5

大きさも知らず鮪の二三寸

作者：夕狩こあら

「UDCアースで、空を泳ぐ巨大回転魚『邪神マグロ』を蘇らせようとしている教団の情報が得られたの」
　太古から蘇った邪神とその眷属達が暗々裡に蠢動するUDCアース。
　この世界では邪神を信奉する教団の暗躍が幾つか確認されているのだが、その内の一つ、『邪神マグロ』の封印を解かんとする邪教団の拠点情報が得られた――と。
　続々とグリモアベースに集まる猟兵らに、ニコリネ・ユーリカ（花売り娘・f02123）が身振りを大きく説明する。
　彼女は繊手を広げて空を仰ぎ、
「或るビルの最上階テラスに集まった彼等は、邪神の使いを召喚し、空から巨大な『邪神マグロ』を呼ぼうとしているみたい」
　こんな風に、と怪しい呪文を唱えてみせる。
　何とも不気味な儀式のようだが、猟兵が夫々の端整を顰めるのは、現場に居合わせた一般客――市民にも被害が及ぶ危険性がある点で、
「そうなの。邪神の眷属である有翼怪人は子供を好んで狙うし、『邪神マグロ』はその圧倒的質量で突進してくるから、テラスはきっと破壊されてしまうわ」
　避難指示か誘導が必要か――戦闘前の対応も検討される。
　暫し思案する猟兵らを見守りつつ、ニコリネは更に説明を加えて、
「狂信の中心である『邪神マグロ』――ボスのオブリビオンをやっつければ、残る眷属は霧散するし、邪教徒も無力化して信仰を失うから、どうか最後まで戦い抜いて欲しいの」
　お願い、と紫瞳が見つめる先には、力強い首肯。
　猟兵の頼もしい是を受け取ったニコリネは、花顔をパッと輝かせるや言を足した。
「全ての戦いを終えたら、眺望を楽しめる最上階テラスで食事でもどうかしら？」
　大都市に聳え立つ高層ビル、喧騒を遙か下に敷いた空中庭園を散策するも良し、お洒落なルーフテラスでお茶やアペリティフ、ワインを愉しむも良し。
　何より天空より見渡す絶景が、疲弊した身体を心地よく癒やしてくれよう。
「戦いの後の平穏を存分に味わって。勿論、私はそれまで待ってるから」
　勝利の福音を貴方達に、と咲むは信頼の証。
　ニコリネは差し伸べた白磁の手にグリモアを召喚し、
「UDCアースにテレポートするわ。無辜の人々を脅かすオブリビオンをやっつけに行きましょう」
　準備はいい？　と猟兵らを光に包んだ。

第1章 集団戦 『嘲笑う翼怪』

POW   :    組みつく怪腕 【羽毛に覆われた手足】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。 SPD   :    邪神の加護 【邪神の呪い】【喰らった子供の怨念】【夜の闇】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。 WIZ   :    断末魔模倣 【不気味に笑う口】から【最後に喰らった子供の悲鳴】を放ち、【恐怖と狂気】により対象の動きを一時的に封じる。 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

「映画か何かの撮影か？」
「いや、一般人だろ。今やどいつもこいつも動画クリエーター気分で公共を乱す」
　UDCアースで暮らす市民は、異形と異能の力を知らぬ代わり、特撮やVFX等の仮想現実に強い慣れと耐性があり、且つ他の世界の住民には余程ない正常性バイアス（偏見）が、異常を異常とせぬ――まさに「異常」な景を見せていた。
『まーんらっんまっまーんンンままーっらーらっんまっまっー』
『ぞぉぉおおぬーぬううぅううんんーぞんうううぞぬぬぬぅぅん』
　空に向かって両手を広げ、謎の呪文を唱える。
　ニコリネが示した通り奇怪な光景が空中庭園の美景を汚すが、市民は有翼の怪人が飛来しても、その奇邪が奇人の輪を抜けて人波に向かってくるまで、まさか厄災が己に降り掛かるとは思ってなかったに違いない。
「――なんかさ、なんかコレってやばいやつ？」
「えっ嘘マジでガチな……嘘かよ！？」
　最初はただ早足に、それから漸う爪先を泳がせて。
　或る女が吃驚に悲鳴を裂いてからは、やっと駆け足。
『ゲギャアッ！　ゲギギャアアァァ！』
　翼怪が号（さか）び、そこから恐慌の足が放射状に雪崩往く処、数人の影が楔となり渾沌の流れを分ける。
　そこには沈黙の裡に雄渾と立つ――猟兵らの姿が在った。


