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厄災、罹災、死の行軍

#アポカリプスヘル

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#アポカリプスヘル


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●獲物
(まだだ)

 息を潜め、引き金に指をかける。瞬きをする間を惜しみ、一点を凝視する。
 視線の先――このシェルターの扉を守る見張りはたったのふたりだ。しかし、奥には戦える者がざっと16人は控えている。物資補給のために出ていった18人、今は手負いで前線に立てぬ24人を除いてもそれなりの数、それなりの群れだ。
 油断してはならないと己に言い聞かせる。

「外の奴等はまだなのか?」
「ああ。そろそろ来てもいいんだがな……」

 保管庫と呼ぶ別シェルターまで地下通路で片道徒歩15分。運ぶ物資の量を考えても、帰還連絡があってもいい頃合い――否、聊か遅い。
 取りに行ったのは今週分の食糧だけだ。普段ならばもう帰還している。弾薬や火薬のような危険物がないのだからもっと早く着いてもおかしくはないと、こ奴らも気付いただろう。

(まだだ。まだ耐えろ)

 唾を飲んだ喉が鳴る。汗が流れ落ちる感覚が後頭部をじっとりと撫でる。
 好機以外は捨て置け、最初に狙うと決めた瞬間だけを待ち続けろと脳裏に言葉を反芻させて呼吸を整えた。

「なあ、もしかして敵襲が……」
「そんなはずはないだろ。上の連中から接敵連絡もないし、あそこまでの通路や出入口に不備はなかったって一昨日の点検でも分かってるだろ?」
「でもなぁ……」

 嗚呼、嗚呼。
 疑り始めている、疑り始めている。最早他人の言葉など信用ならない。じきに己が目で見たものさえ怪しむだろう。
 今こそ。

「――おい、連絡があったぞ。D-3から侵入者だ。現在応戦中だが思っていた以上に数が多く、手が足りないらしい。他の連中も直ぐ支度を終える。開けてくれ」

 近付いて、声を掛ける。
 慌てた見張りのふたりは左右の操作盤でロックを解除した。ゆっくりと持ち上がる鉄扉、空の通路が見えたと同時に尋常ならざる力で蹴飛ばされるひとり。棒立ちするもう片方の仰天の表情。
 背後より鉈で首を裂けば血飛沫。口を押さえてやったからか呻き声さえ上げられぬ儘、獲物が血だまりに崩れて落ちる。
 立ち上がろうとする片方の背に跨り、頸に刃を宛がえば体重をかけ斬り落とす。無様な様相で固まり転がる首ひとつ。

 嗚呼。
 やはり獲物を仕留めるこの瞬間は堪らない。

●出動
「至急出動準備を。救援要請だ」

 多くは頭上より、一部には耳に程近い距離から、或いは見下ろすその先より。見知らぬ男に呼び掛けられて猟兵達は足を止めた。
 至急と言う割に言葉少ない男へどこに向かえばいいか問い掛けようとしたところ、男の持っていたタブレットから合成音声が発される。

『補足致します。これより約72分後、アポカリプスヘルに存在する地下シェルター「AX-073」がオブリビオンに襲撃、崩壊します』

 合成音声は次いで、所有者をグリモア猟兵ハウト・ノープス(忘失・f24430)であることを伝えると要請の詳細を説明し始めた。
 モニターに映し出された地図によると該当のシェルターは入り組んだ地下通路の中にあった。食料や生活用品を保管している倉庫、武器や弾薬など戦闘に必要な品を保管している倉庫などもあり、生活にも迎撃にも然程困ってはいない。
 一般市民を保護しているという広大な空間の出入り口は、各保管庫の出入り口と同じく地下2階に用意されていた。その上、出入り口を守る重たく厚い鉄扉は人の手のみならずオブリビオンの力を以てしても苦戦する代物だ。
 狭い地下通路の先にあるが故、巨躯のものや戦車の乗り入れもできずにいた。だから、知恵を絞ったのだろう。

『ハウト・ノープスの予知によると、一般市民多数を保護するこのシェルターにオブリビオンが一般人に擬態して潜入。偽りの情報でシェルター唯一の出入り口を開放させ、見張り役の2名を殺害。外部に待機させていた別動隊と合流し、シェルター内に残る戦闘員と一般市民全員を虐殺。生存者はなし、状態のいい死体はゾンビとなって彼らの兵にされるでしょう』

 このままでは犠牲が増えるどころか新たな敵まで生み出してしまいかねない。だからこその至急通告だったのだと男が口を開いた。

「転移についてだが、該当のシェルター内部に送り出すので、まずは潜入している敵個体の撃破に務めてくれ」

 以上だ、と締め括れば猟兵達の様子を確認する。
 既に支度は整っていると言いたげな彼ら、彼女らの目を丁寧に見つめ返していくと、ハウトは取り出した青い球体に小さく呟く。
 認証、宙に浮かび上がる球体は内より光を発しながら回転し、次第に光を強めていった。

「では転送を開始する」
『Good Luck――皆様のご武運をお祈りしています』
「戦闘は任せた」

 ふたつの声が響く中、猟兵達は戦場へと移送された。


日照
 ごきげんよう。日照です。
 十三作目は拠点防衛と見せかけた戦闘メインのシナリオです。大暴れです。

●シナリオの流れ
 各章、断章更新後にプレイング募集を開始します。
 一章では潜入しているオブリビオン、主喰らいと戦います。
 冒頭に出てくる見張りなど一般人達の保護については考えなくても構いません。戦闘に集中してくだされば全員生存できます。

 二章ではゾンビの群れと戦います。
 多くは語りません、全員ぶっ飛ばしてください。

 三章では主喰らいに潜入を依頼したもうひとりのオブリビオンと戦います。
 現時点正体は不明ですが、強力な敵であることに変わりはありません。

●戦場について
 一章と二章以降で戦場が変化します。
 一章ではOPで描写された地下シェルターの入り口~地下二階通路、二章以降は地下一階に上がっての戦闘となります。
 地下一階は元々は地下繁華街として使われていましたが、最早かつての面影は一軒たりともない寂れたシャッター街です。階下に影響を及ぼさない程度になら破壊しまくっても構いません。

●あわせプレイングについて
 ご検討の場合は迷子防止のため、お手数ではございますが【グループ名】か(お相手様のID)を明記くださいますようお願い申し上げます。

 では、良き猟兵ライフを。
 皆様のプレイング、お待ちしております!
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第1章 ボス戦 『主喰らい』

POW   :    速射狙撃
【高速連射の銃弾】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD   :    贄の印
【大鉈】で攻撃する。また、攻撃が命中した敵の【習性と味】を覚え、同じ敵に攻撃する際の命中力と威力を増強する。
WIZ   :    誇りを賭けた主喰らいの一撃
自身の【右腕】を代償に、【銃弾へ触れた物質を破壊する力】を籠めた一撃を放つ。自分にとって右腕を失う代償が大きい程、威力は上昇する。

イラスト:FMI

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠タケミ・トードーです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●警戒
 今日は備蓄を追加する日だ。
 残存戦力を分け半数を此処の防衛に、半数を食糧庫に向かわせる。
 此処数週間居座り見張り続けて知ったこの群れの習慣だ。最早間違えようもない。
 先程上の子娘共にも一報を入れてやった。じきに楽しい愉しい狩りが始まる。

 はずなのだが。

 先程急に戦闘員が増えた。なんでも非戦闘者共から武器を取る覚悟を決めた連中が出たらしい。
 獲物が増えるのは喜ばしいが、此方の算段から外れた行動を取るやもしれぬ。
 警戒を。俺は見張りと待機班の中継役を平常通り立候補する。
 幾つかの受話器が貼り付いた壁の隣に寄りかかり、荷台や武装の支度を整える新兵達を見遣った。
 今まで情けない神への祈りを捧げ震えていたにしては、中々に良い面構えだ。負傷した者達を見て腹を括ったか。
 あれらを狩るのは楽しそうだ。乾き始めた唇を舌で舐めて誤魔化した。


●補足
 最初の1名様のみ、主喰らいの擬態を見抜くシーンを追加致します。
 既に戦闘可能な人含む一般人NPC達はグリモア猟兵と共にシェルター奥の大スペースに避難し、更なる鉄扉で守られています。
 なので、相手を見抜いたという台詞、行動を少し追加してください。主に主喰らいが悦びます。
 複数名プレイングをいただいた場合は主喰らいが最高に殺したくなった方を告発役に採用します。
(以外の方は普通の戦闘シーンのみ採用となります)
オヴェリア・ゲランド
●看破
一目見た時から気になっていた、側に寄ればその体臭に違和感を覚えた…そう、私はこの匂いを知っている
「おい、貴様…そう、貴様だ
私の目を見ろ、貴様からは…死臭が漂っている!」
殺戮の香り、殺意を発する者独特の体臭…コイツがそうだ
確信した私は覇剣を薙ぎ払い一閃する、私の辞書に躊躇いと容赦の文字はない

●戦法
「銃使いか、ならば!」
選択するは【デュエリスト・ロウ】
「剣帝オブェリアの名において命ずる…射撃武装の使用を禁ずと!」
それでも奴は撃ってくるだろうが、弾は覇気で逸らし、覇剣で武器受けし、私はただ剣帝の名の通り近づいて斬り裂くのみ

●アドリブなど大歓迎

●服装
軍服風の衣装、タイトなミニスカート



●咆哮
「おい、貴様」

 空気が瞬間、張り詰めた。
 壁に寄りかかっている男へと声を掛けたのは新兵らしからぬ雰囲気の女だった。靡く白銀、若々しく均整の取れた肉体と白く瑞々しい容姿とは対照的な圧倒的な存在感。立ち振る舞いも服装も規則正しく鳴る踵の音も、女にぴしりと当て嵌まっていた。
 互いに手は届かぬ程度の距離まで接近し停止すると、オヴェリア・ゲランド(銀の剣帝・f25174)は硫酸銅の結晶めいて奥深い青の双眸を男に向けた。

「――俺か?」
「そう、貴様。他と比べても一際臭う貴様だ」

 男をびっと指差し、オヴェリアは眼光を研ぎ澄ます。
 一挙手一投足に肌が粟立つ。男は自分の意思とは関係なく眼前の女へと恐怖を感じていた。この女はいつからこのシェルターに逃げ込んでいた。これ程の逸材が何故今まで埋もれていた。疑問は沸けども今は関係のない事だと男は大半を切り捨てる。
 男は今、他の人間同様に己を演じねばならない。いちゃもんと言ってもいいような苦情の類には冗談と真実を織り交ぜて返せばいい。かつてそうだったように、今そうすべきと判断した。

「すまないな。風呂など週一で入れれば有り難いような状況だ。若い女からすれば不快だろうが此処は戦場、多少の我慢は出来ねば生き残れないぞ」
「言いたいのはそういう事ではない。貴様、私の目を見ろ」

 が、女は引かず。その目を更に爛爛と、獲物を見つけた猛禽の如くに見開いた。

「貴様からは……死臭が漂っている。殺戮の香り、殺意を発する者独特の体臭……肉の味を知った獣の臭いだ……嗚呼!」

――そうだろう、侵入者(オブリビオン)!!

 女の咆哮。
 男は――オブリビオン『主喰らい』は反射的に愛銃を抜き、瞬く間に女の眉間へと照準を定めた。が、ほぼ同時。女の大剣が主喰らいの首筋を捉える。
 刈られる、狩られる!!そう感じた時には引き金を引こうとしていた指先を固めたまま身を屈め、女の容赦ない一閃を躱していた。オヴェリアから距離を取ろうと出入口方面へと転がり跳ね、体勢を整える。

「銃使いか、ならば!」

 オヴェリアは剣を持たぬ片手の手袋を口で器用に脱ぎ、それを射程から離れようとする主喰らいへと投げつけた。主喰らいは空いた手で払い除けるもオヴェリアの目的は目眩ましでも足止めにも非ず。
 立ち上がった男が再び銃を構えるも、女の猛き宣告が引き金を引かせない。

「剣帝オヴェリアの名において命ずる……射撃武装の使用を禁ずと!」

 バヂッ!!!
 主喰らいの指先に奇妙な衝撃が奔った。施行された規則がこれ以上その指を曲げるのならば相応の代償を支払ってもらうぞと言う。たったそれだけの動作に対して、貴様の身体の何れかを寄越せと脅されている。
 だというのに、主喰らいは女から目が離せなくなっていた。一秒でも早く反撃の策を練らねばならないのに、唾を呑み女が剣を構えて自分に接近してくるのを見つめている。
 恐怖はない。寧ろ内側より得も言えぬ程の恍惚が己を塗り潰していくようだった。殺せる距離で、殺される距離で、今すぐにでも殺し合えるこの状況で、男は悦んでいた。

 嗚呼、嗚呼!
 俺を、俺を侵入者(オブリビオン)と呼んだか!
 俺が、俺が過去より染み出た怪物と気づいたのか!
 だというのに、敵だと見抜いた上で不意も打たずに真っ向から俺を呼び、俺に挑んだか!

「ふは」

 嗤う。
 主喰らいは躊躇いなく引き金を引いた。細長い銃身が真っ直ぐに女の胴へと伸び、鉄の顎から吐き出されたのは弾丸群。鞣した皮程度ならば容易く食い破る鉛の獣達はオヴェリアへと牙を剥く。
 銃口の向きで何処を狙っているかは分かっていた。が、オヴェリアは迷わず前進。迫り来る高速の弾丸群など気に留める様子もない。
 否、回避をする必要もなかった。強めた覇気が弾丸の速度を僅かに落とし、角度を変え、刹那の一閃を以て斬り落とされる。≪剣帝≫――その称号に相応しく、オヴェリア・ゲランドは男の凶弾全てを切り裂き、堂々正面から進撃する。

「やはり破ったか!だが、従わない以上罰を喰らってもらおう!」
「っはは、そうか。これはそういう奇術か。面白い、面白いなぁ……」

 制約を破った代償は主喰らいを確かに苦しめていた。臓腑一つを生きながらに食い破られるような痛苦。しかしこの程度でこの狩場から離れるわけにはいかないと、生前から持ち越していた唯一が叫んでいた。
 男の歪んだ笑みを前にしてもオヴェリアの剣は容赦なく振り下ろされる。間一髪で男が避ければ返す剣の風圧で体勢を崩しにかかった。背中から後ろへと倒れ込む主喰らい。
 その体勢のまま一発。眉間を狙った主喰らいの弾丸は覇気により逸らされ、オヴェリアの白い頬の横を掠めることなく通り過ぎたものの、狙いの正確さは寸分狂うことなく。

「いいぞ、狩りを始めよう。群れる雑魚共よりも楽しめそうだ。来い、俺が殺してやろう」
「好きに吼えろ。大口を叩けるのは今だけだ。……が」

 至近での打ち合い、撃ち合い。銀の剣帝と謳われた己の剣が未だ届かぬというもどかしさと、確かな強敵を前にしているという高揚はオヴェリアの内を灼いていた。これを打倒したなら更なる高みへ至れる。そう思えば剣を握る手に力が籠った。
 故に、覇王は男の狂笑に応え、不敵に笑う。

「私に挑むと言うのなら……よかろう、堂々受けて立つ」

大成功 🔵​🔵​🔵​


 二つの間に緊張が走る。
いつ攻撃し合ってもおかしくない、静止にも似た刹那。周囲さえも置き去りに覇王と主喰らいは互いを睨めつけ合う。

 が、オヴェリアは微笑と共にその静寂を打ち破る。先程までとは異なる女の笑みに警戒した男は照準だけ合わせたまま引き金は引かず、女の剣の届かぬ距離まで下がった。オヴェリアはその様子に薄く息を漏らすと覇気を緩め、銃を構える敵を前に剣を下ろした。

「何故下ろす」
「これが、私一人で挑む戦いならば貴様と永劫でも打ち合っているがそうではない」

 ここにいる理由。更なる強さを求めて邁進する女にとって、ここは新たな戦場であり修行場だ。眼前の強者を打ち倒し、己を高めるためにいる。
 だが、それだけではない。オヴェリア・ゲランドは王なのだ。
 民草の命を守るために戦わねばならない時がある。人類の脅威を払うために戦うべき時がある。己の欲、目的の為だけに動くのではなく、世界を取り巻く暗雲を切り裂き一条の光を呼び込むために、今は行動すべきなのだ。
 女は笑う。笑って、己の役割を果たした事を宣言する。

「これは、我々猟兵(イェーガー)による戦いだ」
渦雷・ユキテル
あら、随分落ち着いてるんですね
非常事態時の人間の心理にまでは
考えが及ばなかったんですかー?

