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ぼくらのせかい

#アポカリプスヘル


 黒い嵐の日、彼らは全てを失った。

 家も、街も、家族も。残ったのは、十五人の子供だけ。
 最年長は十四歳。最年少は二歳。ゾンビの数体ならなんとか退治できたが、大きな化物は隠れるしかなかった。
 太っちょの少年が、背の高い少年におずおずと言った。
「ジニー、そろそろ食料と水がなくなりそうだよ」
「あぁ」
「なんとか補給しないと」
「分かってる……!」
 苛立つジニーに、太っちょはそれ以上何も言えず、下がってしまった。
 皆、満身創痍だった。希望のない街道を三か月以上も彷徨い続け、もう、限界だった。
「お腹すいたよぅ」
「疲れたぁ」
 年少組が今にも泣きだしそうな声を上げ、三つ編みの少女とボブヘアーの少女が子らを宥める。
「もう少し、がんばって」
「きっとこの先に、ゆっくり休めるところがあるからね」
「あとどのくらい歩くの?」
 幼い男の子に見上げられ、二人の少女は目を合わせ、そして俯いた。
「……もう少し」
 そう答えるしか、なかった。

 どこまで行けばいいのかを、彼らは知らない。安住の地があるのかも、分からない。
 それでも彼らは歩き続ける。食べるものを手に入れ、今晩だけでも休める屋根を探す。その繰り返しを、ひたすら続ける。
 誰の助けも得られない今、生きるためには、そうするしかないのだ。
 この世界に生き残っている者は、自分たちだけなのだから。



「いやまぁ、そういうわけじゃないんだけどねぇ」
 荒野を歩く子供たちが映るグリモアベースで、チェリカ・ロンド(聖なる光のバーゲンセール・f05395)は困ったように言った。
 アポカリプスヘルの滅びた街道を行く少年少女たち。皆疲労に沈んだ顔をしていた。
 先頭を歩いている背の高い少年はアサルトライフルを、太っちょの少年はショットガンを持っているが、いかにも頼りない。
「この子供たち……って言っても私と変わらないくらいだけど、三か月くらい前にオブリビオン・ストームに巻き込まれた拠点から脱出してきたのよ」
 出現したオブリビオンと大人たちが交戦している間に、彼らは半ば強制的に逃がされた。
 それからずっと、わずかな食料と水分を手に、モンスターが跋扈する無人の荒野と化した街道を彷徨っているのだ。
 この近辺には以前、いくつもの拠点があった。しかし大規模なストームが原因で全て壊滅してしまい、運よく生き延びた者は皆遠方に逃げてしまったせいで、今はレイダーすら見かけなくなってしまった。
 彼らが歩いて行ける距離に、逃げ延びた子供たち以外の人がいないのだ。
「そんなわけだから、この子らは自分たちが人類最後の生き残りだと思っちゃってるのよねぇ」
 必至に生きようとしているが、彼らの心労は計り知れない。誰にも頼れないという絶望感は、遠くないうちに子供たちの心を折ってしまうだろう。
 それに、今のところオブリビオンどもからはうまく逃げているが、この先もそうである保証はない。
「てことで、まずはこの子たちに『他にも人間が生きてる』ってことを教えて、励ましてあげてほしいかな。で、少しの間、彼らと行動を一緒してほしいの」
 家屋や店を漁って補給しては底を尽くを繰り返してきた食料と水は、もう尽きかけている。少年少女たちは次なる補給物資があれば、すぐに飛びつくだろう。
 グリモアベースの景色が揺らぐ。次いで見えたのは、小規模の食料品ストアだ。本来ならばレイダーや奪還者に根こそぎ持っていかれていそうなものだが、中にはまだ食料が大量に残されていた。
 彼らの進路上――子供たちのペースで二日ほど行ったところに、この店がある。そこまで辿り着けば、命の望みは繋がるはずだ。
「ただ、このお店の中が無事ってことが、ちょっと気にかかるのよ。実はこの辺、最近オブリビオン・ストームが発生しているの。オブリビオンの襲撃には、注意しなければならないわ」
 人が消えたのがここ数日だから、まだ手付かずだということだ。それは幸運でもあり、またチェリカの言うような危険が伴うことを示唆している。
 見れば、ストアの周りにはすでに数体のゾンビが徘徊しているようだった。建物や路地裏など、まだまだ敵が潜んでいる可能性は十分にある。
 もしも大群に襲われでもしたら、子供たちはひとたまりもないだろう。何より、ここまで生き永らえてきたとはいえ、彼らは戦いのプロではない。
 守ってやる必要がある。守ってくれる人がいるという事実が、子らの新たな心の灯にもなるはずだ。
「食料とか水とか補給できたら、生きている人がいると知った子供たちは、きっと集落を目指すと思うの。時間があれば、それも手伝ってほしいけど――それは状況を見て、かしらね」
 いつものことではあるものの、子供たちを死なせないためにも、その時々に応じた適切な判断が求められそうだ。
 猟兵がそれぞれに頷き、納得を示す。チェリカはそれに嬉しそうに笑ってから、胸元のロザリオに触れた。
「さて、いきなり目の前に出てきたらびっくりしちゃうと思うから、ちょっと離れたところに転送するわよ。あとは奪還者として接するか、猟兵と名乗るかとかは、まぁ任せるわ」
 祈りの形に手を組んで、チェリカが目を閉じる。
「あの子たちを、お願いね! みんなならきっと、彼らの希望になれると思うわ!」
 グリモアが、光を増していく。


七篠文
 どうも、七篠文です。
 今回はアポカリプスヘルです。
 主要なNPCが4名登場するので、その紹介を先にします。

・ジニー……十四歳。背の高い少年。熱血漢で勇気がある、子供たちのリーダー。本当は今後の不安で押しつぶされそうになっている。武器はアサルトライフル。

・トーマス…十二歳。太っちょの少年。ジニーの親友で、臆病だけれど冷静さも持つ参謀役。食料や物資の全体管理は彼が行なっている。武器はショットガン。

・アンナ……十三歳。三つ編みの少女。女の子の中では最年長のしっかり者。年少組の面倒を見ている。ゾンビ恐怖症。目の前で両親を食われている。

・ハルカ……十二歳。ボブヘアーの少女。年少組の面倒を見ている。勝気な性格で、アンナをライバル視している節がある。ジニーが好き。

 一章は、人のいない廃墟の街道で彷徨う子供たちと合流し、しばらく行動を共にします。行程は約二日間。
 少年少女は皆さんと出会うと、「世界に存在した生き残り」として接します。
 食料品ストアを目指す道すがら、彼ら(上記四名の誰かか年少組)と話をして励ましてもいいですし、周囲を警戒したり、夜を超すキャンプを手伝ったり、ストアに到着したなら、内部のクリアリングを手伝ってあげてもいいでしょう。
 ただし、物資を持ち込むとオブリビオン・ストームの引き金となるので、大量の食糧等の持ち込みはできません。自分の装備に留めておきましょう。
 なお、少年たちの食料などは年長組が分担して持っています。

 二章以降は、幕間やマスターページで詳細をお伝えします。新章に入りましたら、ぜひマスターページの説明もご一読ください。

 七篠はアドリブをどんどん入れます。
「アドリブ少なく!」とご希望の方は、プレイングにその件を一言書いてください。
 ステータスも参照しますが、見落とす可能性がありますので、どうしてもということは【必ず】プレイングにご記入ください。

 また、成功以上でもダメージ描写をすることがあります。これはただのフレーバーですので、「無傷で戦い抜く!」という場合は、プレイングに書いてください。
「傷を受けてボロボロになっても戦う!」という場合も、同様にお願いします。

※プレイングは、幕間で状況説明をしてから募集開始とさせていただきます。

 それでは、よい冒険を。皆さんの熱いプレイングをお待ちしています!
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第1章 冒険 『少年少女流浪奇譚』

POW   :    困難を力を生かして対処する

SPD   :    困難に先んじて素早く対処する

WIZ   :    困難に智恵を駆使し対処する

👑11
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 荒らされたカフェーには、腐ったパンの欠片すらも落ちていなかった。
 戻ってきたジニーが、転がる新聞の塊を蹴り飛ばす。
「くそッ……!」
「ジニー、仕方ないよ。まだ数日分は余裕がある。この道沿いの店を探しながら進もう」
 トーマスの言葉に、ジニーは悔しげに頷いた。
 女子と年少組は、残された僅かな乾パンを細かく割って分け合っている。皆、ずいぶん痩せてしまった。
「あと数日……。でもそれまで、この子たちが持つのかな」
 乾パンを必死に食べる小さな子たちを見下ろして、アンナが不安げに呟く。
 同じように年少組の手を引くハルカも、その顔に明るさはなかった。
「……できるだけ、私たちの分も食べさせてあげるしかないよ」
「それはダメだ、ハルカ。君が倒れてしまうじゃないか」
 振り返って言うトーマスに、ハルカは突然声を荒げた。
「分かってるわよそんなこと! でもそうしなきゃ、チビたちが死んじゃうじゃない!」
「みんなの健康状態はちゃんと見てる。大丈夫、あと数日は――」
「いつまでよ!? 数日って! 大体アンタだって子供でしょ、何が健康状態よ! 太っちょに何が分かるって言うの!」
 ついに、うずくまって泣き出してしまうハルカ。釣られるように幼い子たちも泣き出してしまい、ジニーもトーマスもアンナも、彼女を責める気にはなれなかった。
 ハルカの言う通りなのだ。この場にいるのは、誰もが子供を抜けきらない年齢だった。
 誰一人、明日への希望など持てていない。
「どうしたら、いいんだ。これから……」
 誰か、教えてくれ。乾いた空を見上げてそう呟いたジニー。
 廃墟の街の片隅に世界を繋ぐ光が現れたことを、彼はまだ、知らない。
政木・朱鞠
WIZで行動
ジニーくん達には猟兵もこの世界の大人も同じに見えている可能性が有るから、こちらは食料には手を出さない代わりに重要度を問わない周辺情報を求める用心棒ってスタンスで接触を試みようかな。
メンバー同士の衝突の仲裁や心の折れかかりを励ます時も本当は妖狐として甘やかしたい所だけど、飽くまで『雇われたから倒れられたら困る』という事にしておくよ。
ストア内を探る時は出会いがしらで敵と遭遇は避けたいので『忍法・繰り飯綱』を先行させるように放ち【情報収集】をしないとね。

戦闘
武器は拷問具『荊野鎖』をチョイスして【鎧砕き】や【鎧無視攻撃】の技能を使い【傷口をえぐる】でダメージを与えたいね。

アドリブ連帯歓迎


サフィリア・ラズワルド
WIZを選択

彼等に必要な物、まずは水分、これは大きなペットボトル数本でいいかな?次は食べ物、これは私の【お弁当(ドラゴン用)】を皆に分けてあげよう。

着いたら遠くから声をかけながら子供達に近づきます。『食べ物を届けに来たの、水をかけると膨らむから少しずつ食べてね』と言って水とちょっとずつ千切ったお弁当を皆に渡して自分も口に入れて食べ方を見せます。

あともう一つ、彼等に必要な物は頼れる大人、けど私は大人の役割はできないから(子供っぽい言動のせいで年下に見られるから)【番い竜の召喚】で頼れる夫婦竜を召喚、『二人共、子供達を甘やかしてあげて』これで少しは気が紛れるといいんだけど…

アドリブ協力、歓迎です。


入谷・銃爪
オーキ・ベルヴァンと参加。

不機嫌だな、オーキ。
彼等の気持ち、お前は分かっていると思っていたんだがな。
ふう……まあいい、お前の好きなようにするんだな。
だが、俺達は猟兵として此処に居る、それを忘れるな……ああ、あとでな。

俺はトーマスと一緒に食料、物資、武器の確認を行おうか。
生きる為に必要なことだからな。
あと何日持つか、彼には、ちゃんと計算できるようになってもらいたい。
明日をその先を皆で迎える為に。

武器を見せてみろ。
ショットガンか……構えて見てくれないか?
……駄目だな、確りとグリップを握るんだ。
そして、何時でもすぐに引き金を引けるように呼吸を調えろ。
その銃口の先にしか、君と皆の明日は無いんだよ……。


オーキ・ベルヴァン
あのさ、銃爪……なんで、俺も連れて来たの?
……まあ、別に何でもいいけどさ。
言っとくけど、俺、あいつ等が自分達の足で歩こうとしないなら、何も手伝わないよ。
前に進めないなら、結局この世界で生きていけないんだから……分かってるだろ?

とりあえず別行動な。
あとで、情報交換ってことで。

俺はジニーの様子を見てみるわ。

俺よりちょい上って所か。
まあ、希望なんて持てる訳無いし、もう歩けないよな……分かってる、それは俺も知ってる。
だけどさ、お前、仲間がいるじゃん?
1人じゃないじゃん?
なら、笑えよ。
お前がみんなの笑顔を守りたいなら、お前がまず1番最初に笑顔を作れ……無理矢理にでもだ。
……それがリーダーのお前の役目だ!


臥待・夏報
現地の人のふりをする。
服は全体的に汚して、髪は後ろでくくって、パーカーを目深に被って隠す。
年齢や性別は明言しないでおく。そのほうが彼らの『いいように』見てもらえる、筈。

物資補給?
行く行く、情報収集なら任せてよ。
僕、目立たないからゾンビにも見つかんないの。

トーマスくん、だっけ?
世界なんてちゃちなもんだよねえ。
ちょっと前まで机に向かってお勉強してた気がするのにね。
ねえ、君らそもそもなんでチビの面倒をみてるのさ。
明日死ぬかもしれないんだし、好き勝手やったっていいんじゃない?

他の三人にこんなこと言ったら、大目玉食らって終わりだろうけど。
意外と冷静沈着な君は、何か違う答えを持ってるんじゃないかな、って。


佐伯・晶
僕らと別れた後も彼らの人生は続く訳だし
必要以上に助けるのもまずいよね
通りすがりの奪還者として振舞うよ
それはそうと何か古典を思い起こす人数だね

女の子の一人旅は不自然ですし
姉妹の奪還者という事にしますの
もちろん私がお姉さんですわ
お姉さんの方のアキラとでも呼んで貰いますの

道が交わる所で少年達と合流しよう
二人とも奪還者らしい服装にしておくよ

旅人同士の情報交換の体でこれまでの旅や
他の拠点の話をしてストアの方向に向かうよう誘導しよう

残り物だけどと断って年少組に飴を渡そう
年長組は見た目同じくらいの年だし我慢して貰おうかな
流れでトーマスから彼らの物資事情を聞いておきたいな

私はアンナやハルカとお話ししてみますの


キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎

自衛の手段があるとはいえ、こんな世界を子供達だけで渡るとはな
せめて彼らが独りで立てるまでこの手で守ってやるのが、大人の役目と言う奴だろう

武器をボリードポーチに収納し、敵対の意思はない事を示して彼らに近づく
合流したら彼らを護衛するように共に進もう
少年達には戦闘知識を使って武器の扱い方を、少女達には女同士でしか色々と相談できない事もあるだろうからそれを含めたメンタルケアを道中行おう

さらにUCを発動し、呼び出したドローン達を輸送防護車に変形させ、女子や年少組を乗せる
随伴する4人も交代で乗せればゆっくりとした行軍であっても消耗はかなり防げるだろう

旅はまだ始まったばかりだ
油断なく行こうか


ボアネル・ゼブダイ
アドリブ連携OK

心配するな、我々は君達の味方だ
そして安心したまえ、この世界は我々や君達以外にもたくさんの人間がいる
これ以上、絶望に心を砕く必要はない

と彼らに優しく言って安心させよう
次いで私の医術で彼らの状態を診断、物資の薬で効果のあるものを選ぶ
道中は彼らを警護、夜間は見張りを行いながらUCを発動
少年少女らに安眠を与え体調や負傷の回復も行う

ストアに付いたら内部を警戒しつつ食料品コーナーを確保
私の持つ様々な料理レシピや保存方法を彼らにメモ書きを渡して教える
この大量の食材の扱い方が分かれば生存率は大幅に跳ねあがるはずだ
物資が送れないなら私の知識を伝えればいい
そして、それはきっと彼らの糧となるだろう


ルベル・ノウフィル
【金平糖2号】緋雨殿と
ドクターゴースト、回復UC、医術で治療
水筒のお水と、オブリビオン・ストームの引き金とならない程度の軽食を持っていきますね

僕達は集落を目指しているのです
共に参りましょう

僕は周囲の警戒重視
子供の相手は緋雨殿に任せしましょう、子供と遊んだ事なんてないですし…むむ、楽しそうに

夜は、お静かに
ダンスをする必要など…僕も踊るのです?何故!
(ぎこちなく踊って転ぶ)ですから、僕は遊びに不慣れと申しているでしょう
僕でもできるステップ?(悔しい)緋雨殿がうざいのでございます…僕は負けません、シスコンの癖に…もっと難しいステップになさい、出来るようになってみせましょうとも!(しかし出来ない)むぅ


天翳・緋雨
【金平糖2号】ルベル君と

やあ、よく頑張ったね
小さい子を見捨てない
それは誰でも出来る事ではないよ

自己紹介をすると皆にラムネを一つずつ
後は水筒の水を一口ずつ

実はもう少し先に拠点があるらしいんだ
一緒に行こう

笑顔を絶やさず能天気で快活な旅人として振舞う(演技)
道中で手品やパントマイムを披露しつつ
ダンスや歌で気を紛らわしたり元気付けられたらいいな
ルベル君にもレクチャーしようかな
きっと直ぐ上達するね


野営の時間には見張りを置きたい
他の猟兵さんやルベル君と交代制だと楽かな

食料品店に近づいたらクリアリングはルベル君に一任
ボクは子供達を護ろう

UCは【咎檻】を
子供達が怖がらない様に配慮

ゾンビには破魔の雷撃をお見舞い


露木・鬼燈
文明が滅びれば弱肉強食。
弱いものが死ぬのは仕方ない。
それでも子供が苦しむのは忍びない。
分け与えることは知性あるヒトの行い。
なんてね。
助けたいと思ったから助けるだけなんだけどね。
物資の制限でできることは限られるけど。
食料は難しいけど水なら現地調達いける。
<骸晶>を展開して無尽蔵の魔力でゴリ押し。
魔法を広域展開して大気と地中から水分を集める。
…効率悪すぎっ!
それでも必要な水は確保できたからね。
食料は動物がいれば狩るんだけど。
んー、昆虫でも大丈夫かな?
それはそれとして合流しないと。
子供たちではなく知り合いの猟兵に合流って形で。
物資は知り合いのために分け与える感じで。
このお人よしめ、みたいな!


エーカ・ライスフェルト
猟兵として名乗る

「惑星上でのサバイバル? 私には無理ね」
都市内での活動やオブリビオン相手の戦闘なら違和感が薄いのだけど、広大な荒野になるとお手上げなのよ
これに関しては「ざ・ぽんこつ」

「シルキー、お願い」
【家事妖精召喚】で呼び出した悪魔(多分白ドレス姿の女性)に身の回りの世話を頼むわ。食事作りとか手や顔を拭く布巾の用意とかね
ついでに子供達の分も頼むわ

子供達、特に参謀役らしいトーマスには、精神的に潰さないよう注意して接する
「今日の晩はゆっくり休みなさい」しっかり護衛
「勘づいてるとは思うけど、貴方達はもう、文明社会で保護された子供ではなくポストアポカリプスの住人なの。私達がいるうちに切り替えなさい」


トリテレイア・ゼロナイン
警戒を解かなくては…(巨体&機械馬)
奪還者と物腰柔らかに名乗りビークル(馬)を動かせる余裕もあると護衛を申し出
子供を守るのも騎…大人の役目、よく頑張りましたね
もう大丈夫です

睡眠不要なので寝ずの番や周辺警戒担当
道中かキャンプで年少の子らに私物の本の読み聞かせ
一時の慰めとなれば良いのですが
…最中は年長の子らも人目を気にせず行動出来ます

楽しい内容と結末の物…

地下深くの大迷宮
友の知恵者の猫妖精と槍に変ずる小竜を従え挑むは一人の魔法騎士
果たして宝を持ち帰り
鳥と心通わす高貴なる乙女へ求婚することが出来るでしょうか?

本来なら親の声が一番なのでしょう
例え一時だけでも騎士として、果たせぬ彼らの想いを継がなくては


雛菊・璃奈
大量の食糧は持ち込めないって事で飴玉だけ持って合流…。
ちょっと特殊な力を持った旅の奪還者であるとしつつ、この世界には自身やまだ多くの人間が拠点を作って生存している事を過去にこの世界の依頼で会った人達の事を交えて話をし、子供達を励まし、元気付けに持ってきた飴玉をあげるよ…。
肉体・精神的に疲労には甘いモノが良いしね…。甘い物なんて久しいだろうし…。
(同時に危険な敵もいる事ので見極めはしっかり注意する様にも伝える)

【影竜進化】でミラ達を一時的に影竜へ成長…。
ミラとクリュウとアイがアンナ、ハルカの女の子と年少組を背中に乗せ、アイには影への潜航能力を使用して周囲の偵察と子供達の護衛をお願いするよ…。


柊・はとり
複雑な事情はあるが俺も大差ない身分だ
本物の生き残った未成年として同じ目線で協力する
もう死んでるって事以外嘘はついてないだろ

俺は柊はとり、探偵だ
こんなご時世じゃ頓珍漢な肩書きだが
まあ変死体は見慣れてるから任せろ
一応奪還者でもあるしな

道中やストアに死体があれば【情報収集】と探偵の【第六感】で
死因と大まかな経過時間程度は判断できる
他にも違和感を感じる光景があれば詳しく調べる
集めた情報を元にUCで『何が起きたのか』と『これから起きる事』を推理する

俺はジニーより少しだけ年上だし
ハルカは同じ日本人かもしれない
居るだけで多少は気が楽になるだろ
正直俺も途方に暮れてるよ
だか何とかする
死んだ奴らの為にも…何とかな


セルマ・エンフィールド
最年長でも私よりいくらか年下なくらい、ですか……それで集団を率いられるのは頭が下がります。

※奪還者として接触
ジニーさん、あるいはトーマスさんと一緒にストアのクリアリングを。
うろつくゾンビを相手に銃の使い方も含めて戦い方を教えます。
人型ですし、撃てなくとも仕方ありません、が。

撃つべき時に撃つべき相手を撃てなければ自分どころか、仲間の命も危険に晒す、ということは言い含めておきましょう。

厳しい言い方ですし、他の拠点へ行けばまた状況は変わり、戦う必要はなくなるかもしれませんが……

戦えなければ、戦うという選択肢を選ぶことすらできません。覚えておくに越したことはない……と、私は思います。


テイラー・フィードラ
彼らもまた弱者である。ならば救わねばならん。

馬上より声を掛けて接触する。
相手は子供、私のような存在とであれば警戒心を持たれるのが普通であろう。故、背嚢より塩漬け肉や干した果物等の携帯食料と革の水筒を手渡し、警戒心を和らげて接触する。
私自身、以前吸血した分で多少飲まず食わずでも平気だ。遠慮な食らうよう勧める。

その後は疲弊している者をフォルティに乗せ、一時歩行からの休息とさせる。
夜では子らが眠れるよう寝袋を貸し不寝番として行動する。元より夜の領域はダンピールとしてはそう昼間と変わらん。フォルティに騎乗し外敵がいないか警戒する。

これからどうすれば?
……生き足掻け。それが生き延びし者にとっての宿命だ。


ルナ・ステラ
みんな必死にがんばって生きている。
昔のわたしよりもみんな強いですね...
そんな彼らの希望になりたいです!

誤魔化してもぼろが出そうなので、猟兵と名乗って接しましょうか。
希望をもってもらえるように、わたしの他にも助けにきた猟兵さんたちがいそうなことを伝えましょうか。

気になるのは、ハルカさんですね...
がんばりすぎて、いっぱいいっぱいになっている感じが心配です。
共感的に話を聴いて励ましたいと思います!【コミュ力】
みんなのことを考えて、本当によくがんばってますね...

また、夜を越すキャンプのときに見張りを代わってしましょうか。
見張りは、狼さんたちと協力して行いましょう。
皆さんしっかり休んでください!


レッグ・ワート
そんじゃ、どうにか直近の不安から逃がそうか。

俺は仕事探し中支援機のていで。いければ良し、でなけりゃ次の仕事先が見つかるまでって事で付合えれば上等。そんで診れるとも伝えて、許可下りれば状態確認。必要なら救護パックの用品や非常食使って都度対処な。……管理役の判断が良けりゃ、4人のバランス崩さない程度の必要分の自信と信頼に繋がるようにコメントしときたい。後は演算なり運搬なり、迷彩ドローンでの警戒や護衛で助けるよ。
主力が忙しい時は年少組看とこうか。但しやんちゃは糸でやんわり巻き転がす。……警戒して様子見来るなら見所あるよな。評価がてら、武器の照準や踏ん張りか、咄嗟の落着かせ方の精度上げに協力するぜ。


玖篠・迅
子供達だけで三か月もほんと頑張ったよな…
今を安心できるようにと、集落を目指せるようにできる事やってくな

俺も人を探してあちこちさ迷ってるって風で接してみようか
又聞きの感じでこの世界の人たちの暮らし方を伝えたり、手持ちのくすりばこから栄養剤とか薬の提供もできるかな
式符・天水で蛟たち呼んで、水の補給も少しはできないか試してみる
蛟たちに遊び相手とか、合体して移動の助けになってもらえるかな

あとは霊符に火の「属性攻撃」を込めたもので休憩時の暖にしたり、もしもの時に助けになる様「破魔」を込めた霊石を御守として渡してみるな
その時に今までの話とか他の子には言えないような何かがあれば、聞くだけでもできるといいな…


フランチェスカ・ヴァレンタイン
わたしの場合、生き残りと言うより他のモノに勘違いされそうですけど大丈夫ですかねー…?

哨戒飛行で周囲の警戒などしつつ、進路の安全と目的地の食料品ストアの確認を
見たままを子供たちに伝えれば多少は精神的負荷の軽減にもなるでしょう、と

精神的負荷といえば、特に心配なのはリーダーの子ですかね
わたしたちが合流して張り詰めていたものが切れていないと良いのですけれど
それとなく気を配っておいて、適宜フォローするとしましょう
…何だか約一名には睨まれっぱなしになりそうですけども。心配するほどのことはありませんよ?

世話焼き気質が溢れ出た場合、懐かれた子供達にママ呼びでもされれば微妙な表情をしたりしているのでは無いかと



《Day1 11:42 【人】》
 ハルカが落ち着きを取り戻し、小さい子たちが泣き止んで、ようやくジニーたちは進み始めた。
 もう日も高くなってきた。最後に食べたのは早朝だが、残りの量からして、昼食を取る余裕はない。誰もが空腹ながら、何も言わずにただ歩く。
 このまま、どこまで行くのだろう。例え首尾よく食料が見つかったとしても、いつまで歩けば、落ち着ける場所に辿り着けるのか――。
 答えの出ない旅路は、少年たちの心を侵食していく。疲労はすでに、ピークを越えていた。
 だから、アンナは最初、それを幻だと思った。
「……ジニー、あそこ」
 耳元で小さく告げ、指さす。ガンショップのドアが、開け放たれていた。廃墟しかない街では、今更珍しいことではない。
 だが、ジニーは足を止めた。後ろを歩く仲間たちを手で制し、息を呑む。
 音がしたのだ。恐らくは、棚から何かが崩れる音。アンナが気づいてくれたおかげで、警戒することができた。
「トーマス」
「うん」
 男子二人が銃を構えて、ゆっくりと近づく。音を立てたものの目星は、ついていた。
 ゾンビ。二人の脳裏に悍ましい屍の化け物が過ぎる。見つけたら、即座に頭を撃ち抜かなければならない。
 しかし、ジニーとトーマスは、ガンショップから現れたそれに、引き金を引くことができなかった。
 現れたのは、確かに人型だった。薄汚れたパーカー、そのフードを目深に被った者が、軽い足取りで意気揚々と扉を抜けてきた。
 そして、その「人物」は、こう言ったのだ。
「大漁大漁。……おや? 子供だけのキャラバンとは、珍しいね」
 どこか中性的な雰囲気を醸し出すその声に、ジニーが歯噛みして銃口を向けた。
「頭を……!」
「待ったジニー! ちょっと待って!」
 慌てて抑え、睨みつけてくるジニーを宥めつつ、トーマスは驚愕に目を見開いた。
 まさかと思った。誰もがその希望を捨て去っていたというのに。
 こんなにも突然に、前触れもなく、現れるなんて。
「人――だ。生きてる」
 トーマスの発したその言葉を、仲間たちはしばらくの間、理解できずにいた。

《Day1 11:55 【人々】》
「嘘、嘘よ。きっとゾンビだわ! ジニー、やっつけてよ!」
 ハルカが悲鳴じみた声を上げるが、ジニーは銃弾を放つことができなかった。
 それはそうだろうと、アンナは思う。なぜなら、現れたその人物は、フードを深く被っていてもはっきりと分かるほどに、生気がある。
 そして何より、ゾンビを見ると卒倒しそうになるアンナ自身が、平然としていられるのだ。
「ちょっと太っちょ! アンタまでボーっとしてないで、早くなんとかしてってば!」
「……トーマス、あいつは本当に人間か?」
「そう、思う。たぶん……確証はないけど」
「ゾンビに決まってるわ! だってあんなに汚いし、素行だって悪そうだし!」
「あの人からは怖い感じがしないから、違うと思う。確かに、汚いけど……」
「ずいぶんな言われようだな」
 少年たちの遠慮のない物言いに、つい苦笑してしまう。
 しかし、全ての人類が滅びたと思っていた彼らにとって、まったく突然現れた人間は混乱の火種以外の何物でもないのだろう。
 もし彼らが出会ったのがレイダーだったら、いいように殺されていたに違いない。そのことを安堵しながらも、フードの人物は両手を挙げた。
「ほら、敵意はないよ。僕は臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)。この辺りでうまいこと生きてる人間だ」
「カホ……」
「ま、好きに呼ぶといいよ。じゃ、僕はこれで」
「ちょっと、どこに行くのよ!」
 人をさんざん疑っておきながら、ハルカが置いて行かれる幼子のように声を上げた。
 夏報は顔だけで振り返って、肩を竦めた。
「仲間んとこさ。ついて来たければ、来るといいよ」
 そそくさと街道を進み、細い路地に入っていく夏報。その背を見つめて立ち尽くす子供たちは、やがてジニーを見た。
 少年たちのリーダーは、意を決したように、頷いた。
「……行こう。あいつが本当に人間だったら、俺たちは――」
 助かるかもしれないとは、まだ、言えなかった。

《Day1 12:13 【生きている】》
 少年たちを待っていたのは、彼らよりも多い、二十人近くの人だった。年齢もまちまちで、見れば大して年の変わらない子供までいる。
 なんだか姿形が違うのまで見えるが、違和感はないので、やはり人間なのだろうとトーマスは思った。
 それでもまだ信じられず立ち尽くす彼らは、頑丈そうな防護車と焚火の周りにたむろする一団に近づく夏報を、見ていることしかできなかった。
「やぁただいま。手榴弾とか、まだ使えるものがあったよ」
「そうか、助かる。これで戦略の幅が広がるな」
 男性的な力強さのある声音で言ったのは、紫髪の女――キリカ・リクサール(人間の戦場傭兵・f03333)だった。
 あからさまに警戒と緊張、そして混乱しているジニー一向に、キリカは目を向けた。
「君たちは……」
「き、聞きたいのはこっちだ。お前たち、本当に人間か?」
「初対面でずいぶんなことを聞くじゃないか」
 思わず笑ってしまいながらも、武器をボリードポーチに納めつつ、尋ねた。
「人間じゃなければ、なんだと思う?」
「……ゾンビ」
 ジニーの背に隠れて、ハルカが呟く。年少組が不安そうに猟兵一同を見回していた。
 キリカは動じず、首を横に振った。
「私がゾンビなら、とっくに君らを食っているさ」
「そんなこと――」
 言い返そうとしたハルカは、ジニーに手で制されて黙った。代わりに、トーマスが一歩前に出る。
「ほ、本当にあなたたちが人間だとして……どうしてここに? 僕たちを見ていれば分かると思いますけど、ここから先は、人は誰もいないんです。少なくとも、三ヵ月歩く限り……誰も、見ませんでした」
 子供たちは、暗い目をしていた。辛く寂しい道中に、心に深い影を落としてしまっている。人を見ても、すぐには同じ人類と信じられなくなってしまうほどに。
 無理もないことだと、ボアネル・ゼブダイ(Livin' On A Prayer・f07146)は思った。揺らぐ焚火を見つめていた彼は、トーマスに目を向け、優しく微笑んだ。
「安心したまえ。この世界は、我々や君達以外にも、たくさんの人間がいる」
「ほ、本当ですか!?」
 食いついたのは、アンナだった。トーマスとジニーの間から身を乗り出すようにして、目をキラキラさせている。
 よほど、寂しかったのだろう。その笑顔に胸が痛くなる想いになりながらも、ボアネルは頷いた。
「本当だとも。これ以上、絶望に心を砕く必要はない」
 刺激しないようそっと立ち上がり、今も仲間を守るために油断を禁じているらしいジニーへと、ボアネルは歩み寄って手を差し伸べる。
「そして、心配するな。我々は、君達の味方だ」
「……どうして、突然現れた俺たちを?」
 頼りたい心を必死に抑えつけながら、ジニーが拒絶するように呟いた。至極まっとうな質問ではある。
 とはいえ、なんとも傷が深い。キリカとボアネルは目を合わせ、困ったように笑った。しばし考え、結局これしか思い浮かばないなと、キリカは答えた。
「仲間の全てがそうではないだろうが、私の場合は……大人の役目、というやつかな」
 猟兵としての使命よりも、感情が先に動く。それほどに彼らは、危うく見えていた。少年らが自分たちの力で生きていけるようになるまで、守ってやる義務があると感じたのだ。
 アンナ以外の三人の年長組は、今も猟兵たちに疑いの目を向けている。だが、幼い子たちはそうではなかった。
「大人……大人の人だぁ!」
「アンナちゃん! 生きてる人がいっぱいいる!」
 大喜びで、年少組はアンナとハルカの手を振り切って焚火の方へと駆け出した。止めることもできず、ジニーとトーマスが猟兵へ銃を構える。
 しかし、彼らが心配するようなことに、なろうはずもない。次々に質問攻めを始める幼児たちに困り果てながらも対応する猟兵に、四人の年長者たちはそれぞれに顔を見合わせ、アンナ以外が深刻な顔で頷いた。
 この状況下で、他に選択肢はない。ジニーが猟兵たちへと向き直る。
「……少しだけ、世話になる」
 幼い子らのために。
 そう決めた彼らの目にこそ、安堵の光が宿り始めていた。

《Day1 13:06 【美味しい】》
 お腹の音が鳴った。
 見れば、アンナが真っ赤な顔で俯いている。ハルカが「ちょっとやめてよ」と言ったが、その直後に彼女の腹も鳴った。
 乙女が二人してお腹を抱えて赤面する様子から、男子たちは気まずそうに目を逸らしている。
 しかし、無理もないことなのだ。アンナもハルカも、自分の食い扶持を小さい子たちに分け続けてきたのだから。
 ボアネルの診断によれば、子供らは誰もが軽度の栄養失調に陥っていた。自前の食料を大切にするあまり、手をつけ辛くなっていたこともあるのだろう。
 何より女の子が恥ずかしがっているのが忍びなくなり、事態を見守っていたサフィリア・ラズワルド(ドラゴン擬き・f08950)は、鞄を手に二人のそばに駆け寄った。
 警戒するハルカに笑顔を向けてから、鞄の中から総菜パンを取り出す。千切って二人に手渡すと、途端に驚きに目を見開いた。
「か、固い……」
「ちょっと、これ石みたいじゃないの。食べられないわよ」
「そのままだと、辛いかも。水をかけると膨らむから、少しずつ食べてね」
 そう言って、サフィリアはペットボトルのキャップを開けた。中の水を少量振りかけるだけで、パンは見る間に膨張し、柔らかくなる。それを、一口食べてみせた。
「美味しいよ。さぁ、食べて」
 二人のお弁当にも水をかけてやると、膨らみながら良い香りまで漂うものだから、ハルカが唾を勢いよく呑み込んだ。
 一片のパンが両掌ほどになり、アンナとハルカは恐る恐るそれを頬張った。そして目を丸くし、一生懸命噛んで、ゆっくりと呑み込む。
「……」
 アンナがなんとも言えない顔で空を見上げた。ハルカに至っては、小さく震え始めてしまう始末だ。
 もしかして、味が気に入らなかったのだろうか。不安になって、サフィリアは尋ねた。
「あんまり、好きじゃなかったかな?」
 二人は揃って、首を左右に振った。アンナが呟く。
「美味しい。こんなに美味しいパン、初めて」
「そうね。そうね……。本当に、悔しいくらい、美味しい」
 ハルカは声まで震えていた。泣いているのだなとサフィリアは察したが、理由は聞くまでもなかった。
 一口ずつゆっくりと食べては飲み込むアンナもまた、目元が濡れていた。そこに確かな温かさを見て、ほっとする。
 張り詰めていた緊張の糸が、緩んできているのだ。久々に味わった安心感が、二人の心を少しずつ溶かしている。
「……まだあるから。たくさん食べてね」
 そう微笑んで、サフィリアはがんばってきた年長の少女二人に、にこりと微笑んだ。

《Day1 13:30 【想い】》
 猟兵たちは、子供たちを率いて出発した。例のストアがある方向へ、大きな街道を真っすぐに進む。
 倍以上の人数になったことで、子供らは安心しきっていた。特に年少組は、キリカの輸送防護車とサフィリアの親にも近い番い竜の背に乗って、久しぶりの安眠を貪っている。
 行軍のしんがりを務めながら、共にこの世界に降り立った少年の横顔を見て、入谷・銃爪(銃口の先の明日・f01301)は静かに尋ねた。
「不機嫌だな、オーキ」
「……別に」
 聞かれたオーキ・ベルヴァン(樫の木のキング・f06056)は否定しようとしたが、まったく隠せていない自分に、また不愉快な思いになった。
 この仕事への参加を持ち掛けてきたのは、銃爪だ。何やら思惑がありそうで、オーキは銃爪に半眼を向けた。
「あのさ、銃爪……なんで、俺も連れて来たの?」
「……」
「……まぁ、別に何でもいいけどさ」
 答えない銃爪の反応に鼻を鳴らして、立ち上がる。そして、オーキを守護する友人の前に立った。
 これだけは、伝えておかなければならないと思った。
「言っとくけど、俺、あいつ等が自分達の足で歩こうとしないなら、何も手伝わないよ」
「……彼等の気持ち、お前は分かっていると思っていたんだがな」
「分かるよ、痛いくらい。でも、前に進めないなら、結局この世界で生きていけないんだから……。銃爪だて、分かってるだろ?」
 聞き返す形になり、銃爪はオーキの顔をしばらく見上げてから、小さくため息をついた。
「……ふぅ。まぁいい、お前の好きなようにするんだな」
 立ち上がり、オーキとすれ違う。その最中で、銃爪は囁くように言った。
「だが、俺達は猟兵として此処に居る、それを忘れるな」
「……」
「じゃ、後でな」
 去っていく銃爪の足音を聞きながら、オーキは一人、握りしめた拳を見つめていた。

《Day1 15:24 【繋がっているために】》
 一行は、道中にあったドラッグ・ストアの前で、小休止を取ることにした。
 休憩中にトーマスが管理していた物資を確認し、夏報と銃爪は露骨に呆れた表情を見せた。
 アサルトライフルの予備マガジンは一つ。ショットガンの弾丸は二十二発。
 食料は乾パンだけで、あと四日分がせいぜい。水は、一週間分。
 夏報と銃爪は思わず感心したかのような声を出してしまった。
「……これで生きるつもりだったのか。むしろすごいな」
「日数を計算できていたのは立派だと思うが」
「……すみません」
 図体の割りに小さくなって、トーマスが零すように謝る。謝罪されても困ってしまうが、夏報はとりあえずため息をついて、乾パンの缶を手に取った。
「まぁ、それでも今日まで生きてきたんだから、大したもんか」
「確かにな。三ヵ月だったか、奇跡にも等しい」
 猟兵二人の評価にも、太った少年は喜ぶでもなく、頭を掻く。
「運がよかったんです、僕らは。ゾンビが数体いたくらいで、危険なモンスターに出会わなかったし、ちょうどよく食料の補給もしてこれた。今回だって、皆さんに会えましたから」
「……」
 夏報は銃爪に目線を向けた。彼を試すので、見ていてほしいと。
 頷いてくれたのを確認し、缶を鞄に戻すトーマスへと、おもむろに声をかけた。
「しかし、トーマスくん。世界なんてちゃちなもんだよねぇ」
「……はい?」
「だってそうだろ。一発黒い竜巻が起きただけで、全部終わっちゃうんだから。ちょっと前まで机に向かってお勉強してた気がするのにね」
「……」
 目を伏せ、思い出したくないことと戦いながらも、トーマスは「そうですね」と返事をしてきた。
 大した冷静さだ。ジニーやアンナ、ハルカと比べて、よほど大人だと感じる。
 だからこそ、聞いておきたかった。夏報はさらっと、とんでもないことを口にする。
「ねぇ、君らそもそもなんでチビの面倒をみてるのさ」
「えっ」
「明日死ぬかもしれないんだぞ? 好き勝手やったっていいんじゃない?」
 ちらりと銃爪を見ると、彼は静かに見守ってくれていた。叱られても無理ないことを口にしている自覚はあるので、正直安堵する。
 待つこと数秒、トーマスは深刻かつ複雑な表情をふと緩ませ、顔を上げた。
「好きにやってるんですよ。今でも」
「へぇ」
「僕たちは皆、誰かが欠けたら生きていけないことを知ってるんです。だから、お互いを失わないようにしなきゃならない」
 ショットガンを手にして、トーマスはその銃身を撫でた。
「……チビたちは、僕とジニー、アンナ、ハルカを繋いでくれるんです。あの子たちを守らなきゃっていう想いがあるから、僕らはケンカをしても、殺し合ったり、奪い合ったりしないでいられる」
「……」
「僕らは、チビたちを失えないんです。僕らが僕らであるために」
 なんとも、綺麗な物言いだ。しかし言い返せない自分がいて、夏報は「ふーん」と頭の後ろで手を組んだ。
 賢しくとも、子供だ。反論の余地はいくらでもある。が、そうするのが野暮だと分かってしまうくらいには、夏報は大人になってしまっていた。
 じっと聞いていた銃爪が、ふとトーマスの銃に目を向けた。
「……構えてみてくれないか」
「え?」
「撃ったことがあるんだろう?」
「え、えぇ。一発だけ、ですけど」
 狼狽えながらも、トーマスは言われた通りに立ち上がり、ショットガンを構えた。
 その、あまりにも貧相な姿。笑いそうになってしまった夏報が我慢しているのを尻目に、銃爪は少年の背後に立った。
「……駄目だな。しっかりとグリップを握るんだ。背筋を伸ばして、腰は必要以上に引くな。そう、その姿勢だ」
 丁寧に、散弾銃を撃つ姿勢を教えていく。突然の教示に戸惑いながらも、トーマスはしっかりと取り組んでくれた。
 形が様になったところで、銃爪は一度、満足げに頷く。
「いいぞ。後はいつでもすぐに引き金を引けるように、呼吸を整えろ」
「は、はい。でも、いつでもですか」
「そうだ。敵はお前の呼吸が乱れる瞬間を、いつも待っている」
「……」
 トーマスの体が強張る。一度は撃ったことがあるとのことだが、戦う覚悟は、まだなさそうだった。
 しかし、そうも悠長なことは言っていられない。銃爪と夏報は、そのことを彼にこそ教えてやらなければならなかった。
 ショットガンを構えて固まるトーマスの肩に、銃爪が手を置く。そして、小さく、しかし脳髄の奥に残るよう、はっきりと告げた。
「いいか、トーマス。その銃口の先にしか、君と皆の明日は無いんだよ」
 その自覚がない限り、アポカリプスヘルで生きることは難しい。敢えて向けられた夏報の冷たい視線も、またそれを物語っていた。
 知っていた。だけれど、再確認させられた。もう、目を逸らすことができない。
「……僕と、みんなの、明日」
 アイアンサイトを睨みながら呟いたトーマスの声は、男の覚悟に震えていた。

