メリィ・メロディ・メメントモリ
#アリスラビリンス
タグの編集
現在は作者のみ編集可能です。
🔒公式タグは編集できません。
|
軽い足音が風のように駆けていく。少女は息を切らして歪んだ部屋を抜けると、その先にひとつの扉を見つけて目を輝かせた。
「これで……ようやく、元の世界に……!」
少女が扉に手を触れようとした、その時。
「な、何……?」
周囲に転がっていたぬいぐるみ達がころころと音を立て、人の声のように響き始める。少女が得も言われぬ悪寒にぶるりと震えれば――その身を、大きなピアノが呑み込んで連れ去った。
●
グリモアベースに立つネルウェザ・イェルドットは、訝し気な顔で一つの楽譜を広げていた。しかし猟兵の到着に気づけば、彼女はすぐに笑みを浮かべて顔を上げる。
「集まってくれてありがとう。早速だけど、これを見てほしい」
がさり、とネルウェザはその手に握ったままの楽譜を猟兵に見えるよう掲げる。真っ直ぐな五線譜に音符が散らばったそれが何かの曲を表していることは一目瞭然であったが、その紙はあまりにも酷く汚れてしまっていた。
その汚れは、よく見れば言葉の羅列。見るに堪えないような暴言や罵倒の数々が、楽譜の内容を潰すように書き殴られていたのだ。
「……酷いよねぇ。これ、アリスが頑張って作った曲なんだよ」
でも、とネルウェザは呆れたような顔で話を続ける。
「実はこれを汚したのはオブリビオンでも何でもない、今を生きる人間達だ。事情はよく知らないけれど、まぁ……こんな事をする人々がいる世界には、私も行きたくないよ」
そう言ってネルウェザが楽譜の隅、辛うじて読める『アルマ』というサインを指差す。
「アリスラビリンスでは今、この楽譜を作ったアルマちゃんが元の世界の記憶を思い出し、帰る気力を失っている。そこに付け込んだオウガが彼女までオウガに変えてしまう前に、なんとか救い出してほしい」
しかし、元の世界に帰ったところでそこには楽譜を汚し、アルマを傷つけた人間達がいる。猟兵の中からふと、彼女をそんな世界に帰すことが本当に幸せなのだろうか、という疑問の声が上がった。
するとネルウェザはどこからともなく、同じように酷く汚れた楽譜を何枚も取り出す。
「あれだけ酷い事をされてもなお、曲を書き続けていたんだ。それだけ強く音楽を愛し、何度も立ち上がっていたのなら、きっと元の世界に帰っても不幸ばかりじゃない筈だよ」
そうあって欲しい、と少し希望を込めて。ネルウェザはグリモアを浮かべながら楽譜を畳むと、猟兵に向き直って真剣な表情を浮かべた。
「そしてこれは猟兵としての話だけど……オウガが増えれば当然、追われるアリスも増える。アルマちゃんの為、そして他のアリス達の為にも、協力してほしい」
ふわり、とグリモアが光り輝く。ネルウェザは猟兵が頷くと同時、アリスラビリンスへの転送を始めた。
●
「何あの子。自分で曲とか作っちゃって、アーティスト気取り?」
「ほんと無理ー。ねえ、またあいつの変な楽譜、汚してやろうよ」
そんな悪意に満ちた声が、広い子供部屋の中で響き続ける。しかしそこにあるのは大量のぬいぐるみと、一人の少女――アルマの姿だった。
「お前の曲なんか、誰も聴きやしない」
「懲りずにまた書いて……変な子」
ころころ、ころころとぬいぐるみは音を立て、アルマの心を抉る言葉を浴びせていく。アルマはぶるぶると震えて耳を押さえ、部屋の隅で泣き続けていた。
彼女をここから救い出そうと猟兵が一歩アルマの方へ近づけば、突如部屋に激しいピアノの音が響き出す。
ジャァァン!! と不協和音を鳴らして部屋の中央へ現れたのは、大きなピアノの姿をしたオウガだった。オウガがピアノをジャカジャカと鳴らすのに合わせ、ぬいぐるみ達の声も増大していく。アルマをこの部屋から救う為、まずはあれを倒さなければ。
みかろっと
みなさまこんにちは、みかろっとと申します。
今回はアリスラビリンスにて、元の世界に絶望してしまい帰れなくなったアリス『アルマ』を救い出すシナリオです。
第一章、アリスをさらに絶望させようと暴れ回るピアノ型オウガを倒してください。ユーベルコードの憑依以外でオウガが直接アリスを襲うことはありませんので、アリスを守る行動は取らなくても大丈夫です。
第二章の冒険、もしくは第三章の集団戦の中でアリスに希望を取り戻させ、突破できればシナリオクリアとなります。
皆様のプレイングお待ちしております。よろしくお願いいたします!
第1章 ボス戦
『人喰いピアノ』
|
POW : 死の旋律
【見えない破壊音波】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD : メメント・モリ
【自身が喰い殺したアリス】の霊を召喚する。これは【聞いた者の生命力を奪う童謡】や【生きているアリスに憑依し、操ること】で攻撃する能力を持つ。
WIZ : 闇の幻想曲
【物悲しいピアノの曲を演奏すること】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【臨死体験の白昼夢による精神攻撃】で攻撃する。
イラスト:猫家式ぱな子
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠守田・緋姫子」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
ミリア・ペイン
ふん、無為に悪意を巻き散らす連中はどっからでも沸いてくるわね
ほんと目障りだから消えて欲しいのだけど…
とりあえず今は…あの気味の悪いピアノを壊してしまいましょうか
【WIZ】《冥き深淵の守護者》
素敵な旋律ね、思わず反吐が出そうになったわ
さっさと止めて頂ける?
アリスへの憑依を避ける為に【先制攻撃】で注意を惹きつけましょう
私は守護者達の陰に隠れ【オーラ防御】で自衛を
【部位破壊】や【鎧無視攻撃】で鍵盤や内部のピアノ線を集中して攻撃
騒音の元は断ち切らないとね
奴の演奏には聞き入らない様【挑発】して自我を保ちながら抵抗【狂気耐性】
つまらない演奏を有難う、お返しに私からもプレゼントがあるわ
…死の旋律なんて如何?
ぬいぐるみ達の声がアルマを罵る中、オウガは乱暴に鳴らしていた音を散らし、少しずつ整えていく。
「ふん、無為に悪意を巻き散らす連中はどっからでも沸いてくるわね。ほんと目障りだから消えて欲しいのだけど……」
そう訝し気に呟き、ミリア・ペインが不協和音の混じるオウガの音を遮った。
「素敵な旋律ね、思わず反吐が出そうになったわ。さっさと止めて頂ける?」
しかしその言葉に耳も傾けず、オウガは歪な演奏を続ける。ミリアはそれを気味悪そうに眺めながら、『冥き深淵の守護者』を呼び出した。
「さあ行って」
ミリアの声と共に現れた死神と兎のぬいぐるみは、彼女の身を背に隠しながらオウガへと襲い掛かる。
「騒音の元は断ち切らないとね」
死神は携えた鎌でピアノ線を切り裂くように、ぬいぐるみはその大きな腕で鍵盤を潰すように。しかしそれでも鳴り止まぬ旋律が、ミリアの耳へと届き彼女を残酷な夢の中へと誘っていく。
当然オウガに情けや容赦などある訳がなく――ミリアの目に映るのは、彼女の故郷をオブリビオンが蹂躙する惨たらしい光景。
心の傷を抉ろうとオウガが見せる夢はひどく大袈裟で、それが夢であると理解するのはそう難しくなかった。しかしミリアが夢に呑まれぬよう耐え、自我を保つ中、突如オウガの鳴らす音が僅かに変わる。
同時にぬいぐるみ達はアルマを罵るのを止めると、オウガの音に合わせるようにころんころんと身を揺らす。
ぬいぐるみ達は故郷の人々を模した姿でミリアを囲み、彼女を責めるように叫び始めた。
――やがて、人々はミリアに大小様々な刃を向ける。
「あの怪物を呼んだのはお前だ」
「お前のせいだ、お前のせいでこんなことに!!」
動けぬまま、ずぶりずぶりと冷たい金属に貫かれる感覚。許さない、許さないと責める声がふと、ミリアのよく知る声へと変わりかけた――その時。
ブツン、とオウガの太い弦が切れる。
そしてミリアの目はふっと元の薄暗い子供部屋を映し、すぐに死神と兎のぬいぐるみの背を捉えた。
くるりとその顔が振り向けば、先程までの光景を偽りの夢だと諭すような暖かな気配を感じる。
気の所為かしら、と瞬いて、ミリアは未だ音を鳴らそうとするオウガへと視線を移した。
「つまらない演奏を有難う、お返しに私からもプレゼントがあるわ……死の旋律なんて如何?」
直後、死神とぬいぐるみがオウガの身体に深い傷を刻み込む。オウガは響板から覗く舌をぶるりと震わせ、のたうち回るように旋律を乱すのだった。
大成功
🔵🔵🔵
紫・藍
あれはなんだ? 鳥だ! 飛行機だ!
