●建前
クリスマス。
それは、猟兵達が知るあらゆる世界で、特別な日だ。それは、文明の崩壊したアポカリプスヘルでも変わらない。
明日の平穏が約束されていないそんな世界でも。
いや――そんな世界だからこそ。
せめてクリスマスだけは、精一杯楽しもうと限られた資源で一夜を明かす。
そんな日なんだけどね。
●オブリビオン達のクリスマス
フルフェイスのガスマスクで顔を覆った兵士の集団が、荒野に炊いた大きな篝火を中心に円陣を組んでいた。
『生前の事だ。俺にもダチと呼べる奴と、惚れた女がいた。その惚れた女ってのが、ダチと同じ女でな……どっちかが死ぬまで抜け駆け禁止、の筈だったんだ』
その輪の中で、一人の兵士が昔を語っている。
『そしてとあるクリスマスの日の事だ。もういつのクリスマスのことかも覚えちゃいないが――ああ、それがいつかなんてのはどうでもいい事だ。
重要なのは、その日は珍しく俺だけがゾンビ焼却のシフトだったという事。そして疲れた身体を引きずって帰ったら……クリスマスの酒で酔い潰れたダチが! 惚れてた女に膝枕されてやがったんだよぉぉぉぉぉ!』
――ないわー!
『それで――どうした、燃やしたか?』
『ブチ切れて燃やそうとしたら彼女に先手必勝された。当時の上官だったしな』
――おおおおおおおう。
円陣から上がる、嫉妬と怨嗟と嘆きが混ざった何とも言えない声。
『もう――充分だろう。過去を振り返るのは』
そんな中、兵士の誰かが無駄に厳かに告げる。
『もう50人は聞いたぞ。これ以上は、俺達の心がキツい』
オブリビオンでも、キツいもんはあるらしい。
と言うか、何で50人以上も生前の嫉妬ネタ持ってる兵士が揃ってんだろう。
『なあ、そうだろう? もう俺達の嫉妬力は! 嫉妬の熱は充分に高まっただろう? 今ならどんなリア充でも燃やせる気がするだろう!?』
『その通りだ!』
『リア充とは燃やすもの!』
『リア充が生まれるクリスマスも燃やすもの!』
ゴオオオオオオオォォォォッ!!!
歪みまくった気勢とともに上がる、炎、炎、炎。
兵士達の手には、一様に火炎放射器が握られていた。
彼らは『フレイムアーミー』。かつてゾンビ退治を行っていた軍人達が、その死後にオブリビオンとなって蘇った者達。
そして――クリスマスの今宵、何故か嫉妬の炎に狂った者達である。
●猟兵達のクリスマス
「という事になってるの。このまま放っておくと集落が1つ燃え落ちるから。止めて」
そう告げるレネシャ・メサルティム(黒翼・f14243)の前には、クリスマスだと言うのに集まってくれた奇特な猟兵達がいる。
「今回の『フレイムアーミー』の特徴は、何と言っても嫉妬に狂ってる」
クリスマスとは燃やすもの。
リア充とは燃やすもの。
撤退、後退。彼らの中にそんな二文字などない。
「あと嫉妬の為せる業かしら。謎の【第六感】に目覚めてるわ。カップル、グループは狙われ易い。お一人様でも決まった相手がいると看破される。相手がいなくても」
どうしてそうなった。
「ちなみに連中の攻撃は、全て火炎放射器を用いるわ。炎が出るという事は、煙も出るかもしれないわね。つまり視界が悪くなるかもしれないわね」
――ん?
「うっかり誤射が出ちゃっても、仕方ないんじゃないかしらね?」
レネシャさん、少しはオブラートに包んで下さい。
泰月
泰月(たいげつ)です。
目を通して頂き、ありがとうございます。
1章のみで完結の、クリスマスの特別シナリオです。
このシナリオの世界はアポカリプスヘルとなります。
そして集団戦です。
日常シナリオではないので、ご注意下さい。
そしてそして。
クリスマスなのにネタシナリオです。
クリスマスなのにネタシナリオです。
大事だから2回言いました。
敵はフレイムアーミー。
OPに書いた通り、嫉妬の炎に狂って無駄に高い【第六感】を持っています。
結果、リア充さんは特に狙われます。
カップルグループ問わず。ノーマルアブノーマル問わず。
あとソロ参加でも狙われる可能性があります。
具体的に言うと主に感情で追える範囲でリア充判定が降りたら、リア充です。
戦場はアポカリプスヘルの荒野です。これと言って何もありませんが、視界が悪くなる可能性があります。
敵の攻撃で炎がボーボー燃えてるでしょうから。
あとは――判るな?
