14
白銀の迷い森

#アックス&ウィザーズ

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#アックス&ウィザーズ


0




 音を立てて滑り落ちた固まりが、微かに地面を揺らす。
 煙る雪の粉に顔をしかめ、少年は残り少なくなった薪を火に放り込んだ。
 壁にただ穴を開けただけの窓からは、白銀に埋もれた外の景色が窺える。
 本来なら木板を立て、少しでも冷たい風が吹き込むのを遮るのだが――。
「おい、起きてるか?」
 待ちわびたその声に、少年は笑顔で窓へ駆け寄った。
「今日もこっそり抜け出してきたぞ」
「こんばんは、ラウル」
 訪ねてきたのは、幼なじみの兄妹だった。
「寒いだろ? シオンもリィンも中に入って。まだ父さんが帰ってないんだ」
「そろそろ戻るかと思ったのにな」
「今回はずいぶん遅いね」
「うん……」
 少年に母はなく、父は遠い町へ毛皮を売りに出ており、ここ数日彼は一人で夜を過ごしていた。
「まあ、出かけるには都合がいいか」
「出かけるってどこに?」
「リィンが大発見したんだ。な?」
「うん! あのね、ラウル。花の匂いがするの!」
「花って、もしかして……」
「そう、月の夜にしか咲かない幻の花」
「すぐに支度する、待ってて!」
 目を輝かせて駆けだした少年を見て、兄妹が楽しげに笑う。

 そう。
 それはいつもと変わりない、厳しくも穏やかな夜の出来事……のはずだった。
 ――白銀に潜む狂気が彼らを襲うのは、いま少し後のこと。

 まるで眠りから覚めるように、葵絲・ふるる(フェアリーのシンフォニア・f02234)はゆっくりと瞼を開く。
 ぼんやりとしたその瞳は、決してどこも見てはいないようだった。
「あっくすあんどうぃざーずで事件だよ。山賊退治にいってくれるひと~」
 ひらひらと風に遊ぶ花びらのように舞い、『わんわんさん』のもふもふの背中にぎゅうっと抱きつく。
 ふるるとわんわんさんは、通りすがりの猟兵の周りを、ぽむぽむと軽快に駆け回った。
「幼い子ども達は山に入ってすぐ、集落を襲うために集まった山賊達に殺されちゃうんだ。それから、それから、集落も全滅しちゃうよ」
「今からいけば、集落が襲われる前には間に合うかな? わたしが山の入り口近くにみんなを送るから、足跡を辿っていってね」
 う~んと首を傾げ、ふるるは何事かを考え込んでいる。
 恐らく、猟兵達へのアドバイスを捻り出しているのだろう。
「雪がたくさん降ったみたいだから、すごーく寒くて、すごーく歩きにくいけど、お月さまが出てて雪も明るいし、頑張れば大丈夫だよね! とにかく急いで行こう~!」
 ぎゅっと握った小さな拳を突き上げ、ふるるは勇ましくわんわんさんに跨がり駆けてゆく――と思ったら、急ブレーキをかけて振り向いた。
「ぜ~んぶ終わったら、みんなで幻の花を見ておいでよ。すっごく珍しくて、すっごくきれいなんだって!」
 ふるるはそう言って、ぽわんとした笑みを浮かべる。
 包むように開いた小さな手の中、グリモアが淡く輝いていた――。


珠樹聖
 皆様はじめまして、或いはお久しぶりです。珠樹聖(たまき・ひじり)です。
 軽く各章の説明をさせて頂きます。

●第一章
 集落を襲いにやってきた山賊達と、雪山での集団戦闘です。
 さほど暗くはありませんが、雪深いため足下にはお気をつけください。
 集落とそれほど離れていない場所のため、下手をするとなだれ込むかもしれません。
 三人の子ども達に関しては、ものすごく急げば助けられるかもしれません。

●第二章
 ボス戦。盗賊達をはり倒せば勝手に出てきます。
 一章の結果を受けた情報を、章冒頭に記載予定です。

●第三章
 彷徨いながら雪の森の奥の奥へ、幻の花を見に行きます。
 なんでも群生地は、二つの月が顔を合わせる場所にあるとか……。
 一章と二章の結果を受けた情報を、章冒頭に記載予定です。

 以上になります。
 一部でも、全部でも、お好きな章に何度でもご参加ください。
 三章のみ、お声掛け頂ければふるるも顔を出します。

●注意事項
 お友達と合わせての描写をご希望の方、互いにお相手様の呼称とキャラクターIDをご記載ください。
 プレイングの自動キャンセル期限は『三日』となっております。極力タイミングを合わせてご参加ください。

 以上、皆様のご武運をお祈りいたします。
30




第1章 集団戦 『山賊』

POW   :    山賊斬り
【装備している刃物】が命中した対象を切断する。
SPD   :    つぶて投げ
レベル分の1秒で【石つぶて】を発射できる。
WIZ   :    下賤の雄叫び
【下卑た叫び】を聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

京奈院・伏籠
状況はわかった。急いで取り掛かろう。

子供を助けるため、物凄く急いで現場に向かう。
いつだって仕事はパーフェクトに、だ。
【暗視】や【地形の利用】の応用で足跡を見分けて【追跡】。
やんわり暖かい火霊鳥の布飾りを盾に強行軍。
他の猟兵の追跡情報も耳に入れつつ雪山を駆けていこう。

子供、もしくは山賊を発見したら即座に戦闘態勢へ。
拳銃を引き抜き【クイックドロウ】でバインドエンチャントを掛けた弾丸を撃ち込む。
「そこまでだ!」
【援護射撃】で山賊の意識を惹きつつ、子供たちには逃げるように声を掛ける。逃げられないようなら、子供を庇いながら立ち回る。
現場が森の中なら盾にできる木があるかな? 【地形の利用】も考えて戦おう。


ユノ・フィリーゼ
月夜に咲く幻と呼ばれる花
是非一度目にしてみたい。…願わくばあの子等も共に
美しき花の景も幼き命の輝きも、決して散らせない

雪深く足場の悪い箇所はスカイステッパーで切り抜け
足場になりそうな木々等があればそれらも利用して
なるべく雪崩れが起きない様。念には念を

敵を視認出来たら近くに子供達が居ないか確認
鉢合わせていれば子供達を守る盾になる様割り込むよ
大丈夫、心配しないで。寒い中よく頑張ったね。
優しく励ましの声掛け、動ける様なら来た道を戻る様促す

近付く敵には【蒼薇の抱擁】を放ち攻撃
何処を見ているの?…貴方の相手は私
挑発と誘惑も活用し敵の気を己へと逸らす
そうする事で守れるモノがあるなら、多少の痛みは厭わないわ


新堂・ゆき
足元が悪そうですね。
雪用にしっかり防寒して、必要最低限装備で、足跡をたどって大急ぎで向かいます。
まだ助けられる望みがあるのなら、急がない理由はありません。
舞で片っ端から盗賊を攻撃。
その場に居合わせた方々と協力して敵を倒します。
雪になれていないのであれば、出来うる限り人形繰りでその場で相手を
するのがよいですね。
月照丸ならば、私の人形繰りならばきっと成し遂げてみせます。
どんな花が見れるのでしょう。兄妹とも助けてゆっくりお話を
してみたいです。
雪上の大掃除。中々大変ですが、美しい景色をこれ以上損なわせる
訳にはいきませぬ。


サフィリア・ラズワルド
POWを選択

着いたらすぐに白銀竜の解放でドラゴンになり飛んで行きます。飛びながら威嚇で吠えて【存在感】をアピールします。ドラゴンの声を聞いたら攻撃しようとしていた盗賊も一瞬動揺すると思うのでその隙に盗賊と子供の間に降り立ち【激痛耐性、オーラ防御】で盾になろうと思います。可能ならば子供達に話しかけて【優しさ】で安心させ

『君達は集落に帰るの、さぁ乗って!』

と背中に乗せて一旦戦闘から離脱しようと思います。攻撃されたら【空中戦、第六感】で子供が落ちない程度に避けます。

アドリブ歓迎です。


三嶋・友
足元には気を付けつつ、出来る限りのダッシュで子供たちの足跡を追う
木や岩等の地形も利用してとにかく最速で追いつけるように

山賊さえ来なければ、子供たちは穏やかで楽しいひと時を過ごせるはずだったのに
このまま惨劇で終わらせたりなんかするもんか!

風の魔力を纏って防御力を強化
そんなつぶて、私の風が届かせないから!
子供たちが襲われそうなら身を挺して庇う
可能なら安全圏に退避させたい
他の猟兵とも連携して臨機応変に、既に子供たちを保護している猟兵がいるなら全力で援護するよ

子供たちの安全を確保出来たら山賊退治!
村へ向かおうとする山賊がいたら最優先で狙う
村まで戦場がなだれ込んでしまった場合は村人の安全を第一に戦うよ


エルス・クロウディス
●SPD
「時間との勝負、か……」
劉迅で突っ切りたいとこだけど、足跡を調べながら雪道を、か……木は、あるか?
枝を伝って移動……エアビートを使えば、どちらにしても楽になるな。
着地は意識しないと。
<暗視>と<視力>を駆使すれば、木の上からでも足跡くらいは見える、はず。
糞、もっと詰めとくんだったな、これだから器用貧乏は安心できない……!

ともあれ、早く、確実に。
ついでに<迷彩>も、使わないよりはましだ。
うまくいけば、弓の射々で奇襲できる。
常緑樹があれば俺程度でもかなり有効なんだけどな……。
あとは、いざとなれば、突撃して<かばう><覚悟>をしておこう。

「急げ、急げ……やらせて、たまるか……!」


アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
ええい其処まで鈍臭くはないわ!
お前こそ転んで恥を晒さぬよう気を付けよ

仕込み杖で魔方陣を描く高速詠唱で【愚者の灯火】召喚
童捕捉後、彼等に延焼せぬよう注意しつつ即座に雪を融解
童の救出、盗賊との接触が迅速に行えるよう道を作る
――往け、ジジ!
童が安全圏に到達する迄は盗賊の行動を注視
攻撃を向けようとした者に対して魔法での対処も視野に入れる
怖かったでしょう…もう大丈夫です

足場確保は盗賊の突破を容易にするリスクがある
集落へ向わせぬ為に魔法の炎を幾つか包囲する様に展開、足止めに努める
残りで盗賊へ範囲攻撃を仕掛けよう
下卑た叫びも我が魔術で断末魔に変えてくれる

――己の行いを地獄で悔いるが良い


ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と組み

足元の雪が深い
埋まるなよ、師父
…転んだら飛べば良かろうに

――承知した
師の融かし作った道を一息に駆け、盗賊達に接近
【まつろわぬ黒】にて多くを負傷させる
また、師父の魔法に範囲を重ねることで威力を高める
離れた個体は剣、拳で斃す

童らの姿があれば身を挺し庇う
怯えさせては足が止まる故、負傷しようとも隠し
御前たちに咎は無い
あそこまで急げ、と後方を務める師の方へ促す
他猟兵たちの布陣に合わせ、盗賊を集落の方へ通さぬ様

煩いぞ
貴様らに呉れてやるものなど無い

俺が斃れようと後ろは師父が守っている
故に、ただ穿つのみ


伍島・是清
四辻路(f01660)

007-StreetFighter(宇宙バイク)でダッシュ
何だ、この除雪車感
いや有難てェンだけどさ
──煩ェな、聞いたらほっとけないんだよ、悪いか
あとちょっと、雪が好きで……悪いかよ

山賊の群れを見つけたらその侭突っ込む
何人か轢けたら上々
バイクは俺の自作だ、恰好良い(ふふん)

此処から先は通行止めだ、莫迦どもが
チビが狙われそうなら敵を鋼糸で掴まえ、敵を盾にして護る
チビはその辺隠れてろよ、解ったな

自分の身も敵を盾にして護りながら
四辻路の方にも盾用の山賊をいっぴき投げておく
人形を嗾け、敵を自分の所へ誘導させて、集めて

──ユーベルコード、傀儡操縦

相手の攻撃を一気に躱す

後は宜しく


四辻路・よつろ
是清(f00473)と

人助け?好きね、そういうの
ノーヘルで是清のバイクの後ろに乗り、ドラゴンにも似た死霊を召喚
除雪車のごとく、バイクの前を飛行させ
雪好きだったのと言いながらも涼しい顔で
炎を吐かせて雪道を無理矢理全部溶かして目的地まで先導

敵に突っ込む前に、自分だけは飛び降りて戦闘離脱

あっぶないわね
ちょっと是清、あなたのバイク乗り心地最悪
なんなのこれ

竜にはそのまま上空で待機させ、一応子供らの安全を確保させる
鈴丸と呼ぶ太刀を持った男を呼び出し山賊達と応戦
自身が襲われそうになった時は手持ちの仕込み刀で対応し
投げられた敵はキャッチして盾として平気で使用


それではごきげんよう、と最後にまとめて全員焼き尽くす


コノハ・ライゼ
雪避け飛ぶ翼も魔法も無いけれど
せめて出来る限りの早さで追う
……普段は見せない銀毛の狐姿も
人の姿よりは雪の上を早く駆け足跡を追えるかもしれない
『情報収集』で素早く足跡を見付けれないか
小さな背達を見付けたら飛び込み『かばう』事が出来れば
だって花は、多くで楽しみたいデショ

山賊へはヒトの姿に戻り【彩雨】を壁の如く撃ち込む
子供達庇い先へと行かせぬように最前列から狙おう
大勢のお客サンには慣れっこでして
さあ、遠慮せずもっと凍えていきなって
『高速詠唱』で『2回攻撃』し付けた『傷口をえぐる』よう攻撃重ねるヨ
突出する敵はご愁傷サマ
「柘榴」で切り付け『生命力吸収』してあげよう
ああ、もっと美味いヤツはいないワケ?


白咲・朝乃
真っ白のコートとスノーシューを着けて防寒と雪対策。

三人の子ども達を助ける事を優先。移動に全力注ぐ。

雪山に着いたら足跡を確認。
足場の不安定な所を避けつつ、
足跡の行き先を可能な限り前方まで視認し、無駄なく走る。

発見したら即座に子ども達を守る。

もしまだ襲われる前なら遠方からでも山賊の気を引く。
「あれー!?猟師の方ですか?おつかれさまです!」

子どもの近くへ移動。
山賊が近い場合はギリギリまで会話で粘る。
(他の仲間もすぐに来るはず、と信じて)
「弟達迎えに来たんですよー。もー、寒いのに…。」

他の仲間がいて気を取られたり、山賊が油断したら不意討ちで思い切り攻撃。

サウンドウェポンによる大声で攻撃。

「わー!!!」


ヴュルフェル・ヴォルフガング
どうやらチンケな山賊どもが、俺のシマ荒らしてるみてえだな。ケッ、ナメやがって。
競争相手が減るのはこっちとしても好都合だ、このヴュルフェル様が直々にぶっ潰してやるぜ。
おめえら、付いてきな!

どうせお人好しな他の連中が
ガキどもの方へ向かうだろ。
んじゃ、俺は雑魚狩りに集中させてもらおうか。
オラオラ、ヴュルフェル様参上だぜ!
死にたくなきゃ失せな!
この斧でガンガンぶった斬るぜッ!
ついでに盗み攻撃で身ぐるみも剥いでやるか。ガハハハ!
……チッ、しけてんな。

んでもって、雑魚が集まった所を、グラウンドクラッシャーで一網打尽だ!


