4
ほんの小さな災厄の種

#UDCアース

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#UDCアース


0




●災厄の種
 夜の帳が街を覆い、街灯が道行く人を照らす。
 文明の発展は、街から闇を消し去らんばかりだ。
 しかし……。
 どれほど灯りが増えようとも、消えぬだけの深い闇が潜んでいた。

 遠目から見たら廃墟と見紛うような、恐ろしく古びた校舎があった。
 そこはとうに使われてはおらず、生徒が勝手に捨てた、様々なゴミが山のように積み重なっていた。

 誰もいない校舎の中で、モノが動く音がする。
 何語ともつかない怨嗟の声が、校舎の中でこだまする。
 嫌味なくらいに耳につく、モノの音。
 悪意に満ちたおぞましい声。
 それらはいつしか結び付き……。
 望まれぬ怪物が、この世に生まれ落ちた。

●グリモアベース
「モノに想いが宿る……というのは聞いたことがありますか?」
 グリモアベースの中で、片手に紙の本を持った、一人の女性が呟いた。
 彼女はノルナイン・エストラーシャ(旅する機械人形・f11355)。ミレナリィドールのグリモア猟兵だ。
「例えば、私たち猟兵の中には、ヤドリガミという人たちが居ます。百年という長きに渡って使われ続けた器物が、肉体を得たのがそれです。モノに魂が宿ったのです」
 しかし、と彼女は言葉を一旦区切った。
「宿る想いが良いものばかりとは限りません。例えば、今から行くUDCアースの日本では、人形に悪霊が宿る、なんていうホラーがいくつもあります。そして、悪霊なんか生ぬるい、更に恐ろしいものが宿る、なんていう事もあるかもしれませんね」
 ぱたん、と手に持っていた本を閉じ、彼女は顔を上げた。

「では、ブリーフィングを始めます。
 今回皆さんには、UDCアースに向かってもらいます。その街で何か異変が起きているようなのです」
 ぱちん、と彼女は指を鳴らす。
 すると、グリモアベースの外の風景が、どこかの郊外のようなものに変わった。
「現在この街では、様々なモノが無くなっていく、という奇妙な事件が起きています。
 ただの失せ物事件と侮ってはいけません。ここには明らかに、非日常的な力……つまり、UDCの影響が見られるのです。そのため、まずはこの失せ物事件の調査をしてもらいます。調査方法は各々にお任せします」
 彼女曰く、失せ物事件を実際に体験してもいいし、証拠を探してもいい。あるいは、目撃者や失せ物事件の被害者から話を聞いてもいい、という事だった。

「次に、皆さんはある学校へ向かう事になるはずです。
 そこの旧校舎には、何やら良くない噂がいくつもあるみたいです。ここを調べ、何が起こっているか、そして何が起ころうとしているか、をつきとめてください。これも調査方法はお任せします」
 彼女はここで一旦言葉を区切った。
「さて、私は旧校舎で、何か良くない怪物が生まれるのを予知しました。恐らく、猟兵の皆さんには、この怪物に対処してもらう事になると思います。強敵でしょうから、心してかかってください」
 ここまで言うと、彼女はふう、と息を吐いた。

●災厄の芽を刈り取る者へ
「という訳で、今回の依頼は以下のように纏められます。
 UDCアースに向かい、街で起きている失せ物事件を調査。どこかの学校の旧校舎に向かって調査。そして、生まれ落ちてしまった怪物との対決」
 彼女はそこで立ち上がる。
「始まりはいくら小さかろうと、芽が育てば世界を喰らい尽くす災厄になるでしょう。
 ですから、猟兵の皆さん。
 私はあなたたちに、災厄の芽を刈り取る者になって欲しいと思います。
 どうか、よろしくお願いします」
 そう言うと、彼女はゆっくりと一礼した。


苅間 望
 始めまして。新人マスターの苅間望です。
 今回はUDCアースでの冒険(?)となります。

 今回のシナリオは、
 第一章で街で起こる失せ物事件の調査。
 第二章で旧校舎の噂の調査。
 第三章で怪物との対決。
 という流れになっています。

 未だ浅学非才の身ですが、楽しんでもらえるように頑張ります。
 という訳で、どんどん挑戦してみてください!
 どうぞよろしくお願いします!
32




第1章 冒険 『異常現象【初】』

POW   :    異常現象そのものに触れ、実際に体験する。

SPD   :    異常現象の現場を調査し、痕跡を探す。

WIZ   :    目撃者から話を聞き、原因を予想する。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ハイド・スパイン
自発的にでも消えるのか?
まさか手足でも生えてどっか行っちまうっていうのかよ、ハッ!


【POW】
無くなりやすいモンに規則性でもあるのか?
古いものは中古ショップで目ぼしい物を、新品はコンビニかスーパーでペンか何か買って一か所に放置しておくぜ
分かりやすい様に目印にシールでも貼っておくぜ
動きがあれば後をつける、念の為【影の追跡者の召喚】も出しておくか
「……経費で落ちんだろうな、まぁ安いもんでいいか」



グリモア猟兵の言葉を聞いたハイド・スパインは、心の中で笑った。
(自発的にでも消えるのか?
 まさか手足でも生えてどっか行っちまうっていうのかよ、ハッ!)
そこでハイドは、失せ物事件という『異常現象そのもの』に触れることにした。

(……経費で落ちんだろうな、まぁ安いもんでいいか)
そんな風な事を考えながら、彼は中古ショップやコンビニなどで様々なモノを買っていく。
動きがあった時に分かるように、目印としてシールもつけていく。
『無くなりやすいモノに規則性があるのか?』そして『どういう風に消えるのか?』
この二つが、彼にとっての疑問だった。

ハイドは買ったモノを、路地裏の一か所にまとめて放置した。
勿論、完全に放置という訳では無い。
彼のユーベルコードによって生まれた【影の追跡者(シャドウチェイサー)】が、陰に潜んで買ったモノを見張っていた。
動きがあれば後をつける必要がある、そう考えての事だった。

誰も居ない路地裏の中。
カタッ……カタッ、と音がした。
(来たか?)
【影の暗殺者】を通じて、ハイドはその音を聞いていた。
どうやら、彼の買ったモノがいくつか動いているようだ。
動いているものは、中古ショップで買った古い玩具や、工具類。
それらは誰も居ないというのに、ころころと転がり、溝へと落ちていった。
(手足が生えるって訳じゃねえんだな。どうやって動いてんだ?)

【影の暗殺者】は、動き出したモノたちを追う。
モノは溝へ落ちてもなお転がり続け、時に重力に逆らい、壁を登っていく。
そんなモノたちは、とぽん、と排水溝へと落ちていった。
(……これ以上追うのはマズそうだな)
ハイドはそう思い、【影の暗殺者】による追跡を切り上げた。
そして彼は、自分が買ったモノをもう一度確認する。
(玩具……工具、ネジやナットなんてのも無くなってんな。
 変なモノばっか無くなってるのはどういう訳だ?)
彼は悩んだが、これでひとまず成果を得た。

成功 🔵​🔵​🔴​

九十九音・みたま
・WIZで行動を開始します

もしかしたら付喪神とも、言うんだろうね。
日本だしどんなモノや存在にも宿るから。
まぁ、私も似たようなものか……なんてね?
とりあえず、遭遇した人の話を聞きに行こうかな。

出来れば細かく聞きたいけど……失くした事でショックを受けてる人もいるだろうし、その人の様子を見ながら訊き出したいね。
どんな時になくなったの?かどういう風になくなったの?
何か思い当たる節はないか、とか。
「お話し聞かせてくれてありがとう。あなたが失った物は帰ってくるよ」
気持ちの分だけそれは返ってくるのだから。
聞き出した分だけの情報を携えて。
返ってくるように、がんばらないとね。



(モノに想いが宿る……それはもしかしたら付喪神とも、言うんだろうね)
 グリモア猟兵の言葉を聞いた九十九音・みたまは、街を歩きながら考えた。
(日本だしどんなモノや存在にも宿るから。
 まぁ、私も似たようなものか……なんてね?
 とりあえず、遭遇した人の話を聞きに行こうかな)
 事件へのアプローチはいくつかある。
 その中でみたまは、失せ物事件の『被害者から話を聞く』ことにした。

 街を歩いていたみたまは、ふと泣いている少年に気付いた。
 涙を拭きながら歩くその少年に、声をかけた。
「どうしたの?」
 少年の目線に合わせてしゃがみ込み、安心させるように微笑む。
「……失くしたの」
 まだ幼い少年は、しょんぼりと俯きながら答えた。
(この子は失せ物事件に遭遇したのかな。大分ショックを受けてる)
 みたまは少年を気遣いながら、丁寧に話を聞いた。
 少年は時々涙をぽろぽろと零しながらも、彼女の問いにたどたどしくも、しっかりと答えていった。
 彼女の雰囲気が、思いやる心が通じたのだろう。

 どうやら少年は、親に買ってもらった古い玩具を失くしてしまったらしい。
 それも外で遊んだとか、友達に見せびらかしたとかでもなく、部屋にきちんと置いていたのに、だ。
 少年はその玩具を殊の外大切にしていたらしく、これは間違いないらしい。
「無くなったことについて、何か思い当たる節はない?」
 みたまがそう聞くと、少年は頷いて答えた。
「みんなのおもちゃも、無くなってるの。お外へ転がっていったって、言ってた」
(という事は……特に『玩具』が無くなっているんだね)
 みたまは心の中でそう考え、少年に微笑みかけた。
「お話し聞かせてくれてありがとう。あなたが失った物は帰ってくるよ」
「本当?」
「本当だよ」
 みたまがそう言うと、少年はぱあっと顔を輝かせた。
「じゃあ、ぼく待ってる!」
 少年は涙を拭いて、元気に駆け出した。
(気持ちの分だけそれは返ってくるのだから。
 聞き出した分だけの情報を携えて。
 返ってくるように、がんばらないとね)
 みたまは少年を見送り、心の中で呟いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