「キマフュと違ってアースの眺めって、好き」
　或る楔はクールでドライ。
　混乱の中に淡然と景色を見渡したリダン・ムグルエギ（宇宙山羊のデザイナー・f03694）は、繊指に絡めた葉巻をスッと持ち上げるや、紫煙の揺らめきにつつやき、
「動画映えはしないけど、見てて落ち着くし新デザインの参考になるわ」
　と言い終わらぬ裡、後方から迅速を駆る跫音を聴く。
　其は。
「ミズ・ムグルエギの要請を受け、避難指示に参りました！」
「市民の誘導はお任せを！　――皆さん、非常階段へ向かって下さい！」
　リダンに敬礼するや、押し寄せる人波に避難を呼びかけるUDC組織のメンバー。彼等は揃いの服を着て、恐慌にある市民を誘導していく。
『イギギギィギギ！　ゲェエギギ！』
　翼怪は彼等を好餌と狙うか――否。
　鳥人の怪腕は鉤爪を剥いてリダンに迫り、
『ゲギッギギオッッ！』
「あなた。アタシのデザイン視たのね」
　佳い眼をしている、と見つめられた邪眼に、彼女は幼児と映っている事だろう。
「アタシのコードは『アタシの作った服の模様』に仕込んだ暗示で五感を操る催眠術技」
　ユーベルコード【ゴートリック・ファウスト】――UDCメンバーの服に仕込まれた暗示は、視覚信号を脳に伝達させるや猟兵以外を皆3m級の大きさに錯覚させ、相対的に猟兵を小さく見せる事で標的を絞らせ、人々の避難を容易にさせた。
　戦う前から勝負は決まっている――とは彼女の言だが、この作戦（デザイン）は大成功。
　一でなく多、何枚もの衣装をメンバーに着させる機知も妙々、殆どの翼邪が猟兵を狙い、避難する市民も、誘導を行う者達も比較的安全に戦場を去る事が出来た。
『ギギギァッ！　ゲェエエッ！』
　斯くして暗示に掛かった翼怪は、リダンを柔肉と屠れば満足もしようが、蓋し彼女は怪物の相手は面倒と、眼前を過る闘気に邀撃を譲る。
「戦いは任せるわ」
　餅は餅屋。
　青き銀河を流した様な癖のある髪が、ふわり、巻き上がった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

「ブチのめしてやりまさァ。ブチネコだけに」
　宛ら疾風と割り入ったのは、白斑・物九郎（デッドリーナイン・f04631）。
　彼はじゃり、とブレードを噛み合わせた鍵束を握り籠めるや、滑空して迫る翼怪にえげつなく殺傷力を高めた拳を炸裂させ、虚無に沈む邪眼を潰す。
『ゲェアアアッッッ！！』
　もしか邪は痛撃に怯んだ今こそ逃れるべきだったろう。
　何故なら次の瞬間には、羽毛に覆われた脚は下駄の歯に踏まれ、飛ぶも退くも出来ぬ処に二回攻撃――『ザ・レフトハンド』が咽喉目掛けて刻印を解き放ち、絶叫を潰した後に冷たいコンクリートに叩き付ける。
『ゲッ、ッッ……ァ……ッ！』
　固い地面に軀が反動を得た須臾、死の一撃は墜下して――。
『ッ……ッッ……――』
　ラフに来た甚平、その襟の合わせより覗いた鎖骨に返り血が滴る。
　翼怪の血が漸う熱を手放す感覚を味わいつつ、物九郎は口を開いて、
「キマイラフューチャーでもマグロの怪人が跋扈してたりしたモンですけども、こっちゃの世界でもマグロ事案ですかよ」
　刻下。
　視界の端を略取する凶邪に金瞳を注ぐや、半身に躱して怪腕の逆関節を取った。
「骸の海にゃマグロ魚群でもあるんスか？」
『ギャギギギ偽偽ッッ！！』
　禍き鉤爪が掻いたのは彼の残像。
　伸ばした腕は可動域を大きく超えて固められ、間もなく「ごきり」という歪な音が激痛を叫ばせると、次撃を継がんとした翼邪の羽搏きが止む。
　左腕の白い虎縞模様に血斑を染ませた彼は、遠巻きに同胞の死を見る翼怪の群れに「そうさなァ」と嘆声を零すと、炯眼に射貫き、
「近付いて来たヤツから即ブン殴って、血噴かせて、ガンガン数減らしてやりますわ」
　なんでもアリの喧嘩殺法、ユーベルコード【喧嘩極意】（モノクロアーツ）は一対多の血戦こそ華々しく輝こう。
「こちとら化け猫、何にでも化けて見せまさァ」
　敵の戦術をソッコーで見抜いて返すだけだと、堂々、死の宣告をした。

