●全てを白に変える雪景色
小雪がちらつく中、大勢の人で賑わっていた。
族連れ、夫婦、友人縁者、それらの人々の足は雪の中、家路へと帰る気配もない。
それも当然といえよう。
今は正月。新年を祝う人々で、街はごった返しているのだ。
昼間から酒を飲んでも咎める者などいはしない。
むしろ顔を合わせた隣組の連中と、一緒になって騒ぐばかりだ。
神社へとむかう路地の両脇には屋台が並び、新年気分で財布が緩くなった者を呼び込み、品を買わせようと大声を上げている。
「旦那! 熊手買っててよ! もう買った? じゃあ二つ目だ、御利益倍だよ!」
人混みは苦手と長屋に留まっている者達は、雑煮に汁粉を頬張りながら息子や娘がはしゃいでいるのを、眼を細めながら見守っていた。
「明けましておめでとう」
「ええ、今年もよろしくね」
外気は冷えるが、家族や身内に囲まれての正月気分はそんなことを感じさせなかった。
ふと、一人の男が見慣れない子供を見かけた。
今は正月だ。村の方からやってきた子供がお宮参りでも来たのであろうか。
「わざわざこんな所まで来てくれるたぁ……いなせだねえ」
誰彼問わず浮かれ気分に包まれている。
男も、その子供とは面識はなかったが、餞別をくれてやろうと駆け寄った。
「坊主、明けましておめでとう。汁粉でも食うか?」
その声に、子供は静かに微笑み男の手を握った。
「おいおい、俺の手じゃなくて器を……」
男の声は続かない。
触れられた男は、たちまち氷像と化してしまったからだ。
汁粉の器が地面へ落下し、渇いた音を立てる。
その土を覆い隠すかのように、子供から発せられる冷気がたちまち霜を張った。
その凶変に周りにいた人々が悲鳴をあげた。
子供は、そんな彼らにむかって静かに微笑むのだ。
「あそぼ」
叫喚。怒号。嗚咽。
人々の声は、やがて聞こえなくなった。
全てが白く覆われた銀世界。
その中を子供達が無邪気にはしゃぎ回っていた。
「あはははは」
「あはははは」
風雪は激しさを増し、やがて吹雪と化していく。
人の形をした氷がぼきりと折れた。
しかし子供達の天真爛漫な笑い声は、積雪の上を滑るようにどこまでもどこまでも、楽しげに聞こえてくるのであった。
●グリモアベースにて
「これが、私の見た予知でございます」
ここはグリモアベース。
ライラ・カフラマーンは居並ぶ猟兵たちに深々と頭を下げていた。
その背後に生じている霧には、さきほどの光景が幻となって現れている。
頭を上げると幻は雲散霧消していき、周りの霧と溶け込んでいった。
「新年早々申し訳ありません。今回皆様にお願いするのは、新春に集う人々をオブリビオンから護ることでございます」
ライラの説明によれば、初売りで人々がごった返すさなかにオブリビオンが襲う予知を視てしまったのだという。
そして多くの人々が雪と氷に包まれ、命を落としてしまうらしいのだ。
「街には神社があり、新年ということで各行事も行われています、そして近隣の村々からも人がやってくる有様。これを全員避難させることは難しいでしょう」
ライラは続ける。
「予知によれば、オブリビオンが新年の祭りの時期に襲うのは確実。ならばそれを瀬戸際で防ぎましょう」
あえて待ち構え、オブリビオンを討つ。
これが今回の目的だ。
「当地は人々が大勢います。一つに固まらず、その波の中に居れば未然に防げるかもしれません。何時どこで、とまでは予知出来ませんでした。皆様はその時が来るまで祭りを楽しみつつ、警戒にあたってください」
ライラが杖の先で地面を軽く叩くと、霧が変化し姿を形どる。
それはサムライエンパイアの世界。
新年を祝う人々の顔は、期待に満ち明るい。
「戦争も終わり新しき年を迎える人々の門出、それを躓かせるのはあまりに無粋。どうかオブリビオンを撃ち払い、人々と一緒になって新しき年を祝えるよう、頑張りましょう」
そう言ってライラは、深々とまた頭を下げたのだった。
妄想筆
明けましておめでとうございます。妄想筆です。
新年最初のシナリオはサムライエンパイア。
新年の祭りにやってくるオブリビオンを迎撃する内容となっています。
一章は新年を祝う祭りを人々と楽しむ章となっています。
およそ正月に思い浮かぶ遊びや行事が開催されていますので、オブリビオンが来る間楽しんでください。
神社にいけばくじも引けます。その場合ダイスにて吉と出るか凶と出るか判定させていただきます。
フラグメントの内容にこだわらず、こういうので新年を祝いたいというのも勿論結構です。
各々の行動で、新年を楽しんでください。
二章はやってきたオブリビオンを迎え撃つ集団戦です。
オープニングのように相手は雪系の技を使用してくるでしょう。
三章はボス戦、親玉を討つ章です。
新年を祝う章を友人と、という方は一章のみの参加でもかまいません。
公開してから少し日を設け、相談の時間を取りたいと思っています。
詳しい日程につきましては、その時に挿入文と一緒に説明します。
興味のある方、参加してくださると嬉しいです。
よろしくお願いします。
第1章 日常
『新年を祝い尽くせ!』
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POW : 餅つきに参加。杵で突くも、返す手伝いも、合わせる物の用意も良し。最後は美味しく、いただきます!
SPD : 外で体を動かす遊びに参加。羽突やコマ回し等で他の人との対戦や、のんびり一人で凧揚げに興じる等どうぞ。
WIZ : 屋内で過ごす遊びに参加。カルタや福笑い等で他の人と楽しむ、一人で書初め等に専念してみるなどいかが?
👑5
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
雪がちらついていても、その程度は人の活気は冷え込まない。
むしろその熱気と人だかりで降雪は地を染めることができないでいる。
「さあさあ、蕎麦だよ蕎麦だよ! 年越しの次は年始めの蕎麦をどうぞ!」
「てやんでぃ! 正月の主はやはり雑煮。こっちは餅をつけちゃうよ!」
いつもより早すぎる時間帯に飲食店が暖簾を下げて客を呼び込む。
その脇では、臼と杵をつかっての餅つき演者が声をあげる。
「ひとつ突いては親父のために~二つ突いてはお袋のために~」
飲食店には負けてはおらぬ。
屋台も神社へ続く道へ軒をつらね、こちらへどうぞと呼び込みをかける。
「さあさあ坊ちゃん嬢ちゃん、新年最初の景気づけ! お年玉は貰ったかな? 当てて嬉しや商品くじのご開催!」
「熊手に招き猫、小槌に大黒様。この根付を帯に飾れば今年一番御利益間違いなし! 早いうちに買った買った!」
その喧噪を左右から後ろへと流し、石段を上がっていくと神社の鳥居が見える。
すでに人で一杯だ。
大きな賽銭箱に銭を投げ入れ、思い思いの願をかけていた。
「仙次郎が無病息災でいられますように」
思わず声に出てしまった妻の願いを聞いて、夫は頬を緩めて自分の願いを神様に願う。
「来年は二人では無く、三人平穏無事で正月を祝えますように」
願いを済ませた人達はくじを引き、今年の運勢を確かめる。
「やったぁ! 大吉だぁ!」
「くそっ、凶だよ!」
引いたくじをこよりにして境内にある木へと結ぶ。
むかう先は道場。
そこにはカルタや書き初め、その他色々な物が揃えてあった。
サムライエンパイアの新年は活気に満ちている。
オブリビオンが攻めてくる前に、ひとつこの余韻を味わっておくとしよう。
※プレイングは1月9日(木)8:31~から送って頂けるようお願いします
黒鵺・瑞樹
アドリブ連携OK
雪と氷のオブリビオンって雪ん子か?
冬は雪が降り寒い物だが、オブリビオンはお呼びでないから帰って貰おう。
行き交う人々や屋台を見ながらのんびり神社に向かおう。
参拝目的ではあるけど、ここの神社はどちらの由縁なのだろう?
神主がいるなら聞いておこうかな。
あとは御神籤。やはりひいておかないと。
最寄りの神社で既にひいてるとはいえ、あれは一年全体でのつもりだし。
今回は縁結び(恋愛限らず)メインでひいてみよう。
あとは新年を祝うといっても酒を飲むわけにはいかないしなぁ。これから戦闘もあるだろうし。
お参りが終わったら、適当な場所に腰を落ち着け、人々の様子を見てる事にしよう。
頭上から雪がちらつき降っていた。
雪国の人間が見れば降ったうちには入らないと一笑に付されそうな、そんな降雪。
黒鵺・瑞樹はそんな雪の空模様を眺めながら物思いにふける。
「雪と氷のオブリビオン……雪ん子か」
幾多の死闘をくぐり抜けてきた猟兵である黒鵺には、グリモアベースで狼藉を働いていた怪童オブリビオンの正体が何となく掴めていた。
彼らは雪と氷の化身のようなものだ。
街ひとつくらい雪に埋もれさすことなど造作もないことであろう。
ふう、と息を吐く。その色は白い。
冬は寒いのが当然ではあるが、凍えいく横暴は無粋というもの。
夜空といえど雪によってそれは白み明るく、下で賑わう民衆の心と同じように闇には染まっていない。
「本降りになる前に、オブリビオンには帰って貰おうかな」
黒鵺はそう呟き、神社の路を一人歩んでいくのであった。
行き交う人々の間を縫うように、黒鵺は歩を進める。
さすがの人だかりではあるが、それに難儀することない体捌きで、彼はゆったりとこの空間を楽しんでいた。
周りから来る喧噪、活気。
屋台から漂う湯気からは美味しそうな匂いもついてくるが、目的は神社だ。
腹に身を入れるのは後にしよう。
「酒を飲むわけにもいかないしなぁ」
少し名残惜しそうに横目で酒屋を通り過ぎながら、あとで寄ろうと幾店かの屋台に目星をつけ、黒鵺は神社の石段を上がっていく。
石段の坂を上がる前の道に『結泉神社』の名が見えた。
「ここの神社はどちらの由縁なのだろう?」
その名にはあいにく、聞き覚えはなかった。
参拝するついでに神主にでも尋ねてみようか。
鳥居をくぐりながら、黒鵺はそう思うのだった。
礼にのっとり堂に入った柏手で賽銭箱に銭を投げ入れ、まずは神の社へと頭を下げる。
すでに他の神社へも足を運んでいる黒鵺ではあったが、エンパイアの住人を護るためならば、神様たちもそんな目くじらを立てることはないだろう。
むしろ、オブリビオンに対抗する御利益を倍返しで授けてくれるかもしれない。
後から押し寄せる人の波を交わしながら、黒鵺は籤販売所へと向かうのだ。
籤を引くついでに由来を尋ねると、興味深いことを聞かせてもらった。
ここの神社は別段どこの氏神にも属してはおらず、独自の由来なのだという。
神社の方が語ることによれば、その昔、山の悪鬼から娘を守った神様が、野へと下り、娘を湯につけ蘇らせ妻としたそうである。
夫婦神はそれからのち、この地に温泉を湧かせ冬の寒さから人々を護り、転じて滋養と家族仲を結びつける神となったのだそうだ。
ああそれで、と黒鵺は辺りを振り返る
大きな銅壺で湧かせた湯気を、それに集まる人々が盛んにその身に擦りつけていた。
おそらくあれが御利益というものであろう。
聞けば家族に関する事柄、健康・厄除け・家内安全・縁結び・子宝安産などに御利益があるそうだ。
それならば、と黒鵺は縁結びを願って籤を引く。
引いた紙に目を凝らすと、以下のような事柄がしたためられていた。
――吉
良縁焦らず思わぬ出会い有り
友人を大切にすべし 家族に危うき事あれど傍によれば易し
言、虚ろいやすく侮り難し 文と行動で示めすべし
ふむ、と黒鵺は頷く。あまり悪くはない一年になりそうだ。
「……危うき事あれど傍によれば易し行動で示めすべし、か」
なるほど、これから起こるであろう出来事にふさわしい。
とりあえず、懐に籤をしまい神社を後にする。
少し腰をつけるところはあるかないかと、石段を下りながら辺りに目を配った。
だが残念。いや、やはりというべきか。
この大勢では落ち着ける場所など見当たらず、仕方なしに場所代を払って開いてる店の席へと座る。
注文を受け運ばれてきたのは、蕎麦に焼き餅。
これからの戦闘を考えるとこの位が丁度塩梅だろう。
ふうふうとかき込むと、少し冷えた身体に染み入った。
店の外、暖簾越しからも人々の賑わいが伝わってくる。もちろん店内の客達も。
既に酒がはいっているのか、外れた調子で歌も聞こえてきた。
とりあえず、まだオブリビオンの襲撃はなさそうだ。
黒鵺はそれを確認すると、どんぶりの器を掲げて汁をすするのであった。
成功
🔵🔵🔴
エウトティア・ナトゥア
※アドリブ・連携歓迎
(鷹で空から警戒しつつ【巨狼マニトゥ】に【騎乗】して付近を散策)
賑やかじゃのぅ。世界は変わっても人の営みは変わらぬと言うことじゃな。
さて、ただ待つばかりというのも芸がないな。わしも適度に楽しむとするかの。
(縁起物の屋台を見かけ熊手を手に取る)
ほう…これは魔除けか?…華やかでよいな。クマデというのかの?これはよいものじゃ。
これ店主、この列のここからここまでを包んでくれぬか?
