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血の奴隷たちを解き放て

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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「最近、随分羽振りがいいようね、"蛭"」
「へへへ、これも全ては貴女様のお引き立てあってのことでございます」

 暗夜に覆われた世界にて、なおも昏き闇の中。
 一本の蝋燭の灯火が、ふたりの人物の密談を照らし出す。

 ひとりは女。陶磁のような白い肌に紅眼に銀髪の、背筋も凍るほどに麗しい美女だ。
 端正な顔立ちに浮かぶ高慢な表情、そして身に纏う高貴な衣服は、彼女がこの世界の支配階層――すなわちヴァンパイアの家門に連なる者であることを鮮明に示している。

 もうひとりは男。媚びへつらうような笑みを口元に張り付けた、小太りした中年だ。
 吸血鬼のように闇を見通す目を持たないのか、その手には燭台が。着ている衣服はこちらもかなりの高級品だが"着られている"感が強く、美女の下男のようにさえ見える。

「今宵の"商品"も、ご満足頂けますよう最高の品を取り揃えておきましたので……」
「ふうん……確かに、悪くはないわね」

 彼女らが見つめているのは檻の中。そこに囚われているのは鎖に繋がれた人間達。
 いずれも若く、容姿の整った少年少女ばかり。その顔に浮かぶのは恐怖と絶望。
 ここは吸血鬼が密やかに己の嗜好を満たすための、秘密の取引場所なのだ。

「それじゃあ、あの金髪の双子をいただくわ。美味しそうな血の匂いがするし、片方が殺されるところを見せつけてあげれば、いい声で哭いてくれそうだもの」
「それは結構なご趣味でございますな。へへ、へへへ……」

 悍ましい嗜好を高尚な娯楽のように語る美女に、返ってくるのは追従の言葉だけ。
 命に値札を付けられ物のように売り買いされていく少年少女も、自らの欲望のために同族を吸血鬼に売る浅ましい男も――全ては彼女にとって嘲弄すべき玩具。

 ――今宵もまた、新たな血の奴隷が、血と闇と残虐の世界に囚われる。


「事件発生です。リムは猟兵に出撃を要請します」
 グリモアベースに招かれた猟兵たちの前で、グリモア猟兵のリミティア・スカイクラッド(勿忘草の魔女・f08099)は淡々とした口調で語りだした。
「ダークセイヴァーのとある町で、人間を奴隷や食料としてヴァンパイアに売りつけている人身売買業者を発見しました」
 情報によればその業者は人間でありながら、身寄りのいない孤児や口減らしに捨てられた子供などを金銭や誘拐などの手段で集め、領主に提供することで大きな富を得ている。オブリビオンの圧政に苦しむ人々からすれば、許しがたい裏切り者と言えるだろう。

「見過ごす訳にはいきませんが、ただ業者を潰しただけでは事態を解決したとは言えません。彼らと取引をしている元凶を炙り出さなければ、何度でも同じ事件は起こりえます」
 取引相手のヴァンパイアは残虐だが無能ではないようで、自分の存在が露見しないよう巧妙に立ち回っている。人身売買業者を捕らえるのに騒ぎを大きくすれば、すぐに察知されてトカゲの尻尾切りよろしく行方を眩まされてしまうだろう。
「ですので穏便に――する必要は微塵もありませんが大事にならないよう、かつ迅速に取引相手の情報を引き出す必要があります。潜入、尋問、交渉、手段は問いません」
 人身売買業者のアジトは、いわゆる「夜の店」が集中する歓楽街のエリアに存在する。表向きは真っ当な商店のように見せかけながら、裏では"人"を売り捌くことで大儲けしているわけだ。無論ヴァンパイアの息がかかった彼らの罪が明るみになることは無い。
「一言で言えば性根の腐った連中です。ヴァンパイアが自分達のバックについているという事実が慢心と傲慢にも繋がっているのでしょう」
 彼らはオブリビオンではないただの人間だが、その所業に同情や酌量の余地は無い。取引相手のヴァンパイアが葬られれば、秘匿されてきた罪も明らかとなり、一人残らずしかるべき罰を受けることになるだろう。

「無事に取引相手の情報を掴めれば、敵に気取られる前に奇襲をかけることができます」
 ヴァンパイアの領主は多くの配下を抱えているのが常だが、このタイミングであれば相手にする敵は少数で済むはずだ。雲隠れされる前に拠点を急襲し、ヴァンパイアを討伐。それが今回の依頼の最終的な目標となる。
「交戦する敵の詳細は不明ですが、ヴァンパイアの方はそれなりの実力者のようです。この好機を逃さないよう、油断せず確実に撃破してください」
 己の享楽のために数多の命を弄ぶその所業を、これ以上続けさせるわけにはいかない。
 説明を終えたリミティアは手のひらにグリモアを浮かべると、ダークセイヴァーへの道を開く。
「転送準備完了です。リムは武運を祈っています」



 こんにちは、戌です。
 今回の依頼はダークセイヴァーにて、吸血鬼に与する人身売買業者を叩き、その背後にいるヴァンパイアを討つのが目的となります。

 第一章では業者と接触し、取引相手のヴァンパイアの情報を探ります。
 業者のアジトは歓楽街の中心にて、表向きは真っ当な商家として店舗を構えています。騒ぎになると取引相手に逃げられてしまう恐れがあるのでご注意を。
 とはいえ荒っぽい手段が厳禁というわけではなく、店の関係者を路地裏に引きずりこんで――等やりようは色々とあると思われます。
 なお、店のどこかには商品として囚われている人間達がいると思われますが、こちらの安否はシナリオの成否には関わりません(ヴァンパイアを討伐すればなし崩しに業者も壊滅するので、彼らも無事に解放されます)。

 第二章からは手に入れた情報を元に、ヴァンパイアの拠点に奇襲を仕掛けます。
 現状では敵の戦力は不明(外見についてはトップの画像を参照)ですが、取り巻きにはそれほど強力な配下はいないようです。
 第二章で取り巻きを退け、第三章でボスとの決着を付けることになります。

 人を奴隷扱いする邪悪なヴァンパイアとその手先に裁きを。
 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『「命」を扱う商売』

POW   :    人身売買業者を痛めつけて、オブリビオンの情報を吐かせる。

SPD   :    人身売買業者のアジトに忍び込み、オブリビオンの情報を入手する。

WIZ   :    人身売買業者の同業者等を装い、オブリビオンの情報を聞き出す。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

イリス・ローゼンベルグ
吸血鬼も奴隷商も人を食い物にするのは変らないわね
そんな悪党は私がしっかり懲らしめてあげないといけないわ

とりあえず本命を見つける為にも情報収集をしないといけないわ
いつもの様に【変装・変形】で少女の姿に擬態
人を定期的に売買するなら業者の出入りも多いはず
業者アジトの近くで張り込みをして情報を持っているであろう業者が通りかかるのを待ち
それらしい人物が来たら【狂乱の触葬】を使って物陰や路地裏など人目に付かない場所に引きずり込み
「このままあなたを締め殺すのは簡単だけど、私は優しいから1度だけチャンスをあげる」
「あなた達の後ろにいる吸血鬼の情報を教えなさい。そうすれば命だけは助けてあげる」
と脅し情報を引出す



「吸血鬼も奴隷商も人を食い物にするのは変らないわね」
 真夜中であっても灯が落ちず、だのに闇が凝ったような薄暗い雰囲気のある夜の町で、イリス・ローゼンベルグ(悪を喰らう蠱惑の薔薇・f18867)はぽつりと呟く。
 自らの欲望のために弱者から自由と尊厳を奪い、モノのように売り買いする奴ら。オブリビオンであろうとなかろうと、その忌まわしい所業の罪の重さは変わらない。
「そんな悪党は私がしっかり懲らしめてあげないといけないわ」
 うっすらと笑みを浮かべながら街路を行く。自身が"悪"と判断した者には、何者であろうと容赦をしないのが、彼女の流儀であった。

(とりあえず本命を見つける為にも情報収集をしないといけないわ)
 聞かされていた業者のアジトの近くまでやって来たイリスは、いつものように変装して張り込みを始める。バイオモンスターである彼女には、自らの肉体を変容させてその場に溶け込むよう擬態するくらいは造作もないことだ。
(人を定期的に売買するなら業者の出入りも多いはず)
 可憐な少女の顔をして夜の街角に佇みながら、そうした情報を持っていそうな輩が通り掛かるのを待つ。本質が植物に近い彼女にとってここの闇夜は不快だが、文句を言ってはいられない。

 ――張り込みを続けること暫し。イリスの前にようやくそれらしい人物が現れる。
 一見すると普通の商人のようだが妙に羽振りが良さそうで、胡乱なものを感じる。
 ダークヒーローの直感は鋭い。目星をつけた彼女は【狂乱の触葬】を発動し、薔薇の茨が絡み合ったような触手を音もなくそいつの背後から忍び寄らせる。
「さあ、踊り狂いなさい……」
「む? むぐぅっ?!」
 しゅるりと絡みついた触手は一瞬のうちに獲物を雁字搦めにし、人目のない路地裏へと引きずり込む。あまりの早業であったために、通行人の中でそれに気付いたものは皆無であった。

「なっ、なんなんだいったい……!?」
 全身を触手に縛られたまま、顔と口だけを解放されたその男は、目の前に佇む白髪に黒いドレスの少女を見る。
 淑やかな雰囲気と可憐な容姿。しかしその身を彩る薔薇は造花ではなく、身体や衣服の一部は茨の触手と同化している――この触手こそが彼女の正体の一端なのだ。

「このままあなたを締め殺すのは簡単だけど、私は優しいから1度だけチャンスをあげる」
 人ならざるものの片鱗を見せつけながらイリスは問う。うっすらと口元に浮かぶ嗜虐的な笑み、手のひらで小動物をもてあそぶような口調が男から血の気を失わせる。
「あなた達の後ろにいる吸血鬼の情報を教えなさい。そうすれば命だけは助けてあげる」
 もし従わなければ、彼女は躊躇なく男の命を奪うだろう。交渉を仕掛ける余地もない。知っていることを全て話すか、ここで殺されるか、二つに一つだ。

「……わ、わかった、話す。だから勘弁してくれぇっ」
 死の恐怖にかりたてられた男は、立板に水を流すようにぺらぺらと情報を吐いた。
 彼らと吸血鬼の取引は不定期的なもので、全て向こうから一方的に来訪が伝えられる。取引場所は主にアジトの地下牢獄。だが相手がどこから来て、買った奴隷をどこに連れて行くのかについては知らなかった。
「ただ、取引相手の名前だけは知ってる。ローザリアっていう女吸血鬼だ」
「ローザリア、ね」
 恐らくは此度の元凶であろうその名を、イリスはしっかりと記憶に刻みつけた。

成功 🔵​🔵​🔴​

セルマ・エンフィールド
この商人は、きっと許しがたい悪なのでしょうね。
なら、私は……

誘拐という手段を取るのであれば、いなくなっても騒ぎにならない人間を狙うでしょう。身を隠しながら町の寂れた地区を歩き、子供を狙うような不審な人物を探します。

不審者を見つけ、その人物が人目に付かない場所で犯行に及ぼうとしたらデリンジャーの『クイックドロウ』で防ぎ、そのまま尋問し、領主の居場所を聞き出します。喋らないのであれば多少痛い目にあってもらいましょう。

情報を聞き出したら後は放っておきましょう。裁くのは私の役目ではありませんし……その資格もありません。
(猟兵になる前、保身のために吸血鬼に従い、人に銃を向けていた時期があった)



(誘拐という手段を取るのであれば、いなくなっても騒ぎにならない人間を狙うでしょう)
 闇に溶け込む黒色の外套で身を隠し、セルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)は町の寂れた地区を歩く。業者のアジトがある享楽的な夜の町とは対照的に、ここは火が消えたように静かで、通りがかる人々の格好もみすぼらしい。浮浪者や物乞いの数も多く、人間を"調達"するには格好の場所と言えた。

(アジトとの距離を鑑みても、人攫い共は間違いなくここを狩場にしているでしょう)
 身を隠したまま静かに辺りを巡りながら、それらしい怪しい人物を探すセルマ。
 ふと目に留まったのはフード付きの外套を被った不審な男。目立たぬように気をつけてはいるらしいがこの地区の雰囲気に溶け込みきれておらず、よそ者だと分かる。
 セルマが怪しんだ一番の理由は視線だ。そいつの目は通り掛かる人間のうち、若年層――特に子供ばかりを追っている。まるで獲物を物色するような素振りだ。
 やがてそいつが一人の子供に狙いをつけ、人気のない方に向かうのを見ると、セルマは気付かれぬようその後を追った。

 ――セルマの読みは当たっていた。
 人目につかない路地裏に入った途端、その男は凶行に及ぶ。

「大人しくしろっ……」
「きゃ……っ!」
 外套の下から鋭いナイフと猿轡の布をちらつかせ、子供を脅しつける男。
 怯える相手にじりじりと近付き、強引に捕まえようと手を伸ばし――。
「た、助けてっ」
「誰もいねえよ、こんな所に……がッ?!」
 ――だがその時、一発の銃声と共に男の手に穴が開く。はっと振り返れば、そこには硝煙のたなびくデリンジャーを持ったセルマが、冷たい眼差しで男を睨め付けていた。

「行ってください」
「あ、ありがとうっ」
 慌てて逃げていく子供を見届けると、セルマは男に銃口を向けたまま尋問を始める。
 手の傷を抑えてうずくまる男は、反抗的な目つきで彼女をぎろりと睨み返した。
「貴方には聞きたいことがあります」
「そう言われて俺がほいほい話すとでも……ぎぃッ!?」
 再び銃声。今度は男の足に氷の弾丸が撃ち込まれる。
 セルマは視線を切らさぬまま、淡々と新たなデリンジャーを抜いて。
「喋らないのであれば多少痛い目にあってもらいましょう」
「―――ッ!」
 それから路地裏で何が起こったのか、詳しいことは割愛する。
 結論として、それからの男は尋問にとても"協力的"になったということだ。

「……では、貴方は領主の居場所については知らないと」
「あ、ああ。仕入れ担当の俺なんかに、んな重要な情報は回ってこねえ。ただ……」
 相手の一挙一度にいちいちビクつきながら、男は自分が知る限りのことを話す。
 商品の"仕入れ"の頻度や、それを連れて行く場所から、取引相手のやって来る時期や場所の推測。少なくともこの町の近くに領主の拠点の一つがあるのは確実らしい。
「たぶん歓楽街から近い北側のほうに……俺が知ってるのはこの位だ。嘘じゃねえっ」
 もう勘弁してくれと喚く男の前で、セルマは情報を整理しながら相手の処遇を考えていた。

(この商人は、きっと許しがたい悪なのでしょうね。なら、私は……)
 同じ人間を散々売りさばいておきながら自分だけは助かろうとする男。
 そのの姿を見ていると、一瞬トリガーにかけた指に力が加わりそうになる。
 ――だが結局、セルマは彼を討つことなく、銃をしまって踵を返した。
(後は放っておきましょう。裁くのは私の役目ではありませんし……その資格もありません)
 思い出すのは猟兵になる前の記憶。保身のために吸血鬼に従い、人に銃を向けていた過去。彼が人を裏切った咎人であるのならば、己もまた同じ罪を背負っている。
 スカートの中のホルスターに収めた銃が、今日はいつもより重く感じた。

成功 🔵​🔵​🔴​

オルハ・オランシュ
人に、人の命に値段をつけて
その末路を知りながら……
許せない
これまで何人、被害に遭ってきたんだろう

聞いていた人物特徴と同じ
あの人で間違いない
演技だと勘づかれないように上手くやらなきゃ

……おじさん
ここはお店でしょ?
お水と食べ物が欲しいの
お金はないけれど……
家に、捨てられてしまったから

目的は潜入
可能なら囚われている人と接触して情報を引き出せないか試みて
その後か、接触が叶わない場合に行動を起こす

体調を崩したように蹲って業者を近寄らせたら
スカートの下、大腿に隠し持つダガーを素早く彼の喉元に当てて

ここにはヴァンパイアはいない
私はあなたを殺すことができる
それが嫌なら、教えて
取引場所はどこ?次の接触はいつ?



「人に、人の命に値段をつけて、その末路を知りながら……許せない」
 オブリビオンと繋がる人身売買業者の話を聞いて、オルハ・オランシュ(六等星・f00497)は静かに肩を震わせる。その緑色の瞳に宿る感情は、怒り。
「これまで何人、被害に遭ってきたんだろう」
 十人、二十人、あるいはそれ以上――? 分かっていることはひとつ、ここで陰謀を食い止めなければ、その人数は際限なく膨れ上がり続けるであろうということだ。

(聞いていた人物特徴と同じ。あの人で間違いない)
 業者のアジトである店までやってきたオルハは、その中からここの元締めらしい人物に目星を付けると、おずおずと、気弱で不安そうな演技をしながら小声で話しかける。
「……おじさん、ここはお店でしょ?」
「おや、いらっしゃいませ。何がご入用でしょうか、お嬢さん」
 仕立てのいい服を着た恰幅のいいその男性は、商売人らしい人当たりのいい笑顔で応対する。その表情からでは、彼が裏で人を売っているなど想像もされないだろう。

「お水と食べ物が欲しいの。お金はないけれど……家に、捨てられてしまったから」
「それはそれは……私も商人ですので、タダでお譲りすることはできませんが。少し私共の仕事を手伝っていただけませんか?」
 お手伝いの報酬として食事を提供するなら問題はないだろうと店主は微笑む。
 差し伸べられる手はあくまでも優しげで、裏にある悪意は巧妙に隠されていて。
「わかった。なにをすればいい……?」
「なに、簡単なことですよ。おい君、この子を案内して差し上げなさい」
 呼びつけられた他の店員によって、オルハは店の奥へと連れて行かれる。
 深い深い、綺麗に取り繕われたこの店が抱え持っている闇の懐へ――。

「……まずは潜入成功」
 放り込まれた先は暗い檻の中。ガシャンと鉄格子が閉まり、店員改め人身売買業者の手先が遠ざかっていくのを見送ると、オルハはむくりと身体を起こした。
 檻の中にいるのは彼女だけではなく、同年代かそれよりも下の子供が2、3人。恐らく、似たような手口でここに囚われたか、あるいは攫われてきたのだろう。
「ひっく……ぐすっ……」
「大丈夫……?」
 恐怖と不安で泣きじゃくっている子らを慰め、情報を引き出せないかと試みる。
 たどたどしく聞き取れたことによると、少し前までここにはもっと多くの子供がいたという。だが、ある時檻の外に連れて行かれ、二度と戻って来なかったと。

「わ……わかるの、あの子達は解放されたんじゃ無いって……きっと今頃は、もう……それにわたしも、いつか……!」
「安心して、そうはさせないから」
 怯える子共にオルハは穏やかに、安心させるようにはっきりと告げる。
 これ以上もう犠牲は生まれない。必ず私達が"解放"してみせる、と。
 これまで檻に入れられた誰とも違うその様子に、囚われの子はふと涙を止めて。
「あなた、いったい何者なの……?」
「私は……うぅっ……!!」
 答えようとしたオルハの表情がふいに歪み、胸を押さえて苦しみ始めた。

「えっ……えっ……ちょっと、どうしたの?!」
「おい何だ、騒がしいぞ、大人しくしてろ!」
 急に蹲ってしまったオルハに、あたふたと慌てる子供。それを聞きつけて飛んで来たのは、先程オルハをここまで連れてきた業者の一味だった。
「うぅ……くる、し……」
「助けて! この子が急に!」
「何だよ、さっきのガキじゃねえか……まさかこいつ病気持ちだったのか?」
 めんどくせえ、と言わんばかりの表情と態度で、檻の前まで近付いてくる男。
 ――その瞬間を見逃さず、オルハはぱっと跳ね起きながらスカートの下、大腿に隠し持っていたダガーを引き抜く。

「動かないで」
「テメ……ッ!?」
 一瞬の早業。気がつけば男の喉元にはダガーが当てられ、子供は呆気にとられている。
 体調を崩したように見せかけて騒ぎを起こしたのは演技。全てはこうして情報源を捕らえるための。
「ここにはヴァンパイアはいない。私はあなたを殺すことができる」
 オルハは冷徹に、それが事実であると伝えるようにナイフで男の首をなぞる。
 冷たい刃の感触と共に、明確な殺意を感じた男の顔から、さあっと血の気が引いた。

「それが嫌なら、教えて。取引場所はどこ? 次の接触はいつ?」
「と、取引場所はこの地下にある! だがローザリア様は気まぐれで、いつお越しになるかまでは……!」
 オルハの本気が伝わったのだろう、男はあっさりと自身の持っている情報を吐いた。
 ローザリアというのは取引相手の名か。核心に迫ることは無くともひとつ情報を得ることはできた。それにこの分ならまだ、この男からは情報を引き出せそうだ。

「そう。それなら次は……」
 檻に囚われし少女が看守を尋問する。傍目にはあべこべのやり取り。
 これ以上の犠牲を出さないためにも、今のオルハにはひとつでも多くの情報が必要だった。

成功 🔵​🔵​🔴​

リーヴァルディ・カーライル
…ん。こういう相手ほど吸血鬼の力を恐れるもの。
今まで散々、人を傷付け食い物にして来たんだもの。
自分が食い物になったとしても、文句なんて言わせないわ。

事前に“遥かなる血統”の血の力を溜めてUC発動
血に記憶された吸血鬼の従者…レッサーヴァンパイアに変装して、
奴隷商人相手に吸血鬼流の礼儀作法をもって交渉するわ

自身の主が上物の奴隷を集めており、
先方の貴種と直接会って話を望んでいるが、
居場所が分からず困っている事を告げ、
“吸血鬼の財宝”の存在感を見せつつ情報を得られないか試みる

…これらは、ほんの挨拶がわりにございます。

…我が主、カーライル様の顔に泥を塗ることの無いよう、
取り計らっていただけますね?



「……ん。こういう相手ほど吸血鬼の力を恐れるもの」
 ヴァンパイアに阿る輩の悪辣さに眉をひそめながら、そう呟いたのはリーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)。父祖より"遥かなる血統"を継いだダンピールである彼女は、平時よりもその身に宿る力を高め、剣呑な気配を発する。
「今まで散々、人を傷付け食い物にして来たんだもの。自分が食い物になったとしても、文句なんて言わせないわ」
 その眼光は獲物を射抜く狩人のように鋭く。血に記憶された【限定解放・血の偽装】を自らに施した彼女は、洗練された足取りで商店の入口に立った。

「いらっしゃいませ……あ、貴女様は、もしや……!」
 客の対応に現れた店員の顔がさっと青ざめる。なぜならば、そこに立っていたのは人ならざるもの――レッサーヴァンパイアだったから。種族の中では下位に位置する者でも、彼らにとっては仰ぎ見るべき存在だ。
「……こちらで、質のいい奴隷を扱っていると伺いました」
 血の偽装によって吸血鬼の従者になりすましたリーヴァルディは、身に覚えた吸血鬼の礼儀作法をもって一礼し、用件を告げる。慌てた店員は「少々お待ちを!」と後ろに引っ込み、入れ違いですぐさまここの責任者らしき男がやって来た。

「我が主は上物の奴隷を集めており、先方の貴種と直接会って話を望んでいます」
 案内された応接室のソファに優雅に腰を降ろしながら、リーヴァルディは交渉を始める。物腰や口調こそ丁寧ではあるが、その態度は吸血鬼らしくどこか威圧的だ。
「ですが声を掛けようにも最近の行方がようとして知れず、困っておられます」
 先方――つまりはこの奴隷商人共と繋がりのあるヴァンパイアの居場所を知りたいというリーヴァルディの要求を聞いた店主は、曖昧に言葉を濁しはじめた。
「うぅむ……なるほど……そうですなぁ……」
 この時間稼ぎのうちに彼は頭の中で打算を巡らせているはずだ。これまで取引のある吸血鬼の情報を勝手に漏らすリスクと、目の前にいる新たな吸血鬼の使者の機嫌を損ねるリスク。彼にとってはどちらも恐ろしい。

「……これらは、ほんの挨拶がわりにございます」
 逡巡する相手の決断を促すべく、リーヴァルディは懐からすっと何かを取り出す。
 ことり、とテーブルに置かれたのは大粒の宝石と金銀があしらわれた宝飾品。それを見た店主の目の色が変わった。
「こ、これは素晴らしい……!」
 それはリーヴァルディが数多の敵を狩る過程で手に入れた「吸血鬼の財宝」。その中のたった一つでさえ、ただの人間からすれば目玉が飛び出すほどの価値があろう。
 ほとんどは吸血鬼に虐げられた村や町の復興に使ってしまったが、それでも塵も積もれば山となる。まだ彼女の手元にはこの男を唸らせるだけの取引材料が十分ある。
 吸血鬼に対する恐怖心に加え、商人としての強欲さまで刺激されれば、もはや男の返答は決まったようなものであった。

「……我が主、カーライル様の顔に泥を塗ることの無いよう、取り計らっていただけますね?」
「ええ、ええ、勿論でございます……!」
 揉み手せんばかりの勢いで媚びへつらい、へこへこと頭を下げながら応じる男。
 その様に不快感を覚えながらも、リーヴァルディはおくびにも出さず受け止める。
 かくして彼女の要求は叶えられ、取引相手の所在に関する情報がすぐに取り寄せられる。それは、この事件の黒幕たる吸血鬼の喉元に迫るカギのひとつであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シャルロット・クリスティア
ユア(f00261)さんと

己の身可愛さは理解できぬことはありませんが……。それ以上の欲に溺れた者たちの末路は、同情の余地もありませんね。
『仕事』はきっちりとさせて頂くとしましょう。

普段の服や装備はユアさんに預けておくとして。
わざとボロの身なりを仕立て、餌として立ち入ります。
ここに来れば金を稼げると聞いた……と、金に釣られた子供を演じましょう。
後は、別ルートで潜入したユアさんと合流し、化けの皮を剥がす瞬間を抑えれば、こちらの勝ちです。

