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狂える神に終焉を

#ダークセイヴァー #異端の神々

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『戦え……戦え……戦え……』

 雷鳴が轟き、暴風が逆巻き、豪雨が滝のように打ち付ける、地獄のような光景。
 あらゆる生命の侵入を拒むようにそびえ立つ霊峰の頂に"それ"は孤独に立っていた。

 "それ"が一体何者なのか、真実を知る者は誰もいない。
 分かっているのは唯、"それ"が遥か昔からこの山の主だったこと。
 人間ではなく、ヴァンパイアでもない。人知を超えた超越的な存在感を放つもの。

 もはや崇める者もいない"異端の神"は、霊峰アウグスタに孤独に君臨する。
 戦え、戦え、戦え、と、狂気に満ちた声を虚空へと放ちながら。


「狂える異端の神の領域を発見しました。リムは猟兵に出撃を要請します」
 グリモアベースに招かれた猟兵たちの前で、グリモア猟兵のリミティア・スカイクラッド(勿忘草の魔女・f08099)は淡々とした口調で語りだした。
 『異端の神々』とは人智を超えた超存在であり、ダークセイヴァーの支配者であるヴァンパイア達ですら容易に手出しのできぬ力を持つ。それゆえに『異端の神々』がはびこる辺境は、ヴァンパイアの領土になっていない未開の地がほとんどである。
 これを言い換えれば、『異端の神々』の脅威を辺境から排除することができれば、ヴァンパイアの支配下にない居住地を作り出せるということだ。危険ではあるが、試みるだけの価値はあるだろう。

「ダークセイヴァーの辺境にそびえ立つ『霊峰アウグスタ』は、古くから神の住まう山とされ、畏怖の対象となっていました。今から数十年前、『戦争卿』ブラッド・ウォーデンと呼ばれるヴァンパイアがオブリビオンの軍勢を率いてこの地の制圧に乗り出しました」
 その異名の通りの戦争狂いであった彼は、ヴァンパイアの支配を拒む神を討ち果たさんと嬉々として戦いを挑んだようだが――その結果は悲惨なものであった。
 山中に進軍したオブリビオンはほぼ全滅。ブラッド・ウォーデン自身は山頂にて相まみえた『異端の神』を辛うじて討ったというが、肉体を失った神はウォーデンに憑依し、その魂と肉体を奪い取ってしまった。
「結果、霊峰を支配する『異端の神』はオブリビオンの身体を手に入れ、遠征軍は壊滅。以来、ヴァンパイアはこの地の支配を断念しました」
 それから数十年もの間、霊峰アウグスタとその周辺の地は、人間もヴァンパイアも等しく立ち入れない不可侵領域と化している。ひとえにそれは、生死の境界さえも超越する『異端の神』の恐るべき力ゆえにだ。

「戦争卿に憑依した『異端の神』は、今も霊峰アウグスタの山頂に存在します。しかしそこに辿り着くまでの道程は容易くはありません」
 同地の周辺には神威によって常に黒雲がたちこめ、激しい風と雷雨が吹き荒れている。
 飛行すらままならないほどの悪天候に加え、山は熟練の登山家でも青ざめるような峻厳な難所となっており、登頂するだけでも容易なことではない。
「そして暴風雨に紛れて、どこからともなく『異端の神』の声が聞こえてきます」

 戦え、戦え、戦え、戦え――心の奥の闘争心を焚き付けるような、狂気に満ちた声が。

「オブリビオンに憑依した影響か、それ以前から正気ではなかったのか……現在の『異端の神』は理性を失い、狂気に陥っています。何らかの対処を取らなければ、山頂に近付くにつれて狂気に魂を支配されてしまうかもしれません」
 かつてオブリビオンの軍勢が敗北したのは、この神の狂気に当てられた所為でもある。
 現在でも霊峰には、狂える神の狂気に惹かれ、理性を失ったオブリビオンが多数、山中をさまよい続けている。
「このオブリビオンの群れも皆様と遭遇すれば問答無用で襲ってくるでしょう。それほど強力な個体はいないようですが、面倒な障害には違いありません」
 『異端の神』そのものと対峙するまでにも、これだけの脅威が想定されている。
 そして山頂にて君臨する『異端の神』本体が、それを遥かに上回る脅威であるのは疑いようがない。

「現在の『異端の神』は、憑依した戦争卿と同様のユーベルコードで戦います」
 理性を失っているため説得は通じず、破壊と殺戮を巻き起こす災害のようなものだ。
 それが狂気に陥った理由は定かではなく、果たしてどういった神だったのか、その名すら現在のダークセイヴァーには伝わっていない。それはもう「忘れられた神」なのだ。
「異端の神の声に耳を傾ければ、それらを推察することも出来るかもしれませんが、狂気に侵されるリスクも高まります。リムは問答無用での討伐を推奨しますが……」
 相手の内情や経緯を知ることが、異端の神との戦いに有利に働く可能性もある。
 どのように神と対峙し、その脅威を排除するかは、猟兵の判断に委ねられる。

「霊峰の神を倒せば、この地の悪天候も解消され、人々が住める土地になるでしょう」
 オブリビオンの脅威のない安全な領域――それは人々にとって何より貴重なものだ。
 どうかよろしくお願いします、と猟兵達に一礼してから、リミティアは手のひらにグリモアを浮かべる。
「転送準備完了です。リムは武運を祈っています」



 こんにちは、戌です。
 今回の依頼はダークセイヴァーにて、辺境の地に君臨する『異端の神』を倒し、人々のための安住の地を切り拓くのが目的です。

 第一章では異端の神の住まう山頂を目指して『霊峰アウグスタ』を登ります。
 山中は険しい岩場が続き、暴風雨の影響により飛行も困難となっています。
 さらに霊峰に響き渡る異端の神の声が、立ち入る者を狂気で蝕みます。

 第二章では神の狂気によって理性を失ったオブリビオンとの集団戦です。
 問答無用で襲ってきますが、これを撃退することで山頂への道が開けます。

 第三章では霊峰の山頂にて、狂える異端の神との決戦となります。
 現在の肉体である『戦争卿』ブラッド・ウォーデンは、その異名に違わぬ戦闘力を持った強敵です。理性的な判断力は損なわれていますが、それでも十分に脅威でしょう。

 狂える神に終焉をもたらし、人々の未来のための新天地を。
 それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
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第1章 冒険 『荒天のロッククライミング』

POW   :    動作ひとつひとつにマッスルな躍動感を込めて登る。

SPD   :    黒い悪魔のようにカサカサと素早く登る。

WIZ   :    にんげんだもの、準備をしっかりとして万全の態勢で登る。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

セルマ・エンフィールド
ひどい天気ですね……この地の邪神を倒せばこの気候もマシになるといいのですが。

邪神の声にいちいち耳を傾ける気はありません。
この後の戦闘で有利になる可能性はありますが……堅実にいきましょう。

この世界やUDCで邪神とは何度も相対してきましたし、こういった声にも慣れてきました。聞こえてくる声を『狂気耐性』で耐えつつ進みます。

念のためスローイングナイフにワイヤーを付けておき、木などに『投擲』して巻き付けることで命綱にしながら行きましょう。
命綱がない時に風に煽られたり岩場で足を滑らせたりしても【スカイステッパー】があれば空中を足場にできますし、滑落することはないでしょう。



「ひどい天気ですね……この地の邪神を倒せばこの気候もマシになるといいのですが」
 荒天に見舞われる山を見つめながら、セルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)は呟く。空には雷鳴が轟き、風はうなり、雨は滝のように打ち付ける、こんな天候では『異端の神』の座す頂上に辿り着くのも一筋縄ではないだろう。
 だがこれも神の乱心によるものであるなら、元凶を討つことで改善されるはずだ。彼女は怯むことなく、霊峰アウグスタに最初の一歩を踏み出した。

 戦え……戦え……戦え……。

 ――山肌に足をかけるなり、風雨に紛れて聞こえてくるのは狂気に満ちた呼び声。
 すぐにこれが『異端の神』の声だと悟ったセルマは、惑わされぬよう気を強く保つ。
「邪神の声にいちいち耳を傾ける気はありません」
 このダークセイヴァーやUDCアースなどで、邪神の類とは何度も相対してきたし、こういった声にも慣れてきた。経験によって培われた耐性が、狂気を遠ざける。
 耳を貸さないように心を頑なにしていれば、邪神の声は次第に聞こえなくなった。
「この後の戦闘で有利になる可能性はありますが……堅実にいきましょう」
 まだまだ難所が想定される中、不確定な要素に身を委ねることはなるべく避ける。
 それが邪神の意思に深入りすることを避けたセルマの冷静な判断であった。

 神の狂気をはねのけたものの、峻厳な山と荒天は変わらず登山者に牙を剥く。
 雨で濡れた岩場は非常に滑りやすくなっているうえ、予測困難な暴風のせいでバランスを取るのも難しい。そして暗雲と豪雨によって視界は常に最悪だ。
「……っ」
 ふいに吹き付けた横殴りの風に煽られ、セルマが足を滑らせる。ここで滑落すれば大怪我もありえる――しかし彼女は慌てずに【スカイステッパー】で空中を蹴り、体勢を立て直しながら袖口よりワイヤーを付けたスローイングナイフを取り出す。
 近くにあった枯れ木に狙いをつけ、やっ、と鋭い掛け声と共に投げ放つと、うまくワイヤーが幹に巻き付いた。何度か引っ張ってきちんと固定されているのを確認し、ゆっくりとワイヤーを手繰り寄せて地上に復帰する。

「ふう……」
 無事に傷ひとつなく窮地を超えたセルマは、再び慎重に歩きはじめる。
 ワイヤーという命綱を支えにして、焦ることなく一歩ずつ。
 ワイヤーを張れるものが無い場所では、空中を足場にして切り抜ける。
 山頂までの道程はまだ遠く、しかし着実にゴールには近付いていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シャルロット・クリスティア
WIZ

 厳しい山脈ですね……。
 解放が成ったとして、ここで暮らすのは簡単なことではなさそうですが……逆に言えば、上手く御することさえできれば、天然の城塞として利用することもできましょう。
 やってみる価値はありそうです。

 まずは物理的な対策はとれるだけ取っておきましょう。
 ロープに楔……トラップ用の道具ですが【サバイバル】にも十分使える。
 頑丈そうな岩盤等の地形を【見切り】【利用】して命綱を張り、崩落に備えます。
 しっかりと筋道を作っておけば後続の助けにもなりますしね。
 後は定期的に木に傷でもつけて、迷子防止の目印としましょう。

 声は……まぁ作業に集中して耳に入れないようにするのが一番ですかね。



「厳しい山脈ですね……解放が成ったとして、ここで暮らすのは簡単なことではなさそうですが……」
 ごつごつとした岩場を乗り越えるように進みながら、シャルロット・クリスティア(彷徨える弾の行方・f00330)は思案する。平地とは異なるこの峻厳な山では、たとえ神の狂気が収まったとしても居住地や生活の糧を作るのは難しいかもしれない。
「……逆に言えば、上手く御することさえできれば、天然の城塞として利用することもできましょう。やってみる価値はありそうです」
 ヴァンパイアの支配さえ拒絶したこの地を、抵抗のための拠点として再建する。
 狂える『異端の神』の討伐が無事に成し遂げられれば、それも悪くないだろう。

「とれるだけの対策を取っておいて正解でした」
 山と荒天という自然の猛威に対抗するため、シャルロットの準備は万端だ。
 山肌の地形をじっと見極め、頑丈そうな岩盤に楔を打ちこみ、ロープを張る。元はトラッピングツールの一部だが、サバイバル用の命綱としても十分に役立つ道具だ。
 きちんと固定されているのを確認すると、雨で滑らないように撥水布を巻きつけた手でしっかりとロープを握りしめ、崩落に備えながら慎重に進む。

「しっかりと筋道を作っておけば後続の助けにもなりますしね」
 山場に張ったロープは、あとからやってくる猟兵のためにそのままにしておく。
 これだけ激しい暴風雨の中では、自分がどこに居るかを把握するのも難しい。ともすれば遭難の危険性もある現場で、道標にもなる命綱の意義はとても大きいものだ。
 先行するシャルロット自身、帳のような豪雨に晒されて道を見失いかけることも多々。最悪迷ってしまっても元の場所に戻れるように、対策は怠れない。
「これでよし」
 まばらに生えている木や目立つ大岩などにナイフで傷をつけ、迷子防止の目印に。
 周囲の地形についてもなるべく頭に入れるようにして、堅実に一歩ずつ進む。
 そうしてひとつひとつ難所を乗り越えながら、少女は山頂へと近付いていった。

 戦え―――。

 彼方から囁くは異端の神。大声ではないのに、雷雨の中でもはっきりと聞こえる。
 常人であればその狂気に侵され、内より湧き上がる闘争心に狂い果てるところだが――あいにく今のシャルロットには、そんな声に耳を傾けているヒマなどない。
 一瞬の気の緩みが事故に繋がる状況が逆に幸いしたと言うべきか。集中しながら黙々と作業をこなす彼女の耳には、異端の神の声などまるで届いてはいなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シエラ・アルバスティ
狂気の果てが私なので問題ないですね。
神がいる事での秩序の副作用で狂気が生まれると言うのに、わざわざ狂気を最初から促進する神とは意味が分かりませんね。
支配が上手くいかないからと狂気に溺れ出す人々に逆切れした神ですか?
人間臭い神です。
では殺しに登りましょう。人と神は殺してなんぼですから。

『雷糸』『アルビオン』『死風の衣』『ウィンドリフレクター』を駆使して山頂を目指します。
『雷糸』の先端に刃を具現化させ壁に突きさし、『アルビオン』で作りだした足場で登りつつ『死風の衣』で風を軽減しつつ『ウィンドリフレクター』で壁から離れたりくっつきながら上に登っていきます。
一気に行けるならユーベルコードで十分です。



「神がいる事での秩序の副作用で狂気が生まれると言うのに、わざわざ狂気を最初から促進する神とは意味が分かりませんね」
 理解不能ですと言わんばかりの表情で、シエラ・アルバスティ(根源観察者・f10505)は首を傾げる。神の思惑など人には計り知れないもの、と言ってしまえばそれまでかもしれないが、それにしても彼女には腑に落ちないようだ。
「支配が上手くいかないからと狂気に溺れ出す人々に逆切れした神ですか? 人間臭い神です」
 真理の探求を命題とする彼女は、ものを見る視点も只人とはやや異なる。
 この地を不可侵と成さしめた狂気の神を"人間臭い"と評する者はそうはいまい。

「では殺しに登りましょう。人と神は殺してなんぼですから」
 まるで買い物に行くような軽い口ぶりで、霊峰の山中へと足を踏み入れるシエラ。
 まずはそそり立つ山肌に手をかざすと、装着した手甲から「雷糸」が射出され、先端に具現化された雷の刃が岩壁に突き刺さる。これで手掛かりと命綱は確保できた。

「これだけ天気が悪いと一気に行くのは難しそうですね。仕方ありません」
 雷糸をたぐりながら「アルビオン」と名付けられた白いブーツで大気を蹴り、空中に足場を作り出す。それは、さながら見えない階段を昇るような登山風景だった。
 もう少し視界か風向きが良ければ【クレイジー・アトモスフィア】で山頂まで飛んでいくという手もあったのだが、これでも十分に快調なペースと言えるだろう。

 戦え……戦え……戦え……。

 吹き荒れる風の音に紛れて、山頂の方角より異端の神の声が聞こえてくる。
 不気味で、奇怪で、狂気に満ちた――しかしシエラはけろりとした顔で聞き流す。
「狂気の果てが私なので問題ないですね」
 彼女がいったいどのような経緯でその境地に至ったのか、それは本人にしか分からない。幼少期に起こった事件とその身に背負った絶望が影響しているのか――いずれにせよ異端の神の囁きは、シエラの精神にいかなる変節ももたらしはしなかった。

 戦え―――。

「うるさいですね」
 シエラは煩わしそうに狼の耳をぱたりと伏せると、風の加護を宿した「死風の衣」の力で、吹きすさぶ暴風と共に声を遮断する。狂った神の戯言にいちいち付き合ってやるつもりなど、彼女には微塵もなかった。

 ウゥゥゥゥ……。

 山頂に近付くにつれて嵐は激しさを増し、気を抜けば山肌から身体を引き剥がされるか、逆に叩きつけられそうになる。シエラは身に纏う風の力場「ウィンドリフレクター」の特性を活かして壁にくっつき、時には離れることで、滑落や激突を防ぐ。
「まだまだ先は長そうです」
 ふうとため息を吐きながら、少女は暗雲に隠された山頂をじいっと見据え。
 ペースを崩さず、事故を起こさないよう慎重に山肌を昇っていくのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

鈴木・志乃
……狂った神様がいたとして、どうして狂ってしまったんだろうね?
誰か意図的に狂わせたんならそれがオブリビオン・フォーミュラだったりして

ま、今はそれどころじゃないね
【狂気耐性】のある【オーラ防御】展開
【全力魔法】で思い切り拡声した【大声】で叫ぶよ
私は私、どこにいたって変わりはない(UC発動)
さあ、狂気なんて声の【衝撃波】で【なぎ払い】だ

勇気を持ってこの先の誰かを救いにいこう
風の流れを【第六感】で【見切り】、早業念動力で各種道具を操りながら【ロープワーク】の技量で進んでいくよ
一瞬の気の緩みが命取りだ。慎重に進まないとね。

神より上位の存在がいるとするなら、それって一体……どこにいるんだろう



「……狂った神様がいたとして、どうして狂ってしまったんだろうね?」
 峻厳なる霊峰を見上げながら、鈴木・志乃(ブラック・f12101)はふと疑問を抱く。
 それは今回の依頼が起こった根幹とも言えるもの。この霊峰を支配するという異端の神を狂わせたものは、果たして"何"だったのか。
「誰か意図的に狂わせたんならそれがオブリビオン・フォーミュラだったりして」
 あくまで憶測に過ぎないが、もしそれを確かめることが出来れば、この世界の闇を晴らす手掛かりにもなるかもしれない――彼女はそう考えていた。

「ま、今はそれどころじゃないね」
 好奇心はあるものの、今はじっくりとそれを考察しているほどの余裕はない。
 山頂から吹き下ろしてくる暴風と共に、志乃の元にも神の声が聞こえてくる。
 戦え、戦え、と、譫言のようにそればかりを繰り返す、狂気に満ちた声が。
「私は私、どこにいたって変わりはない」
 ――だが、志乃の魂はこれしきの狂気に屈しはしない。狂気を緩和するオーラの防壁を展開し、邪神の囁きに対抗するため、拡声の魔力を込めて思いっきり叫ぶ。

「心は自由だ、どこにでも行ける。私達は自由に生きていける!」

 荒れ狂う雷雨や風の音さえも吹き飛ばすような、高らかな大声が霊峰に響き渡る。
 【This is what we are.】――志乃の叫びは呪詛を祈りに変え、狂気をなぎ払う聖者の福音。彼女の聖域では、人々の自由意志を阻害する効果は一切意味を為さないのだ。

 戦え――たたか――。

 魂の叫びにかき消された異端の神の声は、それっきり聞こえてこなくなった。
 志乃はにこりと口元に笑みを浮かべると、山頂に向かって力強く一歩踏み出す。
「勇気を持ってこの先の誰かを救いにいこう」
 この胸に、果たすべき使命と魂の輝きがある限り、恐れるものなど何もない。
 さりとて彼女は決して無謀なわけではなく、登山用具も万全に用意してある。
 念動力を駆使してロープや固定具を操り、ごつごつとした岩肌と自分の身体を繋ぐと、足を滑らせないように一歩ずつ、足場の感触を確かめながら歩いていく。

「一瞬の気の緩みが命取りだ。慎重に進まないとね」
 山は一種の魔物である。特に荒天ではどこに危険が潜んでいるか分かったものではない。
 志乃は第六感を研ぎ澄ませて気流を読み、風に身体を持っていかれないよう念動力で身体を支え、命綱をしっかりと掴みながら山頂を目指す。

「神より上位の存在がいるとするなら、それって一体……どこにいるんだろう」
 嵐の山中で再び志乃の脳裏に浮かんだのは、神に狂気をもたらした者への疑問。
 その答えは、果たしてこの先にあるのか――それはまだ誰にも分からなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

カタリナ・エスペランサ
吸血鬼に異端の神とやら、思うところは色々あるけど
目下自由に飛べないってのが一番気に入らないね

って事でUC【架空神権】発動。
空間を《ハッキング》侵蝕し物理法則を改変する黒風を纏い悪天候を無視、《目立たない+ものを隠す+迷彩+忍び足》の隠密も重ねて飛んでいくよ
黒風に付与した《気合い+環境耐性+狂気耐性+オーラ防御》で心身を保護しつつ、後の戦いに備えて《情報収集+学習力》のセンサーとしても活用
UCの権能拡張無しでも《念動力+ハッキング+地形の利用》で環境をある程度味方につけて《空中戦》を展開できるように狂気侵蝕や暴風雨の性質を《見切り》解析しておこうか
勿論登山に難儀してる味方が居ればお手伝いするよ



「吸血鬼に異端の神とやら、思うところは色々あるけど、目下自由に飛べないってのが一番気に入らないね」
 空を覆う分厚い雲と雷雨と暴風――それらを見上げて心底不機嫌そうな顔をしているのはカタリナ・エスペランサ(閃風の舞手(ナフティ・フェザー)・f21100)。
 この悪天候ではどんな鳥や飛行機でも飛ぶのは無謀だが、そんな道理は彼女には関係ない。自分から空を奪うというのなら、そんなものは埒外の力で乗り越えるまでだ。

「って事で、少しばかり書き換えるよ?」
 発動したのは【架空神権 ― domination ―】。黒い風がカタリナの身体を包み、その神威が空間の物理法則を改変していく。"空を飛ぶ"ための法則――すなわち航空力学そのものを都合よく改変することで、この悪天候でも空を飛ぼうというのだ。
「こんな嵐くらいで、アタシを止められると思わないでほしいな!」
 翼を羽ばたかせれば、逆巻く風の流れをまるっきり無視してその身は空を舞う。
 そのままカタリナは黒風で心身を保護しつつ、山頂を目指して悠々と飛んでいく。

 ――戦え。

 叩きつけるような冷たい豪雨と共に、彼方から聞こえてくる異端の神の声。
 しかし、そのどちらも黒風のおかげでカタリナに大きな悪影響はない。
 同時に雨雲と同色の黒風は、迷彩となって地上から彼女の姿を目立たなくしている。羽ばたきの音を潜めていることもあって、敵に発見される恐れは少ないだろう。

 ――戦え。それが幸福への道なれば。

 ――戦え。それが信者の願いなれば。

「今のは……?」
 荒天を飛ぶカタリナの耳に、それまでとは違う意味のある言葉が飛び込んでくる。
 防具であると共にセンサーとして周囲に展開していた黒風が、狂気に含まれていた異端の神の思念を受信したのだろうか。ひどく断片的で要領を得ない内容だったが、覚えておけば後の戦いの役に立つかもしれない。

