アルダワ魔王戦争5-E〜研究室に死霊は蠢く
蒸気と魔法の世界。コードネーム『アルダワ魔法学園』世界。
その地に遂に復活した『大魔王』を巡る猟兵達の『ファーストダンジョン』攻略は、開始一週間にして第五層に至っていた。
『大魔王』、その最終形態が潜むと目される地は、第九層。まさに驚異的なペースと呼べるだろう。
だが、しかし。下層へ探索の手が伸びれば伸びる程、迷宮は複雑に、悪辣になっていく。
迷宮探索は、まさにこれからが本番。猟兵達は一層気を引き締め迷宮に挑む──。
●
「お集まり頂き、ありがとうございます」
集まる猟兵達を、ヴィクトリア・アイニッヒ(陽光の信徒・f00408)が迎え入れる。
『アルダワ魔王戦争』の進捗状況が順調に推移しているせいだろうか、ヴィクトリアのその表情は柔和な笑顔であった。
「今回皆さんに挑んで頂くのは、この場所。『ダンジョン研究施設』と呼ばれる場所です」
ヴィクトリアの指が、ダンジョンアタック表の『5-E』を示す場所を指す。
この場所は、蒸気科学と大魔王の魔力を融合させた、強力なモンスターを生み出す研究施設であるらしい。
「とは言え、今はその施設は稼働しておらず……情報等も、特に得られる事は無いでしょう」
では、放置しても問題は無いのでは? と思う者もいるだろう。
抱かれた疑問の声。その言葉を聞いて、ヴィクトリアは静かに首を横に振って、言葉を続ける。
「……実はこの施設には、かつての研究の末に生み出された『失敗作』が多く潜んでいるようなのです」
もし、彼らを放置していた場合。この施設から這い出た『失敗作』たちが学園を襲わないという保証はない。
また、施設は稼働していないとは言っても何かの拍子で再稼働する可能性も否定できない。そうなった場合、『失敗作』たちが更なる力を身に着けないとも、限らない。
……何にせよ、将来の禍根となりそうな要素である。今の内に、潰すべきなのだ。
「『失敗作』たちは、施設に足を踏み入れれば自ら迎え撃つように姿を表すでしょう」
故に捜索の必要等は無い。純粋に戦闘のみを考えれば良いだろう。
だが、一つだけ。注意せねばならぬ事がある。
「『失敗作』の元となったオブリビオンは、『死霊兵』と呼ばれるオブリビオンなのですが……」
『死霊兵』。苦役の果に死んだ囚人や罪人が、骸骨として蘇ったオブリビオンだ。負の感情を懐き死んだ為か、彼らは総じて生者に対する攻撃性が高く凶暴なのだが……
「その『憎悪の念』を強化された事で、『失敗作』の死霊兵たちは『生者に対する攻撃力』が増しているようなのです」
より具体的に言えば、彼らは強化された憎悪を扱う剣や弓に付与させ、強力な呪いの力に変える事で生者へのダメージを増しているのだとか。
……話に聞けば、正直手強そうなイメージしか浮かばない。これが『失敗作』とは、どういう事なのか、と。猟兵達の頭に再び疑問が浮かぶ。
「……実は、彼らは『状況判断能力が著しく低下』しているようなのです」
強化の代償なのだろうか。この施設に潜む『失敗作』たちは、一つの特徴を偏って強化した結果、相反する様に何かを喪っているのだという。
今回猟兵たちが相手をする『死霊兵』も、その例に漏れず。『目の前で動く全ての者を生者と判定する』程に、その判断能力は低下しているらしい。
……流石に、『同種』の存在同士で相討つ程には狂ってはいないようだが。成程、確かにこれは『失敗作』と切り捨てられてもおかしくはない。
「とは言え、彼らの攻撃力は決して油断して良いものではありませんので……」
強烈な呪い。強化された攻撃力に対する対策を考えるか。
または状況判断能力の欠如。劣化した弱点を突くべきか。
なんにせよ、この任務に参加する場合はそのあたりを考える必要があるだろう。
「『ファーストダンジョン』の攻略は、ここからが山場です」
奥に進めば進むほど、状況は厳しくなるだろう。その際に少しでも余裕を持つために、禍根となりうる要素は潰しておきたい。
皆様の御力を、お貸し下さい。そう言って、深々と一つ礼をして。ヴィクトリアは転送の準備に移るのだった。
月城祐一
2月もそろそろ半ば。そう言えばバレンタイn……うっ、頭が。
どうも、月城祐一です。チョコレート? なんのことやら……(すっとぼけ)
今回も『アルダワ魔王戦争』を巡る戦争シナリオです。
以下、簡単な補足を。
このシナリオは、『5-E『ダンジョン研究施設』』の攻略シナリオとなります。
OPにも触れられております通り、『失敗作』の能力に対する対策をプレイングに盛り込んだ場合、戦闘が有利となるシナリオです。
(=プレイングボーナスが加算されます)
戦闘相手は、強化型(弱体型?)『死霊兵』となります。
敵の情報についてはOPで触れられている通り。
普通に戦ってもそれなりに有利に戦えるとは思いますが、強化された点を対策するか、弱体化した点を突くかした場合、より完璧な形で勝利を掴む事が出来るでしょう。
ファーストダンジョンの攻略は、ここからが中盤戦。
皆様の熱いプレイング、お待ちしております!
