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災厄:屍鬼跋扈

#アポカリプスヘル

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#アポカリプスヘル


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●そこに『生』がある限り
 ひび割れた灰色の大地。
 それを踏みしめるは肉々しい獣人の大群。
 彼らはただの獣人などではない。それを『模した』生命体。
 視界にある『いのち』すべてを蹂躙する、暴虐の生体兵器。
 連中自身にも生命というものがありながら、不思議と『生きた心地』がしない。もう既に、命すら奪われた屍に堕ちているのかもしれない。
 魑魅魍魎の群れは、そびえ立つ廃ホテル――『拠点』めがけて迫っている。
 一心不乱に、四方八方から組み上げられたバリケードを破壊せんと肉の塊が押し寄せていく。
 だが、この世界で拠点を護り抜いてきた人間たちは、オブリビオンの群れが相手でも遅れをとらなかった。
 頑健に作り上げられた何重もの壁が肉塊の動きを止め、時間を稼ぐ。
 思ったように壁を突破できない獣人の群れが苛つくように吠えるものの、その最奥に悠然と構える『頭目』が手を叩けば、喧騒がぴたりと止まった。
「豚ども、慌てるんじゃないよ」
 凍てつく声色が戦場に響き渡る。頭目らしき存在は、肉厚な獣人たちとは対照的な、妖艶さを醸す女であった。
「すでに『業病』が潜んでいる。外が堅牢だろうと、内側から腐らせてしまえばこちらのものよ」
 獣人たちはそれに応えるように歓声をあげる。もっとも、知性を感じられない連中なので、その意味を理解しているかは不明だが――。


「アポカリプスヘルの拠点に、オブリビオンの群れが迫っているみたいッスよ!」
 モニターに映し出される獣人の大群を見つめながらオロオロと右往左往しているは、毒島・林檎(蠱毒の魔女・f22258)。
 木や鉄、鋼など――ありとあらゆるものが入り混ざったバリケード壁に、絶え間なく肉塊が押し寄せている。
 その壁は幸いにもハリボテではないようで――軋みをあげつつも持ち堪えているようだ。
 中にいる人々が逃げ出す時間くらいは稼げそうなほどだが――ひとつ、『懸念』があった。
 多少なりとも冷静になった毒島が、せわしない動きを止めて口を開く。
「どうやら、この肉厚な軍団を率いている存在が馬鹿ではないみたいで――」
 すでに、拠点である廃ホテル内部に『人に擬態したオブリビオン』が一体入り込んでいるとのことだ。
 一般人には区別のつかない巧妙なものらしいが、幸いにも『猟兵』であれば一目で見抜ける。
「そいつは『医者』にバケているッス! 腕がいいのもあって内部の人からは信頼されてるみたいなンですが、奴の狙いはただ一つッス!」
 内部から人を殺戮し、防備を崩そうという算段だ。
「皆さんをホテル内部に転送しますので、まずは『医者』を倒してくださいッスよ!」
 『医者』をどうにかしたら、今度は外に構える獣人の群れを相手することとなるだろう。
「最後は、この事件を引き起こした頭目を倒して、依頼完了となるッス!」
 三連戦と、なかなかにハードな依頼ではあるが、だからこそ――『猟兵』の力が必要となる。
「どうか、厳しい世界で身を寄せあって生き残っている人々を――クソみたいな暴虐から救って欲しいッス!」
 猟兵に懇願する毒島の顔は、まさに必死のそれ。
 彼女は説明を終えると、ぺこりと頭を下げたのであった。


こてぽん
 あけましておめでとうございます。
 こてぽんです。
 新年一発目は、アポカリプスヘルでお届けさせていただきます。
 どうか皆さんのお力で、人々に救済を。

●戦場について
 第一章は室内。
 第二章、第三章は室外です。
 第一章はホテル内ということで、閉鎖的な場所での戦いとなります。
 なお、一般人が巻き込まれない場所およびタイミングでの戦いとなりますので、人払いの類は気にしなくて大丈夫です。
 第二章以降は開けた荒地での戦いとなりますので、広さを気にする必要はありません。

 それでは、皆さんのプレイングを心よりお待ちしております。
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第1章 ボス戦 『業病のジュピター』

POW   :    病勢のニーズヘッグ
【両手の砲身から放たれる医療用レーザー】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD   :    病臥のラタトスク
【自動追尾麻酔ミサイル】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全対象を眠らせる。また、睡眠中の対象は負傷が回復する。
WIZ   :    病理のフレースヴェルグ
自身の身体部位ひとつを【対象の病魔根絶に適した形】に変異させ、その特性を活かした様々な行動が可能となる。

イラスト:ekm

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠トール・ペルクナスです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ジン・ロシュモフ
・むう、この世界はオラが見てきた中でも相当に荒れてるな……何とか力になれるといいけど。

・一般人に被害は出ないんだな? なら思いっきり暴れてやろう。相手はレーザーを撃ってくるけど、オラはあんまりすばっしこくはないから「オーラ防御」全開で防ぎながらとにかく前へ! 室内だから無限には逃げられないはず、圧力をかけて追いつめていく。

・間合いと機が詰まったら「手をつなぐ」ことで捕獲。そこからは「怪力」の「リフト」で振り回して壁や床に叩きつけ続けてやろう。できれば「武器落とし」や「鎧砕き」を使って厄介な両手やミサイル発射口とかを損傷させたいところだな。

・もし手が離れたら再度捕獲を試みる。覚悟しろ!


アルトリウス・セレスタイト
一見すると恩を仇で返すようだが、まあ詐欺師に遠慮も要るまい

敵へは顕理輝光で対処
常時身に纏う故、準備不要
攻撃へは『絶理』『刻真』で異なる時間に自身を置き影響を回避
攻撃分含め必要な魔力は『超克』で“外”より汲み上げ、行動は全行程を『刻真』で無限加速し即座に終える

魔眼・封絶で拘束
『解放』を通じて全力で魔力を注ぎ拘束力を最大化
行動と能力発露を封じる魔眼故、捕らえればユーベルコードも霧散する
何をしていようと消え失せるだろう

捕縛中は魔力を溜めた瞳の内部に魔眼の力を循環させ保持
万一逃れたら即座に再拘束

封じたら『討滅』の死の原理を乗せた打撃で始末
※アドリブ歓迎



 ジン・ロシュモフ(心優しき花畑の巨人・f18884)が目を開けば、そこに広がるは継ぎ接ぎの壁。埃っぽい、灰色の空気。
 無事に廃ホテル内部へと転送された、ということだ。骨組みが半ばまで見えている床をゆっくりと踏みしめながら、周囲を見渡す。
(むう、この世界はオラが見てきた中でも相当に荒れてるな……)
 一見すると簡単にへし折れてしまいそうなボロボロの床材も、ジンの巨躯を難なく支えている。こんな世界を生き延びている人々が拠点にするくらいのことはある。
 恐らく独自の補強や改造を施しているのだろう。
(何とか力になれるといいけど)
 そういえば天井がやけに高い。天を仰ぎながらジンは思う。
 シャンデリア――の、ような装飾がボロ雑巾のように天井にぶら下がっている。
 恐らくここは大広間なのだろう。そうジンが考えていると――。
 かつり。かつり。
 足音が、鳴り響いた。
(この気配は……!)
 間違いねぇ、と、ジンは音の方向へと駆けていく。『猟兵なら一瞬で判別できる』だけのことはある。薄暗がりの先にいる『気配』が、間違いなくオブリビオンの其れだ。
 吠えながら全速力で前へと飛び出す彼の巨躯は、ヒトに化けた『業病』を驚かせるには十二分な迫力を抱えていて。
 『業病のジュピター』は慌てて身をよじって、叩きつけられる拳を紙一重で回避する。巻き上がる衝撃波、陥没する床。オブリビオンたる彼とて、当たれば只では済まないだろう。
「まだまだァ!」
 周囲に一般人の存在はいない。ならば、思いっきり暴れてやろう――と、ジンはひたすらなまでに真っ直ぐ突進し続ける。
 ジュピターは擬態していた『人間の姿』を完全に解き、異形の姿へと変貌する。その両手に装着された砲身をジンめがけて突き出し――後退しながらレーザーを撃ち放った。
 その弾数は一発や二発ではない。シリンダーが回転するたびに、エメラルドグリーンの光線が無数に飛び交い、空間を裂いてジンの全身に殺到した。
「オオオオオ!」
 ジンは両腕を交差させながらそれらを一身に受け、走り続ける。一見すると直撃しているかのように思われる光線だが、よくよく見れば『表面』で受け止められていて。
 彼の纏うオーラ――『錬気』のそれが、視えざる防護壁となっているのだ。
 対象の部位を的確に破壊することに長けた『医療用レーザー』だが、逆を言うならば『適切な攻撃力』しか持ち得ていない。
 効率重視で作られたその装備は、ジンの埒外たる肉体性能と防御性能が相手では相性が悪いのだ。
 大きく距離を詰められたジュピター。レーザーを照射するために前へ突き出していた細腕を、ジンの大きな掌がガッチリと掴み、捉えた。
「どっこいせー!」
 ジュピターの華奢な身体が紙切れのように軽々しく持ちあがる。丸太のような巨腕がジュピターを掴んだまま周囲へ勢いよく振り回され――。
 床へと叩きつけられた。
 粉砕される床材が宙を舞う。ジュピターの骨ばった身体も幾ばくか損傷したようで、その白い欠片が空気に入り混じっていた。
「覚悟しろ!」
 勘違いしてはいけない。まだジンの手は、ジュピターの腕を掴んだ『まま』だ。
 再びジュピターの身体が持ちあがったかと思えば、今度は壁へと叩きつけられる。
 鋼材を繋ぎ合わせて出来た継ぎ接ぎの壁だ。言うなれば『鋭利』な部分が多い。
 本来それは、やむを得ず出来てしまったものなのだが、今回ばかりは凶器として価値が昇華した。
 生々しい音と共にジュピターの背中に鉄片が突き刺さる。その痛みに耐えかねてか、その全身がびくりと痙攣した。
 だが、まだ奴は『死んでいない』。
「……っ!?」
 掴まれていないほうの片腕から、勢いよく光線が放たれる。ジンも油断していたわけではないが、光線の向かう先が『顔面』となれば話は別だ。
 咄嗟に片腕を庇うようにして顔面を防御する。その隙をつくように、僅かに緩んだ拘束から逃れるジュピター。転げるように、ジンから一定の距離をとった。
 だが、起き上がらんと顔をあげたジュピターの眼前に――『青』の蛍火がふわりと舞った。
 硝煙揺蕩う戦場に似つかわしくない、淡くも美しく輝く一条の光。
 それが一抹の静寂を呼んだかと思えば――ひとつの『既成事実』がジュピターに立ち塞がる。
「……!?」
 ジュピターの眼前に現れるは、アルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)。
 瞬間移動の類か、超スピードのそれか――否、どちらでもない。
 ジュピターが驚いたのは――、

 彼の気配がまったく感じられなかったからである。

「どうした? 俺の顔に何かついているか?」
 眉一つすら動かさないアルトリウスの双眸が、起き上がろうとするジュピターを見下ろす。
 咄嗟に己が片腕を『病魔根絶に適した形』、すなわち、医療メスに変化させて対応しようとするが――。
「無駄なあがきだ」
 時すでに遅し。アルトリウスの魔眼は、その『青』を通してジュピターの総てを見抜いている。
 封絶の理を紡いだ某は、ジュピターのあらゆる行動を否定する。医療メスが腐った肉のように崩落していく。
 既に指ひとつ動かせなくなっている眼前のオブリビオンに、原理の異能者は片足を少しだけ浮かせた後に――。

 蹴撃。

 ジュピターは苦悶の声色をあげながら、その一撃に顎を揺らし、仰け反る。原理を『青』として纏わせた討滅の一撃は、対象のあらゆる防護壁や防御性能を無に還す。
 それに加えて、魔眼による拘束も加えているのだから、回避行動すら行えない。
 無数の打撃が、青の奔流となってジュピターの全身を穿っていく。
 だが、その苛烈さに反して、アルトリウスの身体はさほど大きな動きを見せていない。僅かに手足が動く、その『初動』が辛うじて見えるのみで。
「詐欺師に遠慮も要るまい」
 必要最低限の動きをしていたアルトリウスが、ここにきて初めて『大きな』動きを見せる。
 顎を撃ち抜いて仰け反らせたジュピターの懐に潜り込み――腹部に『討滅』を宿した拳を突き入れた。すなわち『ボディアッパー』のそれである。
 下から上へカチ上げられるように繰り出された一撃が、ジュピターのあばら骨を幾ばくか砕いて、再び空の旅へと誘った。
「始末する」
 大きく打ち上がるジュピターを待ち受けるように――その真下で、僅かに足を『一歩』引き絞るアルトリウス。
 そして、空中に晒されたジュピターをキャッチするは、応じるように大きく飛び上がったジンである。
「連携なら任せろ!」
 その華奢な胴体に腕を回し、がっちりと捉え、その後頭部を振り落とすように――アルトリウスめがけて投げ飛ばす。
 その隆々とした筋肉が躍動し、ジュピターの身体が風を薙ぐ。
 そして、投げっ放されたジュピターの背中に――振るわれた『淡青』の足先が触れた。

 その爆風は、音すら静謐に還す。
 
 暮明に満ちた大広間の奥、そのさらに奥へと――青の灯火に包まれたジュピターが吹き飛んでいった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

白峰・慎矢
初めて来たけど、こんな厳しい世界でも懸命に生きてる人がいるんだね……。もちろん、彼らがしているように、俺も全力を尽くすよ。

皆がその変装した医者をしっているなら、いる場所を聞けばすぐに会えるよね。何というか、随分変わった格好をしているな……。よく人に変装できたものだ。
この室内で追いかけられる続けると、避けるのも大変だ。だから、念動力で止めてしまおう。爆発しても建物が大丈夫なくらいの位置で止めて、遠くから小刀で処理すればいいかな。
そのまま次を撃たれる前に、【集霊斬】で一気に近づいて攻撃しよう。その腕の絡繰りは立派だけど、足腰がずいぶん貧弱そうじゃないか。俺の動きについて来れるかい?