銃が厄介そうですし
近距離から仕掛けられる状況なら
UCで用意したカランビットナイフで【だまし討ち】

さらに電撃の【属性攻撃】【マヒ攻撃】で
動きを鈍らせたいので
鉈を振るわれる前に
腕に触れられると理想ですね

一撃で殺そうなんて思っちゃいません
だから狙うのは首でも腕でも――
腕にしましょうか
微量の出血だって侮れませんよ
血の付いた手じゃ武器を握りにくいでしょ
あたしにとって大事なのは弱体化と
間合いのコントロール

もし相手に退かれても
少しの距離なら握り方を変えれば
届くんですよ、このナイフ
それが面白くて使い方をずっと覚えてたの


忠海・雷火
堅守を崩すなら内側から。間者に注意する土壌は、平常心を失わせて腐らせる
本当……よく考えるわね

最初は人格を変えず戦闘
射線に入らないよう見切りを心掛け、時折死霊を喚び嗾しかけながら接近する
とはいえ頭の回る敵、戦闘知識と第六感で跳弾やフェイントも警戒し、間に合わなければ武器受けで対処
ある程度近付く頃には私の癖を読まれると見て、カイラに人格を切り替え敵の感覚を狂わせる

数歩分の距離は捨て身で懐へ飛び込み敵の片脚に斬撃、立て直す迄の間にユーベルコードの血針を胴に投擲する二回攻撃
直後に蹴りを食らうは想定済み。片脚を貰った以上、此方の体勢が大きく崩れる威力にはならない筈
その後に撃ち込まれる弾も致命にはなるまい



●狩猟
「堅守を崩すなら内側から。間者に注意する土壌は、平常心を失わせて腐らせる。本当……よく考えるわね」
「ですねー。でもま、非常事態時の人間の心理にまでは考えが及ばなかったみたいですけど」

 狭い搬入口だけで戦闘を行えば破損や故障に繋がるため、戦闘開始とほぼ同時に扉の開放を行うことが決定していた。操作方法を教わった渦雷・ユキテル(さいわい・f16385)と忠海・雷火(襲の氷炎・f03441)のふたりは、挑発役となったオヴェリアがオブリビオンと接触するのを確認すると二重になっている鉄扉を左右の操作盤に解錠コードを入力。オープン・セサミ。
 通路側、シェルター側の順番に扉が開けば、今度はこの扉を敵側が勝手に操作できないように施錠コマンドを入力する。

「と・び・ら・を・ロ・ッ・ク……っと!こっちオッケーですよ」
「こっちも完了。手筈通りにお願いね」
「はいはーい、じゃ、あたしもお仕事始めましょうか」

 散開。
 他の猟兵達が通路へと抜けていく中、覇気を緩めたオヴェリアと主喰らいに向かって跳んだのはユキテルだ。丁度此方に背を向けてくれている敵へと雷鳴の如く接近し、小指に引っ掛けたカランビットナイフを握り込む。
 光が爆ぜる轟音に振り返ってももう遅い。腕に焼けつくような一筋の痛みが走り、

「はーい、こんにちはー」

 能天気にも聞こえる間延びした声色が頭上を通り過ぎていく。自然界では見慣れない色合いに否が応にも視線が吸い寄せられるが、咄嗟に構えた銃口の先にはもういない。
 剣帝と入れ替わるように狩人の前に躍り出たユキテルはワンステップ。くるりと主喰らいの方へ向き直ると平常通りの営業スマイルを見せた。
 しかし、主喰らいの目に映っているのは獲物を狩る為の情報のみだ。見目の鮮やかさに騙されることなく眼前の獲物がどんな生物かを経験から基づく知識で分類する。四肢が細くしなやかでありながらも筋肉の付きは女のそれとは異なり、仕草は柔らかくなよついてはいるが脂肪は少ない。

「あら、随分落ち着いてるんですね」
「女――いや、男だな」
「そういうデリケートなところには触れない方がモテるんですよ?」

 気には留めず軽口で返して、ユキテルはとん、とん、と爪先を二度鳴らす。
 気の抜けた言動に対して常に臨戦状態、油断も隙も見せてはならないと主喰らいは銃口をユキテルへと向け――気付く。右腕の違和感、微々たる異変、痙攣。

(成程、麻痺毒か)

 先程の攻撃は此方の気を引くためのものではなく、刃に塗布した毒を自分に与える為か。冷静に分析しつつも震える腕を下げる事はなく照準を定める。
 敵の僅かな動作から忍ばせた微細な電流が効いているのを察したユキテルはナイフの持ち方を変えて、ストロベリーピンクの眼差しにスパイスをひとつまみ。
 再接近。今度はまだ視認可能な駆け足で正面、敵の注意をぎりぎりまで引きつつ、寸前で照準から逸れて右腕にもう一撃を重ねようとした。射線から離れるまであと5歩、4歩、3歩。

「俺には」

 銃を手放し、素早く鉈を引き抜く。

「これもある」
「おっとと」

 あと2歩の位置で踏み込まれ、逆手で振り上げた鉈の一撃にユキテルの回避が若干遅れた。身を庇った左腕を掠る鉈の切先、想定よりも離れた標的。

(でもまだ届く)

 柄頭のリングへ引っ掛けた人差し指以外、握り込んでいた指を離す。手早く持ち替え親指で押さえつければ先程の倍に伸びた刃の距離。面白くなって、楽しくなって、何度も練習した握り方のひとつだ。
 踏み込む一歩。獣の如く跳び込み、主喰らいの右腕にもう一筋の爪痕を残したユキテルはそれ以上を狙わず、速やかに出入口へと走った。狙いは敵の弱体化、二重に与えた麻痺の電流は敵の攻撃から正確性を奪った事だろう。
 大鉈に極僅かながら付着したユキテルの血を舐めとった主喰らいは獲物の習性を理解する。獣というよりは蜘蛛の狩猟に近い。絡めとり弱らせ追い詰めてからこの命を喰らいに来るのだろう。
 そうなる前に。

「次は胴だ」
「丁重にお断りしますー、じゃっ!」
「逃すか!」

 通路に出ていくユキテルを狩人は銃を引っ掴んで追い駆ける。腕の痺れより、この面白い獲物にいち早く追い付き寸断したいと笑う男を、うっわ気持ちわるぅーと一瞥してから乙女は速度を上げる。
 腕の傷がじくりと痛みを帯びてきた。掠っただけと思っていたが想像よりも傷が深かったのかもしれない。変な毒や細菌が混じっていても嫌だからさっくり手当を終わらせたい。

「あとお願いしますね」
「ええ」

 金と紫黒が交差して、ユキテルは通路の先へと駆けていく。代わりに主喰らいの前に立ったのは雷火だった。気怠げに伏せていた目蓋を持ち上げて接近する敵の姿を両の紅で捉えれば、短い詠唱。召喚の支度は既に整えていた。
 扉を潜り抜けた主喰らいの脚に、突如床から生えてきた亡者達の腕が伸びる。飛び退いた先には別の死霊が両腕を広げて熱烈な抱擁で出迎えた。それを蹴破り、壁に跳ぶ。

「小賢しい!!」

 主喰らいは足が着いた直ぐに壁を蹴り、新たに呼び出された死霊を踏み潰し、雷火へ突進。両の手で握り、渾身の力で振り抜かれた大鉈を雷火は銘なき刀で受け止めた。
 が、受けきれない!相手の力の方が上だと手応えから判断すれば、同時に刃を傾けて力の加わる方向を変えてやった。大鉈の切先が髪と頬を掠めれば、狩人は距離を取り新たに得た血の味から大まかな習性を把握する。この獲物相手なら銃を使う必要はない、鉈を握る手に力を籠めて、半歩下がる。
 頬の傷を指でなぞり、雷火は眉根を寄せた。今ので此方の戦闘能力は相手にばれたかもしれない。

(近付けはするけど隙が作りにくいわね……)

 狙うは片脚、機動力を削ぎ落してやれば今度の戦いに大きく影響を及ぼせるだろう。
 が、出方を変える必要がある。手首に輝くブラックオパールに虹色を遊ばせて、新たに呼び出した死霊を主喰らいへと跳び付かせた。その後ろ、紛れ込むように雷火も走る。
 見切った!と言わんばかりに主喰らいは口角を吊り上げ、一閃。狙われたのは、女のすべらかな白い首。

「――っ、『カイラ』!!」「解った」

 同じ口から同じ声、違う声色。
 人格変更(スイッチ)と共に雷火だった獲物の動きが変わった。ずるんと姿勢を低くして刃を躱せば前方へ、主喰らいの懐へと飛び込んで片脚を斬り付ける。同時に詠唱、己の血を媒介に紅い針を刻印から創り出し、すり抜け際に胴へと投擲、命中。
 反撃しようとするも、カイラは既に主喰らいから数歩離れた先。背中から着地した鈍い痛みに耐えて立ち上がって無感情に狩人を見ていた。

「小娘、貴様何をした?」
「これから分かる」

――我が身に宿る餓犬よ。血道を辿り、内より喰い散らせ。

 詠唱、転移。
 腹の内側に感じた異物感と、その直後に走った激痛に主喰らいは目を剥いた。臓腑に牙を立てられる幻痛、違う幻痛などではない。いる!己の内側を駆けずり食い破っている!
 喰い尽くされる前に引きずり出さねば!躊躇いなく腹へと刃を向けるも、それより早く激痛の正体が男の腹を食い破って飛び出してきた。どす黒い己の血に混ざるのは、青黒い煙の凝り。獣と同じ四つ足ではあるが、獣ではない何かが女の元へと還り、鋭角に消えた。
 腹の傷、脚の傷、右腕の痺れ。直ぐには立ち上がれないだろうと判断すれば、カイラは肉体を再び雷火へと預けて奥底へ眠る。表に戻って来た雷火だが、一度味を覚えられてしまった以上深追いは危険だろうと死霊を集めた。
 敵はこの男だけではない。何よりひとりで戦っているわけでもない。

(これだけの負傷、直ぐに追い付かれないとは思うけど)

 死霊の群れを壁に、雷火はユキテルと同様に通路の先へと――他の仲間たちが待つ場所まで退避する。
 何も知らない狩人は獲物の姿を見失わぬようにと、死霊たちを片っ端から薙ぎ倒し痛む脚を引き摺って駆けた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​


 腕と脚の切り傷には軟膏を塗り、食い破られた腹の傷は裂いた着物で縛る。
 雑で不衛生ではあるが何もしないで放置するに比べればましだ、手当てしたというだけで気の持ち方も変わる。
 しかし逃げ足の速い獲物達だ。この地下通路が侵入者対策に入り組んでいることは解ってはいるが、獲物を追うという点においてもこれほどまでに機能するとは。この先の何処にどのように彼奴らが潜んでいるのか、そもそもあと何人程度が彼方に回ったのか。
 だが地の利は此方にある。
 来るべき時の為にと耐え抜いた数週間、獲物共と過ごした日々は無駄ではない。この先の通路には武器弾薬を収めた倉庫と上層への秘密通路が数カ所ある。もうじき小娘が化物共を引き連れて攻め込んでくる。数なら此方が上になろう。
 俺がすべき事はふたつ。ひとつは当初の計画の完遂。もうひとつは――あの面白い獲物達を須らく狩り尽くすことだ。
 さあ、どこに潜んだ。どんな罠を張る。お前達がどんな動きを見せようが俺は粘るぞ。

「ここは俺の山だ」

 狩人は未だ、獲物にはならず。
夷洞・みさき
そういう生き方しかできないとはいえ、現世での咎を僕等は見逃してはあげられないんだよ。
そっちも擬態をするなら、僕もそうさせてもらおうかな。

【SPD】
姿を変え、逃げ遅れた少女を装う。
心細い時に、大人に出会った安心に無邪気な喜びを。
安心した所から一転突き落としたいという願望があれば、手を出すと良い。

とはいえ、この子も咎人殺しであることは変わらないけれどね。

戦闘には鉈には鉈。命中率が上がってもそれ以上の加速で回避を試みる。
相手が慣れてしまえば元に戻る。
僕はキマイラ(混ざり者)だし、人が変われば、修正も味も変わるだろう?


みさきちゃんにかっこいいところみせてあげるね。



●子供
 摺り足。
 主喰らいは獲物の姿を見失って以降、脚運びひとつに至るまで音を殺していた。代わりに聞こえるのは獲物達の音だ。声は抑えているようだが、幾つもの足音が自分から離れた場所で忙しない行進曲を奏でている。

(迂闊な連中だ。俺が追ってくることくらい想定しているだろうに)

 と、集中する男の耳に異物が混ざる。
 正確には奇妙な声だ。すすり泣く、幼い声。新兵を名乗る者達に若者はいたが、年端もいかぬ子供などひとりとして混ざってはいなかった。ならば何故、この戦場にこんな声が聞こえるのか。
 声はこの先の道から聞こえる。確か幾つかの分かれ道の中には空のまま解放されている倉庫もあった。荷がない時には扉を開け放ち、万が一敵が攻め込んできた時には時間稼ぎや罠として使う為にそうしているのだと聞いた覚えがある。
 だが子供(ガキ)が何故こんな場所にいるというのか。耳を疑いつつも、男は今までの潜入生活を思い出す。退屈なシェルターでの生活に飽きないようにと、大人達の念入りな確認の後に地下通路に出る事を許可していた。子供達も、広いとはいえ閉塞的なシェルター内と比べて、長く広い道を走っては笑い、空の倉庫の中ではしゃぎ回っていた。
 流石に数日に一度しかできない事ではあるが、直近ではいつ行ったかと記憶を辿れば、

(そうだ、昼飯の後に一度開放の時間があった。あの時か)

 思い出す。ほんの数時間前の事だというのに頭から抜けかけていた。
 そうと分かれば主喰らいは角から通路を覗き、獲物の姿が見えないことを確認してから音無く声の方へと進む。これは親切心ではない。何れ丸く太る時まで生かしてやる、そんな傲慢だ。気が変わったならその場で撃ち殺して、先の獲物達の前に放り投げてやってもいい。
 使えるかどうか、まず確認を。主喰らいは獲物を一度納めて細い通路へと入っていった。
 声が近づく。開いたままの扉の先、ぼうっと見える白と赤の影。鉈は背に隠し、けれどいつでも引き抜けるように右手を後方へと回して、泣き声の正体に声を掛けた。

「どうした。迷子か」
「あ……」

 男が見つけたのは10歳前後の少女だった。
 朝焼けに似た赤い髪を揺らし、紅玉色の両目を見開いて男の事を見上げて、泣き腫らした眼を腕で擦ったならぱあっと破顔。大人の迎えを無邪気に喜んだのだろうが、次の瞬間はっと何かを思い出したように眉尻を下げる。

「その、ね。探しものしてたの。でも見つからなくて」
「そうか。だがもう遊び時間は過ぎた。今なら扉も空いているからさっさと帰れ」
「ごめんなさいおじちゃん。でもちゃんと見つけたよ。あのね」

 ぶっきらぼうに言い捨てて、少女が立ち上がれるようにと左手を伸ばす。未だ若干痺れた右腕ではうまく支えてはやれないだろうという懸念からだった。
 少女は男の筋張った手を重ねた。あどけない微笑みを男へと向けて、重ねた手に力を一瞬籠めて、立ち上がると共にずろんと抜くのは暗がりに鈍く光る刃のついた……

「わるいひと」

 咄嗟に手を振り払い後方へと避ける。
 ぞん、と人差し指と中指の先を刎ね飛ばしたのは男自身が使っているものよりも大振りな鉈だ。幼い子供が持つにしては重く大きすぎる代物だが、少女は平然と片手で振り回し、体勢を立て直すと悍ましい速さで追撃を狙ってくる。
 動じながらも鉈を抜いた主喰らいは両手で柄を握り応戦。ぎぃん、と鉄のぶつかり合う音。体重を乗せてはいるが一撃は軽い。力任せに鉈を振り抜くと、少女の身体は倉庫の壁まで吹き飛ばされた。
 身を捻り、壁に足を着ける。猫のしなやかさで床に着地すると、再び接近。今度は鉈を握った手指ではなく血の滲んだ胴へと狙いを変えて大鉈を薙ぐ。
 これも辛うじて受け止めると弾き飛ばし、主喰らいは少女の腕を斬り飛ばした。出血、しかし悲鳴ひとつあげることなく、真っ赤な目玉を見開いたまま少女は男を蹴り飛ばして距離を取る。
 ぼたぼたと血の滴り落ちる肘先を見て、紅い少女は深くため息をついた。刹那、ごそりと崩れて形を変える。死人の様に血の気のない膚だけをそのままに、髪は漣の白さへ、瞳は狂気を孕んだ月の金色へ。
 鱗ある手足を補って立ち上がったなら、そこにいるのは最早少女ではない。

「――貴様、化けていたか!」
「そっちも擬態して忍び込んでたからね、僕もそうさせてもらったまでだよ」

 長い髪をざらりと両手で掻き上げて、夷洞・みさき(海に沈んだ六つと一人・f04147)が嗤った。広がった髪が自然と編み上げられていくのを見ながら、主喰らいは得物を猟銃に持ち替えてみさきを狙う。

「見たところ、猟師なのかな。そういう生き方しかできないとはいえ、現世での咎を僕等は見逃してはあげられないんだよ」
「咎だと?命の奪い合いは自然の摂理、咎などとは言えまい」
「だからと言って奪い過ぎは駄目さ。生態系の破壊はいけないよ」

 男はぐっとグリップを握る力を強める。まだ痺れの残った腕ではうまく照準が定められない。だが、この獲物は仕留めておかねばならないと先程打ち合って感じた。
 まだ、いる。
 あの紅い少女の他にもまだいる。この白い女の他にもまだいる。数は解らずとも早めに殺しておかねば面倒な獲物であることだけは直感で理解していた。
 だが、みさきは己へと向ける銃口に怯むこともなく、平然と背を向けた。

「とはいっても、一度僕の得物を取りに行かないと。一旦失礼するね。また会えたなら遊んでよ、『おじちゃん』」
「待てぇい!!」

 一発、弾丸は背を向けたままのみさきに命中することなく上空を掠め飛び、予期せぬ方向へと跳弾した。
 耳に残ったのは、幼い子供の笑い声のみ――

成功 🔵​🔵​🔴​

コノハ・ライゼ
あは、まさしく狩りネ
イイよ、存分に楽しもうじゃナイ

こう見えて死霊を扱うのもオシゴトなの
生死を見抜けなきゃお話になんないデショ
それに……喰らうモノ同士、臭いはよく分かるよぉ
術士の目と生まれ持つ獣の嗅覚で『追跡』し特定
素早く「柘榴」で肌裂き血を吸わせ【紅牙】発動、
獣の牙の如き不揃いの鋸刃で喰らいつく

銃弾は銃口などから軌道『見切り』躱しつ『オーラ防御』で弾いてくケド
いくらか当たった所で気にしないわ
『激痛耐性』で凌ぎ溢れた血も更に柘榴にあげマショ

さあもっともっと喰らわせて
じゃなきゃ割に合わないデショ?
『2回攻撃』活かし『傷口をえぐる』『生命力吸収』で傷を塞ぐわ

ねぇ、狩られるのはドッチか理解できたカシラ



●追跡
 主喰らいが警戒しつつ空の倉庫から脱出したその時、すぐ近く、男の行動をじっと観察する影ひとつ。
 それは猟兵達が、主喰らいが既に過ぎ去ったはずの道。扉を開放した後、多くの猟兵は上階へ続く通路へと向かい走ったが彼は違った。獲物を狩るため、事前に確認しておいた隠し通路の一つに一度身を潜めた彼は、主喰らいが猟兵達を追って通り過ぎるのを待った。

 よく跳ねる獲物を見つけたならばそちらに気を取られてしまうのも当然だ。しかもそれらは群れて行動し、自分から逃げるように遠ざかろうとする。
 そうなったのなら追いたくなるのが心理というものだ。ばら撒かれた餌へと気を取られた主喰らいは、己を追うものがいるなどと微塵と考えていなかったのだ。