いえいえ藍ちゃんくんとそのステージなのでっす!
というわけでっしてー
ステージ落としでピアノやぬいぐるみを下敷き黙らせ狙いつつ登場なのでっす!
陰湿なお部屋のリフォームなのでっすよー?
こういういじめには藍ちゃんくん、思うとこ、あるのでっしてー
後々音楽を馬鹿にするのも許せませんのでー
アルマのおじょーさんの曲をそれでも確かに奏でてみたいと思った者がいるのだと、そうお伝えしたいので
読み取った楽譜を演奏しちゃうのでっす!
闇の幻想曲に対しては歌と演奏で曲調を変えて対抗するのです!
物悲しい曲だからといってそこから立ち上がる歌を載せれないわけではないのでしてー
光の幻想曲なのです!
オウガは切れた弦を棄て、割れた鍵盤を無理矢理に叩き不協和音を鳴らし出す。ぬいぐるみ達の声も調子を取り戻しかけたその時、空中に現れた何かが薄暗い子供部屋を眩く照らした。
ぬいぐるみ達は上を見つめ、何だ何だとざわつき始める。
浮いてる、飛んでる。鳥か飛行機か、それとも――
「――藍ちゃんくんとそのステージなのでっす!」
それは突如質量を持ち、ずどぉん!! と大きな音を立てて床に落下し衝突する。ぬいぐるみとオウガを圧し潰して現れたのは、メルヘンな雰囲気に飾られた巨大なステージと、そこに立つハイテンションな猟兵、紫・藍だった。
思わず泣いていたアルマも顔を上げ、赤く腫らした目を見開く――がしかし、彼女は未だぽつぽつと続く罵倒に耳を塞ぎ、再び俯いてしまう。
勝手な理由で寄って集って、理不尽な言葉で一人を罵る。そんないじめは勿論、音楽を馬鹿にするのも許せない。藍はそう言いたげな表情でステージの前方に向き直ると、ふんわりと可愛らしいドレスを揺らして息を吸い込んだ。
藍はぬいぐるみ達の声も、どうにかステージの下から抜け出して再び演奏を再開しようとするオウガの音も掻き消すように歌い始める。
すると、紡がれる旋律にアルマの泣く声が止んだ。
「……!!」
それは間違いなく、自分が何時間も、何日もかけて書いた曲そのもの。誰にも聴いてもらえず、罵られ、楽譜をボロボロにされた筈の曲だ。
アルマは目の前でそれを歌う藍の姿に、ぬいぐるみの声も聞こえていない様子で目を輝かせていた。
オウガが負けじと激しくピアノを掻き鳴らせば、藍はそれをも曲の中に組み込むようにアレンジを加えていく。
明るいステージがふと暗く変わり、自分を罵り傷つけようとする人々の幻影を見せられてもなお――彼は、さらにそこから立ち上がる歌を歌い続けた。
「光の幻想曲なのです!」
藍の視界はすぐにきらきらと輝くステージを取り戻す。彼の歌が終わると共にぬいぐるみの声がアルマを襲い始めるが、心なしかそれに怯える声が落ち着いたような気がした。
成功
🔵🔵🔴
スキアファール・イリャルギ
アドリブ・連携OK
存在感を消してアルマさんに近づきたい
出来るなら、傍に
庇う必要はないでしょうが、
どうにもこの光景が他人事とは思えないんで
……辛い、よな
自分が好きなことを拒否されるのは
――大丈夫
(触れられるなら、彼女の頭を一撫で)
それにしても、
(しかめっ面で耳塞ぐ)
喧しいったらありゃしない
今更物悲しい曲に切り替えても無駄ですよ
そこのぬいぐるみが雰囲気ぶち壊してるんですから
ピアノと、ぬいぐるみも指定対象だ
とりあえず黙らっしゃい
音楽を奏でるなお喋りをするな、醜いんだよ
そして――潔く消えろ
敵が動きを止めてる間に
その辺のぬいぐるみを炎(属性攻撃)で燃やして
ピアノの口にありったけ投げ入れてやります
気持ち悪い、つまらない。そんなぬいぐるみ達の言葉が、光を取り戻しかけたアルマの気分を沈めていく。
――そんな中、ふと。
ぬいぐるみとは違う声が、アルマの耳を過ぎる。
「……辛い、よな。自分が好きなことを拒否されるのは」
大丈夫、とスキアファール・イリャルギがそっと声を掛ける。彼は慰めるように、そして寄り添うようにアルマの頭を優しく撫でた。
オウガが直接アルマを喰おうと牙を剥かないとはいえ、暗く歪な音楽と罵倒の声に囲まれる彼女の姿をスキアファールは見過ごすことが出来なかったのだ。
「それにしても、喧しいったらありゃしない」
アルマから視線を外し、スキアファールは苛立ったように耳を塞ぎ周囲のぬいぐるみに顔を顰める。
「音楽を奏でるなお喋りをするな、醜いんだよ」
そう言い放った彼の周囲では、げらげら嗤う声やアルマを罵り虐げる声、それを支えるガタガタのピアノの音が響き続ける。音楽と言うには不快過ぎるその音に、雰囲気も何もあったものではなかった。
しかしオウガ達の音は、スキアファールの耳に届くや否や彼の感覚を惑わし始める。少しずつ首を絞めるような嫌な気配が這い回る中、スキアファールはそれを掻き消すようにユーベルコードを発動した。
彼はオウガとぬいぐるみ全てを捉え、鋭く息を吸い込む。
「踏鞴を踏め」
直後、部屋の空気が震える。アルマがスキアファールの口元を見れば、それは確かに何かを紡いで動いていた。
なのに、アルマの耳には何も聞こえない。彼女が自らの聴覚を心配してふと首を傾げたその時、周囲のぬいぐるみ達がぶるりと震えて身を傾けた。
そして、オウガも。大きく歪み凹んだ脚をふらつかせ、スキアファールが口を動かす度にぐらりぐらりと左右に転ぶ。
「――潔く消えろ」
そんなスキアファールの声が、アルマの耳にも届けば。
平衡感覚を狂わされ、立ち上がることもできないぬいぐるみをひとつスキアファールの手が掴む。突如ぬいぐるみは激しい炎に呑まれながら、オウガの口へと一直線に投げ放たれた。
更に二つ、三つとスキアファールはぬいぐるみを掴んでは燃やし、オウガの口に放り込んでいく。
オブリビオンといえどピアノの姿をしたそれは、内側から燃える痛みに耐えかねてか、悲鳴のように激しく弦を叩き鳴らすのだった。
大成功
🔵🔵🔵
ファルシェ・ユヴェール
人は自身と違うものを怖れ、排除しようとする
……よく、知っていますよ
悠然と踏み入り
何時もの笑みで取り出すのは磨かれたガーネット
呼び出すは柘榴石の瞳の翼竜、ヴィーヴル
物悲しいメロディに僅かに目を眇めるも
迷わず翼竜を嗾けて
……私に構わず
夢抱く少女を苛むあの「ピアノ」を壊して下さい
死の白昼夢など、今更です
何度死にかけた事やら……私が居たのはそういう世界
親にして領主たる吸血鬼の許にいた日々も
領民達に呪われし半魔の子と謗られ、今のうちに殺せと叫ばれ逃げ出した時も
ええ、よく生きていたものです
……しかし
慣れたものと云えど、気分のよいものではありません
翼竜の後から近付き杖を叩き付ける
その「音」を、閉じさせようと
煩い声と乱暴なピアノの音、そして少女の嗚咽が響く部屋へ、ファルシェ・ユヴェールが悠然と足を踏み入れる。