おお、マネキネコもよいのう、これも全色揃えねば。
むむ、このネヅケは買いじゃな!これで自慢のしっぽを飾るのじゃ。
(戦利品をマニトゥの背に乗せ鷹にも持たせ)
あちらも気になるのぅ、サムライエンパイア侮れぬのじゃ。
小雪が降りしきる上空を、鷹が一羽飛んでいた。
「おっ、アレを見ろよ。こいつは春から縁起がいいぜ」
一富士二鷹、その他色々。
空を飛ぶ縁起物を目ざとく見つけた人が、指を差して笑った。
鷹は街の周囲を旋回するように羽ばたくと街の外れへと。
そして待機していたエウトティア・ナトゥアの元へと滑空し、その細腕へと身を休ませる。
鷹の報告を受け、エウトティアの頬が緩んだ。
「どうやらオブリビオンの襲撃はまだのようじゃな」
騎乗していた巨狼マニトゥのたてがみを優しく撫でると、同意するように相棒はひとつ吼えた。
正月の祭りを狙う不届き者。
それらから護るために辺りを散策していたエウトティアであったが、今の所不穏な気配は感じられなかった。
地と空から周囲の地形は把握した、後は街の中を探索しなければ。
「ただ待つばかりというのも芸がないしのう。わしらも適度に楽しむとするかの」
一声吼えて、マニトゥは主を乗せて街へと、駆けるのであった。
人だかりを巨狼と巫女と鷹は進む。
その一行を訝しがる者はいない。猟兵とはそういうものだ。
だからこそ少女が狼に跨がって、視界を確保出来たりする。
その目から見える光景は人、人、人。
「賑やかじゃのぅ。世界は変わっても人の営みは変わらぬと言うことじゃな」
生まれ育った場所は違えども、何かを祝うという習慣は変わらぬようだ。
遠巻きに眺め見ても、その表情は全て喜びに満ちている。
「こんな人々を襲おうとはオブリビオンの奴らめ。儂らが何とかせねばいかんのう」
見たところ、オブリビオンが人々に紛れこんでいる様子もない。
その代わりに、見回るエウトティアの視界に、珍しき品々が飛び込んでくるのだ。
「ほう…これは魔除けか?…華やかでよいな」
脚を止め、屋台にある品をひとつ取る。
それは熊手だった。
竹で作られた細工物に、様々な小物が括り付けられていた。
杖を振るように掲げてみるエウトティア。
一風変わった巫女姿の出来上がりだ。
「嬢ちゃん、その熊手気にいったかい?」
「クマデというのかの? これはよいものじゃ」
しげしげと熊手を眺めるエウトティアに店主は口上をまくし立ててくる。
どうやらこれ幸運を運んでくる縁起物、ラッキーアイテムの品であるらしかった。
新年を迎えた昂揚とあたりの活気に、財布の紐も緩くなる。
「これ店主、この列のここからここまでを包んでくれぬか?」
普段の彼女ならやらぬであろう行為、大人買いをエウトティアは敢行する。
なにしろ新年を迎えたのだ。
大人の階段を一歩登るのも、仕方のないことであろう。
さあ福よ来いと、マニトゥの背に熊手を落ちないようにと、くくりつける。
これでよしと、エウトティアはそれを見て満足そうに頷いた。
だが、UDCアース出身の者ならその御姿に苦笑いを浮かべたかもしれない。
まるで暴走族。竹槍マフラーをつけたバイクのようだ、と。
しかし、これは神獣と縁起物。何を捨てる処があろうか。
さっそうと跨がり、少女は屋台を巡るのであった。
次なる品を探すエウトティアの目に、ひとつの品が目に入った。
それは屋台に飾られていた招き猫。
「マネキネコじゃな。コイツは知っておろうぞ、縁起物じゃ。」
見れば招き猫はもちろん、小槌や大黒の根付も売っているようだ。
「ふむ、色々あるのう。これは揃えねばならぬな」
あれこれと店先で悩み、エウトティアはようやく逸品を決める。
帯の代わりに己の尻尾に根付を巻く。
それは小判に鈴がついた根付。
くいくいと尾を動かすと、シャンシャンと音が鳴る。
即席招き巫女の完成だ。
「お主らにはこれじゃな」
紅白の手ぬぐいをマフラーにして、少女は狼と鷹にも根付をつけてやった。
鷹の首元には小槌の根付。
マニトゥの首元には門松、穴から親子ネズミが顔を出している。
二匹が首を振るとシャンシャンと小鈴が同じように鳴った。
「あちらも気になるのぅ、サムライエンパイア侮れぬのじゃ」
屋台を見回っていたら小腹が空いてくる。
今度は美味しそうな匂いの方向へと、少女一行は脚を早めのであった。
成功
🔵🔵🔴
シホ・エーデルワイス
≪御御籤≫
2名
アドリブ歓迎
私自身
初詣は初めて
普段着ている服で行動しようとすると
燦に連れられ呉服店で着せ替え人形状態
最初は戸惑うも普段お洒落を楽しむ機会が無い為
次第に楽しむ
え~と…花柄の方が好きかしら
燦の振袖はそうですね…
燦の漢字に因んで光り輝く黄色か
山吹の花をあしらった柄か
安定の赤地や桜の花柄も似合うかも
とても似合っています♪
甘酒を飲んで参拝
私も小判を出し礼儀作法に沿って祈り
なるべく多くの人を救えますように
後は仲間の武運と無事や
どの世界も滅びませんように
燦らしい願いね←微笑
ええ
今年もよろしくね
誘われるまま私も恋愛御御籤を引く
結果は可もなく不可もない曖昧な印象
反応に困るも燦との話が楽しくて微笑む
四王天・燦
《御御籤》2人
WIZ
シホと初詣。
実家の巫女業は一段落だし、町人スタイルでお出かけさ。
「女の子と来る祭りは最高だぜ♪」
先ずは呉服店にシホと入る。
「今の服も可愛いけど今日は着物を着てみようぜ」
桜柄や、空色に蝶柄など着せ替え人形の如くシホをコーデしまくる。
「店員さん、簪と草履もお願い!」
アタシもシホに見繕ってもらう。
くるっと回って可愛さアピール。
「どやあ♪」
甘酒飲んで気分上々でお参り。
賽銭は驚愕の小判投擲。
友人・身内の健康、美女との御縁、世界中の女子に祝福を願って柏手。
「シホは何を願った?」
「一緒に叶えようぜ」
御御籤は他所で引いたので…此処は恋愛御御籤を引く(何が出るかお任せ)
ガールズトークに繋ぐぜ
待ち合わせ場所にひっそりと佇む少女に、四王天・燦は気軽に声をかけた。
「ごめん、待った?」
佇む少女、シホ・エーデルワイスは静かに首を振って笑う。
「ううん、全然」
彼女の事だ。たとえ待っていてもそうではないと答えるに違いない。
初詣には行ったことがない。
その言葉を聞き、彼女を誘ったのは燦だ。
気分を出すために着物を着てはきたが、シホは相変わらずの格好。
いつも通りのゴシックドレス姿だ。
黒と白と基調とするその風貌は彼女らしさを表すものではあるが、あいにく今は新年だ。
そんなシホを燦は嫌いではないが、この世界で喪を意味する黒白は、いささかこの時期には不釣り合いと言えるだろう。
(まあ予想通りだけどね)
なにぶん彼女はこういう行事は初めてだ。不慣れな物は仕方ない。
その分合法的に自分がエスコート出来るであろう。
「楽しそうね、燦」
シホが顔を見つめて微笑む。どうやら表情に出てしまっていたらしい。
楽しいのは本当だ。友人となら尚更だ。
燦は首を縦に振り、シホにむかって笑顔を返す。
「もちろん、女の子と来る祭りは最高だぜ♪」
燦が先に行きたい場所があるとシホを誘う。
その案内に導かれ、シホはその後ろをついていくのであった。
むかった先は呉服店であった。
「ここは?」
「ここは呉服店。今アタシが着ているような着物を売っている場所さ」
袖をひらひらさせながら、燦が我先へと店へと入る。
その足跡をなぞるように、シホが店内へと。
その目に飛び込んできたのは、色鮮やかな着物の数々であった。
「……綺麗」
思わずため息をつくシホの姿を見て、燦は内心でガッツポーズを作った。
「だろ? これは晴れ着、アタシらの年齢だと振り袖って言うのかな? 正月に纏う着物なんだ。今の服も可愛いけど今日は着物を着てみようぜ」
彼女の提案に賛成はするも、シホは言いよどんだ。
洋服は着たことがあるが、和服はあまり経験がないからだ。
「えっと、こういうのはあまり着たことがないの。だから燦が選んでくれるかしら?」
「勿論、任せとけって!」
計算通りと、許可を得た燦が店内から幾点かを運んでくる。
その手に持っていたのはこの寒空を晴らすかのような蒼空柄、もうひとつは白い雪の地を染めるかのような艶やかな蝶柄の着物であった。
「どっちにする? どっちがいい?」
「ええと……」
両方を眺めてシホは固まる。
困った。こういうのは詳しくない。
「良しわかった! じゃあ両方着てみよう!」
思案している彼女を好都合とばかり、まるでマネキンに衣装を着せるが如く、あれよあれよと燦はシホの姿を替えてしまった。
着慣れてない格好に恥ずかしながら、シホは燦に尋ねる。
「ど、どうですか?」
「うん、ばっちり似合ってる! じゃあ次持ってくるね!」
彼女の言葉に重ねるように、急いで彼女が持ってきたのは桜柄の着物だ。
赤地に紅白の桜があしらって、とても華やかに見える。
それを着せてくる燦の顔も嬉しそうだ。
お洒落する行為はこうやって彼女が機会を作ってくれなければ、次はいつになるかわからなかった事であろう。
燦の好意にだんだんと、シホの緊張がほどけてくる。
「色々着てみたけれど、どれが気に入った?」
燦の問いかけに、シホは愛想良く返す。
「え~と…花柄の方が好きかしら」
「良し、決まり! 店員さん、簪と草履もお願い!」
じゃあ今度はアタシに合うのを選んでと、奥へ走る燦の姿に、シホは愛想の色をますます強めるのであった。
どれが良いと燦に聞かれ、シホは候補は絞っていく。
「燦の漢字に因んで光り輝く黄色か山吹の花をあしらった柄か、安定の赤地や桜の花柄も似合うかも」
言われるがままに着物を身につけ、シホに見せつけるかのように燦はくるりと回る。
「どやあ♪」
悪戯っぽく笑う親友の笑みに、つられてシホも微笑んだ。
「とても似合っています♪」
「そう? やっぱり? いや、シホが選んだから似合っているのかな」
いつまでもこうしていたかったが、あまり長居をしては依頼にも差し障る。
第一まだ参拝も終わってはいない。
着物をレンタルせずにその場で購入すると、二人は呉服店を後にするのであった。
神社の石段上がっていく、可憐なお嬢さんが二人。
赤地に紅白の桜をあしらた晴れ姿にその髪には梅の簪、鶯がその嘴を持って帯を留めている。
ちらつく雪の中、優美爛漫な二人が歩を進めていく。
お揃いの振袖でやってきたシホと燦であった。
二人の頬は衣装に劣らず紅潮していた。
なにしろ外は雪。気付けとばかりここに来る前に甘酒を頂いてきたからだ。
経験が無いシホに先駆け、まずは燦が手本を見せる。
賽銭箱に銭を投げ入れ……ようと懐から取り出したのは銅銭ではなくきらめく小判だ。
手弱女が差し出す大枚に、その場に居る一堂からどよめきが上がった。
そんな群衆の好奇の視線など我関せず、パンパンじゃらじゃらと参拝をこなす燦。
友人・身内の健康、美女との御縁、そして世界中の女子に祝福を願って。
自らの願いを聞き届けて貰おうと、神様を振り向かせるために燦は柏手を打って祈った。
(……これで神社の神様が女性なら完璧なんだけどね)
うつむき静かにほくそ笑む燦。
横で見ているシホの目には、真摯に祈りを捧げるようにしか見えない。
燦と同じように、シホもそのように動く。
またもや小判を取り出す仕草に、再びどよめきがあがった。
先ほど見た動作と変わりなく、周りの視線を流す静かな麗姿でシホも柏手を打ち、今年の抱負を真摯に願う。
(なるべく多くの人を救えますように。後は仲間の武運と無事や、どの世界も滅びませんように)
雑踏が耳に入らぬほど没頭する、厳かな黙祷。
ふと、目を開ければこちらを覗く燦の顔があった。
「シホは何を願った?」
尋ねる言葉に、正直に話す。
「そうか、らしいな。アタシもおんなじ、世界中の女の子に祝福を願ったさ」
「燦らしい願いね」
嬉しそうに話す燦の顔に、シホも優しく微笑んだ。
「一緒に叶えようぜ、今年もよろしく」
「ええ、今年もよろしくお願いします」
新年の決意を互いに確認し、二人はその場を離れた。
最後に籤を引いて帰ろうと、販売所の前へと彼女達は歩を運ぶ。
「縁結びにゆかりあり、ねぇ。じゃあ恋愛でいこう! 他は余所で引いたしな」
恋愛の項に指を伸ばし、一枚の紙を取る燦。
シホも続けて恋愛の籤を引く。
別段気になる人がいる訳でも無い。
ただ燦が引いたから自分も同じ項目を引いただけだ。
包みを開き、内容を確かめる。
――小吉
袖多生の縁有りど引くは好事魔多し
押すは我を通し避けられる事多し
立ち止まるは縁手放す也 身近な者に相談せよ
良くも無いが悪くもない、と言ったところか。
少なくとも恋に望み薄ということはなさそうだ。
「どうだった?」
尋ねる燦に、籤を渡す。
返す手で燦の籤を渡され、それを見るシホ。
――中吉
良縁兆し有り禍福いずれも後押しする事
されど病魔貴方を阻もうと企てあり 医食同源健康に留意せよ
子は丑に勝てり 北に吉報有り
「今年は良いことがありそうな感じじゃない?」
「でもこれ、病気に注意って書いてありますよ」
「でもでも、禍福後押しって書いてもあるぜ? シホも何か縁ありそうじゃん」
ああ、でも困ったなという顔を燦が浮かべる。
「シホに彼氏が出来たら弱ったな~。こうして会うことも少なくなりそうじゃない?」
皮算用に悩む彼女の姿。まだ恋人の影もちらついてはいないというのに。
その姿が滑稽で、シホの顔もついつい緩んでしまう。
「その時は身近な者に相談します。籤にもありますしね」
「そうか、じゃあ安心だな! じゃあさっそく北に行こうか!」
そういってシホの手を繋ぎ、神社の石段を下りていく燦。
後ろ姿を眺めつつ、北はどちらであったかと苦笑するシホ。
恋愛に関しては曖昧な託宣であったが、少なくとも友人関係は今年も楽しめそうな一年になりそうな気がする。そうシホは思うのだ。
笑っている自分。
後ろ姿で見えなくとも、燦も笑っているだろう。
誘われて良かった。
感謝の意を込めてシホは、燦の手をそっと強く握り返すのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
十文字・武
刹羅沢・サクラ(f01965)と参加
此処での新年ってな始めて迎えるんだが、流石サムライエンパイアの正月だ 随分賑わってるお祭りだよな
お、あれは餅つきって奴か。こっちは初売りってのか?だるま?熊手?ほうほう、縁起物。よし買ってくか。お、あっちはなんだ?
サクラとお祭りの最中を連れ歩きながら、あれはなんだこれはなんだとあっちこっちにふらふら目移りしながら子供のようにはしゃぐぞ
ははっ。子供が顔に墨塗ってやがる。なんだありゃ?
ほぅ、羽根突き。やってみるかって?
よし来た!見てな坊主ども。今、この姐ちゃんを墨だらけにしてやるからな
さぁ、勝負だサクラ!
二人して勝負に熱くなって指定UCも使うぞ!
