2
スイート・スイート・ラビリンス

#アルダワ魔法学園

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#アルダワ魔法学園


0




●恋の季節は、すぐそこに
「ねえねえ知ってる? 恋の果実のうわさ!」
「ここにいる女子生徒で知らない子なんてそうはいないわ、……あら、もうそんな季節だったのね」
「ふっふーん、今年は私、チャレンジしちゃおっかなぁ」
「ふぅん……迷宮探索に? それとも愛の告白に?」
「………う、イジワルな質問しないでよぅ。……どっちも、かな」
「それじゃあまずは、恋の果実を探すところから、ね。いいわ、私もそろそろ腕試しをしたいところだったの、付き合うわよ」
「えっ、本当に!? やーったぁ、持つべきものは友だちだねっ! 2人の力を合わせれば、災魔なんてちーっとも怖くないや! よーし、やる気出てきたぞー!!」
 年明けムードも落ち着いてきた1月某日、蒸気と魔法の世界、アルダワ魔法学園、某所。
 今日も、乙女たちは姦しい。

●何もかも、甘い
「よう、集まったな」
 グリモアベースの一角で立方体型のチョコレートケーキにフォークを差し入れながら、クロヴィス・オリオール(GamblingRumbling・f11262)が集まった猟兵たちを一瞥する。まずはひとくち頬張って、咀嚼、嚥下。ぺろりと上唇を舐めて満足げに頷いた。

「ちょっくら迷宮探索に行ってきてほしくってな、……世界はアルダワ魔法学園。なんでも幻の果実だかなんだかっつー、そりゃーもうすげぇ甘い果実が迷宮ン中にあるって女子生徒の間でもっぱらの噂でな、その真偽を確かめてきて欲しいんだよ。……まぁあれだ、ちょっとした宝探しだ、楽しそうだろ?」
 あちこち入り組んだ迷宮、隅々まで目を凝らして歩き回れば誰の目にも止まらなかったような発見があるかもしれないし、アンタらの力ならその気になればちょっとした壁くらいなら壊せるだろう。そうそう、迷宮ン中には図書室とでもいえばいいか、古ーい本がみっちり詰まった部屋もあるっぽい。知識を得たい奴はその部屋で調べてみるのもアリなんじゃねえか、と流暢に続けて。そんじゃ頼むぜ、とそのままふたくち目を頬張ろうとするクロヴィスを、猟兵たちが遮る。

「ちょっと待てよ、幾ら何でも情報が少なすぎるだろ、もう少し説明してくれ」
「女子生徒の間でってどういう事? 学園には男子生徒だっているはずでしょう?」
「っていうか、宝さがしで済むんだったらさ、僕たち猟兵の出る幕じゃなくない?」
 口々に責め立てられたグリモア猟兵はうんざりした顔でチョコレートケーキを乗せたフォークを置き、しかしせっかく集まってくれた猟兵らにわかったわかったと瞼を下ろす。
「だー、そんないっぺんに喋ンじゃねえよ。ちゃんと説明するつもりだったっつーの」
「アンタらに頼むんだ、当然オブリビオンはついてまわるさ。学園の生徒じゃちーっと手に負えなさそうなヤツがいる気がするンでな。その幻の果実っつーのが本当に有ろうが無かろうが、噂を信じた生徒たちが迷宮に挑む前に、噂の真偽を確かめつつその辺も何とかしてきてほしいワケ」
 そんな事さっきは一言も言わなかっただろう、という猟兵らの視線を物ともせずに、さっさとケーキタイムの続きをしたいのか早口で説明を続ける。
「……んで、女子生徒の間でっつーのはな、コレだよコレ」
 コンコン、とチョコレートケーキの乗った皿の縁を軽く叩いてみせながら、どこか呆れたようなため息をこぼして、
「何でもな、その幻の果実には恋愛成就の噂までついてまわってンだそーだ」
 いわく、その果実を使って作ったチョコレート菓子を意中の人に食べてもらえたなら、恋が成就するとか、なんとか、かんとか。蒸気と魔法の世界に根づいた果実であるのならば、成る程果実につきまとうそんな噂もあるいは真実なのでは、と頷く猟兵がいる一方で、クロヴィスは不機嫌そうに眉間に皺を寄せていた。

「恋の味が甘いなンてのを信じてるよーなガキが、そんな噂に浮ついてンのも甘ったりぃ。……そんな甘ったりぃガキが甘い罠に誘われて、あまつさえオブリビオンの甘いエサにでもされてみろ。そんなのをうっかり予知しちまったオレの夢見が悪りぃんだよ」
 要は、恋の成就を夢見て勇気を出すも、迷宮で命を落としかねない女の子が見えたので、救ってやってほしいと言いたいらしい。
「甘いのは、ケーキだけでいい」
 頼んだからな、と気を取りなおすようにフォークを持ち直し、再びチョコレートケーキに差し入れる。もう、猟兵たちを振り返る事はなかった。おそらくはテレポートのその時まで、振り返ることもないのだろう。
 人間にとってはひとくちサイズのケーキでも、フェアリーの彼にとっては膝ほどの高さがある、随分と豪華なケーキ、そのケーキの甘さもさる事ながら。
 この男もまた、きっと甘い。


黒羽
 濃いめのチョコレートに甘酸っぱい果物のソースの組み合わせとか大好きです、新人マスターの黒羽と申します。初めてのシナリオは手探りながら、甘いものが大好きなギャンブラーのお兄さん(体長30センチ強)に案内してもらうことになりました。
 甘い男の夢見を良くするためにも、そして何より甘い夢を見る恋する女の子を守るためにも、猟兵の皆さんの力をお借りできれば幸いです。よろしくお願いいたします。

 と言いつつ冒頭の女の子たちは特に登場する予定はないので、彼女たちを守って戦ったりする必要はございません。心情はもちろんお好きなように、行動に関しては果実を探し当てるための迷宮探索や発生した戦闘に注力して頂いて結構です。
 また、どちらかといえばキャラクター口調でプレイングを書いていただけた方が、口調の解釈違いのリスクが減るかとおもいます。

 もしもどなたかとご一緒される場合は、その方とご一緒される旨をお書き添えのうえ、ある程度時間を合わせてプレイングを送信頂ければ幸いです。
 また上手く行動が噛み合いそうなプレイングを頂いた場合、特別単独行動を好みそうな猟兵様でない限りは連携させる気がしますが、絶対に単独で行動したい!という場合はその旨を御記載頂ければ、絶対に連携させる事は致しません。

 果たして幻の果実を見つけ出す事はできるのでしょうか。恋が叶う噂は本当なのでしょうか。
 そんな噂にさえすがりたくなってしまう、そんな噂にさえ背中を押されてしまう、いじらしい恋心。わかる気がするあなたからも、クロヴィスのように甘ったるい、と吐き捨ててしまうようなあなたからも、恋とかよくわからないけれど宝探しって楽しそうだよね!というあなたからも、様々な「あなたらしい」プレイングにお会いできるのを楽しみにしております。
76




第1章 冒険 『幻の果実を求めて』

POW   :    人の来ない場所にあるはずだ! 壊せそうな壁を破壊して隠し通路を探す

SPD   :    とにかく足で稼ごう。きっとどこかにあるはず!

WIZ   :    古い文献を調べ、確かな情報を得る

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

シャトン・ローズクォーツ
恋が叶う恋の果実…なんて胸がきゅんとする言葉…
その果実を手にしたら、わたくしの白馬の王子様も現れるのかしら…!

そうとなれば行動あるのみですわ
その果実、この目で見なければ気が済みませんの
そうね、これだけの文献があるのですもの、きっとどこかに情報があると思いますわ(眼鏡装着、手には虫眼鏡)

それにしても沢山の本。どこから手をつければいいのか迷いますわ
古い恋物語、恋占いの本、少女雑誌、植物図鑑…うぅん、手当たり次第!
目星をつけた本は積極的にチェックして、手掛かりを見つけますわ

…それにしても、恋の果実…
想いが叶うのは分かるけれど、出会いのご縁はあるのかしら
わたくしの王子様、まだ目星がついておりませんの…


リリスフィア・スターライト
いかにも甘い罠な感じがするけど、真相ははっきりしないとわからないかな。
迷宮を壊したり、無闇に進むのも危険だし、文献とか噂の出所を調べてみるね。必要なら電脳方面からも検索してみるよ。
似たような話しとかもあれば調べておきたいかな。
迷宮内のどこが怪しいか、特定出来次第、乗り込むつもりかな。

「いかにも女の子が飛びつきそうな話しだね。」


エスチーカ・アムグラド
【SPD】

恋って甘いんですか?チョコレートケーキとどちらが甘いんでしょう?

恋の味はわかりませんけれど、だからといってチーカ頑張らない理由にはなりません!
果実が本当にあるのかどうかしーっかり究明して、予知で言われているお姉さんに教えてあげないとですね!

そのためにチーカはとにかくあちこち見て回ります!
ちょっと力は自信がないですし、難しいご本も読めないですから……

その点動いて探すなら、フェアリーは身体が小さいし飛べますからね!狭いところでも高いところでも、他の方が探しにくいところまでチーカは探しに行けますよ!

【アドリブや他の方との協力大歓迎です!】


ミーユイ・ロッソカステル
くだらないと、断言してしまうのは、風情がなさすぎるかしら
とはいえ。……自力での努力を先にすべきとは思うのだけれど


アルダワ魔法学園の資料室なんて、生徒でもなければそうそう入れる機会はないのだし
そんなに有名なら、きっと記述にも残っているのでしょう
噂話が好きそうな生徒に話を持ちかけるのもいいわね

(と、最近よく見かける顔―スバルを偶然に見つけ)
……あら、あなた。こんなところで会うなんて思わなかったわ……?
私? 私は幻の果実とやらについて調べていたのだけど。
……何よ、別に思い人などいやしないわ、仕事よ

……この記述
歌に使えるかしら……この言葉(ことのは)なら、こういう効用になるはずだから……

…………はっ


スバル・ペンドリーノ
※ミーユイ(f00401)と
※魔法学園に(実際に)転入生として通っている

恋のおまじない、かぁ……
お姉さまと……ううん。それも、違うか。あんまり、自分で試したいとは思わないわね

でも、人助けだものね!
せっかく普段から通ってるわけだし、心当たりの、噂好きの子、おまじない好きの子なんかを当たってみましょ
知りたいのは、どういう場所に果実があるのかと……あと、いつ頃からそんな噂があって、誰が言い出したのか……かしら?

そうこうしてたら……あら、貴女
……ふぅーん、ちょっと意外。恋のおまじない、なんて柄じゃないと思ってたけど
ふふ。そういうことにしておいてあげる。

あら、新曲は恋の歌? ふふ、楽しみねー
と、にやにや


浮部・真銀
ワタシには恋などわかりませんが、グリモア猟兵が敵がいるというのです。
ならば、ワタシがすることは1つ。
サーチ&デストロイ。
幸いにも迷宮を壊すのは推奨事項のようです。
面制圧装備に換装して、出るとしましょう。
‥‥他の先輩猟兵さんのコイバナ、もついでに収集できたら嬉しいですね。
この前、先輩にアドバイスもできませんでしたし。

【ヴァリアブル・ウェポン】を破壊力重視にして、壊せそうな壁も壊せなさそうな壁もとりあえず破壊していきます。
<刻印>を起動するのは‥‥まだ早いですね。血の補給もできませんし。

先輩猟兵にあったら情報を交換。壁全部破壊すれば見つかるでしょう。




‥‥喉、渇いたな‥‥血肉のある敵、いないかな。


虜・ジョンドゥ
恋が成就する幻の果実、かぁ…
ヒヒッ、心惹かれる噂話だね
けれど、乙女が嵌まっちゃう罠なんて『恋』だけで充分だよ
命までも奪わせは、しないさ

『8bitサングラス』を装着し、内蔵コンピュータを駆使して【情報収集】
『迷宮の正しい道のり』や『幻の果実の在処』を調べてみよう
迷宮内には罠があるかもしれない
それにも留意して、一つ一つ慎重に進んでいこう

あのギャンブラーのおにーさんは『甘ったるい』なんて云ってたけれど
恋の味は人それぞれだと想うんだよね
チョコレートケーキみたくほろ苦いかもだし、
レモンタルトみたく甘酸っぱいかも
―ならば、恋を実らせる『幻の果実』はどんな味がするのだろうね?

※アドリブ・他猟兵の絡み大歓迎!


ハーモニア・ミルクティー
【SPD】
素敵、素敵だと思うわ!
恋愛話もスイーツも、好きだもの。
それにわたしも片想い中…コホン。口が滑ったわね。
でも、恋が敵う噂が原因で危ない目に遭う生徒は見過ごせないわ。
さっくり解決しちゃいましょう。

「ライオンライド」で呼び出した仔ライオンと共に、迷宮の内部を隅から隅まで探索するわ。
わたしの翅の生えた小さな身体なら、迷宮の穴や天井も抜かりなしよ!
それにしても、果実ね…。
土と水があって、日の当たる場所で植物は育つのでしょう?
それに果実なら、何らかの香りがしていそうなものだけれど。
ねぇ、ライオンちゃん。甘い香りか、光が差している場所は、無いかしら?


氷室・癒
甘いケーキは大好きですっ! 甘い恋の話も大好きですっ!
ぼくはすべてが甘い方がいいと思いますっ!
ケーキも恋も結末もっ! すべて甘くしてみせましょうっ!

幸福も甘いものも恋バナも大好きないやしちゃん! がんばりますっ!

まずは事前に噂をたどって情報収集っ。きゃいきゃい噂を集めるのは得意ですからっ!
そうやってしっかりと当たりをつけてしゅっぱーつ!

甘い果実ですから多分いい匂いがしますっ! いやしちゃんはそこそこお鼻もいいのでぐいぐい行きますよ!
後はいやしちゃんの幸運パワーを信じるのですっ。目をつぶっても歩いて家に帰れるいやしちゃんなら適当に棒とか転がして迷宮を突破してみせます!
おー、ごーごーごーっ!



