●
彼女は心を奪うわざを使う。
彼はそれを知っていた。
自分は虜にされている。
彼は自覚していた。
彼女は人への憎しみと敵意の塊だった。
彼は知っていた。
だが、
彼女は長く檻に捕らわれ、見世物にされていた。
美しい外見ではなく。魔性の技に魅入られたからでもなく。
その姿は、どこか自分と重なるように思えたのかもしれない。
「見世物小屋というのはどうも好きになれないな。
だって、君みたいに哀しい生き物がいるのだもの」
ならば。
彼女は求めた。
そこにはヒトカケラも善なる気配はない。
彼はそれをわかっていた。
「……わかっていたのに」
●
「此処にいらしたのですね」
グリモアベース、賑やかな憩いの場で休んでいた猟兵の耳に少年の声が届いた。
見るとルベル・ノウフィル(星守の杖・f05873)がいつの間にか床に膝をつき、頭を下げている。
「火急の件にて、お力をお借りしたく存じます」
ルベルは返事を待たず、単刀直入に切り出した。
「剣と魔法と竜の世界。小国の王子が死に瀕しております。急ぎ駆けつけ救助をお願いしたいのです。その生命が失われるまでの猶予は1刻もありません」
ルベルは説明する。
「僕が知り得た情報をお話しましょう。
その国では現在新年を祝う祭りが催されており、祭りに華を添えんと旅芸人一座が訪れておりました。そして、その中にはモンスターを扱う見世物小屋がございました」
王子は、見世物小屋をお忍びで訪れるうちハーピーを逃がしてしまったのだという。年若き王子だ、ハーピーの魅了のわざに惑わされたのか……、ルベルは首をひねる。
「ハーピーは人を憎んでおりました。
そのため、自由を得た彼女は周辺のモンスターを操り、祭りを襲おうと考えたのです。王子は彼女の意を悟り、単身止めようとしたようですが、彼の言葉が届くことはありませんでした」
ルベルは地図を広げる。示された場所は、
「天空に伸びる大きな霊樹。街ひとつがその大木の上にあるのです」
「失意の王子は大木の上層で単身、ハーピーの操る巨木モンスターの群れに囲まれています。ぎりぎりのタイミングでの転移となります。どんなに急いでも、既に複数の傷を負われた時点での救出劇となりましょう」
ルベルは顔をあげた。その瞳は確固とした意思を備えている。そして、転移の準備をしながらも猟兵に頼むのだった。
「どうか、お力を貸してくださいませ」
remo
おはようございます。remoです。
初めましての方も、そうでない方もどうぞよろしくお願いいたします。
今回はアックス&ウィザーズの世界での冒険です。
1章は雑魚敵を倒して王子を助す戦い、2章はハーピーとの戦いとなります。
青空を背景に、街を抱えるくらい高くて大きな木の上層を舞台としての戦いです。
枝を足場に飛び回るのもよし、飛行しながら空中戦をするもよし、プレイングは自由にのびのびと書いてくださって大丈夫です。
また、日常フラグメントの必要成功度が下がったこともあり、テスト的に3章に日常フラグメントを組み込んでいます。日常フラグメントははじめてですが、木の上にある王都を見て回ったり、祭りに参加することができます。もしよければ参加してみてくださると嬉しいです。都市の人や王子と語り合うこともできますし、指名頂ければルベルもお供いたします。
キャラクター様の個性を発揮する機会になれば、幸いでございます。
第1章 集団戦
『荒ぶる山神』
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POW : 握り潰す
【人ひとり覆い隠すほどの掌】が命中した対象に対し、高威力高命中の【握り潰し】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : 踏み潰す
単純で重い【地団駄】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
WIZ : 叩き潰す
【大きく振りかぶった拳】から【地震】を放ち、【その振動】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ニトロ・トリニィ
【心境】
あの人が王子かな?
あのままだと危険だ…!
早く助けないと!
【戦術】
まずは《念動力》を使用して、王子を安全な場所に移動させようかな。
その後は、技能〈盾受け〉〈カウンター〉〈かばう〉〈拠点防御〉〈激痛耐性〉を使用して王子を守りつつ、〈地形の利用〉〈鎧砕き〉〈なぎ払い〉〈2回攻撃〉〈目潰し〉〈範囲攻撃〉
《念動力》を駆使しながら仲間と協力して戦おうかな。
時間があれば、〈礼儀作法〉〈優しさ〉〈医術〉を使用して、王子の傷を治すよ!
アドリブ歓迎です!
ヘカテー・ティシポネ
魅了されたかどうかは知らないけれど、単身で説得に行くところを見ると責任感の強い王子様なのかしら?まぁ、ハーピーもオブリビオンだからどちらにしても倒さないといけないわ…それは仕方ない事。
とりあえず、王子様を囲んでる巨木モンスターをどうにかする必要があるわね。
「木だけに…それなりに…燃えるかし…ら?」
『高速詠唱』を活かしながら、『ウィザード・ミサイル』を放ち、巨木モンスターの囲みを少しずつ解くように立ち回ります。
ロー・オーヴェル
何を考えて囚われのハーピーなんか逃がしたんだか
まったくお高い身分の奴の考えることはわからねぇ
「それなのにここに来て、そのお高い身分の奴を助けようとする俺の方が……もっとわからねぇな。ケッ、いまいましい!」
一刻を争う事態ならのんびりしてる暇はない
敵攻撃は【見切り】や【早業】を駆使して交わしつつ
移動を細やかにして相手に的を絞らせないように留意
シーブズ・ギャンビットでの攻撃の際は
【二回攻撃】【フェイント】も活用して的確かつ確実にダメージを
自傷は【生命力吸収】で適宜癒す
自分一人が突出することなく
他の猟兵たちと連携して事に当たれるよう留意し
自らもそのことを他者に伝え全体一丸となって戦いを進められるように
宮落・ライア
ん?なに?木の上!?でか!
ま!とりあえず王子さんから離れろこらー!
転移直後に【ダッシュ】で間合いを詰め刀で以って【剣刃一閃】で切り払い、【二回攻撃】でもって王子を中心に真反対に踏み込んで【薙ぎ払う】。
ある程度敵との空間が出来たら演出で王子を【怪力】で抱えて【ジャンプ】と【空蹴】使って安全なところまで運びたいけど………運びきる前にハーピーに空中で襲われそうだよねー。
怪我人抱えたままじゃ流石に辛い。
んー、わざと王子抱えたまま上層から落ちて【空中戦】と【空蹴】で回避に専念して下の方にある枝に着地前に一度空気を蹴ってから安全に着地?
ま、ノリと勢いと野生の感でどうにかしよう!