 ――ともあれ今、それを深く考察しているほどの余裕はカタリナには無かった。
 黒風を纏っても依然として暴風雨は完全に無視できるものではなく、機動の制御や風向きの予測にそれなりの意識を裂き続けなければいけなかったからだ。
「思ったよりも難儀だね、これは」
 嵐の空を攻略するために、カタリナはユーベルコードによる権能拡張のみに頼るのではなく、ヒトとして磨いた技能も併用する。念動力による干渉で気流をある程度味方につけ、暴風雨の中でも空中戦を展開できるように、嵐と狂気の解析を進める。
 その性質を予め見切れていれば、いざ戦いになっても遅れは取らないだろう。

「お手伝いは今のところ必要なさそうかな」
 ふと地上のほうに視線を向けると、登山具を頼りに山を登る猟兵達の姿が見える。
 少なくとも現状では、先に進めなくて難儀している者はいないようだ。
 とはいえ、何かあってはいけない。もし必要になればすぐに支援に向かえるよう一定の高度を保ちながら、カタリナは黒風と共に翔けていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雛菊・璃奈
この暴風雨もその神様の力なのかな…?
なんだか悲しいような狂おしいような…。

【呪詛、属性攻撃、オーラ防御、高速詠唱】による風の防御呪術を纏い、暴風雨の影響を軽減…。
更に岩場の各所に【unlimited】による魔剣の現身を放ち、突き立てる事で柄の部分を足場にし、【見切り】で最短ルートを見極める事でできるだけ安全に最短で身軽に上っていくよ…。

後は【呪詛、呪詛耐性、オーラ防御、高速詠唱】による防御呪術で耐性を付与しつつ、聞こえてくる神様の声から少しでも内情を知っておきたいかな…(【情報収集】)。
素の状態で聞くのに比べれば大分良いと思うし…。



「この暴風雨もその神様の力なのかな……? なんだか悲しいような狂おしいような……」
 止むことのない嵐の中で、雛菊・璃奈(魔剣の巫女・f04218)はぽつりと呟く。
 まるで立ち入る者を拒むように、激しく荒れ狂う落雷と豪雨と暴風。
 恐らくは彼女の推察通り、この荒天そのものが異端の神の力の顕れなのだろう。
 狂気に堕ちた神がなにゆえかくも荒ぶり続けるのか、その理由は定かではないが。

「なんにせよ……登ってみないことには分からないね……」
 嵐の猛威に耐えるために呪術による風の防御術式を纏った璃奈は、呪詛の風で暴風雨を軽減しながら霊峰に足を踏み入れる。その目の前に立ちはだかる峻厳な岩肌は、まるで山そのものが彼女を拒絶しているかのようだ。
「呪われし剣達……わたしに、力を……」
 この天然の難所を乗り越えるために、璃奈が頼るのは祀りし魔剣・妖刀の数々。
 【unlimited curse blades】によって顕現する無数の魔剣の現身が岩場に放たれ、彼女のための足場を作り上げる。

「よい、しょ……」
 伝承にある地獄の"剣山刀樹"のごとく、山肌に突き立てられた魔剣の柄に足をかけて、ひょいひょいと身軽な身のこなしで岩場を乗り越えていく璃奈。そう簡単に折れたり抜けたりしないと魔剣達のことを信頼しているため、その足取りに迷いはない。
 できる限り安全に、そして最短で山頂までたどり着けるルートを見極め、嵐に負けぬようしっかりと剣を掴みながら、どんどん先に進んでいく。

 戦え……戦え……戦え……。

 ――そんな彼女の耳にふと聞こえてきたのは、風の音に紛れる異端の神の声。
 璃奈はとっさに呪詛への耐性を得る防御呪術のオーラを纏い、狂気の侵蝕を防ぐ。
 しかし彼女はそのまま狂気を完全にシャットアウトするのではなく、あえて術式越しに耳を傾けることを選んだ。

「今のうちに少しでも内情を知っておきたいかな……素の状態で聞くのに比べれば大分良いと思うし……」
 狂える異端の神の真意が分かれば、少しは鎮めるのも容易になるかもしれない。
 じっと耳を澄ませる魔剣の巫女の元に、荒れ狂う風と雨の音の中から声が聞こえてくる。

 戦え……奪われぬために……。

 戦え……故郷を失わぬために……。

 戦え……生きるために……。

 ――それは"託宣"だと、巫女である璃奈は直感的に理解した。
 神が人に与える御言葉。この神は狂いながら尚も何かを伝えようとしている。
 すでにこの神の信仰は忘れ去られ、名前すらも残ってはいないというのに。

「……っ」
 声に焚き付けられるように、めらめらと闘争心の炎が燻りはじめる。
 これ以上は侵蝕されると判断した璃奈は、そこで異端の神の声を遮断した。
 聞こえてきたものは断片的な意思のみ。これだけではまだ真意には遠い。
 しかし璃奈には、たった今聞いた神の声が、どこか悲痛なものに感じられた。

成功 🔵​🔵​🔴​

フレミア・レイブラッド
過去に別の異端の神を倒した事があるけど…あの時の異端の神はヴァンパイア同様のロクでもない考えの持ち主だったわね。
今回の神様はどうだったのかしら…

【ブラッド・オブリビオン】で「荒野に飛来する氷鳥達」の「氷雪の鷲獅子」を召喚。
【念動力】【サイコキネシス】で自身と鷲獅子の周辺に球状の防御壁を展開し、暴風雨と狂気に対する防御を行い、飛んでいくわ

今回もお願いね、鷲獅子!

それにしても、数十年も前から影響を及ぼしてるだなんて、どれだけの狂気に侵されてるのかしらね…(眉を潜めながら)
戦争卿とやらもロクな吸血鬼じゃなさそうだし、



「過去に別の異端の神を倒した事があるけど……あの時の異端の神はヴァンパイア同様のロクでもない考えの持ち主だったわね」
 今回の神様はどうだったのかしら――と、以前にあった依頼のことを思い返しながら、フレミア・レイブラッド(幼艶で気まぐれな吸血姫・f14467)は目を細める。
 かつての神格を記録するものはもはや残っていないが、少なくとも狂気に陥り、オブリビオンの肉体を得た現在の『異端の神』は、討たねばならぬ存在だろう。

 ――神の本質を見定めるためには、まずはこの霊峰を登頂しなければならない。
 立ちはだかる峻厳な岩場と、荒れ狂う暴風雨が、あらゆる生者の侵入を阻む。
 これは単独で登りつめるにはなかなか難儀だと判断したフレミアは、【ブラッド・オブリビオン】を用いて自らの足となる騎獣を召喚する。

「血の隷属を用いて命ずる……。フレミア・レイブラッドの名の下に、嘗ての力を以て骸の海より戻り、わたしに力を貸しなさい」

 吹きすさぶ暴風よりもさらに冷たい風がさあっと起こり、氷の結晶がちらつく。
 その中から現れたのは、大鷲と獅子を組み合わせたような勇壮な姿の魔獣。
 それはかつてフレミアの手で討伐されたオブリビオン『氷雪の鷲獅子』だった。

「今回もお願いね、鷲獅子!」
 フレミアが颯爽と背中に飛び乗ると、氷雪の鷲獅子は一声鳴いて空に舞い上がる。
 かつてはアックス&ウィザーズの荒野を荒らし回った魔獣も、血の隷属によって喚び出された今は、召喚者に仕える忠実な眷属だ。
 とはいえ鷲獅子の剛健な翼を以ってしても、この嵐の空を飛ぶのは容易ではない。
 しかし、その周辺に展開された球状の膜――フレミアの張った【サイコキネシス】と念動力の防御壁が暴風雨を遮ることで、その飛行性能はフルに発揮される。

「その調子よ!」
 打ち付ける豪雨にも暴風にも負けず、矢のように風を切って飛んでいく鷲獅子。
 フレミアはその背中にしっかりと捕まりながら、楽しそうに笑みを浮かべる。
 だが、そんな彼女達の耳元に飛び込んできたのは、彼方から囁く誰かの声。
 狂気的で、偏執的で、怪奇的な――狂える異端の神の呼びかけが精神を侵す。

 戦え、戦え、戦え、戦え――。

 その影響を受けるのは人間だけではなく、オブリビオンとて例外ではなかった。
 狂気の声を聞いてしまった氷雪の鷲獅子が取り乱し、空中でバランスを崩す。
 しかしフレミアはすぐさま【サイコキネシス】の防御壁の強度を高め、自らの強い思念の力によって、異端の神の意思をシャットアウトする。
「しっかりしなさい!」
 混乱する鷲獅子に喝を入れて正気に戻し、手綱を操るように首周りの羽毛を掴んでバランスを取り直す。対処が早かったこともあって、どうにか墜落せずには済んだ。

「それにしても、数十年も前から影響を及ぼしてるだなんて、どれだけの狂気に侵されてるのかしらね……」
 もう声が聞こえなくなったのを確認すると、フレミアは眉を潜めながら呟く。
 たった今の出来事を鑑みても、神の乱心が未だ収まる気配すらないのは明らかだ。
 相当に根の深い狂気や妄執と言うべき何かが、ソレを衝き動かしているのだろう。
「戦争卿とやらもロクな吸血鬼じゃなさそうだし、嫌な予感がするわね……」
 狂える神に、悪辣な吸血鬼。そのふたつが一体となった現在の『異端の神』が果たしてどんな状態なのか――最悪の想定も必要だろう。

成功 🔵​🔵​🔴​

リーヴァルディ・カーライル
…ん。言われるまでもない。
戦うわ。この世界の闇を晴らすまで。
何処までも。この世界の誰よりも…ね。

自我の存在感を増幅する“調律の呪詛”を付与、
精神攻撃への耐性を得ると同時に限界突破した精神力を溜めUCを発動

“精霊石の宝石飾り”に救済の祈りを捧げ、
闇に紛れた世界の精霊達の残像を暗視して見切り、
山の精霊達を浄化して雷雨を鎮める光を放つ

…闇の娘がこの世界の精霊に請い願う。
狂気に囚われた霊峰の精霊達の救済を…。

後は軍靴の地形耐性を頼りに、
怪力の踏み込みから弾丸のように山道を踏破する

…神の住まう霊峰がいつまでも荒れているのは、
貴方とて本望ではないはず。

…人類の繁栄の為に。そして貴方の為に討たせてもらうわ。



 戦え……戦え……戦え……。

 霊峰アウグスタに絶えず響く異端の神の声は、それを耳にした者を狂気に陥れる。
 戦え、と命ぜられるがままに、己の闘争心を制御できなくなり、やがて破綻する。
 かつてこの地を制圧せんとしたオブリビオンの軍勢は、そうして互いに争いあい、全滅の憂き目となった。

「……ん。言われるまでもない」
 だが。異端の神の囁きを受けてなお、沸き立つ闘争心に自我を失わぬ者がいる。
 リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)の闘志を支えるものは誓いと使命。そこに狂える神の狂気が入り込む余地などありはしない。
「戦うわ。この世界の闇を晴らすまで。何処までも。この世界の誰よりも……ね」
 人類に今一度の繁栄を。そしてこの世界に救済を――果たすべき誓いを成し遂げる日まで彼女は戦い続けるだろう。他の誰でもない、自分自身の意志で。

「……闇の娘がこの世界の精霊に請い願う。狂気に囚われた霊峰の精霊達の救済を……」

 自我を増幅する"調律の呪詛"によって精神汚染をはねのけたリーヴァルディは、滾る闘争心と精神力をそのままユーベルコードを発動する原動力として活用する。
 虹色の輝きを放つ「精霊石の宝石飾り」に触れ、捧ぐ祈りはこの地の救済。異端の神の影響を受けて狂ってしまった精霊を浄化し、異常な悪天候を鎮めんと願う。
 そのために必要となるのもまた、この世界に満ちる精霊達の力。普段は闇に紛れて姿を見せない彼らの存在を、闇を見通す彼女の目は残像として捉え、呼びかける。

「……限定解放。この世界に救済を……。血の魔星」

 祈りに応えてくれた精霊達の力を束ね、リーヴァルディが放つは救済の星光。
 希望に満ちた暖かくも力強い輝きが、刹那の間、霊峰アウグスタ全体を包み込む。
 同胞の救済という願いのためならば、精霊達も賛同を惜しまなかったのだろう。
 光が収まったとき、あれだけ吹き荒れていた暴風は凪ぎ、雷雨はウソのように鎮まっていた。

「……ありがとう」
 リーヴァルディは力を貸してくれた精霊達に感謝を告げ、雨の止んだ霊峰を登る。
 狂気の根本である『異端の神』が健在である以上、この晴れ間も延々とは続かないだろう。再び天候が崩れはじめる前に、少しでも距離を稼ぐ必要がある。
 幸い、彼女の履いている「征服者の軍靴」は、精霊の祝福によってどんな悪環境でも平地同様の行動を可能とする。濡れて滑りやすい足場をしっかりと踏みしめ、ダンピールの怪力にものを言わせて山道を駆け上る姿は、まるで黒い弾丸のようだった。

「……神の住まう霊峰がいつまでも荒れているのは、貴方とて本望ではないはず」
 やがて、しとしとと再び降りはじめた雨をよそに、近付いてきた山頂を見据えながら少女は静かに呼びかける。その瞳に宿るものは怒りや殺意ではなく、慈悲と決意。
 少なくとも狂気に浸る前――在りし日の『異端の神』が、この惨状を望んだとは思えない。だから。
「……人類の繁栄の為に。そして貴方の為に討たせてもらうわ」
 狂える神に終焉をもたらし、人々のための新たな生存の地を切り拓く。
 その両方を叶えるために、リーヴァルディはまっすぐに駆けていく。

成功 🔵​🔵​🔴​

鏡島・嵐
戦え、戦え、って囁きが聞こえる山か。
戦うのが怖くてしょうがねえおれにとっちゃ、そんなんが聞こえてくるんは拷問みてーなもんだけど。
後悔したくねえし、決めたからには退かねえぞ。

風向きを〈情報収集〉で確認したり、次にどう変化するか〈第六感〉も交えて予測したりしながら安全に登れるタイミングを計りつつ登っていく。
難所っぽくて、かつ暴風雨も厳しい状況に出くわしたら《幻想虚構・星霊顕現》で風を抑えるなり追い風に変えるなりして、制御が利いているうちに素早く切り抜けるようにする。

「戦え」って囁きは自分自身を〈鼓舞〉したり〈覚悟〉を決めて跳ね除ける。
……言われなくても、戦わないといけねえ奴から逃げたりはしねーよ。



「戦え、戦え、って囁きが聞こえる山か」
 その説明を最初に聞いたとき、鏡島・嵐(星読みの渡り鳥・f03812)は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。生来の気性から「戦い」や「命のやりとり」をことさら苦手とする彼にとって、本当ならそんな場所は近付きたくもなかっただろう。
 それでも彼がこの依頼を引き受けたのは、この地を解放することで救えるものがあるからだ。

「戦うのが怖くてしょうがねえおれにとっちゃ、そんなんが聞こえてくるんは拷問みてーなもんだけど。後悔したくねえし、決めたからには退かねえぞ」

 かくして霊峰アウグスタに赴いた嵐。どうやら先行していた猟兵が何かをしたのか、雷雨の勢いは一時的にではあるが弱まり、暴風もやや穏やかになっている。
 これをチャンスと見た彼は、はためく外套の向きで風の流れを調べ、次にそれがどう変化するかをシャーマンとして培った霊感を交えて予測する。
「……しばらくは追い風が続きそうだ。今のうちだな」
 登坂中に急な横風や向かい風に煽られて転ぶだけでも、この峻厳な岩山では大怪我に繋がる。嵐は安全に登れそうなタイミングを見定めながら慎重に先へと進む。

「まずい、荒れてきた」
 暫くはそれで順調だったものの、霊峰の天候はやがて再び登山者達に牙を剥く。
 雷鳴が轟き、豪雨が降り注ぎ、風は狂ったように逆巻く。嵐にとって運が悪かったのは、丁度それが急勾配となった難所を登っているタイミングと重なったことだ。
 風に吹き飛ばされないよう懸命に岩肌にしがみつきながら、呪文を唱える。一刻も早くこの暴風雨を抑えなければ、ほんとうに命まで危うい。

「Linking to the Material, generate archetype code:X...!」

 発動したのは【幻想虚構・星霊顕現】。今ではない時、此処ではない場所、遙かな異界の物語(フォークロア)の力を借りて、属性と自然現象を操るユーベルコード。
 その瞬間、嵐の周辺の暴風雨はふっと止み、登坂を後押しする追い風に変わる。
「今だっ」
 星霊顕現は強力だが制御が難しく、長くこの状態を維持するのは困難だ。
 再び天候が荒れはじめる前に、嵐は素早く難所を切り抜けようと――。

 ―――戦え。

「……っ!」
 彼方から聞こえてくる狂気に満ちた誰かの声に、思わず嵐はびくりと足を止めた。
 本能が"危険"だと警鐘を鳴らす。恐怖が蛇のように足元から這い上がってくる。
 そのおぞましさに震える彼に、異端の神はなおも囁く。戦え、戦え、戦え、と。

 ――だが、嵐はそのまま立ちすくむでもなく、逃げ出すのでもなく。
 震えそうになる足を再び前に踏み出して、山頂に向かって歩きはじめる。
「……言われなくても、戦わないといけねえ奴から逃げたりはしねーよ」
 その言葉が相手に届いているかは分からない。だがあえて声に出したのは、自らの心を鼓舞するため。怖気づきそうになる自分の心に、覚悟を決めさせるためだ。

 ――嵐は戦いを恐れている。けれどいつでも懸命に恐怖に抗いながら戦っている。
 だから彼は今日も逃げない。自らの足で、戦うべき敵のいる場所に向かっていく。

成功 🔵​🔵​🔴​

ボアネル・ゼブダイ
アドリブ連携OK

ヴァンパイアすら寄り付かぬ呪われし地…話に聞いたことはあるが、異端の神の事だったとはな
神を名乗る以上は決して油断できぬ相手ではあろう

コ・イ・ヌールを装備
光爪を岩肌に突き立て一気にジャンプを繰り返してクライミングを行う
第六感を駆使して暴風雨の影響を受けにくく、移動しやすい部分を中心に登っていく

なるほど…霊峰と名の付くだけの事はある
余人を寄せ付けぬほどに峻厳な山々だ
それにこの風雨に狂気に満ちた声…確かに耐えがたくなるな…

UCを発動
周囲の岩肌をくり抜くように癒しの光を作り
そこで休みつつ自身の能力を強化
狂気の言葉を振り払い山頂を目指す

戦えというなら戦おう
だが…それは無辜の人々のためにだ



「ヴァンパイアすら寄り付かぬ呪われし地……話に聞いたことはあるが、異端の神の事だったとはな」
 元々ダークセイヴァーの出身であるボアネル・ゼブダイ(Livin' On A Prayer・f07146)は、この世界を支配するヴァンパイア勢力の強大さをよく知っている。
 それゆえに、ヴァンパイアの支配が及ばない――あまつさえ返り討ちにあった地と、その支配者である異端の神がどれほどの脅威であるかも、逆説的に理解できた。
「神を名乗る以上は決して油断できぬ相手ではあろう」
 この地を神の狂気から解き放つには、間違いなく多くの困難が待ち受けている。
 ボアネルは警戒を厳としつつ、霊峰アウグスタの山頂を目指して挑みはじめた。

「では、行くとしよう」
 登頂のためにボアネルが起動するのはガントレット型の光剣「コ・イ・ヌール」。
 指先から発生する光の刃をそそり立つ岩肌に突き立て、腕力と全身のバネを活かして一気にジャンプ。跳び上がった先の岩場をまた光刃で捉え、その繰り返しで上に登っていく。

「なるほど……霊峰と名の付くだけの事はある。余人を寄せ付けぬほどに峻厳な山々だ」
 装備もさることながら、卓越した身体能力がなければすぐに転落していただろう。そして条件を満たしたボアネルでさえ、この登坂には少なくない負担を感じていた。
 彼はクライミングの素人ではない。それだけこの山が険しさが尋常ではないのだ。
「それにこの風雨に狂気に満ちた声……確かに耐えがたくなるな……」
 絶えず山中に吹き荒れる暴風雨は容赦なく体力を奪い、風雨に紛れて聞こえてくる異端の神の呼びかけがじりじりと精神を削ってくる。何十年もの間、この地が不可侵となっていたのも頷けるものだ。

「ここであまり心身を消耗しすぎるわけにはいかんな……」
 この先オブリビオンや『異端の神』との戦いが予知されている以上、余力は十分に残しておきたい。ボアネルは岩肌に掴まったままユーベルコードを詠唱する。
「光ある間を歩くのならば、死の谷すら恐れるに足らず、栄光に至る道となる。光の子らよ、一つになりて我らを照らす慈悲を与え給え」
 すると彼のすぐ横の岩肌が半球状にくり抜かれ、暖かな光の粒子に変換される。
 それは【迎え入れる光】。過去と戦う戦士達に癒やしと祈りの力をもたらし、進むべき道を照らす慈悲の光である。

「これで一息つけるな」
 くり抜いた岩肌の中にもぐり込むと、ボアネルはそっと腰を下ろして一休みする。
 そこに満たされた慈悲の光は疲れを癒やすばかりか、彼の能力を平常時よりも強化してくれる。雨風を凌ぐこともできるし、即席の休憩所としては抜群の快適性だ。
 ただひとつ問題があるとすれば、外から聞こえてくる声がやかましいことか。

 戦え……戦え……戦え……。

「戦えというなら戦おう。だが……それは無辜の人々のためにだ」
 狂気へと誘う異端の神の囁きを、強い意志と決心をもってはねのける。
 己が戦う理由は自分の意志で決める。剣を向ける先を狂気に委ねるなど論外だ。

 やがて十分に英気を養ったボアネルは、気持ちも新たに登山を再会する。
 進むべき道は今だ険しい。されどゴールはもう一息のところまで迫っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
人類生存圏の拡大の為、狂える神を討伐したいところですが…
狂気の類への耐性は不得手の分野なのが頭を悩ませますね

応急処置ですが悪性の取得情報をフィルタリングする電子防壁を自身への●ハッキングで構築
●環境耐性を高め狂気を遠ざけましょう

霊峰は●暗視を使った●情報収集とダウンロードした地質・登山学の●世界知識を元に巨体と重量のある私でも登れる最適なルートをUCで推定
●怪力と足場の確実な●踏みつけで踏破してゆきます

道中難所と判断すれば●怪力で装備と共に持ち込んだ蛍光シール付きの鉄杭とザイルを使った●ロープワークで後続の移動補助設備を構築

情報を集める為狂気と対峙する猟兵の消耗を抑える一助となれば良いですね



「人類生存圏の拡大の為、狂える神を討伐したいところですが……狂気の類への耐性は不得手の分野なのが頭を悩ませますね」
 峻厳な岩山や荒れ狂う暴風雨よりも、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)にとっての問題点は、この地を満たす『異端の神』の狂気だった。
 人間もオブリビオンも機械も例外なく、その声を聞いてしまった者は内なる闘争心を煽られる。戦闘兵器――ウォーマシンである彼も影響は免れなかった。