●少女たちの迷宮

「迷宮のいちばん奥……って、ちょっとざっくりしすぎじゃないかしら」
 噂は噂、そんなものなのかもしれないけれど、とため息交じりに独り言ちながら、スバル・ペンドリーノ(星見る影の六連星・f00127)は同じ学園に通う生徒たちの証言をまとめていた。
 いつから言われだしたのかは分からない、迷宮の最深部にあるらしい、とても甘いらしい、……どれをとっても『らしい』がついてまわる、要領の得ない断片的なものばかりだ。気持ちを切り替えるようにもう一度溜息をついてから、資料室に足を運ぶことにした。

「それにしても、恋のおまじない、かぁ……あら?」
 ほんの少し脳裏をよぎった、愛しく掛け替えのない姉の顔を、しかしグリモア猟兵が予知したような生徒の持つそれとはまた違った『愛しい』だろうと首を振る。何にせよ、少なくとも今の自分には必要なさそうだと気を取り直し、調査を進めようと顔を上げると、そこには見知った顔があった。とろりとした艶のある髪が揺れ、スバルを捉える金色の瞳。ミーユイ・ロッソカステル(眠れる紅月の死徒・f00401)だ。
 彼女もまた、ほとんど同じタイミングで彼女に気づいたのか、やや眠たげな声で、あら、と返す。その手には、古ぼけた書物が開かれていた。

「……スバル。こんなところで会うなんて思わなかったわ……?」
「貴女こそ、こんなところで何を?」
「私? 私は幻の果実とやらについて調べていたのだけど……人に聞いてもあまり情報を得られなくて」
「幻の果実って……この学園の、あの迷宮の? ……ふぅーん、ちょっと意外。恋のおまじない、なんて柄じゃないと思ってたけど」
 似通った道をたどってきたらしい友人の意外な一面を見た気がして、思わず口元がゆるんだスバル。その顔を見るや否や、

「……何よ、別に思い人などいやしないわ、仕事よ」
「ふふ。そういうことにしておいてあげる」
「…………」
 やや不機嫌そうな声でぴしゃりとたしなめるミーユイ。それを気にした素振りもなく、くすくすと笑うスバル。
 調子が狂う、とでも言いたげに、それ以上の言葉を紡ぐことなく資料に視線を戻したミーユイを横目に、どこかご機嫌な様子のスバルもまた書架をあたりはじめた。
 資料室に再びの静寂が訪れる。
 時折、席を立ち歩く音。本棚から資料を取り出す音。ページを繰る音。資料を本棚に戻す音。それらが聞こえるだけの時間が、流れていく。

―――それはとても苦く、それはとても甘い。
―――焦がれるほどに苦いのだ。
―――痺れるほどに甘いのだ。

―――時として、それは剣をも凌ぐ力になる。
―――時として、それは盾をも貫く力になる。
―――時として、それは破滅である。
―――時として、それは希望である。

―――如何なる知を以てしても、それははかれない。
―――されど求めるのであれば、壁を見つめよ、それは陰鬱の場所に。
―――されど求めるのであれば、壁を越えよ、それは光指す場所に。

(……この記述)
(……この言の葉なら、……)

 席を立ち歩く音。本棚から資料を取り出す音。ページを繰る音。資料を本棚に戻す音。その音の中に、とぎれとぎれ、聞こえるハミング。

(あら、新曲は恋の歌かしら? ふふ、楽しみねー)

 そのハミングの邪魔をしないように、けれどやっぱりゆるむ口元を隠し切れないままミーユイの様子を盗み見ては、スバルもまた古い資料のページをそっとめくる。
 ―――緑の瞳と金色の瞳が交差して、金色の瞳が見開かれるのは、もう少し後のお話。

 うわさ話に背中を押してほしい少女の気持ちを、そっと想う。その健気な気持ちをわかってあげたい気がして、けれどそれに頼り切ってしまいそうな少女の弱さも、心の中でたしなめながら。
 髪と同じ色の唇。閉じるたび、開くたび、ぽつり、ぽつりと音符が零れていく。
 今、資料を戻すために席を立ったあの子の足音はメトロノーム。

 待ち受ける迷宮を踏破したら、幻の果実を見つけたら。ひょっとして、ひょっとすると、今はまだたどたどしい、あの恋の歌が、もっと軽やかに紡がれるかもしれないから。
 こつん、席を立つ。恋の果実を探しに。
 かつん、席を立つ。恋の歌を探しに。
 少女たちは、各々の迷宮を行く。


●知識を求める者たちの迷宮

「いかにも女の子が飛びつきそうな話だね。……甘い罠な感じがするけど」
 落ち着き払った様子で独り言ちながら、リリスフィア・スターライト(多重人格者のマジックナイト・f02074)は電脳世界へとアクセスして、情報の海を漂っていた。
 その独り言に応えるように、隣でヒヒッと笑う声。ドット絵のようなサングラスの下で、ミントとストロベリーのキャンディをころりと動かしながら、虜・ジョンドゥ(お気に召すまま・f05137)もまた、時を同じくして電脳空間に飛び込んでいた。

「心惹かれる噂話だと思うけれど、乙女が嵌まっちゃう罠なんて『恋』だけで充分だよ」
 甘い果実の噂にしろ、この迷宮の内部構造にしろ、まず<罠>を疑い、迷宮の道のりや果実の在り処を念入りに検索する2人。足を踏み入れたばかりのこの迷宮を踏破するために、まずは知識の迷宮を踏破する。実際に脚を動かすよりも先んじた、だれよりも早い一歩を踏み出していた。

「何があるか分からない、無闇に進むのは危険だよね。それにどのあたりが怪しいか先に特定しておきたいし……えっ」
 隣のジョンドゥに同意を求めながらも情報収集の手を休めずにいたリリスフィアが、小さく声を漏らす。ジョンドゥもまたその声の意味を理解しながら、8bitサングラスを通して電脳空間に向けていた意識を、ここ現実に向ける。
 それは遠くから、徐々に、徐々に、近くに。地響きのような、否、事実かすかな地響きさえ起こしながら聞こえてくるそれは、まぎれもない破壊音。

(………来る!)
 どちらともなく脳裏によぎったその瞬間だった。
 ――………ドゴォッ!!!
 轟く最後の破壊音、巻き上がる砂ぼこり。ややあってそれが晴れて、リリスフィアとジョンドゥの前に現れたのは、金髪碧眼、巨大な右腕を持つサイボーグの少女だった。面制圧装備に身を包んだ浮部・真銀(サイボーグのグールドライバー・f11263)は、二度三度しばたいて、リリスフィアとジョンドゥを見やる。

「敵では、ないですね。……先輩猟兵でしょうか」
 互いに顔を見合わせて、かすかな沈黙が流れ……やがて、リリスフィアの小さな笑い声でもってその沈黙が終わる。

「なんだ、味方か……凄い音がするからびっくりしちゃった」
「迷宮を壊すのは推奨事項のようでしたから。壊せそうな壁も壊せなさそうな壁も、すべての壁を壊せば、他の先輩猟兵さんにも会えるかと思いまして。それに、幻の果実にもきっと辿り着くでしょう」
「ヒヒッ、いいんじゃない? たった今キミが壊してくれたその壁が、ちょうど邪魔だったのさ。とはいえ、全部の壁を壊されちゃうと上手く辿り着けなくなっちゃいそうだな……」
 ココで合流出来てよかったと笑う少年に、そういうものなのかと真銀が首をかしげる。ともあれ指針を得た力ほど心強い物はない。壁を壊せるだけの力を得られたのなら、進める道はぐんと広がる。今一度、これまで調べ上げた情報を統合したリリスフィアがよし、と頷いて、

「あっちの方が怪しそうだけど……ちょっとくらいの罠なら、彼女のパワーで壊せちゃいそうだし」
 どうかな、と今一度隣の少年に視線を送れば、鮮やかに彩られた指先で8bitサングラスをくいっと上に持ち上げたジョンドゥは、屈託のない笑顔を返してきた。

「うん、ボクも同意見だね」
 そして指針の一致ほど心強いものも、またない。再び顔を見合わせた3人、だれからともなく、行こう、と声が上がる。
 恋なんて、恋の味なんて、どんなものなのかも、苦いのかも、甘いのかも、わからないけれど。恋を知る人に聞けば、恋の果実を齧れば、それが幸せなのか、苦しいのか、チョコレートのようなのか、レモンタルトのようなのかも、わかるかもしれないし、わからないかもしれないけれど。
 並ぶ、響く、足音。轟く、響く、開拓の音。
 この迷宮を踏破したら、幻の果実を見つけたら、ひょっとして、ひょっとすると、分かるかもしれないから。知識を求める者たちは、各々の迷宮を行く。


●恋を求める者たちの迷宮

(素敵、素敵だと思うわ! 恋愛話もスイーツも、好きだもの。それにわたしも……)
(恋が叶う恋の果実…なんて胸がきゅんとする言葉…その果実を手にしたら、わたくしの白馬の王子様も現れるのかしら…!)
 さて、フェアリーにケットシー。ちっちゃな2人の乙女の前にそびえたつは巨大な本棚、それもいくつも。その全てに、グリモアベースでの説明通り、みっちりと様々な本が収められていた。
 乙女が2人、学園の少女たちのように姦しいかと思いきや、意外と静か。というのも、図書館ではお静かに、というわけではなく……各自でもって思い思い胸に秘めるものがあるようで。
 若干一名から、コホン、と咳払いが聞こえたかもしれないが、幸いもう片方の乙女には聞こえていないようだった。

 眼鏡を掛ければうっとりとした表情もきりりと引き締まる。シャトン・ローズクォーツ(夢見るスウィートドール・f12264)はジャンルを問わず、次から次へと本を開いては、何か果実につながるヒントはないかと虫眼鏡を片手に視線を走らせていた。
 読み終えた本の数は一体いくつになっただろうか。そろそろ甘酸っぱい色をした瞳にも疲れが見えてきたその頃だった。
 ピンクの毛並みに白いロリータ服、まるで綿菓子のように甘そうなシャトンの肩口からひょっこりと顔を出して、喚びだした仔ライオンと共に一緒に本を覗き込むのは、ケットシーであるシャトンよりも、さらに小さな影。ハーモニア・ミルクティー(太陽に向かって・f12114)、彼女もまた、その小さな体躯で迷宮をすみずみまで探索しきった末に、この部屋に辿り着いた猟兵だった。迷宮探索に少しだけ疲れてきていたフェアリーの少女は、シャトンの手に広げられた本に、ひらめいたと言わんばかりの小さな声を「あっ」と上げる。

「ねぇ、ねぇ、それって植物の図鑑かしら? じゃあ、こうは書いてない? 土と水があって、日の当たる場所で植物は育つ、って!」
「え? えぇ、確かに書いてありますけれど……」

 それなら、とハーモニアはにっこり笑って、続いて傍らの仔ライオンに紫の瞳を向ける。あちこち探しまわったけれど、目星をつけて探すことができるのなら、きっともっと効率的だ。
「ねぇ、ライオンちゃん。甘い香りがするか、光が差している場所は無いかしら?」

 彼女の金色の相棒は頷くかのように小さく喉を鳴らした。その様子を不思議そうに見ているシャトンをよそに、ハーモニアは元気に仔ライオンの背にまたがる。

「ありがとう、一緒に探してくれるのねライオンちゃん! 甘い果実ならきっとにおいがするわ! それに果実ということは植物だもの、きっと光がさしている場所で育っているんじゃないかしら!」
「……! そうとなれば行動あるのみですわ、その果実、この目で見なければ気が済みませんの!」
「えぇ、えぇ、それじゃあ一緒に行きましょう!」

 白馬に乗った王子様が、いつ、どこからやってくるのかだなんて、憧れのあの人に寄せるこの想いが実る日なんて、今はまだ、わからないけれど。でも、それって、今はまだ、わからないだけだろうから。きっと、いつかは、分かる日が来ることを、信じているから。
 ぺらり、聞こえる、ページを繰る音。羽ばたく、駆ける、探索の音。
 この迷宮を踏破したら、幻の果実を見つけたら、恋の果実を齧ったら、恋に寄せたその恋が、誰かに寄せたその恋が、ひょっとして、ひょっとすると、叶うかもしれないから。恋を求める者たちは、各々の迷宮を行く。


●手を取り合う者たちの迷宮

 それはほんの小さな穴だった。しかし確かにそこから光は差していて、間違いなく甘い香りがしていて、けれどどうしても、それは小さな穴でしかなく、……ゆえに、身長162.6cm(2019年1月中旬現在)の氷室・癒(超ド級ハッピーエンド・f00121)は唸っていた。

「むむむむむ……まいりました、まいっちゃいました、……いやしちゃんピンチですっ!」
 時には棒を転がし、時には微かな匂いをたどり、そして時には幸運パワーを信じてここまで歩いてきたのだが、ついに行き止まりに差し掛かってしまったのだ。恐らくは、噂の果実がこの壁一枚をへだてた向こうにある。

「うわーんっ、せっかくきゃいきゃいしたウワサを辿りに辿って、ついにここまで来ましたのにーっ!」
 のにーっ、のにー、のにー……。これまで歩いてきた迷宮の道が、壁が、届きそうで届かない、もどかしい少女の叫びをむなしく反射させながら吸い込んでいったと思った、その時だった。

「あやっ? その声はもしかしてもしかして、いやしおねーさんではないですかーっ?」
 癒の声を吸い込んだ迷宮の奥から、元気な声が呼び掛けてくる。はっとした様子で顔を上げた癒が声の聞こえた方を振り向くも、その姿はまだはっきりとは見えない。……けれど甘い香りを頼りにここまで来た癒に届いたのは、声だけではなかった。それは覚えのある花の香り。間違いない、エスチーカ・アムグラド(Espada lilia・f00890)だ。

「あーっ、エスチーカさん! エスチーカさんですねっ! いやしちゃんにはわかりますよ、その声、この香り! おーいおーいっ、こっちです、こっち、こーーーっちーーーー!」
 ぶんぶんと大きく手を振って、小さな友人に自分の居場所を伝える。フェアリーである彼女ならば、きっとこの小さな穴をくぐりぬけ、その向こうにあるものを確かめられるだろうと、瞬く間に癒の顔に笑顔が戻った。

「えへへ、やっぱりチーカの思った通りです、いやしお姉さんでした!」
 思わぬところで出会えた知己の顔に、風を切る速度も思わず上がる。ほどなくして癒のいる所まで辿り着いたエスチーカの体長は、なるほど癒の見立て通り、光と甘い香りのこぼれる小さな穴をくぐりぬけられそうだ。