《Day1 15:51 【彼らについて】》
「それで、あんたたちは一体、どういう集団なんだ?」
 出発準備をしながらのジニーの問いに、政木・朱鞠(狐龍の姫忍・f00521)は作業の手を止めて考える。
 彼らからすれば、朱鞠たちにとって、猟兵もこの世界の大人も同じに見えていることだろう。
 猟兵と名乗ることで不利益などないだろうし、そうする仲間もいるが、そのスタンスも人によって異なる。
 ならば、それに合わせた答えを伝えた方が何かと都合もいいだろうと、朱鞠は結論づけた。
「難しい質問ね。それぞれに目的は違うけど、互いの利害が一致している人が集まってきた……って感じかな」
「目的が、違う?」
「そう。例えば私は、用心棒で食べてるんだけど、その仕事を有利に進めるのに必要な情報収集のため。この辺りを歩く回ることが、私の目的ってこと。他には、奪還者やただの旅人、探偵もいるわ。あとは……猟兵」
「猟兵?」
 まだこの世界では、その名は通っていないらしい。世界の状況が変化していけば分からないが、少なくとも今は、説明しても分かってもらえないだろう。
 朱鞠はまとめた荷物を担ぎながら、誤魔化すように笑った。
「そういう風に名乗る奪還者、って覚えておけばいいよ」
「なんだそれ。俺がガキだからって馬鹿にしてるだろ」
「違う違う。本当に説明がし辛いの」
 苦笑交じりにフォローするも、ジニーは納得がいかないのか、鼻を鳴らして自分の荷を背負い、仲間のところへと去ってしまった。
「……まったく、世話が焼ける子たち」
 妖狐としての母性が疼いていることを自覚しながらも、朱鞠はそれを、そっと心の奥底にしまい込んだ。

《Day1 16:12 【笑えよ】》
 夕暮れが近づく中、あと二時間ほどなら歩けるだろうということになり、一同は進み始めた。
 防護車とドラゴンに揺られる幼い子供たちは、まだ起きない。よほど疲れていたのだろう。
 しかしそれは、年長組も同じはずだ。疲れを滲ませる少女二人はともかく、一向に顔に出さないジニーも、限界に達しているに違いない。
 にも拘わらず、彼は淡々と道を歩き続けている。
「……いや」
 違う、とオーキは思った。ジニーは口を横一文字に結んで、会話はすれど表情をほとんど変えないのだ。
 無理をしているのは間違いない。だが、なぜ。オーキには分からなかった。
 駆け足でジニーに追い付き、横に並んで歩く。
「なぁ、ジニー」
「……? お前は?」
 自分と年の近い、しかも恐らく下であろう少年に声をかけられ、ジニーはわずかに驚いていた。
「俺はオーキ。よろしくな。それでジニー、なんでお前、そんなに難しい顔をしてるんだ?」
「……」
 露骨に顔を背けて、ジニーは黙って歩く速度を上げた。一団の最先頭と並ぶ後ろ姿に追い付いて、オーキはそれでも、聞く。
「待てって。トーマスもアンナもハルカも、みんな安心してるみたいだぞ。なんでジニーだけ、深刻そうなままなんだよ」
「……この先を、考えてるからだよ」
 ようやく返ってきた言葉に、オーキは合点がいった。この先――つまりは猟兵の一団と、いつか別れた時のことを考えているのだろう。
 彼らだけで、どう生きるか。想像する未来に、明るさはない。
「もう歩くのも辛かったんだもんな。希望なんて持てるわけない、か。」
 頭の後ろで手を組むオーキを、ジニーが横目で睨みつける。
「……分かった風なことを言うなよ。こんなに大人に囲まれてるくせに」
「いや、分かるよ。それは俺も知ってるからさ」
 わずかに目を伏せるオーキの頭を――彼の方が背が高いために――見下ろして、ジニーは察した。
 朱鞠が言っていた、「互いの利害が一致した一団」という言葉。そこにいる、身寄りのない少年。おおよそ、その境遇は想像がつく。
 実際はそうではないが、オーキの境遇はジニーたちとよく似ていた。家族も知人も友人も、その全てをヴァンパイアに奪われたオーキは、少年の一団が抱える苦悩を嫌というほど知っている。
 だからこそ、背の高いリーダーの少年に対して、疑問を抱いてしまうのだ。
「だけどさ、ジニー。お前には、仲間がいるじゃん」
「……」
「一人じゃ、ないじゃん。なら笑えよ」
 ジニーが立ち止まる。オーキもまた足を止めて、二人の少年が睨み合う。
 猟兵の一団が、事態に気づいて停止した。傾いた日の赤い光が、オーキとジニーの顔を照らす。
「……笑えると思うか?」
「笑わないとダメだろ」
「なんでだよ。なんでだよッ! 笑えるわけねーだろ!」
 何かが切れたらしいジニーが、おもむろにオーキの頬を殴った。よろめいて、しかしその力のなさに驚きつつも、オーキは負けじと背の高い少年に掴みかかった。
「お前、仲間の笑顔を守りたくねぇのかよ!」
「笑顔なんて、もうとっくにないんだよ。俺たちはもう、笑えないんだよ!」
「それをお前が、決めるなッ!」
 掴み合いになった挙句、アスファルトに倒れて転がり、砂まみれになりながら、二人は痛みも気にせず叫び合う。
「誰かが明るくいようとしなきゃ、みんな暗くなるんだぞ! そんな気持ちで、生きていけるもんかよ!」
「お前に俺たちの何が分かるんだ!? 三ヵ月だ、三ヵ月も俺たちは……!」
「分かるって言ってるだろ! それでもジニーたちは、生きてるんだよッ! ならお前が一番最初に笑顔を作れ! 無理矢理にでもだ! それがリーダーの、お前の役目だッ!」
「うっ……うるせぇ!」
 オーキに馬乗りになったジニーが、その顔面を殴りつけんと拳を振り上げる。
 しかし、その手が止められた。二人が同時のそちらを見ると、上げられた手を朱鞠が掴んでいた。
「やめなさい」
「離せっ! こいつが何も知らないくせに、でしゃばるから!」
「分かるんだよ、お前の気持ちが! だから言うんだろ!」
「やめなさい!」
 強引に引きはなし、引かれた手の痛みに呻くジニーを下げて、朱鞠はオーキを立ち上がらせた。
 少年二人の仲裁に入った彼女は、猟兵たちが見守る中、大きくため息をついた。
「こんなところで怪我なんてされたら、全体の士気に関わるの」
「でも……」
 感情を発露させたことで、ジニーの目に初めて年相応の幼い憂いが見えた。
 甘やかしてやりたい。朱鞠の心に本能にも近い想いが芽生えるが、それでは彼のリーダーとしての自尊心が傷つく。少なくとも、皆の前ではダメだ。
「ジニーくん。本当はオーキくんの言うことも、理解できているんでしょ?」
「……」
「心に余裕ができたらでいいから。あなたの友達を安心させるためにも、笑ってあげて」
 しばらく俯いてから、ジニーはぎゅっと握りしめていた両手をほどき、その片方を倒れているオーキへと差し出した。
 素直に伸ばされた手を取って立ち上がり、オーキはようやく揺れる心を顔に出したジニーを見る。少年は、消えてしまいそうな小さな声とともに、軽く頭を下げた。
「ごめん、オーキ」
「……いいんだ。俺の方こそ、カッとなってごめんな」
 握手を交わす少年二人に、一行はようやく緊張の糸を解いた。中断してしまった歩を、再び進め始める。
 思いっきりぶつかれたことで、ジニーは表情を和らげた。しかし、それでもまだ仲間に笑いかけるようなことは、しなかった。
 時間はかかるかもしれないが、オーキはそれ以上何も言わないことにした。歩いている最中に銃爪に「いいのか」と問われ、頷く。
「後は……ジニーが決めることだから」
 きっと、オーキの言葉は届いているはずだ。
 あの握手の瞬間、ジニーの口元に少しだけ浮かんだ柔らかさが、彼にそれを確信させていた。

《Day1 17:40 【死体】》
 街道が夕日の赤に染まる頃、ハルカが悲鳴を上げた。
 猟兵たちが一斉に戦闘態勢に入り、その身替わりの早さに少年たちが驚愕する。
 急激に張り詰めた空気の中で、柊・はとり(死に損ないのニケ・f25213)は手を上げて仲間を制した。
 ハルカが驚いた理由は、死体だった。側溝に転がっていたものを、足元で見つけてしまったらしい。
 衣服が巻き付くようになっているその亡き骸に、はとりは迷わず近づいてしゃがみ込んだ。
「……まだ新しいな。死後、数日しか経っていない」
 手袋をはめて、手早く調査する。腹は喰い破られ、亡骸の右大腿骨は噛み砕かれていて、頭骨にも陥没骨折が見られた。
 躊躇なくグロテスクな遺体を調べるはとりに、ハルカは青い顔で、一歩後ずさりした。
「アンタ……なにも思わないの? それ、人の死体だよ?」
「あぁ、俺は探偵なんだよ。こんなご時世じゃ頓珍漢な肩書きだが、まあ変死体は見慣れてる」
「探偵……」
 はとりは死体の調査を終え、立ち上がった。
 これまでの道中でも、見かけた死体は全て調べてきた。ほとんどの死因は咬み傷によるものだった。
 野犬か、ゾンビか。気になる点と言えば、道を進むほどに死体が新しくなっていくということか。
「継続した調査がいるな。先を急ごうか」
「ちょっと、待ちなさいよ!」
 ハルカに呼び止められ、はとりが振り向く。彼女は何か思いつめたように、詰め寄ってきた。
「なんで、人の死体を見て平然としていられるの? この状況で涼しい顔していられるのよ。 アンタ、おかしいんじゃないの!?」
「……」
 しばし睨み合い、やがて、はとりは静かに言った。
「正直、俺も途方に暮れてるよ」
「じゃあ、なんでそんなに――」
「なんとかする。それしかないんだ」
 はっきりと、告げる。
 逃げることも叶わず、歩みを止めれば死の淵に引きずり込まれる、地獄のようなこの世界。
 いかなる状況下でも、どのような謎に立ちふさがれようとも、壁は自分で切り開くしかない。
 それが、死してなお生の時を歩く、はとりの【生き方】だった。
 立ち尽くすハルカに、背を向ける。
「死んだ奴らのためにも……なんとか、な」
 足元を見ると、腐り始めた死体の黒い眼窩が、はとりを見上げていた。

《Day1 18:20 【楽しいということ】》
 日が落ちるまで、もうわずか。残された赤い日差しの中で、一行はキャンプの準備に取り掛かった。
 とはいえ、設営の準備は大人の仕事だ。手伝いを申し出てくれたジニーとトーマス以外の子供たち――猟兵も含めてである――は、年少組の面倒を見ることとなった。
 移動中にゆっくり休めた子供らは、元気いっぱいだった。天翳・緋雨(時の迷い人・f12072)はラムネを、ルベル・ノウフィル(星守の杖・f05873)は合流前に空から降らせた金平糖を、それぞれ幼い子らに振る舞った。
「ほら、どうぞ」
「わぁ、ありがとう!」
「あまり食べ過ぎてはいけませんよ。この後は食事もありますからね」
「はぁい!」
 甘いお菓子など、まだ拠点で暮らしていた時にすら、めったに食べられなかったのだろう。幼い子らは頬を緩ませて、笑みを顔いっぱいに浮かべていた。
 アンナとハルカもその様子を見て喜んでいるようだったが、緋雨が二人にラムネを差し出すと、途端に年少組と変わらないような表情を見せた。
「えっ、私たちも、ですか?」
「い、いいの? もらったら、もう返せないわよ?」
 遠慮しつつも掌のラムネを凝視する二人の少女に、緋雨は思わず声を上げて笑ってしまった。
「返せなんて言わないよ。ただ、食べ過ぎはダメだからね」
「分かってるわよ! チビと同じだと思わないでよね!」
 言いながらも、ラムネを頬張ったハルカの緩んだ顔は、幼い女の子らと大差なかった。
 アンナも久々の甘味に何度も「おいしい」と繰り返し、心もだいぶ解れてきた様子だった。やはり子供はこうあるべきだなと、ルベルは自分の年齢を完全に棚に上げつつ頷いた。
 おやつを終えたところで、猟兵の中でも子供と呼べる年齢の者を交えつつ、緋雨は大仰に手を広げた。
「さぁ、大人が寝床と食事を準備するまでの間、ボクの手品をご覧にいれよう!」
 あたかも快活な旅芸人のように振る舞い、ポケットからトランプを取り出す。ぐいぐいと食いついてくる子供らの前で、簡単な手品から披露した。
 選ばせた数字とマークを当ててみせたり、隠したカードを彼らのポケットから取り出してみせたり。種も仕掛けもあるのだが、時折転移の力を使うことで、いわゆる「本物」のマジックも見せてやることで、場は歓声に包まれた。
 心が解れたら、次は体だ。小さな子らと年長組の少女二人の手を取って、緋雨は歌と簡単な踊りを教えてやった。ハルカは恥ずかしがっていたが、アンナと年少の子らは失敗しながらも笑い合い、日が落ちた街道に明るい声を響かせる。
 楽しむことを、彼らはこの数か月知らずにいた。それは、子供という時代を生きる彼らにとって、あまりにも不自然なことなのだ。目を輝かせて手を叩く子らを見ていると、緋雨はそのことを痛切に感じた。
 そしてそれは、猟兵だって同じことだ。まるで大人のような顔をして見守っているルベルを、手招きする。意外そうに目をパチパチしながらやってきた人狼の少年が、首を傾げる。
「なんですかな?」
「ルベル君も、さぁ、一曲」
 手を取って少し強引に、子供たちの輪に加える。一瞬理解が追い付かなかったが、ようやく事態を呑み込めたルベルが、目を丸くした。
「えっ、僕も踊るのです? なぜ!?」
「わたしたちも子供だから、ですって」
 見れば、手を繋いでいたのは猟兵のルナ・ステラ(星と月の魔女っ子・f05304)だった。その向こうには、オーキもいる。
 でもでもと訴えようとしたが、緋雨の手拍子に合わせて子供たちが歌い出し、ダンスも始まってしまった。輪の中で何もしないわけにもいかず、ルベルがしぶしぶ真似をする。
 なんだかんだで上達しているルナやオーキを参考に体を動かすが、うまくいかない。足がこんがらがって、派手に転んでしまった。
 輪が乱れてみんなが転び、大声で笑いだす。別に自分だけが笑われているわけではないのだが、どうにも恥ずかしくなって、ルベルは顔を赤くして緋雨を見上げた。
「緋雨殿、僕はもう結構でございます! そもそも遊びに不慣れだと、もう何度も申しているでしょう」
「そう言わないでよ、ルベル君。一番簡単なステップなんだから、きっとすぐに上達するよ」
「ぐぬぬ……うざいのでございます……。シスコンの癖に……」
 尻もちをついたまま悔しがるルベルに、小さい子たちが手を差し伸べる。なんだか無暗に悔しくて、その手を取って立ち上がった彼は、高らかに宣言した。
「いいでしょう! 僕は負けませんよ! もっと難解なステップになさい、必ずできるようになってごみせましょうとも!」
「そうそう、その意気だ。それじゃもう一回、いってみよう!」
 さんはいと手を叩き、緋雨が躍り出す。彼のステップはさすがにこなれていて、実に美しい。それがまた、ルベルの心に火をつける。
 隣で苦戦しているルナにも負けてなるかと必死に足を動かす。しかし、刀を扱う時の足さばきとはまったく違う動きに、頭と体がついていかない。
 もどかしさと格闘する中、ルベルはついに自分の足を自分で蹴っ飛ばし、派手に転んでしまった。ひっくり返って、空を仰ぐことになる。
 転がったところを、今度は明らかにこちらを指さして、子供たちが大笑いした。星が瞬き始めた空を睨み、頬を膨らませる。
「むぅ……」
「大丈夫? この子たちが、ごめんね」
 ハンカチを差し出してくれたのは、アンナだった。同い年の少女に心配されてしまい、それもまた追い打ちとなったが、ルベルは顔には出さず、素直にハンカチを受け取った。
「ありがとうございます。なに、気にしてはおりませんよ」
 そう言って頬を拭いながらも、その半眼はしっかり緋雨に向けられていた。彼はこちらの感情を悟ってか、曖昧な笑みを見せている。
 久しぶりの娯楽に興じたことで、幼い子供らは心が完全に解れたらしく、猟兵や年少組同士で遊び始めた。緋雨はとりあえずの役割が終わったことにほっとしつつ、ルベルに歩み寄る。
 目が合うと、開口一番、ルベルは言った。
「恨みますよ、緋雨殿」
「恥をかかそうと思ったわけじゃないさ」
「……分かっています」
 分かっていても、悔しいものは悔しい。半ばいじけているような猟兵の少年に、緋雨は苦笑を禁じ得なかった。
 おもむろに、アンナが頭を下げた。
「あの、ありがとうございました」
 顔を上げた彼女は、本当に嬉しそうに破顔して、紅潮した頬のまま続ける。
「あの子たちが、あんなに笑っているところ……私たちの住んでいた場所がダメになってから、一度も見たことなかったんです」
「そうでしたか」
「……そう、だったろうね」
 多くは語らず、ルベルと緋雨は頷いた。
 過酷な旅路を、見事に生き抜いてきた彼らだ。子供としてあまりにも多くのものを犠牲にして、命を繋ぐことだけに力を割いてきたに違いない。
 何かを楽しむ余裕など、なかったはずだ。そしてそれは、少年たちにとってあまりにも、過酷なことと言えた。
 生きるために捨てた笑顔を、自分たちより大きく強い一団と出会えたことで、三ヵ月ぶりに取り戻すことができたのだ。
 本当に、よかった。安心しきった顔のアンナを見て、緋雨もルベルも、心から思う。
 努めて明るく、緋雨は笑った。
「ボクたちも、小さな子が来てくれたおかげで朗らかになれた。お互い様だよ」
「それは確かに、そうですな。おかげで僕もダンスが上達しましたから」
 ルベルがじっとりと緋雨を見るも、彼は徹底して目を合わせようとしなかった。
 二人のやりとりにクスクスと笑って、アンナはもう一度「ありがとうございます」と、お辞儀をした。
「私もジニーも、ハルカも、トーマスも。みんなみんな、感謝しています」
「アンナ殿、そんなに頭をお下げになることはありません。今しがた緋雨殿が言った通り、お互いに持ちつ持たれつなのですからな」
 ルベルが言うと、三つ編みの少女はパッと顔色を明るくさせた。
「はい。それじゃあ、私も皆さんの役に立てるよう、食事の準備、手伝ってきますね!」
 何やら張り切って、アンナは炊事をしている焚火の方へと走っていった。
 健気な少女だ。誰かの役に立ちたいと、心から思っているらしい。そのことが微笑ましくて、緋雨とルベルは互いに顔を見合わせて、口元を緩めた。

《Day1 19:02 【火】》
 キャンプのために、火を起こさなければならない。その役を買って出たのは、玖篠・迅(白龍爪花・f03758)だった。
 火の力を込めた霊符を用いて、集めた廃材や木の枝に着火する。人数が人数だけに、同じような作業を何度も行なった。
 やがていくつもの焚火が出来上がり、炊事係の女性陣が作業に取り掛かり始めたのを見ながら、迅は額の汗を拭う。
「ふぅ。まぁこんなもんかな」
 一度伸びをしてから、きゃいきゃいと騒ぐ幼い子供たちに目をやる。彼らはおっかなびっくり、妙な生き物と戯れていた。
 迅が呼び出した蛟だ。水を操る力を持つ式神で、給水にも力を貸してくれた。少々恐ろしい見た目だが、大人しくしてくれているため、子供の良い遊び相手になっていた。
 その中に、アンナが混じっている。炊事の手伝いに行く途中で興味を持ったらしい彼女は、手を伸ばしては引っ込めを繰り返していた。
 年長者だが、やはり幼い。微笑ましく思いながら近づいて、迅は蛟の頭に手を置いた。
「大丈夫、いいやつだよ。怖くないさ」
「……はい」
 恐る恐る伸ばした手が、蛟の頭に触れる。鱗の感触に目を白黒させながらも、アンナは「触っちゃった」と嬉しそうに言った。
 その後、幼い子供たちに追いかけまわされる蛟を見ながら、迅とアンナは立ち話をした。
「あの……迅さんは、どうして皆さんと?」
「ん、俺は人を探してるんだ。あちこち彷徨ってるうちに、あいつらと合流してさ」
「人探し、ですか」
 最初の質問の後は、どちらかというと、迅が聞く割合が多かったが。
 そうしたいと思ったのだ。三ヵ月もの間、子供たちだけで生き抜いてきた彼らの、溜め込んだ想いを受け止めてやりたかった。
 迅を信頼したアンナは、自分の家族のことを話した。両親はとても優しく、大勢の兄妹とも仲が良かったそうだ。
 誕生日には慎ましやかなパーティーをして、みんなで笑って。とても、楽しかった。
「……ずっと、続くと思っていました」
「そうだな……。そう、思うよな」
「はい……」
 しばらく俯いてから、アンナはとうとう、両親の死についても話し始めた。
 黒い嵐の日に、拠点に大量発生したゾンビたちが、人々を喰い殺していく。両親は家族を連れて必死に逃げ回った。
 一人、また一人、兄妹が襲われていく。最後に残ったのは、長女のアンナだった。
 地下通路までもう少し。あと一歩のところだったのに。両親は、三人のゾンビに襲われて、アンナの目の前で食い千切られた。
 両親の最期の声が、今も耳を離れない。アンナは涙混じりに、そう言った。
「逃げてって――。生きてって――。私に、言って、それから」
「……そっか。生きてって、言ったんだ」
 こくんと頷いて、少女は何度も目元を拭った。迅は何ともやりきれない想いになって、空を睨みつける。
 どうしてこんな子が、これほど残酷な目に遭わねばならないのか。虚しさが灰のように、心に積もっていく。
 頭を振ってそれらを振り切り、迅は努めて明るく、アンナの手を取った。
「よし、これをやるよ」
 細く小さな手に渡したのは、破魔の力を宿した霊石だった。冷たくすべすべした感触に、アンナが目を丸くする。
「これは?」
「お守り。いざって時に悪い奴から守ってくれるから、ちゃんと持っとけよ」
「あ、ありがとうございます。でも、どうして?」
 赤い目で見上げられ、迅は笑った。
「アンナのお父さんとお母さんの願い、俺も叶えたくなってさ。手伝おうと思った。それだけだよ」
「……うん」
 頷いたアンナは、大切に大切に、霊石を胸元で握りしめた。まるで、父母の手を取る幼子のように。
 死に物狂いで生き抜いてきた子供たちに、安心を与えてやりたい。
 アンナの微笑みを見ているうちに、迅の心はその想いで燃え上がっていくのだった。

《Day1 19:13 【奪還者】》
 三十人超という大人数になった一団は、その食事の量も多い。
 猟兵たちはオブリビオン・ストームを警戒し、食料をあまり持ち込めていない。合流前に辺りの店や家から回収した物があるにはあるが、それだけではどうにも心許なかった。
 だが、心配はしていない。この周辺で、「奪還」を行なっている者たちがいるからだ。
 その奪還者が、帰ってきた。アスファルトを叩く蹄の音とともにやってきたのは、三人の猟兵だった。
「うーん、やっぱ大気と地中から水分を集めるのは、効率悪すぎっぽい」
「必要なお水は取れたから……。鬼燈さんのおかげだよ……」
「うむ。貴殿が水に集中してくれたおかげで、私と璃奈殿で食料を調達できたのだ。これほどの量なら、一週間は持つ」
 談笑などしながら、露木・鬼燈(竜喰・f01316)と雛菊・璃奈(魔剣の巫女・f04218)、テイラー・フィードラ(未だ戴冠されぬ者・f23928)は、テイラーの愛馬フォルティが引く、瓦礫で作った即席の荷台に乗せられた物資を下ろし始めた。
 大量の缶詰やドライフルーツ、通電していた冷蔵庫に入っていた冷凍食品やハムなど。早めに食べなければならない物も多いが、大漁だ。
 突然運ばれてきた荷物の量に、目を白黒させながら、トーマスが近づいてきた。
「すごい数だ……! こんなにたくさん、どこにあったんですか?」
「君は、トーマスだっけ」
 鬼燈に尋ねられ、太っちょの少年が頷く。猟兵たちは彼ら少年の一団を知っているが、トーマスは三人とまだ面識がない。
 互いに簡単な名乗り合いを済ませてから、鬼燈がトーマスの質問に答えた。
「先行偵察も兼ねて、ちょっと調達をしたですよ。この先は、手つかずのところが多かったっぽい」
「あと一日ちょっとくらい行ったあたりは、もっと残ってるって情報もあるからね……。期待できるよ……」
「そうなんですか、それは、すごいや。でもどうして? 人がまだ生き残っているなら、とっくに無くなっていてもおかしくないはずじゃ?」
 続けて出された問いには、テイラーが簡潔に、そして正直に答えた。
「ここ数日の間に、オブリビオン・ストームが発生したのであろう」
「オブリビオン・ストーム?」
「災厄の化け物を呼ぶ、漆黒の嵐だ。貴殿も知っておろう、少年」
 知らないどころではない。トーマスの顔が見る間に青くなり、額に汗が浮かび始めた。彼らはそれで家族を亡くし、住む場所すらも失ったのだ。無理もない。
 さすがにいたたまれなくなり、璃奈は鬼燈に振り返った。
「ねぇ……保存の効く食料、分けてあげようよ……」
「えっ。まぁ余裕はあるけど、なんで?」
「この子たちだけじゃ、大変だもん……。かわいそうだよ……」
「私も璃奈殿に同意する。そも、そのために奪還してきたようなものであろう。鬼燈殿、貴殿はそのつもりではなかったのか?」
 璃奈とテイラーに迫られ、鬼燈は腕を組んだ。
 この任務に就いている以上、最初から分け与えるつもりではあった。だが、そんな簡単に渡してもいいものか。武人としてストイックに生きてきた身としては、甘やかすのはよくないと思ってしまう。
 文明が滅びれば、世は弱肉強食が常となる。弱い者が死ぬのは、仕方のないことだ。
 トーマスは何も言わないが、その目を見れば受け取ることに遠慮を示していることが分かる。悪くない姿勢だとは思うが、子供が苦しむ姿を見るのは、忍びない。
 それに、どうせ最後には渡す食料だ。分け与えることは知性あるヒトの行ないだと自分に言い聞かせて、ため息をつきつつ、仲間に降参を示す。
「二人ともお人好しだなぁ。分かったです、分配するっぽい」
「す、すみません。そんなつもりじゃなかったんですが……」
 申し訳なさそうに頭を掻くトーマスに、テイラーが貫禄のある微笑を浮かべた。
「構わぬ。受け取れ」
「うん……。食べ物があるってだけで、安心できるからね……」
 わずかに笑みを浮かべて頷く璃奈は、トーマスの心に大きな安心が生まれたことを、その表情から感じ取っていた。
 この三ヵ月、枯渇と補給をギリギリのところで繰り返してきた中、物資を死に物狂いでやりくりしてきた彼だ。この補給は、あまりにも心強い支えなのだろう。
 その横顔を見ながら、もっと大きな安心を与えてやらねばと、三人はそれぞれに胸中で決意した。

《Day1 19:22 【食事当番】》
 アンナは猟兵の一部女性陣と謎の白ドレスの女性と共に、夕食の準備に取り掛かっていた。
 缶詰の肉や野菜を使ったシチューだ。料理らしい料理は、食べるのも作るのも久しぶりだった。
 三十人分以上の炊事は大変だったが、それ以上に気になることがある。調理をしている人らをバイクのシートからじっと見つめる、桃色の髪の女だ。
「あの……?」
「なに?」
 聞き返されてしまった。なんだか不機嫌に見えて、どう続けたらいいものかと俯いてしまう。
 実際、エーカ・ライスフェルト(ウィザード・f06511)は面白くはなかった。この現状で、できることがないからだ。
 都市内での活動や戦闘ならいくらでもこなせるが、荒れ果てた土地でのサバイバルとなれば、途端にお手上げとなってしまう。
 まして、炊事など。電話で宇宙ピザでも頼んでやりたい気分だった。
 とはいえ、何もしないわけにもいかない。アンナたちが一緒に料理をしている白いドレスの女は、エーカが使役している悪魔だ。
 魔力を代償に呼び出したその悪魔を、シルキーという。家事ならば掃除洗濯炊事、全てお手の物だ。契約に従って、それらの一切を引き受けてくれる。
 合流と同時に召喚したエーカは、小さい子たちの面倒なども含めた身の回りの世話を、ほとんど彼女にやらせていた。今のところ、その様子を眺めていることしかできない。
「……暇ね」
 思わず呟いた言葉に、アンナがパッと顔を上げた。誘ってほしかったのだと、勘違いしたらしい。
「エーカさん、お暇なら手伝ってもらえませんか?」
「嫌よ。今日の食事がダークマターに変わるかもしれないわよ」
「……」
 しょぼくれるアンナが、年の近い猟兵に慰められている。「あの人はいつもあんなもんだから」などと傷つく声が聞こえたので、ここをシルキーに任せて離れることにした。
 子供たちの声で賑やかなキャンプをぶらぶら歩いていると、トーマスを見つけた。分けてもらったらしい物資を元に、自分たちだけで何日生きられるかを計算しているようだ。
 近づいて、声をかける。
「結構な量ね。運べるの?」
「あ……えっと、今は無理です。皆さんと一緒にいる間に、バギーでも調達できればと思ってるんですが」
 自信なさげに頬を掻くトーマス。協力を申し出れば猟兵たちは引き受けるだろうが、彼はどうにも人を頼るのが下手らしい。
 さもありなん。つい先ほどまで、彼らは自分の仲間以外の存在を知らなかったのだ。信頼とか信用とか、そうした次元から切り離されてしまっていたのだから、仕方がない。
 今こうして物資を懸命に数えているのも、いつかエーカたちと離れることを前提にしているからだ。束の間の安全を手に入れたが、それに溺れることは、なさそうだ。
 それにしても、少々根を詰め過ぎている。このままでは、トーマスは遠くないうちに倒れるだろう。そうなれば、事実上の中枢を失った少年たちは、どうにもならなくなってしまう。
「……あなた、今日の晩はゆっくり休みなさい。熟睡できる日なんて、そんなにないでしょう」
「はい、どうも」
 笑顔で答えるトーマスだが、どこまで分かっているのやら。それ以上突っ込むのも野暮だと思ったので、エーカは来た道を戻ることにした。
 シルキーに任せっぱなしだった炊事場に戻ると、もうほとんど食事ができ上がってきた。女性陣は達成感に満ち溢れており、そこに入れないのはなんとなく寂しくもあった。
 だが、まぁ貢献はしているのだ。エーカは自分の代わりに見事に仕事をこなしてくれた悪魔を労いつつ、夕食時をのんびり待つことに決めた。


《Day1 20:07 【生き足掻く】》
 振る舞われたシチューを、子供たちは恐るべき勢いで食べた。
 腹が減っていたというよりは、味に飢えていたといったところか。あるいは、誰かと楽しく食事をすることが、彼らの食欲に火をつけたか。
 いずれにしてもいい食いっぷりだと、テイラーは一人満足げに頷いた。その手元にある彼の食事は、手がつけられていない。
 三杯目のおかわりをもらいに行こうとしたジニーが、それに気が付いた。足を止め、テイラーに振り返る。
「おっさん、食わないのか?」
「おっさ……私はテイラーという。貴殿はジニーといったか、足らぬのなら、我が取り分も食らうといい」
「でも、あんただって腹が減るだろ、テイラーさん」
 ダンピールの彼は、一度の吸血で数日飲まず食わずでいられる術を手にしている。先日血を飲んだばかりなので、食事はあまり欲さないのだ。
 無論、それを言うわけにもいかないので、ただ「大丈夫だ」とだけ告げた。
「遠慮なく食え。だが、気兼ねするというならば……退屈しのぎだ。貴殿らがいた拠点の話を聞かせてもらおうか」
 それは、思い出させるのは酷な話でもあった。テイラーも当然それを承知で聞いている。
 知りたいのではない。滅んだ拠点のことを知り得たとして、大して役にも立つまい。
 大切なのは、ジニーが自分の過去を受け入れられているかどうかだ。言葉にすることに躊躇しているようでは、いつまでも過去から目を逸らしてしまうことになる。
「どうする」
 真っすぐな目に見つめられ、ジニーは少し迷ってから、テイラーの正面に座った。まだ温かいシチュー皿を受け取りつつ、呟いた。
「……面白い話じゃ、ないからな」
「構わぬ。続けよ」
「……分かった」
 目を伏せながら、ジニーはぽつりぽつりと語り始めた。
 曰く、彼らがいた拠点は裕福ではないにしろ、土壌に恵まれ自給自足が成り立つくらいには生活が安定していたという。ここらの中では大きな一団で、近隣の拠点との交流も盛んだった。
 ジニーやトーマス、ハルカ、アンナは、同じ区域で生まれ育った。特にトーマスとは親友で、将来は奪還者になろうなどと話していたという。
 アンナは八人家族の長女、ハルカは農夫の一人娘。みんなそれぞれに、この世界で明るく暮らしていた。
 しかし、あの日。黒い嵐が襲った夜。拠点は無数の化け物どもに襲われた。
 ゾンビの大群だったらしい。必死に逃げ惑っていたせいで記憶は朧気だが、巨大な生物や機械はいなかったと、ジニーは語った。
 それでも、人々は次々に殺されていった。ジニーたち年長者四人は、それぞれが両親に手を引かれ、緊急用の地下道に連れ込まれた。
 そこにいたのは、十人近くの小さい子供たち。親は、もういなかった。
 ゾンビやモンスターに襲われながら、それを必死に食い止めて、彼らの親や大人たちは地下道の入り口を閉めた。銃声と悲鳴が止んだ頃、彼らは地下道の奥へと進み、二日後に地上へ這い出した。
 それから、長い旅路が始まって、今に至る。
「……」
 語り終えたジニーは、テイラーからもらったシチューが冷めてしまったことにも気づかず、俯いていた。当時のことが、フラッシュバックしているのだろう。
 だが、忘れてはならない記憶だ。その怒りや悲しみ、絶望が、いつか必要になる時がくる。
「なぁ、テイラーさん」
 力ない声で名を呼び、ジニーが顔を上げた。テイラーは変わらぬ真っすぐな目で、少年の視線を真っ向から受け止める。
 言葉をいくつか選ぼうとし、やがて諦めたようにため息をついて、背の高い少年は言った。
「俺たち……これから、どうしたらいいのかな」
「どうすれば、か」
 テイラーはしかし、鼻を鳴らした。あまりにも簡単な問いだとばかりに、くだらない疑問だとばかりに、堂々と、断ずる。
「生き足掻け」
「……え?」
「生きろ。それだけだ。そして、それこそが、生き延びし者にとっての宿命だ」
 命ある限り。
 あまりにも簡潔な答えだった。しかしそれに故に、少年の心には強く響いたようだった。
 生き足掻く。何度もそう呟いたジニーは、やがてスプーンをむんずと掴み、テイラーのシチューを掻き込んだ。
 作法もなっていない、美味そうですらない。しかし、生きようとする若い力が迸る、そんな食い方だった。
 テイラーは、真剣な面持ちで頷いた。
「そうだ、それでいい」
 己が野望、使命。それを見つけ、それを目指し、そこに到達する日まで、生きていなければならない。
 その信念の一端をジニーと共有できたテイラーは、最後の一滴まで食い尽くす少年の姿を、頼もしそうに見つめていた。

《Day1 21:13 【お伽噺の夢の中】》
 夕食を終えた子供たちは、久方ぶりの安心感により、まだ遊び回っていた。
 彼らを寝かすために、無人となった家屋のガレージを利用した寝床を作ってやった。寝袋が足りないので、タオルやらシーツやらも拝借する。
 アンナとハルカが、年少組を寝かしつけようとする。しかし、興奮冷めやらぬ子供たちは、柔らかな布の上をゴロゴロと転がり、大声で笑っていた。
「こら、もう寝なさいって! もー、チビたちってこんな元気だったの?」
 早速音を上げ始めるハルカ。アンナもこれまでにないはしゃぎように、戸惑っていた。
 そこへ、巨体が現れる。ガレージの天井に頭が届きそうなトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は、少しだけ膝を折りつつ中に入った。
「こんばんは。皆さん、もう休む時間ですよ」
「えー! もう少しー!」
「アンナ様とハルカ様もお困りではありませんか。さぁ、私が本を読んで聞かせて差し上げますから、寝床にお入りなさい」
 言いつつ、トリテレイアはガレージの照明を暗くした。お互いの顔がなんとか判別できる程度になると、途端に子供たちは大人しくなった。
 アンナとハルカも、寝転ぶ子らの間に座って静かにしている。その様子に頷きながら、トリテレイアもその場に腰を下ろして、腰部格納庫から電話帳めいた本を取り出した。
 暗視を用いて読まずとも、彼のブレインには全てのデータが記されている。それでも形を大切にしながら、朗々と歌い上げるようにして、物語を紡ぎ始めた。

 いつか、ある国、どこかの街で――。
 地中深くに続く大迷宮。その最奥に眠る宝を目指して、幾人もの戦士たちが集まりました。
 しかし、誰も迷宮を突破できませんでした。宝を持ち帰った者は、一人もいません。数多くの困難、強敵が、戦士たちの道を阻んだのです。
 そんなある日、一人の魔法騎士が、鳥と心を通わす高貴なる乙女に恋をしました。彼女に相応しい男となるために、騎士は迷宮に挑みます。
 友である知恵者の猫妖精と、槍に変ずる小竜を従えて、奥へ、奥へ。幾多の苦難を乗り越えて、騎士は勇ましく進みました。
 欲するものは、地位でも名誉でも、財宝による富でもありません。ただ一途な乙女への想いを、形にするためです。
 あぁ、騎士は見事宝を手に入れ、美しい少女に求婚することができるのでしょうか――?