ラスベルト・ロスローリエン
籠に囚われし二羽の鳥、一羽は放たれ一羽を襲うか。
――彼の慈悲を若き故の甘さと切り捨てたくはないね。
【WIZ】
森の民の得手とする地だ、急ぎ駆けつけよう。
“界境の銀糸”を足場や縄代わりに用い【地形の利用】で迅速に移動。
『彼には伴周りの騎士が必要だ……頼んだよ』
走りながら“エレンナウア”を鞘走らせ【高速詠唱】で剣に宿る《散華の騎士》を喚び覚ます。
※白光を纏い青白い甲冑に身を包んだエルフの戦乙女
騎士は王子の周囲で護衛を主眼に動かし僕も【救助活動】で王子の保護と騎士の援護に徹する。
山神の掌を闇の鋭剣で斬り伏せ踏み砕かんとする震脚を光の霊槍で貫こう。
『無礼の段はどうか寛恕の程を……無事かい?王子殿下』
トリテレイア・ゼロナイン
王子の火急の危機ならば騎士と振舞うものとして馳せ参じましょう
必ずやお救いしたします
しばしのあいだお気をたしかに
盾の表面に薬剤を塗布し、サーフボードよろしく「騎乗」、脚部スラスター
を推進力に「スライディング」しながら王子のもとに急行します
王子や王子を助けた他の猟兵を「かばい」つつ、常に動き回る立ち回りを心掛けます。
山神が足を上げた際には足裏か、足の着地点に腕部速射砲で薬剤を込めた弾を発射し、摩擦を無くすことによる転倒を狙います
転倒したら「怪力」による大盾殴打での「鎧砕き」で足の破壊を試みます
成功したら王子に近い他の山神にも同様に対処
止めより王子の安全確保を優先しましょう
●
巨大な木であった。
ブラックタールのニトロ・トリニィ(楽観的な旅人・f07375)は周囲を見渡していた。それは、単純に物珍しいからだけではない。
彼は過去の記憶がほとんどないのだ。覚えている事は、自らの名前と戦闘に関わる事柄のみであった。様々な世界を巡れば、記憶が取り戻すこともできるだろう、そう考えて彼は猟兵となったのである。
足元には地面の代わりに木肌があった。ところどころ飛び出すように芽吹く花がある。風がそよりとニトロの黒躰を撫で上げていく。釣られて目をやれば、一面に青空が広がっていた。絵筆をあそばせたような白い雲がぽっかりと浮かんでいる。
ここは、アックス&ウィザーズ。
周囲には続々と仲間たちが集いつつあった。
ぼさぼさの黒髪が特徴の人間、ロー・オーヴェル(スモーキークォーツ・f04638)は煙草に火をつけていた。
話しかければ、気怠そうにしつつも友好的に言葉を返してくれる。
愛想は悪くない――むしろ良い。
だが、一方で明確に己の心に立ち入らせないような壁も挟んでの交友であるように感じられる。そんな男だった。
仲間たちは上層目指し、移動を始めるところだった。話題にのぼるのは救出対象である王子だ。
「魅了されたかどうかは……知らないけれど……」
ぽつりぽつりと独特の調子で言葉を紡ぐのは、銀色の月のごとき魔女ヘカテー・ティシポネ(エリーニュス三美姫・f06411)だった。彼女と依頼を共にした経験のある者は、慣れた様子で会話をしている。
魔女は茫洋とした紫の瞳で考え込む様子を見せた。
「単身で説得に行くところを見ると……責任感の強い王子様……なのかし……ら?」
その語りは特徴的だ。情報は少なかった。だが、悪い人間性ではないのだろうと彼女は語る。
「籠に囚われし二羽の鳥、一羽は放たれ一羽を襲うか」
パイプ草を燻らせているのは三角帽子のラスベルト・ロスローリエン(灰の魔法使い・f02822)だ。帽子の下に先端の尖った長い耳が見える。
(エルフか)
ローは思う。
若く見えるが、手練れであろう――、彼を知る者、あるいは戦場に慣れた者は頼もしさに目を細める。エルフの精霊術士は周囲の葉へと挨拶をするような仕草をみせた。
「彼の慈悲を若き故の甘さと切り捨てたくはないね」
その言葉に力強く頷くのは身の丈3メートルに届こうかというほどの巨躯、ウォーマシンの騎士、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)だ。
「王子の火急の危機ならば騎士と振舞うものとして馳せ参じましょう。
必ずやお救いしたします」
トリテレイアは盾の表面に薬剤を塗布している。それを不思議そうに見る者、訳知り顔で微笑む者、反応は様々だ。
ローが呟いた。
「王子様に騎士様、か」
ヘカテーが問いかける視線を向ける。そこへ――、
「ん? なに? 木の上!? でか!」
元気な声がした。
転移されてきたばかりの宮落・ライア(英雄こそが守り手!(志望)・f05053)が驚きに目を見開き、あたりを見渡していた。
「元気な嬢ちゃんが来たなぁ」
明るくやわらぐ気配。
人の胴体ほどもある太さの枝が茂り、雨隠れの傘にもできそうな広葉がやわらかな天蓋めいて冒険者たちを見守る。
冒険の仲間は、揃った。
●
「上のほうで戦いの気配がするな」
聞き耳をてながらローが仲間たちに方角を示す。
「上層、東側だろう。数が多い」
戦場が明確になり、仲間たちは上層の東側を目指して登る速度をあげた。
「よーし!」
張り切るライアにローがやんわりと言葉をかけた。
「急がばまわれ、だ。俺たちはチームで救出する。頼りにしてるぜ」
(心得ているようだ)
その様子に頷きながらラスベルトは仲間たちを手助けする。
「森の民の得手とする地だ」
“界境の銀糸“を伸ばす。それは、決して絶ち切れない銀の蔦の種子。
「さあ、目覚めてひと仕事しておくれ」
エルフのやさしく穏やかな呼び声に銀は芽吹いた。銀糸のごとく伸びる蔦は、天と地を伝うが如く縦横に生い茂る。
ラスベルトは軽く跳ぶ。手は蔦の1本を掴び、足で軽く横に張られた蔦を蹴る。再び跳ぶ。
「うわぁ……、すごい」
「おおー! 足場だー!」
ニトロとライアが驚嘆の声とともに後に続いた。
「にしても、見世物にされていたハーピーか」
ぽつりと呟くと、ぼんやりと応える声があった。
「まぁ、ハーピーもオブリビオン……だから……、どちらにしても……倒さないといけない……わ……、それは……仕方ない事」
死霊蛇竜に跨るヘカテーだ。紫水晶の瞳が煙るように空を見つめていた。
「ええ。ハーピーは討伐せねばなりません」
声に視線をやれば、トリテレイアが大盾にサーフボードよろしく『騎乗』していた。脚部スラスターを推進力になんと霊樹の表面を滑るようにしながら登っていく。
「よく登れるね!? どうなってるの?」
ライアが興味津々に話しかけていた。
「おいおい、最近の騎士様は盾に乗るってのか? 世の中どうなっちまったんだ」
ローは頭を振った。だが、その表情は柔らかい。
誰かが傷を負ってもそれを守る者や癒すものがいる。
どれだけ強くても一人じゃ限界がある。
それを補うのが『仲間』だ。ローは周囲を見る。仲間たちの士気は高い。
●
やがて一行は戦場に辿り着いた。
巨木のモンスターが群れとなり、ひしめいている。
「あれは山神だね」
ラスベルトが呟く。
「モンスターなんだよね?」
ニトロが窺うような視線を向けた。ラスベルトは迷わず頷いた。
「森や山々へ稀に出現する巨木のモンスターだ。邪悪な存在だよ」
言いつつ、エルフは銀の蔦をさらに巡らせる。巨木の何体かが蔦に捕らわれた。
巨木の囲みは厚い。が、隙間にちらりと人間の姿が視えた。
齢は十代の中頃であろうか。どこか頼りない風体をところどころ赤く血に染めている。
「あの人が王子かな? あのままだと危険だ…! 早く助けないと!」
ニトロが声をあげた。
「王子の安全確保を優先しましょう」
トリテレイアが巨木のモンスターの囲いに銃を撃ち気を引こうとした。倒すよりも生命の救助を第一に。仲間たちも頷いた。
「聞こえる? 助けにきたよ!」
ライアが地を蹴った。長い髪が風をはらみ、ふわりと舞う。少女は巨木モンスターの群れへと突っ込んでいく。足元は駆けるに充分は幅があり蹴り心地のよい木肌だ。
「何を考えて囚われのハーピーなんか逃がしたんだか。まったくお高い身分の奴の考えることはわからねぇ」
ローは紫煙をくゆらせ、口の端を歪めた。
「それなのにここに来て、そのお高い身分の奴を助けようとする俺の方が……もっとわからねぇな。ケッ、いまいましい!」
ローはダガーを放った。それはライアの行く手を遮ろうと動いた1体の巨木を軽く仕留める。続き、もう1撃を放ちこちらに対応すべく動き出していた1体をけん制すると、素早く身近な枝へ身を滑り込ませる。
お高い身分の人間の代表例ともいえる王子が目の前にいた。それは、彼が日ごろ生理的に嫌悪を覚える立場の人種であった。
「とりあえず……王子様を囲んでる……巨木モンスターを……どうにかする必要があるわ……ね」
ヘカテーが高速で呪文を詠唱する。銀の魔女へと腕を振りかざしていた巨木をトリテレイアが騎乗している大盾ごと押し倒すように突撃し、殴り倒した。その背に新手の2体が迫れば、ニトロが念動力で吹き飛ばす。
「王子さんから離れろこらー!」
ライアが囲みの中へと跳躍する姿が視えた。
「一刻を争う事態ならのんびりしてる暇はない」
舌打ちひとつ、ローはジャケットを脱ぐと巨木モンスターの群れへと投げた。同時に、投げたジャケットに隠れるようにしてダガーを素早く放つ。
放つやいなやもう一撃を投擲し、枝を飛び移る。さらに一投。再び枝を飛び移り、もう一投。細かく移動しながらの投擲。
(戦い慣れている人なんだな)
その立ち回りにニトロが感心した。
同時に、術を完成させたヘカテーが放った炎の矢は巨木を燃え上がらせていた。
「木だけに……それなりに……燃えるかし……ら?」
延焼を厭い、周囲にいた巨木モンスターがザッと離れる。
「もう1体……」
ヘカテーが呟く。距離を取った巨木モンスターに炎の矢が命中し、燃え上がる。周囲の巨木モンスターがザザッと離れた。
巨木モンスターの囲みが少しずつ解けていく。足元に霊樹に燃え移ることはない。術者であるヘカテーが調整しているのだろう。
ライアは空中で大剣を抜き、着地を妨げる巨大な掌を斬り払う。
「ハッ」
裂帛。紫電は一筋に。掌を割られ、巨木モンスターは全身をそのまま両断された。続き二撃三撃と剣が舞いその銀髪が舞えば嵐の如く巨木の包囲陣に穴を穿つ。
「あ、あなた方は……」
王子が目を瞠る。そして剣を落とした。ぐらりと体が傾く。1体が王子を確保しようと腕を伸ばした。
「いけない!」
ニトロは遠くから念動力を使用した。王子の身体が宙に浮く。ライアが慌てて王子に腕を伸ばす。ニトロは念を操り、ライアの腕の中へと王子を移動させた。
ライアはハッとした。
その身体は関節が外れているのか左腕はぶらりと垂れ、右半身は無数の傷を負い血に塗れている。
「ごめん」
触れれば傷に障り痛むだろう、そう思いながらもライアはしっかりとその身体を抱きかかえる。抱えた瞬間苦痛の声が耳に入る。
「助けるから!」
ライアは王子を抱え、包囲の外へと跳躍した。逃すまいと巨木が腕を伸ばす。
「女子供の危機を黙って見過ごすなんて、オトナの男のやることじゃねぇ!」
ローが素早くダガーを投げ、2人を守った。
●
(怪我人抱えたままじゃ流石に辛い……!)
