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アルダワ魔王戦争1-B~魔導の皇狂曲

#アルダワ魔法学園 #戦争 #アルダワ魔王戦争 #大魔王 #アウルム・アンティーカ #オブリビオン・フォーミュラ

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●アウルム・アンティーカ
 用途不明の蒸気科学機械がひしめく実験施設内。
 その迷宮区域に現れた存在。それこそが、大魔王と呼ばれる者の第一形態だ。
 機械やガジェットめいた身体を軋ませながら、大魔王――アウルム・アンティーカは猟兵達の気配を察していた。
「テキガキタ! テキガキタヨ、マンナカノヒト!」
「おお、『上の頭』殿。油断はしておれませんな。『腹の口』殿も準備は如何ですかな」
「おではらへった おではらへった」
 頭部に中央、そして腹部にある口のような部位。
 それぞれが自由に語っているその姿こそ、三位一体の魔王の在り方。
 腹の口は牙を鳴らし、上の頭は角を指揮棒のように扱い、真ん中の彼のひとは背部に装着された魔導砲の具合を確かめる。
 中央の魔王は近付いてくる気配に意識を向け、上と下に呼びかけた。
「では、迎え撃つとしますかな」
「ヤルキイッパイ! ヤルキイッパイ!」
「おではらへった おではらへった」
 そして、三首の魔王は破滅の戯曲を謳いあげるかのように語る。

「いざ、この迷宮に――吾輩達が奏でる皇狂曲を響かせましょうぞ!」

●魔王戦線、第一陣
「さて、お前ら。戦いの準備は出来てるか?」
 オブリビオン・フォーミュラである大魔王の第一形態の居場所に到達できるようになったと告げ、ディイ・ディー(Six Sides・f21861)は仲間達に問いかける。
 その名はアウルム・アンティーカ。
 それぞれに喋る異なる部位で構成された三位一体の大魔王だ。
 鈍い黄金色にひかるその身体は機械めいている。実験施設のような迷宮内の一角に現れたそれを倒さねば、次に進むことは出来ない。
「相手の言動は妙だがかなりの強敵だぜ。先手は打てないと思って戦ってくれ」
 ディイは先ず敵の攻撃を受ける覚悟と備えが必要だと伝える。
 上の頭に真ん中の人、腹の口。
 どの部位もかなりの力を宿しているので一筋縄ではいかない。しかし立ち向かう意志と猟兵それぞれの力があれば倒せぬ相手ではないはずだ。
「アウルム・アンティーカは何度でも復活してくる。だが、倒す度に最終形態を守るバリアが剥がせる力を得られる。つまりこれは、その一手となる戦いだ」
 ディイは仲間達を見つめ、転送の準備を整えていく。
 彼はその身に纏う蒼い炎で魔方陣めいた円を描き、其処に霊力を注ぎ込んだ。
「次に目を開けたときは大魔王の前だ。覚悟は良いか? それじゃ、ぶっとばすぜ!」
 そして――転送陣が眩い光を放った。


犬塚ひなこ
 こちらは『アルダワ魔王戦争』のシナリオです。

 今回は少人数採用(基本は四名~六名+余力のある限り)で早期完結を目指します。
 描写や採用は先着順ではございませんが、採用予定人数以上になると問題がなくともプレイングをお返しする可能性が高いです。それでも大丈夫! とご了承頂ける場合のみプレイングを送って頂けると幸いです。

●プレイングボーナス
『敵のユーベルコードへの対処法を編みだす』

 敵は必ず先制攻撃します。
 いかに『防御して反撃するか』の作戦が重要になります。
 ただ避けるように動く、反撃系ユーベルコードの能力で受ける、というだけだと確実に失敗します。反撃系を使う場合は発動するための工夫を、または通常で動ける範囲の行動で対策をすると上手く使えます。

 また、技能を並べるだけのプレイングよりも、その技能を使ってどんな具体的な行動出るか、どうやって活かすかを明記して頂ける方が成功判定を出しやすいです。(プレイングに技能を明記していない場合でも、所持されている技能分の判定をプラスして行っていますので無理に書かなくても大丈夫です)
 どうぞ宜しくお願い致します。
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第1章 ボス戦 『大魔王第一形態『アウルム・アンティーカ』』

POW   :    真紅崩天閃光撃
【突撃し、『腹の口』が放つ真紅の光線】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD   :    黄金殲滅魔導重砲
【『真ん中の人』の背部に装着された魔導砲】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    絶対奪命皇狂曲
【『上の頭』が角を指揮棒のように振るう状態】に変身し、武器「【聞く者の正気を奪う全身の魔導楽器群の音色】」の威力増強と、【黄金の竜翼】によるレベル×5km/hの飛翔能力を得る。

イラスト:柿坂八鹿

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ソラスティベル・グラスラン
敵は伝説に聞く大魔王……危険など承知の上ですとも
ですがわたしは嬉しい!
やっと、やっと物語の英雄たちに並び立てるのですからっ!!

大魔王の突撃に、【勇気】を胸に突撃あるのみッ!
【盾受け・オーラ防御】で守りを固め、【怪力】で受け止める!
光線は命中箇所を破壊する、ならば確りと「狙う」必要があるはず
受け止めた衝撃を利用し空中へ、発射の瞬間を【見切り】翼で真上へ飛翔【ダッシュ・空中戦】
翼で空気を叩き急降下!発射後の隙を狙います!
恐れを捨て前へ、その禍々しき黄金を砕く為に!【鎧砕き】

蒼雷の竜よ、雷の大斧よ
今こそ応えて、我が【勇気】に
災厄の一矢を断つ、汝の名は

【我が名は神鳴るが如く(サンダラー)】



●第壱の一閃
 機械仕掛けの魔皇竜。
 それが彼の大魔王を見た時に感じた第一印象だった。あれが伝説に聞く大魔王の第一形態なのだと確かめ、ソラスティベル・グラスラン(暁と空の勇者・f05892)は蒼空色の巨大斧を強く握り締めた。
「おや、貴女が第一陣ですかな。腹の口殿、如何ですか?」
「おではらへった おではらへった」
「タベチャオウ! タベチャオウ!」
 ソラスティベルが現れたことに気が付いたアウルム・アンティーカは其々の口で喋り、彼女を品定めする。
 ぞくりとした悪寒めいた感覚が走ったのは敵の強さを肌で感じた為。
「……最初から危険など承知の上ですとも。いざ、大魔王に立ち向かうのみです!」
 しかし、同時に嬉しくもあった。
 ソラスティベルは此処を切り抜け、勝利する未来だけを見つめている。そうすればやっと、やっと物語の英雄達に並び立てるのだ。
「参りますぞ、腹の口殿」
 ソラスティベルが身構える最中、大魔王は一気に突撃してくる。それは目で捉えるのがやっとの速さである上に、腹の口から真紅の光が漏れ出ていた。
 あれが光撃となって迫り来る。
 そう感じたソラスティベルだが、敢えて避けることはしなかった。否、避けられるとは思っていなかったので敢えて此方も突撃したのだ。
 その胸に宿るのは有り余るほどの勇気。
 途端に目の前を紅い光が満たす。真紅の崩天閃光撃はソラスティベルの身体を消し飛ばさんとする勢いで迸った。
 痛い。苦しい。
 血が、身体が。焼き切れてしまいそうだ。
「う、うぅ……駄目です、こんなところで……負けたりなんて……」
 意識が揺らぐ。
 このまま倒れてしまえばどれだけ楽だろうか、という思いまで過ぎった。それでもソラスティベルはきつく瞼を閉じて耐える。
「勇者たるもの、まだ――諦めたりなんかしませんッ!!」
 その間、一瞬。
 自分に言い聞かせるように強い言葉を紡ぎ、ソラスティベルは翼を広げた。滴った血が床を濡らしたが、裡に宿る勇気の炎はまだ消えていない。
 ソラスティベルは痛みを堪え、受け止めた衝撃を用いて空中に飛び上がった。
 竜翼で空気を叩き、飛翔した彼女は一気に大魔王との距離を詰める。まともに攻撃を受けたとて、耐えきる意志と力がソラスティベルにはあった。
 そして、狙うのは発射後の一瞬の隙。
 畏れや恐怖などは今の彼女の頭の中にはない。ただ全力の一撃を叩き込む為、その禍々しき黄金を砕く為に、勇者に焦がれる少女は翔ける。
 蒼雷の竜よ、雷の大斧よ。
 紡ぐ言葉に魔力が宿り、握る斧に力が巡った。
「今こそ応えて、我が勇気に。災厄の一矢を断つ、汝の名は――」
 ――我が名は神鳴るが如く。
 それこそが勇気の証明。ソラスティベルの意志に呼応するように蒼雷を纏う大斧が腹の口部位を深く抉るように炸裂した。
 鋭い斬撃。弾ける雷撃。
 アウルム・アンティーカの巨体が一瞬だけ揺らぎ、思わず真ん中の人が声をあげる。
「おお、なんと鋭い」
「おでたべられなかった おでたべられなかった」
 腹の口はガチガチと牙を鳴らしていたが、ソラスティベルの身体を捉えきれなかったことで悔しげな声が零れ落ちていた。
 対するソラスティベルは身を翻して着地する。
 そして、痛む身体を自身で何とか支えながら、サンダラーをしかと構え直した。
「まだまだ、これからです!」
 ソラスティベルが与えたのは言葉通り、この先を導く始まりの一閃。
 たとえ苦境に陥ろうとも立ち向かい続ける。
 少女の何よりも強い意志と眼差しが、大魔王を真っ直ぐに貫いていた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユヴェン・ポシェット
大魔王か…