 話は、まだ序章すら終えていない。だが、トリテレイアはそこで読むのを止めた。
 寝息が聞こえていた。誰も声を発さない中、アンナとハルカが子らの頭を撫でてやっている。
 本当ならば、この子たちに読み聞かせるのは、親の声が一番なのだろう。しかしそれは、もう叶わない。
 騎士として一時だけでも、亡き親たちの果たせぬ想いを継げただろうか。そんなことを考えながら、格納庫に本を収納し、ガレージを出る。
 猟兵たちが思い思いに夜を過ごすキャンプを眺めていると、背を叩かれた。ハルカだった。
「ありがと。チビたち、すやすやだったわ」
「読み聞かせなんて、してあげたこともなかったです。喜んでましたよ」
 そういうアンナもまた、嬉しそうだった。どうやら、彼女たちの役にも立てたらしい。安堵しつつ、トリテレイアは頭を下げる。
「それは何よりでした」
「ん。……ふぁ、ちょっと、ごめんね」
 一瞬ふらついたハルカが、疲れを滲ませた顔を見せ、「顔洗う水、もらってくる」と焚火の方に行ってしまった。
 残されたアンナと、目が合う。顔を見れば分かるほどに、彼女の疲労も相当溜まっているようだった。
 もう休んだ方がいいのではと思っていると、アンナが言った。
「あの、トリテレイアさん。皆さんも、どうしてこんなに、よくしてくれるんですか? 私たち、何もお返しできないのに」
「見返りなど求めてはいませんよ。子供を守るのは、騎――」
 言いかけて、頭を左右に振る。首を傾げるアンナへと、トリテレイアは言い直した。
「……大人の役目、ですから。アンナ様、よく頑張りましたね」
 見上げるアンナの頭を、痛くないようそっと、鋼鉄の手で撫でた。少女の目に見る間に涙が溜まっていく。
「もう、大丈夫です」
 大人びた雰囲気はあるが、アンナも、まだ子供だった。緩んでいた心がトリテレイアの言葉に安心しきったのか、嗚咽を上げて泣き出してしまう。
 親を目の前で亡くし、傷ついた心が癒えないまま、小さな子たちのためにというそれだけで繋がり、生き永らえてきた彼女たち。
 どれほど、辛かったことだろう。トリテレイアには想像できない。
 だから今だけは、大人でいなければならなかった心を置いて、泣いてほしい。子供として。
「大丈夫ですよ」
 空のどこかで見守っているだろうアンナの両親に思いを馳せて、トリテレイアはただ、少女の涙を受け止め続けた。

《Day1 21:51 【強さのかたち】》
 キャンプから少し離れた場所で座り込むハルカを見つけたとき、ルナは大いに慌てた。
 こんな暗がりにいては、突然オブリビオンに襲われたときに対処できないではないか。慌てて駆け付けて、声をかける。
「ハルカさん! そんなところにいたら、危ないですよ!」
「……アンタは、ルナ、だっけ」
「はい、ルナ・ステラです。どうしたんですか、こんな暗いところで」
「ほっといてよ」
 そう言われて、放っておけるはずがない。しかし無理に連れ戻すのも違うかなと思い、ルナはハルカの隣に腰かけた。
 何かを言いたげにこちらを見ていたハルカは、やがて諦めたように息を漏らした。
「別にほっといていいったら」
「ダメですよ。女の子が一人でいたんじゃ、危ないですから」
「アンタが増えたところで、女の子が二人じゃない」
「わたしは強いので!」
 にこりと言ってみせたが、鼻で笑われてしまった。なんだか悔しい気もするけれど、怒らなかっただけ良しとするべきか。
 しばしの沈黙の後、ハルカが小声で尋ねてきた。
「ねぇルナ。アンタはなんで、あの人たちと一緒にいるの?」
「ん、と。わたしは……猟兵なんです」
「猟兵? 奪還者のこと?」
「いえ。わたしたちは――」
 ルナは思い切って、本当のことを話した。様々な世界を渡り歩き、滅びから守るために戦っていると、正直に。
 唐無稽な話に聞こえたのだろう。ハルカは呆れたような乾いた笑いを浮かべた。
「世界を救う? なにそれ、アンタ、コミックの読みすぎじゃないの?」
「ほ、本当だもん! ……でも、信じなくてもいいかも。わたしや仲間の皆さんが、ハルカさんたちを助けにきたのだけは、本当ですから」
 抱えていた足を延ばして、ルナは空を見上げた。
「でも、驚いちゃいました。ハルカさんもアンナさんも、ジニーさんトーマスさん、みんな必死にがんばって生きている。昔のわたしよりも、ずっと強いなぁって」
「……そんなこと、ないわよ」
 ルナと対照的に、ハルカは足を抱える手に力を込めて、ぎゅっと縮こまる。何かを抑えつけているかのように、声もだんだんと小さくなっていった。
「すごいのは、ジニーたちだけ。私はジニーみたいに強くもないし、太っちょトーマスみたいに頭もよくない。一人っ子だったから、アンナのようなお姉さん役もできない」
「……」
「私だけ、なのよ。何もできないの。そのくせ文句ばっかり言って。迷惑かけて……。さっきだって、私だけチビたちに怒っちゃって」
 声が、涙に濡れていく。ルナはそれを、ただじっと聞いていた。
「もう、嫌よこんなの。どうして、私だけ何もできないの? ジニーの役に立ちたいのに。アンナに負けたくないのに! ……太っちょに、お返しもしたいのに」
「お返し?」
 首を傾げて尋ねると、ハルカは自嘲気味に笑った。
「黒い嵐の日にね、私、ゾンビに食べられそうになったの。もうダメだって思った時に助けてくれたのが、よりによってトーマスなのよ。初めて撃った銃に腰を抜かしたくせに、『もう大丈夫だ』なんて言って、フラフラになりながら、私の手を引っ張って」
「トーマスさん、かっこいいですね」
「どこがよ。……ううん、あの時だけは、かっこよかったかな。ふふ」
 命の恩人にすら何も返すことができない自分に、不甲斐なさを感じ続けてきたのだろう。なんの取り柄もなく、役に立てるでもなく。ハルカは、誰にも気づかれないよう自分を責め続けてきたのだ。
 こんな話をしてしまったことを恥ずかしく思ったのか、ハルカが膝に顔を埋めて、「ごめんね」と呟いた。ルナは首を振りつつ、答える。
「いいえ、辛いときにはお話しするのが一番ですから。それにわたし、ハルカさんのこと、何もできないだなんて思わないですよ」
「……」
「だって、みんなのいいところ、たくさん見てるじゃないですか。いつもみんなのこと考えて、とっても優しいなって思います。本当に……よくがんばってますね」
「年上みたいなことを言うのね」
「えへへ、同い年ですけど」
 照れるルナに、ハルカはようやく柔らかな表情を見せた。強く抱えていた膝を解き、足をゆっくりと伸ばす。
 今の自分のままでは、彼らの役に立てない。その自覚は、今もハルカの中にあった。しかし、ルナの言葉の一つ一つが優しく温かく、胸の内に染み込んでいく。
「ねぇ、ルナ。私もアンタたちみたいに、強くなれるのかな。そうしたら、ジニーたちの役に立てるのかしら」
「ん……わたしたちは、ちょっと、なんていうか特殊ですから。でも、ハルカさんにはハルカさんの、とっても素敵な強さがあると思います!」
 根拠があるわけではないが、ルナはそう確信していた。このボロボロな世界でも、ハルカの瞳はキラキラと、夜空の星や月のように輝いているから。
「……ありがと。見つけなきゃね、私の、強さ」
「わたしも手伝いますよ。友達ですからね」
 勇気を出して言ってみた。拒絶されたらどうしようと思ったが、ハルカは頷いて、「そうね」と笑ってくれた。
 それから二人は、ハルカが眠くなるまでの間、夜空を見ながらお互いのことを話し続けた。
 ルナとハルカの柔らかい笑顔が、心を月の光で照らされていた。

《Day1 23:16 【おやすみ】》
 夜も更け、猟兵たちは交代制で見張りに就いていた。今のところ、オブリビオンの気配はない。
 焚火の灯りから離れた瓦礫に腰かけ、ボアネルは暗い街道を見つめていた。廃墟ばかりが立ち並ぶこの場所に、人の住む明かりは一つもない。
 ふと、背後から足音が聞こえた。警戒せずに振り返ると、アサルトライフルを手にしたジニーが立っていた。
「俺も、見張りをしようと思って」
「ジニーか。君は休んだ方がいいと思うが」
「大丈夫」
 だいぶ緊張が解れてはいるが、まだ固い。少年たちを率いるリーダーとしての重責が、彼の心を硬化させてしまったか。
 眠れないのだろう。ボアネルは瓦礫の一つを指さして座るように指示し、暗闇から目を背けないよう伝えた。
「闇からの音には気を配るように。何か気配を感じたら、すぐに私に伝えてくれ」
「分かった」
 返事は、短い。ジニーはそれから何を言うでもなく、じっと闇に目を凝らしていた。
 会話がないのは、彼が不機嫌なわけでも、ボアネルら猟兵を疑っているのでもない。疲れ切っているのだろう。
 適当なところで寝かせようと思っていると、また背後から声がかかった。
「ボアネルさん、交代よ。まったく夜更かしは肌に悪いと言うのに」
 ため息交じりに現れたエーカは、座ったまま動かないジニーに気づき、首を傾げた。
「この子、まだ起きてたのね」
「つい今しがただ。見張りがしたいということでな」
 エーカを見ながら教えてくれたボアネルは、明らかに呆れたような顔をしていた。少年の意地に付き合っているというのが、よく分かる。
 しばし考え、エーカはジニーの肩に手を置いた。
「あなたは無理にでも寝なさい」
「まだ、大丈夫だから」
「大丈夫かどうかなんて聞いてないわ。今日のような夜が明日も来るとは限らないって言ってるのよ」
 彼女は厳しかった。しかし、ボアネルにはエーカの言うことが非常に理解できた。
 日常は、突然変化する。それも、よかろうが悪かろうが、多くの場合は選択の自由もない。ジニーたちの故郷がそうだったように。
 きつくエーカに言われても、じっと沈黙を保つジニー。何かをずっと考えているらしかった。
 やがて、彼は一言だけ呟いた。
「……だからこそ、こういう夜を守りたいんだ」
 ボアネルとエーカは互いの顔を見合わせて、苦笑交じりに肩を竦めた。なんとも、青い。
 確かに少年団の中では、まともにゾンビを撃てるのは彼くらいなものだろう。守るのだという使命が芽生えるのも、分からないではない。
 だが、闇雲が過ぎる。ここは大人として、しっかりと伝えてやらねばならないようだ。ボアネルは座ったまま、手持ちの香炉に火を灯した。
「それは、明日からの君の仕事だ。疲労が限界に達した状態で、仲間を守れるわけがないだろう」
「……でも……」
 香炉から漂う甘い花の香りに、ジニーの目がとろんと落ちてきた。眠りを誘う力を持つとはいえ、効き方が激しい。隠していたが、限界だったのだ。
 ふらついた少年の肩を支えて、エーカは諭すように言った。
「貴方達はもう、文明社会で保護された子供ではなく、この世界で生きていく、一人の住人なのよ。あなたにはまだ、その自覚が足りないわ。私たちがいるうちに、切り替えなさい」
「……じ……かく……? 俺は……生き、た……」
 ストンと落ちるように、ジニーはエーカに抱かれるようにして、深い眠りについた。
 ボアネルがエーカから少年を受け取り、立ち上がる。その背に、エーカが尋ねた。
「そのお香、ユーベルコードよね」
「あぁ。子供たちが熟睡できるようにと思ってな。明日になれば、彼らの体調はだいぶ良くなっていることだろう」
「助かったわ。ジニーが隣にいたんじゃ、説教が止まらないから」
「私だって同じさ」
 笑って、ボアネルはジニーを抱えて子供たちの寝床へと歩いていった。
 残されたエーカは、暗い街道を見つめながら、ふと考える。この惑星でサバイバルをしている彼らは、アポカリプスヘルにおいては、エーカよりもずっと生きるのが上手いのだ。
 そういう意味においては、尊敬もしている。だからこそ、伝えられることは全て伝えたいと思っていた。
「悪いことは、できれば教えたくないけれどね」
 この世界が、それを許してくれるだろうか。残酷な現実に直面しながらも、エーカはそれを鼻で笑い飛ばす。
 そして、夢の中を漂っているであろう子供たちの寝顔を思い浮かべ、誰にも聞かれないように、囁いた。
「……おやすみ」

《Day2 5:20 【新しい朝】》
 早朝に起床した猟兵たちは、手早く出発の準備を整えた。
 朝食は栄養ブロックと缶詰の野菜。眠たがる子供たちに、年長組の女の子と猟兵の女性陣が協力して食べさせていく。
 のんびりしているわけにはいかない。この辺りに見られる亡骸が新しいからだ。敵が潜んでいる可能性がある。
 急ぎ足の朝食を済ませ、一同は朝日の中を出発した。
 キリカの輸送防護車とサフィリアが召喚した番い竜、璃奈の家族である三匹の竜のうち二匹と、テイラーとトリテレイアの愛馬。数多くの乗り物があり、子供たちは分散してそれらに乗ることができた。
 防護車には、アンナとハルカが同乗している。キリカ曰く、女性同士でしか打ち明けられない悩みがあるので、男子禁制だとか。
 朝の街道を進みながら、影竜に一時的な成長をさせたミラとクリュウ、二匹の上ではしゃぐ子供を、璃奈は微笑まし気に見上げていた。
 子供の一団から保護者役としてついているトーマスも、年少組の元気な姿に安堵しているようだった。
 ふと、璃奈はポケットを漁った。
「そうだ……。これ、みんなで分けて……」
 トーマスに手渡したのは、いくつかの飴玉。二日続けてもらえたおやつに、子供たちがさらに明るく声を上げた。
 それを宥めながら、太っちょの少年が頭を下げる。
「すみません、ありがとうございます」
「うん……。でも、足りるかな……」
 子供の数と飴の数が合わない気がして、璃奈は少しだけ眉をハの字にした。慌ててトーマスが数えると、三つほど足りない。
 そこへ、璃奈の隣を歩いていた佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)が言った。
「あ、じゃあ僕のをあげるよ。残り物で悪いけど」
 二つほど減った飴の包みを手渡すと、トーマスは申し訳なさそうに何度も頭を下げた。
「本当にすみません、助かります」
「いいよ、小さな子が食べて喜んでくれたら、僕も嬉しいし」
「これで足りるね……。よかった……」
 璃奈もほっとした様子で、胸を撫でおろす。
 飴を配られた子供たちは、ご機嫌になりながらも、舐めている間は大人しいものだった。
 道すがら、晶はトーマスが背負う大きなリュックに興味を引かれた。
「トーマスくん、そのリュック、ずいぶん重そうだね」
「えぇ。昨日、皆さんに物資を分けてもらいましたから」
「持とうか……?」
 手を伸ばした璃奈に、トーマスは「大丈夫です」と首を横に振った。
「自分の荷物くらいは、自分で持たせてください」
「そっか……」
「男の子だもんねぇ。分かるよ」
 うんうんと頷く晶を、トーマスは訝し気に眉を寄せて見ていた。体は少女なのだから、それはそうだろうなと璃奈は思ったが、口には出さないでおくことにする。 
 聞けば、これまでは民家を失礼して食料を調達していたとのこと。子供とはいえ十五人の大所帯だ。物資を探すのは、さぞ大変だったことだろう
「大したサバイバル能力だね、君たち」
 感心したように晶が言うと、トーマスは照れたように頬を掻いた。
「そ、そうですかね……。ジニーがすごいだけですよ。アンナとハルカもチビたちをよくまとめてくれて、少ない食料で我慢してくれていますから」
「それをちゃんとまとめているのは、トーマスなんだよね……。役割分担が出来ていて、すごいと思うな……」
 女の子二人――うち一人の心は男だが――に褒めちぎられ、トーマスは真っ赤になってしまった。
 ふと、前を徐行する防護車の窓が開く。身を乗り出したハルカが、揺れるボブヘアーの髪を抑えながら、笑って叫んだ。
「太っちょ! 鼻の下が伸びてるわよ!」
「そ、そんなことないよ! なに言ってるんだよハルカ!」
 焦って言い返すトーマスに、ハルカはべぇと舌を出した。嫉妬かしらと晶が思っていると、彼と同じ顔が防護車の銃座からひょっこりと出てきた。見張りの猟兵を押しのけて、何やら悪戯っぽい顔をしている。
「トーマス様、その金髪にはお気をつけてくださいまし! 男をたぶらかす悪女ですわよ!」
「ちょ、んなわけないだろ!」
 慌てて否定するも、トーマスが不信な目をこちらに向けている。そんなつもりはないどころか、そもそもそっちの気は晶にはない。
 ともかく冷静さを取り繕って、晶は咳ばらいをした。
「そんな事実は、あり得ないからね。いいねトーマス」
「は、はぁ。さっきの人、晶さんに似てましたけど……姉妹ですか?」
「まぁね。二人で奪還者をやってるんだ」
 そういう筋書きにすることは、猟兵仲間にはもう話していた。なので、璃奈も合わせて頷いた。
「いたずらっ子だよね……晶の妹さん……」
「私がお姉さんですわよ! お姉さんの方のアキラと呼んでくださいまし!」
 なおも銃座から顔だけ出して叫ぶアキラ――その正体は邪神である――は、明らかに面白がっている様子だった。
 どうやら邪神のアキラは、男子(トーマスと晶である)をからかう遊びを始めたらしい。そちらはきっぱりと無視して、晶は言った。
「話を戻すけど、食料について。これからもうまくいくとは限らないってのは、トーマス君も分かるよね」
「……はい。今までは運がよかっただけですから」
「うん、僕もそう思う。そこで提案なんだけど、どこか新しい拠点を目指したらどうかな」
 晶の話に、少年は眉を寄せて黙り込んでしまった。考えていなかったわけではないらしいが、どうにも生きている拠点があるということを、信じ切れていないようだ。
 それならば、実際にその目で見た話をしてやればいい。璃奈は淡々とした調子で言った。
「わたしは奪還者なんだけど……いろんな場所で拠点を構えて生きている人を、たくさん見てきたよ……。実際にその人たちと話をしたり協力したり……。トーマスたちが思うより、世界はずっと……生きてるんだ……」
「世界が、生きてる――」
 言葉を反芻するトーマス。このどうしようもなく絶望的な世界に、わずかな希望を見出しているようだった。
 偵察に出しているもう一匹の竜、アイの報告を聞きながら、璃奈は頷いた。
「だからわたしも、晶の案に賛成するよ……。どこかの拠点を目指して……そこで定住するのが、いいんじゃないかな……」
「確かに、それができたら一番ですけど。僕たち、受け入れてもらえるでしょうか」
 不安げな目は、先頭を歩くジニーの背中を見ていた。決定権は彼にあるのだろうが、その後押しをするのは、いつもトーマスなのだ。
 定住するか、点々と移動するか。どちらにしても、まずは拠点に辿り着かなければならない。
「一緒に行ってみよう……。それから判断すればいいよ……」
「それがいいね。僕たちも、しばらくは放浪することになりそうだし」
 口々に言う璃奈と晶に、トーマスはまた、「ありがとうございます、すみません」と頭を下げた。
 実際、猟兵たちは、この先の食料品ストアまでの道しか知らない。そこから先は、手探りの行程となるのだ。
 長旅になるかどうかも、分からない。だが、少年少女の道筋がしっかりと見えるまでは付き合おうと、璃奈と晶は心に決めていた。

《Day2 6:25 【こんな時だから】》
 キリカが運転する防護車は、一団の先頭集団についていくように、ゆっくりと徐行を続けていた。
 輸送も兼ねた車内は広い。隔壁を開けた後部のトランクには、アンナとハルカ、四人の年少組の女の子、そして猟兵の少女二人がいた。
 一人は、銃座から狙撃用スコープで周囲を警戒しているセルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)。もともと口数少ない彼女は、狙撃体勢に入ってからというもの、一言も発していない。
 そしてもう一人。助手席に座っている、奪還者向けの古びた革製のジャケットを着た金髪碧眼の少女。晶の身に宿す邪神が顕現した姿――今日はアキラと名乗っている――だった。
 キリカとしては邪神が近くにいるのは具合が悪かったが、晶が「たぶん大丈夫」と言っていたので、それを信じるしかない。今のところ、口が悪い程度で害はない。
 アンナとキリカは、窓をカーテンで閉め切ってから服を脱ぎ、濡れたタオルで体を拭いていた。次いで年少組もゴシゴシと洗ってやっている。
「じっとして。綺麗になるからね」
「動くなってのよ! もう、アキラも手伝いなさいよ!」
「嫌ですわ。私、子供が苦手ですので」
「似たよなもんでしょチンチクリン!」
 ただの人間の少女にぐさりとくる一言を吐かれ、助手席の邪神が頬を膨らます様に、キリカは声を上げて笑った。
 アンナとハルカに「女同士でしか話せない悩みはないか」と尋ねた時、二人は真っ先に体を洗いたいということを話した。
 この三ヵ月、入浴はもちろん、汗を拭くことすらできなかったのだ。どこに化け物が潜んでいるかも分からない恐怖と、男子が近くにいるということもあり、年頃の少女二人は、今日までずっと我慢していたらしい。
 昨晩、髪は豊富な水で洗い流せた。それだけでも救われた思いだったが、防護車で体を拭けたことで、ハルカとアンナは見違えるように元気になった。よほどさっぱりしたのだろう。
 幼い子たちを拭き終えて、いそいそと服を着こんだアンナとハルカは、二人して運転席に身を乗り出してきた。
「キリカさん、ありがとうございました! すごく気持ちよかった!」
「生き返ったわ、本当に。ありがと、キリカ!」
「それはよかった。私も女だから、君たちの気持ちはよく分かるさ。こんな時だからこそ、しっかりと身だしなみは整えないとな」
「面倒な生き物ね、人間って」
 小ばかにしたようにアキラが呟き、そちらにきょとんと首を傾げるハルカ。当然ながら、意味は理解できないようだった。
 すっかりご機嫌になったアンナとハルカは、年相応の笑顔で雑談に花を咲かせた。特に、男子がいるととてもできない恋の話は、キリカとアキラが便乗したことで、大いに盛り上がる。
「アンナはさ……ジニーのこと、どう思うの?」
「どうって、頼りになるけど、ちょっと危なっかしいかな」
「そうじゃなくて! その、す、す……」
「恋愛的に好きかどうか、とうことを聞きたいようだぞ、ハルカは」
「んなっ!?」
「あら、違うのですか? 私もそうだと捉えたのですけれど。もっと言えば、ハルカ様は『私はジニーが好きだから手を出さないで』と、そう言いたいのかと思いましたけれど」
「アキラー! アンタなんてことを!」
「ハルカ、ジニーのこと好きだったの……!? 知らなかった、ごめんね」
「なんで謝るのよ!? まさかアンナ、アンタも……」
「そ、そういうんじゃないの。でもだって、トーマスがハルカのこと、いつも見てたから」
「えっ」
「ほう……」
「アンナ様、そのお話、もっと詳しく」
「くわしくー!」
「あぁもうチビは黙ってなさい!」
 誠に、賑やか。エンジン音が会話を消してくれるから、その話は誰にも聞こえることはなかった。
 ただ一人、銃座のセルマを除いて。
「……楽しそうですね」
 呟いた一言に、若干の羨みが混ざっていることを知る者は、いない。

《Day2 9:04 【見所】》
 一行は、街道の途中で休憩に入った。
 オブリビオン・ストームの爪痕がそこかしこに見られるが、誰かが掃除でもしたのか、死体は見えない。
 景色も少し田舎びてきた。子供たちは、わずかなのどかさを満喫しているようだった。
 そんな中、レッグ・ワート(脚・f02517)は年少組を集めて、子供たちの診察を行なっていた。
 昨晩のうちにボアネルが見てくれてはいたが、一晩で容態が変わることは十分にあり得る。まして栄養失調の中で歩いてきた彼らだ。油断はできない。日々の経過観察が必要だ。
「んー、お前はちょっとビタミン不足だな。これ食っとけ」
 男の子の口を開けさせ、レモン風味のビタミン剤を放り込む。酸っぱい味に顔を渋らせる子供をそっと退かして、次の子を呼んだ。
「はい口開けて。おっ、生え変わってる歯があるな。頑丈でいい具合だぞ。んで心音な、胸出して。恥ずかしがるなよ、俺は機械なんだから。……健康優良、問題なし。はい次」
 レッグの性格だが、彼は基本的に粗野ではないが雑に人を扱う。それは子供も同じことだが、決して大切に思っていないわけではない。
 支援機にとって、素早さは全てだ。治療も診察も的確に、迅速に。間違ったことをしているとは、まるで思わない。
「はいお前もOK。じゃあ次ってこら、背中に乗るんじゃない」
「ねーねーレグ、遊ぼうよー!」
「診察中だっての。見れば分かるだろ、後だ後」
「じゃ―早く終わらせてよー!」
「お前が遅くしてんだっつの」
 やれやれと子供を引きはがし、言われなくとも手際よく、十一人の年少組の診察を終えた。
 医療器具を救護パックに納めて、ようやく一息ついたと思った瞬間、レッグは子供たちに包囲された。
「終わった? あそぼー!」
「……ま、後って言ったのは俺だしなぁ」
 年長組がゆっくり休憩するためにも、ここは小さい子たちの面倒を見るべきだろう。これも支援機の役割だと自分に言い聞かせ、レッグは子供たちの相手をしてやった。
 ひたすら話しかけてくる子、機械の体を殴ってみては痛い思いをする子、様々だった。なんとも個性に溢れている。
 そして皆、明るかった。子供は本来こうあるべきだなと、レッグは声には出さず一人頷く。
 だが、時にはやんちゃが過ぎる子もいる。走り寄ってきた男の子が、レッグと話をしていた子を突き飛ばし、転ぶさまを見てケラケラと笑い出した。
 ふざけているつもりだろうが、やり過ぎだ。カーボン糸で男の子の足を掬い、怪我のないように転がす。突然ひっくり返って動転している子供に、レッグは声を厳しく言った。
「おい、誰かを怪我させるような真似はすんな。お前が楽しくても、突き飛ばされた方は笑ってないだろ」
「ご、ごめんなさい」
「俺に謝ってどうすんだ。違うだろ?」
「……」
 男の子は、突き飛ばしてしまった子に素直に頭を下げた。すぐに仲直りが成立するあたり、子供は大人より万倍賢いのではないかしらと、レッグは考えた。
 と、そこへ、ジニーが血相を変えて走ってきた。
「おいあんた! その子になにした!?」
「あん? なにって」
「今、転ばしただろ。手も使わないで。どうしてそんなことしたんだ、言え!」
「……」
 ジニーたちにとって、年少組は命を懸けて守る対象なのだろう。アサルトライフルの銃口は、はっきりとレッグの頭に突きつけられていた。
 なるほど、見所はある。素直にそう評価しつつも、ライフルの銃身を掴んで引き寄せ、ジニーを転ばせた。
「いッ――!?」
「様子を見にきたことは評価してやる。だけどな、踏ん張りが効いてなさすぎるぜ」
「なんだと!」
「違うんだよジニー! ぼくが悪いことしたから、レグが怒ったんだよ。ごめんなさいー!」
 先ほど突き飛ばした方の男の子が、レッグを庇うようにして泣き出した。呆気にとられたジニーは、子供とレッグを交互に見て、やがて事態を呑み込んだようだった。
「……ご、ごめん。俺、早とちりして」
「いいさ。そのくらい慎重な方が生き残れる。だけどまぁ、今のままじゃ戦闘が不安だわな」
 出発まで、もう少し時間がある。レッグは子供たちを適当に遊ばせながら、ジニーに銃の使い方を教示してやることにした。
 照準の定め方、姿勢、足の位置。そして、咄嗟の時に呼吸を落ち着かせる方法。時間の許す限り、伝えていく。
 ジニーは呑み込みが早かった。レッグが教えたことを次々と体で表現できている。
「大したもんだ。お前さん、センスがいいよ。まぁ後は、都度姿勢の確認をしていけば大丈夫だろ」
「あ、あぁ。その、疑ったのに、こんなによくしてくれて、……ありがとう」
「言えるじゃねぇか。兄貴分としても上出来だな」
 くつくつと笑いながら、レッグはジニーの背を軽く叩いた。
 本当ならば、彼らが戦わずに済むことが一番だろう。しかし、このアポカリプスヘルにおいて、それは到底不可能なことだ。
 ならばせめて、一秒でも長く生きてくれるように。それが、レッグ・ワートが支援型として彼らにしてやれる、全てだった。

《Day2 10:29 【ママ】》
 荒廃した街道の上を、白翼が行く。
 例のストアを上空から見下ろし、フランチェスカ・ヴァレンタイン(九天華めき舞い穿つもの・f04189)は周辺にゾンビやらの影がないことを確認した。
 それどころではない。戦いの形跡すらないのだ。ストアの近くに見える拠点は綺麗なまま残されており、つい最近まで人が住んでいたようだった。
 気味が悪い。嫌な予感がするが、一行が到着するまでもう間もない。
『フランチェスカさん、どうです?』
 ヘッドセットに入った通信は、鬼燈のものだった。彼は今、はとりと共に地上から偵察をしてくれている。
「こちらから敵影の確認はできませんわ。ゼロというのが、むしろ不安ですねー」
『やはりか。こちらも同じ状況だな。まるで人だけが消えたみたいで、綺麗なもんだ』
『もちろん、アポカリプスヘル基準の綺麗さだけどね。これはきな臭いっぽい』
 はとりと鬼燈の報告を受けて、フランチェスカは胸騒ぎを覚える。しかし、今はまだ口には出さない。
 通信機越しに、鬼燈が言った。
『僕らはもうちょっと調査してから、先にストアに行ってるっぽい』
「了解。では、わたしは一度戻って報告をしましょうか」
『頼むです』
 通信が切れ、フランチェスカは猟兵と少年少女の一団がいる方向へと飛翔した。
 道中にも、オブリビオンはいない。辿ってきた道に目を凝らすと、漆黒の嵐によって崩壊した地域との差が顕著だった。
 疑問と不安が引っ掛かったまま、一行と合流する。
 空から舞い降りた彼女の姿に、幼い子供たちが歓声を上げる。ともすれば天使、或いは異形の存在に見えるのだろう。
 しかし、猟兵はその容姿で異常と受け止められることはない。フランチェスカの印象は、瞬時に「空飛ぶお姉さん」に変化した。
 駆け寄ってくる小さい子たちをやんわり押しのけつつ、猟兵に偵察結果を報告する。進路上に異常なしとみるや、一行は目的のストアまで一気に進むことを決めた。
 もう一度空へと舞い上がろうとした時、ジニーがその背に声をかけた。
「なぁ、あんた」
「あら。なんでしょう?」
「……本当に、ゾンビとか、いなかったんだよな」
 張り詰めたような緊張が伝わる声音だった。他の三人に比べ、彼だけは今も強張っているように見える。
 戦闘が近づいていることを、肌で感じているのだろうか。安心させるために、フランチェスカは少年の肩にそっと手を置いた。
「悪いものは何もいませんでした。少なくとも空からは、ですけれど」
「……そっか」
「大丈夫。あなたが怖いのならば、今だけは、わたしたちが守ってあげますわ」
 微笑んでやると、大人の色気が漂うその空気に、ジニーは耳まで真っ赤になって「どうも」と呟き、俯いてしまった。
 ふと、防護車の窓を見る。鬼のような形相でこちらを睨みつけるボブヘアーの少女と目が合い、苦笑した。
 いらぬ嫉妬を招いてしまったか。とはいえ、気にするようなフランチェスカではない。涼しげにその視線を受け流す。
 時間にしてわずかな間だったが、気づけばまた年少組に囲まれていた。乗り物に飽きたところに現れた白翼の女は、好奇心の的となる。
「その羽、本物!?」
「いいなー、お空飛びたいな!」
「お姉さんも奪還者なの?」
「ねーねー羽触っていーい?」
「あらあら。ゆっくり、落ち着いて。お一人ずつ答えていきますわ」
 凄まじい質問攻めにも、フランチェスカは悪い気がしなかった。彼女は、生粋の世話焼きなのである。
 最初こそフランチェスカを新しい遊び相手と認識していた子供たちは、徐々に甘えるようになっていった。彼女の面倒見の良さと、母性を感じさせる豊かな体が相まっての効果だろう。
 子供に懐かれるのは、決して嫌いではない。むしろ楽しさすら感じる。だが、しかし。
「ねぇねぇ、ママぁ!」
 ある女の子だった。胸に抱いてやっているときに、ふと出てきた言葉。
 まだ母になるつもりはないフランチェスカは、なんとも複雑な顔をした。女の子も間違いに気づいて、顔を真っ赤にして恥ずかしそうに謝ってきた。
 頭を撫でてやりつつ、「いいんですよ」と答えたが、胸中は複雑だった。母と呼ばれたことよりも、子らが母を欲しているということと、その欲がアンナとハルカでは満たされないことを、身を以て知ってしまったからだ。
 母親役となって、甘やかしてやることはできる。だが、近く彼らと離れることになった時、子供たちはまた、母を失う寂しさに襲われるのではないか――。
 数秒考え、フランチェスカは決断した。
「……わたしは、皆さんのお母様ではありませんからね。間違えないでくださいね」
 せめてにこやかに、真実はしっかりと伝えて。
 そのうえで、彼らの子供としての欲求を、できる限り受け止めてあげよう。そう、決めた。
 頬ずりをして甘えてくる女の子を、しっかりと抱きしめてやりながら。

《Day2 11:47 【大きな背中】》
 一行は、あまりにも何事もないまま、ストアに到着した。
 外装はさすがに朽ちているが、先行した猟兵の報告通り、弾痕や死体はどこにもない。むしろ、つい最近まで人がいたような、拠点の形跡がそのまま残されている。
 あまりにも異常な静けさのストアの駐車場で、猟兵たちは一様に、より油断なく探索の準備を進める。
 その中に、ジニーの姿があった。緊張したようすで、武器の安全装置や構え方などを確認している。
 そこへ、トーマスとアンナ、ハルカが駆けてきた。
「ジニー! 本当に、行くのかい?」
「危ないよ。……ゾンビが、いるかもしれないよ」
 不安そうなトーマスとアンナに、ジニーは言った。
「行くさ。あの人たちの話じゃ、ここは手つかずの状態らしい。食料が山のようにあるかもしれないんだ。うまくいけば、バギーとかもあるかも」
「そ、それなら、私たちはここで待っていればいいじゃない」
 何とか引き留めたいらしいハルカが、ジニーの腕を掴む。しかし、彼は頷かない。
「それじゃだめだ。俺たちは俺たちの力で生きられるようにならないと」
「そんな……」
「アンナ、ハルカ、トーマス。皆はここで待っていてくれ。俺が必ず――」
「僕も行く」
 遮るように、トーマスがショットガンを担いだ。その顔には恐怖からくる汗が滲んでいたが、ジニーを見据えるその瞳を見れば、譲るつもりがないことが分かる。
 数秒見合った少年たちは、やがて互いに頷き合った。トーマスが、女子二人に振り返る。
「ハルカとアンナは、チビたちの面倒を頼むよ。あの人たちの中にも、残る人がいるみたいだから、大丈夫」
「トーマス、アンタ、死ぬかもしれないのよ? 分かってる?」
 ハルカのきつい言い方は、きっと心配しての言葉なのだろう。トーマスは、あえて笑った。
「大丈夫。あの人たちとジニーがいるから」
「……」
 アンナの三つ編みと、ハルカのボブヘアーが風に揺れる。それが収まった頃、ジニーは二人に背を向けた。
「行くぞ、トーマス」
「うん」
 戦闘準備を終えた猟兵たちに混ざっていく、ジニーとトーマス。ハルカはその背を見ながら、ふと呟いた。
「……あんなに、大きな背中だったっけ」
 答えなかったアンナも、しかし心には、同じ想いを抱いていた。

《Day2 12:29 【撃つべき時に】》
 ストアの中に入ると、死臭がした。
 死体、と思いたかったが、猟兵たちはその可能性を即座に捨てる。死してなお動く屍――ゾンビがいると見て、間違いなかった。
 迷い込んだか、ここで湧いたか。いずれにしても、倒さなければならない。
 探索班は、分散して探索することにした。流れのままにジニーと分かれたトーマスは、セルマと行動を共にしている。
 静かだが、凛とした少女だ。その横顔に目を奪われていると、セルマが言った。
「トーマスさん」
「あ、ははい!」
「……声が大きいです。静かに」
 氷のように青い瞳で見据えられ、慌てて声を殺す。セルマは怒るでもなく、マスケット銃【フィンブルヴェト】を手に警戒しながら、続けた。
「私の顔ではなく、常に周囲を見渡して。銃は構えたまま、動いてください」
「す、すみません」
 言われるままに、周囲を見渡す。そこかしこに物が散乱しているが、その多くが手つかずだった。
 セルマもまた、ストア内の異常に眉を寄せていた。形跡から見て、ここが数日前まで拠点の一部だったことは間違いない。
 別の場所に移ったか。ではなぜ、ここにいた人たちは、何も持たずに出ていったのだろうか。これほどの物資に恵まれることなど、アポカリプスヘルではほとんどないはずだ。
「なにか変ですよ、セルマさん。この残り方は……」
 同じ考えらしいトーマスが言った。頷いて、ちらりと背後の彼を振り返る。
「えぇ、そうで――!」
 瞬間、セルマは銃を構え、叫んだ。
「トーマスさん、後ろです!」
「え……うわあぁぁぁッ!!」
 悲鳴を上げるトーマスの背後に、腐った死体が立っていた。口を大きく開いて、太っちょの体に手を伸ばす。
 ショットガンを構えるも、少年は撃てなかった。肩を掴まれ、ゾンビが首に向かってかぶりつかんとする。
 セルマはトリガーを引いた。放たれた弾丸がゾンビの眉間を撃ち抜く。氷を撒き散らして、腐敗の進んだゾンビが倒れた。
 腰を抜かしたトーマスを無理矢理立ち上がらせ、周囲を警戒。ストアのあちこちから小規模な戦闘音がするが、近くに異常な音はない。
 トーマスが落としたショットガンを拾って、返す。押し付けるように渡された銃を受け取った少年は、今も理解が追い付いていないようだった。
「……撃つべき時に撃つべき相手を撃てなければ、自分どころか、仲間の命も危険に晒しますよ」
 淡々と、しかし厳しい口調だった。そうしなければ、伝わらないと思ったからだ。
 己の不甲斐なさに落ち込むトーマスを引き連れて、先を急ぐ。安全を確保し、日没までには物資を回収したい考えだった。
 店内のゾンビは多くなく、次第に戦闘音は聞こえなくなった。静かな足音だけが聞こえる中、セルマは慎重にクリアリングを進める。
 その最中で、彼女は言った。
「敵は人型でしたから、初めは撃てなくとも仕方ありません」
「……」
 実は、彼が以前ハルカを助けるために引き金を引いたということは、聞いていた。しかしそれは、想い人を助けるために無我夢中で行なったことで、いわば火事場の馬鹿力だ。
 どのようなときであっても、引き金を引ける強さは欲しい。だからセルマは、視線は前を向いたまま、トーマスに言い聞かせるように続けた。
「しかし、戦えなければ、戦うという選択肢を選ぶことすらできません。覚えておくに越したことはない……と、私は思います」
「そう、ですね。僕も……そう思います」
 落ち込むトーマスには、申し訳ないと思う。セルマは本当は、彼らを尊敬してもいるのだ。
 最年長のジニーはセルマより年下でトーマスに至ってはさらに下だが、彼らはしっかりと集団を率いているのだから。
 本当なら、戦いのない人生を歩んでほしい。あるいは他の拠点に行けば、彼らが戦う必要はなくなるかもしれない。
 だがそれでも、この世界において、力を持つことの意味はあまりにも大きい。彼らが生き残れる可能性をわずかでも上げるためには、戦う力が必要不可欠なのだ。
 弱さは、罪ではない。だが、弱者は常に、搾取される側にある。それもまた、真理だった。
「着きましたね」
 大きなストアの一角を抜けて、セルマとトーマスは資材置き場のバックヤード付近まで辿り着いた。敵の気配は、もうない。
 今も悔しさに唇を噛むトーマスを横目に、セルマは通信機のマイクボタンを押し、手短に告げた。
「セルマ班、クリア。物資の搬出に移ります」
 返ってきた返事も、やはり短かった。

《Day2 12:32 【予感】》
 結局、ジニーは一発も弾を撃つことなく、探索を終えた。
 共に行動した朱鞠が、遭遇した二体のゾンビを一瞬で片付けてくれたのだ。理屈は分からないが、彼女は敵が来る前に、その存在を察知しているようだった。
 なんだか男としては不甲斐ない。だがその悔しさは、バックヤードに入った瞬間に、吹き飛んでしまった。
 山積みにされた段ボール箱、その中に敷き詰められている、クッキーやシリアル、缶詰。思わず、目を輝かせる。
「すごい……!」
 彼は、ボアネルにもらったという食料の調理方法や保存方法が書かれたメモと、積み上げられた物資を見比べている。安定した生活が来ると考えているのか、その横顔は、嬉々としていた。
「……」
 朱鞠はしかし、妙な物を見ているような気持ちになった。このストアは、あまりにも手つかず過ぎる。
 いくつか抜けている棚や在庫の配置を見れば、どこかの一団が占拠していたのだろうことが分かる。倉庫のようなものだったのかもしれない。
 だが、彼らが余所に移動したとして、なぜこれだけの物資を運ばなかったのだろうか。
 運搬の手段がなかったのか。それならば納得がいくが、果たして。
「……考えても、仕方ないわね」
 過ぎる不快な予感を振り切って、朱鞠はジニーを促し、食料品の運搬を始めた。
 今は、少しでも早く物資を運び出したい。何かが起きてしまう前に、ストアを離れたい。
 謎の焦燥感は、ストアにいる間中、彼女の背中を追い立て続けていた。

《Day2 12:54 【推理、そして確信】》
 はとりは、ストアの事務所に入った。こんなところでは物資など期待できないが、情報が得られないだろうかと思ったのだ。
 そして、すぐに身構えた。事務所の奥に無造作に置かれた質の低いベッドの上に、人が寝ている。
 最近までここにいた住人だろうか。遠目から見た感じでは、外傷はなさそうだ。どころか、しっかりとシーツをかけられている。血糊もない。
 食われたわけではないのか。ストアにはいくらかのゾンビがいたし、隠れていても見つかりそうなものだが。
「……見てみるか」
 眼鏡をかけなおし、ベッドへ。死んでいたのは、老いた男だった。
 死体に触れようとして、はとりは目を見開いた。
 添えつけられた机に、小瓶が置かれている。ラベルを見れば、劇薬であることがすぐに分かった。
 死体は、泡を吹いた形跡がある。服毒自殺か。
 シーツをめくる。足を触るまでもなく、骨が弱り切っていることが分かった。何らかの病気だろう。彼は、ベッドから動けなかったのだ。
「……まさか」
 記憶が過ぎる。ここまでの道中、見つけた犠牲者の亡骸は、進むにつれて新しくなっていた。死体の新鮮さは、オブリビオン・ストームの発生時期が近い証拠と見てもいい。
「まさか……」
 はとりの推理は加速する。
 一点で発生したストームが、その発生位置を徐々にずらして移動していたのだとすると、亡骸が新しくなっていったことにも説明がつく。
 ジニーたちが故郷を追われて三ヵ月。子供の足では、進みの遅い旅だったに違いない。彼らは、追い付かなかったのだ。黒い竜巻が巻き起こり、全てを破壊し尽す時に。彼らが通る頃には、もう全てが終わっていた。
 そうだとすれば、街道沿いの拠点は奥地の壊滅を知り、逃走を図るだろう。思い出すのは、側溝に嵌った死体。助けられる余裕もないほどに、混乱していたのかもしれない。
「まさか……!」
 考えてみれば、道中の死体はやけに少なかった。これだけの大通りに、どうして転々としか犠牲者がいなかったのか。
 もしも、いなかったのではなくて、移動していたのだとしたら。オブリビオン・ストームに呑まれて、また嵐と共に出現するのだとしたら。
 ジニーたちの拠点を襲った無数のゾンビが、漆黒の嵐がどこからか連れてきたものだとしたら。
「だと、したら……」
 ベッドに眠る老人から離れ、はとりは膝をついて頭を抱え、髪の毛を描き毟った。
 オブリビオン・ストームには、謎が多い。それについては全て仮説だ。だが、間違いないと思うこともある。
 店内のゾンビは、どこからか流れ込んだものに違いない。腐敗の進行が激しいのが、時間が経過している証拠だった。
 だが、足が動かず、死を選んだ老人。あまりにも、あまりにも、死亡推定時刻が近すぎる。
 あれではまるで――昨日、死んだようではないか。
「そうか――!」
 自分の推理が確信に変わるのを、はとりは確かに感じていた。
 ストアの近くに拠点を築いていた者たちは、【知って】いたのだ。
 少年少女の故郷が崩壊し、その嵐が徐々に近づいて、街道沿いの拠点を片っ端から食い荒らしていることを、知ったのだ。
 だから彼らは、逃げた。命だけを手に、他のものは一切を捨てて。車で、バギーで、バイクで、行けるところまで。
 動けなくなった者には、終わりの選択肢だけを残して。
 あの老人は、店内に入りこんだゾンビに絶望したのだろうか。考えるほどに、はとりは違うと確信していく。
 もっと、大きな絶望が、すぐそこにあるのだ。
「……まずい!」
 そこから先は、直感だった。しかし、外れている気がしてくれない。
 事務所を駆け出し、店を走り抜ける。駐車場ではもう、物資を積み終えた猟兵たちが、出発の準備をしているはずだ。
 食料品売り場で、ジニーとアンナが立っていた。まだ何かを物色しているらしい。すれ違いざまに二人の腕を掴んで、強引に走る。
「いたっ! はとりさん、痛いですっ!」
「お、おい、はとり! なにすんだよ!」
「いいから来い! このままここにいたら――!」
 揃って飛び出した、駐車場。刹那、三人の頬を、悍ましいほどに冷たい風が撫でていく。
 猟兵たちが、空を見上げていた。腰を抜かしたハルカと、彼女を支えるトーマスもまた、絶望に満ちた顔で、上を見ている。
 振り返る。アンナが悲鳴を上げた。ジニーの歯が、がちがちと鳴る。はとりは、歯噛みして呟いた。
「遅かったか――!」

《Day2 13:00 【渦巻く絶望】》
 黒く渦巻く暴風は、今この瞬間に巻き起こったものだった。
 オブリビオン・ストーム――死を呼ぶ風、終焉の嵐。
 漆黒の竜巻の向こうから、死してなお蠢く屍たちの声が、近づいてくる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『ゾンビの群れ』

POW   :    ゾンビの行進
【掴みかかる無数の手】が命中した対象に対し、高威力高命中の【噛みつき】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    突然のゾンビ襲来
【敵の背後から新たなゾンビ】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ   :    這い寄るゾンビ
【小柄な地を這うゾンビ】を召喚する。それは極めて発見され難く、自身と五感を共有し、指定した対象を追跡する。

イラスト:カス

👑11
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※マスターページにお知らせがあります。ご確認ください。
追記 ※マスターページにルールについてのお知らせがあります。

《Day2 13:01 【奴ら】》
 暗黒の竜巻が、何もかも破壊していく。
 粉微塵に粉砕されて闇に巻き上げられる、ストアや周辺の家屋。
 崩壊の嵐が吹き荒ぶ中、猟兵は少年たちを守りながら退避した。整備された街道に出て、少しでも遠くへ。
 しかし、行けなかった。
 気づけば、辺りは苦しげな呻き声に満ちていた。ひたひたと、不自然な二足歩行の足音が、無限と思えるほどに重なり聞こえる。
 道の向こうに、また背後から、いや左右からも。
 建物の影に、あるいは中から、そして屋上から。
 どこを見ても、いかに目をそらしても。
 黒い死の風に導かれ、全方位から、津波のように押し寄せる。

 ――ゾンビ。
 かつて、人だった者たち。

「いっ――いやァァァァァァッ!!」
 アンナが悲鳴を上げた。ハルカが彼女を抱きしめ、ジニーとトーマスが果敢に銃を構える。皆、足が、震えていた。
「くそ……くそ! 死んでたまるかッ!」
 ジニーが叫ぶ。絶望的な状況を前に、猟兵たちもまた、同じ思いでいた。

 地には数多の蠢く亡者。
 空には死を呼ぶ漆黒の竜巻。
 逃げ道など、ない。

 だが、諦めるな。武器を取れ。
 この地獄から、生き伸びろ。
露木・鬼燈
猟兵だけなら問題ではないんだけどね。
子供たちを守りながらとなると…きびしいね。
敵集団に突っ込み無双アクション!
みたいな感じで暴れる方が好みなんだけど。
まぁ、この状況ではね。
戦えない者たちの側に素早く移動。
纏まっていてくれたら楽なんだけどね。
そうでなかったら運ぶなりなんなりして一纏めに。
近づかれる前に<天戸>を展開。
護るべきものをトーチカの中へ。
ゾンビ程度になら簡単には破壊されないはず。
主砲の分を重火器とビーム兵器に回すですよ。
今回は威力より手数が多い方が役立つはず。
迫りくるゾンビを薙ぎ払うですよ。
とゆーことで、トーチカの上から重火器で掃射。
トーチカの自動防衛機構もあるから必ず守り切れるっぽい!