ライアは枝に一度着地した。そして下に視える枝めがけて再度跳ぶ。抱えた王子は偶に苦しそうな呻きを漏らす。意識は失ったようだった。
巨木モンスターの掌が壁のようだ。掴もうと押し寄せる掌を避け、ライアは空を蹴る。そして、枝へと着地した。
着地の一瞬の隙を守るため、ニトロが指輪をかざすと光の盾が現れた。
盾は巨木の腕を弾く。
「ありがとう!」
ライアは再び飛ぶ。
「邪なる者ぞ此れにある、吾らの領域を侵さんと」
ラスベルトが周囲へと呼びかけるような声が聞こえた。
さわり、と。
周囲の枝葉が震えた気がした。
(なんだ?)
枝を飛び回りながら援護していたローは異変を察知し、眉をひそめた。
ざわ、ざわ、と葉が音をたてていた。
●
銀の蔦が退路を作ってくれる中をライアは逃げていた。いつの間にか並走し、腕を薙ぎ払ってくれているのは盾に騎乗したトリテレイアだ。
「う……動けぇ!」
ニトロが念動力で味方により倒された敵の巨木を浮かせた。そして、味方を追う敵へとぶつける。
「こっち、こっちに! 集まろう!」
太い枝の上で呼びかける。ライア、そしてトリテレイアが逃れてきた。他の仲間たちも集まってくる。
「応急処置をするよ! 僕に診せて」
ニトロが駆け寄る。王子の身体を横たえる。王子は呻き、うっすらと目を開けた。
「無礼の段はどうか寛恕の程を……無事かい? 王子殿下」
ラスベルトが帽子を取り、挨拶をする。灰銀の髪が風に靡いた。
(意識があるのは良いことだ)
ニトロは安堵した。
「僕は医術の心得があります。応急措置をさせていただきます」
ニトロは礼儀正しく黒い身体の腰を折る。王子は戸惑いながらも、自らが救われようとしている事を理解したようだった。弱弱しく礼を口にする。
「冒険者の方々だろうか? 助かった、礼を言う……」
「しばしのあいだお気をたしかに」
「王子、だよね? ボクたちは助けにきたんだ! もう大丈夫」
トリテレイアとライアが励ますと、王子はしっかりと頷いた。
「私はシルヴィオ。空と大樹を友とする小国トレビゾの王子だ」
仲間たちは一瞬視線を交差させた。傷の手当てを受けながら、王子は荒い息のもとで言葉を紡ぐ。
「ハーピーが下層の都を襲おうとしている。私には止められなかった」
その瞳は悲しみに揺れていた。しかし、言うべき言葉を見失うことのない理性は間違いなく備えているようだった。
「冒険者の方々、どうか不甲斐ない私の代わりにハーピーの凶行を止めて頂けまいか」
「どうして……、1人で止めようと……したのかし……ら」
ヘカテーが静かに言葉を向けた。答えは半ばわかっていた。だが、
「あなたは、王子。兵は……貴方の力となった……でしょう」
その瞳は静かに深い色を湛え、じっと王子を見つめていた。薄い感情が瞳の奥で揺蕩うようだ。王子は視線を受け止めた。逸らさずに答える。
「兵に任せれば、彼女はそのまま問答無用で討たれてしまうと思った」
「ご自分が止めれば……わかってもらえる……、助けられる、と……思ったの?」
王子はコクリと頷いた。
「でも……できなかったの……ね」
王子は再び、静かに頷いた。
煙草に火をつけながら耳をそばだてていたローがそっと息を吐く。
遠く、歌声が響いていた。声は徐々に近くなる。
「ハーピーだ」
ニトロがハッとした。
「近づいてくる」
斬り払い、燃やし、数を減らしつつも、一行は巨木の群れに未だ囲まれていた。
●
巨木が一斉に足を上げ、地を踏み鳴らさんとした。
「させませんよ」
トリテレイアはその足元を狙い腕部速射砲を発射した。薬剤を込めた弾が撒かれ、巨木が転倒する。そこへ怪力による大盾が揮われた。ぐしゃりと音をたてて足が破壊される。
「王子には伴周りの騎士が必要だ……頼んだよ」
ラスベルトは走りながら“エレンナウア”を鞘走らせる。星の火の名を冠する流麗なミスリルの長剣は光を帯びた。高速の詠唱。《散華の騎士》を喚び覚ます。
白光を纏い青白い甲冑に身を包んだエルフの戦乙女が一行の前に姿をあらわした。戦乙女はラスベルトに一礼すると、巨木の群れから王子を護り戦った。
迫る掌を闇の鋭剣で斬り伏せ、地を踏み砕かんとする震脚は光の霊槍で貫いていく。
「数は多いけど、守りきろう!」
ライアが闘志を漲らせ、味方を鼓舞する。
前線を突破してきた巨木が腕を伸ばせば、ニトロは王子の前に立ち、代わりに攻撃を受けた。激痛耐性を持つニトロは傷つきながらも王子へと笑顔を向ける。黒い肌に浮かべるそれは、不思議なあたたかさを伝えた。
王子は自らが傷を負ったかのような顔をして傷ついた黒肌を見る。
「どうして、だろう」
呟く。
巨木の腕がローの身体を捉えた。
「ぐっ」
腹に巨木の拳が入る。次いで鷲掴みにし、持ち上げる。
ローは堪らず呻き声を漏らしつつも、ぎらりと巨木を睨み自らを掴む手から生命力を吸収した。
巨木が声なき苦悶と共に灰となり崩れる。どさりと霊樹の木肌に落下したローは血交じりの唾を吐いた。トリテレイアが駆けつけ、背を狙っていた大木を殴り倒す。
起き上がり前方の巨木の群れを睨むローの眼光は鋭い。周囲の巨木モンスターが気圧されたように一歩下がった。口の端を吊り上げた。
「なんだって? 言ってみろよ」
風がさわりと吹いた。
周りの葉がざわざわとさざめく。緑の隙間からうららかな日の光が差し込み、一行を照らしていた。
「猫や馬、獣たち。自然の木々。そして、多種多様な種族。
わかりあえるものや伝えたいことが伝えられるものも、いるではないか」
王子は呟く。
なぜ、モンスターには伝わらないのか。わかりあうことが叶わないのか?