下手に騒げば命は無い。
我々に情報を引き渡し、いずれ罪を白日の下に晒されるか、或いはここで死ぬか。二択です。
あなた達の後ろ盾は、あなた達が思うほど強固ではないですよ。


ユア・アラマート
◎シャル(f00330)と

さて、お仕事といこうか

予めシャルの服や装備を預かり、見つからないよう路地裏に
夜の店が多いなら好都合だな
私は最近この辺りで商売を始めた娼婦として、店の関係者に自分を売り込む
【誘惑】なら得意だよ
そうして店奥の、人気のない所まで侵入
適当な所で焔と雷の精霊を召喚。騒がないように関係者を牽制させて、シャルと合流

二人もいればそれなりに有益な情報は手に入るだろう
【情報収集】でヴァンパイアの話を聞かせてもらおうか
私達が何かって?そうだな
お前たちみたいなのを狩る生業の者だよ
さあ、無駄なおしゃべりは無しだ。生憎と優しくはしてやれないから
死にたくなければ、知っていることを全て話してもらおう



「己の身可愛さは理解できぬことはありませんが……。それ以上の欲に溺れた者たちの末路は、同情の余地もありませんね」
 ヴァンパイアとの忌まわしい取引によって甘い汁を啜る者達に、シャルロット・クリスティア(彷徨える弾の行方・f00330)は厳しい評を下す。自らの利のために非道に手を染めた輩に、容赦など不要だろう。
「『仕事』はきっちりとさせて頂くとしましょう」
 まずは善良な商人を装っている彼らの化けの皮を剥がし、情報を引きずり出す。そのために彼女はわざとボロボロの身なりをして、連中のアジトに向かった。

「ここに来れば金を稼げると聞いたのですが……」
「あん? なんだお前」
 浮浪者のような格好でやって来たシャルロットに、店番中の使用人は不審な顔。
 まるでゴミでも見るような目つきで、しっしっと手を振って追い払おうとする。
「帰れって。ここはお前みたいなのが来るような店じゃ……」
「まあ待てよ、新入り。ひとつ話しくらい聞いてやってもいいだろう」
 そこに割り込んできたのは、最初の使用人より幾分年重のいった男。その表情は柔らかく、親しげな雰囲気を装ってはいるが――彼が粘つくような視線で自分のことを上から下まで観察しているのを、シャルロットは見逃さなかった。

「そんなに金に困っているなら、丁度今いい仕事がある。どうするね?」
「やります。すぐにでもお金が必要なんです……そのためなら何でもします」
 切実な表情を浮かべて、自らの困窮ぶりを訴えるように演技するシャルロット。
 相手からすればその姿は、餌に釣られてきたバカな子供のように見えたことだろう。
「ようし、いいぜ、来な。すぐに仕事のやり方を仕込んでやるからよ」
 男はにやりと笑いながら、釣られた獲物を店の奥へと連れ込んでいく。
 その実、釣られたのは自分のほうであるとは露ほども思わずに。


「シャルは上手くやっているかな? さて、お仕事といこうか」
 同刻、アジトの店先に佇むのはユア・アラマート(ブルームケージ・f00261)。
 今回の作戦はシャルロットと彼女のふたりで立てた二方面からの潜入計画で、変装する都合上持ち込めなかったシャルロットの普段の服や装備は彼女が預かり、路地裏に隠してある。
「夜の店が多いなら好都合だな」
 そしてユアがどうやって敵地に潜り込むのかと言えば――そこは得意の誘惑術の見せどころ。このような歓楽街には、春を売る娼婦達も大勢いるものだ。

「ねえ、お兄さん。私のこと買ってくれない?」
「おう? なんだお前、見ない顔だな……」
 店の裏手で暇している店員を見つけると、ユアはさっそく自分を売り込みにかかる。
 蠱惑的な仕草に誘うような視線、そして整った美貌と魅力的な肢体。それら全ては男の理性を蕩かし、彼女の虜にするには十分なもの。
「最近この辺りで商売を始めたのよ」
「どうりで。こんな美人、一度見たら忘れられねえからな」
 鼻の下を伸ばした男が強引な手つきで肩を抱く。このまま事に及びそうな勢いを見て、ユアは「ここじゃ恥ずかしいから中で……ね?」と囁く。その魅力にすっかり夢中の男は、へらへらと頷きながら人気のない店の奥まで彼女を連れ込むのだった。

「ここなら良いだろう? へへ、それじゃあ早速……」
「ああ。早速で悪いけど、お前には案内役になってもらおうか」
 目的地への侵入に成功したところで、ユアは【縁結・雷火染】を発動。虚空より召喚された焔と雷の精霊が、すっかりその気でいた男の周りをぐるりと囲む。
「なッ?! なんだこいつら……お前、まさか俺を騙したのか?!」
「騒ぐな。私がひとつ命令すれば、その子たちはすぐにお前を消し炭にできる」
 娼婦の演技中とはがらりと雰囲気の変わった彼女に、男は気圧されて口を噤む。
 大人しくなった彼にユアはにっこりと微笑むと、ここに来た目的と要求を告げる。
「お前たちがこの店の裏で何をしているのかは知っている。まずはそこに案内してもらおうか」
「――!」
 何故それを、と男は驚いたようだったが、牽制が効いているようで声は出さない。びくつきながらも粛々と、ユアを店のさらなる奥まで導いていく。

「あっ、ユアさん!」
「やあシャル。そっちも無事に潜入できたみたいだね」
 行き着いた先でユアを待っていたのは、餌として敵地に潜りこんだシャルロット。
 今まさに、彼女を奴隷用の檻の中に入れようとしていた店員は、見知らぬ相手の出現に目を丸くする。
「なんだお前、どうやってここに……ぐっ?!」
 ユアに気を取られた隙を突いて、シャルロットが咄嗟の一撃を打ちこむ。
 彼女のことをただの子供だと侮っていた店員は、あっさりと昏倒し倒れ伏した。

「二人もいればそれなりに有益な情報は手に入るだろう」
 数分後、その辺にあるもので縛られて檻に放り込まれた男共は、合流を果たしたシャルロットとユアの尋問を受けていた。問うのは勿論ヴァンパイアに関する情報だ。
「い、一体何者なんだ、お前ら……」
「私達が何かって? そうだな、お前たちみたいなのを狩る生業の者だよ」
 青ざめる男にユアは微笑みかけながら告げる。暗殺者を生業とする彼女は、その気になればこのまま表情ひとつ変えずに彼らの命を断つこともできるだろう。
「下手に騒げば命は無い。我々に情報を引き渡し、いずれ罪を白日の下に晒されるか、或いはここで死ぬか。二択です」
 そこに釘を刺すように言葉で追い打つのはシャルロット。まだ年端もいかぬ少女とは思えぬ鋭い眼光は、数多の修羅場を潜ってきた凄味を乗せて男共を威圧する。

「お、俺達の裏に誰がついてんのか分かってるのか?! ヴァンパイアだぞ!」
 すくみあがった男は、まるでそれが最後の切り札であるかのように叫ぶ。
 この世界の支配者たる闇の領主。その名を耳にすればこの世界の住人の多くは震え上がるだろう。しかし言うまでもなく、猟兵達がそんな脅しを恐れるわけがない。
「あなた達の後ろ盾は、あなた達が思うほど強固ではないですよ」
 淡々と返すシャルロット。彼女は知っている、強大なるヴァンパイアの支配は決して絶対ではないことを。その支配を打ち崩すために、彼女は戦っているのだから。
 男達の切り札は、ただ彼女の意志に油を注ぎ、炎を燃え上がらせただけだった。

「さあ、無駄なおしゃべりは無しだ。生憎と優しくはしてやれないから、死にたくなければ、知っていることを全て話してもらおう」
 トドメとばかりにユアが焔と雷の精霊をちらつかせれば、とうとう男達は観念した。
 この商会の暗部に深く関わる者達から得られる情報は多く、これまでの取引の内容や時期、取引相手が奴隷達を連れていく秘密の別荘の存在など、様々なことが分かる。
 闇に潜む悪辣なヴァンパイアの所在へと、猟兵達はまた一歩近付いたのであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

トリテレイア・ゼロナイン
強者におもねるのも処世術ですが、悪辣に過ぎますね

運命共同体とも言える仲間意識と共通の秘密…
そして遺憾ですが●情報収集にはこれが有効でしょう
(●防具改造でSD絵の様に塗装。●世界知識●礼儀作法で吸血鬼に仕える騎士として振舞い奴隷商と接触)


実は内密にご相談が
(自分の主が奴隷を野に放ち「狩る」戯れをしたこと。その一人が逃げおおせ、誘拐されそちらの主に饗された懸念があること。主が近々直々にこの地に捜索に向かうことを告げ)

吸血鬼同士の抗争、最悪不始末への制裁や報復で私達の首が飛びかねません
奴隷の件は私が誤魔化し、捜索日程や進路を調整いたします
そちらは領主と私の主が接触しない為の情報提供を願います



(運命共同体とも言える仲間意識と共通の秘密……そして遺憾ですが情報収集にはこれが有効でしょう)
 夜の町をずしりと音を立てて歩くひとりの騎士。トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)の甲冑を模した白い装甲は、今は黒く塗り変えられている。
 まるで亡霊騎士のごときその姿。本人としても不本意ながら、これも奴隷商との交渉を円滑に進めるための策を考えた結果であった。

「こちらの責任者の方を呼んで貰えますか」
「うぉ……ッ、はい、少々お待ちを!」
 威圧的な風貌で店内に入ってきた黒い騎士を見た店員は、慌てて主を呼んでくる。
 現れた恰幅のいい男の前で、トリテレイアはさる吸血鬼に仕える騎士と名乗った。
「実は内密にご相談が」
「騎士様がこうしておいでになるとは余程のことなのでしょう。お聞かせ下さい」
 【理想/模倣の騎士】のデータを解凍し、洗練された礼儀作法を披露したこともあり、相手はどうやらトリテレイアを本当に吸血鬼の騎士だと信じ込んだようだ。

「私の主は奴隷を野に放ち『狩る』戯れがお好きなのですが。先日その一人が逃げおおせ、私に捜索が命じられたのですが」
「ほう。それで私共の所に来られたということは、その奴隷は今この町に?」
 吸血鬼相手に人身売買を行う連中だけあってか、人間狩りという物騒なワードにも男は無反応。だが、続くトリテレイアの発言には流石に平静ではいられなくなった。
「実はその奴隷は逃げた途中で誘拐され、そちらの主に饗された懸念があります」
「なっ、なんですと?! つ、つまりそれは、私共がヴァンパイア様の奴隷を……」
 そうとは知らずに浚い、そして別のヴァンパイアに売った。形としてはヴァンパイア同士による奴隷の"横取り"に一枚噛んでしまったことになる。それがどういった結果を己にもたらすか、理解できぬほど男は愚鈍では無かった。

「そして我が主は、近々直々にこの地に捜索に向かうおつもりのようです」
「ままま、不味い! もしそれで懸念が事実だと明らかになれば……」
「吸血鬼同士の抗争、最悪不始末への制裁や報復で私達の首が飛びかねません」
 圧倒的な力によってこの世界を支配するヴァンパイアが、互いに争えばどうなるか。
 起こるであろう惨劇の火の粉は間違いなく自分達にも降り注ぐであろうし、トリテレイアの言うような最悪のケースもある。うまく強者にすり寄って利益を享受したい商人にとって、それは絶対に避けたい事態であった。

「これはお互いに不幸な事故でした。主達の制裁を免れるために協力を願います」
「い、隠蔽するのですね。奴隷の横流しが起こったという事実を……」
 立場が同じであることを強調し、双方の利害のために事実を隠す契約を結ぶ。これがトリテレイアが奴隷商の懐に入るために考えた「仲間意識と共通の秘密」だった。
「奴隷の件は私が誤魔化し、捜索日程や進路を調整いたします。そちらは領主と私の主が接触しない為の情報提供を願います」
「分かりました。ローザリア様が次にこちらに御出でになるご予定は……」
 目の前の騎士を運命共同体と認識したことで、その他の秘密に対する男のガードは緩む。むしろ自分が生き延びるためだと信じ込んで、積極的に情報を提供してくれる。その為ならどんな汚い手段も工作も辞さないといった様子だ。

(強者におもねるのも処世術ですが、悪辣に過ぎますね)
 ヴァンパイアに媚びへつらう内に闇に染まり過ぎたのか。およそ人倫を感じさせぬ眼の前の男の振る舞いに内心で辟易しながらも、トリテレイアは情報に耳を傾ける。
 その中には、彼らの取引相手の所在を突き止める手がかりも含まれているはずだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

ボアネル・ゼブダイ
アドリブ連携OK

人は生まれを選べないが、自分が生きていく道の選択は出来る
彼らが選んだ道が世界を覆う闇に恭順し、染まる事だと言うのは…同じ世界に生まれた者としては、何ともやり切れんな

だが、まずは囚われた者達を救うことが先決だ
お忍びで来訪したヴァンパイアの振りをして情報を集めよう

ここは「瀉血」用の上質な「蛭」を用立ててくれると聞いたんだが…

と犬歯を覗かせながら使用人に告げれば業者まで案内してくれるだろう
業者に会えたなら人払いをしてもらいUCを発動
催眠状態にして敵拠点の場所や警備の状態など有益な情報を引き出す
騒ぎを起こさぬよう、怪しまれずに行動することを心がける

いずれ、彼等にも相応しき罰が下るだろう



「人は生まれを選べないが、自分が生きていく道の選択は出来る」
 夜の町にそびえる悪徳業者の店舗を見やりながら、ボアネル・ゼブダイ(Livin' On A Prayer・f07146)は呟く。ヴァンパイアと人の間に生まれた彼は、無辜の人々のために戦う道を選んだ。だが、闇に抗う力と意志を持たなかったあの業者らは――。
「彼らが選んだ道が世界を覆う闇に恭順し、染まる事だと言うのは……同じ世界に生まれた者としては、何ともやり切れんな」
 目先の安楽と利益ばかりを求めて、堕ちて堕ちて堕ち続けた結果がこれだ。慈悲を与えるには余りにも罪を重ねすぎた彼らに対する、ボアネルの感情は複雑であった。

(だが、まずは囚われた者達を救うことが先決だ)
 優先すべき使命に意識を切り替えたボアネルは、身嗜みを整えて店舗の中に入る。
 その歩き方や身のこなしは洗練され、端正な容貌と立派な身なりも相まって、お忍びで訪れたどこかの貴族のようである。
「ここは『瀉血』用の上質な『蛭』を用立ててくれると聞いたんだが……」
 そう言って笑みと共に鋭い犬歯を覗かせれば、相手は間違いなく彼がヴァンパイアだと信じるだろう。事実、彼と応対した使用人もそう思ったようで、慌てて店の奥に引っ込むと、"裏"の事情に通じている業者を連れてきた。

「ようこそお越しくださいました。私共の噂が貴方様のような高貴な御方のお耳にまで入ったとは、光栄の至りでございます――」
 応接室へと案内されたボアネルは、業者からの豪勢な歓待を受けることになる。
 これでもかと言うほどに美辞麗句を並べ立てられたおべっかには、恐ろしいヴァンパイアの機嫌を損ねぬようにという、ある種の必死ささえ感じられた。
「――それで、この度はどのような商品をご所望でしょう?」
「ああ。その前に少し人払いを頼む」
「おおっと、これは気が利きませなんだ」
 男が手を叩くと周囲にいた使用人達は退室し、室内にはボアネルと男だけが残る。ここは密談の場としても誂えられているようで、中の会話が外に漏れることも無い。

「これでよろしいでしょうか?」
「ああ――では、私の願いを聞いてもらおう」
 媚びるような笑みで向きなおった男の目と、赤い光を放つボアネルの目が合う。
 それは魅了の魔術を込めた【赤光の邪眼】。魔力に満ちた視線に捉えられた男はたちまち正常な意識を失い、ボアネルの意のままに動くある種の催眠状態に陥った。

「お前達と繋がりのあるヴァンパイアの拠点について話せ」
「はい……」
 ぼうっとした表情で男は機密を語りだす。彼らの取引相手であるヴァンパイアの領主は、町の近くに別荘を建て、購入した奴隷と戯れるための拠点にしているそうだ。
 その正確な所在は彼ら業者にも明かされてはいないが、大凡の在り処は掴めていた。
「その別荘とやらの警備の状況は?」
「護衛らしい護衛はいません……ローザリア様と使用人、あとは奴隷だけです……」
 余程己の力に自信があるのか、それともただの慢心か。いずれにせよ襲撃を仕掛ける猟兵達からすれば、拠点の警備が手薄なのはありがたい。

 ――その後、ボアネルは幾つかの質問を続け、有益な情報が出尽くしたと判断したところで、業者にかけたユーベルコードを解除する。
「ご苦労だった。いい商談だったぞ」
「え……? あ、はい……それは何よりで御座いました」
 催眠から覚めた男に催眠中の記憶は残っていない。おぼろげに質問を受けた覚えはあるかもしれないが、それだけだ。人払いをしておいたお陰で騒ぎも起こらず怪しまれることもなく、ここで起きたことを知る者はボアネルだけになった。

「では、私はこれで失礼する」
「どうぞまたお越しくださいませ」
 何も気付いていない業者に見送られ、ボアネルはそのまま店舗を後にする。
 今回の彼の目的はあくまで情報収集。悪徳業者に制裁を加えることではない。
(いずれ、彼等にも相応しき罰が下るだろう)
 彼が為さなくとも、それはそう遠くはない日に。
 だからこそ彼は、今己が為すべきことを為す。

成功 🔵​🔵​🔴​

シスカ・ブラックウィドー
いつ来てもこの世界は相変わらずだなあ。故郷に特に思い入れはないけど猟兵の仕事はしなくちゃね。最近ちょっと緩んでるし.....。

さて、同業者のフリをして潜入し、ボスの所まで案内してもらおうかな。「商品」は指定UCで用意しよう。全員顔が一緒だから服装とか髪型を変えて個性を出すよ。男装バージョンと女装バージョンを半々ぐらいで。
ボクの分身なら量・質ともに申し分ないはずだ。

一番偉そうな奴の所についたら【吸血鬼の魔眼】で「催眠術」にかけて全部喋らせる。

用が済んだらちょっとおしおきしよう。全部聞いた後で意味もなく爪を全部剥がす(笑)

「運がいいね。ボクが猟兵じゃなくて暗殺者だったら殺してたところだよ」



「いつ来てもこの世界は相変わらずだなあ」
 腐敗と頽廃、支配と悪虐。様々な悲劇が織りなされるダークセイヴァーの町並みを、シスカ・ブラックウィドー(魔貌の毒蜘蛛・f13611)はつまらなそうに行く。
「故郷に特に思い入れはないけど猟兵の仕事はしなくちゃね。最近ちょっと緩んでるし……」
 未練のない故郷といえど、カンを取り戻すためにも依頼で手を抜くつもりはない。
 そして、悪党を相手に手加減するようなつもりも、彼にはさっぱり無かった。

「ここのボスに買って欲しい商品があるんだけど、取り次いでくれないかな?」
 人身売買業者のアジトまでやってきたシスカは、まず表の店舗から店員に声をかける。
 彼が連れてきた「商品」とは【男の娘メイドカフェ】により召喚されたシスカ自身の分身。ひとりひとり髪型や服装を変えて個性を出し、男装バージョンと女装バージョンを半々ずつ用意している。
(ボクの分身なら量・質ともに申し分ないはずだ)
 そう自負するとおり、少女と見紛うほどの可憐な美貌の持ち主である彼の分身は、どんな格好であっても魅力的で、かつ奉仕精神に満ちた従順な従者であった。

「……同業者か。裏に回れ」
 じぃっと舐め回すように「商品」を見た店員は、くいと店舗の裏手を指差す。
 ありがとう、と礼を行ってシスカがそちらに向かうと、すぐに開いた裏口から「商品」ともども中に入れられ、商談のための応接室へと案内された。
「あなたがここのボス?」
「ああ、その通り。これはまた随分若い商人が来たな」
 待っていたのはいかにも偉そうな態度の、恰幅のいい中年男性。仕立ての良い服を着ているがどうにも着こなせておらず、服に着られている感が強い。調子にのった成金のような印象の男だ。

「では商談だが……」
「ああ、いいよそんなの」
「何?」
 怪訝そうに眉をひそめる男の前で、シスカはぐいっと身を乗り出して。
「ボクの目を見て」
 その瞬間、彼の「吸血鬼の魔眼」が妖しく輝き、視線を合わせてしまった男は一瞬で催眠にかかる。こうなってしまえばもう、面倒な商談や交渉などは必要ない。

「それじゃあ全部喋ってもらおうか」
「ああ……何でも聞け……」
 虚ろな目つきでこくりこくりと頷く男に、シスカは洗いざらいの情報を吐かせる。
 この業者がこれまで裏で行ってきた悪事から、取引相手であるヴァンパイアとの関係。相手は何処にいて、どういった伝手や符丁で連絡を取り、どれくらいの戦力がいるのか――事件解決に必要と思われる情報は何もかもだ。

「私の知っていることは……これで全部だ……」
「うん、ご苦労さま」
 情報さえ手に入れてしまえばもうこの男に用はない。用済みとなった業者をどうするか、シスカはすこし考えてから、ちょっとおしおきしていくことにした。にっこりと笑みを浮かべながら相手の手を掴み――生爪を、一枚残らず、べりっ、と剥がす。
「ぎぇぇぇぇッ?!!?」
 指先から走る凄まじい激痛によって催眠が解ける。何が起こったのか分からない男は、ただ両手からダラダラと血を流しながら、痛みに悶絶して室内を転げ回った。

「運がいいね。ボクが猟兵じゃなくて暗殺者だったら殺してたところだよ」
「きっ、貴様ッ、何を――」
 元暗殺者の少年はにっこりと微笑みかけながら物騒なことを言い、怒りと痛みで顔がまだら色になった男にもう一度催眠をかける。これ以上は騒ぎになると面倒だ。
 悪党に制裁を与えてすこしスッキリした様子の彼は、そのまま鼻歌交じりに人身売買業者のアジトを脱出したのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

セシリア・サヴェージ
ヴァンパイア相手に商売をする。生きるためにはそれも仕方のないことでしょう。
ですが扱う商品が人間であると言うのならば話は別です。
新たな犠牲者が生まれる前に、救いましょう。

あまり使いたくありませんでしたが……UC【血統覚醒】でヴァンパイアに化けてそれらしい【演技】をします。
店舗に正面から堂々と入り「人間を買いたい」と申し出て、関係者が出てきたら話を合わせつつ適当なタイミングで「内密な話がしたい」と人払いをさせるか、人気のない場所まで誘い込みます。

あとは尋問するだけですね。
逆らえば命はないと【恐怖を与える】ことで話せばよいのですが……。
これ以上手荒な真似をせずに済むことを願います。



「ヴァンパイア相手に商売をする。生きるためにはそれも仕方のないことでしょう」
 そう呟いたのはセシリア・サヴェージ(狂飆の暗黒騎士・f11836)。この闇に覆われた世界では、けして綺麗事だけでは生きていけぬことは、彼女もよく分かっている。
「ですが扱う商品が人間であると言うのならば話は別です。新たな犠牲者が生まれる前に、救いましょう」
 信念と騎士の誓いにかけて、それだけは見過ごすわけにはいかない。弱き人々を護る盾にして剣たる彼女は、固い決意と共に人身売買業者のアジトに足を運んだ。

「ここで人間を買いたい」
「え? あ、貴女様はもしや……っ」
 店舗の正面から堂々と入ってきた客からの、あまりに直球な申し出に店員は戸惑い――直後、その客のらんらんと輝く真紅の瞳を見て腰を抜かしそうになる。それは【血統覚醒】によってヴァンパイアに変身したセシリアであった。
(あまり使いたくありませんでしたが……)
 彼女にとって敵への変身であり、このユーベルコードには寿命を削るリスクもある。それでも、この組織に探りを入れるならこれが最適なのは間違いなかった。
 事実店員は泡を食った様子で、大慌てでここの責任者を呼びにすっ飛んでいった。

「よ、ようこそおいで下さいました。お初にお目にかかります、私の名は……」
「挨拶などどうでもいい。話を進めろ」
 ヴァンパイアらしい不遜な態度や振る舞いを演じながら、現れた男との話を進めるセシリア。適当に話を合わせながら頃合いを見計らって「内密な話がしたい」と切り出す。
「重要なお話ですか?」
「ああ、あまり大勢に聞かれたくはない。人払いを」
「かしこまりました」
 金づるだが恐ろしい吸血鬼の機嫌を損ねまいと、男はすぐに周囲の店員や使用人らを遠ざけ、ひとつの部屋を自分と彼女のための貸し切りとする。ここならば話の内容が漏れることはない、と自信満々に。

(あとは尋問するだけですね)
 状況はすべて整った。変身を解いたセシリアの身体から暗黒のオーラがあふれ出す。
 それは、只人にとっては"死"を強くイメージするであろう、強大な闇の力だった。
「貴方達と繋がりのあるヴァンパイアについて話して貰いましょう」
「なっ……お、お前は何者……ッ?!」
 騙されたという驚愕と、それを上回る恐怖が男を襲う。「逆らえば命はない」と思わせるほどの強烈なプレッシャーが、たちまちの内に彼の心を支配する。
 仮にここでセシリアが少しでもその気になれば――その瞬間、助けを呼ぶ間もなく、男は暗黒剣の錆となってその生涯を終えることになるだろう。

「これ以上手荒な真似をせずに済むことを願います」
 それはセシリアの本心だったが、恐怖する側にとっては脅迫のようにも取れる。
 しょせんは吸血鬼の威を借るだけの一般人に、抵抗の気力など残ってはいない。
「な、なんなりとお話します。ですのでどうかお許しを……!」
 どうにか命だけは助かろうと、男は聞かれていない事柄までぺらぺらと喋りだす。
 かくしてセシリアは、労に見合うだけの情報を無事に手に入れることができたのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

