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天穹の彩

#アリスラビリンス

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#アリスラビリンス


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 その世界は、まっさらだった。
 世界にはただ森があり、その中心に塩湖があった。
 塩の湖に普段水はなく、だが雨が降れば地の水鏡となって澄み渡り、世界の全てを映し出す。

 この世界には「空」が降る。
 空の色が雨となって降り注ぐ。
 天より降り注ぐその滴は、ほんの数メートル程で色を変え、目の前に高き蒼穹の色が、手を伸ばした先で満天の星夜が。駆けた先では朝ぼらけの淡い紫が降って、振り返れば夕焼けが。
 地に落ちて暫くすれば、雨は色を失い透明になってさやかに世界に流れるけれど。雨が色を失うまでの間、塩湖は自らに様々な空の表情を映すのだ。
 うさぎの抜け穴の先は、なにもない世界に遥か空の色を添える、美しき天涙の世界だった。

 誰かが言った。
「ここに新しい国を作ろう」
「塩湖の周りに国を作ろう」

 美しき雨の世界に足を踏み入れた異形頭たちは顔を見合わせた。羊頭の紳士が。電球頭の技師が。向日葵頭のパン屋が、皆揃って天を仰ぐ。
 雨は極光のように色を宿し揺らめいて、見える色彩がくるくる変わる。
 彼らはこの世界に名前を付けた。
 うつくしき天穹の彩の国――「カレイド」と。


「アリスラビリンスだよ。愉快な仲間たちが、新しい不思議の国を見つけたんだ」
 冬の冴えた空気にも震えることなく、ディフ・クライン(灰色の雪・f05200)はいつも通りの平静な顔で猟兵たちに話し始めた。

 森と塩湖だけがある、まっさらな世界。ラビットホールを抜けて見つけた世界で、愉快な仲間たち――此度この国に集まった『異形頭』たちは、新たな国を築こうとしている。
「それでね、猟兵の皆に手伝いを頼みたいらしいんだ。といっても建築とかじゃなくて、最初の光を灯して欲しいんだって」
 国として建物の建設や道路の整備は、既に愉快な仲間たちが行ってくれている。そうして出来上がった国に、最初の光を灯してまわってほしいのだという。
「とはいえまだ国は建設の真っ最中。だからその間にね、この国――カレイドの名物を楽しんではどうかな」
 空が雨に溶けて降る国、カレイド。
 国の中心たる塩湖に降り注ぎ、地上に一時空を描く。その雨粒を瓶に集めて、空のインク屋と呼ばれる黒ずくめの鳥男のところに持っていけば、空のインクを作ってもらえるというわけだ。
 雨は場所によって降らせる空の彩を変える。好きな空の彩を見つけて集めれば、きっと気に入る空のインクが出来上がるだろう。
「雨が止む頃には夕刻になる。そうしたら、灯りを作って国に光を灯してあげて。貴方たちの光は、きっと彼らの希望になり力になる」
 洋灯。行燈。街頭。なんでも構わない。
 新たな国の夜を彩る為の光を、どうぞ貴方達の手で。

 人形の手で、灰の雪華がくるくる回る。しんしんと雪が降り積もるように、光は雪華のゲートを構築していく。
「新しい国の建国に立ち会うっていうのは、アリスラビリンスならではの楽しみなんじゃないかと思うんだ。普通滅多に体験できるものじゃないしね。とはいえ、オウガの気配もあるから、油断だけはしないように」
 戦闘がないわけではないだろうけれど、それでも楽しめばいい。新たな国のはじまりを。
「それじゃあ、いってらっしゃい。気を付けて。それから、楽しんで」
 ひらり、六華の雪が舞って。
 ゲートはかの国へと開かれた。


花雪海
 閲覧頂きありがとうございます。花雪 海で御座います。
 十三作目はアリスラビリンスより、新しく建国される天涙の国へとご案内致します。

●第一章:
 愉快な仲間たちが建国している間、塩湖に降り注ぐ雨を集めて空のインクにすることが出来ます。お好きな小瓶をご持参下さい。
 空が零れ落ちるかのような雨は、場所によって空の表情を変えております。お好きな空(星空・夕空・朝焼けのグラデーションの空など)を指定することが出来ます。

 第二章・第三章については、開始時の追加OPにて詳細をお知らせ致します。

●愉快な仲間たちについて
 異形頭の人々です。人間の身体に異形の頭。花頭。動物頭。無機物頭。色々います。基本的には紳士淑女と気のいい人たちです。
 さほど強くはありませんので、今回の戦闘では街の防衛に徹します。

●プレイングに関しまして
 各章とも、プレイングの受付日時を設定しております。ご参加の際はお手数ですが、『マスターページ・各章の断章・お知らせ用ツイッター』などにて、一度ご確認下さりますようお願い申し上げます。
 期間外に届いたプレイングは、内容に問題がなくとも採用致しませんのでご注意下さい。
 ご一緒の方がいらっしゃる場合は、『お名前とID』もしくは『グループ名』を明記して下さい。

●第一章は断章追加の後、【1/12 8:31~1/14 23:00まで】の受付期間を予定しております。
 それでは、皆様のご参加を心よりお待ちしております。
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第1章 日常 『天涙の彩』

POW   :    出来うる限り高い所へ登り滴を集める

SPD   :    彼方此方様々な場所を巡り滴を集める

WIZ   :    木々や植物を伝って落ちる滴を集める

イラスト:由季

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



「やあやあ、ようこそいらっしゃいました!」
 ゲートから転送された皆を出迎えたのは、シルクハット頭の紳士、シルクハット議長だった。どうやら彼がこのカレイドを取りまとめる長であるらしい。恭しく一礼する議長の後ろでは、今まさに国が築かれようとしている。
「この好き日に立ち会って下さることに、皆を代表して心から感謝を! 建設は夕刻前には終わるでしょう。それまで、皆様には我らがカレイドの最も美しきものを楽しんで頂ければと思っております。皆様、地の水鏡を歩いてみたくはありませんか?」
 上機嫌のシルクハット議長に促されて敷きたての街道を歩めば、視界の先に真白の平原が見えた。それが街の中心にある塩湖だ。議長と猟兵たちは、今は水のないまっさらな平原に、足を踏み入れてゆく。

「この世界には、空が降ります。空模様をそのまま持って降る雨がこの塩湖に降り注ぐと、一時、塩湖自体が空となるのです」
 塩の大地をゆっくりと歩きながら、シルクハット議長が空を指差す。薄く低い雲が、ゆっくりと街を覆っていく。
 天の涙は空の彩。そして降り注ぐ空模様は、今の空のそれに限らない。
 曇天の灰色も、雲一つない夏の快晴も、秋の高く澄んだ星空も、冬の冴えた朝焼けのグラデーションも、同じ時に、場所を変えて降る。やがて雨が止み、空色が天に還るまでの一時、塩湖はそれぞれの空を描くのだ。

 塩湖の中心では、黒尽くめの人物が待っていた。鴉頭の男は、自分を「空のインク屋」だと名乗る。
「議長から雨の話は聞いたかな。ボクはここに降る空を集めて、インクにすることが出来るんだ。こんな風にね」
 インク屋がインバネスコートから硝子の小瓶を取り出した。小瓶の中には液体があり、入道雲が揺らめく青空が詰まっている。胸ポケットに挟んであった万年筆に青空のインクを付けて紙に描いてみれば、同じ青空の色が、夏の匂いを纏って描かれていく。
「万年筆につけてもいいし、ちょっと太めの軸のペンにインクを詰めてもいい。スタンプのインクにするのもいいだろうね。どう使うかは貴方達次第というわけだ。興味はあるかい?」
 あるのならば、いくつでも作ろうとインク屋は笑った。方法は簡単だ。好きな空の雫を小瓶に集めて、インク屋に持っていけばいい。そうすれば、彼は魔法でインクにしてくれる。雨はしばらくすれば空の彩を失うけれど、インクになった雫はいつまでも褪せずに空を留めていてくれるだろう。

 塩湖の直径は大体3キロメートル程。対岸まで歩いて渡っても然程苦労はしない。塩湖の中には大きな岩があったり、周囲に生えた木々が塩湖に枝を伸ばしたりはしているものの、湖自体はほぼほぼ平坦といえる。雨が降っても数センチ程しか水が溜まらないから、靴のままで歩いていける。勿論、裸足でだって。
 望む空の色は、足元を見ればすぐにわかる。塩湖はその場所に降った空の色を、そのまま映してくれるから。
 天穹の色は、空の表情の数だけある。いくつもの空が混じり合う境界も、たおやかにグラデーションを描いている。空を探して地上の空を歩くのも、きっと楽しい。

「さあ皆様」
 硝子の小瓶を配り終えた議長が、猟兵たちの顔を見渡してほがらに告げた。
「空が降りますよ」
 ぱた、ぱた。天穹より彩が零れ落ちる――。

 * * *
●お知らせ
 降り注ぐ空色の雨を小瓶に集めて、インクにすることが出来ます。
 塩湖の上は薄く水が張っているだけなので、靴で歩くことが出来ます。裸足で歩むことも可能です。
 空の表情は様々で、夜空も晴れ空も星空も、色んな空が降っています。お気に入りの空を探し、雨粒を小瓶に集めて頂ければ、インク屋がインクに致します。空色を混ぜてグラデーションにすることも可能です。
 お望みであれば、空の匂いをインクに纏わせることも出来ます。
 尚、硝子の小瓶は気に入りの形のものを持参頂けます(なくてもシルクハット議長が幾つでもお配りしています)
 POW/SPD/WIZは一例ですので、お心のまま、望むようになさって頂いて構いません。
 どうぞ貴方の空を、貴方の手元に。

●受付期間
 【1/12 8:31~1/14 23:00まで】を予定しております。
 受付期間外に頂いたプレイングは、内容に問題がなくとも流してしまいます。ご注意下さい。
ルーチェ・ムート
【花開】アレンジ◎

空が溶け世界をつくる
きっと素敵な国になるね
かれいど
かれいどにすこーぷって足したら万華鏡の意味だ
美しく色彩変わる世界になるよう
お手伝いしよう

星空から滴る雨粒
まるでお星さまが降ってきたみたい!
触れた温もりは流れ星のよう
初めまして、ボクはルーチェ!
甘い誘いに真紅の瞳を蕩けさせて

喜んで、素敵な王子様
幸せな夢を見るなら2人で

瑠璃、とても綺麗な名前だね
この空みたい
ふふ、キミの中にあるお星さまはどんな風に煌めくのかな?
万華鏡のようなひと
ころころと彩を変えるから、見惚れてしまう
瑠璃のこと、これから教えてね

2色の小瓶
この縁が色濃い光となるように
月下に揺らめく海のような空のいんくになったらいいな


桜夢・瑠璃
【花開】で参加
*アドリブ歓迎

まるでおとぎ話に出てくるようなこの世界に
僕はただただ見惚れてしまう
本当に綺麗だ
空が溶けるのは比喩表現かと思ったけど、
本当に溶けるんだね

いつもは届かない星々たちも
今日は届くことができる気がする
手を伸ばし、星をすくいあげる様に

おっと──こんなところでお姫様に出会うなんて
片足を地につけ跪く
自身の左手は彼女の右手に添えて
僕は桜夢・瑠璃
今宵は僕と過ごしませんか?
幸せな夢を見させてあげる
甘く、柔く、彼女に誘いを申し込む

小瓶に入れるは瑠璃と真紅の滴
瑠璃は僕で真紅はルーチェちゃん、君だよ
1つじゃ寂しい時も
きっと2人なら乗り越えられるよね
そんな願いを込めて




 空が溶けて世界をつくる。世界を覆う空が、地に降り注ぐ。まるでおとぎ話に出てくるようなこの世界。
「きっと素敵な国になるね」
 優しく瞳を細めて、ルーチェ・ムート(无色透鳴のラフォリア・f10134)は細い指に雫を掬う。指に乗った小さな雨の滴はその中に星を宿していた。
「かれいど」
 この国の名を唇に乗せる。それはうつくしきものの意。
「かれいどにすこーぷって足したら万華鏡の意味だ」
 その名に相応しく、美しく色彩変わる世界になるよう、手伝おう。
 ルーチェはひたりと、地の空に足を踏み出した。
 
 零れる天涙は空の表情を映して、地の水鏡へと零れ落ちる。
 幻想溢れるその情景に、桜夢・瑠璃(煌星・f24928)はただただ見惚れていた。足元にはいくつもの空。雫が降るたび揺れて、より鮮明に空を描き出す。本当に、綺麗だと思った。
「空が溶けるのは比喩表現かと思ったけど、本当に溶けるんだね」
 それが、この国の魔法。いつもは届かない星々たちも今日は届くことが出来るような気がして、瑠璃は星空が映る塩湖の水面にそっと手を伸ばした。
 両手で包むように掬えば、空が瑠璃の手に在る。掌で揺れる星空が幻想的で。その手の中の滴にすら瑠璃は見惚れて。星空から滴る雨粒が、まるで――。
「まるでお星さまが降ってきたみたい!」
 触れた温もりは流れ星のようだと。自ら想ったことを先に言葉にしたのは、同じように星空の涙を堪能する薄紅の姫だった。その身に流れ星を集めるかのように、天に手を伸ばしている。
 瑠璃と桜の瞳が瞬いた。
「おっと――こんなところでお姫様に出会うなんて」
「うん? 初めまして、ボクはルーチェ!」
 素直に思ったことを口に出した。
 そうしたら、瑠璃の声に振り向いたルーチェが、人懐こい笑みを向けるものだから。
 瑠璃は片足を地につけ、ルーチェの前に跪いた。騎士が姫にそうするかのように、自身の左手をルーチェの右手に添えて、蕩けるような微笑みで甘い声を紡ぐ。
「僕は桜夢・瑠璃。今宵は僕と過ごしませんか? 幸せな夢を見させてあげる」
 甘く、柔く、ルーチェに誘いを申し込む。天涙にぬれたシルクの髪の隙間、甘さに満ちた瞳で見上げれば、ルーチェも真紅の瞳を蕩けさせて微笑んだ。
「喜んで、素敵な王子様。幸せな夢を見るなら二人で」
 奇跡の世界をひと時、共に。
 
「瑠璃。とても綺麗な名前だね。この空みたい」
 二人は水鏡を渡り歩きながら、地上に映し出された数多の空を楽しむ。今、瑠璃とルーチェの足元には、冬の冴え渡る夜空がある。夜空を掬い上げていた様子を思い出して、ルーチェは悪戯に微笑んだ。
「ふふ、キミの中にあるお星さまはどんな風に煌くのかな?」
「ルーチェちゃんが望むように、どんな風にでも」
 万華鏡のようなひと、とルーチェは思う。
 共に歩む短い時間の間に瑠璃はころころと彩を変えるから、見惚れてしまう。
「ねえ、瑠璃のこと、これから教えてね」
 だから、苺のジュレのように煌きながら蕩ける瞳で、ルーチェはねだるのだ。もっと君を知りたいと。
 
 そうして雫を集め、空を詰め込んだ硝子の小瓶が二つ。
 一つは瑠璃色。高く澄んだ夜更けの空。
 一つは真紅。茜色に染まる秋の夕焼け。
「瑠璃は僕で真紅はルーチェちゃん、君だよ。一つじゃ寂しい時も、きっと二人なら乗り越えられるよね」
 そんな願いを込めて、瑠璃は二つの空をルーチェへと手渡した。空はゆらゆら水の中で揺らめいて、対照的な二彩で輝いて。
 そうして瑠璃が願いをかけたインクにもう一つ、ルーチェは願いを込める。
「この縁が色濃い光となるように。月下に揺らめく海のような空のいんくになったらいいな」
 二人の願いを受けて、二つの空が硝子瓶の中で光を反射した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

春乃・結希
どんな空も好きだ
静かな夜明け空、澄みきった青空、燃えるような夕空、星に手が届きそうな夜空

でも私が一番好きなのは、日が沈む前のほんの少しだけの間しか見られない、マジックアワー
今日楽しかったことを思い出したり、今日が終わってしまう事が寂しかったり、明日はどこを旅しようかワクワクしたり、いろんな感情が混ざって涙が出そうになる

塩湖を素足でひたひた歩き、移り変わる空達を楽しみながら、のんびり探します
小瓶はポケットに入るくらいの大きさの、透明でシンプルなものを
灯す明かりとして、ガラス容器に入ったキャンドルをいくつか用意しておきます

これからも、もっといろんな所を旅しよう
私だけの空と、いつも一緒に




 旅人たる春乃・結希(寂しがり屋な旅人・f24164)は、歩むままに旅し、たくさんの空の表情を見てきた。
 どんな空も好きだ。
 静かな夜明け空も、澄み切った青空も、燃えるような夕空も、星に手が届きそうな夜空も
 けれども一番好きなのは、日が沈む前のほんの少しだけの間しか見られない、マジックアワー。太陽が沈み切っていながらまだ辺りに明るさが残る、橙が濃紺に染まる一瞬前。
 その空は、結希の心を揺さぶった。
 今日楽しかったことを思い出したり、今日が終わってしまう事が寂しかったりする、郷愁に似た想いと。明日はどこを旅しようかとワクワクする期待と。それらの感情がくるりと混ざって涙が出そうになる。
 マジックアワーという時間はその名の通り魔法の空だ。光と空が織りなす表情は、結希の、そして人の様々な感情を呼び起こしていくのだから。
 
 空が雫となって降り始め、薄く塩湖に水――いくつもの空が映し出されていく。
 その中を、結希は素足でひた歩く。爪先が触れる度、塩湖に映る空の表情が揺れた。歩を進める程に移り変わる空達を楽しみながら、結希は望む空をのんびり探して歩く。
 ポケットには透明でシンプルな形の硝子の小瓶。歩む導としての灯りに、硝子容器に入ったキャンドルをいくつか用意して。
 
 揺れる灯りを共にひたひたと歩いていくと、やがて足元が少しだけ暗くなったような気がした。
 とくん、と、胸が小さく締め付けられたような気がして、結希はその空に足を踏み入れた。足元に広がるのは、確かに望んだ時間の空。混ざり合う感情のように、橙と群青が混ざる境界のような大好きな空の上に、今、結希は居る。
 ――見つけた。
 結希はそこに降り注ぐ雫を、大切そうに小瓶に淹れた。
 
「はい、出来たよ。いい空の彩だね」
 小瓶に魔法をかけたインク屋が、出来上がった小瓶を渡して微笑んだ。手渡された結希の掌の中に、美しき魔法の時間の空がある。

 これからももっと、色んなところを旅しよう。
 私だけの空と、いつも一緒に。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
アドリブOK
SPD

空が雨に溶ける…なんか想像できないな。
塩湖じたい話というかUDCアースのメディアで見た聞いたって程度の事だし。
それを見る事が出来るのも嬉しいな。

ゆっくり足元を注意深く見て。写った空の色を眺めて歩こう。そうして探すのは「真白の月が輝く夜」。
シン…、とした。でも冷たすぎない空気を感じる月夜。多分季節で言うならば秋。
眠るには明るくて、本を読むには足りない。月と自分と足元の赤い華だけが存在するようなそういう場所、時間。

朝焼けも真昼も誰そ彼の空も好きだけども、やっぱり夜が俺は好きだ。
沈み込むような朔の闇夜もいいけれど、望が輝く白い夜が一番かもしれない。




「空が雨に溶ける……なんか想像できないな」
 細い雫が降り出す空を、黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)は不思議そうに見上げた。そも、塩湖というもの自体、話やUDCアースでのメディアで見聞きした程度。それが今、瑞樹の前にある。
 塩湖に薄く雨が張れば、天を映す水鏡となる。UDCアースのメディアで見たそれは、絶景と呼ぶに相応しい壮大さがあった。それほどには広くはなくとも、今瑞樹の前には天を描く水鏡となった魔法世界の塩湖がある。それを見ることが出来たことも、嬉しかった。
 
 ゆっくりと湖に足を踏み入れれば、心地よい冷たさが肌に伝ってくる。足を運ぶたびに波紋が広がって、空が足元で揺らめく。
 一歩踏み出せば夏の夕陽があった。数歩進めば、春の花曇りがあった。瑞樹はゆっくり、一歩ずつ。足元に映る様々な空を眺めて歩く。
 
 瑞樹が探しているのは、真白の月が輝く夜。
 シン…、と静まり返った密やかな夜。けれども冷たすぎない空気を感じる冴えた月夜。恐らく、季節で言うならば秋のそれ。眠るには明るくて、本を読むには足りない光量の望月が、夜と世界を嫋やかに照らし出す空。
(「月と自分と足元の赤い華だけが存在するような、そういう場所、時間」)
 遮るものも、余計なものもない。世界にただ、自分一人。そんな風に感じられる夜を探し、目を凝らして塩湖を彷徨う。
 やがて、爪先に触れた温度が少しだけ冷えた気がした。真白の月が、地から瑞樹の顔を柔らかく照らしている――。
 
 硝子の小瓶に詰められた空は、少しだけ冷たいような気がした。氷のように凍て刺すものではなくて、火照りを静める心地よさがある。
「君はこんな空が好きなのかい」
 瑞樹の小瓶に魔法をかけ終えた鴉頭のインク屋が、共にその空を眺めて問う。
「朝焼けも真昼も誰そ彼の空も好きだけども、やっぱり夜が俺は好きだ。沈み込むような朔の闇夜もいいけれど、望が輝く白い夜が一番かもしれない」
 
 静かな静かな月夜が、頷いた瑞樹の手の中でとぷりと揺れた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

亞東・霧亥
雨露が木々や植物を伝う。
木々の高さ、葉の大小、角度、雨量。
全てが混ざり合い玄妙な調べとなる。

音階を含んだ水滴を掌大の鈴蘭の瓶に集めると、透明な瓶にそれぞれ異なる音階が浮かび上がる。

7つの音階を2セット。

音階1つ1つに着彩してもらう。
ド白、レ赤、ミ橙、ファ黄、ソ緑、ラ青、シ紫の七色。
ド・レ・ミの高音と低音は同じ色で。
空のインクとは違うけど、お願い出来るかなインク屋さん?

ありがとう、インク屋さん。
これで準備完了だ。




 細い雨が静かに降っていた。風もなく、真っすぐに天から降り注ぐのは、空。
 雨音は心地よく耳を擽って、雨露が木々や植物を伝って地や塩湖に降り注ぐ。木々の高さ、葉の大小、角度、雨量。全てが混ざり合い、玄妙な調べとなってさやけき音階を紡ぎ出す。それは、自然が奏でる調べもまた、空の表情のひとつ。
 
 音階を含んだ水滴を、亞東・霧亥(峻刻・f05789)掌より大きめの鈴蘭の瓶に集めた。少し揺らせば、透明な瓶に音階が浮かび上がる。
「これが十四個欲しい」
「音階の雫か。雨音を音階別に集めるなんて、変わったものが欲しいのだねぇ。しかも十四個」
「欲張りか? でも必要なんだ」
 空のインクとは少々勝手が違うそれ。音を集めた鈴蘭の瓶をまじまじと見つめていた鴉頭のインク屋は一思案。
「お願い出来るかな、インク屋さん」
「他ならぬ貴方達の頼みだ、ボクなりにうまくやってみせよう。けれど音は貴方が見つけて集めてくれるかな。それをボクがインクにするよ」
「わかった」
 快諾してくれたインク屋に、霧亥はしっかりと頷いて塩湖へと音を探しに戻っていった。
 
 土に落ちた雫に空はいないけれど、木々を伝う露や塩湖に降り注いだものには様々な空がある。空の彩は葉や水の深さで微妙に音を変え、望む音を探るのには少し苦労した。何せ塩湖は広く、滴の音は繊細で、音は留まらずに変化し続けるから。それでも、苦労を苦労とせずに、霧亥はひとつひとつ、幽遠の音を見つけ出す。
 
 やがて見つけた七つの音階を二セット。それぞれが鈴蘭の硝子瓶に収まって、耳を澄ませば音が鳴る。音階それぞれが空の彩を持ち、鈴蘭の中に空と音とを閉じ込める。
 
 真白に輝く月夜は白きドの音で。
 秋の夕陽は赤い紅いレの音で。
 夏の夕焼けは橙色のミの音に。
 朝焼けが染める一瞬の黄色をファの音で。
 揺らめく極光の翠がソの音で。
 宵の口の遠い青を、ラの音に。
 太陽が昇る前の朝ぼらけの紫を、シの音に。
 けれどドレミの高音と低音の空には、触れればほのかに温度差がある。
 
「これでどうだい。満足いくものになったかな」
「ありがとう、インク屋さん。これで準備完了だ」
 七色の空を作り上げ、自らもよい仕事をしたと胸を張るインク屋に、霧亥は満足げに頷いてそれらを受け取る。
 硝子同士の重なる音に、空の音階が澄んだ和音となって手の中で響いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アリア・モーント
素敵だわ、とっても素敵なのよ!
わたし、このインクが欲しいのよ?欲しいのだわ!

議長さん、硝子の小瓶を分けてくださるかしら?
出来れば可愛らしいのを3つくださいな

どんなお空があるのかしら?
色んなお空を見て回って決めるのよ

優しくも華やかな花々を映したミルキィカラーの朝焼け
霞かかる薄雲のベールを脱いだ小春日和の澄んだ青空
夜の帳の舞台で星と月が躍るミッドナイトブルーの空
どれにしようかとっても迷ったのだけど…
インク屋さん、この三つの雫でインクを作っていただけるかしら?

わたし、インクの使い道はまで決めていないのだわ
飾るのもいいけれど…
そうね…親しい人のお祝いをするときのお手紙に
なんて素敵かもしれないのだわ




「素敵だわ、とっても素敵なのよ! わたし、このインクが欲しいのよ? 欲しいのだわ!」
 夕染めの髪を揺らしてくるくるり。アリア・モーント(四片の歌姫・f19358)はインク屋が見せた空のインクを見て、愉しそうに踵を鳴らす。素敵なものはいつだって、乙女の心をくすぐるのだ。
「議長さん、硝子の小瓶を分けてくださるかしら? できれば可愛らしいのを3つくださいな」
「勿論ですとも、紫陽花のアリス。ではハートなどいかがでしょう。貴女のお心が求める空は、もうお決まりですかな?」
「どんなお空があるのかしら? 色んなお空を見て回って決めるのよ」
 可愛らしいカーテシーでお礼をすれば、シルクハット議長がそのトレードマークたる帽子をとって紳士の礼で返した。
 
 塩湖にはたくさんの空が広がっていた。いくつもの空が、あちらこちらでそれぞれの光を放ってアリアを誘う。そのひとつひとつを確かめるように、空の世界を渡るかのように、アリアは爪先で塩湖を渡る。どの空も、彼女を優しく迎え入れてくれるのだ。
 
 優しくも華やかな花々を映した、ミルキィカラーの朝焼けがあった。
 霞かかる薄雲のベールを脱いだ、小春日和の澄んだ青空があった。
 夜の帳の舞台で星と月が踊る、ミッドナイトブルーの空があった。
「どれにしようかとっても迷ったのだけど……」
 いくつもの空を巡り、ようやく見つけた気に入りの空を三つ。ハートの小瓶で揺れる空を、アリアは両手でインク屋に差し出して。
「インク屋さん、この三つの雫でインクを作っていただけるかしら?」
「もちろんだとも、緋色のアリス。さあ見ていてご覧。空が永遠のインクに変わる魔法を、今からかけるよ」
 硝子のハートを濡羽色の布で覆って、オークの杖で星を描き、魔法のカウントを三つ。
 ワン、トゥー、スリー!
 布を取り去れば、小瓶の中で三つの空がとろりとしたインクに変わっていた。

「どうぞ、マドモアゼル。貴女だけの空だ。貴女はこれをどう使うんだい?」
「わたし、インクの使い道までは決めていないのだわ。飾るのもいいけれど……」
 空を閉じ込めた硝子のハートが三つ。並べて飾ってもきっと可愛らしいけれど。
「そうね……親しい人のお祝いをするときのお手紙に、なんて素敵かもしれないのだわ」
「なるほど。きっと喜んでもらえるよ。なんていったって、こんなに綺麗な空なのだから」
「ええ、素敵だわ、とっても素敵なのよ!」
 三つのハートを胸に抱いて、アリアは満面の笑みを浮かべた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

照宮・梨花
【蝶番】茉莉(f22621)と

ママが作ってくれた霧吹き瓶に入れるのだわ

梨花が欲しいのは虹の色
雨上がり空に虹を見つけたら、虹が消えて無くなる前に七色インクを瓶に詰めましょう

私の弟は白い壁のヤドリガミ
いつか人の姿になったなら、真っ白な髪をスプレーで好きな色で染めてね
シュッと一吹きしたら虹が出るかもなのだわ

茉莉のインクはカガリ様の目の色、宵闇の色ね
素直に書いてもいいのよ
「遊びに来て」じゃなくて「側にいて」って

空(カラ)から降る(フル)から「カラフル」
空(カラ)の瓶を満タン(フル)にするから「カラフル」
まあ、茉莉ってば頭がいいのね!
終わったら茉莉と一緒に空(カラ)に向かって手を振る(フル)のだわ


照宮・茉莉
【蝶番】梨花(f22629)と

茉莉もママに瓶を作って貰ったんだ
水が跳ねたような形の、浅いインク壺
大好きな人に、手紙書きたくて

茉莉は、夕焼け空の赤と、宵闇の紫と、星でも太陽でもある金色が欲しいな!
梨花の虹色も気になるけど…
…あの人は忙しいから
自分が見た空の色と、同じ色で書いた手紙を読んでくれたら、同じ景色を見てることに…なるといいな、…なんて!

空から色が降ってくるのを集めるけど
空って、から、とも読むんだよね?
空、降る。からふる。
空瓶を満たすのも、からをふるにする。
この国は、カラフルの国でもあるんだなー、って
まあ、思いつきだけど…

空に手を振るの?誰もいないと思うけど…?(控えめに一緒に振る)




 水鏡のほとりに、姉妹が二人。
 空が零れて地に降って。塩湖に降り注いだ空を集めてインクに出来る国。容れ物は何でも良いのだと言う。ならばと照宮・梨花(楽園のハウスメイド・f22629)が持ってきたものは、
「ママが作ってくれた霧吹き瓶に入れるのだわ」
「茉莉もママに瓶を作って貰ったんだ」
 姉の手にした霧吹き瓶を見た照宮・茉莉(楽園の螺旋槍・f22621)の手にもまた、母が作ってくれた容れ物がある。水が跳ねたような形の、浅いインク壺。
 母から貰った入れ物を天に梨花と茉莉、二人揃って塩湖へと足を踏み入れた。望む空を探して、いくつもの空を歩み、渡っていく。

「梨花はどんな色が欲しいの?」
「私が欲しいのは虹の色。だから、雨上がりの空にかかる虹を探しているのよ」
 梨花の弟は白い壁のヤドリガミ。いつか人の姿になった時に、真っ白な髪を虹のスプレーで好きな色に染められるように。
 やがて見つけた雨上がりの空。虹が消えてしまう前に、七色インクを霧吹き瓶に詰めた梨花は、茉莉を見て笑った。
「シュッと一吹きしたら、虹が出るかもなのだわ」
 その時は、弟も驚いたり、喜んだりしてくれたらいいと願う。
 
「じゃあ茉莉はどんな空を探しているの?」
「茉莉は、夕焼け空の赤と、宵闇の紫と、星でも太陽でもある金色が欲しいな! 梨花の虹色も気になるけど……大好きな人に、手紙書きたくて」
 指折り空を数える茉莉に、梨花はすぐにぴんと来た。それはきっと、瞳の色だ。特にそう、紫は――。
「茉莉のインクはカガリ様の目の色、宵闇の色ね。……素直に書いてもいいのよ。『遊びに来て』じゃなくて『側に居て』って」
「……あの人は忙しいから」
 梨花の優しいアドバイスにも、茉莉はゆるゆると首を横に振った。そこまで言える勇気は、今はなくて。けれど。
「自分が見た空の色と、同じ色で書いた手紙を読んでくれたら、同じ景色を見てることに……なるといいな、……なんて!」
 側に来てとは言えなくても、同じ景色を見たいから。同じ景色を見て欲しいから。滴る宵の滴をインク壺に集めながら、茉莉は照れ臭そうに笑った。
 
 空のインク屋のところにそれぞれの瓶を持っていくと、インク屋はあっという間にそれぞれの空をとろりとしたインクにしてくれた。霧吹き瓶の中で虹が、インク壺の中で宵闇がゆらゆらと揺れる。
 出来上がったばかりのインクを手に、梨花と茉莉は塩湖の中心でふと空を眺めた。薄い雲から細い極彩色の雨。天から空が溶けて降る、天涙の滴。
「あ、ねえ梨花。空から色が降ってくるのを集めるけど。空って、から、とも読むんだよね?」
「ええ、そうだけど?」
 から。から。からがふる。
 茉莉が口の中で何度も繰り返す。
「から。空、降る。――からふる」
 口にして、はっと気が付いた。途端に思いつきだった発想がどんどん茉莉の中で広がっていく。まるで、空が晴れ渡るように。
「空瓶を満たすのも、からをふるにする。この国はカラフルの国でもあるんだなー、って。まあ、思い付きだけど……」
 空(カラ)から降る(フル)から「カラフル」。
 空(カラ)の瓶を満タン(フル)にするから「カラフル」。
 妹の告げた言葉を、梨花もまた反芻して。理解して。途端、梨花の目も星のように煌いた。
「まあ、茉莉ってば頭がいいのね!」
 空が降る。空降る。からふる。カラフル!
 茉莉の思いついた発想に何だか嬉しくなって、そうしたら梨花もひとつ思いついた。
「茉莉。茉莉。一緒に空(カラ)に向かって手を振る(フル)のだわ」
「空に手を振るの? 誰もいないと思うけど…?」
 空が降る天に、ふたりの娘が手を振る。梨花はいっぱいに、茉莉は控えめに。二人の髪で梨の花と茉莉花が揺れる。

 手を振ったらシルクハット議長にも教えよう。
 この国の名は「カレイド」。うつくしいかたち、という意味だけれど。
 この国は、「カラフル」の国でもあるんだよ、と。
 それを知ったシルクハット議長は、飛び上がる程に喜んで、すぐにも街の皆にそれを報せたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

木槻・莉奈
ニナ(f04392)と

私は、インクにするなら夕焼けがいいわ
ニナも欲しかったなら、一緒に使いましょ
私も青いのも使ってみたいから、一緒に使ってもいい?

私にとって、ニナを表すなら夕焼けなの
綺麗な赤色で、落ち着く時間をくれる色
…此処にいていいよって、自分らしくいていいよって教えてくれる色で、大好き

瓶はシンプルな四角形のインク瓶で
凝ったのでもいいんだけど、こういうシンプルなのも好きだし、数が増えても並べやすそうかなって
丸いのが地球みたいってニナの発想が可愛くて私は好きよ

ふふ、そうね、裸足で歩くのも楽しそう

えぇ、勿論!
色んな世界があるんだもの、色んな紙もペンもあるわきっと
色々探してみましょ!
お揃いも嬉しい


ニナ・グラジオラス
リナ(f04394)と

インクにするなら青空だな
青いインクも、空も、リナみたいで綺麗だし気持ちが晴れて好きだから
ああでも、カガリみたいな夕焼けもいいが…それはまた今度にしよう
それは名案だな。もちろん私の分も一緒に使おう

入れる小瓶は透明な丸い物を。青くて丸いと地球みたいだなと思って
確かに四角だと収納しやすい。リナは凄いな

リナ、せっかくだし湖も裸足で行こう
何だか空を歩いてるみたいで楽しそうだ

デジタルな物もキライじゃないけど、書く事が好きだからペンとインクはつい集めてしまう
このインク用に新しい紙や硝子ペンを探したいな
その時はリナ、また一緒に出掛けないか?
そうだ。その時はお揃いを買えばもっと楽しいはずだ




「インクにするなら青空だな。青いインクも、空も、リナみたいで綺麗だし気持ちが晴れて好きだから」
 大好きな親友と同じ色。それはきっと、いつでも心を涼やかにしてくれるだろうと、ニナ・グラジオラス(花篝・f04392)は確信をもっている。
「ああでも、カガリみたいな夕焼けもいいが……それはまた今度にしよう」
 肩に留まる相棒の焔竜がニナの顔を覗き込めば、くすぐるように指で撫でて。それを見ていた木槻・莉奈(シュバルツ カッツェ・f04394)が、にこりと笑う。
「私は、インクにするなら夕焼けがいいわ。ニナも欲しかったなら、一緒に使いましょ。私も青いのを使ってみたいから、一緒に使ってもいい?」
 親友同士、シェアのご相談。
「それは名案だな。もちろん私の分も一緒に使おう」
 そんな素敵な莉奈の申し出を、ニナも否というはずがない。ならば二人で共に、空の湖へ。
 
 塩湖には数多の空が零れて落ちていた。二人の前には雪の空があって、その向こうには虹がかかる雨上がりの空がある。
「リナ、せっかくだし湖も裸足でいこう。何だか空を歩いてるみたいで楽しそうだ」
「ふふ、そうね、裸足で歩くのも楽しそう」
 まるで空を旅する渡り鳥のように、空を歩く。空想するしかなかった幻想が、今目の前にあるのだから、それを堪能しない手はない。靴を脱いで手を繋いで、せーので浸した爪先を、空の滴は涼やかに受け入れた。
 
 空が溶けだした雨は、塩湖に幾つもの空を映し出す。爪先で渡る空は、雪のように冷たく、時に夏のように温かく、莉奈とニナを迎える。月虹の空も、白夜の朝も旅して、やがて見つけたのは、隣り合う青空と夕空。互いに頷き合って、それぞれ望んだ空の滴を集めようと小瓶を取り出した。 
 莉奈の手には、シンプルな四角形のインク瓶。
「凝ったのでもいいんだけど、こういうシンプルなのも好きだし、数が増えても並べやすそうかなって」
「確かに四角だと収納しやすい。リナは凄いな」
 莉奈の手の中のそれを覗き込んだニナに、それを見せて。
 ニナは?
 そう問えば、ニナもまた、手の中の小瓶を莉奈に見せる。それは、透明で真ん丸の硝子瓶。
「青くて丸いと地球みたいだなと思って」
 それは専用の台座に置けば、地球儀のようにもなる硝子瓶。
「丸いのが地球みたいって、ニナの発想が可愛くて私は好きよ」
 笑みを交わしながら降り注ぐ空をそれぞれの小瓶に集める。やがて満たされたインク瓶の中で揺れる夕空を、莉奈は両手で包む。
「私にとって、ニナを表すなら夕焼けなの。綺麗な赤色で、落ち着く時間をくれる色」
「リナ」
「……此処にいていいよって、自分らしくいていいよって教えてくれる色で、大好き」
 莉奈の微笑みが、優しく眩しい。莉奈は晴れやかで、さっぱりとしていて、だからニナは、莉奈を青空のようだと思うのだ。
 
 インク屋が空の小瓶に魔法をかける。黒の羽根で包んで、カウント三つ。そうしたら、硝子の中の空はとろりと蕩け、褪せぬ空のインクになる。
 青空と夕空。互いの空を手にして、ニナは満足げに息を吐いた。デジタルな物もキライではないけれど、書く事が好きなニナはペンとインクをつい集めてしまう。
「このインク用に新しい紙や硝子ペンを探したいな。その時はリナ、また一緒に出掛けないか?」
「えぇ、勿論! 色んな世界があるんだもの、色んな紙もペンもあるわきっと。色々探してみましょ!」
 その時はお揃いを買えば、もっと嬉しくて楽しいはず。
 揃いの空のインクと、揃いのペンと紙。
 きっと手紙を書く時は、もっとわくわくするだろう。互いに未来に思いを馳せて、莉奈とニナは柔らかに微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

榛・琴莉
猟兵になってから、色んな世界を行き来して、
不思議な光景もたくさん見てきましたけど。
こういった空も、空が降るのも、初めて見ますね。
すごい、足元にも空が…あ、青い鳥。
…なんだ、Ernestのアバターじゃないですか。
貴方の鳥の色?スカイブルーでしょうか。まぁ、あると思いますけど。
私、星空が良いんですが…グラデーションにすれば良いと?はいはい。
じゃあ探して下さい。深い青の星空と、晴れ渡った青空。
2色を小瓶に集めたら、インク屋さんへお願いしに行きますよ。

完成したインクは星空から青空へ。
いつか見た、ノクチルカの海のような。
へぇ…綺麗な色を持っていたんですね、Ernest。




 猟兵になってから、色んな世界を行き来して。不思議な光景もたくさん見てきたけれど。
「こういった空も、空が降るのも、初めて見ますね」
 今日榛・琴莉(ブライニクル・f01205)が訪れたのは、空が降る世界だった。
 空が雨となって地に零れ落ちる。塩湖はそれを優しく受け止めて、地に数多の空を広げてくれる。さながら空の展覧会。
「すごい、足元にも空が……あ、青い鳥」
 琴莉の足元に広がる空に、一羽の青い鳥が飛んでいた。これは何だか幸先が良い。そう思いまじまじと眺めて――とても見覚えがある鳥であることに気づいた。
「……なんだ、Ernestのアバターじゃないですか」
 琴莉がつけたガスマスクに棲む戦闘補助AI、Ernest. このAIが鳥のアバターを飛ばし遊んでいたのだと気づけば、Ernestは自らの意思を琴莉のゴーグルに映し出す。
「貴方の鳥の色? スカイブルーでしょうか。まぁ、あると思いますけど」
 空の青色をした鳥のアバター。正しく空色ならば、数多の空が描かれたこの塩湖の何処かには、きっと同じ色もあるはずだ。はずだが。
「私、星空がいいんですが……」
 無論、琴莉にだって希望はあるわけで。
 そんな琴莉の抗議にも、Ernestは流暢に文字列を表示させていく。
「グラデーションにすれば良いと? はいはい。じゃあ、探して下さい」
 深い青の星空と、晴れ渡った青空を。
 了解の旨を表示するや、ガスマスクのゴーグルが青く輝いた。ふわ、と風が舞い上がるように。青の光から生まれた鳥の群れが、空を探しに飛び立った。
 
 鳥の群れが探し当てた空の彩、二つ。
「これを混ぜればいいんだね。任せて、きっと綺麗にしてあげるよ」
 鴉頭のインク屋の頭に、青い鳥のアバターが一羽。留まっているのが嬉しいのか、インク屋は咎めるでもなく上機嫌に空の滴に魔法をかける。
 
 完成した空のインクは、星空から青空へ。鮮やかなグラデーションを描いて時間の経過を表し、決して混ざりきることなく空を映し続ける。
 濃紺から、輝く青へ。それはいつか見た、ノクチルカの海のような。
「へぇ……綺麗な色を持っていたんですね、Ernest」
 あの日見た景色と似た色が、今琴莉のてのひらに在る。
 得意げなスタンプをひとつ表示するErnestに、ガスマスクの下で琴莉はそっと目を細めた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
流石アリスラビリンス
素敵な現象…そういうの、大好きだよ

塩湖の上を歩きながら集めたいのは茜色の夕焼け空
ほんの少し夜色へのグラデーションがあってもいいかもしれない
それは大切な人の色
使うのも勿体無いけど、そのままにしたらいつかきっと乾いちゃうから
せめて彼の色で、彼との思い出を書き残していけるように

瓶の形はバレないように僕のモチーフ
小花をあしらった綺麗な硝子は
きっと茜を引き立ててくれる

茜色の真ん中で立ち止まれば
まるで彼に包まれているようで少しだけ心がふわふわする

夜の訪れを知らせる少し冷たくて爽やかな空気も
一緒に纏わせてもらえるかな

誰にも聞こえないよう小さく呟いた大好きを
手の中の小さな空にそっと落として




 空が雨に溶けて降ってくる。それは、きっとこの不思議の世界ならではの現象。
「流石アリスラビリンス。素敵な現象……そういうの、大好きだよ」
 素敵なものには胸が高鳴るもの。
 わくわくする気持ちに突き動かされるままに、栗花落・澪(泡沫の花・f03165)は地の水鏡となった塩湖へと足を踏み入れた。
 
 塩湖の上を歩みながら、探し集めたいのは茜色の夕焼け空だ。ほんの少し、夜色へのグラデーションがあってもいいかもしれない。
 ――それは、澪にとって大切な人の色。目を惹く髪やその心、夜の瞳、それを含んだ空が欲しくて。
 大切な人の空は、使ってしまうことも勿体無い。けれど、飾ってそのままにしていたら、いつかきっと乾いてしまう。それは、大切な人が渇いてしまうようで悲しい。だから、せめて彼の色で、彼との思い出を書き残していけるように。
 澪は、空を探して空を渡る。
 
 その両手に包まれているのは、硝子の小瓶。彼の彩だとバレないよう、小瓶には澪自身のモチーフを選んだ。小花をあしらった綺麗な硝子は、きっと茜の空を引き立ててくれるだろう。
 