「初めて来たけど、こんな厳しい世界でも懸命に生きてる人がいるんだね……」
 明滅する蛍光灯を仰ぎながら、白峰・慎矢(弓に宿った刀使い・f05296)がそう呟く。すでに先行していた二人からオブリビオンと戦っていたとの報告を受けている。時間をかけさえすれば確実に倒せるであろう。だが、一般人に万が一の被害が出てはいけない。
 人質にとられる前に、どうにかするべきだろう――と、白峰は廊下を歩む足を一層早めた。
 すでにオブリビオンたる『ジュピター』が逃げ込んでいるであろう場所の調べはついている。近辺を歩いていた警備兵に聞き込みをかければ一発であった。
 階段を駆け降りて下へ下へと向かっていく。血痕のような黒染みが僅かに続いている。アテが確信に変わった瞬間であった。

 地下に伸びる廊下。その一角に佇む鉄扉を開ければ、暮明の奥から緑光が迸る。
「不意打ちとは趣味が悪いね」
 白峰は光線に怯むことなく、白を帯びた霊刀を振るい、弾き返した。
 暗闇から飛び出すは、全身の至るところに裂傷を負うジュピターの姿。
 空中で錐揉み回転しながら、四方八方にミサイルを撒き散らしていく。
 その一つ一つに追尾性能を持つ其れは、一般人からすれば脅威の兵器であろう。だが、ジュピターが相手しているのは只なる人ではない。
「面倒だから止めてしまおうか」
 白峰は、得物を持っていない方の手を翳した。弧を描きながら迫るミサイルたちが微動しながら速度を緩め――止まる。
「うん、成功だね」
 その手応えに頷きながら、懐から小刀を取り出して勢いよく投擲。銀に煌く一閃が静止する弾頭を的確に捉え――遠方で爆発する。
 想定外の位置で爆風が発生したことに驚いてか、はたまたその衝撃でか、腕を翳しながらたたらを踏むジュピター。
 そしてその僅かな隙を逃すほど、白峰は甘くはない。
「限界まで……」
 一度、己が霊刀を鞘に納め――腰を深く落として構える。
 所謂『居合』の構えだ。
 白峰は一瞬だけ瞑目し、一歩、前へ。

「迅く!」

 霊力の残滓を残して、白峰の姿が掻き消えた。
 空間に残された剣閃はジュピターの身体を貫通し、その背後にまで及んでいる。
 一瞬の静寂を経て、ひび割れるような音と共に――オブリビオンの肋骨部分から、骨片が飛び散った。
 その衝撃に怯みながらも、振り向きざまに両銃を構えるジュピター。だが、彼はその場に既にいない。
「俺の動きについて来れるかい?」
 蜘蛛の糸を描くように、霊力――すなわち『純白』の軌跡が、ジュピターの全身を余すところなく傷つけていく。
 業病がひとつ振り返れば、その間に数撃が繰り出される。
 まさに、白峰の動きは疾風怒濤の其れだ。
「一気に仕留めよう」
 一瞬の間を置いて、大きく飛び上がった白峰が刀を振りかぶる。
 ジュピターが慌てて両手を翳すも、もう遅い。
 大上段から振るわれた一刀は、ジュピターの身体を袈裟状に斬り裂く。
 傷口から迸る白霊の錬気が漏れ出し、砂埃により淀んでいた空気が――白に浄化されていった。
 その骨片が、破片が、落ちていく――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セシリア・サヴェージ
内部の人間の信頼を得てから実行に移る……随分と周到な手口ですね。
内側から蝕まんとする病魔は切除します。

ホテルの室内であれば利用できる物がありそうですね。
椅子や机、オブジェなどを【念動力】を使って【投擲】することで【先制攻撃】します。
敵に直接のダメージを与えることができずとも、防御や回避行動をとれば隙が生まれるはず。
その隙をついてUC【漆黒の剣閃】を叩き込みます。

両腕の砲門から放たれるレーザーはとても防ぎきれる気がしませんね。
【見切り】で回避するか、【地形の利用】で障害物に隠れるか。
いずれにせよ剣で防ぐのはやめておきましょう。



 セシリア・サヴェージ(狂飆の暗黒騎士・f11836)、そのひとが――己が暗黒を戦場に揺蕩わせながら――眼前の『業病』と対峙する。
「内部の人間の信頼を得てから実行に移る……随分と周到な手口ですね」
 信頼という甘い蜜は、警戒心を霧散させる。『このひとは大丈夫だろう』、『このひとが敵なわけがない』という思い込みが、本当の『病巣』に気付けない原因になりうるのだ。
 だが、その存在は――病を撒き散らす前に此処で駆除してしまえばいい。それができるのが、『猟兵』という存在。そして、『暗黒騎士』たるセシリア・サヴェージという存在なのだ。
「内側から蝕まんとする病魔は切除します」
 自身の身の丈ほどもある巨大な剣を、深淵の最奥から引き抜いて出現させる。それを一振りすれば、たちどころに景色が歪み、空気が破裂する。
 その剣にどれほどの『破壊力』が込められているのかがよく分かるだろう。
 セシリアのそれを臨戦態勢だと認識したのか、『業病のジュピター』が両手に取り付けられたレーザー兵器――その砲口を彼女へと向けた。
「厄介ですね」
 砲口からせり上がって来る緑光の気配に、セシリアは眉をひそめる。亜光速で放たれるレーザー光線は、並大抵の防御や回避では到底いなしきれないものであろう。
 ならば、と、セシリアは近場に転がっている机や椅子を見やれば――それらが黒を纏いながら宙へ浮く。
 空中に晒された数多の障害物たちが、まるで己が意思を持つかの如くジュピターへと殺到した。
 一般人が投擲したものであれば避けるまでもないだろうが――あいにく、今回は『暗黒』の力が込められている。
 オブリビオンたるジュピターとて、直撃すればどうなるかわからない。故に、機敏なステップで左右に身体を揺らし、飛び交う障害物たちを躱していく。
 そして、それらが避けられることもセシリアにとっては想定の範囲内だ。
「随分と大振りな動きですね」
 ジュピターは身体のバランスが悪そうだ。おそらく運動が得意なオブリビオンではないのだろう。両の手に抱えた巨大なレーザー兵器も、身体のバランスを整えているとは到底言い難い。
 大振りな回避行動を咎めるように、セシリアは勢いよく駆けて距離を詰めんとする。彼女自身も巨大な剣を持っているにもかかわらず、まるで意に介していない。
 セシリアを包み込み、唸りをあげる暗闇の錬気。見れば吸い込まれそうなほどに濃密な黒を宿していながらも、彼女は決して呑まれることはなく『そこにいる』。
 彼女の全身に満遍なく広がる『闇』が、一呼吸を置いて大剣に集約されていく。漆黒を宿していく某の刃は、宇宙の彼方よりも深い――『彼方』を映し出した。
 ジュピターはそれを危険と認識してか、焦燥するようにレーザーを乱射していく。だが焦ってか、その狙いは幾ばくかまばらだ。奴が冷静であったならばばまだしも、そんな状態で放たれた攻撃など――数多の戦いを潜り抜けてきたセシリアにとっては簡単に見切れる。
 ジュピターとは対照的に、必要最低限の動作のみで、左へ右へ。
 彼女のその動きは、正に『百戦錬磨』のそれだ。紙一重のところで尽くの弾丸を回避しながら、一気に距離を詰め――。

「この一撃で断つ……」

 突進した勢いのまま、剣を薙ぐ。ジュピターの鳩尾に直撃した黒剣が、轟音と共に『光』を奪う。
 その骨のような白き肉体が、黒へ染まっていき――。

「奔れ闇よ!」

 声を荒げたセシリアが、一閃。彼女の身体が、斬り抜けた勢いのまま――ジュピターの背後へ。
 一瞬の間を置いて――漆黒の衝撃が炸裂した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

杜鬼・クロウ
【曙草】
アドリブ怪我◎

あろうコトか破壊者が「命を救う者」に扮するとは
聡明で狡猾且つ陰湿
場を荒らし混乱に乗ずるか
柔ェ部分を突くのは常套手段
だが…胸糞悪ィぜ

…言い得て妙だが小綺麗すぎるその異名は奴には勿体ねェ
クソ野郎で十分だわ
早々に片すぞ、綾

黒外套が舞う
UC使用
攻撃力up
敵の攻撃は玄夜叉で武器受け・かばう
剣でいなし威力削る
敵の光線掻い潜り懐へ
綾と前線で敵と剣戟

彼の意図に気付き目線で肯定
綾の作る好機活かす
赤熱の焔で灼き尽くす連撃(2回攻撃
壁蹴ってジャンプ
反動つけて渾身のトドメ
最後にペストマスクを部位破壊

上出来(軽く拳当て
お前…(この運動量にしては消耗しすぎてるような…気の所為か
何でもねェ
今は先を急ぐ


灰神楽・綾
【曙草】
内部の、それも肉体的にも精神的にも
戦線維持に重要な医療施設から攻めるのは
まぁ効率は良いよね
まさに白衣の天使ならぬ白衣のペテン師だ
あ、今上手いこと言ったと思わない?

自分の手をナイフで斬りUC使用
心配性のクロウが見たら怒るかもだからコッソリね

メインアタッカーはクロウに任せて
俺はスピード重視でサポートし連携
[念動力]で無数のナイフを盾のように浮かせ
ミサイルへナイフ飛ばし迎撃、相殺狙う
その隙に接近し近接戦に持ち込みEmperorで攻撃

きっと敵はクロウが態勢を崩せば
すかさずそこを狙って攻撃するだろうから
ナイフを投げて妨害

UCの副作用も何でもないような笑顔返す
クロウと戦ってるこの時間が大事だからね



 業病のジュピター、かのオブリビオンと、猟兵たちの戦いはまだ続いている。
 激烈たる数多の攻撃をその身に受けても倒れないのは、オブリビオンという超常たる存在だからこそだろう。砕けたあばらも、折れた手足も、気が付いたら元通りに再生をしている。
 だが、総てが治っているというわけではないようで――塞がりきらない亀裂が、損傷が重なっていることを物語っていた。
「あろうコトか破壊者が『命を救う者』に扮するとは」
 杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)は、その作戦に対して――聡明で狡猾且つ陰湿、と、眉をひそめた。
 『玄夜叉』の柄を握る手が、憤怒の激情を表すかのように――強く、握りしめられた。
 胸糞が悪い、と、クロウは顔をしかめる。
 合理的な発想で考えるならば正しい行いなのかもしれないが、あまりに無残かつ残忍。
 その感情が抑えきれないためか――彼の周りに揺蕩う空気が、心なしかぴりついている。
 そして、一方――。
「内部の、それも肉体的にも精神的にも、戦線維持に重要な医療施設から攻めるのは――」
 効率が良いよね――と、素直な評価を下すは、クロウの隣に立つ灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)。
 陰りと憤りをちらつかせるクロウとは対照的に、綾の声色は飄々としたものを滲ませている。だが、そんな『軽さ』とは対照的に、彼が持つハルバード『Emperor』からは血潮と殺意の重みしか感じない。
 振るえば数多の命を瞬く間に刈り取ることが出来るであろう某の斧槍は、彼自身の『裏側』を暗に表現しているようでもあり――。
「まさに白衣の天使ならぬ白衣のペテン師だ」
 ――あ、今上手いこと言ったと思わない?
 綾がその言葉をクロウに投げかけながら目線を寄せる。
 一見、緊張感の欠片もない態度をとっているようにも思えるが――溢れんばかりの殺気が、ジュピターにしっかりと向けられている。
「……言い得て妙だが小綺麗すぎるその異名は奴には勿体ねェ」
 クソ野郎で十分だわ――クロウは黒き刃をジュピターへと向け、構えた。
 赤熱した気配が刃に集中し、殺意の温度を宿す。常人であれば掠っただけで気絶しかねない。オブリビオンであるジュピターでさえも、その刃を向けられた途端に強張っている。
「はは、それもそうだね」
 相方の臨戦態勢を悟ってか、綾も『はじめて』ジュピターを見やり――得物を両手で握り、僅かに腰を落とす。赤レンズ越しに見せる笑顔は、そのままに。

「早々に片すぞ、綾」
「うん、やろうか」

 三者の殺意が混ざり合い、渦を巻き、ひとつの導線を結んでいく。
 やがて、それらが寸分違いもない一本線を描いた瞬間――それを引きちぎるかのように、両者が同時に動き出した。
 戦の火蓋が、切って落とされた。


 舞うは外套。黒を宿す。
 放つは言霊。”杜鬼”は紡ぐ。
「鬼も隠れし十重二十重にて消えし我が銘をクロウと号す」
 玄夜叉から、柄を通してクロウの全身に光が宿る。
 それは彼が抱いていた感情に応じるように――暁色に変化していき――。
「天照へ祝を奏上し請い願う――八咫が守りし遍く輝きにて、昏き禍つを祓う力をと!」
 灯もまばらな廃墟内であるにも関わらず、その光は眩しすぎるほどで。
 そして、それがひときわ大きく瞬いた瞬間、クロウを包み込む灼熱の錬気へと姿を変えた。
「覚悟しやがれッ!」
 業火の激昂をはらんだまま、黒魔剣を携えて――ジュピターの許へと駆けていく。
 当然、ジュピターも只眺めているわけではないようで。両手を突き出して銃口を向け、緑光の乱撃を繰り出した。
「その程度で俺は止めらんねェよ!」
 無数の光線がクロウに飛来するも、その殆どが玄夜叉の一振りで掻き消えていく。スケールとしては両手剣である某を、一切の重みを感じさせないほどに軽々しく振るう。絶え間なく押し寄せてくる光速の連撃に晒されながらも、クロウの足は一切止まらない。
 そして、彼と足並みを揃えながらジュピターに近付いていく綾は、クロウがこちらを見ていないことを確認した後に――。

