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青かった鳥と不幸せを呼ぶ少年

#アックス&ウィザーズ

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#アックス&ウィザーズ


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●青い鳥はいなかった、けれど
 ぼうけんしゃだったおとうさんとおかあさんは、どらごんにたべられたらしい。
 こじいんはとうぞくにおそわれた。うまれたむらはびょうきがはやった。
 みんなみんないなくなった。ぼくだけがいきのこった。

 いまいるむらで、ぼくは「ふしあわせをよぶしょうねん」といわれている。
 ここにいてごめんなさい。いきていてごめんなさい。
 こんなぼくでも「あおいとり」とみつけられたら。みんなといっしょにいていいですか。

 青い鳥を探して迷う森の中。霧が立ち込める真っ白な視界。
 懐かしい人々がいた。もう一度会いたかった人がいた。皆が少年に笑いかける。
 皮肉にも不幸せと共に生き続けた少年は、一目で分かってしまった。
 この幸せはもう手に入らないものだと。手に入らないから幸せに見えるのだと。
 「――――――――――――――。」

 少年が首を振ると、霧が晴れた。
 「その年で誘惑に負けないなんて強い子ね。」
 それと同時に哀しい子、と複雑な表情で微笑みかけられる。
 目の前に立っていたのは幻の人々ではなく、青い翼のハーピーだった。
 いや、よく見るとその美しい青い羽根の先は、ほんの一筋だけ赤に染まっている。
 「……逃げた方がいいわよ。私の翼が赤くなる前に。」

●二つの顔を持つハーピー
「誰か手隙の者はいるかい?」
 グリモアベースで、グリモア猟兵のメリー・アールイー(リメイクドール・f00481)はいつものように猟兵達へ召集をかけた。
「今回の依頼はアックス&ウィザーズの世界で、子どもの救出とハーピーの討伐をお願いしたくてね。」
 またハーピーかと誰かが呟いた。既に何度か戦闘を経験している猟兵達にとっては変わり映えのない依頼に映るだろう。。しかし、メリーは早とちりするんじゃないよとジロリと視線を向けてからこう続けた。
「そのハーピーねぇ……二重人格らしいんだよ。」

 順を追って依頼内容を説明しよう。
 救出対象の少年の名前はルーカス。しかし、彼の名を呼ぶ村の住人はいない。皆彼を「不幸せを呼ぶ少年」と疫病神扱いして触らぬ神に祟り無しと、彼が失踪しても心配する者や捜索に協力的な者は殆どいなかった。失踪のきっかけは同世代の子どものとある台詞。
「お前が青い鳥を見つけられたら一緒に遊んでやるよ。」
 見つけられた者には幸運が訪れるという青い鳥の物語。この辺りでは子どもから大人まで誰でも知っている有名な童話らしい。童話は童話、現実にはいるわけがない。それでもルーカスは藁に縋るような思いで、青い鳥を探しに一人村を出たのだろう。村の南には多くの動物達が住む森がある。道の整備はされていないが、人が通れる小道は細々と奥へと続いている。メリーの予知した舞台はこの森と考えて良いだろう。

「森の入り口に、テレポートのゲートを開くとするよ。その森のどこかに、あたしが予知した『濃霧に覆われた空間』があるはずなんだ。その先にルーカスとハーピーがいるはずだからさ、彼が進んだ道のりを何とか探しておくれ。」
 その濃霧がまた厄介なのだ。霧に包まれた者へ一時的に『その人にとって一番の幸せだと思われる幻覚』を見せるという今回のハーピーの特殊能力らしい。そしてその幸せを享受した分だけ、生命エネルギーをハーピーに奪われてしまう。

「ルーカスは今青い翼のハーピーと共におるよ。この青い翼の時の彼女はオブリビオンとは思えん程優しい奴でね。特に彼を襲うこともなく、むしろ彼に懐かれてしまったみたいだ。……しかしこのハーピーは生命エネルギーを得ないと生きられん生き物らしい。翼が青いほど穏やかで優しい気性だが、その分生命力、残る命も少ない。一方で霧からエネルギーを得れば得る程彼女の翼は赤く染まって、残虐な性格へ変貌し戦闘力もぐんと上がった強い個体になるそうだ。」
 この場を放っておいて、赤いハーピーが人々を襲うようになってからでは遅いのだ。猟兵達は何かしらの手段を取らなければならない。
 ねえ、あんた達はどういう選択をするんかね。メリーは猟兵達に問う。

「作られた幸せを看破して青い彼女と会うかい?それとも少しばかりのエネルギーをくれてやって赤い彼女と会うかい?それと……その場にいるはずの、青い彼女に懐いちまったルーカスにはどういう対応をとるんかね。」
 あたしは行けないからあんた達に任せるよ、と丸投げされた。君達が何色の物語を描こうと自由なのだ。

「それじゃよろしゅうに!ぐっどらっく!」


葉桜
 こんにちはこんばんはおはようございます。新人MSの葉桜です。
 今回は少し特殊なルールの依頼を設けてみました。

 第一章、冒険『幸せの青い小鳥』
 こちらはOPの通り、森で少年を捜索して下されば結構です。

 第二章、冒険『幻惑の霧を越えて』
 「あなたにとっての一番の幸せ」をご記載下さい。それがあなたが見る幻惑です。
 この章で得た「青丸(成功)」数と「赤丸(失敗)」数で第三章の流れが変わります。
 幻惑によって幸せだと感じてしまった分、赤丸が増えます。
 UCを使う場合は、3回ダイスを振った平均値で判定します。荒ぶったらごめんなさい。
 使用しない場合は、葉桜MSの裁量となります。……恨まないで下さい。

 第三章、ボス戦『ハーピー』
 第二章で、「赤丸が青丸の半数以上」なら赤いハーピー。
 「赤丸が青丸の半数未満」なら青いハーピーが出てきます。
 赤いハーピーは問答無用で戦闘になります。
 ですが、この場合も少年がいきなり襲われていることはありません。
 青いハーピーとは会話が出来ます。
 赤丸が1つでもあった場合は、途中で赤いハーピーが出てくる可能性もあります。

 やりたいことを好きなだけプレイングに詰め込んでみて下さいませ。
 宜しくお願いします!
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第1章 冒険 『幸せの青い小鳥』

POW   :    そんなに遠くへは行っていないはず。森の中をしらみつぶしに探す

SPD   :    足跡や目撃情報を探し痕跡を追う

WIZ   :    子どもが通りそうな道を予想したり、森の動物に尋ねて後を追う

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 そこは緑に恵まれた小さな村だった。他の集落と関わりを持つこともなく独自の発展を遂げた人々には、

自覚は無くとも排他的な思想が根付いてしまっていた。

 波風ひとつ立たない平穏な日常が続くある日のこと、一人の少年が村を訪れた。村の近くには、流行り病

により命を落としたシスターと、ここまで駆けてきた馬がいるという。道半ばで倒れたシスターは少年が暮

らせる安全な集落を求めて馬を走らせていたのだ。自分だけは病気にならなかったけれど、故郷はもう誰も

生きていないし帰れる家もない、自分をこの村に置いて下さいと。少年は涙をこらえて村人達に願った。

 少年が語る自らの生い立ちに、ある村人は顔色を変え、ある村人は背筋が凍った。そんなに不幸が舞い込

むなんて常識では考えられない。一人で在ることを運命づけられているような少年に彼等が抱いた感情は、

憐憫でも同情でもなく、ただの恐怖だった。安寧しか知らない彼等には、少年自身が不幸を呼び寄せている

疫病神にしか見えなかったのだ。
 とはいえ幼い少年を追い出しても罰があたるかもしれない……村人達は極力自分達と関わりを持たないことを条件に、少年に村の隅の小屋を与えた。
【上記は文章の折り返しミスで見づらくなっておりますので、
 同内容のものを以下に改めて記載させていただきます。
 なお、上記とこの注釈は後日訂正させていただく予定です。
 申し訳ございませんでした。】
●不幸せな少年
 そこは緑に恵まれた小さな村だった。他の集落と関わりを持つこともなく独自の発展を遂げた人々には、自覚は無くとも排他的な思想が根付いてしまっていた。