 過ぎ去った男の気配を探りつつ、丁寧に追跡して現在。
 呼吸を殺して獲物が油断するのを待つ薄氷色の鋭さは、腹を空かせた狐のそれだ。コノハ・ライゼ(空々・f03130)は口元に浮かび上がってしまう笑みを押し付けた手の甲で隠した。
 集中、緊張。
 時折コノハが潜む方向へも何度か目を向けるも、主喰らいはまだコノハに気付いていない。気配どころか殺意さえも消し、通路の先で主喰らいがやって来るのを待つ他の猟兵達へと意識を向けさせ、耐える。

(まさしく狩りネ……イイよ、存分に楽しもうじゃナイ)

 語られた予知の中でオブリビオンも今のコノハと同様に人の群れの中で耐えていたという。確かに、この感覚は他に替え難い。新鮮な肉へと食い込ませるであろう牙の感触、この後に得る全能感の類似品を前借りしながらただ耐える。耐える。待つ。
 男が此方に背を向ける。摺り足で慎重に、慎重に遠ざかろうとしている。

――今だ。

 踏み出し、空を駆ける。間合いのギリギリまで音は出さず、勢いを殺さず。
 刃をなぞる。指先から与える鮮血(エサ)が刻まれた溝へと流れ込み、赤々と形を変えていった。
 そして、寸前。
 溢れた殺気を嗅ぎ取ったか、主喰らいは振り返りながら鉈でコノハの柘榴を受け止める。不揃いの刃が乱雑に生えた捕食の牙が鉄さえ食い潰さんとぎちり軋んだ。

「ハァイ、ご機嫌いかがカシラ?」
「ぬぅ……!」

 至近でにこやかに挨拶しつつもコノハはもう片方の手に氷泪を握り込む。視界の端に煌いた刃の色に気付けば、主喰らいは鉈に食い付いた柘榴をコノハごと力任せに振り払った。よろめくコノハの身体、追撃。

「あは」

 不安定になった体勢のまま、片足を強く踏み込めば後方へと退避する。空跳、距離を取って姿勢を正したならば再び接近を試みる。
 標的が離れたと同時に主喰らいもまた武装を整えた。鉈から銃、持ち替えれば痺れの残る右腕で確りとグリップを握り込み、高速連射。
 吐き出された弾丸は真っ直ぐとコノハを狙うも、銃口から軌道を読み取ったコノハは間一髪で全弾を回避。此方へと銃を向けたまま距離を取ろうとする主喰らいへと跳び付かんとする。
 が、背後から突き刺さる激痛。
 跳弾した弾丸の一つがコノハの肩を食い破り、貫通した。獲物の負傷に主喰らいが口角を吊り上げるも、コノハは平然と刃を掲げる。

「さあもっともっと喰らわせて」

――じゃなきゃ割に合わないデショ?

 傷から溢れた鮮血を柘榴へと。更なる美酒を得て牙は獰猛さを増し、唸りあげる鋸刃が貪欲に血肉を求めて顎を開いた。姿勢を低くして突進すれば主喰らいの脚へと目掛けて牙を滑り込ませる。
 間合い、最早防ぎ切れぬ距離。連射の反動に耐えるために踏ん張っていた片脚を袈裟に斬り付ける柘榴の牙が食い荒らした。

「ねぇ、狩られるのはドッチか理解できたカシラ」

 瞬く間にもう一撃。同じ傷口を氷泪で広げればコノハが挑発的に微笑んだ。先程受けた銃創は主喰らいから得た生命力により既に塞がり始めている。
 深く抉られた脚の傷が痛んだ。あと数cm深く斬り込まれていれば使い物にならなくなっていただろう。が、この痛みが感覚を研ぎ澄ましてくれている。滴り落ちていく血の音さえも心地よく、鮮明だ。

「はは」

 男は歪んだ笑みで返した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
内部に紛れ込むのはこの世界では常套手段っぽいねぇ
仮に助かったとしても疑心暗鬼や人間不信に陥っちゃうよ
まぁ…残念ながら普通の人に擬態しているのは
お前だけじゃないんだよオブリビオンさん

お前の得物は銃と大鉈?
飛び道具なんてナンセンスだよ
刃と刃のぶつかり合いや
斬った感触が直接手に伝わるあの感覚
そういうのが最高だと思わない?

ナイフで自身の手を斬りつけUC使用
此方は大斧―Emperorで応戦
強化したスピードを活かして
敵の攻撃動作が見えた瞬間には
2回攻撃を叩き込む
又は真っ向から武器受け
鍔迫り合いみたいな状態になった瞬間
念動力で懐のナイフを飛ばして不意打ち攻撃

これも一種の飛び道具?
あはは、何のことやら



●本能
「内部に紛れ込むのはこの世界では常套手段っぽいねぇ」

 地下通路の真ん中を陣取るようにひとりの青年が立っている。
間延びした声色で片脚重心。開いているのかよく分からない薄い眼差しの先には曲がり角、肌で辿るのはその先で繰り広げられているのであろう戦闘の気配。

「仮に助かったとしても疑心暗鬼や人間不信に陥っちゃうよ」

 誰にというでもなく独り言ちる。
実際、このシェルターを守っていた彼らはオブリビオンを完全に味方と信じ込んでいた。猟兵の介入がなければ完全に崩壊していたという事実も、あのグリモア猟兵から説明されるはずだ。
 事実を知って、彼らはどうするのだろうか。疑り合い、奪う必要のない命まで奪い合うような事態に陥ってしまっては元も子もない。だが、今自分達に出来る事は限られている。
 刃を打ち合う鈍い音が近づいてきていた。そろそろこの通路まで敵がやってくる頃だ。

「ま、いいか。見分けられる俺達がいれば、疑うことがあっても助けを呼べるだろうし」

 行ってこよう、と前線へと駆けだした灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)は指先をナイフで切り付け戦斧Emperorへと指を滑らせた。血を捧げられた大斧は手指の如く自在だ。おまけに身体の調子もすこぶる良い。殺し合うには持って来いの状態だ。
 音が近づく。哄笑が、雄叫びが聞こえる。足音から接触までの距離を測ればあと3歩、2歩――ここだ。帝王の名を冠する戦斧を振り翳した綾は、角から飛び出してきた主喰らいへと挨拶代わりの一刀。
 突然の乱入者に対して男は平静を保ったまま対応する。振り下ろされた一撃を寸でのところで回避すれば、照準を定める必要もない至近距離で引き金を引いた。
 連射。しかし綾には当たらない。格段に向上した反応速度で弾丸の軌道を読み切ればもう一撃お見舞いしつつバックステップ。
 頬を掠めた大斧の切先に動じず、再装填。再連射。それでも綾には一発たりとも当たる事はない。完全に見切られている。

「お前の得物は大鉈と――銃?飛び道具なんてナンセンスだよ」

 綾は再接近。高速で迫る相手に銃は分が悪いと判断したか、主喰らいもまた鉈を引き抜いて鈍重な大斧の一撃を受け止めた。柄を潰さんばかりの力で握り込み弾き返せば、綾の愉しげな笑みが視界に入る。

「刃と刃のぶつかり合いや、斬った感触が直接手に伝わるあの感覚。そういうのが最高だと思わない?」
「っはは」

 嘲笑。

「比べている内はまだ若造よ!」

 主喰らいは敢えて姿勢を低くして懐へと踏み込み、綾が戦斧を振り抜く瞬間を狙って腕の合間に鉈が差し込んだ。首筋へ宛てられた刃へ感じる悪寒、あとはただ力を籠めずとも腕を引くだけで動脈を断ち切れる。
 嗚呼、好い。
 吊り上がっていた口角を下げることなく、綾はそのまま体当たり。間合いを詰める事で差し込まれた腕を引かせず、ついで喉へと体重を乗せた肘鉄を叩き込んだ。咽ぶ声、隙を見て戦斧を振り抜ける間合いへと引き下がれば上段に構えて、振り下ろす。
 破砕する床。柄に取り付けたハンマーが顔面を潰すよりも早く、身を捻って躱した狩人が素早く身を起こして鉈を構えた。相手があの重々しい得物を振り下ろすより先にもう一度懐へ……
 瞬間、綾の懐から数本の煌きが飛び出した。
 躱すか受けるかを考えるよりも先に本能が身体を動かした。手にした鉈で数本を弾き、それでも斬り落とせなかった一本が――念動力で操作したナイフが主喰らいの頬を掠め飛んでいった。一瞥し、潰れかけの喉から訝しむように男が声を捻り出す。

「それは、飛び道具では、ないのか?」
「あはは、何のことやら」

 けろりと誤魔化して、敵に対して垂直に戦斧を構えた。刺突。鋭く捻じ込まれた一撃は鉈で防がれるも体勢を崩すには十二分だ。続いて薙ぐように斬り込んだ斧の肉厚な切先が男の腹を抉っていった。既に破られていた箇所へと再び痛打を食らい、男は歯を食い縛る。
 ようやっと得た確かな手応えに綾は喜びを隠す様子もなく、ある種の無邪気さを見せて笑った。今この瞬間も彼は寿命を使い潰しているというのに、気に留める事もなく。
 そうだ、まだ足りない。
 まだ愉しみたい、殺し合いたい。心の臓があるはずの場所から湧き上がるのは血潮よりも熱く身を焦がす愉悦だ。己の未来を犠牲にしてでも今この瞬間の快楽を求める。それが灰神楽・綾という男であった。
 口に込み上げた酸い味と血を床に吐きつけて、主喰らいは男を見遣る。

「存外、貴様は此方寄りの様だな」
「まぁ……残念ながら普通の人に擬態しているのはお前だけじゃないんだよ。オブリビオンさん」
「はっ、同じ穴の狢か」

 だがそれもまたよしと、人の皮を被る獣たちは哂い合った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルドラ・ヴォルテクス
●アドリブ大歓迎です!

【目標捕捉】
『敵性個体確認、輩(トモガラ)と認識』

イチイチ言わなくてもわかる。
壊したくて殺したくて我慢出来ねぇって面してる。

【戦闘開始】

「まぁ……俺も同類だ、疼いて、渇いて仕方ないんだろう?どちらが喰われるかわからない狩りだ、そそるだろう?フリークス?」

(UC:メーガナーダ発動)

高速化した雷電を纏う戦闘形態に移行。
コイツの得物は銃か……?いや、鉈も持っているな。
遠距離までは高速移動と紫電で撃ち合いながらかわす、近距離に詰めたら、鉈を出すだろう。それに合わせて全身の雷電を衝撃としてぶっ放す。

「絶縁体だから電気は通じねぇ、とかいう輩は多いが、俺の雷は爆ぜるんだよ」



●同類
『目標捕捉――敵性個体確認、対象を分類:輩(カテゴリー:トモガラ)と認識』
「イチイチ言わなくてもわかる」

 主喰らいを視認したと同時に、スーツに内蔵された分析機能が敵性体の情報をコンマ1秒にも満たない時間で振り分ける。
 機能相手に言い返したところで意味などないとは分かっていながらも、ルドラ・ヴォルテクス(雷刃嵐武・f25181)は律儀に返事をし、己が目で捉えた男の状態を分析する。
 既に幾人もの猟兵が対峙し相応の負傷は与えているものの、敵性体の覇気は衰えず。寧ろ己が追い詰められているこの状況さえも愉しんでいるようにも見えた。
 これから、まだこれからだと呟いたそれが此方に気付く。戦場に現れた新たなる獲物へと血走り見開いたままの眼で狂気を向けてくる。

「壊したくて殺したくて我慢出来ねぇって面してるな」

 雄牛の血より濃い赤の瞳で男を見据え、二振りの剣をその手に握る。

「まぁ……俺も同類だ、疼いて、渇いて仕方ないんだろう?」

 ルドラには男の狂喜が、歓喜が、身に染みて把握できた。ルドラ自身もまた、戦いの中に悦びを見出す性質だ。喉元に爪を突きつけ合うような、何方が喰われるか分からない命の奪い合い。それだけが湧き上がる疼きを鎮め、終わりなき渇きを潤してくれる。
 そして、この戦場にはどれだけ命を削っても足りない程に満たしてくれる相手ばかりが集っている。襲い掛かって来る。己の命が尽き果てるまで、延々と。

「なあ――そそるだろう?フリークス?」
「全くだ!!」

 飛び掛かる主喰らいは鉈を両手で握り振り被る。両脚を踏ん張り、腰を捻ったルドラは発条の勢いで刃を振るい、体重の乗った主喰らいの一撃を乱気流の名を冠す剣を以て受け止めた。
 衝突。
 かち上げられた鉈へともう一振り、帯電した刃が叩き込まれれば主喰らいの身体は壁際まで吹き飛ばされる。本来ならばルドラと主喰らいの間には相当の力量差があった。しかし、積み重ねた負傷が経験の差を埋め合ったか、現状は互角と言ったところだ。
空中で身を捩った狩人は壁の数歩手前に着地、痺れも痛みも忘れてルドラへ突進する。

「貴様は俺にどんな奇術を見せてくれる!」
「言われずとも、見せるつもりだ!」

――さあ、深奥まで灼き付けろ!

 ルドラの周囲に紫電が躍り狂い、獣の如く猛り叫ぶ。己の命を代償に雷電を生み出し従える、咆哮する雷雲(メーガナーダ)と呼ぶ高速化した戦闘形態だ。
 命の期限が幾何か。凡そは知っていた。大雑把に見積もってもあと2年――否、それより短くなるであろうと予測しているが、ルドラは決して己の命恋しさから期限を算出したわけではない。
 逆だ。あと2年、2年も戦える!それだけの月日をあの嵐より蘇って来た輩達を喰い尽くすために費やせる!
 平時は浮かべる事の無い凶暴性を隠すこともなく、戦鬼は吼えた。
 再衝突。ルドラの手に握られた雷刃が破滅の紫電を纏って主喰らいの鉈に牙を立てる。荷電し高まった熱が鉈の切先を柔く抉り始め、刃ごと敵性体を溶断せんとすれば、主喰らいは刃を動かさぬままルドラの腹を蹴って距離を取る。脚を紫電に焼き焦がされながらも、得物を失わず致命傷も食らわずに済んだことへ安堵するが、それも束の間。
 長い白銀が尾を引くように靡き、瞬きの間に距離を詰める。全身の雷撃を刃へと移し、雷鳴と共に迫る悪鬼の姿に狩人はただ飛び退いて躱すことしかできず――

「何の!!」

 否、これで終わらせるはずがない。回避の瞬間、男は鉈から銃へと武器を持ち換えて素早く構え直し、連射。正確に狙い定める間などない、過ぎ去った相手の方向へとただ撃ち込んだだけの弾丸はルドラの脇腹を掠る程度に留まった。
 方向転換、主喰らいへ向き直ると既に次弾の準備を整えている。
 刃に収束した紫電を前方――此方へと向けられた銃口目掛けて裂帛の気合と共に開放すれば、空気さえも震わせて衝撃が疾った。
 荒れ狂う暴風さえも飼い慣らす雷獣を前に主喰らいは悟る。喰われると。だが同時にそれの本質を思い返せば対策が浮かび上がる。
 あれが雷ならば、より近くにある導体へと吸われるのではないかと。
 投擲、渾身の力で投げつけた鉈は真っ直ぐとルドラの放った紫電の衝撃波へと吸い込まれてゆき、耳を劈く雷音の中で焼け焦げた。雷も、主喰らいではなく放られた金属のひとつへと標的を変えて、

「残念」

 フィンガースナップ
 雷電は叫喚し、連鎖的に爆散。たった今噛み付いた鉄屑だけでなく、その先にいた手負いの獣をも呑み込んで、爆ぜ飛ばす。

「俺の雷は爆ぜるんだよ」

 主喰らいの耳に、ルドラの声は届いていなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朧・紅
殺人鬼《朧》のみで参加

愉しいヤツと殺れるッて聞いたが、てめェか
同種の臭い
合ッてようがながろうがかまわねェ
愉しけりャな

【紅朧月】でオイシク斬り裂き、削ぐ
残した刃でキョクリョク弾く
足が欲しけりゃ飛翔する刃に乗ル

大鉈が身を削げば、似た「習性と味」を味わうのだろう
オブリビオンとして還ったモノと
生前、非道を尽くした殺人鬼が、少女の中へと還ったモノと
果たして何が違うと云うのか
ゆえに、この命刮ぎあう愉悦を、何より分かち合えるだろうと嗤って
喰らいつくギロチンの刃を血と狂気で染め上げる
その刻を
獲物を仕留める堪らねェ刹那をその手にする為にーー



●狂気
 ひとりの少女が立っていた。
 高くふたつに括った艶やかな洋紅色の髪が、巻き起こった微風に揺られていた。幼さの残る花蕾の顏には一対の黄金。
 朧・紅(朧と紅・f01176)は――正確には、少女に宿る朧を名乗る人格が静かにそれを見下した。

 手負いの獣が一匹、少女から離れた床に這いつくばっている。
 左脚の傷は肉片が削げ落ち、右腕は感覚が薄れているらしく片手では得物を握るも儘ならない。爆発を間近に食らった影響で鼓膜も破れているだろう。

「愉しいヤツと殺れるッて聞いたが、てめェか」

 同種の臭い。
 刃先についた脂を血で拭い、刃毀れしたのなら更に斬り付け獲物共の骨で研ぎ整える。そうだ、奴も己も根は同じ。命を奪う事に躊躇なく、呵責なく、総てを奪うものである。
 男は応えない。もう聞こえてなどいない。
 だが、その眼光にぎらつく狂気は衰えず!得物を手離すこともない!
 手負いが何だ、傷の深さなど関係はない。窮鼠は猫さえ噛み殺すのだと、言葉でなく纏う殺気で吼く!!