トゥリース・リグル
連携アドリブ歓迎
【SPD】で判定します

潜入前に【情報収集】を行い、屋敷の間取り等をできる限り把握、警戒の薄そうな潜入箇所を選出。
そして【忍び足】で音を立てないように接近し潜入します。
その際鍵がかかっているならば七つ道具を使って【鍵開け】で開錠します。
潜入後は【聞き耳】や【第六感】で警戒しつつ【忍び足+ダッシュ】で音を立てないようにしつつ迅速に行動、目的の部屋を探ります。
道中、囚われている人間のところに着いた場合は、自分たちが来ていることを知らせ、安心させようとしておきます。

目的の部屋に来たら内部を探索、鍵がかかってる場合は【鍵開け】で開錠。
目当ての情報が入手出来たら記憶して元の場所に戻します。



(随分大きな屋敷ですね。それに真新しい感じがします)
 恐らくは新築されて間もないと思しきその建物――人身売買業者のアジトを外側から観察し、トゥリース・リグル(刃を為すモノ・f00464)は潜入箇所を選定する。
(一体どれくらい悪どく儲けてるんでしょう……まあいいです)
 外から把握できる限りの間取りを頭に叩き込み、警備の薄そうなところを見つければ、息を潜めて忍び寄る。熟達のシーフである彼女の接近に気付けた者は誰もいない。

(簡単な鍵ですね)
 使い込まれた七つ道具を駆使して、閉ざされた扉の錠を開く。苦もなく屋敷への潜入を果たしたトゥリースは、目的のヴァンパイアの情報を求めて探索を開始する。
 警戒はけして緩めずに音と気配に気を配り、物音を立てないよう、かつ迅速に。端々に成金趣味が窺える内装や調度品を見回しつつ、怪しいところは無いかと探る。
(……ここは)
 やがて彼女が見つけたのは、絨毯の下に隠された地下への秘密の通路であった。
 聞き耳を立ててみると、その奥からは微かに、すすり泣くような人の声がする。

「ぐすっ……ひっく……うぅ……」
「おとうさん……おかあさん……」
 闇に閉ざされた暗い地下の牢獄。そこに囚われていたのは年若い少年少女達だった。
 ヴァンパイアに売りつけられるために、あの手この手でかき集められたのだろう。みな悲嘆の表情をしており、これからどうなってしまうのかと恐怖に震えている。
「……大丈夫ですよ」
「え……? だ、誰?」
 悪党と吸血鬼に怯える彼らを少しでも安心させようと、トゥリースはそっと声をかける。はっと顔を上げた子供たちは、檻の前にいる中性的な少女の笑顔を見た。

「助けはもうすぐそこまで来ています。自分たちがあなたたちを救ってみせます」
「ほ、ほんとうに……?」
 まだ不安そうな子供に、ええ、と力強く頷くトゥリース。ここで初めて出会ったにも関わらず、彼女の穏やかで大人びた口調には、強い自信と説得力があった。
「ですからもう少しだけ、そこで待っていてください」
「うん……わかった」
 また檻の中で押し黙る子供達。しかしすすり泣きの音は先程までより少なくなった。
 期待の視線を背に受けながら、トゥリースは地下室のさらに奥へと進む。

(ここは……いかにも怪しいですね)
 やがで行き着いた先で待っていたのは、表よりも頑丈な鍵をかけられた鉄の扉。
 まるで、そこに見せたくないものがありますと、全力で主張しているかのようだ。
 トゥリースは再び七つ道具を取り出すと、さっそく秘密の部屋の解錠を試みる。幸い、構造こそ複雑ではあるものの魔法などによる特殊な加工はされていない。

(……よし、開いた)
 少々手こずりはしたものの、がちゃりと音を立てて扉を封じていた錠が外れる。
 開かれた鉄扉の向こうに納められていたのは、まさしくこの屋敷の主達の暗部――非公式な人身売買の記録や、ヴァンパイアとの取引を証明する書類の数々であった。
 その中には取引相手のヴァンパイアに関する情報もある。トゥリースは素早く資料に目を通し、目的の情報を見つければそれを記憶に刻みつけて、元の位置に戻す。
(これで目的は果たしました。あとは気付かれないように脱出を……)
 外した錠も元通りにかけ直しておき、無音のまま元きた道を引き返す。
 かくして彼女の潜入調査は、敵に気付かれることなく無事に完了したのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

イリーツァ・ウーツェ
手段は問わぬ、と
では、其の様に

静かに店員に近付き、背に銃を当てて脅す
其のまま店の裏へ
胸倉を掴み、壁に押し付けながら
袖口から、影百足を手伝[づた]いに這い移らせ
ゆっくりと、肉体を端から削り取りながら尋問

誰に売っている?
名前は? 容姿は?
嗜好は? 武器は?
知っている事を、全て言え
然うすれば手放す

全て聞いたら手を放し、
殴り殺して、百足等[ら]に喰い尽くさせる
人間を害する人間は、殺す約定だ



「手段は問わぬ、と。では、其の様に」
 グリモアベースでの説明を聞き終え、現地へと転送されたイリーツァ・ウーツェ(負号の竜・f14324)は、上着の裾をなびかせながらつかつかと夜の町を歩く。
 その足取りはまっすぐに、件の人身売買業者が経営する店舗へと。その店先で客引きをしている店員に目をつけた彼は、上着の内側に手を入れて静かに近付いていく。

「さあ安いよ安いよ……っ?!」
「騒ぐな」
 往来の人々に声を掛けている最中、ふいに店員の背中に押し当てられる硬い感触。
 それが凶器だと理解して青ざめるそいつに、イリーツァは冷静に脅しをかける。
「私の指示通りに進め。ゆっくりとだ」
 露骨に脅しつけるような口調ではなく、無感動で平坦な口調が、逆に恐怖を煽る。
 相手が只者ではないと悟った店員には、黙って従うほかに選択肢は無かった。

 そのまま人気のない店の裏手まで店員を連れてきたイリーツァは、片手に大口径拳銃を握ったままもう一方の手で相手の胸ぐらを掴み、冷たい石壁に押し付ける。
「ぐぇッ! な、なんのつもりだ、テメェ……」
 潰れたカエルのような悲鳴を上げた男は、そこでようやくイリーツァの姿を見る。剛毅朴訥といった風貌に、頑強な体躯、まるでこちらを射殺すような鋭い眼光――そして、その袖口からするりと這い出てくる影の大百足、【忘却《貪影蜈蚣》】を。

「ひ……な、なんだこりゃぁッ?!」
 イリーツァの手を伝って男のほうに這い移ってきた影百足は、ゆっくりと、末端から肉体を貪る。その激痛もさることながら、じわじわと身体を削り取られていく恐怖は、彼の平常心を吹き飛ばすのに十分すぎるものだった。
「誰に売っている?」
「はっ? え、は、なんのことだ? それよりコイツ、この虫を止めてくれよっ!」
 影百足に"餌"を与えながら、イリーツァは淡々と尋問を開始する。それどころではない男が半狂乱になって喚こうが取り合わず、がしりと胸ぐらを掴んだまま。

「知っている事を、全て言え。然うすれば手放す」
「ほ、ほほほほほんとうだなッ!? いいぜ、何でも話す! いや話させてくれ!」
 この瞬間の男の脳内は、一刻も早くこの苦痛と恐怖から解放されたい一心だった。
 情報を漏らしたせいで恐ろしいヴァンパイアの不興を買うことになったとしても、今はこの場を生き延びるほうが最優先だ。
「名前は? 容姿は? 嗜好は? 武器は?」
「ろ、ローザリア様のことだよな。銀髪に紅い目の、おっかねえくらいの美人だよ」
 彼が実際にそのヴァンパイアと出会ったのは一度きり。その時彼女は、自分達から買い取った新しい奴隷を、その場でズタズタに引き裂いて殺してしまったという。
「まるで生き物みたいに闇と血を操ってよぉ……泣き喚く最期の姿を、うっとりした顔で見つめてらした。それがあの方の娯楽なんだって分かった時はゾッとしたね」
 その時の光景がよほど目に焼き付いているのだろう、男の顔は血の気が引いて青ざめるどころか真っ白になっている。ローザリアと言うらしいかの吸血鬼は、よほど残虐を好む気質らしい。

 ――それからも、男はヴァンパイアについて洗いざらいの情報を吐き散らした。
「お、俺が知ってるのはこれで全部だ。も、もういいだろ、放してくれっ!」
「いいだろう」
 聞ける限りのことを全て聞き終えると、イリーツァは男を掴んでいた手を放す。
 そして、空になった手をぐっと握ると、男の頭部めがけて思い切り殴りつけた。
「ごがぎッ?! な、んで―――」
「人間を害する人間は、殺す約定だ」
 竜の膂力が籠った拳で頭蓋をかち割られた男は、呆然とした表情で絶命する。
 裏手に転がった骸に、影百足らが群がり、喰い尽くす。肉も、骨も、血痕すら残らなければ、ここで起こったことは誰にも知られない――ただ、一人の人間が"行方不明"になっただけだ。
 後始末を終えたイリーツァは百足達を回収すると、かつんと靴音を残してその場を去るのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ルカ・ウェンズ
チーム≪隷放≫で依頼を受けます。私はPOWで!
シホさんを奴隷として売り込む。奴隷商奴隷商人のふりをして人身売買業者に近づいて、それから痛めつけて情報を吐かせないと。相手は表向きは真っ当な商家…この世界では奴隷商人は真っ当な商売なのかしら?
【行動】
私は商品の奴隷を大切にする真っ当な奴隷商人。なので奴隷の印は他の奴が付けたし!表向きは真っ当な商家にも挨拶に行かないと!シホさんの作戦どおり商談を行い、仕事の話をするふりをして吸血鬼の居場所を聞き出すか、隙があれば【怪力】で取り押さえて縛り付けモンゴリアンデスワーム(幼体)を見せてあげたり縁切りを使い【恐怖を与える】これで情報を入手するわ。


シホ・エーデルワイス
≪隷放≫
アドリブ歓迎


そうね…常識は人々の価値観で左右されますから
でも私は否定したい


ルカさんの商品に<変装>して潜入

事前に奴隷商への接触方法を<動物と話すで情報収集>

自力で外せる手枷足枷首輪を付け
武器や普段着等はルカさんへ預ける
胸元の外せない聖痕は奴隷の印

綺麗な身なりに儚げな雰囲気を漂わせ
大切にされているように見せる


ルカさんの商談が上手くいくよう
何をされても従順に振る舞う
<勇気と覚悟で激痛耐性や恥ずかしさ耐性で耐え
奴隷商が気に入るよう誘惑の演技>

他の奴隷と合流できたら
状況に応じて【祝音】や医術で手当てを行い安全な場所に匿うか
無ければ【救園】に隠す

後で解放できるとはいえ
弱っている子もいると思うから



「相手は表向きは真っ当な商家……この世界では奴隷商人は真っ当な商売なのかしら?」
「そうね……常識は人々の価値観で左右されますから」
 夜の町を行くルカ・ウェンズ(風変わりな仕事人・f03582)の疑問に、シホ・エーデルワイス(捧げるもの・f03442)はこくりと頷く。世界が変われば常識も変わり、奴隷制度が社会システムに組み込まれているケースがあることも彼女は知っていた。
「でも私は否定したい」
 この地の人々の価値観がどうであれ、モノのように売り買いされる人々を助けたいという気持ちは、シホにとって常識よりも優先されるもの。何より、かの人身売買業者が裏で重ねてきた悪行は、ただの奴隷商として片付けるにも悪辣が過ぎるだろう。

「それではルカさん、よろしくお願いしますね」
「ええ、任せなさい! しっかり売り込んでみせるわ」
 普段着や武器を手放し、代わりに物々しい手枷首枷足枷を――奴隷の証を身に着けたシホが頭を下げ、装備一式を預かったルカがにっこりと微笑みながら胸を張る。
 件の人身売買業者を調査するためにふたりが考えた作戦は、奴隷商人とその奴隷として売り込みをかけるというもの。同業者のふりをして近付けば、相手の警戒も甘くなろう。

 動物や虫達を利用した事前の調査により、商家の"裏の顔"と接触する方法をつきとめたふたりは、無事に連中との商談の場までこぎつけることができた。
「この町に来たのは最近だけど、一度ご挨拶しておかないと、と思ってね」
「これはこれは、ご丁寧にどうも。同業者の方とのご縁ができるのは光栄です」
 店舗の裏口から通された一室にて、待っていた恰幅のいい男とまずは挨拶を交わす。
 話をするのは商人役のルカで、奴隷役のシホは何も言わずにただ佇んでいるだけ。しかしオラトリオである彼女の神秘的な美しさは、自然と先方の興味を惹いた。

「そちらの娘が、あなたの商品ですかな」
「ええ、自慢の逸品よ」
 ルカがこちらに来るよう手招きすると、シホは黙ったまま一礼しそっと傍に寄る。その身なりは綺麗で儚げな雰囲気を漂わせており、奴隷とはいえ大切にされている印象を与える。自分は商品の奴隷を大切にする真っ当な奴隷商人、というアピールだ。
「オラトリオの奴隷とは珍しい。これだけ状態が良く美しいものなら、相当の値になりましょうな」
 じろじろと不躾な男の視線がシホの身体を這い回る。相手を対等なものと見なしていないその態度にシホは不快感を覚えるが、ルカの商談が上手くいくようにぐっと堪え、逆に従順で媚びるような表情と視線で奴隷商を誘惑する。
「これはこれは……躾のほうもよく行き届いているようで」
 視線に混ざるのはにちゃりと粘つくような男の情欲。
 恥ずかしさで表情が歪まないよう、懸命に堪える。

「おや、こちらの傷痕は……?」
 無遠慮にシホの胸元を覗き込んだ男は、そこにアセビの花を象った傷を見つける。
 それは彼女が聖者である証、すなわち聖痕。しかしそれに気付かれてしまうと、向こうも彼女がただの奴隷ではないと悟られるかもしれない。
「それは奴隷の印よ。私の前の奴が勝手に付けちゃったの」
 と、すかさずルカが用意しておいた言い訳を語る。せっかくの商品を自分から傷物にするとかありえないわよね、と、不満たらたらな様子を滲ませながら。
「これのせいで、なかなか買い手が付かないのよ。今日こちらにお伺いしたのも、それが理由の一つなのだけど」
「なるほど……私共に彼女を買い取るつもりはないか、ということですな」
 男から見たシホは丁寧に管理された、商品として最高級の奴隷だ。奴隷商としては何としてでも欲しい――間違いなく彼女は、あの吸血鬼の目にもかなう逸品だ。

「いいでしょう。これほどの逸材を逃したとあっては商人の名折れです」
「ありがとう! そう言って貰えると思ったわ!」
 にっこりと(表面的には)にこやかな笑みを浮かべる店主と、固く握手を交わすルカ。それからの取引は速やかに進み、シホは契約上、ルカからこの店の所有物となった。
「その商品は例の部屋に入れておけ」
「かしこまりました」
 そのままシホは店主の使用人に腕を掴まれ、どこかに連れて行かれることになる。
 退室の間際、シホとルカは目配せを交わし――互いの首尾を期待して、別れる。



「そら、ここが今日からお前の居場所だ」
「大人しくしておけよ」
 シホが放り込まれたのは、店の地下にあるじめじめとした暗い檻の中だった。
 使用人達が去っていくのを待ってから、彼女は最初に自分の手と足と首の枷を外す。予め、自力で外せるようになっていたのだ。
「ひどい所ですね」
 とても人が住む場所とは思えない劣悪な環境。闇に目を凝らしながらじっと辺りを見回すと、同じ檻の中には彼女と同様、囚われている人間が何人もいた。

「ぅ……おねえさん、だれ……?」
「あなたも、捕まっちゃったの?」
 いずれも見目良く、年若い少年少女達。吸血鬼への生贄として集められたのだろう彼らは、囚われの生活による疲弊と精神的な苦痛により、みな疲弊しきっていた。
 シホの胸元で聖痕がうずく。堰を切ったように心から湧き上がる献身の想いは【苦難を乗り越えて響く福音】となって、檻の中を明るく照らし出した。
「主よ、この方たちにどうか慈悲と祝福をお与え下さい」
「ぇ……なに、これ……?」
「あったかい……」
 子供達の身体の傷が癒えていき、心が温かな気持ちで満たされていく。
 それは聖者のもたらす慈愛の光。彼らにとって希望となる福音であった。

「安心してください。救けが来るまで、私が皆さんを匿います」
 穏やかで力強い口調で皆を励ましながら、ひとりひとりの容態を診るていくシホ。
 奴隷商とヴァンパイアを討てばここの子らは後で解放できるとはいえ、弱っている子もいる。そうした者達は【救いが必要な人の迷い家】に転送して保護する。
 もう、これ以上は一人たりとも、この中から犠牲など出させはしない。きっと引き締められた彼女の表情には、そんな決意がありありと浮かんでいた。



「シホさんは上手くやっているかしら。きっと大丈夫よね」
 それと時を同じくして、地上ではルカが相方の安否を気にしている。その足元で、まるで芋虫のように地に這いつくばらされているのは――商談相手だった商人だ。
「ぐぉ、は、放せ……何のつもりだ貴様ッ!?」
「はいはい、暴れると余計に痛いわよ」
 商談が終わればもう奴隷商人の演じ続ける理由もない。さっぱりと普段の調子に戻った彼女は隙だらけだった男を取り押さえ、力ずくでその辺の椅子に縛り付ける。
 ここからは"商談"ではなく"尋問"の時間。相手の態度次第では"拷問"になるかもしれないが。

「あなた達と繋がりのある吸血鬼の居場所が知りたいんだけど」
「なっ!? 貴様、それを知ってどうしようと……まさか我々の商売の横取りを!」
「それはちょっと違うわね。邪魔はするというか潰すけど」
 ガタガタと縛り付けられたまま暴れる男の前で、ルカはかわいい仲間の一匹――江戸モンゴリアンデスワームの幼体を見せる。成体ともなれば城をも一呑みにするという怪生物だが、現在のサイズでも人間くらいは余裕で食べられそうだ。
「ひぇ……ッ?!」
「正直に話してくれないなら……食べられるか斬られるか、どっちがいいかしら?」
 息を呑んだ男の前で、すっと抜き放った「仕事人の拷問具」を一閃。切れ味鋭い【縁切り】の一撃が、室内に置いてあったテーブルを真っ二つにする。
 質問に答えなければどうなるのか。綺麗な断面をさらした木片が、その場合の男の末路を語る十分な証明となった。

「わ……わわ分かった、話す! ローザリア様の別荘の場所だなっ!?」
「そうそう、それでいいのよ」
 あっさりと死の恐怖に屈した男は、ぺらぺらとルカの欲していた情報を吐いた。
 この連中に奴隷を集めさせていた非道のヴァンパイア――「ローザリア」の所在は掴めた。あとはこの情報をシホや仲間達に伝え、殴り込みをかけるだけだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フレミア・レイブラッド
ホント、自分の故郷ながら性根の腐った下衆の多い世界よね…。
その業者もヴァンパイアも必ず報いを受けさせてあげるわ…!

【虜の軍勢】で「薔薇の迷宮と双子の悪意」の黒い薔薇の娘たちと「魔女と悪魔と雪見風呂」のエビルウィッチを従者として召喚。
身形の良さや明らかに「人では無い」従者を連れた様子から「噂を聞いて訪れた新しい顧客」として振舞い、業者側からの接触や【魅了の魔眼・快】【魅了】【催眠術】等を駆使して接触した商人達から業者まで辿り着く等し、ヴァンパイアの情報を入手。
更に囚われた子達を解放するわ。


全眷属に告げるわ。元凶討伐次第、人身売買に関わった業者は全て捕縛…または皆殺しにするわ!一人も逃がさないわよ



「――ねえ、貴方。"わたし達"向けの特別な商品を扱っている店はここかしら?」
「うん? あんた、どこでその噂を――」
 夜も更けてなお静まることを知らぬ歓楽街。人身売買業者のアジト兼店舗で店番をしていた男は、ふいにやって来た客を見て、思わず息を呑んだ。
 来客の名はフレミア・レイブラッド(幼艶で気まぐれな吸血姫・f14467)。気品のある真紅のドレスを纏い、整った相貌に艷やかな笑みを浮かべ、背後には【虜の軍勢】より喚び出した従者――黒い薔薇の娘たちとエビルウィッチを伴っている。
 その身なりの良さに加えて明らかに「人では無い」従者の存在から、店員が彼女を人ならざる支配者、すなわちヴァンパイアと認識したのは無理からぬことであった。

「どうなのかしら? ちょっと小耳に挟んだのだけれど」
「は、はははいッ! そのとおりで御座いますっ!」
「そう。ならここの責任者を出して頂戴。そのほうが話が早いわ」
 人身売買の噂を聞いて訪れた新しい顧客、という振る舞いで店主を呼びつけるフレミア。無論、ただの人間である一介の店員がその要求を断れるはずがない。
 すぐさま応接室に案内された彼女は、そこで"裏"の人身売買業を扱う恰幅のいい男に迎えられる。服装から成金趣味を隠せていない、品のない男だ。

(ホント、自分の故郷ながら性根の腐った下衆の多い世界よね……)
 表向きは穏やかに振る舞いながらも、フレミアの内心では苦虫を噛み潰したような嫌悪と怒りが渦巻いている。本当ならすぐにでも目の前の男を張り倒したいほどだ。
 人の命をモノのように扱い、虐げる。それは彼女が最も嫌いとする行為だった。
(この業者もヴァンパイアも必ず報いを受けさせてあげるわ……!)
 真紅に輝く彼女の瞳の奥には、怒りと決意の炎がめらめらと燃え上がっていた。

「ようこそお越しくださいました。貴女様のような高貴な御方に、わざわざ私共のようなちっぽけな店まで訪ねてきて頂けるとは、光栄の至りでございます」
 へこへこと腰を低くして手をもみ合わせ、相手の内心も知らず媚びへつらう男。
 この場所を突き止めるのも苦労なされたでしょう、と言う彼に、フレミアはあえてにっこりと微笑みかけ。
「ここに来るのは簡単だったわ。だって皆がすぐに教えてくれたもの」
「はて、うちの業者や従業員はそこまで口が軽かったでしょうか……一体どうやって?」
「こうやって、よ」
 その瞬間、爛々と輝く【魅了の魔眼・快】の視線が男を射抜く。強烈な快楽と共にフレミアへの忠誠と隷属を植え付けられるその瞳に本気で見つめられれば、一般人の正常な思考などすぐに吹き飛んでしまった。

「少し手間がかかったけど、ようやく辿り着いたわ。さあ、全部話して貰うわよ」
 フレミアは従者と共に夜の町をねり歩くことで、寄ってきた業者や商人からこうして魅了や催眠を駆使して情報を集めながらここまでやって来たのだ。
 "ある理由"からどんなに些細でも人身売買業者と繋がりのある連中を虱潰しに調べ上げてきたため、本命に辿り着くには逆に時間がかかってしまったが、問題はない。
「貴方達が取引しているヴァンパイアの情報、全て出しなさい」
「はい……貴女様の仰せのままに……」
 すっかりフレミアの虜となった業者の男は、魂が抜けたように呆けた顔でぺらぺらと秘密を喋りだす。散々他人を奴隷にしてきた彼には皮肉な有様かもしれない。
「ローザリア様は血と闇と残虐を愛する御方……私共のところで奴隷を購入した後は、いつも町の近くに建てられた別荘で"お楽しみ"になられます……」
 前回の購入からの期間からしても、吸血鬼はまだその別荘にいると考えられる。
 別荘の警備は手薄で、居るのは吸血鬼本人を除けば使用人と奴隷だけらしい。

「私が知っていることは以上で御座います……」
「分かったわ。じゃあ次の命令よ。今ここに囚われている子達を解放しなさい」
「かしこまりました……」
 主人の命を受けた男は、ふらふらと幽霊のような足取りで応接室から出ていく。
 彼の権限が及ぶ範囲に囚われている奴隷達は、これでみな自由になれるはずだ。
 男が去ったのを見届けると、次にフレミアはぱちんと指を鳴らして控えていた従者達を呼び寄せ、告げる。

「全眷属に告げるわ。元凶討伐次第、人身売買に関わった業者は全て捕縛……または皆殺しにするわ! 一人も逃がさないわよ」

 そのための布石は打ってある。この夜の町にいる業者や商人の多くはすでに彼女の虜。そこに全眷属の戦力が加われば、蟻の子一匹とて逃げることはできない。
 大規模に動けば元凶に気取られる恐れがあるため、今すぐにとはいかないが――事が終わった暁には、この夜の町から澱みを一掃する、浄化の嵐が吹き荒れるだろう。

成功 🔵​🔵​🔴​

雛菊・璃奈
影には【影竜進化】で進化したミラ達を潜ませて、身体を完全に隠せるくらいの大きさのフード付きのボロのマントを被って(外見が見える程度)流れ者の孤児を偽装…。

孤児達の集まりやスラムで持ってきた食糧等と引き換えに業者についての噂や目撃情報等の情報を集めたり、情報からアジトのある歓楽街やその近辺を歩き回ったりしつつ、自身を囮に業者の誘拐担当を誘き寄せ、路地裏等の人目の付かない場所でミラ達が影に引き摺り込む等して捕縛し尋問…。

そこから誘拐犯に業者のアジトまで誘拐して来た商品と偽らせて連れて行かせ、業者のボスを【呪詛、高速詠唱】呪詛の縛鎖で捕縛…。
吸血鬼の情報収集とみんなの解放を行うよ…。

容赦はしない…。



「ねえ……少し、話を聞かせてもらっていい……?」
「うん? なあにおねえちゃん、知らない顔だね」
 フード付きの大きなマントで身体をすっぽりと覆った少女が、寂れたスラムで浮浪児達に話しかけている。風体からすれば流れ者の孤児のような、みすぼらしい娘。
 彼女――雛菊・璃奈(魔剣の巫女・f04218)はマントの内側から一切れのパンを取り出すと、見慣れないよそものを警戒している子供達にそっと差し出す。
「これ、あげるから……」
「わっ、メシだ! 何でも聞いて!」
 途端に子供の表情は和らぎ、璃奈の手の中からパンは一瞬にして消える。
 明日をも知れぬ暮らしを送る浮浪者にとって、食糧は何より大事なのだ。

