アルダワ魔王戦争6-A〜泥中に蓮は咲かず
暗い昏い闇の底。
その深淵を目指す猟兵達を迎え入れたのは、絡みつくような花の香。心絡めとるような、花の香。
――どろり。
形成す闇色の泥の中、香りの主が数多と咲いている。
否、咲かされていると言うべきか。
「よくもこの地まで踏み込んできたものよ」
闇色の泥――大魔王第四形態。名をラクリマ・セクスアリスが猟兵達を迎え入れるように、その不定形の腕を広げる。
――動きに合わせて、花の香がまた一段と濃さを増した。
「歓迎に宴の一つでも饗してやりたいところだが、今はそうする時間もない」
大魔王――それは彼にとって蔑称ではあるが――無念そうに頭を振るう。
彼が今為すべきは迷宮の外へと踏み出し、世界の終わりを齎すことであるが故に。
「だが、そうだな。代わりに歌の一つでも聴かせてやろう」
蠢く闇色の泥。合わせて、その中に咲く花の一つが口を綻ばせ、迷宮の中に悲鳴にも似た嬌声を響かせる。
そう。かの身体に咲くは花に非ず。その正体は――。
「さあ、魔女共よ。貴様らの力を寄越せ!」
――遠き過去に彼の身体へと取り込まれた魔女が成れの果て。
闇色の中に白き体躯を浮かび上がらせ、花々は望まぬ歌を奏で続ける。
涙を、祝福されぬ命を零しながら。
そして、大魔王が望み、魔女達が望まぬ力は猟兵達へと牙を剥く。
「みなさぁ~ん、状況は伝わりましたかぁ?」
現実へと引き戻すには、あまりに緩い声。
予知を語り終えたその声は、ハーバニー・キーテセラ(時渡りの兎・f00548)のものだ。
「ええとですねぇ、迷宮を進行している皆さんなら知っているかもしれませんがぁ、大魔王の登場ですよぅ」
既に第一形態を越え、今やその形態は第四にまで至っているのだとか。
「今回、ご案内させて頂くのはぁ、その大魔王との決戦の場ですぅ」
勿論、その先が深淵の底でない以上、それは最終決戦とは言えないものだろうが、この戦いがそれに影響を及ぼすことは間違いない。
「敵は大魔王と名前が付けられるだけあってぇ、その力は強大そのもの」
泥のような身体。その身に捕え、取り込みし魔女の力。
大魔王はそれを十全なる力をもって振るい、猟兵達を蹂躙せんとすることだろう。
「だからこそぉ、その力への対策は不可欠ですよぅ」
魔女の力を用いた自己強化。獣人の軍勢による蹂躙。剛腕なる一撃。そのどれもが脅威。それを凌ぐことで、初めて猟兵達に反撃の機会が生まれるのだ。
それは困難な道であるだろうが、猟兵達にしか出来ない事であった。
「それとですねぇ。中には魔女さん達を助けられると思われる方もいらっしゃるかもですけれどぉ」
身体に捕らえられた魔女達も含めてのラクリマ・セクスアリス。それへと干渉することは出来るかもしれないが、助け出すことは不可能だと考えていた方が良いだろう。と、ハーバニーは語る。
むしろ、長引かせず、早期に引導を渡す事こそが彼女たちにとっての救いとなり得るのだ。
「随分と深くまで潜ってきましたが、ここもまだまだ通過点に過ぎません。どうか、膝を、心折られぬよう、お気を付けて」
ハーバニーによって開かれた扉。そこを潜れば、予知の始めへと繋がることは間違いない。
そして、猟兵達は深淵へと至る道へと足を踏み出すのだ。
ゆうそう
オープニングヘ目を通して頂き、ありがとうございます。
ゆうそうと申します。
このシナリオは大魔王第四形態「ラクリマ・セクスアリス」との決戦を行うものとなります。
敵は大魔王と名乗るだけあって、必ず猟兵達へと先制攻撃を仕掛けてきます。
ですので、それを如何に防御し、凌ぎ、反撃するかが重要となりますのでご留意ください。
※プレイングボーナス……『敵のユーベルコードへの対処法を編みだす』。
なお、戦場に関しては奇怪な食肉植物が群生し、甘い匂いの充満した空間となっています。
ですが、敵以外に目立ったギミックはありませんので、戦いに集中して頂ければと。
それでは、皆さんのプレイング、活躍を心よりお待ちしております。
第1章 ボス戦
『大魔王第四形態『ラクリマ・セクスアリス』』
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POW : 未来は涙の中に
【『魔女』の子守歌】【『魔女』の予知能力】【『魔女』の運命操作能力】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD : 祝福されぬ子供達
【『魔女』から生まれる豹獣人の軍勢】【『魔女』から生まれるイカ獣人の軍勢】【『魔女』から生まれるバッタ獣人の軍勢】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ : 魔女狩りの一撃
【『魔女』を封じた巨腕による叩きつけ攻撃】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を、敵の動きを封じる魔の毒沼に変え】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
イラスト:和狸56
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
シャルロット・クリスティア
この状況で人質と言われるとどうしたものかというところでしたが……
むしろ、気にしなくていいと言われる方が気が楽ですね。他に気を回していられる状況じゃない……!
まずは巨腕をどうにかして捌くのを第一に。
考え無しの回避だと地形に追いつめられる……距離が開くのも覚悟の上で、袋小路を作らないように気を付けないと。
何発も見ていれば、動きの癖や速度、タイミング等は多少なりともつかめる筈です。
チャンスは一瞬……。
攻撃後の隙に差し込む形で、アンカーショットを敵目掛けて射出。
一気に巻き上げ毒沼の上を飛び越して肉薄、ガンブレードで斬り抜ける!
何度もは出来ない、この一発でできる限り深く持って行きたいところですが……!
魂にどろりと絡むような空気は、涙と悲鳴が生み出したもの。
肌で感じる空気の質こそ異なれども、それは粛清の日と根源を同じとするもの。涙と悲鳴が生み出した悲劇の空気。
さて、かつてのそこにシャルロット・クリスティア(彷徨える弾の行方・f00330)の涙は混じっていたことだろうか。それは彼女のみにしか知り得ぬこと。
だが――。
「この状況で人質と言われると、どうしたものかというところでしたが……」
見据える先に立つは、闇色の泥と咲き誇る白き花々――大魔王ラクリマ・セクスアリスと囚われし魔女達。
「むしろ、気にしなくていいと言われる方が気が楽ですね」
――今、この場において、彼女はその悲劇を終わらせる側にこそ立つのだ。
闇色の怪腕がずるりと白きを内に取り込んで、怪腕蠢くを見た。
――来ますね。
予知でも何でもない、優れた観察眼と積み重ねた戦闘経験とが弾き出した未来予測。虫の知らせという警鐘。
彼我の距離は銃弾がアトバンテージを有するだけ開いていた筈なのに、その距離を、優位性をすら埋めて怪腕が降ってくる。それこそ、シャルロットが予測した通りに。
「ほう、避けるか」
「勿論、避けますとも」
飛び退り、更にと開いた彼我の距離。
地に叩きつけらた魔女の呻きが場を満たし、怪腕に打たれた場所が泥に覆われる。
――泥が蝕むように、草を食んだ。
明らかに触れてはならぬと分かる光景。それを脳裏に刻みながら、シャルロットは油断なくかの者を視る。
「ふははは! 猟兵はお人よしも多いと聞いていたが、奴らはお前達魔女を救わぬようだぞ」
叩きつけた筈の側が非難するようにシャルロットを責める。
合わせて、身体を泥に締め付けられた魔女の苦悶が空間に木霊した。
「――彼女らもあなたを構成する要素で、救わせる気などない癖に」
「それこそ、勿論だとも」
魔女こそは大魔王が力の源。それを手放すなど、あろう筈もない。
ギリと鳴ったのは食いしばったシャルロットの口元か、握りこぶしか。それとも、その両方か。
だが、怒りの感情を宿そうとも、それに囚われるシャルロットではない。
慎重に怒りを、感情をコントロールし、それを力に変えんと内に溜め込むのだ。
――眼光に宿る光は凍てついた刃の様に。
頭の中で、ガチリと撃鉄の起きる音が聞こえた気がした。
「――では、もう暫く魔女達の歌声を楽しんでいくといい」
怪腕が、再びに降ってくる。
――上下左右。時に回り込むように。時に遊ぶように。
――その度、空気彩る甘さは増して、悲鳴は増して。
――だが、シャルロットはそれから目を逸らさない。視るを止めなどしない。
――それを生み出すのは相手であると同時、避け続ける自分なのだと生来の気真面目さで受け止めながら。
幾度と身を翻したことだろうか。
幾度と毒の沼を生み出させたことだろうか。
最早、周囲一帯は闇色の泥に汚染され、逃げ場は遠き彼方にのみ。
それは跳んで届く距離などではなかった。
だが、地形に追い詰められるように。そう考えて回避を続けたシャルロットだからこそ、ここまで躱し、耐え続けられていたのだ。
「狩りは嗜みでこそあれ、そろそろ飽いた。だが、貴様もよく戦った。この女共と同じく、泥の中に囚われるがいい」
怪腕が蠢く。白きが覆われ、苦悶が響く。
――今!