キャロライン・ベル
滑止靴と防寒着着用
冬は少し苦手ですが、危機や奇聞を耳にしては黙っていられません

この静謐な銀世界を惨劇に染めるなど――そして何より子供達の無垢な心と命を踏み躙るなど、以ての外です

貴方も同じ想いよね、ライオンさん
どうか力を貸して頂戴ね
(ライオンライド使い、足跡辿り全速力で子らの助けへ)

雪が厄介なら少々無粋でも炎の属性攻撃技能で溶かして道を開きましょう
子供達の命には代えられませんもの

子供達を発見すれば即庇い入る形でライオンさんと布陣し、身を呈し護り続けます
そして隙を見て今度はライオンさんとの連携や炎と氷の属性攻撃交え、敵の翻弄と牽制を

穢れ無き白銀と命の輝きが翳らぬように、尽くしましょう

※アドリブ歓迎


月永・由良
※アドリブや絡みも歓迎

折角の月夜に、無粋な事だ
何もかもを台無しにする魔の手は、早急に払い除けねばね

――花も村も幼子達も、手折らせまい
指一本触れさせまい


予め防寒着や滑止付靴で雪対策の上、現場へ急行

足跡や気配を探り、子らを見つけたらその庇護と安全圏への退避に注力

私の力はあまり子らに見せたくないもの故に、出来ればリザレクト・オブリビオンは危険・緊急時の牽制使用に留め、基本は呪詛とフェイント技能で妨害や撹乱しつつ子らと敵の引き離しを優先

退避完了後は木陰等に身を隠してもらい、敵が村へ雪崩れ込まぬよう警戒と後詰めを

子らが不安そうなら励ましも適宜
大丈夫、必ず護ると約束するよ

皆揃って、幻の花に逢えるよう――



●雪途

 踏み締めた白銀が、靴底で悲鳴にも似た鳴き声を上げる。
 肌を裂くほど凍てついた風に、黒い外套の裾がばさりと大きく翻った。
「時間との勝負、か……」
 エルス・クロウディス(昔日の残響・f11252)はつぶさに視線を走らせ、雪に埋もれた世界に子ども達の痕跡を探る。
 目当てのそれはすぐに見つかった。
 点々と続くただの足跡にも、注意深く見れば分かることがある。
 小さな足跡を踏み、その後を追うようにつけられた二つの足跡。
 恐らくは少女が、二人の少年を導くように前を歩いている。
 エルスの脳裏を、幾つかの選択肢が過ぎるが――ちらりと視線を上げると、彼は軽く地を蹴り跳び上がった。
 木の枝につま先を乗せた瞬間、重く張り付いていた雪がばさりと落ちた。その反動で少し体勢が傾く。
「おっと……着地は意識しないとな」
 木の影と重なればかなり見にくいが、身に宿る技能を駆使すれば、なんとか足跡を追うことはできそうだ。
「糞、もっと詰めとくんだったな。これだから器用貧乏は安心できない」
 枝を蹴り、宙を蹴り、その先の先へ。
 エルスは誰より早く、白銀の山中に姿を消した。

 導かれ降り立った華奢な足が、まっさらな雪を踏み締めた。
 紫銀の髪が、風に吹かれるたび柔らかに舞い上がる。
 夜の色を吸い込んだ菖蒲の花のような瞳を僅かに細めると、サフィリア・ラズワルド(ドラゴン擬き・f08950)は声を低め囁いた。
「私の竜よ、私の人間を食らって完全なものとなるがいい」
 凛と響く声色に、忽ち少女の影はより闇を深め、その身はみるみる強大にして荘厳な白銀竜の姿へと変化した。
 地を蹴る振動が伝わったのか、辺りの木々が一斉に枝から雪を篩い落とす。
 大きく羽ばたくと、サフィリアもまた子ども達を救わんがため、雪深い山へと飛び立った。

 大きな影が往くその下を、爽快に飛ばしていく一つの影があった。
「人助け? 好きね、そういうの」
「……煩ェな、聞いたらほっとけないんだよ、悪いか」
 伍島・是清(骸の主・f00473)はノーヘルの四辻路・よつろ(Corpse Bride・f01660)を後ろに乗せ、007-StreetFighter――愛用のバイクをかっ飛ばしていた。
「あとちょっと、雪が好きで……」
 是清のささやかな告白は、向かいくる風とバイクの音に掻き消され――、
「ふうん、雪好きだったの」
 ――たかと思ったら、しっかりよつろに届いていた。
「……悪いかよ」
「べつに? 悪いことだなんて思わないけれど」
 涼しい顔でそんなことを口にしながらも、よつろは何の前置きもなしに死霊を召喚した。
 その死霊の姿は、さながらドラゴンにも似ている。
「……おい」
 彼女が何をする気なのか、大方ろくなことではないと察したのだろう。止める是清の声に被せるように、ドラゴンが大きく羽ばたく。
 先行するようにバイクの前を飛ぶと、ぱかりと大きな口を開け、強烈な炎を吐きはじめる。
 まっさらな雪は、水に放り込まれたわたあめのように儚く消えてしまった。
 忽ち雪道はただの薄ら暗い、枯れた山道へと変貌を遂げる。
「何だ、この除雪車感……」
「楽でいいでしょ?」
「いや、有難てェンだけどさ」
 チビどもの足跡周り、器用に避けてンなァ……などという是清のつぶやきは、今度こそ風に攫われた。
 煌々と吐き出されるドラゴンの炎を明かりに、是清とよつろを乗せたバイクは泥を散らし、山道を疾走していく。

 ぽむぽむと軽快に、銀狐が月夜の雪山を跳ねていた。
 人の姿よりは速く、雪の上を駆けられるかもしれない。
 そう考え、普段は見せない銀毛の狐姿へと変えたコノハ・ライゼ(空々・f03130)の判断は、正しかったのかもしれない。
 飛ぶ翼や魔法が無くとも、思考を止めぬ限りは出来ることが何か必ずあるはずだ。
 コノハは木々の合間をすり抜け、軽快に雪を蹴り進んでいった。

「月夜に咲く幻と呼ばれる花か……是非一度目にしてみたい」
 浅く息を吐けば、忽ち白い煌めきが視界いっぱいに広がってゆく。
「……願わくばあの子等も共に」
 ユノ・フィリーゼ(碧霄・f01409)は瞑目し、祈るようにつぶやいた。
 軽快な身のこなしで雪山を駆けるが、やはり不安定な足場に体勢を崩しかけてしまう。
 ユノは何とかバランスをとりながら、すぐさま宙を蹴りつけた。
 もう一度宙を蹴り、さらに上へ。
 足場になりそうな木の枝へと飛び乗り、地面に異変がないかを確かめる。
 どうやら雪崩の心配はなさそうだ。
「美しき花の景も、幼き命の輝きも……決して散らせない」
 決意を秘めた瞳で、ユノは思い切り木を蹴りつけ、白銀の闇へと飛び込んだ。

 夜の闇に覆われて尚、雪は煌めき彼らを導いてゆく。
 雪山の前に降り立つと、京奈院・伏籠(K9.2960・f03707)は即座に行動を開始した。
 つぶさに状況の把握に努めた彼は、気休めにはなるかと火霊鳥の布飾りを盾に、強行軍に入る。
「いつだって仕事はパーフェクトに、だ」
 誰かと情報の共有をしたいとも思ったが、彼の目に見えるそれらしい足跡は、ただ一つだけだ。
 しかしその姿は見当たらず、足跡は途中で途切れていた。
「仕方ない。先へ進めば合流するだろう」
 薄暗い雪道の中、伏籠は子ども達の足跡から目をそらすことなく、地形を利用し素早く追跡を続ける。
 その姿を視界に捉え、月永・由良(氷輪・f06168)は足を速める。
 玲瓏とした光を宿した双眸は、既に敵の姿を捉えているかのように、そのまままっすぐ雪山の奥へと向けられた。
「折角の月夜に、無粋な事だ」
「ほんとだよね。山賊さえ来なければ、子ども達は穏やかで楽しいひと時を過ごせるはずだったのに……」
 由良に並んだ三嶋・友(孤蝶ノ騎士・f00546)もまた、足元に気を払いながら、己に出来得る限りの技能を駆使して子ども達の足跡を追っていた。
 由良も友も同様の考えを持つ――つまるところ、何とか子ども達を救わんとする者達だ。
「何もかもを台無しにする魔の手は、早急に払い除けねばね」
「うん。このまま惨劇で終わらせたりなんかするもんか!」
 互いに頷き合うと、決意も新たに由良は雪上を駆ける。
 時に木を、時に突き出た岩々を蹴りつけながら、友は目を凝らし、子ども達の小さな背中を闇の中に探した。
 難しい事態であるが故、救えとは言われなかった命だ。けれど――友は自身の想いを信じ、ただひたすら月光に導かれるように雪山を駆けていく。

 真っ白なコートとスノーシューを身につけ、雪に紛うような姿で白咲・朝乃(キャストリンカー・f03412)は移動に注力していた。
「話に聞いた通り、足元が悪そうですね」
 しっかりと防寒をし、必要最低限の装備で身軽に雪山を駆けていた新堂・ゆき(洗朱・f06077)もまた、足跡をたどって大急ぎで子ども達の元へ向かう。
 少し前を往く朝乃が、ゆきもまた自身と同じ気持ちでいるのだと感づき、こくりと頷く。
「そうだね……でも、急がなくちゃ」
「ええ。まだ助けられる望みがあるのなら、急がない理由はありません」
 子ども達の足跡の先々まで視認し、極力無駄を省いた移動を続けていた朝乃は、いち早く進む先に何か黒々とした物があることに気がついた。
「あれは……」
 これまでの車輪の跡に代わり、むき出しの地面がそこにはあった。
 足場の不安定な場所を避けながら移動を続けていたが、泥道の方が移動に都合の良い者もいるはずだ。

 金色のライオンに跨がり姿を現したキャロライン・ベル(アンダンテ・f03974)は、凍えるような風に白い息を吐き出した。
「冬は少し苦手ですが、危機や奇聞を耳にしては黙っていられません」
 艶のある毛に包まれた可愛いらしい耳が、ふるりと震える。
 寒さは身に応えるけれど、瞳に映る美しい景色にキャロラインは大きく瞳を瞬いた。
「この静謐な銀世界を惨劇に染めるなど――そして何より子ども達の無垢な心と命を踏み躙るなど、以ての外です」
「貴方も同じ想いよね、ライオンさん。どうか力を貸して頂戴ね」
 ライオンは同意するように首を擡げ、のぞき込むキャロラインと視線を合わせる。
「さあ、行きましょう……子ども達を救わなければ」
 足跡を辿り、キャロラインは全速力で駆けだした。
 やがて見えた泥の道に、キャロラインはぴくりと髭を震わせる。
「雪が厄介であれば、少々無粋でも溶かしてしまおうと思っていましたが……同じ考えの方がいたようね」
 キャロラインは迷わず泥の道を駆けてゆく。すべては何物にも代え難い、子ども達の命を救うため――。

「どうやらチンケな山賊どもが、俺のシマ荒らしてやがるみてえだな。ケッ、ナメやがって」
 ぼさぼさの頭をガシガシと掻き回し、男は無駄なく鍛え抜かれた大きな体躯を揺らしながら、雪を踏み締める。
「競争相手が減るのはこっちとしても好都合だ、このヴュルフェル様が直々にぶっ潰してやるぜ!」
 極悪な笑みを浮かべ、ヴュルフェル・ヴォルフガング(山賊狼・f12978)は荒々しく巨大な斧を肩に担いだ。
「ガハハッ! おめえら、ついてきな!」
「うおお、頑張れ親分!」
「さすがだ! かっこいいぜ親分!!」
 ヴュルフェルは獲物を求め、手下を引き連れ雪山を往く。

「足元の雪が深い。埋まるなよ、師父」
「ええい、其処まで鈍臭くはないわ! お前こそ転んで恥を晒さぬよう気を付けよ」
 ――と言った傍から、アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)は足を取られ、雪に埋もれている。
 ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)はほんの数秒ほど無言で、雪に突っ伏したアルバを見つめた。
「師父……大丈夫か? それほど足腰が弱っているとは思わなんだ」
「うるさい、老人扱いするでない! さっさと手を貸さぬか」
「……承知した」
 ジャハルが手を引き、アルバを引き起こす。
 服に付いた雪を払うと、彼らは担ぐのどうのと言い合いながらも、急ぎ雪山を登っていった。

●転機
 早く、早く。急く気持ちがエルスの視線をより冴えさせる。
 彼の鋭い視線が、ついに子ども達の小さな姿を捉えた。
「こんな時間にどこに行くんだ? 悪い子にゃ仕置きが必要だなァ!!」
「きゃああっ」
「リィン!」
「うわぁぁっ」
 恐怖に立ち竦む少女、駆け寄ろうとする少年、そして腰を抜かしへたり込む少年。
 そして彼らに襲いかからんとする、複数の――。
 そう。それは丁度、山賊達が獲物を見つけ、高々と刃を振り上げたところだった。
「やらせてたまるか……!」
 誰より効率的に、そして全力で雪山を突き進んだエルスの近くに、他の猟兵の姿はなかった。
 一人でやる他ない。
 守るべき子どもは三人、山賊は多数だ。
 本来ならば迷彩で身を潜ませ、弓で奇襲をかけるつもりだった。
 だが今、その暇はない。
 考える間もなくエルスは飛び出した。
 彼はここに至る間に、とうに覚悟を決めていたのだ。
「やめろ!」
 飛びつくように、立ちすくむ少女を抱き締める。
 山賊の刃が深々とエルスの背に食い込んだ。
 体の芯が震える。
 背にほとばしる熱いものを感じながら、エルスは歯を食いしばり、手にしていた骸装:射々を振り上げた。
 座り込んだ少年の額がかち割られる寸前、籠鍔が山賊の刃を受け止める。
 危なかった――だが、まだこれで終わりではない。
「なんだァ、てめぇは! 邪魔してんじゃねえ!」
「早く逃げろ!」
 駆け寄る少年の方へ少女を突き飛ばし、エルスは一人山賊達へと向き直る。
「あ、ありがとう……」
 少女を受け止め、少年は震える声で礼を言う。
「リィン! ラウルも、はやく……!」
「あ、あ……」
 なんとかその場を離れてほしかったが、リィンもラウルも山賊達や雪に散る紅い斑に動揺し、動けずにいる。
 ――ここで凌ぐほかない。
「くそ……!」
 ラウルが素早く骸装を変化させようとした、その時だった。
 自身の存在を誇示するかのように、サフィリアの咆哮が雪山に轟く。
 その咆哮が、山賊達の動きに隙を生んだ。
「ああ、なンだ。こンなトコにいたのかよ」
 そんな声が聞こえると同時、大きな金属の固まりが突っ込んできた。
 ぐしゃりと肉の潰れたような音だけを残し、エルスと子ども達に襲いかかろうとしていた何人かの山賊が忽然と姿を消した――と思いきや、エルスの目の前で完全に雪に埋もれている。
「来たか……」
「あっぶないわね」
 敵に突っ込む直前、ひらりとバイクから飛び降りたよつろが、是清を睨む。
「ちょっと是清、あなたのバイク乗り心地最悪。なんなのこれ」
「バイクは俺の自作だ、恰好良いだろ」
 何人轢いたか数えていた是清が、ふふんと得意げに笑う。
「自作? ああ、道理で……」
「ち、痴話喧嘩してんじゃねえぞこらァ!」
 雪を蹴散らし立ち上がった山賊が、思いっきりぶち切れた。
 是清とよつろは雪を踏み鳴らし、不快そうな視線を相手へと向ける。
 山賊達の視界の端に、極細い糸のような何かが閃いた。
「好き勝手しやがって。此処から先は通行止めだ、莫迦どもが」
「ほんと、怒りっぽい男って嫌よね……――おいで」
 一気に上空へ舞い上がったドラゴンに代わり、太刀を差した男が忘却の門より姿を現す。
 男はその太刀――鈴丸をすらりと抜き放ち、よつろを守るように敵と相対した。

