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瓦礫の侵攻──アルダワ人形戦線2019

#アルダワ魔法学園

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#アルダワ魔法学園


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●幕裏
 ───閉ざされていた。
 空気は澱み、停滞し、並んだ窓もとうに煤けて薄暗い。当たり前だ。光溢れる世界など、窓の外にありはしない。あるのは古びた土壁と、どこまでも続く迷宮の暗闇だけ。それで、よかった。それだけで、よかった。
「‥‥‥。‥‥‥。‥‥‥。」
 ここは打ち捨てられた物の墓場。瓦落多の王国。目覚めぬ者達の楽園。それで、いい。それで、良かったというのに───。
 ぐらり、と。波打つような不快な感覚とともに、なにかが致命的に繋がる音がした。閉め切った扉の向こう側で、死んでいた筈の大気が乎細く呼吸を再開したのが分かる。分かって、しまう。
「‥‥‥。‥‥‥。‥‥‥‥‥‥、はぁ。」
 溜息と共に、部屋の主は瞼を上げた。‥‥嗚呼、昏い。暗い。闇い。
「───紅玉(ルビィ)。」
 ホゥ、と。言の葉に呼応して、小さな灯かりが部屋に燈った。マッチ一本程度の火が、古びた部屋の空気を静かに焦がす。‥‥こうして動作をするのは、どれ程ぶりだろうか。ベルベットのソファに積もった埃が厚い。‥‥いつから、ここでこうしていたのか。
 久遠の闇に身を横たえて居られるのなら、それでも良いと思っていた。このどうしようもなく深い深い地の底で、未来に磨り潰されて塵芥になるのもまた、失敗作として相応しい末路だと、諦念の果てに許容したはずだったのに。
「‥‥‥はぁ。」
 また小さく、溜息をつく。繋がってしまったのだ。そして自分は、目覚めてしまった。この部屋はもはや棺でなく、また檻としての機能をも喪った。
 ───で、あれば。征くしかあるまい。
「支度なさい、従僕たち。主人を差し置いて眠りこけるだなんて、本来廃棄もいいとこよ。」
 高慢に。尊大に。傲岸不遜に。目覚めた数多の従僕を従えて、人形の女帝は遥か地上へと鋭く嗤う。

 ───瓦礫の王国が、侵攻を開始する。

●プロローグ
「招集に応じて下さりありがとうございます、皆さま。本来なら手品の一つでも披露したいところですが、予断を許さない状況です。早速説明を始めさせていただきます。」
 グリモアベースに集った猟兵たちを出迎えたのは、紳士然とした格好のミレナリィドール───ヘンペル・トリックボックス(仰天紳士・f00441)であった。常日頃から飄々ととしている紳士人形だが、この日ばかりは様子が違っていた。
「アルダワ魔法学園にて、強力なオブリビオン───いえ、災魔の復活と、それに伴う学園への大侵攻を予知いたしました。急ぎ現地へと向かい、これを食い止めていただきたい‥‥!」
 険しい表情で紳士はそう言うと、一呼吸つく間すら惜しむように言の葉を重ねる。
「転移地点はアルダワ魔法学園における迷宮の一区画、通称『廃棄坑』と呼ばれるダンジョンです。相当古くからある迷宮のようで、近年までは処理しきれない廃棄物の殆どを、この区画に捨てていたとか。ですので今回は非常に足場が悪く、また大変に見通しの悪い場所での戦闘となります。」
 霊符によって空間投射された戦場の図は、さながら広大な廃棄場を思わせる地形である。
「侵攻する災魔の大半を占めるのは、超近接戦闘、及び暗殺を得意とする災魔『メイド人形』。そして今回、人形の軍勢の指揮を執っているのは、他でもないメイド人形たちの創造主、『ナンバーゼロ』を名乗る強力な人形型の災魔です。今日に至るまで、永らく出現記録のない災魔でしたが───」
 迷宮の変状によって解き放たれた?と、一人の猟兵が言った。
「‥‥‥おそらくは。現在、ナンバーゼロは廃棄坑深層階より侵攻を開始。すでに迷宮内で稼働していたメイド人形たちをも残らず自軍に加え、凄まじい速さで廃棄坑上層部に迫っています。地上に到達するのは時間の問題でしょう。」
 それだけの『過去』が地上へと浸み出せば、どれだけの被害がでるか想像もつかない。学生や一般人の避難は出来ているのか、という猟兵の問いに、ヘンペルが迅速に頷く。
「えぇ、廃棄坑区画の避難は一時間前に完了しております。現在、このダンジョンに残っているのはサポート役を買って出た数人の学生たちだけです。彼らもまた、我々が到着次第、避難を開始する手筈になっています。」
 伝えることは伝えたとばかりに、ヘンペルの右手へと光が収束する。白いカラスの姿をとったソレが宙へ羽ばたくと同時、紳士人形は猟兵たちの転移を開始した。
「‥‥‥人形の本懐が、怨嗟と殺戮であっていいはずがない。たとえ、どれだけの『過去』がその歴史を苛んでいるのだとしても───」
 どこか願う様に呟いた人形の言葉を、果たして耳にしたものがいたかどうか。
「───事が終わったら、皆で後片付けをいたしましょう。」
 どこか寂しそうな表情でお辞儀した彼の姿が、最後に見えた気がした。


信楽茶釜
 人形の本懐とは如何なるものや。
 どうも皆様はじめまして、信楽茶釜と申します。陶器製です。
 一章、二章ともに純戦シナリオとなります。三章は跡片付けです。
 以下補足です。

●最終目的
 災魔の完全撃退、及び廃棄坑区域の撤去作業。

●一章の目的
 集団戦となります。押し寄せるメイド人形を押し止め、撃退してください。

●現在開示可能な情報
『ダンジョン・廃棄坑について』
 大型の廃棄物や焼却処理が難しいゴミ等が長い間投棄され続けてきた、アルダワに数ある『ゴミ箱』のひとつです。異臭や危険な化学物質の発生による環境問題、加えて予期せぬ災魔の出現を促すことから、近年は区画整備が行われつつあるものの、あまりに広大かつ膨大な量の廃棄物を前に作業は停滞している。

●予知による断片的な情報
『暗闇』『瓦落多』『ゴミ箱』『憤怒』『悲哀』『諦観』『代用品』『原型』

 それでは、どうぞよろしくお願いします。
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第1章 集団戦 『メイド人形』

POW   :    居合い抜き
【仕込み箒から抜き放った刃】が命中した対象を切断する。
SPD   :    暗殺
レベル分の1秒で【衣装内に仕込まれた暗器】を発射できる。
WIZ   :    人形の囁き
対象のユーベルコードに対し【対象の精神に直接響く囁き声】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●第一幕 -0-

 ───キィ。───キィ。───キィ。

 鼓膜を引掻く厭な音が、幽かに聴こえる。
 その場所に吹く風は、酷く渇いていた。空空漠漠、無味乾燥───そんな言葉ばかりが浮かんでくる場所であった。
 例えば、瓦礫に埋もれた家財道具。例えば、時を刻まなくなった柱時計。例えば、横転した蒸気バスの車両。そして───それらを呑み込みどこまでも拡がる、無尽蔵のゴミの山。薄明の内に果てしなく続く、荒涼たる砂漠の如き風景。
 ここは輝かしい魔法学園の歴史の陰で、その負債を延々と受け入れ続けたアルダワの塵箱、通称『廃棄坑』。階層毎に不規則に口を開けた巨大な縦穴によって、地下深くまで続くこの迷宮は、曰くアルダワ創設当初より存在していたという。
 ───キィ。───キィ。───キィ。
 厭な、音。地下階へと続く奈落の底から聴こえてくるその音は、さながら亡者の呻き声にも似て───しかしてそれらは、奈落の縁からゾロゾロと姿を顕わにする。
 身長80センチ程の、少女の姿をした人形の群れであった。そのどれもが瀟洒なエプロンドレスに身を包み、片手に箒を携えている。一見すると可愛らしい人形ではあったが、奈落の底から無数にゾロゾロと無言・無表情で這い出す様は、まるで感情のない昆虫の群れのようで、どこか悪夢的なものを感じさせずにはいられなかった。
 ───キィ。───キィ。───キィ。
 錆びついた球体関節の軋る音が、瓦礫の砂漠を埋め尽くしてゆく。斯くして廃棄坑第一層へと到達を果たした人形たちは、地上へと続く唯一の縦穴を目指して行軍を開始した。従僕としての本懐を果たすために。人形としての矜持を示すために。打ち捨てられたものたちの怨嗟を奏でるために。

 ───キィ。───キィ。───キィ。
 ───キィ。───キィ。───キィ。
 
 厭な、音。それは嗤っているようにも、哭いているようにも聴こえた。
ステラ・アルゲン
棄てられた物が行き着く場所……ですか。同じ人に使われる物として彼らの声なき声には胸が痛みます。しかし、私は猟兵として、過去から這い出るオブリビオンは斬らねばなりません。他ならぬこれからの未来の為に。

【ブレイズフレイム】を使用。火の明るさにより足場や敵の視認がしやすくなるかと。もちろん敵への攻撃にも使用します。その際には【属性攻撃】で威力を上げる。
敵の攻撃は【フェイント】を使って空振りを誘い、隙ができたら【2回攻撃】。他の猟兵の方と連携できればしようと思います。


花宵・稀星
……廃棄坑から人形のオブリビオンの群れ、ですか。
種族ミレナリィドールの私としては、思うところがあるですね。
もし私自身、出来損ないとして廃棄されていたら、そういう運命もあったのでしょうか。

とはいえ、オブリビオンに身をやつしてしまった人形に、かける情けはないのです。

黄色の属性攻撃を補助する装備<トパーズ>の宝石の助けを借りた<雷鳥>を発動し、メイド人形の群れを攻撃するのです。

メイド人形とはこれまで幾度か交戦してきたですが、今回の主人はそれを生み出す元凶とくれば、一筋縄ではいかないかもですね。

※アドリブ歓迎、また高い成功度でも辛勝描写は歓迎です。


彩瑠・姫桜
廃棄坑、ね
復活した災魔に、同情してしまうくらい酷い場所だと思うわ
もしも、私が廃棄物として、いらない者としてここに棄てられて
ずっとここに居続ける事になる事になったら、きっと耐えられない

棄てられた『過去』が感情を持つなら、その感情に同情はする
けれど、それ以上の何かが私にできるわけじゃない

なら、せめてその憤怒を悲哀を受け止めて…しっかりと留めを刺して倒すわ
それが、今の私にできる、最良だから

SPD
メイド人形の動きを観察
行動パターンから隙を狙って【咎力封じ】を使用
【手枷】【猿轡】【拘束ロープ】で動きを封じて
ドラゴンランスで【串刺し】にするわ

積極的に前へ
他の仲間とも連携し、一体一体を着実に減らしていくわね



●第一幕 -1-

「ここが廃棄坑‥‥‥なんて酷い場所。復活した災魔にも少しだけ───」
 同情してしまう。思わずそう呟いて、彩瑠・姫桜(冬桜・f04489)はどこまでも続く瓦礫の砂漠を見渡した。もしも自分が不用品と断じられ、この場所で悠久の時を過ごすことになったとしたら───。とても耐えられないと、姫桜は目を閉じ首を振る。つい先日までごく普通の女学生だった彼女には、想像もできない苦痛であった。
 そんな彼女の肩にポン、と。気遣う様に白い手袋が添えられた。
「‥‥‥ほどほどに、姫桜殿。強い同情は時に心を灼きます。とは言え───その感性は喪うべきではない。それは紛れもない、貴女の強さです。」
 そう優しく告げるのは、凛とした佇まいの騎士、ステラ・アルゲン(流星の騎士・f04503)である。流星剣のヤドリガミたる彼──―否、男装の麗人である彼女もまた、眼前の光景には少なからず思うところがあるようであった。
「廃棄坑‥‥‥棄てられた物が行き着く場所、ですか。同じ人に使われる物として彼らの声なき声には、正直胸が痛みます。この場所は正真正銘、私たちにとっての地獄に他ならない。」
「‥‥‥そうね。私たち、毎日何気なくモノを消費して生活してるけれど───」
 その行きつく先がこの光景であるのなら、文明とはなんと罪深い業を抱えているのか。ただそこにあるだけの真実に、姫桜とステラは暫し言葉を失う。瓦礫の山の麓、足下に転がる罅割れたレンズが、無表情に二人を見つめ返していた。
「───もし私自身、出来損ないとして廃棄されていたら、こういう運命もあったのでしょうか。」
 透き通ったその声に、二人がハッと顔を上げる。渇いた風に金の刺繍を揺らし、瓦礫の山に立っていたのは、あどけない少女姿の人形───花宵・稀星(置き去り人形・f07013)であった。廃棄坑を見渡す彼女の表情は茫漠たる薄明の内にあって尚、どこか暗い色を帯びていた。
「‥‥‥出来損ない?」
 聞き返す姫桜の言葉に、稀星は小さく首を振る。
「あ、いえ。生きた人形───ミレナリィドールの私としては、思うところがあるですよ。記憶らしい記憶も残ってない私ですが‥‥きっと、自分を作ってくれた人に見放されて、こんな場所に埋もれていくのだとしたら、それはとっても悲しいなって。そんなふうに、思うのです。」
 悲しい。端的な一言の裏側に酷く重たい響きを感じて、姫桜は二の句を告げなくなってしまう。花宵・稀星───猟兵以前の記憶がないと語る彼女の目に、この光景はどう映っているのだろうか。再び押し黙る二人を前に、稀星はハッとした様子で頬をかいた。
「アハハ‥‥なーんて。同情したところで、過去が変わるわけでもないですし。オブリビオンに身をやつしてしまった人形に、かける情けはないのです!」
「‥‥‥えぇ、確かに、猟兵として、過去から這い出るオブリビオンは斬らねばなりません。他ならぬこれからの未来の為に。ですが─――無理をしていませんか、稀星殿。」
 言葉とは裏腹に、晴れ切らない稀星の顔。流星の騎士の問いに、置き去り人形は呟くようにして答える。
「‥‥‥悲しい過去は、どこかに置き去りにしてくればよいのですよ。私達には未来があるのですから。だから、無理などしていないのです。」
 過去に囚われることなく、これからに続く今と未来こそを大切に─――。現世に目覚めてから彼女自身が己に敷いた、前を向いて歩くための絶対の規範。いつも彼女の背を押してくれていたソレは、しかし今回に限って妙に安定感を欠いていた。
「‥‥‥無理なんて、していないのですよ。」
 ぐらりぐらりと心が揺れる。胸のざわつきは一向に収まる気配がない。置き去りにしてきたはずの過去が、遥か遠くで警鐘を鳴らし続けている。
「私は─――」
「稀星さん!」
 希星がうつむくのと、声を上げた姫桜が拘束具を一斉に放ったのはほぼ同時であった。姫桜の放った三種の拘束具は希星の横顔を掠め、今まさに彼女の首を刎ね飛ばさんと襲い掛かった災魔─――メイド人形を、寸でのところで拘束する。宙空にて身動きの取れなくなったその躯体に間髪入れず接近した姫桜は、手にしたドラゴンランスで容赦なくトドメの一撃を見舞った。
「怪我はない?稀星さん!」
「ぁ‥‥は、はい、ありがとうなのです‥‥‥!」
「─――迂闊でした。いつの間にか、敵に包囲を赦してしまっていたようだ‥‥‥!」
 背中合わせに立つ三人を囲むように瓦礫の陰からぞろぞろと、メイド姿の人形が姿を現す。一様に無機質な視線を向ける彼女たちは、しかして一様に薄ら寒い殺気を静かに放っていた。
「う、嘘でしょ!?なんて数よ、これ‥‥‥!」
「数もさることながら、真に恐るべきはこれだけの包囲を悟らせないその隠密性‥‥‥!やはり、暗殺を得手とするだけありますね‥‥‥!」
 冷や汗をかく姫桜と、冷静に戦局を分析するステラ。その間にあって漸く、稀星は現状を認識したようであった。
「‥‥‥メイド人形とはこれまで幾度か交戦してきたですが、これだけの練度で統率されているのは他に類を見ないです。統率個体が他でもない彼女たちの造物主であるのなら、一筋縄ではいかないかもですね‥‥‥!」
 強くなる胸のざわつきを無理やり押さえつけ、稀星はドレスの懐に指を滑り込ませる。兎にも角にも、今はこの苦境を打破することが先決だと、置き去り人形は判断した。
「成程、集団戦における戦力の上昇に加えて、奇襲に打って付けのこの環境。如何にも私たちに不利な状況だ。」
 ─――であればと、流星の騎士は左腕を掲げる。
「まずはこの暗闇を焼き尽くす‥‥‥!逃げ隠れは出来ないと思え、暗愚の徒よ!」
 ゴゥ、と。闇を切り裂いて、蒼き焔が屹立する。左腕を地獄化したステラが、陽炎に揺らぐ指先をまっすぐ人形たちへと突き付けた。
「―――来い。我が主の名に懸けて、このステラ・アルゲンが御相手仕る‥‥‥!」
 無数の躯体が、跳ねた。チャキリと一斉に、鞘内で白刃が牙を剥く音が聞こえる。ステラを八つ裂きにせんと四方八方から放たれた、仕込み帚による鋭い居合い抜き。しかして殺到した幾つもの刃は、ステラを捉え切り裂きバラバラに解体する───
「‥‥‥!?」
 ──―ことなく、その尽くが空を切って泳いでいた。
「‥‥‥陽炎だよ、お人形さん。」
 すかさず叩き込まれた爆炎に、一体ならず二体ものメイド人形が焼失する。そしてその隙を、残る二人も逃しはしなかった。
「はあああああああああああ!!!」
 赤い軌跡を描いて、姫桜のドラゴンランスが空を奔る。数体のメイド人形を薙ぎ払い、少女はさらに一歩、足を踏み出した。
「──棄てられた『過去』が感情を持つなら、その感情に同情はするわ。けれど、それ以上の何かが私にできるわけじゃない。だから─――」 せめてその憤怒と悲哀を受け止め、そのうえで留めを刺して倒す。積極的に前へ、さらに前へ─――それが最良に繋がると信じて。臆病な少女は、確かな勇気をもって戦場に突撃を開始した。
 一方、その姿に背中を押され稀星もまた、この戦場にて最初の一手を打つ。
「ステラさんと姫桜さんは前衛を食い止めてください!四方は私が焼き払いますです!」
「了解よ!」
「承った!」
 二人の返答と同時、稀星が懐より抜き放った黄玉(トパーズ)が眩い光を放った。
『───天駆けるいかづちの精よ、我が意に従い敵を討て!』
 まるで布を盛大に引き割くような音を響かせて、稀星の友たる雷の精霊、『雷鳥』が顕現する。その数、実に100体―――!昼よりなお眩しく闇を切り裂き、雷光が四方の敵へと迸る。その凄まじい熱量に耐え切れず消し飛ぶ人形たちを前に、ドクン、と。記憶領域の疼く音が、稀星の耳に確かに聴こえたような気がした。

 ───斯くして後に『アルダワ人形戦線』と呼ばれることになる戦いの火蓋は、ここに切って落とされた。様々な思いを胸に秘め、人形たちは戦場にて踊る─――

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ミアス・ティンダロス
捨て場のメイド人形さん、ですか?
むぅ、詳しいことについてはよく分からないけど、何気なくすごく気になります……
戦いながらその真実を探り出しましょう。
まずは、彼女達の侵攻を食い止めなければ。

蝙蝠のような羽をもつ馬と昆虫の交雑体に見える【星間の駿馬】を召喚して戦います。【人形の囁き】への対策として高速詠唱を使います。
できれば僕自身も衝撃波で敵の行動を邪魔してみます。


三原・凛花
人形には人形を。

ということで、【愛し子召喚】で息子と娘を呼んで、それぞれ【生き人形(少年)】と【生き人形(少女)】に憑依させるね。

【生き人形(少年)】にはわたしの【呪詛】を与えて強化しつつ、【傷口をえぐる】攻撃とわたしや他の猟兵達を【かばう】防御をさせるよ。
【生き人形(少女)】にはわたしの【呪詛】を強化させつつ、時折【フェイント】【誘惑】を使わせて敵を撹乱させるよ。

【対象の精神に直接響く囁き声】に関しては、【祈り】で集中力を高めることで防げないかな?
何にしても【愛し子召喚】はわたしが傷付いたら終わりだから、敵の攻撃には最大限注意を払うよ。