「この辺りで、子供が消えるって噂を聞いたんだけど……」
「あー、それマジだよ。ボクらの仲間や知り合いもいなくなってるし」
「"どれー"にするために"ゆーかい"されたってはなしでしょ?」
 人身売買業者の噂について璃奈が尋ねてみると、浮浪児達からはすぐに答えが返ってきた。身よりもなく、いなくなっても気にされない彼らは業者にとっては格好の獲物であり、既に何人もの被害者が出ているようだ。
「あっちの方の狭い道は通らないほうが良いよ。連中に捕まりたくなかったらね」
「私、見ちゃったの、おっきな動くズタ袋を担いだ人が、歓楽街のほうに歩いていくのを……」
 誘拐犯の手口から目撃情報まで、当事者である彼らは様々な情報を教えてくれる。
 それは業者を追う璃奈にとっては、敵を追い詰めるための大きな手がかりとなった。

「ありがとう……みんな気をつけてね……」
 子供達と別れた璃奈は、誘拐が多発していると聞いた場所にあえて足を運ぶ。
 そこは人目につかない路地裏で、業者のアジトがある歓楽街からも近い。少しその近辺を歩き回っていただけで、這い寄るような嫌な視線が迫ってくるのを感じた。
(来てるね……ミラ、クリュウ、アイ、お願い……)
 璃奈は己の影の中に潜ませた【呪法・影竜進化】を果たした仔竜達に呼びかける。
 影竜はすぐさま彼女の影から路地裏の影へと伝いながら飛んでいき――ほどなくして「ぐえっ?!」「ぎゃっ!」という悲鳴と共に、追跡の視線は途絶えた。

「みんなご苦労さま……」
 すいすいと影を泳ぐようにして戻ってきた影竜達は、半身を影に沈められた怪しい男達を引き連れてきた。こいつらが人身売買業者の誘拐犯だろう。
 璃奈はさっそく彼らの尋問を行う。とはいえ下っ端から得られる情報だけで核心に迫れると考えたわけではなく、本命となる目的はもうひとつある。
「ここで死にたくなければ、わたしの言う通りに従って……」
「へ、へいっ、わかりやしたっ」
「だ、だから喰わないでくれえっ」
 後ろからミラ達が牙を剥き出して威嚇すれば、怯える誘拐犯どもはあっさり折れた。
 彼らが裏切れないよう影に仔竜を潜ませつつ「それじゃあ……」と璃奈は計画を告げる。

「おお、それが次の商品か」
「へい。今回は中々の上玉ですぜ」
 ――数刻後。璃奈はボロボロのマントを被ったまま腕に縄を打たれ、人身売買業者のアジトまで連れて来られていた。縄を持っているのは先程路地裏で捕まえた誘拐犯ども。そして目の前にはその上役と思しい成金じみた格好の男が立っている。
 誘拐犯に自分を捕まえてきた商品だと偽らせ、アジトの奥に潜入し、実際に人身売買業を行っているボスを見つける。それが彼女の作戦であった。

「浮浪者にしちゃ勿体ねえ美人です。よくご覧になってくだせえ」
「ほほう、どれどれ……」
 下卑た笑みを浮かべながら、疑いもせずにのそのそと近付いてくる男。
 そのぶよついた手がフードを捲った瞬間――璃奈は素早く呪術の詠唱を紡ぐ。
「捕まえた……」
「ぐおっ?! な、なんじゃこれはっ?!」
 虚空より出現した呪詛の縛鎖が、男のたるんだ身体を締め上げ、拘束する。
 まさに一瞬の早業。璃奈はマントを放り捨てると、見せかけだった腕の縄を解き、ようやく辿り着いた本命への尋問を始めた。

「貴方達の取引相手……吸血鬼の情報を教えて……」
「な……そ、それは言えん! 情報を漏らしたと知られればあのお方に殺され……」
 この期に及んで話しぶろうとする男の目と鼻の前を、妖刀の刃がすっと走る。
「だったら容赦はしない……」
「ひ、ひぃッ! わ、わかった、わかりましたっ!」
 話さなければ今ここで死ぬと、璃奈の本気の気迫を受けてようやく彼も悟った。
 彼の話すところにによると、かのヴァンパイアはこの町の付近の別荘で、大勢の奴隷と共に享楽に耽っている。奴隷達の命をオモチャにした、血と残虐のパーティを。
「別荘の警備は手薄だが……その分身軽にすぐ居場所を変えることができる。そもそもあの御方にそもそもそんな護衛など必要なのかどうかもわからんしな」
 つまり、ここであまり時間をかければ、折角敵の居所を掴んでも、移動されてしまうかもしれないということだ。

「貴方達はここにいる子達を自由にして……」
「「へ、へいっ!!」」
 あまり悠長にしている時間はないとみた璃奈は、元誘拐犯と業者どもに奴隷達の解放を指示して、自らはすぐにアジトの外へ駆け出す。
 その手にある呪われし刃を、忌まわしき全ての元凶に突き立てるために。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 集団戦 『隷属から逃れる術を知らない少女達』

POW   :    命より重い忠誠を誓おう
【忠誠を誓った者から授かった力】に覚醒して【命を省みず戦う戦士】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD   :    主のためなら限界すら越えて戦い続けよう
【主の命令書を読み限界を超えた捨て身の攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ   :    主人に永遠の忠誠を誓おう
【忠誠を誓う言葉】を聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する。

イラスト:すねいる

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 人身売買を行ってきた業者達を追い詰め、ヴァンパイアの情報を入手した猟兵達。
 それぞれの情報に齟齬がないか、互いに照合を行った結果、敵の人物像も見えてきた。その名は「ローザリア」、血と闇と残虐を好み、奴隷達を使った残酷な享楽に耽るという、ある意味で非常に「ヴァンパイアらしい」ヴァンパイアである。
 彼女は現在、町の北側に構えた別荘に滞在中らしく、その警備は手薄だという。早くしなければ居を移される恐れもあるが、襲撃を仕掛けるには絶好の機会だ。


 かくして猟兵達は、町の郊外にあったヴァンパイアの別荘に辿り着く。
 威圧的な様相の扉を破り、血の匂いに満ちた廊下を駆け抜ければ、その先で待ち受けていたのは一人の女。そして、数十人はいようかという、鎖で繋がれた奴隷たち。

「あら――? 呼んだ覚えのない客がやって来たわね。不愉快だわ」

 赤い液体で満たされたグラスを片手に、不快感も露わに眉をひそめる高慢な女。
 彼女こそがこの別荘の主。すなわちヴァンパイア「ローザリア」に違いないだろう。
 そして周囲にいるのはヴァンパイアに買われた子供たちか。生存者がいたのは僥倖だが、ボロ布のような衣服を纏った彼女らはみな虚ろな目をしており、猟兵達を見ても「助けが来た」と喜ぶものは一人もいない。

「帰りなさい、不埒者。いえ――いいことを思いついた。貴女達、あいつらを始末なさい」

 そんな少女達にローザリアが命じたのは、猟兵の排除。すると彼女らはそれぞれに武器を――食器のフォークやナイフといった、武器とすら呼べない粗末なものを拾い上げて、猟兵達の前に立ちはだかる。

「主の……望みのままに……」

 彼女らはまだ生きている。しかし肉体よりも先に、心のほうが折れかけている。
 一体どれほどの残虐と悪意に晒されたのか、ボロボロになるまで酷使された少女達は、ゆえにこそ主人に忠誠を誓うことでしか己を保つことができないのだ。
 それが勝てるはずがないと分かっていても、死ぬと決まりきった命令でも。

「お前達がここに来たのは、その奴隷どものためでしょう? だったら互いに殺し合うが良いわ。どちらが死ぬにしても、なかなか面白い見世物になりそう♪」

 そう言って、愉悦に満ちた残酷な笑みを浮かべる吸血鬼ローザリア。
 その間に立ちはだかるのは、隷属から逃れる術を知らない少女達。

 ――すべての元凶を討つためには、この悪辣なる障害を乗り越えるほかにない。
 いかにして彼女らを隷属より「解き放つ」のか? 猟兵達の力と機転が試される。
シャルロット・クリスティア
◎ユア(f00261)さんと

まったく……何が楽しいのか。
吸血鬼と言うのは、趣味も悪い方向で似通うもののようですね。

……しかし、典型的な手です。故に対策も容易。
ユアさん、出来るだけ一カ所にあの子たちを誘い込めませんか?
後はこちらで何とかします。

状況が整うまでは、私は精神統一。
手間取れば手間取る程、あの子たちが危険に晒されることになる。確実に決めなければ。

被害が出る前に集まるだけ集まったら、その中央目掛けてポイズンボールを投擲、投げ割ります。
中に詰まっているのは非致死性の麻痺毒。たちまち気化して煙になり、吸えば容易に身体の自由を奪う。

……しばらくすれば治ります。それまでに奴は片づけておきますから。


ユア・アラマート
シャル(f00330)と

楽しそうで何よりなんだが、本当にお前たちは代わり映えしないな
いや、浅はかで助かる。おかげでこっちはやりやすい

オーダーはそれでいいんだなシャル。承ったよ
少女達の前に飛び出し、気を引きつける
【見切り】で攻撃を避けながら、艶災で生み出した炎を操作して徐々に少女達を一箇所に集めていこう
できるだけ多く、そのためなら多少の傷は問題にならない
集めきったら、あとはシャルの出番だ
一時的に無力化し、無駄な戦闘を可能な限り避ける

もう大丈夫だ
目が覚めたら悪い夢は終わっている
全て元通りになるには時間はかかるが、辛い思いをする必要は無い
だから少しの間、ここで寝ていてほしい
ではシャル。最後の仕上げだ



「楽しそうで何よりなんだが、本当にお前たちは代わり映えしないな」
「まったく……何が楽しいのか。吸血鬼と言うのは、趣味も悪い方向で似通うもののようですね」
 もう何度、このような悪辣な趣向を愉しむヴァンパイアを見たことか。嘆息と呆れ、そして静かな怒りを抱きながら、ユアとシャルロットは戦いの構えを取る。
 この程度のことで自分達が対応に窮するとでも思っているのか。そして救うべき命を見捨てるとでも侮っているのか、あのヴァンパイアには誤りを教えてやらねばなるまい。

「……しかし、典型的な手です。故に対策も容易」
「いや、浅はかで助かる。おかげでこっちはやりやすい」
 目の前に立ちはだかるのは隷属から逃れる術を知らない少女達。粗末な道具だけを持たされ、主人のために命を省みず戦うことを強要された哀れな奴隷である。
 ふたりに彼女達を殺すつもりは無い。さりとてヴァンパイアに盲従する彼女らは容易にそこを通してはくれないだろう――だが、突破するための策はもう考えてある。
「ユアさん、出来るだけ一カ所にあの子たちを誘い込めませんか? 後はこちらで何とかします」
「オーダーはそれでいいんだなシャル。承ったよ」
 戦場を俯瞰できる後方の位置に立つと、ポケットから何かを取り出すシャルロット。
 その頼みを受けたユアは、こくりと頷くと少女達の前に飛び出す。相手の注意を引きつけ、無力化する好機を作り出すために。

「私達の主人に永遠の忠誠を……」
 うわ言のような誓いの言葉を口にしながらユアに殺到する少女達。戦いの素人らしくその動きはぎこちなく、目の前の相手をとにかく叩くことしか考えていない。
 ヴァンパイアにそれなりの力は与えられているのか、中には人間離れした動きを見せる者もいるが――技巧も工夫もないただの特攻など、ユアには容易く見切られる。
(むしろ勢い余って傷つけてしまわないよう気をつけないとな)
 ひらりひらりと蝶のような身のこなしで攻撃を躱しながら、発動するのは【艶災】。羽を模した紫色の炎を舞い散らせ、牽制として少女達に向けて放つ。
 追い詰めれば逆に彼女達は炎に焼かれることも覚悟で襲ってくるかもしれない。だからあえて避けられるように隙や予備動作を大きくして、動きを誘導する。
「さあ、私はこっちだ」
 誘いとはいえ敵の前で隙を見せるのは言うまでもなく危険な行為だ。だがユアは作戦のためなら多少の傷は問題にならないと、迫る凶器を捌きながら囮役と誘導に徹する。

(ユアさんは上手くやってくれていますね。私もしくじらないようにしないと)
 相方が少女達を誘導する間に、シャルロットは肩の力を抜いて【精神統一】する。
 その手には特殊な薬液が封入された、ガラスの小玉が握りしめられている。このガラス玉ひとつに、少女達を傷つけずに無力化する、この作戦の成否がかかっていた。
(手間取れば手間取る程、あの子たちが危険に晒されることになる。確実に決めなければ)
 被害が出る前に一発でなるべく大勢を、味方にも被害を及ぼさぬよう無力化する。
 その難易度から双肩にかかるプレッシャーを吹き飛ばすために、シャルロットは深呼吸をひとつ。この程度で押し潰されてしまうほど、彼女の心は柔くはない。
(大丈夫……落ち付いてやればできます)
 意識を研ぎ澄ませ、鋭い眼光で戦場を俯瞰し、状況が整うその瞬間を見極める。

(できるだけ多く、少女達を一箇所に……)
 ユアの操る紫炎の羽は、いつしか少女達の周りをぐるりと取り囲んでいた。相手は目の前の標的を倒すことに躍起となるあまり、まだそれに気付いてはいない。
 さながら牧羊犬と羊のように、相手を傷つけることなく囲いの中に入れる妙手。それを可能としたのはユアと少女達との実戦経験の差であろう。
「「……今!」」
 ユアが少女達を集めきったら、あとはシャルロットの出番。集団の中央めがけて「ポイズンボール」が投げ込まれるのと、役目を果たしたユアが飛び退くのは同時だった。

「っ?! なに、これは……?」
 パリンと音を立てて砕けたガラス玉。その中に詰まっていたのは非致死性の麻痺毒。
 たちまち気化して煙になり、吸えば容易に身体の自由を奪う。玉が着弾する位置も、そこからガスが広がる範囲も、すべてシャルロットが事前に計算した通り。
「ぅ……からだ、が、しびれ、て……」
 またたく間に煙に取り巻かれた少女達は、凶器を取り落とすと力なくその場に倒れこむ。当分は指先ひとつ動かせないだろうが後遺症の類はなく、身体にも傷一つ付いてはいない。

「……しばらくすれば治ります。それまでに奴は片づけておきますから」
 散布された毒が大気に散って消えるのを待ってから、シャルロットは前に出る。
 倒れた少女達に穏やかに声をかけながら、その視線が射抜くのはローザリア。
 思惑通りの結果にならず不満げな表情を見れば、少しは溜飲も下がるというもの。
 ここからは容赦はいらないと、銃士の手の中で魔導銃が鈍色の唸り声を上げる。

「もう大丈夫だ。目が覚めたら悪い夢は終わっている」
 そして無事に誘導役を果たしたユアは、倒れ伏した少女の目元をそっと覆う。
「全て元通りになるには時間はかかるが、辛い思いをする必要は無い。だから少しの間、ここで寝ていてほしい」
 優しい言葉に包まれながら、麻酔によって少女達の意識は闇に沈んでいった。

「ではシャル。最後の仕上げだ」
「はい、ユアさん。ここで終わらせましょう」
 悪辣なる吸血鬼の思惑を打ち砕いたふたりの前に、もはや障害となるものは無し。
 高座にて見下ろす全ての元凶に引導を渡すべく、彼女たちは前に進む。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ボアネル・ゼブダイ
アドリブ連携OK

ローザリア…と言ったか…貴様の相手は最後になるが、安心しろ
死ぬ前に懺悔の言葉を吐く時間は与えてやろう

彼女達を殺すわけにはいかんな
助けられる者は残らず救う…それが聖者の仕事だ
フランマ・スフリスを装備
少女達を繋ぐ鎖だけを早業で振るい切断し、杖のような刀身で気絶攻撃を行い、少女達を昏倒させていく
忠誠の言葉で強化されても彼女らの体力を見極めて攻撃
重傷を負わせないように徹底する
この剣が求めるは異端の血のみ…罪無き者の命は奪わん

何も心配することはない
我々が必ず助け出す

気絶した少女達が増えてきたらUCを発動
折れた心と傷付いた体を優しい歌声で癒していく

今は安心して安め
君達の悪夢はもうじき終わる



「彼女達を殺すわけにはいかんな。助けられる者は残らず救う……それが聖者の仕事だ」
 隷属を強いられし少女達を前に、ボアネルは愛剣フランマ・スフリスを抜き放つ。
 普段ならばその黄金の刀身より吹き上がる炎は、今はなりを潜め、傍から見たそれはただ神々しい輝きを放つ美しい黄金の杖のように人々の眼に映る。
 その輝きは無辜の民を決して見捨てまいという、気高き魂の証のようでもあった。

「ローザリア様の命令は絶対なの……お願い、死んで……!」
 粗末な凶器をぎゅっと握りしめ、主の名を唱えながら特攻を仕掛けてくる少女達。その心を縛りつける恐怖と暴力は、皮肉にも彼女らを死を恐れぬ兵士に仕立て上げる。
 だが、所詮は素人の刃。死線の中で剣戟を磨いたボアネルに届く力量ではない。
「少し手荒になるが、許せよ」
 僅かな歩法のみで攻撃を躱し、即座に返しの一太刀を放つ。目にも止まらぬ早業で振るわれた黄金の刃は、少女を繋ぐ奴隷の鎖のみを根本から切断した。
「え……くぅっ!?」
 驚いている間も与えず、刃筋を立てずに杖のような刀身でさらに一撃。加減されたとはいえ相応の衝撃を食らった少女の意識はそこで途切れ、その場に昏倒する。

「ローザリア様のために……」
「ご主人さまに忠誠を……」
 仲間を打ち倒されても、少女達はなおも誓いの言葉を口にしながら襲ってくる。厄介なことにその言葉には一種の呪いか、彼女らの戦闘力を増強する効果もあるようだ。
 しかしボアネルは冷静に、相手の体力を見極めながらひとりひとり対処していく。
「この剣が求めるは異端の血のみ……罪無き者の命は奪わん」
 たとえ強化されても動きが劇的に変わるわけではない――落ち着いて攻撃を捌き、黄金の杖で気絶させる。決して少女達に重傷を負わせないように徹底しながらだ。

「……どうして……?」
 やがて少女達も気付くことになる、ボアネルが自分達に手加減していることに。
 殺すつもりで襲ってくる相手にどうしてそこまでするのか――疑問を抱く彼女らに、誇り高き聖者にして騎士は優しく語りかけながら剣を振るう。
「何も心配することはない。我々が必ず助け出す」
 慈悲の一撃にて少女を気絶させながら、紡ぎあげるのは【招き入れる歌声】の詠唱。天上より召喚されし光り輝く精霊達が、少女達の心身を治療する歌を奏でる。
 折れた心も、傷付いた体も、優しい歌声はすべてを癒やすように戦場に響き渡る。

「今は安心して安め。君達の悪夢はもうじき終わる」
「ぁ……あり、がとう……」
 精霊の歌に包まれながら、ひとり、またひとりと意識を手放していく少女達。
 その表情は安らかで、まるで長く繋がれていた呪いから解き放たれたようだった。

「耳障りな歌ね。気持ち悪い」

 邪なるものを祓う清らかな歌は、悪しき吸血鬼にとってさぞ不快だったのだろう。
 端正な顔を歪めながら吐き捨てる女領主を、ボアネルは冷たい眼差しで一瞥し。
「ローザリア……と言ったか……貴様の相手は最後になるが、安心しろ。死ぬ前に懺悔の言葉を吐く時間は与えてやろう」
 この少女達を含め、多くの人々を傷つけ弄んだ罪は、贖わなければならない。
 青年の纏う気配は慈悲深き救済者から、厳しき断罪者のそれへと変わりつつあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

イリーツァ・ウーツェ
隷属。洗脳か
為らば、其れを消す
以前、脳を侵す電脳を消した事が有る
同じ事だろう

此の身は堅く、鋼[金属]を通さない
多少暴れても構わん
武器からして、近接戦を挑むだろうから
頭を掴み、UCで“吸血鬼への忠誠心”を消す
後は放置するか、暴れる様なら軽く叩いて気絶させる

邪魔をするな
隅で大人しくしていろ
自分の意思で向かって来たならば、
其の時は、遠慮無く殺すぞ



「隷属。洗脳か。為らば、其れを消す」
 鎖に繋がれた少女達を前にして、イリーツァは徒手のまま指をこきりと鳴らす。
 明らかに正気とは思えない相手方の様子から、元凶であるヴァンパイアに何か「仕込まれた」と判断したようだ。問題は、それを消し去るための手段だが――。
「以前、脳を侵す電脳を消した事が有る。同じ事だろう」
 それが科学的なものか、魔術的なものかの違いなどは些細なこと。
 できると確信したのであれば彼はそれを断行する。ただそれだけだ。

「私達の命はローザリア様のもの……」
 虚ろな瞳のまま、少女達は後退を知らぬかのようにひたすら突撃を続ける。
 忠誠を誓いし主より与えられた力は、非力な彼女らを命を省みぬ戦士に変える。
 しかしその力は、鋼をも通さぬイリーツァの竜鱗を貫けるほどのものではない。
(多少暴れても構わん)
 遮二無二に向かってきては粗末な凶器を突き立てようとする少女達の攻撃を、彼は全て受け止める。その身は堅く、傷一つないどころか痛痒すら感じていない様子だ。
 彼はそのまま手近にいた少女に手を伸ばすと、無造作にがしりと頭を掴んだ。

「は、はなしてっ」
 頭を鷲掴みにされてじたばたと暴れる少女。しかしイリーツァはそんな抵抗を意にも介さず、接触した手からおもむろに【天稟性・正号滅失】を放つ。
「去ね」
 それは彼が選択した対象を、物質であれ概念であれ絶対消滅させる攻撃。此度の一撃にて彼が消し去ったのは、少女に植え付けられた"吸血鬼への忠誠心"だった。
「ぅ……っ、ぁ……!」
 その瞬間、見えない鎖が砕け散るような音が響き、虚ろだった瞳に光が戻る。
 命を投げ捨てるような鬼気迫った気配は消え、そこにいるのはごく普通の少女だった。

「ぇ……わたし、いったい……?」
「正気に戻ったか」
 イリーツァは呆けたように立っている少女から手を放すとそのまま放置する。暴れるようなら軽く叩いて気絶させるつもりだったが、この分ならその必要もあるまい。
 長らくヴァンパイアの支配下にあった彼女は、突然の解放に戸惑っている様子だった。
「邪魔をするな。隅で大人しくしていろ」
 もはや"敵"ではなく、こちらを害してこない相手を攻撃するつもりはない。イリーツァは一瞥すらくれずにそう告げると、今だ隷属下にある少女達の相手をする。
 頑健なる体躯にて攻撃を受け止め、掴まえた端から【天稟性・正号滅失】にて洗脳を解除していく。その手並みに淀みはなく、まるで赤子の手をひねるようであった。

「自分の意思で向かって来たならば、其の時は、遠慮無く殺すぞ」
「ひっ……は、はいっ……た、たすけてくれて、ありがとうございましたっ」
 冷徹で淡々とした語調に、それが本心であることを感じ取ったか。解放された少女達は青ざめた顔でこくこくと頷くと、戦いに巻き込まれないよう離れていく。
 邪魔者が消えればあとは元凶を滅ぼすのみ。今だ牙を収めたままの負号の竜の足取りは、高みの見物を決め込むヴァンパイアの元へと、着実に迫りつつあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フレミア・レイブラッド
典型的で悪趣味なヴァンパイア。
力はそれなりみたいだけど、底は知れたモノね。

【サイコキネシス】で外部からの干渉遮断し少女達を隔離する念の結界を形成し、【念動力】で内部の少女達を拘束。
更に【虜の軍勢】で雪花、花魁猫又、万能派遣ヴィラン隊、エビルウィッチ、黒い薔薇の娘たちを召喚。
彼女達の確保(抵抗する場合は猫又の【さあ、いい夢見せてあげるニャ♪】を中心にUCで鎮圧)と保護を命じるわ。

自身は結界を形成しつつ、ローザリアが手出しできない様牽制。
出ししてきた横槍は結界で防ぐか全て魔力弾【高速詠唱、誘導弾、属性攻撃】で迎撃するわ。

わたしを信じなさい。貴女達に手出しはさせないし、あの女の思い通りにさせないわ



「典型的で悪趣味なヴァンパイア。力はそれなりみたいだけど、底は知れたモノね」
 此度の元凶であるローザリアの人物像をそう評したフレミアは、吸血鬼に支配された少女達を見やる。あんな輩にこれ以上弄ばれる前に保護してやるのが情けだろう。
 彼女がすうと目を細めると、その身から放たれた【サイコキネシス】が、外部からの干渉を遮断する念の結界を形成する。それはあの悪辣なヴァンパイアに横槍を入れさせないためのものだった。

「これはなに……っ?!」
 結界の中に隔離された少女達は、戸惑う間もなく不可視の力場によって拘束される。
 それはフレミアの操る念動力。向こうが身動きが取れずにいる間に、彼女はさらに【虜の軍勢】を発動し、過去に虜とした忠実なる眷属の集団を召喚する。
「わたしの可愛い僕達……さぁ、いらっしゃい♪」
 最初に現れたのは雪女見習いの雪花。続いて花魁猫又、万能派遣ヴィラン隊、エビルウィッチ、黒い薔薇の娘たち――見目麗しく個性豊かな眷属らが一堂に会する。
 彼女らはフレミアの命令に応じて即座に動きだし、結界の中にいる少女達の確保と保護に向かった。

「さあ、いい夢見せてあげるニャ♪」
「な、なんなの……っ?!」
 抵抗しようとする者は、花魁猫又をはじめとして殺傷力の低いユーベルコードを持つ眷属で鎮圧。元はオブリビオンであったフレミアの眷属はいずれも相応の能力を持ち、主から力を授かっているとはいえただの奴隷少女に引けを取るものではない。
「こ、こんなとき、どうすれば……」
 混乱する少女達はとにかく主からの指示に従おうとするが、外部と遮断されたこの結界内ではその命令も届かない。あわあわと狼狽えているうちに、ひとり、またひとりと眷属の手によって確保されていく。

「私達は貴女達を傷つけに来たわけじゃないわ。安心しなさい」
 フレミアは念の結界を維持したまま、保護した少女達に穏やかな口調で語りかける。
 自分達は敵ではない。むしろ救うために来たのだと、これまでの経緯をかいつまんで説明する――だが、闇に囚われきった少女達の心は容易には解きほぐせない。
「ローザリア様の言う通りにしないと……また、お仕置きされる……」
 暴虐と恐怖によって植え付けられた忠誠心。それは彼女らから反抗の意思を奪い、解放されたいと願う気力さえ奪っていた。

「私の玩具に余計なことを吹き込まないでくれるかしら?」
 ふいに結界の外から放たれた殺気。同時に、これまで高みの見物を決め込んでいたローザリアから凄まじい闇があふれ出し、血の魔力を塗り固めた矢が放たれる。
 フレミアは咄嗟に意識を集中させてサイコキネシスの強度を高めると、闇の侵食を結界で防ぎ、誘導式の魔力弾を放って矢を迎え撃った。
「もうこれ以上、この子達に手は出させないわよ」
 無粋な横槍を入れさせないために用意したのがこの結界。ローザリアの介入はことごとく阻まれ、中にいるフレミアの眷属や少女達には傷ひとつない。

「わたしを信じなさい。貴女達に手出しはさせないし、あの女の思い通りにさせないわ」
 行動をもってその言葉を証明したフレミアは、もう一度少女達に呼びかける。
 隷属から逃れる術を知らない少女達にとって、ローザリアは誰も逆らうことのできない絶対的な存在だった。しかし今、フレミアはその認識にヒビを入れてみせた。
「ほんとうに……たすけてくれるの……?」
 虚ろだった少女の瞳から、ぽろりと一粒の涙が零れ落ちる。それは彼女達の心が吸血鬼の支配から解き放たれた証であり、フレミアの言葉が届いた証明でもあった。

「勿論よ。あんな女の好きになんてもう二度とさせないわ」
 フレミアは力強く頷くと、少女達を安全な場所まで保護するよう眷属達に命ずる。
 そして自らは闘志を漲らせながら、彼女達を苦しめた元凶を睨み据えるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雛菊・璃奈
この子達は必ず救ってみせるよ…。その為にここまで来たんだ…!