(※何しても良いですがネタの範囲でどうぞ)
いわゆるRBをとか呼ばれる系になるかもしれません。
ならないかもしれません。
全てはプレイング次第です。
無事に公開されたら、12/25(水)いっぱいはプレイング受付期間にしようと思っていますが、人数次第で前後するかもしれません。
ではでは、よろしければご参加下さい。
第1章 集団戦
『フレイムアーミー』
|
POW : ファイアスターター
【火炎放射器の炎】が命中した対象を燃やす。放たれた【ゲル状の燃料を燃やすことで生じる】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD : トリプルファイア
【火炎放射器】を巨大化し、自身からレベルm半径内の敵全員を攻撃する。敵味方の区別をしないなら3回攻撃できる。
WIZ : ヘルファイア
【火炎放射器の炎】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を炎で包み】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
イラスト:松宗ヨウ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
城島・冬青
【城島父娘】
父と腕を組んでカップルに見せかけて敵を誘き寄せてボコる…というのが作戦だけど
敵は勘が鋭いみたいだからこんなことしなくても大丈夫なんじゃないかな
…お父さん鼻の下伸びてる
あのさぁ…嫉妬に狂ってる人にラブラブ既婚&仲良し家族アピールなんて火に油どころかガソリンだよ…
お父さんにタゲ集中してる間に私が倒すね
え?私はリア充じゃないですよ
本当だし
「彼氏は」いません
深く追求される前に刀を抜いてぶった斬ったり柄頭で顔面をぶん殴って口封じ
ん?気のせいだって
この人達はきっと何でもリア充に見えるんだよ
父が疑ってきたら
奥義
戦ってるお父さんって格好いい!大好き💕
で誤魔化す
あと父が怪我してたら血蝙蝠で回復する
城島・侑士
【城島父娘】
娘と腕を組んで気持ちが弾む
いつ以来だろう…荒廃した大地が花畑の様だ
冬青
何が欲しい?好きなのなんでも買ってやるぞ(デレデレ)
店なんて周りに全然ないけど
出たな
嫉妬に狂った悲しき兵士達よ
悪いが俺達はカップルではない
クリスマスデートしてる仲良し父娘だ!
あ゛?嘘じゃねぇし
どう見ても仲良しな父と娘だろうが
なにより俺には永遠の愛を誓った可愛い女房もいる(結婚指輪を見せつけ)
?…この辺の気温上がったな
まぁいい
悲しき兵士達へ鉛玉のプレゼントだ
オーラ防御しつつ二回攻撃
冬青
いまリア充って言われてなかったか…(絶望顔)
でも大好きって言われたら全てが薔薇色
メリークリスマス!
目の前が血で真っ赤なのは気にしない
空目・キサラ
※アドリブ可
りあじゅう、リアル充実者
即ち恋仲か
僕も過去にはそういう相手居たんだよ?
でも『色々』あってころ…死んじゃったし、君たちと同じ独り身だなぁ
うん。失恋の痛みで長かった髪も切っちゃった
だから煌びやかな世界より、枯れて殺伐とした場所の方がお似合いなんだ
…なんて、真実と嘘を混ぜてアーミー君達に近づく
独り身の心を知るアーミー君達となら、きっと僕と飲み交わせる筈だよ
…って【一連托生インソムニア】
ざらざらとカップに睡眠薬注いで、アーミー君達に差し出す
僕は何故か幾ら噛み砕いても眠れないんだ(毒耐性)
つまり効果無いから大丈夫だよ
…飲めるよね?
え、飲めない?