曽我部・律
今回の事件、他人事とは思えませんね。
私の体に取りついているUDCは考えようによっては
悪霊みたいなもの…、いつ私の人格が乗っ取られ
私自身が「失せ物」になってしまうかわかりません。

まずは聞き込みから始めますか
そうですね…なるべくならホームレスやごみ回収業者、
雑多なものが寄り集まるような場所がいい。
暗くじめじめした場所の方が私にはなんとなく性に合うんです
私みたいな者が他の猟兵さん達と鉢合わせるのも気まずいですしね…。

別人格の「絶」は
「そんなまどろっこしいは他の猟兵にでも任せておけ、お前は強力なUDCを取り込むことだけ考えて行動するんだよ」とでも言うでしょうが…



(今回の事件、他人事とは思えませんね)
 街を歩きながら、曽我部・律はそんな風に考えていた。
 彼の体にはUDCが定着している。
 呪術と科学の融合によって出来た芸当だ。
(私の体に取りついているUDCは考えようによっては悪霊みたいなもの。
 いつ私の人格が乗っ取られ私自身が「失せ物」になってしまうかわかりません)
 律は少し俯き、ロケットに触れた。
 そして顔を上げ、路地裏へと入っていった。

 事件へのアプローチはいくつかある。
 律は、失せ物事件について聞き込みをすることにした。
 そんな彼が、人気の多い通りではなく、路地裏へ入っていったのは理由がある。
 ホームレスやごみ回収業者など、彼らからの証言を聞いてみたいと思ったのだ。
(それに、暗くじめじめした場所の方が私にはなんとなく性に合うんです。
 私みたいな者が他の猟兵さん達と鉢合わせるのも気まずいですしね……)
 彼は寂しげに微笑み、路地裏への奥へと向かった。

 路地裏の奥には、律の考えていた通り、ごみ回収業者などが居た。
「はいよ、どいたどいた!」
 ゴミをあさるホームレスを追い払いながら、山のように積み上げられたゴミを回収していく。
「あの、すみません」
「何だい?」
 律はごみ回収業者に話しかけた。
「この辺りで、色々なモノが無くなっている……というような噂を聞いた事はありますか?」
「あー、何か聞いた事あるねえ。俺たちごみ回収屋からすりゃ、楽な話なんだがね」
 ごみ回収業者はあごに手を当てた。
「でも全部のゴミを持っていかれる訳じゃねえんだ。結局量は変わんねえから、俺たちの仕事が無くなる訳じゃねえ」
「どんな物が無くなっているんですか?」
「えーっと、確か壊れた玩具やら、バラバラになった燃えないゴミとかだな」
「では、何故無くなるのか心当たりは?」
「ふーむ」
 ごみ回収業者は、何かを考えるように唸った。
「ホームレスの連中……って訳ではないらしい。気付けば無くなっちまってるから、怪奇事件だとか何とか、噂になってる」
(成程。人に気付かれずに、特定の種類のガラクタが無くなっている、と。
 UDCの仕業でしょうが、何が目的なんでしょう?)
 律は考えたが、頭を振った。
(まだ情報が足りませんね。取りあえずはこんな所でしょうか)
 律はごみ回収業者に礼を言い、その場を後にした。

成功 🔵​🔵​🔴​

ナズヴィ・ピャー
ふむ…失せ物頻発ですか
UDCが関わっているとなると、尋常では無い理由と方法で持ち去っているのでしょう

●どのような物が失せ物になりやすいのか?
オカルト好きの人みたいな感じで聞き込みをしてみましょう
すいません、最近失せ物が増えていると噂になっているんですが…貴方は最近何かを無くしたりしませんでしたか? 的な

●失せ物の傾向
傾向あらばそれに準じた適当な物を仕入れ、発信器でも仕込んで放置してみますかね…
傾向が不明なら適当な大きさの物を使用

近くに人が居るとダメかもしれませんので、適度に離れて観察



…ヤドリガミ、ですか
当機というかミレナリィドールが長年生き…稼働?
稼働し続けたら…どうなるんでしょうね?



(ふむ……失せ物頻発ですか)
 UDCアースの街を歩きながら、ナズヴィ・ピャーは考えていた。
(UDCが関わっているとなると、尋常では無い理由と方法で持ち去っているのでしょう)
 彼女はそう思って周りを見渡す。
 失せ物事件と恐ろしい存在、UDCが結びつくことは無く、人々は普通に暮らしていた。
(目に見えて異常は無さそうです。
 まずは聞き込みからしていくとしましょう)
 ナズヴィは人の多そうな場所へと歩いていった。

 ナズヴィは道行く人へ聞き込みをした。
「すいません、最近失せ物が増えていると噂になっているんですが……貴方は最近何かを無くしたりしませんでしたか?」
「他に何かを無くした人を知っていますか? その人はどんな物を無くしましたか?」
 彼女はこんな感じの質問を重ね、道行く人から情報を集めていく。
 人々は、彼女の事をオカルトチックな噂好きな人、と思って、知っている事を幾つか話してくれた。
 曰く……玩具やガラクタ、工具類が無くなっている、ということ。
(なるほど。失せ物になるモノの傾向はあるみたいですね)
 彼女は得た情報を元に、次なる行動へ出た。

(こんなものでしょうか)
 彼女の手には、玩具やガラクタなどが入った袋があった。
 失せ物の傾向が分かったので、『それが実際どんなふうに無くなるのか』というのを確かめようという事だった。
 発信器を取り付けて、人の少なそうな場所にそれを放置する。
(近くに人が居るとダメかもしれませんね……)
 そう考えた彼女は、少し距離を取り、物陰に隠れて観察を始めた。

 カタッ……カタッ、と音がした。
 距離をとったナズヴィにはごくわずかな音としてしか認識できなかったが……それ以上に、奇妙な現象が起こり始めた。
 何もない、誰も居ないその場所にあったガラクタたちが、ひとりでに動き始めたのだ。
 意志を持ったかのように、ころり、ころり、と転がり始める。
(周りに誰も居ないはずです……よね?)
 彼女は見える範囲を見渡し、確認するが、やはり何も見当たらない。
(となれば、『見えない何か』が動かしているのでしょうか?
 このまま見ていても仕方がありません)
 彼女は物陰から飛び出し、勝手に動くガラクタめがけてダガーを放った。
 空気を切る鋭い一撃。
 それはガラクタに突き刺さり、貫通して地面に刺さった。
 すると……他のモノも、急に動きを止めた。
 うおぉぉぉん……おぉぉぉぉぉぉん……と、言葉にならない怨嗟の声がした。
(『見えない何か』に当たったみたいですね。
 痕跡は何か無いでしょうか)
 ナズヴィはそう考え、ガラクタたちに近付いた。
 痕跡は、見当たらなかった。

(……ヤドリガミや付喪神の例はこういうことですか)
 ナズヴィはグリモア猟兵の言葉を思い出しながら、ふと考えた。
 その手には、ダガーが刺さったガラクタがあった。
(当機というかミレナリィドールが長年生き……稼働?
 稼働し続けたら……どうなるんでしょうね?)
 ガラクタからダガーを引き抜き、彼女はその場を後にした。

成功 🔵​🔵​🔴​

ジニア・ドグダラ
「付喪神、ヤドリガミ……どちらにしても、過去の想いが形となったものです。でしたら……」

【秘術・人格分離】を発動し、【悪辣たる第三人格】に人格を変更します。代償として毒や出血が発生しますが、【鎮痛剤】を服用しておきましょう。

さて、私は変更した人格の考えにより、異常現象が発生しそうな場所・発生した場所に赴き、痕跡を捜索します。その場所で【呪詛】が残っていないか、何かしら死霊などの【存在感】は感じないか、自身の【第六感】で何か察知しないか、調査していきます。その過程で、学校の旧校舎という情報に結び付け、あらかじめ学校についてもネットなどで調査しておきます。



 現代日本の街。
 失せ物事件が起こってはいるものの、それ以上の奇妙な事件は起きてはおらず……故にいつも通り活気ある街だった。
 ジニア・ドグダラは、街を一人歩いていた。
「付喪神、ヤドリガミ……どちらにしても、過去の想いが形となったものです。
 でしたら……」
 彼女は懐から鎮痛剤を取り出しながら、言葉を紡ぐ。
「頭が、割れそうですが、今はこれしか……」
〈さて、それでは始めましょう〉
《すべて騙し切ってみましょう》
[敵対存在を殲滅しましょう]
 一人の口から、四人分の声がする。
 ユーベルコード【秘術・人格分離】。
【悪辣たる第三人格】、【卑劣な第四人格】、【鬼畜外道の第五人格】を自らに宿すことで、能力を強化するものだ。
 今回選ばれたのは……悪辣たる第三人格。
<……ぐっ>
 ユーベルコードの代償……体を蝕む毒と、粘膜からの出血が、彼女を襲う。
 予め取り出していた鎮痛剤を呑み込むと、頭が割れそうなほどの頭痛、涙のように流れる血液も収まった。

 第三人格のジニアは考えた。
<今のところ、分かっているのは、失くしたモノの傾向と、見えない何かによってモノが動いている、ということ。
 とすると、知るべきなのは、『モノはどこへ行ったか?』ということ。
 異常現象が発生しそうな場所で、痕跡を探してみましょう>
 そうして彼女は、路地裏へと足を運んだ。
 ハイドやナズヴィといった猟兵が、失せ物事件を観察するために使った場所だ。
 昼間というのに薄暗く、人の気配は全くない。
 何か怪しい事が起こっても、気付くものは居ないだろう。
 そう……猟兵たちを除いて。

<……痕跡はないでしょうか?>
 第三人格のジニアは、路地裏を歩いて回った。
 薄暗い路地裏は、一般人が足を踏み入れると、何となく嫌な感じがしただろう。しかし、何か目に見えて異常な物がある訳では無い。
 ただそこに残る気配が、肌に纏わりつくような空気が、嫌味なまでに感じられるのだ。
<……なるほど>
 ジニアには、その場に残っている気配……目に見えない痕跡が、手に取るように分かった。
<呪い、です>
 物理的な形を持てない、弱々しい力だったが……そこには、何らかの呪詛の痕跡が残っていた。
 その痕跡を味わい、思考を巡らせていると、ふいに彼女の頭に閃きが舞い降りた。
<人を傷つける事の出来ないほど、弱々しい呪い……玩具やガラクタには、人の想いが残っている。
 この呪いを使ってモノを集めている何者かは……その想いを使って何かをしようとしている……?
 そうだとすれば、『強い想い』がある場所に集めている、と仮定しても良いかもしれません>
 彼女はそう考え、スマートフォンを取り出して検索した。
『強い想い』が残る場所。それに繋がりそうなワードを、ネットの検索フォームに入れては消していく。
<……見つけました>
 画面の上で、彼女の指が止まった。
 彼女が見ていたのは、とある郊外にある学校の旧校舎。
 余りにも古い建物で、いつ倒壊してもおかしくないことから、誰も使っていない。
 それなのに、まだ取り壊されていない上、取り壊す予定さえないという。

 学校という若者の集まる学び舎の、とても古い旧校舎。
 強い想いが集まるには、十分と言えないだろうか?
 いつ壊れてもおかしくないから、誰も入り込まない建物。
 世間の目から隠れて何かをするには、良い場所ではないだろうか?
 もし犯人が『想い』を集め、何か人には言えないような事を企んでいるとするならば……。
 これほど相応しい場所もないのではないだろうか?