《Day2 13:01-1 【序曲】》
 戦う体制が整っていない。露木・鬼燈(竜喰・f01316)はそのことに舌打ちした。
「猟兵だけなら、問題ではないんだけどね」
 武器を用意し、敵の動きを見極め、戦う。それだけならば、どれほど楽だったことか。
 だが、鬼燈たちの背後には彼らがいた。肉親や親しい人々を喰われたトラウマが甦り、散り散りに逃げ出そうとする子供たち。
 ゾンビの呻きが近づく。猟兵たちは彼らを落ち着かせようと奮闘するが、敵は待ってくれない。
 このままでは、やられる。鬼燈は恐怖に錯乱する年少組を強引に引っ張った。痛がり泣く子に、ハルカが錯乱するアンナを抱きしめたまま叫ぶ。
「なにする気よ!」
「いいからこっちへ!」
 半ば強制的に少女二人も引き込んで、魔剣を地面に突き立てる。瞬間、魔力が上空へ向かって迸り、周囲の無機物が結集し始めた。
 瓦礫やら廃車やら、ゾンビを撥ね飛ばして飛来したそれらが合体凝縮し、瞬時にトーチカを作り上げる。子供たちは、突如現れた超重装甲に囲まれた。
 鬼燈はすぐさまトーチカの上にある重火器の砲台へと移動した。下からハルカが何かを言っているが、無視する。内部は扉もなく、ゾンビでは壁を破壊できるとも思わないので、とりあえずは安全だ。
 しかし。鬼燈の頬に、汗が伝う。
「これは……ヤバいっぽい」
 見渡す限り、死人しかいない。どこまでも果てしなく、まるで世界が埋め尽くされたかのようだ。
 歯噛みして、連装レーザーガンのトリガーに手をかける。今は、火力よりも手数だ。
「こういうのは、好みじゃないけど!」
 言ってもいられない。仲間の戦闘準備が整うまでの数分間、防衛戦を展開する。
 空を走る光竜の如きレーザーの連射が、ゾンビどもを見える端から撃ち貫き、血肉へと変えていく。噴き上がった血煙の中を、後続の屍がぬらりと歩み寄ってきた。
 このまま全ての敵を倒せるなどという、楽観的な考えは到底できそうもなかった。
「耐えるだけならできるだろうけど」
 永遠ではない。それでは、子供が持たない。
 仲間の猟兵が戦いを始める。だが、まだ全ての戦士が準備を終えたわけではない。
 なにより、ジニーとトーマスがトーチカの外にいた。彼らは銃を構えたまま、しかし震えて撃てずにいる。無理もないとは思うが、鬼燈は思わず眉を寄せた。
「この状況下で、よくも迷えるですね」
 隙間なく接近するゾンビの群に、トーチカの自動防衛機構を作動させる。小銃が展開、連装レーザーガンの死角を狙う敵を、撃ち倒していく。
 蠢く死体の波を骸の海に叩き返すことに集中していると、突然背後で悲鳴が上がった。心配して登ってきた、ハルカだった。
「なに、これ。なんでこんなにこいつらが――!」
「出てきちゃだめです、中へ!」
「違うの! ……一人、足りないの!」
 重火器を撃ちまくる手が、止まる。自動防衛機構の銃声とゾンビの呻き声が響く中、鬼燈は振り返った。
「……なんだって?」
「足りないのよ……何度数えても! 壁の中に、チビが十人しかいないの!」
 年少組は、全部で十一人いたはずだ。その全てをトーチカで囲んだはずだった。
 しかし、いない。鬼燈がユーベルコードを発動する瞬間、ハルカとアンナの死角で、どこかへと走り出してしまったのだろう。
 探すか。一瞬考え、鬼燈はすぐに銃座に戻った。ハルカが抗議の声を上げる。
「ちょっと! チビはどうでもいいの!?」
「ここを手放せば君らが死ぬかもしれないです。それに、『僕たち』なら……きっとうまくやるっぽい」
 レーザーを撃つ。ゾンビが血肉に弾けていく光景をもろに目にして、ボブヘアーの少女は具合が悪そうに俯きながら、目を潤ませた。
「私たち……助かる?」
「助けるよ」
「いなくなった、チビは?」
「大丈夫。彼らなら、きっとやってくれるです」
 これまで幾度となく視線を掻い潜ってきた、戦友たちを想う。この程度の苦難を乗り越えられないような、軟な連中ではない。
 だから、鬼燈は前だけを見ていられるのだ。ハルカは彼の横顔から何かを感じたのか、一筋の涙を流して頷いた。
「信じて、いいの?」
「信じられるなら、そうして」
「……」
 それ以上何も言わず、ハルカはトーチカの中に潜っていった。十分な答えだと思った。
 猟兵たちが全力を出せる環境になったら、トーチカを解除。然るべき手段を以てゾンビを退け、この場から突破生存する。
 楽な任務ではない。だが、不可能とも思わない。
「必ず、守り切るっぽい」
 トリガーを握る手に、汗が滲む。

成功 🔵​🔵​🔴​

臥待・夏報
よりによって物資調達の最中に……
あはは、こっそりお酒探してる場合じゃないなこれ、
――笑い事じゃないって。
放課後から逢魔まで、飛ぶしかない!

女子でもチビでも、孤立しそうな誰かの元へ間髪入れず出現次第
背後のゾンビを呪詛の炎、範囲攻撃で焼き払う!
死体は多いが血を確保する余裕がないし、描けるミステリーサークルは僕一人分。
だからその分、何度でも。

音には怯えられるだろうし、僕が何の姿に見えるかわからない。
嫌な記憶を思い出す子もいるだろう。
それでも手を取って、引き摺ってでも逃げなくちゃ。
この位でへこたれているようじゃ、この先――

ごめんね、詭弁だ。
わかってる。
僕以外なら同じこと、もっと上手に優しくやれるんだ。



《Day2 13:01-2 【君らのようにはいかないけれど】》
 その男児は、背後に出現した巨大な壁に戸惑った。姉と慕う二人の少女と、兄妹のような関係になった同じ年代の子供たちが、壁の向こうに消えた。
 取り残されてしまった。見れば、回りには怖いゾンビがたくさんと、奪還者の大人たちがいる。そして、空には黒い竜巻が暴れていた。
 男児は思い出す。あの日のことを。父が喰われ、母も噛み千切られ、祖父が腕をもがれながらも、トーマスに自分を託した日を。
「ぁっ――」
 そうか。また、あの日が来たのか。子供ながらに理解して、ここから逃げなければと考えて、駆け出す。
 だが、周りにはゾンビしかいない。一体どこへ逃げればいい? 
 大人たちが戦う。すごい力だ。でも奴らは止まらない。あっちへ走り、こっちへ引き返し、そして、目が合う。死んだ瞳が、こちらを見ている。

 あぁ、見つかった。

 男児は泣き出した。猟兵が彼に気づくより早く、ゾンビがその背後に歩み寄り、幼い肩に手を伸ばす。
 その時、チャイムが鳴った。
 学生に時を告げるべき音色は歪にねじ曲がり、猟兵も子供も構わず精神を侵し、死人の足までもを止めた。
 かき乱される心に、男の子が吐き気を覚え、うずくまる。瞬間、彼は炎に包まれた。
「ぅあっ!?」
 悲鳴を上げて転がった男児は、その目に新たな化け物を見た。それがどのような化け物なのか、彼の語彙では説明できなかった。
 ただ恐ろしいとしか言えないそれは、手に持っていた酒瓶を、燃えて倒れたゾンビに投げつけた。
「よりによって物資調達の最中に……。あはは、こっそりお酒探してる場合じゃないなこれ」
 チャイムの音色に似た歪んだ声では、自嘲気味な笑い声も歪んで聞こえているのだろう。【彼女】は、そんなことを考えた。
 足元に描かれた血のミステリーサークルに立って、臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)は仲間の猟兵が作ったトーチカを見た。
 自陣の戦闘準備が整うまでの数分を、見事に稼いでいる。本当に、見事だと思った。
「……あぁ、くそ。本当に、もう」
 苛立たし気に吐き出す言葉は、呪詛となって燃え盛る。飛び散るゾンビの血を使えば、より巨大なミステリーサークルが書けるだろうか。
 そうすれば、もう少し自分も。そう考えて、「いや」と呟く。
 足元の子供を見れば、男の子は怯え切った瞳で腰を抜かし、失禁してしまっている。ゾンビも恐ろしいが、夏報にも恐怖していた。
「……いろいろ、思い出すだろうね。僕を見てもさ」
 仲間たちが戦闘を開始する。防護車のエンジンが入り、その道を切り開かんと戦士たちが得物を振るう。
 防護車に、子供を送り届けねばならない。足元の消えかけたサークルにゾンビから流れ出る血がミミズのように這ってきて、赤い絵の具を注ぎ足していく。
 再び色濃く輝く血のミステリーサークルの上で、呪詛の炎を撒き散らして敵を退け、少年に手を伸ばす。
「掴まれ! 君だって生きたいって意志くらいあるだろ!?」
「ひぃぁぁぁ! アンナお姉ちゃぁぁぁ!」
 恐怖に絶叫する少年。構わず、その細く小さな腕を掴んだ。
「悪いけど無理矢理でも行くよ。この位でへこたれているようじゃ、この先――」
 言いかけて、唇を噛む。
 男児を助けるためとはいえ、心を蝕むチャイムを使ってしまった。愚策だっただろうか。
 悔いても意味はない。理解している。大切なのは、生き残るための、今だ。
 だが、夏報は男の子の手を握る力を、わずかに弱めた。
「……ごめんね。詭弁だ。分かってる」
 ゾンビが近づく。夏報は化け物に見られているだろうことも構わず、男児を引き寄せた。
 恐怖の絶頂を迎えて、男の子が気を失う。力の抜けた体を抱き上げ、天に渦巻く黒い竜巻を見上げた。
 跳躍。再び鳴り響くチャイムと共に空間を跳び、夏報は少年と共に防護車付近の仲間のそばに出現した。
 言葉も交わさず防護車のトランクを開け放ち、男児を放り込む。自身も飛び乗り、運転席へ。
 誰もいなかった。否、仲間たちは夏報の動きを察知して、彼女にここを任せるべく開けているのだ。
 猟兵たちから寄せられる信頼に、彼女は一人、目を細める。
「……そう。僕以外なら同じこと、もっと上手に、優しくやれるんだ」
 まったく、たまらない。吐き出しかけた想いを胸中にねじ込んで、運転席のシートに座り、ハンドルを握る。
 アクセルを吹かして、他の子供たちをトランクに乗り込むよう合図する。一部の猟兵たちが、カバーに回り始めた。
「いいさ、やってやる。かかってきなよ、出来損ないのオブ・ザ・デッド」
 咆えるマフラーの音が、とめどなく現れるゾンビの呻きを、食い荒らす。

成功 🔵​🔵​🔴​

雛菊・璃奈
ごめんね…貴方達も、本来は罪も無い被害者なんだよね…。でも、絶対にこの子達をやらせるわけにはいかない…手荒になるけど、倒させてもらう…!

年少組と少女二人を囲う様に【呪詛、高速詠唱、全力魔法、オーラ防御】呪力の守護結界を展開し、その上でミラ達に子供達の護衛をお願い…。

【unlimitedΩ】で終焉の魔剣を展開…。
更に【呪殺弾、誘導弾、高速詠唱、全力魔法、属性攻撃、乱れ撃ち】で無数の攻撃呪術を発動…。
黒桜の呪力解放【呪詛、衝撃波、なぎ払い、早業】による広域なぎ払いと共に魔剣、呪術を一斉斉射→再展開を繰り返してゾンビの群れをまとめて殲滅していくよ…。

この子達は必ず守る…わたし達が希望は消させない…!



《Day2 13:04 【斬風】》
 猟兵たちが各自戦闘に突入し、輸送防護車に運転手がついた瞬間、仲間の使ったトーチカのユーベルコードが解除された。
 壁が消失し、ゾンビを目の当たりにした子供たが恐怖に叫ぶ。
 足を失い這い寄るゾンビが、アンナの足に手を伸ばす。蘇る両親の死に、彼女は顔を絶望へ歪めた。
 白い足首を掴まれる瞬間、その背に黒い薙刀状の刃が突き立つ。胴を縦に切り裂かれた亡者が、動かなくなる。
「アンナさん、しっかり……!」
 呪槍【黒桜】を腐った血に染め、雛菊・璃奈(魔剣の巫女・f04218)がアンナの手を引く。
 防護車まで、大した距離はない。開け放たれたリアゲートの前で、ジニーとトーマスが少女と年少組に「早く」と叫ぶ。皆からはぐれ、一人だけ車内に連れてこられた男の子が手を振っていた。
 群がるゾンビにトラウマを蘇らせてしまった子らは、進めない。だが、このまま立ち尽くしている暇はなかった。
「大丈夫……大丈夫だからね……」
 落ち着かせるように言いながら、璃奈は呪力を解放、結界を張って防護車までの道を作った。
 結界は視界を遮らないためゾンビが見えているが、不可視の壁に阻まれている。
 人智を超えた力に驚きながらも、ハルカがアンナと年少組を連れて走り出した。
「行くわよアンナ! よく分かんないけど、今しかないんだから!」
「嫌だよ、あいつら、いやぁ……」
「嫌だから逃げるんでしょ!」
 泣きじゃくるアンナを強引に引っ張って走り、ハルカは、十人の年少組と防護車に転がり込んだ。
 リアゲートが閉じられた刹那、璃奈は結界を解除して跳躍、装甲に覆われた車の屋根へ。
 上から見渡した光景――視界をどこまでも埋め尽くすゾンビの大群。奴らを倒さない限り、生き延びることはできない。
 璃奈は息苦しさを覚えて、胸元で手を握りしめた。
「……ごめんね……。貴方達も、本来は罪も無い被害者なんだよね……」
 かつて善良であったろう亡き人々を斬らねばならないことが、心苦しい。しかし、璃奈にはそれをなさねばならない理由があった。
 黒桜を振りかぶる。銀の瞳が呪力を灯し、漆黒の穂先から桜の花びらに似た呪詛が舞う。
「絶対にこの子達をやらせるわけにはいかない……! 手荒になるけど、倒させてもらう……!」
 振り抜いた、一撃。呪詛の刃が、防護車の前に立ちふさがるゾンビどもを薙ぎ倒し、吹き荒れる斬風に血の雨が混ざる。空に渦巻くオブリビオン・ストームに、赤が混じって消えていく。
 腐肉と血に染まった屍の道を、装甲に覆われた車が走り出す。死体を踏みつぶし、この破壊的な悪夢から逃げ出すために、少しずつ前へ。
 三匹の仔竜、ミラ、クリュウ、アイが子供たちを乗せた車を守るべく、ゾンビどもにブレスを吐き、首元に食らいつく。
 しかし、いかに敵を退けようとも、ゾンビの群れは減る気配がまるでない。接近されるたびに密度が濃くなり、むしろ増えているのではという感覚すら覚える。
 ジニーとトーマスは、銃を構えているが、撃てなかった。彼らは、絶望的状況への耐性がないのだ。立ちすくむ少年に、ゾンビの穢れた食欲が迫る。
「やらせない……!」
 呪槍の力を再度展開、呪詛を無数の魔剣へと変質させて、一斉に放つ。黒桜の衝撃波も相まって、ワイパーに払われる雨粒の如く、蠢く死体の集団が斬り払われ、無残な肉塊と散っていく。
 車中の子供たちは、この光景を見ているのだろうか。璃奈は思考の片隅で考える。
 もしかしたら、嫌われるかもしれない。が、例え化け物と言われてしまっても、璃奈の覚悟は揺るがない。
「この子達は必ず守る……!」
 徐行する車両の後ろに飛び降りて、黒桜一閃、闇色の斬撃波動がゾンビの首を刎ね飛ばす。
 魔剣を再展開、掃射。終焉の呪力を纏った刃が、無尽蔵に押し寄せる屍に突き刺さり、永劫の終わりを告げる。
 倒しては進み、進んでは止まって、また戦う。時間の流れが止まってしまったかのような錯覚に陥るたびに、璃奈は首を振って気持ちを立て直した。
 空を見上げ、暗黒の竜巻を睨む。あれが消えるまで、この地獄のような大群との戦闘は続くだろうことは、容易に想像できる。
 唇を少し噛んでから、璃奈は黒桜の柄を強く強く握りしめた。
「希望は、わたしたちが消させない……!」
 黒く輝く呪槍の一閃が、今を生きる者たちの進路を切り拓く。

成功 🔵​🔵​🔴​

キリカ・リクサール
アドリブ連携歓迎

フン、来たか…
随分とまぁ量だけは多いが、それだけでここを突破できるとは思わないことだな

装備武器でゾンビの群れに銃撃
年少組を一か所に纏めて守りつつ、迫りくるゾンビの群れを正確に薙ぎ倒していく
デゼス・ポアも群れに放ち、全身を飾る錆びた刃で切り刻み行動不能にしていき、特に子供達に近づこうとするゾンビを優先的に撃破する

心配せずとも、皆には指一本触れさせんさ
子供を守るのも大人の仕事だ

と子供達を励まし
敵が行進を始めたらUCを発動
無数のナガクニをゾンビの団体に突っ込ませて爆破
生き残ったしぶといゾンビは紫電の鎖でとどめを刺す

貴様らは未成年には少々刺激が強すぎるな
全年齢版にでもなって出直してこい


政木・朱鞠
【POW】で行動
ゾンビにとっては単なる食事(?)であって、それを咎として捉えるには疑問があるけど…この存在をほったらかしにしてたら未来は過去に喰い潰されちゃうもんね。
心も体も傷付いた子達の懇願に応えるためにもここで退くわけには行かないね。
恐怖で固まった子供等を勇気付けるためにゾンビ達の猛攻を焼き尽くして嵐を乗り切らせて貰うよ。

戦闘
子供達の目に見えて攻撃的なビジュアルを狙って…『忍法・煉獄炮烙の刑』の炎でゾンビ達を丸焦げにしてやりたいな…。
武器は拷問具『荊野鎖』をチョイスして【鎧砕き】や【鎧無視攻撃】の技能を使い敵の体に鎖を絡めつつ【傷口をえぐる】で絞め潰すダメージを与えたいね。

アドリブ連帯歓迎



《Day2 13:15 【大人として】》

 VDz-C24神聖式自動小銃【シルコン・シジョン】が、神聖なる箴言の刻まれた大口径弾薬を以て、ゾンビをその不自然な生から解き放つ。
 一体どれ程倒しただろうか。時計を見れば、戦闘を開始してから十五分が経過していた。
 それを「まだ」と言うべきか、「もう」と言うべきか。周囲には夥しい数の屍が積み上がっている。
 死体の山を踏み越えて、後続のゾンビが押し寄せる。まるで、減っている気がしなかった。
「随分とまぁ、量だけは多い」
 キリカ・リクサール(人間の戦場傭兵・f03333)は、空になったマガジンを交換しながら毒づいた。
 子供たちを乗せた輸送防護車の右前方。無人だったはずの家屋からも、ゾンビが溢れ出してくるのが見える。
 車は直進していた。徐々にだが、オブリビオン・ストームの直撃を受けて崩壊したストアからは、だいぶ離れることができている。
 しかし、空から見下ろしあざ笑うかのように、以前として黒い竜巻は渦巻いている。この世界の特徴を考えれば、ゾンビどもが沸いている原因があそこにあることくらいは分かった。
「だが、今のところはアレに対する手がないな」
 屍の包囲網を突破し、生存する。それが最良の結果であり、目指すべき目標だった。
 じわりじわりと距離を詰めようとする敵を押し返すように、銃弾をばら撒く。血肉となっても頭部が無事な限り、ゾンビは猛進してきた。
 とにかく足を止めることに集中していると、突如背後からスパイクのついた鎖が飛来し、ゾンビを叩き潰した。
 振り返ると、褐色肌に金髪の、妖狐の女がいた。
「朱鞠か!」
 呼ばれた政木・朱鞠(狐龍の姫忍・f00521)は頷いて、鎖を握る手に力を込めた。振り抜かれた鎖――拷問具【荊野鎖】が、赤熱する。
 鎖が突き刺さったゾンビが、燃える。超高温となった茨の鎖が、ゾンビの一群を薙ぎ払い、火炎に包んでいった。
 燃える人の臭いが鼻を衝く中、キリカは朱鞠に手早く告げた。
「オーソドックスなゾンビだ。噛んでくるぞ、食われないように気をつけろ」
「うん。……ゾンビにとっては単なる食事であって、それを咎として捉えるには疑問があるけど……」
「そうも言ってられないさ。奴らはオブリビオンだ」
「分かってる。この存在をほったらかしにしてたら、未来は過去に喰い潰されちゃうもんね」
 互いの意志を確認し合って、双方頷く。朱鞠がちらりと振り返った輸送車の窓から、年少組の少女がこちらを見ていた。
 朱鞠は、にこりと微笑んだ。彼女たちを勇気づける必要を、強く感じた。
「ここで退くわけには、いかないね」
「そうだ。皆には指一本触れさせんさ。子供を守るのも、大人の仕事だ」
 マガジンチェンジ後に、キリカは腰の鞘から短刀【ナガクニ】を抜刀、さらに全身を刃で飾った人形【デゼス・ポア】を宙に浮かせる。
 ナガクニを投擲、回転しながらゾンビの群に飛び込んだ刃が分裂、朱鞠の鎖に似た連結剣となる。さらに紫電を纏い、その光が膨張していく。
 敵を切り刻んで突き進んだナガクニが、爆ぜた。何らかの力が爆発し、辺りに肉片と血の雨を降らす。だがそれでも、ゾンビは死体を地面の一部の如く踏み越えて、近寄ってきた。
 刹那、短刀の刀身が紫に輝き、周囲に凄まじい雷撃が迸る。刀から放たれた紫電の鎖が、死人たちの体を次々と縛り上げていく。
 身動きが取れなくなったゾンビが、体をよじって呻く。その身から力を吸われても、やはり死人。食欲だけで動こうとしていた。
 キリカは叫んだ。
「朱鞠、やってくれ!」
「了解! 私の紅蓮の宴、とくと味わいなさいッ!!」
 朱鞠の拷問具が、激しく燃え盛る炎を纏い、偽りの生を否定する獄炎の鞭と化す。
 振り上げられた鎖が、煉獄に突き立つ炎の柱の如く、天に掲げられる。そのまま、力任せに敵の頭へと叩きつけた。
 先頭の数体に直撃した瞬間、赤熱の果てに燃え盛る鎖から炎が扇状に広がり、蠢く亡骸を焼き払う。
 炎が燻る肉塊を足で押しのけて、ゾンビはいくらでもやってきた。キリカのデゼス・ポアが全身の刃を使って足や手を切断していくも、やはり前に進もうと足掻き続ける。
 朱鞠が超高熱を宿した鎖を振るい、両腕を失ったゾンビの体に巻きつかせる。茨の棘のように生えたスパイクが食い込み、腐った血がとめどなく流れようとも、敵は止まる素振りすら見せなかった。
「もう、少しはリアクションしてよ」
 眉を寄せつつ、ゾンビを燃え上がらせる。周囲にいた敵も巻き込んで延焼するも、敵は衣服や肌を炎に焼かれながらも、朱鞠たちへと口を大きく開けて迫る。
 肉を切り裂き、撃ち抜き、燃える。しかし、奴らはまだまだ現れた。
 二人の猟兵は、ゾンビの数がこの街の規模と比べて異常なまでに多いことに、感づいていた。キリカが何度目かの弾倉を交換しつつ、毒づく。
「これでは、ジリ貧だな……」
 倒せど、進めど、ゾンビは止まらない。ただ飢えを満たすためだけに、朱鞠を、キリカを、装甲車の子らを目指して突き進む。
「きりがない……!」
 劫火を撒き散らす鎖を振るいながら、朱鞠も思わず呟いた。崩した先にまたゾンビの壁が立ちふさがり、息が切れても止まることすら許されない。
 屍の集団に飛び込んだデゼス・ポアが、踊るようにくるくると回る。その身に飾った刃が、ゾンビどもの首を次々とはねた。ナガクニの紫電が敵の動きを縛り、キリカがライフルでそれらを撃ち砕く。
 一進一退の攻防だった。一瞬でも気を抜こうものなら、あっという間に距離を詰められ、危険度は飛躍的に跳ね上がるだろう。
 後ろを振り返る余裕もないが、二人はその背に、子供たちの視線を感じていた。勇気のある誰かが、見届けているのだろう。泣いている子に戦いの状況を伝えてくれているのかもしれない。
 ならばこそ、無様な戦いはできない。朱鞠とキリカは、目を合わせてわずかに笑った。
「心も体も傷付いた子達のためにも、情けないところは見せられないね」
「あぁ。大人の意地を見せてやろうじゃないか」
 キリカがシルコン・シジョンをフルオートから三点バーストに切り替える。同時に、朱鞠がゾンビの群に飛び込んだ。
 掴みかかる無数の手を、妖狐の炎鎖が消し飛ばす。飛び込んでくる正確な射撃が、腕をもがれた亡者の額を撃ち抜いた。
 赤く燃える鎖が体操のリボンのように踊り、しかし容赦のない獄炎はゾンビを呑み込み、唸る茨の鎖がその頭部を破壊していく。 苦痛の刃を抱く人形が、朱鞠と共に踊り狂う。
 彼女の猛攻を突破した敵は、即座にキリカの無慈悲な弾丸に頭部を砕かれた。仰向けに倒れて動かなくなる死体。それこそが、本来あるべき姿なのだ。 
「……とはいえ、貴様らは未成年には少々刺激が強すぎるな」
 背後からは、今も誰かの目が向いている。もしかしたら、年長組の誰かかもしれない。
 どちらにしても、子供だ。なるべくなら見せたくはないが、そうも言っていられない状況だった。
 躊躇いなく、撃つ。血と脳漿をぶちまけて倒れるゾンビに、キリカは吐き捨てた。
「全年齢版にでもなって、出直してこい」
 見上げた視線の先、ゾンビの大群の中では、今も朱鞠が炎の舞を踊っていた。
 無論、それは他者からそう見えるだけの話であって、彼女がそうしようと思ってのことではない。朱鞠は無数のゾンビを前に、必死だった。
 死人の冷たい手に、何度捕まれたかも分からない。這う屍に足首を喰われかけた時には、ヒヤッとした。
 命無き者どもと違って、朱鞠の体力は無尽蔵ではない。キリカの援護が届く範囲で戦ってはいるが、限界は必ず訪れる。
 それから退くのでは、遅いのだ。余裕があるうちに立て直さなければならない。
 しかし、彼女には車窓からこちらを見つめる少女の姿が見えていた。それは、アンナだった。
 ゾンビ恐怖症のはずのアンナが、なぜ。思考は、敵の低い唸り声に掻き消される。
「なら、せめて――!」
 せめて、見ている少女たちに少しでも勇気を与えられる戦いを。鎖に纏う炎を加速させながら、彼女は戦闘を継続することを選んだ。
 目に見えて無理をしている朱鞠を案じつつ、キリカはしかし、声をかけない。朱鞠と共有する大人の意地が、それをさせなかった。
 闇の竜巻が巻き起こす風の中、子らを守り励ますための戦いは、無限ともいえる敵を相手に、続いていく。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

柊・はとり
はッ…『おかしいんじゃないの』か
久々に聞いたな
事件に巻き込まれた第三者が探偵に言う事だ

なあハルカ
あんたは気にしてるようだが
普通の感覚を持てる奴って生き残るもんだぜ
これから起こる事を見て、受け止めて
それでも『おかしい』って言ってみろ

起きろコキュートス
UC【第一の殺人】で氷の【属性攻撃】による【全力魔法】を乗せた【範囲攻撃】を放つ
広範囲の凍結で敵を【マヒ】させ味方の支援をするのが目的

俺が死体だとばれる訳にはいかない
代償には内臓を
…外側から見りゃどうって事ない

ジニー、トーマス、実戦だ
撃て
凍って動かない奴なら幾分撃ちやすいだろ
やらないなら俺が率先して叩き潰す
撃てよ
…撃て
撃つんだよ!
できなきゃ死ぬぞ!!



《Day2 13:28 【撃て】》
 防護車の銃座から周囲を見渡し、柊・はとり(死に損ないのニケ・f25213)は活路を見出そうとしていた。
 だが、見えない。敵の数があまりにも多すぎる。これでは、進むべき道すらも分からないではないか。
「……だが、『今は』の話だ」
 耐え忍べば、状況は変わる。粘り強く謎を究明すれば、必ず真実が見えるように。
 車内に降りると、子供たちを抱きかかえるハルカがいた。こちらを見上げて、青い顔をしている。アンナは、窓から車外を凝視していた。
 ふと、道中の記憶が蘇る。死体を調べるはとりを見て、ハルカはその冷静さを「おかしい」と断じた。
 事件に巻き込まれた第三者が、探偵に放つ言葉だ。彼女のような感性を、世間では普通と呼ぶ。
 はとりはハルカに近づき、膝をついた。
「なぁハルカ。普通の感覚を持てる奴ってのは、最後まで生き残るもんだぜ」
「……何よそれ」
 反抗的な目を向けてきたが、それが怯えの裏返しであることは、すぐに分かった。敢えて気づかないふりをしながら、続ける。
「あんたら四人の中で、一番『普通』なのはハルカだ。それは誇るべきことだと、俺は思う」
「……」
「これから起こる事を見て、受け止めて……それでも『おかしい』って言ってみろ」
 それ以上は語らず、リアゲートから外へ。すぐさま閉めて、ゾンビの群と対峙する。
 戦闘力だけで言えば、こちらが圧倒的に勝っていた。猟兵たちの力は、ゾンビの百や二百で崩されるようなものではない。
 だが、敵は百、二百どころではなかった。千、あるいは万。
「……いや」
 はとりは首を振りつつ、眠れる氷の大剣【コキュートスの水槽】を担ぐ。
 数字で表せる量ではない。見上げれば嫌でも目に入る、漆黒の竜巻――オブリビオン・ストーム。あれが吹き荒ぶ限り、ゾンビどもは無限に現れるのだ。
「戦い抜いて、機を見て、逃げる。それしかないか。……起きろ、コキュートス」
 氷の刃が冷気を濃くし、その意思をはとりに伝えてくる。掌に呼応する力の脈動を感じながら、ふと気づいた。思わず目を見開く。
 ジニーが、足を竦ませている。アサルトライフルは構えているものの銃口が震え、歯を打ち鳴らしている。猟兵に守られる彼は、まだ、撃った形跡がない。
 今回が初めてではないはずだが、敵の勢いの飲まれたか。舌打ちを一つ。駆け寄る。
「ジニー、しっかりしろ。これは実戦だ」
「……わ、わかってる」
「いけるな? 安全装置は下りてる。あとはトリガーを引くだけでいい」
「……」
「撃て」
 若干十四歳。しかし、年齢や立場を気にしていられる状況ではない。
 はとりははっきりと苛立ちながら、コキュートスに自身の内臓の一部を捧げた。
 莫大な対価を受け取った氷の刃を、振り抜く。直後に巻き起こった猛吹雪が、彼の視界に映るゾンビを凍てつかせた。
 手前の敵が防御壁となったことで、後方に無限に現れているゾンビまで凍らなかった。だが、それでも構わない。
 はとりはジニーに振り返った。
「凍って動かない奴なら、幾分撃ちやすいだろ」
「ぅ……くそぉ……!」
 撃ちたくないのか、撃てないのか。ゾンビに対する恐怖心か、人の形だから、撃てないのか。
 しびれを切らして、少年の胸倉を掴みかけた、その時。ジニーが小声で、呟いた。
「……おじさん……!」
「……」
 氷像と化した、先頭のゾンビ。四十代ほどの、恰幅のいい男だった。
 トーマスに似ている、と思った。そして、はとりは全てを理解した。
 理解して、しかし、彼は言う。
「撃て、ジニー」
「無理だ」
「撃てよ」
「だって、あの人はトーマスの」
 もはや涙声で、ジニーは助けを乞うように、はとりを見た。
 後続のゾンビが、押し合いながら前に突き進んでくる。すかさず第二波の吹雪で凍てつかせながら、死した高校生探偵は、とうとう叫んだ。
「撃つんだよ! できなきゃ死ぬぞッ!!」
「ぁ――うあぁぁぁぁぁッ!」
 涙を散らして吼えながら、ジニーがアサルトライフルのトリガーを引いた。
 安定しない銃口から無様にばら撒かれた銃弾は、しかし視界に蠢くゾンビを貫いていく。そのうちの一発が、正面の氷像――トーマスの父の眉間を穿つ。
 世話になった人を、親友の父親を撃ってしまった。倒れて砕ける死体に、ジニーはさらに叫んだ。壊れてしまう心を守るように。あるいは、自ら壊すように。
 その慟哭を耳にして、はとりは氷剣を構えながら、一瞬目を伏せる。
 ジニーもまた、「普通」の人間だったのだと知った。遠いなと、思った。
 弾を撃ち切った少年が、トリガーを何度も引いている。落ち着かせつつリロードさせて、はとりはわずかに大人びた声音で、ジニーに耳打ちをする。
「よくやった。お前は仲間を救ったんだ」
「……」
 肩で息をするジニーが、わずかに頷いたように見えた。頷いてもらわなければ困ると、はとりは思う。
 今ジニーに求められるのは、ハルカのような普通の心ではない。
 必要なのは、戦うことで友人や家族を守ると決めた、確固たる信念――勇気なのだから。

成功 🔵​🔵​🔴​

セルマ・エンフィールド
トーマスさん。あなたは正しく脅威を評価し、恐れることができる。
今は体験した恐怖が焼き付いてしまい過剰に恐れていますが、その慎重さは得難いものです。
あなたの手にも十分な武力がある。恐れすぎることはありません……今から、それをお見せしましょう。

年少組たちをゾンビから守るのは他の猟兵にお任せします。
フィンブルヴェトを手にゾンビの集団に突っ込み【銃剣戦闘術】で戦闘を。
銃剣で迫る敵を切り払い、氷の弾丸で凍てつかせた敵を盾にしつつ、撃ち砕いていきます。背後から現れるゾンビは『第六感』で察知、デリンジャーの『クイックドロウ』で撃ち抜き対処を。

ゾンビだろうと、撃てば死ぬ……銃とはそういうものです。



《Day2 13:36 【銃】》
 撃てない苦しみを抱く少年が、もう一人。
 トーマスは、抱えるショットガンの引き金に、指をかけることすらできずにいた。
 あの日――ただの一度だけ、散弾をぶっ放した。その瞬間の光景が、迫りくるゾンビを見ているだけで蘇る。
 飛び散る赤黒い血、砕けた骨片と脳漿が、壁に付着しずり落ちていく。死した――もとより死んではいたが――眼窩と目が合った時のことだ。今でも夢に見る。
 間違ったことをしたとは、思わない。ハルカを助けるためだったのだ。それに、あれはゾンビだ。化け物なのだ。
 分かっている。だから、怖いのだ。彼の肉親もまた、奴らに喰われているのだから。
「戦え……戦えトーマス……!」
 何度も何度も、もう三十分以上もそう言い聞かせているのに、トーマスの体は言うことを聞かなかった。
 遅々とした進みの中、愛銃【フィンブルヴェト】で敵を確実に素早く処理していたセルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)は、太った少年の苦悩に気がついた。射撃、次弾を装填しながら、目線だけを軽く向ける。
「トーマスさん。あなたは正しく脅威を評価し、恐れることができる。今は体験した恐怖が焼き付いてしまい過剰に恐れていますが、その慎重さは得難いものです」
 冷静な言葉を、涙ぐみながらも、トーマスはじっと聞いていた。
 マスケット銃に取りつけた銃剣の固定具合を確認し、セルマはゾンビの大群を氷のように冷たい瞳で見据えた。
「あなたの手にも、十分な武力がある。恐れ過ぎることはありません」
「恐れ過ぎる……。でも、ごめんなさい、怖いんです。僕、僕はっ……」
「……大丈夫。今から、それをお見せしましょう」
 言うが早いか、セルマは接近していた十体以上もの屍の只中に飛び込んだ。「待って」と止めるトーマスの声に、彼がこちらを見ていることを知る。
 踏み込んで突進、銃剣で先頭のゾンビの首を刎ねる。獲物が近づいたことで、屍どもの死んだ眼光がセルマに向けられた。
 頭を失った死体を蹴り倒し、掴みかかってきた次のゾンビに射撃、氷の弾丸が突き刺さった瞬間、敵は氷像と化した。
 凍ったゾンビを盾にして、氷弾を連続で放つ。次々に凍りつく敵を壁に移動しては、銃剣による接近戦で胴を裂き、首を刈り、頭を割る。
 切り裂き、凍てつき、砕かれる。それでも群がってくるゾンビの手を、セルマは一瞬無視した。
 スカートの中からデリンジャーを抜き放ち、背後に向けて放つ。今まさに噛みつかんとしていた敵の眉間に穴が開き、ゾンビは正しく死体に戻っていった。
 防護車の進みに合わせて、セルマは背後からの奇襲にも動じず、流れるように敵を討ち倒していく。
 三つ程度しか年の変わらない少女の、可憐な見た目とは裏腹に壮絶な戦いぶりに、トーマスは歯噛みした。ストアで彼女に言われたことを、思い出す。
「戦えなければ、戦うという選択肢を、選ぶことすらできない……」
 今、その選択をしなければ、いつするというのか。
 猟兵たちでは捌ききれないゾンビが、防護車に近づく。これまではうまくいっているが、もう三十分以上も戦い続けているのだ。彼らは相当消耗しているだろう。
 万一、奴らが車に取りついたら、中にいる年少組はどうなる? アンナとハルカは、彼らを守れるのか? 考えなくとも答えは分かる。否だ。
 むしろ、彼女たちも危ない。いや、死ぬだろう。守ってくれる人がいなければ、彼女たちは、死ぬのだ。
 戦わなければ、戦えなければ、死ぬ。死なせたくない人たちが――あの日のように。
「それはダメだ……! ダメだ、ダメだ!」
 防護車のリアゲートに手を伸ばすゾンビに、トーマスは涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら、ショットガンを向けた。
 一瞬、セルマを見る。彼女は銃剣でゾンビの群を切り裂きながら、こちらを見返していた。
「撃つぞ、撃つぞ! 僕は――!」
 少年が、叫んだ。
 ショットガンの爆発的な発砲音が、乾いた空に響く。装甲車に襲い掛からんとしていたゾンビの顔面が、弾け飛ぶ。
 ろくに踏ん張りもせずに撃ったせいで、トーマスは転倒した。すかさず駆け寄ったセルマが、襲い来るゾンビを次々に射殺する。
 腕を掴んで重い体を無理矢理に立たせ、防護車の右後方につきながら、セルマはぜいぜいと息を荒げる少年に振り返った。
「できましたね。それでいいんです」
「……」
 答えないトーマスに、セルマはやはり静かな声音で、しかし確信を込めて、言った。
「ゾンビだろうと、撃てば死ぬ。……銃とはそういうものです」
「ぅ……」
「今のあなたは戦えます。恐れる未来が来ないよう、戦ってください」
 震えながら、諦めたように頷くトーマス。自分が変わってしまったことを、悟ったのだろう。
 今はそれでいいと、セルマは思った。変化をもたらすこの戦いの先で、彼なりの答えを見つけられることを、知っているからだ。
 そのためにも、今は、生きねば。視界を埋め尽くすゾンビどもを、睨んだ。
「来ますよ、トーマスさん」
「……はい」
 セルマに合わせて銃を構えたトーマスの目は、命を貫く覚悟に燃えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エーカ・ライスフェルト
「そこの男の子2人! こっちにか弱い女がいるんだから援護して頂戴!」
体力はか弱いのよ。ほんとに。普段だらけているのは体力温存のためだし

戦闘では、近づいて来るゾンビの進行方向の地面を、【理力の領域】でフォースオーラに変えて落とし穴にしちゃうわ
「細かいことは戦いが終わってから考えるのが生き残るコツよ。ほーら、私の【念動力】は大雑把なんだから、倒し損ねたゾンビは貴方達で倒して頂戴」
私が援護出来る状況で、戦闘慣れして欲しいのだけどどうなるかしら
「一度実戦で生き残れたら良くも悪くも変わってしまうからね」
「まあ、どうしても向いていない場合もあるけど。そのときは得意な人を援護して守ってもらうしかないわ」



