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一夜限りの英雄譚

#ヒーローズアース #戦後 #暗黒面『雷矢のラビラント』 #ナイトメア・パレード

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#戦後
#暗黒面『雷矢のラビラント』
#ナイトメア・パレード


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●シネマの舞台裏
 収穫祭の夜に“奴ら”は来た。
 誰も彼もが寝静まった真夜中の田舎町。固い蹄を地面に叩きつけながら――。

 家の前で馬たちが駆けっこしているような激しい音がするのに、パパもママも目を覚まさない。恐る恐る、窓の外を覗いてみると……。ヤギみたいなモンスターたちが一心不乱に、家の前に広がるでこぼこ路を駆け抜けていた。
 悲鳴を飲み込んで、少年はそっと窓から離れる。縋るようにパパとママを揺り起こそうとするけれど、どういう訳だかふたりとも目覚めない。
 どくんどくん、恐怖に高鳴り続ける心臓を煽るように、窓の外から不気味な笑い声が聞こえてくる。男と女の、愉し気な声が……。
『やっと見つけた。子どもが居る家だ!』
『まあ、ココに子どもが居るのね?』
 くすくす。からから。化け物たちの不気味な、それでいて嬉しそうな笑い声が響き渡る。奴らはきっと子供を、『少年』を探しているのだ。
『さあ坊や、迎えに来たよ!』
『一緒に行きましょう、楽しい世界へ!』
 ドンドン、ドンドン。玄関の扉を叩く音がする。どうしよう、この家に居ては連れて行かれてしまう。はやく逃げなきゃ――!
 パジャマの上からコートを羽織って、懐中電灯を引っ掴み、ポケットには大好きなヒーローのフィギュアを入れて、少年は裏口へと駆け抜ける。
 深呼吸をしてドアを開ければ、そこにはただの暗闇だけが広がって居た。まだ化け物たちは居ないようだ。懐中電灯の光を頼りに、家の裏へと広がる森へ向かう。
 森には『秘密基地』――大人は誰も使って居ない小屋が有る。だから、そこに行けばきっと大丈夫。
 ――でも、やっぱりこわい。
 化け物たちを前に、『ぼく』ひとりで何が出来るんだろう。ポケットの中のフィギュアをぎゅっと握りしめながら、闇夜を駆ける少年はつい叫んでいた。

『たすけて、ヒーロー!』

 収穫祭の夜に“奴ら”は来た。
 大人たちが眠っている隙に、子どもをあの世へ誘うために。

 ――カチン。

「カット!」
 クラッパーボードの軽やかな音色と監督の掛け声が響き、偽りの世界は現実へと戻る。
 ここは田舎町などでは無い。カメラや機材に囲まれた、ただの撮影スタジオだ。怪物から逃げる少年はただの子役で、彼を追い掛ける怪物も『着ぐるみ』を来たスタントマンだった。
「おつかれさま。いい演技だったよ、君達」
「あとはイェーガー達に出演して貰うだけですね、監督」
 満足気に頷き合う監督とスタッフたち。呑気な大人たちの輪へ控えめに歩み寄るのは、劇中で追われていた赤毛の少年だ。
「でも、このあと全部アドリブなんですよね……?」
 気弱な貌に不安げな彩を滲ませながら此方を見上げてくる少年に、大人たちは呵呵と相変わらず呑気な反応を返すのみ。
「大丈夫、大丈夫!」
「アドリブの方が、リアリティが増しそうだからねえ」
 なにせ主演は『アースクライシス2019』の立役者、イェーガー達だ。彼らの個性溢れるユーベルコードやパフォーマンスが有れば、きっと面白い作品が撮れるに違いない。そのためには、イェーガー達に自由に振舞って貰おうと、大人たちはそう考えていた。

「大丈夫かなあ……」
 とても薄い台本を両手でぎゅっと抱きしめながら、不安げに眉を下げる赤毛の少年。されど、撮影の準備に慌ただしく駆け回る大人たちに、その気弱な台詞が届くことは無いのだった。

●子どものための英雄譚
「イェーガームービー社から、オファーが来ている」
 集った面々を金の双眸でぐるりと見廻して、機械仕掛けの男――ジャック・スペード(J♠️・f16475)は淡々と口火を切った。
「主役は勿論、アンタたちだ」
 そう語る男の掌中には、薄い台本が確りと握られて居る。
 映画のタイトルは『一夜限りの英雄譚』。オブリビオンに狙われた少年をイェーガー達が格好良く守る、わくわくドキドキのヒーロー映画だ。
 まずは森の『秘密基地』――打ち捨てられた『小屋』で少年と合流し、一緒に其の秘密基地を補強して欲しい。その後、オブリビオン達が襲って来るので、彼らの凶刃から少年を護って貰いたい。そうして、ボスを退ければ無事ハッピーエンド――という構成に成っている。
「ユーベルコードの用意は自前で頼む」
 しかしながら、オブリビオンに扮しているのは生身の人間なのだ。安全にも配慮して貰えると有難い、と男は控えめに付け加える。
「それから、現場には子供も居るので……」
 トラウマに成りそうな過激なパフォーマンスは避けてくれ、と念の為に注意を重ねて。ジャックは金の双眸で再度、集った面々を眺めまわした。
「ああ、試写会には呼んでくれ」
 低い聲を妙にそわつかせながら、機械の男はグリモアを展開する。くるくると回る其れが導く先は、英雄たちが集う世界――ヒーローズアース。


華房圓
 OPをご覧くださり、ありがとうございます。
 こんにちは、華房圓です。
 今回はヒーローズアースで、映画撮影をお楽しみください。

●一章 <冒険>
 子役と一緒に『秘密基地(小屋)』を補強しましょう。
 バリケードを設置したり、物理的に強化したり、魔法でバリアを張ったり……。
 具体的な手段は皆さまにお任せします。
 本章のPOW、SPD、WIZはあくまで一例ですので、自由な発想でお過ごしください。

●二章 <集団戦>
 配下オブリビオン(着ぐるみ)と格好良く戦いましょう。
 着ぐるみには一般人が入っているので、安全には配慮してあげて下さい。

●三章 <ボス戦>
 事件の黒幕オブリビオン(※人間の役者さん)とのボス戦です。
 役者の安全に配慮しながら、引き続き格好よく戦いましょう。

●子役(脇役)『トム君』
 7歳。少し内気な赤毛の少年。演技力はそこそこ。
 二章と三章では、「がんばれ、イェーガー」と秘密基地から応援してくれます。
 プレイングで指定を戴けましたら人質役なども承ります。
 「子どもの声援を受けながら戦いたい」とか「格好良く人質を助けたい」など。
 何かご要望が在りましたら、ぜひ舞台装置としてお使いください。

●<お知らせ>
 リプレイはカメラを回し始めた所から描写します。
 戦争で活躍された『フォーティナイナーズ』の皆さんは勿論、
 此の世界では猟兵の皆さん其々に固定ファンがついていたりしますので、
 参加者さん全員がスター待遇となります。

 プレイングは各章、断章追加後から受付いたします。
 どの章からでもお気軽にご参加いただけますと幸いです。
 単章のみのご参加もどうぞお気兼ねなく。

 またアドリブや連携の可否について、記号表記を導入しています。
 宜しければMS個人ページをご確認のうえ、字数削減にお役立てください。
 それでは、宜しくお願いします。
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第1章 冒険 『防衛拠点の構築』

POW   :    建材や物資を運んでくる。

SPD   :    罠や防衛兵器を組み立て、設置する。

WIZ   :    バリケードや塹壕を構築する。

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●Scene 1 『Heroes always show up late!』
 鬱然とした森の中、モンスターたちが奏でる蹄の音色に追われながら、少年は我武者羅に走っていた。懐中電灯のぼんやりとした明かりだけが唯、彼が進むべき道程を照らしてくれている。
 毎日のように通っている秘密基地だから、どんなに暗くても迷わない自信はある。けれども、頭上から降って来る梟の不気味な鳴き声や、がさがさと揺れる木々のざわめきが、少年のこころに云い知れない不安感を与えていた。
 それでも、少年は立ち止まらない。視界を翳ませる大粒の涙を拭うのも忘れ、生き残るためだけに、恐ろしい夜の森を駆け抜け続ける。
 いまにも折れそうな少年のこころを支えてくれたのは、ポケットの中で笑うヒーローのフィギュアだ。ただの玩具がピンチを救ってくれる訳がないこと位、彼だって知っている。それでも、“ヒーロー”が側にいてくれるだけで、少しだけ勇気が湧いてくるような気がした。
「や、やっと着いた……」
 打ち捨てられた小屋――彼にとっての『秘密基地』へと辿り着いた少年は、その扉の前で息を弾ませへたり込む。細い脚がガタガタと震えているのは、疲労からか或いは恐怖からか。
 モンスターたちの蹄の音は、もう聞こえてこない。いま少年の耳には、煩く跳ね続ける自身の鼓動の音だけが届いていた。
 ――ひとまず、奴らから逃げられたけど。もし見つかったらどうしよう……。
 この秘密基地で一夜を無事に過ごすことが出来るのだろうか。こんな木の家、子豚と狼の童話みたいに一息で、奴らに吹き飛ばされてしまうかも知れない。
 この夜に思いを馳せるほど、彼のこころに更なる不安が込み上げてくる。暗闇も、モンスターも、自身の命が狙われていることも、すべてが怖くて堪らない。
 縋っても無駄だと云う事は分かって居たけれど、少年はポケットから取り出したフィギュアをぎゅっと抱きしめた。
「おねがい……」
 こんな何もない田舎町の異変に、気づいてくれる人は居るのだろうか。助けを求める小さな声が、誰かの耳に届くことは有るのだろうか。震えながら縮こまる体に、気づいてくれる大人は居るのだろうか。
 普通の人間ならきっと気づかない。――けれど、少年は“彼ら”が気づいてくれると信じて、声を張り上げる。

「たすけて、イェーガー!!」
 
 果たして、助けを求める彼の叫びは“誰か”の耳に確りと届いていた。――なにせ、彼が助けを求めたのは普通の人間ではなく、格好いい“ヒーローたち”だったのだから。
エドガー・ブライトマン
「やあ、そこのキミ。私のことを呼んだかな?」
高い木の上から声をかけよう
私は高いトコロが好きなんだ。楽しいから

安心したまえ、怪しい者じゃないよ
私の名はエドガー。通りすがりの王子様さ!
キミの名前は?
トム君? そう、かわいらしい名前だね

ココ、キミの秘密基地だったんだねえ
楽しくていいじゃないか。そういうの羨ましいな~
じゃあー、今からこの秘密基地をより頼もしくしてみよう
そうすればキミも笑顔になれるだろう?

とはいえ、私は魔法とか使えるタイプの王子様じゃなくてね
そのへんの枝や石でバリケードを作ったり
葉っぱの山を被せて景色に紛らせたり
オスカーも手伝ってよ

ね、その人形。キミのヒーローかい?
とってもカッコいいね!



●希望の王子様
 力の限り助けを乞うた少年『トム』は、溢れ出る涙を拭いながら不安げに周囲の様子を伺っていた。未だ蹄の音は聞こえてこない。けれども、空から飛んでくるスーパーヒーローの影も無い。果たして“イェーガー”たちに、こころからの叫びは届いたのだろうか。
「やあ、そこのキミ。私のことを呼んだかな?」
 ふと――少年の頭上から声が降って来る。其れは家にいる時に聞こえた不気味な声ではなく、もっと爽やかで明るい声だった。そうっと視線を上げた少年の視界には、されど誰も映らない。周囲に人影が有るようにも視えない。声の主は一体どこに居るのだろう?
「ここだよ、もっと上を見てごらん」
「ど、どこにいるの……?」
 謎の声に導かれるまま、トムは懐中電灯で宙を照らし、きょろきょろと視線を巡らせる。暫く焦点を合わせられずに居た細やかなスポットライトが、やがて高く聳える木を照らしたならば、――太い幹に身を預けて佇む王子様、エドガー・ブライトマン(“運命”・f21503)の輪郭をはっきりと映し出す。
「えっ、おうじさま?!」
 凛とした其の佇まいを見上げる少年は、ぱちくりと眸を瞬かせている。“イェーガー”を呼んだのに、御伽噺から抜け出してきたような“王子様”が来てしまった。
「安心したまえ、怪しい者じゃないよ」
 驚きを隠せない様子のトムへ快活に声を掛けて、とうっとエドガーは木から飛び降りた。スマートな着地姿をカメラがきちんと捉えてくれたのを確認して、エドガーはゆっくりと膝をつく。お姫様の手を取るためではなく、少年と視線を合わせるために。
「私の名はエドガー。通りすがりの王子様さ!」
「王子様……。僕の声を聴いて来てくれたの?」
 イェーガー、もとい王子様を前にして、相変わらず眼をぱちぱちとさせている少年。
 王子様の姿をはじめて視界に捉えた時は、ちょっと吃驚したけれど。木の上から此方を見下ろす姿は楽しそうで親近感を抱いたし、何だか仲良くなれそうな気がした。
「そうだよ。キミの名前は?」
「ぼく、トムっていうんだ」
「トム君。そう、かわいらしい名前だね」
 イェーガーに褒められたことが嬉しかったのだろうか。少年は漸くその幼い顔に僅かな笑みを咲かせる。彼の緊張が解れた様を見て、エドガーも満足げに頬を弛めるのだった。
「助けに来てくれて、有難う! あのね、一緒に秘密基地を守って欲しいんだ」
「ココ、キミの秘密基地だったんだねえ」
 トムの言葉を受けてエドガーは、のんびりと木で造られた小屋へと其の双眸を向ける。少年の云う『秘密基地』は見た目にも劣化が目立つが、其処が少年心を擽るのだということも、彼にはよく理解できた。――なにせ彼は見目に反して、少々やんちゃな王子様なのだから。
「楽しくていいじゃないか。そういうの羨ましいな~」
「ほんと? じゃあ、お兄さんも秘密基地に入れてあげる!」
 優雅な見目の王子様に意外にも理解を示されて、トムは得意げに胸を張る。彼にとってはこの小屋こそが、きっと自分の居城なのだろう。一国一城の主というものは、この年頃の男子にとっても浪漫なのだと思い至り、エドガーは微笑まし気な笑みを零した。
「はは、有難う。じゃあー、今からこの秘密基地をより頼もしくしてみよう」
 近くに落ちていた枝を拾いながら、王子様は少年に向けて片眼を閉じる。白手袋の指先が泥で汚れてしまったけれど、エドガーはそんなことなど気にしない。
「そうすればキミも、もっと笑顔になれるだろう?」
 だって、弱き者を助けることこそ、ノブリス・オブリージュ。すなわち、高貴な者の務めであるのだから。
「うんっ、有難う!」
 赤毛の少年はもう、泣いてはいなかった。トムは希望を胸に、王子様と秘密基地を守ることにした。