 仲間達が山賊と交戦する音を聞き付け、サフィリアは子ども達の壁となるよう近くへ降り立った。
 矢継ぎ早に飛び交う攻撃の中、サフィリアは子どもに向かう流れ弾を、身を挺して受け止める。
 暗さと木々のせいで正確に把握できないが、山賊の数はまだまだ多い。
「間に合ってよかった」
 サフィリアは優しさの滲む声で、子ども達に語りかける。
「もう大丈夫だよ。君達は集落に帰るの、さぁ乗って!」
 しかし怯えきった子ども達は、サフィリアの言葉に応じることが出来ずにいる。
「そうだよなあ、ガキどもはオレ達と遊んでるんだ、邪魔するんじゃねェ!」
「これからてめぇらの親もぶっ殺して何もかも奪ってやる。楽しみにしてろよなぁ!」
 下卑た叫びに山賊達が共鳴するようにゲラゲラと嘲う。
 次から次へと耳に飛び込んでくる罵声、怒声、そして度重なる命の恐怖に、子ども達はほとんど何も考えることが出来ず、ただ震えるしかできない。
 庇護対象が複数であれば、敵からの数多の攻撃をたった一人で庇うことなどできはしない。
 放っておけばすぐに死んでしまう儚い存在。それがこの場に三人もいる。
 だからこそ、子ども達のために躊躇なく攻撃に身を晒そうとする者が、複数存在することは幸いだった。
 執拗に打ち込まれる石つぶてから庇うように、銀狐が小さな背中に飛び込んだ。
 銀の美しい毛皮に血が滲み、シオンは震える咽喉の奥から、大丈夫なの、とかすれた声を出す。
「このくらい平気だよ」
 人の姿へと戻り、へらりとした笑顔を見せて、コノハはシオンに背を向ける。
「間に合ってよかったよ。だって花は、多くで楽しみたいデショ」
「花を……見に来たの?」
「そうだよ」
 嘘か本当かはわからない。彼の大きな背中を、シオンはただ目を見開き見つめている。
「さぁさぁお客さん、煌めくアメを、ご堪能あれ」
 数え切れぬほどの水晶の針が、山賊達の空を覆った。
 月光を弾いては色を変え、彩雨は壁のごとく雪山に降り注ぐ。
「大勢のお客サンには慣れっこでして。さあ、遠慮せずもっと凍えていきなって」
 爪先を射抜かれ汚い悲鳴を上げた男の傷を、さらに抉るように雨は降り注ぐ。
「ふざけやがって、貧弱な優男が! このオレ様が遊んでやらあ!!」
 もがく男を押し退け、コノハが敷いた最前線を突破せんと、新たな山賊が前へ躍り出る。
 その瞬間、透いた白銀が閃き、山賊の咽喉に突き立てられた。
「あらら、ご愁傷サマ」
 薄氷の瞳を楽しげに細め、コノハは事切れる寸前の山賊にへらりと笑ってみせる。
 手にした刃は艶やかに色を変え、紅黒い命の色が吸い上げられてゆく。
「ああ、不っ味いなあ。もっと美味いヤツはいないワケ?」
 不満げにつぶやきながらも、瞳の奥には微かな愉悦が宿っている。

「ほらよ」
「あら、ありがと」
 是清が転がした山賊を、よつろは躊躇なく敵のつぶてを弾く盾にする。
 もちろん、意図を持って山賊をよつろに贈った是清もまた、絲でからめ取った山賊を盾に、彼らからの攻撃を受け止めていて――。
「お、おい、やめろお前ら……いだっ! ちょっ!」
「……ぐふっ」
 一石二鳥だった。
 もちろん、物言わなくなったからといって、盾としての役目が終わるわけでもないが。
「て、てめェこの野郎……!」
「やっちまえ!」
 その戦い方に頭に血を上らせた山賊達が、二人の元へ群がる。
 是清はさらに骸を繰り、自分に攻撃が向くよう山賊達にけしかけた。
「ちょっと、むさくるしいわね。いい加減なんとかしなさいよ」
「仕様がねェな──ユーベルコード、傀儡操縦」
 何故か山賊達は、タイミングを合わせたように、一斉に是清に攻撃を仕掛けた。
 実に大振りで、隙だらけの攻撃だ。
 自身に集中することを知っていたかのように、是清はひらひらりと身を躱し、ふっと瞳を細める。
「後は宜しく」
「ようやくだわ。それではごきげんよう」
 上空を旋回していたドラゴンが、団子になった山賊めがけ炎を吐き出す。
 咽喉が引き裂けんばかりの山賊達の悲鳴が、山間に響き渡った。

「わ、もう始まってる!」
 いよいよ騒がしくなってきた戦場を視界に捉えた朝乃は、雪に紛れるように近づいていく。
 何名かの猟兵が数多の山賊に囲まれながらも、子ども達を守るように戦っている。
 子ども達は恐怖に動くことが出来ず、まだ前線にその身を置いているようだ。
 三人もの無力な子どもを集団戦の戦場から救うには、どうやら人手が足りないらしい。
 僅かな猟兵で作られた最前線の壁。そこから溢れた何名かの山賊が、脇から子ども達の方へ向かう姿を視認し、朝乃はすぐに動き出した。
「あれー!? 猟師の方ですか? おつかれさまです!」
「はぁ?」
「弟達迎えに来たんですよー。もー、寒いのにこんなところまで来ちゃって……」
 突拍子もない会話ではあるが、知能の鈍った山賊を一瞬でも足止めするには充分効果を発揮した。
「あ、ほら。お兄ちゃんも迎えにきた!」
「なに言ってんだてめ――」
「おや、こんばんは」
 いつの間にか山賊の背後に回っていた伏籠の手には、既に拳銃が握られている。
 柔和な笑みを浮かべたまま、躊躇なく引き金を引く。
「風に楔打ち、大地の慈悲に繋ぎ止めん。鉄鎖の呪縛たれ!」
 ――術式付与・矰繳。
 射出された四発の弾丸が山賊をその場に縛り付け、ユーベルコードさえも封じんとする。
「てめぇら、いつの間に――」
「わー!!!」
 別の山賊めがけ、朝乃が不意打ちでサウンドウェポンの大声をあげる。
「くっ、キーンときたぜ……」
「わーーーっ!!!」
「や、やめろぉ!!」
「……そういう戦い方もあるんだね」
 朝乃がめちゃくちゃ山賊達の気を引いているその向かい側で、伏籠は的確に敵を射抜きながら子ども達へ視線を送る。
「動けそうかい?」
「……置いていけないよ」
 はっきりと意志の疎通を図れるのはシオンただ一人だ。
 リィンはシオンの腕の中で怯えて耳を覆い、ラウルは座り込んだままがたがたと震えている。
 傍には血塗れになりながらも、なお自分を守ろうとするエルスの姿もあって――。
「逃げられそうにもないか……仕方ない」
 素早く視線を走らせ、丈夫そうな木に目を留める。
「少しずつでいいから、後ろへ下がるんだ。あの木を盾にしよう。ここにいるより少しはましだからね」
「う、うん。でもラウルは……」
「その子は私に任せて」
 朝乃が隙を見てラウルの元へ駆け寄る。それを見たシオンも、ようやく少女を引きずるように移動を始めた。
 子どもを庇いながら立ち回る伏籠の元へ、続々と猟兵達が加勢に現れる。

 艶やかな黒髪が、輝く夜空の月に糸引くように舞い踊る。
 とんと軽やかな足音を響かせ、由良が敵の懐に飛び込んだ。
「遅れて申し訳ない」
 刃を振り上げようとした山賊の前に、悠然と立ちはだかる。
 生まれながらに身に付いた上流階級の所作は、実に美しくあるが――その表情に笑みはなく、由良は無言のまま凍てついた瞳に映る下卑た男を眺めた。
「な、なんだてめ――」
 異変を感じたときには遅かった。
 急に顔色を悪くし、ふらつくように後ずさる。その脇腹を、炎の力を纏った魔法剣が薙いだ。
「ライオンさん」
 キャロラインの呼びかけに心得たとばかり、飛び出した金色のライオンが、立ち上がりかけた山賊の首筋に喰らいつく。
「わたくし達も協力いたしますわ。穢れ無き白銀と命の輝きが翳らぬように、力を尽くしましょう」
 壁となるように布陣しながら、キャロラインもまた移動する子ども達の庇護に当たる。
「助かる」
 自身の力は子どもにはあまり見せたくないものだからと、由良は妨害と撹乱に努め、隙を見せた相手を他の猟兵達が仕留めていく。
「大丈夫、心配しないで。寒い中よく頑張ったね」
 背を向け、敵の前に立ち塞がる。
 優しく励ますようなユノの声に、シオンは何かをぐっと堪えるような表情になる。
「もう少しだよ、その木まで頑張って」
 見えない青蒼薇の蔓が、近づく敵を懐深くへ抱き込む。
「大丈夫、指一本触れさせはしない。必ず護ると約束するよ……皆揃って、幻の花に逢えるよう」
 花も村も幼子達も手折らせまいと誓った由良のその想いが、言葉の端から伝わってくるようだった。
 現に今彼らは、傷を負いながらも必死に、自分達を助けようとしてくれている。
「そうだ……生きて帰るんだ。オレが守らないと」
 シオンは猟兵達に背を向けると、妹を抱え必死に進む。
「何処を見ているの? ……貴方の相手は、私」
 挑発的な言葉と蠱惑するようなユノの眼差しに、山賊の目にぎらついたものが走る。
 守れるモノがあるならば、多少の痛みも厭わない。
 覚悟を決め、ユノは敵の注意を惹き付ける。
 友の振るう呪刀から飛び立つ幾つもの蝶の幻影が、ひらひらと戦場を舞う。
「そんなつぶて、私の風が届かせないから!」
 風の魔力を纏った友の防御力は格段に上がっている。
 子ども達を守る猟兵を支援しながら、友は攻撃を避けるより受け止めることに注力した。
 少しでも彼らの負担を減らす為だろう。そしてなにより、友が受け止めることで万が一の事態を防ぐことができる。
 幾人もの猟兵達の想いが重なり、子ども達は次第に山賊達から引き離されていく。
 ゆきはその様子を視界の端に認め、少しだけ安堵していた。
(どんな花が見れるのでしょう。兄妹ともゆっくりお話をしてみたいです)
 薄紅色の裾がひらりと揺れる。
 巫覡載霊の舞――神霊体と化したゆきの放つ月牙刀の一振りが、衝撃波となり鮮やかに山賊を切り裂いた。
 視界に入る山賊めがけ、片っ端から衝撃派を放ってゆく。
「雪上の大掃除。中々大変ですが、美しい景色をこれ以上損なわせる訳にはいきませぬ……きっと成し遂げてみせます」
 囁き、力の限りに舞い踊る。

 読み通り、子ども達はお人好しな猟兵達が保護したようだ。
 ヴュルフェルは山賊達に狙いを定め、眼をぎらつかせる。
「オラオラ、ヴュルフェル様参上だぜ! 死にたくなきゃ失せな!」
 豪快に雄叫びながら、ヴュルフェルは躊躇なく巨大な斧を振り回しながら敵に突っ込んでいく。
「な、なんだてめぇは!」
「ぎゃああっ」
「親分、アンタ最高かーっ!」
「行け行け親分!!」
「ガハハハハ! どいつもこいつも手応えのねえやつばっかりだな! ついでに身ぐるみも剥いでやるか!」
 手下達に煽られながら、盗み攻撃を仕掛けるヴュルフェル――その大きな手のひらに、銅貨が三枚乗っていた。
「……チッ、しけてんな。ガキの小遣いかよ」
 期待はずれもいいところだ。
 ヴュルフェルの立派な髭が、ひくりと揺れる。
「まぁねえもんはしょうがねえ……よ、なあ!!!」
 渾身の怒りを込め振り下ろした一撃が、派手に雪と土砂を散らして地面を抉り取る。
 恐怖に顔を引き攣らせた山賊達(自分の手下含む)が、思わず後ずさりしたその時――新たな猟兵が逃げ道を断つように現れた。
「ほう、確りと童を確保できておるようではないか。まあ、まだちと近いようではあるが」
「……師父」
「ふむ」
 傍らに控えるジャハルは既にちかいの柄に手をかけ、獰猛にして忠実なる番犬のようにアルバの合図を待っている。
 空くような笑みを浮かべ、アルバは星追いを擡げた。
 高速で描き出される魔法陣から溢れ出る光が、軌跡を描く。
 やがて幾つもの炎が、アルバの周囲に浮かび上がった――愚者の灯火。
 子ども達の方へ延焼せぬよう注意を払いながら、アルバは幾つかの炎を戦場へと投じる。
「往け、ジジ!」
「――承知した」
 アルバの炎が雪を溶かし、進むべき道を造り上げる。
 ジャハルは蒸気で煙るその道を、一直線に駆け抜けた。
 一気に肉迫するジャハルの迫力に、狙い定められた山賊は慄きながらも刃を構える。
「還れ」
 喉の奥から吐き捨てるような低い呻りは、黄金の焔と化し目の前の山賊達を焼き捨てる。
 故意にアルバの炎に重ねてやれば、悶え苦しむ幾つもの影が燻り地に斃れ伏す。
「怖かったでしょう……もう大丈夫です」
 圧倒的な力を見せながら、アルバは矍鑠たる笑みを子ども達へ向ける。
 ぽかんと見つめるシオンに、アルバはふと笑みを深めた。
 山賊の攻撃が子どもへ向かぬよう注視しながらも、アルバにはもう一つ気にかけていることがあった。
「くそ、このまま足止めくってちゃあ、お頭に叱られちまう」
「おい、オレ達だけでも先に行った方がいいんじゃねえか?」
 ――そう、自ら溶かし出した足場が、山賊達にとっても優位に働くであろうことを承知していたのだ。
 だからこそ、最後列を守護するアルバをすり抜け、集落へ向かおうとする山賊には地獄しか待ってはいなかった。
 端から集落へ向わせるつもりなど毛頭なく、アルバはとうに山賊達を包囲するように魔法の炎を展開していた。
 山賊は賢い相手ではない。
 肌を焼く熱を感じて、初めて一歩退く。それがただの足止めだと気づくこともなく――。
「下卑た叫びも、我が魔術で断末魔に変えてくれる」
「へ? ……ぎゃぁあああっ」
 誘導されるように留まったその場所へ、狙い定めた幾つもの炎が降り注ぐ。
「――己の行いを、地獄で悔いるが良い」
 複数の山賊達を、灼熱の炎が包み込む。
 肉を焼かれながらも逃れた先には、同じく集落へ向かう者がいることを警戒した友と由良の姿がある。
「く、くそが! どけぇ!!」
「絶対に行かせないよ!」
「ここから先は決して通しはしない」
 壁となるよう立ちはだかった二人の前に、山賊達はにべもなく斃れていった。