邪悪とは光の一切を拒み、受け入れることはないのか。
空が青い。
言葉にラスベルトは目を伏せた。
巨木の群れが押し寄せていた。ヘカテーは無言で群れに炎を放つ。ゆらゆらと赤い炎は邪悪を押しのける。
「ともがらよ」
エルフが再び呼びかけた。
言葉に今度こそ明確に『樹』が応えた。
「――!!」
「なんだ!?」
ズズン、
そんな音とともに、彼らを上に抱える大枝が『動いた』。そして、周囲をさざめいていた大枝が蠢き、巨木の残党を次々と払いのけた。薙ぎ払われ、巨木の群れがパラパラと空を落ちていく。
「霊樹が味方してくれてるの?」
ライアが目をまたたかせた。巨木は次々と払いのけられ、やがて一行の視界はクリアになる。
「ひと安心か……」
「王子を安全なところへ」
ふと日が翳った。
頭上に視線をやった者たちが息をのみ、身構える。
敵影。
彼らはそれを見た。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
第2章 ボス戦
『ハーピー』
|
POW : エキドナブラッド
【伝説に語られる『魔獣の母』の血】に覚醒して【怒りと食欲をあらわにした怪物の形相】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD : ハーピーシャウト
【金切り声と羽ばたきに乗せて衝撃波】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ : ハーピーズソング
【ハーピーの歌声】を聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●歌
地を這うもの……地を這うもの
なんて醜い生き物だろう なんて愚かな生き物だろう
泥にまみれ、嗚呼、 転んでいるわ
手を土に汚して、嗚呼、 這っているわ
なんて醜い
なんて醜い 生き物だろう
なんてちっぽけな いのちだろう
地を這うもの……地を這うもの
「ハーピーだ」
夜深き彩から暁へと色調を変え、薄い花弁を何枚も重ね纏うような羽が艶やかだ。空へと伸びたひとつ羽は蒼も帯び。瞳はまるで穢れを知らぬ乙女のよう。
春を知らせる妖精のように頬は薔薇に染め、けれど口の中に潜むは禍々しい牙だ。
なめらかな柔肌は胸元から腰までをあらわにし、みずみずしい花にも似て咲きこぼれるような色香を放つ。しかし、脚は禍々しい凶爪を備えた鳥の型。
ハーピーはその瞳をせつなげに伏せた。歌は続いている。歌は徐々に音程を狂わせ、最後は金切り声のように聞くものの心を震わせた。
嗚呼、醜い生き物たち
すべて すべて 滅んでしまえ
どんなに胸がすくだろう
……一匹残らず 狩りつくしてしまえ!
「――来るぞ!」
ハーピーが羽ばたき、地表の一行へと衝撃波を放った!
ニトロ・トリニィ
【心境】
とうとう来たようだね…
王子様には悪いけど、あのハーピーは討伐させてもらうよ。
【戦術】
まず、技能〈目立たない〉〈地形の利用〉を使用して、物影に移動するよ。
そして、ハーピーが良い位置に来たら
《集約する炎》〈2回攻撃〉
〈目潰し〉を使用して攻撃するよ!
狙うとすれば、目か羽かな?
攻撃後は移動して、また攻撃かな。
これを、見つかるまで繰り返すよ!
見つかったら〈激痛耐性〉〈2回攻撃〉〈なぎ払い〉〈目潰し〉
〈範囲攻撃〉〈鎧砕き〉を使用して、
なんとか攻撃するよ!
誰かがピンチだったら〈かばう〉
〈盾受け〉〈カウンター〉で守るよ!
僕が見つかるまでは、他の仲間に王子を守ってもらおうかな?
アドリブ歓迎です!
トリテレイア・ゼロナイン
王子、残念ながら言葉が通じることと心を通わせることには大きな隔たりがあります。あの翼持つ彼女の憎悪は強い、言葉を届かせることなど何人も叶わないでしょう
……御伽噺の騎士ならば…いえ、忘れてください。私は守護の務めを果たしましょう
衝撃波や上空からの奇襲から王子を護るため背中に「かばい」一歩も動かぬつもりで戦います。動かない敵などいい的ですが下がるわけにはいきません
「武器受け」「盾受け」「怪力」で持ちこたえつつ、腕部速射砲の「スナイパー」で牽制します。
速射砲の弾が切れたらワザとハーピーにわかるように振舞い、接近を誘って頭部機関砲での「だまし討ち」を狙いましょう
…これでは騎士どころか対空機銃ですね
ロー・オーヴェル
王子様に開放されたハーピーは彼と恋に落ちてしまったのです
ですが二人の種族の差からその恋が許されるはずもなく……
「いやこんな妄想はどうでもいい」
まあそんな妄想の展開になれば
その後の運命も変わっていたのかもしれないが
「神はそんな運命を、登場人物たちに許さなかった」
お前は怒りの権化として人への復讐を誓う『役柄』になり
俺たちはそれを防ぐ『役柄』だ
ここは互いの運命を決める最後の舞台
【シーブズ・ギャンビット】と【フェイント】【二回攻撃】を攻撃の
【見切り】と【生命力吸収】を守りの其々の主軸として戦う
突出せず仲間との連携重視
にしても聴き続けると本当に狂いそうな歌声だ
狂っているのはこのハーピーなのか
それとも……
ラスベルト・ロスローリエン
大空を縦横に羽ばたくハルピュイアよ、驕るなかれ。
大地を歩む者は君の領界すら穿つ業を隠し持つのだから。
◇WIZ 自由描写・連携歓迎◇
衝撃波を【見切り】で避けながら“弓張月”を携える。
僕とて森の民、弓は相応に扱うのさ――つがえる矢は只の矢にあらず、だけれどね。
『蒼穹よりなお高みにありて輝く星から逃れる術は無い』
【全力魔法】で引き絞った大弓の弦から《晨明一条》で撃ち貫く。
一矢放った後は魔性の羽ばたきに星光の矢を射掛け飛翔を妨げよう。
大技を狙う仲間がいれば【援護射撃】で魔鳥をその間合いまで追い込みたい。
『許しは請わないよ……それが相容れぬ過去を射る狩人の役目なれば』
霊樹の大いなる腕に抱かれ眠ると良い。
宮落・ライア
んー…まっ! 王子の言葉が届かなかったのか、聞いてないのかはまぁいっか!
それで愚かか醜いかは…オブリビオンを見世物にしようとした人達はまぁ愚か者だよねー。間違いない!
ボクは地を這うものじゃ終わらないよ。
【ダッシュ】、【ジャンプ】で勢いをつけて跳び【空蹴】を交えて【空中戦】。【薙ぎ払い】【衝撃波】【怪力】で空気をかき乱し、【二回攻撃】で下に叩き落す。
何時までも飛んではいられないんだよ。時には土もいいものさ。
●
歌が耳障りに響き、禍々しい悪意の波が空から押し寄せる。
「戦乙女よ」
ラスベルト・ロスローリエン(灰の魔法使い・f02822)は短く命じた。
青白い甲冑に身を包んだ戦乙女が歌うハーピー目掛けて光の霊槍を投げる。続き、一行に迫る初手の衝撃波を受け止めて戦乙女は消えていった。
(とうとう来たようだね……)
ニトロ・トリニィ(楽観的な旅人・f07375)はちらりと王子を見る。トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)が王子を護衛していた。
「にしても聴き続けると本当に狂いそうな歌声だ。狂っているのはこのハーピーなのか。それとも……」
ダガーを手にロー・オーヴェル(スモーキークォーツ・f04638)が呟く。
宮落・ライア(英雄こそが守り手!(志望)・f05053)が隣で思案気な顔をしている。
「どうした、腹でも壊したか」
珍しい様子にローが軽口を叩く。
と、
同時にハーピーは戦乙女の光の槍を避け高く舞い、もう一撃を放った。放ちながら歓ぶように嬌声をあげた。強烈な衝撃波は放った主が思った以上の出来となったようだった。
「わあ、枝が!」
仲間たちが拠点にしていた枝が恐るべき威力の波に両断され、割れた。仲間たちは左右の枝へと散って移る。トリテレイアは王子を抱え、霊樹の幹の近くへと身を寄せた。
「王子、残念ながら言葉が通じることと心を通わせることには大きな隔たりがあります。
あの翼持つ彼女の憎悪は強い。
言葉を届かせることなど何人も叶わないでしょう」
トリテレイアが王子に言葉をかける。
王子は顔をあげた。
堂々たる騎士が陽光を背に立っている。
大盾と長剣を構えて、立っている。表情はわからない。
「……御伽噺の騎士ならば……」
ふっと騎士の言葉が揺らいだ。
「御伽噺?」
騎士は頭を振った。
「いえ、忘れてください」
そして、背を向けた。
「私は守護の務めを果たしましょう」
その背が自分を守ると言っているのだと、王子は察した。
●
仲間が王子を護衛している事に安堵し、ニトロは大きな緑葉に隠れるように潜んだ。近くにはライアも潜んでいた。
(王子様には悪いけど、あのハーピーは討伐させてもらうよ)
ハーピーは上空を飛び回り、囀っている。直ぐに降りて来る気配はない。眼下で狩られる獲物たちが怯えるさまをゆっくり愉しもうというのだ。
(こっちに、こい)
ニトロは掌に赤き焔の如き純光を集約し、獲物を狙う。
「んー……」
と、ライアが何やら考える様子を見せていた。
「どこか怪我した? 診るよ」
ニトロが案じる色を浮かべると、ライアはふるふると頭を振った。
「まっ! 王子の言葉が届かなかったのか、聞いてないのかはまぁいっか!
