アルダワ魔王戦争3-B~群鬼回廊を吠え臥して
●
「さ、次だ」
ルーダスは言う。
「今回攻略してもらうエリアだが、特に罠やギミックがあるわけじゃあない」
ただ、途中に敵がいるだけ。だが、その敵はオブリビオンだけではない。このダンジョンに住まう野生のゴブリンが、そのオブリビオンの指揮下にあり、戦闘に入れば彼らが邪魔をしてくるのだ。
一体一体はオブリビオンに遠く及ばないが、手製の武器で攻撃したり、飛び掛かってきて手足を引っ張って、と妨害してくる。
「シンプルながらに鬱陶しいだろう?」
そして、当のオブリビオンは彼らにかかずらわりながら、片手間に対処できる程簡単な手合いではない。
「加えて言えば、ゴブリンたちは、返り討ちも厭わぬ捨て身だ」
オブリビオンの恐怖に縛られ、その命を脅かす、というのは、本末転倒と言ってしまっていい物だ。
とはいえ、とルーダスは言う。
「オブリビオンの恐怖を、彼らから振り払わせれば、彼らは自分の意思に沿って逃げ出すだろうね」
まあやり方は任せるが。と彼は続ける。
そうなれば、オブリビオンも更に恐怖に落とし込もうとするだろうが、それを阻止できたなら、余計な邪魔は入らなくなる。
声。ゴブリンの恐怖の引き金になっているものは、オブリビオンの声だ。
目を背けようと、逃げ出そうと隠れようと、響き縛る声。その呪縛を引きはがすためにはどうするか。
「オブリビオンより強者であると、見せつければいい」
ルーダスは告げて、そのグリモアを輝かせて、些事とばかりに。
「まあ、出来るだろう?」
猟兵達を送り出した。
●
広い洞窟の中を、我が物顔でのし歩く大きな人影一つと、群れる小柄な人影がある。
3、4m程の巨躯。
その後ろを歩くゴブリン達は、何かを恐れる様に各々の武器を手にしていた。
オーガ
4、5名のみの連携リプレイです。
ゴブリン達から戦意を奪った後、逃げ出そうとしたゴブリンを尚も束縛せんとするサイクロプスの声をどうにかする事で、大成功しやすくなります。
イメージは特にないです。RPGのイベントコマンドが挟まる戦闘、とかでしょうか。
よろしくお願いします。
第1章 ボス戦
『サイクロプス』
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POW : 叩きつける
単純で重い【剛腕から繰り出される拳】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD : 暴れまわる
【目に付くものに拳を振り下ろしながら咆哮】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ : 憤怒の咆哮
【嚇怒の表情で口】から【心が委縮する咆哮】を放ち、【衝撃と恐怖】により対象の動きを一時的に封じる。
イラスト:〆さば
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠茲乃摘・七曜」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
多々羅・赤銅
声が邪魔なのね、合点承知。
ゴブリン達が寄ってきたらば、うらうらと刃振ろうぞ。ちょっとビビるだろうけど、ご覧よ無傷だ、体調が悪くもないだろう?
【聴覚】をひととき断ち切った事以外は。
にっと笑いかけ、ゴブリンのがむしゃらな攻撃を受け流しつつ、優しく撫でる。安堵しろ、私は敵じゃない。伝わった?
おっし、これ以上お前らに集中してっと潰れちまう!よおく見てろよ、その大きい目でさあ!
振り下ろされる拳を疾駆し回避、体勢崩されながらも、ゴブ共にいいとこ見せたい気持ちで食らいつく!
鎧無視斬撃翻し、巨人の「手首」を斬る。まっぷたつ、と行かずとも、拳を振るに不利な程にはずっぱりと!あとは足首も斬ること目指すかあ!