 ――とはいえ、エドガーは魔法よりも剣術に優れた王子様だ。ゆえに、秘密基地の強化手段は物理的かつ堅実だった。
「うーん、これで足りるかな」
 エドガーがいま両手いっぱいに抱えて居るのは、大小さまざまな木の枝たち。これを少年が拾ってくれた石と組み合わせて、小屋の前にバリケードを作るのだ。
「そうだ、オスカーも手伝ってよ」
 両手が塞がっているエドガーは、彼の良き友“オスカー”を呼ぶ。すると、夜空をすいすいと軽やかに舞う、一羽のツバメが現れた。
 エドガーがカモフラージュ用の葉っぱを取って来るように頼んだならば、オスカーは従順に大地へ舞い降りて、嘴でたくさんの落葉を拾ってくれる。――これでなんとか、立派なバリケードが出来そうだ。
 ふと気になって少年の姿を探せば、彼はお守りのように人形――“ヒーロー”のフィギュアを、ぎゅっと握りしめていた。
「ね、その人形。キミのヒーローかい?」
 其の傍らへと歩み寄ったエドガーは大地にぱらぱらと枝を落としながら、少年が握りしめた人形をそっと覗き込む。
 赤いボディスーツに蒼いマントを羽織ったその人形は、如何にもヒーロー然としたシルエットで頼もしい印象を受ける。子どものこころの拠り所に成るのも納得だ。
「……こういうの持ってたら、恥ずかしいかな?」
 揶揄われたことが有るのだろうか。トムが不安そうに見上げて来たので、エドガーは明るく笑って首を振った。
「まさか。とってもカッコいいね!」
「――うん!」
 快活な王子様に釣られるように、少年も明るく笑う。彼の掌中に在るヒーローもまた、誇らしげに白い歯を見せて笑っていた。
「あ、でもね……。王子様もカッコいいよ!」
「はは、それは勿論。だって私は、王子様だからね」
 古き良きヒーローを敬愛する少年は、今日はじめて本物の“王子様”に出会った。そして彼は知ったのだ。――王子様もまた、みんなのヒーローなのだということを。
 彼らの共同作業は、もう少し続いて行く。

大成功 🔵​🔵​🔵​

清川・シャル

はいはいイェーガーですよ、っと
まずは防御、良いですね戦略的にとても良い。
…ところで子役とは何歳です?シャル思い切り子役に見えませんか?
あ、7歳なんですね?なら…大丈夫…かな…(ぽっくり下駄で身長を増す)

念動力と羅刹の怪力を使ってバリケードの耐久性強化と、全力魔法で魔力のバリア展開
マジックミラー方式にしておけば、外から見えず中から見えて良いのでは…あ、実用性要らない?
罠も作りましょう!その辺の草結んで足ひっかけたり、踏むとなんか飛んでくるやつとか!
大丈夫ですよトム君。シャルもこんなノリです、なんかいい感じに大丈夫です!
UCで元気出る歌、歌いましょうか。



●歌で繋ぐこころ
 落葉でカモフラージュしたバリケードを前にして、トムのこころは少しの平静を取り戻した。けれども、あの無数の蹄の音を脳内で反芻してしまう度に、矢張り不安な気持ちに襲われてしまう。――そんな彼の前にまたひとり、新たな猟兵が現れた。
「はいはい。お呼びのイェーガーですよ、っと」
 それは、羅刹の少女だった。金絲の髪を揺らし、ふわりと着物の裾を風に靡かせる姿は可憐で、少年の視線を闇夜においても鮮烈に惹きつける。
「シャルが来たからにはもう大丈夫です」
 落葉を踏みしめながら少女――清川・シャル(無銘・f01440)は、静かに少年へと歩み寄る。ちらりと一瞥するのは、巧妙に落葉で隠されたバリケードたちだ。敵が勢いよく走ってくれば、恐らく気づかずぶつかって自滅を齎す罠でもある。
「まずは防御、良いですね。戦略的にとても良い」
 少女らしい見目とは裏腹に冷静な科白を紡ぎながら、シャルは少年の目の前で立ち止まる。そして、ぐっと其の顔を寄せた。
「……ところでトム君、何歳です?」
「えっ、ぼく7歳だけど……」
 困惑したように眉を下げながら、それでも従順に回答するトム。何故こんな問い掛けをしたのかというと、シャルにはひとつ懸念が有ったのだ。
(「シャル、思い切り子役に見えませんか?」)
 そう――小柄な少女はひそかに、自分が子役と間違えられないか気にしていた。ゆえに至近距離でひそり、内緒話の要領で少年に囁きかける。
(「子どものヒーローもいるので、大丈夫だと思いますっ」)
 ここはヒーローズアース。中学生くらいの女の子だって、立派なヒーローに成れる世界なのだ。猟兵として小柄な少女が出てきても、きっと観客は本物だと信じてくれるだろう。
 少年のフォローに納得したシャルは、アドリブを上手にキャッチして、澄まし顏で演技を続けることにした。
「あ、7歳なんですね? うん、シャルの方がお姉さんです」
 ほんの少しだけ得意げに胸を張るシャル。さすがに7歳の少年よりは背が高い。念のためにと、ぽっくり下駄で身長を増したのも効果覿面のようだ。
「お姉さんも、秘密基地を守ってくれるの?」
「ええ、任せて下さい。まずは……あのバリケードの強化を」
 ぽっくり、ぽっくりと、下駄を鳴らしてバリケードへ近づいた少女は、碧眼を閉ざして意識を集中させる。すると、周囲に転がっている枝や石ころがカタカタと音を立てながら、宙へと浮遊したではないか――。
「わ、わ、すごい……!」
 間近で披露される念動力に目をぱちくりさせる少年を他所に、シャルはバリケードを覆う落葉をも浮遊させる。剥き出しになったバリケードに石ころや枝を更に押し当てれば、羅刹たる少女の“腕”の見せ所。
「しっかり固めたほうがいいですよね、きっと」
 少女はその細腕からは考えつかぬほどの怪力で、バシバシと枝やら石ころで出来た垣を叩き、バリケードを補強して行く。
 想わぬ圧力を銜えられた材料たちは、まるでセメントのように固まってしまった。これで良しと、掌をぱちぱちと叩いて汚れを払った少女は、念動力で浮かせた落葉を再度バリケードへと被せてカモフラージュ。これにて、堅牢な防護柵の完成である。
「これでバッチリの筈です」
「お姉さん凄い……」
 トムは目をきらきらとさせながら、シャルを尊敬の眼差しで見上げていた。この年頃の少年にとって、“パワー”とは即ち“強さ”なのだ。可憐な少女がきっと、スーパーヒーローに見えているに違いない。
「秘密基地にはバリアを張っておきましょう。マジックミラー方式が良いかも」
 しかし、彼女の仕事はこれだけでは終わらない。次にシャルが注目したのは、古びた木造りの小屋だ。バリケードを万が一突破された後、小屋に突っ込まれては少年が危ない。彼を守れるように、秘密基地全体に守護の術式を築く必要があるだろう。
「まじっくみらー?」
「はい。外からは此方が見えず、中からは敵が見える仕組みです」
 聞きなれぬ単語に首を傾けるトムへ優しく言葉の意味を教えてやれば、少年の瞳はまたしてもきらきらと輝いた。
「えっ、そんなこと出来るんだ。マジックミラーって凄いね!」
 お姉さんも凄い! なんて燥ぐ少年の姿は、とても無邪気で微笑ましい。元気を取り戻した少年に釣られて、そのかんばせに笑みを咲かせながら、シャルは周囲を見回した。
「あ、罠も作りましょう!」
 さいわい、此処は森の中なので材料と成る草木には不自由しない。ふたりは草を結んで敵の足を引っかけさせる罠を造ったり、踏むと重たい石ころが飛んでくるという――てこの原理を用いた仕掛けをコツコツと作っていく。
「大丈夫ですよ、トム君」
 並んで作業をしながら、羅刹の少女は励ますように少年へと言葉をかける。それは劇中の少年へのエールでもあり、むちゃなアドリブ劇に挑む“子役”へのエールでもあった。
(「シャルもこんなノリです、なんかいい感じに大丈夫です!」)
「……うん!」
 またしても密やかに囁かれる言葉を耳朶に捉えれば、トムは元気よく頷いた。不安など何処かに吹き飛ばして仕舞ったように――。
「そうだ。元気が出る歌、歌いましょうか」
「お姉さん、歌が得意なの? 聞きたい、聞きたい!」
 歌を愛するシャルの提案に興味を惹かれた少年が何度も頷いたので、少女は愛らしい歌声を風に乗せて往く。
 スピーカーやアンプがなくても大丈夫。彼女の歌は少年のこころを癒し、生き残るための活力を確かに与えていた――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニコ・ベルクシュタイン
【栗花落(f03165)】と


聞きしに勝る其の勇姿…と言いたい所だが何時見ても可憐なるお姿よ
なあ、フォーティナイナーズ殿?
茶化しているのではない、素直に尊敬しているのだよ
さあ、俺はオマケだが共に猟兵として期待されている身だ
頑張って行こうではないか

助けてくれと言うのなら、其れに応えぬ道理無し
さあ、栗花落もと背中を押して自分は一歩引く
少年もきっと其の方が嬉しかろうて

秘密基地を強化せよ…とな
成程、栗花落は破魔の花畑を以て強固な防御と為すか
ならば俺は其れを補強しようか
「オーラ防御」を時計の文字盤の形状に浮かび上がらせ
小屋の前に障壁として展開すればどうだろう
形状的に正面以外が死角となるのはご愛敬だが…


栗花落・澪
【ニコさん(f00324)と】



もっ、もう茶化さないでよニコさんー!
可憐なんて恥ずかしいじゃん…(もじもじ)
まぁでもなんだろう…ニコさんに褒められるのは悪い気はしないよね
なんというか、先生に褒められた生徒?みたいな
ふふ、がんばろうね

怯える子供に目線を合わせるようにして
ニコリと笑顔でこんばんは、と

呼んでくれた?助けに来たよ
はいこれ、よかったらどうぞ
差し出す★Candy popは甘い甘い希望の味

侵入されたら困っちゃうしね
僕は花畑を作ろうか
秘密基地の周りに★花園を生成
【破魔】による防壁を
少年の癒しにもなればいいな(見映えも良いし)

ニコさんの防壁かっこいーすごーい!
えへへ、組み合わせたら花時計だね



●闇夜に咲く花時計
 撮影用のカメラは秘密基地に残された少年から暫し離れ、ふたりの猟兵を映している。「聞きしに勝る其の勇姿……と言いたい所だが。何時見ても可憐なるお姿よ」
 その内のひとり、精悍な体躯を誇る青年――ニコ・ベルクシュタイン(時計卿・f00324)。彼はいま其の紅い双眸をつぅと弛め、恭し気な視線を同道の猟兵へと呉れていた。
「……なあ、フォーティナイナーズ殿?」
 揶揄うような言葉選びとは裏腹に、かくりと首を傾けながらも零される科白は古めかしく、表情も至って真面目。
「もっ、もう茶化さないでよニコさんー!」
 視線を受け止めたもうひとりの華麗な少年猟兵――栗花落・澪(泡沫の花・f03165)は、そんな彼の冗談か本気か分かり兼ねる科白に、わたわたと首を振り動揺した素振りを見せた。
「茶化しているのではない、素直に尊敬しているのだよ」
「だって、可憐なんて恥ずかしいじゃん……」
 ストレートに紡がれたニコの誉め言葉を聴いた澪は、もじもじと火照る頬を抑えながら恥じらうように眸を伏せた。
 ――まぁ、でも……。なんだろう……。
 とはいえ、ニコに褒められるのは決して悪い気はしないのだ。喩えるならば、学校の先生に褒められた生徒のような、――むず痒いけれど誇らしい気持ち。
「さあ、共に猟兵として期待されている身だ。頑張って行こうではないか」
 もっとも、俺はオマケだが――なんて。冗談めかす青年を見上げる可憐な少年は、口許を抑えてくすくすと微笑んだ。
「ふふ、がんばろうね」
 そうして決意を固め合った彼らは、暗い夜道を急ぐ。助けを求める少年の元へ辿り着くまで、あと少し――。

「うう、やっぱり怖いよ……」
 頑丈なバリケードとバリアが展開された『秘密基地』の前、トム少年はヒーローのフィギュアを抱いて蹲っていた。先鋒の猟兵達は戦いに備えて席を外している。ゆえに彼はいま、ひとりで留守番中なのだ。
 モンスターたちへの備えは出来た気がするけれど、夜の森にひとりで居るのはやっぱり心細い。ホウホウと啼く梟の声も不安感を増大させてゆく。冷たい風がトムの頬を撫ぜ、鬱蒼と茂る木々をざわめかせれば、びくりと細く小さな肩が跳ねた。
「うう、助けて、イェーガー……」
 心細さに少年のぱっちり開いた瞳から涙が零れかけた、その時。彼の前に、思いもよらなかった訪問者が現れる。