 自らの手をナイフで、切り裂いた。

 己が手に滴る鮮血が、得物の色を変えていく。
「君なら、ちゃんとついてこれるよね」
 いつもなら敵に向ける言葉を、あえてクロウに寄せる。
 それは、大事な大事な『戦い』を彩ってくれるであるという――絶対の信頼。
 暁に染まっていく刃を見据えながら――綾は『嗤った』。
 今まで浮かべていた温和な笑顔とは少しだけ違った、わずかに凶暴さをはらんだ笑み。
 それは、ジュピターへと向けられた――髑髏の花束。
「だけど、『お前』は――ついてこれるかな」
 その殺気が、零下の極温となってジュピターへと向けられる。それの返礼は、彼の背中側から出現したミサイルたちであった。
 綾が片手を突き上げ、指を鳴らす。懐から飛び出すように現れる、無数のナイフ。
「全部撃ち落としてしまえばいいんだね?」
 面制圧に適したミサイルの大群は、自分たちにとっては不利に働く。ならば、着弾するまえに落としてしまえばいい。
 綾が撃ち放った数多のナイフたちがミサイルと激突する。その尽くがミサイルの弾頭に突き立ち――相殺していく。
「ビンゴ」
 ダーツだったら『BULL』といったところだろうか――綾は楽しそうに笑う。
 自分を護るはずだったミサイルが半ばで簡単に撃ち落とされてしまった。その現実に面食らったジュピターへ、二人が切迫していく。
 お互いの視線が、不意に一致する。
 その『目線』だけで――クロウは頷いた。
 咄嗟に、ジュピターはクロウの足許へレーザーを照射する。事前動作がほとんどない、不意打ちに等しい一撃。奴の焦燥が生んだ、土壇場の攻撃だ。
 床板が大きく粉砕されたことにより、クロウが足を踏み抜き体勢を崩す。そこに続けざまに繰り出すは再度のレーザー照射だ。
 狙いは、クロウの胸元。
「させないよ」
 銀の一閃がジュピターの腕部に飛翔した。硬質な音と共に突き立つは一本のナイフ。綾が抜き放った、妨害の一手。
 衝撃により狙いがブレたことで、レーザーはクロウの脇腹に着弾する。緑の熱光が彼の身体を貫くも、彼の足は止まらない。
 舞い飛んだ鮮血が、クロウの熱気に当てられて蒸発していく。頬に付着した血が、一瞬で糊と化す。
「痛ェじゃねぇか――」
 口元に血を滲ませながらも、クロウは己が得物の『間合い』まで切迫。
 それとほぼ同時に、綾もハルバードを構えながら接近する。
「だが、綾の作ってくれた好機のおかげで――」
 ジュピターは、先の一撃が決まらなかったことに狼狽えてか、レーザーを撃ちすらせずに――機械腕を振るおうと翳した。
 だが振りかざした腕をカチ上げるかのように、『Emperor』の石突部分――その『ハンマー』が突き出される。振り下ろそうとした腕が、生々しい音と共にあらぬ方向に歪曲し、その衝撃でジュピターの身体が大きく持ち上がった。

 ジュピターは、綾の笑顔を、突き出されたハルバードを見据えるも――もう遅い。

 クロウが、黒魔剣を大きく振りかぶる。
「”お返し”が、できそうだぜ!」
 空中に晒されたジュピターを貫くかのように、灼熱の剣閃が通り抜けた。瞬く間に業火に包まれていく某を追撃するように、返す刀で再度の一撃。
 十字に描かれた焔の軌跡が、空間が粟立つほどの熱量を生み――膨れ上がっていく。
 壁に『着地』したクロウが、再び蹴り出して大きく跳躍。
「燃え果てろッ!」
 跳び出した勢いのまま――十字の灼炎の中心めがけて、玄夜叉を突き立てた。
 黒を超えて『赤』へと至った刃がジュピターの胸部を貫けば、炎が弾け飛んで大爆発。
 そして、焼け焦げたペストマスクめがけて、引き絞られた拳が振り下ろされる。
 衝撃で剣が引き抜かれ、マスクの破片を残しながらも――ジュピターの身体は紙切れのように吹き飛び、壁をぶち抜いて、最奥の暗闇へと消えていった。


「上出来」
 クロウが、手応えに満足するように――綾と拳を当てる。
 だが、その瞬間、その手応えに僅かな違和感を感じたようで。
「お前……」
 気のせいか、綾が妙に消耗しているような。
 それこそ、傷を負った俺よりも、遥かに――。
 だが、返って来るは、いつもの笑顔。
 見たところは、何も変わりがない。
「どうかした?」
 綾が笑顔を崩さないまま、首を傾げる。その態度には、何も変なところはない。いつも通りの、彼だ。
「――何でもねェ」
 今は先を急ぐ、と、クロウが先行して暗闇へと走っていく。
 綾は、その背中を追いかけながら――ひとつ、呟いた。
 クロウには聞こえないように、そっと。

 「クロウと戦ってるこの時間が大事だからね」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ヴィクティム・ウィンターミュート
ったく、内も外もデッドラインってか?
やれやれ、今回も骨が折れそうな舞台だ
脚本家も楽じゃない
そうは思わないかい?お医者サマ

挨拶がわりに【早業】による【クィックドロウ】 でクロスボウを展開、射出
勿論影を纏わせることも忘れない
なーに、威力は大したことないから安心しとけよ

あぁ、ところでそのボルト…
【メカニック】である俺の特別製でね
着弾地点中心に小規模の電磁パルスが生じる、EMPボルトさ
【ハッキング】でボルトの機構を起動
パルス展開

医者が持つ道具にしちゃ、そいつは仰々しすぎる
暫くアナログな施術をするといい
ああいや、ここで引退するから関係ねーな
悪いがもうお前のことは『理解』した
さっきの一矢で何もかも、な



「ったく、内も外もデッドラインってか?」
 『冬』を殺す者、ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)にとって、限りなく『冬』に近しい此の世界は仕事が多そうだ。
 骨が折れそうだ――ヴィクティムはそう愚痴を零しながら、先の猟兵たちによって吹き飛ばされたジュピターを待ち構えるように、先回りしていた。
「脚本家も楽じゃない」
 そうは思わないかい? ――お医者サマ。
 ヴィクティムの問いかけには、起き上がりざまに放たれた銃撃が飛来するのみであった。
 ヴィクティムは咄嗟に身体を翻して其れを回避。彼の後ろにそびえ立つ壁に幾ばくかの穴が空いた。
「戦場での挨拶は凶弾のみ、ってか」
 喋れないのか、喋ることを拒絶しているのか、いずれにしても会話が成立する相手ではなさそうだ――ヴィクティムが右腕を突き出せば、すでに其処にはクロスボウが展開されていた。
 残影を纏いながら、引き絞られていた弦が解放される。小気味良い音が数発鳴り響けば、ボルトが風を切り裂いて飛翔する。
 ジュピターはそれとほぼ同時に、両腕の砲口からミサイルを射出。そのボルトごとヴィクティムを飲み込まんとする算段だろう。
「あぁ、ところでそのボルト――」
 だが、ボルトがミサイルに触れ、半ばで撃ち落とされた瞬間――ひとつの音が鳴り渡る。
「”メカニック”である俺の特別製でね」
 ミサイルの爆風に混じって――青と白が織り交ざった電磁網のようなものが拡散した。
 
 パルス展開。

 爆風に巻き込まれないように、あらかじめ距離をとっていたヴィクティムは無傷だ。一方、超速で膨張する電磁爆発――すなわち『EMP』がジュピターの眼前で展開されている。
 果たして、かのオブリビオンは回避できるだろうか。否、『できるわけがない』。
 爆風に巻き込まれてたたらを踏んだジュピターの全身に、白々とした電撃が迸る。
 ぎこちなく硬直する身体、立ち昇る白煙、痙攣する足。
 立ち止まったオブリビオンへ、ヴィクティムは悠然とした足取りで近付いていく。
「医者が持つ道具にしちゃ、そいつは仰々しすぎる」
 ヴィクティムは、使い物にならないガラクタへと成り果てた機械腕を見据える。
 火花が上がり、煙が上がっている。あと少し刺激を加えたらどうなるか分かったものではない。
「暫くアナログな施術をするといい」
 その言葉に、ジュピターは反応が『できなかった』。
 身体の大半を機械で構成されている存在ゆえか、リアクションも抵抗もすることができないようで――その場に立ち尽くしている。
 両者の距離が、少しずつ縮まっていくも――ジュピターは、動くことができなかった。
「ああいや、ここで引退するから関係ねーな」
 不意に、ヴィクティムの背後で轟音が鳴る。空を切るは、ひとつの弾頭。
 ジュピターがあらかじめ隠しておいた――時間差で発動する不意の一撃。
 だが、ヴィクティムはそれに振り返ることすらせず、クロスボウを後ろに向けて無造作に撃ち放った。
 弾頭の中心に突き立つボルト。信管を破壊されてしまったためか――爆発することすら許されず、不発の鉄塊と化して床へと落ちた。
「悪いがもうお前のことは『理解』した」
 目と鼻の先まで近付いた後に――その細首を掴み、クロスボウを顔面に突きつける。
「さっきの一矢で何もかも、な」
 この状況において、一流とは何か。
 それは、相手に一切の隙を与えず、一切の驕りを見せず、只々淡々と――確実に、遂行する者。
 一手のみで、相手の総てを識る。それこそが、ヴィクティム・ウィンターミュートの強さであり、彼を猟兵たらしめる要素の一つである。
 無論、それだけが彼の総てではないのだが――業病のジュピターには、尽くを見せるには『荷』が重すぎた。
 間髪入れず、ペストマスクの額にボルトが突き立つ。
 衝撃でヴィクティムの手から離れるように吹き飛び、その骨ばった身体が壁に打ち付けられた。
 そして、ボルトが明滅し――爆発。
 零距離で放たれたEMPの嵐がジュピターを包み込む。

 その大爆発が過ぎ去った後には――さらさらと、砂が流れていくのみで。
 白い砂塵は空に舞い上がり、骸の海へと消えていく――。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『廃棄指定『第二十三模倣体』』

POW   :    第四種戦闘行動(集団蹂躙)
【押し倒し】を狙った【全力、全体重】突進によって与えたダメージに応じ、対象を後退させる。【標的】を同じくする【個体】の協力があれば威力が倍増する。
SPD   :    第二種捕食行動(侵蝕形態)
自身の肉体を【高靭性】の【触手侵蝕形態】に変え、レベルmまで伸びる強い伸縮性と、任意の速度で戻る弾力性を付与する。
WIZ   :    指定外特殊行動(昂奮分泌)
全身を【非常に潤滑性の高い体液】で覆い、自身が敵から受けた【喜悦への期待、昂り】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。

イラスト:V-7

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「なに? 業病が討ち取られた?」
 目の前で傅く骸が一体に、絶対零度が如き声が投げかけられた。
 間髪入れず振るわれるは鞭の一閃。
 骸は片膝をついたまま――その首が掻き消えて静かに横たわる。
 黒ずんだ血潮が噴き出るも、『頭目』は構う様子など一切ないようで。
「豚ども、『奴ら』がくるよ」
 もし万が一があったら――言外に含まれた意味を理解できないほど、群れた肉塊どもは馬鹿ではない。
 数えきれないほどの屍鬼たちが、皆一様に震え上がった。
「さァ、『奴ら』を蹂躙してきな。なァに、探さずとも――」
 バリケードの一角から、轟音が鳴り響いた。
 それは、壁が破壊されたものとは違う――、

 絶望の福音。

 そして、それは、人々にとっては真逆の――『希望の福音』でもあった。
セシリア・サヴェージ
これより攻勢に転じます。このバリケードの先には行かせません。
暗黒騎士として人々を脅かす悉くを討ち滅ぼしてみせましょう!

UC【黒風の蹂躙】を発動。【限界突破】で身体能力を強化し、そのまま敵陣に吶喊します。
【激痛耐性】で反撃に耐えながら【範囲攻撃】【捨て身の一撃】で敵をまとめて葬り、【蹂躙】し【恐怖を与える】ことで敵陣形の総崩れを狙います。

いかに強靭な肉体を持とうとも我が暗黒剣に砕けぬものなどあるものか。
【鎧砕き】【部位破壊】で触手ごと破壊してみせましょう。



「これより攻勢に転じます」
 昏き幕が帳を下ろす。
 それは暗黒の色彩を描きながら降り落ちる大瀑布。
 壁を打ち壊さんと群がる豚の大群に闇色が触れた瞬間――屍肉の群れどもが蜘蛛の子を散らすように吹き飛んでいった。
 衝撃波の中心部には、セシリア・サヴェージ(狂飆の暗黒騎士・f11836)が片膝をついていて。
 突き立っている大剣を引き抜き、立ち上がる。周囲を見回せば、セシリアを包囲するように遠目で様子を伺っている肉塊どもの視線が一様に彼女へ向けられていた。
 そして、その包囲網とセシリアの間には――黒色の塊のようなもの――すなわち、『暗黒に染まった豚』が力なく横たわっていて。
「このバリケードの先には行かせません」
 威嚇するように、セシリアは己が得物を振るう。その風圧に慄いてか、彼女よりも大きさも数も優勢なはずの豚たちがたたらを踏んだ。
 セシリアの身に立ち昇るは、莫大な濃度をはらんだ『闇の錬気』。それが周囲の景色を黒に塗りつぶしながら――彼女を染め上げていく。
「暗黒騎士として人々を脅かす悉くを討ち滅ぼしてみせましょう!」
 暗黒が天を衝く。その余波のみで、幾ばくかの豚が砂粒となり消えていって。
 そして、セシリアが得物を両手に持ち直して構えた瞬間、一瞬の間をおいて――彼女の姿が、『消えた』。
 半瞬遅れて、黒い暴風が大群の一角を薙いだかと思えば――無数の豚が宙を舞う。
 大質量のはずのそれらが瞬く間に空中に打ち上げられ、切り刻まれ、力なき血肉となって地面を汚していく。
 その風は、自然現象のそれではない。災害のそれではない。

 セシリア・サヴェージ、そのひとだ。

 超速で戦場を駆け抜ける暗黒騎士は――只ひたすらに剣を振るうのみ。
 今の彼女に『後退』の二文字は存在しない。只々前方に立ち塞がる肉を斬り刻んでいく。
 辛うじて反応できた豚が、その触手を鞭のようにしならせ、抵抗する。勿論それを行ってくるのがたった一体なわけがない。故に、セシリアに大量の触手が迫ることとなるのだが――。
「いかに強靭な肉体を持とうとも――」
 数本の触手が、セシリアの肩口や足に鋭く打ち付けられる。一般人であればそれのみで不随の生活を余儀なくされるであろうほどの威力だ。
 だが、それを受けたセシリアは怯みすらしない。傷ついた己が身体を一瞥することすらせず――触手を振るった眼前の豚に、大剣を前へ突き出した。
 肥えきった腹部に巨大な刃が突き刺さる。だが、その勢いは尚も留まらず、豚の背中から飛び出た剣が、側面へとズレていき――。
「我が暗黒剣に砕けぬものなどあるものか」
 セシリアの目の前で、四方に切り刻まれた肥肉が宙を舞った。それを潜り抜けるようにして通り過ぎれば、奥で右往左往していた豚たちが瞬きすらせず消し飛んでいく。

「破壊してみせましょう」

 その光景は、まさに『黒風の蹂躙』。
 次々に、その風に触れた者が地面に『落ちていった』。
 逃げることも反撃することも許されない。
 血肉の山が、うず高く積み上がっていく――。

成功 🔵​🔵​🔴​

アルトリウス・セレスタイト
まだ後もある
さっさと終えるか

敵へは顕理輝光で対処
常時身に纏う故、準備不要
攻撃へは『絶理』『刻真』で異なる時間に自身を置き影響を回避
必要な魔力は攻撃分含め『超克』で“外”より汲み上げ、行動は全行程を『刻真』で無限加速し即座に終える