それで愚かか醜いかは…オブリビオンを見世物にしようとした人達はまぁ愚か者だよねー。間違いない!」
ライアは明るい声で言った。
ニトロは、どこか気が抜けたような顔をした。
2人顔を見合わせ、ふっと笑う。
「うん、僕たちはそのために来たんだよ」
ニトロが噛みしめるように言った。
青い空がカラリと晴れて気持ち良い。
●
上空をハーピーが悠々と飛んでいる。
ローは真っ直ぐ立ちのぼる煙草の煙を眺めていた。日差しの中、煙が細かな粒のようにきらめく。それを散らすかのように勢いよく良く紫煙を吐けば、散らされた煙は青空に染みて溶けるように消えていった。
「王子様に開放されたハーピーは彼と恋に落ちてしまったのです。
ですが二人の種族の差からその恋が許されるはずもなく……」
ふっと息をつき、首を振る。
こんな妄想はどうでもいい、と零せば近くに着地していたエルフの魔法使いが意外そうな顔をしていた。
軽く肩を竦め、ローは愛用の携帯灰皿で灰を受け止めた。皿に自分で刻んだ紋章を軽く指でなぞる。
「文句あるか? 煙草は頭と心が食べる栄養源なんだよ」
「いや、」
笑み声に目をやれば、灰の魔法使いもパイプを持ち、煙をふかしていた。
「そろそろ動くようだ」
その瞳が空を仰ぐ。
ローは仲間の視線を追う。その先にいるのは……。
「神はそんな運命を、登場人物たちに許さなかった」
ローは二度、瞬いた。物語の舞台に役者は揃っている。あとは、最後まで、と。
●
ハーピーが降下する。圧倒的なスピードと共に。風を切り、2人の枝へと。
2人は左右に分かれ跳んだ。
ラスベルトは空中で帽子を軽く手で押さえながら戦友に笑う。
「それほど恐れるものではない。見切れる攻撃だよ」
ああ、とローも笑みを返した。
「なんとかなるさ」
次々襲い来る波を軽やかなステップで容易く避けながら、ラスベルトは三日月の如き麗しの弓を引く。月桂樹の精が転じた弦無き大弓こそ、風斬鋭矢を放つ弓張月。
飛来した矢にハーピーが羽を散らし、溜まらず上空へと逃れていく。
「僕とて森の民、弓は相応に扱うのさ――つがえる矢は只の矢にあらず、だけれどね」
ハーピーの背に向け、ラスベルトが弓を構える。数本の矢を射かければ、ハーピーは木々の隙間を縫うように逃れていく。
「さて、」
狩りは始まっていた。
●
次々飛来する矢にうんざりとしながらハーピーは木陰に一度身を潜めた。
矢を厭い、木々の葉や枝を掻い潜るように移動していく……やがて、追ってくる矢は途絶えた。
そして、気付いた。
見下ろす先には王子を守り、先ほどから一歩も動かぬ木偶がいるではないか。
ハーピーはニイ、と口の端を歪めた。羽ばたき、降下する。同時に鼓膜を不快に震わせる不協和音を囀れば風が捩れて衝撃が刃の如き波となった。狂奏。強歌。
装甲を風に刻まれながらも大盾の隙間から火花が閃く。腕部速射砲で牽制されれば、ハーピーは不快に顔を顰めて軌道を変え、上昇気流に乗り滑るように空を舞う。
クスクス、クスクスクス……、
魔物の嗤い声が風に乗り彼らを取り巻く。風のように大空を舞いながらハーピーは嗤う。そして、再び恐るべき速度で騎士を襲う。
装甲に傷が増えていく。
「素早いだけかと思っていましたが、素早さというのも侮れないものなのですね」
感心したように呟きながらトリテレイアは対抗射撃を挟みつつ耐える。ハーピーの強襲は数度に渡り、ついには弾も尽きてしまう。
「しまった!」
トリテレイアは大声をあげる。それはハーピーを謀るための演技であった。
が、そうと察せぬ王子が言った。
「討伐が厳しければ、逃げてくれ。なにも無駄に命を散らすことはない。
私が時間を稼ぐから、下層に行き民に避難を呼びかけてくれれば」
ハーピーが宙に止まり、くい、と顎を上げた。見下ろす双眸は愉悦に浸る色をしている。勝利を掴んだ――彼女はそう思ったのだ。
ハーピーは2人を見降ろしたまま笑顔を浮かべる。死ぬ間際の茶番を許してやる、そう言わんばかりに。
「王子?」
騎士は笑うような気配を漂わせていた。風に攫われ、ハーピーの耳に届かぬよう低く囁く。
「ハーピーごときに私たちはやられたりしません。大丈夫ですよ」
話は終わりとばかりにハーピーが風を纏い降りてくる。
獲物を追い詰めた悦びは狂乱の叫びとなり溢れた。
その姿を近くで潜んでいたニトロが狙っていた。
掌で凝縮する光は透き通り、陽光にキラキラと輝く。
ハーピーが降りてくる。仲間が危険だ。
もう、届く。
「狙いを定めて……」
黒の指先は真っ直ぐ。かすかに震えるのは緊張だろうか?
迷いを振り切る。振り切れ。
ライアは直ぐに飛び出せるよう身構えながらその様子を見守った。集中している。それがひしひしと伝わったから、何も言わずに見守っていた。
「わたしたちは、特別に優秀な冒険者……ですからね」
爪で抉り取ろうと接近したハーピーの目前で騎士の頭部が火を吹いた。頭部機関砲による一斉放火。ハーピーが慌てて羽ばたき、急上昇しようとする。鳥の脚が弾幕に穿たれ血に染まった。
「……これでは騎士どころか対空機銃ですね」
騙し討ちは成った。騎士は、騎士を模倣こそしているが根本は冷徹にして合理的なウォーマシンであった。
ゆえに、堂々たる体躯に似合わぬ搦め手を得意とするのである。
同時に、少し離れた葉影から赤い光が閃いた。
ひときわ大きな悲鳴が響く。
震えが止まった。
「発射!」
一筋の光が静かに奔った。一瞬の煌めきはハーピーの片目を灼いた。
アアアアアアアアァ!!
