25
アルダワ魔王戦争8-E〜いばらの姫

#アルダワ魔法学園 #戦争 #アルダワ魔王戦争 #エリクシルの妖精

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#アルダワ魔法学園
🔒
#戦争
🔒
#アルダワ魔王戦争
🔒
#エリクシルの妖精


0




 ――この戦争には、大魔王とは別の"何か"がいる。
 少なからぬ数の猟兵が予期していた通り、やはり"それ"はいた。
 大魔王が封印・秘匿されたファーストダンジョンの、さらに限られた領域。
 第五の魔王とともに暴かれたのは……。

「便宜上"妖精"と呼ぶが、こやつらは一体一体が10メートル近い巨大な存在だ」
 ムルヘルベル・アーキロギアの背後。
 グリモアが映し出すのは、巨大な水晶窟とでもいうべき大空洞であった。
 そしてそこに存在するのは、つくりものめいた体を持つ不可思議・正体不明の"妖精"。
 多くの猟兵が視た予兆に姿を現した、明らかに異質な存在。
「詳細は解らぬ……ワガハイらにはあまりにも情報が足りないゆえにな。
 しかし、グリモアを通してわかったことはいくつかある。まずひとつ、敵の能力だ」
 ムルヘルベルは、重々しい口調で言った。

「――彼奴は、"ねがい"を叶える。ただし、悪意的に捻じ曲げられた"ねがい"をな。
 オヌシらが口にすれば、あるいは口にせずとも、彼奴はそれを露悪的に叶えるだろう」
 ユーベルコードの力か、はたまた妖精がもともと持つ能力なのか、
 言語化せずとも意識に浮かべた時点で、妖精という自動的な存在は反応する。
 どのような"ねがい"であれ、あれらは理不尽なまでの代償を求める。
 そして代償がもたらす結果は、必ずひとつ。
「戦闘不能、だ。ねがいを抱いた時点で、あれには勝てぬ」
 なんたることか。願望そのものを利用し歯向かわせてくるとは。
「ゆえに彼奴らと戦う上で重要なのは、こころを――精神を強く律する技術だ。
 己の願望を律し、彼奴らに隙を与えずに戦うことが出来れば……といっても」
 少年めいた賢者は嘆息した。
「それをさておいても、あれらの戦闘能力、そしてユーベルコードは強力だ。
 無論、対策は怠るな……先制攻撃をされずとも、易い敵ではないゆえに」
 大魔王とはまったく異なる敵との戦いは、間違いなく難戦となるだろう。
 妖精は願望を伝えさせようと、常に謎めいた言葉で猟兵たちを翻弄すると云う。
「有名な寓話において、十三人目の魔法使いは王に祝福ではなく呪いをもたらした。
 つまりは表裏一体――ねがいを叶えるということは、そういうことなのやもしれぬ」
 箴言めいて呟き、ムルヘルベルは本を閉じる。
「いずれにせよ、オヌシらの健闘を祈る。気を抜くなよ」
 それが、転移の合図となった。


唐揚げ
 というわけで、謎めいた『エリクシルの妖精』との決戦です。
 ボーナス条件に付随して色々注記があるのでご参照ください。

●プレイングボーナス条件
『エリクシルの妖精に願いを"伝えない"』
 ※注意!
 戦闘中にエリクシルの妖精に願いを"伝えてしまった"場合、
 その参加者は即座に強烈な大ダメージを受け、必ず戦闘不能に陥ります。
『願い』を伝え、かつ3/1時点で大魔王が"生存"していた場合、それは叶います。
(OPの通り、妖精は極めて悪意的に願いを解釈することをご留意ください)

●プレイング受付期間
『2020年 02/12 08:30』
 から、
『2020年 02/14 08:30』
 まで。
532




第1章 集団戦 『エリクシルの妖精』

POW   :    力翼
【魔力を纏った翼を震わせながらの】突進によって与えたダメージに応じ、対象を後退させる。【残っている他の妖精達】の協力があれば威力が倍増する。
SPD   :    汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう
対象への質問と共に、【虚空】から【新たなエリクシルの妖精】を召喚する。満足な答えを得るまで、新たなエリクシルの妖精は対象を【秘めたる真の欲望を暴く精神波】で攻撃する。
WIZ   :    ドッペルゲンガー
戦闘用の、自身と同じ強さの【交戦中の猟兵と同じ姿を持ち、同じ武器】と【同じユーベルコードを使う『鏡像存在』1体】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


『この世界』は『知りません』。
 『この世界』は『知りません』。

 ――巨大水晶窟に現れた無数のつくられしもの。
 妖精たちは一様に、自動的に、機械的に、同じ言葉を述べた。

 されど、『わたしたち』は『自動なる者』。
  『自動なる者』にして『宝石の妖精』。
   『望み』を『抱く者』が『現れ』れば、『歓迎』しましょう。

 ――妖精たちは謳う。

 この『世界』とは『別』の『場所』から『やってきた者』たちよ。
  『あなたたち』は『有資格者』です。
   なぜなら『この世界』の『万能宝石』は『完全』。
    『制約』なしに『無限の願いを叶えるもの』。

 ――妖精たちは謳う。

 『わたしたち』は『自動なる者』。
  ゆえに、『いかなる者』の『望み』も『歓迎』し、『叶え』ましょう。
  『この世界』は『知りません』。
   されど『わたしたち』は『宝石を歪める』ために『造られしもの』。

 『あなたたち』の『望み』を『伝える』のです。
  『わたしたち』が『それ』を『叶えましょう』。
   『溢れる』ほどの『自動的』な『祝福』をもって。

 ――もはや、それらと交わす言葉はあるまい。

●業務連絡:プレイング受付期間再掲
『2020年 02/12 08:30』
 から、
『2020年 02/14 08:30』
 まで。

 受付開始がシナリオ公開日の翌日なので、その点ご注意ください。
フランチェスカ・ヴァレンタイン
そのテの類のものは、ええ。どこぞの神なるモノ相手で懲りておりますので
況してや似たような得体の知れないモノ相手になど…
そも、戦闘に入れば機動制御に状況判断に火器管制と。余計なことに思考のタスクを割く暇などありませんしねー?

と、いうわけで念のためいつも以上に振り回した空中戦機動で応戦を
擦れ違いざまに斧槍でなぎ払い、マニューバで機動を切り返しながら重雷装ユニットからマイクロミサイルを広範囲に乱れ撃ち
バーニアと砲撃の切り替えも忙しなく、急加速や急旋回で位置を変えながらの連べ撃ちなど

集団での突進の兆候が見られましたら先んじてUCを発動、先制攻撃のランスチャージで集団を穿ち、纏めて蹴散らすと致しましょうか



 10メートルを越える機械的な妖精が集うさまは、それだけで威圧的だ。
 加えてそれらは、抑揚のない声で絶えず猟兵達に語りかける。

 汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
  『わたしたち』がその『望み』を『叶え』ましょう。
   『わたしたち』は『そのため』に『つくられしもの』
     汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう――。

 半ば呪いめいたその声を、フランチェスカ・ヴァレンタインは切り捨てる。
 そこにはまったく人間らしい感情がない、なのに奇妙に心がざわつく。
 色々な意味で懲りているフランチェスカですら、思考を割きそうになるほどに。
「おまけに手強いとは、全く厄介な妖精どもですわね!」
 表情を変えることなく手を伸ばし握り潰そうとしてくる妖精の指先から飛翔。
 曲芸的軌道で敵の目を誤魔化し、斧槍を振るって妖精の手を砕く。
 機械的なエリクシルの妖精たちは、腕が砕けようと翼をもがれようと反応しない。

 汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
  『万能宝石』はあらゆる『望み』を『叶え』ます。
   『この世界』の『万能宝石』は『無限』であり『完全』なのです。

「それを捻じ曲げるのがあなたたちの仕事でしょうに、よくもほざきますわね!」
 マイクロミサイルを射出……KKKBAM。妖精の巨体が爆炎に包まれた。
 煙をものともせず接近するエリクシルの妖精を、ハルバードが貫いた。
「あるいはわたしに、そうまでして縋りたい願いがあれば話は別ですけれど。
 僥倖というべきか否か、教訓を得ている身ですから。よそをお当たりなさい」

『有資格者』よ、汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
 『わたしたち』は『そのため』に『存在』するもの。
  いかなる『望み』であれ、『わたしたち』は『自動的』に『叶えます』。

 この者らを作り出したのは、おそらく相当に性格の悪い魔女か何かだろう。
 この者らは願いを叶えるランプの精でありながら、なんら人間的機微がない。
 だのに、その声は心をざわつかせる……フランチェスカは顔を顰めた。
 そして誘いに乗らないフランチェスカを、あれらは全力で殺しに来ている!
「どこまでも悪趣味な妖精どもですわね……消え去りなさいッ!」
 心に沸き立つさざなみもろとも斬り裂くように、光焔の刃が空間を薙いだ。
 妖精の群れは、滅びゆくその時まで決して表情を変えない。
 まるで最初から、そんな機能は己には存在しないとばかりに。
「……一体このダンジョンには、何があるといいますの……?」
 この先に待つ最終決戦に、不穏な予感を抱くフランチェスカだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

須藤・莉亜
様子見で来たのを少し後悔。
「(ああ、こりゃダメだ。)」
煙草に火を点け吸い始める。

敵さんの攻撃は【見切り】で回避と血飲み子と悪魔の見えざる手での【武器受け】で防御。
敵さんの攻撃を躱す間も煙草を吸い続け、そっちに意識の大半を向ける。

攻撃を受け瀕死になったら、憂鬱な悪魔を発動。後は悪魔に任せよう。
悪魔は僕の持つ全てを駆使して、ため息をつきながらも戦ってくれるだろうねぇ…。
僕は体が痛むので寝転がって煙草吸ってます。



 ――ああ、こりゃダメだ。
 グリモア猟兵の説明を聴いていたときからぼんやりと感じていたが、
 転移した瞬間に須藤・莉亜は痛感した。確信した。
 この妖精どもは、己にとって水と油とでも言うべき大敵。
 ……これらを前にして、己は精神の均衡を保つことなど出来ないと。

 気だるげで何に対しても真面目か不真面目か解らないヘビースモーカー。
 莉亜という男の第一印象は、おおよそそんなところだろう。
 あるいは親しい者でも、彼のことをそういう人間だと捉えているかもしれない。
 それは正しい――彼がそういう風に己を律している、という前提で、だが。
 莉亜には決して埋め尽くせぬ飢餓がある。
 ブラックホールのような、あるいは底なし沼のような。
 血への衝動。いのちを喰らい尽くすことへの衝動。
 それはとても気疲れする、生きる上では何の必要もないものだ。
(だから僕はこうやって、我慢してるのにな)
 いつも以上に重たい煙草を吸いながら、莉亜は思う。
 遠くにエリクシルの妖精たちの声が聞こえる。抑揚のない声が。
 これ以上なく機械的であるはずなのに、厭なほどに心をざわつかす声が。
 聴覚のピントをずらし、それをただの"音"として『聞き流す』。
 さもなくば吸血衝動は彼の軛を超え、彼は暴走状態になるかもしれない。
 いや、件の強烈なダメージが己を叩き落とすのが先だろうか。
 それを味わうのも業腹だ。だからこうして、煙で己の頭をぼやかす。
(――けど、限界はあるか)
 諦観めいて感じたところに、妖精の強烈な攻撃が彼を捉えた。

 予知によれば、あれらは願いを曲解し悪意的に叶えるという。
 莉亜が己の吸血衝動を認識していながら、願わなかった理由はまさにそれだ。
 ……彼は、絶対に味方の血を吸わない。どんなことがあろうとも。
 どんなに渇いていようと、
 どれだけ暴走していようと、
 誰が血を差し出したとしても。
 それが彼を"ダンピール"に押し止める唯一の、そして最後の線引だ。
 そこを踏み越えたなら、きっと自分は――。
「……はぁ。こんな美味しくない煙草、久しぶりだなぁ」
 ボロボロのまま床に転がり、莉亜はぼんやりとした様子で言った。
 血まみれの視界には、顕現した悪魔の鬼神じみた戦いぶりがわずかに映る。
 ――いや、そもそも自分は、煙草を旨いと思ったこともないか。
「憂鬱だ。……ほんとうに、憂鬱」
 肺いっぱいに煙を吸う。頭がはっきりとしない……これでいい。
 この世には、決して叶えてはならない願いもあるのだから。

成功 🔵​🔵​🔴​

神元・眞白
【SPD/割と自由に】
願いを叶えてくれる。誰もがもつ願望。私も持つ願望。
いつか、マスターを越える事。それが作られた私の役割、託された私の夢。
けれど、それは自分自身で為すもの。時間がかかっても。皆と一緒に。
だから飛威、符雨、今は未熟な私でも力を貸して。お願いね。

望みを言わなくても思ったらダメ。自動的、だから?
そんな妖精さん達の望みは、目的は。知りたいっていう事も1つの願望?
それじゃあ攻撃の主は飛威と符雨に任せて、私はサポートに集中。
あれだけ大きいし、意識しなくても別方向から、時間差の攻撃になりそう。

魅医は一先ず待機。何かで反応して私が動けなくなる時、その時はお願いね。
敵を欺くならまず味方から?



 願いはたったひとつ――"マスター"を越えること。
 戦術器(わたしたち)の生みの親、愛を以て産み落としてくれた人。
 そのいのちはもはやなく、かつての悪夢をも神元・眞白は乗り越えた。
 だから今、こころは澄んでいる。
 その願いを抱くことなく戦えというのはとても苦しいことだけれど。
 少なくとも、あの邪悪な妖精に願いを託すほど、眞白は愚かではなかった。

 汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
  『有資格者』よ、『万能宝石』の『力』を『受け取る』のです。
   『わたしたち』は『そのため』に『産み落とされた』ものなのですから。

 巨大なエリクシルの妖精が一体、また一体と数を増やす。
 一体一体が強大なオブリビオン……それがさらに複数、である。
「……飛威、符雨。攻撃は任せる。私はサポートするから」
 それでもなお――そう、心をかき乱す精神波を受けてなお――眞白は沈黙。
 言葉でも、こころでも、けっしてその願いを見せることはない。
 もとより情緒に乏しいミレナリィドールならば、耐えるのは多少楽だ。
 あの抑揚のない奇妙な声が、常に頭蓋の内側で反響し続けているが。

『有資格者』よ、なぜ『望み』を『言う』のを『拒む』のです。
 『この世界』の『万能宝石』の『力』は、いかなる『望み』も『叶え』ましょう。

「……願いは、望みは……自分自身の力で、為すものだもの」
 静かで平坦な、しかしそれは紛れもなく決別と敵対の宣言であった。
 エリクシルの妖精は表情を変えることなく、弾幕を払って襲いかかる。
 勝てるのか? これだけの強大な精神波を受けた状態で、あの数に。
 魅医は気遣わしげに眞白を――四体目の戦術器を見やる。
 背中に眼差しを受けながらも、眞白は振り返らないまま前に出た。
「大丈夫、魅医。私は、私の望みを誰かに託したりしない」
 そうすればきっと、あの時と同じように己は悲劇を起こすだろう。
 大事な何かを永遠に失って、またただの人形に戻ってしまう。
「私はもう――間違わないから。だから、私の心にどうか、灯をつけて」
 敵は強く、多い。飛威も符雨も、早速圧されつつあった。
 けれども敗けないだろう、いいや……敗けたくない。敗けるつもりはない。
 この思いがある限り、眞白の心に不安はなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ユーフィ・バウム
●願いは「伝えない」

