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全てを奪われて

#アックス&ウィザーズ

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#アックス&ウィザーズ


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「戦闘はからっきしでねー。君たちがいてくれて頼もしいよ!」
「俺らが護衛するんだ、万が一もないさ」
「あまり調子に乗ると、足元を掬われるぞ」
「はっは、良いじゃねえか。リーダーが誇りを持ってるのはいいことだ」
 隊商の護衛、そんなありふれた依頼を受けた冒険者の一団が、護衛隊商の主人と、次の動きのミーティングを兼ねて談笑していた。
 護衛を専門にしても食い扶持に困ることは無い。彼らは、そんな護衛専門の冒険者の一団で、その実力は確かにその実績が保証している事であった。

 その夜、隊商は襲われた。

 危ないルートを避けた先に待ち伏せ。慌てた隊商の独断逃亡。戦力分散による戦線瓦解。
 全てが裏目に出るような戦闘の末に、彼らは襲撃者による捕縛の憂き目に逢っていた。
 無事が確認できるのは、共に捕まった隊商の主人一人。あとは殺されたか、逃げ延びたか。それも定かではない。
 装備は剥がされ、粗雑で簡素な、最低限の布のみを許され、彼らは鎖に繋がれた。
 自由、財産、尊厳。その全てを簒奪された。
 地下に作られた監獄のような街。そこで行われる違法市場、奴隷の売買の商品として流された彼らは、しかし諦めることは無かった。
 彼らの専門は護衛だ。だが、時折既に護衛に失敗した冒険者からの引継ぎの為に、捕縛された際の手順も身に付いたものだった。従順なふりをし、見張りの隙を見て、捕まった隊商の主人と共に逃げ出したのだ。そこに容赦は無い。
 それよりも彼らには、紛れもない使命があったのだ。
 奴隷市場に出入りする多くの集団。そしてその交流場所であるこの地下街。この情報を生きて届ける事。
「よし、このまま、――ぐ」
 地上へと出る為の上層へと辿り着き、そして。
「え」背後で仲間が倒れた音に振り返った先で、その場の全員が動きを止めていた。
 仲間を昏倒させたのが、戦闘能力が無いと言っていた隊商の主人だったからだ。
 その裏切りを合図に、無数の追手が彼らを取り囲む。脱走計画は全て、ここで破綻した。
 いや、初めから破綻していたと言うことだった。護衛の依頼から既に。
 彼らが守ろうとした隊商は初めから奴隷商の手先だった、と言うことだ。
 あとは、ただ蹂躙だった。
「護衛に精通した冒険者です。なんと、彼らは檻を抜け、上層にまで至った逸物達」
 それから暫く後、彼らは皆、脱走前よりも高値にて札が賭けられ、舞台の上に立っていた。
「しかし、ご安心ください。彼らはこの街が誇る秘奥、『細工場』にて『加工』を済ませております」
 ばん、と司会者が高らかに語る言葉に、彼らが反応することは無い。もう彼らに逃亡の意思はなく、主人と定められた者の言葉に従うだけの存在へと、堕ちていた。
『細工場』の『加工』。それはオブリビオンによるものだと、もはや虚ろな彼らが語る事はない。


「つまり、今なら間に合うという事だね」
 ルーダスの語る内容は、予知。未来の話だ。
「この冒険者の一団に代わり、その隊商の護衛を引き受けてほしい」
 ただ、注意してほしいのが、この隊商を問い詰めた所で恐らくオブリビオンのいる秘奥『加工場』に侵入するのは難しい、という事だ。
 手先でしかない隊商がその情報を知っているはずはない以上、脅して従えさせるのは、疑われる切っ掛けになりかねない。
「それこそ、地下街に案内させて暴れまわった所で、こういう奴らは古巣を容易く捨て、控えの場で同じことを繰り返すだけだ」
 ならば、効果的なのは、信用を無くすこと。
 この地下街は、手札としたオブリビオンによる絶対的な信頼を得ている。だが、それは恐らく地下街の秘奥。トップシークレットの秘密。
 情報が簡単に転がっているはずもない。
 だが。
「――そもそも、その情報収集の必要はない」
 ルーダスはそう断言した。
「簡単だ。奴隷となって、反逆の意思を示せば、むしろ彼らの方からオブリビオンと対面させてくれるそうだ」
 牢を抜けて、関連している悪党の情報を集めれば十分。
 オブリビオンという核を壊し、ばらけた悪党を持ち帰った情報で一斉に始末する。
「まあ、大人しく捕まってほしい」
 身に着けているような物は、回収されるだろうがそれで、動けなくなる猟兵は少ないだろうとルーダスは考える。
 冒険者らしい装備だけの方が、スムーズに懐に入れる、まである。
「どうだろう?」と。
「うまくいけば、楽しそうだと思わないかい?」
 にやりと、グリモアの光に照るルーダスの笑みは、それは気持ちのいい笑みに見えた。


オーガ
 3作目です。
 3作目です。

 章ごとに断章を挟みます。装備云々は描写敵な話で判定、装備技能は問題なく使えます。

 よろしくお願いします。
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第1章 冒険 『隊商の護衛』

POW   :    不寝番で見張る。

SPD   :    斥候や警戒を行なう。

WIZ   :    守りやすいルートを提案する。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●一章断章

第一章は、隊商の護衛として、隊商に怪しまれないよう自然に襲撃犯に捕まる準備をして、捕まる場面です。

隊商は襲撃犯と情報を共有しており、確実にある時点(予知の夜)に襲撃してきます。程よく抵抗して、捕まる振りをしてください。
オブリビオンではないので、本当に負ける事は無いと考えてください。
あまり護衛をサボっていたり、不利になりすぎる提案は警戒されます。滞りなく護衛を失敗する=大成功、という判定です。

全編に渡って、装備技能は利用できます。

よろしくお願いします。
リアン・ブリズヴェール
【POW判定】

「冒険者さんを騙すなんて酷いです」
冒険者を騙して商品にする事に怒りながらも若干怯えて参加します

護衛中は見張りなどを夜中もやって真面目に護衛します。

襲撃時は普通の女の子よりもちょっと強い程度の手加減で格闘技で戦いますけど、夜中の見張りの眠気を装って動きが鈍くなり捕まえられます。

捕まる時にも弱弱しく抵抗をしますけど、拘束などは受け入れます



 フルフルと震えているのは、寒さのせいじゃない。
 リアン・ブリズヴェール(微風の双姫・f24485)は、指先の震えを抑える様に、両手を合わせて、握り、息を吹きかけた。
「寒いかい?」
「っ、はい、あっ、いえ……、あ、少し……」
 そう声をかけてきたのは、隊商の御者の一人だった。
 ビクッと体を跳ねさせた少女に、ああ、すまんすまん、と彼は申し訳なさそうに苦笑した。
「驚かせちゃったね」
「いえ……」
 と、リアンは、そうやって頬を綻ばせる御者の男の視線から逃れる様に、ふいと目を逸らした。
 夜の向こうに、不審な影が無いか。それを確認しているように見せかける真意は、リアンが、一介の隊商を装うこの奴隷商達に恐怖を覚えていたから。ではない。
「頑張るねえ、昼間も見張りを買って出てたろ?」
「え、あ、はい」
 隣に立って、同じように見張りをするような男に、頑なにリアンは視線を向ける事は無い。
 ぎ、と。
 リアンの中にある怒りが、本来守るべき対象という役柄である彼を睨みつけてしまいそうだったからだ。
「リアンは、女の子の友達より、少し強いくらいで」
 考えていた設定を口に出す。
 ギシギシと、油を差していない蝶番みたいな、ぎこちない抑揚になってしまっているが、しかし、それもまたリアンの内気で弱気な雰囲気を強調していた。
「だから、これくらいは……って」
「頑張ってるんだ、えらいなあ」
 御者は、そう言って眠気を他所へやるように、腰に手を当てて体を逸らした。んん、と声を漏らしながら、分厚い胸板を張り、うらやましいそうに言う。
「なんだか、俺も頑張らないとな、って励まされちゃうよ」
 グリモア猟兵は、この隊商は小間使いまで、きっちりと奴隷商に身を堕としている、と言っていた。
 独断逃亡のタイミング、方向。その全てが内側から護衛を瓦解させるに理想的だった、と。
 こうやって話しかけるのも、護衛の品定めか、それとも油断を誘っているのか。
 ゾ、と胃の中で臆病がぐるぐる回る。

 リアンは、元、奴隷だ。

 それも一年前まで。
 猟兵と覚醒し逃げ出したことで自由を得た、少女だ。
 怯え以上に、冒険者を騙し、商品とする彼らに対する怒りが、ストレスとしてこうしている間にも少しずつ増えていく。
 じりじり、と。
「がっ――!」 
 と、唐突に。
 隣の御者が倒れこんだ。意識を失い、地面を転がる。
「……っ」
 一瞬、本当に彼は襲われたのかと考える程の演技に、リアンは背後を振り返った。
 覆面を被り、全身を、武器の先までを黒に染めた襲撃者がそこにいて、彼女は咄嗟に構えた。
 足が震える。抵抗しようとするフリが更に真に迫る。
 そうやって、一分も経たない間にリアンの体は、地面へと押さえつけられていた。
 無理した見張りによる眠気で足をもつれさせた、そう見える様に自ら作った隙を襲撃者が、見事見逃さなかったのだ。
 弱弱しい抵抗を、むしろ、彼女の上に乗る襲撃者は楽しむように押さえつけ。
 カチリ、と忘れかけていた冷えた鉄の感触が、リアンの白い肌を縛りつけていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ロク・ザイオン
……おれは、森番だから。
守るのは得意。

(【地形を利用】し、【拠点防御】に適した場所を提案してその夜を迎えよう。
襲撃の方向が絞られ、隊商全体が見渡せる地点。
…襲われなければならないのは、仕方ないが
不意打ちされるのは嫌いだ)

(わかりやすい場所で見張れば、まずは自分を捕らえに来るだろう。
そこそこ頑張って【武器受け】、相手にそこそこ手練だと印象付けたい。
……本当はそんなに手加減をしたことがない。演技も下手だ。
襤褸が出る前に刀を取り落とすなどして降伏しよう)

……あまり。喋るの得意じゃないけど。
誰かを手伝うのも。構わない。



 風に匂いが乗っている。
 僅かな高台のうえ。
 ひゅおう。燃えるような髪を、冷たい夜の水音に靡かせて、その香りに無表情な瞼を、クン、と僅かに細めた。
「ここ」
 と、地図を広げた隊商の主人の問いに、端的に答えを発したのはロク・ザイオン(蒼天、一条・f01377)だった。
 周りが開け、なおかつ近くに林がある。
 襲撃されるならば、林に紛れて。そう予想して防御を敷きやすい地形だった。
「成程、そこなら僕達も安心だ」
「……」
 その同意に、ロクは静かにコクリと頷くだけで返答とした。
 あまり心地のいいとは思えない声に感じた匂い。
 それを、林から流れ風に乗る匂いで洗おうとするように、ロクは息を吸い込んだ。
 嘘偽りの声ではなかった。
 もっと、ドロリとした、本心からの言葉。
「成程、そこなら僕達も安心だ」
 何も知らず、護衛を引き受けたのなら、その言葉は護衛への信頼と、隊商としての含蓄による回答としか思えない。
 だが、実際は、違うのだろう。安心だ、の後にこう続く気がした。
「予定通り襲撃できる」
 と。
「そろそろ」
 鑢じみた声で、夜の空気を本の僅かに震わせた。

 その時……!
 僅かな風切り音に、ロクは刀を引き抜いていた。
 キィン……っ!! 尾を引くような鋭い音が夜に弾ける!
 灯のほとんど無い夜闇に、光を反射しない黒いナイフ。
「っと、弾かれたか」
「……」
 足を狙った一撃だった。その時点で彼らの目的は察することができる。
 やはり、殺さず、捕まえる。それが目的らしい。
 追い立て、確実に殺し、血肉とする。森の獣には見かけない行動。
 林と隊商を見渡せる少し高くなった場所。どちらからも見られるという目立つ場所で、囮になったロクはその成功を、少し喜んだ。
 と言っても、その表情にピクリとも変化はないが。
 ビュオン、と再度ナイフが投げられ、そして襲撃者が肉薄してきた!
 ナイフを弾き、剣の一撃を逸らして、背後から迫るもう一本の剣を避けた。
 ズパ、とロクの胴体の横を剣が通る。ロクが背後からもう一人隠れて迫っていた事に気付いていたのだ。
「……」
 と、ロクは少し焦りを感じた。
 二対一、それは問題じゃなく、あと数人数が増えていれば負ける振りも自然とできそうだったのに。と。
 どこまで、手加減すればいいのか。最初のナイフを軽々と弾いてしまったために、なんだかハードルが上がってしまった。
「合わせろ!」
「お、ぁ!」
 と、そんな風に考えたロクに好機がやってきた。二人が一斉に攻撃を仕掛けてきたのだ。
 一人目の剣を弾いて、二人目の剣に、ぶつける様に刃を合わせた。
 が、きぎ、と歪な音を刀がきしみ上げ、ロクの体勢が崩れる!
 無理やりにねじ込んだへたくそな打ち合わせ方。
 弱い刃なら一発で折れてしまいそうな合わせ方は、ロクの腕から刀をすっぽ抜かせていたのだ!
「声を上げるなよ……へ、結構いい腕じゃねえか」
 結果、上手く騙せたようだ。
 ロクの首元へと剣先を向ける襲撃者に、もう演技をしなくていいと安心しながら、両手を上げてロクは降伏を示し、思う。
 やっぱり、演技は苦手だ。と。

大成功 🔵​🔵​🔵​

サンディ・ノックス
※連携、アドリブ歓迎

体の線は細いし、顔も中性的な童顔で、得物は腰から下げたショートソード(黒剣)だけ
護衛こなせるのかと疑問に思われていれば実力を見せるよと獣を狩る等して信用を得て、護衛に参加した
こんな見た目だからこそ自分の腕でやってきたという自負を持つ人物を演じる

夜の番を申し出る、他に申し出る人がいても交代できるし丁度いいね
脅威が接近してこないか気を付けて見張っている(フリ)
襲撃されたら「そんな、いつの間に!?」とか驚いてみせて
剣を抜いて応戦しようとするけど、襲撃者のほうが上手で剣を抜けなかったり、
隊商が驚いて逃げるので「ちょっと待って!」と敵から気を逸らした瞬間背後をとられてやられる(フリ)