<次の目的地は、ここです>
 ジニアはそう呟き、路地裏を後にした。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 冒険 『封鎖された旧校舎』

POW   :    予め窓などを壊しておいて、修理業者として出入りする

SPD   :    旧校舎に忍び込み、儀式の行われる場所を探す

WIZ   :    転校生や臨時教員として潜入する

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 UDCアースの平和な街で起こる、奇妙な失せ物事件。
 そこで無くなっていたのは、玩具やガラクタ、工具類といったモノだった。
 それらは人もいないのに勝手に動き出し、ころりころりと転がっていく。
 その先は一体何処なのだろうか……?

 猟兵たちは失せ物事件に触れ、痕跡を調べ、被害者たちに聞き込みをし、情報を集めてきた。
『失くなっているのは玩具やガラクタなど、大小あれど、人の想いが籠っているものだった』
『モノたちが勝手に動き出して消えるせいで、失せ物事件となった』
『モノを動かしていたのは、目には見えない何かだった』
『失せ物事件の現場には、何らかの呪いの痕跡が残っていた』
 そして依頼をする前に、グリモアベースでノルナインは言った。
「モノに想いが宿る……というのは聞いたことがありますか?
 ……恐ろしいものが宿る、なんていう事もあるかもしれませんね」

 積み重なった情報は、一つの仮説を浮かび上がらせた。
『呪いは人の想いを集めている』
 そしてもしそうならば、強い想いが残る場所にこそ、集まるのが相応しい。
 それに相応しい場所が、この街にはあった。
 郊外にある、とある学校の旧校舎だ。
 いつ壊れてもおかしくない、余りに古い建物。
 時折清掃員や事務員が見回りをしたり、掃除をしたりする。
 それでも……中に入る者は、スリルを求める学生以外には居なかった。
 既に使われていないこの旧校舎は、入る者を拒むだけの危険と……積み重なった濃密な空気が満ちていた。

 そしてここにはまた、噂がいくつかあった。
『犯罪者とかヤベー奴が根城にしてるって噂だぜ』
『何か凄い物を隠した部屋があるんだとか』
『ゴミがめっちゃ捨ててあるから、過去のレアオモチャみたいなのもあるらしいぜ』
『……ねえ、この間入った子が行方不明になったんだけど』
『あの旧校舎、入ったら一生出られないんだよ』

 昼でも光の入らない深い闇が広がっている。
 恐ろしい風が吹く。誰も居ないのに音がする。
 悪意に満ちた、怨嗟の声がする。
 そんな旧校舎が、猟兵たちを待っていた。
●オカルト好きな誰かのメモ
 古くからこの街にある、霧峰学園。
 小、中、高までが一つに纏められた、大きな教育施設だ。
 余りにも大きいので、郊外の土地を借りて建てる必要があった……今でも霧峰学園は、郊外にどんと建っている。
 ここには戦前から残る旧校舎がある。
 老朽化が進み、既に廃墟同然の建物だというのに……取り壊す予定もないそうだ。
 何故なのだろう?
 学園内には旧校舎に纏わる噂もあるし……これはナニカあるに違いない。

……メモはここで途切れている。
フーカ・フダラク
「モノに思いが宿るか。
人形である貴様にも何か思う所があるのか、ノルナインよ」

まずは〔WIS 転校生として潜入〕
私は普段から制服を着ているし怪しまれんことを祈ろう
旧校舎に入る前に在学生に旧校舎の噂や様子を聞いておきたい

荒れ果てた校舎内の情報を得られたら懐中電灯を用意しておく
足元が危険そうだ
廊下や教室をしらみ潰しに探索していく
さてレアオモチャとやらは見つかるか…?

探したいのはその怪物、UDCが思いを集める理由もだ
芽を刈れと言われてしまえば斬らねばならん
だが私はシャーマンだ
その心を知らずにはいられんだろう

「手を貸してくれ、追跡者よ」
〔UC 影の追跡者の召還〕



「モノに想いが宿るか……」
 フーカ・フダラクは、霧峰学園を見つめながら、そう呟いた。
 モノに想いが宿り、それが形になれば、肉体を得て動き出す。
 それが日本で言えば付喪神であり、サムライエンパイアではヤドリガミと呼ばれる。
 しかし、とフーカは考えた。
「人形である貴様にも何か思う所があるのか、ノルナインよ」
 そう、この依頼を出したグリモア猟兵は、ミレナリィドールだった。
 機械人形……それが長く稼働し続けたらどうなるのだろうか?
 失せ物事件を調査する中で、ナズヴィという猟兵もそんな事を考えていた。
 しかし、依頼を出した当の本人、あのグリモア猟兵は、何を考えていたのか。
 フーカの呟きに、応える者は居なかった。

(まずは潜入して様子を見るか)
 霧峰学園・高等部の制服を着て、フーカは学園に足を踏み入れた。
 元々日本に暮らしている彼女は、制服を着ても全く違和感がない。
(この学園は大きい。転校生として潜入すれば、問題なく紛れ込めるだろう)
 そう考えての事だったが、確かにその通りだった。
 彼女は活気ある学園内を歩き回る。
(旧校舎に入る前に、在学生に旧校舎の噂や様子を聞いておきたい)
 そう考えた彼女は、情報を教えてくれそうな生徒を探していた。
 噂好きで、喋りたがりな生徒……。

 ふと彼女の視界に、一人の女子高生が映った。
「号外号外~、旧校舎の噂に追加だよ~」
 彼女は『学園新聞』と書かれた紙を配っていた。
 胸には名札がついている。高原薫という、新聞部の生徒のようだ。
「あら、号外ですの?」
 余所行きのお嬢様言葉に変えて、フーカは薫に聞いた。
「そうそう。旧校舎はヤバい噂ばっかりなんだけどさ、最近清掃員が行方不明になったらしいんだよね~。
 学校は関係ないって言ってるけど、絶対嘘だよ~」
 けらけらと笑いながら、薫は言う。
「旧校舎、色々な噂がありますものね。全部は知りませんけれど」
「おお、じゃあこれ読めばいいよ!」
 薫は学園新聞をフーカに手渡した。
『旧校舎噂集
①犯罪者の根城になっているらしい
②隠し倉庫があるらしい
③過去のレアなお宝があるらしい
④旧校舎に入った生徒が行方不明になった
⑤旧校舎の周りを掃除する清掃員が行方不明になった ←New!』
 ざっと目を通した後、フーカは薫に聞いた。
「旧校舎に、何か変わった様子などはありましたか?」
「ん~、オンボロお化け屋敷のまんまだよ。
 ちらっと中覗いてみたけど、まあ床に穴が開いてるくらいかな~、誰かが入るとすぐに穴開くんだよ」
「なるほど。お時間を割いて頂きありがとうございます。それではわたしくは、用事がありますので……」
 会話を切り上げて、フーカは旧校舎の方へと向かった。
(さて、噂と様子は分かった。後は実際に、中に入ってみるしかあるまい)

(……廃墟だな)
 懐中電灯で旧校舎の中を照らしながら、フーカはそう思った。
 木で作られた壁や床は、所々朽ちている。壊れた学習机や椅子が無造作に置かれている。
 その様子は、人の気配が絶えた廃墟としか言いようがなかった。
 フーカは足元に気をつけながら、廊下や教室をしらみつぶしに探索していく。
(さてレアオモチャとやらは見つかるか……?
 探したいのはその怪物、UDCが想いを集める理由もだ)
 だから彼女は、痕跡を探し続ける。
(芽を刈れと言われてしまえば斬らねばならん。
 だが私はシャーマンだ……その心を知らずにはいられんだろう)
 そう考えて進む彼女に、濃密な空気が纏わりつく。
 無数の歴史を経て、壊れていく退廃的な空気。廃墟ならではのものだ。
 しかし……。
(……この空気は余りにも異質だ)
 そう思わざるを得なかった。
 空気がいやに重すぎるのだ。積もり積もった歴史が、想いが、縛り付けてくるような……。

「……っ」
 カタッ……カタッ、と音がする。
 誰も居ない旧校舎の中で、何故かモノが動く音がする。
「手を貸してくれ、追跡者よ」
 フーカの言葉に応え、【影の追跡者(シャドウチェイサー)】が現れた。
 追跡者は影に沈み、音の方へと走っていく。
 音の方には、ひとりでに動く玩具があった。特撮に出てくる大型兵器のミニチュアだ。
(これがレアオモチャとやらか?)
 玩具は、荒れた旧校舎の中を動く。
 そして、追跡者は音を聞いた。
 うぉぉぉぉぉん……おぉぉぉぉぉぉんと嘆く声。悪意を込めた怨嗟の声。
(……なんだ?
 捨てられて嫌だ、とでも言うつもりなのか、こいつらは?
 ……ん?)
 ふと、追跡者の目の前に、人影が現れた。
 瞬間。
 ザッ……と、濃密な殺意が追跡者を襲った。
(マズい……引かねば)
 五感を共有するフーカは、咄嗟にそう判断し、追跡者を呼び戻した。
 そして彼女は、急いで旧校舎から出た。