――かつて、勇者伝説に憧れた森の娘がいました
彼女は森から出て都市に生きる戦士となり、
宝石に願いを叶え、ついには闇に囚われた
伝説の勇者を救ったのです

私は、彼女とは「違い」ます
望みは、自らの力で叶えてみせます
《戦士の手》とともに

妖精は立ち位置に気をつけ、1体1体確実に倒殺す
【なぎ払い】【衝撃波】を駆使し、
こちらの攻撃は多数を巻き込むよう打ち込む

蛮勇を振るいつつも、囲まれないよう
敵が少なくなれば仲間と囲んでいくよう動きつつ戦う

敵からの攻撃は【見切り】、致命を避けた上で
【オーラ防御】【激痛耐性】で耐える

奪う必要があるなら奪い、屠る必要があるなら屠る
どこまでも私は蛮人です、それでいい



 どれだけ、エリクシルの妖精が囁こうと。
 その声が、己の――ユーフィ・バウムの心をかき乱そうと。
 ユーフィは己の心を無にする。あらゆる雑念をシャットアウトする。
 戦士としての高揚を越え、ただ純粋に蛮勇を振るうための暴威となる。
 望みとは、己の手で掴まねばならぬものだ。
 誰かに叶えてもらうものではない。
 ましてや、悪意を以て力を歪める妖精になど、以ての外である。
 これは誇りだ。戦士としての、猟兵としての、ひとりの女としての。

 汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
  汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
   汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。

 無数に思えるほどの巨大なエリクシルの妖精が、同じ言葉を囁く。
 一切の感情を感じさせない、壊れたレコードのような自動的な言葉だ。
 だのに、その言葉は――正しくは奴らが放つ精神波――は心をかき乱す。
 揺れるな。心を強く持て。絶対に隠された欲望をさらけ出してはならない。
 ユーフィは野獣じみた勢いで飛びかかり、妖精の顔面を引き裂く。

『何故』『拒む』のです。
 『万能宝石』の『力』は『無限』。
  汝の『あらゆる望み』を『確実』に『必ず』『叶えましょう』。
   ただ『伝え』れば『よい』のです。『わたしたち』に。

「あなたたちに伝える願いなんて、わたしにはありません」
 冷たい声音だった。
 常のユーフィの快活さとは一転した、冬の雪のように凍てついた言葉。
 囀る妖精の頭部を破壊し、次へ移る。精神波は絶えず彼女を襲う。
 妖精たちが無造作に腕を振る――集中のあまり、反応が遅れた。
 強烈な一撃を喰らい、ユーフィは天然水晶が咲き誇る壁に激突。
 肺がストを起こし、呼吸が止まった。血を吐きながらも、少女は敵を睨む。

 汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
  『わたしたち』は『自動的』な『もの』。
   『望み』を『叶える』ために『わたしたち』は『うまれ』ました。

「知りません。わたしは――」
 拳を握りしめる。
「わたしは、奪う必要があるなら奪い、屠る必要があるなら屠る。
 ……私は蛮人です。それでいい。いまだけは……それでいいっ!!」
 言葉はウォークライへと変わり、水晶窟を震わせた。
 ひたすらに挑みかかる少女の姿は、野性的な蛮人というよりも……。
 世界に対して我を張り続ける、ちっぽけだが勇敢な少女でしかなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ニコラ・クローディア
歪みし万能の願望器、いや願望の翻訳機とでも言うべきか
些細な願いすら感じ取り、歪み叶えて対価を強請るとはずいぶんとヤクザな妖精も居たもんだ

…まぁ、願いを全て叶えるだけの実力を持つオレサマには関係ないがな!

突撃戦法か、10mもの巨躯があればそりゃあその衝突力は凄まじいだろう
もっとも、マトモに当たればの話だが
龍闘術で強化した四肢と全身に施すオーラ防御の力場でもって「受け流す」
完全に受け流せずとも我が龍翼を盾として扱う防御は鉄壁に等しい
ダメージが通るとは思わないことだ
そしてオレサマが為すのはカウンター
願い?祈り?違うな、オレサマの動作はオレサマの意志が決めた必然だ!
その首、貰った!



 古今東西、あらゆる寓話・神話において、龍とは最強の存在だ。
 悪の代名詞であり、人に仇なすものであり、欲望と暴力の権化である。
 勇者に討ち取られ最期には斃れるもの。
 英雄を英雄たらしめるための舞台道具、王者でありながら敗者たるもの……。

 しかしそれは、あくまで尋常の世界で知られる龍の姿だ。
 真なる龍は強大である。たとえばニコラ・クローディアのように。
 そもそも彼女にとって、他者に願いを叶えてもらう"必要がない"のだ。
 とはいえ、それは"願いがない"ということではない。
 絶え間ないエリクシルの妖精たちの声に対し、精神防御を講じる必要はあった。
 しかし戦場に立つニコラの興味の大部分は、懊悩や覚悟などではなく、愉悦。
 10メートルを越える、強大なオブリビオンとの死闘への歓喜であった!

 ――KRAAAAAAASH!!
 エリクシルの妖精が、その巨体を遺憾なく発揮しチャージを仕掛けた。
 ニコラはこれを卓越したオーラ操作技術と体術によって受け流す。
 妖精はそのまま真横の壁にぶち当たり、水晶を砕きながら起き上がった。
「ほお……オレサマの龍翼を衝撃だけは貫いてみせたか。面白いじゃないか」
 ニコラの体に傷はない――しかし、翼の下で掲げた腕にはいくらかの痺れ。
 なるほど、巨体に見合うだけのパワーはあるか。手をかけるに値する。
「だがオレサマに直接触れたんだ、貴様だって無事じゃあない――だろ?」
 ……起き上がろうとしたエリクシルの妖精、その頭部がばきりと砕けた。
 ヒビは稲妻めいて加速しながら鎖骨、胸部腹部と走り――そして、破砕!
 一瞬の交錯、その瞬間に素手による強烈なカウンターを通していたのだ。

『龍』よ、『あなた』の『望み』を『叶える』つもりは『ない』のですか。
 なぜ『万能宝石』の『力』を『否定』し、『わたしたち』に『抗う』のです。
  『わたしたち』は『自動的な存在』。あらゆる『望み』を『叶えましょう』。

「愚問だな! なぜオレサマが、オレサマの願いを誰かに託さねばならない?
 貴様らの力など借りずともいくらでも叶えられる。余計な世話もいいところだ」
 そんなことはどうでもいい、と、荒ぶる龍は牙を剥き出しにするように笑った。
「オレサマの前に立つ敵に許されるのは、すぐに死ぬか、あがいて死ぬかだ!
 ヤクザな妖精ども。ただ望みをねだって囀るだけなら、貴様らは雑魚以下だな」
 嘲笑。エリクシルの妖精たちはいかなる感情をも示さない。
 しかしニコラの脅威レベルを察知したのか、新たな妖精がさらに集う。
 巨大無数の敵を前に、ニコラはごきりと骨を鳴らした。
「まとめてかかってこい。その首、全員貰ってやる!!」
 龍とは貪るものである。
 その暴威、いかなる者であろうが測れも御せもしない。

成功 🔵​🔵​🔴​

黒川・闇慈
「願いというのは自分の力で叶えてこそでしょうに……まあ『自動』で動いているものに言っても詮無きこと、ですか。クックック……」

【行動】
SPDで対抗です。
特段の願いなどありませんが……相手が何を勝手に願いだと判定するかわかりません。精神波でうっかり口を滑らせないよう、覚悟の技能をもって用心しておきましょう。精神統一は魔術師の基本ですから。
高速詠唱、呪詛の技能を活用しUCを使用します。死霊人形師を全力魔法の技能で高速稼働させて、迅速に切り刻んで差し上げます。長引くといけませんので、スピーディーな幕引きといたしましょう

「突然現れて押し付けがましい妖精もあったものですねえ……クックック」

【アドリブ歓迎】



 目に見えないアストラルの世界より、魔力を汲み上げることこそ魔術。
 その中には当然、尋常の人間の精神では耐えきれない事実もある。
 ゆえに黒川・闇慈にとって、精神の均衡を保ち防御することは得手だ。
 エリクシルの妖精たちの声に、なんらかの精神波が宿っていることは必定。
 普段よりも入念かつ堅牢な精神防御を施し、彼は戦場に降り立った。

 汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
  『わたしたち』はその『望み』を『叶えます』。
   どのような『望み』であれ、『必ず』『叶えましょう』。

「あいにくですが、あなたたちに委ねるような願いは私にはありませんよ。
 ――願いとは自分の力で叶えてこそ。それに魔術師のはしくれとしては……」
 闇慈が魔杖を振るうと、背後に瘴気めいた闇が集まった。
 そこからズズズ……と現れたのは、絵に描いたような死神の鎌である。
 かたかたとされこうべを鳴らす死霊人形師の糸が、闇慈の四肢に絡みつく。
 クスクスと陰気な笑みを浮かべながら、闇慈は巨大な大鎌を掴み取った。
「その手のうまい話には裏があると、よく知っていますからねえ? クックック」

 汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
  『わたしたち』はその『望み』を『聞く』まで『何度でも』『問います』。
   汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
    汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう……。

 所詮は自動的な者ども、まともな問答など期待するだけ無駄か。
 闇慈は目を細めながら、己の持つ魔力を死霊人形師に注ぎ込んだ。
 骸骨面の人形師はそれこそ"自動的"に駆動し、闇慈を操るのである。
 直接戦闘が不得手な闇慈でも、ひとつの人形として動けば話は違う。
 高速で突撃を仕掛けるエリクシルの妖精を躱し、大鎌で頭部を一閃。
 表情を変えぬ頭部を刎ね飛ばし、落ち行く巨体をズタズタに斬り裂くのだ。

 汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
  汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
   汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。

「突然現れて押し付けがましい。ですが哀れに思わなくもありません。
 知らない世界で主もなく役割をまっとうしようとする人形、無様なものです」
 浮かべたままの陰気な笑みは、皮肉か傀儡と化した己への自嘲か。
 さらに現れる妖精を切り裂きながら、闇慈は一切の表情を変えない。
 その舞踏は、テンポアップするギターの音に惹かれるかのように荒々しい。
 周囲の妖精が物言わぬガラクタに変わるまで、そう時間はかからなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

エルヴィーラ・ヘンネルバリ
エリクシルの妖精、厄介なオブリビオンだとは聞いている
だけど……ボクには関係、ない

――天命才華
回避行動をしながら、敵の行動を分析
鏡像存在を作られたところで、ボクには、他者の防御に使える装備は、ない
ならば、鏡像存在を無視して、本体を叩く
これだけ大きな的なら、よく狙う必要も、ない

人々を守るため、眼前の敵を倒すことが、ボクの役目
そこには願望も、希望も、ない
ボクは、ただ義務を果たす、のみ
そして役目を達成すれば、次の役目が待っている

ただの人類防衛装置に、祝福なんて、要らないんだ



 汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
  『わたしたち』が『それ』を『叶えます』。
   『自動的』に。『完全』に。いかなる『望み』であれ。

 エリクシルの妖精が謳う。
 自動的に、抑揚なく、まったく同じ調子で、妖精たちが謳う。
 街中に流れる他愛のない喧騒めいた、取るに足らない声のはずだ。
 しかしそれは不思議と心をかき乱し、ねがいをえぐり出そうとする。

 ――普通であれば。
 エルヴィーラ・ヘンネルバリという少女について言えば、別の話だ。
 造られしモノ。フラスコチャイルド。戦うために調整されたかりそめの命。
 穢れた大気の中で生きる力を持ち、浄らかな世界では生きられぬモノ。
 人々の纏う衣服を編むために、己ひとりで生きる力も奪われた蚕のようなモノ。
 エルヴィーラに願望(ねがい)はない。
 何かを望むというのは、求めるものがある存在がやることだ。
 プログラムされた機械は望みを抱かない。それらに自由意志はないのだから。
 エルヴィーラも同じだ。
 敵を殺す。
 人々を護る。
 行為そのものは英雄的だが、限りなく自動的でもあるアイデンティティ。
 的に狙いを定める紅眼にも、
 トリガを引く指先にも、
 肌を肉を弾丸で貫かれたとて、
 そこに『反応』はあれど『情動』がこもることは――ない。
 だから殺す。
 己と同じ姿をした者であれ――いや、だからこそその戦闘能力は把握済み。
 殺害のために純化された装置を相手にするなら、より早く正確なほうが勝つ。
 エリクシルの妖精の頭部や胸部に照準をマウントし、トリガを引く。
 たやすい仕事だ。並のオブリビオンを狩るより簡単だ。

『それ』は『真実』なのですか?

 妖精が謳う。
 トリガを引く。

『あなた』は『本当』に『望み』を持っていないのですか?

 妖精が問う。
 トリガを引く。

『望み』から『目を離し』、『こころ』に『蓋をしている』だけなのでは?

 妖精がエルヴィーラを見る。
 トリガを引く。
 トリガを引く。
 トリガを――弾丸が少女を貫いた。
 いや。弾丸のように鋭く痛ましいものならば、最初から。

「ボクはただ義務(やくめ)を果たすだけだ」

 ならば汝は『なぜ』『わたしたち』の『声』に『耳を塞ぐ』のです?
  『わたしたち』は『つくられしもの』。『自動的』に『駆動』する『もの』。
   ですが『あなた』は『そうではない』。

「ボクはただの、人類防衛装置(フラスコチャイルド)だ」

 『あなた』は『そうではない』。

「ボクは」

 『あなた』は『そうではない』。
  『あなた』は『そうではない』。
   『あなた』は『そうではない』。
    『あなた』は『そうではない』。

 ――BRATATATATATATATA!!
「ボクは、ただ役目(しめい)を達成する。次の役目(しごと)を、こなす」
 トリガを引く。トリガを引く。トリガを引く。トリガを引く。
 同じ姿をしたモノらの眼が見える。己を射貫くような瞳が。
 トリガを引く。トリガを引く。トリガを引く。トリガを引く。
 妖精の声が聞こえる。心のヴェールをつまびらかにするモノらの声が。
 トリガを引く。トリガを引く。トリガを引く。トリガを引く。
 望みなどない。願望などない。希望などない。本当に?
 ……冷ややかたれ。冷徹であれ。機械のようであれ。装置たれ。
 己はつくられしもの。殺すために生まれたもの。消費されるいのち。
 戦う以外の意義などない。自由などない。必要ない。
 ――本当に?

「いらない」
 トリガを引く。マガジンをリロードする。トリガを引く。敵を殺す。
 敵を殺す。敵を殺す。敵(じぶん)を殺す。自分(ボク)を殺す。
 希望(ボク)を、願望(ボク)を、殺す、殺す、殺す。
 銃声は聞こえない。
 妖精の声も聞こえない。
 思考を戦闘のために純化させトリガを引き続ける。
「――祝福(ねがい)なんて、要らないんだ」
 斃れる間際の少女の瞳は、生まれたばかりの赤子のように煌めいていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ハウト・ノープス
願い、か
私には遠い存在だ

死者であるなら生への未練があっただろう
生者であるなら死への恐怖があっただろう
私にはない
記憶も失くした私には願うほどの欲も無くなっている
故、私はここに在り、ただ己の役割を遂行するだけの物だ
願いは、過去の遺物だ

だからやることは変わらない。ただ殺す、壊すだけだ
が、流石にお前達は私の身体には合わないな
部品の調達は諦め、ただ殺すだけにしよう
剣を手に、構え
巨体から繰り出される突進を見切り、斬る

断在
足の先でも、指の一本でも、奪えるのなら問題ない
其処に在るのなら、私は断つ
その身全てを切り刻むまで何度でも、何体でも

……そうだな、言わないでおくが欲はあった
私は、お前を、殺し尽くしたい



 哲学的ゾンビという言葉がある。
 ここにひとつの死体がある。ただし動き反応し自律する、屍者(ゾンビ)だ。
 それは死んでいる。ヒトの姿を有し、心臓は脈動しているが、死んでいる。
 意識(クオリア)を持たぬモノ。ゆえにそれは人間的に言えば死んでいる。
 ……だが、外面上には生体的にも思考的にも、あらゆる観測結果を返す。
 細胞は活動し、言葉を話し、問われれば答えを返し、歩き、頷き、瞬きする。
 冷酷なわけではなく、情動を知り倫理を知りコミュニケーションする。
 ――だが、死んでいる。そういうモノを仮定した言葉だ。
 死者には生への未練があり、
 生者には死への恐怖がある。
 ……はたして哲学的ゾンビは、どちらを持つのだろうか?