「いいぜ、愉しませてくれよ」

 可憐にスカートの裾を翻す少女の姿を木立より飛び出した小鹿とでも思ったか。主喰らいは構え直した銃を朧へと向けて速射。旧式の銃であるにも関わらず機関銃並みの速さで吐き出される弾丸は痺れてブレた照準の影響で標的へと真っ直ぐには飛んでくれない。
 が、壁に、床に跳ね返り、予期せぬ方角から朧に襲い掛かる。
 雪崩れ込む鉛の猟犬達を前にして少女に潜む男はどうかというと、たかが銃撃程度で狼狽えるはずもない。浮かべる笑みの裏で冷静に銃口と弾丸の軌道を予測すれば、飼い犬(やいば)に繋いだ手綱を握り、複製。肉厚な断罪の刃は首を増やして鋭角に襲い掛かる弾丸を防ぎ切った。

「こんなんじゃつまんねェだろ。ほら、来いよ」

 言い終わる前、主喰らいは既に駆け出していた。銃撃は目眩まし、本命は先程投げ飛ばした鉈を回収だ。脚の痛みなどもう気にも留めていない。多少体勢を崩しやすいがその程度だ。
 跳躍。壁を蹴り勢いを増させながら朧へと接近し、狩人は少女の細い四肢を寸断せんと振り被った。
 男の猛進に気付いて朧は壁の様に周囲へ張り巡らしていた刃を蕾が開くかのように散開。弾丸へ対しては盾として使ったが、当人が寄って来るというのならこれは邪魔だ。空中へ乱雑に設置すれば、ここはもう朧の殺戮空間。

 狩人が間合いに入って来た。すかさず朧は散りばめた断罪刃を降り注がせて男の四肢を削がんとする。右腕、左腕、右脚、左脚、斜に襲い来る刃を躱して打ち返して進み、朧を目指す主喰らい。
 ただ待ち構えているなど柄にもないことを朧がやるはずもない。刃を繰りながらも前進し、主喰らいを迎え撃つ。互いに刃が届く距離、凶器と狂気と狂喜をが交わる不協和音が戦場にけたたましく鳴り響き、交錯。
 朧の右腕に男の大鉈が刻み込まれ、対価にと支払わせたのは男の左腕。顔面を蹴り飛ばすと同時に肘から先を斬り飛ばしてやった。再度拾わせる間も与えるものかと刃を落してやれば主喰らいは後方へと退避する。

 が、一度攻撃を食らった以上は味を、習性を知られただろう。それは主喰らい自身とそう変わりない味わいだろうか。それとも、この身体の主の味も混じっているだろうか。どちらにしたところでやる事は変わらない。
 が、男は間合いを取ったまま動かない。恐れを為したか。そのはずはない。ならば止血でもして鉈を取りに来るか。
 違った。狩人が再び銃を構えた姿を見て、朧は再び複製の刃を壁の如く張り巡らせる。また時間でも稼ぐ気か。

――否!!

「るおおおおぉぉぉおぉおおおぉぉぉおおおぉっ!!」

 咆哮と共に放った弾丸は今まで猟兵達との戦いで見せたどれとも違った。引き金を引いた右腕が衝撃に耐えきれず弾けて折れ曲がり、古びた猟銃は床を滑っていく。
 もう握る力もなくなりかけていた右腕を、犠牲にしたところでどうなるものか。これを仕留められねば残る群れ共など狩り殺せるものか。
 これは、意地だ。
 これは男の矜持。狩人として生き、死に、蘇って尚も捨てられなかった唯一。この狩場から離れてなるものか、この獲物を逃してなるものか、この享楽を、この悦楽を、他の何人にも譲ってなるものか。
 狂っていた。とうに狂っていた。獣を撃っていた日々など遠い日の残照だ。その味を知ってから男はどれだけの獲物を撃って来ただろう。どれだけの屍を前に嗤っただろう。最早獣では足りぬのだ。男の血走った眼は雄弁に語る。宣言する。
 俺が、貴様を殺すのだと――!!

「上等だ、上等じゃねェか!!!」

 朧は笑った。弾丸は分厚い断罪刃を触れるだけで破壊していく。指先が触れただけでも危険極まりないそれを前に、笑みが抑えきれない。
 この命刮ぎあう愉悦を、刹那で総てを失うかもしれない緊張感を、求めていたんだ!!
 朧は迷わず弾丸へ向かい駆けた。あれは直線上のすべてを喰い尽くす魔獣だ。だが、それだけだ!
 懐から弾丸に向けて投げつけたのは輸血パック。触れた瞬間に弾けたそれが其処彼処を真っ赤に染める。そう、弾丸さえも。
 浸蝕した赤が弾丸の回転を変える。急速に勢いを失った弾丸が地へと緩やかに落ちていくその上を朧は飛んだ。床に力を無くした弾丸が転がる頃には主喰らいの頭上高く、断頭台に立つ死の代弁者が男に最期を告げる。
 体勢を崩していただけではない。慢心があった。あの一撃を避けられるはずがあるまいと。よもやあれを、己の渾身を、殺しきってここまでやって来るなどと誰が思おうか!
 朧は手綱を引く。刃へと置いた足が離れぬように、狙いが逸れぬように。爛爛と輝く黄金は見開かれ、罪人に逃れようのない恐怖と安堵を与える。死刑宣告は、高らかに。

「真っ赤に――咲き狂えええぇぇ!!」

 断ッ!!!

 垂直に叩き込まれたギロチンの刃は男の頸を刎ね飛ばした。

大成功 🔵​🔵​🔵​


 嗚呼。
 これだから狩りは止められぬ。

 男は消え逝く瞬間に満ち足りた笑みを浮かべた。


第2章 集団戦 『ゾンビの群れ』

POW   :    ゾンビの行進
【掴みかかる無数の手】が命中した対象に対し、高威力高命中の【噛みつき】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    突然のゾンビ襲来
【敵の背後から新たなゾンビ】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ   :    這い寄るゾンビ
【小柄な地を這うゾンビ】を召喚する。それは極めて発見され難く、自身と五感を共有し、指定した対象を追跡する。

イラスト:カス

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●通信
 ザッ――
『……ええ、此方は十二分な兵力を整えました。何時でも襲撃可能です。そちらは?』
 ザッ――
『此方も上々。先日他の連中に襲われた事もあり、負傷兵が増えた』
 ザッ――
『では、そろそろ』
 ザッ――
『ああ、好機であろう。昼を過ぎれば食糧の補充で防衛の戦力が減る。これより……そうだな、一時ほど待て』
 ザッ――
『かしこまりました。では2時間後に……通信終了(アウト)』
 ザッ――
『ああ……我等の狩りを始めよう』
 ザッ――

 ザーーーーーーーーー

●迎撃
『応答を。直ちに猟兵諸君へ対応を願いたい』

 地下2階から上階へと上がる秘密階段のすぐ隣。秘密扉の先にあるモニタールームから若い兵士が飛び出した。
 彼は近くにいた猟兵のひとりへと声をかけるとモニタールームへ案内し、古めかしい受話器を差し出す。
 それはシェルターにいる部隊長からの通信だった。何があったのか問えば動揺ひとつない毅然とした物言いで報告する。

『地上の監視より連絡があった。此方へ夥しい数のゾンビが接近中だ』

 監視役の兵士達には既に持ち場を放棄して此方へ合流するように命じてあるようだ。じきに下層まで降りてくるだろう。
 だが、彼等ではこのゾンビ共を倒しきれない。地の利はあれども戦える者の数が足りず、殲滅には至れないと判断したという。

『すまないが猟兵諸君、引き続きこのシェルターの防衛を頼まれてくれないか?』

 勿論、と猟兵は頷く。その為に我々は此処に来たのだと。
 通信を終えた猟兵は待機中の面々へと伝達し、主喰らいを交戦中の者達へ任せて上層へと駆け上がる。
 途中合流した監視の兵士達より上層の地図も譲り渡され、猟兵達は迎撃準備を整えた。

 
 此処よりは地獄絵図。地下迷宮を彷徨う骸達は生あるものを貪り尽くし、四肢を砕けど這い回り縋りつく。
 迫るは大群、然れど我等の驚異に非ず。襲い掛かる悉くを土へ、灰へ、塵へと還せ!
オヴェリア・ゲランド
死者の群れか…フン、剣の錆にもならぬ
だが、私の前に立ち塞がるなら、剣帝の道を阻むならば全てを斬り伏せる、それが私の覇道!
ここは私に任せよ!

●斬獲
「亡者どもの数など無意味、いつかのあの日、あの戦場で私を討たんとした数多の騎士達にも及ばぬ」
纏う覇気【念動力・オーラ防御】にて亡者どもの攻撃を逸らし、防ぎ、時には覇剣の【薙ぎ払い】で【吹き飛ばし】ながら敵中へと突入
「剣帝と呼ばれる意味、身を以って識るがよい」
周囲を敵で満たした上で【皇技・百華剣嵐】を披露、刃の竜巻となって亡者どもを斬り散らし、斬り殺し、斬獲して【蹂躙】す
「脆い、脆すぎるぞ!」

●アドリブなど大歓迎

●服装
軍服風の衣装、タイトなミニスカート



●蹂躙
 亡者達は呻き、犇めき合う。
 直線と直線、それらの交差によってのみ構築されているこの地下繁華街に進軍してきた死の群れはゆっくりと、亀の歩みで生者を探す。彼らの行く手を阻む者はおらず、彼らの行進を遮る物など何もない。
 否。
 女がそこに立っていた。立ち塞がっていた。
 地下への階段を隠した店へとシャッターを下ろし、通路の真ん中に仁王立ち。両の瞳に冬の湖面の静けさを湛えて、オヴェリア・ゲランド(銀の剣帝・f25174)は前方より迫り来る無数を見据えていた。

「亡者どもの数など無意味。いつかのあの日、あの戦場で私を討たんとした数多の騎士達にも及ばぬ」

 数を揃えただけの連中などかつての好敵手たちと比べる事すら烏滸がましい。されど、この地に住まう者にとって、この数は紛れもない脅威なのだ。
 故に立つ。その身を以て盾となり、その剣を以て害悪全てを平らげる。すらりと剣を鞘より引き抜いて、共に上層へと昇って来た猟兵達へとオヴェリアは堂々告げる。

「ここは私に任せよ!往け!!」

 オヴェリアに背を任せ、猟兵達が異なる戦場へと向かっていく。仲間たちの足音が遠くなると同時に近付いてくる死臭を、死へと引き込む数多の手を恐れることなく、オヴェリアは前進。掴み掛らんと伸ばされた手を斬り飛ばし、勢いを殺さず返す刃で胴を薙ぐ。
 更に前進。振り上げ振り下ろし両断したなら、剣持つ手を狙い伸ばされた亡者の手を覇気で跳ねのけ更に奥へ踏み込んだ。

(嗚呼、確かにこの数は鬱陶しい)

 ひとりひとり確実に止めを刺して回っていては時間がかかり過ぎる。ならばどうするか、単純な話だ。全て同時に相手してしまえばいい。剣を構え、全神経を研ぎ澄まし、体重を乗せて剣戟を放つ。が、一撃ではない。
 幾層もの剣戟を折り重ね放てば無数の衝撃波となり、触れた先から瞬く間に微塵に刻む。オヴェリアを中心に巻き起こる刃風は通路を埋め尽くす亡者の群れを吹き飛ばし、切り裂き、銀の狂飆(きょうひょう)の如く。
 これぞ、皇技・百華剣嵐(オウギ・ヒャッカケンラン)――剣帝の刃は嵐を巻き起こしながら敵対する全てを薙ぎ払う。

「脆い、脆すぎるぞ!!」

 女が吼える。蹂躙する。剣を振るう度に亡者の身体は切り刻まれ、やがて塵屑となり、隙間風に乗ってどこぞへと吹き抜けていく。砕けて逝く様子は割れる枯木にも似て、文字通り剣の錆にさえならない。実力の差は雲泥という事さえも躊躇われよう。
 されど亡者に彼女が何かを理解するだけの知能はない。あるのは衝動――生者を羨むことだけに身を焦がされた死者達は、何人が、何十人が倒されども真っ直ぐに生体反応(オヴェリア)へと突き進むことしかできないのだ。
 オヴェリアは更に攻め込んできた亡者達へと剣を振るい、薙ぎ倒す。冥府への手招きは岩礁に打ち寄せる波にも似て、オヴェリアの剣風に飛散してもまた群れ成して押し寄せてくる。
 一笑。
 どれだけ倒しても注ぎ足される亡者達を前に女は口角を吊り上げる。そうだ、道とは常に切り開くものだ。幾千が阻めど、幾万が遮れど、ここに道を築くと定めたのならば躊躇はない。

「私の前に立ち塞がるなら、私の道を阻むならば全てを斬り伏せる」

 斬り散らし、斬り殺し、斬獲して、そこに彼女の覇道が拓かれる。

「剣帝と呼ばれる意味、身を以って識るがよい」

 次なる障害がオヴェリアの視界を埋め尽くせば、女は聞く耳さえも無くした亡者の叫びへ黄金の覇気と白銀の旋風で応えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

渦雷・ユキテル
戦力分散狙いたいですね
極力敵が少ない場所を陣取ります

拳銃の空薬莢を幾つか転がしてから
床を帯電状態に。これで準備オッケー!

会敵したらゾンビちゃんの胸倉掴んで
大きな音が鳴るようシャッターに押し付けます
銃を口に突っ込んで…3発撃てば確実ですかね?
音で【おびき寄せ】も上手くいくはず

忍び寄られても見つける自信ありますよ
さっき撒いといた薬莢【罠使い】【見切り】
何か引っかかって電流に変化があれば
来たこと分かっちゃうんです
不意打ちのつもりが返り討ち!

最初からド派手にいくより
罠にかかる獲物が見たいなんて
そんな欲求は知らないふり

【属性攻撃】【範囲攻撃】の放電
纏めて焼き尽くしてあげます

※絡みアドリブ歓迎



●道標
 からん。からん。
 ピンクの足跡、空の薬莢。迷子の為の道標か、或いは――

●領域
 オヴェリアが盛大に敵の注意を引き付けているその頃、別所。
 かの死人達が侵入してきた入り口から最も離れた場所にある地下への通路手前に、それらはいた。
 それは低く、小さく、すばしっこい。この乱闘状態の戦場では確実に見落としてしまうような存在だ。もしかしたら、直視したとしても見逃してしまうかもしれない。何故ならそれは――遠目に見ただけならばただのねずみの群れなのだから。
 されど事実は異なる。このねずみ達はとうの昔に死んでいた。そう、死せるは人のみに非ず、この世界においても万象等しく終わりを迎える。ならば黄泉の淵より還りしものにそれらがいてもおかしい事などないのだ。
 生ける屍と化したねずみ達は人間の図体では入り込めない隙間に潜り込み、共有した視覚で仲間たちへと生者(えさ)の場所を伝達する。今やこの大群の斥候部隊となっていた。
 ねずみ達は駆ける。いつだって彼らは生きる事に必死だ。喰らい、肥え、産み、殖やさねばならない。四肢が動く以上、飢えを感じる以上、そうせねばならない。だから懸命に走った。道端のごみを蹴散らかしながら彼らは只管に走っていった。

 そして斥候達の働きを共有する一部の屍人たちも彼らに続く。枝分かれの通路を的確に、ねずみ達から少し遅れて後を追い駆ければいずれ餌へと行き当たる。ねずみ達が見つけてから動くのでは遅い。ねずみに気を取られた生者達へと掴み掛り一刻も早く命のすべてを奪い尽くしたい。

 だからだろう。曲がった先の角に潜む者がいるなど、気付くはずもなかったのだ。

「はいどーもぉ、一名様ごあんなーい」

 襤褸の襟元を引っ掴まれ、ゾンビのひとりが為す術なく通路の先に呑まれた。耳が痛くなるほどに大きく音を立ててれば、渦雷・ユキテル(さいわい・f16385)の営業用笑顔が濁り切った屍人の眼に突き刺さる。
 疎らに残る歯を全て圧し折る勢いで銃身を屍人の口へと押しこめば、有無を言わさず三発の弾丸をご馳走し骸の海へと迅速にお帰りいただいた。

「はいじゃあ次のお客様どうぞー」

 動かなくなったことを確認すればさっさと投げ置き、直ぐ後に続いてやってきたゾンビの頭上へと跳び上がる。この後にやって来ているのは二人だけ。ならこのくらいでちょうどいいと雷撃を纏った爪先で肉の剥げた頭頂部に着地。思いっきり踏みつけてもうひとり、繰り返し。
 蓮の花の如く開いた雷は可憐に乙女を彩りながらも二人の屍人たちを焼き焦がした。

「不意打ちのつもりでしたか?ざーんねん、返り討ち!ですよー!」

 そう、ユキテルには敵の進軍経路が分かっていた。より正確に告げるのならばねずみ達がユキテルの領域(テリトリー)へと侵入したことを知っていた。空薬莢を種に張り巡らせた電流の根はその上を通るモノ達をユキテルへと伝えてくれていたのだ。

(ねずみゾンビちゃんたちもさくっと殺しておきましたしね)

 なんと言ってもパーラーメイド、清潔感は良しとするが不衛生な生物には速やかにご退店願うのが基本だ。人間ゾンビの接近数秒前に文字通りさくっと仕留めていた。
 仕留めたから、異変に気付いた共有者のひとりやふたり、此方へとやって来ているかもしれない。
 耳をすませば、遠い轟音に混じって確かに聞こえる衣擦れの音、呻き声。足元からは大小複数の反応。既に蜘蛛の糸が絡んでいることを知らない、哀れな亡者達が近づいてきている。
 深く溜め息。ゾンビ達のやって来るはずの角から離れたなら、ユキテルはポシェットから除菌シートを一枚取り出した。

(あーあ。こそこそするのは一旦終わりみたい)

 自動拳銃を丁寧に拭いてから懐へ忍ばせ、張り巡らせ帯電状態を保っていた電流を丁寧に自身へと吸い上げる。身体を巡り、指先へ集中。己を砲塔に、電流を弾丸に。罠猟から正攻法へと切り替えたなら、潜んだ欲はもう見えない。
 ゾンビ達が角を曲がり、ユキテルを見つける。道は直線。敵の狙いも直線(ユキテル)に定められた。眼前の餌へと食い付くことで脳内を埋め尽くした亡者達は、避けるという思考さえ零れ落ちている。
 充電完了――最早逃げ場は何処にもない。

「さあ。とびきり痛いの、お見舞いしますよ」

 指先に収束圧縮したピンクサファイアの雷を撃ち出したなら、襲い掛かって来たゾンビの群れは纏めて焼け焦げ、塵も残さず消し飛ばされた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夷洞・みさき
己も無く蘇った死人。
それは禊ぐ咎も持たない存在であろう。
ならばこそ、己の意思以外で咎を重ねさせるわけにはいかない。
それが、如何に無慈悲で無残であろうとも。