なら鋼糸でキュッと締めるのみだよ
東・理恵
「どこの世界にもRB団は存在するんですね。しかも、オブリビオンになってしまっても。」「とりあえず、迷惑なので倒しますね。」
戦闘中は、戦車に【騎乗】して戦います。
【SPD】で攻撃です。
攻撃は【制圧射撃】で【鎧無視攻撃】の【破魔】を付けた【属性攻撃】の【精密射撃】を【範囲攻撃】にして、『フレイムアーミー』達を纏めて【2回攻撃】をします。相手の攻撃に関しては【見切り】【オーラ防御】【火炎耐性】でダメージの軽減を試みます。
「(攻撃を回避したら)戦車でも回避行動はできるのです。」「さあ、RB団は『骸の海』へ帰りなさい。」
アドリブや他の方との絡み等はお任せします。
●地獄とついた世界で
アポカリプスヘル。
アポカリプスとは、元々はとある世界での預言書を指す言葉だとされている。だがその内容から、転じて『世界の終わり』と言う意味合いでも使われる。
そしてヘル。言わずもがな、地獄である。
猟兵達をして、そう名付けさせたその世界は――荒涼としていた。
何処までも広がる荒野。人が生きるにはあまりにも厳しい環境。
されど――そんな世界も、気の持ち様でどうにでもなるものだ。
城島・侑士(怪談文士・f18993)と言う猟兵が、それを体現していた。
「いつ以来だろう……冬青と一緒に出かけるの。ああ、荒廃した大地が花畑の様だ」
侑士にとって今ここは、滅びを待つ世界でも地獄でもない。
さながら楽園か、エリュシオンにでもいるような、まさに天にも昇る心地と言うのはこう言う境地を言うのであろうと言った様子であった。
「……お父さん。鼻の下伸びてる」
侑士をそこまで舞い上がらせているのが、隣で腕を組んでいる愛娘、城島・冬青(六百六十九番目の宿木・f00669)の存在である。
「仕方がない。冬青と久しぶりのお出かけだからな。何が欲しい? 好きなもの、なんでも買ってやるぞ」
トランポリンかって言うくらい気持ちが弾んでる侑士が、まるでショッピングセンターに買い物に来た父親の台詞を口走る。
「お父さん、ここ荒野だよ? 店なんか見えないよ?」
「そうだな? 店なんて全然ないな。でも冬青が欲しいものなら買ってるぞ」
娘のツッコミなんのその。
「……いや、うん。この世界、色々物が足りないみたいだし。大丈夫」
すっかりデレデレな侑士の様子に、冬青は笑顔は崩さず胸中で溜息を溢した。
●きっとクリスマスの所為
「……あれ、作戦なんですよね?」
「そう聞いたけど」
戦車の上部から顔を出した東・理恵(神の戦車乗り・f24407)の呟きに、空目・キサラ(時雨夜想・f22432)が淡々と返す。
――お父さんと腕を組んでカップルに見せかけて敵を誘き寄せてボコる作戦です。
――俺と冬青に任せてくれ。っていうか任せろ。
そう聞いたので、離れて見守り中である。
三児の父とは思えない侑士の若く見える外見もあり、傍目に見れば、確かにそう言う2人と見えそうなものである。
だが、父娘だと聞いてしまうと――。
「あまり作戦っぽく無いと言うか素っぽいと言うか、あれ、お父さんの方が父娘のクリスマスのお出かけに、託けてるんじゃないですかね?」
「まあ、別に良いんじゃないかな? 作戦っぽくないのは、釣るには好都合だし」
戦車の遠望鏡で見守る理恵の推測を肯定も否定もせず、キサラはその戦車の上――正確には、理恵の頭の上を眺めていた。
黒いものが、乾いた風に揺れている。
(「あれは……バニーガールのもの見えるのだが」)
キサラが眺めていたものは、どう見てもバニーガールの衣装のうさ耳であった。
殆ど戦車の中にいる理恵の服装はあまり見えないが、たまに見える肩が剥き出しであることからして、服装もバニーガールのそれであると推測するのは難しくない。
(「……何とも、アクの強い面子が集まったもんだ。僕を含めて」)