敵の攻撃に対して、どの方向からくるのか冷静に【見切り】、布盾sateenkaariを構える。【早業】として素早く反応し可能な限り【盾受け】で、致命傷を避ける。
防ぎきれない分は【激痛耐性】として、何とか耐えて見せる。

ミヌレ!腹のあの口の中、あそこを壊すぞ。槍で【串刺し】、続けてUC「ドラゴニック・エンド」で続けて攻撃。

あの者の音は聴くに耐えない。
あの者が飛ぶのなら…タイヴァス。俺をアイツに届くまで、高く頼む。
あの音を止めるまで、食らいついてやる。

いざとなったら、ミヌレを【槍投げ】、絶対あてる…!いくぞ、ミヌレ。


アイリ・フラジャイル
心を狂わせる、か――そんなモノ、とうに殺した
システム、戦闘モード
フラジャイル08078、エンゲージ
己を鼓舞して狂った音色を一身に受けつつも
その音を学習し湧き上がる衝動を全て戦意へと変えて
せめて一歩も引かぬ様敵と対峙する

ああ、敵はそういう手合いだ
だから私は、私達は
心を殺した戦闘マシンになる様――
遥か昔に造られたのだから

反撃、人型機動兵器を召喚し搭乗
蒸気戦闘甲冑とも言うべき巨躯に乗り
狂音を打ち消す駆動音を全身から放ちその効果を相殺
既に学習した、動ければ後は討つのみ
飛翔し手にした重機関銃で空中迎撃
奴の音を徐々に削ぎ落して無力化
必殺の機会を伺う――そうだ
私はもう、一人じゃない
必ず倒してくれるわ、大魔王



●竜閃
 転送された迷宮内。
 降り立っただけで感じたのは張り詰めた空気。
 緊張感を覚えながら、ユヴェン・ポシェット(Boulder・f01669)は実験施設めいた領域に顕現した大魔王――その第一形態である、アウルム・アンティーカを見据えた。
「これが大魔王か……」
「くいものだ くいものだ」
 ユヴェンが構えると同時に腹の口が彼を食物だと認識し、竜の体を蠢かせて突撃してくる。正面から来ると察したユヴェンは大きくひらかれた腹の口を見つめ、その動きを捉えようと狙う。
 だが――。
「これは……避けきれないか!」
 即座に状況を判断したユヴェンは見切るよりも受けることの方が被害も少ないと察し、布盾を構えた。そして、敵の突撃と同時に腹の口の奥が真紅に光る。
 其処から解き放たれた閃光撃が一切の容赦なくユヴェンに迫った。
 咄嗟に布盾を翻し、一閃をいなそうと動くユヴェン。しかし盾ごと彼の身体を貫いた衝撃は激しい痛みと傷を与えた。
 身体が砕けてしまいそうな攻撃を受け、ユヴェンは膝をつく。
 だが、盾は僅かに衝撃を殺してくれていた。身体に駆け巡っていく痛みに耐えた彼は震える身体を奮い立たせ、何とか体勢を立て直す。
「ミヌレ……!」
 竜槍を支えにして立ち上がったユヴェンはその名を呼ぶ。
 声を出せぬ槍形態であろうともミヌレはしかと主の意志に寄り添ってくれているようだ。握り締めた槍から応援の思いが伝わってくるように思え、ユヴェンはその切っ先を敵に向けた。
 一撃を受けたならば次は此方の反撃の番。
「腹のあの口の中、あそこを壊すぞ。来い、タイヴァス!」
 伴の鷲を呼んだユヴェンは身を翻して飛んだ大魔王を追うべく、タイヴァスに自分の身を預けた。相手が飛ぶのならば此方も追い縋るのみ。
 ――俺をアイツに届くまで、高く。
 タイヴァスに掴まったユヴェンは槍を構え、アウルム・アンティーカの正面へと素早く回っていく。そして、鷲に急降下を願った彼は一気に攻勢に出た。
 鋭い一閃が腹の口に目掛けて振り下ろされる。しかし、その一閃はガチガチと鳴らされた牙によって受け止められた。
「おでなんでもくう なんでもくう」
「阻まれたか。だが、諦めるものか」
 そして、ユヴェンの一撃をいなした大魔王は狂騒の楽曲を奏でようとしていた。響き始める音は他の猟兵へと向けられたものだが、ユヴェンは首を振る。
「あの者の音は聴くに耐えない。あの音を止めるまで、食らいついてやる」
 決意を言葉にした彼は更にタイヴァスに飛翔するよう願った。
 高く、高く。
 次は阻まれぬように――。
「絶対に当てて見せる……! いくぞ、ミヌレ」
 いつもの言葉ではあるが、だからこそ伝わる意志がある。ユヴェンは竜槍を大きく槍を振り被り、そして――大魔王の腹の口へと一気に投擲した。
 風を切って戦場を翔ける一閃の槍。
 彼と竜の志が宿った刃は鋭く、疾く、紅色が揺らぐ腹の口を貫く。
 その瞬間、大魔王の身が揺らいだ。
 
●響く音色と銃撃
 それよりも少しばかり前。
 アイリ・フラジャイル(イレギュラーケース・f08078)は大魔王の上の頭が振るう角の指揮棒を見つめ、身体を震わせていた。
 それは恐怖や畏怖などから来るものではない。
 指揮によって奏でられる魔導楽器群の音色が妙に美しいものだったからだ。
「キキホレテ! クルッチャエ!」
 上の頭が奏でる音色、その名は絶対奪命皇狂曲。
 アイリは胸を震わせるような音に耳を傾けぬように努めていたが、人間だと思い込もうとしていた時分の己の名残が心を揺らがせているのだと気付いた。
 しかし、彼女は唇を噛み締める。
「心を狂わせる、か――そんなモノ、とうに殺した」
 そう呟くと同時に機械的な音声が裡に繰り返されてゆく。
 システム、戦闘モード。
 フラジャイル08078、エンゲージ。
 己を鼓舞しながらも狂った音色を一身に受け、アイリは湧きあがる衝動を全て戦意へと変えてゆく。たとえ残った心が揺らいでも、せめて一歩も引かぬように。
「全機能解放。さあ、行くわよ」
 ガジェットを人型機動兵器として召喚し、搭乗したアイリは己に力が巡っていくことを感じていた。
 ああ、敵はそういう手合いだ。
 だから私は、私達は――心を殺した戦闘マシンになるよう、遥か昔に造られた。
 胸中でのみ思いを反芻し、アイリは反撃に入る。
 敵は高く飛翔したが、此方とて全身のスラスターを起動させることで追いかけた。蒸気戦闘甲冑とも言うべき巨躯の機動兵器と、黄金の機械竜と表すに相応しい大魔王。
 ふたつの影が空中を自在に飛び交い、音と銃声を響かせた。
 狂音が奏で続けられるのならば、それすら打ち消す駆動音を全身から放つだけ。自分には音が聞こえているが、他の仲間には届かせぬよう。
「その動きは既に学習したわ。後は貴方――アウルム・アンティーカを討つのみよ!」
 更に飛翔しながら、アイリは手にした重機関銃を撃ち放ってゆく。
 音を削ぎ落とすかのように次々と打ち込まれる銃弾。
 そして、アイリは必殺の機会を窺う。そんなとき、鷲と共に飛ぶ青年が勢いよく大魔王に追い縋り、竜槍を腹の口に目掛けて投擲した。
 それによって敵の動きが僅かに鈍る。
 その瞬間、アイリは気付いた。
(――そうだ。私はもう、一人じゃない)
 確かに自分は造られた存在だ。しかし今は共に戦う仲間も、一緒に居て楽しいと感じる人も、感謝を抱く人だっている。
 そのために戦う今という時間を決して無駄にはしたくない。
 アイリは追撃となる銃撃を迷いも容赦もなく撃ち込み、高らかに宣言する。
「必ず倒してくれるわ、大魔王!」
 その言葉と意志は、此処から更に巡っていく戦いの中で強く響き渡っていった。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

楠樹・誠司
力に依る暴圧は、如何なる世界にも蔓延るものか
……この学び舎は、私に『楽しさ』を教えて呉れた
皆が笑顔を浮かべた日々を脅かす事
其れは決して許される事ではありませぬ

――八咫!