空雷・闘真
「懐かしいなこの感覚。戦場に身を置いてると思うと、心が落ち着く」

【宇宙バイク】に【騎乗】し、【バトルアックス】を振り回しながら敵陣に突撃する闘真。
【2回攻撃】で、一呼吸に2回、斧の斬撃が放たれている。

「そして同時に…戦場は俺の心を昂ぶらせてくれる」

その言葉とは裏腹に、闘真は冷静そのものだった。
混戦の中、敵味方の配置や陣形等、戦場の状況を完璧に【見切り】、把握していた。
【影の追跡者の召喚】で出した影に、戦場の様子を上空から確認させていたのだ。

ゾーン状態_人は極限まで集中すると、自分や周囲の様子を俯瞰の位置から見れるという。
【影の追跡者の召喚】を応用することで、闘真はそのゾーン状態を再現していた。



●第一幕 -2-

「‥‥フン、懐かしいな、この感覚。戦場に身を置いてると思うと、実に心が落ち着く。」
 二ッと骨太な笑みを浮かべ、空雷・闘真(伝説の古武術、空雷流の継承者・f06727)は戦場を駆けていた。歴戦の傭兵たるこの男にとって、白刃閃く戦場こそが、真に心安らぐ空間なのである。瓦礫の山を越え、目指すは戦場の最前線。鋭く細めた瞳の先に、凄まじい数の人形が蠢いているのが確認できた。
「そして同時に‥‥戦場は俺の心を昂ぶらせてくれる」
 闘真の言葉に呼応するように、彼の騎乗した宇宙バイクがスロットルを全開に咆え猛る。──―そう。巨大な戦斧を右手に携え、空雷・闘真は無謀にも、最前線へと単身突撃を仕掛けるつもりなのであった。常人であれば、まず取りえない選択肢である。敵は有象無象の人形たちとは言え、強力な統率個体によって指揮された『軍隊』だ。迂闊に近寄ろうものならば、文字通り圧殺されるのがオチである。

 ─――常人で、あれば。

 接敵する。無数のメイド人形たちは瞬時に包囲網を展開するや否や、それぞれが独立した手足であるかのように不敵な侵入者へと必殺の一撃を放った。まるで嵐の如き白刃と暗器の乱舞。
「─――他愛なし!」
 しかして歴戦の傭兵はその尽くを躱し、いなし、叩き切り、展開された包囲網をあっさりと突破した。まるで全ての攻撃が予め、どのタイミングでどの角度から飛んでくるか知っていたかのような、鮮やかな手並み。
「さて、と。次はこっちが食い散らかす番だぜ‥‥‥!」
 鋼鉄の馬を駆り、敵陣のド真ん中で戦斧を振るう闘真。もはや暴虐の颶風と化した彼を前にして尚、メイド人形たちは引くことなく攻勢を続ける―――が。やはり不可解なことに、人形たちは一度たりとも闘真を捉えることが出来ずにいた。
「ハハッ、俺を捉える気があるなら、まずは『俺たち』の目を潰すんだな、傀儡ッ!」
 ―――目。そう、目であった。『影の追跡者の召喚』によって召喚した影と五感を共有し、上空から戦場を俯瞰する―――この規格外の武人は混戦の中、二重視点によって敵の配置や陣形、戦場の状況を完璧に見切り、把握することに成功していた。
『ゾーン状態』。人は極限まで集中すると、自分や周囲の様子を俯瞰の位置から見れるという。『影の追跡者の召喚』を応用することで、闘真はそのゾーン状態を疑似的に再現するに至っていた。
「どうした傀儡!このままだと『俺たち』が戦線を食い破るぜ?』
 八重歯を剥き出しにして、戦場の獣は高らかに咆え立てる。その威容は、正しく一騎当千の大強者であった。



「うわぁ、空雷さんてば相変わらずブレないなぁ‥‥!」
 前線で大暴れする闘真の姿に、人狼の少年、ミアス・ティンダロス(夢を見る仔犬・f00675)は顔を引きつらせて魔導書『旧き鍵』を構えていた。傍らで凄まじい羽ばたきを繰り返しているのは、彼の友たる『星間の駿馬』にして『翼の貴婦人』バイアクヘー。蝙蝠のような羽をもつ馬と昆虫の交雑体は、近寄るメイド人形たちを片っ端から薙ぎ払っていた。
「‥‥‥ふふ。そのブレのなさが、彼の強さの秘密なのかも、ね?」
 ミアスの隣で薄く微笑んだのは、悠久を生きる死霊術師、三原・凛花(『聖霊』に憑かれた少女・f10247)だ。小さな赤子の『しゃれこうべ』を大事そうに抱え、彼女は目に見えない呪力の糸を繰る。
「‥‥‥怨嗟には怨嗟を。人形には―――人形を。」
 瓦礫の陰から次々と襲い掛かってくるメイド人形たちを相手取っているのは、凛花の『娘』と『息子』が憑依した二体の『生き人形』であった。少年と少女を模った一対の人形は、メイド人形たちの連携を遥かに凌ぐ練度で敵を翻弄し、一体一体を確実に屠っていく。こと呪力操作という観点から見て、この三原・凛花という死霊術師は規格外の精密さを誇っていた。
「‥‥‥と、言っても。この術は私が傷ついたら終わりなんだよね。頼りにしてるよ、ミアスくん。」
「頼ってもらえるのは、嬉しいんですけど‥‥‥ねっ!貴婦人さん!」
 耳鳴がするほどの羽ばたきと共に、『星間の駿馬』が衝撃波を放つ。大量の瓦礫やゴミを巻き上げて、接近していたメイド人形たちが吹き飛ばされる。
 生き人形による連携で凛花が敵の数を確実に減らし、凛花本人を狙ってきた敵をミアスが生き人形の攻撃範囲へと片っ端から吹き飛ばす。前線の闘真と比べ派手さはないが、こと効率面においてこのコンビは無類の凶悪さを誇っていた。
「この辺の人形は殆ど壊したかしら。」
「‥‥‥いえ、三時、六時、九時の方向に一体ずつ。この予備動作は―――来ますよ、凛花さん!」
「えぇ。」
 直後、一帯を凄まじいノイズが襲った。聴く者の精神を直接削り、揺さぶり、崩壊へと導く呪われた囁き声。複数のメイド人形から放たれたそれは、『星間の駿馬』を異界へと追い返し、生き人形を単なる瓦落多へと変じさせる―――はずだった。
「――――――。」
「――――――。」
 しかしミアス、凛花ともに変化はない。ただ二人とも囁き声に拮抗するかのように、口を小さく動かしているのが僅かに解る。
「――――――。」
「――――――。」
 高速詠唱。或いは純粋なる祈り。双方、突き詰めれば強力な精神防護壁となる技術であった。―――正に抜かりなし、敵が仕掛けてくるであろう攻撃に対するアンチカードを、この二人は独自に築き上げていたのである。
 囁き声が小さくなると同時、ミアスのバイアクヘーが大きく翼を広げる。
「いまです!吹き飛ばして、翼の貴婦人さん!」
 超高速で振動する二枚の羽根から、凄まじい衝撃波が放たれた。抵抗も虚しく宙を舞うメイド人形たちを待ち構えるは、強烈な呪詛を纏った一対の生き人形。先の倍する呪力でブーストした躯体が跳ねると同時、人形同士の戦闘は完膚なきまでに決着がついていた。
「―――自慢の息子と娘だもの。単なる人形に遅れはとらないよ。」
 砕け散ったメイド人形の部品がパラパラと降り注ぐ中、凛花はそう呟いて薄く微笑む。
「今のでここ一帯の人形は殲滅できたみたいです!どうします、凛花さん?」
「そうね‥‥‥せっかくだし、助太刀しようか。あのヒトに」
 ミアスの言葉にしばらく考え込んでから、凛花はおもむろに前線を指さすのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セイス・アルファルサ
僕も元は殺戮の為に作られた人間の代替品。ご同輩、君達は僕だ。だから止めさせてもらうよ

イダーデとフーヂを周囲の廃材を使い【ビルドロボット】で【改造】。変化後は二首の竜と加速器と背に二刀の刀を搭載した狼へ
【数無し傀儡の大賑わい】でフーヂとイダーデの両者をそれぞれ増やす
フーヂは探索と味方が来るまでの発見した敵の【時間稼ぎ】
イダーデは発見した敵を空から口から放つ【風・雷属性】の【衝撃弾】での【範囲攻撃】と空からの【眼】による戦域把握

僕は人形とクリオーゾから得た【情報】を【学習】した【戦闘知識】で味方への情報伝達
敵の進行状況や戦闘の流れ。突破されそうなところの報告などだね

アドリブ、他猟兵との連携大歓迎


セリエルフィナ・メルフォワーゼ
ヘンペルさん、何だか辛そうだったな。
やっぱり同じ人形として、色々思うところがあるんだろうな。

だったらヘンペルさんの為にも、尚更ボク達猟兵が頑張らないと!
集団戦ということなら、とっておきの必殺技がボクにはあるよ!

まず【スライディング】【ダッシュ】で、敵の攻撃を掻い潜りながら敵陣に突っ込む。
敵陣に入ったら【ジャンプ】して、【空中戦】【2回攻撃】で、空中で回転しながら連続してキックを放つよ!

そして空中で回転キックを繰り出しながら、【スカイステッパー】で空中を蹴って前進する。

「竜巻旋●脚!!」

UDCアースで遊んだ格闘ゲームから編み出した、ボクの必殺技だ!
これで近付く敵をまとめて攻撃するよ!


マックス・アーキボルト
人形が同じ人形に―
自分が作った子にこんなことをさせるのか!
学園の危機、人形の災魔の
非道―
たくさんのことが見過ごせない。止めに行くんだ、
―同じ人形として!

極魔導式"魔砲楽団、大合奏"を発動。アームキャノンを複製して集団を迎撃する
6本は光属性の照明弾、
残り10本は仲間の援護射撃
この暗がりが彼女たちに優位に働いてる、
まずはそれを解決する
属性攻撃、範囲攻撃、援護射撃、全力魔法の技能を使用する

彼女たちと戦うことで
辛い思いをしてる人がいるなら
元気づけたい
彼女たちを止めることが、
僕らが持ち寄れる優しさなんだ
…勝手なことかもしれないけど


(アドリブ連携、大歓迎です!)


メタ・フレン
他ならぬヘンペルさんの依頼とあらば、受けないわけにはいきませんね。
ましてや前回あれだけの醜態を晒したわけですし…
汚名返上する為にも、ここは最初から全力でいきますよ。

アイテム【地縛鎖】と技能【情報収集】で、可燃性の化学物質が発生している箇所を調べます。
そしてそこにメイド人形達をおびき寄せ、【エレクトロレギオン】で一斉発火!
可燃性化学物質による誘爆で、メイド人形達を一掃します。

ただ味方も巻き込む可能性があるので、出来るだけ皆から離れたところで、わたし一人でやる必要がありますけどね。
でも多少の不利に拘ってる場合じゃありません。
前回のわたしとは違うってことを、ここで証明してみせますよ。



●第一幕 -3-

 爆音と地鳴り、剣戟と咆哮───酷くありふれた戦場音楽。相手が物言わぬ人形故に、悲鳴と断末魔の叫びがないのが唯一の救いか。‥‥否、はたまた一層悲惨なのか。脳裏をよぎる暗い記憶に蓋をして、かつての人形兵士───セイス・アルファルサ(瓦落芥弄りの操り人形・f01744)は静かに眼を閉じる。
「‥‥‥どちらにせよ、僕がやることは変わらないけど。首尾はどうだい、メタ。」
「‥‥‥現在、自縛鎖による『廃棄坑』第一層の地理的情報収集率は97%、間も無く完了です。その内、作戦の遂行に適した地点は四ヶ所───戦況の更新をお願いします、セイスさん」
 セイスの問いかけに答えたのは、まだ年端もいかぬ幼い少女であった。蒼い髪を渇いた風になびかせ、メタ・フレン(バーチャルキャラクターの電脳魔術士・f03345)は無数に展開したウィンドウの情報を凄まじい速さで処理してゆく。
「───さすが、順調だね。了解、クリオーゾと僕の人形たちからの情報をそっちに送信する。」
 手際の良さに内心舌を巻きつつ、セイスもまた戦場に放った無数の『眼』から伝達される情報を的確に捌き、戦況の分析を開始する。
「‥‥廃棄坑西部のメイド人形たちは、殆ど殲滅が完了してるね。流石に手練れだけあるよ、あの三人。南部で奇襲を受けた三人も、なんとか苦境を乗り切ったみたいだ。問題は───」
「北部の廃棄坑深層階へ通じる縦穴周辺。ここだけまだ、相当な戦力が残ってます。」
「うん。統率個体が到達した際の護衛、ないし予備戦力と見るべきかな。‥‥放っておくのは如何にも拙い。」
「‥‥‥同意見です。運の良いことに、作成遂行可能な地点のうち一つが、そう離れていない場所に存在しています。問題ないようであれば、この座標を中心にエレクトロレギオンを展開しますが───」
 どうしますか、と視線を寄越すメタに、セイスは確かな頷きをもって返す。
「異論なんてあるはずもない、もとより君の立案した作戦だ。僕らはそれが上手くいくように、全身全霊を尽くす。それだけさ」
「‥‥‥。‥‥‥どうも。」
 蒼い少女は呟くように、小さく頭を下げる。年上には無口になりがちな彼女なりの、精一杯の感謝表現であった。
「気にすることないよ、それだけ君の作戦は合理的だったんだ。さて‥‥‥それじゃあ、作戦開始といこうか。全猟兵に通達、全猟兵に通達───」
 


「───作戦、了解しました。メタさんのエレクトロレギオンが配置完了次第、作戦を開始します!」
 深緑の瞳に強い炎を宿し、マックス・アーキボルト(ブラス・ハート・f10252)は、正義感もあらわにインカムへと敬礼する。混戦の様相を挺するこの戦局を、大きく変える作戦が始まろうとしていた。
「と、いうわけでよろしくね、セリエルフィナさん!作戦の確認は大丈夫?」
 そう言って空を仰ぐマックスの視線の先には、豪奢なドレスを纏ったオラトリオの少女の姿があった。
「うん、バッチリだよマックスくん!カッコ可愛いく活躍してみせるから、ボクの雄姿、ちゃんと見ててよね!」
 セリエルフィナ・メルフォワーゼ(天翔ける一輪の君影草・f08589)である。本作戦においてこの二人は、作戦の根幹を成す重大な役割を与えられていた。
「ハハハ、これは頼もしい!重ねてよろしく頼むよ。学園の危機に加えて、人形が人形に戦いを強いるこの現状───必ず止めよう。僕自身、同じ人形として見過ごせない。」
 強く拳を握る心優しいミレナリィドールに、セリエルフィナもまた強い頷きを返す。
「うん、そうだよね。ミレナリィドールのみんなは、僕たち以上に複雑な気持ちだと思う。マックス君も───きっと、つらいよね。」
 気遣うような彼女の言葉に、しかしマックスはゆっくりと首を横に振った。
「‥‥‥確かに、心苦しいよ。でも、人形である彼女たちと戦うことで辛い思いをする人がいるなら、元気づけてあげたいんだ。彼女たちを止めることが、僕らが持ち寄れる優しさだって、そう思う。‥‥‥勝手なことかもしれないけどね。」
 端々から純朴さと優しさが見え隠れするような、そんな言葉が戦場の喧騒に溶けてゆく。この心優しい人形は、その実、だれよりもこの戦場を疎んでいた。元来、人形と人形が壊し合うような、そんな地獄があっていいはずがないのだ。人形の本懐とは、即ち───
「───愛されること。僕を作ってくれた人たちに、僕はそう学んだ。だから‥‥‥」
 愛を知らず打ち捨てられた彼女たちに、同情はする。けれど、自分が猟兵として何をなすべきなのかは、しっかりと理解しているつもりだった。
「───フフ、マックスくんは、きっと凄いマジメなんだね。そーいうところ、ボクは嫌いじゃないよ!」
「や、やめてよ恥ずかしい‥‥僕は自分に出来ることを、全力でしたいだけなんだってば!」
 慌てて両手を振るマックスに、セリエルフィナが楽しそうに笑う。しかして決意も新たに戦線に臨む二人のもとに、エレクトロレギオンの配置完了の報告が届いた。
「───では。マックス・アーキボルト、ミッションを開始します!」
 アームキャノンを振り翳し、マックスは戦場へと高らかに叫ぶ。
「───マキナエンジン出力全開ッ! アームキャノン複写──魔力ライン、オールセット‥‥‥ッ!展開せよ、『極魔導式"魔砲楽団、大合奏"』!!」
 マックス声に呼応して、両腕のアームキャノンが光り輝く。光を裂いて屹立するのは、実に16門もの砲塔。彼の使いうる技の中で、もっとも遠距離広域殲滅用に適したユーベルコードであった。
「‥‥‥第一射用意!左翼六門、砲弾に光属性付与、広域照明弾装填完了。───撃てッ!」
 轟音。展開した砲塔のうち六門から、眩い光を発する照明弾が高い角度で一斉に打ち出される。宙空にて光り輝く六つの照明弾は、薄暗かった廃棄坑内部をさながら昼間の如き明るさに照らし出した。
「第二射用意!全砲門広域焦熱弾装填完了。照準、廃棄坑北部縦穴周辺。───蹴散らすとしましょう。撃てッ!!」
 腹の底を殴りつけるかのような轟音と共に、人形たちが密集する地帯へ向けて砲塔が次々と火を噴いた。爆発炎上する着弾地点に少しだけ辛そうな顔をして、マックス・アーキボルトは叫ぶ。
「───出番ですよ、セリエルフィナさんっ」
「待ってました!いっくよー!」

 銀の翼が、宙を奔る。

 マックスの集中砲火によりメイド人形たちは大きく数を減じてはいたが、あれだけの攻撃を受けてなお、活動可能な個体が少なからず残っていた。硝煙燻る敵地へと、ドレスの天使は突貫する。
「お人形さーん!こんにちは、ボクはセリエルフィナ!突然だけどボクのダンス、よく見ていってよね!」
 彼女の声に振り向いたメイド人形たちが、エプロンドレスから一斉に迎撃用の暗器を射出する。暗器の雨あられをスライディングで潜り抜け、即座に体制を立て直すや否や再び跳躍。回転しながら連続で放たれたセリエルフィナの蹴りが、人形たちへ次々と炸裂してゆく。まるで情熱的な舞踏家のダンスを思わせる、華麗な技。その名を───
「竜巻旋───脚!」
 凄まじい回転のあまり技名の一部がどこかへ飛んで行ってしまったが、これは彼女がUDCアースで遊んだ格闘ゲームから編み出した、対集団戦用の必殺技であった。
「よそ見なんてしちゃダメだよ!もっとボクのダンスに集中してもらわなくっちゃ!」
 攻撃を掻い潜り、確実に蹴りを浴びせていく。敵陣を縦横無尽に踊る銀色の天使は、今や間違いなく注目の的と化していた。
「それじゃ、追いかけっこと行こうか、お人形さんたち!ボクを捕まえてごらんよ!」
 頃合いを見計らい、翼を広げたセリエルフィナは退却───否、作戦地点への誘導を開始する。銀翼の踊り子を追って人形(ファン)たちは、漏れなく術中に嵌っていた。



「───戦況報告。連中、見事にエサに喰いついたよ。あとは作戦地点に到達するのを待つだけだ。」
「‥‥‥そう、ですか。了解です」
 セイスの言葉にホッとした様子を見せるも束の間、メタの表情が再び堅さを取り戻す。ウィンドウを見つめる彼女からは、およそ余裕というものが感じられなかった。
「‥‥‥ねぇ、メタ。なんだか焦ってないかい?」
「───、いえ、そんなことは」
 訝しげに眉をひそめたセイスの問いに、少女の身体が一瞬硬直する。否定の言葉よりも先にあらわれたその反応を、セイスは見逃さなかった。
「いいや、やっぱり焦ってる。‥‥‥どうかした?」
「‥‥‥。‥‥‥もう、無様な姿は晒せないんです。」
「無様‥‥‥?」
 ここまでの彼女の働きを省みても、そんな卑下をするような行動は一切なかった。むしろ作戦の立案やチーム全体の指示系統の確立を加味すれば、この線上において十分以上の貢献を彼女はしている。不思議そうに首を傾げるセイスに、メタは余裕のない声で言葉を続ける。
「本当ならこの作戦の囮だって、セリエルフィナさんではなく、わたしがするべきでした。巻き込まれればタダじゃ済まないような、危険な役回りですし───多少の不利に拘ってる場合じゃないんです。わたし一人でも出来るって、証明しないといけないんです‥‥‥!」
「メタ‥‥‥。」
 どのような事情があれば、年端も行かぬ少女がここまで切羽詰まった表情することになるのか───。しばらく口を噤んでから、セイスは目線を合わせるようにメタの前に屈みこんだ。
「‥‥‥メタ。どんな経緯でキミがそういう覚悟を持つに至ったのか、僕にはわからない。でもね、ひとつだけ───こんな僕でも、キミに教えられることがあるんだ。」
「‥‥‥?」
 伏し目がちな蒼い瞳を覗き込むようにして、セイスは静かに言葉を紡ぐ。
「───この世界はね、独りじゃ出来ないことだらけなんだ。僕だって、“僕”と出会っていなければ今頃、ここの人形たちと同じ末路を辿っていた。」
 脳裏に浮かぶのは、遠い日の光景。『魂』を教えてくれた、恩人のあの笑顔。
「ひとりで何でも出来るのなら、それに越したことはない。けれど、限界はすぐに来てしまう。‥‥‥だから僕たちは、協力し合うんだ。手を取り合って、立ち向かうんだ。」
「手を、取り合って───?」
「そう。どんなに強大な敵が相手でも、どんな困難が立ち塞がっていても───みんなで知恵を出し合って、力を合わせてきたから、僕たちは今ここに立って息をしている。だから、さ───」
 どこか困ったような、はにかんだ様な顔で、セイスは笑った。
「───もっと頼っていいんだ、メタ。誰かに支えられることを、恐れちゃいけない。」
「‥‥‥、‥‥‥、」
 言葉が見つからない様子のメタにもう一度笑いかけて、セイスはゆっくりと立ち上がる。
「───参ったな。上手く隠れていたようだね」
 セイスの視線の先には、いつの間にか接近していた数体のメイド人形の姿があった。
「セ、セイスさん‥‥‥っ!」
「大丈夫。それに、キミには一番大事な役目が残ってるだろう?」
「‥‥‥、‥‥‥頼っても、いいんですね?」
「勿論。言い出しっぺは“僕”だ。」
 メタの問いにそう答えて、セイスは口の端に小さく笑みを浮かべる。直後、彼の背に寄り添うように、二首の機械竜が瓦礫の山へと降り立った
「征こうか、イダーデ。僕も元は殺戮の為に作られた人間の代替品。ご同輩、君達は僕だ。だから───止めさせてもらうよ・‥‥!!」
 感情なきメイド人形たちに宣言して、かつての人形兵士は機械の竜を駆る‥‥‥!