刹羅沢・サクラ
十文字・武(f23333)と参加。
この時期の町はやはり活気がありますね。みんな新年を祝う気概に満ちています。
あれは運を引き寄せるという縁起物で……達磨というのはもとは仏法僧の……と、律義に十文字さんの興味を持ったものなどを可能な限り解説しますが、あっちゃこっちゃ行かれて追いつきません。
楽しんでいるようなのでまあ構いませんが……まったく仕方ない人ですね。あれは羽根突きといって、お互い羽を打ち合って取り落とした方が顔に墨を……
あたしと勝負ですか?いいですよ。UCを使うなら望むところです。せいぜい、頑丈な板を使う事ですね。(なんだかんだで勝負事にはノリがいい忍者)
初売りと参拝を兼ねた祭りに街は賑わい、その雑踏の中をまた、別の猟兵が歩いていた。
十文字・武は立ち並ぶ屋台の陳列を珍しそうに眺め指さす。
「流石サムライエンパイアの正月だ 随分賑わってるお祭りだよな」
十文字の側になって一緒に歩く刹羅沢・サクラは、子供のようにはしゃぐ彼の姿を微笑ましく見ていた。
地元、いや生まれ育った世界というべきか。
その事を褒められるのは悪い気はしない。
「ええ、この時期の町はやはり活気がありますね。みんな新年を祝う気概に満ちています」
寒さを感じさせない人々の活気。
そこに目をむけてみれば、どすんと臼を突く、杵を持った街人の姿があった。
臼の傍らにはまた別の衆が、手に水をつけながら息をあわせて中身を返していた。
珍しそうに見る十文字が口を開くまえに、刹羅沢がその口を動かした。
「あれは餅つきという、正月の行事ですよ」
「おお、あれが餅つきって奴か。剣を振るうのとはまた違った所作だな」
しばし足を止め、餅をつく阿吽の呼吸を眺める二人。
やがて突き終わったのか、拳大に餅を分けると見物客に振る舞い始める。
「さあさあ目出度え目出度え、めでてえな! 新年祝いだ貰った貰った!」
二人も景気よくお裾分けされた餅を片手に、初売りの品々を眺めてみるのだ。
この世界のことは十文字は詳しくない。それゆえに、売っている品もなにかもかも珍しく映る。
しばしば足を止め、興味深そうに手に取ってみる十文字を見ながら、刹羅沢は説明する。
「あれは熊手ですよ。物を掻き集める道具なのですが、転じて福を掻きこんでくる縁起物とされています」
「サクラは物知りだな! じゃあアレはなんだ?」
指さす先には達磨があった。
「それは達磨ですね。達磨というのはもとは仏法僧の方がモデルになった物で、困難に打ち勝つという意味合いがありました。赤達磨は魔除けの意味合いがあり、転じて無病息災の縁起物とされています」
「へえ、じゃあアレは?」
次に珍しい品の解説を聞いてみようと、十文字は先へ先へと足を急ぐ。
歩幅を強める彼の背に、こちらも考慮して欲しいと、刹羅沢は苦笑しながら人の波をくぐり抜けて追いかけるのだった。
初売り巡りも一段落し、露天で手に入れた食べ物を頬張りながら、ゆっくりと付近を巡る十文字と刹羅沢。
その腕の手提げ袋には本日の戦利品がずっしりと垂れ下がっている。
「いやあ買ったな! これだけあれば大丈夫だろ」
「買いすぎのような気もしますが……まったく仕方ない人ですね」
呆れた声でため息をつく刹羅沢にも、幾つかの品が彼ほどではないが垂れ下がっていた。
まあ初売りでついつい買い物をしてしまうのは人の性、楽しんでいるようならいいのかもしれない。
新年最初の景気づけと言えよう。
街の広場で座りながら、なんと無しに身体を休めるのだった。
雪がちらつく中でも子供達は元気だ。
あちこちの長屋から来たのであろう。
ぞれぞれの集団が固まって、何かをして遊んでいた。
羽根つきをしている子供が、羽根板を空降って落としてしまった。
周りの童がはやし立て、勝った子が筆を取ってその子の顔に墨を塗る。
「ははっ。子供が顔に墨塗ってやがる。なんだありゃ?」
そういう遊びはしたことがなかったのであろう。
それを見て十文字が大笑する。
「あれは羽根突きといって、お互い羽を打ち合って取り落とした方が顔に墨を……」
初売りの時と同じように、刹羅沢は朗々と子供に聞かせるがごとく、やさしく説明してあげた。
よほどその話が気に入ったのであろう。十文字は興味深そうに耳を傾けながら、子供達の戯れを見守っていた。
長々と眺めて視線が気になったのか、その子供達が十文字たちに声をかけた。
「おじさんもやってみる?」
声をかけられ、己を差す十文字。子供はうんと頷いた。
やにわに彼は立ち上がり、親指を自分にむけて承知した。
「ほぅ、羽根突き。やってみるかって? よし来た!見てな坊主ども。今、この姐ちゃんを墨だらけにしてやるからな」
子供のやりとりを目にしていた刹羅沢であったが、その言葉に目つきが変わる。
「あたしと勝負ですか?」
面白い、とばかりに彼女も腰を上げる。
児戯とはいえど、勝負を持ち込まれると羅刹の血は黙っては折れぬ。
子供達から羽子板を借り受けると、十文字にむけてその切っ先を突きつけた。
「……望むところです。せいぜい、頑丈な板を使う事ですね」
その言葉を受けて、鞘から剣を引き抜くように、十文字もまた、子供達から羽子板を一つ奪うのであった。
羽根を落とした方が負け
打ち返せるのは羽根板のみ、手足で返すのは無し
羽子板が破損し、打ち返せなくなった場合も負け
打ち返す方法は自由
墨をつける場合は顔、一筆とする
手加減無用
レギュレーションを確認し、二人の剣士は互いに礼をし、構える。
飛び入りの参加を興味深そうに子供達も眺めていた。
まずは十文字から。
羽根を高くあげ腰を下ろすし……そして叫んだ。
「世界を騙せ! 自身を騙せ! オレは強く! 速く! ナニよりも悪喰な……ディスガイズ・ビーストォォッ!」
叫ぶと言うよりは咆哮。
轟きに空気は震え、十文字の躯が変質し、隣近所の住人は何事かと飛び出てくる。
発せられる闘気は、刹羅沢に並の技では受け止められぬと瞬時に悟らせた。
「ほう……見事な殺気。いいでしょう十文字殿、このサクラお相手致しましょう」
自らも悪鬼を憑依させると、刹羅沢も笑った。
その口の両端から乱杭歯がおおきく顔を覗かせる。
腰を深く沈めて前に屈む。
それは獣が獲物に飛びかかる、狩猟者の構え。
ぽたり、と血が口より滴り落ちた。
それをすくい取り、朱唇にさらに紅をさす。
戦化粧。
畏るべきは女羅刹かな。
相手の本気を見てとり、十文字も笑う。
対等と見てくれた嬉しさに。
全力で立ち向かえる嬉しさに。
そして、その眉間に目がけて、流星のごとく羽根を叩きつけようと豪腕を振るう。
そして羽子板はその手を離れた。
まさかのミスショットか。
否! 断じて否!
鞭のように腕を振るった十文字は、その掌から板を滑らせ爪で板をつまむ!
タイミングをずらし一瞬の空隙を生もうとしたのだった!
この虚撃に刹羅沢もわずかに躯がブレてしまう。
だが鬼人もまた人外の生物であった!
歪んでしまった体勢を、筋肉を収縮させることで修正!
痛みを戦いの昂揚で押さえ込み、迎撃の態勢で羽根を迎え撃つ!
激流に流されてしまった荒木が滝底に叩きつけられれば砕けてしまうの必定。
今の羽根がその木と同じ状況だと言えよう。
十文字の剛力を真っ向から受け止めてしまえば、羽根板は砕け勝敗が決することであろう。
それゆえ刹羅沢は羽根が飛ぶ方角へと、同じように飛んだ。
板が砕けぬように細心を尖らせながら、角度をずらしその方向を歪めていく。
子供たちが歓声をあげた。
刹羅沢の姿は、板に羽根をつけながら高速で回る、独楽のような格好であったからだ。
そのまま宙へと跳びながら、高速で旋回していく。
その螺旋に吸い込まれるように風が起こり、周りの雪がゆっくりと吸い込まれていく。
漂い集まった雪片は冷風を作り、それは更に大気中の水分を冷やし、雪の結晶を生み出して十文字と子供達の頭上に降り注いだ。
その場にいる者たちの吐く息の白さが濃くなっていく。
だが、誰も刹羅沢の威風から目を離すことはしようとはしなかった。
勝負を申し出た十文字は尚更である。
あの竜巻より、羽根が砲撃されて自分を狙い撃つのだ。
そしてやはり、綺羅星のごとくそれは打ち出された。
常人の肉眼では影すら終えぬ、光年を奔る矢。
十文字は数々の命を救ってきた。
数々の世界を。この世界を。
これまでも、そしてこれからも。
十文字はそう誓ったのだ。
ならば、何卒、この羽根を掬えぬ道理など存在しない。
「オオオオォォォッッッ!」
餓狼の如く地を抉り蹴って彼は飛んだ、一矢に報いるために。
そして全身を賭けて追いつき、板で受け止めた。
刹那、その違和感に気づく。
(……羽根板?)
受け止めたのは、刹羅沢の羽根板であった。
その事に理知が働かず、躯が硬直する。
その身にぽふり、と羽根がおちた。
己の胸をみつめて呆然とする十文字。
無手の刹羅沢がその姿をみて勝ち誇った。
彼女は羽根板で羽根の速度を殺し、上へと打ち上げたのだ。
そしてそれを悟らせまいと、羽根板を投げつけたのだ。
スマッシュとロブの二段構え。
勿論、見破られれば板を持たぬ彼女は打ち返すことが出来ず、負けていたことであろう。
いわばこれは先手のみに使える奇襲。それが功を奏した。
地に転がった羽根を見て、十文字はあぐらをかいて座る。
悔しそうに見えるが、その顔はどことなく嬉しそうだ。
「やっぱりサクラは強えな! 次は負けねえぞ!」
「ええ、次は私の先手ですね」
しかし負けは負け。勝ちは勝ち。
良い物をみせて貰ったとはしゃぐ子供達から墨を借り受け、十文字の顔に筆を近づける。
その指を動かす刹羅沢もまた、嬉しそうであったのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
御形・菘
新年を祝う、こういう雰囲気は大好きであるぞ!
めでたい場をブチ壊そうなどと意欲溢れる無粋な者どもはその時対応するとして
今は楽しむとしようかのう
屋台で縁起物を色々と集めてみようか
いかにも福を全力で呼び込みそう、どれも素敵デザインで目移りしてしまうな!
まあどれも良さげで決められんし、妾に素敵なセールストークをしてくれたのを片っ端から買うぞ!
当然、集めるほど御利益があるのであろう?
ふ~む、この木彫りの小物は根付?というのか
ハンドメイドでこういうのが作れるのは凄い!
…蛇がモチーフの、イケてるのとか無いかのう?
買った物は基本的に視聴者プレゼントにするぞ
はっはっは、皆が幸せになることが、妾にとっての幸福よ!
新年を祝うエンパイアの地。
この機を逃してはならぬと、一人の動画配信者が足を運んだ。
彼女こそ日々画面向こうのファンのために、研鑽を怠らぬ国民的スタァ、御形・菘その人である。
「はーはっはっは。良い、良いぞ。新年を祝う、こういう雰囲気は大好きであるぞ!」
活気に溢れる街中を見下ろし、御形は哄笑する。
民の笑顔こそ我が糧、神である御形にもその活力がながれ、自然と力が漲ってくる気がする。
「だがしかし!」
この祝賀の場を乱そうとする不届きな輩が現れる、それが御形には気にいらない。
「祝いの場で騒ぐは良し、だがブチ壊そうなどとは無粋、あまりにも無粋」
其奴らの対処はあとにして、まずはこの祝いの場を楽しむことにしよう。
そうすれば下々の参拝の祈りを得て、オブリビオンなど手を捻るようなものだ。
そう彼女は言い訳し、撮影ドローンのスイッチを入れたのだった。
「『妾がいろんな世界で怪人どもをボコってみた・外伝 ~エンパイア蛇神滅殺嘲儀浪費巡行~』、これより配信開始!」
初売りに威勢の良い声を上げる屋台の列。
御形は腕を組みながらそれらを物色する。
当然、これは撮影中だ。カメラ写りを意識した大げさなポーズは崩さない。
「縁起物とは、素晴らしい。この神たる妾の捧げ物にふさわしい!」
最初の品はどれにしようか。
出来れば視聴の掴み、インパクトのある物にしたい。
一瞥しても彼女に選ぶことは出来ず、店主に店の品々を尋ねてみることにするのだった。
「店主、これは何だ!」
高圧的に話す御形に、店主は悪い顔はしない。
この人だかり。いちいち客を選んでは列が詰まるという物であろう。
「お嬢ちゃん知らないかな。これは達磨という物だよ」
「達磨とな、ほほう。良いぞ。まるで蛇に丸呑みされた獲物のようだな!」
「獲物じゃなくて縁起物だよ。開運金運無病息災、元になったのが偉い坊さんでね。意志を通し続けた故事から、困難に打ち勝つ勝負事の御利益もあるぜ」
「我を通すか、素晴らしい! 妾にふさわしき品であるな。気にいった! これを頂こう!」
「ありがとよ! どの色にする?」
「色だと!?」
驚愕する御形。達磨を購入する気ではいたが、何色かまでは決めてはいなかった。
というか、色違いがあったのか。
「無論、それも頂こう。当然、集めるほど御利益があるのであろう?」
「そりゃ勿論。赤は厄除け黄色は金運、紫は長寿で緑は健康、全部揃えば大成間違いなしさ」
「気に入った! 買おう!」
「毎度!」
初売り口上の啖呵の良さに、御形は達磨を全色買って手に入れた。
それを器用に尾に乗せて、画面手前に突きつける。
「石の上にも三年、妾の前では永年。此奴らがどうなろうかは釈迦の掌では無く妾の尻尾しだいよ、はーっはっはっは!」
落とさぬよう注意を払いながら、尾をもたげて御形は次なる獲物を狙う。
彼女が選んだ標的は、木彫りの品を並べるアンティークショップの露店であった。
どれも馴染みがないデザインだが、おそらくこの場で売っているということは、何らかの縁起物なのであろう。
そこには先ほど見た達磨の形をしたストラップがあった。
「ほほう、手作りのストラップとは見事だな」
「すとらっぷ? 嬢ちゃん、これは根付っていうんだぜ」
「ふ~む、この木彫りの小物は根付?というのか、ハンドメイドでこういうのが作れるのは凄い!」
じろじろと並ぶ根付の数々。
それらを見て少し残念そうな声で彼女は呟いた。
「……蛇がモチーフの、イケてるのとか無いかのう?」
その言葉に店主は苦笑する。
「今は子年だからねぇ……巳年、五年経ったらまた来てよ」
「五年先なぞ覚えておらん。今はネズミしか無いというなら仕方あるまい」
しぶしぶと、他の根付の中から選ぶ御形。
その中から気に入った物を何点か、また買い集めるのであった。
空に映る凧。
それがズームアウトしてくと、街の広場が映り、颯爽と佇む御形の姿が画面に入る。
「エンパイア蛇神滅殺嘲儀浪費巡行、如何であったろうか。楽しんでいただけたであろうか? では妾の信者にプレゼントだ」
御形が後ろを向いた。
画面には背中、彼女の翼がフレームインする。
そこには購入した根付の数々がぶら下がっていた。
「我が後光を拝むが良い! そして何が欲しいかを書きこむが良い! その根付を貴様らに贈呈してやろうぞ!」
ご丁寧に画面には、購入した根付のラインナップが流れようとしていた。
視聴者あっての御形の動画。だからこそ感謝は忘れない。
掴みはこれでOK、あとは本編でいかに撮れ高を作るか。
それを思い描き、彼女は高らかに嗤うのであった。
「はっはっは、皆が幸せになることが、妾にとっての幸福よ!」
成功
🔵🔵🔴
第2章 集団戦
『オブリビオンの雪ん子』
|
POW : あそぼ
【大雪が降る中、当たると凍てつく雪玉】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : いかないで いっしょにいて
自身に【触れたもの全てを凍らせる冷気】をまとい、高速移動と【吹雪の竜巻】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : おともだちづくり(雪)
自身の創造物に生命を与える。身長・繁殖力・硬度・寿命・筋力・知性のどれか一種を「人間以上」にできる。
イラスト:Y!eld
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
新年を祝う人々の声。
それらが届かぬ街の外れに、ひょこりひょこりと童達が顔を出す。
みな、一様に同じ顔同じ体格をしている。
いずこからどこかから。
数人、という規模では無く集団。
童達は街を囲むように、いつのまにか街の外れのあちこちに出没していた。
気のせいかは降雪の勢いは、子供達が増えるにつれ増していくように思われた。
童達は互いに雪玉を投げつけ、はしゃぎながら輪をせばめていく。
その中心となるのは街。
童の雪玉が逸れた。
それに当たった木が、雪を枝に背負ったまま樹氷と化した。
自重に耐えかねて木が途中からぽきりと折れる。
童達はそれを見ておおいに笑った。
「あの街の人とあそべばいいんだってさ」
「いっぱいあそぼうね」
あはははは。
あはははは。
純真無垢な害意。
それらの輪が新年を祝う街を取り囲もうとしていたのであった。
※プレイングは1月16日(木)8:31~から送って頂けるようお願いします
黒鵺・瑞樹
アドリブ連携OK
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流。
真の姿に。
俺自身は可能な限り【存在感】を消し【目立たない】ように努める。そうして放つはUC炎陽。
胡を鍛えた金谷小神の炎。雪と氷の化生なら金属をも溶かす炎は効果があるはず。
一応下手に周辺に影響して過度に雪を解かさぬようには気を付ける。
身近に迫った雪ん子には直接斬撃を。
基本相手の攻撃は【第六感】で感知【見切り】で回避。回避しきれない物は黒鵺で【武器受け】での受け流しからの【カウンター】。
それも出来ない物は【オーラ防御】と【激痛耐性】でしのぐ。
雪ん子は野山で遊び雪を降らせると聞いた事あるが、街を襲うって事は別の奴がいるのかね?