 戦え、戦え、戦え――。

 繰り返される囁きを聞いているうちに、火器管制や敵味方識別機能に微細なエラーが生じ始める。異常が深刻化する前に、トリテレイアは『異端の神』の声を「悪性の取得情報」と規定し、フィルタリングを行う電子防壁を己の電子頭脳に構築する。
「応急処置ですが、これで暫くは持ち堪えられるでしょう」
 ハッキングによって自らを環境に適応させ狂気を遠ざけるのは、機械ならではの対処法だろう。問題をクリアした機械騎士はすぐさま山頂に向かって移動を開始する。

「巨体と重量のある私では、この山を登るのにはいささか不向きですね」
 加えて常に暴風雨が吹き荒れる霊峰アウグスタの山中は、昼夜問わず視界が悪い。
 光学センサーを暗視モードに切り替え、周辺の地形情報を把握。予めダウンロードしておいた地質・登山学の知識を元に、最適な登山ルートを割り出していく。
「全て見通す……とまではいきませんが、目星は付きました」
 【鋼の擬似天眼】により見出したのは、ウォーマシンの重量でも崩れない安定した足場。力強くしっかりと踏みしめ、バランスを確かめながら、一歩一歩着実に踏破していく。

「この辺りは特に勾配がきついですね……これを準備しておいて正解でした」
 そうして進むうちに、やがて難所に行き当たったトリテレイアは、この時のために装備と共に持ち込んだ蛍光シール付きの鉄杭とザイルを収納スペースから取り出す。
 この程度の勾配ならまだ彼自身は馬力にものを言わせて登坂可能だが、生身の人間には辛かろう。彼がこれを用意したのは後続用の移動補助設備を構築するためだ。
 風で抜け落ちないように力強く杭を打ち込み、解けないよう正しい手順でしっかりとザイルを結ぶ。蛍光シールのおかげでこの豪雨の中でも道を見失わずにすみ、安全なルートへと登山者を導く補助設備がすぐに出来上がった。

「情報を集める為狂気と対峙する猟兵の消耗を抑える一助となれば良いですね」
 『異端の神』の声をフィルタリングしているトリテレイアには、その方面では直接力になるのは難しい。補助設備を作ったのは、間接的にでも仲間を支援するためだ。
 作業を終えた機械騎士は、たった今張り終えたザイルの後方を確認する。すると暗闇の向こうから、ちょうど一人の猟兵が、こちらに登ってくるのが見えた。

成功 🔵​🔵​🔴​

フェーリ・アイ
私、フェーリが行く。
言葉は話せない。けど聴くのはできるわ。そうしたいの。
あなたは誰?
命をどう思ってるの?
質問できないけど、響いてる一つ一つに全身の感覚を向ける。
声と、声に溶け込んだ感情を全部に、触れて確かめる。
一方的な、叩きつけてくるような声なのではないかと思ってる。
狂気とまでなった叫び…それほどの強い希望を発せられるのは羨ましくもあるわね。
共感できるなら、人間らしくて、いいのに。

私にどこまでできるか分からない。
けど、這ってでもしがみついてでも辿り着いてみせる。
それが人を守ることなのなら。
私が私である為の唯一の約束が、『人を守れ』なの。

銃は紐で背負って、いつでもヘッドショットできる体勢を保持。



(私、フェーリが行く)
 声には出さず、心情にて決意を固めるのはフェーリ・アイ(石ノ華・f24660)。
 より正確には、多重人格者である彼女に宿る人格のひとつ"フェーリ"だった。
(言葉は話せない。けど聴くのはできるわ。そうしたいの)
 いったい何が、感情が希薄な彼女にそう決意させたのか。それはひょっとすれば、理解できないものを"知りたい"という想いだったのかもしれない。

 戦え……戦え……戦え……。

 ――そして今、フェーリは荒れ狂う暴風雨の中、懸命に霊峰を登っている。
 この山の峻厳さは予想以上に過酷で、さらに冷たい雨が容赦なく体力を奪う。
 横殴りの暴風に、危うく吹き飛ばされて転落しかかったこともあった。
 それでも彼女は立ち止まらず、頂上を目指してじりじりと歩みを進めながら、聞こえてくる『異端の神』の声に耳を傾ける。

 戦え……戦え……戦え……。

(あなたは誰? 命をどう思ってるの?)
 人語を解せども話せない彼女に質問はできない。代わりに響いている声の一つ一つに全身の感覚を向けて、声と、声に溶け込んだ感情の全てに、触れて確かめる。
 彼女は当初、それは一方的な、叩きつけてくるような声なのではないかと思っていた。けれど聞き続けているうちに、それは誰かに対する"呼びかけ"のようにも聞こえてきた。

 戦え……我が同胞よ……。

 戦え……我が信者達よ……。

 我と共に……戦え……。

 絶えることなく霊峰に響き渡る、狂気に満ちた『異端の神』の声。
 それは"鼓舞"だ。『異端の神』は己の信奉者達に奮い立てと鼓舞している。
 この神は狂気の中で、今も誰かと戦い続けているのかもしれない。
 そして、もう誰一人としていない信者に、共に戦おうと呼びかけている。

 戦え……平和のために……。

 戦え……未来のために……。

 戦え……希望のために……。

(狂気とまでなった叫び……それほどの強い希望を発せられるのは羨ましくもあるわね)
 感情の希薄なフェーリには、これほど狂おしく誰かに呼びかける動機はなく、そして理由もわからない。彼女にとって"誰か"とは「理解できない恐怖の対象」だから。
(共感できるなら、人間らしくて、いいのに)
 "壊れ物"の娘は哀しげに目を伏せる。しかしその共感性の低さゆえに、彼女はここまで深く『異端の神』の声に耳を傾けていても、まだ狂気に呑まれていなかった。

(私にどこまでできるか分からない。けど、這ってでもしがみついてでも辿り着いてみせる。それが人を守ることなのなら)
 目指すべき山頂はまだ遠い。それでもフェーリは決して立ち止まらない。
 嵐の中をふらつきながら歩み続ける彼女の前に現れたのは、蛍光シールの光。
 どうやら先に行った猟兵の誰かが残していったものらしい、杭で張られたザイルの道標。それが彼女にとっての命綱となった。

(もう少し。あと少し)
 ザイルを掴んで向かい風に抗い、ぐっと腕に力を込めて急な勾配を乗り越える。
 麓からではほとんど霞んでいた山頂が、今はもうはっきりと見える距離にある。
 そこに、この声の主が――『異端の神』がいる。それを討てばきっと多くの人を守れる。

(私が私である為の唯一の約束が、『人を守れ』なの)

 そのたった一つの行動原理がある限り、フェーリが歩みを止めることはない。
 紐で背負ったアサルトライフルは、いつでもヘッドショットできる体勢で保持されている。撃ち抜くべき対象を見つければ、いつでもトリガーを引けるように。

成功 🔵​🔵​🔴​

シェーラ・ミレディ
【WIZ】
狂える神の声も雨風も、些か煩わしいが。
何、いつ終わるとも知れぬ、という訳でもなし。異端の神を倒すまで耐えれば良いのだろう?
その程度ならば耐えきって見せよう!

一先ずは、準備だな。
その辺に落ちている土塊や石を『艶言浮詞』を用いて風や水の精霊に変換しよう。移動の補助、及び暴風雨からの影響を弱めてもらうぞ。
さらに精霊たちから周囲の地形の情報を得て、素早く進めるルートを選びながら頂上を目指そう。

降ってくるような神の声には狂気耐性で対抗。
僕が信仰しているのは主に正義と経済だ。信じても何の利益もない神に、惑わされる訳がないだろう!

※アドリブ&絡み歓迎



「狂える神の声も雨風も、些か煩わしいが」
 山頂より聞こえてくる凶声にシェーラ・ミレディ(金と正義と・f00296)はかすかに眉をひそめたものの、すぐにまたいつもの自信家な表情を取り戻し、笑う。
「何、いつ終わるとも知れぬ、という訳でもなし。異端の神を倒すまで耐えれば良いのだろう? その程度ならば耐えきって見せよう!」
 さして長くはならない。何故ならこの災いを終わらせるのは自分たちなのだから。
 吹き荒れる嵐に逆らいながら、彼は力強く一歩一歩、山頂を目指して進む。

 年中暴風雨の支配する霊峰を登頂するためには、それなりの準備が必要となる。
 シェーラは予め麓で拾った土塊や石に【彩色銃技・口寄せ・艶言浮詞】を使っていた。
『おいで、僕に手を貸してくれ』
 それは無機物に精霊を憑依させ、使役する技法。呼び出された風や水の精霊たちは、彼の周りで無邪気に戯れながら、風雨の影響をそっと和らげてくれている。
 濡れた岩場で足をすべらせかけた時や、急な勾配で転落しかかった時にも、無事でいられたのは彼女たちがシェーラを支えて移動を補助してくれたおかげだ。

「みんな、次はどちらへ行けばいい?」
 優しい言葉づかいでシェーラが呼びかければ、精霊たちは必ず応えてくれる。
 暗雲と豪雨のせいで視界最悪な山中でも、彼女たちには道や地形が分かるらしい。
 風と雨粒は彼女らの耳であり目だ。精霊が集めた情報を元に、なるべく安全に、そして素早く進めるルートを策定し、頂上を目指すのがシェーラの計画だった。
 それは今のところ順調だと言っていいだろう。ただし一つだけ懸念はあるが。

 ――戦え。

 霊峰に絶えず響いている『異端の神』の声は、すべての者に影響を及ぼす。
 そう、すべて。シェーラが使役している精霊たちもその例外ではなかった。
 この霊峰で嵐が止まないのは、神の狂気がこの地の精霊に伝染したせいでもある。
 自然さえも狂わせる『異端の神』の力。その影響にシェーラの精霊たちも巻き込まれそうになるが――。

「この子たちを惑わすのは止めてもらおうか」
 ときおり乱心しかける精霊をかばい、シェーラは強い語調で言い返す。狂気に耐性を持った彼の言の葉は、狂える神の声をはねのけ、精霊たちの正気を繋ぎ止める。

 ――戦え。

「僕が信仰しているのは主に正義と経済だ。信じても何の利益もない神に、惑わされる訳がないだろう!」
 妖しく心の奥底を焚き付けるような囁きを、小気味良いほどきっぱりと拒絶する。
 望んでもいないのに戦いばかり強要してくる神など、祈るまでもなく願い下げだ。

「口を噤んで待っていろ。すぐに銃弾を撃ち込みに行ってやる」
 毅然としたままのシェーラの態度を見て、精霊たちも落ち着きを取り戻したようだ。
 行こう、と人形は風と水に呼びかけ、彼らはふたたび山を登りはじめる。山頂までの道程は、あと少しだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シール・スカッドウィル
UCであった場合とそうでない場合で、最有力な手段が分かれるんだよな……
ここは万が一に備えて、汎用性重視の次点で行くか。

移動は推進器、ハルピュイアの瞬間加速を利用。
都度姿勢制御しながら、壁蹴りの要領で岩肌から離れないように駆け上がろう。
風に振られそうになったら、思い切り壁に直進。
毒爪エイトルで指部分を融かし、しっかり掴める場所を確保する。

そして狂気対策。
精霊ピースで防護膜を作り、フラックスをその表面に巡らせて対象効果を分解する。
この手の狂気は、根源から対処しなければならないからな。
【付与】を用いて、それぞれに狂気特攻を。

効果が薄まらない範囲では……さて、どこまでできるか。
他の対策にも期待しよう。



「ユーベルコードであった場合とそうでない場合で、最有力な手段が分かれるんだよな……」
 麓から山頂の方角を見上げながら、静かに呟くシール・スカッドウィル(ディバイダー・f11249)。彼が思案するのは霊峰の登頂において障害となる暴風雨と『異端の神』の狂気についてである。
 それが『異端の神』のユーベルコードであれば、相殺なり解体なりする手段が彼にはある。しかし本体をまだ見ていない現状では、確実にいけるという保証もない。

「ここは万が一に備えて、汎用性重視の次点で行くか」
 立ちはだかる峻厳な岩肌の前までやってきたシールは、推進器「ハルピュイア」を起動。ロケットのような急加速で跳び上がり、岩肌を沿うように山を駆け上がる。適時姿勢制御のための推進を重ねながら、一気に頂上まで登り切る算段だ。
 この場合、厄介となるのは山の地形よりも、吹き付ける暴風のほうだろう。神の狂気を体現するがごとく不規則に荒れる風は、四方八方から揺さぶりをかけてくる。
「おっと」
 しかしシールには大した動揺もなく、風に振られそうになれば加速を合わせて岩壁に直進。岩をも融かす毒爪「エイトル」を突き立てて、吹き飛ばされないようしっかりと手掛かりを保持する。

 戦え……戦え……戦え……。

 吹きすさぶ風の音に紛れて、狂気をもたらす『異端の神』の声が聞こえてくる。
 無論こちらの対策も怠ってはいない。精霊ピースによる防護膜と、その表面に張り巡らされたフラックスが、狂気の声を遮断し、分解する。
「セット」
 シールが発動した【付与】により、それぞれの武装には通常の性能に加えて狂気に対する特攻効果が与えられている。山頂に近付くにつれて狂気の度合いも増しているようだが、彼の精神が惑わされることはまったく無かった。

「この手の狂気は、根源から対処しなければならないからな」
 狂気と共に風の勢いが弱まったタイミングを見計らい、再びハルピュイアを起動。
 嵐にも屈することなく、シールは一目散に『異端の神』が座す場所に迫っていく。
 ここまでの道程は順調。しかし物事の"風向き"はいつ変わるか分からないものだ。

「効果が薄まらない範囲では……さて、どこまでできるか。他の対策にも期待しよう」
 山を登るにつれ、自分達を拒むように狂気と嵐が激しくなっているのを感じる。しかしまだシールとて全ての手札を切ったわけではなく、体力も魔力も温存中だ。
 気を引き締めたまま彼は霊峰を行く。その眼光は鋭く細められ、進むべき道を決して見失いはしなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『レッサーヴァンパイア』

POW   :    血統暴走
【血に飢えて狂乱した姿】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
SPD   :    ブラッドサッカー
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【レッサーヴァンパイア】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
WIZ   :    サモンブラッドバッド
レベル×5体の、小型の戦闘用【吸血蝙蝠】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。

イラスト:慧那

👑11
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種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 『異端の神』の討伐を目指し、荒天のなかの霊峰アウグスタを登る猟兵達。
 しかし山頂まであと僅かにまで迫った時、彼らの前に何者かの影が立ちはだかった。

「うぅぅぅ……あぁぁぁ……」

 現れたのは譫言のような呻き声を上げる、白い肌と髪、そして紅い瞳の娘達。
 口元から覗く鋭い牙が、彼女達の正体――ヴァンパイアであることを示している。
 恐らくはかつて、この地を制圧せんと攻め寄せた遠征軍の生き残りだろう。

 戦え……戦え……戦え……。

 山頂から聞こえる『異端の神』の声。その狂気に呑まれ、完全に理性を失ったレッサーヴァンパイアの集団は、やって来た猟兵達を"敵"と認識して殺意を向ける。
 その身体には例外なく傷や血の跡がある。敗戦から何十年もの間、霊峰に囚われた彼女らはずっと互いに殺し合ってきたのだろう。"戦え"と狂気に命じられるままに。

 この終わりのない闘争の狂気の連鎖に、取り込まれるわけにはいかない。
 山頂の前に立ちはだかる障害を排除すべく、猟兵達は臨戦態勢を取った。
シャルロット・クリスティア
吸血鬼に同情などする気はありませんが……。
この有様は、少々憐れではありますね。
一歩間違えれば我々も同じ道を辿ることになる……気を引き締めなければ。

水平二連のショットガン。片側には散弾を、もう片側には単発のスラグ弾。
散弾の制圧力で動きを止め、崩したところを【早業】のスラグ弾で仕留める。
いくら暴走していようと、心臓を潰されれば死ぬでしょうよ。

下手に動き回ると敵の気を惹くだけですね。最低限の動作で相手の動きを【見切り】回避していきたいところですが。

あくまでも冷静に、目的のための戦いを。
これは手段であり、あなた達の屍は通過点に過ぎません。
手段が目的にすり替わってしまったのなら、その果てで終わって頂く。



「吸血鬼に同情などする気はありませんが……。この有様は、少々憐れではありますね」
 ただ蒙昧に敵を求めて牙を剥く、修羅に堕ちたレッサーヴァンパイアの群れを前にして、一抹のやるせなさを込めて呟いたのはシャルロット。これが神の狂気に呑みこまれた者の末路だと、否応なくその目で思い知らされる。
「一歩間違えれば我々も同じ道を辿ることになる……気を引き締めなければ」
 山頂からの声を頭から閉め出して、意識は目の前の敵に集中。
 たとえ憐れでも、道を阻むならばただ撃ち抜いて退けるのみだ。

「うぅぅぅぅあぁァァァァァ……!!」

 吸血鬼達の呻きはやがて獣のような雄叫びへと変わり、その眼光は真紅に輝く。
 一目で【血統暴走】により狂乱していると分かる状態。そのうちの一人がシャルロットを睨みつけ、野獣を思わせる前屈姿勢から猛然と襲い掛かってくる。
 対する魔銃の射手は「マギテック・ショットガン」を構え。近付かれる前に素早く狙いをつけてトリガーを引けば、水平二連式の銃身の片側より散弾がばら撒かれる。

「グゥッ!!」
 人間相手なら十分な殺傷力を誇る散弾も、狂化した吸血鬼を仕留めるには威力不足。だが、大量の小弾による面の制圧力を活かして、動きを止めることはできる。
 鉛の礫を浴びたレッサーヴァンパイアの体勢が崩れたところに撃ち込むのは【一発必中】のスラグ弾。ショットガンのもう片側の銃口が火を噴き、戦場に轟音が響く。
「いくら暴走していようと、心臓を潰されれば死ぬでしょうよ」
「ぁ……ガ……」
 胸の真ん中に風穴を開けられた吸血鬼は、どう、とその場に倒れ伏し、塵に還る。
 シャルロットは即座に次弾を装填すると、次の標的に備えた。

「あぁぁぁァァァァァッ!!!」
「うぅぅぅぅがァァァ!!」
 理性を喪失したレッサーヴァンパイアの群れは、統率の取れた集団ではない。
 ただ目についたものを"敵"とみなして襲いかかるだけであり、猟兵のことを正しく認識しているとは言えない。それどころか同族に襲いかかる者もいる始末だ。

「下手に動き回ると敵の気を惹くだけですね」
 シャルロットはまた近づいてきた敵の攻撃を最小限の動作で避け、攻撃後に乱れた体勢を狙って銃口を押し当てる。接近戦を想定して短く切り詰められたバレルは、まるで短刀のような取り回しで――直後、ゼロ距離からの射撃が心臓を吹き飛ばす。
「ぐがぁ……ッ」
 濡れた山地を滑り落ちていく骸には一瞥もくれず。一度に複数から標的にされぬよう、コンパクトな挙動と静止を心がけ、集団からはぐれた敵を銃声で釣りあげる。
 突き詰めれば一対一の繰り返し。しかし理性なき怪物が相手であれば面白いように釣れる。乱雑に振り回される吸血鬼の爪牙は、少女の毛先をかすりもしない。

「これは手段であり、あなた達の屍は通過点に過ぎません」
 神の狂気に染まらぬよう、あくまでも冷静にシャルロットはトリガーを引く。
 心を鎮め思考は鋭敏に、銃と弾丸と一対となって、目的のための戦いを遂行する。
 その戦いぶりは、闘争心のままに暴れるレッサーヴァンパイアの戦いとは真逆だ。
「手段が目的にすり替わってしまったのなら、その果てで終わって頂く」
 雷鳴をもかき消さんばかりに轟く、ショットガンの銃声。
 少女の照準はけして乱れずに、吸血鬼達の終止符を刻む。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カタリナ・エスペランサ
ま、アタシも戦うのは好きだよ
戦った分だけ強くなれるし、強くなった分だけ救えるものも増えるからね
尤も虐げる側、吸血鬼の一派まで救おうと思うほど酔狂じゃないけど
精々アタシの糧になって散るといい。誰かの幸福を傷つける事の無いように

肩慣らしには悪くない、《念動力+ハッキング+地形の利用》で周囲の空間に干渉し《空中戦》を展開するよ
最適な立ち回りが出来るように《情報収集+学習力》で動きを調整していく
UC【スカイステッパー】はあくまで保険だ

敵の動きは《第六感+戦闘知識+見切り》で先読み、《早業+怪力》を発揮してダガーと体術を軸に《薙ぎ払い・蹂躙》しよう
倒した敵は蘇生できないように《属性攻撃+焼却》で処理だね


フェーリ・アイ
(言葉は発せず、霊の声は周囲にも聞こえます
疲労で折りかけた足を踏ん張り、首を振る
フェーリが行く。まだやれる
せめてやさしい誰かの足を引っ張らないように)

信者を失い、木霊する空虚な思念…それが『声』の正体
空虚な声なら聞き慣れているわ
声は無視して、ヴァンパイアの頭を射ち続ける
私はこの土地を人の住める場所にする。その為に邪魔なものは全て排除
能力が能力だものね、弾は発破性の物を腹部に撃ち込んで胴体を粉砕する
バラバラでは再利用しづらいでしょう

『アハハ!アイ、撃っちゃうの?お仲間みたいなものなのにっ』
『お願い避けて~っ 本当は射ちたくないのー!』
…トーンは自由ね。自由ついでに私からは離れてて頂戴(囮として)



「ま、アタシも戦うのは好きだよ」
 戦えと呼びかけ続ける『異端の神』の声と、果てなき闘争を強いられるレッサーヴァンパイアの群れを前にして、くるりとダガーを弄びながらカタリナは答える。
「戦った分だけ強くなれるし、強くなった分だけ救えるものも増えるからね――尤も虐げる側、吸血鬼の一派まで救おうと思うほど酔狂じゃないけど」
 彼女らがこの霊峰に囚われることになったのも、元はといえばこの地を征服せんとする欲望の顛末、自業自得だ。生憎とそのような輩に慈悲を与えるほど彼女は甘くない。

「精々アタシの糧になって散るといい。誰かの幸福を傷つける事の無いように」
「ぐぅぅぅゥゥゥ……ッ!!」
 すっと切っ先を突きつければ、触発されたように吸血鬼達が一斉に襲い掛かる。
 カタリナはここまで山を登ってきた手段と同様、念動力によるハッキングで周囲の空間に干渉し、乱れる気流を味方につけて空中戦を展開する。
「肩慣らしには悪くない」
 乱暴に振りかざされる穢爪の一撃は、彼女にとっては素人同然。豊富な戦闘経験と鋭い直感を活かして動きを見切り、双翼を翻してひらりと避ける。
 暴風に逆らって自在に空を舞う彼女の姿に、レッサーヴァンパイア達の注意は引きつけられ。遮二無二攻撃を繰り返すものの、その爪牙はことごとく空を切るばかり。

(フェーリが行く。まだやれる。せめてやさしい誰かの足を引っ張らないように)
 カタリナが敵群を翻弄する一方で、戦場の後方からは難所を超えてここまで山を登ってきたフェーリが、言葉なき決意と共にアサルトライフルを取る。
 疲労はけして小さくはない。だがまだ戦闘に支障をきたすわけにはいかない。折れかけた足を踏ん張り、首を振り、最後まで"フェーリ"として立ち向かう意志を示す。