【呪詛、高速詠唱】で呪力の縛鎖を発動して動きを封じ、【呪詛、催眠術】による言霊術で彼女達を助けに来たから落ち着いて信じて欲しいという風に術を用いて心に浸透させ、戦意を低下させ、戦闘放棄した子はそのまま保護…。
戦闘継続する子は【神滅】で力の源を断ち切り、気絶させて確保するよ…。
保護した子達は引き続き【影竜進化】で影に潜ってた仔竜達に影の中に匿う様に指示し、影の中に潜航する形で保護…。

ローザリアを倒して安全確保できるまで仔竜達と影の中にいて貰うよ…。

覚悟すると良いよ吸血鬼…おまえは絶対に許さない…!



「この子達は必ず救ってみせるよ……。その為にここまで来たんだ……!」
 その瞳に強い決意をみなぎらせ、吸血鬼に隷属させられた少女達と対峙するは璃奈。
 彼女もかつて故郷を滅ぼされた後、オブリビオンの奴隷として捕まっていた過去がある。その当時の過酷な記憶が、目の前にいる少女達と重なるのかもしれない。
 手には妖刀を握れども相手を傷つける意志はなく。今、彼女が剣を取る理由は、少女達を縛りつける隷属の鎖を断ち切る――ただ、それだけだった。

「救いなんて……わたしたちには……!」
 悲壮な覚悟と絶望を抱いて、がむしゃらに襲い掛かってくる少女達。余興のために主から力を与えられ戦いを強要される彼女らに、後退や保身といった言葉は無い。
 しかし璃奈は接近される前に素早く詠唱を紡ぐと、呪詛を編みあげた呪力の縛鎖にて彼女らの動きを封じる。傷つけるためではなく、言葉を伝える猶予を作るために。
「わたしはあなた達を助けに来た……どうか落ち着いて信じて欲しい……」
 その呼びかけは単なる声ではなく呪力を込めた言霊術。ある種の催眠術のようなもので、言葉に宿る想いをより相手の心に浸透させ、戦意を低下させる術だ。

「たすけに……きてくれたの……? ほんとうに……?」
 言霊に込められた璃奈の真心を感じた少女達は、縛鎖に封じられたまま動揺する。
 清らかな水のように優しくて穏やかな想いが、絶望に乾ききった心を潤していく。
 忘れていたはずの希望を思い出し、中にはその場で戦闘を放棄する少女もいた。
「だめ……ローザリア様には、誰も逆らえないの……!」
 それでも多くの少女の心には、吸血鬼から受けた隷属の楔が深く刻まれている。
 彼女らはあくまでも主の命令を果たすために、呪鎖を引きちぎろうと藻掻き始める。そのために骨が折れても腕が千切れても構わないと言わんばかりの勢いだ。

「あなた達を縛りつける力の源……わたしが断ち切るよ……」
 璃奈は戦闘を継続しようとする少女達に近付くと、妖刀に莫大な呪力を込めて一閃する。それは肉体ではなく対象の核や力の根源のみを斬る、【妖刀魔剣術・神滅】。
 音もなく横一文字に薙ぎ払われた刃は、少女達に授けられた吸血鬼ローザリアの力のみを断ち切り、その隷属から彼女らを解き放った。
「くぅ……っ!?」
 急激に力を失った反動だろう、ごく普通の人間に戻った少女達は気を失ってその場に倒れ伏す。その表情は、まるで憑き物が落ちたように安らかだった。

「ミラ、クリュウ、アイ、この子達をお願い……」
 璃奈は【影竜進化】を保っている仔竜達に頼み、無力化して確保した少女達を匿うように指示する。戦いが終わるまでは影の中に保護しておくのが一番安全だろう。
「ローザリアを倒して安全確保できるまでの辛抱だから……」
「……わかった。あなたのこと、信じるから」
 少女の中には影に入るのに不安そうにする者もいたが、璃奈がそう説得すると信頼した様子でこくりと頷き、仔竜と共に影の中に潜っていった。

 ――少女達を保護し終えれば、もはや璃奈と元凶の間を阻むものは何もない。
「覚悟すると良いよ吸血鬼……おまえは絶対に許さない……!」
 呪力纏いし妖刀の切っ先を突きつけ、魔剣の巫女は怒りと決意を込めて宣言する。
 数多の人々の命を弄び、隷属を強いてきた罪の重さを、あのヴァンパイアに思い知らせるために。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セルマ・エンフィールド
少女たちのボロボロの姿を見て、自分はかつて従っていた吸血鬼からまだ丁寧に扱われていたのだなと思う。
とはいっても人間がペットをかわいがるような、飼っている猟犬としての可愛がり方であり、主の手を噛んだ時は「躾」をされたものだったが。
それでも精神が摩耗し吸血鬼に従わされている姿はかつての自分と重なって見えた。

だから、というわけではありませんが……殺す気はありません。

攻撃のためにこちらに近づく=ローザリアから離れるまで引き付け、両手でデリンジャーを『クイックドロウ』、武器を振るわれるより早く【氷枷】を両手両足と首に。

しばらくそこで待っていてください。
動けるようになるころには、全て終わらせます。



(この方たちに比べると、かつての私はまだ丁寧に扱われていたのですね)
 ボロボロの衣服に奴隷の鎖のみを与えられ、フォークや矢といった武器とすら呼べないものを手に襲い掛かってくる少女達を見て、セルマはふと昔のことを思う。
 丁寧に、とはいってもそれは人間がペットを可愛がるような、飼っている猟犬としての可愛がり方であり、主の手を噛んだ時はきつい「躾」をされたものだったが。
 それでも彼女の目には、精神が摩耗し吸血鬼に従わされている少女達の姿が、かつての自分と重なって見えた。

「だから、というわけではありませんが……殺す気はありません」
 迫りくる相手に対して、セルマはゆっくりと引きつけるような動作で後退する。
 向こうが攻撃のためにこちらに近付けば、その分ローザリアからは離れる。できる限り少女達を吸血鬼から引き離すことが彼女の狙いだった。
「ローザリア様のご命令……殺さないと……殺さないと……!」
 右手にはフォークを、左手には主の命令書を握りしめた少女は、尻尾に火が付いた猟犬のようにひたすらセルマを追う。主への忠誠と恐怖心から限界を超えたその動きは、我が身のことを一切省みない捨て身の構えであった。

「哀れむような資格が、私にあるのかも分かりませんが」
 真冬の湖面のように凪いだ瞳で、必死に追ってくる少女達を静かに見つめるセルマ。
 互いの距離はやがて縮まり、接近戦の間合いにまで踏み込んだ少女が、ついに凶器を振りかざす。
「おねがい、死んで―――っ!?」
 だがその瞬間、セルマはスカートの中に隠していたデリンジャーを両手で抜き放つと、相手が武器を振るうよりも早く照準を合わせ、トリガーを引いた。
「少々、小細工をさせてもらいましょうか」
 放たれた弾丸は両手両足と首に命中すると、それぞれ氷の手枷・足枷・首枷に変化する。それは標的の身を封じるのみならず、ユーベルコードの発動を封じる拘束力を有した【氷枷】であった。

「ぇ……?」
 銃声が鳴り響いたかと思えば、その手足と首には冷たい枷が。
 セルマの一瞬の抜き撃ちを、少女達は目で追うことすらできなかった。
「しばらくそこで待っていてください。動けるようになるころには、全て終わらせます」
 拘束した彼女らをその場に――吸血鬼との主戦場から離れた場所に置いて、セルマは撃ち切ったデリンジャーに弾を込めなおしながら歩き去っていく。
 身動きも取れず、主から与えられたユーベルコードの力も封じられた少女達は、ただ呆然とそれを見送る。全て終わらせる、といった言葉の意味を考えながら。

「たすけて……くれるの……?」
 背中のほうから聞こえてきた問いかけに、セルマは何も答えない。
 今、彼女の視界に映るのは、撃ち抜くべき獲物だけ――かつて吸血鬼の猟犬であった少女は、傲慢なる吸血鬼を討つための意志と力を手に入れていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

イリス・ローゼンベルグ
まあ、彼女たちの境遇には同情してあげるわ
無理矢理連れてこられた挙句、奴隷にされたんですものね
でも、私の目的はあくまであの悪党を殺す事
彼女たちのケアは仲間に任せましょう

その上で私が一番ムカつく展開は奴隷が死んであの悪党がほくそ笑む事ね
だから、相手への嫌がらせも兼ねて奴隷は全員殺さず拘束するわ

擬態を維持したまま【フェイクウェポン】を構え
「皆さん、やめてください!」
と少女たちを気遣い、満足に戦えない優等生を演じて
拘束と保護のためにこちらへ彼女たちを引き付ける
そして、わざと攻撃を受けた所で【薔薇は散らず】を発動
傷を再生すると共に【茨の触手】を展開
少女たちを拘束して毒棘による【マヒ攻撃】で動きを封じる



「皆さん、やめてください!」
 少女の擬態を維持したまま、奴隷の少女達を気遣うように呼びかけるのはイリス。
 その手には剣を構えているものの、切っ先は迷いを抱えるように揺れ、戦意はほとんど感じられない。一般人を相手に満足に戦えない優等生、といった振る舞いだ。

 ――だが、イリスのそれは姿形だけでなく、振る舞いも含めての擬態だった。
(まあ、彼女たちの境遇には同情してあげるわ。無理矢理連れてこられた挙句、奴隷にされたんですものね。でも、私の目的はあくまであの悪党を殺す事)
 彼女たちのケアは仲間に任せましょう、と敵を油断させるための「フェイクウェポン」の剣を振り回しながら、蠱惑の薔薇は優先すべき目的のために思考を巡らせる。
(その上で私が一番ムカつく展開は奴隷が死んであの悪党がほくそ笑む事ね)
 猟兵と奴隷が殺しあうこの状況そのものがヴァンパイアに仕組まれた余興なのだ。思惑通りに踊ってやって悪党を喜ばせてやるつもりなど、イリスにはさらさら無い。
 だから、相手への嫌がらせも兼ねて奴隷は全員殺さず拘束する。それが彼女の作戦方針となった。

「私たちはあなたたちと戦いに来たんじゃありません!」
 "優等生"の擬態を続けながら、イリスは襲ってくる少女達からじりじりと後退する。
 拘束と保護のために、なるべく多くの相手を自分の元に引きつけるのが狙いだ。
「お願いです、話を聞いて!」
「話すことなんて何もないわ……」
 一向に攻撃してこない相手にも、主の命令に縛られた少女達は容赦しない。
 粗末な凶器を振りかざし、己が命も省みない覚悟のもと、猛然と襲い掛かってくる。

「命令だから……殺さないと……!」
 そしてついに少女達の振るうフォークが、無防備なイリスの胸に突き刺る。
 だがその瞬間、防戦一方だった"優等生"はそれまでの態度を豹変させた。
「その程度? なら、期待外れね……」
「え……っ、なに!?」
 直後に発動するのは【薔薇は散らず】。受けた傷は瞬時に再生し、身体の至るところから無数の茨が伸びていく。仰天する少女達が逃げる間もなく、茨の触手は彼女たちの身体を雁字搦めに縛り上げた。

「あなたたちに恨みはないし悪党でもないから、このくらいにしておいてあげる」
 展開された茨の檻の中心で、本性を見せたイリスは艷やかに笑う。少女達に絡みつく茨の棘からは生成された麻痺毒が注がれ、その動きを完全に封じ込めていた。
 望むならば致死性の猛毒を打つこともできるが、先述のとおりそんな事をしても喜ぶのはヴァンパイアだけ。抵抗できない状態で放置しておくのが無難だろう。

「なによ、折角楽しめそうだと思ったのに、つまらないわね」
 高みからその様子を見物していたローザリアから、不満たらたらな言葉が漏れる。
 心底面白く無さそうに歪んだその表情を見るに、嫌がらせもそれなりに効果があったようだと、イリスは愉快そうに微笑むのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
此方の戦力を測り、あわよくば消耗させる
趣味と実益を兼ねた有効な戦法ですね

非道の対価は後で払って頂くとして、先ずは少女達への対処です

肉盾として嗾けた以上、完全にオブリビオンでは無いのは不幸中の幸い
生かして救うは騎士の義務、喜んで困難を選びましょう
…「過去」の少女達を鏖殺した時よりは気分は晴れやかです

身体能力が向上しても実戦経験不足は否めない以上個々の動きを●見切るは容易く、包囲されてもセンサーでの●情報収集で死角は無し
攻撃を躱してUCを浅く突き立て薬剤等を注入、眠らせて無力化

…肉体の呪縛を解き放っても精神の呪縛には私は無力
眠りから覚めた後の人生の支えが見つかることを願う他無いのが歯痒いですね…



「此方の戦力を測り、あわよくば消耗させる。趣味と実益を兼ねた有効な戦法ですね」
 "兵器として"のトリテレイアは、ヴァンパイアのとった戦術をそう評価する。
 敵の戦法や傾向を冷静に分析するのは、対策を講じるためにも必要なことだ。
 義憤で判断を鈍らせることなく、為すべきことを為せるのは彼の強みである。
「非道の対価は後で払って頂くとして、先ずは少女達への対処です」
 そして"騎士として"のトリテレイアは、虐げられし弱者を決して見捨てはしない。
 隷属の軛から少女達を解き放つため、機械仕掛けの騎士は【慈悲の短剣】を抜き放つ。

「この命にかえてでも……ご主人さまの命令を果たす……」
 うわ言のように忠誠の言葉を口にしながら向かってくる、虚ろな目をした少女達。
 その戦闘力は主から与えられた力によって強化されているようだが、肉盾として嗾けられた以上、完全にオブリビオンでは無いのは不幸中の幸いと言えるだろう。
「生かして救うは騎士の義務、喜んで困難を選びましょう」
 対峙するトリテレイアの堂々たる佇まいからは、不安要素は微塵も感じられない。
 むしろ、その口ぶりには喜びがにじみ、どこか安堵しているようでもあった。
(……『過去』の少女達を鏖殺した時よりは気分は晴れやかです)
 あのような事をもう二度と繰り返したくはない。まだ手遅れでないのならば、今度こそは救ってみせると、その想いが機械騎士の動力炉を激しく駆動させる。

「ごめんなさい……だけどこれが命令だから……!」
 そんな騎士の想いを知る由もなく、少女達はがむしゃらな勢いで襲い掛かってくる。
 身体能力が向上しているとは言えど彼女らは戦いの素人である。実戦経験不足は否めない以上、その動きは単調なものとなり、囲んで叩くくらいの戦法しか持たない。
 数多の戦闘経験を重ねたトリテレイアからすれば、そんな相手の個々の動きを見切るのは容易く、たとえ包囲されたとしても全身のマルチセンサーで死角は無い。
「当たらない……?」
「どうして……っ!」
 取り囲んで一斉に襲い掛かっても、少女達の攻撃は掠りもせずに尽く躱される。
 彼女らが狼狽するその隙を突いて、トリテレイアは慈悲の短剣を振るった。

「今、解放いたします」
「う……なに、これ……すぅ……」
 少女の胸に浅く突き立てられた短剣は痛覚麻痺と睡眠誘発剤、そしてオブリビオンの悪影響を除去する特殊なナノマシンを注入するためのもの。たちまちのうちに眠りに落ちた少女の身体から、ヴァンパイアに授けられた力は消え去っていた。
「どうか今は安らかにお休みください」
 トリテレイアはそのまま短剣を振るい続け、襲い来る者達を次々と無力化していく。
 吸血鬼の隷属から解放された少女達の寝顔はみな穏やかなものだったが――機械騎士はこれで万事彼女らが救われたとは思っていなかった。

「……肉体の呪縛を解き放っても精神の呪縛には私は無力。眠りから覚めた後の人生の支えが見つかることを願う他無いのが歯痒いですね……」
 少女達が奴隷の呪縛を乗り越えられるかどうかは結局、本人の気持ちにかかっている。
 騎士として為せることを為したうえで、トリテレイアにまだできることがあるとすれば――それは彼女らに呪縛を与えた元凶を、ここで討ち果たすことだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ルカ・ウェンズ
引き続きチーム≪隷放≫で依頼を受けます。
痛めつけた人身売買業者をプレゼントするためにも少女達を保護しないと。
【行動】
シホさんの【救園】で少女達を保護してもらうために、先ずは味方に「吸血鬼を悔しがらせたいから少女達を保護するわ!」と叫んだら寿命を削らせないように、さっさと胡蝶の夢を使って少女達に幻覚を見せるわよ。

失う代償は、プロに改造してもらった昆虫型機械生命体のおもちゃ…
おのれ吸血鬼!それに人身売買業者!悔しいから少女達に吸血鬼と人身売買業者を猟兵である私達と倒した夢を見せて、その間にシホさんの【救園】で保護してもらったら吸血鬼のアレやアレで外が汚いから掃除するからまっててね~と言わないと!


シホ・エーデルワイス
≪隷放≫
アドリブ歓迎

ルカさんから装備を受け取り普段の姿へ戻る


人身売買業者をプレゼントですか…
確かにこの後救助した子ども達を養う手段が必要ですし
償いに寄付してもらうのは良いかも?

少女達が流れ弾等で負傷しない様に警戒し
必要なら<かばう>

<優しさを込めた歌唱や
あえてオーラ防御や医術で急所を避けつつ少女達の刃を受け
手をつなぐで抱きしめつつ
【祝音】で少女達が勇気を取り戻せるように鼓舞>

痛みは少女達を救う覚悟で激痛耐性

助けに来るのが遅くなってごめんね
もう大丈夫
私達が来たからには死なせません

私は大丈夫
もっと酷い目に遭った事もあるから

解放した少女達は可能であれば【救園】に保護

ルカさんの虫はおもちゃだったの!?



「痛めつけた人身売買業者をプレゼントするためにも少女達を保護しないと」
「人身売買業者をプレゼントですか……」
 吸血鬼に隷属する少女達と対峙しながら、何やら物騒なプランを口にするルカ。
 彼女から預かって貰っていた装備を受け取り、奴隷から普段どおりの姿に戻ったシホは、最初はきょとんと首を傾げたものの、案外悪くないかもしれないと考える。
「確かにこの後救助した子ども達を養う手段が必要ですし、償いに寄付してもらうのは良いかも?」
 元を正せばあの業者達が溜め込んだ財産も、この少女達をはじめとする奴隷を売りさばいて得た金なのだ。けじめの付けさせ方としては妥当と言えるかもしれない。
 しかしそんな計画も、まずは彼女らを吸血鬼の隷属から解放してからの話だ。

「吸血鬼を悔しがらせたいから少女達を保護するわ!」
 前線へと颯爽と飛び出したルカはまず、味方に向けて自分達≪隷放≫チームの方針を叫ぶ。同時にシホも少女達が流れ弾等で負傷しないよう警戒体制を取るが、結果論としてみればこれは杞憂だったろう。作戦に参加した猟兵のほぼ全ては、少女達を極力傷つけずに無力化する方針で動いていたのだから。
「ありがとう、皆さん」
 誰にともなく感謝の言葉を伝えると、シホは透き通るような歌声を戦場に響かせる。
 それは恐怖と暴虐と絶望に縛られた少女達に送る、優しさを込めたエールだった。

「う……なに、この歌……」
「やめて……胸が、苦しくなるの……!」
 優しさと希望に満ちたシホの歌は、隷属から逃れる術を知らない少女達が忘れていたものを思い起こさせる。それは冷え切っていた心には、あまりにも暖かすぎる愛。
 希望なんて見てしまえば余計に辛くなる。闇に囚われることに慣れすぎた少女達はせっかくの光を拒絶しようと、粗末な凶器を握りしめてシホに襲い掛かった。
「シホさん!」
 思わずルカが叫ぶが、シホは大丈夫、と歌いながら視線だけでそれに応え。
 迫りくる少女達の刃をあえて避けるのではなく、その身で受け止めた。

「え……?!」
「どう、して」
 攻撃がまったく避けられなかったことに、驚いたのはむしろ少女達の方だった。
 オーラの障壁と医術の知識で急所は避けたものの、深々と刺さったフォークや矢から受ける痛みは相当だろう。しかしシホは顔色ひとつ変えずに微笑んでみせる。
「助けに来るのが遅くなってごめんね。もう大丈夫、私達が来たからには死なせません」
 絶対に救い出すという覚悟を胸に、少女達にそっと手を差し伸べ、抱きしめる。
 その唇から紡がれる歌は、この子達が絶望に抗う勇気を取り戻せるようにと鼓舞する――【苦難を乗り越えて響く福音】。

「……あったかい」
 聖者の腕の中に抱かれた少女達の瞳から、はらはらと涙が零れ落ちる。
 人のぬくもりを感じるなんて、一体どれほど久しぶりのことだろう。
 虚ろに濁っていたその瞳には、いつしか生気の輝きが戻ってきていた。

「流石ねシホさん。それじゃあ私も……眠りなさい」
 相方の無事を確認したルカは微笑むと、周囲の少女達に向けて【胡蝶の夢】を放つ。
 もうこれ以上、寿命を削るようなユーベルコードの乱用はさせない。今だ吸血鬼の隷属下にあった少女達はまとめて、ルカの作り上げる幻覚の世界へと誘われる。
 ただしこのユーベルコード、発動には少々特殊な代償が必要で――。

「失う代償は、プロに改造してもらった昆虫型機械生命体のおもちゃ……」
「ルカさんの虫はおもちゃだったの!?」
 浅からぬ付き合いでありながらこれまで知らなかった衝撃の事実に、思わずシホが声を上げる――いや、流石にルカの操る虫すべてが玩具ということは無いと思うが。
 ともかく、胡蝶の夢を発動するために必要な代償は「虫」。術者にとって思い入れが深いものであれば、どうやら虫のおもちゃでも代償になるらしい。

「おのれ吸血鬼! それに人身売買業者!」
 ――半ば八つ当たりめいたことを言い始めるあたり、本当に大事なものだったのだろう。悔しさのあまりルカが少女達に見せた幻覚は、吸血鬼と人身売買業者を猟兵であるルカやシホ達と一緒に倒す夢だった。
「わぁ……!!」
 夢といってもそれを見ている者にとっては本物と見紛うほどの強固な幻覚だ。絶対的な恐怖であった存在を打倒する光景を見せれば、少女達の心は奮い立つだろう。単なる吸血鬼共に対する嫌がらせではなく、理にかなった説得でもあった。

「どうかしら? 吸血鬼なんて全然怖くないのよ」
「私達がついています。だから安心してください」
 胡蝶の夢と慈愛の光が織りなす幻奏が、少女達の心から闇を払っていく。
 暖かな希望の光に照らされた魂に宿るのは、勇気という名の仄かな灯火。
「うん……もう、こわくないよ」
 少女達を縛り付けていた隷属という名の鎖は、ここに根本より断ち切られた。

「このペンダントに触れて、中にある食べ物でも食べて待っていて下さい」
 シホは解放することができた少女達を【救いが必要な人の迷い家】に保護していく。ユーベルコード製の異空間であれば、術者にもしものことが無い限り安全だ。
 安全と安心を求めて皆が次々と転送されていく中、ひとりの少女がシホに声をかける。それは先程の交戦で、シホの身体にフォークを突き刺した少女だった。
「あの……ケガさせて、ごめんなさい。謝ってすむことじゃないけれど……」
「私は大丈夫。もっと酷い目に遭った事もあるから」
 これくらいはかすり傷のようなものだと、強がりでなく本心からそう微笑む。
 それを見た少女はほっと安堵したように「助けてくれて、ありがとう」と伝え、ペンダントの中の部屋に転送されていった。