【WIZ】
数が脅威であるならば、彼等の立つ、這う、地面そのものを用いて彼等を禊流す。

水の流れで加速した車輪によって死人を挽く、轢く、曳く。
流れに逆らうこともできなくなった死人はそのまま骸の海に禊流す。

黙々と淡々と。
咎人ではない憐れら彼等にせめて、余計な咎を重ねさせないために。

猟兵以外の誰かを襲う者がいれば優先して潰してゆく。

君達の犯した咎は僕が一端預かるよ。
そう、君達に、咎を犯させた誰かに綺麗に返すためにね。



●慈悲
 雷電の巣より遠く、別所。
 ねずみのゾンビ達は餌を求めて駆け回り、彼らを追って死人達もまた進軍していく。
 道はひとつではなく、下層への通路もまた同じ。
 主喰らいの協力もあり、地下通路への隠し場所は既に暴かれてはいた。彼等に記憶力があったのならばとうに辿り着いていてもおかしくはなかっただろう。
 されど此処に在るのは本能の塊。死したその場所に置いてきた理性など拾いに行く方が手間というもの。そも、そういう思考自体が失われて久しい。
 故に進軍、進軍、進軍する。
 彼等が全てを埋め尽くし、戦線に出された全ての兵士を食い荒らしてから、ゆっくりと主喰らいの待つ地下へと至ればいい。
 この作戦の立案者はそう考えていたし、今もなおそうすればいいと考えている。
 何も、知らずに。

 ざざあん。

 その音を死人達は何と思っただろう。戦場の幻聴か、耳にしたことすらない奇怪な音色か、或いは気にも留めなかったか。
 何れにせよ、足を止めるまでもないと認識したのだろう。だが、静かなその音に別の音が加わったなら、進行方向を変えざるを得ない音が混ざっていたのなら。

――彼方より響け、此方へと至れ。

 ざざあん。ざざあん。
 呑まれたねずみが浮かんでいる。生き返り、再び得た生を手離すまいと足掻いていた小さな命達は肺の奥まで呪詛に満たされて、死に還る。

――光差さぬ水底に揺蕩う幽かな呪いよ。

 ざざあん。ざざあん。
 死人達と似た、けれど異質な臭いが潮の香りと共に流れ着く。それを知覚できる生物はいない。少なくとも、彼女以外は。
 一歩、一歩と進む女の足元に漣が寄せて、引いた。波間を裂くように巨大な車輪が転がれば、白波がゾンビ達の足元まで伸びて、濡らす。
 夜でもないのに輝く一対の満月が彼らを照らしたならもう彼等は何処へも至れない。夷洞・みさき(海に沈んだ六つと一人・f04147)と、彼女の同胞達が揺蕩うこの海辺から逃れられない。

「君達に、禊ぐべき咎はないよ」

 死と言う終着を以て現世の咎を雪ぎ終えたはずの彼等は、本来ならば咎人殺したる彼女の処罰対象ではない。ないのだが、彼等はこれから誰ぞに仕組まれるが儘、人殺し人喰いその他多くの罪を重ねてしまうだろう。
 かつて生きていた頃に持っていたはずの、彼等の意思とは関係なく。

「ならばこそ、己の意思以外で咎を重ねさせるわけにはいかない」

 喩えそれが、如何に無慈悲で無残であろうとも。これ以上の咎を負わせるわけにはいかないのだと、みさきは謳う。
 車輪が廻る。みさきの声に重ねるように、車輪の中に潜む彼女の同胞達が謳う。寄り合わさった七人は咎なき屍人(もの)を導く海流(みち)となり、通路を澱んだ海水で満たしていく。

「我は祭祀と成りて、その咎を禊落とそう」

 ざぶん。
 水面を割って車輪が進めば周囲に魚影が六つ、揺れた。徐々に徐々に速度を上げていく車輪は屍人達の集団へと転がって、容赦なく挽く。轢く。曳く。
 屍人達は抵抗などしない。しようがない。彼らを襲うそれは命あるものではなく、命を散らすための無機物だ。彼らと同じ死の淵を知る者たちだ。だから屍人達は抵抗できない。それらを敵だと認識できないままただ屠られていった。
 引き潰していく車輪と、呆気なく弾き飛ばされていく屍人達。黙々と淡々と作業染みた光景をみさきは見つめる。己へ向けて手を伸ばす彼らを倒すことに心が痛まないわけではない。それでも、咎人ではない憐れな彼等がせめて、余計な咎を重ねさせないために、みさきは彼らを葬らねばならない。
 もし、ここに来るより前に何らかの犠牲を出してしまっていたとしても。

「君達の犯した咎は僕が一端預かるよ」

 そう、君達に、咎を犯させた誰かに綺麗に返すために。
 穏やかさの中に激情を隠し、車輪の軌跡をみさきは見送る。全てを呑んだ波の間に、金魚の影がぴちゃんと波紋を立てる頃にはもう何も、咎人など残っていない。
 誰も、彼も、水底へと還っていった。

●潮騒
 ざざあん、ざざあん。
 其は失われた潮騒、澱めど変わらぬ深海への誘い。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朧・紅
紫目が《紅》
金目が《朧》

次の獲物ァどいつだ
高揚のまま輝く金目が命亡きゾンビ見止めれば一瞬で興味を失った

ぅや!?また僕を放り出す気ですか
朧のバカー!
紫色の瞳が瞬き
慌ててギロチン刃で空へと逃れ溜息
別に、ゾンビは怖くないですが…
そして死した者への憐憫感じる心も壊れている
大切な人を手に掛けた時に(自己防衛
触りたくないのですぅ
女の子だもん
触らず大量のゾンビを駆逐する方法…
ゾンビ映画はいつも爆発で一掃すると聞きますね?
血で崩れぬ威力の時限爆弾【空想造血】
不意打ちは第六感で武器受け
空からゾンビ密集地に放り投げーる!

…テメェ逃げることも考えてンだろな?

脳内に響く声に、あって顔
その後金目の僕が全力で逃げました



●爆殺
――まだだ。

 主喰らいに止めを刺した朧・紅(朧と紅・f01176)は死体の消失を確認して間も無く上層の危機を伝え聞く。どうやら敵の大群が押し寄せており、他の猟兵達は現在防衛殲滅戦を開始しているのだという。
 ならば、と近くの通路から地下一階を目指して駆けた。まだ残っているのならば都合がいい。簒奪の幸福は刹那。真昼の砂漠にコップ一杯の水を零すのと同じく、瞬く間に余韻となり始めたそれをこのまま手放すのは惜しかった。
 まだ遊んでいたいと子供にも似た――否、年相応の駄々をこねるように、朧は新たな玩具を求めた。

(まだ、まだいるんだろ。なら殺そう。殺して殺して殺しまくってやろう!!)

 扉を押し開け、薄暗い店内。空の棚の合間を抜けて狭いバックヤードから裏口へ。外へ出たならそこで待ち受けているのは有象無象の大軍団。

「さァ、さァさァ!!次の獲物ァどいつだ!!」

 の、はずだった。

「………………………は?」

 ゾンビだ。
 屍人、リビングデッド。呼ばれ方は様々だが、腐乱臭を撒き散らしながら迫る黄泉返りの死者達。既に理性はなく、生者を襲うという本能のみが正常に機能している木偶の集団。距離はあるものの十二分に把握できるほど通路一杯に密集しているそれらは、地下にいる一般人達にしてみればまぎれもない脅威だ。
 が、朧にとって重要なのはそこではない。
 肉体の痛みを忘れた亡者から、あの興奮が得られるはずがない。四肢を寸断してみたところで聞こえる呻きは肺から空気が漏れているだけ。命を奪われる恐怖を、命を奪われないための狂気を、臓腑までひりつくような殺気を、一欠片として見せない存在。そんなもの、退屈だ。
 秒で熱の失せた黄水晶(シトリン)が長い睫毛に縁どられた目蓋の下へと隠れた。小さく震えて開いたならば、輝きは変わり紫水晶(アメシスト)へ。

「……ぅや?」

 先程まで刻まれていた眉間の皺が消え、傾げた首にとろんと甘やかな視線。
 その先で交差する、此方に気付いたゾンビ御一行様の濁り切った無数の眼。
 鼻先を突く悪臭、腐臭。

「…………ひゃ」

――――――――――――――――――――――!!!!

 一拍おいて、絶叫。
 あまりのことに言語化さえ忘れかけた少女の叫びが地下を谺した。

「ああああああ!!まーた僕を放り出す気ですか!!朧のばーか!ばーかぁ!!」

 そう、ここにいるのは殺人鬼≪朧≫ではない。本来の人格、もといこの器の主たる少女≪紅≫だ。殺し合いを期待できないと察した朧は早々に深層へと引っ込み、面倒事のすべてを紅へと押し付けていったのであった。
 先程までの戦闘を紅も知らないわけではない。勿論自分が戦場に立つ覚悟はある、あるのだが、それでも通路にみっちり詰まったゾンビ達などという普段なら画面越しにしか見ない光景が現実にやって来られれば声の一つも上げたくなる。上げた。
 そしてゾンビ達はというと、標的を紅へと確り定めてふらんふらんの大行進。自分へと手を伸ばして歩いてくる亡者の行進を前に、紅は涙目になりかけながらも握り締めていたロープを繰り、断罪刃を真っ直ぐに撃ち出した。刃は綺麗に並んだ亡者の群れの胴を寸断し、刎ね飛ばし、再起不能にしていく。

(別に、ゾンビは怖くないですが……ぅやぁ。気持ち悪いのですぅ)

 溜息、憂鬱。
 これでも数多の修羅場を潜り抜けてきた身、ややグロい程度の敵への耐性は出来てはいるが、それはそれとして心は純朴華憐な乙女。人間の腐乱死体など少女の感性が生理的に受け付けるはずもない。それが歩いて、呻いて、近付いてくるなどとなればちょっと泣きたくもなる。
 ので、さくっと倒す方法を模索することにした。参考にすべき他猟兵の姿はないので、脳裏に存在する記憶図書館より最適の一冊を探す。触らずに大量のゾンビを駆逐する、最適解。
 そこでふと思い出す。聞いた話によるとゾンビ映画では膨大な量のゾンビを倒すためにその場にある材料でどうにか爆弾などを用意して一網打尽にするのだと。

「――!これです!」

 背後に現れた集団に刃を押し込み倒したならば準備に取り掛かる。作戦が決まれば後は実行するのみだ。
 複製した断罪刃を並べて一時的なバリケードの完成。ゾンビ達の行進も中断を余儀なくされた。肉厚な刃の向こう側から聞こえる呻きをBGMに紅は血液パックを取り出して凝縮、変換。
 血液パックを丸ごと手投げサイズの時限爆弾へと変換すればバリケードにしていた複製刃で階段を作って駆け上がる。手元でぽちぽちと時間設定、起爆予定は……10秒後!

「じゅう」

 追って昇って来られないように、脚を離した後の刃は即座に壊した。背後に再び現れようとも、それらは全員地面に逆戻りだ。

「きゅう」

 真下に密集する敵の中心へと、果実を取り零すかのようにそろぉりと爆弾を落とす。多少の振動には耐えられるようにと願いながら作ったこともあり、ゾンビの頭へぶつかっても爆発はしなかった。
 あとは爆発までをカウントしながら待てばいい。何も問題はない、周囲の敵を一掃するだけの力と想いを込めて想像したのだ。前門のゾンビも後門のゾンビも漏れなく全員爆殺、一気に吹き飛ばせるはずなのだ。

「はち」
(ところでよォ)
「わやっ!?な、なんですかいきなり!」
(……テメェ、あれから逃げることも考えてンだろな?)
「……………あっ」

 すっかり忘れてました。
 後で覚えてやがれ。

 残りカウントの全てを放り投げ、金色の目に変わった少女が全力で戦場から離脱したその後。通路に豪快な爆発音が鳴り響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ミソラ・フジミネ
自分が言えたことじゃないんすけど、死体なら死体らしく静かに寝ててくれませんかね

【POW】

小型拳銃で応戦しつつ後退
追い詰められてるっぽくゆっくりジリジリやって、できるだけたくさん引きつけます

乗り入れできない戦車(バイク)は置いてきたし帰りは徒歩
……腕、なくても問題ねえな
右、左、右、迷って 左
利き腕は次に取っておく
掴みかかられる前に、自分で左腕ふっ飛ばして電流一撃

【蹂躙】できるほどの威力はねえかも知れませんけど
動けねえくらい粉々になってくれりゃ嬉しいすね



●霹靂
 銃声。
 ふらつきながら手を伸ばしてきた亡者の片目を弾丸が穿つ。後頭部から腐りかけの脳漿を零しながら倒れ込んだひとりを踏んで、次の亡者が最前列へと躍り出る。

 銃声。銃声。
 脚に一発、体勢を崩したところで脳へと一発。やはりほぼ機能停止している心臓よりは半分腐っていようが脳を狙った方が確実なようだ。

 銃声。銃声。銃声。
 単調に続く銃声は途切れることなく、たんたんと機械的なまでに正確に一定間隔を刻む。その度にひとり、またひとりと倒れていくが数は減るどころか最初と比べても倍近くに増えているようだった。

 困った、実に困った。
 残弾数を数えながらミソラ・フジミネ(DELIVERY MAN・f24799)はガスマスクの下で小さく舌を打ち、顰め面。相当数の弾を用意したつもりが、このゾンビ共はその上を行く物量で押し込めようとしてくる。成程、この数を相手取るなど民間人では至難の業だろう。

「全く……自分が言えたことじゃないんすけど、死体なら死体らしく静かに寝ててくれませんかね」

 斯く言う彼もまた死の淵より蘇生されしものの一人――デッドマンだ。今撃ち抜いている彼らとの違いは多々あるが、最も大きな違いと言えば蘇生方法であろう。
 己か誰かが望んだ結果、禁断の秘術を用いて蘇らされた者か。オブリビオン・ストームにより己さえも望まなかった此岸への帰還を果たしてしまった者か。何方にせよ、相容れない存在であることは確かであった。
 だからこそこうして現在、熾烈な攻防を繰り広げているわけなのだが――

(や、ふりのつもりだったけど結構ピンチっすねこれ)

 銃声。銃声。銃声。銃声。
 元々ミソラの計画では敵に追い詰められているふりをしてじりじりと後退、極力大勢のゾンビを自分に引き付けてそこを一気に仕留める算段だった。
 が、存外に敵の数が多い。最初はちらほら、ただ紛れ込んだだけのような連中が彼を見つけて襲い掛かって来ていたのだが、此方に到着してからかれこれ数分、全く途切れることなく蹴撃が続いていた。
 その上ラストスパートをかけてきているのだろうか、この数分で強襲してくるゾンビの数が一気に増えてきている。
 こんな事ならばこのシェルターの備蓄を少し分けてもらって来ればよかったなどと内心で愚痴るも後の祭り。対集団敵用にと準備してきた弾薬はもう間もなく品切れ。
 他の猟兵達のところから逃げ延びてきた連中がここにいるのではないかだとか、余計な思考まで過り始める始末だ。

(もしかして、他の猟兵より美味しそうに見えたとか?)

 いやいやまさかと弾倉交換。銃声。銃声。銃声。銃声。銃声。
 思考も攻撃も止めずに延々と銃撃。このままでは何れ数に押し潰されてしまう。ならばここで、この時点(ポイント)で動き出さねばならないのでは?
 思考、即決。迅速行動。おまけの一発を近い亡者の眉間へと叩きこんだらバックステップで距離を取る。乗り入れできない戦車(バイク)は置いてきた。帰りはさみしく徒歩。ならば、

(……腕、なくても問題ねえな)

 右、左、もう一度右。安全確認の様に自身の腕を見比べて。

(やっぱ利き腕が先はキツイっすね)

 銃の代わりに構える左腕。己の内側で燃え続ける生への衝動を変換すれば、片腕へと集う電流が五指の先端で弾けて瞬き、生物の如く暴れ始めた。
 耐えて、耐えて、引き付けて――今!
 一定距離まで接近してきたことを確認したなら、ミソラは抑え込んでいた力を解き放つ。死者の放つ霹靂が直線の通路を焼き焦がし、犇めき合う亡者達を呑み込んでいった。

 肘から先、炭化した左腕が指先から崩れてぱきりと落ちていく。この荒廃した世の中において奪還者(ブリンガー)にして配達員(デリヴァリーマン)の片腕ほどに重要なものはない。
 荷を運ぶ腕が、ハンドルを持つ指が、大事な商売道具が暫く使い物にならなくなるのだ。本来なら、この一撃は相応の威力となるはずだった。
 だったのだが、その魂に衝動ある限り何度でも再生できるのがデッドマン最大の特徴だ。大損害とも言えるはずの負傷さえも決して痛手とは言い難い。
 故にこの一撃の威力はというと、精々「この後打ち漏らしたやつらを仕留める時に、弾倉の交換がやりにくくて困る」程度の重さだ。
 ミソラは深くため息をつき、崩れた左腕を下ろすと右手の小型拳銃を構えて引き金を引く。

「でもま、世の中結構うまくいくもんすね」

 銃声。
 滅びそびれた最後の一体を残り一発の弾丸が貫いて、殲滅完了。ミソラの作戦は無事に終了した。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『『天穿つ災厄』四月一日・いずみ』

POW   :    『時遡流銃術・時雨』
【背負った狙撃銃による二段抜き撃ち】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD   :    『時遡流銃術・霧雨』
【心眼で補足した銃口】を向けた対象に、【最大Lv×10mの間合いを詰めるガンフー】でダメージを与える。命中率が高い。
WIZ   :    『時遡流銃術・叢雲』
戦場全体に、【六丁拳銃からの偏差射撃による無数の銃弾】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。

イラスト:赤信号

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は黒玻璃・ミコです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●通信
 ザッ――
『――どうですか?屍人達はそちらと合流いたしましたか?』
 ザッ――
『おじさま?そろそろ刻限ですよ。応答してくださらない?』