 戦え……戦え……戦え……。

 相も変わることなく山頂に響き続けるは、狂気に堕ちた『異端の神』の声。
 信者を失い、木霊する空虚な思念――それがフェーリの知った『声』の正体だった。
(空虚な声なら聞き慣れているわ)
 声は無視して、意識と銃口は目の前の敵に向ける。上空の味方に気を取られ、標的はまだ自分の存在に気付いていない。狙撃を仕掛けるには絶好の距離とタイミング。
 ぐっとトリガーを引き絞れば、放たれた銃弾は狙い過たず、レッサーヴァンパイアの頭部を射抜く。絶命したことを悟らせもしない、完璧な【ヘッドショット】。

「ぐぅぅ……?!」
 すぐ隣でばたりと倒れた同族を見れば、レッサーヴァンパイア達も奇襲に気付く。
 しかし彼女らが射手であるフェーリを発見するよりも、カタリナが動揺した彼女らを強襲するほうが疾い。
「閃風の舞手の技、とくとご覧あれ――なんてね!」
 疾風一閃。まさしくその名に相応しい早業で繰り出されたダガーの一撃が、吸血鬼の群れをなぎ払う。舞い散る血飛沫が地に落ちるよりも速く、飛行速度を乗せた蹴りでさらに追撃。
「ぐぁぅッ?!」
 斬撃と打撃をほぼ同時に食らって、ばたばたと倒れ伏すレッサーヴァンパイア達。
 この程度の相手との立ち回りなら保険用の【スカイステッパー】を使うまでもない。敵陣を自在に飛び回りながら敵を跳ね除けるその様は、まさに蹂躙であった。

(私はこの土地を人の住める場所にする。その為に邪魔なものは全て排除)
 大立ち回りを見せるカタリナを隠れ蓑に、陰からキルスコアを重ねるはフェーリ。
 神を討っても山中に吸血鬼など潜んでいては、人々も安心して暮らせまい。後顧の憂いをここで刈り取るために、狂乱するヴァンパイアの頭を射ち続ける。
『アハハ! アイ、撃っちゃうの? お仲間みたいなものなのにっ』
 言葉を話せない彼女にかわって、重低音の混じった声で騒ぎ立てるのは、フェーリ含む"アイ"達に付き纏う姿なき声のみの霊体「トーン」だ。平時は呼ばれなくとも好き勝手にちょっかいを出してくるお騒がせだが、場合によっては役に立つ。

『お願い避けて~っ 本当は射ちたくないのー!』
(……トーンは自由ね。自由ついでに私からは離れてて頂戴)
 フェーリの意思とは関係なく、嘲笑混じりに勝手な代弁をするトーン。
 ゆらりゆらりと出処も掴めずに戦場に響く声は、囮としては有益だ。
「あぅ……?」
 声はすれども姿は見えず。不審そうに辺りを見回した敵の隙を、容赦なく射抜く。
 ヘッドショットで頭蓋を破壊して、さらに腹部にもう一発。発破性を持った特殊弾が胴体をバラバラに粉砕する。

(能力が能力だものね。バラバラでは再利用しづらいでしょう)
「蘇生できないように、きっちり処理だね」
 敵は腐ってもヴァンパイア、少々死んだ程度ではまた復活させられる恐れもある。それを考慮してフェーリが破壊した骸を、カタリナが指先から炎を踊らせ焼却する。
 ここまですれば流石にもう二度と蘇生はできまい。言葉を交わすことはできずとも、自然に成された連携であった。

「この山の風にもだいぶ慣れてきたかな」
 戦いの中でカタリナの動きは洗練され、空中の機動に無駄が無くなっていく。肩慣らしと口にした通り、彼女は神との戦いに備えて立ち回りを最適化しつつあった。
「うぅゥゥ……ぎャッ!?」
 その動きを捉えられずにきりきり舞いする吸血鬼の頭を、物言わぬ射手が射抜く。
 ガラス玉のように感情の読めないフェーリの瞳は、目的の障害となる者達を静かに見据え、淡々と排除し続ける。

 霊峰に轟くは吸血鬼達の悲鳴と断末魔。
 閃風の舞手と石ノ華が織りなす闘劇は、山頂への道を着実に切り開いていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シエラ・アルバスティ
本能を元に殺し合うのは生物の本質です
ですがそれをこれだけ増長させる者がいる事はやはりバランスを欠いていますね
汚染された本能のまま死ぬ事も世の摂理とも言えますが、私はそこまで思考が神の様な視点では無く、所詮一匹の人狼ですので
少々の憐みをもって、自らの意志で殺すとしましょう

【絶命槍】で敵の急所を狙い『精霊槍シルフィード』で突いていきます
移動は【クレイジー・アトモスフィア】です
『雷糸』も併用して敵を絡めたり突きさしながら感電させましょう
敵の動きは単調と見て、動きや物で誘導しつつ隙を作りましょう
操られ慣れていればその時点で生の幾分かが終わってしまっている様な物です、とどめを刺して上げましょう



「本能を元に殺し合うのは生物の本質です。ですがそれをこれだけ増長させる者がいる事はやはりバランスを欠いていますね」
 あからさまに狂乱しているヴァンパイアの群れを見つめながら、シエラは呟く。
 彼女らを狂わせた元凶たる『異端の神』はもうすぐそこに。道を貫くために手にするのは、風を纏いし精霊槍『シルフィード』。
「汚染された本能のまま死ぬ事も世の摂理とも言えますが、私はそこまで思考が神の様な視点では無く、所詮一匹の人狼ですので」
 少々の憐みをもって、自らの意志で殺すとしましょう――穏やかな表情と静かな眼差しのまま、彼女はそうはっきりと宣言した。

「あぁぁぁぁぁ……ッ!!」
 唸り声を上げながら間合いに近づいてくるレッサーヴァンパイアの群れ。対してシエラが発動したのは【クレイジー・アトモスフィア】。その身に纏いし風の衣から生えた六枚の大気の翼が、凄まじい俊敏さを彼女に与える。
「誰も私には追いつけません」
 大気が爆発したかのような超加速。一瞬で敵の視界から消えた彼女はすぐに背後へ。
 直後、巨大な精霊槍による【絶命槍】の一撃が、標的の胸を串刺しにする。

「がァ……ッ!!!!」
 一瞬の早業で急所を突かれ、絞り出すような断末魔と共に絶命する吸血鬼。
 同族を討たれた連中はすぐさま反撃せんとするが、シエラの姿はもうそこには無い。
 風と共にするりと群れの中を駆け抜けるのと同時、手甲から雷糸を射出して敵を拘束。絡みつく糸と感電によって動きの止まった獲物を、一人ずつ確実に貫いていく。

(敵の動きは単調と見ました)
 およそ理性も知性もなく、闘争心のままに暴れる相手は、狂った獣そのものだ。
 僅かな攻防でその挙動や攻撃パターンの全てを予測し尽くしたシエラは、疾走に伴って舞い散る羽や吹き飛ばされる石礫なども利用して、敵の動きを誘導する。
「うがぁっ!!」
 真っ直ぐに突っ込んでくるか、視界で動いたものに反応するしかできないレッサーヴァンパイアは、あっさりとフェイントや陽動に引っかかり無防備な隙を晒す。
 その瞬間をシエラは逃さない。たんっ、と力強い踏み込みで敵の懐に飛び込むと、心臓めがけて絶命の一撃を放ち、もはや蘇生不可能なまでにその肉体を破壊する。

「操られ慣れていればその時点で生の幾分かが終わってしまっている様な物です、とどめを刺して上げましょう」
 神の狂気に踊らされるままに戦い続ける彼女達に対する、それは慈悲だろうか。
 なおもがむしゃらに襲ってくるレッサーヴァンパイアの爪牙を槍の穂先でいなし、あるいは雷糸で封じながら、シエラの周囲はさらに激しい風に包まれていく。
 死風の衣の力で大気をコントロールすることで、人狼の少女はさらに加速し、もはや目で追うことすら困難な領域へと達していた。

「くれてあげます。滅びの一撃を」
 自らも風と槍と一体となって放つ瞬速の刺突。穢れた爪牙に触れることさえ許さぬまま、駆け抜ける白き人狼はヴァンパイアの群れを掃討していくのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ボアネル・ゼブダイ
アドリブ連携OK

異端の神に囚われたヴァンパイアか…
こうなってしまってはいっそ哀れみすら感じるな

コ・イ・ヌールを装備
ガントレットから伸びる光爪を伸ばし、なぎ払いで範囲攻撃
文字通り敵をなぎ倒す
全滅を目指すのではなく、先頭から敵集団を切り開いて一気に山頂を目指した方が良いだろう
これからの戦いに温存したいと言う事もあるが…何より、あの声の通りに戦うのもいささか癪だからな

敵が狂乱したらこちらもUCを発動
ダッシュで敵陣を突っ切ると同時に深淵の闇を全身に纏わせ
群がる周囲の敵を闇に喰らわせながら山頂へ走る

狂気に囚われ、彷徨う魂が相手であろうと私の剣が鈍ることはない
せめて安らかに眠れるよう骸の海へと送ってやろう



「異端の神に囚われたヴァンパイアか……こうなってしまってはいっそ哀れみすら感じるな」
 修羅さながらに敵を求めて徘徊する吸血鬼の醜態に、ボアネルは眉をひそめる。
 長き年月の末に狂い果てた彼女らを導く行動原理は、山頂より絶えずもたらされる『異端の神』の声だけだ。

 ――戦え。

「…………」
 精神を汚染する神の呼びかけを黙殺し、ボアネルはコ・イ・ヌールを再起動。
 ガントレットから伸びる5つの光爪を構えて、静かに戦闘態勢を整える。
 その輝きに惹きつけられて、レッサーヴァンパイア達も彼の元に押し寄せて来た。
「道を開けてもらおうか」
 真っ向よりそれと対峙した青年は、敵集団に接近しながら光爪をさらに伸ばす。
 振るわれた横薙ぎの一閃は群れの先頭にいた者から敵を文字通りになぎ倒し、切り刻まれた骸の向こうに山頂への道が開かれる。

(全滅を目指すのではなく、先頭から敵集団を切り開いて一気に山頂を目指した方が良いだろう)
 自分達の最終目標はあくまでも『異端の神』の討伐だ。そのためにはここで足止めを食らうよりも最小限の労力で突破した方が良いというのがボアネルの判断だった。
(これからの戦いに温存したいと言う事もあるが……何より、あの声の通りに戦うのもいささか癪だからな)
 闘争を忌避するわけではないが、誰かの思惑に乗せられて戦うのは釈然としない。
 自分が戦うのは無辜の人々のためであり、人々に仇なす神のためでは無いのだから。

「ぐぅぅぅぅあぁァァァァァッ」
 そんなボアネルの思いをよそに、レッサーヴァンパイア達は狂乱の度合いを増す。
 【血統暴走】の発動。爛々と血に飢えた瞳で獲物を睨めつける様は、もはや完全に猛獣のそれであり、向けられる殺気と闘志も激しさを増す。
 しかし青年はこれを予期していたように冷静に、力強く地を蹴りながら詠唱を紡ぐ。
「深淵に揺蕩う光をも飲み込む闇よ、我が障害を永劫続く無明の虚空に誘い、我が敵を暗晦たる幽冥の底に葬れ」
 ゆらりと煙のように、あるいは影のように音もなく現れたのは【貪欲なる闇】。
 それは太陽なき世界より呼び出された暗黒の生命体。あらゆるものを喰らい呑み込む深淵の闇である。

「がぁぁぁぁぁッ!!」
 全身に闇を纏ったボアネルの周囲から、幾人ものヴァンパイアが猛然と襲い掛かる。
 だが、深淵の闇が喰らうものはオブリビオンとて例外はなし。闇の中に爪や腕を突っ込んだ彼女らは、まるで空間ごと切り裂かれたようにその部位を喪失する。
「うがゥッ!?」
 何が起こったか理解できぬ連中をよそに、ボアネルは全力疾走で山頂を目指す。敵陣をまっすぐに突っ切って、進路上にいたヴァンパイアを悉く闇に喰わせながら。
 召喚者の周囲30cm以内。それが深淵の闇がこの世界で存在できる範囲限界であり、同時にいかなる敵も攻撃も通さない不可侵の守護領域であった。

「狂気に囚われ、彷徨う魂が相手であろうと私の剣が鈍ることはない。せめて安らかに眠れるよう骸の海へと送ってやろう」
 その身に闇を、その手に光を伴いながら、毅然たる態度でボアネルは宣言する。
 振るいし深淵の闇と閃光の刃は、痛みすら与えることなく吸血鬼達を葬り去る。
 『異端の神』の待つ山頂へとひた走る彼を止められる者は、もはや誰もいなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

フレミア・レイブラッド
一章から鷲獅子と進行。

【血統覚醒】を発動。
…何十年も狂気に捕らわれた貴女達を同じ吸血鬼として引導を渡して解放してあげるわ。

鷲獅子は【爪による連撃】や【極寒の風】、【凍てつく息吹】で敵を攻撃しつつフレミアを援護。

自身は【念動力】で瞬間的に動きを拘束し、その隙を突いて【血統覚醒】による戦闘力やを活かし、炎を纏った魔槍【属性攻撃、怪力、早業、串刺し】で殲滅。
蝙蝠は焔の魔力弾【属性攻撃、誘導弾、高速詠唱】で叩き落とすわ。

なに…?戦ってたら、体が、血が熱く…はぁ…はぁ…戦わないと…スベテ…って寒い!…鷲獅子?
(狂気に呑まれた吸血鬼の姿に苛立ちを感じた隙を突かれて自身も呑み込まれかけ、鷲獅子に引き戻され)



「……何十年も狂気に捕らわれた貴女達を同じ吸血鬼として引導を渡して解放してあげるわ」
 氷雪の鷲獅子の背中から、狂気に呑まれた同族の姿を見下ろしたとき、フレミアの心に湧き上がったのは胸を掻きむしりたくなるような苛立ちだった。
 これ以上、彼女らがこの地に囚われる様を見続けるのは余りにも見るに堪えない。その果てしなき修羅道をここで終わらせることだけが、せめてもの情けだろう。

「あぁぁぁぁァァァァァッ」
 上空より舞い降りた吸血姫と鷲獅子を、幾人ものヴァンパイアがすぐに取り囲む。
 その瞳はみな一様に狂気に染まり、【血統暴走】による完全な狂乱状態にあるのは一目瞭然だった。
「…………」
 【血統覚醒】を発動したフレミアは、無言のまま彼女らを見つめている。
 その手に携えた魔槍「ドラグ・グングニル」の穂先が、紅蓮の炎を纏った。

「ぐぁゥ……ッ!!!?」
 四方より獲物に詰め寄りながら、一斉に襲い掛からんとする狂乱の吸血鬼。
 しかしその瞬間、見えざる力の手が彼女らの身体を掴み、身動きを封じる。
 それはフレミアの操る念動力の拘束。動きが止まった隙を突いて間合いを掌握した彼女は、暗闇に紅い軌跡を描きながら猛烈な勢いで魔槍を繰り出す。
「はぁ……ッ!!」
「あがぅッ!?」
 燃える魔槍の穂先に貫かれ、一瞬のうちに灰燼に帰すレッサーヴァンパイア。
 狂乱状態にあるとはいえ所詮は下位種、真祖の血統を継いだ覚醒状態のフレミアとは、パワーもスピードも根本的なレベルで違う。

「うあぁぁぁぁぅっ?!」
 本能的に戦闘力の差を悟ったのか、たじろぐように後ずさった娘たちを追撃するのは氷雪の鷲獅子。飛翔の勢いを重ねた【爪による連撃】や、羽ばたきと共に巻き起こる【極寒の風】が彼女らを怯ませ、凍結によってさらに動きを鈍らせていく。
「骸の海に還りなさい……!」
 そこに再び繰り出されるフレミアの猛撃。鷲獅子が氷で援護し、吸血姫が炎にて殲滅するという完璧な連携を前に、吸血鬼達は為す術がない。真紅に染まった瞳を爛々と輝かせながら魔槍を振るうフレミアの戦いぶりは、まるで炎の嵐のようだ。

「あグァ……ッ!!?」
 次々と同族が倒れていく中で、吸血鬼達は苦し紛れに【サモンブラッドバッド】を発動する。
 しかし戦場を埋めつくさんばかりに召喚された大量の吸血蝙蝠の群れも、フレミアが魔槍をひと振りすると共に放たれた焔の魔力弾により、ことごとく叩き落される。
 誘導性を有した魔弾は蝙蝠のみならずその召喚者も追尾し、慌てて逃げようとした彼女らを、鷲獅子が【凍てつく息吹】で足止めする。
「燃え尽きなさい!」
 激しい気迫とともに叩き込まれた焔弾、そして魔槍の突撃。爆音とともに紅蓮の炎が荒れ狂った後の更地には、レッサーヴァンパイアの姿は塵一つ残っていなかった。

「はぁ……はぁ……」
 かくして周辺の敵を一掃したフレミアだったが、何やら様子がおかしい。
 いや。振り返ってみれば戦闘中も、此度の彼女はやけに攻撃的だった。
「なに……? 戦ってたら、体が、血が熱く……」
 狂気に呑まれた吸血鬼の姿に苛立ちを感じたあの時から、体の疼きが収まらない。それはいつの間にか胸の奥で燃え盛る炎となり、自分でも抑えられなくなりつつあった。

 戦え……戦え……戦え……。

 霊峰の山頂より聞こえてくる『異端の神』の声が、さっきまでよりも近く感じる。
 視界が赤く染まり、目に映るもの全てが、倒さねばならない"敵"に見えてくる。
 爛々と瞳を輝かせ、息を荒げながら、吸血姫は魔槍をぎりっと握り締める。

「はぁ……はぁ……戦わないと……スベテ……って寒い!」
 あわや狂気に呑み込まれかけた彼女を引き戻したのは、炎をも吹き消す冷気だった。
 火照っていた体が急に冷え、思考のクリアになったフレミアは、はっと顔を上げる。
「……鷲獅子?」
 返答は羽ばたきと嘶きの声。これで借りは返したと言っているのかもしれない。
 動揺した隙を『異端の神』の狂気に突かれたのだと悟る。ここまで近付いたことで影響が強まったのもあるのだろうが、やはり油断のならない相手だ。

「助かったわ。もう大丈夫よ」
 鷲獅子の首元を軽く撫で、微笑みを取り戻したフレミアは再び魔槍を握る。
 狂気に呑まれかけている間にまた敵が集まってきた。しかしもう彼女は動じない。
 感情はそのままに、思考は平静に――強き意志で狂気を跳ね除けながら、山頂への道を貫いていく。

成功 🔵​🔵​🔴​

シール・スカッドウィル
数が多いな……なら、選ぶ武器はこれだ。

ソウドオフショットガン、アグニと、ルドラ。
焼夷と風の散弾をぶちまけて、蹴散らすように突っ切る。
ついでに、【最適化】によって命中対象へ空間操作。
命中部を固定して、その場に釘付けに。

まぁ、それでも囲まれるか?
元より、それが目的だが。

手には腕甲コキュートスを装備し、冷気との温度差の補助を加えた<残像>で懐まで潜り込む。
銃での対処が難しいくらい近接した場合も、これで迎撃することになるな。
うまくいけば、即座に二丁の銃を連結。
プラズマを放ちながらぶん回し、周囲をなぎ払う<範囲攻撃>を決行。

しようとしていたことはあれだが、特に恨みつらみもない。
もう眠っていいだろうさ。



「数が多いな……なら、選ぶ武器はこれだ」
 戦いの音を聞きつけてか、山中より次々と現れるレッサーヴァンパイアの群れ。
 対峙するシールが両手に握った得物は、ソウドオフショットガン「アグニ」と「ルドラ」。それはとある神話にて語られる、炎の神と暴風の神の名だ。

「ぐぅぅぅゥゥゥ……ッ!」
 "敵"を発見した吸血鬼達が放ったのは、黒い雲霞のごとき吸血蝙蝠の大群。
 キイキイと喧しい飢えた翼の群れを前に、シールは平静のままトリガーを引き絞る。
「邪魔をするな」
 瞬間、ぶちまけられたのは焼夷と風の散弾。花火のように散らばる無数の火が蝙蝠達を焼き焦がし、叩きつける暴風が火勢を強める。愚かな敵はたちまち大炎上だ。
 加えてシールの特質に由来する【最適化】の空間干渉能力によって、散弾の命中した対象はその場の空間に釘付けにされ、進むも退くもできなくなる。
『キィィィィィィィィィッ!!!』
 宙に固定された蝙蝠達は耳障りな悲鳴を上げながら、火の玉になって燃え尽きていった。

「このまま突破できればいいんだが……」
 蝙蝠の群れを軽く蹴散らしたシールは、そのまま山頂に向けて戦場をまっすぐ突っ切ろうとする。しかしその前方にはまだ、生き残っている吸血鬼の群れがいた。
 さらに左右からも、後方からも。どうやら蝙蝠が肉壁となったことで彼女らは散弾によるダメージをあまり受けず、逆にそれを隠れ蓑にして距離を詰めていたらしい。

「まぁ、それでも囲まれるか? 元より、それが目的だが」
 じりじりと距離を詰めてくる吸血鬼達。しかしシールはそれでも平静のまま。
 全周へと感覚を静かに研ぎ澄ませながら、二丁のショットガンに弾を込め直す。
「がぁぅッ!!」
 これで勝ったとでも思ったか、ひとりのレッサーヴァンパイアが躍りかかる。
 だが、肉食獣のように鋭いその剥き出しの爪と牙は、虚しく空を切り裂いた。

「うぁぅっ?」
 困惑する吸血鬼の娘。彼女が捉えたと思っていたのは、シールの腕甲「コキュートス」が作り上げた、ただの残像だった。発する冷気との温度差によって空気の揺らぎを生み像を屈折させる、陽炎や蜃気楼と似たような原理の応用だ。

「俺ならここだぞ」
 本物のシールは既に吸血鬼の懐の内、容易に手出しできぬ間合いに潜り込んでいる。
 さらに、その両手に一丁ずつ構えていた銃は連結され、一丁の水平二連式ショットガンに変形していた。それはただ武器をくっ付けたのではなく、炎神と風神、ふたつの威力がひとつに重なりあうことを意味する。

「しようとしていたことはあれだが、特に恨みつらみもない。もう眠っていいだろうさ」
 穏やかなほどに殺意のない言葉と共に引かれたトリガー。二丁分の銃口から放たれるのは炎と風の融合――超高温超高速のプラズマの奔流。まるで長物を振り回すかのように、シールはそれを周りを囲むレッサーヴァンパイアに向かってぶん回した。
「あぁぁぁぁぁうぅぅああァァァッ!!!?!」
 目も眩むばかりのプラスマの一閃に呑み込まれ、瞬時に蒸発する吸血鬼達。
 断末魔の悲鳴と閃光が収まった時、そこに残っていたのは僅かな塵だけだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

雛菊・璃奈
…悲しいね…何十年も狂気に捕らわれ、仲間と殺し合いを続けるなんて…。
貴女達を解放するよ…この狂気から…!