「ふむふむ、……確かにいやしお姉さんのおっしゃるとおり、いやしお姉さんの見つけてくださったこのこの穴からはすっごく甘ーい香りがしますねっ! 覗いても見えないのが何とももどかしいですけど、でもでも、はいっ、チーカはフェアリーなので、きっとくぐりぬけられちゃいますっ!」
「それに、幻の果実が本当にあるのかどうか、しーっかり確かめなくっちゃですからねっ!」
 そしてあの2人の女子生徒に教えてあげるのだ、と笑顔で意気込むエスチーカを頼もしく思いながら、癒もまた笑顔で頷く。
 2人の少女が顔を見合わせ、頷き合い、大きな手のひらに小さな手のひら、小さな小さなハイタッチ。
 それが『いってきます』の合図になって、エスチーカの小さな体は、するりと穴を抜けた。

 ケーキも恋もすべからく甘くあるべきで、きっとこの物語の結末も甘くあるべきで、すべては甘く、すべてを甘く。だって、甘きことは喜ばしきこと。
 ひょっとしたらチョコレートケーキよりもずっとずっと甘い、かもしれない、恋の味。今はまだ、それを想像する事しかできないけれど。
 ぱちん、響いたハイタッチ。ふわり、香ったグラジオラス。
 この迷宮を踏破したら、幻の果実を見つけたら、ひょっとして、ひょっとすると、そんな喜ばしき世界が広がるかもしれないから。あのお姉さんたちの想いが叶うかもしれないから。
 手を取り合った者たちは、各々の迷宮を行く。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『書物の魔物』

POW   :    魔書の記述
予め【状況に適したページを開き魔力を蓄える】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
SPD   :    ページカッター
レベル分の1秒で【刃に変えた自分のページ】を発射できる。
WIZ   :    ビブリオマジック
レベル×5本の【毒】属性の【インク魔法弾】を放つ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 小さな穴を抜けた先。
 あるいはかき集めた情報をたよりに、あるいは強固な壁を打ち破り、あるいは甘い香りをたどって、あるいは文献に記された言の葉をヒントに、数々の部屋をくぐりぬけ、辿り着いたその先。

 そこには、それまでの迷宮内部からは考えられないほどの、まばゆい光が差し込んでいた。
 甘い香りが、満ちていた。
 それはまぶしい陽光に似て。それはおだやかな月光に似て。
 それは、恍惚の感情に似て。

 ぽつんと佇む果樹は、照らされていた。

 誰が漏らしたか。 「これが、恋の果実?」
 誰が漏らしたか。 「これが、恋の香り?」

 『気になるのなら、確かめてみるがいい』

 ―――その問いに応えるかのように。
 猟兵たちの背後から。
 今、彼らが来た道、その全てから。

 さっきまで読んでいた古い文献が。
 さっきまで読んでいた恋物語が。
 さっきまで読んでいた伝記が。
 さっきまで読んでいた恋占いが。
 さっきまで読んでいた植物図鑑が。

 ありとあらゆる知識たちが、襲い掛かってきた。
エスチーカ・アムグラド
あまーい香り、温かい光……何だか気持ちいの良いお部屋ですね
そしてあれが噂の、恋の……!
でもでも!今はその前にオブリビオンと戦わないと!

……あややっ!すごい数ですねっ!?
チーカ、【空中戦】は得意ですし飛び回って注意を引いて、敵を【おびき寄せ】てみます!
そしてそして、敵を一カ所に集めて、どーん!と他の猟兵さんたちに攻撃して頂けたら効果的ではないでしょうか!
チーカも隙を見つけたら刃嵐で【範囲攻撃】します!

沢山の敵、ちょっとだけ怖いですけど……この剣を握ると【勇気】が湧いてきますので!
それにそれに!いやしお姉さんとのハイタッチでも勇気を頂けた気がしますから!きっと!大丈夫!

【アドリブ連携歓迎です!】


雪華・グレイシア
魔導書の類……と似たような物かな?
どちらにせよ、ボクにとってはやりやすい相手だ
予告する。キミたちの知識(おたから)……頂くよ

現れた書物たち目掛けて、予告状をばら撒くように投擲する
予告する盗みの標的は開かれたページ
宣告するルールは当然、ボクの予告した標的を盗まれないこと

さぁ、マスカレイドタイムだ
【ダッシュ】で一気に懐に近づいたら、手に持ったダガーで斬り付けて【盗み攻撃】
【盗む】のは怪盗の真骨頂
魔力を蓄えたって使い道がなければ無意味だろう?

【他の方との連携、アドリブは歓迎】


浮部・真銀
どうやら、先輩方は甘いアレがお好きなようです。
確かめるにも甘い罠がありそうで‥‥
前門の罠、後門の本。

先に後顧の憂いを断ちましょう。

動かない壁ではなく、群体のような本達。
これらを相手取るには先程のままでは分が悪いですね。

ワタシの血を、代償に。右腕の封印を解いて。
【ブラッド・ガイスト】   
‥‥<刻印>(ドライブ) ‥‥オン。

戦闘モードに入ります。ワタシはサイボーグ。先輩方の盾となり、矛となり敵を穿ちます。

本やページを1つ1つ狙っている暇はありません、やることは‥‥
敵の中にツッコんで、右腕を奮って大雑把に食らうこと。
うち漏らしはきっと、誰かがしてくれることでしょう。
これが最善のはず。後は頼みます。


西園寺・メア
オブビリオンの群れ……予知通り、甘い罠だったというわけですね
ヒントを出して行先を誘導して、そのヒントを出したの書物が退路を塞いで襲い掛かってくるのは中々悪夢的な景色ね
ならばドッペルゲンガーアームズで武器にもう一人の私を搭載し、破壊力を持って書物の魔物を駆逐しますわ

迷彩で姿を消し、本の動きを見切り、だまし討ちの呪詛を込めた骨砕きで背表紙をよーく狙ってー……千切れるといいですわ!

果樹もオブビリオンか気になるけど今は目の前の敵に集中
味方と協力しあって一気に攻略を狙うわ


お嬢様、アドリブ歓迎



●東側

 1月中旬。迷宮の外に出れば、雪がちらつく日だってある。ひゅるりと甲高い声をあげて鳴く風に、白い息をさらわれることだってあるだろう。
 ……だというのに。
 フェアリーの少女エスチーカは、目の前に広がるその光景に、思わず息を漏らす。その小さな体がやっと通れるだけの、小さな穴を抜けて辿り着いた、その場所は。

「あまーい香り、温かい光……」

 春のひだまりのごとき温もり。そのなかでぽつんと、待ち合わせでもしているかのように、待ちぼうけて、そのうち眠ってしまったかのように。噂の果樹は佇んでいた。
 見つけたゴール。辿り着いた答え。
 
(あのお姉さんたちに、教えてあげなくっちゃ……)

 蝶のようなその羽を羽ばたかせ、思わず近寄りかけたその時。

 バサ……バサ…………

 遠くからかすかに聞こえた、彼女のそれとは明らかに違う羽ばたき。
 無機物に宿った殺意は、耳障りな音となって。
 猟兵たちが一か所に集まるこのタイミングを待っていたと言わんばかりに、あたたかなこの部屋に押し寄せる。

 バサバサバサバサッ!!!

 剣の柄に手を掛けながら振り返ろうとしたエスチーカ。そのすぐ後ろで、紙と紙が撃ち合う音がした。

(もう、すぐ、そこまで――――)

「――――予告する。キミたちの知識(おたから)……頂くよ」

 凛、と。 冷えた声が、春のひだまりに良く通った。

 宝の在り処。そこに怪盗が現れるというのは、至極当然のことだろう。
 つまり怪盗、雪華・グレイシア(アイシングファントムドール・f02682)がこの部屋に現れたのも、自ら押し寄せる知識(おたから)たちを盗むべく予告状をばらまき、勝利宣言をする事だって『怪盗の流儀』に他ならなければ、その盗みの手口――地を蹴り、ダガーを振るうまでの動作が、目にもとまらぬ鮮やかな早業である事も、何一つ、何ら不思議ではない。
 何ら不思議ではないが、ともすればお昼寝をしてしまいそうなほどに麗らかで、甘い香り立ち込める、この部屋。そこに突如として現れた、少女と見まごうほど整った顔立ちの怪盗、その氷色の髪は、瞳は、エスチーカをはじめとするその場にいた猟兵全員に、本来の季節を思い出させた。

「……呆気ないね。 魔力を蓄えたって、使い道がなければ無意味だろう」

 宝となる知識、それを増強させる魔力を蓄える隙すら与えられぬまま、彼の予告状と何ら変わらぬ姿にされた本は、力なくはらりはらりと迷宮の床に落ちた。

 ――さぁ、次はどいつを盗もうか。

 冷ややかな瞳が、次なる標的を探す。この場において彼の予告状を叩きつけられた事は、死刑宣告を受けた事に等しい。
 感情を持たないはずの本たちが、視線持たぬはずの本たちが、戦慄したかのように、グレイシアと対峙して、睨みつけた。

 ――――奪われない。  ――――奪わせない。

 ――――構うものか。確かな殺意を肌に感じながらも、一冊、また一冊と、その知識を盗んでいく。
 けれどそうしている間にも、次から次へと新たな知識たちは押し寄せる。
 彼が"盗む"ペースは間違いなく早い。が、それ以上にこの迷宮に息づいた知識の量が膨大だったのだろう。
 埒が明かない……と、小さく開いた唇から息を漏らしかけたその時、最早数えることに意味など無くなった本の群れが、蠢いた。

「こっちですよーっ!!」

 思わず本の群れの行方を追ったグレイシアの視界の先。そこには元気のいい声と共に、ぐん、と上昇する、フェアリーの少女の姿があった。
 グレイシアの手によってあっけなく解体されていく本。今、彼と対峙しているいくつもの本。未だ、次から次へと押し寄せてきている本。そのどれもが、浮遊していた。ならば、自分の得意な戦場のはずだ。
 自分のことを助けてくれたグレイシアを、今度は自分が助けてあげられるかもしれない。
 陽だまりの中を妖精が羽ばたき駆ける姿はなかなかにファンシーで、さながらアックス&ウィザーズの春のようだった。が、さりとてそれを追い回すのは、ファンシーとは程遠い、無機質な、本。本、本、本、本、本。
 その一冊一冊が、エスチーカの体躯とそう変わらない。あるいはエスチーカよりも大きなものさえある。
 
(ちょっとだけ怖いですけど……でも、)

 ぎゅ、と少女の家に代々伝わる剣、そしてそれを収める鞘に添えた手に、力がこもった。小さな体に湧き上がるものを確かに感じながら、数多の知識の群れを導いていく。
 そうして縦横無尽に駆けまわるフェアリーとの追いかけっこの中で、いつのまにか統率され、形成された、本の集団。連携攻撃さえしてきそうなまでにその動きは揃いだしてきた。エスチーカの動きの緩急に合わせて、追いかけたり、襲ったり、ほんの一瞬―――止まったり。

 もちろん、それを見逃す猟兵ではない。

「その小さな体で、よく頑張りましたわね!」

 高らかな声が響き渡るのと、分厚いハードカバーの装丁がバリバリと悲鳴をあげて千切れていくのは、ほぼ同じタイミングだった。
 さて、彼女――西園寺・メア(ナイトメアメモリーズ・f06095)の姿、もとい存在を認識していた者はこの場にどれほどいただろうか。
 無論、本たちの膨大な知識でもってしても、彼女の気配には気づけなかっただろう。だからこそ今、彼らはその知識をただただ床へと散らせることしか、お嬢様に許されていないのだ。
 迷彩に身を隠し、息をひそめ、彼女の腕――否、その腕は。彼女の腕でありながら、彼女の腕ではない――は、最高のタイミングを待ち望んでいた。
 一体一体の力はともかく、ただひたすらに量が多い敵。それらをつむじ風がまとめあげ、ひとところに集めてくれる、そしてほんの一瞬の隙を生んでくれる、その時を。

「ヒントを出した書物自ら、退路を塞いで襲い掛かってくるのは中々悪夢的な景色ね。……という事は、あの果樹もひょっとして甘い罠だったりするのかしら」

 ちらりと部屋の真ん中に佇む果樹を見やるが、もちろん答えはない。ならば今は、この大量のオブリビオンに集中すべきだとすぐに視線を本の群れに戻す。
 まんまとだまし討ちを決められ、あれよあれよという間に統率の乱れた本たちは最早隙だらけ、連携のれの字も見当たらなくなってしまっていた。
 こうなってしまえば容易いもので、本の動きを見切るのにも狙いをつけるのにも何の苦労もいらない。メアの強化された武器による、狙いすました一撃が次々とハードカバーの背表紙に叩き込まれていく。そのたびに、少女の金色の髪が煌き踊った。
 一冊、また一冊と千切れ、裂かれ、破れ、地に臥せって行く活字たち――だが、やはり。

「……数が多いですわね。もっとこう、一気にやれたらいいのですけれど」

 目の前にいたハードカバー書籍、『愛とお金 ~人生において大事で必要なふたつの事~』を千切り棄てながら、左右で色の違う瞳が改めて軍勢を見やる。

 そんなメアの独り言に、ぽつりと応える声があった。

「‥‥<刻印>(ドライブ) ‥‥オン。 戦闘モードに入ります」

 続いて、勢いよく答える轟音があった。
 先ほどまでこの迷宮の壁という壁を打ち壊してきた、その巨きな右腕。ためらうことなく自らの血液を差し出して封印を解かれた腕は――そう、まるで積み木でも崩すかのように壁を破壊してきたこの腕は、それでもまだ封印されていた――、少女の小さな宣言と同時、見る見るうちに獰猛な殺戮補食態へと姿を変えていく。

 息を、吸い込む音が聞こえた。ぐぐ、とその巨腕を擡げる。

 ドゴォオッ!!!!