 ハウト・ノープスは、まさにそうした"半端者"だ。
 死者は動かず話さず考えないが、黄泉帰った彼は動き話し考える。
 生者は過去を持ち歩き続けるが、記憶喪失の彼は過去の道程を持たない。
 ゆえに存在していながら彼には願望(みらい)がない。
 未来に進むための脚がありながら、目指すべきしるべを持たない。
 どこまでも斬り断つことに研ぎ澄まされた、ひとつの装置であった。

『あなた』に『望み』はないのですか。
 『叶えたい』と思う『望み』を言うが『よい』でしょう。
  『わたしたち』は『それ』を『叶えます』。『わたしたち』は、

 エリクシルの妖精の首が刎ね飛ぶ。
「不要だ」
 端的な答えだった。
 突っ込んでくる自動物どもを断ち、破壊する。殺すというべきか。
 行動としてタスク化してしまえば、あとは速度などの物理的な問題だ。
 対処はたやすい。首でも脚でも指でも、どこでも斬れればそれでよい。

『あなた』は『どうやって』『生きている』のです。
 『わたしたち』は『自動的』な『もの』。『役割』を『果たすもの』。
  『あなた』はそうでは『ない』。『猟兵』は、『そうではない』。

 オブリビオンは、それを見た瞬間に本能的に理解する。
 我らの天敵。世界の残骸を破壊するもの。猟兵。世界の軛を絶ちしもの。
「私も同じだ。私は存在するがゆえに役割を遂行する。お前たちを殺す」
 首を刎ねる――着地した時、ハウトは思い出したように言った。
「いや。願望はないが、"欲"はあった。だがやはり、お前達は必要ない」
 もはや妖精の声は届かない。シャットアウトし、ひたすらに剣を振るう。
 殺し尽くしたいという欲。欲望ではなく生理的欲求めいた自動的な行動。
 ハウトはただ斬り、殺す。見かけには、それは勇ましき戦士のように見えた。
 だが彼に、それを突き動かす熱量は存在しなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

鍋島・小百合子
SPD重視

未知なる力によって引き起こされる願いなどあってたまるかの
碌な事にならぬのであろう?

戦闘中は願いを伝える事も言う事も思う事もご法度
欲望に惑わされない勇気を心に抱いて戦に臨む(環境耐性、狂気耐性、継戦能力併用)
UC「群制御動陣」発動にて召喚した女薙刀兵67名を戦闘知識込みで指揮
兵達に車懸りの陣を組ませ、敵にこちらの心に付け入る隙を与えぬように波状攻撃を命ず
わらわも薙刀を持ちて兵達と連携を意識して攻撃(なぎ払い、範囲攻撃、鎧砕き、破魔併用)
敵からの攻撃は残像を纏いながらの回避、防御可能であれば薙刀で武器受けからの咄嗟の一撃
召喚された敵からの精神破攻撃には薙刀から衝撃波を放って吹き飛ばし



 六十と七名の勇ましく華やかな女武者達が、鬨の声もそこそこに突撃する。
 空中を飛翔するエリクシルの妖精を討ち、引きずり落とすため。
 しかして、敵の目は、軍団ではなくその指揮者にのみ注がれていた。
 すなわち猟兵――鍋島・小百合子に。

 汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
  『万能宝石』は『無限』にして『願望器』。『望み』を『叶えるもの』。
   『わたしたち』が『望み』を『叶えましょう』。『あなた』の『望み』を。

「かかれ! 傷ついた者は後ろへ、後列が前に出て戦闘を継続するのじゃ!」
 小百合子は心に触肢を伸ばす精神波の誘惑に耐え、檄を飛ばした。
 無論、小百合子自身も薙刀を手に、前線に駆け出し囀る妖精を斬る。
 闇からさらに一体。同じことをさえずり、同じように戦う異形が現れた。
 指の一本一本が柱のように巨大な手が伸びる。煩わしげに軍勢を払う。
 次の女たちが前に出てこれに応報し、腕を伝って頭部を目指した。

 なぜ『望み』を『叶え』ようと『しない』のです。
  『あなた』には『望み』を『叶える資格』があります。
   『わたしたち』が『現れた』のがその『証拠』。『わたしたち』は、

「怯むな! 頭部を破壊すれば、あれらとて動けなくなるはずじゃ!」
 小百合子は声量を上げた。眉根を顰めながら、むしろ取ろうとする手を払う。
 心揺らすな。あのようなわけのわからぬモノに願望を委ねるなどあってはならない。
 それは正しき行いではない。だがしかし。本当に願いが可能のなら?
(……笑止! 鍋島の女ともあろうものが、情けない!)
 いかなる強大な敵を討ち倒すよりも、内的な闘争は辛く苦しいものだ。
 誰よりも恐るべき厄介な敵は自分自身。なにせその戦いに終わりはない。
 湧き上がる欲望を打ち据え、沈め、ただ軍勢とともに刃を振るい続ける。
 己が武家の娘でなくば。
 己がただの女だったなら。
 きっとこうは行かなかっただろう。それは誇らしく思う。

 ――だが。
 己が武家の娘でなくば。
 己のただの女だったなら。
 そもそも、こんな辛く苦しい精神的克服をする必要もなかったのではないか?
「……! 未知なる力による願いなど、わらわは認めぬ……ッ!」
 脆弱な己を寸刻みに殺しながら、ただ小百合子は荒れ狂った。
 一瞬でも足を止めれば、底なしの闇が己を捉えるような気がしたから。

成功 🔵​🔵​🔴​

ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
現世失楽、【鎖す者】
私の抱く願いは、全て私のためにある
ならばこの心に浮かび上がる前に、端から全て代償としてくれてやろう
私の願いが貴様らに見えるはずもない

呪詛による壁を展開、防御に使う
第六感で見切り切れない分は、呪詛の障壁で軽減しながら覚悟で受け切ろう
なに、意識さえ保てば問題はない

突進してくるというなら好都合
壁にしている呪詛を使って、接触した瞬間から攻撃に転じよう
叶うはずのない願いだけを杖として、ここまで生きて来た
私の生きる意味そのものを代償としての一撃だ、とくと食らって壊れてしまえ

今は世界の味方でも、大切なものを守る盾でもない
――貴様らを疾く壊すためだけに、全てを捨てる



 一流の舞台役者は、もう一つの神めいた視点から己を俯瞰するという。
 演技する自分の姿を後ろから眺めているような錯覚に陥る、というのだ。
 おそらくそれは、いまのニルズヘッグ・ニヴルヘイムのようなものだろう。
 ニルズへッグは"願い"を、"祈り"を認識し、理解している。
 当然だ。生きる者は多かれ少なかれ願いを抱く。何かを求める。望む。
 そして認識すると同時に、それを支払う。燃やす。鎖(さ)す。
 光すらも越えた内的思考速度で代償として支払い無に帰する。
 いわば思考の代謝。それはエリクシルの妖精よりもずっと速い。
 なにせニルズへッグは"慣れている"。愚かな己を後ろから見つめられるほどに。

 真正面から、蜂めいた羽音をあげて妖精の群れが突っ込んできた。
 ニルズへッグは自動的な第六感に従い跳躍。化け物じみた脚力で飛び越し回避。
 ぎょろりと妖精の目が彼を追従する――遅い、あれが視るのは残滓だけだ。
 彼が纏う可視化された呪詛の残滓。そしてあれは、とうに触れている。
 向こうから突っ込んでくるということは、こちらから触れたということ。
 極寒の雪山で遭難した哀れな者は、寒さのあまりに体の機能が誤認し、
 灼熱のような暑さを感じて服を脱ぎだすのだという。
 同じだ。"寒い"、"冷たい"とすら感じられないほどの極低温の冷気が敵を襲う。
 本来的に言えば、それは熱力学的な冷気とは異なるが……この際どうでもいい。
 悪竜の根とでもいうべき願いを代価に生まれたマイナスの熱量。
 つくられしものが耐えきれるはずもなく、バキバキと霜が張り砕け散った。

『わたしたち』は『自動的』な『存在』。『願い』を『叶える』ための『もの』。
 汝の『望み』を言うが『よい』でしょう。『有資格者』よ。
  いかなる『望み』であれ、『わたしたち』は『それ』を『叶えましょう』。

「愚かな龍を笑うことも出来ぬ木偶などに、くれてやる願いはない」
 拒絶の言葉は、この世のいかなる地よりも凍てついていた。
 ……己には願いがある。けして叶わず、掴めず、報われない願いが。
 それは呪いであり、己を支える杖であり、鎖であり、そして。
「壊れろ。貴様らには敵意すらも必要ない。手向けの花も要らない。
 ただ凍りつき、壊れろ。願望ではなく、熱意ではなく、必然によって死ね」
 ――そして、悪竜にとっての誇りだった。
 龍とは強大なもの。されど誇りによって鈍重となり驕慢を抱くもの。
 願望(ほこり)を棄てた龍は、いかなる存在にも敗けぬ。
 いかなる容赦も抱かぬ――彼は、そんな自分(おのれ)を俯瞰していた。
「私はすべてを棄てて貴様らを壊(ころ)す」
 愚かで哀れで、どうしようもなく弱々しい己の背中を。

成功 🔵​🔵​🔴​

ユーザリア・シン
【エリキシルの妖精に願いを伝えない】
困ったな。妾は何時でもどこでも他人に願いを託してイキってきたゆえ、こういう輩には手も足も出ぬ。まいったまいった。
願いの解釈、か。
別にそれは、この異形たる妖精に限ったものではない。
妾たちとて、託された願いをまっすぐに受け取ることはできぬ。
きっと何もかもの祈りと願いは、解釈されてしまうのだ。
故に――哀れよな。
あれが求める祈りと願いを、妾たちは誰も差し出さぬ。
あれが叶える望みと償いを、妾たちは誰も認め得ぬ。
現れた事を憐れもう。そなたはこの世に湧出すべき輝きではなかった。
故に猟兵よ。己が裡に願いを宿す戦友よ。
妾はそなたらにこそ願う。
あれを必ず討ち果たしてくれ、とな。



 ――女がひとり、激烈極まる戦場を見下ろしていた。
 見下ろしているというのは、比喩の問題だ。
 彼女は満身創痍であり、つまるところ死にかけていた。
 なにせ相手は願望を叶えるために囁き続ける、異形巨大の妖精である。
 一体叩き潰すだけでも並ではない。そもそも彼女はそういうのが極端に不得手だ。

 ユーザリア・シンは、ねがいによって構成されている。
 かくあれかしという願いと望みを以て戦士を祝福し、送り出す。
 献身や祝福だとかではない。それが彼女の礎なのである。
 詩人が四季を愛し、天然自然のことごとくに意味と必然を見出すように、
 ユーザリアという一存在が、その意志が、託宣めいたねがいを望んでいる。
 ――なにせ彼女は、己が為すべきことをとうに為してしまったゆえに。
 まったく手強い、手強かった。流れ落ちる血が癒やしても止まらない。
「哀れよな」
 されどユーザリアの呟いた言葉は、称賛ではなく苦悶でもなかった。
「ねがいを願いながら、のぞみを望みながら、何も得られない。
 達成を追い求めながら、代償を定めながら、誰も認めない。
 ――哀れではないか。誰にも顧みられぬ輝きなど、何の意味があろう」
 宝石は、宝石であるというだけで意味を持ちはしない。
 そこに生まれる価値は、輝きを目にしたヒトが与えるものだ。
 耳障りのいい歌は"それだけでいい"と云う。畢竟、それも認知によるもの。
 誰にも観測されず、
 誰にも干渉されず、
 誰にも受け入れられないのならば。
 結局、そこに意味は生じない。意味とは解釈によって生まれるのだから。
 ゆえにユーザリアは憐憫を抱いた。我が子を慈しむように残骸を撫でた。
「されど、それでいい。そうでなくてはならぬ。そなたは"そういうもの"だからだ。
 そなたらが謳い、そなたらが駆動し、そなたらがそう在るのならば。
 猟兵(われら)は斯様に壊し、猟兵(わらわ)はただ憐れもう。無意の輝きよ」
 なんと悲しきことか。されどこれがオブリビオンなのだ。
 過ぎ去った道程に振り返る以上の価値はなく、何も産めはしない。
 であれば猟兵の戦いとは、残骸どもに対する手向けのようなものだろうか。
 "もうよいのだ、どうか眠っていてくれ"という、鎮魂に似た祈りなのか。

 ユーザリアは、激烈極まる戦場を見下ろす。
「猟兵(とも)よ。妾は願おう。望みを以て希い、そなたらに誓おう」
 女の目が細まった。
「――弱者(あれ)らを必ず討ち果たしてくれ。当然のように。祈るように。
 そのものに意味がなくとも、砕け散った道には必ず、意味が生まれようから」
 その存在理由を満たしてやれぬならば、せめて別の形で。
 女の声は穏やかで、暖かくて――ただ、哀しいほどに無慈悲だった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ジャガーノート・ジャック
★レグルス

(ザザッ)
――対象を視認。
此れよりミッションを開始する。
オーヴァ。

(普段にも増して、冷静に、念入りに心を殺して「冷徹な兵士」のロールを被る。
余計なことは考えない。凪の海のそれを思い浮かべる。真似は得意だ。(学習力))

(冷徹に。自他共に傷を省みない。倒される前に倒せばいい、合理的な判断だろう。
例え怪我を負おうと、友が傷付き心が痛むとも、その痛みすら殺してみせる。(激痛耐性))

対象の行動鈍化を確認。
(ロクが攻撃し鈍った敵のとどめを。)

熱線複製。
照準よし――発射。
(一斉発射×狙撃×二回攻撃)

(願いは思い浮かべない。
浮かべるな。
それを思い浮かべるなら。せめてこの戦いが終わった後だ)

(ザザッ)


ロク・ザイオン
★レグルス

(同じ音を繰り返し、無為にひらひらと飛び回る、あれは
虫で。
石塊で。
喰らうものとて居ないのならば、
世界には、森には、不要のものだ)
……。
(故に森番は憎悪も怒りも慈悲もなく
ただ淡々と、刈り取り焚べて排除する
林立する水晶を【地形利用】、【ジャンプ】で飛びつき翅から落とす
落ちたものを細かく砕くのは、相棒に任せた)

……。
(吹き飛ばされ抱かされた《あれ》への苛立ち、殺意は
願いの形になる前に「焚骼」に焚べる
打払う枝が跳ね返ることなんて
虫に噛まれるなんて、よくあることだ
それが無くとも、森を正すのに何の問題もない)

(しずかに、仕事をしよう。)