鈴木・志乃
アド連歓迎
UC発動第二人格『昨夜』に移行
力の差を見せつけるって言ったってねぇ
あいにく私そんな強者とか強面とか剛腕とかじゃ(念動力でそこら辺の大岩を敵に向かってブン投げる。ついでに破壊工作用爆弾も投げる。)
ないんだけどね!!(油投げて高速詠唱発火。攻撃方法は有効であれば戦闘でも続行)
※やる前に他猟兵に話はしておきます
……あれで良かったのカナー
【オーラ防御】を耳に厚く展開
必要なら【高速詠唱】で重ね掛けします
可能なら序盤で遠距離から【呪殺弾】撃って呪う
【第六感】で攻撃を【見切り】他猟兵に注意喚起
自身は【早業武器受け】からの【念動力ロープワーク】で捕縛か転倒を狙う
足元に油まいて滑らせてもいいかな
アレクシス・ミラ
アドリブ◎
敵意…いや、ゴブリン達の場合は違うか
…君達には悪いが、少し手荒くいかせてもらうよ
迫るゴブリン達には剣を抜かずに、盾で殴って気絶攻撃を
敵の咆哮は盾にオーラを張って…ああ、凄まじいな…!
…だが、この音は僕には届く
力を、貸してくれ
【君との約束】を状態異常力重視に
そろそろ黙ってもらおうか!
抜剣し、剣に込めた雷属性を敵の頭部を狙って解き放ち、麻痺を狙おう
接近できれば僕へと意識を向けさせるように畳み掛ける
味方への攻撃はかばいにいき、攻撃を盾で逸らそう
…あの拳の一撃を真面に受け止めれば盾が壊れる
だから、受け止めずに…見切って避けよう
避ける事で隙が生まれたらカウンターで喉目掛けて盾で突き
剣で一閃を!
セゲル・スヴェアボルグ
どうにもやかましい声を出すらしな。
まぁ、向こうさんが大声でゴブリンを御そうとするなら、こっちも大声ではり合うか。
まぁ最悪、邪魔にならない場所に流れてくれるなら問題もないしな。
サイクプスには当然槍もぶち込むけどな。
向こうさんの攻撃への対策も考えねばならんな
まぁ、いくら地形を壊すような一撃であっても、当たらなければ意味もない。
飛んでいれば地形が変わったところで影響もないな。
あの図体なら、速度もさほど早くはないだろう。
後はそうだな……咆哮の効果を俺の鎧で移せるなら楽なんだが。
心が委縮ってのが気になるが、まぁ、気合いで何とかなるだろう。
一瞬動けなくなったとしも、ゴブリンに邪魔をされるよりはましだしな。
渦雷・ユキテル
強さの誇示ですか
自分、か弱い乙女なんで
務まるかちょっと心配ですー
うわ、ゴブリン邪魔ですね
さっさと帰って下さい
エレメンタル・ファンタジアで轟かせる雷鳴
属性は音。雷は添えるだけ
でもま、猟兵さんには当たらないよう
【属性攻撃】でコントロール
敵は巻き込んでも外しても気にしません
あたしが従えてるものが何なのか
分かってもらえました?
にっこり笑んで
サイクロプスは野蛮で臭そうなんで
近寄りたくありませーん
得意そうな人に任せたいんで
こっちに来たら速攻で離れます
だけど遠くから応援するのもつまらない
咆哮は雷鳴でかき消して
おっきなお目目に撃ち込む精確無慈悲な弾丸
叫ぶなら可愛い悲鳴を聞かせてください!