 やがて見つけた茜の夕焼け空。燃えるような茜色。遠くには夜の気配があって、藍色が微かに混じり合う。
 その真ん中で立ち止まれば、足元から茜が澪を照らしてくれた。まるで彼に包まれているようで、少しだけ心はふわふわする。知らず零れるのは、穏やかな笑み。
 ああ、これだ。この空だ――。
 
 集めた茜の夕空を、空のインク屋が丁寧に魔法をかけてインクにしてくれた。蓋をあければ、太陽の匂いに混じって、夜の訪れを知らせる少し冷たくて爽やかな夜気の香りがする。
 満足いく仕上がりを得た空のインクの小瓶を、澪は両手で包み込んだ。大切そうにそっと、そっと。
「……大好き」
 誰にも聞こえぬように小さく呟いた言の葉を、手の中の小さな空にそっと落とす。
 澪の琥珀が、茜色を映し染まっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヒャーリス・ノイベルト
塩湖…文献で見たことはありますが
実際に目にするのは初めてです

…こんなにも美しく幻想的な世界があったのですね

好きな色、空の色…
しばし考えて浮かんだのは
形容し難い美しき青

ベニトアイト…
ふと浮かんだ、今一番印象深い青の名を呟きながら探す
持参したのはエジプトガラスの小瓶

…!!
あの、いろ…!
見つけた色に小走りで駆け寄り
記憶にある色と同じかどうか確かめて
百合の花弁で雨露を拾いそっと瓶へ
可能なら癒やしの香りもつけたい

インクの使い道はまだ
この色を持つ彼に手紙をかいてみようか?
このインクをプレゼントしようか?
どうすれば一番喜んでくれるだろうか

やはり
自分のために何かをするのは苦手だけれど
誰かのためなら
私は動けます




 塩湖。
 多くの人がそうであるようおに、文献で見たことはあっても、実際に目にするのはヒャーリス・ノイベルト(囚われの月花・f12117)もまた初めてであった。
 雨が降る前の真白の平原も、空が降り注いで作る天の水鏡も、全て全て煌いて見えて。
「……こんなにも美しく幻想的な世界があったのですね」
 零した言葉は感嘆の響きを含んでいた。
 
 空が溶けて雨になって、地に降り注ぐ世界。空の滴を集めればインクにすることが出来る。そうは、言われたものの。
「好きな色、好きな空……」
 数多の空が映し出された塩湖を彷徨い歩きながら、ヒャーリスは考える。いくつかの空を通り過ぎながらやがて心に浮かんだのは、形容し難い美しき青。
「ベニトアイト……」
 心に浮かんだ言葉は、そのまま唇から零れ出る。深い青の宝石。今一番印象深い青の名を呟きながら、彷徨っていた足は明確な目的を持って空を渡る。持参したのはエジプガラスの小瓶。華やかな色合いの硝子とエキゾチックな形状の小瓶を、今は空を入れる為の容れ物に。
 
「……!! あの、いろ……!」
 いくつもの空を通り過ぎた。青空。遠い月夜。雨の空。その先で、あの宝石に似た色が見えて、ヒャーリスは思わず小走りで駆け寄った。彼女が走るたび、空に波紋が広がり揺れる。
 今、ヒャーリスの足元に深い深い青の空がある。記憶にある色と同じかどうか、繊細な指先を触れて確かめる。その空の彩と同じだと知れば、百合の花弁で雨露を拾ってそっと瓶に入れた。繚乱の花園で癒しを司る百合の香りを、雨露へとうつしながら。
 
 インク屋のところに瓶を持っていき、インクにしてもらう。エジプト硝子の中でとろりと揺れるベニトアイトは、深い深い夜の空。
「インク、使い道は決まっているのかい?」
「いえ、まだ……」
 鴉頭のインク屋が、硝子瓶を手渡しながら問う。けれど、ヒャーリスはゆるゆると首を振って。空を渡り歩きながら考える。
 この色を持つ彼に、手紙を書いてみようか?
 このインクをプレゼントしようか?
 どうすれば一番喜んでくれるだろうか。
 
 そこまで考えて、ヒャーリスは手元の硝子瓶をじっと見た。
 やはり自分という人間は、自分の為に何かをするのは苦手だ。けれど誰かの為ならば、ヒャーリスは動くことが出来る。
 さあ、この空のインクに相応しい使い道を考えよう。人の喜ぶ姿が、今のヒャーリスにとっての原動力だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

万条・神羅
【FAN】
友人、諫名・巡(めぐちゃん)
と一緒に空を集める冒険に出ます。

基本は【時空神の心臓】の力(技能)による空中浮遊で浮かびながらの移動なのです。
まずはめぐちゃんと自分が希望した星空を集めに。
星空が降る景色はまるで流星群みたいなのです。
神である神羅は問題ありませんが、人の子のめぐちゃんが寒くないようにぎゅーっと。

それからはめぐちゃんが好きな明け方の空。
神様ならいますよめぐちゃん、此処に。と自分を指さします。
(そうして景色を見る神羅の瞳はオパールのように様々な色を宿していた)


諫名・巡
【FAN】
お友達のらーちゃん(=神羅)は
現実的で考え深くてとっても素敵な子ですの
「空を一緒に飛ぼうって言ってましたでしょ?お空を集めに行きませんか」

命綱代わりの『♣のK』をぐるっと
らーちゃんに掴まります

らーちゃんが探す星空へ
「わあ…周りも湖も全部夜空ですの!」
宇宙にいるみたい…
履き物を脱ぎ水面に波紋を作ります
夜風もぎゅっとして貰えば暖かいですわ

すぐ明るくなるかしら?
私が好きな空は明け方、ほんのり青い夜寄りの色
厳かな始まりの色
「らーちゃんに会う前からね、この時間には神さまがいると思ってましたの」
ふふ、知ってますわ
あんまりにも綺麗で笑顔で泣いてしまいそう
「ね、らーちゃんにはどんな色に映りますの?」




 不思議の世界は不思議と魔法で溢れている。そのうちの一つ、空が降る国カレイド。天に地に空が在る、新しい世界。
 そんな世界に立って、ふと思い出したのはいつかの約束。
「空を一緒に飛ぼうって言ってましたでしょ? お空を集めに行きませんか?」
 空が溢れる水鏡の上、諫名・巡(冬の陽だまり・f21472)が万条・神羅(神宿りし素体・f23302)を誘う。巡にとって神羅は現実的で、考え深くて、とっても素敵なお友達。そんなお友達と一緒に空を集めたら、きっととっても素敵だと思うから。そしてそんな友との時間と約束は、神羅にとっても是というべきもの。
 巡が誘うように差し出した手を、神羅はしっかりと握り返した。
 
 亜麻色と白の髪が風に舞う。時空神の心臓の権能を使って空を飛ぶ神羅に、クラブのキングの鎖を命綱替わりにぐるっと巻き付けた巡は、神羅に掴まり空を飛ぶ。
 果たされた約束は、天の空と地の空の間を飛ぶという贅沢なもの。天には空を溶かした雨が降る薄曇りの雲。地には数多の空を描く水鏡の空。二人は、空に包まれていた。
 神羅が巡の様子を見れば、同じように神羅を見つめる巡と目が合った。
 さあ、今度は空をつかまえる時。空と空の間の空間を、神羅は星空を、そして巡は明け方を探しに。
 
 まず見つけたのは神羅の望む星空。
 天から星空が雨として降り注ぐ様は、まるで流星群のよう。
「わあ、周りも湖も全部夜空ですの!」
 感嘆の声をあげた巡は、まるで宇宙にいるようだとはしゃいだ。履物を脱いで水面に爪先で波紋を作れば、星空が小さく揺らめいた。星空の上で踊るのは、なんだかとてもロマンチックだ。
 ふと立ち昇る夜気を感じる気がして、神羅は巡をぎゅっと抱き締めた。神たる神羅に寒さなどは問題ないが、人の子である巡はそうもいかない。友達が寒くないように、神羅は自らの身体で友達を暖めようと、ぎゅーっとする。
 その温度と心が、巡をほかほかに温めてくれるから、巡は全然寒くなどないのだ。
 
「すぐ明るくなるかしら?」
 星の夜空を見つめてみても、時が移り変わる様子はない。どうやら星空は星空のまま、別の時間の空は別の場所を探さねばならないようだ。
 けれど心配は無用。星空のすぐ近くに、巡の望む空があった。明け方。ほんのり青い、夜寄りの色。濃紺から淡い紫へと移り行く、ほんの少しの間の空。それは、厳かな始まりの彩。
 その中心に二人で立てば、微かに温かさを感じた。はじまりの空は、不思議と背筋が伸びる。けれど巡の瞳は穏やかに笑っている。
「らーちゃんに会う前からね、この時間には神さまがいると思ってましたの」
「神様ならいますよめぐちゃん、此処に」
 知っているでしょう?と言うように、自らを指差す神羅に、くすりと巡は笑う。
「ふふ、知ってますわ」
 でも、そう。
 あまりに綺麗な景色や時間には、時に神が宿っていると感じる時がある。存在としての神ではなく、概念としての神がその景色を作り上げているような気になるのだ。
 この空もそう。巡にとってはあまりに綺麗で、笑顔で泣いてしまいそうになる。
「ね、らーちゃんにはどんな色に映りますの?」
「……神羅は」
 言葉よりも雄弁に。
 瞬けば色を変える神秘の瞳が、景色を映してオパールのように様々な彩を宿していた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

城野・いばら
ぽたぽた、日傘を叩く音
いばらにとって雨は恵みの雫だけど
今日はイロに触れないように

イロを集めるお手伝い?
うまれるために、ひつようなイロなのね
それなら、がんばらないと

日傘の風を借りて、イロを上から眺めて巡る
キラキラ粒が舞うまっクロ溜り…星空のイロかしら?
あっちはアオ…
イロイロ…たくさんあって楽しいね

いばらは、うーん…
そうだ、いばらの大好きなイロ!
じりじり焼けちゃいそうなまっカじゃなくて、
ぽかぽか心地よい、いばらの国の空の……そう、あなた!
キイロとアカイロを混ぜた、あったかお天気。お日様のイロ

この国のみんなが、
元気に過ごせますようにって願いを籠めて集めるわ
小瓶に掬うと
ふふ、とってもおいしそうでしょう




 ぽた、ぽた。
 白薔薇の日傘を空がノックする。薔薇の花弁が空に濡れる。
 薔薇であった城野・いばら(茨姫・f20406)にとって雨は恵みの雫だけれど、今日はイロには触れないように。だって、アカもピンクもミドリもアオもダメ。いばらはシロ。白い薔薇なのだから。
 
「イロを集めるお手伝い?」
「ええ」
 シルクハット議長に可愛らしく首を傾げて尋ねると、議長はしっかりと頷いた。
「うまれるために、ひつようなイロなのね。それなら、がんばらないと」
「ありがとう、美しい薔薇のお嬢さん。でもどうぞ、楽しむことも忘れずに」
 日傘でふわりと宙を舞ったいばらに、シルクハット議長は自慢のハットを軽く掲げて見送った。
 
 イロ。イロ。空のイロ。たくさんの空。
 塩湖に降った空のイロを、いばらは上から眺めて巡る。
 視線の先にはキラキラ粒が舞う、まっクロ溜り。
「……星空のイロかしら?」
 いばらの言う通り、濃い夜の空に、ビジューのように小さく煌く幾つもの星が散りばめられている。その向こうは、アオい空と白い雲。その隣は燃えるような夕焼けのアカ。塩湖にはたくさんの空が降っている。
「イロイロ……たくさんあって楽しいね」
 空が降って、天の水鏡になる潮の湖。それはいばらの目も心の楽しませてくれる、空のカンバス。
 
 そういえば、好きな空の雫を集めてくると、烏頭のインク屋が、空のインクにしてくれるのだと言っていた。
「いばらは、うーん……」
 好きな空。好きな色。そう考えて思い浮かぶのは、
「そうだ、いばらの大好きなイロ!」
 ふわり、日傘と共に宙を舞う。
「じりじり焼けちゃいそうなまっカじゃなくて、ぽかぽか心地よい、いばらの国の空の……そう、あなた!」
 真白の指がぴっと指をさす。
 その爪の先にはキイロとアカイロを混ぜた、あったかお天気。お日様が柔らかに照らす、温かなイロ。
 
 議長から貰った小瓶にお日様の空を掬うと、ほんのりと指先が温かい。
「この国のみんなが、元気に過ごせますように」
 空の雫を集めて、そんな願いを込めて蓋をする。小瓶に掬ったその空は、
「ふふ、とってもおいしそうでしょう」
 さらりと流れるお日様の彩は、なんだか見ているだけで、ぽかぽか温かな気分。
 いばらはふぅわり、花が咲くように微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オルハ・オランシュ
議長さんから貰った小瓶を手に、裸足で青空色の水を踏む
私が好きな空は夕焼け色だけれど
こういう空もやっぱり綺麗だなぁ
気持ちも晴れ晴れとしてくるもの

雨粒、ちゃんと溜まっているかな?
小瓶の中を覗けば空の雨粒はまだ少しだけ
焦らずのんびり、しばらく歩いてみよう

カレイド
ここに国を作るなんて素敵だな
住めるひとがちょっと羨ましいかも
お店の仕事があるからそうもいかないんだけど、ね
次だっていつ来れるかわからない
だからこそ、この景色をしっかり目に焼き付けておきたいな

歩けば水も跳ねて、耳に心地よい音が響く
小瓶にいい具合に溜まってきたし
そろそろインク屋さんのところに行こう

このインクで何を書き残そうかな……




 ひた、ひた。
 シルクハット議長から貰った小瓶を手に、裸足で青空色の水を踏む。爪先が触れるたびに波紋が広がり、雨の雫と共に空を揺らして。
「私が好きな空は夕焼け空だけれど、こういう空もやっぱり綺麗だなぁ。気持ちも晴れ晴れとしてくるもの」
 空の水鏡を歩むオルハ・オランシュ(六等星・f00497)の唇が描くのは、優しい弧。

「雨粒、ちゃんと溜まっているかな?」
 手にした小瓶を覗き込んでも、空の雨粒はまだ少しだけ。
 けれど急ぐ必要はない。空はまだ降り続いているし、急いで戻らないといけないわけでもない。焦らずのんびり、しばらく歩いてみようと、オルハはゆっくり足を踏み出す。青空は、そんなオルハを包むように迎え入れた。
 
 この塩湖の周りに、国を作るのだと言う。湖のほとりを見回せば、湖の外周の半分に沿って、煉瓦造りのレトロな街並みが作られている。
 空が降る世界、カレイド。
「ここに国を作るなんて素敵だな。住める人がちょっと羨ましいかも」
 オルハにはジャム屋の店番の仕事があるから、住みたいと思ってはみてもそうはいかない。次だっていつ来られるかはわからない。今は永遠ではない。次などないかもしれない。
 だからこそ、オルハは今、カレイドで見える景色の全てしっかり目に焼き付ける。雨が降る前の真白の塩湖を。天から降る空の雨を。水鏡に映る数多の空を。作りかけの街を。
 
 軽い足取りと共に水が跳ねて、耳に心地よい水音が響いている。硝子瓶の中も、気づけば雨粒がいい具合に溜まってきた。もうそろそろ良いだろう。硝子瓶にしっかりと蓋をして振り向けば、あの烏頭のインク屋が手を振っていた。
 手の中には澄み切った青空と、薄く棚引く真白の雲がある。これをインクにしてもらおう。そうしたら、
「このインクで何を書き残そうかな……」
 未来に何を書き残そう。
 空のインクで何を、誰に伝えよう。
 軽い足取りのオルハの先、未来は空のように広がっている。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アイシャ・ラブラドライト
お友達のリック(f09225)と一緒に
「心を許したら」の口調

リックとアリスラビリンスへ来るのは2回目ね
国のはじまりに立ち会えるなんて楽しみ

空色のインク、ぜひ作ってみたいわね
リックの曲はどれも素敵だけど、益々素敵な曲になりそう
嬉しい…私でよければいつでも歌うわ

リックはどんな空が好き?
私は…寒い冬を乗り越えて咲いたお花たちを見ながら望む、
春の日のぽかぽかした青空が好きかな
見てるとすごく元気が湧いてくるの
リックとも一緒に見れたらいいな
リックの好きな空も一緒に探したい
同じ色が二度と見られないなら尚更、同じ空を見ていたいな

ねぇ、塩湖の上をお散歩してみない?
お言葉に甘えて…リック、ありがとう(肩に腰掛けて


デリック・アディントン
友人のアイシャ(f19187)と共に

あぁ、そうだね
前にアリスラビリンスへ来た時は戦闘でゆっくり出来なかったから
暫しこの国を楽しむとしようか

空色のインクとは面白い
普段は魔力で書いているけれど
そのインクを使って譜面を書くのも楽しそうだ
その時はアイシャ、君が歌ってくれるかな?

アイシャらしい可愛い空だね
元気を貰えるのもよく分かるな
また春になったら実際に見に出かけようか

私は夕暮れから夜に変わる僅かな時間…
橙とも紫とも紺とも言えない色の空が好きかな
同じ色は二度と見られない辺りが、ね

空の色を探しがてらの散歩だね
アイシャさえ良ければ肩に座るかい?
瓶を持ったままも大変だろう




 空が降る国カレイドに、指揮者の男と歌唄いの妖精が降り立った。雨の音はさやかに響き、水が跳ねる音が小さく音を奏でている。
「リックとアリスラビリンスに来るのは二回目ね。国のはじまりに立ち会えるなんて楽しみ」
「あぁ、そうだね。前にアリスラビリンスに来た時は戦闘でゆっくり出来なかったから。暫し、この国を楽しむとしようか」
アイシャ・ラブラドライト(煌めく風・f19187)が春風のように微笑めば、デリック・アディントン(静寂の調律師・f09225)も頷いて応える。その小さな手を取って、二人は空が溶けだす雨の中へ歩み出した。

「空色のインク、ぜひ作ってみたいわね」
 改めて塩湖と天涙の雫の説明を受けたアイシャは、シルクハット議長から硝子の小瓶を受け取って上機嫌。どんな空が良いだろう。どんなインクになるだろう。今その胸は、インクへの期待でいっぱいで。
「空色のインクとは面白い。普段は魔力で書いているけれど、そのインクを使って譜面を書くのも楽しそうだ」
 空のインクで書く曲は、どんな曲になるだろう。奏でる音は、空の景色によって違いを見せるだろうか。
 デリックの想像力が掻き立てられて、音符が今にも頭の中に連なりそうだ。
「リックの曲はどれも素敵だけど、益々素敵な曲になりそう」
「曲が出来上がった時はアイシャ、君が歌ってくれるかな?」
 小さな歌姫へとその歌声を乞えば、ふわりふわり、花が開くようなアイシャがはにかんで。それは心からの嬉しさの証。
「嬉しい……私でよければいつでも歌うわ」

 二人は空が降る中、空の湖面を渡っていくつもの空を歩む。夕空。夜明けの空。
虹の空。それらは二人の目を楽しませ、そうして過ぎていく。
「アイシャはどんな空が好きなんだい?」
 空を探す指標になればと、デリックが傍らのアイシャに問う。唇に指を当ててアイシャが思案すれば、思い浮かぶのは青い空。
「私は……寒い冬を乗り越えて咲いたお花たちを見ながら望む、春の日のぽかぽかした青空が好きかな。……リックとも一緒に見られたらいいな」
 見ているとすごく元気が湧いてくるのだと笑う。暖かな陽射し。花の香りを運ぶ風。花弁が舞う青空は、どこまでも青く澄んで心を暖めてくれる空。
「アイシャらしい可愛い空だね。元気を貰えるのもよく分かるな。また春になったら実際に見に出かけようか」
「うん!」
 約束、また一つ。未来への約束は、春を待ち遠しくさせてくれるだろう。大好きな空を友と一緒に見上げられるのなら、きっともっと、大好きになる。
「じゃあ、リックはどんな空が好き?」
 硝子瓶をしっかりと持って飛びながら、同じようにアイシャが傍らを歩くデリックに問うた。
「私は夕暮れから夜に変わる僅かな時間……橙とも紫とも紺とも言えない空の色が好きかな。同じ色は二度と見られない辺りがね」
 昼と夜の境界の空。魔法の時間と称されるそれは、様々な条件下でいつも違う表情を見せる。同じものがないからこそ愛おしい。その時に得た感動は、その時だけのものだ。
「リックの好きな空も一緒に探したい。同じ色が二度と見られないのなら尚更、同じ空を見ていたいな」
 そんなアイシャの愛らしい申し出を、デリックは否とは言わなかった。
 
「ねぇ、塩湖の上をお散歩してみない?」
「空の色を探しがてらの散歩だね。アイシャさえ良ければ肩に座るかい? 瓶を持ったままも大変だろう」
 空のインクを作るには、空の雫が居る。望む空の雫が欲しいのなら、望む空を塩湖に映る空の表情から探す必要がある。そうでなくとも、翼がなくとも歩める空の散歩は心が弾むだろう。いくつもの空を越えて、望む彩に辿り着いたなら、互いの好きな空を共に眺められるはずだ。
 デリックが自らの肩を示せば、アイシャがそっと腰かけて。
「お言葉に甘えて……リック、ありがとう」
 アイシャが嬉しそうに微笑むから、デリックもつられてまた、笑みを浮かべた。
 さあ、空を探しに行こう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ナターシャ・フォーサイス
新たな世界、新たな国。
何と美しく、心が洗われるのでしょう。
ここもまた一つの楽園、なのやもしれませんね。

空の雫をインクとすることができるのですね。
それならば…何がいいでしょう。
冬の日の抜けるような青空も。
宝石を散りばめた星空も。
どこか郷愁に駆られる、夕食の匂いの仄かに漂う茜色も。
どれもこれも、言葉では表しきれないほどに美しいもの。
小瓶に閉じ込め、大切にしましょう。
こんなにも美しい世界を紹介してくださった彼にも贈りたいですが、何がいいでしょうか…

それから。
湖がこんなにも美しいのです、そっと足をつけて…
空と水面の鏡映し、そこに伝わる小さな波紋。
それを楽しんでみても、いいかもしれません。




 新たな世界の発見。新たな国の建国。それは無数に世界が連なるアリスラビリンスにおいては日常で、だが決して特別でないわけではない。新しい国を興す時はいつだって、生命力と活気に満ちている。そしてそれは、空の降る世界カレイドでも同じこと。
「何と美しく、心が洗われるのでしょう。ここもまた一つの楽園、なのやもしれませんね」
 雨が降る前の真白の塩湖を。空が降って数多の空を映し出す地の水鏡を前に、ナターシャ・フォーサイス(楽園への導き手・f03983)は感嘆の声を零した。

 空の雫をインクに出来る。やり方を改めてインク屋から聞いたナターシャは、硝子の小瓶を手に広がる空の湖を見る。
「それならば……何がいいでしょう」
 冬の日の抜けるような青空も。宝石を散りばめた星空も。
 どこか郷愁に駆られる、夕食の匂いが仄かに漂う茜色も。
 どれもこれも、言葉では表しきれない程に美しいもの。選ぶには甲乙つけ難く、だから、ただひとつと定めるのをナターシャはやめた。
 ひとつだけ、とは言われなかった。だから、美しいと思った空を、思うまま小瓶に閉じ込めて大切にしようと決めた。
「こんなにも美しい世界を紹介してくださった彼にも贈りたいですが、何がいいでしょうか……」
 ここに転送した、人形のグリモア猟兵を思い浮かべる。きっと何でも喜ぶのだろうけれど、さて。
 
 空を探す為には塩湖の中に入る必要がある。塩湖とはいえ然程深いわけではなく、ブーツで十分中を歩くことが出来る。
 空が溶けて降り注ぎ、数多の空を映し出すこの水鏡は、こんなにも美しい。
 そっと、足をつけてみた。
 爪先から広がる波紋が空を揺らして広がっていく。空と水面の鏡映し。それを伝わっていく小さな波紋。目の前の青空が揺らめいて、隣の夕空を揺らして何処までも広がっていく。
 もう一つ、足を踏み出した。空に生み出した波紋がまた一つ。伝わり続ける波紋は空の広さを表すかのよう。
 空は広い。空が繋ぐ世界は広い。どこまでも、どこまでも。
 その広がりを楽しみながら、ナターシャは小さく笑みを浮かべる。
 両手を広げて空を歩み渡る様は、正しく天使のように見えた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

清川・シャル
f08018カイムと同行

新しい国、素敵ですね!
是非その瞬間を見たいものです。
空が雨に溶けて降る……なんて綺麗な響き
あ、傘要ります?シャルあんまりささないのでカイムどうぞ。袖の下から大きい折りたたみ傘を出します
一緒に、装飾が施された綺麗な自前の小瓶を取り出します
ついでに自慢、小瓶綺麗でしょう?ガラス工房に行って装飾してもらいました。モチーフは月と太陽。なんとなくですけど
空に届くように上に掲げて滴を集め始めます
そのうち腕が疲れて下に下ろすでしょうけど
私は暁、夜明けの色にしてもらいたい
そのインクでカリグラフィーがしたいの
塩湖って綺麗だね
雨もキラキラして綺麗
世界はまだまだ不思議で溢れていて楽しいね


カイム・クローバー
f01440シャルと行動。

空を自分の手で手に入れる事が出来る…眺めるだけだった空が自分の手元に入るなんざ、そうある体験じゃない。今回はシャルも一緒だ。楽しませて貰うぜ。

俺は抜けるような青空が好きだ。曇りない空を見上げれば小さな悩みなんて吹き飛んじまう。けど、今回、欲しいのは夜空。月と星の瞬く静かな空。
俺にとってこの空は故郷の空だ。下らない過去だったが空の美しさは変わらねぇ。
シャルから傘を貰って差して二人で歩く。まだ寒い。濡れたら風邪引くぜ?
腕が疲れたなら変わろう。シャルのを集めた後は俺の空を集める。
闇色に僅かに黄金と白金の輝きのあるインク。俺は元盗賊だが、空を盗む日が来るなんて思わなかったな…




「新しい国、素敵ですね! 是非その瞬間を見たいものです」
 ぱちりと手を叩いて、清川・シャル(無銘・f01440)は目を輝かせた。
 新しい国の建国。それは普通に過ごしていては、まず体験することのない一大イベントだ。アリスラビリンスはそれが少なくない頻度で起こるけれど、実際にそれを共に体験できるかと言えば、それもまた別の話。
 さしても今回は空が溶けて降る世界。辿り着いた時には真っ白だった塩湖が、空が降ることで今、数多の空を映す水鏡となっている。
「空が雨に溶けて降る……なんて綺麗な響き」
「空を自分の手で手に入れる事が出来る、か……眺めるだけだった空が自分の手元に入るなんざ、そうある体験じゃない」
 カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)もまた塩湖を眺め、感嘆の言葉を紡ぐ。
 普段は触れることすら出来ぬ、まるで概念に似た、空。それが実際に手に入り、そしてインクとして紡ぐことが出来るのなら、それは奇跡のよう。此度は大切な人同士、二人で手を繋いで、いざ、地の降る空の湖へ。
 
 細い雨が降る。それは冷たくはなくて、また寒くもない。けれど、やはり濡れれば徐々に体温を奪うものであることは変わりない。
「あ、傘要ります? シャルはあんまりささないのでカイムどうぞ」
 そういって、シャルは着物の袖から大きな折り畳み傘を出す。
「お、サンキュー」
 カイムは受け取った折り畳み傘を開くと、迷いなくシャルに寄り添い傘の中へとシャルを招き入れた。
「まだ寒い。濡れたら風邪引くぜ?」
 シャルが見上げれば、カイムのにっと笑った朗らな笑みがある。そのさりげない優しさに笑みを返して、シャルは傘と一緒に取り出した硝子瓶をカイムに魅せた。硝子瓶は美しい装飾が施された美しい小瓶だ。
「小瓶綺麗でしょう? ガラス工房に行って装飾してもらいました。モチーフは月と太陽。……なんとなくですけど」
 自慢げに笑うシャルの様子が愛おしい。しっかりと頷いて、カイムもまた小瓶を取り出した。
 
 空の湖となった塩湖を歩き、まず二人はシャルの望む空――暁の空を見つけ出す。
 青とオレンジ、そして光の黄色。雲と空と光が織りなす暁の彩は、息を飲むほどに美しかった。シャルは太陽と月の小瓶を、空に届くよう高く掲げて暁の雫を集め始める。しばらくそうして滴を集め、腕が疲れて手を下におろしてはひとやすみ。その小瓶を、カイムがひょいと受け取って高く高く掲げた。
「シャルはこの空のインクが出来たらどうするんだ?」
「そのインクでカリグラフィーがしたいの」
 カリグラフィー。文字を美しく見せる為の手法だ。ただ字を書くのではなく、より美しく。暁の空で美しく書かれた文字は、きっと見るものを魅了するだろう。黎明のグラデーションは、それだけでも人の心を惹きつけてやまないものだから。
「カイムはどんな空が好きですか?」
 暁の雫を集めて終えて瓶をシャルに渡したカイムに、シャルは首を傾げて問う。彼の小瓶にはどんな空を入れるのだろう。
「俺は抜けるような青空が好きだ。曇りない空を見上げれば小さな悩みなんて吹き飛んじまう。けど」
「けど?」
「今回、欲しいのは夜空。月と星の瞬く静かな夜」
 それはどこにあるだろう。カイムとシャルは、そんな夜空を探して空を渡る。やがて、暁の向こう側に静かな静かな星月夜があるのを見つけた。空の中心で、カイムもまた瓶を高く掲げて雫を集める。
「俺にとってこの空は故郷の空だ」
 下らない過去だった。けれど、空の美しさは変わらない。振り返るには溜息が必要な過去にも、美しいものはあった。この空はその証だ。
 やがて集め終わった星月夜の雫は、瓶の中で闇色の雫となる。その中には僅かに黄金と白銀の輝き。まさしくこの空だ。
「空を盗む日が来るなんて思わなかったな……」
 カイムは元盗賊だ。だがそんな大それた、夢みがちな盗みの計画など立てたこともない。なのに今、現実としてカイムの手の中には「空」がある。生きていれば色んなことがあるものだ。
 そんなカイムの隣に寄り添い、シャルもまた暁の雫を手に塩湖を眺めていた。
「塩湖って綺麗だね。雨もキラキラして綺麗」
 空が降る国カレイド。
 降り注いだ空を受け止めて、自らを天の水鏡にする塩湖は、様々な空の煌きを宿して雨の中でも極光のように美しく煌いている。
「世界はまだまだ不思議に溢れていて楽しいね」
 そう言ってカイムに笑うシャルの笑顔は、空の光を受けてキラキラと輝いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

桜雨・カイ
なんだか楽しそうですね
靴を脱いで裸足で。感触も楽しみながら歩きましょう。

青い空、虹の空、朝焼け夕焼け……ずっと歩いて歩いて
この辺まで来るとまっくらですね…光が差し込まず何も見えない……いや?よく見ると砂粒のような星がきらきらしてます。

ふと以前の依頼で「人は綺麗なだけの存在ではない。でも…暗闇のような中に、光を宿すこともあるのだと」気がついた事を思い出す。
インクにするとこんな感じなのでしょうか。

匂いもかいでみます。
えーと…冷たいけど時々温かい、感じ?
(清涼な香りの中にふんわりと優しい香りを感じる)

一見暗闇でもそこに何かはきっとあると…そう信じたいです




 空が溶けて、涙のような雨が降る。
 塩湖には数多の空が広がる地の水鏡となり、塩湖の周囲では今も賑やかに街が建設されている。
「なんだか楽しそうですね」
 愉快な仲間たちは皆楽しそうに街を建設している。シルクハット議長は上機嫌に小瓶を配り、インク屋は大忙し。活気に溢れる様子を眺め、桜雨・カイ(人形を操る人形・f05712)もまた柔く笑みを浮かべた。
 空は今も塩湖に降り注ぎ、それぞれの輝きを持って地から天を照らしている。その、美しさ。カイは靴を脱いで裸足で、水と浮かぶ空の感触を楽しむように、そっと塩湖に足を踏み入れた。
 
 青い空。虹の空。朝焼け。夕焼け。
 たくさんの空を渡り歩く。一つとして同じ空はない。時間の移り変わりを渡るように、カイはずっと歩いて、歩いて。やがて夜へと至る。
「この辺まで来るとまっくらですね……光が差し込まず何も見えない……いや?」
 深淵の宇宙のような暗がりに、闇かと思ったが。よくよく目を凝らすと、砂粒のように小さな光、無数の星がきらきらと輝いている。
 その小さな光たちを見ながら、カイはふと以前の依頼で気が付いたことを思い出した。

「人は綺麗なだけの存在ではない。でも……暗闇のような中に、光を宿すことがある」

 カイは人形だ。故に、本質的に人に寄り添い、人の為に自分は在るのだという意識がある。けれど優しい存在と思っていた人が、優しいだけではないことを知った。心に闇を宿す者とて当然存在する。けれど、その中に光を宿すことがあるのなら。
「……インクにするとこんな感じなのでしょうか」
 カイは両手にその空を掬ってみる。顔を寄せれば、微かに香りがする気がして。
「えーと……冷たいけど時々温かい、感じ?」
 空の雫は不思議な温度だった。清涼な香りの中に、ふんわりと優しい香りを感じる。これが、人の心だというのならば。
 一見暗闇でも、そこに何かはきっとあると。
「そう信じたいです」
 そう、願う。

大成功 🔵​🔵​🔵​

華折・黒羽
広がる塩湖に踏み入れた獣の足
いつも通りの裸足、これが半人半獣の己にとっての普通

視界に入るだけでも空の表情は様々で
そんな中で足運んだのは月のない星だけが広がる夜空
柔く照らす月の光すらないその闇夜は
厭うこの身体を包み隠してくれる

例えば冬の白の中
どうしたってこの身の黒は視界に入るから
冬は殊更夜に安堵を見出してしまう
最近は随分と穏やかなひとときを過ごせるようにもなってきたけれど
独りになると嫌でも思考に耽ってしまう

…そんな夜も
この星空の雫集めた小瓶があれば幾らか心安らぐだろうか
小瓶を包んだ両手を上へ

仰いだ顔をぽつり撫でて頬を伝う天の涙
星を映した青い眸は降り止むまで空を見上げた




 ひた、ひた。
 広がる塩湖に踏み入れた獣の足。波紋を広げ、空に濡れる毛は艶を帯びた黒。
 いつも通りの裸足。それが、半人半獣たる華折・黒羽(掬折・f10471)にとっての普通。
 
 足裏の塩湖の感触は固く、空の雫は程よい涼やかさで黒羽を迎え入れる。辺りを見渡せば、視界に入るだけでも空の表情は様々で、一つとして同じ空はない。
 抜けるような青い空。燃えるような夕焼け。煌々と月が照らす満月の夜。黎明の淡い紫。空は、いくつもの表情を湛えて塩湖に浮かび上がる。
 そんな中で黒羽は足を運んだのは、月のない、星だけが広がる新月の夜空だった。
 闇を柔く照らす月の光すらないその闇夜は、黒羽が厭うその身体を余さず包み隠してくれる。

 例えば冬の白の中ならば、どうしたってその身の黒は誰の視界にも入ってしまうから。冬は殊更に夜に安堵を見出してしまう。この身を暴く光は、今はまだ、少ない方が良い。
 警戒心の塊の様だった黒羽も、最近は随分と穏やかなひとときを過ごせるようにもなってきた。けれど、独りになると嫌でも思考に耽ってしまう。
 その身に刻み続けた記憶と思い、この名を連れて、歩き続けてけた日々。
 あの日の事。焔の熱。掌の温度。命の約束。あの子の、声――。
 
 そんな思考に耽ってしまう夜も、この静かな星の夜の雫集めた小瓶があれば、幾らかは心安らぐだろうか。空の雫を集めた小瓶にしっかりと蓋をして、そんなことを想う。この心の隠れ場所が、欲しい。
 
 小瓶を包んだ両手を、天に掲げた。足元の微かな
 仰いだ顔を新月の夜の雫は優しく濡らし、頬を伝っていく。煌く微かな光を内包する天涙は、未だ止むことなく静かに降り続けて黒羽を濡らす。
 瑠璃の如き青の眸は星を映し、空が泣き止むまで、天を見上げ続けていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

マリアドール・シュシュ
【ベア】
アドリブ◎
小瓶の装飾お任せ

千夜子の提案に快諾

まぁ!千夜子ったら凄いのよ!
マリアは満天の星空が大好きなのだわ
ふふ、其処に華水晶の蜜金石を一適零せば
何色になるかしら

千夜子が選んでくれた空と別の空を選ぶ
雨催いの宵を茉莉花と共に混ぜた洋墨を

マリアが千夜子に選ぶのは…そうね
天の海のように澄清な心を持つあなたへ
碧霄に差す陽光、美しき天穹を色に込めて渡すわ
季節は…そう、青葉の候がお似合いなのよ

嬉しそうにインク受け取る

この色で想いを綴るのなら
千夜子は誰に何を書くのかしら
この蒼穹の往く先を知りたいの
ねぇ、空の涯の景色をマリアにもいつか魅せて頂戴

…マリアは暗闇に閉ざされた儘の彼へ
何度でも伝えるわ
ありがとう


薄荷・千夜子
【ベア】

お気に入りの空のインクなんて素敵!
マリアさん、お互いをイメージした空を選んで交換しませんか?

マリアさんは夜空でしょうか
彼女の優しさは暗い夜道でも優しく照らしてくれる導きのお月様
キラキラ輝く髪は天の川
満天の星が澄んだ空に燦然と輝く冬の夜空を
夜空が好きの言葉に喜び

マリアさんすごい!
好きな空は青空です!
澄んだ青空を眺めるのがとても好きですね
青葉の候、生まれの頃の空に微笑んで
自分で選ぶ空は夏の陽光が輝く青空を

インクを交換
私の空の先…嬉しいこと楽しい想い出を真っ先に伝えたい、同じ幸せを共有したいと願う人でしょうか
マリアさんが想いを綴りたい方は?
…伝わりますよ、その願いがきっと輝く光だから




 空が降る。夜空も青空も、夕空も、みんなみんな、雨となって塩湖に降り注ぐ。それは不思議の国ならではの、魔法。
「お気に入りの空のインクなんて素敵!」
 ぱちりと手を合わせた薄荷・千夜子(羽花灯翠・f17474)は、共にカレイドを訪れた華水晶の友、マリアドール・シュシュ(蜜華の晶・f03102)と顔を見合わせて。
「マリアさん、お互いをイメージした空を選んで交換しませんか?」
「まぁ、まぁ! とっても素敵、千夜子、是非そうしましょう!」
 心躍る提案には力強く頷いて、互いをじっと見る。それぞれのイメージを頭の中で固めたならば、ふたり手を繋いで、いざ空の湖へ!
 
 いくつもの空を渡り、波紋を広げて歩むこと暫し。
「マリアさん、こっち、こっちです!」
 最初に目当ての空を見つけたのは千夜子だった。マリアドールの手を引いて駆け寄ったのは、星が煌く宵の空。
「マリアさんは夜空だと思うんです」
 そう言って足元に目を落とせば、たおやかな月明りが宵闇を煌々と照らしていた。
 マリアドールの優しさは、暗い夜道でも優しく照らしてくれる導きの月。キラキラと輝く絹糸のような髪は天の川。満天の星が澄んだ夜空に燦然と輝く冬の夜空。
 それが、千夜子の中でのマリアドールという空のイメージ。
「まぁ! 千夜子ったら凄いのよ!マリアは満天の星空が大好きなのだわ」
 それを見て聞いたマリアドールの金の瞳が、きらきらと輝いた。大好きな空を自分と重ねて貰えるのは、心から嬉しい。千夜子が手にした硝子瓶を覗き込めば、真珠のような真ん丸お月様と、砂粒のような無数の星が天の川を描いて宵闇に流れている。
「ふふ、其処に華水晶の蜜金石を一滴零せば何色になるかしら」
 千夜子が選んでくれた夜空に、爪先で弧を描く。華水晶の流れ星を作るかのように。
 
 ならばと今度は、マリアドールが千夜子の手を引く番。
 マリアドールが千夜子に抱く印象は、明るさ。そして温かさ。その心の美しさ。それを表すのならば――青空がいい。
「だからね。天の海のように澄清な心を持つあなたへ、この空を贈るわ」
 マリアドールが連れていったのは、碧霄に差す陽光。美しき天穹を色に込めて、マリアドールはライラックを象った硝子瓶に空を詰める。
「季節は……そう、青葉の候がお似合いなのよ」
「マリアさんすごい! 好きな空は青空です! 澄んだ青空は眺めるのがとても好きなのです」
 青葉の候。それは千夜子の生まれの頃の空。思わず微笑みが零れた。
 
 それぞれ自分用に、千夜子は夏の陽光が輝く青空を、マリアドールは雨催いの宵を茉莉花と共に混ぜた洋墨を小瓶につめて。空のインク屋にインクにしてもらったら交換だ。
 千夜子もマリアドールも嬉しそうにインクを受け取ってはにかんだ。友に選んでもらった空のインクは特別嬉しかった。
「この色で想いを綴るのなら、千夜子は誰に何を書くのかしら」
 この蒼穹の往く先を知りたいと、マリアドールは言う。太陽のような千夜子が記す蒼天は、何と交わるのか。
「私の空の先……嬉しいこと楽しい想い出を真っ先に伝えたい、同じ幸せを共有したいと願う人でしょうか」
「そう。ねぇ、空の空の涯の景色をマリアにもいつか魅せて頂戴」
「はい! じゃあ、マリアさんが想いを綴りたい方は?」
「……マリアは」
 夜空のインクを見つめる。空と華水晶の蜜金石が溶け合う夜空。星が煌くインクを届けたいのは――。
「マリアは、暗闇に閉ざされた儘の彼へ。何度でも伝えるわ」
 何度だって、何度だって伝えよう。闇の奥でもがく人に手を伸ばすように。
「……伝わりますよ、その願いがきっと輝く光だから」
「ありがとう、千夜子」

 空のインクで綴る願いの光。それが、正しく届きますように。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
f01982/咲さん

まぁるい硝子瓶を手に
裸足になって
世界を潤す水辺を逍遙

天泪が煌き零れる度
己の身まで
浸る爪先から空色に透き通っていくみたいで
足取りは次第に軽やかに

翼が無くとも
天を翔けられるのですねぇ

淡い青は春霞
朱鷺色の夕立から深き紺へ移る夏の宵
葉を染める飴色の秋
しんと眠る雪紫の冬

様々な彩りを廻りながら
季節を
時を
旅する心地

咲さんの掌に包まれたのは
暖かで優しい夕さりの彩

何処かへ帰りたくなりますね

きっと其処は
穏やかに眠れる場所に違いなく

微笑みつつ
己が陽に透かす空色は
藍紫から東雲、そして薄明へと色調が変化していく
永い永い冬の夜明け
新しい明日におはようを告げる為の

二人で綴る空色は
まるでひと日の廻りのよう


雨糸・咲
綾さん/f01786

四角い硝子の香水瓶を握り締め
彩降る空に見入ってしまう

本当
身体が浮いているみたいですね

そろり踏み出す爪先に揺らぐ色
不思議な感覚
けれど
楽しげな綾さんの所作は軽やかで
次第につられて心が解けてゆく

ネモフィラみたいな明るい春色
鮮やかに迫る夏の紺碧
いつもは少し苦手な季節も
今は素敵な魔法と同じ
わくわくさせてくれる

天からもらったおすそわけは
青紫に橙
目を奪われる色の対比に
金色が一匙混ざった秋の黄昏
宝石に似たカット硝子の蓋を締め
穏やかに笑んで

私ね
お帰りなさいを言うのが好きなんです

綾さんの手にある黎明は
果てしなく澄んだ冬の色

どこか知らない場所へ連れて行ってくれそう、と
柔く繊細な彩りに目を細めた




 空に素足を浸したならば、まるで空を飛んでいるような心地がした。
 
 世界を潤す水鏡の上、まぁるい硝子瓶を手にした都槻・綾(夜宵の森・f01786)と、四角い硝子の香水瓶を握り締めた雨糸・咲(希旻・f01982)の、並んだ影が揺れてそぞろ歩く。天泪が煌き零れるたび、浸る爪先から己の身まで染みわたり、空色に透き通っていくようで。綾の足取りは、次第に軽くなっていく。
「翼が無くとも天を翔けられるのですねぇ」
「本当。身体が浮いているみたいですね」
 空を舞うのは、翼有る者だけの特権だったのに。この世界ときたら、誰でも零れた空に舞い踊り、翔けて、空に身を浸すことが出来るのだ。その贅沢と言ったら。
 彩降る空に見入りながら、そろりと咲が爪先を踏み出せば、波紋が空彩を揺らしていく。
 不思議な感覚だった。けれど、共に歩む綾の所作の軽やかさに、咲も次第につられて心が解けてゆく。
 
 その足で、二人は渡り鳥のようにいくつもの空を渡る。
 淡い青は春霞。朱鷺色の夕立から深き紺へ移る夏の宵。葉を染める飴色の秋。しんと眠る雪紫の冬。それぞれの空を指差して、爪先を浸せばふわと季節が香る。
 ネモフィラのような明るい春色を過ぎて、鮮やかに迫る夏の紺碧へと至ればその青に落ちていきそうで。
 いつもは少し苦手な季節も、今は素敵な魔法と同じように咲をわくわくさせてくれる。二人連れ立って巡る様々な空の彩は、まるで季節を、時を、旅する心地。
 お伽の中では、時を旅する者がいるのだという。時の旅人が感じる心は、こんな風なのだろうか?