「吸血鬼のアレやアレで外が汚いから掃除するからまっててね~」
 解放した全員の保護を確認すると、ルカは迷い家の中の少女達にそう言ってから、腰の刀と拷問具に手をかける。その視線の先にいるのは、興が削がれたと言わんばかりの表情をしている女吸血鬼。少女達の主人"だった"ローザリアだ。
「さっさと終わらせちゃいましょう」
 あのヴァンパイアを討ち、本当の意味で少女達を隷属の軛から解放する。
 相方の言葉にシホも「ええ」と頷きながら、瞳に静かな戦意を灯した。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セシリア・サヴェージ
このような状態になるまでどのような仕打ちを受けたのか……。
彼女たちをここまで追いやった「ローザリア」には必ず報いを受けてもらいます。

彼女が少しでも傷つく事ははしたくはありません。
ましてや剣を向けるなど……弱き者を護るのが暗黒騎士の務め。彼女を無傷で解放します。

まずは隷属の象徴たる首輪を【怪力】で破壊します。
敢えてこの身で攻撃を受け止め、その隙を狙って実行します。
その際【見切り】で致命の部位を避け負傷を最小限に抑えます。
さらにUC【暗黒の冥護】で彼女の外傷を癒します。
心の傷までは癒せませんが……とにかく、もう吸血鬼に従う必要がないと彼女に語り掛けます。
この首輪が無ければあなたは自由だ、と。



「このような状態になるまでどのような仕打ちを受けたのか……」
 まるで人形のように愚直に主人に隷属する少女達を見つめながらセシリアは呟く。
 鋭く細められたその眼には、彼女らへの痛ましさと、吸血鬼への怒りが宿っている。
「彼女たちをここまで追いやった『ローザリア』には必ず報いを受けてもらいます」
 湧き上がるは暗黒のオーラ。しかしそれは少女達を傷つけるためのものではない。
 これは彼女らを救い、そして彼女らを縛り付ける元凶を討つための力だ。

「わたしたちはローザリア様の忠実なるしもべ……」
 吸血鬼への忠誠を誓う言葉をぶつぶつと呟きながら、ひとりの少女が襲ってくる。
 まっすぐに突っ込んで、両手で握りしめた食器のフォークを突き出す。熟達の騎士にとっては容易く防ぐことも避けることもできる、素人そのものの攻撃だが――。
(彼女が少しでも傷つく事ははしたくはありません。ましてや剣を向けるなど……)
 弱き者を護るのが暗黒騎士の務め。少女を無傷で解放するために、セシリアは剣を鞘に収めたまま、敢えてその攻撃を身をもって受け止めた。
「……っ!」
 なまくらな凶器が身体に突き刺さる鈍い痛み。だが、動きを見切って致命となる部位は避けたため大した負傷ではない。すかさず彼女が手を伸ばしたのは、少女の首に嵌められている、鎖つきの首輪だった。

「どうして……っ」
 避けられるはずの攻撃を相手が避けなかったのは、攻撃を仕掛けた側にも分かる。
 驚きと戸惑いの声を上げる少女の首輪に手をかけて、セシリアは静かに告げる。
「この首輪が無ければあなたは自由だ」
 ヴァンパイアから与えられた隷属の象徴、それを彼女は力任せに破壊する。
 頑丈に作られていたはずの首輪は、人並み外れた暗黒騎士の怪力によって握り潰され、少女の首からごとりと音を立てて床に落ちた。
「ぁ……」
 軽くなった自分の首を、呆然と目を丸くしながらそっと撫でさする少女。
 それは、まるで背中にあった重荷まですとんと消えたような開放感だった。

「あなたはもう吸血鬼に従う必要はありません」
 セシリアは首輪の外れた少女に穏やかに語りかけながら【暗黒の冥護】を放つ。
 暗黒のオーラに周囲を取り巻かれ、思わず少女はびくりと肩を震わせるが――。
「怖れる必要はありません。この力があなたを護ります」
 その言葉のとおり、これは治癒のユーベルコード。暗黒のもたらす肉体強化の効果が、少女の身体に刻まれた虐待や酷使の外傷をすっと消し去っていく。心の傷までは癒やすことはできないが、それでも苦痛からの解放は彼女にとって救いになろう。

「安全な所で待っていてください。私達があなたを隷属させていた敵を倒します」
 治療を終えた少女をかばうように前に出て、セシリアが見据えるのは此度の元凶。
 暗黒の力を纏ったその力強い背中を見た少女は、こくり、と頷いて離れていく。
「……まけないで!」
 背後から掛けられる声援。それは少女が失っていた希望を再び見出した証である。
 それからもセシリアは騎士の精神と暗黒の力を以って、絶望に囚われた少女達を解放していった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…ん。確かに私の力では彼女達を救う事はできない。

…だけど私は自分だけの力で此処にいる訳じゃない。

…お前の思い通りになんてならないわ、吸血鬼。

過去の戦闘知識から少女の動きを見切り回避し、
心の中で“彼女達に救済を”と祈りを捧げ、
限界突破した魔力を溜めてUCを発動

…友の力を借りて来たれ、闇を照らす宝石の劇場よ!

絶望を浄化する“幸せな過去”の残像を暗視する宝石劇場を展開
第六感に訴え精神の存在感を増幅した後、
手を繋いで助けに来た事を告げる

…私はリーヴァルディ。吸血鬼を狩る者よ。貴女の名前は…?

…そう、良い名前ね。私達は貴女を助けに来たの。
少しだけ待っていて。今、吸血鬼を狩って絶望から解放してあげるから。



「……ん。確かに私の力では彼女達を救う事はできない」
 隷属から逃れる術を知らない少女達と対峙しながら、リーヴァルディはそれを認める。
 彼女の力はこの世界に闇をもたらす敵を狩るための力。あるいは闇の犠牲となった死者の霊魂に寄り添う力。いずれにせよ目の前の少女らを解放する力ではない。

「……だけど私は自分だけの力で此処にいる訳じゃない」
「なにを言っているのかしらね?」
 嘲るようにローザリアが笑うと、粗末な凶器を振りかざして少女達が襲ってくる。
 しかし素人である彼女らと歴戦の吸血鬼狩人の戦闘経験の差は歴然。攻撃の動きを見切って躱しながら、リーヴァルディは心の中で"彼女達に救済を"と祈りを捧ぐ。
 その秘めた想いは魔力の高まりへと変わり、限界を越えてあふれ出せば煌びやかな光となる。戦場を照らすその輝きに、少女達も吸血鬼も思わず眼を見張る。
「これはいったい……?!」
「……お前の思い通りになんてならないわ、吸血鬼」
 魔力の中心でリーヴァルディは宣言する――それは最小の輝きでさえ、世界を照らしうる。かけがえのない親友より生誕の日に託された【変成の輝き】。

「……友の力を借りて来たれ、闇を照らす宝石の劇場よ!」

 瞬間、血と闇に満ちた陰鬱な屋敷を塗り替えるように、美しい劇場が召喚される。
 目もくらむようなその輝きに、少女達は戦うことも忘れて立ち尽くしてしまう。
「これは……なに……?」
「なにか……見える……」
 すべてが宝石で出来た劇場にて展開されるのは"幸せな過去"の残像。暗闇を照らす輝きの中に、少女達はそれぞれが忘れかけていた大切な記憶の一幕を幻視する。
 吸血鬼の奴隷となる以前には、幸せを感じるひとときも確かにあった。その思い出は朽ちかけていた彼女達の感性に訴えかけて精神力を増幅し、絶望の闇を"浄化"する。

「胸が熱い……ずっと忘れてた、こんな気持ち……」
 はらはらと涙を零しながら、宝石劇場を見つめる少女達。その傍らにリーヴァルディはそっと寄り添うように近付き、ひとりひとりと手を取りながら呼びかける。
「……私はリーヴァルディ。吸血鬼を狩る者よ。貴女達の名前は……?」
「なまえ……わたしは、サラ」
「あたしはフェイ」
「アリサ、です」
「……そう、良い名前ね。私達は貴女達を助けに来たの」
 ぽつりぽつりと紡がれる名のすべてを心に刻み、口元に小さく微笑みを浮かべる。
 そして安心させるように優しく言葉を重ね、手と手を通じてぬくもりを伝える。
 もうこれ以上苦しめられることは無いのだと、五感と心で感じてもらうために。

「……少しだけ待っていて。今、吸血鬼を狩って絶望から解放してあげるから」
 揺るぎなく迷いのないその言葉は、戦歴に裏打ちされた自信と決意に満ちたもの。
 少女達にとって吸血鬼とは抗えぬ恐怖の対象だった。それを「狩る」という発言は俄には信じられなかったかもしれない――けれど、彼女ならそれができる気がした。
「……うん。わかった」
 こくりと頷いた少女達にもう一度微笑んでから、リーヴァルディは外套を翻す。
 その瞬間にはもう、彼女の表情は吸血鬼狩人としてのものに変わっている。
 鋭く細められたその眼光が射抜くのは、今宵の獲物たる悪徳の領主であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シスカ・ブラックウィドー
あいつがローザリア...。ボクがキライな女吸血鬼イメージそのもののタイプだね。実に不愉快だよ。

吸血鬼の魔眼を解放して、奴隷にされている少女たちに魅了をかける。

ボクが君たちの新しいご主人様だよ。
さあ、早く安全なところへ。彼女たちを気にしている猟兵の側が一番安全かな?

避難が無事に済んだらぬいぐるみを貸し出してもふもふさせてカウンセリング。本格的な心のケアは専門家に任せるよ。事件が終わる頃には魅了も解けるだろう。
ボクはハーレムには興味はないので、その後の面倒までは見切れない。自分達の生き方は自分で決めてね。

奴隷達が避難している間はアバズレ吸血鬼に挑発的な視線でも送っておこうかな。



「あいつがローザリア……。ボクがキライな女吸血鬼イメージそのもののタイプだね。実に不愉快だよ」
 その嫌悪感を言葉にも表情にもはっきりと示しながら、シスカは此度の元凶たる吸血鬼を睨みつける。人間を奴隷として扱い、恐怖と暴力で縛り付けて、その心と命を弄ぶ――何から何まで、テンプレート通りなくらいの"悪い吸血鬼"そのものだ。

「あなた達、すこし手緩いんじゃないかしら? もっと派手に殺し合ってくれないとつまらないわ」
 今だ双方に死者が出ていないのに不満げなローザリアは、眉をひそめながら配下に命令書を送る。それを読んだ少女達は虚ろな表情でこくりと頷くと凶器を握り締めた。
「ご主人様のご命令のままに……う、ああぁぁぁぁ……っ!」
 絞り出すような絶叫と共に彼女らが仕掛けるのは捨て身の特攻。限界を超えた力を引き出し、それで猟兵を仕留められればそれでよし。さもなくば自分が死ねという、無慈悲なる吸血鬼からの命令によるものだった。

「ほんとにサイアクの趣味だね」
 特攻の矛先にされたシスカは心底不快そうにぼやきながら、少女達をじっと見つめ――ダンピールとして継いだ吸血鬼由来の力である【魔眼・瞬間催眠】を発動する。
「ボクの眼を見ろ!」
 少年と少女達の目が合う。視線を通じて送り込まれる魔力は、瞬間的に相手を催眠状態に陥らせて戦意と抵抗力を奪い去る。その力はローザリアが植え付けた恐怖と暴力の忠誠心を上書きするほどに強力なものだった。

「ぁ……ぅ……あなた、は……?」
「ボクが君たちの新しいご主人様だよ。さあ、早く安全なところへ」
 ぽとりと凶器を取り落した少女達に優しく微笑みかけながら避難を促すシスカ。
 彼女らの安否を気遣って保護や安全地帯の用意をしている猟兵は多い。その側まで誘導するのが、この状況下では一番安全だろう。
「あなた……私の奴隷達を……!」
 上座からはローザリアが怒りの形相で睨んでいるが、シスカは避難する少女達をかばうように立ちながら挑発的な視線を返す。お前みたいなアバズレ吸血鬼にこれ以上この子たちを好きにはさせない――そんな意志が透けて見えるようだ。

「もう大丈夫だからね。あとはボクたちに任せて」
 少女達が無事に安全圏まで退避すると、シスカは人形遣いの武器でもある動物のぬいぐるみを貸し出しながら言う。かわいいぬいぐるみをもふもふしていれば、隷属で荒んだ心もいくらか癒やされることだろう。
(本格的な心のケアは専門家に任せるよ)
 この事件が終わる頃にはシスカのかけた魅了も解けるだろう。そこから先のことは彼はノータッチの予定だ。これだけ多くの猟兵がいればそう悪いことにはならないだろうし、何から何まで延々面倒を見ても、奴隷の鎖を手繰る者が変わるだけだ。

「ボクはハーレムには興味はないので、その後の面倒までは見切れない。自分達の生き方は自分で決めてね」
「はーれむ……?」
 きょとんとしながらぬいぐるみをもふもふしている少女達を置いて、シスカはくるりと踵を返す。冷たいようだが、きっとそれは彼女らのためでもあるのだろう。
 これで後は憂いなく、今回の事件の元凶を叩きのめすだけだ。少女のように可憐な少年の瞳には、怒り心頭といった様子でこちらに向かってくる吸血鬼が映っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『ローザリア』

POW   :    ブラッディエンハンス
戦闘中に食べた【他人の血液】の量と質に応じて【全身の細胞が活性化し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD   :    プライド・オブ・ヴァンパイア
【闇の魔力】【血の魔力】【影の魔力】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
WIZ   :    ダークネスイリュージョン
自身からレベルm半径内の無機物を【闇】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。

イラスト:みろまる

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は十六夜・巴です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「まったくつまらない余興だったわ。もっと楽しませてくれるかと思ったのに」

 すべての奴隷を猟兵の手により救出され、ローザリアは心底不満な様子だった。
 もっと苦悩する姿を、苦痛に彩られた声を。なにより無様に死んでいく人間共を見たかったのに、これでは興醒めだと――整った相貌を邪悪に歪めて語る。

「この私はあなたたちのような連中には及びもつかない、高貴なる家門の血を引くヴァンパイアなのよ? 命懸けで私を楽しませるのが下賤の義務というものでしょう」

 その口ぶりは己がエリートであるという優越感と、他者を見下す傲慢に満ちている。
 ローザリアにとって人間とは玩弄すべき対象でしかなく、その周囲にいるのは彼女を吸血鬼の姫として崇拝し、媚びへつらい、服従する者だけだった。
 ゆえに彼女は、自分の思い通りにならない相手の存在を決して許しはしない。

「もういいわ。使えないゴミは処分しないと。せめて最期くらいはいい声で鳴いて、楽しませてちょうだいね?」

 おぞましい魔力をその身に纏いながら、傲慢なるヴァンパイアは猟兵達に告げる。
 血と闇と残虐を以って此度の余興に幕を引く――それが彼女の決定であった。
 だが彼女は根本的なところで勘違いをしている。目の前にいるのはただの無力な家畜などではなく、牙と刃を研ぎ澄ませた猟犬であり、狩人だと理解していない。

「この私、ローザリアの手にかかって死ねることを光栄に思いなさい、人間共」

 その傲慢がもたらした数々の悲劇に終止符をもたらすのは、今を置いて他にない。
 すべての血の奴隷達を解き放つために、猟兵達は戦闘態勢を取った。
イリス・ローゼンベルグ
能書きはそれでおしまい?
高貴だか何だか知らないけど、私にとってあなたは倒すべき悪党の一人でしかないわ
もう擬態は必要ない、上半身を残し体の大部分を【茨の触手】に変形
さらに【成長する災厄】を発動、戦闘力を増大させて戦闘へ

触手を槍のように尖らせ【串刺し】狙い、敵の反撃は【茨の盾】の【盾受け】でガードする
間合いの内側に入られた時は口から【猛毒の棘】を飛ばして牽制、引き離す

そして、ある程度攻撃を受けたら
「そんなに血が飲みたいのなら飲ませてあげるわ」
と傷口から【致死の体液】を飛ばし、敵が怯んだ隙に複数方向から触手による同時攻撃を仕掛け
態勢を整えられる前に一気に畳みかける



「能書きはそれでおしまい?」
 驕り高ぶった相手に冷水を浴びせるような、冷ややかな声音でイリスは告げる。
 ここに至ってはもう擬態は必要ないと、人の姿を捨てたその身は上半身だけを残して大部分が茨の触手に変形した、巨大なる薔薇の異形と化す。
「高貴だか何だか知らないけど、私にとってあなたは倒すべき悪党の一人でしかないわ」
 その言葉に込められたのは敵に対する嫌悪。その激情に呼応して【成長する災厄】は巨大化と自己強化を続けながら、忌まわしい悪党との決戦に臨む。

「目障りよ、私の前から消えなさい!」
 少女の上半身からイリスが叫ぶと、槍のように先端を尖らせた触手が放たれる。
 獲物を串刺しにせんとするそれを、ローザリアはひらりと軽やかな身のこなしで躱すと、闇と血の魔力をその手元に集め、赤黒い刃に変えて射出する。
「誰に対してものを言っているのかしら? 消えるのは貴女のほうよ」
 その血刃は強靭な触手をたやすく刈り取りながら本体に迫る。イリスは咄嗟に複数の茨を絡み合わせて「茨の盾」を形成して防御するが、その隙にローザリアは彼女の懐にするりと踏み込んでいた。

「雑草ごときが目障りね。血も通っていないなら糧にする価値もないわ」
 闇を纏ったしなやかな指先が触れると、鋭いナイフで切り裂かれたかのようにイリスの身体に傷がつく。【成長する災厄】によって強化され巨大化した身体は、間合いの内側に入られると死角ができるという弱点も晒してしまっていた。
「くっ……」
 イリスは口内から含み針のように猛毒の棘を飛ばし、敵を引き離すように牽制する。
 だがローザリアは一度は後退してもすぐにまた茨と棘を避けながら反撃を仕掛けてくる。腐っても高貴なるヴァンパイアを称するだけはあり、その戦闘力は高い。

 徐々に負傷を重ねていくイリス――しかしその目は決して死んではいない。
 敵の実力に圧されているように見せながら、彼女は冷静に反撃の機を待っていた。
 他方、ローザリアの方は自らの力を過信し、攻撃を繰り返す中であからさまに油断している。おおかたイリスの手の内はすでに読み切ったと思っているのだろう。
 だが、悪を喰らう蠱惑の薔薇が有する武器は、決して茨や棘だけではない。

「そんなに血が飲みたいのなら飲ませてあげるわ」
 その瞬間、吸血鬼に刻み付けられた全身の傷口から「致死の体液」が噴き出す。
 これまで棘茨の攻撃ばかりを印象付けられてきたローザリアは、思いもよらぬ攻撃に反応が遅れ、鋼をも腐食させるその猛毒を至近距離で受けてしまう。
「なに……っ、きゃぁっ?!」
 飛沫の当たったドレスに穴が空き、雫を浴びた肌から焼けるような激痛が襲う。
 悲鳴を上げてローザリアが怯んだその間隙を、イリスが見逃すはずはない。
「堪能するといいわ。あなたがこれまで人に与えてきた苦痛と悲鳴を」
 四方八方から取り囲んだ触手の槍が、悪しき標的の身体を同時に貫いた。

「かは……ッ!! この私が、傷を……?!」
 信じられないといった表情で、串刺しにされたローザリアが藻掻く。吸血鬼の怪力によって触手は引き千切られるが、イリスはそのまま敵が体勢を整える前に一気に畳み掛けた。
「あなたの罪はそんなものでは無いわ」
 びっしりと棘に覆われた茨の触手が鞭のように標的を打ち据え、その血肉を致死の猛毒と体液が蝕む。悪党には最大限の苦痛を与えたうえで殺す、それが彼女の流儀。
 ローザリアの身体には着実にダメージと、そして屈辱と怒りとが蓄積されていく。

成功 🔵​🔵​🔴​

ボアネル・ゼブダイ
アドリブ連携OK

懺悔の言葉も忘れたようだな、弱者を踏みにじる事しかできぬ寄生虫よ
尤も、幾ら悔いた所で貴様が行き着く先は骸の海だがな

黒剣グルーラングとコ・イ・ヌールを装備
敵の攻撃を見切り、斬撃を相手に浴びせ、敵が高速で接近して来たらコ・イ・ヌールのガントレット部分で格闘攻撃を行い叩き落し、距離が離れたらコ・イ・ヌールの光爪を伸ばし攻撃

敵がUCを使用したらダッシュで接近し、武器を早業で振るい返り血を浴びてUCを発動
攻撃力を上げ、吸血で血を奪い敵を弱体化したら即座に生命力吸収を乗せた武器攻撃で追撃し離脱する


相変わらず、貴様達の血は反吐が出る味だな…
だが我が正義を示すためならば、汚水でも啜って見せるさ



「懺悔の言葉も忘れたようだな、弱者を踏みにじる事しかできぬ寄生虫よ」
 黒剣グルーラングと光爪コ・イ・ヌールを構え、唾棄すべき敵にボアネルは告げる。
 その整った相貌は怒りと嫌悪に満ち、真紅の双眸には冷然たる殺意が宿る。真なる誇りとは何たるかを知る彼にとって、目の前の吸血鬼の所業は許し得ぬものだ。
「尤も、幾ら悔いた所で貴様が行き着く先は骸の海だがな」
「調子に乗るな……ッ、下等生物の分際でッ!!」
 思わぬ手負いとなったローザリアは怒りに歪んだ顔で吼えると、牙を剥き出しにして躍りかかる。己に逆らう不届きなる者共を、ひとり残らず八つ裂きにするために。

「死ねッ!」
 闇のオーラを纏う吸血鬼の魔手を、ボアネルはコ・イ・ヌールの手甲で叩き落とす。
 その細やかな体躯からは想像もできぬ怪力。インパクトの衝撃だけで骨身が軋むが、真っ向から受け止めるのではなく軌道を見切ることでどうにか受け流す。
「闇に沈め、ヴァンパイアの名を汚す者よ」
「半端者風情が、偉そうにしてるんじゃないわよ!」
 間髪入れずに浴びせた黒剣の斬撃は、豹のように機敏な身のこなしによって躱される。だが双方の距離が離れた瞬間、ボアネルはコ・イ・ヌールに魔力を送って出力を向上。ぎゅんと槍のように伸びた五指の光爪が、後退するローザリアの肩を掠めた。

「またしてもこの私に血を流させるなんて……! この代償は高く付くわよ!」
 高貴なる一滴の血の報いは、千の流血を以って贖われるべき――そう信じて疑わぬローザリアの口元からは飢えた白牙が覗く。彼女は【ブラッディエンハンス】によって自らを強化する吸血鬼、その吸血衝動を満たさせるのは得策ではないだろう。
「浅ましいな吸血鬼よ。貴様の飢えが満たされることはない」
 ボアネルは黒剣と光爪を構え直すと、今度は自分から地を蹴って間合いを詰める。それは飢えた猛獣の懐に飛び込むようなものだが、彼は決して恐れない。
 白兵戦の間合いに踏み込みながら、目にも止まらぬ早業で剣を一閃。ローザリアもまた超常の反応速度をもって身を翻すが、微かに掠めた切っ先が返り血に染まる。

「血の香りに狂う忌まわしき半身よ……人の理を外れた悍ましき吸血鬼の力よ……我が正義を示すためにその呪われた力を解放せよ!」
 その瞬間にボアネルが発動したのは【血呪解放】。ヴァンパイアの血を受けた黒剣の鍔に巻き付いた黄金の蛇の目が爛々と輝き、同時にボアネルの身体からもむせ返るような鉄錆と薔薇の香りが漂いはじめる。
「私の血を吸収した……?!」
 ヴァンパイアたるローザリアにとって、己が血を吸うことはあっても他者に血を吸われることは初めての体験だろう。屈辱と驚きから生じた動揺、その隙を逃さずボアネルは鋭く伸びた犬歯を晒し、目の前の敵の肩口に食らいつく。
「ッ?!」
 突き刺さった牙は、先程光爪が与えた傷からローザリアの血を啜る。それによって青年の纏う雰囲気はより吸血鬼らしくなり、瞳は煌々と赤く輝きはじめる。

「相変わらず、貴様達の血は反吐が出る味だな……だが我が正義を示すためならば、汚水でも啜って見せるさ」
「き、貴様ッ!?」
 勝手に血を吸われたうえにそれを汚水扱いされては、プライドの高いヴァンパイアは冷静ではいられない。怒りに任せて拳を振り下ろさんとするが――それよりも刹那、ボアネルの黒剣が振るわれるほうが疾い。
 血を奪われたヴァンパイアと、ヴァンパイアの血の力を解き放ったダンピール。双方の力関係はこの交錯の瞬間において逆転し、漆黒の刃がローザリアの胴体を薙ぐ。
「もう一太刀分、貰っていくぞ」
「が、ぁ……ッ!!!!」
 ボアネルは崩れ落ちる相手の後方にそのまま切り抜けて、間合いから離脱する。
 過去を喰らうグルーラングの刃は、過去の遺物たるオブリビオンの生命を啜る。たかが一噛み、たかが一太刀と侮れぬほど、ローザリアが負ったダメージは深かった。

成功 🔵​🔵​🔴​

イリーツァ・ウーツェ
私は人間では無いし、貴様は殺す
貴様に何れ程 価値が有ろうと関係が無い
オブリビオンは殺す約定だ

UCを使い 全力で踏込み、掴んで殴る
飛ぶなら飛んで追い、殴る
私の血を飲むか? 身が灼けるぞ
貴様より 余程古い血脈だ
喉が灼ければ、少しは静かになるか?