(アレが……件の怪物なのか? 確証はないが……アレは何なんだ?)
 いくつかの疑問が彼女の頭に浮かんだが、彼女はひとまず、帰投する事にした。

成功 🔵​🔵​🔴​

ジニア・ドグダラ
「……このまま、痕跡を探した方が良さそうですね」
【SPD】
・【オルタナティブ・ダブル】を発動しもう一人の自分を呼び寄せ、旧校舎に二手で別れて忍び込みます。
・一人はわざと対象を【おびき寄せ】るように【存在感】を隠さず行動し、自身の防具の【呪詛耐性】に祈りつつ、もう一人のために【時間稼ぎ】を行います。
・もう一人は【目立たない】ように痕跡探しと同じように、何らかの【呪詛】によるものがないか【追跡】していきますが、こういった噂のあるところでは確実に何かあってもおかしくない筈です、有事の際に【逃げ足】全開で撤退できるように、旧校舎内の地形を把握しつつ行動します。

※アドリブ・他者との協力歓迎です。



「……このまま、痕跡を探した方が良さそうですね」
 ジニア・ドグダラは、霧峰学園へと足を運びながら、そう呟いた。
 失せ物事件を調べ、それが学園の旧校舎と結びついている……と突き止めた彼女は、そのまま件の旧校舎へと向かっているのだった。
 大きな霧峰学園……そして廃墟同然の旧校舎。
 普通の人は入る事のない、恐ろしく古い建物の前で、ジニアは足を止めた。
「ここが例の場所ですか」
 ジニアは外をざっと見て回った。
 窓が割れていたり扉が外れていたり、入ろうと思えばどこからでも入れそうだった。
 しかし昼間だというのに、中は暗い。
 日光がろくに通らないのだろう。

「それでは……」
 彼女は入る場所を決め、ユーベルコードを発動した。
 彼女の隣に、同じ姿かたちをした彼女自身が現れた。
【オルタナティブ・ダブル】。自身の分身を呼び出すユーベルコードだ。
(旧校舎のこの大きさなら、問題なく動けるはずです)
 外をざっと見たジニアは、そう判断していた。
 彼女の分身は、本体を中心に400mの半径の範囲を移動できる。
 中の時空がねじ曲がっているとか、凄まじく広い地下室があるとかでない限り、行動に支障はないはずだった。

 二人のジニアは、別々の場所から旧校舎に入った。
 彼女たちには作戦があった。
 端的に言えば、一人が囮になり、もう一人がその間に調べ尽くす……という感じだ。
 囮役のジニアは、存在感を隠さずに、旧校舎へ入っていく。
 この旧校舎の中に居る敵をおびき寄せるかのように、物音を立てたり、うろうろと歩き回る。
 激痛や呪詛には耐性があり、何かがあっても少しは耐えられる……と判断しての事だ。
 一方、調査役のジニアは、気配を隠して呪詛の痕跡を探す。
 二人のジニアは、いつでも撤退できるように、旧校舎全体の構造の把握も忘れない。
 地形を利用する、という知識を持っている彼女たちには、構造把握はお手の物だった。

 カタッ……カタッ、と音がした。
 その音を捉えたのは、囮役のジニア。
 彼女の視界の端で、ネジやナットといった工具類が動いていた。
 廊下の上を、ころり、ころりと転がっている。
 そしてそのまま、曲がり角へ入って見えなくなった。
(……誘われているのでしょうが……行かない訳にもいきませんね)
 ぎしぎしと軋む床を歩き、床に開いている穴や瓦礫を避けながら、彼女は進んだ。
 濃密な廃墟の気配、埃っぽい空気の中、次第に呪いの気配が強まっていく。
 そして曲がり角を曲がった彼女は……。
 真っ黒な、人影を見た。
 勝手に動く工具類は、人影の中へ呑み込まれていった。
(これが……呪いの元凶?)
 真っ黒な人影は、ところどころに玩具のパーツや、工具類の破片などが見えていた。
 彼女は、更に分析を進めようとした……。
 が、その瞬間、ザッ……と、濃密な殺意が襲った。
(……っ、これはただの殺意じゃない……悪意のこもった呪詛……!)
 うぉぉぉぉぉん……おぉぉぉぉぉぉんと、空気を伝わらない怨嗟の声がこだまする。
 言語にならない呪詛が、ジニアを襲う。
 それは、人を縛り、内側から蝕んでいく呪いだった。
 しかし、呪詛に耐性のある彼女は、それを受けても致命的では無かった。
(これで時間は稼げたはずです……!)
 調査をしながら頭に叩き込んだ地形を思い出しながら、彼女は撤退した。

 一方、調査役のジニア。
 呪いやモノの移動した痕跡を探し、旧校舎の中を静かに探索していた。
 出来るだけ気配を隠しながら、奥へ、また奥へと進んでいく。
 そして彼女は、いくつかの呪いの痕跡を見つけた。
(……ん?)
 そこで彼女は、ふと疑問を覚えた。
 呪いの痕跡は、同じものではない。
(『モノを集めていた呪い』と……これは、人を傷つける呪い……?)
 痕跡の行き先は、二手に分かれていた。
 彼女が、どちらを調査しようか悩んでいるときだった。
 ザッ……と、校舎の中に殺意が満ちたのを感じた。
 ばっと顔を上げて周りを見渡すが、彼女の周りに敵は確認できなかった。
(ということは、もう一人の私の方ですね。
 向こうに敵が居るのなら、今こちらは安全……!)
 彼女は『モノを集めていた呪い』の痕跡を追う事にして、急いだ。
 旧校舎の奥へ、奥へと進んでいく。
 ふと……カタッ、カタッと音がした。
 彼女の目の前を、恐竜のミニチュアが歩いていた。
 それは、地下へ向かう階段を、ゆっくりと、ゆっくりと降りていった。
(モノは地下に集められているみたいです。
 じゃあもう一人の私が出会ったのは、モノを守ろうとする番人なのでしょうか?)
 彼女は地下へと進もうとしたが、ふと、第六感が警鐘を鳴らした。
 彼女を包む廃墟の空気が……悪意のこもったものに変わり始めていたのだ。
(これ以上は危険……ですか。一旦引きましょう。
 情報は得られましたし、ここは焦る場面ではありません)
 彼女はその場を離れ、急いで旧校舎を出た。

成功 🔵​🔵​🔴​


●オカルト好きの人のメモ
 霧峰学園の旧校舎は、とても大きい。
 それはそうだ、昔はこの建物だけで小、中、高の全てを受け持っていたのだから。
 出来た当初は、二階建ての立派な木造建築だったらしい。
 ……今では、屋根が潰れていたり、壁や床が朽ち果てて、見る影もないが。

 そう言えば、何故か霧峰学園の新聞部に、旧校舎の見取り図が載っている。
 多分オカルトマニアが居るんだろう。
 一階と二階は当然教室ばかりなのだが、よく見ると地下に続く階段があるらしい。
 地下室は倉庫だとか資料室だとかあるらしいが、詳細は不明……とのこと。
 これは怪しい匂いがプンプンする!

 ……メモはここで途切れている。
ハイド・スパイン
んじゃ、行くかぁ

【POW】
予め窓などを壊しておいて、修理業者として出入りする
事前に旧校舎の見取り図を取得し修理業者の制服を着て、【コミュ力】を使用して円滑に校舎内に侵入するぜ。
暗いらしいからな、ヘルメットにヘッドライトでもつけておくか

見取り図を見て不自然に空白になっているような部分があればいいんだがな
見取り図がなけりゃ虱潰しだな
目印シールのついたモンも探すとするか、俺の物だからな
犯罪者がいた時は【催眠術】で戦闘の邪魔にならねぇように外に逃がす



(……おっ、場所が分かったみてぇだな)
 街を歩いていたハイド・スパインは、失せ物事件についての連絡を受けた。
 どうやら、失せ物は霧峰学園と呼ばれる学校の旧校舎に集まっていたらしい。
(んじゃ、行くかぁ)
 道すがら、今から色々やるための道具を買い集めながら、彼は霧峰学園へと向かった。

 少し後。
 修理業者の制服を着たハイドが、旧校舎の前に立っていた。
 窓を予め壊し、修理業者として学園へと入って来たのだ。
 コミュ力がある彼は、学園側に怪しまれることもなく、旧校舎の前まで来る事が出来た。
(っと……先に見取り図を確認しとくか)
 彼は手に持っていた見取り図を開いた。
 霧峰学園の旧校舎の、詳細な見取り図だ。
 旧校舎は二階建ての木造建築であり、今では見る影もないが、建った直後はさぞ立派だった事だろう。
 見取り図からも、様々な工夫が凝らされている事が分かる。
(……ん? ちょいとおかしいな)
 地形を把握しておこうと思い、じっくりと見取り図を眺めていたハイドは、ふと奇妙な事に気付いた。
 旧校舎には、地下がある。おおよそ5平方メートルほどの、小さな物置だ。
 普通に眺めている分には、おかしな所など何処にもない。
 しかし……。
(この地下室は小さすぎるぜ。周りにもっとスペースがあるはずだ)
 見取り図に書かれている地下室は……余りにも小さすぎた。
 旧校舎周りの配管や、基礎のつくりを見る限り、その物置の周りには、大きなスペースが空いていた。
 この旧校舎の敷地そのものと同じ位、大きな地下空間を確保しているのだ。
(……ってことで、まずは地下に行くことを考えるか)
 ヘルメットを着け、ヘッドライトのスイッチを入れ、ハイドは旧校舎の中へと入っていった。