「あ、来たみたいですよ」
キサラが胸中で呟いたその時、理恵の遠望鏡の先に炎が上がるのが見えた。
●嫉妬炎上
『感じるぞ――リア充だ!』
『ああ、俺も感じた。リア充の気配!』
『あそこだ!』
嫉妬に狂ったフレイムアーミー達がリア充の気配なるものを察知してから、城島父娘に気づくまで、ほんの数秒。
『カップルじゃねえかぁぁぁぁ!』
そして腕を組んだ城島父娘を視認して、嫉妬の炎が猛り狂う。
「あ。勘が鋭い割りに、そこ騙せちゃうんだ。こんなことしなくても大丈夫なんじゃないかな、と思ったけど」
無駄にならなかったなら良いか、と思いながら、冬青は組んだ腕を解こうと――。
「嫉妬に狂った悲しき兵士達よ」
だが侑士の方はまだしっかり腕を組んだまま、フレイムアーミー達を見据えていた。
「悪いが俺達はカップルではない」
『ああ? 腕を組んでおいて何を――』
「クリスマスデートしてる仲良し父娘だ!」
フレイムアーミーの声を遮って侑士が力強く告げた声が、荒野に響き渡る。
『う、嘘だ。父親と腕を組む娘なんている筈が――』
「あ゛? 嘘じゃねぇし」
『こんな仲のいい父娘なんかいるわけが――』
「どう見ても仲良しな父と娘だろうが!」
動揺を隠しきれないフレイムアーミー達を、勢いで論破していく侑士。
自然、フレイムアーミーの視線は冬青に集まった。
「……あ、はい。父です」
『NOoooooooo!?』
冬青が頷くと、フレイムアーミーの一部が頭を抱える。
「俺が父である証拠を見せてやろう」
その様子を見た侑士が、組っぱなしだった左腕を解いて掲げる。
「俺には永遠の愛を誓った可愛い女房もいる」
掲げた腕の、その先。指に燦然と輝くシルバーリング――結婚指輪。
『指輪だとぉぉぉぉ!?』
『誓ってやがるのかぁぁぁぁぁぁ!』
頭を抱える兵士が増え
「さらに! 可愛い女房とまだ幼い冬青の写真だ!」
「ちょ、お父さん!?」
こちらもずっと組んでいた右腕をこの隙逃さず腰の刀に伸ばしていた冬青が、侑士が懐から取り出し掲げて見せた写真に思わず吹き出す。
『カゾクアイィィィィ!!』
『燃やしたらぁぁぁぁ!!』
フレイムアーミー達の声の怨嗟が濃くなり、炎が更に猛り狂う。
「なんだ? ……この辺の気温上がったな」
「あのさぁ……嫉妬に狂ってる人にラブラブ既婚&仲良し家族アピールなんて、火に油どころかガソリンだよ……」
(「お父さんにタゲ集中してる間に倒す予定だったけど……大丈夫かなぁ」)
どれだけ敵の嫉妬心に火を付けたかイマイチ自覚の薄そうな侑士の様子と、その嫉妬心が若干自分にも向いてそうで、冬青が盛大に溜息を吐いた。
●一服盛りに来た
荒野に上がる土煙。
理恵が操縦する戦車『神の虎』は、その装甲の上にキサラを乗せて、土煙を上げながら移動していた。
城島父娘がフレイムアーミーの気を引いている間に、戦車の機動力を活かして別の方向から回り込もうと言うのだ。
「そろそろか。じゃあ、後方は任せたよ」
フレイムアーミーの側面に差し掛かったところで、キサラが戦車から飛び降りる。
「さてと」
土埃を払って立ち上がったキサラは、ゆっくりとフレイムアーミー達に歩み寄る。
「りあじゅう。リアル充実者。即ち恋仲……に限らないのかな」
『む、何だお前』
『お前もアイツラと家族か!』
すっかり家族愛アレルギーになっているフレイムアーミー達が、キサラに火炎放射器の砲口を向ける。
「いやいや。僕は君たちと同じ――独り身さ」
炎を発する咆哮を向けられても怯むことなく、キサラは空を見上げて告げる。
「僕も過去にはそういう――恋心なんてものを抱いた相手も居たんだよ?」
懐かしむ様に赤い瞳を細めたキサラに、フレイムアーミー達は無言で先を促した。
「でも『色々』あってころ……死んじゃったし。うん。失恋の痛みで長かった髪も切っちゃってこの通りさ」