 エスチーカが、グレイシアが、メアが、その場にいた猟兵全てが、その音に、その光景に、振り向き、目を見張った。
 本の形をしたオブリビオン、その軍勢は、本に戻る間も、紙に戻る間すらも与えられぬまま、"喰われていた"。

「・・・・先輩は、一気に、を、お望みのようでしたから」

 これが最善だと思ったのですが、と涼しい顔で猟兵らの視線を受け止めながら。大して旨くもないものを喰らったとでも言いたいか、落ち着き払った様子で第二撃の準備をする真銀。
 あまりにも強大で、あまりにも大味で、あまりにも衝撃的なその攻撃の残響。それにひたらせる間すら、与えるつもりはない。――が、その大雑把な攻撃故に、残滓すら残さず喰われた本がある一方で、その衝撃波に吹き飛ばされただけで済んだ本も数冊見受けられた。
 それら数冊をちら、と視線だけで追い、けれどすぐに興味を失ったように標的を見据える。真銀の攻撃対象は、どうも『軍隊』に向けてのみのようだ。
 無理もない。なぜなら、今なお、増え続けている。
 真銀のあの一撃をもってしてもその全てを喰らいきれぬほどに、この迷宮の蔵書は膨大で、その全てが猟兵たちに襲い掛かってきているのだから。
 ならば彼女のような、大きな範囲を一気に攻撃できる猟兵は、本一冊一冊、ページ一枚一枚に注力するよりも、なるほどこの方がずっと『最善』というわけだ。

 だから――……

「風に舞え、花の刃……刃嵐(トルメンタ・デ・グラディオラ)!!」

 視界に、ピンクの花弁が吹き荒れた。
 猟兵たちに攻撃の手を休める暇などない。
 ついに抜かれたエスチーカの愛剣、グラディオラ。その刀身は無数の剣にも似た花弁へと姿を変え、真銀の二撃目が放たれる間にも増え続ける本達を覆いつくし、この部屋に到着するその傍から切り裂いていく。 

「・・・・撃ち漏らしは、」
「お願いしますっ!」

 再び本の群れに喰らいつきながら。
 幾重もの花弁をその風で操りながら。

 信じて叫ぶ仲間の声に、グレイシアとメアもまた、それぞれの『最善』を尽くすべく、力強く頷いた。

 ―――きっと、きっと、大丈夫。

(この剣だけじゃなくって、いやしお姉さんにもハイタッチで勇気を分けて頂けた気がしますから!)

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

氷室・癒
本! 本ですっ!
別に本が嫌いないわけではないですが、本は困りますっ!
漫画も小説も参考書もちょっと難しい本もクイズ本も読みますが、本は困りますっ!

だって、いやしちゃんのかわいさが通用しない……っ!
これは由々しき事態ですっ! 
しかしそれでも、できることをしなければっ!

とんだり跳ねたり飛んだりぴょんぴょんっ!
インク魔法弾の隙間を抜けて、お邪魔します!
汚れるのは、やーっですからね!

出たり消えたりしながら、にっこり笑ってキュートな微笑み!
驚いてはくれるかもしれません! 本ですけどっ! 本ですけど!
トドメは他の人にお任せしますっ!



 ところかわって、小さな友人に勇気を分け与えたいやしお姉さんは、

「おおおおおっ!? 本が嫌いなわけではないですが、本は困りますっ! 困りますっ! こーまーりーまーすぅーっ!?」

 ――――……苦戦していた。

 小さな穴をくぐりぬける友人を見送ったあと、なんやかんやのいやしちゃんパワーで見事、件の部屋に潜り込むことに成功した癒。
 だが、そこで彼女を待ち受けていたのは、噂のハッピーな果実を見つけた喜びに浸る間も許さず襲い来る本!本!本!!

 とはいえ泣きごとを言いながら、それでも出来ることはきちんとやる系オラトリオの癒。すごいぞいやしちゃん、えらいぞいやしちゃん。
 それはもう跳んだり跳ねたり、飛んだり跳ねたり。器用にすばしこく、本の攻撃を掻い潜ってはそのうち一冊の本の前にぴょんっと現れ、にっこりキュートないやしちゃんスマイル。

『………?』

 本にも感情はあるのだろうか。例えば大切に大切に百年も読まれた本ならば、ヤドリガミとして生を受けることがあったりするわけだから、ひょっとしたらあるのかもしれない。
 ほらほら、心なしか、きょとん、とした気がする。

(こ、これはこれはっ、いやしちゃんのかわいさが通用しちゃったのでは……!? いやしちゃんのかわいさは本にも通じちゃうのではーっ!?)

『………!』

 恐る恐る、しかし期待も込めつつ本を覗き込んだ癒の目の前で、ばらばらばらばらっと勢いよく本のページがめくれる。
 かなり年代物の恋物語だろうか、あちこち日焼けしたページに踊っていた活字が、ふわりと浮かび上がった。

「これはこれはハッピーなかんじの文字列っ! ラブラブですねっ、これはきっときゃーっ!なヤツです! きゃーっ、……へっ?」

 愛を伝え合う2人のセリフがきゅんきゅんきたのか、思わず頬を抑えて嬉しそうに笑っていられたのも束の間。
 ハッピーでラブラブできゃーっな文字列――であろうとも、要はインク。インクはインク。つまりそれはインク魔法弾となって、至近距離から癒を襲う。

「……ッと、と、……危なかったですっ! んもう、ずるいですよっ! さっきはきょとーんってしてくれてたじゃないですかーっ!」

 とはいえその身のこなしはやはり軽い。
 ひょこっとしゃがんで、ぴょこっと飛んで、かるーくステップくるっとターン、最後にもひとつ、おまけにぴょんっ!
 ただ一滴のインクを受けることなくかわしきった癒は、しかし納得いかないと言わんばかりに口をとがらせ、本を咎める。……もちろん、本からの返答はない。

 一定時間動きを止められたとしても、その間にトドメをさすことが出来ないのであればただ動きが止まっただけだ。
 その後も彼女は黒い羽根を羽ばたかせ、銀色の髪をなびかせて、ぴょんぴょんと戦場を舞い踊る。
 いやしちゃんスマイルによって生み出した隙をついて、華麗にトドメをさしてくれる猟兵が現れるのを、時として無機質な本さえ魅了しながら、自由気ままに待つのだった。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

シャトン・ローズクォーツ
えっ、えっ…なんですの、この声…きゃっ!
嘘、さっきまで読んでいた本が…
まさかこの本も、魔物…?

こうなれば、戦うしかありませんわね
戦いは慣れていませんが…なんとかなるでしょう…!

わたくし自身はあまり戦闘術に長けていないので、他の方との戦闘を希望します
機が来るまでは、飛んできたページやインクを猫の反射神経で避けたり、咄嗟に爪で引っかいて叩き落としたり、日傘を開いて防御したり致します

こんなわたくしでも、力になれますでしょうか…!
戦いが中盤に差し掛かり、仲間が傷を負い始めたら、【シンフォニック・キュア】砂糖を転がすような甘い声で治癒の歌を歌います
皆様、負けないでください…!


リリスフィア・スターライト
アドリブや他の猟兵たちとの絡みはOKだよ。

勉強中に睡魔に襲われることはあったけど書物そのものに
襲われる羽目になるとはね・・・
何はともあれ障害であるなら打ち破らせてもらうよ。
魔力と水を融合させて大量の洪水を呼び出し
あらゆる方向から襲ってくる書物をまとめて押し流すよ。
数も多いし多少、制御に失敗して想定以上の水量になっても
別に問題はないよね。

「奔流される前に水に流してあげるね!」
「皆は巻き込まれないように気を付けてかな」


ミーユイ・ロッソカステル
※成行のままに、スバルと連係

……物語に攻撃されるなんて、ね。

私の戦いは、言の葉を紡ぐことそのもの。
その私に知識や言葉を牙として剥くのならば。えぇ、立場というものをわからせてあげなくては。
その唇から「夜の逢瀬 第2番」を奏でれば、室内であるにも関わらず、周囲は満天の夜空に包まれて

(スバルの言葉に)
……ちょっと、これは恋歌のつもりはないわよ。
夜に生きるものをより活性化させる領域を呼ぶまじない。……まぁ、いいけれどね。
あなたもその輪に入れてあげるわ。せいぜい働いて頂戴な? と星の光がスバルを照らす


恋物語の本からの攻撃を受けては、ぶつぶつと呟く
まるで、もう少しで何かが掴めそう、とでも言うように


スバル・ペンドリーノ
引き続き、ミーユイ(f00401)と行動希望

これが、恋の香り……恋の物語ですって?
……よく言えたものね。私は……本物の恋を、知らないのかもしれないけれど。
お父さまとお母さまが何度も聞かせてくれた恋のお話は、もっと……流れ星を抱き留めるような、優しい物だったわ。

(ミーユイの歌に)
――うん。とても良い夜。
それに、この歌の方が……よほど、恋の味を感じるわ。きっと

あら、そう……? なら、本当の恋の歌は、どれほど綺麗なのかしら。

なんて言いつつ、彼女の作り出した星空の中で、自身を強化。正統なる闇の血統の力、見せてあげる
重視するのは攻撃力
本を傷つけるのは気が引けるけど……片端から、引き裂いてしまいましょう


虜・ジョンドゥ
ははぁん、成程ね
女の子たちが迷宮に飲まれる理由は、この”知識たち”でもあるワケか
でも…いいのかい? ボクらを襲っても

ああ、恋の果実はこの手で確かめてみせるさ
キミたちを一頁残らず剥ぎ取ってから、ね
―ボクらはか弱い乙女じゃない…恐れ知らずの猟兵なのさ!

そうウィンクして、『MY AVATAR』を喚び出す
目には目を、インクにはインクを…三人で手分けして、ペイントブキで勝負するよ!
ボクの得物はカラフルなカラー風船
その書物の頁を全て、ボク色に染めちゃうもんね!
インク魔法弾が放たれたら風船を投げて相殺したり等で
【時間稼ぎ】をして攻撃力の高い猟兵くんのアシストをしよう
果樹が傷つかないよう立ち回るつもりだよ!


ピリカ・コルテット
ちこくちこく~っ!
すっごく甘いっていう果実の採集ツアーはこちらで合ってますかっ?

って、ああっ!本が飛んでいます!何だかヤバい雰囲気ですね!?
私、本は苦手なんです!長時間じっとしていられませんのでっ!
人を襲ってくるのならみじん切りにしてもいいですよね!?

本という事は紙!斬るだけじゃ足りません、焼いちゃいましょう☆
まずは愛刀プリムに属性攻撃技能で狐火を纏わせて!
【桜剣解放】を発動し、燃えるごみの日スタートですっ!!
高速移動から繰り出される炎の斬撃と衝撃波で、周囲の二酸化炭素濃度は加速した!
儒は滅すべしっ!!ふぁいやーっ!!


レイラ・エインズワース
オブリビオンは過去の夢
過去の知識は今を歩んで未来に行くためのモノであって、
今を奪うモノではないハズでしょ?
恋ナンテ、ロマンチックなモノなんだカラ、それを邪魔しちゃいけないヨ

仕様するユーベルコードのは狂気の魔術師、私の創造主
サァ、悪戯する悪い知識は倒しちゃおうネ
魔術師と共闘するヨ
【高速】の詠唱でサポートしながら、【全力】の魔力を籠めた雷を打つのをお手伝い
死霊術を使う時には【呪詛】を籠めた炎でサポートしようカナ
モノが紙なら火にも弱いかもしれないしネ
ページが開いてるときは、何の頁か確認して、周りに注意を呼び掛けるヨ


アドリブ・絡みは歓迎
好きに動かしてネ



●西側
 ふたりのダンピールの少女は、並んでそれぞれ、果樹を、浮遊する書物を見据えていた。
 緑と金。それぞれの双眸は、どこか不機嫌そうで。

「これが、恋の香り……恋の物語ですって?」

 腰に手を当てて眉をひそめたスバルは呆れたような声を出す。両親が何度も聞かせた恋の物語は、少女の心に確固たるものを根付かせていたようだ。
 春の陽光がごとき光の降り注ぐ果樹、その果実の発する甘ったるい香り。あるいはそんな恋も世の中にはあるのかもしれないが、少なくともそれはスバルの思う恋ではない。
 恋物語は、人の数だけ。出会う数だけ。憧れた数だけ。焦がれた数だけ。
 優しい恋物語に、これまでも、これからも、少女は憧れ続けていくのだろう。

 その隣でミーユイは、不機嫌そうにする友人に何を言うわけでもなく、静かに、ただじっと、本の形をとったオブリビオンの群れと対峙していた。

(……物語に攻撃されるなんて、ね)

 ふわりと髪をかきあげながら見据えていた本の群れ、その表紙のどれもに、『詩集』とあった。
 言葉には、力が宿っている。

「―――ごきげんよう こんばんは」

 ただ感情に任せて紡ぐだけでは駄目だ。詩は稚拙になる。
 ただ難しい言葉を選び紡ぐだけでは駄目だ。詩は伝わらなくなる。

「―――素敵な夜ね」
(――うん。とても良い夜)

 言の葉の力を借り、言の葉の力を操り、心をこめて、声に乗せる。
 ひとつとて、欠けてはならない。それら全てがかちりと嵌って、初めて、人の心に寄り添い、人の背中を押し、人に感傷を与え、人の歩みを導く。

「―――見て 星があんなにも瞬いて」
(――えぇ、貴女もそう思うのね)

 ―――――そうやって、人の心を動かすのだ。
 夜の逢瀬 第2番。
 ミーユイの歌声に応えるように、スバルは陽光を覆い隠した夜空を見上げる。満天の星空。六つ、連なった青白い光。遠く、遠く、輝くのが見えた。これを良い夜と言わずして、優しい恋と言わずして、何と言おうか。

「この歌の方が……よほど恋らしいわね」
「……恋歌のつもりはないわよ、これ」
「あら、そう……?」

 こんなに綺麗で、優しいのに。
 両親に聞き続けた恋物語を思い出しながら、彼女が本当の恋の歌を歌う日を想い、くすりと笑む。
 そんなスバルの胸に、ひとすじの青白くまたたく流れ星が、やさしく、ゆるやかに、飛び込んできた。隣では、この空間を作り上げた歌い手が「まぁいいけれど」と同じように星空を見上げている。
 それを、やさしく、そっと。
 受け入れるように、いつくしむように、目を閉じて、その胸に抱きとめる。
 まるで、その星が自分の元に来るのを知っていたかのように。
 まるで、その星が自分の元に来るのを待っていたかのように。
 やがてやさしく瞬いていた流星は、ゆっくりとその瞬きをひそめて、スバルの体へと溶け込んだ。

