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その獣、凶暴につき

#アポカリプスヘル

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#アポカリプスヘル


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「よし、アポカリプスヘルに支援物資を運ぶぞ」
 飯を食いに行こうや、くらいの気軽さで、アレクサンドラ・ルイス(サイボーグの戦場傭兵・f05041)は集めた猟兵たちに言った。マッシブボディが自慢のこのグリモア猟兵にとっては、大量の物資運搬など文字通り朝飯前の運動のようなものなのかもしれない。
 物資搬入だけでなく様々な手配や手続きの煩雑さを想像してうんざりした顔を隠しもしない猟兵たちにアレクサンドラは朗らかに言う。
「大丈夫、今回は持っていくものは粗方用意した。お前らにやってもらうのは現地までの運搬と――」
「オブリビオンの討伐、だろ」
「その通り」
 慢性的に物資が不足したアポカリプスヘルへの支援は継続的に行われている。が、異世界から大量に持ち込まれた物資はオブリビオン・ストームを呼び寄せてしまう。場所そのものはアレクサンドラが人的被害を引き起こさない地点を特定したため、民間人の護衛や避難を行う必要はない。ストームから現れるオブリビオンを倒してしまえばあとは安全に物資の配給を行える。ただし、回避できるのは“人的被害”だけだ。
「もうひとつ、頼みたいことがある」
 アレクサンドラは神妙な顔で付け加えた。
「到着地点は、かつて拠点として使われていた施設だ。……残念ながら、少し前にオブリビオンの襲撃でやられっちまった」
 もっと早く予知できればよかったんだが、と表情を曇らせるも、アレクサンドラはすぐに普段の顔つきに戻る。できなかったことをいつまでも悔いたところで何にもならない、彼はそう考えているのだろう。戦場で長く生きていれば、助けられた命もあれば助けられなかった命もある。感傷に浸るのは尽くすべきベストが目の前にないときだけだ。身体を灼く絶望に何度も晒されながら、彼自身が生き残るために獲得したのはその信条だった。
「ただ、この施設――。何やらキナ臭い実験をやってたようでな。被験体として動物が使われていた。何の実験だか、考えたくもないがね」
 不幸中の幸いというべきか、その動物たちはまだ生きていることが確認できたという。ただし、ケージに囚われているため自力で脱出することができない。このまま放っておけば次の襲撃で命を落とすか、そうでなくとも飢えや病気ですべて死んでしまうだろう。
「こいつらを、助けてやってほしい。オブリビオン・ストーム発生後に襲撃を受けるのは拠点内部だけだから、外へ運び出してしまえば安全だ。それと、もうひとつ」
 ひとつと言ったじゃないか、と誰かが不満げに言うのを「頼むよ」とウインクでいなしてアレクサンドラが続ける。
「助けてやったところであの世界のあの状況だ。自然に返して運を天に任せるのでもいいが、元は飼育下にあった動物なんかもいる。犬とか、猫とか、犬とか犬とか。そういうやつらには新しい飼い主を探してやってほしいんだよ」
 物資配給のついでに、動物たちと民間人のマッチングもやってほしいと、彼はそう言っているのだ。コンパニオンアニマル、という言葉もある。種族を超えた絆が人々の生きる意志を支えることもあるのかもしれない。動物たちだけでなく、その地に暮らす人々の助けにもなるのなら――。猟兵たちは、出発の支度を始めた。


本多志信
 こんにちは、本多志信です。
 本シナリオはほのぼのハートフル路線を目指してゆるっと運営して参ります。凶暴とは。

 第1章では囚われた動物たちの搬出、避難支援を行なっていただきます。どんな動物がいてどんな方法で避難させるかはご自由に考えていただいて構いません。ぜひ、猛獣使いの気分を満喫してください。モッフモッフ! もしかしたら賢い動物さんが紛れているかもしれませんね!
 第2章ではオブリビオンの集団と戦っ――戦……? すみません、真面目な戦闘はありません。既にネタバレ済みかとは思いますが、ここでもふれあいタイム続行です。ご覚悟ください。
 第3章では、人の保護が必要な動物、わんちゃんとかネコチャンとか、鳥さんとかを新しい飼い主さんに出会わせてあげるイベントになります。イエス、合コン(アニマル的な意味で)。これは合コンですと言い張ります。どんな人にどんな動物を紹介するのか考えていただいてもいいですし、お好きな動物とこころゆくまで触れ合っていただいても構いません。お気づきかと思いますがアレックスは犬派です。手伝いたくてうずうずしています。お声をかけていただけましたらお邪魔させていただきます。

 それでは、皆さまのご参加を楽しみにお待ちしております。
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第1章 冒険 『動物たちを救え!』

POW   :    ケージや障害物を破壊する、ケージごと搬出する。

SPD   :    犬笛など、動物の能力や習性を活かして誘導する。

WIZ   :    動物たちに語りかけ、避難の協力を要請する。

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🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

新山・陽
 「お隣さんの出番が来ましたね」
 『小さな野生』についてきてもらい、動物の避難を【団体行動】でしてもらうよう視線と仕草で伝え、後の行動をお任せします。
 野生狼ゆえ群生経験があるウォルさんは、道を逸れようとする動物を【視力】で見つけ近づき、即座に低く唸って【威厳】をもって警告します。結構なスピードで絶え間なく動き、はぐれを見逃さない群のトップ特有の行動をします。

 私は無力な通りすがりの社会人。
 せいぜい仕草を読み違えないよう、常に動きに気を配り、良き隣人として後ろをついていくのみ。
 他の動物が私に近づこうとすれば、ウォルさんは鼻皺を寄せて牽制します。どうぞ、お気になさらず避難なさってください。


善哉・鼓虎
今度の依頼は動物さんの救出かぁ。
うちは嫌いやないでこういう依頼。
助けられるんやったら人間だけやのうて出来れば動物も助けたいやん。
人間の実験で閉じ込められてるんやったら尚更や。

【サバイバル】知識でなんか出来る事があったらお手伝いや。
ケージとか壊せるもんは壊して出したるな。
せやけどできるだけ怖がらせんようにせな…。
あんまり大きい音とか立てんほうがええんやろけど。
猟兵さんには動物と話し出来る人もおるって聞いたけど。こんな時とか便利なんやろな。
便利なだけやのうて普通に動物さんと話しいうんは憧れるわ。

アドリブ歓迎。


龍神家乃・ゴンちゃん
方針:WIZ
連携、アドリブ大歓迎!


🐾はい!ゴンちゃんでし!
お仲間のピンチと聞いて、ゴンちゃん配送が全力でお手伝いするでしよ!!

ワンワンヲ!(説得も試みる)

■行動
柴犬型トラックをUCでゴンちゃんのレベルの数だけ複製して動物さんを荷台に乗せてレッツラゴー!


🐾ゴンちゃん、荒事は苦手でしからケージの破壊とかは他の人に頼んじゃうでし!


■治療
所持アイテムの【ゴンちゃんの七つ道具】を使用して、怪我をしている動物がいれば応急処置をおこなう。

🐾みんなー、はやく逃げるでしよー。怪我してる子は台車で運んであげなきゃでしね!ほら、人間さん手伝ってくだし!



 暗闇の中、私たちはひたすら待っていた。光が差すときを。この檻の扉が開けられる日を。「おかえり」と差し伸べる温かい腕を。――待ち続けていた。



「どーーーーんと行ってみよー!!」
「ワンでしッ!?」
 威勢のいい掛け声と破壊音の後ろで何かがビクゥと飛び上がる。――ともかく、扉は開いた。

 善哉・鼓虎(ハッピータイガー・f24813)は勢いよく蹴破ったドアの影にケージや動物がいなかったかどうかを確認しながら部屋の中へ歩を進める。外の廊下からでも、人間の鼻でもはっきりとわかるほどの獣の臭い。どれほどたくさんの動物たちがこの大部屋に閉じ込められているのか、想像に難くない。
「い、いきなり大きな音を立てるとビックリするでし……!」
 鼓虎の後ろからドキドキした顔でついてくるのは龍神家乃・ゴンちゃん(竜の雲を得る如し・f24586)。こちらは“賢い動物”と呼ばれる種族、ソフトなたわしのような毛並みがチャームポイントの柴犬である。更にその後ろを“一流企業で働くキャリアウーマン”といった容貌の新山・陽(悪と波瀾のお気に入り・f17541)が歩く。ゴンちゃんの隣で辺りの臭いをしきりに気にしているのは陽のバディペット、彼女が「ウォルさん」と呼ぶ小さな銀狼だ。
「堪忍な~。うちも大きい音は立てん方がええやろなー思ててんけど、ドアが開かんかってんもん」
「あまり時間もなさそうですからね、やむを得ないでしょう」
 鼓虎がゴンちゃんの首をわしゃわしゃと撫でて謝る。目を白黒させていたゴンちゃんも陽の言葉にはに同意した。アポカリプスヘルへの物資搬入は既に完了している。オブリビオン・ストームの発生までには猶予がないのだ。多少荒っぽいことをしてでも可及的速やかに動物たちを避難させなければならない。
「ウォン! ウォン!」
「キャンキャン!」
 幸いに――というべきか、ドアを蹴破った音に驚いた動物たちが一斉に騒ぎ出したおかげで、部屋の中を探索する必要はなかった。鼓虎が懐中電灯で室内を照らすと、広い部屋の壁一面にケージが設えてあった。犬、猫はもちろんのこと、鳥やうさぎなどの小動物、ペットショップもこれほどの種類は揃えられないのではないかと思えるほどの生き物が勢揃いしている。
「よーしよしよしよし。みんな、助けにきたでー」
 宥めるような声で鼓虎が動物たちに話しかけるが、騒ぎはなかなか収まりそうにない。このままケージから解放しても、パニック状態になって収拾がつかなくなってしまうかもしれない。さてどうしようかと思案しはじめたそのとき、
「ワンワンヲ!」
 鼓虎の足下で、ゴンちゃんがひと鳴きした。驚いたことに、吠えていた犬たちが少しずつおとなしくなっていく。ウォルもゴンちゃんの声に耳を澄ませてジッとしている。
「ワン、ワン。うぉふ!」
 犬たちに何事かを話すゴンちゃんは、きっとこんなことを言っているに違いない。「お仲間のピンチと聞いて、助けにきたでし! みんな、人間さんの言うことを聞いておりこうさんにするでし!」
「すご……」
「さすが、餅は餅屋というべきでしょうか」
 瞬く間に犬たちをおとなしくさせたゴンちゃんに、陽と鼓虎はしきりに感心してみせた。特に鼓虎は犬たちと意思の疎通ができることを羨ましがって、ケージを抉じ開ける作業中も目をきらきらさせてゴンちゃんを見ている。救助作業は、興奮状態が治まった犬たちから行われた。
「さぁ、ウォルさん。出番ですよ」
 その後ろで陽が小さな銀狼の背を撫でる。ウォルは小さな身体ながら堂々とした佇まいで、ゆっくり歩き出した。ケージから解放された大小さまざまな犬たちの前をぐるりと通過し、そのまま部屋を出て行く。すると、犬たちはウォルに従うようにして移動を開始した。
「はわわ。ウォルさんもすごいわ」
 “ウォルさん”、と、陽に倣って鼓虎もそう呼ぶ。「リーダーっぽい貫禄やない?」
「野生にいた頃は実際に群れのリーダーだったみたいですよ。その迫力が犬たちにも伝わったのでしょうか」
「ウォルさん、かっこいいでし!」
 尻尾をブンブンと振ってゴンちゃんが尊敬のまなざしでウォルを見送る。そして、「あっ」と声を上げた。
「どうしたんですか?」
「みんなを運ぶのに、トラックを用意するでし!」
「ト、トラックぅ!?」
「なるほど。動物たちを一度に運べて便利ですね」
 ドヤァ……と効果音が鳴りそうな勢いで胸を逸らせるゴンちゃんを二人はもみくちゃにわしゃわしゃして褒める。この毛の硬さがたまらん。柴犬かわいいですね。
「外に出たところで準備してるでし! みんなは動物さんたちの誘導、よろしくでしー!!」
 ちゃっちゃっちゃっと小柄な犬特有の愛らしい足音を残して、勇敢な柴犬は部屋を後にする。陽もウォルの仕事ぶりを見守るために立ち上がった。
「さーって。うちもお仕事、気張っていこか!」
 腕まくりをして鼓虎も気合を入れる。外に出られることを察して甘えた声を出す犬たちを、次々と解放していった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