 役割(ロール)とは、ヒトが己をヒトならざるために裁定したものだ。
 どんな行いであれ、役割と義務に落とし込めばあるべき情動は損なわれる。
 達成感と使命感という甘やかな毒が空白を満たし、偽りの悦びをもたらす。
 そもそも天然自然とは自動的なものだ。
 人類をヒトたらしめんとデザインした大いなるものなど存在せず、
 億年を閲して積み上げられたゲノムの変遷が生み出したのが生命だ。
 知能とは電気信号の集積でしかなく、情動は反応が見せる陽炎でしかない。
 人類(われら)には、意志などというものは初めから備わっていない。

 普段のふたりであれば、否と唱えたろう。
 ジャガーノート・ジャック。
 ロク・ザイオン。
 ひとを護り、ひとに再会すためにヒトならざる鎧を纏う者と、
 ひとを羨み、ひとたるためにヒトならざる力と声を使う者と。
 彼女彼らにとって、"ひと"とは単なるカテゴリではない。
 目標であり、
 礎であり、
 戒めであり、
 敵であり、
 味方であり、
 呪いであり――祝福だ。
 "それ"自体が願いだ。かくあれかしと己と互いを定義することば。
 ゆえにふたりはことばを持たぬ。ねがいを持たないようにするために。
 もっともロクの場合、そのことばすらも電子の悪魔に奪い去られたのだが。

『わたしたち』は『いかなる』『望み』であろうとも『許容』しましょう。
 いかなる『望み』であろうと『叶え』ましょう。『受け入れ』ましょう。
  『有資格者』よ。汝の『望み』を『言う』のです。『ねがい』を。

 自動的な者どもの声は遠く、それを薙ぎ払う刃と雷はなお疾かった。
 戦士は戦士たる己を定義し模倣し再現し、そのテクスチャを再装する。
 森番は叢を払い木々を伐るように刃を振るい、季節のように敵を斃した。
 痛みはない。痛みを感じるのは人間らしさだからだ。
 躊躇はない。躊躇を生み出す恐れは人間のものだからだ。
 怒りはない。怒りを燃やすのは前に進む人間だけだからだ。
 殺意はない。殺したいと思うには、人間らしい矜持がなくばならない。

『自動的』である『わたしたち』を『自動的』に『殺す』のですね。
 ならば『あなたたち』はやはり『希うもの』であり、『望み』があります。
  汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
    汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
      汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。

 木々のざわめきのようだった。
 揺れる水面のようだった。
 飛びつき斬り裂いて、打ち砕き、燃やし、溶かし、無に帰する。
 殺す。壊す。殺す。壊す。殺す。壊す。
 笑い、泣き叫び、楽しみ、貪るように殺す"あれ"に比べれば。
 それはまったく簡単で、楽で、たやすい。
 "あれ"を恐れ乗り越えたふたりならば、よほどたやすい。

(本当に、これでいいのか)
 しかし模倣再現には限界がある。
(こんなことを続けていたら、僕は僕ではなくなってしまうんじゃないか)
 雑念とは、常に湧き上がるから雑念という。
(駄目だ。願うな。思い浮かべるな。考えるな。揺れるな。疑うな。想うな)
 少年はただひたすらに凪ぎ続ける海を思い浮かべた。
 すべてを0と1に捉え、見ていながらにして視ていないようにした。
 たやすいことだ。スイッチを押すだけだ。ようはすべてゲームだ。
 ただその行いは――ぞっとするほどに恐ろしい。
 まるで、かつての己に戻ってしまうようで。

(おれは知っている。けど、あれを、知らない)
 何かがすとんと抜け落ちたという実感がある。
 "あれら"は"あれら"だ。けれどずっともっと簡単なことばがあったように思う。
(なぜ、おれは、泣きそうなのだろう)
 ただ叢を払っているだけなのに。
 ただ木立を伐っているだけなのに。
 "あれら"の姿を、かたちを、こえを聞いていると。
 どうしてこんなに――刃を振るうのを、やめたくなってしまう?
(わからない。わからないのが、くやしい。かなしい。どうして?)
 相棒に問えばわかるだろうか。でも、今は。
 ――いいや。きっと今でなくとも、答えは得られないだろう。
 なにせそれはもうとっくに、自分が捨て去ってしまったはずのものだ。
 そう思った時、ロクは泣き叫びたくなる乾いた衝動を感じた。
 叫びたいはずなのに、それは恐ろしく冷たく静かな衝動だった。
 誰より愚かなのが、自分だとわかっていたからだろうか。
 だって、そんな大事なものを棄てたのは――多分、己なのだから。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ニレ・スコラスチカ
邪悪なまでに自動的な願望器です。アレが地上に出る前に絶対に破壊しなければなりませんが…通常の方法では恐らく難しいでしょう。わたしには願いが多すぎる。

ならば転移と同時に【さかしまの胎動】を使用、わたし自身の意識を鎧の中に眠らせ、まどろみながら敵を狩ります。

この鎧は洗礼聖紋の独り歩き。痛みも悲しみも葛藤もなく、ただ敵を断罪する力。いくら欲望を暴こうとしても無駄。これはただ聖句と救いを紡ぐのみ。



 いにしえの法によれば、"目には目を、歯には歯を"と云う。
 罪には然るべき重さの罰を。重すぎても軽すぎてもならない。
 ――ならば、自動的な存在には自動的な暴力を以て応報すべし。
 ニレ・スコラスチカは瞳を閉じ、骨のゆりかごに己の身を委ねた。
 少女の瞼が闇をもたらした瞬間、反転せし聖紋は進軍を開始した。

 汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
  『わたしたち』は『望み』を『叶えます』。いかなる『もの』であろうと。
   『有資格者』よ、汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
    『祈り』でも『聖句』でもなく、『わたしたち』は『望み』を求めます。

 ――聖なるかな。聖なるかな。聖なるかな。聖なるかな。

 自動的な唱和に対し、返ってくるのは自動的な聖句であった。
 胎児は夢を見る。何が恐ろしくて血の涙を流す、無垢なる子よ。
 心なきつくられしものを、心なき骨の鎧が打ち砕くさまが恐ろしいか。
 骨釘は羽を貫き、断罪の刃は首を刎ねて贖いとする。
 こころなきものに救いはなく、ならば塵に帰するが神の法である。
 恐ろしいか。ねがいも望みも持たぬものが、地を歩くさまは。
 断罪とは慈悲である。しかしそこに慈悲はなかった。

『望み』を『持たず』、ただ『眠る』だけの『子』よ。
 それは『罪』です。いかなる『望み』よりも『重き』『罪』です。
  『わたしたち』は『呼びかけ』続けましょう。絶え間なく、『終わり』なく。

 ニレは応えぬ。鎧が応え、まどろみの裡にてただ敵を鏖殺し続ける。
 しかして少女は哭いた。己の願いから、罪から目をそらし続けることに。
 まどろみは夢をもたらさない。煉獄の裁きなき魂は永遠に野を逝こう。
 欲望とは罪である。されど求めぬことは、罪を犯すよりなお悪い。
 ただ己だけが清浄たらんとするのは、おそらくこの世の何よりも傲慢だ。
 ゆえに少女は哭いた。微睡みながら血の涙を流し悶えた。
 少女はそれを覚えていまい。ただ、焦げ付くような恐怖だけが遺ろう。
 ひとが、おおいなる神の御姿のすべてを視ることは出来ぬように。
 それこそが、願いを抱くことすら否定したものへの裁きである。

成功 🔵​🔵​🔴​

カイム・クローバー
f01440シャルと第六感連携

祝福、願い、望みを叶える?
今時、宗教の勧誘だってもう少しマシなホラ吹くぜ。
人の願いを聞きたいなら、自分のリップサービスの質を上げる事をお勧めするぜ

遠距離だとシャルに合わせて銃弾。二丁銃での【二回攻撃】と紫雷の【属性攻撃】。あれだけ図体がデカけりゃ闇雲に撃つより一ヶ所に集中的に叩き込む。
無制限の願いなんざ頼みたいと思わねぇよ。未来を開き、前へ進む。猟兵ってのはそういう存在だ。
翼がシャルの魔法で凍った瞬間に魔剣を顕現。先程までの銃弾を一ヶ所に叩き込んだ脆くなってる部分にUC。【串刺し】と黒銀の炎の【属性攻撃】。
…必要ねぇさ。俺の願いはもう叶ってんだよ(シャルを見て)


清川・シャル
f08018カイムと第六感連携

願い。生き物は欲深いものですよね。
でも貴方に叶えてもらうようなものはちょっと持ち合わせてないですね

Amanecerを召喚、意識を強く保つ鼓舞する歌を歌います
同時に熱光線射出、目潰しを狙います
目が機能してるかはしらないけど
ぐーちゃん零も出しましょうか、サービスです
毒使い、マヒ攻撃と氷の魔弾を装填しておきます
UC起動です
狙うは翼の根元、動かせなければ震えない。凍らせてしまいましょう
動きを封じられたら、そーちゃんを担いで近接攻撃を
呪詛を帯びたなぎ払い攻撃です

敵攻撃には武器受け、見切り、カウンターを
防御としてカイムにも気を配って氷盾を展開

えっ…なぁに?叶ってる?(首傾げ)



 ショッキングピンクのスピーカー達がノイズをかき鳴らす。
 爆発的なビートとともに射出された音は、敵を貫く光の槍へと変わり、
 清川・シャルを中心として、爆炎という名のライムライトを輝かせた。
 エリクシルの妖精――10mはあろうかという異形をも包み込む炎を。
「ハハッ! こりゃあ派手でいいな! ダンスステージにゃぴったりだぜ!」
 カイム・クローバーはアイロニカルな笑みを浮かべ、双銃を抜いた。
 がなりたてるような旋律と、斬り裂くようなマズルフラッシュが重なる。
 破滅的マッシュアップがもたらすのは暴威であり、つまりは敵の破壊だ。
 弾丸と光線が音叉のように共鳴して敵を貫き、破壊せしめる。
 ふたりは笑っていた。包み込むような妖精の声も今は遠い。
 なにせふたりの目には、最初からふたりの姿しか映っていない。
「楽しそうだねカイム! どうして? もしかしてあの妖精、タイプだった?」
「バカ言えよ! あんな胡散臭い壊れたレコードなんざ、御免だね」
 だよね、とシャルは冗談めかして笑い、グレネードランチャーを担ぐ。
 KBAM!! 榴弾が爆発し、突撃してきた妖精の羽を消し飛ばした。

『わたしたち』の『声』に『耳』を『傾ける』のです、『有資格者』よ。
 『望み』を『叶える』ためには『望み』を『伝え』ねばなりません。
  汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
   汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。

「今どきそこらの宗教だって、もう少しマシなセールストークをするぜ?
 意味もねえ問いかけをする前に、リップサービスの品質向上を考えちゃどうだ!」
 BLAMBLAMBLAM!! セールスマンを叩き出す罵声めいた銃声の応報!
 また一体、妖精の頭部が撃ち抜かれ、巨体はガラガラと崩れて消えた。
 紫雷を纏いし銃弾はたやすく敵を貫く。一挙集中された魔弾は極めて強力。
 だがしかしそれよりも――カイムにはそもそも、願いという隙がなかった。
 彼の胸中はたったひとつの感情で満たされていて、耳を傾ける必要がない。
 視線は常にシャルを捉えている。少女は照れくさそうにはにかんだ。
「変なカイム! いま戦闘中なのに」
 まんざらでもなさそうに言って、シャルもまた視線に応える。
 妖精どもはふたりを取り囲み、蜂めいて圧潰してしまおうとした。
 だからシャルは爆音をかき鳴らす。音で光を呼びさらに敵を貫く。
 BRATATATATATATA――KRA-TOOOOOOOM!!
 氷の魔力を籠めた榴弾が炸裂し、蜘蛛の巣めいて妖精どもを氷漬けにした。

『なぜ』『わたしたち』の『言葉』を『否定』するのです?
 『望み』は『誰も』が『持つ』『当然』の『欲求』。
  『拭い去れぬ』もの。『叶えたい』という『思い』を『無視』するのですか。

「無制限の願いなんざくだらねえ! 未来を拓き、前に進む。猟兵ってのはそういうもんだろうが」
「あなたたちに叶えてもらうようなもの、私は持ってないので!」
 カイムとシャルは言葉は違えど口を揃えて言って、背中合わせに立った。
 凍りついた妖精の巨体を駆け上り、魔剣を以てこれを砕く。
 あるいはいかつい棍棒で脳天を叩き砕き、バラバラに引き裂く。
「――それによ」
 肩を並べて降り立ったとき、カイムがぽつりと呟いた。
「そもそも必要ねぇんだ。俺の願いは、もう叶ってる」
「……なぁに? どうしたの、カイム?」
 見上げたシャルの瞳から、カイムはようやく視線を反らした。
 なぜだかわからないが、彼は照れている。シャルは首を傾げる。
「なんでもねぇさ。さあ、続きと行こうぜ歌姫様!」
「うーん、まあいっか! シャルも今が、すっごい楽しいから!」
 妖精の言うとおりだ。人は欲望を持ち、故に望みは棄てられない。
 何かを求めて生きるからこそ、未来という結果を掴めるのだから。

 ただ、人は結果だけを求めて生きているのではない。
 生きる意味は、そこに辿り着くまでの道筋にこそ生まれる。
 大切な人と肩を並べて戦(いき)るいまは、たまらなく楽しい。
 そこに、ありきたりな奇跡なんてとっくに必要ないのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ナミル・タグイール
願い事叶えてくれるのに言っちゃ駄目にゃ?なんでにゃー!
我慢なんてできないにゃ!
金ぴかいっぱいいっぱい欲しいデスにゃー!!【捨て身】
(周りに止められたり思い切り怒られない限り欲望のまま頼む猫)

金ぴかいっぱい貰えるならどんなのでも嬉しいにゃ!
代償ってなんにゃ?金ぴか以外なら何でもあげマスにゃ!

戦闘不能になっても金ぴか貰うまでは死ねないにゃ!【呪詛】が無理やり体動かしてくれるはずにゃ
金ぴかどこにゃ!代償だしたんだから寄越せにゃー!
今すぐ金ぴか出せにゃ!
金ぴかへの欲望だけで動く呪詛猫になるにゃ!
魔法生物な感じだしUCで中に潜り込んで無理やり叶えさせてやるにゃー!
ナミルの願い叶えろデスにゃー!