御形・菘
先に言っておくが妾は寒さに弱い!
どうも体質なのか、身体の動きが鈍ってしまっての~
しかし苦手意識は薄いぞ! 時には程良いハンデがなければな!
雪合戦でのオーバーキルは御法度よ
ルール違反は無邪気では済まん、キツいお仕置きをするとしよう!
右手を上げ、指を鳴らし、さあ鳴り響けファンファーレ!
はっはっは、妾はとても嬉しいぞ? 燃える妾はカッコ良かろう?
己を炎上に巻き込むのは実に映えるが、戦法には必然性が無くてはな
もちろん熱いが、それはそれ!
お主らの雪玉と凍結は、果たして妾の炎をブチ抜けるのかのう
そして少なくとも、お主らが燃え尽きる方が先なのは確実であるしな?
さあ、妾の左腕にボコられるか、好きに選ぶがよい!
エウトティア・ナトゥア
※アドリブ・連携歓迎
(上空の鷹達から情報を貰い、敵の配置を確認後、鷹の先導で味方へ周知する) どうやら来たようじゃな、街へ入られると厄介じゃ。できるだけ郊外で食い止めるとするか。
(動物使い+動物と話す+鼓舞+団体行動) まずは避難じゃな、【秘伝の篠笛】を吹き、狼と鷹の群れに指示、上空の鷹の情報を元に風の精霊に声を運んで貰っての避難指示と狼の群れによる避難誘導を行うのじゃ。
同時に時間稼ぎも必要じゃな。【精霊の招宴】で炎の精霊を呼び出し敵へのけん制と味方の援護をお願いするのじゃ。 精霊よ細かい事は任せるのじゃ。倒すのは他の猟兵がやってくれよう、おぬし達はそれぞれの猟兵への援護を頼むぞ。
「どうやら来たようじゃな」
腕に止まった鷹をエウトティア・ナトゥアが放すと、それは空に舞う鷹の群れへとむかっていく。
群れは水面に一石を投じたがごとく離れ、街の外れへのあちこちへと飛んでいく。
その先、その下はオブリビオンが居る場所だ。
祭りを楽しみつつ斥候を鷹に任せていた彼女が、オブリビオンの襲撃をいち早く察知していた。
その鷹の先を見つめる黒鵺・瑞樹と御形・菘。
「やはり雪ん子か」
既に二刀を構え、臨戦態勢に入っている黒鵺の眼が紅く染まる。
束ねていた髪は解け、内なる衝動をあらわしているかのように風になびいていた。
「相手は大勢、これは見せ場が取れそうであるな!」
御形も武者震いに身体を動かし、応戦の体勢を取る。
二人は、オブリビオンが街へ入る前にくい止める迎撃役だ。
居場所はあの鷹たちが知らせてくれる。
「わしはその間に避難を知らせよう。各々、頼みましたのじゃ」
「承知した」
「はっはっは、任せておけい」
黒鵺が己を雪にとけ込ませるように地形の死角へと進み、御形が己を誇示するかのように堂々と進んでいく。
エウトティアは両名の背に健闘を祈り、懐から篠笛を取り出し、その音を奏でるのだ。
笛の音に合わせて風が踊る。
風の精霊がエウトティアの召喚に応じ、その意を伝えるために街へとかけるのであった。
「皆の衆、魔物の襲撃じゃぞ!」
祭りの街中に、どこからともなくエウトティアの警告が響く。
「な、なんでえ一体?」
訝しがる人々。祭りの賑わいを中断されたのだから当然であろう。
そんな彼らの耳に、そよ風と共に警告の響きが伝わってくる」
「わしはエウトティア、幕府の命を受けこの祭りを襲撃せんと企む者たちからお主らを護るためにやってきた! しばし窮屈であるが、襲撃の間指示に従って欲しいのじゃ!」
声の上空、街の空に鷹たちが街の周囲を見守るよう大円を描いていた。
そして見れば数々の熊手を咥えた狼たちが、街の人々を促すように辻に立ってその首を振り、先へ行くように促していた。
「おお、縁起物の集団!」
「てやんでい、幕府と縁起物にあやからなきゃあ、今年一番バチが当たるってものよな!」
ぞろぞろと、案内される場所へと動き出す民衆たち。
だが大勢故にその足取りは重い。
うまく避難できるかどうかは、猟兵達にかかっているに違いなかった。
街の人々が避難を開始したとの知らせを精霊より受け、エウトティアは次の行動に出た。
「わしがだけが、後方でぬくぬくとしているわけにはいかんからのう」
祝詞を捧げ、杖を少し積もった雪の地へと突きつける。
「炎の精霊よ、大いに歌い騒ぐのじゃ!」
すると彼女を中心とした周りの雪が解け始め、まっさら地面が顔を出す。
そこに現れたのは、人の姿をした炎の精霊たちであった。
「精霊よ細かい事は任せるのじゃ。おぬし達はそれぞれの猟兵への援護を頼むぞ」
エウトティアの声に応じ、精霊たちは猟兵達がむかった場所へと動き出す。
それを見届け、彼女は再び笛を取り出した。
上空では鷹たちが戦況を逐次教えようと、慌ただしく動いていた。
街の人々を戦災より護るべく、エウトティアは批難誘導を続けるのだ。
「祭りの前に辺りを散策して良かったのう」
ある程度の地理に詳しくないと、誘導はうまく出来ない。
祭りの前にそれを実行していたエウトティアは、見かけは幼き少女なれどやはり一流の猟兵にふさわしい人物であったのだ。
風雪が強くなる。
その中で黒鵺は辺りを伺いつつ、己の身を隠していた。
前方からオブリビオンたちのはしゃぎ声が聞こえてくる。
「来たな……」
むこうから叩きつけてくる雪風。
だがこれは逆に黒鵺の身を隠すには好都合の化粧だ。
それにたとえ目標を掴めずとも、あの嬌笑が良い格好の的となる。
右手に構える胡に炎が揺らぎ始めた。
「……薙ぎ払え」
一閃。
暴風雪を祓いのける浄化の炎。
戯れに興じていた雪ん子たちが、溶けるよりはやく四散した。
見た目は子供。消えてくれるならばそれでいい。
奇襲によって姿を現した黒鵺の姿を、他の雪ん子たちが見つけ怒りをあらわにした。
「だれだおまえ!」
「わるいやつ! わるいやつ!」
「ああ、そうだ」
悪餓鬼共の誹謗を受け流し、黒鵺は刃をむける。
「だから帰って貰おうか」
言い放ち、後方へと跳びずさる黒鵺。
先ほど居た場所へと、方々から雪玉が投げつけられていた。
それを予見するかのようにかわした彼は、投げ終わって無防備な雪ん子に跳躍を利用して斬撃を放った。
またしても炎の一撃を受け溶け消えゆく雪ん子。
雪が降りしきる白いキャンバスに、紅い筆が揺らめいて次々と獲物を狩っていくのだった。
「あいつ、つよい!」
「つよいつよい!」
強敵と見た雪ん子たちが、なにやら雪玉を地へと転がし、それらを連結させる。
雪中に大きな雪だるまの巨人が作られ、それが意志を持って動き始めた。
その意志は、雪ん子たちの敵を排除しようと、黒鵺へと襲いかかった。
巨体の豪腕を、左手の刀で受け流す。
そしてその勢いを利用し、右手の刀で斬りつける黒鵺。
襲ってきた雪男は、逆に左腕を切り落とされる結果となった。
巨人の腕が、雪片をまき散らしながら地へと叩きつけられる。
その腕が爆散し、紅き焔を纏い黒鵺が突出してきた。
炎の闘気で腕を溶解させ、雪片を四散させて辺りに弾き飛ばしたのだ。
自ら生み出してはいない雪吹雪では、雪ん子たちは対応できないのであろう。
一瞬の隙を突かれ、狩られていく雪ん子たち。
降雪が止み、辺りが落ち着いた頃にはそこに立つのは黒鵺独りとなっていた。
動いている者がいないことを確認すると、彼は次の戦場へと向かうためにそこを後にするのだった。
「雪ん子は野山で遊び雪を降らせると聞いた事あるが、街を襲うって事は別の奴がいるのかね?」
この一件、他に親玉がいる。
黒鵺はそう確信していた。
ふと見れば、彼らの攻撃の余波で髪の先が一房凍りついていた。
一瞥しそれを切り払うと、黒鵺は先を急ぐのであった
黒鵺が戦っているのとは別の場所。
そこに御形は腕組みをし、仁王立ちで待ち構えていた。
眼下に見えるは雪ん子の集団。
無邪気に微笑みながら御形に語りかける。
「あそんで、くれる?」
御形は大げさに両手を掲げ、オブリビオンたちを挑発した。
「無論! だが先に言っておくが妾は寒さに弱い! しかし苦手意識は薄いぞ! 貴様らごときにはちょうどいいハンデよ!」
諸手をあげ挑発する御形にむかって、容赦ない雪玉が降り注がれる。
たちまち美しき雪像がひとつ、出来上がった。
だが即座に、脱皮するかのようにまとわりついた雪を吹き飛ばし、効いてはいないと御形は大笑する。
「こちらは単独に対し、素晴らしい歓迎だな! だが、雪合戦でのオーバーキルは御法度よ! ルール違反は無邪気では済まん、キツいお仕置きをするとしよう!」
そう彼らに告げると、右手を高々と掲げた。
上空に魔方陣が展開される。
その陣から炎が打ち出され、高らかな調べと共に御形を直撃した。
自爆? いや違う。
これは戦いの開始の合図。
その証拠に見よ。高らかに響き渡るファンファーレと共に、獄炎に包まれた御形が動き出したではないか。
その盛観に、雪ん子たちは言葉を失った。
だがすぐに我に返り、雪玉を御形に投げつけ始める。
だが炎の鎧はそのような稚拙な児戯など物ともせず、水玉へと変えて辺りの雪地を濡らすだけだった。
「燃える妾はカッコ良かろう?」
炎蛇がオブリビオンたちへと奔る。
炎に対する本能的恐怖。
それから逃げようとする彼らより速く、彼女の腕が雪ん子を一人、抱きしめた。
「受け取るが良い、妾の愛を! 抱擁を!」
逃げようとする雪ん子の背中を左腕で優しく抱え、右腕で頭を撫でる。
その情熱に触れた雪ん子は、ポタポタと溶けて地に落ちた。
それを見下ろし、頭を上げて御形は他の雪ん子に向き直る。
「どうした! 貴様らの情熱はそれだけか! 妾の炎をブチ抜けようとは思わんのか! この妾が、存分に遊んでやろうというのだぞ!」
その啖呵に、他の雪ん子が総力を結集し、大雪玉を投げつけた。
「その意気や良し!」
両手を広げ、受け止めようとする御形の髪と鱗が凍りついていく。
それが広がり始める前に、御形は彼らの中へとそれを投げ返した。
重量に押しつぶされる雪ん子たち。
「こいつ、つよい」
「はーっはっはっは! そうであろうそうであろう」
高らかに笑う御形。
その背後から、炎の精霊たちが援軍に駆けつけた。
御形はその集団に面識はなかったが、炎であることから仲間の援護と解し、手に拳大の炎玉を作り始めた。
「第一ラウンドは妾の勝利だ。では第二戦と参ろうか! サムライエンパイア雪地合戦 雪VS炎 勝のはどっちだ?」
炎の精霊が御形の声を受け、身体の一部を変化させて同じように雪玉を作る。
たった一人の猟兵に、雪ん子たちは苦戦していた。
その中に援護の軍勢がやってきたことは、勝敗は火を見るより明らかであろう。
しばらくのち、雪解け水に塗れたぬかるみで御形は勝利のVサインをしていた。
それを胴上げする炎の精霊たち。
一戦を終えて熱き焔を抑えきれない御形の声が響く。
「雪地合戦、雪VS炎! 勝ったのは炎よ! はーっはっはっは!」
鷹が舞う上空で、撮影ドローンがそれを撮影し、仲間と視聴者に報告するのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
四王天・燦
《御御籤》2人
シホとの初詣で心が温い
あたふた着替えてシャツが前後逆…
「遊んでやるが人『で』遊ぶって考えは改めてもらうぜ」
冷気・雪玉をアークウィンドの風で武器受け、オーラ防御。
創造物は二回攻撃で斬り潰す
「炎が蝕むように。妖の雪は人を蝕むんだ」
フォックスファイア・参式を戦場にぶつけ、陽炎に紛れて四王稲荷符を貼り気絶攻撃を打ち込む
(一緒にいてあげようぜ)
宿す雪女見習いの魂に囁きかけ、童(女の子限定)と唇を重ねて生命力吸収―精気と魂を吸い尽くす。
「これがアタシの本性さ」
妖艶に舌なめずりしシホに苦笑い。
それでも友達でいて欲しいな
微笑まれると気にし過ぎた自分が何だか恥ずかしいね。
「頭目の仕置きに行こうぜ」
シホ・エーデルワイス
≪御御籤≫
2名
アドリブ歓迎
燦と初めての初詣でニコニコ
<第六感で敵襲を察知し
普段の服へ早業の早着替え>し着物は街の人へ預ける
折角の燦が見繕った着物だから大切にします
燦…シャツの向きが逆ですよ
ええ
貴女達が遊んで良いのは私達猟兵だけです!