 天からのおすそ分けを集めようと、咲はついと両手の硝子瓶を雨に差し出した。咲の足元には青紫に橙色。目を奪われる色の対比に、金色が一匙混ざった秋の黄昏。息を飲む程に美しく、涙が浮かぶ程に心に響く煌きの色。それを詰めて宝石に似たカット硝子の蓋を締め、暖かな夕さりの彩を手に咲は穏やかに微笑んだ。
「何処かへ帰りたくなりますね」
 きっと其処は、穏やかに眠れる場所に違いないだろう。
 咲の掌見つめ、静かに綾は笑む。黄昏に潜む郷愁か。ほんの少しの寂しさが、誰かを、何かを求めて帰ろうとする。そうして心のままに辿り着いた場所には、きっと。
「綾さん。私ね」
 黄昏の宝石を両手に乗せて綾に見せながら、咲はそっと目を細めて。
「お帰りなさいを言うのが好きなんです」
 きっと、暖かな場所がある。

「ただいま」
「おかえり」
 そんな風に言える場所が。
 
 咲に微笑む綾が、まぁるい硝子瓶を日に透かした。綾の眸に空彩が落ちる。
 藍紫から東雲、そして薄明へと移り行く、永い永い冬の夜明け。果てしなく澄んだ冬の彩。そして新しい明日におはようを告げる為の空が、まんまる硝子の宝石となってとぷりと揺らいだ。
 
 咲の黄昏。綾の黎明。
 二人が綴る空色は、まるでひと日の廻りのよう。
「どこか知らない場所へ連れて行ってくれそう」
 そう言って、咲は柔く繊細な彩に目を細めた。
 数多の空で満ちるこの塩湖を渡るように、空を渡り、さあふたり、何処へ行こうか――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

レジーナ・ファルチェ
(絡み・アドリブ歓迎)

とても綺麗ですわね!
キラキラ綺麗で見ているだけでも楽しいですのに、インクにする事が可能…形として残せるなんて最高ですわ。

折角ですから少し裸足で歩いてみますわね。
空を歩いている気分になれるでしょうか。
どうせならお兄様達と一緒に来たかったですけれど、また機会はきっとありますわね。
わたくしがお兄様方と無事再会できれば、ですけれども。

さて、2つの瓶に空を閉じ込めることは可能でしょうか。
宵の空と暁の空が欲しいのですけれど…2つが無理でしたらグラデーションになるようにしますわ。
手のひらサイズの狼の形をした瓶にお兄様方の名前を表す空の色。
これを持っていれば一緒に居るような気がしますわ。




 零れ落ちる空の雫を受け止めて、数多の空を映し出す塩湖。薄曇りのカレイドで、今、塩湖は空に輝いている。
「とても綺麗ですわね!」
 だから、レジーナ・ファルチェ(弾丸魔導師・f23055)の胸は高鳴っていく。キラキラ綺麗で見ているだけでも楽しいというのに、その空をインクにすることが可能だなんて。触れることの出来ない空を、形として残せるなんて最高だ。蒼天の宵の口の瞳が、好奇心に煌いた。
 
 折角だからと塩湖に踏み入れる足は、裸足で。
 爪先で触れれば空が揺らぎ、一歩踏み出せば空を歩いている気分になる。数メートルごとに表情を変える空は、まるで渡り鳥の気分。
「どうせならお兄様達と一緒に来たかったですけれど、また機会はきっとありますわね」
 もうすぐこの世界は新しい国の誕生を迎える。ならばまた、此処を訪れる機械もあるはずだ。ただしそれは勿論、
「わたくしがお兄様方と無事再会できれば、ですけれども」
 思わず零れる小さな溜息。好奇心旺盛な性格は、興味を惹かれればどこにでも向かっていく。それに加えて生来の方向音痴。レジーナが「お兄様達」と呼ぶ双子との再会は、はていつになるのやら。
 
 軽い足取りで空を歩くレジーナの手には、二つの硝子小瓶。集めたい空は、もう決めている。
 まずは宵の空。濃藍に閉じ込めた星の夜。次に欲しいのは暁の空。はじまりを告げる暁天の色。
 ひとつの小瓶に混ぜてグラデーションにすることも考えたけれど、二つは別個のまま、インクにしてもらいにインク屋を訪ねる。
「おや、狼の瓶だねぇ。これはかっこいい。贈り物かな?」
「いいえ、自分用ですのよ」
 手のひらサイズの狼の瓶の中で、二つの空がとぷりと揺れる。宵と暁は、双子の従兄達の名前を表す空の色。
「これを持っていれば、一緒に居るような気がしますわ」
 二彩の狼を胸にそっと抱き、レジーナは嬉し気に笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

水標・悠里
ああ、空が降ってくるとは
とても、とても素敵ですね
共はいつも連れ立つ蝶一匹

どの空も、どの時間も甲乙つけ難いのですが
星が霞み消える月の夜を
白を帯びた藍色に、月長石の煌めきが極光のカーテンのように
見るたびに一瞬だけの色を見せてくれる

月は眩しすぎて、小さな星の灯をかき消してしまうから
見えぬところに、星が隠れてしまうのですね
お喋りは此処まで、さあ参りましょうか
一声かければ舞い上がる蝶を連れて、洋墨を瓶一杯に満たすまで
誰が一番多く見つけられるでしょうか
手にした角瓶に溜まっていく色を眺めながら、どう使おうか思い巡らす

きっと、抽斗の中に仕舞い込んでしまうのでしょうけど
空が代わりに泣いてくれらから、今はまだ




「ああ、空が降ってくるとは。とても、とても素敵ですね」
 水標・悠里(魂喰らいの鬼・f18274)が空映す水鏡へと進める歩は密やかに。常に連れ立つ黒い蝶が、黒の軌跡を描いてひらひら舞う。
 
 空が雨に溶けて降る国、カレイド。空の雫を集めれば、インク屋がインクにしてくれるのだという。
 どの空も、どの時間も甲乙つけ難い。星が流れる夜も、澄んだ青の空も、日が昇る前の霞も。渡る空はどれも美しいけれど、悠里が足を止めた空は星が霞み消える月の夜だった。
 白を帯びた藍色に、月長石の煌きが極光のカーテンのようにたなびいて。光はひと時として留まることなく、見るたびに一瞬だけの色を見せてくれる。
 
「月は眩しすぎて、小さな星の灯をかき消してしまうから……見えぬところに、星は隠れてしまうのですね」
 空の雫に手を触れれば波紋が広がった。揺らめいた空には星は見えない。小さな星は、全て月の繻子の向こう。
 静かに青の視線を落としていたのは、ほんの少しの時間だった。ゆるり立ち上がっては淡い笑み浮かべ。
「お喋りは此処まで。さあ参りましょうか」
 悠里が一声かければ黒蝶が舞い上がる。死霊の蝶を引き連れて、洋墨を瓶一杯に満たすまで雫を集めに悠里は歩む。
「誰が一番多く見つけられるでしょうか」
 木々や葉を伝って落ちる雫を探すのは、黒蝶の役目。戯れるような言葉に、蝶はひらひらと舞って月夜を探す。
 そうして手にした角瓶に宵が溜まるのを眺めながら、悠里はそれの使い道に思いを巡らせた。宵闇のインクはきっと、紙に描けば月の揺らめきをキラキラと映し出すだろう。
 何を書こうか。このインクで何を伝えようか。暫し思案してみるけれど。
「……いえ、きっと」
 ――きっと、抽斗の中に仕舞い込んでしまうだろう。
 ゆるゆると首を振っては、細い雨が降る天を見上げた。
 空が、自分の代わりに泣いてくれるから。
 今は、まだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

逢坂・宵
ザッフィーロ君(f06826)と

手に手を取って、塩湖に降り注ぐ雨を集めに向かいましょう
六芒星の蓋をもつ流線形のガラスボトルを使って、美しい朝のマジカルアワーの色を探します
静寂を守る夜闇の匂う濃色から晴れやかな陽射しを纏う淡色へ変わるその時間帯のいろをした雨粒を集めましょう
きみによく似合う、夜明けの美しいいろです
少しだけ、冬の夜のような澄んだ香りもするんですよ

相手の探した色を見聞きすれば嬉しそうに表情を緩めましょう
出逢ったあの夜をかたどる色……
きみの心に刻まれたそれのなんと嬉しいことか
それからインク屋さんに声をかけて
このガラス瓶のほかに用意した揃いのガラスの万年筆にインクを詰めていきたいです


ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と

宵と手を繋ぎ雨を集めに向かう
星の形の硝子に青玉の蓋を持つ瓶へ詰めるは橙の色が溶け込んだ深い紫に金の星が瞬く美しい隣の相手の如く宵の空
瓶に集まるその雨の美しさに見惚れながらも
漂うヒースの花の蜂蜜の様な甘い香りに宵と出会った丘の夜を思い出せば懐かしさに思わず瞳を細めながら瓶を宵の鼻へ寄せてみよう
…宵、懐かしい香りがせんか?
宵はどの空にしたのだと身を寄せつつも続いた声を聞けば思わず口元が緩んでしまう
宵の集めた雨が俺の色ならばあの夜の色はお前の色だ
本当にあの夜もお前も…、…否、何でもないが
その後はインク屋に声を掛け宵から受け取った万年筆へインクを詰めよう
ああ、本当に見れば見る程美しいな




 光が塩湖から溢れていた。
 地に高く広がる青空に波紋を広げたザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)は逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)と手を確りと繋いで歩を進める。
 空が溶けだした雨は優しく降って、真白だった塩湖は空の博覧会のよう。柔く緩やかな衣擦れの音に雨音が混ざって、歩む二人の耳朶を優しく打つ。
 降り注ぐ空を集めに来た二人の手には硝子瓶。ザッフィーロの手には星の形の硝子に青玉の蓋を持つ瓶。宵の手には六芒星の蓋を持つ流線型の硝子ボトル。互いが互いの硝子瓶を見ては、温かな笑みを交わし。
 
 渡り鳥のように二人、幾つもの空を渡り。そうしてはじめに目当ての空を見つけたのはザッフィーロだった。
 橙の色が溶け込んだ深い紫に、金の星が那由他に瞬く美しい夜。繋いだ手の先、美しい隣の最愛の如き宵の空。零れる雫を瓶に集めれば、硝子瓶の中で夜が揺らめている。
 その美しさに見惚れながら、ふと漂うヒースの花の蜂蜜のような甘い香りを感じた。それはザッフィーロの手元、硝子瓶の中と足元より漂い来る「あの夜」の香り。ザッフィーロが宵と出会った丘の夜を思い出させる香りで、懐かしさに思わず銀の瞳を細めた。
「…宵、懐かしい香りがせんか?」
 名を呼ぶ声は柔らかく。不要な言葉は全て排して、ザッフィーロは瓶を宵の鼻へ寄せた。瞬いた宵がその香りを嗅げば、嬉しさに表情を緩めた。
「出逢ったあの夜をかたどる色……」
「そうだ」
 嗚呼、気づいてくれた。
 それだけでザッフィーロは幸福に思う。
 忘れていない。互いにあの丘の夜の思い出は刻まれたまま、きっと永久に忘れない。
 
「宵はどの空にしたのだ」
「僕はこれを」
 宵がザッフィーロに差し出して見せたのは、美しい朝の魔法の時間。静寂を守る夜闇の匂う濃色から、晴れやかな陽射しを纏う淡色へ静かに移り変わる、はじまりの朝。濃紺から淡紫へ。そう遠くない時に光が一筋、天と地を走るのだろうと誰もが信じる時間。例えば彼の身にかかる金のストラのように。
「きみによく似合う、夜明けの美しいいろです。少しだけ、冬の夜の空のような澄んだ香りもするんですよ」
 黎明の色溶ける雫を硝子ボトルに集めながら、宵は数センチばかり背の高い最愛の銀を見つめる。そうしてボトルをザッフィーロに近づけて、笑うのだ。その笑みと選んだ空に、ザッフィーロの胸に愛おしさが溢れた。心から溢れたそれは唇に緩やかな弧を描かせて、宵に身を寄せては二人、幸福に身を浸す。
 
 インク屋が魔法をかけて空を閉じ込めた瓶を並べれば、まるで時の移り変わりを見るかのよう。
「宵の集めた雨が俺の色ならば、あの夜の色はお前の色だ。」
 ザッフィーロが告げた。
 宵にとってザッフィーロははじまりを告げる彩。ザッフィーロにとって宵と出会ったあの夜は、はじまりの宵。互いのはじまりを表す宵と黎明は、こんなにも美しい。
「本当にあの夜もお前も……、否、何でもないが」
「ふふ。きみの心に刻まれたそれの、なんと嬉しいことか」
 誤魔化したザッフィーロの言葉を察したか、宵は本当に嬉しそうに微笑む。そうして取り出すのは揃いの硝子の万年筆。それぞれの空のインクを詰めた硝子瓶の中で、空はとぷりと揺れて。
「ああ、本当に見れば見る程美しいな」
「はい」
 言葉少なに同意した宵は、心の内に言葉をもう一つ。
 きみだって、本当に――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ダグラス・ブライトウェル
足元に出来た空色の表情の豊かさ
ああ、なんて綺麗なんでしょう
美しいそれを崩してしまうのは勿体ないんですが…
すみません
謝ってから、ゆっくり大股で歩きながらの空色探し

淡く静かな朝焼け
囁くように煌めく星空
雲と空が豪奢に輝く夕暮れ
出逢う空はどれもふたつとない美しさ
集めるのをつい忘れ見惚れてしまう

…いけませんね、瓶が未だに空です
こういう時は即断即決に限ります
次に降ってきた空をこの瓶で受け止めましょう
偶然の出逢いもふたつとない美しいものです

瓶を手に待ち
降ってきたのは漆黒にダイヤを砕いたような星空
空からのギフトはどう使ってもきっと美しい
使う時を思うとワクワクして
子供に戻った気分になりながら、鴉頭さんの所へと




 足を踏み入れれば、空に波紋が広がり揺れる。
 見渡すだけでも塩湖に映し出された空の表情は数多で、その豊かさにダグラス・ブライトウェル(Cannibalize・f19680)は目を細めた。
「ああ、なんて綺麗なんでしょう」
 けれど、淡いモスグリーンが少しだけ申し訳なさげに曇る。美しいそれに波紋を広げ、崩してしまうのは勿体ない。ないのだが。
 悲しき哉、己は空を湛える塩湖を歩まねば、望む空を手に入れられぬ翼無き身。
「……すみません」
 誰にでもなく空と塩湖に謝ってから、ダグラスはゆっくりと大股で歩み始めた。
 
 空色を探すのは、歳を重ねた大人のダグラスにとっても心が沸き立つような探索だ。
 淡く静かな朝焼け。囁くように煌く星空。雲と空が豪奢に輝く夕暮れ。
 出逢う空はどれも二つとない美しさ。これほど歩を進めても、同じものに出会うことは一度としてない。それが楽しくて、雫を集めるのもついつい忘れて見惚れてしまう。
「……いけませんね、瓶が未だに空です」
 塩湖をぐるりと一周して、地に降る空を堪能したあとで、ダグラスはようやく手の中の瓶を思い出した。ひとしきり見回ったからこそ、数多の空は美しく輝いていたことを知っているけれど、それから厳選するとなると時間が足りない。
「こういう時は即断即決に限ります。次に降ってきた空をこの瓶で受け止めましょう」
 悩み始めればキリがないのなら、いっそ割り切って偶然の出会いを楽しもう。それを楽しむのもまた好い。偶然の出会いもまた、ふたつとない美しききものだから。
 
 瓶を手に持って雫を集める。やがて降ってきたのは夜の色。漆黒にダイヤを砕いたような星空。闇の中で煌く宝石が、命の煌きを放つそれは、今ダグラスの為の空からのギフト。
 使い道をあれこれ考えていたけれど、きっとこれはどう使っても美しいだろう。これを使用する未来を想えばワクワクと高鳴って、まるで子供に戻ったかのよう。
 硝子瓶にしっかりと蓋をして、鴉頭のところに踵を返したダグラスには幼さが漂う笑みが浮かんでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

スキアファール・イリャルギ
(アドリブ・連携OK

綺麗、ですね
赤も桃も橙も黄も青も藍も灰も白も、黒すらも――
"影人間"には眩しい世界です

気に入った空を、と思ったけれど
ちょっと待ってください、どれも綺麗で選びきれない
いやだって全部インクにしたら持ちきれない……
うろうろ、ちょろちょろ
端から端まで行ったり来たり

――ヨシ、決めた
朝焼け、昼空、夕焼け、そして夜空
一日の流れをひとつの小瓶の中へ

なんとか選び集められて満足
でも、なんでだろう
少し泣きそうなんです

ここは眩しくて、ひどく、きれいで
どれだけ濡れようと
どれだけ集めようと
身体は昏い儘で
空に染まらない
何にもなれない

"――『    』と同じだ。"


……。
今、なんで、
オウガの名前を?




「綺麗、ですね」
 空を湛える地の湖。真白のカンバスは零れ落ちた空の絵の具に彩られて、様々な彩を見せている。
 夕陽の赤も、朝焼けの桃も、夏の煌く太陽の橙も、朝日の金も、宵の口の青も、濃密な深夜の藍も、雨空の灰も、柔らかな光湛える月の白も、そして砂粒のような星が煌く黒さえも――。
「"影人間"には眩しい世界です」
 ほぅ、と息を吐いたのは、頭以外の肌を黒い包帯で覆った男――スキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)であった。彼は怪奇人間。人に擬態するもの。故に、彼に色はなく。だからこそ、極彩色の世界は眩しい。
 
 空を集めてインクに出来るというから、気に入った空を、と、思ったけれど。
「ちょっと待ってください、どれも綺麗で選びきれない」
 そう鴉頭のインク屋に行って、スキアファールは頭を抱えた。あの空もこの空も、どの空も綺麗で選びきれない。
「いっそのこと全部……いやでも全部インクにしたら持ちきれない……」
 この塩湖は直径が三キロメートル程。その中に一体いくつの空があるのか。ぱっと視界に入ったものだけでも両手では数え足りぬ程の空、空。いくつもの。
 故にスキアファールは、うろうろ、ちょろちょろ。塩湖の上、空と空を端から端まで行ったり来たり。

 そうして時間が経つこと暫し。
「――ヨシ、決めた」
 硝子瓶を手にスキアファールが立ち上がる。一つに絞るのはやめた。けれど全部詰めるのもやめた。スキアファールが集めるのは、朝焼け、昼空、夕焼け、そして夜空。一日の流れを一つの小瓶の中へと詰める。くるりと混ぜれば、時間の流れがゆるやなグラデーションを描いている。これをインクにしたら、一文の中に朝から夜まで空が流れるのかもしれない。それはきっと、美しいだろう。

 なんとか選び集められて、スキアファールには満足した笑みが浮かぶ。
 でも、なぜだろう。
 少しだけ、泣きそうで。
 改めて周囲を見渡した。街並みは着々と出来上がり、空は雨に溶けて降り注ぎ、塩湖は数多の空を映して地から輝く。カレイドという名に相応しく、此処は美しき彩で溢れる世界だ。
 眩しくて、ひどく、きれいで。
 だというのに、どれだけ空に濡れようとも、どれだけ空の雫を集めようとも、この身体は昏いままで。
 空には染まらない。他の何にも染まれない。何にも、なれない。
 
 "――『    』と同じだ。"

 俯いた目が、自らの発した言葉で見開かれた。
「……。今、なんで、オウガの名前を?」
 包帯に覆われた手で自らの唇に触れる。その疑問の答えは昏き彼方に沈んで、いくら覗き込もうと今は姿を現すことを拒んでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

パウル・ブラフマン
どもー!エイリアンツアーズでっす☆
愛機Glanzに【騎乗】したまま湖のほとりへ。

空のインク作りなんて超ロマンチック!
これはツアーの目玉になるコト間違いナシだよ♪
持ち前の【コミュ力】全開で
現地国民さんやインク屋さんにサムズアップ。

まずは自分で体験してみないとね!
出来たインクの用途?そうだなぁ…あ、社印!
社印用のスタンプに使います、と笑顔で。

星空が降り始めたら
水面を乱し過ぎぬよう配慮しながら湖内へ。
寄り添う2頭の鯨モチーフの小瓶を
空と空の境界で
泳ぐように揺らして雨を集めたいな。

エイツアは大好きでかけがえのない、オレの居場所。
押した瞬間に
誇らしげに星の煌きを帯びるような
そんな社印ができるといいなぁ☆




「どもー! エイリアンツアーズでっす☆」
「これはようこそ、カレイドへ!」
 白銀と輝く愛機Glanzに騎乗したまま人懐こい笑みを浮かべたパウル・ブラフマン(Devilfish・f04694)に、シルクハット議長が上機嫌に頭のシルクハットを取って応える。
 議長の案内を得て、愛機で出来立ての街道を走る。新しい煉瓦の匂いが鼻腔を擽り、やがて雨の匂いへと移り変わる頃、その塩湖はパウルの前に姿を現した。
 
 空が雨に溶けて降る世界カレイド。降り注いだ空を受け止めて、自らを空の水鏡とする塩湖。その空の雫を集めて、空のインクを作ることが出来るのだという。
「空のインク作りなんて超ロマンチック! これはツアーの目玉になるコト間違いナシだよ♪」
 湖のほとり、両手で作ったフレームに空の湖を収めては、振り返ってウィンクしてみせる。その背に鴉頭のインク屋が上機嫌に座っていてウィンクを返す。初めて来た場所、会ったばかりの人とでもすぐに打ち解けられるのは、パウルの持ち前のコミュ力の賜物だろう。
「じゃ、まずは自分で体験してみないとね!」
「そうするといい。インクの使い道はもう決めているかい?」
 硝子瓶をパウルに手渡しながら、インク屋が問う。瓶を受け取りGlanzを駐車したパウルが小首と触手を傾げ、
「出来たインクの用途? そうだなぁ……あ、社印!」
「社印?」
「うん、社印用のスタンプで使いまっす!」
 これは良い思い付きだと、パウルは誇らしげに笑った。
 
 塩湖のほとりには星空が降っていた。
 水面を乱しすぎぬよう配慮しながら、ブーツで湖内へと踏み入れる。一歩、一歩、夜空に波紋を広げて空を渡る。
 パウルの手には、寄り添う二頭の鯨モチーフの小瓶が握られている。そして歩みを止めたのは、空と空の境界。
 二彩の星空の狭間で、パウルは瓶を掲げた。手で、触手で、泳ぐように瓶を揺らして雨を集める。鯨の歌を歌いながら、今もきっと寄り添い泳ぐ、あの二頭のように。
 
 エイリアンツアーズという場所は、パウルにとって単なる職場ではない。
「エイツアは大好きでかけがえのない、オレの居場所」
 言葉にしてみたら、思ったよりも胸に染みた。心からそう思う。だからこそ、この空は社印のインクにしたいのだ。
「押した瞬間に、誇らしげに星の煌きを帯びるような――、そんな社印が出来るといいなぁ☆」
 夜空で満たされた二頭の鯨の中で、一条の流れ星が駆け抜けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

誘名・櫻宵
【迎櫻館】
アドリブ歓迎

うふふ
みんな笑顔で心地いいわ
あたしはこうして皆で笑っていられる今この瞬間の空も好きだけれどね!
雨は、桜を散らすものだけれど
あたしは好きなのよ
それにあたしの桜は雨に散らされるほど弱くないものね!

空に纏わる皆の話を笑顔できくわ
空は何時だってあなた達を見守ってくれてたのね
……あたしは
美しい清明の日の
満開の桜が祝福した――春宵の曙空を
見たことないんだけどね
あたしの生まれた日の空らしいわ
一度、父上が言ってらしたっけ
なんて感傷的かしら

(リルの空に照れるもそっと隠して)
まぁ!綺麗なインクね!
どの空も、素敵だわ
今度皆で、何か書きましょ!
そしたらもっと思い入れある空に、なるかもしれないわ!


リル・ルリ
【迎櫻館】

空のいんく、なんてろまんちくだね!
雨は好きだよ
空の、歌のようだもの
その雨を瓶に詰めて、僕だけのお空をつくる――ふふ、楽しみだ

さぁ、歌おうか
星瞬く夜の歌を
僕は星のように降る雨をつかまえるんだ
小瓶に詰めるのは、いつかの穹――
瓶詰めの人魚がみた星空だ
初めて、櫻宵が見せてくれた凍てつく冬の日の
満天の星の海
甘やかなチョコレエトと柔く瞬き咲いた桜の星の温もりを
嗚呼、多分――これがきっと
いとしいとしというこころ、そのはじまりだから

笑みと共に小瓶を抱きしめて、皆を見る
ねぇ、どんな空をつかまえた?
僕ははにかんで小瓶をみせる
その空の想い出を知りたいな
君だけのそのいんくで、お手紙をしたらきっと素敵だよ


鶴澤・白雪
【迎櫻館】
アドリブ歓迎

本当、不思議ね
空を1つの小瓶に入れるなんて滅多にできない経験だわ

淡い蒼みを帯びた小瓶を持って
探すのは雨上がりの青空

仄暗い雲間から陽が注いで
世界を明るく照らすその瞬間
残った雨粒が光を弾いてキラキラと輝いている空はあるかしら?

あたし個人としては雨の空の方が好きなんだけど大切な想い出がある空はこっちだから

ユアは月夜で千織は朝焼けなのね
みんなの好きな空を知れて
色んな空の形を見られるのはいいわね
リルの星空と櫻宵の宵の空も2人らしいと思うわ

そうね、このインクで手紙が書けたら素敵だと思うわ

あの野郎に手紙を書く機会をあるかは分からないけど
その機会があったらこのインクを使ってみようかしら


橙樹・千織
【迎櫻館】
アドリブ歓迎

空のインク…いったいどんな色になるでしょうねぇ
みなさん欲しい空の色、決まっていますか?

湖へは素足でひたり踏み入って
空の雫を集めに行きましょう

私は…朝焼けの空がいいですかねぇ
夜と朝が混じり、その合間に桜色も見えるような
そんな空色を小瓶に

みなさんの大切な空色が知れて嬉しいですねぇ
それぞれが持つ小瓶を見ればどれも違った空の色
一つも同じにはならなかった、色んな思い入れが込められたその色達がとても愛おしい

どの空色もとても綺麗で素敵な色
使わずにこの小瓶に入れたまま飾っておきたくなってしまいますねぇ

笑顔の皆さんを見て思うのは…
“この大切な人達と共にもっと沢山の空色を見られますように”


月守・ユア
【迎櫻館】
空が降る国…かぁ
不思議だね?空が涙となって降り注ぐなんて
小瓶を手に徐に空を仰ぐ

よし
皆で好きな空を巡ってインクを作りに行こ!
どんな空をインクにする?

素敵な空が皆の小瓶の中に満たされますように

ボクは
月夜の色を作るの
月夜は大切な人の象徴で、その人との思い出がつまった尊い宵の彩
この空は心の拠り所
ボクに安らぎをくれる空

思い入れがある空をこの小さな器に閉じ込めるなんて素敵だ

いいね!
想いを綴って形にすれば
より宝物として大切にできそう
手紙も書いてみようかな

朝焼け空、雨上がり空、冬の星空に春宵の曙空
どれも尊い想い出が詰まっているんだね
紙に描かれる時が楽しみ
このインクで
どんな心の文字を紡げるのだろう?




「空が降る国……かぁ。不思議だね? 空が涙となって降り注ぐなんて」
 カレイドへと足を踏み入れた迎櫻館の5人。今まさに建設真っ最中の街並みを抜け、塩湖へ向かう途中、月守・ユア(月夜ノ死告者・f19326)は小瓶を片手に徐に空を仰ぐ。
「雨は好きだよ。空の、歌のようだもの。その雨を瓶に詰めて、僕だけのお空をつくる――ふふ、楽しみだ」
 リル・ルリ(想愛アクアリウム・f10762)の纏う絹が、空のいんくなんてロマンチックだねと緩やかに揺蕩う。ユアと共に涙を流す天を仰ぎ、零すは笑み。
「本当、不思議ね。空を一つの小瓶に入れるなんて滅多に出来ない経験だわ」
「空のインク……いったいどんな色になるでしょうねぇ」
 鶴澤・白雪(棘晶インフェルノ・f09233)の酸漿のような紅は、隣を歩く橙樹・千織(藍櫻を舞唄う面影草・f02428)を映し。麗しき友と顔を見合わせた千織には、常通りふわふわの笑みが咲く。
 楽しみにしているのは皆同じ。気に入りの空で作る、空のインク。魔法の世界だからこそ出来る奇跡のようなそれに心が躍る。故に、皆の顔には浮かぶの笑みばかり。
「うふふ。みんな笑顔で心地いいわ」
 皆が集う迎櫻館の主たる櫻竜、誘名・櫻宵(屠櫻・f02768)は皆の顔を眺めて袖の下でころころと笑んだ。皆が笑っているその声の、なんと心地良いこと。
「よし、皆で好きな空を巡ってインクを作りに行こ! どんな空をインクにする?」
「みなさん欲しい空の色、決まっていますか?」
 軽い足取りで一足先にユアは塩湖のほとりに。そうして振り返えれば、千織も続く。
「あたしはこうして皆で笑っていられる、今この瞬間の空も好きだけれどね! 雨は、桜を散らすものだけれど、、あたしは好きなのよ」
 それに!
 ぴんと立てた指を唇に当てて、櫻宵は悪戯に片目を瞑ってみせる。
「あたしの桜は雨に散らされるほど弱くないものね!」
 櫻宵の角に咲く櫻は、空の雫を受けても一片と散ることなく。櫻宵らしいとリルが目を細めれば、それを否定する声は何処にもない。
 さあ、空が溶けだした雫を集めに行こう。自分だけの空を。
 それぞれに湖へと足を踏み出す友に、ユアは心のうちでそっと願った。
 素敵な空が、皆の小瓶の中に満たされますように。
 
 暫し後。それぞれの空を集めた皆が、くるりと円になって。
「ねぇ、どんな空をつかまえた? その空の思い出を知りたいな」
 リルは抱き締めていた小瓶を、はにかみながらそっと見せる。小瓶の中に揺蕩うのはきらきらと宝石のような星が煌く星の夜。
「まぁ! 綺麗なインクね!」
 櫻宵が賞賛したそれぞれの空を見せ合えば、それに籠めた想いを一人ずつ語り始める。
 
 塩湖に張る水は浅く、月光ヴェールの尾鰭を揺らめかせても泳げはしない。けれど、薄く淡い鰭に空が透けていた。リルは今、空を泳ぐ人魚。
「さぁ、歌おうか。星瞬く夜の歌を。僕は星のように降る雨を捕まえるんだ」
 小瓶を掲げて地の水鏡に視線を落とす。リルが探すのは、いつかの穹――。
  それは瓶詰の人魚が見た星空だ。初めて、櫻宵が見せてくれた凍てつく冬の日の満天の星の海。甘やかなチョコレヱトと、柔く瞬き咲いた桜の星の温もりを。
 大切な大切な夜の空。
「嗚呼、多分――これがきっと、いとしいとしというこころ、そのはじまりだから」
 小瓶にぽたぽた集まる雫には、星と櫻が舞っていた。
 そんなリルの想いを聞いて、笑うふりしてその袖にひそり、櫻宵は頬を隠す。大切な人の想い出の空に、己と見た空があるのは嬉しくもあり、照れ臭くもあり――幸福でもあり。
 
「……あたしは」
 そんな櫻宵の手には、輝くひかりの空。美しい清明の日の、満開の桜が祝福した――春宵の曙空。
「見たことないんだけどね。あたしの生まれた日の空らしいわ。……一度、父上が言ってらしたっけ」
 本当はどんな空だったか、それは櫻宵の生まれた日にその空を目に焼き付けた父のみが知るのだろう。けれど、父が語ってくれたその空を手に――なんていうのは、少し感傷的だろうか。
 
  白雪の手には淡い蒼みを帯びた小瓶。その心が探したのは、雨上がりの青空だ。
 仄暗い雲間から陽が注いで、世界を明るく照らすその瞬間。きっとこの雨が止んだ後にも訪れるだろうひかりの空。
 残った雨粒や光を弾いてキラキラと輝いている空はあるだろうか?
 問う言葉に返事はなくても構わない。その眸は自ら探すのだと意志強く。空を渡り歩いて、あの光差す空を探した。
「あたし個人としては雨の空の方が好きなんだけど、大切な想い出がある空はこっちだから」
 からりと笑う白雪に、ユアがうんうんと頷いて。
「思い入れがある空をこの小さな器に閉じ込めるなんて素敵だ」
 想い出にある空を手元に置ける。いつだって大切な記憶はありありと瞼に描けるものだけれど、その日の空をいつでも見返すことの手元に置けたなら。きっともっと大切になる。きっと、永遠になる。

「ユアは月夜で千織は朝焼けなのね」
「うん! ボクは月夜の色」
 月夜はユアにとって大切な人の象徴。その人との思い出が詰まった尊い宵の彩。
「この空は心の拠り所。ボクに安らぎをくれる空」
 両手に乗せた瓶を見つめるユアの瞳には、大切な人への愛しさが詰まっている。その空を見ればその人が傍に居るようで、ユアはそっと瓶を抱き締めた。
 
「私は……朝焼けの空がいいですかねぇ。夜と朝が混じり、その合間に桜色も見えるような」
 素足を空に浸せば、心地よい涼やかさが返ってくる。千織はひたりと塩湖に踏み入って、波紋を追いかけるように緩やかに歩を進める。空の雫を集めるために。
 春の黎明。春暁の空。そんな空色を、小瓶に詰めたくて。
「みなさんの大切な空色が知れて嬉しいですねぇ」
 ふわふわりと千織が微笑む。それぞれが持つ小瓶を見れば、どれも違った空の色。ひとつとして同じものにはならなかった、色んな思い入れが置込められたその色たちがとても愛おしい。
「色んな空の形を見られるのはいいわね。リルの星空と櫻宵の宵の空も二人らしいと思うわ」
 白雪の言葉にリルは嬉し気にはにかみ、皆の空に纏わる話を笑顔で聞いていた櫻宵は桜色に頬が染まりつつもふぅわり笑み返す。
「どの空色もとても綺麗で素敵な色。使わずにこの小瓶に入れたまま飾っておきたくなってしまいますねぇ」
「ほんとね! どの空も素敵だわ。飾っておくも素敵だけれど、今度皆で何か書きましょ! そしたらもっと思い入れある空に、なるかもしれないわ!」
「いいね! 想いを綴って形にすれば、より宝物として大切にできそう。手紙も書いてみようかな」
 順に並べた小瓶の空を見て、思わず千織がほうと息を漏らす。その横で手をぱちり、櫻宵が提案すればユアが真っ先に同意した。
「そうね、このインクで手紙が書けたら素敵だと思うわ。あの野郎に手紙を書く機会があるかはわからないけど、その機会があったらこのインクを使ってみようかしら」
「君だけのそのいんくで、お手紙をしたらきっと素敵だよ」
 ほんの少し考え込む仕草の白雪。そんな白雪とユアに、リルは華のように笑って頷いた。
 自分だけの空と、そのインク。きっととても大切になる。きっととても特別になる。そのインクで手紙を書いたら、同じ空を見ていることになるだろうか。それはきっと、とても――。
 
 空のインクで何を書こう。
 朝焼け空。雨上がり空。冬の星空に春宵の曙空。
 どの空にも尊い想い出が詰まっていて、紙に描かれる時が楽しみになる。
「このインクで、どんな心の文字が紡げるかな」
 ユアの言葉に、皆も自らの空を眺めた。
 笑みの花咲く皆を穏やかに見つめた千織は思う。
 “この大切な人達と共にもっと沢山の空色を見られますように”、と。
 
 さあ、自分だけの空で何を伝えよう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
常であれば掴む事すら叶わぬ天の彩が
よもやこうも近くに
――ふふん、そう心配するな
お前が居れば落ちはせぬ

果てなく続く水鏡
波紋を広げる様子は幼子のそれ
…やれ、仕方のない奴だ

私か?
近場の空を混ぜ…ふむ、悩ましいな
そう云うジジは如何するのだ?
予想通りと云っては些か傲慢だろうが
明星煌く黎明に思わず噴出して
くは、成程
実に美しい色よな

では、こういうのは如何だろう?
殻瓶を開き、雨粒を掬う
晴れ、曇り、夕暮れ
様々な空を混ぜ合わせると
其処に在るのは宵の色
月が隠れた闇の色
そして最後に落すは一粒の白星
星がきらり瞬くと
照らされた七色が微笑みかける

ふふん、そうかそうか
ならば塒へ帰還次第、早速使うとしよう


ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と
踏み出せば空に落ちてゆきそうで
思わず師の脆い手を取る
…足を滑らせてはと思った迄

初めてだ、翼も要らぬ空を行くのは
靴も脱ぎ捨て、裸足で水踏む
散らした雫が作る波紋を目で追って

師父はどの色にするのだ?
うむ、俺は決まっている
夜と朝のあわい、青に朱紅滲む空色に
星空二滴落として溶かし合わせ
あえかな星の煌めく黎明色となればいい
誤魔化せもせぬ師の色に小さく満足の微笑み

師の小瓶を覗けば
混ぜてなお濁らぬ、暗がりならざる宵の色
夜にも虹が出るのだな


不得手な座学とて、少しは捗るやも知れぬ
気に入りの文具が増えれば気掛かりはひとつ
…師父よ、書斎に篭もるのは程々にするのだぞ

今はしばし、天地の空の間をゆこう




 常であれば、掴む事すら叶わぬ天の彩。
「それがよもやこうも近くに」
 感心するアルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)の前には、数多の空が降り注ぐ塩湖があった。その景色はまるで幻想。翼無くとも歩める空に足を踏み入れようとした時、ふっとアルバの細く脆い手が取られた。
「……足を滑らせてはと」
「――ふふん、そう心配するな。お前が居れば落ちはせぬ」
 彼の従者たる竜、ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)だった。今二人の目の前に広がるのは、抜けるような高き夏の青空。踏み出せば空に落ちていきそうな程に、高く澄んだ青空だ。
 此処は塩湖だと、その空の雫はとても浅いことを知っていても、眸に見えるものとの差に不安にもなる。ましてそこに踏み出すのが翼無き師父ともなれば、ジャハルの手は反射のように伸びるもの。
 けれど当のアルバに不安はない。アルバは信じている。ジャハルが居れば大丈夫だと。
 
 果てなく続く水鏡を、アルバとジャハルは歩む。まるで空を渡る渡り鳥のように、幾つもの空を通り過ぎた。
「初めてだ、翼も要らぬ空を行くのは」
 そう言って歩むジャハルの足に靴はない。裸足で空に踏み入れば、心地よい冷たさがジャハルを迎え入れる。水面を散らしてみれば、雫が作る波紋を目で追った。空に落ちた雫は、波を作ってゆるく揺蕩っていく。
「……やれ仕方のない奴だ」
 水を散らすジャハルは、まるで幼子のよう。その背を見つめて肩を竦め、けれどアルバの顔には笑みが浮かんだまま。歩いて空を渡る。その不思議をまた、アルバも楽しんでいる。
 
「師父はどの色にするのだ?」
「私か? 近場の空を混ぜ……ふむ、悩ましいな」
 問われて足元を見て見るも、二人の傍には青空も、夕空も、雪空も、幾つもの空がある。改めて問われれば迷ってしまう。
「そう云うジジは如何するのだ?」
「うむ、俺は決まっている」
 悩むアルバに対して、ジャハルはあっさりと答えた。歩む足取りに迷いなく、辿り着いた空にすっと小瓶を掲げて雫を集める。
 その空は夜と朝のあわい。青に朱紅滲む空色。そこに星空を二滴落として溶かし合わせれば、小瓶の中であえかな星の煌く黎明の彩となる。
 誰の彩かなどと一目瞭然。望む空色になった小瓶に満足し、ジャハルは誤魔化しもせぬ師の彩を見せる。
「くは、成程。実に美しい色よな」
 思わず噴出した。予想通りと云っては些か傲慢だろうけれど、誤魔化しもせず、満足そうにアルバに差し出した明星煌く黎明は、正しくアルバの予想通り。故にこそ、アルバはジャハルの空を胸を張って賞賛した。
 
「ふむ。では、こういうのは如何だろう?」
 次に空を小瓶に詰めるのはアルバの番。殻瓶を開き、幾つもの雨粒を掬っていく。
 晴れ。曇り。夕暮れ。
 様々な色を混ぜると出来上がるのは黒であるように、様々な空を混ぜ合わせると、其処に在るのは宵の色。月も隠れた闇の色。そして最後に、一粒の白い星をぽたりと落とした。
 そっと揺らせば星がきらりと瞬いて、さやかな光に照らされた七色が瓶を覗くジャハルの瞳に微笑みかけた。
 混ぜてなお濁らぬ、暗がりならざる宵の色。いくつもの空を内包し、故にただの闇にならなかった夜はアルバの魔法のよう。
「夜にも虹が出るのだな」
 静かな感動を胸に頂いたジャハルは、師の作りし宵の虹に魅入っていた。
「不得手な座学とて、少しは捗るやも知れぬ」
「ふふん、そうかそうか。ならば塒へ帰還次第、早速使うとしよう」
 気に入りとなった文具を手にジャハルが頷けば、アルバもまた満足そうに笑みを深める。
 ただし、嬉しいことばかりではないのがまた世の常。美しい文具が手に入ったことで、ジャハルの胸に気がかりが過る。
「……師父よ、書斎に篭るのは程々にするのだぞ」
「……」
 主と従者の視線が絡み合うこと、ほんの少し。
 どちらともなく噴出して、二人はゆるりと足を進める。
 雨はいつのまにか上がり、空には淡く色を薄める青の色。地には塩湖に降り注いだ数多の空。
 ならば今は暫し、天地の空の間を往こう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 日常 『最初の灯』

POW   :    石や菓子を削り出す

SPD   :    不思議な素材を組み合わせる

WIZ   :    光る花や葉を生み出す

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●はじまりの光
 空は涙を流すのを止め、薄い雲は風に流されていく。そうして覗いた青空は色を薄め、代わりに黄色に似た橙へと徐々に染まっていた。
「皆様にお知らせがあります! 我らの世界、我らの国カレイドの街並みが、完成致しました!」
 数多の空を映す塩湖は未だその空を湛えたまま、湖のほとりで眺めていた猟兵たちにシルクハット議長が息を切らせて駆け寄った。シルクハット議長の両手が大仰に指し示す先に目を向ければ。
 そこには、真新しい石畳と煉瓦や木組みのメルヘンチックな街並みが完成していた。街の至る所に花が飾られ、街を歩く異形頭の愉快な仲間たちは、皆嬉しそうに自分たちで作り上げた街並みを眺めている。
 蒼からはじまった家並みは次第に橙になり、濃い藍から紫へ、そうして淡い紫となってぐるりと街を一周する。空が零れ落ちる世界だからこそ、街もまた空の移り変わりを現したのだろう。
 けれど、街のどこにも、灯は灯っていない。

 くるりと街を案内したシルクハット議長は、やがて硝子で覆われた店舗に辿り着いた。掲げられた看板には、「灯り屋」と書かれている。
「この街は完成しましたが、未だ街には光がありません。ですので、最初にお願いしたように、この街に皆様で灯りを燈して欲しいのです。……此方へ」
 灯り屋の中へ足を踏み入れれば、二人の異形頭が猟兵たちを出迎えた。
「此方は燈職人の鬼灯さん。隣がシャンデリア夫人です」
 紹介されて優雅に挨拶をした二人が説明することには、完成したカレイドの街には、今、光がないのだという。
「この国の夜を照らすはじまりの光です。街を作るのを優先してたもので、お恥ずかしながら光の容れ物も足りていない現状です。だから、皆様には灯りづくりと灯り燈し。その二つをお願いできればと思うのです」

 宵を越す為の光。闇を照らす為の光。人に寄り添う光。
 街を輝かせる、光。
 それを作り、燈して欲しいのだというのだ。
「まずは灯りづくり。フレームは既に必要な数が完成しているんだ。あとはそれに硝子をはめ込む工程なんだが、それを手伝ってもらえないかな。硝子は色々あるんだ」
 鬼灯が奥の工房への扉を開く。
 途端、猟兵たちの目に飛び込んでくるのはいくつものフレームと、色とりどりの硝子たちだった。
 フレームには灯りとしては定番の球体や長方形、ラッパ型やチューリップ型、鈴蘭型や行燈型など、様々な形がある。
「それから、これ。見たことある人はいるでしょうか。ヒンメリというのですが」
 それは基本、八面体からなるモビールだ。それをいくつも組み合わせて、宝石のようだったり、星のようだったり、色々な形を作る事が出来る。これらの中から好きな形のフレームを選び、硝子をはめ込む手伝いをしてほしいらしい。
「硝子も色々あります。空のインクで作った硝子。花やお菓子を魔法で硝子にしたもの。貴方方が好きな素材があったら、それを持ってきてくれれば硝子に出来ますよ。大きさも、大きなものを一枚はめ込んでもいいし、小さく砕いてモザイクタイルやステングラスのように組み合わせてもいい。好きなようにしてみて下さい。ご自分の分が欲しいのでしたら、街に使うものの他に作って頂いても大丈夫ですよ」
 灯りの容れ物は、あればある程いい。どんな形であれ、この街の住人は喜んでくれる。思うまま、幾つでも、作るといいだろう。

「容れ物が出来たら、私のところへ。容れ物の中に、皆様の光を灯します」
 鬼灯の言葉を継いだのは、シャンデリア夫人だった。頭を下げれば、しゃらりと飾りが揺れる。
「出来上がった容れ物を私と共に持って目を瞑り、思い浮かべるのです。あなたの中の光、もしくは、貴方の内の炎を。それが、容れ物に灯る光になります」
 貴方の心にある光とは。または、貴方を動かす、貴方の内に燃ゆる炎とは。
 それは色も温度も様々で、炎の形もきっと同じではないだろう。だけれどそれでいいのだ。貴方の中の光が、炎が、この街の灯りになる。
 皆が作った皆の光は、このカレイドを永劫照らし続けるだろう。

「街にはじまりの光を灯すことは、国に命を与えること。闇に光が燈った時に、カレイドは生まれるのです」
 シルクハット男爵が穏やかに告げる。子の誕生を待ち望む親のように、慈愛に満ちた声だ。
「貴方方は、たくさんのオウガを撃退し、たくさんのアリスや愉快な仲間たちを救ってきたと聞いています。我々は然程強くはない。けれど、貴方方の光があれば私達は勇気を貰える気がするのです」
 それは、もしかしたら我儘の類だったかもしれないけれど。
「全部の光が出来上がったら、皆で街に燈しに行きましょうね」
と、異形頭たちは丁寧に頭を下げるのだった。

*********
●お知らせ
 灯りを作って、燈を灯す章です。
 まずは好きなフレームを選びます。洋灯、行燈、花、ヒンメリ型など、色々なフレームがあります。大抵のものはありますので、お好きに指定してください。
 フレームを決めたら、フレームに嵌める硝子を決めましょう。空のインクで作った硝子、砕いた硝子など色も様々。大きな硝子一枚を嵌めてもいいし、砕いてステンドグラスやモザイクタイルのようにお好きな模様を描くこともできます。
 また、花やお菓子など、持ち込んだものを硝子にすることも出来ます。
 最後に、シャンデリア夫人のもとで、【自分の中にある光】もしくは、【自分の中で燃える炎】を思い浮かべ、それを灯せば完成です。
 光や炎は、貴方の色、温度を反映して灯ります。その特徴をお教え下さい。
 一つ作るもよし、たくさん作るもよし。自分用に持ち返りたいのでしたら、もう一つ同じものを作って持ち返ることもできるでしょう。
 (※アイテム発行は出来ません) 

 貴方の光、貴方の炎を、貴方の手で作る灯りに燈し、カレイドという国に命を灯して下さい。 

●受付期間
 【1/28 8:31~1/30 23:00まで】を予定しております。
 受付期間外に頂いたプレイングは、内容に問題がなくとも流してしまいます。ご注意下さい。
 また、有難くも多数の方にご参加頂けた場合、再送をお願いする可能性があります。
ケルスティン・フレデリクション
きらきら、ぴかぴか。
きれいなのがつくれたらいいなー
夜空を明るく照らすのは、お月様!
三日月の形のフレームにおひさまの色とおつきさまのいろをまぜまぜしてステンドグラスみたいにするね。
「わぁ、すごい、きれーね!」
出来たら夫人の元へ。
自らの中にある炎、というものが理解出来なくて「むむむむ」と不思議そうに唸るがお祈りするように手を組めば瞳と同じ色の橙が炎の色になり
「できた!わたしのいろー!」

もうひとつ。お持ち帰りがしたいなーと思ってお星様の形のフレームに色んなガラスを混ぜ混ぜして。同じく橙の炎を灯す

他の皆のきらきらも見たいな。
きっと、すっごくきれいなの!