 大半の猟兵は願いを切り捨てるか苦悩している。
 当然だ、願望とは生存と不可避のもの。誰もが抱く当たり前の欲求。
 それを無にして戦えなど、並大抵のことではない。
 中には叶えたい願いを持つがゆえに苦しむものがいた。
 ……の、だが……。
「ぐにゃーっ!!」
 スッパーン! と強烈なダメージを受け、ナミル・タグイールは吹っ飛んだ。
 それもそのはず、彼女は開口一番望みを口にしたからである。
「き、金ピカ、いっぱいいっぱい欲しいデス、にゃ……がくり」
 そしてそのまま血まみれで気絶。かくして彼女の戦いは終わった……。
「……って、こんなことでは諦めてらんないデスにゃー!!」
 えっウソ!? ナミルは不屈の欲望で起き上がった!
 というか血まみれで白目を剥いているので、もはやゾンビだ。
「金ぴかぁあああ……金ぴかよこすデスにゃああああ……!!」
 怖い。呪詛で動いてるせいか回りに紫黒のオーラも漂っている。
 そこへエリクシルの妖精が容赦なく拳を振り下ろす! KRAAAAASH!!
「ぐにゃーっ!!」
 めっこめこにぶっ潰されたナミル、今度こそへろへろとぶっ倒れて……。
「まだですにゃ、金ぴかぁあああああ!!」
 嘘やん。なんで死なないの? それはね、猟兵だから。
 そしてナミルの欲望は底なし! 靄を増して飛び出した!
 そこへエリクシルの妖精の平手! スパーン!
「ぐにゃーっ!!」
 びたーん。
「……金ぴかよこせにゃああああああ!!」
 がばっ。もはや起き上がりこぼしみたいになっていた。
「金ぴかぁ! 金ぴかよこせ! です!! にゃああああ!!」
 靄と化してエリクシルの妖精にまとわりつくナミル! ぶっ飛ばされる!
 まとわりつく! ぶっ飛ばされる! まとわりつく! ぶっ飛ばされる!
「金ぴか以外ならなんでもあげマスにゃあああああ……」
 いっそ、せいせいするぐらいの守銭奴ぶりであったという。
 エリクシルの妖精が自動的なせいでさっぱり終わらない攻防は、夜明けまで続いたとか。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

フェルト・フィルファーデン
(最初からわかってた。この方とわたしは相性最悪だって。だって、世界を救いたいと願って戦うわたしに、ただの一欠片も願いを想わずに戦えるの?って……)

……時間は掛けたくないわね。速攻で終わらせましょう。
わたしの騎士人形達よ!この血を糧に、更なる力を今ここに!
【早業】で即座に至近距離まで近づき【2回攻撃】での斬撃で切り刻み
トドメに槍で胸を刺し貫いてあげる!


ええ、アナタに叶えて欲しい願いなんて何一つない。だってわたしが叶えるのだもの!

(でも、わたしが叶えられなかった願いが、もし、叶うとしたら)

アナタが何者か知らないけれど、わたしの願いには触れさせない!

(もう一度、会えるとしたら)

だから、消えて……!



 願いだけが自分を突き動かしていた。
 希望。夢。輝き。喜び――未来を掴みたいという欲求。
 それを取り去ったら、フェルト・フィルファーデンには何が残る?
 何も残らない。
 だってもう、自分には帰るべき国がない。
 迎えてくれる臣民がいない。
 頭を撫でてくれたばあやもいない。
 父も母も、部下も、誰も、何も。
 あるのはただ仮初の人形。命すらも己は燃やす。
 何が残る。願いを棄てたフェルトという女に何が残る?
「わたしの騎士人形達よ、この血を糧に、さらなる力を――っ!?」
 何も残らない。
 勝利すらもない。
 フェルトは、己の全身にすさまじい衝撃と激痛を感じた。

 ――斃れたのか。
 ブラック・アウトした意識が揺り戻され、彼女はまた痛みに顔を顰めた。
 人形達は意志を喪って崩れ、彼女は自分が壁に叩きつけられたと察する。
「わた、し……」
 悔しくて情けなくて、涙が出そうで、歯を食いしばる。
 何が希望だ。何が世界を護るためだ。
 こんなありえないはずの願いを抱いて、そのせいで血まみれになって。
 何が。何が猟兵だ。けれど、でも、この願いを棄てたら、自分は。
「……まだ、よ」
 否、もう戦いは終わっている。フェルトは敗けたのだ。
 願いを抱いてしまったがゆえに、妖精にその隙を突かれた。
 また会いたい。大事な人たちに。故郷へ帰りたい。
 か弱い欲望――けれど誰がそれを否定できよう?
「まだよ、わたしは……っ!!」
 立て。立ってくれ。まだ戦えるのだ。心は死んでいないのだ。
 この生命を燃やさねば駄目なのなら、いくらでもくれてやる。
 ……妖精たちの無機質な瞳が、立ち上がったフェルトを捉えた。
「そうよ、わたしはまだ終わってないわ。……まだ、諦めてない……!!」
 諦められていない。だからこそ彼女は一度敗けた。
 だが。敗けたうえでなお、諦めることすら諦めずに立ち上がるなら。
「――アナタたちに、わたしの願いをあげたりなんてしない……」
 人形たちは応える。命が消えていく。燃えていく。
「絶対に……絶対に……!!」
 無益な行いだった。彼女はきっとすべてを斃し尽くすことは出来ないだろう。
 ただ。
「――諦められないのよ、わたしは!」
 まだ何も、終わってなどいないのだ。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

風見・ケイ
【呪詛耐性】で精神波に耐え、湧き上がる欲望に【狂気耐性】で耐える。
こんなのは慣れっこだ。私の中にも少し似た子がいるんです。
それでも思考が塗り潰されそうになれば――
(先輩を)左手を撃つ。
(あの日)右脚を撃つ。
左足腹――最後には心臓。
【幽明境の暮れ泥み】に彼岸も此岸もありはしないけど、肉が焼け骨が砕け肺が破れ鉛の心臓に穴が空けば痛いから、耐えられる。

「願いを叶える星」なんて言われたUDCの力だけど、これは自動防衛反応に近い。
だから願う必要はなく、ただ『星の力』が全身の神経を駆け巡り、一時的に人を超えるだけ。

さあ、悪意に満ちた御伽噺を終わらせよう。
殴る痛みすら狂気に耐える術になるさ。



 あの日の自分は笑顔を浮かべていた。
 そのことを思い出すたび、はらわたが煮えくり返りそうになる。
 自責? 否。
 自嘲? 否。
 "踏み出すことも押し隠すことも出来なかった半端な己への怒り"にだ。
 あんなふうに笑って彼女を見送ってしまったなら。
 そのことを何度も夢に見て、何も贖えず苦しむなら。
 "私が死ねば"だなんて考えておいて、やっぱり踏み出せずにだらだら生き続ける。
 吐き気がする。弱々しい。情けない。まだるっこしい。
 BLAM。左手の甲を弾丸が貫いた。灼ける痛みが心地よい。
 己を罰している気分になれる。それを支払える己は崇高なのだと錯覚する。
 忘れるために痛みという麻薬に耽溺するだけの、愚か者でしかないのに。

 どんな『望み』であれ、『わたしたち』は『必ず』『叶えましょう』。
  汝の『願い』を『言う』のです。『叶えたい』『望み』を。
   『いくつ』でも、『何度でも』。『自動的』に『叶えましょう』。

 風見・ケイは右足を撃つ。体幹がふらついて意識が明滅した。
 遥かにいい。思考がバラバラに砕ける。今は、それでいい。
 あの声が"あの日"を呼び起こすたび、己を貫いて薪を燃やす。
 戦意という名の炎に薪をくべる。左足。へたりこむ。脇腹。

『有資格者』よ、『あなた』の『望み』を『言う』がよいでしょう。
 『わたしたち』は『自動的』な『存在』。『喜び』も『嘲り』もない『もの』。
  『あなた』の『望み』は、『叶えられるべきもの』なのです。

「慣れっこなんです、その手の甘言には」

『あなた』の『心』には『望み』が『あります』。

「悪意に満ちた願いなど必要ありません」

『あなた』の『精神』は『そう』は『言って』『いません』。

「――どうせなら、お星様にでも祈りますよ」
 BLAMN。躊躇なく心臓を貫く。褪せぬ記憶のポートレイトがかき消えた。
 立てぬはずの女が立ち上がる。血が逆流し傷を塞ぎかりそめに繋ぎ止めた。
 妖精の群れが来る。化け物じみた脚力で跳躍、これを叩き潰す。
 血は止まらない。特に、双眸から溢れ続ける血が。止まらない。
「おとぎ話は"めでたしめでたし"で終わるもの。そんな終わりは認めない」

 汝の『望み』は『それ』では『ありません』。

「わかっているなら、"わかっている"だろう? わたしは、決して願わないよ」

 汝の『望み』は『それ』では『ありません』。
  汝の『望み』は『それ』では『ありません』。
   汝の『望み』は『それ』では『ありません』。

「それは止まる理由にならない」
 囀る妖精の頭部を砕く。こころはミキサーめいてちぎれていた。
 今はこれでいい。だから戦える。この壊れた人形どもを叩きのめせる。
 血が止まらない。特に、双眸から溢れ続ける血が。止まらない。
 拭うことも忘れて、女はただ抗い続けた。
 敵に。
 誘惑に。
 終わりを求める己の弱さに。抗い続けた。

成功 🔵​🔵​🔴​

御薬袋・稀子
望みを叶えてくれる妖精、ですか。
それはなんというか、事実だとすれば、ええ。
藁にでも縋りたいものです。
と、かつての未熟で、愚かな私なら言っていたのでしょう。
誰かに頼るのも、縋るのも、結局は自身が苦しくなるだけ。それが善意によるものであるのだから、手に負えない。
耳障りのいい言葉は、いい加減うんざりなんですよ。
我が身の毒よ、傲慢な妖精の羽を犯しなさい。
突進に合わせて回避しつつ毒を放つ。避けるのは紙一重、多少の怪我は織り込み済みです。まあ、医者の言うことではないでしょうが。

願いは己の手で勝ち取るものです。
叶えてやる、とは何様だ。羽虫。
地に落ちろ。今日の私は、少し機嫌が悪いぞ。



 "情けは人のためにならず"という言葉がある。
 いつか因果は応報する――よきにつけ悪しきにつけ。
 だから"いつか"のために、"いま"誰かに手を差し伸べよう。
 そうすればきっと、いいことが自分に返ってくるのだから。
 そういう教えだ。
 ふざけた話だ。公正世界仮説など子供の戯言だろう。
 そんな簡単に済むなら、人間はとっくに神かなにかになっている。

 御薬袋・稀子という女の心はどこまでも乾いて荒んでいた。
 ありきたりな救済を否定し、皮肉り、嘲笑うピカレスクな心の持ち主だ。
「耳障りのいい言葉は、いい加減うんざりなんですよ」
 心底鬱陶しげに呟いて、彼女は己の身に溜めた毒を開放した。
 あらゆる病毒に常に蝕まれるという地獄にありし稀子の血は、
 それ自体があらゆる病毒――すなわち敵を蝕み腐らせる致命の武器だ。
 発露が己の命を燃やす結果になるとしても、まったく躊躇しない。
 細胞が励起し、呪われた血を吐き出し、それをすれ違いざまに放つ。
 KRAAAAAASH……勢いを殺しきれず、背後で妖精が壁に激突し砕けた。

『救われたい』と『思う』ことは『ない』のですか。
 その『痛み』を『克服』したいと『思う』ことは『ない』のですか。
  その『苦しみ』から『解放』されたいと『思う』ことは『ない』のですか。

「あったとして、"叶えてもらう"必要などはありませんよ」
 再びの毒血。矢のように鋭利に変じたそれが敵の額を貫く。
「――羽虫ども。私はそういう、押し付けがましい世話が大嫌いだ」
 底冷えするような声で言う。レンズ越しの双眸は恐ろしく冷えていた。
 同時に彼女は、レンズの裏に別の視界を見ていた。
 苦しみから解放されたくて、どんなものにでもすがろうとしていた己。
 裏切られ泣き叫ぶ己。世界を、人を呪い、膝を抱える己。
 忌まわしい姿だ。だが、けして忘れてはならない過去でもある。
「地に落ちろ。今日の私は、少し機嫌が悪い」
 だから彼女は、ただひたすらに救済を否定して己の命を燃やす。
 ……稀子が医者であるのは、因果応報を求めているわけではない。
 苦しみで大悟を得て、無私の救済者になったわけでもない。

 ただ、そうしていられずにはいられないからだ。
 彼女に手を差し伸べるのは、彼女にとっての侮辱なのである。

成功 🔵​🔵​🔴​

白斑・物九郎
●POW



・【ドリームイーター】発動

・物理透過の魔鍵で己自らを【串刺し】にし、自分で自分に【精神攻撃】
・自身の有する「想像力」を全力で搾り尽くし吐き出し切る(限界突破)

・「想像力」無くして願望を着想する道理も無し
・かくして己を「妖精へそも願いを伝え得ない状態」へと置く


・己の精神力を代価に一体の眷族を作成し、自身はオチる
・願いなどという高尚な精神活動も持ち得ない、ただの眷族、一体の怪物――見るも巨大な化け猫を

・化猫は【残像】を刻む程の【ダッシュ】と翅持つ妖精の高度にも対抗する【ジャンプ】で機動し、噛み付けば血と生気を啜る牙(吸血+生命力吸収)、そして【怪力】の四肢と尾で敵を【なぎ払い】戦う力を持つ



 にゃおう、と猫が哭いた。
 それの声は間違いなく猫であった。おそらくはフォルムも。
 ただしそれの像は常にランダムに揺らいでいて一定しない。
 大まかなシルエットは猫めいているが、輪郭がぶれているのだ。
 パッチワークめいたモザイク模様。一秒たりとて安定しないノイズの塊。
 化け猫とでもいうべきそれが、のっそりと上体を持ち上げた。
 足元で、ずるりと魔鍵を胸から引き抜く少年――白斑・物九郎。
 瞳は敵を見ている。だが彼自身は妖精を視ていない。
 ぴくりと耳が跳ねる。だが物九郎は声を聴いていない。

 汝の『願い』を『言う』が『よい』でしょう。
  『醜い』ものであろうと、『うつくしい』ものであろうと。
   いかなる『願い』であれ、『わたしたち』は『叶えましょう』。

 ごろごろと、猫であるはずのモノが喉を鳴らした。
 おそらくは、喉であろう場所――そう定義されたはずの場所を。
 揺れる陽炎めいたフォルムは非現実的な速度で動き、水銀めいて疾い。
 ぱたぱたを羽ばたく鳥でも狩るかのように、後ろ肢で跳躍した。
 前肢の爪が羽を斬り裂く。巨体が揺らぐ。エリクシルの妖精に苦痛はない。
 そも、あれらにそんなものを感じる機能は存在しない。
 表出させる理由もない。猫はにゃあ、と哭いて喉元に食らいついた。
 牙がつくりものの肌を貫き、肉を抉り、存在しない血と生気を貪る。
 魔鍵を手にした物九郎は、そのさまを目を見開いて見つめている。
 だが視ていない。彼の想起する力――すなわちクオリアは枯れ果てていた。
 代わりとばかりに、猫は狩猟獣めいて唸った。
 別の妖精が飛びかかる。それを尾で払い、前肢の爪で斬り裂く。
 猫の像は一定しない。この世のあらゆるものと結びつかないように。
 それが夢想から生み出したモノであれば、話は別だ。
 しかし薪を糧に燃える焔の形が常に一定しないように、モザイクも同様。
 それは想像力を代価に生まれた。だがそれは、想像の産物ではない。
 現実に存在し、切り裂き、引き裂き、噛みつき、抉り、啜り、喰らうものだ。
 暴威はほぼ一方的だった。精神波が揺るがす精神が存在しない。
 物九郎はただそれを見ていた。だが彼は何も視てはいなかった。
 眷属の暴威に、喜怒哀楽も驚嘆も何もありはしなかった。

「――"言うがよい"っつうから、"見せてやった"んですがよ」
 猫が降り立ち、にゃあと哭いた。そして消え去った。
 残骸が転がる荒野で、物九郎はこきこきと首を鳴らし、呟く。
「俺めの願いを気に入らなかったスか。シツレイな連中っスわ」
 モザイクめいてちぐはぐな言葉を呟き、踵を返す。
 猟団の長は戦いを好む。しかれどそれは狩りになる場合の話だ。
 ただ囀り求め歪めるだけのモノは、王の貪食にはそぐわない。
 ――強欲なる王は、日向に寝転ぶ猫のようにあくびをひとつした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