逢坂・宵
ザッフィーロ君(f06826)と

ええ、もちろんですとも
動物たちは人間の友、必ずや助けて見せましょう

ザッフィーロ君の後に続きつつ動物たちを見つけたならば
「動物と話す」を使い敵意がないこと、救出に来たことを伝えましょう
怪我の深い固体、応えてくれた個体から率先して「医術」にて応急手当てをしつつ
【天宙アストロメトリー】で回復を行っていきましょう

かれの腕に抱かれた猫への動作がとても慈愛に満ちていて
その手に少しだけ妬いて唇が尖ってしまうかもしれません
猫でもなんでも、僕は妬くんですよと返しつつ
撫でてくる手には頭を押し付けて
僕はきみが手なずけた猫ですから、ちゃんと面倒見てくださいねと呟いて
ね、僕の飼い主さん


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と

何の実験かは解らんが辛い目にあっていた上に残されるとは…宵、必ず助けるぞ

『聞き耳』を使い動物たちのいる部屋を目指す
到着後は弱っている檻から持参した水や餌を入れ【生まれながらの光】にて回復しつつ救助をして行こう
猫の檻の前ではついぞ痛ましそうに瞳を細めてしまいつつ暴れ噛まれても離さず抱き上げキャリーへ入れて行く
もう大丈夫だと、抱き上げた猫を宥める様撫でつつ―も
宵の視線に気づけば慌てて宵の元へ
…お前…猫だぞ…?…まあ、宵が一番愛らしいが…とそう声を投げつつ軽く髪を撫で梳かんと手を伸ばそうか
本当にお前は…仕方のない奴だな
まあ、その様な所も愛らしいと思う辺り俺も重症かもしれんのだが、な





 ケージから解放され一斉に移動を始めた犬たちを見送って、ザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)と逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)は部屋の更に奥へ進んだ。
「何の実験かはわからんが、つらい目に遭っていた上に残されるとは」
 ザッフィーロの銀の瞳が、衰弱し怯えた様子の動物たちを映して憂いを帯びた。後に続く宵も沈痛な面持ちで、しかし悲しみに打ちのめされることなく顔を上げて決意を口にする。
「ええ、必ずすべて助けましょう。動物たちは人間の友、巡り廻る森羅万象の欠かせぬ一部なのですから」
 どれほどの期間ここに閉じ込められていたのかは不明だが、手遅れにならずに済んだのは僥倖といえた。ただし、餌はもちろん、水を入れてあったはずの容器も既に空、明確に病気や怪我をしていなくともほとんどの個体が一刻を争う状態のはずだった。特に身体の小さな生き物は深刻だ。二人はただちに応急処置の準備を始めた。
「ニャアオ、アアーオ」
 ケージの中で猫が威嚇する。毛を逆立て、背中を大きく丸めて必死に自分を大きく見せようとしている。ザッフィーロが持参した食料と水を分け与えようとケージに手を伸ばすと、猫の鳴き声は更にワントーン上がった。
「これ、おとなしくせぬか。俺たちは助けにきたのだぞ」
 必死の形相で鳴き続ける猫を宥めようとザッフィーロが話しかけるが、却ってパニックを煽ってしまうようだった。その横から宵が静かに、穏やかな声で猫に語りかける。
「大丈夫ですよ、僕たちは味方です」
 柔らかい声音でわずかに緊張を解いたのもあるだろう。宵がケージを開いて手を差し入れると、猫はその指先に鼻を近づけて匂いを嗅ぐ仕草を見せた。
「――そう。いい子ですね」
 態度を和らげた猫の脇を支えケージから引っぱり出すと、宵はザッフィーロへ「お願いします」と猫を渡した。
「見事だな、宵……!」
 鮮やかな手並みに、ザッフィーロは猫を腕に抱いたまま目を輝かせて宵を見る。まるで魔法を見た子供のような表情に、思わず宵は小さく噴き出した。
「猫は、男性の低い声が苦手な子もいるそうですよ」
「む、それはつまり……」
「ザッフィーロ君の声が男らしくて格好いい、ということです」
 不服そうなザッフィーロを言葉巧みに丸め込んで、宵は杖を構えた。
「さあ、応急処置をいたしましょう。まだまだたくさん救うべき命がありますから」

 体力を削る治癒術を交代で施し、また効果を避難に耐え得る最低限の回復に絞ることで、二人は効率よく猫たちを癒していった。警戒を露わにする猫には、宵が都度声をかけおとなしくさせてやる。与えた餌に口をつけない猫も多かったが、ストレスの強い環境では仕方がないだろう。水を飲んでくれさえすれば、なんとかなる。
「よし、よし。よくがんばったな。これでもう安心だ」
 抱いた猫を撫でながら、ザッフィーロが微笑む。その声がずっと囁き声になっているのは、柔らかい声音を作り出そうと努力した挙句の苦肉の策である。宵の語りかけが功を奏したか、ザッフィーロの献身が心を伝えたか、猫たちは唸るのをやめ、二人の腕に身体を預けている。顎や頬の下をこしょこしょと撫でると、小さく喉を鳴らす猫もいた。もっと撫でて、と言いたげに目を閉じて首を伸ばし、撫でるほどに髭が前へ倒れる。そのなんとも愛らしい仕草にすっかり目尻の下がったザッフィーロだったが、その横ではひそかに宵が口を尖らせて一部始終を凝視していた。
「……ここにも、“猫”はいますからね?」
 つい、と言い捨てるようにして、猫たちをキャリーに詰めて宵は救出作業を再開した。
「ちょ、お前……」
 こんなところでまさかの不意打ち。まさかのやきもち。ザッフィーロは最愛の人の背中に手を伸ばす。しかしそんなものには興味がない、と言いたげに宵はキャリーをさっさと運び出して行く。オブリビオン・ストームの発生が刻一刻と迫っているのも忘れて、ザッフィーロはその場に立ち尽くした。
「……猫、だぞ……?」
 確かに自分はねこだいすきだが。この柔らかくしなやかな身体、愛らしい顔、プニプニしっとりの肉球、気まぐれな性格。どれをとっても至高の生き物。まさに宇宙の宝――いや、それはさすがに言いすぎか。ザッフィーロにとっての宝は、ひとつしかないのだから。
 そんなことを数秒考えている間に、宵が次のキャリーを運びに戻ってきた。つかつかと尖った足音を立ててザッフィーロの脇を通り過ぎる――その瞬間に、伸ばされたままのザッフィーロの掌に額を押し付けた。
「にゃあん」
 そしてまた遠ざかってゆく。猫のように。外套の飾り緒を揺らして。
 ちゃんと面倒みてくださいね。僕はきみが手なずけた猫ですから。
「……敵わぬ」
 これはもう重症というほかない。ザッフィーロは苦笑いをこぼして、抱いた猫をキャリーに入れた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

無明・緤
畜生の誼だ
助けに行ってやるよ

施設内をくまなく歩きながら
ナァァ――――オゥ、と長く鳴いて呼びかけ
囚われの動物を探す

聞こえたか。聞こえたよな?
お前たちの味方が助けにきたぜ
助かりたいなら声をあげろ!
と【鼓舞】もこめて何度も鳴く

返ってきた鳴き声で居場所を特定し
UC【猫をこころに、ニャンと唱えよ】で
動物が囚われているケージの中へ転移だ

対象が小さければ優しめに咥え
大きければおれがしっかり組み付いた状態で【運搬】
拠点外で待機させている人形の所へ再度UCを使って帰還する
これを繰り返して、できるだけ多くの動物を救助しよう

おれよりでかい犬とかさ…いるよな…
犬公あんまり好きじゃないんだよな…
齧るなよ?絶対齧るなよ?





 ナァァ――――オゥ……。
 細く長い呼び声が廊下に響く。
 無明・緤(猫は猫でしかないのだから・f15942)は仲間の猟兵たちが救助活動に勤しむ現場を離れ、研究施設の階段を上がった。動物たちの多くが囚われている部屋は仲間たちが特定した。だが、もしも他の場所に隔離されている動物がいたら? 緤の第六感が胸をざわつかせた。悠長に探す時間はない。祈るように、縋るように、何度も鳴いて呼びかける。そこにいるんだろう? 返事をしてくれ――、と。
「……ォン」
 人の耳には聞こえないほどの小さな声を捉え、緤の耳がぴくりと動いた。
(聴こえた……!!)
「ナァーーーオ」
 もう一度呼びかける。俺は味方だ、お前を助けにきたんだ。
 緤は全神経を集中させて、かすかな声を文字通り“辿った”。



 きっと、もう家には帰れないのだろう。
 私たちは知っていた。“おうち”という大きな箱が壊れてしまったことも。優しいおとうさんがいなくなってしまったことも。「元気でね」と言いながら顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくるあの子のことも。どうしてなのかはわからないけれど。もう元に戻ることはできないのだということだけは、知っていた――。



 テレポートのユーベルコードを使って緤が辿り着いた先は、大きなケージの中だった。1階と同じように電気系統は壊滅していて、部屋の中は真っ暗闇だ。しゅん、と闇に反応して緤の瞳孔が細くなる。檻の隙間から様子を伺う限りでは、この部屋はさほど広くはないようだった。似たようなケージがいくつか置かれているのも確認できた。
「さて、と。俺に応えてくれたのはお前だ――ニ゛ャッ!?」
 悠々と振り向こうとした緤の尾が一瞬でエビフライのように膨れ上がった。額と平らになるくらい耳を後ろに伏せて見上げる緤の頭上には、大きな犬の顔がぼうっと浮かび上がっていた。狼に似た顔つき。氷のように冷たい色の瞳。目を縁取る黒い模様が表情をさらに険しく見せる。
(シベリアンハスキー……!)
 大丈夫、ハスキーはその顔に似合わず友好的な性格のはず。――ではあるが、それは人間との関係においての話である。そして数日は水も食事も与えられていないだろう極限状態。緤は猫ではない。猫ではないが、猫である。何を言っているかわからないだろうと思うが、猫なのだ。さまざまな世界の住人たちと同じように「こいつは人間なんだな」と、このいかめしい顔の大型犬が思ってくれればいいのだが。
「わたしをよんだのは、あなたか。ねこのかたちをしたひと」
 低い、そして柔らかい声が、浅い呼吸を伴って聞こえた。わずかにたどたどしい発音。その声が目の前のハスキーから発せられていることを理解するのに、緤は数秒ほどかかった。
「! あんた――、」
「そうだ。わたしがこたえた。そしてここにいるみんなも」
 首をもたげ、周囲を見渡すように促すハスキーに従って、緤が部屋全体へと目を凝らす。そこには、一度はどこかで見たことのある大型犬たちの姿があった。
「セントバーナード、ラブラドールレトリーバー、ジャーマンシェパード……」
「あなたはよくしっているな、ねこのかたちをしたひと」
「あっちのロットワイラーの檻の中じゃなくてよかったと胸を撫で下ろしてるくらいにはな」
 一頭一頭確認しながら犬種名を呟く緤を、ハスキーは興味深そうに見つめた。少なくとも獲物だと思われずに済んだらしい。少しずついつもの調子を取り戻した緤が軽口を叩く。
「失礼なことを言ってくれるね」
「ニ゛ャッ!!」
 顎で指示したまさにその方向から野太い声が返ってきて、緤の尻尾が再びエビフライになる。
「俺たちだって食べていいものと悪いものの区別くらいできるぞ」
「おまえ、みため、こわい。ねこ、おどろく。あたりまえ」
 がっしりとした顎の持ち主、黒いロットワイラーが不満げに鼻を鳴らす横の檻で、セントバーナードが片言でからかう。それを見てハスキーがわふ、と息を漏らした。どうやら笑っているようだ。
「……な、なあ。もしかして、あんたがた――」
 “賢い動物”。アポカリプスヘルの世界へと道が拓かれ、猟兵の力を携えてグリモアベースにやってきた動物たちがいることは知っていた。この部屋に囚われているのも、まさに同じ動物たちなのだった。
(もしかして――)
 緤は素早く思考を巡らせる。彼らはその知性故に他の動物たちとは別の実験に参加させられていたのではないだろうか。だから、この部屋に隔離されていたのではないだろうか――。
「にんげん、おれたち、たすけた」
「……えっ」
「ひとりでいきるちから、くれた」
「世界がこんな状態になっちまったからな。俺たちみたいな飼い犬や飼い猫は生き残る力を持っていなかったのさ」
「おとうさんたちはいなくなってしまった。おうちにとじこめられるもの、えものをつかまえられないもの、たくさんのなかまがしんだ」
 世界中がオブリビオン・ストームに襲われ、居場所を失ったのは人間だけではなかった。人間と共に生きていた犬や猫、小動物たちも、同時に居場所と家族を失ったのだった。生き残った人々が拠点に身を寄せる中、連れては行けないからと置き去りにされる動物たちも少なくはなかった。人の身勝手さばかりとは限らない。愛する家族の安全を考えに考えた末、手放した者もいただろう。しかし、外の暮らしを知らない動物たちに、荒廃した世界はあまりにも厳しかった。
「……実験施設じゃない……、保護施設だったんだ」
 保護された動物たちの中に彼らのような突然変異を起こした個体を発見した誰かが、言葉を教え、技術を教え、外の世界でも生きていけるように育てようとしたに違いない。
「しかし、ここもみんないなくなってしまった」
「わるいもの、きた」
「さすがに年貢の納め時かと覚悟をしていたところへ、あんたが現れたというわけさ」
 ロットワイラーがにやりと笑ったのが、緤にもわかった。愛嬌のある笑顔だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『かしこくないどうぶつたち』