「く、くそっ! あんなガキどもに構ったせいで……」
 集落へ向かおうとした仲間が全員やられたのを見て、男は怒り血走った視線を子ども達へ向けた。
 雄叫びを上げながら刃を振り上げる。
「……!」
 ラウルに付き添っていた朝乃が、歯を食いしばり子どもを庇うように背を丸くする。
 けれど刃は朝乃に振り下ろされることはなかった。
 山賊の動きにいち早く感づいたジャハルが、己を省みることなく、間合いに飛び込んだからだ。
「くっ……」
「て、てめぇ……なんなんだァ!」
 肩にめり込んだ刃に一瞬眉を顰め、ジャハルは鋭い視線を男に向けた。
「煩いぞ。貴様らに呉れてやるものなど無い」
 力強く、振り上げる。
 黒々とした剣の切尖から、月めがけて紅黒い滴が迸る。
 ――少し遅れてぼとりと、濡れた大地に首が跳ね落ちた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第2章 ボス戦 『呪飾獣カツィカ』

POW   :    呪獣の一撃
単純で重い【呪詛を纏った爪 】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD   :    呪飾解放
自身に【金山羊の呪詛 】をまとい、高速移動と【呪いの咆哮】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    カツィカ・カタラ
【両掌 】から【呪詛】を放ち、【呪縛】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はナミル・タグイールです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 低く、深く、地面が揺れた気がした。
 次いで、何かただならぬモノの咆哮が雪山に轟く。
 それはかつて幾つもの村を襲い名を馳せた、山賊達の頭だったモノ。

 呪われた獣の咆哮が、再び響く。
 怒っている――大地を揺するような振動が、ゆっくりとこちらへ近づいてきた。
 子ども達は身を縮め、木の下にしゃがみ込む。
 三人一緒に隠れることは叶わず、兄妹と少年一人はそれぞれ少し離れた木の陰へ。
 気丈だった少年も、今は恐怖に駆られて蹲る。
 ただ妹を抱き締め、彼は懸命に声を押し殺した。
 本能的に感じ取ったのだ。
 存在を気取られれば、命はないと――。
白咲・朝乃
近くにいるラウル君を守ることに全力を注ぐよ!
身を呈してでも守る。

ラウル君を安心させるように、抱きしめつつ木の影に身を隠す。
狭ければすぐに守れる別の木の影へ。
常に木を挟んで敵の死角にいるよう、微調整。

敵が迫り、移動も隠れるのも困難なら、自分だけ飛び出す。
気を引きながら戦い、子供達を守りつつ戦闘。

ユーベルコード【絆の音】でぷいぷい召喚。(「もきゅ!」と鳴きます)

ぷいぷい!衝撃波であいつの右手を狙って!
私は左手を叩く!

どちらかが倒れたら残った方は子供の盾になる。
攻撃されても子供に向いてる場合は避けない。

他の猟兵が十分に足止め出来ているなら、隙を見てラウル君を連れ距離を取る。


エルス・クロウディス
●POW
何とか間に合ったか……ってもまぁ、子供たちもまだ近場に残ってることだし。
もうひと踏ん張り、してみますか。
「随分とご立腹みたいだけど、悪いな。パーティは中止のお知らせだ!」
ことさら派手に躍りかかって、相手を<挑発>する。
真っ正面の殴り合いだ。
攻撃は基本、逆綴で<武器受け>。
普段なら武器を形作るとこだけど……元が元だし、状況が状況だ。
至近距離でやりあうなら、腕にまとわせて水分としての衝撃緩和狙い。
<見切り>ながら<第六感>総動員して、<カウンター>合わせつつ<傷口をえぐる>。
<生命力吸収>もして有利に運びたい。

後はヘイト稼ぎながら、子供たちから離れて……ま、今度は一人先行じゃないから、な?


新堂・ゆき
子供達は皆、たぶん全員無事なはずです。
怖くて息を潜めているとしたら、私達が戦闘しているのを顔は出せなくても
伝わっているはずです。
オペラツィオン・マカブルでボスを攻撃。
月照丸での攻撃を素早く手数をおおめにして、ボスの意識が子供達に
向く事がないように戦闘する。
避難させてしまうのが一番最適なのかもしれませんが、怖い思いをして
いるのですから、とっさには素早く動けない可能性が高いですよね。
むしろ動ければまだマシな状態。
もう少しだけ頑張って待っていて下さいね。



 地面を揺らしながら、ゆっくりとそれは近づいてきた。
 時折発せられる咆哮と、地を震わす轟音に、子ども達の体がびくりと震える。
 息を押し殺し震えるラウルの傍を、朝乃は決して離れようとしなかった。
 少しでも安心させようと、か細い腕で少年を抱き締める。
「大丈夫だよ、絶対に私が守るから」
「…………」
 山賊に出会ってから完全に怯えてしまい何も出来ずにいるラウルは、朝乃の声が聞こえているのか、聞こえていないのか、されるがままになっている。
 ただ時折、激しい物音や咆哮に反応しては、のどの奥で小さな悲鳴をあげるばかりだ。
(悲鳴だけは堪えてもらわないと。私が傍にいることで、少しでも安心してくれれば……)
 ラウルに安堵を与えようと、腕に力を込め、ぎゅっと抱き締める。
「大丈夫……大丈夫だよ」
 朝乃は敵の気配を探りながら木の影に身を隠し、常に敵の死角に位置するよう心がけた。
 なにかあれば全力で、身を挺してでも彼を守るつもりだ。
(もしもの時は……ぷいぷい、一緒に頑張ろう)
 心の内で、絆で固く結ばれた真っ白もこもこな相棒を想いながら、朝乃は決意を新たに、敵の気配に意識を集中させた。

 ちらりと子ども達の隠れた木の方へ視線を送ると、エルスは油断なく身構えた。
「……もう一踏ん張り、してみますか」
 目に付く木々をなぎ倒しながら、かつて人だったモノがどんどんこちらへ近づいてくる。
 骸装:逆綴は敢えて武器化せず、解けた砂の如く腕に纏わせ――エルスは己が手の感覚を確かめるように、ぐっと強く掌を握った。
 せめて手の届くすべてを守りたい。信じ頼る脆き心が、エルスの身体能力を増大させる。
「随分とご立腹みたいだけど、悪いな。パーティは中止のお知らせだ!」
 エルスは敵の目を引くよう、派手に躍り掛かった。
 カツィカは鋭い咆哮を上げ、強烈な爪の一撃を、エルスめがけ振り下ろす。
 必然的に、エルスは拳一つでその強烈な一撃を受け止めることとなった。
 力と力がぶつかり合い、緩衝にと纏った荒れ狂う渦潮が弾け飛ぶ。
「ぐっ……くそ!」
 エルスはその衝撃に足場諸共吹き飛ばされ、近くにあった木に叩きつけられた。
 背後の木が大きく震え、兄妹が小さな悲鳴を上げる。
(まずいな……すぐに離れないと)
 よろめきながら立ち上がるエルスめがけ、カツィカが追撃をかけんと体勢を低める。
 金山羊の呪詛を纏い、力のままに突進しようとするその直線上に、ゆきは迷いなく歩み出た。
「問題ありません。私と月照丸ならば……きっと成し遂げて見せます」
 カツィカの猛進を前に、ゆきは無我となる。十指に括られた糸は力なく扇状に垂れ、完全に脱力状態となった。
 強靱な体躯に突っ込まれ、ゆきの華奢な体はにべもなく宙へとはね飛ばされた。
 しかし、その刹那。
 ふわりと十本の糸が浮き上がり、繰られたからくり人形に命が宿る――オペラツィオン・マカブル。
 からくり人形が、ゆきの受け止めた強烈な体当たりを、そのままカツィカへと見舞う。
「悪いな、助かった!」
「いいえ。すぐに離れましょう、危険です」
「ああ……行くぞ!」
 二人は振り返ることなく、カツィカの元へと猛然と向かっていく。
「仲間がいるってのはいいもんだな。お前にはもういないだろ?」
「先ほど私達が、皆倒してしまいましたからね」
「ア゛ァ゛アアアアッ!」
 何に怒っているのか――カツィカの大振りな一撃を見切り、エルスがカウンターを叩き込む。
 タイミングを合わせるように、ゆきもまた糸を繰り、カツィカを絶え間なく攻め上げる。
「もう少しだけ頑張って、待っていてくださいね」
 誰ともなくゆきはそう呟き、エルスと共に、じりじりとカツィカを子ども達がいる木から引き離していく。
 彼女の残した言葉は、恐らく背後の木に隠れた幼い子ども達の耳にも届いたことだろう。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ヴュルフェル・ヴォルフガング
ヘッ、ようやくお頭のお出ましか。
だがどうやら、クソみてえな力に溺れて人間辞めちまったみてえだなあ?
情けねェ上に心も弱ェたあ、まさしくチンケな野郎だぜ。

今回も敵との戦いに集中させてもらう。こいつさえぶちのめせば、それでしめえだ。
他の連中と連携が取れりゃあ、挟み撃ちや援護なんかを受けてえところだね。俺に楽させろ!

とはいえ、俺の部下に情けねえザマを見せる訳にも行かねえぜ。
捨て身の一撃なら、確実に深手を負わせられる筈だ。
あとは腕をぶった斬りゃ、戦力ダウンに繋げられるか?
ともかく一気にカタつけるぜ!

その仮面、高く売れそうだねェ。
こいつをぶっ倒せば、拝借してえもんだぜ。ガハハハッ!


京奈院・伏籠
おや、ずいぶんとご立腹なようで。
仲間がやられて怒っている…というわけでもなさそうか。
自分本位なところはほんと彼らそっくりだと思うよ。

さて、アレに暴れられたら木の一本や二本、ひとたまりもないな。
子供たちの隠れた木からは離れて戦おう。

距離を取りつつ炎精刻印弾を拳銃で撃ち込んでいく。
有効打になれば御の字。距離を詰めて反撃してくるようならそのまま子供たちを巻き込まない位置に誘導しよう。
UCの炎は地形に延焼しない程度に敵に纏わりつかせ続ける。
敵の魔力に対する妨害を兼ねて、夜闇の中でちょっとした目印には出来るかな。

誰もお前をお呼びじゃないからね。早いところご退場願うよ。


コノハ・ライゼ
そう、そのまま息を潜めて、と隠れる子供らに心の内で願い
自分は、自分のやり方で危険を排除するまで
それだって、見せない方がきっといいから

【WIZ】
ここまで来たら遠慮も何もナイよね、と【月焔】発動
浮かべた炎を四方八方に広げ攪乱する様不規則な軌道で敵へと撃ち込む
『2回攻撃』でその炎を弾幕に懐へ飛び込み
『傷口をえぐる』ように「柘榴」で斬り付け『生命力吸収』しながら戦うヨ
さあ、ソノ血を存分に楽しませてちょうだいな
斬っては離れ、の動きで少しでも惑わせれればイイね

万一敵が子供らの方に向かう、或は仲間が危険なら
『捨て身の攻撃』を仕掛け『かばう』ネ
だって誰か一人でも欠けたら、楽しめないもの



(さて、アレに暴れられたら木の一本や二本、ひとたまりもないな。子供たちの隠れた木からは離れて戦おう)
 他の猟兵達にじりじりと誘導されていくカツィカを、一定の距離を保ち追っていく。
 伏龍はファントムバレルの引き金に指をかける。込めたのは炎精刻印弾。炎の魔術を付与した弾丸だ。
「其は遠雷と共に来たるもの。走れ、燎原の火よ!」
 打ち込まれた弾丸に焼かれながら、カツィカは伏龍目掛け大きく腕を振り下ろす。
 地を蹴り飛び退いた伏龍の足を、飛散する石塊が掠める。
 カツィカは魔力を捕食し燃え上がる炎に蝕まれながら、低い唸り声をあげた。
「おや、ずいぶんとご立腹なようで」
 煩わしそうに頭を振る獣に、伏籠がにっこりと微笑む。
「さっきから怒っているのは、仲間がやられて怒っているわけではないよね。ほんと彼らそっくりだね、その自分本位なところ……」
 カツィカは咆哮し、一気に伏龍との距離を詰めようとした。
 ――その時。
「ヘッ、ようやくお頭のお出ましか。だがどうやら、クソみてえな力に溺れて人間辞めちまったみてえだなあ?」
 派手に暴れ回るカツィカの背後に、大きな人影――ヴュルフェルは悪びれる様子もなく、先ほど仕留めた山賊達の血が付いた斧を振り上げた。
 堂々と見せつけるように肩に担ぎ、厳つい笑みを浮かべる。
「情けねェ上に心も弱ェたあ、まさしくチンケな野郎だぜ」
 カツィカがぴたりと動きを止め、ゆっくりと振り返る。
 太く鋭い爪で土と雪の混じり合った地面を掻きながら、重々しい足音を響かせ、まっすぐにヴュルフェルをその眼に捕らえた。
 完全にターゲットが移った。金山羊の華美な仮面の下、ぐるぐると人外の唸り声が洩れている。
「挟み撃ちで楽させてもらうつもりだったんだが……喋り過ぎちまったか?」
 ヴュルフェルの視界には、カツィカと、その背後で木陰に隠れる子ども達、それを守るように戦う猟兵達の姿が映っている。
「こいつさえぶちのめせば、それでしめえだ。なんだか知らねえが、いい目印がついてるみてえだしな」
 伏龍の弾丸によって与えられた炎は、未だカツィカに纏わりついている。
 毛皮を焼く臭いに顔を顰めながらも、ヴュルフェルは手下達の声援に応えるように口の端を引き上げた。
「その仮面、高く売れそうだなァ……てめぇをぶっ倒して、拝借するとするか。ガハハハッ!」
 巨大斧を大きく振り上げる彼に応じるように、カツィカもまたその腕を大きく振り上げ――ヴュルフェルの捨て身の一撃と、カツィカの抉るような爪の一撃が激しくぶつかり合う。
「腕の一本もぶった斬れりゃイイと思ったんだがな……」
 地面にドッとカツィカの指が二本、転がった。
「ァ゛ァアアアアッ!」
 カツィカの激しい悲鳴と共に、ヴュルフェルの腕からも鮮烈な血が吹き出す。

(そう、そのまま息を潜めて……)
 木の陰に隠れる子ども達に心の中で願い、コノハはヴュルフェルと激しくぶつかり合う、カツィカを見据えた。
 コレは自分のやり方で排除する――子ども達の目がない分、先ほどまでよりも動き易いはずだ。
 これから戦う自分の姿は、恐らく見せない方がいいものだろうから。
「ここまで来たら遠慮も何もナイよね……暖めてあげようか」
 誘うような優美な仕草でコノハが手招くと、どこからか出でた月の如き白焔が幾つも浮かび上がる。
 ――月焔。冷たい月白の炎が、あらゆる角度からカツィカの身を焼こうとする。
 四方八方から不規則な軌道で襲い来る炎の玉に、カツィカは唸り声をあげながら両腕を大きく振るう。
 手のひらから呪詛を放とうとしたその時、既にコノハの姿はカツィカの懐に在った。
 自身のユーベルコードすら欺くための弾幕として使い、獣の血肉を裂くため、その身一つで飛び込んだのだ。
「さあ、ソノ血を存分に楽しませてちょうだいな」
「グァアアアッ!」
 閃いた柘榴が迷うことなく、共に戦う猟兵達が付けた傷口に、深々と突き立てられる。
 磨き抜かれた珠のような鉱石の尖が肉を抉り、獣は咆哮し痛みに身を捩る。
 追い打ちをかけると思いきや、血を啜る刃を引き抜き、コノハは即座にその場を離れた。
 斬り付けては離れ、その間にも伏龍の弾丸、そしてヴュルフェルの斧撃が襲い、見事にカツィカを攪乱していく。
 誘われるように子ども達のいる木から離れてゆくカツィカに、コノハはふと目を細めた。
「少しでも惑わせれればイイと思ってたけど……君って案外素直なんだね」
「おいおい、くっちゃべってねえで一気にカタをつけようぜ!」
「そうだね……誰もお呼びじゃないからね。早いところご退場願うよ」
 三人はそれぞれの武器を手にカツィカを陽動し、その力を確実に削いでいった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
欲に塗れた忌々しい獣めが
貴様等に安らかな眠りを与えてなるものか