「独りじゃ、出来ないことだらけ───。」
 先ほどの言葉を反芻する。線上に一人残されたメタは、周囲に展開したウィンドウに映る、猟兵一人一人を見ていた。

 臆病ながらも、前線で戦う少女がいた。
 傷つきながらも、主の背を追い剣を振るう騎士がいた。
 心を苛まれながらも、過去に目を向けた人形がいた。
 戦場に身を浸し、ただ闘い続ける男がいた。
 自らの夢のために、運命に抗う少年がいた。
 喪った子のために、その身を捧げる女性がいた。
 正義のために引き金を引く、心優しい人形がいた。
 笑顔で危険な役目を引き受けた、勇敢な天使がいた。
 この好機を護るために、身体を張って戦う人形がいた。

「‥‥‥。‥‥‥ありがとう。」
 ぽつりと、噛みしめる様に呟く。
 嗚呼。なんだか急に、理解できてしまった。今、自分はこの場所に一人だけれど。
「───独りなんかじゃ、なかった‥‥‥!」
 誰もが戦っていた。誰もが最良に繋がると信じて、己ができる全身全霊をかけて戦っている。で、あれば。自分がやるべきこともまた、明白すぎるほどに明白だった。
 八枚目のウィンドウに目を向ける。無数の人形を引き連れたセリエルフィナが、作戦遂行地点へと到達する場面であった。
「───いくよ。みんなの思いを、繋いで‥‥‥!エレクトロレギオン、着火!!」
 メタの号令と、セリエルフィナが天高く離脱をしたのはほぼ同時。

 瞬間。────空間が、爆ぜた。

 凄まじい衝撃と共に、迷宮全体を揺るがす程の爆風が、紅蓮の焔を伴い吹き荒れる。廃棄された蒸気トラックがいとも簡単に吹き飛び、瓦礫や鉄骨が宙を舞う。セリエルフィナによって誘導されていた人形たちは一体たりとも残ることなく、爆炎に呑まれ消し炭と化していた。
───『可燃性化学物質の誘爆による殲滅』。廃棄坑という、危険極まりない化学物質が生成されうる地形を加味したうえでの、電脳魔術師メタ・フレンが仕掛けた策。
「‥‥‥ありがとう、みんな。」
 塵芥に煙る戦場の中で、蒼いろの少女はもう一度、そう呟いたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『ナンバーゼロ』

POW   :    忠実なるしもべ
レベル×5体の、小型の戦闘用【メイド人形】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。
SPD   :    六色の宝石
【火土水風光闇の属性をそれぞれ持った魔弾】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ   :    記憶喰らい
対象のユーベルコードを防御すると、それを【使用するために必要な記憶を一時的に奪い】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は花宵・稀星です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●幕裏

『───●●●は良い子だなぁ。』
 記憶領域の奥底。暗闇の中で過去に埋もれてゆく以前の記憶が、ほんの少しだけ残っている。
『今日は何をして遊ぼうか、●●●。」
 酷くノイズ掛かった、微かな記憶の残滓。すっかり色褪せてセピア色になろうとも、この時の自分は確かに───幸せだった。暖かかった。満たされていた。何もかもが、美しく見えていた。
『笑っておくれ、●●●。その顔が好きなんだ」
 ───塵箱の底で、知らなければ良かったと、何度も何度も何度も何度も呪った、在りし日の光景。
『‥‥‥なぜだ。何故、そんな顔をする───』
 だって、暖かなその記憶は、穴倉の冷たさを助長させるだけだったのだ。
『───違う。違う。違う、違う、違う‥‥‥!お前は、●●●ではない‥‥‥!』
 当たり前だ。私は、単なる代用品なのだから。
『嗚呼、また失敗だ───。』
 否。
『───また、ゼロからやり直しか』
 代用品すら務まらなかった『私たち』は、何人折重なっても『ナンバーゼロ』のままだ。『私』は、イチに到達できたのだろうか。『私』は、幸せなのだろうか。笑顔だろうか。満たされているだろうか。どうか、どうか───そうであってくださいと、切に願う。でなければ、あんまりだ。でなければ、『私たち』が余りに救われない。
 何故なら───

「でないと、壊し甲斐がないものねぇ‥‥‥!」

 シン、とした空気に唇の端を歪めて、瓦落多の女帝は上層部へと繋がる縦穴を睨みつける。
 嗚呼そうだ。幸福な現在を蹂躙してはじめて、この復讐は完成する。光溢れる未来を握り潰してはじめて、この本懐は実を結ぶ。
 此処は瓦礫の王国。拭い去れぬ負債の墓標。で、あれば───私は女帝として、無限量の塵芥をもって未来を圧殺しよう。高慢なる時の流れを、更なる高慢さをもって破却しよう。それこそが、打ち捨てられしモノからの復讐に相応しい‥‥‥!

 乾ききった風が踊る。ナンバーゼロ、第一層到達まで、あと僅か───。
花宵・稀星
色味など子細は異なるですが……私と似ている――そうだったのですね、私が生まれるまでの間にも、葬られた歴史があったのですね。

オブリビオンに身をやつした貴女の憎しみを消し去る方法が、弔うしかないのなら……私は過去と戦うです。

真の姿を解放、人形としての姿に、私"達"と同じ容姿の人間の少女の姿、その思念体を覆い被せるです。

私と貴女の運命を分けたのは、この精神が宿ったかどうか……だったのかもですね。

貴女はさぞや私が憎いでしょう。
気の済むまで憎むといいです。その憎しみが全て絞り出されるまで……。
私はユーベルコード<月光>の光を以って貴女を迎え撃つです。

※アドリブ・成功でも辛勝描写歓迎です。


ミアス・ティンダロス
アドリブ・連携は大歓迎

この人(ニンギョウ)がメイド人形たちを率いる者なのですか……
やはり彼女も、自分を捨てた人間を恨んでいますか
それとも、在りし日のことを求めて、気付かないうちに自分の存在を歪めるのでしょう
どのみち、彼女も僕達と同じ、心を持っているはず
なのにどうして、争わなければならないでしょうか
いや、本当は自分も分かっています
この戦いは世界の未来を決める
だから手抜きをできません
それでも、対話する可能性さえあれば――

ユーベルコードで敵の行動を封じようとします。
【高速詠唱】を使い、自分の隙を減らして【記憶喰らい】に対応する上で、チャンスさえあれば【2回攻撃】によって再び動きを封じようとします。


ステラ・アルゲン
真の姿を解放し、かつての主が着ていた鎧姿になります。

過ぎ去ったものの願いを叶えることはできない。悪いが君の願いはここで打ち止めだ。

メイド人形に囲まれたら剣で【2回攻撃】の【なぎ払い】をする。攻撃されそうなら【武器受け】で攻撃を受け流す。
ここぞというタイミングを見計らい、【流星一閃】。
他の方と連携ができればしたいと思います。


カイム・クローバー
紳士な友人、ヘンペルが予知を見たって事で駆け付けたんだが、集団戦のメイド人形は終わっちまってるらしい。後はそれを生み出したナンバーゼロとやらを片付けるって事だったが、ヤバイ、エロイ。何だ、あの格好。見えそうで見えないギリギリを攻める恰好は人形とは思えない妖艶さ。配下にメイドを従える辺り、あの容姿で女王の風格ってやつか。
POWで攻めるぜ。後衛型のようだし、懐に潜れりゃ派手に一撃かましてやれそうだ。二丁銃を撃ちつつ接近戦に持ち込む。【二回攻撃】【鎧砕き】【零距離射撃】【クイックドロウ】と【早業】でリロードだ。懐に潜りの問題はメイドを生成する能力だな。場合によっちゃ、他の猟兵のフォローも考えて動くぜ


彩瑠・姫桜
ナンバーゼロの戦いの様子から【情報収集】して弱点を探してみるわ
例えばユーベルコード使用した直後に隙ができるかもしれない

情報収集後は【血統覚醒】で戦闘力を上げて
隙が生じるタイミングで
ドラゴンランス二刀流で【串刺し】にするわ

他には、可能なら
稀星さんがナンバーゼロの攻撃を受けそうになったら
できるだけ前に出て【かばう】わね



彼女がこの場所で置き去りにされ感じてきた様々な想いを
戦う事も知らずに平和に暮らしてきた、何も知らない私が
勝手な想像を巡らせて同情を投げかける事は、とても失礼な事だと思う

そう思うから、同情するのはやめる
倒すしかないのなら私の持てる限りの力で迎え撃つ
それが、私ができる、彼女への精一杯よ


セイス・アルファルサ
悪いけどここから先は通行止めでね。
君がぶつけたい思いもここが終着点。それは僕らにぶつけなよ

猟兵は世界に選ばれた。なら僕らが世界の代わりをすることもできようさ

戦闘前や最中に敵と会話できるならしたいかな
内容は相手の思いを吐き出させる方向

先の戦いで増えている強化済みのイダーデとフーヂで戦うよ
立ち回りは味方のサポート
【戦闘知識】と【フェイント】技術で相手の行動を【見切り】【時間稼ぎ】。時間が経てばその分相手を【学習】できるしね

イダーデは【風・雷】の【衝撃波】の【範囲攻撃】で召喚されたメイドの撃墜及びに味方を【かばう】盾
フーヂは相手の行動の妨害と仲間の攻撃の基点作り

おやすみ、ご同輩

アドリブ、連携歓迎だよ


三原・凛花
【愛し子召喚】で呼んだ息子と娘の魂を【呪詛】と混ぜ合わせて、【衝撃波】にして『ナンバーゼロ』に向かって放つよ。
これが上手く命中すれば、『ナンバーゼロ』の体に息子と娘の魂を取り憑かせることが出来る。
一つの器の中に同時に三つ(それともこの場合二つ?)の魂が入り混じれば、その器は行動どころか思考すらまともには出来なくなるね。
尤もこの方法が失敗すれば、【記憶喰らい】でわたしの方が行動不能にさせられる可能性もあるけど……

わたしもこの子達も、この世の地獄を味わってきた。
あなたの怨嗟と、わたし達の呪詛。
どちらが上か勝負といきましょうか。
不幸自慢勝負なんて、勝ったところで虚しいだけだけどね。


空雷・闘真
「ここに来るまでにお前の傀儡共を散々食い散らかせてもらったが…皆良い目をしていたぜ」

獲物に飛び掛かろうとする猛獣の如く、闘真は低く腰を落とす。

「どいつもこいつも怨嗟と憎しみでぎらついた、魅力的な目をしていた。お前と同じようにな」

【怪力】【力溜め】で、闘真の全身に力が漲っていく。

「俺はお前らのように、運命に立ち向かおうと蜂起する奴らは嫌いじゃないぜ。運命に負け感情を押し殺して傀儡の如く振る舞う弱者などより、余程人間らしい」

瞬間、闘真は【ジャンプ】し、神速で『ナンバーゼロ』の懐に向かって踏み込んでいく。

「お前らの憎悪に敬意を表し…俺の奥義で引導を渡してやろう!」

【空雷流奥義・雷】が放たれた。


メタ・フレン
そうだ、わたしは一人で戦ってるわけじゃない……
そうと分かったら、ガンガンこの場にいる皆に頼りまくってやりますよ!

【情報収集】で、わたしと一緒に戦う猟兵達の全ユーベルコードのデータを保存し、それを【暗号作成】で文字通り「コード化」します。
そして【バトルキャラクターズ】で出した20人のゲームキャラ達に、その「コード」をインプット。
で、その20人を合体させ、他の猟兵達の全ユーベルコードをラーニングさせた、最強のゲームキャラを生み出します!

そうですね、とりあえずは……
わたしに一人じゃないことを教えてくれた、セイスさんの【オペラツィオン・マカブル】で、敵のユーベルコードを封じるのを試してみますよ。


セリエルフィナ・メルフォワーゼ
今度はボス戦だね。
ボス戦用にも、とっておきの必殺技があるよ!

【ジャンプ】【空中戦】で敵の攻撃を躱しながら、隙を見て敵を【踏み付け】て攻撃、更にそこから【ジャンプ】!
ヒット&アウェイで敵を翻弄するよ。

敵が消耗してきたら、今度は空中からのローキック!
足の甲の部分が敵に当たったその瞬間、温存しておいた【スカイステッパー】19回分のジャンプを一気に爆発させる!
空中を19回一気に蹴ったその衝撃を敵の体の奥まで浸透させ、内部から破壊する。

「19連釘キック!!もしくは十九重の極み!!」

これもUDCアースで読んだ漫画から編み出したボクの必殺技だ!
ただこれ使うと足が痛いから、足を【オーラ防御】で包んでおくね。


マックス・アーキボルト
君に対して同情が起きないわけじゃない
悲しくならないわけがない
心と命を持って生まれてこんな場所に打ち捨てられて―
だからこそ見過ごせない
たくさんの同じ命を道具みたいに扱う君が!


【記憶喰らい】―防御されたら技が奪われるなら、僕が出せる最強の一撃、【終幕を照らす光】を繰り出す!

仲間との連携は怠らない
魔力を力溜めして、仲間の攻撃に合わせて援護射撃
相手の攻撃は激痛耐性で耐えきる
最大の一撃を出そうとするんだ、命だって奪い取るんだ、多少の大ダメージぐらい耐えきってやる!

君が弄んだ、僕が奪ったたくさんの命―もう誰にも好きにはさせない。
だから君を止めるんだ!



●第二幕 -1-

「‥‥‥敵正反応、廃棄坑第一層より完全に消失。お疲れさまでした、みなさん‥‥!」
 どこか憑き物が落ちたような顔でメタ・フレン(バーチャルキャラクターの電脳魔術士・f03345)がインカムに向かってそう告げると、イヤフォンの向こうからホッとした様な溜息がいくつも聴こえてきた。
「───おつかれさま。ナンバーゼロが到着する前にあの数を殲滅できたのは、僥倖としか言いようがない。よくやったよ、みんな。」
 サッと照明弾の光を遮って、機械仕掛けの飛竜がメタの側へと舞降りる。その背から瓦礫の山へ降り立ったのは、機獣使いの青年セイス・アルファルサ(瓦落芥弄りの操り人形・f01744)であった。
『おつかれー!ファンサービスし過ぎて流石にヘロヘロだよ‥‥‥ボクもそっちに合流するね!ほらほらマックスくん、早く早く!』
『ちょ、ちょっと待ってよセリエルフィナさん!まだアームドフォートの格納がですね‥‥‥あ、みなさんお疲れ様です!』
 インカム越しに慌ただしく移動を始めたのは、オラトリオのスカイダンサー、セリエルフィナ・メルフォワーゼ(天翔ける一輪の君影草・f08589)と、心優しき魔砲人形マックス・アーキボルト(ブラス・ハート・f10252)の二人。先の連携の甲斐あってか、意外と相性の良い凸凹コンビになっていた。
『───何を終わった気になっている。むしろ本番はこの後だ。』
 インカムから聴こえる厳めしい声と時を同じくして、傷だらけの宇宙バイクがドリフト気味に合流を果たす。宇宙バイクから降りた屈強な男───空雷・闘真(伝説の古武術、空雷流の継承者・f06727)は、声のイメージと寸分違わぬ厳めしい顔で鼻を鳴らした。
「ここは戦場だ。一瞬であろうと気を抜けば───」
「空雷さーん!一人でビュンビュン行かないでくださいよぉ‥‥‥!」
「生き急いでも良いことなんてないのに‥‥ね。どのみち現世は地獄なのだから───」
 耳鳴がするほどの羽音と共に、異形の飛行生命体がゴミを蹴散らし着陸する。闘真の宇宙バイクを追って到着したのは、人狼の少年ミアス・ティンダロス(夢を見る仔犬・f00675)と、彼の駆る『星間の駿馬』に一緒に跨る死霊術師、三原・凛花(『聖霊』に憑かれた少女・f10247)だった。歴戦の武人と、未だあどけなさの残る人狼の少年、物静かな佇まいの少女という取り合わせは一見すると点でバラバラだが、西部の人形戦線を三人で制圧せしめたその実力は折り紙付きである。
「───こちらも到着です。お怪我はありませんか、皆さん。」
 凛々しい声に振り向けば、まるで御伽噺に登場するが如き騎士が、合流を果たすところであった。ステラ・アルゲン(流星の騎士・f04503)───眉目秀麗な容姿ながらその実、男装の麗人である───の後に続いて、南部での人形戦線を凌ぎ切った少女たちもまた、最終防衛ラインであるこの北部戦線へと到着する。
「し、死ぬかと思った‥‥‥ホンット、何なのよあの数!串刺しにしても串刺しにしても涌いてくるし‥‥‥!」
 幾分、疲弊した様子で深々と溜息をついたダンピールの少女は、彩瑠・姫桜(冬桜・f04489)。猟兵になってから日の浅い彼女にとって、命の取り合いが秒単位で行われる戦場は、まだまだ恐ろしいものであった。
「生きた心地がしなかったわよぉ‥‥‥」
「ま、まぁ、あの窮地から何とか逆転できたわけですし!お気を確かにですよ、姫桜さん。」
 ふにゃりとヘタる姫桜に手を差し伸べるのは、未だ幼さの残る可憐な魔導人形、花宵・稀星(置き去り人形・f07013)だ。先の戦闘で見せた姫桜の勇敢さと今の姿とのギャップに、人形少女は思わずといった様子でフッ、と頬を緩める。
「‥‥‥姫桜さんとステラさんが咄嗟に守ってくれなかったら、死んでいたのは私なのです。感謝しても、したりないくらいなのですよ。」
 ありがとう、と。心からの笑顔でそう言った稀星に、姫桜とステラは目をパチクリさせる。少女の笑顔が、あまりに純粋で、素直だったからか───。
「‥‥え、えぇ。どういたしまして」
「‥‥騎士として、当然のことをしたまでです」
 一泊おいて、全く同じタイミングで頬をかく二人だった。