敵の攻撃は<氷結耐性付きのオーラ防御>で防ぐ
【華霞】で花弁を火<属性攻撃に見える迷彩を施し
誘導弾で燦のUCが多くの敵を巻き込める様に
おびき寄せ援護射撃>
燦が敵を吸収する行為は一切動じず
敗者をどう扱うかは勝者の自由だと思います
そこに良し悪しはありません
それに
戦いに身を置く者として残酷な現実と向き合う<覚悟>はできています
でも
私は燦なりの優しさがあると思いますよ(微笑)
初詣を楽しむ四王天・燦とシホ・エーデルワイス。
それを楽しんでいたシホの顔が変わった。
「燦」
真剣なシホの顔つき。
それを見て、浮かれていた燦も猟兵のそれに変わる。
両名ともオブリビオンの襲撃を察知したのだ。
「やれやれ、せっかく楽しんでいたのにな」
水をさされた燦の顔が曇る。
それにシホは優しい声をかけた。
「仕方ないですよ」
素早く着替えるシホ。せっかく燦が選んでくれた晴れ着だ。
汚してはならぬと、いつも通りの衣服へと着替える。
慌ただしく燦も着替え、準備完了とばかりにシホの横に並んだ。
「燦…シャツの向きが逆ですよ」
そんな燦を注意し、服を直してやるシホ。
されるがままに直して貰い、晴れ着をシホに渡した。
晴れ着を丁寧にたたみ、先ほどの呉服店へと預けようと走る二人。
「じゃあ、一緒に行こうか」
「はい、行きましょう」
その先はオブリビオンの退治。
祭りの続きを楽しむために、二人は走るのであった。
街外れ。
雪ん子の群れは、街へぞろぞろと向かおうとしていた。
そんな集団に立ち塞がるのは、祭りから戦闘へと身を変えた二人の猟兵。
燦とシホであった。
立ちはだかる二人に、無邪気な殺意たちが尋ねる。
「あそんで、くれる?」
その問いに、燦はシホの前に出て短剣を抜く。
「遊んでやるが人『で』遊ぶって考えは改めてもらうぜ」
「ええ、貴女達が遊んで良いのは私達猟兵だけです!」
後ろへと下がるシホ。
その手を突き出すと、青いオーラが発生し、それはオブリビオンから護らんと二人を包みこみはじめた。
雪ん子たちが猟兵へと、雪玉を投げつける。
燦は盾になろうと、あえて敵陣に駆ける。
迫る雪玉を短剣で薙ぎ、弾き、風を起こして防ぐ。
だが相手は多勢。
燦の手数に勝る雪玉は、彼女の身体に迫りくる。
それを、包んでいたオーラが身代わりとなって、薄氷となり散っていった。
「御狐・燦の狐火をもって敵を灼け!」
相手の攻撃を防ぎ、お返しとばかりに敵陣に火の弾の数々を叩き込んだ。
炎を見た瞬間、雪ん子たちはそれを回避しようと散開する。
だがいつのまにか、逃げる彼らの行く先に火の粉が先回りしていた。
思わず足を止めるオブリビオンたち。
その背に、狐火が追いつき火柱へと染め上げた。
炎に囚われもがき逃れようとする雪ん子たちに、火の粉が突き刺さる。
それは花弁であった。
色を染め上げ火の粉へと偽装させた、シホの技。
それが火のついた敵たちへと刺さり、逃走の術を奪う。
炎にまかれ、溶けていくオブリビオンたち。
崩れ落ちた火柱が舞い散り、シホの花弁と混ざり合って敵を幻惑する。
オブリビオンであろうと思考は子供。
迫り来る火の手から逃れられる有効な手は、とっさに思いつきはしなかった。
雪玉を集め、橋を作ろうとする雪ん子たち。
だがその設営は、燦によって叩き潰される。
「何処へ行くんだい?」
真っ二つに橋を切り裂き、烈風を起こして吹き飛ばす。
橋の瓦礫、いや雪片は、火の手に阻まれ地に落ちる前に消滅した。
狼狽する雪ん子たち。
その中の一人に、燦は目標を定めた。
童女。あいつは生かしてやるか。
胸に宿す雪女の嘆願を受け、燦は火球をその周りへと焚きつけた。
当てるつもりはない。
童女をこの身の一部とするだけだ。
炎に気を取られている間に、その身へ稲荷符を投げつける。
死角からの攻撃を避けられず、崩れ落ちる雪ん子。
それを素早く抱きしめると、唇を重ねて吸気を開始する。
炎の壁に阻まれてはいるが、その光景はシホも確認できた。
別段動揺した素振りをみせず、むしろ無抵抗な燦を襲われまいと、シホは一層の花弁を展開させ、辺りにまき散らす。
雪に舞う花。
それは燃えさかる炎にまかれ、火をつけて、雪ん子たちへと降り注ぐ。
「燦には、触れさせません!」
その声は燦にも届いた。
生気を吸い尽くし、舌なめずりをする燦。
その腕には、雪ん子の姿はとうに無かった。
「これがアタシの本性さ」
自嘲気味に笑う彼女の眼に、炎の先で戦うシホの姿が映る。
視線があうと、親友はニコリと微笑んだ。
(……ありがとう)
内心で頭を下げると、燦は炎壁を四方に飛ばし、それを新たな狐火と化し雪ん子たちへと向かわせた。
炎を衝立としていたため、雪ん子たちは燦を視界には入れてはいない。
代わりにシホを狙おうとしていたため、そうはさせじと燦は追加の炎玉を生み出し、彼女を護る大盾と化した。
オーラによって耐えていたシホ。
炎によって雪ん子たちは視界を阻まれる。
その隙に、燦はシホの周りにいた雪ん子たちを蹴散らした。
猟兵二人のチームワーク。
それによって一人、また一人と雪ん子たちは炎の中へ消失していった。
オブリビオンを撃退した燦とシホ。
二人は何とも無しに佇んでいた。
吸精。
その行為はあまり親友には見せたくなかったのか、燦は手持ち撫さそうに頭を掻く。
いつもなら向こうから話しかけてくるはずの彼女が、沈黙を作っている。
そのことにシホは何となく察し、自分から口を開くのだった。
「敗者をどう扱うかは勝者の自由だと思います、そこに良し悪しはありません」
静かに語る声。それに黙って燦は耳を傾けた。
「それに、戦いに身を置く者として残酷な現実と向き合う覚悟はできています。でも、私は燦なりの優しさがあると思いますよ?」
シホが優しく微笑んだ。
彼女はいつも優しい、自分にとっては過ぎた友人だ。
それとも、気にしすぎる自分が駄目なのか。
ありがとう、の言葉を口にすることは出来ずに、照れ隠しで燦は雪ん子たちがやってきた方向を指さした。
「頭目の仕置きに行こうぜ」
「ええ」
シホも頷く。
先を走る燦の足跡。
雪につけられた彼女の後を、シホは同じように歩きながら後を追うのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
刹羅沢・サクラ
十文字・武(f23333)と共に参加します
邪魔者のようですね。もう少し身体を温める必要がありそうです。
ふむ、手裏剣だけでは手に余る相手のようですね
凍り付かせる雪玉ならば、こちらもそれを破壊できるような力技で対抗しましょう
波濤轟雷鐘にて、雪玉、もしくは雪童を打ち砕きます
多数相手では少々さばき切れぬところもありましょうが、十文字さんがある程度防いでくれるなら、心強いです
そこから切り崩すとしましょう
こちらでも可能な限り雪玉の軌道を見切り、回避可能なものはやり過ごすつもりです
しかし、こう雪まみれですと、冷えますね……
十文字・武
刹羅沢・サクラ (f01965)と参加
羽子板勝負に熱くなり過ぎて、本題を忘れるとこだったわ
気配を感じ、顔の墨を落とすのも忘れて、慌てて村の外周へと出てくるぞ
見る限り、どうやら村が囲まれてるようだな。このまま乗り込まれては村人に被害が出る。サクラと共に打って出るぞ!
サクラと併走しながらUC【悪喰魔狼と笛吹き男】発動
地面から木立から村の柵から、餓えた狼の顎を生やし雪ん子に喰らいつかせろ
雪玉投げる手を止めさせ、足止めになれば良い
数が多けりゃ流石に雪球全てを止めるのは無理か?
なら、二人に向かう雪玉を【なぎ払い】、己を盾にしろ【激痛耐性】
刀が腕が凍り付こうと、防げりゃサクラが確殺ってな
頼むぞ、サクラ!
「邪魔者のようですね」
筆で墨を十文字・武に塗りつけながら、刹羅沢・サクラが空を見上げる。
その視線の先に、冬空に鳥がざわめいていた。
「みてえだな」
律儀に塗り終わるまで待ちながら、十文字は刹羅沢と同じ方向を向く。
「坊主、ありがとよ! 礼は後でな!」
顔を拭くこともせず、十文字は街の外れへと走り去る。
「やれやれ、もう少し身体を温める必要がありそうですね」
腰の刀に手をかけながら、刹羅沢もまた走るの。
街の外れへと向かった二人。
丘から見下ろした先に現れるのは、子供の姿をしたオブリビオン雪ん子だ。
「どうやら奴ら、ここを囲もうとしているようだな。被害が出る前にいくぞ、サクラ!」
返事を待たずに左右の刀を抜き、滑り落ちるようにして敵陣に向かう十文字。
「言われなくてもわかってますよ、十文字さん」
刹羅沢もまた、刀を抜いて敵陣に駆けるのであった。
丘を滑り落ちながら十文字が叫ぶ。
「飢えたる餓鬼よ! 暴食たる闇森の獣よ! 終末の宴に応じ顕れよ! ジェイルファングビーストォッ!」
その咆哮は、眼科の敵陣へと向かう地を震わした。
すると雪を物ともせず、地面から狼の頭が出現し、雪ん子たちへと襲いかかった。
見ればあちこちに、木や柵も獣へと変化を遂げ、十文字の敵へと喰らいつこうとする。
「わわ」
「なんだこいつら」
遊んでくれるのは二人とみていた雪ん子たちは虚をつかれ、腕を噛まれて構えていた雪玉を落としてしまう。
そこへ、狙いすました刹羅沢の、手裏剣の投擲が襲いかかった。
「ふむ、手裏剣だけでは手に余る相手のようですね」
腰袋に下げていた手裏剣のあらかたを投げつけ、刹羅沢が呟く。
敵の集団には命中させたのだが、致命傷にはほど遠いようだ。
「なげるのなら、まけないぞー」
やられた雪ん子たちの後ろから、無邪気に顔を出す。
刹羅沢が投げた数より、はるかに多い雪玉。
「これは……厄介ですね」
叩き落とそうと刹羅沢は腰を落として身構える。
足下の地を瀑布のように巻き上げ防ぐつもりであったのだ。
しかし、その行動は中断させられる。
「どっせーーい!」
十文字が割って入り、向かってきた雪玉たちを弾き飛ばしたからだ。
もちろん、全てを弾き飛ばせる訳では無い。
肩に、腰に、脚に、着弾しそこがたちまち凍り付く。
「十文字さん!」
刹羅沢が叫ぶ。
だがその声より大きく、彼は叫んだ。
「構うなサクラ! それをぶっ放せ!」
眼を見開くサクラ。彼は、防御のために放とうとしてた技を、敵に放てと言うのだ。
そのためにあえて、盾となってくれたのであろう。
「すみません!」
凍った十文字を踏み台に、刹羅沢が高く跳んだ。
その先、目がける場所はオブリビオンの集団だ。
着地と同時に、彼女はその剛撃を振り下ろす。
「波濤轟雷鐘!」
雪に埋もれていた地形が割れ、顔を出す。
ひび割れて吹き飛び、周囲の雪童もろとも空中に吹き飛ばした。
大地を揺らすこの一撃。
刹羅沢はその余韻ですぐに動くことが出来ない。
十文字も同じ。彼は不自由な身体に力を込め、氷の鎧を砕きつつとしてはいたが、その動きは弱い。
彼らを助けようと十文字が生み出した狼の顎が、雪ん子を、彼に纏わり付く氷をかみ砕いた。
自由になった二人の猟兵が、手足に牙を食い込んでもがく雪ん子たちにへと、愛刀の刃をむける。
不慣れな体勢のまま、空中で狼たちに噛まれた雪童たちに、それを防ぐ手立てはなかった。
全て斬られ、その亡骸も顎の中へと呑み込まれる。
「よくもみんなを!」
「ゆるせない!」
まだ残っていた雪ん子たちが、雪玉を結集させた。
生み出したのは巨大な雪男。
「遅え!」
だがそれが動く前に、ぼーっとしているほど猟兵は甘くない。
十文字の二刀が、雪男を細断した。
そして再びその背後から、刹羅沢が一撃を加えようと再び跳び上がる。
「波濤轟雷鐘!」
雪男の残骸もろとも、空中へ吹き飛ばされる残党たち。
子供の姿をしたオブリビオン。
しかしそれは、歴戦の二人の前では赤子のような存在でしかない。
十文字が耐え、無数の狼の顎が体勢を崩し、刹羅沢の剛撃が相手を討つ。
激しい乱戦ののち、立っていたのは猟兵の方であった。
「大丈夫ですか?」
刹羅沢が十文字を気遣う。
彼の姿は雪というよりは氷に塗れ、痛々しい姿になっていた。
そのおかげで自分は被弾せずにいたのだが、だからといって見過ごせるわけにはいかない。
「気にするな」
気遣う刹羅沢を前に、十文字は刀で身体を叩いて氷を剥がしていた。
見かけよりはダメージは少なそうだった。
「しかし、こう雪まみれですと、冷えますね……」
ちらつく雪。そして寒そうな彼。
目にする光景に刹羅沢は身震いする。
「寒がりかサクラ? 俺はまだまだいけるぜ」
屈託無く笑う十文字に刹羅沢は苦笑する。
「全く、タフな方ですね」
「これで借りは少しは返せたかな」
借りとは、街での遊びのことか。
「まあ一勝一敗といったところです。次で決着という訳ですね」
「ああ、負けねえぞ!」
おそらく敵の首魁のもとへ、他の猟兵も向かっているのだろう。
それに合流するために、二人も急ぐのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『雪女郎『白嶺』』
|
POW : 白魔
自身が装備する【雪山 】を変形させ騎乗する事で、自身の移動速度と戦闘力を増強する。
SPD : 白羽
レベル×1体の、【漢数字で左胸 】に1と刻印された戦闘用【雪女】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ : 白滅
【巨大な通常攻撃 】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【の何もかもが雪で埋め尽くされ】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
イラスト:柴一子
👑7
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠ポーラリア・ベル」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
古来、人々は山々に畏敬の念を抱いていた。
人のおよばぬ地と自ら定め、四季の折に敬意を表していた。
山は人々のかなわぬ存在。そう、信じられていた。
だから山は人々に豊穣と神の厳しさを与えていた。
人々の目にうつるは山。動かぬ雄大な存在。
だがどうだ。
人々は山々の敬意を忘れ、有るかどうかもわからぬ存在のために社を作り、それを崇めている。
なんということか。
なんたる屈辱か。
敬意を忘れた者たちに、神のおそろしさを思い出させてやろう。
畏敬の念を抱くことを知らぬ者達に、その存在を思い知らせてやろう。
山岳から平野へと吹き荒れる風が強くなる。
吹雪。
いや違う。
それは雪では無く、たなびく御髪であった。
立ちのぼる雲は、御身を飾る着物であった。
いつしか雪は降りしかず、冬空を奔り手足となった。
雷は轟音を起こし、人々に空を見上げさせる神託となった。
街で避難していた人々は確かに見た。
街に御山が迫ってくるのを。
そしてその鳴動を全身で聞いた。
「我、我が子らを殺めた者を許さず。山を軽んずる者許さず――」
雷鳴のような地響きのような、畏るべき存在の声をはっきりと聞いた。
「――我、我以外の物を崇めるのを許さず」
オブリビオン 雪女郎『白嶺』 が街を白く塗りつぶさんと襲いかかってきた。
※プレイングは1月23日(木)8:31~から送って頂けるようお願いします
エウトティア・ナトゥア
※アドリブ・連携歓迎
ほう、何が出てくるかと思えば雪山の大精霊か。
山の神ともあろう者が狭量な、貴女方は元来ただあるだけのものであろう。 神が人の理に干渉するでないわ。
(属性攻撃+祈り+動物使い使用)
『白滅』に対して、【精霊石】を寄り代に部族の護り神の力を降ろして対抗。
吹き荒れる風に負けないよう【巨狼マニトゥ】の陰に立ち、【ノアの長杖】の力を借りて膨大な風雪を【浄化の風】で迎え撃つのじゃ。
遍く精霊よ、天狼の名の下に風に宿り力を顕せ!