「人は自身と違うものを怖れ、排除しようとする……よく、知っていますよ」
そう、何時もの笑みを浮かべて。しかし彼の声は僅かに低く、ぬいぐるみ達を見つめる目は決して明るいものではなかった。
そしてその手に輝くガーネットへ、ファルシェはユーベルコード『Versteckte Geschichten』の魔力を伝わせる。深紅の石から呼び出されるのは、同じ輝きの瞳を持った翼竜ヴィーヴル。
大きな翼が羽搏くと同時、薄暗い部屋は鮮やかな赤い光に照らされた。
ふと、オウガが鳴らす音が不安定ながらも纏まっていく。暗く物悲しいメロディにファルシェが僅かに目を眇めれば、翼竜がくるりと彼の方を振り向いた。
「……私に構わず、夢抱く少女を苛むあの『ピアノ』を壊して下さい」
ファルシェがそう告げれば、翼竜は頷くようにひとつ瞬く。滑る様に一直線、その牙がオウガの元へ向かう中で――ファルシェの周囲にぬいぐるみ達がぞろぞろと集まり、彼の視界を夜闇で覆った。
暗がりの中で薄ぼんやりと、煩い人の声と悲し気なピアノの音が耳に纏わりつく。やがて視界が晴れれば、蔑み憎むような目で自分を睨む人間達の姿に気づいた。
「……死の白昼夢など、今更です」
――寧ろ、夢であった方が良かっただろう。
ファルシェを囲み謗るのは、彼の親である吸血鬼が領主として治めていた地の民達。彼等は武器を握る手に力を込めて、何かを叫びながらファルシェに襲い掛かった。
頭が割れるような音の波は、混じり合いながらはっきりとした言葉になる。
「――殺せ! 今のうちだ!!」
「早く殺せ!!」
映画の背景音楽に似たピアノの音が拍車を掛け、ファルシェは操られるように領民達から逃げ出していく。
記憶をなぞる光景の中、僅かに心音が激しさを増したその時。
柘榴石の輝きがファルシェを照らし、その意識を現実へと引き戻した。
ファルシェが顔を上げれば、そこは元の子供部屋。奥では翼竜がオウガを押さえ付け、ピアノの音を乱しているのが見えた。
あの夢も今は慣れたものとはいえ、決して気分の良いものではない。
再びあの旋律が響く前にその『音』を閉じるべく、彼はオウガの響板へと杖を叩き付けた。
大成功
🔵🔵🔵
空亡・柚希
アドリブ・連携等お任せします
……聴くに堪えない音。君(オウガ)も、あの子の楽譜に書かれてしまった悪意も。
音楽を、それを好きでいたひとを……馬鹿にするなんて。許せないよ
〈目立たない〉所で《Heartless》を使い、銃器を生やした片手をオウガへ向ける
武器自体は命中精度に重点を置こう
破損の一番大きな個所を更に追い打ちできるように、昔の知識と技能でその場所を探す(〈メカニック〉〈情報収集〉〈視力〉)
見つけたら、〈傷口をえぐる〉ように〈誘導弾〉を使うよ
音波は見えなくとも、周囲のぬいぐるみの動き(と〈第六感〉)で早めに察知できたらいいな
波との間にぬいぐるみを挟むようにしてダメージの軽減を図る
オウガが喚くように弦を震わせる中、ぬいぐるみ達は焦る様に声量を上げてぞろぞろとアルマを囲んでいく。
「本当にしぶとい子。いい加減諦めればいいのに!」
「元の世界に帰っても、お前に良い事なんか一生起きないよ」
その言葉に、びくりとアルマの肩が震える。
――そうだ。元の世界に帰ったって、こうやって酷い事を言われて、また楽譜を汚されるんだ。
アルマは赤く腫れた瞼を擦り、再び頬を濡らす。そうしている間にもぬいぐるみはアルマの周囲に積み上がり、声を重ねていった。
空亡・柚希は目を細め、少女を絶望に堕とさんと暴れるオウガへと静かに呟いた。
「……聴くに堪えない音。君も、あの子の楽譜に書かれてしまった悪意も」
柚希はそっと、自らの手を小さく撫でて。
「音楽を、それを好きでいたひとを……馬鹿にするなんて。許せないよ」
しかし彼の声に耳も貸さず、オウガは弦が切れてガタガタになった身体を大きく振り回す。そこからピアノらしい音など最早出るはずもなく――鳴り響くのは、ただ耳を劈くような爆音のみ。
それが段々と音量を増していく中、柚希はユーベルコードを発動した。
「……あまり、多用はしたく無いんだけど」
すっ、と片手を上げれば、柚希の腕は銃器となってオウガを狙う。大きく破損し、生々しい舌の覗く響板へと銃弾を撃ち込めば、オウガは分かりやすくガタンとよろけて転がった。
続けて追い打ちを、と柚希が再び狙いを定める。が、ふと彼は周囲のぬいぐるみが不自然に移動しているのに気づいた。
オウガの方へ視線を移せば、切れた弦が思い切りおかしな方向へと引かれているのが見える。嫌な予感に柚希が一度後退った直後、ドン!! と凄まじい衝撃波が部屋を震わせた。
「……!!」
オウガは再び弦をギリギリと捩り、柚希の方を向いて揺れる。咄嗟に柚希が大きめのぬいぐるみに身を潜めると同時、ピアノの音とは思えないような轟音が鳴り響く。
何度目かの静寂に柚希はぬいぐるみの陰から飛び出すと、先程狙った響板に向けて一気に誘導弾を撃ち込んだ。
ガガガガッ! と弾丸はオウガの舌だけでなく、その内側に刻まれた傷やヒビの中へと潜り込む。
それが炸裂すれば遂に、オウガの身体は大きく砕け散り――アルマを囲んでいたぬいぐるみ達もがくりと力を失ってしまった。
成功
🔵🔵🔴
第2章 冒険
『人形部屋大走査線』
|
POW : 部屋中の物を引っ繰り返す勢いで探す
SPD : 部屋の調度品を手掛かりに探す
WIZ : 部屋に置かれた人形を手掛かりに探す
イラスト:伊瀬井セイ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「助けてくれて、ありがとう……でも、帰りたくない。私思い出しちゃったの。幾ら書いても返ってくるのはひどい言葉ばっかり。さっきまでの状況と、何も変わらない」
沢山のぬいぐるみの中心で、アルマが声を震わせる。
「変わらないなら、もうここに残る。私が住んでた部屋にそっくりだし、もうぬいぐるみも喋らないなら……もう、ずっとここで暮らして、ここで死ぬわ」
アルマはこみ上げてくる感情を抑えきれず、再びわんわんと泣き始めてしまう。
彼女の背からはチリリと赤い何かが漏れ出しており、オウガへの変異が始まりかけていることを示していた。
時間はあまり、残されていない。
だが、ここがアルマの部屋――彼女の記憶から再現された部屋であるならば、何度も曲を完成させるほど心の支えになっていた『何か』があるのではないだろうか。
アルマが思い出していない、元の世界の『楽しい記憶』を見つけ出せば、彼女に希望を持たせられるかもしれない。
スキアファール・イリャルギ
彼女がいかに音楽と出会い、
曲を作り始める切っ掛けが生まれたかを探りたい
だから探すのは楽譜
アルマさんが書いた物ではなく、『誰か』の、です