 波風ひとつ立たない平穏な日常が続くある日のこと、一人の少年が村を訪れた。村の近くには、流行り病により命を落としたシスターと、ここまで駆けてきた馬がいるという。道半ばで倒れたシスターは少年が暮らせる安全な集落を求めて馬を走らせていたのだ。自分だけは病気にならなかったけれど、故郷はもう誰も生きていないし帰れる家もない、自分をこの村に置いて下さいと。少年は涙をこらえて村人達に願った。

 少年が語る自らの生い立ちに、ある村人は顔色を変え、ある村人は背筋が凍った。そんなに不幸が舞い込むなんて常識では考えられない。一人で在ることを運命づけられているような少年に彼等が抱いた感情は、憐憫でも同情でもなく、ただの恐怖だった。安寧しか知らない彼等には、少年自身が不幸を呼び寄せている疫病神にしか見えなかったのだ。
 とはいえ幼い少年を追い出しても罰があたるかもしれない……村人達は極力自分達と関わりを持たないことを条件に、少年に村の隅の小屋を与えた。
フォンミィ・ナカムラ
不幸せを呼ぶ少年……?
何それ、ただのイジメじゃん!
子供だけじゃなくて大人も一緒になっていじめてるなんて、ひどい話だよね!

青い鳥を探してるなら、鳥さんが集まってる場所を探すように進んでいくかも?って予想するよ。
実際に鳥さんがいっぱい止まってる木とか、鳥さんが集まりそうな目立つ木の実がなってる木のあるところを通ったんじゃないかって見当をつけて探すよ。

可能なら【影の追跡者の召喚】で追跡者を鳥さんにつけて、上空から男の子を探したり手がかりを探してみるよ。

大切な人を亡くしていじめられて、最後はモンスターに殺されちゃうなんて悲しすぎるもん。
絶対、男の子を助けたい!


ライラック・エアルオウルズ
幸せの青い鳥、か――
…いや、今は彼を探す事を優先しようか。
悩むのは、その後でいい。

【SPD】
(技能:情報収集・追跡・言いくるめ)
僕は彼の痕跡を探す事を中心に。
…本来なら。ハーピーが居る様な森の中には、
子供が入る事を大人は許さない筈だ。
だから、子供サイズの足跡が無いか痕跡を探す。
人が通れる小道が一つしかないなら辿り易そう、かな。

…後、余り期待出来ないけど。
聞ける様なら森に入る前に村人に話を聞こうか。
「森に、霧が濃くなる様な場所はないかい?」
本当に関わりたく様子であれば、一言だけ。
彼は不幸を呼んだんじゃなくて、不幸に見舞われたんだ。
その事が理解出来ない様なら、貴方達は本当に不幸な人だね。


フィリア・セイアッド
【WIZ】森の動物にルーカスくんの居場所を聞く

「ふしあわせをよぶ」なんて…眉をさげて少年を想う
ルーカスくんに その青い翼のハーピーさんは優しくしてくれたのね
できたら討伐なんてしたくない
…ううん まずはルーカスくんを見つけないと

指を組んで どうかルーカスくんが見つかりますように、彼の未来につながる道を選べるようにと【祈り】を
森に入る前に 村の人に話を聞く
酷い噂をきいても我慢 できるだけ穏やかに、森の奥へと進む道を確認
「不幸を呼ぶ」なんて 一番つらいのはルーカスくんなのに一言だけ呟いて

道を辿りながら彼を追う
途中動物に会えば 優しい声で「男の子を見なかった?」と
「第六感」も使い少年を探す


フィリリアンナ・フェアリーガーデン
森や自然に関することなら妖精のボクにお任せですよ! まぁ、森の入口付近に霧を出して外の人間に感づかれてもつまらないでしょうし、奥地なのは間違いないでしょう。あとは精霊さんに少年や霧の位置を聞いてみますか。いざとなれば森の上を飛んで見つけますよ!


ルパート・ブラックスミス
【POW】
追跡・捜査に役立つような技能は持っていない。
しらみつぶしになる分時間がかかるのだ、迅速に森の探索に入る。
首尾よく『濃霧に覆われた空間』を見つけられた場合はすぐに突入はせずに、UC【燃ゆる貴き血鉛】を起動。
山火事にならないように操作しながら最低出力で周囲に点火。後続の猟兵たちへの目印にする。
もし空振り続きでも周囲の景色の特徴を覚えてマッピング、他の猟兵と合流した際に情報統合できるように整理しておく。

「……人を襲わぬハーピー、か。それは肉体も記憶も喪った亡霊騎士と呼ぶべきこの身で猟兵をしている自分とどれだけの差があるのだろうか」


茅原・紫九
普通に道沿いを歩いているなら足跡は残るはずだ
追う足跡が件の少年の物かは確証がねえが、道の整備がされてねえってことは人通りは多くねえだろ
乾燥地帯でもねえし、前に雨が降ってから何人も少年が通るとは思えねえから多分そいつのだ。多分

もし足跡が切れたら道から外れた周囲の草に踏み荒らされた跡がないかを確認
動物に追いやられ木に登った可能性も考え、念のため木も調べて追跡するか



●不幸せを遠ざける村で
「やあ、こんにちは皆さん。僕達は猟兵……冒険者の集まりさ。ルーカスという少年の行方を捜しているんだ。何か心当たりはないかい?」
 ライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)が村の入口で声を上げる。同じく村人の話を聞こうと、フォンミィ・ナカムラ(スーパー小学生・f04428)とフィリア・セイアッド(白花の翼・f05316)も同行していた。

 ――ルーカス?と村人達は怪訝な表情を浮かべながら集まって、ぼそぼそと周囲の人と話す。初めは誰のことを指しているのか分からないような反応だった。それが次第に、ああ、あの少年か……と各々決まりが悪そうに目を反らす。猟兵達はそれでもなるべく穏やかに話しかけ、少年がこの村に訪れた経緯を断片的に聞き出すことが出来た。

「そうだったんだね……ちなみに、霧が濃くなる様な場所を知らないかい?ルーカス君が向かった先は森だと予測はついているんだ。」
 さあ、とだんまりを続ける村人達。そんなに関わりを持ちたくないのだろうか。これ以上の情報収集は無理かもしれないと、ライラックが溜息を漏らしそうになったその時。

「何それ、ただのイジメじゃん!」
 気付けばフォンミィは叫んでいた。ハーフで年の割に高身長で大人びてるとはいえ、彼女は少年と同じくらいの年齢の少女だ。怒りの感情のまま頬を紅潮させて、誰もが思っていて、でも言葉に出来なかった台詞を、村人達に投げかける。

「不幸を呼ぶ少年? 名前も呼んであげられないの!? 子供だけじゃなくて大人も一緒になっていじめてるなんて、ひどい話だよ!」
「不幸を呼ぶ、なんて……一番つらいのはルーカスくんなのに。」
 今まで彼らの自分本位な考えを聞いても我慢していたフィリアも、ついに胸の内を漏らした。
「彼は不幸を呼んだんじゃなくて、不幸に見舞われたんだ。その事が理解出来ない様なら、貴方達は本当に不幸な人だね。」
 ライラックの冷静な声が村人達を更に静かにさせる。彼等は自分の足で捜索するしかないと、踵を返そうとした。

「ごめんなさい!あいつに……ルーカスにいじわるしたの、俺なんだっ」
 体格の良い一人の少年が村人の輪の中から出てきた。泣き出しそうな顔を歪めて、猟兵達に話しかける。
「青い鳥を見つけられたら、遊んでやるって……言った。」
「青い鳥は、逃げちゃったの。幸せを欲しがり過ぎる人間が嫌で、人間が来ない、森のすごく奥に。」
「森の奥はモンスターも出るから、大人から入っちゃいけないって言われてる道があるんです。」
「『立ち入り禁止』の看板の奥なんて、どうせ行けないだろうって思って……。」
 初めの少年を筆頭に、次々と村の子ども達が猟兵達の周りに集まり、自分の知る話を口ぐちに伝えた。
 子ども達は大人からあの子とは関わらないようにと言われていたらしい。あいつならいじめていいという暗黙のルールが存在していた空気に猟兵達から一石を投じられて、素直な子ども達は自分の意思でルーカスを助けようと行動を起こしたのだ。