(【浄化の風】を維持したまま『雪女郎『白嶺』』を弓で射る)
荒ぶる神よ、人の世から去れ。大いなる意思の元へ還るのじゃ。
黒鵺・瑞樹
アドリブ連携OK
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流。
山への畏れ、か。わからなくもないかな。
でも話に聞いた悪鬼がアレだとするのならば、やりすぎたのかもしれんな。
過度の畏れは恐れとなり信仰とは遠くなる。
真の姿に。
UC五月雨で召喚された雪女を狙っていく。合体されないように召喚されたそばから倒す。
俺自身は可能な限り【存在感】を消し【目立たない】ように努め、胡と黒鵺で切り伏せていく。
身近に迫った雪ん子には直接斬撃を。
基本相手の攻撃は【第六感】で感知【見切り】で回避。回避しきれない物は黒鵺で【武器受け】での受け流しからの【カウンター】。
それも出来ない物は【オーラ防御】と【激痛耐性】【氷結耐性】でしのぐ。
御形・菘
どのように信仰を集めようが、その神の活動スタンスゆえ自由であろう
だが、蔑ろにされたと感じた時に逆ギレするのは、ひたすらにカッコ悪いと思うがのう?
右手で眼前の空間をコンコンコンっと
はーっはっはっは! 歓喜、感動、ドキドキワクワクを司る妾の世界へようこそ、山の神よ!
吹雪く一面の銀世界は実に美しいが、戦場とするには絵面的に物足りん!
雪を割り芽吹く生命の彩りと力強さ、存分に堪能してくれ!
そして、たかが山を相手取る程度で臆する妾ではない!
むしろ的がデカい分、ボコり放題というものよ
エモさで攻撃力のブチ上がった妾の左腕のラッシュは、星すらも容易く砕く!
さあ、早く全力で抵抗せんと、文字通り砕け散ってしまうぞ!
十文字・武
刹羅沢・サクラf01965と参加
でけぇ……オブリビオンも色々見てきたが、ここまでのは初めてだぞ?
って、呆けてる場合じゃねえな
畏敬だなんだは解らねえが、自分以外は許さないってな了見が狭すぎねえか山のカミとやらよ!
この世界にゃ八百万のカミが居るってな話はどうした!
……あんたは既に歪んでるんだよ。なぁ、オブリビオン
さて、大質量の的を相手にするにゃ、オレの刀だけじゃ火力不足だ 一発を持つサクラを敵に運ぶが吉かね
UC【悪喰魔狼】発動
オウガへと寄せた魂の暴走を【獣心封環】にて制御
サクラを背に。奴の本体まで運んでやる
強靱な四肢を用いて地を駆け、巨大な拳を避ければそれは奴への一本道だ【ダッシュ・クライミング】
刹羅沢・サクラ
十文字・武(f23333)と参加
神だの魔王だの、色々と慮外化外を相手にしてきましたが、これはまた想定外ですね
一個人の膂力などたかが知れているとは存じまするが……しかし心せよ。蜂の一刺しが獣を食らうこともある
この拳が山を崩すには至らずとも、されば潰れるまで殴るまで
十文字さんの機動力を借り、こちらも攻撃可能な距離に至るまでは手裏剣などを用いて牽制に回りましょう
機動力を担う十文字さんに細かな攻撃が来ては、こちらも取っ掛かりが掴めませんからね
ありったけの勇気と怪力、その巨体に潜む破砕点を探るにはもはや第六感に頼りするしかありませんかね
シホ・エーデルワイス
≪御御籤≫二人
アドリブ歓迎
頭目が自然の驚異を体現した神とは
今まで戦った相手の中で屈指の規模ね
…思い通りにならないと気がすまない
強すぎる力を持つが故ね
私の攻撃UCは対人用で効果は薄いでしょう
【霊装】で燦を強化
私の力を託します
氷結耐性付きオーラ防御でかばう
ただ撃つだけでは効果が薄そう
強大な力には何かしら弱点があるはず…
神社の伝承
山の悪鬼
温泉
もしかしたら
オブリビオンは過去の存在
なら
因縁のある温泉は弱点になるはず
燦
もう一度撃てますか?
狙いはそこではありません
目線で合図
第六感で水脈の位置を特定
戦後
戦いで散った命を弔った後
町の修繕は炊出しで善哉を料理
ええ
とても思い出深い初詣になりました♪
帰還前に着物は回収
四王天・燦
《御御籤》二人
図体だけで心の小さい神様だ。
シホの懐の深さを見習ってほしいね
ダッシュと逃げ足で逃げ、同時に町から離れるようおびき寄せ。
走れば温まるし凍結耐性もバッチリ
「すげえ火力」
シホの霊装の感覚が掴めないままフォックスファイアを一発撃つ
意思を交わし飛翔。
空中戦・見切りも合わせ攻撃を華麗に切り抜ける
(狙い…龍脈が読めれば完璧なんだけどな。火力で押し切るぜ!)
シホの眼と地形の利用で水脈を予測し、間欠泉を喚起する箇所に狐火を十発ほど束ね撃ち。
町に悪影響出たら後で修繕
残る狐火全て神鳴に纏わせ突撃。
山体貫くぜ
町の修繕は手伝うよ。
一息ついたら善哉でも食べて語らう。
「すげー初詣だったけど想い出になったな♪」
「なんだありゃあ……」
「ば、ばけモンだあ……」
街のあちこちからどよめきがあがっていた。
ここからでもあのオブリビオンの大きさは人ほどに見えた。
いずれここにやってくるであろう。
人々には為す術がなかった。
「あの人らに……託すしか、ねえな」
街へとやってきた雪ん子たちを倒してくれた猟兵達。
神では無く、彼らに人々は命運を託すのであった。
一段と寒さを強める風にあおられながら、一羽の鷹がエウトティア・ナトゥアの腕に止まる。
ひと声ふた声鳴くと、寒さに凍えたのかその身をうずくまらせた。
「ようやったのじゃ」
その躯を優しく撫で、労をねぎらうと彼女は仲間に振り返った。
「かの者の付近より、先の雪童が現れここに向かっているそうじゃ」
こことは猟兵達がいる街の外れ。
つまり奴らの狙いは街にあるのだろう。
「一難去ってまた一難、か」
黒鵺・瑞樹が、あまり驚いた様子もなくため息をつく。
雪ん子の背後に親玉がいることは想像できた、ここまでの狭量とは予想はしていなかったが。
「あの口ぶりから察するに、主役でない祭りに逆ギレしているようだな」
御形・菘が嘲りとこれからの事を思い、嗤う。
どうする? と。
相手の大きさに少し動揺してた十文字・武が、仲間の落ち着きぶりに我を取り戻したのか、前へ進んで考えを口にする。
「でけぇな……けど、呆けてる場合じゃねえな。アイツを叩く! ……で、いいんだよな?」
横目で刹羅沢・サクラに、意見を求める十文字。
彼女はもちろんと頷き、彼の考えを肯定した。
「いささか想定外ですが、理外の範囲にいるのがオブリビオンというもの」
後ろをふり返る刹羅沢。
遠目に見えるは先ほどまで遊んでいた祭りの街。
そこに居る人々を護らなくては、猟兵の名折れという物であろう。
「そして、それに対処できるのもあたしたち猟兵という訳です」
「ああ、幸いあの図体だ。見失うこともなさそうだ」
早くも刀を抜く四王天・燦。
その刀には、彼女のはやる気持ちを代弁するかのように、雷光が迸っていた。
「屈指の規模と驚異です。しかし、私たちならやれるはずです」
シホ・エーデルワイスが落ち着いた声で居並ぶ猟兵達に呼びかけた。
一同はそれぞれの獲物を抜き、頷く。
新春に集う人々をオブリビオンから護ること。
悪夢の予知を払拭するために、自分たちはここまで来たのだ。
そして、猟兵達は行動を開始するのであった。
エウトティアは雪の中を進む仲間たちを見送っていた。
他の仲間は敵首魁、あの巨大な敵を討つためにむかった。
では彼女は?
前方より凶悪に吹きすさんでくる風雪。
おそらく、かの敵が近づくほどにその冷たさは増していくに違いない。
自分たち猟兵は、それでも敵に対処できるだろう。
だが、背後で固唾をのんで見守る民衆は?