成功 🔵​🔵​🔴​

「地勢地相を視るのは陰陽道の基本」
　パパは何時そう教えてくれたろうか――すっかり馴染んだ癖の様なもので戦場と戦局を把握した満月・双葉（星のカケラ・f01681）は、他の猟兵が敵を効率的に殲滅できるよう援護する。
　白磁の繊指が持つ霊符は『パパ直筆御札』。
　敵勢の死角に据わった星光はさやかに、然し攻撃は頗る苛烈に、呪詛や催眠を掛けて翼邪の羽撃きを阻害する。
『ギゲェェエエッッ！』
『ガァギ刺刺刺刺ッ！！』
　精神を蝕まれ、恐怖に転輾つ翼怪が他の猟兵に倒される中、或る一体は別なる悲鳴を裂いて、
『おか亜サンッ！　たすケテぇ！　虚ワいヨ、虚わ衣ヨウ！』
　歪に嗤笑する口は前に喰ろうた幼児の最期の声を叫び、双葉の鼓膜にダメージを与える。
「ッ、ッッ……！」
　嗚呼、年端も往かぬ児をその様に屠ったと。
　泣き叫ぶ子を、その様に。
　繊躯を屈めた双葉は、憤怒と憎悪に身を染めるか――否、彼女は至極怜悧に『魔眼殺し』を、此岸を隔てる銀縁眼鏡を外して封印を解き、
「迂愚の鸚鵡に相応しい餞を。零距離で」
　ユーベルコード【虹薔薇の静踊】――彼女が裸眼の視線を射れば、虹色の薔薇の花弁が邪の翼を千切り、引き裂き、渾沌の羽を無残に散らせた。
　裂帛の悲鳴を――翼怪自身の悲鳴を叫んで一体が倒れれば、その影からもう一体、今度は奇形の前肢が襲い掛かる。
　然し鉤爪が掴むは虚空。
「そこに僕はいない。残像さ、なーんて」
　多彩に次ぐ多彩。
　双葉は音を殺し影を置いて背面に回り込むと、凶悪なるごんぶと『大根』にて串刺しにした。

成功 🔵​🔵​🔴​

「ヒヒ、血が流れておる……これで邪神マグロ様が降臨なさる……」
「邪神マグロ様が……血の紅潮（あかしお）に乗って来られるぞう……！」
　万歳！
　両手を挙げて歓喜する狂信者が数名、非常口に隠れていた様だが、其処へひょっこりと花顔を差し入れた榎木・葵桜（桜舞・f06218）が、彼等の熱狂と陶酔に天藍の瞳を輝かせる。
「マグロ？！　巨大な邪神マグロ！？　なにそれすっごく面白そう！」
「ぬわっ！　君は！？」
　絶望しか与えぬ社会に敵愾心を滾らせてきた信者の目に、葵桜は沢山の愛情を注がれて育った「世間知らずのお嬢様」と映った事だろう。
　事実、清楚なハイカラさんを想わせる彼女は「邪神」と聞いて怖がりもせず、それ処か白磁の手をきゅ、と握って気合を入れているのだから分からない。
「き、君は逃げないのか……こんなハイソな空中庭園、一発でブッパする邪神なんだぞ？」
「だって、邪神マグロってすっごく興味があるから。気合い入れて頑張っちゃうよ！」
　彼女を猟兵と知らぬ狂信者達は可憐な一歩を止めようとするが、『陽向桜』の袖が凛然たる薫風に揺らめき出したのはこの時。
「それにしても…ずいぶんと趣味の悪い鳴き声だねぇ」
　葵桜は碧落を滑空する翼怪に柳眉を寄せると、繊指に光を集めて佳顔を照らし、
「それじゃあ、マグロの焙り焼きの前に、まずは焼き鳥、だね」
「！　なっなっ、なんじゃァこいつは……！」
　ユーベルコード【サモニング・ガイスト】――彼女が親しげに「田中さん」と呼ぶUDCが影を現すと同時、空を駆る邪翼に灼熱の炎を繰り出し、言葉通りの焼き鳥にする。
　初撃の感触で敵の弱点分析を行った葵桜もまた爪先を弾き、
「田中さーん、翼の付け根とか狙ってみよ？」
　と、『胡蝶楽刀』の鈴を鳴らして駆けて往く。
　未だ邪翼が天に地に跋扈する中、彼女は焼き鳥の下拵えをしつつ、得られた情報を他の猟兵らと共有すべく戦場を駆け回るが、
「ふぇ……ふぇぇえ……」
　すっかり腰を抜かした狂信者らは、言葉を失って隅にへたり込んだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