転送陣から導き出されると同時、残月を奏で八咫烏の群れを招く
敵が先手を必ず取ると云ふならば
視界を埋め尽くす程の八咫による撹乱を
黒衣に身を包んだ我が身ならば
狙いを定めること、容易くは無いでせう
魔導砲を断ち切るやうに薙ぎ払い
跳躍ひとつ、ふたつ、確実に距離を詰め
宙を舞わんとする翼を断ち切って御覧に入れませう

此の一太刀が、仲間達の突破口になると信じて
大きく開いた中央の口蓋を貫かんとひと突きに

……其れ以上の暴虐
罷り通ること、叶わぬと知り給え


荻原・志桜
行ってきます、と言葉を向けて
瞬きした後に広がるのは大魔王の姿

事前情報である程度『覚悟』を決めてたからね
初動作をなるべく遅らせないように
『オーラ防御』で作り出した魔法陣を目の前に展開
可能な限り見極め『なぎ払い』の応用で攻撃をいなそうと

いなすことが出来ないなら直ぐシフト変更!
敵との距離が近ければ『高速詠唱』で単純だけど力強い『属性攻撃』で練り上げた突風で敵を吹き飛ばす!

敵の体勢少しでも崩せていたなら好都合
帽子の飾りひとつひとつに溜めていた己の魔力を解放させて
魔力を代償に紅く鈍く光る陣を編みだし燃え盛る劫火の一撃を

――いまわたしにできる全力!
簡単に食べられてあげるほど、わたしだって弱くないつもりだよ



●桜と刃
 行ってきます。
 往って参ります。
 それぞれの言葉を告げ、転送陣から送り出された荻原・志桜(桜の魔女見習い・f01141)と楠樹・誠司(静寂・f22634)は目を閉じた。
 一瞬の浮遊感。伝えられていた通り、次に瞼をひらいたときには――。
「此れが、彼の大魔王……」
「すごい……ただそこにいるだけなのに、」
 誠司が落とした言葉に続いた志桜は、震えてしまいそう、とちいさく零した。対する大魔王は此方の存在を察知したらしく、それぞれの口と頭で喋り出す。
「テキガイルヨ! マンナカノヒト!」
「これはこれは上の頭殿。予測通りにまた現れましたな」
「おではらへった くってやる」
 黄金の機械皇竜と呼ぶに相応しい様相の大魔王、アウルム・アンティーカが纏う空気は禍々しい。これで第一形態なのだと思うとこの先に待ち受けている別の形態はどれほどに恐ろしいのだろうか。
 そのような考えが過ぎるのも一瞬、誠司は志桜の前に立ち塞がる形で地を蹴った。
「萩原様!」
「うん、誠司くん!」
 名を呼びあった二人は大魔王の背部に幾つもある魔導砲が蠢いた瞬間を見逃さなかった。敵の動きは疾く、身構えるのが精一杯。
 それゆえにあの一撃を耐えなければ反撃にすら出られない。
 誠司は八咫を呼ぶ暇すら与えられないと知り、ならばせめて共に転送された志桜だけでも護ろうと決めたのだ。
 此方を殲滅せんとして放たれる魔導重砲は幾筋もの軌跡を描き、誠司と志桜に迫る。鋭く抉るような黄金の線が誠司の腕を、足を、そして腹を貫いた。
 志桜にも魔導砲撃が迸っていったが、殆どを誠司が受け止めている。
 しかし志桜もただ守られているわけではない。更なる閃光が迫る中で魔方陣を描き、誠司の前に展開させてゆく。
 陣によって次に彼の胸を抉るはずだった一閃が弾かれ、横に逸れた。志桜の行動は誠司が立ち塞がってくれたからこそ出来たことだ。
 それは言葉すら発することの出来ぬ一瞬。されど、誠司は痛みと衝撃に耐えながらこの世界のことを思い返していた。
 力に依る暴圧は、如何なる世界にも蔓延る。其れがこの大魔王だ。
 この魔法の学び舎は誠司に楽しさを教えてくれた。皆が笑顔を浮かべた日々を脅かすこと。其れは決して許されない。この世界を、此処に生きている人を、そして思い出を守りたいと願う意志が誠司を奮い立たせている。
 刹那、魔導重砲が止む。
「――八咫!」
 誠司は身体に響く痛みを無視しながら残月を奏でた。其処から招来された八咫烏の群れが敵の視界を埋め尽くす程に羽撃き、戦場に舞う。
「おや、目眩ましですかな」
「カラスガイッパイ! イッパイ!」
「おであのおんなのこくう おんなのこくう」
 アウルム・アンティーカは周囲が八咫烏の翼で塞がれても慌てることなどなかった。それだけではなく、腹の口は志桜を喰いたいと言って突撃してきた。
「萩原様、其方に――」
「大丈夫、ありがとう。わたしだって覚悟を決めてきたからね!」
 志桜は八咫烏を掻き分けるように突進してきている大魔王の姿を捉える。きっと完全に避けることはできない。それでも、迫ってくる敵に対抗することは可能だ。
 それに今はひとりきりではない。
「誠司くん、お願い!」
 志桜は呼びかけると同時に魔力を一点に集中させ、風を紡ぐ。練り上げた突風は腹の口が放った真紅の光と衝突しながら拮抗した。
 しかしそれも刹那の間だけ。
 風を突き抜け、志桜の肩を貫いた光線はその身に鋭い痛みを与えた。ふらつきそうになったが、志桜の表情に憂いはない。何故なら――。
 志桜の言葉を受けた誠司が八咫烏の群れの合間を掻い潜り、アウルム・アンティーカの真横まで迫っていたからだ。
「やれやれ、不意を突かれてしまいましたか。ですが、押し負けはしませんぞ」
 中央の魔王は彼の接近に気付き、ふたたび背の魔導砲に力を宿していく。だが、誠司は怯まずに距離を詰める。放たれた魔の衝撃ごとを断ち切るよう澄清の刃を振るい、魔力の奔流を薙ぎ払った。
 そして跳躍をひとつ、ふたつ。
 身を貫く魔力には動じず、誠司は大魔王の巨躯に飛び移った。その狙いは宙を舞わんとする翼を断ち切ること。
「……其れ以上の暴虐。罷り通ること、叶わぬと知り給え」
 鋭く重い言の葉が落とされた瞬刻、誠司の振るった刃が黄金の翼のひとつを斬り落とした。途端に揺らぐ大魔王の躰から飛び降りる誠司だが、その背を追うかのように追撃の魔導砲が落とされる。
 新たな痛みを受けた誠司の身体はもう長くは保たないかもしれない。しかし、退く理由もないのだとして、彼は着地と同時に刃を構え直した。
「誠司くん……。ううん、今は心配よりも!」
 志桜は駆け寄るよりも優先すべきことがあると自分を律し、魔女帽子に触れる。帽子の飾りひとつひとつに溜めていた己の魔力を解放し、更に肩口を貫かれたことで滴る血を媒介にしてゆく。
 魔力と血液を代償にして編み上げるのは、紅く鈍く光る陣。
 そして、志桜は其処から燃え盛る劫火を巻き起こす。
「これが――いまわたしにできる全力!」
「私も其の焔に続きませう」
 終ノ焔が燃えあがる最中、誠司も刃をアウルム・アンティーカに差し向けた。二人は既にかなりの痛みと傷を受けている。されど、立ち続ける意志は削がれていなかった。
「おではらへった おではらへった」
 対する腹の口は今も此方を喰らおうと狙っている。だが、志桜も誠司もみすみす喰われる心算などない。
「簡単に食べられてあげるほど、わたしだって弱くないつもりだよ」
「参りましょう」
「うん、行くよ……!」
 誠司が地を蹴りあげ、志桜は最大限に紡いだ焔を解き放った。
 此の一太刀が仲間達の突破口になると信じて。誠司に先んじて迸った炎が魔王の腹の口を穿ち――そして、大きく開いた中央の口蓋が冴えた刃によって貫かれた。
「おでいたい いたい」
「おお、腹の口殿!」
「キケンダヨ! キケンダヨ!」
 大魔王は其処で初めて動揺めいた言葉を落とした。
 だが、此方が受けた痛みも、失った血も多い。自分達の攻勢はもう此処までだと志桜も誠司も理解している。
 それでも二人は勝機を感じていた。翼のひとつをもがれ、腹を貫かれたアウルム・アンティーカの力は揺らいでいる。
 即ち、其れは――次に繋がる確かな一手を紡げたという証なのだから。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