エウトティアはそれを危惧し、まず結界を張るために残ったのだ。
ごうごうと吹きすさぶ風に、少女の髪がはげしくあおりを受ける。
雪の色にも負けない白狼、マニトゥが彼女を護ろうと、その前に立って風を阻んだ。
その姿に勇気づけられ、そして後押しするように首にぶら下げてある精霊石を握りしめる。
エウトティアは自然を信仰する巫女の出である。
しかし、このような邪悪を由とはしない。
「山の神ともあろう者が狭量な、貴女方は元来ただあるだけのものであろう。神が人の理に干渉するでないわ」
このような暴威を、彼女は自然と呼びたくはなかった。
長杖を両手で握りしめ、凍り付いた大地に刺さるように突きおろし叫んだ。
「遍く精霊よ、天狼の名の下に風に宿り力を顕せ!」
雪が割れ、大地が顔を出す。
そこへと突き刺さった杖がひとりでに動き、がくがくと揺れた。
それは円を描くかのように揺れ、その動きに負けないようエウトティアは杖にしがみついていた。
杖の動きは風を起こし、それは強風となり、やがて竜巻となって上空に広がり、そしてその大きさを広げていった。
「おい、みろ! 風が……竜巻が向かってくるぞ!」
街の人々がむかってくる螺旋にたいして叫び声を上げる。
それはすぐに素っ頓狂な声へと変わる。
竜巻が広がり、エウトティアを中心として街をも範囲に含めると、それは柔らかいそよ風を内部に起こし、春風となった。
オブリビオンが起こす凶風。
それを打ち消す風をエウトティアは起こし、浄化させたのだ。
竜巻の中は、冬の厳しさから護られつつあった。
そしてその旋風は、じわじわと範囲を広げていく。
街を、オブリビオンへと向かう仲間たちを護るために。
オブリビオンへと向かっていた他の猟兵達。
彼らは足場に少々難儀していた。
吹雪が積雪を強め、歩行を困難にしていたからである。
「はっはっは! この地形、妾には少々世知辛いな!」
全然そのようなニュアンスを漂わせずに、御形が脚下の雪を弾き飛ばしながら進んでいた。
「確かに、文字通りの足止めですね」
深雪にずぶずと入り込み、脚の動きを阻害する。
刹羅沢がその様子に、うんざりとした声をあげる。
同じく辟易している十文字が、彼女に声をかけた。
「これじゃ敵にたどり着く前に体力を消費しちまう。サクラ、俺の背に乗れ!」
「え? それはどういう……」
刹羅沢は彼のほうへ視線をむけた。
十文字が足のみならず、両手を深々と雪へと突き刺した。
まるで獣のような姿。それはそして、本当の形となる。
がるるるるる……。
髪が逆立ち、手足に毛が生え始め、彼の身体を覆っていく。
そして十文字の姿形は、彼とは似ても似つかぬ魔狼、巨大な黒狼と化した。
「オオオオオオオッッ!」
猛る咆哮を上げ、刹羅沢を睨む魔狼。
その眼に、狂気は宿ってはいない。
なるほど、彼は彼だ。
「ありがたくお借りしますよ、十文字さん」
刹羅沢が礼を述べてまたがると、魔狼は風のように駆けだした。
その動きは速く、雪に躯を沈めるまえに軽やかに歩を進める。
瞬く間に二人の姿は、吹雪の中へと消えていった。
「やるねえ、あの二人」
体術には自信がある燦も、あの動きには一目を置かざるを得ない。
そして別段嫉妬する理由も無い。
オブリビオンを倒す、それだけだ。
「じゃあアタシたちもとっとと急ごうか、シホ?」
「……ええ、私たちも急ぎましょう」
シホが燦へと近づき、そっと掌を身体へと触れる。
「シホ?」
「私の力を託します、一気に間合いをつめましょう」
手を伸ばす彼女の身体が、光に包まれていく。
燦は黙って、彼女の一挙一動を見つめていた。
「この身は剣、この身は鎧、この身は翼――」
光に包まれていくシホの姿が、分解され光の粒子となり、掌を伝わって燦へと伝わっていく。
そして燦にまきついていく光の粒が多くなる度に、シホの姿は薄く白くなっていった。
「あなたに祝福を」
シホの姿が光とともに消失した。
その代わりに燦の姿が光に包まれ、彼女の姿と同じように、その背に翼が生えていた。
両手足の感触を確かめるように動かすと、にっこりと微笑んだ。
(――行きましょう、燦)
「ああ、わかってるさ」
頭の中でシホの声がする。それに答え燦は走った。
身体が軽い。
足先が沈むより早く、次の足が雪地へと駆ける。
跳ねるように、跳ぶように。
それは空を駆け、翼を動かし飛ぶようになるまで、早々時間はかからなかった。
「良い気分だぜ」
眼下を見下ろし、燦は一直線に白嶺へと向かうのだった。
「はーっはっはっは! さすが妾の仲間たちは頼もしいな! 妾もやがてそこへゆこうぞ!」
独り残された御形は、悠々とその身を進ませていた。
眼前の吹雪の先に、あの巨影がうっすらと見える。
行き先を間違えることはないからだ。
哄笑をふと、止める御形。
向こうに見える巨影。
その下側、墨がうっすらと滲むように影が深くなる。
「敵か」
御形の声に誘われるかのように、影は濃くなりやがてその姿を現す。
オブリビオンが呼び出したのであろう。
数多くの雪女が、御形の前に出現した。
だが御形は狼狽えてはいない。
騒ぎを起こせば、先をいく仲間たちに向かう雪女も、ここへと集まってくるかもしれないからだ。
「注目をあつめる……それは、妾にしか出来ぬことよ!」
片腕をあげ、ノックするかのように空間をコンコンと叩き、彼女は嗤う。
「ようこそようこそ、愚昧な者どもよ! 盛大に歓迎しよう! だが戦場とするには絵面的に物足りんと思わんかね!?」
吹雪く一面の銀世界。
それに別の色が加わり、彩りを添える。
咲き乱れるは梅の花、白き殺風景を艶やかに染めていった。
「雪を割り芽吹く生命の彩りと力強さ、存分に堪能してくれ! そして戯れようぞ!」
花吹雪に塗れながら、先ほどまでの鈍重さを感じさせない動きで御形は敵影へと踊りかかる。
薙ぎ払った尾の一撃で、雪女たちが数体ほど淡雪へと化し消えていった。
その強さを見てとったのだろう。雪女たちが互いに手を触れあうと、溶け合い一人の雪女と化した。
「合体か!」
上等、と構える御形。しかし襲いかかってきた雪女は、別方向からくる刃に首を刎ねられ動きを止めた。
「貴様らの相手は俺だ」
二刀を構え、すごむは黒鵺。
暗殺が本懐ではあるが、仲間を見捨てるほど愚かでは無い。
「隠密にて近づきたかったが、場合が場合だ」
刀とナイフ。その切っ先を敵に向けながら、黒鵺は御形にうながす。
「先に行くといい。雑魚の役目は引き受けた」
「いいのか?」
眼前に見える衆敵を一瞥し、鼻で笑う黒鵺。
「俺一人で充分。余計な体力を消耗せず、本体へと向かうべきだ」
返事を待たずに、敵陣へと斬り込む黒鵺。
それに誘われ、雪女も彼を襲い始める。
「心配無用、あとで行く」
「はっ、妾のエモい絵面を魅せたかったが、期待されては仕方あるまいな。また会おう!」
いずれもひとかどの猟兵である。
危機には陥らぬとみて、御形も白嶺へと向かう。
それを確認し、黒鵺が笑みを見せた。
「助かるよ。独りのほうが……殺りやすいからな」
今の彼は普段とは違う。
己を開放した、純然たる姿だ。
刃。斬るという衝動が彼を濃く染める。
誤って味方を気づける心配の無い、孤立の状況が今の自分には逆に嬉しかった。
それに、御形ではないが、彼女達を撃ち倒すことで間接的に街を護ることにもつながる。
「悪いけど、本気でいくぜ」
左手に持っていたナイフ「黒鵺」をくるくると片手で弄ぶ。
するとそれは手を離れ地に数々とこぼれ落ちた。
複製された短刀群はひとりでに宙に浮き、雪女と黒鵺の間で壁のようになった。
くるくる、くるくると宙を旋回する刃。
それは七宝柄の障子のように、黒鵺の姿を隠す。
そして彼は気配も完全に消す。
刃が離れ、雪女たちを逃さぬよう外周を旋回した時、黒鵺の姿はもうそこにはなかった。
縦横無尽、あらゆる方向から雪女にむかって短刀がその切っ先をむけて切り込んでくる。
それを避けようとすると、死角から黒鵺が姿を現す。
「がはっ……」
倒れる雪女。一瞥もせず刃を抜き去る暗殺者。
姿を現した彼を逃すまいと、左右から黒鵺を追い詰める二人の雪女。
彼女達が生み出す冷風に乗せられるように、ゆらりと身体を動かす黒鵺。
風は動作を生み、動作は反撃をもたらす。
黒鵺がくるりと半周したように、周りの雪女たちは見えた。
だが、次に襲いかかっていた二人が倒れた時、彼女たちはそうでないことに気づく。
「余所見はいけないな」
ため息をつくかのように呟く黒鵺。
黙祷を前に、また何人かの艶姿が地へと倒れ、雪へと代わった。
地へと落ちた短刀は、再びくるくると回転しながら宙へと舞い、雪女たちを付け狙う。
雪女たちは口を尖らし、号と氷雪を吐いた。
刀で受けるが、さしもの風圧はこらえきれず黒鵺が吹き飛ばされた。
……かのように見えたが、それは勢いを利用されただけであった。
寒風を背に、勢いよく刃を振り下ろす。そして雪女が倒れる。
黒鵺がバリバリと、凍り付いた髪をうっとうしそうに撫でると、傷みは激しかったのか、バッサリと髪が雪中へと落ちた。
無造作になった髪の端を、刀で斬り整えると、黒鵺は刃の雨と共に雪女たちへ殺戮を開始するのであった。
「覚悟しろよな」
そびえ立つ氷山のような姿のオブリビオン、白嶺。
飛行してきた燦は障害を受けず、たどり着くことができた。
挨拶代わりの一発として、フォックスファイアを放つ。
「!?」
普段放っている火球とは段違いの、巨大な炎球が白嶺の頬を叩いた。
「……すげえ火力」
シホによって強化された自分の強さに、思わず下を巻く。
その緩みを、シホが静止した。
(――燦、避けて)
「!」
彼女の警告を受け、急旋回しながら飛ぶ燦。
先ほどまでに居た空間を、雷鳴のような唸りをあげて白嶺の腕が薙ぎ払っていた。
当たればひとたまりもないであろう。
だが地に縛られず空に留まる限り、どこにだって回避できるはずだ。
「こっちだよ、デカブツ」
再び炎球を放つ。たいして効いてないのは先ほどの攻撃で分かっている。
効かなくても良い。
「五月蠅い蠅め」
白嶺の眉宇が逆立ち、燦を見据えて身体を動かす。
街の方ではなく、その正反対に位置する燦の方へと。
「良し!」
相手の注意を逸らすのは成功した。
だがそれは危険を孕むものだ。
巨大な敵を相手に、己を誇示するのだから。
こぉぉぉぉぉぉ……ふぉぅっ
(――! 全力で避けて!)
「いよぉぉぉぉいしょぉぉぉっ!」
冬空を切り裂くスピードで、弾丸の様に移動して避ける。
白嶺が息を吸い込み大きく吐き出した息吹は、猛吹雪となって空を凍らせた。
オーラによって強化された身体にも、距離を離してもなおその寒さが感じられてきた。
吹雪が駆け抜けたあとは、その威力を誇示するかのような氷柱が連なっていた。
大気を凍らす。
文字通りの光景がそこにあった。
こぉぉぉぉぉぉ……ふぉぅっ
次々と吐き出される息吹。
寒さに気圧されながら、全力で避け続ける燦。
相手に比べて自分は遙かに小さい。
回避に専念していれば、当たることはないはずだ。
氷柱が連なり、そこへ大気中の粒子が凍り橋をかける。
はるか上空からこの地を見下ろせば、白嶺が張る蜘蛛の糸の領域で、もがく小さな燦の姿を見られるかもしれない。
燦はあがく。
回避しながら、敵へと、全力の威を。
「はぁっ、はぁっ」
何発打ち込もうと、効いた様子はない。
巨大な山を独りで崩しているような、そんな錯覚に追われる気がした。
(ただ撃つだけでは効果が薄そう。強大な力には何かしら弱点があるはず…)
燦を通じて、シホは相手の状態を確認出来ていた。
このままだと決定打を与えられそうもない。
何かが。何かが欲しかった。
考えあぐねる燦とシホ。
そんな彼女たちから白嶺は視線を逸らした。
視線の先を燦も見た。
そこには断崖絶壁ともいうべき白嶺を駆け上がってくる、黒き魔狼の姿があった。
背には刹羅沢の姿が。
彼女は懐から手裏剣を取り出すと、白嶺の顔目がけて勢いよく放つ。
それを避けようともせず、白嶺は拳を上げた。
「また、羽虫が来たか」
唸りをあげる剛拳。
周りの凍氷橋を巻き込みながら振り下ろされる拳は、山の一部を変形させ、地形を露わにさせながら空へ雪の滝を生み出した。
「オオオオオオオオッ!」
降り注ぐ雪の中から、手の甲へと着地し、腕を伝い肩口へと駆ける魔狼、十文字の姿があった。
その背には、刹羅沢が微動だにせず拳を構えている。
「この拳が山を崩すには至らずとも、されば潰れるまで殴るまで」
白峰が拳を地面から引き抜いた。
その余勢を借り十文字が飛ぶ。
刹羅沢が更に跳び、敵の眉間へ拳を打ち出した。
「波濤轟雷鐘!」
山をも砕くこの一撃。
しかし、それはオブリビオンを討つには至れなかった。
反撃を恐れ、すぐに顔を蹴って離れる刹羅沢。
眉間をさすり、左右へと顔を動かす白嶺。
その両肩、それぞれ左右に刹羅沢と十文字の姿があった。
「コレカラガ……ホンバン……サクラ」
「何だ、喋られるんじゃないですか」
遠くに居る十文字にむかって刹羅沢は笑う。
「勿論ですよ」
敵本体へとたどり着くことが出来た。
そう、これからが本番なのだ。
「小賢しい奴らめ」
白峰が垂直にその場で飛んだ。
しかしその行為は、肩で止まる両名にとって振り落とされないようにしがみつく、攻撃となった。
そして、着地した山の地形が変化する。
それは巨大な歯車のようにも見えた。
それはすぐに回転し、乗っている白峰の頭の先まで届く、暴風を巻き起こした。
大地に生み出された巨大な送風機は、白峰が吐き出す吹雪を循環させ、オブリビオンの周りに凶悪な暴風雪の結界を生み出すこととなった。
「ガ……アア……」
しがみつくだけでも、極悪な吹雪によって体力を奪われてしまう。
「やべえ!」
これを見ていた燦は二人を救い出そうと飛び込み、救い出す。
強化されてなかったら、二人を抱え込む膂力は無かったであろう。
「お二人さん、悔しいけどここは一旦撤退だ」
燦の顔に苦渋が浮かぶ。
十文字と刹羅沢も背にそれを感じ、渋々と受け入れた。
「止むを得ませんね……」
冬山に人が挑む。それを無謀と人は笑う。
だが、自分たちは猟兵なのだ。
その場に居る者達は、それを胸にしっかりと刻み込んでいた。
一旦猟兵達が去ったことで、白嶺の目標は街へと代わる。
こぉぉぉぉぉぉ……ふぉぅっ
吐き出される暴風雪は、更に勢いを増し街の方向へと一直線に。
「……!?」
それは街を護る緑の竜巻によって阻まれた。
エウトティアが生み出した、浄化の風の結界に。
「……小賢しい、人間風情は常にあがく」
ならば、と白嶺は街の方へと歩み出す。
ずしん、ずしんと。
この場で崩れないなら、近づいて叩き潰すだけだ。
その時、人間共はどのような顔をするのだろうか。
「恐れおののき、我に慈悲を請いながら死んでいくのが目に浮かぶ」
白面に冷酷な笑みを作り、白嶺はゆっくりと街へと向かうのであった。
「ほう、そんなことがあったのか」
「厄介だね」
黒鵺、御形と合流し、猟兵達は新たに対策を練る。
エウトティアには風の結界を頑張って貰っている。
直撃されたら心許ないが、無いよりは絶対にマシだ。
今まで猟兵達は幾多のオブリビオンを相手にしてきた。
だがあのような巨大な敵は想定外だ。今までとは同じと、いかないらしい。
「黒鵺さん、神社の由来もう一度お聞かせ願えますか?」
「……ああ、いいけど?」
黒鵺がシホの頼みで、その場にいる猟兵たちに自分が聞いたことを話す。
山の悪鬼から娘を守った由来。
この地に温泉を湧かせ冬の寒さから人々を護る、神のことを。
「オブリビオンは過去の存在、なら……因縁のある温泉は弱点になるはず」
静かに話すシホ。
彼女にも確信はない。
「いいな! それやってみよう!」
静かな彼女とは対照的に、十文字が真っ先に手を挙げた。
「……え?」
「ようはお湯をぶっかけるんだろ? このままジリジリしても始まらないからやってみようぜ!」
今すぐ行こう、と言わんばかりに十文字が腰を上げる。
それを刹羅沢がすぐに制した。
「全く貴方は……。しかしシホさん、それは良い考えだと思われます。過去に囚われたオブリビオンには、伝承こそが最も有効となる」
片手で十文字を止めながら、刹羅沢もうずうずと拳を握る。
あの神だ魔王然とした面をはたきたくて仕方がないのだ。
「うむ! たかが山を相手取る程度で臆する妾らではない! むしろ的がデカい分、ボコり放題というものよ。はーっはっはっは!」
御形がすっくと立ち、敵の元へと向かおうとする。
「おい、アンタ独りでいくのかよ?」
「妾は同伴でも構わんぞ? だが撮れ高はこちらに譲って欲しいな」
「なんだよ、撮れ高って……」
「ええと、確かですね……」
御形と十文字の間に、刹羅沢が話に混ざる。
彼らの顔に悲壮といった色は浮かんではいない。
彼らは猟兵。
巨大な敵を相手にしたことは少ないが、数々の脅威をくぐり抜けてきたことは事実なのだ。
いちいちこの程度でうろたえたりはしないのだ。
肩に手が置かれ、シホが振り返る。
そこに燦の顔があった。
「それじゃまあ、リベンジといくかい?」
「ええ、そうしましょう」
鋭気万全。
猟兵達は山の悪鬼を討ちに、再び戦場へと赴くのだ。
街の近くへとついにやってきた白嶺。
風の結界によって防御膜を張る人里。
それがオブリビオンには小賢しくてたまらない。
これは報いだ。
敬意を忘れ、野に下った者達への罰だ。
こぉぉぉぉぉぉ……
息を吸い込む白嶺。
その動作が途中で止まる。
緑の風が、白嶺を拒絶するかのように勢いを増したのだ。
「我を防ごうとなどとは愚かなこと」
ひと息つくだけで、この街は白銀に染め上がる。
白嶺はそう確信していた。
ぴしっ。
「……?」
何かが顔に触れたような気がした。
白嶺は巨大すぎてそれが何かわからなかった。
それは一矢。
「荒ぶる神よ、人の世から去れ。大いなる意思の元へ還るのじゃ」
自然の敬意を忘れぬエウトティアが放った、精霊の一矢であった。
ごうっ!