 ザッ――

 ザッ――

 ザッ――

『……………………そう』

 ザッ――

『おやすみなさいませ、おじさま』

 ブツッ――

 地下二階、無人の通路の片隅。
 残された古い通信機に最早誰も応答しない。


●刻限
 地下繁華街へひとりの女が降りてきた。
 見回せど、見回せど、あれだけ集めたゾンビ達は見当たらず、襲われているはずの人間達の悲鳴も聞こえない。
 壁やシャッターに残る戦いの爪痕を、白い指先で女はそっと撫でる。こんな傷をあの屍人達は付けられない。
 主喰らいと名乗ったあの御仁についてもそうだ。
 約束の刻限を過ぎても、かの御仁から連絡が来ない。あの、酷く古めかしくも律儀な御仁が何の連絡も寄越さぬなどあるはずもない。

――嗚呼、皆先に逝ってしまったのですね。

 女の目蓋が柔く伏せられ、哀悼の言葉の代わりに重々しく息を吐き落とす。嵐が同じ何かを産むことはあれども、あの御仁は二度と会えないだろう。
 だからこそ、女は己へと向くいくつもの視線に応えた。凛と背を伸ばし、口元には微笑。

「あなた様方がおじさまを倒したのですね。ならば、相応の手練れであると看做して名乗りましょう」

 短い袴の裾をスカートのように摘まんで、一礼。

「私は時遡流銃術、四月一日・いずみ。あなた方の敵、としか言いようが御座いませんね」

 物腰柔らかな女は顔をあげると同時、多重に提げるホルスターから拳銃を二丁引き抜き、胸の前で構えた。
 これ以上の会話は必要ない。
 そうだ、戦いは終わりなどではない。
 作戦は失敗などではない。
 最後のひとりとなったとしても、この場にいる全てを屠れば、屍の山の頂点に立つものこそが勝者なのだ。
 女に恐れはなく、寧ろこの状況を楽しんでさえいるようだ。口元の微笑みから上品さが消え、冴えた三日月の冷たさが宿る。

「では――お覚悟を」

 女は己の認めた好敵手=共闘者を越えた強者達へと照準を定めた。
渦雷・ユキテル
珍しい日
いつも人間離れしたものと戦うから
だけど、ただの女の子じゃないって知ってます

敵の銃口に気を付け【見切り】
拳銃射撃しつつジグザグ移動で距離を詰めます
接近戦に持ち込んだら
獲物をクランケヴァッフェに変更

心理戦とまでは呼べないけど
言葉も含めてあたしの武器ですから
戸惑う、イラつく、それとも何も感じない?
さあ、最初の質問
「おじさまとは長い仲だったんですか?」

視覚だけを頼りにする戦い方でもないかな
でも見えてるものがおかしくなれば支障は出ますよね
問いも槍も何度も振るって攻めます

焦らず少しずつ蝕めばいい
"おじさま"の時もこんなふうに弱らせましたっけ
デリカシーにはちょっと難ありでしたけど
面白い人でしたよ



●乙女
「珍しい日」

 ぽつりと呟いた渦雷・ユキテル(さいわい・f16385)は敵対する女の姿に目を仄かに細めた。
 猟兵として相対する敵には巨獣や魔物や邪神などが多い。人間の形を保っているものも確かにいるのだが、人と同じ形をしているだけの別存在や異形となったものなど「人間」離れしたものが大半だ。
 眼前の女のように五体満足、敵を前にして丁寧に名乗りを上げるなどという、理性があるかのような存在はユキテルの交戦経験からしても稀だった。

「だけど、ただの女の子じゃないって知ってます」
「あなたもそのようですね。お嬢さん」

 射貫くように真っ直ぐな視線、しかし「お嬢さん」と自分を呼んだいずみにユキテルは苦笑い。その意に気付かぬ儘いずみは引き金へと人差し指を伸ばす。

「女同士と言えどここは戦場、情けも容赦も致しません」
「その辺気にしなくっていいですよ。というか肩の力もっと抜いた方がいいと思いますけど」
「そうですか。では、遠慮も要りませんね」

 刹那の沈黙。
 銃声。
 乙女達の手には武骨な黒鉄。互いが互いの銃口を警戒しながらも戦いの火蓋を撃ち落とす。先手はどちらか、その差もわからぬ一発目は交差して互いの急所があったはずの場所を通り過ぎる。
 狙いを定めにくくするためにユキテルは縦横無尽。床、壁、閉じたシャッター、足場にできる場所全てを利用してジグザグに跳んだのなら、転がり込むのは銃弾の雨が降らぬ安全地帯――女の伸ばす腕の内側へ。
 女が後退する隙に素早く銃に安全装置をかけて、瞬時に組み上げた点滴槍。切っ先手前で握り込み、直線。距離を取ろうと動き出すコンマ数秒前の女へと手の中の槍を滑らせ突き立てる。
 同時に召喚し、槍の先端へと滴らせる薬液。さあ、最初の質問は。

「おじさまとは長い仲だったんですか?」

 誘うように暴く声は瞬時に数メートルの距離を取った女の肩へと擦り込まれ、侵食し、微かな痛みと共に女の身体に滲みていく。
 そうとも知らず、投げかけられた質問に対していずみは怪訝に眉根を寄せた。間合いを計りながら何食わぬ顔のユキテルを睨み付け、いずみは質問へ質問を重ねた。

「なぜ、そんなことを?」
「んー、興味本位、ですね」

 返答代わりの銃撃。
 が、弾道は想定していたルートを外れて予想だにしない方向へと跳弾。ユキテルを掠める事すらなくどこぞへと跳ねていった。
 感覚のずれがあったのか?といずみが再び引き金を引くも、弾丸はやはりあらぬ方向へと撃ち込まれ、跳躍する。おかしい。何かがおかしい。己の懐に踏み込んで首を狙った回し蹴りを叩きこもうとするユキテルから距離を取りつつも女は冷静に状況を分析しようとした。

「いいじゃないですかー、『オンナノコ』同士、ただ戦うなんて花がないですよ」
(おかしい。何でかしら。壁の位置と弾が跳ねる音の位置に誤差がある。いつから?何がおかしくなったの)

 点滴槍から逃れ、馴れ馴れしく語り掛けてくるユキテルの言葉を馬耳東風。返答する分の思考も現状分析へと回して、丁寧に、紐解くように己の身に起こっている異変を探る。
 目蓋の痙攣、視界の違和感。先程まではなかった感覚。異常者(オブリビオン)となってから一度として患ったことのない「症状」の正体、先程掠めた傷口に滲みた奇妙な液体へと辿り着く。

(――あれは、まさか毒!?)
「無視しちゃ、だーめ」

 気付けど、もう遅い。
 ユキテルの点滴槍にぶら下がる薬液、主な症状は幻覚、麻痺など視神経へ異常を引き起こすものだ。目蓋が思ったように開かず痙攣するのも、壁や床の距離感がうまく掴めないのも、戦場全体が見渡せるほどに視力が良くなり、それゆえの情報の混線が起こり始めているのもこの薬液の効能だ。
 勿論、攻撃は薬液だけではない。寧ろこのユーベルコードにおいて最も重要なのは問い掛けの方だ。

(なんてったって、言葉も含めてあたしの武器ですから)

 戸惑う、イラつく、それとも何も感じない?
 隠す口元にちろりと舌を出し、相手の様相を伺いながらもユキテルは言葉と毒をより深く、より広く滲みこませていく。
 焦る必要はない、焦らせる必要はある。焦らして、焦らして、少しずつ蝕ませればいい。

「ああ、そうそう。"おじさま"の時もこんなふうに弱らせましたっけ」
「――!」
「デリカシーにはちょっと難ありでしたけど、面白い人でしたよ」

 ユキテルの言葉を頼りにいずみは急接近する。異常が発生しているのは目、視界のみだ。至近距離に潜り込んでしまえば幻覚など関係ない。あとは心の眼で捉え、撃てばいい。
 縮地。女が目にも映らぬほどの速さで迫ったことで、少しばかりユキテルの反応が遅れた。銃口に噛みつかれるより早く身を躱したが、いずみの弾丸は頬の横を通り過ぎて髪を数束攫って行く。
 続けて放たれようとしたもう片方の銃は捌いて弾き、薙ぎ払うように点滴槍を振り回す。女の横っ腹へ鉄の棒が食い込み、小さな呻きと共に身を捩った瞬間にユキテルはバックステップ。崩れた髪型を気にすることなく、茶化すような声色でいずみを惑わさんとした。

「怒っちゃいました?もしかして結構大事なヒトだったとか?」
「……あの御仁は、ただの同盟者です」

 いずみはユキテルへの追撃を行わないどころか、構えを解いて問いに答えた。引き金に指がかかったままではあるから、戦意を失ったわけではないのだろう。
 声色に焦りはない。酷く静かで、波立たず、怒りどころか他の感情の見えない穏やかさがあった。淡々と、けれどどこかうっすらと熱を籠めて女は続けた。

「しかし、尊敬しておりました。気配の消し方、的の狙い方、接近されたときの対処法。私がかつて学び身に着けた技とは異なる『野生で生き残るため』の技術。共闘することで少しでも盗むつもりではありましたが――」

 不思議と、瞼を閉じて浮かんだのは男の姿とは言い難かった。伸びた指先、構えられた古い猟銃、照準の先で狼狽える逃げ遅れ。曲がる指先、轟音、放たれる弾丸、倒れる獲物。
 ひとつひとつの動きを覚えていた。どれもが考え込まれた動きであり、どれもが身体に染み着いた動きであった。研ぎ澄まされた美しささえも感じるほど、共闘という経験はいずみにとって大きな収穫であった。
 目蓋を開き、幻の景色。ふたり、三人と揺らぎ始めた敵対者の姿を見据えるも、本物がどれかなど見当もつかない。
 ならば。

「私が覚えたのは、この程度」

 素早く二丁の拳銃をホルスターに納めると、背負う狙撃銃を引き抜いた。頼りにならない両目の代わりに心の目を以て敵(ユキテル)を捉えたならば高速連射。銃口の向きを見切り、咄嗟の回避はしたもののその正確性はユキテル自身が目撃した主喰らいのそれと同格と言えるほどだ。
 混じることなき血の臭いに、弾丸が外れたことを知れば少しずつ毒の引いてきた視界に傷一つ負っていないユキテルを認め、女は苦笑する。

「……まだまだ未熟者ですね」
「いいえ、貴女は強いですよ」

 謙遜ではなく、心からの言葉。
 短いやり取りを終えた乙女達は不敵に微笑み合い、再び互いに武器を向け合った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【不死蝶】
…君さぁ、最初からいましたって顔してるけど
だいぶ遅れて登場したよね
梓に対して苦笑しつつ

あの男といい、この子といい
彼らなりの矜持が感じられて気持ちが良いよね
全力で殺し合う事が彼女への敬意なのだろう
俺と梓、君とおじさま、なんて
2対2での戦いもしてみたかったね

銃使いとなるとまずは距離を詰めないと
梓のドラゴン達の後ろから
自身もナイフ投げで牽制しつつ接敵
Emperorの届く距離に来たらUC発動
一撃で仕留めんと渾身の力で武器を振り下ろす
…って、「わざと」敵が避けやすい攻撃を仕掛ける
外せば体勢を崩して隙が生まれる
きっと敵はすかさずそこを狙ってくるだろう
じゃあ、あとは任せたよ梓
いや、正しくは焔かな?


乱獅子・梓
【不死蝶】
ハッ、なかなか気品のある女だな!
自分の強さに自信、誇りを持っているのだろう
こういう相手とはやりがいがあるだろう綾

さぁ飛べ!焔、零!
相棒の仔ドラゴン2体を敵へ向かわせる
小ささとすばしっこさを活かして
バラバラにちょこまかと飛び回り
弾丸を躱しながら距離を詰めていく
陽動する事で綾の動きの手助け

敵が綾に対して狙撃銃を構えた時
すかさず零が間に割り込み綾を庇い
焔は敵に対してタックルを食らわせる
ハッハッハ!隙だらけなのはお前の方だな!
焔と零を行かせたのは単なる陽動じゃない
敵の意識が綾に集中する瞬間を待っていた
UC発動、成竜となった焔の炎を浴びせる
俺の相棒はイカすだろう?
死ぬ前にしっかり拝んでおけ



●陽動
「ハッ、なかなか気品のある女だな!」

 乙女達の銃撃戦を遠目に、真白の影が戦場へと踏み込んだ。
 傲岸とも取れる尊大な声色。二匹の竜を従えた長躯の男はこれから相対する女の姿を観察する。凛とした佇まい、からの荒々しささえも感じ取れる軽やかな銃の扱い。近接での対応も、独特な脚運びも、一朝一夕で覚えられるようなものはひとつとない。
 何より、瞳に宿る鮮烈な殺意(かがやき)。自分の強さに自信、誇りを持っているのだろうと評すれば、彼の後ろをついて歩くもう一人の影へとずらしたサングラスの下から視線を飛ばす。

「こういう相手とはやりがいがあるだろう、なあ綾」
「……君さぁ。最初からいましたって顔してるけど、だいぶ遅れて登場したよね」
「っははは!真打は遅れて何とやらだ!もしくは俺が出るまでもなかった、そうだろう?」

 愛用の赤レンズの下で目を細めたまま、灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)は呆れたように苦笑い。ゾンビの群れから下層への通路を護るべく、地下繁華街へとやって来た直後にこの男、乱獅子・梓(白き焔は誰が為に・f25851)は買い物帰りに出くわしたかのような気軽さで合流し、参戦。運がいいのか悪いのか、彼らの担当した通路にはあまりゾンビ達は迷い込んでは来なかった。

「消化不良だろ?援護は俺に任せて楽しんできたらどうだ?」
「そうだね。なら、お言葉に甘えて」

 流れ弾の雨が一段落したならば最前線。「邪魔するよ」と割り込めば相対していたさいわいの乙女は残念そうに後方へと退避、いずみは照準を二人へと切り替える。
速射。
 弾丸は容易く見切られるも、ほんの一秒前ふたりの眉間があった位置を正確に貫いていた。寸前で銃口の角度から弾道を見極め、回避した男たちは引き金へ指をかけたままの女を前に立つ。

「次は俺達の相手をお願いしようか。それとも二体一は卑怯かい?」
「どうぞ。私と吊り合いが取れるのなら何人がかりでも構いませんよ」
「ははっ、見縊られているね。……俺と梓、君とあのおじさま、なんて2対2での戦いもしてみたかったけど」
「それが叶っていたのなら、あなた方はとうに屍を晒していた事でしょう」

 奇妙なものだ。綾は己を睨み付けるいずみに対して心地よい違和感を得ていた。
先刻かそうで対峙したあの男といい、この娘といい。オブリビオンという人類の、未来の敵であるというのに。自分たち猟兵が割って入らねばこの地下に隠れる無辜の住民達を滅ぼし尽くしてしまうというのに。
 彼らには彼らなりの矜持がある。彼らなりの繋がりがある。まるで人間同様に己を高め合うことで目的をも完遂しようとする――それを感じられる事が綾にとっては気持ちが良かった。

「彼を信頼してたんだね」

 綾の問いにいずみは強気な笑みを返した。言葉にして応える必要もないのだろう。彼女は倒された同胞を蔑む事もなく、嵐の先へと還ったその後も対等な理解者として心に刻んでいる。
 ならば、全力で殺し合う事がかの猟師と刃を交えた己が捧げられる、彼女への敬意なのだろう。サングラスの下、赤く染まる視界に女の形を捉えて綾は笑い、槍斧を軽く構えた。

「それじゃあ……行くよ、梓」
「了解!――さぁ飛べ!焔、零!」

 二匹の竜が舞うように翼を広げれば、綾もまたいずみへと跳ぶ。
 相手は銃使い、距離を詰めて対応する方が都合はいいだろうが、既に男達は彼女の戦い方を確認している。近距離戦闘も相応に会得しているのならば、零距離まで詰められる方が長物を持つ綾にとっては都合が悪い。

(だから!焔と零に距離の調整を行わせる!)

 先行する二匹が軽やかに、出鱈目に、小さな身体とスピードを活かして飛び回れば、いずみの視線から綾を外させる。乱撃、跳弾。竜を意識から外そうとすれども、幾重に弾を撃ち込もうとも、綾の死角さえ突けないまま接近を許そうとしていた。
 戦場自体は把握していても、これほど激しく動き回る障害物があれば脳で理解をしていようとも僅かに照準は狂っていく。想定を外れた弾丸は綾の繰る戦斧によって弾かれ、更には念動力により操作されたナイフによって歩法も阻まれる。望む通りに動けないもどかしさが冷静を保とうとする思考に反して蓄積されていく。
 が、攻撃の縫い目。数秒の沈黙を見抜いていずみが一瞬にして後方へ。すぐさま追い駆ける二匹が不規則な軌道で飛び回ろうと散開した、その隙を更に突いて瞬間接近。いずみが綾の攻撃範囲に踏み込み、零距離から鉛玉を叩きこもうとした。
 ――ここまで、予測通り。踏み込まれると同時に綾はバックステップ。下がられた分を踏み込み遅れたいずみへと、綾は高々掲げた槍斧を見せつけた。

「ご覧、【皇帝】のお通りだよ」

 全身全霊を籠めた一撃はいずみの脳天を狙い真っ直ぐに振り落とされる。
 はずだった。

「っと」
「――!」

 戦斧の切先はいずみにではなく、彼女の頭から数cm横へとずれた虚空を裂いて、コンクリートに叩き付けられた。蜘蛛の巣の如く罅割れた床は直前で力を多少抜いたからか、辛うじて表面を破壊されただけで済んでいる。
 狙いが外れ無傷でいられた事、相手の体勢が崩れて直ぐに立て直せない事、どれもがいずみにとって絶好の好機だ。だが念には念を、あの竜達や後方で此方の動きを見張り続けている男が邪魔をしてこないよう、至近距離で撃ち込むのではなく邪魔の入らぬ遠距離から、確実に仕留める。
 即座に距離を取ろうとしたいずみの判断は間違ってはいなかった。

「ガウッ!!」
「キュー!!」

 が、動こうとしたその時には二匹の竜は彼女の進路を阻み、後退さえも許さなかった。
 ふらついた綾を庇うように射線上へと身を躍らせる零と、背後から強烈な体当たりを食らわせる焔。それぞれが狙い澄ましていたかのようにこのタイミングで攻勢へ転じてきた。
 彼らの役割は陽動だけではない。本来の狙いは攻撃を綾へと集中させるため、綾の攻撃が外れた瞬間を狙わせるため、そしてこれから放たれる本命の一撃を外さないためだ。

「ハッハッハ!隙だらけなのはお前の方だな!」
「元気だねぇ。……じゃあ、あとは任せたよ梓」

 いや、正しくは焔かな?
 呟くように零した声はいずみに聞こえているはずもない。
 女の前に立ち塞がるのは赤の壁。否、成竜へとその身を変えた炎の竜。人懐こそうな鳴き声も低い唸り声へと変わり、主を、友を害する存在へと容赦なき鉄槌を振り翳さんとしている。
 赤竜から距離を取るも、通路を壊さんばかりの巨躯はいずみがどれだけ後退しようとも片腕一本の歩みで追い付き、伸ばした首は女の銃口に触れるか触れないかの距離。素早く二発、放たれた弾丸は艶めく鱗に弾かれて望まぬ方向へと跳ねていく。
 開いた顎の奥に燃え上がる炎の濁流が見えた。

「俺の相棒はイカすだろう?――死ぬ前にしっかり拝んでおけ」

 男の号令で、狭い地下通路に焔の息吹が注ぎ込まれる。
 女の眼前へ、抗わねばならない死の形容が押し寄せた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​


●仮面
 炎が去りて、女はその場に在った。
 息を切らし、髪を乱し、それでも立っていた。
 傷は決して浅くはない。肌も着物も焼けて焦げて、四肢は鉛を嵌めたが如く重い。
 だが、女にも矜持があった。

「私は、負けません」

 優美の仮面は剥がれ落ち、女の瞳が殺意に満ちる。

「絶対に、負けられないのです」

 負けられない。負けられない。誰にも負けられない。
 女には勝たねばならない相手がいる。生まれた時から、死して尚、この手で倒さねば気の済まない女がいる。故に磨き続けた。銃神と呼ばれてもまだ足りなかった。
 女は睨む。この場にいる総てを屍に変えてもまだ足りないと理解している。
 足りずとも、積み重ねなければならない。積み上げた先に待つ頂で、いずれ再会する不倶戴天の難敵(いもうと)を打ち滅ぼすまで。
 武器を強く握り直して十字に構え、呼吸を整える。瞳の奥に燃える熱に反して、思考はしんと冴えて澄み切っていた。

「さあ、次のお相手はどなたです?」
夷洞・みさき
咎人同士にどんな感情があったのかは知らないけれど、今を生きる人たちに害するなら君達がどうあれ見逃すわけにはいかないんだよね。

それに、己の意思の無い死者は咎の問い先に困ってね。

だからね。君が彼等を咎をまとめて禊いでくれないか?