後方、童達を守る様に立ち回る
描いた魔方陣より【愚者の灯火】を召喚
炎を自在に操り、獣の傍に纏わりつかせ注意を逸らせたならば僥倖
隙を作る事でジジによる攻撃の命中向上を図る
両掌からの呪詛、爪の一撃を繰り出す動作を見せた際は腕を焼く等して行動妨害を試みる
叶うならば炎を合体させる事で更に高火力で焼いてやろう
ジジに前を任せているからこそ、安心して魔術を行使出来る
…なに、万一獣の攻撃が童へ向おうと阻止してやるとも
決して彼等には指一本触れさせぬ
本来ならば我が従者に触れる事すら不敬なのだぞ?
――天が如き寛大さに感謝して逝くが良い


ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と組み

接近させるのは勿論
子等のいる所へ破壊が及ぶのも厄介だ
距離が詰まらぬ様、前で引き付ける

頼むぞ、師父
…手を滑らせて焦がしてくれるなよ

師父の炎による妨害により
呪飾獣の攻撃をずらす・集中を削ぎながら
目眩ましの師の炎を貫くようにして
隙あらば【怨鎖】で狙う

繋いだ鎖は<怪力>で引き、呪飾獣の移動阻害
可能であれば師の、または他猟兵の射線上に引き倒す等

呪飾獣が子等の方へ、師の方へ向かうなら
または師が呪詛で動きを封じられた場合
割り込んででも庇い、阻止
触れるな、奪い暴れるしか知らぬ獣が


主らしく後ろでふんぞり返っていればいい
嗚呼、その調子でな



 手負いの獣は、その愚鈍さゆえに一心不乱に獲物を追いかける。
「頼むぞ、師父。………手を滑らせて焦がしてくれるなよ」
 背後を守るアルバにそう告げるなり、ジャハルは敵の元へと駆けてゆく。
「なんだと? まったく、言い逃げしおって……」
 戦場を駆る背中を見守りながら、アルバは最後の砦たらんと、子ども達を守るように星追いを掲げた。
「欲に塗れた忌々しい獣めが。貴様等に安らかな眠りを与えてなるものか」
 描かれた魔法陣より、愚者の灯火が浮かび上がる。
「この位置取りならば遠慮は要るまい……往け」
 放たれた炎の玉が、矢の如く次々カツィカの元へ向かう――じりじりと焼くような熱量の火玉に囲まれ、カツィカは煩わしげにアルバを見遣った。
 禍々しき呪詛を込め、カツィカは毛と血に塗れた腕を振り上げる。
「触れるな。奪い暴れるしか知らぬ獣が」
 一気に距離を詰めたジャハルの漆黒の剣閃が、一瞬の光を散らしながら獣の爪と噛み合う。
 競り合う最中、襲いかかるアルバの炎に腕を焼かれ、カツィカは後ろへ飛び退いた。
 纏わりつく炎に苛立たしげなカツィカを追い打つように、ジャハルは鋭い突きを放つ。
 炎を突き抜け襲い来る刃に、カツィカは咆哮と共に、怒りに任せ腕を振り上げた。
 二指を落とした手から血を吹きながらも、躊躇うことなく地面を穿つ。
 跳ねる石塊に頬が裂かれ、垂れた血が月光に艶めかしく照らし出される。
 指先で頬を拭い、ジャハルは素早く腕を振り抜いた。
「鎖せ」
 血の滴がカツィカの仮面に紅い斑を付ける――と同時、爆音が辺りに轟いた。
 黄金の仮面が砕け飛び、呻きを上げたカツィカが大きくよろめく。
「そちらへ行ってもらっては困る」
 無造作に掴んで引き寄せる。
 ジャハルとカツィカは、黒く染まりゆく血で編まれた怨鎖の鎖で繋がれていた。
 突飛な事態にようやく動じたらしい。額から血を垂らしたカツィカが、鎖から逃れようと激しくもがき始める。
 手に鎖を巻き付け、ジャハルは渾身の力を込めカツィカの巨体を牽いた。
 血に塗れ忌むような眼で睨み据える獣の視線を、真っ正面から貫くように突き返す。
 極至近距離で、カツィカは再び大きく腕を振り上げた。油断なく身構えたジャハルの外衣が風に翻る――その背後に、強烈な焔の固まりが浮上した。
「本来ならば我が従者に触れる事すら不敬なのだぞ? ――天が如き寛大さに感謝して逝くが良い」
 幾つもの灯火を束ねた焔の玉は、強烈な熱を放っている。
 アルバはふと口の端を引き上げると、高々と翳した星追いを手負いの獣目掛け振り下ろす。
 因業たる行いの報いか。目映い光の下、轟音と獣の絶叫とが混じり合う。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

伍島・是清
四辻路(f01660)

耐えろよ。
怖いだろうけれど、頑張れ。
出て来るな。
と、心のなかで

死ねェよ。──護るから。

呪いの一撃を考えて子どもの位置には近づかない
安全地帯は四辻路、御前に任せるよ
頼んだ。…御前も、気をつけろよ。

今は接敵を心掛け
云っただろ、此処から先は通行止めだ
往かせねェ

子どもが悟られるなら“如何様師”
依り代を以って偽物作り

偽物で敵の興味を逸らさせる
興味が移ろうなら、その隙に鋼糸で刻む
生憎呪詛なら慣れている、今更怖くもねェ
四辻路の焔を鋼糸に纏わせて

刻まれ焼かれ
眠れ獣、過去へお還り


四辻路・よつろ
是清(f00473)と

あの子達、不味いんじゃないかしら
確実に誰かは死ぬわよ

ちょっとアレの注意を逸してと
是清と竜に頼み
竜は捨て身覚悟で囮に
派手に炎を吹かせて威嚇


己の身は使用人に守らせつつ
まず一人の方を先に抱え
次に兄妹の元へと駆けつけ全員回収

いい?誰一人死にたくないのなら
私がいいと合図するまで出てきてはダメ
でないと全員、一生後悔する羽目になるわ
何度も念押しをして、三人に耳飾りを触れさせて珠の檻に招く


とは言え、この中も安全とは言えないわ
倒れた竜をもう一度呼び起こし
次々と使い捨ての死霊を呼び出してはそれらで獣の攻撃を防ぎ
一定の距離を保って応戦

残念、二度目の人生もここでお終いね
絲に炎を走らせて幕引きを



 血と毛皮の焼ける臭いが立ちこめる。
 戦場と子ども達を隔てるのは、たった一本の木。
 激しい戦闘の音も、耳を掩いたくなるような獣の叫びも、すべて確実に子ども達の耳に届いている。
(耐えろよ。怖いだろうけれど、頑張れ。……出て来るな)
 祈るように願う是清の傍ら、大局を眺めていたよつろがぼそりとつぶやく。
「あの子達、不味いんじゃないかしら。確実に誰かは死ぬわよ」
「死なねェよ。──護るから」
 決意じみた言葉。その想いに嘘はない。
 しかし戦いに加わる猟兵達の想いも様々で、カツィカを誘導しようとする者と、一定の考えの元に攻撃を続ける者とでは方向性が異なっている。
 結果、カツィカは足止めを受け、未だ子ども達を攻撃し得る範囲内に留まっていた。
 今は攻撃を上手く反らしてはいるが、その間にもすり減る子ども達の精神力が、いつまで持つか――。
「ねえ、ちょっとアレの注意を逸らしてくれる」
 よつろの召喚したドラゴンが、主の命に応じるように大きく翼を羽ばたいた。
「頼んだ。……御前も、気をつけろよ」
「あら、殊勝な言葉をありがとう」
「そういうンじゃねえ……」
 捨て身覚悟で突っ込んだドラゴンが、派手に炎を吐きかける。その直中を駆け、是清は急激にカツィカに接近した。
(チビどものことは四辻路、御前に任せる)
 絲を滑らせ、躍り掛かる。
「云っただろ、此処から先は通行止めだ」
 是清の鋼糸を腕で受け止め、カツィカは嗤うように牙を剥き出した。

 信頼の元、よつろは振り返ることなく駆け出した。背には鈴丸が影のように寄り添っている。
 木へ駆け寄ったよつろは、隠れていたラウルを抱えた。
「うわぁっ」
「静かに」
 今のは拙かったか――よつろはすぐさま木陰から飛び出した。
 ちらりと一瞥すれば、獣が咆哮をあげ、高速でこちらへ向かってくる姿が見える。
「鈴丸」
 主の意図を理解したように、男は太刀を構えて敵を待ち受ける。
 その周囲を突然、どこからともなく現れた幾人もの子ども達が駆け回った。
 カツィカは現れた子ども諸共、先ほどまでよつろ達がいた木に突っ込んだ。びりびりと空気が震え、よつろに抱えられたラウルが息を呑む。
「残念、ハズレだ」
 是清が依り代で以て作り出した偽物が、逃げるように見せかけカツィカの周囲を駆け回る。
「往かせねェ」
 腕を振り抜けば、白銀の光を弾きながら、絲がカツィカの腕を刻もうとする。
 振り払う太い腕をすんでのところで躱し、是清は即座にカツィカに突っ込んでいく。
「任せたわよ」
 よつろはぼそりと呟き、兄妹の元へと駆け寄った。
「いい? 誰一人死にたくないのなら、私がいいと合図するまで出てきてはダメ」
「でないと全員、一生後悔する羽目になるわ」
「な、なにするの?」
「怖い……もうやだよ」
「このままここにいれば、全員危険なの。死にたくはないでしょう?」
「…………」
 不穏な言葉ではあるが、間違い無く真実だ。
 子ども達が口を噤む。長い沈黙に、自然と吐息が漏れそうになる。
 妹を強く抱き締めたまま、シオンが震える唇を開いた。
「俺が……二人を見てる。それでいい?」
「約束できる?」
「あなたの声が聞こえるまで、二人の手を離さない」
 シオンは頷き、ラウルの手を掴んだ。
「ずっと三人一緒だった。一緒にいれば怖くない。……みんなで、花を見に行くんだ」
 強く、強く、想いを込めてシオンが二人の手を握る。
 やがて二人は、無言のままその手を握り返した。
「いい子ね。さあ、これに触れて」
 細い指で髪を掻き上げると、この夜の色を吸い込み艶めく白珠が露わとなる。
 三人は不思議そうに手を伸ばし――吸い込まれるように、姿を消した。
「回収したわ」
「お疲れ」
 是清の元へ戻ったよつろは、カツィカに近付き過ぎないよう気を払いながら、再びドラゴンにも似た死霊を呼び出した。
「残念だけど、二度目の人生もここでお終いね」
 吐きだした炎が、露のように是清の絲を這う。
「眠れ獣、過去へお還り」
 灼熱の鋼糸が、カツィカの肉を幾重にも切り裂き焼いてゆく。
 強欲にまみれた魔獣の咆哮が、戦場に響き渡る。
 ――戦いの終わりは近い。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

三嶋・友
ここまでは何とか間に合った!
なら…詰めを誤る訳にはいかないよね
子供たちは最後まで絶対に守り抜かなきゃ!

真の姿を開放
黒騎士となり、孤蝶乱舞でさらに力を強化する
常に満たされぬ虚ろを抱えた蝶達よ…呪獣を喰らいて力と為せッ!

子供たちの位置を敵に気取られないように果敢に攻めて気を引くよ!
攻撃の余波だけでも洒落にならなそうだし、出来れば引き離したい
万一子供たちが狙われる、巻き込まれる場合はダッシュで駆け寄り庇う
他の猟兵とも勿論連携を
動きが封じられた猟兵が狙われたらそれも庇うよ

呪獣の一撃を受けても怯みはしない
呪詛?今更だね
私は黒騎士だよ
その強撃の隙にこそ、捨て身の連続斬りを叩き込んであげるからッ!



「ここまでは何とかなった……なら、詰めを誤る訳にはいかないよね」
 子ども達は他の猟兵によって保護されてはいるが、その者がカツィカの攻撃に曝されれば、より危険な事態にもなり得る。
 己が手に届く、守りたいもののため――決意を秘めた友の瞳の奥に、赫い光が宿った。
「子供たちは最後まで絶対に守り抜かなきゃ!」
 孤蝶から解き放たれた無数の蝶が、嵐の如く弧を描き友の体を包み込む。
 乱れ飛ぶ幻影は、一匹残らず漆黒の闇に吸い込まれてゆき――やがてその虚無の只中に、赫く妖しい光が瞬いた。
 ぼろぼろのマントに、傷だらけの甲冑。
 闇を纏い現れたその騎士は、歴戦の戦士の如き風格を持つ。
「常に満たされぬ虚ろを抱えた蝶達よ……呪獣を喰らいて力と為せッ!」
 兜の奥の瞳が、より強く妖しい光を放った。
 無数の蝶の幻影が現れ、黒騎士の禍々しき力をより強くする。
 真の姿を開放した友は、その眼に鋭くカツィカの姿を捉えた。
「どこ行くの? あなたの相手は私がしてあげるよ!」
 孤蝶の柄を握り直し、友は猛然と呪飾獣へ向かっていく。
 その殺気に気付いたか、別の猟兵に襲おうとしていたカツィカが身を翻した。
 不完全ながらも強大な呪詛を纏った爪を、友目掛けて振り下ろす。
「呪詛? 今更だね。私は黒騎士だよ」
 捨て身で突っ込んだ友は、カツィカの重い一撃を受け止めた。
 それでも怯むことなく、切先を振り上げる。
 流れるような速さで連続して叩き込まれる剣戟が、胸部を斬り裂く。
 ぼとぼとと紅い血で地面を濡らしながら、カツィカはいよいよ怒り狂ったように唸りを上げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

サフィリア・ラズワルド
WIZを選択

人だったモノ……私もいつかあんな風になっちゃうのかな、姿だけじゃなく心さえも別のモノに……ううん、今はそんなことを考えてる場合じゃない!