《Day2 13:42 【もう戻れない】》
 フォーメーションが、徐々に崩れていく。敵の物量に押されているのだ。
 黒い竜巻は、依然として街の破壊を続けている。その度に生み出されるゾンビは、倒しても倒しても数を減らすことがなかった。
 念動力の巨大な拳でゾンビを殴り飛ばしたエーカ・ライスフェルト(ウィザード・f06511)は、乱れる呼吸を落ち着けることができなかった。苦し気に胸を押さえながらも、不可視の力を練り上げる。
「まったく……体力には自信がないっていうのに……!」
 汗で張り付く前髪をかき上げ、ふと気づく。防護車の側面を守るように戦う、ジニーとトーマスが見えた。
 二人とも必死だが、その手も足も震えている。敵の数が異常に多いおかげで、ぶれる照準でも一定の効果は出ているようだった。
 なんとも無様だが、何でもいい。エーカは叫んだ。
「そこの男の子2人! こっちにか弱い女がいるんだから援護してちょうだい!」
「え、援護?」
「でも、何をすれば」
「すぐに分かるわ。いくわよ」
 噛みつかんと手を伸ばしたゾンビを張り倒してから、エーカは地面に勢いよく両手をついた。
 流れ込む念動力が、物質に変化をもたらす。アスファルトが瞬時にフォースオーラに変換され、地面に巨大な穴が開いた。
 足場を失くしたゾンビが、流れ込むように落下する。理力の落とし穴にはまったゾンビたちを見ながら、エーカは背後の少年を見た。
「撃ちなさい!」
「わ、分かった! トーマス!」
「う……ん!」
 躊躇いながらも、ジニーとトーマスはアサルトライフルとショットガンを、這い上がってくるゾンビに次々と撃ち込んだ。
 銃撃に集中する二人を念動力の拳でカバーしつつ、エーカは二人の狙いがあまりにもぶれていることに気が付いた。
 これでは、いくらなんでも無駄撃ちだ。見れば、ジニーもトーマスもようやく銃を撃てるようにはなったようだが、まだ心に深い葛藤が見られる。
 こんなところで思春期カウンセリングをするつもりなど、エーカには毛頭なかった。鼻で笑って、軽い口調で言う。
「細かいことは戦いが終わってから考えるのが生き残るコツよ。ほーら、私の念動力は大雑把なんだから、倒し損ねたゾンビは貴方達で倒してちょうだい」
 仲間を巻き込まないよう、穴をさらに拡大。落下するゾンビを自身も不可視の力の塊で戦い潰しながら、震えるトーマスとジニーに激を飛ばす。
「狙うは頭! 肩やらお腹やらを撃っても、奴らは死なないわよ!」
「くっ――そぉぉぉぉッ!!」
「父さん――母さん、僕は……僕はッ!!」
 人を撃つことの躊躇いを、少年たちは叫ぶことで打ち消していた。なんとも若いと思いながらも、その気持ちに理解を示す自分がいることに、エーカは気づいていた。
 彼らは、怯えているのだ。幸せだった数か月前が、永遠に訪れないことを。変化を、受け入れ切れていない。
「……一度実戦で生き残れたら、良くも悪くも変わってしまうからね」
 呟いた声は、二人に届いているだろうか。
 彼らは賢い。聞こえていなくとも、きっとジニーもトーマスも、分かっているはずだ。
 背後で、防護車が速度を上げた。猟兵が突破口を開いたのだろう。エーカは二人に強く言った。
「前に出なさい! どうしても向いていないと思うなら、得意な人を援護して守る! いいわね!」
「もうなんでもいいさ! どうせ、もう戻れないんだ。やるぞトーマス!」
「あぁ、進もうジニー! 僕らは、進むんだ!」
 泣きながらも強く強く叫んで、勇ましい少年たちは車両の前方に走っていった。
 彼らは戦士になったのだと、エーカは感じた。戦闘慣れしたかは分からないが、もう、迷うことはないだろう。
 果たして、それでよかったのか。車両と猟兵、子供たちを追うゾンビを見据えつつ、一人首を横に振る。
「……それを決めるのは、私じゃないわね」
 生き残った彼らが、自分で決めるのだ。戻れない時の価値をどう活かすかは、今を生きる者に委ねられるのだから。
 そのためにも、せめて、人生の先達として。エーカの髪が、フォースに逆立つ。
「まぁ、やることは変わらないわ。……オブリビオンを、殺すだけよ」
 今だ疲労を感じる体を叱咤しながら、その身に宿す理力を解き放つ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ボアネル・ゼブダイ
ふむ、まず第一陣はゾンビの群れか
早々にあるべき場所へと送り還してやろう

武装を手に敵集団に突撃
フランマ・スフリスで敵を焼却し、黒剣グルーラングで切り刻む
彼らもオブリビオンの哀れな犠牲者なのだろうが…下手に情けをかけず、早急に苦痛から解放するのも聖者の務めだろう
夥しい敵の返り血を身体と武器に纏わせたらUCを発動する

誰一人として我々の後ろには通さんさ
守るべき者達がいるのだからな

主に攻撃力を強化して凄まじい勢いで周囲のゾンビ達を殲滅していく
途中の疲労は黒剣グルーラングでの生命力吸収で回復し、少年達を勇気づけるように戦っていく

さて、彷徨う亡者の群れを倒したら
この漆黒の竜巻は次に何をここへ運んでくるのか…


サフィリア・ラズワルド
SPDを選択

共闘、支援をする

怖いよね、わかるよ、だから君達におまじないをかけてあげる、君達は生きるために足掻く、でも化け物を殺すんじゃない、君達は彼等を解放するために安らぎを与えるために銃を撃つの、そう思って私達を見てて、私達の戦いを見てて
『お疲れ様、どうぞ安らかに』そう言いながら【竜の牙】で尻尾の先を竜の頭部へと変えて【竜騎士の槍】で敵を攻撃していきます。

彼等にとって一時の安らぎにしかならないことは知っている、私の言ったことが言い訳にしかならないことはわかっている、けどまだ慣れてないこの子達には必要な思い込みだ。

『君達が戦うって事はね結果的には両方を救う事になるの』

アドリブ協力、歓迎です。



《Day2 13:51 【救い】》
 トーマスとジニーが、突然進行方向に躍り出た。
 戦いが始まってしばらくは、撃つどころかゾンビを見ることすら恐怖していた彼らだが、覚悟が決まったのだろう。
 強くあろうとする少年に、ボアネル・ゼブダイ(Livin' On A Prayer・f07146)は笑みを浮かべた。
「そうか、戦うことにしたか」
「……やるしかない。もう、戻れないんだ」
 ジニーの言葉に、恐怖と憂いが今も強く残っていることに、ボアネルは気が付いた。
 戦いの中で鼓舞するべきか。そう考えた時、ジニーとトーマスの間から、ラピスラズリの輝きを持つ槍を携えた少女が現れた。
 倒れた屍を踏み越えて歩み寄るゾンビたちを見ながら、その少女――サフィリア・ラズワルド(ドラゴン擬き・f08950)は囁くように言った。
「怖いよね、分かるよ」
「こ、怖くなんか」
 言い返そうとしたジニーに振り返り、サフィリアは可憐に微笑んだ。それだけで、少年たちの心がすっと軽くなる。
 彼らは、この辺りに住んでいたのだ。ゾンビたちもまた、そうだった。そのことがまた、彼らの心に闇を落としているのだろう。
 察するに、余りある。サフィリアは、二人に向けて目を細める。
「君たちに、おまじないをかけてあげる」
「おまじない……?」
 怪訝な顔をするジニー。もうゾンビはそこまで迫っており、猟兵たちが応戦している。
「君たちは生きるために足掻く。でも、化け物を殺すんじゃない」
 ボアネルは、彼女の言わんとすることを理解した。同時に、不抜の信念がなければ一時の気休めにしかならないことにも気づく。
 だが、その気休めこそが、彼らに必要なのだろう。相手がかつて人だったのなら、なおさらだ。
 サフィリアは尻尾の尖端を竜の頭部へと変化させながら、少年たちの目を優しく覗き込む。
「彼等を解放するために、安らぎを与えるために、銃を撃つの。君達が戦うって事はね、結果的には両方を救う事になるから。……今からそれを教えてあげる。私達を――私達の戦いを見てて」
 返事は待たずに、ゾンビたちへと向き直る。見れば、ボアネルはすでに黒剣と炎剣を手に、敵へと歩き出そうとしていた。
「お待たせ、ボアネルさん。ごめんなさい、彼らのためだと思って」
「構わんさ。聖者として、君の言うことには共感する。……奴らを早々に、あるべき場所へと送り還してやろう」
 ボアネルは漆黒の宝剣【グルーラング】と炎を纏う剣【フランマ・スフリス】を握り、進路を塞ぐゾンビの大群に突撃した。
 追いかけるように、サフィリアも続く。黒と赤、そして青い輝きが、屍の群をなぎ倒していく。
 屍人の血が舞い上がる中、二本の剣を縦横無尽に振るいながら、ボアネルは少女の声を聞いた。槍を突き刺し尾の竜頭で敵の頭を砕きながら、サフィリアが囁いている。
 お疲れ様。どうぞ、安らかに。微笑すら浮かべるその姿に、半魔の黒騎士は彼女が本気であることを知った。
 少年たちには到底届かないだろう声だが、戦いの渦中にありながら穏やかな表情は、彼らにも見えていることだろう。
「救い――か」
 確かに、死に絶えてなお肉体を彷徨わせる死者は、オブリビオンの哀れな犠牲者だ。今ボアネルたちにしてやれることは、情けをかけず、苦痛から解放してやることだった。
 それこそが、聖者の務め。腐った死体の血を全身に浴びながら、彼もまた、決意を力に変えた。
「血の香りに狂う忌まわしき半身よ……人の理を外れた悍ましき吸血鬼の力よ。我が正義を示すためにその呪われた力を解放せよッ!」
 真紅の眼光が爛々と輝き、グルーラングが黒のオーラを纏い、フランマ・スフリスの炎はより激しく燃え上がる。
 装甲車の進路を拓くべく、ボアネルとサフィリアの戦いは激しさを増していく。喰らわんとして迫るゾンビの大群を、剣と槍の一振りでいくつもの屍に変えていった。
 トーマスは、その光景に息を呑んだ。
「あの人たちは、本当に奪還者なのかな」
「……トーマス」
 声に振り向けば、ジニーが思いつめたような表情をしていた。こんな親友の顔を、トーマスは見たことがなかった。
 サフィリアとボアネルの戦う音を聞きながら、トーマスは戸惑った声を上げる。
「ど、どうしたんだい? まさか、どこか怪我を!?」
「いや、違う。違うんだ。聞いてくれ。……さっき、お前と反対側で戦っていた時、俺は――」
 言いかけて、俯き、溢れる涙を押し殺して、ジニーはもう一度顔を上げた。
「俺は、トーマスのおじさんを……撃った」
「……父さんを?」
「ゾンビになってた。だけど、間違いなく、おじさんだった。俺は、俺は、お前の家族を……!」
 震えるジニーの肩を、トーマスが掴む。彼は不思議と、落ち着いていた。サフィリアが言っていたことが、理解できた。
 だから、こう言えたのだ。
「ありがとう、ジニー。父さんを救ってくれて」
「……お前」
「サフィリアさんの言う通りだ。僕らは、みんなを元の形に戻さなきゃいけないんだ。そうだろ、ジニー」
 ポンプアクション、弾丸を装填して、トーマスはゾンビに銃を向けた。ボアネルが炎の剣でゾンビを焼き払う姿が、心を強く鼓舞してくれる。
「僕はもう、進むと決めたよ」
「あぁ……俺もだ」
 少年たちは覚悟を新たに、救いのために引き金を引く。
 銃声が聞こえ、サフィリアはゾンビの大群に囲まれながらも、ジニーとトーマスが戦い始めたことを知った。
 嘘をついたつもりはない。今だって、ドラゴンランスに穿たれて動かなくなったゾンビに、「ゆっくりお休み」と声をかけている。
 だが、本当は言い訳にしかならないことも、知っていた。彼らを戦士にした原因の一旦は、サフィリアにもあるのだ。
 あるいは、戦わない未来もあったのだろうか。わずかな後悔が、胸に過ぎる。
「……」
「サフィリア」
 声に振り向けば、ボアネルがいた。ゾンビの血をも力に変えた彼は、その圧倒的な攻撃力で、屍の山を築いていた。
 優しい少女の想いに、彼は気づいていた。戦いながらも陰るサフィリアへ、ボアネルもまた剣を振るいながら、静かに語る。
「私たちは、守るために戦っている。子供たちだけではない、命を奪われた人々の尊厳も、我々の守護対象だ」
「うん……」
「戦うことで、その両方を守れるようになる。君の言ったことに間違いはない。彼らは、彼ら自身で正しい選択をしたと、私は思う」
 黒剣の一閃でゾンビの胴を両断し、その奥にいた敵に向かった炎剣を薙ぎ払い、焼き尽くす。その残虐な光景すらも救いであることを、聖者であるボアネルは知っている。
 慣れてしまえば、そんなことすら考えなくなるのかもしれない。だが今は、ジニーとトーマスにとって、その考え方こそが救いになるのだ。
「選ばせるために背中を押した君は、立派だ。大したものだよ」
「……子供扱いしてる?」
 激闘の中で頬を膨らませるサフィリア。その姿に、ボアネルは剣を振りつつ苦笑した。
「まさか。本当にそう思うさ」
 銃声は止まない。二人の少年は今、生きんがために戦ってくれている。
 覚悟を決めてくれた彼らを、このようなところで死なせるわけにはいかない。サフィリアとボアネルは、背中合わせに言った。
「いつまでだって、戦ってみせる! 絶対、負けない!」
「そうとも。誰一人として、我々の後ろには通さんさ。守るべき者達がいるのだからな」
 未来へ進む子供たちが、後ろにいる。その事実だけで、二人はいつまでも戦い続けられる気がした。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

佐伯・晶
年少組達と女子達は邪神に頼んで
トーマスとジニーを援護

僕も突然巻き込まれた側だからね
戸惑うのはわかるよ
でも生きるなら腹を括るしかないんだ

ガトリングガンは輸送防護車に置いとこう
年少組を守るならここだろうし
UDC組織の規格なら銃座に固定できるかも
弾は邪神が創る必要あるけど誰が使っても良いよ

お姉さんに任せておきなさい
奪還者らしく
うまくやりますわ

こっそりゾンビの足を麻痺させたり
リュック内で複製創造した弾丸渡したりして二人を支援
必要なら猟兵にも補給
自分は創っておいたショットガンを使用

これまでの経緯からすると終わりはあるはずだよ
皆の為にも生き残らなきゃね

車の方からおかしな気配がする?
黒い嵐のせいだよ、きっと



《Day2 14:03 【邪神】》
 佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)は、分霊たる邪神と共に、防護車の中にいた。
 一時間以上続く戦闘に、子供たちが限界に達したのだ。過呼吸になる子までいて、その対処に追われていた。
 なんとか泣き叫ぶ年少組を宥めてから、晶は立ち上がった。
 輸送防護車の天井に取り付けられた銃座によじ登り、ガトリングガンを設置する。弾は邪神が創る必要があるが、機嫌がよければやってくれるだろう。
 下に降り、複製した弾薬が詰まったリュックを担いで、邪神――アキラと名乗る――に手短に告げる。
「僕はジニーとトーマスの援護に回るよ。ここは任せるから、可能ならアレを使って援護してくれ」
 ガトリングガンを指して言うと、邪神を鼻を鳴らして頷いた。
「ふぅん。まぁいいでしょう。お姉さんに任せておきなさい」
 やはり、今日は機嫌がいい。そのことに安堵しつつ、晶は後部の扉から外に飛び出した。
 残された邪神のアキラは、戦ってもいないのに息も絶え絶えな少女を見回した。まったく弱い存在だと思う。
 落ち着いた年少組は、後部トランクの中心に集まって抱き合うようにしており、ハルカとアンナがそばで見守っている。
 ハルカはまだ、冷静だ。彼女には現実を受け入れる度量と、安定感がある。
 問題は、アンナだった。先ほどまで窓からゾンビどもを見ていたが、ハルカに頼まれて子供の面倒を見始めてからも、どこか落ち着きがない。
 そういえば、彼女はゾンビに親を殺されていたのだったか。それも、目の前で食われたとか。
「……」
 邪神少女は首を傾げる。果たして彼女は、怖がっているのだろうか。もしかしたら、その奥にはもっと黒々とした感情が、渦巻いているのではないか。
 アンナの背中をツンツンと突き、悲壮な顔で振り返った少女に、アキラは笑顔で言った。
「あなた、心を溜め込んでいてはいけませんわよ」
「……? どういう、ことですか?」
「恐怖の裏にある憎悪。それを覆い隠すは人の性ですが……私ならば、その心、解き放つ手伝いができますわ」
「ちょっとアンタ、何を言って――」
 食って掛かろうとしたハルカを、視線だけで制す。力を失くしたようにぺたんと座り込むハルカを置いて、アキラは続けた。
「もちろん、アンナ様が望むならです。そのまま恐れを抱え続けて生きるというのであれば、私は何も、申しませんわ」
「……私が、望むなら」
「そう、あなたが望むなら――。私は、叶える側の存在ですから」
 しばしの後、アンナは顔を上げて、望みを告げた。
 邪神少女が妖しい笑みを浮かべ、その青い目がこの世ならざる力に煌めいた。

《Day2 14:07 【アンナの心】》
 戦力が前面に集中しているせいで、思いのほか近くまで、ゾンビたちが迫っていた。舌打ちをしつつ使い魔を飛び立たせ、死人どもの足を麻痺させる。
 転倒したゾンビが後続を巻き込み、蠢く死体が折り重なっていく。見ていて気持ちのいい光景ではないが、防護車と敵の距離は開いた。
 走って車両の前方へ。ちょうど、トーマスのショットガンが弾切れを起こしたところだった。晶は素早く散弾が詰まった袋を投げる。
「トーマス!」
 弾丸を受け取って、太っちょの少年は目を丸くした。
「これ、どうして?」
「えっと、ストアにあったんだ!」
「でも、ストアにガンショップは――」
「いいから使え! 死ぬぞ!」
 怒鳴ると、トーマスは慌てて弾丸を装填し始めた。ついで、ジニーにもアサルトライフルのマガジンを放る。
 リロードを済ませた背の高い少年の隣につき、アキラもまた、創ったショットガンでゾンビに応戦する。
「ジニー、トーマス! 必ず終わりはあるはずだ、みんなのためにも生き残るよ!」
「あぁ、分かってる!」
「やるしか……ないもんね!」
 ポンプアクション、トーマスがショットガンを放つ。ゾンビがひしゃげて飛び散る姿に、彼はまだ目をつぶっていた。
 だが、十分だ。彼らは戦えている。そのことに安堵した瞬間、晶たちの頭上から、凄まじい銃撃音が鳴り響いた。
 晶にとっては馴染みのある銃声だった。それは、愛用する携帯用ガトリングガンのもの。
 邪神か――。そう思って振り向いて、絶句した。
「うぁぁ……ああぁぁぁぁぁッ!!」
 輸送防護車の上部に固定されたガトリングガンを撃っていたのは、アンナだった。銃撃の振動に、三つ編みが激しく揺れている。
 見上げたトーマスとジニーも、目を丸くした。
「アンナ!? なんでお前が!」
「彼女はゾンビ恐怖症なんだ、こんなことをさせちゃ!」
「……あいつめ」
 苦虫を噛み潰したように、晶は呟いた。邪神少女が、アンナの絶望と憎しみを利用したのだろう。
 撃ち出される弾丸からは、邪神の力が迸っている。楽しんでいる証拠だ。憤慨しながらも、感情を抑える。
 ガトリングガンの火力が加わったことで、ゾンビを倒す速度が飛躍的に上がった。一行の進む速度が、上がっていく。
 成果は出ている。それは、認めざるを得なかった。
「……行こう。彼女の援護があれば、もっと前に出られる」
 戸惑う少年二人の背中を押して、晶たちは進む。どこへかは分からないが、ともかく、前へ。
「あぁぁぁ! うあぁぁぁぁっ!!」
 少女の胸に膨れ上がった憎悪の叫びが、弾丸の激流を作り出す。

成功 🔵​🔵​🔴​

テイラー・フィードラ
そうだ、こんなところで死ぬな。生き足掻け。

騎乗したままフォルティに命じ、子らに押し寄せるゾンビ共を蹴飛ばさせる。
しかし敵の数が数だ、私自身の技能では防衛することは難しいであろう。

ならば私は死中に活を求める。
フォルティと共に敵陣へ突撃する。
蛮勇だ、無駄だ?戯け、弱者≪民≫が見ているのだ。王族たる俺が引き籠る等ありえん!
フォルティに我が魔共の力を取り込ませ異形化、巨躯となり屍共を轢き飛ばし潰して行かん!
俺自身も抜剣し首を切り飛ばさんとしよう!

それで此奴に乗り込み、俺の背後を取ろうとする者がいると?そのような血の臭いを振り撒くものが吸血鬼紛いを奇襲しようとする等笑止千万!振り落とし切り捨ててくれる!



《Day2 14:15 【王者の勇】》
 先の見えない戦いは、ようやく持つことが出来た少年たちの戦意を、見る間に削っていく。
「くそ……死んでたまるか! 生きるんだ、俺たちは! 生きるんだッ!」
 アサルトライフルのマガジンを交換しながら、ジニーが必死に自身を叱咤する。
 その声を聞いたテイラー・フィードラ(未だ戴冠されぬ者・f23928)は、クールベットする屈強な愛馬の上で、剣を振るいながら叫んだ。
「そうだ、こんなところで死ぬな! 生き足掻け!」
 愛馬フォルティの横腹を締めて合図し、ジニーとトーマス、そして防護車に群がるゾンビどもを片っ端から蹴飛ばしていく。
 美しい細剣を腐った血に染めるテイラーに、何度目かの装填を行なうトーマスが不安げに言った。
「でも、このままじゃまずいですよ……! あの竜巻は消えないし、ゾンビはまったく減らない!」
「確かに、敵の数が数だ。このままでは押し切られよう。守りに入れば、食われるが道理」
 事実は事実として静かに受け止め、しかしテイラーの目には、諦めの色はまるでない。
 輝く剣を、天へと突きあげる。
「ならば、死中に活を求めるまで! ゆくぞフォルティ、我が覇道のためにッ!!」
 巨馬が嘶き、走り出す。群がるゾンビの中へと、躊躇なく飛び込んだ。蹴散らし斬り捨て、前へと進む。
 あるいは蛮勇、ともすれば無謀。仲間たちの目には、もしかしたらそう映っているのかもしれない。
 しかし、テイラーはそれを一笑に付す。弱者が――民が、見ているのだ。
「王族たる俺が、亡者如きに退くことなど……あり得ん! あり得てなるものかッ!」
 幾本もの死した手を斬り払い、その首をも飛ばしながら、従える悪魔の力をフォルティへと取り込ませる。
「フォルティ! 我が生涯の友よ! 悪魔の力を喰らい、蠢く屍どもを蹴散らせェッ!」
 愛馬の目が真紅に染まり、全身の筋肉が盛り上がり巨大化、体表には黒い毛と翼が広がり、フォルティはその姿を異形へと変えた。
 巨躯と化した愛馬が、群れの中を駆ける。進路にいるゾンビを撥ね飛ばし、轢き潰していく。跨るテイラーもまた、敵の首を片っ端から斬り捨てていった。
 まさしく一騎当千。だが、この数だ。全てに対応することは不可能だった。
 フォルティの体にしがみついてよじ登ってきたゾンビが、テイラーの背後に迫りくる。その頭部を噛み砕こうと、手を伸ばす。
 刹那、死人の腕は切断された。煌めいた白刃の先で、殺気を滾らせた男が吼える。
「血の臭いを振り撒く貴様が、吸血鬼紛いの俺を喰らおうなどとは、笑止千万!」
 暴れるフォルティの背から、ゾンビは支える腕もなく転がり落ちた。その一瞬で剣を一閃、胴を両断された敵は、群がる手の中に消えていった。
 テイラーの突貫が功を為し、猟兵たちの進軍が加速する。輸送防護車の動きに合わせてジニーとトーマスが走り出すのが見えた。防護車の上では、アンナが猟兵のものだろうガトリングガンをばら撒いている。
「うおおおおお! おっさんに続けぇぇぇぇ!!」
「終われ、終われ、終われ! 早く終わってくれぇぇぇッ!!」
 思い思いに叫びながら、敵を次々に打ち倒していく。この短期間に、よくぞあそこまで成長してくれたものだと、テイラーは歓喜を覚えた。

 その、直後。
 防護車が、止まった。

《Day2 14:25 【鬨】》
 ゾンビの体がタイヤに巻き込まれ、輸送防護車が動かなくなってしまった。
「な――に?」
 絶句して、その光景をただ見つめる。エンジンを掛けなおしても、無駄だった。死体を取り除く暇など、ない。
 運転していた猟兵が飛び降り、アンナとハルカ、年少組を外に出す。もう車はあてにできないと見たのだろう。
 地獄のような光景を再び目にし、幼い子らが泣き喚く。果敢に戦っていたアンナもまた、青い顔をしてハルカに支えられていた。
 猟兵たちが、守りに動く。少女と子らを囲んで、テイラーたちが切り開いた血路を進みだす。
 死体を踏み越え、その感触に泣きわめきながらも、子供たちは歩く。前へ、テイラーの方へ、生きるために。
「……!」
 ならばなおさら、彼らを死なすわけにはいかない。迫る死体どもを睨む目を見開き、テイラーは再び、天日に剣を掲げた。
「進め! 所詮命無き者ども、飢えしか感じぬ信念なき骸など、恐るるに足らぬ! 我らの死に場はこのようなところにあらず! 今一度言おう――生き足掻けェッ!」
 親友の嘶きを力に変えて、テイラーは誰よりも前に出て、戦う。
 絶望に抗う者がいることを、今を生きる子らに、示すために。

成功 🔵​🔵​🔴​

トリテレイア・ゼロナイン
長い戦いになりそうです
ですがあの子達は心細くとも歩き続けんとする意志の片鱗を見せてくれました。嵐などに吹き消させはしません

戦場に発振器を射出や●投擲
陸路の敵を押し留める防衛線…防御重視【壁】を複数層構築
肝心なのは完全に遮らず大きな隙間を作ること
そこに殺到する敵を一掃したり、打って出る味方の為
センサーで●情報収集した敵物量をバリアのオンオフである程度制御

大規模攻撃は不得手なので子供達の防衛と調整に専念

接近されれば●スナイパー格納銃器で一射一殺を理想に
弾切れ後はアンカー先端に儀礼剣を取り付け●ロープワークで●操縦
鞭の様に●なぎ払い

近くで立ち続け、大盾で何時でもかばえることを示し子供達を勇気づけます



《Day2 14:26 【守護者】》
 幼い子らと女の子二人を守っていた輸送防護車が、壊れた。もとよりユーベルコードで作られたものだったが、もう一度作り直す余裕は、ない。
 猟兵たちが切り開いた血の道を進みながら、子供たちは号泣していた。ゾンビがすぐそばに迫っているのだから、当然のことではあった。
 それでも、彼らは歩き続ける。その意志に、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は応えねばならなかった。騎士として、大人として。
「長い戦いになるとは思っていましたが……」
 想定外の事態が起こったことで、戦線が崩れた。進めてはいるが、徐々に押し込まれつつある。
 立て直す必要があった。トリテレイアは肩部から攻勢電磁障壁発振器を射出する。発振器はしばらく飛行してから、ゾンビを押しのけて地面に突き刺さった。
 直後、アスファルトからエネルギー障壁が立ち上がる。歩き続けていたゾンビが障壁に接触、指向性電磁波で急激に弱らせられ、後続のゾンビに押しつぶされた。
 障壁には、大きな隙間がいくつもあった。そこから仲間が打って出て、勢いをさらに削いでいく。
 時折突破してきた敵は、その瞬間に頭部格納機銃で射殺した。
 光の壁に遮られた道を、子供たちは恐る恐る進む。すぐそばにはゾンビがいるのだ。壁が消えたらという不安が消えないのだろう。
「……お姉ちゃん、ぼく、怖いよ」
 ハルカにしがみつく男の子の言葉に、同じように青い顔をしているというのに、ボブヘアーの少女は気丈に答えた。
「大丈夫。大丈夫だから。見て、みんなが守ってくれてるのよ」
 彼女が指さしたのは、エネルギー障壁の外で戦う猟兵たちだった。ゾンビの大群を圧倒していく戦士たちの姿に、男の子は恐怖に震えながらも涙を拭った。
「……がんばる」
「大丈夫ですよ。私たちが必ず守ってみせましょう」
 トリテレイアは、子供たちに大盾を構えて見せた。年少組の子らは頷いてくれたが、ハルカに引きずられるように歩いているアンナは、虚ろな目をしていた。
 隙間から襲い来るゾンビを格納機銃で撃ち倒し、残弾が残り僅かなことを確認しながら、尋ねる。
「アンナ様、お加減がすぐれませんか。どこか、負傷など」
「……いえ」
 力なく首を横に振る。相当に、心を消耗しているように見えた。
 輸送防護車の銃座からガトリングガンをぶっ放していたのは、彼女だった。大人しい三つ編みの少女からは到底想像できない光景だったが、やはり、無理をしていたらしい。
 心に溜まりこんでいた憎しみを、抑えきれなかったか。彼女の体験を思えば致し方ないことだが、その反動もあって心は弱り、彼女の足は今、折れんばかりにがくがくと震えている。
 トリテレイアは、ハルカに緑のアイカメラを向けた。
「申し訳ありませんが、ハルカ様、アンナ様のことを今しばらくお願いいたします」
「え、そりゃ面倒みるけど……。どうするの?」
「一刻も早く突破し、この状況から脱する必要があります。皆さんの精神が、限界に来ていますので」
「……今に始まったことじゃないわ」
 言い返してくるハルカに、それはそうだと思った。だが、心が摩耗され切ってなくなった時、人は生きることすら困難になってしまう。
 それだけは、避けなければならない。弾丸が切れたため、トリテレイアはワイヤーアンカーの尖端に儀礼剣を取り付けた。
 その瞬間だった。防護壁が許容限界を超え、ゾンビがなだれ込む。再び視界を覆いつくす敵の大群に、幼児たちが泣き叫ぶ。
 群がる敵へワイヤー付きの儀礼剣を薙ぎ払い、その前列を切り裂きながら、トリテレイアは子供たちのそばにぴったりと寄り添い、盾を前面に突き出した。
「ご安心を。この盾に誓って、必ずや守ってみせます」
 子供たちに、強く強く、宣言する。
 空には依然、オブリビオン・ストームが渦を巻いている。あらゆる無機物が破壊され、その度にゾンビが生まれ出ているようだった。
 全ての生を否定するかの如き漆黒の竜巻に、トリテレイアは小声で強く宣言する。
「この子たちは、生きると決めたのです。……嵐などに、吹き消させはしません」
 彼らの命は、この世界に灯る希望なのだ。彼らを守ることで、アポカリプスヘルの未来が変わるかもしれない。
 その時のために、彼は戦う。引き寄せた儀礼剣の刃が腐った黒い血に染まっても、大盾が死人の油に塗れても。
 トリテレイアは、戦う。

成功 🔵​🔵​🔴​

ルナ・ステラ
(ハルカさん自信をもってくださいね!)

—全方位からのゾンビ...
一番心配なのは年少組でしょうか?
でも、他の人達も心配です...
年少組をメインに守りますが、年少組をはじめ、渡せる人にはエオロー(守護、友情)のルーンカードを渡しておいて、もしもの時の助けになるようにしておきましょう。

狼さん達には年少組を守ってもらいましょうか。
わたしは、【属性攻撃】の炎魔法でゾンビの数を減らしていきましょう。
また、余裕があれば獣奏器で【楽器演奏】して、全体を【鼓舞】しましょう。

絶対にみんなを、友達を、守ってみせます!



《Day2 14:32 【おまもり】》
 隙あらば食らおうとしてくるゾンビたちの間を、彼らは進む。猟兵たちは誰かの掛け声で、子供らを守るために方円陣を組んで戦い始めた。
 三百六十度、見渡す限り、死者の山。その光景を怖いと感じない者が、いるのだろうか。
 少なくとも、年少組はそうではないだろう。ルナ・ステラ(星と月の魔女っ子・f05304)は、姉貴分の少女二人にしがみついて強く目を閉じる子供たちに、駆け寄った。
「大丈夫だよ。あたしたちが、ちゃんと守るからね」
「ほんと……?」
「はい! お姉ちゃんは、とっても強いんだから!」
 飢える死者のうめき声に負けないよう、とびきり明るい声で言って、ルナはポケットからルーンカードを取り出した。
 選んだカードは、エオロー。守護や助け合い、友情の意味を持つルーンだ。それを、年少組に手渡していく。
 きょとんとする子供たちに、ルナはもう一度笑った。
「お守り。このカードを持っていれば、もうゾンビなんか怖くないよ。だからがんばって、ついてきてね」
「うん……」
 力なく頷く子供たち。それでも、進むと約束してくれた。
 ルナも陣形の輪を埋めるべく杖を構えたが、立ち止まって振り向いた。
 ゾンビ恐怖症が極致に達してしまったアンナまで支えているハルカに、駆け寄る。そして、彼女にもルーンカードを差し出した。
「ハルカさんも」
「私はいいわよ。大丈夫」
 気丈に首を振る、ボブヘアーの少女。しかし、その顔色は目に見えて悪い。彼女も怖くないわけがないのだ。
 ルナは懇願するように、カードをハルカに押し付ける。
「持っていてください、お願い。一番近くでこの子たちとアンナさんを助けられるの、ハルカさんしかいないんです」
「……買いかぶり過ぎよ。私だって、もうきついんだから」
「分かってます。怖いですよね。わたしもそうですもん。でも、ハルカさんは今、一番普通でいられているの。だから……自信を持ってください!」
 必死なルナの姿に、ハルカは数秒の沈黙の後、震える手でカードを受け取ってくれた。
 ありがとう、と笑顔で告げて、ルナは光の粒子を散らす杖を振り上げた。
「狼さん、この子たちを守ってあげてっ!」
 声に応えて光が集まり、銀と月白、二匹の狼が現れる。銀狼は、驚いて目を見開く小さい女の子の頬を、ぺろりと舐めた。
 彼らがいれば、万一猟兵の円陣をゾンビに突破されたとしても、多少なら問題なく対処できるだろう。
 ルナは今度こそ、蠢く骸の群れと対峙した。目線も定まらず、一切の生気もなく歩み寄るゾンビは、やはり怖い。
 唇を強く結んで決意を固め、迫る屍に杖を向け、魔法を放つ。
「燃えてっ!」
 迸る魔力に声が拡散し、ルナの足元から炎の波が巻き起こる。焔の怒涛が、ゾンビたちをまとめて食らいつくした。
 人の焼ける臭いに、ルナは思わず鼻を手で覆った。ひどく残酷な臭気だった。
「うっ……、負けちゃだめだよ、わたし!」
 くじけそうになる心を自分で励まし、燃え倒れる亡き骸を踏んで近づくゾンビに、何度も何度も魔法を放つ。
 少しずつだが、猟兵たちと少年少女は前進していた。どこまで行けばいいのかも分からないが、それでも生きる道がこの先にあると信じて、戦い続ける。
 強大な炎の魔法を連発していると、息が上がる。隣で戦う猟兵に「無理をするな」と声をかけられ、まだいけることを伝えようとした、その時だった。
 背後で、悲鳴が上がった。アンナのものだ。
「!」
 振り返ると、三体のゾンビが陣形を突破していた。うち二体をすぐさま狼が咬みつき押し倒すが、彼らは二匹しかいない。
 残り一体、片足を失った屍が地面を泳ぐように、ハルカとアンナ、年少組に近づく。その不気味さで、子供たちは動けない。
 両腕の力だけで進んでいるのに、ゾンビは異様に早かった。ルナが駆け寄るも、間に合わない。立ち竦む男の子の足首が、掴まれる。
 咬みつかれる刹那、ハルカが叫んだ。
「ダメ――やめてぇぇぇッ!」
 その時、ハルカと子供らが持つカードが、凄まじい光を迸らせた。
 守護のルーンが発動し、男の子を喰らおうとしたゾンビを、何か巨大な力で殴りつけたかのように吹き飛ばした。
 空中でもんどりうつゾンビ目掛けて、ルナは炎の魔法を叩き込む。炎上して落下した敵は、そのまま動かなくなった。
 ハルカと男児に駆け寄って、思わず涙ぐむ。
「大丈夫でしたか!? ケガはない?」
「う、うん」
「この子は無事よ。あなたのおかげね、ルナ。……このお守り、本物だわ」
 男の子を抱きしめたまま、カードに描かれたルーン文字を撫でるハルカ。ルナはパッと顔色を明るくし、ルナは何度も何度も頷いた。
「ハルカさんの想いが、ルーンを動かしたんですよ! やっぱりすごいです!」
「やめてよ、恥ずかしいから。でも……うん。ありがと」
 勝気な少女は、わずかに笑みを浮かべた。その微笑みに、ルナは心から、呟く。
「やっぱり、強いなぁ。わたしも……がんばらなきゃ」
 ゾンビに囲まれたこの状況でも、ハルカにはまだ笑える強さがある。そのことを心から尊敬しつつ、再び敵へと向き直る。
 魔力が尽きかけて息が上がっても、杖に炎を纏わせて、ハルカの笑顔に応えるために、ルナは魔法を放ち続けた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ルベル・ノウフィル
【金平糖2号】緋雨殿と

味方を庇う
先日盾を壊してしまったのでオーラ防御のみ
ボロボロになりつつ
子供に配慮し幻術で負傷を隠すよう工夫/物を隠す

ただ守られていても僕は良いと思うけど
全力魔法
UC:聖女の願い

「戦場にいる全ての味方の生命を守りたい」
周囲の猟兵さんと子供に賛同を求める

共に時間を過ごした仲間、戦っている皆、守るべき友
守りたいと念じてください
その力がきっと加護となる

僕は思うのです
一見救いがない現実でも
諦めずに手を伸ばせば意外と奇跡は降ってくるもので
でも、奇跡だと思ったソレ
よく見たらただの努力の成果だったりするもので

…もちろん、何もしないで泣いていてもいいけど
僕は、世界に抗うのが好きなのです


天翳・緋雨
【金平糖2号】ルベル君と一緒

ルベル君は子供達を護る感じかな?
それもいいね!(普段怪我しすぎだから…ホントにね)
ならばボクが迎え撃とう
実際は他の猟兵も防衛するだろう
お互いを活かしあう立ち回りをするよ

第三の瞳は封印と行こうか
消耗が激しく長期戦に向かないかも
UCは【浮雲】を
打撃系格闘技を主体として舞踏の動きを組み込み舞うが如く闘う
(グラップル・ダンス)
UCの効果もフル活用
一撃離脱を意識した立体的な機動でゾンビに付け入る隙を与えない
(第六感・見切り・戦闘知識・ダッシュ・ジャンプ・空中戦)
打撃が当たる瞬間だけ雷撃を発生させ叩き込む(属性攻撃)

疲れを見せずに快活に振舞う
この背中を子供達が見ているかもだから



《Day2 14:42 【近づく終わり】》
 小さな体を覆う輝きが、飢える屍に組み付かれる。
「くっ……!」
 振り払い、ゾンビの首を刀で斬り飛ばして、ルベル・ノウフィル(星守の杖・f05873)は荒れる呼吸を整える。
 噛まれた左腕の痛みが顕著だ。感染するようなタイプではないことは幸いだが、鈍痛から、骨にまでダメージが及んでいることが分かる。
 滲む脂汗を拭って、傷口に幻術をかける。背後の子供たちに見られないよう、あたかも服すら破られていないかのように見せかけた。
 だが、肩まで響いてくる痛覚はごまかせない。顔をしかめる人狼の少年に、高い跳躍から降りてきた天翳・緋雨(時の迷い人・f12072)が言った。
「ルベル君、やられたのか?」
「ご心配には及びません。かすり傷でございます」
 平静を装うルベルに、緋雨は露骨にため息をついた。いつもこれだ、と思った。
 この少年は、隙あらば自分を殺そうとしている。そんな馬鹿げたことを考えてしまうほどに、自分を傷つける癖があった。
「……幻術で誤魔化してもだめだ。一旦下がって」
「むぅ」
「陣の中でも役割はある。そうだろ?」
 緋雨に諭されて、ルベルはしぶしぶといった様子で方円陣の中に退避した。
 戦いに戻る緋雨を見ながら、黒刀「墨染」についた血を振り払い、一度鞘に納める。そして、眉をひそめた。
 陣の内側から見てみると、徐々に方円が縮まっていることが分かった。猟兵たちの疲労もあって、じわじわと押し込まれているのだ。
 子供たちは、一様に不安そうにしていた。その中でもひときわ顔色の悪いのは、アンナだった。
「彼女は、確か――」
 一時、輸送防護車に取り付けられたガトリング砲で、敵を一網打尽にしていた。あの時の顔は、憎悪と怒りに満ちていたように思う。
 それらを吐き出してなお、彼女は強烈な恐怖心を抱いている。これほど近くにゾンビがいれば、当然と言えばそうなのだが。
 対照的に、ハルカは気丈だった。猟兵からもらったというお守りを握りしめて、年少の子らがパニックになって走り出さないよう、必死になだめている。
「……」
 ルベルは仲間たちを見た。時が経てど好転の兆しすら見えない絶望的な状況下の中、死に物狂いで戦っている。
 だが、それもいつまで持つだろうか。もう長くはないなと、ルベルの心の冷たい部分が呟いた。

《Day2 14:44 【ボクが笑えば】》
 ルベルが傷を負った時にはひやりとしたが、彼の戦意は失せていなかったようだ。盾がない代わりに守りのオーラを纏って、子供たちの防衛に回っている。
 持てる力の多くを守りに割いた友人に、緋雨は安堵の息をつく。
「ルベル君は子供達を護る感じかな。……それもいいね」
 深く、そう思う。己の身を驚くほどに軽んじる癖は、治して欲しいものだ。
 無論彼の中には、そうする理由があるのだろう。だが友としては、見ていてたまらないものがあるのだ。
 ともかく、ルベルが守りに入るのならば、打って出るのは緋雨の役割だ。
 他の猟兵同様、緋雨も体力をすり減らしている。消耗が激しい第三の目は封じるしかないが、打つ手はある。
 ゾンビの顎に跳び膝を放り込み、そのまま緋雨は、空を跳んだ。空中に足場があるが如くステップを踏み、引きずり降ろそうと伸ばされる手を足蹴にしていく。
 腐った腕は、ただの一撃で引きちぎれた。だが、まるで気づかないように、死人たちは失った手を緋雨へと向ける。
「……なるほど、これは怖い」
 高く跳びながら、苦笑する。上から見ても、どこまでもゾンビしかいない光景を見れば、子供たちが震え上がるのも無理ないことだと思った。
 空中で反転、空に足を向けた。重力を操作し真下に向けて加速、敵の反動速度を超えて地面に手を突き回転、遠心力の乗ったキックが直撃すると同時に、激しい稲妻が迸る。
 打撃と雷撃に吹き飛ばされる屍ども。緋雨は腕を使って再度跳び、食欲のままに突き進んでくるゾンビの頭上に躍り出た。
 空中でジャンプし、味方に目をやる。猟兵は疲労困憊に見えるが、まだ戦えていた。
 一方、黒い嵐は遠くなりつつあるものの、今も空を脅かしている。敵は無数に、湧き出していた。
「あれが消せれば……いや」
 その手立てが分からない以上、下手な博打は打てない。守るべきものがあるのだから、なおさらだ。
「もう一度、いくぞッ!」
 重力を増加させて、ゾンビの頭部を踏み潰して着地、目の前で大口を開けた死人の顎に、雷を纏うジャンプアッパーを叩き込む。
 跳んだ直後に大地に引き寄せる力を切り離し、ゾンビの手が届かない高さへ。立体的な機動の戦闘は、緋雨のスタミナを容赦なく吸い取っていく。
 汗が散る。息も上がるが、緋雨は笑う。笑わなければならない。
 彼の視線の先には、猟兵たちに囲まれて進む幼い子供たちがいた。
 彼らが見ている。空中で舞うように戦う緋雨の背中は、ずっと見られていたのだ。
 ならば、せめて快活に。それが役目だと思った。
 子らを守る人狼の少年と、目が合う。何かを問いかけているかのように思えた。
「……うん、まだやれるよ、ルベル君」

《Day2 14:42 【アンナの願い】》
 空を舞う緋雨。まるで昨晩のダンスのように、楽しそうに見えた。
 だがルベルは、彼の笑顔が演じているものであることに気が付いていた。子供たちを安心させようと努める姿に、悲壮な覚悟すら感じるのは、考え過ぎだろうか。
 無理をしないでほしい。そんな言葉が脳裏を過ぎるが、それはどうだろうかとも思う。確かに無茶を通せば死が近づくばかりの状況だが、だからといって、何もしないでいて、いいものか。
 振り返る。今にも倒れそうなほどに震えるアンナと、目が合った。
 気づけば、ルベルの口は開いていた。
「ただ守られていても、僕は良いと思うけど」
「……?」
「もしもまだ、この状況に抗うつもりがあるのなら、僕と『彼女』の願いを聞いてほしいのです」
 そう言った瞬間、ルベルの隣に眩い光が降り注いだ。それは、グリモアの力に似た、しかし別のもの。
 現れたのは、一人の少女だった。年少組の少年らと、さして年は変わらないだろう。しかしどこか、気品を漂わせている。
 少女――アルトワインはおもむろに両手を広げ、歌うように言った。
「精霊たちよ! 今この時、この場にいる者たちの、『生きたい』『守りたい』という願いを、どうか受け止めてください!」
「皆さん、仲間の命を守りたいとお思いならば、アルトワイン殿の言葉に賛同を。共に時間を過ごした仲間、戦っている皆、守るべき友……。守りたいと、念じてください。その力がきっと加護となります!」
 ルベルと少女の、愛らしくも凛とした声が響く。
 同時に、猟兵たちが守護の光に包まれる。方円陣が、頑強な結界を張り巡らせた。彼らは、アルトワインとルベルの声に応えたのだ。
 しかし、ハルカ以外の子供たちは震えたまま、立ち竦んでいる。恐れに支配された心では、誰かの無事を祈る余裕はないのだろう。
 年少組はいい。だが。ルベルはアンナに振り向いた。
「アンナ殿。僕は思うのです。一見救いがない現実でも、諦めずに手を伸ばせば、意外と奇跡は降ってくるもの」
「……」
「でも、奇跡だと思ったソレ、よく見たらただの努力の成果だったりするもので。皆さんが僕らに出会えたのも、絶望しながらも歩き続けたからではありませんか」
「私たちが……歩き続けたから……」
 アンナは、ボロボロになってしまっている服の裾を掴んだ。目を閉じ、涙ぐむ。
 そんな少女に、ルベルはなおも問うた。
「もちろん、何もしないで泣いていてもいいけど。一度掴んだその命です。アンナさんは、どうしたいのでしょう?」
「私は……」
 ゾンビは嫌い。生きるのが辛いと感じる。仲間の足を引っ張っている今の自分が、大嫌い。
 だけど、死ぬのはもっと嫌だ。楽になれるのだとしても、それは、できない。
「僕は、世界に抗うのが好きなのです」
 死する運命とばかりに絶望を押し付けてくる世界。冗談ではないと、アンナも思った。
 思い出す。父母の声。「生きろ」と叫ぶ、両親の言葉。心の中で、何度も響く。
 あぁ、これが私の願いなんだ――。
 そう気づいたとき、アンナは叫んでいた。
「私は、生きたい。みんなと一緒に! 誰かが死ぬなんて、もう、イヤなのっ!!」
 アンナから迸る願いの波動が、眩い光の壁となり、子供たちを、猟兵たちを、包み込む。
 微笑みを浮かべたアルトワインが、光に消える。その姿に軽く頭を下げてから、ルベルはもう一度戦うべく、黒刀を抜いた。
「その決意、今度は揺るがせないようにいたしましょうね。アンナ殿の『生きたい』という想いは、あなた方四人の中で、誰よりも強いのですからな」
 そう言って、ルベルは振り向く。
 頷くアンナは、唇を震わせながらも、強く輝く瞳に変わっていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


訂正:《Day2 14:42 【アンナの願い】》→《Day2 14:48 【アンナの願い】》
フランチェスカ・ヴァレンタイン
数だけは多いようですが… ええ、子供達の処までは通しませんよ? お下がりなさい…!