第1章 集団戦
『死霊兵』
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POW : 剣の一撃
【血に濡れた近接武器】が命中した対象を切断する。
SPD : 弓の一射
【血に汚れた遠距離武器】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
WIZ : 連続攻撃
【弓の一射】が命中した対象に対し、高威力高命中の【剣の一撃】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
イラスト:のりしろこ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
栗花落・澪
呪い、か…
対策になるかはわからないけど…
【呪詛耐性】を組み合わせた【オーラ防御】を身に纏い
翼の【空中戦】で上から狙わせてもらうよ
【破魔】を宿した光魔法の【高速詠唱、属性攻撃】で
目眩しを兼ねて攻撃
呪い、呪詛には効果あるかもしれないからね
それで足止めができたら更に
足場に★どこにでもある花園を生成
動くものはなんでも敵…って言ったね?
だから風魔法で花弁達を巻き上げ花嵐を作り出す事で
動くもの、つまり花弁を敵と認識させ
風の軌道を調整する事で敵の狙いがこちらに向かないよう撹乱
楽しいダンスの時間はもう終わりだよ
次はゆっくり…おやすみなさい
【催眠歌唱】で操る【指定UC】の【範囲攻撃】で
破魔による一掃を狙うよ
●
カタカタカタ。無数の骨が揺れ、その手の弓で矢を向ける。
迫りくる矢。驟雨の如き密度のそれの一つ一つには、凶悪な憎悪の念が籠もっているのだという。
生者が触れれば昏倒は必至と思える程に、籠められた念は強い。その負の情念を……
「そんなもので!」
栗花落・澪(泡沫の花・f03165)が振るう聖杖から放たれた光が、迎え撃つ。
ぶつかり合う、憎悪と聖気。相反する属性の力は、ほぼ互角であったか。対消滅を起こし、研究室の空気に消えていった。
(対策になるかは、わからなかったけど……)
『失敗作』と切り捨てられた強化型死霊兵。その対策として澪は、まずは自身の護りを固める事を優先した。
空を飛ぶ事で敵の剣の射程外へとその身を置き(幸い、研究室はより大型の存在を研究する事も考えていたのか、飛行に問題がない程度には大きかった)、強化されているという相手の憎悪の念に対抗する様に、呪詛への耐性を高める為に己に宿る魔力を練り上げ、オーラの壁を作り上げていた。
その上で、澪は敵と相反する属性での射撃戦を展開する事で、敵の眼を潰し足止めを行おうと考えたのだ。
(……ここまでは、上手くいってる、かな?)
迫りくる矢は尽く光の中に溶け、その光に誘われる様に骨を鳴らして死霊兵が澪へと群がる。だがどれだけ群れようと、死霊兵のその呪われた腕が澪の身体を捉える事は無い。
入念に重ねた、澪の死霊兵対策。その準備は、現時点では満点と言える成果を挙げていた。
「……そろそろ、いいかな」
眼下に群れる骸骨の群れ。放たれた二の矢、三の矢も尽く光に還しながら、澪の口から言葉が溢れる。
その言葉に反応したかのように、澪の身体に刻まれた聖痕が淡く輝く。魔力を込めて、その輝きを一層強めれば……
「動くものは、なんでも敵……って言ったね?」
具現化されるは、色とりどりの花弁の数々。気付けば地は美しい花々に覆われていた。
再び魔力を高める澪。腕を振るって風を起こせば、その風は旋風となって花畑を吹き抜けて。咲き誇る花々の花弁を散らし、舞い上げる。
……グリモア猟兵は、『敵は目の前で動く全ての者を生者と判定する』程に、敵の判断能力は低下していると言っていた。
ならば、風に乗って舞い上がった花弁の動きでも、敵の認識を阻害し、引き付ける事が可能であるはずと、澪は考えた。
そして、その狙いの正しさは……
(──狙い通り!)
花弁へ向けて刃を振り上げる死霊兵たちの姿が、示していた。
閃く剣刃。禍々しい呪いの力を纏うその刃が翻る度に、花弁は確かに斬り裂かれるが……千切れた花弁は更に舞い散り、細かな破片となるばかり。
その破片を追うように、死霊兵の刃が更に振るわれ、花弁が散り……不毛な行いが数度続けば、澪へと注意を向ける死霊兵はいなくなる。
「……楽しいダンスの時間は、もう終わりだよ」
護りを固め、敵の注意を逸し、周囲は舞い踊る花弁の欠片で満たされた。
……舞台は、出来上がった。すぅ、と深く息を吸い込み、澪の喉が振るえて旋律を紡ぐ。
聴く者の意識を不思議と惹き付ける、高く澄んだその旋律。その調べに応える様に、花弁が淡く輝けば……
──ピシッ、ビキッ……!