「なあアンタ、その……悪かった」
 と声をかけてくる隊商の一人が、そう頭を下げてきてサンディ・ノックス(調和した白黒・f03274)は、振り返って、こくんと首を傾げた。
「ええっと……?」
 何だったか、と少し考えて。
「ああ、あの時の!」
 ポン! と手を叩いてそう返事していた。
 彼の顔は覚えている。
『なんだ? 女みたいな男だな、俺より弱いんじゃあないか?』
 というのが、初対面だ。
 サンディよりも、その男は体はでかい。まだ比較的若く、隊商の小間使いで鍛え上げられた筋肉は、重戦士かなにかかと思う程だ。
 自慢げにサンディを見下ろす彼に、くすくすと笑った。それは心底から湧いた笑いだったが、すぐにそれも演技の顔の中へとぐいぐい押し込めて、そうかなあ? と間延びする声で、彼を見上げて、こう言ったのだ。
 試してみるかい? と。
 当然、腰に下げた剣を使う事は無い。それどころか、片腕を背に回してのハンデ戦。
 それでも、数秒後には、地面に取り押さえられた男の、参った、の声が上がっていたわけだ。
 その彼だった。
「俺、喧嘩強くなくて、俺より弱そうな奴がいたから」
 サンディは、そんなコンプレックスの暴露ににこやかに頷きながら、心の中で呟いていた。

 嘘つきだなあ、と。

 手加減していたのはサンディだけじゃない。
 男の演技は、正しく真に迫るものだった。初めの一声から、無謀で粗野、向こう見ずな若者そのものだった。
 綻びは、サンディが取り組みの中で男を取り押さえる一瞬。より強かに地面へと転ぶように重心を自分から傾けていたのだ。
「いや、荷物運びで鍛えた体なんだろう?」
 嘘だ。
「そうだけど、まあ、あんたみたいなのに憧れててな」
 それも嘘。互いにキャッチボールをするように嘘を投げ合いながら、サンディは見張りの目を外に向ける。「」
「と、盗賊だあああッ!!」
 声が発せられた。それはサンディが見ていたのとは反対側、つまり見張りの内側から。
「そんな、いつの間に!?」
「な、なんだよ、なんで!」
 サンディが立ち上がった一瞬の後に、男がうろたえ始めて、そして悲鳴を上げる。
 ダズン、と男の足元に黒いナイフが突き刺さっていた。
 夜闇から出てくるのは、五人か。どうにも喧嘩の件で警戒されたか、数が多い。
「落ち着いてっ」
「あ、ああ……っひぐ」怯えを見せる男に、しかし襲撃者から声がかかった。
「荷馬車を捨てて逃げるなら追わないぞ?」
 ビクン、と男の震えが止まる。まるで、本当にサンディの護衛を信じるか、財産を失っても逃げるか考えているかのようで。
「す、すまねえ……っ!」
「あ、ちょっと待ってっ!」
 背を向けて走りだろうとした男に、視線を向けた瞬間。
「……っ」
 息を呑んだ。サンディの背後に周った襲撃犯の剣の柄が、サンディの後頭部へと打ち込まれたのだった。
 体から力が抜けて、倒れる。
 ちょっと土が口に入ってじゃりじゃりする。もちろん全部演技だ、気を失ってもいないし、そんなにダメージもなかった。
 よし、OK.とばかりに、どうにか土を上手く吐けないか考える中。
「ウ、あ、ああああああ!!」と叫び声が遠のいて、殴打音と共に途切れた。
 サンディは、気を失ったふりをして目を閉じながら、その演技に善悪如何を置いて、素直に感心していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セゲル・スヴェアボルグ
起こると決まっている事象なら、わざわざ波風を立てる必要もないか。
まぁ、俺みたいな番卒がいたら、それだけで向こうさんにとっては大問題かもしれんがな。
だが、向こうが攻めてこられないようじゃ本末転倒だ。
適度に居眠りでもして、隙ぐらいは作ってやらんとな。
襲い掛かってきたら多少反撃して何人かのしてやれば、残りでまとめてかかってくるだろう。
絡め手だろうが何だろうがどんとこい。
適当に暴れつつ捕まってやろうじゃないか。
普通の人間からしたら見たら、素材の塊である反面、全身武器庫の危険物だ。
他の奴等より拘束は多いかもしれんがそこは仕方あるまい。
装備も別に減るようなもんもじゃあないしな。



「く、ぁあああ、あふ」
 盛大なあくびだった。
 竜の大口を開けて、セゲル・スヴェアボルグ(豪放磊落・f00533)は焚火の前で胡坐をかいてその上に肘をついて、火の粉の散る様子を見つめていた。
 暇を持て余しているように見える彼だが、実の所は、本当に暇を持て余している。
 警備や意見は、他の慣れた猟兵達がそれぞれに動いていて、むしろ、図体がでかく威圧感のあるセゲルまでもが気を張り詰めていると、元々の作戦が破綻してしまいそうだ。
 いうなれば、顔合わせでいきなり猟兵の一人に喧嘩を売りに行ったあの若者のような、綻びを見せて油断させる。という役回りを担う事にしたのだ。
 ゆえに、セゲルは見張りの交代の時まで火の番をしている。とはいえ、予定通りならば、その交代の前に事が起こる。
 つまり、暇だった。とはいえ、交代待ちをしていない素振りはできないわけで。
 火の粉を数えるくらいしか仕事がないのだった。
 その内に、セゲルは目を閉じる。どうせなら居眠りをしている振りで油断を誘おうというのか。
 幽かに地鳴りのような音がセゲルの太い首辺りから聞こえている。本当に眠っているかのような、迫真の演技だった。
 いや?
 少し無理な体制で寝ている為に、少し苦し気な寝息を立てている。
 セゲル・スヴェアボルグ。仮にも護衛任務中に本気の居眠りであった。

 とはいえ。

 とはいえだ。流石に「賊だああ!」「襲撃だああーっ!」と大騒ぎをされては、さしもの彼もぐっすり快眠というわけにはいかない。
「ん、ぐ?」
 やけに騒がしいな。と目を覚ます。
 既に囲まれていた。という事は、襲撃は幾分か既に経過している後のようで。
「ふむ」
 ノソリと、セゲルは徐に立ち上がる。セゲルの無意識が彼らからの防御よりも居眠りを優先させたのは、つまりそういう事だろう。
 流石に豪放磊落、些末を気にしない性格ではあるが、重要な部分は見えている。そう考えれば、必要な時にドンピシャで目を覚ましたのは、むしろ有能故になのかもしれない。
「この俺が護衛中に襲撃たあ、不運だな、お前さんら」
「……っ」
 ドガ、ゴ……ンッ! と先手を切った襲撃者が、その剛腕に吹き飛ばされて彼を囲んでいた襲撃者たちが一斉にセゲルへと飛び掛かった。
「がっはっは! どうしたどうした!」
 まるで嵐がごとく、セゲルの巨体が暴れる。まるで襲撃者が遊ぶ子供のように、ぽんぽん宙に弾かれていく中で。
 唐突に、焚火の火が潰された。急に暗くなる周囲にセゲルは、ふと動きを止め。
 ずごん、と唐突にセゲルの足元が掬われる。
 縄が張られたのか。
「ぐ、ぬ」
 地面に転んだセゲルの体に、襲撃者が一人では足らない、と数人のしかかってきては、更に他の襲撃者がセゲルの動きを縛ろうと動く。
 想定通りではあったが、しかし、同時にググとセゲルは首を傾げた。
「ぬ、んん、ぐ?」
 グリモア猟兵に聞いていたより拘束の数が多い。
 まあ、暴れて、なおかつ鱗の一つすら武器になる様な体だ。まあ、仕方ないか。と。
 ギチギチと縛られながらも、やはりセゲルは些事にはこだわらなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

イヴェット・アンクタン
※アドリブ可
なるほど、では護衛失敗に努めましょう。
ですが今の私では捕まった後がどうにもなりませんね。
口の中に隠しておけるものを選びますか。あとは他の方に頼りつつ……。

まずは信頼の獲得を。私から受ける印象は貧弱の一言、間違いなく不満が上がりますから。
視力・聴力とも優れている事を索敵にて示し、手持ちの武器と精度も見て頂き――如何でしょうか?
後の裁量等は隊商の方々に任せますよ。

襲撃を索敵能力により未然に伝え、戦闘自体は狂いなく開始。
ただ私は演技が下手なので……UCを使って演出しましょう。
自己能力増強の弱点、使用後の気絶を組み込みます――所々あえて攻撃を受け、ダメージの所為で倒れたと見せかければ……。



 イヴェット・アンクタン(神出鬼没のサバイバー・f24643)は、カラカラと口の中で音を転がしながら、サクサクと野営地付近を哨戒していた。
「いかがしましたか?」
 と、唐突に彼女は立ち止まり、近くの馬車へと声を投げた。
 いや、馬車その物ではなく、その後ろに隠れていた反応へと向けてだ。先ほどから、物陰に隠れる様に後を追ってきているのは知っていた。
 そう、静かに告げれば、隠す気は無かったのか、あっさりとその反応は声を返してきた。
「はあ、流石だな」
 と悪びれもなく、感心したように声を上げたのは、やはり、隊商の一人だった。頭を掻きながら、影から男は出てくる。
「そういう索敵能力もやっぱり作ってんのかい?」
「はい。……信用されていないと?」
「いや、良い物だからなあ、仕入れできねえかってな」
 いやいや、と否定しながら、男はイヴェットの抱えた特殊弾を装填したライフルに視線を送る。
 だが、イヴェットはそんな申し出に首を振るしかなかった。
「そうかあ」
 どうあったとしても、彼らに自らが腕を振るった武器や機械を差し出す気にはなれない。それに、彼らにとって、もう手に入れたも同じだと考えているのだろう。
 今持ち込んでいる全ては渡る事を前提に、簡単には解けないセーフティを仕込んであるというのに。
「まあ、そういう拘りってあるもんだよな」とどう勘違いしたのか、その男は最初からただの世間話の切っ掛けくらいの手軽さで、商人じみた提言を手放した。
 無下に振り払うのもおかしいだろうか、と雑談に付き合いながらイヴェットは索敵による情報収集の中で、イヴェットは猟兵達の動きも把握していた。
 だからこそ、はっきりと分かる。隊商の人間たちは其々に夜の支度や休憩、警戒を行っているように見えて、猟兵の、いや冒険者の戦力を分散させている。
 休息を取るタイミング、だというのに、妙に乱れた気配がある。
「不審な反応があります……、警戒を」
 と、男に告げた瞬間に。
「襲撃だあああ!! 盗賊が来たぞッ!!」
 そんな声が上がった。
「……」
 いや、とイヴェットはその声を否定した。捉えているのだ、敵の反応は、今まさに、イヴェットの索敵範囲に入ったばかり。
 はっと、気付いた。
 いない敵に混乱を生み、そして、本当に襲撃する。その為の戦力分散か。と。
「……」
 しかし、何かを言おうとすれば、演技に成れていないイヴェットは何も言わず、ただ自分の索敵の結果だけを突げた。
「敵の反応ありです」
「お、ああ……」
 高速で近づく反応に、何かしらの強化を行っている人間だと考えて、イヴェットは息を吸い、頭の中でスイッチを入れた。
 それは脳の演算速度を増強する意識。
 かち、ぞごわ、と感覚と思考が膨大な情報量を処理し始め、世界が変わる。
 ど。
 土を蹴り上げる音が響いてイヴェットの体がはじき出される。襲撃者の一人を吹き飛ばし、その一瞬の間に振り落とされた剣を腹に受けて、自らも弾き飛ばされていた。
 だが、一瞬の停滞だけで、彼女はまた地を蹴った。少しずつ、一秒の間の攻防で傷をわざと受けるイヴェットは、唐突な具合にその足を止めていた。
 十秒。それが今彼女が自分の能力を増強できる限界だった。
 抵抗の上、ダメージによる気絶。イヴェットの目論見はうまくいったようだ。
 撃破できなかった襲撃者が、倒れこむイヴェットに警戒している。あとは、口の中に仕込んだ小型の爆弾を噛み砕かないよう、意識を手放すだけだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャン・ストレイン
猫被るのも、騙し討ちも得意だからさ。
一肌脱いでやるぜ?

「僕みたいな子どもで不安かもしれないけど、これでも荒事には慣れてるのでご安心を!」
人懐こい笑顔を浮かべ、隊商には雇い主として相応の礼節を以て接する。
襲撃には周辺の警戒を怠らず、暗視でそつなく対応。
シーブズ・ギャンビットも使い、それなりに腕が立つところも見せつつ独断逃亡する隊商がでたら「夜目が利くので、僕が対応します!」と分断される流れに乗る。
腕が立っても多勢に無勢で奮戦やむなし、幼い故に経験が少々足らず油断したといった体で捕まる感じで。

(手馴れてるなぁ、こいつら。まぁ俺もだけど)