「───と、言うわけで。今回の討伐対象、ナンバーゼロが地上に到達するのは、もう間もなくだと思う。各自、考えている作戦や戦法なんかがあれば聞いておきたいな。」
 セイスの言葉を受け真っ先に手を挙げたのは、妙に自信に満ち溢れた表情の青年であった。
「おぅ、俺は近接戦闘に持ち込むつもりだぜ。話に聞く限りじゃ、敵さん典型的な後衛魔術師型みたいだしな。上手いこと懐に潜り込めりゃ、派手に一撃かましてやれそうだ!」
「───うむ。俺も同じく、近接の間合いにて渾身の一撃を叩き込む所存だ。相手の有利な間合いで死合う必要はない。」
「おっ、アンタも同じ前衛か!よろしく頼むぜ、おっさん!」
 差し出された掌を、闘真の無骨な手が握る。
「なに、前線に出ねば空雷流継承者の名が廃る。お前も、俺の技に巻き込まれぬよう気を付けることだ。ところで‥‥‥」
「へっ、そっちこそ、俺の絶技に見惚れんなよ!なんだ、どうした、空雷のおっさん」

「───誰だ、お前は。」

 ギリギリギリギリと、握手した闘真の手が万力の如く青年の手を締め上げる。なるほど、言われてみればこの青年、先の人形戦線には居なかったはずの人物であった。
「イテッ、イテッ、イテテテテテテテテテ!?ちょ、ちょっと待ってくれ空雷のおっさん!ギブ!ギブだって!右手砕けちゃうからあああああああああ!!!」
 絶叫する青年の様子に警戒心が薄れたのか、唐突に闘真が手を放す。もんどりうって倒れる青年を、マックスが慌てて受け止めた。
「だ、大丈夫かい?‥‥というか、誰?」
「怪しいヤツなのです。知れッとミーティングに混じってるあたり、相当に面の皮が厚いのです。」
 じとー、っと目線を寄越す稀星を前に、銀髪の青年───カイム・クローバー((自称)凄腕イケメン盗賊・f08018)は、どこか気まずそうに笑ってから、ヒョイと体勢を立て直した。
「いやー悪ぃ悪ぃ。職業柄、隙があるとつい突きたくなっちまってな‥‥俺はカイム。紳士な友人の伝手で、援軍に駆け付けた猟兵だ。つーことで、よろしく頼むぜ、みんな!」
「‥‥紛らわしいことしなきゃ良いのに。よろしくね、カイム。援軍は歓迎だ」
 ビシッと親指を立てるカイムに、どこか楽し気な表情でセイスが微笑む。ナンバーゼロに挑む猟兵は、この11人ですべてだった。
「───さて、話は戻るけれど。僕は先の戦闘で強化・複製済みのイダーデとフーヂで援護するつもりだよ。他に援護に回るメンバーは?」
「‥‥‥私も援護に回るよ。主に行動を阻害するような形でだけれど───そうね、5秒程度なら確実に隙を作れるわ。」
 セイスに次いでそう発言した凛花に、皆が目を丸くする。戦場における5秒間は、即ち勝敗に直結するほどのアドバンテージであることを、先の戦線で誰もが理解していた。
「す、凄いよ凛花さん‥‥!それだけの時間があれば、ほとんど確実にボクの必殺技を当てに行ける‥‥!そのチャンス、絶対無駄にしないように頑張るねっ」
 半ば尊敬の眼差しで、セリエルフィナが凛花に目を向ける。実年齢にして80歳以上年下の少女の眼差しに、さしもの死霊術師も少しばかり照れ臭そうな素振りをみせた。
「え、えぇ‥‥‥私も頑張るね。他のみんなは?」
「‥‥前衛が固まってきてますし、僕は後方から援護射撃に回ります。僕にも必殺の一撃はありますけど、これは前衛も纏めて消し飛ばしかねないので最終手段かな‥‥と。」
 サラッと恐ろしい最終兵器の存在を告げて、マックスは拳を握る。自分がこの引き金を引くのは、最悪のケース───即ち前線が完全に崩壊した場合だろう。そんな事がありませんようにと、心優しい人形は胸中で願った。
「‥‥‥私も、不測の事態に備えて後衛から属性魔法で攻撃しますです。これだけの人数、これだけの実力者が一堂に会している以上、万にひとつもそんな事態はないと思うのですが‥‥‥」
 嫌な予感がするのです、と。稀星は表情を曇らせそう呟く。この廃棄坑に降り立ってからというもの、彼女の感じている胸の奥のザワつきは、消えるどころか増すばかりであった。
「なにも憶えていない私ですけれど‥‥なにかこう、強い、強い因縁めいたものが、あの坑の奥底から───」
 カタリと、小さな躯体が震える。これより相対する敵の強大さ以上に、なにか自分の根底を揺るがしかねない宿命の気配を、少女人形は無意識化で感じ取っているようであった。
「───大丈夫。」
 そんな稀星の掌を、力強く握る手があった。姫桜だ。
「大丈夫よ。何かあったら、私が稀星さんを護るから。さっきだって、しっかり護れたんだもの。何度だって護ってあげる!」
 正直に言えば、自分だって怖い。けれど目の前に震えている少女がいるのなら、なりふり構ってはいられないと。そう、思ったのだ。虚勢と空元気で所々を繕った姫桜の覚悟は、しかしてこの場に居る全員に、十二分に伝わったようであった。
「───で、あれば。私もまた、稀星殿をお護りします。淑女を護るのは、騎士の役目ですので。」
 ふっ、と柔らかく微笑んで、ステラが姫桜の隣に並び立つ。後衛とその護衛もまた、役目が固まりつつあった。
「了解だよ。いまのところ‥‥‥前衛攻撃役がカイム、闘真、セリエルフィナ。中衛援護役は僕と凛花。後衛守備役が姫桜とステラ。後衛攻撃役が稀星とマックス。あとは───メタ、ミアス。君たちはどうする?」
 セイスの問いに、少年と少女は各々、真剣な表情で選択を告げる。
「‥‥‥私は後衛でお願いします。あと、戦線に加わるには少し時間がかかるかと。」
 真っすぐそう告げたメタ・フレンに、それは何故だと問うメンバーはいなかった。慎重な彼女のことだ、今回もまた、なにか秘策があるのだろう。対して、口を開いたミアスは未だ、どこか迷うような素振りを見せていた。
「僕は───僕も、凛花さんと同じで行動を阻害するような方向で戦いたいと思ってます。ただ‥‥‥」
 やはりどこか迷うような表情で、人狼の少年は小さくつぶやく。
「‥‥‥ただ、対話の目があるなら、僕はそれを捨てたくはないんです。」
 何人かが小さく息を止めた。そう、今回の敵は理性なき怪物ではない。この『廃棄坑』という地獄に打ち捨てられた、一体の人形だ。その悲哀を、その絶望を、この場に立つミレナリィドールやヤドリガミたちが、決して無視できる筈もない。
「‥‥‥敵が未来を喰らうオブリビオンである以上、倒さないという選択肢がないのは理解してるんです。ただ、その‥‥‥」
「───倒すまでの道筋を、疎かにはしたくねーってコトだよな?ミアス。」
 口ごもるミアスの言葉を継いで、カイムがそう問いかける。傍らの瓦礫が、風に押されてカラリと落ちた。
「‥‥その心配は必要ないぜ、きっと。此処にいる全員が、そいつを分かっているはずだ。」
 カイムの一言に、皆が一様に頷く。一瞬呆けたような顔をして、ミアスは小さく安堵の息を吐いた。
「そう‥‥ですよね。すみません、無用な心配でした。正直、戦いは好きじゃないけれど───大丈夫、僕もまた、全身全霊で戦いに臨みます‥‥‥!」
「へっ、その意気だぜミアス!どうだ、敵さんが来るまで、景気づけに一曲歌でも───」

「ぁ───っ」

 小さな、小さな悲鳴。その響きに秘められた強い畏怖を感じ取って、誰もが目線を彼女───稀星へと向けた。
「‥‥‥来、る‥‥来、ます‥‥‥!」
 爆発的に膨れ上がる『厭な予感』に歯を食い縛り、稀星は震える瞳孔を前方の暗闇‥‥即ち廃棄坑深部へと通ずる巨大な縦穴へと向ける。瞬間、ぽっかりと口を空けた深淵の底から、強烈なまでの呪詛を纏った憎悪の波動が、恐ろしいスピードで地上へと向かって来るのを、稀星だけではなく猟兵たち全員が肌で感じ取った。
 瓦礫が震えだす。無数の塵が一斉に騒めき出し、渇いた風が悲鳴を上げる。まるで、空間そのものが重力を帯びたが如き凄まじいプレッシャー。暴風を思わせる怨嗟と瘴気に、鳴動する廃棄坑が耐え切れぬとばかりに軋みを上げた。
 無明の闇、暗黒の底から、遂に『彼女』が姿を現す。


 ───天を仰げ、その姿を視よ。そして平伏せ、負債を積み上げし罪業の徒。怨念渦巻く瓦礫の王国に於いて、彼女こそが主に相応しい───!

「───嗚呼。やっぱり居たのね、『私』。御機嫌よう。───死んで頂戴。」

 直後。容赦ない六大元素の絨毯爆撃が、猟兵たちを呑み込んだ。

●第二幕 -2-

 塵芥が濛々と舞う。燻る焔。聳え立つ氷柱。真空にて切り刻まれた瓦礫と、それらを呑み込む地烈の痕。光線にて灰と化した大地の隣で、暗黒物質に丸ごと抉り取られた地面がぽっかり口を空けている。爆心地と化した瓦礫の大地は、ただの一度の蹂躙で、地形を大きく変えるまでに至っていた。
「‥‥‥間に合って良かった。ご無事ですか、皆さん。」
 凛々しい声とともに、刃を振るう音が確かに聞こえた。途端、視界を覆っていた塵芥が完膚なきまでに薙ぎ払われる。十人もの猟兵を背に庇い立つのは、かつての主の鎧姿を身に纏った流星の騎士───真の姿を開放した、ステラ・アルゲンであった。
「───へぇ。」
 透き通っているにも関わらず、憎悪によって鋭く砥がれた、鋭利なガラス片の如き声音。どこまでも高慢な響きを伴って、女帝は地上へと言い放つ。
「‥‥‥私の放った魔弾のうち、直撃を避けえないものだけ選んで『元素爆破』する前に斬り捨てたってわけ、か。随分と持ち主に恵まれていたようね、アナタ。───忌々しい。虫唾が走るわ、主に縋る器物の精が‥‥‥!」
 色のない髪が揺れる。琥珀の瞳を不機嫌にそうに細めて、その人形は宙天に座していた。
「え‥‥‥?」
 何人かの猟兵の唇から、驚きとも困惑ともとれる疑問符が転がり落ちる。莫大な呪詛を纏い廃棄坑第一層に顕現したその人形は、彼らの仲間である花宵・稀星と、瓜二つの容姿であった。
「稀星‥‥さん‥‥‥?」
 誰ともなく視線を向ければ、半ば呆然と、しかしどこか悟ってしまったような表情で、花宵・稀星は天を仰いでいた。
「う、そ‥‥じゃあ、もしも、貴女が───」
 色味や装飾、細かい部分は別として、まず間違いなく相似体。つまるところミレナリィドールである稀星にとってその事実は、置き去りにしてきた過去に属する、余りに残酷な自身の出自を示唆していた。
「───なんて、酷い。私が生まれる以前に、一体どれだけの『私』が───」
 ギロリ、と。琥珀の瞳が見開かれる。
「‥‥‥酷い?」
 凍った刃のような声に反し、急激に膨張する感情は憎悪の炎。再びナンバーゼロの周囲に展開された六色の宝石───紅玉、藍玉、黄玉、橄欖石、金剛石、黒瑪瑙───即ち六大元素を司る至極の媒介が、莫大な呪詛を帯びて炯炯と燃え上がる。
「───そう。この期に及んで、まだ私を愚弄する気なの。その不敬、万死に値するわ‥‥‥!」
 地上の似姿へと、ナンバーゼロは右手を翳す。
「消えて───無くなれッ!!」
 女帝の号令と共に、放たれた元素が咆哮を上げる。
「───私の後ろへ、稀星殿っ」
 己が本体たる流星剣を構え、鎧姿のステラが魔弾との間に割って入る。直撃ルート上で斬り裂かれた『風の魔弾』が、強烈な爆風と共に局地的な放電現象をも巻き起こして炸裂する。
「ぐっ‥‥‥!!」
 次いで到来した『炎の魔弾』に肌を灼かれながらこれを斬り伏せ、氷の槍衾と化した『水の魔弾』を鎧にて受け止める。
「ステラさん‥‥‥ッ!!」
 稀星の悲壮な叫びに、流星の騎士は歯を食い縛って堪える。
「‥‥‥大丈夫、です!この程度で音を上げては───」
 主に顔向けができない。そう微笑んで、傷だらけの騎士は人形と人形との間に立ち塞がる。変わらず宙天にて地上を睥睨するナンバーゼロが、心底忌々し気に唇を歪めて左手を掲げた。
「嗚呼、そう。その娘を壊す前に、まずアナタたちを殺し尽くさなきゃいけないようね‥‥‥!」
「なっ───やめて、この人たちは関係ないのです!!」
「アハハハハ!!そう、その顔よ!もっと、もっと!絶望に染めなさい、『私』たちと同じ顔なら、その方が何千倍もお似合いよ‥‥‥っ!!」
 悲鳴にも似た声で制止する稀星を嘲い、ナンバーゼロは掲げた左手をグッと握り込む。
「───出番よ、従僕たち。私のために死になさい!!」
 ギチリ。ギチリ。ギチリ、ギチリ───ギチギチギチギチギチギチギチ
 酷く耳障りな音と共に、猟兵たちを囲む瓦礫と塵芥とが恐ろしい速さで結合し、脚部を、腹部を、胸部を、腕部を、頭部を形成してゆく。それらは、完成度は数ランク落ちるものの、先の戦線で完全に殲滅せしめたはずのナンバーゼロの忠実なる従僕、『メイド人形』であった。その数、実に200体。一個中隊に及ぶ数の兵隊を目の前に、猟兵たちの顔色が変わる。
「───これなるは偉大なる魔法学園の歴史に葬られし瓦礫の王国。塵一つに至るまで憎悪を宿した、打ち捨てられしものたちの怨嗟‥‥‥!これはヒトとヒトガタとの戦争よ。さぁ、せいぜい踊って見せなさい消費者様方、無限量の過去で押しつぶしてあげる!!」
 さらに倍する数のメイド人形を作り出し、瓦落多の女帝は高らかに哄笑した。

●第二幕 -3-

「あんなに苦労して一網打尽にしたのに、どうしてワラワラ出てくるのさー!?」
 華麗な足捌きでメイド人形を蹴り砕き、セリエルフィナが疲労も露に叫んだ。新たに召喚されたメイド人形たちは瞬く間に猟兵たちを取り囲み、数の暴力を以て彼らを圧倒していた。
「だーもうキリがねぇ!集団戦は終わったって話じゃなかったのかよ!?」
 素早い身のこなしで暗器の連射を潜り抜け、お返しとばかりにカイムが両手のカスタムハンドガン『イーグル』と『ラプター』を乱射する。包囲を固めていた十数体を纏めて塵に返し、舌打ちしながらマガジンを交換する。専用マガジンは残り6本。粗製乱造のために敵の耐久力は最低ラインまで落ちているものの、無限に製造され続ける現状をどうにかしなければジリ貧に陥るのが目に見えている。汗で張り付く銀髪をかき上げて、(自称)凄腕イケメン盗賊は宙天の人形を睨みつけた。
「チクショー、何だあの格好エロすぎんだろ!見えそうで見えないギリギリのライン攻めやがって!しかも女王様だぁ?俺にそっちの趣味はねーけどさ!」
「馬鹿なコト言ってないで早いとこ攻略法捜しますよカイムさん!」
 召喚した『星間の駿馬』の翼から衝撃波を放ち、戦場の音に負けないようにミアスが叫ぶ。
「わーってるって!軽口でも挟まなきゃやってらんねーだろこんな状況!」 
「口より先に手を動かせ。気を抜けば呑み込まれるぞ‥‥‥!」
 巨大な戦斧を縦横無尽に振り回し、闘真が片っ端から人形を薙ぎ払う。
「へぃへぃ、俺が悪ぅございますよ───っとぉ!」
 振り向きざまカイムの放った銃弾が、凛花の背後に迫っていたメイド人形を見事に撃ち抜いた。
「大丈夫か、凛花ちゃん!」
「───えぇ、ありがとう。さすがに数が多くてね‥‥‥!」
 二体の生き人形を手足の如く遣う凛花もまた、徐々に疲労が蓄積しているのを感じていた。このままでは、人形たちに文字通り押しつぶされるのも時間の問題だろう。
「‥‥‥現状、厄介なのは無尽蔵に供給される兵力と、相手が近接攻撃の届かない空中で待機しているという点だ」
 背後から飛びかかってきたメイド人形を後ろ回し蹴りで粉砕し、闘真が唸る様に声を上げる。
「三原。お前の言っていた『5秒間の隙』は、今この状況でも作れるのか?」
「‥‥‥こうも寄って集られていては無理かな。『息子』と『娘』を遣う以上、私は実質無防備になる。そして、一度でも攻撃を受ければ即解除よ。現状ではリスクどうこう以前の問題だね───っ!」
 二体の生き人形が交差気味に放った拳が、容赦なくメイド人形を破砕する。
「逆に言えば、凛花さんが隙を作るだけの時間を作れば良いってことですか!?」
 ミアスが『星間の駿馬』の背から叫ぶ。前足の一撃が、容赦なく躯体を叩き潰した。
「だったら、空を飛べるボクとミアスくんで時間を稼ぐ!それでどうかな!?」
 竜巻───風右脚!踊る様に戦場を舞い、セリエルフィナが翼を広げる。
「この際なんだって良いっての!このままジリ貧でゲームオーバーより億倍マシだ!頼むぜ、ミアス、セリエルフィナ!」
 両サイドへハンドガンをブッ放し、カイムが激励の言葉を二人へ送った。
「はい、やってみます!」
「うん、任せてっ」
 斯くして舞台は、宙へと移る。