なんのために幾度も視たのか。
なんのために幾度も耐えたのか。
決まっている。この時、この反撃の機会を掴むためにこそ。
「そんなものは、お断りです!」
放たれた弾丸が大魔王の顔面へと。
だが。
「ふん、この距離で外すとはな」
それは顔面の横を通り抜け、天井へと当たって火花を散らす。
逃げ場無くした彼女の最後の悪足掻きとそれを判じたのだろう。大魔王が闇色の泥を叩き落とさんとして、『それ』を見た。
「外したのではありません。そうしたんですよ!」
シャルロットと着弾した天井とを結ぶ、蜘蛛の糸。
そう。それこそが彼女の隠し手。跳んで届くだけの逃げ道がないならば、届くようにすればよいだけのこと。
アンカーショットのリールが巻かれ、シャルロットの身体まさしく銃弾のように宙を舞う。
そして。
「Bloods,our fallen brothers. Your bloods bear the storm of blood.」
紅の螺旋が大魔王の視界を埋める。
――すれ違いざまの一閃。
銃口に咲いたシャルロットの刃が、大魔王の脳天へと強かに叩きつけられた瞬間であった。
何度ともは出来ぬ芸当。だが、大魔王の慢心を引き出し、その一瞬を見事にと捉えたはシャルロットの技術の賜物であったと言えるであろう。
遠き地に着地した彼女の後ろ、ぐらりと揺れる闇色の泥がそれをなによりも証明していた。
成功
🔵🔵🔴
クリナム・ウィスラー
悪趣味な空間に悪趣味な輩
本当に最悪な光景ね
さっさと潰してしまいましょう
わたしも魔女だもの、好きなだけ暴れさせてもらうわね
相手の攻撃には油断せずに行きましょう
巨腕による攻撃はしっかり観察して【見切り】
どの程度のスピードと体積があるか分からないから、大きめに避けましょう
その後は毒沼に気をつけて行動するわ
そしてこちらが動く余裕が出たのなら、ペンダントを変換させてUCを
【全力魔法】として放ち、竜巻で相手の身体を切り刻む
出来れば風圧とかで相手を押し留めて、毒沼からも遠ざけたいわ
【範囲攻撃】として巨体全体を巻き込めるようにも意識する
魔女達ごと切り刻む事にはなるけれど
わたしが出来る事は、これだけだから
世界は異なれど、それが魔女としての同胞であることには変わらない。
「悪趣味な空間に悪趣味な輩。本当に最悪な光景ね」
闇色の泥の中、溺れるように咲く白色。泡沫と消えることも、花と散ることも出来ぬ姿。
それを視界に入れ続けることの不快さに、クリナム・ウィスラー(さかなの魔女・f16893)の眉根も歪む。
いっそ、摘んでしまおうか。そうだ、そうしよう。そうするべきだ。
それは果たして囚われた魔女達に対する感情か。それとも、捕らえ続ける大魔王への感情か。
だが。
「わたしも魔女だもの、好きなだけ暴れさせてもらうわね」
――少なくとも、大魔王ラクリマ・セクスアリスに対して、その嵐のような暴威を振るうを躊躇う理由がないことは確かであった。
ぐらりと揺れていた闇色の泥――大魔王の顔が、視線がぐるりとクリナムの姿を捉える。
「その気配……女、貴様も魔女か」
「そうよ」
「貴様も我を深淵の底に沈めようというのか」
「深淵が骸の海を言うのなら、そうでしょうね」
「させはせん。させはせんぞ」
蠢く闇色が白きを包み、苦悶の歌声を空間に響かせる。
「あなたが私に何を見ているのかなんて知らないし、興味もないけれど……それを歌と例えたのは不快だわ」
――代わりに歌の一つでも聴かせてやろう。
あれは確かにそう言った。
確かに、歌の中には悲劇を込めたものもあるだろう。
確かに、歌の中には絶望を込めたものもあるだろう。
だけれど、歌うことが好きだからこそ、その悲鳴を歌と認める訳にはいかなかった。
――嘆きの声が闇と共に落ちてくる。
それを受け止めることは可能か。――答えは、否。
速度、質量共に、受け止めたならば砕けるは己が身体。それを判じれば行動は素早かった。
飛び退いて大きく躱せば、クリナムのあった空間に叩きつけられた泥はびしゃりと跳ねる。
飛び散る泥が周囲を穢し、それに触れられた植物が黒く腐り落ちるをクリナムは見た。
「それ、海を穢す油のようね」
「貴様もその中に、我が腕の中に沈むがいい」
「いやよ」
触れる事すら躊躇われる。受け止めることは論外。その結論は、はたして正しかったのだ。
だが、回避ばかりではいずれ追い詰められることも目には見えている。
ならばこそ。
「海よ、荒れよ。嵐よ、猛れ」
――その泥ごとに全てを洗い流そう。クリナム・ウィスラー、その魔女の名に懸けて。
歌うようにして翳したペンダントは深海より零れ落ちた雫の一滴。
はらりはらりと涙零すように解ければ、瞬く間に吹き荒れるは巨大なる船をも沈めんとする程の嵐。
「ぐ、ぬ!? おぉぉぉぉぉ!?」
降り注ぐ大粒の涙は泥を浄化し、吹き荒れる風は大魔王の身体をも吹き千切らんと荒れ狂う。
そこは深淵へと続く地下迷宮。水とは無縁である筈なのに、そこに広がる光景はただしく時化る海の如く。
超常のそれに包まれた大魔王から苦悶の声が響き渡る。
それは本人のものでもあり、同時、囚われた魔女達のもの。
「あなた達ごと切り刻む事にはなるけれど、わたしが出来ることは、これだけだから」
どろりどろり。風雨に浚われ、泥が剥がれ落ちていく。それと共に、闇色の中から白き花が幾つかふわりと離れ、風雨の中で泡の如くと溶け消える。
確かに、風雨に晒された魔女達の零す声は苦悶のそれでもあったけれど、同時、解放の時を喜ぶようでもあったのだ。
「泡の如くになったとしても、少しは良い結末になったかしら」
風が止み、雨が止む。
粘つくような甘い香りは、少しばかり和らいでいた。
成功
🔵🔵🔴
中村・裕美
「……なるほど……魔女の力ね」
叩きつけ攻撃が毒沼生成を目的としているなら、【見切り】で回避自体は難しくないか。毒沼に関しては【毒耐性】で耐える。
その間に大魔王に【ハッキング】を仕掛け、相手の腕に封じられている魔女を【封印を解く】で開放する
「……過去は変えられないけど……せめて現在くらいは……自由に」
あとは【エレクトロレギオン】で囲んで一斉射撃。【防具改造】で飛行能力や毒耐性を与えれば、毒沼の影響も受けないだろうし
「……貴方は……今までの大魔王の形態で……一番倒しやすい。……魔女がいなくなれば……何もできなくなるのだから」
レギオンが戦っている間にも次々と他の場所の魔女の封印を解いていきたい
甘い香りは鼻につく。
なんだ、自慢か。自慢なのか。魔女を侍らす己の強大さを自慢しているのか。
「……世の中のリア充が……憎い」
ぐるりと渦巻く眼鏡の向こう、隠された金色の瞳が大魔王に昏い視線を投げかける。
それこそ被害妄想でしかないのだろうけれど、中村・裕美(捻じくれクラッカー・f01705)からすれば、捻じくれた真実だ。
それを訂正するであろう別人格もないではないが、今はその姿を裕美の心の奥底に。
「なんだ、貴様は」
「……居丈高ね」
見上げる巨体。闇色のあちらこちらからは、数を僅かと減らしたが未だに花々の苦悶が咲いている。
視線を切り、俯けば、切り揃えられた前髪が裕美の顔に影を落とす。
「戦う気概もないのであれば、我が前に立たねばよかったものを」
俯いたそれを戦意の喪失と見做したのだろう、ならばと失った魔女の代わりにせんと闇色の泥が伸びてくる。
それを、彼女は俯いた視線の先――伸びる影の動きで見つめていた。
「――抵抗するか」
「……戦うつもりがないなんて……誰が言ったの?」
するりと抜けるように泥の腕を躱し、逆にそれへとひたりと触れる。
ぬるりとした感触に怖気が走るが、構いはしない。
――ハッキング。解析開始。
裕美の脳内でバチリと広がった情報の波。
「……なるほど……魔女の力ね」
その泥の、大魔王が宿す力のなんたるかを検索し、突き止め、理解する。
そして、その先へと――。
「貴様、何を!」
「……大人しくは……してくれないわよね」
――至るより早く、大魔王が裕美の腕を振り払った。
剛腕。それはただ振るわれただけでも風を巻き起こし、触れれば裕美の身体とて吹き飛ばされたことであろう。
だが、裕美とてただ黙ってそれを受け入れる訳もなく、慌てず、その身を風に乗せて大魔王との距離を取っていた。
遅れて、大魔王の身より落ちた泥がびしゃりと跳ね、裕美の身を汚す。
それは世界蝕む泥。触れた者の身を魂から捕らえる泥。
だがしかし。
「何故、貴様は無事なのだ?」
「……何故って……それはもう……視たからよ」
なんでもないと言わんばかりに、纏わりついた泥を服より叩き落とすは五体満足なる裕美の姿。しいて言うのなら、衣服へ着いた泥の汚れに、不機嫌さを隠していないことか。
たかが毒の沼がなんだと言うのだ。人を殺さんとする程の毒ならば、心病ませて足を止めさせる程の毒ならば、ネットの海に幾らでもある。この程度の毒ならば、飲み干しても尚余りある。
「……じゃあ……今度はこっちの番……ね」
起動命令。応えて動くは、エレクトロレギオン――否、ウロボロスの名を冠する裕美だけのレギオンだ。
「羽虫如きに!」
「……いいえ……貴方は……今までの大魔王の形態で……一番倒しやすい」
「我を侮るか!」
「……本当の事よ。……だって……魔女の力なければ……何も出来なくなるのだから」
振るう泥の拳がレギオンを捉える。
だが、裕美の前では最早泥はただの泥でしかなく、レギオンを取り込めども縛り付けるには至らず。
「何故……何故だ」
「……置き土産……効いてきたみたいね」
その種こそが、裕美の言う置き土産。最初に触れ、ハッキングした際に残してきた仕掛け。
それはかの大魔王の内にて芽吹き、泥の内にて咲かされた花々を解き放つための。
「……解放の時よ」
魔女達の歌声が苦悶から歓喜に変わる。
「待て、逃げるな! 逃がさんぞ!」
「……隙だらけね。……一斉射撃開始」
泥のうちより白き体躯がほろりほろりと墜ちていく。
それを逃がすまいと闇色の泥が、再びに手を伸ばすが、取り囲むウロボロスがそれを許しなどしない。泥の手を撃ちぬき、撃ちぬき、撃ちぬき、解き放たれた魔女が地に還るを妨げさせないのだ。
「……過去は変えられないけど……せめて現在くらいは……自由に」
また一人、泥の内より白きが離れ、墜ちていく。
裕美の声は銃撃と歓喜の声の中、静かに混ざり、溶けていくのであった。
大成功
🔵🔵🔵
テイラー・フィードラ
……助けれぬか。
ならば、叩き切るのみ!
相手は魔女の力を用いる。それは止めようがない。ならばまずは見である。
フォルティに騎乗し戦場を駆け巡り、囮として行動し相手の行動を見出す礎となろう。ある程度は避け、鎧で受けよう。
だが、魔女の力とは雄大であろう。子守歌でフォルティの足が止まるか。予知で攻撃を当ててくるか。運命を狂わされ足が折れるか。いずれ俺も致命打は喰らう事だろう。
相手は魔女の力。ならば俺は、悪魔の叡智を借り受けよう。即座に吸血鬼化し瀕死であったと認識した敵の隙を突き、翼を羽搏かせ飛び掛かろう。
狙うは力の源である魔女。牙を突き立て吸血し力を吸収、相手が気付こうものなら魔女ごと切り伏せてくれる!