POW   :    わーいたーのしー
【かしこくなくなるおーら】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    むずかしいことはよくわからないよ
【すごくかしこくないどうぶつ】に覚醒して【かしこそうなこうげきがきかないどうぶつ】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    みんなでいっしょにあそぼうよ
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【かしこくないどうぶつたち】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。




 明かりのない暗い廊下を、たくさんの小さな足音が駆け抜ける。それを追うように先を急ぐ人工の仄かな明かりと靴の音。
 賢い動物たちに導かれて、猟兵たちは脱出口を目指していた。――と、先頭を走っていた犬が足を止める。
「どうした?」
 猟兵の一人が先頭の様子を伺うと、犬たちは闇の奥を覗くように首を伸ばし、耳と鼻をしきりに動かしている。足元の猫も、ガラス玉のような瞳を更にまるく大きくして、三角の耳とヒゲを前方へと向けた。
「――きた」
 動物の誰かが囁く。彼らの視線、耳の向く先からは、ハ、ハ、ハ、と浅い呼吸が聞こえてくる。しきりに床を弾く爪の音もする。間違いない、これは犬の気配だ。別のフロアから合流してきた動物たちがいるのだろうか。――いや、まさか。
「わたしたちの、“ともだち”。おうちにかえれなかった、ともだち」
 なめらかでない言葉の端に哀しみと懐かしさを含ませて、猟兵の傍に立つ犬が言った。それを合図にするかのようにして犬たちがヒューン、クン、クン、と鳴き声を上げる。その様子を見れば、闇の向こうにいる者の正体は明らかだ。保護される前に死んでしまった者、この施設で力尽きてしまった者、そういった動物たちがオブリビオン・ストームに――。
 彼らに罪はなくとも、倒さなければならない。今を必死に生きる人々の、そして動物たちのためにも。
 猟兵達は悲痛な覚悟を決めて懐中電灯の先を闇へ向ける。そこには――。
「わん!」
 軽快な横ステップを踏みながら引きちぎれんばかりの勢いで尻尾を振り続け、目で「あそぶ? あそぶ?」と訴えかける犬がいた。
「……うそでしょ?」
 さあ、どうする猟兵。猟兵どうする。この非情な状況をどうやって乗り切るか、知恵を絞り出すのだ。
 ちなみに猫は「なでてもいいのよ?」って顔で床にゴローンびたーんゴローンってしています。

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●レッツふれあいタイム

 戦闘だと思ったか? 残念だったな! という第2章です。よろしくお願いします。

 基本的にモフモフで遊んでください、という章です。
 オブリビオン達はたくさん遊んでもらえたら満足して還るべきところへ還ります(婉曲な言い回し)ので、戦闘プレイングはぎゅっと圧縮して大丈夫です。
 もちろんいつも通りに全力でバトルしても全然オッケーです。
 キャラクターさんのスタイルに合った遊び方でどうぞ!

 オブリビオンの動物さんと遊んでもいいですし、保護されていた賢い動物さんとコンビネーションをキメる、とかも素敵かと思います。
 第1章で登場した賢い動物さんへのお声掛けもOK、お好みの動物さんを種類や性格など指定していただいてもOK、とにかく「動物とめっちゃ仲良くアクティビティする」シチュエーションをお楽しみください。
 導入部では犬と猫が登場していますが、それ以外の動物もご遠慮なくご指名ください。
 この動物のこういうところがツボ、という全力プレゼンもお待ちしております。

 ※一般の動物たちは既に避難が完了しており、触れ合えるのはオブリビオン動物さんか賢い動物さんのどちらかになります。

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燈夜・偽葉(サポート)
★これはお任せプレイングです★
『ぶった斬ってあげます!』
妖狐の剣豪 × スカイダンサー
年齢 13歳 女
外見 黄昏色の瞳 白い髪
特徴 長髪 とんでもない甘党 柔和な表情 いつも笑顔 胸が大きい
口調 元気な少女妖狐(私、あなた、~さん、です、ます、でしょう、でしょうか?)

性格:
天真爛漫年下系ムードメーカー(あざとい)

武器:
刀9本
黄昏の太刀(サムライブレイド)を手に持ち
場合によっては念動力で残り8本を同時に操る

ユーベルコードはどれでもいい感じで使います

敵の動きは見切りや第六感を生かして回避
避けられなければ武器受けで対処します

多彩な技能を持っていて、問題に対していい感じで組み合わせて対処します


大豪傑・麗刃(サポート)
基本的右手サムライブレイド(固定)+左手フライングシャドウor脇差(にしては大きすぎるバスタードソード)の二刀流。なんらかの原因でそれらを持っていなければ任意で。【スーパー変態人】使用時は両手に武器2本ずつの四刀流。
大軍を前にいろいろ考えるが結論は「全員やっつければ(斬れば)いいのだ!」

ユーベルコードは基本MS様にお任せしたいが、決まらなければ下記参照

ネタ可なら
可能な限り【ネタキャラとしての矜持】
精神攻撃より直接ダメージが望ましければ【鬼殺し】【変態的衝動】
変化球なら【ギャグ世界の住人】【自爆スイッチ】

ネタ不可なら【剣刃一閃】
それが集団戦に適さないと思えば【スーパー変態人】


マルガレータ・フォルシアン(サポート)
 バイオモンスターのミュータントヒーロー×ダークヒーロー、31歳の女です。
 普段の口調は「聖なるかな(わたくし、~様、ございます、ございましょう、ございますか?)」、覚醒時は「邪悪なり(オレ、呼び捨て、か、だろ、かよ、~か?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!






「むむッ! なんなのだ、この悲壮感に満ちたシリアスな空気は!?」
 芝居がかった台詞回しと大袈裟な身振りで、大豪傑・麗刃(変態武人・f01156)が一歩、二歩と後退った。ヨロ、とふらつく足取りも胸を押さえて苦し気に眉を寄せる表情も、何もかもがわざとらしい。
 いやいやそんな雰囲気ちゃうやろ的な顔で麗刃を止めるべきかどうか困惑しているのは燈夜・偽葉(黄昏は偽らない・f01006)。白く豊かな髪の上に生えた、これまた白く豊かな毛並みの狐の耳が所在なさげに傾いている。何しろ猟兵たちの前には「我々!いつでも遊べます!ボールですか?あっそれともフリスビーですか!?」と全身で訴えながら反復横跳びをやめないモフモフの塊がたむろしているのだ。ちょっと控えめな性格っぽい犬が小首をかしげて偽葉を見つめるその背景には、きっと丁寧な手書き文字で「ひそうかん、とは?」と書かれているに違いなかった。
「戦わずに済むのでしたら、その方がお互いに良さそうでございますが」
 豊かな身体を聖職服の下に隠しきれないマルガレータ・フォルシアン(フォルス・ザ・モンスター・f16583)が思案気に手を頬に遣ると、ただでさえはちきれそうなバストが更に強調される。なんとなく負けたくない気持ちをくすぐられた偽葉が、ぐいと胸を張って隣に並んだ。
「でも、これだけの数を相手に遊んであげるのも骨が折れそうですよ?」
「ちょっときみたち!」
 冷静に状況を分析しようとする偽葉とマルガレータに麗刃が目を吊り上げて抗議した。
「え?」
「何でございましょう?」
「『何でございましょう?』ではないのだ! せっかく麗ちゃんが全身全霊を籠めて存在意義とプライドを賭けたユーベルコードで敵の出鼻を挫こうとしているのだ! なぜそこで『いや、そういう流れちゃうやろ』とツッコミを入れないのだ!? ツッコミがなくてはボケが成立しないのだ! ボケが成立しなければギャグにならないのだ! すなわち、ユーベルコードが完成しないのだ!!」
 しなしなとマルガレータの物真似(多分)をしてみせたかと思えば血管が破裂しそうなテンションで理不尽な逆ギレ芸を披露し、えっそんな話ファーストイヤーですわーと真顔になってしまいそうな作戦(?)を必死に説明しながらも右手は華麗な裏手ツッコミをキメる麗刃。その勢いに二人は思わず反応してしまった。
「なんでやねん!」
 ビシッ。というツッコミの音が本当に聞こえた気がしたが、おそらく気のせいだろう。
「――来た、きたきたきたきたァー!!」
 ありがとうございまぁぁぁす!という雄叫びを上げる麗刃は上気させた顔で得意げにオブリビオンたちを見た。彼の矜持を賭けたギャグ――いや、ユーベルコードによって場の重苦しい雰囲気は見事に払拭され、あとは各々心の求めるままに後腐れなくキャッキャモフモフを堪能できるはず、という、実はフォロー気質な麗刃の心遣いであ――、……ったのだが、
「わふ?」
 オブリビオンたちは最初とまったく変わらず、無邪気に尻尾を振り続けて(あるいは床に身体を擦りつけて)いる。
「……あれっ?」
 賢明な猟兵の皆さまにはおわかりいただけたかと思う。そうなのだ。最初から打ち砕いておくべき重苦しい空気など、存在しなかったのだ。故に麗刃のユーベルコードは見事に空振りしt
「ナンデ!? ナンデ!?」
「だから、最初からそういう流れじゃなかったでしょ!」
 偽葉の空気を読んだツッコミでまさかの二回攻撃が発動したけど、もちろん効果はありません。
 効果はなかったものの、ユーベルコードによる働きかけはオブリビオンたちにしっかりと伝わった。先程から遊んでほしそうにチャッチャチャッチャと反復横跳びに勤しんでいた大きな犬が、麗刃の正面から顔を見上げて「ワン!」と鳴いた。どう見ても「あそんでくれるんだね!わかった!」という顔である。

 「わーいたーのしー!」とハッピーな表情でボールを追いかけて遠ざかっていく麗刃はそっとしておくことにして、偽葉はさてどうしようかと思案する。決して「ボール投げるの、逆じゃない?」などとはツッコまない。ふと視線を落とした瞬間、偽葉は足元の巨大なうさぎにぎょっとした。
「きつねさん、きつねさん」
 小型犬か何かだろうと思っていたそれは、フレミッシュ・ジャイアントと呼ばれる大型のうさぎである。もっちりとした身体のラインに温かみのあるグレーの毛皮は、抱き上げたらさぞかし幸せな気分になれるだろうと思わせる。人の言葉を話しているということは、このうさぎは保護された動物のうちの一頭だろう。つぶらな瞳を偽葉に向けて、うさぎは語りかけた。
「きつねさん、たたかう? ともだち、やっつける?」
 ぽてっとした鼻をヒクヒクさせて、うさぎが尋ねる。しゃがみ込んで目線を合わせた偽葉は、しばし言葉に詰まった。
「う、ん――。そうしないと、ここから出られないなら……」
「ぼく、てつだう」
「えっ……」
「ともだち、すき。でも、もうさよならした」
「――そうとも」
 後ろの暗がりから、大きな獣が悠然と歩み寄ってくる。マルガレータの手に額を擦りつけ、長い尾を絡めながら金色の瞳で二人を射竦めるのは、全身に花のような紋様を纏うジャガーだった。
「別れは既に済ませたのだ。生ける者の命を繋ぐことこそが世の定めというもの。我らが“あちら側”にいたとて、それを恨もうとは思わぬ」
 ほんの少し寂しさを感じるだけだと呟く低い声は、まるで長い時間を生きた賢者のようだった。
「わたくしたちなどよりも、ずっと深いお知恵をお持ちなのでございますね」
 どさりと身体を横たえるジャガーに敬意を示すようにマルガレータが膝を折る。なに、一人で考える時間がたっぷりあっただけだ――、とジャガーは応え、尻尾で軽く床を叩いた。
「では、征くかね?」
「いこう、いこう!」
 前脚の指を丹念に舐めて戦いに備えるジャガーの脇で、うさぎがたしたしと床を蹴る。その長い脚から繰り出される蹴撃はさぞかし頼もしいことだろう。
「はい!」
「ええ、参りましょう」
 剣の乙女と偽りの聖女は、各々の武器を携え立ち上がった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)と