(こりゃ確かに暗いな。ヘッドライトつけてきて良かったぜ)
 埃の舞う旧校舎の中、ハイドは過去の自分に感謝した。
 ヘルメットにヘッドライトをつければ、明かりもとれてかなり動きやすい。
 彼は見取り図を眺めながら、地下への階段へと向かっていった。
(そういや目印シールのついたモンも探さねえとな。
 俺が買った物だからな)
 ふと彼は、失せ物事件調査の時に買ったモノたちを思い出した。
 中古ショップやコンビニを回って買い、消えるかどうかを確かめたモノたちだ。
(あの時は追いきれなかったが、目的地がここってんなら、ついでに取り返しとかないとな。
 ……っと、ここが地下行きの階段か)
 彼は下へ行く階段を覗き込んだ。
 他が廃墟同然なのに、この階段はそれほど老朽化している、という感じはしなかった。
 そこに外の光は一切入ってこず、重々しい闇が覆っていた。
(ヘッドライトの光だけが頼りになりそうだな)
 体に纏わりつく嫌な空気を払うように、彼は地下へと降りていった。

 階段を降りた先は、見取り図で見た通り、小さな物置だった。
 何も入っていない棚が並び、どこか物哀しさが漂う。
(……アレだな。もっと大きな地下室は)
 ざっと物置を見回した後、ハイドは物置奥に空いている穴を睨んだ。
 その奥には、学校、とは思えない空間が広がっていた。
 電気も通らなくなり、誰も来なくなって久しい研究所……というような感じだ。
(この学校、何やってたんだ……?)
 ハイドは不思議に思いながら、足を進める。
 見取り図にあったのは、地下の入り口までだ。ここから先の研究所は、何の情報も無い。
 ……ふと、カタッ……カタッ、と音がした。
 ハイドはその方向へヘッドライトを向ける。
 その音の方向には、シールが張られた中古品の玩具があった。
 何もないのに、ひとりで勝手に動いている。
(お、ありゃ俺が買ったモノだな。こんなとこまで来てご苦労なことだ)
 彼はとりあえずその玩具を掴み、懐へとしまった。
 ……そして彼は、ふと人の気配に気づいた。

 研究所の一室。そこから弱々しい息づかいが聞こえてくる。
 ハイドは十分に警戒しながら、その部屋へ入った。
「……ぁ……だれだ……?」
「そりゃこっちのセリフだ」
 声の方に光を向けると、そこにはボロボロの、弱り切った男が居た。
「……アンタ、何でこんなとこに居るんだ? ここを根城にしてる犯罪者って奴か?」
 ハイドが近寄ると、男は震えた。
「おいおい、俺は敵じゃねえよ。襲うつもりはない」
「なら早く逃げろ……アイツが来る、あの真っ黒い人影が来る……!」
(……他の猟兵が出会った奴か)
 ハイドは少し考え、男を立ち上がらせ、催眠術を使った。
「……っあ」
「アンタが残ってると、後々めんどそうだからな。戦闘の邪魔にならねえようにしとかないと」
 それに、と彼は考えた。
(ここに長くいたなら、何か知ってるかもしれねえからな)
 ハイドは男を引き連れて、『黒い人影』に出会わないようにしながら、旧校舎を出た。

成功 🔵​🔵​🔴​


●犯罪者の言葉
 ……俺はケチな泥棒だ。空き巣やら何やらをちまちまやってるような……そんなクズみたいな男さ。
 この街には、そんな奴が俺も含めて何人か居たんだ……で、境遇も思考も似たようなもんで、つるむようになった。
 俺たちには相応しいアジトが必要だった。
 あの旧校舎は、オンボロすぎて誰も入ってこねえし、意外に中は広いしで、アジトにするにはうってつけだった……生徒たちがたまに肝試しっつって中に入って来るぐらいだったな。
 ……で俺たちはある日、この学校の地下はもうちょっと広いんじゃねえ? って事に気付いた。
 ……気付いちまったんだ。
 そん時の俺たちは暇だったもんで、ちょいと冒険がてら旧校舎の地下を調べてみた。
 ちっぽけな倉庫だったんだが……壁を叩けば、軽い音がする。向こう側が空洞だったんだな。だから俺たちはそこをぶち抜いた……。
 するとそこにあったのは、とても学校とは思えねえ空間だった……何かの研究所みてえな感じだな。
『UDC』とか何とか書いてあったが、俺たちにはなんのことだかさっぱりわからねえ。
 けどこれはお宝の匂いがするってもんで、俺たちはその地下施設を探索する事にしたんだ……。
 ……仲間の一人が、奇妙な記号の集合体っつーか、何かの魔法陣……そうとしか呼べねえモノを見つけた。
 宝物じゃねえがおもしれえっていうんで、俺たちは魔法陣を調べてみた。
 ……それが良くなかったんだな。
 気付けばよくわかんねえ真っ黒な人影が出てきてた……アイツだよアイツ!
 アイツはいやーな声で叫びやがる、呪いみてえによ!
 それを聞いて俺の仲間は全員、血を拭いて死んじまった!
 で……その人影がな……。
 俺の仲間を取り込んだんだよ!

 俺はそれくらいしか知らねえ……後はずっと地下に隠れてた……。
 逃げればよかった? アイツに出会うのが恐ろしいんだよ……!
 何か知らねえが、アイツは俺の仲間を取り込んだ後は玩具やガラクタばっかを集めてる……。
 その音が響くたびに、俺は震えちまうんだよ……。
 俺はもう駄目だ……どこへ行っても夢に見ちまいそうだ……。

――男はこの後記憶消去銃を使われ、所定の手続きにより釈放された。
――その後警察へ自首しに行き、今は刑務所の中に居る。
九十九音・みたま
さて、次は学校だね。行ってみよう

・WIZで行動開始します。

出来るだけ周囲に馴染むように転校生を装って。
(髪を染めて服を着替えて)
噂好きで怖いもの知らず、なキャラクターを演じてみよう。
確かに学校って、楽しい事もつらい事も全部詰まってるよね。
寄ってくるにはうってつけかも。

肝試しにって前置きをしつつ旧校舎について聞き込み。
いつから噂が立っているのか、旧校舎内の何処が起点なのか。
どちらかが分かれば御の字、解らなかったら早々に切り上げで旧校舎へ。
其れらしい場所や玩具・工具等失踪していた物を見つけなが
探索を続ける。
危険と感じても追えそうなら距離をとったり隠れたりで様子を伺い、追跡する。



(さて、次は学校だね。行ってみよう)
 連絡を受けた九十九音・みたまは、霧峰学園へと足を向けた。
 どうやって情報収集をしようか考えた彼女は、転校生を演じる事にした。
 しかし乳白色の髪に、ミレナリィドールの身体。
 そのままでは学校の中でちょっと目立ってしまうので、軽く髪を染め、きちんと学園の制服へと着替える。
(……これで大丈夫かな)
 赤色の瞳は変わらないが……周囲に馴染むには十分だろう。
(噂好きで怖いもの知らず、なキャラクターを演じてみよう。そうすれば、違和感なく聞き込みできるはず。
 それにしても、確かに学校って、楽しい事もつらい事も全部詰まってるよね。
『そういうモノ』が寄ってくるにはうってつけかも)
 青春を謳歌する学生たちの集う学び舎……そこには、楽しいイベントもある。目を向けたくないつらい現実もある。
 そこから無数の想いが生まれ、積み重なっていく……。
 みたまはそんな事に想いを馳せながら、校舎の中へと入っていった。

 霧峰学園現校舎は、色々な生徒がやいのやいのと活発に過ごしていた。
 旧校舎でとんでもない事件が起こっている事なんて、知らないかのようだ。
(とりあえず、肝試しにって前置きしつつ旧校舎について聞き込みしようかな……
 いつから噂が立っているのか、旧校舎内の何処が起点なのか……とか)
 計画を立てながら、みたまは校舎の中を歩く。
 しかし皆、学校内のグループでくっついて話しているため……中々割り込みにくい。
 噂好きで、喋りたがりな……情報を教えてくれそうな生徒が居れば話は簡単なのだが。

 ふと彼女の視界に、一人の女子高生が映った。
「号外号外~、旧校舎の噂に追加だよ~」
 彼女は『学園新聞』と書かれた紙を配っていた。
 胸には名札がついている。高原薫という、新聞部の生徒のようだ。
「号外? 旧校舎の噂?」
 みたまは薫に近付いた。
「お、興味アリかい? 旧校舎の噂に新しい噂が追加されたんだよ~。
 なんでも最近清掃員が行方不明になったらしくてさ、絶対旧校舎関係だよ~」
 けらけらと笑いながら、薫は言う。
「興味アリなら読んでみる~?」
「折角だし、貰おうかな」
 みたまは学園新聞を手に取った。
『旧校舎噂集
①犯罪者の根城になっているらしい
②隠し倉庫があるらしい
③過去のレアなお宝があるらしい
④旧校舎に入った生徒が行方不明になった
⑤旧校舎の周りを掃除する清掃員が行方不明になった ←New!』
 ざっと目を通して、みたまは不思議に思った。
(こんなに噂があるのに、『いつ』『誰が』『何故』とか、具体的な事が何も書かれてないな。
 噂だからそういうモノなのかも?)
 けれど今ここには、学園新聞を書いたであろう新聞部の生徒が居る。
 情報も欲しいところだ。みたまは薫に聞いてみた。
「肝試しをしようかなって思って聞くんだけど……旧校舎の噂って、いつからあるの?」
「ん~? どうだったかな~、犯罪者の根城とか隠し倉庫とかは昔から言われてたと思うけど……。
 ああでも、行方不明になったっていうのは最近だね~、清掃員の失踪は昨日とかそのレベルだよ~」
 他人事のように薫が言うのを聞いて、みたまは少し考えた。
(となると、失せ物事件と直接関係がありそうなのは後半の方……かな?)
 みたまは顔を上げて、もう一つ薫に聞いた。
「旧校舎ってとても広いと思うんだけど……どこが起点になってそうなのかな?
 教室とか音楽室とか、教員室とか理科室とか……」
「それはね~、オカルトマニアの間でも意見が割れてるんだけどね~……」
 薫は妙に長く間をとって、そして言った。
「地下室だね。私が思うに!」
「分かった。ありがとう」
 みたまはお礼を言って、その場を後にした。
「気をつけてね~、失踪したら新聞に書いちゃうぞ~」
 けらけらと笑う薫の声を背中に受け、みたまは旧校舎へと向かった。