無念の表情を浮かべつつも内心は舌を出し、大人しく縛られてやる。



「おう、坊主、寝なくて平気か?」
「もちろん、何度も言ってるじゃないですか! これでもこういう依頼は慣れてるんです!」
 胸を張る彼は、しかし、細い手足に胴体。130㎝の身長の、見るからに少年であった。
 ジャン・ストレイン(クロネコ・f20038)は人懐っこい笑みを浮かべながら、そう返す。
「お前くらいの息子がいてなあ、たまに帰ると寝なくて困るって嫁がうるさくてさあ」
「あー、はは……へえー」
 そうなんですかあ、と幾分か気の抜けた返事を、急に始まった身の上話に返す。
「それを同じくらいの年の別人に言ってどうしたいんだ」とか。
「好かれてる事を誉められて、いやあそうかなあ、とか言いたいだけかよ」とか。
「素性的に本当かどうか怪しいし、そもそも俺の油断誘ってるだけじゃねえか」とか。
「お父さんが大好きなんですね、息子さんは」
 とにこやかに返す幼げな笑みの裏で、ジャンが連呼している文句に、目の前の男が気付くはずもなく。
「いやあそうかなあ、やっぱり」
 と予想通りの反応を返した男へと、そうですよ、と返そうとしたその時。
「……あ、来たな」
 空気が変わる前兆のようなものを、ジャンは感じ取っていた。
「襲撃だああああ!1」
 という声が上がり、それが始まった。
 短剣を手に、ジャンは戦場を駆ける。幾らかの猟兵は既に捕縛された後だろう。姿の見えないものもいる。
 夜目を聞かせて、小柄な体躯を生かして遊撃を行うジャンに、追手がつくことはあるが決め手にはならない。
「(もうちょっと、なんか切っ掛けはねえか?)」
 と考えたその思考を読み取ったのか。いや、表面上護衛対象ではあっても、本質は敵その物である彼らが、彼の思考にそう訳はないのだが。
 それでも、タイミングがどんぴしゃりだったのは、苦戦する襲撃者側から隊商側に何か合図が送られたからなのかもしれない。
 ともあれ。
「う、に、逃げ……っ逃げるぞ!! 俺はあッ!1」
 叫んだ隊商の一人が急に馬を走らせて、荷馬車を野営地から離脱させていた。
 馬も慣れているのか。スムーズな離脱に、他の隊商のメンバーもそれぞれに動き始めた。
「ま、待てお前ら!」と隊商の主人が慌てた声を叫ぶが、誰も聞かない。
「……っ、僕が対応します!」
 と、叫んだジャンと隊商の主人の視線が交差する。
 片や、冒険者を騙して奴隷に陥れようとする隊商。
 片や、隊商を騙して奴隷商を陥れようとする猟兵。
 表面上、仲間同士で、実際のところ、がっつり敵対していて、更に互いを害そうとする関係性の中で、妙に息があっていた。
「ああ、頼む!」
 ダンッ! とすぐさまに追いかけた荷馬車には、そちらはそちらで襲撃者に襲われていた。
「ひ、ぃええ! 命だけ、命だけはぁ!!」
 と情けない声を上げる商人に、思わず失笑を零しそうになりながらジャンは襲撃者へと飛び掛かっていった。
 どうせ自分から、襲撃者が待っている場所に駆け込んでいったわけで。
「ああ、あんた! た、助かったっ!」
「大丈夫です、隠れて!」
 手慣れてるなあ、とジャンは敵と味方に同時に思いながら、庇う様に襲撃者を狙っていく。
 見事な瓦解具合だと、感じながら、目の前の相手と刃を合わせた瞬間に背後から放たれた石礫を、避けることなく膝に受けたふりをして、その場にうずくまった。
「……っ」
「囲まれてるってのは、こういうことだ小僧」
 いい勉強になったなあ? と自慢げに刃を突きつける男に、無念の表情を浮かべながら唇を噛む。
 縛られる間、笑いそうになる口元を、そうやって悲しみの表情で覆い隠していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レーヴェ・ナハトシッフ
奴隷か。昔のバイト先で奴隷ごっこへやけに誘う先輩を思い出すな
でもアガトが想像してる事やごっこ遊びなんてレベルじゃないだろうから気を引き締めないとな。

事前に防具改造で俺とアガトの防具を冒険者らしい外見に改造しておく。
アガトはクロースアーマー
俺の方は胸当てと動きやすい感じに
後は没収されていい獅子の大剣だけ持って行くか
他の武器は大体風から作れるし

護衛では不寝番で見張り
襲撃が来たら大剣を構えて前線へ
ユーベルコードは使用せず手加減
他の冒険者をかばうでかばいつつ、武器受けで耐えてどうにかする方法を模索しながらも
捕まったアガトや冒険者を人質にされてしょうがなく捕まるっていう感じに行くと良いんだが
アドリブ歓迎


アガト・シレスティアル
奴隷……くるくる回せる棒が付いたよく分からないものを押し続けて
疲れて休もうとすると鞭で叩かれるあれにゃ?
そんな悪事はにゃー達と 鮫型機械黒剣のシャーくんが止めるにゃ!
「しゃしゃーん!」
でもシャーくんは目立つから事前に武器改造で
ノミサイズに縮小するにゃ。耳の穴の中に隠れさせるにゃ
落ちそうになったらにゃーの毛に噛みつくにゃ
「しゃん!」

護衛ではレーヴェにゃんと一緒に不寝番にゃ
夢見ていた空への想いで
素早く動けて刺した相手を吹っ飛ばすけど、武器にぶつかったら
壊れるレイピアみたいな空想剣を想像
襲撃では小さい体を活かして素早く逃げながら戦い、
重い武器の敵がいたら武器にぶつけて壊して捕まるにゃ
アドリブ歓迎にゃ



 奴隷ってなんにゃ。と考えた時に。
 布製の鎧を着たアガト・シレスティアル(この抱いた思いは忘れない・f03547)の脳裏に浮かぶのは、でっかい歯車みたいな木の柱を、棹を持ってぐるぐると回し続けるような光景だった。
 夜も、昼もなく働きづめで、少しでも休もうとすれば鞭かなにかで叩かれる。
「ぐるぐる、ぴしゃん、にゃー……」
 想像しただけで、耳が垂れ落ちてくる。
 と、そんな赤と青の瞳をしたケットシーの背中を、先に赤い毛を丸めたような尻尾がととん、と叩いていた。
「……アガト」と共に不寝番に立っていた隣の獅子の獣人から声が降る。
「分かってるにゃ」
 おおよそで四分の一の身長であるアガトの耳を真上から見下ろすように眺めながら、獅子、レーヴェ・ナハトシッフ(風を纏う傭兵獅子・f04940)は、多分アガトが想像していたものを、言葉から読み取っていた。
「……もうすぐだ」
「そうにゃ」
 レーヴェにとって奴隷、と聞けばというと、「なあ、奴隷ごっこしようぜ、頼むよー」とやけに鼻息荒くみょうちくりんな遊びに誘ってきたバイト先の先輩を思い出してしまう。
 そんな記憶のせいか、結構重大な事件であるはずの今回も、どこか変なフィルターがかかって考えてしまいそうになる。
 予知での売り文句からして、冒険者の技能を付加価値として上質な奴隷を売る。そういういう意図が主なわけで、某先輩と似た趣味を叶えたがっている者は殆どいないはず。
 当然アガトが考えただろう、棒をひたすら回すのも違っていて欲しい。
 とそんな考えに浸ってしまっていたレーヴェは、アガトの事を言えない。と反省していた。
 そして、さあ、気を引き締めないとな、と背筋を伸ばした、まさにその時。

 開戦のラッパを鳴らすように襲撃者の侵入を示す声が上がった。

「来たにゃ!」
 と駆け出したのはアガトだ。ババ、と素早く夜営地を駆け抜けていく。
 主な防具を胸当てだけに止め、後は運動性を重視したレーヴェは、素早くその後を追いかけた。
 アガトは声のした方へと走り、そして、そこに倒れている男に声をかけて、襲撃者のいる方向を教わる。
 まあ、罠だと思うんにゃけど。なんて口には出さず、駆けていった先に襲撃者を見つけて、彼はタタン、と地面を蹴り上げた。
 ヒュバッ、と創造していたレイピアを引き抜いて、跳躍と共に襲撃者達の前にアガトは躍り出た!
「さあ、覚悟にゃ!」
 ギィ、と闇を裂くように黒塗りのナイフが数本放たれるが、アガトは素早い動きでそれらを避け抜いて、襲撃者へと迫る。
 まさに風になったように突撃したアガトに追い付いたレーヴェは、アガトの背後へと回ろうとする襲撃者へと、大剣を振り下ろした!
 ゴ、ガッ!! 大剣の重い一撃が襲撃者の剣を押し飛ばして、レーヴェはアガトに背を向けて立った。
「背中は任せろ」
「あいあいにゃあ!」
 襲撃者は多い。冒険者が見れば、圧倒的な不利に立たされている事は明確だった。
 だが、善戦する。
 アガトが素早く、撹乱するような動きで剣を突き出し、烈風に巻かれたように襲撃者が吹っ飛んでいく。
 ズ、パンッ! と弾ける音に、今度は重いドゴン、という音が響いた。それはアガトの後ろ、レーヴェの剣が襲撃者の重い剣を受け止めた音だ。
 そして、そのアガトの背中を狙う刃をレーヴェが的確にガードしていく。
 元よりレーヴェの持つ獅子の大剣は、防御の為に刃幅を広く作られた剣。その真価は仲間を守るためにこそ輝く。
 善戦する。
 だが、そうだ。この風景を見ている者がいるならこう言っただろう。
 それでも、勝敗は覆るように思えなかった、と。
 転機は唐突に、硝子が砕け散るような甲高い音と共に訪れた。
 パ、キィン! とアガトのレイピアを構成していた空色が砕け散ったのだ。そしてそれはそのまま、アガトの武器の喪失を意味していた。
「うにゃっ!」
「……ッアガト!?」
 鍔競りあっていた剣を弾き返して、声に振り返った時には、もう既にアガトの体は、地面に伏せられていた。
「うう、ごめんにゃ……レーヴェにゃん」
 組伏せられたアガトの首にはナイフの切っ先が押し当てられている。
「……っ」
 ゴグリ、とレーヴェは喉を鳴らして、一歩踏み出そうとした脚を引き返す。
 突貫して、アガトに害される事を避けた選択をした。
 ように。
 そうして、手にしていた大剣を地面へと放った。ゴズ、と土に剣が落ち、レーヴェが口を開いた。
「投降する、……ナイフを離してくれ」
 にじりよる襲撃者達に膝をついて自由を開け渡して、拘束を受けながら、その胸には、どうにか無事に捕まれた、というなんとも妙な達成感に包まれていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ザイーシャ・ヤコヴレフ
・POW
ふぅん、守らないで捕まれって変なの
じゃあ魔法のナイフは捕まった時に没取されないように、ヘアピンとか髪飾りにして隠しておこっと

隊商さんこんにちは
遠い街にいるお母さんに会いたくて行きずりの私を荷物を積んだお馬さんに載せてくれたお礼に、遠くで何かあったら教えるね?
…でも、襲撃犯の事は知らんぷりしなきゃね、うふふ
捕まるまで暇だし、積んでる荷物で隊商のおじさん達をどうやって『遊ぶ』か頭の中で考えよっと
うーん、あれも良いし、こんなのも良いかな
あ、こんなのも良いね
ああ、待ち遠しいわ
はやく『遊び』たいな

予定通りに捕まったら、襲撃犯の中から『遊び相手』を見つけなきゃ
それまでお預けだよ
※アドリブ、連携歓迎



 戦闘の音が聞こえる。
「ふふ、ふふふ……」
 と鈴が鳴るように笑う声が、そんな物騒な音に囲まれた中で響く。
 少女は、荷馬車の中で膝を抱いて隠れていた。だが、その脚の間に伏せた顔には笑みが浮かんでいる。
 少女は護衛の人員ではない。護衛と共に出発使用とした隊商にすがるように声をかけたのが彼女だった。
 曰く「行き先の町にいるお母さんに会いに行きたい」と。
 普通であれば、断るだろう。実際、隊商の主人はそれを断ろうとしていた。
 そこに理不尽はなく、ただ正論が並ぶだけではあったが。
 だが、彼女が何者かを知る者が、彼女を擁立したのだ。
 当然、猟兵だったわけだが。
 結構な無茶ではあったが、どうにか同行者の椅子に座り込んだ少女は、明るく振る舞っていた。

 ーーその顔の一枚奥に悪魔を隠しながら。

 あまり触りまくるなよ。という注意を頭の後ろで聞きながら、少女、ザイーシャ・ヤコヴレフ(Кролик-убийца・f21663)は荷馬車に乗り込んでいた。
「大事な商品なんだから」という男の言葉に、隠れてザイーシャは、うふふ、と跳ねるように小さく笑う。
 大事な商品は、私たちの方でしょう? と。
 少女は戦闘に出ない。
 彼女はただの同行者だから。
 ただ、待っている。おとなしく待っている。
 だってお祝いのケーキは、食べていいよ、があるまでは食べちゃいけないものだから。
 その時、馬車の幌が乱暴に開けられる音がした。
『お迎え』が来たのだ。
 甘い、甘いご褒美をもった『お迎え』
 さあ、どうしよう。
 ザイーシャは、顔を上げながら、思う。

 ーーめいいっぱい、怖がってあげなくっちゃ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス
アドリブ◎

守るっつーか
煽って誘って自分に惹き付けるのが得意なんでな
何かあったら俺と逆側に逃げろと、逃げる時の約束事を商人に持ちかける
いったんは一人で孤立する気だってわかりゃいいマトになるだろ

襲撃があったら打ち合わせ通り
わざと離れ囮として【囀ずる籠の鳥】で誘って煽って俺以外を忘れるくらい
本気で敵の意識をこっちに集めてやるよ
それでもただの人相手なら
全員伸す自信も
逃げ切る自信もあるんだが
歌を詠わず
一切の身体強化をしなけりゃいずれ量に押し負ける
ああそうだ…何もない俺自身の弱さなんざ
鳥籠の10年で痛いほど知ってるよ
固い地面の感触が
思わず沸いてくる無力感が
胸に刺さるが
それでも最後の最後まで相手を睨み付ける



「さあて」
 彼は少し、肩を弾ませながら、ここいらで良いか。と脚を止めた。
 ざ、と振り返れば、そこにいたのは十数名ほどの、襲撃者達。
 覆面にその素顔は見えないが、しかし、一様にその視線は、ゾン、と鈍く重い敵意をはらんでいた。
「ぞろぞろぞろぞろと、お疲れさんなこって」
 夜営地から少し離れて、セリオス・アリス(青宵の剣・f09573)は彼の背を追ってきた襲撃者達へと、挑発するように言い放った。
「この、……ざけやがって!」
 馬鹿にするように夜営地の中で駆け回ったお陰で、叫んで飛び出した襲撃者の目には、セリオスしか見えていないかのようで。
「なんだ、ゾッコンかよ」
「……て、んめエエエエ!」
 ブォン、と大振りも大振り。脳天めがけて振り下ろされた剣を、セリオスはくるりと遊ぶようにかわして、男の脚を蹴り上げた。
「……っ」
 ドグシャ、と振り下ろした剣の重みに体を引き摺られて、そのまま地面に顔から突っ込んでいった。
「恋は盲目ってか?」
 なあ? と転んだ男の顎を爪先で蹴り、昏倒させてからセリオスは、残る男達に問いかけた。
「どうした? 怖じ気づいちゃったかなあ?」
 言葉の後半は、もはや敵に対する言葉ではない。赤子をあやすように、泥で濁った蜜を思わせる悪意に満ちた戯れ言であった。
 ゴ、と空気が震えるような音がした。それは、襲撃者達が一斉に駆け出した音か、それともその怒りが現実に影響を及ぼしたのか。
「(強化はなしだ)」
 呟くように、心に決める。
 戦場を駆け回った結果、猟兵として力を振るえば、彼らの十や二十、敵ではないとセリオスは見栄もはったりもなく、純粋にそう測っていた。
 全て伸せる。
 傷一つなく逃げ仰せる。
 だが、それは歌の強化があってこそ。
 なら、ソレがなければ俺は?
 それが試してみたくなった。声を奪われた鳥は、空を羽ばたいていけるのか。
「っは」
 バカらしい実験だ。こうして囲まれているのも、籠の鳥が外の猫を誘うように歌を囀ずって成っているというのに。
「来いよ」
 剣を抜く。
 結果など、実は見えている。ざり、と足元を均すように脚を滑らせたのは、そこに打ち落とされるだろうと知っての事か。
 ああ、湿った土は岩肌よりも、いくらかは優しく受け止めてくれるだろう。
 一人ならば勝てる。
 二人ならば分からず、そして三人からは。
 まるで重心が崩れたようにいつもより重く痺れを感じる剣を握り、セリオスは身を投げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『違法市場』