 伏した瞼をゆっくりと開く。詩集の群れは、様々な言の葉を携えて、2人のすぐそこにまで迫っていた。

「正統なる闇の力、見せてあげる」

 そのうちの一冊をエメラルドが捉えた。まるで書架の中から一冊を選び取るかのような手つきで差し伸べられる、真紅の爪。選び取られることを待っていたかのように、その手に収まる詩集。――けれど、所詮、安い恋の詩。

(本当の恋の詩なら、きっとあんな簡単には引き裂かれないはずだわ)

 星明りだけが頼りのこの夜闇の中で、目を覚ますほどに美しいカーマインの爪。そしてその爪に次々と引き裂かれていく言葉たち。それらを横目で見ながら、

(……まぁ、せいぜい働いて頂戴な)

 ミーユイは再びその艶やかな唇を開く。
 言の葉を紡ぐこと、それがどういう事なのかを分からせてやろうと、視線を目の前に映した。
 彼女の目の前にも、また、ありふれた、聞き飽きたような、恋の詩。恋の占い。恋の物語。それらを紡ぐインクが、ふわりふわりと浮かび上がり、幾筋もの魔法弾となってその陶磁のような肌を汚さんとする。

―――焦がれ、紡ぎ、移ろい、破れ。
―――震え、振るい、奮う。
―――言えず、癒えず。
―――誓う。

「……っ」

 ………あと、少し。
 頬をかすめたインクを拭うことすらせず。つい先ほどまで言の葉だった一筋一筋の攻撃を、金色の瞳で追いかけては、時折その整った顔を歪ませて。唇は、絶えず言葉を紡ぎ続けていた。
 その背後に、ゆっくりと忍び寄るように、哀しい運命に引き裂かれる2人の、その最期を綴ったページを開いた物語が迫っている。例え虚構であっても、どんなにありふれていても。結ばれなかった2人の悲しみは、時として人を強く呪う力になるものだ。
 ―――だから、スバルは見逃さなかった。ミーユイのすぐ後ろに迫ったその悲恋を、蓄えられた哀しいちからを、捉え、引き離し、引き裂く。
 風圧に、ミーユイの桃色の髪が揺れた。
 ミーユイは、振り返らなかった。

(良い夜を、流れ星をくれたお礼……に、なってるかは分からないけど)

 表情の見えないミーユイの背を一瞥して、すぐにまた次の本へと視線を移した。彼女の歌う"本当の恋の歌"、それを紡ぐ邪魔はさせない。
 星の悪魔の美しい爪は、その鋭さを増していく。



●果樹を挟んで、南側と北側

「ちこくちこく~っ! すっごく甘いっていう果実の採集ツアーはこちらで……あっ、合ってるみたいですね!」

 部屋の中央に結実した果樹を視認するがはやいか、よかったー、とこの部屋に満ちる陽光のような笑顔と元気を振りまきながら、ピリカ・コルテット(Crazy*Sunshine・f04804)は果樹のある部屋に飛び込んできた。
 ………その底抜けに明るい笑顔の背後に、そりゃもうやばい量の本たちを引き連れて。

「あ、あの、あの……うしろに……!」

 続々と部屋に到着し始めた本だけでも信じられなかった。まさか本が魔物になるだんて。喋るだなんて。元気な救援の声が届いたかと思えば、おびただしい量の本の魔物を引き連れてきている。
 そのピンクの美しい毛並みをおもわず逆立てながら、シャトンは声の主とその背後を見た。つい先ほどまで自分が読んでいた植物図鑑の姿も、その中にはあるようだ。
 震えた声をあげるシャトンに、大きな赤い瞳をくりくりっと丸くしてピリカが首をかしげ、ぴょこっと後ろを振り返る。

「うんっ? うしろって――……ああっ! 本が飛んでいます! 何だかヤバい雰囲気ですね!?」

 じっとしてられないから本は苦手なんです! と慌てるピリカ、その一番近くに迫っていた一冊が大きくその拍子を開き、ページを鋭く研いだ。そこから一呼吸の間をおくこともなく、高速で刃が放たれる。
 完全な不意打ちに愛刀プリムを抜くのがやや遅れた彼女よりも早く、彼女の脇を抜けるものがあった。

 雷鳴が轟き、―――はらり、焼け焦げたページが地に落ちる。

「サァ、悪戯する悪い知識は倒しちゃおうネ」

 ゆらりと現れた影二つ。間に合ってよかったと藤色の髪を揺らして微笑むレイラ・エインズワース(幻燈リアニメイター・f00284)と、その傍らに立つ魔術師――彼女が喚びだした、彼女を生み出した者――の姿だった。
 先の本が表紙を開いた、その意味に気づいて彼女が魔術師の霊を召喚し、標的を伝え、魔術師がそれに応える。その短い間で出来ることは、並みの魔術師であれば相殺がせいぜいのはずだ。
 しかしピリカを狙っていた分厚い物語の本は、そのページはおろか、表紙からぶすぶすと焦げ臭い煙をあげながら、ただの本に姿を戻し、ほどなくして消滅した。

「……高速詠唱か」
「ご名答だヨ。この人が全力を出すためのお手伝いを、ちょっとだけネ」

 それを可能にするだけの実力を、形式は違えども同じく魔術を行使するものとしてか、興味深そうにリリスフィアがレイラを見た。にっこりと笑って頷くレイラに、負けてられないと彼女もまた口角を上げる。
 そうしている間にも次から次へと増えてくる本、敵は増える一方だ。
 焼け落ちた一冊の仲間への鎮魂の想いがあるのかないのかは果たして分からないが、それでも狂気の魔術師が落とした地獄の雷が、この場の戦いの火ぶたを切った事は間違いない様だ。
 それぞれがその白い肌に無数の殺気を感じながら、今一度、眼差しを本たちに向ける。
 大きく二手に分かれた本の群れ。それぞれが、思い思いにページをひらき、ページを研ぎ、インクを浮かび上がらせていた。

「戦うしかありませんわね、……もし、そこの貴女。どうか、共闘をお願いできませんか」
「はいっ、もちろんです! 頑張りましょうね!」

 ひゅん、ひゅんと音を立てて飛んできたインクを咄嗟に開いた日傘で防ぎながら、合流を果たしたピリカにシャトンが申し出る。愛らしい手の先に爪を出し、戦う意思を見せる彼女、そのローズクォーツの名前通り、甘く淡いピンクの毛並みは未だ健在だ。
 そのふわふわの毛並みに負けないくらいに大きなふわふわの尻尾をゆらめかせ、ピリカもまた元気に応える。今度こそ愛刀プリムを抜刀すれば、その紅の刀身にはこれまた甘く淡いピンク。無数の桜がひらりと舞った。

 リリスフィアとレイラ。
 ピリカとシャトン。
 二手に分かれた猟兵と本の大群。――その間に佇む、恋の果樹。

「女の子たちが迷宮に飲まれる理由は、恋の果実と……この"知識"でもあるわけか」

 その果樹と共に戦いの様相を見つめる、2色の眼差し。ははぁん、と吐息の混じった声を上げたジョンドゥは、どこからともなく聞こえてきていた声に、問いを投げかける。
 その声の主はこの本の軍勢のなかにいるのかもしれないし、いないのかもしれない。けれどそんな事はどうだってよくて、

「でも……いいのかい? ボクらを襲っても」

 ジョンドゥの影に気づいた一冊の本が、ページを開き、ゆっくり彼へと近づいていく。
 浮かび上がったインクは、恐る恐る愛を確かめる問いを投げかけた少女に、青年が答えを返すシーンを綴っていた。

 ―――ボクらはか弱い乙女じゃない。

 ぱちん、と瞼を下ろし、ミントキャンディを隠した。その答えを知るのは、怖くない。

 ―――恐れ知らずの猟兵なのさ!

 にやり、と口端を上げる。イチゴのキャンディが、物語の青年の言葉を捉えた。
 次の瞬間、派手な破裂音と共に、青年の言葉はパステルグリーンとパステルピンクに塗りつぶされる。だらだらとページからサイケデリックな色を垂れ流し、ばさりと恋物語は地に臥した。
 これで、青年が少女に与えた答えを知る者は、この場でジョンドゥただひとりとなった――わけでは、ないかもしれない。

「さぁ、"ボクたち"と遊ぼうか! ヒヒッ、ぜーんぶの本をボク色に染めちゃおう!」

 甘酸っぱいストロベリーの瞳、すーっと爽やかなミントの瞳。左右にひとつずつあったはずのキャンディは、いつのまにか増えていた。
 『MY AVATAR』。2人の"ボクたち"はジョンドゥと似た楽しげな笑みを浮かべて本の群れを見る。
 グリーンの髪をした男の子は、甘酸っぱい瞳を爛々と輝かせてリリスフィアとレイラの元へ。ピンクの髪をした女の子は、爽やかな瞳を煌々と輝かせてピリカとシャトンの元へ。
 カラフルな風船を片手に軽快な動きで戦いに飛び込んでいく"ボクたち"を見送って、ジョンドゥもまた他の猟兵たちへと迫るページへと、たっぷりとインクの詰まった風船を投げつける。
 ぱちゅんっ!ぱちゅんっ!と熟れた果実が爆ぜるような音が無数に響き渡り、戦場には色が溢れていく。

「おっと、これは……うん、助かるネ」

 ジョンドゥの呼び出した男の子の"ボク"が投げつけた風船が、レイラに迫っていた本を撃ち落とした。
 嫉妬の念。いじらしく醜い感情に呑まれた少女が堕ちていく様を綴ったページを開いた物語に、レイラが警戒の声をあげようとした直後の出来事だった。
 黒いインクばかりが魔弾が入り乱れていた戦場に、突如として現れた彩。最初は赤い瞳をぱちくりとさせて、しかしすぐにその意味を理解した。心強いアシストに頷き、得物を握り直す。
 ぽ、ぽ、ぽ。彼女の杖、ウィステリアに下がるカンテラに、藤色の炎が息づいた。

「紙なら、火には弱いかもネ?」

 自分の髪と同じ色をした紫の篝火――それは藤の花に似ながら、呪詛の色も映していた――が、本を焼く。

――――好きなの。好きだったの。愛しているの。愛していたの。
―――――――どうして、わかってくれないの。

 聞こえるはずのない、少女の断末魔が聞こえた気がした。放たれた炎はあっという間に燃え広がり、インクが焦げた匂いが充ちていく。
 時を同じくして、また別の猟兵が炎を操っていたこともまた、その加速を手伝っていた。

「本という事は紙! 斬るだけじゃなくって焼いちゃいましょう☆ 燃えるゴミの日スタートですっ!」

 明るく元気いっぱいな声で恐ろしいことをいうお姉さんがいたものだ。愛刀に狐火を纏わせる様子を見ながらシャトンは思った。しかしすぐそばから感じるその力強さは、間違いなく心強い。

「いっくよーっ♪ 桜剣開放(プリマベーラ)っ!!」

 たんっと勢いよく地を蹴って敵勢に突っ込み、目にも止まらぬスピードで淡い色の花弁と火の粉を振りまき舞う。その姿は、生命の輝きそのものだ。攻撃は最大の防御と言わんばかりに、立て続けに炎を纏った剣戟を繰り出していく。
 数冊の本は、燃え尽きるその前に、と何とか苦し紛れのインク弾やページの刃を放ち応戦する。しかし、ハイテンションに飛び回る彼女はそれをものともしない。

「……す、すごいですわ……」

 そのすさまじい熱波に時折せき込みながら、けれどシャトンは気づいていた。
 少しずつ、少しずつ、ピリカの肌や、服にインクが被弾していること。ページが彼女の服や肌を切り裂いていること。
 それでもなお、元気に飛び回る彼女のために、できること。

「こんなわたくしでも……彼女の力に、なれますでしょうか……!」

 胸に手を当てて、すぅ、と息を吸い込む。
 ピリカの猛攻と、いつの間にか現れたピンクの髪をした女の子の"ボク"が本たちの足止めをしているおかげで、シャトンの元までインク弾やカッターが飛んでくることがない。
 彼女が、甘く、優しい治癒の歌を奏でるのを邪魔するものは、いない。

 ―――どうか、どうか、負けないで。
 ―――これ以上、傷つかないで。

「おぉおっ!? こ、この歌は……っ!」

 オブリビオンに屈しない。
 戦いのさなかに届いた歌声は、猟兵たちに共通するその想いを盛り立てる。瞬く間に、ピリカの傷を癒していく。

「ありがとうございますシャトンさん! よーし、この力でまだまだ行っちゃいますよ、儒は滅すべしっ!!」

 ふぁいやーっ!! と一際元気な声をあげてプリムを握り直し、渾身の力で勢いよく振るえば、吹雪の如く花弁が舞い、業火が熱を上げ燃え盛る。
 ――――同時、部屋の熱が、ぐんぐんと、ぐんぐんと、上がっていく。

「あ、あの、頑張ってくださるのはとても嬉しいのですけれど……!」

 戦いの熱以上に部屋の温度をあげていくピリカの様子、そして異常に大気中に増えた二酸化炭素。あちこちから立ち上る煙もあいまったその息苦しさに、シャトンが戸惑ったような声を上げたその時だった。

「大丈夫、呪いの炎も熱い炎も、それにもちろん本も! まとめて水に流してあげる!」
「―――皆は、巻き込まれないように気を付けて、かな」

 少しだけいたずらっぽく付け加える声が、熱気と煙の満ちる部屋に響いた。彼女と戦場を同じくしていた猟兵たちが、どういう事かとリリスフィアを見る。
 そしてその誰もが、少女の片手に、災厄が集約していくのを目撃した。

「避けろ!!」

 彼女が呼び出したのもを、知ってか、知らずか。猟兵のうちの誰かが叫んだ。

 次の瞬間、迷宮の一室に、大量の水が押し寄せる。
 リリスフィアの呼び出した、轟き、唸り、咆哮する魔力の水。

 桜の炎、呪いの炎から逃れようと上昇する本も。
 カラーインクから己の色を守ろうと逃げる本も。
 あろうことか部屋の片隅、猟兵の歌声に聞き入ってしまった本も。
 闇に生きる者だけに優しい、星空の空間から抜け出そうとする本も。
 とある猟兵の、あまりのかわいさに硬直してしまった本も。
 グラジオラスの嵐に巻き込まれまいと身を固く閉じた本も。
 跡形もなく喰らおうとする巨腕に震える本も。
 背後から不意に襲い来るだまし討ちを警戒する本も。
 長い年月をかけて蓄えた知識(おたから)を盗まれまいとする本も。

