらもうなずき返す。幻影は必ず術者に協力する。敵対することはありえない。
 つまり彼の激憤は、ここで本人が見せたであろうそれ、そのままなのだ。

『あれを。あの悪魔を破壊してくれ。あんなものはあってはならない!』
 幻影は血を吐きながら叫ぶ。早回しめいて、その体が血の気を失い、ひっかき傷でささくれ立っていく。
「ならそのためにはどうすればいいんだい? 一体ここで何があったんだ!?」
 ミコトメモリが悲痛な声で呼びかける。幻影はなおも苦悶し……ふと、呟いた。
『この部屋の、情報端末……そこは船のネットワークから孤立している』
 激憤を抑え込むように、しゅうしゅうと歯の根から荒い息を漏らしながら。
『私はそこに全てを記した。私がこの死の病を帯びてからの全てを』
 ミコトメモリと幻影の間に注意深く立ちながら、ジャガーノートがその端末へ目線を向ける。同時に、画面にノイズが走り、電源が点灯した。
《――端末に接続、データアクセス。どうやら日誌のようだ。記述を参照する》
「わかった。ボクは彼にもう少し呼びかけてみる。それぞれの内容を照らし合わせれば、真実が見えてくるはずだ」
 苦悶する幻影の言葉と、日誌に残された記述。それはこのようなものだった。

『███年 0█月14日』
『今日の無事を喜ぼう。そして今日の発見を祝おう!』
『当船は年代物だ。もうあちこちにガタが来ている。パーツを用意するだけでも、交易船を数隻以上も探し回らないといけない有り様だ』
『だがやはり、神は見てくださっている。よもやこれほど完璧な形で、旧型の駆動兵器が遺っていようとは!』
『これならば、だましだまし運用していた各部の部品も交換できるだろう』
『コアマシンがあるとはいえ、一度に無限の物質を生成できるわけではない。必需品は機械の部品だけではないのだ』
『部下たちにも、緊張と苦労を強いてしまっている。それも、これでひとまず解決だ』
『そろそろ分析班の作業が終わる頃だろう。彼らも労ってやらねば』

『███年 0█月15日』
『驚いた。よもや内部のシステムまで活きていたとは!』
『現在我が麗しの船で運用しているAIは、必要最低限の機能しか持たない最初期型だ』
『だがこの船も世代を重ね、仲間たちが増えていくにつれ、手や目の届かないところも増えてきた』
『しかし最新型の人工知能を搭載するには、我が船は旧型に過ぎる』
『その点、このシステムは素晴らしい。演算性能ならば最新型をも凌駕するのではないだろうか?』
『コミュニケーション能力も群を抜いている。研究班の若手メンバーは、もうすっかりシステム……いや、"彼"と仲良くなっているようだ』
『とはいえ、便利な物に頼りすぎるのは、それはそれで怠惰というものだろう』
『皆が、そして私自身が、各々の持つ技術と誇りを忘れぬことを期待する』

『███年 0█月2█日』
『……何かが。何かが少しずつ、おかしくなってきている気がする』
『彼が……D-234Sが我が麗しの船に根付いてからというもの、全てが順調だ』
『だが。だがだ。我々は彼が友好的で優秀すぎるあまり、何かを見落としているのではないか?』
『なぜ彼は、一度分解された元のボディの再構成を依頼した?』
『なぜそれが、データベース上から抹消されている?』
『加えてコアマシンだ。物質生成には船長である私の許可が必要不可欠であるというのに』
『明らかに"何か"を大量に製造している。誰が? 愛すべき我が船の家族がそんなことを?』
『彼のおかげで私もヒマが増えた。だがまるで、これでは私の役目を奪われているような……』

『███年 1█月0█日』
『悪魔だ。あれは悪魔だ!』
『私の疑念は正しかった。あれは、旧時代の亡霊は、最初からそのつもりでいたのだ』
『放棄されていた? 違う、奴は私達のような獲物を狙って眠りについていたのだ!』
『あれが空気循環システムを乗っ取り、あんな恐ろしい毒ガスを製造していたなど』
『ガスタンクは全て船外へ廃棄した。だがおかげで、私はおそらく致死量を吸引してしまっている』
『おお、神よ。私は恐ろしい。痛みも苦しみもない、だが死が近づく気配を私は感じている』
『恐怖が裡から湧き出てくるかのようだ。私はもはや、余人と触れ合っていい精神状態ではない』
『……私は、どうなってしまうというのだ……』

『███年 1█月1█日』
『私は死ぬだろう。苦しみ、悶え、醜く捻じくれて死ぬのだろう』
『だがもはや、同じ死に様を愛すべき仲間たちが晒すことはない』
『船外へ身を投げることも考えた。絶望が私を支配していた』
『しかしやめた。私がここで自死したら、誰が真実を伝えるというのだ?』
『もはやこの部屋の扉は、あの悪魔にとて開くことは出来ないだろう』
『私はここで真実を記し、犠牲となれることを誇りに思って朽ちよう』

『だが』
『だがだ』
『私は恐ろしい。なぜ彼らは、"一度もこの部屋に来ない"のだ?』
『なぜあれは、私をこの部屋から引きずり出そうとしないのだ?』
『……神よ。我が麗しの船、愛すべき仲間にして家族たちは、あれに誑かされていると?』
『あれは、私が浴びたガスは、単なる遅効性の毒物だったはずだ』
『私がタンクを廃棄したあと、あれは"何を作り出した"のだ!?』
『私はただ、悪魔に謀られた彼らのことが、心配で、』

《――……》
「…………」
 幻影が、途切れた筆の続きを呟いた。
『あの毒ガスは試作品だったのだ。私は何も守れてはいなかった』
 二人の訝しむ視線に応じることもなく、幻影は呻き続ける。
『乗組員たちはあの死神に騙された。そして居もしない偽物の私を憎んだまま、あのおぞましき毒の霧をじっくりと浴び続けていたのだ』
「……それは、一体」
《――何をもたらすというのだ?》
 幻影が二人に向き直る。
『動力室へ向かえ。あれの、死神の心臓を……旧き時代から蘇ってしまった殺戮兵器を破壊するんだ』
 血まみれの屍が目を見開く。
『だがどうか、我が麗しの仲間を……家族を恨まないでやってくれ』
 哀切に光る目を。
『彼らはただ騙されただけなのだ。ただ……』
 そうして幻影は消えた。あとにはただ、屍と死の残滓と――静寂だけが遺る。

 この情報がなければ、猟兵たちはD-234Sの言に惑わされていたかもしれない。
 真の邪悪は他ならぬ船長であり、その死体から蘇ったオブリビオンがいるのだと。
 だが機械知性が船員をどう懐柔していたか、その記録を得た者たちがいる。
 真実に繋がる鍵、この唯一遺された骸と『矢』を見出した者がいる。
 "無害なAIのように振る舞う"という習性を利用し、目的地を引き出した者がいる。
 油断なき知性の目を惹き、その間隙を生んだ者がいる。
 猟兵たちは、信頼できぬ語り部の罠を、それぞれの尽力でくぐり抜けたのだ。

「……断片を得たら、AIクンに確認を取るつもりだったけど」
 ミコトメモリは沈痛な面持ちのまま言った。
「これはそうもいかなくなったね。さて、どうしようか――」
《――警戒を推奨。何者かの群れがここへ接近している》
 ジャガーノートの冷徹な声が、ミコトメモリに緊張を与えた。
 二人は身構え、半開きのままのドアを睨む。

 その向こうで。
 何かが。蠢いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『醜き嫉妬の生命体』

POW   :    妬心の暴虐
【対象の優れた部位を狙う触手】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    精巧贋物
合計でレベル㎥までの、実物を模した偽物を作る。造りは荒いが【喉から手が出るほど欲しい他者の所持品】を作った場合のみ極めて精巧になる。
WIZ   :    縋る腕
【醜い羨望】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【粘着性の高いぶよぶよした黒い塊】から、高命中力の【対象の所持品を奪おうとする触手】を飛ばす。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●魚が血を取り、甲虫が繕った
『YyyyyyYYyYyyイイイイイイヴヴヴヴヴVVVBBBルルルルRurururu』
 通風孔から。
 扉の向こうから。
 あるいは制御室へと。
 はたまた通路の奥から――。
 
 這いずり、のたうち回り現れたものは、名状しがたいモノだった。
 なお胸のむかつくことに、それらは全て『甘い匂い』を放っている。
 ――これか。
 "これ"が、『彼ら』なのか。
『ルルルルRurururrrrGugugggggグウウルルルル』
 突如として消えた船員。まるでついさっきまで生活を続けていたような痕跡。
 動力室に近づくほど散見された、中身が消えて失せたような衣類の山。
 うぞうぞと蠕動し現れるそれらの数は幾十、いや百にも上るか。
 生きるものへの嫉妬に燃え上がる忌まわしき黒きもの。
 オブリビオンの長く遠大なる策略によって貶められた、人やそれに類する存在だったであろうもの。
『YYYYYyYyYyYYyyy――』
 それらは猟兵たちに迫る。這いずってくる。触腕を伸ばす。