「教えてくれてありがと! ルーカスが帰ってきたら、なかよくね!」
 恐らくルーカスも子ども達と同じ知識の元、行動しているはずだ。彼等の証言は少年を探す貴重なヒントとなった。フォンミィは子ども達に、ルーカスは絶対連れて帰ってくるからね!と笑顔を見せた。

「……看板は、森の入口から小道に沿って歩けば辿りつける。昔、その辺りで神隠しが起きていたから、封じた道だ。霧との関係は知らない。道を外れた者は二度と帰っては来ないから。……すまなかった。気を付けて、あの子を、ルーカスを助けに行ってくれ。」
 子ども達の姿に心を動かされたのか、大人達は猟兵達に頭を下げ、そして願った。

 フィリアは指を組んで空に祈る。これでルーカスくんの帰る場所が出来た。
 後は、どうかルーカスくんが見つかりますように。彼の未来につながる道を選べますように。
 全てはこれからの私達猟兵の働きにかかっている。

●足と頭で少年を追え
 ルパート・ブラックスミス(独り歩きする黒騎士の鎧・f10937)は早々に一人森を歩き続けていた。漆黒の鎧は緑生い茂る森の中で非常に目立つ。一歩ごとにガシャンと鳴る金属音に動物達は足早に逃げていく。自分は動物に話しかける言語も、追跡や捜査に役立つ技能も持っていない。使えるのは自慢の体力とこの足だけだと、しらみつぶしに森を探索しているのだ。目立つ小道は誰かが探すだろうと、自分は歩きにくい山道の土を踏みしめ先に進む。どんな地道な作業も大事な猟兵の仕事のひとつなのだ。

「……人を襲わぬハーピー、か。それは肉体も記憶も喪った亡霊騎士と呼ぶべきこの身で猟兵をしている自分とどれだけの差があるのだろうか。」
 森の中、誰に語りかけるわけでもなく、ふいに自分とハーピーの境遇を重ねる。その問いには緑の風が鎧を撫でるだけで、答えを返されることはなかったが、声を捉えた誰かが後ろから話しかけてくる。

「ああ、やたらでかい足跡だと思ったらお前か。」
 木の影から顔を出したのは茅原・紫九(風に流され来たる紫煙・f04064)だった。被ったフードの奥の瞳にクマが覗くのは、今回の捜査による疲れだけというわけではなさそうだ。

 紫九はこう推理した。普通に道沿いを歩いているなら足跡が残るはずだ。道が整備されていないのならば人通りは少なく、見つけられた足跡があればそれは件の少年の物だろうと。
 しかし残念なことに、小道は森での狩りを行う際に大人達が使う事もあるので、重なり合う足跡の中では少年の物と思われる足跡は特定出来なかった。
 だがその代わりに、道なりに進んだ森の奥で『立ち入り禁止』と書かれた看板を発見した。そしてその看板の奥へ踏み出したような小さな足跡が残されていた。きっと少年のものに違いない……。その先は草も生い茂っている為足跡を辿るのは困難だ。それでも少年はこの先にいるはずだと、普段は人の立ち入りを許さない山の奥へと歩を進めた。

「……で、進んでいくと、辺りの草が踏みしめられた新しい跡があるだろ?何かでかい気がすんなーと思いつつ追ってみたら。」
「俺がいたのか。紫九殿はすごいな、きちんと論理的思考で行動されている。俺はがむしゃらに探していただけだ。」
「いや、これだけの道を一人で歩いて捜索すんのも、すげえだろ……。」
 二人はそれぞれが捜索した情報を報告し合っていた。互いにその方法は自分では出来ないと素直に褒め合う。
「ルパートが調べた範囲を除いて、看板から続く方向となると……あとはあっち側か。」
 大体の道は絞れたと、二人は更なる捜索を続けた。

●精霊と動物と欲深きもの
「森や自然に関することなら妖精のボクにお任せですよ!」
 フィリリアンナ・フェアリーガーデン(超ド級天才魔導妖精・f00685)は、村に寄った為捜索開始が遅れた三人を森の入り口で出迎えた。こちらがこの森に住む精霊ちゃんです!と小さな木霊と肩を組んでいた。
『キキ、キ、オク。コド、モ、オク。』
「まぁ、森の入口付近に霧を出して外の人間に感づかれてもつまらないでしょうし、奥地なのは間違いないでしょう。」
 頼りになる小さな仲間達に宜しくと挨拶して自分達も村で得た情報を共有した。まずは看板まで道なりに進んでいこう。

「足跡があるね、それも小さな。」
 村で聞いた看板の先に子どもの足跡を、ライラックも発見した。子ども達は看板の奥に行ってはならないと大人達に言い聞かされていたはずだ。これはルーカスのもので間違いないと確信する。
「この辺り、鳥が多いね。青い鳥を探してるなら、鳥さんが集まってる場所に進んでいくかも?」
 フォンミィは看板の奥の一角に鳥が多く休んでいる木々を発見した。近付けば、一斉にこちらを見て値踏みをされているような視線を感じる。
「鳥さん、男の子を見なかった?」
 それでも臆することなく優しい声で話しかけたフィリアの耳に、鳥達の鳴き声が反響する。

(((カエレ、カエレ、ゴウヨク、ニンゲン。シアワセ、トリ、ヤスラカニ。)))
 ――帰れ、強欲な人間。幸せの鳥を、安らかに……?

 翻訳したフィリアの唇の動きに、猟兵達は目を見張る。
 ――バサバサバサ。羽音を派手に立てて飛び立つ鳥達。
 そのうちの一羽に狙いを定めて、フォンミィは静かに召喚していたシャドウチェイサーに追跡させる。これで空からの手がかりも得られるだろう。

『キキ……シアワセ、ホシイ、イク。』
「それでも、幸せが欲しいなら行けって意味ですか?」
 どうなっても知らないけどねと笑ってるみたいだと、フィリリアンナは木霊の頬を軽くつねった。

 四人は鳥が飛び立った方向へ道無き道を進む。それぞれがこれから遭遇するハーピーと救うべき少年について考えていた。
(大切な人を亡くしていじめられて、最後はモンスターに殺されちゃうなんて悲しすぎるもん。絶対助けたい!)
 フォンミィは少年を救う為ならハーピーも倒すと覚悟を決めた。
(幸せの青い鳥、か……いや、今は彼を探す事を優先しようか。悩むのは、その後でいい。)
 ライラックは何かに悩みながらも目の前の問題から片づけるべきだと気持ちを改めた。
(ルーカスくんに その青い翼のハーピーさんは優しくしてくれたのね。できたら討伐なんてしたくない。)
 フィリアは救いの道を探しながらも、まずはルーカスくんを見つける事が先決だと首を振った。
(ボクに不可能なんて字はないのですよっ!)
 フィリリアンナは変わらず自信満々だ。彼女の頭にはどのような結末が描かれているのか。

 突然、フォンミィのシャドウチェイサーとフィリアの第六感が異変を察知した。同時に空を見上げる。
「森から煙が出てる!? 場所は……。」
「こっちなのですよっ! 近いです!」
 空にひとっ飛びしたフィリリアンナは、確認した狼煙の位置まで、木々を抜けながら皆を先導する。三人は彼女に続いて森を駆けた。

●そして霧の中へ
 一刻前の出来事――。
 捜索を続けていたルパートと紫九は、辿る道のりは異なるが、他の四人が目指す方向と交わる地点へと着実に歩みを進めていた。スタートが早かった分もあり、彼らの方がほんの少し先に到着することとなる。