(地下が怪しいなら……行くなら地下だよね。危ないかもしれないけど)
 みたまは警戒しながら、旧校舎の中へと入っていく。
 暗い旧校舎の中で、時々穴に躓いたり、崩れている壁にぶつかったりしながらも、彼女は足を進めていく。
(無くなった玩具や工具はあるかな……)
 地下を探しながら、捜索も怠らない。
 ふと、カタッ……カタッ、と音がした。
 そちらの方に目を向けると……ひとりでに動く玩具があった。
 特撮に出てきそうな、人型機械のミニチュアだ。
(……あれを追いかけてみよう)
 みたまは辺りを警戒しながら、そっと玩具の跡をつけていった。
 玩具はそこそこの速さで、かたかたと廊下を歩んでいく。
 その先には、地下へと降りる階段があった。
(怪しそうな地下に……そこを目指す玩具。ちょっと危ないかもしれないけれど、追ってみよう)
 暗い、とても暗い階段を、みたまはゆっくりと降りていく。
 そして階段を降りた先……。
 彼女は、真っ黒な人影を見た。
 暗闇より尚黒く……全てを呑み込もうとするかのように暗く、それは暗闇の中でさえ浮いていた。
(あれは……他の猟兵が出会ったという、人影……!)
 みたまと人影の目が合った……ような気がした。
 その瞬間。
 ザッ……と、濃密な殺意が襲った。
(……ッ!)
 言葉にならない呪詛が、みたまを襲う。
 人を縛り、内側から蝕んでいく呪い……体内がぎしぎしと軋むように痛み、彼女は歯を食いしばった。
 しかし彼女も猟兵。やられっぱなしとはいかない。
 ザッ、と、彼女の周りから、同じような呪詛が放たれた。
【ミレナリオ・リフレクション】。
 全く同じ攻撃を返す事で、相殺するユーベルコードだ。
「……ぅううううううう!」
 人影は自分と全く同じ呪詛を使われ、怯み……逃走した。
 地下室のさらに奥、壁に開いた穴の方へ……。

成功 🔵​🔵​🔴​

フーカ・フダラク
再度旧校舎へ調査に入ろう

追跡者の目を通して見た人影の嘆きの声が耳に残っている
かつて栄え、役目を終え、今は好奇の目に晒されるだけの旧校舎に
かつて大事にされ、死蔵される玩具や道具が呼ばれているのは
偶然じゃなさそうだ

気になるのは学園新聞で知った隠し倉庫だ
オカルト好きのメモには地下室に倉庫があるというし
懐中電灯を携帯し私も地下へ行こう

極力危険は避けるが人影が出るかもしれん
〔呪詛耐性〕と〔サモニング・ガイスト〕で召還した古代の戦士を追従させる
戦士の炎は人影が襲ってきた時に使えば驚くだろうか
応用で地下が懐中電灯で照らしきれない程暗いのなら
全体を明るくできるかもしれん
「さあ戦士よ、共に行こうではないか」



(……嘆きの声が耳に残る)
 霧峰学園の旧校舎前までやってきて、フーカ・フダラクは少し前の事を思い出した。
 旧校舎の調査をしにやって来た彼女は、謎の人形と出会ったのだ。
 追跡者の目を通して見た人影の、その嘆きの声が……彼女の頭で木霊する。
 うぉぉぉぉぉん……おぉぉぉぉぉぉんと嘆く声。
 ……悪意を込めた怨嗟の声。
(かつて栄え、役目を終え、今は好奇の目に晒されるだけの旧校舎に、
 かつて大事にされ、死蔵される玩具や道具が呼ばれているのは、
 偶然じゃなさそうだ)

(気になるのは、学園新聞で知った隠し倉庫だ)
 彼女は、霧峰学園の新聞部から貰った号外の事を思い出した。
 旧校舎にまつわる噂がいくつもあるそうだが……その内の一つが、『隠し倉庫があるらしい』という事だった。
 オカルト好きのメモには、地下室に倉庫があると書いてあった。
(私も地下へ行こう)
 フーカは懐に懐中電灯があるのを確かめ、旧校舎の中へと入った。
 少し奥へ入ったところで、人目が無いのを確かめる。
(極力危険は避けるが、人影が出るかもしれん)
 そう考えた彼女は、自身のユーベルコードを展開した。
 ぼう、と。
 彼女の隣に、炎を纏う、甲冑姿の槍兵が現れた。
【サモニング・ガイスト】と呼ばれるこのユーベルコードは、古代の戦士を召喚するものだ。
 シャーマンならではのもの、といえるだろう。
(戦士の炎は人影が襲ってきた時に使えば驚くだろうか。
 もし地下が懐中電灯で照らしきれないほど暗いのなら、全体を明るく出来るかもしれん)
 そんな事を考えながら、彼女は隣に佇む古代の戦士を見た。
 武骨な、偉大なる戦士と言った趣の顔。眉一つ動かさない彼の顔からは、感情を窺い知ることは出来ない。
 しかし、むしろそんな様子だからこそ、人影が来ても安心して背中を預けられる……とも考えられる。
「さあ戦士よ、共に行こうではないか」
 懐中電灯を照らし、フーカは歩き出した。
 そしてその後ろを、戦士がゆっくりと追従していく。

 懐中電灯のお陰で、フーカは問題なく地下へ行く階段までやってこれた。
 そこから先は、恐ろしく暗い闇が支配する領域。
(気をつけないとな……)
 彼女はゆっくり、一歩、また一歩と警戒しながら降りて行く。
 階段の先にあったのは、小さな地下倉庫だった。
 しかし……。
(壁に大穴が開いているな。向こう側には……また何か別の場所がある)
 彼女は大穴の向こうへ光を向けた。
 そこは、既に人の絶えた研究所……というような雰囲気の場所だった。
 フーカは戦士と共に、その中へと入って行く。
 光が一切存在しない、一寸先は闇というような場所……そしてかなり広く、懐中電灯だけではカバーしきれなかった。
「では戦士よ、少し力を貸してくれ」
 彼女の言葉に、戦士は頷いた。
 戦士は槍を振り回し、辺りへと炎の球を飛ばした。
 それらは空中に浮かび、暗い研究所の全体を明るくした。
(……科学的な研究をしていた、という感じはしないな。
 あちこちに奇妙な文字、図形が描かれている……それに、UDCという単語も見えるな。
 ……ん?)
 彼女はふと、疑問を感じた。
 UDCアースにて、『UDC』という単語には二つの意味がある。
 一つは、アンディファインド・クリーチャー。太古から蘇った邪神と、その眷属達を示す単語だ。
 もう一つは、アンダーグラウンド・ディフェンス・コープ。邪神に対抗する人類防衛組織を示す単語だ。
 この研究所に書かれていたのは……。
(UnDifined Creature……アンディファインド・クリーチャー。
 とするとここは……邪神の研究をしていたという訳か!)
 フーカは歩き回りながら、更に研究所を調べていった。
 部屋を見、壁に書かれた記号などを探り……彼女は確信を抱いた。
(ここは……人の意識を用いてUDCと交流が出来るかどうかを研究していたようだ。
 なるほど、だから『想い』が関わっている……)
 フーカはしかし、そこで納得しきらなかった。
(しかし、それなら何故『モノを集める』必要がある? あの『黒い人影』は何だ?
 学園新聞には行方不明者も出ていると書いてあった……。
 『今ここで起きていること』は、一体何だ?)
 
 フーカは、戦士と共に更に研究所の奥へと進んでいく。
 そこで、鎖と鍵をつかって厳重に封鎖された、ある部屋を見つけた。
「戦士よ、力を貸してくれ」
 フーカの言葉に、戦士は頷き、槍を一閃した。
 ガチャリ。
 鎖が切り離され、扉が開いた。
 そこはどうやら、研究員の部屋……のようだった。
(……何か情報は無いだろうか)
 彼女は机や棚、残された埃っぽい資料を手当たり次第に探していく。
 ふと、彼女は一枚の紙に、気付いた。
(……これは!)

『UDC……アンディファインド・クリーチャー。
 彼らはどこから生まれ、どうやって動いているのか……何も分かっていない。
 この研究施設では、人の意識を用いてUDCを交流する事が出来るかを試していた。
 しかしある時、一つの実験で非常に奇妙な現象が起きた。
 人の意識を集中させる過程で……【形を伴わないUDCのようなナニカ】が誕生したのだ。
 我々はこれを詳細に研究した。
 どうやらこの【形を伴わないUDCのようなナニカ】は……人の意識や想いを糧とし、動いているようだ。
 加えて、本能的に形を得る事を望んでいるらしく……周りにある物を手当たり次第に呑み込みこもうとする。
 ……そこに人と物の区別はない。
 この【UDCのようなナニカ】は、非常に危険な個体だ。封印しなければ、我々の命さえ危ないだろう。
 この実験に用いた魔法陣は、厳重に隔離し、実験は凍結されることになった。
 追記
 【UDCのようなナニカ】が最終的に形を得た時には、UDCと呼称すべき存在になるだろう。
 この個体が好んで呑み込むのは、玩具のような、形を持ち且つ人の想いが載っている物や、ガラクタや工具類だ。
 恐らく形を形成する際の傾向が、機械仕掛けのようなモノゆえにそうなるのだろう。
 この個体の、形を得る願望というのは非常に強く、遠方のモノを操って動かし、引き寄せる事も確認された』