探せたらアルマさんの傍で歌ってみます
歌詞がなければ「ラ」だけでいい
良い曲ですね、誰が書いた曲なんでしょうか
……私は、小さい頃からこんな姿だから
歌う度に呪いの歌だ、気色悪い、歌うなと罵られました
それでも歌い続けたのは、歌うことが何よりも大好きだから
その気持ちに嘘をつきたくないから
転送前に見た楽譜の歌を歌いましょう
あなたの傍で、何度も、何曲も
だって、あなたが書いた曲はこんなにも素敵じゃないですか
もっと誇っていいんですよ
だから……だか、ら、
ここで死ぬなんて、言わないで
ぬいぐるみだらけの部屋の中で、スキアファール・イリャルギはちらちらと見える紙切れに目を凝らす。彼が探しているのは楽譜――だったが、アルマが書いた曲を記したものではなかった。
アルマが音楽を愛し、曲を作る切っ掛けとなった『彼女が一番最初に出会った曲』。スキアファールがそれを思い浮かべてぬいぐるみの間へと手を伸ばせば、それは不思議とすんなり見つかった。
その楽譜には作者の名前も、歌詞もない。それでも彼は五線譜の上で踊る黒点に意識を集中させ、ユーベルコードの力を乗せた声で歌い出した。
「――」
咽び泣くアルマの声がふっと止む。彼女は僅かに呼吸を乱したまま顔を上げ、信じられないといった様子でスキアファールの顔を見た。
「それ……『あの子』の……」
ぽつりとそう呟き、アルマはスキアファールの声に聴き入る。背から漏れ出していた赤は次第に収まり、少しずつ泣き腫らした目が光を帯びていく。
スキアファールは楽譜の終わりに辿り着くと、それを畳みながらアルマの元へと歩み寄った。
「良い曲ですね」
その言葉に、アルマがこくこく頷いて微笑む。スキアファールはアルマに楽譜を手渡して、少し目を伏せながら語った。
「……私は、小さい頃からこんな姿だから……歌う度に呪いの歌だ、気色悪い、歌うなと罵られました」
ぴくり、とアルマが眉を動かし反応する。しかし彼女は何も言わず、スキアファールの話の続きに耳を傾けた。
「――それでも歌い続けたのは、歌うことが何よりも大好きだから。その気持ちに嘘をつきたくないから」
そして彼は細く息を吸って、アルマの傍で再び歌い出す。それは先程とは異なる旋律、この場へと転送される前に見たアルマの曲だった。
それは一曲だけでなく、次々に違う曲へ。少しアルマが照れ臭そうに止めようとすれば、スキアファールはゆっくり首を振って歌い続ける。
「だって、あなたが書いた曲はこんなにも素敵じゃないですか。もっと誇っていいんですよ」
覚えている限り、歌える限り。スキアファールは何度も何度も歌を繰り返し、そしてアルマと目を合わせた。
「だから……だか、ら」
彼は感情に声を詰まらせ、続ける。
「ここで死ぬなんて、言わないで」
その言葉が静かな部屋に響けば、アルマの目には悔しさや悲しさではない暖かな涙が浮かぶ。
アルマの頭の中では、音楽に出会う切っ掛けとなった『誰か』、そして彼のように優しい声を掛けてくれた『誰か』の存在が、少しずつ蘇っていた。
大成功
🔵🔵🔵
ファルシェ・ユヴェール
アルマさんの近くに静かに腰掛け
あの楽譜の、彼女の書いた旋律を何とか読み取ろうと目を凝らして
…学んだのは結構、昔の事なもので
やや辿々しいものの、拾った旋律を口に乗せる
先程
私が辿り着く僅か前に流れていた旋律、聴こえておりました
また聴きたいと
他の曲も聴いてみたいと、そう思いまして
そう語りかけ
取り出す石はジャスパー
信念と情熱の石
アルマさんにも見えるように魔力を込め、小鳥に変えて放す
小鳥の視点で部屋を見渡して
彼女が使っていたはずの楽器などは無いでしょうか
名を綴られた創作物に篭るのは作者の想い
穢され辛くない筈もない
けれど音を綴り続けた気高き音楽家の旋律
誰にも聴かれず閉ざすのは
それは、寂しくはありませんか
一枚の汚れた楽譜を手に、ファルシェ・ユヴェールがアルマの近くにそっと腰掛ける。彼は何とか旋律を読み取るべく目を凝らすと、拾った音をやや辿々しい調子で歌い出した。
「……学んだのは結構、昔の事なもので」
そうファルシェが小さく零せば、アルマの顔が少し緩む。
――それでも私の曲を見て、歌おうとしてくれている。
彼女は少し恥ずかしそうに、そして嬉しそうに服の裾を握りながら、ただファルシェの紡ぐ音を聴いていた。
やがてその楽譜の端までを歌い終えれば、ファルシェは小さな一礼の後にささやかな拍手を浴びる。ありがとう、と微笑むアルマに向き直り、彼は静かに語りかけた。
「先程……私が辿り着く僅か前に流れていた旋律、聴こえておりました」
猟兵の力もあったとはいえ、それはアルマの書いた――オウガの音をも呑み、ステージを彩った曲。思い出して更に顔を赤らめるアルマに、ファルシェは更に続ける。
「また聴きたいと……他の曲も聴いてみたいと、そう思いまして」
言葉が途切れ、彼の手が一つの石を取り出す。
知識の浅いアルマも思わず見惚れるような深い赤がユーベルコードの光を纏えば、その宝石『ジャスパー』は小鳥の姿へと形を変えた。
「その輝きを空へ」
呟き、小鳥を羽搏かせる。ファルシェの掌を離れた小鳥は部屋の中を小さな翼で飛び回ると、隅に積まれたぬいぐるみの山へふわりと降り立つ。
信念と情熱を意味する石、それを核にする小鳥が示した場所には――よく手入れされたヴァイオリンの姿。
「……!!!!」
その瞬間、アルマは目を見開き、小鳥を追うように走り出す。ぬいぐるみに足を取られそうになるのも気に留めず、彼女は真っ直ぐヴァイオリンに手を伸ばした。
繊細な楽器が壊れぬよう優しく、そう思いながらも強く強くそれを抱くアルマ。それが彼女が愛用していたものであることは、最早語るまでもない。
ファルシェは彼女の元へと歩み寄りながら、汚れつつもはっきりと『アルマ』の名が記された楽譜を再び広げる。
「名を綴られた創作物に篭るのは作者の想い、穢され辛くない筈もない……けれど」
彼は暴言の横切る五線譜の中、文字や汚れの下でも屈することなく、確かに読み取れる音符を指差して。
「音を綴り続けた気高き音楽家の旋律。誰にも聴かれず閉ざすのは――それは、寂しくはありませんか」
そう言って、ファルシェは楽譜を手渡す。アルマは楽器と共に置かれていた譜面台へとそれを立てると、ファルシェに小さく笑いかけた。
「貴方が歌ってくれた私の曲、今度は私が……私自身が、奏でるから」
アルマはそっと弓を構え、滑らかに手を動かす。艶やかな音が部屋に響けば、ふと彼女の肩に――ジャスパーの小鳥が止まった。
大成功
🔵🔵🔵
空亡・柚希
(きゅ、と手首を掴み)
……本当に、曲を嬉しく思う人はいなかったのかな。
ぽつりと問うように零すけれど、返事は強いるつもりはない
思い出せないのなら、きっかけ探しが先だろうね