【SPD】
ネズミからヒトまでゾンビ溢れる館に招待。
2章のゾンビの呪詛を上乗せゾンビの群れを作成。
脱出手段は、館のゾンビを全て禊ぐ事。

出口にみさきがいる。

残るは君の咎だけだ。

間合いが詰められ攻撃を受けたら、致命傷のみ回避。
命中箇所以外を【真の姿】に戻し、死角から攻撃する。

君が捉えたのは僕だけだよね。
『おじちゃん』は僕等に気づいていたよ?
聞いていたらまた違ったのかもしれないね。



●尾鰭
 ひたり、ひたり。
 コンクリートから離れていく湿った足音が、殺意を燃やす女へと近づいていく。
 がたり、ごとり。
 同胞を乗せた巨大な車輪が、銀色に艶めく女に付き添うように転がって来る。

「ああ、派手にやってるね」

 声のする方へとまず銃口を向け、続けて追ったいずみの視界にはひとりの女と六つの気配。夷洞・みさき(海に沈んだ六つと一人・f04147)は焦げ跡の目立つ壁やシャッター、破損の激しい床を見て小さく息を漏らした。

「これは全部終わった後に補修の手伝いをした方がよさそうだ」
「その心配はございません。此処を使う人間なんて、誰もいなくなるのですから」
「そうさせないために僕らがいるのさ」

 がたりと歩を止めて、みさきはいずみへと変わらぬ微笑みを向ける。
 みさきからすれば彼女の想いも矜持も関係のない事だ。嵐に巻かれて変質したにせよ、死した後に湧き上がってきたにせよ、咎人を――オブリビオンとして多くの簒奪を繰り返して来たであろう彼女たちを見逃すわけにはいかない。
 彼女達にどんな感情があったとしても、今を懸命に生きる人々を害する存在を野放しになどできないのだ。
 だが、情けをかけるべき存在も、この場には確かにいた。

「そうそう実はさ。己の意思の無い死者は咎の問い先に困ってね」
         ――忘却に漂う館よ、今再び物語を。扉の鍵は我が手の中に。

「だからね。君が彼等の咎をまとめて禊いでくれないか?」
         ――舞台は此処に。事件は其処に。隠れた小部屋は何処にか。

 みさきの声に重なる不協和音。誰が唱えているか、何処から響いてくるのか、挟撃の可能性をも見越して周辺を警戒したいずみが声の主を探してみても誰もいない。
 誰も?
 そう、誰もいない。目の前にいたはずの銀の鱗の女がいない。先程まで自分がいたはずの地下繁華街の静寂すらどこにもない。否、自分が何処にいるのか分からない。広いホールに二階へ向かう階段、正面には開け放たれた大扉とその先に真っ直ぐと続く暗い廊下。少なからず、この世界(アポカリプスヘル)においては現存しているかも珍しい洋風の造りだ。
 聞こえてくるのは耳慣れた呻き声、鼻を痺れさせる腐臭。老若男女関係なく蠢き犇めく、死者の群れが進軍している。死せる者達の狙いはただひとり。
 いずみは己へと迫り来る数多の気配へと迷わず銃撃。此処が何処だかわからずとも、壁や階段の位置は即座に確認、把握した。吐き出された鉛玉は寸分狂わず屍人達の脳を破壊して塵に還す。
 急激に始まった舞台上、惑いながらも踊り始めた役者の頭上へ語り手の声が鳴り響いた。

『境界は成立した。ようこそ氷白館へ。抜け出したかったら館のゾンビを全て禊いでおくれ』

 女の声は漣の静けさで広がって、消えていった。
 成程、といずみは無言で頷いた。これは既に敵の術中、このままでは作戦の遂行どころかこの奇妙な館からの脱出すらも危うい状態だ。禊ぐという行為がどういった行為を示すかも理解できてはいないがやれることはひとつだ。不服ではあるものの、声に従わねばならないと判断したいずみは速やかに群れ成すゾンビ達を排除していくことにした。

 黙々、淡々。
 相手は動きも鈍く攻撃手段も弱点もよく知る存在であるためか、それは戦闘というよりは作業に近かった。只管に屍人達の頭蓋を叩き割り、脳髄を破壊する。足元を走り回るねずみ達は踏み潰して殺し、接近を許した者に対しては渾身のガンフーをお見舞いした。
 一階、二階、駆け抜けて探し出して引きずり出して壊して潰して、殺し直した、殺し尽くした。

(数が多い……これで全員なのでしょうか。まだどこかに、誰かが?)

 駆け回り、殺し続けて生まれる疑心。
 玄関らしき扉も見つけたが、押しても引いても銃を何発撃ち込んでも開かないし壊れない。壁も窓もそうだ。この空間は最初に提示された条件を達成しなければ、本当に出られないのだと。襲い掛かって来る敵の姿がなくなると、どこに残る敵が潜んでいるのかと焦りも生まれ始めた。そんな時だ。
 ふと、白くぼんやりとした人の形が視界の端を横切った、気がした。
 見間違いであろうとなかろうと、あの声(おんな)は館のゾンビを「全て」禊げと言ったのだ。

(ええ、この後シェルターにいる人々だって、皆等しく撃ち抜かねばならないのですから)

 階段を駆け上がって二階へ。辿った先にはゾンビ達を殺している最中に何度も通り過ぎた、氷の如くに幽かな少女の肖像画が飾られただけの何の変哲もない通路だ。が、よくよく耳を澄ましてみれば口笛にも似た薄く高い音色が肖像画から聞こえてきた。
 額縁に手を掛けて、押し上げる。
 がたん、と肖像画は床に落ちれば、隠されていた真っ暗い洞が大きく口を開けていずみが呑まれるのを待っていた。髪を撫でる冷たい風、粘り付くような潮の香りに引き込まれて闇の中へと進んでいく。

 歩いていった先、殺風景な部屋の中に女はいた。

「――そして、誰もいなくなった。って言うのは、なんだっけ。推理小説(ミステリ)のタイトルだったかな?」

 少し高い椅子に腰かけて、ふらふらと脚を揺らした女は――みさきは、手にした本を閉じて来客へとねぎらいの言葉をかけた。

「お疲れ様。残るは」

 君の咎だけだ。と、続けるはずだった言葉は急接近したいずみのガンフーによって掻き消された。吹き飛ばされた右腕が床にぼとりと落ちて、続けて撃ち込まれた零距離射撃はみさきの腹に大穴を開けた。

「お遊びはここまでです。貴女で最後だというのなら、早々に死んでいただきます」
「ああ怖い怖い。でも……君が捉えたのは僕だけだよね」

 だというのに、みさきは平然と、まるで痛みなど感じていないように微笑んだ。
 次の瞬間、いずみの脚に激痛が走る。視線だけを向ければ焼け爛れた脚に異形の魚が鋭い牙を立てていた。それだけではない。いつの間にか、撃ち落としていないみさきの片腕もまたなくなっている。腹は傷痕どころか胸から下が消え失せて、ゆらり、尾鰭の如く背骨が揺れる。
 みさきの変化に気付いて間もなく、いずみは己へ向けられる色なき視線の数を知る。

「『おじちゃん』は僕等に気づいていたよ?聞いていたらまた違ったのかもしれないね」

 頬にすり寄る金魚へ愛おしそうに目を細めて、みさきが笑う。
 ゆらり、ふらり。揺らめく銀色の魚たちが、四方からいずみへと喰らい付いた。

成功 🔵​🔵​🔴​


●不快
 食い付かれる感触とはこうも不快なものか。
 肉を抉り、骨まで届かんばかりに噛みついてくる異形の魚達はただ暴れるだけでは振りほどけない。
食い荒らされるわけにはいかない。二発、右足へと食い付いていた魚へと弾丸をお見舞いすれば、いずみはみさきを飛び越えて奥――虚構の屋敷の出口へ。

 終わらせない。終わらせられない。この程度の傷で泣くものか。この程度の想定外に狼狽えるものか。

 屋敷からの脱出と共に離れていく魚達、遠ざかっていくみさき達の漣のような笑い声。いずみは無感覚の中を走りながら、境界を踏み越えていった。
朧・紅
おねーさんも悪い人?
ならお仕事の時間です


むぅ朧、いつもなら嬉々として出て来るですのに
僕のうっかりは悪かったですよーだ
いいですもん
殺る事は変わらないのです

あわわっと武器受け
技は身に沁みついてるです

差は経験か
弾はこの身を致命的に穿つ

伏した身が蠢き
金色が嗤う

イイトコの嬢のお行儀イイ作法なんざ、と思ったが
案外オイシイ味がすんなァ

テメェは高見が好きか?
ジジィは狩る事にご執心だったかネ(思い出し嗤い
俺ァ賭すのがイイ
命を
生きてる実感?嗤う
コレ(感情)を表す言葉なんざ知らねェ
タダ
狂おしい程テメェと殺し愛てェ


俺からもくれて殺らねェとなァ
限界突破の大サービス

嗚呼、ジジィの最期もウマかったゼ

身体が軋む
愉シイなァ?


ミソラ・フジミネ
ああ、マジの人間みたいなやつ
こういうオブリビオン苦手だわ
同じ言葉使ってんのに 話が通じねえ

【POW】
あっちはまだ元気で士気も高い
こっちは片腕で銃ひとつだけ
やる気じゃ負けてませんけど、これで正面からやり合うのはよくねえでしょ

他の人がやり合ってる間に背後が取れる所まで移動、目立たないように動きます
気がついて狙撃銃抜かれる前にクイックドロウで牽制
撃ちながら距離詰めて接近戦に持ち込んだら銃はホルスターへ
落としたら拾えなくなる予定があるもんで

オブリビオンの頭・腕・脚・銃、どれでもいい
手を伸ばして、掴んで、そのまま自分の腕ごとブッ飛ばします
取っておいた右腕の使いどころってやつ



●会話
「――てことで、陽動というか、敵の気を引くのは頼んだっす」
「はい、任されました!気を付けてくださいね」

 男と少女は短い会話を交わしてから、自らの戦場へと足を運んだ。


●硝子
 眩く世界から抜け出して、いずみは地下繁華街へと再び降り立った。唐突に開けた視野と蛍光灯のまぶしさに脳が、夢中になっていて忘れていた痛みによって足元がふらついたがまだ倒れるわけにはいかない。歯を食いしばり、再び痛みを意識の外へとはじき出す。
 遅れて、思考が戦場へと引き戻された。いずみは即座に戦況の把握と敵勢力の陣形を確認せんと殺気を迸らせる。周辺に敵は、猟兵を名乗るあの連中は――

 いた。
 洋紅色の長い髪を高く括って、瞳は菫を融かした氷砂糖の甘さ。朧・紅(朧と紅・f01176)は目を丸く開いていずみのことを見つめている。一見すると殺気の欠片もない幼げな少女だが、その手に握り締めた得物と染み着いた血の臭いが雄弁に語っている。
 これは、この少女はまごうことなく殺戮者(こちら)側の存在だと。

「おねーさんも悪い人?」

 しかし少女は無垢に小首を傾げて問い掛けて、女の返答も待たずにロープを強く握る。

「ならお仕事の時間です」

 じゃらりと鎌首を擡げるように、ロープの先の断罪刃がいずみへと狙いを定め浮き上がった。いずみは警戒を重ねつつ臨戦態勢。銃口を少女へと向けた。

 一方、紅はというといずみの殺気に反応を示さなかったもう一人の事を考えていた。いつもならば嬉々として出て来て愉しい殺し合いに心弾ませているのに、今はまるで知らんふりだ。何度呼び掛けても無反応なあたり、原因はなんとなく察していた。先程のゾンビ達との戦闘だ。
 特製爆弾でどかんと一掃できた事には違いはないのだが、爆破位置をミスり、爆発から逃れるために彼の力を借りざるを得なかった事に対して未だ根に持っているのだろう。その上眼前の敵は主喰らいと比べれば同じ手負いでも聊か毛色が違う。
 要は「こんくらいテメェでどうにかしてみせろ」という事なのだ。

(僕のうっかりは悪かったですよーだ……いいですもん、殺る事は変わらないのですし)

 技は身に沁みついている。ならばきっとひとりでもこの敵を倒せるだろう。膨れた頬でロープを繰り、紅はいずみから先手を奪った。通路を占拠するよう一対の刃を並べて撃ち出し、間髪を入れず複製した刃を追加し同様に操作。いずみの首を、胴を狙う。
 が、いずみは四肢の痛みに任せて低姿勢で転がり込み刃を回避。武器の複製ができると分かれば即座に戦法を練り上げ、両手の銃から弾丸の嵐を吐き出した。
 迫る断罪刃さえも利用し跳ね回る鉛の猟犬たちは四方八方から紅を狙い、喰らい付く。

「あ、わわわっ!!」

 慌てて撃ち出そうとしていた追加の断罪刃を展開、盾にして銃弾を弾くもその頃にはいずみが縮地を用いて距離を詰めて来ていた。

「ぬるいですよ」
「ひゃうっ!!」

 刃の一枚を蹴り飛ばし、零距離。いずみの接近を許してしまった事、いずみの速さへ紅はびくりと小さく身を震わせる。差は歴然。手負いであろうともいずみの方が戦闘経験も直感も上ではあった。右肩、両脚、腹へと順番に銃撃を叩き込み、穿ったばかりの傷口に蹴りを入れた。
 容易く吹き飛ばされ、地に転がり伏した少女はせり上がる異物感に耐えきれずその場にごぽりと血の塊を吐き出す。遅れてやって来た激痛に身を捩り、痛みを訴える事すらできず形にならない声を漏らして歯を食い縛った。
 おかしい。
 あまりにも呆気ない。先程感じたはずの同族の臭いはどこにもない。いずみは内心の困惑を隠しきれず攻撃の手を止め、放っておいても勝手に力尽きてしまいそうな少女の姿を遠目に見つめた。
 くく、と少女の唇から嘲笑が漏れる。己の現状に呆れたか、死を目前に狂ったか。最早いずみは少女に対しての敵意を削がれ、憐憫さえも抱いていた。このまま苦しませるのも可哀想だと、哀れみを弾丸に込めて狙撃銃を構える。せめて楽にしてやろう、それがこの少女の為だと。

 違う。違った。

 身を起こしていた少女からは溢れんばかりの殺意が滲んでいた。刃のように研ぎ澄まされたものではなく、深く澱み身を沈めてれば逃れられない泥濘の殺意だ。見開いた眸は月の狂気を孕んで燃え上がり、傷口は血液自体を固定する想像(イメージ)で無理矢理塞いでいる。
 ふらりと起き上がった少女は、先程までとは全く異なる空気を漂わせ、いずみへ狂気の笑みを向けた。

「イイトコの嬢のお行儀イイ作法なんざ、と思ったが……くは、案外オイシイ味がすんなァ」

 痛みのあまりに少女は深く眠ったか、変わって現れたのはもうひとりの人格《朧》だった。口の中に残っていた血痰を吐き捨てロープを握り直せば、断罪刃は再び獲物を探すようにふらついて浮かび上がり、朧が視線を向けた先へと刃を向ける。

「テメェは高見が好きか?ジジィは狩る事にご執心だったかネ」
「――あな、たは?」
「俺か?」

 何者なのですか、と続けようとしたいずみの唇が変容した少女の異質を前に強張った。問いを遮った少女はというと、くつくつと喉で笑いつつ四肢の状態を確かめていた。ゆらり一歩、踏み出す脚には突き刺さる硝子の痛み。