「躯体番号L-95」
　時に。
　スペクトログラムから生成された少女の佳声が告ぐ。
「エル・クーゴー」
　其は痛く美しく、痛く怜悧な――ミレナリィドール、エル・クーゴー（L95・f04770）の発声。
　無機物で構成された凄艶は『L95式バトルスーツ』背部の飛行用バーニアを展開するや、最大戦速で碧落に推進し、翼怪の羽搏きを超えた更なる高層にて敵影を眼下に敷く。
　履行するオペレーションは空中戦。
　有翼の怪人相手に空を駆るとは、彼女も太陽を背にするあたり空戦を心得ており、
「敵性捕捉」
　電脳ゴーグルに敵機を投影した金瞳が演算を終えると、携行型固定砲台『L95式アームドフォート』及び追随武装を延展する。
「火器管制システム、ロック解除」
　ユーベルコード【ファイアワークス・ドライブ】――射撃開始。
『ギッ、ゲギャギャギャ偽偽！！』
『ゲ亜亜ッ！　パパ、殺サれるゥ！！』
　常に射撃戦レンジを堅持し、撃ち下ろしポジションを獲るも優秀、攻撃回数重視で火弾を墜下させた彼女は敵戦線を上げさせず、頭数の削減に成功する。
　裂帛の悲鳴が空を騒めかせる中、彼女は淡然を崩さず、
「これより、敵性の完全沈黙まで――」
　接近する個体を零距離射撃に吹き飛ばしながら、土産と置かれる邪血を浴びて言う。
「――ワイルドハントを開始します」
　伴うは友軍、【ウイングキャット『マネギ』】（エレクトロレギオン・オルタ）。
　射出可能な最大数85体。羽を生やしたデブ猫みたいな造形の機械兵器を敵性の口内へ詰め込む勢いで突貫させた彼女は、翼怪の【断末魔模倣】の発動を妙々阻止した。

成功 🔵​🔵​🔴​

第2章 ボス戦 『邪神マグロ』

POW   :    大地を穿てマグロ 単純で重い【突進 】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。 SPD   :    回遊魚の本気 【マグロ本気で泳ぎますモード 】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。 WIZ   :    突撃する同胞達 レベル×5体の、小型の戦闘用【空を泳ぐマグロ 】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。 👑17 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●
　独機は常に太陽の中にと、この世界に在る者ならば識ろうか。
　俄かに空中庭園に影が差したと空を仰げば、陽光を遮るは暗雲でなく、飛行機でなく、紡錘形の巨躯を回転させて泳ぐ――『邪神マグロ』。
『トゥンヌス！　トゥゥゥンヌスッッ！！』
　目黒（まっくろ）な魚眼に猟兵を映し、闇黒と繋がる吻をぽっかりと開けて迫る魁偉。
　眷属の血潮が飛沫と噴き、捥げた羽が虚ろに舞う空中を凄まじいスピードで泳いできた巨邪は、魚雷か爆弾の様な圧を以て上空より迫る。
『トゥゥゥゥンンヌスッッ！！』
　あまりのサイズにパースを狂わせる邪神。
　然し猟兵はその圧倒的質量に息を呑むより先、奴の尖吻がテラスに刺されば、ビルごと粉砕されようと懸念が過る。
　――如何すべきか。
「――ッ！」
　彼等は時を置き去りに爪先を弾いた。












