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狐の仇返しは嫁入りと共に

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 雨が降る。よく晴れているというのに。
 男はぼんやりと虚空を眺めた。
 雨が降る。少なくない、雨が降ってくる。
 男の目に、光はない。
 雨が降る。赤い雨が降ってくる。
 甲高い女の哄笑が響いた。



「ちょっと奪って来てほしいのだわ!」
 奪うって強盗?強盗はちょっとの範囲ではないのでは?
「人が大量に死ぬよりはマシだと思うのだわ」
 不穏な言葉に、自然と猟兵達の空気に緊張感が加わる。

 事の発端は、商人の息子が呪われた品を手に入れてしまった事からだった。この商人の息子だが、唯一の跡取り息子であるのに毎晩遊び歩き、賭場で散財したり怪しげな品々を買い漁ったりとろくなものではなかった。
 もちろん商人はそんな息子を叱ったものの、どこ吹く風という様子。金を与えないようにしても親の財布からくすみ、時には店の品を盗む息子に商人は呆れかえり、最近では放置しているという。
「そのろくでなしがろくでもない物を手に入れてしまったのだわ」
 元から呪術関係の品々を集める事が好きだった彼だったが、今まで手に入れていた物は怪しげな見た目なだけの、無害な物ばかり。それが、どういう縁か本物の呪われた品を手に入れてしまったのだ。
 その呪いとは狐のかけた呪い。しかもごく最近かけられたもの。
 無差別に呪いをまき散らすような存在ではないものの、一度大勢の人がいる場所で呪われた品を使えば大量殺人を可能にする。
 しかも、呪いはその使われた一度で終わりという物ではなく、その大勢の人の魂を贄としてさらなる厄災を生み出す物。
 その厄災とは、狐の嫁入り。死者の行進による、狐の嫁入り擬き。見た者を無差別に殺していくもの。
 璃瑠が予知したのは、その呪いが使われてしまう事であった。
 自室から彼がその品を店に持って行き、そこで呪いが使われて、人が死ぬのだ。

「恐らく、呪いをかけた狐は近くにいるのだわ。使う時にも近くにいたはず…誰が狐かまでは分からなかったのだけど…ううん、店に持って行ってしまう前に奪ってしまえば、事件は防げるのだわ」
 だから彼から奪ってほしい、と璃瑠は猟兵達に頼む。
「商人の家の裏口に送るのだわ!ちょうど彼がそこから出るし、人通りもないのだわ。あ、でも彼自身を傷つけると事件になってしまうかもだから、気を付けるのだわ」
 あまり良くない連中ともつるんでいる息子だ、囲むくらいなら誰かに見つかっても言い逃れできるが、暴力沙汰は騒ぎになってしまうのだ。
 よろしく頼む、と璃瑠はグリモアを光らせ始める。
 そして、送りだす直前。彼女はふと呟いた。
「あの呪い、狐がかけたにしては大きい気がするのだわ…?気のせい、かもだけど…」


月月月
 こんにちは、月月月です。今回は狐の呪いを中心に書いていきます。
 組み合わせて戦わせたり行動させたりが好きなので、もしも組み合わされるのがちょっと…という方がいましたら「組不可」とか「不可」とか書いてくだされば!ありがたいです。
 それでは、大量殺戮呪物を使わせない為に、どうぞ皆様のお力をお貸しください。よろしくお願いします。
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第1章 冒険 『おぬしも悪よのう』

POW   :    武力や気力で脅しをかける

SPD   :    悪事の証拠を突きつける

WIZ   :    問答したり説教したりする

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 懐に入れた品を服の上から抑え、青年は少し俯いた。
「…これを、持って行けば…」
 これを見せれば、きっと。
 その希望とも言える思いと共に、馬を引いて裏口から出る。
 いつもなら人通りのない裏道。なのに、この日に限って違った。

 声をかけられ、振り向く。
 そこには見慣れぬ面々がこちらを見ていたのであった。
新納・景久
「そこん男、待たんかーっ!」
黒鬼号に乗り、件の男を追う
普通に走っても良いが、相手にプレッシャーを与えるため
ただ、品を持ち帰るまでの時間を稼ぐために追い回す
「駆けよ黒鬼! あん男に追いついて見せぃっ!」
追いつき、追い抜いたら進路を塞ぐように馬を止める
「さぁ、そん抱えちょぉもん寄越せ」
多分すんなりとは渡さず、逃げると思うので再び追う
「黒鬼、分かっちょぉな? 真っ直ぐ走ってくいやい」
追い抜きざまに体を半分乗り出し、男を捕まえにかかる

(メタな理由で捕まえられそうにないので)失敗して落馬したら、
「あーっ! しっちゃれたー!」
その場に胡座をかいて悔しがる
黒鬼号が前足を肩に乗せて「ドンマイ」


黛・夢乃丞
■心境
ったくよぉ…
そーゆー呪いとかで狐の印象悪くすんのやめて欲しいわ、マジで。
俺?俺は別に呪いなんてかけねぇよ、綺麗なねーちゃんが俺に惚れる呪いはかけたいもんだけどな、はは

■行動
よぉ、そこの兄ちゃん。そこにあるもんをちょっと俺に見せてくんねぇか?
何、悪いようにはしねぇよ。
ただの査定屋さんだ、その価値俺が見てやるよ。

※見せて貰えたら
…あぁ?なんだこれ?
こんなガラクタ見た事ねぇよ。
どこで入手したんだ?
なぁ、俺に預けろよ、悪いようにはしないぜぇ?【誘惑】

※見せて貰えなかったら
っち。ケチなヤローだぜ。
んじゃぁ俺の力を見せてやろうか
(【サイコキネシス】で奪う。武力行使はしない)

※アドリブ、絡み大歓迎


藤野・いろは
その呪物は取り扱いを間違えるととても大変な事になってしまいます。
お願いです、どうかその呪物を譲って頂けないでしょうか。
――人間、大概の間違えは取り返しがつきます。だれかが信じ支えてくれる限りは必ず。
天下自在符のお陰で君の両親からも事情を聴けました。
何時か全うに生きてくれると信じていると。
だから、お願いです。その呪物を譲ってください……それが間違った使われ方をすれば、それも難しくなってしまうのです……。
もし1人で両親と話すのが気恥ずかしいなら、僕もお手伝いしましょう。
以前両親と大喧嘩したこともありますから、反抗的になる気持ちはわかりますとも
だからどうか――そう『手をつなぎ』、改心を促します


栞先・続
■目的
猟兵の皆さんのサポートをしましょう
■心情
お嬢様の頼みとあれば! 頑張るしかないじゃないですかっ!
私はお嬢様のメイドさんですからねっ! (ぐっと、拳を握り)

……それと、これを成功させたら……しばらく賭け事黙認されるかもしれませんし……(ぼそり)

■行動
ユーベルコードで50体のブラックタールのミニメイドさんを召喚して!
猟兵さんたちのサポートと、青年さんの行動の妨害をしましょう!
【足元に滑り込んで、コケさせる。武器に変化して一度きりの特攻。目元に体当たりして目眩し。お仲間へのご奉仕】など。

さぁ! 皆さん(ミニメイドさん)私達の戦いは、お嬢様に尽くす事だと。青年さんに教えてあげましょう!