 この部屋に集結した、ありとあらゆる、すべての書物の魔物たちを。

 ――――ひとおもいに、飲み込んだ。

 リリスフィアのオリジナルユーベルコード、『天体破局(スフィア・カタストロフィ)』。
 巨大な破滅――カタストロフィをもって、猟兵たちと書物の魔物たちの大群との戦いは、大詰め――カタストロフィを迎えたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『叡智の守護者』

POW   :    叡智の封印
【翼から放たれた羽】が命中した対象を捕縛し、ユーベルコードを封じる。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
SPD   :    叡智の斬撃
【鉈】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
WIZ   :    叡智の風刃
レベル×5本の【風】属性の【羽】を放つ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠マユラ・エリアルです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 ややあって、ようやく水の引いた部屋。

 ある者は洪水の直撃を受け、濡れた服や髪を絞っていた。
 ある者は何らかの方法で災厄を回避し、
 またある者は濡れた仲間を乾かすのを手伝っていた。
 そしてある者達は先ほどまでの戦いぶりを互いに評価し合い
 そしてある者達は「これで終わりではない筈だ」と周囲への警戒を怠らなかった。

 その警戒を怠らなかったものだろうか。
 静かにしろ、来るぞ、と声がした。

 ぴしゃり、ぴしゃりと足音に水の音が混じる。

『ずいぶんと、暴れまわってくれましたねぇ……引きちぎるだの、燃やすだの、果てには水に濡らすだの。まったく、まったく、いやはやまったく。本は大事に扱いなさいと教わりませんでしたか』

 やれやれとため息交じりの声。続いて、ずるり、と鉈を地面に引きずり、持ち上げ、ずしり、と片手に打ち付ける音。

 どこから現れたのだと狼狽える者。
 首から上の異形を凝視する者。
 何も言わずに武器を構える者。

 猟兵それぞれの反応を見回して、まぁいいでしょう、と恭しく一礼をする。

「これはこれはお初にお目にかかります。お察しの通り、ワタクシこちらの迷宮を住まいにしておりまして」

 ……ほほ、とどこか品を感じさせる笑い声。

「この果実が気になって仕方ないのでしょう? えぇ、えぇ、無理もありませんとも。だってこんなにも甘い香り。大事に大事に、愛情込めて育てましたからなぁ……来る者来る者、ありとあらゆる"害虫"を、それはもうあの手この手で、本たちと一緒に追い返しましたとも」
「ですから、ねぇ、この老いぼれの小さな楽しみ。どうか摘み取らずに帰っては――……えぇ、くれませんよねぇ。えぇ、えぇ、存じておりますとも」

 思い思いの武器を構え、自分を見据える猟兵たちをもう一度見回して、再びやれやれとため息交じりの声。瞼を下ろし、再度、ずしりと鉈を打ちつける。

 そしてゆっくりと瞼を開けば、異形の双眸は、鳥類の、獲物を見る時のそれとなっていた。

 果樹は、変わらずそこに在り、その実に滴るしずくを、陽光に煌かせていた。
レイラ・エインズワース
アハハ、本は大事だケド、躾のなってない知識はいただけないカナ
こんなエサでいたいけな学生を釣るなんてあんまりイイ趣味じゃないヨネ
こう見えて私、ハッピーエンドが好きなんダヨ
やるならとことん甘くロマンチックに
今を生きる子には、幸せになってほしいカラ
過去の幻は過去らしく、こっちで私と遊んでヨネ?

サァサ、奏でるのはエインズワースの魔術
【高速詠唱】は謡うように、奏でるように
【全力】の魔力と、今まで奪われたモノの【呪詛】を籠めて
角度とタイミングをずらしながら殺到させるヨ
羽が出てるときは、それを射抜いて焼き尽くすように
叡智には至らずとも、100余年の知恵は軽くはないんダヨ?

アドリブ・絡みは歓迎
好きに動かしてネ


ミーユイ・ロッソカステル
※引き続き、スバルと行動を共に
もちろん他の猟兵との絡み・アレンジも歓迎

あぁ、もう! 頭の中でまとまりかけている所に……!
いいところで邪魔しないで頂戴、フクロウ男風情が!

罵声を浴びせながら、戦列に加わり
ぶつぶつと呟きながら、敵の攻撃を躱して

――――可能なかぎりリクエストには、答える主義なの。
そう言って【歌唱】するは、「恋路の迷宮 第1番」。
始めて紡いだ恋の歌、今はまだ自身で理解することはないけれど……それでも、此度の事件において「幻の果実」にすがりたいと願う少女たちの想いを、受け止めて、詩に綴る。

……さて、どうかしら
身を焦がすほどの恋なんて、したことないもの

さて。
お気に召したかしら、聴衆の皆様?


スバル・ペンドリーノ
※引き続きミーユイと行動
他の絡み、アレンジも歓迎

あの手この手で追い返し、ね
おかしなことを言うのね、フクロウさん
本当にひっそり菜園を楽しんでいるだけなら、こんな風に猟兵が押しかけることなんてなかったでしょうに

引き続き、爪にオーラを宿してミーユイの前に立ちましょう
優先するのは攻撃回数。手数で注意を惹いて、必要なら盾にでもなるわ
……創作の邪魔は無粋というものよ。物語の守護者を気取るなら、分かって頂けない?

完成した歌に、目を細めて耳を傾けて
「……素敵ね。とっても素敵。恋人たちに辛い試練があったって、最後は希望に向かって欲しいもの」
貴方は、違うのかしら。
重視するのを攻撃力に切り替えて、一気に畳み掛けるわ



●スイート・メロディ・ラビリンス

 とぎれとぎれ、聞こえるハミング。
 髪と同じ色の唇。閉じるたび、開くたび、ぽつり、ぽつりと音符が零れていく。
 ――今、恋の詩の、恋の物語の、恋のおまじないの、あまねく恋にまつわる記述のインクを溶かした水を踏みにじった、オブリビオンの足音は。

「あぁ、もう! 頭の中でまとまりかけている所に……!」

 ひとつひとつ音を探り、言の葉を手繰り寄せていた、形のいい唇。その動きがぴたりと止まったかと思えば、歪み、不機嫌を露わにする。
 からかうような笑みとは裏腹に、こつん、こつんと、ゆるやかなリズムで、慌てず、急かさず、歌の完成を待ち、導いてくれたメトロノーム。隣にいる彼女のそれとは似ても似つかぬ足音に、ミーユイは悪態をつかずにはいられなかった。
 彼女のハミングが止むのと同時、その歌の完成を心待ちにしていたスバルもまた、叡智の守護者を睨みつける。その爪には、やはり息を呑むほどの、怒りにも似た色が灯っていた。

「……創作の邪魔は無粋というものよ。物語の守護者を気取るなら、分かって頂けない?」

 続けざまに描かれる、紅蓮の軌跡。その数5本。左右で10本。
 時には躱し、時には鉈で受け止め、そして時には羽毛を散らし。けれども散った自分の一部をちらりと追いかけた異形の瞳は、すぐにスバルにぎょろりとその焦点を合わせる。それは、引き千切られ、引き裂かれ、燃えて、水浸しになった、ありとあらゆる『恋』を、「まぁいいでしょう」の一言で"終わらせた"視線にとても良く似ていた。

「おやおや、これは手厳しい。けれどもいやはや、絵になりますなぁ。見目麗しいご友人を護り戦う、これまた見目麗しいお嬢さん」
「……っ! 口の減らないフクロウさんね!」

 依然軽口をたたく余裕のある守護者に、膝丈の星空を翻し、食い下がる。
 しかし成程、このいけ好かない鳥頭が言う事は間違ってはいない。自分の役目は、あの子を、あの子の歌を護る事。ならば奴の、これまたいけ好かない事に自分の瞳と同じ色をしたあの視線が、自身を捉えている限りは、

(……必要なら、盾にでも)

 次から次へと繰り出されるスバルの爪撃、その手数に対抗すべく、叡智の守護者もまた手数でもって肉薄する。
 スバルによって散らされたのとは比べ物にならないほどの、無数の羽。はらりふわりと空気を孕んで舞ったかと思えば、――鳥類が獲物を見る時の視線にも似た、鋭利な切っ先をぎょろりと向けて。
 放たれた羽根、その一本一本が、風を切る。 その一本たりとて、あの子に、

「―――届かせるものですか!」

 言の葉の力でもって戦う友人に倣うように、その決意を言の葉に乗せた。
 10の赤でもって、薙ぎ払い、打ち払う。
 けれども10では届かない。手数を増やして、15。さらに30、40、50――まだ、まだ、放たれる風刃が尽きない。
 ……けれど、1本。 されど、1本。 わずかに爪が届かずに、たった1本。
 これまでに猟兵たちが紡いできた、自分の、自分らしい戦い方をする、というその『叡智』。すなわちユーベルコードを封じる羽が、スバルの視界の端を抜けていった、その時だった。
 かくなる上は身を挺してその封印からミーユイを、彼女の紡ぐ歌を護ろうと、スバルが左足を一歩下げるよりも早く。
 その羽の矢を、射抜くは紫。

「継ぐモノが残り続ける限り、見果てぬ夢はないんダヨ。 謡うモノが紡ぎ続ける限り、旋律が途絶える事はないのと同じサ」

 そのセリフの合間、絶えず"謡う"ように紡がれる詠唱が止む気配も、それによって放たれ続ける紫焔を纏わせた槍の勢いが止む気配も、一向にない。
 エインズワース、その家に伝わる100余年の知恵を、丁度100の、冥の槍に込めて。それを放つ度に、彼女の長い藤色の三つ編みが揺れた。
 その揺れが一通り収まったところで、ゆらり、今度はランタンの灯が揺れるような声。

「だから紡ぐのを止めさせちゃいけない――……止めさせないヨ。そうデショ?」
「えぇ……そうね、その通りだわ。 ……ありがとう、レイラ」

 振り向けば、ひとつ屋根の下の見知った顔。心強い援護射撃に、先刻の書物の群れもかくやというほどの夥しい刃たちは、すべて灰と化していた。
 彼女の歌を、待つ者として。自身もまた、奏でる者として。
 緑と赤。視線が交わり、微笑と共に頷き合う。そしてそれぞれが、叡智を司る異形を眼差した。返される視線は、依然として落ち着き払って、やはりどうにもいけ好かない。

「お嬢さんがおひとり増えましたか。ほほ、ほほほ。いや、いや、眼福ですなぁ。そしてその麗しいお顔に傷をつけるのは、いやはや何とも、また心の痛む……あぁ、そう、まるで熟れた果実を摘み取るような気分で――」

 カツン。
 ――――黙りなさい。 と、ヒールの音がこだまする。

 そこには万雷の喝采もなく。厳かに開く幕もない。
 それでも構わず、ダンピールのシンフォニア、ミーユイ・ロッソカステルは舞台に上がった。スバルとレイラは、待ち望んだその登壇に、黙って彼女のための花道を開ける。
 お喋り好きの老人というものは、往々にしてその台詞を遮られるのをひどく嫌うものだ。このオブリビオンもまた例にもれなかったか、俄かにその表情を曇らせ、羽ばたき、3本の羽刃を放つ。
 ――が、音楽家というものは、得てしてその聴覚も研ぎ澄まされているもので――また往々にして、自らの演奏を邪魔されるのをひどく嫌うものだ。
 耳障りな音を立てて飛来する羽。その全てを、金色の瞳で捉え、とろり艶めく髪に隠れた耳で捉え、事も無げに躱す。
 羽刃は、白い肌に赤を走らせることもなければ、桃色の髪1本を切り取ることさえなく。
 たん、たん、たん、――ワン、ツー、スリー、――と、地面に突き刺さった。

「――可能なかぎり、リクエストには答える主義なの」

 そう言ってスバルをちらりと見て、スバルが何か返すのを待たずに、逸らす。

 静まり返った陽だまりの部屋。
 喝采と幕はなくても、スポットライトと聴衆は在る。

 ―――焦がれるほどに苦いのだ
 ―――痺れるほどに甘いのだ

(……素敵ね)

 待ちわびた恋の歌。資料室にいた時から断片的に聞こえていたハミング、少しずつ、確実に綴られてゆくのを感じていた譜面。その完成に、スバルは目を細める。
 本物の恋というものは、まだ、分からないかもしれないけれど。その胸に抱きとめた青白い流れ星が、やさしく脈打ち、温かなものを伝えてくるような気がした。

 ―――破滅を超えて希望へ進め
 ―――命短し恋せよ乙女よ

(こう見えて私、ハッピーエンドが好きなんダヨ)

 ウンウン、と頷きながら、レイラもまた目を閉じてミーユイの歌声に聞き入る。時として破滅を招く恋もまた、世には存在するのだろう。100年をも超える長い時の中で、彼女が目にしてきた数多の物語の中に、あるいはそんなものもあったのだろうか。
 けれど、どうせなら……恋の果実に夢見る乙女たちの恋は、希望の物語であってほしい。『今』を生きる人の子にとって、それは余りにも短すぎるのだから、せめてその中では――とことん甘く、ロマンチックに。

「……とっても素敵。恋人たちに辛い試練があったって、最後は希望に向かって欲しいもの」

 空気の震えが収まるのを待って、うっとりと口を開いたスバルに、レイラが頷く。けれどもその恋の歌を紡ぎ、歌い上げた本人は1人、自分の役目は果たしたと言わんばかりに黙っている。
 その様子にスバルはあら、と小さく首を傾げて、

「貴女は、違うのかしら」
「……さて、どうかしら。 身を焦がすほどの恋なんて、したことないもの」

 恋の歌なんて初めて紡いだのだし、そもそも自身の経験ではなく、あの幻の果実にさえもすがりたいと願う少女たちの想いを受け止めたのに過ぎないのだと緩く首を振る。

「マァマァ、人生なんて何があるか分からないものダヨ。身を焦がすほどの恋、しちゃう時だって来るカモしれないヨネっ!」

 そんなやりとりを見ていたレイラは、にへぇ、とどこか嬉しそうな笑みを浮かべる。
 恋を知らずとも恋を歌い上げたこの少女が、いつか焦がれるほどに苦く、痺れるほどに甘い恋を知ったとき。一体どんな歌を歌うのだろうか――そんな事を思わずにはいられなかった。
 けれども当の歌い手はそんなレイラの胸の内など露知らず、そしてその言葉もさらりと受け流し、ただひとつ、問う。