「マグロ、出たね！　でっかいね♪　ていうか、ホントに面白いくらい立派なマグロだー！」
　寿司にすれば何人前？
　缶詰にすれば何缶分？
　大きな瞳を円々と、煌々と輝かせて天穹を仰ぐ葵桜（f06218）。
　度肝を抜くサイズ感に昂揚も一入の彼女だが、それと同時、この巨塊が齎すインパクトの凄惨も想像しており、
「でも、突進されたらこの場所自体が危ないから、それは避けたいね」
　グッと大地を踏み締めるブーツの隣、応、とばかり下駄が歯切れよく鳴る。
　物九郎（f04631）だ。
　彼は屠る獲物のデカさに虎縞模様を愈々励起させ、
「あの速度に無対策で突っ込んで来られた日にゃ、ビル倒壊待ったナシですわな」
　魔人降臨――決して精悍とは言えぬ躯がぶわり逆立つ、その背にリダン（f03694）が影を差す。
「ねぇ、ぶっちー。出先で偶然会ったの何回目かしら？」
「……ねーさんとは熟々戦縁がありまさァ」
　背越しに注がれる流眄を瞼を伏せて受け取ったリダンは、「策がある」と言ったか。
　然して物九郎は「乗った」と言ったか。
　須臾の裡に呼応した二人は、いや三人は、忽ち爪先を弾いて、
「飛翔補助装置を――そうね、カタパルトを造るわ」
「なら俺めは空中でカウンターをブチかましてやりますわ」
「エルちゃんもいるし安全ね」
「エル・クーゴー、タクティクスを共有。【狩猟の魔眼】（ザミエルシステム）を起動します」
　リダンが成形したカタパルトに物九郎が乗り込み、彼が射出されるに合わせて離昇するエル（f04770）。
　彼等が物理行動を採るなら、自らは邪神自身にブレーキを掛けさせんと、リダンは更に【レプリカクラフト】の容積を振り絞り、
「あの邪神をビビらせに行くわよ、配置と支えの協力お願い！　UDC組織の皆！」
「アイアイサー！」
　次なるテーマは捕食者（ワイルドハント）。
　発泡スチロール製のギザギザ鮫牙風モニュメントを多数成形した彼女は、之を口型に配置させ、邪神が空中庭園ではなく「鮫の口」へ突撃していると錯覚させる。
「天敵の口の中に飛び込みたがる奴はいないでしょ？」
「イエスマム！」
　合計20㎥の造形では聊か足りぬが、そこはアートの腕と催眠術、特化した技能でカバー。
　言は小気味よく語ろう、
「アタシ達の狩場へようこそ、マグロさん」
『トゥッ、トゥゥンンヌスッッ！！』
　猟団『ワイルドハント』、其は全てのオブリビオンを狩り尽くすエイペックス・プレデター（頂点捕食者）たち。
　そして淘汰の理を知らしめるは、空中、擦れ違い様に【獣撃身・黒】（フルトランス）をくれる猟団長こと物九郎。
　化け猫と変じた彼は、エルの遠距離狙撃【ロングレンジ・ファイアワークス・ドライブ】の精弾を援護に、巨躯に組み付き、拳を猛牙と噛み付け、
「ワイルドハント遠距離戦闘担当、エル・クーゴー。狙撃モードに移行。援護射撃を開始します」
「邪教徒じゃありませんけども、会いたかったっスよ邪神マグロ」
「電脳魔術に拠る解析完了。敵相対距離射程限界289m以内につき誘導弾にて機動支援します」
「俺めはテメエを喰いに来たんスよ」
　声が重なる。
　近接と遠射が一点に交わる。
　そして凄まじい衝撃が、巨邪のカマより血を噴かせた。
『……キハダァッ！！』
　ビチビチッ、と三日月型の尾鰭を打って激痛を叫ぶ邪神。
　刻下、魁偉の軌道が反れたのを認めた双葉（f01681）は、落下地点を修正して立ち位置を変えると、空中庭園の間際に放物線の頂点を置くべく、相応の力を――真の姿を暴く。
「後……お姉ちゃん……『力を貸して』」
　透徹の青を輝かせる肌膚に、光弾く水晶を遇った繊躯。
　玲瓏の唇が涼しく囁（つつや）けば、フルートを持った双子の姉――【死した片割れ】（ミツキカナ）が美鳥の囀りを奏で、狂気の音色に紡錘形の躯を波立たせる。
『トゥンヌスッ！　トゥンヌスッ！』
　この時、双葉自身は黒剣『桜姫』を赤黒い大鎌へと変じ、弓張月型の衝撃波で平手打つように二回、同方向に吻を反らせる。
　其は繊細にして豪胆な姉妹の合わせ技で、
「目的の為に手段を選ばぬのはママからの遺伝……忌々しいけど」
『トゥナァッ！』
　艶麗の唇のほとりに母との確執を滲ませた少女は、己が眼前でぐるり方向を変える巨躯を視ると、その横っ面を――鰓蓋に『お兄ちゃんの銃』を突き付け、零距離で銃爪を弾く。
「それでも僕はパパ寄りに、多彩でありたい」
　進行方向を与えるは水流でなく弾道。
　邪神は痛撃を叫びながら地表の際を往き、心臓を掴む様な風圧に双葉の艶髪を梳っていく。
『トゥゥンヌゥゥゥンンンンッッ！』
　その進路の先には、葵桜が帯より扇子『桜舞花』を取り出して花を開かせており、
「田中さんは槍でマグロの目を狙って！　私は衝撃波を当ててみる！」
　死の淵を映したかの様な邪神の黒眼を視たのも一瞬。
　可憐は【サモニング・ガイスト】――田中さんの鋩を漆黒の深淵に沈めさせるや、桜の花弁舞う疾風を操って巨躯を反らせ、
「うまくいくかはわかんないけど、ものは試し！」
『メェェバァァチッ！！』
　僅かにも速度を削ぎ、進路を変えられれば御の字と、鉄塊の様な巨マグロを再び空の海へと帰す。
「いくよーっ、今度こそマグロの焙り焼き！」
　大きな円の軌道に乗った邪神が再び此方へ戻ってくると思えば、後方から狙える今が好機と藍瞳は犀利を増して。
「田中さんっ、いい感じの炎で炙ってねー！」
　香ばしく、と期待したかは分からない。
　蓋し巨魚の遊泳軌道を追い掛けた猛炎は尾鰭に食いつき、胸鰭あたりまで呑み込んで、常に開く口より絶叫を裂かせた。
『シィィィチキィンンッ！！』
　そして地上より離れれば、今度は空中でエルが待っている。
「L95式アームドフォート追随武装全展開。これより一挙殲滅します」
　彼女は咆哮と共に召喚された小型戦闘魚【突撃する同胞達】の飽和を見極めると、【フルバースト・マキシマム】――全武装を展開して一斉発射し、その悉くを撃ち落とす。
『ビンナガッ！』
『コシナガッ！』
　ぴちぴち、とテラスに墜下する敵機は宛ら打ち揚げられたマグロ。
　大漁旗は掲げぬもの、戦局は猟兵らが漸う握り始め、
「マグロさんがお空を泳いでる……すごいなあ、この世界のマグロさんってお空を泳げるんだね！」
　少し美味しい匂いを漂わせて戻ってくる邪神マグロに対し、白磁の繊手を額に翳して視る荒谷・ひかる（精霊ふれんず癒し系・f07833）が優勢を預る。
「よーし、私も負けないように頑張るよ！」
　きりっ。
　琥珀の瞳を凛々と煌かせた可憐は、敵も魚なら乾燥に弱いだろうと読み、自身が「ともだち」と親しむ自然界に揺蕩う精霊を集めて精彩を放つ。
「乾いた砂が皮にくっついて、ぱりっぱりになっちゃえ！」
　此度、幼い娘が紡ぎし【エレメンタル・ファンタジア】は砂嵐――「地属性」と「嵐」を組み合わせて生成された颶風は、人々を巻き込まぬよう程々に調整されてマグロを囲み、
「えらにも砂が入り込めば、きっと苦しくて動きも鈍るはず！」
『エェェイコサペンタエンサンッ！！　ドォォコサヘキサエンサンッ！！』
「もちろん、他にもちっちゃいマグロさんが出てきたら巻き込むよ！」
『ビンナガッ！』
『コシナガッ！』
　まるで曳縄か巻き網。
　統禦に集中する少女は愛らしく柳眉を顰めながら、然し操る砂嵐は苛烈に峻烈に魚群を追い込んでいく。
　斯くして遂に邪を捉えたるはエルの火弾。
　敵駆の突貫速度と角度を瞬時に演算した電子脳は銃筒を構えて正対し、
「ワイルドハント、最終フェイズに移行します」
　口腔から胴を経由し、尾鰭迄を射貫く――串刺しの一撃を以て回遊を止めた。
『トゥンヌス！　トゥゥゥンヌ、スッッ……ッ――！！』
　今際の絶叫が碧落を揺るがした後は、この都市には珍しい静寂が訪れる。
　空に巨大な邪の露散する様を見届けた猟兵らは、大きな深呼吸をひとつ、静謐に溶かした――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