「ここまで探していないんじゃ、後は動物に追いやられ木に登った可能性も――って、おい! ルパート!?」
 紫九が次なる手を考えている最中。突然、両者の視界が白い濃霧に覆われる。慌てて互いの名を呼び合うが、返答は聞こえない。
 一か八か、ルパートは『ブレイズブルーブラッド』を起動させて、己の鎧の中から燃える鉛を遠くの地面の草に向かって放ち、青い炎で燃やした。山火事にならないように最小限の出力で点火した炎は、ひと時の間狼煙を上げるだけにとどまる。しかし、それは仲間への合図となって確かに届けられることになる。
 
 完全に霧に包まれれば、それは内部に閉じ込められた者だけの世界。外部からの接触は認められない。
 狼煙に導かれた猟兵達は、覚悟を決める前後に関わらず、全員この濃霧に飲み込まれるだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『幻惑の霧を越えて』

POW   :    力に任せたり気合いで解決(自傷行為等)

SPD   :    見なければ惑わされない、かもしれない。ダッシュで走り抜ける等

WIZ   :    幻と現実の齟齬を見つける等

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

茅原・紫九
俺にとっては今こうして生きて旅をしているのが一番の幸せだ
だがそうだな、少しだけ思わなくもねえ

もし死んでいった俺の持ち主たちが生きていたら
そいつらと一緒に旅が出来たら
文を交わして同じ空の下を漂えたら
たまに出会って子や孫の姿を見て揶揄えたら

だがそれはあり得ねえから「もし」なんだ
人は死ぬし時は進む、理想にしがみ付いて立ち止まる訳にはいかねえ
【トリニティ・エンハンス】を状態異常力重視で使用して進むぜ



●茅原・紫九(風に流され来たる紫煙・f04064)の幸せ
 とある煙管は夢を見る。
 懐かしの最古の主が俺を咥える。ゆらりと紫煙が風に流れた。
 今度は仮初の体を得た俺がいた。青空の下、とある主と共に旅をしている。
 人の身になってもまだ届かない、でかくて腹が立つなと笑って、隣を歩いた。
 そうだ、前の主に文を書こう。
 今度子と孫の姿を見に行くから、茶菓子を用意して待ってろと。
 それは、もう会うことはない亡き主たちと、紫九が歩んでみたかった夢――。

「俺にとっては今こうして生きて旅をしているのが一番の幸せだ。……だが、そうだな。もしもこんな風に、死んでいった俺の持ち主たちが生きていたらって……少しだけ、思わなくもねぇ。」
 それでも、と。紫九は幻想を振り払うように、クマが浮かぶ瞳で目の前の主たちを睨みつける。
「だがそれはあり得ねえから『もし』なんだ! 人は死ぬし、時は進む……理想にしがみ付いて立ち止まる訳にはいかねえ!」
 紫九はトリニティ・エンハンスを放ち、風の魔力で自身を強化する。彼女を取り巻く様に風の渦が舞い踊り、濃霧と共に幻影たちを振り払った。

 気が付けば、先程と同じ森の中だった。懐かしき影はもういない。
 ボサボサ頭を掻いて、風に遊ばれたフードを再び被る。
 紫九は忘れない。大切な主たちとの想い出と。今を生きる幸せを。

成功 🔵​🔵​🔴​

ルパート・ブラックスミス
【WIZ】
「肉体、記憶、そして故郷、全てが喪われずに済んだ世界」を幻視


自分には何もない。故郷と共に亡び、ヤドリガミとして蘇った時に身体も記憶も失わた。
大切なはずのそれ、それを大切だと思える想い。それらの喪失感は今も覚えている。
だからもしそうならなかったのなら、それは幸せな世界だろう。

だが一方でその幸せを受け入れない己を確信する。
それは所詮「人間のルパート」の世界だ。「ヤドリガミのルパート」はその世界では成立しない。
今、ここにいる「俺」の幸せにはならない。

それに全てを喪い猟兵になったからこそ出会えた世界がある。

…進もう。迎えに行かなくては。
自分と同じく全てを喪った少年を、だがまだある彼の未来を。



●ルパート・ブラックスミス(独り歩きする黒騎士の鎧・f10937)の幸せ
 ――それは誰の魂の記憶か。
 黒い鎧の中に流動する鉛と炎が、かつての身体に換わる。
 兜を脱いで深呼吸をすると、澄んだ空気が肺を満たした。
 日差しが暖かく、眩しい。誰かに名前を呼ばれた。
 帰ろう。大切なものがあったあの頃へ。
 肉体、記憶、故郷。全てが喪われずに済んだ世界へ。

 自分には何もない。故郷と共に亡び、ヤドリガミとして蘇った時に身体も記憶も喪った。大切なもの、大切なものを大切だと思える想い。それらの喪失感は今も覚えている。だから、もしそうならなかったのなら……それは幸せな世界だろう。
 だが一方で、その幸せを受け入れない己を確信する。それは所詮「人間のルパート」の世界だ。「ヤドリガミのルパート」はその世界では成立しない。
 黒い鎧は内から湧く青い炎で身体を飲み込み、堂々と宣言する。
「その幸せは……今、ここにいる『俺』の幸せにはならない!」
 揺るぎない炎が幻想を燃やし尽くし、彼を覆う霧は消え失せた。

 ルパートは見失わない。全てを喪い猟兵になったからこそ出会えたこの世界が、己の歩む道だと。
 そして迎えに行かなくては。自分と同じく全てを喪った少年を。だがまだある彼の未来を。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ライラック・エアルオウルズ
【WIZ】
幸せに思い馳せる程、今を不幸だと思ってないけど。
もう手の届かない幸せ、と云えば ただ一つ。

病気で亡くなった本が好きだった父さんに、
もしも、僕の本を読んで貰えたのなら。
…素敵な本だ、って、言って貰えたのなら。
きっと、凄く幸せな事だと、思う。
子供の頃、病気がちだった僕の為に、
父さんは影遊びで影の『友人』を作ってくれた。
その友人を紹介したくて、僕は作家になったから。

でも、父さんはもう居ない。でも、友人は居てくれる。
其れを確かめる為に『奇妙な友人』を傍に呼び、
一つの幸せの夢を払って前へ進もう。
…うん。素敵な友人が居てくれて、僕は幸せだ。



●ライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)の幸せ
 マーブル模様にまぜられる。
 子供の頃の思い出と、もう手の届かない幸せ。
 病気がちだった僕の為に、父さんは特別な『友人』の作り方を教えてくれた。
 それは光と影の魔法。影遊びで生まれた、僕だけの『友人』。
 僕は、その『友人』を紹介したくて、作家になったんだ。
 ねぇ父さん。僕の本を読んで貰える?
 本の文字列に落とされる視線。ゆっくりとページをめくる音。
 目を見開いて驚く。緩む頬を押さえる。
 本が好きだった父さんが、僕の物語の中にいる。
 やがて。素敵な本だねと。大きな手が、僕の頭に触れようと――。

「幸せに思い馳せる程、今を不幸だと思ってないけど……うん、確かにそれは、凄く幸せなことだと、思う。」
 でも、父さんはもう居ない。病気で亡くなってしまったから。でも、『友人』は居てくれる。其れを確かめる為に『奇妙な友人』を傍に呼んだ。『友人』は夜のナイフで父さんの幻を葬って、カンテラの炎で霧を吸い込んでいく。現実の森に戻っても、『友人』は僕の隣にいた。
「……うん。素敵な友人がいてくれて、僕は幸せだ。」