(……【形を伴わないUDCのようなナニカ】というのが、黒い人影だろう。
 ここを根城にしていた犯罪者は、魔法陣を使い、この個体を呼び覚ましてしまった……のか)
 フーカは紙を読み、考えた。
 シャーマンでもある彼女は、何を考えただろうか。
 人の想いを穢した実験。歪んではいるが『形を得て生まれ落ちたい』という純粋な願望。
 人の手に負える範囲を超えた研究。行方不明になって、恐らくは喰われてしまった人々。
 ……彼女の表情からは、感情は窺い知ることは出来なかった。
 そして彼女の思考を妨害するかのように……ザッ、と物音がした。
 彼女が振り向くより先に、古代の戦士が反応した。
 空気を斬り裂く鋭い突き。
 そこに居たのは、黒い人影で……槍が頭に突き刺さり、貫通していた。
(今はあの殺意と呪詛を出してこない……今ならば!)
 フーカは戦士の邪魔にならない様に後ろへ飛びのき、命じた。
「戦士よ、炎を呼び起こせ!」
 彼女の声に、戦士は行動で応えた。
 身体に纏う炎が揺らぎ……火球が飛び出した。
 それは人影にあたり……吹き飛ばした。
「ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお…………!」
 うめき声。嘆きの声。耳につく怨嗟の声。
 無数の悪意が込められた叫び声が発せられる。
 人影はそのまま、脱兎の如く逃走した……。

 そして、人影は、非常に不完全ながら……。
 力も足りず、攻撃も受け、弱りきった状態ながら……。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお……!」
 呑み込んだ玩具やガラクタを……行方不明になった人々を組み上げた。
『想い』を喰らい、形を作るための素材を集めていた人影は……今ここで、生まれ落ちようとしていた。
 そうしなければ消えてしまう。
 戦うための力が無ければ、生まれる事さえ許されない。
 歪んだ願いが、想いが、人影に力を与えた。

 願いと想いと素材たち。
 それらはいつしか結び付き……。
 望まれぬ怪物が、この世に生まれ落ちた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『エンゲージユニヴァース』

POW   :    エンド・オブ・ユニヴァース
【全火器の一斉発射 】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    ウィングスラッシャー
【背中のカッター状の羽 】が命中した対象を切断する。
WIZ   :    ホークミサイル
【内蔵されたミサイル 】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は桐府田・丈華です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


――街で起こった失せ物事件。
 それを引き起こしていたのは、【形を伴わないUDCのようなナニカ】だった。
 ナニカは旧校舎の地下にある研究所を拠点にし、『想い』を糧とし……形を得る為の素材を集めるため、色々なモノを集めていた。
 それが玩具や、工具類やガラクタだった。
 人の想いが強く載っている玩具は、糧にもなり素材にもなる非常に良い食事となった。
 工具類やガラクタは、身体を作り上げる素材となった。
 そして時折来た人は……糧となり素材にされ、行方不明となった。

 猟兵たちとのコンタクトを得て、ナニカは非常に危機感を抱いた。
 このままでは消えてしまう。死んでしまう。壊れてしまう。
 そう思ったナニカは、非常に不完全ながら……。
 力も足りず、攻撃も受け、弱りきった状態ながら……。
 身体を無理矢理組み上げて、この世に生まれ落ちた。

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
 ナニカは叫ぶ。衝動のままに叫ぶ。
 生まれ落ちたい。形を得たい。想いを喰らいたい。
 ……攻撃してくるモノが憎い。殺したい。全てをぶち壊したい。
 そんな様々な思いが胸中を渦巻いて、咆哮となる。
 そしてナニカは……いや。
 形を得てUDCとなり……【エンゲージユニヴァース】という個体と同一のモノとなったそれは。
 自らを害すモノを壊す事を決意した。

 ……ほんの小さな災厄の種。
 それは今ここに、弱々しくも芽を出した。
 これが育てば、世界を壊しかねない大樹になるだろう。
 悍ましく陰惨な事件が起こってしまうだろう。
 それを止める事の出来るのは。
 災厄の芽を刈り取る事の出来る者は……。

 その力を持つ者は、猟兵以外に居ないのだ。
ハイド・スパイン
盗人には同情の余地はねぇな、情報はありがてぇどよ
それにしても足んねぇな、飲み込まれたか
……人のモン盗んでおいてその態度たぁ、フテェ玩具だなぁ?

E・S・Sを槍形態で固定【怪力】で戦闘力を上げダッシュで敵に肉薄する
【第六感】【捨て身の一撃】【串刺し】でもろそうな箇所に攻撃するぜ
大人しくブッ壊れろヤァ!ガラクタがぁ!
攻撃されそうならユーベルコードで動きを封じるぜ



 地下から犯罪者を連れ出し、情報を聞き出したハイド。
(盗人には同情の余地はねぇな、情報はありがてぇけどよ)
 彼はUDCエージェントとして、既定の処置に従って犯罪者の記憶を消し、組織に預けた。
 ……そしてその直後。
 旧校舎の地下で、黒い人影がUDCとしての形を得たという連絡を受けた。
(玩具や人を食ってたのか。とにかく行かねえとな!)
 彼は旧校舎の地下へと急いだ。

 暗い旧校舎を駆け抜けて、地下へと向かったハイドは、『それ』を見つけた。
 無数の玩具とガラクタのパーツが組み合わされて、酷く醜悪な格好をした……その怪物を。
 それは、【エンゲージユニヴァース】と呼称されるUDCによく似ていた。
「そー言えば、俺は失せ物事件の調査のために色々モノを買ったんだけどよ」
 濃密な憎悪を向ける怪物を睨みつけながら、ハイドは言う。
「後でここに来て回収しにきたけどよ……それにしても足んねぇな、飲み込まれたかって思ってたとこなんだ。
 ……人のモン盗んでおいてその態度たぁ、フテェ玩具だなぁ?」
 ハイドの言葉を理解しているか、していないかは分からない。
 それでも怪物は、目の前にいる人間が、自らの敵だという事を理解した。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
 憎悪。苦痛。悲哀。絶望。殺意。
 そんな感情が煮詰められた咆哮が、地下研究所に轟く。
「黙りやがれ、このガラクタがぁ!
 都合良く被害者ぶってんじゃねぇぞ!」
 生まれ落ちたかった? どうでもいい。
 人が憎かった? どうでもいい。
 身体が欲しかった? 生きたかった? 想いを喰らいたかった?
 そんな願いはもう意味を為さない。同情や憐憫は欠片ほども浮かんでこない。
 何故ならこの怪物は……明確に人類に敵対したのだから。
 ハイドはUDCエージェントとして……そして何より、この怪物が心底気に入らないという二つの理由で、怪物に相対した。
「盗人には同情の余地はねぇ、てめぇも同じだ!」
 ……そして、猟兵と怪物の戦いが始まった。

 ハイドはE・S・Sと呼ばれる、【邪神の背骨】と呼ばれるUDCの残骸から作り出された武器を取り出した。
 三つの形態をとる事の出来る可変武器だが、彼はこれを槍形態で固定した。
 力を溜め、怪力を活かしてダッシュする。
「ォォォォォォォォォオオオオオ」
 瞬く間に肉薄したハイドに、怪物は手を振り回して対応しようとする……。
 が、流石に反応がのろすぎ、ハイドは悠々とかわした。
 同時に、相手の状態を観察する事も忘れない。
(色んな玩具が集まって出来てる……って事は、結合部分はもろいはずだな?)
 彼は槍を握りしめ、怪物の関節部分を狙った。
「大人しくブッ壊れろヤァ! ガラクタがぁ!」
 相手の反撃を覚悟した上での捨て身の一撃。
 それが功を奏し、怪物の右腕が吹き飛んだ。
 ……もとより、この怪物の身体は不完全。そもそも戦う事自体が無茶なのだ。
 それ故、結合部分は思った以上にもろかった。
「ォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオ!!!!」
 苦痛か怒りか殺意か。何の感情かは分からないが、怪物は咆哮を轟かせた。
 内臓されたミサイルが、露出される。
 右腕の仇と言わんばかりに、無数のミサイルを叩き込もうとする……。
 しかし。
「……ヒハッ!」
 ハイドが、憎悪を込めた邪悪な笑顔を見せた。
 獲物を見つけた肉食獣。蛙を睨む蛇。
 そのようなモノを想起させる……『狩る側としての絶対的優位を示す』いい笑顔。
 それは必然的に、相手に恐怖を抱かせる。
「オオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォ……」
 狩られる側だという意識が植え付けられ、怪物は思わずミサイルを撃つことを躊躇した。
 そしてその隙を、ハイドは見逃さなかった。
「てめぇは所詮、その程度って事だ!」
 彼は怪物を蹴り飛ばす。
 怪物が放とうとしたミサイルは、あらぬ場所へ飛んでいき……壁や床に落ちて爆発した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジニア・ドグダラ
『……集え。己に刃を突き立てた者への惨劇を祈る、怨恨晴れぬ朽ちた者よ!私たちの盾となれ!』

・もう一人のワタシ『ヒャッカ』に人格を切り替え、敵の攻撃に備えつつ攻撃します。
・地下室内という環境下、下手に攻撃されると生き埋めになってしまう可能性があるため、壁や天井を壊されないよう、【おびき寄せ】るように大声で詠唱しつつ、【魔鉱石の小瓶】による【高速詠唱】で素早くUCを発動します。
・相手の攻撃に合わせ、召喚した巨大な骸骨の霊による片方の【拳】での攻撃無力化と、もう片方での【拳】による【二回攻撃】を発動します。敵がいまだに怨嗟の声を上げるなら、こちらも【怨嗟の声】による【呪詛】で無効化を狙っていきます。



(地下室内という環境下、下手に攻撃されると生き埋めになってしまう可能性があります……)
 地下室で怪物と相対したジニア・ドグダラは、冷静に分析した。
 先ほどハイドが右腕を切り飛ばした際、怪物はミサイルを発射しようとした。
 ミサイルの当たり所が悪ければ、天井が崩落する可能性があっただろう。
(……誘導しないと!)
 そう考えたジニアは、内なる人格を切り替えた。
『ヒャッカ』と呼ばれる第二人格だ。
『……集え!』
 彼女は、怪物の注意を引き、おびき寄せるかのように大声をあげた。
「ゥゥゥゥゥォォォォォォオオオオオオオオ!」
 その試みは功を奏し、怪物はゆっくりと身を起こしてジニアへと向かって来た。
 ジニアは懐から、綺麗な石が入った小瓶……魔鉱石の小瓶を取り出した。
 不思議な力を含んだ鉱石が、からからと音を立てて動き、光を放つ。
 その光はジニアの精神に作用し……魔法の詠唱を行いやすくしてくれる。
 そしてジニア当人は、高速詠唱の技術が非常に高かった。
 ……まるで世界が、スローモーションのようになる。
 極限まで集中した世界の中で、ジニアは一人詠唱した。
『己に刃を突き立てた者への惨劇を祈る、怨恨晴れぬ朽ちた者よ!
 私たちの盾となれ!』