ドラゴンから人の姿に戻りペンダントを竜騎士の槍に変えて子供達の前に立ちます。翼を広げてできるだけ子供達が敵に見えないようにします。

『少しでも近づいたら容赦しない』

【竜の咆哮】を使い動きが止まったところで突撃し【串刺し、鎧砕き】で攻撃します。無理をせず苦戦するようなら引いて子供を守ることを優先します。

アドリブ歓迎です。


キャロライン・ベル
……あれは貴方とは大違いね、ライオンさん
獣は獣でも、ああなっては最早――

心通わぬ存在と成り果てたもの――荒ぶ凶獣は、ここに鎮めてみせましょう

引き続き子供達の庇護を最優先
ライオンライドに真の姿の力を重ね、炎や氷の属性攻撃も用いて敵を牽制
子供達の所へ通さぬように立ち塞がり続けます
それが反って敵の気を引き子供達が危険なら、前後左右を駆回り撹乱を

敵の高速移動や咆哮も警戒
放たれてからではきっと遅い――ならば視線や挙動を常に観察して次動作や射線読み、身を呈し子供達を護る盾となりましょう

三人揃って笑い合える時間を
幻の花を探す冒険を
必ずまた、彼らに――

・真の姿
光輪と翼、二又の尾を持つ大きな猫に

※アドリブ歓迎


月永・由良
※アドリブ等も歓迎

呪詛に溺れた獣か
子らに禁忌の力など見せたくは無かったが――あんなものに出てこられては台無しも良い所だ

せめて恐怖が少しでも早く終わるよう、私も力と姿を放しよう

リザレクトの二体を前衛とし、前後左右からフェイント交えつつ牽制

子らの気配察す暇すら与えぬよう、一撃一撃に強く呪詛込め入替わり立替わり攻撃

私はそれらが消えぬよう後衛に回り、黒い外套纏い影に紛れつつ攻撃回避を図る
但し子らから離れすぎぬ範囲で、危険なら即刻護りに飛び出す

呪縛被弾時は呪詛で抗い相殺出来ぬか図る

くれてやるのは死のみ
命は一つ足りとも渡さない

※真の姿に近付く程、牙や爪や眼光が鋭く――忌まわしき吸血鬼の気配が濃くなり行く身



 血を流し、肉を削がれてなお暴れ狂う。
 獰猛な獣は絶えず獲物の血と断末魔を求めるように、渇いた眼を鈍く輝かせていた。
 炎に捲かれながら咆哮するその様を、白銀のドラゴンの双眸がじっと捉えている。
「あれが、人だったモノ……」
 いつだったか自分に向けられたあの言葉は、こういうことを意味していたのだろうか。
 ――お前はいつか本物の竜となる。人の姿など、不要だ。
 その言葉は不思議と深く心に刻まれ、まるで呪いのように今も胸の奥深くに残っている。
「私も、いつか……ああなるの?」
 姿だけでなく、心さえも――こぼれたその呟きに、答える者はない。
 サフィリアははっと目を見開き、頭を振った。
「……ううん、今はそんなことを考えてる場合じゃない!」
 変身を解き、ドラゴンから人の姿へと戻る。
 ペンダントを手に取ると、深い青の鉱石は忽ち竜騎士の槍へと変化した。
「子ども達は、私が守る……!」
 サフィリアは子ども達を守護する猟兵の前に立つと、覆い隠すように翼を大きく広げた。
「少しでも近付いたら容赦しない」
 槍を構え、カツィカをまっすぐに睨み据える。
 しかし牽制にたじろぐような獣ではない。カツィカは咆哮し、サフィリアへと肉迫した。
 その瞬間、ドラゴンの咆哮が夜空を震わせる。
 一瞬、足を止めかけたカツィカの元へ、槍を構えたサフィリアが突っ込んでいく。
「……あれは貴方とは大違いね、ライオンさん。獣は獣でも、ああなっては最早――」
 嘆くように息を吐き、キャロラインはゆっくりと瞼を閉じた。
 滲むように淡い光が溢れ出し、キャロラインの艶やかな毛並みを彩ってゆく。
 突如、内包する光が爆ぜるようにキャロラインを包み込んだ。
 一瞬で闇に溶けた光は、その頭上に温かな光輪を、そしてその背に柔らかな翼を与える。
 とすり、と一歩進み出る。
 二叉に分かれた尾が、キャロラインの心情を表すようにゆらりと揺れた。
「心通わぬ存在と成り果てたもの……荒ぶ凶獣は、ここに鎮めてみせましょう」
 主より力を得た金色のライオンが、応じるようにぶるりと大きく体を震わせる。
 彼女らは子ども達を庇護する者の元へ、呪獣が向かうのを塞ぐように立ちはだかった。
 炎を宿したルーンソードを手に、カツィカ目掛け突っ込んでいくサフィリアに続く。
 穿たれた槍に咆哮し、カツィカは大きく広げた手でサフィリアを薙いだ。
 続けざまに飛び出したキャロラインの一撃が、焼け焦げた毛皮から鮮血を滲ませる。
「呪詛に溺れた獣か。子らに禁忌の力など見せたくは無かったが――あんなものに出てこられては台無しも良い所だ」
 猟兵達が果敢にカツィカに挑む様を映していた由良の瞳に、昏い闇の色がじわりと滲み出す。
 銀の双眸は艶めかしく輝き、夜闇にうっすらと輝いて見えた。
「せめて恐怖が少しでも早く終わるよう、私も力と姿を放しよう……」
 つぶやくその唇の端から、妄りに牙がこぼれる。
 衝動を力で抑え込むように、由良は眼を閉じ、口元に手を宛がう――ぎしぎしと歪な音を立て、五指の長く鋭い爪が、その白い肌を彩っていく。
 鬱々とした忌まわしい気配が、彼女が何の眷属であるのかを露わにしていた。
「……さあ、往こう」
 その身からずるりと分かたれるように、死霊達が姿を現した。
 騎士はだらりと下げた手に剣を握り、その傍らを蛇竜が這い進む。
 由良は黒の外套に深く身を包み、闇に溶けるようにカツィカの背後へと回り込んだ。
「くれてやるのは死のみ。命は一つ足りとも渡さない」
 真っ向から挑むサフィリア、その脇から変則的に攻撃を加えるキャロラインとライオンさん。
 そして背後からは由良の死霊が、隙を与えぬよう次々に攻撃を加えている。
 キャロラインは常にカツィカの挙動、そして割れた仮面から覗く獣の眼に注視し、強く警戒していた。
 幾人もの猟兵達の猛攻によりここまで追い詰められたカツィカの眼には、憤怒と苛立ちとが混在している。
 戦場ではいつどう転ぶか分からない。守りたいものを守るには、攻撃を放たれてからでは遅いのだ。
 カツィカが口を大きく開き、咆哮を上げようとする。
 その瞬間、懐に潜り込んだキャロラインが、鋭く剣を突き上げた。
「三人揃って笑い合える時間を……幻の花を探す冒険を、必ずまた、彼らに」
 声帯を割るように穿たれた切尖が、深く、深く肉の奥へと飲み込まれてゆく。
 カツィカの咆哮が途切れる。
 忌々しげに歪む呪獣の眼から、ゆっくりと光が消え失せた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『闇に咲く花』

POW   :    言い伝えを信じ、森中を踏破

SPD   :    周囲の町や村から情報収集

WIZ   :    自分の魔法や、夜の動物たちに協力してもらい情報収集

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 吹き荒ぶ風に、森の木々はさざめいていた。
 枝の先が揺れ、零れ落ちた雪がばさりと音を立てる。
 月光射す夜の森に、夜啼く鳥の聲が微かに響き渡り――雪に閉ざされた森は、漸く静けさを取り戻していた。

 けれど今夜はいつもとは違う、特別な夜。
 耳を澄ませば、雪を漕ぐ幾つかの足音が聞こえてくる。

 ある者は花の香を纏う風に導かれ。
 またある者は動物の聲に耳を傾けて。
 そしてまたある者は、伝え聞いた言葉を頼りに。
 其々幻の花を求め、雪の森を彷徨い歩く。
 
【言い伝え】
『月光を浴びて花開く』
『二つの月が顔を合わせる場所に群生している』

【NPC】
 ラウル、リィン、シオンが存命です。
 第一章、或いは第二章にて関りを持った方々は、『話をする』『一緒に行動する』『案内を頼む』などの行動が可能です。
 それぞれ冒険者(猟兵)達に感謝の気持ちを抱いていますが、中にはそれ以外の『特別な感情』を抱いている者がおります。
 心当たりがおありの方は、何らかのアクションをしてみるのも良いでしょう。

【三章のみ参加の方】
 NPCのリィンに尋ねれば、花の香りがする大体の方向を教えてくれます。
 参加理由は特に必要ありません。もし理由が必要であれば、ふるるに誘われた等自由にどうぞ。
 お友達と一緒に参加される方は、お相手様の呼称とキャラクターIDをご記載頂くか、【チーム名】をご記載ください。

【補足事項】
 能力値別に記されたアクションは、ただの一例です。思うまま、お好きなように行動してください。
 探索せずに、花を見つけた状態からのプレイングでも大丈夫です。
エルス・クロウディス
はー……何とか終わった。
最後はちょっとしくじったなぁ、ケガだけで済んで御の字……何はともあれ、
「皆、無事でよかった」
こっちは、ケガとかしてないか?
咄嗟にとはいえ、突き飛ばしちゃったリィンには謝っとかないと。
後、皆に怖い思いをさせてごめんってのも。
そしたら、次は楽しいことを、だ!

と、言いましても。
正直俺は頭使うの、得意じゃないので。
大人しく言い伝えを信じて探索ですかねー。
ここまで来たら子供たちも見るまで帰れないだろうし、皆で考えながら探そうか。
歩けないーとかあったら、肩車、おんぶ、お姫様抱っこに俵担ぎまで、手段も人手も十分あるぞー。

……最後のは文句言われそうだな。



(はー……何とか終わった。最後はちょっとしくじったなぁ)
 怪我だけで済んで良かったと、エルスはまだ違和感の残る背中に手を伸ばす。
「あの……エルスさん」
 控え目に声をかけてきたのは、ラウルだ。気遣うように、エルスの様子をじっと窺っている。その隣には、リィンとシオンの姿もあった。
「みんな無事でよかった。そっちはケガとかしてないか?」
「大丈夫です。エルスさんが助けてくれたから」
「私も、ケガしてないよ」
「妹と友達を助けてくれてありがとう」
 口々に礼を言われ、エルスも少し照れ臭そうに頬を掻く。
「いや……リィンは、咄嗟にとはいえ突き飛ばしちゃって悪かったな。本当に痛いところないか?」
「ふふ、うん。大丈夫!」
「エルスさんの方がケガしてるのに……へんなの」
「ケガ? このくらい、どうってことないぞ」
 笑い飛ばすようにそう言って、エルスは肩を回してみせる。
「え、本当に?」
「ああ」
「え、うそだよね? 血出てたし……薬草持ってるから、これ使って? 我慢しないでね??」
「んん? いや、我慢とかは別に……」
「ねえ、私が手当てする? 寒いから家に来る??」
「リィンの家は怒られるし、俺の家でしよ?」
 どうやらラウルとリィンに思い切り心配されていたらしい。エルスは押しつけられた薬草入りの袋を手に取り、苦笑する。
「いや、本当に手当てはいいんだ。それより、怖い思いをさせてごめんな」
 思いがけないエルスからの謝罪に、子ども達も慌てて首を横に振り、再びお礼大会が始まった。
「よし、ごめんもありがとうもこれで終わり! 次は楽しいことを、だ!」
「楽しいこと?」
「何かするの?」
「何って、花を探しに行くんだろ?」
「ほんと!?」
「やったー!」
(正直、頭使うのは得意じゃないんだよな……でもここまで来たら、みんな花を見るまで帰れないだろうしな)
 大盛り上がりする子ども達を眺めながら、エルスは首を捻る。
「二つの月が顔を合わせる場所……だったよな。一緒に考えながら探すか」
「うん!」
「歩けなかったらおぶってやるから、遠慮なく言えよ」
「えっ」
「ケガは??」
「だから大丈夫だって。肩車でも、お姫様抱っこでも、俵担ぎでも、どーんとこいだ」
「ねえ……ちょっと、見てもいい?」
 不審に思ったらしいシオンが、エルスの背後に回り込む。
「すごい……冒険者って本当にすごい」
 シオンの様子を窺っていたリィンとラウルが、競うように手を挙げる。
「私お姫様抱っこがいい!」
「じゃあ俺肩車!」
「えっ……じゃあ俺、俵担ぎ? いや、おんぶ?」
「あれ、全員……? 手が足りないから、順番でいいか?」
 予想以上にノリのいい――というより遠慮のない子ども達に、エルスは笑いながら応じてやる。
 幻の花探しの冒険は、予想以上に賑やかなものになりそうだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

白咲・朝乃
【WIZ】
ただ楽しめればいいので、皆で楽しく探す。

ユーベルコード【絆の音】でぷいぷい召喚。
「ぷいぷい!一緒に探すよ!」
(もきゅ!と鳴きます)

ふるるちゃん(f02234)のわんわんさんも誘って一緒に探検。
※ふるるちゃん乗っててもOK!
「私は朝乃。よろしくね」

ラウル君に声かけてみよう。
怖がってたけど今は大丈夫かなぁ。
「お花探し、私も混ぜてもらえる?」
子供たちも自分で見つけたほうが嬉しいよね。
探しつつも子供たちの探検を見守ろう。

リィンちゃんはお花の香りわかるなんてすごいね!
妖精さんみたい!

しかし寒いね。ぷいぷいやわんわんさんで暖まりながら探索。

幻の花見つけたら目に焼きつけておこう。
きっと素敵な景色。



 
「ぷいぷい!一緒に探すよ!」
「もっきゅ~!」
 朝乃に呼ばれ、ぷいぷいがぷい~んっと謎空間から飛び出した!
 もっさりと積もった雪をもぷもぷ満喫するぷいぷいに、ふるるが目を輝かせる。
「ふわぁぁ、まっしろもふもふ!」
「ふるるちゃん、私は朝乃。こっちはぷいぷいだよ、よろしくね!」
「あーちゃとゆきぷー! ふるるとわんわんさんだよ、よろしくね!」
「……え?」
「……もきゅ?」
 首を傾げる朝乃とぷいぷいを、わんわんさんの背に飛び乗ったふるるが笑顔で手招く。
「あーちゃ! ゆきぷー! ゆきんこごっこしよ!」
「ぷいぷい、あーちゃにゆきぷーだって!」
「もきゅ? もきゅもきゅぷきゅきゅ~!」
 原型がないこともない渾名を付けられ、困惑顔で顔を見合わせる朝乃とぷいぷい。
「もきゅっ! もきゅきゅ!」
「もきゅきゅ~!」
 抗議するぷいぷいに、ふるるはなぜかもきゅもきゅ言い始める。
 朝乃はしばらく微笑ましげに二人を眺めていたが、何者かの視線に気が付き振り向いた。
 木陰からこちらを見ているのは――ラウルだ!
「あ、ラウル君! お花探し、私達も混ぜてもらえる?」
「あっ、朝乃さん……!」
 ラウルはなぜか顔を真っ赤にして、口をぱくぱくさせている。
 戦闘中は怯えきっていた彼だったが、もう大丈夫そう――いや、それどころではなさそうだ。
「ぜ、ぜひ! 一緒にいたいです!!!」
 ――そう。山賊もなかなかのものだったが、ラウルもまたちょろかった。
 ちなみにリィンは、ラウルの隣で朝乃をじっと見つめている。ものすごい無表情で。
「よーし、それじゃあ頑張って皆で幻の花を探そう!」
「は、はいっ!」
「もきゅっ!」
「お~っ!」
「…………」
 ここに幻の花探索・朝乃分隊が結成された!
「リィン、花の匂いはする?」
「うん! えっと……あっちかな?」
 ラウルに声をかけられ、リィンはにこにこしながら花の香がする方を指さした。
 きゃっきゃしながら歩き出す子ども達を、朝乃も笑顔で見守る。
「リィンちゃんはお花の香りわかるなんてすごいね! 妖精さんみたい!」
「…………」
「……リィンちゃん?」
「…………、…………」
 なんでかな? なんでだろう。朝乃は無視されている!
「ねえ、ぷいぷい……リィンちゃんが無視するよ。どうしてだと思う?」
「もきゅもきゅぴきゅきゅ! もっきゃ~!」
「わたしもそう思う~」
「もきゅっ!」
「……!」
 えっへんとドヤるぷいぷいの隣で、なぜか一緒にえっへんするふるる。
 朝乃は若干衝撃を受けたような表情で、ラウルとリィンを交互に見た。
 ともかく、あれこれの事情で無視はされたが、感謝はされているはずだ。……一応、案内はしてくれているし。
「ええと……それにしても寒いね?」
「もきゅきゅ~!」
「わんわんさん、ご~!」
 朝乃の右頬にぷいぷいがもっふりと埋まり、それを真似ようとしたわんわんさんが、そこそこデカい体で朝乃に飛びかかった!
 ――が、キャッチされてそのまま抱っこされてしまう。
「は~、どっこいしょ」
 老体に鞭打ち舞い上がったふるるが、抱っこされたわんわんさんの背中にダイブした。
(ふふ、賑やかで楽しいな)
 ――幻の花見つけたら、しっかりと目に焼きつけよう。
 それはきっと心に残る、素敵な景色のはずだから。
 朝乃はぷいぷい達にくっつかれながら、子ども達の後を追って歩いてゆく。
 点々と続く足跡は、朝乃達が守った未来へと続いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