 ライラックは振り返らない。大切な人がくれた大切なものがここに在るから。
 さあ共に進もう。好奇心の侭にどこまでも。想像も出来ないような物語を求めて。

成功 🔵​🔵​🔴​

フィリア・セイアッド
【WIZ】を選択
霧の中しばらく会えていない両親を見つける
…お父さん、お母さん?
どうしてここに? 懐かしさに母の腕に飛び込む
危ないことばかり 早く帰っていらっしゃい
いつも通りの母の笑顔
お前が傷つく必要はないだろう?
髪を撫でる父の手のひら
いつも通りで -だけど感じる違和感に体を離す
じっと両親の顔を見て 眉を下げる
ー違うわ お父さんもお母さんも、きっと心配しているけれど
だけど、ルーカスくんを残して帰れなんて言わない
ふたりとも あなたにできることをしなさいってそう言ったもの
幻から距離を取って微笑む
わたし 帰らない
やらなくちゃいけないこと まだしていないもの
よりよい道を選べるよう「祈り」を捧げ 前へ進む



●フィリア・セイアッド(白花の翼・f05316)の幸せ
 森の奥の小さな集落が頭をよぎる。
 目の前には、生まれ育った故郷を出てから暫く会えていない両親の姿。
 どうしてと疑うより先に、懐かしさのあまり母の腕の中へ飛び込んだ。
 危ないことばかり……早く帰っていらっしゃい。優しい母の笑顔。
 お前が傷つく必要はないだろう?髪を撫でる温かい父の手のひら。
 いつも通りの、大好きな家族と共に居られる幸せ――。

 ……。感じる違和感に、ぬくもりから体を離す。じっと両親の顔を見て、眉を下げる。
「違うわ。お父さんもお母さんも、きっと心配しているけれど。だけど、ルーカスくんを残して帰れなんて言わない。ふたりとも、あなたにできることをしなさいってそう言ったもの。」
 春空のような瞳を細めて微笑んで、幻から距離を取る。
「わたし、帰らない。」
 やらなくちゃいけないこと、まだしていないもの。おかえりは、おあずけでいい。
 別れを告げられた幻の霧は、散り散りに空へと溶けていった。家族から贈られた言葉を心に刻むように、繰り返して祈る。よりよい道を選べますように。わたしにできることがあるなら、精一杯やってみますから。

 フィリアは間違えない。懐かしの故郷で本物の幸せが待っているから。
 祈りと覚悟を胸に灯し、望む未来へ手を伸ばす彼女の心は。
 背負う翼や宿した花のように、どこまでも気高く真っ白だ。

成功 🔵​🔵​🔴​

フォンミィ・ナカムラ
幸せな場面:普通に友達と遊ぶこと
ちっちゃい頃から劇団に入って、3年生の頃にはモデルのお仕事も始めて、最近は猟兵としての活動もがんばって。
すごく充実してるし毎日楽しいけど、学校のお友達と遊ぶ時間はあんまりとれなくなっちゃった。
だから、普通に子供らしくお友達と遊ぶ幻覚とか見せられたら、引き寄せられちゃうかも。

幻惑には、モデルの仕事や猟兵の仕事で得られたものや嬉しかったことを思い出して抵抗するよ。
「これが、あたしが自分で選んだ道だから…!」
モデルのお仕事なら、ファンがついたりスタッフさんに褒められたり。
猟兵なら、苦しんでる人を助けることができたり。
そういう、普通の子供が出来ないことも私の幸せだもん!



●フォンミィ・ナカムラ(スーパー小学生・f04428)の幸せ
 フォンミィちゃん、あーそーぼっ。
 学校の友だちの呼び声に、大きなお返事。運動靴で駆けだした。
 かくれんぼ、おにごっこ。ボール遊びにごっこ遊び。今日は何して遊ぼうか。
 息を切らして走り回る。転んでも砂で服が汚れても気にしない。絶えない笑い声。
 永遠に思える時間を、好きなだけ遊ぶ。子ども達の楽園がそこにあった。

 ちっちゃい頃から劇団に入って、三年生の頃にはモデルのお仕事も始めて、最近は猟兵としての活動もがんばって。すごく充実しているし毎日楽しいけれど、学校のお友だちと遊ぶ時間はあんまりとれなくなっちゃった。だから、こんな風に普通に子どもらしくお友だちと遊ぶ幻覚を見せられたら……。
 少女は幸せに揺さぶられる心を押さえ付けるように、ぎゅっと目をつむる。それでも容赦なく、友だちは誘い続ける。ねぇ、次は何の役をやりたい?大好きな魔法少女アニメのごっこ遊び……そうだ、そこから始まったんだ。

 ごっこ遊びをしていたら、突然目の前に現れたグリモアに導かれて猟兵になったんだ。モデルの仕事や猟兵の仕事で得られたものや嬉しかったことを思い出す。モデルのお仕事なら、ファンがついたりスタッフさんに褒められたり。猟兵なら、苦しんでいる人を助けることが出来た。そういう、普通の子どもが出来ないことも私の幸せだもん!
「これが、あたしが自分で選んだ道だから…!」

 ごっこ遊びは卒業だ。あたしはプロのモデルで、本物のヒーローなんだから!
 少女は選ばなかった方の幸せと決別するように、幻の友だちに背を向けて歩く。あたし達の進む道は違うから。
 遊んでくれてありがとう。束の間の夢だったけれど、幸せだったよ。……さようなら。

 フォンミィは後悔しない。自分の仕事に誇りを持つから。
 彼女を照らすスポットライトのように、霧の隙間から光が差す。
 やがて光は広がり、彼女の霧は晴れていた。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

フィリリアンナ・フェアリーガーデン
はぁ、幸せとは、ですか
勿論、ボクが世界で一番の大魔術師になっていることですね!

え、それは夢? なんのことやら

故に、この程度は問題外です
幻だろうとなんだろうと、ボクは天才であり最強であり現実以外に興味はないのですから!
ではここに証を建てましょう!
「約定に基き我が許に参じよ、光を司りし汝の力を貸し与え給え。我が名はフィリリアンナ!
光の大精霊を召喚です!
さあ、その輝きで幻の霧ごと切り開いて道を照らし出すのです!
ボクの栄光の道は、まだまだこんなものではないのですよ!



●フィリリアンナ・フェアリーガーデン(超ド級天才魔導妖精・f00685)の幸せ
 「はじめまして!ボクが世界一の大魔術師、フィリリアンナです!」
 生まれ持った才能を開花させて、地位も名誉も手に入れた。
 大魔術師の妖精は、人々の尊敬と期待の眼差しを独占する。
 数々の偉業を成し遂げて、辿り着いた夢。
 彼女の抱く大いなる夢が実現した瞬間だった。

「はぁ……これがボクにとっての幸せ、ですか。……この程度の幻想、問題外ですね!」
 常に尊大で自信満々な彼女は、他者が作ってみせた幸せなど話にならないと一蹴する。自分が天才であり最強であると信じている彼女にとっては、幻だろうと何であろうと、現実以外興味はないのだ。夢を見るだけでは意味がない。夢は、自分の力で現実に変えていくものだ。そして彼女は自分なら叶えられると心の底から信じている。
 よって、その幻想は必要ないという、証をここに立ててみせよう。
「約定に基き我が許に参じよ、光を司りし汝の力を貸し与え給え。我が名はフィリリアンナ!」
 オベロン・コールの詠唱に応えて光の大精霊が召喚される。
「さあ、その輝きで幻の霧ごと切り開いて道を照らし出すのです!」
 光の大精霊はその命に静かに順って、燦爛たる光で幻想の夢を霧散させた。

 フィリリアンナは満足しない。自分の栄光の道は、まだまだこんなものでは終わらないのだから。
 彼女の周りにいる猟兵達を包んでいた霧も次々と晴れていく。これで全ての霧は消え失せたようだ。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『ハーピー』

POW   :    エキドナブラッド
【伝説に語られる『魔獣の母』の血】に覚醒して【怒りと食欲をあらわにした怪物の形相】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
SPD   :    ハーピーシャウト
【金切り声と羽ばたきに乗せて衝撃波】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
WIZ   :    ハーピーズソング
【ハーピーの歌声】を聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●「青い鳥と少年の物語」その後
「誰か……助けてっ!」
 どこからか泣きそうな少年の声が聞こえた。