死霊兵たちの、剥き出しの骸骨に亀裂が走る。
……舞い踊る花弁は、澪の歌声に乗ったユーベルコードの力によって敵を討つ武器と化していた。その力に、澪は破魔の力を上乗せする事で……死霊兵の憎悪を、一気に祓ったのだ。
「次はゆっくり……おやすみなさい」
身体を支える憎悪の力を祓われ、次々と崩壊していく死霊兵たち。
ガラガラと骨が崩れ落ちるその音を、澪はただ瞳を閉じて聞き届けるのだった。
大成功
🔵🔵🔵
サンディ・ノックス
※アドリブ、連携歓迎
憎悪のあまり帰ってきてしまっただけでなく、その憎悪を強化されてしまっているなんて…早く眠らせたいな
それを安らかにする方法はもっていないから、力で解決するのは仕方ないよね
UC解放・星夜を使用、青色の水晶が形を変えた小人達を呼び出し兵に向かわせる
元気いっぱいの子達で、楽しそうにふわふわ飛んで兵を取り囲み小さな魔法弾を撃つよ
攻撃されて仲間が潰されようが気にせず遊び続けるだろうね
俺は兵が小人達に気をとられている間に接近、一体ずつ黒剣で斬って片付けていく
攻撃を受けても【オーラ防御】を行い、更に【激痛耐性】と【呪詛耐性】でダメージ軽減、苦痛を表情に出さず小人と同じく楽しげに戦い続けよう
●
死霊兵。苦役の果てに死んだ囚人や罪人の、成れの果て。彼らは総じて生者に対して強い憎悪を抱いたまま、オブリビオンとして蘇ったのだという。
その中でも、目の前の『失敗作』とされる死霊兵たちは……特に『憎悪』を強化された、実験作であるらしい。
(……早く、眠らせたいな)
そんな敵を前にして、サンディ・ノックス(調和した白黒・f03274)が向けた思いは……『憐憫』であった。
彼らに、理性は無い。ただただ本能を剥き出しにするばかりでなく、その本能さえも他者によって無理矢理に肥大化させられている。
その姿は……実に、哀れではないか。
(まぁ、安らかにする方法は持っていないから……力で解決するのは、仕方ないよね)
振り下ろされた死霊兵の斬撃を軽やかに躱しつつ、懐から取り出したのは青の水晶。
念を込めるかのように軽く握って、剣を振り上げた死霊兵へと放り投げれば……
「──この子たち、どう見える?」
水晶は忽ちの内に小さなヒト型、小人へとその姿を変える。
その数、実に325体。一体一体の力は決して強くなくとも、彼らは元気に満ち溢れ、群れを成しふわふわと飛び回り、小さな魔法弾を撃ち放つ。
そんな陽性の気に溢れる小人たちの姿は、死霊兵にとっては滅法目障りな存在に映ったのだろう。低下した判断力も相まってか、剣や弓矢を矢鱈に振り回して小人たちを追い立てるが……そんな死霊兵たちの攻撃を気にせずに、小人たちはただ遊び続けるのだ。
飛び回る青い小人、振り回される憎悪の力。また一体の小人が潰され、次の小人へと呪いの力が向く──
「……遊びに加わるのは、その子たちだけじゃないよ?」
──その瞬間。響く言葉と黒い光が閃くと、一体の骸骨が腰の部分から横一文に断ち割られ、崩れ落ちた。
文字通りの、腰斬の剛剣を振るったのは……愛用の黒剣を抜き放った、サンディだった。
「ここからは、俺も加えさせてもらうよ」
口元に不敵な笑みを浮かべ、黒剣を構え直すサンディ。高まるサンディの闘気に反応したか、一体の死霊兵の弓の弦が震える。
ヒュッと、響く風切り音。迫り来る呪いの一矢のその狙いを看破して、サンディは致命傷だけを避けるかの様に最小限の動きで……その矢を、肩で受け止める。
(──ッ、重い……!)
付与された呪いの力によるものか。身体の芯に響くかの様な衝撃を受けたサンディの動きが、止まる。その隙を見逃さんと言わんばかりに、更に数体の死霊兵が呪いの剣を振り上げて迫り……
「……ハァッ!!」
その瘴気の刃を振り下ろす前に、身に纏う憎悪ごと。サンディの黒剣に、纏めてその骨を砕かれた。
……常人であれば、死霊兵たちの纏う力を受ければ動けるはずもない。強化された呪いの力で自由を奪われ、その生命を散らしていただろう。
だが、サンディは常人ではない。彼もまた、歴戦を越えた超常の存在。過去より迫る悪意を討つ力ある者……猟兵なのだ。
……その身にダメージを受けた事が銃爪となったのか、サンディの闘気が、更に高まっていく。
その闘気を前にしては、呪いの矢が彼の身体を穿つ事など最早無い。迫りくる刃や呪いの力も、また同じことだろう。
「……ハッ。ハハッ!」
……無論、傷を負った事で痛みを感じていない訳が無い。だがその痛みを表に出さずに、サンディの口から溢れたのは……楽しげな、笑い声だ。
一体、更に一体。サンディと小人たちの楽しげな声が研究室に響く度に、死霊兵が砕かれ消えていく。
全ての死霊兵が打ち砕かれる、その時まで。彼らの楽しげな声は、続く事だろう。
大成功
🔵🔵🔵
クー・フロスト
【アドリブ、連携歓迎します】
●心情
わー!わたしの、補充兵だー!