泥の身に囚われし女達は助けられぬ。
事前の情報の中に、その言葉はあった。
「……助けれぬか」
既に貴華長剣は抜き身の刃を空気に晒す。
同じく、その主たるテイラー・フィードラ(未だ戴冠されぬ者・f23928)の放つ覇気もまた刃の如く。
柄握る手に力が篭り、眉根に刻む皺は内に抱えた感情の大きさを示すかのよう。
「次から次へと。湧いて出てくるようだな、猟兵というものは」
「戯言は聴かん」
他の猟兵達との交戦を経ているのだろう。幾分かの消耗を見せる大魔王の言葉を前に、それをすら切り捨てるのみ。
そして。
「――叩き切るのみ!」
切り捨てた言葉と同じく、大魔王とその身に捕らわれた魔女達を斬るべく、テイラーは地を力強く踏みしめたのだ。
――一足。それだけで彼我の距離を埋めるに足る。
地を踏み砕かん程の力はテイラーの身を押し出して、その身を大魔王の懐へ。
横薙ぎ一閃の煌き、そして。
「ぬぅっ!」
――ぬるりと動いた泥の身体。
まるで予知されていたかのように、剣の軌跡に合わせて大魔王の身体が蠢き、剣閃は手応えもなくそれをすり抜ける。
二度、三度……されど、結果は変わらず。テイラーが幾度と刃振るおうとも、大魔王の身に刃が傷痕を描けない。
見上げれば、頭部を模した泥。そこに埋め込まれた宝珠のような瞳と目が合った。
「届かぬか」
「届かぬな」
堕ちてくる泥の塊。恐らく、触れればただでは済むまい。
跳び退れども、それはテイラーの身を追うように。そして、その身を包まんとする。
――空間支配する甘き香りを蹴散らすように、嘶きが響いた。
闇色の泥を割って出たのは純白。
「ほう、我が手より落ち伸びるか」
「お前の手ではないだろう。それは魔女の力だな?」
「よくよく見ているな」
穢れ無き色――フォルティへと跨り、闇閉じ切る前に抜け出したはテイラーが姿。
だが、跳ねる泥に僅かと触れられたのだろう。纏う黒鉄から、ぶすりぶすりと小さな煙を生じさせていた。
しかして、大魔王より贈られるのは純粋なる賛辞。
かの眼が見た未来であれば、恐らくはそこで終わっていた筈なのだ。
だと言うのに、ここにある結果は鎧に僅かな傷を負っただけのテイラーが姿。それに賛辞を贈らずして、如何にするか。
「――では、もう少し魔女共の精度をあげるとしよう」
闇色が蠢き、未だ身に囚われし魔女の身体が苦悶に喘ぐ。逃がさぬように、強く強くと締めあげられて。
「貴様ッ!」
「そら、いくぞ」
言葉は無用。絞り上げた魔女の力が波のように押し寄せる。
蹴散らすように駆け抜け、刃振るい、波間の中に僅かな隙間を生み出せども、押し寄せる泥は容易くと隙間を埋めていく。
それは、詰むことが最初から分かり切っているゲームのようなものだ。
逃げ道と思えども逃げ道はなく。活路と思えども死地でしかなく。
如何に抗おうとも、小さく煙あげる鎧の結末がテイラーの身を待ち構えていた。
「ここで……ここで終わってたまるか……!」
――そのままであれば、だが。
彼に宿りしは、馬に跨り、剣振るう技術のみに非ず。
「まだだ、まだ俺は歩み続ける! たとえ! 道なき道であろうと!」
――それが煉獄から外れる道だとしても。
ヒトの身を脱ぎ捨て、テイラーの存在そのものが変わる。
それこそが彼の宿せしもの。悪魔との契約により生じた、もう一つの自分自身。
ばさりと空気を打ち払った翼が、空という新たな道に彼を運ぶ。
そして、彼は彼の身をもって切り拓いた道を、揺蕩う泥の上を翔ぶのだ。
「もう一度だけ言わせてもらおう」
見上げていた宝珠の如き瞳を、今度は見下ろしながら。
――カチャリと手の中で刃が鳴った。
「――叩き切るのみ!」
「お、おぉぉぉぉぉ!?」
柄を通し、テイラーの手に伝わる手応え。
――唐竹割り。
天から地へと真っ直ぐに走った剣閃の軌跡は、盾のように翳された腕――と、そこにあった魔女の一人――を斬り裂いていた。
はたして、今度こそ、その刃は確かに届いたのだ。
断たれた泥が、白き体躯が地に堕ち、在るべき場所へと還っていく。
助けられずとも、その刃でもって大魔王の軛を断ち、彼は確かに魔女の一人を救ったのであった。
成功
🔵🔵🔴
雨宮・いつき
なんて悪辣な所業…魔王と呼ばれるのもむべなるかな
如何に呼称が気に食わなくとも、身から出た錆というものです
あの剛腕で殴られてはひとたまりもないです
僕自身もですが、封じられている女性も…
…口惜しいですが己の勤めを優先とします
冷撃符を用いた【全力魔法】と【高速詠唱】で、分厚い氷の壁を幾重にも張って剛腕を受け止めます
防ぎきる事は不可能でしょうが直撃を避け、
攻撃の余波を利用して毒沼に足を取られぬ距離まで跳び退り、
九頭龍様を御呼びして神酒の霧で毒沼を浄化
足場を確保してから霧に紛れ込ませた雷撃符による【マヒ攻撃】で動きを鈍らせます
その隙に九頭龍様を魔王に締め付けさせ、至近距離から水の刃を撃ち込んで頂きます!
大魔王。その名はかの者にとっては蔑称に他ならぬ。そして、憎しみの根源。
だが。
「なんて悪辣な所業……魔王と呼ばれるのも宜なるかな」
「その名で……その名で我を呼ぶか」
「如何に呼称が気に食わなくとも、身から出た錆というものです」
それも致し方のない事だろう。と、雨宮・いつき(歌って踊れる御狐様・f04568)は静かに語る。
それも当然のことだろう。泥の如き体に封ぜし魔女達への仕打ち。それを悪しきと呼ばずして、何と呼ぶのか。
勿論、そこには何がしかの過去もあろうが、それは知り得ぬことであるからこそ、猶更に今の行いこそが全てと言えた。
――泥の顔に表情など浮かばぬというのに、そこに宿るは怒りと知れた。
大魔王の内に沸々と宿る怒りを示すように、その身に咲かせる魔女達の戒めはより強く。そして、苦悶の声はより高く。
「そういう所業を行うからこそですよ」
「もうよい。その口を二度と開けぬよう、閉ざしてやろう」
分厚く、分厚く、分厚く。闇色の泥を重ね、魔女の白き体躯を塗りつぶし、形成されるは巨大なる拳。
恐らく、直撃をすればひとたまりもないだろう。ヒトとしての形すら、残っているかどうか。
――拳の姿がブレた。
視線を切った訳ではない。だけれど、気付けばそれはもう目前。
「――っ! 氷の息吹よ!」
出来る限り最速で、可能な限りの全力を込めた氷の壁。
それを瞬時に形成し、拳と己との間に盾と挟み込む。
しかし。
――ビシリと、氷の壁に刻まれるは放射状の罅。
咄嗟であったために十全でなかったとは言え、常であればそれだけで不落を誇ったであろう盾。
だが、今はその身を儚く空気の中に溶け消えさせていく。
見れば、氷にぶつかった衝撃か、闇色の泥があちらこちらに散らばり、世界を蝕んでいる。そして、泥が散ったが故に露出する白き体躯は、死んだように脱力したそれ。
「凌いだか」
「……口惜しいですが、己の勤めを優先とします」
魔女を救う手立てを考えないでもなかった。しかし、今は二兎を追うには些か拙い。
ならばこそ、かの大魔王を打倒することを救いとし、目的とするをいつきは選んだのだ。
――拳がブレる。悪意が広がる。
――拳がブレる。悪意が蝕む。
幾度、氷の壁を築いたことだろうか。
幾度、氷の壁を築き直したことだろうか。
直撃こそ未だにないものの、跳ねた泥の滴が時にいつきの身体を捉え、その身を確かに蝕んでいた。
じわりと広がる痛みは身体の動きを鈍らせる。
また、泥の滴がいつきの身体を捉えた。
「ぐっ……うぅ!」
「貴様はよく耐えた。それを讃え、我への謗りは赦そう」
故に、もう諦めて泥に呑まれよ。と、大魔王は語る。
だが、消えぬいつきの目の光。
そう。圧倒的な優位を前にして、大魔王は一つの見落としをしていたのだ。
氷の壁は砕かれたのではない。砕かせたのだということを。
彼らの足元に広がるは闇色の泥。悪意の泥。そして。
「水神の逆鱗に触れし者に、清き怒りを与え給え」
――砕けた氷が溶け、広がった水たまり。
泥は何者も例外なく、触れた全てを穢すのだ。それは水たまりであっても。
「――参りませ、九頭龍大明神!」
水を穢す行為。それは怒れる水神を呼び起こすに余りある。
大魔王がその抵抗に気付いた時には、もう遅い。
痛み押し殺しながら立ついつきの背後、そこにあったのは九つの頭持ちたる龍の姿。
その吐息は不浄を祓う霧であり、それがそこにあるだけで悪意は存在を許されなどしない。
――瞬く間に、空気が浄められていく。
「貴様ッ、これを――」
にこり。いつきは語らない。
ただ、その笑みへと応えるように、大魔王の身を縛るは龍の縄。
そして。
「口を閉ざされたのは、あなたの方でしたね」
――泥の身体を貫き、清浄なる水の奔流が溢れ出していた。
成功
🔵🔵🔴
オリヴィア・ローゼンタール
大魔王、そう呼ばれるのが気に入らぬようだが、その邪悪さは誰よりもその名に相応しい!
怒りの発露と共に白き翼の姿に変身
巨大質量故の単調な軌道を【見切る】
【怪力】を以って聖槍を打ち振るい、叩きつけられる巨腕を弾き返す(カウンター・武器受け・吹き飛ばし)
狩られるのは――貴様の方だ!
溢れ出る毒沼に聖槍を突き立て、浄化する
聖槍よ、この悪しき毒の【魔を破り】賜え……!
聖なる力を槍に凝縮(属性攻撃・破魔・全力魔法・限界突破)し、【嚇怒の聖煌剣】を形成
無窮の光よ! 我が怒りに呼応せよ! 彼女らの嘆きを刃と成せ!
全霊の力を以って振り下ろし、斬り裂く
貴様の名は永劫、「大魔王」として語り継がれると識るがいい!
「大魔王、そう呼ばれるのが気に入らぬようだが、その邪悪さは誰よりもその名に相応しい!」
絡みつくような甘き香りを吹き飛ばす大喝。
怒りを金色なる瞳に宿し、己が仇敵を前にしたと同じように吼え猛るは、オリヴィア・ローゼンタール(聖槍のクルースニク・f04296)。
感情の発露か。合わせて、金色の火の粉がチリと空気を焦がす。
「邪悪邪悪と……貴様らは同じ言葉しか吐かぬ!」
「当然だ! その謗りを受けたくなければ、即刻、その女性達を解放してみせろ!」
「出来ぬ相談だ。これらはもう私の一部なのだからな」
身を削られ、魔女の数を減らされ、それでもなおと大魔王は立つ。
その堂々たるは、ある種の威容を見せつけるものでもあった。
だが。
「ならば、その命を刈り取るのみ!」
その威容に臆するオリヴィアではない。
破邪なるを伴い、神の使徒たる衣を翻し、かの大敵を討たんと迸るのだ。
「来るがいい。幾度討たれようと、貫かれようと、我は止まらぬと知れ」
己を闇の中に封じた世界の終わりを齎すために。
深淵が動き出す。
――ずるりと蠢く闇の色。
零れる魔女の悲鳴を覆い尽くすように、泥が魔女の身体を基点に拳を、腕を作り出す。
それはまるで、闇の帳が落ちててくるようであった。
だがしかし。
「貴様が闇に閉ざさんとするのなら、私は火を灯してそれを打ち払おう!」
相対するように振るわれた槍。その穂先に宿すは金色の猛り。
甘き空気を喰らって轟々と燃ゆるそれは、闇色の泥とぶつかり、互いにその身を滅さんと牙を突き立てあう。
――重い、重い音が幾度となく迷宮に木霊する。
オリヴィアの身を喰らわんと闇が網の様に広がれば、それを浄炎が食い破る。
金色が鋭く煌き、泥を内側から燃やさんとすれば、押し固められた闇が炎を喰らう。
一進一退。その攻防は揺らり揺らりと揺れる天秤。どちらにも傾きながら、決定打のなきままに時を食む。
だが、それも。
「――くっ!?」
「足元を見誤ったか? 猛き女よ」
広がる悪意にオリヴィアの足が触れるまで。
それこそは大魔王の悪意の形。衝撃に飛び散った泥を介し、己が領域を広げていたのだ。
触れた足を介して、魔女の嘆きがオリヴィアの身を縛る。
「汝程の者であれば、よき力となろう」
オリヴィアとて幾千もの戦いを越えてきた歴戦の勇士。ならばこそ、呪いの、嘆きの一つにいつまでも縛られる者ではない。
だが、それでも一瞬は確かにその身の動きを止めてしまうのは致し方がなく、それこそが致命。
泥がオリヴィアの身を包む。まるで、魔女を捕えるかのように。
そして。
「馴染むには少しばかり時が必要か?」
泥が完全にオリヴィアを包み、戻る静寂。戦いの音は遠く彼方。
ごくりと呑み込むようにオリヴィアを包んだ泥が大魔王の身体に戻れば、そこにはもう跡形もない。
「随分と消耗もしたが……これでまた今暫し、猟兵共に……ぐぅ!?」
――燃える。燃える。燃える。身体の内側がが燃えるように熱い。
思わず、うめき声を漏らす程に。
何が。とも思えば、原因はすぐさま知れた。
身体に戻した泥の中から、金色の光が零れだしていたからこそ。
「まさか、まだ……」
「聖槍よ、この悪しき毒の魔を破り賜え……!」
虚空響いたは、あり得ざる声。呑まれた筈の、オリヴィアの声。
――金色の輝きはその勢いを増すばかり。
そして。
「無窮の光よ! 我が怒りに呼応せよ! 彼女らの嘆きを刃と成せ!」
――闇を、大魔王の泥なる身体を切り裂き、天使は此処に舞い降りた。
その手に持つは輝きの大剣。遍く天地を照らし、遍く邪悪を断つための。
彼女は呑まれたのではない。敢えて、その大魔王の内側に飛び込んだのだ。
それはオリヴィアだけの怒りではなく、大魔王の内に囚われし魔女達の嘆きを刃の輝きへと汲むために。
はたして、それは形を成した。
輝きが闇を圧する。輝きが闇を祓う。
「貴様の名は永劫、『大魔王』として語り継がれると識るがいい!」
大上段よりオリヴィアの全力持って振り下ろされる輝き。
それは、泥としての一面を持ち、不定形なるを活かす術を持つ筈の大魔王の身体を押し固め、逃げるを決して許しはしない。
――音もなく、輝きが大魔王の身体を断ち抜けた。
成功
🔵🔵🔴
春乃・結希
やばいくらい強いっていうのはわかるけど、それよりも…
うん…めっちゃぶっ飛ばしたい気持ちになりましたっ
【オーラ防御】を展開し『with』で【武器受け】
【ダッシュ】で出来る限り攻撃範囲から逃れる
【激痛耐性】で痛みは無視、ダメージは地獄の炎で補完
UC発動
焔の翼を広げ、『wanderer』で強化した脚力【怪力】での踏み込みにより
瞬時に最高速に達する飛翔【空中戦】
増加したスピードと反応速度、【勇気】を持って突撃
向かってくる子供達を【怪力】で振るう『with』で切り飛ばし
受け流して【武器受け】、軍勢を突き破り
己が強さへの信仰を込めた一撃を
大魔王って呼ばれるの嫌なんですね…
なら、本当の貴方は何なんですか?