※絡み・アドリブ歓迎
恐れる。
そんな自覚さえ持たないまま、外部から注ぎ込まれる衝動に従い、己の体を何かに急かされるように動かす。
いつまで続くのか、いつ終わるのか。
正しいと、正しくないと、脳内をせめぎあう本能が唯々、脳を食い破らんと頭蓋の奥底から伸びて、突いてくる。
殺せと。
殺せと。
それは存外、静かな開戦だった。
「敵意……ではない、か」
アレクシス・ミラ(赤暁の盾・f14882)は、鎌じみた棍棒や、打撃武器と剣を半分にしてくっつけたような半刃の武器を振り上げ、こちらへと走り来るゴブリンを見据える。
盾を構えるアレクシスの背後から、黒紫の弾丸が過ぎていった。
「力の差を、って言ったってねぇ」
揺れる黒髪が、白い髪へと染まりゆく。橙の瞳は、その黒さを吸い込んだように濃い赤へと沈み込んでいく。
鈴木・志乃(オレンジ・f12101)。
いや、志乃の体に憑依した昨夜と名乗るオラトリオが、黒紫色をした硝煙のように、伸ばした指の先に呪殺弾の残滓を揺蕩わせている。
「あー分かります、それ。自分たちみたいな、か弱い女子には無縁の事っていうか」
「ねえ、あんな強者強面剛腕なんて無いし」
と昨夜がサイクロプスの目を見やる。ギョロリと巨大な瞳の真下に立ち並ぶ凶悪な歯の群れ。その巨躯と木の幹のような強靭な四肢。
比べ。あの一つ目の巨人が指先でつまむだけで、微塵に骨が砕けるだろう彼女たちの細腕。
その一人、志乃の体を借りる昨夜が、その細い指先で動かしたのは。
「おー。いや、ばっちりっす」
「そうかな、じゃあこれで」
彼女たちよりも大振りな岩だった。それも一つではなく複数。
十数の大岩が、昨夜の念動力にその身を宙に浮かせて、そんな軽い会話の中に導かれた結論に従って、飛んだ。
まるでカタパルトに乗せた射出物のような勢いでそれらは一斉にサイクロプスへと殺到した。
ゴガ、グチガガッ! そんな暴力に満ちた擬音の裏に、昨夜が静かに笑みを浮かべる。
サイクロプスは気付いていない。
己へと降りかかる岩の中に、小さな石の如く採掘用の爆弾が紛れている事に。その足元に引火性の油が染み込んでいる事に。
直後、それが爆発した。弾けた轟音と熱が、衝撃をばら撒いて、大気が揺れる。
そんな爆音を背後に。
「ほら、当たんない当たんない、腰入れて打たねえと」
多々羅・赤銅(赫奕と咲く・f01007)は、まるで子供を相手取る様に、ゴブリンの必死の攻撃を軽々といなし、あまつさえ助言すらかけていた。
「そら、隙だらけ」
おざなりに、握った刃を振るう。
ザン、と容赦なく、刀がゴブリンの頭蓋を真横に割る様に一文字に行き過ぎた。
振り抜かれたその刃は神格を纏うように、鬼気迫る銀を見せる。
その銀に裂かれたゴブリンは、しかし、その頭の中身を地面に転がすような事は無かった。
「無傷、どこも痛くもないだろ?」
宿らせた気は、何かを切断するものでは無い。
もっと直接的に、斬る刃だ。五感のいずれかを斬り奪う。それ以外を一切傷つけない。
何を殺し、何を生かすか。その選択の自由。生殺与奪の一切を握る、そんなモノの神格。
「っても聞こえねえか」
ゴブリンが赤銅に斬られたのは、聴覚。だから、赤銅の声は、ゴブリンには聞こえない。
だから、安心させるようにその頭を撫でようとした、その瞬間に、赤銅はゴブリンの首を掴んでその身を翻していた。
直後。ド、ゴァッ!! とゴブリンと赤銅がいた場所を中心に、隕石が衝突したような衝撃と共に土煙が立ち上がっていた。
「……とお」
隕石の正体は、拳だ。サイクロプスの降り下ろした拳が、大地を割り砕いている。
にい、と赤銅がそれを見上げる。剛力の権化が如き一つ目。
羅刹と怪物の衝突が始まった、その瞬間を、ユキテルは傍観者がごとく見つめていた。
ざ、と、同じ場所へと視線を向けているらしい気配のする足音に、振り返らず視線だけを向けて。
「自分近づかないんで」
「ああ、俺が出る」
投げやりにも聞こえるそんな現状にそぐわないような奔放な言葉を、青い竜人は自然体に受け入れた。
ゴブリンをあしらっていたセゲル・スヴェアボルグ(豪放磊落・f00533)が、爆風に髭を翻し、ユキテルに返す。
「ええ、お言葉に甘えますねえ」
とユキテルは、サイクロプスの抑えへと向かったセゲルの背に、もう既に聞こえないだろう声量で返していた。