探す前に一言、断りを入れてから
性格上、ひっくり返すというよりは虱潰しに几帳面に探していく
曲を書くのに必要だろうと思い、棚と机を中心的に
書くようになったきっかけは何だろう。目指していたものはあったのだろうか。
……ぬいぐるみ達は、彼女の過去の何を表していたのかな。オウガの用意した、悪口を言うだけの子?そうじゃない子はいるのかな……。それも小さく気にしつつ。
オウガの力でぬいぐるみ達が吐いていた言葉は、どれもアルマと彼女の曲を貶し、嫌っていた。空亡・柚希はきゅ、と自らの手首を掴み、ぽつりと問うように零す。
「……本当に、曲を嬉しく思う人はいなかったのかな」
いたような、いなかったような。アルマがそう答えに迷えば、柚希は返事を無理に強いることなくゆっくり首を振る。
ならば彼女の記憶を再現したこの部屋から、思い出すきっかけを探すのが先だろう。柚希はそっと部屋を見渡しながら、未だ頤に指を添えるアルマに声を掛ける。
「少し、部屋を探しても良いかな?」
するとアルマがはっと顔を上げて頷く。柚希は軽く礼を述べ、紙やペンの散らばる机へと手を伸ばした。
積み上げられた本や楽譜を一つ一つ虱潰しに広げ、隅々まで探し回る。柚希がその手に求めるのは、アルマが曲を書くようになったきっかけ――それを”確実”に思い出す為の品だ。
机の上に見つからず、柚希の手は隣の棚へ。きし、と異音のする手首を再び掴み、彼はユーベルコード『Mute』を発動した。
並ぶ本の背表紙を指でなぞりながら、彼はじっと目を凝らす。
ふと柚希の視線が棚から一瞬外れると、そこには沈黙するぬいぐるみが転がっているのが見えた。
アルマに酷い言葉を浴びせていたぬいぐるみ達は、彼女の過去の何を表していたのだろうか。彼女にここで死ぬとまで言わせた彼等の存在は、本当に元の世界で彼女を囲む人々の全てなのだろうか。
そんな事を気にしつつ、柚希の目が再び棚に戻ったその時。
――ひらり、と棚から一枚の紙が落ちた。
柚希は紙を拾い上げ、記された文字を読み取る。それはどうやらアルマに向けられた手紙のようであったが、楽譜の汚れやぬいぐるみ達の声とは違い、彼女への励ましと称賛の言葉が綴られていた。
柚希の指のそば、手紙の一番下に記された『ステラより』の文字。それが手紙の差出主の名前だと理解すれば、すぐに柚希はアルマの元へと足を踏み出した。
アルマは柚希がそれを差し出す前に、はっと目を見開いて駆け寄る。そして彼女は手紙を受け取り、記された名前を思い出すように繰り返した。
「……そう、あの子の歌が好きで、私も曲を作ろうって……幾ら馬鹿にされても、ステラはずっと味方でいてくれた。あのぬいぐるみみたいな酷い人ばかりじゃ……なかったんだわ」
ぼろぼろと再び涙を零し語るアルマは、柚希に向かって震える声で礼を述べる。そして手紙をぎゅっと握り、それを噛み締めるように黙り込むのだった。
大成功
🔵🔵🔵
紫・藍
あやや、思い出の『何か』でっすかー
木を隠すのなら森の中
喋るぬいぐるみという形でおじょーさんが追い詰められ、結果、おじょーさんが喋るぬいぐるみを嫌いになった……
ぬいぐるみが喋らないならそれでいい、と思うようになった……
そこまで全てがオウガたちの計画通りだとしたら、おじょーさんの思い出の品というのも喋るぬいぐるみ――なんらかのメッセージや音が再生できるぬいぐるみなのではないでっしょかー?
例えば亡くられたご両親からの誕生日おめでとうの歌が録音されたなどのようなー
というわけなのでっしてー!
黒衣さんたちも呼んで、しめしめと黙っているぬいぐるみの中、逆に音のなる機能を持つぬいぐるみを探してみるのでっす!
「あやや、思い出の『何か』でっすかー」
紫・藍は部屋を見渡し、これでもかと転がるぬいぐるみ達に目をつける。可愛らしい動物や少女を模したそれらは、きっとアルマの辛い記憶――周囲の人々から暴言を吐かれ、見下される様を再現していたのであろう。
現にアルマは喋るぬいぐるみに怯え、そして嫌い、もう喋らないのならそれでいい、とまで言い出してしまっていた。
――そこまで全てがオウガたちの計画通りだとしたら?
「というわけなのでっしてー!」
木を隠すなら森の中。藍はユーベルコードを発動し、『藍ちゃんくんの舞台を支えるすっごい方々!』を部屋へと呼び出す。周囲のぬいぐるみに紛れるようなふわふわの生地を纏った黒衣達は、薄暗い部屋に溶けるように散っていった。
藍も部屋を動き回るが、ぬいぐるみはひっくり返されようが退かされようが黙ったままぴくりとも動かない。
しめしめ、と藍が一際大きなぬいぐるみを退かそうとした、その時であった。
「……とう、アルマ」
ガサガサとノイズを混ぜた声が響く。おや? と藍がもう一度ぬいぐるみの腹を押せば、ぬいぐるみは先程よりもはっきりとした声を発した。
「誕生日おめでとう、アルマ。これ、ずっと欲しがってたよな」
そんな落ち着いた男性の声の後、わいわいひゅーひゅーと幼い少年少女の騒ぐ声。
藍が後ろを振り向けば、少し離れた場所に立っていたアルマがヴァイオリンを片手に目を丸くしていた。
「お、父……さん……」
そう声を震わせるアルマに、藍はぬいぐるみをぐっと持ち上げて笑う。
「これがおじょーさんの『思い出の品』でっすねー?」
藍がそう問えば、アルマは激しく頷いてぬいぐるみにぎゅっと抱き着く。記憶が蘇ると同時に沢山の感情が溢れかえり、アルマの顔はくしゃくしゃになっていた。
そこへ、更にもう一つ――いや、二つ、三つと。
「おめでとう、アルマ!」
「ハッピーバースデー! ほら、早く早く!」
「ええと……それじゃあ皆で、せーの」
それは聞いた事のない歌。しかし、先程彼女の歌を歌い上げた藍にはそれが何なのかすぐに予想が付いた。
黒衣が集めた小さなぬいぐるみ達は、大人びた女性や小さな子供、掠れるような老人の声で同じ歌――アルマの曲に祝福の歌詞を乗せた歌を歌い出す。ひとしきり歌った後に、幼いアルマの『みんな、ありがとう』という声が流れれば、そこでぷつりとぬいぐるみの音が切れた。
大成功
🔵🔵🔵
ミリア・ペイン
…
(抱いた熊のぬいぐるみを見せ)ねえこれ見て、私が初めて作ったのよ…少し不格好でしょ?
でもね、家族の皆が上手だねって褒めてくれて…とても嬉しかったの
ねえ、どんな音楽が一番好き?どうしたら素敵な曲を作れるの?
些細な事で構わない、私に教えて?
ぬいぐるみが喋ってくれないって言ってたわね
何処かに大切な子が隠れているのかしら?…私が見つけてあげるわ【第六感】
この可愛い人形かしら?それとも…ふふ、このへんてこなぬいぐるみ?
今は辛いかもしれない…でもそれ以上に楽しい思い出もたくさん会った筈
貴女の傍らで励まし、微笑んでくれたのは誰?