 頭上から何かが落ちる影。ばさりと美しい羽根を広げてハーピーが地上に降り立った。その翼の半分以上は、血のように赤く染められている。
「ふふっ、貴方達ね、私にご飯をくれたのは。美味しい幸せ、ありがとね。おかげでこんなに元気になれたわ。」
 猟兵達に幸せな夢を見せる霧を放ち、吸収した生命エネルギーにより力を回復させたハーピーが、妖艶に笑う。

 少年をどこにやった! 猟兵の誰かが強い口調で問う。
「少年? ああ、青の私が可愛がっていたあの子ね。あそこにいるわよ、ほら。」
 ハーピーの細い指が頭上を指す。高い木の上に隠れ家のような小屋が設置されていて、そこから少年が身を乗り出しているのが見える。
「すぐに食べちゃっても良かったんだけど……全く、青の私も面倒臭いことをしてくれちゃって。おかげで貴方たちに見つかっちゃったから……先に倒さないといけないじゃない。」
 ハーピーはどちらもご馳走なのには変わりないと、自分の唇を真っ赤な舌でペロリと舐めた。両翼を広げるハーピーに、己の武器を構える猟兵達。共に臨戦態勢だ。

 人知れず終えた物語があるとは、猟兵達は気付かない。
ラティナ・ドラッケンリット
「遅れてすまない。状況は把握した。私は前衛でいかせてもらおう」
二重人格とはいえ相手はモンスター(オブリビオン)
人を襲う前にひと思いに討伐してやるのが冒険者の務めだ
このままでは少年の命も危ないからな
【ダッシュ】と【ジャンプ】でエキドナブラッドで戦闘力の増大したハーピーの速度に追随し間合いを詰める
ビキニアーマーの身軽さは伊達ではないぞ
【見切り】【勇気】【武器受け】でハーピーの攻撃を回避と防御する
ドラッケンリット家が代々磨き上げてきた戦技を味わうがいい
【なぎ払い】で横からの攻撃に意識を向けて
【怪力】で大上段に構えた断山戦斧『しゅとれん』から
【捨て身の一撃】の『グラウンドクラッシャー』を繰り出す


フィリア・セイアッド
【WIZ】を選択
お願い 貴女に酷いことをしたくない
話をきいて
相手の攻撃はオーラ防御 仲間が傷つけば唇を噛み真の姿を解放
二対の翼を広げ 「シンフォニック・キュア」を歌い仲間の回復
宙へ飛び ルーカスくんの側へ
青いハーピーさんに戻せないかやってみる
だから心配しないで ここにいて
「雪雫の円舞曲」で仲間の支援と鼓舞
体力の少ない仲間の前に出て盾に
オブリビオンの彼女と共存するのは難しいかもしれない
だけど ルーカスくんに優しかった
それならちゃんとお礼が言いたい
ルーカスくんとも話す時間を作ってあげたい

戦闘後
村の子たちが ごめんねって
ルーカスくんが戻ってくるの待っているわ
ぎゅっと彼を抱きしめる
どうか彼に幸せを


ライラック・エアルオウルズ
赤い鳥、か
童話の様に、外に求めた青い鳥は消えてしまうんだね
…少年が無事な事を幸いと、思うべきかな

【WIZ】(だまし討ち・時間稼ぎ・見切り)
…ごめんね、ルーカスさん
けれど、彼女に貴方を傷付けさせる事は、出来ない

彼女は翼を持つ敵であるから、
対抗出来る様に『奇妙な友人』を呼ぼう
ナイフや炎での攻撃で敵を翻弄・阻害、
翼を狙える様なら翼への攻撃を重視するよ

隙があれば『花の歌声』で更なる援護攻撃を
せめて、童話の終わりに向けて花を添えよう

戦闘中に少年に声を掛けられる様なら、一言
「元の場所であっても、必ず君の青い鳥は居るよ」
あの人達も、もう解ってくれるだろうから 大丈夫


茅原・紫九
こうなったか、とだけ思う。
結果だけ見て過程を見てねえ俺にどうこう考える資格はねえ

【最適強化】を使用、観測用精霊を2体浮かせる。
素直に地上からの射撃でもいいが、人手が足りてる可能性もあるし何より制空権を渡したくねえ
近くの木を次々と乗り継ぎ、高所から絵具や魔法を飛ばして攻撃する

木々を渡りながら避けることに意識を割く分、攻撃に集中しきれないだろうが構わねえ
あくまで敵の行動範囲の制限をして、ほかの奴の攻撃を当てやすくすることが目的だ

必要なら適宜精霊を魔力として使用、自己強化
必要ねえならそれはそれでよし、戦況を多角的に把握しながら疑似的な3次元戦闘を続ける


ルパート・ブラックスミス
……すまない少年。君の願いには、おそらく応えられない。

初撃で戦勢を決める。
【生命力吸収】と【誘導弾】を備える短剣をUC【燃ゆる貴き血鉛】を纏わせ渾身の【怪力】をもって【投擲】。
首尾よく撃ち落とせたならば接近、更にこの拳諸共体内に叩き込む。

奴は生命エネルギーを吸い、翼を赤く染め戦闘力が上がる。
ならばそのエネルギーを奪えば弱体化するはずだ。……青い翼の彼女を呼び戻せるかもしれん。

わかっている。殺めなければならない相手だ。青い翼に戻れた所でそれは彼女の死期を意味する。
だが、だからこそ。
あの少年に遺す言葉、遺す物は無いのか?
ほんの僅かの間でいい。……最期は、彼が懐いた「青い鳥」であってくれ。


フォンミィ・ナカムラ
「ルーカスくん、助けにきたよ!」
あの霧は、あなたが出したものだったんだね。
みんなの幸せな思い出を利用しようとするなんて、ぜったいに許せないよ!

【トゥインクルスター・マジカルシュート】使用
他の人が近接して戦ってる隙にハーピーから距離をとって、狙われにくい場所かを陣取って詠唱開始
なるべく隙を作らないようにがんばって【高速詠唱】して、【全力魔法】をぶつけるよ!

ハーピーシャウトが飛んでくるなら風【属性攻撃】で相殺音波を放って防御
詠唱を邪魔されるなら、短い詠唱で放てる【属性攻撃】の【衝撃波】を何度も当てて攻撃



●青かった鳥は、笑ってくれた
「赤い鳥、か……。童話の様に、外に求めた青い鳥は消えてしまうんだね。」
 ライラック・エアルオウルズ(机上の友人・f01246)は有名な童話と目の前のハーピーを重ねて、少年が無事なことを幸いと思うべきかなと、敵を見据える。
「ルーカスくん、助けにきたよ!」
 木の上のルーカスに向かってフォンミィ・ナカムラ(スーパー小学生・f04428)は声を上げる。すぐに助けるから待っていてねと、安心させるように手を振った。その横で不思議な呟きを零したのは、ルパート・ブラックスミス(独り歩きする黒騎士の鎧・f10937)だった。
「……すまない、少年。君の願いには、おそらく応えられない。」
 フォンミィは不思議そうに鎧に覆われた彼の顔を見つめる。少年は先程「助けて」と叫んでいた。そしてあたしたちはこれから少年を助けるのだ。なのに、どうして……ルパートが思う「君の願い」とは何なのだろう。
「…ごめんね、ルーカスさん。けれど、彼女に貴方を傷付けさせる事は、出来ない。」
 ライラックもルパートと同じように、哀しげに少年へ詫びる言葉を口にしていた。

「お願い!貴女に酷いことをしたくない…っ。話をきいて!」
 フィリア・セイアッド(白花の翼・f05316)は必死にハーピーに呼びかける。オブリビオンの彼女との共存は難しいかもしれない。だけど、ルーカスくんには優しかった「貴女」だから……。しかし、その「貴女」はもういないと小馬鹿にするように、赤いハーピーは無情に嘲り笑う。
「はははっ、お優しい人がいるのねぇ。天使様かしらっ。青い私なら泣いて喜んだでしょうけどねぇ……ざぁんねん。私は貴方達に、酷いことをしたくて仕方ないのっ!」
 無防備なフィリアに向かって、ハーピーは翼を大きく広げて飛びかかろうとした。それを止めたのは――。