神聖属性を纏わせた斧槍で迫り来るゾンビの群れをなぎ払い、その動作に合わせてUCの水晶群を広域展開
女子組と年少組を包み込むバリアフィールドの生成を
後顧の憂いを除くのでしたら万全としませんと、ね?

子供達の安全を確保しましたらバーニアを噴かして飛び立ち、空中戦で上空からの重爆撃と参りましょう
俯瞰視点を活かしての援護射撃で男子組や他の方へのフォローもしつつ

さて、広域殲滅でしたらお手の物です
乱れ撃った砲撃が水晶間で不規則な乱反射を繰り返し、極限まで増幅されて拡散して地表へと降り注ぐレイストーム
どうぞ、存分に召し上がれ――!



《Day2 14:49 【レイストーム】》
 豊満な体に汗を散らせて、フランチェスカ・ヴァレンタイン(九天華めき舞い穿つもの・f04189)は斧槍を薙ぎ払う。
 この世界のゾンビにも、神聖なる力はよく効いた。首を刎ねずとも、聖なる光は胴を切り裂くだけで致命傷となり得るらしい。
 それにしても、数が減らない。一体どれほどの量が涌いているというのか。
「物量作戦にも、程がありますわ」
 一人毒づき、斧槍を一閃。走った光が結晶化し、方円陣を取り囲むように水晶の盾が出現する。
 ゾンビの猟兵たちとの間に障壁が埋まれ、知能のを持たない屍たちは、次々に水晶壁にぶつかって、後続に押しつぶされて肉塊と化した。
 なんとも無残で無様な光景だが、フランチェスカはその死に様を価値無しと断じた。そもそも、彼らは死んでいるのだ。
 エーテル水晶のバリアフィールドが役に立っていることを確認し、後顧の憂いを除いた彼女は、白翼を広げた。
「ここは頼みますわ。私は空から進路への爆撃を」
 仲間に言って、頷き返されるや、バーニアを吹かして空へ飛び立つ。
 漆黒の竜巻のせいで、上空の気流は酷く乱れていた。その中でもぶれることなく飛びながら、フランチェスカは目にした光景に半眼を向ける。
「本当に、数だけは多いようですねぇ……」
 空の上から見ても、ずっと遠くまでゾンビが埋め尽くしている。猟兵と子供たちだけを狙う数にしては、あまりにも過剰と言えた。
 とはいえ、群れは無限ではなかった。地上にいては分からないだろうが、フランチェスカには荒れ果てた街の向こうに、ゾンビの大群の最後尾が見えていた。
 あそこが、オブリビオン・ストームの効果範囲の境界だろう。辿り着ければ、生き延びられる。
 遠いが、行くしかない。不安を切り捨て、翼を一打ち、体勢を整えて、地平線へと砲塔を向ける。
 フランチェスカの真正面に、エーテル水晶が出現した。見れば、彼女の周りには無数の水晶塊が現れ、それぞれ独自の方向を向いている。
「子供たちのところまでは――通しませんよ?」
 発射。連続で放たれた光焔は、展開された水晶体に衝突して分裂、さらに幾本もの光となって、幾度となく乱反射を繰り返す。
 反射の果てに無数に分裂した光は、やがて仲間を避けるように、豪雨の如く敵に襲い掛かる。
 ゾンビだけを的確に殺すためのレーザーが、蠢く屍の脳天を突き破り、蒸発させていった。
 広範囲に及ぶ爆撃は、一時進軍の手助けとなった。しかし、すぐに次のゾンビが押し寄せる。子供たちは手を取り合って、泣きじゃくりながら必死に歩いていた。
 飢えしかない屍の包囲は、猟兵たちの陣形を徐々に押し込んでいく。子らに手が届くようになれば、全てが水泡に帰す。
 そんなことはさせない。フランチェスカは再度砲塔にエネルギーをチャージしつつ、呟く。
「通さないと言ったはずです……!」
 テールバインダーの砲塔が煌めき、眩い砲撃を乱れ撃つ。極限まで増幅された光が水晶に衝突、再び反射を繰り返し、神聖なる裁きの雨となって、命無き者どもに降り注いだ。
「お下がりなさい……!」
 拡散された光は、ゾンビを穿ち、蒸発させ、焼き尽くす。超広範囲に及ぶ爆撃は敵の密度を確実に減らした。
 猟兵たちが、陣形を再展開させた。屍の大群の中に穴が開いたように、子供たちを守る方円が広がる。
 さらにもう一撃放とうとして、チャージまで時間がかかることに気づく。咄嗟の一撃だったとはいえ、全力が過ぎたか。
 悔いても遅い。接近戦に切り替えようと翼を畳み、急降下しようとした。
 その時、フランチェスカは目を見開いた。

《Day2 14:55 【光】》
「あれは……」
 遠く――蠢く骸の向こうに、白い光の玉が一つ、浮いている。太陽ではない。見紛うはずがない。位置が、低すぎる。
 さらにもう一つ、今度は地面から撃ち上がる。色は、赤だった。
 何を意味しているかは、分からない。だが、分からなくとも十分だった。
 チャージは不十分だが、もう迷ってはいられなかった。砲塔を、猟兵と子供たちの進路に向ける。
「露払いはしますから、駆け抜けてくださいまし――!」
 発した声は聞こえずとも、彼らなら気づいてくれるはずだ。一縷の望みを手放すほど、仲間たちは弱くも愚かでもない。フランチェスカは迷わずチャージ中のエネルギーを撃ち放つ。
 昼下がりの青空に撃ち上がる、二色の光。
 あれは、信号弾だ。
 そこに、人がいるのだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴァシリッサ・フロレスク
ノインテーターを片手に、スヴァローグを背負い。
予備弾倉を満載した愛車ハティを駆って嵐を猛追。

Hey!待たせたね、Boys&Girls?
最高にCOOLでHOTなHOPEをお届けだ♪

年少組と女子二人を、ノインテーターの制圧射撃による牽制&地形の利用で匿いつつ、
少年二人を援護射撃でカバーする。

二人が危うい時は早業の武器受け&激痛耐性でかばう。

なァ?
誰かの為に、トリガーに掛けたその指は。
その勇気と覚悟にゃ、嘘は無いンだろ、少年?

――Ya.上出来だ。

頃合いを見て、囚獄の燎火で一気に攻勢に出る。
優勢と見えりゃ、このコ達も士気が上がンだろうよ。

――怖い?
ハハッ!最高じゃないか?
まだ“生きてる”ってコトさ。



《Day2 14:56 【Bang!】》
 天に昇った光弾を誰もが見上げた、その時だった。
 彼女は、漆黒に渦巻くオブリビオン・ストームからやってきた。
 オフィスビルの廃墟から、唸るマフラーを引っ提げて、バイクが跳ぶ。跨る赤毛の女が、凶悪な笑みを浮かべて銃を乱射した。
「ハッハァー! 最高のタイミングだ! 主役が遅れて登場だよ、拍手しなッ!」
 ゾンビの群を、カスタムバイク【ギュルヴィ・モータース XR17G/S HATI(ハティ)】の重量で頭から踏み潰した女は、円陣を組みながら戦い進む猟兵たちの前で、ゾンビを撥ね散らかしてブレーキをかけた。
 必死に銃撃をしていたトーマスとジニーが、目を丸くする。二人と目が合って、その女――ヴァシリッサ・フロレスク(浄火の血胤(自称)・f09894)はウィンクなどしてみせた。
「Hey!待たせたね、Boys&Girls? 最高にCOOLでHOTなHOPEをお届けだ♪」
「は、はぁ……」
「な、なんだあんた! どっから来たんだ!?」
 思わず呆けるトーマスとマガジンを交換しながら叫ぶジニーに、肩を竦める。
「女の秘密を探るなんて、野暮な奴だねぇ」
 言うが早いか、ヴァシリッサは相棒である9mm口径フルオート自動拳銃【Neuntöte(ノインテーター)】を屍の大群に向けた。
 嬉々として、トリガーを引く。ばら撒かれた弾丸が拳銃とは思えない威力を以て、ゾンビどもを蹂躙していった。
 空に昇った光を見た猟兵たちが、陣形を崩した。幼い子らを抱える者もいる。ヴァシリッサは、少年たちに、口早に言った。
「Hey kids,あのゴキゲンな光が見えるかい?」
「あ、あぁ……あれは、まさか」
「信号弾!? 人がいるんだ!」
 驚くジニーと感激するトーマスに頷き、バイクのハンドルをひねる。吼えるエンジンに気をよくしたヴァシリッサの眼光が、煌めく。
「そういうことさ! さぁ、光のもとまでマラソンだよッ!」
 少年たちが走り出し、ヴァシリッサはその背を追うように愛車を駆る。
 散り散りにならないよう固まりながら、一行は信号弾目指して駆けた。ゾンビの群れは、容赦なく迫る。
 ジニーとトーマスは息を荒げながらも、先頭についていく。掴みかかる屍の手を撃ち払いながら。
 なんとも、勇ましい。ヴァシリッサは愉快げに声を上げて笑った。
「Ya.上出来だ! トリガーに掛けたその指、その勇気と覚悟にゃ嘘は無さそうだなァ、少年!」
「ここまでやれたんだ! 今更死んでたまるかって!」
「もう少し、もう少しで助かるんだ、僕たちは!」
 状況が変わったことで、彼らは明るさを取り戻しつつあった。
 上空から仲間が広範囲爆撃をしてくれているおかげで、敵の密度も薄い。子供たちを連れた猟兵の進みは、これまでが嘘のように加速していた。
 しかし、子供の足だ。速さには限界がある。陣形を解いた今、ゾンビどもに食われる危険は大幅に上がっている。
 もう、出し惜しみする必要はない。ヴァシリッサは背の射突杭【スヴァローグ】を手にした。
「邪魔だよB級ホラー! 道を開けなッ!」
 発射。ゾンビの足元に打ち込まれた杭が、その威力を地脈までもたらす。
 刹那、炎の柱が立ち上った。煉獄を思わせるその焔に照らされなが、彼女たちはなおも走る。
 よほど爆撃の効果があったのだろうか。敵は驚くほどに減っていた。なにせ、ついさっきまでゾンビに埋め尽くされて見えなかった道が、見えているのだ。
 トーマスが息を乱しながら、怪訝な顔をした。
「おかしい……! 奴らが減りすぎてる!」
 振り返ってみれば、オブリビオン・ストームは未だ渦巻いている。ゾンビは今も、湧き出しているはずだ。
 ハティのシートから、ヴァシリッサは信号弾を見上げた。
「Shit……! こいつはヤバいね」
 舌打ちする。敵が減ったのではないことに、気がついた。
 後続の屍どもは、信号弾に――その先にいるだろう人間たちに向かったのだ。新たな獲物を捕食するために。
 同じ考えに至ったらしいトーマスが、汗を拭きながら叫ぶ。
「まずいよジニー! このままじゃ……あそこにいる人たちまで、やられてしまう!」
「なんだって、冗談だろ!? もう少しなのに! 急ぐぞトーマス!」
 親友に急かされて、太った少年はひぃひぃ言いながらも必死に走った。
 バイクに乗っていることで余裕のあるヴァシリッサは、後方や左右に回って援護の射撃を続けた。フルオートで放たれる拳銃の弾丸がゾンビの足を吹き飛ばし、襲撃の速度を著しく落とす。
「気張って走りな! 道はアタシが開けてあげるからさァ!」
 地脈を貫く射突杭が爆炎を引き起こし、かつて街だった廃墟を吹き飛ばす。体を粉砕されながら空に散るゾンビを見て、トーマスが悲鳴を上げた。
「ひええッ!」
「あぁもう……こえぇ!」
 思わず本音を叫ぶジニーに、ヴァシリッサはノインテーターを乱れ撃ちながら、実に愉快そうに笑った。
「ハハッ、最高じゃないか! 怖いって感じられるなら、まだ“生きてる”ってコトさ!」
 死者が蠢くこの場所で、その実感だけが、彼らを命に繋ぎとめていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

玖篠・迅
嫌なタイミングだけど、補給はできてたのは幸いだな…

式符・天水で蛟たち呼ぶな
数字が10を5体になるように合体してもらって、2体はアンナたちと年少組の護衛についてもらう
上とか地中からゾンビが来ないように念のため警戒も頼むな

残り3体はゾンビたちを近づかせないように俺と一緒に迎撃な
水を圧縮した弾で射貫いたり、おいつかない時は惜しまず水で一気に押し流していってくれ
俺も「破魔」に「属性攻撃」の雷を込めた霊符使ってく
最低でも一方向は抑えられるように頑張ってく

数字が1の蛟たちにはもしもの時に護ったりできるよう、年長組についてもらう
あの子たちが何かに困ってたら手伝いや、少しでも安心してもらえるように頼むな



《Day2 14:58 【天水】》
 空に昇る希望に、彼らはただ、進む。
 ゾンビの足が信号弾の方に向いたことで、幾分か進みやすくなった。しかし、子供たちの体力では、すぐに力尽きてしまう。
「アンナお姉ちゃん、足が痛いよぉ」
 アンナが手を引く二人のうち、女の子が音を上げた。無論、ゾンビが待ってくれるはずもない。
「まずいな……蛟!」
 玖篠・迅(白龍爪花・f03758)は駆けながら、幾体もの式――水を操る浅葱の蛟を召喚した。
 即座に合体させ、尾に「10」と刻印された二体の蛟が、三つ編みの少女の援護に回る。うち一体が、アンナが見る子供二人を背に乗せる。
 強化された蛟は俊敏だった。自力で走れる年少組の守りにつき、へばりそうな子は交代で背に乗せる。圧縮した水流でゾンビを穿ち、時には激流を放ってまとめて押しのけながら、光の方向へと急いだ。
 仲間が施してくれた願いの加護によるオーラは、今も迅たちの体を守ってくれている。「生きたい」「生かしたい」という願いが人一倍強いアンナは、より一層強く光を纏って、胸元で手を握りしめながら走っていた。
 ゾンビの手をかいくぐりながら駆けているからだろう、恐怖に顔が歪んでいる。迅は速度を落として並走し、声をかけた。
「アンナ、大丈夫か?」
「はい……!」
 生き抜く決意を固めた彼女は、気丈に頷いた。怖さは変わらないが、それでも自分の足で、前に前にと進んでいる。
 三発目の信号弾が上がった。色はまた赤だが、激しく明滅している。危険信号に思えるが、迅には何を意味しているのか分からなかった。
 一番小さな子供を負ぶって走るハルカが、空を見上げて唇を噛む。
「点滅する赤は、自分たちの危機的状況を知らせる色って、聞いたことがある……」
「あれを打ち上げた連中も、ゾンビに襲われてるってことか」
「そう。私たちを助けに来たんじゃなくて、助けてほしいって言ってるんだわ! もう最悪!」
 ようやく現れた救世主と思ったそれが、同じ被害者だった。ハルカの顔がにわかに曇る。
 しかし、迅は首を振った。
「いや、これはチャンスだな」
「なんですって? アンタ状況わかってんの!?」
 ボブヘアーを乱しながら食って掛かるハルカに笑みを見せ、走りつつ霊符を取り出す。
 立ちふさがるゾンビに向かって投擲、走る稲光が肉を焼き、電流の衝撃で屍の体が弾け飛ぶ。
 散る肉片と血に悲鳴を上げる少女二人に、迅は再び構えた霊符を見せつけた。
「俺たちには力がある。こいつらの目があっちに向いたおかげで、いくらか戦いやすくなった。信号の人らを助ければ、この先の協力を頼めるかもしれないだろ?」
「アンタたちが強いのは分かるけど!」
 ハルカが助けを求めるようにアンナを見るが、彼女はぐずる子を抱えて走りながら、決意の籠った声で言った。
「……やろうよ、ハルカ。私たち以外にも、本当に人がいたんだよ。みんなで生き残るには、それが一番だよ」
「えぇっ!? もう、走るだけで精いっぱいなのに!」
 もともと体力がある方ではないのだろう、ハルカは目に涙をためて走っていた。気の毒なので蛟に乗せてやりたいが、年少組と比べるのは無論、背丈の変わらないアンナと比較しても、彼女は少々、重そうに見えた。
 苦笑しながら、迅は「1」と尾に書かれた四体の蛟を放つ。「10」に比べて小柄で非力だが、群がるゾンビに次々飛び掛かって水を吐き、足止めをしてくれた。
「戦うのは、俺たちがやるさ。ハルカたちも、絶対守って見せる。だから、諦めないで走ってくれな」
 蛟の活躍で開けた道を駆け抜け、迅もまた次々に輝く霊符を投擲し、雷撃によってゾンビを焼き払い倒していく。
 遠く、進路の向こうから銃声が聞こえる。まだ姿は見えないが、間違いなく誰かがいる証拠だ。
「お母さん……!」
 霊石を握りしめて、アンナが呟く。その声に、ハルカもまた目元を拭った。
 いくら走ろうとも、その先に彼女たちの親はいない。生き残った末にそのことに気づいた時、アンナとハルカは、どんな顔をするのだろうか。
 考えかけて、迅は思考を止めた。どちらにせよ、こんなところで死ぬよりはましだ。
「絶対に死なせないからな。絶対に」
 雷を纏う霊符が輝き、蛟が咆える。

成功 🔵​🔵​🔴​

レッグ・ワート
一気にぽこじゃか湧いたなあ。仕事しようか。

防具改造でフィルムの各耐性値を環境耐性に変換合算。俺は診断時に把握してる年少組の護衛につく。口調の勢いで当たり前や見てわかる数数えさせたりしてからペース落として、現状無事と全員に誰かしらフォローアリって気付いて貰おう。後も落ち着かせるの優先で。
複製した鉄骨は適宜操作、壁や足場、咄嗟の盾や押し払いに使うよ。物騒に使ったのは物騒専用にする。近くのゾンビ連中は糸や鉄骨でひっかけたり怪力任せに払って遠くへパス。年長組で見て乗り越えるフォローが入るなら様子も見るが、まあ人型がどうこうを年少組がリアルタイムで見なくてもいいだろ。知り合い混ざってないとも限らねえし。



《Day2 14:59 【黒嵐は消ゆ】》
 信号弾が空に見えた瞬間、レッグ・ワート(脚・f02517)は幼い子を二人背負い、一人を左わきに抱えていた。
 もう一人いきたかったが、右手には念のために持っている鉄骨がある。それに、仲間の猟兵と年長組がフォローしてくれたおかげで、十一人の年少組は今、全員抱えられるか負ぶさっている状態だった。
 走りながら、周囲を見渡す。円形に陣を組んでいた時に比べればずっとマシだが、依然としてゾンビの数は異常なまでに多い。
「よくもまぁ、ぽこじゃかと湧いてくるもんだ」
 鉄の体だろうと構わず咬みつく屍の頭を鉄パイプで小突き、走るついでに蹴り飛ばす。幼子を連れている手前、極力無残な光景になることは避けたかった。
 白と赤、そして明滅する赤と、三発も信号弾を撃ったことで、ゾンビどもは光の方へと移動している。そのおかげで、いくらか動きやすい。
 しかし、敵が見ず知らずの彼らへと方向転換したのだとしたら、この先は奴らの密集地帯になっているはずだ。
 まして、あの黒い竜巻がある間は――。そう考えて、振り返る。
「……あん?」
 レッグは後方の全域を見渡したが、どこにもオブリビオン・ストームはなかった。
 あの嵐は、消えていた。ということは、ゾンビはこれ以上、湧き出さない。こんな朗報はなかった。
「悪くない。ハッピーニュースは嫌いじゃないぜ」
 一人呟き、加速する。ワイヤーで固定している背の子供たちが、悲鳴を上げた。
「レグ、レグ! 怖いよ! ジニーたちはどこにいったの!?」
「おねぇちゃぁぁぁあん!」
「みんながいないよぉ!」
 口々に泣き出す子供たち。レッグはようやく上等な気分になってきていたところに水を差されて、うんざりしながら前方を指さした。
「お前ら数は数えられるか? ノッポが一人、丸いのが一人。三つ編みが一人、小生意気なのが一人。全部で何人だ?」
「……八人?」
「……」
 数学を教える必要を、レッグは強く感じた。
 ともかく、仲間たちをスキャンして年少組を連れているものを順次指さし、その無事を背の子らに伝える。
「っつーわけで全員無事だ。いいな?」
「二十人?」
「よし、俺が悪かった。人数はもういいんだ。お前さんらの友達は全員見事に無事だ。しかも猟兵の護衛付きとくる。これ以上のVIP待遇はないぞ」
 家族に等しい友人が無事なこともあるが、ゾンビの頭や足を殴りながら走るレッグの、行動とは裏腹に落ち着いた声音が、子供たちを安心させていた。
 どちらかと言えば、押しのけるように敵を打ち倒す。人の形をしたものを殺すところは、できれば幼い彼らには見せたくないという、レッグの本音がそこにあった。
 無論、それが不可能であることは分かっている。それに、きっともう彼らは、人死にを何度もその目で見つめてきているはずだ。
「……ま、それとこれとは別さ」
 保護すると決めた以上、対象に施せる全てを行なう。それはレッグ・ワートの仕様であり、責任だ。
 反転し、後ろ走りをしながら複製した鉄骨を地面に突き立てて、追跡するゾンビの足止め柵を作る。
 子供でも避けられそうな代物だが、直進しか能のないゾンビには有効だった。先頭が引っ掛かって転倒すると、後続の敵が次々に倒れ、押しつぶされていく。
「頭が働いてなくて助かるよ」
 特に感慨もなく言って、進行方向へと向き直り、速度を上げる。最後尾は他の猟兵に任せ、先頭とも若干距離を置き、最も安全と考えられるポジションを保ちつつ、走った。
 機械の身なので、レッグに疲労はない。猟兵たちは疲労を顔に滲ませているが、この程度でへばるほど軟な連中ではない。
 年長組を見る。ハルカが酷く辛そうだが、アンナに手を引かれてよく走っている。防護車が動いていた時は立場が逆だったと記憶しているが、心境の変化があったのだろう。
 男子二人は果敢に先頭を走り、迫るゾンビを退けている。彼らの成長は著しい。ついさっきまでうじうじとやっていたのが、嘘のようだ。
 人間の成長とは、かくも鮮やかなものなのか。レッグが感心していると、左わきに抱えている女の子が前方を指さした。
「レグ、あれ!」
「ん……見えたな」
 夥しい屍の向こう、信号弾の真下に、それは姿を現した。
 トラックの一団だ。五十台はあろうか。どの車体も遠目から見て分かるほどに大きいが、その中央に鎮座する一台は車高も車長も群を抜いて巨大だった。
 凄まじい砲火を受けて、ゾンビたちがなぎ倒されている。しかし、トラックたちは物量に押されているようにも思えた。
 猟兵たちは瞬時に判断した。この位置ならば、挟撃できる。こちらと彼らの間にいるゾンビだけでも薙ぎ倒せれば、合流できると。
「よぉ、チビたち」
 背の二人と脇の一人に、レッグは言った。不安げに首を傾げる幼い子らに、淡々と告げる。
「必死に掴まっとけよ。ちょっと派手に暴れるぞ」
 体勢を低くし、全力疾走の突撃を開始する。支援機としてできることは限られるが、泣いても笑っても、これが最後のチャンスだ。
 撤退防衛の構えを取っていた猟兵たちは、怒涛の攻勢へと転じた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オーキ・ベルヴァン
こんな奴等に蹂躙されてたまるかよ!
みんなの……ジニーの笑顔がこの先にあるなら、俺が全力でぶちのめしてやるぜ!
銃爪!
ジニーとトーマスのフォロー任せたぜ!
そんで、援護射撃途切れさせないでくれよ!
俺、大暴れしてくるから!
ポーン!
俺の眼前の雑魚共を全て駆逐しろ。
王足る俺の前から汚ならしい者共を排除するんだ!
カシム!
俺達も出るぞ!
射撃の合間を縫って、前線でカシムを操り、カシムでさばき損ねたゾンビは怪力でぶん殴って、ぶん投げる!

ジニーは、リーダーで居ることを決めたんだ。
子供だけでこの世界を行き続けるのが難しいのは、分かってる。
俺達がずっと彼等だけを援助出来ないことも……。
だから、みんなの力を合わせるんだ!


入谷・銃爪
オーキ・ベルヴァンと参加

ここでゾンビの群れか……。
少年達の度胸と覚悟を測るのには、丁度いいかもしれないな。

分かった、オーキ援護は俺達がやる。
暴れてこい……お前の意志でな。

さて、ジニーは他の猟兵がサポートしてくれるだろ……彼の得物は、アサルトライフルのみ、どうしてもゾンビとの距離を詰める必要性が出てくる。

俺は俺と同じレンジのトーマスをサポートしよう。
俺はサブマシンガンとアサルトライフルの引き金を引きっぱなしで、弾をばらまき続け、皆の援護射撃に専念する。
トーマス、君の武器はショットがん。
無駄撃ちは駄目だ。
ここぞと言う時に的確に引き金を引くんだ。
落ち着け。
君の一発が皆を助けるんだ…クールに見極めろ。



《Day2 15:00 【チェスの王様】》
 トラックの一団は、もうすぐそばに見えている。ゾンビの圧倒的な数に押されながらも、彼らは荷台や屋根の上から応戦していた。
 苦戦している。だが、それはこちらも同じだ。オーキ・ベルヴァン(樫の木のキング・f06056)は歯噛みする。
 新たな餌に群がっていたゾンビの中に飛び込まなければ、トラックに辿り着けない。後ろや横からは、今も絶えず蠢く屍が迫ってくる。
「くそッ! もう少しなのに!」
「ここで足止めとはな……」
 苛立つオーキの隣に立ち、走って乱れた黒髪を掻き揚げながら、入谷・銃爪(銃口の先の明日・f01301)は背後を振り返る。
 すぐに、ジニーとトーマスが追い付いてきた。
「嘘だろ……」
「多すぎる! このままじゃ、僕らもあの人たちも、持たない……!」
 絶句する二人。トラックの方から何かを叫ぶ声が聞こえるが、ゾンビの呻き声と銃声とに掻き消されて、よく聞こえない。
 ゾンビの群が、オーキ達にも牙を剥いた。即座にサブマシンガンを構えた銃爪が、射殺する。
「呆けていたら、やられる。いくぞ、ジニー、トーマス」
 冷静に、しかし鋭く言うと、二人の少年は目を血走らせながら、敵の大群に向かってトリガーを引いた。
「くっそぉぉぉぉ! どけよぉぉぉぉ!」
「死にたくない、死にたくいなんだ! ここまで来たんだからッ!」
 乱れ飛ぶ銃弾に、ゾンビが次々に倒れていく。だが、敵は幾重にも重なる壁のようになっていて、まるで前に進めない。
 このままでは、また包囲されてしまう。囲まれれば防戦に持ち込まれ、体力を消耗した彼らは、やられる。
 それでなくとも、トラックの一団は壊滅するだろう。ようやく見つけた希望を、失ってしまう。
「……冗談じゃない! こんな奴らに蹂躙されてたまるかよ!」
 オーキが拳を握りしめた。怒りに震える瞳の炎が、ゾンビどもを睨みつける。
 もう、すぐそこにあるのだ。彼らが探し求めた場所、辿り着けないと思っていた世界が。
 逆立つ髪が、少年の力を解き放った。黒の騎士団、その王が、君臨する。
「ポーンッ!」
 叫びと共に現れた、漆黒の鎧を纏う剣士。オーキに群がるゾンビに向かって一斉に抜剣した。
 黒鎧に囲まれたオーキは、銃爪へと振り返った。
「銃爪! ジニーとトーマスのフォロー任せたぜ。俺、大暴れしてくるから!」
「……分かった。援護は俺たちがしてやる。存分に暴れてこい……お前の、意志でな」
「あぁ! いくぞ、カシム!」
 身の丈より巨大な樫の木の人形【カシム】を先頭に、黒鎧の兵士を突撃陣形にさせて、オーキは道を遮るゾンビの群に突撃した。
 黒き剣士たちが、ゾンビを次から次に薙ぎ払う。カシムが敵の胴を殴り、その怪力で吹き飛ばす。
 その中心に立って、オーキは咆えた。
「いっけぇぇぇ! 王たる俺の前から、穢れし亡者どもを排除するんだッ!」 

《Day2 15:01 【トーマス】》
「オーキ……ちくしょう! 俺だって、俺だって! やってやるッ!!」
 叫んで走り出したのは、ジニーだった。ゾンビの群に飛び込んで、オーキの後を追いかける。
 無謀だと思った。が、銃爪が止められたのは、トーマス一人だった。ジニーに釣られて走ろうとしたところを、腕を掴んで制止する。
「離してください銃爪さん! ジニーを助けないと!」
「落ち着け。君まで飛び込んでも、餌が増えるだけだぞ」
「ッ……!」
 振り返ったトーマスは、親友を失うかもしれない恐怖と緊張に汗をかきながらも、凄まじい剣幕で銃爪を睨んだ。銃爪がジニーを見捨てたと思ったのだろう。
 だが、そうではない。銃爪は歩みを止めていなかった。一歩一歩踏みしめるように進み、サブマシンガンとアサルトライフルの引き金を引いたまま、オーキとジニーに群がるゾンビを撃ち抜いていく。
「トーマス。君の武器はショットガンだ」
 諭すように、銃爪は言った。
「無駄撃ちはダメだ。隙が大きくなる。それに何より、一撃を外したことで敵が増え、ジニーに危険が及ぶ」
「……銃爪さん」
「心を鎮めろ。君は頭がいい。狙うべき敵が見えるはずだ。オーキとジニーが最も効率よく暴れられるよう、狙いすまして、ここぞと言う時に的確に引き金を引くんだ」
 この事態にも驚くほどに冷静な銃爪に、トーマスも幾分か落ち着いた。そして、放たれる弾丸の軌跡を見て、頷く。
「……やってみます」
「君の一発が、彼らを助ける。落ち着け。そしてクールに見極めろ」
「はい」
 息を全て吐き切って、燃える眼光を静かに揺らめかせたトーマスが、ショットガンを構えた。
 一発。ひた走るジニーに手を伸ばしたゾンビの頭が弾けた。
 一発。オーキへ食らいつかんとした屍が、足を失くして倒れ込む。
 一発。一発。一発。銃爪の弾丸と共に、散弾はオーキとジニーの血路を開く。
「そうだ。それでいい」
 銃爪は呟き、アサルトライフルとサブマシンガンの弾倉を交換、悍ましき敵の群へと撃ちまくる。
 後に続く猟兵と子供たちのために、屍の道が開かれる。

《Day2 15:02 【ジニー】》
 カシムと並んでゾンビどもを殴り飛ばしながら、オーキは黒き戦士たちを鼓舞した。
「ポーンたち! 俺の眼前の雑魚共を全て駆逐しろ! 一体残らず、殲滅するんだ!」
 屍の群は、その密度をいよいよ濃くしていく。死臭が漂う肉を掻き分けて進んでいるかのようだ。
 トラックから聞こえる銃声は、もうすぐそばだった。こちらを撃たないようにしてくれているのが分かる。彼らは――味方だ。
 死なせない。どちらも。オーキは掴みかかってきたゾンビの腕をへし折ってから、冷たい体躯を空へとぶん投げた。
「諦めるもんか……諦めて、たまるか!」
 黒鎧の兵士とカシムと共に、飢える死者たちを殴り倒して押し進む。
 その背に、温かな感触がぶつかる。振り返れば、背中合わせのジニーがいた。アサルトライフルで至近距離の敵の頭部を撃ち抜きながら、叫ぶように言う。
「オーキ! 一人で格好つけるなよ!」
「ジニー!? 馬鹿、なんで来たんだよ!」
「お前が走るからだろ! どのみち行くしかないんだ、いいからやるぞ!」
 無謀だと思った。彼は猟兵ではない。はっきりと、オーキより弱い。死にやすいのだ、ジニーは。
 だが、オーキは嬉しかった。その声に、心強さを感じた。
 彼は選んだのだ。リーダーでいることを、生きて皆を導くことを、決めたのだ。
「……死ぬなよ、ジニー!」
「あぁ! 死んだらトーマスたちに怒られるからな!」
 支えてくれる親友と、二人の少女。そして、小さな十一人の友人たち。オーキは、ジニーが彼らと共に笑っている姿を幻視した。
 子供たちだけでこの残酷な世界を生き続けることは、難しい。それは分かる。
 オーキら猟兵が、ずっと彼らを助け続けることも、できない。
 だが、だからこそ。
「みんなの力を合わせるんだ! いっけぇぇぇッ!!」
「おう! うぉらァァァァァッ!!」
 銃爪とトーマスの弾丸が作り出す進路を、己の手でさらに切り開き、続く仲間のために戦い、走る。

《Day2 15:03 【掴み取れ】》
 弾丸が飛び交う音の奥から、機械で拡声された太く低い男の声が聞こえる。
『ロープを下ろす、掴まれ!』
 言葉と同時に超巨大トラックから投げられる、幾本もの縄。しかし、群がる屍が障害となって、ロープまで辿り着くことができない。ジニーは立ち止まり、汗を拭きながら舌打ちした。
「くそっ――!」
「落ち着けジニー。諦めるなよ……!」
 自分にも言い聞かせながら、オーキは背後から聞こえた音に振り返った。
 群がる死体を撃ち、斬り、焼きながら、猟兵たちが駆け付ける。後続に追い付かれたのだ。
 走り寄る銃爪とトーマスが、数を減らしてなお多いゾンビどもを撃ち倒しながら、口早に言った。
「止まっている暇はない。囲まれる前に突貫するぞ」
「他に手はないんだ! ジニー、オーキ、君たちが先陣を切ってくれ!」
 二人に言われ、オーキとジニーは頷いた。そして、最後の攻勢に出る。
「いっけぇぇぇ!」
 密集したゾンビに突っ込み、オーキは力任せに殴り、蹴り、投げ飛ばす。カシムが同じように蠢く屍を動かなくしていき、ジニーもまた、懸命に戦った。
 何度も冷たい手に組み付かれた。アドレナリンが迸っているせいで痛みを感じないが、もしかしたら噛まれているのかもしれない。
 だが、関係ないと思った。
 皆の……ジニーの笑顔がこの先にあるなら、オーキはいくらでも戦い続けられる気がした。

《Day2 15:04 【そして掴んだ未来】》
 ついに、垂れさがる数本のロープに辿り着いた。ジニーはすぐにトラックへ登らず、後方に向けて叫ぶ。
「アンナ、ハルカ! チビたちを連れて登れ!」
「うん!」
「はぁ、もう、だめ、無理!」
 死体の山を駆け抜けた少女二人が、幼い子供を背負い、抱えたまま、必死にロープを掴む。
 群がるゾンビが上と下からの攻撃で倒される中を、アンナとハルカは引き上げられた。荷台に転がり、小さい子らに怪我がないことを確認し、感極まって、互いに抱き合い泣き出した。
 その下で、激闘はなおも続く。年少組を抱える猟兵たちが優先して荷台に上がる中、ゾンビたちは今も飢えに従い、淡々と迫ってきていた。
 全てを倒すのは、無理だ。誰もがそう感じていたし、そうするつもりは誰にもなかった。
 年少組が全員トラックに上がり、ジニーとトーマスも猟兵に促されてロープを掴んだ。引き上げられ、二人は、初めて生き残れる可能性に胸を震わす。
 その、刹那。
 トーマスの足が、掴まれた。
「うっ――うわぁぁぁッ!」
 ゾンビの群れに、引きずりこまれる。即座にトラックの上から援護の射撃が飛ぶも、数が多すぎた。
 ジニーは荷台に引き上げられるやその縁から身を乗り出して、手を伸ばした。
「掴まれ! トーマスッ!」
「ジニィィィッ!」
 必死に掴み取ろうとする、トーマスの手。指先が何度も触れ、離れていく。
 太った足に、ゾンビの歯が迫る。もう、届かないのか。ジニーの目から涙が流れた、その時。
「どけッ!!」
 筋肉質な腕が、背の高い少年を突き飛ばした。バンダナを巻いた禿頭の黒人が、代わって体を投げ出して、強引にトーマスを掴む。
「おっ――もいな! 痩せろお前は!!」
 叫びながら無理矢理に引き上げて、荷台にトーマスを投げ下ろす。
 転がった太っちょの少年に、ジニーとアンナ、ハルカが駆け寄った。無事を互いに祝いたい思いは、野太い男の一括で消し飛ぶ。
「全員乗ったか!?」
 ゾンビの呻きを掻き消す声量に、四人は顔を見合わせ、年少組の人数を確認した。十五人。全員いる。
 乗り込んだ猟兵たちも、互いの顔を確認して、バンダナの黒人へと頷いた。
「よぉし! こんなところにもう用はねぇぞ、出せッ!」
 咆哮めいた声に応えて、全てのトラックがアクセルを全力で踏む込んだ。ゾンビを刎ね飛ばしながら走り出し、屍の街を離脱していく。
 巨大なトラックもまた、重いエンジン音を吹かして、取り囲む死者を難なく圧し潰しながら進み始めた。

《Day2 15:07 【脱出】》
 つい数分前まで命を狙っていたゾンビが、嘘のように遠ざかる。トラックの縁に四人並んで、ジニーとトーマス、アンナ、ハルカは、まるで夢でも見ているような心地で、小さくなる死者を眺めていた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 日常 『荒野のトラック野郎』