数多の猟兵達との交戦。
それを経て、確かに積み重なった傷痕はその力を衰えさせている。
だが、それでもなおと立つ姿は確かな威を周囲に伝えていた。
「やばいくらい強いっていうのはわかる」
思わず震えそうになる心。
それでも、実際には言葉へと震えが伝わらなかったのは、指先触れた相棒の存在があるからこそ。
「――けど、それよりも」
震えそうになった気持ちよりも。
「うん……めっちゃぶっ飛ばしたい気持ちになりましたっ」
春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)の清々しいまでの宣言。それは、粘ついた甘さが支配する空間へと吹いた一陣の清涼なる風の如く。
そうだ。相手がなんであれ、どうであれ、自由を愛する結希であるが故に、かの大魔王の所業――魔女と呼ばれた女性達の自由を奪うことを捨て置けなかった。
熱しやすく冷めやすい己の事だ。これは一時の感情なのかもしれない。でも、この時の自分においては、それは確かな気持ち。
――滑らかなる音を立てて、鞘から引き抜かれし漆黒がその手に収まる。
突き付けるは、大魔王。その存在へと。
「覚悟して下さい!」
「また勇ましきことだ。勇者にでもなったつもりか」
「いいえ! 私は勇者でもなければ、何者でもありません。春乃結希です!」
「そうか。では、名を頂いた返礼だ。受け取るがいい」
――絶叫が響く。絶叫が響く。絶叫が響く。
耳をつんざく叫びとはまさにこのこと。
闇色の泥に咲いた花々による、悲鳴のコーラスを奏で上げる。
「これは……多勢に無勢?」
魔女の力より生まれ落ちたのは、数多の軍勢。獣人の群れ。
迷宮に突如として出現したそれらは、蹂躙すべき相手――結希を前に今か今かと解き放たれる時を待つ。
「先程の威勢はどうした。遠慮せずにかかってくるがいい」
それとも、こちらから向かわせようか。
その言葉が合図。
堰切った濁流のように、獣人の群れが結希目掛けて跳び出してくる。
「三十六計なんとやらです!」
あれを正面から受け止めるは、些かと言わず不利。
彷徨う足取りを今はしっかりと方向定め、地を蹴り放ってその身を動かす。
――敵に背を向けて。
そして、駆け、駆け、駆け。捕まれば最後の鬼ごっこ。
だが、敵も全てが均等な能力を持つわけではない。
気付けば、結希を追う群れに幾つかの集団が生じていた。
先頭を行く者、それに続く者、距離をじわりと離される者と様々。
「頃合い、でしょうか」
流れるような反転。相対する群れの先頭。その背には、燃ゆる焔の翼。彼女が宿す、真実の片鱗。
――彼らは気付くべきだったのだ。
逃げ続けていた結希。息切れ一つ起こしていない姿。まるで、先頭集団にだけ合わせたかのような速度。
――それが、釣りであったということを。
ドンッと、まるで大砲でも撃ったかのような空気の破裂音。
だが、その例えはあながちの間違いでもない。
気付けば、群れの先頭集団が消えていた。いや、姿はあった。あったのだが。
「さっすがwith! 貴方がいれば、私は何も怖くないです!」
まるで何か――超重量の鉄塊にでも引き千切られたかのような、無残な姿を晒すのみ。
それを背後に、少女が無邪気に己が相棒/恋人に笑いかけていた。
ぞわりと獣人達に奔った虫の知らせ。
いっそ、先頭集団は幸福であったことだろう。自分達に何が起こったか理解することもなく逝ったのだから。
だが、後続の者達はそうではない。それが迫る死の刃であると認識し、そして、痛みの中で絶えていくしかないのだから。
全てを同時に受けることは出来ずとも、幾つかに分ければ対処も叶う。結希は、それを実践してみせたのであった。
――軍勢を突き破り、緋色の翼がその身を運ぶ。
「ただいま戻りましたよ!」
「なんたる……!」
大魔王の振るう泥が迎撃せんと迫るが、既に最高速へと至っている彼女を捉えるは最早不可能。
私達は強い。私達は負けない。私達は――。
withと共に在る自分が弱い筈などない。
信仰の域へと至る程の想いが、大魔王にすら届きうる力となって、今、ここに解き放たれる。
「大魔王って呼ばれるの、嫌なんですね」
「当たり前だ。我はそのような存在では――」
「なら、本当の貴方は何なんですか?」
窮する言葉。答えはない。あろう筈もない。
――そんな刹那の会話。
そして、結希の一撃が大魔王の宝珠の瞳を、泥の面を強かにと討ち抜いたのだ。
大成功
🔵🔵🔵
岩永・勘十郎
敵は勘十郎を見て、すぐさま【魔女狩りの一撃】を放ってくる。
巨腕による叩きつけ攻撃だ。ここは無難に避け……ようとしたが《野生の感》が勘十郎に訴えかける。コイツは大魔王第四形態だ。この程度では終わらない、と。
勘十郎は《早業》を駆使し周囲の甘い香りを吸わないよう酸素マスクを付け背後に飛ぶと装備しているマントのスイッチを押す。巨腕での攻撃なら相当な風圧が生まれる。それに合わせてグライダー化したマントで飛び、動きを封じる魔の毒沼を回避した。
「やはり。次はこっちの番だ」
UC【妖仙術『盲目提灯』】を発動。敵に黒煙を纏わせ《目潰し》と同時にUCや動作を弱体化させるとグライダーで加速を付けた抜打ちを繰り出した。
カツンと響く軍靴の声。
それは甘き香りと苦悶が満ちる空気の中においても、よく響いた。
先の交戦にて面打たれた大魔王は、未だ戻らぬ視界の中で響いた音を見逃せなかった。
何故なら、ここにあるであろうは己と猟兵しかないのだから。
「紛れて近付けばよかったものを!」
魔女の苦悶を包む闇色の泥。その白き体躯へと集まり、塗りつぶし、固まることで、それは全てを薙ぎ払う巨腕へと変じるのだ。
――そして、音の源へと闇の帳が降り注ぐ。
「紛れて近付くも出来ただろうが、それでは些か趣に欠けるのでな」
声が落ちてきたのは、大魔王の頭上。
ややくぐもった、しかして、凛と響いた声は粘つく空気を切り裂く刃そのものであり、それこそ、岩永・勘十郎(帝都の浪人・f23816)、その人のもの。
見当はずれな場所に落ちた拳は、びしゃりと泥を撒き散らす。
「やはりな。無難に避けずで正解か」
スタリと降り立つ先は大魔王と距離置いた場所。
拳が落ちた場所を見てみれば、そこに沁みの如くと広がる闇色。それは自生する植物を、床を、散った先の壁を蝕む毒そのもの。
勘十郎が己に囁いた勘に従わねば、直撃しなかったとしても相応の痛手を被っていたことだろう。
「趣に欠けるとは……それこそ慢心と知れ!」
再び振るわれる拳の結末は焼き直し。
だが、朧霞の視界の向こう、大魔王のそれは遂にと勘十郎の姿を認める。
黒き外套。揺れる黒髪。
「貴様が、そうなのか」
「そうだとも」
巨腕を躱す姿は流麗。
未だ戻り切らぬ視界では、それを捉えるは困難と知れるほどの。
しかし、戻りつつある視界は、次第にその精度を増しつつあるのは確か。
それの証拠とするように、薙いだ拳の風が勘十郎の髪を大きく揺らしていた。
「――随分と見えるようになっただろう?」
「貴様が時間を無駄にしてくれたお蔭でな」
より精度の高い、明らかに勘十郎の動きを目で追った拳が迫る。
「なに、無駄などではないさ」
そう。彼はそれを待っていたのだから。
カチリと響いた軽い音。遅れて、ばさりと人間の身たる勘十郎に在り得ぬ翼が生まれた。
それは風を捉える勘十郎の翼。グライダーと呼ばれる、鳥ならざる者のための翼。
勘十郎は巧みに大魔王の巨腕が生む風を捉え、その身を宙に繋ぎとめる。
何故、今迄それを行わなかったのか。
それは視界塞がれた大魔王では、その腕の動きに予測しえぬものが生まれる可能性があるからこそ。
だが、確かな思考の伴ったものであれば、それを読むことも可能。
その結果が、宙にある勘十郎の身であった。
「貴様、これを狙って――」
「正解かどうかは、自分で考えてみるがいい」
答えの代わりに齎すは、夜色すらも塗りつぶす黒煙。
見通せぬ闇は超常なるものすらもを塗りつぶし、そのものの本質のみを浮かび上がらせる。
「では、次はこっちの番だ」
宙より舞い降りる速度を力と変えて。
――彼我の距離が限りなく零に近づき、すれ違い様、澄んだ音が鳴り響いた。
そこに泥の鎧も、纏う魔女の力も関係ない。黒煙の浮かび上がらせた本質。それを討ち抜く神速の一刀が、大魔王の影を断ち抜いたのだ。
成功
🔵🔵🔴
フェルト・ユメノアール
人の命を、笑顔を奪うような真似は絶対に許さない!
まずは初撃を防がないと……!
ボクは手札から【SPファントム・マタドール】のユニット効果を発動!
受けるダメージを半分にして、このユニットを召喚する!
相手の叩きつけ攻撃に合わせて後ろに飛び退きガード、ファントム・マタドールの効果と合わせてダメージを軽減、耐えきるよ
そして、すぐさま反撃に移行
『トリックスターを投擲』毒沼に突き立て、足場を作る事で魔王の元へ素早く接近
さらに『ワンダースモークを投擲』する事で相手の視界を煙で遮り、隙を作った所でファントム・マタドールと左右から同時に攻撃!
大魔王!みんなの怒り、思い知れ!