甘甘・ききん
あああ余計なことめっちゃ言いそう!正直、人に叶えて貰えそうな範囲の願い事って特に無いんだけど、なんか適当なこと言いそう。言ってしまいそう。ぐうー。

(「パンを一つくれ」って願って道端の少女に渡すやつ…)やばいの思い出しちゃったじゃん!考えついたら次々色んな願い漫画の名シーン真似する案が浮かんで来るんですけど!でも痛いの嫌なんですけど!もう限界…このままだと願いも思いついちゃう…撤退するぅ…

あれは…わたし?わたしのそっくりさん達が、同じく背を向けて逃げ出そうと…目が合った!同時にサムズアップ!グッドラックわたし。お互い逃げ切ろう

相殺し合うように働く幸運の渦。守られるのは逃げ惑うわたし達だけである



「そうだ、逃げよう!!!!」
 何故転移した? と真顔で聞きたくなるようなことを言い出した甘甘・ききん。
 しかし仕方ない。だって彼女は無心に至るようなキャラじゃないし、
 願いを思い浮かべるなとか言われたら逆に思い浮かべちゃうんだもの!
(だって無理じゃん! 寝よう寝ようと思ってる時ほど寝れないじゃん!)
 考えないようにすればするほどどんどんくだらない願いが湧いてくる。
 なんかこう貧しい少女にクールに施しをするイケメンとか、
 アイスクリーム台無しにしちゃった女の子に金貨あげるとか、
 そういう人生で一度はやってみたい系ムーブがどんどん湧いてきた。

『それ』で『よい』のですか。
 汝の『望み』は『本当』に『それ』で『よい』のですか。
  『最終回答』ということで『よろしい』のですか。

「ぎゃああああエリクシルの妖精が圧かけてくるぅうううう!!」
 心なしか、無表情のはずの妖精たちも「こんな願いはちょっとなあ」みたいな顔をしているようなしていないような、そんな気がしなくもなかった。
 どうせならもっとエモい願いを悪意的に解釈したい。苦悩とかさせたい。
 いやエモいシチュではあるしききんは苦悩してはいるんだが、
 そういう話ではないのだ! そこに何の違いも……違いしかねえ!
「あああああやばいやばい痛いの嫌なんですけど! 撤退! 撤退するぅ……」
 そんなわけでききんは全力で逃げ出すことにした。いやなんで転移した?
 そして全力で踵を返した……その時である!
「!! あ、あれは……!?」
 振り返ったききんが見たもの……それは、もうひとりの自分!
 乾いた叫びが聞こえてきそうなシチュだが、別に闇のききんとかではなく、
 単にエリクシルの妖精のユーベルコードが生み出した分身である。
 そして、分身のほうも全力で逃げ出そうとしていた。えっなんで?
 なまじっか投影が完璧なぶん、思考形態まで模倣してしまったらしい。
 はたしてこんな雑で本末転倒な闇の自分が、他の猟兵にいただろうか。
 いやいない(反語)
(ぐっとドラックわたし、お互い逃げ切ろう!!)
 しかもあろうことか、ききんはそのままサムズ・アップして全力で逃げ出した。
 ここで立ち向かう勇気を持たないあたりが実にききんである!

『望み』が『それ』なら『代償』を『支払って』もらいます。
 『わたしたち』は『自動的』な『存在』。『つくられしもの』。
  『泣き落とし』とかは『通じない』ので『よろしくお願いいたします』。

 ぐわっとエリクシルの妖精が手をのばす! コワイ!
 しかしそこで突如仮想の蒸気エンジンが爆発! 吹き出すスチーム!
 ブシュー! と吹き出した蒸気はそのまま水晶壁を破壊して妖精を飲み込んだ!
「「わああああやだー痛いのやだあああ逃げるぅううう!!」」
 ありえない幸運を、ものすごくどうでもいい逃避のために発揮するききん。
 よかった逃げ出せた、と胸をなでおろしたのはいいが、後で普通に怒られたという。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

マレーク・グランシャール
【神竜】篝(f20484)と

妖精達の突進は篝の偽神兵器『水門』を咄嗟に壁にする事で防ぐぞ

先制攻撃をノーダメージで躱せれば後はこっちのもの
【竜牙氷纏】で吹雪を呼び、飛んでくる妖精達の羽根を凍らせて吹き飛ばす
妖精達が何匹いようが氷の槍は無尽蔵に生成出来る
飛行能力の低下した妖精達を槍投げして討ち取るぞ

また、吹雪の中で魔槍雷帝を振るえば、雷雪による範囲攻撃ともなろう
冬の雷は夏よりも威力が高いからな

戦闘中の背中の守りは『水門』に頼む
黒虎號に乗る篝に妖精達がたからないようにダッシュして庇いに入るぞ

俺が願いを捧げるのも、俺の願いを叶えられるのも、俺の女神である篝だけ
まがいもの妖精ごときに願うものは何もない


照宮・篝
【神竜】まる(f09171)と

魔王とはまた質が異なる圧力を感じる…
悪い形で願いを叶えて、身を滅ぼさせる
そのような神もいると聞くけれど

まるの願いは、まるの女神である私が叶えるのだ
君に渡すものではない
私が『叶えたい』、という願いではない
私が『叶える』。私とはそういうものなのだから。

翼が震え始めたら【黒虎轟】に乗って空中へ飛び、【退魔水晶】を掲げて力を込めよう
【水門】にはまるを守らせるぞ
突進攻撃は水晶の輝きも使ってなるべくうまく立ち回り躱す(空中戦)
初撃さえ何とかできれば【女神獣座】を
これでこちらは大丈夫だ!
攻撃はまるに委ねよう、あとは任せたぞ!



 エリクシルの妖精どもの羽根が、ブウウン、と甲高い音を発した。
 照宮・篝がきっ、と眦を決し、眷属達を使役して突進に備える。
「まるの願いは、まるの女神である私が叶えるのだ……君達には渡さない!」

 汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
  『人』であろうと『神』であろうと、『わたしたち』は『叶えます』。
   どんな『望み』であろうと、『自動的』に『叶えましょう』。

「渡さないと言っているだろう! 私が"叶える"、私は……そういうものだ!」
 白き壁が城門のように連なり、巨大な妖精の突進を積層展開して防いだ。
 KRAAAAASH……轟音が大気を揺らし、水晶窟のあちこちが軋む。
 大魔王の形態に比べれば、直接的な戦闘力はあきらかに落ちていた。
 問題はあれらの声が、常に対峙者の精神に奇妙に働きかける点であろう。
 同じ『願いを叶える側』である篝をして、心をざわつかせられるほどに。
「まる……攻撃を頼んでもいいか? 私は、彼女たちを認められない」
 女神としての矜持ゆえか、あるいは『願い』を簒奪するモノらへの嫌悪か。
 大魔王すら受け入れると豪語した篝の表情は、浮かないものだった。
「ああ。何匹居ようと関係ない。任せておけ、一体残らず斃してみせる」
 マレーク・グランシャールは頷き、片手を掲げ、口訣を叫んだ。
 同時にマレークを中心に、ぱきぱきと音を立てて大気が凍りついていく。
 それは突撃を阻まれたエリクシル達の体を、翼を霜で覆い、吹き飛ばすのだ
 大気中の水分が凝固して生まれた無数の氷槍が、吹き飛ぶ妖精に突き刺さる!

『わたしたち』は『望み』を『叶える』ために『生み出されたもの』。
 いかなる『望み』であろうと『いくらでも』『叶えましょう』。
  『万能宝石』の『力』をもって、『無限』の『望み』を『叶えます』。

「所詮は自動的な存在、言葉を尽くしたところで意思疎通は出来ないか。
 だが俺はあえて言おう――俺が願いを捧げるのは、お前達などではないと」
 それはエリクシルの妖精を説き伏せるための、論理的な言葉ではない。
 いわば宣誓……我らはかくあれかしと世界に刻みつけるような力強い言葉だ。
「俺の女神は篝ただひとり――まがいものの妖精ごときは、退け!」
 けして相容れぬ敵意と渦巻くほどの活力を籠め、新たな氷槍の嵐が吹いた。
 霜を張りあらゆるものを凍てつかせる峻厳なる冬の嵐。
 びゅうびゅうと吹き荒ぶ寒気の中に、魔槍雷帝から放たれた稲妻が混じる。
 冬の雷は夏のそれよりも冷酷である。いかなるものをも裁く独裁者の如くに。
 どんな刃でさえ勝ち得ぬ鋭き稲妻は、たちまち紛い物の願望器を打ち据えた。
 砕けていく。表情を変えぬまま、悪意ある囁きを呻くつくられしものどもが。
 それでもなお妖精どもは羽根を鳴らし、空舞う篝を砕こうと迫った。
 龍はそれを赦さぬ。槍を掲げ、力を振り絞って投擲し、これを阻む。
 心ざわめかす囁きに返ってくるのは、すべて断固たる敵意と拒絶であった。
 エリクシルの妖精どもは表情を変えぬ。それが余計に不気味だ。
 攻撃を阻まれても、雷に打ち据えられても、槍で貫かれ砕かれようとも。
 なるほどあれらはあれらの言うとおりに、"自動的な存在"なのであろう。
 ならば――余計に、我らの願いを、役目を侵させはしない!

「篝、大丈夫か?」
「ああ。こちらは問題ないぞ。黒虎轟のおかげだ」
 女神が跨る巨大な黒猫は、にゃあ、と呑気な声で鳴いた。
 マレークは安堵と思われるため息をこぼし、そして鋭く敵を見据える。
 妖精どもはさらに数を増し、なおもふたりの願いを侵そうとする。
 神と龍の絆を――彼女らの願いに手を出すとは、つまりそういうことだ。
「……哀れなものだな、あれらは」
 篝は表情を顰めて言って、けれど振り払うように水晶を輝かせた。
 周囲の水晶がそれに応じるように輝く。魔を払う神意の光に。
「けれども奪わせはすまい。私たちの願いは、私たちのものだ」
「――……そうとも。最後の一匹まで、狩り尽くしてくれる」
 マレークは頷き、再び魔槍に稲妻を纏わせてまがいものの群れを睥睨した。
 己の力で願いを叶える、そのなんと難く辛きことか。これほどの敵と相対すとは。
 しかし――隣に唯一無二のひとがいるならば、何も怖くはないだろう。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

出水宮・カガリ
【星門】ステラと

願いを思ってもいけない、とは難儀な
生きているだけで、息を吸いたいと願ってしまうのに
それくらいなら、自分で叶える方が早いが

――問いへの答えを、拒絶する
我が裡への干渉を、拒絶する
その存在は、紛う事なき脅威であると、境界であるカガリが認めたからだ
(【拒絶の隔壁】【不落の傷跡】、呪詛耐性・狂気耐性・オーラ防御・拠点防御)
カガリの願い星は、既にカガリの裡に在る
カガリの外に、願いを叶えるものが在る筈もない

放て、ステラ
カガリも壁を築こう
【錬成カミヤドリ】で【鉄門扉の盾】を複製
自分達を囲った後、外の妖精へ向けて火を噴かせるぞ(属性攻撃)


ステラ・アルゲン
【星門】カガリと
生きとし生けるものがいる限り願いは生まれてくる
だがその全てを叶えてはならない
全ての願いを無差別に叶えてしまえば世界の均衡は崩れるだろう

私もまた願いを受ける流れ星故に
自動的に願いを叶え世界を捻じ曲げるならば
お前たちを放っておけはしない

カガリ、願うならばこの星に願うといい
【煌めく星】のオーラにて精神波を打ち消す【誘惑・オーラ防御・存在感・かばう】

願い星が抱く願いなどお前たちには言わないさ
それに私の願いは鞘の中にしまってあるからな【呪詛耐性・狂気耐性】

【錬成カミヤドリ】で流星剣を複製
複製した剣を【2回攻撃・高速詠唱】で流星群のように落し
召喚される妖精共々素早く撃ち落とそうか!



 そもそも、あれらの云う『望み』とはどこまでを指すのだろうか。
 妖精を名乗る紛い物どもの害意を断ちながら、出水宮・カガリは考えた。
 生きる者は大なり小なり願いを抱く。生きること自体が願望だからだ。
 単なる物欲や人生の目標といった話だけではない。
 極端を言えば、"呼吸をする"という行為すら、生存を願うがゆえの行動。
 それすらも悪意を以て、あの妖精どもが捻じ曲げてしまうというなら。
 まさしくそれは――世界にあってはならぬモノと言える。
 存在自体が破滅をもたらす過去の残骸、オブリビオンにふさわしいモノだ。

 汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
  どのような『望み』であれ、『万能宝石』は『叶えます』。
   『わたしたち』は『そのため』に『生まれたもの』なのですから。

「ステラ、構うことはない。あれらの問いは、すべて"拒絶"している」
 カガリの周囲にはいくつもの城門が生まれ、無数の力場を展開していた。
 壁とは、門とはそのためにあるもの。
 裡にありしものを護り、外より来たる害意を跳ね除け、防ぐ。
 精神波が、カガリとステラ・アルゲンに届くことは、もはやありえない。
「……願いを叶えるもの、か」
「ステラ?」
「ああ、いや。なんでもないさ、カガリ」
 気遣うようなカガリの眼差しに、ステラは曖昧に微笑んで応えた。
 ……"己もまた願いを受ける流星であるがゆえに"と思索に耽っていたことなど、
 半身たる彼に対して、いまこの戦場で明かすようなことではあるまい。
 ヒトは流れ星に願いを込める。どうか我が望みよ叶いたまえ、と。
 流星より鍛造されし刃たるステラは、いわばあれらと同じモノだ。
 ヒトの願いを受けるモノ――無論、ステラは悪意を以て歪めはすまいが。
 象徴としての流星の矜持は、あれらの言葉に激しい敵意を抱かせた。
 星に願いをかける人々の、その切なる想いを愚弄されたように感じたのだ。
(ならば私は、あれらを砕く星となろう。悪しき願望器を砕く刃として)
 すらりと剣を抜き放ち、同時に彼女もまた無数の流星剣を模倣・複製した。
「征くぞ、カガリ。私が奴らを射貫き、動きを止める」
「わかった。ならば放て、ステラ。護りはこのカガリに任せろ!」
 頼もしい言葉に頷き、ステラは複製剣の切っ先を妖精どもへ向けた。
 求めた答えの得られぬ妖精たちは、まるで雨後の筍めいて数を増している。
 構うものか。あんなものがどれほど現れようといまさら恐れはしない。
 敵意と戦意に心を震わせ――流星の如き刃の雨を、放つ!
「我が複製たちよ、殺到しろ! あれなる妖精もどきを許してはならない!」
 勇ましき精兵のように、流星剣の群れは文字通りの流れ星となった。
 地から空へ、さかしまに輝き天を貫くような――見事な輝きの雨である。
 妖精たちは散開し回避しようとするが、遅い。あまりにも遅い。
 かくあれかしと人々の願いを受けた星の輝きを、紛い物が退けられようか。
 羽根を、腕を脚を胴体を貫かれ、妖精どもは水晶窟に貼り付けられる!