【アドリブ歓迎】




 夢のような色合いの少女が、工房で瞳を煌かせていた。いくつものフレームと、数多の色合いで光を透かす硝子たちが、ケルスティン・フレデリクション(始まりノオト・f23272)を興味をぐいぐいと引き寄せる。
「きらきら、ぴかぴか。きれいなのがつくれたらいいなー」
 好奇心は行動の原動力。
 光の容れ物造りは、フレーム選びからはじまる。ケルスティンが迷いなく選び取るのは三日月の形。
 この灯りは、カレイドの夜を照らす光になるのだという。ならば、夜空を明るく照らすのは月だ。真白の光で淡く照らす、そんな月だ。
 硝子の箱から気に入る彩を見つけたならば、あとははめ込むだけ。
 手にした硝子は二種の色。おひさまの色とおつきさまの色を混ぜて、パズルのようにフレームにはめ込んでいく。そうして出来上がるのは、温かな色のステンドグラス。
 少し持ち上げて光を透かして見れば、ケルスティンに柔らかな光が降ってくる。朝も夜も耐えず光を届けるような、そんな光の容れ物だ。
「わぁ、すごい、きれーね!」
 自分で作った出来に大満足。軽い足取りは跳ねるようにシャンデリア夫人の許へと駆け寄って。
「できたよ! わたしのおつきさま!」
「まあ、愛らしい。それではこれに貴女の光、貴女の炎を燈しましょう。御手を」
 しゃらりと装飾を揺らしてシャンデリア夫人が両手で三日月を包み込む。あとは思い浮かべるだけだと言うけれど、自分の中にある炎というものが、ケルスティンにはどうにも理解できなくて。
 どんな炎が燈るんだろう。どんな色をしているんだろう。
 知らずケルスティンの表情は「むむむむむ…」と難し気。その疑問を解きほぐすかのように、夫人は穏やかな声で語り掛ける。
「大丈夫ですよ。……ほら、貴女の炎が燈ります」
「えっ?」
 祈る様に組んだ手の先、三日月の中にケルスティンの瞳と同じ、橙の炎がぽぅと燈った。
「ね?」
「うん、できた! わたしのいろー!」
 小さな太陽のような光を燈す三日月を受け取って、ケルスティンは嬉しそうに高く掲げた。これからこれが、この街を照らす光のひとつとなるのだ。
 
 ひとつできたらもう一つ。お持ち帰りがしたいのだと鬼灯に告げれば、喜んで了承してくれた。次に選ぶのは星のフレーム。色も形も様々な硝子をしゃらしゃらと混ぜて貼り、同じく橙の炎を灯した星は、ケルスティンの手の中によく馴染んだ。
 出来上がった光を手に、ふとケルスティンは辺りを見回した。あちらでもこちらでも、皆光を作ろうとしている。きっといくつもの光が出来上がるのだろう。それが燈された景色は如何に美しいだろう。
「わたし、他の皆のきらきらも見たいな。きっと、すっごくきれいなの!」
 そう思ったら、好奇心が胸の中ではしゃぐから。
 皆の光を見に行こう。そのきらきらでこの国に命を与え、光となるものを、自らの光を掲げながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​

黒鵺・瑞樹
アドリブOK

次は灯りか。自分用にも一つ欲しいかも。
入れ物の形は卵型がいいな。卵型のランプ。
白い摺り硝子で中身の光が見えないよう…でももしかしたらほんのり透けて見えるかもしれない程度の透明度の摺り硝子の卵。

俺の炎の色は形はどんなのだろう?
人の願いのためにあろうとする心と、人であろうとする心。
自分では矛盾を感じる二つの願い。
だって人のためであればなんだってしようと思い願うけれど、人であることまでは捨てたくない。
元は物だけども今は人でありたいと願うから。

炎もしくは光の色は琥珀色、表面は金属のような光沢で時折火花がはじけるように輝く。
形は歪な正八面体。例えば鉄成分が少ないスファレライト。




「ふむ、次は灯りか。自分用にも一つ欲しいかも」
「勿論ですよ。フレームはたくさんありますから、どうぞお好きなものをお使いください」
 いくつものフレームと硝子を前にして、黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)が顎に手を当てれば、灯り屋の鬼灯が上機嫌にフレームを彼の前に並べてくれる。
「なら、入れ物の形は卵型がいいな。卵型のランプ」
 花。星。丸に四角。形は幾つもあるけれど、瑞樹の目に留まったのは、ころりと緩やかな曲線を描く卵型。
 ならばそれに合わせる硝子はと目を向ければ、色とりどりの色彩の硝子の山。その中から探し当てた目当ては、白い摺り硝子だ。中身の光が見えないようでいて、よく目を凝らせばほんのり透けて見えるかもしれない程度の透明度。
 卵型特有の緩い曲線も、鬼灯頭の魔法を借りて硝子をゆったりと曲げさせて。フレームに沿って硝子を被せれば、ころんとした卵の完成だ。これに光を燈したならば、瑞樹の思い描く通り、微かに光を通して照らす、正しくエッグシェルに似たランプが出来上がるだろう。
 
 出来上がったランプを持って、シャンデリア夫人の前に座る。
「素敵ですね。まろやかな曲線を描く灯りは、どこにあっても心にひと時の安らぎを燈すでしょう」
 卵型のランプを手に、夫人は穏やかに笑う。ランプに共に手を添えたならば、目を閉じて。
「瞼の裏の闇の奥。貴方の内に灯る光。そして炎を燈しましょう」
 夫人の声に誘われるように、瑞樹は内に想像をする。
(「俺の炎の色は、形は、どんなのだろう?」)
 自らの内――即ち心に宿る炎。
 瑞樹はヤドリガミだ。その本質は、人の為にありたいと願うもの。人を愛し、寄り添い、人であろうとするものだ。
 そんな彼の内にあるのは、人の願いのためにあろうとする心と、人であろうとする心。瑞樹自身矛盾を感じる二つの願い。
(「だって人のためであればなんだってしようと思い願うけれど、人であることまでは捨てたくない」)
 元は物であっても、今は人でありたいと願うから。
 故に、己に灯るのは――。
 
 そうして目を開けた時、エッグランプにほぅと炎が燈った。その炎は琥珀色。表面は金属のような光沢があり、時折火花が弾けるように輝く炎。
 歪な正八面体の形をとるそれは、まるで内に焔宿す輝石、スファレライト。
「これが、俺の炎」
「はい。温かな色ですね」
 ランプに燈った炎を、瑞樹はじっと見る。己の内に燈るものを、その目に焼き付けるように。

大成功 🔵​🔵​🔵​

春乃・結希
湖だけでも感動だったのに、街まで空みたい…
こんな綺麗な国を作れるなんて…この国の人たちはきっと素敵な人ばかりなんですねっ

こういうのはシンプルなやつが好きですっ
四角く黒いフレームに、一点の曇りもない透明なガラスを嵌めます
私の炎は…私は強いという絶対的自信からくる、最期まで消える事のない勝利への意志
力強く輝く、紅蓮の炎
何か辛いことがあったときに、勇気づけられるような灯になるといいな…なんて
自分の分も作ろうかな。空のインクと共にカレイドでの思い出として、旅の友に

みんなの灯もすごく素敵…!
時間の許す限り、街に灯った光を眺めながら散策
国の方達とも、一緒に街の完成を喜びます
私もこんな街に住んでみたいですっ




「湖だけでも感動だったのに、街まで空みたい……」
 感嘆の息をほぅと吐いて、春乃・結希(寂しがり屋な旅人・f24164)は流れる空の時間と同じ色の街並みを目で追った。空が降る国だからこそ、空を愛し取り入れるのだろう。その街並みは、まるで空の王国のよう。
「こんな綺麗な国を作れるなんて……この国の人たちはきっと素敵な人ばかりなんですねっ」
 陽の光を集めたような笑顔で結希が振り返る。その笑顔の先で、シャンデリア夫人や灯り屋の鬼灯、シルクハット議長が嬉しそうに身体を揺らした。
 
「こういうのはシンプルなやつが好きですっ」
 まずはフレーム選びからはじまる灯り造りだが、さして迷うことなく結希が取り上げたのは、四角く黒いフレーム。選ぶ硝子もまた迷うことなく、一点の曇りもない透明な硝子を手に取った。それをフレームに嵌め込めば完成だ。
 それをシャンデリア夫人の許へと持っていく。
「ああ。シンプルであるが故、場所を選ばずに照らす光となるでしょう。では、光を燈しましょう。目を閉じて」
 結希の光を手にとった夫人の声に誘われて目を閉じれば、夫人の優しい声が降ってくる――。
「瞼の裏の闇の奥。貴方の内に灯る光。そして炎を燈しましょう」
 内に燈る光――即ち、心に燈る炎、光。
 その言葉の通り、瞼の裏の闇を追うように意識を己の内へと滑らせて、結希は自らの心に触れる。
「私の炎は……」
 やがて見えた光。
 「私は強い」という絶対的自身からくる、最期の時まで消えることなく燃え続ける勝利への意思。力強く輝く紅蓮の焔。
 内の焔を感じ取って目を開けた時、結希のランプには心のうちで見た炎と同じものが燃え盛っていた。
「なんて力強い炎。貴女の炎は、どんな時にも心を奮い立たせてくれるよう」
「うん。何か辛いことがあったときに、勇気づけられるような灯りになるといいな……なんて」
 照れ臭そうに笑う。そんな結希の光は、熱い。
 
 自分の分にともう一つ作った灯りを手に、結希は次々と燈り出す光を眺め歩く。
「みんなの灯もすごく素敵…!」
 光無き街に、次々と灯りが燈っていく。その光や炎は様々で、一つとして同じものなどなくて。それはまるで空の表情に似ている。
 時間の許す限り、結希は街に灯る光を追って散策する。光を喜ぶ街の異形頭たちと共に喜び合い、光を見上げる人々に目を細め。
「私もこんな街に住んでみたいですっ」
 けれども結希はまた歩き出す。空のインクと心の焔が燈る灯りを旅の友に、きっと、何処までも遠くへと、結希は歩き続ける。

大成功 🔵​🔵​🔵​

亞東・霧亥
【SPD】
「説明された工程とは違うけど、これは灯りにする為に作ったんだ。」
鈴蘭型のフレームに、先程作った音階入りの鈴蘭型の瓶を嵌める。

14基の灯り。
公園や広場があればこの様にと、くるりと包む感じでと思案する。
森羅万象・会話・感情等と共鳴して明滅しながら、風鈴の様な音色が耳を遊ばせる。
憩いの場に癒しをもたらす、そんな灯りを点したい。

内に宿る光。
ヤドリガミになって初めて感じた様々な事象、感情、そして、あらゆる可能性。
【中に灯す光は虹】




 工房のテーブルには、灯りのフレームではなく、空を宿した鈴蘭の硝子ボトルが14個。不思議そうに集まる灯り屋の鬼灯頭やシャンデリア夫人に、亞東・霧亥(峻刻・f05789)は緩く目を細めて笑った。
「説明された工程とは違うけど、これは灯りにする為に作ったんだ」
「インク屋から聞きましたぞ。なんでも音が鳴るのだとか!」
「ああ、そうさ」
 シルクハット議長が一足先に知った情報を鬼灯や夫人に説明するのを横目に見ながら、霧亥は指で軽く硝子を弾いた。高く澄んだレの音が、涼やかに響き渡る――。
 
 鈴蘭のフレームを持ってきて、音階の順に14基をしっかりと嵌め込んで。それを飾るのは翠の葉と茎たる硝子のフレーム。
「綺麗ですなぁ」
「ありがとな。これ、公園や広場があれば、こんな風に…くるりと包む感じで設置したいんだけど」
 両手でくるりと円を描き、覗き込んできたシルクハット議長に提案する。あるかい?と問えば、勿論!と明るい返事が返ってきた。
「塩湖のほとりに公園がありましてな。そのような可愛らしくも楽しい灯りがあれば、集う皆が喜び、心が休まりましょう」
「そりゃいいな。こいつでさ、憩いの場に癒しをもたらす、そんな灯りを点したいんだ」
 出来上がった鈴蘭を一つ手に取り、霧亥は想像する。
 森羅万象に、会話に、感情に反応してほのかに明滅する鈴蘭は、どれほど幻想的だろう。吹き抜ける風に、降り注ぐ雨に、弾む声が悲しみのささめきに、風鈴のような音色を響かせて耳を遊ばせ心を慰める。
 楽しい時も悲しい時も、訪れたものに寄り添う空の鈴蘭と雨の音色。あらゆる音と密かに和音を響かせ音楽を作るそれを、きっと皆、好きになる。
「良きものをありがとうございます」
「どういたしまして」
 心からの感謝を込められたシルクハット議長の礼に、霧亥は目を細めて微笑んだ。
 
 シャンデリア夫人に鈴蘭を手渡し、共にランプに触れて目を閉じる。
「灯りを点しましょう。貴方の内にある光、内で燃ゆる炎」
「……内に宿る光か」
 自らの内を探るように、霧亥は意識を内へ内へと送る。
 霧亥の心に兆すもの。それは、100年の時を経てヤドリガミになって、人の体を得て初めて肌で感じた様々な事象。感情、そしてあらゆる可能性。ただ唯一ではなく、この身体で感じたこと全てがこの心に光を燈し、炎を燃やす。それは揺らめく度に色を変える程に鮮やかで鮮烈な。
「ああ、綺麗な光が燈りましたね」
 己の光を感じた霧亥は、シャンデリア夫人の声で目を開ける。全ての空色鈴蘭の中に、虹が光となって灯っていた。
「……これが、俺の光」
 その虹には、あらゆる可能性が、未来が宿り燈っているいる気がした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

照宮・茉莉
【蝶番】梨花(f22629)と

灯り…梨花は門灯を作りたいの?
門灯かぁ…
(梨花は門のヤドリガミだから、門灯で飾ってあげたら嬉しいのかなと思いつつ)

門灯なら、硝子は灯りが見えやすくて広く照らせるのがいいかな
うーん…迷うけど、一枚ガラスを周りに貼って、ガス灯みたいな形に
茉莉が赤いのを作るから、梨花は紫のを作りなよ
赤は大好きなママの色
温かくて、優しいの

梨花と一緒に、いろんな場所に灯りを点して回る
自慢の【よくばりとんがりセット】でとんてんかーんってするよ!
『ずっと安心してここに住めますように』…って
…砦に帰ったら、梨花(本体)にも灯り、付けてあげるから
門灯があった方が、使われてるって感じするんじゃない?


照宮・梨花
【蝶番】茉莉(f22621)と

灯りと聞いてすぐにピンときたのだわ
門灯を作ってカレイド国の国境門や、皆さんのお家の玄関に取り付けましょう
だって門灯は家へ帰ってくる家族を出迎えるもの、よその国から来る旅人を導くものだもの

お慕いするカガリ様の門に付いているような、眼の形のフレームにするわ
ガラスは何がいいかしら、
そうね、茉莉の言うように、カガリ様の紫色、ママの赤色がいいのだわ

『この光が皆様を暖かく安らげる場所へと導きますように』
そんな願いを込めて火を灯しましょう
出来た門灯は茉莉に頼んで工具で取り付けて貰うのだわ

まあ、私の門(本体)に付ける分も作ってくれたのね
砦に帰って付けて貰うのが楽しみなのだわ




「灯り……」
 色彩で溢れるカラフルな雨が上がったら、今度は光を燈す番。灯りを作って欲しいと請われれば、照宮・茉莉(楽園の螺旋槍・f22621)は燈す場所、燈す形を悩むけれど。隣に立つ照宮・梨花(楽園のハウスメイド・f22629)はぽんと手を叩いた。
「灯りと聞いてすぐにピンときたのだわ。門灯を作ってカレイド国の国境門や、皆さんのお家の玄関に取り付けましょう」
「梨花は門灯りを作りたいの?」
 茉莉が問えば、梨花はふわりと笑って頷く。
「だって門灯は家へ帰ってくる家族を出迎えるもの、よその国から来る旅人を導くものだもの」
 誰しも帰路についた時、自らの家に灯る灯りを見ればほっとするだろう。どのような道のりであれ、旅路を歩んできた旅人を遠くから導き、迎え入れるのは夜に標となる門の灯りだ。それは、梨花自らが城門扉のヤドリガミであるからこそよく知ること。
(「梨花は門のヤドリガミだから、門灯で飾ってあげたら嬉しいのかな……?」)
 意気込む梨花を見た茉莉は、思案をくるりと巡らせる。大切な家族が喜ぶのならば――。
「よし」
「茉莉、どうしたの?」
「ううん、何でもない。頑張って作ろうね」
 首を傾げる梨花にやんわりと笑って、茉莉は梨花の手を引きフレームを選びに向かった。
 
 まずはフレーム選びだが、此方も梨花には迷いない。フレームの形に迷う茉莉の隣で、梨花は目当てのフレームをさっと見つけて手に取った。
「門灯なら、硝子は灯りが見えやすくて広く照らせるのがいいかな。……梨花はどんなフレームにするの?」
「私はお慕いするカガリ様の門に付いているような、眼の形のフレームにするわ。茉莉は?」
「うーん……迷うけど、一枚硝子を周りに貼って、ガス灯みたいな形のにする」
「硝子は何がいいかしら」
「茉莉が赤いのを作るから、梨花は紫のを作りなよ」
 赤は大好きなママの色。温かくて、優しいの。
 そう笑って告げる茉莉に、梨花も成程と頷いて。
「そうね、茉莉の言うように、カガリ様の紫色、ママの赤色がいいのだわ」
 一人でならたくさんのフレームや硝子に迷ってしまうけれど、二人ならば大丈夫。互いの決めあぐねている部分を補いあって、より素敵なものを作り上げることが出来るから。仲良し姉妹とは、きっとそういうもの。
 
 そうして梨花の手には眼の形のアイライト。茉莉の手に鮮やかな赤い硝子のガス灯に似た形のランプ。二人揃ってシャンデリア夫人のもとに向かう。二人の灯りを大切に受け取った夫人は、それぞれに手を触れ、共に触れてほしいと請い、そうして。
「目を閉じて、瞼の裏の闇の奥。貴女たちの心の光、心の炎、それを燈しましょう」
 夫人の静かな声に導かれるように、二人は瞼の裏へと意識を滑らせていく。
 そうして燈る光は、きらきらと輝いて遠くまで届く、時に揺れても離れない、双子の光。
『この光が皆様を暖かく安らげる場所へと導きますように』
『ずっと安心してここに住めますように』
 その光に、梨花と茉莉は願いと祈りを込めた。
 
 出来上がった門灯は、梨花と茉莉、二人一緒に色々な場所に設置していった。そんな二人を、街の異形頭たちも喜んで手伝ってくれる。設置は茉莉の愛用するよくばりとんがりセットがあれば大丈夫。梨花に門灯を押さえてもらって茉莉がとんてんかーん!
 二人では高くて届かない場所は、手伝いを申し出てくれた象頭の背を借りれば問題ない。
 家々の門、そして最後に街の入り口を示す門へと灯りを点し終わって、二人はやっと一息ついた。けれど茉莉にはもう一つ、大事なことがある。ずっと今まで秘密にしていた『それ』を取り出して、梨花ににっと笑ってみせた。
「梨花、これ! 砦に帰ったら、梨花にも灯り付けてあげるから。門灯があった方が、使われてるって感じするんじゃない?」
「まあ、私の門に付ける分も作ってくれたのね」
 ヤドリガミである梨花の本体は、二人と家族が暮らす砦に建つ城門扉。もしかしたらそれは、梨花にとってのアクセサリーのようなもの。プレゼントだと笑う茉莉は、「門灯を作る」と梨花が言い出した時から梨花にもつけてあげようと心に決めていたのだ。
「砦に帰って付けて貰うのが楽しみなのだわ」
 驚き、けれども嬉しそうな梨花の笑顔を見て、茉莉も満足そうに笑っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

木槻・莉奈
ニナ(f04392)と

本当…凄く綺麗で、素敵な街ね
ふふ、私も嬉しい
頑張って作るから、カガリも後で一緒に灯しに行きましょうね?

いいわね、フレームは一緒のにしましょ
硝子はそれぞれの方がいいかな
折角の街の門出だもの、色んな意味を持たせてあげれたらいいなって思うし

フレームはニナと同じランタン型を
赤いアルストロメリアの花を持ち込んで、鮮やかな赤の硝子に
花言葉が「持続」「未来への憧れ」で、赤には「幸い」の意味もあるから
この街が未来までずっと、幸せが続きますように、って事で

灯るのは、自身が操る炎に似た、燃え盛る紅の炎
鮮烈なまでの、護る意志を秘めた炎
よろしくお願いします

この街を彩り守る力になれるなら、嬉しいわ


ニナ・グラジオラス
リナ(f04394)と

なんて美しい街なんだろう。それに立ち会えた事を誇りに思うよ
しかもその完成の手伝いをリナと一緒にできるなんて、とてもステキだな
もちろん、カガリ(※ドラゴンランス)も一緒にな

リナはどんなのにする?そうだ、よかったらフレームは一緒のにしないか?
硝子も一緒でもいいけど、灯る光はお互い違うから楽しいかなと

ランタンの形のフレームに、マリーゴールドを持ち込んで鮮やかなオレンジの硝子にしてもらおう
花言葉は「生命の輝き」。この街にピッタリかなと思ったんだ

燃える炎は芯は白く、髪のように鮮やかな赤い炎
炎の暖かさはカガリと同じく、寒さや夜の帳から人を護る燈火
夫人、よろしくお願いします




 夕暮れ前。青が薄くなり橙が遠くから混ざりくる時間。それと同じように空が移り変わる街並み。木組みのメルヘンチックな家並みが、空を愛する街が、工房の前で街を見渡す木槻・莉奈(シュバルツ カッツェ・f04394)とニナ・グラジオラス(花篝・f04392)の視界一杯に広がっている。
「なんて美しい街なんだろう。それに立ち会えた事を誇りに思うよ」
「本当……凄く綺麗で、素敵な街ね」
 二人の唇から、感嘆の息が零れ落ちる。瞳はいつまでだってこの街と天を眺めていられる。新たな世界。新たな国の建国の日。そして新たな国に灯りを点して、この国は生まれるのだという。
「しかもその完成の手伝いをリナと一緒にできるなんて、とてもステキだな。……もちろん、カガリも一緒にな」
「ふふ、私も嬉しい。頑張って作るから、カガリも後で一緒に灯しに行きましょうね」
 親友とカレイドを作る手伝いができると喜べば、ニナの肩から焔揺らめく角と青の瞳が覗く。焔竜カガリは、「自分は?」と問うように相棒たるニナを見上げれば、忘れていないと頬を寄せ。莉奈も約束と微笑み小指を立てる。二人の笑みを受け取ったカガリは、嬉しそうに一声鳴いた。
 
 灯り屋の工房に足を踏み入れれば、主たる鬼灯頭が二人と一匹を喜んで出迎えた。まずはフレームを選んでくれと案内されたのは、いくつもの形、いくつもの大きさのフレームたちが待つテーブルだ。
「リナはどんなのにする? ……そうだ、よかったらフレームは一緒のにしないか?」
「いいわね、フレームは一緒のにしましょ。硝子はそれぞれの方がいいかな」
「そうだな。硝子も一緒でもいいけど、灯る光はお互い違うから楽しいかなと」
「そうね。それに折角の街の門出だもの、色んな意味を持たせてあげられたらいいなって思うし」
 悩んでしまうくらい沢山の素材も、二人で相談したらあっという間に形が浮かぶ。二人顔を見合わせて、フレームの海から同じランタンの形を拾い上げた。
 
 フレームが決まった二人は、次に持ち込んだ花を鬼灯頭の魔法で硝子にしてもらう。ニナが持ち込んだのはマリーゴールドの花。鮮やかで可愛らしいオレンジ色の硝子に生まれ変わったその花を、ランタンへと張り付けていく。その花が持つ花言葉は、「生命の輝き」。雨が、空が、森が、街が、住人達が。万華の彩を持って息衝く街。ニナはそう感じたから。
「この街にピッタリかなと思ったんだ」
 丁寧に花の硝子を張り付けながら、ニナが静かに目を細める。テーブルの上からそれを見ていたカガリが、己の焔よりも明るいその色を覗き込んで。
 隣に座る莉奈が持ち込んだのはアルストロメリアの花。鮮やかでエキゾチックな赤の硝子へと姿を変えた花は、「持続」「未来への憧れ」の花言葉を持つ。それに加えて、赤のアルストロメリアは「幸い」の意味を持つ。
「この街が未来までずっと、幸せが続きますように、って事で」
「ありがとうございます、お二人とも。カレイドのことをそのように想って下さって」
 二人を訪ねたシャンデリア夫人が深く頭を下げる。彼女が動くたび頭のシャンデリアの飾りが揺れて、しゃらりと音を立て。彼女だけではない。異形頭たちは皆嬉しかった。この国に灯る光の、なんと優しく温かいことか。
 
「それでは、お二人の灯りに光を燈しましょう。目を閉じて、瞼の裏の闇の奥。心の光を、炎を――」
 出来上がった二つの花の灯に触れ、シャンデリア夫人はニナと莉奈に静かに語り掛ける。心の奥のそれを、感じて欲しいと夫人は言う。
 莉奈が手を当てた胸の奥。指先でそこにある炎を、莉奈は感じることが出来る。それは莉奈自身が操る炎に似た、燃え盛る紅の炎。鮮烈なまでの、護る意思を秘めた炎。
 ニナが瞼の奥の闇を追い、その奥で煌く炎を見た。燃える炎の芯は白く、風に舞うニナの髪のように、鮮やかに燃える赤い炎。揺れる炎の暖かさは傍らに寄り添う相棒カガリと同じように、寒さや夜の帳から人を護る燈火だ。
「夫人、よろしくお願いします」
「お願いします」
 計らずとも二人揃った声に、仲の良さが滲み出る。カガリもお願いするように一声上げれば、夫人はそっと笑った。
「ええ。燈りましたよ。暖かく力強い、安らぎと勇気を与えてくれる炎が」
 夫人に促されて目を開けた。花弁宿した硝子越し、炎が揺れて周囲を明るく強く照らしてくれる火華のランタンが、二人の瞳に鮮麗に映り込んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アリア・モーント
好きな物を硝子にしてくださるの?
素敵、素敵ね?
とっても素敵なのだわ!

鬼灯のランタン屋さん
わたし、さっきのインクを少し硝子にしてもらいたいのだわ?
お空のインク、お空の硝子
いつまでも幸せな一時を硝子にするのよ!
…フレームは何にしようかしら?
幸せの運び手、優しい鈴の音
小降りの鈴蘭のフレームをつないだあれにするのだわ!
お空の硝子を砕いてつないで…ステンドグラス風に

ごきげんよう、素敵なマダム
わたしの灯りを灯してくださる?

わたしの炎…この身を走らせる衝動
歌いたい…もっとたくさんのことを知りたい
たくさん、たくさん歌いたいたいのよ…!

移り気な華のように
紅く青く紫を纏って煌めく炎
ふふふ、歌姫にはぴったりだわ?




猟兵たちで賑わう灯り屋の工房。フレーム選びに迷う者。硝子を真剣に張り付けていく者。光を燈した灯りを持って街へ行く者。皆がそれぞれに灯り作りを楽しんでいる。そして、アリア・モーント(四片の歌姫・f19358)はというと。
「ねえ灯り屋さん。好きな物を硝子にしてくださるの?」
「そうだよ、紫陽花のアリス。どんなものでも硝子に出来る。花でもお菓子でも液体でも」
「まあ! 素敵、素敵ね? とっても素敵なのだわ!」
 ぱちりと手を叩いたアリアの顔が、ぱあっと輝く。どんなものでも硝子に出来る魔法。素敵に溢れたこの世界には、まだまだ素敵がたくさんだ。
 
「鬼灯のランタン屋さん。わたし、さっきのインクを少し硝子にしてもらいたいのだわ?」
「お安い御用さ。インク屋が作った空のインクは、どれも綺麗な硝子になるんだ」
 何故だか自慢げな鬼灯に、アリアは先程ハートに閉じ込めた空のインクをテーブルに置く。それを白い皿に流したなら、皿の上で空が広がっていく。鬼灯の杖で魔法をかければ、空の硝子の完成だ。
 完成した空の硝子を手に、今度はフレームを選びに向かう。花に星、丸に四角。様々な形があるけれど。
「……フレームは何にしようかしら?」
 うんうん唸って視線を彷徨わせていたアリアだったが、ふと、可愛らしい丸い形が目に入った。それは幸せの運び手。優しい鈴の音。小振りの鈴蘭の花のフレームを繋いだ可愛らしい灯り。
「あれにするのだわ!」
 ぴょんと飛びついて、小さな手で持ち上げた。吊り下げられた鈴蘭の花を早速テーブルに持っていき、空の硝子を砕いたならば、合わせて繋いでステンドグラスのように。
 ミルキィカラーの朝焼けと、小春日和の澄んだ青空と、ミッドナイトブルーの空。いくつもの空を繋いで絵を描くような作業に、アリアから自然と楽し気な鼻歌が零れ落ちた。
 
 出来上がったのは空の鈴蘭の灯り。角度が変わるたびに目に映る空が色を変え、鮮やかに煌くそれを両手で大事に抱え、アリアは嫋やかにご挨拶。
「ごきげんよう、素敵なマダム。わたしの灯りを灯してくださる?」
「ごきげんよう、愛らしいアリス。勿論ですとも。その可愛らしい花に、貴女の光、貴女の炎を燈しましょう」
 シャンデリア夫人が礼をすれば、合わせて飾りがしゃらりと揺れる。可愛らしい鈴蘭のランプに互いに触れれば、眼を閉じて。夫人の声と揺れる音に導かれて瞼の裏の闇を追い、心の奥の光を探してアリアの意識は泳いでいく。
 やがて見えたのは、炎。アリアの小さな体を走る叫び。その身を何処までも走らせる衝動。
 ――歌いたい。
 もっとたくさんの事を知りたい。
 たくさん、たくさん歌いたいのよ……!
 
 自らの炎を知って青空の瞳を開けば、鈴蘭の中にぽぅ、とひとつひとつ、炎が燈っていく。移り気な華のように、紅く青く紫を纏って煌く炎。触れようと指を近づければついと離れ、指を離せば追うように揺れる、悪戯な炎。それが、アリアの光。
「ふふふ、歌姫にはぴったりだわ?」
「でしたらこれは、歌劇場に。人を引き寄せ魅せる炎となりましょう」
 指を唇に当てて笑うアリアに、シャンデリア夫人も笑うように身体を揺らした。そのたびしゃらしゃらと飾りが揺れて、アリアの笑い声と共に歌った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と

灯りを作る、か
ならば一つの灯りを共に作らんかと宵に声を投げつつ共に硝子を選んで行こう
隣合っていたとて距離が離れているだろう?ならば一つの灯りをと、な?
宵の見つけたフレームに宵の空の如く紫色の硝子を面に嵌めながらも宵も矢張り空の様な色を選んだのだなと笑みを零そう
完成したら宵と手を取り合い共に炎を吹き込もう
俺の夜明け前の如く藍の炎と宵の宵色の炎が混じり美しく輝く様を見れば、宵と顔を見合わせ満足気な笑みを浮かべてしまう
宵と俺の炎が共に夜を照らす、か
早く街に燈しに行きたい物だ…と
もう一つ作れるのか?ならば折角故作って行くか
俺と宵の炎で毎晩部屋を照らせるならばそれこそ幸せな事はないからな


逢坂・宵
ザッフィーロ君(f06826)と

ええ、二人でひとつの灯りを作りましょう
きみは寂しがり屋ですね。ふふ、僕も同じ気持ちですよ
ダビデの星のような六芒星に似たフレームを見つければ、これにしますかと持ち上げて
硝子はふたりで選びましょう
僕は空のインクで作った硝子を面に張っていこうかと
煌々と燃える明かりが美しく揺らめくように

それからシャンデリア夫人のもとへ
ザッフィーロ君の手を取って、二人のなかで燃える炎を思い浮かべましょう
僕の宵のころの色がかれの色をした炎とまじりあえば
暖かいものの不思議と熱くないそれに、かれと顔を合わせて満足げに笑んで
せっかくですからもう一つ作りましょうか
僕たちの部屋に飾りませんか




 国に光を燈すことで命が宿る。
 ならば時を過ごして命を持ち、人の姿を得て出会った者たちの胸には、光が燈れば何が宿る――。
 
「灯りを作る、か。ならば一つの灯りと共に作らんか」
 灯り屋の工房の中。目移りしてしまう程のフレームの一つに手を伸ばしながら、ザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)は隣に立つ心の片割れ――逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)へと声を投げた。
「ええ、では二人でひとつの灯りを作りましょう。きみは寂しがり屋ですね」
「隣り合っていたとて距離が離れているだろう? ならば一つの灯りをと、な?」
「ふふ、僕も同じ気持ちですよ」
 返す声も笑みも柔らかく。何事も動じないような顔をして可愛いことをいうザッフィーロに、思わず宵が目尻を下げ。けれどザッフィーロは臆面もなく、当然と返すのだ。それを目の前で眺めていた灯り屋の鬼灯頭の中の身が、ほわほわとほんのり朱く明滅を繰り返していた。
 
 いくつかのフレームを手に取っていた宵は、ふと心惹く形を視界の端に捉えた。迷わず手に取ったそれは、ダビデの星のような六芒星。それに似た星のヒンメリだった。
「これにしますか」
 ザッフィーロの前に差し出せば、彼も鷹揚に首肯して同意を示した。次は硝子選びであるが、これは二人で選ぼうという宵にザッフィーロは目を細めて硝子に目を移す。
 星を星とする硝子はなんであろうか。この街に相応しい星は何であろうか。あれやこれやと言葉を交わしながら選んでいく作業は、二人の心を湧き立たせていく。
「僕は空のインクで作った硝子を面に張っていこうかと。煌々と燃える明かりが美しく揺らめくように」
 まるで空の奥で太陽が、月が、煌くように。鬼灯頭の魔法でインクを硝子にしてもらった宵に、ザッフィーロは嬉し気に頬を綻ばせた。
「宵も矢張り空の様な色を選んだのだな」
 そう言ったザッフィーロの手にも、宵の空の如き紫色の硝子があったから。
 
 それぞれの硝子を丁寧に張り付ければ、二人の手の中に納まる大きな空の星。美しき夜を被せられた星は、今は光を宿さず宵色にしっとりと落ち着いている。シャンデリア夫人のもとへそれを持っていけば、夫人はしゃらりと揺れて二人を歓迎した。
「ああ、綺麗な星ですね。それでは、貴方たちの光を、炎を燈しましょう」
 二人の炎を、と聞いて、二人は自然と手を取り合った。己の光も、己の中にある炎も、二人それぞれ燈すのではなく混じり合えばいいと思った。共に在るからこそ自分達は煌くのだと、宵もザッフィーロも知っていた。
 夫人の声を導に、二人は自らの瞼の裏、闇の奥の心へと意識を向かわせる。その闇の奥で、自らの炎に寄り添う炎を見た。
 ザッフィーロの炎の傍に、宵色の炎が。
 宵の炎の傍に、夜明け前のような藍の炎が。
 揺れて、揺れて、やがて互いに混ざり合って一つの炎になっていく――。
 
「ああ、これは、美しい」
 シャンデリア夫人の声に、ザッフィーロと宵は同時に目を開ける。視界に飛び込んできたのは、星の中に灯る炎。藍と宵色の炎が混じり、美しく輝いていた光。傍に居るだけで暖かさを感じるのに、不思議と触れても熱くはない。顔を見合わせた二人に浮かんだ満足げな笑みは、その炎の熱によく似ていた。

「宵と俺の炎が共に夜を照らす、か。早く街に燈しに行きたいものだな」
 二人に宿り、二人の中に燈した炎は感慨深い。器物であった己たちが命を持ち、人の姿を得て今、一つの街に命を燈し夜と人を照らすのだ。何処に飾るのが最も相応しいだろう。それを考えるだけでも胸が沸き立つ。
「……せっかくですからもう一つ作りましょうか。そして、僕たちの部屋に飾りませんか?」
「もう一つ作れるのか?」
 同じように炎を眺めていた宵が、完成した星を夫人に手渡しながらひとつ提案。目をぱちくりとさせたザッフィーロに、シャンデリア夫人はしゃらりと飾りを揺らして首肯してみせる。
「ならば、折角故作っていくか。俺と宵の炎で毎晩部屋を照らせるならば、それこそ幸せなことはないからな」
 穏やかと幸福を宿した瞳で、ザッフィーロが微笑みかける。
 互いの炎を宿した星。共に在る限り消えはしないその光を眺める夜の幸福は、きっと、いつだって安らぎと愛しさで溢れているだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

アイシャ・ラブラドライト
お友達のリック(f09225)と
「心を許したら」の口調

フレームには、いつも身につけている花に似たものを探すわ
はめる硝子は…早速なのだけれど
さっき作った空のインクの一部を硝子にできたらって思っているの
素敵ね!リックの曲がきっと、この国の初めての音楽になるわ

私の中の光…それは
今までに出会った大切な存在たちの記憶と
それを大切にしたいという強い気持ち
思い出すと心があたたかくなって
私が私でいられるような、そんな存在たち
リックもその一人なんだよ
いつも側にいてくれてありがとう

一緒に探した空が、一緒に過ごした時間が
いつでもここに灯っていると思ったらなんだか心強くて
また一つ大切なものが増えたような気がしているの


デリック・アディントン
友人のアイシャ(f19187)と

フレームはシンプルに長方形のものを
硝子は砕いて模様を書こう
生まれたての国に贈る曲を描くよ
さながら楽譜のような灯に
空のインク…そうだね、折角なら使いたい

私の中の光、か
なんとも難しい問いだな
でもそうだね…世界に溢れる音への愛は揺るぎないモノだろうね
それを奏でる対象も含めて全て愛しているよ
色は…私の瞳のようになれば良いなと思うよ

そう思っていてくれるとは、嬉しいよアイシャ
こちらこそいつもありがとう
私もアイシャのことは大切に思っているよ

今日の思い出が形に残るのは幸せだね
もしこの先挫けそうなことがあったらまた一緒にカレイドの灯りを見にこようか
大切なものを思い出しに、ね




 夜や闇を照らすだけではない。人を照らし心を照らし、そして街に命の炎を燈すのだという。光を作る灯り屋の工房は大忙し。店主の鬼灯頭は硝子のうまい張り付け方を教えたり、猟兵たちの質問に答えたり。シャンデリア夫人は灯りに炎や光を燈し続ける。お手伝いの小さな蒲公英たちが走り回って、材料を運んだり光を届けに行ったりしている。
 
 そんな工房の中、フレームの山から迷いなくシンプルな長方形のものを取り上げたのは、デリック・アディントン(静寂の調律師・f09225)だ。それを抱えながらも、視線はフレームの上を行ったり来たりしている愛らしい翠のレディに向けられて。
「アイシャ、いいものは在ったかい?」
「えっと……あ、あった!」
 たくさんあるのはいいのだが、その中から欲しいものを探すのは少々大変なこと。いつも身に着けている花に似たものが欲しいとフレームの上を飛び回っていたアイシャ・ラブラドライト(煌めく風・f19187)は、デリックの声に振り返り、その先で自らの花に似たフレームを無事見つけることが出来た。
 フレームが決まれば次は硝子だ。
「硝子を砕いて模様を書こうと思っているんだ。生まれたての国に贈る曲を描きたい」
 新たな国の誕生を祝う曲。まるで楽譜のように描きたいと、楽士であり指揮者たるデリックはひとまず手近な硝子を手にする。頭の中に音楽を描き、指で硝子を連ねて音符を繋ぎたいのだと。
「素敵ね! リックの曲がきっと、この国の初めての音楽になるわ」
 シルクハット議長に問えば、この国では演奏家は居ても音楽家は未だ居ないのだという。ならばデリックの曲は、この国で初めて出来た音楽ということになる。アイシャの言う通、それのなんと誇らしく、素敵なことだろう。
 君は?と問うように柔く視線を向ければ、アイシャの手には先程作った天のインクのボトルがある。
「私がはめる硝子は……早速なのだけれど、さっき作った空のインクの一部を硝子にできたらって思っているの」
「空のインク……そうだね、折角なら使いたい」
 アイシャの案に、デリックも顎に手を当てて頷いて。この国の象徴は間違いなく「空」と「色彩」だ。ならば二人の手の中にあるインクは、まさにそれにぴったりだろう。互いに灯り屋の鬼灯頭にインクを硝子にしてもらい、丁寧にそれを嵌め込んでいく。
 