天楼で捕獲
対象は戦域のオブリビオン及びその全行動
原理を編み「迷宮に囚われた」概念で縛る論理の牢獄に閉じ込める
内から外へは何もできず逆は自由
攻撃も自壊対象で破壊もままなるまい
精々憤れ

出口は自身に設定
まずは俺を超えることだ

迷宮へは『解放』を通じ全力で魔力を注いで強度と自壊速度を最大化
辿り着くなら『討滅』を乗せた打撃で対処


※アドリブ歓迎



「まだ後もある」
 戦場の一角で戦いがはじまったようだ。豚の群れが、その一角へと集まっていく。
「さっさと終えるか」
 ならば、と――アルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)は、その『肥えた背中』へ手を翳す。
 原理を操る彼は、『そこにいてそこにいない』。
 その原理を欠片も分かっていない豚どもに、彼を補足することなど不可能に近い。
 故に、背後から迫る『死』の光にも、一体たりとも気付いている様子はなく。
 放たれるは血色とは真逆の――『淡青の光』。その光は、硝煙揺蕩う戦場全体を包み込むように広がっていき――。

「惑え」

 天楼の輝光が光差した。
 それは天を塞ぐ雲を引き裂く、斜陽が如く。
 その輝きは、豚たちの足を止める。否、『止めざるを得ない状況』に追いやった。
 ここにきて、はじめてアルトリウスの存在に気が付いてか――大群が一様に後ろを振り向く。
 だが、その動作は彼にとってはあまりに緩慢。あまりに悠長。
 つい先程までは、豚たちが走って追いつけそうなほどの距離にいたはずのアルトリウスが――次の瞬間には遥か彼方に立っていて。
「まずは俺を超えることだ」
 迷宮の『概念』を正しく理解できるほど、豚どもの頭は高尚ではない。故に、彼らの目には――攻略不可能なほどのスケールを持った迷宮が広がっていることだろう。
 そして、戦場を包み込む青の陽光が――豚の身体を融解させていく。
 次々に、悲鳴もまばらに――ドロドロのシチューとなって地面に堕ちゆく。その跡には血色の一滴すら残らない。
 それは、ただ一つの、単純明快な結論。
「残滓すら残さんか」
 『消滅』。只ひたすらなる『0』。
 すなわち、アルトリウスの原理に『抵抗することすらできていない』ということだ。
 高みから見下ろす彼に憤慨してか、地団駄を踏みながら得物や触手を投げ飛ばす個体も多数いる。
 だが、そんな悪あがきがアルトリウスに通用するはずもなく――。
「精々憤れ」
 攻撃を繰り出した豚たちが、爆発するかのように弾け飛んでいく。
 自壊の原理によるものだ。
 それでも尚、攻撃をやめないのは彼らの執念ゆえか。
 だが、その粘っこい根性が奇蹟を起こしてか――ハンマーの一本が『原理』をすり抜け、アルトリウスへ迫る。
 だが、虚しくも其れは――彼の眼前で、ぴたりと静止した。
 かなりの速度で飛来したはずの其れに対して、アルトリウスは眉ひとつすら動かさない。そして、空中で止まったハンマーを片手で振り払えば――其れが『青の一閃』へと変化し、跳ね返った。
 音すら残さず、淡青の閃光が豚の一群を『削り取る』。
 初めからそこにはいなかったかのように――群の一角にぽっかりと穴が空いた。
「――この様子だと」
 一体たりとも、俺に到達しないだろうな。
 アルトリウスの視線の先には、依然変わらず、此方へ攻撃を繰り出そうとして――自壊していく豚たちが映し出されていた。
 工夫も何もあったもんじゃない。
 開かないドアに対して、ひたすらドアノブを捻り続けるような――愚直すぎる行動。
 今まではそれが通用してきたのかもしれないが、『原理を編む者』相手に其の行動は――無駄を通り越して虚無。
 数刻もせずに、アルトリウスが捕らえた一群が――『何もすることができず』消滅した。

大成功 🔵​🔵​🔵​

白峰・慎矢
これでもう中の人達は大丈夫みたいだね。それじゃ、反撃開始と行こうじゃないか。

こいつらもまた面妖な姿をしているね……。あの図体の大きさで一斉に全力の体当たりをされたら、厄介だな。けど、全力の全力の体当たりを避けてしまえば、逆に大きな隙ができるんじゃないかな?
走り回って敵に囲まれるように引き付けたら、突進攻撃を高くジャンプして回避するよ。飛び上がったまま忍びの鉤爪を使って敵を見下ろせる高所に移動して、奴らに【閃光斉射】で光の矢を浴びせてやろう。破魔の力も籠めて、確実に消せるようにしようか。
ここで生きる人達が少しでも安心できるよう、見える脅威は排除しないとね。さあ、一匹残らず浄化してあげるよ……!



「これでもう中の人達は大丈夫みたいだね」
 バリケード内から次々と繰り出していく猟兵たち。
 同じように、壁を乗り越えて大きく飛び出した白峰・慎矢(弓に宿った刀使い・f05296)も、その一人だ。
 既に包囲網は半ばまで崩壊している。これ以上壁が傷つけられることは殆どないだろう。
 再び彼らが押し寄せてくるときは、猟兵に『万が一』があったときだ。
 決してそうなってはならない。
 白峰は決意を胸に抱きつつ、眼光鋭く――地面へと着地した。
 辺り一面に蠢いていた豚の大群が、一斉に白峰へと振り向く。
「それじゃ、反撃開始と行こうじゃないか」
 勢いよく足を踏み出し――駆ける。
 走る、奔る、ただひたすらに、駆け抜けていく。
 肉塊の隙間を縫うように戦場をすり抜けていくは白き風。彼は純白たる霊気を残しながら――豚の視線を集めていった。
 雄叫びを上げながら白峰を追いかけていく『一塊』。
 密集した肉塊が一丸となって押し寄せていくさまは、全速の重機が如き迫力を感じさせる。
 あの図体の大きさで一斉に全力の体当たりをされたら、厄介だな――白峰は走りながら、危惧していた。
 大抵の攻撃ならば受け流すなり受けきるなりできるだろうが、『あれ』はヤバい。
 現状、彼らが白峰に追いつくのは限りなく不可能に近いだろうが――先の理由で油断はできない。白峰は気を引き締めながら、足を早めていく。
(けど、全力の全力の体当たりを避けてしまえば、逆に大きな隙ができるんじゃないかな?)
 威力が高いのであれば、大抵の場合は反動も大きい。イレギュラーなパターンもあるが――そういう類に彼らが該当するとは思えない。
 白峰は四方八方に駆け抜けていきながら、豚たちを引き付けていく。
 『あえて』、囲まれるように――。

 数刻の後――完全に包囲された白峰へ、豚たちがくぐもった鳴き声をあげながら殺到する。
「今だ――ッ!」
 白峰は咄嗟に懐から鉤縄を上方へ抜き放った。硬質な音と共に、近場にそびえる崖へ鉤爪が突き立つ。
 瞬く間に崖へ引き寄せられていく白峰の身体。半瞬遅れて、彼がいたところに肉塊同士がぶつかり合い――。
 生々しい轟音が響き渡った。
 空気が破裂するような爆発音を空中で聞き届けた白峰は、思わず眉をしかめる。
「やっぱり、威力だけはあるようだね……」
 白峰は崖に到達した後に、鉤爪を取り外し、着地した足を再び蹴り出す。
 そのまま、激突した一群へと飛び出していった。
 天高く、その身体が宙を舞い――眩い光を宿し――。
「ここで生きる人達が少しでも安心できるよう、見える脅威は排除しないとね」
 彼の背面、その空間からせり出すように――無数の光矢が顔を覗かせた。
 景色を穿って現れた矢群は、そのひとつひとつが等しく輝いている。それはまるで、天の川のような光景を映し出し――。
「さあ、一匹残らず浄化してあげるよ……!」
 それらを解き放つのに、弓などいらない。
 白峰の『意思』で、一寸の狂いなく放つことができるものだ。
 彼の言葉に応じるように、次々に矢が撃ち放たれて降りそそぐ。
 流れ星が如き、光の軌跡を残しながら――豚どもを貫いていった。
 ある者は頭蓋を撃ち抜かれ、ある者は心臓を砕かれ、またある者は某の光に触れただけで――灰となって消滅していく。
 
 …………
 ………
 ……
 …

 白峰が、ゆっくりと地面に降り立った。
 彼が見回した先には――豚どもの、『ひとかけら』すら残っていない。
 文字通りの『浄化』。彼の『霊光』に耐えうる存在は、一匹として存在しなかった。
 未だ遠方で豚の大群が蠢いているが、白峰の周辺は尽くの『殲滅』。
 その手応えに、彼はほっと胸を撫でおろすのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィクティム・ウィンターミュート
さってと…忙しいのはここから、か
もう少し休ませてくれたっていいんだぜ?
人生は休むことも大事だろ──なんて言ったって無駄なんだろーな
そんじゃぁまぁ…やろうか

ま、つっても『戦い』をする気は無いんだけどな
『Nighty night』……お眠り、坊や
出来るだけ削れてない奴を眠らせておく

後は簡単だ、眠った奴らの頭を潰して回る
クロスボウでもショットガンでもいい、ナイフで首を落してもいい
一撃で仕留め、強化すらも許さない
『戦い』にはしない
これは『作業』なのさ 理解したか?フリークス
音で起きる心配も無いさ…全部静音設計なんだしよ

さーて、この後に控えてるのは誰だ?
つまんねー脚本書きやがった罰を受けてもらうぜ



「さってと……忙しいのはここから、か」
 ヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)は、眼前に広がる肉の塊――オブリビオンの群れを見渡しながら、そんなことを呟く。
 景色を埋める、豚、豚、豚――。オークに酷似した其れらが、耳障りな咆哮を上げながらヴィクティムめがけて突進を仕掛けてくる。
 雪崩るように迫る肉塊は、言うなれば大質量の塊だ。その迫力は、嘘偽りのものではないだろう。
 だが、其れを前にしても――ヴィクティムは肩を竦めるのみで。
「もう少し休ませてくれたっていいんだぜ?」
 彼に焦燥の二文字は存在しない。空中に浮かぶホログラムを片手間に弄りながら、冗談混じりなことを言えるほどに落ち着いている。
 勿論、それはハッタリでもなんでもない。
「人生は休むことも大事だろ──なんて言ったって無駄なんだろーな」
 一切動きを緩めることのない豚の群れを見据えた後に、空中に映し出された『Enter』のキーを押下。
「そんじゃぁまぁ……やろうか」
 戦場一面を過ぎっていく、無数の文字列。
 其れらが、肉塊どもの体を突き抜けた瞬間――異変が起きる。
 ばたり。
 どさり。
 一匹、五匹、十匹――あれ程までに勢いづいていた豚どもが、力なく地面に倒れ伏していく。
「ま、つっても『戦い』をする気は無いんだけどな」
 次々に倒れていく味方に困惑している個体も、次の瞬間には糸が切れたかのように倒れていく。
 喧騒に充ちた戦場が、瞬く間に静寂へと誘われ――。
「『Nighty night』……お眠り、坊や」
 ヴィクティムを押し潰さんと全速の猛攻を仕掛けてきた『無傷』の豚どもが――その『一手』のみで無力な駄肉と成り果てる。
 清々しい晴天であるにも関わらず――戦場は夜の帳が降りたかのような静けさに包み込まれた。
 ヴィクティムはゆっくりと歩み――右腕のクロスボウを引き絞った後に、寝転んだ一体に照準を合わせる。
「微睡みに包まれているがいいさ」
 ――永遠にな。
 僅かな発射音と共に、ボルトが放たれる。瞬く間に豚の頭蓋が吹き飛ばされた。その静音からは考えられないほどの破壊力である。
「これは『作業』なのさ。理解したか? フリークス」
 歩きながら、次々にクロスボウを放っていく。その無造作さからは想像もつかないほどに的確な射撃だ。
 不意に左腕のショットガンに切り替えたかと思えば、それを大型の個体に向けて撃ち放つ。結果は言うまでもないだろう。
 頭部を防護している個体には、ナイフで首を抉る。
 抵抗なく突き刺さる某の刃は、いとも簡単にオブリビオンの頭部を切り離してしまう――恐ろしいまでの切れ味をはらんでいた。
 手段は様々だが、結果は一つに集約されている。

 つまるところ、尽くが頭部を飛ばされて即死。
 
 強化も抵抗も許さない。
 理不尽なまでの『効率的』な戦い方。
 ルールありきの闘技ならば、もしかしたら糾弾されてしまうかもしれないやり方だが――生憎、ここは『ルール無用の実戦』。
 ましてや、存在そのものがルール違反甚だしいオブリビオンとの戦いだ。
 むしろ、ヴィクティムのやり方は賞賛されるべき『完璧さ』だろう。
 さて、彼が一通り歩いた後に――背後を振り返れば。

 そこには、首無しの肉塊が無数に転がる、静謐に満ちた荒地が広がっていた。

「さーて、この後に控えてるのは誰だ?
つまんねー脚本書きやがった罰を受けてもらうぜ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

灰神楽・綾
【曙草】
…さっきの傷は大丈夫?
先の戦いで致命傷は防いだけど
怪我させてしまった事に少し申し訳なく思い

手負いのクロウに無理はさせたくないし
俺が一肌脱ごうか
この豚相手なら遠慮も要らないよね
まぁ欲を言えばもっと綺麗な相手が良かったかな?