大神・零児
本来なら戦闘で耳を塞ぐべきじゃねぇんだが
魔導楽器群の音色はマルチギアイヤフォンの集音機能をオフに、ノイズキャンセラーオン
両耳に付けて外部の音をシャットアウトする事と狂気耐性で対処

マルチギアとC-BAの機能をリンクさせフル活用、第六感、野性の勘も使い、戦闘知識、世界知識からも情報を引き出し敵の動きのパターンや思惑等の情報収集をし攻撃タイミングをはかる

飛翔するなら体当たりも警戒し敵を常に視覚かマルチギアやC-BAの各種センサーで捕捉し続け、見切りで繰り出される攻撃を回避

なるべくおびき寄せ、早業のフェイントで敵が体制を少しでも崩すように見切りで回避

体制を崩したらUCで多対一にしてボコる

アドリブ共闘可



●響く音
 巡っていた戦いの影響で、敵の翼の一部が削ぎ落とされた。
 その光景を見た大神・零児(人狼の妖剣士・f01283)はこれが好機だと察し、動きはじめたアウルム・アンティーカを見据える。
 大魔王の上の頭は翼の負傷を補うように角を指揮棒のように振るっていく。
 はたとした零児は、そこから聞く者の正気を奪う全身の魔導楽器群の音色が奏でられることを識っていた。既に大魔王の第一形態とは何度も戦っていたからだ。
「本来なら戦闘で耳を塞ぐべきじゃねぇんだが――」
 これまでそうしてきたように、零児はマルチギアイヤフォンの集音機能をオフにしてノイズキャンセラーをオンにする。そうして外部の音をシャットアウトすることと、自らが宿す耐性で以て音に対抗しようとしたのだ。
 更にマルチギアと獣型機械獣の機能をリンクさせ、これまでに得た知識から敵の行動を予測していく。だが――。
「モットツヨク! モットハゲシク!」
 上の頭が指揮棒代わりの角を動かし、更に激しい皇狂曲を響かせてきた。
 その音色はマルチギアイヤフォンすら突き抜け、零児の耳に届く。
「これは……!」
 狂気に満ちた音色は妙に美しかった。しかしその音は精神に作用することで零児の心を揺らがせる。頭を直接掻き乱されるような感覚に耐えていると、黄金の竜翼を広げたアウルム・アンティーカが突撃してきた。
 だが、零児とて惑わされてばかりではない。
 眩みそうになる視界の中、頭を押さえた彼はユーベルコードを発動する。
 ――悪夢顕現『結界崩壊』
 万色の稲妻と詠唱銀の雨が戦場に降り注ぎ、大魔王に命中していった。だが、それを受けながらも突っ込んできた敵の翼が同時に零児の身を深く穿つ。
「しまった……」
 重い衝撃が零児の身体に走る中、大魔王の上の頭がはしゃいだ声を紡いだ。
「ヤッテヤッタ! ヤッテヤッタ!」
「あいつらも学習してるっていうのか……?」
 膝をついた零児が感じていたのは自分の動きが読まれているということ。おそらくはっきりした記憶はないのだろうが、大魔王もまた戦いを重ねることで猟兵の動きを無意識に察しているようだ。
 同じ戦法を繰り返すだけでは戦場を渡り歩いていけない。
 そう感じた零児は今の限界を知り、他の猟兵にあとを託して後方に下がった。
 

苦戦 🔵​🔴​🔴​

イリーツァ・ウーツェ
まずは第一形態
一体ずつ、丁寧に破壊する必要が有る
突撃と光線は止められないか
ならば防御態勢を整える

相手の突撃と同時に、UCを使用
翼を盾とし、杖による水の防御壁を使う
後は死なない様、気を付けて受ける

生き残れば、私の勝ちだ
倍にして返そう
死ね



●崩天の光
 蒸気科学機械がひしめく迷宮内。
 黄金の翼を広げた大魔王を前にしたイリーツァ・ウーツェ(負号の竜・f14324)はその強大さを間近で感じていた。
「まずは第一形態か」
「おではらへった おではらへった」
 イリーツァがその姿を認識すると同時に、此方の気配に気付いたアウルム・アンティーカが突撃してきた。腹の口が空腹を訴えているのだと察した彼は、相手の突撃と同時に力を紡ごうとした。だが――。
 間に合わない。
 そう感じた時にはもう敵が放った真紅の光線が彼の身を貫いていた。
 ユーベルコードで受ける策。それは完全なる失策だ。何故なら、力を発動する前に敵が動くのだから無策で受けるのと同じだ。
 穿たれたイリーツァの腹には深い傷が刻まれていた。致命傷と呼んでもいいほどの怪我だ。しかし、彼は悲鳴ひとつあげなかった。
「突撃も、光線は止められないか……しかし、まだだ」
 自分は未だ死んでいない。
 一撃で満身創痍になろうとも、次の攻撃は必ず受けて返してみせる。翼を盾とし、杖による水の防御壁を張り巡らせたイリーツァは敢えて敵の攻撃を待った。
「これは賭けだ。生き残れば、私の勝ちだ」
「おであれころす おであれころす」
 すると身を翻したアウルム・アンティーカが更なる一撃を放ちに向かってきた。
 そして、一瞬後。
 イリーツァは見事に真紅の光を受けきった――と思った刹那、その身が力なく崩れ落ちた。その瞬間、彼の身体は転送陣の光に包まれる。
 おそらく、危機を察したグリモアの力が強制的にイリーツァを戻したのだ。
 意識を失いかけながらもイリーツァは感じていた。
 もっと別の策を講じていれば、もしくは更なる攻撃の機を狙う考えを持っていれば、一撃くらいは届かせられたのだろう。
 たった二撃で猟兵を打ち倒す。
 大魔王の力はそれほどに強いということがこの場で証明されていた。
 

苦戦 🔵​🔴​🔴​

天御鏡・百々
これが大魔王か
複数の姿を持つなど、なるほど一筋縄ではいかぬようだな

変身……ということならば、この手が良いか

皇狂曲に対しては、あらかじめ用意しておいた耳栓で対処だ
足りぬようなら最悪鼓膜を破ることまで考えよう
ヤドリガミとしての仮の体だ。多少の傷は後で治せばよい

そして『真実を映す神鏡』にて
敵のユーベルコードを封じ、変身を解除してやろう
空を飛ぶとはいえ、鏡に映せぬほどの速さではあるまい

そして飛翔能力が低下したところに
天之浄魔弓(武器:弓)から放つ光の矢をお見舞いしてくれようぞ!
(破魔60、誘導弾12、スナイパー5)

●神鏡のヤドリガミ
●本体へのダメージ描写NG
●アドリブ連携歓迎


飛鳥井・藤彦
まずは戦場となる場所を俯瞰し、利用できそうなもんがないか観察しますわ。
【視力、暗視】
訳分からん機械がぎょうさんある様やし、衝撃波で壊せそうなもんがあれば上々。【地形の利用】
上の頭が指揮棒を構えたら、大筆振るって【衝撃波】で魔王付近の壊せそうな蒸気機械を破壊します。
酷い音は完全に防げへんと思うけど、機械の壊れたり落ちる音で多少演奏の邪魔になるかもやし、瓦礫ができたら壁代わりにして音を防ぎましょ。
凌ぎきれても満身創痍やろうし、そこは【天衣無縫】で力を振り絞って空に上がらせて貰いますわ。