 なにゆえに『望み』を『叶えよう』とはしないのです。
  『器物』であろうと、『望み』を『叶える』『権利』はあります。
   『有資格者』よ、『臆する』ことなく『望み』を『言う』のです――。

「臆する? それは違うぞ"もどき"ども。カガリは臆してなどいない。
 お前達のようなモノに、この裡の願いを委ねるほど、愚かではないだけだ!」
 城門が一瞬にして攻撃的な戦列をなし、逆に妖精どもを裡に取り込んだ。
 逆向きに向けられた城門は、護るのではなく"塞ぐ"ための壁となる。
 つまり、あれらの精神波――そしてカガリが生み出した炎を外に漏らさぬ壁だ。
 いわば超高密度の閉所に閉じ込められた妖精もどきどもを、炎が苛む。
 作り物の体を焦がし、溶かし、けして逃さぬ地獄じみた壁となるのだ!
「そもそも、すべての願いを無差別に叶えるなど、均衡を崩すも同然だろうに」
「だからこそあれらは囁くのだろうさ、ステラ。相容れない敵だ」
 カガリの言葉に、ステラは重々しい表情のまま頷いた。
 ……ただ望みを捻じ曲げ叶えるために生み出された自動的なつくりものども。
 悲嘆すら見せぬその姿に、心ある器物霊たる己のアイデンティティが騒ぐ。
 あるいはもしかしたら、己もああなっていたのかもしれない。
 そう思えば思うほどに、ステラの眉根は曇るのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ルーチェ・ムート
【泡沫】アドリブ◎

何をもって願いと判断されるかわからないからね
自分に誘惑混ぜた呪詛の歌声を向ける

奇跡のリリックにて歌う自己の書き換え
ボクはこの瞬間生まれた戦う為の人形
故に自己なく願いもない
戦う作業以外を行わない無の存在となる
ネロが指先を握ってくれるまで解けぬ呪い
自らを壊す覚悟
ボクの魂を預けるね、ネロ

何か言ってる?
解せない
望み?
解せない
ボクは戦うだけ

UC封じる花弁纏いつつ念動力で乱れ撃ち、行動阻害
赫縁で串刺しの範囲攻撃
何を問われても無
何をされても無

ネロの温もり感じたなら
ふうわり笑ってボクを取り戻す
ありがとう、ネロ
願いはあるけど1人にしか叶えられないから、ないしょ!
キミは?
と聞き返しちゃお!


ネロ・バロック
【泡沫】アドリブ可

強くなりてェけど他人の手を借りて強くなるんじゃあ意味がねェ
それによ、お前みたいなのがいるのに魔王が倒されてるってことは
その力の効果とやらも知れてるってもんだ
だから遠慮なく撃破させてもらうぜ

ルーチェは呪いで心を制御してんだ
絶対戻してやらなきゃな
お前の魂、確かに預かった
デカブツを倒したらその指を握って戻ってこいって言ってやる

願いは相対した時には思い浮かべず
ぶっ殺すことだけに専念する【覚悟】でいくぜ!

ルーチェに動きを合わせて戦う
【目立たない】【暗殺】で近づき
身体を駆け上がり、大剣で脳天かち割ってやるぜ

終わったらルーチェは願い事、なんか有ったのか?
と尋ねてみるか。俺は正直に答える



 心の蓋をぱたりと閉じて、けして外せぬ錠前をかけてしまう。
 ルーチェ・ムートが己に施した呪詛は、つまりそういうたぐいのものだ。
 精神防御……などという、生易しい対処療法などではない。
 己を一個の戦闘人形と定義し、人間性のことごとくを放棄する禁術。
 妖精の声も、精神波も――いや、他の何も彼女を揺らすことがない。
 そもそも揺れる心が存在しないのなら、いかなる干渉も無意味である。
 その歌声は奇跡のように美しく、白百合の花を纏うさまは可憐だった。
 だがそこに、本来あるべき少女のパーソナリティは一切存在しない。

 ――ボクの魂を預けるね、ネロ。
 戦いが始まる間際、ルーチェの残した言葉がネロ・バロックの心にさざめく。
 無の極地に至り、鬼神じみた勢いで妖精を圧倒する彼女の背中に、
 何も思わぬわけがない――本当に戻せるのかという少なからぬ不安がある。
 だが彼女は言った。"預ける"と己に言ったのだ。
 であれば、そんなルーチェを、その魂を取り戻すのは己の仕事。
「こちとらオヒメサマを連れ戻さなきゃなんだ、さっさと壊れろデカブツども!」
 遅れてネロが前に出る。魔剣を力任せに振るい、伸びてきた指を拒絶した。
 願いなどない。少なくともこんな奴らに委ねるような願いは。
 強くなりたいという欲望は、あくまで己の手で叶えるためのもの。
 ゆえに心の総てを殺意で染め上げ、彼もまたひとつの暴力装置となる。
 慣れた作業だ。むしろ得意分野と言ってもいいだろう。
 あえて狂戦士めいた忘我に至り、敵を殺すことだけを考えるなど。
 しかし命綱めいて、ルーチェの存在だけを意識し彼女に動きを合わせる。
 白百合をヴェールのように纏い踊る少女と、荒々しい黒風が混じり合う。
 妖精どもは何かを囁き、ネロ達を鷲掴みにしようと手を伸ばした。
「邪魔だ邪魔だ――テメェら全員、邪魔なんだよ! どけェ!!」
 咆哮。柱のように巨大な指をへし折り、跳躍して手の甲に乗る。
 そのまま腕を肩を駆け上がる――妖精の双眸がぎろりとネロを睨んだ。
 そこへ降り注ぐ白百合の花。そして、舞い踊る無数の赫緑の蝶たち。
 ネロの姿は鮮やかな色合いに隠され、次に現れたときは敵の首元だ。
「テメェらに預ける願いなんざねェ。砕けて、消えろッ!!」
 傲慢たるエゴとあらん限りの膂力を籠めた、飛び上がっての兜割り。
 驚愕すらも浮かべぬつくりものの妖精の額が、黒剣に砕かれて割れた。
 得体の知れぬ魔力を血のように吹き出し、巨体はそのまま下へ砕けていく。
 ……滅びていくときですら、エリクシルの妖精は何の表情も浮かべない。
 苦痛も、
 屈辱も、
 敵意も、
 何もかも。
「……そんな空っぽな野郎が、何かの願いを叶えられるかよ」
 崩れ行く残骸を見下ろして、ネロは冷たい声で呟いた。

 ふとした瞬間に、暗闇に光が差し込んだような。
 ルーチェが"目覚めた"瞬間の感覚は、たとえるならそんな感じだ。
「!」
「よう、戻ってきたか? ひとまず、このあたりは片付いたぜ」
 ルーチェはぱちぱちと瞬きし、にやりと笑うネロを見た。
 指先から感じるぬくもりに、ふんわりと笑みを浮かべてうなずく。
「ありがとう、ネロ。ちゃんと取り戻してくれたんだね」
「当たり前だろ。約束したんだからな」
 そう言ってから、何気なくネロは問うた。
「……ところで、ルーチェの願い事ってなんかあったのか?」
「えっ、ボク?」
 きょとんとした顔になってから、少女は悪戯めいて笑う。
「んー、ないしょ! ボクの願いは、ひとりしか叶えられないものだから」
「ふーん、そういうモンか」
「ちなみにキミは?」
「強くなりてェ! それだけだよ。ヒトサマの手なんか借りねェ」
「あっはは、ネロらしいや!」
 無数の瓦礫が連なる戦場で、少女と少年はお互いに笑いあった。
 悪意ある妖精の囁き――いまだ心にこびりつくそれを、振り払うように。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

リミティア・スカイクラッド
"エリクシル"の妖精ですか
あなたたちが何処から来たのか問う暇は無さそうですね
誰かの大切な"願い"を穢すのであれば容赦はしません

妖精の力翼は風神の靴による「空中戦」で対抗
あの巨体の突進は脅威ですが翼の魔力を注視して
動きを「情報収集」して切り抜けましょう

そして妖精杖による拘束制御を解除、宝石剣の「封印を解く」
この剣に捧ぐのは"願い"ではなく"誓い"
己の意志を以って現実のものとする"確定事項"です

精神波を「オーラ防御」で防ぎながら【魔女の禁呪】を発動
超強化した【魔女の誓剣】による「全力魔法」で妖精を駆逐します

『知らない』のなら『記録』しなさい、『自動なる者』よ
『この世界』には『猟兵』が『いる』ことを



 魔女とは、自己であれ他者であれ"ねがい"によって成り立つモノだ。
 悪魔と契約し、魂を売り渡してまで黒き魔術を究める。
 そうした魔術は大なり小なりのねがいを叶えるための最適な手段となる。
 なにより――魔女と契約する悪魔どもは、常にヒトの願いを叶えようとする。
 その代価はあまりにも大きい……ちょうど、この妖精どものように。
 であれば、リミティア・スカイクラッドが戦わない理由はなかった。
 心なき者どもによって歪められた、カリカチュアライズでもなく、
 邪悪なる大魔王によって簒奪され、囚われた魔女たちでもなく、
 誇りと血統を受け継いできた、由緒正しき魔女の家の末裔として。

 汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
  『有資格者』よ、『万能宝石』の『力』は『無限』。
   いかなる『望み』であれ、『わたしたち』が『叶えます』。

「……リムは屈辱です。こともあろうに魔女に、そんな甘言を囁くとは。
 けれどあなたたちは、"そういうもの"なのでしょうね。エリクシルの妖精よ」
 10メートル強の巨体が、すさまじい速度で突進を仕掛けてくる。
 リミティアは表情を崩さぬまま風を纏い、ふわりと浮き上がった。
 魔女としての彼女の心は冷え切っている。凪の境地だ。
 あの邪悪醜怪なる大魔王の存在が、期せずしていい方向に働いた。
 湧き上がる怒りは彼奴に叩き尽くした。ゆえに頭はこれ以上なく冷えている。
 心に忍び込む精神波の触肢を弾き、魔力を操って突進を回避。
 背後を取った瞬間、宝石剣の封印を解き放ち大いなる輝きを生み出した。
 ――その輝きを見た時、エリクシルの妖精たちが動きを止めた。

『なぜ』そこに『エリクシル』が『存在』するのです。
 『わたしたち』は『知りません』。
  その『輝き』を『知りません』。

「『知らない』のなら『記録』しなさい、『自動なる者』よ」
 少女の姿をした魔女は、眠りの森に座する大魔女めいて峻厳に言った。
「『この世界』には、『猟兵』が『いる』ことを』
 輝きが増す。妖精たちは動けない――まるで縛られたように。
 宝石に惹かれて現れ自動的に行動する妖精たちにとって、
 宝石そのものが何よりの天敵であるかのように。動けない。

『わたしたち』はその『輝き』を『知りません』。
 『わたしたち』はその『輝き』を『知りません』。
  『わたしたち』はその『輝き』を『知りません』。

「――『あなたたち』を『滅ぼす』。それがこの『輝き』の『誓い』です」
 宝石剣が――水晶窟を覆わんばかりの巨大な光剣が、振り抜かれた。
 自動なるものどもの胴を断ち切り、滅ぼす破邪覆滅の宝石剣の一撃――!

大成功 🔵​🔵​🔵​

杜鬼・クロウ
アドリブ◎

俺は民に奉られ
願われ
唱われ
主の命で社を守護し司る神鏡だった
此処に立つ俺は(※真の姿で無く
尚変わらず

…想いすらテメェの前では総て歪むか
秘めるコトも叶わぬなら
せめて剣(こころ)へ捧ぐ

鏡(おれ)に対し俺を真似るたァ良い度胸してやがる
【煉獄の魂呼び】召喚

猟兵としての軌跡(みち)辿れば
俺がまさに体現してる故に無にはなれねェが

禍鬼は鏡像へ棍棒と霆攻撃
俺は贋作へ魔水宿し相対する
惑う暇など無
波紋立てず
せせらぎの心音に身任せ2回攻撃

いくら俺や剣を模しても
所詮紛い物

躊躇せず斬る
本体へ跳ね石の如く飛沫当てて顔面抉り
敵の翅を鋭利な水刀で切断し地へ墜とす
敵の戦力削る

呪い(ねがい)は非ず
自ら為してこそ意味がある



 もうひとりの杜鬼・クロウ、産み落とされた鏡像。
 相対す偽りの己を前にして、クロウは皮肉げな笑みを浮かべた。
「神鏡(おれ)を前にして俺を生み出すなンざ、ナメた真似しやがる」
 人々に祀られ崇められ神たる身となったクロウにとって、それは皮肉だ。
 邪悪を照らし真実を映し出す鏡を相手に、鏡像を差し向ける?
 なるほど、妖精どもはまさしく自動的な存在らしい。
 ――これほどに戦意をかきたて、敗ける気がしない相手も居まい!
「まとめて砕いてやるぜ。来い、禍鬼ッ!!」
 クロウが禍鬼を喚ばえば、鏡像もまた同じようにする。
 鬼と鬼は棍棒と霆を同じように放ち、撃ち合い、そして睨み合う。
 では、クロウとその贋作は――こちらもやはり同じだ。
 黒魔剣に冷気を宿し、睨み合うように対峙し、同時に抜刀。
 がぎんっ!! と甲高い刃の音が鳴り響き、同じだけの衝撃が体を揺らす。
 骨身に沁みるほどの剣戟。口元に笑みが浮かぶ。己への自画自賛はなし。
「どォした、俺の贋作なら踏みとどまってみろォ!!」
 己の写し身を挑発し、鬼どもの咆哮を背後にさらに踏み込む。
 ――敵は受け太刀。刃と刃が鋏めいて交錯し、鍔迫り合いの上から額を打ち付ける。
 両者の膂力は拮抗。当然だ、なにせ鏡像は……いや、待て。
 何故だ? オリジナルのクロウが、徐々に刃を押し込みつつある。
 妖精のユーベルコードは完全。完璧な鏡像を生み出すモノ。
 力は拮抗し、技は噛み合い、堂々巡りの戦いとなるはず。
 妖精の囁きが心を揺らし、それがオリジナルを負かすことになるはず。何故!
「――呪(ねが)いなんざ、最初から俺にはありゃしねえ」
 ぽつりと、クロウが呟いた。
 願いなど、誰かに委ねるものではない。
 己の力で為し、そしてこの背中を以て語ればいい。
 これまでの己の、そして猟兵としての己の道行き、戦い、そのすべてが。
 クロウという男を形作る願いの軌跡であり、誇るべき礎なのだ!
「形を模そうが力をコピーしようが、敗ける道理がねェンだよ……!」
 あえて力を引く。鏡像が姿勢を崩した瞬間、旋風めいた横薙ぎ。
 胴からを真っ二つに叩き砕き、迸る冷気は鬼すらも凍らせ砕いた。
 自由を得た禍鬼が放つ雷霆とともに、クロウは妖精めがけ跳ぶ!
「俺を愚弄した報い――その身で支払えや!」
 無表情なるつくりものの妖精の体が、霜を張り凍りついた。
 雷霆はそこにヒビを生み、水の剣戟が翅を、体を砕き、斬り裂く。

 外套を翻し、無表情のままクロウが着地する。
 その背後で、砕かれた紛い物ががらがらと音を立てて崩れた。
 振り向かず前へと歩く。クロウはけして過去にとらわれない。
 ――己の生き様は、ただその歩みと背中を以て示せばいいと、彼は知っている。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヴィクティム・ウィンターミュート
──俺は
俺は、願わないでいられる自信が無い
ずっと、奥底で願い続けてきたことだから
どれだけ幸せでも、拭い去れない願いだから
だから、『アンタ』に任せるよ

アンタには、願いなんて無いもんな
願いも、希望も、期待も、未来も…捨てたんだから
そういう『悪魔』に、なったんだから

『Ruthless』
久しぶり…んじゃ、後はよろしく…勝てばなんでもいいもんな、アンタ
こいつは『悪魔』だ。『猟兵』じゃない
だから、俺が相手でも勝っちまうんだよ
俺より強くて、俺より酷い男なのさ