POW   :    違法取引の現場を抑える

SPD   :    影にまぎれて情報を拾う

WIZ   :    袖の下などで元締めに会いに行く

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 街の暗がりには、善からぬモノが溜まる。という。それなら全てが暗がりに満ちた街があるとするならば、どうなるのか。
 そんな問いを成立させる為に作られたような街が、ここだった。
 空は無く、魔法の光だけが薄暗く照らしている。一つ壁向こうの闇で、何が行われているのかも知れず、しかし、この街を知る者は例えそれを知ろうとも咎めることはない。
 法を司る者は名前のないこの街をこう呼ぶだろう。
 違法市場と。

 防具も武器も、いや、捕まる前のその人物を表していた物は全て剥奪されていた。
 奴隷に過去はいらず、ただ、能力を他者のためだけに振るうべし。
 そこに利己はあれど、自愛は不要。
 そうして、奴隷となった者は、地下に堕ちてくる。
 それが、常だった。
 だが、狭い牢に入れられた彼らは、静かに行動を開始していた。
 牢は別だが、しかし、場所は近い。一人が強引にでも牢を破ればそれだけで良かった。
 隊商の捕虜が、数度床を叩く。それは明らかに何かの合図だが、猟兵達はその合図に呼ばれた誰かがくる前に、身を隠している。
 もう一度、最終的に捕まる必要はあるが、それまでは自由行動だ。
 潜り込む段階で、成る程形あるものは全て奪われど。
 その脚は止まらず、悪徳の街の影を、暴く。
 
第二章です。

 第一章にて隠す、とプレイング頂いたアイテム以外の物品は使用できません。
 ですが、技能は使用できます。

 またこの章で使用したアイテムも次の章では使用できなくなります。
 というかそういう描写になります。

 フラグメントの行動は大体の目安として、プレイングをしてください。
 追っ手が現れるまでの描写となります。

 また全プレイングの採用は恐らくできません、ご了承ください。

 宜しくお願いします。
ロク・ザイオン
(薄着に剥かれていてもそう動じない。
体を弄られ持ち物を無理矢理奪われたのは気に入らなかったが、何よりも)
……刀。
(烙印刀が手元にないことだけが、そわそわと落ち着かない)

(【忍び足】で悪党どもの痕跡を【追跡】する。
頼りになるのは【野生の勘】だ)

…ここの、ひとは。
歪んだ病葉ばかりだ。
(この悪徳に満ちた場所も。
ひとの群れは、必要とするのだろうか)

(グリモア猟兵は、何と言っていたっけ)
…暴れると価値が上がる。
(確かそんな感じだった。多分あってる。
追手に向けて)
――ああァアアア!!!
(「惨喝」の【殺気】を叩きつけ【恐怖を与える】
これで己の価値はどのくらいになったろう。
轡でも噛まされるのかも知れない)



 落ち着かない。
 そう全身で表現するようにロク・ザイオン(蒼天、一条・f01377)は自分の首の後ろを、手のひらでガシガシと擦っていた。
 薄着を嫌うわけではない。正直必要だから整えていただけで「これで良い」と言われれば「これでいいのか」と思うだけだ。
 だから、強い光が通れば肌を透かしてしまいそうな粗布に風が通ることはどうでも良かった。
 むしろ地下に街を作ったせいで、どこかカビ臭い湿気が籠るよりは快適とすら考えている。
 だから、彼女の表情に、明らかな不機嫌を見てとれるのは服全体ではなく、その一部。
 腰の部分だった。
 そこにいつもあったのは。
「……刀」
 烙印刀。
 そう、それを引っ提げていた重みが今はない。それが一番だった。
 こうして岩を削った窓そばの床に胡座を掻いていても、何も起こらない。それは分かっているが、この状態で歩き回れば、腹を空かせて冬山をさ迷う眠れぬ獣のように、ただただ威嚇を振り撒いてしまいそうだったのだ。
 だからこうして暗がりに身を潜めている。
「なんだ、随分と値が張るねえ」
「競りにでもなれば、どこまで吊り上がるやら」
「そういう奴だったな、ああ、幾らだ」
「いいや、今回はそう言うのは無しだよ」
 決して静かではない、この街の騒めきの中で妙に耳に障る声。彼女はその跡をつけていた。
 恐らく隊商に加わり、捕縛されなかった『設定』の商人だ。くぐもった声は覆面でもしているのか。
 鼻を一つひくつかせると、ロクはあまりにも濃い『病』の臭いに眉をしかめた。
 どこもかしこも、歪んだ病葉ばかり。葉が腐っているのではなく枝が。枝が腐っているのではなく幹が。
 いや、果ては水からして腐っているのか。
 病によって生き、循環する街。
 そんな街すらも、ひとの群れは必要とするのか。ただ全てが朽ちていくばかりじゃないのだろうか、とロクは出来るだけ息を吸わないように、ゆっくりと息を吐きながら思う。
 腰が落ち着かないのに、鼻までこうも刺激されては、沸々とした不満が腹の中に溜まっていくのがありありと分かる。
 今すぐにでも、暴れて発散したい所ではあるが。
「(ん?)」
 その時ロクの中でポンと何かが弾けた気がした。記憶からぐいとそれを引き出してみる。
 グリモア猟兵は何と言っていたか。予知の中で冒険者達は。

 ーー暴れると価値が上がって、猟兵も都合が良いとか、言ってなかったか?

「……は」
 ロクは今まで身を潜めていた暗がりから身を起こし、そしてその男達のいる室内へと舞い降りた。
 呆気にとられた男の声。それはそうだろう、捕らえた筈の商品が眼前に落ちてきたのだから。
 だが、彼らがそれを誰かに伝える事は出来なかった。
 そして、伝える必要も、また無かった。
 轟ッ! と円形の壁が間近にいた男達の脳をぶっ叩く。
 いや、壁ではない。それは、脳が理解することを拒絶する程に人を遠ざける喉音。
「――ああ、アアア、アアッ!!!!」
 ロクの声だった。
 反響し、街を駆ける音は、男達を失神させても止まらない。
 ごうごう、と腹に溜まりきった蟠りを全て吐き出さんとばかりに方向が空気を軋ませる。
 この街がそれに気付かない筈はない。雪崩れ込んできたのは、街の警備兵か。屈強な兵が暴れるロクの体を押さえ付け、殴り飛ばし、投げられ、弾かれ、のし掛かり、そうして。
 壁を人体で叩く打楽器か何かのように打ち鳴らした叫奏が止んだ
「フーッ、フーッ!!」
 声を十分に発せないよう噛まされた轡に、言葉にならない声を漏らしながら、髪を乱れさせ口から血を滲ませたロクはようやくに暴れるのを止めていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リアン・ブリズヴェール
【POW判定】【アドリブOK】
「も、もう我慢できません」
牢から脱出後に最初は隠れながら奴隷売買の証拠を集めるつもりでしたけど、自分と同じ女の子の奴隷の売買を見たら格闘技を使ってそのままの状態で奴隷売買をしている者達を殺さないように手加減して倒します。

でも騒ぎが大きくなるにつれて大勢の人に囲まれてしまえば、怒りよりも奴隷としての過去の恐怖が蘇って汗をかきながら震えて固まってしまいます。
その間はどんな酷い事をされてもされるがままに受けて、泣いて怯えながら受け入れます。

そして最後は最初以上に厳重に拘束を受けてまた捕まります



 足音一つ。
 近くを人の気配が通るだけで肩を震わせて、物陰に隠れる。そうやって、リアン・ブリズヴェール(微風の双姫・f24485)は、寒々しく、しかしどこか懐かしい感触の布を纏って悪徳の街を進んでいた。
 探すのは、奴隷売買の証拠。
 悪行の証拠を残すのか、と問われるならば、リアンは当然だ、と答える。
 通常は秘匿され、暗号の鍵で偽装されているが、しかし、帳簿のようなものが無ければ管理ができないのだ。
 人の記憶は曖昧で、さらに言えば、証拠を握っていなければ、スケープゴートの的になるばかり。
 リアンは奴隷市場、その商品となるのは、今回が初めてではない。奴隷の身分で見てきた世界は、この街とは違いながらも、それでも似通っている。
 故に、その足が辿り着いたのは、そんな秘密の帳簿を持ち込んだ闇商人の荷物置き。
「……っ」
 なんて都合のいい物では全くなかった。
 奴隷の身であった彼女が、その身分にふさわしく、また別の牢だった。いや、それは牢、等というものではなかった。
 いうなれば露天店舗だ。大通りから僅かに路地へと曲るいわば二等路地。
 そこで僅かに覗いた部屋にあったのは、名札が駆けられたケージ。それは人一人が、体を丸めて漸く床に休む事のできるような面積の、籠。そして退屈そうに椅子に座る男が一人。
 見目の良い奴隷は、着飾ってその価値を上乗せして売るものだ。だが、その籠の中にいた少女たちは、化粧の一つなく、肌を彩るのは他者の力の証明。
 リアンは、息を呑み。そして、その場に背を向けた。
 彼女の目的は、あんなものを助ける為ではない。その少女たちの証言が証拠になりうるかと言われれば、否だ。
 だから、彼女はその場を離れ。
 だが。
「も、もう……我慢できません」
「なんだ、はは、どこの商品が逃げてきたんだ?」
 ぎり、と噛んだ歯の隙間から囁くように、リアンは暗い証明の下にその身を晒していた。
「逃げた商品がどうされようと、文句は無いだろう」と椅子を揺らして男が立ち上がった、その挙動すら彼女が待つことは無かった。
 ゴ、パっと顎を一撃に打ち抜き、昏倒せしめていた。そんな光景に何を思うのか、何も思わないのか。そんな虚ろな視線に、リアンは小さく、ごめんなさい、と告げていた。
 言葉すら届いているのか。だが、それでも、彼女は一度ならず背を向けた過去の自分へと告げる。
「必ず助けます」
 そうして、リアンはその部屋を飛び出した。こんな店がいくつあるのか。いや、幾つあるのか、などは間違っている。
 人を売る店の横に、サンドウィッチを売っている店が当然としてあるような街。リアンは、見逃してきた店を振り返り、拳を握った。
 幾つの商人を襲ったのか、幾つの店を壊したのか。その仔細も覚えていないが、しかし、気づけば彼女の周りは、武装を固めた警備兵に囲まれていた。
 殺さなかったのか、殺せなかったのか。リアンにそれを省みる余裕などないが、目を覚ました誰かが通報したのか、そもそもの騒ぎに駆け付けたのか。
 ふと我に返り、リアンは悪意に満ちた彼らの視線を一身に受けているという状況に、思考が追いついた。
「……ぁ」
 ずぐ、と冷えた刃のような恐怖がリアンの細い首から背骨へと肉を割り裂いていく。
 いつついたのか、腕の傷の痛みも気に等ならない。
 殴られる?
 殴られてもいない胸の骨が軋む。
 殺される?
 喉に見えない指が食い込んでいる。
 いや?
 それとも、死にたい等という暗い希望すらなく、ただ漫然と終わりを待つだけの虚ろと化すのか。
 そういった運命を辿る様を見た記憶が、闇から浮かび上がってくる。
「あ、あぁ、あ……ぁ」
 誰かの空っぽの瞳が、リアンを見つめているような気がして、彼女はその場にうずくまった。
 震える体を抱いたリアンの頭が、堕とされた重い足に揺れ。薄らと残る意識に、体を締める鉄の匂いが張り付いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セゲル・スヴェアボルグ
どれだけ拘束を施しても、強度がなけりゃあ意味がない。
俺を完全に封じたいなら、薬漬けにして錨鎖でふん縛るぐらいでないと意味はないぞ。

せっかくだ。現場の奴隷解放といこうじゃないか。
錠なんてまどろっこしいもんは扉ごと引きちぎっちまえばいい。
だが、解放したところで、そいつらが捕まっちまっては意味がない。
俺が存分に時間稼ぎと惹き付けをしてやろう。
なに、逃がした奴隷の価値の分だけ、俺の価値が上がれば、必然的に狙いは集まる。
夜襲の時よりも少しだけ派手に暴れてやるとしよう。
解放した奴を全員逃がしきるまでは、邪魔な奴らを相手を軽く揉んでやればいい。
出口ギリギリでの対応になるだろうが……まぁ、なんとかなるだろ。