 やがて出来上がった灯りの入れ物をそれぞれ持って、二人は共にシャンデリア夫人の許へとやってきた。
「素敵な灯りをありがとうございます。それでは、貴方たちの中の光、貴方たちの炎を燈しましょう。どうぞ、目を瞑って」
 シャンデリア夫人の声と共に、彼女の飾りがしゃらりと揺れる。その声に誘われながら、アイシャとデリックは自分の灯りに触れながら目を閉じた。瞼の裏から意識の内へ、心へ。自らの内に灯る光を、問うように探す。
「私の中の光、か。何とも難しい問いだな」
 目を閉じながらも難しい顔をして、デリックは思案を巡らせる。暫しそうしていたが、やがて思案をやめ、声のまま胸の内を揺蕩うように、リラックスした意識で思う。
「でもそうだね……世界に溢れる音への愛は揺ぎ無いモノだろうね」
 デリックは音叉より生まれしヤドリガミ。人の創り出す全ての音を敬愛し、無音を愛し騒々を愛す。音を奏でる対象も含めて、デリックは全て愛している。音は彼自身であり、また彼を構成するもの。これだけは絶対と言える、揺ぎ無いもの。
「私の中の光……それは」
 デリックの隣でアイシャが歌うように呟く。アイシャの胸に灯るのは、今まで出会った大切な存在たちの記憶と、それを大切にしたいという強い気持ち。
「思い出すと心があたたかくなって、私が私でいられるような、そんな存在たち」
 ほぅ、と、不意に手元があたたかくなった気がして。アイシャは目を開いてデリックを見上げる。同じ時に目を開いた彼と目が合えば、アイシャはふわふわと微笑んで。
「リックもその一人なんだよ。いつも側にいてくれてありがとう」
「そう思ってくれているとは、嬉しいよ。アイシャ。こちらこそいつもありがとう」
 少しの驚きと、それ以上の温かな喜びが、デリックの心に波紋を広げる。温かく笑うアイシャにそっと顔を寄せて。
「私もアイシャのことは大切に思っているよ」
 そう、微笑んだ。
 シャンデリア夫人が静かに微笑む。その魔法だろうか。デリックの灯りには、琥珀色に揺らめき音を奏でる光が。アイシャの華灯りには、春の日にように温かく柔らかな光が燈り、輝いていた。
 
 出来上がった灯りが学校に灯されるという。子どもたちを照らし、子どもたちの未来を照らし続ける温かな光は、きっとこの国が続く限り輝き続けるだろう。
 取り付けられる様子を二人眺めながら、デリックは肩に乗るアイシャに語り掛ける。
「今日の思い出が形に残るのは幸せだね」
「うん。一緒に探した空が、一緒に過ごした時間が、いつでもここに灯っていると思ったらなんだか心強くて。また一つ、大切なものが増えたような気がしているの」
 灯る灯りが、何だか愛おしい。あれが二人の「今」の結晶。永久に変わらぬまま、此処に灯る二人の記憶だ。
「……もしこの先挫けそうなことがあったら、また一緒にカレイドの灯りを見にこようか」
 琥珀の瞳を小さな妖精に向けて、柔く目を細める。音楽を奏でるように、唇に音と心を乗せて。
「大切なものを思い出しに、ね」
「うん!」
 満開の笑みで頷いて。
 二人の今を証明するように、二つの灯りは煌々と二人を照らしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

華折・黒羽
灯、か

頼んだフレームは五角形のヒンメリ
五つの角と吊り重なる在り様が桜のようだと思った
集めた星宵一滴零しじわり下層に彩滲む硝子
はめ込んでいけばかちり音が静かに響く
樹の幹の様に先伸ばす土台
吊り下げた六つの容れ物

俺の裡に宿るのはどんな灯り火なのか
夫人の声に閉じていた眸開けば

薄桜色、あの子の色だ
淡い紅含む白
─けれど他のは、

白が少しずつ染まるよに桜色の紅を滲ませ
一番大きな容れ物に灯る桜は何処か星宵すら照らす様
姿隠そうと見つけてあげる、と言われている様で

縁広がる中彩る心を確かに感じていた
強く優しく伸ばされる手を
笑いかけてくれる誰かの灯を

…勇気を貰えたのは、俺の方です

礼と共に深々頭を下げて
灯る心を感じていた




「灯、か」
 灯り。闇に光を燈すもの。暗き世界を照らすもの。闇に隠れたものを暴くもの。
 
 五角形のヒンメリのフレームを手にし、華折・黒羽(掬折・f10471)はそれをまじまじと見つめる。五つの角と吊り重なる在り様を、桜のようだと思った。
 嵌める硝子を思案して、灯り屋の鬼灯頭に相談を持ち掛ける。望むのは、集めた星屑一滴零し、じわりとそれが下層に彩滲む透明の硝子。
「……できますか?」
「勿論。お安い御用ですよ」
 返ってくる答えは明朗だ。問われるなり鬼灯頭は早速作業場に硝子の素を流し、その下層に黒羽の空のインクをぽとりと零す。魔法の言葉と共に鬼灯頭の中の身が明滅すれば、硝子の完成だ。
 フレームに合わせてカットされた硝子を受け取り、作業机で黒羽は硝子をそっとフレームに嵌めた。
 かちり。
 丁寧にカットされたそれは、寸分の狂いも隙間もなく、ぴたりと嵌る。一枚一枚硝子を張るたび、かちり、かちりと音が静かに響く。樹の幹のように先に土台を伸ばしていけば、吊り下げられたのは六つの光の入れ物。空のモビール。
 
 出来上がったそれを持って、シャンデリア夫人のもとを訪れた。夫人は穏やかに黒羽を迎え、その灯りを宝物を扱うように手に取る。
「それでは、光を燈しましょう。貴方の中の光。貴方に宿る炎を」
 光。
(「俺の胸の裡に宿るのはどんな灯り火なのか……」)
 自らでは想像もつかない。自身という闇の中を探っても、何も――見えないと、思っていたけれど。
「ああ。燈りましたよ」
 夫人の声に閉じていた眸を開いた。瞬間、ヒンメリの中に宿る炎に目を奪われた。
「薄桜色、あの子の色だ」
 見間違うはずもない。大切なあの子の色だ。淡い紅含む白の、柔く儚く愛らしい、あの色。
 白が少しずつ染まるように桜色の紅を滲ませて、一番大きな入れ物に灯る桜は、何処か月のない星宵すら照らすようで。
 姿を隠したって見つけてあげる。
 そんな風に言われているようで。
 
 ――けれど、灯ったのはそれ一つではなくて。他の炎は。
 黒羽はちゃんと気づいている。縁が広がるたび、その心を彩る色を確かに感じていた。
 強く優しく伸ばされる手があった。笑いかけてくれる誰が居た。背を叩く誰かが居た。手を引く誰かが居た。独りにさせなかった誰かが居た。
 その灯りを、黒羽は確かに感じている。それが炎として灯っていた。
 
「これが燈る場所は、勇気と優しさと、安心を貰えるでしょうね。ありがとうございます。貴方や皆様から頂いた光は、私達カレイドの民の宝です」
 飾りをしゃらりと揺らして首を垂れるシャンデリア夫人に、黒羽はふるふると頭を振る。
「……勇気を貰えたのは、俺の方です」
 この身に、この心に宿された炎を、この眸で見ることが出来たのだから。
 礼と友に深々と頭を下げる。
 その胸に、灯る心を感じながら。

大成功 🔵​🔵​🔵​

都槻・綾
f01982/咲さん

交換の提案へ勿論首肯

枠は小花みたいに揺れるヒンメリを連ねて
玻璃は乳白色の磨り硝子
燈すひかりは
穏やかに笑む眼差しの青磁色

ぼんやり耀る明かりを指でつついてみれば
まるでスノードロップの花のように
さやさや揺れて愛らしい

雪へ彩を分けた花だそうです
色無きものだった雪は
その優しさがどれだけ嬉しかったことでしょう

道を標すほどの眩い灯にはならないけれど
疲れた心と体を休めたいとき
高揚し過ぎた気持ちを鎮めたいとき
眠る前に誰かにそっと包まれたいとき
燈してみてくださいな

咲さんが掲げる灯火は何処かほっとする
安らげる場所をくださるあなたに微笑んで

二つの燈がカレイドの皆へ
安寧のひと時を齎すものであると良い


雨糸・咲
綾さん/f01786

ひとつお土産にして良いなら、交換したいです

良いですか?と見上げれば
返る笑みに唇が綻ぶ

綾さんの手には可憐に揺れる青磁色
手を近付ければ
自分の指先も柔らかな色に染まったようで

…きれい、

控えめな明かりだけれど
眩いものを見た心地で嬉しくて
瞳を細める

選んだフレームは円錐の笠付き
それがおうちの屋根に見えたから何だか可愛らしく
少しずつ色の違う硝子片をグラデーションに
ところどころに透明の欠片も鏤めて

燈る光は蜂蜜色
小さな家に住まう夜空は温かな星を瞬かせる
寂しくないように
寒くないように
おかえりなさいを囁くように

この国の人たちが
優しいあなたが
ただいまと心安らげるように、祈りを込めて




 国に命を燈す為の光。少しずつ、猟兵たちの皆の手で、街に光が燈っていく。カレイドに命が燈っていく。
 雨糸・咲(希旻・f01982)と都槻・綾(夜宵の森・f01786)もまた、灯りを作ろうと灯り屋に集う。国に燈す光が一つ。そしてその他に――。
「ひとつお土産にしていいなら、交換したいです。良いですか?」
 灯り屋の鬼灯頭から説明を受けた咲は、傍らに立つ綾を見上げた。青の瞳が勿論と首肯を返せば、咲の唇がほろりと綻ぶ。なればと二人、まずは光の入れ物を形作ろうと形選び。
 
 綾がひょいと手にしたのはヒンメリ。小花のように揺れるそれを連ねて作る、光のモビールの形だ。玻璃は乳白色の摺り硝子。かちりと硝子を嵌め込んで、出来上がったそれはまるで花。
 シャンデリア夫人の魔法を借りて灯したひかりは、穏やかに微笑む眼差しと同じの青磁色だった。青い炎がさやさや揺れて、乳白色から零れる光は冬の日に似ている。
 ぼんやりと燿る明かりを指でつついてみれば、連なった光の花がちりりと揺れる。その様はまるでスノードロップの花のように、さやさや揺れて愛らしい。
 綾の手で可憐に揺れる青磁色を覗き込んで、咲はやんわりと目を細めた。手を近づけてみれば、その可憐な指先も柔らかな色に染まってようで。
「……きれい、」
 思わず零れた吐息。その花は控えめな明かりではあるけれど、眩いものを見た心地がして嬉しくて、咲は瞳をそっと細めた。
「雪へ彩を分けた花だそうです。色無きものだった雪は、その優しさがどれだけ嬉しかったことでしょう」
 青磁の花と咲をいっぺんに視界に映して、綾は唇に弧を描いて紡ぐ。そして光を燈したシャンデリア夫人に目を向けて。
「道を標すほどの眩い灯にはならないけれど、疲れた心と体を休めたいとき、高揚し過ぎた気持ちを鎮めたいとき、眠る前に誰かにそっと包まれたいとき、燈してみてくださいな」
「優しく包み込むような青。美しい灯りを、ありがとうございます。必ずや、そのように」
 純白の景色に一番に春の彩を添えた花、スノードロップ。その花言葉は、「希望」と「慰め」。この光はその言葉に相応しい。夫人が嬉しそうに飾りをしゃららと揺らす音が、綾の耳朶を優しく響いた。
 
 咲が選ぶのは円錐の笠付き。何故かと問われれば、「それがおうちの屋根に見えたから、何だか可愛らしくて」と、愛らしい答えが咲から返る。
 円錐の家に少しずつ、色の違う硝子片を並べてグラデーションさせていく。ところどころ透明の欠片も鏤めるのも忘れずに。
 そうして夫人の魔法を借りて燈る光は蜂蜜の色。甘やかな黄金の光は、記憶の中の光を覗く時にそうであるように、眩すぎない懐かしい色。小さな家に住まう夜空は、温かな星を瞬かせて柔く光る。
 寂しくないように。
 寒くないように。
 おかえりなさいを囁くように。
 家路の灯りの安らぎを灯して。
 
 咲が掲げた灯火は、何処かほっとさせてくれる。作り手に似たか、安心が燈るような光は、人々の家々にあってこそ相応しい光となるだろう。
 星家灯の灯りに指を組んで、咲は祈る。
 この国の人たちが。優しいあなたが。ただいまと心安らげますように。
 
 その祈りが届いたか、咲が見上げれば綾が微笑んでいた。安らげる場所をくれる咲に、礼を告げるように。
 互いに作り上げた花灯と優灯を交換すれば、淡い光と願いが二人を包み込んだ。
 
 カレイドの街に燈されにいった自分達の灯りを見送って、ふたりはそうして共に祈る。
 あの二つの燈がカレイドの皆へ、安寧のひと時を齎すものでありますようにと。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

清川・シャル
f08018 カイムと同行

フレームは洋灯、つや消しブラックだといいなぁ
ガラスはさっき集めたものを使いたいです
暁の空、宵明けの闇と光
そこに桜の花びらを散りばめたいなぁ
花をガラスにって凄い技術ですね?感心…
ガラスっていう存在がもう好き、ほんと綺麗…
自分の中にある光、それは……しなやかで折れない心!
譲れないものがあるんです、成し遂げるまでは絶対死ねない
だから誓うの。
火は苦手だけど、光なら。
私自身、超新星みたいなものですからね、エネルギーの塊っ

カイムのもすごく綺麗。好きだよ、この色……
なので同じのがもう1つずつ欲しいなあ。
2人のお家に2つ並べたいなぁって思って。
……どうかな?


カイム・クローバー
f01440シャルと行動
国に命を与える。この国が少しでも良きものになるよう。俺らしい手伝いを。

使うのはヒンメリを使ったダイヤ型。所謂ひし形だ。
出来るだけ大きく。小さいと灯りを灯しても広範囲にまで広がらないだろ?
で、そこにガラスをはめ込む訳だ。俺が選ぶのは透明だが、所々がキラキラ輝いてる特殊なガラス。
クリスタルみてーに見えるそれをはめ込むにこのフレームがうってつけだって思ったんだ。

俺の中の炎。最初はくすぶったモンだと思ってた。
どーしようもねぇ光なんざない暗い炎。けど、この場所や色々な空を見たら……違うんじゃねぇかと思える。
俺の中に炎があるってんなら…何処までも行ける濃い空のような。蒼い炎だ。




 光を燈して国に命を与える。
 夜に怯えぬ光を。安らぎの光を。勇気の光を。
 それはきっとこのカレイドだけの特別な儀式かもしれなくて。今、この国が少しでも良き道に進むよう、猟兵たちが出来ることを、自分達らしく。
 
 灯り屋の工房にて、カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は、清川・シャル(無銘・f01440)がうきうきと手に取るフレームを覗き込む。シャルが手にしているのは洋灯の形。フレームはどうやら、彼女の望む艶を消した黒色のもの。
「ガラスはさっき集めたものを使いたいです。暁の空、宵明けの闇と光。そこに桜の花びらを散りばめたいなぁ」
 きらきらと可愛いものは、いつの時代も女性の心をときめかせるもの。作りたいものがすぐに頭に浮かんで、それをどのようにすれば輝かせられるかを考えるのは、得意な年代であろう。
 隣のカイムの手を見れば、ダイヤ型――所謂ひし形のヒンメリがあった。それはこのフレームたちの中でも一際大きい。
「大きいですねー」
「小さい灯りを燈しても、広範囲にまで広がらないだろ?」
 出来るだけ広い範囲を照らしたいのだとカイムは言う。この国を照らす為、光は皆に届くくらいに大きい方が良い。

 フレームが決まれば次は硝子だ。シャルは鬼灯頭のところへ行き、インクを硝子に変えてもらう。
「花を硝子にって凄い技術ですね? 感心……」
「いえいえ、僕のは魔法ですよ。こうして、花やインクを並べて手を翳すんです」
 そうすると。
 告げる間に鬼灯頭の中で実がちかちかと明滅する。その光が腕を伝って掌へ。そして光が消える頃には、空のインクと花を使った硝子が完成していた。
「わあ、綺麗! ガラスっていう存在がもう好き、ほんと綺麗……」
 きらきらと目を輝かせるシャルに、鬼灯頭は「そうなんですよ!」と身を乗り出して、硝子の良さを語り出す。
 そんな語りにシャルが捕まっている間に、カイムは目を付けていた硝子を手に、早速フレームに嵌め込んでみる。綺麗にカットされたそれは、透明でありつつ所々キラキラと輝いている特殊な硝子。きらきらとした星を鏤めたようなその硝子は、クリスタルのようで。
 これが一番に美しく見えるフレームは何だろうと探した時に、
「このフレームがうってつけだって思ったんだ」
 硝子が全面に綺麗に嵌れば、それまるで大きなクリスタルの結晶だった。その出来に、納得したように、カイムは口の端をにんまり吊りあげた。
 
 作った灯りを持って、シャルとカイムはシャンデリア夫人に声をかけた。最後の仕上げ。この入れ物に灯りを燈してもらうためだ。
「それでは、貴方達の光を燈しましょう。貴方の炎を燈しましょう。どうぞ、目を瞑って」
 シャンデリア夫人の飾りがしゃらりと揺れる。夫人の声と音に導かれるように、二人は瞼の裏の闇の奥、自らの内へ内へと意識を泳がせていく。
 自らの意識という闇を泳ぐ、カイムは心の暗い場所を探る。
 自分の中の光など、最初は燻ぶったものだと思っていた。だから目を凝らした。自分の中の炎など、きっと光などない暗い炎だろう。燃えているのに光はなく、ただただ暗く、熱もなく、どうしようもない――。
 そう、思っていたけれど。
 「それ」はきちんとカイムの中に燈っていた。
 カレイドという国や、色々な空を見ていたら、違うんじゃないかと思えた心が炎を呼ぶ。同じ空など一つもなかった塩湖で、明るい朝が、遠い夕暮れが、深い夜が、カイムに語り掛けるのだ。
 貴方の中には空がある、と。
「俺の中に炎があるってんなら……」 
 
 シャルの光。それは、探すまでもない。だって存在を主張するように強く強く輝くものがこの胸にある。
 シャルの中の光、それは……しなやかで折れない心。
 譲れないものがあるから、強い風雨にだって負けやしない。しなやかに揺れて受け流し、それでも尚立てる力がある。

 だから誓うの。
 私は死ねない。成し遂げるまでは絶対に。
 いつだって、そう心が叫んでいる。
 
 火が苦手なシャルの内に灯る――否、灯るなんてものではない。煌く光はまるで超新星。銀河の果てまで光を届ける、大きな大きなエネルギーの塊が、シャルの中にあるから。
 だから、走り続けられる――!!
 
「燈りましたよ。お二人の個性を象徴するような、光が」
 シャンデリア夫人の声で目を開けた二人に、光が飛び込む。
 大きなクリスタルの中には炎。何処までも行ける濃い空のような、蒼い炎。覗き込めば眩しくて、清々しい気分になる炎が、カイムの光。
 空に桜舞う春の空のような洋灯には、煌く光。人々を照らす太陽のような輝きが、シャルの光。
「カイムのもすごく綺麗。好きだよ、この色……」
 へにゃりと笑み浮かべて、シャルが蒼を覗き込む。二人の光は空のよう。暖かくて心地よい。だからこそ、でもあるだろう。シャルが唇に指を当て。
「同じのがもう一つずつ欲しいなあ」
「うん? もう一個作るのか?」
「そう。二人のお家に二つ並べたいなあって思って。……どうかな?」
 身長差故ではあろうけれど、自然とシャルは上目遣い。問うように首を傾げては、にぱっと笑う。
 その笑顔に、カイムが否というわけもなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

橙樹・千織
【迎櫻館】
アドリブ歓迎

あらあら、可愛らしい街並み
ふふ、色んな空がここにもあるのですねぇ

んん、沢山あって悩みますねぇ
そう言いながら選んだのは側面が6面あるランタン

橙と薄桃を基調とした暖色の硝子をメインにしましょうかねぇ
濃淡様々な硝子をステンドグラス風に合わせて
所々に花弁を模した薄い藍色の小さな硝子をはめこみましょう

あら、夜色のお星様素敵ですねぇ

私の中の、光…
すっ、と瞳を閉じ思い浮かべた燈は
メインの朱色に藍と桜がちらつく暖かな光
あらあら、そうなりましたか…
眉を下げ苦笑しつつ、光をランタンの中へ
皆さんはどんな光になりましたか?

この街に沢山の幸せが訪れますようにとランタンを掲げて


リル・ルリ
【迎櫻館】

色彩咲き誇る美しい街
ユアの元気な声にわくわくが掻き立てられて笑みが咲く

次は光を?
むう……僕は器用じゃないけど大丈夫かな
ユアは星で千織は6面の……僕は
これにする
鈴蘭の、器
ましろの鈴蘭を彩るのは、君の桜と僕の秘色
桜が踊る、水泡が踊る――戯れる
そうあるように震える手で彩ってくよ
頑張るんだから!

できた!
えへへ上手?

僕の中の光
僕の――灯る炎は冥い黒炎
チラつく燐光は深海の青
享楽の喝采が聴こえるかのようなそれに震え息を飲む
けれど、櫻の炎が飲み込んで柔な春が現れた
櫻宵、
愛しい人の顔を見上げ綻んで
そう
もう僕はひとりではない

皆の笑顔そのものが世界を照らす光のよう
できたばかりのランタンを一緒に掲げよう


誘名・櫻宵
【迎櫻館】
アドリブ歓迎

優しい色彩に溢れた素敵な国ね
この空の色彩ひとつひとつに想いが重ねられているのね!

種類がたくさんあって迷うわ
ユアも千織はそれにしたのね
2人らしいわ
そう言いつつ迷わずに選んだのはリルと同じ鈴蘭のそれ
鈴蘭の花言葉を思えば
隣に並べたくなったの

皆が空の欠片を選ぶ姿を微笑ましく見守って
あたしが選ぶは2つの穹
春の明けの空と、花あかり映す夜桜のそれ
何故って
巡るひととせにいつだって「幸せ」が訪れるように

うふふ
上手に出来てるわ

心に宿る色彩は白
あたしとは程遠い、無垢の色彩
不安げな人魚を優しく撫でれば咲いた笑顔
柔な光に桜が灯る

どの炎も皆綺麗よ!
誇りましょう
これが私達の炎なの
掲げれば、ほら
一等綺麗


月守・ユア
【迎櫻館】
アドリブ歓迎

お~、これは…素敵な街並みだ
花が沢山飾られてるよ
家も空の色で満たされてるんだね
空がどこなのか分からなくなりそうだね

さて…
次は灯りを作るそうだよ!
皆は何を作る?色んなフレームがあるから悩んでしまうな

悩みながら選んだのは
星の形をしたヒンメリ
硝子は細かい星が煌く様な夜色をした硝子をはめていく
まるで星型に夜を閉じ込めたみたいになった…だろうか?

ボクに燈せる炎って何だろな…
そっと思い浮かべて燈せた色は――
凍てつくような青の焔
熱はあまり感じないようだ
まるで浮世離れた青い冷たい光
…こんな炎でも、いいのかな?うーん…

ああ
皆の灯もとても綺麗だね!
ボクら灯りが誰かの為の灯火となりますように




「あらあら、可愛らしい街並み」
「お~、これは……素敵な街並みだ。花が沢山飾られてるよ」
 空の降って移り変わる街、カレイド。空の色彩咲き誇る街は美しい。
 橙樹・千織(藍櫻を舞唄う面影草・f02428)と月守・ユア(月夜ノ死告者・f19326)が街を見渡せば、あちらこちらで花が笑いかけるよう。ユアの元気な声にわくわくが掻き立てられて、リル・ルリ(想愛アクアリウム・f10762)にも柔い笑みが咲く。
「ふふ、色んな空がここにもあるのですねぇ」
「家も空の色で満たされてるんだね。空がどこなのか分からなくなりそうだね」
「ホント、優しい色彩に溢れた素敵な国ね。この空の色彩ひとつひとつに想いがかさねられているのね!」
 千織とユアの後ろで、誘名・櫻宵(屠櫻・f02768)がころころと微笑む。壁に塗られた空の色は、この国の住人たちが空を愛し、空色の雨を愛し、この世界を愛していることの証明に他ならない。
「さて……次は灯りを作るそうだよ! 光を燈すんだって!」
「次は光を? むう……僕は器用じゃないけど大丈夫かな」
「ようこそ、皆様方。大丈夫ですよ。フレームに硝子を嵌めて、光を燈して頂ければいいのです。難しくはありませんよ」
 灯り屋の前で立つシルクハット議長が、難し気な顔で考え込むリルに朗らかに伝え。
 その国に灯りを燈し、命を燈してと請われたならば、光を作ろう。
 灯り屋の工房を見つけたならば手を繋ぎ、櫻の館に集った四人は灯り屋の扉を開けた。
 
 出迎えた灯り屋の鬼灯頭とシャンデリア夫人に案内されて、四人はまずはフレーム選び。花や星。四角に丸。フレームの形はあれもこれも沢山だ。
「色んなフレームがあるから悩んでしまうな……皆は何を作る?」
「種類がたくさんあって迷うわ」
「んん、沢山あって悩みますが……私はこれにしましょうかしら」
 四人とも、数あるフレームを前に悩み顔。あれもこれもいいけれど、悩みながらもまず先にフレームを手に取ったのは、千織だった。千織が選んだのは、側面が六面ある六角柱のランタン。続くようにユアが選んだのは、星の形をしたヒンメリ。
「ユアは星で千織は六面の……僕は、これにする」
 二人のフレームを見たリルは、心の赴くままに拾い上げたのは、鈴蘭の器。
「ユアと千織はそれにしたのね。二人らしいわ。じゃああたしはっと」
 そう目を細めつつ、櫻宵が選んだのはリルと同じ鈴蘭の器。櫻宵を見上げたリルに、櫻宵は口元を優雅に袖で覆って。
「隣に並べたくなったの」
 そう言って微笑んだ。だって櫻宵の心には、鈴蘭の花言葉が浮かんでいたから。
 
 ましろの鈴蘭に、君の桜と僕の秘色。
 白の海に櫻が踊る。水泡が踊る――戯れる。
 そうあるように、リルは鈴蘭を硝子で彩っていく。少しだけ手が震えるけれど、
「頑張るんだから!」
 大丈夫。リルの心はやる気と気概に溢れている。
 
 千織はのんびり硝子選び。手に取るのは橙と薄桃を基調とした、暖色の硝子。これをメインに据えるのだ。更に濃淡様々な硝子を手にしたら、それを組み合わせてステンドグラス風に合わせてはめ込んでいく。所々に花弁を模した薄い藍色の小さな硝子を嵌め込んだなら、ほわと温かな色のランタンの完成だ。
 
 ユアは細かな星が煌くような、夜色をした硝子をヒンメリに嵌め込んでいた。かちりと音がすれば、歪みも隙間もない。いつもは夜が星を抱くけれど、ユアの手で形作られていく星は、夜を抱く。
「まるで星型に夜を閉じ込めたいみたいになった……だろうか?」
「あら、夜色のお星様素敵ですねぇ」
「ええ、バッチリよ!」
 首を傾げるユアに、千織と櫻宵が太鼓判。二人に褒められて、ユアにも元気な笑みが咲く。

「できた! えへへ上手?」
 さて、皆が空の欠片を選ぶ姿を微笑ましく見守っていた櫻宵だが、リルの声に目を向けた。愛しき人魚の手には、己と人魚の色が踊り戯れる鈴蘭の花灯。
 無邪気にそれを見せるリルに、櫻宵の胸に愛しさがこみ上げる。
「うふふ。上手に出来てるわ」
 その嬉しさを胸に、そろそろ自分もと袖をそっと捲る。櫻宵が選ぶ硝子は二つの穹。
 春の明けの空と、花灯り映す夜桜のそれ。それを丁寧に鈴蘭に貼っていくのだ。
 巡るひととせに、いつだって「幸せ」が訪れるように。
 鈴蘭の花言葉、そのままに。
 
 それぞれの灯りが完成したならば、シャンデリア夫人の力を借りて光を燈そう。
「それでは皆様。灯りに手を、そして目を閉じて。皆様の心の光を燈しましょう」
 シャンデリア夫人が語るたび、飾りがしゃらりと揺れて音を奏でる。その音を耳にしながら、皆、目を瞑る。瞼の裏に目を凝らし、闇の奥を通り抜けて意識を心へと泳がせていく。
 
 櫻宵は自らの内に灯る光を見た。心に宿る色彩は白だった。
「あたしとは程遠い、無垢の色彩」
 だってこの色は、櫻の龍を慈しむ人魚の彩。
 
 その隣で、リルは意識を泳いで心へと向かう。リルは想い、感じる。自分の中の光――それは。
「僕の――燈る炎は冥い黒炎」
 黒の中でチラつく燐光は、深海の青。かつての黒耀の都がリルの内に蘇る。その炎に享楽の喝采が聴こえるかのような気がして、リルの肩がビクリと跳ねた。指先が震えて息を飲む。けれど。
 突然現れた櫻の炎が黒を飲み込んで、柔な春が現れた。この秘色の髪を撫ぜ、梳く手の感触は、顔を見なくたって誰かわかる。
「櫻宵、」
 愛しい人の顔を見上げ、名を呼び綻んだ。不安気な人魚を優しく撫ぜる櫻宵の指。その指が、リルの心を櫻で染め上げた。だから、そう。
 ――もう僕はひとりではない。
 月下美人が開くように微笑むリルが、こんなにも美しく、愛おしいから。
 櫻宵の柔な光に桜が灯る。
 
 リルと櫻宵の様子を微笑ましく思いつつ、千織も夫人に促されるままに灯りに触れる。
「私の中の、光……」
 千織がすっと瞳を閉じて思い浮かべた燈は、朱の色に藍と桜がちらつく暖かな光。
「あらあら、そうなりましたか……」
 春色のランタンに灯る光に眉を下げて苦笑い。光が灯るランタンの扉を閉めれば、これが己の光だと頷いて。
 さて、皆の光はどんなだろうと視線を移せば、ユアは少しだけ難しそうな顔で目を閉じていた。
「ボクに燈せる炎って何だろな……」
 自らの内に意識を向けて、そっと炎を思い浮かべる。そうして夜色の星に燈った光は、凍てつくような青の焔。
 手を近づけてみても、熱はあまり感じない。まるで浮世離れた青い冷たい光。それが、夜の星に灯って青く幻想的に輝いていた。
 
 完成した四つの光。
 桜と泡沫、明けと夜桜のふたつの鈴蘭。暖かな色灯す六角のランタン。夜色閉じ込めた蒼い星。
「ああ、皆の灯もとても綺麗だね!……こんな炎でも、いいのかな? うーん……」
「ええ、勿論。静かで優しい光ですね。心に慰めが欲しい時に、そっと燈したい光です」
 不安げなユアに、シャンデリア夫人はしゃらしゃらと飾りを揺らして微笑む。器物である頭からは笑みは見えなくても、彼女の雰囲気が、柔らかく笑っている気がした。
「どの炎も皆綺麗よ! 誇りましょう。これが私達の炎なの。掲げれば、ほら」
 櫻宵がユアの背を叩いて、自らの灯を掲げる。促されるように千織も灯りを掲げ、リルが掲げ、そうしてユアも掲げた。四つの燈がそれぞれの光と彩で輝いて、四人と街を照らす。それはさながら空の表情のように豊かに、移り変わりの美しさを誇り、夜の青い煌きを誇り、花と水の光を誇り、暖かさを誇り。
「ほら、一等綺麗」
「うん!」
 櫻宵の言葉に皆の笑顔が咲く。その笑顔そのものが、きっと世界を照らす光。このカレイドを照らし続ける自分達の光。
「ボクらの灯りが、誰かの為の灯火となりますように」
「この街に沢山の幸せが訪れますように」
 ユアの願い、千織の祈り。
 掲げられた四人の光は、自らを誇るように工房を照らしていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

レジーナ・ファルチェ
(絡み・アドリブ歓迎)

わたくし、細かい作業は苦手なのですけれど大丈夫ですかしら…。

フレームは行燈を。
移り変わる四季をステンドグラスで表現したいですの。

小さな狼と鴉…わたくしの連れているエティとエーレをモデルに、四季の景色を一緒に楽しむ感じですわね。
春は夜桜。
夏は花火。
秋は紅葉。
冬は雪景色。
ぐるりと一周すれば一枚の絵になっているように出来れば良いですわね。

灯す光は優しい月色の光。
お日様ほど強くはなく、ふんわり見守ってくださるイメージですわ。

自分用に、お部屋に並べても邪魔にはならないサイズの狼型の物も作りたいですわ。
作って頂いたインクの物を1つずつとわたくしの髪と同じ青みがかった黒色の物を。




 灯りを作って、夜を照らす光を燈して欲しいのだという。夜を過ごせる光を得て、初めて国は命を得る。その光に、猟兵たちの光を貸して欲しいと彼らは言う。
「うーん。わたくし、細かい作業は苦手なのですけれど大丈夫ですかしら……」
 唇に指を当てて思案顔をするのは、レジーナ・ファルチェ(弾丸魔導師(物理)・f23055)。
「大丈夫ですよ。そこまで細かい作業は必要ありませんから。まずはやってみましょう。難しいところは我々もお手伝いします」
 灯り造りといえば、何やら難しそうな雰囲気。長く緩いウェーブの髪を揺らしては難しい顔をするレジーナに、灯り屋の主人、鬼灯頭がほがらに語り掛ける。
 まずは何事もチャレンジ。こんなフレームあんなフレーム、硝子も色んなものが盛沢山。そんなことを言われたら、何だかむくむくやる気が浮かび上がってしまう。
「まあ、そうですわね。まずはやってみましょう!」
 慣れぬ物づくりもまた一興。レジーナは空と海の瞳に光宿し、くい、と袖をまくった。
 
 フレームの山から取り上げたのは、行燈の形。手にする硝子は色んな色。それから空の硝子。
「移り変わる四季をステンドグラスで表現したいですの」
 材料を前にすれば、うきうき気分も高まってくる。モチーフは既に心に決めた。
 小さな狼と鴉――レジーナの連れているエティとエーレをモデルに、四季の景色を共に楽しむ風にしたいのだ。
 春は夜桜。宵の硝子に仄かな薄紅。青に染まる桜を幻想的に。
 夏は花火。夜空に煌く大輪は、細かな硝子を使って美しく。
 秋は紅葉。あかあかと染まる世界に、紅葉ひらひら舞い落ちる。
 冬は雪景色。しんとしたましろの世界に、キラキラ煌く雪が降る。
 ぐるりと行燈を一巡りすれば、まるで一枚の絵。満足いく出来に仕上がったそれを手にとって、レジーナはにんまり笑みが咲く。
 
 出来上がった灯りをシャンデリア夫人の許へと持っていけば、夫人の魔法で行燈の中にレジーナの光がほうと燈る。
 灯されたのは優しい優しい月の彩。太陽程に強くはなく、けれども煌々と夜を照らしては、ふんわりと人々を見守る光。
 月光に照らされて、季節の行燈がくるくる回る。
「ああ、優しい光ですね」
 ひととせ巡る行燈の光を受けて、シャンデリア夫人がしゃらりと煌いた。
 出来上がった灯りをカレイドの住人に託し、レジーナは再びフレーム選びに戻る。自分用にも作って良いと言われたから、次に作るのは自分の為の灯り。初めの頃の不安は既になく、フレームを選ぶのも二度目とあらば手慣れたもの。
 部屋に並べても邪魔にならないサイズの狼型のフレームを三つ手にして、レジーナは再び机に向かった。
 作りたいのは、宵と暁の空のインク、それにレジーナの髪と同じように青みがかった黒色の狼の灯り。三つ並べれば、仲良い兄妹のように見えるだろうか。
 大切な人達と自分を並べ、再会の時を願って、レジーナは丁寧に灯りを作りはじめた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
そうだなぁ…二つ作ってもいいかな
一つは国を導く一番星として
願いを込めてヒンメリのお星様を
もう一つは…ここに来た証としてお花のフレームを

ステンドグラスのようにいくつかの色を組み合わせるスタイル
星は黄色とオレンジで
花はオレンジと赤、ピンク…葉を表すように少しだけ緑
光を通した時、外に反射する光のバランスまで考慮して
後はそれぞれ一箇所ずつ、目立たない程度に入れたいもの
【破魔】を宿した自分の羽をぷつりと取って
これを硝子にできますか?

入れ込む光は…なんだろう
人々の大切な笑顔
恩返ししたい仲間
亡き家族に誓った約束
探し続けてくれた義理の姉への感謝
救ってくれた…あの人
護りたいもの、癒したいもの
沢山の祈りを込めて




 極彩色と空の国、カレイド。
 灯りのなかった国にも、灯りが少しずつ灯っていく。夜を越すにはまだ心許ないけれど、それでも闇ではない街並みが、国は生きているのだと主張しているかのよう。
 けれども、灯り屋での灯り造りはまだまだ盛況真っ最中。栗花落・澪(泡沫の花・f03165)もまた、たくさんのフレームを前に、まずは一思案。
「そうだなぁ……二つ作ってもいいかな」
 灯り屋の主人たる鬼灯頭に聞けば、「もちろんですよ!」と快諾してくれる。ならばと澪が手にしたフレームは二つ。
 一つは国を導く一番星として、願いを込めてヒンメリの星を。もう一つは、ここに来た証として花のフレームを。
 
 いくつかの硝子を手に取って、フレームにかちりと嵌めていく。作り上げる色彩はステンドグラスの様式で。
 ヒンメリの星は、黄色とオレンジの硝子を使って明るい色に。
 花はオレンジと赤、ピンク。そして、葉を表すように少しだけ緑色を添え置いて。
 硝子や色彩の組み合わせを考えて作り上げる澪の目は、真剣そのもの。光を通した時に、外に反射する光のバランスまでもを考慮して、灯りを組み上げていく。
 ふと、澪の背に真っ白で柔らかな翼がふわりと広がる。その翼を身体の前の方に広げて――ぷつりと二枚、羽根を取った。それは破魔の力を宿せし羽根。
「これを硝子に出来ますか?」
「はい。すぐにでも」
 鬼灯頭に問えば、その羽根にそっと手を触れる。鬼灯の中の実がほわと明滅を繰り返し、その光が腕を通って手から羽根へと届いた時、羽根はきらきらと煌く硝子へと変わっていた。
 硝子の羽根を、それぞれの灯りに目立たぬようにはめ込んで。そうしたならば、澪の灯りの容れ物は完成だ。
 
 シャンデリア夫人が、完成した二つの灯りに手を触れる。
「それでは、灯りを燈しましょう。貴方の光を。貴方の炎を。さあ、眼を閉じて」
 瞼の裏の闇の奥。自らの内に宿る光を感じて――。
 夫人の静かな言葉に促されるように、澪は意識を己の心に集中させる。
(「入れ込む光は……なんだろう」)
 澪の心には、いくつものいくつもの光がある。
 例えば人々の大切な笑顔。
 例えば恩返ししたい仲間。
 亡き家族に誓った約束。
 探し続けてくれた義理の姉への感謝。
 囚われ酷い扱いを受けてきた自分を救ってくれた……あの人。
 護りたいもの。癒したいもの。
 澪の心に宿る光は、いくつもの光が集まって出来た大きな光。どれも大切な澪の光。
 
 目を開いた時、星灯と花灯には明るくて皆を照らす真白の光が燈っていた。
 その光は一番星に相応しく、一際眩くカレイドの夜を照らしてくれるだろう。沢山の祈りを込めて、澪はその灯りをカレイドの皆が集まる広場へと高く掲げた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

榛・琴莉
ヒンメリっていうんですね、これ
組み合わせて形を作る…なるほど
以前に雑貨店で見かけた星形、可愛かったんですよねぇ
あんな感じで、こう…うん
硝子は先程作ったインクで
いくらかは残しておきたいですし…半分くらいで足りるでしょうか?
星空とグラデーションの三角形…これをフレームに嵌めて完成ですね
我ながら、なかなか良い出来なのでは?
写真撮っとこ

私の炎、私を動かすもの
心臓?…いえ、人体の動力炉的な意味合いではなく
この心臓が動いて、生きていて、
だからこそ、私に出来る事がある。戦う事が出来る
この鼓動が私の炎
ま、氷も解かせないくらい弱っちくて、冷たい色してそうですけど
それでも、誰かを照らす光になるのであれば




 正三角形を集めて正八面体を作る。その組み合わせ方で、四角形であったり星型を作ったりもできる。UDCアースでは光のモビールと呼ばれるものが、どうやらこの世界にもあるらしい。
「ヒンメリっていうんですね、これ。組み合わせて形を作る……なるほど」
 ヒンメリのフレームを手にして、榛・琴莉(ブライニクル・f01205)はひとり納得したように頷いた。これを見たのは初めてではない。以前に雑貨店で見かけた星型が、可愛らしいと思っていた。手にしたフレームは同じ星型。
「あんな感じで、こう……うん。硝子は先程作ったインクで……」
 めぐる思考で完成形を頭に思い浮かべる。こういうのは、何だか昔に戻ったようだ。そんなに遠い過去ではないはずだけれど。
 灯り屋の主たる鬼灯頭に声をかけ、青と星空の混ざる空を硝子にしてもらう。
「いくらかは残しておきたいですし……半分くらいで足りるでしょうか?」
「いや、三分の一程あれば十分。此方にインクを垂らして、硝子の砂と混ぜれば……」
 鬼灯頭の実がほうと明滅する。その光が腕を伝ってインクに伝わった時、光の後には綺麗な空の硝子が出来上がっていた。必要な形にカットしてもらえば、あとは嵌め込むだけで完成だ。
 星空と青空、ノクチルカの海のようなグラデーションの三角形を、かちりと綺麗に嵌めていく。
「……我ながら、なかなか良い出来なのでは? 写真撮っとこ」
 美しく揺蕩う青の星の出来は、なかなかに会心のもの。灯り屋の工房の隅で、ガスマスクを外した少女は、口の端をにんまりと上げて青のスマホを取り出した。
 
 さて、入れ物が出来上がったら、次は灯りを燈すのだという。琴莉の星灯に手を振れたシャンデリア夫人は、その頭のようにしゃらりと擦れる硝子の音のような声で、琴莉に目を瞑って欲しいと願う。
「貴女の内の光。胸に宿る炎。貴女を動かすもの。思い浮かべて下さい。その光を、燈しましょう」
「私の炎、私を動かすもの……」
 心臓? ……いいや。人体の動力炉という意味合いではない。もっと衝動に近いもの。
 琴莉の心臓が動いて、生きていて、だからこそ琴莉に出来ることがある。戦うことが出来る。痛くても怖くても、足を止めないでいられる理由。
「この鼓動が私の炎」
 目を開いた時、琴莉の夜光虫の星に青く、何処か弱弱しいけれど、それでも燃え続ける炎が在った。氷を解かせる程には熱くはない。けれど、消えることを拒むように脈打つ力強さがある。
「それでも、誰かを照らす光になるのであれば」
 この鼓動には、この炎には、この自分には、意味がある。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ナターシャ・フォーサイス
街に灯りを、原初の灯を…でしょうか。
闇を照らし魔を祓う。
我ら使徒の責に、通ずる部分もありますね。

作るにしても、とても悩んでしまいますが…
ヒンメリを使って、月と太陽を作ってみましょう。
古来より、どちらも聖なるものとして扱われてきましたから。
月へは宵闇へ至る夕空を、太陽へは朝焼けに白みゆく暁の空を。
ふたつでひとつ、対を成すように。

そして光を灯しましょう。
私の原点、灯るもの…それは、至るべき楽園の優しい光でしょう。
生けるものも哀れな魂も、皆で至るために。
それこそが、私なのですから。
そしてもうひとつ…純粋無垢な、とても小さなこの光も。
それが何であるか、自分でもわかりかねますが…
どうか、皆様と共に。




「街に灯りを、原初の灯を……でしょうか。闇を照らし魔を祓う。我ら使徒の責に、通ずる部分もありますね」
新しき国に命を与え、人々に安心と安寧を与えるという意味では、楽園への誘いにも似ている。新しく生まれたこのカレイドを愛し、永久に続いてほしいと願うことは、この地を彼らの楽園にすることと同じ。

とは、いえ。ただ導くのとは全く違う勝手。何せモノづくりだ。
「作るにしても、とても悩んでしまいますが……」
 ナターシャ・フォーサイス(楽園への導き手・f03983)の目の前にあるのは数々のフレーム。形も大きさも皆違うそれは、ナターシャの指や視線を彷徨わせるには充分。やがて時間をかけてナターシャが選び取ったのはヒンメリだ。ヒンメリは三角形の組み合わせによって様々に形を変えることが出来る。それで作りたいのは、月と太陽。
「古来より、どちらも聖なるものと扱われてきましたからね」
 空を見上げれば一際大きく輝く天体は、いつの時代もどんな世界でも人々の信仰を集める対象となってきた。原初の火を、というのならば、ナターシャにとってはこれが最もふさわしく思えたのだ。
 形が決まったならば、次は硝子選び。カレイドらしさを描くのならばと、ナターシャが選び取ったのは空のインクを使った硝子。
 月のモビールには、宵闇へと至るためグラデーションを描く夕空を。太陽のモビールには、朝焼けに白みゆく暁の空を。この光の入れ物は二つで一つだ。例えば宵空と暁天がひと繋がりであり、対を成すように。
 
 宵の月と暁の日が完成すれば、次は光を燈す番。
「美しい月と太陽ですね。では、光を燈しましょう。貴女の光、貴女の炎を」
 シャンデリア夫人の静かな声に誘われるように、、ナターシャは目を閉じる。胸の奥、それとも頭のどこかにあるのだろう心を探し、光を探して――。
「私の原点、灯るもの……それは、至るべき楽園の優しい光でしょう」
 生けるものも哀れな魂も、皆でそこに至る為に、この胸にはいつも楽園の光が満ちている。そのはずだ。
「それこそが、私なのですから」
 ナターシャの唇が紡ぐ言葉は揺ぎ無い。心の底からそうだと信じている。
 ――けれど、もう一つ。
 その心の奥に、純粋無垢な、とても小さな光がある。
 楽園の光の強さに負けてしまいそうな程に小さな、けれども何よりも純粋な光。それが何であるかは自分でもわからないけれど、何故だか、その光を「なかったこと」にしてはいけないような気がして。
 やがて瞼を開いたナターシャの青に、優しくも明るい光が二つ燈るのが映った。眩く、優しい大きな光の中心に、無垢な小さな光が宿る光。
 光を燈したばかりの月灯と陽灯に、ナターシャは指を組み、祈る。
「どうか、皆様と共に」
 カレイドという国に、この光がいつまでも寄り添い続けますよう。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と
ふむ、明かりが無ければ
日が暮れると家族の顔も見えぬな

儚げな素材に躊躇しながら
おろおろと師の滑らかな手元に倣う
あ、相分かった

どれを選んだものか
目に入ったは先程の、雫を詰めた小瓶
…師父、俺はこれにする
掌に載るほどの落ちる雫の形
硝子も簡素な、まろい曲面

師の賞賛に足取り軽く
うむ、問題は仕上げか

…師の作った星灯り
並べば其れの落とし子のようで
もしも己にすら光が宿るならば
屹度かの星から齎された一雫
冷厳な青、あたたかな朱紅――黄金の星
虹と燃える、小さく、確かな炎を

強く目映い師の灯は高く
零れた雫は地に近くは如何だろう
…雫に気付けたなら星を見上げられるように
生まれたての街の、似合いの場所へ


アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
やれ困った
光無ければ我等は輝けぬ
疾く灯の支度に掛かるぞ、ジジ

致し方ないとは云え
壊れ物を触るが如き従者に所作に嘆息を零す
…力むと手元が狂うぞ?
何時も、雑事を行う様にやれば良い
手に取るは、私に相応しい星型
私の光が映えるよう嵌込む硝子は曇り無き物を
傍らに、丹精込め育てた愛しい花を硝子として添える

ほう、お前にしては悪くない選択だ
――天から注ぐ恵の形
輝く星と並ぶ様はさぞ美しかろうよ

夫人のもと、最後に灯すは我が光、炎
煌々と耀うそれは天狼の白
ちと荒々しいが、皆を照らすには未だ足りぬ
…然し、幼き虹彩に添うには十分か
何、単なる独り言よ
ふふん、さて何処に飾るとしよう
となると…矢張り星は頂か?