武器はDuoに持ち替えUC使用
飛翔能力で一人で敵陣に突っ込み
前線で敵を引きつける陽動役
敵を一箇所に纏めるように飛び回り
クロウの召喚の時間稼ぎと
一網打尽にしやすくするのが目的

クロウ、準備は良い?
じゃあここからは一緒に暴れようか
上空から[なぎ払い][範囲攻撃]で蹴散らす
殴って斬って炎で焼いてって
何だか焼き豚料理みたいだねぇ(あはは
最期は君が決めるって言ってたからね、宜しく


杜鬼・クロウ
【曙草】
アドリブ怪我◎

この程度
お前に心配される程ヤワじゃねェわ
別にお前の所為じゃねェ

七つ道具からガーゼ取り出し腰の怪我を応急処置
親指で血拭い敵と対峙
上着脱ぎ戦闘

次から次へと沸いてきやがる(俺達の体力も削れるだけ削るか
お前好みの血腥い戦闘とやらが出来そうだぜ?
存分に暴れてこいよ、綾
最期は必ず、俺が決めてヤる

【煉獄の魂呼び】召喚
禍鬼は地面を蹴って跳び敵を棍棒で殴打
紫電放ち霆攻撃
敵複数の動き鈍らし隙作る

ちィ…ッ
気持ち悪ィ、マゾかよ(屑見る様な蔑む目
こんな不味そうなモン食いたくねェ

玄夜叉に魔炎宿し粘液に極力触れず
虹駆でジャンプし横っ面蹴飛ばす
敵の攻撃カウンターし腕削ぐ
剣で心の臓狙う(2回攻撃・部位破壊



 二人の『鬼』が、戦場を駆ける。
 一人は、『激情』を抱えた鬼。
 もう一人は、『享楽』を抱えた鬼。
 二人が願うは依頼の達成、そこは共通している。
 だが、戦う理由に於いては全くの別物であって。
 そう聞くと『水と油』のようにも思えるが、蓋を開けば――今回の戦闘に参加した猟兵たちの中で、この二人だけは決して別行動をとっておらず――阿吽の呼吸で周囲の豚たちを血潮の嵐に包み込みながら疾走し続けている。
 別々の存在でありながら、寸分違わぬ見事な連携で敵陣を切り刻んでいく。それはまるで『紅の鎌鼬』だ。
「……さっきの傷は大丈夫?」
 少しだけ目尻を下げながら、隣にいる杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)に心配そうな声色で尋ねる灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)。
 その糸目で脇腹の傷を見据える。医療用の分解光線を食らった影響か、皮膚どころか肉までもが抉れ落ちていた。破れた衣服から未だに血が滲んでおり、かすり傷というには少々深すぎるモノだろう。
 不意に、綾が『Emperor』を一振りし、その斧刃を薙ぐ。今にものしかからんと眼前まで迫っていた豚の一体に其れは直撃した。
 首元に迫った凶刃を避けられるわけもなく、瞬く間に首を跳ね飛ばされ、贅肉の塊へと転生。
 そして、力を失った其れに、腹部めがけて石突が繰り出された。ハンマー部分による打突を諸に受けた巨大な死体は、くぐもった音を鳴り響かせながらボールのように吹き飛ばされていく。
 其れは言うなれば『砲弾』。後ろに控えていた一群を薙ぎ倒していった。
 一瞬、敵の攻勢が緩んだところで――クロウは身につけているウエストポーチ――『七つ道具』から、ガーゼと包帯を勢いよく取り出す。
「この程度」
 乱暴にガーゼを傷口に押し付け、瞬時に包帯を展開して巻き付ける。
 包帯が赤く滲むも、意にすら介さず続けて口を開いた。
「お前に心配される程ヤワじゃねェわ」
 僅かに染み出した出血を親指で拭い、勢いよく突進してくる一体と対峙する。
「別にお前の所為じゃねェ」
 ぶっきらぼうに言い放つと同時に、血に汚れた上着を投げ捨てた。
 その過程において横薙ぎに繰り出された某の外套が、猪突猛進に突っ込んでくる豚の眼前を過ぎる。其れが僅かな間、視界を遮った。
 クロウは隙ありと言わんばかりに、赤黒い魔炎を纏う刺突を――『玄夜叉』を以てして繰り出す。
 瞬く間に、クロウの目の前で豚の丸焼きが完成した。
「……ッチ。次から次へと沸いてきやがる」
 しかし、その死体の奥から次々に向かってくるは豚の大群。
 その光景に、クロウは思わず舌打ちする。
「俺が一肌脱ごうか」
 綾が前に出る。
 先程まで装備していた『Emperor』から、『Duo』に持ち替えている。黒地に赤、そして赤地に黒という対照的な色彩が特徴的な、一対の大鎌。『Emperor』に劣らないスケールを持つ某の得物を両手に持ちながら、眼前の大群を対峙する。
「お前好みの血腥い戦闘とやらが出来そうだぜ?」
 クロウが、自分たちに襲い掛かって来る『数』を軽く一瞥した後に、不敵な笑みを見せる。
「存分に暴れてこいよ、綾」
 嗚呼、これからアレ等がどうなるかなんて――想像に難くない。
「最期は必ず、俺が決めてヤる」
 綾の背中を押すようにクロウがそう言えば、紅月の揚羽が空を舞う。
「この豚相手なら遠慮も要らないよね」
 空中に大きく飛び出した綾が、そんなことを呟く。
 その口角がゆっくりと吊り上がり――柔和な表情が、少しずつ鋭さを帯び始めて。
「まぁ欲を言えばもっと綺麗な相手が良かったかな?」
 活血を散らせるのであれば、美しい相手であればあるほど『場』が映える。
 蠢く豚どもをなます斬りにしたところで――穢れた贅肉が地面を汚すのみだ。

 だが、そこには唯一不変の『殺し合い』が生まれる。
 『灰神楽 綾』にとっては、それが何よりも重要なことなのだ。

 ひらり、ひらり、揚羽蝶が舞う。
 それが天を覆いつくすように集まり、綾の身体に集まっていく。
 蝶の群れと一体化した彼が空を飛びながら、大鎌を振るい――敵陣と肉薄した。
 無数の揚羽蝶が豚どもの間をすり抜けていく。
 
 刹那、ぼとり、ぼとり、と、生々しい音が各所で響き渡った。
 見れば、豚の腕が、足が、そして首が――地面に落ちていっている。
 血肉が大地を赤に染めあげ、ぶつ切りにされた贅肉が力なく倒れ伏した。
「肉を切り裂くというのは、いつだって素晴らしいね」
 繊維が千切れる音。皮膚が破ける音。そして、肉が裂ける音。
 それらが織りなす独特の感触は――どうにもやみつきになるものがある。
 紅の三日月が軌跡を描くたびに、数匹の巨大な豚たちが『まとめて』葬り去られていく。
 それでも尚、連中の数が一向に減らないのは――『数』だけはしっかり揃えてきた証拠であろう。
 だが、綾は笑顔を絶やさない。
 表情に一切の陰りをみせないどころか、一匹一匹屠るたびに活き活きとしているようでもあり――。
 その『異質』さも相重なって、敵の視線が一斉に綾へと向き始める。
 クロウは、自身に向けられた意識が薄らいだことを確認した後に、ゆっくりと息を吸い――。
「杜鬼クロウの名を以て命ずる」
 空気が、雷霆にさざめく。
「拓かれし黄泉の門から顕現せよ!」
 クロウが見つめる先――その景色が、渦を巻いて歪曲する。煉獄の色を纏った稲妻が迸り、天を焦がす。
 その中心、その黒点から――真っ赤な腕が飛び出した。巨大な手が、勢いよくその歪みの『枠』を掴んで――こじ開けていく。
「贖罪の呪器……混淆解放――血肉となりて我に応えろ!」
 さらにもう一本、赤き腕が飛び出した。
 めきめき、と、空間にヒビが迸り――やがて、轟音と共に『門』が開放。
 ゆらり、と、悠然とした足取りで現るは『禍鬼』。
 マガツミ、と呼ばれる某の鬼は、その巨躯ゆえに――敵陣を『見下ろして』いる。
 紫電を纏った双眸が敵の一体を気まぐれに睨めつければ、その視界の先が瞬く間に『消し炭』と化す。
 そして、蒸発した血煙を吸い上げるは――振りかぶっている、某の棍棒。
 赤錆がひとつ振り下ろされれば、複数体の挽肉が纏めて出来上がった。
 そして、大きく前へと飛び出した禍鬼は、そのスケールでありながら『跳躍』すらしている。
 その大きさ、その俊敏さ、そして破壊力。敵陣の動きが鈍らないわけがない。
 手応えを確認したクロウは勿論、陽動で飛び回っていた綾も――動きが一変。
 得物を振るう速度が、そしてその鋭さが、明確な殺意を持ち始める。
「じゃあここからは一緒に暴れようか」 
 綾が敵陣に真正面から肉薄し――一閃。
 身体を大きく一回転して放たれた大鎌の一撃は、単体はおろか、その一塊が纏めて横に『ずれ落ちる』。
 敵も、潤滑油を身体に纏うことで対処せんとするが――所謂『二の太刀』がそれを許さない。
 一撃目を受け流せたとしても、浅い傷は必ず残る。そこに寸分違わず繰り出される『もう一方の大鎌』が傷口に吸い込まれるように――そして、両断。
 生命を絶つ、『殺す』ことに長けた綾だからこそ出来る埒外の絶技だ。
 綾の死角を補うかのように、クロウも前へと飛び出して。
「ちィ…ッ。気持ち悪ィ、マゾかよ」
 屑を見るような、蔑む眼差しが――たった今、袈裟斬りにされた豚へと向けられる。
 魔炎によって燃え盛りながら、歓喜の鳴き声をあげていた。
 クロウは『虹駆』により大きく跳躍。そのまま横っ面を蹴りつけ、吹き飛ばす。
 嫌な音が豚の首元で鳴り響き、複数の仲間を巻き込みながら弾き飛ばされていった。
 不意にクロウの背面から繰り出される、別個体による一撃も――。
「甘ェよ」
 そちらを一瞥すらせず、玄夜叉が抜き放たれた。
 クロウの足元に肥えた腕が落ち、背後でくぐもった悲鳴が上がる。
 だがそれも束の間――逆手に持ちかえた玄夜叉が背後めがけて繰り出され、腕を失った豚に直撃。
 心臓を穿たれてか、耳障りな悲鳴は一瞬で事切れて。
「何だか焼き豚料理みたいだねぇ」
 あはは、と、綾は楽しげに笑う。
 轟々と燃え盛る戦場は、まさに死屍累々。煉獄地獄。
 だが、それこそが求めた光景よ――と、綾は心臓が高鳴るのを感じて。
「こんな不味そうなモン食いたくねェ」
 クロウが言い捨てて、刀についた血糊を振り払った。
 不意に、得物を持っていない方の腕に痛みが迸る。
 見やれば、殴打されたような痕が残っていて。
 戦っているうちに付けられたものだ、と、クロウは目を細める。その痛みを気づかなかったほどに――『激烈』な戦いであったのだろう。
 だが、彼の内で燃え盛る『激情』が――本来生まれるはずであった隙を消し飛ばしてくれていた。
 それも相重なっての、『この』結果であろう。
 豚どもは、一寸たりとも――二人を止めることができなかった。
「最期は君が決めるって言ってたからね、宜しく」
 思惑の時間も束の間、綾がひらひらと手を振ったかと思えば――揚羽蝶がひらひらと舞い降りて、消失。
 無数の揚羽蝶が一群を成し――豚どもを一塊に纏めていく。
 クロウはそれに無言で頷くと、かつてないほどに大きく跳躍して。
 空中で引き絞るは、玄夜叉の刃。
 その柄から刃先にかけて――火花と共に、赤熱の激墳が迸り――。
「テメエらの脂でよく燃えるだろうよ」
 たっぷり味わえ――。
 音を置き去りにして、その凶刃が突き出された。
 空中を引き裂くように放たれる、灼熱の稲妻。
 それが敵群の中心点に着弾した瞬間――。

 世界は、真っ白に染め上げられた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ジン・ロシュモフ
・へぇ、これはまた大挙しての襲撃だな。こんな連中に襲われたら、いかにこの建物でも……取り付かれる前に倒してしまおう。

・敵はまとまって突撃してくる……なら、オラの得意なハンディキャップマッチだな。
手近な敵の「手をつなぐ」ことで組み付き、そのまま「怪力」でジャイアントスイング。「鎧砕き」込みでブン回して周囲を薙ぎはらってやろう。

・それでも固まって攻撃してくるならこっちのもの。
【ジャイアントフィニッシュ】でのジャンピングボディアタックやヒップアタックでまとめてドン! 大地ごと押し潰して埋葬してやるぞ。

・それにしても、こんなに大勢を動かせる奴は一体……機を引き締めて行こう。



「へぇ、これはまた大挙しての襲撃だな」
 地平線を埋め尽くすほどに集まっていた敵陣が、少しずつまばらなものになっている。
 猟兵たちの活躍あってこそだろう。だが、まだ連中が残っているのも事実。
 彼らを放っておけば、民間人に被害がでかねない。
「こんな連中に襲われたら、いかにこの建物でも……」
 故に、一匹たりとも残さず倒しつくす。ジン・ロシュモフ(心優しき花畑の巨人・f18884)は未だ壁めがけて猛進する巨大な豚たちの目の前に立ち塞がった。
 取りつかれる前に倒してしまおう――と、その巨躯は有象無象の大群を前にしても動じることはない。
 先行した敵陣の数匹――それが、大きな腹を揺らしながらジンを押し潰さんと迫る。
「オラの得意なハンディキャップマッチだな」
 受けてたとう、と、最前線に立つ豚の腕に、ジンの巨腕が伸ばされた。
 その大柄な身体からは想像もつかない瞬発力に敵は反応できず、がっちりと腕を掴まれてしまう。
「利用させてもらうぞ!」
 そのまま豚の身体が大きく引き寄せられた。その衝撃で体勢を崩した某の一匹にジンが組みつき、その両足を掴む。
「薙ぎ払ってやろう!」
 かなりの重量であるはずの豚が大きく持ちあがり、勢いよく振り回されていく。

 暴風、顕現。

 轟々とした風切り音と共に、質量兵器と化した豚の身体が他の個体を巻き込んで薙ぎ倒していく。所謂『ジャイアントスイング』の其れだ。
 振り回されている個体は、ジンの怪力と合わさった無数の衝撃に身体が耐えられなかったようで――見るも無残な肉塊と化している。
 ジャイアントスイングに巻き込まれた個体も、とても五体満足とはいえないような状況で地面に転がっていた。只の打撲程度ならまだしも、その身を圧砕されて肉片と化したものも少なくない。
 猟兵たちの中でも群を抜いて際立つ、ジンの『怪力』が成しえた結果だ。
「きたな!」
 しかし、懲りずに飛び込んでいく豚の群れ。
 もう相当数が返り討ちにあっているにも関わらず、その足取りは止まらない。
 だが、ジンの表情は曇らない。むしろ、『こっちのものだ』と言わんばかりの、闘志あふれる目つきをしている。
「だったら、全員まとめて――」
 振り回していた肉塊を、自身を包囲せんと死角に回る豚たちへ投げ捨てる。おもむろに行った其れのみで――血肉が砲弾と化し、敵陣を大地ごと抉り取っていった。
 全身に力を込め、大きく屈んだジンの身体が――全身に漲る筋肉が、めきめきと頭角を現し――。
「圧し潰してやるぞ!」
 豚たちも何かを察してか、その突進が焦燥に満ちたものとなっていく。だが、敵陣が彼にのしかからんと目と鼻の先まで迫った某の瞬間。