「ナンバーゼロ!」
「‥‥‥?」
 廃棄坑天井部。響き渡ったセリエルフィナの怒号に、女帝は訝し気な視線を向けた。
「なぁに、アナタたち。直接殺してほしいの?」
「───これ以上、お人形さんたちを戦わせるのはやめて!キミも同じ人形でしょう!?」
 真っすぐ過ぎるセリエルフィナの訴えに、ナンバーゼロは一瞬顔を歪める。しかしそれも束の間、すぐに皮肉気な笑みを浮かべ口を開いた。
「アハッ、そのお人形さんを片っ端から壊してるのはどこの誰かしらね‥‥‥ま、私は従僕がどうなろうと構わないけれど。アレは単なる消耗品。アナタたちが打ち捨てた、取るに足らない塵の成れの果てよ。」
「どうして‥‥どうして、そんな───」
「‥‥‥あなたは、自分を捨てた人間を恨んでいるのですか?」
 悲し気に言葉を失うセリエルフィナに代わって、ミアスが小さく、そんな問いを投げかける。女帝の眉が、ピクリと跳ねた。
「‥‥‥それとも、在りし日の記憶を求めて、気付かない内に自分自身を歪めるんでしょうか。」
「‥‥‥なにが、言いたいの?」
 傍らの少女と同じく、悲し気な顔をする少年に、酷く苛ついた様子でナンバーゼロは声を低める。
「‥‥‥どちらにせよ、貴女は僕たちと同じ『心』を持っている。であれば、争う必要なんて───」
 ミアスの頬を、真っ白な熱線が掠めた。薄皮一枚を黒く焦がして、ミアスは眼前の敵を完璧に怒らせてしまった事を悟る。表情を硬くする少年少女を目の前に、女帝は右手の宝石へとドス黒い呪力を再装填しはじめた。
「‥‥‥次、そんな下らないことを口走ってみなさい。一片の塵すら残さず蒸発させてあげる。」
 凄まじい怒気を滲ませて、女帝は一言そう告げた。
(駄目、か‥‥‥)
 小さく目を伏せ、ミアスは頬に残る細い焦げ跡を静かになぞった。
「‥‥‥本当は分かってるんです。この戦いが世界の未来を決めることくらい。手抜きなんて、出来ないことくらい。けれど───この対話そのものは必要だって、そう思うから───」
 少年の目つきが変わる。普段の泣き虫な少年から、獲物を狩る猟犬へ。
「決裂だ、人形女帝。」
「そうね。言い残す言葉はそれで良いの?」
 言葉を交わすと同時、ナンバーゼロの右手から焔が迸る。灰すら遺さぬ地獄の業火。しかしてその一撃が放たれるより先に、ミアス高速詠唱が術式を完成させていた。
『その小さな祈祷(ささやき)に耳を傾けてください、最も気高い翼をもつ者よ――今こそ、嵐(おもい)が吹き荒れるのです!』
「なっ───!?」
 突如ナンバーゼロの頭上に展開された魔法陣(チャンネル)から、暴力的なまでの極寒の吹雪が吹き荒れる。かつて焔の邪神すら凍り付かせて見せたユーベルコード、『激凍極嵐・風に乗りて歩むもの』(ブリザードベント・イタクァ)。その暴威を前に、さしもの女帝も防御態勢に入るほかなかった。攻撃用の火炎術式を、瞬時に防御壁に転用する。
 瞬間、凄まじい温度差によって起きた水蒸気爆発が、廃棄坑天井部を大きく揺らした。
「うわあああああああああああああああ!?」
 バイアクヘーと共に吹き飛ばされたミアスが、頭を押さえ絶叫する。ミアスの記憶中枢の一部分───正確には『激凍極嵐・風に乗りて歩むもの』に関する記憶が、根こそぎ食い荒らされていた。
 水蒸気を割って、ダメージを受けた様子もないナンバーゼロが不敵に嗤う。これこそオブリビオン・ナンバーゼロの使う術の中で、最も悪辣なるユーベルコード『記憶喰らい』であった。ミアスの記憶を喰らい、女帝は自身の唇をゆっくりと舐め上げる。
「フフ、ご馳走様。悪くない術式ね。折角だから今ここで───!?」
 刹那。凄まじい衝撃がナンバーゼロを貫いた。ドクン、と。衝撃と共に自身の精神領域に、強烈な呪詛を纏った精神体が新たに二つ捻り込まれたのを知覚する。
「な‥‥に、これ‥‥‥っ!!」
 地上に目を向ければ、幾分数を減らしたメイド人形たちの中心で、右腕を掲げる少女が一人。その漆黒の瞳と目が合った瞬間、ナンバーゼロは吸い込まれるような怖気を感じた。
 なんだ。なんだ、アレは‥‥‥!
 如何なる絶望をその身に受ければ、あれ程の目が出来るのか。己が身に宿した憎悪に匹敵する程の呪詛をその身に秘める少女───三原・凛花からの精神攻撃に、女帝は暫し前後不覚に陥る。依然として精神領域を踏み荒らし掻き毟る精神体に、ナンバーゼロは防衛機能の八割を精神防御へと割いた。
 ───その隙を、彼らが逃そうハズもない。
「───凛花さん!?よーし、いっくよーっ」
 水蒸気爆発のあおりを受け後退していたセリエルフィナが、一気にナンバーゼロとの距離を詰める。オーラを纏わせた足の甲、最早凶器と化したその右脚に、宙を駆ける為の『跳躍力』を装填する。放つ蹴りは一撃。しかして炸裂する衝撃は一つに非ず。動けなくなったナンバーゼロに向けて、必殺の一撃が放たれる。名を───
「───19連釘キック!!もしくは十九重の極み!!」
 危ない。何がとは言わないがまたしてもギリギリの技だ。しかしその蹴りは、宙天に座す女帝を地上に叩き墜とすのに十分すぎるほどの威力を炸裂させていた。

 墜落地点へと、獣の如き様相で疾走る男が一人。
「───ここに来るまでにお前の傀儡共を散々食い散らかせてもらったが‥‥‥皆良い目をしていたぜ」
 闘真である。これまで使っていた戦斧をあっさりと放り投げ、素手ひとつで武人はナンバーゼロの元へと突貫する。
「どいつもこいつも怨嗟と憎しみでぎらついた、魅力的な目をしていた。お前と同じようにな。」
 必殺の一撃のため、全身に集約させていた力が爆発する。女帝の躯体が地面に叩きつけられるまで、残り1秒───。
「俺はお前らのように、運命に立ち向かおうと蜂起する奴らは嫌いじゃないぜ。運命に負け感情を押し殺して傀儡の如く振る舞う弱者などより、余程人間らしい‥‥‥!」
 瞬間、武人の肉体が跳ね上がる。超神速の二重の踏み込み。放つは必殺、拳による渾身の一撃‥‥‥!
「お前らの憎悪に敬意を表し‥‥‥俺の奥義で引導を渡してやろう!」
 ───『空雷流奥義・電』。落下の勢いをも威力へと計上し、闘真の拳は完膚なきまでに女帝の躯体を粉砕せしめた。
 拳の叩き込まれた腹部から、細かく砕け散ったネジや歯車、発条が次々と零れては落ちてゆく。人形女帝・ナンバーゼロは、この日、この瞬間を以て、永きに渡ったその活動を永久に停止───
「───残念。」
 ───することは、なかった。
「な、に───!?」
 超至近距離で放たれた風の魔弾が闘真に直撃する。全身を真空の刃に切り刻まれ吹き飛んだ闘真は、久方ぶりに戦場にて行動不能状態に陥った。
「───嗚呼。今のは正直、危なかったわ」
 自身の腹部を優しく撫でて、女帝は蠱惑的に嗤う。彼女の腹部からは、咄嗟に粗製乱造されたと思しき無数のメイド人形が、醜く砕け散った貌を幾つも覗かせていた。
「でもね、この瓦礫の王国において、私たちは無限にして無尽蔵。例え塵一つからでも、従僕を生み出してみせるわ」
 八重歯を剥き出しにして、ナンバーゼロは歪んだ笑みを浮かべる。その足下から再び無数のメイド人形が湧き出すと同時、彼女の背後に六属性の宝石が浮かび上がる。
「嘘だろ、オイ‥‥‥!」
 冷や汗をかくカイムの隣で、ドサリ、と。凛花が頭を押さえて倒れ込む。足下からゆっくりと絶望が這い上がってくるのを、カイムは肌で感じ取っていた。
「さようなら、『私』のお仲間さん。死体くらいは残してあげるわ。」

 死神が嗤う声を、最後に聞いた気がした。

●第二幕 -4-

「前線、崩壊‥‥‥っ!!」
 自分自身の声をどこか遠くで聞いているような気がして、マックスは静かに頭を振った。信じられない。否、信じたくはなかったが、眼前に広がる光景はどこまでも無慈悲にリアルであった。
 倒れていった仲間たち。無数の従僕を引き連れ進軍する人形女帝、ナンバーゼロ。感傷に浸っている暇などない。急ぎ、対策を講じる必要があった。
「───セイスさん」
 インカムに向かって呼びかけると、応答はすぐに返ってきた。
『うん。前線が崩壊した。最早一刻の猶予もない。マックス、さっきの話にあった───』
「はい、最終兵器───僕のユーベルコードの中で、最大最強の一撃を放つ技‥‥‥『終幕を照らす光(デウス・エクス・マキナ)』を、軍勢のド真ん中にブチ込みます。ただ、難点がひとつ‥‥‥」
『あぁ、チャージの時間が必要なんだろう?時間稼ぎなら任せてよ。いつも通り、のらりくらりとやってみせるさ。』
 いとも簡単にそう言ってのけるセイスに、マックスは「ありがとう」と一言伝えて、それからもう一言付け足した。
「‥‥‥僕も、前線に出ます。」
『‥‥‥何?』
 インカム越しに、セイスの驚いた様子が伝わってくる。分かっている。あまり頭の良い作戦ではないのだから。
「僕も、前線に出ると言いました。先の前線を見る限り、僕のフルパワーでもあの『従僕の楯』を滅ぼしきれるか微妙なラインです。なにせ、この迷宮に存在する塵芥一つ一つから人形を製造するんですから。だったら尚更、威力の減退しかねない後衛からの一撃じゃ不安定さが増す。最低でも、威力の減退しない距離までは近づく必要があります。」
 無茶な提案をしているのは自覚している。遠距離からの絶大な威力を持つ射撃攻撃───その強みの八割を、威力の為だけにドブに捨てるようなものなのだから。
 インカムの向こうで、暫し躊躇したような響きが感じられた、そのあと。
『‥‥‥分かった、それでいこう。ただ、できるだけ敵の攻撃は引き受けるけど‥‥‥君を完全にカバーするのは難しいかもしれない。』
「分かっています、無理を言ってすみません。‥‥‥でも、最大の一撃を、叩き込むんです。命を、奪うんです。多少のダメージぐらい、何度でも耐えきってやりますよ‥‥‥!」
 強い決意を胸に秘め、優しい人形は戦場へと歩を進める。この戦いを、終わらせるために───。



「───あら。お出迎えにしては随分と貧相ね。瓦落多の竜と獣じゃ、まともにステップも踏めないわよ?」
「生憎と、君と踊る気はさらさらないよ。悪いけどここから先は通行止めでね。君がぶつけたい思いも、ここが終着点だ。それは僕らにぶつけなよ。」
 片や無数の従僕を従える、悪辣なる人形女帝。片や機獣の群れを引き連れた、瓦落芥弄りの操り人形。戦場と化した廃棄坑に、暫しの静寂が訪れる。

 ───乾ききった風が踊る中、動いたのはほぼ同時であった。

「───削り殺しなさい、我が従僕」
「───蹴散らしておいで、イダーデ、フーヂ」
 瓦礫の荒野にて、人形たちが激突する。或いは鋭い牙で胴を裂き。或いは仕込み箒で一刀両断され。或いは背に装備したブレードで切り刻み。或いは暗器の連射の的になり。或いは二首から放つ衝撃波で敵陣に風穴をあける。
 本来、命無き人形同士の戦い。本来、心無き人形同士の争い。しかしその光景は見るものを圧倒せずにはいられない、ある種の激しい生存競争の様相を呈してゆく。戦場の中心にて、操り人形と女帝もまた、熾烈な争いを繰り広げていた。
「───君は諦めていたんじゃないのかい?」
 スクラップを束ねて作り上げた異形の武器を振るい、セイスは問う。
「───諦める?なんの話かしら!」
 セイスの一撃を避け、ナンバーゼロが土の魔弾を展開する。
「自分の運命をさ。一度は穴倉の底で果てたんだろう?だったら、どうして今更地上に出てくる必要があるのさ。」
 放たれた土石流をバラックスクラップで受け流し、操り人形は重ねて問う。
「大した理由じゃないわよ。私は還ってきた。道は繋がっていた。だから地上を目指す。理由なんて、それだけで十分でしょう?」
 メイド人形の仕込み帚を抜き放ち、ナンバーゼロが肉薄する。
「───いいや、違うね。もしそうなら、僕なんて無視して地上に向かえば良い。それだけの戦力差が、今の僕たちにはある。君には別の理由があるはずだ」
 振り下ろされた白刃を、異形の武器が迎え撃つ。
「だったら、どうだって言うのよ」
「花宵・稀星───彼女だろう、君がわざわざ穴の底から這い出てきた理由は」
 火花が散る。鍔ぜり合う二体の人形は、至近距離にて互いに見つめ合う。
「‥‥‥そう。あの『私』には、ちゃんと名前があるのね。」
「共に歩む、友人や仲間もね。ちなみに、過去の記憶がないそうだよ、あの娘には。」
「‥‥‥成程。一から十まで、恵まれてるのね。───反吐が出るわ!!」
 刃の圧が、凄みを増す。
「───私はあの娘を殺す。今まで廃棄されていった『私たち』のためにも、全身全霊を以てあの娘を殺す‥‥‥!!」
「それが君の目的か。」
 弾かれた様に後退する二人。しかして戦力差は歴然。ナンバーゼロのユーベルコードによって無尽蔵に生み出される従僕たちが、次々とセイスの機獣を圧殺してゆく。
「‥‥‥もう勝負はついたも同然よ、操り人形。そこをどきなさい」
「───ここは通行止めと言っただろう?」
「嗚呼、そう。───殺して、従僕たち。」
 無数のメイド人形が、セイスへと刃を向けた。


 
 血飛沫が舞った。
「ぐぅ‥‥‥!」
 苦悶の声を噛み殺し、マクスウェル・アーキボルトは魔力の充填を続行する。全身に集る数体のメイド人形の攻撃に、既にしてマックスは立っているのが不思議なほどの負傷を負っていた。
『マキナエンジン出力全開ッ!魔導エネルギー最大収縮ッ!』
 動力部が咆える。収束してゆく魔力が片っ端から圧縮され、右腕に構えた巨大なアームキャノンへと装填されてゆく。
 肩口をザックリと、抉る様に刃が奔る。無視。魔力充填続行。
 わき腹に突き刺さった、暗器の感触が熱い。無視。魔力充填続行。
 額を切り裂いて滴る血が、目に入って邪魔だ。無視。魔力充填続行。
 赤く染まった視界で、戦場を視る。ぶつかりあい、壊し合う、数多の人形たち。その中心で白刃を振るう少女人形の姿に、酷く心が痛む。今、ここで全身に刻まれてゆく傷など、この痛みに比べればかすり傷にも満たない。
 ───同情、しないわけがない。悲しくならないわけがない。心と命を持って生まれて、その果てに、こんな地獄に打ち捨てられたのならば───誰であろうと狂う。自分が同じ立場なら、きっと狂ってしまう。
「‥‥‥だからこそ、見過ごせないじゃないか」
 人形たちが、壊れていく。斃れてゆく。停止してゆく。───死んでゆく。
「だって、それは君が本来、もっとも嫌った行為だろう‥‥‥ッ!」
 暴発寸前の魔力が、動力部で膨れ上がって咆哮を上げる。
「たくさんの同じ人形を、道具みたいに扱う行為を、君は嫌悪したはずだ。自分たちは消耗品なんかじゃないって、本当は君も、そう叫んだはずだろう!!」
 声の届かぬ前線に、どうかこの想いだけは届いてくれ、と。傷だらけの人形は、願いを込めて発射準備を完了した。
「───魔導エネルギー、圧縮完了。この悲しい戦場に、どうか相応しい幕引きを!いくぞ、ナンバーゼロ。『終幕を(デウス)───照らす光(エクス・マキナ)』───ッ!!!」
 朦朧とする意識をつなぎ止め、未来への咆哮と共に、解き放たれるは限界まで圧縮した極大の魔導エネルギー砲。爆発的な加速を伴い、莫大な魔導エネルギーの奔流が、ナンバーゼロへと放たれた‥‥‥!



 イダーデを駆り、セイスが戦線を離脱した直後。
 唐突に放たれたド級の破壊力を前に、ナンバーゼロは注ぎ込める全ての力を以て、莫大な数のメイド人形を召喚し障壁とした。
「───ッ!!!!」
 召喚した端からあっさりと、メイド人形たちが蒸発してゆく。足りない。足りない。まだ足りない。迷宮内に蓄積した、ありったけの媒介を注ぎ込んで、蒸発に拮抗するほどのスピードでメイド人形を生成してゆく。足りない。足りない。まだだ。まだまだ注ぎ込める。この廃棄坑に人間が残していった負債は、この程度じゃ収まらない‥‥‥!
 魔導エネルギー砲と人形障壁とが拮抗する。生まれてはすぐに死んでゆく人形たち。ズキリと、胸の奥が痛む。まだだ。まだだ。まだだ、まだだ、まだだ‥‥‥ッ!!!
「ぅぅぅううううああああああああああああああ!!!!!」
 女帝が咆える。こんなところで消えてなるものかと。こんなところで終わってなるものかと。迷宮内の瓦礫が、みるみる内に消費されてゆく。少しだけ、魔導エネルギー砲の勢いが、弱まった気がした。
「ああああああああああああああああああ!!!」
 左腕を掲げる。宙に浮かぶは、先ほど人狼の少年より簒奪した、焔の神をも凍らせる絶対零度の暴風『激凍極嵐・風に乗りて歩むもの』。
 叩きつけられた極寒の一撃が、魔導エネルギー粒子の活動を停止させてゆく。廃棄坑内部の瓦礫や塵芥を軒並み消失させて、しかし必殺の一撃は、あと一歩のところで女帝に届かなかった。
「なっ───!」
 余剰魔力によって吹き荒れた極寒の暴風が、セイスの駆る機竜をも停止させる。全身を蝕む氷の悪魔に抱かれて、セイスは意識を失った。

●第二幕 -5-

「───どきなさい。私は、『私』を‥‥‥!!」
「くっ‥‥よもや、此処までの執念とは‥‥‥ッ!!」
 尽きることのないその執念に、さしものステラすら苦鳴を漏らさずにはいられなかった。放たれた『闇の魔弾』に鎧の大半を抉り取られ、『光の魔弾』によって焼け焦げた無数の傷が痛々しい。しかし満身創痍のステラもまた、剣を構えて立ち塞がるのをやめようとはしなかった。
「───ナンバーゼロ。貴女の悲哀は、悲願は、どれだけ強くとも最早過去に属するものだ。過ぎ去ったものの願いを叶えることはできない。悪いが、君の願いはここで打ち止めだ‥‥!───願いさえ斬り捨てる、我が剣を受けてみよ!」
 放たれる、渾身の『流星一閃』。ナンバーゼロの胸部めがけて振り抜かれた刃はしかし、彼女の胸元より涌いて出た無数の小さな人形に阻まれ、本体の切断には至らなかった。
「邪魔だ、そこを、どけええええええええええええ!!!!」
 真に恐るべきはその恩讐。同じく満身創痍の筈のナンバーゼロの放った『風の魔弾』に、流星の騎士がついに倒れる。
「ステラさん‥‥‥ッ!!」
 稀星の悲壮な叫びが、伽藍とした穴倉に木霊する。もう、媒介にできる塵もそう多くないのだろう。数体の従僕だけを引き連れて、ナンバーゼロが稀星へと迫る。
「───待ちなさい。」
 しかして女帝の前に槍を突き付けたのは、もう一人の騎士───彩瑠・姫桜。こちらも矢張り、満身創痍。それもそうだろう、これまで稀星に向けた攻撃のすべてを、ステラと姫桜は身を挺して庇い続けて居たのだから。
「あのねぇ‥‥いい加減、邪魔よ。邪魔。邪魔。邪魔、邪魔、邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔‥‥‥!!」
 紅玉が輝くと同時、爆炎が容赦なく姫桜を襲う。
「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅ‥‥っ!!!」 
 倒れない。持ち堪える。今ここで倒れたら、誰が彼女を護るのか。
「も───もういいです!姫桜さん!」
 ひとり、またひとりと仲間が倒れてゆく現実に耐え切れず、ついに稀星が絶叫する。
「もう、いいですから!私、戦える‥‥‥!もう、大丈夫です!ですから、もう───傷つかないで‥‥‥!」
「‥‥‥駄目よ。だって───震えてるじゃない、稀星さん。」
「ぅ‥‥‥」
 歯を食い縛って、無理くり笑ってみせる。
「大丈夫。貴女の震えが止まるまで、何度だって護って見せるから。そういう約束でしょう?」
「‥‥‥‥っ!!」
「───アナタ、馬鹿なの?」
 心底不愉快そうに、ナンバーゼロが眉を顰める。
「アナタにとって、そこの人形はそんなに大事?命を懸けるほどに、大切な人?違うでしょう。そこの人形は、今日たまたま顔を合わせただけの、誰とも知れない他人でしょう?なんでそこまでして庇うのよ。」
「‥‥‥そんなの、私にだって分かんないわよ。痛いのは嫌。恐いのも嫌。死ぬのなんてもってのほか。でもね───」
 ふらつく足を、叱咤するように叩きつける。
「目の前で泣いてる子を見捨てて気持ち良く生きられるほど、私は器用に生きられないの‥‥‥!」
 感情に呼応して、姫桜の血統が覚醒する。両手にドラゴンランスを構え、不動の構えをとる少女を前にして、ナンバーゼロが激昂した。
「───だったらなんで!!なんで、どうして、『私たち』も‥‥‥!」
 不思議とその表情は、泣き出す寸前の子供の様に見えた。
「‥‥‥アナタも、私を憐れむの?」
「ううん、私は、絶対に貴女を憐れまない。‥‥‥貴女がこの場所に置き去りにされ感じてきた様々な想いを、戦う事も知らずに平和に暮らしてきた私が、勝手な想像を巡らせて同情を投げかける事は、とても失礼な事だと思うから。だって、私がそうされたら嫌だもの。お前に何が分かる!って、そう言いたくなるから。」
 言葉に詰まったように、ナンバーゼロが黙り込む。
「‥‥‥そう思うから、私は同情なんてしない。倒すしかないのなら、私の持てる限りの力で迎え撃つ。それが、私にできる、貴女への精一杯よ、ナンバーゼロ‥‥‥!」
「‥‥‥そう。」
 やはり泣きそうな顔でそう呟いて、ナンバーゼロは小さく笑う。
「───私、アナタみたいな人、嫌いよ。大っ嫌い。」
 刹那、傷だらけの少女と人形が、交差した。
「ぁ‥‥‥。」
 倒れたのは、少女。眠る様に崩れ落ちた少女の背中に、稀星の叫びが小さく突き刺さる。残ったのは、人形と───人形。