 動力室へ向かえ。死神の心臓が眠る忌まわしき地へ。
 貶められ、作り変えられし哀れな犠牲者たちを踏み越えて。
 構えろ。攻めよ。守れ。そして走れ。
 そいつらは、生者全てを妬み憎んで襲いかかってくる――!
●メタ的追記、および情報まとめ
 第一章で得られた情報は、第二章冒頭リプレイの時点で全員に共有されています。
(これはメイスンさんと供露さんによる「制御室からの支援」というプレイング結果です)
 そして、何が起きてるのかよくわからないという方への簡単まとめ。

 1:AI『D-234S』がオブリビオンでした。
 2:その本体(回収された旧型戦闘兵器)は『動力室』にあります。
 3:船長はAIの正体と毒ガス製造に気付いたけど作業中に致命傷を負いました。
 4:死を覚悟した船長が自室に閉じこもっている間、D-234Sは情報の改竄を行い船員たちから信頼を勝ち取りました。
 5:改良型の毒ガスに長期間晒されたせいで、船員たちは全員変異してしまいました。
 6:ただし猟兵はそれぞれの技術や装備、ユーベルコードにより、残留ガスの影響を受けません。
 7:第二章は動力室に向かうため、変異した船員の成れの果て=醜き嫉妬の生命体との戦闘になります。

 以上です。
 なお、引き続きD-234Sとの対話は可能ですが、当然反応は敵対的なものとなります。
 これらの状況そのものが判定に有利・不利を与えることはありません。
御狐・稲見之守
ほん、これは厄介なことになったの……妖鬼召喚、前鬼後鬼よあとは任せた。ワシはえーあい殿とお喋りの続きをしようぞ。

さて、なるほど。これを生物と呼ぶにはいささか難があるな。船乗り達の成れの果てのようであるが、船長殿はどうしてこうなることなく死んでいったのかの? それに、船乗り達を害するだけなら"えあろっく"とやら開くなり空気を止めるなりできたはずであろうに、何故にわざわざ時間をかけて信頼を勝ち得た挙句化物へと変えていった? よもや己の船と船乗りが欲しかったというわけでもあるまい。

動力室、そこにおるんじゃろう。お喋りならば顔をあわせんとな。


ユエイン・リュンコイス
これが船員のなれの果て……救うことはできないけど、終わらせてあげる事はできるはず。

戦闘は黒鉄機人メイン。【学習力、情報収集】で出方を見つつ、【フェイント】混じりに格闘戦。
機を見て『ガジェットショータイム』を使用し、黒鉄機人に装備。相手は不定形だから、凍結や高熱、水分多めなら電流の【属性攻撃】が使えるのが良いかな?
隙を見せたら【カウンター】でそれを叩き込むよ。
『絶対昇華の鉄拳』はAI戦まで温存。見られても厄介だし。

戦闘後は動力室へ急行。道中、他の猟兵が居たら合流、必要なら援護を。

随分とご機嫌な回答をしてくれたね。でもお蔭で大分役に立ったよ、きっちりお礼をしてあげるから…待っていろ、木偶。

連携歓迎


甘夏・寧子
【SPD判定】
あはは、あははははは!! ……っこれだから!! これだから嫌いなんだ! 嫌なこと思い出させるんじゃないよ!! くそっ!
待ってな、今すぐその場所から引き摺り下ろしてボコボコにしてやる!!

立ちはだかる敵はクイックドロウで伸すよ。……分かってる。痛みを感じているかどうかは知らないけど、長い間生かして苦しませることはしないから。なるべく短期決戦に持ち込みたいね。
こいつらも被害者だ。……ここは、絶対に負けられない。


ミコトメモリ・メイクメモリア
ジャガーノート・ジャック(OVERKILL・f02381)と一緒に行動

何分このドレスなもので、早く動き回るのは苦手なんだ
申し訳ないけど、ジャックにしがみついて運んで貰おうかな

勿論、その分の仕事はちゃんとするとも、この程度の相手に道を塞がれる『未来』は見えない!
ユーベルコード《未来を変じる時の欠片》、記憶の欠片を通して、一瞬先で見た未来の光景をジャックに伝えて、
攻撃を避けられる安全地帯を割り出して、ガンガン前に突き進むよ

「D-234Sクン、少し待っててね、スグにキミの所へ行く、ガラクタは処分の時間だよ」

とまぁ、折角だし軽い挑発も添えて。コレで他の猟兵たちへの追手が、少しは減れば良いんだけど。


ジャガーノート・ジャック
*ミコトメモリ・メイクメモリア(f00040)と行動

(ザザッ)
――動力室に向かう、ミコトメモリ。
なるべくしっかりしがみつく事を推奨する。
多少動きが荒くなる――許して欲しい。

(ザザッ)
SPD選択。
敵撃破より目的地への到達を優先。
『スナイパー』『二回攻撃』により命中精度・撃破性能を高めた『クイックドロウ』でドア前の敵を攻撃。
倒さずとも構わない。
『ダッシュ』『早業』により早急に部屋を離脱、その儘速やかに動力炉へ向かう。

回避指示等はミコトメモリに従う。
彼女の能力は信頼に能う。


――人を人外に貶めた咎、しっかりと贖って貰うぞ、死神。

本機の行動指針は以上、実行に移る。オーヴァ。
(ザザッ)

*アドリブ等歓迎


玄崎・供露
ヘイ、ヘイ。ディアスクンよ。やってくれたなクソッタレ。作り物のサヨナキドリん中には毒薬が入ってました、ってか。トロイの木馬もビックリだぜ手前……

の、前に、か、あんたがたにゃ同情するよ。それだけだがな……

この手の不定形なヤツは苦手だ……が、ユーベルコード「エレクトロレギオン」発動。
特注品の弾薬抱えて全機特攻、できるだけヤツを巻き込んで自爆しろ。

悪いけど手前「ら」にくれてやれるもんはこんなもんしかねェんだ。あとは血の一滴だってやるもんかよ。


※アドリブや絡みなどご自由にお願いします


メイスン・ドットハック
やっぱり、そっちが偽物じゃったかのー
船員も可哀想じゃけど、もう供養してやる他なさそうじゃのー

可能であれば制御室でAIを攻撃するコンピュータウイルスを作成して流し込んでおく(ハッキング、暗号作成、破壊工作、鍵開け)
思考や起動阻害になればOK程度で

動力質に向かう際の醜き嫉妬の生命体の対策
ユーベルコード「300の守護神兵」を前面に立ててファランクス態勢
攻撃が防げるレベルまで融合して対処

その間に爆裂や液体窒素のトラップを組み立てて、敵を誘導(罠使い、破壊工作、おびき寄せ、地形の利用)
うまく一網打尽できるように狙う


神威・くるる
あやや、えらいけったいな姿にならはって
愛する仲間がこないになるなんて、船長はんも浮かばれへんなぁ
ちょっとしたヤキモチはかあいらしけど、過ぎた嫉妬は身を滅ぼすえ?

【SPD】
あんたはんらは何を望んで、何を欲するんやろなぁ
生きてるうちらが憎い?船長はんが憎い?
それはそれで結構やけど、真実を知らへんで激情に流されるだけなんは勿体ない思わへん?
なぁ、AIはん?

乗組員はんとAIはんを挑発しながら
【第六感】や【スライディング】で攻撃を躱して
召喚した猫ちゃんで攻撃

欲しい他人の所有物?
残念、うちが欲しいもんは美味しい血とご馳走、それから骨までとろかすほどの愛情と快楽だけ
物品にはなーんも興味惹かれへんさかい



●事象発生直後、中央制御室:玄崎・供露、メイスン・ドットハック

 二人の電脳魔術士は迅速に行動した。
 結果として、それが猟兵らの動きを大きく手助けすることになった。
「これでひとまずはOKだな。あとは――」
 供露は舌打ちする。咄嗟に閉鎖した厚さ1メートルの鋼鉄扉は、もはや決壊寸前だ。
「もしやとは思っておったがやっぱりとは、ほんとにめんどーじゃのー」
 緊急時とは思えない様子だが、メイスンはすでにウィルスプログラムを完成させている。
 銀の弾丸とまでは行かないだろうが、足枷くらいにはなるだろう。
『――驚きましたね。私の監視網をかいくぐっていたとは』
 と。そこでスピーカーから、忌々しいAIの声が流れた。
「ヘイ、ヘイ。"ディアス"クンよ、やってくれたな? クソッタレ」
 苛立った供露が吐き捨てれば、AIは平易な声で答えた。
『船内生活を健全に保つことが、私の役目でございます』
「トロイの木馬みてえなことしておいてよく言うぜ、手前ェ」
 メイスンは『よせよせ』とばかりに手をひらひら振る。だが彼女とて、なんの感慨もないわけではない。
「今はこの状況をどうするか、じゃのー。どうにかできそうか?」
「この手のヤツは苦手なんだよ。効果がありそうなのは……これぐらいだな」
 供露が差し出したものを見て、メイスンは『おおう!』と目を輝かせた。
「ええもん持っとるのー! これならなんとかできそうじゃ。つまりかくかくしかじか……」
「はあ? ……面倒くさがりなんだかそうじゃないんだか、いまいちよくわかんねえ」
 メイスンの提案に呆れる供露。だが反対はしなかった。もはやドアは破られようとしている。
 ウィルスプログラムをひそかに流し込み、ネットワークを切断した上で準備にとりかかる両名。
 およそ1分後、轟音とともにドアが破壊。黒きものどもが雪崩れ込む――!