と、頭部にトリックスターを突き立てる
苦悶に謳う魔女達にも、きっと笑顔の時があったのだろう。
だけれど、過去に縛り付けられた今、彼女らの顔にそれが戻ることはない。
もしもそれが戻るのだとしたら、それはきっと――。
「人の命を、笑顔を奪うような真似は絶対に許さない!」
――その命の終わる時なのだろう。
それをそうなのだろうと感じつつも、フェルト・ユメノアール(夢と笑顔の道化師・f04735)は誰かの笑顔のため、その手に剣を執る。
流す涙はメイクのそれのみとして、苦渋の想いを笑顔の裏に隠しながら。
「道化師なら、大人しく王の隣で戯言でも零しているがいい」
「それじゃ、夢もへったくれもないじゃないか」
笑顔を齎すのは特定の誰かのためだけではない。彼女を見る、全てのヒトのためにこそ。
「ならば、そのニヤケ顔を絶望で塗りつぶしてやろう」
闇色の泥が身体に咲かせた花へと絡む。どろり、どろりと甘い香りが彩を増し、響き渡るは絶望の歌。
鼻につく匂いに、響き渡る望まぬ声に、フェルトの眉が顰む。
止めるべくと放つ投擲は泥に阻まれ、硬質なる音を床で奏でるのみ。
「そうだ。結局のところ、貴様は何も出来ぬのだ」
故、大人しく死ぬが良い。それが大魔王の言。
――振り上げられる巨腕。
それを躱すは容易いが、躱せば中にある魔女がただでは済まないことは想像に難くない。
勿論、彼女らが大魔王の一部であり、助けることなどできはしないとフェルトも知っている。
だけれど。
「はははっ、本当に諦めたとでも言うのか」
――フェルトはただ動かず、腕の振り下ろされるを待つのみ。
風を巻き、剛腕が落ちてくる。フェルトの命を潰えさせんと。
そして、泥の巨腕がフェルトに触れるか否かの刹那の瞬間、彼女は動いた。
「その攻撃は通さない!」
翻る腕。指先挟むは此度の切り札。
効果の発動を示す輝きは確かにあった。しかし、フェルトの身は泥に打ち据えられ、彼方へと跳ぶ。
跳ねて、跳ねて、跳ねて、最後には猫のように四肢を使って態勢を立て直す。
「ほう、耐えたか」
「いっつつつつ……」
巨腕は確かにフェルトの命を潰えさせるだけの威力を秘めていた筈。
だというのに、彼女は無傷といかずとも、その身は五体満足。命あるを大魔王の前に示す。
「キミのお蔭でダメージは半減していたとしても、やっぱり痛いね」
零す言葉は誰に向けたものか。大魔王か。それとも、柔らかな泥に覆われた魔女に向けてか。
――いや、違う。フェルトの隣には、いつの間にか骸骨姿の闘牛士。
気遣うように己が主に手を貸して、その身が立ち上がるを助けていた。
「なんだ、それは……?」
「求められても、タネ明かしはご法度さ」
痛み堪え、それでもとフェルトの顔に浮かぶは笑み。
「小癪なことを囀る!」
再びと持ち上がる闇色の腕。
だが、それを2度も3度もと彼女が許す筈もない。
「行くよ、ファントム・マタドール!」
それが振り下ろされるより早く、道化師と闘牛士が駆けた。
駆ける先は互いに別々。ピーナッツの殻のように二手に割れて、大魔王の腕を攪乱するように。
「どちらも追う必要はない。道化師、貴様を討てばいいのだろう!」
「正解! でもね、ボクばかり追うのは不正解!」
殻が割れたなら、中から種の如くと転び出るものがあるは必定。
カランと小さな音を立てて、大魔王の足元に転がるモノ。
何だ、と思う間もなく、吹き上がるは色とりどり。
「ぐっ、お、おぉ!?」
毒のものかとも思えばそうでもなく、それはただのカラフルな煙。ただし、この場においては大魔王の視界を塞ぐ必殺の。
「――視界を奪ったところで!」
埋め尽くす煙の中、揺らめきが一つ、二つ。
――二手に分かれ、煙に便乗し、この身を討とうというのだろう。道化師風情が。
ならば、煙ごと魔女秘めし泥の腕で吹き散らすのみと、泥の腕が薙ぐように払われて。
「そう、考えるよね?」
だが、その腕に宿っていた力は十全に遠く、煙をすらも吹き飛ばしきるには及ばない。
僅かだけ晴れた煙の向こう、大魔王を挟み込むように道化師と闘牛士が笑っていた。
何が起こったかは分からなかったが、何かされたのだという事だけは分かる。
「貴様、貴様ッ!」
「大魔王! みんなの怒り、思い知れ!」
道化師の策に嵌り、我を忘れた大魔王へとフェルトの刃が狙い違わずと突き立ち、揺らす。
そして。
「これは、魔女の……!」
形成された泥の腕を薙ぐように、ファントム・マタドールの刃が抜ける。
大魔王がそこに感じた痛み。それこそ、己が身に宿していた筈のものと同種の――。
大魔王には終ぞそのタネが分からなかったが、それこそがSPファントム・マタドールの効果。
最初にフェルトがカードを掲げた時、確かに効果は発動されていたのだ。
敵の攻撃に合わせてその威力を半減させ、半減させた威力の分だけの力を持って呼びだされる闘牛士の霊。
それこそが泥の腕受けてもなおとフェルトの命を長らえさせ、大魔王に魔女の痛みを齎したタネ。
――どろり。
マタドールの刃を受けた泥が零れ落ち、中から魔女の姿を覗かせる。泥を介し、同じく刃を受けただけあって、それがこと切れていること間違いない。
だけれど、その顔に苦悶の彩はなく、怒りを代弁してくれたフェルトへ感謝を送るかのように、満足気な笑みを浮かべているようにも見えていた。
成功
🔵🔵🔴
リンカ・コーデリア
大魔王って大仰な呼称も、その趣味の悪さなら相応しいと思うよ!
先制攻撃には、こちらもスピードで勝負だ
改造レガリアスシューズとブースターユニットで瞬発力と推進力を極めた【ダッシュ】と【ジャンプ】で、駆け、跳び、壁や天井や植物を蹴り、フロアの空間全体を使って敵の軍勢を振り切る
さらに『コード・バスター』を始動、機動力をより高めつつエネルギーを充填
もし追いつかれたらシールドユニットで自身の周囲に防護フィールドを展開して【盾受け】、少しの間で良いから阻む
あとはコード・バスターの充填完了と共にトリガーを引くだけ
向かって来た軍勢も、大魔王も――囚われた魔女達も――、まとめて超高出力バスタービームで焼き尽くす!
どろりどろり。
数多の猟兵達が刻み、それ故に流れ落ちる泥の滴は大魔王の血の滴か。
落ちては広がり、落ちては広がり。同時、甘い香りを辺りに撒き散らす。
「やってくれる。やってくれるな」
だが、流れ落ちるそれなど一顧だにせず、大魔王はそこに立ち続ける。
もしかすれば、流れ落ちる泥は彼の血ではなく、もっと別の――魔女達の血なのではないか。
そう思ってしまう程に、立ちはだかるその威圧は衰えを知らない。
「大魔王って大仰な呼称も、あながち間違いでもないのかもね」
立ち向かうは流れる黒髪。夜色のドレスのはためき。リンカ・コーデリア(タイニーガジェッティア・f02459)がその人。
その手に鈍く輝く大型の盾――その実、様々な兵装を内蔵するガジェット『プロトオメガ』――は、大魔王の威圧に負けず劣らずの存在感を示す。
その重みがあるからこそ、この学園に通うものだからこそ、彼女もまたその威圧に負けることなくここに立つのだ。
「そのように名付けたのは、こいつらだ。我は一度とて名乗ったことなどない!」
こいつらと大魔王が示すのは、その泥の身体に埋もれし魔女。
纏わりつく泥に締め付けられ、痛めつけられ、苦悶と悲嘆の声を漏らし続ける。
例え、彼女達に非があったとして、はたして永劫のそれに苦しむだけに相応しいのか。それは過去を知らぬリンカには出し得ぬものだ。
だが。
「そういう趣味の悪さを見せつけるから、なおさらに相応しいって話だと思うよ!」
今、目の前に広がる光景に対してならば、声をあげることは出来るのだ。
黒曜の瞳に凛と煌く火を点し、纏わりつく甘い香りを吹き飛ばすように彼女は喝と響かせる。
「もうよい。我をそう呼ぶ者達と話が通ずるなどとは思わぬ」
相手どることすらも厭うように、大魔王はその視線をリンカから切る。
しかし、それは相手をせぬということではない。むしろ。
「――蹂躙せよ」
零れ落ちていた泥の滴。それがむくりと形成し、瞬く間にと膨れ上がっていく。
それこそ、魔女の力より生まれ落ちし、獣の群れ。リンカを文字通り、数の力で蹂躙するための。
泥より生まれ落ち、主の命を待つ獣達の目の彩は醜悪。それは、リンカという獲物を前にして、喰らい楽しむ時を待つかのような。
ぞわり。
獣の吐息に甘き香りも立ち消えて、その視線に、臭いに、思わずと産毛も逆立というもの。
「行け」
「本当、そういうところだよね!」
そして、進めの号令を受けた悪意の波が押し寄せる。
捕まってはならない。捕まってはならない。捕まってはならない。
リンカの脳内に響く警鐘は生存本能そのもの。
それに追い立てられるようにい推進機の煌きが彼女の身を押し出して、あり得ざる軌道を世界に足跡と刻み込む。
それは地に、それは壁に、それは宙に、それは天井に。
残される煌きはまるで箒星のそれ。箒ならざるガジェットで宙を舞う姿は、現代の魔女とでも言うべきか。
だが、残念ながらその感慨を抱けるだけの者はここになく、あるのはリンカの生存本能を鳴らし続ける悪意の獣のみ。
「しつっこい!」
ぐるり螺旋を描いてみれば、バッタの怪物が彼女の影を踏む。
獣の軍勢を押し留めるだけの防御装置は確かにある。だけれど、それとて恒久的に使える訳でもない。
使うタイミングを間違えれば、波にのまれる未来が待ち受けるのみだ。
――地を蹴り、壁を蹴り、宙に身を躍らせる。
――一瞬の間をおいて、リンカのあった場所を覆う獣の波。
綱渡り。そう、綱渡りだ。
一瞬の迷いが死を運び、一歩の間違いがその身を奈落に突き落とす。
だが、その中においてもリンカの顔に絶望はなかった。
迷いが死を運ぶのなら、一歩の間違いが奈落へ通じるのなら、迷わず、正解への道をひたすらに選ぶのみなのだから。
――バッタの跳躍を躱し、イカの触手を潜り抜け、豹の爪牙届かせずと駆け抜ける。
それが如何に難しいことかは言うに及ばずではあったけれど、やらねばならぬからこそやる。単純明快なロジックだ。
そして。
――防壁が獣の群れを押し留めた。
彼女はその時まで、それをなし得たのだ。
「追いかけっこの時間はもう終わりだよ」
輝くはプロトオメガの銃口。最大熱量の充填を報せる、焔の揺らめき。
ガリガリと目と鼻の先で獣達が防壁にその爪を、牙を突き立てる。
だが、リンカは揺らがない。揺るがない。
「これが……――」
だって、後はその引き金を引くだけなのだから。
「――私の全力だっ!」
引き絞られた引き金。銃口より零れ落ちるは、自身の防壁すら撃ち抜き、全てを塗りつぶし白。
それは目の前の悪意の群れを呑み込み、その奥に座する大魔王へすらも、その輝きを届けたのだ。
悪意も、泥の魔王も、それに囚われた魔女すらも、全てを等しく白の中へと――。
輝き収まれば、後にはチリチリと熱の余波を示す音だけが響いていた。
成功
🔵🔵🔴
トリテレイア・ゼロナイン
存在とは何であるかでは無く、何を為すかで規定される
鋼の身の持論です
唾棄すべきその所業、大魔王の名に相応しい
そして私は…
自身を●ハッキングし音響センサーカット子守歌無効化
熱源センサーで魔女の所在を●情報収集し強化前に全格納銃器で●スナイパー射撃
「魔女を失う予知」→「運命操作で回避(銃器の不発?)」させ未来を魔王自身に変えさせ、魔王の攻撃回避の余地を無理矢理作成し●見切って回避
…これを為せる私は…いえ、無能な私を存分にお恨み下さい
直後にUC、同時に防具改造で施した関節部やランスの●破壊工作起動
予知があっても反応困難な速度で突撃
運命操作も関節駆動不能、消火不能暴走槍に操作余地は無し
この身に代えても!