POW   :    荷運び等を手伝ったり、溝にはまったトラックを助け出したりする

SPD   :    移動するトラックを探したり、周囲の危険を察知したりする

WIZ   :    トラック野郎から話を聞いたり、交渉を持ちかけたりする

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

※マスターページにお知らせがあります。ご確認ください。
追記 ※マスターページにルールについてのお知らせがあります

《Day2 15:26 【キャラバン】》
 日が傾く中を、トラックたちが進む。死人で埋め尽くされた街を離れ、だだっ広い荒野を走っていた。
 何十台もの車両の中心を行く巨大トラックで、猟兵たちと少年一行は、戦いの余韻が抜け切らずにいた。
 脅威が完全に過ぎ去ったことを確認し、一団を指揮をしていた黒人が戻ってきた。猟兵たちへと、握手を求める。
「信号弾に応えてくれて、感謝する。お前さんらのおかげで、助かった」
 曰く、彼らは隊商の一団であるという。この荒野に点在する拠点を訪れ、物を仕入れては別の拠点で売ることを生業としている。レイダーの根城から物資を取り戻す、奪還者でもあるらしい。
 運び屋。黒人は自分たちをそう呼んだ。
「そのヘッドが、俺ってわけだ。まぁ、『運び屋』ってのは、俺たちが前まで運送業の同志だったってだけだが。拠点を持たない、気ままな根無し草さ」
 今日も本当は、彼らが「十七番ベース」と呼ぶ拠点に食料や武器を売りに行こうとしていたところだったそうだ。しかし街に入ったところで、街道に無数に現れたゾンビに足止めをくらった。
 オブリビオン・ストームまでも確認し、救出作戦を行なうか撤退するかで揉めているうちに、ゾンビどもに取り付かれてしまったのだとか。
 結果的にジニーたちを助けることになったが、あれは偶然だったのだと、ヘッドは肩を竦めた。
「むしろ助けられたのは、俺たちだ。あんたたちが奴らをぶっ殺してくれたから、車を出せた」
 彼はもう一度、「ありがとう」と礼を言った。そして、好きなだけゆっくりしてくれ、とも。猟兵とジニーたちは、その言葉に甘えることにした。
 道程でレイダーの根城や滅びた拠点を見つけた場合、探索も行なうとのことなので、協力を申し出てもいいかもしれない。
 次の目的地は、この辺りで一番大規模な拠点だという。戦闘で失った物資の補給を行なうようだ。世話になるのは、そこまでだろう。
 もろもろ寄り道をしながらならば、到着まで数日はかかるとのこと。もうしばらく、ジニーたちとの付き合いは続きそうだった。
 隊商は、西に進路を取る。

《Day2 16:08 【これから】》
 見渡す限りの荒野が、夕日の赤に染まり始める。幻想的な光景に目を奪われていたジニーは、ふと、隣に立った親友に気が付いた。
「トーマス」
「ジニー。生き残れて早々で悪いけど、相談があるんだ」
 これからのこと。そう、トーマスは言った。
 何とか生き延びることができた彼らだが、ここは終着点ではない。むしろ、決めなければならないことは、生きるためだけに歩いていた頃より、ずっと増えていた。
 小さな子たちもいる状況で、自前の拠点を築くために、また旅をするのか。
 隊商に加わって、荒野を走るキャラバンとして生きていくか。
 大きな拠点に住み着いて、皆で食うための仕事を見つけるか。
「……少し、考えさせてくれ」
 ジニーは呟いた。今はまだ、命を長らえたことだけで頭がいっぱいだった。トーマスが苦笑し、頷く。
「ごめん、少し焦りすぎたね。ハルカとアンナも、いろいろ考えたいことがあるみたいだし。……でも、拠点につく前には、決めよう」
「あぁ」
「僕は、ヘッドさんに食料を分けてもらえるよう頼んでくる。ストアで見つけたのは、できれば取っておきたいからね」
 そう言い残して、トーマスは去っていった。
 この先、どうするか。しばらく考え、結局纏まらないままに、悩めるリーダーの少年はため息をついた。
「相談……してみるか?」
 ここまで導いてくれた、彼らに。猟兵たちの顔を思い浮かべつつ、空を見上げる。
 夕闇の向こうに、宵の明星が輝いていた。
ボアネル・ゼブダイ
脅威は去ったか…とはいえ、この子達が本当に大変なのはこれからだろう
せめて彼らのために今後の道をいくつか示すことにしようか

まずは祈りを
先の戦いで亡くなった彼らの肉親や知人のためにUCによる精霊達の鎮魂歌を捧げる
優しい歌声が少しでも彼らの心の傷を癒してくれればいいのだが
そしてジニーとトーマスにはアドバイスを
ジニーは責任感が強い、それはリーダーとして大切なものだろう
だが一人で全て抱え込まずに、他の意見も聞くことも大事だな
彼は一人ではないのだから
トーマスは冷静に物事を考えることができる、その視点はジニーを助けることに役立つだろう
それに、二人は互いに腹を割っている
ジニーと助け合えばいいコンビになれるさ



《Day2 17:17 【レクイエム】》
 夜が近づく。日はその身のほとんどを地平に隠し、空と地上の境目が、仄かに赤く染まる。
 静かだ、とボアネル・ゼブダイ(Livin' On A Prayer・f07146)は思った。何十台ものトラックが走っているにも関わらず、そう感じる。
 身に迫る鋭い緊張感がないからだ。超大型トラックの荷台で景色を眺める少年少女の背中に、目を細める。
「脅威は去ったか……」
 ようやく、彼らの命を脅かすものが消えたのだ。一番実感がないのは、きっとジニーたち自身だろう。
 隊列を組んで走るトラックの多くに、居住コンテナが積まれている。夜が近づき、それらに明かりが灯った。その光景に、トーマスが呟く。
「街が、動いているみたいだ」
 確かにと、ボアネルは頷く。今いる超大型トラックにも複数のコンテナがあり、それらに生活の光が輝いている姿は、まさしく街だった。
 見たこともない光景に目を奪われていたハルカが、ぽつりと呟いた。
「……パパにも、見せてあげたかったなぁ」
 何気ない一言、などではない。重みのある言葉だ。共感した三人が、俯く。胸の高さまであるサイドゲートを持つアンナの手が、震えていた。
 両親を、家族を喪った悲哀は、消えるものではない。まして、弔いもできずに逃げてきた彼らだ。
「……」
 ボアネルは何も言わずに、精霊を呼んだ。大気に満ちていく宵闇に逆らって光る精霊たちは、流れる荒野の風に踊って、歌い始める。
 それは、鎮魂歌だった。無残に命を奪われ、その骸を悍ましき化け物とされた人々の魂に、祈りを捧げる。
 どうか、どうか安らかに――。ボアネルの祈りを体現するかのように、精霊の光が瞬く。
 毛布に包まれていた子らが目を覚まし、黄昏の余韻に踊る輝きへと手を伸ばす。アンナとハルカは、優しく流れるレクイエムに耳を澄まし、頬を濡らしていた。
 柔らかな旋律の中で、ジニーが子供たちの輪から離れた。居住コンテナの梯子を登り、屋根の上に立っている。
 何やら、考え込んでいるらしい。ボアネルは後を追った。
 コンテナの上は、吹き荒ぶ風が一層強く感じられた。流れる髪をかき上げてから、少年の肩に手を置く。
「ジニー。ずいぶん難しい顔をしているな」
「あ……ボアネルさん。いや、別に」
「今後のこと、だろう? 言わずとも分かるさ」
 微笑んで、ボアネルはコンテナの縁に腰かけ、ジニーにもそうするよう促す。
 荷台では、子供たちが精霊に手を振っていた。落ちないように世話をするアンナとハルカを眺めながら、ジニーはぽつりと言った。
「なんか、信じられないんだ。本当に生き残ったことが」
「実感がないのも無理はない。それだけ、君たちは過酷な状況にいたのだから」
 それでも彼らは、命をつかみ取った。猟兵が間に合ったのも、子供たちの生命力あってこそだ。
 日々、死なないことで精いっぱいだったことだろう。ジニーたちは昨日まで、明日を想像することすら許されなかったのだ。
「生き残れて、それから……。俺たち、どうすればいいんだろう」
「それを私から聞いたとして、君は納得するのかな?」
「……」
 分かるはずがなかった。それに、まだ幼さを残すとはいえ、彼も男だ。他人に人生を決められることに、抵抗もあろう。
 また同時に、ジニーは少年団のリーダーでもあった。決定が仲間たちの生き方を左右するとなれば、すぐに決めかねるのも当然だ。
 だがそれでも、彼はまだまだ青い。一人で抱え込んでいることが、なによりの証拠だ。
「君の責任感の強さは、率いる者として大切な力だ。が、重大な決定を迫られているのならば、誰かに意見を聞く素直さも、また肝要なものだよ」
 安らぎの鎮魂歌に、子供たちの笑う声が混ざる。その優しいハーモニーを崩さぬよう、ボアネルはそっと囁いた。
「君は、一人ではないのだから」
 振り返る。ちょうど、太っちょの少年が梯子を登ってきたところだった。ジニーも、彼に気づく。
「トーマス」
「ジニー、ごめんよ。君にだけ背負わせるつもりはなかったんだ」
 トーマスは酷く慌てた様子だった。コンテナの上にいるジニーの姿が見えたのだろう。
 表情だけで理解してくれる友がいるのなら、なおさらだ。ボアネルは立ち上がった。
「君の冷静な親友がいれば、その視点は必ずジニーを助けてくれるはずだ。君たちは、互いにないものを持っている。いいコンビだと思う」
「……そうだな。トーマス、お前の意見、聞かせてくれよ」
「うん、もちろん」
 二人の少年は、強い。まだまだ迷うこともあろうが、今はもう言うことはないだろう。
 ボアネルはコンテナを飛び降り、着地した。見上げると、精霊たちが歌を終え、徐々に消え始めていた。
 名残惜しそうにする年少組の手を引いて、アンナとハルカが貸与されたコンテナに入っていった。
 太陽の赤は、空の彼方に消えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

テイラー・フィードラ
さて、ひとまずの休止か……しかし求められる事については私自身未熟か知識の上でしか知らぬ事か……また、夜警として行動するか。

不寝番としてキャンプの守護に務める。フォルティも魔を喰らったのだ、休ませる。
代わりにハルモニアを召喚、戦場で眠れぬ子をその歌で眠らせる。それと私に翼を生やす術で空中領域より監視に務める。
火を絶やさず、ゾンビがまた湧くようであるならば子やキャラバンを守るよう素早く潰す。

……どうしたジニー。眠れぬならば奴の歌を……
生き足掻いた先、か。それこそ当人の願い次第だ。十分苦しんだのだ、多少楽な生き方を選んでも良いと思うぞ。
俺、か?俺は、王になり迫害された存在も救うと決めた。それだけだ。



《Day3 0:27 【決めた日】》
 トラックの一団は、かつての州間高速道路から離れ、荒野のど真ん中にキャンプを構えた。
 見晴らしのいい場所だし、こちらには数の利がある。何重にも円を描くようにトラックを止め、その外周を武装車で固めているので、並の敵ならば突破はできないだろう。
 それでも見張りをつけたがるのは、眠りという無防備さへの、本能的な警戒心か。
 中央に坐する超大型トラックの脇で、膝を折って寝る愛馬【フォルティ】の背を撫でつつ、テイラー・フィードラ(未だ戴冠されぬ者・f23928)はそんなことを考えた。
「ひとまずは、小休止……か」
 少年たちも、またトラックキャラバンもだ。ゾンビどもの大群と戦い疲弊したのは、「運び屋」たちも同じだろう。
 猟兵たちは、子供らの手助けは無論、キャラバンの手伝いもしようと決めた。それがジニーの一団にとってもプラスになると結論を出したのだ。
 とはいえ、生まれた世界とは何もかもが――どちらも地獄のようなものだが――違うアポカリプスヘルでは、どうにも勝手が効かない。
 いろいろと手を考えたが、世界が変われど共通して脅威である、夜の警備に当たることにしたのだ。
 不寝番として立つ傍ら、左手に持つ杖【凶月之杖】を輝かせる。
「我が命結び堕翼授けし悪魔よ。贄を代価に貴殿の力を発揮せよ――」
 杖の先から迸った光の粒子が、空に集まる。やがて輝きは凝縮し、天使の如き姿を形成した。
 七対の白翼を揺らめかせた光の女は、悪魔である。名を【ハルモニア】といった。
 かつては邪教の魔性であったハルモニアは、オペラ歌劇のように両手を広げて歌い出した。眠りを望む者たちは、この声に導かれて深い夢に沈むことができるだろう。
 召喚した悪魔の力で、空に舞い上がろうとした時だった。聞こえた足音に、振り返る。
「……どうした、ジニー」
 アサルトライフルを抱えたジニーは、難しそうな顔をして超大型トラックのタイヤに寄りかかった。
「……」
「眠れぬならば、奴の歌を聴くといい」
「寝たくないんだ。テイラーさん、ちょっと話を聞いてくれないかな」
 しばし考え、テイラーは承諾した。荒野は静かだし、敵の気配もない。油断しなければ問題はないだろう。
 その場にどっかと腰を下ろし、焚火を灯す。ジニーも、テイラーの対面に座った。
 十秒ほどだろうか。無言の時が過ぎ去ってから、少年はため息とともに、疲れたように笑う。
「トーマスと話したんだ。これからの事」
「ほう」
「あいつはすげぇよ。すごく先まで考えててさ。本当に細かく、みんなの事まで。……俺が思いもしないような選択肢までさ」
 ジニーは眉間にしわを寄せていた。それだけで、その選択肢とやらが望ましいものではなかったことが分かる。
 そしてきっと、選び取らねばならないかもしれない可能性でもあったのだろう。テイラーは黙って、続きを促した。
「俺が決めないといけないんだ。それが、四人の中での俺の役割だから。でも、すぐには選べなくてさ。……正直、こんな風に生きられるなんて、思ってなかったから」
「さもありなん。貴殿らが潜ってきた日々は、それほどに過酷であったのだ。恥じることはない」
「ありがと、テイラーさん。……なぁ、昨日の晩に言ってた、その先を教えてくれよ」
 何を、と聞くつもりはなかった。腕を組んで、少年の言葉を待つ。
「生きて生きて、生き足掻いて――それから、どうしたらいいんだろう」
「それは当人の願い次第だ。ジニー、お前たちは十分苦しんだ、多少楽な生き方を選んでも良いと、俺は思う。あとは――お前がいかに生きたいか。それを基準に決めればいい」
 簡単な話だが、重要なことでもある。誰かに決定された生き様になど、価値はないのだから。
 ジニーは考え込んでいるようだった。「どう、したいか」と呟き、自分に問いかけている。テイラーはやはり何も言わず、彼が答えを出すまで焚火の炎を見つめていた。
 しかし、答えは出なかったようだ。顔を上げた少年は、少し出てきた眠気を抑えながら、尋ねてきた。
「テイラーさん。あんたは、どう生きてるんだ? 生きたい理由って、ある?」
「俺か? 俺は、王になり迫害された人々を救うと決めた。それだけだ」
「……王。なんか、すごいな」
 自分の志との差に、ジニーが自嘲気味に笑った。そして、続けてテイラーに問うた。
「それを決める時、迷ったりした?」
「さて、な。覚えておらぬ。だが、決めた日のことは、鮮明に記憶している」
 国が死んだ日。悪魔に魂を売り渡してでも、故郷を奪還せんと誓った日だ。忘れようはずもない。テイラーの志は、常にその日に集約していた。
 それだけは、忘れてはならないのだ。その意志、その欲こそが、彼の根幹だった。
「ジニーよ。迷うなら迷えばよい。貴殿が答えを出す日まで、我ら猟兵が付き合ってやろう。だが、選んだならば、突き進め。選択した時のことを忘れずに、死ぬまで生き足掻き続けろ」
「……」
「俺が教えてやれることは、それだけだ。……今宵はもう、休め」
 焚火を消し、悪魔の力を借りて背に翼を生やす。ジニーの返事を待たずに、空に飛びあがった。
 遥か下方で、ジニーが居住コンテナに入っていくのが見える。とぼとぼと、悩んでいることが分かる歩き方だった。
 人生の岐路に立った少年の成長を、テイラーは声に出すことなく、夜空の星に静かに願った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

キリカ・リクサール
ようやく、この世界の大人たちに会えたか
であれば彼等との旅もいよいよ大詰めと言う所だな

いつまでも我々が見守っていくと言う訳にはいかないだろう
無責任かもしれんが、ここは彼らに託してみるか
円滑な交渉のためにも、主に奪還をメインに運び屋達に手を貸すか
レイダー達が潜む拠点を強襲
襲ってくるレイダー達を銃撃で制圧していく
数が多ければUCを発動
隠れている奴らも含めて人形の刃で全員を無力化する
あとは物資の回収だな
小物入れにしか見えんだろうが、私のボリードポーチは見た目以上の容量がある
拠点内に積まれた物資程度なら問題はない

手を差し伸べておきながら途中で放り出すのは心苦しいが
後は彼らに任せておけば心配はないだろう


雛菊・璃奈
あの子達には後悔だけはしない様に生きて欲しいな…。
わたし達にできるのは手伝いだけだけど…それでも、この世界を精一杯生きて欲しい…

ミラ達には子供達の護衛(特に年少組)をお願い…。

奪還1に参加…。
探知呪術【呪詛、情報収集、高速詠唱】でレイダーの位置や目ぼしい物資の貯蔵場所等、内部の状況を探知…。
敵の位置を把握したら、外から【unlimited】による一斉斉射で奇襲を仕掛け、壁や窓を貫いて内部の敵を殲滅…。
生き残りは凶太刀の高速化で一気に接近して斬り捨てたり、黒桜の呪力解放【呪詛、衝撃波、なぎ払い、早業】で片づけるよ…。
レイダーの武器弾薬とかも貴重な物資になるだろうし、使わせないで仕留めたいね…



《Day4 8:23 【ソード&バレット】》
 朝。快晴の空に、宇宙ステーションを模した看板が回転している。
 瓦礫や廃車でバリケードを作られたモーテル。一見すれば生存者の拠点と見紛うが、吊るされた檻で沈黙する半白骨死体を見れば、ここがレイダーの巣であることが分かった。
 おおよそ拠点には適さない建物だが、恐らく中の壁をぶち抜いたり、増築したりと改造を施しているのだろう。多少の労力を払ってでも、街道沿いという利点を得たかったらしい。
 だが、目立ちすぎた。奴らは逆に、狙わられることになる。
「アーッ!?」
「ザッテメッコラー!?」
 銃声と共に聞こえる罵声。「運び屋」に所属する奪還者たちは今、このモーテルを襲撃していた。
 バリケードの影からレイダーを銃撃しつつ、キリカ・リクサール(人間の戦場傭兵・f03333)はうんざりとため息をついた。
「次から次へと……。このモーテルにどれだけの数が入っているんだ」
「オブリビオンだからね……。一人見かけたら三十人はいるよ……」
 敵をゴキブリ扱いしつつ、雛菊・璃奈(魔剣の巫女・f04218)は探査の呪術を発動した。
 モーテルの内部では、レイダーどもが何やら言い争っていた。殺し合っている連中もいる。
 物資は内部に散乱していた。中に踏み込めさえすれば、相当な量を持ち変えることができるだろう。
 さらに探査を広げ、屋外も調査する。スナイパーはなし。ボスと思しき男はすでに死んだので、あとは有象無象だけだった。
 味方は、正面に璃奈とキリカを含む四人、背後に回っているのが三人。少年たちはいない。
 ジニーとトーマスは、ヘッドから待機を命じられていた。生身の人間――レイダーを、彼らはそう認識している――を撃つのはまだ早い、との判断だった。
「まぁ妥当だな。彼らは猟兵ではないし、こういうのは、あまり向いていないだろう」
「そうだね……。ゾンビでもいっぱいいっぱいだったし……慣れてほしくもないかな……」
 この過酷な世界では、難しい相談かもしれない。だが、できれば彼らには平穏な生活を送ってほしかった。
 仲間たちの銃弾がモーテルに注がれる中、璃奈は呟く。
「わたし達にできるのは手伝いだけだけど……それでも、この世界を精一杯生きて欲しい……」
「同感だ。その手伝いを、今は必死にこなすとしよう。一気に仕掛けるぞ」
「わかった……」
 キリカが刃を纏った人形【デゼス・ポア】を浮かべ、璃奈が魔剣召喚のために力を練る。互いに目を合わせタイミングを確認し、同時に攻撃を開始した。
 途端、モーテルのそこかしこから絶叫が上がった。応戦していた奪還者たちが目を丸くする。
 璃奈とキリカは、まだ動かない。その必要がなかった。魔改造されたモーテルでは今、次元を裂いて現れた錆びた刃が暴れ、空から降り注ぐ魔剣の嵐が壁を天井を貫いて、レイダーどもを強襲していた。
 どこからともなく現れる刃と強大な呪力に塗れた剣の襲来に、賊は完全に足並みを崩した。銃声が止んだ瞬間、璃奈は左手に妖刀【九尾乃凶太刀】を、右手に呪槍【黒桜】を握った。
 キリカもまた強化型魔導機関拳銃【シガールQ1210】を手にして、二人は揃ってバリケードを乗り越える。奪還者も続く中、一気に制圧に躍り出た。
 敵の反撃を待つつもりはない。レイダーが弾を撃つ前に倒せば、その弾薬はそっくりこちらのものになるのだ。
 刃の雨から逃げ惑うレイダーを撃ち、斬り捨てながら、モーテルに接近。窓をぶち破って中に飛び込む。すでに血の海だった。
「アンコラー!?」
 泣きわめいているようにも消える声で叫ぶレイダーに、璃奈が斬りかかる。キリカは窓越しに手を上げ、突入を合図した。
 奪還者たちも、猟兵二人に続く。飛び交う弾丸を恐れもせずに突貫するキリカと璃奈に、「運び屋」たちの士気も高い。
 しばしの銃声と断末魔の悲鳴の後――。
 街道沿いの改造モーテルに巣食っていたレイダーたちは、一人残らず全滅した。

《Day4 8:55 【残せるもの】》
 血塗れのモーテルには、夥しいほどの物資があった。
 それは弾丸であり、食料であり、水であり、また今の時代では尻を拭く紙にもならない貨幣であった。
 璃奈が運んできた物資を次々【ボリードポーチ】に収納していたキリカは、ヘッドに「金も入れてくれ」と言われて、怪訝な顔をする。
「こいつもか? 使い道がないだろう」
「そんなことはないさ。よく燃えるからな。着火剤にいい」
 そういうことらしい。呆れ顔でポーチに次々荷物を入れていると、今度はヘッドが不思議そうに眉をひそめた。
「あんたの、その鞄……どうなってるんだ?」
「気にするほどの仕組みじゃないさ。見た目以上の容量がある、それだけだ」
「……まぁ、俺たちにとっちゃありがたい限りだ。あんたらが超能力者だってのは、もう知ってるしな」
 猟兵たちのユーベルコードをその目で見れば、そうした反応にもなろう。それを受け入れてもらえているのは、異世界においても違和感を与えないという猟兵の特性故か。
 弾薬が大量に詰まった箱を運搬し終えた璃奈が、額の汗を拭った。
「ふぅ……。これで、全部かな……」
「すまないな、璃奈。お前にだけ運搬を頼んでしまった」
「いいよ……」
 気にしていないという風に、頷く。本当は仔竜たちもいればよかったのだが、生憎、年少組の護衛兼遊び相手をしてもらっていた。
 今頃、追いかけっこでもしているだろうか。モーテルの外に出つつそんなことを考えていると、隣を歩くキリカが、禿頭の黒人に言った。
「なぁ、ヘッド。お前は、あの子らのことをどう思う?」
「……」
 璃奈が見上げると、キリカは非常に真剣な顔をしていた。交渉を持ちかけるつもりであることは、すぐに分かった。
 それはヘッドも同じのようで、紫髪の女を一瞥すると、ポケットから煙草を取り出し、火をつけた。
「どう、か。それは働き手としてか?」
「そうだな。それも含めて」
 素直に頷くキリカ。ヘッドは血みどろの地面とは対照的に青い空を見上げ、ゆっくりと紫煙を吐き出す。
「あんたらの話を聞くに……クソみたいな状況を生き残ってきたらしいからな。見込みはあると思う」
「仕事は、できそうか?」
「誰が働くかによるが、あのノッポのガキ――ジニーっていったか? あいつはセンスがよさそうだ。ドライバー、メカニック、メディック……鍛えようによっちゃ、奪還者にだってなれるかもしれん」
「……奪還者……」
 璃奈が呟く。反対することもできたが、止めた。それは彼女が決めることではないからだ。
 無論キリカも、そして、ヘッドですらそうだ。物資運搬用トラックのドライバンを開く部下を見ながら、彼は淡々と言った。
「まぁ、あいつらがやりたいって言えば、考えるがな。今の時点じゃなしだ」
「なんで……?」
 尋ねる璃奈に振り返り、トラックに寄りかかるヘッド。この手の事柄には慣れているのだろう、飄々とした様子で肩を竦めた。
「てめぇんとこのケジメもつけてねぇ野郎を、使うわけにはいかんさ」
「なるほど」
 キリカが頷いた。子供だけの一団とはいえ、ヘッドはジニーたちを一つのチームとして認識している。トラックキャラバンに属するとなれば、事実上の解散となるのだ。
 このトラックキャラバンは、大きな集団だ。離れたトラックで長時間暮らすこともあるだろう。むしろ、その可能性は極めて高い。
「ま、そういうことだ。保留させてもらうぜ」
「あぁ」
 短い返事を受けて、ヘッドは超大型トラックのコックピットへと去っていった。
 ポーチから次々に出される荷物を積む男たちの中に、ジニーとトーマスがいる。一生懸命に働く二人を見て、璃奈が言った。
「さっきの話、聞いたら……なんて言うかな、ジニーたち……」
「さて、どうかな。私と璃奈は、そのきっかけの一つを作ったまでさ。後は、彼らが決めることさ」
「……そうだね……。せめて、後悔だけはしないように選んでほしいな……」
 どの道を選んでも、その瞬間に過去には戻れなくなるのだから。
 積み込みが終わるまでの間、少年たちの少し逞しくなった背中を、璃奈とキリカは見つめ続けていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


訂正:Day4→Day3 申し訳ありません。
トリテレイア・ゼロナイン
【奪還2】
UCの情報収集と機械馬や怪力での物資回収を担当

作業の合間にアンナ様と会話

騎士としてお守りすると言えれば良かったのですが
…世界と戦う為に「傷」と向き合う必要があります

お顔が優れませんね…理由を伺っても?

私は職業柄、どうしても「別れ」(人、過去問わず)を経験します
殆どが僅かな触れ合いでしたが、それでも辛いものがあります

ですが哀しみこそすれ、手を止めませんでした
彼らの望みを…為すべきを知り、それと共に在りましたから

これまで拠点でご両親から何を教わり、望まれましたか?
沢山ある筈です

そして私の背にも届いたあの願い…
手段と目標と目的を貴女は既に得ています

大丈夫、ご両親も貴女の心体と共にありますよ



《Day3 9:08 【慟哭の果て】》
 積み荷の分配が始まった。トラック間を輸送するために、「運び屋」たちはバギーを使っている。
 トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)も協力すべく、機械白馬【ロシナンテⅡ】に弾薬やら食料やらを満載し、居住トラックへと運んでいた。
 ロシナンテを引きながら行き交うバギーの間を歩いていると、超大型トラックの傍で手持無沙汰にしているアンナを見つけた。
 細い腕だ。力作業にはとても向きそうもないが、なぜトラックの外にいるのだろうか。歩きつつ見ていると、彼女が顔を上げ、目が合った。
「あ、トリテレイアさん」
 ぺこりと頭を下げる少女に近づいて、トリテレイアも恭しく一礼した。
「どうも、アンナ様。こんなところで、どうされたのです?」
「いえ……ちょっと、疲れちゃって」
 言われてみれば、顔色が悪かった。昨日まで死ぬかもしれない中を走り続けていたのだから、仕方ないことではある。
 だが、それだけだろうか。アンナの目に覗く憂いは、疲労だけを理由にするにはあまりにも深く、暗かった。
 見透かされていることに気づいたのか、彼女は目を伏せた。一昨日の晩に泣いてしまったこともあって、迷惑をかけたくないと思っているのだろう。
 いらぬ遠慮をするものだと思いながら、彼女は長女であったことも想起する。なので、こちらから聞いてやることにした。
「お顔が優れませんね……。理由を伺っても?」
「……聞いて、もらえるんですか?」
「無論ですとも」
 騎士として、とは言わなかった。守ると言うのは簡単だが、世界と戦うためには、「傷」と向き合うことも必要であることは、熟知していた。
 アンナはトラックの陰にトリテレイアを呼んでから、ぽつりぽつりと話し始めた。
「助かってから……しばらくは、嬉しかったんです。でも、だんだんと心が静かになると、いろいろなことを思い出してきて」
 巨大トラックの側面に背を預けるアンナは、どうしてかとても幼く見えた。トリテレイアは、きっとこれが本当の彼女なのだろうなと思った。
「皆さんに会えた日の夜も、あなたの仲間に同じ話をしたの。でも、その時はただ悲しくて、怖かっただけだったんです。それが……今になると、分かってきちゃって」
 受け入れられなかった現実が、命の危機を超えたことで、近寄ってきたということか。
 あるいは、すぐそばに――というより、どうにもならない事実が自分の中にあることに、気づいてしまったか。
「目の前で死んじゃったのに、私、まだ信じてなかったんです。お父さんも、お母さんも、弟と妹も、本当はみんな生きてて、全部嘘だったんじゃないかって。私は悪い幻を見ていただけで、本当は、どこかに、元気で――」
 声を震わせたアンナは、とうとうしゃがみ込んでしまった。トリテレイアは慌てずに、その巨体をゆっくりと跪かせる。
 環境が落ち着けば落ち着くほどに、目で見た光景が真実であったと理解してしまったのだ。大人びていても、心はまだ成長途上の少女は、その残酷さに潰されかけていた。
「なんで、私だけなのって。お父さんとお母さんは、どうして私だけに『生きて』って言ったのかな」
「アンナ様……」
「トリテレイアさん、私、分からないんです。どうして、まだ小さい弟と妹がゾンビに食べられて、私だけが……。あんなに家族がいたのに、なんで、私だけが、残っちゃったの……」
 ついには慟哭するアンナを、通り過ぎる「運び屋」の連中が怪訝な顔で見ている。トリテレイアはそれらの視線から守るように、少女へ一歩近づいた。
「私の話が、アンナ様の役に立つかは分かりませんが……。私は職業柄、どうしても避けられない『別れ』を経験してきました。殆どが僅かな触れ合いでしたが、それでも辛いものがあります」
「……」
「ですが哀しみこそすれ、私はこの手を止めませんでした。彼らの望みを――私の為すべきを知り、常にそれと共に在りましたから」
 それは、亡き者たちとトリテレイアを、今も強く結ぶものだった。それに名前を付けようなどとは、思わない。
 きっと、アンナにもあるはずだ。泣きじゃくる少女の頭に、大きな鋼の手をそっと置く。
「アンナ様。ご両親から、何を教わり、望まれましたか? きっと沢山ある筈です」
「私が……教えてもらったこと……」
 料理、裁縫、掃除のしかた。弟や妹の面倒の見かた。
 母と一緒に料理をするとき、二人でこっそりつまみ食いをした想い出。激しい兄弟げんかの後、長女として我慢するしかなかった時に、黙って傍にいてくれた父の記憶。
 将来は、いいお嫁さんになるね。きっと素敵なお婿さんを見つけるね。両親は、いつもそう言っていた。それが、父母の望みだ。
 お姉ちゃんの笑ってる顔が好きと、兄弟姉妹は言っていた。それが、あの子たちの願いなのだ。
「あぁ――!」
 溢れる感情で真っ赤になった頬に伝う涙が、変わった。トリテレイアは確かにそれを感じた。
「……おありのようですね。そう、私の背にも届いたあの願い……。手段と目標と目的を、貴女は既に、得ています」
 託された想いを握りしめて、生きていく。遺された人間にできることは、それしかない。例えか弱い少女と言えど、その真実は変わらないのだ。
 消えない悲しみは、涙に表せばいい。今のアンナのように。それができるのだから、人間は羨ましいと思った。
 美しい落涙の中に、顔も名前も分からないアンナの家族が、微笑んでいるように見えた。
 亡き家族の面影に心を満たされ、慟哭の果てに言葉も出せなくなってしまったアンナに、トリテレイアは優しく囁く。
「……大丈夫。アンナ様のご家族は、いつだって、貴女の心体と共にありますよ」
 空を、見上げた。
 乾いた空の青が、機械の瞳に沁みた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

露木・鬼燈
僕の生き方は特殊だからね。
子供たちに有用なアドバイスは…
代わりにトラックの修理なんかを担うですよ。
それも猟兵らしく特殊な方法でね。
<円環理法>で摩耗した部品などを補修。
新品同様にするですよ。
廃車とかあると作業がはかどるし、予備の部品も作れるです。
んー、廃車が何台かあれば新造もいけるかも。
乗っているトラックを複製するだけだからね。
パーツを作り、最後にフレームを製造して組み込めばいい。
大規模拠点に着くまでに一台くらいはいけるんじゃないかな。
それとも今あるトラックを強化する?
フレームや装甲をCFRPに変換とかできるですよ。
燃費と防御力が向上するからね。
まぁ、どっちを選んでも損はしないですよ。



《Day3 10:37 【キャサリン】》
 露木・鬼燈(竜喰・f01316)は、手持無沙汰だった。
 自覚があるほどに生き方が特殊な彼は、道に迷える少年たちにしてやれるアドバイスを二秒考えて諦めた。
 好きに飲んで、遊んで、戦って、命尽きる瞬間まで生を楽しむ。刹那主義と言われようが、鬼燈はその生き様を変えるつもりがない。彼らとは根本的に価値観が違いそうだし、合わせるつもりも特になかった。
 とはいえ、「運び屋」の連中に世話になりっぱなしというのも落ち着かない。燃料を補給するために全トラックが停車した中を、手伝えることはないかしら、と歩き回る。
 そしてふと、男の苛立つ声を聞いた。
「くっそ、このポンコツ! 動けってんだよ!」
 ガンガンと金属を叩く音までする。穏やかではない様子だが、どうやらトラックが故障してしまったらしい。
 近づいてみて、驚いた。老いた男に蹴飛ばされているそれは、古びた小型トラックだった。荷物も大して積めないし、居住スペースもない。平ボディの荷台には、工具箱が大量に乗せられている。
 男に歩み寄った鬼燈は、軽い調子で声をかけた。
「どうしたです?」
「どうしたもこうしたもねぇよ! メカニックの俺の車が、このざまだ!」
「あらら」
 苦笑いしつつ眺めていると、老いた男は運転席に行ってエンジンを掛けようと試みては失敗を繰り返している。
 どうにも、根幹に不調があるようだ。これまでも騙し騙しで使ってきたのだろうが、ここに来て大破してしまったらしい。
「くそ! 俺を怒らせるなよ鉄クズ!」
「そんなにボロなら、乗り換えればいいのに」
 何気なく言うと、老メカニックは一瞬目を見開いてこちらを睨み、そして俯いた。
「それは! ……できねぇ。こいつは、ダメなんだ」
 事情は語らなかったが、鬼燈はその様子に、老人のトラックに対するただならぬ愛着を感じた。
 感動したというわけではないが、なんだかこのままにするのも忍びない。このメカニックに協力しようと決めた。
「うん、手伝うです。エンジンルームを見せてほしいっぽい」
「あん? 俺がさんざん見てやったんだぞ! メカニックの俺がだ! 奪還者に何ができるってんだ、えぇ!?」
「何ができるかなんて、やってみなきゃ分かんないよ」
「……はん」
 鼻を鳴らしながらも、老メカニックは小型トラックのエンジンルームを開けた。
 中を覗き込み、絶句する。ほとんどのパーツが焼け切れる寸前で、よく今日まで動いていたものだと、鬼燈は今度こそ感動した。
 むしろ、これではいつ爆発してもおかしくないのではないか。呆れながらも、右腕を突っ込む。
「おい、レンチもなしに――」
「いいからいいから」
 ぺろりと下を出しつつ、エンジンルームをまさぐる。メカニックには見えなかったが、その右腕は今、元素を自在に操る力場へと変異していた。
 摩耗した部品を補修し、あるいは作り変えて、内部パーツを新品同様にしていく。構造に明るいわけではないが、ゼロから部品を作り出すわけではないので、作業としては簡単だった。
 はた目から見れば、まるでおもちゃ箱を漁っている子供のようだ。老メカニックの顔が、いよいよ不安げになっていく。
 ややあって、鬼燈は右腕を引き抜いた。
「よし、いい感じ!」
「あんだと? お前、今ので修理したってのか!?」
「まぁまぁ、試してみるっぽい」
 背中を押されるがままに、メカニックは不信感を隠しもせずに運転席へと入った。
 怪訝な顔をしたまま、キーを回す。瞬間、マフラーが重い音を立てながら、力強く排気ガスを吐き出した。
 一瞬呆けて、すぐに老人は目を輝かせた。
「おぉ、おぉ! かかったぞ若いの、こいつぁいい! はは、昔を思い出す音がしやがる!」
「ほらね、やってみなきゃ分かんないでしょ」
 満足げに鬼燈が頷くと、メカニックもまた、満面の笑みで首肯した。
「まったくだな! なかなかやるじゃねぇか。お前、俺と組まねぇか!?」
「それは遠慮するです。僕の本業はこっちじゃないからね」
「そうかい、残念だ。しかし、こいつぁお前――」
 エンジン音を轟かせる小型トラックのハンドルを、老メカニックは愛おし気に撫でた。そして次の瞬間、彼はその輪に頬ずりを始める。
 ぎょっとする鬼燈を置いて、老人は恋人にするように目を細めた。
「キャサリン……よく、よく帰ってきてくれた。おぉ、寂しかったとも。お前の音が恋しくて、弱っていくたび悲しくてな。いや、謝らなくてもいい、分かってる。お前さんも同じ気持ちだったなんてことは、俺が一番分かってる。……そうともキャシー、俺とお前の仲だものな。愛しているよ、キャサリン……」
 鬼燈は、その場をそっと離れた。驚きはしたものの、不快感を覚えるようなことはない。
 老メカニックがトラックに傾ける情熱は、理解できた。強いこだわりがあるからこそ道を極められることは、鬼燈もよく知っている。
 それに、彼は見てしまった。
 エンジンルームをまさぐっている時、運転席にちらりと見えた、一切れの写真。古ぼけたそこに映る若い女性の姿と、そこにかかれた「Catherine」の文字。
 何があったのかを聞くほど、鬼燈は野暮な男ではなかった。
「……ま、それも生き方の一つっぽい」
 フレームや装甲をCFRPに変換してやることもできたが、老メカニックはそれを望まないだろう。しない方がいいとさえ、思った。
 ――願わくば、【彼女】が長持ちしてくれんことを。
 頭の後ろで手を組んで、鬼燈は口笛など吹きながら、給油を続けるトラックの間を散歩することにした。

大成功 🔵​🔵​🔵​

臥待・夏報
チビたちを大人に任せるかどうか、ね。
……いや、君が本当に悩んでいるのはそこじゃない。

トーマスくん、良い顔になったねえ――って言いたいとこだけど、君はあの時からずっと良い顔してたよ。
あの時ってのはあの時だ。僕がつまんないこと聞いた時。
チビたちの面倒を見ることで、君たち四人は繋がっている。君はそう言ったよね。
悪いけど、結論を躊躇っている君の代わりに言葉にしちゃうよ?
そんなことする必要はなくなったんだ。
だったら答えはひとつ――『繋がってはいられなくなる』。少なくとも、今までと同じかたちでは。
それが大人になるってことなのかは、僕もわかんないや。

ねえ、もうひとつ聞いてみていい?
僕、いくつぐらいに見える?



《Day3 12:22 【ずっと子供じゃいられない】》
 天日が空高くに昇り、トラックは今も荒野を走っていた。
 荒れた大地なので、スピードはそんなに速くはない。おかげで、居住用コンテナの外にいても、風が強すぎるようなことはなかった。
 過ぎ行く景色を飽きもせず見ながら、トーマスは一人で食事を取っていた。決して美味くないブロック携帯食だ。「運び屋」から支給されたサンドイッチは、年少組に渡してしまった。
 そのことについては、何も思っていない。しかし、小さな彼らのことは、ずっと考え続けていた。
「……」
 ジニーには、まだ相談していない。自分の中でしっかりと整理できてからでないと、どうにも話せる気がしなかった。
 一本目の携帯食を食べ終え、足らず、二本目を開けようとした時だった。背中に声をかけられた。
「やぁ、トーマスくん」
「あ、夏報さん」
 呼ばれて、臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)はニッと笑った。相変わらず髪は後ろで縛り、パーカーのフードを被っている。出会った時と同じ格好だ。
 子供の背丈ほどもあるサイドゲートを手すり代わりにして寄りかかり、夏報はどこか薄い笑顔で言った。
「いやぁ、大変だったねぇ。僕もさすがに死ぬかと思ったよ」
「そうですね、もうダメだと何度考えたか、わかりません。でも……皆さんのおかげで、今も生きていられていますよ」
 そう言って、トーマスは頭を下げた。礼を言われるとなんだかくすぐったかったが、夏報は肩を竦めて小恥ずかしさを風に流した。
 顔を上げた少年を見て、夏報はうんうんと頷いた。
「トーマスくん、いい顔になったねぇ」
「そ、そうですか? いやぁ」
 激戦を潜り抜けた自覚はあるのだろう、頭を恥ずかし気に掻くトーマス。
 しかしふと、夏報の目から飄々としたものが抜けた。笑顔はそのままに、真剣な瞳を向ける。
「――って言いたいとこだけど、君はあの時から、ずっと良い顔してたよ」
「……あの時?」
 何か含みがあることを、トーマスは察しているようだった。さすがに頭がいい。夏報は感心しつつ、続ける。
「あの時ってのはあの時だ。僕がつまんないこと聞いた時」
 太っちょの少年の、顔色が変わる。あの昼下がりの会話は、忘れられるはずもない。それはまさしく、彼が今悩んでいることだった。
 年少組を、この先どうするか。彼が悩んでいることを、夏報は察していた。四人の中で一番頭が回るトーマスは、わかってしまっていたのだ。
 あの地獄で、小さい子らを死の淵に立たせていたこと。トーマスとジニーだけでは、決して守れなかったということ。
 これから先も守り続けられるとは、とても思えないこと。
 トラックキャラバンから離れると決めた場合、年少組だけでもここに置いていくべきか、否か。彼はずっと、それを考え続けていたのだ。
「……お見通し、ですね」
「まぁ君は顔に出るからねぇ」
「そ、そうかな」
 肉の乗った頬を撫でながら、トーマスは苦い顔をした。ケラケラと笑ってから、夏報はポケットから酒瓶――ストアで調達した二本目――を取り出し、呷った。
「……チビたちの面倒を見ることで、君たち四人は繋がっている。君はそう言ったよね。その言葉は、嘘だったのかな?」
「違います! そんなわけないでしょう、僕は!」
「あぁ、そうだろうね。うん、分かってて聞いたんだ。まぁ悪い判断じゃないと思うよ。チビたちの未来を考えればさ」
「……」
 俯いたトーマスは、何も言わなくなってしまった。言葉は頭を巡っているのだろうが、口に出すのが、怖いのだ。
 それを認めてしまえば、変わってしまう気がしているのだろう。だが現実というものは、いつまでも逃げ続けられるものではない。
 しばらく様子を見ていた夏報は、呷っていた酒瓶が空になってしまったので、仕方なく切り出した。
「悪いけど、結論を躊躇っている君の代わりに言葉にしちゃうよ?」
「ちょ、ちょっと待って――」
「いいや、待たないよ」
 意地悪をするつもりはない。ただ、いつまでも気づかないふりをしていたら、いつか自分に嘘をつくことに慣れてしまう。
 それは、止めてほしかった。その辛さを、よく知っているから。
 夏報は、笑顔のまま、告げる。
「そんなことする必要は、なくなったんだ」
 紛れもない、真実だった。四人はもう、幼い子らを理由にしていなくとも、生きていける。互いを信じ合う理由に彼らを使う意味は、もうない。
 拳を握りしめたトーマスは、眉間にしわを寄せて荷台の床を睨みつけている。追い打ちをかけるように、しかし優しい声音で、夏報は続けた。
「だったら答えはひとつ――『繋がってはいられなくなる』。少なくとも、今までと同じかたちでは」
 それはきっと、年少組と離れようと、そうでなかろうと、同じこと。いつまでもどこまでも、ずっと一緒の仲良しごっこでは、生きていけやしない。
 時間は、進むものだ。人のつながりもまた、変わっていくべきもの。それが自然であり、それが当たり前なのだ。
 いつかの八月十九日に思考を引っ張られながら、自虐的な想いで肩を竦める。
「それが大人になるってことなのかは、僕も分かんないや」
「……そうですね。今、大人になるべきなのか……それも、分からないです」
 そう答えたトーマスは、力のない笑みを見せた。
 しかし彼は、選び取るのだろう。何らかの選択肢を、遠くないうちに。大人に近づくために。
 複雑な沈黙が流れる中で、夏報はふと、トーマスに尋ねた。
「ねぇ、もうひとつ聞いてみていい?」
 こちらを向いて首を傾げるトーマスに、フードを取らないまま、自分の頬を指さした。
「僕、いくつぐらいに見える?」
「えっ!? えっと、その。……じゅ、じゅう……は、はち? あ、でもお酒を――」
 思わず、声を上げて笑った。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴァシリッサ・フロレスク
※奪還1、機会があればジニーと会話

愛車ハティの機動力を活かして、威力偵察と物資回収を支援するよ。

サバイバルは世界知識と情報収集力……それと、野生の勘がモノを言うのさ。

レイダー連中はディヤーヴォルとスコルで“恫喝(せっとく)”して言いくるめる。

――どっちが略奪者(レイダー)だって?
寧ろあたしゃ救世主(セイヴァー)だろ?この肥溜め以下の世界ン中で、そのクソみたいな生き方から足洗うチャンスをやろうってンだ、有難く優しさを噛みしめな?