「助けてくれと言うのなら、其れに応えぬ道理無し」
 闇夜に凛と響く声に、力なく項垂れていた少年の頭が跳ね上がる。彼の視界に映るのは、古風なスーツをびしりと着こなす精悍な男性――ニコの姿。
 呆然と自信を見上げる少年の上に大きな影を落としたニコは、傍らにいる華麗な猟兵の背中をそっと押した。
「――さあ、栗花落も」
 促しながらも、ニコ自身は一歩だけ下がって見せる。傍らの少年は見目こそ可憐だが、歴戦の猟兵なのだ。澪は“アースクライシス”においても其の才気を存分に発揮しており、フォーティナイナーズにも名を連ねている。ゆえに彼は、自分より澪が声を掛けたほうが、少年もきっと嬉しいだろうと思ったのだ。
 ニコに促された澪は、怯える少年と目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。にっこりと花開くような笑みを浮かべながら、リラックスできるように先ずは挨拶を交わしてみる。
「こんばんは」
「こ、こんばんは……」
 いきなり現れたふたりの猟兵と、緊張した様子で挨拶を交わす少年。よほど怖かったのだろうかと、少年の不安を推し量った澪は、努めて優しく穏やかに声を掛ける。
「呼んでくれた? 助けに来たよ」
「あ、有難う……。まさか、フォーティナイナーズが来てくれるなんて……!」
 先ほどの怯えは何処へやら。少年の顏はいま、有名なヒーローと会えた喜びに、きらきらと輝いていた。
「お兄さん、自由の女神の前で悪いヤツをやっつけたひとだよね!」
 アースクライシスの終盤において、オブリビオンフォーミュラの『クライング・ジェネシス』は、著名な観光地を舞台に、ひとびとの注目を集めながら猟兵たちと戦っていた。
 ――ゆえに、少年が彼らの戦いぶりを見ていたとしても可笑しくはない。このご時世、衝撃映像はテレビや動画サイト、或いはSNSで瞬く間に広がってしまうものなのだから。
「ふふ、あの時の戦い見てくれたんだ?」
「中継で見たよ! 炎の鳥がワーッて向かっていくの、凄かった!」
 微笑ましそうに頬を弛めて頷く澪に、トムは顏を赤らめながら興奮した様子で言葉を紡いで行く。煌めく少年の瞳は、澪のうしろに控える青年の姿も見逃さなかった。
「ぼく、眼鏡のお兄さんも知ってる!」
 燥いだような声が紡いだ意外な言葉に、ニコは瞬きを数回ぱちぱちと零す。まさか自分のことを知っている子どもが居るなんて、さすがに予想外だったのだ。
「もしや……俺のことも視たことがあるのだろうか」
「うんっ、ドイツの駅前で悪いヤツと戦ってたよね? 炎ぶつけるの、カッコよかった!」
 テレビで見たんだ――なんて。少年があまりにも嬉しそうに語り掛けるものだから、ニコの表情も自然と弛む。
「それは、有難う。……俺たちが来たのだから、もう大丈夫だ。どうか安心してくれ」
 フォーティナイナーズもいるしな、と。ちらり、澪に視線を遣れば、少年はこくこくと頷いた。ヒーローに会えた喜びの前に、少年の不安など何処かに飛んで行って仕舞ったようだ。
「少し元気が出たみたいだね。――はいこれ、よかったらどうぞ」
 少年の緊張がほぐれたようなので、澪はそっとキャンディが入った瓶を彼に差し出す。魔力が込められた可愛らしい飴玉がころりと音を立てれば、少年の幼い顔は一等きらきらと輝く。子どもを元気づけるには矢張り、甘いものが一番だ。
「わあ、キャンディだ。有難う、お兄さん!」
 同じく差し出されたトムの掌に、澪は幾つか飴玉を転がしてやる。少年がわくわくとそれを頬張れば、甘い甘い希望の味がした。

「さて、秘密基地を強化せよ……とな」
 そのあと少年から事情を聴いたふたりは現在、如何にこの脆そうな小屋を護るか知恵を出し合っていた。
 先鋒の猟兵達が小屋にはバリアを、周囲には頑丈なバリケードを築いてくれていたが、万全を期してもう少し『外側』を強化した方が良いだろうか。
 思考するかの如く顎に指先を添えながら、そのようなことをニコが語れば、澪は軽やかに両手を合わせて、思いついたアイデアを花の唇から零して行く。
「じゃあ……僕は花畑を作ろうか」
 うっかり侵入されては困るので、秘密基地を取り囲むように花園を成形しようと少年は語る。物は試しと上着を脱いだ少年は、左二の腕に在るブレスレット――いや、花輪を象る聖痕を月へと翳した。
 ――すると、其の聖なる痕はきらきらとした煌めきを放ち始め、辺りに甘美な花の馨が立ち込め始めたではないか。
 聖痕の煌めきによって導かれた花々は、秘密基地を丸く取り囲むように大輪の花弁を開き、やがては世にも美しい花園を形作っていった。
「お見事だ、栗花落。――ならば俺は、其れを補強しようか」
 眼鏡をくいと指先でかけ直したニコは、星型の花が絡んだ柊の杖を振う。彼が小屋へと齎す加護は、襲い来る者たちを退けるオーラの障壁。
 其れを時計の文字盤の形状に浮かび上がらせれば、12方向からの襲撃に対応可能な魔法のバリケードと成る。懐中時計のヤドリガミたる彼らしい、なんとも瀟洒な障壁だ。
「ニコさんの防壁かっこいー、すごーい!」
 間近でそれを見ていた澪にも其れはロマンチックな魔法に見えて、思わず燥いだ声を零す。そして何かに気づいたように、少年はふわりとはにかんで見せた。
「えへへ、こうして組み合わせたら花時計だね」
「むむ、あとはクロックハンドがあれば完璧なのだが……」
 真剣に眉を顰める青年をふふりと笑いながら、澪は小屋の中へと視線を向ける。少年は其処でふたりの魔法を見守っていたのだ。
「――彼のこころも癒せたみたいだね」
 窓に張り付いて瞳を輝かせるトムの顔を視界に捉えた澪は、良かったと安堵の息を吐く。彼らが作った花時計はきっと、秘密基地だけではなく少年のこころをも守る堅牢な砦と成るだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

エルディー・ポラリス
◎☆
ヒーローの存在は、邪悪に怯える人々を勇気づけてくれるもの。
よろしい、この世界に勇気を齎すべく、最高の映画にしましょう!

愛ダチョウ、メアリちゃんに乗って勇ましくトム少年の元へ駆けつけます!
あ、メアリちゃんの出番はこれでおしまいだから、上手く画面からフェードアウトしてちょうだい。

化け物を恐れるトム君の話を聞いたら、安心させるように右手で抱きしめるのです。
怯える子供を慈しむ聖女路線です、監督、優しい感じのBGMよろしく!

──UCを使う左手は画面外へ。
特大裁縫針で、倒木やらなんやらを一気に秘密基地の壁へ縫いつけるのです!
一瞬の内に補強を終わらせ、有能さも演出。
頼れるヒーロー役、こなしてみせます!



●駝鳥に乗った聖女様
 オブリビオンに狙われている少年、トムはいま秘密基地の前ひとりきりで座っていた。猟兵たちは戦いの準備が有るとかで、ちょうど席を外しているのだ。男の子だから、一人で大丈夫だと見栄を張ったものの……。
「イェーガーたちが居ないと、やっぱり不安だなあ」
 いざという時は駈け付けてくれた猟兵たちが守ってくれると信じているし、花時計は彼のこころを癒してくれるけれど、敵地に一人きりという事実は少年の顏を暗くさせる。
 こんな時こそ、頼もしいヒーローに元気づけて貰おうと、少年はポケットから玩具の人形を取り出そうとした。――彼の耳に再び獣の蹄が如き音色が聞こえて来たのは、其の時だった。
「も、もしかして、モンスター……?!」
 最悪の事態を連想して花園に隠れながら、ふるふると震えるトム。されど、彼の予想は外れていた。この秘密基地に駈け付けたのは、ヤギのようなモンスターではなく――。
「助けを求めていたのは、あなたですか」
「えっ、だ、ダチョウ……?」
 巨大なダチョウと、其の背に揺られる銀髪の聖女――エルディー・ポラリス(Au delà de les larmes・f11010)だった。彼女が跨るダチョウから淡い後光が差しているのは、きっと気のせいではない。その巨大なダチョウ――彼女のバディペット“メアリ”は、聖者の光を溜め込む性質が有るのだ。ゆえに当現場においては、天然の照明の如き役割を担っている。
(「あ、メアリちゃん。上手く画面からフェードアウトしてちょうだい」)
 されど、メアリの出番はここでお終い。エルディーを其の背から降ろしたダチョウは、命じられるままカメラからフレームアウトして行く。初めて間近でダチョウを見た少年の、好機に煌めく視線に見送られながら――。
「一体どうしました。私でよろしければ、話を聞かせて戴けませんか」
 トムと視線を合わせるように屈んで見せるエルディー。努めて優しく声を掛ければ、少年はおずおずと口火を切り始めた。
「じ、実は……」

 そうして場面は移り変わる。現在ふたりは小屋の前に腰を下ろしながら、此れ迄の経緯を語り合っていた。
「化け物に狙われているなんて、可哀そうに。さぞ恐ろしかったことでしょう……」
 トムからすべての事情を聴いた聖女は柳の眉を下げ、彼を安心させるように右手で少年の頭を抱き寄せた。
(「監督、優しい感じのBGMよろしく!」)
 ちらり、紅の双眸で監督へ一瞥を呉れれば、彼女の意図は伝わったらしい。――刹那、怯える子どもを慈しむ聖女の傍を、穏やかで優しいピアノの調べが通り過ぎて往く。
 ――ヒーローの存在は、邪悪に怯える人々を勇気づけてくれるもの。
 現に彼女の故郷“ダークセイヴァー”においても、オブリビオンと戦うイェーガーたちの存在は、ヴァンパイアたちの圧政に怯える人々に勇気と希望を与え始めていた。
 ――よろしい。この世界に勇気を齎すべく、最高の映画にしましょう!
 ゆえにこそ、エルディーはこのような仕事にも真剣に挑んでみせるのだ。いつかこの映画を鑑賞した子供たちのこころにも、勇気と希望を与えられると信じて。
「もう大丈夫ですよ。きっとあなたを守って見せましょう」
「うん……有難う。お姉さん」
 ふわふわと癖の強い少年の赤毛を右手で撫でながら、エルディーの左手はカメラのフレーム外で抜け目なく動いている。実は既に彼女、ユーベルコードを発動させているのだ。
 
            パッチワーク ラフメイク
 其れは驚異の裁縫術。――超過聖光・神縫い。
 剣と見紛う程の巨大な裁縫針に光の加護を宿し、神速の糸通しや正確無比な縫い付けを可能とする神業。
 彼女は其の恐るべき裁縫術を用いて、周囲の倒木たちを一気に秘密基地の壁へ縫いつけてみせた。
 それは体感にして一瞬の出来事。ふたりが離れる頃にはもう、小屋の外側は物理的に補強されている。小屋の外側へいつの間にやら縫い付けられた木々を見て、トムも目をぱちぱちさせていた。
「これ、お姉さんが一瞬でやったの? わあ、わあ、すごい……!」
 子どものこころを護る役目と、秘密基地を補強する役目、そのふたつを同時にこなしたことで、有能さもばっちりアピール出来たようだ。エルディーは内心でガッツポーズを決めていた。
 ――頼れるヒーロー役、こなしてみせます!
 優しい聖女の如きヒーローはきっと、子どもたちに慕われる存在と成るだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

月居・蒼汰
◎☆

小さな子供が俺達を呼んでいる
ならば今こそ、ヒーローの出番!
…なんてちょっと気恥ずかしいけど、頑張ろう

トムくんと一緒にこの秘密基地を強化するんだね
君はどういう雰囲気がお好みだろう?
カッコいい?オシャレ?強そうなら何でも?
俺は魔法でバリアを張ったりとか…一応出来るけど
あとは鉄線(棘なし)に電気(スピリット)の力を流して
バリケードの上に更に即席の罠を張るとか…?
(電流は静電気がパチっとするくらい)
同行の皆とも意見交えつつ、出来る所は率先して手伝いを
こういう作業は子供の頃にかえったみたいでわくわくする
より猟兵らしい、なんか格好良くて…
モンスター達が見ただけでびっくりするようなやつを作れたらいいなあ


荒谷・ひかる
◎☆

・登場
「――その願い、確かに聞き届けました」
(最新BUの姿で、杖の石を淡く光らせながらゆっくりと登場)
「今まで、よく頑張りましたね。わたし達が来たからには、もう大丈夫ですよ」
(安心させるように優しくトム君を抱きしめ、撫でてあげる)

・拠点構築シーン
トム君や他のヒーローと相談しつつ上手く組み合わさるように【草木の精霊さん】発動
「この場所でしたら……草木の精霊さん、お願いします」
周辺の草や樹木が蠢き成長して壁や偽装になり、秘密基地をベースに罠だらけの植物の要塞へと強化する(という演出)
「森の中は、草木の精霊さんの領域です。こうしてしまえば、大群であれ迎撃は容易いでしょう」



●ふたつの希望
 脆弱な木造りの小屋は現在、倒木による補強によって物理的に強化されていた。これなら、化け物たちが襲ってきたとしても籠城することが出来る。少なくとも、大人たちが起きて来るまでの時間は稼げるだろう。
 命を狙われている少年、トムは猟兵達が席を外している間、小屋の中で待つことにした。しかし、ひとりきりで居るのは矢張り心細いのだ。
「お兄さん、お姉さんたち、早く帰って来ないかな……」
 不安げな顏でそうっと窓の外を覗いてみる少年。彼の視界に映るのは、絢爛たる花時計と落葉で隠された堅牢なバリケードばかり――の筈だった。
「あれ……?」
 窓の外に、淡い輝きを放つピンクの光が見える。暗闇を仄かに照らす其れは、何故だか安心できる気がして、気づけばトムは其の光を追って外に出ていた。
「誰かいるの……?」
 懐中電灯で足元を照らす少年が、淡い煌めきに向かっておずおずと声を掛けたなら。新たに駈け付けた猟兵たちは、返事を寄越さぬ道理などない。
「小さな子供が俺達を呼んでいる――」
 少年の問いに応える男性の声が、幼い頭上から凛と降って来る。何ごとかとトムが視線を上げた先には……。
「ならば今こそ、ヒーローの出番!」
 濃灰のロップイヤーを垂らした青年、月居・蒼汰(泡沫メランコリー・f16730)の頼もしい姿が在った。
 ――……なんて、ちょっと気恥ずかしいけど、頑張ろう。
 スピリットヒーローたるもの、今こそ此の力の使い時。そう想って胸を張り、格好良く登場みたものの、――カメラの前で演技をするのはやっぱり少し恥ずかしいのだ。
「来てくれたんだね、ヒーロー! お願い、僕を助けて!」
「――その願い、確かに聞き届けました」
 少年のこころからの希いに、応える声がもうひとつ。其れは、彼が惹かれた灯の主――荒谷・ひかる(精霊寵姫・f07833)のものだった。
「あっ、フォーティナイナーズ!」
 フリルをあしらったピンクの愛らしいケープを羽織り、淡いピンクのワンピースに身を包んだ少女は、精霊杖に飾られた桃色の石を淡く光らせながら、ゆっくりと少年の元へ歩み寄る。
 ひかるもまた、“アースクライシス”で活躍したフォーティナイナーズのひとり。勿論、トムだって彼女の雄姿はよく知っている。ゆえに、彼の瞳はさらに明るく輝いた。
「今まで、よく頑張りましたね。わたし達が来たからには、もう大丈夫ですよ」
 厳かに登場したひかるは少年にそっと寄り添い、優しくトムを抱きしめた。その傍ら、ふわふわとした癖のある少年の赤い髪を、安心させるように優しく撫でてやる。
「う、うう……ありがとう」
 緊張の糸が解けたのか、ぐすぐすと泣きだして仕舞う少年。されど、ひかるは彼が落ち着くまで、優しさで以て彼のこころを癒してやったのだった――。