 猟兵達が繋がれた牢は、オークションに出品される商品の為の保管庫のようだ。
 まるで雑巾を絞るような手軽さで、ぎゅぎゅ、と腕の手首を絞めていた鉄の枷をねじ切ったセゲル・スヴェアボルグ(豪放磊落・f00533)は、ふんむ、と呆れていた。
「お、お前ッ!」
 と、看守がその音に駆け寄って、柵の間から槍を突き入れようとするが。
「本当に拘束したつもりだったのか、っと」
 ド、ガァ! と。
 入る時に押し込められるように突っ込まれた狭い牢の中で、胡坐をかいていたセゲルは体勢を入れ替えると、脚と両腕を支えに鉄柵の扉を蹴り飛ばしていた。
「俺を封じたいなら、俺に薬でも盛って、どこかの船から錨鎖でも引っ張ってこい」
「そんな無茶な話があるか」と、看守の方があきれ返りそうな言葉を零しながら、よっこい、とばかりに錠を引きちぎりながら扉が吹き飛んだ入り口から、脱出を遂げる。
 駆け寄ってきた看守はというと、吹き飛ばした扉に巻き込まれて目を回していた。
 セゲルは、そのまま外へと向かう――という事は無く。
 近くの檻をこじ開け始めていた。目の前の金属の檻が瞬く間に拉げていく光景に捕まっていた奴隷たちは、一様に目を丸くして硬直していた。
 そんな中で、目につく限りの解放を成した後、セゲルに比較的親し気に声をかける者がいた。
「た、助かったよ……あんた、凄かったんだな」
 と驚いたように言うのは、隊商の中にいた顔ぶれの一人だった。セゲル同様に捕まって、ここの牢に振り分けられていた、ということらしい。
 十中八九、裏の見張りが彼だ。
「ああ、顔見知りがいて安心だよ」
 そして、合図を外へと送ったのも、セゲルはばっちりと見ていながら、その商人へと親し気に返していた。
「直に大混乱になる」とセゲルは、解放した奴隷達にそれまで隠れていろ、と告げた。彼らが奴隷の服であっても、そこに看守の服が落ちている。
 別の家屋で看守の服を着た誰かが奴隷を見張っていても、何もおかしくはないだろう。それに。
「……っこいつら、どうやって!!」
「逃げようとした奴は、殺しても構わねえ。やるぞっ!」
 まさか、大型船とタメを張る様な怪物がそこに囚われていたと知らない看守の仲間は力づくで檻を壊したなどとは思わかったのだろう、セゲルへと剣を引き抜く。
 あと数着、変装が手に入りそうだった。
 そして、少しだけ時間が進み。
 ひん剥いた服の中身を厳重にふん縛った看守と奴隷は、何者でもなくなった男達を適当な箱の中に押し込め上からカーテンをかけて、隠す。
 怪しまれないよう目礼による感謝と共に、看守達は、手を縛った奴隷の列を引き連れていった。
「……あ、あの……?」
 セゲルと、彼に肩へと手を置かれた件の隊商の一人を残して。
 外から聞こえる喧騒の中に混ざる混乱に、他の猟兵の動きを感じながらセゲルは、顎をさすりその男性を見下ろした。
「いやなあ、どっちを裏切るか気になってなあ」と、態とのんきに語尾を伸ばして、セゲルが問う。
 その言動は、お前の正体はもう分かっているぞ、と言外に突きつけるものに違いない。
 商人の一人は何かを逡巡する合間に、引き寄せられた警備兵の喧騒が響いてくる。声を聴く限り、抜け出した奴隷達は素通りされたようだ。平時では恐らく怪しまれていただろうが、今が平時なわけがない。
「もぁ、分かったよっ!!」
 彼はどちらを裏切るかを決断したらしく、彼の牢屋の壁の一部の岩を剥がし、中から剣を一本引き出す。
 目の前で鉄の柵を力づくで、それも大したことでもないとばかりに軽々と、捻り千切るセゲルを相手取るより、生き残る確率が高いと考えたのだろう。
 そして、駆けこんできた警備兵にその切っ先を向けた。
 面識など無いのだろう。互いに歯車同士の顔にも反応を示さず、静かに機微を図りあっている。
 大柄な竜人は、かっか、と笑いを放って、狭い牢の中で凝った体を軽く伸ばす。
「それでは、頼りにさせてもらおうか」
 まあ、確実に注意を引くセゲルを囮にして、上手い事姿を眩まそうとしているのだろう。と予想はしているのだが。
 その後にゆっくりと捕まるかと、セゲルはその掌を伸ばした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アガト・シレスティアル
量産型シャーくんズを発動
240体の量産型を街にこっそり散開させて
悪党の情報とか奴隷取引の契約書とかの写真を撮って本体のシャーくんに画像データを送らせるにゃ
うにゃ?下着?猫ははかないにゃよ

耳の中に隠したシャーくんが出番が欲しいとしゃんしゃん泣いてるにゃ
没収されるのは嫌だからまだ縮小したままにしておいて、
いつもプログラム化してシャーくんの中に入れてる水陸両用シャーくんカーだけ取り出して、電脳魔術師の力で実体化
捕まるまでレーヴェにゃんとドライブするにゃ!
なんか人が多そうな大きい建物にシャーくんカーのエネルギーが切れてプログラムに戻るまで非殺傷ビームを撃ちまくるにゃ!ウェルダンになれにゃ!
アドリブ歓迎


レーヴェ・ナハトシッフ
……昔のバイト先でたまに着るボンテージ服や先輩の悪戯で消え、後日クリーニングに出した状態で帰ってきた下着などで慣れてるつもりだったが
最低限な布のみはさすがにな……防具改造で伸ばせないだろうか?
アガトはへい、きなんだな、うん……お前は普段からそうだったな
……仕事だしコスプレ衣装と割り切るか

梨尾の陽炎を使用
陽光のような燃えさかる焔を
弟の能力を想像して、焔をナイフの形に成形
アガトの車の助手席から投擲して騒ぎを起こしたり、車の進行先の安全を確保するか
殺すつもりは無いから延焼しなさそうな建物や道に何本か道標のように投げて
再び捕まりやすいようにしておこう
情報も暴れるのもアガトだけで十分だろうし
アドリブ歓迎



『しゃしゃー、しゃ?』
「にゃるほど、にゃるほどにゃ」
 とアガト・シレスティアル(この抱いた思いは忘れない・f03547)は電脳魔術の光に向けて、しきりに頷いている。
 幽かに聞こえる音は、アガトにしか聞こえない音量で、傍で見ていてもひとりでしゃべっているようにしか見えない。
「何か分かったのか?」
 と隣の獅子獣人が問いかけた。
 鮫型機械黒剣、その小型コピーを数百と街へと放って、情報を集めるアガトの代わりに周囲の警戒をしているレーヴェ・ナハトシッフ(風を纏う傭兵獅子・f04940)は、しかし、結構人通りなく安全な場所を幸運にも見つけて、少し暇をしていた。手伝える事が無くて、少しばかり引け目を感じている事もないが。
 アガトの猫の耳の中にいる鮫型機械黒剣本体、シャーくんとの会話を邪魔するわけにもいかず、腕を組んで周囲の気配に気を配りながらも、進捗を確認する。
 問いに、しかしアガトは電脳魔術を見つめながら、さっぱり、とばかりに首を傾げた。
「わかんにゃいから、片っ端から受信して集めてるにゃあ」
「……なるほど」
 暗号やらでやり取りされているらしい証拠文書の画像や、そこらに出入りしている悪党の顔やらをバシバシデータへと変換しながらアガトは、とうに解析などは匙を投げていた様子だった。
 そして「よし、そろそろ行くかにゃ!」とレーヴェを振り返って、その顔を見上げて。 
「……、にゃあ」
 と少し気まずげに鳴いた。
「っ! 見、るなって!」
 一瞬の困惑に、しかし、アガトの反応の意味を悟るのは速かった。
 ババッと、素早い動きでレーヴェは腰に巻いた布を、両腕を脚の間に引っ張って押さえる。
 頭のてっぺんがその隣人の腰よりも低いアガトが、頼りない布に太ももを大きく晒している状態のレーヴェを見上げると太もも以外にも見えるものがある、という事だ。
「気にしなくていいにゃ」
「……アガトはへい、きなんだな」
腰巻を抑えて、じり、と距離を取るレーヴェに軽く言うアガトに、当の本人は納得いかないとばかりに口を出してから、特にいつも見ているアガトの姿からあまり変わっていないという事に気付く。
 腰布を広げ、「猫ははかないにゃよ」と言われてしまえば、それで終いだ。実際、布から見える脚の付け根は、もっふりと毛に覆われている。どころか尻尾の邪魔という事で後ろを結んで腰エプロンのような状態だ。
「……お前は普段からそうだったな」
 しいて言えば、服が上から下がってきただけだった。
 種族差の妙というか、一先ず見られた側だけ慌てているという事に、更なる恥ずかしさと共に冷静さが舞い戻ってきていた。
「……はあ」
 仕事だし、コスプレ衣装みたいなものか。とレーヴェは割り切る方向に思考の舵を切る。
 思えば、昔のバイト先でも変わった衣装を提案される事が何度かあった。シルエットが、とか動きが、とか言って丸裸の上に衣装を羽織らされたことも幾度か。
「そういえば、俺の下着だけわざわざクリーニング出されて返ってきたのって」
「……、それは知らにゃい方がいいんじゃないかにゃ?」
「うん? うん、そうか」
 そんな事よりにゃ! と強引に怪しい記憶を掘り返していたレーヴェの思考を、アガトが現在に呼び覚ます。
「情報も結構集まったにゃ!」
 玉石混交。ではあるが、確かに量は膨大。
「それにシャーくんが、出番欲しいってしゃんしゃん泣いてるにゃ」
「でも予定ならもっかい捕まらなくちゃだろ?」
「そうにゃ、没収されるのは嫌だから、まだ我慢してもらって」
 電脳魔術が世界に光を走らせる。アガトの耳の中、縮小してその中へと隠しているシャーくんにプログラム化して圧縮をかけていたそれを解凍して実行。
 実体化させてそれは、水陸両用の先頭車両だ。
「それじゃ、レーヴェにゃんドライブ行くにゃー」
「ああ、まあ、停められるまで行こうぜ」
 運転席に乗り込んだアガトに、レーヴェは助手席に乗りながら、その手に焔を立ち上らせた。
 見る見るうちにナイフの形へと精製されていく焔を手に、レーヴェは車が発進するとともに、隠れていた家の壁を盛大に発射されたビームが粉々に打ち砕いたその振動に、wooと口を尖らせていた。
「右かにゃ、左かにゃ」
「それじゃ左で」
 さながら散歩のコースを決めるような気軽さで、破壊のパレードが進んでいく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セリオス・アリス
アドリブ◎

剣も服も、おまけに靴までねぇってか?
残ったのは切っても放せねえこの声と呪いの痕だけ
…ここで歌えば声も奪われるかもしんねぇな
なら歌うのはまだ我慢して
囀ずるにとどめよう

さてこっからはハデな逃走劇といきたいところだが
せめて探るフリでもしねえとかっこもつかねえか?
一人で動いてる悪ぃヤツを見つけたら
長い髪を釣り針のように
僅かに覗かせ跡を追わせる
曲がった先で『咄嗟の一撃』
脚をかけ押し倒して馬乗りに
首に圧をかけたら『誘惑』するように無駄に甘い声で訪ねよう
捕まったヤツら、商人たちはどこだってな
叫んで助けを呼ぶならそれはそれでいい
沈黙させて
次の相手と戦うだけだ
“高い値”がつく商品らしく
大暴れしてやるよ



「派手にやってんねえ」
 どこかしらから、ドッパアアン、と明らかに人の喧騒とは違う轟音が響いている。
 騒がしさも、薄暗闇には似つかわしくない、混乱の色を纏っている。が、そんな中であっても警備兵が機能している、というのは、正直に言って凄い事じゃあないか、と思う。
 響いて僅かに揺れる壁を見つめて、しかし警戒心を解かずにいた彼は、その長い髪を、肩から零れるように垂らして、彼を見上げる男の視界を、髪の数房分狭めていく。
「こんな所で、こんな時に、これだけ統率取れんだなあ、お前ら」
 ひび割れ一つない、形のいい唇が緩やかに弧を描く。
「ふ、……グ、ッ」
 食いしばる様に、気を失わないように気道を僅かに開けるように、血流を止めないように、セリオス・アリス(青宵の剣・f09573)は押し倒した警備兵の頸を、膝で圧をかけていた。
 右足で男の左脇と首を、左足で利き手らしい右手を締めてセリオスは、武装していたはずの男を、半裸というのも怪しいような状態のままに無効化せしめている。
 その目を覗き込むように、口の端から唾液を零しながら睨み上げてくる男に顔を近づけて、笑む。
 苦しい呼吸に目じりに浮かんだ涙を、指ですくってやって、男の耳を擦る。
 ちゃんと聞けよと、脅すように。
「なあ、教えてくれよ」
 閨で願いを乞う様な甘い声に浮かぶのは、ネトリとした嗜虐の色だ。
 歪な愛を囁くような甘みに、警備兵が返すのは煽情ではなく嫌悪と恐怖の混ざる視線。
「他にも捕まえてんだろ? 吐けよ」
「……、」
 吸い込まれるように、セリオスの瞳を見つめていた男は、何かを言おうとする仕草の直後に。
 ガっ、と歯の間に舌を差し込んだ。
 さながら断頭台を思わせる様に、その上下の歯が男の舌を噛み切るその寸前に。
「づ、ぁ」
 セリオスの拳が、男の顎を打ち抜いた。
 一瞬で意識を飛ばした男の体から立ち上がったセリオスは、髪をかき上げながら軽く舌打ちをしていた。
「チッ、空振りかもわかんねえか」
 不意打ちで男を振り回し、連れ込んで尋問に移行した倉庫の窓を開けて、様子を眺めながら嘆息する。
 そこかしこ、武装した兵が走り回っている。逃げた奴隷が、と阿鼻叫喚を聞けばその原因を間違えようもない。
 そんな原因の一つであるセリオスが窓から身を出していれば、それは当然目立つわけで。
「お、やべ」
 地下の洞窟を無理やりに広げたような街の造りは結構複雑だ。この倉庫も、セリオスの入ってきた扉は、道から直接つながる一階だったが、向かいの窓の直下の道は二階程の高さの下にある。
「なら、しゃあねえな」
 セリオスは、吐き捨てる様に笑う。あの警備兵がこの倉庫に来るよりも、こちらが行った方が早い。
 投げやりなのは、過去の記憶を刺激するような、身の重さにか。
 それでも躊躇いなど無く。
 セリオスは、まさに今応援を読んでいる兵の眼前へと舞い降りていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ザイーシャ・ヤコヴレフ
・SPD
ひっく…ひっく…お母さん……もう嘘泣きはここまでいいかな?
足枷をさせても無駄なのにね
隠していた魔法のナイフを手斧に変えて鎖を…えいっ
牢屋も魔法のハルバードで壊しちゃお…えいっ
壊す前に【入れ子人形のマーチ】で呼んだお人形さんで看守さんの注意を反らして、ここからにーげよっと

確か…何か騒ぎを起こせばいいって言ってたよね
あっ、誰か居る…何か喋ってるみたい
そうだ
『遊ぶ』ついでに情報を聞こうかしら
1人になったのを見計らって、わざと見つかってみるね
【演技】で打たないで、何でも言うことを聞くから…って怖がるふりをして油断させたら…魔法のナイフを刺しちゃうね?
何を話してたの?
刻みながら…お話しましょうね