肩にも届かぬ銀髪の先を指で弄くりながら、キサラはフレイムアーミーの方に向き直って、距離を詰めていく。
「だから煌びやかな世界より、枯れて殺伐とした場所の方がお似合いなんだ」
『そうか……』
『お前はリア充じゃない……』
『俺達の同志だ……』
上手い嘘をつくコツは、幾らか真実を混ぜる事だという。
巧妙に真実と嘘を混ぜた話をしながら近づいたキサラを、フレイムアーミー達はすっかり同類だと思い込んでいた。
キサラが一寸何か口走ったのなんか、気にしていない。
「そうかい。そう言ってくれるなら、一つ盃を交わそうじゃないか」
『おお、いいな』
『リア充バーニングの前に、景気づけと行くか』
「独り身の心を知るアーミー君達となら、きっと僕と飲み交わせる筈だよ」
なぁんて寂しげな笑顔を作りながら、キサラは紙コップを取り出し――。
ザラザラザラザラー。
注がれたのは、液体ではなく錠剤だった。
『『『………………は?』』』
それを見たフレイムアーミー達が、流石に硬直していた。それはそうだろう。飲み交わそう、と言われて水ですら無いものが出てきたのだ。
「……飲めるよね? 景気づけって言ったよね?」
『そ、そうだな』
詰め寄るキサラに押されて、フレイムアーミーの1人が、ガスマスクを外してコップの中の錠剤を――ゴクン。
ばたーんっ。
直後に、ぶっ倒れた。
『お、おい! これは何だ』
「睡眠薬」
逆にフレイムアーミーに詰め寄られても、キサラは悪びれもせずに錠剤――睡眠薬オンリーのコップを渡していく。
「僕は何故か幾ら噛み砕いても眠れないんだ。つまり効果無いから大丈夫だよ」
『あいつ起きないぞ』
「寝不足だったんじゃない?」
フレイムアーミーの指摘にも、キサラは事も無げに返す。
確かに嘘は言っていない。キサラが注いだのは、睡眠薬で間違いない。
但し――高度に成分濃縮された、と付くが。一般人であれば、簡単に中毒を起こしかねない危険な代物。
キサラは耐性があるが、そうでなければさしものオブリビオンも、一撃である。
そして、キサラの策はその睡眠薬の強さに留まらない。
この時点で既に、フレイムアーミー達はキサラの術中に落ちていたのである。
●戦車に搭載でも列車砲というのだろうか
ギャリギャリと荒れた地面を削って、戦車が止まる。
「どこの世界にもRB団は存在するんですね。しかも、オブリビオンになっても」
戦車「神の虎」の中でそう呟きながら、理恵はその主砲の照準をじっくりと合わせられていた。
「とりあえず、迷惑なので倒しましょう」
照準器越しに理恵に見えるフレイムアーミーの動きは、ひどく遅くなっていた。
「ターゲットロックオン」
そんなフレイムアーミーの集団に狙いを定めると、理恵は発射スイッチを押す。
並みの戦車のものよりも遥かに巨大な砲塔――戦車様に改良した列車砲から、巨大な弾丸が撃ち出された。
乾いた空気を引き裂いて、巨大な弾丸が放物線を描いて飛んでいく。
『あ、あれは――』
『砲弾だ! 迎撃ー!』
『焼き落とせー!』
気づいたフレイムアーミー達が流石に慌てて、火炎放射器を向けようとする。
だが――。
『ば、馬鹿な。なんだあの弾丸の速――』
『ぐわーっ!?』
フレイムアーミー達の予想以上の速さで着弾した巨大な弾丸。その爆発の衝撃が、フルフェイスのガスマスクやゴーグルを破壊しながら兵士達をふっ飛ばしていた。
――正確に言えば、理恵の放った弾丸が速いのではない。
フレイムアーミー達が遅くなっていたのだ。
一連托生インソムニア。
睡眠薬を給仕している間、睡眠薬を楽しんでいない敵の動きを遅くする業。
フレイムアーミー達はそれがキサラの仕業とは気づいていなかったが、気づいたところでどうする事もできなかっただろう。
睡眠薬を楽しむなど、寝るのと同義。さりとて、楽しまなければこの緩慢な状態からは抜け出せない。八方塞がりである。