「……さて、ね。 そんな事より」
「―――お気に召したかしら、聴衆の皆様?」

 乙女の淡い恋心から、激しく情熱的な恋心へとうつろう髪。それすらも舞台衣装であるかのようにふわりと揺らし、ミーユイはスバルとレイラを振り返る。

「えぇ、もちろんよ……本当に素敵な歌だった。……さぁ、踊りましょう」

 再びその爪に、力強く鮮烈な赤を纏う。つい先刻までの激しい応酬などなかったかのように、スバルの顔からは疲弊の色が消えていた。
 その隣でレイラもまたにっこりと笑って頷く。

「モチロン! すっごく良かったヨ! 甘ァい恋の迷宮の出口が破滅なんてダメダメ。ハッピーエンドを届けなくっちゃネ!」

 そして杖のランタンに呪詛の焔をゆらりと灯し、過去の遺物と対峙する。
 乙女、3人寄れば――、頼もしい。
 誰からともなく、示し合わせたように。紅い爪が迫り斬り裂き、槍の嵐が吹き荒れ穿ち、甘い歌声が響き、それらを鼓舞する。

 少しずつ、けれど確実に。刃となって飛び交う羽よりも、散らされ、撃ち落とされ、燃え尽きる羽が、その数に追いつき始めていた。


 ―――時に。植物に歌を聞かせると、その生育に良い影響をもたらすという俗説がある。
 恋心に突き動かされ、ハッピーエンドを目指し、困難へと立ち向かってゆく少女の歌を聞かされた果実というのは、果たしてどんな味がするのだろうか。
 ―――その歌い手が、いつか身を焦がすほどの恋を知ったとき、同じ歌を再び聞かせれば。
 また味が変わることも、あるのだろうか。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リリスフィア・スターライト
先程は少しやり過ぎてしまったけれど
気を取り直して迷宮の主を懲らしめよう。

相手の羽は厄介そうだし迂闊に近寄らず
エレクトロレギオンを呼び出して羽による
攻撃を凌いでから隙を見て攻勢に出るつもりかな。

戦いが無事に終わって果実が
残っているなら欲しい人にあげるつもりだよ。
分け合うのは難しそうだしね。

「害虫呼ばわりはさすがに気持ちのいいものではないけど、余程大事な果実なのかな?」
「甘い物を独り占めしても美味しくないからね」


雪華・グレイシア
さて、ようやく見つけたお宝だ
黙って帰るわけにはいかないさ
御老体の楽しみを摘み取るのは心苦しいけれど……なんて、そんな物騒な物を構えた輩に思うわけないだろう?

これも怪盗の流儀ということで予告状を【投擲】
予告する盗みの対象はその物騒な鉈
宣告するルールはいつものようにボクが予告した物を盗まれないこと
予告する。キミのお宝……頂くよ
【残像】【逃げ足】【ダッシュ】【地形の利用】【フェイント】
怪盗のスキルを駆使し、羽を掻い潜って懐に潜り込んだら鉈を【盗む】

これを奪われたら斬った張ったが得意な輩とのダンスは一苦労だろう?

【アドリブ、他の方との絡みは歓迎】


エスチーカ・アムグラド
……ひどいですっ!
皆さんこの果実に夢見て、憧れて、それで手を伸ばしたんです!
それを……害虫なんて……!
チーカ、もう怒りました! 絶対にこのオブリビオンを倒して、ここを安全にして、それでちゃーんと情報を持ち帰りますっ!

……!
風が相手なら、チーカは負けるわけにはいきません!
沢山羽を放ってくるようですが、チーカの【烈風】で全部斬り落とすつもりでいきます!
例えオブリビオンまで届かなくたって、あちらの攻撃を阻止できれば他の皆さんが戦いやすくなるはずです!
チーカは風とお友達ですし、『集中して、精霊の声に耳を傾けるの』って、【属性攻撃】のコツはお母さんから教えてもらいましたから!


浮部・真銀
本は大事。ワタシにもわかります。
記憶が数年しかないワタシには、記録は最重要事項の1つ。

しかし大事な”叡智”なら、こんな所に置いておかないはず。

‥‥わかっていたんですよね?この蜜に虫が群がるのを。
‥‥知っていたんでしょう。その虫はか弱いのも。

残念ながら虫は虫でも獅子身中の虫。
その身を頂くと致します。

先輩方に、あの鉈と打ち合える人はいないようですね。
ならば必然的にワタシが前に。
【ブラッド・ガイスト】化した右腕で鉈の動きを邪魔します。
封じられても、サイボーグの右腕ならきっと。

‥‥美味しそうな、血が流れる相手ですけども。
ぐっと堪えて、自分の役割に。
先輩方に大怪我はさせませんよっ!

アドリブ・連携大歓迎!


西園寺・メア
ケダモノようなオブビリオンと比べたら比較的マシなように思えましたが、あの言いぶりだと犠牲者が既にいるようですねぇ……

呪詛を用いて恐怖か陰鬱な負の感情を与え、アビスアンガーで攻撃しますわ
深淵より来たれナイトメア――さぁ身をもって恐れを知りなさい


お嬢様思考、アドリブ歓迎


ネグル・ギュネス
知らんな。
貴重な書物ならば、まずは学園に申請を上げ、然るべき管理を得よ。
手続きを怠った貴様の手落ちだ。

まして甘い言葉で女子を誑かした貴様だ、手落ちも手落ち。

落第、だ!


愛刀【桜花幻影】を手に挑む
刀を振るうて【衝撃波】を放ち、書物の雨嵐で相手の動きを阻害にかかろうか
なるほど速い鉈の一撃は、【残像】【見切り】でいなし、逆にユーベルコード【剣刃一閃】で、叩き斬る


さて、名乗るのを忘れていたか。
私は───

さて、何者かな。

ここの書物にも、私の招待や記憶の記載はなかったよ。

品揃えが薄いな、叡智のなんとやら。


あと恋愛云々も学びたかったのだが…むぅ。


【アドリブ・連携・他絡み歓迎です。】


氷室・癒
鳥、鳥です! フクロウです! しかもかっちかちに硬い格好をしています!
そういうのは良くないです! 甘いお話を求めてきた人に失礼ですっ! がっかりです! どうせならタキシードが相応しいですよっ!
ちゃーんと甘い甘いお話になるように、いやしちゃんが悪いフクロウさんをやっつけます!


そちらにも翼があるように、いやしちゃんにも自慢の黒い翼がありますっ!
どんな攻撃だって、まっすぐ飛ぶだけでひょいひょい避けちゃいますっ!
ひょこっと現れて、ぱぁーーっ! って笑顔になればきっとびっくりしますっ!

びっくりしちゃったのならそのままとおーっとぶつかって逃げます!
いやしちゃんに目を奪われている間に、後は他の人に任せます!



●スイート・スイープ・ラビリンス

 戦いの地には、様々なモノが落ちていた。
 先刻まで猟兵たちを襲っていた無数の本の残骸。
 それを生み出したピンクの花弁。ばらまかれた予告状。
 それら諸共呑み込んだ魔力の洪水、その名残である水溜り。
 あるものは鋭く突き刺さり、またあるものは鉈にいなされでもしたか、力なく伏す冥の槍。
 そしてあるものは焦げ付き、またあるものは血に染まった、無数の羽毛。
 ……その全てが、この迷宮での戦いの軌跡だ。
 地面に散らばる様々なものをその蒼い瞳にしかと焼き付け、真銀は叡智の守護者を見据える。

「‥‥わかっていたんですよね? この蜜に虫が群がるのを」

 相変わらず、その右腕に血を捧げる事に躊躇うそぶりは、一切ない。鈍い音を立てながら、獲物を前に、得物を構える。
 その傍らで100体にも届こうかという数の機械兵器の軍隊を呼び出しながら、リリスフィアもまたオブリビオンを見やった。

「余程大事な果実なのかな、……私たちを害虫呼ばわりするくらいに」

 さすがに気持ちのいいものではないよ、それ。と冷やかな声と視線を送りながら。
 けれどもそんな声も視線も意に介さず、どこか喜色すら漂わせ、守護者は緑の瞳を細めた。

「ほほ、大事に大事に育てて参りましたからなぁ。それはもう会心の出来の甘い蜜。 それにご存じですかな、お嬢さん。虫が群がるという事はですな、つまりその実が甘く芳醇な、良い出来であるという裏付けにもなるの

ですよ」
「ですから可愛い果実に"害虫"が寄ってくるというのは、追い払わなくてはならない反面……非常に喜ばしい事でもあるのです! ほほほほほっ!」

 かなりの量の羽毛を失って、また所々から赤を滴らせて。今なお、その饒舌は健在だった。自分の好きなものを語れる機会とあらば、それを見逃さず、少しも余さず、心行くまで語りつくしたいのだろう。
 しかしどうにも耳障りなその笑い声に、エスチーカが、メアが、癒が、口々に不快の色を露わにする。

「皆さんこの果実に夢見て、憧れて、それで手を伸ばしたんです! それを……害虫なんて……ひどいですっ!」
「ケダモノのようなオブビリオンと比べたら、比較的マシなように思えましたが……」
「鳥です! フクロウです! しかもかっちかちに硬い格好……甘いお話を求めてきた人に失礼です、がっかりですっ! どうせならタキシードが相応しいですよっ!」

 逆鱗のポイントは猟兵の数だけ存在するようだ。
 ―――だが、

「絶対にあなたを倒して、ここを安全にして、それでちゃーんと情報を持ち帰りますっ!」
「悪夢をみせてあげる。……その身をもって恐れを知りなさい」
「ちゃーんと甘い甘いお話になるように、いやしちゃんが悪いフクロウさんをやっつけます!」

 勇気をくれる愛剣を握りしめる。
 呪詛を編み悪夢を呼ぶネクロオーブが妖しく光る。
 自慢の黒い翼を大きく広げる。
 『絶対にこのオブリビオンを倒す』という思いは、ひとところに。
 自らを眼差す力強い視線たちに、当のオブリビオンほう、ほう、と興味深そうに彼女らを見回して。

「そちらのオッドアイのお嬢さんはいざ知らず、小さな貴女は蝶の羽、大きな貴女は鳥の羽。なるほど、なるほど、害虫に害獣というわけですか」

 ――ならば、"駆除"しなくては。
 高らかな笑みは止んだ。
 3対1、距離もあれば、数の利もまた猟兵に。ならばその差を埋めるのは、やはり叡智の風刃。確実に数は減っているはずなのに、未だその勢いは衰えない。
 一陣の風すら吹きこむ事のないこの迷宮の最奥で、軽快に風を切る――……音は、しかしてもうひとつ。

「当たりません当たりませんっ! だってぼくの翼は、黒くってかっこいーんです!」

 ぎゅんっ!と真っ直ぐに飛びだしたのは癒だった。
 右から左から正面から、たまーに死角のうしろから。次から次へと来る羽を、まずはひょいっと手堅く避けて、続いてぴょんっと元気に避けて、更にはささっと華麗に避けて、最後にきゅんっと避けたらゴールっ!
 開いていたはずの間合いはぐんぐん詰まって、敵の姿はもう目の前。

(何だ、何が来る……剣戟か、魔法か、それともその細い腕っ節が武器なんて事は、まさか……いやしかし。ありとあらゆる可能性を無いと言い切るのは、余りにも愚か……!)

 あまりにも。あまりにも真っ直ぐすぎる突進に、オブリビオンはその叡智を結集させ、いかなる攻撃が繰り出されようとも打ち返してみせんと鉈を構え、――鳥の目は、獲物を見失った。

(馬鹿な、さっきまでヤツはあんなに間近に……どこだ、どこに、)

「はいはいはーいっ、いやしちゃんはココですよっ!」

 それは満面の笑みで現れた。

「なッ……!?」
「とおーーーーーうっ!」

 飾り立てない、ありのまま。あかるくあかるい美少女すまいる。
 美少女すまいるを浮かべた美少女は、その美少女すまいるを一切崩すことなくかっちかちの硬い格好に突撃し、再びその黒い翼を広げ羽ばたいた。

「うふふふふっ、びっくりしましたかっ? びっくりしちゃいましたね! ふふん、いやしちゃんの可愛さに動けなくなっちゃってるはずですっ!」

 それじゃあ後はお任せしちゃいますっ!と美少女ウインクをぱちーん!とキメて、オブリビオンの懐から、まるで籠の鳥が逃げ出すかのようにスルリと抜け出ていく。
 その叡智を結集させた所で測れぬものなど、世の中にいくらでもあるのだろう。
 例えば初恋の甘酸っぱさ。例えば失恋のほろ苦さ。
 例えば甘い甘いお話を望む美少女の、花咲く笑み、その眩しさ。
 ―――叡智の守護者、何するものぞ。美少女を害獣呼ばわりした罪は重い。
 完全に意表を突かれ、ただただその笑顔を、ウインクを、呆然と追いかける。その視線は獲物を捉えるためのそれに戻し、慌てて鉈を振り被った頃には、癒はとっくにその射程から抜け出していた。
 空ぶった鉈はしかし、鈍い音をたてて地面にめり込む。平静さを欠いているからこその我武者羅な一撃、まともに喰らったら一溜まりもない、と猟兵たちは息を飲んだ。

「……ほほ、……ほほほ。 ずいぶんとコケにしてくださって、いやはや、いたずら好きなお嬢さんだ」

 地面からずるりと引き抜かれた鉈から土砂が落ちる。それらを巻き込みながら、また、羽の刃は風を纏いだした。
 その目に、声に、悔しさを滲ませながら、苦し紛れに守護者が笑う。
 その視線は、背を向けて遠ざかっていく癒に釘づけだった。

「後ろを向いているのなら、避けれないのではないですか!?」
「―――させませんよっ!」

 風と風がぶつかり合い、互いにその勢いを殺し合う。その場に残るはただの空気。羽刃はそれにふわりと乗って、砂ぼこりの中、落ち葉のごとく落ちるのみ。

 「風が相手なら、チーカは負けるわけにはいきません! いやしお姉さんには……いいえ、他の皆さんにだってその風を届かせません!」

(――害獣の次は、害虫か)

 小さくともはっきりと背中に聞こえた声。姿を見ずとも、その声の主の想像はついた。
 あぁ、フェアリーが一匹いましたね、と呟くその身体は、依然逃げていく癒の背中を捉えている。……捉えているまま―――ぐるり。180度、首だけが回る。
 獲物を逃してしまった狩人の苛立ちを帯びた冷たい視線が、剣を握るエスチーカを捉えた。
 何故、その小さな身体にぴったりの小さな剣から放たれたであろう斬撃で、これほどまでに遠く離れた羽刃を、それも全て撃ち落とせたのか。……ほぅ、と喉の奥を鳴らす。

「……"風"に、自信がおありのようで」
「……お友達ですから」

 そのやりとりの間にも、再び2人の周囲には風が巻き起こっていた。
 いつ放たれるか分からない、先ほど癒に放たれたのよりもずっと多い、数え切れないほどの羽の刃がオブリビオンの周囲に浮遊するのを確認して、エスチーカは目を閉じる。

「ほほ……さすがにこの数は撃ち落とせないでしょうね、さては自棄にでもなりましたかな?」

(集中して、精霊さんの声に耳を傾けて……)
(大丈夫。だってだって、チーカは風に愛されているんです!)