 スローモーションの世界で怪物が近くまで来る。
 拳を振り、ジニアを薙ぎ払おうとする。
 しかし……。
 バギッ、という鈍くも辺りに響き渡る音と共に、怪物の拳が止まった。
 怪物の拳を止めたのは……これもまた、怪物としか呼べないモノだった。
 無数の人骨で構成された、巨大な骸骨の霊。
 悍ましくも哀しさを感じる、恐るべき存在。
『……間に合った』
 彼女は、骸骨の後ろでそう呟いた。
【蛾者髑髏襲来】。死した人々で構成された、巨大な骸骨の霊を召喚するユーベルコードだ。
 ジニアを守護するかのように立ちはだかった骸骨は、目の前の怪物を睨みつける。
「ォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオ!!!」
 怪物は咆哮し、内蔵されたミサイルを露出させる。
 自爆しかねない距離での無謀な試み……そんな事をしてしまうほどに、怪物は混乱していたと言える。
 ミサイルが音を立てて飛び、骸骨へと飛来する。
 ドォン、と轟音が響き渡り、煙が辺りを覆う。
 ……しかし。
 骸骨は何事も無かったかのように、煙から顔を出した。
 拳で出来る限り受け止め、衝撃を受け流したのだ。
 骸骨は目を光らせ……ミサイルを撃った直後で隙だらけの怪物を殴りつけた。
 ゴォン! と金属に衝撃が加わる音が、地下中に響き渡る。
「ォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオ!」
 怪物は憎悪を込めて骸骨を睨みつけ、咆哮した。
 悪意を煮詰めた呪詛。身体を蝕む怨嗟の声。
 音ならば、後ろに居るジニアにも届く……届いてしまう。
 術者がやられてしまえば、骸骨も消えてしまうだろう。
 しかし……。
『蛾者髑髏!』
 ジニアの声に、骸骨は応えた。
「ォォオアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
 骸骨もまた、怨嗟の声で返した。
 死した人々達の怨念。無数に積み重なった想いがのった、憎悪の声。
 ……所詮不完全な怪物は、その声には勝てなかった。
『抱えてきた、想いの数が違う……!』
 ジニアは真剣に、怪物を睨みつけた。
 骸骨は再び怪物を殴り飛ばす。
 ……もう既に、怪物はボロボロだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

九十九音・みたま
残念。キミの願いは叶わないよ。
「わたしもね。願いの詰まった器なんだ。そりゃあもうたっぷんたっぷんに詰まった器でさ。幸せが沢山とほんの少しの呪い。……まぁ、生きていられるなら、それもまたよしなんだけど」
距離をとりながらロングボウとUC【千里眼射ち】で相手にしかける。
遠すぎず、近すぎず、相手の攻撃があたらないギリギリを狙ってゆく。
「キミは自己の為に誰かを悲しませ過ぎた。それはもう沢山。だから、次また生まれ変われるように、さよならしよう?」
ガラクタをつぎはぎして身体を保っているのなら、その脆い処をつけばいい。
動きが鈍くなったところで薙刀に持ち替えて【薙ぎ払う】。
「……次の命で会おうね」


フーカ・フダラク
必死に生にしがみ付き
痛みか恨みか、生きるために鳴き叫ぶなど
それではまるで赤子のようではないか

だからといって、行方不明者を取り込みUDCとなったオブリビオンを相手に
刀を下げるなど言語道断
我々は戦わねばならぬ
猟兵として、シャーマンとして
「いざ、尋常に」

暗がりの中で動けるように〔UC サモニング・ガイスト〕に空中の炎を維持させ
私が狙うは〔失せ物探し〕で見つけたレアオモチャの大型兵器のミニチュア
狙いを定め一気に詰め寄り、ガタついているであろう接合部に〔なぎ払い〕を試みる
「貴様の痛み、貴様の叫び、苦しみだけが貴様の生きた証になるならば」
「私は貴様の恨みを決して忘れずに覚えておこう」



 右腕が斬り飛ばされ、殴り飛ばされ……怪物は、既に半壊状態だった。
 しかし、まだ動ける。まだ戦える。
「ォォォォオオオオオオオオオオオ……」
 空洞の中で響き渡る風の音のような、か細い声で立ち上がる。
 まだ生きているなら問題ない……想いを喰らい糧とし、壊れた身体を修復するための素材を集めればいい。
 その為には、ここに居る猟兵をすべて倒せばいい。
 ぐぉん、と、怪物の目に憎悪の光が灯る。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
 怪物は咆哮する。無数の負の感情と共に……世界を喰らい尽くそうと願いながら。

「残念。キミの願いは叶わないよ」
 怪物の前に立ったのは、九十九音・みたま。
 赤い瞳で、殺意を表す怪物を見上げた。
「わたしもね。願いの詰まった器なんだ。そりゃあもうたっぷんたっぷんに詰まった器でさ。幸せが沢山とほんの少しの呪い」
 九十九の願いと穢れた魂を埋め込まれ、生を得たミレナリィドール。
 それが九十九音・みたまという存在だった。
「……まぁ、生きていられるなら、それもまたよしなんだけど」
 この世を呪い、また祝いながら自分の存在を見つめ続ける彼女は、この怪物を見て何を思っただろうか。
 戦巫女の彼女は、何を考えただろうか。
 ……ザッ、と、彼女の隣で足音がした。
 隣に現れたのは、フーカ・フダラク。
「必死に生にしがみ付き、痛みか恨みか、生きるために鳴き叫ぶなど……それではまるで赤子の様ではないか」
 怪物を睨みつけ、フーカは呟く。
「だからといって、行方不明者を取り込みUDCとなったオブリビオンを相手に、刀を下げるなど言語道断。我々は戦わねばならぬ、猟兵として、シャーマンとして」
 シャーマンにして戦巫女の彼女もまた、怪物の抱える想いの事を考えていた。
 しかしかの怪物は、既に人類の敵対者となっている。
 故に彼女は、媒介道具を取り出し、怪物に対峙した。
「いざ、尋常に」
 ぼう、と。彼女の隣に、炎を纏う甲冑姿の槍兵が現れた。
【サモニング・ガイスト】によって召喚された、古代の戦士だ。
 二人の戦巫女の猟兵と、古代の戦士。
 そして半壊した怪物。
 両陣営は睨みあい……決戦の火蓋が切られた。

「戦士よ、力を貸してくれ!」
 まず動いたのはフーカと古代の戦士。
 フーカの言葉に古代の戦士が頷き、空中に炎が浮かび上がって地下室を照らす。
「ありがとう、フーカさん」
 視界を得て狙いやすくなったみたまは、うまく距離を取りながらロングボウで怪物を射る。
 遠すぎず、近すぎず、相手の攻撃があたらないギリギリを狙っていく。
 怪物は思わずそちらに気を集中させ、背中のカッター状の羽を振り下ろす。
 ……が、思わぬ場所からの攻撃をうけ怪物はよろめき、羽は地面へと突き刺さった。
「見つけたぞ、レアオモチャとやらをな」
 薙刀を振り、フーカは呟いた。
 怪物の気が逸れた僅かな瞬間……彼女は失せ物の一つ、レアオモチャの大型兵器のミニチュアを見つけ出した。
 それは右脚部の、結合部分にあった。
 彼女はそれに狙いを定めて一気に詰め寄り、接合部分を薙ぎ払ったのだ。
 まだ壊れはしない。
 が、罅が入り、怪物はバランスを崩し……攻撃に失敗した。
「……今だ!」
 味方を信頼し集中を続けていたみたまは、その瞬間、矢を放った。
【千里眼射ち】。彼女の実力であれば、10秒間の集中で225m以内の敵を撃ち抜く事が出来る。
 それを彼女は、近距離ではあるが、実に小さい罅を狙い撃つのに用いた。
 ぱきっ。
 軽快に、しかし致命的な音が鳴り響き……怪物の右脚部は、胴体から離れていった。
(ガラクタをつぎはぎして身体を保っているのなら、その脆いところをつけばいい)
 みたまのその考えは、実に正鵠を射ていたといえる。

 右腕右脚を失い、怪物は倒れた。半身が無くなったのだから、最早バランスを保っていられない。
「ォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオ!!!!」
 怪物の叫び声は、最早痛みと絶望と……悲哀の色に満ちていた。
「キミは自己の為に誰かを悲しませ過ぎた。それはもう沢山。だから、次また生まれ変われるように、さよならしよう?」
 ロングボウから薙刀に持ち替え、みたまは怪物へと近づいた。
 その赤い瞳で、彼女は怪物をじっと見つめた。
 そこにあるのは、憎悪でも殺意でもなく……悲哀、憐憫であっただろうか。
「貴様の痛み、貴様の叫び、苦しみだけが貴様の生きた証になるならば……。
 私は貴様の恨みを決して忘れずに覚えておこう」
 フーカも近付き、倒れた怪物を見下ろした。
 この怪物が抱えて来た想いを、苦痛を……そんなものに、想いを馳せながら。
「……次の命で会おうね」
「さらばだ」
 二人の戦巫女は、薙刀で一閃……薙ぎ払った。
 斬、と。どこか小気味良い音が響き……怪物は頭部を切り離された。
「……オオ……ォ……」
 力を失った怪物は、声を吐き出しながら……やがて、動きを止めた。

 ……ほんの小さな災厄の種。
 小さな、弱々しい芽を出した、災厄の種。
 それは今ここで刈り取られ……幕を閉じた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月22日
宿敵 『エンゲージユニヴァース』 を撃破!


挿絵イラスト