 巨人が――『跳んだ』。

 覆いかぶさっていた豚の数匹が、その跳躍によって大きく吹き飛ばされていく。重なり合った質量も、彼の跳躍を止めるに能わず。
 敵陣を見下ろせるほどに跳び上がったジンが、そのまま両手を広げ――大の字になって落下。
 『フライングボディアタック』だ。だが、只の人間が行った其れではない。

 ジン・ロシュモフの全力を以てして放たれるものだ。

 重力に身を任せて、その巨躯が勢いよく落下。
 そのまま蠢く肉塊、その中心へと向かい――。

 大地が、『陥没』した。
 一般人であれば立つことすらままならないほどの大地震。ジンが着地した周囲は――舞い上がる砂煙と、クレーターが残るのみ。
 無数に広がる、赤々とした地面のシミは、ついさっきまでそこにいた『オブリビオン』の成れの果て。
 ジンが身体についた砂埃をはたきながら、油断なく周囲を見回していく。

 晴れていく視界の先には、灰色の荒地が広がるのみで。
 我が物貌で闊歩するオブリビオンは、もうどこにもいない。

 最奥にいるであろう――『頭目』、只一人を除いて。
「それにしても、こんなに大勢を動かせる奴は一体……気を引き締めて行こう」

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『🌗屍商人』

POW   :    【屍商の調教】貴様は私の商品よ
【皮膚を抉り、ゾンビ化薬を注入する特殊弾丸】【戦意を削り折る、鞭による鋭い高速殴打】【心を犯し、自身への隷属と服従を強いる首輪】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
SPD   :    【屍商の遊戯】あぁ、なんて心地よいのでしょう
戦闘力のない【ゾンビ化爆弾を体内に仕込まれた奴隷たち】を召喚する。自身が活躍や苦戦をする度、【自動で爆弾が起爆し、奴隷たちの悲鳴と絶望】によって武器や防具がパワーアップする。
WIZ   :    【屍商の命令】ご主人様の言うことには絶対服従よ
【商品の中】から【敵のレベル体の奴隷と戦闘用大型ゾンビたち】を放ち、【調教による狂気染みた忠誠からくる攻撃】により対象の動きを一時的に封じる。

イラスト:ジョンハッピー

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は高橋・湊です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


「あーあ、廃棄予定の商品とはいえ――クソの役にも立たない奴らだったわ」
 これなら腐ったゾンビを放り込んだほうがまだマシね――と、戦況を遠目で眺めていた『屍商人』は退屈そうに足を組み替える。
 とん、と、その踵が――彼女の椅子と化している屍人に触れた。くぐもった悲鳴を上げながら、猟兵たちの許へ主人を送らんと四つん這いで歩んでいく。
 言語に満たない呻き声をあげる屍。だが、時折――うわ言のようなものが聞こえて。

 おかあちゃん。
 おとうちゃん。
 だれか、たすけて。

 その大柄な身体からは考えられないような、子供の声である。
 だがそれも、騎乗している屍商人の『鞭』によって掻き消されて。
「煩い商品ね。不良品扱いされたいのかい?」
 家族全員を『混ぜた』のは失敗だったかしら――頬に手を置きながら、彼女はぶつぶつと思案する。
「まぁいいわ」
 その思考を止めて、視線を前に向ければ――こちらに迫って来る猟兵たちの気配。
「危機的状況と言えるでしょうけど、どうせ逃げられないわね。それに――」
 口元を隠すマスクの内側で、その口角が不気味に吊り上がった。
「猟兵共を『商品』にしてしまえばいいのよ。きっとこんな座り心地の悪い粗悪品なんかより――」
 『最高傑作』が出来上がるわぁ、と、粘っこい欲望を隠しもせず――戦場に赴いていくのであった。
セシリア・サヴェージ
どうやら頭目の女性は奴隷を従えているようですね。
交渉に応じるような相手ではないと分かってはいますが、一応聞いておきましょう。
奴隷を解放する気はないか、と。無理だというのなら……

UC【闇の氾濫】を発動。私をこの姿にさせたことを後悔するがいい。
奴隷たちが犠牲になるのは心苦しい。だがあの女を倒さなければさらなる犠牲が生まれることになる。
何かを成すためには代償が必要、か。この力のように……。

【限界突破】した能力と【怪力】に任せて叩き潰す。
さらに【恐怖を与える】【精神攻撃】でその心まで切り刻んでやろう。
跪き許しを請え。絶望の悲鳴を上げるのはお前の方だ。


アルトリウス・セレスタイト
俺が此処に来たのがお前の不運だと言っておこう

破界で掃討
目標はオブリビオンとその全行動、及びゾンビ化爆弾
『刻真』で無限加速した高速詠唱を『再帰』で無限循環
天を覆う数の魔弾を「瞬きの間もなく」展開・斉射

更に射出の瞬間を循環させ「一切の間を置かず」斉射を継続
目標を隙間なく押し包む包囲攻撃で始末する
必要な魔力は『超克』で“外”から汲み上げ供給する

目標以外には無害故に遠慮はなし
仮に奴隷を呼んでも体内の爆弾だけが綺麗に消え失せるのみ
視界は遮るかもしれないので、他の猟兵の動き次第で調整はする

仮に攻撃を受けるなら『天冥』『明鏡』で攻撃者を害するものへ転化・返撃とする

※アドリブ歓迎



「……あなた、それは本気で言っているのかしら」
 屍商人の赤眼が僅かに見開かれた。片眉が吊り上がり、『それ』を問うた騎士へ胡乱げな視線を向ける。ぴんと張った鞭が、戦況の緊迫感を暗に表しているようでもあり。
「私がこの状況で冗談を投げかける存在に見えますでしょうか」
 セシリア・サヴェージ(狂飆の暗黒騎士・f11836)が、黒紫に入り乱れた刃を向けながら言葉を返した。向けられた某の『戦意』が、一種の返答とも言えるのかもしれない。
「……本気の本気、なのね」
 屍商人は思わず片手で頭を抑える。そして、一瞬の間を置いて――灰色の首は横に振られた。
「たとえどれほどの不良品であったとしても――『商品』である以上、手放すことは万に一つもないわ」
 回答は、『否定』の其れ。
 屍商人がその鞭を地面に振るえば、灰色の大地から這い出てくる腐肉のゾンビたち。そして、もう一度叩けば――それに混じった『生ける者』、首輪と鎖に縛られた奴隷たちも召喚されて。
 束縛された奴隷たちの肉体、その中心部には――赤々とした爆弾が括り付けられている。それは身も心も腐敗させる『ゾンビ化爆弾』。まるで心臓が如き其れは、ひとつ躍動するたびに『時』を刻んでいるようでもあり。
 つまるところ、臨戦態勢ということだ。
「そうですか。ならば――」
 セシリアは瞑目し、柄を握る手を強める。
「――後悔するがいい」
 その声色が、言葉遣いが、そして――気配が、一変した。
 辺り一面の温度が急速に落ちていく。それは彼女が『温度操作系』の能力を持っているからであろうか。
 否、違う。
 悪寒がする程の冷たさも、全身を突き刺す程の鋭い気配も、総て――セシリアが操る『闇』によるものだ。
 空が陰り、雲が渦巻く。その大渦の直下にいるセシリアの全身、某の鎧から――瘴気が溢れ出して。
 その色は漆黒。例え晴天の真下に其の瘴気を置いたとしても、その色が光に照らされることはないだろう。
「あら、良い『色』ねぇ……。尚のこと、商品価値が高まりそうだわぁ」
 屍商人はその『闇』に魅入られたかのように目を見開き、恍惚の声色を零す。
 「じゃあ、早速だけど……一度『死んで』もらうわよ」
 商人は『椅子』になっていた屍の上に立ち上がり、大きく振りかぶったかと思えば――得物である黒々とした鞭をセシリアへと振り下ろした
 見た目によらず、疾風が如き鋭い一撃。だが、それを振るった相手は素人などではない。暗黒騎士であるセシリアだ。
 セシリアは回避行動すらとらずに悠然と構え、暗黒剣を勢いよく振り上げる。
 黒と黒が重なり合い、お互いの得物が弾かれた。だが、僅かに怯んだのは屍商人の方であり――。
「……『死』はもっと深く、昏く、底が見えないものだ」
 お前が片手間で放つ一撃など、『本物』に比べれば脆く浅い――。
 セシリアは鋭い表情を一切変えることなく、柄を捻り、背面に弾かれた得物を返すように振り下ろす。
 轟々とした黒の奔流が空間に描かれた。それは三日月の軌跡を描いて商人の身体を袈裟状に捉えるが――。
「”March”」
 商人の一声に動かされるように、セシリアの目の前に奴隷が飛び込んでくる。
 それらは肉壁。悲鳴を媒体とした、愉悦の『楽器』。
 しかし、セシリアは怯まない。心苦しいのは事実だが――既に『覚悟』は決まっている。
 暗黒に染まった彼女は、その足取りを一瞬たりとも緩めることなく。
 遅延する世界、黒の刃は――奴隷に据えられた爆弾を切り裂かんと迫った。

 だが、その時である。
 不意に、止まった時の中で、二人の間をすり抜けるように『淡青』の光が揺らめいて――。

「……な、っ!?」
 屍商人は何かを悟ってか、僅かに身を退く。次の瞬間には、闇色の一閃が商人の身体を掠めていて。
 舞い散る血潮と衝撃に慄きつつも、セシリアと距離をとる。
 商人は、眼前に並んで『いた』はずの奴隷たちの行方を、目だけで探した。

 だが、どこにもいない。

 否、はるか彼方に――それこそ、地平の向こう側に、気配を感じる。
 自分の商品である奴隷たちがあらぬところに飛ばされたことに困惑と憤りを感じながら、二人の間に降り立った『新手』を睨みつけていた。

「俺が此処に来たのがお前の不運だと言っておこう」

 アルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)、そのひとだ。
 彼がゆっくりと両足を地面に着ければ、灰色の大地に青の波紋が揺らめいて。
 アルトリウスは得物も持たず、殺意や臨戦態勢の其れすら行わず、商人をじっと見つめている。
「不運? 寝言は寝て――」
 屍商人が挑発めいた返答をしようと口を開いた半ばで、掻き消される。
「どうした」
 アルトリウスが、ひとつ、問いかけた。
「その景色は夢でも幻覚でもない」
 彼もまた同様に、無表情のまま天を仰いで。
「現実だ」

 鈍色の空が、『青』に染まっていた。
 淡青の光を宿す無数の星々が、隙間なく瞬いている。
 ここは銀河の果てか、はたまた異世界なのか。
 否、まごうことなき『事実』の光景だ。
 悲しいほどに、残酷なほどに、まっすぐな――。

「原理の渦に溺れるがいい」

 アルトリウスが視線を再び商人の方へやれば――天に敷き詰められた『破界』の蒼光が、強かに煌いて。
「何……!?」
 自身の『手持ち』である奴隷たちやゾンビたちを盾にしようと、自身の周囲に配置しようとするも――既に彼らは無力と化している。
 奴隷は爆弾のみを取り除かれ、ゾンビは撃ち据えられた光を止めることすらできずに消滅。

 その原理は、その光は、貫く総ての存在を無力化する。
 無駄。無足。無効。
 只ひたすらまでの、虚無。
 何をしたところで。
 何を企んだところで。
 何を願ったところで。
 『意味がない』。
 原理の瞳に見定められた時点で、屍商人の命運は決まっていたのだ。

 万物万象は、創世の権能の前では等しく『無力』。

「ぐ、あああああああッ!?」
 瞬く間に全身を蜂の巣にされた屍商人が、錐揉み回転しながら大きく吹き飛んだ。
 まるで紙切れのように彼女の身体が宙を舞う。ぼろりと、砂となった心臓が穴から零れ落ちる。
 だが、まだ彼女は死んでいないようで――空中で体勢を立て直さんと、仰向けになった身体を宙で整えた。
 しかし、赤々とした某の双眸と目が合うは――闇に染まった『騎士』の眼。
「跪き許しを請え」
 セシリアが、暗黒の激流に身を包みながら空中へ大きく飛び出した。黒を宿した彼女の姿が、みるみる内に距離を詰めていく――。
 一方、アルトリウスが解き放った『破界』は味方を邪魔しない指向性を持つ。それ故か、追いすがる蒼の光は、一条の『暗黒』に道を譲るように軌道が逸れていった。
 暗黒剣を振りかぶったセシリアは、瞬く間に商人の目と鼻の先まで到達。
「……ッ」
 氾濫する莫大な闇が商人の視界を覆う。
 さざめく漆黒は、輝光の一切を奪うかの如き『昏さ』と、彼方まで続いているかのような『深さ』を兼ね備えており――名状しがたき某の気配は、胸が締め付けられるような恐怖心を煽るには十二分すぎるものだ。
 そして、逃げ道を塞ぐように周囲を覆う『蒼の光』。
 絶対たる輝き。叛逆を許さない煌き。希望の象徴とされやすい『光』の性質を持ちながら、それを向けられた対象は絶望することすら許されない零下の気分を味わうこととなるだろう。
 どう足掻いても逃れられない、『死』の色彩。それらにたたらを踏んでいると、再び暗黒剣が目の前で振りかざされて――。
「絶望の悲鳴を上げるのはお前の方だ」
 自らの闇に半ばまで浸蝕され、全身から血を流しているセシリアが――大きく目を見開いた。
 全身を包み込まんとするほどに拡散していた己が闇色が、刃に吸い込まれていく。
 滴る鮮血すらも巻き込みながら、暗黒剣は一層の『黒』を宿し――紫焔揺蕩う巨大な刃を形成。
 轟々と、風を薙ぎながら、其れが迫り――。

 一閃。

 『闇の氾濫』が宙を薙ぎ――黒の大瀑布が、屍商人の身体を切り刻み、押し潰していく。
 その苛烈さは、怒りによるものか、闇の破壊力によるものか。
 或いは――『両方』か。
 そこに入り混じるように、蒼の星々が到来。
 黒と蒼の協奏曲が、暫しの間――戦場を彩ることとなった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