音楽を始めたきっかけは何?
ゆっくりでいい、思い出して…貴女の本当の想い、願いを
「ねえこれ見て、私が初めて作ったのよ」
その声にアルマがふっと顔を上げる。布の継ぎ目や糸の目立つ熊のぬいぐるみが視界に入り、彼女は不気味、という感想をぐっと胸に押し込んだ。
声の主、ぬいぐるみを抱いていた猟兵ミリア・ペインは表情を変えぬまま言葉を続ける。
「……少し不格好でしょ? でもね、家族の皆が上手だねって褒めてくれて……とても嬉しかったの」
――ミリアは僅かに、声色を明るくして。
「ねえ、どんな音楽が一番好き? どうしたら素敵な曲を作れるの? 些細な事で構わない、私に教えて?」
アルマは質問に圧されるように後退りつつ、言葉を探す。
少しずつ思い出してきた記憶――音楽を教えてくれた友人のこと、小さい頃に揃って祝福し曲を褒めてくれた家族のこと。
しかし、ミリアに向けてそれを語っているうちにふと、彼女は表情を曇らせた。
「……やっぱり元の世界に戻ったら、また酷いことを言われるのよね」
そうアルマが呟き、ぬいぐるみの山に目を向ける。あれが本当に彼女の記憶を再現したものであり、同じ数だけ彼女を貶す人々がいるのだとすれば、まだ年若いアルマにとってはかなりの壁となっているのだろう。
しかし、確かに彼女は自分の味方がいたことを思い出している。ならばあのぬいぐるみの山の何処かに、その味方が隠れているのではないだろうか。
「……なら、私が見つけてあげるわ」
ミリアはそっと歩き出すと、自らの勘を頼りにぬいぐるみの山をかき分ける。
「この可愛い人形かしら? それとも……ふふ、このへんてこなぬいぐるみ?」
一つ一つ拾い上げながらミリアは問う。アルマはどれもピンとこない様子であったが、彼女が桃色のクマのぬいぐるみを手に取った瞬間、僅かにぴくりと反応していた。
それは特別話すこともなく、動く様子もない。ふわふわの生地はかなり年季が入っており、黒ずんだ背中のタグには小さく『アルマのおともだち』と書かれていた。
――これが大切な子かしら。ミリアはそのクマを自分のクマと一緒に抱き、アルマの元へと戻っていく。そして桃色の方をアルマに差し出すと、ミリアは囁くように言葉を紡いだ。
「今は辛いかもしれない……でもそれ以上に楽しい思い出もたくさんあった筈」
ミリアは先程アルマが語っていた友人や家族――傍らで励まし微笑んでくれた人、音楽を始めるきっかけを生んだ人の存在を確かめさせるように問う。
アルマは答えながら目を伏せ、手に握ったぬいぐるみを見つめていた。
「ゆっくりでいい、思い出して……貴女の本当の想い、願いを」
ミリアの言葉に、アルマは少し考え込む。
その口から答えが出るまでミリアは何も言わぬまま、傍で静かに見守っていた。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 集団戦
『鬼面蟲』
|
POW : 増蟲
自身が戦闘で瀕死になると【宿主の体内で成長した鬼面蟲】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
SPD : 操蟲
【宿主の身体能力】を一時的に増強し、全ての能力を6倍にする。ただし、レベル秒後に1分間の昏睡状態に陥る。
WIZ : 宿蟲
【宿主を捨て、頭部への飛びかかり、腹部】から【対象の喉奥へ産卵管】を放ち、【窒息と脳への侵蝕】により対象の動きを一時的に封じる。
イラスト:塒ひぷの
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
「大丈夫……大丈夫、よね」
アルマは涙で濡れた頬をぐしぐしと拭いて、ようやく口を開く。
「元の世界で貶されて、馬鹿にされても……大事な人や楽器が、私を支えてくれる」
だから、また抗う。きっと再び、『好きなこと』の為に立ち上がれる。
――否、絶対に立ち上がる。
アルマは先程までの弱弱しさとは一変、堂々とした笑みでそう言い切ると、改めてありがとうと猟兵に深く頭を下げた。
ならば後は帰るだけ。自分の扉なら見つけたばかりだ。
アルマがその方向へ再び踏み出した、その瞬間。
「帰ラセないよ、帰らせなイよ」
ひた、ひたと響く足音。思わずその場の全員がその音の方を見れば、そこには人間の少年少女――の顔にしがみつき、禍々しい姿でケタケタと笑うオブリビオンの姿があった。
「みんなシンだ。みんな喰ワレてしんだ」
「どうせおまえモいつか死ぬ。だっタラここで、同じくシんでしまえ」
彼等はアルマに手を伸ばし、彼女を群れの中へ引き摺り込もうとしている。アルマを無事『自分の扉』へ辿り着かせる為、彼等を倒さなければ。
スキアファール・イリャルギ
アルマさん、あなたの曲を、
あなたが奏でる音色の中でもう一度歌っていいですか
先程の演奏で、曲に合った歌い方や声質がわかったんです
アルマさんを背に庇い
音楽への愛と歌への欲求で生んだ黒霧で
彼女を敵から隠し護りましょう
大丈夫、演奏を続けてください
黒霧が勝手にやっててくれます
力が増強された敵とまともに戦う気なんて端からない
狙うのは時間切れ、一分の昏睡
時が来れば黒霧が蟲を潰すでしょう
一分なんて蹂躙するには充分すぎる
静かに終わらせてくれよ
――私が歌い続けるもう一つの理由
私は言葉を信用できないから行動で示したいんです
気持ちを歌に込めて、手紙のように
作曲者へ「素晴らしい音楽をありがとう」と
あなたに届いてるかな
「おマエも喰われろ、喰ワレろ!!」
喚きながら、人の頭が在るべき処でかさりかさりと蠢く鬼面蟲。ホラー映画ばりの迫力と不気味なリビングデッドの群れに、アルマの足は竦んでしまっているようだった。
そんな彼女を背に庇い、スキアファール・イリャルギが手を差し出す。
「アルマさん、あなたの曲を、あなたが奏でる音色の中でもう一度歌っていいですか」
その言葉に、アルマの意識が鬼面蟲達から外れる。そして大事そうに抱えたヴァイオリンを見つめると、彼女は強く頷いて楽器を構えた。
――弓が軽く揺れ、すっ、と二つのブレスが重なる。
高いヴァイオリンの音色とスキアファールの歌声が響き、鬼面蟲達が引き寄せられるように群がった。
一瞬、アルマの手が止まりかける。しかしスキアファールは大丈夫、と囁き――周囲へと手を向けた。
「演奏を続けてください。黒霧が勝手にやっててくれます」
ふわり漂う黒霧、その中に揺らぐ不思議な幻影。鬼面蟲達はそれに惑わされ、大きく拳を空振りさせるのみとなっていた。
アルマの演奏は安定し、僅かに生じていたスキアファールとのズレが消えていく。スキアファールは抑揚や声質を曲に合わせて調整しながら、黒霧――ユーベルコード『シング・カーマ』の力を保ち、強めていた。
鬼面蟲達の依代はアルマと同程度の年齢に見える。しかし彼等の拳は低く空気を鳴らし、時折霧を微かに晴らしていた。
おそらくあの頭にしがみつく蟲が無理矢理に身体のリミットを外させ、強化しているのだろう。
――そんな敵とまともに戦う気んて端からない。
スキアファールは歌を続けながら、鬼面蟲達の体力が尽きるその時を狙っていた。
突如、彼の思惑通り一体の鬼面蟲が依代と共に床に崩れ落ちる。
まるで打ち合わせていたようにアルマの曲が高く盛り上がれば、スキアファールの歌声も強く、強く響き――漂う黒霧から更なる幻を生み出し、鬼面蟲達を蹂躙していった。