 トムの気持ちが落ち着いたところで、本題の拠点構築へとシーンは移行する。ヒーローふたりと少年は今、この秘密基地に敷かれた鉄壁の防御へ、如何なる守りを継ぎ足そうか相談していた。
「ねえ、君はどういう雰囲気がお好みだろう?」
 蒼汰はトムの顏を覗き込み、かくりと首を傾けて見せる。うーん、と考え込む少年を微笑まし気に見つめながら、ヒーローは彼を導くように言葉を紡いでいく。
「カッコいい? オシャレ? それとも、強そうなら何でも?」
「うんっ、強そうなのが良い!」
 少年の無邪気な期待に応えるべく、蒼汰は自分が編むことが出来る“強そうな術式”を思案する。
「俺は魔法でバリアを張ったりとか、一応出来るけど。……もう足りてそうだね」
「お兄さん、前にお城の近くで悪いヤツと戦ってたよね。あの時みたいな技が良い!」
 少年は蒼汰が赴いた『クライング・ジェネシス』との戦いを、テレビか何かで見ていたのであろう。瞳を煌めかせながら、スピリットの力を見せて欲しいと強請って来る。
「じゃあ、鉄線に電気の力を流して、バリケードの上に罠を張ろうか?」
「それは頼もしいですね。私は地形を活かしてみようかと思います」
 スピリットヒーローらしい蒼汰の提案に賛同しながら、ひかるもまた精霊術士らしく自然の力を借りることにした。
「お姉さんもスピリットヒーローなの?」
 わくわくと首を傾ける自分より幼い少年に首を振り、羅刹の少女はゆるりと笑う。杖に飾られた桃色の宝石を撫ぜながら――。
「いいえ、精霊さんにお願いするんです」

 場面は再び転換する。方針を決めた三人はいま、罠を設置するために小屋の前へと集っていた。落葉に紛れたバリケードの前で作業をするのは、蒼汰とトムのふたりだ。
 棘のない鉄線をバリケードに絡ませて往くのは、小回りが利くトムの役目。蒼汰はそれに電流――安全の為にあくまで静電気程度のもの――を流す役目を担っていた。
 こういう作業は童心に返ったような心持ちで、なんだかわくわくしてしまう。少年と一緒に作業をしながら、蒼汰の頬は自然と弛む。どうせ作るのなら、猟兵らしくて格好いい仕掛けにしたい。
「モンスター達が見ただけで、びっくりするようなやつを作れたらいいなあ」
「うん、これが完成したら、きっと奴らはビックリして逃げて行くよ!」
 何気なく蒼汰が零した科白に、トムが燥いだように相槌を打ったものだから、彼の笑みはますます深まるのだった。
 一方ひかるは、鬱蒼と生い茂る木々と向き合っていた。彼女の手には精霊との絆を結ぶ杖が、確りと握られている。
「この場所でしたら……草木の精霊さん、お願いします」
 淡い桃色の宝石が煌めけば、秘密基地を中心として生い茂る草木が蠢き始め――やがてそれらはぐんぐんと成長し、まるで迷宮のように周囲の景観を覆い隠していく。
「わ、わ、草と木で出来た迷路だ、すごーい!」
「森の中は、草木の精霊さんの領域です」
 頬を赤くして興奮する少年に赤茶の眸を緩めながら、少女は自身が築いた迷路へと視線を向ける。精霊たちはちゃんとお願いを聞き届けてくれたようだ。
「――こうしてしまえば、大群であれ迎撃は容易いでしょう」
 満足気な少女の声が、宵闇のなか静かに響き渡った。
 斯くして秘密基地は万全の態勢で護られることと成った。猟兵たちは少年とともにモンスターの襲来を待つ。ある種の達成感を、それぞれの胸に抱きながら――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『暗黒面『雷矢のラビラント』』

POW   :    暗黒に堕ちる雷雨
レベル×5本の【闇と雷】属性の【心の闇を増幅させ暗黒面を解き放つ矢】を放つ。
SPD   :    神と金を屠る者
自身の装備武器に【【神】と【機械】に対して非常に強い特攻】を搭載し、破壊力を増加する。
WIZ   :    迷宮を冠する一面
自身からレベルm半径内の無機物を【触れると感電する雷の通路】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。

イラスト:うぶき

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●Scene 2 『Evil Lightning』
 昏い森のなか、一心不乱に駆け回る影が在る。――それは、ひとではない。ヤギとひとを融合させたようなモンスターたちが、子どもを求めて夜道を駆けているのだ。
 彼らは不気味に構えた弓矢に雷の加護を宿し、其の輝きで道を照らしながら、連れ去るべき少年を探していた。
 『彼』は家の中に居なかった。田舎町のなかにも居なかった。ならば、行先はひとつ。少年の家の裏口から至ることが出来る、この森だ。
 我らの獲物は何処だ、何処にいる。仮面越しに紅の眼を光らせながら、モンスターたちは蹄を高らかに鳴らして、ただただ森を走る。
 いない、いない。どこに隠れた。茂みの中も、木の上も、落葉の山にも、少年の姿は無い。しかし、ちいさな足跡は残されている。ゆえに、モンスターたちは確信した。
 ――子どもは、生い茂る緑の迷宮の奥に居るのだ、と。
 再び蹄を鳴らしながら、モンスター『雷矢のラビラント』たちは闇夜に駆ける。彼らの主に、子どもを献上するために。

「……あの音だ、奴らが来たんだ!」
 秘密基地に籠城している少年は、遠くから響き渡る恐ろしい蹄の調べに思わず耳を塞ぐ。ヤギのモンスターたちに見つかったら最後、きっと恐ろしい所に連れて行かれてしまう。
「でも、ぼくにはイェーガーたちがいる」
 不安で押し潰されそうな時に駈け付けてくれた彼らは皆、少年に優しい言葉をかけてくれた。それに、秘密基地を護る為に力を貸してくれた。
 おんぼろ小屋の壁は、幾つもの倒木で補強されている。それに魔法のバリアだって張られているのだから、奴らに体当たりされても何とか一晩くらいは凌げそうだ。
 外には電流が通った頑丈なバリケードが張り巡らされているし、12方向から少年を守ってくれる麗しい花時計の加護が在る。そして、小屋に至るまでの道のりには、草木で出来た迷宮が広がって居る。
「きっと、大丈夫」
 少年は塞いでいた耳から、そうっと両手を離した。外は怖いけれど、勇気を出して窓の外を覗き見る。
 モンスターたちは未だ居ない。代わりに居るのは、少年を護る為に集ったイェーガーたちだ。少年は迫り来る敵を迎え討たんとする彼らに向けて、力の限り声を振り絞った。

「がんばれ、イェーガー!!」

 震えながら叫んだ科白は、彼らの耳に届いただろうか――。
月居・蒼汰
◎☆

…大丈夫
トム君の声、ちゃんと皆に届いてるよ
折角だからお城の時のアレはボスに取っておくことにして
トム君にも見える場所でまずは配下の迎撃に
勿論トム君に危険が及ばないよう気をつけながら

ここから先へは行かせない
この星の希望、子ども達の未来は
俺達ヒーローが守ってみせる

雷の通路が行く手を阻むなら空中を飛んで翔け抜けて
中に人がいることはわかってるけど
何となく改心させるつもりの翠の暁星
ヒーロー番組を意識して拳で手加減攻撃しつつ
空を飛んだりオーバーリアクションを混ぜてのパフォーマンスを
特に小屋へ攻撃が向くならオーラ防御を展開させて庇い
トム君や映画を見る人達に少しでも楽しんで貰えそうな
格好いい戦い方を心がける


エドガー・ブライトマン
◎☆
声の聴こえた方へ振り返り、軽く手を振る
ウンウン、頑張るとも

だって私は王子様
望まれたならば、応えるだけさ

ご機嫌よう、ラビラント君たち
揃いも揃ってどうしたんだい?何か探しているのかな
悪いけど、キミらの探し物を手伝ってやれないし
ここから先も通してやれない
私は望まれてここに居るからさ

ラビラント君たちが私のお喋りに飽きたようなら戦闘開始(演技)
剣は抜くけど、まともに当てないように気を付けるよ
立ち位置もカメラにちゃんと映るように意識
やっぱりカッコよく映れた方が嬉しいし。ふふっ……

タイミングを見て、
ラビラント君と間合いを詰めて“Jの勇躍”(安全性を重視した演技)

カッコよく撮れてるかな~、ドキドキするな~



●森に集いしふたりの英雄
 秘密基地から届いた精一杯の声援は、果たしてちゃんと猟兵たちの耳にも届いていた。スピリットヒーローとして世界のために戦う月居・蒼汰にとって、その声援は馴染み深いもの。それと同時に、彼のこころに勇気を与えてくれるものでもある。
「……大丈夫。トム君の声、ちゃんと皆に届いてるよ」
 蒼汰は一度だけ小屋の方を振り返れば、窓に張り付き戦況を見守る少年へと安心させるように頷いた。彼の隣に並び立つエドガー・ブライトマンもまた、声が聴こえた方へと振り返り、少年へと軽く手を振って見せる。
「ウンウン、頑張るとも」
 大勢のモンスターを前にしても、彼の表情が曇る事はない。――だって彼は“王子様”。望む声があれば、其れに応えるだけなのだ。
「ご機嫌よう、ラビラント君たち」
 そして彼のきらきらとした明るさは、護るべき者だけではなく、敵にも等しく向けられるもの。エドガーはヤギのモンスターたちへと、胸に手を当て軽く腰を折って見せる。
「揃いも揃ってどうしたんだい? 何か探しているのかな」
 モンスターたちから返ってくる言葉などは無い。彼らは唯、苛立たし気に其の場で足踏みを繰り返すのみ。早く子どもを寄越せ――と、如何にも言いたげに。
 対峙するエドガーにも、彼らが言わんとすることはよく伝わったらしい。ゆえに彼は、はらりとマントを翻し、白薔薇が絡みつくレイピアの切っ先を迷いなく敵へと向ける。
「悪いけど――。キミらの探し物を手伝ってやれないし、ここから先も通してやれない」
 確かに彼は“通りすがっただけ”だけれど、悪を挫き弱きを助けるのが彼の役目。モンスターたちの王子様には成ってやれないのだ。
「私は望まれてここに居るからさ」
 弱者に求められるまま、其の剣技を振って見せる。それが、エドガー・ブライトマンという博愛主義者の生き様だった。
「ここから先へは行かせない」
 蒼汰もまた拳をぎゅっと握りしめる。アースクライシスでの激闘を経て、肉体的にも精神的にも、彼は少しだけ強くなった。後ろではなく、前を向いて戦えるようになったのだ。
「この星の希望、子ども達の未来は――俺達ヒーローが守ってみせる」
 決意の炎を金の双眸に揺らして、スピリットヒーローは闇夜を駆ける。傷つくのは怖いけれど、護るべきひとや倒すべき敵に背を向けるのは、――絶対に厭だ。

 立ちはだかるふたりが子どもを渡さぬと察すれば、モンスターたちは怒りに咆える。ひとめいた指先から放たれる無数の矢は、小屋の周囲に捨てられた廃材へと降り注ぎ――。やがては其れらを合体させて、みるみる内に雷の通路を作り上げて往く。其れは挑む者を感電させる凶悪な迷路。――されど、蒼汰には立派な翼が在るのだ。ゆえに彼は怯まない。
 薄い紫の翼を大きく羽搏かせ、ヒーローは華麗に空を翔る。通路の中が通れないのならば、その上を通り抜けて仕舞えばいい。
「絶対、救ってみせるから……!」
 くるり、くるり。高らかに宙を舞った蒼汰は其の儘、ラビラントを目指して一直線に下降する。振り上げた拳に正義と慈愛のこころを宿せば、落下の勢いに任せて敵を――いや、敵が抱く負の感情を殴りつける!
 ――中に人がいることはわかってるけど……。
 カラン――と、弓矢を落とす敵を見ながら、蒼汰は内心で苦笑いを零していた。彼らが着ぐるみであることは承知の上だけれど、それでも悪に染まった敵を拳で改心させるのは、やっぱりヒーロー番組の醍醐味なのだ。
 こころの闇を払われたモンスターはヒーローたる彼へと路を拓き、暗く深い森の奥へと消えて往く。これでもう、子どもを襲うような悪さはしないだろう。
 怪物すら改心させる蒼汰の戦いぶりはきっと映画を見る子ども達に、悪すら許すこころの強さと優しさを教えてくれる筈だ。
 されど、そんな正義のこころを踏みにじるのが“悪”である。蒼汰に向けていま、雷を纏った矢が放たれる――。
「ねえ。ピーナ宮殿の時のアレ、使わないのかい?」
 然しその一矢は、さりげなくカメラにフレームインして来たエドガーのレイピアによって、膠もなく弾かれてしまった。
 諦めずに飛んできた次の矢を躱しながら、彼は首を傾けて見せる。エドガーもまた、蒼汰と同じ地で『クライング・ジェネシス』に挑んでいた。
 ゆえに、少しだけ不思議だったのだ。あの時の技を使えば、こんな群れすぐにでも吹き飛ばせるだろうに――。
「折角だから、ボスに取っておくことにしたよ」
「なるほど、そういうのは大事だね」
 蒼汰の返事に、納得したように頷くエドガー。何せ今日は観客が居るのだ。見栄えを優先するのも確かに大切だろう。ちらりと小屋を振り返れば、少年は夢中で彼らの戦いぶりに見入っていた。
「そろそろ私も、剣技を披露させて貰おうかな」
 ばさり――。優雅にマントを翻した瞬間にはもう、エドガーの姿は其処にない。薄布の重しから解放された王子様は軽やかに森を駆け、瞬きの合間にラビラントへと肉薄する。
 そうしてレイピアへと力を籠めながら、ちらり。涼やかな碧眼で確認するのは、他ならぬカメラの位置。
 無機質なレンズはいま、確りと化け物に立ち向かう王子様の雄姿を映している。彼の素早い動きに、カメラマンはどうにか着いてこれたらしい。
 内心で満足げに頷いたエドガーは、照明を浴びて光り輝くレイピアを振い、眼前のラビラントを流れるような動作で切り伏せた。
 ――カッコよく撮れてるかな~、ドキドキするな~。
 ふふっと、思わず軽い笑みが漏れて仕舞ったが、エドガーの美貌の前ではそれもご愛敬。彼の勇姿をじぃっと捉えるレンズ越し、その笑みは少年らしいドキドキとは裏腹に、王子様らしい気高き微笑として映っていた。