「凡人には理解できひん高尚な演奏聞かせてもろた礼、させて貰うで」

大筆【輝紅篠画】を【なぎ払い】、魔導楽器を破壊。



●鏡に映る影
「――これが大魔王か」
 ただ其処に居るだけで感じる重圧と強大な存在感。
 天御鏡・百々(その身に映すは真実と未来・f01640)は今、黄金の魔皇竜と呼ぶに相応しい者を前にして畏怖のような感情を抱いていた。
 だが、決して怖がっているわけではない。強敵だと分かっているからこそ気を引き締め、油断ならぬと感じているのだ。
「……来るか」
「ヒビカセルヨ! ゼッタイダツメイコウキョウキョク!」
 百々が身構えた刹那、上の頭が角を指揮棒のように振るいはじめた。既にその音色に精神を汚濁され、倒れた猟兵もいる。
 耳栓で対処しようとした百々だが、仲間の姿を見ているがゆえにそれでは足りないと察していた。その瞬間、響く皇狂曲。
 強く唇を噛んだ百々は覚悟を決め、自らの鼓膜を破った。
「……!」
 鈍い痛みと同時に鋭い衝撃が走ったような感覚に陥り、周囲の音が聞こえにくくなる。されど百々の身体はヤドリガミとしての仮のものだ。多少の傷は後で治せばよいと決断したゆえに、百々はそのような大胆な行動に出た。
 魔導楽器群の音色は何とか防げた。
 しかし、満足に音が聞こえなくなったということは聴覚には頼れぬということ。
「なるほど、一筋縄ではいかぬようだな」
 その間にも敵は黄金の竜翼を広げて素早く迫ってくる。
 だが、百々の前に立ち向かった仲間が翼の一枚を切り裂いていた。そのことを知っていた百々はそれこそが狙い目だと感じていた。
 もがれた翼のある方向に回り込み、百々は隙を突いて真実を映す神鏡を展開する。
「我は真実を映す神鏡なり!」
 それは幻術も変化も、即ち変身すらも暴く力。
 空を飛ぶ相手とはいえ、鏡に映せぬほどの速さではないと読んだ百々の考えは当たっていた。鏡が黄金の翼を映し出し、変身が解かれる。
 生まれた隙は敵が再び指揮棒を振るうまでの僅かな時間だろう。だが、猟兵にとってはそれだけでも十分だ。
 百々は後方に振り向き、出来る限りの声を張りあげた。
「我は痛みで耳が聞こえぬが、誰かが居るのは分かるぞ。――後は頼んだ」
 その声を向けたのは誰とも分からぬ猟兵へ。
 誰だって良い。誰であってもこの隙を活用してくれると百々は信じていた。
 そして――。
 
●描く未来は
 それは美しくも妖しい、精神を抉るような曲だった。
 耳に届いた瞬間に正気を奪い、対抗策すら取れぬほどの皇狂曲。
 飛鳥井・藤彦(浮世絵師・藤春・f14531)は実験施設めいた迷宮内に降り立った直後、その音色を聞いてしまった。
「なんやあの音……あんなもん、聞いてしまったら――」
 藤彦は首を横に振り、耳を押さえた。
 利用できるものがないか。まずはそれを観察しようと思っていたというのに、そうしている間に音が耳に入り込んできた。もし相手が先制攻撃を行わず、対等に渡り合える相手であったら指揮棒を構えた瞬間に対応できただろう。
 大筆を振るい、衝撃波で蒸気機械を壊して音を和らげることだって可能だった。
 だが、実際はそうすることすら許されなかった。
 如何に防御して、耐えるか。その判断と行動は一瞬で可能な範囲で考えるべきだったのだろう。だが、そのとき。
 狂気に侵され、機械の影に身を潜めていた藤彦は声を聞いた。
 それは幼い少女のものだった。
 ――後は頼んだ。
 そのような声が聞こえたと思った瞬間、アウルム・アンティーカの響かせる音色がぴたりと止まったのだ。おそらく少女が身を挺して敵の動きを封じたのだろう。
 はっとした藤彦は我に返る。
 魔導楽器群の音色がおさまったことで好機が訪れたと察したのだ。
「任せとき! 大船に乗ったつもりで下がっときや!」
 少女の声に応えた藤彦は立ち上がる。
 青い大筆を振り上げた彼の身は豪華絢爛な神絵師の姿へと変わってゆく。精神を揺らがされたとて、立ち向かう力を振り絞ることは出来る。
「モウイッカイ! モウイッカイ!」
 その間にも力を封じられた大魔王の上の頭が演奏の準備を始めていた。
 しかし、それよりも疾く動いた藤彦は全力で輝紅篠画を振るう。宙に描かれた龍が顕現し、瞬く間に空に舞い上がってゆく。
 藤彦はその背に乗り、翼を広げたアウルム・アンティーカの前に迫った。
 此処からが反撃の時。
 大筆を全力で振るって薙ぎ払えば、衝撃波が魔導楽器を真正面から破壊していく。ピアノめいた部位が崩れ落ち、音を響かせていたパイプが半壊した。
 そして、藤彦は龍を旋回させることで眼下にいる少女――百々に合図を送る。
 彼女こそが窮地を転機に変えてくれた少女だ。
 百々は自ら鼓膜を破って音を防いだらしく、一時的に耳が聞こえないといっていた。それならば、と考えた藤彦は龍の動きで以て機を報せたのだ。
「行くで! っていっても聞こえんか」
 けど思いは通じてるやろ、と付け加えた藤彦はもう一度筆を振り上げた。それと同時に地上に立つ百々が頷き、天之浄魔弓の弦を強く引き絞る。
「我らの一撃、しかとお見舞いしてくれようぞ!」
「凡人には理解できひん高尚な演奏聞かせてもろた礼、させて貰うで」
 そして、二人の言葉が紡がれた刹那。
 地からは光の矢。
 天からは筆の一閃。
 ふたつの力によって黄金の翼が貫かれ、大魔王の身が大きく揺らいだ。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

スバル・ペンドリーノ
「……耳障りな音ね。これで音楽のつもりかしら」
呪詛や狂気の類には耐性がある……なんて言っても、これは「まともに聞いちゃいけない」モノ
今が正気な自信なんてないけれど。それはさすがに分かっちゃう

だからおいで、50に及ぶ私の使い魔、影絵の蝙蝠
貴方たちに敵を倒す力はないけれど……宙を舞い、歌うことは出来る
「ねえ、魔王様たち。貴方は知っていて? 蝙蝠の歌声の心地良さ」
人間には聞き取れない高さの、金切り声の不協和音
一斉に叫ぶ貴方たちの声を、私は聞き取れる

「ああ、少しは心地良い音色になった」
半分は魔王を追いかけ、囲んで、歌ってあげて
もう半分は、ジャンプする私を、いっとき支える翼になって頂戴
この爪が、届くまで



●影音
 戦場には魔導楽器群が奏でる妖しくも美しい音色が響いていた。
 頭の中を掻き乱され、精神を侵されていくかのような――否、実際に正気を奪い去る音楽が迷宮内を満たしている。
「……耳障りな音ね。これで音楽のつもりかしら」
 スバル・ペンドリーノ(星降る影の六連星・f00127)は胸元を押さえ、否応なしに心を乱される感覚に何とか耐えていた。
 確かに音は美しい。
 神経を狂わされてそのように感じさせられているだけかもしれないが、この音をまともに聞いてはいけないことだけははっきりと分かった。
 膝をつき、耳を押さえても音楽は響き続けている。スバルは大切な人のことを考えて意識を保とうとしたが、いつの間にかその顔すら思い出せなくなりそうだった。
「だめ……それだけは、忘れたく、ない――」
 頭を振り、スバルは抵抗する。
 音に惑わされるな。自分を狂気に堕とすこの音色だけには。
 必死に己に言い聞かせながら、スバルは抵抗する。震える腕を前に伸ばした彼女は決死の思いで力を紡いでいく。
「……おいで」
 その瞬間、五十にも及ぶ影絵めいた蝙蝠がスバルの周囲に現れた。
 羽撃きの音は響いていた音楽をわずかに掻き消す。彼らにあの強大な敵を倒す力はないけれど、宙を舞い、歌い踊ることは出来る。
「ねえ、魔王様たち」
 蝙蝠の羽撃きに耳を傾けながら、スバルは静かに立ち上がった。
 まだ胸の裡に宿らされた不安定な心は拭えてはいない。しかし、今のスバルにはそれよりも強い意志があった。
「貴方は知っていて? 蝙蝠の歌声の心地良さ」
 人には聞き取れない高さで奏でられる金切り声の不協和音。一斉に叫ぶ蝙蝠たちの声をスバルは聞き取れる。それは今のスバルにとって、あのような皇狂曲になど負けない最上の音色だ。
「ああ、少しは心地良い音色になった」
 スバルは薄く笑み、次は此方の番だと告げるように蝙蝠達を呼ぶ。
 そして次の瞬間、共に戦う猟兵が放った光の矢と筆の龍閃がアウルム・アンティーカの魔導楽器群を深く抉った。
 崩れ落ちる楽器。歪みはじめる音楽。
 そうだ、自分は今ひとりで戦っているのではない。そう気付いたスバルは今こそが好機だと察し、指先を大魔王に差し向けた。
 蝙蝠の半分は魔王を追いかけて囲み、翼の歌を紡ぐ。そして残る蝙蝠は跳躍したスバルを導く翼となって宙を翔けてゆく。
 どうか、支えて。
 ――この爪が、届くまで。
 銀の髪を靡かせ、影と共に駆けたスバルは血色に染まった爪を掲げる。
 そして、ひといきに振り下ろした一閃は大魔王を更に揺らがせ――ふたたび奏でられようとしていた音楽を、止めた。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