「存在とは何であるかでは無く、何を為すかで規定される」
蝕む泥の悪意。魔女達の苦悶の声。絡みつくような甘い香り。
トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)のセンサーは、それらを情報として余さず拾い上げる。
見ないことも出来た。聴かないことも出来た。感じないことも出来た。でも、しなかった。
全てを認めた上で、救えぬ者達を認めた上で、彼はこの場に立つのだ。
「……なんだと?」
「鋼の身の持論です」
傷つき、それでもなおと立つ大魔王の視線がトリテレイアを捉える。
疑問の声には――応えなかった。その代わりに。
「そして、であるならばこそ、唾棄すべきその所業は大魔王の名に相応しい」
トリテレイアは烙印となる言葉を送る。
苦悶を漏らし続ける魔女達。彼女らを過去でもって縛り、苛み続ける。その所業をそうと呼ばずして、なんとするのか。
「貴様らがそう名付けたからこそ、我はそうあらんとするのかもしれんぞ」
「そうだとするなら、それは責任転嫁ですね。自身の行動の責任を他者に押し付けるなど」
どのような理由であれ、その行動の結果を見るのは他人であり、その結果に相応しき評を得るは当然のこと。
だからこそ、トリテレイアは大魔王の言を切って捨てる。彼は彼自身の責任から逃げないが故に。
――音響センサーカット。
膨れ上がる大魔王の怒気。それは、最早、交わし合う言の葉に意味はなしと判じたがために。
だが、それはトリテレイアも同じこと。武器取り合い、刃にて語るのであれば、最早言葉を交わす余地などない。なにより、それ以上の言葉を聞くに堪えなかったからこそ。
「――!」
大魔王が何かを言っているが、それを拾う耳はなし。
――瞬間、音の波がトリテレイアを叩いた。
それは鼓膜ある存在であったなら、その魂を深き闇へと落としていただろう、魔女の歌声。
しかし、幸いにも音響センサーをカットしていたことが彼を救う。
トリテレイアの前では音はただの空気震わせる現象にと貶められ、そこに込めらる意味を喪失させられていたからこそ。
「なにか、したのでしょうか」
だとしても、その身に異常がないのであれば、気に留める必要もない。
遅れて飛来する闇色の泥を手にした槍で打ち払い、盾で受け止め、捌いていくのみ。
――警告。装甲損傷。
それはあり得ざる警告音。確かに、トリテレイアは槍で、盾で、泥を捌いた筈であったのだ。
だが、まるでその槍と盾をすり抜けるように、泥の一部がトリテレイアの白銀を穢していた。そう。その迎撃を知っていたとでも言わんばかりに。
――警告。警告。警告。
泥とのぶつかり合いの度、白銀の装甲が、盾が、槍が、じわりと蝕まれていく。その防壁を潜り抜けて。
一度目までなら偶然で、二度目以降ともなればそれは必然。
トリテレイアの防御を知っていたかのように掻い潜るその動き。それには何かの理由がある筈。
「――未来予知の類?」
思い至った可能性。
そして、数多の戦いの記録を遡れば、それに類する力を持つ者は確かにあった。ならば、目の前の現象がそうでないとは言えない。
それに、魔女と呼ばれる者は、世界は異なるが水晶による未来視なども行っていたという。
「恐らくは、そうなのでしょうね」
じわりと、また泥の侵食が盾を蝕む。まるで、弱い部分を知っているとでも言わんばかりに。
受け続けては、待つのはじり貧のみ。
であるならばこそ。
「先程、私は言いましたね。存在とは何であるかでは無く、何を為すかで規定される、と」
泥の猛攻は止まらず。しかし、その奥で大魔王が怪訝な雰囲気を醸し出しているのは理解できた。
「――ならば、これは騎士の名に悖る行為のでしょう」
熱源感知。それは、泥の中にある――。
物語の騎士であるならば、奇跡の一つも起こすのだろう。
物語の騎士であるならば、諦めずに救う手立てを導き出すのだろう。
だけれど。
「――無能な私を存分にお恨み下さい」
これは現実で、ここにあるのはトリテレイア・ゼロナイン。物語の騎士では――ない。
はたして、その言葉は誰に向けたものであったのだろう。
助けられぬ魔女に向けてか。それとも、理想とする騎士道へと向けてのものか。
泥の猛攻へとぶつけるように盾を捨て、限界まで蝕まれたそれが砕けるのを見た。
だが、そのお陰で泥がトリテレイアへと到達するまでの僅かな時を彼は得たのだ。
――槍を構える。
――関節各部のスラスター展開。
――リミッター、カット。
「――ですが、この身に代えても!」
轟と焔が嘶いた。
否、その音を大魔王が拾った時には、全てが終わっていたのだ。その泥の身体に大穴を開けて。未来予知の魔女を跡形もなくと消し去って。
ぐらりと大魔王が崩れた身体のバランスに地へと膝を付く。
何が起こったのか。
それは、トリテレイアによるスラスター加速を伴った突撃。
言葉にすれば簡単であるが、その実、それは最早捨て身。
だが、それは捨て身であるが故に、予測は可能であっても、回避不能な一撃。一瞬ですらその速度の前では圧倒的に足らぬ程の。
しかし、その反動は大きく、穿った大穴の向こうで白銀はその身に数多の罅を、亀裂を刻んでいる。
だが、それでも彼は立っていた。立っていたのだ。膝つく大魔王の向こうで傷だらけになりながらも、それでもと。
それは騎士としての勝利ではなかったのかもしれない。だけれど、トリテレイアとしてのまごうことなき勝利の証であった。
成功
🔵🔵🔴
月宮・ユイ
『魔女』と大魔王、ですか
貴方にはその名、大魔王は蔑称なのですね
[コスモス:外套]空中浮遊飛翔
肌に<オーラ>纏い<破魔:毒・呪詛耐性+風属性>付与
風の噴射や流れ制御<念動力>併せ空気圧縮足場形成
耐性・機動力強化。
<第六感>危険感知や知覚全開<情報収集>攻撃見切り
空駆ける様回避に集中
《連環捕食》捕食兵装成形
呪<呪詛>で染め武装やオーラ強化衣とし
呪編んだ斧槍手に<早業>突撃
<怪力>のせ腕迎撃、斬り裂き喰らい突破
纏う衣で毒沼さえ<捕食:生命力吸収>乗り越え
力溜め<限界突破>
本体に渾身の一撃与え、頭から真っ二つ狙う
せめて、その歌に終幕を…
ここで、終わらせます
アドリブ絡み◎
呪操る誘惑呪詛器に宿すヤドリガミ
トンと響いた足音一つ。
それは甘く重い空気の中、それに囚われることなく軽やかに。
「ぬぅ……!」
地に膝つく大魔王の頭部を目掛け、空気裂いて振るわれた混沌の刃が軌跡。
しかし、それは己が泥で傷埋めた大魔王に阻まれ、硬質な音を響かせるのみ。
「残念です。受け入れて下さったなら、それで終わりだったんですが」
「そう簡単に首などくれてはやらん」
トトンと宙を踏んだ軽やかな足音二つ。
ふわりとロングスカートの裾を翻し、優雅に地へと降りたは月宮・ユイ(月城紫音・f02933)。
だが、その優雅さとは裏腹に、その手に握った斧槍の刃が物々しさを語る。
――油断ならぬ。
その姿に対して、行動に対して、それが大魔王の認識。
「――随分な挨拶であるな」
「おや、きちんとした挨拶が必要でしたか?」
「いいや、いらん」
だからこそ、会話をせんとした最中に彼は泥を蠢かす。
随分と数を減らした――それでも、まだ残る――白き体躯の1つを苦悶で包み上げ、巨腕となしてユイへと振るうのだ。
奇襲。その意趣返しの如く。
しかし。
「『魔女』と大魔王、ですか」
――それは風纏う彼女へと届かせるには、些かと遅い。
まるで宙に足場があるかのように、ユイの足は何もない筈の空気を踏む。
何もない? いいや、よく見れば、その原理が理解出来たことだろう。
彼女の足元、そこから噴出する空気の流れ。それがユイの身体を支え、宙にその身を留める役割を果たしていたのだ。
「貴方にはその名、大魔王は蔑称なのですね」
「望まぬ名を付けられて、それを喜ぶ筈も無かろう」
「望まぬことを為されるという点でしたら、多少の同意もします。ただ、その場合は盛大なブーメランとなりますが」
望まぬことをされたから、その身を捕らえて望まぬことをやり返す。
それだけを言えば、なんとも子供じみたものだ。と、ユイは笑いもせずに言う。
「貴様らにその屈辱が分かるなどとは、最早思ってなどおらん!」
地に泥跳ね、汚するとも、それが風を捉えることはない。
だが、大魔王から直接繋がる――魔女を宿す――泥の腕ならば。
――ぐにゃりと粘土細工の如く、関節を無視して泥の腕が曲がる。
「――!」
「腕であるならば、と思っていたか?」
ユイに囁いた第六感。それが間一髪とその身を救う。
だけれど、まだ囁き止めぬその声に、ユイの身体が宙にて踊る。
「器用なんですね」
「まだ減らず口を叩けるだけの余裕があるか」
「それはあなたこそ」
払い、切り落とし、跳びはねて。
網の様に、張り巡らされる蜘蛛の糸のように、ユイのその身を捉えんと広がる泥。その中で活路を見出していく。
――ヘテロクロミアの瞳は静か。
じり、じりと活路が少なくなっていく。閉ざされていく。
だけれど、否、だからこそ、その瞳はより活路見出す力を研ぎ澄ませていくのだ。
そして。
「――見えました」
危機迫る中、最大限に解放された知覚が『それ』の所在を見つけ出す。
ドン。と、今迄の軽やかさが嘘のように力強くと宙を蹴る。
共鳴。保管庫接続、正常。能力強化。無限連環術式、起動。捕食吸収能力、超過駆動。圧縮成形。
六の工程を稼働させながら、跳び込む先は――振るわれる泥の腕の中、唯一と変化を見せぬ場所。つまり。
「せめて、その歌に終幕を……ここで終わらせます」
――泥に封ぜられた魔女の在り処。泥の腕に流れる力の源。
すれ違いざま、暴食の刃が奔った。
――ずるり。
零れ落ちるは闇色の泥。絶たれ落ちるは魔女への呪縛。
それは泥を喰らい、悪意を喰らい、魔女と大魔王との繋がりをも喰らったのだ。
それを示すように、大魔王より離れ落ちた泥はもうぴくりとも動かない。
魔女の苦悶がまた1つ、ユイの手によって解き放たれたのだ。
成功
🔵🔵🔴
的形・りょう
【農園】で参加します!
今回は共闘なので、うっかり変身してしまわないよう気をつけないと…。
しかし、ずいぶん情慾的な見た目の大魔王ですね。
その主義には獣として同調しますが、その酷い姿が見るに耐えません。
その伽ともども、いま楽にしてやりますよ。
放たれる軍勢にUC【激情咆哮】を使用、薙ぎ払います。
仲間を巻き込んでしまいますが、あの方達なら上手いこといなしてくれる筈…。獣の血全開の見苦しい姿を仲間に晒して恥ずかしいような気もしますがそれはさておき。UCのランダム追加効果にも期待です。
その後はスピードを生かして懐に踏み込み、力の根源である魔女を妖刀で切り落とし、弱体化させられないかやってみます。
蛇塚・レモン
チーム【農園】4人で大魔王に挑むよっ!
今度は泥と魔女の王……さすが『性欲の雫』ってことかなっ?
でも、あたい達は負けないよっ!
※先制攻撃対策
あたいの妹こと蛇神ライムの魂魄が爆裂火炎魔術を発動!
これぞ神霊スタングレネード!
爆風で攻撃を吹き飛ばして、光と熱で視界を奪って攻撃を怯ませるよっ!