「わああ、ふたりとも凄い!!」
 彼らの活躍ぶりと来たら、コミックヒーローたちが霞むほどの物だったのだから、少年が思わず歓声を響かせてしまうのも仕方のないことだろう。
 されど、モンスターたちは獲物の鳴き声を逃さない。交戦中の一体が目敏く小屋に居る人影に気づき、猟兵たちが補強した秘密基地に向けて弓を引かんとする。
「――危ない!」
 少年の危機に真っ先に気づいたのは蒼汰だった。手近な一体を優しき拳で殴り飛ばし、小屋へとオーラの防御を敷けば、放たれた矢は不可視の盾に弾かれてあらぬ方向に飛んで行く。
「ここは通してやれないって、そう言った筈だよ」
 そんな抜け目ない一体に、素早く距離を詰めるのはエドガーだ。またもや自然にフレームインすれば、目にも止まらぬ速さでレイピアを抜き、敵の毛皮を冷たい剣先で撫ぜてやる。間髪入れず崩れ落ちるラビラントに眼をくれず、ふたりは視線を少年へ。気弱な彼のことだ。また泣いてやしないだろうか――。
「か、かっこいい……!」
 彼らの心配をよそに、少年はきらきらとした眼差しで猟兵達の雄姿を見つめていた。ふたりは一瞬だけ顔を見合わせた後、笑みを浮かべて手を振って――。そしてまた戦場へと戻って行く。
 勝利の女神は今宵、猟兵たちに微笑んでいる。夜の森に響き渡る喧噪もきっと、直に落ち着くことになるだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

荒谷・ひかる
◎☆

「お出ましのようですね……大丈夫。わたし達は、絶対に負けませんから」

トム君の傍で【大地の精霊さん】発動
(・ワ・)←こんな感じの顔した、全高2m程度の大地の精霊さん(土のゴーレム)を召喚
わたし自身はその場で彼に寄り添い、前線には精霊さんを向かわせる

大地の精霊さんはコミカルで愛嬌ある仕草ながら、地中潜行能力を持ち奇襲が得意
また大地の属性を持つが故にその身がアースとなって雷を吸収、無効化する
雷の通路を無視してずんどこ真っ直ぐ進撃、体格を生かした打撃戦で圧倒します
(勿論撮影用に手加減してます)

※もしトム君人質希望プレがあったら一緒に捕まりつつ大地の精霊さんが救助に向かいます(ひかる本人は弱い設定)


エルディー・ポラリス
◎☆#
来ましたね、少年には指一本触れさせませんとも!
首から下げたロザリオを握り、胸の前に掲げます。
いや、全くもって無駄な動作ですし、私信仰心とか無いのですけども。
──変身ポーズはかっこつけないとね。

UC発動、丸っこい機械の身体を持つ真の姿へと変身します!
聖女成分は消し飛びますが、まあそこは溜める場面ということで。
雷の通路は、あえて突っ切ります!
撮影用なので電圧も抑えめ……痛っ、結構いたたたた!!

しかし、接近してしまえばこちらのもの!
鉄拳が(寸止めで)唸り、角を(優しく)千切っては投げ!
……あ、実際には生命力吸収で脱力させて倒します。多分これが一番怪我しにくいでしょう。
上手くやられてくださいね!



●優しきゴーレムと、可憐なる蛹
 フォーティナイナーズがひとり――荒谷・ひかるはいま、少年と共に秘密基地に籠城していた。ひかるは歴戦の猟兵であるけれども、彼女自身に戦う力が有る訳ではない。ひかるの武器は、彼女が助力を乞う“精霊さん”たちとの結びつきのみ。
 けれども少年は、彼女のことを信じている。だってひかるは先の戦争で、ロサンゼルスの空を果敢に守り抜いた英雄のひとりなのだから。
「お出ましのようですね……大丈夫。わたし達は、絶対に負けませんから」
 少年と確り目を合わせた少女は、彼を安心させるように裡に秘めた決意を告げる。ひかるもまた、深い絆で結ばれた精霊さんたちのことを信じていた。
「大地の精霊さん!」
 祈るように眸を閉じた少女が精霊の名を呼べば、彼女の杖に嵌められた宝石が淡い煌めきを放つ。その淡い光はやがて、窓の外に大地の紋章を描き――。魔法陣じみた其れが月光に照らされた瞬間。ドドド……なんて凄まじい地鳴りと共に、土がごぽりと盛り上がる。
 偉大なる大地より出でしは、土で造られたゴーレム。2メートルほどの長身とは裏腹に、緩い顔文字のような丸いお目眼と、笑っているような口が愛らしい“大地の精霊さん”だ。
「わあ……すごーい! 大きくてカッコイイ!」
「お願いね、精霊さん」
 瞳を煌めかせながら窓に駆け寄った少年に寄り添いながら、ひかるはいつものように精霊さんへと「お願い」をする。
 土造りのゴーレムは愛嬌のある顔をこくりと頷かせて、――どすん、どすん。地響きを鳴らしながら、前線へと進撃して行くのだった。

 前線ではもうひとりの猟兵――聖女然としたエルディー・ポラリスが、ラビラントが作り上げた雷の通路と対峙していた。彼女が祈るようにぎゅっと握りしめるのは、シスターらしく首から下げたロザリオだ。
「来ましたね。少年には指一本触れさせませんとも!」
 高らかに啖呵を切った聖女は、敬虔さのシンボルとも言えるそれを胸の前に掲げて見せる。別にこの動作は、これから編む術のトリガーでは無い。それに、エルディーは特別に信仰心が篤い訳でも無いのだ。
 ──変身ポーズはかっこつけないとね。
 それでも、彼女の姿が映し出されるであろうスクリーンの向こうには、きっと数多の子供たちが居る。彼らに少しでも楽しんで貰う為に、エルディーは目一杯格好つけることにした。
「それでは、暫しお待ちくださいませ」
 嫋やかな科白をひとつ零せば、彼女は機械仕掛けの蛹と成る。がしゃん、がしゃんと鈍い音を立てながら、機械装甲がその華奢な体を包み込み――やがては雪だるまのような丸いフォルムの、愛らしいロボットの如き姿へと転じて行く。
 其れは彼女の真なる姿――に寄せた姿。発動には制約のある姿ゆえ、今は完璧な再現に至っていないけれど。編集の際にCGをフル活用することで、120%完璧にその姿を再現してみせると監督は確約してくれた。
「あっ、シスターのお姉さんもロボットに成ってる!」
 それに今の機械装甲姿でも十二分に、少年心をキャッチ出来たようだ。トムのきらきらと輝く眼は、エルディーの変形シーンに釘付けだった。変形ロボというものは、遍く少年の浪漫なのだ。
「さあ、参りましょう!」
 彼女の躰はいま機械装甲で丸く護られている。ゆえに、雷の通路は敢えて突っ切ることにした。機械に包まれた見目を考慮しても突撃戦法のほうがイメージに合っているし、そもそもこの通路は撮影用に組み立てられたフェイクなので、電圧も抑えめな筈――。
 ――痛っ、結構いたたたた!!
 通路から流れる電流は静電気レベルだけれど、バチっと来るとやっぱり痛いものだ。カメラの手前、溢れそうな苦悶の声は我慢して。エルディーは雷の通路を、前へ前へと進んで行く。
 傷つきながら進んで行く其の様は――喩えお芝居だとしても――きっと、この映画の行方を見守る子どもたちに、困難から逃げないこころの尊さや、強大な敵に立ち向かう強さなどを教えてくれるだろう。――そして、諦めずに進んでいれば支えてくれるひとが現れるものだ。

 どすん、どすん――。
 
 エルディーの背中を、地響きが追いかけてくる。何ごとかと彼女が振り返れば、其処には全長2メートルほどのゴーレムの姿が在った。
 もしや、少年の護衛をしている猟兵が支援してくれたのだろうか。そのゴーレム――大地の精霊さんが現れた刹那、彼女を襲っていた電撃がぴたりと止んだ。
「あなたが助けてくれたのですか?」
 大地の精霊さんは黙して何も語らないが。それでも、緩い顔文字のような愛嬌のある顔が、心なしか頷いたような気がした。エルディーが有難うと礼を紡げば、ゴーレムは満足気にどすん、どすんと音を立てながら、雷の通路をぐんぐんと進んで行く。
「では、彼の後をついて行くとしましょう」
 鋼鐵の繭にくるまれた蛹もまた、こつり、こつりと足音を響かせて、ただの通路と化した路を進んで行くのだった。

 通路の出口では、モンスターたちが猟兵の登場を待ちかねて――もとい、飛んで火に入る獲物たちを仕留めてやろうと、弓矢を構えて隊列を為していた。
 ふと、彼らが蹄を立てる地面がぐらり、ぐらりと揺れ始め。次の瞬間には、土造りのゴーレムが地面を突き破って、彼らの前へとその姿を現す。
 慄きながらも雷を纏った矢を放つラビラントたち。されど、大地を司る精霊には雷など効かず、勇猛な土塊の腕でいとも容易く振り払われてしまった。
 大地の精霊さんが両腕を思い切り地面に叩きつければ、ぐらぐらと再び地面が揺れて、モンスターたちは碌に立って居られない。
「接近してしまえばこちらのもの!」
 その隙に、敵地へと勇ましく駆けて来るのはエルディーだ。鋼鐵の腕を振り上げれば、苛烈なる鉄拳が唸る――!
 ラビラントの角をがしりと掴んだ彼女は、雄々しき角を努めて優しく千切り、あらぬ方向へと放り投げた。痛みに怒るラビラントが襲い掛かってくれば、鋼鐵の腕で殴る――フリをして、着ぐるみの中にいるスタントマンの体力をこっそりと吸収した。
(「上手くやられてくださいね!」)
 ひそり、小声で囁く聖女の望み通り、きりきり舞いをしながら聊か大袈裟に倒れこむラビラント。
 其れを見た他の個体たちもまた、仲間の敵討ちとばかりに彼女へと襲い掛かる。されどヒーローは動じない。機械仕掛けの蛹に包まれたエルディーは、驚くべき強さでモンスターたちを千切っては投げ、千切っては投げ……大立ち回りを披露して行く。

「す、すごい……」
 窓に張り付いてその様を見守っていた少年の瞳は、相変わらずきらきらと輝いていた。そんな彼の反応を見守りながら、ひかるは内心で安堵の吐息をひとつ。
 最初に出会った時は不安そうな顔をしていた少年が、いまは活き活きとした顔をしている。彼のこころに傷を遺すことが避けられて良かった――。
「あ、こっちに一匹向かってきてる!」
 慌てたような少年の声に窓の外へと視線を向ければ、緑の迷路を突破した一体が秘密基地に向けて突進して来ている。
 小屋の周りには頑丈なバリケードや、花時計の加護がある。ゆえに、迎え撃つ必要は無いとも思ったが、少年を安心させてやるのが急務だろう。
「大地の精霊さん!」
 ひかるが強い絆で結ばれたゴーレムを呼べば、次の瞬間ぐらぐらと大地が揺れる。大地の精霊さんは地中を潜り、恐るべき速さで戻って来たのだ。
 ゴーレムは向かって来るラビラントをその両腕で捕まえれば、ひょいと高らかに怪物を持ち上げる。そして思い切り遠くへ其れを放り投げた――!
 もちろん、それは演出上の話。実際は中のひとの安全を考慮して、捕まえたラビラントは画面の外に優しく置いてあげている。
「わあ、ありがとう。精霊さん!」
 窓ガラス越しに少年が手を振れば、大地の精霊もまた不器用に腕を動かして、手を振り返してくれた。
「大丈夫、わたし達は必ずあなたを守ります」
 優しくそう語り掛ける少女の科白を証明するように、土造りのゴーレムは秘密基地の前へと仁王立ちする。ひかるが側にいる限り、少年の安全については心配無用だろう。
 自分より少しだけ年上の少女をこれ以上ないほどに頼もしく思いながら、トムは大立ち回りを続けるエルディーに声援を送っていた。

 ――モンスターの殲滅まで、あともう少し。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
【ニコさん(f00324)と】



さて…どうするニコさん?
結構な数みたいだけど

敢えて悪戯に声をかけながら★杖を構え
【オーラ防御】と組み合わせ花魔法を纏うことで自身への電気を遮断

ふふ…愚問だったかな
数で負けてるなら威力で押せばいいね!
脳筋思考は…彼に似たのかも

翼の【空中戦】で敵の視線を惹きつつ
★Venti Alaに風魔法を宿し【ダンス】のように軽やかに宙を舞い攻撃回避
杖に【高速詠唱】で花魔法を集め勢い良く射出する【属性攻撃】で目眩し

その隙に【催眠】を乗せた【歌唱】で操る【破魔】の【指定UC】で
花嵐の斬撃による【範囲攻撃】

※全攻撃風の威力を抑えた殺傷力皆無な花嵐

子供を泣かせる悪いヤギにはお仕置きだよ


ニコ・ベルクシュタイン
【栗花落(f03165)】と


ふむ、あの山羊は皆着ぐるみのエキストラさんなのか
よく器用に動くものだな…と感心している場合では無いな
物量で攻められてはな、俺としては其れをより上回る数で返すが
栗花落は案外、こう、脳筋気質なのだな

む、花の攻撃を栗花落に先取りされてしまったな
では俺は精霊に助力を求める事としようか
炎はちと物騒なので、氷の精霊を喚ぼう
【精霊狂想曲】で巻き起こすは吹きすさぶ氷の吹雪
「全力魔法」を「範囲攻撃」に乗せて、吹雪は全てを凍てつかせるぞ
雷の通路も氷で覆ってしまえばどうだ?