 なにが悪かったのか。と男は頭にぐるぐると回る疑問でぐちゃぐちゃと思考を濁していた。
 床に付けた尻が冷える。それでも摺り下ろしたズボンを引き上げようなどという仕草すらも見せない。
「ねえ、他には? もっとお話ししましょう?」
「は」
 馬鹿らしいと、彼は己を見下ろす少女に草臥れた瞳を向けた。
 それが、男の目の前に現れたのは、正しく偶然そのものだった。

 何、話してるんだろう。と少女は足を止めた。
 密談など、この街ではありふれている。猟兵の任務がどう、とかあまり関係なく、嘘泣きを続けるのも退屈になってきたあまりに牢を抜け出した、という部分が大きい彼女も、ふらふらと当てなく歩く中でそんなものは幾つも見てきた。
 だが、興味をそそられず素通りしていたザイーシャ・ヤコヴレフ(Кролик-убийца・f21663)が、その会話に興味をそそらそられたのは、その会話の中に奴隷、やオークションといった言葉が混ざっていたからか。
「ああ、それでは」
 だが、男たちの密会は、断片だけを彼女にちらつかせ、会話を絶ってしまった。片方の男は意気揚々とその場を離れていき、ぶつくさとその背中に小さく罵声を浴びせる男だけが残る。
「……ふうん」
 空き家だろうか、生活感のあまりない室内に残った男を見て、ザイーシャはその幼い頬を少し朱に染めていた。
「きーめた」
 ひやり、と冷たい笑みに歪んだその瞳は徐に足先に転がっていた石を見つめ、そしてそれを彼女は蹴飛ばした。
 か、ここん。
「っ、誰だ!」
 小石が壁に当たって音を立てた瞬間に、男の恫喝が飛んだ。足音を響かせて、男は窓から外を覗き込めば。
「……ひっ」
 窓の下に、奴隷のいでたちをする少女が体を丸めている。
「ぁ、や……っ」
 と涙を頬に転がし、男を見上げる少女に男は、状況を飲み込んでから下卑な笑みを浮かべていた。
「ははあ?」
 とその手がザイーシャへと延びて、伸びたその白い髪を掴んで無理やりに体を起こさせていた。
「ぃ、だ、ああっ! やだ、っや!」
 叫ぶ少女にしかし、街の喧騒が静まることは無い。無理やりに体を起こした少女の頸を掴んで、男は窓からザイーシャを室内へと引きずり込み、そして床へと捨てる様に転がした。
「ひ……や、やだ……っ」
 ザイーシャは、柔い肌を晒しながら、ゆるく首を振りながら、体を引きずる様に床を後ずさる。
 手足を震えさせながら逃げる彼女は、しかしやがてどん、と背を何かに止められた。壁に追い詰められてしまったのだ。
 ゆっくりと近づいてくる男の手が、再びザイーシャの頸を掴む。ザイーシャの恐怖に歪んだ目からは見えないが、カチャカチャと金属音がするのは、ベルトのバックルが奏でるものか。
「何か言ったか?」
 その時、僅かにザイーシャの口が動いたのを、男は見逃さなかった。だが、掠れる息にその音を拾う事は出来ない。
 もし、聞こえていたなら、ひどく凍えた声色でこう、聞こえただろう。
 もういいかな、と。
「は? ……あ?」
 そうして、男が見たのは、首を掴んだ己の腕から生えた、一本の鋭い刃だった。

 何が悪かったのか、しいて言うなら運が悪かったとしか言いようがない。
「ねえ、何で教えてくれないの?」
 まるで稚拙だ。拷問という外面を知りながら、その本意を理解していない。
 また刃物が、男の体を切り取っていく。もはや痛みに叫ぶ気力も残っていない。尿に濡れていた下着、摺り下ろしたままのズボンも、幾重もの線に開かれた上着も、全て血に上塗りされている。
 最初の数刺しで、知ることは全て答えた。所詮自分の知る知識など、何枚も嘘と誤魔化しを重ねた情報でしかない。
 だが、終わらない。答えに答えてもそれは満足せず、同じ質問をすら問いかけない。その時の気まぐれに質問の内容を変えるのだ。
 それで、理解した。
 この悪魔は、情報を知りたいのではないと。
 ミニチュアの台所でおままごとをするように、悪魔は男の体を切り開いていく。随分と息が軽く感じるのは、感覚が鈍麻しているからか、もしくは腹の中が軽くなったからか。
「つまんないの」
 そうして、反応を示さず、ただ、ゆっくりと水底へと落ちていく男の思考に、そんな声が響いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

サンディ・ノックス
愛用の黒剣も隠していた小刀もワイヤーも没収か…事前に話は聞いてはいたけど面白くないな
この後の楽しみのためにもさくさく仕事しよう

奴隷市場に出入りする連中の出入りしている証拠を探したい(例えば顧客リストのような)
存在していたら不利な物品だし実在も怪しいけれど、もし存在すれば有力な証拠だ

身を隠す場所があることを移動の度に探し、場所から場所へ闇に紛れて移動
近くに人が居るときはそいつの行動から次の行動を予測、見つからないタイミングを計る
ユーベルコード『絶望の福音』も発動して不測の事態に備え、目的の物品や情報を探す

証拠になりそうなものを見つけたら解読を試みる
薄暗くて見えづらいのは暗視でカバーできたらいいな



 どっこん、ごっこん。と。
 轟音が、結構な近くを通り過ぎていった壁の中で、サンディ・ノックス(調和した白黒・f03274)は顔を上げる事もなく、赤い髪すら揺らさず、手元の帳簿を眺めていた。
 薄暗い街の至る所へと身を巧みに隠し、それらの視線を予測して、時に大胆に歩を進めた彼が、気になっていたのは空になった店舗。人の温度が残っているのが分るほどに、ここの家主は慌てて外に出たらしい。
 理由は人が入る程度の拉げた檻か。それとも別か。
「収支が合わない箇所が多すぎる」
 髪に描かれた数字を追いながら、サンディはすうと目を細めた。
 下二桁に0が二つ並ぶような百単位と百単位の簡単な足し算で一の位が勝手に動いている、そんなレベルの間違い。
 明らかに、何かの意図があってその数字が書かれている。
「いや、むしろ収支の誤差の組み合わせで、音節を作るタイプか」
 ダークセイヴァーのレジスタンスグループが書簡のやり取りに使用していたようなもの、完全にではないが、少し助力した際にある程度の癖は見知っている。
 サンディは、その頭の中でカチカチと即席の対応表を組み上げながら、文字を拾い上げていく。完全な解読は無理だが、それが人の名前か商会名か、一まず意味のある音を為すと分かっているならば、歯抜けは埋められる。〇で伏せた言葉であっても、前後の流れで予想が付くのと同じだ。
「……商会名、場所。……人の名前でもない? いや、暗号じみたコードネームか。これは……購入者リスト、というよりは」
 納品ルート、表の市場では流せない商品を購入者の元へと届ける経路だ。
 ロンダリングにも似た、わざと迷うような足跡の痕跡。ならば、ここにあるのは仲介業者を差す記号。
 ここにいた商人は、恐らく騒乱の中に巻き込まれたのか。
 息を吐く。
「少し面倒、かな」
 果たして行方は知らないが、戻ってきてこれを持って行かれるのは困る。さっさとそれを持って立ち去るのが吉。とその場を後にする。
「さて、適当に隠しに……」
 通りへと面する窓から飛び出した瞬間、振るわれた刃の一撃を体をくるりと捻るようにして掻い潜る。
「……!?」
「なっ」
 跳ねようと、潜ろうと、咄嗟の判断では確実に命か機動力か、どちらかを削り取られていたような奇襲に、しかしサンディは無傷。その纏う布の端一つ刃に触れさせずに着地していた。
 まるで、何かしらの予感に奇襲を見抜いていたように。
「ここでつかまっても良かったけど」
 と、片手に持った帳簿を軽く振る。それをどこかに隠しておきたい。一ルートでも、そこから分かることはどれ程多いかもしれない。記された業者から枝分かれして得られる葉の数は、どれほどか。
 実りのいい樹であることを願うだけだが。
「面白くはないけどね」
 今ここにサンディの愛用する黒剣はおろか、隠していた小刀やワイヤーもない。
 素手で人を殴り飛ばすのは、好きじゃないんだけど。と。
 サンディは、待ち構えていた武装した兵に穏やかな笑みを浮かべた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

イヴェット・アンクタン
※アドリブOK
行動開始ですね。しかしなぜ私の様な者まで捕えるのでしょう?
武装がなければ戦闘力は走力以外並み以下。
まして廃人状態では索敵や罠も使えず役立たずだと思いますが……まあいいですか。

今が情報収集に長けている私の力を発揮出来る時。
暗殺技術を活かした高速の忍び足で進み……聞き耳や視力を合わせて広く情報を仕入れて行きます。
同時に上層へ向かってみましょう。

盗み攻撃で得た戦闘知識を応用――警邏の隙を狙っていきましょうか。最悪、口内の爆弾を使い撒きます。
どの道待ち伏せされているでしょうが、というか呼吸音でバレバレですし。
それにしても……必死ですね。情報漏洩が商売不可に繋がるので仕方ない事でしょうが。



「では、始めましょうか」
 イヴェット・アンクタン(神出鬼没のサバイバー・f24643)は、久しく縁のなかった丸腰という状態に軽い体に、すこしだけ落ち着きなく、静かに言う。
 装備は無くなったとしても、彼女の身についている感覚は剥ぎ取れるものではない。むしろ、装備の無い軽さに慣れてしまえば動きという一点に至っては平常の上をいくかもしれない。
 ダンッ!!
 と踏み込み、しかし、その音はほんの僅か。加速の勢いだけを得る様に静かに彼女の体が駆ける。タタタン、と暗い壁を蹴り、フードを深くかぶって路地を歩く人の頭上を抜ける。
 地上を照らす灯は、街に設置されたものばかりで、空の無いこの街は、むしろ頭上の方が暗い。
 とはいえ、屋上に出ては高い塔の上にいる見張りに捕捉される。街は騒がしい、鉄のなる音がそこかしこで響き、怒号が聞こえる。
 予知で本来ここにくるはずだった冒険者たちはここまで騒ぎを起こしてはいないだろう。
 こうなれば、再捕縛された人員は纏めて、秘奥の『加工場』に連れていかれるだろう。
 オブリビオンの撃破、それが最終目的ではあるが、しかしイヴェットにとっての最前線は、今ここだった。
 武装を剥ぎ取られた状態の単体の彼女に、戦闘力はない。キャタピラとエンジンだけ残った戦車のようなものかもしれない。それはもはやただの無限軌道だ。
「武装だけ取られて、捨て置かれるか殺されるか、なんて可能性もあったわけですが」
 自らに奴隷としての価値を、心底感じていないイヴェットは、自らを役立たずと評してやまない。
 右に一人、壁の向こうに足音二人。一般人。護身用の短剣。
 警備兵の装備が鳴る音が一つ通りに。警邏の網を考えると、駐屯している警備兵がもっと近くにいそうだが、いない。この混乱で駆り出されたか。穴を埋めるために穴を作っては何の意味もないというのに。相当混乱が激化しているらしい。
「では、素通りさせてもらいましょう」
 路地から通りへと駆け抜ける。
「……っ貴様!」
 と叫ぶ声を無視して駆け込んだのは一本道だ。
 駆け抜ける間に、恐らく何らかの魔法か何かで連絡、即連携がなされたのだろう。
 一本道の出口で待ち伏せる兵の身動きが、イヴェットの五感が知らせる。
「まあ、バレバレですが」
 きりきりと風に混ざる様になる音は弓の弦か。手前二人の待ち伏せは陽動で遠距離から狙う算段らしい。
 何のことは無い、そうと分かっているなら道を変えるばかりだ。イヴェットはその勢いのまま家の壁を駆けあがり、二階部分の窓へと飛び込み、じと息をひそめる。
「くそ、どこに行った!」
「いや確かにこの通りに――」
 慌てたように声が聞こえる。
 まさか角で見えなかった数秒の時間で壁を上っていったとは思わないのだろうが、しかし、消去法でこの場所がばれるのもすぐだろう。
「さて、少し離れますか」
 と軽く息を吐いただけ。街の地図を頭で展開しながら主要な怪しい場所をマークしていく。
「上層へ、いってみますか」
 警備の激しくなる街で、彼女はさも当然に言う。
 それができる者が、自らの忠実な手駒になるならば、大金を払う事など何の苦でもない者はいくらでもいる事に、しかし彼女は気付かず。
 警備の情報伝達の向かっている場所へとひた走る。

「なるほど」

 ひた隠すわけだ。とイヴェットは頷く。
 この街は、オブリビオンを支配し、利用しているわけではない。
「オブリビオンに従っているだけ、ですか」
 イヴェットを押さえつけたこの街の重鎮らの、己の意思なき眼に呆れを返す。
 オブリビオンを従えるのであれば、それは善悪はあれど、偉業には違いない。彼らはオブリビオンを従える様に、そのオブリビオン自身に従わされている。
 
 最奥の『加工場』

 猟兵達が、そこへと招待される。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『調教師『カナン』』

POW   :    自由など不要
【罵声】【拘束具】【鞭】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
SPD   :    思考など不要
【霊力】を籠めた【鞭】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【自立性】のみを攻撃する。
WIZ   :    過去など不要
対象への質問と共に、【これ】から【所有者となる存在】を召喚する。満足な答えを得るまで、所有者となる存在は対象を【罵詈雑言と鞭】で攻撃する。

イラスト:ゆーち

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ショールム・メルストロムです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 それは求めていた。
 己を証明する全てを。
 失った先にあった自らの存在を。
 全てを奪われた先で、加工され、そうして、研磨された能力を他者のためだけに振るうべしと。
 利己はあれど、自愛は不要。
 全て等しく商品とし、反射して網膜に映る自分すらその括りに入れて、猛獣は自らの檻を手に入れた。
 奪い、そして、奪われ続ける為の檻。
 闇を啜り、人を奪い、地下に都市を作り、その街の頂点に君臨する獣は、最底辺の檻にて自らを売り続ける。
 違法市場、その底の底。
 その舌が舐めとったのは、他者の血か、自らの血か。
 獣が、己を鑑みる事は無い。獣にとって過去など、思考など、自由など。
 不要なものでしかない。

 そうした在り方だけが、全てを奪われた彼に与えられた唯一だった。

『第三章』

 複雑かつ、多重の罠と偽造の奥。街の秘奥。『加工場』へと連れられた猟兵は、オブリビオンと対面します。
 第一章で隠し、第二章で使用されなかったアイテムのみ使用できます。
 ここに無いアイテムのユーベルコードは描写いたしません。