(カウンター+だまし討ち+咄嗟の一撃+全力魔法+焼却+属性攻撃+オーラ防御+マヒ攻撃+目潰し)
※攻撃
炎の障壁で生まれた隙にUC発動
攻撃を黄金霊波動の念動力と怪力+盾受けで弾く!
カウンターで蛇腹剣と鉾先神楽鈴の剣先の2回攻撃!
衝撃波の鎧無視攻撃で仲間と連携して大魔王をスパスパ斬っちゃえっ!
りょうさんのUCは耳を塞ぐね
草野・千秋
【農園】
(花の香りに顔を顰め)
囚われた魔女……なんておぞましい敵なんだ
しかし皆さんと一緒とは心強い、行きますよ!
レモンさん!皆さん!
ヒーローとして勇気をもってして敵に対抗する
敵POWに対抗するために一撃必殺の技に挑む
いちかばちか!
自己強化の歌なんてさせやしない
ダムナーティオーパンチを食らうがいいっ!
怪力を込めて2回攻撃、グラップルで叩き攻撃
武器改造でアサルトウェポンに炎の属性攻撃を付与
捨て身の攻撃で敵の懐に飛び込みつつカウンターすることを忘れず
敵攻撃は激痛耐性、盾受け、怪力で耐え抜いてみせる!
味方に攻撃が被弾しそうならかばう、ですよ
クンツァイト・スポデューメン
【農園】で参加するぜ
探査電波を起動すんぜ。これで相手の動きはまるっと御見通しってわけよ。
これで使い魔みてーな奴らを放とうが攻撃に移ろうが、何をしてるかを味方に伝えることで対応する。
探査電波で生み出した雷球も電気である以上は多少の攻撃性能もある、叩きつけて痺れさせてやんよ。つっても今回はアタシはサポートってところだからな、でしゃばるような真似はしねぇよ。
んで、合図に合わせて耳を塞いだり目を閉じたりもしなきゃな。折角の共闘だ、足を引っ張るわけにはいかねぇよなぁ。
さーて、いっちょキメてこい、ダチ公ッ!
激情の咆哮轟く修羅の巷。
獣と獣が織りなす喰らい合い。それは迷宮の床に血の川を生み出し、染め上げる。
「邪魔だっつってんだろうが!」
「おー、りょうさん。激しいねっ! でも、あたいも負けないよっ!」
「あ゛ぁ゛!? 私が負けるかよ!」
「まだ会話が出来るだけ、理性も残ってるのでしょうね」
「ほらほら、のんびりしてんなよ。進める間に進んでないと……ほら、団体さんの到着だ!」
斬り潰しても、叩き潰しても、燃やし尽くしても、それでもなおと獣の群れは溢れんばかり。
ぱしゃりぱしゃりと跳ねるは泥か。はたまた、誰かの流した血の滴か。
だが、誰も――ここに集いし4人。的形・りょう(感情の獣・f23502)と蛇塚・レモン(白き蛇神オロチヒメの黄金に輝く愛娘・f05152)、草野・千秋(断罪戦士ダムナーティオー・f01504)、クンツァイト・スポデューメン(キミと歩む英雄譚・f18157)は、その程度で足を止めなどしない。
来らば来たれ。屍山血河と積み上げて、大魔王への道を切り拓くのみなのだから。
そして、獣の波が再び来たる。
――だが、それが4人と衝突する前に、時は少しばかり遡ろう。
「しかい、ずいぶん情慾的な見た目の大魔王ですね」
「泥と魔女の王……さすが『性欲の雫』ってことかなっ?」
「ですが、囚われた魔女を見るに……なんておぞましい」
「風貌と併せりゃ、まあ、見事な大魔王って感じじゃんか」
踏み込んだ迷宮。そこはともすれば、魔王の腹の中と言われても違和感のない、絡みつくような空気が支配する場所。
そして、その空気がより濃くなる方向――迷宮の中央にこそ、大魔王たる姿はあった。
闇色の泥。垣間見える白は苦悶に揺れる魔女の花。それが、1つの巨大なるを形成していたのだ。
「……猟兵はまだ尽きぬのか」
だが、数多と戦い続けてきたのだろう。4人の姿を認めた大魔王の声には、僅かではあるが疲労が滲む。
――好機。
如何に堅牢を誇るものであろうとも、穿たれ続ければいつかそこに綻びも生まれよう。その兆しがそこにはあったのだ。
ならば、それを穿つに卑怯などとは言えはしまい。
交差する4人の視線。語らずとも、その意思は同じ。
――大魔王。その首級を討つべし。
いの一番と駆けたのは、千秋――否、ダムナーティオー。
相手が何かをするよりもと、その脚は彼我の距離を瞬く間と埋め、正義の拳を叩き込まんとする。
「これ以上の悲劇を塗り重ねなんて、させやしない!」
矢を引き絞るように引いた拳。
一瞬の間を置き、轟と風巻き、拳が奔る。
だが。
「直情が過ぎるな。仮面の戦士よ」
ぐにゃりと歪んだ大魔王の泥の身体に、拳は空を斬り裂くのみ。
いちかばちか。
当たれば必殺の拳と言えど、当たらねばそれは即ち隙を晒すにすぎない。
――泥が、魔女を封じた拳が堕ちてくる。
返礼とばかりに振り上げられた大魔王の巨腕が、千秋を呑まんと。
「やらせません!」
「あたい達もいるんだよってねっ!」
それを遮る黒と金。
未だ紫を宿さぬ妖刀が落ちくる泥を裂き、稼いだ時間に蛇塚の宝剣が千秋の身を危機の地より引き上げる。
「容易くはないか」
「あったりまえだぜ?」
ばちりと弾ける雷光の白。
大魔王の眼前で弾けたそれは、かの視界を一瞬ではあるが灼き、りょうが跳ね飛び退くを助ける。
1人が動けば、それをフォローするように他も動く。まさに流れるような連携がそこにはあった。
「ありがとう、皆さん。助かりました」
千秋が礼を言えば、力強い笑みが方々から返ってくる。
それははたして、なんと頼もしきことであろうか。
「数が多くては、やはり厄介か」
戻る視界。大魔王の前には、健在なるを見せる4人の姿。
1人でも猟兵は厄介であるが、それが協力し合えば言うに及ばず。
だからこそ。
「魔女共。貴様らが役に立つ時だ」
大魔王はそれを生み出すを選ぶのだ。
嬌声。悲鳴。絶叫。
泥に埋もれし魔女達の口から、次々と漏れ出す意味をなさぬ言の葉の数々。
だが、そこに込められた感情の意味だけは分かる。
――やめて。赦して。
その意味を介して、何もせぬ猟兵達ではない。
それぞれがそれぞれに、大魔王の為そうとするナニカを止めんと足を踏みだそうとし――4人と大魔王とを隔てるように生まれた壁に、足を止めざるを得なかった。
そこに生まれ出でたのは、獣の群れ。魔女達の力を媒介に生まれ落ちた、祝福されぬ者達。
豹、イカ、バッタ。異形なる者達が、立ち塞がっていたのだ。
「――行け、蹂躙せよ」
そして、それは大魔王の言の葉を号令として、4人を呑み込まんと波の如くとなる。
戦いの時の始まりであった。
「乗り越えていくしかありませんね」
「ははっ、電波で反応を探るまでもねぇ程のって感じだな」
グッと拳を握る千秋。ばちりと好戦的な輝きを奔らせるクンツァイト。
だが。
「大魔王。あなたが掲げる主義には同調しますが」
「あの姿はちょっと酷すぎるよねっ!」
「……言葉を取られました」
それを制するように前に出たりょうとレモンが姿。
その背中が語っていた。その拳と雷はまだとっておけ、と。
そして、激情迸る咆哮が響き、爆裂する火炎の華が咲き誇る。獣の波を蹴散らすようにして。
――時計の針が元へと戻り、再びと歩み出す。
「何度来たって同じだよっ!」
獣の波を前に顕れ出でる1人の少女。
それはどこかレモンにも似た少女であり、されど異なる激情の炎。その権化。
指先一つを掲げてみれば、零れ落ちた火の粉は瞬く間に空気を喰らい、燃え盛る蛇となりてとぐろを巻く。
ぐねりぐねりと炎の蛇が這いずれば、憐れにも飲まれた獣が消し炭と地に還る。
だが、炎の蛇は止まらない。全てを焼き尽くさんとでも言うかのように。
仲間が次々と燃える蛇に呑まれていく。その光景は常であれば二の足を踏む光景であろう。
しかし、獣たちはまるでそれを理解できぬかのように、狂ったように突き進む足を止めはしない。
何故か。
決まっている。ここにある激情の権化は、ライムのみではないのだから。
――咆哮が轟いた。
「止まるなッ、止まるなッ、止まるなッ!」
獣の性も隠しきれず、牙を剥きだしにしてりょうが吼える。
それは怒り。燃えるような怒り。感情のままに吼え猛る声は、その燃える怒りを聴くもの全てに延焼させていくのだ。
だからこそ、獣達は止まらない。止まれない。目に付く者すべてへの怒りに支配され、それに燃やし尽くされると知らぬままに。
だが、本来であれば感情の発露に伴い、りょうもまた我を失うところではあるが、辛うじて、それは抑えきれていた。
先程、荒々しくはあったものの、仲間達とまだ会話が可能であったことがその証左。
見れば、りょうの片手は自身の尾を強くと握りしめている。
せめて、仲間は巻き込むまい。その想いの発露であった。
「また見えてきたぜ!」
二つの燃ゆる炎。その向こう側、獣の壁へと阻まれ、近づくが叶わなかった大魔王の姿。
「ここからはスピード勝負。いいかなっ?」
答えなど聞くまでもない。
それにニコリと笑み浮かべ、レモンは妹へと。
――光と、熱と、音と。世界を圧するように、それらが広がった。
それこそ、レモンの隠し玉。
炎の蛇をそのまま爆裂させることで、即席のスタングレネードと変えたのだ。
「これぞ、神霊スタングレネード!」
「格好つけてる場合じゃねえ! いくぞっ!」
光と熱と音。その影響は全てに平等だ。それは勿論、仲間である猟兵達にも。
だが、彼ら彼女らは、真っ直ぐに大魔王を目指せていた。
その理由こそ。
「そのまま正面! そのでかい反応は間違えようがねぇ!」
クンツァイトのガイドがあるからこそ。
彼女の放つ探査電波。それが仲間達の目となり、耳となり、的確に大魔王の在り処へと導くのだ。
「その腕、貰ったァ!」
「お願い蛇神様、あたいと一緒に踊って……!」
そして、それに導かれたりょうの刃が、レモンの刃が、大魔王へと迫る。
「そのような小細工、視えていないとでも思ったか」
――空を切る刃は、いつかの焼き直しのように。
驚愕。されど、止まらずと動かした身体が、反撃にと降り注ぐ二つの泥の拳から身を退ける。
追撃を仕掛けてはこない。
見れば、大魔王の頭部はあらぬ方向を向いており、声もそちらに向けている。
だが、再びと攻撃を繰り返しても、結果は同じ。
焦りが4人の身を包む。
時間の経過は獣たちを含む、相手の立ち直る時間となり得る。そして、それは大魔王にとっての味方ではあっても、4人にとっての味方ではないのだから。
「なにか、なにか理由がある筈なんだよっ!」
「考えるより先に動くしかねぇだろ!」
――微弱な電流。他とは明らかに違う力の流れ。
「……魔女か」
その正体に気付いたのは、誰あろう。サポートに徹していたクンツァイトだ。
電波をフル稼働させ、迷宮を、大魔王の身体を調べ続けていたからこその。
だが、どうすれば。原因が分かっても、それをどうにか出来なければ――。
「お二人とも、下がって!」
「すまねぇ!」
「ありがとう!」
「いえ、先程の恩返しですよ」
戦い続ける中、千秋が2人を庇うように前へ立ち、大魔王の泥を焼き潰す。
「それに、この程度躱すまでもありません!」
「待てよ? なんで、アタシの電流は避けられてねぇんだ?」
躱すまでもない。その言葉が閃きの鍵となる。
もしかすれば。
「……大当たりっぽいな」
試しにと少し出力を上げてみれば、泥の中で身を跳ねる魔女の気配。
だが、大魔王に3人の行動へと対するようななにかは見受けられていなかった。
つまり、大魔王は己に害あるもののみを選び出して、回避の術へと繋げているのだろう。しかし、そこに魔女のことは含まれてなどいないのだ。
「もう一回! もう一回、攻め立てろ!」
普段は背中を押してもらうことも多いが、今回はあたし自身が。
気迫が声に乗り、3人の背中を押す。
クンツァイトがもう1回と言っているのだ。ならば、言葉交えずとも応えるのみ。きっと、彼女がなんとかしてくれるから。
「私は右だ!」
「なら、私は左だよっ!」
りょうとレモン。その刃の二重奏が奔り、身を蠢かそうとした大魔王の腕の一部が不自然に跳ねる。そして、戸惑うような大魔王の気配。
視えていたものが視えなくなったのだ。当然だろう。
だからこそ、2人の刃がその身を断ち抜けるは必然。
魔女を秘めた巨腕が、刃の軌跡に沿ってどろりと落ちた。
そして。
「さーて、いっちょキメてこい、ダチ公ッ!」
仲間の声援を背に受けて、断罪の戦士が花道を駆ける。
「もう1度だけ言わせてもらう!」
身体は引き絞る弓矢の如く。
その身には幾度か仲間を庇ったがために、負った傷もある。動かせば、引き攣るような痛み。
だけれど、その痛みもすら力と変えて。
「これ以上の悲劇を……塗り重ねなんて、させやしない!」
放たれた拳が鋭く大魔王の胴を打つ。
いちかばちか。
いいや、違う。共にと戦った仲間の想いを、己が正義を乗せた拳だ。それが一か八かであろう筈もない。
――一撃必倒。
泥である筈の大魔王の体躯が、まるで大きな拳に打たれたかのように吹き飛び、倒れた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
リミティア・スカイクラッド
囚われの魔女達に安息を
そして魔女を侮辱し、愚弄し、蹂躙した大魔王に終焉を
リムはあなたを許しません。永劫回帰の果てまでも
軍勢の先制攻撃は宝石剣と風神の靴による「空中戦」で対抗
装備の「封印を解く」と最大出力で攻撃を回避し切り払います
特にイカ獣人の攻撃は厄介そう(墨とか拘束とか)なので最大限警戒
どれだけ傷ついてもUCを封じられなければ勝機はあります
初手を凌げばUCで時を巻き戻し
無傷で軍勢を突破して魔王を攻略するルートを「情報収集」します
敵の動きや攻撃のタイミング全てを覚えられるようになるまで
何度でも時間をループして、魔王の心臓に宝石剣を突き立てます
あなたが弄んだ『魔女』の力
その身で味わって逝きなさい
フィオレッタ・アネリ
これ…囚われてる人たちは助からないの…?