動物たちのオブリビオンとは
思うところはありますが、害をなすなら導きを与えるのみです

ええ、ザッフィーロ
彼らに星の導きを

戦闘開始早々に動いたかれが、放ったはずの攻撃を止めてしまえばどうしたのかと
毒霧が届かなかった敵が襲ってくるならばかれと自らを「オーラ防御」で守り
「カウンター」にて「衝撃波」で「吹き飛ば」そうとこころみます

ふるふると頭を振る彼をなんだか可愛らしく思いつつ
僕は大丈夫ですから正気に戻ってくださいと声をかけましょう
難しいことは考えず
もう、みなさんまとめて攻撃してしまいましょう
「全力魔法」「範囲攻撃」「属性攻撃」を込めた
【天響アストロノミカル】で攻撃しましょう


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と

…動物たちのオブリビオンか
もしや助けられんかった者達なのかと思うと心が痛いが…楽にしてやるのも救いだろうからな
宵、行くか

戦闘の同時に【罪告げの黒霧】を唇から漏らし麻痺毒にて動きを鈍らせんと試みるーが
よく分からぬおーらをうければ混乱と共に毒霧を止めてしまう

しょう、あたまがぼーっとするのだが…
というか、なんだ。しこうがまとまらん…

頭を振り正気に戻らんと試みながらも、宵は大丈夫かと視線を向けよう
思考が纏まっておらぬ様なら、守刀を握りつつ共に『破魔』の力で正気に戻らんと試みよう
思考力を奪うとは…本当にやっかいなあいて…
くっ!又か…。大丈夫だ。
宵、俺は大丈夫故に共に倒しに行くぞ…っ





「救いの手が間に合わなんだ者たちか……」
 苦い表情を浮かべるザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)の隣で、逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)は「そうかもしれませんね」と頷く。正確には、猟兵たちがこの施設を訪れる以前に命を落とした動物たちの残渣だ。だからザッフィーロや宵、そして他の猟兵たちには何の落ち度もない。それでもザッフィーロは「さぞかし無念であったろう」と祈りの言葉を口の中で唱えた。
「いま少し、早く駆け付けることができたなら、とは思いますけれど」
 宵は愛用の杖を握る手に力を入れ、静かに、そしてはっきりと意志を籠めた声で言った。「彼らが生ける者たちに害を為す存在なら、僕らの力で導きを与えるしかありません」
 二人ともよく似た雰囲気の長身の美丈夫であるが、たおやかな立ち姿の宵と、やや武張った印象のあるザッフィーロ――見比べてみれば『対』という言葉が自然と浮かぶような組み合わせだ。そして、その優しさゆえに表情を曇らせるのはたいていザッフィーロで、その行く先を毅然と照らし背を押すのはたいてい宵なのだ。

 ――行くか。ええ。
 短い言葉を交わして二人が動く。
「罪なき者には効かぬと聞くが――……」
 長い年月を経てその身に染み込んだ毒を吐き出そうとザッフィーロが息を深く吸った、その時。
「なぁーん」
 寝そべっていた白い猫が床に背を擦りつけるようにして身を捩らせた。
 びたん。
「にゃん」
 びたん。
 甘い声でひと鳴きする度にのたうち、ピンク色の肉球を惜しげもなく見せつける。金色の瞳はザッフィーロを上目がちに捉えたまま離さない。
「つ、罪なきもの……っ」
 “動物の純粋さ”を盲信するほどザッフィーロも浅はかではない。彼らとて日々を生きるために他を欺き、傷つける。『汚れきった人間と慈愛に満ちた動物』などという対比は誰かが見たい夢でしかない。――が。
(この白さ。この瞳。……この、桃色のにくきゅう……っ。これが穢れを持つ者のはずが……)
(頑張ってください、ザッフィーロ君! これはオブリビオンの術です!)
 宵は天に祈る心持ちで、ぷるぷると手を震わせるザッフィーロを横目で見守った。
「つみ、罪――」
(そう、そうです!)
 負けるなザッフィーロ! ファイトだザッフィーロ! 宵の心の中ではチアリーダーたちがわっしょいわっしょいと彼のパートナーに声援を送っている。だがしかし、次の瞬間に宵の瞳が捕らえたものは――、
「な……っ」
 焦点の定まらない目でザッフィーロが懐から取り出したのは、猫業界の合法ドラッグとも呼ばれる例のペースト状おやつのチューブだった。よく見れば彼の目は焦点が定まっていないのではない、ただただ床の上で蠱惑的にのたうっているネコチャンに注がれているだけなのであった。
「罪の味、……試してみるか?」
「そういう詠唱じゃなかったでしょう!?」
 この泥棒猫!――というフレーズが宵の頭を過ったかどうかは誰にもわからない。
「というか、いつの間にそんなアイテムを持ち込んでいたんですか」
「避難のときに必要かと思って」
「なぁーーーーーん」
「めちゃめちゃ用意いいですね! ああっ、この猫察しがいい!」
「そうかそうか、おまえにもこれの美味さがわかるか」
「にゃぁん」
「そう急くな。いま開けてやろう」
「目を覚ましてください、彼らは弾切れを察するのも早いんですよ!」

 ――その後、混乱に陥った宵が数百の隕石で拠点ごと無に帰そうとする一場面もあったが、ザッフィーロの『献身的な説得』によって事なきを得たという。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リリ・リーボウィッツ
主に猫たちと遊んであげます。

喋る動物さんたちと同様、この動物さんたちもお利口そうですね。(皮肉ではなく、本気でそう思っている。同レベルの知能なので)
とはいえ、いかにお利口であろうと、動くものを追いかける本能には逆らえないはず。念動力でナイフを飛ばしまくりましょう。しゅばばーん!

うーん。ナイフを必死に追いかける姿が可愛い!
足を滑らせて転んじゃうところも可愛い!
「は? 転んでませんけど?」と澄まし顔で毛繕いを始めてごまかす様も可愛い!
目の前をナイフが通過したら、慌ててまた追いかけちゃうのも可愛い!
ナイフを見失って、きょろきょろするのもかわ……って、あれ? 私も見失ってしまいました。(きょろきょろ)


無明・緤
各ケージ内に電脳魔術で「扉」を創り、UC【星への扉】を開く
扉の先は物資配給先の有人拠点に設定
賢い動物たちに説明し先に行ってくれと伝える
折角生きる力をもらったんだろ? 人を支えるために、行くんだ
(行くか残るか個々の判断に任せる)

犬と遊ぶ飼い主みたいに
手近な物を遠くへ放ってオブリビオンを【釣り】
注意を扉から逸らし避難の【時間稼ぎ】だ

かしこくないどうぶつたち…おれを食うつもりだな?
残酷ドキュメンタリー映画みたいに!
猫らしく【逃げ足】で躱し【カウンター】で戯れる
撃破には拘らない
こいつら倒しても起き上がるんだ
そんなに遊びたかったのか

避難を終えたら
最後に自分が通過して扉を閉じる
連れていけないんだ、ごめんな


サンディ・ノックス
そういうことなら遊んであげよう
一般人とは体力も桁違いだろうからね、彼らの気が済むまでいくらでも
必要なら小刀で突いたりUCも発動するけれど、無くて済むならそれが一番だな

俺が遊び慣れているのは犬
…あれは狼、いや人狼な気もするけれど好みが犬と変わらないと思う
(ちなみにUCで出てくる獣はその人狼がモデル)

ボールとかフリスビーとか、投げられそうなものを辺りから探して投げる
ここが保護施設ならあるだろうし、賢い動物さんにありかを聞けば早いかも

戻ってきて「褒めて!」ってなるだろうから撫でる
撫でるというか、もふる
思いっきり、ひたすら
そしてまた投げる、彼らの気が済むまで





「おおっと。こいつは油断大敵ってやつだな」
 流れ弾のように飛来する少数の隕石を身軽に躱して無明・緤(猫は猫でしかないのだから・f15942)は思考を巡らせる。
 ありていに言って、オブリビオンたちに敵意がないのは明らかだ。それに、悪意のある輩はひと目見ればわかる。だって緤は猫だから。猫はそういうのに敏感なんだぜ、――なんて、心中で得意げにヒゲをピンと立てる。だが、害意がないからといって危険でないとはまったく断言できない。彼らがただただ遊びたいだけであっても、軽く噛みついただけで普通の(猟兵ではない)動物たちはひとたまりもないし、猟兵が応戦しようとすればそれも危険を及ぼす可能性があるのだ。
「逃げるが勝ち、ってね」
 魔術プログラムを手早く組み上げて避難用のショートカットを創り出し、動物たちに説明する。ここは危ない、安全な場所へ繋がる道を創ったから先に逃げてくれと。そして、行くか残るかの判断は任せると付け加えると、黒いロットワイラーがニヤリと笑って言った。
「ここまできて、そんな野暮は言いっこナシだぜ」



 黒いケットシーが手近にあった物を適当な方向に投げると、遊んでもらえるのを今か今かと待っていた犬たちの一群が駆けだした。賢い動物たちの何頭かも釣られて走っていったが、長時間ケージの中に閉じ込められていた反動だろう。仕方ない。かしこさとは。
「ふむ」
 思案顔で辺りを見回すのは、サンディ・ノックス(調和する白と黒・f03274)。幼い顔立ちにどこか大人びた雰囲気の少年だ。懐中電灯で照らされた範囲はごくわずか。避難の途中だったこともあって、周りに散らばっているのは瓦礫や壊れた何かの部品ばかりだ。
 敵であれば斬って棄てるのみだが、そういうことならば遊んでやろう。そう思いはしたものの、さて、どうしたものか。
「ねえ、ボールとかフリスビーとか、投げて遊べるようなものって、この辺りにあるかな?」
 楽しそうに走って行った仲間(?)たちを羨ましそうな顔で見送ったシベリアンハスキーに、サンディは訊いてみる。彼らは言わばここの住人、ここのことは彼らに訊くのが一番だ。
「――ある」
 不意に話しかけられたのに少し驚いたのか、それとも元からそんな顔立ちなのか、ハッとした顔でハスキーは応えた。
「だが、ちかくには、ない。わたしたちはものをたくさんはこべない」
「そうかぁ……」
「おれ、ボールある」
 ケージから脱出する際に置いてきてしまったことを申し訳なさそうに伝えるハスキーの横から、今度は立派な体躯の――とはいえ今はいささかやつれてしまっているが――セントバーナードが顔を覗かせた。その足下にはボロボロのボールが置かれている。表面を覆っている生地はほつれた糸が何本もヒゲのように飛び出しているし、よだれでべとべとになっているのも見て取れる。きっと彼のお気に入りの玩具なのだろう。
「おまえ、さっきからやけに静かだと思ってたら、それを咥えてやがったのか」
 呆れ声で、けれどもどこか温かみのある声でいかつい顔のロットワイラーが笑った。ドン、とセントバーナードに体当たりをしたのは、人間で言えば肩で小突くような仕草だろうか。
「きみは、あそぶのはやめたのか」
 今度はハスキーが目を細めてロットワイラーをからかう。先程他の犬に釣られて一緒に走ってしまったのは彼にとってちょっとしたしくじりだったのだろう、「うるせえ」と言ってそっぽを向いてしまった。
 三頭のやりとりを微笑んで見ていたサンディは、
「じゃあ、このボールを借りてもいいかな? あとでちゃんと返すから」
 ボールを両手で拾い、礼を以て頼む。セントバーナードは快く応じ、更に「おれも、あそぶ」と追加料金を要求した。