九重・十右衛門
【POW】

呼び止めてすまんのう、ちとお前さんに用があっての。
そう和やかに話かけて【コミュ力】で警戒心を解いたら、逃げられないように商人の息子の進行方向に回り込み、出来るだけ穏やかに呪われた品を渡すように諭す。もし商人の息子が逃げようとしたら【怪力】で捕まえて呪いの品の回収は仲間に任せる。



「ったくよぉ…そーゆー呪いとかで狐の印象悪くすんのやめて欲しいわ、マジで」
 ぶつぶつと不満げに呟くのは夢之丞。それもそうだろう、彼自身見事な白銀の毛並みを持つ妖狐なのだから。
 呪いならどうせなら美女が自分を好くようなものがいいと思いつつ商人の息子に近づく。
 内心を知らない息子だが、その美麗な顔に見惚れた後、その口から出てくる粗暴な口調と同じ雰囲気を感じ、どこか面食らった様子を見せる。
 そこから感じるのは自分がいつもつるんでいるような輩と同じ匂いだが、見かけの良さがちぐはぐな印象を感じさせた。
「よぉ、そこの兄ちゃん。そこにあるもんをちょっと俺に見せてくんねぇか?」
 とんとんと指で自分の胸をつく。
「なに、悪いようにはしねぇよ。単なる査定屋だ」
 だからその品を見せろ、と要求する。その言動で、なぜこの懐の物の存在を知っているのか、と息子の顔が驚愕し、険しくなる。その表情は到底応じるとは思えない。
「ちっ…ケチなヤローだぜ」
 面倒だと舌打ちをしつつ、ならば奪ってしまおうと動く。しかし怪我をさせるわけにはいかない。それでは騒ぎになってしまう…そこで彼はサイコキネシスを使って呪物を奪おうとした。
 見えざる手が呪物を探り、掴む。その手から伝わる禍々しい気配に夢之丞の表情も険しくなる。
 同じ狐だからこそ、この呪物の性質の悪さ、狐がかけた物である事が良く感じ取れた。これは放っておくわけにはいかないとそのまま懐から引き出そうと力を込める。
 だが、引き出す前に息子が勝手に動き出した呪物が懐から飛び出ないように抑え込む。引き出そうとする夢之丞と抑えようとする息子が睨み合い、短い間の後、息子が一瞬の隙をついて片手は呪物を抑えたまま馬に飛び乗り逃げ出した。
「ちっ!待ちやがれ!」
 自分は馬、相手は徒歩、逃げ切れるとの算段での行動だった。実際それは少しの間有効であった。サイコキネシスの範囲外に出た為に呪物が落ち着いたからだ。
 しかし、夢之丞は一人ではなく、馬を持つのは息子だけではない。
 夢之丞の隣を一騎の風が駆け抜ける。

「そこん男、待たんかーっ!!」
 静止の言葉に止まる事はないが、目だけ向けて息子は追いかけてくる彼らを認めてぎょっとし、馬をさらに駆けさせる。その距離が徐々に遠ざかる。
 だが、対する景久の顔に慌ては一塵もない。
「黒鬼、分かっちょぉな? 真っ直ぐ走っていくやい」
 もちろん分かっていると黒鬼号という名の馬は嘶いた。お互いの言葉が違えども、その心は通じ合っている。
 景久の面に笑みが閃いた。
「駆けよ黒鬼!あん男に追いついて見せぃっ!」
 嘶きの代わりに脚に力を込め、黒鬼号は彼女の言葉に応える。
 一駆け、二駆け、三駆けでトップスピードへ。その速さは息子の馬の比ではない。
 みるみるうちにその差は縮まり、なくなり、そして、並んだ。並行すると、指示もなしにぴったり同じ速度で走り始める。
 景久は手綱から手を離し、足で馬体を挟んでバランスを取りつつ息子を捕まえようと手を伸ばした。協力するように黒鬼号もギリギリまで馬体を寄せる。
「さぁ、そん抱えちょぉもん寄越せ!」
「! 絶対に嫌だ!」
 捕まえようとする景久と、奪われまいと抵抗する息子は揉み合いとなった。
 見かけよりも力のある景久だが、普通よりはよっぽど安定があるとはいえ、それでも普通に立つより不安定な馬上である。がっしりと腕を掴んで逃がさぬ事は出来ても、馬までは止められない。
 自分の上で揉める人間、触れる寸前まで馬体が近寄ってくる事は、肝が据わっている黒鬼号ならまだしも普通の馬には恐怖でしかない。その恐慌は揉めた拍子に手綱が引かれた時にピークに達し、馬は悲鳴のような嘶きと共に棹立ちとなった。
 いきなりの動きに思わず景久は手を離し、黒鬼号は少し先へと走る。息子は振り落とされまいと慌てて馬の首にしがみつくが、それがまた馬のパニックを煽る。
 すぐに振り飛ばされ息子の身体は宙を舞った。
 しかし、まだ暴れ続ける馬に駆け寄る大柄な影が一つ。
「どうどう!」
 暴れる馬に恐れもせず、追いついた十右衛門は手綱を掴み、落ち着かせようと声をかける。機械で出来ている身体は多少の衝撃にもびくともしない。
 落ちた息子はどうなったかというと…大勢の小さなメイド達に受け止められ無事だ。本体の不定形を得ている彼らは、網となって衝撃をいなしたり自身の体をクッションにして息子を傷一つなく受け止めるが、小さなメイド達自身はむぎゅうと潰れると、ぽぽんと消えてしまった。おかげで息子は尻もちをついてしまうが、振り落とされた勢いで軛を折るよりなんぼもマシであろう。
 その小さなメイドの本体、続も追いつく。その後にはまだまだ彼女そっくりの小さなメイド達がちょこちょことついて回っている。
 まだ状況が理解しきれないのか、頭を振りながら息子が問いかける。
「…助けてくれた、のか…?」
「お嬢様の頼みとあれば!頑張るしかないじゃないですかっ!私はお嬢様のメイドさんですからねっ!」
 いい笑顔でぐっと拳を握って見せるメイド、続。ただ、その実目的は頑張ってそのお嬢様に賭け事を黙認してもらうという事のようだ。頑張れば許してくれるかは定かではない。
「止めてすまんのう、ちとお前さんに用があっての」
 馬を落ち着かせた後、十右衛門は大丈夫かと手を差し伸べた。
 止めるにしては荒っぽいやり方ではあったが、まだ混乱が収まってなく、また十右衛門の柔らかで親しみのある態度に抵抗なく手を引かれて立ち上がる。
「用というのはその懐の呪物の事じゃ。それは人が持っていてよい物ではない」
 今まで集めていたものとは違う、と穏やかな声音で諭す。
 息子の表情が強ばるが、その顔には迷いが見え始めていた。命を救ってくれた相手の好意とも呼べる態度を突き放せるほど悪党ではなかったからだ。
 だが、何か思う事があるのか、踏ん切りはそう簡単につくものではなく、微かに浮かぶ逃走の気力でちらと馬を見る。
 馬は今は続が引いていたが、そこにはわらわらとミニメイド達が集っている。また、行く手には黒鬼号と景久が油断なく道を塞ぎ、後ろには雪之丞や他の猟兵達が陣取り、触れるほど近くに十右衛門と続もいる。
 万事休す、息子はがくりと肩を落とした。
 その肩を慰めるように軽く叩き、十右衛門は再度渡すように促した。
「ほれ、渡すと良い…それとも、それを使いたいのか?」
 それならば容赦はせぬと目が冷えた光を放つ。
 だが、息子は首を傾げる。
「使うとは、なんの事だ?これは封印されていて、使えるものではないだろ」
「封印?」
 猟兵達の訝しげな様子に息子も首を傾げる。その様子は惚けているという風ではなく、本当に知らないようだ。
「…これがどういう呪物かお前さんは理解しておらんのか?」
「…解けない封印がかかった、古い呪物だと…封印がされているから害はないが、年代物だから価値はあると言われたんだが…」
 呪わない呪物に価値があるのだろうか、呪物は呪ってこそ呪物なのである。本来なら呪う事自体良くない事ではあるが、呪物とはそういう存在だ。
 よくもそんな戯言に騙されたものだと呆れた視線を送られ、息子がガックリと項垂れる。
 それを哀れに思ったか、ミニメイドが肩をぽんぽんとしようとして届かず、膝の辺りをぽんぽんとする。
 それを見下ろし、少し表情が和らいだ息子は、改めて十右衛門と続に頭を下げた。
「…その、本当に助かった、ありがとう」
「なに、気にするな」
「お嬢様と私の賭け事のためですからっ!」
「…本当にこれはそんなに危険なのか?」
 懐から出した呪物は、赤黒い手のひらに握り込めてしまうほどの大きさの物だった。一見すると干からびた肉の塊にも、ちょっと変わった石のようにも見える品だ。
 だが、それはどこか不気味な存在感を放ち、込められている恨みや憎しみの力がわかる者は思わず眉をひそめた。
「そもそもなんでこんな物をお店に持っていこうとしたんですか?」
「それは…」
 もっともな疑問を続が呈す。途端にどこか恥じるように口の中でもごもごと言葉にならない空気を転がす。