ズパ、ン。と。
硬い肉が槍の一撃を受け止める。
「お、あ、ん。……えーっとぉ?」
「お楽しみ中、悪いが」
赤銅へと迫るサイクロプスの腕を、セゲルが横合いから斬りつけていた。
文字通りの横槍か。
目の前で獲物を掻っ攫うという悪逆の理由を問う視線に、言葉と一緒に、彼もまた視線で示していた。己の手を見ろと。
「それを先に片付けろ」
赤銅は、そのセゲルの視線に思い出した。その手に何があるか。
「あー、すまん」
そこにあったのは首を掴んだままに振り回していたゴブリンだ。半ば忘れていたそれを漸くに手放して、その頭をぽんぽんと叩く。
たった数合の剣戟と剛拳のやりとり。その最中に同行させられたゴブリンは、もはや、力さえ入らないのか、へなへなと自立しないぬいぐるみのように腰を抜かしていた。そんなゴブリンを柔らかく(当者比)で安全圏へと放り投げると、なるほどね、と刀を担ぐ。
お楽しみを後にして、まずこの子たちをどうにかしてやろうと、聖人というには些か物騒な慈悲が、ちらついていた。
本気で殺しに来る相手に剣術指導をする状況は、少し彼女の琴線に触れる何かがあったのかもしれない。
「じゃあちょっと任せる」
刀が、槍と立ち位置を変えた。
すなわち、サイクロプスの相手からゴブリンの相手へと、ゴブリンの相手からサイクロプスの相手へと。
「どうにも、やかましい声を出すらしいな」
震えあがらせれるものなら、してみろとセゲルが挑発的に笑んだ、その直後。
「……ッ、吠えるよっ!」
アレクシスが、近づくゴブリンを盾で昏倒させ、赤銅が刀でゴブリンの聴力を奪い去っていたその後ろ。志乃、昨夜の放つ念動力に踊らされるサイクロプスが、その大口を開く動作を見せる、その直前に、昨夜が注意の声を上げた。
「なら、今度はあたしの番ってことで」
その注意に即座に動いたのは、ユキテルだ。
とはいっても、ユキテルが起こしたアクションは、至極小さなものだった。それ自体は、なんの攻撃力もない、自然な動作。
その視線は、サイクロプスにではなく、周囲のゴブリン達にこそ向けられていた。
「あなた方も、さっさと帰ってください」
邪魔なんで。とユキテルが親指と中指の腹を、ぐ、と合わせて。
指を鳴らす。
響くのは雷。奔るは音。
爆音の轟雷。落雷が空気抵抗を引き裂き、気体を震わせる副産物的な轟音ではなく、音の形をした雷、雷の形をした音。
ビ、ゴ。と聞いたこともない空震。あまりの異常に鼓膜が情報を拾いきれなかったかのようなそんな音雷。
パチンと鳴らした小さな音が、空気を震わせ音雷へと変わり、周囲に無条件に降り注いでいった。
「は、豪気なものだ」
サイクロプスは、焔に巻かれてその肌を焦がしている。
ゴブリン達は、爆轟に身を竦ませている。
か弱い乙女の所業。その結果に、ゴブリン達が更に恐怖している。ただ恐れを増しているなら逆効果ではあるが、しかし、猟兵達がゴブリンを殺そうとしないという状況は見えているだろう。
生存の為に動くのであれば、最善を本能で彼らは導き出す。だが、それを行動に移すには、まだ恐怖が枷となっている。
サイクロプスを正面に見据え、しかし、視界に、そして背後に感じるゴブリンは立ち去ろうとはしない。
出来ない。
「ならば、こうだ」
浚う。
うねる波に巻き込んで、渦潮の中心に引きずり込むように、彼らを縛る恐怖という束縛を、セゲル自身へと移し替える。
その鎧を纏う者の権利を行使する。災厄を奪い背負う、波濤を己に課すという権利。
「……っ」
引き寄せる物が多ければ多いほど、重ければ重いほど。渦の中心の圧力は強くなる。
暗く、重い。
生存本能すら縛る恐怖をかき集めたその圧力は、セゲルを以てして、暗い深海の底を思わせるような闇を感じさせていた。
体から体温が奪われ、臓腑が凍り付いていくような恐怖。
眼前に聳える巨体が、要塞の如き威圧感を放っている。時空が歪んだように、3m弱程しかない体躯の、その指先で簡単に摺り潰されるような。
「……っは」
あまりの恐ろしさに震える自らを、セゲルは笑っていた。
あまりの恐ろしさに奮える自らを、セゲルは笑っていた。
その矛盾を知っている。
まだ朽ちてはいられぬと、振り返ってはならぬと、知っている。
「こういう時は、だ」
彼は、己が望むままに、前へと、体を弾き出す……ッ!