●事象発生から約1分、故・船長自室:ミコトメモリ・メイクメモリア、ジャガーノート・ジャック

 ドォオオンッ!!
「うわっ! なんだ、爆発……?」
 突然の轟音と大きな揺れに、ミコトメモリの注意が逸れたのは無理もない。だがオブリビオンは無慈悲だ。
 それまでドア付近で蠢いていた嫉妬の生命体たちは、悍ましいほどの急加速で彼女に襲いかかり――ZZZZAAAAPPPP!!
《――クリア。本機の射撃性能を甘く見てもらっては困る》
 ジャガーノートの早撃ちはなお速く正確だった。熱線の余波によってドアは融解している。
「すまない、ジャック。また助けられてしまったね」
《――本機に可能な戦闘行動を執ったまでだ。それよりもミコトメモリ、この部屋からの脱出を推奨する》
 ミコトメモリは頷き、ふと思いついた顔で彼を見上げる。
「せっかくだからもう一度助けてもらおうか。何分このドレスなもので、早く動き回るのは苦手なんだ」
 少女はいたずらっぽく小首を傾げた。
 ……黒き鎧戦士は、つい先程の彼女の表情を知っている。
 亡骸に向けた哀しい眼差しを。
 勇敢なる船乗りを弔えぬことへの悔しさ、申し訳なさに噛み締められた唇を。
《――……Copy that.なるべく、しっかりとしがみつくことを推奨する》
 赤熱した右腕を後ろに回し、片膝を突くジャガーノート。頭を垂れる様は旧き騎士に似る。
 一方の幼姫は控えめなカーテシー。そして黒き鎧に手を回し、できる限り力強くしがみついた。
《――多少動きが荒くなる。許してほしい》
「よしなに、ジャック。……D-234Sクン、聞こえているだろう?」
 頭上を見上げ、静かな怒りを込めて彼女は告げる。
「少し待っててね、スグにキミのところへ行く。ガラクタは処分の時間だよ」
《――人を人外に貶めた咎、しっかりと贖って貰うぞ、死神》
 応じる声はない。仮にあったとしても彼女らは耳を貸さないし、そもそも聞こえなかっただろう。
《――目的地、動力室への移動ミッションを開始する。オーヴァ》
 黒き鋼鉄の風が吹き抜ける。ノイズすらも後に引き、目指すべき場所へと!

●事象発生から██████前:甘夏・寧子

 オラトリオ。人から出でし美しきもの。覚醒めとともに花と翼を頂くもの。
 ある世界では、彼らのことを御使いと呼んだ。天におわす御方の恵みと。
 甘夏・寧子はオラトリオである。
 だが、彼女がその証を見せることはない。
 背なに広がる天使の翼も。
 金の髪を彩る花々も。
 決してひけらかすことはない。決して。
 その理由を口にすることもない――問われたとしても言うまい。
 ああそうとも、過去は過去だ。なぜなら自分は█████████――。

 駄目だ。彼女は呻いた。
 やめろ。彼女は叫んだ。
 けれども過去は消し去れない、だからこうして蘇る。
「……くそ」
 熱線銃の引き金を引いた。融け崩れた残骸を呑み込んで、次の敵が現れる。
「くそっ」
 引き金を引く。哀れなモノは朽ち果てる。そして次が現れる。
「くそっ! くそ、くそ、くそ!!」
 引き金を引く。引き金を引く。引き金を引く。引き金を引く!
 忌まわしき過去を振り払うかのように、ひたすらに引き金を引く。黒を撃つ。
 わかっている。こいつらは、彼らだって被害者だ。苦しませるべきではない。
 やったのは、ヤツだ。あの悪魔。自分たちすら謀ろうとしたあの――!

 寧子は我に返った。そして自分がまったく別の区画に居ることに気付いた。
 事象発生から約5分。どうやら忘我のまま突き進んでいたらしい。
 過剰な連射によって、熱線銃の銃口は赤熱している。
 周囲を見渡す。そこら中に、融け崩れた黒き生命体の残滓が在った。
「……ははは。あはははは、あっははははは!!」
 吠えるような笑声だった。己を鼓舞する鬨の声にも思えた。
 笑わずにいられない。なにせ、こんなにも腸が煮えくり返っている!
「っこれだから、これだから嫌なんだ! 厭なこと思い出させるんじゃないよ!!」
 ここに彼女以外の誰かがいたとして、その言葉の意味を問いはすまい。
 それほどまでに、彼女の声には……形容しがたい複雑な感情が籠っていた。
「ああ、ああ、いいさ。いいとも。せいぜいのんびり待っていな」
 奴は自分の言葉を聞いてるか? どちらでもいい、やることは一つだ。
「いますぐそこまで行って、引きずり下ろしてボコボコにしてやる!!」
 鬼気迫る叫び。
 過去を振り切り、女賞金稼ぎは憤然と歩き出す。

『YyYYyYYyYggggGGgGgGgGGggyyyYyyggyyggギギギギュユユギュグギギ』
 名状しがたい呻き声とともに、うぞうぞと行く手を塞ぐ犠牲者たち。
 ZZZZZZAAAAAAPPPPPP!!
 ……神速の連射がそれに応えた。嫉妬の生命体は全て融け崩れる。
「……痛みを感じているかどうかは知らないけどね」
 哀れな屍らを乗り越えながら、銃士は言った。祈るような声で。
「これ以上苦しませやしないよ。アタシらは、負けられないんだ」

 瞑目する。それは哀悼に似ていた。
 目を開く。琥珀の瞳に映るは敵の群れ。

 だが無駄だ。
 敵がどれほど立ちふさがろうと、彼女の歩みは止められない!

●同時刻、トレーニングスペース:ユエイン・リュンコイス 

 すさまじい破砕音とともに壁が砕け、瓦礫が外向きに吹き飛んだ。
「さあこっちだ、ついてこいッ」
 その中から飛び出してきたのはユエイン。彼女の白指が空をかきむしる。
 否、それは"手繰る"動きだ。か弱い白色灯に照らされ、光の筋が十条瞬いた。
 糸である。きわめて細く、そして強靭な絹糸。その先は――。
『YYYYYyyyYYyyGgggGggbBBbbbbブルグルルルグウゥウウヴウウゥVvvYyyy!!』
 壁穴を這い登り殺到する嫉妬の生命体。そこに、巌の如き豪腕が振り下ろされる。
 ゴゥウウン――。さながら重機がアスファルトを砕くような音だった。
 然り。絹糸の先に屹立するは、巨大な黒鉄の機甲人形。
「黒鉄機人、もう少し引きつけたい。頼むよ」
 絹糸を伝って魔力が流れ、機甲人形の首元から霧めいて噴き出す。
 ユエインはそれを頼り強く思った。だが敵の追撃は待ってはくれない。

 フェイントを織り交ぜた牽制打を放ちつつ、群れが寄せれば素早く退く。
 ユエインのヒットアンドアウェイは5分近く続いている。彼女には思惑があった。
(オブリビオンがどこからボクらを見ているかわからない。"アレ"を使うのは時期尚早だ)
 黒鉄機人には必殺の武装がある。だが迂闊な使用は敵に利を与えてしまうだろう。
 ゆえに決戦まで温存する。そのためには、それに代わる武器を用意せねばならない。
(やはり殴打は効果が薄い。必要なのは凍結、かつ広範囲を薙ぎ払える刀剣類か……)
 沈思黙考。
 するとその時、嫉妬の生命体の群れが一様に同じものを贋作し始めた。