 静かに口を開いたのはいろはだった。
「…ご両親が関係しているのでは?」
 微かに驚きかけた息子は、なんでもお見通しなのかと肩を落として頷いた。
「俺、ろくでなしで、でも、このままじゃいけないって焦りもあって…迷惑かけた事は分かってるから、そのままじゃ戻れないと思った」
 だから家に戻る為に、店にないような価値のある品を持ち帰り、目利きの能力がある事を示しつつ家族に戻りたいと思ったそうだ。穴だらけでどうしようもない思いつきだとしても、追い詰められこれしかないと思ったと言う。
「天下自在符のお陰で君の両親からも事情を聴けました。何時か全うに生きてくれると信じていると…人間、大概の間違えは取り返しがつきます。だれかが信じ支えてくれる限りは必ず」
 両親の言葉に息子は瞳を揺らした。こみ上げてくる思いに、唇を噛み締める。
 だけど、手にしている物は違うのだ、といろはは目を合わせ説得し続ける。
 その信じる誰かさえも失い、取り戻せない品だと。扱い方を間違えれば大変な事になるのだと。
「もし1人で両親と話すのが気恥ずかしいなら、僕もお手伝いしましょう。以前両親と大喧嘩したこともありますから、反抗的になる気持ちはわかりますとも。だからどうか、お願いです。その呪物を譲ってください……間違った使われ方をされないためにも…」
 手を取り、どこまでも真摯に、真剣に諭すいろはに、息子はどこか諦めたような薄い笑みを浮かべた。
「本当は…どっかで分かってたんだ。これはダメだって…」
 諦めきれなかった、それでも。
 だが、猟兵達の多少荒っぽいやり方も自分に間違いを起こさせないための行動だ。
 手に入れるだけであれば手段はいくらでもあるが、初っ端から奪おうとした者はいない。それだけでなく助けてくれた。
 これ以上は抵抗する気力もなかった。
 呪物が彼の手からいろはへとそっと渡される。その様子を見て猟兵達から安堵の吐息が漏れる。

 そんな中、ふと思い出したのは続だった。彼は呪物の事を知らなかった、ならば。誰かにはめられたという事だ。
「誰に渡されたんです?その呪物は?」
「それは…」
 言いかけた時。
「…あら?なぜまだここに?」
 不思議そうな女の声が裏道に響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『憎しみに濡れた妖狐』

POW   :    神通力
見えない【波動】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
SPD   :    鬼火
【尻尾から放たれる怨嗟の炎】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
WIZ   :    心眼
【常に相手の思考を読んでいるかのように】対象の攻撃を予想し、回避する。
👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 声に息子は目を瞬かせ、皆が声の方向を向いた。
「シノ!そっちこそ何故ここに?」
 シノと呼ばれた黒髪黒目の大人しい印象を与える年若い女性は、心底不思議そうな様子で歩いてくる。
「貴方が店に来ないから心配に、なって…」
 その言葉は途中で止まった。その目は猟兵の手の中にある呪物へと注がれている。
「あ、あぁ、それは、事情が…いや、そうだ。シノ、これは封印がされていないらしいんだが、どういう事なんだ?」
 君が俺に渡したよな、と続いた言葉に猟兵達の視線も雰囲気も厳しいものとなる。
 女性の目が呪物から息子、猟兵達の順に向けられる。その態度は落ち着き払って…いや、すとんと感情が抜け落ちたような表情の中、目だけが爛々と異様に輝いている。
 その瞳は黒だったはずだが、色が徐々に薄くなり、黄色い獣の目が猟兵達を睨めつける。
「貴様らか、邪魔をしたのは。余計な事をしおって!」
 ざわり、髪の毛が風もないのに浮かび上がる。
「人なぞ使うものではなかったわ!」
「し、シノ…!?」
「黙りゃ!約立たずめ!せっかく良いものを与えてやったというに!」
 怒りがまるで陽炎のように女性、シノの周りでうねる。
 一陣の風が吹き、砂埃が舞い上がる。思わず彼らは目を閉じ、開けた時には身の丈3メートルは越す首のない妖狐がそこにいた。
 すぐさま何人かの猟兵が動き、固まったままの息子を自分達の後ろへと押しやる。本来なら頭のある場所から声が響く。
『事故に見せかけるのはもう良い。貴様らをここで喰らい、その後改めて呪物を使ってやるわ!』
 狐火をその身に纏い、妖狐は朗々と吼えた。
藤野・いろは
あなたが彼を誑かした妖ですか……この呪物を渡すわけにはいきません
お兄さん、少々荒事になりそうです
どうか怪我をしないようにだけ気をつけてくださいね、彼を守るように前に出て庇いながら戦いましょう
息子さんの面倒を見ると約束しましたから、こんなところで怪我などさせませんとも
……呪物を貰った僕をやはり狙ってきますか
しかしどうやら焦っている様子、狙いが少々雑ではありませんか?
何度も手の内が見えると目も慣れてくると言うものです、『見切り』を発揮して相手の動きを予測しましょう
相手の隙をつくように『破魔』の力を込めたユーベルコードで『カウンター』を狙っていきましょう
台詞改変やアドリブ、猟兵同士の絡み協力歓迎です


栞先・続
■目的
猟兵の皆さんのサポート
近くにいるはずの青年さんを中心に
人死を出さないように行動します。

■心情
あの妖狐さん……口がないのに、どうやって私たちを喰らうんでしょうか?
まあ、私たちブラックタールが言えることではないのですがね!

ともかく人死が出ないように精一杯、動きましょう!(ぐっと拳を握る)

■行動
ユーベルコードで60体のブラックタールのミニメイドさんを召喚して!
猟兵さんたちのサポートと、妖狐さんへの嫌がらせをしましょう!
【武器に変化して特攻。網に変化して妖狐さんの足止め。お仲間へのご奉仕】など。

あと、私自ら青年さんを守りましょう。
少なくとも、私は青年さんよりは死ににくいはずです!



 吼え猛る妖狐を見やり、いろはは眉をひそめた。
「あなたが彼を誑かした妖ですか……お兄さん、どうか怪我をしないようにだけ気をつけてくださいね」
 青年に注意を促しつつ、狐を迎え撃つ為に前へ出る。
 彼女は妖狐が自分を見ていると感じていた。正確には呪物を持った自分を、だが。
「それに触れるな!」
「お断りです!」
 声と共に妖狐の力であろう、飛んでくる道端の石礫を半身にして避ける。
 次々に飛んでくる石礫。無差別に攻撃しているように見えて、石礫共は確実にいろはへと一番多く狙って飛んできていた。
 大方はその身のこなしと扱いなれた刀によるはじき返しでその身には至らなかったが、何せ数があるだけにいくつかはその身に届く。
 だが、痛みに呻く事なくいろはは冷静だった。
 動きの法則性を見切ったのか、その対処数は上がっていき、その身に石礫が届かなくなっていく。ついには一つたりとも近づく事は出来なくなった。
 それはいろはの技術の向上もあったが、石礫を減らす為に妖狐の邪魔をした者もいたからだ。