ズ、ごァッ! と麻痺したような硬直を無理やりに引きちぎった体の加速は、まるで格好のつかない前転を経て、屈んだ体制へと帰結し、そこから翼を広げ、舞い上がった。
直下で爆発するような轟音が弾ける。
その攻撃が少しでも早ければ、一瞬竦んだ体は四肢を千切る様に吹き飛ばされていただろう。
だが。
「俺を捉えるには、少しのろまが過ぎる」
再度、セゲルを見上げるサイクロプスが、その大顎をがぱりと、開く。さながら、ジェット戦闘機の吸気じみた肺活が響く。
遮られた号令を、再びやりなおそうというのか。
「聞こえなかったか」
竜翼ひとつ羽ばたかせ、割れた地面へとずずん、と着地して、セゲルは豪脚に地面を砕き割る様に体の芯へと力を込める。踏みしめた両足から腰を響かせ肺に増大した力が、牙を剥くように。
「――遅いッッ!!!!」
轟ッ! と一喝。
洞窟を全て震わせるような、大海のうねりにも似た咆哮じみた恫喝が、ゴパ、ッ! と衝撃波を散らしながら、震えんとしたサイクロプスを打ち据える。
サイクロプスは、さながらに空気という鈍器でぶん殴ったような仰け反りを見せる。
だが、倒れない。単眼の怪物は、仰け反った体を膂力で強引に立て直して、セゲルへと拳を叩きつける。
「これで終わりと?」
それは、随分と見くびられたものだ。と。
ズゴァ!!! と迫る拳へと、豪槍がかち合った。
暴圧。
セゲルの手を離れた槍が、轟々とうねり上げる鉄砲水じみた激流を従えて絶崖が如き拳と衝突し。
「ゴ、ォ……ッ」
サイクロプスの体が、宙を舞った。
セゲルの打ち放った槍撃が、サイクロプスの拳を貫き、その腕の半ばまでを裂き斬り。そして、纏う激流がそこで槍が留まることを許さなかった。
槍が開いた傷を押し広げた轟砲は、その刃を肩にまで至らせ、衝撃を持ってサイクロプスの肩を引きちぎっていたのだ。
強引に千切られた肩に引きずられるように、体を浮かせたサイクロプスはそのまま地面へと転がっていった。
「……」
ゴブリン達が、その巨体が落ちる音に跳ねる様子に、セゲルを見た。対し、セゲルがそれらを睥睨して軽く手を振った、その瞬間に彼らは脱兎のごとく離散していった。
「いっそのこと気持ちがいいな」
後腐れなく猟兵達に怯えてくれたようだ。
そう呟いて、セゲルが吹き飛ばしたサイクロプスを見れば。
「良いんですか? そんな悠長に立ち上がって」
ユキテルが徐に、手にした銃を立ち上がるサイクロプスへと向けていた。
「さて。どうせなら、可愛い悲鳴を聞かせてください、よ!」
哄笑さながらに銃声が響く。
直前に放った轟爆の雷鳴に火花を散らして、黄電の軌跡を描いたその弾丸は、彼女のピンクの瞳、銃口と撃鉄の照準が結ぶ直線の延長線へと駆ける。
すなわち、サイクロプスの瞳。その中心。
「――ッ!!!」
グバズン、と粘り湿ったような着弾音が響き、一瞬、サイクロプスの肺がひっくり返ったような風音。
立ち上がり、屈んだ体勢だったサイクロプスが跳ねる様に仰け反りあがり。
「グ、ゴァアアァアォオオオッ!!!」