 美しき色彩溢れる国ではあれど、夜を越す為の光が未だないのだという。いくら美しかろうとも、夜には闇に沈み宵に紛れる国は、まだ国として生まれているというには足りない。故に、どうか光を――。
「やれ困った。光無ければ我等は輝けぬ。疾く灯の支度に掛かるぞ、ジジ」
 ――という話をシルクハット議長から聞いたアルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)は、長い髪をばさりと後ろに追いやって立ち上がった。アルバはスターサファイアのクリスタリアン。宝石とは、光あってこそ美しく輝くもの。いくら繊細なカットを施したものでも、照らす光がなくては敵わない。
「ふむ、明かりが無ければ、日が暮れると家族の顔も見えぬな」
 アルバとは少々違う方向の心配と納得をしたジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)も、師の後を追ってゆるり立ち上がる。灯りが無くては宵闇に人は紛れてしまう。家族の顔が見られぬ夜は、きっと寂しかろう。
 なれば急がねばならぬと星の主従は、急ぎ灯り屋の工房へと歩を進めた。
 
 とはいえ。
 細いフレーム。扱いが繊細な硝子。素材はどれも儚げで、ジャハルは思わず手を伸ばすのを躊躇してしまう。無骨な武人たる己の手が扱うには、どれも繊細過ぎる。そろりそろりと手を伸ばし、壊さぬように柔くと思いつつも力加減に戸惑い、そういった物の扱いが得意なアルバの滑らかな手元に倣おうとする。
「……ジジ、力むと手元が狂うぞ?」
 致し方ないとはわかっている。わかっているが、壊れ物を触るが如きジャハルの所作に、思わずアルバは嘆息を零した。ジャハルの肩がぴくりと震える。力まず、と、思っているのだろうが、どうにも伝わりきれていない様子。
「何事も、雑事を行うようにやれば良い」
「あ、相分かった」
 大丈夫だと目を細めて笑ってみせれば、神妙な顔で頷く従者。
 それでよいのだと頷いて、アルバは改めてフレームの海に指を泳がせる。手に取るは、アルバに相応しき星型。アルバの光が映えるよう、嵌め込む硝子は一点も曇り無き透明なもの。その傍らに、アルバが丹精込めて育てた愛しい花を硝子として添えた。
「……師父、俺はこれにする」
 出来上がった星灯に満足げに笑むアルバの背に、ジャハルの声。
 どれを選んだものかと先程から眉を顰めていたが、ふと先程作った空の雫を詰めた小瓶が目に入って。そうしたらすっと、選ぶべき形が定まった。
 ジャハルが手にしていたのは、掌に載るほどの落ちる雫の形。硝子も簡素な、まろい局面。シンプルな形であるからこそ、灯りとしての用途は広い。
「ほう、お前にしては悪くない選択だ。――天から注ぐ恵の形。輝く星と並ぶ様はさぞ美しかろうよ」
 師の賞賛を得れば、思わずジャハルの足取りが軽くなる。
「うむ、問題は仕上げか」
 けれども光の入れ物を作って終わりではない。これに灯りを燈すのだ。猟兵たちの光を、炎を燈したいのだと、彼らは言う。
 
 灯りを燈すには、シャンデリア夫人の魔法の力を使う。完成した燈を夫人の前に並べれば、ジャハルの雫はアルバの作りし星の落とし子に見えた。
「それでは、光を燈しましょう。貴方たちの光を。内に宿る炎を――」
 灯りに触れた夫人と二人の手。灯りを通して繋がって、アルバとジャハルの光をそっと星と雫に分け与えるのだ。
 師の作った星灯りと、ジャハルが作った雫。
(「――もしも己にすら光が宿るならば」)
 それはきっと、屹度かの星から齎された一雫。冷厳な青、あたたかな朱紅――黄金の星。虹と燃える、小さくとも確かな炎。
 雫に宿る炎は、揺らめきながらも虹彩を柔らかに放っていた。
 
 ぱあ、と、ジャハルの視界が光に溢れる。
 目を細めつつも見れば、それはアルバの星に宿るアルバの光であった。煌々と燿うそれは天狼の白。天に輝く眩い冬の星。
「ちと荒々しいが、皆を照らすには未だ足りぬ。……然し、幼き虹彩に添うには十分か」
「……? 師父、何か言ったか?」
「何、単なる独り言よ」
 気にすることはないと立ち上がり、夫人に礼を言って立ち上がる。街に出てみれば、他の猟兵たちが燈したのであろう灯りが、少しずつ国を照らし出している。
「ふふん、さて何処に飾るとしよう」
「強く目映い師父の灯は高く、零れた雫は地に近くは如何だろう」
 出来たばかりの街を見渡していたアルバに、後をついてきたジャハルが案を投げかけた。
「……雫に気付けたなら星を見上げられるように」
「となると……矢張り星は頂きか?」
「それが良いと思う」
 二人揃って高きを見上げた。星とその落とし子が在るに相応しい場所が、街の何処かにあるはずだ。

 光を燈しに行こう。生まれたての街の、似合いの場所へ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ダグラス・ブライトウェル
生まれたての国に灯る光の一つを担う
まさかこんな栄誉を頂けるなんて、
猟兵に目覚める前の僕は想像していなかったでしょうね

覚えていない昔の自分を他人のように思いながら
出来上がった灯りを手に夫人の元へ
宜しくお願いします、夫人
金平糖のような星形ヒンメルを手に目を閉じて

僕の内にある炎
行動の種火
思い浮かべたものは、気付けば抱えていた殺人欲とは別の
けれど切っても切れない、良き人々に幸いをという願い

灯っていたのはあたたかな金の光
どんな夜も恐ろしくならないよう照らしてくれれば
そう思いながら、祈る

この国に住まう彼ら
いつかここを訪れるだろうまだ見ぬアリス
彼らの傍に、沢山の光が、幸いと共に絶えず在りますよう




 国が生まれるということは、何処か遠く感じるものだ。
 普通に生きていれば縁遠いものだし、ましてや「その時」「その場所」に立ち会うなど奇跡に近い。いかにアリスラビリンスではそれが頻繁に起こるとはいえ、そんな生まれたての国に灯る光の一つを担うなんてことは、数えられる程しかないのだろう。
「まさかこんな栄誉を頂けるなんて、猟兵に目覚める前の僕は想像していなかったでしょうね」
 覚えていない昔の自分を他人のように思いながらも、ダグラス・ブライトウェル(Cannibalize・f19680)は、生まれたての国を見渡した。
 空の移り変わりの彩の建物。往来の人々。確かに街並みは完成しているが、もうすぐ夜になるというのに灯りが絶対的に足りない。これでは夜は闇に飲まれてしまう。光無き街が、国として生きているとはきっと言えないだろうから。
 灯りを燈そう。自分の光を燈して、この国の人達が安心するのなら。
 ダグラスは早速灯り造りに取り掛かった。
 
 出来上がった灯りを手に、シャンデリア夫人を訪ねる。彼女が猟兵たちの内にある光や炎を灯りに移し、この国を永劫照らす光としてくれるという。
「宜しくお願いします、夫人」
「喜んで、片影のアリス。それでは、貴方の内の光、貴方の炎を燈しましょう」
 シャンデリア夫人がそっと、ダグラスの手の中の灯りに触れた。しゃらりと静かに飾りが揺れる。二人の手に包まれた、金平糖のような星型ヒンメルが微熱を持ちはじめる――。
 
(「僕の内にある炎。行動の種火」)
 目を閉じて、視界は瞼の裏の闇を抜け、意識の内へと至る。
 夫人の言葉に思い浮かべたものは、気づけば抱えていた殺人欲とは別の、けれど切っても切れない、良き人々に幸いをという願い。
 記憶を失くしても、きっとこの心と体に刻み込まれていたはじまりの行動原理。いつしか見知らぬ自分となったダグラスを、今もダグラスたらしめるもの。
 
 ゆっくりと、眼を開いた。その瞬間からモスグリーンに映り込むのは、あたたかな金の光。金平糖の灯りに灯った自らの光の色を、ダグラスは知った。金平糖はまさしく金の星となり、ふわふわと暖かに燈る光は人に安心を与えてくれよう。
 この灯りが、どんな夜も恐ろしくならないよう照らしてくれればいい。
 両手の中の自分の光にそう想いを乗せて。
「この国に住まう彼ら。いつかここを訪れるだろうまだ見ぬアリス。彼らの傍に、沢山の光が、幸いと共に絶えず在りますよう」
 ダグラスの優しき祈りを背負い、金の星はカレイドで輝く。

大成功 🔵​🔵​🔵​

パウル・ブラフマン
街が完成したと聴いて!
すっごーい、建物のグラデも超綺麗だね♪
細部の装飾もめっちゃ匠の技を感じるなぁ。
オレの手先…もとい触手先の器用さは
素人が趣味で磨いたレベルだけど
ちょっとでも貢献できるよーに精一杯頑張りまっす☆

フレームは…このお星さまで!
ヒンメリって言うの?可愛い名前だね♪
硝子は…そだ、折角だし
さっき創ったインクを基に、色合いはお任せしよっと☆

夫人の言葉に頷いて
自分の中の光について思いを馳せ…る間もなく
すぐさま浮かんだ天使の貌に、ぽんっとゆでだこになりそう。
菫と桃の花色の光の中に
スパンコールのような星の煌きが
絶え間なく、まるでスノードームのように降り注いでる。
…オレ、この光が大好きなんです!




「街が完成したと聴いて!」
 銀の閃光で道を駆けたパウル・ブラフマン(Devilfish・f04694)は、工房から街を一望した。空が降る国に似合いの、空の移り変わりで彩る街がパウルの目の前一杯に広がっている。
「すっごーい、建物のグラデも超綺麗だね♪ 細部の装飾もめっちゃ巧の技を感じるなぁ」
 空の建物に手を触れてみる。ドアの装飾、屋根の飾り、どれをとっても手抜きひとつされていない。工房の扉を開いたパウルは、人好きのする笑みで灯り屋にブーツの踵を鳴らす。
「オレの手先……もとい触手先の器用さは素人が趣味で磨いたレベルだけど、ちょっとでも貢献できるよーに精一杯頑張りまっす☆」
 そんな朗な声に、鬼灯頭やシャンデリア夫人は嬉しそうに彼を迎え入れた。
 
 まずはフレーム選びからと言われ、フレームの海に視線を泳がせる。一通りフレームを見終えた青が最後に留まったのは、
「フレームは……このお星さまで! ヒンメリって言うの? 可愛い名前だね♪」
 取り上げた星は正三角形をくみ上げた光のモビール。多面体であるからこそ硝子が映え、複雑な反射は光を増幅して届けてくれるもの。
「硝子は……そだ、折角だし」
 ポケットに手を突っ込み大切に取り出したのは、二頭の鯨の硝子瓶。二彩の星空が混ざり合う空のインクが、パウルの動きにあわせてとぷりと揺れる。
「空のインクって硝子にしてもらえるんだよね? これを基に、色合いお任せで硝子お願いしまっす☆」
「お安い御用さ。そんでは御立合い。インクが魔法で硝子になるよ!」
 鬼灯頭の実が、ちかちかと明滅を始めた。空のインクを少々零し、星の煌きをさらりと混ぜて、硝子の砂を流し込む。最期に陽の光を一筋流し込んだならば、翳した掌で3カウント!
 そうして出来上がった硝子は、高き天には陽の光。光に照らされた透明が、少しずつ地に至る程に星と彩の濃さを増して宙になる。そんな硝子だった。
 
「それでは、貴方の光、貴方の炎を燈しましょう。どうぞ、瞼を閉じて」
 丁寧に硝子を嵌め込んで出来た星灯。光を燈してもらおうと訪れたシャンデリア夫人の言葉に頷いて、パウルは目を閉じた。
 自分の中の光について思いを馳せ……る間でもなく、すぐさまパウルの瞼の裏には天使の貌がありありと浮かび上がる。天使がにっと笑ったならば、一気に上昇した体温でぽんっと茹蛸になってしまいそう。
 その笑顔が瞼の裏で光になる。菫と桃の花色の光の中に、スパンコールのような星の煌きが絶え間なく、まるでスノードームのように降り注いでいる。
「燈りましたよ、貴方の光が」
 シャンデリア夫人の声に目を開ければ、星灯の中に思い描いたままの花火のような光が宿っていた。
 キラキラとして、目を奪われる程に鮮烈で、けれども何処か優しい光。
「綺麗な光ですね」
「……オレ、この光が大好きなんです!」
 思わず光を宿した星を、高く掲げた。頭上に掲げた星の中から、煌きがパウルに降り注いでくる。
「ええ、伝わりますよ」
 シャンデリア夫人の柔らかな声に、鬼灯頭もシルクハット議長も鷹揚に頷いた。
 だって、鮮やかな光を見つめるパウルの顔が、心から嬉しそうに輝いていたから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

諫名・巡
【メカニック】の腕が鳴りますわ

『夜が明けていく町並』で情報収集
『階段』を探します
『♦のK』を使ってステップの形に合わせてフレームを作りますわ!階段って防御地形としても使われますものね
踏んでも壊れないガラス素材を選んではめ込みます

「登ったり降りたりするたびに足元が淡く光る階段型照明が作りたいんですの」
星空から夜明けへ。夜色から朝の空へとグラデーションしながら明るくなる階段。何度でも、遠回りしてでも通りたくなる道。踏み外し防止も兼ねていますわ
【罠使い・防具改造・地形の利用・メカニック】を組み合わせればできるかしら?

暖かい気持ちの炎をこめて
アリスと住民の方が楽しめますように
元アリスとして願いますわ




 カレイドの街に灯りが燈る。
 はじめは一つ。次に二つ。そうして少しずつ、けれど着実に、光が街の夜を照らし始めている。この国の全てに命が燈るまで、あと少し――。
 
 空色に染まるカレイドの街並みを、諫名・巡(冬の陽だまり・f21472)は駆ける。探すのは「階段」。家についているものではなくて、緊急用のものではなくて、もっと、もっと――。
「……ありました!」
 街の中心たる商店街。そこに至るための、白く広い階段。両脇に花をたくさん植えたのだというそこは、巡の考えていたことを実行するに相応しいと思われた。
「さあそれでは早速コード実行と参りましょう。王さま、私と一緒に硝子の階段を作りますわよ!」
 コードという名の詠唱を実行し、エンジニアたる巡が王と共に作り上げるは硝子の階段のフレーム。階段は防御用設備かと問われても勿論大丈夫。階段は防御地形としても使われるもの。フレームが完成したら、今度は踏んでも壊れないガラス素材を選んで嵌め込んだら完成だ。
 
「おお、見事な硝子の階段ですな。乙女たちが喜びそうです。して、こちらはどうするのですかな?」
 案内を買って出たシルクハット議長が、巡の手際に拍手を贈りながらも首を傾げる。灯りを作る、と思っていたのだが、目の前の少女が作り上げたのは硝子の階段。議長にはどうにも灯りと接点を作れない様子。そんな議長に、巡は得意げに笑う。
「登ったり降りたりするたびに、足元が淡く光る階段型照明が作りたいんですの」
 星空から夜明けへ。夜色から朝の空へとグラデーションしながら明るくなる階段。何度でも、遠回りしてでも通りたくなる道。きっと楽しくて、きっとロマンチックで、通るたびに心が沸き立つような。
「あと、踏み外し防止も兼ねていますわ」
「何と素敵な発想! メカニックのアリス、貴女のアイディアは最高だ! しかも住民の安全まで考えていて下さったとは、私脱帽せねばなりません!」
「議長さんって、脱帽したらどうなるんですの?」
「こうなります」
 慇懃にシルクハットを取った深く礼をしてみれば、帽子の下には何もなかった。透明人間でも入っているのか帽子が本体なのか……は、今は置いておくとして。

 その場を訪れたシャンデリア夫人が、巡と小さな手を繋ぎ、膝をついて巡の炎を階段照明に燈していく。空がグラデーションしていく硝子に、順に暖かな炎が燈っていく。
 暖かい気持ちの炎を込めて、元アリスの少女は真摯に祈る。
 
「いつかここを訪れるだろうアリスと、カレイドに住まう人々が楽しめますように」

 尚、どちらが最初にこの綺麗な階段を登ってみるかで、シルクハット議長とシャンデリア夫人が巡の後ろで密かにじゃんけんをしていたのは秘密の話。

大成功 🔵​🔵​🔵​

水標・悠里
私の光というものも未だ見出せてはおりませんが
想像もつかないものがこの国を照らし続ける
見失った光を私はまだ捉え切れていない
この光が良いものか悪いものか、判別がつかない
そんなものがこの国を照らす
果たしてそれは良いことなのでしょうか

案内されるまま容れ物を吟味して
悩みましたが見慣れた行燈に致しましょう
何を硝子で描きましょうか
どう思う、と傍らの蝶に問いかける

薄桃色の硝子を砕いて描く花海棠
私より、こちらの方が良いでしょう

私の中で燃える炎は瞳の色
私を私たらしめた青
後悔と怒り、絶望のいろ
激しい感情を置き去りにして、どこまでも飛んでいければ良かった

最後に残った祈りをここに置いていきます
同じものを一つ頂けますか?




 ひかり。
 猟兵の裡に宿る光を燈して欲しいのだという。その光を持ってはじまりと命の灯とし、このカレイドという国は命を得るのだという。
「私の光というものも未だ見いだせてはおりませんが」
 ぽつり。水標・悠里(魂喰らいの鬼・f18274)という少年は空の極彩色の街で、視線を何処にも定めずに彷徨わせていた。
 裡に宿る光などという、想像もつかないものがこの国を照らし続けるのだという。けれど悠里が見失った光を、悠里は未だ捉えきれていない。たとえ悠里の内に宿るものがあったとしても、その光が良いものか悪いものか、判別がつかない。
「……そんなものがこの国を照らす。果たしてそれは良いことなのでしょうか」
 悠里にはわからない。ただ、それでも望まれるならばと灯り屋の工房へと足を向けた。
 
 灯り屋の主人たる鬼灯頭に案内されてまず辿り着いたのは、たくさんのフレームが眠る場所。
「どれを使ってもいいですよ。気になったものを使ってくださいね」
 鬼灯頭に頷きで返事を返して、指先をフレームの海に泳がせる。吟味し悩むように海を幾度も彷徨い、やがて手繰り寄せたのは見慣れた行燈。
「さて、硝子で何を描きましょうか。……どう思う?」
 問いかけた悠里の肩に、いつのまにか黒の蝶。ひらひらと舞っては、すとんとある硝子の上に降り立つ。宵闇のインクを零した空硝子の上で、蝶はゆっくりと羽根を閉じたり開いたり。悠里の髪に似た色だと言いたいのか。
 成る程と零すも、指を伸ばす気にはなれなかった。それよりも、その傍らにある薄桃色が悠里の目を惹いた。見たことのある彩だ。記憶のままに硝子を手にし、砕いて描くのは春の花、花海棠。
「私より、こちらの方が良いでしょう」
 『温和』と『友情』、そして『艶麗』の花言葉そのままに、愛らしい花が行燈に咲いた。

 シャンデリア夫人が、完成した悠里の行燈を見つめてしゃらりと飾りを揺らす。
「綺麗な花行燈ですね。それでは、貴方の光を、貴方の内の炎を燈しましょう。どうぞ、眼を閉じて」
 夫人の声に従い、悠里はそっと瞼を伏せる。瞼の奥、暗闇の内で燃えるものを追っていけば、やがて映るのは、青。
 青褪めた炎が燃えている。悠里の瞳と同じ色の炎が、静かに燃えている。
(「私を私たらしめた青。後悔と怒り、絶望のいろ」)
 淵に立つ幽鬼のような、熱のない炎が揺れている。燃え盛ることなく、ただ、風に揺れて静かに。
 嗚呼。激しい感情を置き去りにして、どこまでも飛んでいければ良かった。
 
 ゆっくりと目を開けば、瞼の裏の炎が同じように行燈にも燈っていた。
 激しさもなく、幸福は遠い。今も胸を締め付けて苦しいものがあるだけの心の炎。そうして青に燃え尽きて、最後にこの胸にあるのは――。
「……最後に残った祈りをここに置いていきます。同じものを一つ頂けますか?」
「貴方の祈り、確かに頂きました。ありがとうございます。ええ、勿論喜んで」
 夫人が悠里の炎が燈る灯りをそっと胸に抱いた。それは大切そうに、壊してしまわぬように。
 その灯りが街に灯るのを、悠里は目を細めて見ていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

スキアファール・イリャルギ
ヒンメリで星形作るとして、硝子……
(うーんうーん)
(はっ)
そうかインクと同様のことをすれば……!
ってことで一日の流れの色で行きます
スキアファールさんに学習能力あって良かった

問題は光
影人間には難題です

……わからないんです
私の"色"は何?

影人間に光なんてない
灯す炎はきっと冷たい
昏くて濁ってて、くすんでて――
そんなのこの国に相応しくないですよ
……それでも必要ですか?

……少し歌を口ずさんでみます
それで少し光が彩られるかもしれない
ただの希望的観測です
でも私にはそれしかないから

『アリス』だった頃も歌ってたな
誰に聞かせるわけでもなくてひとりでずっと
でも、誰かが遠くで聴いてる気配がしてた
――誰だったんだろう?




 空と彩の国カレイド。国に命を燈す為の光が、一つずつ灯っていく。この国が、息衝いていく。
 その為の光は、あともう少し――。
 
 灯り屋の工房で、腕を組んで唸り続けている青年がいた。スキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)だ。
「ヒンメリで星形を作るとして、硝子……」
 彼の前には、星の形に組まれたヒンメリのフレームがある。形はすぐに決まったけれど、それに嵌める硝子は様々ありすぎて迷ってしまう。透明や摺り硝子。色硝子に空や花の硝子。指が彷徨っては行ったり来たり。
「うーん、うーん」
 悩みすぎた頭はそろそろ煙が出そう。その時ふと、動いた拍子にかちゃりと音が響いた。確かめてみれば、ポケットの硝子瓶がテーブルに軽くぶつかった音。硝子瓶を見て、はっと気が付いた。
「そうかインクと同様のことをすれば……! スキアファールさんに学習能力あって良かった」
 天啓を得たとばかりに、今度は迷うことなく目当ての硝子を探し始める。求める彩は一日の流れの天。そうして順に嵌め込めば、一日の空を閉じ込めた星灯の完成だ。
 
 けれど問題があった。光だ。
 光がなければこの星はただの容れ物だ。だというのに、影人間たるスキアファールにはこれが一番難題だった。
「なかなか燈りませんね……私の魔法が弱まったのでしょうか?」
 首を傾げるシャンデリア夫人に、スキアファールはゆるゆると力なく首を横に振る。
「……わからないんです。私の"色"は何?」
 いくら目を閉じて自分の意識に目を向けてみても、見えるのはくすんだ闇だけで。
「影人間に光なんてない。灯す炎はきっと冷たい。昏くて濁ってて、くすんでて――」
 言いながらどんどん俯いてしまう。夫人に合わせる顔がない。燈せる光がないなんて、暖かくなくて濁ってくすんだ炎なんて、
「そんなのこの国に相応しくないですよ。……それでも必要ですか?」
「はい、必要です」
 肩に触れる手の感触。存外に近い声。見上げれば、シャンデリア夫人が傍に居た。スキアファールの肩に手を置いて、見間違いをしないようしっかりと頷いて。
 貴方の炎が必要だと言った。
 
「…………」
 ぐっと噛んだ唇。漏れ出そうになる様々なものを堪えて、代わりに紡ぐのは――歌。
 歌が好きだった。影人間になってしまった今でも、歌は好きだ。だから歌ってみた。それで少し光が彩られるかもしれない。ただの希望的観測だけれど。
「でも、私にはこれしかないから」
「大丈夫。ほら、ご覧くださいませ」
 スキアファールが顔を上げる。自らが作り出した星灯の中に炎が燈っている。昏い炎だ。けれど、光が散っている。小さく、けれどキラキラと、火花のような光が炎から生まれ散っている。歌が燈した光が、星の瞬きのように炎と空を彩っていた。
 
 その灯りを夫人に託しながら、ふと思い出したことがある。
「『アリス』だった頃も歌ってたな」
 誰に聞かせるわけでもなかった。不思議の世界で、ただ一人でずっと歌っていた。けれど、スキアファールが歌えば、誰かが遠くで聴いている気配がしていた。
「――誰だったんだろう?」
 宵の口へと移り行く空。スキアファールをはじめ皆の手によって燈した灯が街を照らして、夜の海に沈みゆく世界できらきらと存在を主張している。
 口にした疑問の答えは得られなくても、ひとつだけ分かることがある。
 
 空と彩の国カレイドは、今生まれたのだと。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『コローロ・ポルティ』

POW   :    あなたの"色"がほしい
レベル×1tまでの対象の【姿形を構成する"色"】を掴んで持ち上げる。振り回しや周囲の地面への叩きつけも可能。
SPD   :    この"色"はもういらない
自身の【必要ないと感じた"色"】を代償に、【名も付かぬ程くすんだ"色"の獣】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【周囲の"色"を奪い自身や主を強化する事】で戦う。
WIZ   :    これがわたしののぞむ"色"
無敵の【自身が望む理想の"色"】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。

イラスト:烏鷺山

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はスキアファール・イリャルギです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●Everlasting color.
 ひとつ、またひとつ。猟兵たちが燈した光が、炎が、このカレイドに訪れた夜を照らす。赤に、青に、黒に、白に、強く、弱く、揺らめき、音を発し、見守り、出迎え。まるで星のように同じものは一つとしてなく、それぞれの願いと祈りを抱いた光が、この国を照らしている。 
 国が生まれた日を祝い、住人である異形頭たちはこぞって歓声をあげた。ある者は宵闇の中でも互いの顔が見えるということを喜び、ある者は猟兵たちの手を取って共に天にかざす。

 祝え、祝え。
 天穹と極彩色の国カレイドのはじまりの日を。光を燈してくれた猟兵たちを。
 この国が永劫続くよう、祝え、祝え、盛大に。

 シルクハット議長も空のインク屋も、鬼灯頭もシャンデリア夫人も猟兵たちも、みんなみんな巻き込んで、いつのまにやら皆広場に集まって、空と光の下で喜びを分かち合う。異形頭に表情は見えないけれど、それでもわかる。皆、笑顔だった。

 喜びに沸き立つカレイドを、『彼女』は遠くから眺めていた。
『溢れるひかり……いろ……』
 宵闇に浮かび上がる光は、カレイドの存在をこの世界に知らしめた。それ故『彼女』はかの国を見つけてしまった。色とりどりの光。零れた天を描く塩湖。たくさんの人。たくさんの感情。この世界が溢れた色彩が、夜を地から照らしている。
『……いいな』
 まるで誘蛾灯に誘われるように、『彼女』はカレイドへと真っすぐ進む。自身も目映い光を纏っているというのに、彼女自身は何一つ見えない。光の中にあっても、浮かび上がる姿は辛うじて女の子とわかるシルエットだけ。
 彼女は色を欲していた。
『こんなくすんだ影のような体ではだめ。わたしだって色が欲しい』
 だからたくさん集めたけれど、一つとして彼女のものにはならなかった。くすんだ色はひとつも色を得ないまま、光となって周りを浮遊するばかり。
『きっと足りないの。もっともっと彩を集めなくちゃ。わたしも、色が欲しいの』
 カレイドへと吸い寄せられた彼女は、街を囲う門から自らを照らす灯りを見上げた。あの灯りには、想いがある。感情がある。祈りがある。願いがある。
 その灯りは猟兵たち自身の内にある炎を分けて貰ったもの。炎や光には彼ら自身たる想いが宿る。
『これ……ほしいな』
 彼女は、その灯りに手を伸ばした――。

 祝いの声に包まれた町に突如、鋭い遠吠えが三度響き渡った。明らかな警告音に、一瞬にして緊張と不安が街に走る。
「あれはドーベル隊長の遠吠え! 三度は……オウガ!!」
 シルクハット議長が声の方向を振り返る。住人たちを鬼灯頭とシャンデリア夫人に任せ、猟兵たちとシルクハット議長は遠吠えが聴こえた街の入り口たる門の前に駆ける。そこでは既に、結成したばかりの自警団の面々が、目映い光を放つ影と戦闘をはじめていた。
「議長! オウガです、燈してもらった灯りや、我等の心の彩を奪おうとしている!」
 その最前線で、ドーベルマンの顔をした隊長らしき者が吼えた。くすんだ色の獣らしきものの爪を剣で捌きながら、周囲に倒れた者たちを懸命に庇う。
『だって欲しいの。わたしを見て。こんなに光を集めたのに、わたしにはなんにも色がない。きっと足りないの。想いが足りないの。色が足りないの』
 無数の光の中で、少女らしき影が言う。自警団たちを圧倒し、倒れた者たちから色を奪いながら灯りの一つへと手を伸ばす。
『わたしも色が欲しいの。わたし自身の色が欲しいの。わたしを表す色と感情がほしいの。ねえ、この光には感情を感じるわ。これを手に入れたら、わたしもきっと――』
 彼女が触れた箇所から色が奪われていく。
 生まれたばかりの国から。
 国を作り、建国を喜んだ住民たちから。
 猟兵が燈した光から。
 光が、奪われてしまう。

『ねえ。あなたの色を、ちょうだい』

 彼女――オウガ、コローロ・ポルティは、猟兵たちへと手を伸ばした。

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●受付期間のお知らせ
 【2/14 8:31~2/16 23:00まで】。
 また、今回は再送前提とさせて下さい。再送受付期間は【2/19 8:31~2/21 23:00まで】を予定しております。
 また受付期間外に頂いたプレイングは、内容に問題がなくとも流してしまいます。ご注意下さい。
春乃・結希
こんな素敵な人達が作った、みんなの想いが込められた国
すごくキラキラしてますよね
でも、灯った光は絶対に奪わせない
綺麗で不思議な湖と、まるで空のような街並みを見せてくれた
私だけの空と、私だけの炎をくれた
…カレイドの人達に私が出来る恩返しは、ここを守る事ぐらいしか無いから

叩きつけられる色をwithで打ち砕きながら接近

私の色?欲しかったらあげますよ
でも、それでは貴方は影のまま
誰かから奪った色じゃなくて
貴方の中の、貴方だけの色が見たいな
綺麗なものを、素直に綺麗と思える貴方の光も、きっと素敵だと思うから

…これまで奪った光は返してあげてくださいね
UC発動
少女と周囲の光を切り離すように、大剣を振り下ろします


黒鵺・瑞樹
アドリブ連携OK
右手に胡、左手に黒鵺の二刀流

どんな色を何度手に入れても。
自分自身から現れる色でなければそれはすぐに色褪せてしまうんじゃ…?
君に色がないのは、君の心に色がないからじゃないか?
もしあればきっと君の顔は見えるだろうに。

【存在感】を消し【目立たない】ように立ち回る。隙を見て【マヒ攻撃】を乗せたUC菊花で【暗殺】攻撃を仕掛ける。
本体を相手できればいいができなくとも、俺が獣を相手して他の人が本体を狙えればいい。
相手の攻撃は【第六感】による感知と【見切り】で回避。回避できないものは黒鵺で【武器受け】し可能なら【カウンター】を叩き込む。
どうしても喰らうものは【オーラ防御】【激痛耐性】で耐える。




 彩が欲しい。
 わたしにも、彩が――。
 
 そのオウガは夜を退ける程の眩さを纏っているのに、自身と来たらひとつの彩もない。あるのはただ影の色一色だけで、それをさもしいと嘆いていた。だから欲しいと渇望していた。纏いつつも自らのものにならぬ彩を代償に、豹のような体躯の影の獣を召喚して指差すのだ。
 あの人の色を、わたしにちょうだい。
 
「どんな色を何度手に入れても。自分自身から現れる色でなければ、それはすぐに色褪せてしまうんじゃ……?」
『でもどんなに望んでも、わたしには色が現れないもの!!』
 右手に打刀たる胡、左手に自らの本体たる黒鵺を構えつつも、黒鵺・瑞樹(界渡・f17491)は浮かんだ疑問を口に乗せて首を傾げる。素早く距離を詰めて噛み裂かんとする獣の牙を胡で受け、下段から腹を切り裂くように黒鵺が唸りをあげる。
『ギャウッ!!!』
 くすんだ獣が仰け反った。その好機を逃さず、春乃・結希(withと歩む旅人・f24164)が『with』と呼ばれた大剣を手に駆け抜ける。
 カレイドで過ごした時間は短くとも、此処に住まう人々が素敵な人々で、この国が皆の想いを込められた万華鏡の如き国だというのは感じられた。生まれたてのこの国は無垢に輝いている。
「すごくキラキラしてますよね。でも、灯った光は絶対に奪わせない!」
 瑞樹が獣を抑えてくれている間に、結希は光を突っ切りコローロに迫る。
 綺麗で不思議な湖と、まるで空のような街並みを見せてくれたこの国。結希だけの空と、結希だけの炎をくれたこの国の住人。
「カレイドの人達に私が出来る恩返しは、ここを守る事ぐらいしか無いから!」
 だから全力で!
『いやよ、わたしこの国の光がほしいの! 邪魔しないで!』
 コローロが近くにあった木に手を当てた。途端、木からずるりと色が抜けた。木を構成していた色を抜き取り、木の質量をそのまま持った色を結希に叩きつける。その木であった色を、
「withと一緒ならこのくらい…!」
 結希は大切な黒剣を振り抜いて打ち砕いた。
 
『なんで? なんで邪魔するの? わたし、色が欲しいだけなのに』
「君に色がないのは、君の心に色がないからじゃないか?」
 襲い来る獣の体当たりを感覚を読んで避け、二刀の刃を手繰りながら瑞樹が告げた。幾度も麻痺を与えられた獣の動きは、当初より鈍い。倒すならば今が好機と知れば、瑞樹の瞳が妖しく輝いた。
「もしあればきっと、君の顔は見えるだろうに」
『……!!』
 口調は静謐に。けれども言葉は正確で、五月雨の如く降り注ぐ斬撃はあまりに鋭利だった。ぼろ雑巾のようになった獣を胡と黒鵺で真一文字に斬り裂き、舞い散る黒の液体の後ろから、瑞樹の瞳がコローロを見据えている。
 
『わかんない、わたしわかんない!! ねぇ貴女、貴女の色をちょうだい!』
「私の色? 欲しかったらあげますよ」
『ほんと!?』
「えぇでも、それでは貴方は影のまま」
 振り回される木の色彩をwithで打ち砕きながら、ついに結希はポローロの光のうちまで接近した。その切っ先をポローロに油断なく突きつけながら、結希はふと、笑った。
「誰かから奪った色じゃなくて、貴方の中の、貴方だけの色が見たいな。綺麗なものを、素直に綺麗と思える貴方の光も、きっと素敵だと思うから」
 ポローロにとって、それは予想外の言葉だった。思わず、色を操る手が止まる。そんな言葉をかけられるとは思っていなかった。
 けれど――。
『ないもん、ないんだもん。わたし、ずっとずっと、こんな色のままで』
 彩なんか。
 光なんか。
 どこにも。
「……これまで奪った光は返してあげてくださいね」
『いやよ!!』
 結希がwithを振り上げるより早く、コローロが身に纏う光から色をごっそりと抜き取った。人を構成する色という質量を伴った光が、結希を打ち据える。
 そう思われた直後、コローロの影にぴたりと寄り添う、影。
「返してやりなよ。それは君のものにはどうしてもならないから」
 瑞樹の二刀がコローロを縦に斬り裂く。よろめいたコローロの狙いが結希を逸れ、結希はそのまま光とコローロを切り離すように剣を振り下ろした。
 
 ドゴォ……ッッ!!
 
 周囲の地形が破壊され、破片が散る。
 咄嗟に距離を取ったコローロからいくらかの光が離れていくも、未だ数多の光が彼女の周囲に在った。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

デリック・アディントン
アイシャ(f19187)と

どうしたんだい?
あぁ、アイシャの色か
私のイメージ的にはそうだな…蒲公英に近い感じだね
瞳や髪は葉の緑を思わせるし
温かな心や可愛らしい歌声は花の黄色みたいだ
強く根を張る蒲公英の様にしっかり芯も通っているしね

光があるから影が生まれる
色は塗り重ねると濁り、黒へと近づいて行く
君は色を欲する余りに
その集めた色に呑まれてしまっているのではないかな
カレイドでの二曲目は君に贈るよ
自分の持つ色に気付けるよう祈りを込めて
怖がらないでその集めた色を手放してご覧
足りないんじゃない、足り過ぎているんだ

防御はgrandiosamenteで
アイシャの歌声に合わせてタクトを振ろう
音に包まれておやすみ


アイシャ・ラブラドライト
リック(f09225)と
心を許したらの口調
WIZ

私の色はどんな色かな
自分じゃよく分からない

リックはどんな色だろう
琥珀色の瞳、灰色の髪…
そして、いつも穏やかで、凪いだ海のような優しい人
これはリックと出会って
同じ時間を過ごしたからわかったこと

生まれたてのこの国が光を欲していたのと同じで
色を欲しいと思うのはすごく純粋無垢な心
その気持ちこそがあなたの色と感情なんじゃないかな
誰かから奪っても偽物だよ
大丈夫、あなたはもう持ってるよ
あなたを倒しても、この国のはじまりの日にあなたがいたことはみんな覚えてるよ

戦闘はembraceで透明な盾を作って
創り出された色を見ながら防御
攻撃はさっき私が思ったことを歌にするわ




「色が欲しい。あなたの色を頂戴」
 そのオウガの少女は言う。早くて鋭い色、紫電の色を手に纏い――けれどそれが決して彼女の色になることはなく――、まるで紫光を撃ち出す銃のようにそれを扱いながら、オウガの少女は嘆いている。
「どうしたんだい?」
 柔らかなフィンガーレスグローブ『embrace』による盾で攻撃を防ぎつつも、アイシャ・ラブラドライト(煌めく風・f19187)は眉を下げて集中しきれないでいた。その様子に気が付いたデリック・アディントン(静寂の調律師・f09225)は、気遣わしげな視線を向ける。
「私の色はどんな色かな。自分じゃよく分からないの」
「ああ、アイシャの色か」
 この身を構成する色こそが彼女の言う自分の色なのか。魂の色なのか、アイシャには判別がつかない。それを取られた時に、自分がどうなるのかもわからない。けれどもデリックの穏やかな声に顔を上げれば、そこには彼の笑みがあった。
「私のイメージ的にはそうだな……蒲公英に近い感じだね。瞳や髪は葉の緑を思わせるし、温かな心や可愛らしい歌声は花の黄色みたいだ。強く根を張る蒲公英のように、しっかり芯も通っているしね」
「リック……」
 デリックの言葉に、アイシャの笑みが咲いた。不安になってしまいそうなアイシャの心を、デリックは優しく拾い上げて咲かせてくれる。彼の感謝と気遣いが温かにアイシャの心を照らしてくれるから、アイシャもまた、自分の色を見つけてくれたデリックの色を探してみた。
「リックはどんな色だろう。琥珀色の瞳、灰色の髪……。そして、いつも穏やかで、凪いだ海のような優しい人」
 それはアイシャがデリックと出会い、同じ時間を過ごしたからわかったことだ。それはまるで穏やかな初夏の海の色のように、心地いい色だ。

『いいな。あなたたちはそんなに素敵な色があって』
 悲し気な声がして、アイシャとデリックは前を見据えた。無数の光の中に在って尚、黒だけに沈んだ少女が二人を見てる。羨ましそうに手を伸ばして、アイシャの蒲公英のような色を、デリックの凪いだ海のような色を欲した。指先から黄色と青が溢れ出す。黄と青を鎧のように纏って手を伸ばし、それがコローロの上に鎧を描いていく。その様子を、デリックは目を細めて見つめる。
「光があるから影が生まれる。色は塗り重ねると濁り、黒へと近づいていく。……君は色を欲するあまりに、その集めた色に呑まれてしまっているのではないかな」
『……』
 デリックの声に、ポローロの動きが止まる。そのまま自分の両手、両足、服。全てをゆっくりと見遣っている。
『……でも、なくしてしまったの』
 泣いているようなか細い声で、コローロがぽつりと呟いた。
『わたしにも、あったのに!!』
 それは渇望と呼ぶに相応しかった。
 生まれたてのこの国が光を欲していたのと同じで、色を欲しいと思うのはとても純粋無垢な心だ。その心自体は悪いわけではない。
「色が欲しいと思う、その気持ちこそがあなたの色と感情なんじゃないかな。誰かから奪っても偽物だよ」
 アイシャの呼びかけに、コローロは無言の光の銃撃を以て応えた。影と同じ彼女の表情を伺うことは出来ない。それでもと、アイシャは歌う。その歌に音楽を乗せて、デリックが奏でる。
「カレイドでの二曲目は君に贈るよ。自分の持つ色に気付けるよう祈りを込めてね」
 デリックのタクトが優雅に宙を舞う。奏でられた音は刃となり、幾重にも重なってコローロと光を引き離すように切り裂いていく。
『ああ、だめ!! わたしの色、わたしの光が!!』
「大丈夫、あなたはもう持ってるよ」
「怖がらないでその集めた色を手放してご覧。足りないんじゃない、足り過ぎているんだ」
 アイシャは歌で、デリックは音楽で、繰り返し大丈夫だと伝える。集め過ぎたその光を手放して、自分の気持ちを見てあげてほしいと。
「あなたを倒しても、この国のはじまりの日にあなたがいたことはみんな覚えてるよ」
「(だから、歌と音に包まれておやすみ」)
 アイシャとデリックの優しい音楽がコローロを包み、その身に纏う光を少しずつ剥がしていく。けれど光が少しずつ誰かの穹に返っていくことを厭い、癇癪を起したようにコローロは二人の前から逃げ出した。
『わたしは色がほしいの。なのにわたしから取るなんていやよ!』

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

照宮・梨花
【蝶番】茉莉(f22621)と

梨花の弟は真っ白な壁の子
だけど人の色を奪ったりなどしないのだわ
貴方に色がないのは心も姿も黒いから
だから纏った色さえ黒ずむのだわ
それなら梨花が洗ってあげる!