「目は狙って損のない場所だよ」
ニトロがぽつりと吐くように言った。
「ああいう生き物なら、特に」
甲高い叫声が劈く。狂乱し高く舞うハーピーの羽根を連続の光筋が掠めた。
陽光を背負い地上を見下ろす容貌は凄絶な殺意に染まっていた。口が大きく裂いて牙を剥く。隻眼は赤く禍々しい光を帯び、顔中には赤黒い血管が浮き上がる。
傷を負っていない片目はギラギラと滾る激情もあらわに急降下する。
「うわ……!」
「ニトロさん!」
ライアがタックルするように飛びこみ、ニトロの身体を倒す。
倒れ込む先には地面がない――空中だ。
「落ちる!」
2人は宙を落ちていく。
ニトロは光の盾を展開した。2人分を守るように。
それは、上から追ってくるハーピーの衝撃波を防ぐ。
落ちる2人の下にラスベルトの銀の蔦が残っていた。
2人は蔦に掴まり、追ってきたハーピーを逃れて分かれて跳ぶ。
なおも追いかけようとしたハーピーに矢が降りかかる。ハーピーが羽ばたき逃れようとしても、高く放たれたエルフの矢が天に蓋をするように弧を描き流星の如く鋭く降ってくる。ハーピーは忌々し気に回避に専念した。
「大空を縦横に羽ばたくハルピュイアよ、驕るなかれ。
大地を歩む者は君の領界すら穿つ業を隠し持つのだから」
狩人の声が響く。
ハーピーは再びの邪魔に怒りの歌を絶叫し、周囲へと無差別に衝撃波を奏でた。降り注ぐ矢ごと一掃してしまえ、と。
「ったく、あいつら無事か?」
追いついてきたローが落ちた2人を見つけ、手を振る。
「ボクは地を這うものじゃ終わらないよ」
目をキラリと輝かせ、ライアは舌なめずりをするように言った。
挑戦的に口の端がもちあがる。
そんなライアへと肩を竦めていたローの足元にも衝撃波が奔る。
慌てて跳び、回避。
「おっとぉ!」
視界の隅を見逃せない光が零れた。上着ポケットに入れていた小さな煙水晶が衝撃で飛び出たのだろう。
こんな上空で見失えば、どこへ落ちてしまうことか。
ローはそれを慌ててかがみこみ、小さな煙水晶をキャッチした。と、一瞬後に自分の頭の上を衝撃波が掠めていった。冷や汗が背をつたう。一瞬遅れれば首を持っていかれたかもしれない。
「ああ、さすが俺の守護石だよ!」
煙水晶をひと撫ですると、ローはダガーを投擲した。ハーピーが嘲笑うような余裕を浮かべ、すい、と飛び上がり避ける。と、そこへ、
「蒼穹よりなお高みにありて輝く星から逃れる術は無い」
ハーピーを狙う弓手が全力を籠め、今まさに矢を放たんと待っていた。
静謐。
戦場の空気をひととき無風の湖めいて沈黙させるほどの威容を備え、弓を構えるエルダールの姿にハーピーは慄いた。先ほどまでのとは威力が違う!
風の唸る音と共に明星の光が迸る。それは、希望の導きにもにて蒼の空を駆ける。光はハーピーの腹を貫き背に抜けた。ごぼり、と血が口を付いて溢れる。
ライアは思い切り、地を蹴る。
駆ける。
駆ける。
豪速で駆ける。速度のままに最後は跳んだ。
「そーれーっ!」
しなやかな小躰が青空を背にバネのように飛ぶ。
ハーピーが血反吐を吐きながらも死に物狂いで身を捩り回避しようとすれば、なんとすれ違い様に虚空を蹴り回転した。疾い。
濃密な闘気と共に烈しい剣撃と風がハーピーを襲う。その背を蹴り、ライアは宙でくるりと回りながら日の丸の如く剣を走らせる。滾る剣に技量を乗せ、渾身の打力は圧倒的な暴力となってハーピーを地へと叩き落した。
傍へとすたりと着地する姿はあっけらかんとしたもの。だが、隙はない。
「何時までも飛んではいられないんだよ。時には土もいいものさ」
木苺のような赤い瞳がニコリと笑んだ。
ハーピーはよろよろと身を起こし……、
「ほらよ、俺たちはチームで戦ってるんだ」
ローはニヤリと笑みながら背後から銀灰のナイフを投げた。
それは、『束縛されぬ者の刃』。
急所を狙いすましたそれは会心の一撃となり血飛沫をあげた。
断末魔が響く。
ハーピーが地に倒れ、死の淵骸の海へと還り落ちる間際、認めがたい現実にふるふると羽を震わせた。
「なあ」
ローはハーピーを見下ろした。
「お前は怒りの権化として人への復讐を誓う『役柄』になり、俺たちはそれを防ぐ『役柄』だ。ここは互いの運命を決める最後の舞台……」
「許しは請わないよ……それが相容れぬ過去を射る狩人の役目なれば」
ラスベルトがパイプ草に火を灯した。
「霊樹の大いなる腕に抱かれ眠ると良い」
王子はそれを離れた場所でじっと見ていた。
その傍らには装甲に傷を負いながらも凛然と佇む守護騎士トリテレイアが寄り添っていた。
彼らの上空には、ひたすらに青い空が広がっていた。
雲は、流れた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 日常
『大樹祭』
|
POW : 興行への飛び入り参加
SPD : 露天商・屋台巡り
WIZ : 祭りの喧騒を遠くに、静かに過ごす
|
種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●そして日常へ
「皆さん、本当にお世話になりました。
なんとお礼を言えばよいか……あとで謝礼を考えたいと思います」
王子が礼を言う。
「私は見世物小屋と城に行き、すべての事情を話します」
その表情はどこかすっきりとしていた。
一行は霊樹を下層へとくだる。
やがて、でこぼことした幹や枝の上に不揃いに建築物を並べ、自然と溶け込むように成り立っている神秘的な王都が見えてきた。
「祭りの最中なんです。もしよかったら、楽しんでいってください」
促され、大きな白い門をくぐる。
「えっ? 木の上なのに、川があるよ」
驚き声をあげる者がいた。
樹上に構えた都市内にゆるりとした流れの水路が巡らされていた。水門は魔法の力で清潔な水の流れを保っているようだ。小舟でくつろいでいる民が手を振る。
歩きやすいよう整えられた通りを進めば、広場に出た。古の英雄をモチーフにした銅像から噴水が出ている。
「店がいっぱい!」
たくさんの出店が並んでいる。目を楽しませるためのもの、耳を楽しませるもの、そして舌を楽しませるもの。様々だった。
建物の上にいる住民は明るい表情で色とりどりの紙吹雪を降らせていた。旗を振るものもいる。そしてなにより、上空の霊樹から時折やわらかな白い花弁や青々とした葉がひらり、ひらりと舞い降りる。
広場の向こうには時計塔や教会、そして小さく控えめな城も見えた。ぐるり取り囲む城壁は低く、誰でものぼって上を歩くことができる。
それは、彼らが守った王都の姿であった。
仲間たちはその王都で、ほんのひととき思い思いの時間を過ごす。
単純に観光し、楽しむ者もいれば、戦いに思いを馳せるものもいるだろう。
あるいは、自らの過去を想うものもいるかもしれぬ。
青空は彼らの上にひとしく広がり、見守るだろう。
ニトロ・トリニィ
【POW】を選択
【心境】
ふぅ…さっきの戦いは大変だったなぁ…
危うくこの都市まで落ちる所だった…
…あのハーピーって結構美人だったよね…
ん?あれは何だろう?祭りかな?
面白そうだし、参加してみたいな!
【行動】
《念動力》を使用して色々な物を浮かべたり、空中で物を組み立てたりすれば、盛り上がるんじゃないかな?
後は、技能〈優しさ〉〈礼儀作法〉
を使用して、祭に参加した人と会話するのも良いね!
結局、失った記憶の手掛かりは無かったけど、焦らなくていいよね。
今は祭りを楽しもう!
●
(ふぅ……さっきの戦いは大変だったなぁ……。
危うくこの都市まで落ちる所だった……。
……あのハーピーって結構美人だったよね……)
ニトロ・トリニィ(楽観的な旅人・f07375)は王子から贈られた紋章を手に都市を歩いていた。
「ん?あれは何だろう? 祭りかな?」
広場に人だかりが見えた。足を向ける。
「冒険者の方かい?」
果物をたくさん並べた露店のおばさんが声をかけてきた。
「サービスだよ」
赤い果物を差し出す手には染みが点々と目立つ。指は節くれ立っていた。
「ありがとう」
ニトロは笑顔でお礼を言う。おばさんも嬉しそうな顔をした。
「霊樹の加護がありますように」
声に目をやると小さな女の子が赤い花を差し出していた。
ニトロは目を丸くする。
「これを僕に?」
女の子はウンウンと頷いた。
「今日はお祭りだから、みんなでニコニコするんだよ」
見本だと言うように女の子はニッと歯を見せた。ところどころが抜けて不揃いな歯は成長の兆し。
「他の人をニコニコさせると、自分もニコニコできるんだよ」
ニトロは果物と花を手に広場へ向かう。爽涼な風が吹いていた。
広場の北側では食べ物を売る店が並び、人々は好きな食べ物を簡易テーブルで味わっていた。頭上には、枝に止まり食べ物を狙う鳥がいる。
「鳥が狙ってるよ、気を付けてえ!」
売り子のお姉さんが笑いながら呼びかけていた。
時計回りに広場を巡る。たまに鳥が急降下しては食べ物を掻っ攫っていくが、それさえも笑い声を呼んでいた。
「面白そうだし、参加してみたいな!」
ニトロは広場に散らばっていたゴミを念動力でふわりと浮かべた。人々がぎょっとする。ゴミ袋を舞わせ、ゴミを集めて中へ入れていく。
「ゴミは、ゴミ箱へ。鳥には言ってもわからないだろうけどね」
拍手が起きた。なんだか不思議なものが観れるぞ、と近くの人が寄ってくる。
「これも浮かせられるのかい!」
観衆から声があがった。見ると、カラフルで大きなボールを手にした芸人。ニトロは頷き、ボールを浮かせた。
おおっ、と歓声が沸く。
そこへ、ぴょこん、と芸人が連れていた子猿が飛んだ。自分にだって芸ができるぞ! と言いたげな子猿は宙に浮くボールを乗りこなそうとし……、
つるりっ、
滑って落ちた。
観客がドッと湧く。
「修行が足りないようで」
芸人が笑いながら子猿にバナナを与えた。
(今の失敗も含めて、芸だったり?)