さらにフレイムアーミー達に取って間が悪い事に、理恵の砲撃はただ照準をつけて撃ち込むだけのものではなかった。
「射角調整……ターゲット、再ロックオン」
砲撃が当たった敵の動きを覚え、同じ敵に対する二射目、三射目の精度を上げていく精密射撃。
時が経てば経つほどに、理恵の放つ戦車の主砲からは逃れられなくなっていく。
撃ち出される弾丸は、装甲など意味をもたない破壊力。
集団戦に強いであろう理恵のその業による射撃に対し、一連托生インソムニアの術中に嵌ったフレイムアーミーに打つ手がある筈もない。
「さあ、RB団は『骸の海』へ帰りなさい」
緩慢にしか動けていないフレイムアーミー達に向けて、理恵は容赦なく次の砲弾の発射スイッチを押した。
●リア充は誰か
一方、集団前方はと言うと、先に城島父娘――特に侑士に嫉妬心を向けていたフレイムアーミーが多かった事で、そもキサラに気づいていない兵士もいた。
とは言え、それほど問題はない。
「今宵はクリスマス。悲しき兵士達へ鉛玉のプレゼントだ」
フレイムアーミー達の中に飛び込んだ侑士は、全身に纏ったオーラで炎を防ぎつつ、よく使い込まれたショットガン『シミュラクラ』で弾丸を浴びせていく。
「刀もあるよ!」
侑士が気を引いている隙を突くべく、冬青が駆け回る。
鍔に花と髑髏の彫り模様が入った刀「花髑髏」で、兵士を斬り倒していく。
そうしていれば、次第に冬青にもフレイムアーミーの視線が集まっていき――。
『おい、こいつもリア充じゃないか?』
『ん? ――あ!』
2体の兵士が、冬青の何かに気づいた。
「え? 私はリア充じゃないですよ」
リア充認定されそうになって、冬青が首を左右に振る。
『いや、嘘だ』
『そうだ。俺達には判る――リア充燃やすべし!』
だがフレイムアーミー達は、一度リア充と認めた相手は見逃さない。
「本当だし。『彼氏は』! いません!」
こうなれば黙らせるしかないと、冬青は一気に間合いを詰めて、花髑髏で右の兵士を斬りつけると、返す刃で左の兵士も斬り倒す。
「冬青」
そこに聞こえる、名前を呼ぶ侑士の声。
(「うっ」)
嫌な予感を感じつつ冬青が振り向くと、父が光の消えた目で、絶望しかない表情で立ち尽くしていた。
「いま……あいつらに、リア充って言われてなかったか……」
「気のせいだって。この人達は、きっと何でもリア充に見えるんだよ」
先程までと打って変わって絞り出すような声で尋ねてくる侑士に、冬青は平静を努めながら、何事も無さそうに返す。
『いや! 俺達のリア充センサーが間違える筈が――』
「黙ってて下さい!」
そんなことを言いかけた別の兵士を、花髑髏の柄を叩きつけて黙らせる。
「本当、か……冬青?」
(「仕方ない――もうこの手しか」)
まだ疑惑が晴れない侑士の様子に、冬青は最後の切り札を切る。
「戦ってるお父さんって格好いい! 大好き♡」
奥義。語尾にハートまで付けてお父さん褒め殺し。
城島父娘な。コミュ力、娘の方が高いんだ。
「ようし、冬青! あとはお父さんに任せろ!」
パアッと表情を輝かせ、一瞬で瞳に光と力を取り戻した侑士が、凄まじい勢いでショットガンを振り回しながらぶっ放し、兵士達を撃ち倒していく。
――大好き。
特にその一言が、侑士をすべてが薔薇色状態にまで押し上げていた。
『馬鹿な!? 俺達の嫉妬力が、負ける筈が――』
「仲良し父娘に勝てる筈がないだろう! メリークリスマス!」
こうして――。
荒野に寝落ちるか、亀の速度かの二択に追い込まれ。
後方からは精度が上がり続ける戦車の砲撃にさらされ。
前方からは薔薇色ハッピーな父と、これ以上追求される前に帰りたい娘に駆逐され。
フレイムアーミーは、その嫉妬の炎で何も燃やせず荒野に散ったのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