第3章 日常 『空中庭園』

POW   :    散策する SPD   :    観察する WIZ   :    景色を見る 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●
　UDCの消滅を確認。
　ビルの一時閉鎖を解除。
「猟兵の皆さま、お疲れ様でした！　事後処理は我々がお預りします！」
　人類防衛組織UDCメンバーが敬礼を注いで一同の健闘を讃えると、彼等は直ぐさま商業施設や一般客の対応に走る。
　民間人の情報統制も、UDCアースに生きる彼等が首尾よく動いてくれるようで、己が役儀を終えた猟兵らは此処でやっとの安堵を得た。
　今に客足も戻り、テラスにはいつもと変わらぬ賑わいが戻ろう。
　猟兵は取り戻した平穏を確かめるべく、空中庭園の散策を始める。














「敵性沈黙。全機の消滅を確認しました」
　爆風に包まれたエル（f04770）が漸う麗姿を現し、電子変換された佳声が戦闘の終了を告ぐ。
　物九郎（f04631）は全展開した武装を格納して降りてくる彼女に言を添え、
「――消えちまいましたわな、マグロ」
　残る部分でもあったなら喰ってやるトコだったんですけども、と――磨り潰した赤身が煙と立ち昇って消える下駄の歯を見る。
「ま、イイですわ。この世界の喰いモンでも腹に入れて帰るとしましょっかな」
　此度の報酬に見合う飯をと猫の目が周囲を見渡す傍ら、エルは電脳ゴーグルの翠光を忙しく明滅させて、
「脅威判定を更新」
　――クリア。
「積極殲滅モードから警戒モードに移行。周辺哨戒を開始します」
　と、爪先の往く儘に巡邏による安全の維持を――いや、これは単にその辺をウロウロし始めたのかもしれない。
　現下テラスではUDC情報機関が本部との連絡中継を行っており、其処で電脳世界を展開した彼女は通信機器の運用の補佐に回るやら、通信速度を超速快適化させるやら、
「哨戒用サーチドローン『マネギ』、発進」
　延いては羽を生やしたデブ猫を飛び回らせようと……した処で物九郎が止める。
　彼女を拾った主は、常駐タスク第一位『オブリビオンをブチ殺せ』をクリアし、
「何フラフラしてるんですかよ、おたく」
　……。
　…………。
　………………。
「管理者権限によるタスクの整理が実施されました。――ワイルドハントを終了します」
　続いて第三位『俺めの近場に居ろ』を繰り上げ優先し、エルを連れ歩く。
　ニコリネが手を振って来たのはこの時。
「みんな、お疲れ様！　エレベーターも再稼働したみたい！」
　人足が戻ってきたと報告する彼女に対し、物九郎は平素の無愛想で応え、
「世話ンなりましたわな」
「お世話になったのは私の方！　邪神マグロをやっつけてくれてありがとう！」
「……」
　花の咲みからプイと金瞳を反らすと、然して感情の乗らぬ低音で言を足す。
「精度の高い予知するじゃニャーですか。おたくの仕切りなら、また猫の手貸してやってもいっスよ」
「――微細なデレを検知しました」
　まるで猫らしい彼の僅かな歩み寄りを、まさか隣のエルから聴く事になったニコリネは、之に吃々と窃笑し、
「二人とも、頼りにさせてね！」
　と握手の手を差し出す。
　そうして物九郎がエルの心緒検出精度を調整する中、双葉（f01681）は人波を縫う様に紫瞳の前に現れて、
「ぁ、ニコリネさん……テレポート有難う御座いました」
「大丈夫？　あの独特の浮遊感に酔わなかった？」
　大丈夫、と頷く代わり銀縁眼鏡を繊指に持ち上げた少女は、ふと、逆の手に掴んでいた大根（鮮度抜群）を差し出す。
「食べますか……？」
「えっ、大根えっ」
「冗談です」
「えっ」
　ニコリネが焦ったのは、双葉が齧るソレが先に邪神の眷属にブッ込んだ凶悪なアレと思ったからなのだが、
「ぁ、これは武器の大根では無いです。あれはうちの実家の畑から抜いて来たやつなんで」
　口（栄養）にはしないが、手（武器）にはする――。
　其処に双葉の、彼女の特別な家事情が滲んだような気がするのは、きっと間違いではない。
　ニコリネは16歳の家出少女が持つ大根（でかい）に瞳を落とし、
「大根の花って綺麗よね。私は好きよ」
　と、淡く笑った。