杜鬼・クロウ
【曙草】
UC封じ歓迎
怪我続投
外套無

人を商品扱いたァ…虫酸が走る
残忍非道な行為、死して尚赦されると思うな
テメェに人の価値を定める権利はねェよ

人でない俺だから
有限の命に儚さと尊さを抱く

腕の血雫垂らし【沸血の業火】使用
紫電走る
嘆きの声を静かに聞き葬る

…常世でどうか倖せに

商人の弾丸は間一髪回避か武器受け
派手に撹乱
綾から意識逸らす
鞭は腕でかばう
玄夜叉に炎と大地の精霊宿し商人へ二連斬

ぁ…クソが…、(膝つく
お膳立て、してヤったンだ
ぶちかませよ綾

(いざとなれば俺ごと殺れ
死ぬ気は無

ってオイ!(倒れる綾を咄嗟に支え
…寝てる
ち、世話が焼ける野郎だわ
俺がいるからって後先考えなさすぎンだろ(溜息

軽々と俵担ぎで華麗に回収


灰神楽・綾
【曙草】
放たれた「商品」を見据え
…これも元は生きた人間だったのかな
いつかの戦争の水晶屍人を思い出し
正直気分の良いものではないね

クロウが派手に暴れてくれる間に
目の前の敵を処理しつつ
(なるべく苦しまないよう最短で逝かせる)
屍商人との距離を確実に詰める
時が来るまで目立たぬように

またいっぱい怪我させてゴメンね
クロウの流した血を以て
Ferrum Sanguisを形成
念動力で投擲しだまし討ち
蝶に一瞬でも気を取られればそれが命取りさ
UC発動し一気に接近
じっくり殺し合いたかったけど
今回は時間が無いからね
心臓目掛け渾身の力で
Emperorをスィングし吹き飛ばす

…あ、クロウ。最後にもう一仕事
俺の後処理も宜しく、ね



「人を商品扱いたァ……虫酸が走る」
 いのちの儚さは、人であるいのちとは別種のものを持つ杜鬼・クロウ(風雲児・f04599)だからこそ分かる。
 その輝きも、その美しさも、その温かさも――決して穢してはならない聖域だ。
 故に、それを傲慢に浸蝕する屍商人の悪行に不快感を抑えられないようで。
 先の猟兵たちの手によってボロ雑巾が如き状態にされた屍商人。だが、その継ぎ接ぎの身体はオブリビオンとしての『不死性』も合わさって、すでに元の状態に戻っている。
「残忍非道な行為、死して尚赦されると思うな」
 一度死ぬほどの損傷を身に負いながら、尚も『治して』立ち続ける眼前の存在へ、己の得物を向ける。
 その黒々とした刃が光を反射し、それがぎらついた殺意となって敵の心臓部を狙い定めた。
「あら……モノをモノと呼んで何が悪いのかしら」
 屍商人は肩を竦めながら瀑布のように押し寄せるクロウの殺気を笑みで受け流す。
「テメェに人の価値を定める権利はねェよ」
 クロウは某の飄々とした態度が気に入らないのか、眉を鋭く細めて商人を睨みつけた。
 その灰色の肌も、継ぎ接ぎだらけの異形も、一体どれほどの人間を犠牲にして手に入れた肉体なのか――考えるだけでもおぞましい。
 屍商人はクロウの言葉に応じることはなく、笑みを浮かべたまま手を叩く。
 刹那、地面からおぞましい悲鳴が迸ったかと思えば――腐臭の屍たちが出現。
 大小さまざまなゾンビたちは、その見た目も恐ろしさも千差万別だ。
「……これも元は生きた人間だったのかな」
 放たれた『商品』たちを赤レンズ越しに見つめる、灰神楽・綾(廃戦場の揚羽・f02235)。
 かつての戦争に出現した『水晶屍人』がそれに近しい性質だっただろうか――と、思い返しては、その表情が僅かに曇って。
「正直気分の良いものではないね」
 見るに耐えない眼前の腐肉たちに、綾の口から思わず溜息が零れる。
そして足許を一瞥することすらせず、『Emperor』の鉄槌部分が繰り出された。
 ぐしゃり、と、林檎が潰れるような生々しい音が下から響き渡る。
 生きた人間なら歓喜すべき手応えだが、残念ながら相手は『命を終えて尚も動く肉塊』。胸糞の悪さも合わさってか、綾の表情は動かないままだ。
「テメェごときに多くを語りはしねェ。とっととブチ転がす」
 クロウは腕の傷を見据えれば、大きく力を込めて傷口を開ける。
 痺れるような痛みが彼の全身を襲うも――その行為を止めることはない。
 ぽたり、ぽたり、その血雫がゆっくりと垂れれば――。

 クロウの周囲に、衝撃が迸った。

 まるでそれは爆弾の発破が如く。
 それは溜め込んでいたエネルギーの発露。
「我が身に刻まれし年月が超克たらしめ眠る迅を喚び覚ます」
 彼の全身が、より逞しいものへと――変化していく。
「獄脈解放――凌駕せよ、邪悪を滅する終焉の灼!」
 外套を脱いでいるのもあってか、その見た目が如何に『逸脱』しているのがよく分かる。
 まるで鋼鉄の鎧が如き分厚い筋肉を全身に携えた某の見た目は、伝承に出てくる鬼そのものと言っても過言ではない。
 だがそれは、『怪物』のそれではなく――人らしさを捨てていない。
 屍商人が従えている隆々としたゾンビと見比べても、一目瞭然だ。
 ひとつ、大きな咆哮が、クロウの口から繰り出される。
 憤怒に満ちた一喝は、たったそれだけで近寄ってきた数体の屍を『消し飛ばした』。
 彼の全身から舞い散る血潮でさえも――戦場に舞う花弁が如き美しさと凛々しさを想起させ――周囲の屍たちを怯ませる。
「……常世でどうか倖せに」
 沈みゆく屍たちに、そして、これから散り行くであろう数多の屍たちに向けて――クロウは手向けの言葉を贈った。
 それを皮切りに、クロウの姿が掻き消える。半瞬遅れて屍たちが飛び掛かるも、次の瞬間には削ぎ落された肉塊が力なく地面に落ちるのみで。
 疾風怒濤。
 獅子奮迅。
 屍たちの殴打や噛みつき、飛び掛かりなどを受けているにも関わらず――彼の動きは一向に止まることがない。
「……はやい!?」
 商人が屍の群れを前面に置いて『盾』にしようとするも、巨大な残像は瞬く間に屍たちをひき潰していく。
 振るわれる『玄夜叉』が、黒々とした剣閃を戦場に描き――幾重にも折り重なった肉塊をバターのように斬り刻む。
 商人は戦況が一気にあちらへ傾いていることに危機感を覚えたのか、懐から拳銃を抜き放った。
 乾いた音が、喧噪に満ちた戦場に大きく響き渡り――。


 一方、綾は眼前に立ち塞がる大型ゾンビたちを悠然と眺めていた。
 勿論、ただ近寄らせたわけではない。クロウの戦闘に支障がでないように、そして『真なる目的』の阻害にならないように陽動したというわけだ。
 戦力分断。まずは一つ達成。
 勿論、ここで終わるほど、彼は甘くないわけだが――。
「またいっぱい怪我させてゴメンね」
 やや遠方で戦うクロウを一瞥して、そう呟いた。
 彼方から漂ってくる鉄臭い香りが、クロウが傷つきながら戦っていることを知らせてくれているようで――綾の鼻腔をくすぐる。
「オ、オ、オ――」
 ざらついた咆哮をあげながら、大型ゾンビたちが雪崩れ込んできた。
 恐らく、綾がクロウの方面を見据えたところを『隙』とみたのだろう。
「だめだめ、そんな大声をあげちゃ」
 小声で諭すように、口元に人差し指を置きながら――殺到するゾンビたちに視線を合わせた。
「かひゅ――」
 空気が漏れるような声色が先頭のゾンビから響き渡ったかと思えば、その巨大な上体が下半身と別れを告げた。
 黒ずんだ血液が傷口から爆発するように噴出し、戦場を汚していく。
 分離した身体が虚しく地面に転がり落ち、それを合図に周囲のゾンビたちも切り刻まれていく。
 音もなく、予兆もない。
 綾本人は、『一歩』たりともそこから動いていない。
 空中に漂う赤の残滓が、飛行機雲のように軌跡を描き――後ろ手に添えられた綾の『Emperor』、その斧刃へと集まっている。そのことから、彼が得物を振るったことだけが辛うじて分かるのだが――その行為が、まるで『見えない』。

 クロウの戦い方を『剛』と評するなら、綾の戦い方はその真逆である『柔』と言えるだろう。
 極めて効率的に、効果的に、対象を排除する。
 それはある種の『美しさ』すら感じさせる――殺人の『極致』。

「おやすみ。あの世でまた殺し合おうね」
 綾は、痙攣すらせず静かに伏せる屍の群れを見下ろして、柔和な笑顔を浮かべた。
 放たれた言霊は、死して尚も酷使され続けた哀れな存在たちへの鎮魂歌。
 僅かな間、そこに立ち止まっていた綾が踵を返す。
 顔を向けた先は、クロウが商人本隊と戦っている方面。
 血生臭さが一層強まったのを感じた綾は、その足を早めていく――。

 ――ところで、綾の背後にいた屍たちは幾ばくか残党が残っていた。
 彼らは、後ろを振り向いた綾へ襲い掛からんと背後から迫っていたわけだが、どういうわけか――綾の眼前でぴたりと止まる。
 綾が其方に一瞥することすらせず、早々と立ち去っていく。彼の姿が離れていくにも関わらず、ゾンビたちの動きは止まったままだ。
 
 ぷつり。
 繊維が千切れるような音が、ゾンビの一体から響き渡った。
 それを皮切りに、音もなく、静かに――彼らは倒れる。
 まるで眠りこけるかのように、力なく。
 只一つ、違和感をあげるなら、彼らの首が尽く――身体から分離していた。


「……これすら弾き返すかい」
 商人が撃ち放った凶弾は、クロウの玄夜叉の一閃によって空中で切り落とされてしまったようで――その距離を一気に詰められる。
 怒気に満ちた鬼神を前に、思わず乾いた笑みが零れた。
「だがまだ、これがある!」
 鞭をしならせて、前面に立たせているゾンビを巻き込みながら――薙ぎ払っていく。
 骨肉を削ぎ落し、人体に多大な影響を与える彼女の得物は、猟兵とて当たれば只では済まないだろう。
 腐肉たちを削ぎ落しながら迫る鞭の一閃に、クロウは咄嗟に腕を翳す。
「ぐ、ッ……!」
 己が腕が引きちぎれるかと錯覚するほどの、痛み。
 剛を制した己が肉体を以てしても、深々とめり込む鞭の一撃。
 周囲一帯に鮮血が迸り、半ば血煙に近い其れが戦場の色を変える。
 クロウはその衝撃に身体を浮かせるも、その勢いを未だ止めず。
 火花が散り、白んだ意識も――歯を食いしばって、無理矢理引き戻して。
「オ、オオオオオオ!」
 喉から振り絞るかのような大咆哮を上げ、肉塊の奥からクロウが大きく飛び出した。
 もう商人を護る盾はどこにもいない。空中で玄夜叉を振り上げる。
 刹那、その刃が煮えたぎるほどの赤熱を宿し――『溶岩』が如き其れが刃を構成した。
「く、っ……!」
 見上げながら、思わず屍商人は足を一歩退く。

 その時である。ぴたり、と――見上げた屍商人の鼻先に、『蝶』が止まった。

「――!」
 刹那、商人の顔面からザクロが弾けた。
 ぼとり、と、彼女の『鼻』が地面に落ちる。
 声にならない絶叫を上げながら両手で顔を覆う商人。からり、と、彼女の顔から一本のナイフが落ちていった。
「溶け落ちやがれッッ!!」
 その隙を逃すほどクロウは甘くない。飛び降り様に大上段から一閃を加え――着地して身を廻し――横薙ぎにもう一撃。
 赤く滾る十字の傷が商人の身を一瞬で膨張させ、爆発させる。
 彼女の上体が大きく弾け飛び、あばらを砕き、その心臓を露出させた。
「ぁ……クソが……」
 活動限界か、クロウががくりと膝をつく。地面に突き立った玄夜叉も、白煙と共に黒曜へと変化。
 全身から力が抜け――息も絶え絶えに。
「お膳立て、してヤったンだ。ぶちかませよ綾」
 辛うじて顔を上げ、言葉を残す。
 そして、クロウが見ている方向、すなわち――仰け反った屍商人の目と鼻の先には――綾が立っていた。
「まかせて」
 綾は振り向かず、クロウに対して短く告げる。
 そして、遅延する時の中――『Emperor』の大斧を大きく引き絞って――。

 楽しい殺し合いの時間も、もうすぐおしまい。
 本当はじっくり殺し合いたかったけど、
 今回は時間が無いからね。

 その刃が勢いよく放たれ、その心臓に直撃。
 黒ずんだ活血が周囲一帯に爆散し――その衝撃で空間が歪む。
 半瞬遅れて、彼女の身体は勢いよく吹き飛び、はるか彼方へ。
 
「……あ、クロウ。最後にもう一仕事」
 ぶっ飛ばされていく屍商人を見つめている綾が、笑顔でクロウに振り返ったかと思えば――崩れ落ちるように倒れ込んだ。
「ってオイ!」
 慌てた表情を浮かべたクロウが力を振り絞って駆け寄り、綾の身体を支える。
「……寝てる」
 綾は、クロウの腕の中で静かに寝息を立てていた。
「ち、世話が焼ける野郎だわ」
 やや乱雑げに、綾の身体を俵担ぎしてクロウは起き上がる。
「俺がいるからって後先考えなさすぎンだろ」
 溜息をつきながら、クロウはあらぬ方向を向き――大きく跳躍。
 二人は無事に、帰還を果たすのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

白峰・慎矢
全く、どの世界にも命を弄ぶ不届き者がいるものだね。

まずは相手の攻撃を何とかしないとね。放つ弾丸と首輪は動きを見切ってから念動力で叩き落として、鞭は残像も使いつつ素早く距離を取って避けようか。俺は遠距離攻撃できるから、今回の間合いはこれでいい。
小刀と脇差を投げて牽制して距離を保ちつつ、こちらも反撃するよ。そうだな、せっかくだから壊れてしまったバリケードの破片を利用しようか。【依代ノ霊力】を使って全部敵にぶつけてしまおう。小さな鉄片は体を貫き、大きな木材は四肢を砕く。彼らの痛みがわかったかい?

悪いけど、俺には既に所有者がいるんだ。ふざけた商品になるのはごめんだね。君にはここで消えてもらうよ……!


ジン・ロシュモフ
・見た目はそれなりだけど性根は腐り切ってる奴だな……それに、あいつに乗られてる人? からはなんか哀しいものを感じる。好きで乗せてるわけじゃないな。あの屍人は「救うべき」存在だ。

・あの女はオラのUCを封じにかかってくる。けど、オラはプロレスラーだ。直撃したように見せかけてポイントをずらす術は心得ているんだ。「盾受け」「オーラ防御」でプロレス流の受け防御を再現。鞭での攻撃が来たら鞭を掴んで「武器落とし」で女の攻撃手段を減らすぞ。

・オラの攻撃はルナティックビートカノンの一撃を女というよりも屍人へ。
悲しみや苦痛という邪心を勇気と優しさで浄化しよう。その上で、女には全力のラリアットをかましてやる!