他猟兵等の助けとなる様
出来る限り痛手を負わせよう
杖で腹に穴でも開けるか



「くそ……ッ、よくもやってくれたわね、下等な人間と混じりもの風情が……!」
 肩と腹の傷を押さえながら、憎々しげに猟兵らを睨みつけるローザリア。
 本人が一方的な蹂躙劇だと思って疑っていなかった戦いは、まるで予期せぬ展開を見せている。高貴なる己が血を流すなど、本来ならあってはならぬことなのに。
「私は人間では無いし、貴様は殺す。貴様に何れ程 価値が有ろうと関係が無い」
 そんな彼女に冷徹に淡々と宣告するのはイリーツァ。深海の妖姫を封じた「竜宮の柩杖」を片手に、間合いを測るその眼差しは研ぎ澄まされたナイフのように鋭く。
「オブリビオンは殺す約定だ」
 怒りでも敵意でもなく、ただ果たすべきことを為すために、負号の竜は殺意を放つ。

「九泉の底へ運んでやろう」
 身に纏うは冥府――堅州国の青い炎。【黄泉平坂・押送脚】によって自己の行動速度と反応速度を格段に高めたイリーツァは、ただ一歩の踏み込みで間合いを詰めた。
「ッ、お断りよ……ッ!」
 縮地と見紛うほどの俊足に動揺したローザリアであったが、自身も卓越した身体能力を以って飛びあがり距離を取ろうとする。しかし青炎を纏いし竜が制するのは地上のみにあらず、空中にさえその支配域は及ぶ。
「逃がさん」
 背に広げた竜翼をばさりと羽ばたかせれば、彼我の距離はまたも一瞬でゼロとなり。
 イリーツァは今度こそ逃げられぬ獲物の頭部を鷲掴みにすると、そのまま力任せに殴りつけた。

「がぐぁッ?!」
 竜の豪腕にて殴り飛ばされたローザリアの身体は、別荘の床に勢いよく叩きつけられる。その肉体的ダメージもさることながら、心に負った屈辱という傷もまた深い。
 苦痛をおして即座に立ち上がった彼女は、怒りの形相で上空のイリーツァを睨む。
「この屑が……! 度重なる私への無礼、その血を以って贖いなさい!!」
 再び空に舞い上がったローザリアの口からは鋭い牙が覗き、その視線はイリーツァの首筋に向けられている。吸血によって【ブラッディエンハンス】を発動し、肉体強化でダメージを回復しようという狙いか。

 ――だが、そんな敵の魂胆を見抜いたうえで、イリーツァはあえて避けなかった。
 ローザリアの牙は竜の肌を貫き、傷口からあふれ出す赫い雫を啜る。しかしそれは決して彼女に望んでいたような甘美な結果をもたらしはしなかった。
「私の血を飲むか? 身が灼けるぞ。貴様より、余程古い血脈だ」
「な……ぐ、ごぇッ?!」
 イリーツァの体内を流れる竜血は極めて濃い魔力を有し、外気に触れれば青く燃える。不死たるヴァンパイアをも凌駕する、悠久の時を経た血統の証である。
 そんなものを迂闊に口に含めばどうなるか。薬も過ぎれば毒となるように、あまりに力の強い血は喉を灼き、臓腑を焦がし、耐え難いほどの苦痛をもたらした。

「喉が灼ければ、少しは静かになるか?」
「ぐ、ぎ、ご、ぉぇっ」
 首の傷をさするイリーツァの前には、喉を押さえながら言葉にならない嗚咽を漏らすローザリア。罵倒する余裕さえ無いその姿は、高貴さの欠片もなく無様なもの。
 醜態と共に大きな隙を晒す彼女へと、いにしえの竜は竜宮の柩杖を振り上げ、躊躇も容赦もなく渾身の力で突き下ろす。

「ぎぃぇッ?!!?」
 竜の膂力で繰り出された鋼杖はローザリアの腹に風穴を開け、悲鳴を上げた口からはごぼりと血があふれる。いかにヴァンパイアといえども相当のダメージだろう。
「墜ちろ」
 そのままイリーツァは杖をぶおんと振るい、串刺しにしたローザリアを再び地に叩きつける。他猟兵等の助けになるよう、出来る限りの痛手を与えておく心算だ。
 その目論見どおり、地に這いつくばった吸血鬼が再び空に舞い上がってくることは無かった。

成功 🔵​🔵​🔴​

雛菊・璃奈
その傲慢さ…救いようがないね…。貴女が行って来た事…奪って来た命の報いを受けると良い…!

【九尾化・天照】封印解放…!
敵の操る闇や闇と影の魔力を打ち払う様に【破魔】と【呪詛】の力を光に宿して敵の周囲に集束させ、四方八方から光呪のレーザーを照射…。
敵の動きや攻撃を【見切り、第六感】で読みつつ、レーザーで敵を貫いている間に光速で接近し、凶太刀と神太刀による光速剣の連撃を繰り出したり、バルムンクによる光速からの両断による一撃【力溜め、呪詛、衝撃波、鎧砕き、鎧無視、早業】で敵の纏う闇ごと敵本体を叩き斬ったりして追い詰め、最後は光を剣に集束させた必殺の一撃で敵の急所を貫き、光で闇を祓い仕留めるよ…!



「なぜ……なぜ私が、猟兵ごときに這いつくばらされているの……!」
 目の前が赤く染まるほどの怒りと屈辱を噛み締めながら、ローザリアは立ち上がる。
 猟兵らを侮った代償としてその身は血にまみれ、高貴な衣装もボロボロに。しかし彼女はそれを己の失態ではなく、己の思い通りにならない他者の所為と決めつける。
「この塵芥が! 下等生物が! ヴァンパイアに歯向かうなんて烏滸がましいわ!」
「その傲慢さ……救いようがないね……」
 絵に描いたような暴君の振る舞いを見せるヴァンパイアに、呆れと嫌悪の入り混じった視線を向けるのは璃奈。その手に握った二振りの妖刀――九尾乃凶太刀と九尾乃神太刀が、主の意志を映したように剣呑な煌めきを放つ。

「貴女が行って来た事……奪って来た命の報いを受けると良い……!」
「報いですって? 冗談じゃないわ! 報いを受けるべきはお前達こそよ!」
 魔剣の巫女の宣告に言い返すや否や、ローザリアの身体から凄まじい魔力が迸る。
 それは血と闇と影の魔力で己を強化する【プライド・オブ・ヴァンパイア】。これまで猟兵を侮ってきた彼女が、遅まきながら見せた戦闘形態と言っても良いだろう。
「猟兵風情にここまですることになるとはね! 光栄に思って死になさい!」
 憤怒のままに魔力を操り、猛然と璃奈目掛けて襲い掛かってくるローザリア。
 その様はまるで、全てを呑み込まんと進撃する巨大な闇そのものである。

 ――しかし璃奈は怯まない。その唇が紡ぐ詠唱は、闇を祓う光を呼ぶ祝詞。
「我らに仇成す全ての敵に太陽の裁きを……封印解放……!」
 【九尾化・天照】発動。その瞬間、少女の銀色の髪と尾は煌めくような金髪金毛の九尾へと変化し、その身からは燦然たる光が放たれる。それはこの世界において失われたはずの輝き――すなわち太陽の光。
「バカなッ?! なぜ、その光がここにッ!!」
 吸血鬼にとっては大敵たる忌まわしい光を前にして、ローザリアの足が止まる。
 闇にうごめく怪異としての本能が、闇を照らすその暖かな光を恐れているのだ。

「この光は貴女達を討つための剣……」
 璃奈がさっと腕を振ると、ローザリアの周囲に光が集束していく。それは破魔と呪詛の力を宿した光呪のレーザーとなって、四方八方から標的目掛けて照射された。
「く、くぅッ?! い、いまさら太陽ごときにッ!」
 ローザリアは咄嗟に回避に徹するものの、レーザーがその身を掠めるたびに闇や影の魔力が打ち払われていく。いかに高位の吸血鬼と言えどこればかりは相性が悪い。
 その間に璃奈は妖刀と共に光を纏いながら駆けだす。その速度は風を超え、音を超え、光速の域にまで達して、刹那のうちに敵との間合いを詰めきった。

「いくよ……」
 光を操る力と共に【九尾化・天照】が与えるもうひとつの力――この世の何者をも凌駕する光速を以って璃奈が振るうは凶太刀と神太刀の二刀流。目にすることさえ敵わない超高速の刃の中には、吸血鬼の不死や再生力を封じる呪力が含まれている。
「こ、このッ! 調子に乗るなァッ!」
 無数の斬撃に切り刻まれながら、ローザリアは四肢に魔力を込めて反撃を繰り出す。しかし光速と共に反応速度もまた相応に強化された今の璃奈には、敵の動きや攻撃を見切ることも容易かった。
「それはこっちの台詞……調子に乗るのも終わりだよ……」
 光速の歩法で身を躱しながら、妖刀に代わって抜き放つのは「バルムンク」。屠龍の力を秘めし魔剣を大上段より光速で振り下ろし――ヴァンパイアが纏う闇の魔力を、その本体ごと叩き斬る。

「かは……ッ!!!」
 飛び散る鮮血と共に闇のヴェールが剥がれ、ローザリアが無防備な身体を晒す。
 追い詰められた敵に体勢を立て直す間を与えず、璃奈は即座に追撃の構えを取る。
「これで仕留めるよ……!」
 天照の力にて操る光のすべてを刀身に集束させ。燦然と輝く太陽の魔剣と化したバルムンクを以って狙うは急所。知覚さえ叶わぬ光速での一突きはまさに必殺の一撃。
 かくして光纏いし巫女の剣は、闇を祓いながらローザリアの身体を深々と貫いた。

「ぎ……いぃぃぃぃぃあぁぁぁぁぁぁぁぁッ?!!!!?!」
 絹を裂くような甲高い悲鳴を発しながら、吹き飛ぶような所作で飛び退くローザリア。光剣の一撃を受けた傷口は焼け爛れ、まったく再生する気配も無い。
 光を恐れる闇の怪物に九尾の天照が負わせた傷は、まさに致命的なものだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

フレミア・レイブラッド
下劣な女が高貴な身分とは笑わせてくれるわね。
良いわ、貴女は完膚なきまで叩き潰してあげる…格の違いを思い知れ
(ここまでの件で内心、完全に頭に来てる状態)

「おねぇさま、本気でキレてるのー…」

雪花を始め、眷属達を下がらせつつ、真の姿解放【吸血姫の覚醒】発動
【念動力】で敵の闇を防ぎ、真祖の魔力で敵の魔力を迎撃【高速詠唱、属性攻撃、誘導弾、全力魔法】しつつ、覚醒で得た速度と膂力を活かして急接近。
魔槍の全力の一撃【怪力、早業】で地面に叩きつけ、そのまま顔面を鷲掴みにして壁に叩きつけたり零距離から魔力弾を叩きつける等して痛めつけ、最後は【串刺し】から直接【神槍グングニル】を発動して跡形も無く消し飛ばすわ!



「わ……私が……高貴なるヴァンパイアの私が、こんな醜い傷を……ッ!!」
「下劣な女が高貴な身分とは笑わせてくれるわね」
 耐え難いほどの激痛とそれを上回るほどの屈辱に、わなわなと震えるローザリア。
 その愚かしい醜態を、闇すら凍るような絶対零度の声色でフレミアが嘲笑う。
 表情こそ静かに微笑んでいるが、そこに好意的な感情は何一つ含まれておらず、これまでに積み重なった敵の数々の悪行の件で完全に頭にきている状態だった。

「良いわ、貴女は完膚なきまで叩き潰してあげる……格の違いを思い知れ」
 フレミアの口元から笑みが消える。それは全力を以って敵を蹂躙するという宣告。
 召喚した眷属らに下がるように手で采配し、真紅の魔槍「ドラグ・グングニル」を片手に前に出る彼女の背中を、雪女見習いの雪花が微かに震えながら見つめている。
「おねぇさま、本気でキレてるのー……」
 己の享楽のためだけに人身を売買し、モノのように玩弄し、あまつさえ捨てゴマのように殺させる――これほどの罪業を積み重ねた相手とあれば、彼女が怒るのも無理はなかった。

「だ、ダンピール風情が、いい気にならないでくれるかしら!」
 怒れるフレミアの気迫に言いしえぬ不安を抱きながらも、ローザリアの高慢たる態度は崩れない。灼け爛れた身体から力を振り絞り、闇と影の魔力を再び解き放つ。
 濁流のごとく全てを呑み込まんと押し寄せる闇。しかしそれを前にしてフレミアは避けるでもなく――魔槍を掲げ、【吸血姫の覚醒】を高らかに宣言する。
「我が血に眠る全ての力……今こそ目覚めよ!」
 同時に、爆発的に解放された真祖の魔力と念動力の力場が、闇の魔力を吹き飛ばす。
 燃えるような真紅の輝きの中心では、17~8歳程の外見へ変化したフレミアが、4対の真紅の翼を広げ、悠然とその場に佇んでいた。

「な……なによ、その姿は。まるで……いや、そんなハズないわ!」
 まるで純粋なるヴァンパイア、いやそれ以上に美しく威風に満ちた姿にローザリアは思わず瞠目し、そしてすぐに否定する。一瞬でも抱いてしまった畏怖を払いのけるように、放たれる闇や影や血の魔力が散弾のようにフレミアに襲い掛かる。
「無駄よ」
 だが覚醒した吸血姫は指先ひとつ動かさぬまま、莫大な真祖の魔力を以ってその全てを迎撃する。そしてばさりと翼を一打ちすれば、その身は瞬間移動したかのように、ローザリアの目の前まで急接近していた。
「ッ?!」
 驚愕したローザリアが拳を振るったのは、本能による咄嗟の一撃だったのだろう。
 だがそれよりも疾く、真紅の魔槍が胴体を薙ぎ、床に叩きつける。竜に殴り倒された時と同等のパワーと衝撃に、彼女の呼吸が一瞬止まった。

「かはッ! こ、この……ぐむぅッ?!」
 咳き込む敵に立ち上がる間も与えず、フレミアはローザリアの顔面を鷲掴みにする。
 そしてそのまま近くの壁にめり込むほどの勢いで叩きつけ、零距離から魔力弾を撃ち込む。ズドンッ! と大砲が着弾したような音が轟き、別荘の壁が吹き飛んだ。
「―――ッ!!!」
 凄まじい衝撃と破壊力を叩きつけられながら、悲鳴を上げることさえ封じられたローザリア。どれほど彼女がもがこうとも、万力のように頭蓋を掴む手はびくともしない。

「これで最後よ」
 そのまま散々に敵を痛めつけた後、フレミアは魔槍の穂先を捩じ込むように突き刺す。まるで刑に処された罪人のように、その身を串刺しにされるローザリア。
「な……なに、を……!」
 ようやく頭部を解放された吸血鬼は、腹を貫いている槍に魔力が集まってくるのを感じ取る。それはフレミアの奥義がひとつ【神槍グングニル】の予兆。莫大な魔力を魔槍に圧縮した最大級の一撃を、この状態から直接叩き込もうというのだ。
「跡形も無く消し飛びなさい!」
 愕然とするローザリアの目の前で完成する神槍。フレミアの全魔力を注ぎ込んだその一撃は凄まじい爆発と衝撃を巻き起こし、周辺にある全てを滅ぼし尽くす。

 ――やがて神槍の炸裂が収まったとき、そこに立っていたのはフレミアのみ。
 だが、彼女の表情はけして明るいものではなく、手応えの足りなさを感じていた。
「仕留めきれなかったわ……」
 神槍が発動する直前、ローザリアはありったけの魔力を以って抵抗しながら、身体の一部を切り離した。ヴァンパイアの吸血能力を用いれば【ブラッディエンハンス】で細胞を活性化させ肉体を再生できる、それを見越してのトカゲの尻尾切りだ。
 無論それでもフレミアの与えたダメージは甚大なものには違いないが――この地を支配する悪しき吸血鬼との戦いは、まだ終わりではないようだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

トリテレイア・ゼロナイン
保護した人々には消耗し治療が必要な方も多い
戯れに付き合う時間もありません、早急に討たせて頂きます

匂いで分かるのか私と対峙する吸血鬼の多くが顔を顰めますね
彼女は特に顕著ですが…
(何かを探す視線に気づき)

成程
木偶が相手では都合が悪いと…

センサーでの●情報収集で重心移動や行動の「起こり」を●見切り、時にスラスターでの●スライディングや格納銃器での牽制も駆使し移動妨害
●武器受け●盾受けで反撃を防御し貼りつく様に●怪力での近接戦を敢行

血を摂取させず、実力を封じさせて貰います
ご自身の血で非道を贖って頂きましょう

奴隷か猟兵の血をへと意識を逸らした隙にUCで●だまし討ちし拘束
顔面を大盾で殴打し口内を切らせます



「く……血が……血が足りないわ……」
 必殺の攻撃から辛くも生き延び、ボロボロの姿で別荘の中をさまようローザリア。
 並みのヴァンパイアなら息絶えておかしくなかった状態で、息の根があるのは流石の生命力か。それでも消耗は深刻らしく、彼女の表情にははっきりと焦りが見えた。

「保護した人々には消耗し治療が必要な方も多い。戯れに付き合う時間もありません、早急に討たせて頂きます」
 そこに立ちはだかったのは機械騎士トリテレイア。救出した少女達のために決着を急ぐ彼は、傷ついたローザリアの視線が何かを探すように彷徨っているのに気付く。
「チッ……」
 さらにはトリテレイアの姿を見るなり舌打ちまで。匂いで血の通わない機械だと分かるのか、対峙する吸血鬼の多くが今と同じように顔を顰めるのを彼は見てきた。
(彼女は特に顕著ですが……成程、木偶が相手では都合が悪いと……)
 敵の狙いは【ブラッディエンハンス】を発動するための血液の摂取だと判断したトリテレイアは、そうはさせじと儀礼剣と大盾を構えてローザリアの行く手を阻む。

「えぇいっ、お前に用はないのよ! どきなさい!」
 傷ついた肉体の回復のためにも何としてでも血が欲しいローザリアは、鬼気迫る形相で魔力を籠めた拳を振るう。その機敏さと怪力は今だ失われてはいないが、焦燥と怒りから冷静さを失っているためか、動きが単調になっているのが見て取れた。
 対してトリテレイアは機械としての冷静さを以って、相手の重心移動や行動の「起こり」をセンサーで見切り、剣と盾で乱打を捌きながら敵との至近距離を維持する。

「血を摂取させず、実力を封じさせて貰います」
「このッ……どけって、言ってるのよ!」
 敵が深刻なダメージを負っているのは一目瞭然だった。ゆえにここで徹底すべきは回復と強化の機会を与えないこと。どうにか突破しようとするローザリアの動きを読んでその先に滑り込み、時には格納銃器による牽制も駆使して移動を妨害する。
 現状のローザリアが相手なら、近接戦ではトリテレイアのほうが分があった。この距離に貼りつくように戦い続けるだけで、吸血鬼はじりじりと追い詰められていく。

「もうっ、邪魔よ! 血さえ足りていればお前なんか……!」
 堅固な機械騎士の防御を突破できず、焦りばかりが募っていくローザリア。
 その時ふと彼女は視界の隅に、怯えるように物陰に隠れている少女を見つける。それは猟兵達が救出し、安全な場所に待機しているよう言われていた元奴隷だった。
 若い娘の瑞々しい血の香りと白いうなじに、思わず意識が釘付けになる。それは飢餓状態がもたらす本能的なものだったが、戦いにおいては無防備な隙になる。
 そして、そんな絶好の好機を目の前にいるトリテレイアが見逃すはずがない。

「実に吸血鬼らしいその行動パターン、封じさせてもらいます」
 敵が注意を逸らした瞬間、トリテレイアの【腰部稼働装甲格納型 隠し腕(対UC拘束モード)】が稼働する。これまで見せてこなかった兵装による不意打ちに、敵の反応は間に合わない。
「しまっ……!!」
 がっちりと拘束されたローザリアの顔に、最大級の焦りと危機感が湧き上がる。
 その顔面目掛けて、トリテレイアは持っていた大盾を大きく振りかぶり――。
「ご自身の血で非道を贖って頂きましょう」
「ご、ぐぎぃッ?!!!?」
 渾身の力で叩きつけられた質量の塊は女吸血鬼の鼻っ柱をへし折り、口内を切らせて血を流させ、衝撃によって彼方まで彼女をふっ飛ばし、壁に叩きつけた。

「あ、あだ、あたしの、顔がぁッ?!」
 口の中を自分の血まみれにしながら悲鳴を上げるローザリア。怖気すら感じるほどに整っていたその顔貌は見る影もなく歪み、もはや美しいとはとても呼べない。
 おまけに自分自身の血では幾ら飲んでも【ブラッディエンハンス】は発動しない。
 それはプライドの高い彼女を、肉体的にも精神的にも追い詰める一撃であった。

成功 🔵​🔵​🔴​

シャルロット・クリスティア
ユア(f00261)さんと

血を理由に高貴を僭称するとは滑稽ですね。無能の証明でしょうに。

今回の得物は取り回し重視でガンブレードとショットガン。正面からねじ伏せましょう。
少々派手にやらせてもらいますね、ユアさん。この手の輩にはそれが一番効く。


ひとつ教えて差し上げましょう。
貴方が下賤と称した者……その力は、世界を呑む嵐とも成り得ることを。

血よ、命半ばで斃れし我らが同胞よ。
汝らの無念と義憤を我が腕に預け給え――!

散弾で牽制し、炎属性を付与した赤熱化した刃で闇ごと斬り開いていきます。
ダメージ軽減と身体能力にものを言わせて、多少強引でも構わない。
私に釘付けにさせれば『彼女』も動きやすいでしょう。


ユア・アラマート
シャル(f00330)と

ああ、どうやら目を開けたまま眠っているらしい
この状況を見て何も気づかないのだから、哀れなものだ

さっさと片付けるに限る、が。――アレか、シャル
全く困った子だ。おい、うちの姫が我儘を通したいようでな
悪いが遊んでいる時間は無しだ。そのまま寝ていろ

出るタイミングは、『彼女』が仕掛けた少し後
風の術式を事前に纏い、自らの速度を強化
【ダッシュ】で敵へ近づき、シャルに注意が向いている間に【暗殺】で死角へと素早く回り込む
回数はそう必要ない。たった一度でも刃が届くのであれば、【2回攻撃】でダメージ量を増やした一撃を叩き込める

寝言は言い終わったか?
精々、お前に相応しい地獄が待っている事を祈る



「ゆ、ゆるさない……許さないわよ貴様ら! 高貴なる血を引くこの私に逆らい! あまつさえ顔まで傷つけるなんて! 千回八つ裂きにしても飽き足らないわ!!」
 気の狂うような屈辱と怒りをバネにして、吸血鬼ローザリアはまたも立ち上がる。
 だが、口ではいかに尊大に振る舞おうとも、その醜態は優雅とは程遠い。そんな彼女の姿を、シャルロットとユアのコンビは冷ややかな眼差しで見つめていた。
「血を理由に高貴を僭称するとは滑稽ですね。無能の証明でしょうに」
「ああ、どうやら目を開けたまま眠っているらしい。この状況を見て何も気づかないのだから、哀れなものだ」
 高慢な支配者を気取っていられた時間は終わり、優位などとっくに逆転している。
 そもそもこの場所に攻め込まれた時点で、吸血鬼は己の窮地を悟るべきだったのだ。

「少々派手にやらせてもらいますね、ユアさん。この手の輩にはそれが一番効く」
「さっさと片付けるに限る、が。――アレか、シャル」
 此度のシャルロットの得物は取り回しを重視したガンブレードとショットガン。その表情を見て何をする気かすぐにピンときたユアは、全く困った子だ、と苦笑する。
 しかし否と言うはずもない。あの輩に目にものを見せてやりたいのはユアも同じだ。
「おい、うちの姫が我儘を通したいようでな。悪いが遊んでいる時間は無しだ。そのまま寝ていろ」
「何様のつもりよ……ッ! 貴様らこそ永遠の闇と悪夢に沈むがいいわ!」
 侮辱されたと見做したローザリアの身体から激しい魔力が迸り、別荘を構成する物質が闇に変換されていく。もはや余裕など欠片もない、敵を屠るための全力だ。

 ――その全力を、正面からねじ伏せる。シャルロットの碧眼に宿りしは決意。
「ひとつ教えて差し上げましょう。貴方が下賤と称した者……その力は、世界を呑む嵐とも成り得ることを」
 かつんと靴音を響かせて、闇に向かっていく少女の身体を紅いオーラが包み込む。
 それは血色の嵐のように渦を巻き、慟哭にも似た風切り音を立てる。人の身には余りあるほどの莫大な力の奔流は、シャルロットただひとりに依るものでは無い。
「血よ、命半ばで斃れし我らが同胞よ。汝らの無念と義憤を我が腕に預け給え――!」
 これなるは【紅蓮の誓約】。散っていった同士の道を繋ぐという、シャルロット自身が望んで受けた誓いにして呪い。今の彼女はひとりではなく、吸血鬼に弑されし数え切れないほどの人々の想いを背負って、ここに立っている。

「思い知りなさい……これが人間の力です」
 魔力弾を込めた「マギテック・ショットガン」の照準を合わせ、トリガーを引く。放たれた散弾はまるで血の雨のように戦場に散らばり、無明の闇を撃ち抜いていく。
 目を丸くしたローザリアは咄嗟に自分の周りの闇と魔力の密度を増して防御力を強化するが――銃撃はあくまで牽制、怯んだ敵の懐にシャルロットが一気に踏み込む。
「正面から――ッ?!」
 どれほど強い闇も血も影も彼女の前進を止めることはできない。誓約によって跳ね上がった身体能力とオーラの防護作用にものを言わせ、多少強引にでも道を拓く。
 痛みはない。道半ばで散っていった人々の苦しみと無念に比べれば、こんなもの。
「魔力弾、点火!」
 剣の間合いに入ったのと同時に「アルケミック・ガンブレード」の機構を作動すると、装填されていた弾丸から炎属性の魔力が付与され刀身が赤熱化する。烈帛の気合いを込めて振り下ろせば、紅蓮の刃は闇と共に高慢なるヴァンパイアを斬り裂いた。

「ぎぃぃッ?!!」
 灼熱の斬撃をその身に受けたローザリアの口から、獣のような悲鳴がほとばしる。
 しかしこの程度では済まさないと、シャルロットはオーラを纏ったまま果敢な猛攻を仕掛ける。怒涛の勢いで繰り出される赤刃の乱舞は、まさに燃え盛る炎の如しだ。
 そこには正面から圧倒する魂胆だけでなく、敵の注意を引きつける狙いもあった。
(私に釘付けにさせれば『彼女』も動きやすいでしょう)
 防戦一方のローザリアはまだ気付いていないだろうが、シャルロットが仕掛けた少し後には、彼女の相棒もすでに動き始めていたのだ。