「んー、終わった！」
　元の喧噪を取り戻す空中庭園を見渡し、ぎゅ、と伸びをして息をつくひかる（f07833）。
　肌を撫でる風にも平穏を感じれば、「帰ろっ」と踵は返るものの、見慣れた――大好きな家族の姿を瞳に映すや、その足は翼を得た様に軽くなる。
「あっお姉ちゃん発見！　迎えに来てくれたんだ！」
「ひかる」
「おねーちゃーんっ！　えへへ、おわったよーっ！」
　だっしゅ！　あんど、たっくる！
　少女は喜色満面に、姉の荒谷・つかさ（護剣銀風・f02032）の豊満へと飛び込むと、頭を撫でてくれる優しい感触に双眸を細める。
「お疲れ様、ひかる。大丈夫だった？」
　甘えん坊の妹の全力ダイブを難なく受け止めるつかさ。
　胸元ですっかり安心した表情を見せる妹だが、実の処、「一人で大丈夫」と勇んで出て行った彼女が心配で、安堵したのは姉の方。
「怪我はない？」
「へーきへーきっ。他の猟兵のみなさんや、精霊さんたちのおかげだよっ！」
「そう、なら良かったわ」
　小さな創痍でも見つけようものなら、自ら邪神を呼び出して二度の死をくれてやった処だが、此度の戦いを楽し気に語るひかるを見るに不穏は起きまい。
　それからベンチに腰掛けた二人は、琥珀色の瞳を揃えて語らい、
「すごいんだよ！　この世界のマグロさんってお空を泳ぐんだよ！」
「空中戦だと、やんちゃで悪戯好きな風の精霊がひかるに協力してくれたのかしら」
「うんっ」
　この世界でも普通のマグロは空を泳がないわ、と思いつつ。
「鳴き声もすごかったっ！　どーこさへきさえんさーんって！」
「ど…………それは珍しいマグロだったわね」
「うんっ！！」
　鳴き声あげるマグロは邪神だけだわ、と思いつつ。
「戦うのもがんばったよ！　精霊さんのおかげで、マグロさんたちぱりっぱりだったの！」
「鰹節みたいに乾燥しきった姿が目に浮かぶようだわ」
　興奮気味に身振り手振りを踏まえて話す妹に水差すつもりは無く。
　全て聴く。全てに相槌を打つ。
　何故なら結構なシスコン故に。
「とても頑張ったのね。えらいえらい」
「えへー♪　ありがと、お姉ちゃんっ！」
　平素は余程表情を崩さぬつかさが、ふわり、微笑む。
　その貴重な麗顔を見るのは、やはり特別な――愛妹ひかるのみであった。