「おれを食うつもりだな? 残酷ドキュメンタリー映画みたいに!」と叫びながらかしこくないどうぶつたちから逃げ回る緤の声は、どこか楽しそうだ。ちょろちょろと逃げては、追い付いたどうぶつたちに猫パンチをお見舞いする。そんな鬼ごっこがこれまた楽しくて仕方がないどうぶつたちは緤の猟兵ガチ攻撃を食らっても食らっても「わーいたーのしー!」と起き上がって遊び続ける。
 どうやら彼らの体力と欲求は底なしのようだ。それでも遊んでやろう、と、緤たちと手の中のボールを交互に見て、サンディもひとり頷く。何度でも投げてあげようじゃないか。彼らの気が済むまで。

「わぁー! お利口さんですねー!」
 サンディがボールを取ってきた犬をもみくちゃにして褒めているのを覗き込んで、リリ・リーボウィッツ(CROWBAR CAT・f24245)が心底感心したように言った。
「喋る動物さんたちもすごくお利口さんですが、この子たちも本当にお利口!」
 オブリビオンであることすらコロっと忘れて、獲物たる生者と一緒になって遊び、敵たる猟兵にめっちゃくちゃ尻尾を振りまくっている彼らを見て「いやーん、馬鹿な子ほどかわいい!」と目尻を下げまくる愛好家はおそらく山といるだろうが、リリほど本気で「お利口!」と目を輝かせる人はいったいこの宇宙にどれだけ存在するのだろうか。(むしろいっぱいいる気もする)
「ワンちゃんと遊ぶのも、とってもお上手なんですね」
 リリは、慣れた様子で犬たちと戯れるサンディのことも褒めた。サンディよりも年上のようでありながら、どこか純粋というか単純というか脳きn……ポジティブな雰囲気があどけなさを感じさせる。
「そうかも。わりと、遊び慣れてるから」
「ワンちゃんと、ですか?」
「ううん、狼。――っていうか……」
 あれは人狼のような気がする――と言いかけて、サンディは口を噤んだ。初対面の人間にうっかりと言いそうになってしまうとは。犬たちとリリの無邪気さに釣られたか。苦笑すら心の裡に隠して、再びボールを投げる。
「狼! すごいですねー」
 リリはと言えば、サンディが何かを言いかけたことなど全く気付かずに相槌を打っている。そして、「じゃあ、私は猫ちゃんと遊んでこようっと!」と、細身のナイフを何本も構えて猫たちがたむろしているエリアへ歩いていった。
「……ナイフ?」
 どうツッコもうか悩んだのも束の間、ワン!と鳴く犬が「ほめろ」「ボールを投げろ」とサンディを催促した。

「さーて、私も本気で行きますよー」
 チャキっと掌に構えたナイフを、リリは念動力で操り始めた。
「いかにお利口であろうと、動くものを追いかける本能には逆らえないはず」
 ネコチャンと遊ぶお作法その一。『遊ぼうぜ!とド直球で距離を詰めてはいけない』。まずはネコチャンが「フッ、こっちはいつでも逃げられるんだぜ」と余裕をかませる程度に十分な距離を取った上で、得物(猫じゃらし、羽根など。ここではナイフ)をチラつかせるのだ。猫が「!」って感じの顔になったら試合開始の合図である。
 ネコチャンと遊ぶお作法その二。『玩具に興味を示したからといって、いきなりブンブン振り回してはいけない』。狩猟本能がそうさせるのだろうか、猫は「こいつなら……獲れる!」という確信に近いラインまで持ち込まないと動かないことが多い。のっけから活きの良すぎる状態で遊ぼうとしても「あ、そいつ弱らせといて。あとで仕留めるから」的にそっぽを向かれる可能性が高い。とても高い。
 ネコチャンと遊ぶお作法その三。『目の前をゆっくり通過させ、その後ちょっと止まってみる』。「はは~ん、コイツ油断してやがるな?」と猫を油断させるためのテクニックである。猫は無理しない。本当に無理しない。サバンナの王者ライオンでも、獲物が「なーんだ、猫か」と油断しきる瞬間まで叢の中で待ち続けるのだ。
 リリは巧みにナイフと猫心を操り、その時を待つ。既に猫たちの目は皿のようにまんまるで、耳とヒゲは本体から独立してそのまま前進してしまいそうなほど前のめりだ。ナイフ本体の動きに釘付けの猫もいれば、ナイフがチラチラと反射する光の粒に夢中な猫もいる。どの猫も、リリが小刻みにナイフを動かすリズムに合わせて首を右へ左へと振っている。そして、その中の一匹が、「ナッ、ナッ、カカカカ」と掠れた声でクラッキングしながら、身体を伏せて重心を後ろへ下げた。足踏みと尾の動きで猫の身体全体が左右に波打ったかと思うと、刹那、時が止まったかのように静止する。
(――今ですっ!)
 それまで根気の要る焦らしプレイに徹していたリリは、ここぞとばかりにナイフを猛スピードで動かした。ダダダダダと怒涛の足音を立てて、猫たちはナイフに、そしてナイフが生み出す光の粒をフルスピードで追いかける。こうなってしまえばもうこっちのもの。右、左、右、上、右と思ったか残念左だ!と、リリも猫も縦横無尽に走り回った。(厳密に言えば、リリはほとんど動いていないが)
 ナイフの急旋回に身体が追い付かず、あるいは発汗作用で肉球グリップが効かなくなったか、ツルーンとそれはもう滑らかに転ぶ猫もいた。よく見れば、最初のスタートダッシュに乗っかることができずにひたすらポカーンとしている猫もいる。どいつもこいつも目の端ではナイフとそれを追いかける仲間たちを羨ましそうに見ているくせに、表面上では「は? アタシ、ああいうガキっぽい遊びとかしないんだけど?」という態度を取り繕っている。
「またまたー。本当は遊びたいんでしょう?」
 “ねこかわいい”と顔に書いてあるのを隠しもしないリリは、彼らとは真逆の存在だろう。負け惜しみキャットどもの前にナイフをちらつかせて、第二ラウンドの仕掛けに取り掛かった。



 猟兵たちがかしこくないどうぶつたちとひとしきり遊んでいる傍らで、緤は賢い動物たちの避難が完了したのを確認した。未だ数頭の動物が彼ら自身の意志で残っているが、この数であれば想定外のことが起こったとしてもなんとか対処できるだろう。
「このナイフ、誰んだ?」
「キャッ、ごめんなさーい! 私のです!」
 鼻先を掠めて壁に突き刺さった投げナイフを引き抜いて緤が問うと、リリが駆け寄ってきた。ごめんなさい!と明るく謝って、リリはまた猫たちの方へ駆けていく。
 ヒューン、という切なげな鳴き声に緤が振り向くと、さっきまで“追いかけっこ”をして遊んだ犬が緤の服の裾を咥えて引っ張っていた。
「こら、行儀悪いぞ」
 優しい手つきで犬の口から服を離して、頭を撫でる。
「名前、わかればよかったんだけどな」
 最期くらい、誰かに自分の名前を呼んでもらいたいんじゃないか――。そんなことを思う。けれど、それは誰にもどうすることもできない。緤は自分が創り出した電子の扉をくぐって、犬を振り返った。
「連れていけないんだ、ごめんな」
 音もなく閉じて消えたその扉を、犬はじっと見つめていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

木元・祭莉
わんこさんがいっぱい!

オブリビオンだっていいじゃない。
最後まで、全力で遊ぼうー♪

……誰か知ってるひと(犬)、いる?
賢いわんこさんにきいてみる。
知り合いがいればなって。

いなくても。
仕方ないね、今から知り合いになろー♪(にぱ)

何をしたいかなあ?
(大型犬にもたれ小型オブ犬を全力で撫でまくりながら考える)
んー、賢い人たちに寝そべってもらって、その上を飛び越えていくのはどう?

先においらが行くねー。
(両手で耳のぽーず)
はい、ぴょんぴょんぴょん!(しゅた)

ハイ、次はキミの番! >薄茶のポメ
次々飛んでる間、おいらは因幡の白兎を歌うよー♪

身体を綺麗に拭いてあげて。
綾帯で遊んで。

楽しかった?
よかったね、バイバイ!


木元・杏
わんこ、たくさん
皆、自分に何が起こったかわからないまま、ここにいるのかな
…ん、たくさん遊ぼ?

わんこの気持ちはしっぽでわかる
双子の兄がそうだから(狼だけど)
しゅんとすればしっぽが下がり、楽しいならしっぽが上がる
この真っ白ポメラニアンな子は…めっちゃしっぽ振ってる
そっと頭を撫でればふわっとして
ふふ、気持ちいい?
顎の下をこしょこしょ
ほっぺをむぎゅー
ん…、わたしも至福

薄茶のポメ、あ、あれはパグ
おいで♪ブラッシングもしてあげたい

沢山遊んで、沢山甘えて
うさみん☆が用意したわんこ用クッキーとお水でお腹も満たして
賢いわんこさんもどうぞ?
遊び疲れたら、ふかふかクッションで寝てもいいよ

そっと撫でて
おやすみなさい





「皆、自分に何が起こったかわからないまま、ここにいるのかな」
 膝の上のポメラニアンに丁寧にブラッシングをしてやりながら、木元・杏(食い倒れますたーあんさんぽ・f16565)が呟いた。その隣で「わかんないやー」と、のんびりとした返事をしたのは杏の兄、木元・祭莉(CCまつりん・f16554)だ。祭莉はグレート・ピレニーズにもたれかかってテリア系らしき雑種の犬をわしゃわしゃ撫でている。彼自身、頭には立派な耳、お尻には立派な尻尾を持った人狼の少年なので、まるで『母犬に甘える兄弟犬』のような雰囲気を醸し出している。
「でも、わんこさんみんな楽しそう」
 えへへ、と笑って、祭莉はテリアを抱え上げた。口許や目の周りに生えた長い毛が、人間の老人を想像させてなんだか面白い。「おじーいちゃん♪」と語りかけると、犬の尾は小刻みに振れた。
「……ん」
 言葉少なに杏は微笑む。犬の気持ちは、尻尾でわかる。だってまつりんがそうだから。寂しいとき、悲しいときのしっぽは元気がなくて下向き。嬉しいとき、楽しいときは上向き。杏が抱いているポメラニアンも、ふわっふわの尻尾をふさふさふさふさと揺らして杏の顔を覗き込んでくる。
「ふふ、気持ちいい?」
 幸せそうな犬の姿を見ると、自分も幸せな気持ちになってくる。小さな身体を長く柔らかい毛で何倍にも大きく見せて、それはまるで優しさのかたまりのよう。小さな額を撫でると目を細める。喉を撫でればお返しに舐めてくれる。すごく、あったかい。せめて最後くらいは幸せにしてあげたいと思って来たのに、温かさを分けてもらったのは自分の方。そんな気がするのだ。
「オブリビオンだって、いいじゃない」
「ん……、わたしも、そう思う」
 ――少しの間。幸せなような、寂しいような時間が二人の間を流れる。
「よーーーし、全力で遊ぼうー!」
 がば、と跳ね起きた祭莉にほんのちょっとだけ毛を踏まれたピレニーズが、キュン、と鳴いた。

「キミはここ。キミはこっちねー。おっけー、おっけー。これでばっちり! わんこさんたち、さすが!」
 何頭かの犬たちに一定の間隔を空けて寝そべるように指示して、祭莉はニカッと満足そうに笑う。
「さあ、このわんこさんたちを上手に飛び越えて遊ぶよ! 先においらが行くねー」
 なあに、なあに、という顔で集まってきた小型犬たちに、祭莉は自分が手本を見せると言って聞かせてから、寝そべってじっとしている犬たちの背をぴょんぴょんぴょんと飛び越えた。最後の一頭を飛び越えたところでしゅたっとポーズを決め、杏にVサインを送る。
「じょうずじょうず!」
 杏も犬たちの気分を盛り上げるために、祭莉を精一杯褒める。そのうち、好奇心の強い一頭がぴょこんと寝そべった犬を飛び越えた。
 祭莉の楽しそうな様子に釣られて俺も俺もと跳ぶ犬、杏に褒めてもらいたい一心で一生懸命ジャンプする犬、ジャンプするのは怠いけど二人と遊ぶのはやぶさかではない……という顔で島役の犬をがっつり踏んで通る犬、個性もさまざまだ。一通り跳び終わったら、次は島役と跳ぶ役を交代してもう一度遊ぶ。
「じょうずだねー」と、のしのし歩いて渡ったパグを撫でている杏の耳に、聞き覚えのある歌が聴こえてきた。今よりももっと幼いころに父と母が歌ってくれた歌を、祭莉が歌っているのだった。覚えている歌の数だけ、想い出がある。二人の大切な宝物だった。
(……ふふ。音が外れるとこ、おとうさんとおんなじ)
 少しでも皆の心が温かいもので満たされますように。杏は目を閉じて祈った。