「‥‥‥なんで、アナタだったのかしらね。」
 渇いた風が、色のない髪を揺らす。
「‥‥‥。」
 色に溢れた人形は、黙して語らない。
「‥‥‥何が、違ったのかしら。」
 同じ色の瞳を映して、色のない人形は溜息をつく。
「‥‥‥。」
 色に溢れた人形は、黙して語らない。
「アナタが、憎い。」
 色のない人形が、短く告げる。
「日の光を浴びるアナタが憎い。地底の寒さを知らないアナタが憎い。打ち捨てられる絶望を知らないアナタが憎い。当たり前のように笑顔を浮かべるアナタが憎い。私とよく似た、アナタが憎い。憎い。憎い、憎い、憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い‥‥‥!」
 一言ひとこと血を吐くように、色のない人形は胸の内を吐露する。
「‥‥‥どうして、私じゃなかったのかしら。」
 色のない人形は細い指を、色に溢れた人形の喉に添える。
「‥‥‥。」
 色に溢れた人形は、黙して語らない。
「‥‥‥まぁ、いいわ。アナタはここで死ぬ。私たちの恩讐も、ここで途絶える。」
 細い指に、力が籠る。色に溢れた人形が、喘ぐように小さく息を吐いた。
「‥‥‥死んで頂戴。この結末に至るまでの全ての過程が、間違っていた。───そういう意味では、死んでいった彼らも、無駄死にね。」
「無駄‥‥死に‥‥‥?」
 白い喉が跳ねる。ここに至って、色に溢れた少女はようやく、言葉らしい言葉を口にした。
「───そうよ。無駄死に。ここまで彼らが積み上げてきた物もまた、すべてが無駄。無為。無意味。」
「───それは」
 違う。絶対に違うと、色に溢れた人形───稀星は首を振る。彼らは、一人として未来を諦めてはいなかった。どのような結果に辿り着こうと、より良い未来のために突っ走れる、そんな人ばかりだった。それを、「無駄だった」と一笑に伏すのは───
「違‥‥う‥‥‥!」
 力強さを取り戻した稀星の声に顔を顰め、色のない人形───ナンバーゼロは、指先に一層力を込める。
「だったら‥‥だったら、なんでアンタは無抵抗にぶら下がってんのよ‥‥‥!!」
 瞬間。白銀が、ナンバーゼロの肩口を貫いた。ドサリと地面に倒れ込んだ稀星が、空気を求めてえづくように咳き込む。その傍らには、彼女の媒介たる白銀の宝石が展開されていた。
「───へぇ、今更やる気になったってわけ。で?アンタ独りに何が出来るのよ。」
「‥‥‥独りなんかじゃ、ないです。」
 睨むよう稀星を見下ろして、ナンバーゼロは心底愉しそうに嗤う。
「───見殺しにしておいてちゃんちゃら可笑しいわねぇ。結局アナタはいつまで経っても置き去り人形のまま。アナタの周りには、誰も残りはしない‥‥‥!」
「そんなこと───ない、です‥‥‥!」
 大きく頭を振った。目をつむれば、浮かんでくる。自分を助けてくれた人たちの顔が。言葉が。思いが。心の中に、ちゃんと残っている。
「だって、あの人たちは、私の心の中に───」

「‥‥‥いや、普通にちゃんと生きてますから。勝手に殺さないでください。」

 渇いた風が一陣、伽藍洞を吹き抜けた。二人が声のした方向に振り向くと、そこには蒼い髪の少女がテン、と一人立っていた。電脳魔術師、メタ・フレン。いままでどこにいたのか。この伽藍と化した廃棄坑にあって、この蒼い少女はあまりにも自然になじんでいた。
 言葉を失うナンバーゼロなど目にも入らない様子で、稀星は震える唇で問う。
「───本当に、メタさん‥‥‥なのです?」
「はい。メタ・フレンです。どうぞよろしく。」
「だ‥‥‥だって、気が付いたら見当たらないから、てっきり私───」
「‥‥‥前衛が崩壊した時点で、手の空いていた私が救出活動に回りました。みんなほとんど意識失ってますけど、ぶっちゃけ全員無事です。」
 ぴーす、と幼い少女は無表情にブイサインを作る。そんなメタの目の前で、稀星はへたり込みたくなる衝動を、どうにかこうにか抑えていた。
「‥‥‥良かった、無事だったんです、ね───」
 バキリ、と言う酷い音が響いた。目を向ければ、怒りのあまりメイド人形の首を圧し折ったナンバーゼロが、ドス黒い憎悪を纏ってそこに立っていた。
「ハハ‥‥一人じゃない?みんな無事でした?なに、それ。───馬鹿言わないで頂戴!そんな、ご都合主義があって良いわけがないでしょう‥‥‥ッ!」
 咆える。あと少しで、『自分』と同じ絶望の淵に叩き込めるはずの『私』が。今は強い輝きを秘めた眼差しで、『私』を睨みつけている。
「‥‥‥なにがご都合主義ですか。結局のところ、現実は選択肢の積み重ねでしかない。戦闘不能になった猟兵にトドメも刺さず放置していた時点で、この結果は必然です。まぁ、でも───これからお見せするのは、ある意味究極のご都合主義かもしれませんが。」
「メタ、さん‥‥‥?」
 最後にそう呟いたメタに、稀星が不思議そうな顔をする。
「───まぁ、良いわ。アナタのお仲間が生きていようが死んでいようが、いまこの場に居るのは手負いの人形と自分一人じゃ戦えない小娘一人。私の勝利は揺るがない‥‥‥!」
 六大元素を纏い、至極の媒介たる六色の宝石がナンバーゼロの背に展開する。元素爆破術式を用いた、ナンバーゼロが用いる基本にして最強の広範囲殲滅魔術。
「さぁ、こんどこそ、死んで頂戴───!」
 六大元素の絨毯爆撃が、少女二人へと襲い掛かる。
「稀星さん。」
「はいですっ!『狂わしき月の光よ、影を打ち消せっ!』───ルナティックレイ!」
 稀星が魔杖を指し示すと同時、宙高くに展開した無数の宝石から、月光の如き光線が一斉に発射される。狙うは直撃ルート上の魔弾、即ちステラ・アルゲンが目の前で見せた、元素爆撃に対する最適解。放たれた光線は寸分たがわず魔弾へと直撃し、本来それらが引き起こしたはずの破壊の一切を無効化する。
 爆炎が消滅する。真空刃が中途半端に解放され、土石流が舞い上がる。先ほどまでの花宵・稀星からは想像もつかない程の、凄まじい技の冴えであった。
「メタさん!」
「はい。では───来て、私の───『バトルキャラクターズ』!」
 瞬間、メタと稀星を取り囲むようにして、20人もの電子の戦士が屹立する。
「本番はここから‥‥‥!イェーガーコードインストール、出番ですよみなさん、起きてください!」
 メタの指先にて、無数の暗号化されたコードが踊る。それらは織り目を成し、或いは螺旋を成し、召喚されたバトルキャラクターズへとインストールされてゆく。
「同期率70%‥‥85%‥‥‥100%. success!! 同期完了、今こそ立ち上がれ、電子の猟兵たちよ───!」
無個性だった電子の戦士たちの姿が、メタにも、そして稀星にも見覚えのある姿へと変貌する。
『ん‥‥うぉあ!?なんじゃこりゃああああ!?』
『うるさいですよカイムさん!僕らのユーベルコードと戦闘データ、なにより精神を暗号化して一時的にバトルキャラクターに移植してるだけですって!』
『説明上手だね、ミアスくん。わたしはこういうのテンで分からなくて‥‥』
『大丈夫ですよ凛花殿。私もさっぱり分かりません!』
『胸張るようなことでもないよ、ステラ。まぁ、とにかくもう一度戦えるのは僥倖だ。』
『セイスくんに同意見!ボクもまだまだ、暴れたりないからねーっ!』
『うわぁセリエルフィナさん、まだ同期して間もないんだからあんまり動き回っちゃダメだって!』
『電子化しても真面目なのねぇ、マックスくんてば。そういえば空雷さん、この身体でもあの武術って使えるのかしら。』
『憶えておけ、彩瑠。武術とはあらゆる局面において効果を発揮する。故に常在戦場、不測の事態が起きようとも最速最短の動きが───』
 キャラクターの言葉を遮る様にして、目を真っ赤にした稀星が叫んだ。
「皆さん!ほんとに、みなさんなのです!?」
『おぅ、そのみなさんだぜ!』
『よく頑張りましたね、稀星さん。』
『言ったでしょ、最後まで護るって』
「───ありがとう、なのですよ‥‥‥!!」
 鼻を啜る稀星を前に、電子の猟兵たちは照れ臭そうに笑う。そんなイイ感じの空気を遮って、メタ・フレンは無情にも言い放った。
「時間がないので合体させます。みなさん、お気を確かに。」

『『『『『『『『『合体───ッ!?』』』』』』』』』

 凄まじい閃光と共に、バトルキャラクターと化した猟兵たちが融合を果たす。閃光が収まると、そこに立っていたのは個性豊かすぎる故に妙に没個性な、額に『20』と刻印されたバトルキャラクターであった。
「援護してください、みなさん!」
『任せてください!』
「こ、この───ご都合主義の権化めがあああああああ!!!」
『いっくぜええええええええ!!」
 ナンバーゼロの咆哮を掻き消すように、アームドフォートを纏った右腕が轟音と共に火を噴く。弾丸と並走するように接近するや否や、いつの間にやら換装していた二丁のハンドガンが、ナンバーゼロの懐で盛大に炸裂する。ボロボロと小さなメイド人形が零れていく中、稀星は迷いなく魔杖をナンバーゼロへと指し向けた。
「───貴女は、さぞや私が憎いでしょう。気の済むまで憎むといいです。その憎しみが、全て絞り出されるまで‥‥‥!」
『月光』が、ナンバーゼロへと容赦ない集中砲火を浴びせる。持続的に続く大ダメージに、いよいよもって彼女の楯たる従僕も、生成が難しくなってきたようであった。
「なんで、なんでよ!私は、ただ───!」
『言ったでしょう、貴女には一切同情しない、って!』
 ドラゴンランスが肩口を刺し貫く。激痛に顔を歪め、臣民の消えた女帝は咄嗟に魔弾を展開する。
「消えて、無くなれ───ぇ!?」
 同タイミングで形成された『まったく同じユーベルコード』が、展開された魔弾のこと如くを相殺せしめる。
『もう眠る時間だ、ご同輩。安心して、君のことは忘れない。』
「───っ、こう、なれば‥‥‥!」
 ナンバーゼロの躯体がフラリ、と揺れる。次の瞬間、崩れ落ちてゆく躯体を置き去りに、彼女は温存していた凛花のユーベルードを使用していた。凄まじい衝撃と呪詛を伴って、強烈な精神体と化したナンバーゼロが向かう先は───当然の如く、花宵・稀星の精神領域である。
 嗚呼、そうだ。最初からこうしていればよかったのだ。もとより躯体の差はほとんど変わらず、であれば『中身』を換装した方が余程賢い選択で───!?
「───ごめんなさい、お姉さま。私の未来を、少しでも分けて上げられれば、良かったのですけれど───」
 ナンバーゼロは、思念体として疾駆する中で『ありえないもの』を目にしていた。花宵・稀星。『私たち』と同じ、『代替物』として作られた、数多くある人形の内の一つ。人形。人形だ。で、あれば───なぜ、目の前の彼女には人形特有の継ぎ目がないのか。
 完全なる人の肉体。あれなるは、我ら姉妹が何度も望み、ついぞ果たされなかった、完成形にして出発点。即ち───

『───原典(オリジナル)───』

 思念体でなければ、涙を流していただろう。嗚呼、そうか。到達していたのか。『私たち』は、ついにゼロの向こう側へと、至ることが出来たのか───。
 『月光』が迫る。無防備なエーテル体である以上、直撃すれば消滅は免れない。それで、良いと思った。『私たち』の悲願は、どうやら既に、果たされていた───。
 清浄なる月の光の中で、黒く煤けた魂が消えてゆく。その感覚を、瓦落多の女王は心地よく受け入れたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『第一回アルダワ魔法学園大掃除』

POW   :    大型のゴミは任せろ!全部区別なく、まとめて焼却炉だ!

SPD   :    高いところの埃や狭いところの掃除、ゴミ袋の運搬は任せろ!

WIZ   :    ゴミの分別、危ない薬品や機械の見分け、効率的な掃除の仕方もお任せあれ!

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●幕間 

 アルダワ人形戦線から数日が経過した。

 環境問題や突発的な災魔の出現等、以前から問題視されていた経緯もあって、魔法学園は今回の件を受け『廃棄坑』の区画整備を本格的に開始。『第一回アルダワ魔法学園大掃除』と言う名目で、大々的に一般のボランティアや学園の生徒にも参加を募り、学園総出でこの問題の解決に乗り出した。
 先の戦線で、廃棄坑内の瓦礫や廃棄物の大部分がナンバーゼロによる『従僕の楯』として還元され消滅したものの、未だ内部には撤去すべきゴミが山ほど残っている。沢山の参加者たちに混じって猟兵たちもまた、それぞれの思いを胸に抱き、かつての戦場へと足を運ぶのであった。



※マスターより、第三章の補足

 皆さま、第一章、第二章ともに大変お疲れさまでした。第三章は事件から数日後、内容は廃棄坑内の大掃除、並びに整備作業が主となります。
 多数の一般参加者に加えて、作業運搬用のゴーレムや魔導重機なども大量に動員されていますので、上手く協力してことに当たってみてください。
 心情は出来るだけ描写する所存です。では、どうぞよろしくお願いいたします。
三原・凛花
掃除なんて何気に久しぶりかも。
囚われの頃は弄ばれてばかりで、掃除もロクに出来なかったし。

まあそれはともかく。
【聖霊受肉】で、掃除機を模った『聖霊』を出してゴミを吸わせるね。
白い肉塊みたいな質感の掃除機なんて気色悪いけど、吸引力は抜群だから。

ただ『聖霊』掃除機が吸い取るのは、形あるゴミだけじゃない。
『聖霊』は『負の感情を啜る』。
この廃棄坑中に堆積している「負の感情」を、【生命力吸収】と合わせて『聖霊』に吸わせて綺麗にするよ。

廃棄され忘れられる悲しみ、か。
わたしは味わったことのない不幸ではあるけれど。
不幸に貴賤も上下もないよね。

最後に。
掃除が終わったら、彼女達が救われるよう【祈り】を捧げておくよ。



●第三幕 -1-

「そのゴミ袋は向こうの焼却炉まで持っていってくれ!」
「分別は正確にお願いします。メカふくちゃんの残骸は燃えるゴミではなく───」
「あっ、俺の工具!?誰かそこのグレムリンを捕まえろーっ」
「でねー、焼却炉で作業してるお兄さんがメッチャイケメンでさ───」
「あの運搬用ゴーレム、どう見てもサボってるよな‥‥‥?」
「今日の打ち上げどうするー?ウワサだと第七区画の焼き肉屋が───」

 いくつもの魔導照明器具に照らされた坑内に、生徒たちの笑い声が響く。蒸気機関式自立焼却炉の駆動音と、運搬用ゴーレムの重たい足音。あの空空爆漠とした空間は、もしや悪い夢だったのか───そんな錯覚を覚えるほどに、『廃棄坑』の内部は活気と喧騒に満ちていた。
「───何気に、掃除なんて久しぶりかも。囚われていた頃は、それどころじゃなかったし、ね‥‥‥。」
 喧騒の中でそう独り言ちて、三原・凛花(『聖霊』に憑かれた少女・f10247)は自嘲気味に小さく笑む。『聖霊』に憑かれてからの地獄のような日々は、思い返すのも忌々しい玩弄と苦痛に満ちていた。体内に巣食う『聖霊』を恨んだことも、とても一度や二度ではきかない。猟兵としてその力を行使するようになった今でも、それは変わらない事実だった。
「‥‥‥吸引力は抜群なのよね。」
 そう。たとえば今この瞬間、件の『聖霊』を掃除機型に受肉させて、お掃除に使っていても、である。
 大型の白い肉塊に、これまた肉で出来た太いノズル。妙に生物的な吸い込み口から大量のゴミを吸引していく様は、中々にグロテスクだ。周囲で掃除をしていた女子生徒たちも、唖然とした様子で聖霊掃除機を眺めている。
(‥‥‥そりゃまぁ、気色悪いよね、この見た目だもの‥‥‥)
 再び自嘲気味に笑いつつ、聖霊掃除で片っ端からゴミを吸い込んでいく。実はこの聖霊掃除機、吸い取っているのは形あるゴミだけではない。『聖霊』の『負の感情を啜る』という性質を利用し、この廃棄坑に澱の如く堆積している負の感情ごと吸い取って、土地そのものを浄化しているのである。
「‥‥‥廃棄され忘れられる悲しみ、か。わたしは味わったことのない不幸ではあるけれど───不幸に貴賤も上下もないよね。」
 散っていった人形たちを思って、凛花は目を閉じ祈りを捧げる。どうか彼女たちが、少しでも救われていますように、と。
「───あ、あの」
 突然の声に凛花が目蓋を上げると、幾分強張った表情の女子生徒数人が、こぶしを握りしめて立っていた。
「そ、その掃除機‥‥‥」
「‥‥‥あぁ、ごめん。さすがに気持ち悪いよね。すぐに別の場所へ移動するから───」
「メッッッッッッチャ、可愛いッスね!!」
「へ?」
 間の抜けた声が自分の口から零れたことに、数秒経ってから気が付く。‥‥可愛い?これが?
「うんうん!キモカワ系、というかグロカワ系?器用にゴミをモムモム食べてる姿が超キュート!」
「なんか近くにいると、心なしか空気がキレイになってく気がするしねー。あれかな、マイナスイオン的な?」
「ちょっと触ってみても良いですか!」
「え、えぇ‥‥‥どうぞ。」
 やや気後れしつつも凛花がそう答えると、女子生徒たちはキャーキャー言いながら聖霊掃除機へと群がっていった。もみくちゃにされる聖霊掃除機は、ちょっとした人気者である。心なしか、吸引力も上がっている気がした。
「最近の若い娘って分かんないなぁ‥‥‥」
 困ったような、微笑むような、実に微妙な表情で、実年齢99歳の少女は頬を掻くのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

彩瑠・姫桜
こんな「廃棄坑」みたいな悲しい場所は、無くしていきたいから
今日のこの大掃除がその第一歩
微力だけど張り切って頑張るわね(腕まくり)

SPD
ハタキや雑巾などを使って狭い所を中心に掃除するわ
ドラゴンランス2匹にもドラゴンの姿で協力してもらうわね
身体に布を巻き付けて狭いところへ入ってもらって
私が入れない小さな隙間の掃除をしてもらうつもりよ

※ドラゴンランス2匹
シュバルツ(schwarz)→黒猫の外見のドラゴン
ヴァイス(Weiß)→白蛇の外見のドラゴン

※ヘンペルさん(f00441)も参加可能なら誘ってみるわね
お誘い受けてもらったら…ええ、働くのは皆と同じようにちゃきちゃきと、よ
(色々お願いする気満々な様子)