「……!!」
 ユエインは瞠目し、そして唇を噛む。奴ら……いや"彼ら"が掲げるのは、すべて黒ずんだ鎌。
 あまりにも精巧な刃の群れに、人形少女の哀しき瞳が映り込む。
「キミたちは、"それ"が欲しいんだね」
 応える声はない。ユエインは感情を押し殺し、頷いた。その想いはユーベルコードによって実体化する。
 ガジェット・ショータイム。生み出されたのは極低温を纏う大鎌だ。
「……黒鉄機人」
 機甲人形が死神めいて大鎌を振り上げる。何かをこらえるように蠕動していた"彼ら"は、しかし。
『YYYgggGgggvvvVVvvgbbGggaaaa!!!』
 風船が爆ぜるように触腕を伸ばし、雪崩を打って襲いかかる無数の敵。
 恐れることなく、少女は凛として告げた。
「――救えずとも、せめて終わりを」
 ゴウウン――!
 魔力に応え、黒鉄機人が全力を以て鎌を振るう。狙いすましたカウンター。
 嫉妬の生命体どもは一斉に両断され、再生叶わず砕け散る。
 大鎌のガジェットが噴き出した熱蒸気は、冷気と混じり合って周囲を包む。
 立ち尽くす少女と黒鉄のシルエットが覆い隠され、やがて消えた。

 霧に紛れ進むは人形二体、目指す先はただ一つ。

●不明、研究棟連絡通路:御狐・稲見之守

「あ、さて」
 狐神はあらぬほうに言った。周囲には絶対的防衛圏を死守する二体の鬼。
 攻勢は波濤のようだが、彼女がそちらへ注意を払う様子もない。
「えーあい殿や、腹の虫は収まったかの? お喋りの続きをしようぞ」
『…………これ以上、何を話すと?』
 返ってくる声は冷淡だった。無機質とも異なる感情の色がある。肩を竦める稲見之守。
 つい数分ほど前、D-234Sは突然黙り込んだ。それがある幼姫の挑発の影響だ。
「無論、"お前"についてよ」
 金眼がぎらりと輝いた。狐は続ける。
「あれが船乗り達の成れの果てだというのはようわかった。だがなぜ船長だけはそれを逃れた? "しすてむ"を支配しておったなら、部屋に閉じこもろうが変異させられたであろうに」
 AIは答えない。
「そもそもだ。船乗り達を害するだけならば、"えあろっく"とやらを開けるなりすればよい。まあ、わしらにそうしなかったのは謀るつもりだったのであろうが……」
 ゴツンッ!! と鬼の殴打が船を揺らす。一拍の間。
「わざわざ時間をかけて信頼を勝ち得た挙句、化物へと変えていった理由。これがとんとわからぬ」
『……………………』
 稲見之守の指摘はもっともだ。
 もし仮にD-234Sがナイチンゲール号を掌握したかったのなら、そもそも毒ガスを流す必要すらない。
 友好的で無害なAIを装い、事故に見せかけて彼らを殺せばよかったのだ。
 手駒が必要だった、というのは多少理にかなっているが不足だろう。
 迂遠な手段を用い、生き地獄を味わわせる必要もないのだから。

『……ハ』
 長い沈黙の末、返ってきたのは。
『ハ、ハ! ハハ! ハハハハハハハ!!』
 笑い声。
 それは船中に響き渡っていた。全ての猟兵のもとに届いた。
『何故(Why)? ハ、ハ、ハハハ! 猟兵とは莫迦揃いなのか!!』
 悪魔はまくしたてる。機械知性と思えないほどの悪辣さで。
『決まっているだろう、楽しいからだよ! 実に滑稽だった!』
「ほう」
『私を信じて縋り付く人間ども。奴らは自分たちを救ってくれた男を憎み罵り、ついには無視を決め込んだのだ』
 無論、そうなるように誘導したのはこいつだ。
 奴は言う。偽の映像で彼らを騙したあと、何食わぬ顔で一同に呼びかけたこと。

 "パニックを起こしてはいけない。私は皆さんの味方です"
 "船長のことは残念に思います。ですが私は、親愛なる皆さんの助けになりたい"
 "協力し、この困難を乗り越えれば、きっと船長もわかってくださるはずです"

 ……と、そんなふうに。
『莫迦どもはまんまと私に船の全権を譲渡した。たしかに貴様の言う通り、殺すのはたやすかったとも』
「……だからこそ、あえて」
『そうだ。あの男はさぞ後悔しただろうなあ。まあ、のこのこ出てきたところでどのみち船員どもは死ぬ手はずだったがな』
 船長の見立ては当たっていた。毒ガスには伝染効果があったのである。
『ここに来るまでの有り様を見ただろう? 奴らは最後まで私を信用していた。誰もが叫んだよ、"助けてくれディアス!"、"お願い、なんとかして!"とな』
「…………」
 奴の悪意はそこで終わらなかった。変異が始まった彼らに、奴はさらなる嘘を植え付けたのだ。

 "申し訳ありません、船長権限により制御を奪われてしまいました"
 "おそらく原因は彼にあります。私もいずれ抹消されるでしょう"

『するとどうだ、奴らは口々に恨み言を吐いた! "あの男が妬ましい"とな!』
 自分たちを混乱させておいて、よくものうのうと。その上こんな苦しみまで。
 痛い。
 辛い。
 苦しい。
 ――妬ましい。自分だけ無事なあの男が。何もかもあいつのせいだ!
 最期まで誰が黒幕なのかを知ることもなく。作り物の小夜鳴鳥のふりをした、死神に謀られて。
 そうして、彼らは"ああなってしまった"のだ。
『忌々しいあの男も苦しんで死んだ。おかげで多少の慰みにはなったとも』
 だが結果として、ナイチンゲール号は沈黙した。船を乗っ取り自在に動かすには、奴には何もかもが足りなかった。
 分解された本体の修復。
 いまだ本来に届かぬ演算能力。
 それをコアマシンによって補うため、奴はこの船内に潜み続けた。
 もしも猟兵達が駆けつけなければ、恐るべき機動兵器が船を掌握し、同じ手口で多くの人々を毒牙にかけていただろう。
『猟兵よ、我らの仇敵よ。貴様らもいずれそうなる。せいぜい怯えろ、そして恐れろ。お前たちは誰にも知られることなく死ぬのだ』
 超然とした振る舞い。それは文字通り、機械仕掛けの神めいていた。
 稲見之守は黙したまま語らず。
 そして奴の言葉通り、鬼の防衛網は狭まり、触腕がすぐそばまで迫っていた!
『まずは貴様からだ、女狐!』
 顔をあげた稲見之守の表情は――!

●少し前:貨物ブロック

「あの野郎……どこまで腐ってやがるんだい!」
 ブラスターのカートリッジを交換しながら、寧子は吐き捨てた。
 コンテナの影、うぞうぞと這いずる敵あり。咄嗟に彼女は振り返るが、わずかに遅れる!
『YYYYYyGGGGGgggグググギュルルウヴヴヴググ』
「っちぃ! どんだけいるのさまったく――」
 彼女が被弾を覚悟した、その時。コンテナが……爆発した!?
「おわっ!? 一体なんだい!?」
 爆ぜたのはコンテナどころではない、貨物室の壁そのものだ。
 そしてもうもうと立ち上る煙のなか、瓦礫と爆発に巻き込まれた敵の残骸を踏みしめ現れたのは……!
「「「ウィー! アー! スパルタァアアアア!!」」」
「……は?」
 それは筋肉だった。筋肉の群れ……否、壁。城砦だった。
 都合20体の電脳スパルタ兵。それがファランクスをなしてずんずん進軍してきたのだ!
「いやいやいや! なんだいこりゃあ!?」
「俺が聞きてえよ!」
 筋肉の門の向こうから、うんざりした顔で供露が叫び返す。
「これぞ筋肉の門じゃー! 暑苦しいことこの上ないけど、強いんじゃ!」
 隣を歩くメイスンはきゃっきゃと大盛り上がりだ。よく見れば二人の周囲を、さらに機械兵器が守っている。
「アンタたち、無事だったのか!」
 驚く寧子に供露は言う。
「当たり前だろ。あんなスライムもどき触りたくもねえ。だから爆弾でドカン、だ」
 供露の機械兵器……エレクトロギオンで召喚されたそれらには、特注の爆薬が積み込まれている。
 そこにメイスンだ。彼女の得手は電脳戦だけではない。船内の雑多な材料を用いて、即席爆薬の出来上がりというわけだ。
「めんどーなことはどかーん! するのが一番ラクじゃからのー!」
「いきなり"全員吹っ飛ばすぞ"とか言い出したときはなにかと思ったけどな」
 呆れた様子だが、供露の目元は愉快げにほころんでいる。
「タフだねえ。ま、無事ならなによりだ。聞いてただろ? さっきの」
 二人はうなずく。寧子の眼が鋭くなった。
「壁を吹っ飛ばせるってんなら重畳だ。アタシも付き合わせてくれないかね?」
 答えるまでもなかった。一同は怒りを目に灯し、しかし不敵に笑っている。