玉ノ井・狐狛
骨董品(アンティーカ)っつう割にゃあ、保存状態のいい魔王サマだなァ。
どこぞの質屋で高値がついたりしないモンかね?

大魔王閣下はコンサートを開催されるようだが……、
音色とやらを妨げるように、花火玉を起爆する。狙えそうなら、楽器の管の中に放り込めるともっとイイ。

どんな上等な演奏だろうと、ジャマされたら「音色」じゃぁなく「雑音」になる。
態度のよろしくないオーディエンスで悪かったなァ。

嫌がらせがうまくいったら、飛翔経路を先読みして術符をバラ撒こう。
お高そうな、金属製の――つまり「無機物の」、楽器に当たるように、だ。

楽団にボイコットされるなんざ、指揮者の人徳が足りなんじゃないか?



●崩れる音
 音が歪み、揺らぐ。
 玉ノ井・狐狛(代理賭博師・f20972)が転送された時、既に大魔王の身体は半壊していた。戦い始まって間もない時に訪れたというのに、既に仲間の猟兵達がアウルム・アンティーカの翼や魔導楽器群を貫いていたのだ。
「骨董品っつう割にゃあ、保存状態のいい……いや、もう崩れかけか?」
 大魔王が冠する名前を揶揄った狐狛。
 だが、すぐに彼女は身構えた。自分が行動するよりも先に敵が動いたからだ。半壊している身体を引き摺りながら、上の頭は指揮棒代わりの角を振りはじめた。
「マダマダ! カナデラレル!」
「そりゃ結構」
 大魔王閣下のコンサートか、と皮肉を返しながら狐狛は襲い来る音楽に耐えた。
 正気を奪う魔導楽器の音色は否応なしに狐狛の耳に届き、精神を掻き乱してくる。だが、狐狛は頭を振って何とか行動に出た。
「これ、で……どうだ!」
 心が押し潰されそうな感覚を必死に振り払い、狐狛は八卦の花火玉を投げ放つ。狙いは定められそうにない。だが、仲間達が魔導楽器を壊してくれていたので何処に当たっても罅くらいは入れられるだろう。
 花火玉が敵に接触する瞬間、狐狛は其処に霊気を込めた。
 着火されたそれは見事に楽器管の中に滑り込む。続けて爆発音が響いたかと思うと、管が粉々に飛び散った。
 それにより、音楽が一時的に中断される。
「どこぞの質屋で高値がついたりしないモンかと思ってたが、もうガラクタだな」
 胸元を押さえて呼吸を整えた狐狛は、予想以上に精神が乱されていることを悟った。だが、嫌がらせ――もとい策は上手く巡っている。
 どんな上等な演奏だろうと、こうなれば音色ではなく雑音になってしまう。
「態度のよろしくないオーディエンスで悪かったなァ」
 次は自分の番だと告げ、狐狛は地を蹴った。同時に術符をばら撒けば、それらは一気にアウルム・アンティーカに向かって飛翔していく。
「そのお高そうな楽器、貸してもらおうか」
 返さないけどな、と付け加えた狐狛は地に落ちた金属製の無機物、即ち魔導楽器を己の式神として操りはじめた。おそらく先に壊していなければ操れなかっただろうが、自分や仲間の一手でそれが叶っている。
 後はそう、全力で以て敵に追撃を与えていくだけ。狐狛は勝利を確信し、苦しみはじめた大魔王を見据える。
「楽団にボイコットされるなんざ、指揮者の人徳が足りなんじゃないか?」
 そして――其処から、佰器夜行の力が更に巡ってゆく。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユエ・ウニ
まるで絡繰りの様で興味深いが美しさはないな。
何はともあれ僕の力も何か助けになるであろう。
協力するよ。

先制攻撃というのは面倒だな。
青年程度の大きさの絡繰り人形も匣に詰めて持って行こう。
帽子を深く被せて、人形である事をカモフラージュしようか。
僕だって人形遣いの端くれだ、人形を人間であるかの様に操ってみせるさ。
そう、まるで無鉄砲に前に出て行く青年の様にな。
敵の注意や攻撃が人形に向けば僥倖。

刻止めで時間を止めれば、人形を詰めてた匣で僕が直接攻撃しよう。
この【フェイント】が上手く嵌まれば良いが。

とは言え、僕一人で動くよりも誰かと動いた方が効率が良いだろう。
そのあたりはその場で連携を取るとしようか。



●過ぎゆく時と巡る刻
 機械仕掛けの黄金皇竜。
 その背が怪しく蠢き、巨大な身体が旋回する。既にその身体は半壊していた。絡繰りのようで興味深くもあったが、其処に美しさはない。
 来る、と感じた瞬間にユエ・ウニ(繕結い・f04391)は即座に絡繰り人形を戦場の中央に向かわせた。帽子を被らせたそれは遠目や一目では人形とは思われ難い。まるで無鉄砲に前に出て行く青年のように進む人形は注意を引いている。
 だが、大魔王の背部にある魔導砲は全周囲に攻撃を放っていった。
「――!」
 穿たれたのは人形だけではない。それを操るユエや、他の猟兵にも魔の力が容赦なく降り注ぐ。鋭い痛み。文字通り、糸が切れたように崩れ落ちる絡繰り人形。
 カモフラージュをしても、それすら無意味になるほどの砲撃が戦場を覆う。
「吾輩達をここまで追い詰めるとは。ですが、負けてはおりませんぞ」
「マダマダ! コレカラ!」
「おでもうつかれた おでもうつかれた」
 アウルム・アンティーカはそれぞれに喋り、猟兵達が穿たれた姿を見ていた。されど、ユエの狙いは的外れではなかった。
 数多の攻撃が少しでも人形に向いたならば、その分だけ自分や猟兵に向かう攻撃が少なくなる。そう読んでの攻撃は功を奏していた。確かに負傷はあるが、動けなくなるほどではない。それゆえにユエはこれで僥倖だと判断した。
 肉を切らせて骨を断つ。
 そう、これは強敵に対する身を削りながらも戦う術だ。崩れ落ちている人形の横を駆け抜け、ユエは己の本体である懐中時計に力を巡らせる。
 それは僅かな間。
 刻止めの力を用い、人形を詰めていた匣を振るいあげたユエはひといきに大魔王へと連撃を仕掛けた。
 一撃、二撃、更に三撃目。
 対抗しようとするアウルム・アンティーカを凌駕するほどの勢いで四撃目を、そして五、六――と数えてからの九度目の攻撃。
 自らの身を削られるような感覚に陥ったが、ユエは止まらない。
「この一撃のあとは、頼むよ」
 ユエはこの戦場に立つ誰かへと呼びかけた。誰でも良かったのではない。誰だとしても必ず終幕への路を紡いでくれると信じていたからだ。
 そして、ユエは最後の一閃を振り下ろした。
 戦いが終わる刻はもう間もなく。その瞬間が訪れるときを待ち、時を刻もう。ユエが決意した刹那、時が動き出した。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

鞍馬・景正
ワン嬢(f00710)と。

洪水の如き魔導砲、生半可な策では打ち破られるだけでしょう。
ならば乾坤一擲にて挑むのみ。

◆対策
ワン嬢を背に庇い、彼女への攻撃も纏めて受け止めて御覧に入れる。
二刀を振るっての【衝撃波】で威力を弱め、それが能わずとも【武器受け】で刀身を盾とし守りを固めましょう。