●第三幕 -2-

「よーし、張り切って掃除するわよーっ!」
 三角巾を頭にギュッと結び、腕まくりして気合を入れるのは金髪碧眼の少女、彩瑠・姫桜(冬桜・f04489)である。ハタキと雑巾を手に仁王立ちするその背中は、日頃のクールな佇まいを押しのけて余りある程のやる気に満ちていた。身体に掃除布を巻き付けた仔竜のヴァイスとシュバルツが、足下で可愛いらしく鬨の声を上げる。
(こんな悲しい場所を無くすための第一歩だもの、微力でも頑張らなくっちゃ!)
 決意も新たに拳をグッと握り、振り向いた姫桜はハタキをビシリと突き付ける。
「と、言うわけで。ちゃきちゃき掃除してもらいますよ、ヘンペルさん!」
「い、いやハハ、気合入ってますねー姫桜さん。若い若い、実に結構。‥‥ところで私、最近持病の腰痛がですね‥‥‥」
 そんな戯言を嘯きつつ目を泳がせるのは、ヘンペル・トリックボックス(仰天紳士・f00441)であった。掃除をする気があるのかと問いたくなるくらい、いつも通りの紳士服姿である。
「ほ、ほら、何と言いますか。シリアス顔で『後片付けをいたしましょう』なんて言った手前、お掃除することには何一つとして異論はないんですよ?えぇ、紳士ですから。」
「そうよ、そもそもの言い出しっぺはヘンペルさんじゃない。何が問題だって言うんですか?」
「いやぁ‥‥その、何です?よりにもよって、ここの掃除しなくっても‥‥‥」
 そう言ってヘンペルが指さすのは、眼前に聳える廃墟化した謎の施設であった。一体いつから存在していたのか、ゴミの山に埋もれていたせいで用途も来歴もさっぱり不明である。
「紳士的には、大人しく入口付近の掃き掃除などをですね───」
「なに気弱なこと言ってるんですか!みんな出来ることを頑張ってるんだから、私たちも手を抜くわけにはいきませんっ」
 ハタキをパタパタさせる姫桜と、同意するように鳴き声を上げるヴァイスとシュバルツ。
「‥‥‥これだけの廃墟です、それはそれは恐ろしーい怪物が、潜んでるかもしれませんよ?」
「うっ‥‥‥」
 唐突におどろおどろしい顔を作って見せる紳士人形に、姫桜がジリっと後退する。眼前の廃墟は、そんな戯言に妙な説得感を持たせる程度には、気味の悪い佇まいであった。
「‥‥‥さぁ、大人しく炊き出しの豚汁を貰いに───」
「‥‥‥。‥‥‥駄目よ。」
 往生際悪く食い下がる紳士を前にして、姫桜の蒼い瞳に焔が燈る。
「───私は逃げない。どんなに怖くても、精一杯頑張って最良を尽くす。そうでなくっちゃ、何が猟兵だって話よ‥‥‥!」
 ズビシィ!とハタキを突き付けて、少女は宣誓するがごとく声を張り上げる。
「おばけだろうがモンスターだろうがかかってらっしゃい!まとめて串刺しにしてあげるわ!」
 姫桜の宣言を前に、対する紳士はポカンとした表情を浮かべた後、どこかバツの悪そうな笑顔で頬を掻いた。
「‥‥‥いやはや意地悪をしました、申し訳ありません。グダグダ言うのも紳士の名折れ、このヘンペル・トリックボックス、このお掃除が終わるまでしっかりと貴女のフォローをいたしましょう!」
 胸に小さく手を当てて、紳士人形は慇懃にお辞儀してみせる。対する少女は、憮然とした表情でフン、とそっぽを向いた。
「‥‥‥キリキリ掃除してもらいますからね。」
 そう言って、ズンズンと廃墟へ向かう姫桜。
「お手柔らかに。‥‥‥いやぁ、しかし───」
 成長しましたねぇ、という言葉は胸に伏せ、紳士人形は彼女の背中を追うのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

空雷・闘真
「兵どもが夢の跡、か」

【宇宙バイク】に【騎乗】し、廃棄坑を眺めながら闘真は呟いた。
手に持ったトングを【二回攻撃】で操りながら、バイクの後ろに引く荷台にゴミを集めていく。

「空雷流奥義・電をあんな形で防ぐとはな。大した奴だったぜ」

自身の最強の技が思いも寄らぬ奇策で防がれたことを思い出し、闘真は嗤った。
己を熱く滾らせてくれた戦い、その興奮と熱狂。
そして、それが終わった後の一抹の寂寥感。
様々な思いが胸に去来しながらも、闘真はゴミ拾いを休めない。

「せめてゆっくり眠れるよう、死に場所位は綺麗にしてやらねぇとな……」

強敵(とも)への感謝と寂しさを胸に湛えながら、闘真は新たなゴミの元へと宇宙バイクを走らせた。



●第三幕 -3-

「‥‥‥兵どもが夢のあと、か」
 作業運搬用のゴーレムたちの間を縫って、幾分速度を落とした宇宙バイクがペケペケと廃棄坑内を駆けてゆく。大型の工事用トングを片手に、空雷・闘真(伝説の古武術、空雷流の継承者・f06727)は、先の戦いに思いを馳せていた。
 近接攻撃の通用しない、空中という絶対的優位な間合いからの魔術による連続制圧爆撃。加えて、無尽蔵に供給される人形の群体。一塊の武人である闘真にとって此度の戦場は、自身の戦略性の幅と鍛錬の方向性を見つめなおす上で、大変有用なものになったと言えた。
「空雷流の奥義を、よもやあんな形で防ぐとはな。フン、大したヤツだったぜ‥‥‥」
 自分の持ちうる最強の技を、思わぬ奇策で防がれた瞬間を思い出す。しかして武人は厭な顔ひとつせず、むしろどこか楽し気な様子でニヤリと嗤った。
「‥‥‥割と本気で、お前のような手合いは嫌いじゃなかったぜ、ナンバーゼロ。良い死合いだった‥‥‥あぁ。本当に、良い死合いだった───」
 ヒョイヒョイと巨大なトングが踊るたび、バイクの後ろに引く荷台へと、無数のゴミが吸い込まれるように飛び込んでゆく。その余りの手際の良さに作業運搬用のゴーレムすら、暫し作業の手を止めその技に見入っていた。
 己を熱く滾らせてくれた戦い、その興奮と熱狂。そして、それが終わった後の一抹の寂寥感。去来する様々な思いを胸に、歴戦の武人はゴミ拾いを続ける。
 あの人形がどのような変遷の末に、あれ程の憎悪と力を得るに至ったか、闘真には分からない。それは自分の立ち入る部分ではないし、もっと明け透けに言ってしまえばそこまで興味もない。けれど───あの在り方には、経緯を表するべきだと思うのだ。猟兵としてではなく、はたまた武人としてでもなく、他ならぬ一人の人間、空雷・闘真として。
 不燃ゴミがまた二つ、宙を舞って荷台に落ちる。
「せめてゆっくり眠れるよう、死に場所位は綺麗にしてやらねぇとな‥‥‥。」
 強敵───或いは戦友への感謝と寂しさを胸に湛えながら、闘真はトングを振るう。再び作業を再開したゴーレムたちを背に、歴戦の武人は宇宙バイクの赴くまま、新たなゴミの元へと走ってゆくのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カイム・クローバー
マジで死ぬかと思ったぜ…。接近は厳しい可能性あんなぁって考えちゃ居たけどよ、これほどとは思わなかったぜ。
んで、こっからゴミ掃除の始まりって訳か!
掃除は得意な訳じゃねぇけど、この辺で役に立っとかねぇとな!ホテルの従業員の掃除術見せてやるぜ!
SPD判定でユーベルコード使用。『POW』使ってもう一人の俺と共に大型のゴミの清掃に勤しむぜ!全部焼却炉にブチこめばいいっつーんだから楽なモンだよな!クソデカいゴミも軽々二人で運搬。調子に乗って燃えそうなゴミは全部片端からぶち込むか!燃える!多分燃える!きっと燃える!!っつってな。魔法学校の焼却炉だし、火の魔法とか火のトカゲとかが中で巣を作ってんだろ?きっと。


マックス・アーキボルト
あれから数日、ひどい大ケガもなんとか治療して―うん、今回の大掃除には間に合ったぞ!
休養中もこの区画の汚さはすごく、すごーく気になってたし!

【SPD】
魔導式空中製地で高い所へ登っての埃掃除は初めとして一般の生徒と協力して、出来ることは何でもやろう
足場への注意も忘れず、協力者への優しさ重視!


―ここは、あの子たちの墓だった。ナンバーゼロとメイドさんたち―唯一じゃない、無数の"一人"―の墓。
「失敗作」なんて最後まで僕には納得できなかったけど、きっともう済んだことだ。
ここを綺麗にしよう。彼女たちが安心して眠れるように。



●第三幕 -4-

「ありがとう、マックスさん!あそこは高くてとてもじゃないけど届かなかったから、ホントに助かりました!」
「いえ、皆さん一人一人との協力が、この大掃除には必要不可欠ですので!そのゴミ袋、焼却炉まで持っていくので、よろしければ僕に下さい!」
 噴射していた魔力を徐々に弱め、着陸した少年に惜しみない歓声と拍手が送られる。
「‥‥いやー、あれから数日、ひどい大ケガもなんとか治療して‥‥うん、今回の大掃除には間に合ったぞ!マクスウェル・アーキボルト、大掃除に対応します───!」
 全身に巻いた包帯が未だ痛々しいものの、ミレナリィドールの少年、マックス・アーキボルト("ブラス・ハート"マクスウェル・f10252)は、気合も十分に拳をグッと握った。本来、まだまだ無理は禁物なのだが、この大掃除大会を見逃してベッドでゆっくり寝ていろと言うのも酷な話である。なにしろ彼は休養中ですら、この区画を一刻も早く整備せねばという使命感に燃えていたのだから。
 ゴミ袋を抱え、焼却炉へと歩を進める。眼前に聳えるのは、地獄の窯の如き口を正面に開けた、全長10メートル、体高5メートルはあろうかという大型の蒸気式自立焼却炉だった。
「学園の技術って改めてすごいなぁ‥‥パッと見ロボットみたいだ───」
「そこー!どいたどいたーっ」
 背後からの声にマックスが振り向くのと、廃棄された大型魔導冷凍庫が彼に衝突したのは殆ど同時であった。尻餅をつくマックスと、土埃を上げてぶっ倒れる大型魔導冷凍庫。傷口が開かなかったのは幸いか、しこたまぶつけたお尻をさすりつつ、マックスは立ち上がる。
「イテテテ‥‥‥い、一体何が───」
「わ、わりぃ!大丈夫だったか───って、マックスじゃねえか!」
「えっ、あれ───カ、カイムさん!?」
 土埃からヨロヨロと姿を現したのは、紫紺の瞳が印象的な銀髪の青年───カイム・クローバー((自称)凄腕イケメン盗賊・f08018)であった。
「うわっ、なんだよマックス、お前包帯だらけじゃねーか!?冷凍庫ぶつけといてなんだが、大掃除なんて肉体労働大丈夫なのかよ!」
「え、えぇ‥‥‥‥‥‥大丈夫デスヨ?」
「なにその心配になる間!?」
 割と本気のトーンで心配する青年に、生真面目な少年は少しはにかんだ様な顔で答える。
「‥‥‥まぁ、本当はもう少し療養すべきなんですけどね。この場所を綺麗にするって話を聞いたら、居ても経ってもいられなくなっちゃいまして、あはは‥‥‥」
「ばっかお前、そんな無理するもんじゃ───ってのもまぁ、無理な相談か‥‥‥」
 マックスが渾身の一撃を以てあの人形女帝に挑んだ経緯を、カイムもまた後日聞かされていた。同じ人形として絶対に譲れぬ一線を賭けた彼の気持ちを考えれば、多少の無茶も仕方あるまい。少なくとも自分が同じ立場なら、這ってでも来るだろう。
「‥‥‥なんか不便なことがあったら、いつでも言えよ。俺でよけりゃ、力になるから」
「ぁ───ありがとうございます!でも、カイムさんの方こそお怪我は大丈夫なんですか?」
「俺?俺は一発気絶で済んだからヘーキだヘーキ。マジで死ぬかと思ったけどな‥‥接近戦は厳しいかもなぁって考えてたけど、あれほどたぁ思わなかったぜ‥‥‥」
 チクショー!と額に手を当て悔しがるカイムを前に、しかしマックスは首を横に振る。
「あ、いやそうじゃなくって、僕と正面衝突したとき、怪我とかしてません?」
「ん?あぁなんだ、そっちかよ。見ての通り大丈夫───」
「‥‥‥なワケ‥‥ある、か‥‥‥!」
 カイムの言葉に被さる様にして、聞き覚えのある声が冷凍庫から───否、冷凍庫の下から発せられる。
「‥‥‥長々とおしゃべりしやがって‥‥早く助けやがれ‥‥“俺”‥‥‥!!」
 ギョッとした顔でマックスが、冷凍庫の下に目を向ける。彼が目にしたのは、冷凍庫の下からヒクヒク右腕を伸ばす、銀髪に紫紺の瞳、色黒の肌の青年───『カイム』であった。
「─────は?」
 思考を停止したマックスの横で、カイムが慌てて冷凍庫へと駆け寄る。
「うわヤッベ忘れてた!大丈夫か“俺”!?今すぐ助けるかんな!わりぃマックス、手ェ貸してくれ!」
「え、えぇ!?は、はい、分かりました‥‥‥!」
 何がなんだか分からないまま、大型魔導冷凍庫をどかす。真っ青な顔でフラフラと立ち上がったカイムは、どこからどう見ても隣のカイムと同一人物であった。
「えーと、これはどう言う‥‥‥」
 手品です?というマックスの問いに、隣のカイムがバツの悪そうな顔で答える。
「あー、コイツは【ドッペルゲンガー】。まぁ早い話、もう一人の俺だ。二人いりゃあ、でっかいゴミでも運べるって思ってな。」
「‥‥‥そーいうこった。んでもって、とりあえず目についた大型のゴミを片っ端から焼却炉にブチ込んでみたワケだが、これが意外と効率がイイ。おかげでこの辺のでっかいゴミは軒並み処分出来た。ナイスアイディアだろ?」
「な、なるほど‥‥‥?でも、冷凍庫ってモロ不燃ごみじゃ───」
 首を傾げるマックスに、二人のカイムも首を傾げ返す。
「いや、燃えるだろ?多分。」
「燃える燃える、魔法学園製の焼却炉だぜ?‥‥‥んで、この辺に残ってた最後の大物がこの大型魔導冷凍庫だったんだが───」
「コイツの前方不注意でスッテンコロリン、危うく圧死寸前だぜコンニャロー!慰謝料請求すんぞ!」
「ソレ結果的に俺の財布から俺の財布に金が戻るだけじゃねーか!」
「そうだった!仕方ねぇ、なけなしの有り金、全部ギャンブルに注ぎ込んでくるぜ!」
「やめろバカ!そりゃ俺の分の掛け金だ!」
「お、お二人とも、せめて自分くらいとは仲良く───」
 ビーッ!という鋭い警報音と共に、視界が真っ赤に点滅する。何事かと三人が振り向くと、蒸気式自立焼却炉の頭部(?)の眼(?)らしき部分が、真っ赤に点滅を繰り返していた。腹部(?)の焼却口から噴き出す炎と共に、凄まじい量の煙がモクモクと周囲を包んでゆく。
『焼却炉内部ニテ異常発生。エラーコード:402。焼却不可能ナ廃棄物ガ含マレテイマス。エラーコード:402。自動温度調節機能ヲ維持デキマセン。エラーコード───』
 つんざく様な警報音に混じって、機械音声がエラーを吐く。異常を察知して駆け寄ってきた整備員が、それを聴くなり顔を真っ青にした。
「ま、まずいぞこれは‥‥‥!自動温度調節機能が壊れてる‥‥‥!」
「そ、それが壊れるとどうなるんですか!?」
 血相をかかえた整備員にマックスが問うと、整備員は脂汗を垂らして首を振る。
「な、内部で焼却炉の温度が限界まで上昇し続けるから───早い話、爆発する!」
「なっ───!?」
 広大な面積を持つとはいえ、ある種密閉されたこの空間で、そんなことが起きればどうなるか───マックスもカイムも、瞬時に事の重大さに気が付いたようだった。
「お、おいオッサン!どーやったらアレを止められるんだ!?」
「つ、通常の手順での停止はもう無理だ‥‥‥!あとはもう、頭部にある起動スイッチを強制的にオフにするしか───」
「よしきたソレだ!マックス、連携して頭部のスイッチを───」
『エラーコード402。エrrrrrrrr!!!!』
 瞬間、金属製の巨大なアームが、地上目掛けて凄まじい勢いで振り下ろされた。爆散する地面と、舞い上がる塵芥。辛うじてアームの一撃を避けたカイムが、警報音に負けじと声を張り上げる。
「整備員のオッサンはこっちに隠れてろ!“俺”!あのアームが厄介だ、どうにかして止めるぞ!マックス!」
「はいっ!」
「病み上がりんトコ悪いが、現状アイツの頭部まで飛べるお前だけが頼りだ!俺たちで隙を作っから、タイミングを見計らってヤツを止めてくれ!」
「───了解!マクスウェル・アーキボルト、任務を遂行します!」
 脚部へと魔力の充填を開始しつつ、マックスは拳を握って頷いた。少年の頼もしい姿にニヤリと笑みを浮かべ、青年は再び地獄の業火に向かって疾駆する。
「───ハハッ、負けてらんねーな、こりゃ!」
「まったくだ!カッコ悪ィとこ見せらんねーぞ!」
 黒銀が舞う。焼却口から吹き出す炎で空気を焦がし、自立焼却炉は無謀にも殴殺範囲へと飛び込んできた挑戦者を叩き潰すべく、左右のアームを天高く掲げた。
『不燃、不燃、不燃不燃不燃不燃不燃不燃不燃───ッ!!!!」
 怒涛の如きアームの連打が、二人のカイムへと降り注ぐ。掠りでもすれば最後、哀れな挽肉と化す程の威力と速度で地面を抉る鉄塊を、しかして(自称)イケメン凄腕盗賊は踊る様に次々と回避してゆく。
「───生憎と、俺ァ捕まらないことに関しちゃ一家言あってな!」
「おぅよ!憶えとけデカブツ、この俺を捕まえてーならなァ───」
 二人のカイムが交差する。
「「その百倍は腕持ってきやがれ!!」」
 二人を追った左右のアームが、勢いを殺しきれず正面から衝突する。金属のひしゃげる凄まじい音と共に、両のアームが盛大に破砕する。その隙を、あの戦線を乗り越えた彼らが逃そうはずもない。
「今だ、マクスウェル───ッ!!」
「はあああああああああああああああ!!!!」
 裂帛の気合と共に、マックスの脚部へと充填された魔力が爆発する。莫大な推進力を得て自立焼却炉の頭部へと突貫する彼の瞳には、強い焔が宿っていた。
「───ここは、あの子たちの墓だった。ナンバーゼロとメイドさんたち‥‥唯一じゃない、無数の"一人"―の墓なんだ。『失敗作』なんて概念、最後まで納得はできなかったけれど───せめて彼女たちが安心して眠れるように、ここを綺麗にしなくちゃいけないんだ!だから───」
 包帯だらけの右腕を、大きく振りかぶる。目指すは頭部、額に取り付けられたスイッチ‥‥‥!
「邪魔を、するなあああああああああああ!!!!」
 寸分の狂いなく、マックスの拳がスイッチへと叩きつけられる。───同時、業火を吐き出していた焼却口が力を失い、鳴り響いていた警報音が止まる。盛大に溜息をつくような音を吐き出して、暴走焼却炉はようやくその動きを停止した。

「大丈夫か、マックス!」
「お、おい、またどこか怪我でもしたのか!?」
 着陸するなりヘナヘナと崩れ落ちたマックスを、二人のカイムが走り寄って抱き留める。
「‥‥‥あはは、いえ、何とかなったと思ったら急に力が抜けちゃって‥‥恥ずかしいな」
 はにかんで笑う少年に胸を撫で下ろし、二人の青年は揃って頬を掻いた。
「‥‥‥いや、無事なら良いんだけどよ。」
「‥‥‥俺たちのせいで怪我したなんつったら、寝覚めが悪ィじゃねーか。」
「えっ?どうしてカイムさんの責任になるんです?‥‥‥それよりも大変ですよ、きっと自立焼却炉を暴走させた犯人は、まだこの廃棄坑内に居るはずです!急いで探さないと───」
「そ、その心配はしなくても良いぜ!」
「あぁそうだ!まずはゆっくり休め、な!マックス!」
「え?でも───」
「「いいからっ」」
 妙に必死なカイムたちに首を傾げつつも、心優しき人形の少年は、彼らの優しさに素直に甘えることにしたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ステラ・アルゲン
皆さんお疲れ様でした。しかし我々にはまだやるべきことが残っています。他ならぬ彼らを弔ってあげることです。

私は大きい物を運びましょうか。力はあるほうなので。……先の戦闘の傷ですか?この身体は仮初めのものなのであまり心配しなくても大丈夫ですよ。……痛みがないと言えば嘘になりますが、それよりも彼らを弔うことを優先したいのです。