スキアファールは終わりに近づく歌の中、夢中で手を動かすアルマの顔を見る。
素晴らしい音楽をありがとう、そんな感謝と称賛を――自分自身が信用できない『言葉』ではなく、行動で示したい。
そう手紙のように、気持ちを込めた歌を歌う。
――あなたに届いてるかな。
そして二人が最後の音を奏で終える頃。黒霧が静かに散りゆけば、周囲に群がっていた鬼面蟲達は姿を消していた。
大成功
🔵🔵🔵
空亡・柚希
折角立ち上がってくれた子を、無事に帰してあげたいからね
邪魔を、しないでくれるかい
ユーベルコード《Sew down》で敵の攻撃を出来るだけ封じていこう
アルマさんや他の猟兵が引っ張り込まれないよう、近い個体から狙う
〈誘導弾〉の要領で細鎖と針を操作して、出来るだけ一度に何体かをまとめられるように
傷を負っている個体がいれば、針を中心に動かして〈傷口をえぐる〉ように攻撃
宿主の強化が行われたら、その時は回避に注力
〈第六感〉で予兆が知れたらいいけれど……
回避の合間に、壁の間や足元など、引掛けられるように鎖を張って、速さを逆に利用してみようか
屍は未だ止まらない。蟲に支配された身体はがくがくと歪な動きで手を伸ばし、アルマに襲い掛かろうとしていた。
そんな鬼面蟲の群れとアルマの間へ、空亡・柚希が割って入る。
「邪魔を、しないでくれるかい」
絶望の国から立ち上がり、強く生きようと決めたアルマを無事に帰す為に。柚希はユーベルコード『Sew down』を発動し、錆に覆われた金属塊を手に握る。
金属塊は柚希の力が伝った途端、細く長く形を変えて鬼面蟲達の方へと伸びていった。
ジャリ、と鎖は音を鳴らし、近くに迫っていた鬼面蟲の依代に巻き付いていく。そのまま柚希が手をぐいと引けば、鎖は周囲の鬼面蟲達を巻き込んで彼等の動きを止めた。
「ぐ、うぅぅウァ!!」
――バキン! と鎖が千切れる。鬼面蟲達は若い姿の依代から想像もつかないような怪力で暴れると、鎖の捕縛を抜け出して柚希に襲い掛かった。
しかし、鎖はその断面同士をぴたりと付けて再び鬼面蟲達を縛る。そしてヒュンと空気を裂くような音が響けば――鬼面蟲の群れを縫い合わせるように、鎖の端で同じく錆びた針が閃いた。
鬼面蟲達は耳を劈く悲鳴を上げ、がちがちと牙を鳴らしてのたうち回る。
柚希は鎖の動きを調節しながらふと、彼等が依代にしがみつく脚を忙しく動かしているのに気づいた。
「……!」
何か来る。そう危険を感じた柚希はアルマを一歩退がらせて、金属塊へ再び力を込める。
ぐきり、ごきりと鬼面蟲達の身体が嫌な音を鳴らして立ち上がると――彼等は明らかに異常な速度で拳を振り上げ、柚希とアルマの方へと駆け出した。
柚希はアルマと共に鬼面蟲達の攻撃を躱す。拳が空振ると同時に大きく空気が揺れ、当たればひとたまりもないであろうことを告げていた。
――柚希は鎖を操る手に、思い切り力を込めて。
「何、ッ!?」
突如、鬼面蟲達は一斉にぐるりと回転する。いつの間にか床に張り巡らされていた鎖、天井を通っていた鎖――それらに足を取られ、彼等は逆さ吊りの状態でぶんぶんと暴れていた。
柚希は目につく鬼面蟲全てが『依代の下』になっているのを捉えると、鎖からふっと力を抜く。
頭、つまり本体である蟲から床に叩き付けられた鬼面蟲達は、ぐちゃりと嫌な音を立てて潰れてしまった。
大成功
🔵🔵🔵
紫・藍
いつかは死ぬ、ですかー
その通りなのです
でもだからこそ今は気ままに踊る時なのですよー?
ではではオブリビオンの皆様方――Shall we dance?
以降お口封印なのです!
いえいえお口封印でも、演奏もパフォーマンスもダンスもできちゃうのでっすが!
高速移動による回避撹乱と藍ドルオーラによる防御で時間を稼ぎつつ!
昏睡したところにズドンなのでっす!
できることなら蟲だけを吸い込みたいとこですがー
乱戦ではそうはいかないでしょからねー
せめてこれ以上遺体が悪用されぬよう吸い込んじゃうのでっす!
寿命?
いつか死ぬ、と言ったのはそちらではー?
そのいつかに笑って死ねるよう、藍ちゃんくんもおじょーさんも生きていくのです!
鬼面蟲達は次から次へと数を増やし、びたびたと可笑しな足音を上げて迫り来る。ひっ、と小さく悲鳴を漏らしたアルマの前に、紫・藍が舞うように飛び出した。
「いつかは死ぬ、ですかー。その通りなのです」
でも、と藍はよく通る声を響かせて。
「だからこそ今は気ままに踊る時なのですよー? ではではオブリビオンの皆様方――Shall we dance?」
そこで藍の声が消える。
――常に明るく、輝くようなハイテンション。そんな彼の沈黙は、ユーベルコードとなって虚を生み出す。
虚は藍に力を与え、同時に命を削りながら彼の身体に纏わりついた。
「(藍ちゃんくんによるサイレントムービーをお楽しみくださいですよー?)」
黙り込んだままの藍は身振り手振りで騒がしく動き回る。ててん、たたんと踏み回るステップは鬼面蟲の群れを掻き乱し、ゾンビのような鈍い攻撃を軽々と躱していった。
ふと彼の真横を腐敗臭のする腕が抜ける。藍がくるりと回り、距離を取った真後ろ――もう一体の鬼面蟲が藍の顔面目がけて拳を突き出した。
しかしその手は不思議な力、彼の纏うアイドル――否、藍ドルオーラに遮られて跳ね返されていく。
そしてだんだんとオブリビオンの足が絡まり、アルマへ伸びる手も少なくなった頃。藍を執拗に狙っていた一体が、がくりと膝をついて静かになった。
途端、藍の周囲にいた他の鬼面蟲達もがくり、ぼたりと身を伏せる。無理矢理に依代の肉体を強化した影響か、彼等は眠ったように動かなくなってしまった。
そんな中でも依然黙り続ける藍。その身に纏う虚が、遂にブラックホールを発生させる。
寄生し身体を操っている蟲だけを吸い込みたい――が、この数では中々難しい。それに、あの蟲の下にある顔が無事である可能性はそう高くないだろう。
――ならば。
「(せめてこれ以上遺体が悪用されぬよう吸い込んじゃうのでっす!)」
ブラックホールは藍の周囲でぐんと大きく口を開ける。
ずるずると引き寄せられる依代の上で、なす術のない鬼面蟲達が喚きだしていた。
「いツカ死ぬくせに!!」
「こコデ我ラの餌になレバ良いもノヲ!!」
ぐぎゅり、と藍のブラックホールがオブリビオンを呑み切る。彼等の喚き声が消えていったその後に、藍はユーベルコードを解いて口を開いた。
「そのいつかに笑って死ねるよう、藍ちゃんくんもおじょーさんも生きていくのです!」
そう、にかっと笑って。
アルマは藍の言葉に頷き、そして礼を述べながら『自分の扉』の方へ再び進んでいった。
大成功
🔵🔵🔵
ミリア・ペイン
はぁ…空気読めてないわね、お前達なんかお呼びじゃないのよ
邪魔をするなら…灰にしてあげる
【WIZ】《黒き怨恨の炎》
大丈夫よアリスさん、こんな奴らボッコボコにしちゃうから
帰りましょう、貴女の大切なものが待つ世界へ
【オーラ防御】で自衛しつつアリスを庇い守護
【第六感】で攻撃を予測、頭部への攻撃を警戒
【呪詛】を込めた炎を撒いて【精神攻撃】で動きを封じ
弱った敵は炎を合体強化させて消し炭にしてあげる
数が多くても動きを封じればこっちのものよ
…やっといい顔する様になったわね
貴女なら大丈夫、自信持っていいと思うわ
いつか貴女の演奏を聞かせてね、勝手に約束したわ
悪意ある言葉なんかに負けないで…私、応援してるからね?