「人死が出ないように精一杯、動きましょう!」
 いろはと同じように青年を庇う位置にいた続は、ミニメイド達を引き連れて宣言する。声に呼応してえいえいおーと手を上げる彼らの数は全部で60人だ。
 散り散りに散った彼らは戦っている猟兵達の間をすり抜け、妖狐に接近する。途中で流れ弾等で消えてしまう者もいたが、大部分は妖狐へと辿り着いていた。
 何人か網に変化して飛び掛かる。同時に足元近くへ武器へ変化したミニメイドを装備したミニメイドが殺到する。
 しかし、網は避けられたり尾に払われ、足元近くは武器あるいは武器ごと蹴り飛ばされる。払われたり蹴り飛ばされた者はすぐに消えてしまう。
 それでも怯む者はなく、残ったミニメイドはロープとなって足に絡んだり、もう一度武器に変化して攻撃を仕掛けたりと妨害をし続けた。
 本体の続はというと、息子の傍に留まっていた。それは彼の安全を確保する為。
 端に近いとはいえ、そこは戦場の一部だ。
 今も、誰が弾いたかそれとも妖狐自身の力のせいか、石礫が飛んできた。それは猟兵達には軽傷ですむものでも、息子にとっては当たり所が悪ければ最悪死に至る。
 それを見逃さず、続はその身を盾にする。
「お、おい大丈夫なのか?」
「大丈夫ですとも!それにしても、あの妖狐さん……口がないのに、どうやって私たちを喰らうんでしょうか?まあ、私たちが言えることではないのですがね!」
 心配の声にむしろ軽口で返す彼女だが、彼女とて無傷ではない。不定形だとしても怪我は負う。
 だが、そうだとしても彼女はなんでもない素振りで息子を守り続けていた。

「ちょこまかと鬱陶しい!」
 足元でまた一人を踏みつけ消しながら、妖狐は唸るように言った。こんな事をしている場合ではないのに、と。
 一撃一撃は弱いが、とにかく鬱陶しくてならない。妖狐は苛立ち、注意力が衰える。
 数がいるだけに手間取っていると、ふと気づけば身の近くに白銀の光が見えた。
 いつの間にいたのか、いろはが接近していたのだ。視線が妖狐を射抜く。
「あなたの一撃、太刀に映せぬ前に終わらせます…!」
 鋭い煌めきと共に、妖狐が悲鳴のような鳴き声を上げた。一拍遅れて一本の尾の半ばから先がぼとんと地面に落ちて一跳ねしてから動かなくなる。
 破魔の力が込められた一太刀。それはまるで灼熱の刃で切り裂かれたような痛みを妖狐にもたらした。
 ばたたっ、と黒い血が残った尾から落ちる。
「よくも尾を!!」
 痛みと尾を落とされた怒りの吼え声が衝撃にも似た波動となっていろはを襲う。
 近距離からの波動を受けてしまい、咄嗟にいろはは防御の姿勢をとるもその身は後ろへと飛ばされた。
「あっ…!?」
 そして。いろはの焦った声と共に、呪物はいろはの手を離れ。
 まさに、猟兵達と妖狐の戦場のど真ん中、己をめぐる争いを象徴するかのように、ころんと転がったのであった。

苦戦 🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

九重・十右衛門
【SPD】

とんだ女じゃな、まさに女狐か。
手裏剣を投げ、敵へ近づき攻撃する仲間への【援護射撃】を行う。
仲間たちが攻撃を終えれば、それに続いて【観の目】を発動すると敵の攻撃を回避しながら近づき、【怪力】を活かした【衝撃波】を伴う拳での【2回攻撃】を行う。



 妖狐が地面に転がる呪物に向けて駆ける。と、唐突に身を翻すように方向を変え、元居た場所には手裏剣が突き刺さる。
「させぬわ!!」
「ちっ、姑息な邪魔を!」
 十右衛門が呪物に向けて駆けながら牽制の為にさらに手裏剣を投げつける。
 その手裏剣を飛び上がって避け、お返しとばかりに身の回りで燃え盛る狐火を十右衛門へと飛ばす。
 青々とした狐火が左右正面と三方から向かうが、それらは衣服を掠るばかりで十右衛門を傷つける事は出来ない。
「お前さんの動きは読めておるよ」
 彼には妖狐の動きがデータとして見えていた。回避、攻撃、防御、それらを行う為の前行動も全てだ。
 呪物には一歩十右衛門が近い。その身が軽く低くなる。拾う為と妖狐は判断し、逆にその無防備な背を狙ってやろうと襲い掛かった。

 しかし、十右衛門は拾う為に姿勢を低くしたのではなかった。彼が軽く身を屈めたのは膝に力を込める為だ。
 彼の全身に緊張と言う名のパワーが溜められ、一瞬後に爆発するように解放された。地面を踏みしめ、呪物を通り過ぎてその大きな身体からは想像し難い速さで妖狐に肉薄する。
 それは完全に妖狐の予想外の動きであった。
 驚きの声を上げ、本能的な危機感から逃げようと身を捻る。それは反射に似たもの。
 が、既に、遅かった。
 また、その動きは大きな隙を作った。彼女がとろうとした行動は逃避であり、身構えも防御も何も出来ていないのだから。
「喰らうが良い!女狐!!」
 一番近く、最後の一歩は地面を凹ませ諸々の罅を入れるほど力強く。
 十右衛門はその機械の怪力を余す事なく拳に乗せて、がら空きの
 その衝撃波を伴う一撃は凶悪であり、遅れてドオンという爆発のような音と共に地を軽く揺らした。その衝撃に妖狐は身体を折り曲げ、体内の空気が無理やり押し出される。
 だが、足りぬとばかりに十右衛門は同じ場所に逆の拳を突きこみ、相手の身体を吹き飛ばしたのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

新納・景久
「妖怪退治は武士ん務めじゃ!」
「おんしゃ、俺と勝負せんか!」
鬼吼丸を担ぐような上段、蜻蛉の構えに持ち、正面から対峙
敵が呪術を使うことは承知の上
だが、接近戦が不利だと誰が言った!
「チェェェエエエィッ!!」
波動や鬼火を受け、何度弾き飛ばされても、身体が持つ限り立ち上がり、何度も何度も攻めかかる
「痛……っ、よけ分からねこつばしちょぉ。じゃっどん、俺は、俺んやり方があっどね!」
こっそり火縄銃を複製して、建物の陰に隠しながら、とにかく斬りかかっていく
どうせ間合いに入らないだろう、と敵が油断する隙を辛抱強く待つ
その時が来たら
「今! 薩摩鉄砲隊、撃てぇーッ!!」
【釣り野伏】で一点集中射撃を見舞う


黛・夢乃丞
おぅおぅ、この姉ちゃん…いや、この狐が兄ちゃんに悪知恵仕込んだってことか?
向こうからやってきてくれるなんざ丁寧なこったな
…やってやるぜ
(なぎなたを構え、睨み付け)

■戦闘
「ったくよぉ、狐のイメージ悪くしないでくんねぇ?」
軽口を叩きながらなぎなたで攻撃。
【巫覡載霊の舞】も積極的に使用。
●神通力や●鬼火には相殺するように衝撃波を放ったり
なぎなたで【なぎ払い】を。
商人の息子に攻撃当たらぬよう留意。

「なぎなただけじゃねぇんだよ!」
と空いた手でフォースセイバーを発動し
【2回攻撃】を駆使し、手数増やして斬撃を
「甘くみられちゃ困るってぇの!」
力一杯の攻撃を