俺が使ってたサイバーデッキのことだって、知ってる
だから【ハッキング】で、全部終いだ

もう、いないよな?
あぁ、誰か…誰でもいいんだ、俺を
■して■れ──



 死は救いであると、絶望に浸った詩人は謳う。
 斯様に辛く苦しい生の地獄よりも、忘却たる死はよほどマシだと。
 そんなことはない、死ぬぐらいならどれだけ糞でも生きたほうがマシだ。
 でなけりゃ――俺はなんのために、泥を啜って生きてきた?
 だからヴィクティム・ウィンターミュートは、そんな戯言を笑い飛ばす。
 どんな状況でも、どんな苦境でも、生き延びるほうがマシなのだと。
 ……"その姿"を見て以来、彼が心から戯言を笑い飛ばすことは出来なくなった。
 "ありえる未来"の己は、自分が思っていたよりずっとくそったれなざまだったから。

『勝てる道理がない』
 血まみれとなった写し身の頭を掴み、"ヴィクティム・ウィンターミュート"は言った。
 否、それはもはや、戯れにつけた己の名すら顧みないもの。
 何もかもを……友を、仲間を、信頼すべき人々とその絆を、
 ついには己の人間性をも犠牲(ヴィクティム)としたモノの末路。
 ありえる可能性の未来、虚無へと疾走し電子の悪魔と成り果てた男の姿。
『"あの俺"を模倣した存在が、"俺"に勝てる理由がない。電子的にありえねぇ』
 淡々と言って、鏡像であったモノを放り捨てる。
 悪魔の目はどこまでも酷薄――次いで睨めつけたのは妖精本体だ。

 汝の『望み』を『言う』が『よい』でしょう。
  『わたしたち』は『自動的』なもの。『望み』を『叶える』ためのもの。
   いかなる『望み』であれ、『わたしたち』は汝の『望み』を――。

 妖精どもの戯言も、長くは続かなかった。
 視線を伝った電子速度のハッキング、それによる内部破壊。
 被造物であれば、彼の電脳魔術にとっては格好の餌食だ。
 妖精は表情を変えぬまま、ヒトの形をした石となって砕け落ちた。
「……はは、さすがは"俺"だ。まさに"悪魔"だな」
『…………』
 倒れ伏すヴィクティム――願いを抱いてしまったがゆえに――を見下ろす悪魔。
 その瞳はどこまでも酷薄だ。侮蔑すらもありはしない。
『ざまあないな』
「…………」
『お前は俺とは違う。なのにまだ、"その"願いを棄てられないか』
「……棄てられるモンかよ」
 吐き捨てるようにヴィクティムは呟いた。電子の悪魔は笑いすらしない。
『だからそうやって地を舐める。結局お前は何も変わっちゃいない』
「わかってるさ、そんなことは……」
『お前は何にもなれやしない。俺のような"悪魔"にも』
 踵を返し、消えていきながら悪魔は言った。
『――その願いを叶えられるような存在にも、何にもなれやしない』
 それだけ言って、消えていく。
 冷酷非情な悪魔は、言葉のオブラートを包みはしない。
 死刑宣告めいて心を突き刺す、ただの"通告"だった。
「……わかってるさ……」
 目元を腕で覆い、ヴィクティムは拳を握りしめた。
「わかってるさ、畜生……!!」
 歯を噛みしめる。己に対する怒りが湧いてしかない。
 誰でもいい。どうかいっそ、誰か、俺を――てくれ。
 そんなふざけた願いを抱いてしまうほどに、心が引き裂かれそうになる。

 もはや妖精はそこにはいない。
 苦痛に塗れる少年のねがいは、誰にも届きはしなかった。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

レイラ・エインズワース
匡(f01612)サンと

おっけ、そっちも気を付けてネ
自分自身だからコソ、手ごわい相手だと思うカラ
まぁ、大丈夫だと思ってるケド

造られた妖精
歪められた願い
どこか他人には思えないケド
今を侵すナラ、許すことはできないカラ

相対するのは自分の鏡像
揺れる紫の灯
デモね
私の幻燈は過去の鏡像
いつか見た地獄の再演
私の所有者が作った地獄、でも貴女はソレを経験したわけじゃナイ
同じ模造デモ、扱い方は違うはずダヨ

操る二百を超える槍
直撃を受けそうなものハ相殺して、撃ち落として
残りで狙うのは妖精
貴女に一発でも槍が通れば、この再演は幕を閉じる
……ほんとは自分を射抜きたかったんだけど
なんて、誰かに願うものじゃナイ
こっちは大丈夫ダヨ


鳴宮・匡
◆レイラ(f00284)と


事前に【無貌の輩】をレイラの影へ潜ませておく
レイラの目になってやってくれ

行こうぜ、レイラ
お互いに“自分”を乗り越えて戻ってくる、ってことで
約束な

1対1で自身の鏡像を相手取る
多分“彼女”を前にしたら
鏡像と判っても躊躇うだろう
そんな隙を“俺”が逃すはずがない

自分の弱点はわかってる
避けきれない弾を影で受け止めつつ
最小限の回避で距離を詰め
肉薄して至近から頭を狙う
……この距離なら視えても避けられないだろ

生きていたいと願いはしない
生きてほしいと呪(ねが)いもしない
これは、ただの決意だ
生きて、共にあると
そこに迷いはない

レイラ、そっちは大丈夫?
……ならよかった
それじゃ、仕上げといこう



『お互いに"自分"を乗り越えて戻ってくる、ってことで。行こうぜ、レイラ』
『おっけ、そっちも気をつけてネ? 匡サン』
『……ああ。"俺"の厄介さは、俺が一番よくわかってるよ』
『自分自身だからコソ、手強い相手。……まぁ、大丈夫だと思ってるケド』
『それは俺も同じ』
『ウン。じゃあ――』
『……約束な』
『約束だネ』
 言葉を交わしてふたりは分かれた。
 互いの鏡像と、一対一で相対するために。

 ――憶えている地獄(ふうけい)がある。
 どれだけ拭い去ろうと、決して払えない阿鼻叫喚こそが己の原体験。
 けして消せないもの。なにせ己は、そのさまを照らす幻燈なのだから。
 レイラ・エインズワースは、同じ姿をした鏡像に向け"それ"を解き放った。
 同じように鏡像もまた"それ"――鬼火を纏う無数の串刺し槍を放つ。
 だが、違う。同じであるはずのものは、オリジナルの槍が砕き、貫く。
「"ドウして"って、言いたそうだネ?」
 鏡像の唇の動きに対し、レイラは小首をかしげて言った。
 槍を避ける必要もない。すべては相殺され、かつレイラのそれが勝る。
 なぜだ。妖精の生み出す鏡像は、完全完璧に力を模倣するもの。
 ユーベルコードの規模も、能力も魔力も、何もかも同じであるはず。
 なんだ? 何が足らない。鏡像が疑問に思うのも無理はない。
「貴女は"ソレ"を経験したわけじゃナイ。再演出来ても、知りはしナイ」
 淡々と幻燈は言った。
 目に映るのは鏡像でも、ぶつかり合う槍の群れでもない。
 こびりついて離れぬ過去のポートレイト。狂気に陥った主の蛮行。
 貫かれ、串刺しとなり、苦しみ困惑しながら斃れていく哀れな民の姿。
 なぜ?
 どうして?
 助けて。
 疑問と悲嘆の叫び。血が血を上書きする地獄めいた光景。
「貴女はソレを識らない」
 己が幻燈(おのれ)である限り、この光景はけして拭い去れはしない。
 だが、それでいい。忘れぬことこそが己の業なのだから。
 そうあれかしと造られたモノゆえに、レイラに忘却は赦されない。
 それに――過去の己と相対することなど、今に始まったことではないのだ。
「デモ、よかったネ」
 皮肉でも嘲笑でもなく、心からの慈悲を籠めてレイラは言った。
「貴女は、"コレ"を識らないまま滅びれる。……羨ましいヨ」
 斃れ滅びゆく鏡像への眼差しは、恋焦がれているようだった。

 ……かつての己ならば、ためらいなど抱かたなかっただろうか。
 そんなイフに思いを巡らせてしまうのも、"変化"の一つなのだろう。
 己の鏡像が放つ弾丸を影で受け止めながら、鳴宮・匡は思った。
 互いに放った弾丸は影に呑まれ、あるいはいつかのプラハのように"かち合い”、
 最小限で最大効率の死角を取り、また取られ、そして弾丸を放つ。
 一つ一つの動作が、相手を殺すことに特化した死神めいた攻防。
 極限の銃使い同士の一騎打ちは、得てして位置アドバンテージの奪い合いだ。
 より致命的な角度を取り、より早くトリガを引いたほうが勝つ。
 いずれも急所を狙い貫くなら、当てたほうが勝ちなのだから。
 だが遠間の一騎打ちでは、お互いの弾丸が当たることは"絶対に"ありえない。
 ではどうする。答えは"近づく"しかない。
 相手の回避余剰空間を潰し、かつ己は相手に狙えない懐に潜り込む。
 遠距離戦に長じた銃の利点を潰すことこそ、同じ銃を攻略する際の最善手。
 そう、今のように――最終的に、両者は最接近距離に至ることとなる。
 匡と鏡像の銃口は、互いのこめかみに向けられていた。
 ただし匡は、鏡像が突きつけようとした銃を腕ごとねじり、外している。
 "己ならそうするだろう"と、彼にはわかっていたからだ。
「何が視えたって、この距離じゃ避けられない。そうだろ?」
 鏡像は笑いも驚きもせず、ただ頷いた。
 トリガを引く。当然のように脳漿がぶちまけられ、鏡像が斃れた。
 最後まで驚きも屈辱も浮かべることなく、無表情のまま倒れて死ぬ。
 ――己も、同じように死ぬことになるのか。
 わずかに湧いた想いを、匡は淡々と切り捨て、踵を返した。

 ……鏡像との戦いを終えて戻ってくる相棒を見た時。
 レイラは微笑み、匡はわずかに安堵めいたため息を漏らした。
「そっちは大丈夫だったか?」
「うん。匡サンの貸してくれた影も役立ってくれたヨ」
「……ならよかった」
 ねがい。
 己の願望はなんなのか……そんなことを、匡は考えるまでもない。
 そもそも存在しない。あるのはただの決意である。
 籠められたものは己にとってもはや呪いではなく、
 ただそのために生き続けるがらんどうの虚無に堕しもしない。
 生きることは目的でも願望でもなく、『そうする』という決意の現れだ。
 迷いはしない。
 ゆらぎもしない。
 鏡像が相手であろうと――つくりものの妖精相手だろうと。
「……やっぱり匡サンは、思ったとおり大丈夫そうだネ?」
「ん」
 レイラの視線に気づき、匡は言った。
「まあな。でも、前のほうがスムーズに終わったかもしれない」
「ジャア、前みたいに戻りたいと思ウ?」
「……どうだろうな」
 言葉を濁し、リロード。妖精の巨体がふたりを見下ろす。
「仕事を片付けてから考えてみるよ。行こうぜ、レイラ」
「うん」
 今は不要だ。だから匡は言わなかった。
 ただ、彼が言葉にしなかった理由はもう一つある。
 もし仮に、己がそう願ったとして――。
(そうさせてくれない奴らが、たくさんいるからな)
 なんて台詞は、なんとなく口にしたくなかったのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

穂結・神楽耶
わたくしは、願いを請けるモノでした。
それを叶えられぬ出来損ないでしかなかったけれど。
いつか、確かに『かみさま』と呼ばれていた。
…それだけは確かです。

だから、わたくしが願うことなど何もない。
歪んだ宝石の祝福などいらない。
斬り拓き、勝ち取ってこその未来なれば。
踏破させて頂きます。

巨大、かつ未知の材質ですから急所が不明。
なのでそこを見つけるところから始めましょう。
おいで、【焦羽挵蝶】。
攻撃対象を一体に収束、全身にくまなく蝶をぶつけます。
庇ったり避けたりする箇所があればそこに集中。
素振りがなければ…まあ、人体と同様ですし首が早いでしょうか。
わたくしの負傷と蝶の動きは無関係ですから。
さあ、迅速に焼却を。



 蝶の羽ばたきは、すなわち熱波を呼ぶ先触れだった。
 炎そのもので構成された蝶たちの翅は、触れるものを焦がし灼き尽くす。
 数は三百超――10メートル強の巨体であろうとあまねく包み込むほどに。
 妖精の群れ。最後に現れたエリクシルの妖精ども。
 炎が嘗め尽くし、無表情のままつくられしものは燃えていく。
 崩れていく。都市が、街が、建物が炎に呑まれるように。
「……炎に包まれても、苦痛すら見せないのですね」
 哀れな自動的存在たちを見下ろして、穂結・神楽耶は言った。
 当人らが嘆いてすらいないならば、この憐れみも所詮は虚像か。
 あるいは無意味でがらんどうな傀儡に向ける、エゴイスティックな妄想だ。
 ヤドリガミ――同じ器物たる己が抱く感情としては、まったくアイロニーだ。
 けれども。
「あなたたちはそのために造られたのでございましょう。
 そのために駆動し、そのために願いを捻じ曲げるのでしょう。
 ならば、わたくしは躊躇しません。歪んだ祝福など要りません」
 燃えゆく残骸を踏み越え、最後の群れが現れた。
 神楽耶は炎纏う白刃を鞘走らせ、そのことごとくを滅した。
 ひとの姿を似せたモノならば、殺し方もヒトと同じく。
 首を刎ね、
 胴体を割り、
 正中線を真っ二つに斬る。
 淡々と、粛々と。自動的な存在に向ける慈悲も容赦も彼女にはない。
 伐って崩されたモノらは、炎に呑まれて融けて焦げていく。
「…………」
 最後の一体を斬り伏せ、神楽耶は改めて眼下を見下ろした。
 燃えている。いくつもの残骸が、炎に呑まれて消えていく。
 そうあれかしと造られたがゆえに願いを求め、
 そうあれかしと造られたがゆえに歪ますものが。
 本質的に言えば、あれらには悪意すらもないのだろう。
 ゆえにこそたちが悪い。だからこそあれらは世界に在ってはならない。
 ――在っては、ならない。
 正しく願いを叶えることが出来ぬ願望器は、在ってはならない? 
 であれば、己はどうだ。
 願われ、祀られ、讃えられ、すがりつかれておきながら。
 何も救えず、叶えられず、ただ見ているしかなかった己は。
 神と呼ばれながら、神ですらない出来損ないの己は、それでは同じように――。
「……違う」
 言葉は自然と溢れていた。
 違いはしない。己は結局滅びるべきモノだ。
 罪を贖い、滅び、せめて彼らの遺志に報いるべきものだ。
 わかっている。そのためにと戦ってきたはずなのだ。けれども。
「……わたくしはもう、逃げるために滅びを望んだりはしません。
 そうであるからと、この心を殺して振る舞いもしない。わたくしは――」
 ぎゅっ、と拳を握りしめる。
「……わたくしは、今度こそ手を届かせてみせる。だから、前に進みます」
 それは妖精たちに向けた言葉ではない。
 己に言い聞かせるねがい――否、決意とでも言うべきか。
 滅びを見届けた出来損ないには似つかわしくない、過ぎたものかもしれない。
 けれども彼女は知ってしまった。
 己を受け入れてくれる人々の暖かさを。
 ただそうあるべきというものでなく、心から願って見た笑顔の暖かさを。
 己の為すべきを。己はもう――ひとりではないのだと。
「……ごめんなさい」
 応える声はなく、ただ炎はゆらめき続けていた。
 あのときと同じように、すべてを飲み込み揺らめいていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年02月17日


挿絵イラスト