ニトロは笑いながら首をかしげた。
空から舞い降りる白花を操り、子猿の耳に挟んでやる。
拍手が起こる。
ニトロはぺこりと腰を折る。
(結局、失った記憶の手掛かりは無かったけど、焦らなくていいよね。
今は祭りを楽しもう!)
「次はこれを!」
「これも浮かしてくれよ!」
観客が次々と声をあげる。ニトロは期待に応え、広場を沸かせ続けた。
大成功
🔵🔵🔵
宮落・ライア
え、なにこれすっごい!
飛び入り参加もしたいし屋台巡りもしたい…
とっても悩む!
……………【露天商と屋台を巡る】!
という訳で東奔西走駆け回って巡りに巡るよ!
とにかくオーバーに驚いたり喜んだり笑ったりで騒がしいぞ!
アドリブ歓迎絡ませ歓迎!何処にでも走っていくぞ!
●
目の前にはずらりと露店が並んでいた。
王子から贈られた紋章を手に、宮落・ライア(英雄こそが守り手!(志望)・f05053)は目を輝かせながら露店を巡る。
薄い煮込み肉のスープ。不揃いに切られた細い割っかの玉ねぎ。見たことのない緑色の葉っぱも入っている。
試しに汁と共に噛めば、独特の癖があり爽やかな辛みのある印象的な味わい。
「おもしろい味! それに」
すんすんと嗅げばジューシーな肉の香り。一枚掬い上げ口に含めば、とろりとした味わい。しっとりと煮込まれた肉は口の中で溶けるがごとく崩れる。
あつあつのスープの湯気が鼻にふわりと温かい。
スープを頂けば身のうちからも温まる。
「次はこれっ!」
手を出したのは、パン生地の上に豪勢に野菜が盛られた食べ物だ。
四角いサイコロ上に切り揃えられ瑞々しく宝石のように輝くのはトマトだろうか。大量のトマトの隙間からは細かくちぎられ添えられた緑の葉が見えている。上からトロりとかけられているのは、チーズとオニオンソース。
「これをかけるのよ」
近くにいたお姉さんが3つのボトルを示した。
ライアはボトルから少しだけ中身を出してペロリと味見した。
「こっちは辛い! こっちはぬるっとしたオイル……、こっちはしょっぱい」
自分の皿で見本を見せてくれるのをライアは真似た。
「これくらいかなー!」
振りかけると、皿がさらに華やかになった。早速手に取りパン生地ごと上に乗った野菜とソースを味わう。爽やかな酸味と旨味。
「おいしいっ!」
ライアは目をキラキラとさせた。
隣の店では果物の皮を甘く煮たデザートを配っている。
「これは無料でいいの?」
受け取りながら首を傾けば、笑顔が返ってくる。
頬張れば口いっぱいに甘みが広がる。
「ほれ、これも食べてみな!」
笑いながら屋台のおっちゃんが串に刺さったチーズを持ってきた。食べっぷりが気に入ったらしい。
「気に入ったらうちの店でもなんか買ってってくれよ」
さりげなく誘う店先にはソーセージが上からぶらり束で下がっている。その下には10種類以上もあるトレイに入った野菜たちが並ぶ。
「レタス、トマト、こっちはきのこ?」
「好きなのを選んでパンに挟むのさ」
ライアは次々と店を巡る。すれ違う人々の視線が温かだ。
のびをするように天を仰げば、空は青い。頭上に掲げた手は白雲に届いてしまいそう。
チーズを頬張りながら雑貨を置いている店に寄れば、個性豊かで色鮮やかな小物たちが並んでいる。
「なにこれ! なにこれっ!?」
獅子を模し目の部分が大きく開いたお面。絵具で風景画や幾何模様を塗装された陶器のベル。薄桃の生地に緑で縁飾りし白い花を編んだクロス。植物をモチーフにしたアクセサリーも並んでいる。
「わー! なんか、いっぱいある!」
金縁が色彩豊かな柄付き陶器を囲んでいる掌サイズの玉を振れば、シャカシャカと音がした。
「中に何が入ってるんだろう……あっ」
バサバサッ、
羽音と共に鳥が鋭く飛んできた。手にある串チーズを狙っているのだ。
一瞬で判断し、ライアは串チーズをさっと下げ、鳥を払う。
「こらー! 渡さないよー!」
串チーズを獲り損ねた鳥が風の中羽ばたき、悔しそうに飛んでいく。ライアはその背を見送り、勝ち誇る。
「やるなあ」
近くにいた人々が笑った。
大成功
🔵🔵🔵
ラスベルト・ロスローリエン
籠に囚われし二羽の鳥。一羽は地に墜ち一羽は再び籠の中へ。
そして僕らは旅の空へ。
◇WIZ 自由描写歓迎◇
城壁の上を散策しながら祭の景色を眺め楽しむとしよう。
ルベルの姿を見掛けたら暫し話相手になって貰いたいね。
ああ、パイプ草の煙は平気かい?
それにしても良い国だ。一望しただけでも直ぐに分かる。
しかし……彼にとってその良き国は生涯逃れられぬ鳥籠なのだろうか。
僕は貴人に仕えた事が無いものでね――ルベル。君はどう思う?
数多の苦悩と悔恨を乗り越えるからこそ民の上に揺らぐ事なく君臨する王となり得るのだろうけれど。
いずれ頭上に頂く王冠の重みに彼の心が潰されぬ事を願うばかりだ。
王子と霊樹の国の行く末に幸あれかし。
●
風が巡っていた。
白雲はゆったりと穏やかに流れる。
ラスベルト・ロスローリエン(灰の魔法使い・f02822)は城壁の上を散策していた。人々の歓声や音楽が奏でる祝宴のざわめきが風に乗り都市を巡る。
城壁からは祭りの風景が楽しめた。
傍らに侍るグリモア猟兵ルベルへと断りを入れパイプを蒸かすと薫り深く煙がたちのぼる。空へ。
魔法使いの腕に絡みつく若木が可憐な白い花を咲かせていた。宿りし樹霊が日差しを喜んでいるようだ。ラスベルトは目を細めた。
「それにしても良い国だ。一望しただけでも直ぐに分かる」
眼下には美しい風景が広がる。穏やかな緑と溶け込むように暮らす人々。表情は明るく、太陽の下にあることを喜び誇るような笑顔。
「しかし……彼にとってその良き国は生涯逃れられぬ鳥籠なのだろうか」
僕は貴人に仕えた事が無いものでね、と問う視線を向ければ、侍童は主に向けるが如く首を傾けて視線を受け止めた。
風がやわらかに吹いていく。上空の悠久なる霊樹が降らせたやわらかな花弁が地に着く前に舞い上げられる。
風に乗り、広場から飛び立った鳥が羽を広げて彼らの近くへと降り立った。
小さな首を小刻みに揺らし黒くつぶらな瞳は城壁に佇む人影に空気を見るような目を向け、ふいと視線を逸らす。
地に何か落ちていないか探すようにひょこ、ひょこと彼らの視線の先を歩き出した。
「それは、籠の中で造られるものにて」
ルベルが鳥を視線で追いながら囁いた。
「教育とは、そのためのものに為されるのでございます」
それが当たり前であると受け入れ、役目を果たせるように。
餌が見つからなかったのだろう。鳥が興味を失い、羽休めも終わりだとばかりに飛び立った。
風が一迅吹き抜け、飛び立つ羽がふわりと乗れば舞い上がる。高く、高く。
澄み渡る青の中、鳥影が小さくなっていく。
「最初から籠の中で生まれた鳥とは異なる、か」
ラスベルトは手中にある紋章に視線を移した。
トレビゾの印が刻まれていたそれは、王子からの贈り物だ。この国を知る者に紋章を見せれば王家からの信頼厚き者として罷り通ることだろう。
「数多の苦悩と悔恨を乗り越えるからこそ民の上に揺らぐ事なく君臨する王となり得るのだろうけれど。
いずれ頭上に頂く王冠の重みに彼の心が潰されぬ事を願うばかりだ」
傍らのグリモア猟兵が静かに頭を下げた。
ひらり、またひとひら白い花びらが舞い降りる。
それはやわらかな雪にも似て、しかし溶けることはない。
頷きひとつ、灰の魔法使いは踵を返す。
「王子と霊樹の国の行く末に、幸あれかし」
きらり、きらりと、
陽光がその道を照らすように城壁をやわらかに照らしていた。
籠に囚われし二羽の鳥