 判定、装備技能は全て使用できます。フレーバーと考えください。
 よろしくお願いします。


「要らんな」
 深く、泥に軋むような声が猟兵達へと向けられた。
 そこに浮かぶのは、敵意でも、害意でもない。
 明確な、殺意だった。
「その全てが、無駄な汚濁でしかない」
 猟兵が息をする事すら、世界の内側に触れている事すら、看過しがたい。という。
 それが『加工』を考えているようには見えず、バジィンと鞭がしなって拒絶の音を弾けさせた。

 

 持ってたアイテムは奪われた、という事なので、何も持ってない状態で何かを作り出したりするユーベルコードは使用できます。
リアン・ブリズヴェール
【アドリブOK】
2章の奴隷としての心を刺激されてかなり怯えて弱気になってしまった状態で戦いに挑みます。
まずは【ドレスアップ・プリンセス】で衣装を生み出し、【オルタナティブ・ダブル】でファムを召還します

けど【自由など不要】をされてしまえば萎縮して動きが鈍り、【思考など不要】をされれば戦うという自立性が奪われてしまいます。
【過去など不要】での所有者はかつての主人のような豊満な若い女性を答えてしまいます。

怯えて戦えなくなってもファムがリアンを庇いながら【一撃必殺】などを使って戦います


イヴェット・アンクタン
※アドリブOK
拒絶。こちらへ失望と猟兵への敵意が故でしょうか?いずれにせよ待っては貰えない様子。
鞭は動きの機微を視力で見抜けば対処可能なはず。経験の無い得物ではありますが戦闘知識で補いましょう。
軌道を曲げるなどで死角を突かれても、聞き耳を活かし音で把握します。

ただタイミングを吟味せねば……アルジャーノンエフェクトで決められないと窮地ですし。
接近してきたなら、盗み攻撃で鞭をかすめ取りこの隙に……あっ!?
と、取られながらスナップを利かせ、ぶつけて?あ、だめ――意識、と、ぶ……。

――UC発動――
は――!?これ、は……?
いえ……どうやら貴方のお陰で、私のルーツに一歩近づけたようですね。
感謝いたします。


セリオス・アリス
アドリブ◎
向けられる殺意に感じるのは純粋な歓喜だ
腹の奥をぐちゃぐちゃにかき回されるような
気持ちの悪い欲の視線よりも遥かにイイな

ずっと我慢していた鬱憤を晴らす様に
歌で身体強化してダッシュで先制攻撃だ
剣がないなら殴ればいいだけの話ってな!

質問には挑発で返す
俺の所有者は後にも先にも俺だけだ
10年、心だけは誰にも譲らず抗い続けてきたそれが
唯の痛みで折れるなんざ
――ハッ!笑い話にもならねえな
お世辞にも耐性があるとはいえない痛みに耐えて
意志だけで睨みつければ発動するのは【君との約束】
光の剣が守る様に思わず目を細めた
ああ――お前は、俺の導だ

哀れな獣を真っすぐ見て
歌を口に
魔力を拳に
殺意を瞳に
全力で殴りつける


ロク・ザイオン
(ひとは美しく清らかなだけではないと
濁った水と土は、病葉のような人間を作ってしまうのだと、いう。
だから、見定めたかった。
ひとの、病んだ悪意の底を
己を求め隷属させる者が、どんな病であるのかを)

(何も持たなくとも。手足を枷で縛られ轡をかけられ転がされていても。
「轟赫」64本の炎は戒めを灼き切り
【早業】で言葉ごと、鞭ごと、敵を襲う)

(獣は己の欲に素直なものだ。
ひとは、更に色々なものを欲しがった。
その底にいた、)
何もいらなくなった、
お前は、なんだ。

おれが従うのは
ととさまの御旨と、あねごだけだ。
御旨のままに、お前は灰に。
土へと還れ。


セゲル・スヴェアボルグ
人用のそれだと力不足だとか言って、まさか家畜用を使うとは思わなんだ。
これが思ったより硬くてな。
これじゃあまともに二足歩行もできやしない。

うだうだ言ってるが、要は猟兵を加工する自信がないってことだろう?
調教師の名が聞いて呆れるな。
おっと、轡を取り出して何をするかと思えば、家畜は口を利く必要はないときたか。

この鞭を食らい続けるのは流石にあれだな。
肉体的にはともかく、意思剥奪は少々まずい。
俺を飼い殺しにしたいのなら、もう少しまともな主をだな……
などと冗談を考える余裕もなくなってきたか。

そろそろ攻勢に転じよう。
今後の風通しのためにもどでかい穴をぶち開けてやるか。
俺の起こす嵐は、少々荒っぽいんだがな。


サンディ・ノックス
んー…他者を見下している奴の登場を期待してたんだけどな
拒絶するだけの奴じゃ弱いやつの演技してからかう遊びができないじゃないか、がっかり
まあいいや、仕事して帰ろう
拒絶するのはご自由にどうぞ、俺の存在をお前に認められる必要はない

『解放・夜陰』を発動、黒水晶を薄暗い地下街の闇に紛れこませ攻撃
召喚数を活かし全方位から攻める
傷に隙があれば重点的に狙う

質問は何にせよ敵の答えで満足など得られないだろうし、俺も答える気がない
俺は敵に言われることを気にする理由がない、罵詈雑言だろうがなんだろうが放置

鞭での攻撃は敵の癖を見切り可能な限り回避
くらった場合はオーラ防御で軽減、思考を濁らせる痛みは激痛耐性で極力抑えたい


ザイーシャ・ヤコヴレフ
●WIZ
ちぇ、魔法のナイフ取り上げられちゃった
それに今度は手枷も填められちゃったし、重くてやだな
…でも、さっきは楽しめたし、ナイフが無くったって遊べるもんね

今回も油断させるために【演技】をしよっかな?
鞭の音でビクッて驚いてね
他の人が打たれているのを見ながらそれらしく振る舞おっと
だって、痛いのはやだもん
早く相手が満足する答えを言いたいけど、うーん…何て言お
やっぱり、分かりましたご主人さま、かな?

そう言えばここ、『加工場』なんでしょ?
それなら、私もご主人さまを【串刺し】にして『加工』してあげる
だって、ここ【拷問ごっこ】する材料がたっくさんあるんだもん
思う存分遊びましょ、ご・主・人・さ・ま?
※連携可



 

『貴様らに生きる理由など、生きた過去など、存在する意味など、不要だろう?』

『貴様らに所有者を与えてやる。一切を捨てて、死ね』

 バジンと鞭が床を弾く。軽く振るうだけのそれに石の床が抉れて飛ぶが、猟兵達の注意はそこには無く。
 目の前に現れた、オブリビオンと酷似した影に向けられていた。
 いや、それは一人を除いてであった。
「ご指名、という事ですか」
 困りましたね、と茶化すようにその一人、イヴェット・アンクタン(神出鬼没のサバイバー・f24643)は言う。だがしかし、その言葉に偽りはない。
 さて、体の前に手首を拘束され、足首にも鎖が駆けられ、あまり足を広げられない状態。
 他の猟兵も、それぞれに拘束されながら、複製された獣との対峙を強制されている。
「あまり戦えない相手を甚振る趣味でもおあり、……なのでしょうね」
 いつもの癖で皮肉を言葉にしてから、そもそも、あれがそういう存在だと思い返す。
 違法市場の主、地下都市の王。
 猟兵達を拒絶するのは、奴隷となって己を捨てようとしないこちらへの失望か、それともオブリビオンとしての猟兵への敵意か。
「どちらなんです? ――なんて、時間稼ぎ、聞いてくれるはずないですよねっ!」
 動かせる手足の範囲は既に把握している。
 その動きで可能な跳躍を以て、イヴェットは振るわれた鞭を回避していた。
 だが、回避だけで大人しく状況が打開できるとは、考えない。他の猟兵がどれくらいの時間で影の方をどうにかできるか分からない以上、イヴェット自身がそれを相手取らなければいけない。
 思わず愚痴をこぼす。
「まったく、とんだ災難ですね」


 震えが止まらない。
 拘束された両手をぎゅうと硬く握り締める。
 知っている、その獣が向ける視線に似たものを知っている。
 姿かたちはまるで別物。
 だというのに、その筋肉に包まれた獣に重なる面影。
 かつての主人。
 女性らしいシルエットは豊満に、肌は若く、獣のような毛皮が触れるだけで弾けそうな柔肌。
 フラッシュバック。
 奴隷の時代を思い出さされてすぐ、強烈なかつての幻影を目の当たりにして、リアンの記憶は、まるでミキサーにかけられたかのようにグチャグチャとかき混ぜられていた。
 ミキサーにかけた時間をまとめて凝縮したその衝動を、脳に詰め込んだような苦痛に吐き気がこみ上げる。
 ご、と獣の腕が振り上げられるのさえ、彼女の瞳には映ってはいなかった。
 だから、花びらと共にその鞭を払ったのは、彼女ではなかった。
 いや、彼女ではあるのだが、しかし、厳密にはやはり、別人となるものであった。
 拳を突き出した体勢。
 藍色の瞳、緑の長い髪、色白の肌。
 そこに立っていたのは、確かにリアンの姿であったが、しかし同時にその表情に怯えは無く、しかし、怒りも喜びもない。無表情に獣を眼前に、リアンを傷つけようとした獣を、ただひたすら静かににらみ上げていた。
「……ファ、ム」
 オルタナティブ・ダブル。
 二重人格者であるリアンの裏に隠れていた人格、ファム。それがかつてのドレスを、散る花弁と共に纏い、彼女を守る様に現出していたのだった。
「ファム、……、助けて……っ」
 こくりと、返事はそれだけだった。
 寡黙に、しかし、その後の行動は過激の一言に尽きる。
 徐に床へと標的を定め、轟、と叩きつけた拳は、まさに爆発を起こしたかのような衝撃と共に石床を砕いて瓦礫の弾丸が巻き散らされ、そしてその弾丸を追う様にファムが獣へと肉薄していく。
「……っ」 
 リアンは、ただその背中を追う事すらできず、ぎゅうと硬く目を瞑って耐えるしかできなかった。


「は、」
 ゆらりと、男は口に溜まった血を吐き出して、笑う。
 地面に打ち付けられ、無数についた傷に、痛みのない箇所がない口にしかし彼は笑みを浮かべる。
「そいつは良い」
 ともすれば、この獣にすら、薄汚い蜜欲に塗れた視線を向けられるのか、と考えていた脳裏に、そんな嫌悪から解放された喚起が沸いていた。
 セリオス・アリス(青宵の剣・f09573)にとって奴隷とはそういうものだ。
 欲の手で触れ、己の象徴のように見せびらかし、そして人知れず壊して快楽を得る。そういうものだ。彼の場合、幸い、鳴くのをやめられては困ると命を捥がれることは無かったが。
「もう、いいだろ」
『何を笑っている、クズにすら劣る分際で』
「かもなぁ」
 甘い。だが、感謝しないといけない。
 とアリオスは、己を捕らえたあの兵士どもに、皮肉めいた感謝を送る。
 暴れた代償にと、必要以上に嬲られた後に付けられた拘束は、そんなセリオスの身の丈にあったものだった。
『黙れ』
 と、音を口遊んだセリオスに振るわれた鞭は、しかし彼を捕らえることは無かった。
 ば、ぎん。と手足の拘束が、瞬間弾け飛ぶ。
「おー、いてえいてえ」
 強化した体で無理やり千切ったせいで、赤く痛みを発する腕を振りながら、sリオスは軽く跳ねる様に自由になった体を動かす。
『そうか、やはり』
「不要不要、ってか? 構わねえよ」
 お前にとって不要必要はどうだっていい。俺の所有者は、俺だけだ。
 そう言い捨て、強化を重ね、ズダンッ! とセリオスは獣へと一直線に駆け抜けるっ。
 ここまでの兵士では相手にならないだろう。まさしく鎧袖一触に散らせるだろう速度と威力を持ってその体が走る。
 だが、それもオブリビオンたるその獣に対処できぬ程ではない。即座に振るわれた鞭がセリオスの体を吹き飛ばす。
 ず、バ!! と、その直前に、鞭が爆ぜるような音と共に弾かれた。
『ッ!』
 また振るわれた鞭に光が弾けてセリオスに触れる前に弾き、一息に迫るセリオスの周囲に連続する。それは剣の形をした彼を守る盾。約束の証だ。
夜を裂く明けの如き光の剣。
 それが作り出した道を駆け抜け、セリオスは獣に肉薄し――。
「――ッ!!」
 光に瞬いた瞳に、殺気を滾らせ、振り抜いた拳が獣の体を吹き飛ばしていた。


 その根にあるのは、毒か、菌か。
 そこより先にあるものすべてを腐らせるそれが、一体どんな病なのかと。
 それを見極めようと、ロク・ザイオン(蒼天、一条・f01377)
 手足を縛られ、投げ捨てられるように放り込まれたままに、は目の前の獣を見据える。
 己を隷属させようとするそれがどんな病であるのか。
 だが、混乱にあった。
 ロクはその存在をしり、目の前にして、それが何であるかをより掴めなくなっていた。
 轟、とうねる風の音にロクは思考を切り上げて、髪の色を灼熱する光に煌々と輝かせる。
 ゴ、ァと熱風を纏ってその髪が全て燃え上がったような火炎が広がる。
 その姿は、焔の猛禽か、はたまた焔の巨獣か。
 その一本が容易くロクの拘束を全て焼き切り、そして鞭の一撃を打ち払ってもいた。
 ゆらり、と凝り固まった体を引き起こしながら、ロクは自由になった口から軋んだ声を放つ。
「獣は己の欲に素直なものだ」
 ひとは、獣へと告げる。 
 獣から進化し、己の欲を満たしたひとは、更に、更に、と欲を広げていった。手を伸ばしていった。
 だが、それはどうだ。
 自らを削ぎ落とし、自らを斬り捌き、そうあるという事以外を捨てた獣。
 さながらに、ウロ。満たしたいという欲望を呼び寄せ、肥大させ、ただ己の為だけに機能させる。欲亡き病。
 しかしそれは、病と呼べるのか。
 存在しない空虚。だがその上にある樹は毒に腐り、病みながらも、しかし、その葉を広げ、根を張り、確かに生きている。
「お前は」
 なにも必要がなくなったそれは。
 この街を歪にも生かすそれは。
「なんだ」
『思考するな、そのままに屍を晒せ』
「……っ!」
 ド、ガ、と思考の隙間に差し込まれた鞭の一撃に頭蓋を弾かれながら、ロクはとたん鉄の味に満たされる口の中で舌を打つ。
「まあ、いい」と。撥ねられた体をしかし、制御して着地して、それを睨む。
 彼女が従うのは、その獣ではない。
『ととさまの御旨』と『あねご』だけ。ともすれば、その獣の思想にも近いヒトは、火炎の鬣を振るった。