【狐九屠雛】を展開し【呪詛】で強化…。
黒桜の呪力解放【呪詛、衝撃波、なぎ払い、早業】で敵集団や吸血蝙蝠ごと一気に吹き飛ばして攻撃…。
更に7発を不意打ち等の防御用に残し、残り全ての【狐九屠雛】を一斉に敵集団へそれぞれ放ち、追撃を加えて凍結させるよ…。

魂すらも凍てつく地獄の霊火…狂気を忘れ、永久の眠りに就くと良いよ…

戦闘後、更に『託宣』から情報を得る為に、危険な時の為の破魔の鈴飾りを準備しつつ、再度【呪詛、呪詛耐性、オーラ防御、高速詠唱】による防御呪術で耐性を付与して神様の言葉を聞いてみるよ…



「……悲しいね……何十年も狂気に捕らわれ、仲間と殺し合いを続けるなんて……」
 幽く揺らめく霊火を浮かべながら、璃奈は悲哀と憐憫の情を込めて呟く。
 目の前には修羅道に堕ちた吸血鬼の群れ。群れてはいても同族という意識すらもはやなく、ただ戦うこと、殺し殺されることしか思考にない、狂気の集団だ。
 もはや死すらも生ぬるいような地獄――そんな果てしなき闘争に囚われた者達を見放すような真似は、彼女にはできなかった。

「貴女達を解放するよ……この狂気から……!」
 硬い決意と共に呪槍・黒桜を握り締める。それに呼応するがごとく霊火は燃え盛る。
 狂える吸血鬼はそれを戦意と受け取ったのだろう。血走った目で璃奈を睨めつけ、【サモンブラッドバッド】により召喚される吸血蝙蝠の大群を差し向ける。

「うぅぅあぁぁぁァァァァッ!!!」
 闘争心に満ちた娘達の咆哮は、しかし同時に嘆きの叫びのようでもあり。
 その気迫に呑まれぬよう、魔剣の巫女は思いっきり呪槍を横薙ぎに振るう。
「呪力解放……黒桜よ、狂気を吹き飛ばして……!」
 穂先より放たれた漆黒の呪力は、衝撃波を伴った巨大な桜吹雪と化す。それは霊峰を包む嵐よりも激しく、襲い来る蝙蝠をことごとく吹き飛ばし、その召喚者達にまで及んだ。

「うぅぅぁぁぁぁぁぁぁッ!?」
 漆黒の桜吹雪に舞い上げられて、レッサーヴァンパイア達は大きく体勢を崩す。
 璃奈はその機を逃さず展開していた霊火――62発の九尾炎・最終地獄【狐九屠雛】のうち、55発までを敵集団に向けて一斉に放った。

「魂すらも凍てつく地獄の霊火……狂気を忘れ、永久の眠りに就くと良いよ……」

 それは熱を持つ現世の炎ではなく、触れるもの全てを凍てつかせる絶対零度の炎。
 ひとたびその火勢に晒されれば、吸血鬼達の肉体はたちまち骨の髄まで凍りつく。
「―――!!!」
 燃え盛る闘争心も、焚き付けられた狂気さえも、すべては極寒の冷気にて沈黙し。
 残ったのはもはや喚くことも嘆くこともない、沈黙する氷像の数々だけであった。

「おやすみなさい……これで、あとは……」
 永久の眠りについた吸血鬼を看取ったのち、璃奈はそっと目を伏せて耳を澄ます。
 聞きたいのは山頂から届いてくる『異端の神』の声――戦いが始まる前に、彼の者の"託宣"にじっくりと耳を傾ける機会は、今を置いては二度とないだろう。
 生き残りの吸血鬼からの不意打ちを想定して、周囲には残しておいた7発の【狐九屠雛】を展開。狂気に侵される危険に備えて「破魔の鈴飾り」も準備済みだ。

 戦え……戦え……戦え……。

 耐性付与の防御呪術を張りながら、再び狂える『異端の神』の声を聞く。
 物理的にも距離が近付いているからだろう。じっと意識を集中させているうちに、その声はより具体的な「言葉」やイメージとなって、璃奈の脳裏に送り込まれた。

 ……我らには、敵がいる。

 ……我らの土地を、営みを、生命を脅かす敵が。

 朧気に浮かんできた幻像。それは『神』とその信徒達が外敵と戦うイメージ。
 恐らくは何百年も、あるいはもっと昔のこと――『異端の神』はこの地に祀られし戦神だった。

 ……我は戦うことしかできぬ。大地を富ませる権能など持たぬ。

 ……ゆえに戦う。我を信じる者達にも、戦え、と宣する。

 ……この地を敵から守るために、戦え。

 それが『異端の神』の託宣。決して変わることのない戦神としての意志。
 何百年もの昔から不変なのだ――自らを信じる者が、戦いの中で死に絶えても。
 どうしようもなく止まらない――戦っていた外敵すら、歴史の果てに去っても。
 永遠に在り続ける神には定命の者達の儚さが理解できない。もはや意義も目的も失ったことを知らぬまま、神は戦って、戦って、戦って、戦って――そして、狂った。

 ――ちりん。涼やかな鈴の音色が、狂気の渦から巫女を引き戻す。

「これが、神様の託宣……」
 神の意志の深淵から帰ってきた璃奈は、冷たい汗をぬぐいながら目を開ける。
 山頂を見上げれば、それは今もはっきりと聞こえる。「戦え」という託宣が。
 正気を保ったまま掴める情報は、これが限度。あとはもう実際に相まみえるしかない――『異端の神』と対峙する時はもう、間近にまで迫っている。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シェーラ・ミレディ
面倒な時に来てくれる!
足元に気を配りながらの戦闘となると……これは、数で対抗するのが手っ取り早いだろうか。

『彩色銃技・口寄せ・珠聯璧合』。
精霊達を呼び出して蝙蝠を抑えさせ、僕自身は蝙蝠を呼び出している大元を叩く!

戦場に素早く視線を走らせて敵の位置を把握し、精霊や蝙蝠を壁にして、身を隠しながら敵へと接近。
伸縮自在の糸(蜘蛛の糸)を移動の補助に用い、斜面の僅かなくぼみを確り捉えて跳ね回りながら敵へ銃撃だ。
息つく暇を与えず、誘導弾で確実に射抜くぞ。

「そこを退け、僕が通るぞ!」

狂った配下を倒しても、声が収まる訳で無し。
頂上に急がねばな。

※アドリブ&絡み歓迎



「面倒な時に来てくれる!」
 狂気に耐えながら先を急いできたシェーラは、行く手を阻む敵を見て顔をしかめる。
 ここで時間をかけても益になることは何もない。しかし相手はなかなかに数が多く、荒天や慣れない山岳の足場での戦いも文字通りの逆風だった。
「足元に気を配りながらの戦闘となると……これは、数で対抗するのが手っ取り早いだろうか」
 そう考えた彼は謡うように詠唱を紡ぎ、戦いを手助けしてくれる精霊を呼ぶ。
 それに気付いたレッサーヴァンパイアの群れも、一斉に攻撃態勢に入った。

「うぅぅぅぅゥゥゥ……!」
 吸血鬼達が放つのは【サモンブラッドバッド】により召喚された吸血蝙蝠の群れ。
 キイキイと五月蝿い血に飢えた翼の大群が、黒い雲霞のごとく戦場を飛び回る。
 対して、シェーラが発動したのは【彩色銃技・口寄せ・珠聯璧合】。
「僕のために咲け。舞い散る花弁は諸君に捧ぐ」
 現れたのは戦闘用のデバイスで武装した家事精霊メイドの集団。一見すると荒事には向いていないようだが、その実彼女らは"掃除"と破壊工作に長けたプロだった。

「ここは任せた!」
 戦場に素早く視線を走らせ、敵の位置を把握して駆け出すシェーラ。
 そこに襲い掛からんとした吸血蝙蝠の群れを、家事精霊達が抑える。
「キィィィィッ!!」
 パタパタとデバイスを振り回し、ホコリのように蝙蝠をはたき落としていくメイド達。怒りの超音波を放って、バタバタ飛び回りながら鋭い牙で応戦する吸血蝙蝠。
 強さで言えばメイドのほうが上だが、数においては蝙蝠が多い。そして耐久力に難のある双方は一撃で互いを消滅させあいながら、激しい乱戦を繰り広げる。

 ――この状況を最大限に活用して、シェーラはレッサーヴァンパイア達に接近する。
 入り乱れる精霊と蝙蝠を壁にして身を隠し、嵐と乱戦の騒ぎに物音を紛れさせ。気付かれることなく射程内まで近付いた彼は、抜き放った精霊銃のトリガーを引く。
「そこを退け、僕が通るぞ!」
「うぁぅ……ッ!?」
 二丁の銃口から放たれる誘導弾が、直近にいた吸血鬼の眉間と心臓を射抜く。
 驚いた連中はすぐに反撃に転じようとするが、それよりも速くシェーラは「蜘蛛の糸」を近くにあった岩場に絡みつけると、収縮の勢いを借りてその場から跳び退く。

「熱狂的なのも嫌いではないが、今は先を急いでいるのでな!」
「うぅぅぅああぁぁァァァッ!」
 迫りくる吸血鬼の猛攻を躱して、縦横無尽に戦場を跳び回るシェーラ。伸縮自在の糸と彼の体術が合わされば、ほんの僅かな斜面のくぼみも確りとした足場になる。
 さらに悪天候による視界不良に加えて、彼が纏う忍び装束「朧月夜」の隠密性もあり、敵はどこから攻撃が飛んでくるのかまるで対応できずに、翻弄されるばかりだ。
「うぎゃぅッ!!?」
「キキィィィィ……」
 銃声が響くたび、ひとりの吸血鬼が骸の海へ還る。そして大本の召喚者が斃れれば喚び出された蝙蝠も消滅する。抑えに徹していた家事精霊達の乱戦も、次第に有利に傾いてきた。

「狂った配下を倒しても、声が収まる訳で無し。頂上に急がねばな」
 辺りにいた敵を蹴散らして、趨勢がこちらに傾いたと見たシェーラは、岩壁に糸を引っ掛けると蜘蛛のように素早く山を駆け登っていく。
 長く険しかった道程もあと僅か。煩わしい『異端の神』との決着をつける時は、もうすぐそこに迫っていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

鏡島・嵐
何十年もずっと戦って殺し合いか……正直、想像もしたくねえな。
例の囁き声もまだ聞こえてるし怖くてしょうがねえし同情する余裕も無ぇけど。
せめてもの情けだ。引導を渡してやるよ。

《我が涅槃に到れ獣》でクゥを呼び出して、一緒に戦う。……出番だ、力を貸してくれ。
意識が飛ぶと操られる可能性があるし、スリングショットで牽制の射撃を撃ちながら付かず離れずの間合いを保って戦う。〈フェイント〉も適度に混ぜて近寄りにくいってイメージを植え付けてえな。
あとは他の仲間に〈援護射撃〉を飛ばしたり、攻撃してくる奴に〈目潰し〉〈武器落とし〉を仕掛けて妨害。
それでも飛んでくる攻撃は〈見切り〉〈第六感〉でなるべく躱すようにする。


トリテレイア・ゼロナイン
無理矢理吸血鬼にされたか、将に従い戦いに馳せ参じたのか…
どちらにせよ望まぬ戦いに囚われた現状は哀れです
速やかに解放してやりましょう

山道の悪路に跪いて●踏みつけ、全身のワイヤーアンカーを岩場に射出し●ロープワークで身体を固定
射撃姿勢を安定させ、荒天の風速をセンサーで●情報収集し命中率向上

下りてくる敵に●防具改造で装備した投光器での●目潰しを浴びせ、頭部、肩部、両腕部格納銃器での●スナイパー射撃を敢行
暴走状態で足止めは困難、即死を狙います

ひと段落したら骸にUCを撃ち込み敵UCへの対策も兼ね弔いましょう
生きた相手の腹にこれを撃ち込む効率重視の選択を忌避できた…
どうやら狂気は上手く防げているようですね



「何十年もずっと戦って殺し合いか……正直、想像もしたくねえな」
 お手製のスリングショットに弾を込めながら、低く沈んだ声で呟くのは嵐。
 狂気に囚われ修羅道に堕ちたレッサーヴァンパイア達の境遇は、戦いを嫌う彼からしてみれば地獄以上の惨状だろう。だからこそ、その辛さだけは分かってしまう。
「例の囁き声もまだ聞こえてるし怖くてしょうがねえし同情する余裕も無ぇけど」
 怖気づきそうな心を懸命に奮い立たせ、震える手でしっかりとスリングを構え。
 終わりなき闘争を終わらせるために――決意を込めて、静かに宣言する。
「せめてもの情けだ。引導を渡してやるよ」

「ああぁぁぁぁぁァァァァッ!!」
 猛獣さながらの絶叫と共に、牙を剥き出しにして襲い掛かってくる吸血鬼の群れ。
 足がすくみそうになる闘気に耐えながら、嵐は共に戦ってくれる相棒を呼ぶ。
「我ら光と影。共に歩み、共に生き、共に戦うもの。その証を此処に、その連理を此処に。……出番だ、力を貸してくれ、クゥ」
 顕現せしは焔を纏った黄金の獅子。その名は【我が涅槃に到れ獣】ア・バオ・ア・クゥ。
 仔ライオンの基底状態から一瞬にして人の背丈の倍ほどの巨体となったそれは、嵐を背に乗せて力強く戦場を駆けだした。

「ぐぅぅぅぅあぁぁぁァァァッ!」
 『異端の神』の狂気に加えて【血統暴走】の狂乱状態にある吸血鬼達は、俊敏に駆けるクゥと嵐の後をひたすらに追いかける。その様はまるで焔に群がる羽虫のようだ。
(意識が飛ぶと操られる可能性があるし、距離を取ったほうがいいよな)
 レッサーヴァンパイアの持つ【ブラッドサッカー】の能力を警戒する嵐は、クゥに付かず離れずの間合いを保たせながら、後ろ向きにスリングショットの牽制射撃を放つ。山中で拾った尖った石弾が、先頭を走っていた敵の目に当たった。

「ぎぅッ!!」
 直接的な戦闘力には乏しい嵐だが、その射撃精度は騎乗中にも関わらず正確無比。ダメージ自体は大きくないが、フェイントを交えれば敵も迂闊には近寄れなくなる。
 そして吸血鬼達が躊躇いを見せた隙に、クゥが嵐を乗せたまま再び距離を引き離す。
 傾斜のある山岳地をものともしない俊敏さもさることながら、驚くべきは走行中でも嵐の狙いがまったくブレないことだろう。攻撃と移動を分担する両者の動きはまさに一心同体で、敵をまったく寄せ付けない。

「うぅぅぅゥゥゥゥ……!!」
 レッサーヴァンパイア達は苛立ちを露わにすると、躍起になって嵐達を追い回す。
 狂乱状態により理性的な判断力を失った彼女らの注意は、一人と一頭に釘付けになっている――その様子を、光学センサーで把握する一機のウォーマシンがいた。
「アンカー射出。目標ロックオン」
 山道に跪くような姿勢で身体を固定し、頭部、腕部、脚部から格納銃器を展開したその者の正体はトリテレイア。岩場に射ち込んだワイヤーアンカーにより射撃姿勢を安定させた彼は、搭載したマルチセンサーを駆使して吸血鬼達に照準を合わせる。

「無理矢理吸血鬼にされたか、将に従い戦いに馳せ参じたのか……」
 風速による弾道への影響を演算しながら、機械騎士は吸血鬼達の過去を類推する。
 彼女らはもともと遠征軍の数合わせとして転化された雑兵かもしれないし、誘惑を受けて自ら闇に堕ちたのかもしれない。その何れも根拠はなく憶測の域を出ないが。
「どちらにせよ望まぬ戦いに囚われた現状は哀れです。速やかに解放してやりましょう」
 それが『異端の神』の狂気に堕ちた彼女達に対する、せめてもの慈悲。
 全ての演算とロックオンが完了した瞬間、騎士の全身の銃器が一斉に火を噴いた。

「ぎゃぁぁぁぁァァァァウゥァァッ?!!?」
 目の前の嵐達を追うのに夢中になっていたレッサーヴァンパイア達にとって、その狙撃は意識の外からの不意打ちだった。山麓の下方から放たれた銃弾の雨は、頭部や心臓などの急所を的確に捉え、一撃で標的を絶命させる。
「うぉっ……」
 後方でばたばたと倒れ伏す敵を見た嵐は、思わず目を丸くする。暴走状態の敵を足止めするのは困難と判断し、あくまで即死を狙ったトリテレイアの一斉射撃は、凄まじい精度と威力で敵集団を壊滅させていた。

「うぅぅぅあぁぁぁぁぁ……!!!」
 だが幸運にも同胞が盾となったか、難を逃れた幾人かの吸血鬼は狙撃手へと標的を変えて斜面を駆け下りる。そこにすかさずトリテレイアは両肩にマウントした投光器を作動して、こちらを向いた敵に強烈なライトを浴びせかける。
「ぎゃぅッ?!」
 悪天候の暗さに慣れきっていた吸血鬼の目に、その光はあまりに強烈だった。刺すような痛みと共に視界が真っ白に染まり、彼女らはまぶたを抑えて悲鳴を上げる。

「そこだっ」
 すかさず飛ぶのは嵐の援護射撃。視力を失った吸血鬼達の頭部に石礫がクリーンヒットし、一瞬ながら気を散らさせる。そしてその一瞬が彼女らの致命傷となった。
「終わりです」
 再び放たれたトリテレイアの一斉射。前後不覚に陥った敵にそれを避ける術はなく、二度目の幸運もなく――響き渡った銃声の後には、物言わぬ骸だけが残っていた。

「この辺りの敵はもう居ないみたいだ」
「そうでしたか。偵察に感謝します」
 クゥと共に付近を駆け回って、まだ生き残っている敵がいないことを確かめる嵐。
 その報告を受け取ったトリテレイアは残された骸に【超高温化学燃焼弾頭】を撃ち込み、復活させられることが無いように焼却する。
 戦闘中にもこれを使用すれば、より確実に目標を撃破できただろうが――オブリビオンとはいえ相手を火達磨にするようなやり方は、騎士として躊躇われるところだ。
(生きた相手の腹にこれを撃ち込む効率重視の選択を忌避できた……どうやら狂気は上手く防げているようですね)
 まだ、自分の精神から騎士道は失われていない。それを自覚できたトリテレイアは火葬を終えると、仲間と共に『異端の神』が待つ山頂へ向けて歩きはじめた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

セルマ・エンフィールド
(ダークセイヴァーの育ちのため、吸血鬼にいい感情をもっていない)
ですが……手放しに溜飲が下がるなどとは言えませんね、これでは。
いずれにせよ、撃つのみです。

引き続き聞こえてくる声を『狂気耐性』で無視しながら戦闘。
わざわざ言われずとも戦いますよ。ですがそれは私が生きるため。あなたの言葉も意思も関係ありません。

ただ倒すだけでは敵のユーベルコードで復活しそうですね……であれば、原型も残さず砕きます。
フィンブルヴェトを手に【絶対零度の射手】を。風はありますが、ここまで登ってきた経験を活かして風を『見切り』、『スナイパー』の技術で敵を狙い、氷の弾丸による『属性攻撃』の連続射撃で凍てつかせ、撃ち砕きます。



「侵略にきて返り討ちにあった。経緯からすれば同情には値しない相手です」
 このダークセイヴァーで生まれ育ったがゆえに、吸血鬼に対していい感情を持っていないセルマは、スコープの向こうにいる吸血鬼達を冷ややかな眼差しで見つめる。
「ですが……手放しに溜飲が下がるなどとは言えませんね、これでは」
 狂気に囚われ、理性を失い、目的もなくただ戦うだけの存在となった彼女らの姿が目に焼き付く。あまりにも堕ち果てたその様は、哀れみを抱くよりもただ無惨である。

「いずれにせよ、撃つのみです」
 行く手を阻むならば排除する。スコープの向こうにいるのは獲物だけだ。
 マスケット銃「フィンブルヴェト」を手に、セルマは標的との間の風を読む。
 暴風は相変わらず逆巻いているが、ここまで山を登ってきた経験からその流れも掴めてきた。弾道を逸らす横風や逆風が止むタイミングを見切り、そこを狙う。
 呼吸を整えて集中する彼女の耳に聞こえるのは、雨と風の音、そして狂気の声。

 戦え……戦え……戦え……。

「わざわざ言われずとも戦いますよ。ですがそれは私が生きるため。あなたの言葉も意思も関係ありません」
 トリガーにかけた指先を、銃把を握る理由を他者に委ねるなど、愚の骨頂。
 耳を傾ける価値もないとばかりに、『異端の神』の呼びかけを無視するセルマ。
 その狂気への耐性と意志は堅く、どんなに精神を揺さぶられても惑わされはしない。
 そして狙撃のために極限まで意識を集中させた彼女の耳には、もはやどんな雑音も届かなかった。

「撃ち抜きます」

 引き絞られたトリガー。【絶対零度の射手】が放ちしは凍てつく氷の弾丸。
 狙い過たず彼方にいる標的に命中したそれは、瞬時に着弾点から肉体を凍結させる。
「ぎぃぃぅッ?!」
 悲鳴を上げて大きくのけぞるレッサーヴァンパイア。だがセルマの射撃はそこで止まることなく、高速で連射される弾丸が次々と腕に、脚に、胴に、頭に着弾する。

「ただ倒すだけでは敵のユーベルコードで復活しそうですね……であれば、原型も残さず砕きます」
 霊峰に響き渡る銃声と共に、まるで吹雪のように絶え間なく撃ち込まれる氷の弾丸。その標的となった吸血鬼は、たちまち凍りついた血肉の破片となって砕け散る。
 砕けた骸の氷片は暴風雨によって吹き散らされ何処かへ消える。こうなればもはや復活の可能性は絶望的だろう。

「うぅぅあぁぁァァ……?!」
 同胞を斃された吸血鬼達は狙撃を受けているのに気付くが、何処から撃たれているのかは分からない。山麓の地形に反響する銃声と悪天候による視界の悪さが原因だ。
 対するセルマはマスケット銃に装着した「ナイトビジョン」の暗視機能により、この距離でも標的を見逃さない。トリガーを引くたびに放たれる氷弾は、百発百中の精度で標的を撃ち抜いた。

「一人も逃しません」
 氷のように冷たい眼差しで、右往左往する吸血鬼達を撃ち砕いていくセルマ。
 彼女の射程内から動いている敵がいなくなるまで、その連射が止まることはなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

リーヴァルディ・カーライル
…ん。血に飢えて、闘争に狂い…。
見るに耐えないとはこの事ね。

…お前達への慈悲なんて私には存在しないけど。
この地を解放する駄賃代わりよ。
その呪わしき命運を絶ち切ってあげる。

“調律の呪詛”を維持して(精神攻撃、狂気耐性)
“写し身の呪詛”を使用して第六感に干渉する残像を展開
自身は存在感を消して闇に紛れて接近する

…過ぎた闘争心は身を滅ぼす。
せめて素面になってから出直して来なさい。

過去の戦闘知識から血の力を溜めた基点を暗視して見切りUCを発動
敵の先制攻撃に生命力を吸収する大鎌のカウンターを行った後、
怪力任せに大鎌をなぎ払う2回攻撃で仕留める