「いっぱい遊んだねー」
「皆、とっても上手だったよ」
 たくさん、たくさん遊んだあとで、祭莉と杏は犬たちの身体を綺麗に拭いてやった。
 よく見れば、毛ヅヤのあまりよくない犬もいたし、足の裏に泥がこびりついている犬もいた。全身砂埃だらけの犬もいる。汚れを取って、きれいにしてやって、ブラシで毛並みを整える。猟兵たちにはちゃんとわかっているのだ。彼らが、飼い主や自分の家を探してずっと歩き続けたのだろうということが。
「がんばったんだね。……えらかったね」
 身づくろいを済ませたどうぶつたちに、杏は犬用のクッキーと水をふるまう。たくさん遊んで、ブラシをかけてもらって、お腹も一杯になった彼らはすっかりくつろぎモードでふかふかのクッションに身体を預けている。
 ほんの少し、切なさが二人の胸をチクリと刺した。きゅ、と結んだ唇に力を入れて堪えていると、まだ遊び足りないと言いたげにチワワが祭莉の綾帯にじゃれついてきた。その愛らしさに、二人とも口許を緩ませて笑う。
 やがて安らかな寝息を立て始めた犬たちの身体を撫でて、
「楽しかった?」
「楽しかったね」
「うん、よかったね」
「おやすみなさい」
「――バイバイ」

 愛すべきどうぶつたちは、永い眠りに就いて二度と目覚めないだろう。幸せな夢を見たまま。

 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『世紀末的合コン』

POW   :    自身の魅力をアピールする

SPD   :    相手の魅力を見つけて褒める

WIZ   :    場が盛り上がるように立ち回る

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。




 数台のトラックが列をなして荒野を走る。荷台には食糧や水、生活用品――生きて行くのに欠かせないけれどもこの世界では手に入れることも困難、そういった物資が大量に積み込まれている。これらはすべて、猟兵たちが異世界から運んできたものだ。何台ものトラックに積載された山のような品々も、拠点を二つ三つ回ればあっというまに空になるだろう。猟兵たちは既に一ヶ所の拠点に立ち寄り、三分の一ほどの荷を下ろしてきた。
「だけどやっぱり、動物を引き取ってくれる人は少なかったな」
「仕方ないさ。ここじゃ自分たちが生きていくのにも精一杯なんだから」
 普段の物資配給といささか毛色が違って、今回は『保護した動物たちの貰い手を探す』という仕事もある。しかし最初に立ち寄った拠点での反応は芳しくなく、「昔飼っていた子に似ているから」と猫が一匹貰われていっただけだった。
「このままだと、物資を配給し終わるまでに動物たちの貰い手を見つけるのは至難の技だな」
「売り込み方を少しばかり考えた方がよさそうだ」
「物資の中にペットフードはあったっけ?」
「さすがにないだろ……、いや待て、あるぞ。リストに記載されてる」
「準備万端じゃねーか」
 そういえば出発前からそういう段取りだったんだから、物資の中にペット用品がきっちり揃っていてもおかしくないっていうかあのハゲそれは先に言っとこう?――と、誰かが思ったかもしれない。
「ようじんぼうというのはどうだ?」
 荷台で話を聞いていた賢い動物たちも案を出しはじめた。
「おれ、いぬ、はなせる。むれ、まとめる」
「なるほど、そういう路線で売り込むのも手か」
 猟兵たちと動物たちは、次の拠点に到着するまでの間、熱心に話し合った。

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⚫︎第3章では、保護した動物たちの貰い手を見つける工夫や賢い動物さんとの交流を楽しんでください。合コンです。

※ただし、下記のような内容は今回は採用いたしません。ご注意ください。
 ・よその世界に放流する
 ・食糧として飼育する

 動物の種類や拠点の客層はご自由に想定してください。水棲生物はちょっと難しいかも。
 猟兵さんがペットや相棒、家族として動物を連れ帰る、知り合いの伝手を頼る、という選択も可能です。
 人手が必要でしたらグリモア猟兵をお呼びください。お手伝いします。

 成功値が必要数に達したら自動的に「全ての動物に貰い手がついた」とします。“残ってしまうかもしれない動物”についてはご心配ご無用です。
 動物たちはすべて適切な方法で飼育管理されます。各方面への配慮もお気になさらずにどうぞ。


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リリ・リーボウィッツ
見るからに強そうなワンちゃんは用心棒として売り込めますが、ネコちゃんだとその線は難しいかもしれませんねー。
食害対策のスペシャリストとしてアピールしてみましょうか。

皆さーん、このネコちゃんたちは狭いところにスルっと入って、ネズミやゴキブリ(Gと略すようなデリカシーは持ち合わせていない)を退治してくれちゃうんですよー。

あと、黒猫のネーベルに傍にいてもらいます。おバカっぽく振る舞わせて、お利口なネコちゃんの比較対象になってもらいましょう。(自分が一番の比較対象という自覚なし)

「忠実な家畜」や「便利な道具」を売りつけるような感じにならないように気をつけます。仲間や家族として受け入れてほしいですから。





「いいですか、程よくおバカに振る舞うんですよー?」
 霧の名を与えられた黒猫を目の高さまで抱き上げて、リリ・リーボウィッツ(CROWBAR CAT・f24245)は至極真面目な顔でそう言い聞かせていた。脇を抱えられて下半身がプラーン状態のままの猫は、耳を横に倒して剣呑な目付きだ。尻尾の先端をリズミカルに揺らし「わかったから、早く下ろしてくれない?」と言いたげにしている。あと数秒もしないうちに後脚から空振り猫キックが繰り出されるに違いない。

 次の拠点に到着した後、猟兵たちは手早く荷下ろしを済ませた。食料、飲料水、日用品――カテゴリー別に物資をまとめ、それを求めて集まる拠点の住人たちを誘導する。同時に動物たちのケージも下ろし、列になって並ぶ人々の目につきやすいように陳列した。広場に様々な品が並び人が集まる様子は、さながら賑やかなバザールのようでもあった。
「おかあさん、猫がいる!」
「見てきてもいい?」
 ずらりと並んだ動物たちに強い興味を示すのは、やはり子供たちだ。配給を待つ間の退屈を紛らわせようと、列から離れてケージの前にやってくる。それに付き添う親たちも後から合流して、どうしてこんなに動物が並べられているのかと猟兵に問うた。
「保護活動をしていた拠点が壊滅しちゃいまして、私たちが救助してきたんですよー」
 実にあっけらかんとした口調でリリがいきさつを説明する。人々の拠り所となるべき拠点も、安全とは言えない。いつ、どんな敵に襲われて未来が断たれてしまうかと、どこの住人たちも不安を拭いきれずに暮らしている。“壊滅”と聞いてどきりとした表情を見せる者もいたが、リリの朗らかな声が妙な安心感をもたらすようだった。
「元はペットとして飼われていた子たちばかりですから、新しい家族や仲間として迎えてくれる場所を探してるんです」
 ここまでは先の拠点と概ね同じ。そして、
「なるほどなあ」
「だけど、人間が食うにもやっとだし…」
 人々の言葉と申し訳なさそうな表情も先の拠点と同じだ。
「では! こういうのはいかがでしょう?」
 ジャジャーン!と効果音も自分で添えて、リリはケージの中から猫を一匹抱き上げた。肝の座った顔つきをした三毛猫だ。ねこちゃんだー、触っていい?と喜ぶ子供の声も聞こえる。
「食糧は何よりも大事、その通りです! でも、覚えがありませんか? その大切な大切な食糧をこっそり横取りしていく憎いあんちくしょうに!」
 リリに抱えられた三毛猫は暴れることなく落ち着いた様子で子供達に撫でられるがままだ。まるで「子供の相手はお任せよ。何匹子猫産んだと思ってんの?」とでも言うかのように、ゆったりと尻尾を揺らしている。
「――そう、ネズミやゴキブリです!」
 ヒッ、と息を呑む女性には全く気づかないまま、リリは口にしてはいけないあんちくしょうの名前を連呼する。
「特にゴキブリはせまーい隙間にもスルっと入り込みますからね。きれいにしているつもりでもどこかにいるのがゴキブリ。一匹見かけたら三十匹いるのがゴキブリ。逃げようとするくせにこっちに向かって飛んでくるのがゴキブリです!」
 イニシャルGすら聞きたくないという人の気持ちは、リリにはわからない。足元で“おバカっぽい猫”を演じていたネーベルは「あーあ……」という顔でリリから目を逸らした。ちなみにリリがなぜそんなことをネーベルにさせているかというと、おバカっぽく振る舞わせることで他の猫たちをより賢く見せようという算段らしい。
「確かに、ここんところネズミの被害が大きいんだよな」
 一人の男が、リリの言葉に頷いた。
「俺たちも罠を仕掛けてはいるんだが、どこかで繁殖してるらしくてイタチごっこなんだ」
「なかなかネズミ捕りにまでは人手が割けないときもあるしねえ」
 せっかく得た食糧もネズミたちに横取りされては意味がない――リリのアピールが功を奏し始めた。
「ネコちゃんなら、狭い場所にも素早く入り込んでばっちり捕まえちゃいますよー」
 猫は犬のように従順に躾けることは難しいが、利害が一致してさえいれば自分から仕事をしてくれる。古い時代から人間とギブアンドテイクの関係を築いてきた良き隣人なのだ。
 住人たちも彼らの生活にメリットを生み出せそうだと納得しはじめたらしい。可愛いネコちゃんに夢中な子供とその保護者らしき大人が猫の入ったケージをまじまじと見比べている。
「それにこの子はホラ! 特に賢いので、きっと皆さんと仲良くなれますよ!」
 うちのネーベルと比べてみてくださいよー、こーんなにお利口! もうひと押しとばかりにネコちゃんのお利口さを猛プッシュするリリだったが――、
「あんたに抱かれてもおとなしくしてるなんて、本当に利口だね」
 自分が一番の引き立て役になっているということにはちっとも気づかないままなのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

大豪傑・麗刃
サポートからとはいえ、これも何かの縁。
人肌恋しい季節にはほど遠い時期ではあるが、わたしが一肌脱ごうではないか。

きみたちが飼い主を見つけるために必要な事はただひとつ。
ズバリ。

一芸を身に着ける事なのだ!

何も知らない飼い主がきみたちを見たとしよう!
あの動物もいい、この動物もいい。迷うなあ。そして迷った挙句、また次でいいやとなってしまう!
なぜ迷うのか?それはみんなが同じような感じだからなのだ!
ならばこそ重要なのは個性!自分にしかないものを身に着ける事によってアピールをする!これこそが明日につながるのだ!

ではわたしが模範演技を見せよう。

玉乗りのパフォーマンスをしながら絵を描く!!

さあ!やってみたまえ!!