(ちがう)
そうでしょう?強化されてるしー!
(だからちがう)
だったら、こっちもスケルトンバトルでゲットだぜ!
(なにそれ)
●戦闘
UCを使い、妙に思考能力があるスケルトンたちを召喚します
何故かハリセン持ってる個体もいますが、基本は真面目に『長槍』や所持武器の『死神の鎌』を持たせて連携攻撃で、追い詰めていきます
(アドリブお願いします)
クーが『氷の大鎌』を持ち
狂気の言葉やなんかやばそうになったら
UCに召喚された仲間が焦りだし
ナナメ45度から、なんやかんやして正気に戻されます。
たぶん
命を粗末にしてはいけません!と怒られたら
しょんぼりするよ
●
「ククク……我がシモベたちよ」
和服を着こなす青髪の少女、クー・フロスト(《甦生氷姫》氷の死神少女・f08503)が、背に立つシモベたちへと向けて声をあげる。
シモベたち……その正体は、白骨の歩兵を始めとした不死者の兵団だ。死神を自称する死霊術師であるクーの本領発揮、と言って良いだろう。
「さぁ、我が命に従い……」
何かを見定めるかのように、死霊兵を見つめるクー。その手を振り上げ、号を発する様に振り下ろされる。
「スケルトンバトルで、ゲットだぜ!」
長槍を、大鎌を手に構え、勇壮に動き出そうとした白骨歩兵の動きが、その言葉を聞いて止まる。
カタカタと骨を揺らしながら、んん? と言わんばかりに。白骨歩兵たちはその頭蓋骨をクーへと向けた。
……彼らには、言葉を伝える能力はない。だがその仕草はどう見ても、『急に何言ってんスか、我が主』と言わんばかりであった。
「いや、だって! あれ、どー見てもわたしの補充兵でしょ!?」
強化もされてるみたいだしー! と手をバタバタさせるクー。冒頭のクールさなど、最早完全に消え失せてしまっていた。
恐らくは、目の前の『失敗作』たちのその姿に、死霊術師としての知識欲が刺激されての発言であったのだろう。まぁ、それは判らんでもない。
だが……
「──ひゃっ!?」
死霊兵の側からしたら、そんな事はどうでも良いことである。むしろジタバタとするこの場で唯一の生者であるクーに狙いを定めて、呪われた矢をビュンビュン飛ばしてくる始末である。
飛来する矢の雨を、悲鳴を挙げつつしゃがみ込んで回避するクー。白骨歩兵たちも骨の壁を作り身を呈して主を守る事でクーが被害を受ける事は無かったが……あまり悠長にしている余裕は、なさそうだ。
「うぅー……しょうがない。いけー! わたしのスケルトン軍団ーっ!」
名残惜しさを振り払うように、拳を振り上げ攻撃命令を下すクー。その命に従い、白骨歩兵たちは隊伍を組んで死霊兵へと突っ込んでいく。
隊伍を組んだ長槍が振り上げられ、唸りを上げて振り下ろされる。大鎌も風を切る音と共に振るわれれば、死霊兵は骨を砕かれ、断たれ、その数を減らしていく。
だが、敵もやられるばかりではない。反撃にと飛び交う矢が、振るわれた剣が、白骨を穿ち、叩けば……状況はほぼ、五分五分か。
「ぐぅ、むむむ……!」
一進一退の激しい攻防。その様子を一歩引いた位置から見守るクーの表情に、焦燥の色が浮かぶ。
このまま行けば、恐らく僅差でクーの白骨歩兵が押し勝てるだろう。だがその代償に、白骨歩兵はその数を大きく減じる事になるのは間違いない。
戦いに犠牲は付き物だ。だがその犠牲は出来るだけ少なくしたい……ならば。
「やはりわたしが前に……」
ブツブツと呟きながら、クーの白い指が顕現した『氷の大鎌』に触れる。氷の魔力が封じられたそれは、クーの力の象徴であり……使えば使う程、精神を蝕む諸刃の刃だ。
聞こえ始める、狂った様な笑い声。クーの脳内にのみ響くそれは、大鎌の持つ魔力が聞かせる幻聴だ。
その事を、クーはよく知っている。普段ならそんな幻聴に惑わされる程、クーの心は弱くはないのだが……
「そ、そうだ。死神の力を使えば、生者判定も誤魔化せるかも……」
切迫しつつある戦況を前にすれば、その冷静さも鈍る。狂人の声に惑わされ、クーの眼に浮かぶ光が鈍る。
狂気に呑まれかけた、クーの精神。その心の赴くままに、一歩前へと脚を運ぼうとした、その瞬間だった。
──すぱーんっ!!