…お前達の動きは何度も見切っているもの。
無駄よ。私には通じない。



「……ん。血に飢えて、闘争に狂い……。見るに耐えないとはこの事ね」
 漆黒の大鎌「過去を刻むもの」を構えながら、すうと眉をひそめるリーヴァルディ。
 彼女の前に立ちはだかるのは、霊峰に囚われたレッサーヴァンパイア達。理性をなくし、言葉すら忘れ、獣のように唸りながら牙を剥くその様は、あまりに無惨だった。

「……お前達への慈悲なんて私には存在しないけど」
 黒装束を纏った少女の姿が闇に揺らめく。まるで終焉を告げに来た死神のように。
 激しい風雨が視界を狭める中で、彼女の瞳は刈り取るべき標的を決して逃さない。
「この地を解放する駄賃代わりよ。その呪わしき命運を絶ち切ってあげる」
「うぅぅあぁぁァァァァ……ッ!!!」
 その宣告を敵対と受け取ったか。狂える吸血鬼達は一斉に叫びながら猛進する。
 目の前の敵を引き裂いて殺す、ただそれだけしか彼女らの思考には無い。

「うぁぅッ?」
 だが。吸血鬼が爪を振り下ろしたもの、それはリーヴァルディが"写し身の呪詛"にて作り出した残像。第六感さえ欺く幻を囮にして、少女の実像は闇に紛れた後。
 音も気配も存在感も消して、影法師のように標的の傍らに近付いた彼女は、その瞳を仄かに輝かせながら「過去を刻むもの」を大きく振りかぶる。
「……過ぎた闘争心は身を滅ぼす。せめて素面になってから出直して来なさい」
「ぐぅ……ッ!!」
 懐に入られたことにはっと気付いたレッサーヴァンパイアは、咄嗟に【サモンブラッドバッド】を発動し、肉壁として吸血蝙蝠の大群を召喚しようとするが――。

「……その技は既に見切っている」

 ――群れの召喚が行われる刹那の差で、リーヴァルディの刃が闇を薙ぐ。
 相手がユーベルコードを発動するために血の力を溜める基点を見切り、発動の瞬間を潰す後の先の奥義――【吸血鬼狩りの業・再殺の型】。眷属としての形を成す前に、それらはただの血霧となって大鎌へと吸収された。

「――!!」
 驚く吸血鬼が次の行動に移る間もあらず、業を相殺したリーヴァルディはそのままもう一度大鎌を振るう。怪力任せの豪快な一薙ぎが標的の身体を両断し、塵に還す。
 まさしく一蹴。仲間が討たれた隙を突いて、別の吸血鬼が攻撃を仕掛けようとするが――。
「……お前達の動きは何度も見切っているもの。無駄よ。私には通じない」
 過去の戦闘経験から、彼女はレッサーヴァンパイアの技から何まで全て把握している。再殺の型は、そうした過去に倒したオブリビオンをより効率的に狩る為の技だ。
 大鎌のひと振りで攻撃を相殺し、続くひと振りで命脈を断つ。完璧に洗練されたその一連の動作を攻略する術は吸血鬼達はなく、もはや刈り取られる獲物でしかない。

「……これで終わりよ」
「あぁァァァ……ッ!!!」
 幕引きにと繰り出されし一閃が、最後のレッサーヴァンパイアの首を刎ねる。
 断末魔の悲鳴だけを残して塵に還り、風雨に飛ばされ散っていく吸血鬼の骸。
 数十年もの間、この地に囚われ続けた遠征軍の残党は、ここに真の終焉を迎えた。
 残る"敵"は、あと一柱――。

 戦え……戦え……戦え……。

「……ん。待っていなさい」
 狂気を跳ね除ける"調律の呪詛"を維持したまま、リーヴァルディは山頂を見上げる。
 霊峰アウグスタを支配する『異端の神』との決戦の舞台は、もう目の前だった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『『戦争卿』ブラッド・ウォーデン』

POW   :    開戦祝え銃砲連打の凱旋歌
【異形の狙撃砲から放つ血色の砲弾の大量乱射】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を敵対者を自動攻撃する射撃兵器群に変え】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
SPD   :    “血塗れ傀儡”聖堂騎士団
自身の【領地内の人間・動植物全ての生命力と精神力】を代償に、【百年前の戦死者を素材とした千人の重装騎士】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【生命力吸収能力を付与された斧槍と散弾銃】で戦う。
WIZ   :    己を見よ、汝の名は『獣』なり
【戦意、敵意、害意、殺意、哀れみ、憎悪】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【対象本人と寸分違わぬ分身と武装】から、高命中力の【対象本人の最も殺傷力が高いユーベルコード】を飛ばす。

イラスト:灰色月夜

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はレナ・ヴァレンタインです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 狂乱した吸血鬼の群れを突破した猟兵達は、ついに霊峰アウグスタの山頂に至る。
 登り詰めた果てに待っていたのは、血のように紅いマントを羽織った一人の男。
 外見的特徴からはヴァンパイアのようだが――彼が纏う雰囲気は明らかに異質。

『……汝らは、敵か。それとも、味方か……?』

 その口から紡がれた声は、これまで猟兵達が山中で耳にしたものと同じだった。
 彼こそが『戦争卿』ブラッド・ウォーデンの肉体を奪い、オブリビオンとなって尚現世に留まり続ける超常存在が一柱――霊峰アウグスタを支配する『異端の神』だ。

『どちらでも良い……我はただ……戦うのみ……汝らも……戦え……』

 直面すればより強く感じる狂気。焦点の定まらない虚ろな灰色の瞳。
 神と言うよりも幽鬼の類にすら見えるが、感じられる闘気は計り知れない。

『守るべきものの為に……平和のために……自由のために……希望のために……復讐のために……勝利のために……戦え……戦え……戦え……戦え……!!!!』

 ――在りし日の彼は、戦場にて信徒を加護する勇猛なる戦神だったかもしれない。
 だが、長い年月により彼を信仰する者は絶え、戦うべき意義はとうに失われた。
 託宣と祝福は、狂気と呪詛となり。乱をこよなく愛する『戦争卿』と肉体も魂も混ざりあったことで、あまねく生者を闘争に駆り立てる邪神がここに君臨する。

『戦え―――!!!』

 咆哮と共に顕現するは異形の銃砲の数々。血と鉛と硝煙の匂いが山頂を包む。
 定命なる生物とは異なり寿命を持たぬ神は、このままでは永劫に闘争の狂気で世界を侵し続けるだろう。彼に終焉をもたらせる者がいるとすれば、それは猟兵だけだ。

 雷鳴が轟き、暴風が逆巻き、豪雨が滝のように打ち付ける、ここは狂神の神域。
 霊峰アウグスタの頂にて、『異端の神』との決戦の火蓋が切って落とされた。
セルマ・エンフィールド
言われるまでもありません。
戦うこと、立ち向かうこと。この世界で生きるということは、そういうことです。

最も殺傷力が高いユーベルコードというと先の戦闘でも使った【絶対零度の射手】でしょうか。
隙は大きい技ですが、超高速の連射で回避も接近も困難……ですがそれは、ユーベルコードを使わなければ、の話です。
持たせられる時間は1分強、それだけあれば十分です。【ブライニクル】を使用、6倍に上がった動体視力で氷の弾丸を見切り、増強された身体能力を活かして接近、私の分身を銃剣による串刺しで仕留めます。

分身を撃破したら増強された冷気で戦争卿の足を止め、動きが止まった隙にフィンブルヴェトから氷の弾丸を撃ちこみます。



「言われるまでもありません」
 狂乱する『異端の神』の殺気にも竦まず、真っ向から対峙しながら、セルマは言う。
 彼女はいつだってそうしてきた。敵を討つために、誰かを守るために、そして何より生き延びるために、スコープの向こうにいる獲物を撃ち抜いてきた。
「戦うこと、立ち向かうこと。この世界で生きるということは、そういうことです」
 ――たとえその相手が堕ちし邪神であろうとも、彼女の放つ銃弾に躊躇いはない。

『――己を見よ、汝の名は『獣』なり』
 『戦争卿』の肉を纏った神が厳かに告げる。それはユーベルコード発動の契機。
 セルマの戦意に反応して虚空より召喚されたのは、セルマ本人と寸分違わぬ分身。手にする武装まで完全に再現されたそれは、虚ろな眼差しでオリジナルに銃口を向ける。
「……撃ち抜きます……」
「っ!」
 瞬間、反射的に身を翻したセルマのすぐ脇を、凍てつく氷の弾丸が貫いていく。
 マスケット銃「フィンブルヴェト」を用いた目にも止まらぬ連続射撃。それは紛れもなく、先刻レッサーヴァンパイアを滅ぼしたのと同じ【絶対零度の射手】だった。

「隙は大きい技ですが、超高速の連射で回避も接近も困難……」
 自身の技であるゆえに、セルマはその特性をよく理解している。分身の能力が本人と同等だと仮定した場合、吹雪のように襲い掛かる無数の氷弾を凌ぎ切るのは不可能だ。
「……ですがそれは、ユーベルコードを使わなければ、の話です」
 セルマはすうっと目を鋭く細めると【ブライクニル】を発動し、自らの全能力を飛躍的に強化。それまで紙一重で弾丸を避けていた少女の動きが、急激に加速する。

「持たせられる時間は1分強、それだけあれば十分です」
 雪豹を思わせる俊敏でしなやかな体捌きで、氷弾の吹雪をかいくぐるセルマ。身体能力のみならず動体視力も向上した今の彼女は、飛来する高速の弾丸を「見て避ける」ことすら可能となる。
 強大さの引き換えに持続時間は短く、使用後には1分間の昏睡状態に陥るという反動の大きいユーベルコードだが――彼女がそのリスクを恐れることはない。
「撃つときのクセまで私と同じとは、見切りやすくて助かります」
「――!!」
 傷一つなく懐に飛び込むと、マスケットに装着した銃剣「アルマス」で一突き。
 氷のように研ぎ澄まされた刃に心臓を串刺しにされた分身は、かっと目を見開くと、そのまま氷霧のように溶けて消えていった。

『まだだ……まだ終わらぬ……戦い続けろ……!』
 分身を破壊された『異端の神』は、声を荒げながら顕現させた異形の銃砲を構える。
 しかしそれが火を噴くよりも速く、セルマの放った冷気の帳が彼を包み込んだ。
「させません」
『ぬゥ……?!』
 【ブライクニル】の作用によって強化されるのは視力や身体能力だけではない。まさに絶対零度の規模にまで増強された極寒の冷気は、神の肉体さえ凍てつかせる。

「あなたの戦いはここで終わりです」
 氷結の縛めに囚われて『異端の神』の動きが止まった間隙を突き、セルマは「フィンブルヴェト」のスコープを覗き込む。彼女の技量なら絶対に外しようのない距離。
 今の自身に操れる最大規模の冷気を、すべて集約してトリガーを引く。放たれた氷の弾丸は弾道上の大気さえ凍らせながら、狙い過たずに標的を撃ち抜いた。

『がァ……ッ!!!』
 胸に氷弾を撃ち込まれた『異端の神』の身体がぐらりと後ろに傾ぎ、悲鳴が上がる。
 それを見届けたセルマは後のことを仲間達に託すと、ユーベルコードの反動により意識を手放した。

成功 🔵​🔵​🔴​

鈴木・志乃
……お前の狂気、私が塗りつぶしてやるよ。何が何でもな。

【呪詛耐性】籠めた【オーラ防御】展開、あの狂気をこちらまでもらうとまずいしね
敵攻撃は【第六感】で【見切り】光の鎖で【早業武器受けからのカウンターなぎ払い】

私の分身が出来た時点でUC発動
自分と相手の間を埋めるように、自分の盾にするように花びらを展開……近づいて来たらこれの光で、【精神攻撃】を行うという手筈
遠かったり速度が必要なら【高速詠唱】の【全力魔法】でそれらを底上げする

そのままカミサマも私の偽物も花の海に包んでしまえ(【祈り、破魔】)
私が戦う理由もコピー出来ないなら、そんな偽物に負けるわけにはいかないからね
少しは狂気が収まると良いんだけど



『……まだだ……まだ、戦いを続けよ……!』
 痛恨のダメージを負ったものの、『異端の神』の狂乱は今だ収る気配を見せない。
 即座に銃砲を持ちなおして反撃の構えを取る――だが、その銃口が無防備な猟兵に向けられるよりも速く、一本の光の鎖が彼の頬を掠めた。
『何ッ?!』
「……お前の狂気、私が塗りつぶしてやるよ。何が何でもな」
 敵の注意を反らし、味方を守ったその操り手は志乃。聖痕よりあふれ出した輝きのオーラを身に纏い、闇と狂気に光で抗いながら、彼女は決意を込めて宣言する。

『清浄なる光を宿す者よ……汝も戦え……戦うのだ……!』
 魂を揺さぶる気魄と共に、『異端の神』は銃砲の照準を志乃に向けて撃ち放つ。
 志乃は両手に携えた光の鎖を巧みに操り、一方の鎖で砲弾を反らすと、間髪入れずもう一方の鎖で反撃する。扇状に軌跡を描いた一薙ぎが、神の肉体を打ちのめす。
 その最中も、精神を汚染する呪詛に耐えるためのオーラの展開と維持は外せない。
「あの狂気をこちらまでもらうとまずいしね」
 ここで我を失い、永遠にこの地で敵を求めながら彷徨い続ける――そんな末路だけは絶対に御免だ。そこには誰かの笑顔も、ワクワクするようなことも、何もない。

『ぐゥ……そうだ、それでいい……戦い、そして敵を滅ぼせ……!』
 聖なる光に灼かれながら、『異端の神』が喚び出したのは志乃自身の分身。その姿は寸分違わず、手にしている光の鎖も同様。ただ一つ異なっているのは、激しい闘志に満ちたその表情か。
「………私は、戦う」
 分身はその身に波動を纏いながら、オラトリオの翼を広げてオリジナルに迫る。それは志乃が持つユーベルコードの中でも高い威力を有する【生命の守護者】の構えだ。

『さあ……戦え……』
「いやだ――!!」
 己自身と対峙させることで戦いを唆す『異端の神』の声を、志乃は強い意志で拒絶する。その瞬間、彼女の手にしていた光の鎖が解け、無数の光の花弁へと変化した。
 淡く優しい輝きを発するその花弁は、ふたりの志乃の間を埋めるように展開され、分身の攻撃からオリジナルを守る盾となる。
「……!」
 【生命の守護者】は高威力だが射程が短く、命中させるには敵に近接しなければならない制約がある。そのために志乃に近付いてしまった分身は、立ちはだかる光の花弁から【感情侵食】を受けた。

「ぅ……私、は……!」
 "命を奪いたくない"という想いで相手の心を上書きする。戦意そのものを喪失させることで相手を無力化するのがこのユーベルコードの真価。
 『異端の神』から与えられた闘争の狂気と、オリジナルからの精神攻撃の間で板挟みとなった志乃の分身は、頭を抱えて苦しそうにうめき始めた。

「私が戦う理由もコピー出来ないなら、そんな偽物に負けるわけにはいかないからね」
 たとえ姿形や能力が同じでも、狂気に唆されて大切なことを見失うような奴なんて認めない。志乃が祈りを込めて詠唱を紡ぐと、展開された光の花弁が勢いを増す。
「カミサマも私の偽物も、花の海に包んでしまえ」
 淡い光から一転して燦然と輝く花吹雪へと変化した彼女のユーベルコードは、山頂を埋め尽くさんばかりに広がっていき、彼女に敵対するもの全てを呑み込んだ。

『―――!!!』
 花弁に込められた平和な想いが、『異端の神』から闘志と狂気を奪っていく。それは不死なる神にとって、半端に肉体を傷つけるよりも遥かに効果的な攻撃だった。
 同時に花弁に呑まれた志乃の分身は、そのまま光の中に溶けるように消滅し――なんとか花弁を振り払った『異端の神』も、相当のダメージを負ったことは一目瞭然だった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ボアネル・ゼブダイ
アドリブ連携OK

平和と自由、そして希望のための戦いはこの世界においては最も重要な戦いと言える
何故なら、それは常に虐げられた者達のための戦いだからだ
嘗ての貴様は弱者のために戦う戦士達を鼓舞する神の一柱だったかもしれぬが…その黄金のような神意も亡くしたか

コ・イ・ヌールを装備
見切りを駆使して敵の砲弾攻撃を回避しつつ光爪で斬撃
特に銃口に注意を向けてダッシュやジャンプも併用して避けていく
全てを避け切れんだろうが、致命傷だけは避けねばな

敵が射撃兵器群を出したらUCを発動
蝙蝠達の群れを広範囲で放ち、兵器群に取りついて牙で切断
群れで囲めば狙いも散るだろう
こちらも追い討ちのように光爪を伸ばし兵器ごと敵を刺し貫く



「平和と自由、そして希望のための戦いはこの世界においては最も重要な戦いと言える。何故なら、それは常に虐げられた者達のための戦いだからだ」
 蛮行に苦しむ無辜の人々のための剣たらんとする騎士――ボアネルは『異端の神』に静かに語りかける。その紅き瞳に宿る感情は、怒りや敵意よりも哀れみの色が濃い。
「嘗ての貴様は弱者のために戦う戦士達を鼓舞する神の一柱だったかもしれぬが……その黄金のような神意も亡くしたか」
 狂気に堕ち、オブリビオンと一体となった彼の者にかけられる慈悲は、速やかにその生を終わらせることだけだろう。青年はコ・イ・ヌールの光爪を構えると、真っ向から戦線に飛び込んでいく。

『――開戦祝え銃砲連打の凱旋歌』
 迎え撃つ『異端の神』の技は、異形の狙撃砲から放たれる血色の砲弾の大量乱射。
 嵐のように降り注ぐ真紅の弾雨を、ボアネルは持ち前の運動能力と見切りのセンスを駆使してかいくぐる。
「これは『戦争卿』のユーベルコードか。厄介だが、凌ぎようはある」
 注視するのは此方に向けられた砲口。射線上から外れるように休むことなく足を動かし、縦横無尽に戦場を駆けて少しでも狙いを狂わせるように努める。
 それでも全ての砲弾を避け切ることは難しいが、致命傷となる直撃だけは避けられる。徐々にその身を鮮血に染めながらも、彼は反撃に転ずる時をじっと待っていた。

『愚かな……それで凌いだつもりか……?』
 ボアネルに回避された砲弾は、地上を真紅に染めあげると砲台や機関銃といった射撃兵器群をその場に形成する。それらは敵対者を自動で認識し攻撃を行う『戦争卿』の眷属とでも言うべきものだ。
『奏でよ、勝利の凱歌を――!』
 『異端の神』の号令と同時に、無数の銃口が一斉にボアネルに照準を合わせる。
 本体からの攻撃を凌いだかと思えば、次は四方八方からの一斉射。彼の命運もここで尽きたかと思わせる光景であったが、しかし彼の瞳はまだ絶望していない。

「古き血で繋がれた眷属達よ、混沌の扉を抜け、我の前に立つ愚かな敵を喰らい尽くせ!」
 死の掃射が放たれるまさに寸前、ボアネルが召喚したのは【闇夜の眷属】。膨れ上がった影の中から飛び出した巨大蝙蝠の群れが、自動射撃兵器群の射線を遮った。
 兵器はそのまま蝙蝠にターゲットを変更すると銃撃を開始する。しかし蝙蝠達は臆することなく仲間を撃ち落とされながらも兵器群に取り付くと、剣のように鋭く大きな牙で銃身を切断する。
『なに……!』
 驚きに目を見開いた『異端の神』の周囲にも、闇夜の眷属は羽音と共に飛来し、旋回しながら牙を剥く。それはまさに、黒い刃(ブラック・ブレード)の嵐だ。

「群れで囲めば狙いも散るだろう」
 大量の眷属が敵の標的を引きつけたことで、当初のボアネルへの圧は弱まった。この好機を逃すことなく、彼は装着したコ・イ・ヌールに魔力を送り込む。
 その美しき白銀のガントレットは、使い手の魔力に呼応するかのように、内包した無限に等しいエネルギーを放出する。五指の先端からビームのように伸びた光爪が、前方の兵器群を刺し貫いた。

「それ以上自らを貶める前に、貴様はここで散るがいい」
『―――ぐ、ぁぁぁぁッ?!!』
 コ・イ・ヌールの光刃はそのまま勢いを止めることなく『異端の神』をも貫通する。
 太陽のごとき光量と熱量がヴァンパイアの肉体を焼き、神の魂を焦がす。鮮血を飛び散らせながら身悶えする『異端の神』の絶叫は、霊峰の麓にまで轟いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シャルロット・クリスティア
コンディションの悪い戦場に物量で押し込んでくる敵……。
罠をかける時間も無い。リスクを承知で迎え撃つしかありませんか……。

持てる最大火力を押し付けましょう。
敵は千、ですがこちらも六百五十挺の重機関銃。
一挺あたり二人弱。撃ち負ける火力ではありません。
かつて聖騎士団がどのような在り方であったにせよ……彼らの戦いはもう終わった。
であれば、眠らせてあげるのが礼儀と言うものです。
軍勢ごと、まとめて薙ぎ払う。

わざわざ言われるまでも無い。
駆り立てられたからじゃない……この引き金は、他でもない私自身の意思で引く。
私の戦いは私自身が決める。お前の妄執に歪めさせなどするものか……!