中の人には済まぬが、後でしっかり暖を取って欲しい
死なぬ程度に加減はするが、こう、自己責任でな…



●フルール・グラソンの協奏曲
 少年を着け狙っていた山羊のモンスターたちは、蹄を鳴らしながら狩りの邪魔をする猟兵たちへと向かって来る。ひとに似せた指先で起用に弓を操り、雷矢の雨を戦場へと降らせるラビラントたち。ニコ・ベルクシュタインはそんな彼らに対峙しながら、ほうと感嘆の吐息をひとつ。
 ――ふむ、あの山羊は皆着ぐるみのエキストラさんなのか。
 ケンタウロスめいたフォルムの躰を引き摺りながらアクションをするのは大変だろうに、よく器用に動くものだな……と、生真面目なニコはつい感心してしまう。
「さて……どうするニコさん?」
 そんなニコの思考を現実へと引き戻すのは、栗花落・澪の悪戯な声だ。少年が清浄なる輝きを放つ杖“Staff of Maria”を振れば、何処からともなく舞い散る花吹雪。華やかなるそれは盾の如く少年を包み込み、降り注ぐ矢を吹き飛ばしていく。
「結構な数みたいだけど」
「物量で攻められてはな、俺としては其れをより上回る数で返すが」
 そう語るニコが撫ぜるのは、星型の白花が絡む柊の杖。喩えモンスターの大群に囲まれても問題ない。――彼には力を貸してくれる精霊たちが居るのだから。
「ふふ……愚問だったかな」
 並び立つ青年から返って来た頼もしい答えに、澪はくすくすと笑みを零す。ニコも澪も歴戦の猟兵。この程度の危機など、今まで何度だって乗り越えているのだ。ゆえに対処法だって分かって居る。
「そう、数で負けてるなら威力で押せばいいね!」
 どやりと胸を張る少年を見下ろすニコは、思い切りの良い彼の科白に眉を下げながら笑う。見目こそ少女と見紛うほどに可憐だけれど、この少年は勇猛果敢なのだ。
「栗花落は案外、こう……脳筋気質なのだな」
「……彼に似たのかも」
 澪も納得するところがあるようで、脳裏に過った相護相愛たる彼を想い照れ笑い。力押しだろうと、この死地を切り抜けられれば問題ないのだ。少年は天使の如き翼を羽搏かせ、華麗に宙を舞う。
「じゃあ、先に行かせて貰うね」
「ああ、フォーティナイナーズ殿のお手並み拝見と行こう」
 ほんの少し悪戯に紡がれたニコの科白に、もう――と頬を染めながら澪はくるり、パーカーの裾を翻す。アイドルめいた少年の花姿は闇夜に映えて、ラビラント達の視線をよく惹きつけた。彼を目掛けて、いま再び無数の矢が放たれる――!
「当たらないよ」
 されど澪は翼の生えた靴“Venti Ala”に風の加護を宿し、くるり、くるり。宙でステップを踏みながら、降り注ぐ矢を軽やかに回避する。少年の華麗なるダンスの前では、雷の矢は無力だ。虚しく宙へ曲線を描きながら、ただ地面へ落ちて行くのみ。
 敵の攻撃を避けながら、澪は更に花を呼ぶ。いまや少年の華奢なシルエットは、花の覆いですっかり隠されて仕舞って居た。
 ――そろそろ、頃合いかな。
 矢の雨が落ち着いた隙を見計らい、澪は自身に纏わりつく花吹雪を戦場へと射出する。光り輝く矢の代わりに夜の森へと降り注ぐ、薫り高い色とりどりの花々。その覆いはラビラントたちの視界を塞ぎ、彼らに襲うべき標的を見失わせた。されど、鈴の如き少年の声は闇夜によく響く。
 ――あれはそう、歌声だ。
 澪の花唇から紡がれる声へと意識を向けた時には既に、ラビラント達は彼の虜。もはや抵抗する気力など折れてしまっていた。
「子供を泣かせる悪いヤギには、お仕置きだよ」
 悪戯に囁かれた少年の科白を合図として、花の覆いは彼らの躰を切り刻む刃となる。麗しい花々に切り裂かれながら、山羊たちは地に堕ちた花弁が為した花畑の上へ、どさりどさりと倒れ伏して行くのだった。

「む、栗花落に先取りされてしまったな」
 少年の見事な立ち回りを眺めながら、ニコはどんな術を編もうかと思考を巡らせていた。澪へとカメラが注目している隙に、彼の前には電を纏う通路が組み立てられている。
 ニコに求められて居るのは、この通路を格好良く攻略することだ。本当は彼も花を呼んで攻撃を行おうかと思って居たが、画面映えを考慮すると同じような技は避けるべきかもしれない。
「では――精霊に助力を求める事としようか」
 いつもは炎の精霊に世話になることが多いニコだが、着ぐるみや大道具相手に火を嗾けるのは少しばかり物騒だ。ゆえに、今回は違う精霊を喚ぶことにする。
「荒れ狂え精霊よ、汝らは今こそ解き放たれん!」
 勇ましい詠唱と共に戦場へと招かれるのは、『氷の精霊』だ。苛烈なる“精霊狂想曲”は吹き荒ぶ氷の吹雪を巻き起こし、総てを凍り付かせていく。
「雷の通路も氷で覆ってしまえばどうだ?」
 侵入するものを阻む雷も、凍らせられてしまえば無力。氷に包まれた只の通路を、ニコは全力で駆けて往く。――そうして走り抜けた先には、少年の花吹雪が取り零したラビラント達が待ち構えていた。
 あれだけの距離を走り抜けて来たと云うのに、インドア派に見えて運動好きな彼の息は、全くと言って良いほど上がっていない。常通りのスマートな仕草で杖を手繰り、その先端をモンスターたちへと突きつける。
「さあ、氷のオブジェと成るが良い」
 敵へと厳かな宣告を紡いで、ニコは天高く杖を掲げた。白い星花がふわりと香れば、容赦のない氷の吹雪がラビラント達へ襲い掛かる。
 ――中の人には済まぬが、後でしっかり暖を取って欲しい。
 命に別状はないように手加減はしているが、この吹雪だ。着ぐるみ越しとはいえ、少しだけ寒いかも知れない。真面目な気性のニコは、こんな時でもエキストラたちの心配を欠かさないのだった。
 ――後のことは、こう、自己責任でな……。
 毛皮を凍り付かせていく着ぐるみたちを眺めながら、エキストラは風邪をひかぬように、撮影後は確りストーブに当たって欲しいとニコは願う。ほんの少しの申し訳なさを胸に抱きながら……されどカメラの手前、彼は真面目な表情を保ち続けていた。

 花吹雪と氷の吹雪が夜の森へと吹き荒び、子どもを狙う悪い怪物たちを地獄へと還していく。
 やがて夜の森に静寂が戻った頃、――その場に立って居るのは、ふたりの猟兵だけだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『ナイトメア・パレード』

POW   :    ナイトメア・ナインス
自身の【瞳】が輝く間、【南瓜頭】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
SPD   :    アーユーレディ?
無敵の【燕尾服】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
WIZ   :    トリック・オア・トリート
戦闘力のない、レベル×1体の【小さな可愛いオバケ】を召喚する。応援や助言、技能「【料理】」を使った支援をしてくれる。

イラスト:つばき

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ユウスケ・アラタです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●Scene 3 『Nightmare Parade』
 冷たい地面に倒れ伏す数多のラビラントたち。死屍累々とは、まさにこのこと。夜の森に足を踏み入れた侵入者たちは、その惨状にわざとらしく慄いて見せた。
「まあ、ひどい有様だわ」
「本当に、ひどい有様だね」
 嘆いた女が儚げに身を預ければ、男はすかさず細い肩に腕を回して女に寄り添う。その様はまるで、恋人同士のような仲睦まじさ。――されど、その素性も彼らの関係性も、誰一人として知る者はいない。
 ふたりの貌は、ジャック・オ・ランタンの被り物で隠されている。男の方はシルクハットにスーツ、そしてマントと吸血鬼めいた身のこなし。一方で女の方は、ロングドレスに三角帽と、魔女めいた身のこなし。彼らはまるで、ハロウィンの仮装パーティーから抜け出してきたような、奇妙な装いをしているのだ。
 彼らの周りをふよふよ漂う、愛らしいシーツお化けたちの存在もまた、夜道においては異彩を放っていた。ご機嫌な彩のガーランドを運び、鮮やかな紙吹雪を降らせる彼らは、まるで南瓜頭の二人組を持て囃している。

 ――それは、悪夢のパレードだった。

 彼らは幼気な子どもをあの世へと攫って行く。その目的も理由も不明。分かることは唯ひとつ。彼らの今宵の獲物は、イェーガーたちに助けを求めた少年『トム』であるというこだけ。
「とはいえ、収穫はあったようだね!」
「ええ、嬉しいわ! やっぱり子どもは居たのね」
 ふと、不気味に輝く4つの赤い眼が、厳重に守られた小屋を捉えた。途端に、くすくすと愉しげに笑い合うふたりの怪物。
 シーツお化けがばら蒔く紙吹雪のなか、彼らは手を取り合って、踊るようなステップでパレードを続けて往く。目指すは少年が潜む秘密基地。何やら仕掛けが施されているようだけれど、可愛い子どもを前にして「引き返す」という選択肢など彼らには無いのだ。

「見つけたわ、可愛い坊や」
「さあ、坊や。こちらへおいで」
 夜風はやがて男女の甘ったるい猫撫で声を、少年と猟兵たちの耳朶へと運んでくる。月明りに照らされた怪物たちの貌には、不気味な笑顔が張り付いていた。
「坊やのために、甘いお菓子も、素敵な衣装も用意しているのよ」
「だから、僕らと一緒に行こう!」

 ――とってもステキな、あの世まで!

 漸く戦場に姿を見せた“ナイトメア・パレード”は、「おいで、おいで」と愉し気に笑う。秘密基地に潜む少年は、怯えながらも必死で首を振っていた。彼らの甘い誘いに乗ってしまえば最後、もうパパとママにも会えなく成ってしまう。
 ――そんなのは、嫌だ!
 トムは懸命に耳を塞いでいるけれど、怪物たちの甘言は止まらない。ゆえにこそ、イェーガーたちは立ち上がる。さあ、この悪夢のパレードに早く幕を引いてしまおう。

 ――子どもたちの、未来の為に。
月居・蒼汰
◎☆

ようやく逢えたね、ナイトメア
でも、悪夢はここで終わりだ

使うのは勿論あの時の…トム君が見ていてくれた技
真っ直ぐにナイトメアへ指先向けて
願い星の憧憬で攻撃を
俺が操る星は時に過去を撃ち落とし
時に誰かの願いを抱いて未来へと翔ける希望の輝き
…なんて格好つけるのは照れくさいけど、今回くらいは
とは言え力を入れたら大変なことになるから
出来る限り手加減しつつ、けどちゃんとカメラは意識
足元辺りを狙って(スナイパー)当たっている風に見せられるように
ついでに散らした星でオバケを浄化的な感じにとか
そういう演出は出来るかなあ?

俺達がいる限りトム君は連れて行かせない
ハッピーエンドのためなら、どんな力も演技も惜しまないさ



●優しき流星
 月明かりに照らされた、歪な異形のシルエット。其れは、悪夢の夜に余りにも御誂え向きな――“ふたり”の映し姿。
 彼ら『ナイトメア・パレード』は仲睦まじく笑い合い、愛しき幼子のもとへと踊り歩く。されど、彼らの愉快な葬列を阻む者が居た。其れはこの世界を護る“ヒーロー”だ。
「ようやく逢えたね、ナイトメア」
 金の眸をつぅと細めて異形のダンスを眺めながら、月居・蒼汰は彼らの前へと立ちはだかる。如何にも“ヒーローらしく”拳を構えて見せたなら、けらけらと楽し気な南瓜頭たちはピタリ、その動きを止めた。
「でも、悪夢はここで終わりだ」
 深い闇のなか不気味に光る二対の“赤”にも物怖じせずに、凛と言葉を紡ぐ蒼汰。異形のふたりと云えば、ピタリと動きを止めたまま――ただ首だけをぐぐぐと動かし、互いの顔を見合う。
「ねえ、大人がいるわ。どうしましょう」
「どうしようか。どうせ連れて行けないし……」

 ――ここで殺してしまおう。

 先ほどまで纏っていた陽気さは何処へやら。伽藍洞の口より淡々と紡がれた言葉が、宵闇へと溶けて行った。
 刹那、異形たちは再び陰険な陽気さを取り戻す。愛らしいお化け達はふたりの周りをふよふよと飛び回り、其の手に抱いた甘い菓子の香りを振り撒いて。南瓜頭たちは上機嫌でデュエットダンスのアンコール。――其れはまるで、森の中がパーティー会場と化したかの如き賑やかさ。されど其れは楽しいパーティーではなく、悪夢を齎す歪なるパーティーだ。
 くるくる、くるくる。息の合ったスピンを披露しながら勢いよく突っ込んで来る異形たちを、蒼汰が黙って見ている筈も無い。勿論、黙って倒される心算だって、毛頭ないのだ。
「俺達がいる限り、トム君は連れて行かせない」
 胸の奥までどろりと蕩けそうな甘い香りに包まれながら、蒼汰の双眸は真っ直ぐに敵の姿を捉えていた。彼の背中にはいま、幼気な少年の視線が集中している。
 相変わらず戦いは苦手だけれど、子どもの期待に応えずしてなにが“ヒーロー”か。闘志を胸に抱いた青年は振り返ってトムを安心させる代わり、指先を踊り狂うふたりへと向けた。
「……どうか、見ていて」
 恐怖に震える少年の躰だけではなく、こころまで救えるようにと願いを込めて。蒼汰は彼方より流れ星を呼ぶ。それはあの時――『クライング・ジェネシス』との決戦を中継する画面越しに、トムが見た“願い星の情景”。
 生き残りたいという少年の願いと、彼を護りたいという蒼汰の願いを聞き届けて。オラクルスターはいま、夜の森へと降って来る。その黄金の煌めきときたら、まるで一瞬のうちに朝が訪れたよう。
「きゃああああっ!」
「ああ、ああ、なんて眩しいんだ!」
 闇夜に生きる異形たちに、眩き其の輝きは効果覿面だったらしい。ふよふよと漂うお化けたちは、眩い閃光に炙られてじゅうじゅうと浄化されて往き。南瓜頭たちはスピンを止め、顔を覆いながら悲鳴を上げるばかり。
「俺が操る星は時に過去を撃ち落とし――」
 降り注ぐ流星に狼狽する異形を見下ろしながら、蒼汰が述べる口上は凛と。されど、南瓜を被った役者への気遣いは忘れていない。如何にも痛々し気に呻く彼等だが、煌めく流星は上手い具合に役者の躰を躱し、その足許へと堕ちているのだ。
 役者に怪我がないことを確認したヒーローは、カメラへと視線を向ける。無機質なレンズがいま映しているのは、ただ蒼汰の姿のみ。
「時に誰かの願いを抱いて、未来へと翔ける希望の輝き」
 ゆえに蒼汰はスクリーンの向こうで彼を見つめる数多の子供たちへ向けて、きりりと決め科白を紡いで見せた。
 ――……格好つけるのは照れくさいけど。今回くらいは、ね。
 ハッピーエンドのためなら、イェーガーとしての力を披露することも、らしくない演技を披露する事だって惜しまない。

 だって『月居・蒼汰』は、皆の笑顔を護る“ヒーロー”なのだから――。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニコ・ベルクシュタイン
【栗花落(f03165)】と


ほう、ほう!これを人間の役者が演じているとは!
…おっと、大声で言ってはいけないな
栗花落よ、締め括りの大一番だ
お互いが死なない程度に派手に行こうではないか

お二人共仲が良い事だな、特に殿方の南瓜が無敵の構えで
女性を守ろうとする姿が良いな気に入った、よし勝負だ
今こそ問うが、其の燕尾服は『どのように無敵なのだ』?
例えば俺が此の精霊銃で【疾走する炎の精霊】を発動させ
一発ずつ炎の弾丸を叩き込んだらどうだ?燃えぬのか?
撃鉄を下ろした銃口を向け、引鉄に指をかけた状態で問う

撃ってみるが良いと言うだろうか
ならばギリギリ身体を掠める程度に一発撃ってみようか
栗花落よ、フォローを期待するぞ


栗花落・澪
【ニコさん(f00324)】と


オッケーニコさん
ハロウィンはとっくに過ぎてるよ!