「あいたぁっ!?」
小気味いい音が、クーの頭を打つ。涙を浮かべて振り向けば……そこにいたのは、クーの護衛役として残っていた白骨兵だ。
その手に握られていたのは、槍でも鎌でなく……なぜかハリセン。どうやらこのハリセンを思いっきり振り抜いて、クーの狂気を打ち払ったらしい。
「ちょっとぉ! 急に何……あだーっ!?」
拳を振り上げ抗議の声を上げたクーの頭を、もう一度ハリセンが襲う。
二度も打たれれば、クーも気付くだろう。声を発さぬ白骨兵から漂う、強い感情の色を。
……まるで、『無闇矢鱈に前に出ようなど、命を粗末にするつもりですか!』と。そう言わんばかりではないか。
「……ぅ、ぅん。ごめん、ちょっと焦ってたかも知れない……」
主の身を思う配下のその思いに触れれば、クーも冷静さを取り戻す。
その後、クーは若干気落ちしつつも後方から配下の奮闘をしっかりと見守り続け……その勝利を、見届けたのだった。
成功
🔵🔵🔴
不知火・イヅル
ボク、実験体だったから、こういうところは見慣れている感じがするよ。
『ナツカシイ』……とは、少し違う気はするけれど。
目の前で動いているものを、彼らがイキモノだと認識するのなら、目に見えないところから攻撃すればいいんだよね?
ボクはイキモノだから、彼らに狙われるのはしかたがないし、囮として積極的に動いてみようかな。
多少、怪我をしても、ボクはかまわないよ。
だって、彼らがこれまでに受けた痛みと、これから受ける痛みとは、比べものにならないんだから、ね?
いくらか、彼らを引きつけられたら、ユーベルコードを使うよ。
――さあ。鬼ごっこは、おしまいの時間だよ。
ベアータ・ベルトット
死んでからも怨念に縛られ続けるなんて…ま。憐れな話ではあるわね
良いわ。私が解放してあげる
戦闘前に新鮮な生肉を喰らって機関を活性化
食べた肉で作った赤い霧を排出し敵の視野を覆い隠す―これは、アンタ達を闇へ還す葬送の霧よ
暗視デバイスを起動。闇に紛れ、こっそり骸骨の背後に移動。まず武器持つ腕を斬り落としてから、骨を獣の牙で噛み砕くわ
霧が晴れるまで。骸兵を次々と喰らい続ける
私の姿を認めて敵が集まってきたら…最後の仕上げよ。Foxphoric Flamerで生成した強大な火炎で、死霊兵達を纏めて火葬にする
赤い、赤い。鮮血よりも赤い炎―
アンタ達を縛りつける憎悪の念も何も、全部灼き溶かしてくれるわ
……安らかに
●
割れた巨大な培養槽、放棄された様々な実験器具、常人には理解できぬ殴り書きが垣間見える破られたメモ……
雑多な物が散らばり、その上を『失敗作』が踏み荒らす研究施設は、不知火・イヅル(電脳世界のキオクの守り手・f02177)に不思議な既視感を感じさせる雰囲気を持っていた。
(こういうところは、見慣れている感じがするよ)
物心の付く前から、超常の力を研究する施設に実験体として囚われていたというイヅル。
そんな『彼女』──いや。本人の認識に従い、あえて『彼』としよう──彼にとって、この場所の空気はかつて生活していた場に親しい物を感じさせる何かがあるのだろう。
とは言え、その何かを『ナツカシイ』物だとは思えないようだが。
「死んでからも怨念に縛られ続けるなんて。ま、憐れな話ではあるわね」
隣に立つベアータ・ベルトット(餓獣機関BB10・f05212)の瞳もまた、何かを思うように揺れていた。
飢餓に心を苛まれる少女にとって、憎悪に魂を縛られた存在には何か感じるものがあったのだろう。その瞳に浮かぶ色に名を付けるのならば……それは『哀れみ』という名が、近いだろう。
「……良いわ。私が、解放してあげる」
言葉と共に、ベアータの身体に刻まれた刻印、餓獣機関が唸りを挙げる。活性化した機関は猛烈な勢いで熱を上げ、蒸気を排出していく。
蒸気の色は、赤。まるで滴る血液の様な鮮明な色の蒸気が研究室に満ち……視界を遮る、深い霧の世界を作り出す。
(この霧は、アンタ達を闇へ還す葬送の霧よ)
一寸先も見えぬ、という程の赤に支配された世界。その中を、死霊兵たちの後方へ回り込む様にベアータが駆ける。
その足取りは、まるで赤い霧に紛れ、同化しているかの様に軽やかだ。デバイスの補助もあるだろうが、やはりベアータ個人の積んできた経験があってこその動きであると言えるだろう。
だが、ベアータがスムーズに動けている、その大きな理由は……
「さぁ、いくよ」
霧中を戸惑わず正面突破し、死霊兵の注意を惹き付けているイヅルの存在こそが、最大の理由であると言えるだろう。
『目の前で動く全ての物』を攻撃するという、状況判断力に難がある敵である。もし、誰かが囮を買って出て敵の注意を惹き付けられれば、攻撃の好機はより多く訪れるだろう、と。イヅルはそう考えた。
だが、その考えは。囮役に大きな負担が圧し掛かる事になる考えだ。そう簡単にあることではないが、一歩間違えれば命の危険すらあり得るだろう。
(……多少、怪我をしても。ボクはかまわないよ)
しかし、イヅルはそんな危険に怯みはしない。
自分がイキモノである以上、敵に狙われるのは避け得ない事であるし、自身が囮になって味方が動きやすくなるのなら、問題はない。
それに、何より……今まさにイヅルに刃を振り下ろそうとしている死霊兵たちが、これまでに感じた痛みと、これから感じる痛みと比べれば。
(ボクが受ける痛みなんて、比べ物にならないんだから、ね……!)