抉られた眼球を抑え込んだサイクロプスの絶叫が、岩肌を跳ね返って響く。そんな轟音の中でそれを成したユキテルは。
「はっはは! 狙いばっちりドンピシャじゃないですか! あはは」
ゴツ、と反動に跳ね上がった腕を額に押し当て、跳ねる横隔膜を抑えきれず笑っていた。
顔面を残る片腕で掴むサイクロプスの慟哭に、彼はひとしきり笑い。
笑って、そして感情が急激に裏返るように。
――ハア。と、息を吐いていた。
「やめてくださいよ」
と、どこか憂鬱な溜息が漏れる。
「そういう。……思い通りだとか」
苦しめと放った弾丸が目論見通りに苦痛を与えて、そんな結果に、ユキテルは拒絶にも似た冷えた目を向ける。
滑稽に、痛みを叫ぶ強力な化物へと目を細める。
「まるで私が悪者みたいじゃないですか」
見下すように見上げる。蔑む様に仰ぎ見る。ユキテル自身、自らが善人と呼ばれる人種だとは思っていない。しかし、それでもこの体が悪人に違いないのだと開き直っているわけでもないのだ。
いい所を持っていこうとしてミスをする自分を、滑稽と思う機会を、少し望んでいたというのに。
どうせなら弾丸を弾いて、その巨大な腕で体を握りつぶそうとしてくれるなら、むしろ主人公らしくあれるのに。
向ける銃の引き金に指をかけて、願う様に呟く。
「ほら、もう一発」
直後、ガガンッ!! と放たれた弾丸が振るわれた巨腕に弾かれた快音がユキテルの鼓膜を震わせた。
腕の離れた顔面、そこの真っ赤に血走る瞳がユキテルを射抜く。
回復したのか、思えば、セゲルの槍に引きちぎられた肩もその断面を、カサブタがはがれたような若い丸身を帯びた肉皮に覆われている。
発泡に腕を僅かに痺れさせたユキテルに、脅威が迫る。
「ええ、ええ、そうです。私が此処にいますよ」
超速回復、とは言え機能を完全に取り返すわけではないらしい体を這い出すように猛進させるサイクロプスに、ユキテルは尚も冷めた声で言う。
「……まあでも、こっちに来てほしいわけじゃないんで」
「余所見、厳禁ってなあ!!」
ズギ、ァア!! と空気を震わせたのは、言葉か斬撃か。
「はろぉ」
桃色の鬼が降る。
「じゃ、あとお願いします」
「合点承知ィ……」
灼熱を帯びた声と共に割り込んだ赤銅の背中へと、ユキテルは直接の対処を丸投げした。とはいえ、赤銅は嫌々ながらその役を買って出たわけではない。
ゴブリン達相手に本気を出せなかった鬱憤じみたやる気が満ち満ちていた。
低く構え握る刃は神格を損なったように、鬼気迫る銀を見せる。
「っ」
ゴア、ッ!! と振るわれた腕に、赤銅は踏み込んでいた。
胴体を瞼を落とす一瞬で薙ぎ払うような一撃に、刃を合わせる。火花が散る。刃を一合、四合、十合わせ、二十の斬撃。
「かぁっ、て!」
刃の嵐。それを全て受け、漸く弾き返された腕へと赤銅は叫ぶ。振るわぬ戦果に喉を震わすのはしかし、歓喜。
斬り甲斐のある、上等の獲物だと。
二十回刀を振るい、薄皮を削るにとどまる鉄皮の腕へと踏み込む。横に一回、地面を跳ね上がり、背中から回した刀を降り下ろし、一回。二回転の距離を走った両手に握った刃が。
ズタン!!