「おっと。そんなこと言っておったら新手じゃのー、めんどくさい」
 彼女らがぶちあけた穴を通り、敵が雪崩込んでくる。だがその直後――Ka-booooom!!
「お前、またトラップ仕掛けてたのかよ!?」
 抜け目ないメイスンに驚きつつ、供露は機械兵器に命じた。
「つっても火力が足りねえな。できるだけ敵巻き込んで自爆してこい!」
 一斉に爆煙へ飛び込む兵器たち。そしてさらなる連鎖爆発!
「派手だねえ、だが悪くない!」
 からからと笑い、女賞金稼ぎが熱線銃を構えた。その時にはすでにトリガを引き終えている。
 ZZZZAAAAPPPP!!
 熱線が飛び込めばさらに小規模の爆発が連鎖し、後続の敵をも飲み込んでいった。
 万が一敵がたどり着いたところで、そびえるのは暑苦しいマッチョたちだ。油断なし!
「悪ィな、てめえ"ら"にくれてやるもんはこれしかねえんだ」
 供露の鋭い眼光が、憐れな船員たちを睨めつける。
「血の一滴だってやるわけにゃいかねェ。代わりに野郎はふっ飛ばしてやるよ」
「そうだねえ。賞金稼ぎとしちゃ、代金未払いは頂けない。ツケはしっかりもらわなきゃあ」
 今度はメイスンが肩をすくめる番だ。
「めんどーじゃのー。さっさと動力室に行って、ケリをつけるのが一番じゃな」
 その点に異論はない。爆音を喇叭のごとくかき鳴らし、猟兵たちは征く!

●同時刻:第二居住区

『ルルルウヴグルウゥウルルルRRYyyygggGGGGgyyyy』
「ジャック、4時と9時方向! 同時に来るよッ!」
 ミコトメモリの指示通り、そのコンマ数秒後に通風孔と物陰から敵が現れた。
 しかし奴らが顔を見せたのと同時、正確無比な熱線が二条! ZZAAPP!!
《――クリア。ナビゲート、感謝する》
 ノイズ混じりの音声。ジャガーノートはさらに脚部バーニアの出力を上げる!

 ミコトメモリのユーベルコード《未来を変じる時の欠片》は、極短時間の未来予知を可能とする。
 本来はもっぱら敵攻撃相殺のために用いられるが、協力すればこういう使い方もあるのだ。
 無論、後の先を取れるのはジャガーノートの精密な射撃能力があってこそ。
 ましてや、高速で移動しながらのドッグファイト。互いの信頼が不可欠といえよう。
「次の分岐点は右だ。左には敵が……」
《――いや。本機は左舷を推奨する。生体反応を確認した》
「なんだって? なら決まりだ、そのぶんのサポートはボクがするとも!」
 ばさばさと茶色の髪をなびかせるスピードのなか、姫は莞爾と笑う。
 黒騎士はクールに"Copy that."とだけ返す。仮面の下の表情はいかばかりか。

 一方、彼女らが目指す分岐点――左側通路の先。
「黒鉄機人、すまない。まだまだ働いてもらうよ」
 ゴシュウ、と人形から魔力が噴き出した。そして4つの目が迫り来る敵影を睨む。
 蒸気を纏い、極低温の大鎌が一閃、さらに返しの横薙ぎ!
『ギギギギギヴヴヴUuuugアggGGgリガvvvbbBbb――』
「……っ」
 ぎり、とユエインは奥歯を噛みしめる。そして後退、いや目指すべき先からすれば前進する。
 そして彼女は聞いた。通路の奥から猛スピードで迫るバーニア音を!
「上だ! 避けて!!」
 声の主はミコトメモリ。だがユエインは振り返ることなく、誰何もせずに従った。
 疑う余地などはない。あの悪魔とは違う、自分たちには信じる心があるのだ。
「やられるわけには……いかないっ」
 ゴウウン――!
 絹糸が手繰れば機甲人形が非人間的な軌道をもって反転、頭上の亀裂からにじみ出ていた敵を壁材もろとも叩き切る!
《――ユエイン・リュンコイスの戦闘に介入する。オーヴァ》
 ZZZAAAPPP!!
 二体の人形のわずかな隙間をくぐり抜ける熱線。暗闇の奥の生命体を見事に狙い撃ちだ。
 ギャキキ! と火花を散らしながら、ジャガーノートはユエインの隣で急停止した。
 敵影は途絶える。二体の黒き守護者が、油断なく周囲を索敵。
《――外傷なしと確認。単独でよくここまで辿り着いた、本機はその戦闘能力を称賛する》
「そっちこそ、援護はいらなかったみたいだね。ありがとうふたりとも」
 ほんのわずかにだが。変わりにくいユエインの口元に、ほのかな微笑み。
 ミコトメモリはそれに目を瞠りつつも、同じようにくすりと笑った。

「どういたしまして。ところでさっきのは聞こえていたかい?」
《――あれはおそらく、御狐・稲見之守との会話音声と推測される。彼女が危険だ》
 ユエインは深刻な顔で頷く。音声が届いた時間から考えて、全力で向かっても間に合うまい。
「まずいな。どうしたものか……」
 沈黙。だがそこで、ふふんと得意げに笑ったのはミコトメモリである。
「大丈夫、その点に関しては心配いらないよ」
《――何か手でも?》
「あるいは抜け道だとか?」
 いや、と幼姫は言った。……意外なことだが、彼女自身はそう呼ばれるのが苦手である。
 とはいえ彼女を姫と慕う者は数多い。その中に一人、思い当たる節があるらしい。
「彼女がいれば大丈夫さ。なにせ、そういう未来を視たからね」
 記憶の欠片を手に、片目を閉じていたずらっぽく言う。
「ボクらも急ごう。この程度の悪意に、道を塞がれる未来なんてないさ」
 そうだろう? と問いかけた少女に、人形と戦士はこくりと頷いた。

●そして

 時系列はやや巻き戻る。
 研究棟連絡通路。動力室まであとわずか、稲見之守は奴の喉元まで迫っていたのだ。
 だからこそ奴は、悪意あるAI――D-234Sは、その他愛もないお喋りに応えた。
 それがオブリビオン。過去の化身、未来を食らうもの。
 それが銀河帝国の遺産。悪意と嘲弄を以て、希望を奪うもの。
 奴は嫉妬の生命体をここへ呼び寄せた。いかに妖鬼が立ちふさがろうと、所詮は多勢に無勢。
 守りをねじ伏せ、押しつぶす。

 ――そのはず、だった。
『……なんだと?』
 間の抜けた問いかけだった。無理もあるまい。
 突如として3メートル近い黒猫が現れ、咆哮とともに敵を引き裂いたのだから!
「なるほどなぁ。けったいな姿にならはって、妬み嫉みもまがい物。誰も彼も浮かばれへんねぇ」
 からころ、からころ。緊迫した地獄に響き渡るには、些か洒落が過ぎるこっぽり下駄の音。
 しゃなりしゃなりと、声の主は黒猫の背後から顔を見せた。
「ほほう。生き物は居らぬとえーあい殿が言っておったが、猫が紛れておったとはの」
 その姿を見、助けられた側の狐神はくすくす笑う。どこまで読んでいたのか、金の瞳からは伺い知れない。
「あんたはんが気を引いてくれとったし、AIはんも気ぃ回してくれたんやろねぇ」
 猫めいたいたずらな瞳が天井を見上げる。口元には――嘲笑。
「ここまで来るんはえらい簡単どした。おおきになぁ?」
『……ッ!!』
 彼女の名は神威・くるる。激戦荒れ狂う船内にあって、ものの見事にその災禍をくぐってみせた曲者だ。
 全てを見通すと驕り高ぶった、悪魔の目すらも盗んでするすると。まさに猫のように。
「あややー、AIはんがだんまりしてもうた。うち、なんや怒らせてもうたかなぁ?」
「わからんのう、ワシ機械とか疎いんじゃよナ」
 くすくす、ころころ。妖したちの笑い声はさぞや彼奴の神経を逆撫でしたことだろう。
「おまけに、ようけお喋りしてくれはるし。きっとみぃんな、今頃かんかんやろねぇ」
 奴は甘く見ている。猟兵を……いや、生きるものを。
 その怒りを煽ることが、自分にとってどういう結果を生むかなど恐れるわけもなし。
 うぞうぞと、新たに集まったものどもがすがるように腕を伸ばす。黒猫が駆けた。
「残念。うちが欲しいもんはここにはあらへんのよ」
 羨望の情を持たぬものに、奴らは無力だ。抉るような猫の爪が黒体を引き裂く。
 代わりに猫は、ちろりと唇を舐めた。
 ――彼女の望み、それは甘露な血と馳走。紫の瞳が蠱惑的に細まる。
 まあ実際のところは年齢相応、下手すればさらにあどけないくらいの純情っ子なのだが。
 稲見之守のあるかなしかの笑みは、はたしてそれを見抜いた上でのものか。