「俺ァ……賭すのがイイ。命を。ギリギリまで削り合い奪い合う……そんな死合が好きだ」

 哄笑。

「コレ(感情)を表す言葉なんざ知らねェよ。タダ……狂おしい程テメェと……殺し愛てェ!!」

 斬ッ!!
 朧の昂りに合わせて一対の断罪刃が空を躍った。先程のように真っ直ぐと落とされるのではなく、狭い通路をジグザグに跳び刎ねる刃を前にいずみは一瞬たじろいだ。構えたままだった狙撃銃を持ち替える間すらなく、一瞬。二枚の刃が時折生み出す小さな逃げ道へと身体を滑り込ませることしかできず、攻撃の暇も作り出せない。
 もうどこかに甘さの残る少女はいない。今眼前に立つのは最初に感じた通りの存在だ。
 いずみは壁を蹴り刃を潜り抜け、狙撃銃を視界の片隅に移った洋紅色の少女へと向け二段射撃。しかし弾丸は複製の刃が容易く防ぐ。

「俺からもくれて殺らねェとなァ」

 挑発するように笑って見せると、握ったロープを手繰った。断罪刃は荒々しく跳ね上がり、四肢を削がんと着地寸前のいずみへと襲い掛かる。間一髪で回避し、どうにか狙撃銃から拳銃へと切り替えるも、朧の姿を追うより先に次なる刃が迫り来る。
 低姿勢で刃を潜る。一瞬、喰らい付かれた脚の傷に鋭い痛みが走り、思う通りに動かなかったが髪の先数センチを犠牲とする程度で接近に成功。ようやく距離の縮まった朧を前にしていずみは痛みを堪えて睨み付ければ、朧は至近で殺気を受け取り、顔を嬉々と歪ませた。

「イイぜ、そそるじゃねェか」

 この瞬間を待っていた。
 複製していた全ての断罪刃を解除し、ロープに代わって握り締めたのはあらかじめ拾っておいた硝子片だ。深く傷付けた掌を赤々と鮮血に染め上げて、昏倒する程に傷付いた片割れの分まで渾身の一撃を叩き込む。
 避けようがない至近距離から放たれた朧の貫手はいずみの鳩尾を食い破り、貪欲なる彼女の血は女の血をも取り込んでその身に僅かな癒しを齎した。その上、女の細くも肉付きのいい腹を突き破る瞬間の感触は中々に心地が良い。

「嗚呼、ジジィの最期もウマかったゼ」

 身体が軋む。肉体の限界はとうに突破している。硝子片を放り投げてロープを握り直すも、血を流し過ぎたかうまく思考がまとまらない。断罪刃の複製が作れなくなっていた。だがまだ相手は立っている。此方もまだ立っていられる。

「……クは!愉シイ、なァ?」

 口の端からつぅと垂れた血を拭って朧は嗤い、いずみの喉元へと刃を差し向けた。


●秘策
 状況は数分前に遡る。
 紅がいずみと対面していたちょうどその頃、ミソラ・フジミネ(DELIVERY MAN・f24799)は彼女達の戦場を避けるようにぐるりと迂回、戦闘音で位置を把握しつつ移動していた。
 少女と共に戦わなかった理由はいくつかあるが、最も大きいのは先のゾンビ戦で失った左腕。肉体を稼働させるための衝動さえあればまた再生することはできるだろうが、それは時間をじっくりかけた後の話であって今すぐの話ではない。
 そのうえ連携するにしても獲物が違い過ぎたし、敵も悪かった。ゾンビのような理性ではなく本能のみで行動するような連中というのは動きが一定で行動が読みやすい。片腕を失っていたとしても多少の無茶だけでどうにかなってしまうのだが、よりにもよって人間型だ。
 人間の形を保っているオブリビオンは苦手だ。一見意思疎通が可能であるように見えて全く思想や思考が違う。人間であった頃からそうなのか、或いは骸の海に毒されて変質してしまったのか。同じ言葉を使っているのに全く話が通じないし、此方の状態を観察しては痛いところを突いてくるのだ。
 理性がある。知性がある。経験がある。判断能力も格段ある。こういう相手は特に厄介なのだ。

(あっちはまだ五体満足、銃も多い。こっちは片腕で銃ひとつだけ……これで正面からやり合うのは分が悪すぎでしょうよ)

 協力者がいたとしても不利には変わらない。共闘していても足手纏いになるくらいならばと、ミソラは銃使いらしい戦い方を選んだ。至極単純なヒット&アウェー。建物の影から狙い撃ち、撃ったら即場所を変えて敵を狙う。近付かれたときにはとっておきを、その程度しか出来ないしその先は何もできない。選べない。
 結果、ミソラは否応なしに戦場に残った洋紅色の少女に前線での戦闘を任せねばならなかった。気が引ける。だがあの女の子を頼らなければならない。
 ミソラは戦闘音の近付く曲がり角まで辿り着く。が、何故だか音は直ぐに止まり、嫌な静寂が硝煙の臭いと共に立ち込めてきた。そろりと注意深く角から通路を覗きこんでみると……

(……マジっすか)

 少女はまだ立っていた。しかし既に足元は覚束ない、気力でどうにか立っているようにも見える。女も同じだ。銃が一丁床を滑り、腹を抱えて息を荒くしている。
 武骨なギロチンの刃が女へ向けられ、女は咳き込みながらもホルスターに納めていた新たな銃へと手を伸ばす。あと一手、恐らくは少女の方が速いだろう。彼女のギロチンが敵の頸を刎ねて、この戦いは終結する。

 はずが。

 少女がくらりと後方に引っ張られてそのまま膝から崩れた。よくよく見ると彼女の周囲にはどちらのものかもわからない血が飛び散り、滲んでいる。負傷具合から見て、少女の流した血の分量が聊か多いだろう。
 瞬間、女の目に勝機が宿る。少女を今度こそ仕留めんと拳銃を引き抜いた。
 様子見などしている場合ではない。状況は確実に悪転している!いずみが少女へと二丁の銃口を向けるより早く、ミソラは駆け出した。牽制に一発、いずみが標的を倒れた少女からミソラへと変更した。
 好都合だ、見開いた眼が交差すれば、残り全弾も撃ち尽くして銃はホルスターへ。これ以上は撃たない、撃てない。弾倉の交換すらまともにやれない死に体ではやれることが限られている。
 右腕を盾にしつつ前進。銃弾の雨の中を急所(エンジン)だけ護り突き抜ける。
 小銃程度では効かないものかと判断したのか、いずみは二丁をホルスターへと素早く納めて背負った狙撃銃へと手を伸ばす。

「そうはいかねっすよ!!」

 ほんの数秒。ミソラがいずみを捉える方が早かった。
 駆ける勢いを殺すことなく体当たり、そのまま馬乗りになれば身動きが取れない状態に持ち込み、ミソラはいずみの片腕を掴んだ。銃弾を食らって穴だらけの右腕は負傷の多さに反して力は衰えず、骨を折る事は出来ずとも振りほどかれる事のない強さでぎりりと握る。
 それだけだ。武器を握る片腕はなく、やれることは何もない。いずみから見たミソラはただ少女が起き上がるまでの時間稼ぎをしているだけのように見えた。

「さぁて、取っておいた右腕の使いどころ……ってやつっす」

 でも違った。
 男の右腕に目映いほどの力が集束していく。溢れ出して迸り、女の眼前で弾けるそれは最早電流というよりは雷雲の中を暴れる稲光。
 片腕を失うだけなら代償は少ないままだったが、配送員を名乗る身でありながら、この危険地帯から気を失った少女ひとりさえ抱えて運べなくなるのならば話は別だ。自分の命もさることながら、他人の命(みらい)は斯くも重い。
 なれば、威力は十二分。

「明るい死後(みらい)へ吹き飛びな」

 轟音。
 ミソラの秘策、死者の雷撃はその身さえも跳ね飛ばした。両腕を失ったミソラは受け身を取る事も出来ずに壁に叩き付けられ、軋む背骨の音を聞きながら床に落ちる。
 電流はいずみの身体を余すことなく駆け巡り、焼き尽くしていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


●離脱
「……ぅゆ、あれ?」

 目覚めたそこにいたのは、ミソラが最初に言葉を交わした少女――《紅》の方だった。貧血からか、眩む頭を押さえて身を起こすと、戦場の惨状が視界一杯に飛び込む。

「あ、わわわ!おねーさんが!おにーさんが!」

 倒れたいずみと両腕を無くしたミソラ。敵対しているいずみはともあれ、明らかに重傷なミソラを前に慌てた紅はふらつきながらも男へ駆け寄った。少女の姿を見てミソラは安堵からか眉尻を下げて、ガスマスクから籠った声を漏らす。

「無事だったのか?」
「え、ええ!ぼくはなんとか……その、腕は」
「気にしなくていいっすよ。飯食って寝てれば治るんで」

 自分、死人なんで。と緩い声色で返して立ち上がろうとする……のだが、腕がないというのはこうも不便なのか。壁へと身体を押し付けて、どうにか両脚だけで立とうとするも負傷が地味に響いてきてうまく力を入れられない。しょうがなく少女の手を借りて立ち上がった。
 そこへだ。

「ほぅ、此度の騒乱……最後に向かって来るはずなのは、その女か?」

 ふたりの元へと遅れて現れたのはゾンビの群れの対応で長く持ち場から離れられなかった最初の一人。剣を手に堂々たる振る舞い、白銀の女はふたりの負傷者へと一番近い地下への通路を教えるといずみを前に仁王立ち。

「後は私に任せて行け。怪我人は早く手当てを受けてこい」
「……はは、なら、お言葉に甘えさせていただきましょうか」

 斯くして少女と男は戦線を離脱し、その場に残ったのは――
オヴェリア・ゲランド
ほぅ、此度の騒乱…最後に向かって来るのは貴様か。
奇しくも先の男と同じ銃使い、ならば同じ様に我が剣の露としてくれよう。

●両断
「貴様らが銃に全てを込めるように、私はこの剣に全てを懸ける」
侮りはしない、ただ強敵と認め喜びと共に屠るのみ。
「来い!」
銃は撃たせ、払い、寄り、斬る。
【野生の勘】で弾道を見極め、迸る覇気の【オーラ防御】と【念動力】で逸らし、それでも足りねば剣にて【武器受け】し弾を【吹き飛ばす】。
「…征く」
そして放つは【次元斬】、距離すら超越した一刀にて【切り込み】、そのまま【薙ぎ払い】女を両断する。
「よい立ち合いであった、さらばだ…強敵よ」

●アドリブ大歓迎



●強敵
 身体の芯まで焦げてしまったような感覚の中、いずみは漠然と思考を止めていた。
 私は負ける。
 このまま崩れ落ちてよかった。もう立ち上がることも億劫だった。このまま静かに眠ったとして、誰が怒るだろう。そんな人たちはとうに滅ぼしていた。
 しかし。

「屈するのか?」

 頭上より降り注ぐ言の葉がいずみの思考を遮る。重たくなった目蓋をどうにか持ち上げれば、逆さまの世界を二分する白銀の壁が立ち塞がっていた。暈けた輪郭をなぞってゆくと壁と思っていたそれが次第に鮮明になっていく。
 ひとりの女だ。自分を見下す女が、剣を床に突き刺して自分が立ち上がるのを待っていた。
 それだけならばいずみは折れたままであった。

「奇しくも先の男と同じ銃使い……骨のある相手と思っていたのだが」

 凛と、雄と、女の声が浸透する。
 オヴェリア・ゲランド(銀の剣帝・f25174)はどこか寂しげに、指一本動かせずいつまでも立ち上がらない女の姿を見つめ、重々しく息を吐き出した。諦念、悔恨。もう少し早く出会えていたなら佳き戦になったであろうに、と倒れた強敵を憐れむ。

「立ち上がれぬならば、かの男と同じ様に我が剣の露としてくれよう」

 似ている。妹に似ている。
 容姿は全く違う。何よりここにいるはずがない。だが女の佇まいが、こちらを真っ直ぐ見つめてぶつけてくる戦意が似ていた。彼女の二つ名を知らずとも、女はそう呼ばれる人間の在り方を知っていた。知っていたからこそ、いずみは女の言葉に滲む憐れみに怒り、この女の前で無様な己を晒すことが赦せなかった。

――勝たねばならない。

 女が幽鬼の如く立ち上がった。拳銃を握り、荒くなった息を整える。

――勝たねばならない勝たねばならない勝たねばならない勝たねばならない勝たねばならない勝たねばならない!!

 整えようとしていた呼気は深く、荒く、食い縛った歯の間から吐き出された。思考は単純化し、澄み切っている。

――噫、嗚呼!そうだ、私は!勝たねば!ならない!

 ただそれだけを考えていればいいと気付いて女は、女であったそれはオヴェリアを前に吼えていた。襤褸のような腕に力が漲る。炭になりそうな脚から震えが消える。照準(まなこ)は討つべきひとりを、その奥に歪む妹の幻覚を捉えて離さない。
 今ここに、天穿つ災厄が具現した。

「そうだ、来い!貴様らが銃に全てを込めるように、私はこの剣に全てを懸けよう!」

 剣を引き抜き、オヴェリアもまた高らかに吼える。手負いだからと、瀕死だからと侮りはしない。今、立ち向かわんと牙を剥く女をただ強敵と認め、ただ撃ち滅ぼすために迎え討つ。
 猛り吼えた後にいずみはひゅうと息を吸う。嵐の後には凪、女の心には最早波風ひとつ立たず、波紋の一つも広がらない。銃を構え、敵から目を逸らさず、じりりと足の指先に力を籠める。

 間。

 時をも殺す静寂の中で二人の女は不敵に、冷徹に見据え合う。
 先手を取ったのはいずみだ。瞬きが終わらぬ間の刹那で剣の間合いへと潜り込めば急所へと銃口を突きつける。はずが、読み切られていた。バックステップで僅かに距離を取れば、吐き出された弾丸は覇気により穿つべき場所から逸らされる。
 身を捻れば躍るように剣は敵の眼前へ。いずみは銃身で切先を受け流しつつもう片方の銃でオヴェリアの眉間へと一発。銃口が向けられた瞬間に首を捻って回避、弾丸は急所を逸れていくが、掠めたこめかみに薄く熱を残していった。

 そうだ、そうでなくては。

 笑みが零れる。私でなければ何度殺されていただろう、私でなければどれだけの屍が積み重なっていただろう。今のいずみは猟兵達との戦いを経て、より高みへと昇り詰めていた。精度は撃ち合うたびに正確になり、女の剣は簡単に届かない。
 嗚呼、なんという。なんということだ。
この歓びと共にこの好敵手(おんな)を打ち破ろう。この喜びと共にこの強敵(おんな)を屠り去ろう。
 隙の出来たいずみの腹へと蹴りを入れて、距離を取る。いずみから逃げる為ではない。先の宣言通り、この剣に全てを懸けて彼女を倒す為には間合いが必要だった。
 呻き、その場に踏み止まったいずみはオヴェリアを追わなかった。何故、わざわざ剣の間合いから離れたのか。妹ならば剣を変化させるか、或いは剣舞で敵を惑わすかのどちらかになるが、この狭苦しい地下繁華街においては失策であろう。
 何より、この戦場はとうに全てが彼女の間合いであった。

「――時遡流銃術、叢雲。参ります」

 六丁拳銃、総てを用いて敵の行動を阻害するいずみの攻撃。遠ざかられるのならば逃げ場を無くしてしまえばいい。
 一丁、まずは退路を断つ。床の亀裂も壁の些細な起伏も利用して跳弾させる。
 二丁、少し間を置き同様に。天井に張り付く蛍光灯も割って、オヴェリアの進む一歩先へと弾丸を差し込ませる。
 三丁、最初の銃と交換(スイッチ)、正面から側面にかけて連射、自身と彼女の直線状から逃げ場を無くす。
 四丁、二つ目の銃と交換(スイッチ)、側面から背面にかけて連射、遅れてやって来る弾丸への対処で心を揺さぶる。
 五丁、三つ目の銃と交換(スイッチ)、乱雑に撃ち尽くす。銃弾は雨となり次に踏み込むべき道さえも壊し尽くす。
 六丁、四つ目の銃と交換(スイッチ)、正確に撃ち尽くす、銃弾は嵐となりその場に留まる者達から居場所を奪い尽くす。
 出口は一つ。死、それだけだ。

 だが、オヴェリアが怯むことはなく、それどころか戦意は研ぎ澄まされていた。
 降り注ぐ弾丸をものともせず、黄金の覇気で弾道を変えて、白銀の剣で切り払い、弾き飛ばす。されど離れたままの距離を縮めようともせず、ただ弾雨の終わりまでを凌ぎ切った。
 転がる弾倉の屍達の中、オヴェリアは改めて女を見た。

「……征く」

 一歩。一歩で十分だった。
 踏み込み、剣を上段に構え、女から目を離すことはなく渾身を籠めて剣を振るった。空が歪み剣戟が吸い込まれ、次の瞬間にはいずみの眼前で剣戟が復元される。距離も、空間も、この一撃の前には無意味だった。次元をも裂き、刃を届ける剣帝の技はいずみの身体に食い付いた。防ぎようもない。最早覆らぬ結果を前にしていずみの中に在ったのは、後悔。称賛。そして――安堵。
 気付いていなかった。この戦場はとうに全て、彼女の間合いでもあったのだと。

                 両



                   断

 断たれ、女は哂う。己の弱さに、届かなかった頂に、敗北の心地よさに。
 断ちて、女は笑う。敵の強さに、先端の見えた頂に、勝利の心地よさに。
 剣を納め、オヴェリアは静かに、最早塵と消えゆくいずみへと餞を贈る。

「よい立ち合いであった、さらばだ……強敵よ」

 最期。
 自嘲じみていたいずみの口元には、穏やかさが戻っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​


●希望
 地下シェルター「AX-073」の安寧は護られた。
 されども脅威は完全には拭い去れず、嵐は止まぬ。
 いずれこの地に同様の脅威が襲い掛かる日が来るやもしれない。

 だが今日、彼らの目の前で証明してみせた希望は、その胸の奥で燃え続けるだろう。
 これらの脅威は人の手により、猟兵達の手により打ち払えるものであると。


『お疲れ様でした。作戦成功おめでとうございます』
「残りの処理は此方に任せて欲しい。業務の提携など、相談すべき点がまだ山積みとなっている」
『これより皆様の世界へと安全に帰還いたします。またのご利用、お待ち申し上げております』
「次がない事を祈ろう」




                              ――END

最終結果:成功

完成日:2020年04月22日
宿敵 『『天穿つ災厄』四月一日・いずみ』 を撃破!


挿絵イラスト