※アドリブ、絡み大歓迎



「妖怪退治は武士ん務めじゃ!」
「ったくよぉ、狐のイメージ悪くしないでくんねぇ?」
 よろめきつつもなんとか立ち上がった妖狐に、同時に景久と夢乃丞が各々の武器を手に飛びかかった。
 近づくなとばかりに妖狐は狐火で応戦する。
 夢乃丞はなぎなた『炎断』を薙ぎその名に恥じぬ様で狐火を易々と切り払うが、一直線に突っ込んだ景久はまともに受けてしまい、軽い小さな身が後ろへと転がっていく。
 夢乃丞は退かずに切り払われ消えかけた狐火の中へ飛び込み、散らしつつその身へと迫る。その脚の一本でも斬り飛ばそうと斜め下から切り上げるが、妖狐は軽く後ろへ飛んで避け、意趣返しとして他より速い狐火を向かわせる。夢乃丞はなぎなたの石突で地面を軽く突いて飛び退く。標的を逃した狐火はそのまま地面へとぶつかって散った。
 その間にまた景久が近づこうと走るが、死角でもない突撃であるために呆気なく狐火でまた転ばされている。
「痛……っ、よけ分からねこつばしちょぉ。じゃっどん、俺は、俺んやり方があっどね!」
  しかしそれでも景久は諦める事はない。また突っ込んでは同じ結果を辿っている。
 何度も受けて狐火の動きに慣れて避けようというのか?いや、そんな素振りはない。
 妖狐はその様を避けられない愚か者と考えていた。夢乃丞に主な注意は向けつつも、時折思い出したように景久に狐火を向ける。
 それはまるで嬲るように…いや、完全に遊んでいた。
 先ほどの別の猟兵に与えられた痛烈な打撃の怒りをぶつけているようにも見える。
 景久の身体に一つまた一つと傷が増え、徐々に赤く染まっていく。であるのに、景久は突撃を止めない。
 ヤケになっているわけでもなく、遊ばれている怒りで我を忘れている様子でもない。
 だというのに、純粋愚直に突っ込むのは彼女に考えがあるからだ。彼女なりの策が。
 夢乃丞は策の内容を聞いていたわけでも完全に理解していた訳でもないが、その鋭敏な感覚でなにか考えがあるのは理解していた。だからこそまったく気にならないわけではなかったが、自分は自分のやるべき事をやろうと妖狐と戦りあっていた。
 そしてそれは図らずも景久の突撃との差異を妖狐に感じさせ、妖狐は景久を侮り、夢乃丞へと注意を向けるという結果をもたらした。

 何合も刃を…いや、己らの力をぶつけ合う。
 隙が見えれば攻め込み、相手の攻撃を相殺しあい、しきれなかったものを避けて反撃を行う。
 もちろん何事も寸分たがわずというわけではなかったが、似たようなそれを何度も繰り返すという事は自分だけではなく相手も慣れが出る。奇妙なリズムのようなものがそこにあった。
 それが崩れたのは、いや、崩したのは夢乃丞の方だった。
 今までなら退いていたタイミングで、むしろ踏み込む。それだけの事であるのに、考えていなかった動きに相手の思考は一瞬停止する。
「甘く見られちゃ困るっての!」
 はっと妖狐は我にかえり、なりふり構わずに身体を捻って避ける。だがしかし、なぎなたは避けられたと思った瞬間に脚へと痛みが走る。
 避けたはずと目を歪ませ見えたものは、直前まで何もなかったはずの片手に握られている光り輝く剣。
「なぎなただけじゃねぇんだよ!!」
 言葉と共に振り抜いていた刃を返し、逆の方向へ。身体に特に腕に相当な負荷がかかるが、今だけは無視をして力一杯に振り抜く。
 後ろ足を一本失くした妖狐はすさまじい悲鳴をあげた。追撃をしようとした夢乃丞だったが、その前に声が耳に届く。
「退いてくれ!」
 素早く飛び退った夢乃丞が妖狐から離れるのを確認した後、景久は号令を下す。周りに浮くはいくつもの銃。その総数は転がされた数にほぼ等しい。
「今!薩摩鉄砲隊、撃てぇーッ!!」
 妖狐に避ける術はない。
 激しい破裂音と共に妖狐の身体へ数多の銃弾が撃ち込まれ、ついに妖狐はどうとその身を横たえた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

上月・衒之丞
妖狐の名が泣きんすな。
あちきが引導を渡してやりんす。
華やかに、儚く散りなんせ。

鋼線を放ち、四肢を拘束し、力を封じる。
もはや力も残ってはおるまいが、きっちりと仕事はさせてもらおう。
「無明弦月流、如月。その力、封じいす。暴れなんしは四肢が千切れささんすよ?」
暴れずともその身を削ぐのは変わらないがな。

十二分に力を削いだ所で興味を失ったように背を向ける。
「こんな妖狐では、本気を出すまでもありんせん。そのまま朽ちなんせ」
……煽られている時点で罠と気付かないなら語る言葉もない。
背を向けたまま指を鳴らし、仕込み済みの糸を四方から放ち穿つ。
「無明弦月流、睦月。散り際くらいは、華やかに。終いでありんすよ」



「…妖狐の名が泣きんすな。浅ましい姿でありんす」
 同じ妖狐でありながら、どうしてここまで堕ちてしまったのかと悲しげに見下ろす衒之丞を、息も絶え絶えな妖狐は睨み上げる。
 血に塗れボロ雑巾のようになり倒れ伏す妖狐と、戦場であっても艶やかに鮮やかにあり続ける衒之丞と。その視線の高低差はそのまま二人の立場を表しているようでもあった。
「あちきが引導を渡してやりんす。華やかに、儚く散りなんせ」
 手に馴染んだ銅線は自身の身体の一部に等しく、あっという間に四肢に、身体に銅線が巻き付いてその身の動きを害する。絡めとられた妖狐は最後の力を、死力をかき集め、自分を縛るものを外そうと抗った。
 だが、暴れれば暴れるほどその身に銅線は食い込むばかり。だというのに、理性をなくしたかのように暴れ狂い、ついにはその死力さえも失い、地に伏す。
 あぁ、こんな妖狐にはこれ以上本気を出すまでもない。
 そう考えて背を向けた衒之丞に、なぜ、と消えゆく声で妖狐は問うた。なぜ、同族であるのに、このような仕打ちを、と。敵対するのかと。
 それに答える言葉は持たない。
 復讐の怨嗟に濁った魂を送り出す事がせめてもの手向け。
「無明弦月流、睦月。散り際くらいは、華やかに」
 指を鳴らすと同時にまるで蛇が飛び掛かるように四方から銅線が妖狐へと奔り、その身を貫いて地に黒い大輪の華を咲かせた。
 動きを止めた事が暗器を通じて彼に伝わり、衒之丞は静かに言葉を落とす。
「…終いでありんすよ」
 その復讐に満ちた偽りの生は、今ここで絶たれたのであった。

 銅線が回収され終わった直後、妖狐の身体は糸がほどけるかのように崩れだした。崩れた部分からいくつもの燐光となって浮かび上がる。
 濁った燐光はそのまま音もなく空へ昇り、すぐに光へ紛れて見えなくなってしまった。
 時を同じくして呪物もどろりと溶けだし、地面に吸い込まれるように消えていってしまった。残ったのは呪物の中央にあったのだろう、小さな白い喉骨だけが、そこに呪物があった事を示すように転がるのみであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『怨霊姫』

POW   :    怨霊乱舞
【無数の怨霊の群れ】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    怨霊傀儡
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【怨霊を憑依させることで、自らの傀儡】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
WIZ   :    怨霊家臣団
【レベル×1体の、怨霊武者】の霊を召喚する。これは【刀や槍】や【弓矢】で攻撃する能力を持つ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠天御鏡・百々です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 妖狐は倒れ、呪物もその力を喪った。だが、これは本当に終わった事になるのだろうか?
 誰かが呟いたその言葉はまさに言霊でもあり。肯定するようにころころと鈴を転がすような笑い声がした。