「我が血はもはや栄光なく、されど未だ闇に消えず……。」
 ルパートはすでに詠唱を終え、『燃ゆる貴き血鉛』を発動させていた。ブラックスミスの短剣に燃える鉛を纏わせると、刃は煌々と青い炎に包まれる。鎧の脚で地を踏みしめ、炎の短剣をハーピーめがけて渾身の力で投げつける。
 炎の短剣はフィリアとハーピーの間を切り裂いた。直前で感づいたハーピーが速度を緩めた為、初撃は翼先を微かに燃やすだけに留まったが、フィリアから意識を外せたなら上出来だ。

「遅れてすまない。状況は把握した。私は前衛でいかせてもらおう!」
 間を置くことなく、颯爽と姿を現したラティナ・ドラッケンリット(ビキニアーマー道の冒険者・f04425)は、機動性を重視した自慢のビキニアーマーで、ハーピーに向かってダッシュする。
 二重人格とはいえ相手はモンスター、オブリビオンだ。このままでは少年の命も危ない……人を襲う前にひと思いに討伐してやるのが冒険者の務めだ。必ず討伐してみせるという迷いのない心が、ハーピーの鋭い鉤爪も軽々と避けさせているのか。いや、きっとビキニアーマーの力に違いない。合理性を突き詰めた鎧の身軽さは伊達ではないのだ。滑らかな身のこなしで攻撃を避けた後、断山戦斧『しゅとれん』を力いっぱいに振るう。

 しかし、ハーピーもまた素早く空を泳ぐようにラティナの斧を避ける。空から地上を狙おうと翼を羽ばたかせるが、どこからかカラフルな塗料が飛んできた。翼を翻して避けると、後ろの木の幹や枝の一部が絵の具で塗りつぶされる。攻撃の出所を探そうと辺りを見渡すが姿を捉えられない……それは木の枝の影に潜む茅原・紫九(風に流され来たる紫煙・f04064)のグラフィティスプラッシュだった。
 隠れながら標的を狙えるのは、予め展開させていた『最適強化』で召喚した観測用疑似精霊のおかげだ。二体の疑似精霊が木の周囲を飛び回り、多角的に戦況を観測する。そこから得た情報を元に敵の行動範囲を制限して、仲間の攻撃を援護することが目的だ。タイミングを見て塗料を放ち、すぐに近くの木々へ乗り継いでいくという動作を繰り返す。
(攻撃に集中しきれねえが、構わねえ。制空権を渡したくねえからな。)
 赤いハーピーと対峙して、こうなったか……とだけ思った。
(結果だけ見て過程を見てねえ俺にどうこう考える資格はねえ。)
 紫九は静かに、観測と補助を続ける。

 紫九が隠密に動き出すのと同じ頃、ライラックもまた『奇妙な友人』を隣に呼んでいた。友人が携える夜のナイフの投擲やカンテラから飛ばされる炎の塊は、空を舞う翼をひたすらに狙い撃って敵を翻弄する。
「こう距離があると当てるのは難しいけれどね。僕はあなたの邪魔をすることに専念させてもらうよ。」
 物語は主役だけでは成り立たない。ライラックは友人と共に、仲間が好機を得るまでの時間を稼ぎ、脇から営々と戦線を支える。

「もう、ちょろちょろと虫みたいに……邪魔、ねぇ!いいわ、一気にかたを付けてあげる……っ!」
 地上からと空中からと、絶えない猟兵達の攻撃に苛立ちを隠せないハーピーは、強制的に己の体に眠る『魔獣の母』の血を覚醒させた。美しい顔が恐ろしい怪物の形相へと歪に変形していく。口は耳に届くほど大きく裂けて鋭い牙が覗き、瞳も獲物を狙う猛禽類のそれへと変化した。そして一部は青色が残っていた翼も、全て真っ赤に染まっていく。

 爆発的に上昇したのは力だけではない。輪をかけて加速したスピードで、最も近くにいたラティナに向かって急降下する。彼女の鎧に覆われていない方の肩を鉤爪で深く差し掴んで、再び空へと羽ばたいた。しかし、ラティナが地面に叩きつけられる前に、煌びやかな光線がハーピーの脚を射抜く。反射的に開かれた鉤爪から空中に放り出されたラティナをキャッチしたのは、真っ白な翼を広げるフィリアだった。

「エレメンタルパワーチャージ! 世界に眠る精霊よ、現在を築いた歴史の河よ、未来を繋ぐ煌めきの欠片よ、あたしに力を貸して! 『トゥインクルスター・マジカルシュート』!」
 敵から距離を取って陣取っていたフォンミィは、狙われる事無く最後まで途切れずに口上を唱えた。成功させた魔法、キラキラ輝くマジカルビームが見事ハーピーを貫いたのだ。フォンミィは先程幸せの幻覚を見せた張本人であるハーピーを正義感溢れる瞳で睨みつけた。
「みんなの幸せな思い出を利用しようとするなんて、ぜったいに許せないよ!」
 あの幻覚は、確かに幸せだった。でも、だからこそ、許せないと。魔法のステッキを握る手に力を込めた。

 耳をつんざく金切り声。攻撃を受けての悲鳴のようにも思えたが……ちがう!
全方向に向かって、羽ばたきに乗せた衝撃波が放たれる。これは、ハーピーシャウトだ!

 フォンミィはステッキで風属性の魔法を連射したが、無差別に放たれる見えない衝撃波全てに当てる事は不可能だ。地上にいる者も空中にいる者も、ほぼ全ての猟兵達は衝撃波に体を貫かれ、続々と地に膝をつく。
 ラティナを地上に届けたフィリアも同じように攻撃を受けたが、オーラ防御により幾らかは防げたようだ。傷つき倒れる仲間達を視界に捉えると、唇を咬んで真の姿を解放させた。二対になった翼を広げて『シンフォニック・キュア』を響かせる。フィリアの歌声に癒される猟兵達の傷は、速やかに回復されていった。

 そしてフィリアは空高く一気に舞い上がる。瞬く間にルーカスのいる小屋へと辿り着いた。
「ルーカスくん、大丈夫!?」
 突然の来訪者に驚いたようだが、ルーカスに怪我はないようだった。先程のシャウトにも巻き込まれなかったようで、ほっと胸を撫で下ろす。
「おねえちゃん、あの鳥のおねえちゃんの友だち? ……どうしよう、あのおねえちゃん、すっごく優しいひとなのに……っ、ボクを助けてくれたのに……っ!」
 ハーピーと同じように翼を持つフィリアを見て、仲間だと勘違いしたようだ。少年は泣き出しそうに顔を歪める。ああ、やっぱり。青い彼女はルーカスくんを救っていたんだ。
「私もあの青いハーピーさんを助けたい。戻せないかやってみる。……だから心配しないで、ここにいて。」
 まだその方法は思いつかない。だけど、やってみせるから。少年を安心させるように、また自分とも約束するように。微笑みながらそう告げると、フィリアは再び戦場へと舞い降りた。

 地上では真っ赤なハーピーと残りの猟兵達が牙を剥き合わせていた。ハーピーにしか紡げない複雑な音が重なる歌で自分の戦闘力を更に高める彼女に、皆苦戦を強いられていた。ハーピー以外には耳障りにしか聞こえない歌が、猟兵達の集中力を阻害する。鎧越しでも響く音に、ルパートは眉を顰めていた。それでも諦めずに短剣を握りしめて投擲するチャンスを探っていると、ある事に気が付いた。
 覚醒してから真っ赤に染まりきっていた翼が……徐々に青みがかっているのだ。強過ぎる力には代償が付き物だ。おそらくあの覚醒も一時的な強化で、我々の寿命を削る技と同じタイプのものだろう。歌で強化しても、削られた寿命や傷は元には戻らずに、失ったエネルギーとして翼に表れている。もしかしたらと、微かに覗く一筋の光をルパートは大声で皆に知らせた。
「奴は生命エネルギーを吸い、翼を赤く染め戦闘力が上がる! ならばそのエネルギーを奪えば弱体化するはずだ。……青い翼の彼女を呼び戻せるかもしれん!」