アルマを帰すまいと集まる鬼面蟲。自分の扉まであと少しだというのに、その道は再び群れに塞がれてしまった。
「はぁ……空気読めてないわね、お前達なんかお呼びじゃないのよ」
そう呆れたように、ミリア・ペインがアルマの前へ出る。彼女は不気味に蠢く蟲達を指し、表情を変えぬまま言い放った。
「邪魔をするなら……灰にしてあげる」
鬼面蟲達はカチ、と苛立ったように牙を鳴らす。カチ、カチとその音が増え続け――突如、依代にしがみついていた蟲がミリア目がけて飛び出した。
「ひぃっ!?」
飛来する大きな蟲と、露わになった依代の顔にアルマが強く目を瞑る。腐敗した屍の頭はひどく変色し、見るに堪えない程変形してしまっていた。
「大丈夫よアリスさん、こんな奴らボッコボコにしちゃうから」
ミリアは鬼面蟲を迎え撃つようにユーベルコード『黒き怨恨の炎』を放つ。燃え上がる悪霊の魂は鬼面蟲に命中すると、喰い散らすように一瞬でその身を焦がし尽くした。
ゴトン、と真っ黒な塊が床に落ちる。しかし鬼面蟲達は怯むことなく依代の頭でぐっと身を屈めると、次々にミリアとアルマの頭を狙って飛び上がった。
ミリアは蟲の軌道を読み、小さく唇を動かして呪詛を込めながら炎を操っていく。的確に目玉のような部位を焼き切れば、鬼面蟲達は喧しく呻きながら床に叩き付けられていった。
激しく悶えのたうち回る蟲達へミリアは容赦なく手を向ける。炎同士を合わせた強力な一撃を放てば、身動きの取れない鬼面蟲達の身体は一瞬にして消し炭と化していた。
「も、もう……いない?」
蟲達のうめき声が止まり、恐る恐る目を開けるアルマ。ミリアはほんの僅かに微笑むような表情を浮かべ、彼女に囁く。
「帰りましょう、貴女の大切なものが待つ世界へ」
「……うん!」
そう返事をするアルマの瞳には、希望の光が灯されていた。
「……やっといい顔する様になったわね。貴女なら大丈夫、自信持っていいと思うわ」
ミリアのその言葉に、えっ、とアルマが自分の口元に手を当てる。上向きの口角に触れたアルマは安堵したようにありがとう、と呟くと、『自分の扉』のある方に向き直った。
――いつか貴女の演奏を聞かせてね。
ミリアはアルマの背を見送りながら、返事を待たぬまま約束して言葉を続ける。
「悪意ある言葉なんかに負けないで……私、応援してるからね?」
そう、ミリアが激励して。
アルマは一瞬振り向いて親指を立てると、再び前を向いて進んで行った。
大成功
🔵🔵🔵
ファルシェ・ユヴェール
ええ、アルマさん
逆境にあっても貴女ならきっと大丈夫です
その気高き音色を慕う者も多く現れるでしょう
では――
貴女の素晴らしい演奏を、特等席で聴かせて頂いた御礼に
掌に握った水晶をイメージの触媒として水晶の騎士を創造
共にアルマさんを護り、道を切り開く
オブリビオンが彼女に手を伸ばすならば弾き、逸らして
……指一本触れさせる気はありませんよ
基本が護身術である私より、騎士の方が力強い
止めを狙う際は騎士に任せられるよう
私自身は撃破よりも行動阻害を狙い、
手足を狙った反撃を軸に
扉へと送る前に
彼女の肩に止まっていたジャスパーの小鳥を彼女のポケットに潜らせ
魔力を解いて石に戻します
困難に立ち向かう彼女に信念と情熱の護りを
自分の扉を目指し、アルマが前へ前へと進んで行く。もう大丈夫、あと少しと手を伸ばす彼女の周囲には、再び鬼面蟲達が群がりだしていた。
怖い、でも進みたい。元の世界に帰りたい。
そう願うアルマの傍へ立ち、ファルシェ・ユヴェールが口を開く。
「――逆境にあっても貴女ならきっと大丈夫です。その気高き音色を慕う者も多く現れるでしょう」
では、と彼は掌に水晶を握り、魔力を伝える。透き通る輝きがユーベルコードの形を定めれば、水晶に込められた力は強力な騎士となってその場に顕現した。
「貴女の素晴らしい演奏を、特等席で聴かせて頂いた御礼に」
ファルシェが杖を軽く二度振るい、騎士の足を前へと踏み出させる。
騎士はアルマが目指す『自分の扉』、そこへ至るまでの道に立ち塞がる鬼面蟲へと水晶の剣を構えた。
ぐちゃり、堅い殻と柔らかな身の裂ける音。騎士が鬼面蟲を斬り薙ぎ倒していく中、後方にいた群れがケタケタと笑いながら喚き出す。
「進まセナイ、進ませなイ」
「止まれ、止マレ、その首ヲ寄越せ!!」
鬼面蟲達は騎士のいない方向に回り込み、腐りかけた腕をアルマに伸ばす。だがそれらがアルマに触れる寸前、素早くファルシェの杖が横一線に閃いた。
「……指一本触れさせる気はありませんよ」
直後、ファルシェの外套がアルマの視界を塞ぐ。ファルシェは護身用の仕込み杖を刃に変え、鬼面蟲達の腕の腱を的確に斬り裂いていた。
「貴、サまァアアアアアッ!!!」
鬼面蟲達はだらりと垂れる腕を鞭のように振り回し、仲間に当たるのも構わず暴れ襲い掛かる。
ファルシェはアルマを背に庇いながら、次々に伸びる手を弾き続け――突如、背後の気配に身を屈めた。
――ぞぶり、と重い刃が鬼面蟲の群れを薙ぐ。
主の元へ戻った騎士は一瞬にして周囲の敵を吹き飛ばすと、扉へと続く道を指して跪いた。
阻むものはない。あとは進むだけ。そうアルマが扉の方を向く前に、ファルシェが彼女の肩に手を伸ばす。
彼がそっと掴んだのは、鮮やかな紅い小鳥――ユーベルコードで姿を変えさせていた、ジャスパーの石だった。
小鳥は大人しくファルシェの手の中で丸くなる。そのまま彼の手がするりと動くと、アルマのポケットへ小鳥を潜らせた。
「困難に立ち向かう貴女に、信念と情熱の護りを」
祈る様に呟き、ファルシェはふっと小鳥に掛けていた魔力を解き、石の姿に戻す。
アルマはポケットの中で静かにその石を握ると、改めて猟兵へ深く頭を下げ――『自分の扉』へゆっくり、ゆっくりと歩いていった。
●
アルマは一瞬、扉の前で立ち止まる。
――いや、もう大丈夫。立ち上がると決めたのだから。
それでも震える足はなかなか向こうへ進まない。言い聞かせるように何度も心の中で大丈夫、大丈夫と繰り返していた、その時だった。
「――アルマ、こっち!」
揺れる金の髪、差し伸べる柔らかな手。
星のように眩しく輝く親友、暖かく迎えてくれる家族、大切な楽器、歌、音楽。それらを再び、思い出して。
彼女は『自分の扉』を潜り――元の世界へ、帰っていくのだった。
大成功
🔵🔵🔵