剣戟を弾いた皮を引き裂き、断頭台がごとく落ちる。その音は、斬撃の音ではなく、音も発する間もなく裁断されたサイクロプスの腕が地面に跳ねる音だ。
「ゴ、アアアッ!!」
腕の先を失った腕を振り上げ、だが、その目をその腕ではなく赤銅へと向ける巨体の脚が、比較して矮躯に過ぎる彼女へと振り上げられ。
「させない、ッ!」
真正面からそれを受け止めれば、盾ごとアレクシスの体は粉砕されるだろう。
だから、受け止めない。
盾と脚が衝突する刹那、衝撃をそらし、受け流す。力の矛先を捻じ曲げる様に剛力の防御でなく、技巧の攻撃。
だが、それをつつがなく為せるのは、それが彼に放たれていた場合だ。
「ぐ……っ!」
一瞬、遅い。飛び込むように仲間の前へと踊り出る動作に、コンマ1秒、そんな僅かな、しかし、重要なタイミングがずれていた。
結果、僅かに衝撃を逃しながらも、その拳をほぼ正面から受ける形になっていた。
ズゴァ、ッ!! と衝撃を受けたアレクシスの体、その鎧の下に隠した木の鈴がその体の揺れにコロコロと鳴る。
加護を与える様に、木製の小鳥の歌がアレクシスの根源の魔力を奮い起こす。
「ああ、……うるさいよ」
その言葉は、その鈴音をかき消すような目の前のオブリビオンの声にか、オブリビオンの声にすら掻き消されず、何押し負けてんだ、とからかうように笑う鈴の音にか。
ニトロを点火するが如く、噴き上がる魔力を盾へと集中させ、雷へと構築する。
その瞬間、眩い発光が周囲を照らしぬいていた。盾が纏った雷鳴が振り撒かれ、サイクロプスの体を麻痺させるように蹂躙し、そして。
アレクシスは、その一撃を跳ね返していた。
攻撃を弾かれたサイクロプスの体がたたらを踏むように揺らぎ。
そして。
剣鬼が風を巻いた。
鬼の銀が駆ける。
一閃を振り抜く。
「ああ、良い感じ」
腕に返る衝撃は、軽くはなく、しかし刃が鋼皮に打ち勝つ確かな手応えを感じさせる。
赤銅の振るった刃が、サイクロプスの五感を別つ事は無い。
ぐらつく視界も、煙る粉塵の匂いも、流れる血の味も、肉が潰れる音も。
――木の幹の如く太い足首が断ち切られ、削がれたその骨が自重で落ちる己の足を貫いていく痛みすら、忘れさせることは無い。
「ゴ、オォアアアガアアアッ!!!!」
「チャンス、到、来っ」
叫ぶサイクロプスに昨夜が即座に動く。
ギュパ、と弾かれ浮いたままの足首へとワイヤーが何重にも巻き付いて、昨夜の操る強烈な念動力がそれを捻り上げる。
体を吹き飛ばさんばかりの痛苦の咆哮に、身を硬直させようと、念動力は緩まない。
「あんまり叫んで鼓膜とか破んないでよ」
耳を包んだオーラすら突き抜ける叫声に昨夜が、視線を尖らせる。
「シノの体なんだから」
焦げた斜陽の色が濃く揺らぐ。初めに放ってサイクロプスに纏わり付いていた呪いが念動力を増幅させ、巨人の抵抗を一気に振り切ったワイヤーがサイクロプスの体を掬いあげていた。
ごぁ、と掬い上げられ宙を回るサイクロプスに、サレクシスが剣を向ける。
「そろそろ黙ってもらおうか」
それは、笑われた(ように感じただけだが)事への意趣返しか。それとも、剣を振るうという無意識にか。
盾へと纏わせていた雷が、身体の強化を施して、電撃の爆発が烈風と化してアレクシスの体を打ち出していた。
景色が加速する。
千切られたまま地面に立つサイクロプスの脚に足を掛け、アレクシスは跳ねた。仰向けに倒れこむサイクロプスを追う様に、跳躍の折り返し地点で更にアレクシスは雷を爆ぜさせた。
轟雷疾風の剣閃がサイクロプスの首へと吸い込まれ。
ズッゴアッ!! と着地を考えていなかったアレクシスの体が地面へと突き刺さらん勢いで叩きつけられて、転がる。
「……っ、慣れない事をするものじゃないか」
やれやれと立ち上がる。その背後で、首と胴体の離れたサイクロプスが地面へと沈み込んで、粉塵を巻き散らしていた。
恐怖の権化であった、サイクロプスはその姿を消した。
それを上回った更なる恐怖の具現たる、猟兵達は洞窟の先へと抜けていった。
そうして、ゴブリンを脅かす者はいなくなった。さて、彼らが慎ましくダンジョン暮らしに帰れるのか。
オブリビオンに呑まれるか、否か。
恐怖を振り撒き、恐怖を取り除き、結局、彼らが怖い存在として認識した猟兵達がその運命を握っている、とはゴブリン達が知る由は無いのだった。
大成功
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