襲いくる衝撃。骨を砕き、髄へと染み入る様な不快感を、歯を食い縛りイヅルは耐える。止まりそうになる脚を念動力で無理やり動かして、続く斬撃、降り注ぐ矢を紙一重で躱していく。
致命傷は、なんとか回避した。だが負傷を負ったのは事実であり、このままではイヅルは遠からず敵の手に掛かる事になるだろう。
……死霊兵たちの側からすれば、憎き生者を嬲り殺しにする絶好の機会の到来、と言った所。自然、死霊兵達の意識もイヅルへと集まっていく。
──バキッ、ゴリ、ゴリ……ボキッ!
その瞬間だった。死霊兵たちの群れの最後尾から、まるで骨を折り、砕き、噛み潰すかのような鈍い音の数々が響いたのは。
「『喰ラエヤ喰ラエ ヒトデナシ』」
……いや、その音はまさにその通り。迂回を成功させたベアータの右目に植え付けられた餓獣の舌が、生き血に飢える機械の四肢が、死霊兵の骨を折り、砕き、噛み潰した音だ。
ベアータの左目が、怪しく輝く。身体の内に宿る獣の魂が身体を突き動かし、更に一体、次の一体と……死霊兵の骨を、貪り喰らう。
その姿を遠目に見れば、ベアータの理性は喪われたように見えるだろう。完全に飢餓衝動に身を任せケモノと化したかと、そう思うかもしれない。
(……アンタ達を縛り付ける、憎悪の念も、何も……)
だが、しかし。ベアータの頭は、人の理性を残していた。怪しく輝く瞳には未だ哀れみの意思を宿し、彼らの魂を解放するという意思を手放してはしていないのだ。
噛み砕いた骨の中に含まれる元素、リンがベアータの口腔内で化合される。化合されたリンは、口腔内で火種となり……
(全部、灼き溶かしてくれるわ!)
骨を焦がし、魂をも浄化する炎の吐息となって、放たれる!
赤い、赤い。鮮血よりも赤い炎。舞い上がるその業火は死霊兵たちの纏う装備を溶かし、骨を灼き、灰へと還していく。
……呪われた存在を浄化する、燃え立つ炎。その熱を受ければ、イヅルもその動きを変える。
「……もう、終わりにしよう」
敵の意識を惹き付ける為、今までは回避一辺倒だった。だが、味方が攻撃に転じたのならば……動くべきは、今。
迫りつつある死霊兵の群れを、睨みつける。後方の出来事に目もくれぬ彼らの姿を見れば、彼らの異常性が一層浮き彫りとなるようだ。
……そんな存在は、ここで解放しなければならない。
「──さあ。鬼ごっこは、おしまいの時間だよ」
開いた掌を、敵へと向ける。その掌から『攻撃の意思』を志向するように念じれば……
──カッ!!
瞬間、降り注ぐ発光。召喚された戦闘用の衛生から射出されたレーザー光線が、死霊兵たちを射抜いたのだ。
降り注ぐレーザー光線のその熱量は、後方で今も燃え盛る業火に引けを取る物ではない。圧倒的な熱を以て、死霊兵たちの存在を照らし、灼き……灰を越え、蒸発させていく。
「「……安らかに」」
熱の中に消えていく、歪められた死霊達。消え行く彼らが解放されますようにと願いながら。
イヅルとベアータは、意図せず同じ言葉を呟くのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
秋月・信子
●WIZ
『目の前で動く全ての者を生者と判定する』までに『状況判断能力が著しく低下』…
それなら『囮』で釣るのが最善でしょうか?