「ぐぅゥ……まだだ……まだ我の戦いは終わってはいない……!」
 弾丸に、刃に、光に、その心身を傷つけられてもなお『異端の神』は立ち上がる。
 妄執とない混ぜになった狂気を支えに戦闘を続行するその様はまさに狂戦士。彼の狂気は死者にさえ伝播し、眠りについたはずの骸を再び闘争の場に呼び戻す。
「来たれ……来たれ……来たれ……!!」
 ざっ、ざっ、ざっ、と一糸乱れぬ行進の足音を響かせて、現れたのは【"血塗れ傀儡"聖堂騎士団】。今から百年前――甦りしヴァンパイアと人間の戦いが最も苛烈であった時代の死者を素材とした、千人にも及ぶ重装騎士の軍団である。

「コンディションの悪い戦場に物量で押し込んでくる敵……」
 戦局を敵の優位へと傾かせる大軍の増援を前にして、シャルロットは唇を噛む。
 騎士の武装は斧槍と散弾銃。火力と頑健さにものを言わせて圧倒する戦術と見たが、数の利がある側がそれを行うのは極めてシンプルに強力だ。
「罠をかける時間も無い。リスクを承知で迎え撃つしかありませんか……」
 もしも押し負ければそのまま蹂躙される恐れもある。しかしここまで来て退くわけにはいかない。彼女は手に馴染んだマギテック・マシンガンを構えると、覚悟と共にユーベルコードを起動する。

「持てる最大火力を押し付けましょう」
 【吼え猛る銃火の吹雪】――それは、空気中の魔力を凝縮、変換することで装備中の重火器を複製し、一時的に実体化させる錬金魔術。荒れ狂う暴風雨の中から幻影のように浮かび上がるのは、シャルロットが手にするのと寸分違わぬ魔導機関銃。
「エーテル圧縮……エレメント組成変換、構築開始……限定固着、生成完了!」
 周囲に浮遊するように展開された重機関銃の最終的な総数は六百五十挺。
 千の敵に対して、一挺あたり二人弱。決して撃ち負ける火力ではない。

『進撃せよ……!』
「さぁ、蜂の巣です!」
 両者の号令が響くのと同時に聖堂騎士団が前進し、魔導機関銃の一斉射撃が始まる。
 今は『異端の神』に憑依された『戦争卿』の傀儡たる騎士達は、恐れも知らずに弾幕に飛び込み、容赦ない弾雨に晒されながらも前方の味方を盾にして近付いてくる。
 死してなお勇壮なるその姿は、なるほど騎士としての生前のありようを偲ばせるもの。しかしシャルロットとて、ここで手心を加えるつもりは一片たりとも無い。

「かつて聖騎士団がどのような在り方であったにせよ……彼らの戦いはもう終わった。であれば、眠らせてあげるのが礼儀と言うものです」
 先人達への敬意と哀悼を込めて、霊峰アウグスタに銃声のレクイエムが響き渡る。
 止むことなき制圧射撃は騎士の軍勢をまとめて薙ぎ払い、強固な重鎧を蜂の巣に、頑健なる身体を肉塊に変え、再び彼らを冥府での眠りにつかせていく。

『止まるな……撃て……進め……戦い続けよ……!!』
 轟く銃声にも負けぬ大音声で、戦場に立つ者達を鼓舞する『異端の神』。それは配下の騎士団にのみ向けられたものではなく、相対する猟兵の闘争心をも煽り立てるものだ。
「わざわざ言われるまでも無い」
 シャルロットは平時よりも激しい口調で――しかし冷静さを保ったまま言い返す。
 その瞳はけして狂気に染まることなく、討つべき敵をまっすぐに見据えている。
「駆り立てられたからじゃない……この引き金は、他でもない私自身の意思で引く」
 神であろうと何であろうと、この意思は誰にも曲げられない。固い決意のままに引き絞られた銃撃は、騎士団の大軍を一掃し、さらにその向こうにいる標的を狙う。

「私の戦いは私自身が決める。お前の妄執に歪めさせなどするものか……!」

 その意志を体現するがごとく、吠え猛る銃火の吹雪が『異端の神』を射ち貫く。
 数え切れないほどの銃弾が肉体をえぐり、鮮血をしぶかせ、骨をも穿つ。
『ぐ、があぁァァァァッ!!!!?』
 兵器と魔術を複合させたシャルロットの最大火力を受け、絶叫する『異端の神』。
 いかに不死に近い者であっても、その損壊の度合いは無視できぬレベルであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

フレミア・レイブラッド
異端の神とはいえ、元は人と共に在った戦神が…哀れね…。
今の貴方は神でも吸血鬼でもない…これ以上戦禍を呼ぶ前に、今ここで終わりにしてあげる!


【ブラッディ・フォール】で「終焉を呼ぶ黒皇竜」の「黒皇竜ディオバルス」の力を使用(黒皇竜の翼や尻尾等が付いた姿に変化)。
自身の分身が出て来たら、【黒皇竜の一撃】で跳ね飛ばし、【インフェルノ】で追撃。
更に敵本体諸共射程内に収め、全力の【カタストロフィ・ノヴァ】で一気に消し飛ばしてあげるわ!


変化すればそれこそ選択肢は無数にあるけど、わたし自身の技で一番威力が高いのは「神槍グングニル」かしらね…。直撃だけは避けたいわね…


鏡島・嵐
……そりゃ戦うことでしか守れねえモンがあんなら、人間誰だって戦うだろうな。
だけどテメエは違う。テメエはただ“戦いたいからそうする”モンに成り下がってるじゃねえか。
そのシンプルさ、救いようの無さが、おれにとっては一番怖ぇ。
一歩間違えれば、誰でもそうなるかもしれねえんだから。

敵意も、哀れみも、憎悪も無ぇ。
おれはただ怖いから、相容れねえから、テメエを否定する……!

間合いを保って〈スナイパー〉で狙いを定めながら〈援護射撃〉や〈目潰し〉の牽制を適宜入れて他の仲間を援護。
相手が何か召喚するなら《逆転結界・魔鏡幻像》を使って打ち消しを試みる。
相殺しきれねえ攻撃は〈見切り〉〈オーラ防御〉でダメージを最小限に。



「おぉぉぉォォォォォ……!!!」
 猟兵達の度重なる猛攻を受け、霊峰アウグスタの主たる『異端の神』は叫ぶ。
 それは咆哮であり、慟哭であり、絶叫であり、怒号であり――様々な感情と狂気が綯い交ぜとなり、闘争という一念のみに集約される。戦いはまだ、終わっていない。

「異端の神とはいえ、元は人と共に在った戦神が……哀れね……」
 妄執に取り憑かれたその有様を、フレミアは憐憫のこもった眼差しで見つめる。
 往時の威容を偲ぶことさえできない堕ち果てた姿には、敵と分かっていても痛ましいとさえ感じる。だが、狂った『異端の神』がそのような心象を汲み取ることはない。
『戦え……戦うのだ……さもなくば、何も守ることはできぬ……!』
 ポタポタと血の滴る銃砲が、目の前の標的に向けられる。フレミアは咄嗟に防御の構えを取るが――砲が火を噴くよりも速く、一発の石礫が『異端の神』を掠めた。

「……そりゃ戦うことでしか守れねえモンがあんなら、人間誰だって戦うだろうな」
 スリングショットを握り締め、牽制射を放った嵐は、震えを堪えながら告げる。
 ただ奪われるだけの境遇に甘んじることを誰も好しとはしない。譲れないものの為なら人は獣になれる。戦いを恐れる彼も、その理屈はよく分かっている――だけど。
「だけどテメエは違う。テメエはただ“戦いたいからそうする”モンに成り下がってるじゃねえか」
 この神にはもう"守るべきもの"など何一つとして残ってはいない。なのにそれを理解することさえ無く、無関係な者達をその狂乱に巻き込みながら、狂気のままに意義を失った闘争を続けている。

「そのシンプルさ、救いようの無さが、おれにとっては一番怖ぇ。一歩間違えれば、誰でもそうなるかもしれねえんだから」
 誇りと尊厳をもって戦っていたはずの勇者も、道を踏み外してただの破壊者に堕ちるかもしれない。目の前にいる『異端の神』は、嵐にとってそんな可能性の体現だ。
 ゆえに恐ろしく、だからこそ逃げられない。ここで逃げてしまっては、今感じている恐怖はいつまでも己の心を苛み続けるだろうから。
「敵意も、哀れみも、憎悪も無ぇ。おれはただ怖いから、相容れねえから、テメエを否定する……!」
 歯を食いしばり、足を震わせ、冷や汗をたらし――それでも決して目は背けずに、彼は『異端の神』と対峙する。

「……そうね。ここにいるのはもう、かつて人と共に戦った神ではない」
 嵐の宣言に続けてフレミアもまた静かに頷くと、ユーベルコードの詠唱を紡ぐ。
 発動するのは【ブラッディ・フォール】。かつて討滅したオブリビオン『黒皇竜ディオバルス』の力を宿すことで、彼女は翼や尾の生えた半竜半人の姿となる。
「今の貴方は神でも吸血鬼でもない……これ以上戦禍を呼ぶ前に、今ここで終わりにしてあげる!」
 全身には闘気を漲らせながらも、心は狂気に乱されることなく冷静に。
 そして瞳には決意を宿して、吸血姫はまっすぐに討つべき敵へと挑み掛かった。

『否定……終わり……? 否、否、否……我が闘争はまだ終わらぬ……!』
 フレミアの激しい感情に呼応して、『異端の神』のユーベルコードが再び発動する。
 虚空より出現したのは平時のフレミアと寸分違わぬ姿をした分身。黒皇竜の力を得た現在のフレミアとの差異は、竜の特徴ともうひとつ、手に槍を携えていること。
「全てを滅ぼせ、神殺しの槍……」
「あれは……!」
 紡がれる詠唱を聞きつけたフレミアの表情が変わる。投擲の体勢を取りながら魔槍に魔力を圧縮していくその構えは、彼女が持つ中でも最大級の威力を誇るユーベルコード――【神槍グングニル】のそれに他ならなかった。

「直撃だけは避けたいわね……」
 距離とタイミングから阻止は間に合わないと悟ったフレミアは、竜翼を翻して回避機動を取る。しかし仮に分身の能力がオリジナルと同等だとすれば、放たれた神槍は回避してもなおこの山頂の一角を消し飛ばすほどの威力を示すだろう。
「ここはおれに任せてくれ」
 その時、名乗りを上げたのは嵐。暴力的なまでの凄まじい魔力が膨れ上がっていくのを感じた彼は、竦みあがりそうな心を叱咤して【逆転結界・魔鏡幻像】を詠唱する。

「鏡の彼方の庭園、白と赤の王国、映る容はもう一つの世界。彼方と此方は触れ合うこと能わず」
 召喚された大きな鏡が神槍を構えるフレミアの分身を映し出すと、鏡に映った正反対の像も同様の構えを取る。それは分身の鏡像、コピーのコピー。されど力はまったくの同等。
「消し飛びなさい……!」
「……幻遊びはお終いだ」
 分身のフレミアが神槍を投げ放つのと同時、鏡の中からも神槍が放たれる。ふたつの槍は互いの中間点で衝突し、炸裂。凄まじい衝撃と魔力の余波が戦場を薙いだ。
 即座に嵐はオーラによる防御で余波を受け流し、フレミアは上空に退避して衝撃波から逃れる。ほとんどの破壊力が神槍同士の激突により相殺されたことで、ふたりが負ったダメージはかすり傷程度のものであった。

「―――!!」
 この激突で最もダメージを負ったのは、備えを取っていなかった分身だった。
 衝撃に煽られて体勢を崩したその瞬間を好機と捉え、上空よりフレミアが彼女を強襲する。
「偽物なんかに遅れを取るわけにはいかないわね」
 基本能力が同じだとしても、今のフレミアには黒皇竜の力が上乗せされている。
 竜の剛力をそのまま尾に乗せて叩きつける【黒皇竜の一撃】。分身は咄嗟に魔槍でガードするが、あまりの威力を受け止めきることができず、宙に跳ね飛ばされる。
 すかさず追撃に放たれるのは【インフェルノ】。紅蓮に燃え盛る地獄の炎が、回避機動の取れない空中の分身を焼き焦がす。

「くぅ……っ」
 重傷を負った分身が落下したのは、後方の『異端の神』からほど近い位置だった。
 無論、これは全てフレミアの計算ずくでのこと。分身と本体を諸共に範囲攻撃の射程内に収められる位置取りとタイミングを彼女は狙っていたのだ。
「これで終わりよ」
『不味い……!』
 吸血姫の体内で膨れ上がっていく莫大なエネルギー。そこに本能的な脅威を感じ取った『異端の神』は銃口を空に向けるが――再び飛んできた石礫が照準を阻害する。
「やらせねえよ」
 大技発動までの間隙を埋めるためにスリングの弾丸を射ちまくる嵐。相手に対して"恐怖"と"拒絶"しか感じていない彼は『異端の神』のユーベルコードの発動条件を満たさず、新たな分身が妨害のために出てくることもない。

 ――そして数秒後。
 黒皇竜フレミアが全身全霊を込めた【カタストロフィ・ノヴァ】が発動する。

「一気に消し飛ばしてあげるわ!」
 それは、まるで地上に太陽が顕れたような――先の神槍同士の衝突をも凌ぐ、極大規模の大爆発。その範囲内にいる全てのものを滅ぼさんとする、終局的破壊。
 爆心地からほど近い位置にいた分身は悲鳴すら上げる間もなく蒸発し、不滅の存在たる『異端の神』にも、破滅的なエネルギーは容赦なく牙を剥いた。

『――――ァァァァァッ!!!?!』
 上がる絶叫は爆音にかき消されほとんど聞こえない。やがて爆発が収まったとき、そこには肩から右腕が消失した『異端の神』が、全身の焼け焦げた姿で立っていた。
 片腕を犠牲にして被害を抑えたか――だが致命傷には至らなかったものの、彼が負ったダメージの深刻さは、誰の目にも明らかであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

雛菊・璃奈
元はこの地や信徒達を守り、信仰された誇り高い戦神だったのに…。
貴方の戦い、ここで終焉にするよ…。

【九尾化・魔剣の媛神】封印解放…。
神速に更に凶太刀の高速化を加えた二重加速による神太刀との二刀流で敵本体の砲撃を封じる様に接近戦で敵及び自身の分身を圧倒…。
二刀による神速の連撃で追い詰めるよ…。

幾ら姿や武器を真似しても、意思や力の全ては完全に真似できない…!
「普段のわたし」じゃ封印解放したわたしには勝てないよ…。

自身の分身が【ultimate】(最も殺傷力が高いUC)を使って来たら、こちらも【ultimate】で対抗…。
そのまま全呪力を注いで押し切り、分身諸共神を討ち滅ぼすよ…。

どうか、安らかに…



「うぅゥゥ……あぁァァァ……まだだ……まだだぁァァァ」
 深手を負った『異端の神』の慟哭が山頂に響く。乗っ取ったのが強大なヴァンパイアの肉体とはいえ、その生命力には限界があり、終わりの時は着実に近付いている。
 だが狂気に堕ちた彼の魂はそれを理解せず、ただひたすらに闘争を続けようとする。その有様はもはや神よりも吸血鬼よりも、一匹の修羅に近い。

「元はこの地や信徒達を守り、信仰された誇り高い戦神だったのに……」
 ここに至るまでの過程で在りし日の『異端の神』を垣間見た璃奈は、余りにもそれとかけ離れた現在の神の姿に哀しみを隠せない。だがそれ以上に、彼をこのまま終わりなき修羅道に堕ちたままでいるなど、決して認められない。
「我が眼前に立ち塞がる全ての敵に悉く滅びと終焉を……封印解放……!」
 解きし封は【九尾化・魔剣の媛神】。確固たる意志と共に九尾の妖狐へと変身した彼女の身からは莫大な呪力が解き放たれ、霊峰アウグスタを震撼させる。

「貴方の戦い、ここで終焉にするよ……」
『終焉……認めぬ……我は……ッ!!』
 妖刀・九尾乃凶太刀ならびに神太刀を構える璃奈に対し、『異端の神』は残る隻腕で銃砲を構え、璃奈の分身を召喚する。オリジナルと同じ二刀を携えた分身は、闘争心によって濁った瞳で"自分"を見据える。
『戦いはまだ終わってはいない……!』
 分身が斬り込まんとするのと同時に、銃撃を放たんとする『異端の神』。
 だが、その両者の機先を制して、先に敵陣に踏み込んだのは璃奈であった。

「遅いよ……」
 はっと目を見開いた敵が次に反応するよりも速く、璃奈は二刀の連撃を繰り出す。
 封印解放による強化と凶太刀に宿る高速化の呪力。このふたつを合わせた璃奈の踏み込みと剣速は『異端の神』にも捉えられない――神速すらも超えた領域に達する。
『ぐぁ……ッ!?』
「―――!!」
 神殺しの力を宿す神太刀が『異端の神』を、そして凶太刀が璃奈の分身を斬る。
 二重に上がる血飛沫と悲鳴。傷ついた神が後退するのに対し、分身は反撃を仕掛けようとするも、オリジナルの巧みな剣捌きによってあっさりといなされる。

「幾ら姿や武器を真似しても、意思や力の全ては完全に真似できない……!」
 呪力と共に気魄をほとばしらせながら分身を圧倒する璃奈。彼女と分身の最も大きな差異は、分身の姿が九尾ではない、平常時の璃奈とまったく同じであることだ。
「『普段のわたし』じゃ封印解放したわたしには勝てないよ……」
「くぅ……」
 璃奈の戦闘スタイルの骨子となる剣技と呪力を大きく強化する九尾化の有無は、そのまま双方の戦力差に反映される。唯一、分身がオリジナルを上回れる可能性があるとすれば『異端の神』との連携だが、速さに勝る璃奈は自分から接近戦を仕掛けることで間合いを潰し、敵の砲撃を封じ込めていた。

「全ての呪われし剣達……わたしに、力を……」
 もはやこの期に及んでは、分身に残された打開策はひとつしか無かった。
 それは、己が持ちうるなかで最も殺傷力の高いユーベルコードによる一発逆転。
 分身から放たれる呪力が高まっていくのを感じた璃奈も、また同じ詠唱を紡ぎだす。

「「その力を一つに束ね、我が敵に究極の終焉を齎せ……!」」

 【ultimate one cars blade】――それは全ての魔剣・妖刀の力を集束し、森羅万象を無に帰す"終焉"の一振り。本来ならば同時に一つしか存在しえぬ"究極"が、二つ。
 鏡合わせのように構えを取った璃奈と璃奈は、まったく同時に刀を振り下ろした。
 ふたつの"終焉"が鍔迫り合い、余波によって溢れた膨大な呪詛が、周囲を崩壊させていく。

「言ったはずだよ……意思や力の全ては完全に真似できないって……!」
 最初は拮抗していたかに見えた衝突。しかし璃奈は封印と共に解放された全ての呪力を自らの一刀に注ぎ込んで、徐々に相手を押し込んでいく。
 分身諸共、本体である『異端の神』もここで討ち滅ぼす。そんな気魄がありありと顕れた彼女の全力を前にしては、紛い物である分身ではまるで太刀打ちできない。
『――――ッ!!!』
 一体、定命なる者のどこからこれほどの力が湧いてくるのか――ユーベルコードでさえ再現できなかった璃奈の揺るぎない意志と力は、狂える神すら驚愕させた。

「どうか、安らかに……」

 刃を伝える最後のひと押しは、哀悼と慈悲の想いを込めて。
 紛い物の【ultimate】をへし折った璃奈の"終焉"は、そのまま自らの分身を――そして『異端の神』を、同時に断ち斬った。
『ぐ、ぁ―――ッ!!?!?』
 真っ二つに両断され、跡形もなく消滅していく分身。そして『異端の神』も両断こそ免れたものの、袈裟懸けに斬り裂かれた身体の傷は深く、心臓にすら達している。
 それはまさに『異端の神』の戦いに終わりが近付くことを示す、逃れられぬ"終焉"であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

カタリナ・エスペランサ
ここまでの戦いで掴んだ感覚から《環境耐性+念動力+ハッキング+地形の利用》、敵領地内の存在と扱われるのを躱すのも兼ねて自分の支配領域を確保。そのまま《空中戦》を展開しましょう

この武力があればどれだけの吸血鬼を狩れたか、どれだけの人を守れたか
…オブリビオン相手に仮定を並べるだけ無意味ね
何一つ救わない今の貴方を神だとは認めない
いつまでも恥を晒すものではないわ、神紛い

【天災輪舞】で加速、《第六感+戦闘知識+見切り》で常に戦局を先読み
爆ぜ焦がす雷羽の《属性攻撃+全力魔法+範囲攻撃+制圧射撃》で《薙ぎ払い+蹂躙+焼却》し騎士団を突破、敵本体にも一度拡散した屠神の蒼雷を《早業》で再び束ねた一撃を叩き込むわ



「おぉぉォォォォ……まダ……マだだ……」
 深手を負い、一度は膝を折った『異端の神』の口から譫言のように声が漏れる。
 言の葉に乗った狂気は大地へと伝播し、一度は地に還ったはずの者達――【聖堂騎士団】を再び現世に甦らせる。かつては誉れ高く、そして今はただ傀儡として戦う、血塗れの騎士達を。

「この武力があればどれだけの吸血鬼を狩れたか、どれだけの人を守れたか……オブリビオン相手に仮定を並べるだけ無意味ね」
 戦場に展開された千人もの大兵力を、冷ややかな眼差しで見つめるのはカタリナ。
 その口ぶりや雰囲気は普段とはすこし違う。あるいはこちらが素顔なのか――故郷の隠れ里においては祭祀を司る家系の生まれであった彼女は、今や祀る者もいない零落したこの世界の神に厳しい言葉をぶつける。
「何一つ救わない今の貴方を神だとは認めない。いつまでも恥を晒すものではないわ、神紛い」
 その態度は毅然として凛々しく、眼差しに込められた意志は否定と訣別。
 もはや自らでは終わることさえできないと言うなら――この手で終わらせるまで。

「戦いはまダ終わッテいなイ……征け……!!」
 その言葉は果たして届いていたのか。狂える神の号令が、屍の騎士団を前進させる。
 禍々しい斧槍と散弾銃を手に圧力をかけてくる軍勢に対し、カタリナはここまでの戦いから掴んだ感覚を活かして自らの支配領域を確立し、華麗な空中戦を展開する。
「貴方達も、こうして戦わされるのは本意ではないでしょうに」
 もはや嵐など物ともせずに、翼を翻して自在に空を舞い、敵の刃や銃弾を躱す。
 元は『戦争卿』の傀儡であった騎士達は、主の中身がすげ替わってもなお安息を妨げられている。それは彼女の信条においては決して許される行いでは無かった。

「貴方達の最期に、せめて最高の舞台で魅せてあげるわ」
 カタリナは『異端の神』と騎士団にそう宣言すると、その身に蒼雷の輝きを纏う。
 その御業の名は【天災輪舞】。カタリナに宿る魔神がかつて主神との戦いの際に奪った権能が一つ、同族たる神を滅ぼす蒼き雷は、化身に比類なき疾さを与える。
 残光の軌跡を描きながら加速した彼女は軍勢の上空をジグザグに翔け抜け、触れたものを焼き焦がす雷羽の散弾を放射する。さながら爆撃のように地に降り注いだ雷羽は密集した騎士達を爆ぜ焦がし、灰燼に帰するまで威を衰えさせることはない。
「―――!!!」
 言葉さえ失った騎士達の断末魔が木霊し、蒼雷に抱かれて骸は再び土に還る。
 陣形は崩壊し、敵将へと至る一筋の道が開かれる。そこまでの戦局を読んでいたカタリナはすかさず騎士団を突破すると、本体である『異端の神』を射程に捉えた。

「狂気のままに他者を戦いに駆り立てる……その無為な行いもここで終わりよ」
 配下の防衛線を抜けられた無防備な神の前で、魔神の化身は蒼き雷を束ねる。
 一度は戦場に散らした雷は再びその手に集い、篝火のように煌々と輝く一振りの槍となる。それは人を脅かし未来を妨げる神を粛清する屠神の蒼雷。
 堕ちたる神紛いへの嫌悪とせめてもの敬意を込めて、カタリナはそれを投げ放った。

『が―――あぁァァァァぁぁぁぁあガぁっ!?!?』
 蒼雷の一撃は狙い過たずに標的の胸を貫き、閃光と灼熱が『異端の神』を灼く。
 耳をつんざくような絶叫が彼の口からほとばしり、血肉の焦げた匂いが辺りに漂う。
 不死なる神にさえ滅びをもたらすその力は、彼の命運をまたひとつ"死"に近付けた。

成功 🔵​🔵​🔴​

フェーリ・アイ
(言葉は発せず、霊の声は周囲にも聞こえる
OPのみ記憶を共有
人格:タロ)

…ええと、また(土壇場の人格交代)ですね?
異端の神の山に挑んだのですか
耐えられなかったかはたまた、タイマン勝負は不利と踏んだか
…まあいいです

武器は仕込み杖
接近する間は回避に専念し、常に動きを先読み
アブソリュート解放です
そのうち、動きの癖から威力、体力、行動限界から死期まで特定可能でしょう
私も力に自信がある方ではないのですがね…!
速度と針を通すが如くの反射神経を駆使して頑張りましょう