 この枷で猛獣を何頭束縛できるのか、という程に過剰につなげられている気がする。
 強度云々よりも関節部分を固められたのが辛い所だった。結構ブリキ人形みたいな動きしかできない。どこぞの世界でこんな風に竜から素材を剥ぎ取って、己の装備に加工する、という娯楽があるとは聞いたが。
「……っ、そういう『加工』ではないだろう?」
 ギギギ、と拘束具同士が干渉して鈍い音を立てながら、セゲル・スヴェアボルグ(豪放磊落・f00533)は仰向けに転がされたままに、からかいを混じらせた声を吐いていた。
「は、身も心も捧げれば、楽に殺してくれる、か?」
 獣。背に回して固定された腕を下敷きに、仰向けに転がるセゲルを見下ろす獣の冷えた目を見上げて、ぐ、と動く気配を見せた口に発するだろう言葉を、先んじて放り投げる。
『ハ』
 耳にタコが出来ている。と返せば、嘲笑と共に鞭の一撃が降る。
「ぐ、ぉ、……っ」
 反射的に跳ねる様にのけぞる体お悶絶する事を許さないとばかりに、腹に足を置いて地面へと叩きつけて獣はセゲルへと冷えた視線を向けて、セゲルが何を言おうとかまわないとばかりに。
『なに』
 と続ける。
『過去を捨てるのは、簡単だろう?』
「さて? 知らんなあ――ッお、がっ!」
 即答に返るは衝撃だ。全身に、熱した鉄を押し当てられ続けているような痛みが纏わりついている。押さえつけられた足はセゲルの上から退こうとはしないようだ。
「要は猟兵をまともに『加工』する自身が無いだけだろう?」 
 咳き込むように息を吐いて、猟兵を拒絶する獣へと告げる。
 ――調教師の名が聞いて呆れるな、と。
 直後振るわれる鞭の痛みに、息を荒く吐きながらも揶揄す笑いをこぼせば、その手に現れるのは、締め付ける機構を持った輪っかのようなもの。
 いや、何も誤魔化すことは無い。またしても猛獣用の、口を開く事を阻害する轡だ。
 屠殺を待つばかりの家畜に口を利く権利は無いとでも言うようなそれが乱暴にセゲルの口を封じ。
「……っぐ、く」
 セゲルは轡の中で笑いを籠らせる。いっそのこと愉快にすら感じる。
 この鞭の威力、オブリビオンらしく芯を打つように響くが、反面肉体の破壊を目的としているわけじゃない。
 だから、肉体的には耐えきれるが、本懐の方、精神を揺さぶる効果は高いようだった。
『身も心も捧げれば、楽に殺してやる』
 聞こえた声が、腹に足を落とす獣が実際に発した言葉かが曖昧だ。思考がまともに働いていながらに、その問を延々と反芻して、返事を考えている。
 いや、思考がまともな気がしているだけかもしれない。この状況で笑いが出たのはそういう事か。
「そろそろ、攻勢に転じようか」と正しく発音できたわけではないが。
 まともな思考で獣の足を嘗めさせてくれと考え始める前に、セゲルは動くことにした。
「これがなかなか扱い難しくてなあ。自分毎吹き飛ばすこともあるが」
 むしろ都合が良いだろう? と言葉と共に。
 ゴ、パ。
 己の体に掛けられた拘束を全て破壊しつくし、尚余るような暴虐の嵐が、獣とセゲルを巻き込んで吹き荒れていた。


「そんなものか」
 とサンディは退屈そうに、嘆息した。
 こんな街の最奥、さて、どんな邪悪がいるのかと思えば、まるで忠誠心をはき違えた犬か、親の顔を間違えて認識した鳥のような、そんな興味のそそられない存在だったのだ。
 むしろ、上でサンディを捕らえようとした警備兵たちの方が数倍、からかい甲斐があった。彼らは、サンディを奴隷を見下し、自分こそが絶対的な上位者だと信じていた。
 だというのに、その元締めが、自分の城で遊んでいるだけだったなど。
「興覚め、だね」
 その瞬間に、サンディにとって目の前の相手は敵、という括りすらからも弾かれたものになっていた。
 善か、悪か、で言えば悪だ。
 この街で、今までどれ程の行為があったのか。情報の一端を読み解いただけで、生死不問で討伐対象とされる悪党がどれほど引きずり出せるか。
 その元締め、元凶。ならば紛れもなく悪辣ではあるが。
 ではあるが、しかし。

――サンディの邪悪を満たすものではない。

 彼を縛っていた拘束が途端に砕ける。
『貴様……!』
「まあいいや」
 サンディの耳に獣の声は聞こえず、聞こえてもそれにこたえる事は無い。
 聞くだけ無駄なだけ。放たれた鞭は、しかし、自由を得たサンディを捕らえることは叶わず地面を打ち削る。
『っ!』
 直後、獣が宙へと鞭を薙いだ。ガ、キンっ! とそれが何かを弾いて砕く。
 それは、黒い水晶だった。よく見れば先ほど砕けたサンディの拘束具の残骸にも、その水晶の破片が混ざっているだろう。
「仕事して帰ろう」
『……これは』
 サンディは、もう既に残党狩りへとその意識を向け始めながら、しかし攻撃の手を緩めてはいなかった。
 弾いたはずの漆黒の水晶が、その腕を抉っていた。それは鞭を振るった方向からではなく、その死角から放たれたもので。
 そして、サンディが召還したもののほんの一部だった。
 肉を抉り穿ち抜く、黒色の弾丸がその障害物を排するために一斉に暗闇を駆け抜けた。


 元より暴れるのでなく、再度捕まる時にも、またか弱い少女に擬態した彼女は、恐らく誰よりも早く拘束を抜け出していた。
 いや、そもそも彼女にどれ程の拘束を施そうと無意味ではあった。せめてそれが植物の蔓であったり、動物の革なら幾らか意味はあったのかもしれない。ザイーシャ・ヤコヴレフ(Кролик-убийца・f21663)の声が明るく落とされる。
「ほら、こんなに突き刺さって」
『ぉご、かは……ッ』
「わ、すごーい。全然動かないね。これは骨? それとも力入れてるの?」
 だが、それが鉄の拘束であったのならば、それは彼女にとって遊び道具の材料に他ならない。
 初めこそ、拒絶を示して、怯えて震えてみたは良いけれど、我慢が出来なかった。この場所が悪いだもの。とザイーシャは口を尖らせるだろう。
 溢れんばかりの拘束具や拷問具が転がる『加工場』。そんなおもちゃ箱を見せられて『待て』が出来る程、お利口な子供ではないのだ。
 最初は、獣の足を砕いた。それから、太い手首に釘を交差して通して鎖で床に引きずり倒して、無造作に床に無数の釘で磔にしたのだ。
 弾かれたし、課wされて、反撃もされて鞭に打たれた。
 床で打った頬は痛いし、摩擦を減らしてくれる服なんてないから、転がった数だけ腕にも足にも擦り傷でいっぱいだ。
 鞭に打たれた場所は、骨が折れているみたいに腫れ上がって、息をする度に痛んでいる。
 それでも、少女は恍惚と笑んでいた。
 獣の腹。その中心辺りに突き立った少女の二の腕程に長い杭、いや、釘の頭を撫でる様に踏みつけてザイーシャは、耽溺するかのようにあどけない声を甘く煮やしていた。
「あなたの前に遊んでくれた人ね。全然遊んでくれなくて、つまんなかったの」
 ガチ、ガガガガガジャッ! と両の手の指先を合わせて、恍惚に笑みを浮かべる。それらは、この場に捨て置かれたような大量の拷問具だ。
 だから、強そう我慢強そうでとっても楽しみ、とその瞳はゆがんで弧を描く。
 人を傷つけ、痛みと錯覚、その倒錯で心理を壊すための道具。ただでさえ凶悪なつくりのそれが、少女の嗜虐性によって更に血の色を求める形へと変貌していく。『……誰にも認められない、おぞましい異物が……、存在の理由もないだろうに』
 ふふ、とザイーシャはその声に笑う。それが語る言葉がどうだったとして、彼女は何も変わらない。
 変わらずに、彼女は声を返す。
「ええ『分かりました、ご主人様』」
 その答えは、獣の望む答えではないことは知っている。最初の問いに、全く同じ答えを返したザイーシャはそれを知っている。
 正解を引かないよう、そのために間違いをし続ける。そうやって頑張っているのだから、彼女はご褒美だって遠慮なくねだる。
「だから、もっと遊びましょう?」
 言葉に、苦痛を与える鉄の群れがギャリギャリと笑いを上げていた。


 しかし、どうにかするとは決めたが、武装が無ければ、唯一の武器である機動力も全力を出せないイヴェットには、勝機の欠片すらない。
 ステップを踏み、最低限の動きで鞭の動きを見切って避ける。
 それよりも、同じように振るわれるのにも関わらず、石畳を一切傷つけない攻撃が混ざっている事の方がイヴェットは不気味に覚えていた。あれをどうにか封じられれば、幾分か楽になる。
 方針を決めたイヴェットの動きは速かった。思惑を警戒されるよりも早く、逃げるばかりだった動きを、だっと一気に接近する動きへと転換する。
 狙うは、獣の持つ鞭だ。
 経験は無いが、しかし、お手本は目の前にある。既にその動かし方を頭に詰め込んで、あとは奪い取るだけだ。ビュオと、風を切り裂く音に振り返りすらせず、地面に体を転がして背後から迫っていた鞭の先端を避ける。
 あと数m、イヴェットはその根元付近を掴み、その波を制御する。長い鞭の中で増幅した力を乱せば、それは使い手の手からすらも逃れようとする暴走に至り――。
「あ……っ?」
 掴んだ手から、衝撃が弾けた。彼女が引き起こそうとした力波の暴発、それがそのまま彼女の手の中で起こったのだ。イヴェットが鞭を掴んだ瞬間に、その目的を悟った獣にそれを逆に利用された。
「……っ」
 咄嗟に動こうにも
 手が、脚が、痛みなど殆ど無いのに、体の内側から弾け引き裂かれるような感覚が襲った。思考が分離する。ここがどこか、私が何か、何をしようとしていたのか、記憶が消えた部分に、様々な自分が一斉に違う答えを返す。
 混乱と疑問の津波に意識が飲み込まれていく。
「(……、これ、消え……っ)」
 その中で、腕が跳ね上がった。慣れた挙動。だが、そこに分裂したどの意識が作用したのかが分からない。
 ただ、イヴェットは、確かにそこに何かを作り出していた。
「これ、は……?」
 2m程の薄橙色の何か。
 少し離れて見たならば、それが巨大な弾丸であると、分かっただろう。槍がごとく長く設定された弾丸。言うならば槍弾、といったところか。
 だが。

 ――イヴェットには、それこそ分かたれたどの意識にも『そんなものを設定した覚えはない』

 さながらこの体が、思考とは独立して、何処かからか引用したデータに基づいてそれを顕現させたかのように。
「……っ!!」
 ゾク、と目を見開くのは、しかし一瞬よりも短い時間。
 イヴェットの思考が弾き出したのは、それが有効か、否か。その判定だけだ。
 伸ばした左手、開いた指の間。標的はその先にいる。その瞬間に、オレンジ色が掻き消えた。
 いな、残像すら人の網膜に捉えることを許さない、超常の速度を纏った槍弾はカナンの体を巻き込み、壁に深々と突き刺さっていた。
 発射の衝撃が着弾の衝撃より遅れるような、イヴェットの未だ知らぬ理論を経た烈速。
 ゴ、ガアアァアっ!!!
 直後、衝撃が暴風と爆音になって加工場を震わせていた。
「……感謝、致します」
 今度こそ、薄れていく意識の中で、イヴェットは礼を言っていた。
 消え失せた槍弾の向こう。血を吐きながら、壁にめり込んだ体を強引に引きずり出す獣に告げる。
「私のルーツに、一歩……――」
 近付けた、と言葉を紡ぐことすら間に合わずに崩れ落ちる体が、誰かの腕に支えられた感覚だけを最後に、イヴェットは意識を失った。


 壁から己の身を引き抜いて。
『やはり駄目だ』
 とそれは、ただ一つ。
 己に残ったそれにしがみつくように声を震わせる。
『俺には、貴様らは不要に過ぎる』
 全身に裂傷を生みながら、それはしかし猟兵達に立ちはだかり、その鞭を振るわんとする。
『貴様ら、だけは、俺をッ!!』
 だが、吠える、その瞬間。
 バヅン、といっそ柔らかさすら感じさせるような音に、鮫の歯のように立ち並んだ釘の顎が獣の右腕を食いちぎっていた。
 月弧を描く笑み。
「これだけ重ねたら流石に千切れちゃうのね」
 ザイーシャが、もう少し歯の数を減らすべきだったか、と悔いる声に、獣が雄たけびを上げて、迫――。
「ああ、今のお前は、少し良いね」
 る、ことは、できない。
 その眼球へと飛び込んだ、漆黒の水晶に言葉は瞑れ。
『……っオ、ボ』
「吹っ飛べ」
 セリオスがその獣の体をその強化した拳に浮かせ、リアンから分かたれたファムがその体を、大砲の如く打ち放ち、その剛体は街そのものを揺らす程の衝撃を放って壁へと激突した。
『……っ!』
「ふむ、助力しようか」
 セゲルが、ロクの伸ばした手にそう伝え。
「さあ」
 その鑢のような声が火花を発したように轟赫が爆ぜる。
「土へと還れ」
 病魔を灼くが如く。六四の火炎が渦巻いた炎杭が、その炎を呑み込んで荒れ狂う轟嵐が、その体を飲み込んでいった。


 闇に息づいていた街が、差し込まれた光に焼かれていく。
 断ち切れずにつながる影が油のように、その炎を引いて悪徳が暴かれていく。
 次々と検挙され、表の顔も裏の顔も詳らかにされていく中。
 上層部達が尋問の末述べたものは、元締めは逃げおおせた、というものだった。
 それは紛れもなく偽りであったが、しかし、街の主人がモンスターであったという真実と共に、うねる噂となって人々の間を渡っていた。

 街は光に沈み、毒だけが染みわたっていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年01月30日


挿絵イラスト