 猟兵たちが物資配給を実施したその拠点は、元々はショッピングモールだったらしい。建物の中央部付近に配置されたイベント用の広場がちょっとした“市”を開くにはもってこいの空間だった。二階部分まで吹き抜けになっている広場の天井はガラス張りになっていたらしく、平時も今も変わらず降り注ぐ太陽光を内部に届けている。地域の人々の憩いの場として機能していた頃と違う点といえば、天井のガラスが残らず崩れ落ちてしまったことと、吹き抜けを取り巻くように設置されたエスカレーターがただの動かぬ階段になってしまっていることだろう。
 そのイベント広場の片隅で、一人の青年が何頭もの動物たちに向かってなにやら演説をしていた。

「きみたちが飼い主を見つけるために必要な事はただひとつ。ズバリ。一芸を身に着ける事なのだ!」
 大きな身振りで朗々とした声を張り上げるその男は大豪傑・麗刃(変態武人・f01156)。
 後ろで三つ編みにした長い黒髪には一筋の明るい毛が混じっている。ぎょろりとした目は鋭さよりも愛嬌を感じさせ、表情は身体と同じくくるくるとよく動いた。なぜか絵筆を手にして指揮棒のように振り回しているが、麗刃よりも絵筆に猫たちが釘付けになっていることには気づいていない。
 飛びつこうとしてケージの上から落っこちた猫を拾い上げ、麗刃は説く。
「何も知らない飼い主がきみたちを見たとしよう! あの動物もいい、この動物もいい。迷うなあ。そして迷った挙句、また次でいいやとなってしまう!」
 動物たちの前を右へ左へと移動しながら、時に声色を使い分けて、まるで一人芝居のような演説は続くいた。
 心身を賭して笑いに引き込もうとする技術は言葉を解さぬ動物たちを引き付ける技術にも通じるのだろうか、話を理解しようと耳を傾ける動物たち、魅惑的に揺れ動くおさげや絵筆に視線を奪われっぱなしの動物たち、様子はさまざまであったが、一頭残らず麗刃の言葉や動作に魅入っていることは確かだ。
「重要なのは個性! 自分にしかないものを身に着ける事によってアピールをする! これこそが明日につながるのだ!」
 麗刃の熱意に誘われて動物たちの耳やヒゲがピンと前向きになる。もしも彼らが人間の姿をしていたとしたら、きっとスタンディングオベーションが起こったに違いない。ボルテージの上がった“聴衆”を前に麗刃が更に語る。
「これも何かの縁。“人肌恋しい季節”と言うにはほど遠い状況ではあるが、わたしが一肌脱ごうではないか」
 “ひとはだ”だけに! ――と、力強く付け加えたところで、広場を一陣の風が吹き抜けた。
 麗刃の熱弁にこっそり耳を傾けていた住人たちの何人かが顔を覆い、動物たちはポカーンとした表情になる。
「ヒトハダだけに、とは、どういういみですか?」
 気まずい静寂を打ち破って問うのは、大きな身体にキリっとした眉毛がチャームポイントのバーニーズ・マウンテン・ドッグだ。
「よくぞ訊いてくれた!」
 麗刃は絵筆でビシッと犬を差して応える。
「人肌恋しい季節というのはざっくりと冬のことであるが、そこに同じ音である――」
 人の言葉は解しても言葉遊びという文化は未だ知らぬ動物たちを前にたったいま滑ったばかりのジョークを解説する――想像するだけでもそれこそ人肌恋しい季節が一気に到来しそうな苦境で、麗刃は臆することなく、勇敢に最後まで説明しきった。
 そして得られたものは、「ふぅん……?」という、ものすごいビミョウな空気。
(……――この圧倒的不利。しかし、これこそがわたしの戦場!)
 場の温度がみるみる下がっていくのを感じながら、麗刃は決意を新たにする。これは単なるジャブ、単なる布石。本番はここからなのだ。
「では! わたしが! 模範演技を見せよう!」

 言うが早いか麗刃は自分で持ち込んでいたボールにひょいと乗ってみせた。見事なバランス感覚で玉乗りのパフォーマンスを披露し、広場中を動き回る。段差だってぴょんぴょんと簡単に飛び越えて、更には手に持った絵筆で白い壁に絵を描き始めた。この絵がまた思いのほか上手い。しょうもない駄洒落で冷え切っていた場が瞬く間に再び熱くなった。
「わたしほどの芸人じゃなかった武人になれば、このくらいのパフォーマンスは余裕のよっちゃんなのだ!」
 実は、先程ジョークを全力で滑らせ、あまつさえ自分で自分に追い討ちをかけたのは麗刃の作戦だった。彼は敢えてそうすることで身体能力を飛躍的に向上させるユーベルコードを、動物たちを圧倒し、かつ、彼らのモチベーションを引き上げるために使用したのである。事実、人々は巧みなパフォーマンスに魅入り、動物たちは「これができるようになれば人間が喜んでくれる」ということをたちまちに理解した。
「さあ! きみたちもやってみたまえ! はい、ワンツー、ワンツー!」
「ししょー、そのかけごえはダメです!」
「なぜだ!」
「ぼくたちには、それはトイレのあいずで」
「うわあああああここでするな!」
 ――少々のアクシデントに見舞われつつも、麗刃は動物たちのやる気を引き出すことに見事成功したのである。

大成功 🔵​🔵​🔵​

木元・杏
動物の皆の家族、見つける
生きる事に精一杯だから飼えないのは仕方ない
でも…家族は、一緒に居て支え合う
そこにはきっと、何にも変え難い大切なものがあるから

わたしは、鳥さん達にこんにちは
大丈夫、もう怖くないからね
ほっぺを指でかきかき
ん、気持ちいい?
機嫌よく歌う声は周囲に響き渡り

興味を持ち近付いて来る人がいたら
物資を渡て

歌は癒し
辛い気持ちも優しく包む
鳥は羽があるから、空の警戒も教えればちゃんと出来る
優秀な癒し要員&警備員
そして、基本は種子が主食、エンゲル係数低し
どう?と鳥アピール

鳥の歌声に他の動物も集まり歌えば
小さな合唱団の完成
辛い気持ちに負けない音楽
きっと皆に提供できる

しあわせに、なってね


木元・祭莉
んー、みんないい子なのになあー。(にゃあさんの喉を撫でてやりつつ)

あれ、アレクおいちゃん、わんこさん好き?(視線に気付いた)
おいらも! しっぽ丸まってるのカワイイよね!
顔コワイのも、凛々しくていいよね!!(賢い子も交え盛り上がる)

拠点についたら、物資を配るついでに、動物たちを紹介して回るよー。

んっと、じいちゃん、一人暮らしなの?
オウムさん飼ってみない?
賑やかだから、寂しくないよ。お歌も上手だよ♪

キミたち兄妹?
ココにもきょうだいいるよ!(白いのと黒茶のわんこ)
一緒に暮らせば、4にんきょうだい。
みんなで寝ると、あったかいよ♪

ココはすごく厳しい世界。
だけどみんなで助け合って、幸せになれるといいねー♪





「アレクおいちゃん、わんこさん好き?」
 木元・祭莉(CCまつりん・f16554)が声をかけたのは、先程から熱心に犬たちをブラッシングしているアレクサンドラ・ルイス(サイボーグの戦場傭兵・f05041)。猟兵たちの活動をサポートしているだけだと中年の傭兵は嘯いているが、そのいかつい顔が犬を見るときにはどことなく和らいでいるのに祭莉は気付いていた。さっきだって、祭莉が二人連れの子供たちに子犬の兄弟を紹介しているのを、アレクサンドラはなんとなくソワソワした様子で見守っていたのだ。
「しっぽ丸まってるのカワイイよね! 顔コワイのも、凛々しくていいよね!!」
 人懐こい笑顔で、祭莉はアレクサンドラと犬たちの輪に入る。喉をわしゃわしゃと撫でられた日本犬が、ポップコーンシュリンプのような尻尾を元気いっぱいに揺らす。見れば祭莉のふさふさな尻尾も上機嫌に揺れていた。
「――ああ。ガキの……、いや、子供の頃、飼ってたんだ」
 ふ、と懐かし気に口許を緩めて、少々荒っぽい言葉遣いを直しながらアレクサンドラが応える。
「へー! そうだったんだ? どんなわんこ――」
 祭莉がアレクサンドラの昔話に目を輝かせたそのとき、広場の一角からわあっという歓声が起こった。その方角へ二人が視線を遣ると、仲間の誰かが動物たちと一緒にパフォーマンスをしているらしかった。
 配給を受け取ったら動物のケージには目もくれず広場を後にしようとした住人たちも、何人かはパフォーマンスの賑やかさに興味を惹かれ足を止める。
「まつりん、チャンスかも」
 木元・杏(食い倒れますたーあんさんぽ・f16565)が祭莉の顔を見て囁く。
 二人は物資の配給がてら動物の紹介に勤しんでいたのだが、ほとんどの住人は話もそこそこに立ち去ってしまっていた。だが、人々の関心を集め始めた今なら、聞いてくれる人もいるかもしれない。
「うん、アンちゃん!」

 籠の中から様子を伺っている色とりどりの小鳥たち。止まり木に繋がれて眠たそうに目を閉じているフクロウ。大きな鳥籠の中には白いオウムがいて、歓声が上がった方向をしきりに気にして何か喋っている。鳥たちを一羽一羽愛しげに見つめ、杏は「大丈夫、もう怖くないからね」と、そっと声をかけた。
「じいちゃん、一人暮らしなの?」
 食料を受け取りにきた老人に、祭莉が話しかけている。鳥のケージを示して、
「オウムさん、飼ってみない? お話もできるし、お歌も上手だよ♪」
 老人の視線がこちらへ向いたのを機に、杏も鳥たちのアピールを始めた。真っ白な身体に黒い嘴、頭の上に黄色い飾り羽を乗せたオウムをケージから出して、
「ん、歌は癒し。つらい気持ちも、優しく包む」
 腕に乗せたオウムに「お歌、聴かせて?」と乞うてみると、オウムは古風な節回しで歌を歌いだした。曲に合わせて左右に身体を揺らし、実に気持ちよさそうに歌う姿を見て、杏は思わず笑顔になる。
「ずいぶんと懐かしい歌を歌うもんだなあ」
 感心したように老人が呟く。
「このお歌、知ってるの? じいちゃん」
「おお。俺が若い頃に流行った歌だよ」
 そう言うと、老人はオウムに合わせて小さな声で歌を口ずさんだ。
「へー。オウムさん、古いお歌もよく知ってるんだね」
「オウムさん、長生き。もしかするとおじいちゃんの若い頃に、オウムさんも歌を聴いてたのかも」
「えっ、そうなの!?」
 驚く祭莉に、杏がこっくりと頷く。実は、オウムは鳥の中でも寿命の長いほうなのだ。記録では100年以上生きたオウムも実在するという。
「す、すっごい……」
「そうかぁ。もしかするとこいつも、俺と同い年くらいかもしれないんだな」
 杏の手から自分の腕へ伝ってきたオウムをおそるおそる撫でて、老人はしみじみと呟いた。
「こんな年寄りが一人で生き残って、運がいいんだか悪いんだか。――なんて思ってたが、残りの人生を“同期”と生きるってのも、そう悪かぁないな」

 白いオウムと老人が一緒に歌いながら歩いていくのを、祭莉と杏は見送る。
「しあわせに、なってね」
「幸せになれるといいね」
 ぎゅ、とつないだ手の温かさを、二人は誰よりも信じていた。
 ――と、背後のケージで鳥たちが騒ぎ立てる。オウムの歌に触発されたのか、それぞれが思い思いのさえずりで存在を主張しはじめた。
「ふふ。みんなも、歌いたい?」
「よーし、おいらも歌って踊っちゃうぞー」
 母に習った歌を、鳥たちと共に歌う。歌は、心の鍵だ。遠い昔の記憶や、あたたかい気持ちを思い出させてくれる。通り過ぎていった時間や心の痛みを、共に歌う人と分かちあうことができる。
 祭莉たちと鳥の合唱に誘われて、賢い動物たちも集まってきた。彼らもまた、かつての家族と共有した時間を懐かしんでいるのだろう。リズムに合わせて鳴く犬、踊る猫。なんとも愛らしい楽団の出来上がりだ。
(つらい気持ちに負けない音楽。きっと、みんなに届く――)
 楽団を見守る人々の表情は、誰もかれもが温かだ。
 生きることに精一杯の厳しい世界。だからこそ、『支え合う誰か』は何にも代え難い宝なのだ。
 祭莉の差し出す手を強く握り、杏も踊った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

サンディ・ノックス
移動中もボールを貸してくれた子をはじめ、遊び相手を求める子達(主に犬)を撫でたり遊んであげたりするよ

きっとこの世界では食料問題が一番厳しいよね
故郷(ダークセイヴァー)ではペットを見た覚えがあまりない
いい子達ばかりだから一緒にいると心地いいけれど、それを口で説明するだけじゃ引き取ってもらう説得力には欠けると思う
触れ合いの中で確かに心の支えになると実感してもらう事と、食料について負担になるだけではない事の両方を伝えなくてはいけないかな…

彼らの優れた知覚で、拠点や拠点の近くの食料を見つけたり天候の変化を察知できたりすることを実演し示す
触れ合いは言葉はあまり要らない、体験すれば感じとってもらえると思う