「なんて可哀そうな狐なんでしょう!血族を殺され、せっかく手に入れた力を使って復讐しようにもあなた達に阻まれて!なんて哀れで、不憫なんでしょう?…そう思わない?」
 そう言いながら彼女はまるで最初からいたような態度で塀の上から飛び、音をたてずに着地した。
 怨霊を操り、それらを統べる姫。その周りにはいくつもの低級の怨霊が漂っていて、それを愛し気に面白そうに時々目をやる。
 しかし、猟兵達に向けられる目に宿るのは、冷たく刺すような敵意だ。
「せっかく、せっかく、面白そうな事になりそうだったのに…」
 力も貸したのに、楽しみをつぶされた、と彼女は小さく嘆息し。
「…あぁ、本当に可愛そう…ねぇ、そんな哀れな狐のために、死んでくださいな?」
 まったくそう思っていない声音。だが、その声音に引き寄せられるように集った怨霊達は、猟兵達へとその怨気を、視線を向けた。
新納・景久
「おぉ、おはんが大将じゃが。いや、違ぉ。姫ち言うべきがとね」
武器を降ろし、敵意がないようアピールしながら近づく
「構えんね構えんね。武士なあばいざ知らず、姫なあば敬う。そいが侍んありかただど」
「ほれ、見やんせ。武器なあば、ほれ。そいん置いて来ちょぉ。挨拶くらいさせんが」
手の内に鬼の牙を隠したまま、怨霊姫の前に跪く
「美しか姫どんじゃ。お目んかかいで光栄でございもす。あたいは新納・景久ち申すもん」
「……そん命、頂戴に参りもした」
隠し剣【鬼の牙】で鋭く突き入れ、即座に武器を回収しに離脱
同行者がいれば、
「おはんら、気張り時じゃ! やっどォッ!!」
鬼吼丸に持ち替え、後は妖怪チェストマシンになって切り込む



「おぉ、おはんが大将じゃが。いや、違ぉ。姫ち言うべきがとね」
 まさにぶつかる時…皆から一足先に踏み出した景久。
 何も気負った様子のない姿。その手に武器はない。
 どこかと見れば、さきほどまでいた場所に武器の諸々は置かれている。
「武士なあばいざ知らず、姫なあば敬う。そいが侍んありかただど。挨拶くらいさせんが」
 さらりと言われた言葉に仲間は信じられないという視線を向けた。あれは敵であるのに、丸腰でしかも挨拶に向かおうというのだから当然だ。
 それには怨霊姫も驚いた様子を見せる。
 だが、それと同時に景久へと強く興味をひかれた様子だ。その歩みを阻もうとする悪霊を手で止め、自らへの道を作らせる。
 襲われる事など微塵も疑いがない様子で、その花道、いや、怨霊道を景久は迷いなく進み、怨霊姫の眼前へと出た。
 一歩ほど離れた場所で、戦う武士を思わせるきびきびとした動きで跪き、見上げる。
「美しか姫どんじゃ。お目んかかいで光栄でございもす。あたいは新納・景久ち申すもん」
「景久…ふふ、面白い方ね、あなた」
 扇で口元を隠し、ふふと笑う姫の目には、今は敵意よりも興味の色が強い。
 その興味のひかれるままに、一歩踏み出して近づく姫。その小さな言葉が聞こえたのは、近くにいた怨霊姫だけであった。
「……そん命、頂戴に参りもした」
 理解する前に喉へと煌めきが疾り、景久が身を翻す。置いた己の武器をとるために。
 不思議そうに手をやる怨霊姫の首は、深々と切り裂かれていた。血ではなく、黒いもやに似たものがとろとろと零れ出す。
 煌めきの正体は景久の手には隠し持っていた隠し剣【鬼の牙】。怨霊姫は油断した状態であったが、油断していなくとも間近での攻撃であり、武器を置いて身軽になっていた景久の一撃を避ける事は出来なかっただろう。
 嵌められた事を理解したのだろう。顔を顰め、傷を袖で隠し、そして外したかと思えば、先ほどまで切り裂かれていた場所には傷一つ残ってはいない。
 しかし、景久の目は周りにいた怨霊が何体か掻き消えた様を見逃す事はなかった。
「……道理を弁えた方だと思ったのに…野蛮だこと」
「いくさ場に道理などなか!傷がつく、ならば首ばとれるこっじゃ。おはんら、気張り時じゃ!やっどォッ!!」
 目を眇め、顔をしかめた怨霊姫に、にぃと笑って武器を構えた景久は吼える。それはまさに開戦の合図となり、両者が走り出しそしてぶつかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

黛・夢乃丞
はー、利用される狐も不憫だけどよぉ…
可愛い嬢ちゃんにコケにされる趣味は俺にはないぜ?
(真の姿となり、尻尾が7本に増える)
…勝負だ(真剣な面持ちで)

■戦闘
なぎなた&フォースセイバー、また【2回攻撃】で手数を増やし
怨霊姫に攻撃
「狐の力を見せてやらぁ!」
とUC【フォックスファイア】発動
「おらおら、いけいけぇっ!」
姫を狙い大きな狐火を放つ。
陽動の狙いあり、火に気を取らせる間に回り込み
手持ちの武器で攻撃

敵の攻撃「怨霊家臣団」を始め、各攻撃に対しても
狐火を操り迎え撃つ
「狐の名誉にかけて負けねぇんだかんなっ!」
不敵な表情と共に、怒りに光る眼差しで薙ぎ払いを

※アドリブ、絡み大歓迎です!


上月・衒之丞
……哀れなんは主なんし。
斯の様な呪いを用いねば、妖狐一人操れなんしか?
あぁ、哀れでありんすな。こんな下衆に操られなんしは、まっこと哀れなんし。
……同胞の報い、主の身を以って晴らさん。

静かに糸を放ち、四肢と首を拘束する。
そのまま力を封じながら、両腕を縛り上げ無防備にさせる。
ついでに四方にも糸を巡らせ、邪魔な怨霊どもを断ち切っていこう。
「無明弦月流、文月、如月。操るとはこうしなんす。さらに……無明弦月流、師走。あちきに断てぬものなどありんせん。邪魔をしなんすな」

心を、想いを、意志を、遺志を。
弄ぶような輩は、男女問わず許す事など出来ようか。
主だけは絶対に、生きて返す事能わじ。ここで仕留めなんし。



 自らは後方に下がって戦わず、怨霊たちと戦う猟兵を見て怨霊姫はこて、と首を傾げた。
「…乱暴な方たち…でも、あの野狐とはお似合いかしら」
 その呟きに怒りの色を見せた瞳は、二対。
「…哀れなんは主なんし」
 衒之丞は吐き捨てるように言い捨てた。
 挑発するように、いや、しているのであろう。敵意をもって見据え、糸を紡ぐように言葉を紡ぐ。
「斯の様な呪いを用いねば、妖狐一人操れなんしか?あぁ、哀れでありんすな。こんな下衆に操られなんしは、まっこと哀れなんし」
 呼応するように大きな炎があがる。それは爆発するように散ると同時に周りの怨霊を吹き飛ばした。
 その中央にいたのは夢乃丞…だが、その姿は先ほどとは違い、見事な白銀の尾を七つ携えている。その毛髪も瞳も先ほどより輝いているように見えるのは彼の怒りゆえか、それとも周りに浮かぶ狐火ゆえか。
「利用される狐も不憫だけどよぉ…可愛い嬢ちゃんにコケにされる趣味は俺にはないぜ?」
 静かな怒りを込めて睨みつけ、ざわりと尾も逆立つ。
「……同胞の報い、主の身を以って晴らさん」「……勝負だ」
「いいわ、受けてあげるわ!」
 刺すような感情に、怨霊姫はただ楽しそうに笑った。