　空気と違わぬ硝子の透明に、何処までも天空が続く。
　大都会に自然を取り込んだ空中庭園のカフェバーには、客足も戻ってきた様だ。
「それじゃ、ゆっくりしーましょっと」
　様々な言語が飛び交うカウンターで、ワインを片手に景色を愛でるはリダン（f03694）。
　気泡を輝かせるスパークリング越しには、ニコリネと葵桜（f06218）が細指をメニューに滑らせており、
「こういう所はインバウンド狙いで名物ぽいお菓子があるのよ」
「オススメって書いてあるコレかな？」
「あっ高い」
「でもとっても美味しそう……」
　中々慰労の乾杯にならない「お連れ様」には、マスターも笑みを注いでいる。
　リダン、ニコリネ、葵桜と並んだカウンターでは女子らしい会話が流れ、
「まずはお茶してー、それからお買い物！　、親友にもお土産したいなって思うから、よかったら一緒に選んでくれると嬉しいな！」
「ふふふ。それなら日々に市場を学ぶ私が人気店を紹介しましょう！」
「あら、ニコリネさんはアースのトレンドに詳しいの？」
「路面で営業しているとね、口コミに強くなれるの」
　これも個人事業主の努力か。
　成程という視線を両隣から注がれたニコリネは笑顔を輝かせるが、本当に光ったと思ったのは幻想ではない。
　光差す方向を見れば、陽が傾き始めた空は黄金に輝いて――三者の足は自ずと外へ誘われる。
「わー♪　アックス＆ウィザーズで見た星空も綺麗だったけど、ここもすごく綺麗だね！」
　眼下に敷くビル群が燦然と輝き、碁盤目状に区画された舗装路に光が流れ込む絶景。
　葵桜は両手を広げて光を浴びるが、黄金の陽は僅かな時間で茜に紫に色を変え、天藍の瞳をプリズムに多彩を魅せる。
　一瞬一瞬の美しさに翠眸を細めたリダンは、傍らのニコリネに語尾を持ち上げ、
「ね、今この瞬間の景色に添えるならどんな花がいいかしら？」
「……ジャカランダ、『栄光』って花言葉を持つ紫雲木がピッタリ」
　都会に紫の絨毯を敷きつめる『アフリカの桜』。
　日没の間際に注がれる紫色がジャカランダの様に神秘的だと言う彼女に、リダンは共感を添えるよう微笑した。

　蓋しこの佳景は、日暮の喧噪に満つ地表を遥か下に敷いた此処でしか味わえない。
「天空から見渡す絶景……か」
　明日に光を預けにいく太陽を空際まで見送った双葉は、景色を変えて尚も活気を失わぬ都市に視線を注ぎ、
「命が沢山……命の音、命の声、良い景色、良い騒音だ」
　この景色と音を……護ったんだね、と。
　直ぐにも爽風に運ばれる言の代わり、隣に佇む双子の姉に言ちる。
　力を、雄渾をくれた姉は、今を生きる妹をじっと見守っており、
「――その視線、言いたいことは分かるよ。でも、二度と家には帰らないから……帰ったらママにぶっ殺されるのが、未来が見えなくたって、目に見えているよ」
　亡き姉への言は、鼓膜を通して再び自分へと還って来る。
　双葉は帰らない、と言い聞かせる様に繰り返すと、強いビル風に当たり過ぎた痩躯に腕を巻き付けた。

「ヘイ、おつ」
　時の移ろいに表情を変える佳景を満喫した頃合。
　一応は気を回していたのだろう物九郎がやっと声を掛ける。
「鉄火場ド真ん中のリアルタイムクラフト、まあいい仕事だったんじゃニャーですか？」
　彼なりの誉め言葉だが、賛辞のみに労わぬのがらしく、
「にしても人使い慣れてますわな。オツボネってヤツっスか」
「……酷い言われようね」
　グラスと共に窃笑を置いたリダンは、ここで撤収の報告に来る組織のメンバーを待っていたとばかり迎える。
「お疲れ様。今回アタシが動けたのも、被害が最低限で済んだのも皆のお陰よ」
　と、言に添えられるは追加注文した一番高いワイン。
　驚きの声を上げるメンバーに彼女は続けて、
「唯、UDC組織、なんて呼び名は味気ないわね。ね、アナタ達チーム名くらいあるでしょ、教えてよ？」
　麗し流眄を受け止めた精鋭らが誇らしげに答える。
「我等は第15実働部隊『SheepS』、牧者を待つ羊です」
　羊。
　その名にリダンは鼻頭を向けて、
「あら。羊は複数でもsは付かなかったと思うけど」
「イエス。最後のSは牧者の意。我等を導く者がSage（賢哲）かSly（狡猾）かによって、羊の動きは変わるという事です」
「成程ね。――私は如何だったかしら？」
　聴くまでもなかろうとは、眼前の破顔が示している。
　リダンは幾許も饒舌な彼等の覇気に、「これからも宜しく」とばかり杯を持ち上げた。

「せっかくの空中庭園のお散歩だし、ここから見渡せる景色を背景に写真撮ろーよ！」
　葵桜が皆に声を掛けた時であったか。
　其々の場所で自由時間を愉しんでいた猟兵らが、一番の見晴らしを誇るスカイウォークに集まり、少女のスマホ画面に注目した瞬間、ほつり、双葉が言つ。
「……トロでも食べて帰りませんか」
　隣したニコリネは静かに口を開き、
「……それって回る方？　回らない方？　どっちにする？」
「……回らない方で」
　もう回遊するのは沢山――と答えようとした時には、皆が笑いを堪えていて。
「はい、チーズ♪」
　この時にシャッターを合わせた葵桜も絶妙だったろう。
　猟兵らはとても良い表情を佳景に置き、其々の場所に帰っていった――。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2019年01月17日 宿敵 『邪神マグロ』 を撃破！