無明・緤
仕事だな、任せておけ
人間に負けないくらい上手くやるさ

拠点の人間が求めるのは生存に有用なものだ
腕利きの奪還者や用心棒が居れば
より安心して暮らせるって方向で売り込もう

この動物たちは訓練済で、躾も戦闘力もお墨付き
顔は怖いが誠実なヤツらだ
人間が頼んだ仕事はきっちりこなしてくれるぜ
と相手の欲しがる気持ちを【鼓舞】し
興味を示した人には触れてみるよう勧める

引取が成立した所では
もう一頭面倒をみられるか聞いてみる
頷いてくれるなら、おれの頭に棲みついて離れない
名も知らぬまま別れた遊び好きの犬の似姿を電脳魔術で創造し
UC【名前を付けてやる】
『ユウ』という名と、沢山役に立てるよう長い「寿命」を与え
人の側へと送り出そう





 音楽や曲芸をきっかけにもらわれてゆく動物たちへ「元気でな」と声をかける無明・緤(猫は猫でしかないのだから・f15942)の胸に、ちくりと小さな痛みが訪れる。なまえをよんで。あたまをなでて。――そう語りかけてきた、あの瞳。寂しさの中で生に幕を下ろす動物を一頭でも減らしたい。いつもの飄々とした顔の下に祈りに似た願いを秘めて、ケットシーの少年は人々を観察する。
 サンディ・ノックス(調和する白と黒・f03274)もまた、笑顔の裡にどこか冷めた感情を隠して広場を見回した。
(ひとときの心地よさだけでは、この子たちの安寧は保証できない、――よね)
 配給の様子を見るだけでも、やはり食糧の確保はこの世界の住人にとって切実な課題であることは明らかだ。平和な世界ですら、可愛いからと買い求めたはずのペットを残酷に手放す人間が後を絶たない。人間は、――いや、人間に限らず生き物というのは、己が食うに困れば我が子を見放してしまうことさえあるのだ。サンディは、そういう人間の姿を何度も見てきた。
「食糧の負担を相殺できるだけのメリットを実感してもらわないと……」
「同感だ」
 サンディの呟きに、緤が頷いた。
「拠点が求めるのは生存を確保する手段だ。『可愛い』だけじゃ、“最後”までもたない」
 いつかこの拠点が危機に晒されたとき。それぞれが自分の命を守るので手一杯になってしまうとき。弱者は無情に切り捨てられてしまう。必要なのは、「こいつがいてくれれば生存率が上がる」という信用だ。
「うん。俺の故郷でも、“ペット”は見た覚えがない。やっぱり『役に立つ』と実感してもらうのが大事かな」
「故郷って?」
「……ああ、いや。なんでもないよ」
 耳ざとく聞きつけて片方の耳をピンと立てた緤を、サンディは軽く流した。緤は緤でそれ以上のことを追求してこない。そうか、とだけ言って関心を失くしたようだった。自由気ままな猫そのもの、といった態度の緤をサンディは僅かに好もしく思った。

「――ん?」
 くい、とサンディの服の裾を引っ張る何かがいる。先刻ボールを貸してくれたセントバーナードだ。彼は目一杯遊んで目一杯褒めてくれたサンディのことを気に入ったようだった。トラックで移動している間もサンディの傍にいたがった。
「おまえ、おれ、あそぶ」
 例のボールを足元にちょこんと置いておねだりする姿は、なんとも愛らしい。サンディは少しばかり考えて、「いいよ、おいで」と誘った。
 数ある犬種の中でも最大級と言われるセントバーナードは、やはり見る者を圧倒するオーラがある。大きくがっしりとした体格に、武骨な顔。彼が通る場所は、人々が自然と道を譲ってくれる――というよりも、やはり皆驚いて距離を空けるのだろう。中には猛獣を見るような表情でじっと固まっている人もいる。
「見た目はちょっと怖いかもしれないけど、本当はとても優しい子なんだよ」
 サンディは、自分たちを見守る人々にセントバーナードを紹介した。「ね」と目配せすると、大きな犬は「わふ」と嬉しそうに返事をする。かわいい、と観客から声が挙がった。
 大型犬は、慣れない人にとって少々ハードルが高いようだ、とサンディは察していた。見た目の問題もあるが、どうしても「どれだけ食べるんだろう」という不安が大きいのだろう。新しい家族にもらわれていく動物たちは前の拠点よりもずっと増えたが、その中でも大型の動物はなかなか貰い手が現れなかった。
 サンディがボールを投げ、セントバーナードがそれを追いかける。セントバーナードが持って帰ったボールを受け取って、今度はもう少し遠くへボールを投げる。それを繰り返しながら、まずは犬の従順さ、賢さ、人懐こさを人々に印象づける。
「この子はセントバーナードっていう種類の犬なんだけど、元々は救助犬でね。ご先祖さまは軍用犬なんだ」
「救助犬……ってことは、かなり能力が高いのかい」
「うん。身体が大きいから体力もあるし、集中力や責任感もある。根気よく何かを探す、っていう仕事にはもってこいだよ」
 見ての通り、人間が大好きで優しい性格だしね。――と、関心を示し始めた住人にサンディは応えた。
「こいつは人の言葉が話せるから、仕事も任せやすいと思うぜ。それに、他の犬たちに人間の指示を行きわたらせることもできる」
 緤が『賢い動物』としての強みをすかさず付け加える。通常の犬は、人間の良き相棒となる素養は当然持ち合わせているが、それには正しい躾が不可欠だ。これがなかなか難しい。しかし、その難しい課題も賢い動物たちを介せばすぐさま解決できる、というわけだ。
「前にいた施設で自立できるように訓練されてたようだし、餌の確保も問題ない。有事には戦闘力として期待してもいいはずだ」
 何人かの男たちが、なるほど、と納得顔でセントバーナードを見ている。拠点の物理的な防御においては、どうしても男手が中心になる。彼らにとって、「癒し」よりも「追加戦力」としての評価が重要なのだろう。
「人間よりも嗅覚や聴覚に優れているから、異変の察知も素早いと思うよ」
「おれ、はないい。ねこ、かくれてもすぐみつける」
「ニャンだと? やるか? 勝負するか?」
 尻尾を膨らませて、緤はセントバーナーに向かってシャドウボクシングの身振りをする。それを見た人たちは声をあげて笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

逢坂・宵
ザッフィーロ(f06826)と

犬は古来よりひとの友として人々と生き抜いてきました
犬は正しくしつければ無駄吠えせず、しかるべき時に番犬として行動できます
またとてもひとに対して愛情深く、幼子や子どもがいる方々にとっては子どもたちの良き遊び相手にもなります
家族連れや世帯を持っていそうなカップルに声をかけてみましょう

事前に調べてきた「犬の正しいしつけ方」の紙を配り
犬の自主性を尊重すれば良き友、良き家族になってくれるのですと説きましょう

ふと視線を感じて振り返れば笑う伴侶に首を傾げ
……?
そう、ですね。良き家族と出会えると良いと思います、と
僕だけの伴侶にして大切な家族であるかれへと笑い返しましょう


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と

宵は犬か?ならば俺は猫達の飼い主を見つけられるよう尽力しよう
猫は番猫にはならんが備蓄した食糧を荒らす小さな害獣を狩る善き人のパートナーとなってくれるだろうからな
食糧番をしていそうな者が居れば、その旨を推しつつ猫達を勧めてみようと思う
迷ったならば大人しい猫を差し出し一度抱いてみて貰おうか
…斯様に愛らしいのだ、一度撫でてしまえば手放せまい…と
…、…まあ、俺も人の事は言えんがと。手放すつもりのない愛しい大きな猫へ視線を向けつつ笑みを向けよう
いや、皆なんだ。善き者と縁があれば良いと思って、な
そう声を投げつつも宵の言の葉には大きく頷こう
…ああ、この様子ならば大丈夫だろう。きっと、な





 首尾は上々といっていいだろう。既に三分の一ほどの動物たちが居場所を見つけて巣立って行った。
 『有能な戦力』としてもらわれていく犬たちの新しい家族に、逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)がリーフレットを手渡す。任務に赴く前に調べ、わかりやすくまとめた「犬の正しいしつけ方」。添えられた手描きの犬の絵が、宵の心の優しさを表しているようだった。
 犬は古の時代から人間の友として在り、互いに友情を育んできた生き物だ。適切に導けば頼もしい番人となり、子供たちの良き遊び相手にもなる。そうして、犬も人も心穏やかに暮らすことができるのだ。――が、それはあくまで「正しく躾ければ」の話である。
 今回は賢い動物たちが他の動物たちをリーダーとしてまとめてくれるだろうから、ある程度は大丈夫だろうと宵も思う。だが、もしも賢い動物たちに万一のことがあれば。あるいは人間が犬の嫌がることをしてしまったら。良好な関係は瞬く間に崩れ去ってしまうだろう。だから、犬との適切な付き合い方を拠点の住人に周知しておくことは、決して無駄ではないのだ。幸せへの道は、小さな努力の積み重ねで舗装されている。
「犬もいいわね」
 子供を連れた女性が、犬のケージの前で足を止めた。赤茶色の柴犬が、「ぼくのことですか!?」と期待に目を輝かせてぴょんぴょん跳ねた。それを見て子供がきゃっきゃと笑う。宵は、ふんわりと笑って、女性にリーフレットを差し出した。
「柴犬は飼い主に忠実で、良き家族になってくれますよ」
 きちんと躾けて愛情を注げば無駄吠えやイタズラもせず、愛情を返してくれるのだと、柔らかく説く。
「あら、飼い方の説明もしてもらえるのね。犬を飼ったことがないから、助かるわ」
 本当は猫を見に来たんだけど――と、女性は犬と猫のケージを行きつ戻りつしてしばし悩む。それを見て、今度はザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)が話しかけた。
「猫も小さな害獣から食糧を守ってくれる善きパートナーとなる。……“番猫”は、難しかろうが」
「ちょっと、ザッフィーロ」
 ――どきり。
 苦笑いを含ませて、宵が自分たちで客を取り合ってどうするのだと小さく抗議する。が、ザッフィーロの耳にはそれは届かない。反芻するのは、少し前の言葉。
『ちゃんと面倒みてくださいね』
 やきもちを妬いてツンとした態度の宵がザッフィーロを呼び捨てにしはじめたのは、それからすぐ後のことだった。愛しい“猫”に振り回される心地よさに、うっかり溺れてしまいそうになる。
「――聞いてます?」
 ずい、と宵の顔がアップで迫る。
「んっ。……あ、ああ。無論だ。迷うならば、一度猫を抱いてみるといい」
 軽く咳払いをして、ザッフィーロはケージから猫を出す。「聞いてませんね」という宵の声は、やはり届かない。
 わあい、猫ちゃんだ。と喜ぶ子供にそっと猫を手渡すと、大事そうに抱きしめる様に頬を緩ませた。
「うむ。斯様に愛らしいのだ、一度撫でてしまえば手放せまい」
「――それは、きみの個人的な感想ですよね?」
「当然だ。俺も“俺の猫”を手放す気には微塵もならぬ」
「!」
「どうした」
「――いえ。なにも」
 そういうところ、少しだけずるいです。宵は自分の口許を掌で覆った。蔓の意匠が彫られた指輪が、くすりと笑うように光った。

「ありがとうございます」
「達者に暮らすのだぞ」
 犬にしようか猫にしようか、しばらく悩んだ挙句に子供の「両方飼えばいいじゃん」という一声で、親子は犬と猫を一匹ずつ引き取って行った。きっと、賑やかで幸せな生活になるだろう。
 二人が広場を見渡すと、物資の配給はあらかた終わっていた。食糧や日用品を求めて広場へ現れる人も途切れ、住人たちはめいめい自分たちの住処へ戻っていく。
「……この拠点は、これで終了ですね」
「そのようだな」
 動物たちのケージを見る。一ヵ所で全てを引き取ってもらうことはできなかった。が、それでいいのだ。あまりに多くの動物を抱えてしまっても、拠点が養えるキャパシティを超えてしまいかねない。愛情であっても、善意であっても、養いきれない数を養おうとしてはいけないのである。
「――さて。次の拠点へ向かう準備をするか」
「ええ。残った子たちも、きっと良き家族と出会えるはずです」
「そうだな」
 差し出されたザッフィーロの手に、宵と同じデザインの指輪が光る。植物の蔓がゆっくりと支柱に絡むように。支え合う誰かとの縁が、きっと誰かに繋がっているのだ。

 “市”を畳んで、猟兵たちは拠点を発った。動物たちの愛しき家族に縁を繋ぐために。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年07月17日


挿絵イラスト