(回数はそう必要ない。たった一度でも刃が届くのであれば、最大の一撃を叩き込める)
 神象術式回路「一乃片」起動。風の術式をその身に纏うことで敏捷性を強化し、暗殺者として身につけた手管をも駆使して、ユアは標的の死角に素早く回り込む。
 暗殺の極意とは刹那の好機を見逃さぬこと。気配を殺したまま音もなく駆け寄るユアの手元で、愛用するダガー「咲姫」の刃が剣呑に煌めく。それは静かに、速やかに、命脈を絶つために調整されてきた、彼女のための鮮やかな牙。

「調子に乗らないで……下賤の輩の力を束ねたところで、この私に勝てるとでもッ!? 負け犬どもの遠吠えなんて、何度でも踏み躙ってあげるわ!」
 業を煮やしたローザリアが、強引な反撃に転じようと魔力を攻撃力に転化する。
 それまでの防御体勢を捨てた攻めの姿勢。しかしその矛先に立つシャルロットの顔に動揺はない。彼女には見えていたからだ――敵の背後にすっと立ったユアの姿が。
「寝言は言い終わったか?」
「何――ッ!!?!」
 驚愕に振り返る間もなく、最速で放たれた【花鳴】の一撃がローザリアを貫く。
 標的が魔力による防御を解いた、まさに絶好の好機を突いたその牙は、瞬きするほどの間に急所を深々と引き裂いていた。

「あぎぃぃぃッ?!!」
 舞い散る血飛沫と悲鳴。完璧な奇襲を受けたローザリアがよろめき、体勢を崩す。
 対するユアの牙は双刃。咲姫による一閃の直後には「王の右腕」が襲い掛かる。
 そして正面のシャルロットも再び弾丸を炸裂させ、ガンブレードに魔力を伝える。
 言葉を交わすまでもなく、目を合わせたふたりが攻撃を仕掛けたのは同時だった。

「あなたの血塗られた道は、ここが終着点です」
「精々、お前に相応しい地獄が待っている事を祈る」

 紅蓮の灼刃と翡翠の疾刃が交差し、闇に覆われた戦場に鮮やかなる血の華が咲く。
 まるで糸が切れた人形のように、ローザリアの身体はがくりとその場に崩れ落ちた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セルマ・エンフィールド
※真の姿で左目が赤く染まっています。

弄ばれ殺害された人の仇とか、囚われた人たちを助けるためとか……そんなことは言いません。私にはそれを言う資格はありませんから。ただ。
あなたは、ここで殺す。

建物の中であれば変換する無機物には困らないでしょう、周囲が闇に包まれれば銃で狙うのは難しそうですね。
ならば、こうするだけです。
【氷炎の獣】で炎の狼たちを召喚、何体かは護衛に残し、炎で闇を照らして吸血鬼を索敵させます。あちらからも炎の狼は見えているでしょうが……こちらは囮。
吸血鬼が炎の狼や私を狙ってきたら闇に潜ませていた氷の狼たちを動かし、吸血鬼を襲わせます。

行きなさい、狼たち。狩りの時間です。



「な、ぜ……なぜ私が、こんな目に合わなければいけないの……」
 血溜まりの中に倒れ伏したローザリアは、呆然とした表情を浮かべながら呟いた。
 自分はただ、ゴミ同然の人間共を使って遊んでいただけなのに。なのになぜ、と。
 この期に及んでもなお己の罪を自覚していない愚かなヴァンパイアに、静かな口調でセルマが答える。

「弄ばれ殺害された人の仇とか、囚われた人たちを助けるためとか……そんなことは言いません。私にはそれを言う資格はありませんから。ただ」
 少女の左眼は赤く染まり、これまでにない力の奔流を感じる。それは彼女の真の姿。
 まるで彼女の立つ場所が極点であるかのように、本人にさえ制御不能の冷気が周囲を凍てつかせていく。

「あなたは、ここで殺す」

 ――そんな極低温よりもはるかに冷たい、極寒の殺意を込めてセルマは宣言する。
 それは、傲慢なる吸血鬼さえも心の底から震え上がらせるのに十分なものだった。

「く……来るな……私を見るな……ッ!」
 その視線に射抜かれることが恐ろしくて、ローザリアは衝動的に【ダークネスイリュージョン】を発動する。別荘を構成する物質が闇に変換され、周囲を包んでいく。
「これでは銃で狙うのは難しそうですね」
 建物の中であれば変換する無機物にも困らない。セルマは愛用のマスケット銃「フィンブルヴェト」のスコープを覗いてみたが、視界に映るものは質量すら感じるほどに深い暗黒だけであった。

「ならば、こうするだけです」
 射線も通らぬほどに暗い闇は炎を以って晴らすまで。発動するのは【氷炎の獣】。
 セルマの放つオーラの中から、遠吠えと共に熱気を振りまく炎の狼たちが現れる。
 真の姿となった彼女は、冷気のみならず熱気さえも統べる存在であるのだ。
「行きなさい、狼たち。狩りの時間です」
 氷炎を纏う少女の号令に応え、炎狼達は猟犬のように闇に向かって駆けていく。
 煌々と燃え盛るその身は生きた松明のように暗闇を照らし、その中に隠されたものを暴き出していく。広い屋敷とはいえ所詮は屋内、どこに敵が潜んでいようとすぐに見つけ出せるだろう。

「バカね……丸見えじゃない……」
 だが、索敵を行う炎狼は、闇の中にいるローザリアからもはっきりと見えていた。
 彼女からすれば自分のフィールドの中にのこのこと敵が姿を晒してやって来てくれたに等しい状況。逆に索敵範囲が狭まるまでこれを放置しておく理由は無い。
「血が流れていないのが残念だけど……八つ裂きにしてやるわ……!」
 口元に嗜虐的な笑みを浮かべ、吸血鬼は闇の中を疾風のごとく駆ける。鋭く伸びたその爪や牙が獲物をひと撫ですれば、炎の狼はギャンと悲鳴を上げて火の粉に還る。
 痩せても枯れても高位の吸血鬼らしく、闇を味方につけたその力は今だ侮れるものでは無かった。

「あはははは! 脆い、脆いわね!」
 次々と炎の狼を屠りながら、闇の中で高らかに哄笑する吸血鬼。
 ――しかしセルマにとって、それは獲物をあぶり出すための囮に過ぎなかった。
「次は貴様を―――ッ!!?」
 勢いに乗って術者に矛先を向けたローザリアの身体を、ふいに冷たい牙が貫く。
 それは炎の狼と対となる、凍てつく冷気を振りまく氷の狼たち。炎狼の索敵にローザリアが気を取られているうちに、セルマは彼らを闇に潜ませていたのだ。

「終わりにしましょう」
 炎狼と氷狼――二種の獣を統べるセルマは、遂に捉えた獲物に向けて告げる。
 氷の牙は鋭く、血潮も凍る極寒の刃。一度喰らいつけば狼は獲物を絶対に逃さない。
「ひ、ぎぃッ……やめて、やめなさい、あぁぁぁッ!!?!」
 腕を、脚を、胴を、喉笛を、群れなす狼に齧りつかれ、吸血鬼が絶叫を上げる。
 もはや己は狩られる側なのだと、果たして彼女もこれで理解しただろうか。
 その穢れた魂の一片までも凍てつかせるまで、狼の狩りは終わらない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セシリア・サヴェージ
全てあなたの思い通りになると思ったら大間違いです。
弄ばれた人々のためにも、あなたをここで斃します!

【先制攻撃】を行うことで出鼻を挫き、戦いの流れを掴みます。
併せて【挑発】するような言葉を投げかけます。
例えば、思い通りにならない者を相手にする気分はいかがですか?とか。
相手が冷静さを欠けば攻撃も単調なものになり対処しやすくなるはずです。

彼女が『闇』を操るというのならば、それを上回る深き闇を纏いましょう。
UC【血の代償】を発動することで、彼女の闇で攻撃されてもそれを取り込んで更なる力に変えてみせます。



「この……このっ、このっ……この私が、どうして、こんな……ッ!!」
 猟兵達の攻勢にしてやられ続け、逃げるように後退を繰り返すローザリア。
 憤怒、屈辱、焦燥、嫌悪、そして恐怖――様々な負の感情が彼女の中で渦を巻き、精神をぐちゃぐちゃにかき乱す。見にくく歪んだその顔に、当初の余裕は微塵も無い。

「思い通りにならない者を相手にする気分はいかがですか?」
 そこに、挑発するような言葉を投げかけながら斬り込んだのはセシリア。
 敵に体勢を立て直す暇を与えずに、迅速さを重視した初撃にて機先を制する。
「貴様らァ……ッ!! 絶対に許さないわよッ!!」
 剣戟と併せた口撃の効果は抜群だったようで、暗黒剣の一太刀を浴びたローザリアは苦痛と屈辱から獣のような怒号を放つと、再び【ダークネスイリュージョン】を展開しはじめた。

「この闇の中で、無様に死になさい!」
 周囲の無機物を変換した暗黒の塊を、ローザリアは手元に集束して投げつける。
 怒りに任せた直接攻撃。彼女が冷静さを欠いているのは誰の目にも明らかだった。
(単調な攻撃であれば対処もしやすいです)
 わざわざ挑発を仕掛けた甲斐はあったと、セシリアは暗黒剣ダークスレイヤーを構え攻撃を受け止める。闇を凝縮した破壊的なエネルギーの塊を受けるのは危険だが――闇を以って闇を制する暗黒騎士が、ここで膝を屈するわけにはいかない。

「貴女が『闇』を操るというのならば、それを上回る深き闇を纏いましょう」
 押し寄せる闇を剣一本で受け止めながら、セシリアの身体が暗黒に覆われていく。
 それは暗黒騎士の力を引き出す【血の代償】。敵から受けた心身の負傷や苦痛、そして負の感情を糧として、暗黒はさらなる贄を求めるかのように力を与える。
 セシリアの暗黒のオーラが膨れ上がるにつれて、ローザリアの放った闇の勢いは衰え――否、それはまるで闇がセシリアの剣や身体に吸い込まれているように見える。

「まさか、私の闇を取り込んだっていうの!?」
 ありえない、と言わんばかりの表情でローザリアが叫ぶ。猟兵とはいえたかが人間が、不死者にして夜の貴族たるヴァンパイアの操る闇を取り込むなど。
 だが、現実はそれだ。闇を取り込んだことで増幅された暗黒の力はセシリア自身にも不快と苦痛を与えているが、彼女はその力を全て自らの制御下に置いている。
「護るためならば、この程度の痛み……!」
 奴隷にされていた少女達の顔を思い出し、ぐっと歯を食いしばって剣を握る。
 騎士としての誓いを胸に、振り上げた暗黒剣は闇を纏いて巨大な刀身を形作り。
 乾坤一擲の想いで振り下ろせば、その一撃は闇よりも昏き暗黒の斬撃と成る。

「全てあなたの思い通りになると思ったら大間違いです。弄ばれた人々のためにも、あなたをここで斃します!」
 決意と共に叩きつけられた斬撃は、吸血鬼ローザリアの身体を深々と斬り裂いた。
 苦悶に満ちた絶叫が戦場に響き渡り、ドス黒い血飛沫が豪奢な屋敷を汚していく。
 セシリアの腕は確かな手応えと共に、近付きつつある戦いの終わりを感じていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

リーヴァルディ・カーライル
…ん。今まで何度も同じ言葉を口にする吸血鬼がいたけど、
その度に私はお前達にこう返してきた。

…その使えないゴミに負けたお前は、
存在する価値も無さそうねって。

敵の殺気の残像を暗視して闇や血の先制攻撃を見切り、
大鎌をなぎ払うカウンターから早業の武器改造で連携
双剣の2回攻撃から怪力任せに手甲剣を突き刺しUCを発動

…これはサラの分。これはフェイの、アリサの分。そしてこれが…。

手甲剣に限界突破した呪力を溜めて魔槍に変え、
生命力を吸収する死棘で体内の傷口を抉り、
空中戦を行う“血の翼”の推力を加え、
闇属性攻撃の呪詛のオーラで防御を無視して突撃する

…お前に虐げられた全ての人達の分よ。
消えなさい、この世界から…。



「ぐ……ぁ……この、ままじゃ……」
 幾度もの攻撃を受け、満身創痍となったローザリアの脳裏に"死"の予感がちらつく。
 永生者たる自らには無縁だとばかり思っていたものが、今、目の前に迫っている。
 死にたくない。その想いと恐怖が、そして屈辱と怒りがなおも彼女を衝き動かす。

「私は高貴なるヴァンパイアなのよ……あんなゴミ共とは命の価値が違うの……!」
「……ん。今まで何度も同じ言葉を口にする吸血鬼がいたけど、その度に私はお前達にこう返してきた」
 奮い立つローザリアの前に立ちはだかったのは、大鎌を構えたリーヴァルディ。
 挑発というには淡々と。目の前の存在をまるで氷のように冷たい目で見つめながら彼女は告げる。吸血鬼の傲慢なプライドを否定する一言を。
「……その使えないゴミに負けたお前は、存在する価値も無さそうねって」
「――貴様ぁぁァァァァァッ!!!!」
 その瞬間、激高したローザリアは爪と牙を剥き出しにして、猛獣のような姿勢で飛び掛かる。この小娘だけはこの手で引き裂いて殺す――怒りで真っ赤に染まった瞳が、そう語っていた。

「……冷静さを失ったら負けよ。お前達はいつもそうね」
 剥き出しの殺気から敵の動きを見切ったリーヴァルディは、相手に対して半身になって攻撃を躱すと、自らの身体を軸にして、漆黒の大鎌をさっと横薙ぎに一閃する。
「……これはサラの分」
「あぎッ?!」
 まるで相手のほうから刃に飛び込んできたように見える、狙い澄ましたカウンター。
 "過去を刻むもの"と名付けられた禍々しき刃が、オブリビオンの生命を切り刻む。
 間髪入れずにリーヴァルディは大鎌を双剣形態"未来を閉ざすもの"に変化させ、目にも止まらぬ早業で追撃。疾風のごとき斬撃が、敵の傷をより深く抉っていく。

「これはフェイの、アリサの分」
「が、ぁ、ッ、この、っぎぃッ?!」
 狩人が口にするのは救い出した少女達の名前。一撃を加えるたびにひとり、吸血鬼に虐げられた者の名を、彼女らの受けた苦しみの分も込めて刻みつけていく。
 双剣の乱舞を受けて敵がよろめけば、武器の形態をさらに"現在を貫くもの"に変更。腕を覆う手甲から黒刃を伸ばし、がら空きの胴体目掛けて力任せに突き立てる。
「がぁッ!!!」
 刃は根本まで深々と突き刺さり、ローザリアの口からは苦悶に満ちた悲鳴が溢れた。

「そしてこれが……」
 リーヴァルディはそのまま、突き刺した手甲剣に限界を超えた呪力を送り込む。
 膨大な力を溜めこんだ黒剣はまたも形態を変化させ、使い手の腕と一体化した呪われし大槍――【代行者の羈束・死棘槍】と成った。
「……お前に虐げられた全ての人達の分よ」
「ぐ、ぎ、ぁ、痛い痛い痛い痛いぃぃッ!!!」
 犠牲者達の無念を具現化させた死棘は、体内から傷口を抉り生命力を奪う。臓腑をズタズタにされる激痛に、槍に串刺しにされたローザリアは狂ったように悶える。
 しかしどんなに暴れても槍が抜けることはない。むしろ"返し"の役割を果たす死棘がより深く身体に食い込むことで、余計に痛みが増大されるだけだ。

「……これ以上はもう、誰の命も玩ばせはしない」
 もがくローザリアの胴体に魔槍を押し込みながら、リーヴァルディは"限定解放・血の翼"を起動。空中戦に使用する魔力の双翼を、今は純粋な推力として利用する。
 加速していくその身は呪詛に満ちた闇のオーラを纏い、全てを貫く一振りの槍と化し。全力、全速、そして零距離で、ありったけの威力を炸裂させる。

「消えなさい、この世界から……」

 ――死棘槍の突撃が吸血鬼を貫く。その骨肉を、臓腑を抉り、風穴を開けて。
「ぎ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!?!?!!」
 耳をつんざくような凄まじい絶叫が響き、血飛沫が戦場を真っ赤に染める。
 リーヴァルディが駆け抜けていった後には、半身を失ったローザリアがいた。
 千切れ飛んだ片腕にごっそりと抉れた脇腹――生きているのがもはや不思議な状態。
 その命運が尽きる時が刻一刻と迫っているのは、誰の目にも明らかだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

シホ・エーデルワイス
≪隷放≫
アドリブ歓迎


それがどうかしましたか?
貴女が誰であろうと私達は明日を迎えてみせます

ルカさんの背に隠れる位置で
彼女が陽光で闇を照らしている様に見える
<迷彩をかけた光と炎属性攻撃の【華霞】で援護射撃>

敵の攻撃は<オーラ防御>


戦後

奴隷商に償いの機会を与えて欲しい

依頼『選ばれなかった未来、遠く霞んだ過去』を思い返しながら

許してとは言いません
ただ一方的な断罪では
人身売買とは無関係でも奴隷商と関わった人まで私刑に遭いかねず
破滅に突き進めば吸血鬼が喜ぶ

それに奴隷から解放しても浮浪児のままでは
新しい奴隷商が現れる

悔い改め
隠し財産も投げ打ち
孤児の養育支援に貢献するなら
命は助けて欲しいと【輝喘】を使って願う


ルカ・ウェンズ
締めくくりにチーム≪隷放≫

吸血鬼には使いたくて仕方なかった対オブリビオン用スタングレネードを食らわせるわ。これで【目潰し】もできると思うし、「私は(たぶん将来)太陽の力をつかえるのよ」と言って【恐怖を与える】これで敵が敵がひるんだ隙に縁切りで吸血鬼を切断しないと!

吸血鬼だから切断しても油断しないわよ。【オーラ防御】で体を守り、切断するより殴る蹴るの方が有効かも知れないから味方に混ざって【怪力】で殴ったり蹴ったりしてみるわ。

それと奴隷商は子ども達がそれでいいと言うのならシホさんに免じて『子ども達に償う気があるなら命だけは助けても良いど次は無い』と釘を刺して脅して虫と恐怖を与えるだけにするわ。



「あ、ぁ、ぁ……嘘よ、こんなの、嘘よ……」
 失われた肉と臓腑、止まらない流血、意識が飛びそうになるほどの激痛。
 はっきりと感じる"死"の予兆に、青ざめた表情でローザリアは呟く。
 こんなのは嘘、ありえない、と。敗北という現実を受け入れまいとして。
「私は、ヴァンパイアなのよ。お前達なんかとは違う、高貴な存在で……」
「それがどうかしましたか?」
 命乞いにもなっていない吸血鬼の逃避を、すっぱりと切り捨てたのはシホだった。
 彼女にとっては、戦う相手の種族や地位や肩書など、本当に些細なことでしかない。
「貴女が誰であろうと私達は明日を迎えてみせます」
 虐げられてきたあの子たちの未来のために戦う。
 それが今、彼女がこの戦場に立つ理由だった。

「お前達のような塵芥に……明日なんて来るはずないでしょうッ!」
 満身創痍のローザリアが放つは【ダークネスイリュージョン】。屋敷中の無機物を闇に変化させ、眼前の敵すべてを薙ぎ払わんと、嵐のごとく吹き荒れさせる。
 それは満身創痍の吸血鬼に残された最後の抵抗――しかしシホはその身を光り輝くオーラで覆うことで闇に呑まれるのを防いでいる。聖者の光を宿す彼女には、未来を閉ざす暗黒も決して届きはしない。

「明日は私達の光が照らします。……ルカさん!」
「待ってたわ。これ、吸血鬼には使いたくて仕方なかったのよね!」
 オラトリオの聖者が叫ぶと、さっとその前に飛び出した黒衣の仕事人――ルカがピンを引き抜いた「対オブリビオン用スタングレネード」を投擲する。狙い過たずに敵の目前で炸裂したそれは、凄まじい爆発音と閃光で闇を引き裂いた。
「ぎ、ぁがッ!? な、何が起きたの……ッ!!」
 眼球と鼓膜に刺すような痛みが走り、ローザリアは両目を押さえながら悲鳴を上げる。闇夜に慣れきっていた吸血鬼の五感に、それは余りに強烈な刺激であった。

「私は(たぶん将来)太陽の力をつかえるのよ」
 大事な部分をあえて口にせずに、ルカは前後不覚に陥った吸血鬼に斬り掛かる。
 戯言を、と笑い飛ばすのはローザリアの視点からでは不可能だろう。ルカの背後からはシホが聖光を放ち、あたかもルカが陽光で闇を照らしているように演出する。
「太陽……あの忌々しい……ッ!」
 吸血鬼にとってそれはこの世界から排除したはずの忌まわしき存在。
 スタングレネードの効果も相まって、本能的な恐怖が彼女の身体を竦ませる。
 それは刹那にも満たぬ一瞬の怯えだったが、ルカにとっては十分に過ぎた。

「お終いにしましょうか」

 振るうは漆黒の変形式オーラ刀。滑らかな太刀筋で放たれた【縁切り】の一撃は、すでに限界に達していたローザリアの身体を――ケーキのようにすっぱりと断った。
「―――ッ!!!」
 泣き別れとなった上半身と下半身。驚愕を顔に張り付けて崩れ落ちるローザリア。
 しかしまだ猟兵達は油断しない。人間をはるかに超える生命力と再生能力を持ったヴァンパイアのしぶとさはよく知っているからだ。

「援護します!」
 後方よりシホが【儚きエーデルワイスの嵐】を放つ。銀色に輝くエーデルワイスの花びらが炎を纏い、断たれたローザリアの肉体を空中に巻き上げて灼き焦がす。
「切断するより殴る蹴るの方が有効かも知れないわね」
 さらにルカは拳から足まで全身をオーラでガードすると、敵が原型を留めなくなるまで徹底的に、完膚なきまでに、殴り、蹴り、潰し、砕いていく。

「い、ぎ、ぁ、が……この、私が……こんな……バカ、な……」

 再生の可能性を完全に潰されたローザリアは、白い花吹雪に包まれて散っていく。
 粉砕された肉片の一片までをも灰燼に帰され、ここに血の奴隷達を虐げていたヴァンパイアの命脈は断たれたのであった。



 ――戦いを終えた後、シホとルカは奴隷だった少女達を連れて町に戻っていた。
 その目的はこの事件を引き起こしたもうひとつの元凶、人身売買業者の処遇についてだ。

 件の業者については、ある猟兵が手勢を使って関係者を洗い出しており、吸血鬼を討伐次第全員捕縛する手筈を整えていた。結果、ローザリアの死が広まるよりも早く、この一件に関わった連中は一人も逃さずに捕らえられていた。
 しかしシホは、捕縛された彼らを皆殺しにすることには「待った」をかけたのだ。

「奴隷商にも償いの機会を与えて欲しいのです」
 かつて体験した依頼での出来事を思い返しながらシホは語る。彼らが悔い改め、隠し財産も投げ打ち、孤児の養育支援に貢献するなら命は助けて欲しいと。
「許してとは言いません。ただ一方的な断罪では、人身売買とは無関係でも奴隷商と関わった人まで私刑に遭いかねず、破滅に突き進めば吸血鬼が喜ぶだけです」
 それに子供たちを奴隷から解放しても浮浪児のままでは、いつか彼女らを狙った新しい奴隷商が現れるやもしれない。今回の悲劇が未来に禍根を残さないようにするためには、子供達を扶養する存在は絶対に不可欠だった。

「シホさんがそこまで言うなら私はいいけど、子供達がそれで良いと言うかしらね」
 これまで自分達を虐げてきた張本人に、直接的でない手段を取るにせよ養われるというのに抵抗はないだろうかとルカは言う。対する子供達の反応といえば――不承不承、というのが大凡のところだろうか。
「もう、痛いことされないのなら……」
「……ほかに行くあてがあるわけでもないし」
 感情的なしこりと現実的な問題を天秤にかければ後者を取る、といった感じだ。
 流石にこの過酷な世界で生きているだけあり、子供とはいえ現実的な判断である。

「早い内にきちんとした養い手を見つけるまでの辛抱ね」
 それもこの連中に探させればいいか、とルカは捕らえられた奴隷商達に視線を移す。
 万が一にも彼らが同じ過ちを犯さないよう、きっちりと釘は刺しておくべきだろう。
「シホさんに免じて、子ども達に償う気があるなら命だけは助けても良いど次は無いわよ」
「「は、ははは、はいッ!!」」
 使役する虫も使って脅しをかければ、恐怖に震え上がる業者達は一も二もなく頷いた。彼らが心から悔い改めたかはまだ定かではないが、大なり小なり彼らの全員が猟兵の力を知っている以上、迂闊なことをやらかしはすまい。

「生きとし生けるこの世界の皆様。この苦難を乗り越え、明日を迎える為にどうか力をお貸しください」
 話が無難に纏まると、シホはロザリオに触れ【明日を迎えるための一押し】を祈る。
 それは孤児達の救済を、奴隷商達の贖罪を、そして彼らの未来のための奇跡を求める祈り。彼女の想いはテレパシーとなって世界中の人々に伝わり、是非を問う。
 果たしてどれだけの人々がその祈りに応えてくれるだろう。分からないが、シホは信じていた。人々がより良い未来を選んでくれることを――。



 ――後日。
 人身売買業者のアジトは取り壊され、その跡地には一軒の孤児院が建ったという。
 設立に当たっては多額の寄付が寄せられたというが、不思議なことにその出資者は皆匿名であった。その中にかつての奴隷商が含まれているのを知る者は殆ど居ない。
 その孤児院には多くの身寄りのない子供達が集まり、その命を救われ、この世界においては掛け替えがないほどに貴重な、穏やかな生活を得られたというが――。
 それはまた別の話。血の奴隷たちを解き放った猟兵達の活躍がもたらした、希望に満ちた未来の1ページである。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年02月04日


挿絵イラスト