【激痛耐性】で一撃、一秒でも多く持ち堪え、第一波が止むかワン嬢の攻撃準備が整うまで防ぐ事に全力を。

◆攻撃
我が身を盾にワン嬢が反撃されれば御の字。

しかしまだ少しでも動けるようであれば、魔王めの視界外に移動し、残る力を振り絞って【野晒】による奇襲を仕掛けさせて頂く。

狙いは背部の砲身、発射寸前で切断して御覧に入れる。


ワン・シャウレン
鞍馬(f02972)と参加

魔王が複数同時顕現とはオブリビオンならではじゃな
挑む分には一度に戦い続けず済むのを好機とみるべきか
頼むぞ鞍馬

返しはいくらか考えたが魔導砲
やはり目には目、ガジェットにはガジェット
ガジェットショータイムで勝負

敵先制攻撃については鞍馬に託し召喚に専念
出来ればオーラ防御での支援程度はかけてやろう
呼び出すガジェットは魔導砲の反射装置
先制攻撃の様子を見切り、出来るだけより良いものを呼び出したい
召喚完了と共に無差別攻撃には今度はわしが前に出て反撃。

その後は、この程度か、等と多分実際はきつかろうが大口を叩いて注意を引き、
鞍馬が追撃に入れる隙を今度はわしが作ろう



●託す思い
 すべてを殲滅せんとして解き放たれる魔導重砲。
 猟兵達に翼を穿たれたアウルム・アンティーカは今、迷宮にひしめく蒸気科学機械ごと破壊しつくす勢いで攻撃を放っていた。
「いよいよ吾輩達も形振り構っていられなくなりましたな」
「ピンチダヨ! ハラノクチガモウシヌ!」
「おでもうだめ おでもうだめ」
 体の半分が崩れかけている大魔王だが、腹の口以外の部位はまだ力を揮えるようだ。その証拠に洪水の如き魔導砲の熱が鞍馬・景正(言ヲ成ス・f02972)とワン・シャウレン(潰夢遺夢・f00710)に迫ってきている。
「鞍馬、託したぞ」
 ワンの声を聴き、景正は頷きを返した。これから巡るのはそれ以上の言葉を交わす暇すらない、まさに一瞬の出来事だ。
 景正は覚悟していた。
 生半可な策では打ち破られるだけ。ならば乾坤一擲にて挑むのみだと。
 ワンを背に庇った景正は、彼女への攻撃をすべて受け止めるつもりでいた。構えた二刀、濤景一文字と鬼包丁を振るう時間すら与えて貰えないだろう。
 だが、彼には押し負けたりしないという思いの強さがある。
「――!」
 刹那、魔の衝撃が幾重もの軌跡を描きながら景正の身を深く抉るように貫いた。
 響く痛み。身体を引き裂くような衝撃。
 されどワンには決して攻撃を通さない。どれほど身体に痛みが走ろうとも、景正はそれだけは貫き通すと決めていた。
 次々と飛来する魔導砲撃。だが、途中から景正の身を守る陣が形成されていった。その力はワンが紡いだ防御の魔力だ。
「行けるか、鞍馬」
 更に景正を貫くはずだった衝撃はワンによって和らげられる。呼びかけに視線で以て応えた景正は身構え、二刀から衝撃波を打ち放った。
「ええ、この先の攻撃も纏めて受け止めて御覧に入れましょう」
「無理をするでないぞ」
 心配はしておらぬが、と付け加えたワンは片手を胸の前に掲げる。彼のおかげでワンはほとんど無傷だ。
 ワンは彼が作ってくれた好機を用い、ガジェットを召喚する。
 景正は痛みを押し込め、ただ一分一秒でも長く彼女の盾になろうとしている。其処で大魔王からの第一波が止み、ワンの手元に魔導機械が召喚された。
「やはり目には目、ガジェットにはガジェットじゃ」
「次は頼みました」
 景正は自分の身体が疾く反応できなさそうだと察し、攻撃の全てをワンに託した。防御を託されたのだから、反撃の機は彼女へ。
 その言葉が信頼の証だと感じたワンはガジェットを構える。魔導砲の反射装置として召喚されたそれは鈍い光を放ちはじめた。
「大魔王とやらもこの程度か」
 ワンは魔導蒸気機械に力を込めながら、敢えてアウルム・アンティーカに挑発めいた言葉を投げかけた。
「おや、聞き捨てなりませんな」
「シツレイナ! イクヨマンナカノヒト!」
「…… ……」
 対する大魔王は再び魔導砲を解き放とうとしている。その力がチャージされていく間に景正は最後の力を振り絞り、攻勢に出ることを決意した。
「次の一手、ワン嬢が防いでくれると信じています」
 だから、打って出る。そう告げるかのように地を蹴った景正は敵の死角に回り込んでゆく。刹那、アウルム・アンティーカが二度目の魔導砲撃を解き放った。
「すべて跳ね返してやろうぞ」
 ワンはほぼ同時にガジェットを起動させ、幾つもの線を描いて戦場に舞う砲撃を迎え撃つ。敵に当てるのではなく、攻撃を無効化する力を。ただそれだけを狙って解放された蒸気魔力は殲滅の黄金光を撃ち貫き――そして、其処に景正による鋭い斬撃が振り下ろされる。
 背部まで回り込んでいた彼は砲身のひとつを斬り落とし、即座に身を翻した。
 今まさに発射されんとしていた砲撃は阻止され、別方向から景正に迫っていた一撃もワンの魔導撃によって相殺されている。
 景正はガジェットを構えたワンの元に戻り、痛みを堪えながら身構え直した。
「これで……あの砲身は、削ぐことが出来ましたね」
「ああ。じゃが、わしらは此処までか……」
「ワン嬢?」
「すまぬ、ちとしくじってしまったようじゃ」
 しかしワンの声には覇気がなかった。景正が振り向くと、其処には腹を貫かれて膝をつく彼女の姿があった。おそらく自分よりも景正に向いた魔導砲を撃ち落とすことに注力していた結果だろう。
 景正はそのことを察し、自分達の消耗具合を冷静に受け止める。そして、彼はワンの身を気遣うがゆえの決断を下した。
「……一度、退きましょう」
「そうじゃな、わしもお主を死なせたくはない。それに――」
 後は皆がやってくれる。
 ワンも景正の身体を思い、戦いの行方を仲間達に委ねることにする。しかし自分達とて魔王の力の一部を削ぐという確かな爪痕を残した。
 託し、託され、仲間に信頼を抱く。これこそが猟兵としての戦いだ。
 そして――二人は共に支え合い、終わりに向かっていく戦いをしかと見据えた。
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィルジール・エグマリヌ
大魔王なだけあって格好好いじゃないか
さて、私も物語の勇者に成れるかな

音色での錯乱攻撃か
耳を塞ぐ……だけじゃ足りないだろうし
こころが折れぬよう正気を確り保とう

そういえば……アルダワには友人の店が有る
彼が作る細工物や料理はきらきらと煌めいていて素敵なんだ
だから、それらを私がすべて楽しみ切るまでは
――この世界を滅ぼすなんて許さない

大魔王には、愛らしい地獄の大王をご紹介しよう
さあ――おいで、ストラス
強化された翼は其の儘にしておくと厄介だ
お前が呼んだ凍てつく流星群で、あれを撃ち落としておくれ