★マイクを手に少年に届くように
大丈夫、必ず守るから
僕達を信じてもう少しだけ待ってて
終わったらまた飴食べようね

ニコさんの技に合わせて★花園を展開
敵を巻き込むようにしつつ
外れた炎を取り込む事で【破魔】の花弁も燃え上がらせる
(さりげなく敵役に【火炎耐性】の【オーラ防御】を魔法で張りスタント的演出に)

あれ、無敵じゃなかったの?
消火もちゃんとしないとね!

【指定UC】で小さい分身達を出現させ
さりげなくカメラに笑顔やウインクでアピールさせつつ
水魔法の【高速詠唱、属性攻撃】の一斉放出+【範囲攻撃】で
召喚されたお化け達ごと攻撃します



●燃え上がる炎、舞い踊る水
 降り注ぐ願い星の煌めきが潰え、森の奥には静寂と冷たい闇が再び漂い始めた。眩さに貌を覆っていた南瓜頭たちは漸くクリアな視界を取り戻し、彼らの前に立ちはだかる新手の猟兵と対峙することになる。
「――ほう、ほう!」
 南瓜頭の男女を前にしたニコ・ベルクシュタインがつい漏らすのは、感心したような吐息である。眼鏡越しに眺めるふたりの姿は、『ナイトメア・パレード』と呼ばれる個体にそっくりだ。南瓜の被り物で顔を覆い、ハロウィンらしい衣装を着れば其れらしく見えるので、ある意味では演じ易い個体なのかもしれない。
 そもそも人間がオブリビオンを演ずるなんて、まさにこの世界にしかない試みである。常ならばきりりと引き締まったニコの双眸が、新鮮さにきらりと煌めくのも無理のないこと。
(「これを人間の役者が演じているとは!」)
 如何に感心していても、きっちりとした性格のニコは自身に課せられた任務を忘れない。マイクが捉えられぬほどの小声で感嘆を零した彼は、唇を引き結び努めて真面目な表情を作って見せる。
「栗花落よ、締め括りの大一番だ。派手に行こうではないか」
「オッケー、ニコさん!」
 勿論お互いが死なない程度に――と青年が目配せを呉れれば、傍らの栗花落・澪は明るく頷いた。星が零れるような少年の笑みは、まるで暗闇すらも明るく照らすよう。
 澪はふと小屋の方を振り返る。彼が取り出すのは武器ではなく、金蓮花の花弁が入った小瓶だ。蓋を開ければオレンジ色の花弁がふわり、宙へ躍り出て澪の掌中に堕ち――翼を飾った可憐なマイクへとその姿を変えた。
「大丈夫、必ず守るから!」
 少しでも安心させられるようにと、マイク越しに澪は少年へ言葉を紡ぐ。彼にこの言葉が届きますようにと、願いを込めながら――。
「僕達を信じて、もう少しだけ待ってて」
 小屋の窓に張り付いてこちらを見つめる少年に、その科白はちゃんと届いたらしい。こくこくと頷く小さな頭に頷き返して、澪は再びそのかんばせに明るい笑みを咲かせた。
「終わったらまた飴食べようね」
 ささやかな約束を交わして、きりり。頬を凛々しく引き締め敵へと向き直ったなら、南瓜頭たちもまたフラフラと猟兵たちへ向き直る。
「ああ、まだ目の前で星が散っているわ……」
「可哀そうに、ダーリン。ここは僕に任せてくれ」
 しきりに頭を振る女を気遣い、男は彼女を庇うように前へ出た。ばさり――。漆黒のマントが翻れば、何時の間にやら男の装いは皴ひとつない洒落た燕尾服へと転じていた。
「無敵の燕尾服で、君のことを守ってみせよう!」
「ほう、お二人共仲が良い事だな」
 紳士南瓜の献身を前にして、ニコの双眸がほんの僅か緩む。喩え相手が敵であろうと、誰かを護ろうとするその姿勢が美しいことに変わりはない。
「気に入った。――よし、勝負だ」
 そう片頬を上げる青年が構えるのは、黒塗りの精霊銃。其の引鉄に指を絡ませながら、彼は如何にも興味深げに口を開く。
「今こそ問うが、其の燕尾服は『どのように無敵なのだ』?」
「そりゃあ、どんな攻撃だって弾いて見せるのさ」
 銃口が向けられていると云うのに、其の身を庇う素振りすら見せぬ男は、よほど防御に自信があるらしい。異形が零す不敵な返答に、ほう――と青年の瞳が細くなった。
「……例えば、俺がこの銃で一発ずつ炎の弾丸を叩き込んだらどうだ?」
 それでも燃えぬのか、と更に問いかけてみれば、南瓜頭はせせら笑った。それどころか、まるで彼の銃弾を待ちかねるように、無防備に腕を広げて見せる始末。
「はははっ、試してみるかい?」

 ――どうせ効かないだろうけどね!

 嘲るような声に誘われて、ニコはトリガーをぐいと引く。途端に黒塗りの銃は炎に包まれ、其の銃口から炎弾が弾け飛ぶ――!
「なぁんだ、当たらないじゃないか」
 それは役者の安全を考慮したゆえの、ぎりぎり掠めるだけの一撃だった。されど、その弾丸は着弾した大地、すなわち敵の真正面にて、ごうごうと派手に燃え盛っている。
「栗花落!」
「ハロウィンはとっくに過ぎてるよ!」
 だから冥府へお帰り、と囁いて。澪は左腕に刻まれた聖痕へと魔力を注ぐ。燃え上がる火の手を視界に捉えた澪が、やるべきことは唯ひとつ。――それは、彼が編んだ術を活かすこと。
 ニコの期待に応えるべく、聖なる傷痕は色鮮やかな花嵐を呼ぶ。夜の森にふわり、ふわり――甘い花々の香りが満ちた時には既に、燕尾服で洒落こんだ南瓜頭を囲むように花園が出来上がっていた。
 色鮮やかな花弁は燃え盛る炎を取り込んで、めらめらと燃え上がっていく。ただの花弁ならば、そのまま灰になってしまうだろうけれど、――これは破魔の花弁だ。
 炎に赤々と照らされながらも、その容を依然として保ったまま、花弁は熱風に乗せられてひらひらと舞い上がっていく。
 それらは払うべき魔、すなわち南瓜頭へと纏わりつき、瀟洒な燕尾服ごと男を炎に包み込んでいった。
 本物の炎と破魔の花弁から繰り出される攻撃は苛烈だが、役者は澪によるオーラの加護で守られているため、火傷の心配などはもちろん不要だ。
「ぐっ、ああっ……!!」
 燕尾服は無敵であろうと、南瓜の頭と脚元は無防備なのだ。全身を炎に包まれては、異形もあまりの熱さに呻くしかない。
「あれ、無敵じゃなかったの? ――じゃあ、消火もちゃんとしないとね!」
 悪戯に少年が囁けば、何処からか現れる無数の“小さな澪たち”。それは、“極めて小さい天使たちの物量攻撃”だ。
 無邪気な彼の写し身たちは自身へ注目するカメラへと、笑顔やウインクを振り撒いてファンサービスをしながら、思い思いに詠唱を紡いでいく。
「あなたッ……!」
 されど、男の身を案じる女とて黙ってはいない。愛らしいシーツお化けを喚び出せば、澪たちの攻撃を妨げようと無力な彼らを嗾けた。ふよふよ、緩い動きでミニ澪たちへと突進してくるお化けたち。
「残念、僕たちの方が速かったみたいだね」
 されど、澪はくすりと余裕の笑み。小さな天使たちが持つステッキから今、一斉に大量の水が射出される――!
 その水流はニコが巻き起こした炎を消し、序にお化けたちを水流で弾き飛ばしながら、南瓜頭たちへと水攻めを加えて行くのだった。
 やがて火の手が完全に消えた頃、瀟洒な衣装を濡らした南瓜頭たちは、寒さにただ躰を震わせるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

荒谷・ひかる
◎☆

(大地の精霊さんが、小さくて数の多いお化けに苦戦する演出から)

このままでは、厳しいですね……
トム君、わたしも行ってきます。
大丈夫、絶対負けませんから……良い子で、待っててくださいね。

前線へ駆けつけ、杖を地面に突き立てて【本気の光の精霊さん】発動
大地の精霊さんに集るお化けを、聖なる光の花弁の嵐が灼き祓う
そのまま、敵本体も光の花弁で覆い尽くして攻撃する
(現場的には光が舞ってるだけでダメージなし)

彼を悪夢から守るためなら、どんな敵が相手でも相手になります。
生まれたわけ……生きる目的……生きる幸せに、喜び。
それをわからないまま、あの世まで連れていく事はわたしが許しません!



●救済の光
 “ナイトメア・パレ―ド”は、怒りに震えていた。煌めく星に焼かれ、火で炙られた挙句、思い切り水をかけられる。お蔭で彼らが纏う素敵な衣装もほら、すっかり水浸し。
「ひどいわ、折角の衣装が台無しよ」
「そうだよ、びしょ濡れになってしまったじゃないか」
 彼らの怒りの矛先は自然とその場にいる敵――すなわち、荒谷・ひかるが呼んでいた“大地の精霊さん”へと向く。当の本人ときたら不思議そうに愛らしい顔を傾けているが、オブリビオン達はそんな仕草にも決して絆されない。
「お化けたち、あの土人形を壊しなさい!」
「うんうん、ちゃんと土に返してあげるんだよ」
 
 ――トリック・オアトリート!!

 ふたりが声を合わせれば、虚空より現れる白くて可愛いお化けたち。彼らは甘い香りを漂わせるお菓子を抱いて、くるくる、ふよふよ、ゴーレムの周囲を飛び回る。
 彼らがばら蒔くその甘さは、精霊のこころを深く掻き乱した。どうにかお化けたちを追い払おうと腕を振りまわすゴーレムだが、酩酊しているかの如くふらついているので、狙いは碌に当たらない。
 まさに多勢に無勢といったその様を、術者の少女は険しい表情で見つめていた。秘密基地の窓越しでも、はっきりと分かる。――大地の精霊さんは、苦戦しているのだ。
「このままでは、厳しいですね……」
「そんな……!」
 ぽつりと零された言葉に、トムの貌は青ざめた。フォーティナイナーズでも苦戦するなんて、あの南瓜たちはどれほど強いのだろうか――!
「だから、わたしも行ってきます」
 絶望に染まりかける少年だったが、ひかるは未だ諦めていない。安心させるように視線を合わせて、優しく彼へと微笑みかける。
「お姉さん……」
「大丈夫、絶対負けませんから……」
 心配そうに見つめてくる少年のふわふわな頭を優しく撫でながら、ひかるは静かな約束を交わす。冷静な声色に確かな決意を秘めて――。
「良い子で、待っててくださいね。トム君」
「うんっ!」
 目の端に涙を貯めながら、それでも懸命に頷く少年へ頷き返して。ひかるは、要塞の外へ駆けて往く――。

「はははっ、このゴーレムは大きいだけみたいだねえ」
「なかなか可愛い顔をしているわ。この子はペットにしてしまいましょう!」
 前線では相も変わらず、大地の精霊が一心不乱に当たらぬ拳を振り回していた。お化けに翻弄されるその様を見て、南瓜頭たちは好き勝手なことを宣いけらけらと笑う。あわや正義の敗北か――と思われた、その時!

「光の精霊さんっ!」

 ふわり――。戦場に光輝く花弁の嵐が吹き荒ぶ。それらは大地の精霊に付きまとうお化けたちを包み込み、聖なる光で容赦なく灼き祓って見せた。
「まあ、折角いい所だったのに!」
「楽しいパーティーを邪魔するのは誰だい?」
 それは、あまりにも突然の横やり。驚きを隠せぬ南瓜頭たちが、ぎりぎりと首を巡らせた先には――。
「彼を悪夢から守るためなら、どんな敵が相手でも相手になります」
 精霊との絆を繋ぐ杖を地面にどすりと突き立てて、未だに花嵐を呼び続ける幼気な少女の姿が在った。
 隷属達を襲った術者の正体を視界に認めた異形たちは、紅い眼を不気味に光らせて、嬉しそうにくすくすと笑う。
「あら、あら、まだ子どもがいたのね。――ねえ、あなたも一緒に来ましょう?」
「ちょっと大きいけれど、君も僕たちのパレードに入れてあげよう!」
 撚りにも依って、イェーガーである彼女を誘う南瓜頭たち。当然ながら、ひかるが首を縦に振る筈も無い。化け物の人浚いを前にしても、戦う術を持たぬ少女は何処までも凛と佇んでいた。
「生まれたわけ……生きる目的……生きる幸せに、喜び」
 異形どもの身勝手な科白を聴けば、ひかるのこころは憤りに燃える。命を狙われているトムは、まだたったの7歳だ。毎日が楽しい盛りかもしれないけれど、ひととしての喜びを未だ知り尽くしてはいない。あの世に導かれるには、あまりにも早すぎるのだ。
「それをわからないまま、あの世まで連れていく事はわたしが許しません!」
 杖を握る指先にぎゅっと力を籠めて、少女は凛と咆えた。彼女の想いに呼応するかの如く、光の花嵐はさらに激しく吹き荒ぶ――!
 聖なる輝きに炙られた異形どもの悲鳴が森中に響き渡り……やがて、しんとした静寂が訪れる。
 背筋を伸ばして真っ直ぐに立つひかるの眼前では今、ふたりの男女がぐったりと倒れ伏していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エドガー・ブライトマン
楽しい映画撮影もいよいよ終盤
これがきっかけで映画スターにでもなってしまうかもしれないなあ!
いや困るな~私には愛する祖国と、その王になる責務が

とか考えてたら左腕が痛くなってきた気がするな
ハイ!真面目にやるってば!