憧れの城門のカガリ様から頂いた姿鏡の盾を前へ
鏡に映るのは貴方が奪った色、梨花の色じゃないから掴めないのだわ

獣をけしかけてきたら【夢の洗濯機】をエプロンのポケットから取り出しましょう
さあ、くすんだ獣を取り込んだら丸洗いするのだわ

黒く汚れた子は茉莉、お願いね?
怖がらなくても大丈夫
梨花がカガリ様に似せたこの盾で茉莉を守ってあげる
カガリ様がパパを守るように
だから茉莉、頑張って!
二人でカレイド国の彩灯りを守るのだわ


照宮・茉莉
【蝶番】梨花(f22629)と

やだ…茉莉、震えてんの?
猟兵の仕事は、初めてじゃない、何で……
……オウガ……オブリビオン相手に、武器持った事が無かったんだ、茉莉!

灯り…灯り、取らないで……梨花と一緒に付けた灯り、取らないで…
ママと、あの人の色……取っちゃやだ……!
茉莉の楽園の色、取っちゃやだ!!
(暴走するように【アリスナイト・イマジネイション】発動
大きな雲丹のように鋭い針が周囲を覆う無色の結界)
茉莉の色、取らないで、取らないでッ!!

梨花…そうだ…閉じ籠もってる場合じゃない…
あの子、やっつけなきゃ…!
【螺旋槍】をしっかり握って、黒い子に攻撃する!
パパといっつも鍛練してたんだから!




 かのオウガは、光が欲しいと言って奪う。色が欲しいと言って奪う。照宮・梨花(楽園のハウスメイド・f22629)は、どうしてもその行為が許せなかった。
「梨花の弟は真っ白な壁の子。だけど人の色を奪ったりなどしないのだわ」
 コローロの纏う光の眩しさに目を逸らすことなく、梨花が凛と立ちはだかった。びしりと指を突きつければ、ハウスメイドの証たる清楚なメイド服が翻る。
「貴方に色がないのは心も姿も黒いから。だから纏った色さえ黒ずむのだわ。それなら梨花が洗ってあげる!」
『雨になら何度だって濡れたわ! でもこの色はなにひとつ変わらなかった!!』
「雨に濡れるのはお洗濯とは言わないのだわ?!」
 少々聞き捨てならない言葉に思わず反対の手で指を突きつけ直した梨花だったが、傍らにくすんだ黒の獣と理想の色で描いた鎧を身に纏うコローロの様子を見てエプロンからコンパクトを取り出した。開けば瞬く間に広がって盾となる。憧れの城門である人から貰った姿鏡の盾。
『わたしはあなたの後ろにある灯り、あれがほしいの!! そんな盾なんか壊しちゃうんだから!』
 両者が駆けだした。
 
 コローロと梨花が戦っている。なのに、照宮・茉莉(楽園の螺旋槍・f22621)の身体は動くことを忘れて震えていた。
「やだ……茉莉、震えてんの?」
 茉莉自身にとっても予想外のことだった。猟兵としての仕事ははじめてではない。なのに、何故――。
 ぐるぐると巡る疑問と共に落とした視線が、己の手元を見る。そこに握られているものを見て、茉莉はようやく疑問の答えを得た。
「……オウガ……オブリビオン相手に、武器持った事が無かったんだ、茉莉!」
 オブリビオンが居るという場に、確かに足は運んだことがある。だが本格的なオブリビオンとの戦闘、命のやり取りは初めて。つまり茉莉は初陣なのだ。
『その想いが込められた灯り、ちょうだい!』
「灯り……?」
 ぴくり。茉莉の震えが止まった。だが、ゆっくりと上げた顔に兆していたのは――恐怖。
「灯り、取らないで……梨花と一緒に付けた灯り、取らないで…」
 ざわりと茉莉の肌が粟立つのを感じ取って、梨花が振り返った。
「ママと、あの人の色……取っちゃやだ……! 茉莉の楽園の色、取っちゃやだ!!」
 茉莉の背には梨花と共に燈した灯りが、門の中には猟兵たち街の人たちと共に燈した灯りがある。オウガがその全てに触れるのを拒絶するように、巨大な雲丹のように鋭い針が周囲を覆う無色の結界を発動させた。
「茉莉……!」
「茉莉の色、取らないで、取らないでッ!!」
 梨花の声すら耳に入らない。茉莉の叫びに呼応しユーベルコードが暴発する。その結果は次第に大きさを増し、結界の外側に居る梨花にも迫る――!
 
「梨花、怖がらなくても大丈夫」
 全て拒絶するように力を暴発させる茉莉の結界に、そっと梨花が触れた。安心させるように柔い声で、穏やかに微笑んで、茉莉に盾を見せる。
「梨花がカガリ様に似せたこの盾で茉莉を守ってあげる。カガリ様がパパを守る様に。だから茉莉、頑張って!」
「梨花……」
 爪を叩きつけるくすんだ獣を盾で防ぎ、奪われそうになる光を鏡の後ろに隠しながら立ち回る梨花が、やっと茉莉の目に入る。怯えに曇った瞳が、休息に晴れ渡っていく。
「そうだ……閉じこもってる場合じゃない…。あの子、やっつけなきゃ……!」
 一色と定めない悍ましい色の鎧が、盾ごと梨花を押し潰そうとしているのが見えた、その瞬間。
 結界を開放した茉莉が、螺旋を描く槍を構え弾丸のように飛び出した。その勢いのままに鎧を弾き返し、梨花の隣へと並ぶ。その手は震えることなく、しっかりと槍を握り締めていた。
「ごめん梨花、もう大丈夫!」
「ええ茉莉、二人でカレイド国の彩灯を守るのだわ。黒く汚れた子は茉莉、お願いね? 私は、くすんだ獣を取り込んで丸洗いするのだわ」」
「任せて! パパといっつも鍛錬してたんだから!」
 一人では怖いことも、姉妹二人でならきっと大丈夫。
 梨花は可愛らしいエプロンから夢の洗濯機を取り出し、茉莉は螺子の槍を携えて駆けだした。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

榛・琴莉
そうして人様から奪う事をやめないのなら、貴女は永遠に足りないままでしょうね
どんなに奪っても、どんなに集めても、それは貴女のものにはならない
だってそうでしょう?
その色も光も、貴女の為のものではありませんから
持っているだけで満足するというのなら話は別ですけど…
貴女、そうではなさそうですし

…それと、個人的に
私の光にまで手を出されるの、腹立たしいので

光はともかく、本体は女の子の様ですが…
とはいえオウガですし、迂闊に距離は詰められませんね
『スナイパー』らしく、遠距離から攻めましょうか
光の中心の影を狙い【CODE:ブライニクル】で『串刺し』に
ほら、欲しかったんでしょう?
この冷たい色で良ければ、存分にどうぞ


レジーナ・ファルチェ
(絡み/アドリブ歓迎)

自分の色が欲しいからと、人様から欲しがるのはナンセンスですわ。
自分のモノは自分で生み出してこそでしょう?

折角生まれた綺麗な光を貴女などには奪わせません!

連れている焔狼のエティに協力して貰って炎の矢を放ちますわ。
避けられませんように影鴉のエーレに暗闇状態になるような属性攻撃もお願いしますの。

それで足止めが出来ましたら…抱きしめて差し上げましょう。
無い物が欲しいという気持ちも、持っている人を羨む気持ちもわかります。
けれど人を羨んだところで手に入れることは出来ませんし、自分のものにもならずに虚しいだけですわ。
貴女だけの色を、自分で作り上げませんとね。
…と抱き潰してあげますの。




『どうして? どうしてみんな邪魔するの? わたしは色が欲しいだけ、ひかりが欲しいだけなのに!』
「自分の色が欲しいからと、人様から欲しがるのはナンセンスですわ。自分のモノは自分で生み出してこそでしょう?」
 自らの理想とする光――硬き黒を鎧として纏うコローロの攻撃を避けながら、レジーナ・ファルチェ(弾丸魔導師(物理)・f23055)が炎の矢を番えて言い放つ。焔狼のエティはレジーナの動きにぴたりと寄り添い、レジーナが矢を放つのを援護する。その後方でスナイパー――榛・琴莉(ブライニクル・f01205)がトリガーを引いた。
 氷結の弾丸が次々とコローロに着弾しては氷を広げ、振り払って砕かれても尚また氷の花をコローロの鎧に咲かす。
「そうして人様から奪う事を止めないなら、貴女は永遠に足りないままでしょうね。どんなに奪っても、どんなに集めても、それは貴女のものにはならない」
『なんで?! 今度こそわたしの色になってくれるかもしれないのに! 』
 ガスマスクの下でErnestが弾き出す計算を瞳に映し、琴莉は焔狼と共に駆けるレジーナに動きを合わせてコローロを攪乱する。戦い慣れているというわけではないようなコローロの闇雲な攻撃は、二人の間を掠めていくばかり。
「だってそうでしょう? その色も光も、貴女の為のものではありませんから。持っているだけで満足するというのなら話は別ですけど……貴女、そうではなさそうですし」
『……っ!! きゃあ!!』
 コローロの周囲を舞う光から抜き取った色の奔流を躱し、琴莉は次弾を装填する。その横をすり抜けて、影の鴉が飛び去った。影鴉エーレがコローロを暗闇に落とし込んだの確認して、レジーナがすかさず二百を越える焔の矢を番え。
「折角生まれた綺麗な光を、貴女などには奪わせません!」
 このオウガはまるで子供だ。癇癪もちでわからずや。人の話を聞こうともしない。
 だから、わからせてやらねば!
 太陽が昇ったかと錯覚する程の大量の焔の矢が、コローロを激しく吹き飛ばした。
 
 吹き飛ばされて光と共にコローロが地を滑って木にぶつかる。
(「光はともかく、本体は女の子の様ですが……」)
 すぐに立ち上がれないのは、本体が戦士ではなく戦い慣れぬただの女の子であろうことを示している。それはErnestの解析を待たずとも分かる事だ。とはいえ、いくらただの少女であろうと彼女はオウガ。迂闊に距離を詰めれば、色を抜き取られるか色の鎧の餌食であろう。スナイパーらしく遠距離から攻めることを選んだ琴莉は、すばやくアサルトライフルを構えてトリガーを引き続ける。
『なによ、なによなによ! あなたは持っているくせに! 綺麗な色、持ってるくせに! わたしにもちょうだい!!』
「……個人的に、私の光にまで手を出されるの、腹立たしいので」
 多少の苛立ちが過る。纏う光の眩さに惑わされず、夜と光の中に紛れる影の少女をスコープの内に捉える。
「……装填、ブライニクル」
 神の傭兵がつがえるのは、海に死を齎す絶対零度の氷槍。――そんなにも、奪ってでも、色が欲しいのならば。
「ほら、欲しかったんでしょう? この冷たい色で良ければ、存分にどうぞ」
 琴莉の銃口から氷華が飛び出した。その弾丸がコローロの胸に吸い込まれると同時、突如地から生えた氷の槍がコローロを串刺しにした。
『きゃあああぁぁぁ!!!』
 三本の氷柱に串刺された少女が絶叫をあげる。叫びに呼応するように、纏う光がぞわぞわとざわめいた。
 
 串刺しにされて項垂れるコローロに、レジーナがそっと近づいた。そして動くこともままならぬコローロを、そっと抱き締める。
『……!? なにを……』
「無い物が欲しいという気持ちも、持っている人を羨む気持ちもわかります。けれど人を羨んだところで手に入れることは出来ませんし、自分のものにもならずに虚しいだけですわ」
『……』
 コローロは何故抱き締められているのかわからなかった。これは同情なのか、それとも罠なのか。判断がつかぬまま、なんだか居心地の悪さを感じて身をよじるコローロに、レジーナはにこりと笑みを浮かべてぎゅっと抱き締め――。
「貴女だけの色を、自分で作り上げませんとね」

 ――バキリ

『!?』
 そのままコローロを抱き潰そうとした。力持ちであるが故の怪力。いくらオウガと言えどこのままでは潰れる。
『……いや!! つぶれるのはいや!!』
 叫ぶコローロが纏うは水の色。つるりとした色は滑らかな想像を与え、それを信じ実体化することでギリギリレジーナの腕の中から逃れた。影であるコローロの表情は伺えないが、抜け出すやいなや周囲に漂う光を腕に吸収しているところをみると、回復しているのだろう。
「やれやれ。わがままばっかりですのね?」
 肩を竦めて嘆息するレジーナを、警戒と怒りの色である赤一色に染まったコローロの光が照らし出した。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と
はて寧ろ俺は、あちらに近いか
師父よ、此度ばかりは挑発するな
彩ばかりの宝石を背に庇う

…お前がお前と分かる
綺麗な闇色ではないか
何を嘆く
何を羨む
別のものにでも、なりたいのか

一瞬だけ、ちらと背後の師を見遣り
我が片角も瞳も
師より貰い受けた色彩ばかり
然れど、この涅色すらも
うつくしいと我が主は囀る
故に決めたのだ、かの人の愛するものを卑下すまいと

掴み上げられる前に
床へと立てた武器を楔に【星守】を
不動の壁となり、隙が生まれたら即解除し
<怪力>乗せた刃でもって斬り付ける
師の色を、師の好んだ色を
どちらも奪わせはせぬ

ここに在る光は既に
この王国の、彼等のものだ
…もう行け
骸の海がお前の色を待っている


アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
っくく、只の欲しがりは嫌われるぞ?
だが…まあ良かろう
斯様に求めるならば、奪ってみせるが良い

やれ、心配性な奴よ
肩を竦めつつばら撒くのは宝石
魔力を込めたそれより放つは【妖精の戯れ】
彩を奪われぬよう褪せた獣を蹴散らしつつ
範囲攻撃にてオウガをも巻き込む
ジジを掴まんとするならば
阻止せんと高速詠唱による魔術を放つ
…不敬が過ぎるぞ
誰の許可を得ての暴挙か?

ふふん、良い事を云うではないかジジ
私の色も、従者の色も渡す心算は毛頭ないが
この世を飾る色は多種多様
貴様にとって、鮮烈なる彩は目に眩く映る事だろう
――然し、人々を見守る夜の色も
私は決して嫌いではないぞ

美しい黒を抱いた侭、骸の海へ還るが良い




『なんで? なんで? わたし、色が欲しいだけなのに…!』
 猟兵たちから一度距離を取ったコローロは、焦ったように呟いた。この国の光には想いがあった。願いがあった。今まで奪ってきたどの色よりも、その光はコローロにとって魅力的で特別に見えたのだ。そう、例えばあの、喫茶店の軒先に飾られた光。星と星から零れた雫の灯り。あれを手に入れれば、自分だってきっと――。そう思わせるだけの力があったのに。
「っくく、只の欲しがりは嫌われるぞ?」
 喉を鳴らす笑い声。手を伸ばしていたコローロが振り向けば、コローロの光によって照らされたスターサファイヤの髪が煌いた。星が人になったように華やかで繊細な人物――アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)が不敵に笑っていた。
「だが……まあ良かろう。斯様に求めるならば、奪ってみせるが良い」
「師父よ、此度ばかりは挑発するな」
 静かな言葉と共に、ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)は師父たるアルバを背に庇う。美しき彩ばかりの宝石たる師父は、オウガにとっては羨望と渇望の対象であろうと知っている。
「やれ、心配性な奴よ」
 己を守る従者の大きな背を見上げ、アルバは肩を竦めた。しかし信頼するからこそその背をどかすこともない。両の指に取り出したるは美しき宝石を、ジャハルを避けてばら撒く。
『きれいな色、きれいな宝石、いっぱい……いいな、ねぇわたしにもちょうだい、わたしもそんな色が欲しい!』
 コローロがばら撒かれた宝石とジャハル、そしてその背にいるアルバへと手を伸ばした。裂ける程の渇望はくすんだ色の獣へと姿を変え、俊敏な四肢で二人に襲いかかる。
「――さあ、覚醒の時ぞ」
 アルバの声を合図に、宝石が爆ぜた。
 ばら撒かれて宙を舞う宝石は妖精となり、複雑な軌道を描いて獣とコローロを巻き込み蹴散らす。それでも手を伸ばすコローロからアルバを隠しながら、ジャハルは腰を低く構えて臨戦態勢を取りつつ、問う。
「……お前がお前と分かる、綺麗な闇色ではないか」
 獣の強襲を尾で捌き、ジャハルは問い続ける。常と変わらぬ表情で、静かに。
「何を嘆く。何を羨む。別のものにでも、なりたいのか」
『ちがう! なによ、あんたの色なんか……っ』
 アルバが放った『妖精の戯れ』とジャハルの守りによって、コローロはアルバに近づけない。睨みつけるように正面からコローロがジャハルと相対した。そうしてやっと気付いた。大地の色を纏うジャハルの瞳が、片方の角が、宝石のように美しいことに。
「俺の色か。はて寧ろ俺は、そちらに近いか」
 ジャハルは目を向けずとも、己の彩くらい知っている。その身を染める涅色の手で刃を手繰った。
『あなたも、綺麗な色を持ってる……』
「我が片角も瞳も、師より貰い受けた色彩ばかり。然れど、この涅色すらもうつくしいと我が主は囀る」
 故に決めたのだ、かの人の愛するものを卑下すまいと。
 言葉という誓いと共に、武器を地に突き刺した。それを楔として竜鱗は全身を覆う鎧となり、星を守る為の砦となる。
「師の色を、師の好んだ色を、どちらも奪わせはせぬ」
 この身は不動の竜也。主を守る為ならば、如何な攻撃とて耐えてみせよう。
 
『あなたの色、それも……ほしい!』
 歓喜に似た声。自分に似た色に兆した星の光に希望を得たか。それを手に入れれば自らにも光が咲くと思ったか、コローロは獣と共に一直線にジャハルの色を掴み上げようと駆ける。その手が、ジャハルに触れる――その瞬間。
「……不敬が過ぎるぞ。誰の許可を得ての暴挙か?」
 スターサファイアが冷たく燃えていた。
 限りなく無に近い時間で詠唱したアルバの魔術が、妖精の戯れのようにコローロと獣を襲い遠くへと弾き飛ばした。
『きゃあああ!!』
 コローロが体勢を崩したと知れば即座に鎧を解除し、突き刺した刃を引き抜いてジャハルが駆ける。下段から虹彩纏う刃が跳ね上がり。
「ここに在る光は既にこの王国の、彼等の者だ。……もう行け。骸の海がお前の色を待っている」
 コローロを庇ったくすんだ獣を、一閃のもとに斬り裂いた。

「ふふん、良い事を云うではないかジジ」
 獣を失って後退るコローロから視線を外すことなく、アルバがジャハルと立ち並ぶ。
「私の色も、従者の色も渡す心算は毛頭ないが、この世を飾る色は多種多様。貴様にとって、鮮烈なる彩は目に眩く映る事だろう。――然し、人々を見守る夜の色も、私は決して嫌いではないぞ」
 アルバはそれを知っている。否、きっと今日、カレイドを訪れた者たちは知っている。
 先程もあの塩湖で見たばかりではないか。青も赤も、紫も藍も黒も、空を彩る色彩は全て全て美しかった。
「美しい黒を抱いた侭、骸の海へ還るが良い」
『だめよ、まだ、だめなの……っ』
 纏った光で作った獣が、また光となって誰かのもとへ還っていく。集めた光が消えていくのを怖れながらも、コローロは強い拒絶と共に首を横に振った。
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

清川・シャル
f08018カイムと第六感で連携

影なんですね、あなた。影なりの生き方があるかもしれませんよ。…とはいえまぁ骸の海に還って頂くんですけどね。

全力魔法で氷のバリアを張って敵のUCに備えます
色は透明だしツルツルして掴めないかと思って。
カイムの方にも気を配ります
反撃と行きましょう
ぐーちゃん零で毒使い、マヒ攻撃、呪殺弾の弾を込めておいてUC起動
視力を使って念動力で確実に当てていきます
隙が出来次第そーちゃんをチェーンソーモードにして持って走ります
呪詛を帯びたなぎ払いでの攻撃
敵攻撃には武器受け、見切り、カウンターで対応

この世界はもう必要な色は揃っているから。
いつまでも平和に栄えて行って欲しいと願います。


カイム・クローバー
f01440シャルと第六感連携

色が無くて姿がハッキリ見えないってのは…やっぱ一人きり、なのかね。
これから栄えていく街。暖かな『色』をやる訳にはいかねぇよ。

魔剣を顕現し、UCを起動。
俺は大体いつも派手にやり過ぎちまう。この街を炎や紫雷で包みたくはない。
だから、身体能力の強化で挑むぜ。
色の正体が何かは分からねぇが、視界で捉えられるなら【残像】や【見切り】を併用して躱す。
手数を増やす【二回攻撃】と……狙いはもう一つ。
集めた俺の夜空のインク、黒に黄金と白銀。これを掛けてやるよ。
全部って訳に行かねぇが、それでもこのインクには感情が込められてる。
色は付かねぇだろうけど。……少しだけ、気が紛れると良いんだが




 眩い光を纏う影のオウガは、発見時よりも明らかに纏う光の数を減らしていた。煌々と明るく太陽のようであった光は、今は猟兵たちの攻撃によって剥がされ、元の持ち主のもとへと還っていっているのだろう。けれど、多少の光が減ったとて、コローロが影であることには変わりなかった。
「色が無くて姿がハッキリ見えないってのは……やっぱ一人きり、なのかね」
「多分、きっと」
 魔剣を携えたカイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)が、ぽつりと呟いた。その言葉を拾ったのは、無二の相棒、愛しき人、清川・シャル(無銘・f01440)。コローロが攻撃に使うくすんだ獣も、結局は纏う光を代償に生み出しているもの。あれはきっと使役するものであって友でも仲間でもないのだろう。
 とはいえ、それに同情してはいられない。コローロは失った色を補填しようと、様々な色を混ぜ合わせた悍ましき色を剣として、此方を睨みつけている。
「これから栄えていく街。暖かな『色』をやる訳にはいかねぇよ」
 決して混ざりあわず、彼女が纏うことも出来ぬ色のひとつにしてやる道理はない。カイムの全身を紫雷が迸った。
 
 先陣を切ったのはシャルだった。
「影なんですね、あなた。影なりの生き方があるかもしれませんよ。……とはいえまぁ、骸の海に還って頂くんですけどね」
『いやよ、わたし帰らない! わたしはどうしても……!』
 全身に氷のバリアを張り巡らせながらも、シャルの表情は淡々としている。敵ならば倒す。それだけだ。
 コローロの色の大剣が振り回されるのを軽い動作で避けながら、袖から愛用のピンクの銃『ぐーちゃん零』を取り出し構えた。名前も色も大変可愛らしいが、その実12連装式グレネードランチャーと装弾数30+1のアサルトライフルを兼ね合わせた高火力火器だ。装填した弾丸に状態異常と呪殺の呪いをありったけ込めたならば、
「行きますよ! 戦場に響きし我が声を聴け!」
 獅子の咆哮のような叫びと共に、ぐーちゃん零の全ての銃口が火を噴いた。ありったけの弾丸を連射し、圧倒的な面攻撃でコローロが近づく術すら与えない。コローロが移動しても、シャルの蒼天の瞳はその動きを逃すことなく、弾道を修正し続ける。
 その横を、紫雷が駆け抜けていった。
 会話ならば擦れ違いざまの視線だけで済ませた。あとは互いの勘と心で補え合える。カイムとシャルはそうして戦場で幾度も背を預け、その戦い様で会話をし、信頼を深めてきた。言葉はなくたっていい。
(「大体いつも派手にやり過ぎちまう。だが、この街を炎や紫雷で包みたくはない」)
 故に、此度カイムは紫雷を使い飛躍的に身体能力を向上させてコローロに迫る。シャルの弾道を邪魔せぬように駆け、色の剣を掻い潜ってカイムが飛ぶ。
「その色の正体が何かは分からねぇが、見えるんなら避けるのは容易い!」
 横に薙ぎ払われた剣を宙で回転して避け、眼前に迫り、渇望する者の魔剣が黒炎を生む。咄嗟にコローロが防御に回した色の大剣ごと、幾重にも重ねられた斬撃がコローロに叩きつけられる。
『うっ、うううぅぅぅ! なによ、なによ!! あなたたち、邪魔!!』
「いいえ、この世界にとって邪魔はあなたですよ」
 カイムからの斬撃を防ぐのに手いっぱいだったコローロは、いつのまにか銃撃が止んでいること、そしてその接近に気付くのが遅れた。声が耳に届いた頃には、金の羅刹が唸りを上げる櫻の金棒を振りかぶっていた。
「この世界はもう必要な色は揃っているから。いつまでも平和に栄えて行って欲しいと願います。――だから」
 もう海にお還り。
 シャルの願いと祈りを乗せた金棒が、コローロの身体を思いきり薙ぎ払った。
『きゃああああ!!!』
 カイムの攻撃を防ぐのに手いっぱいだったコローロに、シャルの攻撃を防ぐ手立てはない。咄嗟に光を呼び集めて防御はしたものの、コローロの身体が勢いよく吹っ飛ぶ。攻撃を受けきれなかった光たちがはらはらとコローロから離れていくのを後目に、カイムがコローロの後を追って奔る。そして、
「集めた俺の夜空のインク、黒に黄金と白銀。これを掛けてやるよ。全部って訳には行かねぇが」
 吹き飛んだコローロに追いついたカイムが、自らの瓶の蓋を取ってコローロに浴びせかけた。美しき夜空がくすんだ黒の身体に降りかかる。
『ああ、いろ、綺麗な色だ……!!』
 地を這いずりながらも、コローロは自らに降りかかる色に手を伸ばした。このくすんだ体の上を流れる夜空には、カイムの感情が込められている。
 これが欲しかった。とってもとっても欲しかった。
『これを取り込んだら、わたしもきっと……!』
 色を抱き締めるように、コローロが身体を丸める。
 ――けれど、やがてそのインクはコローロに色を遺すことなく、淡い夜空の光となってコローロの周囲を飛び交う光の一つとなった。
「やっぱ色は付かねぇか……」
『この色もダメなのね……でも、ありがとう、お兄さん』
 幽鬼のようにコローロがゆらりと立ち上がる。纏う光は三分の二程に減っている。くすんだ色の獣を召喚し、いったん二人から距離を取ったコローロが、ぽつりと言葉を落としてその場を離れる。せめて気が紛れるといいと思ったカイムの心を、もしかしたらインクから感じ取ったのかもしれなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

木槻・莉奈
ニナ(f04392)と

自分を表す色と感情が欲しい…誰かから奪った物で?
喜びも、悲しみも、その人のもの
奪った所で、あなたのものになんてならないわ

『高速詠唱』『全力魔法』『先制攻撃』『2回攻撃』で【トリニティ・エンハンス】
選ぶのは炎の魔力、攻撃力の強化を

欲しいって言うならあげるわよ
ただし、色の選択権はあげないけれど

回避は『武器受け』『見切り』を基本に、ニナや街の人への攻撃は『かばう』
あなたの相手はこっち、余所見しないでくれる?

…本当、ニナは優しいんだから
どこかで得てくれればとは思うけど、此処から奪うなら容赦しないわ

ニナとカガリと一緒に、また此処へ遊びに来たいもの
そう簡単に、奪われてもらっちゃ困るわ


ニナ・グラジオラス
リナ(f04394)と

何色を混ぜても黒絵具は黒だ。今のあの子はそうなんだろうな
諦めろと言っても聞きはしないか
ならば実力行使だ。可哀想だが、ここにキミの望む色はないんだ

私の疲労など些細なものと自身を『鼓舞』して
『高速詠唱』による【花謡い】でリナを、猟兵を、国を、住人を、色を、可能な限り癒し、
色の浸食から『時間稼ぎ』をして被害を減らしたい

キミは自分に染まらない色がほしいのだろう?
それは何色だ?この国の色ですら全て、キミの色に染まってしまうのに?

そう言いつつ、あの子の黒に染まらない色が、光が、どこかにあればいいと願っている

私は優しくないぞ。だってあの子より、リナとのこの国の想い出を取ったんだからな




 色が欲しかった。影のようなこのくすんだ色ではなくて。世界は色彩に溢れている。わたしの前に立ち塞がる人達も、あんなに鮮やか。
 なのに、どうしてわたしだけ。
『いやよ、いやよ、どこなの、どれなの、わたしの色はどこなの、どれなの……』
 光を引き連れて、影の少女は手を彷徨わせる。この国の光が手に入らない。かけてもらった色には染まらなかった。家の前に下げられていた灯りに手を伸ばしてみた。温かな色だったけれど、この身に馴染むことはなかった。逃げ惑う異形頭の色を抜き取って被ってみた。色も形も自分には合わずに流れて、周りに浮かぶ光となった。
 次から次へと光や色を奪い、そのどの一つも身に馴染まずに手を伸ばし続けるオウガ。
「何色を混ぜても黒絵具は黒だ。今あの子はそうなんだろうな。諦めろと言っても聞きはしないか」
 その様を見たニナ・グラジオラス(花篝・f04392)は嘆息した。あれは『そう』と定義付けられたオウガなのだろう。望む色を手に入れたくて彷徨い、そのどれもをその身に纏うことなく、永遠に彷徨うもの。
「ならば実力行使だ。可哀想だが、ここにキミの望む色はないんだ」
 カガリ、と、相棒の名を呼んだ。
 一声鳴いた焔竜はその身を焔に包み、ニナの手の中で竜騎士の槍となる。くるり。穂先を翻して構えれば、ニナの背にとんと当たる感触。振り返るまでもない。ニナの眼前に流れる黒髪で、背に当たる熱で誰かわかる。
「行こう、リナ」
「えぇ、ニナ」
 色を渇望するオウガに、終わりを。
 
 莉奈がすらりと抜いた薄花桜に宿るは焔。コローロが強き色――地獄の焔、黒炎の色を光から想像し、それを剣として莉奈と相対する。
「あなた。自分を表す色と感情が欲しいですって? 誰かから奪った物で?」
『そうよ。だってわたしには色が無い。望んでも望んんで、内からは生まれない。だから、奪うしかないじゃない……!!』
「……喜びも、悲しみも、その人のもの。奪った所で、あなたのものになんてならないわ」
 憐れみのように目を細めて莉奈が地を蹴った。コローロが剣を振り上げるより早くその懐に潜り込み、
「欲しいって言うならあげるわよ。ただし、色の選択権はあげないけれど」
 下段から薄青の刀身に焔の赤橙纏う剣が振りあがる。逆袈裟に影を切り裂けど、その手応えは何処か不確か。莉奈の返す刃が戻る前に、コローロが黒の剣と突き出した。剣が莉奈の腕を裂けど、すぐに傷に寄り添う花弁があった。ニナだった。花弁に似た皓い焔となって莉奈に添い、その傷をすぐさまに癒す。
 莉奈の背で、ニナがギリとコローロを見据えていた。傷を癒す度に疲労を覚えても、そんなものは些細な問題と自らを鼓舞し、ニナは莉奈を、他の猟兵を、国を、住人を、色を、可能な限り癒し守る。
 必ず守る。
 ニナの目が、そう語っている。
『あいつ!!』
「あなたの相手はこっち、余所見しないでくれる?」
 倒すならば癒しの術使うニナから先にと思っても、莉奈が一歩たりとも引かず、それ以上進むのを許しはしない。ニナを信頼しているからこそ傷を厭わず、振り返らずに駆けられる。ニナも莉奈を信頼しているからこそ、必ず守るという言葉を嘘にせぬよう疲労を跳ね飛ばして周囲を癒し続ける。親友であるが故の眩しさが、コローロの影には眩しすぎて。
『いいな、いいな。お友達、いいな。ふたりでいたら、そんな色が宿るの』
 ほしい。欲しい――。
 渇望がコローロの手を伸ばさせる。その色をくれと重たい剣を軽々と振り回し、莉奈が時に受け流し時に避けながらも、癒しの手段を持つ莉奈とニナの攻撃は、徐々にコローロを圧倒し後退させていく。何一つやらぬ。何一つ奪わせぬと、二人の目が告げている。
『どうして、どうして!? 手が届かない、色を、彩をちょうだい!!』
「キミは自分に染まらない色がほしいのだろう?それは何色だ?この国の色ですら全て、キミの色に染まってしまうのに?」
『……っ』
 焦るコローロに、ニナが息を吐いた。分かっていても認めたくない事実だったのだろう。コローロが押し黙る。いくら色を求めても何一つ手に入らない影の身体。
 ニナもそうは言っても、心ではコローロの黒に染まらぬ色が、光が、どこかにあればいいと願っていた。下がる目線がそれを物語っていて、それに気付くのが莉奈だけだとしても。
「…本当、ニナは優しいんだから。どこかで得てくれればとは思うけど、此処から奪うなら容赦しないわ」
「いや、私は優しくないぞ。だってあの子より、リナとのこの国の想い出を取ったんだからな」
 奪うのなら倒すだけ。その気持ちは変わらない。背にそっと手を当てて微笑む莉奈にニナは頷いて、二人前を向いた。
「ニナとカガリと一緒に、また此処へ遊びに来たいもの。そう簡単に、奪われてもらっちゃ困るわ」
「ああ、勿論だ」
 二人の武器が改めてコローロに向けられる。攻撃を受けるたび失われる光の中で、コローロは焦燥に身を焼いていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ザッフィーロ・アドラツィオーネ
宵f02925と

迫る敵を見れば『早業』にて急ぎ間合いを詰め『なぎ払』い灯りから敵を引き離さんとすべく手にしたメイスを振るおう
…宵と俺の灯りは無事だな。間に合って良かった…と
ああ、そうだな宵。他の灯りも勿論だが…俺達の灯りは必ず護り通すぞ
そう宵へ声を投げつつ灯りへ…特に俺と宵の灯に手を出されぬ様『盾受け』にて『かば』いながら【穢れの影】を敵へと放ち宵の攻撃が当たり易い様動いて行こう

感情と色が欲しいというが…此処にある想いも色も
皆、此処に在る者達が街を想い造り出した物だ
その炎に込められた人の心や願いの輝きを知らぬお前が手に入れたとて、その色はお前の物にはならん
…さあ、諦めて骸の海へと還るといい


逢坂・宵
ザッフィーロ君(f06826)と

僕らの灯りも、皆さんの彩りも 奪うなど、このようなことは見過ごせませんね
ええ、ザッフィーロ君
みなさま、そして僕たちの美しいいろをまもりましょう

ザッフィーロ君の動きに合わせて「衝撃波」「吹き飛ばし」で相手をけん制しつつ
「高速詠唱」「全力魔法」「属性攻撃」「マヒ攻撃」をのせた
【天航アストロゲーション】で攻撃しましょう

欲しければ手を伸ばす、それが救いになるとは限りません
奪うだけが自分を豊かにするものではないのですよ
誰かとの触れ合いにより、彩りが豊かになることもある……
そう、奪わずとも共有すれば、新しい扉が開けるのです




 くすんだ獣を使い、猟兵たちから逃げ出したコローロは、カレイドの街を駆けていた。色彩に溢れている街で通りすがりざまに色を抜き取り、そのどれもが自らを染めることなく周囲に漂う光となる。コローロは走り続けた。
 教会が在った。そこで輝く灯りは、宵色と藍色が混ざり合う星。二つ分の灯りを混ぜたらしいそれは、とてもとても温かい気がして。コローロが光を奪おうと手を伸ばした瞬間――白が翻った。
『……!!』
 急速に距離を詰める男の姿。慌てて手を引っ込めれば、その爪の先を唸りを上げるメイスが薙ぎ払っていった。
「……宵と俺の灯りは無事だな。間に合って良かった」
 その灯りを背に、ザッフィーロ・アドラツィオーネ(赦しの指輪・f06826)が小さく息を吐いた。平素の柔らかさは身を潜め、今は罪穢れを祓う者の顔でコローロを見遣る。その強き視線にコローロが慄きながらも襲い掛かろうとすれば、今度は天より豪速で小隕石が飛来し地を穿った。
「僕らの灯りも、皆さんの彩りも奪うなど、このようなことは見過ごせませんね」
 荘厳な星の杖の先をコローロに向けた、星を降らせた逢坂・宵(天廻アストロラーベ・f02925)がザッフィーロの隣にて立つ。
『邪魔、しないで……!』
「それは出来ない。感情と色が欲しいというが……此処にある想いも色も皆、此処に在る者達が街を想い造り出したものだ。その炎に込められた人の心や願いの輝きが知らぬお前が手に入れたとて、その色はお前の物にはならん」
『なんで! わからないじゃない、今度こそはわたしの色になるかも!!』
「欲しければ手を伸ばす、それが救いになるとは限りません」
 ぴしゃり。
 駄々をこねる子供を諫める大人のように、宵はコローロの癇癪を否定する。
 この国を訪れ、ザッフィーロと宵は此処に暮らす住人たちとも触れ合ってきた。この国の完成を、誰もが喜んでいた。この国に住まうことを、誰もが誇りに思っていた。この国が強く生まれるよう、彼等にとって強き者の象徴である猟兵たちに光を燈して欲しいと乞うた。それもこれも、彼等がこの国を愛するが故。
 それを知らぬまま奪われたのではたまったものではない。
 なにより。
「ああ、そうだな宵。他の灯りも勿論だが……俺達の灯りは必ず護り通すぞ」
「ええ、ザッフィーロ君。みなさま、そして僕たちの美しいいろをまもりましょう」
 愛しいつがいと共に編み上げた自分達の光をこんな風に奪われることを、許せるわけがないのだ。

『みんなはいっぱい素敵な色があるじゃない! わたしだって欲しいもの、くれたっていいでしょ!?』
「貴女だってあるでしょう。奪うだけが自分を豊かにするものではないのですよ」
『じゃあどうしろっていうの!!?』
 灯りを守りながら戦うザッフィーロの動きに合わせ、宵が杖を振り衝撃波でコローロを牽制する。コローロの理想を描き出した焔色の剣は、宵や光を攻撃せんとするたびザッフィーロのメイスと激しくぶつかりあう。
「誰かとの触れ合いにより、彩りが豊かになることもある……そう、奪わずとも共有すれば、新しい扉が開けるのです」
『……もういないよ、そんなの。だから、奪うしかないの!』
 宵の言葉にコローロがぴくりと反応した。けれどもそれも一瞬。コローロが衝撃波に構わず突っ込んできた。なりふり構わずに、宵とザッフィーロ、二人と二人の灯りの色へと手を伸ばし、求める。
「赦しを求めぬ者、人の心と願いの輝きを知ろうともせぬ者には何も出来ぬ。……さあ、諦めて骸の海へと還るといい」
 罪を赦すのが聖職者の役目ならば、罪を裁くのも聖職者の役目。ザッフィーロは自らに課せられた呪いのようなその役割を、今、正しく使う。宵の杖に添うように差し出された手。その手が流星の中であっても影のままのコローロをぴたりと指差せば、コローロの足元から影がボコボコと湧き上がってきた。人の罪、穢れ。ザッフィーロが溜めた人の負が、枷となってコローロの動きを封じる。
「もうお戻りなさい。――彗星からの使者は空より墜つる時、時には地平に災いをもたらす。それでもその美しさは、人々を魅了するのです。星降る夜を、あなたに」
 宵の謡うような詠唱は、杖の先に天の落とし物を呼ぶ。カーテンの如き弾幕がコローロの光と身体を貫いた。
 絶叫が爆発音と混ざり合った。轟音の中、纏う光と影を盾にしたコローロには、もう半分以下の光しか残されていなかった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ナターシャ・フォーサイス
WIZ
貴女だけの色が、想いが欲しい…そう仰るのですね。
その想いを、私は否定しません。
己を表現するものが欲しい、そう願うのは共感できますから。

理想の色を用いるならば、私もまた始まりの光を。
即ち、天使の召喚。
他になにもない、使徒として手にした最初の光。
貴女の想う理想の色は、どんな色なのでしょう。
そしてまた、どう在りたいのでしょう。
私の色を差し出しても構いませんが…
それは、貴女が満たされるものではないでしょうから。
ですが、望む感情、色を探す手助けならば。
使徒として、救い誘うためにも。喜んでいたしましょう。

…ご存知ですか?
光があるから影がある。
ふたつは表裏一体、もしかすると、既に貴女の中にも…


諫名・巡
あなたの色?
もうありますでしょ。どんな色にも染まらない黒が
気高くて厳格な色
あなたはここにいる誰よりも目立ってましたのよ?

『♦のQ』で自分と色を失った方を守りながら、小鳥の『リンカ』で写真【撮影】
コローロ・ポルティさんを写し、写真を本人へ渡しますわ

「夜闇があって初めて光は輝けます。七色の光の真ん中では見えないけれど、真っ黒なあなたはこんなに綺麗なんですのよ」

『黒虹のリボン』の黒蛋白石を私が綺麗だと思うように
理想の色なんて無いと疑念を真実に変えて

あとは他の皆さんが全力で戦えるよう負傷者を【救助活動】
『♦のQ』で安全地帯を作ります
【医術・情報収集】で状態を解析。【オーラ防御】で包み治療を試みますわね




 纏う光は半分で、離れた光は遠く天へ昇って消えていく。きっと元の持ち主の許へと還っていっているのだろう。光が減れば影は濃くなる。まして夜の中。影の少女の姿は闇との境界を次第に減らしていく。
「貴女だけの色が、想いが欲しい……そう仰るのですね」
『そうよ。こんな影だけの姿じゃないの。こんな色はいやよ』
 ナターシャ・フォーサイス(楽園への導き手・f03983)の静かな問いに、コローロは怒気を含んだ声で応えた。黒い影はより一層の影を増す。
「その想いを、私は否定しません。己を表現するものが欲しい、そう願うのは共感できますから」
『じゃあちょうだい。色の無いわたしに、あなたの色をちょうだい。光を、ちょうだい!』
 憎悪すら滲む叫びでコローロがナターシャに手を伸ばす。あの白ならば、影の色が少しでも薄くなるのではないかという期待があった。
「あなたの色? もうありますでしょ。どんな色にも染まらない黒が」
 二人の間に割り込むように、諫名・巡(冬の陽だまり・f21472)が駆けこむ。その手に魔導書。っそていもう片方の手には小鳥。魔導書の頁がコローロの攻撃を防ぐ間に、『リッカ』と名付けられた魔導科学の青い鳥がコローロの許へ飛んでいく。小鳥が瞬き目に映したものは巡の手に渡り、写真という形を結ぶ。
『……そんなわけないでしょっ、何も見えないこの色が!』
「貴女の想う理想の色は、どんな色なのでしょう。そしてまた、どう在りたいのでしょう。私の色を差し出しても構いませんが……それで貴女は満たされるのですか?」
 他人の色は他人のものだと、此処に至るまでに何人もの猟兵たちがコローロに告げてきた。それを何度だって否定してきた。
 色が欲しい。この影のような黒以外の色が欲しい。コローロの中にあるのはそれだけだ。幾つもの色が欲しい。この身を染め上げて隠してしまう黒だけではなくて。例えばこの世界に満ちる空の色のように。この国に灯る光のように。例えば、目の前の二人の少女の纏う幾つもの色のように。
 「ああだったらいいな」という希望と想像は、周囲を漂う光から何色もの色を抜き取りいくつもの色のナイフとなってコローロの周囲を円を描いて浮遊する。それら全て得るのが自分の望みだと言わんばかりに。
 そんな張り詰めた戦場の合間を縫い、小鳥がコローロの目の前にその写真を持ち運んでくる。その中には、目映い光の中にあっても染まらぬ黒。光の中でも姿を失わぬ黒の、コローロの姿。
「ほら、気高くて厳格な色。あなたはここにいる誰よりも目立ってましたのよ?」
 戦えない住人達を背に庇い、魔導書の頁という盾と共に守っていた巡が、コローロに視線を向ける。
「夜闇があって初めて光は輝けます。七色の光の真ん中では見えないけれど、真っ黒なあなたはこんなに綺麗なんですのよ」
 例えば、巡を彩る黒虹のリボンの黒蛋白石を、巡が綺麗だと思うように。どんな色であれ美しいのだ。理想の色なんてない。すべての色には意味と存在価値がある。
 ――美しい。
 そう言われてもコローロにはピンとこなかった。ここに映るのは、いくつもの色を周囲に纏った影人間。黒以外に纏う色がなく、纏えないから色の武器を手にする様は滑稽にすら見えた。
 だが、どうしてもそれを認めるわけにはいかなかった。

『わたしは今のわたしがきらいよ! わたしは、わたしは……!!』
 コローロはくすんだ色の獣を召喚すると共に、色のナイフを全て投擲した。自らの理想の色に疑念を抱いてしまった為に、宙を切り裂くナイフに勢いはない。だが、その合間を縫って獣が急速に距離を詰める―!
「ならば私もまた始まりの光を。他になにもない、使徒として手にした最初の光を、貴女に」
 ナターシャの足元に、突如光の魔法陣が現れた。その中から生まれ出づるは楽園の死者。300体以上の天使の眷属。圧倒的物量により獣はすぐさま地に落ちて消え、天使はコローロを目指して飛ぶ。
「望む感情、彩を探す手助けならば、使徒として救い誘うためにも喜んで致しましょう。ですが、他者から奪うことはいけません」
 天使と共に大きな鎌を振り上げたナターシャは、慈愛を浮かべて微笑む。楽園へと誘う死神のように。
「……ご存知ですか? 光があるから影がある。ふたつは表裏一体、もしかすると、既に貴女の中にも……」
『もう消えちゃったよ、そんなもの!』
 ぶつかりあう誰かの色で作ったナイフと天使。
 無理にでもナイフを通そうとして周囲の光をどんどん失うコローロに、住人の避難活動を行っていた巡はふと想った。
 ――光がなくなってしまった影は、果たしてどんな存在になるのだろうか。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ダグラス・ブライトウェル
いけませんよ、お嬢さん
綺麗なものに惹かれる気持ちはよくわかりますが
今日はカレイドの誕生日
ここにある光と彩は皆、カレイドという国の全て
欲しいから奪うだなんて…ああ、何て“悪い人”

要らないと捨てたその色は誰のものだったんです?