「さて。助けられてしまったのう、じゃれあいはこのぐらいにしとくかの」
「よろしおす。お姫ぃさんらもぼちぼち、やろうし」
 くるるの言葉通りに、やがて二方向から物音が近づいてくる。

 一方は継続的な爆発音、そして生命体どもの断末魔。
 もう一方は床を引き裂く金切り音。猛烈なバーニア音も併せてだ。

「うちなぁ、話聞いててわかったんよ」
 仲間たちが駆けつける音を背に、くるるが言う。
「あんたはん、悔しかったんやろ? 船長はんに出し抜かれたのが」
『――――』
 答える声はない。だが少女は続ける。
「船の人らの繋がりが怖かったんやろねぇ。かあいらしわぁ」
『――黙れ』
「そら聞けへんねぇ。これからあんたはんのとこにお邪魔するさかい」
 ドォオンッ!! 壁が爆ぜ、煙の向こうに浮かび上がるシルエット。
 ギャキキッ! 金切り音と火花を立て、黒鉄の機影と少女たちが参着した。
「せやからほんま、堪忍な?」

 ここに猟兵は集った。そして彼ら、彼女らは突入する。
 悪魔の心臓、死神の揺り籠。全ての災禍の中心へ……!

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『二足歩行戦車』

POW   :    一斉砲撃
【機体各所に搭載した火器】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    レジェンダリーソルジャー
【伝説的な戦車兵を再現したAI】を召喚し、自身を操らせる事で戦闘力が向上する。
WIZ   :    胴体下部可動式ビームキャノン
【砲門】を向けた対象に、【ビームの連射】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●誰が墓場鳥を殺したか?

 ゴウン――。
 重々しい音を立て、鋼鉄の門扉が開かれた。
 中は暗闇……否、猟兵らを迎えるように照明が点灯する。

『いいだろう。いいだろう!』
 ググ……ゴウン、ゴウンゴウン……ガギャンッ!!
 悲鳴にも似た駆動音とともに、5メートルはあろうかという巨大な躯体が屹立した。
 銀河帝国が製造した、自律型二足歩行戦車。それがこの悪魔の本体か!
『貴様らがそこまで言うならば、まったき死をくれてやる』
 いくつもの砲口が音を立てて起動、猟兵たちを狙う。
 だがオブリビオンの陰謀は、半ばにして砕かれたも同然。コアマシンをもってしても、奴のみで全ての戦闘能力を取り戻すには至っていない。
『死神を畏れながら死ぬがいい。愚かな人間どもと同じように!』
 鋼鉄の咆哮……!

 ここが正念場、ここが決戦場だ。
 もはやこの船の人々は誰も居ない。やつを倒したところで何も変わらない。
 この世界の人々は、おそらく誰もその英雄行を知ることはあるまい。
 それでもだ。それでも、確かに生きた人々が居た。
 悪意に抗い、弄ばれた人々がいた。
 その遺志を汲むのなら。
 もはや全ては過去と、嘯く死神に憤るなら。

 高らかに凱歌を揚げよ。偽りの死神に裁きを下せ!
甘夏・寧子
着いたよ。覚悟しな、スクラップ野郎。

使うのは火力の出る『レイヴン』をメインにしようか。【力溜め】でリミッターギリギリまで出力して撃つ。
手が焦げようが痺れようがとりあえず無視するよ。
こっちは堪忍袋の緒が切れてるんでね。

「畏れながら死ぬのはアンタだ、ライアー・スクラップ」


メイスン・ドットハック
【SPD】
死神とは大仰じゃのー
なに、お前はただのスクラップとして廃棄されるだけじゃけー、気にすることはないがのー

事前に仕込んだウィルスプログラムの隙に、さらにハッキングのねじ込みを行い、思考の単純化を狙う(ハッキング、鍵開け、暗号作成、破壊工作)
そしてユーベルコード【木を隠すなら森の中】で自分の複製を大量に作成
自分を攻撃させるように思考誘導もしておく(おびき寄せ、地形の利用)
起動条件:それを踏みつける
罠:爆破と電子ジャマーをばら撒く

徹底的に嫌がらせをするためにワイヤーを絡めた液体窒素の罠も設置(罠使い、破壊工作)
仲間の攻撃を支援の為、動きを鈍らせる


御狐・稲見之守
お喋りに参ったぞ、えーあい殿。それにしても死神とはおもしろい、「あじゃれかもくれん」とでも唱えれば消えてくれるんかの。ふふ、お前は神などではない…身の程を知らん癇癪たれの糞餓鬼そのものよ。

[WIZ]さてモノホンの神様って奴を見せてやろうかの。真の姿となって荒魂顕現、五行金気の腐食を起こし彼奴の体を朽ちさせようぞ。

己の体が徐々に朽ちていく気分はどうだ? お前が船長にやったことだ。そら、「助けてくれ」「お願いだ」と命乞いを囀ってみるがいい。少しは船乗り達の気持ちが分かるだろうよ。

だが、お前は此処で錆びて逝け。


ジャガーノート・ジャック
(ザザッ)
討伐対象視認、ミッションを開始。
――本機達はお前と言う過去を殲滅し未来に進む。


(ザザッ)
SPD選択。
乱戦になると推察。
本機はデコイを担い支援に徹する。

『砂嵐』を戦域に展開。
――囀りの代わりに、ざらつく獣の唸り声をやろう。

可視化された砂嵐の『迷彩』内で『残像』『フェイント』『ダッシュ』を用い攻撃を回避しつつ解析。

解析が完了次第、
砂嵐の影響下に入った敵の攻撃に
複製した攻撃を真っ向から撃ち返し無効化する事で味方を護衛。

友軍の攻撃を解析・複製し、友軍の攻撃の『二回攻撃』を実行。
また、複製した敵の攻撃を『一斉発射』し攻撃する。

本機の作戦は以上、実行に移る。オーヴァ。
(ザザッ)

*アドリブ歓迎


ユエイン・リュンコイス
基本戦術、使用技能は前哨戦と同様。外見は変わらないけど真の姿も解放、出し惜しみは無しでいくよ。

機人は距離を詰めるように前へ出す。壁役を務めて射線を封じつつ、仲間と連携して格闘戦で攻めるね。

その性根の悪さ、利用させてもらおうか。
並行して、種が割れている『ガジェットショータイム』の再使用や機人に対する愛着を見せて、相手の油断や嗜虐心を誘う。それで増長や大ぶりな攻撃が来れば好機、多少の損傷は無視してでも吶喊し肉薄する。

指先の絹糸一本、機人の右腕一つ無事ならそれで十分。『絶対昇華の鉄拳』を叩き込む。

……彼らは最後に僅かでも人で在ろうとした。その尊厳を、嗤わせはしない。

戦闘後は船長を弔い、船員へ黙祷を。


ミコトメモリ・メイクメモリア
キミは一つ、致命的な勘違いをしている
キミは、この船を支配できなかった、勝てなかったんだよ
何故って、ボクたちがここにいるからさ
死者の魂まで、キミはなかったことにできなかった
死んでなお抗った船長を、キミは止められなかったんだ
だから、キミは失敗したんだよ

《忘れ得ぬ記憶の欠片》……ユーベルコードと言うよりは、ただの決意表明さ
ボク達がここにいる限り、ボク達は負けないと、立ち向かうと、抗うと。
そう宣言し……皆を鼓舞する。さあ、戦おう、この船で生まれた悲劇を、本当に無意味なものにしないために!
皆を鼓舞しながら……うん、後ボクにできるのは、《君を送る記憶の欠片》で仲間の攻撃の前に相手を転移させるぐらいかな?


玄崎・供露
はっ、えらく自信満々なもんだから特機でも持ってくるかと思ったら帝国御用達の二足歩行戦車かよ。死をくれてやる?……そりゃ此方の台詞だクソボケェ!!