私は画面外にいるから
トム君に私を呼んでもらおうか
そうしたら白馬に乗って現れてあげる
実は乗馬は祖国にいた頃から得意でね フフ

存分に画面映えした後

ふざけたパレードはそこで終わりさ
愉快な頭をしたキミたちに、トム君は渡せないよ
白くてちいさいお化け君はなんだか楽しいそうでちょっと良いが
キミもやっぱりダメ

安全性を重視した剣技でナイトメア君を討つ
決まった……

(スターっぽいサイン、考えておこうかな……)



●No reason!
 楽しかった映画撮影もいよいよラストへ近づいている。フレームの外で出番を待つエドガー・ブライトマンは、感慨深げに仲間達の演技を見守っていた。場面はいま、トム少年がおそるおそる秘密基地の外へと出てしまったところだ。そろそろエドガーの出番も近い。
 ――これがきっかけで、映画スターにでもなってしまうかもしれないなあ!
 ちくちく。ちくちく。
 ――いや、困るな~。私には愛する祖国と、その王になる責務が……。
 ちくちく。ちくちく。ちくちく。
 そんな薔薇色の夢想に思いを馳せていれば、左腕に宿した“レディ”が甘美なる棘でちくちくと彼を突く。痛覚は鈍いエドガーだけれど、内側からちまちまと刺されては流石に痛いので、気を取り直すことにした。
(「ハイ! 真面目にやるってば!」)
 彼の意識が現実へと引き戻されれば、レディも一応は淑やかさを取り戻す。本当は彼の愛するものカウントの中に、自分がいなかったことも彼女の「不満のひとつ」だったかもしれないけれど、――それはさておき。
「たすけて、王子様!」
「おっと、出番みたいだね」
 打合せ通り、南瓜頭たちに見つかった少年が、健気に助けを求める声が響きわたる。さあ、今こそ華麗なる王子様ムーブの見せどころ。

「――お待たせ、助けに来たよ」

 次の瞬間、戦場に眩い光が差し込んだ。きらきらとした輝きを伴い現れるのは、白馬に乗った美貌の王子様。
「王子様! あ、お馬さんも一緒だ!」
「実は乗馬は祖国にいた頃から得意でね、フフ」
 気障に髪を掻き上げて見せるエドガーは、何処までも画面映えを意識していた。スクリーンの向こうではきっと、数多の乙女のハートが王子様然とした彼に盗まれている筈だ。
「ふざけたパレードはそこで終わりさ」
 背筋を伸ばして白馬に跨ったまま、エドガーはするりとレイピアを抜く。切っ先を向ける先には、伽藍洞の笑みを浮かべる南瓜頭の異形たち。
「愉快な頭をしたキミたちに、トム君は渡せないよ」
 白馬の上から凛と啖呵を切るエドガーを前に、南瓜頭のふたりは不機嫌そうに腕を組み仁王立ち。彼もハロウィンパーティーの主役の如き装いだけれど、齢は18と大人に近すぎるのだ。
「あなたも私たちの邪魔をするのね?」
「僕たちのパレードに君のようなキラキラは不要だ、退場して貰おう!」
 手を取り合う南瓜どもは敵意を剥き出しにして、くるくる、くるくる。可憐なるスピンを披露しながら舞い踊る。
「キラキラするな、なんて。それは無理な相談さ!」

 ――だって、私は王子様だからね。

 悪戯な科白をひとつ囁けば、嘶く白馬が硬い蹄で強かに地を蹴った。こちらへと回転しながら突っ込んで来る化け物どもの元へ駆け――、擦れ違いざまに一閃!
「キミも――やっぱりダメ」
 序に彼らの周囲でふよふよと漂っている、愛らしいフォルムのお化けも切り伏せた。ガーランドを抱いてゆるゆると漂うさまは、なんだか楽しそうでちょっと良いなあと思ったけれど。この子も立派なオブリビオン。討たなければならないのだ。
 ――決まった……。
 駆け抜けた彼の後ろでタイミングを見計らい、どさりと倒れ伏す南瓜頭たち。振り返らずに音だけでそれを悟った王子様は、自身の渾身の演技に惚れ惚れとしながら、カメラの前で涼しい顔を保っていた。
 ――スターっぽいサイン、考えておこうかな……。
 なにせ彼は、兄弟の中で最も貌の良い王子様なのだ。レッドカーペットを歩く時、この世界の乙女たちにサインを求められる可能性は高い。
 真面目な貌でそんなことを思考するエドガーの左腕を――再び薔薇の淑女が、ちくり。移り気を諫めるように、或いは彼の博愛に拗ねるように、甘い一刺しを愛しき王子へと贈るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エルディー・ポラリス
◎☆#
大団円まであと少し、頑張りましょう!

暫くは先ほどのロボの姿で戦いましょう。
子供を守るヒーローとして、彼の下へは向かわせないように、『かばい』ながら肉弾戦なのです。
まあ、UCを使われたら苦しいのですが……すなわち此処こそ大一番!
痛打を喰らった勢いで装甲をパージ、機械の翼の聖女様に変身して反撃開始です! ……使うと怒られるUCだけど、演技で使う程度の出力なら大丈夫でしょう、多分。
敵は無敵であって最速ではありません、スピードで一気に翻弄してやりましょう! 食らえ、聖女様キーック!!

少年の危機が去ったら、名乗らずに飛び去るのです。ヒーローはそういうものだって聞きました。
試写会、楽しみなのです。



●殻を破りて
 機械の装甲に身を包んだエルディー・ポラリスは少年を背に庇いつつ、満身創痍ながらも戦意を隠さぬ南瓜頭たちと激戦を繰り広げていた。
 ――大団円まであと少し、頑張りましょう!
 オブリビオンではない役者相手に、接戦を演じるのは意外と難しい。されど、この映画撮影に情熱を注いでいたエルディーは、本来ならば避けることも難しくはない、南瓜頭の紳士から繰り出される回し蹴りを確りと受け止めて見せる。
「この子、ぬいぐるみみたいで可愛いわ。連れて帰りましょう!」
「ならば余り疵を付けてはいけないかな?」
 勝手気ままなことを喋るふたりの異形は、息の合った連携でエルディーを翻弄する。男の方がその長い脚を退けたなら、次は女のしなやかな脚が伸びてくる。
 鋭い踵が彼女の装甲に痛烈な一撃を喰らわせれば、あまりの衝撃に鋼鐵の装甲が弾け飛んだ――筈だった。
「残念ですが、本体はこちらですよ」
 まるで、蛹が蝶へと姿を変えるように。聖女もまた鋼鐵の蛹を脱ぎ捨てて、機翼を羽搏かせる天使へと生まれ変わる。それはエルディーの寿命を削る術。ゆえに、使い過ぎると兄に怒られてしまう技だけれど。演技で使う程度の消耗なら、そこまで寿命も削れない筈だ。
「あら……マスコットじゃなかったのね」
「なんだ、大人じゃないか。それじゃあ、用はないね」
 神聖なその姿を見て、溜息と共に肩を落とす淑女。一方の紳士はマントをばさりと翻し、次の瞬間には皴ひとつない無敵の燕尾服を纏っている。
「ここで退場して貰うよ、レディ!」
「退場するのは貴方たちの方です」
 敵は無敵であるが、最速ではない。ゆえに、エルディーは機械仕掛けの翼で宙を切り、神速のスピードで南瓜頭の異形へと肉薄する。
「ッ!?」
 まずは、巨大な剣――いや、正確には裁縫針で一太刀。
 いきなり繰り出された斬撃を咄嗟に弾き飛ばした紳士は、その勢いに思わず戦慄する。幾ら無敵の燕尾服を纏っていても、このスピードならば、気づかぬうちに躰をバラバラにされている――ということも、あるのではないか。
 男の脳裏に過った一瞬の懸念は、無敵の纏いを脆くした。其の隙をついて、聖女は夜空から急降下。そうして重力が導くままに、男の躰へと強かな蹴りを入れる。――もちろん、実際は寸止めしているのだけれど。

「食らえ、聖女様キーック!!」

 お淑やかで落ち着いた雰囲気を纏うエルディーの口から、聖女様らしからぬ技名が飛び出したものだから、背後で戦況を見守る少年は思わず目を瞠った。
 イェーガーってこんな演技もできるんだスゴイ――なんて言いたげな表情だけれど。エルディーの勢いはきっと、半分くらい「素」だ。
 あわれ、異形の紳士は淑女を巻き添えにしながら無様に吹っ飛んで、大きな木の幹へと強かにぶつかり、ぐったりと崩れ落ちる。
 ひとまずの平穏を手に入れた少年は、おずおずとエルディーへ歩み寄る。トムは眼をぱちぱちさせながら、聖女をそうっと見上げ躊躇いがちに口を開いた。
「ねえ、お姉さんって何者……?」
「名乗るほどの者ではありません。あなたを護れてよかった」
 柔らかな微笑みを零したのち、機械仕掛けの天使は現場から飛び去る。見返りを求めることなく、弱きを助け正義を成す。――ヒーローとは、きっとそういうモノなのだ。
(「試写会、楽しみなのです」)
 星空を舞いながら、ぽつり。彼女が零した科白は、優しい宵闇に溶けて往く――

大成功 🔵​🔵​🔵​

清川・シャル
子供はここにも(私)居ますので、私で手を打ちません?
骸の海に還って頂くんですけどね

Amanecerで目潰しの熱光線を発射
全力魔法で氷盾を展開してトム君の安全を確保しながらの攻撃です
ぐーちゃん零で射出攻撃しつつ、弾道を念動力で操って、視線をこちらに逸らせたらいいなと思います
毒使いとマヒ攻撃、呪殺弾を使います
こちらに集中させればこちらのもの、激痛耐性で備えてそーちゃんを握りしめ、呪詛を帯びたなぎ払いでUC起動です
いつだって英雄であれたらいいですね、そうしたいですね、イェーガーとして。



●Last Scene
 猟兵達との交戦でボロボロになった躰を引き摺りながら、南瓜頭達はずるり、ずるりと立ち上がる。
「ああ、どうして邪魔をするんだ!」
「坊やをステキな世界に連れて行きたいだけなのに……」
 目論見を邪魔されたことに紳士南瓜は憤り、淑女南瓜は心の底から嘆いて見せる。彼らにどんな事情があるかは分からないが、少年を引き渡すと碌なことにならないのは明白だった。
「子供はここにも居ますので、私で手を打ちません?」
 少年を庇うように異形の前へ立ちはだかる少女――清川・シャルは、涼やかな碧眼に南瓜頭を映し、嗤うようにその眸をつぅと細めて見せた。
「まあ――。最終的には、骸の海に還って頂くんですけどね」
 戦場に現れた新たな子どもの登場に、不気味な南瓜の貌に明らかな喜色が宿る。異形の二人は手を取り合いながら、忌まわしいほどに甘い猫撫で声を零す。シャルも冥府へ誘うために。
「ふふ、可愛い子がもうひとり。あなたも浚ってしまいましょう!」
「ああ。僕たちと一緒においで、素敵な所に連れて行ってあげるよ!」
 そんなのお断りです――と云わんばかりに、シャルが己の背後へと展開するのは“Amanecer”――桜を模したスピーカーおよび桜色のアンプ群。
 丸い5つのアンプが容赦なく、南瓜頭の貌に向かって熱光線を発射したならば、それは彼らの被り物を破壊する。
「ああ、なんてこと。僕たちの貌が!」
「きゃああっ、レディの貌を狙うなんてひどいわ!」
 異形どもの抗議は無視しながら、少女は背中に庇ったトムの前に氷の盾を展開する。自分がいる限り、少年に近付かせる気はないけれど。万が一のことが有ってはいけない。
「お代わりもありますよ」
 畳みかけるように彼女は“ぐーちゃん零”――アサルトライフルの引鉄を引く。念力でその弾道を操れば、彼らに向けて正確無比な鉛の雨を振らせてゆく。毒を纏ったその弾丸に射抜かれた異形たちは、ふらふらと脚元も覚束ない様子だ。
 それでも最後の力を振り絞り、紅の眼を不気味に輝かせるふたり。指を絡ませ手を取り合えば、踊るようなステップ踏んでシャルの元へと突っ込んで来る――。
「来ましたね」
 計画通り、敵の視線がこちらへと向いたことを悟り、シャルはほっと胸を撫でおろす。“そーちゃん”――桜色の金棒をぎゅっと握りしめた少女は、かっと眸を見開いて。全力でその金棒を振り被る!

 ――さあ、地獄へようこそ。

 儚い南瓜頭達が、羅刹の怪力に敵う訳もない。鮮やかな金棒で頭を粉々に割られたふたりは、声にならない悲鳴を上げながら、闇夜へしゅるしゅると溶けて行く。彼らが朽ちた後、土の上には何も残らない。――あくまで割られたのは、南瓜の仮面だけ。役者たちは旨い具合に暗闇に紛れ込んでくれた。
「お姉さん!」
「もう大丈夫ですよ、トム君」
 脅威は去ったと知り、シャルの元へと駆け寄って来る少年。少女は安心させるように、ふわりと笑顔を咲かせて彼を迎える。
「悪いヤツらをやっつけたんだね! やっぱりイェーガーって凄い!」
 喜んでぴょんぴょんと跳ね回る少年を見ながら、いつだって英雄であれたら――と、シャルは想う。彼女たちはこの世界において、とりわけ必要とされている存在なのだ。
 ゆえにこそ、其の期待に応えて行きたい――なんて。シャルはひそかに、ひとり決意を固めるのだった。
「さあ、パパとママが待つ家に帰りましょうか」
 もうすぐ夜明けとはいえ、まだ暗い。送りますよ、と少女が手を差し出せば、少年の小さな掌が元気いっぱいに乗せられた。
「うん! ありがとう、お姉さん、みんな!」
 怯えてばかりいたトムは、満面の笑みを咲かせて今宵の英雄たちへと礼を告げる。長い一夜の攻防戦で、少年はきっと色んなことを学んだ筈だ。助けを求める勇気や、諦めない強さ。そして、弱きを助けることの尊さ。

「ぼく、大きく成ったらヒーローになる!」

 誰かを護る為に戦うその姿は、少年にとって何よりも格好いいものだったのだろう。猟兵たちはひとりの少年の命と心を護り、夢と希望を与えたのだ。
 薄紫に染まる空の下、ふたつの影がゆっくりと歩き始める――。

『一夜限りの英雄譚 ~ THE END ~』

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年03月11日


挿絵イラスト