 守護者の笑い声を遮るように、頭の中で、心の中で、お母さんの優しい声がする。
 目を閉じて、愛剣グラディオラを握り直す。

「お望みなら……えぇ、えぇ、お仲間もろとも、斬り刻んでさしあげますとも!」

 耳障りな金切り声を号令に、エスチーカに、癒に、メアに、真銀に、リリスフィアに。その場にかたまっていた猟兵全てに、四方八方、縦横無尽に、風の刃が斬り裂きにかかる――事はなかった。

「今ですね、精霊さんっ!!」

 エスチーカの耳に確かに聞こえた、風のささやき、精霊の声。小さな身体で小さな剣を、力一杯振るう。
 金属音を伴わないその斬撃は、羽一枚一枚を丁寧に、確実に、捉え、撃ち落とした。

「……先ほどの本の群れの先導と言い、今この時と言い……、本当にその小さな身体に秘めたパワーははかりしれませんわね」

 ふわりと足元に落ちた、最早刃でも何でもない羽。黒いドレスに包まれたおみあしでちょい、とそれを蹴りながらメアが呟き、叡智の守護者の表情を盗み見る。
 焦燥、不安、戸惑―――恐怖。

(……あら、良い表情ですこと。 これならいけそうかしら)

 全ての刃を無効化された事に呆然としているオブリビオンは、メアのそんな視線に気づくだけの余裕も失っていた。そんな彼に、お嬢様はそっとネクロオーブの妖しい光を向ける。

「深淵より来たれナイトメア――」
「……っ!? なんです、これは……! あ、…あ……やめッ……やめて……ワタクシの、大事な、大切な…」
「…う、あ……あァ…それは、ワタクシの…ッあ、……あ゛ぁァア゛ぁアあッ!!!」
「さぁ、身をもって恐れを知りなさい」

 その場にいた猟兵たちには、メアの生み出したそれはただの樹木にしか見えなかった。果たして、恐怖と苦痛に歪むその鳥の目には、何が見えているのだろうか。何に見えているのだろうか。
 ドッ、と鈍い音と共に放たれた闇の刃が、オブリビオンの脇腹を抉る。軍服を斬り裂き、羽毛を散らし、びしゃりと汚い音をたてて赤黒い血が撒かれる。

(――‥‥美味しそうな、血)

 こくりと唾を飲みこんだ音が誰かに、特にすぐ傍にいたリリスフィアに聞こえてしまっていやしないかと、真銀は慌てて右腕を構え直す。

「たたみかけるなら今だね。先ほどは少しやり過ぎてしまったけれど……でも、あの鳥を懲らしめるのに、やりすぎって事はないんじゃないかな」

 呼び出した軍隊、そのほとんどが消滅することなく攻撃に割けるのは嬉しい誤算だったか。ちらりとリリスフィアの様子を伺えば、攻撃の機をうかがいながら、何やら小声で呼び出した機械仕掛けの軍隊の指揮を執ってい

た。
 ……どうやら真銀の杞憂だったようだ。今度は胸を撫で下ろしたのがバレないようにと、やや忙しい時間を送る。
 不意打ち、相殺、精神を蝕む攻撃。そのどれにも該当しないこの巨きな力を振るい、あの鉈の一撃を食い止められるのは、恐らくこの場では自分だけだろうと一歩前に出た。
 片膝をついて苦悶する姿を見る以上、それに宙を仰ぎ見れば、フェアリーの剣士が未だ気を抜くことなく風の声に耳を澄ませている以上、距離を詰めるのに鬱陶しい、あのまどろっこしい無数の羽の攻撃を警戒する必要も

一先ずはなさそうだ。
 そんな真銀の後ろに、わらわらとリリスフィアのエレクトロレギオンが続いた。

「この子たちがサポートするよ。護衛も攻撃もこなしてくれる。……耐久性はちょっぴりないけど、きっと力になれるはず」

 頼もしいでしょ、と笑うリリスフィアに、助かります、と笑顔で返し、改めて真銀は戦場の地を見つめる。
 無数の本の残骸。
 ピンクの花弁。予告状。
 水溜り。
 冥の槍。
 ――先刻よりも、ずいぶんと増えた無数の羽毛。
 ――今しがた増えた、鉄の臭い立ち上る血溜り。
 ――鉈を杖のようにして立ち上がろうとする、オブリビオン。
 記録する。記憶する。記録した。記憶した。
 ……それでは、

(……その身を頂くと致しましょう)

 真銀の、腹を空かせた右腕が。
 その全てを一掃せんとばかりに大きく、大きく、口を開いた。


●スイート・スティール・ラビリンス

 ガキン、ガキン、―――ガキン!
 真銀の右腕が、何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も、守護者の巨大な鉈――叡智の斬撃に喰らいつく。
 何十冊もの書物の魔物を一飲みにしたその右腕は、しかして未だ、"食事"に有りつけていなかった。

「‥‥流石に、そう簡単には食べさせてもらえませんか」

 至近距離で打ち合っては、この巨腕を封じようと飛んでくる羽に警戒し、そしてまた喰らいつく。
 無数の羽の刃はないものの、封印の羽もまた厄介なことに変わりはない。まして本一冊一冊、ページ一枚一枚に時間を割いていられないスタイルの戦い方。羽が一枚ふわりと飛来したところで、それに気を取られるのも煩

わしい。
 ……故に、リリスフィアのサポートが欠かせなかった。

「羽、くるよ! 真銀を護って!!」

 不意打ち気味に放たれた封印の羽。
 リリスフィアの掛け声に機械仕掛けの兵隊が反応し、即座に真銀の盾となり、消滅した。
 先ほど、空ぶり、派手に地面にめり込んだ巨大な鉈。
 そして何より、迷宮の壁を壊し進めるほどの圧倒的なパワータイプのはずの真銀と、これまでに蓄積しているはずのダメージを感じさせないほど互角に打ち合う敵の姿を目の当たりにして、ここで彼女のパワーを失う訳に

はいかないとリリスフィアは額に汗を滲ませる。
 とはいえ一度に出せる機械兵器の数には限りがあり、100体近く呼び出したはずのその数は、封印の羽は勿論、その他あらゆる攻撃から真銀を護り、あるいは空ぶった鉈の餌食となり、残り20体を切ろうとしていた。

(‥‥このままじゃ、)
「マズいかも……?」

 打ち合いの中僅かに過った思いに、ぽつりと漏れた独り言に、焦りと緊張の色が混じった、その時だった。

「――あの鉈を盗めばいいのかい?」

 黒いマントを、時折ここまで飛んでくる衝撃波に揺らめかせ。
 いつの間にか彼、グレイシアは、リリスフィアの隣にいた。
 あるいは雪が地面と触れあう時くらいの足音はさせていたのかもしれない。

「……盗めるの?」
「怪盗だからね」

 静かなウインクをリリスフィアに残し、やはり静かにその脇を通り過ぎる。
 とはいえあの激しい打ち合いの中に潜り込むのは、少々骨が折れるか。しかしそこで引き返すのは怪盗の名折れ、いつか本当に盗まなくてはならない宝を前にした時、そんな事を考えるだろうか――否。
 ……ならば、今目の前にある盗むべきものにだって妥協をするべきではないのだ。そんな事を思いながら、慣れた手つきで打ち合う2人の間、物騒なお宝――鉈を目がけて、ヒラリと予告状を滑り込ませる。
 おそらくは注意深いあのフクロウ頭のこと、振るう鉈に違和感を覚え、その動きがほんの一瞬止まるはずだ。

(――その瞬間を待つ、)

 青の双眸が機を伺い、続く打ち合いをじっと見守る。
 ところがグレイシアの待つその瞬間よりも先に、動く影があった。
 それは、――ちり、ちりん、と鈴の音と共に。

「力はなるほど、強いらしいな。 しかし速さなら、――どうかな」

 黒のジャケットを翻し、叡智の守護者の背後からかかる声。

「……っ、次から次へと! ワタクシ、男に興味はないのですがね!」

 ――ガキッ! 目の前の真銀の右腕に打ちすえた鉈を、振り返りざま、そのまま力任せに声の主へと振るう。
 遠心力も相まって高速で振るわれた鉈は、確かにその黒い影を捉えた――ように、その場の誰もが錯覚した。

「……どこを狙っている」
「!? 今……そんな、確かに、……ワタクシはアナタを! 真っ二つに! 何者ですか! なんだって真っ二つにされて、されたはずなのに、何で、どうして!!」

 取り乱し鳴き叫ぶ鳥に、涼しい顔で男――ネグル・ギュネス(ロスト・オブ・パストデイズ・f00099)は答える。

「さて、何者かな。 ここの書物にも、生憎私の正体や記憶の記載はなかったよ」
「私が知りたいくらいなのに、……叡智のなんとやらと名乗る割には、品ぞろえが薄いんじゃないか」

 その声はどこか不満の色も帯びて。そんなネグルの耳に、凛とした声が届く。

「ねぇ、今の……残像だろ?」
「……ほう、見えていたのか」

 ―――ただひとり、グレイシアだけがネグルの足の動きを見逃していなかった。
 刀の柄に鈴を揺らす男は、まだ年端も行かぬだろう少女の様な少年の指摘に目を丸くする。

「ボクも似たような事をやるからね……まぁ、見ていてよ」

 何にせよ、彼、ネグルの生み出してくれたこの隙を逃すわけにはいかない。彼との会話もそこそこに、氷色の怪盗は駆けだした。

「予告する。キミのお宝……頂くよ」
「お宝? ……くっ、なんですかこれは! 一体いつの間にこんなものを! ワタクシの鉈に!!」

 鉈に貼られた予告状に気づいた守護者の、ヒステリックな叫びがこだました。
 辺り一面に散らばった羽毛を、その身を隠すように巻き上げながらオブリビオンに迫るグレイシア。冷静さを欠いたフクロウが所構わず封印の羽を撒き散らすが、怪盗の身のこなしはそれらを物ともしない。

「馬鹿にするのも! 大概に! していただけません! か!! ねぇ!!!」

 ついに鉈の射程範囲内に踏み込んだグレイシアに、最早狙いなどまるで付けていない、もとい付けている余裕などないのだろう、滅茶苦茶な打撃が襲いかかる。

「おや残念、そっちじゃないよ」
「それもハズレだ」
「おいおい、当てる気はあるのかい?」

 グレイシアによって巻き上げられたフクロウの羽、それらが形作る人ほどの大きさの塊。それらを次々と鉈でたたきのめしながら、しかし一向に怪盗の確保には至れない。
 巻き上げては逃げ、巻き上げては逃げ、時にはネグルと同じく残像を残しながらその鉈の猛攻を掻い潜る。

「……似たような事、とは。 いや、見事なものだな」

 思わずネグルからこぼれる、感嘆の声。
 近づいたからと言ってすぐに鉈に手を伸ばす事はしない。
 地形を活かし、逃げまわり、時には派手に緩急をつけ、――しかし、その眼差しは一度たりとも獲物から離す事も、またない。
 ――そしてついに、

「………見えたッ!」

 その手口は、鮮やかに。巨大な鉈は、予告通り<盗まれた>。一度予告をしたのならば、その予告を遂行するまでこそが『怪盗の流儀』というものなのだろう。
 とにもかくにも、叡智の守護者の手からその鉈が盗み去られ、猟兵たちから歓声が上がり――つまるところ、哀れ丸腰になったオブリビオン。

 正面から迫るは、血に飢えた真銀の右腕。
 背面から迫るはネグルの愛刀・桜花幻影。

 ―――此処まで、ですか。

 振り被られた右腕の起こした風に。
 衝撃波を伴って振るわれた剣圧に。
 ぽつんと佇む恋の果樹、そこに実り、熟れた果実が。

 ――それは線香花火のように。
 ――それは椿の首のように。
 ――それは、恋の終わりのように。

 そよぎ、揺れて、――ぽとりと、落ちた。


●スイート・スイート・ラビリンス

「ねえねえ知ってる? 恋の果実のうわさ!」
「ここにいる女子生徒で知らない子なんてそうはいないわ、……残念だったわね」
「うー……まさかココに来て迷宮が立ち入り禁止になっちゃうだなんて~……」
「そんなのに頼らずに自分の力で頑張りなさいってメッセージじゃないかしら。ほら、まずは焦がさずにクッキーを焼けるようになるところから、とか」
「………う、イジワルなコト言わないでよぅ。……頑張るけど」
「そうやって素直に頑張ろうとする所、きっと彼も悪くは思ってないはずよ。いいわ、私もそろそろバレンタインの準備しなくちゃって思ってたところだったし……付き合うわよ、お菓子作りの練習」
「えっ、本当に!? やーったぁ、持つべきものは友だちだねっ! 2人の力を合わせれば、ぜーったい美味しいクッキーが焼けちゃうよ! それに告白だってうまくいっちゃうかも! よーし、やる気出てきたぞー!!」

 恋の季節が近づいてきた1月末日、蒸気と魔法の世界、アルダワ魔法学園、某所。
 今日も今日とて、彼女たちは抜けられぬ恋の迷宮の中。
 乙女たちは、姦しい。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月24日


挿絵イラスト