新堂・ゆき
3人共に無事でよかったです。怖い思いをさせてしまってごめんなさい。
よく頑張りましたね。
私は新堂ゆき。こっちはからくり人形の月照丸といいます。
器用に人形繰りをして人形にお辞儀をさせる。
幻の花があると聞いているのですが、ご兄弟に案内をお願い出来ますか?
花のある場所に到着して、花を静かに見つめていたら、自然と涙が。
ああ、すみません。悲しくてないてる訳じゃなくて。
綺麗なものをみれたのが嬉しいから。
何か尋ねられた時は、きっと嬉し泣きです。兄弟3人に優しく微笑んで。
私が血にまみれている間はこんな事にも気がつけなかったのでしょうね。
よき時間をありがとう。また村に立ち寄らせて下さいね。



 
「三人共に無事でよかったです」
 優しく微笑みかけるゆきに、子ども達も安堵の笑みを見せる。
「怖い思いをさせてしまってごめんなさい。よく頑張りましたね」
「ううん、助けに来てくれてありがとう」
「冒険者さんだよね? すごく格好良かった……!」
「ありがとう、お姉ちゃん!」
 口々に礼を述べる子ども達に、ゆきもまた安堵し、笑みを深めた。
「自己紹介がまだでしたね。私は新堂ゆき。こっちはからくり人形の月照丸といいます」
 器用に糸を繰り、からくり人形にお辞儀をさせる。
 人と見紛う動きを見せる月照丸に、子ども達は目を丸くした。
「すご~い、どうやって動かしてるの?」
「ふふ、こうですよ」
「え、わかんない! もう一回!」
 ゆきの人形繰りに、子ども達は身を乗り出して楽しそうにしている。
「そういえば山奥に幻の花があると聞いているのですが、案内をお願い出来ますか?」
「うん、いいよ!」
「リィンが匂いのする方向がわかるんだ。ね?」
「うん! リィン達と一緒に行こ!」
 すっかり打ち解けた子ども達と共に、ゆきは導かれるように雪山の奥へと進んでいった。

 降り積もった雪や木々に秘されるように、その花は咲いていた。
 足跡一つない雪を踏みしめたゆきは、まるでそこ一帯がまばゆい光に包まれているような錯覚を覚える。
「なんて美しい場所……」
 薄氷の張った泉のほとりにしゃがみ込み、月光を受け銀に輝く花をぼんやりと眺める。
 自然とゆきの頬を、涙が伝い落ちた。
「……ねえ、ゆきさん。どうして泣いてるの?」
「ああ、すみません。悲しくて泣いて訳じゃなくて、綺麗なものを見れたのが嬉しいから……そう、これは嬉し泣きです」
「そっか……嬉しくても泣くんだ」
 優しく微笑むゆきに、子ども達は何かしら感じ取った様子で顔を見合わせる。
 子ども達はゆきの傍に寄り添うように、しゃがみ込んだ。
「お父さんも、お母さんと結婚するとき嬉しくて泣いたって言ってたよ」
「えー、ラウルのお父さん泣くの?」
「くまみたいなのに?」
「人間だもん」
「……ふふっ」
 子ども達の会話につい笑みを漏らしながら、ゆきはまた光纏う花に視線を向ける。
(血にまみれている間は、こんな事にも気がつけなかったのでしょうね)
 瞳に焼き付けるように見つめ、ゆきはゆっくりと瞼を閉じた。
「今夜はよき時間をありがとう。また村に立ち寄らせて下さいね」
「うん、また来てね」
「今度はもっと綺麗な場所を探しておくね!」
「俺も手伝う。次に村へ来たとき、一緒に行こうよ」
「ええ、きっとそうしましょう」
 淡く包み込むような光の中、ゆきは子ども達と微笑み合った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

サフィリア・ラズワルド
子供達を見ながら『兄妹と幼馴染かぁ』と呟いてふと思います。私が自由になったあの日、本当に助かったのは自分だけだったのかな?同じ実験体の友人とも兄弟とも呼べる仲間がいたのはずなのにあの日は彼らの影も形もなかった、もしも生きているなら……

近くにいたふるるさんに『いなくなってしまった兄弟や友人に会えるとしたらふるるさんは会いたいと思いますか?別の姿になって面影もないかもしれないけど会いたいと思いますか?』と花に目を向けたまま尋ねてみます。

後に作成予定のユーベルコードのフラグ的な感じです。

アドリブ歓迎です。



「兄妹と幼馴染かぁ……」
 他の猟兵と話す子ども達の姿を眺めるうち、サフィリアの唇から自然とそんな言葉がこぼれた。
(自由になったあの日、本当に助かったのは私だけだったのかな?)
 彼女にも嘗て、友人、或いは兄弟とも呼べる存在がいた。
 けれど同じ実験体として囚われていたはずの彼らは、サフィリアが解放されたあの日、なぜかどこにも姿が見当たらなかったのだ。
 サフィリアは咲き乱れる花の光に呑まれるように、自身の考えに没頭していく。
(もし……もしも、生きているなら――)
 ふと顔を上げると、雪でぺたぺたと遊ぶ、ふるるとわんわんさんの姿が目に入った。
「……ふるるさん」
「は~い」
「もしもいなくなってしまった兄弟や友人に会えるとしたら、ふるるさんは会いたいと思いますか?」
「いなくなったひと? う~ん……会えるなら会いに行くかなぁ」
「もし別の姿で、元の面影すらなくても……?」
「……?」
 花に目を向けたまま尋ねるサフィリアを、ふるるがじっと見つめる。
「それがほんとうに本人で、会えるというなら……会うんじゃないでしょうか」
「……そうですか」
 自然と無言になり、またふるるはぺたぺたと雪で遊び始める。
 サフィリアはそれ以上なにも語ることなく、ただじっと幻の花を見つめていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と共に
子等を怖がらせないよう留意しておく
ああ、その…、無事で良かったな

後は、いつもの通り師を左肩へと乗せ
天に一つの月なれば
双つが出逢える場所は――
みなまで言わずとも、頭上で師の笑う気配
俺も花の香くらいは探してみよう


出逢えたなら
灯るような雪へと跪いて師を降ろし
暫し、そのまま群れ咲く花を
触れることはせずに眺める

…まぼろしの、と
呼ばれる意味が解った気がするな

月あかりに並んで光る花と貴石に
淡々と零れるは、あの子等と変わらなそうな疑問

なあ、師父よ
凍え彷徨ったさきに
斯様な――うつくしいものに逢ったならば
其れは何と呼ぶだろうか

師の答えに返すべき言葉の代わりに
ほんの僅かな笑みが浮かぶ


アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
先ず童達の無事に安堵
怖かったでしょう、良くぞ耐えました
コミュ力を駆使して話掛け本題へ
…この辺りに水を湛える場所はあるでしょうか?

会話の後、特等席たる肩を陣取る
月光浴びる場所、二つの月――ふふ、お前も勘付いておろう?
微かな花の匂い、水の音、何でも良い
童達からの情報も元に森を進む
天空の月を映す水面の月、二つの月が微笑む場所
香り立つ花の絨毯を見つけたならば自ずと笑みも深まろう
地に降り立ち、指先で花を撫ぜる
…なるほど、これは美しいな

…如何した、ジジ
双眸煌かせる従者の紡ぐ疑問
それは童の様な愛らしさを秘めて
そうさな…難しいが敢えて言葉にするならば
『救い』――お前も、報われたのだろう?



 
 無事な姿を見せた子ども達に、アルバは微笑みかけた。
「怖かったでしょう、良くぞ耐えました」
「ああ、その……、無事で良かったな」
 子ども達を怖がらせぬようにと、ジャハルは控え目に告げるが――。
「助けに来てくれて、ありがとうございました」
「ありがとう、お兄さん!」
 心配したほど恐れる様子もなく、子ども達はアルバとジャハルに笑顔を見せた。
「三人とも、怪我はありませんか?」
「大丈夫だよ。冒険者さん達が守ってくれたから」
「冒険者さん達は? ……怪我はないの?」
「ええ、私達も無事ですよ。ねえ、ジジ?」
「……ああ、大事ない」
 その返答に、心なしか安堵したようにラウルが頷く。
「ところで、この辺りに水を湛える場所はあるでしょうか?」
「水……? あ、そう言えばこの先に湖があるんだ。危ないからあまり近づかないように言われてるんだけど……」
「なるほど、普段は近づかない湖ですか……」
「…………」
 アルバがふと笑みを見せる。
 ジャハルもまた何かしら察した様子で、アルバへと視線を送った。
 他の猟兵らに声をかけられた子ども達に別れを告げると、アルバは雪深い森の奥へと視線を移す。
「さて……では参るとするか。ジジ」
「承知した」
 ジャハルは軽々とアルバを抱え上げ、慣れた様子で左肩に乗せた。
 雪を踏み鳴らし、子ども達が示した方へと歩き出す。
「月光浴びる場所、二つの月――ふふ、お前も勘付いておろう?」
「天に一つの月なれば、双つが出逢える場所は――」
 頭上でふと笑う気配を感じ、ジャハルは微かに顎を引く。
「俺も花の香くらいは探してみよう」
 吹き付ける風に花の香を探り、凪いだ景色に耳を澄ます。
 ――目指すは天空の月を映す水面の月、二つの月が微笑む場所。
 二人はゆっくりと、けれど確実に幻の花の元へと近づいていった。

 森を奥へ奥へと進んでゆけば、気まぐれな風に乗り届く花の香が、次第に濃くなってくる。
 やがてアルバとジャハルは開けた場所へ出た。
 途端に溢れる優しい光に、アルバが大きく目を瞬く。
「ほう、これは……」
 二人の瞳に映るのは、穏やかな湖に、淡く光り輝く花の園。
 銀の光を帯びた花々は、雪灯りよりも眩く辺りを照らし出している。
 ジャハルはその場に跪き、アルバを香り立つ花の絨毯に降ろした。
「……なるほど、これは美しいな」
 細い指先で、そっと花を撫でる。
 花茎の先に並ぶ小花の総が鈴のように揺れ、ふわりとアルバの頬を照らし出す。
「……まぼろしの、と呼ばれる意味が解った気がするな」
 湖の畔に咲き乱れる花とアルバを眺めていたジャハルが、ふと口を開いた。
「なあ、師父よ」
「……如何した、ジジ」
「凍え彷徨ったさきに、斯様な――うつくしいものに逢ったならば、其れは何と呼ぶだろうか」
 まるで童のように双眸を煌めかせるジャハルに、アルバはゆるりと目を瞬く。
「そうさな……難しいが敢えて言葉にするならば『救い』――お前も、報われたのだろう?」
 風に揺られ、幻の花が鈴のような清かな音色を奏でる。
 ジャハルの目元が和らぎ、その顔にほんの少しだけ、笑みが浮かんだ。
 風が響かせる鈴音と、辺りを包み込む柔らかな光。
 美しい世界が二人を彩っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

コノハ・ライゼ
ああ、良かった
これで心置きなく楽しめるネ
雪の森を探索するのも、わくわくしてイイじゃナイ

血で汚れた姿はあまり見せたくないし
子供達の無事を確かめたら遠くから軽くシオンに声掛ける
「この森に、空がぽっかりひらける位の湖はある?」
顔を合わせる、といえば水鏡かと思ってネ
無いならまあ地道に歩いて探そうか

雪の森、月光の下で咲く花はどんな姿形をしているのだろうね
きっと輝くように綺麗だし、芳香も素晴らしいのだろう
言い伝えられる程の物なんだから

出会えたら手折らぬよう触れてみる
その姿も匂いもしっかりと記憶して
誰かに伝えられるとイイなあ

(アドリブ歓迎)



 
 ――ああ、良かった。これで心置きなく楽しめるネ。
 子ども達が他の猟兵達と話す姿を確認すると、コノハは少し遠くからシオンに声をかけた。
「ねえ、シオン。ちょっとイイ?」
「あ、コノハさん!」
 ――血で汚れた姿は、あまり見せたくはない。
 そう思ってのことではあったが、シオンは気にした様子もなく、コノハの姿を目にするなり駆け寄ってきた。
「どうしたの?」
「聞きたいことがあってネ……この森に、空がぽっかりひらける位の湖はある?」
「空がぽっかり……?」
「顔を合わせる、といえば水鏡かと思ってネ」
「あ、なるほど! それならこっちだよ。前に父さんについて狩りに行ったとき、見たことがあるんだ」
 一人で地道に歩いて探そうかと考えていたコノハを、シオンは当然のように先導しながら歩き出す。
「シオン、みんなと一緒にいなくてイイの?」
「え、一緒に行っちゃだめ?」
「そんなことないケド……」
「俺も花が見たいんだ。邪魔はしないから」
 シオンはそう言って、ニッと笑った。
 興味を抱かれたのか、或いは懐かれたのか――続く言葉はなかったけれど、シオンの眼差しからは、コノハに対する何かしらの好意らしきモノが窺える。
「まあ、イイか……君が気にしないなら、こっちも気にしないヨ」
 へらりと笑って、コノハは少年の足跡にさくりと自分の足を重ねる。
「雪の森を探索するのも、わくわくしてイイじゃナイ」
「うん、俺も夜の森ってなんかわくわくする」
 二人は言葉少なに、まっさらな雪にぽつぽつと足跡を残していく。
 吹きすさぶ風にきらきらと雪の結晶が舞い上がり、蒼く輝く世界を彩った。
 頬に触れた結晶の冷たさに、コノハはふと瞳を細める。
「ああ……甘い匂いがする」
「見て、コノハさん。あそこだ」
 シオンがきらきらと目を輝かせて、指をさす。
 その先には雪灯りとは明らかに違う、滲むような淡い光が溢れていた。
「あらら、ホントに輝いてるヨ」
 導かれるように歩み寄る。
 ぽっかりと開けた夜空の下。
 二つの月が顔を合わせる場所。
 穏やかな湖を囲むように、銀に輝く花が咲き乱れていた。
「これが幻の花か……なんだか、ちっちゃな提灯みたいだネ」
 花茎の先に、小さな鈴を総のように結わえた愛らしい花。
 釣り鐘形の小花は、風に吹かれるたびぶつかり合い、微かな鈴音を響かせる。
 コノハはふっと表情を緩め、手折らぬよう指先で軽くつついた。
 まるでお辞儀でもするように、ゆらゆらと揺れる。
 深呼吸するように息を吸えば、爽やかで甘い芳香が鼻腔を満たしてゆく。
(しっかりと記憶して、誰かに伝えられるとイイなあ)
 滲み出る淡い光を目に焼き付けて、コノハはそっと瞼を閉じた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

四辻路・よつろ
是清(f00473)と

耳飾りに触れ、約束通り子供たちに合図
説教はしたくないけれど、仕方ないわとため息を一つ

いい?勇敢と無謀は違うの
三人、ずっと一緒にいたいのなら
もうこんな無茶はしない事
約束してくれる?
この手を離したりしない――ってそこ!笑ってないで
あなたも何か言いなさい!