こんなの、許すわけにはいかないよ!
群れには群れを
全力魔法ですべての契約の環を輝かせ、精霊の大群を召喚!
豹獣人へは地面から生える樹精の蔦縛りを
イカ獣人へは群れを押しのけ吹き飛ばす風精の竜巻を
バッタ獣人へは心を幻惑する花精の香を
それぞれの獣人の群れ全体を巻き込むように範囲攻撃を乗せ、足止め・拘束
風を纏って群れを一気に飛び越えて魔王に接近するよ
樹精の魔力で食肉植物を魔王に襲いかからせて翻弄しつつ――
他の形態との共通点って、あの赤い宝石くらいだよね
それだったら――《春の祝福》
精霊力を増幅して巨大な樹精の槍を創り出し、頭の宝石に狙いを定めて撃ち抜くよ!(槍投げ)
泥中に咲いた花はその身を揺らし続ける。
甘い香りを零しながら、耳塞ぎたくなるような苦悶を零しながら。
「これ……囚われてる人たちは助からないの……?」
普段は澄んだ青空のような瞳を好奇に煌かせるフィオレッタ・アネリ(春の雛鳥・f18638)だが、今は眼前の光景に僅かと曇りを宿す。
「囚われの魔女達に安息を。それが取り得る唯一の選択です」
フィオレを慰めるように、突き放すように。
取り様によってはどちらとも感じられる淡々とした声で、リミティア・スカイクラッド(勿忘草の魔女・f08099)は現実を言う。
「そう……だよね」
「ええ。だからこそ、私達が終わらせるのです」
沈む声は冬の空のように重い。
だからこそ、リミティアはそれを知っていたかのように、その心を掬いあげるのだ。
助けるために、自分達が何をするべきなのか。負うべき責任と使命とを諭すように。
「うん。こんなの……こんなのいつまでも許しておくわけにはいかないよ!」
蒼天の翳りは打ち払われ、煌く輝きが奮起に揺れる。
「そうです。魔女を侮辱し、愚弄し、蹂躙した大魔王に終焉を」
淡々と語るリミティアの中に垣間見えた、感情の欠片。
違う時、違う場所。幾度と眼前の光景を目にしたところで、それに慣れることはないだろう。この心、騒めかぬことはないだろう。脈々と受け継いできた魔女の血があるからこそ、世界異なれども同胞たるを穢す者の姿へと。
語るリミティアの隣、くすり、と小さく花が綻んだ。
「……何でしょう?」
「ううん。あなたも、怒ってるんだなって」
それにフィオレッタは安堵したのだ。
淡々としてはいるが、彼女もまた同じなのだとより強く理解して。この感情を抱くのは、自分一人の空回りではないのだと理解して。
「当然です。リムはあれを許しません。永劫回帰の果てまでも」
「勿論、私もだよ!」
「ええ、知っています」
「あ! 今、ちょっと笑ったよね?」
「いいえ。それより……来ますよ」
お喋りはもうおしまい。
響き渡るは魔女達の絶叫。大魔王の言葉を借りるなら、絶望の歌。
それへと共鳴するように、他の猟兵達によって幾度と傷つけられ、零れ落ちた闇色の泥が蠢き揺れる。
――ずるり。
太古の世界、神々が泥をこねてヒトを作ったと語る神話は少なくない。
ならば、目の前の光景はその再現だとでも言うのだろうか。
――ずるり。ずるり。
零れ落ちた泥を命育む胎として、魔女の力を命の源として、『それら』は泥の内より生まれ落ちた。
「豹に、イカに、バッタ?」
「なんとも纏まりのない選出ですね」
泥より生まれ落ちたのは数多の命。迷宮埋め尽くすほどの、無数の獣。
生まれ落ちたばかりだというのに、それは既に明確なる意志――猟兵達への敵意を持つかのよう。
それを示すかのように、ぎらぎらとした瞳が2人を射抜いていた。
「これだけの数、どれだけ魔女さんに無理をさせたの!?」
「分かりません。ですが、膨大な力であることは間違いないでしょう」
それぞれの得物。それを握りしめる掌に力が籠る。
そして、まるでその瞬間を合図としたかのように、獣は波となって2人を呑み込まんと打ち寄せ始めるのだ。
「お生憎様! 私達は踏みつぶされる菫じゃないよ!」
だが、呑まれ、蹂躙されるだけを待つ猟兵など居ない。
群れには群れを。
幸いにも、ここには形違えども数多の同胞が既にある。
契約の環が輝き、揺れて、世界にフィオレッタの願いを正しく伝う。
しかし、輝き収まれども、世界に何も起きはしない? いや――。
「ありがとう。みんな!」
迷宮に自生していた植物達が、零れる花の香りが、揺蕩う空気の流れまでもが、彼女の味方をせんと動き出す。
這いずる蔦に足を取られたのは豹であった。
花の香に心奪われ、呆然と足を止めたのはバッタであった。
地下の迷宮においてあり得ざる突風をその身に受けたのはイカであった。
波は堅固な岩礁へとぶつかったかのように、その身を砕いて、飛沫のみへと変わっていく。
だが、僅か、波に比べれば飛沫程度ではあるが、それを抜けて迫るものがあるのも間違いはない。
だからこそ。
「やはり、その効果範囲は凄まじいものですね」
その飛沫が掛からぬようにと、魔女が飛ぶ。
吹き流れる風を踏み、トンと軽やか音立てて、その足取りはまるで舞踏のように。
不躾にも誘いの手は伸び来るが、淑女はその身を安売りになどしないのだ。
返礼とばかりに紅の煌きを軌跡と残し、不躾なる手を斬り落とす。
「リムを踊りに誘うには、あなた達では力不足も甚だしいのです」
「なら、私とだったら踊ってくれるのかな?」
「……悪くはありません」
「よぉっし! なら、張り切っちゃおう!」
花よ、森よ、風よ。森と豊穣の恵みあれ。
舞い踊る世界にフィオレッタは祝福の言の葉を捧ぐ。
それは歓喜の歌。絶望の歌を覆い尽くす、春の如き暖かな。
――植物がその身を一斉に伸ばす。
――綻ぶ花々はその香りの自己主張を更にと強める。
――吹き抜ける風は子供のようにより無邪気にと吹き荒れる。
獣の波は断ち割れて、大魔王への確かな道筋がそこには視えていた。
「それでは、お手をどうぞ」
「運んでくれるの?」
「一緒に踊りたいのでしょう?」
「……うん!」
リミティアの手が差し伸べられ、フィオレッタは迷わずとその手を取る。
そして、ふわりと浮かぶ2人の身体。
「一気に行きますよ」
ぐっとリミティアが足に力を込めれば、手を繋ぐフィオレッタ共々と一陣の風となる。
それは瞬く間に混乱に沈む獣の波の頭上を越えて、その先へと彼女らを運ぶのだ。
「そろそろ、構えて下さい」
「――え?」
「樹精の槍を」
「なんで、それを?」
「魔女はなんでも知っているものです」
人差し指立て口元に。それは、秘密、とでも言わんばかり。
そして、フィオレッタは今度こそ、リミティアの口元に描かれた小さな弧を目撃する。
何故、行おうとすることを知っているのか。その疑問は勿論ある。だけれど、その描かれた弧を見れば、今はそれを信頼しようと思うに十二分。
――迫る2人を迎撃するように泥の手が宙を薙ぐ。
――それをまるで知っていたかのように、リミティアはくるりと宙を踊る。
「導きは、私がします」
「分かったよ。お願いね!」
――タンタンタンッ。
――駆け上がるは天高く。舞い踊るは天高く。永劫の時を超え、魔女が春の彩と共に。
「――今です!」
「凍てつく冬の時はもう終わり。あなた達に、解放の時を!」
リミティアの合図に、するりとフィオレッタの手から巨大な樹精の槍が零れ落ちる。大魔王が形成する泥の顔。そこに埋められた宝珠の如き瞳を目掛けて。
泥の手がそれを妨げるように掲げられるが、天より飛来する槍の勢いを止めるには至らない。
そして。
「あなたが弄んだ『魔女』の力。その身で味わって逝きなさい」
槍が宝珠を射抜き、その身を射抜き、地へと縫い留めた。
告げるリミティアの瞳は、一人繰り返し続けた時間の中で、遂にとその光景を目撃したのだ。
「オ、オォォォォォォォォ」
響いた声は魔女のものではない。大魔王の、命潰える声。
泥が地に零れ落ちる。もう、花々を戒めるものはない。零れ落ちるそれと共に、魔女達の姿もまたその身を花弁の如くと解けさせていく。
大魔王の断末魔が消えた時には、そこにあるのはもう泥だまりだけ。
――いや、もう1つだけそこにはあった。
それは、樹精の槍の残り香か、泥の中にある小さな萌芽。春の如き芽吹き。
ここに、世界の終わりを望んだ者の願いは潰え、望まれぬまま過去へ縛られ続けた魔女達の嘆きは救済されたのだ。猟兵達、その活躍によって。
大成功
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