「世界は光に満ち、陽は輝きて鳥は歌う――。」
 希望を示されたフィリアは、高らかに歌う。曲名は『雪雫の円舞曲』。ハーピーの歌を上書きするように猟兵達を包み込んだ。優しい光を呼ぶ歌は彼らの背中を後押しする。ハーピーを倒す間際になれば、もしかしたら……願いを胸に、それぞれが前を向く。

「だから何!?あんな死にぞこないに何の用があるっていうのよっ。」
 叫びながら傷を負っていない方の鉤爪でルパートを襲おうとするが、即座に投げられた炎の短剣が今度こそ命中して片翼を焼き貫いた。体勢を崩す瞬間を見逃さず、ルパートは拳を身体に打ち込もうとするも、その拳は凶爪に捕獲された。ぎりりと両者の力が拮抗する。
「わかっている。お前は殺めなければならない相手だ。青い翼に戻れた所で、それは彼女の死期を意味する。」
 それでも自分達には青い彼女を取り戻す理由があるのだと、拳から炎が燃え上がる。
「だが、だからこそ。あの少年に遺す言葉、遺す物は無いのか?ほんの僅かの間でいい。……最期は、彼が懐いた『青い鳥』であってくれ!」
赤いハーピーの中の青い彼女に伝えるように、ルパートは精一杯の言葉と炎を送り込む。突然の炎熱にハーピーは慌てて拳を解放して片翼を羽ばたかせた。

「暖かなる春が来た。咲く花々は貴女を目指し、僕は其れを祈るだろう──どうか届きますように。」
 もう自由な飛翔は許さないと、ライラックは『花の歌声』を詠唱する。レクイエムのように紡がれた詩によって呼ばれたのはリラの花びら。
「せめて、童話の終わりに向けて花を添えよう。」
 赤と青が最も美しく配合された紫の花びらは、翼が赤と青に交ざり行くハーピーに容赦なく纏わりついた。
 フォンミィは地上から再び呪文を唱える。そして紫九は木の上から、グラフィティスプラッシュで塗りつぶした木の枝に立つことによる強化と、攻撃を受けた時に疑似精霊から得ていた魔力による強化を重ねて反撃の準備を整えていた。
 それぞれ飛ばされる二人の呪文と塗料が、ハーピーの逃げ場を封じていく。

「ドラッケンリット家が代々磨き上げてきた戦技を味わうがいい!」
 肩の傷も完全に癒えたラティナが、ハーピーの目の前で斧を構える。苦し紛れに暴れるハーピーの翼も鉤爪も、恐れる事無くギリギリで見切って避けていき、最後は斧でがっちりと受け止めてみせた。爪を薙ぎ払うように大振りに宙を横薙ぐ――それだけでは終わらない。ハーピーの意識が薙ぎ払いに奪われている隙に、断山戦斧の超重をものともしない怪力で大上段の構えを取る。全身全霊の力を込めた『グラウンドクラッシャー』が振り下ろされた。

 視界を覆う砂埃が収まると、そこには肩から腰にかけて大きく切り裂かれたハーピーが地面に横たわっていた。覚醒前の美しい造形を取り戻した身体は、己の血に浸り染まっているが――その翼は間違いなく、我々が取り戻したかった青色だ。

「鳥のおねえちゃん!」
 フィリアが小屋から地上へ連れ戻したルーカスは、一目散にハーピーの元へと駆け寄る。意識が朦朧としているのか、ハーピーの視線は泳いでいるが、少年の声を耳にすると薄く微笑んだ。
「……ルーカス?……ふふ、さっきお別れの挨拶、したのにね。」
 少年は首を勢いよく振る。だって、それは一方的で。自分は何も告げられなかったから。さよならだと、少年だって分かっている。だから、ちゃんと、伝えなくては。少年は血に染まった彼女の手を、幼い両の手で握りしめた。

「おねえちゃん。ボク……おねえちゃんと出逢えて、幸せだった。ありがとう。」
 青い彼女は目を見開く。もう何も映していない瞳が揺らぎ、一筋の涙が零れる。
「ああ……これが、幸せって、いうのね。」
 それが完全な青い翼を得られた彼女の最期の言葉だった。冷たくなる手を握り続けながら、少年の瞳からもぽろぽろと、止めどない涙があふれる。
 フィリアは少年を後ろからそっと抱きしめた。他の猟兵達も少年の気が済むまで、静かに見守り続けた。

「村の子たちが ごめんねって。ルーカスくんが戻ってくるのを待っているわ。」
「あの人達も、もう解ってくれるだろうから、大丈夫。」
元の場所であっても、必ず君の青い鳥は居るよ。勇気付ける猟兵達。
「ありがとう。……大丈夫だよ。ボクはもう、幸せになれるから。」
 青い鳥はいなかった、けれど。青かった鳥は笑ってくれた。笑顔をくれた。
 だからこれから先もきっと大丈夫。そう言って、ルーカスは笑顔を見せた。

●青い鳥と少年の物語
 木の上の隠れ家で、木の実をおやつに摘まむ二つの影があった。一人は少年、一体は青い翼のハーピーだ。
 ハーピーは自分はモンスターで、いつ理性を手放すか分からない。すぐに村に戻るように少年に忠告した。しかし、ふらふらと具合が悪そうに立ち去ろうとする後姿を放っておけずに、彼女の後を付き添った。青の翼の一部の赤い羽根から、白い霧が漏れて漂う。これが少年にも幻想を見せていた霧の発生源らしい。

 二人は沢山の言葉を交わした。彼女は少年の境遇を聞いても、少年を避けることはなかった。彼女について知りたがる少年に、彼女も語る。
 人々に幸せを求められ過ぎて、疲れてしまった青い鳥。遠い昔から語られるお伽噺。その青い鳥の記憶と人を襲うモンスターである記憶を両方併せ持つ、彼女は異質な存在だった。彼女はこのまま、誰も襲わない青い鳥のまま、静かに息を引き取りたいと小さな望みを零した。
 それでも彼女の意思に関わらず、幸せを見せる霧は本能のまま撒かれてしまう。やがて獲物を捕らえたその霧は、じわじわと彼女を赤に染めていった。

 そろそろ、さよならね。
 彼女は席を立つ。既に彼女の翼の半分は血よりも赤い、赤色だ。
 もう、私の意識は長く保てない。だから赤の私を、下にいる彼らに倒してもらうの。
 貴方は危ないからここにいて。後できっと、彼らが助けに来てくれるから。

 嫌だと首を振り泣きそうな少年の頭を、仕方ないわねと困り顔で撫でる。
 このまま自分がいなくなれば、自分と出逢ったせいだと、この少年は自分を責めかねない。
 それは、困る。せめて最期くらい、青い鳥のように。幸せの魔法をかけて飛び立とう。

 言葉は呪いだ。初めは本当に、偶然にも続いた不幸せ。でもお前は不幸せを呼ぶという言葉は少年に絡みつき、どんな小さな不幸でも自分のせいだと思い込んでしまう鎖となる。
 短い間だったけれど楽しい時間をありがとう。お礼に呪いを解いてあげる。彼女は少年の額に口づけた。
「あなたの身にふりかかっていた不幸は、私が食べてしまったわ。これでもう、不幸はあなたのせいなんかじゃない。あなたはこれから、幸せになれる。」

 彼女は笑って、地上へ落ちた。
 ここは高い木の上。少年一人では降りられず、身を乗り出して叫ぶしか出来ない。
「誰か……助けてっ!」
 この青い鳥のように、かなしいくらいやさしいひとを。どうか。

【青かった鳥と不幸せを呼ぶ少年~END~】

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月21日


挿絵イラスト