 先に動いたのは怨霊姫だった。ひらりと扇を翻し、自らの忠実な配下である武者どもを喚び出す。
 ほとんどの武者は半分以上が骨になっており、肉はどすぐろい色でへばりついているだけである。目玉が残っている者も少なく、百を超えるがらんどうが二人を見た。
「…ふふ、楽しませてね?」
 声と共に群れともいえる怨霊武者たちは怨嗟を吐きながら襲い掛かった。
 それを迎え撃つは無数の狐火である。あぎとを開き怨霊武者へと食らいつく。
 何体かがその隙間を縫って夢乃丞へ向かうが、それも二振りの刃の前に散るだけとなった。
「舐めんじゃねぇぞ!狐の力を見せてやらぁ!」
 炎を刃に宿し、相対した相手を切り伏せていく。切られた怨霊武士は切り口から火が噴出し全身を覆いつくし、すぐに塵となる。
 疲れなど感じさせない動きで、一直線に怨霊姫へと向かってくる姿に怨霊姫は面白そうに見やり、その視線が交差する。
 一方、衒之丞は動かずに向かってくる敵を見ていた。抵抗なしと見た怨霊武者が武器を片手にとびかかる…が、その姿は近づく前に裂かれる。別方向から飛び掛かった者も同じ末路を辿る。
 もちろん、彼は何もしていないわけではなかった。すでに身の回りには目を凝らしても見る事が難しいほどの鋼線が張り巡らされていたのだ。それは触れれば刃となり、切り裂いたのである。
 半分にその身を断たれ地に落ちた怨霊武者が、最後の力とばかりに手を衒之丞へ伸ばす。だが、あっけなく衒之丞はその手を踏み砕き、さらに念入りに糸で切り刻んでおく。
「簡単に触れさせるほど、あちきは安くはないでありんす」
 見えない何かに断たれた仲間を見て、怨霊武者たちは攻めあぐねるように止まる。
 かちかちと骨を鳴らす彼らに、衒之丞は艶やかに笑って見せる。華やかに、見せつけるように。
 まさに大輪の華が咲き誇る様ではあるが、美しいだけではない。美しい華ほど、その身の内には棘を、毒を含んでいるのである。
「あちきに断てぬものなどありんせん。邪魔をしなんすな」
 言葉が通じる相手ではない。しかし、凄みのある笑みに圧されたように何体かが後ずさる。
 そのまま衒之丞はゆったりと歩を進めつつ、向かってくる敵を断ち裂き続けた。

「狐の名誉にかけて負けねぇんだかんなっ!」
「あら、怖い怖い」
 とうとう近くに来た夢乃丞はその刀を振るう。一太刀目は扇で阻まれたが二太刀目はその扇を飛ばし腕に裂傷を与える。
 追撃を浴びせようとするが、その前に間に怨霊武士が割り込んできた。
「邪魔だどけよ!!」 
 苛立ち紛れに切り払うが、その間にまた新たに怨霊武士が増えている。厄介だと夢乃丞は舌打ちをした。
 ぼう、と大きな音とともに一際大きい狐火を呼び出し、直接的に彼らの主を狙わせる。
 かたかたと音をたてて武士たちはその間に飛び込み、身を挺して庇った。怨霊姫の目線も一寸だけそちらへ向く。
 ひやり。
 身を刃が通る感覚に目をやれば、目の前には夢乃丞がいた。その刃は両方とも深々と自分に刺さっている。その姿は無傷ではなく、秀麗な顔にも傷がついてしまっている。
 夢乃丞は自分の身が傷つく事を厭わずに半無理やり怨霊武士を突破し、姫へと至ったのだ。
 さすがにまずいと感じた彼女は無理やり身を捻って自らの身を切り裂きながら刃から逃げた。
 そして、減ってしまった怨霊武士の追加をしようと、怨霊姫は手をふるおうとしたが。
「…あら?」
 手が動かない。いや、全身もだ。そして、怨霊武士も呼べない事にすぐに気が付き、首を傾げた。
 よく見れば全身に糸が絡まっている。いつの間に、と驚愕する怨霊姫に影が差した。
 衒之丞は絡めとった獲物を見下ろした。
「心を、想いを、意志を、遺志を。弄ぶような輩は、男女問わず許す事など出来ようか」
「弄ぶなんて、力を貸しただけよ?」
「主だけは絶対に、生きて返す事能わじ。ここで仕留めなんし」
 ぎり、と手に入った力はそのまま糸に伝わり、怨霊姫を締め上げる。皮膚にきつく食い込むそれは簡単に外せはしないだろう。
 さらに力を籠めれば鋭い鋼線であるから、そのままその細い手足だけでなく首を落とす事もできる。
「困ったわ…あぁ、でも、心地よい怒りだわ。素敵ね」
 抵抗できない状態であるというのに痛みを感じていないのだろうか。余裕を失わず、怨霊姫はにっこりとほほ笑んだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

藤野・いろは
・心情
玩具のように人の心を弄ぶ……なんと醜悪な妖なのでしょうか
息子さんの為にも必ずや怨霊を倒さねばなりません
先ほどは苦戦を強いられましたが今度こそは力を示しましょう
・攻撃
動きをよく観察し【見切り】を狙っていきます
相手の大技に合わせてユーベルコード【先の先】、【カウンター】を叩き込みましょう
【破魔】の力を込めた刀で【なぎ払い】です
好機と見れば【2回攻撃】で攻めの手を緩めずいきましょう
・防御
相手の攻撃には【勇気】をもってギリギリまで見定め【残像】を残すような速さで最小限な回避を試みます
回避が困難な攻撃には狙いに合わせて【オーラ防御】で対応し、ダメージを可能な限り軽減
・その他
アドリブ、猟兵の絡み歓迎



 余裕が失われないのは、力が封じられたとしてもまだ場には自分の配下が、操り人形とも呼べる怨霊たちが数多くいるからだ。
 自分の護衛が手薄になる事も厭わず、一斉に周りの猟兵へと怨霊を襲い掛からせる。
 それは、ある者には痛手を、ある者には足止めの効果を与えるものであったが、全てが全てそうではなく。
「このような攻撃、当たりませんよ…先ほどは苦戦を強いられましたが、今度こそは力を示しましょう!」
 いろはは無数の刃をかわしながら笑みを浮かべ、言い放った。
 観察する時間は十分にあった。彼らは数はいるが、その攻撃はやはり普通の人間と比べると単調であり直線的としか言いようがない。攻撃も動きも見切るのはたやすかった。
 また、統率力がなければ群れていても、必ずその攻撃には隙間があり、服が犠牲になるものの身体には届かない。その隙間へと自らの身を置くだけだ。
 もちろんだけと言っても簡単な事ではない。観察力と自らの身体をしっかりと思い通りに動かせる力がなければできない芸当だ。
 道を開けるために必要最低限の敵を一刀で斬り、怨霊姫への最短距離を進む。
 明らかな狙いに、他の人へと向かっていた数体も、身の回りに残っていた怨霊もいろはへと標的を変える。
 囲まれる前にといろはは脚へと力を入れ、駆け抜ける。怨霊たちの刃は影を切る事しかできない。
 その身をもって止めようとした怨霊は肩から体当たりをして砕き、決して足を止めずに、目はどこまでも怨霊姫を見据えていた。 
「玩具のように人の心を弄ぶ……なんと醜悪な妖なのでしょうか。あなたはここで倒します」
「醜悪だなんてひどいわ、楽しみたいだけなのに」
 ふぅ、と理解されないとため息をつく怨霊姫に向けるいろはの視線は冷ややかで鋭いものだ。
 自らの楽しみのために他者を犠牲にする。いろはには許容も理解も出来る思考ではない。
 ついには眼前にたどり着き、相対した時に、勝機を得たように背後から一体の怨霊が刃を振りかぶり、斜めに振り下ろした。背後からの不意打ちの一撃。避けられる攻撃ではなかった。
 だが、彼女のゆらめく闘気が錆びた刃を逸らし、皮一枚を切るに留める。瞬後、反射的にいろはは振り向いて怨霊を切り伏せ、片足を軸に勢いのまま、転回、彼らの主へと。
 魔を退ける一払いが、真一文字に残光と共に放たれ。
 そして。
 ぽぉ、んと…首が、とんだ。