竜巻が、白嶺を中心として発生する。
一巻きごとに温度を増し、それは春の訪れを感じさせる心地よい暖風を生み出した。
だが雪山の化身である白嶺にとってそれは熱風、焦熱地獄と化す。
「が、ああああっ!?」
びりびりと空気が震える。
熱波に苦しめられる白嶺の叫びは、聞く者にとって畏れを生み出す。
だはそれは、猟兵にとって戦闘開始の合図に他ならない。
「始まった」
シホの力を借り、再び上空から街と白嶺を望む燦。
あの竜巻の中でオブリビオンは吹雪の鎧を剥がされ、弱体することだろう。
そこへ自分たちの出番だ。
(狙い…龍脈が読めれば完璧なんだけどな)
温泉の地下水脈を揺さぶり、相手に浴びせる。
責任重大だ。
失敗したら、という考えが頭をよぎる。
大体の場所を予測し、そこへと狙いを定める燦。
(燦、狙いはそこではありません)
そっと、構える腕をシホが引いてくれたように感じた。
そして落ち着いた声。
見つめる場所が、彼女と一体化したように燦は思った。
「ああ、わかったよシホ!」
ありったけの全力をこめて、燦は大地へと特大の炎を叩きつけたのだった。
鈍い音を白嶺は聞いた。
顔を押さえていた両手を上げる。
鳴動。
それは彼女の立つ大地から、確かに響き感じることが出来た。
「なんだ……なんだ?」
熱に浮かされた彼女には、何が起こったか把握出来なかった。
そしてすぐに思い知らされる事になる。
地裂より吹き上がった温泉の水脈は、竜巻によって巻き上げられ。白嶺の全身へと降り注いできたからだ。
「ぎゃああああああああああっっっ!」
叫び、轟き、白嶺の身体がのけぞる。
その無防備などてっ腹に向かって、炎を纏いて槍と化した燦の突撃が、その身を真っ二つに吹き飛ばしたのであった。
どすん!
吹き飛ばされ、白き大地の枕の冷たさに、白嶺の意識が覚醒する。
「なんだ!? 何が起こった!?」
遠目に見えるは、我が身体の半身。
竜巻の中で溶けながら崩れ落ちる、自身の肉体であった。
起き上がろうと、腕に力を入れようとするが、うまく力が入らない。
それもそのはず、白嶺の身体は吹き飛ばされ、肩より上しかなかったのだから。
そして、一矢を受けた白嶺を追いかけるように、竜巻がゆっくりとこちらへ向かってくるのが見えたのだった。
「あああああああああああ!」
竜巻の中にたっぷりと蒸気をたたえ、向かってくる。
まずい。あれを受けるはまずい。
白嶺は、伏している自分の雪地を変化させ、この場を離れようとした。
「どこへ行こうというのだね?」
声をする方向に視線を移す。
そこには高笑いをする御形。
「無様無様、ひたすらにカッコ悪い。まあ、偽りの神ならそんなものかな?」
「貴様……」
吐息で雪地を撫でる。
すると雪女が生まれ、たちまち御形を取り囲んだ。
御形は嗤う。
「はーっはっはっは! さんざん粋がってくれた割には尻拭いを下々にさせるか! つまらん! 神とは、妾とは、そのような物ではないわ!」
両手を上げる御形。すると再び、梅の花が咲き乱れる。
「はーっはっはっは! 歓喜、感動、ドキドキワクワクを司る妾の世界へようこそ、山の神よ! お主は本当に運が良い! 今日は仲間も一緒であるぞ!」
御形の後方より、他の猟兵たちが雪女を蹴散らしてやってくる。
黒鵺が雪女を斬り伏せ、十文字がその間を縫い、刹羅沢が御形の傍へと降り立った。
「本当に……十文字さんに、皆さんに感謝ですよ。ここまで来るのに相当苦労したのですから」
狼の姿のまま頷く十文字。理性は大分残っているようだ。
「畏敬だなんだは解らねえが、自分以外は許さないってな了見が狭すぎねえか山のカミとやらよ!」
「おのれ……、おのれ……」
塵芥に等しい存在より説教を受けて、白嶺の冷たき身体は煮えたぎったような気がした。
「そんなの決まっておろう十文字! 此奴は神ではないからよ! ただのヒステリー女。図体だけ大きいだけの自称神よ!」
その距離を詰めてくる猟兵達。
息吹を放とうと白嶺は息を吸い込んだ。
だが時既に遅いし。
半身を蒸発させた熱風の竜巻は、すでに白嶺を範囲に含めていた。
逆風。
それは猟兵達にとって、追い風となる。
「さあ、早く全力で抵抗せんと、文字通り砕け散ってしまうぞ!」
紅い花々が暖風によって巻き上げられ、勢いよく空を舞う。
それは白嶺にとって、我が身を焼き尽くす火の粉にも見えた。
矮小な存在が自らを削り取っていくのが見える。
だが、為す術を白嶺は作れない。
「サクラ、大分たまってんなぁ!」
「ええ、十文字さんも遠慮無く。本当に叩き潰しがいがありますよ、この方は」
鬱憤を晴らすとばかりに、刹羅沢の拳が唸りをあげる。
二足歩行の獣人と化した十文字も、負けじと二刀を振るい、白嶺を削っていく。
「おのれ……おのれ……」
白嶺はそれを眺めることしかできない。
遠目には熱風にほだされた雪女の介錯を、黒鵺が務めていた。
なんということか。
なんたる屈辱か。
「人が……人風情が神に刃向かうなどと……」
「ああ?」
十文字が眼をつり上げた。その牙を向いて罵る。
「……あんたは既に歪んでるんだよ。なぁ、オブリビオン」
怒りに任せた一刀。
それは斬るというよりは消し飛ぶ技。
熱風が白嶺の身体を弱め、威を失わせているのだ。
「はーっはっはっは! やるではないかお主!」
御形が刹羅沢を賞賛する。
二人は得物を使わず、素手のみでオブリビオンの身体を叩き潰していた。
「それはどうも」
顔を動かさず刹羅沢が礼を述べる。
御形が続けた。
「どうだ、勝負といかぬか? どちらが此奴をより叩き潰せるか? わくわくお仕置きタイムよ!」
「勝負、ですか?」
刹羅沢が御形をむいた。
勝負と聞いて、その顔に笑みが浮かんでいた。
「いいですね、負けませんよ」
「良し、決まりだな!」
そんな二人に十文字が口を挟む。
「おい、待てよ! 俺も入れろよ! 羽子板のリベンジだぜ!」
「ああ、そういえば……いいですよ、勝負しましょう」
「はっはっはっ、痛快であるな!」
三者三葉、を駆逐していく。
それを憎々しげに白嶺の眼が睨んでいた。
風が止む。
戦が終わる。
大地は雪が解け、春が訪れたように地がむき出しになっていた。
何事もなかったかのような、柔らかい日差し。
冬の厳しさは去った。
猟兵達は冬の御山に勝利したのであった。
●それから~
冬空の景色は明るく、小康を保っていた。
戦果を免れた街の被害は軽微だ。
強いて言うなら、祭りを中断されたことだろうか。
仕切り直して新年を祝う祭りが開催されていた。
耳に聞こえる人々の喧噪は、先刻あった出来事をすでに忘れていそうな、そんな賑やかさがあった。
燦とシホの二人は、そんな街中を眺めながら二人で食事を取っていた。
万が一ならば修繕を手伝うつもりではあったが、その必要はなかった。
自分たち猟兵が奮戦した結果であろう。
てもちぶさたな両腕に善哉を納め、二人は語らっていた。
「すげー初詣だったけど想い出になったな♪」
「ええ、とても思い出深い初詣になりました♪」
シホの顔は明るい。
今回の件では街の人に犠牲は出なかったからだ。
箸を動かすシホの横顔は、そのことが嬉しいのだということが見て取れる。
ほう、と温かい吐息を口から出す燦。
本当に、今回は色々あった。
疲れた身体に、温かい器が身に染み入るようだ。
「来年も、初詣に行こうか」
「気が早いですね」
ふうふうと、器に息を吹きかけシホが微笑む。
その顔に否定の色は浮かんでいない。
そういえば、とシホが横をむいた。
「晴れ着、預けたままでしたね」
「ああ、そうだった。じゃあ、これ食ったら受け取りにいくかい?」
ええ、とシホは頷いた。
決まりだな。
燦もまた、頷くのであった。
十文字と刹羅沢の二人もまた、街中へとその身を休ませていた。
あんなことがあったにも関わらず、子供たちがはしゃぎ回っている。
二人はその光景に目を細めながら見守っていた。
さすがにはしゃぐ元気は残ってないのか、十文字も今は大人しい。
黙って雑煮をかき込んでいる。
彼が口を開かなければ、自分も開く道理無し。
刹羅沢もまた静かに雑煮を口に運んでいた。
「大山鳴動鼠一匹、だったか?」
「……ええ、そうですよ」
よく御存知で、という言葉を続けることはなく、刹羅沢は横を向く。
そこにはやけに神妙な顔をした十文字の横顔があった。
彼は掌をじっと見つめ、にやりと口のはしを動かした。
「アイツにとっちゃ鼠みてーな俺たちだったけど、やったんだな」
やり遂げた男の顔が、そこにはあった。
「ええ、やりましたよあたし達。まあ子年ですから、主役は我々に決まってますけどね」
ご馳走様でしたと、両手で器を拝む刹羅沢。
見れば十文字は次の器に手をつけていた。
「よく食べますねぇ」
「腹が減っては戦が出来ねえって言うだろ?」
「もう、終わりましたよ?」
小さく笑う刹羅沢に十文字は満面の笑みでこう答えるのだ。
「まだ今年は始まったばかり。まだまだこれから、オレは世界を救っていくのさ!」
祭り神楽。
そのお囃子を見つめるエウトティアと御形の顔は明るい。
形式は違えども、祝い事を喜ぶ無辜の民の姿は、彼女たちにとって好ましく写る。
「ふむ、これはなかなかじゃな」
「そうであろう。お主のセンスもなかなかだぞ」
互いに祭りの戦利品、根付などを交換し、二人は祭りの余韻に浸っていた。
どのように過ごしても、一年は過ぎる。
四季は一巡し、そしてまた新年が来る。
ずっと冬が訪れるなどとは、それは自然の摂理に外れた行いだ。
冬の後には、春が来る。
「ナトゥア、お主妾の相方をやってみるつもりはないか?」
「あいかた? なんじゃそれは」
「なあに、神と巫女の動画配信となれば、また違った信者が獲得できるやもしれんからな! ちょっとした気まぐれよ!」
「信者、のう……」
畏れる物に対する敬意。
ここに居る人々は、神社に向かってそれなりの気持ちを持っている。
あのオブリビオンはそれが欲しかったのだろうか。
ちらり、と御形の方を見る。
唯我独尊の笑顔。
他の神など知らぬ、自分を崇めよ。
その考えを前向きに持てば、アレはオブリビオンに堕落せずにすんだのではなかろうか。
ペロリとエウトティアの頬を舐めるものがあった。
それはマニトゥ。彼女といつも連れ添った友である。
「どうだ、お主がよければ今すぐには特番でも……」
乗り気な御形に向かって、エウトティアは答えた。
「すまんが断るとしよう。それに、相方はすでにおるのでな」
そう言ってマニトゥを撫でるエウトティア。
その姿に御形は何も言わず、笑う。
「構わんぞ? 妾はどこぞの狭量な輩とは違うからな、はーっはっはっは!」
雪が止んだエンパイアの空に、それは高く響いていた。
黒鵺は一人、店の暖簾をくぐっていた。
卓にあるはいくつかの小鉢と酒。
依頼は終わった。ようやく酒が飲めそうだ。
まずは一杯。
銚子に半と酒を注ぎ、ぐいと飲み干す。
なにしろ寒々とした戦いだった。
酒と温物で身体をあたためなければなるまい。
雪はとうに止んでいた。
迫るオブリビオンの影響であったのか、それはもうどうでも良い。
足りないとばかりにまた酒を注ぎ、口に入れる。
ヤドリガミ。
自分はそういう存在だ。
年月を経て、器物が意志を持った存在。
アレは御山が意志を持った存在なのだろうか。
人に忘れられることを良しとしなかった、ヤドリガミであったのだろうか。
「うどん、お待たせしましたー」
本命の品がようやく運ばれてきた。
熱々の鍋で、ぐつぐつと饂飩が踊っている。
「まあ、考えても詮無いことだな」
自分は猟兵。人々を護る者。
それが誰であろうと、仇なす輩を狩るだけであろう。
まずは目の前の、白き輩を成敗しよう。
黒鵺は箸を、饂飩へと伸ばすのであった。
大成功
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