これも何かの縁だし
子供3人をこのまま夜道を歩かせるのも心配で
道案内を頼み是清の独白に
へぇ、あなた引きこもりだったのなんて適当に相槌を返し
雪道を寒そうに進んでく

急に首筋に当たる冷たい雪の仕返しに
石を詰めた玉を投げようとして
差し出された酒に呆れ顔

……あなたねぇ、最終的に呑ませれば
何しても許されるって思ってるでしょ
呑む

呑むわよ


伍島・是清
四辻路の後ろで見守るも
だんだん
俯き、口許を掌で押さえ
笑う

いや、御前が大人なこと云ってンのが面白くて
まァ此奴が真面目なこと云うの、珍しいからさ
よく聞くと善い
なんか云え?うーん
…無事で、何よりだ(ぽすぽす三人の頭を撫で)

さァ四辻路、雪見に花見だ、往くぞ

二つの月って何かなァとか、ふわふわ愉しげに雪道歩く
俺、小さい頃、外には出られなかったけど
部屋から庭は視えたンだよね
庭に積もる雪、綺麗だったな
一年に一回、視られるか位の雪が愉しみで仕方なかった

(雪を掬って投げつけて、子供みたく笑う、珍しく)

怒るなよ
はい、此れ
花よ雪よと云ったら酒、乾杯
ああ呑め
呑む姿に満足げ

花も、雪も、綺麗だな



 
「もう出てきていいわよ」
 よつろが耳飾りに触れると、少しして子ども達が姿を現した。
 子ども達は手を繋いだまま不安げに辺りを見回すが、そこにはよつろと、その背に立つ是清の姿しかない。
「大丈夫よ、もういないわ」
 静かな座敷牢で過ごすうちに平静を取り戻したらしく、ラウルもリィンも顔を上げている。
 ほっとしたように肩の力を抜く子ども達に、よつろは長いため息をついた。
「……説教はしたくないけれど、仕方ないわね」
「「「え」」」
 子ども達が一斉によつろを見る。
「いい? 勇敢と無謀は違うの。三人、ずっと一緒にいたいのなら、もうこんな無茶はしない事!」
「で、でも……」
「でもじゃないでしょ? こういう時は『はい』って言うの。返事は?」
「「「……はい」」」
 よつろの後ろで黙って見守っていた是清が、不自然に俯き始める。
「まあいいわ。あなた達、これからも一緒にいたいのよね?」
「「「はい」」」
「それじゃあ約束してくれる? これから先、何があってもこの手を離したりしないって……」
 子ども達の繋ぎ合った手を包むように、よつろがそっと手を重ねる。
 その後ろで是清も、そっと口元を手で覆った。ぷるぷると小刻みに体を震わせながら。
「――ってそこ! なに笑ってんのよ!」
「いや、御前が大人なこと云ってンのが面白くて」
「ほんっとに失礼な男ね」
「まァ此奴が真面目なこと云うの、珍しいからさ。よく聞くと善い」
「珍しいの?」
「珍しいのか」
「珍しいんだ……」
「……ちょっと、あなたのせいで色々と台無しよ」
「悪い悪い」
「絶対悪いと思ってないでしょ……是清、笑ってないであなたも何か言いなさい!」
「うーん、そうは言われてもなァ……」
 助けを求めるようにじっと見つめてくる子ども達に、是清は観念したように息を吐く。
「……無事で、何よりだ」
 ぽすぽすと頭を撫でられ、子ども達はちょっと照れ臭そうに顔を見合わせる。
「……お父さんみたい」
「…………」
 よつろはおもむろに顔を背けた。
「……なんだよ」
「べつに? 何も言ってないでしょ」
「声が笑ってンだろ」
「笑ってないわよ、お父さん」
「笑ってンじゃねェか」
「さてと、子ども三人で夜道を歩かせるのも心配ね。これも何かの縁だし、一緒に花を探しましょうか」
 実に爽やかな笑みを見せ、よつろはすっくと立ち上がる。
「……まァいい、もう説教は終わりだな。さァ四辻路、雪見に花見だ、往くぞ」
 子ども達の拙い案内を受けながら、是清は愉しげに雪道を歩き出す。
「俺、小さい頃、外には出られなかったけど、部屋から庭は視えたンだよね」
 是清は視界いっぱいに広がる雪景色に、ふっと目を細める。
「庭に積もる雪、綺麗だったな。一年に一回、視られるか位の雪が愉しみで仕方なかった」
「へぇ、あなた引きこもりだったの」
「……おい」
「ちゃんと外に出られるようになって、よかったわね」
 適当過ぎる相槌をしながら、よつろは寒さに身を縮めて雪道を歩く。
 是清はそっと雪を手で掬うと、よつろ目掛けて投げつけた。
「ちょっと、冷たいわね!」
「ははっ」
 珍しく子どものような屈託のない笑みを見せる是清に、よつろもまた応戦するように雪玉を握った。
 もちろん子どもらしく、中にはなかなかのサイズの石を仕込むことも忘れてはいない。
「怒るなよ。はい、此れ」
 不意に差し出されたモノに、よつろの手が止まる。
「花よ雪よと云ったら酒だろ」
「花がまだじゃない」
「そうでもねェだろ」
 是清の視線の先、ぽつんと咲く一輪の花が在る。
 その花の香は誘うように甘く、月の光を浴び、雪より眩く煌めいていた。
 子ども達が目を輝かせて喜ぶ中、是清はよつろに盃を差し出す。
「ほら、乾杯」
「……あなたねぇ、最終的に呑ませれば何しても許されるって思ってるでしょ」
「なんだ、呑まねェのか」
 心得たように差し出された盃を前に、よつろは手にしていた雪玉を放り投げた。
「……呑む。呑むわよ」
「ああ呑め」
 よつろが盃を煽る姿を眺めながら、是清は満足げに瞳を細める。
「花も、雪も、綺麗だな」
 酒に酔えば肌も程好く色付いて。
 花と雪と月の夜。穏やかな時間が過ぎてゆく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

三嶋・友
幻の花、か
なんか浪漫に溢れてるよね!是非とも見たいなぁ!
月光を浴びるんだから開けた場所…二つの月って事は、湖の側、とか?
見つけられたら、のんびり眺めよう
雪月花全てが見られるなんて、本当に素敵で贅沢な光景だね
…ついついスマホで写真撮っちゃうのは現代人のサガだけど

子供達は…私は直接は関わらなかったし
守れたなら、それで十分
あぁ、でも
もし近くの場所で子供達も見ていたなら、ちょっとした演出、しちゃおうかな
幻影の蝶を召喚
普段なら気付かれないよう使うモノなんだけど、今回はバッチリ目立たせちゃおう
幻の花の上を舞うように飛び回らせて
なかなか幻想的な光景だと思わない?
素敵な時を過ごしてね(遠目に微笑ましく眺めつつ



 
 一人のんびりと雪の中を歩く。
 冴え冴えとした冬の空気に顔を上げれば、大きな月が友を見守っていた。
「二つの月って事は、湖の側、とか?」
 夜空を仰ぐ友の視界を、吐息が白く染めあげる。
「幻の花、か。なんか浪漫に溢れてるよね」
 言い伝えによれば、幻の花は月の光を浴びて花開くという。
 恐らく夜空が見えるような、少し開けた場所にあるのだろう。
 期待に胸を膨らませながら、友は一人夜の森を歩いていった。

 感嘆の吐息は凍てついて、月光を弾く結晶となる。
 きらきらと彩られた視界の中、友は初めて見るその花に目を瞬いた。
「なにあれ、初めて見た。光ってる……よね?」
 淡い銀の光を放つ総状の小花が、風に吹かれゆらりゆらりと揺れている。
 月下に揺らめく幻想的な花は、雪景色をさらに引き立たせるようだった。
「雪月花全てが見られるなんて、本当に素敵で贅沢な光景だね」
 現代人のサガか、ついついスマホでの撮影に夢中になっていた友は、画面の端にはしゃぐ子ども達の姿を捉えた。
(守れたなら、それで十分だけど……)
「……おいで」
 友の呼びかけに応じるように、ほのかに光り輝く蝶が指先に留まる。
 普段は気づかれないように使うものだけれど、今夜ばかりは月下に彩りを添えるものとなる。
 指先から放たれた幻の蝶が、花から花へ、光の粉を零しながら、ひらひらと雪上を舞う。
「わぁ、きれい!」
「すごい……」
「あんな蝶、初めて見た」
 幻想的な光景に、子ども達から歓声があがる。
「……素敵な時を過ごしてね」
 子ども達の姿を遠目に眺めながら、友はくすりと微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

キャロライン・ベル
※アドリブ歓迎

WIZ
ライオンさんや森の動物達にも協力を頼みつつ、子供達のサポートを
冒険の続きを見届けましょう

もう大丈夫、皆が無事でよかったわ
ここからまた、素敵な時間を取り戻しに行きましょうか
(もしまだ足が竦んでいる子がいたら、ライオンさんの背にどうぞとエスコートして)

二つの月…水鏡・水月のことだったりするのかしら
湖畔等ないかも気にしつつ、主役は子供達とした上で先へ
ふふ、微かに届く香りだけでもわくわくしてしまいますわね

(無事に見つかれば、童心に返ったように無邪気に喜び感動して)
貴重な光景をこの目に出来て、素敵な冒険の結末となって――そして子供達の笑顔に会えて、本当に、本当に幸いだわ



 
「もう大丈夫、皆が無事でよかったわ」
 キャロラインが見せた温かな笑顔に、子ども達は緊張の糸が切れたように表情を崩した。
「本当にもう大丈夫……なんだよね?」
「ええ。わたくしが保証しますわ」
 くすりくすりと鈴を転がすような淑やかな笑い声に、子ども達も釣られるように笑顔を零す。
「ここからまた、素敵な時間を取り戻しに行きましょうか」
「一緒に来てくれるの?」
「そうよ。わたくしもあなた達の冒険に加えてくださいな」
「うん、一緒にいこう!」
 前に進む勇気を取り戻した子ども達は、手を取り合い再び雪道を歩き始める。
「二つの月……水鏡のことだったりするのかしら」
「あ、なるほど……」
「水鏡って?」
「泉を覗いたら、顔が映るだろ?」
「お月様が映ってるってこと? すごい、そうかも!」
 盛り上がる子ども達に表情を緩ませながら、キャロラインはこっそりライオンさんと森の動物達に協力を頼んだ。そうして密かにサポートに徹しながらも、時折風に運ばれてくる花の香りに、キャロラインは目を輝かせる。
「ふふ、微かに届く香りだけでも、わくわくしてしまいますわね」
 さくさくと雪を踏む足音が、一層楽しげに夜空へと響いた。

 小さなリスの足跡が、点々と続いている。
 時折振り返る愛らしいその姿に導かれるように、キャロラインと子ども達は泉までやってきた。
 木々に囲まれた静かな泉に、ひっそりと湛えられた二つ目の月。
 その周囲を彩るように飾りたてる、淡い銀の光を放つ花――。
「幻の花、本当にあったんだ」
「まあ、なんて美しいのでしょう……」
 彼らを歓迎するように、鈴なりの小花が風に揺れる。
 甘い音色と滲むような美しい光に、キャロラインは童心に返ったように無邪気な笑みを見せた。
「本当に素敵な冒険だわ……」
 溢れる子ども達の笑顔に、ライオンさんも喜びを伝えるようにキャロラインに寄り添う。
「貴重な光景をこの目にできたことも、子ども達の笑顔に出会えたことも、本当に、本当に幸いだわ」
 幻と謳われるこの花の美しい光景は、いつまでも、いつまでも、彼らの心に残り続けることだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月永・由良
※アドリブ等も歓迎
(姿は何事も無かったかの様に元通りに)

一旦周辺の人々も尋ねた上で情報を整理(SPD)
後は情報と花香や月光を頼りに、良ければ子らのお供として探索の手伝いを
(あくまでサポートとして、叶うなら彼ら自身が見つける形で探し出せたらと――きっとその方が一層、私の心も躍る)

もし子らに恐怖が残るようなら、よく頑張ってくれたねと甘菓子を
勇気を振り絞ってくれたシオンには、守り抜いてくれて有難うとも添えて

静謐な夜と銀世界、風に唄う木々と鳥
消えず輝く子らの命と笑み
それだけでも十分に贅沢な心地でいたが、嗚呼、これは――
(幻想の光景にただ静かに見惚れ)

素晴らしい一時、花と子らに感謝を
逢えて、良かったよ



 
 子ども達に声をかける前にと、由良は元の姿に戻り身形を整えた。
「花を探しに行くなら、私も同行させてもらってもいいかな?」
「うん、もちろん!」
「皆で一緒にいこう」
「ありがとう」
 ふわりと優しい笑みを見せた由良に、子ども達も笑顔で応える。
「あのね、向こうの方から花の匂いがするよ」
「向こうか……では行ってみようか」
「うん!」
 すでに入手した情報の整理を済ませていた由良は、月の満ち欠けや気まぐれに遊ぶ風の向きから、群生地があると思われる方向へ、さりげなく子ども達を導いてゆく。
「幻の花ってどんな花なんだろ?」
「じいちゃんが天国の花だって言ってたよ」
「前は見つけられなかったから、今日は絶対見つけよう!」
 楽しそうにはしゃぐ子ども達に、自然と由良の口元がゆるむ。
「もう、怖くはない?」
「……うん、大丈夫だよ」
 ほんの少し、子ども達の表情が翳る。
 彼らには独り過ごす友人を案じる友情があり、真夜中に家を飛び出し冒険する勇敢さがあった。
 恐怖が残っていたとして、少なくともシオンには、帰るという選択肢がないのだ。
「あの……助けてくれてありがとう」
「いいや、皆無事でよかったよ。よく頑張ってくれたね」
 由良は持参した包みを解くと、三人の手のひらに、色とりどりの甘菓子をのせた。子ども達は手の上でころころと転がる小さな粒を、不思議そうに見詰めている。
「これなに?」
「きれいだね」
「食べてごらん」
「わ……甘い!」
 初めて口にする甘味に、子ども達の顔に驚きと笑みが溢れる。
「シオン、二人を守り抜いてくれて有難う」
「……うん!」
 シオンがとびきりの笑顔を零し、頷く。
 風に唄う木々と鳥の聲に導かれ、夜の森を進んでゆく――子ども達の顔に、もう翳りは見えなかった。

 銀世界に響く雪踏む足音が、ぴたりと止んだ。
 次いで聞こえたのは、子ども達の歓声だ。
 吹き溜まりを越えた先に、突如としてそれは現れた。
(嗚呼、これは……なんと美しい)
 月の光を受け、その花は銀に輝いていた。
 雪よりも明るい光を灯した花が、静謐な泉を囲うように乱れ咲いている。
 鈴なりの小花が、風に揺られて微かな音を奏でた。
 ――なんと贅沢な一時だろう。
 幻想的なその光景に、由良の瞳が優しく細められる。眩い子ども達の笑顔に、自然と言葉が溢れた。
「逢えて、良かったよ」
 呟くような由良のその声に、また子ども達の表情が嬉しそうに輝く。
 灯花を眺める由良の耳に、ありがとう、と囁くような声が届いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年02月05日


挿絵イラスト