成功 🔵​🔵​🔴​


 吐息のような驚きの声は、どこからあがったものだったか。
 一瞬、その場にいる全てが動きを止め、首を見る。
 首は高く、高く飛んで、ふわっと動きを緩めた。そのまま落下するかと思いきや、ゆるゆると降りてきて、ぴたりと地上から二メートルほどの場所で止まる。
 そして、くるり、と猟兵たちの方へと向いた。
 それはまさに、小面が般若へと変わるが如く。
 可愛らしかった顔はどこへやら。
 口は耳まで裂け、目は吊り上がり、白かった肌はどす黒く染まる。そこにいるのは一つの鬼女の首であった。
「よくもこんな事を!このような姿にしてくれたな!」
 声もひび割れ、口から火炎を吐かんばかり。
 怨霊姫だった首は、狂ったような叫びをあげた。
マリアドール・シュシュ
アドリブ歓迎

「まぁ、つんざくようなお声!これがあなたの本当のお顔?(憐憫の笑み)
でもあなたがしてきた事を思えば妙に納得してしまうのよ。
大丈夫、わたしがきちんと終わらせてあげるのだわ。
だからあなたも悔いなきよう、最期の力を振り絞っていらっしゃい。
わたしが全身全霊で応えるのよ!」

ドレス翻し竪琴構える
攻撃が届く範囲で離れる
演奏に合わせ架空の言ノ葉で鎮魂歌を【歌唱】
手向けの歌を捧ぐのは妖狐へ

音色に【マヒ攻撃】を付加し演奏で攻撃
【茉莉花の雨】使用
竪琴を花弁へ
祈りのポーズで血の雨を洗い流すが如く馨る旋律を降らす

「恨み憎しみの感情はマリアの世界にはある筈ないもの(微笑)
連鎖は断ち切りますのよ。ごきげんよう」


上月・衒之丞
まだ見目は良うありんしたのに。
こうも醜うなりんしては目も当てられなんしな。
一思いに引導を渡してやりんす。疾く散りなんせ。

まずはその耳障りな声を塞いでやる。
そんな聞苦しい声で囀られても迷惑だ。
糸を放ち、口を縫い合わせる。
「喧しゅうありんすよ、ちと黙りんせ。無明弦月流、如月」
怒りに狂った女ほど醜いものはないな。

口を封じながら、周囲に糸を張り巡らせておき、準備が整ったところで封じた糸を解き、怨霊姫に背を向ける。
そのまま仕込んだ糸を降らせ、地面にその醜い頭を縫い合わせてやる。
「そんに醜い顔は二度と見とうありんせん。終いでありんす。無明弦月流、睦月」

散った同胞の魂だけ祈っておこう。
心安らかに眠りなんせ。



「まぁ、つんざくようなお声!これがあなたの本当のお顔?でもあなたがしてきた事を思えば妙に納得してしまうのよ」
 鈴のようにころころと、首とは正反対の声を持つのはマリアドール。その瞳は憐憫の色が浮かび、どこか悲し気な笑みを浮かべている。
 対して、顔を顰めて相手を見るのは衒之丞だ。侮蔑の感情を露わにした彼は鋼線をシュルリと鳴らし、冷然たる視線で射抜いた。
「まだ見目は良うありんしたのに。こうも醜うなりんしては目も当てられなんしな…疾く散りなんせ」
 手伝いをしてやるとばかりに彼らは各々の武器を構えた。

 引導を。そう呟いた衒之丞は蜘蛛のように指先から糸を直線に飛ばす。
 が、ひらりと首は避けた。疲れているのか、衒之丞の糸の動きは先ほどよりもキレがない。はっきり言えば避けられる遅さなのである。
 少し不思議に思いながらも、だが首は大きな疑問を持たなかった。
 ただ、自分の敵をあざ笑うチャンスとさえ思った。それが間違いだとは知らず。
「ほらほらここよっ?」
 飛んでくる糸に注意しつつも、わざと低く近く飛んでみたり、くるくると回ってみたり。
 完全に侮られている態度ではあるが、瞳に焔は隠しつつ、衒之丞の表情は憤る事もなく冷静に鋼線を飛ばし続け、避けられている。
 その態度は首の癪にさわるものであった。その澄ました顔から怒りを引き出してやろうとやっきになって相手を煽ろうとする。それに衒之丞がのらないために、なおさら。
「キャハハハハッ!!捕まえられないわよ…っ!?!」
 哄笑していた顔が歪む。自分が動きにくくなってきていると気づいたからだ。舌の動きも若干鈍く感じられる。
 その時やっと聴こえる音に気付き、首はギッ!と音の原因を睨みつけた。
 マリアドールは微笑みながら音で応える。戦場に響くのは彼女の竪琴と歌声が奏でる鎮魂歌。妖狐への手向けの歌だ。
 しかしそれは単なる歌ではない。その声音には比喩ではなく痺れさせる力が込められており、盛り上がりに入った曲はさらに朗々と歌われる。
 高まれば高まるほど強く感じる痺れに首は焦り、まだ残っていた怨霊武士を向かわせるが、ひらりひらりとマリアドールは逃げ回る。絶妙に自分の歌が届く範囲からは出ずに。
 ぎりっと歯を軋ませた首は不意に何かにぶつかるのを感じた。それは細く、まるで糸のようで…。
 反射的に別方向へと飛ぶ。が、またぶつかる。
 恐る恐る見渡せば、いつの間にか、自分は鋼線の檻の中にいた。そう、衒之丞はむしろわざと避けられる速度で糸を放っていたのだ。この檻を作るために。
 絶対に、逃がさないために。
「…もう遅いでありんす」
 隙間へと向かった首を見やり、衒之丞は目を細めた。急激に糸が、檻が狭まり、がんじがらめに絡みつく。
 叫び声をあげようとも口は締め付けられて開かず、鈍いうなり声しか出ない。そのまま地面へと鋼線に引かれて叩きつけられ、大きく顔が歪みひしゃげた。
「そんに醜い顔は二度と見とうありんせん」
 だからここで終わらせると宣言した衒之丞。首は焦りを隠す事もできない。このままではまずいと。
 何か手はないか、きょろりと目だけ動かした首はきらりと光ったものに気が付いた。
 夕陽で赤く染まった花片が輝く。水晶でできたそれは匂いたちはしないが、鮮やかさまでは失いはせず。静かに宙で主の命令を待っていた。その刃先を首へと向けて。
 きらきらと紅色に光るその光景はどこか幻想的ではあったが、下には地に縫い付けられた首があるため、まるで罪を浄化する地獄の炎にも見える。
 ゆったりと近づくマリアドール。その周りには既に怨霊武士はいない。
 手には竪琴はない…この水晶の花片がそうだからだ。そしてその鋭い刃で武士どもを始末し、こちらへと標的を変えたのだった。
「…恨み憎しみの感情はマリアの世界にはある筈ないもの。連鎖は断ち切りますのよ」
 微笑を浮かべ、口の中で呟いた彼女の声に反論も聞きとがめる者もいない。
 聖女のごとき姿に、首は確かにその時畏怖をした。自分に理解できない生き物を目の前にしたように。
 そして、動いたのは、同時であった。
「ごきげんよう」
「終いでありんす」
 声は自然と重なりあい、同時に糸と花片は切り裂き貫いた。
 首がもう動く事はない。ただ、さらさらと黒い砂となって散る。
 やっと終わった。どこか疲れたそんな戦場に、労わるように響くのはマリアドールの澄んだ歌声。最後の章を伴奏はなしに長々と歌い上げる。
 その声を聴きながら、猟兵たちは戦いの終わりをそれぞれ感じていたのであった。



 後日、商人の庭に小さな祠が建てられた。
 小さな花々が咲く、日当たりのよい場所にある祠の中には、小さな白い骨が奉られているという。
 慎ましく、丁寧に作られたそれの周りは、とある雨の日だけ白い狐がはしゃぐように跳ね回る姿が見られるというが…真偽は定かではない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年02月06日


挿絵イラスト