【影の使い魔の召喚】を放ち、私は【地形の利用】をしながら静かに猟をする狩人のように足音に気を払いながら、銃声も抑えるようにサプレッサーを取り付けて進みます
使い魔達に反応すれば良いのですが、もし不意に遭遇したとしても、直ぐに撃てるようショットガンに【破魔】の力を有した散弾を装填したままの状態で構えながら息を潜め、背を向けるまで待った後に上半身に狙いを定め、散弾で【吹き飛ばし】ます
…『失敗作』とは言え、元人間です
ヴィクトリアさんが何時もしているように…残骸にお祈りをします
●
(『目の前で動く全ての物を生者と判定する』までに、『状況判断能力が著しく低下』……)
秋月・信子(魔弾の射手・f00732)は、グリモア猟兵が語った敵の弱点を思い出す。『憎悪』を強化され呪いの力を振るうその反面、脆くなったというその部分の事を、思い出す。
信子は、自身の運動能力にそこまで強い自信は抱いていない。下手に死霊兵の前に姿を晒せば、遠からぬ内に危うい目に遭う事になるのは避けられないだろうと判断していた。
ならば、やはり……
「……『囮』で釣るのが、最善でしょうか」
呟きと共に念じれば、信子の足元を飾る影が蠢き出す。
ぐにゃりと縮まり、伸びて、厚みを増して、立体的に浮かび上がれば……300体を超える等身大のヒトガタへと、姿を変える。
「行って、影の使い魔達!」
そして一つ命を下せば、信子の意を受け影のヒトガタ達が動き出す。
目立つように、派手な動きを交えながら動く影の群れ。その姿を目にし、惹き付けられるかのように、死霊兵が続々と集まってくるその姿を……
「……」
信子は放棄された大型実験器具の影に隠れながら、ジッと見つめていた。
自らの存在を消すかのように、息を潜める信子のその手に握られているのは、愛用のコンバットショットガン。銃口には発砲音を打ち消す消音器(サプレッサー)を取り付けて、その目はさながら熟練の狩人の如く。油断無く、状況の推移を見守っていた。
……そして、それ程の時を置かずして、状況は動く。影の一個小隊が矢に、剣に貫かれながらも、数体の死霊兵を信子の側まで引き連れてきたのだ。
(……まだ、もう少し……)
攻撃を受けた影は、あっさりとその存在を消滅させて信子の影へと還っていく。一体、二体、三体……次々に減っていく影の小隊が全滅した、その瞬間。
(──今ッ!)
信子が、動く。
低い姿勢を維持したまま物陰を飛び出し、影の小隊を全滅させた死霊兵たちの背後へと進み出る。そのまま片膝を立てる膝射姿勢を取ると、散弾銃の筒先を向け、狙いを定め……
──バスッ! バスッ!
銃爪を引き、狙いを定め直しての即座の二射目。
放たれた銃弾は、破魔の力を宿す銃弾だ。一つ一つに強力な魔祓いの力が宿る小さな銃弾は。空間を薙ぐように死霊兵たちの上半身を絡め取り……その『憎悪』の力を、根刮ぎに浄化し、祓っていく。
その力の根源を喪って、蒸発する上半身。数秒遅れ、残された死霊兵の下半身も消えていく。
その光景を見つめながら、信子が思うのは……やはり哀れみであり、後の彼らの安息だ。
(『失敗作』、オブリビオンとは言え……彼らだって、元は人間です)
どんなに悪しき者であっても、その罪を償えばやり直す機会は与えられるべきである。
……苦役を十分に果たしたのであれば、死霊兵たちにも死後の安息を与えられても良いはずだ。
「……主よ。その『憎悪』に蝕まれた魂を、癒やし給え……」
信子をこの場に送り込んだグリモア猟兵。彼女の抱く慈愛の精神と姿勢を思い出しながら。
信子は消え行く死霊兵の魂に、小さな祈りを捧げるのだった。
大成功
🔵🔵🔵
御園・桜花
他の猟兵と共闘
死霊兵達に対しUC「魂の歌劇」使用
華々しい勲しの歌や戦いの歌、戦闘後の平和を喜ぶ歌に、破魔と慰めのスキルを乗せて歌う
死霊兵達の注意を引いて戦闘に集中しづらくさせること
死霊兵自体の戦闘力を削ぐことが目的
集中攻撃される可能性はあるがその分仲間が攻撃しやすくなると思うので、戦闘終了まで歌い続ける
敵からの攻撃は見切りや第六感で可能な限り避ける
難しい場合はカウンターからのシールドバッシュで少しでも距離を開けるようにしながら歌うのを優先する
「途切れた筈の過去が、尚も終わらず繰り返されることが、1番の悲劇だと思うのです」
「…確かにここは異世界ですが。貴方達にも、転生の機会が与えられますように」
リンタロウ・ホネハミ
ほほう、目の前で動く者を……っすか
なるほど、それは仕事が楽になりそうな弱体化っすねぇ!
武器がいくら強かろうと、それを使う頭がなきゃあ意味がねぇってこと
この“骨喰”リンタロウが見せてやりまさぁ!
まずはカメレオンの骨を食って【〇八七番之隠伏者】を発動!
これで透明になればもう攻撃される心配はねぇっすね!
まあ割と疲れるっすけど、そこは気合いと根性で……
後は死霊兵を見つけ次第、石を投げるなりなんなりして誘導
良い感じに集めたり分断したりしたところで呪骨剣で片っ端からぶっ倒してくっす!(おびき寄せ、薙ぎ払い)
同じ骨でも、こっちの方が上等な骨ってなぁ!