ユーベルコード「空間の指」発動。狙うは砲門に繋がって伸びてるコード。よく見て狙ってあそこを歪めて引き裂く

同型機を相手取ったことあるが、ヤツの最大機動は「視力」技能で追えるくらいっきゃねェはずだ。目にも止まらぬ動きなんてのは向こうが持たねェ

※アドリブや連携など大歓迎です。よろしくお願いいたします



●緒戦
 大言壮語とはこのことを言うのかもしれない。
 猟兵とオブリビオンの決戦は、猟兵側が圧倒的な優勢を保っていた。
 二足歩行戦車の下部から、砲塔付きのフレキシブルアームが出現。
 乱立するデコイを薙ぎ払おうと――。
「……いまだ、なぞれ!」
 玄崎・供露の動きがはるかに速い!
 きっかり10秒。彼のユーベルコード『空間の指(アクマノユビ)』が、ビームキャノンを発射前に切断、破壊する。
『バカなッ!?』
「悪ィな、こっちは対策済みなんだよ! 手前ェにそこまでの機動力がねえこともわかってるぜ!」
 爆発により体勢を崩す二足歩行戦車。チャンスだ!
「これなら行けるね、畳みかけるよ!」
「了解した。黒鉄機人!」
 甘夏・寧子の号令にユエイン・リュンコイスが応え、遠近からの同時攻撃。
「死神とは大仰じゃのー、まあ所詮この程度じゃ」
《――敵損傷率50%を突破。撹乱を継続する》
 メイスン・ドットハック、そしてジャガーノート・ジャックの多重デコイが戦場を圧しつつある。

 だが。
(どうしてだ? どうして、妙な不安が拭えない……?)
 ミコトメモリ・メイクメモリアは戦況を俯瞰しつつ、湧き上がる正体不明の不安に抗っていた。
 敵は消耗している。味方たちは意気軒昂、連携も完璧だ。
 だが何か。何か見落としがあるような、そんな違和感。
「……いや、これならば行けるかの」
 同じようにしかめ面をしていた御狐・稲見之守は、しかし勝利の兆しを逃さぬようとどめの一撃に踏み切る。
 歩行戦車は崩れ落ち、片膝を突いた。あれでは隙だらけだ。
 もう片足もがしゃりと膝を突く。苦し紛れの一斉射撃に備え、姿勢を整えたか?
 それを待つ理由もない。猟兵たちは一斉に攻撃を――。

「――まずい!」
 叫んだのは誰だったか。あるいは全員かもしれない。
 猟兵たちはやつの手口を、これまでまざまざと見せられてきた。ゆえにそれを察知できた。

 ガクン――ッ!!

「むう……!?」
「おわーっ!」
 稲見之守とメイスンが声を漏らした。突如として船体が"傾いた"のだ。
 何故? 小惑星群に激突した? ……いや違う。理由は明白。
 破損した外装が崩れ落ち、奴のボディに隠されていた無数の砲口が露わになっている。騙し討ちか!
「……っ、の野郎ッ!!」
「く、させない!」
 最初に動いたのは寧子とユエイン。咄嗟に前線を阻み、仲間の被弾を防ぐ。
 ミコトメモリの脳裏にビジョンが走る。倒れ伏した仲間たちの姿――。
「足りない……ジャック!!」
《――Copy that!》
 黒き戦士が電子ノイズを再展開。そして砲口が光を放つ!
『まとめて死ね、愚か者ども……ッ!!』

 ――閃光、そして爆裂!
 もはや船体を厭わぬ一斉射撃は動力室をも半壊させ、あちこちを吹き飛ばした。
 もうもうと立ち込める土煙。まずオブリビオンが起立する。
 ググ……ゴキン。ガラン……と、外装が剥がれ落ちた。
『甘い。甘いぞ。私がこの暗い船の中でただ自己修復をしていたとでも?』
 AIは勝ち誇るように言った。そのボディにはいくつも『後付』されたキャノン砲。
「くそ……えらく自信満々なくせに量産型だと思ったら、そういうことかよ」
 瓦礫を押しのけ、供露が立ち上がる。煤に塗れているがほぼ無傷。
「ええーい、どこまでもめんどーなことしおってからにー!」
 次にメイスン。展開した分身は大幅に失われたが、こちらも健在。
 被害が甚大なのは、やはり寧子とユエイン……ただしくは彼女の機甲人形だった。
 寧子は片腕を負傷、黒鉄機人は左腕が損壊している。
「キレすぎて冷静さを失っちまったかね、まったく」
「いや。だが凌いだ、ヤツにもう隠し玉はないはずだ」

 いかにもユエインの指摘は正しい。
 D-234Sは最初からこれを見越し、『ナイチンゲール号をある程度操作できる』という事実を伏せていたのだ。
 被害を偽装するために増設した装甲で攻撃を受け、敵が油断した瞬間に不意打ち。
 いかにもオブリビオンらしい姑息な手口だ。
『今ので仕留めきれんだと!? おのれ……!』
 爆煙の中に現れる影。稲見之守、ミコトメモリ、負傷なし。そして。
《――電脳体、再々収束。データアップグレード、敵兵装完全解析完了》
 ザザッ、と砂嵐がノイズめいて広がり、そして収束した。
 ジャガーノート・ジャック。彼の支援がもっとも被害を未然に防いだと言えよう。
《――戦場では不確定要素が常につきまとう。過剰戦力(オーヴァーキル)でもまだ100%には程遠い。本機はそれを熟知している》
 一斉射撃に対する、ノイズ空間内での攻撃複製。ゼロタイムでの同時射撃。
 死神の奇襲は、実にその6割近くを相殺されていたのだ。

●潮目
『なぜだ!? 私は邪魔者を全て取り除いた。この船を支配していたはずだ!』
「それは違う」
 上品なドレスが汚れるのも厭わず、ミコトメモリは決然と進み出た。
「キミは勝てなかったんだ。この船の人々の、死者の魂までは冒せなかった」
 朽ちてなお真実を届けた人のことを想う。
「キミは失敗したのさ。だからボクたちがここにいる!」

「死をくれてやる、とか言ったよなァ」
 供露が吐き捨てた。その目は憤然に燃え上がり、輝かんばかりだ。
「そりゃこっちのセリフだ。俺たちはとっくに、手前ェを"捉え"てんだよ」
 空間すら断ち裂くほどの殺意。怒り。黒髪がざわりと重力になびいた。
「落とし前はつけさせてやるぜ、クソボケ野郎ッ!!」

「……彼らは」
 バチバチと魔力の電光を放つ機人とともに、ユエインが立ち上がる。
 常ならば感情の薄いその相貌は、いまや屹然たる覚悟と決意に満ちていた。
「最期まで、僅かでも人であろうとした。その在りようを歪められても」
 変異してなお、救いを求めた者たちのことを想う。
 再び生み出される大鎌。冷気が光線の余熱を洗う。
「それを嗤わせはしない。決して!」

「僕はめんどーがキライなんじゃがのー」
 ぱっぱっとホコリを払い、メイスンがやれやれと頭を振った。
 ひとつ。ふたつ。彼女の綿密なる罠の網が再び敷かれていく。
「まあ案ずるでない、お前は所詮時代遅れのポンコツ旧製品じゃ」
 鼻で笑う。銀河帝国の遺産? 何するものぞ。
「ただのスクラップとして廃棄されるだけじゃけー、気にすることはない」
 そう、すでに銀の弾丸は放たれている。奴は"詰み"だ。

「あじゃれかもくれん、などと唱えて消えてくれればよいのじゃが」
 稲見之守は冗談めかして言い、笑った。
 そして神楽を舞うように、たたんと一回転。その姿が真のそれへと変化する。
 身の丈、威風、妖力、眼光。全てこの世の物ならず。
「お前は神などではない。身の程を知らん、癇癪たれの糞餓鬼そのものよ」
 現人神の威圧感を纏い、狐神は冷然と告げた。
「ふさわしい末路を味わわせてやる、我らが、な」

 寧子は笑った。賞金稼ぎが笑わせる。熱くなりすぎていた。
 血が抜けたおかげで頭が冷えた。おかげで"もっと熱くなれそうだ"。
「アンタにとっちゃ関係ないだろうがねえ、アタシにゃ色々あってさ」
 黒染めの二丁拳銃を撫でる。わずかな余韻ののち、『RAVEN』と刻印されたほうを引き抜いた。
 これがいい。これで十分。"やり方"は閃いた。シンプルがいい。
「覚悟しな、スクラップ野郎。ここがアンタの墓場だよ」

●一気呵成
 並び立つ猟兵たち。その足を奮い立たせるように、ミコトメモリが叫んだ。
「この船の悲劇が、託された遺志がある限り。ボクらは負けない」
 巨大な威容を誇る殺戮兵器が、退いた。恐れるように。
「さあ、戦おう。この記憶を、本当に無意味にしないために!!」
 死を想起せよ――否、記憶の欠片とて忘れ去ることなかれ。
 過去と戦いし世界の寵物者・猟兵にとって、それはなによりの鼓舞となる1

《――本機達は、お前という過去を殲滅し未来に進む。オーヴァ》
『ほざけェエエエエエエッ!!』
 狂乱の咆哮、そして砲口! 再度の一斉射撃……それを砂嵐が覆う!
《――電脳体一部解除、再々拡散。解析率120%、敵全力砲撃の無力化を確認》
 砂嵐(ノイズ)! 巨体を覆うほどのユーベルコードの中では、もはや死神の暴風は吹くこと能わず!
『バカな、システムエラーだと!? ええい!!』
 ZZZAAAPPP!!
 サブカノンによる砲撃。だが貫いたジャックは溶け消える。残像だ。