「全く、どの世界にも命を弄ぶ不届き者がいるものだね」
 白峰・慎矢(弓に宿った刀使い・f05296)は、地面からぬらりと起き上がる屍商人を真正面に捉えている。
 ここに限らず、ああいった類の輩は確かに存在する。悪辣な悪意や邪念は、人々を傷つける棘となるだろう。
 故に倒す。故に滅ぼす。
 『空狐』を引き抜き、その刀身に霊力を迸らせながら――眼前の敵を見つめた。
(見た目はそれなりだけど性根は腐り切ってる奴だな……)
 ジン・ロシュモフ(心優しき花畑の巨人・f18884)も、その『趣味の悪さ』に思わず顔を顰める。人をモノとして扱う所業。命を弄び、尚も苦しめるその所業。
 その『腐敗』した行いの数々に、流石のジンも『どうしようもない存在』だと判断したようで。
「人だの命だの、綺麗事ばかり言っちゃってくれてまぁ――」
 屍商人はふらつく身体を叱咤するかのように、得物である鞭を地面に振り下ろす。
「あまり私をナメるんじゃあないよ!」
 その怒声に応じるように、屍人が這い上がって来る。だがそれは今までのものと反して『一体』のみで。
 それは、屍商人の『椅子』となっていた個体である。
 彼女が苛立つように指示すれば、その屍人も四つん這いの状態で二人に迫っていく。
「悪いけど、俺には既に所有者がいるんだ」
 ふざけた『商品』になるのはごめんだね――。
 白峰はゆっくりと得物を構え、腰を落とす。
 だが、屍商人はその間すら気に入らないのか、はたまた痺れを切らしたのか――大きく身をしならせて飛び出して切迫。
 懐から刺々しい鈍色の首輪を取り出し、それを白峰めがけて振り下ろした。
 ――分かりやすい動きだ。
 白峰はその軌道を冷静に見据え、それを握る手の――『手首』めがけて刀を抜き放つ。白い靄のような霊気が鋭利な三日月を空中に描き、その手首を千切り落とした。
 衝撃で無防備に晒された屍商人の身体を、返す刀でもう一閃。霊力を乗せた一撃は彼女を吹き飛ばすには十二分すぎる膂力を秘めていて。
 ならば、と、屍商人は着地すると同時に拳銃を構え、放つ。音速の鋼弾は的確に白峰の胸部を捉えるが――。
「させないよ」
 彼の持つ『霊力』が『念動力』を宿し――その脇差を撃ち放った。撃鉄が鳴らされる直前に、屍商人の拳銃を飛来した脇差が突き穿ち、破壊。
 想定外の攻撃に驚いた彼女へ、今度は小刀の銀刃が迫る。
 それを転がるようにして回避した屍商人は、不意に天を仰いだ。

 木片が、瓦礫が、宙に浮かんでいる。

 商人が呆気にとられるのも束の間、白峰が勢いよく刀を振り下ろせば、それに呼応するように瓦礫たちが一斉に商人めがけて殺到した。
 
 それはまるで、針地獄の大雨だ。
「神様の依代として、このくらいはできないとね」
 周囲一帯の鉄片や木片、バリケードの破壊痕から生まれた『ありとあらゆる瓦礫』が白い霊力を宿し、商人の身体を傷つけていく。
 小さな鉄片は体を貫き、大きな木材は四肢を砕く。
 刺傷、切り傷、そして打撲。骨折。
 ありとあらゆる『裂傷』がオブリビオンたる存在に『痛み』を与えていく。
「あ、が、あああああああ……!」
 悲鳴をあげながら、全方向から撃ち据えられる瓦礫の大嵐に身を強張らせる屍商人に――白峰は告げた。
「彼らの痛みがわかったかい?」
 それは人の痛み。
 悲しみ。
 苦しみ。
 無念。
 今まで屍商人が屍どもに浴びせてきた総ての『痛み』が返ってきたかのように――彼女の身体を破壊していく。
 屍商人は起死回生の活路を編み出さんとしたのか――渦巻く瓦礫の最奥から、黒々とした鞭をしならせて繰り出した。
 瓦礫を吹き飛ばしながら迫る某の一撃は、白峰に対しても届くほどに『射程』が長い。
 亜音速の其れが、彼に迫るが――。

「オラの出番だな!」
 二人の間に割り込むように、ジンが姿を現す。
 大蛇が如き黒鞭がジンに牙を剥く。
「せぇ、のッ!」
 鼓膜が破裂しかねないほどの轟音が響き渡った。
 舞い上がる砂煙、そして揺れる空気。
 だが、その視界が晴れた先には――その鞭を大きな手で『掴んでいる』ジンの姿が在って。
「な、何をしている『不良品』! わ、私を護れッ!」
 屍商人の焦燥に満ちた声が響き渡れば、緩慢な動きでジンに近付いていく屍人の姿が。
 ジンはそちらに視線を向ければ、先程までの表情とは打って変わって――柔和なものになって。
「その悲しみや苦痛を、浄化しよう」
 聞き届けられた『うわごと』の数々にも、ジンは怯まない。
 鞭を己が膂力で強引に弾き飛ばし、その腕を交差させ――。
「勇気と優しさで邪心を砕く!」

 『救うべき存在』へ、手を差し伸べる。
 それこそが――ジンが持つ、暖かな『光』。

 交差された腕から放たれた光線が、屍人を貫いた。
 莫大な光に飲み込まれた屍人が、大きく身を浮かせて――痙攣した後に。

 ――ありがとう。

 ただひとつ、そんな声を、目の前のジンに対して口走ったような気がして。
 
 光が過ったところには、もう屍人の姿は存在しない。
 『然るべきところ』へ還ったのだ。
 散りゆく遺灰を尻目に、ジンがその奥で佇む屍商人へ駆けていく。
「ば、馬鹿な、そんなふざけた光で――私の――」
 だが、その声が最後まで紡がれることはない。
 
 その右手に、鉄釘が撃ち据えられ。
 その左手に、小刀が貫き穿ち。
 その右足に、木片が折り重なり。
 その左足に、鉄片が刺し貫く。

 白峰が放った神速の四連撃――間髪すら入れない其れに抵抗することすらできず、屍商人の身体が崩れ落ちていく。
 大きくよろめき、倒れ伏さんとする灰色の頭蓋に――全速力で奔走するジンが、丸太のような大腕を振りかぶって――。

「その性根、地獄で叩き直してこい!」

 全力のラリアットが、鈍色の顔面に直撃。
 林檎がはじけ飛ぶかのように――屍商人の頭が爆発。
 半瞬遅れて、彼女の身体が大きく吹き飛ばされて――そびえたつ絶壁へと激突した。
 岩壁から亀裂が迸り、崩れ落ちた岩石が――落ちゆく彼女の身体をひき潰していく――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ヴィクティム・ウィンターミュート
あぁ、お前か?この舞台の脚本家はよ
何のことはない…本人に感想を言ってやろうと思ってね

つっっっまんねぇぞ、欠伸が止まらなかった
まぁそれもそうか…見るからにセンスが無さそうなアバズレだしな
とっとと引退しなよ、過去の骸

オーオー、またぞろ奴隷を出しやがって
使い潰すつもりかい?結構──書き換え甲斐がある
『Truth Adept』
味方を定義、猟兵及び──『奴隷』
専心する行動は…『扇動』だ

ハロー奴隷ども、随分と怯えてるな
…力が漲るかい?今のお前らは『無敵』さ
ところで、こんな脚本を書いたんだ
『大悪女が大衆に制裁を受ける』
どうだい?その女…今なら殺せるぜ?
殺せ、殺せ!壊せ、壊せ!
自由がそこにあるぞ!潰してやれ!



幾多もの戦いを経て、幾重もの血肉に染まり上がった灰色の戦場。
 半ばグズグズのシチューが如く湿気った大地を踏みしめるはヴィクティム・ウィンターミュート(impulse of Arsene・f01172)であった。
「あぁ、お前か? この舞台の脚本家はよ」
 少年は歩む。壁に叩きつけられて倒れていた某のオブリビオンへ。
 屍商人は弱々しく起き上がり、最早治りきらない身体を引きずりながら、眼前のヴィクティムを睨めつけた。
「――だとしたら、何だって言うんだい?」
 鈍色の口角がぬらりと吊り上がる。
 まだ手駒はある。故にまだ勝機はある。そう信じて疑わない表情だ。
「何のことはない……本人に感想を言ってやろうと思ってね」
 ヴィクティムは相手の返答を待たず、続けざまに言葉が添える。
「つっっっまんねぇぞ、欠伸が止まらなかった」
 心底つまらなそうな、絶対零度の声色で其れが叩きつけられた。
「な――」
 怒りや悲しみをぶつけられることは数多くあれ、呆れられるとは思わなかったようで――ヴィクティムの想定外の反応に、屍商人は思わず後ずさる。
「まぁそれもそうか……見るからにセンスが無さそうなアバズレだしな」
 ヴィクティムは屍商人の全身を確認するように目線を動かしていく。
 問答無用に『査定』されている事実が不本意であるためか――商人の顔色が憤怒の赤に染まっていく――。
「こ、この――クソガキ――」
 わなわなと身体を震わせて、その灰色の身体から瘴気のようなものを湧き上がらせていく。
 視認できるほどの濃密な殺気の類だろう。一般人が見たら恐怖に支配されかねないものだが、ヴィクティムは涼しい顔で某れを見つめていた。
「とっとと引退しなよ、過去の骸」
 敵の殺意を受け取ってか、ヴィクティムもホログラムを周囲に展開――臨戦態勢の其れをとった。

 暫しの静寂が、流れる。

「死に晒せ! せめてお前だけでも商品にしてやるッ!!」
 隠しもしない殺気を振りまきながら、商人は地面に手を置いた。 
 大地から這い上がるは、無数の奴隷たち。その殆どが絶望の表情を浮かべながら、ヴィクティムに懇願の眼差しを送っている。
「オーオー、またぞろ奴隷を出しやがって
使い潰すつもりかい?」
 その『爆弾』の数、ある種の壮観さを覚える光景にヴィクティムは思わず目を細めた。
「結構──書き換え甲斐がある」
 ヴィクティムが天に手を掲げ、指を鳴らす。
 刹那、無数の演算数式が空中に広がり渡り――オーラのようなものが戦場全体を過っていく。

『Truth Adept』

 某の身は、真なる達人也。
 止まった秒針が、『解放の刻』が――動き出す。

「ハロー奴隷ども、随分と怯えてるな」
 ひらひらと手を振るはヴィクティム。
 戦力自体は無力に等しい奴隷とはいえ、敵群に単身で囲まれている存在とは思えない飄々さが其処にある。
 もちろん、その余裕そうな態度も『ハッタリ』などではない。

 ヴィクティムの目の前で、縛り付けられていた枷が落ちていく。

 それは奴隷たちを縛っていた呪いの縛鎖。
 それは奴隷たちの生殺与奪を握っていた、醜い爆弾。
 彼らを縛る『あらゆるモノ』が、ヴィクティムの『扇動』により――砕け散っていく。
 だが、枷を外した存在は、ヴィクティムではない。
 重ねてだが――あくまでも彼は『扇動』しかしていないのだ。
「……力が漲るかい?今のお前らは『無敵』さ」
 そう、その呪いを突破したのは――奴隷である『彼ら自身』。
 己が手足が自由に動くことを恐る恐る確認している奴隷たちに、ヴィクティムが手を合わせながら言葉を紡いでいく。
「ところで、こんな脚本を書いたんだ」
 
『大悪女が大衆に制裁を受ける』

「どうだい? その女……今なら殺せるぜ?」
 その言葉に、いまや『奴隷』ではなくなった――『大衆』がどよめいた。
 どよめきはざわめきとなり、各々の開かれた掌が拳へと変わっていく。
「はぁ? 何を言っているんだ。ハッタリもいい加減に――」
 自分に反乱するなど、商品として作り上げた彼らに出来るわけがない。
 屍商人がヴィクティムの言葉を一蹴しかけたが――『振り返った大衆たち』によって其れがせき止められる。
「お、お前たち、なぜ『振り返る』ことができた――」
 未だヴィクティムの使用したユーベルコードに気が付けていない屍商人は驚きを隠せない。
 おかしい。自分が作成した商品たちに、『こんなこと』は起こりやしない。
 起こるわけがないのだ。

 だが、現実はなんと無常か――向けられた『敵意』の眼差しが、冷水のように彼女の心を凍てつかせていく。
「殺せ、殺せ! 壊せ、壊せ!」
 ヴィクティムが声を張り上げる。

 それは反旗の狼煙。
 鬨の声。
 反乱せよ。
 反乱セヨ。
 運命にあらがえ。
 
 殺せ。
 殺せ! 
 殺せ!!

 壊せ。
 壊せ!
 壊せ!!

 ヴィクティムの言葉を反復するように、一人、また一人と――轟々とした声が集まっていく。
 一人は二人となり、二人は十人となり、十は三十と――とめどなく膨れ上がっていった。

 それは、叛逆の熱気。
 残虐なる女王に、反旗の鉄槌を。

「自由がそこにあるぞ!潰してやれ!」
 ヴィクティムの上げられた声で、せき止められていた灼熱の殺意が堰を切るように溢れ出した。
 群衆が雪崩のように商人へ殺到していく。
 ある者は瓦礫を、ある者は石を、ある者は落ちていた鉄棒を。
 各々が各々の武器を持ち、虐げていた存在へ――。

 血走った目で群がっていく民衆たちの中心で、血生臭い音が鳴り響いていく。
 同時に響くは商人の悲鳴。喚き。叫び声。
 だがそれすら掻き消すほどに、生々しい鮮血が大群の中心地点で舞い上がった。
 
 ヴィクティムは事の顛末を確認するまでもないとみたか――身を翻して去っていく。

「王を殺すのは、いつだって『大衆』なのさ」
 誰かを従える存在になるのであれば、多かれ少なかれ其れは『王』となる。
 だが其れは、大概の場合は『絶対的強者ではない』。
 いついかなる時代においても、大成した指導者は――民衆から信頼を勝ち取っていた。
 彼らは知っていたのだ。『民衆』こそ、最強の力を持つ存在であると。
 
 其れを怠ると、『革命の炎』に焼かれることになるぜ?

 ヴィクティムの姿が、硝煙の霧に消えていく――。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年02月01日


挿絵イラスト