問いながらUCを
彼女の事は僕の獣に任せ
僕は向かってきた獣を解体出来ないか、串刺し等して試す
色を狙うなら押さえ付けましょう
柄で頭も殴りましょう
代償から生まれた獣をバラすなんて面白そうな経験、逃しません
ですが、彼女の答えには、きっと満足出来ない

“1”という単位に収まらない程の光
あの美しさは彼女の犯した悪の数
何色?
何人?
全て知れたとしても
彼女を片付けるまで、僕の獣は収まらない


亞東・霧亥
【WIZ】

必要ないと切り捨てた色も、元は自分を形作っていた色だ。
それは記憶と同じで、楽しい事も苦しい事も覚えているから活かせるんだ。

その無敵の理想は表面だけがキラキラで、中身はスカスカの擬物だ。
ましてや、他人から奪った色が理想に足るなどと片腹痛い。
今すぐ鍍金を剥がしてやろう。

【UC】
俺の殺意に色があるならば、刀身に宿る深淵を纏った様な黒色かもな。
派手なだけの虚飾など恐れる事はない。
一足飛びに懐に潜り、無敵を黒く塗り潰す。

「テメェが無価値と決め付けた色を、今一度、目を凝らして見てみな。黒塗りの世界でも、お前だけの色は映るかもしれないぜ?」




 猟兵たちに色を奪うのを阻止されて、そのたびに距離を取り、そうしてコローロは徐々に街の中心から塩湖の傍へ追いやられていた。避難誘導をしていた猟兵が居た事により人影は既に無く、だが塩湖へ向かう途中の公園には、猟兵の一人が燈した七色の光が燈り音を立てていた。
『あれ、きれいだな。音も色もかたちも。ほしいな、ほしい、ほしい……』
「そいつはやれないな。もうあげたものなんだ」
 宵空の闇から声が降ってきた。それとほぼ同時に衝撃波が幾重にも降り注ぐ。十四色の鈴蘭のランプには指一つ触れさせぬと、亞東・霧亥(峻刻・f05789)が刀を構え、月を背にしてコローロを睨みつけている。
『また邪魔する!! なんでなの、いいじゃないひとつくらい! わたし、この光がほしいんだから!!』
「いいえ。いけませんよ、お嬢さん」
 憤慨して手を伸ばすコローロを、やんわりと止める声。声に驚いたかぴたりと動きを止めて、声の主を探せば。
 その男は、闇から溶け出すようにゆっくりと姿を現した。柔和な笑み湛え、隠しもしない殺意に喜びの色を重ねた男――ダグラス・ブライトウェル(Cannibalize・f19680)は、一歩、また一歩と歩を進めた。
「今日はカレイドの誕生日。ここにある光と彩は皆、カレイドという国の全て。だというのにそれを欲しいから奪うだなんて……ああ、何て“悪い人”」
 ぞっとする程に深めた笑みは、獣のそれに似ていた。
 
『なによ、なによなによなによ!! みんなして、わたしの邪魔をして!!』
 霧亥の威嚇、ダグラスの殺意に気圧されながらも、コローロは自らの周りを浮遊する光と影から、自分と同じ色の黒を抜き取った。
『こんな色、いらない!』
 不要と断じられた彩は見る間にくすみ、くすんだ色の餓狼となって顕現する。彩に飢えた獣は、コローロの理想の色。色彩に溢れた爪と牙を纏い、ダグラスと霧亥に向かい駆け往く。十分な速度を得て振り上げられた爪が、手近にいたダグラスへと振り下ろされる――。
「お嬢さん、教えてください。要らないと捨てたその色は誰のものだったんです?」
 とぷり。
 ダグラスの影が血溜まりに変わる。血が殺意という意思を持って立ち上がり、魔獣の姿となって地を蹴った。体当たりでくすんだ獣を弾き飛ばし、足を止めることなきままにコローロへと襲いかかった。
『……っ!! 忘れたわ、誰のものかなんてしらない。わたしに色をくれなかった色だもの、こんなの要らない!』
「テメェが無価値と決めつけた色を、今一度、目を凝らして見てみな。黒塗りの世界でも、お前だけの色は映るかもしれないぜ?」
 血の魔獣と共に、その逆側から霧亥が躍り出た。彼の手には大振りのナイフ。刀身に霧亥の殺意、深淵纏いし黒の刃が魔獣と同時にコローロを追い込む。二つの凶器がコローロの影の肌に触れる直前。
『そんなの、わたしの理想の色の鎧があれば、効かないもん!』
 自らを色の鎧で固めて防いだ。それはまるで、コローロという人型をもとに、塗り絵をしたような鎧だった。
 ここはこんな色だったらいい。
 服はこんな色だったらいい。
 靴は。髪は。肌は。
 それは全てコローロが想像した『理想の自分』の色なのだろう。そんな色が欲しくて、コローロは他者からいくつもの色を奪ってきた。
 霧亥の刃も血の魔獣の爪も理想の前には通らない。けれど、霧亥は刃をぐっと押し込む。
「その無敵の理想は表面だけがキラキラで、中身はスカスカの擬物だ、ましてや、他人から奪った色が理想に足るなどと片腹痛い」
 ピシリ。
 刃が鎧に押し込められる。
「テメェが無価値と決め付けた色を、今一度、目を凝らして見てみな。黒塗りの世界でも、お前だけの色は映るかもしれないぜ? だから今すぐその鍍金を剥がしてやろう」
 ――みんな、そう言う。
 みんな、みんな、他人の色ではどうにかならないって言う。
『知ってる、知ってるけど、だって、どこにもないもん!! 私のどこにも、彩なんて!』
 理想とした色の鎧に亀裂が走る。
 霧亥の言葉にコローロは揺らいでしまった。それは本当に理想の色なのか、なんて、思ってしまった。鍍金という言葉がこれ以上なく的を得ているようで。理想への疑念はそのまま鎧の強度の直結し、霧亥と血の魔獣の攻撃に耐えきれずに罅割れていく。その隙を見逃さずに、霧亥はただひとつの純粋な色としての殺意の黒を、虚飾に塗れた鎧へと叩きつけた。
『きゃあ!!』
 理想の色の鎧が砕ける。理想だった彩の破片が飛び散る中、霧亥と血の魔獣の刃が閃いた。
 
「なるほど、それが貴女の答えですか」
 柔らかな笑みであるのに、ダグラスの目の奥は底なしの黒い水溜りだった。色に飢えたくすんだ獣を押さえつけ、刃の柄で頭を殴りつけ。振り払ってダグラスの手を逃れ、また襲い来る獣を串刺しにして。
「“1”という単位に収まらない程の光。あの美しさは彼女の犯した悪の数。ああ、貴女の答えは全く物足りない。それでは僕は満足できない。何色? 何人? いつ? どこで?」
 疑念は次から次へと沸いてくる。たとえ全て知れたとて、ダグラスはきっと満足出来ない。代償から生まれた獣をバラすなんて面白そうな経験は、絶対に逃さない。そして最後には彼女を解体するまで、ダグラスの血の獣が収まることはない。もとよりこの質問で満足いく答えなどないのだ。
 綺麗に解体され、バラバラになったくすんだ獣を見下ろすダグラスには、濁った笑みが浮かぶ。ダグラスの視線がゆうらりと、コローロに向いた。
 
 さあ、次は、貴女だ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

橙樹・千織
【迎櫻館】
アドリブ歓迎

影の色、それが貴女の色
貴女がその色を認めてあげられていないからくすんだままなのでは?
数多の色を想いを奪えども、それはただのお飾り
外してしまえば元に戻るだけ
どんなに沢山集めても、混ぜてしまえばそれぞれの良さを打ち消してしまう…

影はどんな光とも寄り添い合うもの
貴女の色が無ければ、どんな彩もくすんでしまう
貴女の色が彩に寄り添っているからこそ美しく輝くのですよ

戦闘開始直後に高速詠唱でユベコを発動
攻撃には破魔を宿す
衝撃波や鎧砕きで敵のマヒを狙う
敵からの攻撃は動きを見切った後武器受けで受け流し、カウンターでなぎ払い

海の底で眠りなさい
貴女だけの色と想いの光を心に灯して


月守・ユア
【迎櫻館】
アドリブ可

灯りにつられて迷い込んだのだろうか?あの子
なんだかとても寂しそうなお嬢さんだ…

コローロ・ポルティ
奪った色を取り込んでも
それは誰かの色でしかないの
君の色にはなれないんだよ

そんなに色を集めたら
君がどんどん見えなくなるよ
手を止めて
君が君らしい存在になりたいなら
人の色で繕っちゃダメだ

美しき人魚の歌を背に
櫻宵さんと千織さんと連携取り戦う
殺戮ノ呪歌を使用
高速詠唱、カウンターを用いて
敵の動きを怯ませて戦うよう試みる

ボクの力は君の命を終わらす事しかできないけど
――君の好きな色はなぁに?
せめて最期は君の好きな色を添えてたいの

あの子に次の生があるなら
その時は好きな色で満たされていれば、いいな…


リル・ルリ
【迎櫻館】
アドリブ歓迎

こんなにも色彩に満ちて美しい国だもの
となりの色彩が欲しくなるのも無理はない、のかもしれない
けれど奪ったところで君は充たされないだろう?
君の色じゃないんだから
僕の色も、櫻の色も。千織のもユアのも。その人だからより美しく映えるんだよ

では僕は歌で心を彩ろうか
僕は歌
歌は僕――さぁ踊っておいで
歌唱には鼓舞をこめて
君達の背をおそうか
響かせる歌声には誘惑をこめて
色求む君を蕩かせて
そちらには行かせないよ
君の色をこの歌でとかしてあげる
歌う「魅惑の歌」
僕が動きをとめて、隙をつくるから
ほら、その間に――色無しの子に、色を与えてあげるといい

次があるなら今度こそ
色彩の万華鏡の中で笑えますように


誘名・櫻宵
【迎櫻館】
アドリブ歓迎

あなたは色を喰らうのね
奪ったところでそれはあなたの色にはならないのよ
千織とユアの言葉に重ねて笑む
素敵な色彩だと思うけれど
どんな色とも寄り添えて

表にはでられないからいやなのかしら

守りは任せてしまっていいかしら?
人魚の歌にウインク一つ
吹雪く薄紅は桜花のオーラ防御
呪殺を添えた衝撃波でなぎ払い、かけて踏込み2回攻撃
千々に走らせる斬撃に生命力吸収の呪詛込めてあなたの慾を頂くわ
ねぇ、色が欲しいならあげるわよ
あたしの桜(もの)になりなさい
そうすれば、あえかな薄紅に――染まれるかしら

攻撃見切りかわしたならば、なぎ払ってカウンター
隙をつくよう放つは「絶華」
美しく美しく、染めてあげるわ




 走って逃げた。色が欲しいだけ。光が欲しいだけ。それだけなのに。奪うしか手段がない。それでも、こんな色はいや。いやなの。
 
「灯りにつられて迷い込んだのだろうか? あの子。…なんだかとても寂しそうなお嬢さんだ……」
 自分の色を嘆いては、他者の色へと手を伸ばすコローロを見て、月守・ユア(月夜ノ死告者・f19326)がぽつりと零した。満たされないもの、手に入れたところで自分のものにならないものに必死に手を伸ばす背は、滑稽と笑うにはあまりに寂しそうで。
「こんなにも色彩に満ちて美しい国だもの。となりの色彩が欲しくなるのも無理はない、のかもしれない」
 淡い唇から零した息には憐れみに似て。けれど、と。リル・ルリ(想愛アクアリウム・f10762)はコローロの背に声をかける。
「奪ったところで君は充たされないだろう? 君の色じゃないんだから。僕の色も、櫻の色も。千織のもユアのも。その人だからより美しく映えるんだよ」
 だから、もう諦めなければならない。自分だけの唯一が欲しいと泣いたとて、他人の唯一を奪ってもそれは他人のもののままなのだと、そろそろ知らねばならない。
「影の色、それが貴女の色。貴女がその色を認めてあげられていないからくすんだままなのでは?」
 愛らしく首を傾げて、橙樹・千織(藍櫻を舞唄う面影草・f02428)はコローロに問う。既に纏う色があるではないかと。数多の色を想いを奪えども、それはただのお飾り。外してしまえば元に戻るだけ。
「どんなに沢山集めても、混ぜてしまえばそれぞれの良さを打ち消してしまう……」
 それは悲しいことだと、千織の瞳が曇る。
『だから、なに。わたしの色にならない色なんかどうなったっていい。わたしは、わたしだけの色がほしいの』
「コローロ・ポルティ。奪った色を取り込んでも、それは誰かの色でしかないの。君の色にはなれないんだよ」
『わからないじゃない!! 世界のどこかには、わたしの色になる色があるかもしれないじゃない!!』
 だが千織の声も、ユアの言葉も、焦燥に身を焼いたコローロには届かなかった。理想の色を手に入れる前に倒されてしまう。そうなってしまう前に――。
 不要だと断じた色を使ってくすんだ色の獣を召喚し、残り少ない光を使って色彩を奪う強奪色の腕を作り上げたコローロに、誘名・櫻宵(屠櫻・f02768)は妖艶に笑む。
「あなたは色を喰らうのね。奪ったところでそれはあなたの色にはならないのよ。世界のどこかにじゃないの、あなたの色はあなたの中にしかないわ」
『うるさい!! うるさいうるさい、みんな、みんな、同じことばっかり言って!! わたしの中ってどこ!? わからないわ、わからないから集めて集めて集めて、奪ってるのに!!』
 コローロの絶叫が戦闘開始の合図だった。
 周囲から手あたり次第に色彩を集める強奪色の腕を振り回し、くすんだ獣が色を喰らわんと牙を剥く。
「……っ。戯れ、歌うのは月の精。囁く声音は開花の燈……!」
 謡うような千織の声。召喚されし小さな式神が友たちに添えば、体の活力を呼び起こし何処までも感覚を研ぎ澄ませる光と成る。
「守りは任せてしまっていいかしら?」
 櫻宵が振り向いてウィンク一つ。応えるは月下美人の人魚。
「では僕は歌で心を彩ろうか」
 静かに頷けば、両手を組み高らかに歌う。

 ――僕は歌。歌は僕。さぁ踊っておいで。
 歌に鼓舞を込めて、君達の背をおそうか。
 響かせる歌声に誘惑をこめて、色求むる君を蕩かせて。
 
 美しき人魚の歌を背に、千織はユアと桜宵と連携取り駆ける。
「影はどんな光とも寄り添い合うもの。貴女の色が無ければ、どんな彩もくすんでしまう。貴女の色が彩に寄り添っているからこそ美しく輝くのですよ」
『つまりわたしはわたしだけじゃいないのと同じってことじゃない!!』
「違う! そんなに色を集めたら君がどんどん見えなくなるよ。手を止めて!」
『いや!! もう集めた光も少ないの、色がなくなったらわたしが見えなくなっちゃう!!』
 彩の中でコローロは俯いてしゃがみ込む。そんなコローロの願いを叶えようと、強奪色の腕は色を求めて千織たちを薙ぎ払おうとし、くすんだ獣は歌うリルを噛み裂かんと唸りを上げる。
 腕がユアを捉える。狙い能わずに潰してやろうと襲い来る腕を、千織の式神と破魔の力宿した衝撃波の力を借りて躱し、ユアは刃を手にする。
「君が君らしい存在になりたいなら、人の色で繕っちゃダメだ」
『でもどこにもないのよ!? わたしにはこんな色しかない!』
「素敵な色彩だと思うけれど。どんな色とも寄り添えて。……噫、それとも」
 リルへの攻撃は、櫻宵が許しはしない。吹雪く薄紅纏いて獣の前に立ち、落とした重心と共に刀に手を添え。
「――表にはでられないからいやなのかしら」
『……!!! あんたなんか、きらい!!!』
 正鵠を得た。
 激昂は悲しみに似て正常な判断を奪い、結果として手繰る獣の動きを単純にする。それは櫻宵の刃の狙いを絞るには十分すぎる隙。
「ねぇ、色が欲しいならあげるわよ。あたしの桜(もの)になりなさい。そうすれば、あえかな薄紅に――染まれるかしら」
 桜宵と獣の距離が無くなる。爪が届く迄、もうすぐ。
 瞬間、響いたのは魅惑の歌。
 人魚は謳う。
 ――そちらにはいかせないよ。君の色をこの歌でとかしてあげる。
 透徹の歌声は魂を惹きつけてやまない恍惚と陶酔の美酒。一瞬でも酔えば、それは櫻宵によって十分な隙となる。
 ――ほら、その間に。色無しの子に、色を与えてあげるといい。
 凶悪な爪を間一髪で避けて、通り過ぎる獣の背に笑み咲かせ。
「美しく美しく、染めてあげるわ」
 鯉口が切られる。
 空間ごと断ち切る桜の剣戟は、くすんだ獣を千々の桜花と染めあげた。
 
 くすんだ獣すら櫻に染めた櫻宵の剣戟をちらと横目にしたユアの眉が、悲し気に下がる。自分の力は、オウガの命を終わらせることしか出来ない。けれど。
「――君の好きな色はなぁに?」
 せめて最後は、好きな色を添えてやりたいと。
 謡うのは終わり。波紋のように広がる死の斬撃。
『……好きなのは、わたしの、最初の色。それも、……歌だった』
 陰に隠れて見えぬコローロの目から、伝うものがあった気がした。
「……海の底で眠りなさい。貴女だけの色と想いの光を心に灯して」
 ユアの刃が、千織の薙刀が、コローロを庇った腕にめり込む。耐え切れなくなった強奪の腕が弾けてたくさんの光が散り行く。やがて天に還る光の中に、コローロの姿は既にない。
「あの子に次の生があるなら、その時は好きな色で満たされていれば、いいな……」
 刃を下ろしたユアの想いが、切なくその場に散った。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

栗花落・澪
気持ちはわからなくもないけど
誰かから奪い、不幸にして、自分だけが望むものを手に入れようなんて
そんな我儘はよくないね
色っていうのは、心っていうのは
誰もが自分で努力して見つけてるものだよ

色に固執するなら、色んな色を作り出してあげようか
足元には【破魔】を宿した★どこにでもある花園を
同じ赤でも違う色
同じ青でも違う輝き
同じ種類の花でも、花弁の付き方、大きさ、香り
全てが少しずつ違うもの
自分だけの色、世界に一つだけの形

敵の感情を引き出すように【催眠】を乗せた【歌唱】を響かせ
攻撃は【オーラ防御】を纏いつつ【ダンス】ステップで回避
隙を作ったら種類問わず色鮮やかな春の花弁の【指定UC】で

あなたの色は、どんな色?


パウル・ブラフマン
愛機Glanzに【騎乗】したまま
自警団の皆を庇うように前線へ。
必要に応じて
負傷者を連れて後方へ避難するよ!

再び対峙したオウガの言葉には小首を傾げて。
アハッ☆
色ならあるよ、キミが気付いてないだけじゃない?

日頃鍛えた【運転】テクを駆使して
オウガの色攻撃を【見切り】躱しつつ
展開したKrakeから
七色に煌く【誘導弾】を射出。
生じた隙に乗じて、死角からGlanzで射程内まで接近。

UC発動―繋いだ手錠に記された銘は“avaritia”。
色は重ね過ぎると黒になるんだ。
素の色が知りたいならナカを見てみよっか、手伝うよ♪
鎖を思い切り引き寄せたら
コローロちゃんの胴を狙い【零距離射撃】!

※絡み&アドリブ&同乗歓迎!




 幾たびの戦いを経て逃げ延び、ほうと燈る柔らかな灯りの中でコローロは一人佇む。身に纏う光は残り少ない。自分を照らすものは少なく、また照らしたとてコローロのくすんだ黒は何も変わらない。上擦った呼吸を押さえつけながら、コローロは自らの身体を見ていた。
 不意にあがる威嚇の唸り声。そちらを見れば、初めに戦った自警団のメンバーなのであろう異形頭たちが、それぞれに武器を構えて居た。オウガであるコローロにとっては取るに足らぬ存在。戦いにもならぬから、その色奪ってやろうと穢れた腕を伸ばした先――銀の閃光が流星のように間に割って入ってきた。
「どもー♪ エイシアンツアーズでっす☆」
 愛機Glanzに跨ったパウル・ブラフマン(Devilfish・f04694)は、双方に快活に挨拶をした。青の左目で敵であるコローロを見据えた後、振り返って異形頭の自警団たちに笑みを見せる。
「ここは大丈夫だから、任せて?」
「……はいっ」
 足の震えを誤魔化しきれなかった自警団たちは、パウルの厚意に頭を下げてその場を離れていく。
『何を勝手に!!』
「勝手はそっち」
 呆れた声はコローロの頭上から。咄嗟に見上げれば、栗花落・澪(泡沫の花・f03165)が花弁を手繰っていた。花弁は滝のようにコローロの頭上から降り注ぎ、無数の切り傷を作っては天に還る。
「気持ちは分からなくもないけど、誰かから奪い、不幸にして、自分だけが望むものを手に入れようなんて、そんな我儘はよくないね」
 自警団たちの避難を妨げないよう、バイクを吹かして注意を引き続けるパウルの前に、澪は降り立つ。か弱く華奢な姿に意思の強さが宿る瞳が、真正面からコローロを捉えた。
「色っていうのは、心っていうのは、誰もが自分で努力して見つけてるものだよ」
『じゃあ色を失くしてしまったわたしはどうしろっていうのよ!? わたしだって、わたしだって……!!』
 好きでこんな色をしているんじゃない、と。
 自らの理想とする色を剣に変えたコローロが叫んでいた。

 まるで子供だった。コローロの叫びは子どもの癇癪と同じだ。そして癇癪を起した子どもは、大抵生半可なことでは納得しない。
 小さくため息をついた澪は、その指先をコローロに向けてぴたりと指して。
「色に固執するなら、色んな色を作り出してあげようか」
 澪の指先から、花弁が溢れた。溢れた花と破魔の力は澪の踏みしめる大地を通り、一直線にコローロへと駆け抜ける。溢れた花弁の色彩は、何処にでもある花園の色。
 同じ赤でも違う色。
 同じ青でも違う輝き。
 同じ種類の花でも花弁の付き方、大きさ、香り。全てが少しずつ違うもの。例え真っ黒な花であったとて同じこと。花弁は香り高く舞い飛んで、澪の紡ぐ歌と共に戦場を駆ける。
 ――花たちが誇る自分だけの色。世界に一つだけの色。
『………綺麗ね』
 コローロの口から零れた声は何処か悲し気だった。決して自分とは交わらぬ彩。花弁と舞い踊り歌う澪は美しくて、羨むことすら放棄した。ただがむしゃらに彩の剣を澪に叩きつけようとしても、澪は軽やかなステップでひらりと避けた。
「ねぇ、あなたの色は、どんな色?」
『……しらない、知らない知らない知らない知らない!!!』
無我夢中で澪を叩き落そうとする刃は我武者羅で、そのどれもがかするだけで望みを果たせない。それでも痛恨と言える一撃が澪に降り降ろされんとした時、爆音と共に銀の風が澪をかっさらった。
「危機一髪ってね☆ だいじょーぶ?」
 自警団の避難を手伝っていたパウルが戻ってきたのだ。航空エンジンを搭載した愛機Glanzならば、この程度の距離は一瞬に等しい。再び退治したオウガをじっと見るも、影の中に沈んだ表情を見ることは叶わない。それでも問答は聞いていたのか、パウルは小首を傾げた。
「アハッ☆ 色ならあるよ、キミが気づいてないだけじゃない?」
『黒だっていうなら、もう、聞き飽きたわ』
 吐き捨てるような声と共に降り注ぐ強奪の腕を、日頃から鍛えた運転テクニックを駆使して見切り躱す。大型バイクと思えぬ繊細で細やかな動きは、流星に似て止まることを知らない。コローロへの直線を確保したパウルはそのまま触手に装着したKrakeを展開し、七色の誘導弾を射出した。
『なに……っ!!』
「花火みたいなもんだよっ♪」
 誘導弾はそれぞれ複雑な軌道を描き、それでもコローロという一点に集中して収束していく。それを叩き落そうと色の刃を振り回してコローロは、誘導弾の爆発の中から一条の銀光が飛び出すのを見た。
「この世は素晴らしい。戦う価値がある。――後半は賛成だ、だっけ?」
 パウルの首輪から具現化した鎖が一直線に伸び、コローロに巻き付いた。接触した瞬間爆発し、ダメージを受けて揺らぐコローロを手錠で繋いで強く引き寄せる。
 標された罪状は“avaritia”. ――非難されるべき欲深さ。
 
 影たるコローロとパウルが零距離で顔を突き合わせる。
「色は重ね過ぎると黒になるんだ。素の色が知りたいならナカを見てみよっか、手伝うよ♪」
 天使のような笑みで。
 パウルはコローロの腹に突きつけた砲塔から弾丸を発射した。
 
『あああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!』

 絶叫が耳をつんざく。
 腹を弾丸に食い破られ、吹き飛んだコローロが撒き散らした色は――鮮血の赤だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

華折・黒羽
あなたにはあげられません
この灯は、きっと俺を思い贈ってくれたものだから
だからこそ色が宿っているんだと思います

…本当は、白桜の色だけだと思っていた
俺の裡に居続けてくれるあの子が、この国を照らすひとつとなってくれると
…でも、いつの間にか俺はこんなにも沢山の彩を貰っていたんですね

きっと
誰かから奪った光では意味が無いんです
言葉、行動、思い…受け取ったものが心の中で色づき育つ

──見て、ほしいんです
俺が最初に貰った、淡く色づく、雪桜の夢
全てはあげられないけれど、分け合う事はできるかもしれないから

色が無いと言うのなら夢を魅せよう
彩が欲しいと言うのなら心を灯そう

どうか、どうか
あなたの心にも灯る色がありますよう


水標・悠里
こんなもので良ければ、と常ならば申し上げるところですが
生憎ともう他人に渡したものを私の都合で差し出すつもりはございません
それに他人からものを奪うのは許せない質なので

存分に舞いなさい
恐れ、そして痛みで埋め尽くして――奪いなさい
贄餐を発動
傍らの蝶にそう命じ、更に足下の影から輩を呼び群れを成す
奪われる前に奪いなさい

そんなに欲しいのならくれてやります
手に持った譲り受けたばかりの明りをコローロへ投げつける
私から奪う分には気安くさせますが
他の方々の灯りはどうにも我慢がなりません
不愉快です
滅茶苦茶な事を言っているのは承知の上です

奪い取られたものの悲しさも悔しさも身に染みておりますので
あんな思いはさせたくない




 なんで。なんで。誰もくれない。何色もくれない。みんな沢山持ってるのに、何色もくれない。
『なんで、なんで、欲しいわ、わたしも色がほしい。ちょうだいよ、ねえ!』
 彩を欲するオウガの叫びは絶叫のように響き渡った。喉が張り裂ける程に叫んでも、どうしてもその声に是というものはない。
「こんなもので良ければ、と常ならば申し上げるところですが。生憎ともう他人に渡したものを私の都合で差し出すつもりは御座いません」
 凛と、しかしどこか儚げな声がした。
「あなたにはあげられません。この灯は、きっと俺を思い贈ってくれたものだから。だからこそ色が宿っているんだと思います」
 柔らかな、それでいて芯を得た声がした。
 夜の闇から浮かび上がるように、水標・悠里(魂喰らいの鬼・f18274)と華折・黒羽(掬折・f10471)がコローロの前に立つ。告げる言葉も思いも別で、けれど色を欲する手に否と言うことは同じ。
「それに、他人からものを奪うのは許せない質なので」
 きっと睨みつける悠里の足元の影から、ぶわと、黒い蝶の群れが羽搏いた。
 
『じゃああなたたちの色を頂戴。あなたたちの光はいらないから、あなたたちを構成する色をちょうだい!』
 叫ぶと同時、コローロは自らの纏う光から不要と断じた色を使い、くすんだ色の獣を召喚する。更に「こうなりたかった」と望む色を集めたカラフルな色の両腕を創造して、臨戦態勢を取る。
 それに対し、悠里もまた夥しい黒い蝶の群れを纏う。
「存分に舞いなさい。恐れ、そして痛みで埋め尽くして――奪いなさい。奪われる前に奪いなさい」
 悠里が指さす先へ向け、蝶の群れが羽搏きの音で耳を叩きながら一直線に向かう。くすんだ獣の爪と牙に蹂躙されても、それ以上の数を以て獣を叩き潰してコローロに襲い掛かる。その蝶が触れれば、激痛が身体を裂き、命を削る。理想の色で作り出した強奪の腕でコローロ本体を守るが、腕が受ける激痛は使用者であるコローロへと還る。悲鳴が上がる。
『いたいいたいいたいいたい!! なんで!? 他人から奪うのは許さないのに、わたしからは奪うの? いいわよ、こんな色ならあげる! そのかわり、あなたの色をちょうだいよ!!』
「はぁ……そんなに欲しいならくれてやります」
 癇癪を起すコローロに溜息をついて、悠里は先程自分用にと譲り受けたばかりの灯りをコローロへと投げつけた。
「私から奪う分には気安くさせますが、他の方々の灯りはどうにも我慢がなりません。不愉快です」
『言ってることが滅茶苦茶よ!』
「そんなのは承知の上です」
 悠里にとって、奪い取られたものの悲しさも悔しさも身に染みて知る感覚だ。だからこそ、あんな思いを他の人達にもさせたくなかった。ここに燈したのは自らの内に輝く光。なれば大切なものであろう。
 ――自分の青とは、違って。
 眸を細めて、悠里は投げ渡した灯りを見つめた。こんな色でも、欲しいならくれてやる。
 
 蝶を押し留めるコローロに向かい、手を差し出しながら黒羽は意識を集中する。
(「――本当は、白桜の色だけだと思っていた)」
 燈した光を思い出す。黒羽の裡に居続けてくれる「あの子」が、この国を照らすひとつとなってくれると、そう思っていた。けれども燈った光には、いくつも、いくつもの色が、白桜に寄り添うように燈っていた。
「いつの間にか俺は、こんなにも沢山の彩を貰っていたんですね」
 それは暖かだった。そして決して寂しくなどなかった。
 誰かから奪った光ではなく、誰かから分け与えてもらった光はこんなにも、温かかった。
 だから黒羽は知る。
「きっと、誰かから奪った光では意味が無いんです。言葉、行動、思い……受け取ったものが心の中で色づき育つ」
 そういうものなのだ。光とは、自分の彩とは、自分だけで色づけるものでもないし、まして奪って身に纏うものでもない。それを――彼女にも知って欲しい。
「――見て、ほしいんです。俺が最初に貰った、淡く色づく、雪桜の夢。全てはあげられないけれど、分け合う事はできるかもしれないから」
 奪うしか手段を持たぬ君に、彩を分けよう。
 色が無いと言うのなら夢を魅せよう。
 彩が欲しいと言うのなら心を灯そう。
『……わけてくれるの。あなたたちの彩を』
 悠里が投げた青の炎を。
 黒羽の魅せる白い桜と薄紅の桜。その夢を。
 
 二つの彩はコローロの上を零れ、しかし彼女を色付けるには至らず。
 けれど、その胸の内にそっと受け入れられていく。青も、白も、どちらも。
「どうか、どうか。あなたの心にも灯る色がありますよう」
 黒羽の祈りが、コローロの目に染みた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

雨糸・咲
綾さん/f01786

ちょうだい、と
求む声は子供の用な純粋さで響く

――だめですよ、

あなたの周りにある色はとても綺麗に耀いて
あなたの存在をよりはっきりと見せてくれているのに

でも…えぇ、
それでは違うのですよね?

私はあなたを望む姿にしてあげられない
でも
その渇望は理解できます

闇を照らす燈のように美しく華やかに
自分自身もあんな風に耀けたらと
そうすれば
優しい秘色の待雪草にも臆せず並んでいられるのではと思うから

同じね、と
添う心だけ差し上げましょう

髪に触れた手の感触に
大丈夫です、と頷いて
綾さんに呼吸を合わせて高速詠唱

柔らかに萌す春の香の彩に乗せた花弁は
何にでも染まれる
けれど
いつまでも染まれずにいる雪の白


都槻・綾
f01982/咲さん

数多の彩りを纏っているのに
満たされない虚ろは
欠けた香炉に「耀き」を蒐集する己とも
似ているように思えて

――えぇ
きっと、

首肯は自身にも言い聞かせるように
違うのでしょう、と続く言は
胸の裡にほとりと落として淡く嗤う

咲さんの眼差しにも
オウガに寄せる思いがあるように感じたから

彼女の頭を柔らに撫でて後
色無き者へと帛紗をひらり、振って見せよう

ゆったり謡い紡ぐのは馨遙の調べ
芽吹く若葉や綻ぶ蕾さえ微睡む心地の春の香り
むずがる幼子をあやすが如き子守歌

ねぇ
馨にもまた「いろ」がある
欲しがってくださいますか

僅かの隙でも得られたのなら
咲さんの繰りし花弁がオウガを包み込むだろう
雪に寄り添った優しき「白」が




 少ない光を使って自らの身体を回復したコローロは、地に滴った自分の血の色を初めて見た。この影ばかりの身体に流れる血は赤だったと、もういつから忘れていたのだろう。
 その体に、いくつか光と彩を分け与えてくれる人が居た。身体に色は付かなかったけれど、少しだけ、飢餓のような心が埋まるような気がした。けれど、それももうきっと終わりだ。この身の終着点は、きっと然程遠くない。コローロは、極めて冷静に、自らをそう判断した。

『……ちょうだい、彩をちょうだい。わたしに、彩を、光を……』
 ちょうだい、と。
 弱く求める声は苛烈なオウガではなく、子供のような純粋さで響く。数多の彩りを纏っているのに満たされない虚ろは、欠けた香炉に「耀き」を蒐集する都槻・綾(夜宵の森・f01786)自身とも似ているように思えて、綾は口を閉ざした。
「――だめですよ、」
 そんなコローロの声をやんわりと優しく諫めたのは、綾の傍らに立つ雨糸・咲(希旻・f01982)だった。年少者を優しく、しっかりと諫めるような声で、咲は一歩踏み出す。
「あなたの周りにある色はとても綺麗に耀いて、あなたの存在をよりはっきりと見せてくれているのに」
『でも、もう光なんかない。色もほとんどない。わたしはただのくすんだ黒。光があればわたしは見えるでしょう。でも、』
「でも……えぇ、それでは違うのですよね?」
「――えぇ、きっと、」
 まるで自分に言い聞かせるように首肯した綾は、「違う」と続く言の葉を胸の裡にほとりと落として淡く嗤った。そう、判っている。咲も綾も、コローロを望む姿にしてやれないことも。「彩が欲しい」と嘆き続けたコローロの渇望も。
 彩が欲しいというコローロの渇望は、このままの彩では満たされないのだろうと知る。影色にくすんだコローロという体。光があれば確かにコローロの姿は際立って見えて、光と自分を双方引き立て合って美しくも見えるのだろう。けれどコローロが求めるのは、光あって初めて見える自分の姿ではなく、光がなくても、闇の中でも、「私は此処に居る」と存在を証明し続けられる彩。
 沈んだ咲の目線が地を彷徨い、コローロが奪い続けた光を視界の端にだけ留めて吐息を吐く。
 闇を照らす燈のように美しく華やかに。自分自身もあんな風に輝けたらと。
 そう思う気持ちは、咲の胸にも秘められている。
 だってそうすれば、優しい秘色の待雪草にも臆せず並んでいられるのではと思うから。
「……同じね」
『……そうなの』
 そう、添う心だけを、咲はコローロに差し出した。咲があげられるものは、それが全てだった。
 綾は言葉少なに語る咲の眼差しをそっと見つめる。愁いを帯びてそっと伏せられたこげ茶色の瞳に、オウガに寄せる思いがあるように感じて。綾はそっと、咲の頭を柔らに撫ぜた。
 咲が驚いて見上げれば、常と変わらぬ綾の笑みがある。けれどその目が、その表情が、自分を心配してくれているようにも見えたから。
「大丈夫です」
 笑みを返しながら、咲は頷いてみせた。思いは在れども自分達が成すべきことを、二人は知っている。それを間違えたりはしない。

 地に座り込む色無き者へ、綾が帛紗をひらりと振って見せた。風に乗って届くのは柔い香り。ゆったりと謳い紡ぐ綾の音は、馨遙の調べ。芽吹く若葉や綻ぶ蕾さえ微睡む心地の春の香り。むずがる幼子をあやすが如き、柔い柔い子守歌。
 その馨りを広げる綾と呼吸を合わせ、咲の唇がまじないの言葉を紡いでいく。
「ねぇ。馨にもまた「いろ」がある。……欲しがってくださいますか」
『……だめよ。そんなに透明で優しい「いろ」じゃ、わたしには似合わないわ』
 黒に包まれた表情は見えぬというのに、綾には言葉紡ぐコローロが困ったように笑っているように見えた。

 それでも春の香へと手を伸ばすコローロを、舞い散った白菊の花弁が覆った。柔らかに萌す春の香の彩に乗せた咲の花弁は、何色にでも染まれるけれど、いつまでも染まれずにいる雪の白。
「こんな色であれたらと――」
『――えぇ、思っていたわ』
 雪に寄り添う優しき「白」が、穏やかにコローロを包み込み。
 そうして、彼女が奪った全ての光を天に還していった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

スキアファール・イリャルギ
あ。

コローロ
きみは……

たったひとりの観客として
歌を聴いてくれたアリス
きみの存在が嬉しかったのに
声を掛けられなかった
劣等感
気恥ずかしさ
きみの方からという淡い期待
きっとお互いそう考えてて

……ッ
この世界で歌い続けて
何も思い出さず絶えていれば!
我身可愛さに扉を潜って!
きみを見捨てたようなもんだろ!
それで罪悪感で勝手に『アリス』を忘れて!!
きみ、を――

――ごめ、ん……


色が奪われても構わない
歌いながら彼女を抱く
きみのことを教えて
「はじめまして」なんだ
本当の姿も名前も色も何も知らない

やっと気づいた
きみが色の無い影人間の歌を聴いてた理由
歌が燈したひかりをきみは見てたんだ
だから今も

もういいんだよ
もう苦しまないで




 奪った光は全て失った。得た力はもうほとんど残っていない。あとはもう、影となって海へと還る。それが、コローロを待つ運命。最早抵抗するのは諦めた。色が欲しいという衝動は未だ身の裡にあれど、もう――。
 
「あ。……コローロ」
 呆けたような声がした。地に伏せたコローロがやっとの想いで視線を向ければ、そこに居たのはまるで自分の生き写しのような影色の人間――スキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)だった。
「きみは……」
 恐る恐る、スキアファールはコローロに手を伸ばした。コローロにはもう振り払う力も残っておらず、ただその行動をじっと眺めるだけ。
 光無きコローロは影と同じ色。本来であれば夜の帳が降りた今は、その姿はもう闇に混じり合ってしまう。それを良しとせず、あえかな光でコローロとスキアファールを宵闇に浮かび上がらせるのは、昏い炎に火花散る、スキアファールの灯りだけ。
 彼女には見覚えがあった。ずっと前に、二人は出会っていた。
 
 此処ではないどこかの、アリスラビリンスにある世界の一つ。
 アリスとして世界に迷いこんだスキアファールは、安全な場所を見つけては一人歌っていた。誰も聞いていなくてもよかった。歌とはスキアファールの全てだったのだから。
 けれども歌はいつしかたった一人の観客を得た。ただ一人だけ、歌を聴いてくれていたアリスが居た。そのアリスがコローロだとスキアファールは直感的に理解する。溢れ出した記憶は堰を切るようにスキアファールの中に広がっていく。
「……きみの存在が嬉しかったのに、声をかけられなかった」
 そっとコローロに手を差し伸べ、そして抱き起した。本当はもっとずっと前にそうするべきだったと、胸の奥がしくりと痛む。
 声をかけるべきだった。けれどそれが出来なかったのは、劣等感や気恥ずかしさ。そして、
「もしかしたらきみの方から、なんて淡い期待があった。でもきっと、お互いそう考えてたんだ」
『……そうね。わたし、声、かけられなかった。あなたからかけてくれるんじゃないかって期待した』
「……ッ」
 コローロが返した言葉にスキアファールが息を飲む。罪悪感がスキアファールの身の裡を駆け巡って、コローロを抱く手が震えた。
 
 あの時、互いに足りないのは勇気だった。胸に突き刺さるような事実に、思わずスキアファールが叫んだ。叫ばずにはいられなかった。
「……この世界で歌い続けて、何も思い出さず絶えていれば! 我が身可愛さに扉を潜って! きみがいるって知ってたのに! きみを見捨てたようなもんだろ! それで罪悪感で勝手に『アリス』を忘れて!!」
 溢れ出した激情は止まらない。吐き出した残酷な己という事実は、刃となって自らを傷つける。
「きみ、を――。――ごめ、ん……」
 絞り出すような声は涙に濡れていた。もう謝っても遅いことくらいはわかっている。それでも謝りたくて、力無きコローロをぎゅっと抱きしめた。コローロは何も言わず、ただスキアファールを見つめている。

 もう色が奪われたって構わないと思った。こんな自分の彩なら持って行ってくれ。それが償いになるのなら。
 ――歌が、零れ落ちた。
 あの時歌っていたものと同じ歌。泣きながら、それでも歌を紡いで。あの時、コローロが聞いていてくれた歌を届けたくて。
「……きみのことを教えて。『はじめまして』なんだ。本当の姿も名前も色も何も知らない」
『……わたしは、コローロ・ポルティ。わたしは、アリスだった。わたしは……』
 か細い声はスキアファールの耳にだけやっと届く。遅すぎた自己紹介だったけれど、その声はきちんとスキアファールへと届いた。それが今は嬉しかった。

「コローロ。やっと気づいた。きみが色の無い影人間の歌を聴いてた理由。…歌が燈したひかりをきみは見てたんだ。だから今も――」
 コローロの姿が少しずつ薄れていく。最期まで離すものかと抱き締めたスキアファールの涙が、ぽとりとコローロに落ちた。
「もういいんだよ、もう苦しまないで」
 コローロの耳をそっと塞いだ。あとはたった一度歌えば、彼女は、
『ねぇ、わたし』
 影色で見えないはずのコローロの顔が、涙が落ちた場所から一瞬だけ鮮やかに色を得て、
『あなたの歌、好きだった』
 笑ったように見えた。
 
 一陣の風が駆け抜ける。塩湖に零れ落ちた天の色彩を全て浚い、二人を包み天穹へと彩を還していく。

 風が止んだ時、コローロの身体は消えていた。
 最期にひとつだけ。
 スキアファールの手の中に、暗闇に灯る火花のようなひかりを遺して。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年02月23日
宿敵 『コローロ・ポルティ』 を撃破!


挿絵イラスト