●
舞い散る花が、鋭き剛剣が、浄化の熱、矢弾が、死霊兵たちを討ち、その魂を解き放っていく。
そんな解き放たれた魂と、今もこの場に残る呪われし死霊兵たちを慰めるかのような声が、研究室に響く。
「……響け、魂の歌劇。この一瞬を永遠に」
御園・桜花(桜の精のパーラーメイド・f23155)が、喉を震わせ音色を紡ぐ。時に華々しい勲しの歌や勇壮な戦いの歌を、戦闘後の穏やかな時を喜ぶ平和の歌を、桜花が歌い上げていく。
その全ての歌は、生者がその生を謳歌するからこそ共感を得る類のもの。生者を憎み、その憎悪を強化された死霊兵たちにとってみれば……その歌は、何者よりも憎むべきものだ。
カタカタカタ、と骨が鳴り、向けられた剣、番えられた矢先の輝きの数々が、桜花の目に入る。同時に向けられた憎悪の念もまた、桜花は感じるだろう。
だが、しかし。そんな物に、桜花が怯む事は無い。
(──途切れた筈の過去が、尚も終わらず繰り返される事が、一番の悲劇だと思うのです)
桜花は、影朧……オブリビオンを癒やし、次なる生へと導く『桜の精』だ。そんな彼女にとって、今目の前で憎悪を向けてくる存在は、ただ倒せば良い敵という訳ではない。可能ならば救い上げるべき、救助対象でもあるのだ。
その勤めを果すべく、桜花は歌を止めない。死者を癒やし、自身に敵を惹き付ける、その為に。彼女は強い覚悟を以て、この場に挑んでいた。
(目の前で動く敵を……なるほど、これは楽な仕事が出来そうな弱体化っすねぇ)
そんな彼女の覚悟に大いに助けられた者がいる。死霊兵の列の懐に潜り込んだ、リンタロウ・ホネハミ(骨喰の傭兵・f00854)だ。
今、リンタロウはカメレオンの骨を喰らう事で透明化するという自身のユーベルコードを発動させて、自身と纏う武具を透明化していた。
敵は、『目の前で動く者全てを攻撃する』のだという。ならば、透明化して姿を消してしまえば。その答えは、側まで接近したのにまるで反応を示さぬ死霊兵の様子が示していた。
……そんな距離まで近づいたからこそ、リンタロウには分かる。死霊兵たちの纏う武具、そして呪いの力は並の物では無いだろうということを。
(だが、いくら強化しようと……それを使う頭がなきゃあ、意味がねぇ)
そう、戦いにとって最も重要なのは、手持ちのカードを如何に上手く使い熟すかという知恵や機転である。
いくら攻撃力を強化しようが、それをどう振るうか判断する頭が無いのであれば……リンタロウの思う通り、意味は無いのだ。
……だからこそ、彼らは『失敗作』とされ、放棄されたのだろうが。
(その辺りの事を、この“骨喰”リンタロウが……見せてやりまさぁ!)
桜花に向けて、振り上げられた死霊兵の剣。腕を振り上げた事でがら空きとなった胴を狙い……渾身の力を籠めて呪骨剣を、横一文字に振り抜く。
粉砕される、死霊兵の背骨。上下に分断され、地に転がった白骨はそのままバラバラと崩壊し、浄化されたかのように塵へと還っていく。
消え行く呪われた失敗作。だがリンタロウはその姿に一瞥をくれる事もなく、新たな敵へと再び剣を叩きつける。
(疲れるっすけど、そこは気合と根性で……っ!)
透明化、という強力な能力には当然リスクも付き纏う。持続すればするだけ、リンタロウの体力は喪われ、消耗していくのだ。
限界を迎える前に、可能な限りの敵をぶっ倒す。まさに気合と根性で身体を支えながら、リンタロウはまた新たな骨を無へと還した。
だが、流石に多勢に無勢。リンタロウの攻撃だけでは、桜花に攻撃が向かう前に全ての敵を駆逐するには手数が足りなかったか。
無事な死霊兵から、桜花を穿たんと矢が放たれる。迫りくる、呪いの力宿る鏃の雨を……
「──~~っ!」
歌を止める事無く、掌を振るって桜花が凌ぐ。彼女のその手を良く見れば、桜色の布手袋のその表面に、うっすらと浮かぶ光の膜がある事に気付くだろう。
桜花の手を飾る布手袋は、一見すればただのおしゃれ装備にしか見えない。だがその実態は……この通り、身を守る光の盾を生み出す立派な武具であるのだ。
(確かに、ここは異世界ですが。貴方達にも、転生の機会が与えられますように……)
たった一人で繰り広げられる歌劇も、遂に大詰めを迎えれば。桜花の意思は燃え、比例するかのように響く歌の圧も高まっていく。
(同じ骨でも、こっちの方が上等な骨ってなぁ!)
そうして高まる歌の盛り上がりに応えるように、桜花の目には見えぬ共に戦う協力者、リンタロウの攻撃も一層苛烈さを増していくのだ。
……やがて、戦場に響く桜花の歌が終わりを迎えた時。そこに立つ死霊兵は一体も残らず消える事になる。
『ダンジョン研究施設』に蠢く『失敗作』の殲滅。その務めを、猟兵達は見事に果たしたのだった。
成功
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