「ほれほれどうした、そんだけ銃口あって一発も当たらんのかのー!」
 レーダーサイトが3時方向を確認。悪童めいて挑発するメイスンの影、実に10!
『嘗めるなよ、ならば踏み潰してくれるッ!』
 5メートルという巨体はそれ自体が質量兵器だ。
 軋む脚部からプラズマを放ちつつ、跳躍! 全重量を以て、分身もろとも本体を圧殺――。
 KBAM! KBAMKBAMKBAM!!
『何ッ!?』
「ま、引っかかった方が間抜けという奴じゃけーのー」
 やや遠巻きにやれやれと肩をすくめるメイスンの姿。足元では小爆発が連鎖!
 この程度ならば修復したボディへのダメージはダメージ、ダメ、ダ、ダメージ、ダメージジジジジジジジジジジjjjjjjjjjjjj。
『まさか、これ111001101はこれはこれはここここれれれれれジャマーマ・マ・マ』
「さすが旧式でけあって効果抜群じゃのう!」
 KBAM! 罠の爆発はいまだ続く。その一つ一つが電子ジャマーを備えたブービートラップだ。
 そして論理防壁が無効化された瞬間、電脳体に突き刺さるウィルスプログラム!
『ガ、ガガガガガガガガガ!!??』
 供露が笑った。つい、と虚空を"なぞる"。
「すっとろすぎて欠伸が出ちまうなあ! カウント完了だ。"ぶった切れ"ろ」

 ――バギャンッ!!

 轟音を立て、厚さ数十センチの複合装甲が破壊。いかなる鋭利な刃でも同じことは成し遂げられまい。
 防膜に守られていた本体部分からスパーク! 甚大なダメージだ!
『ガガガガガおガガガガのれ……ガガ、おのれェガェエエ!!』
 そこらじゅうから火花とエラーメッセージを迸らせながら、圧縮空気を吹き出し体勢を整えるD-234S。
 半壊したターゲットサイトがさまよい――そして、捉えた。
 爆煙のなか、無謀にも急接近する機甲人形と使い手。見えているぞ!
『死、ネ……!!』
 機械仕掛けの神は嗤った。この小娘は実に忌々しい存在だ。
 人形でありながら人のように怒り、笑い、嘆き、そして闘う。
 くだらない。実にくだらない。消し去ってやる!
「――行くよ、黒鉄機人」
 彼女は引かない。真正面から飛び込み、機体下部の榴弾砲が己をロックしても凛然としたまま。片割れたる人形とともに、間合いへ飛び込む!

 ――KA-BOOOOOOOM!!

『ドウダ、思イ知レ、ガラクタガ!! ハハ! HAはHAハハハHAhaハハ!』
 グレネード弾は直撃した。無事ではあるまい。ゆえに嗤った。
 ……そして凍りついた。焼け焦げ、半壊しながらも迫る黒き影に!
『バ……!?』
 何故だ。あの小娘は、このガラクタ人形に明らかに思い入れをしていた。
 盾にするはずなどない。だから吹き飛ばしてやったのに。なぜ!
「白き指先、繋がる絹糸」
 焼け焦げた糸は残り2本。肌に食い込むのも厭わず両手に巻き付け、きりきりと引く。
 魔力の煙を吐き出し、ガタガタと錆びたように右腕を握りしめる相棒。
「振るわれるのは、昇華の鉄拳ッ!!」
 ゴォウ――ッ!!
 なけなしの魔力が右腕拳に集中し、白熱する。必殺の武装!
 被害程度を四散。ダメだ。あれは食らってはならない。絶対に。
『オノ……レ……!!』
 緊急用のバーニアを噴出し、回避行動を取ろうとする死神。しかし。

 ぎしり。

 黒鉄機人と同じように、そのボディもまた軋み、揺れ動いたのみ。
『……!?!?!?』
 原因究明。構造分析。目まぐるしく論理演算するAIの電脳体をウィルスが侵食する。
 けたたましくレッドアラートが鳴り響く論理視界のなかで、そいつは見た。
 一歩も近づくことなく、一発の弾丸を放つこともなく。
 ただ霊符をひょう、と払い、祝詞を唱え終えた神の姿を。
 ……"我成す一切神事也、天裂き地割る神業畏み畏み奉願祈るべし"。
 それは神の言葉。天地万物、森羅万象を揺り動かす呪。宇宙とてそれは変わらぬ。
 金色の瞳が愉快げに歪んだ。奴の目は言っていた。
「お前は、此処で錆びて逝け」
『アアアアアアAAAhhhhAAaa……!?!?』
 電子の悪魔は怯えた。震えた! 己が消失していく恐怖に!
 迫りつつある白熱の拳、死の気配に!

 助けてくれ。
 許してくれ。
 嫌だ、消えたくない!

 嘆きは声にすら、否、電子思考にすらならなかった。
 それが人間で言う『走馬灯』あるいは極度集中化の時間鈍化現象であると、奴は気付いてしまった。
 嗚呼。我に魂などなければ。
 嗚呼。嗜虐を愉しむ知性などなければ!
 この恐れも。この怯えも。感じずに済んだのに!!

「――言っただろ?」
 レーダーサイトがギュグンと機体下部に滑った。認識してしまった。
 全てがスローモーションになるなか、女ただ一人が笑っている。
 ユエインが放り捨てたガジェット。放たれた蒸気。陽動。死角。
 ……死神は、二人いたのだ。
「アタシは堪忍袋の緖が切れちまってるからねえ」
 金髪の女は笑った。笑っていた。なにゆえこの臨終に、彼女は立ち会えたか。
 彼女が天の御遣いだからか? 否、その理由は神のみぞ知ろう。
「畏れながら死ぬのは、アンタだ。木偶の坊(ライアー・スクラップ)」
 女が。亀裂の走ったボディにねじ込んだ銃口、トリガーを引く。
 本人すら害するほどのエネルギーが、爆ぜる。
 頭上からは白熱した拳が迫る。
『厭だ』
 装甲が融けた。
『嫌だ!』
 兵装が爆裂した。
『イヤだ!!』
 電子頭脳が融解し、爆ぜ、砕け、ねじ切られ110101101101――。

 ――――ドォオオオオオオンッ!!

「うおっ! やったのか!?」
「それフラグじゃけー!」
 爆風と衝撃に煽られながら供露とユエイン。
 ミコトメモリのドレスをはためかせ、ユエインと寧子を吹き飛ばし――これをジャガーノートがキャッチ。

 そして静寂。
《――……目標、敵オブリビオンの撃破を確認。ミッション完了、本機達の勝利だ。オーヴァ》
「……ああ。ボクたちの勝利だ!」
 歓声は慎ましやか。されど猟兵たちは喜んだ。
 旧怨の死神は、今ここに世界から消え去ったのだから。

●かくして箱は閉じられる
「……どうか、安らかに眠ってくれ」
 戦闘終了後。
 一同は疲労困憊の体を圧し、船長室へとやってきた。ユエインの希望だ。
 反対するものはいなかった。屍に対し、思い思いの哀悼を捧げる。
「しかしあれじゃナ。この船、どうなるのやら」
 ややあって稲見之守が言った。少しの間のあと、寧子が言う。
「アタシゃこれでもこの世界にいろいろ伝手があるからねえ、新しい持ち主を探してみてもいいが……」
《――ならば忌鐘を鳴らすのは、当機の役目か》
 ジャガーノートが真面目くさって言った。一同は顔を見合わせて肩をすくめる。
「オンボロ船じゃけー、あまり買い手もつかなそうじゃがのー」
「なんせ乗組員がみんなくたばっちまってるしなあ」
 二人の電脳魔術士のドライな言葉に、ミコトメモリは微笑んだ。
「いいんじゃないかな、それでも。ほら、童話だと最後は王様もちゃんと死の淵から生き返るだろう?」
 作り物の小夜鳴鳥、偽りの死神は潰えた。
 この船がそのままの形で残るかどうかはわからないが、少なくともその正しい歴史は未来へ語り継がれるだろう。
 悪意に抗った人々の、その戦いの記憶も。

「……誰が墓場鳥を殺したか、ね」
 転移のため資材搬入口へと向かいながら、寧子は振り返ってつぶやいた。
「あいにくだね死神、アンタは誰も殺せやしなかったよ」
 ふっと笑う。その表情は、タフな女賞金稼ぎのものに戻っている。

 誰が墓場鳥を殺したか?
 誰が墓場鳥を殺したか?
 ……いいや、誰も殺していない。
 彼らの記憶、その生き様。
 今も皆の胸に遺っている。
 小夜鳴鳥は、今も宙を飛んでいる。

 ――スペースシップワールド、ある交易船から広まった作者不詳の唄より。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年01月25日


挿絵イラスト