空間掌握系の能力ならば、避けていた所で好転はしませんね
分析が終わり次第、迎撃へと転じます

戦え、との熱いコール。乗りましょう
昂りますねぇ(にこにこ)



(……ええと、またですね?)
 激化する『異端の神』との戦いを眺めながら、フェーリは心の中で自問自答する。
 いや、正しくはそこにいるのは"フェーリ"ではなく別の人格のひとり――"タロ"だった。
(異端の神の山に挑んだのですか。耐えられなかったかはたまた、タイマン勝負は不利と踏んだか……まあいいです)
 土壇場での人格交代は、代わった方も状況を把握するのにやや時間がかかる。
 覚えているのは依頼の説明を受けたところまでで、以降の"フェーリ"の記憶は共有していない。それでも目の前の光景を見れば、何をすべきかだけはすぐに分かった。

(アブソリュート解放です)
 "フェーリ"の得手である銃から自身の得物である仕込み杖に持ち替え、無言のまま敵に近付いていくタロ。その顔には、戦場では場違いなほど楽しげな笑みが浮かぶ。
 新手の接近に気付いた『異端の神』は、残っている片腕のみで異形の狙撃砲を持ち上げると、容赦のない乱射にて応戦する。
『戦エ……!』
 轟音と共に標的を襲う大量の血色の砲弾を、タロは研ぎ澄ませた反射神経と機敏さを活かして避ける。弾幕の中に生じる僅かな空白にその身をすべり込ませる様は、まさに針を通すが如き行為であった。

(私も力に自信がある方ではないのですがね……!)
 急に対応を丸投げしてきた別人格への不満も滲ませつつ、回避に専念するタロ。
 当初はまさしく紙一重で凌いでいた様子だったが、その状況が長引くにつれて変化が生じる。【サイレント・アブソリュート】を発動中のタロは、無言のまま観察することで対象の動きをより正確に先読みできるようになるのだ。
(気力だけは充実していますが、向こうも相当参っているようですね)
 動きの癖から攻撃の威力、行動限界から死期に至るまで――観察を重ねたタロには『異端の神』のすべてが手に取るように分かる。並大抵であれば数回は死んでいるほどの負傷、それで戦闘継続できているだけでも驚きだが、限界は着実に近付いている。

『戦エ……戦え……タたかエ……!!!』
 自らの血で装束を真っ赤に染め上げながら、狙撃砲を乱射し続ける『異端の神』。
 戦場に撒き散らされた砲弾は着弾点に砲台や銃座といった射撃兵器を生成し、砲撃を回避した相手に休む間を与えない。
(空間掌握系の能力ならば、避けていた所で好転はしませんね)
 敵の分析を完了したタロは、自動兵器の包囲が完了する前に迎撃へと転じる。
 仕込み杖で弾幕を受け反らしながら、喧しいほどに戦いを唆す『異端の神』に向かって、一直線に。

(戦え、との熱いコール。乗りましょう)
 死線をくぐる最中にも関わらず、タロの口元に浮かぶのはやはり笑み。けして狂気に取り憑かれているわけではなく、湧き上がる闘争心をうまくコントロールしている。
(昂りますねぇ)
 にこにこと笑いながら弾幕をくぐり抜けて『異端の神』の懐に。砲撃の間合いの内側にまで入り込んでしまえば、そこにあるのは無防備なただの標的だ。
 間髪入れず抜き放たれしは白刃。観察を経て繰り出された仕込み杖による一閃は、まるで吸い込まれるかのように標的の急所を捉えた。

『が、ァ―――ッ!!!?』
 真っ赤な血飛沫を上げながら、タロの前でがくりと膝をつく『異端の神』。
 反撃を受けないよう即座に飛び退きながらも、タロの目は彼の死期をすでに見切っていた。不滅の神が終焉を迎えるまでの手数は、あと――。

成功 🔵​🔵​🔴​

トリテレイア・ゼロナイン
(声の詳細を他の猟兵から伝え聞き)

単一の権能、機能の戦神
戦いでしか騎士の役目を果たせぬ私と似ているのかもしれません

ですが目的を見失った戦いなど哀しいだけ
役目を終える時です

砲弾を●盾受けで防御、銃器で応戦しスラスターの●スライディングで接近
兵器群はセンサーでの●情報収集で●見切って回避
相手の懐に飛び込み誤射を誘発させる遠隔操作兵器への対処…SSWの定石です

銃弾に混ぜUCの杭状発振器を●怪力で複数●投擲
牽制も兼ね相手の退避方向に設置
退避した敵が壁に掛かるようUCを起動し●だまし討ち
背後にも射出し閉じ込め弱体化させ、剣を抜き放ち突き刺します

…いつか私が終わる時、望ましい終わりを迎えられるのでしょうか



「単一の権能、機能の戦神。戦いでしか騎士の役目を果たせぬ私と似ているのかもしれません」
 別の猟兵から『異端の神』の声の詳細を伝え聞いたトリテレイアは、戦うことしか知らぬ『異端の神』と、戦うために作られた兵器である己を照らし合わせながら呟く。
 この狂える神は、今もただ自らに課した役目を果たそうとしているだけなのかもしれない。トリテレイアが起動時に組み込まれていた唯一の騎士道物語(データ)を、今もなぞり続けているように。

「ですが目的を見失った戦いなど哀しいだけ。役目を終える時です」
『我が戦いは……終わらぬ……うぅぅぅぅあぁァァァァァァ……!!』
 機械仕掛けの騎士は盾を取り、狂える『異端の神』は異形の狙撃砲を乱射する。
 大量にばら撒かれる血色の砲弾はひとつひとつが十分な脅威。トリテレイアはさっとかざした大盾で飛来する砲弾を防ぎながら、格納された銃器を展開して応戦する。
 砲声と銃声が木霊し、血腥い大気に硝煙の匂いが混ざる。さらに的を外した砲弾の着弾点からは無人の射撃兵器群が現れ、四方八方からトリテレイアに照準を定める。

「マルチセンサー感度最大」
 視覚に限らずあらゆる感覚を駆使して、機械騎士は自動兵器の一斉射から身を躱す。
 そのまま脚部のスラスターを点火し、再び狙いを合わせられる前に急加速。本体である『異端の神』の元へと土砂や泥水を巻き上げながら猛然と吶喊していく。
「相手の懐に飛び込み誤射を誘発させる遠隔操作兵器への対処……スペースシップワールドの定石です」
 たとえ世界が異なれども、この手の兵器のあしらい方は熟知している。本体とは独立して敵対者を自動攻撃する兵器――それは逆手に取られれば時に本体の意に反する誤作動も誘発されるということだ。

『―――!!』
 不味い、とトリテレイアの発言を聞いた『異端の神』は思ったろう。元よりこちらの武装は狙撃砲をはじめとした遠距離装備、接近戦に応じるメリットは何一つ無い。
 大地を滑りながら迫ってくる相手から距離を取るように後ずさる『異端の神』。トリテレイアはその後退を咎めるように銃撃を続けながら杭状のユニットを投げつける。
「逃しません」
『ぐゥ……!』
 牽制の意図で放たれたそれは『異端の神』が退避しようとした後方に突き刺さる。
 その瞬間【攻勢電磁障壁発振器】が起動。投擲された杭状の発振器から発生した電磁波がエネルギーの障壁を作り上げ、『異端の神』の退路を塞いだ。

『こレは……ッ?!』
「いわゆる壁、というものです」
 逃げようとした先に突然発生した障壁に、勢い余って衝突する『異端の神』。
 発振器から放たれる指向性の電磁波が、まんまと罠に掛かった神を痺れさせる。
 相手の動きが止まった隙を突いて、トリテレイアはさらに複数本の発振器を背後にも射出。『異端の神』を閉じ込める障壁の檻を完成させた。

『ぐ、うぅゥゥ……我、は……我は、まダ……』
 檻の中に完全に囚われた『異端の神』に、四方から浴びせられる電磁波の嵐。
 それは対象にダメージを与えるだけではなく弱体化させることで、戦局を機械騎士の有利に傾かせる機能も有していた。
「貴方の役目は、既に終わっているのです」
 身動きすらままならぬ『異端の神』に近付いたトリテレイアは、抜き放った儀礼用長剣を突き放つ。標的の身体に深々と突き刺さったそれは、返り血によって真っ赤に染まり――山を震わせるような苦悶の絶叫が、戦場に響き渡った。

「……いつか私が終わる時、望ましい終わりを迎えられるのでしょうか」
 血溜まりの中に倒れ伏した神を見下ろしながら、トリテレイアは己の未来を想う。
 同時にふと想起されるのは、過去に敵として対峙した同型機のこと。銀河帝国が滅び去ってなお、オブリビオンとなって戦い続ける――彼らのような末路だけは、騎士の望むところではなかった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

シェーラ・ミレディ
偽物が創り出されるのは遠慮したいのだが、戦闘中に戦意を衰えさせるわけにいかないからなぁ。ここはあえて、この身を狂気に浸そうか。
オーラ防御で雨風を、気耐性で理性を失うのを防ぎ、素早く銃を抜いて先制攻撃。今まさにUCを放たんとしている偽物の手元を狙い、『相思相愛』を撃ち込もう。

僕の使うUCの中で、最も殺傷力の高いものというと『法界悋気』になるのだろうが、あの技は制御が難しい。『相思相愛』で綻びを突けば暴発してくれるだろうさ。
うまくいけば戦争卿も巻き込める。

そう、獣だとも。敵を狩る獣は美しいだろう?

※アドリブ&絡み歓迎


シール・スカッドウィル
戦え戦えとまぁうるさい。
言われずとも戦ってやるが……さて。

「それはいかがなものかと思うぞ」
俺が持つUCの中での最大火力は、間違いなく【神≒魂の循環機構】だ。
……だが、それは制御できる類のものではない。
下手をしなくても自傷コースだぞ。
そして、性質として俺は、そのカウンターとなるUCを持っている。

とはいえ、こうなると周辺被害が甚大だな。
さっさと高機動モードへ移行。
雷撃を掻い潜り、本体を右手の光剣で【鎧無視攻撃】によって切り捨てる。
更にそのまま戦神卿まで吶喊、右の実体剣で【捨て身の一撃】を。

潰せるならそのまま押し切るし、無理でもそれはそれで足止めになる。
別に、俺一人が戦っているわけではないからな。



『まダだ……戦いは……まダ……』
 全身にくまなく傷を負い、一度は地に倒れ伏した満身創痍の『異端の神』。
 されどその妄執に終わりはなく。血溜まりの中から立ち上がる姿は幽鬼の如し。
『戦いはまだ……続いている……戦え……戦え……!!』
 嵐さえもかき消す狂気の雄叫びは、猟兵達の魂をもざわつかせるのであった。

「戦え戦えとまぁうるさい。言われずとも戦ってやるが……さて」
「偽物が創り出されるのは遠慮したいのだが、戦闘中に戦意を衰えさせるわけにいかないからなぁ」
 狂える神にどう引導を渡すものかと、思案を巡らせるのはシールとシェーラ。
 もはや命運の尽きかけた『異端の神』であっても決して油断はできない。彼は此方の戦意や哀れみ、憎悪といった感情に反応して分身を作る能力を持っている。
 自分自身の力が自らに返ってくる――経験を積み強大なユーベルコードを操れるようになった猟兵ほど、分身の脅威度も増すというのは厄介なものだ。

「ここはあえて、この身を狂気に浸そうか」
 シェーラは早撃ちの構えを取るとオーラを纏い、風雨に耐えながら意識を集中する。耐性を持つ彼はたとえ神の狂気に晒されても、安々と理性を手放しはしない。
 シールもそれに倣うように身構え、現れるであろう分身の行動に備える。

『己を見よ……汝の名は『獣』なり……!』
 血を吐くような詠唱により顕現するは、寸分違わぬシェーラとシールの分身。
 装束から装備まで再現された――ただ一つ、闘争の狂気に濁った瞳だけが違う彼らは、各々が有する最大威力のユーベルコードの発動準備に入る。

「余すことなく、漏らすことなく。万象一切を掌中に──」
「其は天災。過ぎたる繁栄へノ滅び。忌避すべき色、畏怖サれる容。故ニソこに意志ハなク、故ニそレハ生キ物に非ズ、ユエニソノナハ―――」

 【彩色銃技・法界悋気】と【神≒魂の循環機構】。奇しくもそれは双方とも「属性」と「自然現象」を操るという、傾向を同じくするユーベルコード。
 分身シェーラの構えた精霊銃の銃口には森羅万象のエネルギーが集約されていき、分身シールは自らを触媒として赤雷を呼び起こす巨大なる黒龍を創造する。
 大地が震え、天空が嘶く。これほどのエネルギーが同時に解放されれば、いかに猟兵達とてただでは済まない。最悪、戦場ごと吹き飛ばされる恐れも――。

「それはいかがなものかと思うぞ」
「そんなものが、僕に通用するとでも?」

 ――だが、分身達のユーベルコードを見たふたりは一切の動揺を示さなかった。
 彼らは知っている、その術理が持つ致命的な構造の欠陥を。万象と天災の力は強大ゆえに制御が極めて難しく、ほんの少しの綻びひとつで容易く暴発することを。
 まさに【法界悋気】が放たれようとした瞬間、シェーラは稲妻のような早業で銃を抜き【彩色銃技・相思相愛】を撃つ。放たれた銃弾は自らの分身の手元に的中し――集束されたエネルギーは制御を失い、無秩序に解き放たれる。

『―――!!!』
 それはシェーラとシールの分身にも『異端の神』にも予想外の事態であった。
 暴発したエネルギーの奔流はそれまでの暴風雨もかくやとばかりの大嵐と化し、暴発点により近かったオブリビオン達を呑み込む。暴力的なまでの天災の只中ではシールの分身も【循環機構】の制御を保てるはずがなく、暴走がさらなる暴走を呼んだ。
「がぁ……ッ!!」
 分身の身体を引き裂きながら荒れ狂う黒龍。元よりそれは制御できる類のものではなかったが、完全に手綱の外れた状態となっては誰も手の付けられぬ有様で、無差別に赤雷を撒き散らす。

「うまく戦争卿も巻き込めたのは行幸か」
「とはいえ、こうなると周辺被害が甚大だな」
 一発の弾丸で盤面をひっくり返したシェーラに、その結果を見やるシール。誤算と言うべきはふたつの能力が連鎖暴発したことで暴走規模が想像以上になったことか。
 このまま放置すればこちらまで巻き添えを食らいかねない。だが幸いにもシールには【神≒魂の循環機構】に対抗するカウンターと言うべきユーベルコードがあった。

「其は救済。終焉を厭い、祈りに端を成し、願いに醸成され、生を繋ぎて死に還るもの。汝は無意識に揺蕩う生への渇望。故にその名は――――」
 【英雄≒魂の生存本能】。シールの身体は白銀に輝く人型兵器然とした真の姿へと変化し、さらに腰部砲門をブースターとして反転させた高機動モードへと移行する。
 其は神を滅ぼすモノ。過ぎたる繁栄への滅びに対抗する、意志あるモノを救う力。

「終わらせるぞ」
 一条の流星のごとく飛び立ったシールは、荒れ狂う精霊力と赤雷の嵐をかいくぐりながら翔け抜ける。その狙いはユーベルコードを発動させた本体である分身達だ。
 右手から精霊武装を変成した光の剣を展開し、一閃。自らの能力の暴発によって既に満身創痍だったふたりの分身は、光刃に斬り捨てられ溶けるように消えていく。
 同時に【法界悋気】と【循環機構】も停止し、山頂を吹き飛ばさんばかりだったエネルギーの暴走も雲散霧消する。だが、シールの攻勢はまだ止まらない。
 ユーベルコードの暴走に巻き込まれ、前後不覚の『異端の神』。この機を逃すことなく吶喊した彼は、左腕に装着された実体剣を展開し、一気に突き放つ。

『が……は……ッ!!!!』
 神滅の宿命を帯びた白銀の機人の一撃は、狂える神の胸を深々と貫く。
 ごぼりと血反吐を吐き散らし、声にならぬ叫びを上げる『異端の神』。
 ――だが、その瞳の奥に宿る狂気の光は、それでもなお消えていない。
(押し切れはしなかったか。だがこれはこれで足止めになる)
 それ以上刃が進まない手応えを感じながらも、シールは冷静であった。
 相手を串刺しにしたまま空いた手で掴みかかり、押さえ込む。
「別に、俺一人が戦っているわけではないからな」
 空中に敵を固定した状態で地上を見やれば、そこには精霊銃の射手がいる。

「汝の名は『獣』――そう言ったな戦争卿よ」
 二丁の銃口に精霊の力を込め、上空の敵に照準を合わせながらシェーラは告げる。
 その口元には好戦的な笑み。無闇に猛々しいのではなく、獲物の隙を突くしなやかさと、強き者としての余裕を兼ね備えたそれは、尊大なれども麗しい――。
「そう、獣だとも。敵を狩る獣は美しいだろう?」
 人形の牙は、精霊の弾丸。狙い過つことなく標的を貫く、彩色。

『ぐ、がぁ……ッ!!!!!』
 魔弾に撃ち抜かれた『異端の神』の身体は衝撃に吹き飛ばされ、力なく墜ちていく。
 鮮血の尾を引きながら地上へ叩きつけられたその様は、もはや消える寸前の灯火であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

リーヴァルディ・カーライル
…ん。確かに神の力は脅威だけど…それだけ。
戦う理由すら見失った骨子の無い力では、
私の誓いを砕く事はできない。

“調律の呪詛”を維持(存在感、精神攻撃)
聖痕に生命力(魂)を吸収される激痛を耐性と気合いで耐えUC発動

過去の戦闘知識から手を繋ぐように空中戦を行う黒刃を操り、
殺気を暗視したら先制攻撃のカウンターで味方を援護し、
自身は闇に紛れ大鎌で怪力任せに傷口を抉る2回攻撃を試みる

…その不本意な生を終わらせてあげる。

第六感が好機を見切ったら武器を合体
限界突破した神力を溜めた大剣をなぎ払い、
時間を断つ斬撃のオーラで防御を無視する時間属性攻撃を放つ

…この一撃を手向けとする。
眠りなさい、霊峰アウグスタの戦神。



『た……タか、エ……戦エ……たたかエ……』
 ずるり、と。もう幾度であろう、地に伏せられた神は這いずるように身を起こす。
 乗っ取ったヴァンパイアの肉体もとうに限界のはず――それを動かし続けているのは幾百幾千の歳月により蓄積された「闘争」という不滅なる狂気の妄執によるものか。
 だが猟兵達の不断の攻勢と意志の力は、そんな神にさえ終焉を齎そうとしていた。

「……ん。確かに神の力は脅威だけど……それだけ。戦う理由すら見失った骨子の無い力では、私の誓いを砕く事はできない」
 もはや"神"とも呼べぬほどに零落したその者に、リーヴァルディは静かに告げる。
 対峙することで強まる狂気も、調律の呪詛を纏った彼女の心を揺るがすことはない。
 満身創痍の敵を見つめる瞳の奥で"名も無き神"の聖痕が輝きを放つ。魂を対価に奪われる激痛に耐えながら、発動するのは【代行者の羈束・生と死を分かつもの】。
「……聖痕解放。その呪わしき刃にて、生と死を断ち切る」
 現れしは飛翔する三対六刃の「黒刃外装」。闇の中に溶けるようなその刃は、術者の手の延長線上のように自在に舞う、終わりの紡ぎ手であった。

『我は……まだ……終わらぬ……戦え……戦えぇぇェェェェェ……ッ!!』
 己とは異なる"神"の気配を感じ取ったか、『異端の神』の殺気と闘志が膨れ上がる。
 澱んだ闇のようなその気配を視たリーヴァルディは、黒刃外装にて機先を制する。
「……言ったはずよ。言われるまでもない、って」
 それぞれが異なる軌道を描く3対の刃は、前方と左右から同時に標的に襲い掛かる。『異端の神』は狙撃砲の砲身で刃を打ち払うが、その隙にリーヴァルディ自身は闇に紛れ、彼の視界から姿を消していた。

『どコだ……何処に行っタァ……!』
 標的を見失った『異端の神』は、狙いもつけず無闇矢鱈に異形の狙撃砲を乱射する。
 戦場にばら撒かれる大量の砲弾は、着弾地点を様々な銃座や砲座に変化させていく。
 だが、自動的に敵対者を攻撃するそれらの射撃兵器群も、標的を見つけられなければ意味はない。狂える神が右往左往する中、一体リーヴァルディはどこへ行ったのか――それは砲撃の射程の内側。遠距離攻撃の死角となる白兵戦の間合いであった。

「……その不本意な生を終わらせてあげる」

 闇の中から襲い掛かる大鎌の刃。ダンピールの怪力を以って振るわれたその一撃は、あらぬほうを見ていた標的の肩口から胴体にかけてを深々を斬り裂いた。
『がぁ……ッ!!』
 血飛沫を散らしながら『異端の神』が後退する。逃すまいとさらに一歩踏み込んだリーヴァルディは、たった今刻みつけた傷を抉るように、もう一度大鎌を振り下ろす。
「……貴方に凱旋歌はもう必要ない」
 ごとん、と異形の狙撃砲が大地に転がる。彼女の追撃が断ち斬ったのは神の左腕。
 両腕を失った『異端の神』に、もはや銃砲のトリガーを引くことは出来ない。
 ――決着をつけるのは今この時を置いて他にないと、彼女の第六感が告げていた。

「……黒剣解放。時をも断ち切る神剣をここに」
 リーヴァルディが"過去を刻むもの"を掲げると、宙を舞っていた黒刃外装が集い、大鎌と合体する。ここに完成するのは"名も無き神"の神剣――時間を断裁する刃。
 一つとなった黒剣からは、限界を超えた神力がほとばしり空間を振動させる。その力はまさしく人智を超えた領域であり、本来人の身で扱うには余る諸刃の剣だ。
 だが"名も無き神"の契約者たるリーヴァルディは、自らの寿命と引き換えにその力を一時の間制御し――『異端の神』を屠る為の全身全霊の一撃を放つ。

「……この一撃を手向けとする。眠りなさい、霊峰アウグスタの戦神」

 神力のオーラを纏った斬撃が、狂える神の"時間"を断つ。
 通常の物理を超越したその一撃は、いかなる防御も不可能。
 無論、神であっても、もはや耐え切れるものではなかった。

『我は―――』

『――そうか』

『―――――これが、終戦か』

 最期に『異端の神』が遺した言葉は、どこか清々しく、解放されたように響き。
 取り憑いていた肉体は砕け散り、魂は骸の海で覚めることのない眠りにつく。
 その時、猟兵達はあれほど荒れていた山の天候が、鎮まっているのに気付いた。
 ヴァンパイアの遠征から数十年――霊峰アウグスタは神の死と共に、その狂気からついに解放されたのだ。


 かくして狂える神に終焉はもたらされ、不可侵の地は新たなる安住の地となった。
 いずれこの地には再び人が訪れ、山中や麓には新たな集落が築かれることだろう。
 神は死に、信仰は途絶えても――守るべき人の営みは、終わることなく続いていくのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年01月14日


挿絵イラスト