私だって前に出るとも
思い切り地を蹴って大魔王へ捨て身の一撃
電気を纏った処刑剣で、傷口を抉りながら2回攻撃してやろう



●静謐の旋律
 狂った音律と歪んだ音色が響き渡る。
 翼を切り落とされ、魔導楽器を半壊させられ、尾は折れている。
 そんな姿になっても大魔王、アウルム・アンティーカは猟兵を狂気に陥れんとして、皇狂曲を響かせ続けていた。
「滅びる寸前でも抗う。大魔王なだけあって、格好好いじゃないか……」
 ヴィルジール・エグマリヌ(アルデバランの死神・f13490)はふとした思いを言葉として零しつつ、身を蝕むような音色に耐えていた。
 耳を塞いでも届く音。
 それが妙に美しいと感じてしまうのは精神が掻き乱されているからだろうか。
 こころが折れては戦えない。
 彼が正気を保つべく講じた策は、ただ耐えること。だが、その方法はじっと嵐が過ぎ去ることを待つような類ではない。
 思い返すのは、アルダワある友人の店。
 彼が作る細工物や料理はきらきらと煌めいていて素敵だった。
 扉を開いた時に鳴った硝子のベルの心地よい音。暖かで控えめな灯りを反射する透明な宝石。あの煌めきを思い返していると、荒立つこころが僅かに凪いできた。
 そうだ、ここで折れればあの店も無くなってしまう。
 決して負けられない。それらを自分がすべて楽しみきるまでは。あの場所に集った皆が笑って過ごしている幸せな未来をこの目で見るまでは。
 ――この世界を滅ぼすなんて許さない。
 顔をあげたヴィルジールは、思いの強さで狂気を打ち祓っていた。未だ音楽は響いているが、あんな曲はもうただの雑音にしか思えない。
「さて、私も物語の勇者に成れるかな。さあ――おいで、ストラス」
 気を確かに持ったヴィルジールは処刑剣を掲げる。柄頭に嵌めた水宝玉が鈍く光ったかと思うと、影が彼の前に顕現した。
 其処に喚んだのは、昏き森より羽搏く賢王。
「マンナカノヒト! ナニカクル!」
「ふむ、我輩達に敵うと思ってのことでしょうかな」
「…… ……」
 逸早くヴィルジールの動きを察知した上の頭が注意を呼びかける。それに答えた真ん中の人が身構える中、腹の口は戦う力を失ったらしく口を閉じていた。
 それもこれまで戦った猟兵の力があったからこそ。
 畳み掛けるならば今だと察したヴィルジールは一礼し、処刑剣を振り上げた。
「大魔王には、愛らしい地獄の大王をご紹介しよう」
 既に半分がもがれているが、残る黄金の翼を其の儘にしておくと厄介だ。ヴィルジールは剣先で敵の翼を示し、ストラスに願う。
「お前が呼んだ凍てつく流星群で、あれを撃ち落としておくれ」
 その声に応えるようにして賢王が力を振るった。翼に目掛けて落ちていく流星は尾を引きながら戦場に光を齎す。
 それと同時にヴィルジールも剣を構えて思いきり地を蹴った。
 狂気の音色が更に響きはじめたが、もうヴィルジールには効かない。守るべきものも、進むべき路も既に知っているからだ。
 電撃を剣に纏わせた彼はひといきに刃を振り下ろす。更にストラスの流星が命中した部位へと刃を切り返し、更なる剣閃を叩き込む。
 振るわれた竜尾が身を穿とうとも構わない。ただ、己の一撃で終幕への始まりを飾ろうと決めていた。
 その一閃は何よりも鋭く、アウルム・アンティーカの巨躯を貫いた。
 

成功 🔵​🔵​🔴​

ナイ・デス
始まりは、ソラだった、とか
なら、私も。パートナーとして、続かないわけには、ですね
大魔王さん、倒します!

先制攻撃放たれてから着弾まで、0.05秒と少しあればいい
【念動力】を盾のように【覚悟、激痛耐性、継戦能力】耐えて
『イグニッション』
『』は防具初期技能

『勇気』を、胸に
『オーラ防御』纏った手足で『かばい』受けながら、突破する
『野生の勘で見切り』避けながら『空中戦ダッシュ』
『迷彩』で一瞬でも見失わせ、隙を狙って『暗殺』
【鎧無視攻撃】黒剣鎧の刃と拳『怪力』で打ち込んで
【零距離射撃】『誘導弾』
【範囲攻撃、生命力吸収】する光

ダークゾーンの、闇から現れたその次は
勇者の光に飲まれ、消える時、です!



●闇を照らす光
 大魔王の一形態、アウルム・アンティーカ。
 立ちはだかる敵を倒し、屠るための第一陣を飾ったのはソラスティベルだった。
 始まりが彼女なら、次は自分。
 ナイ・デス(本体不明のヤドリガミ・f05727)はパートナーたる彼女が作った道筋を辿るように、大魔王の前に出た。
 既に猟兵達によって敵の翼はすべて切り落とされて壊され、貫かれた腹の口も沈黙している。上の頭は罅割れ、先程まで喋っていた口もカタカタと揺れるのみ。
「腹の口殿……。上の頭殿も逝ってしまわれましたか」
 意識を保っているのは真ん中の人だけ。
 しかし、砲台を壊されていたとしても彼の攻撃は決して止まない。
「吾輩が散ろうとも、皇狂曲は鳴り止ませはしませんぞ!」
 解放される黄金殲滅魔導重砲。
 崩れかけた魔導砲が軋んだ音を立てながら魔力を撃ち出し始める。それはナイが動くよりも疾く解き放たれた力だ。
 だが、ナイにとってはそれは恐るべきものではない。
 ――イグニッション。
 先制攻撃を放たれようとも、其処から着弾まで0.05秒と少しあればいい。瞬時にその身を景色に溶かしたナイは出来得る限り砲撃を避けようと努めた。
 されど鋭く迫る魔の力は次々とナイの身を抉っていく。
 それでも膝をつくわけにはいかない。あれほどの勇気を示した彼女の姿がまだ、この瞳に映っているかのように思えた。
「私も。パートナーとして、この身を、削ってでも――」
 次第にナイを穿つ砲撃の衝撃が和らいできた。それは彼自身が敵の動きを読みはじめ、念動力を用いて衝撃をいなしているからだ。
 そして、数多の魔撃が降り止んだ次の瞬間。
 ナイは地面を大きく蹴りあげ、ひといきに敵へと駆け出した。追撃の魔導砲が紡がれんとしているが、そんなことなど構わない。
「大魔王さん、倒します!」
 決意の言葉を紡いだナイはただ真っ直ぐに駆け抜けた。
 横から身を抉る魔力が腕を貫いた。転がる瓦礫が足場を阻んでいた。しかし、それらを受け止めて躱し、一気に跳躍したナイは黒剣鎧の刃を顕現させる。
「おお、おお。なんという……!」
 怯まずに迫るナイを見据えた大魔王は驚きの声をあげた。
 その感嘆はナイに対してだけではない。
 それは――。
 
 勇気を以てして耐えたソラスティベル。相棒竜や鷲と共に戦ったユヴェン。
 心を殺して機動兵器と共に突撃したアイリ。身を挺して仲間を庇い、果敢に立ち向かった誠司。全力を賭して魔力を解き放った志桜。
 倒れたとて意志を貫こうとした零児とイリーツァ。
 自らを傷付けても好機を作り出した百々に、揺るがぬ意志を描いた藤彦。
 大事な人を想い、その爪を届かせんとして駆けたスバル。音を封じようと動き演奏を止めようとした狐狛や、時を止めて新たに刻もうと決めたユエ。
 互いを支え合い、己の矜持を貫き通した景正とワン。大切な世界と人を護るために、狂気を乗り越えたヴィルジール。
 そして、今こそ大魔王に止めの一撃を与えんとしているナイ。
 アウルム・アンティーカは此処に集った猟兵達すべてに称賛を送っていた。
「素晴らしいですな! 吾輩達の皇狂曲を聴く者達がこれほどとは――」
 壊れた身体を軋ませる大魔王。
 其処へ渾身の一閃を振り下ろすナイ。
 一瞬後。
「その曲も、もう終演、です」
 ナイが言い放った言葉と共に黒の刃と拳が打ち込まれる。其処から満ちはじめた眩い光は戦場すべてを覆うほどに拡がっていった。
「ダークゾーンの、闇から現れたその次は、」
 ナイは広げた光に己の力をすべて込め、最期に送る言葉を紡ぐ。
 皇狂曲に終止符を。
「そう――勇者の光に飲まれ、消える時、です!」
 そして、光が収まった刹那。
 大魔王、アウルム・アンティーカの身体が激しい音を響かせながら崩れ落ちた。
 
●此処から続く戦い
「お見事、でしたな……」
 命の灯が消えんとする中、大魔王は唯一崩れなかった頭の角で拍手を送る。
 それは戦いの音色を奏であげた猟兵へと贈られる嘘偽りのない称賛の証だった。
 だが、大魔王は最期に言い残す。
「ですが、我輩達を倒しても、第二、第三の形態が……この世界を闇に……」
 それ以上の言葉を紡ぐことなく、アウルム・アンティーカの身体は躯の海へと還って逝った。その声を聞いていた猟兵達は首を横に振る。
 たとえ幾度も戦いが巡ろうとも、その度にこうしてすべてに終止符を打つ。
 そう決意している。
 それこそが自分達、猟兵という存在なのだから――。
 

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2020年02月06日


挿絵イラスト