一羽は地に墜ち一羽は再び籠の中へ
そして僕らは旅の空へ
白雲はおだやかに流れる。
風は、巡っていた。
大成功
🔵🔵🔵
ロー・オーヴェル
町の様子を一望できるような離れた場所で
一服しながら物思いに
まぁ王子が何かくれるというなら拒む理由はないが
「いい光景だ。ま、これが俺にとっての何よりの報酬……ってな」
……あの王子もいずれ長じて
この国を治める役を譲られて
生を全うすることになるんだろう
それは王族として生まれた者の『運命』
指導者のいない国がありえない以上
その役目は誰かが常に担わなきゃいけない
「『自由』という言葉と引き換えにな」
あのハーピーには自分を逃がしてくれる誰かがいた
だがあの王子に自由の鍵を渡してくれる奴は、たぶんいない
死ぬ前に大空を舞う自由を得たアイツは
幸せだったのかもしれない
そしてその幸せを齎したのは……
……ああ
タバコがうまい
●
王都が遠くに見える。
ロー・オーヴェル(スモーキークォーツ・f04638)は煙草を吹かしていた。
その手には、天高く聳え立つ霊樹の紋章が握られている。
霊樹の加護の力が秘められているのだというそれは、王子が冒険者へと贈ったものだ。手練れの冒険者の所有するマジックアイテムには叶わないかもしれないが、と少し頼りなさげな様子で差し出したその姿を思い出す。
この近隣の地では王家の信頼が寄せられる者として身分証の代わりにもなることだろう。
「まぁ王子がくれるというなら拒む理由はないが」
ローは軽く紋章の表面を撫でると上着ポケットに仕舞う。
そこには、彼の守護石も入っていた。感触をしばし、確かめるようにしながら佇む。
城壁から鳥が飛び立つのが見えた。
鳥が王都の上をゆったりと旋回し、風の中で羽を遊ばせている。
頭上では、白雲が浮かんでいる。
一見静止画のようなその空は、しかしゆっくりと動いている。
よく見なければわからないほどゆっくり、雲は流れていた。
ローは貧民街を故郷とする。
彼は、権威や権力に対して生理的な嫌悪感を抱いていた。
だが同時に、権威や権力の必要性も理解している。
眼下に広がるのは広大な自然。
ゆったりと広がる霊樹の中、包まれるように、寄り添うように都市がある。
賑やかに祝祭をあげる都市から楽し気な音楽が風に運ばれて断続的に聞こえる。人々の集まりが見渡せる。
「いい光景だ。ま、これが俺にとっての何よりの報酬……ってな」
煙草のにおいが香のようだ。
守られるように包まれ花曇りのような煙が彼を取り巻いていた。
広がる景色の中、思うのはやはり、どこか頼りなく青臭い王子の事だった。
(……あの王子もいずれ長じ、この国を治める役を譲られて生を全うすることになるんだろう)
それは王族として生まれた者の『運命』。
指導者のいない国がありえない以上、その役目は誰かが常に担わなきゃいけない。
「『自由』という言葉と引き換えにな」
人は、生まれを選ぶことができない。
それは不平等な現実。
しかし、生まれを選ぶことができないという1点において、平等でもあった。
いかなる環境に生まれても、その生い立ちならではの不幸と幸福は表裏一体としてひとしく人生の荷となり、人は己の道を歩んでいく。
ローは煙草を大きく吸う。そして、吐いた。
遠き都市の喧騒に無言で別れを告げる。紫煙と静寂が彼と共に在った。
(あのハーピーには自分を逃がしてくれる誰かがいた。
だがあの王子に自由の鍵を渡してくれる奴は、たぶんいない)
軽く目を伏せる。静寂が彼と共にある。
死ぬ前に大空を舞う自由を得たアイツは
幸せだったのかもしれない
そしてその幸せを齎したのは……
「……ああ、
タバコがうまい」
ローはそっと呟いた。そして、真昼を背に歩き出す。
大成功
🔵🔵🔵
トリテレイア・ゼロナイン
この国は空が近いですね
今日はよく晴れていますし星もよく見えるのでは?
日が落ちてから、星が良く見えそうな場所で王子と語り合う場が欲しいですね、ルベル様にも場所の選定を手伝ってもらって同席してもらいたいです
モンスターと心を通わせる…星に手を伸ばして掴もうとするがごとき目標です、ですがその原動力となった優しさを王子には忘れないで頂きたいのです
届かぬ理想を追い求めるその姿勢が、良き未来を切り開くこともあるのですから(足元がお留守にならぬよう注意する必要もあると苦笑しつつ)
まずは危険モンスターの見世物、あれに規制を掛けるのを目標にしては如何です? 王子はお好きでは無いでしょうし
一歩一歩歩んでいきましょう
●
「この国は空が近いですね。
今日はよく晴れていますし星もよく見えるのでは?」
年若き王子を連れ城壁を歩くトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は空を仰ぐ。
日は落ち、空一面に星々が煌めいていた。空気が澄み切っている。
黒の天鵞絨のように広がる頭上に銀砂の如き星の輝きが近く鮮やかだ。
風は停滞していた。時折、空からは白い花弁がゆっくり降る。
霊樹は昼も夜もなく彼らを見守っていた。
幻想的な光景に、トリテレイアは記憶データの中の騎士物語を思い出す。
遍歴の騎士が病気の姫を救うためワイバーンの巣から薬の原料となる卵を持ち帰る御伽噺。
姫の窮状を聞き馳せ参じた騎士は、途中様々な困難に直面し、あわやワイバーンに食われる一歩手前まで追い込まれますが見事、卵を持ち帰る。
病が治った姫が騎士にお礼を言おうとしますが騎士はすでに去りしあと。
そんな終わり方だった。
今、手には王子から贈られた紋章があった。国の名を冠されたそれは王家からの信頼と感謝の証にして、僅かながら守護の力を秘める。
ささやかなお礼なのだという。
今、彼の隣には年若き王子がいた。
そして、王子の隣にいるのは御伽噺の騎士ではなく、騎士を模倣するウォーマシンのトリテレイア、ただ1人。
トリテレイアは言葉を選ぶ。
「モンスターと心を通わせる……、
星に手を伸ばして掴もうとするがごとき目標です」
騎士は王子へと視線を移す。
「ですがその原動力となった優しさを王子には忘れないで頂きたいのです」
語る騎士の肩にふわりと白い花弁が舞い降りた。戦いで得た傷を隠すように覆う花はあえやかに微風に震えた。
王子は幼子のように無防備な表情でその視線を受け止めた。
騎士は紋章に視線を落とした。
軽く揺らす。
からり、からり。
紋章の軽やかな音が響いた。
「届かぬ理想を追い求めるその姿勢が、良き未来を切り開くこともあるのです」
笑みを声に乗せれば、王子は素直に頷いた。だが、とトリテレイアは言う。理想だけを求め、足元をおろそかにするのはいけない。理想だけで国は現実に立ち行かぬのだ。
王子は頷く。
「まずは危険モンスターの見世物、あれに規制を掛けるのを目標にしては如何です? 王子はお好きでは無いでしょうし」
王子は少し考える様子を見せた。
「できるだろうか」
騎士は一層気配を柔らかくした。白い装甲の腕が差し出される。
「一歩一歩、歩んでいきましょう」
2人の頭上には無数の煌めく光が広がっていた。
それは夢のように、ただひたすらに美しい眺めであった。
少し離れた場所で、グリモア猟兵のルベルが膝を付き2人のやりとりを見守っていた。その耳が、ちいさなちいさな呟きを拾う。
「憎しみから解放されて……空を飛んでいるところを、見たかったんだ」
それは、その年頃の少年ならではの色を伴ったものであった。
大成功
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