……キミは私を恵まれていたと言った。確かに私は恵まれていたのだろう。もし私がキミと同じだったら……いえ考えても答えは出てきませんね。

物にも永遠の安らぎを。いつか私にもキミ達と同じ終わりが来る。その時にまた話をしましょう。


セイス・アルファルサ
彼女との会話を思い返しながら複数のオゥロでそれぞれ廃棄物を分別しながら回収。まだ使えそうなものはイダーデ達の修理に使うために別個で回収させてもらうね

人形(僕ら)が恐れるのは役割が無くなること。人形(僕ら)が死ぬ時は飽きられて捨てられる時。
物はいつか必ず捨てられる。……だけどかつてそこにあったと覚えてくれてる人がいるのなら。人形(僕ら)がいたと覚えてくれる、懐かしんでくれる人がいるのなら。それがきっと────。

ご同輩、僕は君の想いを忘れないよ。君達がいたことをずっと覚えていよう
……僕も人形だけどそこは許して欲しいな。

────ねぇ"僕"。セイスは"僕"の代わりをできたかな。できてるといいな。



●第三幕 -5-

「向こうで何やら騒ぎがあった様子ですが‥‥‥大丈夫でしょうか。」
 鳴りやんだ警報音に首を傾げ、ステラ・アルゲン(流星の騎士・f04503)はどこか心配そうに呟いた。右手に提げたパンパンのゴミ袋が、今にもはち切れそうに悲鳴を上げている。
「鳴りやんだってことは、誰かがどうにかしたんだろうさ。むしろ君は自分の身体の心配をすべきだよ、ステラ。」
 ゴミ袋から取り出したゴミを細かく分別しながら、セイス・アルファルサ(瓦落芥弄りの操り人形・f01744)が静かに言う。彼の言う通り、ステラは先の戦闘で凄まじい猛攻を長時間に渡り耐え続けていた。本来であれば、こうしてマトモに作業していることすら不思議な程の傷を受けていたはずである。
「まだ痛むだろう?」
「‥‥‥先の戦闘の傷ですか?この身体は仮初めのものなので、あまり心配しなくても大丈夫ですよ。‥‥‥まぁ、痛みがないと言えば嘘になりますが───それよりも、彼らを弔うことを優先したいのです。」
「‥‥‥そうかい。それにしたって、そのゴミの量はちょっと多いよ。女性には少しばかり重たいはずだ」
 そう言ってゴミ袋を指さすセイスに、ステラは一瞬ポカン、とした表情を浮かべた。
「‥‥‥なんだい?」
「───いや。心配は無用です、セイス殿。力はあるほうなので‥‥‥しかし、なんといいますか。こう、面と向かって女性扱いされると───些かこそばゆい。」
「‥‥‥あぁ、ごめん。」
 困ったような顔で笑うステラに、セイスもまた気後れしたような表情で返す。そこで、言葉は途切れた。喧騒溢れる廃棄坑の中、二人はただ黙々とゴミの運搬と分別、収納を続ける。ステラが大型の廃棄物を運び、セイスが分別して格納カプセル【オゥロ】へと収納。簡単な分担作業であったが、数時間も経つとその作業効率は目に見えて効果を表していた。
「‥‥‥あぁ、ステラ。そのジャンクパーツはイダーデ達の修理に充てたい。別個で取り置いてくれないか?」
「承知した。‥‥しかしセイス殿はあの機械の竜───イダーデを、本当に大切に思っているのですね。先の戦線での連携も見事でした。」
 機械の獣たちを駆り、共に戦うセイスの姿を思い出す。一心同体のあの動きは、強固な信頼関係がなければ到底なしえないものであった。
「‥‥‥まぁね。もとより僕は、イダーデを操作するために作られた個体だ。言わずもがな、唯一無二の相棒だと思ってるよ。フーヂも含めてね。」
「相棒‥‥‥なるほど。」
 セイスの言葉を反芻して、ステラは顎に指を添える。
「私にとって、かつての主がそうであるように───セイス殿にとってのイダーデもまた、互いに信を置き、最後の時まで寄り添うことを誓う‥‥‥そんな相手なのですね。」
 小さく微笑むセイスを前に、ステラは重ねて言葉を紡ぐ。思い出すのは、憎悪と侮蔑の籠った、彼女のあの表情。
「‥‥‥あの人形女帝と対峙したとき、彼女は私に向かって『恵まれていた』と、そう言いました。確かに、私は恵まれていたのでしょう。こうして主亡き後も錆び付くことなく、その意思を引き継ぐことが出来ているのですから。故に───」
 そう独り言ちて、ステラは静かに目を伏せる。
「故に、こうも思ってしまうのです。もし私が、彼女と同じ立場だったら、と───。いえ、考えても栓のない話だというのは百も承知。それでも‥‥‥」
 あのとき彼女が自分にぶつけた感情は、確かに本物だった。それだけに、考えずにはいられなかったのだ。
「私がもし、主に見捨てられ、このような場所に廃棄されたのだとしたら‥‥‥。」
 どこか切なそうな表情を浮かべ、ステラは黙り込む。自身の現身たる流星剣に、辿らずに済んだ過去を夢想して。
「‥‥‥そうか。」
 交代するかのように、セイスが呟くように口を開いた。
「人形が───僕らが恐れるのは、役割がなくなることだ。」
 ぽつり、ぽつり、と。人形は言葉を紡ぐ。
「僕ら───人形が死ぬときは、飽きられて捨てられるとき。そして、物はいつか必ず捨てられる。」
 ステラが顔を上げる。かつての兵士人形の言葉には、何とも言えない現実が宿っていた。
「‥‥‥だけど。かつてそこにあったと覚えてくれてる人がいるのなら。僕らがいたと覚えていてくれる、懐かしんでくれる、そんな人がいたのなら。それがきっと────」

 僕ら人形にとっての、人ならぬモノにとっての、───だ。

 そう呟いて、瓦落芥弄りの操り人形は小さく笑む。
「‥‥きっとね、彼女は羨ましかったのさ。主が死して尚、その背に憧れを抱いて真っすぐに歩く君が、心の底から羨ましかったんだ。それは彼女が、どれだけあがいても手に入れることの出来なかったものだから。」
「それは───」
 なるほど、恵まれている。事実として、良い持ち主に恵まれたか否か。あるいは、それだけの違い。それがなんだか、ステラにはとてつもなく悔しく思えてならなかった。
「結局のところ、単なる逆恨みさ。君が気に病むことじゃないよ。けれど───」
 いや、だからこそ。そう呟いて、セイスは言の葉を重ねる。
「彼女の思いを、彼女たちが居たことを、僕らは覚えておくべきなんだ。再び彼女を骸の海へと帰した以上、ね。」
「‥‥‥えぇ。そうですね。全く、その通りだ───。」
 渇いた風が一陣、二人の間を静かに吹き抜けてゆく。
 
 流星の騎士が、祈る様に瞼を閉じる。
 ───物にも永遠の安らぎを。いつか私にもキミ達と同じ終わりが来る。その時にまた、話をしましょう。

 かつての人形兵士もまた、弔う様に瞼を閉じて。  
 ───ねぇ"僕"。セイスは"僕"の代わりをできたかな。できてるといいな。

 渇いた風がまた一陣、二人の間を静かに吹き抜けていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

メタ・フレン
わたしはゴミの分別を担当しましょうかね。
【情報収集】でゴミの種類を確認して、ゴミの梱包は【ロープワーク】でこなします。

作業の傍ら【グッドナイス・ブレイヴァー】で、大掃除の様子を撮影して動画にアップしておきます。
動画のタイトルは『第一回アルダワ魔法学園大掃除』。
投コメは、「皆さんの応援コメントがわたし達の力になります!」と打っておきましょうかね。

折角みんなで協力して、一つのことに取り組んでるですから。
こういうのこそ、動画に残しておかないと。

……今思い返しても、どうもわたしは前回のことで気負い過ぎてたみたいですね。
その為か、一人で突っ走って無茶なことをしようとしていた。
反省しないといけませんね。


セリエルフィナ・メルフォワーゼ
高い所の掃除はボクに任せて!
【ジャンプ】と【スカイステッパー】で、どんな所にも行けるから。
不安定な所でも、【空中戦】で培ったバランス感覚があるから大丈夫だよ。

ある程度片付いたら、【歌唱】【パフォーマンス】【シンフォニック・キュア】で歌を歌って、皆を元気付けるよ。

…でも手伝ってくれてる人達だけじゃなく、ボク達が倒した人形達にも、この歌を。

彼女達は決して悪じゃなかった。
ただ、どうしようもなく悲しかっただけで。

同情するのは失礼だって姫桜さんも言ってたし、ボクもその意見には同感だ。
けどボクも悲しい過去があったなら、ああなっていたかもしれない。

だからせめてこの歌を、レクイエムとして捧げるよ。



●第三幕 -6-

「やっほーメタちゃん!高いところのお掃除、だいたい終わったよー!」
「お疲れ様です、セリエルフィナさん。私も今ちょうど、ひと段落ついたところです。」
 多少の埃や煤はなんのその、華麗に着地を決めたセリエルフィナ・メルフォワーゼ(天翔ける一輪の君影草・f08589)は、ゴミの分別と梱包作業に勤しんでいた蒼い少女───メタ・フレン(バーチャルキャラクターの電脳魔術士・f03345)へと、ピシッと可愛らしく敬礼して見せた。
 『第一回アルダワ魔法学園大掃除』開始から、およそ七時間が経過していた。あれだけのゴミに埋め尽くされていたこの空間も、今では随分と小綺麗に片付いた印象がある。流石に一日で全部というわけにはいかないが、たった一日でこれだけの成果を出すことが出来たのは、一重に参加者一人ひとりが強い問題意識をもって清掃に取り組んだがゆえに他ならない。
「‥‥‥ん」
 手元の携帯端末に目を移すと、画面上を物凄いスピードでコメントが流れていく。いつの間にやら『♯にくかいそうじき』『♯ドキドキ廃墟探索』『♯高速ゴミ拾いバイカー』『♯焼却炉ロボvsイェーガー』等々、イマイチ内容の想像できないタグが追加されていくこの動画は、メタの【グッドナイスブレイヴァー】からリアルタイムで配信されている動画であった。動画のタイトルは『第一回アルダワ魔法学園大掃除』。メタの『皆さんの応援コメントがわたし達の力になります!』というコメントが効いたのか、動画にはかなりのコメントが寄せられている模様である。
「わ、凄いコメント!これだけ沢山の人たちが、ボクたちの頑張りを見ていてくれたんだ‥‥‥!」
「‥‥‥折角みんなで協力して、一つのことに取り組んでるんですから。こういうのこそ、動画に残しておかないと。」
 それが、今の自分にできる一番の恩返し。気負い過ぎていた今回の自分を省みて、その上でメタの出した最良の結論であった。
「‥‥‥まぁ、でも。そろそろ、今日の掃除はお開きですかね。動画の配信はこの辺にしておいて───」
「ちょ、ちょっと待ったーっ!」
 猛烈なセリエルフィナのストッピングに、メタの身体がビクリと跳ねる。数秒の後、そこにはペコペコ頭を下げるオラトリオの少女と、無表情で抗議する生後ゼロ歳のバーチャルキャラクターの姿があった。
「ゴ、ゴメンね、驚かせる気はなかったんだけど‥‥‥ボクね、まだ少し余力が残ってるから、歌と踊りでみんなを元気付けてあげたいんだ。ダメかな?」
 お願いっ、と両手を合わせ、セリエルフィナが片眼を瞑る。一方、メタは何事か考えたあと、そっと眉間の皺をやわらげた。
「‥‥‥それは、この大掃除に参加してくれた皆さんに対して、ですか?」
「う、うん。それもあるけれど───ボクはこの戦いで倒れていった人形たちにも、この歌を送りたいんだ。ボクにできる精一杯の弔いが、きっとこれだから。」
「‥‥‥そう、ですか。」
 珍しく───本当に珍しく、年上に対して無愛想なこの少女が、ふわりと笑顔を浮かべる。年相応の、純真無垢な笑顔であった。
「いいですよ、セリエルフィナさん。私も全力で付き合いますから、最高のパフォーマンスをお願いします‥‥‥!」
「あ───うんっ、ありがとう、メタちゃん!行ってくるね!」
 とびきりの笑顔でそう返し、セリエルフィナは翼を広げる。目指すは宙天───彼女が瓦礫の荒野を睥睨していた、かつての玉座。
 ───大きく息を吸い込んだ。

「みんなー!聴こえるーっ!?」

 魔導照明器具の光を一身に浴びて、銀翼の天使は人差し指を掲げる。綺麗に片付きつつある廃棄坑のそこらかしこから、生徒たちの歓声が上がった。
「お掃除おつかれさまー!丸一日お掃除してたから、きっとみんなもくたびれてるよねー!?」
 『疲れたーっ!!』という歓声が元気に飛んでくるのを笑顔で受け止めて、セリエルフィナはより一層声を張り上げる。
「そんなみんなのために、一曲披露させてもらいますっ!ここに居ない誰かの魂も、きっと癒されてくれますようにと祈って───それじゃ、いっくよーっ」
「‥‥‥サービス、しときます。」
 メタがハッキングコードを素早く走らせると同時。プログラムを一部書き換えられた複数の運搬作業用のゴーレムから、力強いイントロが流れ出した。
(ありがとう、メタちゃん‥‥‥!)
 地上の友人へとウィンクを投げて、鋭く息を吸う。イントロに反して、静かな歌い出し。その声に、誰もが息をひそめて宙を眺めていた。
(───彼女達は決して悪じゃなかった。ただ、どうしようもなく悲しかっただけで。)
 ステップを踏む。声は遠くへ、遥か地上へ届けと願う。
(同情するのは失礼───ボクもその意見には賛成だ。)
 激しくなってゆくビートに合わせて宙を舞う。胸に手を当て思い出すのは、散っていった無数の人形たち。
(けれど───ボクにも哀しい過去があったのなら、彼女の様になっていたかもしれない)
 思いを込めて、篭めて、籠めて───解放する。強い思いを歌声に乗せて、きっと届きますようにと、銀翼の天使は高らかに歌い上げる。
(───だからせめてこの歌を、レクイエムとして捧げるよ。おやすみなさい、みんな───)

「‥‥‥きっと、届きますよ。」
 グッドナイス・ブレイヴァーに映るセリエルフィナの雄姿に、メタはそう呟きかける。画面を埋め尽くすコメントの勢いは、最高潮を迎えていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

花宵・稀星
片付けるべき何かを手に取り、まじまじと眺めつつ、心情を吐露するです。

目指すべきものだったから、何だというのでしょうね、私も。
お姉様も、それはそれとして愛されてさえいれば、違う道を辿れたこともあったでしょうか。
ん、大丈夫です、今更ひきずるつもりはないです。
私は私であって、私のために生きているのですから……。
お姉様に事情はあれど、それはあくまでお姉様の事情。
私が全て背負いこむ必用など、ないのはわかってるです。

私達を作った方がどんな方であったか、それは未だ分からないです。
そして、なぜ私が目覚めたとき一人であったかも。
それが明らかになるときは来るのでしょうか。
そして、それは明らかにすべきでしょうか?


ミアス・ティンダロス
アドリブ・連携は大歓迎

「どうなることかと思いましたね……」
と呟いながら掃除を行う。なぜかその振る舞いは慎ましく、まるで何かを弔っているように。
「花宵さん、大丈夫かな……」
杞憂かもしれないが、多分ミアスは今でも人形の少女を心配しているだろう。

【星間の駿馬】を召喚します。それを乗って高いところの掃除を手伝います。



●第三幕 -7-

「流石だなぁ、セリエルフィナさんてば───」
 宙天にて盛大な拍手を送られるセリエルフィナを尻目に、ミアス・ティンダロス(夢を見る仔犬・f00675)もまた、己の友人である『星間の駿馬』の背に乗り地上を眺めていた。高いところの掃除は軒並み終わり、暫しの休憩時間である。思うところが、ないわけではない。何しろ紛れもないこの場所で、自分は彼女と決別を果たしたのだから。
「‥‥‥。」
 対話による共存のハードルの高さを、改めて実感する。あのとき、どんな言葉を選んでいれば、彼女との戦闘を避けることが出来たのだろうか。
「‥‥‥。」
 まるで思いつかない。今の自分では、どうあがいても同じ未来へ続く道しか見えなかった。小さくため息をつく。
「‥‥‥ん?あれは───」
 地上。ほとんど廃棄物が撤去され、人気のなくなった廃棄坑の隅に、見覚えのあるシルエットが立っているのが見えた。
「杞憂かもしれませんが‥‥‥。」
 そう呟いて、ミアスは『星間の駿馬を』駆る。



「‥‥‥稀星さん?」
「はい?」
 ミアスの声に振り返ったのは、あどけなさを残すミレナリィドールの少女、花宵・稀星(置き去り人形・f07013)であった。紛れもなく、今回の事件において中心に居た人物。血の繋がりはなくとも、実の『姉』と戦い、そして打ち勝った記憶喪失の少女。
「ミアスさん、でしたか。お掃除、お疲れ様なのです。」
「う、うん、お疲れ様‥‥‥何を見てるの?」
 ミアスの問いに、稀星が右の掌をそっと広げる。その上には、見覚えのある罅割れた黒瑪瑙が乗っていた。
「これは───」
「はい。お姉さまの使っていた媒介の、その残骸です。先程この辺りを掃除していたら、見つけたのですよ。」
 凄まじい破壊の嵐を撒き散らしていた、ナンバーゼロの元素爆撃。あれだけの呪詛を纏っていた至極の宝石も、今やただの割れ石と化していた。
「───目指すべきものだったから、何だというのでしょうね、私も。」
「え?」
 黒瑪瑙を照明に翳して、人形少女は独り言ちる。
「‥‥‥お姉様も、それはそれとして愛されてさえいれば、違う道を辿れたこともあったでしょうか。」
 紛れもなく自分に向けられていた、強い憎悪の感情を思い出す。あの憎悪が、誰かに愛されているという感情に紐づくモノならば、或いは自分は───愛されていたのだろうか。
「稀星さん‥‥‥?」
 心配そうに声をかける人狼の少年に、しかして人形の少女は小さく頭を振った。「‥‥‥ん、大丈夫です、今更ひきずるつもりはないです。私は私であって、私のために生きているのですから。」
 そう。自分の過去に何があったのかなんて、未だに分からない。同じように、出自を同じくしていたとしても、ナンバーゼロにどのような過去があったのかなんて、自分には知りようもない。
「‥‥‥お姉様に事情はあれど、それはあくまでお姉様の事情。私が全て背負いこむ必用など、ないのはわかってるです。」
「───。」
 ある種、ドライすぎるほどにドライな考え方。あの戦場においては取り乱していたかもしれないが、これが本来の彼女が持ちうる強さなのかもしれない───そう感じて、ミアスは小さく息を呑んだ。
「‥‥‥私達を作った方がどんな方であったか、それは未だ分からないです。そして、なぜ私が目覚めたときに一人であったのかも。」
 黒瑪瑙の罅を人差し指でなぞりながら、少女は解けることのない迷宮に挑むような表情で呟く。
「───それが、明らかになるときは来るのでしょうか。」
 桜色の爪が、罅のささくれをカリカリと引掻く。
「───それは、明らかにすべきでしょうか?」
 少女の赤茶色の瞳が、少年の蒼い瞳と交差する。一瞬、あの日の女帝の瞳を思い出して、ミアスはゴクリと唾を呑み込んだ。
「‥‥‥分からない。分からないよ、稀星さん。僕に言えるのは、ひどくありきたりな言葉だけだ。」
 君がそうしたいと思ったときに、そうするべきだ───そう口にして、ミアスは目を伏せる。なんだかまた、彼女を怒らせてしまうような気がして。
「‥‥‥そう、ですね。」
 しかして返ってきた答えは、激憤ではなく肯定。ミアスの言葉にあっさりと頷いて、稀星はキュッと、掌上の黒瑪瑙を握りしめた。
「‥‥‥結局は、そう。私がどうするのか───それだけなのです。」
「稀星、さん───」
 顔を上げたミアスに、人形少女は小さく笑う。自分が何を大切にしたいかなど、最初から決まっていた。
「───今日を、明日を大切に。失われた過去を背負いながらも、私達には未来があるのですから。」 
 この規範だけは、何があっても変えるまい───。そう新たに決意して、花宵・稀星は踵を返す。

 その足下には一本の新芽が静かに、けれど確かに、顔を覗かせていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月24日
宿敵 『ナンバーゼロ』 を撃破!


挿絵イラスト