カタいよ少年――ジニー、つったかね?
そんなンじゃ、直ぐ折れっちまうぞ?
護るモノがあンなら、もっと、靭やかに生きな。

使えるもンは使う、頼れるもンは頼る。

独りじゃねェんだ。



《Day3 14:03 【Savior】》
 今日は当たりだ、とヘッドが言っていたのを、ジニーは思い出す。浮かべる表情が苦々しかったこともまた。
 レイダーどもと、一日に二回も鉢合わせするとは。しかも二回目は、どこかの拠点を襲撃しようと進軍している連中だった。
 恐らく、敵の士気が高い。ヘッドは迂回を考えたが、猟兵たちが問題ないと主張したので、こちらから打って出て、敵を制圧することにした。
 その先陣を切ったバイクの後部座席に、出発直前に飛び乗ったのが、先程だ。そして今、ジニーは後悔していた。
「もっとだ! もっと――飛ばしてくよぉッ!!」
 叫びながらハンドルを捻りまくる、赤毛の女。ヴァシリッサ・フロレスク(浄火の血胤(自称)・f09894)は、狂喜していた。
 マフラーから爆音を奏でるカスタムバイク【「XR17G/S HATI」(ハティ)】が、搭載しているターボの力を存分に発揮、さらに加速していく。
 ヴァシリッサにしがみつくジニーは、女性に抱き着く形になっていることを恥じる余裕もなく、帰りたい一心だった。
「ヴァシリッサさん! もう少し! もう少しスピード落として!」
「何言ってんだ、んなことしてたら、敵さんが逃げちまうだろ! 大体アンタ、なんでついてきたんだい?」
「お、俺も役に立ちたいんだよ! 銃だって持ってるんだ!」
「……坊やだねぇ。ジニー、前を見な」
 灰色の瞳が見据える先に、レイダーの一団がいた。こちらに気づき、銃口を向けている。
 ジニーにとっては、初めて見る賊どもだった。化け物の捕食本能と違い、明確な敵意と殺意を向けられるのも、初めてのことだった。
 どこまで近づいたら撃たれるのだろうか。そんなことを考えているうちに、ヴァシリッサのバイクは敵との距離を縮めていく。
 拡声器を使って、レイダーが叫んだ。
「止まれっつってんコラー!!」
「いやだねッ!!」
 愛車を走らせたまま、重機関銃とリボルバーショットガンを構え、ぶっ放す。威嚇射撃が地面を抉り、レイダーどもがうろたえた。
 敵までの距離が十メートルを切ったあたりで、ヴァシリッサはようやくバイクを止めた。後ろのジニーが震えているが、今は構ってやるつもりはない。
 レイダーは、すぐに撃ってこなかった。バギーやら粗雑なバイクやらの頭をこちらに向けて、銃を担いで睨みつけてくる。
「アンコラー? ナメテッコラー!?」
「おーおー威勢のいいのが揃ってるじゃないか。厳つい兄さま方、ちょいとアタシのお願いを聞いちゃくれないかい?」
 凄みのある笑みで問うと、レイダーたちは一斉にニヤニヤと笑い出した。下卑た想像をしていることは間違いない。
 ややあって、先頭のバギーに乗るモヒカンが言った。
「お願いの内容にもよるなぁ! 姉ちゃん、ナニをしてほしいんだァ?」
「アンタらが持ってる弾薬と銃、乗り物の類、それと金になりそうなものを全て置いて、どこかに消えてくれないかい? 対価はアンタらの生存権さ」
「ハァーッ!?」
 理解できないとばかりに、レイダーが絶叫した。一斉に銃を構えた瞬間、ヴァシリッサは列をなすバギーとバイクのタイヤを全て撃ち抜く。
 一瞬の早業だった。バランスを崩したバイクから転倒する者もいる中で、向けられる殺気をものともせず、赤毛の傭兵は口の端を持ち上げた。
「It's simple。物を置いて生きるか、今ここで死ぬか。選びな」
「テメッスッゾコラー!? どういう二択だ!? テメェのがよっぽどレイダーじゃねぇか!」
「あぁん? 何言ってんだ。むしろアタシゃ救世主(セイヴァー)だろ?」
 バイクのハンドルを、握る。唸るエンジン音を合図に、背後から追い付いてきた猟兵たちが、得物を抜いた。
「この肥溜め以下の世界ン中で、そのクソみたいな生き方から足洗うチャンスをやろうってンだ、有難く優しさを噛みしめな」
「ザッケンナ……ザッケコラーッ! てめぇら、こいつを――殺せぇぇぇぇッ!!」
 銃口から迸る殺意が、いっそう強烈になった。ジニーは撃ち殺される自分を想像し、ヴァシリッサの腰に強く腕を回した。
 突貫の姿勢に入っていたヴァシリッサは、少年の手から強烈な恐怖心を感じ、舌打ちした。
「……甘ちゃんがいちゃ、楽しめやしない」
 バイクを反転、代わりに戦闘に入った猟兵たちとすれ違うように、トラックへと引き返す。
 ドンパチ始めた戦闘音が遠ざかる中、速度を落として、ヴァシリッサは前を見たまま、ジニーにきつく言った。
「少年――ジニー、つったかね? あの程度の雑魚相手に、何ブルってるんだい。そんなンじゃ、直ぐ折れっちまうぞ?」
「いやだって、俺……」
「出てくる前に、無理だって分かんなかったのかい? ガキだねぇ」
 はっきりと言ってやらなければならないこともあるだろう。ヴァシリッサに容赦をするつもりは毛頭なかった。
 彼はまだ、どこかに「自分がやらねば」という意識がある。だから、レイダーとの戦闘にまでついて来ようとしたのだ。
 だが、今のではっきりと分かる。彼は、戦う者には向いていない。それは仲間の猟兵たちも感じていることだろう。
「ジニー。護るモノがあンなら、もっと、靭やかに生きな」
「……靭やかに?」
「そうだ。なんでもかんでも自分でやろうとしちゃ、いつか潰れるに決まってるだろ? 使えるもンは使う、頼れるもンは頼る」
 トラックが見えてきた。飛び出したジニーを心配したアンナとハルカ、トーマスがじっと立って待っている。
 背後のジニーが、片手を上げて手を振った。背中にいる彼の顔は見えないままに、ヴァシリッサは少年に最も大切なことを、教えてやることにした。
「お前は――独りじゃねェんだ」
 振り返ることは、しなかった。アンナたちの零れる笑顔を見ていれば、彼の表情は、想像できたからだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

天翳・緋雨
【金平糖2号】ルベル君と

【奪還1】
いずれ旅は終わる
彼らも今後を決めるだろう
ボクに出来る事はあまりに少ないけれど
この探索の戦果を餞に

ヘッドはボクが言わなくても子供達の面倒を見るけれど
仕事の対価として約束にしておこう
戦利品を運運搬用に小型車両を借りられると有り難いな
この世界の技術体系なら扱えそう(メカニック)


ルベル君?
そんなに急がなくてもね?
到着時間はあまり変わらない

まあ、暴れたりないようだからそっとサポートしようかな
UCは【咎檻】を
バンダナを解き第三の瞳を開放(戦闘知識・第六感)
破魔の視線で弱体化を狙いつつ拘束していく

囲まれない様に配慮しつつ雷光の刃を見舞っていこう

最後は笑顔でお別れがいいよね


ルベル・ノウフィル
【金平糖2号】緋雨殿と奪還1

レイダー拠点があるのなら参りましょう
緋雨殿はヘッドさんと話しているのですね、ごゆっくり
僕はレイダー一直線です

敵はたくさんいますね
さあ、かかってくるのです

UC遊戯で楽しかった旅の思い出を杖に喰わせようかと思い、思い直してやめる
「そんな小細工は必要ありませんとも」
限界突破、UC魂の凌駕
演出的になるかもしれませんが狼姿で死霊と共に捨て身で暴れましょう
この拠点にいる敵は全て僕が狩るのでございます

緋雨殿に気付いたら戯れに早業、ダッシュ&ジャンプで跳びかかる
オーラ防御で守って冗談ですよって…キャンキャン!(負け犬)

子供達は
人としての佳き人生をお過ごし下さい



《Day3 14:14 【交渉】》
 汚い怒声と弾丸が飛び交う只中に、「運び屋」のバギーが飛び込む。
 運転していたのは、天翳・緋雨(時の迷い人・f12072)だった。車体が傷まないよう急ブレーキを駆けつつ、背後に乗っている少年に叫ぶ。
「この戦果を、彼らへの餞にしたいね……。ルベル君!」
「承知。敵はたくさんいますね。さぁ、かかってくるのです」
 後部座席から跳躍したルベル・ノウフィル(星守の杖・f05873)が、【星守の杖】を掲げた。
 力を得るべく捧げる記憶は、この旅の思い出。
 それは、楽しいと感じられる記憶だった。
「……」
 放たれた弾丸を跳んで躱し、ルベルは考えなおす。それは少々、もったいないのではないか。
 特に、レイダーなどという賊どもが相手では、ジニーたちや緋雨との思い出は、対価としては釣り合わなさすぎる。
「……止めましょう。そんな小細工は、必要ありませんとも」
 人狼の少年が、その身に死霊を纏わせる。ルベルの体は見る間に狼のそれ――彼の真の姿だ――へと変貌していった。
 現れた白狼に、敵が一斉に銃弾をばら撒いた。レイダーたちの足元を駆け抜けたルベルは、鋭い牙でもってモヒカンどもの喉笛に食らいつく。
 今日のルベルは何やら荒れているなと、緋雨は思った。思うところがあったのだろうか。ストレスでも溜まっていたのかもしれない。
 狼となって暴れまくるルベルを眺めていると、一台のバイクが近づいてきた。ヘッドだ。
「おい、何をボサっと――って、こいつぁ」
 戦場と化した荒野を見回して、禿頭の黒人は絶句した。レイダーどもは、ルベルを筆頭にした猟兵と奪還者たちに手も足も出ておらず、混乱の極みにあった。
 額のバンダナに触れながら、緋雨は戦いの最中でも構わず、ヘッドに言った。
「ヘッド、報酬の話がしたい」
「……この状況でかよ。とんでもねぇタマだ」
 舌打ちしながらも、ヘッドはマシンガンを手にレイダーを撃ち払いながら、愉快そうに笑った。
「まぁいい、聞いてやる。言ってみな!」
「あなたたちは、ボクが言わなくても子供たちの面倒をみてくれるけれど……。できれば、この先も守ってやってくれないかな」
「……そういう話か。それはお前が決めてもいい問題なのか?」
「まさか。彼らが望めば、さ」
 マシンガンを撃ち切って、次のマガジンを装填しつつ、ヘッドはしばし考える素振りを見せてから、答えた。
「手柄を上げてみな。それ次第だ」
「了解。まぁ、もう彼がやってくれてるけれど」
 そう呟いて見た先では、死霊を纏った白狼が、レイダーの喉笛を噛み千切っていた。
 せっかく緋雨が交渉するのだからと、ルベルはその活躍をより見せつけるため、演出として暴れていた。銃弾が身を掠めても気にしない、捨て身の戦い方だ。
 この場にいる全ての敵は、僕が狩る――。そう言わんばかりの戦いぶりに、レイダーたちは恐怖に陥っていた。
「ナンッコラ犬コロテメー!?」
「アーッ!? 俺の腕がぁぁぁぁッ!!」
「捌いて焼いて食ってヤッコラー!!」
 己より遥かに小さな体躯の狼一匹に、賊どもは次々に襲われ、的確な一撃で死に追いやられていく。
 なんだか妙なスイッチが入っているなと思いながら、緋雨はルベルに半眼を向けた。
「ルベル君? そんなに急がなくてもね? 到着時間は、どうせあまり変わらないんだから」
「……まだ目途も経ってねぇしなぁ」
 隣で、ヘッドまでぼやいた。気づけば半壊しているレイダーの一団は、もうこの狼をいかに殺すかしか考えていないようだった。
 どうやらまだまだ暴れたりないらしい友人のために、緋雨はしぶしぶといった様子でバンダナを解いた。
 その下に隠されていた第三の瞳が、開眼する。レイダーはこちらに気づいていないが、構わず、その力を解放した。
「サポートするよ。手柄を立てる必要があるからね」
 ヘッドの言葉を繰り返すように呟き、破魔と呪縛の視線を賊どもに向ける。
 瞬間、緋雨に見つめられたレイダーが、硬直した。声も出せずに目を見開いて、虚空を見つめている。ヘッドが困惑したように唇を震わせた。
「こ、こいつぁ……」
「ただの異能だよ。これで、ルベル君がやりやすくなった」
 見れば、硬直したレイダーに、ルベルが容赦なく飛びつき、抵抗できない賊の喉に食らいついていた。彼の進行方向にいる敵を縛っていくことで、殺戮の速度は増していく。
 すぐに、敵が緋雨の能力に気づいた。
「てめぇかコラー!? みょうちくりんな手品使ってんじゃネッゾテメー!」
「手品かどうか、その身で確かめてみるといい」
 腕を一振り、迸った雷光の刃が、罵声を上げていたレイダーに直撃した。激しく痙攣した後、焦げた臭いを発したまま、動かなくなる。
 程度の低い敵とはいえ、囲まれてしまえば厄介だ。緋雨はヘッドと互いの背を守りながら、ルベルの進路上にいるレイダーを第三の瞳で動かなくしていった。
 もはや、敵は撤退の姿勢に入っていた。だが、ここで逃がすわけにはいかない。拠点に戻られてしまえば、また武装を整え人員を増して、襲ってくる可能性がある。
 それでなくとも、奴らはどこかの里を滅ぼすだろう。そうした奴らを野放しにすれば、いつか世界も消えてなくなる。
「……それは、よくない」
 想像したくない現実に眉を寄せながら、緋雨はルベルの牙がより深く突き刺さるよう、賊を縛る力を強めた。

《Day3 14:22 【キャンキャン】》
 レイダーが全滅するまで、時間はさしてかからなかった。
 全ての敵が死体になったことを確認し、緋雨は息をつきつつ額にバンダナを巻く。戦いを終えた奪還者たちは、敵のバギーから装備や弾薬を調達し始めた。
 なかなかの戦果だ。これならば、ヘッドも納得してくれるのではないだろうかと思っている緋雨の肩に、そのヘッドが手を置いた。
「大したもんだ。あんたらの強さは、本当に怪物じみてるぜ」
 悪気はまるでないのだろう。彼は愉快そうに笑っていった。化け物扱いされるのはなんだか具合が悪かったが、冗談として受け止めておくことにする。
 曖昧な笑みで応えると、「運び屋」の頭領はにわかに真剣な眼差しになった。
「しかし……あんたたちはどうして、あのガキどもに肩入れしてるんだ? 子供は守りたいって気持ちはまぁ、分からんでもないが」
「分かるなら、そういうことだよ。いずれこの旅は終わる。僕たちも、彼らも。ジニーたちは、今後を決めなきゃいけない時期だからね。どの道も、開いておいてあげたいのさ」
 賊の骸が転がる荒野を、眺める。彼らが生きていくのは、こうした血の上に成り立っている世界なのだ。
「ん、あれは――」
 血の海の中にルベルを見つけた。まだ戦い足りないとでもいうのか、彼は戦場だった荒野をパタパタと走り回っている。ふとこちらを向いて、目が合ったかと思うと、その白い尻尾を振り出した。
 緋雨目掛けて走ってくる。凄まじいダッシュだ。よく見れば、牙も向いていた。やはり尻尾は振っているが。
 不穏な何かを感じたのか、ヘッドが「おい!」と叫んだ。
 ルベルは速度を増していく。そして地を蹴り、緋雨に飛び掛かった。
「……」
 緋雨は無言で、その左手に流した弱めの電流で、飛びついてきた白狼の頭をはたいた。
「キャンキャン!」
 子犬のような声を上げて、ルベルが転がった。纏う死霊も痛そうな顔をしている。一応、死霊をオーラにして勢いを削ぐつもりではあったらしい。
 緋雨は突然ふざけてきた友人に、半眼を向ける。
「ルベル君。テンションが上がっていたのかもしれないけど、僕はそういうの、よくないと思う」
「くぅん」
 素直に伏せの姿勢を取り、尻尾を項垂れさせるルベルである。
 説教の一つでもと思ったところで、辺りから一斉にエンジン音が鳴り始めた。奪還者が、レイダーたちの乗り物を回収し始めたのだ。
 そろそろ、戻る頃合いか。ヘッドがバイクに跨り、緋雨もバギーの運転席についた。ルベルが助手席で丸くなる。
「……いつまで、それでいるのかな?」
 見上げた狼ルベルの目が、「もう少しだけでございます」と語っていた。緋雨はある懸念があったが、あえて口には出さないことにした。
 行軍中のレイダーを打ち破り、大量の戦利品を調達した彼ら。帰りを待っていてくれた「運び屋」と少年の一団に、温かく迎え入れられて――。
「犬さんだ!」
「ワンちゃんかわいい!」
 ――ルベルは今日のキャンプ地に向かうまでの間、年少組の子供たちに、もみくちゃにされるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

政木・朱鞠
ヘッドの要請の拠点の制圧と物資の回収をとりあえず受けておこうかな。。
入り組んだ建物とかを探る時は感覚共有した『忍法・繰り飯綱』を放ち【追跡】や【情報収集】を駆使してクリアリングと物資の探索を心掛けるよ。
一方で、キャラバンの仕事と同時に子供達の悩みにも向き合わないとね…。
変に自分の猟兵としての経験から安易に抽出したアドバイスしてもジニー達の悩みの答えに結びつくとは限らないし、教わった答えじゃこの厳しい世界観ではかえって危険な選択をさせてしまいそう。
ちょっと荒療治かもしれないけど…一回、年長組でちゃんと自分の考えとか不安や焦りを含めた悩みをぶつけ合ってみたら?と提案してみようかな。

アドリブ連帯歓迎



《Day3 16:51 【すなお】》
 両開きの扉を押し開けた瞬間、アルコールのツンとする臭いが鼻を突いた。
 やはり、医療施設だ。無論その跡地だが、まだ荒らされていない。はた目にはボロの民家にしか見えなかったことが、幸いした。
「これなら、薬も見つかりそうかな」
 この世界で、薬品は貴重だ。政木・朱鞠(狐龍の姫忍・f00521)は素早く印を組み、口早に唱えた。
「我が魂魄の欠片よ目覚め……力を行使し見聞きせよ……急急如律令」
 声がふわりと舞った瞬間、朱鞠の足元に青白い霊体が現れる。子狐にも似たその分霊は、建物内を素早く駆けていった。
 感覚を共有する分霊と自身の目で、探索を始める。恐らく個人でやっていた病院だろう。そう大きな建物ではない。
 敵の気配はない。オブリビオン・ストームでも起きない限りは、戦闘になることはないだろう。一応警戒だけはしながら、奥へ進む。
 古びた医術書の埃を払い、読めそうにないなと肩を落としていると、背中を叩かれた。
「なぁ、朱鞠さん。これは使えるかな」
 振り返ると、ジニーが青い薬瓶を持って立っていた。どうやら消毒液の類らしい。頷いて、微笑む。
「よく見つけたね。それ、大切に持ってて」
「あぁ」
 お手柄だが、ジニーは嬉しそうではなかった。それはそうだろうなと、朱鞠は苦笑する。
 とうとう奪還者の作戦に声がかかり、張り切っていたジニー少年だが、その先に敵はいなかった。無論大人たちはそれを知っていて、彼に同行を頼んだのだが。
 先のレイダーとの戦いでは、何もできなかったというのに。ゾンビと戦えたことで妙な自信が芽生えてしまっているのなら、それを増長させないようにしてやらなければならないなと、朱鞠は姉のような心地で思った。
「薬を補充するのも、大切な仕事だよ。奪還者は怪我しやすいんだし、いざという時に治療できなければ、死んじゃうかもしれないんだから」
「分かってるよ」
 ため息交じりの返答に、それ以上の説教は止めておこうと決めた。
 彼は、焦っているのだ。トラックキャラバンという巨大な一派と出会い、そのリーダーを直に見て、自分もそうありたいと考えているのだろう。
 さすがに、年季が違い過ぎる。が、それを指摘したところで、若干十四歳の男子が持つプライドが納得してくれないだろうことは、容易に想像ができた。
 まったく、世話が焼ける。朱鞠はそうため息をつきつつも、下手なアドバイスをすることは避けていた。
「俺だって、やりゃできるんだからな。ったく……包帯見っけ」
 なんだかんだ言いながらも探索を続けるジニーを、複雑な想いで見つめる。
 猟兵としての経験から安易に抽出したアドバイスが、彼らが欲する答えに結びつくとは、朱鞠には思えなかった。無論個人の意見ではあるが、少なくとも彼女は、そう考えていた。
 それに何より、他者から与えられた答えに縋るようでは、殺伐としたアポカリプスヘルで生き続けることは難しい。かえって、危険な選択をしてしまうかもしれない。
 そんなことを考えていると、分霊が奥の診療室で薬箱を見つけた。かなり大きなものだ。戦果が期待できる。
 二人で診療室に向かい、薬箱をジニーに持たせた。持ち上げた瞬間、苦し気に呻く。
「うっ……」
「重い? 代わろうか?」
「いい……! 大丈夫」
 すぐに慣れたようなので、強がりの類ではないらしい。朱鞠は彼の男気に甘えることにした。
 探索を終えて戻る途中、ジニーの横顔を覗き見た。物資を運んでいるというのに、何やら上の空の顔をしていた。
 トーマスに相談している姿は、よく見かけるようになった。それはいいことだが、まだ無理をしているように見える。
 少し考え、朱鞠はある提案をすることにした。少々荒療治だが、彼らならきっと、と口を開く。
「ねぇ、ジニー。一回年長組で、自分の考えをぶつけ合ってみたら? 不安とか焦り、悩みも、全部さ」
「……それは、アンナとハルカも一緒にってこと?」
「もちろん。それとも、女子に悩みを打ち明けるのは、恥ずかしい?」
「……そういうわけじゃない。ただ、あいつらに心配かけたくないって、そう思うだけで」
 本音半分、といったところか。もう半分は、朱鞠が指摘した通りだろう。
 女の子に弱みを見せることに抵抗があるのだ。何を今更と思わなくもないが、健全な男子の心に戻りつつあることは、喜ばしい変化でもある。
 個人病院から一歩出て、ようやく新鮮な空気を吸えた朱鞠は、深呼吸してから、ジニーへと振り返った。
「私たちが話を聞くのは簡単だけど、一番身近な人に本音を打ち明けられないままで、いいの?」
「トーマスには、ちゃんと話してるよ」
「女の子たちにも。みんなきっと、待ってるよ。……素直になりなさい、少年」
 肩を小突いて、前を歩く。後ろで何やらぶつくさ言いながらも、ジニーはしっかりついてきているようだった。
 悩みを持つことは悪いことではないと、朱鞠は思う。
 悩んで悩んで、打ち明けて、一緒にまた悩んで。その先に、選んだ未来があるのなら。
 どのような形であっても、きっと彼らは、後悔しないと思うから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

エーカ・ライスフェルト
【家事妖精召喚】で呼び出したシルキーに、相場の倍の魔力を渡して身の回りの世話をさせている駄目人間です

>食料を分けてもらえるよう頼んでくる
「恩は返すようにしなさいよ。直接返すか、別の人に別の機会に返す事になるかは分からないけど、義理を欠けば見捨てられるようになるわ」
「力がないと生きて生けないのは昔の貴方達も今の貴方達も同じよ。当時は将来性、今では労働力という力が重視されているだけなの」
「要するに何かを出来るようになりなさいってこと。戦闘技術に限らないわ。限られた材料で美味しい食事が作れるのも、力よ」
「私が出来る訳ないじゃない料理なんて。私は武力に全振りだもの」詐欺的技術についてはノーコメントよ



《Day3 17:47 【対価】》
 夕食の準備が始まった。女たちは総出で、炊事に取り掛かっている。その中にはアンナとハルカ、猟兵たちの姿もちらほら見えた。
 なるほど、皆がんばっている。遠目から腕を組んでそれを眺めるエーカ・ライスフェルト(ウィザード・f06511)は、感心したように頷いた。
 手伝うつもりは毛頭なく、例によって家事妖精の【シルキー】に全てを任せた彼女は、暇つぶしの散歩を開始した。
 数十台のトラックが一堂に会する様は、なかなか壮観だ。武装車、装甲車、運搬車、居住車と、その種類も様々だった。
 観光気分で歩いていると、超大型トラックの荷台でごそごそとやっているトーマスが見えた。かけられた梯子から上がり、声をかける。
「トーマス、暇そうね」
「え? 暇じゃないですけど……」
 答えた彼は、缶詰やらブロック栄養食やらを数えているらしかった。相変わらず、そういう役割らしい。
 しかし、ふと疑問に思う。ストアで調達した物資は、その多くをゾンビの襲撃によって置いてきてしまったはずだ。トーマスの前に並べてある量は、いささか多いように思えた。
「あなた、それはどこから?」
「あぁ、ヘッドさんに分けてもらったんです。正直、僕らが持っている分じゃ心許なくて」
「ふぅん」
 しかし、結構な量だ。彼らが子供だということもあるのだろうが、「運び屋」の頭領はずいぶんと気前がいいようだ。
 だが、分けてもらってお終いというわけにもいくまい。エーカは躊躇なく、トーマスに苦言を呈する。
「念のために言うけれど、恩は返すようにしなさいよ。直接返すか、別の人に、別の機会に返す事になるかは分からないけど、義理を欠けば見捨てられるようになるわ」
「……それは、分かってます。できる限りのことはしていますけど、僕らにやれることは、限られていますから」
 冷静な口調だった。そして、エーカも正しいと思える意見でもあった。
 だが、甘い。思わず眉を寄せ、目を鋭くした。
「その『限られている』ことに甘えるなと言っているのよ。あなたなら理解できるでしょう? 力がないと生きていけないのは、昔のあなたたちも今のあなたたちも、同じよ」
 今は、まだいいのだ。トラックキャラバンという巨大な組織に保護されているし、猟兵たちも彼らを無条件で守ってくれるのだから。
 だが、エーカが言っているのはその先のことだった。独立した一団となるか、拠点に定住するか、キャラバンに組み込まれるか。それは分からない。だがいずれにしても、対価となるものは必要なのだ。
 こんなにも荒廃した世界でも、社会なのだから。トーマスも、重々分かっているらしかった。
「僕たちが子供であることは、今はメリットでも、いつかデメリットになる。エーカさんの言うことは、分かりますよ。でも、じゃあどうしたらいいって言うんですか」
 ずっと考えていた問題を指摘されて、太った少年は苛立って言った。彼がこうした時に感情を表に出すのは珍しいが、それだけ不安な証拠だ。
 棘のある口調を受け流しつつ、エーカは肩を竦めた。
「ようするに、そこよ。できることが少ないなら、何かをできるようになりなさいってこと」
「簡単に言いますけど、僕たちはあなたたちみたいにはなれません。ゾンビを倒すのだって、精いっぱいだったんだ」
「誰が猟兵になれなんて言ったのよ。なにも戦闘技術に限らないでしょう。これまでジニーたちを支えてきたあなたの頭脳は、彼ら以外にも役立てられるはずよ」
 励ますつもりではなく、事実を言ったまでだった。しかしトーマスは恥ずかし気に、そして自信なさげに頭を掻いた。
「それは、ありがたいですけど……。でもあの時は、生きているのは僕らしかいないって思ってたから、必死だっただけです」
「あのねぇ、これからも必死になりなさいよ。あなた重要なところが抜けてるのね。この世界で生きるのに、必死じゃない奴なんているわけないでしょ。それこそレイダーだって、命懸けてるのよ?」
「う……」
 落ち込むトーマス。実にしっかりした少年ではあるが、茜色の日に照らされる顔を見ていると、やはりまだ子供なのだなと思う。
 甘えたいのだ、彼は。だが、その相手はエーカではない。冗談ではないとすら思う。
 とはいえ、厳しい現実ばかり教え続けるのも、気の毒か。ため息交じりに、桃色の前髪をかき上げた。
「まぁ、難しく考えなくてもいいのよ。アンナとハルカを見なさい、料理をしてるでしょう。あの子たちは今、「運び屋」に対価を差し出しているわ」
「……」
 遠くで忙しく走り回る少女二人――主にハルカだろうが――を見るトーマスに、エーカは頷いた。
「限られた材料で美味しい食事が作れるのも、立派な力なのよ」
「……そう、ですね。確かにそうだ。僕たちは、その力を探さないといけませんね」
 納得してくれたらしい少年は、少しスッキリした顔で、食事を作る女性陣を見つめていた。
 そしてふと、エーカを見る。
「エーカさんは、料理という立派な力を振るわないんですか?」
 トーマスから冗談交じりに言われて、エーカはしかし、即座に鼻を鳴らし、早口で言った。
「女だから、料理力は以て然るべきって言うわけ? 馬鹿言わないで頂戴。私が出来る訳ないじゃない料理なんて。私は武力に全振りだもの。それが私の差し出す対価よ、分かった?」
「……はは、いえ、はい。分かりました」
 少年の苦笑いが、なぜだか胸に、ちくりときた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

サフィリア・ラズワルド
WIZを選択

キャンプ中の見張りを主に請け負います。【子竜の遠足】で召喚した子達と一緒に見張りをします。その合間に思い悩んでいる様子のハルカさんに話しかけます。

『仲間の力になりたい?貴女に覚悟があれば今すぐにでもアンナさんの力になることができるよ』

難しくないよ、アンナさんに一言言うだけ、でもその一言に貴女は責任を持たなきゃいけない、それでもやる?『簡単だよ、姉妹になろうって、家族になろうって言うだけ』傷付いて欠けた心は元に戻らない、新しいモノでそこを無理矢理埋めるしかないの、どっちが年上とか年下とか関係ない、貴女はアンナさんの姉になれる?妹になれる?

アドリブ協力歓迎です。


ルナ・ステラ
(奪還2)
「星々と月の知らせ」で【情報収集】したり、箒で空から街の探索をしたりしましょうか。
星霊さんにも協力してもらいましょう。
―ぎょしゃ座の星霊さん?
馬車で物資を運んでもらえますか?


仕事をこなせたら...ハルカさんとお話してみましょうか。
最初は心の苦悩を聴くことに徹して、その後わたしの思いも伝えましょう。

もっと自信をもって!
充分仲間の力になれてますよ。
そのことは皆に伝わっていると思います。
だから、不甲斐ないなんて思わないで!!

さっき「ありがとう」と言ってくれて嬉しかった!
その調子で徐々にでもいいから自分の気持ちを素直に伝えていけるとよいのかもしれませんね。

(がんばって!わたしの大事な友達!)



《Day3 22:49 【家族】》
 夜も更けてきたが、これだけの大所帯となると、だいぶ余裕もあるらしい。酒盛りをする大人たちの笑い声が、あちこちのトラックから聞こえる。
 灯された電気の光に照らされる岩山を、サフィリア・ラズワルド(ドラゴン擬き・f08950)は見上げていた。彼女は今、見張りについている。
 といっても、大きな岩山を盾にしていることもあって、襲撃の心配はほとんどなさそうだった。念のため子竜たちにも手伝ってもらっている。
 昼間なら、色とりどりの竜が空を舞う姿を見ることができただろう。しかし、宵闇の中ではそれも叶わず、サフィリアは少々退屈していた。
 ぼんやりと空を眺めていると、流れ星が見えた。徐々に、こちらに近づいてくる。
 よく目を凝らしてみると、それは箒に跨った少女だった。星座の馬車を引き連れて、サフィリアの前に着地する。
「ふー、ただいま帰りましたぁ」
「ルナさん、お帰りなさい。ずいぶんかかっちゃったね」
 出迎えるサフィリアに、ルナ・ステラ(星と月の魔女っ子・f05304)は苦笑いで頷いた。
「えへへ、結構距離があったのと、少し、欲張りすぎちゃって」
 星座の馬車に乗せられていたのは、物資の山だった。
 彼女はキャンプから二キロほどの位置にある街を探索していたのだ。他にも数人の猟兵が向かっているが、思いのほか大量の戦利品を手に入れられたので、先行して帰ってきた。
 二人は協力して、馬車の荷物を運搬用トラックの近くに下ろした。後は男の人に任せて、猟兵に与えられた居住コンテナに向かう。
 雑談などしながら歩いていると、ふとルナが足を止めた。彼女の視線の先には、一つだけぽつりと置かれたランプの傍で座っている、ハルカがいた。
 サフィリアとルナは目を合わせ、一人で明かりを見つめる少女のもとへと向かった。
 すぐに、ハルカがこちらに気づく。どこかバツが悪そうに、しかし若干微笑んだ。
「ルナ、サフィリア。奇遇ね」
「ハルカさん、こんな時間に一人で、どうしたの?」
 サフィリアが尋ねる。ボブヘアーの少女を挟むように座って、二人はハルカの言葉を待った。
 ややあって、彼女は目を伏せ、小さくため息を漏らした。
「私に何かあるってわけじゃないんだけどね。いやまぁ、なくはないのか。でもそれはいいわ。……ジニーたちがいろいろ悩んでるの見てると、もやもやしちゃって」
 子竜が飛んでいる空を見上げて、ハルカは自嘲気味に笑った。
「ジニーとトーマスがこれからのことで悩んでて、アンナは見てわかるくらい落ち込んでて。私はどうしたらいいのかなって思ってたの」
「それは、いろいろあると思うよ。話を聞いてあげたり、意見を言ってあげたり……」
 仲間のためにできることを指折り数えるサフィリアに、ハルカはゆっくりと首を横に振った。
「……分かってる。これだけ一緒にいるんだから、みんなの悩みを聞いてあげればいいんだって、頭では分かってるのよ」
「でも、できない?」
 首を傾げるルナに、ハルカは笑って頷いた。やはり、自らを卑下しているような雰囲気があった。
「うまく、できないのよね。アンナに『話を聞くよ』って言おうとしても、あの子の方が大人だし、家族がみんな目の前で死んじゃったなんてこと、私が聞いても、何も言えないし……不甲斐ないわ」
「……」
 ルナとサフィリアは、しばし黙った。
 この少女もまた、両親を亡くしている。それはやはりオブリビオンに襲われたからであり、ハルカの悲しみも想像に絶するところがある。彼女は、アンナと同じ苦悩を抱えているのだ。
 だからこそ、余計にどうしたらいいのか分からないのだろう。自分の心すらも慰められていないのに、どうして友達の悩みを受け止められるのか。
 ジニーとトーマスは、前に進もうとしている。これからのことをずっと考えていて、その姿がまた、ハルカの心に影を落としていた。
「私はやっぱり、何もできない。みんなの力に、私は――」
「そんなことないです! ハルカさん、もっと自信を持って!」
 落ち込む少女の手を取ったのは、ルナだった。大事な友達のために、彼女は必死だった。
 驚くハルカに詰め寄って、豪語する。
「ハルカさんは、十分仲間の力になれてますよ。ゾンビと戦ってた時だって、アンナさんと年少組のみんなを、一生懸命引っ張ってくれたじゃないですか!」
「ルナ……」
「今だって、苦しそうなアンナさんの代わりに、小さい子の面倒を見てくれてるもん。そのことは皆に伝わっていると思います。だから――不甲斐ないなんて、言わないで!」
 きらきらと輝くルナの瞳は、まるで夜空に煌めく星々のようだった。吸い込まれるようにそれを見つめていたハルカは、ほんの少しだけ、微笑んだ。
「……アンタは本当に、優しいのね。でも、やっぱり足らないのよ、私は。友達を慰めることも、できないんだから」
「一つ、あるよ。貴女に覚悟があれば、今すぐにでもアンナさんの力になれる方法」
 じっと聞いていたサフィリアが、言った。ハルカとルナがそちらを向くと、彼女は角にかかっていた銀の髪を解いた。
 覚悟。そう言われて、ハルカは息を呑んだ。できるかどうかは分からない。だが、聞きたいと思った。
「教えて、サフィリア」
「難しいことじゃないよ。アンナさんに一言声をかけるだけ。でもその一言に、貴女は責任を持たなきゃいけない」
 ハルカの目をじっと見た。友達にしてやれることがある喜びと、自分にできるかという不安が渦巻いている。
 サフィリアは、その「方法」を告げた。
「簡単だよ。『家族になろう』って言うだけ。『姉妹になろう』ってね」
「……家族?」
「そう。アンナさんの傷付いて欠けた心は、元に戻らない。新しいモノでそこを埋めるしか、今のあの子が癒される方法はないの」
「……」
 難しい顔をして、ハルカが黙った。サフィリアの言うことは分かるが、彼女の中で、何かが頷かないようだ。
 簡単な選択ではない。実の家族を喪った悲しみを、突然他者に埋めてもらうなど、そう容易いことではないことは、サフィリアも分かっていた。
 それでも、行動を起こせるか。その覚悟が見たかった。
 しばしの沈黙の後、ハルカは首を横に振った。
「……それは、きっと無理ね。アンナが受け入れてくれないと思うわ。あの子にとって、家族は――全てだったから」
「そんなこと、言ってみないと、分からないですよ!」
 ルナが言うが、ハルカは「違うのよ」と否定した。
「そうじゃないの。サフィリアに言われて、やっと分かったのよ。アンナに何もできいんじゃなくて、何も……しない方がいいのかもしれないって。私は一人っ子だけど、もしもお姉ちゃんが落ち込んでたら、きっと余計なことは言わないで、そばにいるだろうなって」
「……そう」
 サフィリアは、優しく笑んで頷いた。
 仲間のために『家族』になるという選択を、彼女は選ばなかったわけではない。言葉に出さずとも、ハルカ自身がそうあろうと決めたのだ。
 誰よりも友人をよく見て、彼らの良さも悪さも知っているハルカならば、本当の家族に近い接し方ができるだろう。
 これからのハルカなりの、家族の在り方。それを彼女は見つけたのだ。
「ハルカさんがそうしたいのなら、それがあなたのすべきことなんだと思う」
「そうね。……うん。少し、元気が出てきたかな」
 自分の掌を見つめるハルカは、彼女の言う通り、表情に明るさが出てきていた。
 ほっと安堵の息をついて、ルナが胸を撫でおろす。
「よかったぁ。自信を取り戻してくれて」
「心配かけてたのね、ルナ。ごめんね、ありがとう」
 にこやかに言われて、星の少女はパッと笑顔を咲かせた。手を叩いて、「それです!」と叫ぶ。
「昨日の大変な時も、『ありがとう』って言ってくれて、わたし、嬉しかったの。その調子で、徐々にでもいいから、自分の気持ちを素直に伝えていけるとよいのかもしれませんね!」
「う……。素直じゃない自覚はあるけど、さらりと言われると効くわね……」
「ふふ。良薬は口に苦しって言うからね。ハルカさんはきっと、これからもっと変わっていけると思うよ」
 この場の三人では一番年上のサフィリアが言うと、ハルカは顔を赤くして頬を掻いた。
 胸のつかえが取れてきたらしい彼女は、ルナとサフィリアに、出会ってから一番明るい笑顔を見せる。
「二人とも、ありがと。私にしかできないこと、見えてきた気がするわ」
 そう言って、彼女は立ち上がった。時間は、深夜になろうとしていた。
 少しだけ空を見つめてから、「そろそろ寝るね」と、ハルカは超大型トラックの居住コンテナに帰っていった。きっと、もう心は軽くなっていることだろう。
 今にも空を飛びそうな足取りが、サフィリアとルナにそのことを教えていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

フランチェスカ・ヴァレンタイン
奪還組も戦力は充分でしょうし、ねえ… わたしは運び屋でもやりましょうか

それぞれの奪還組を周回して、回収した物資の空中輸送などを
UCのワイヤーアンカーで吊り下げれば相当な量でも問題は無いでしょう、と

休憩で降り立った際に、思い悩むハルカを見掛けてついついお節介を

力になれずとも、悩みを共有するだけでもだいぶ違うとは思いますけどねー…
背中を護ることだけが支える手段ではありませんし、帰る”家”があるというのは思いのほか大事ですよ?
どうぞ後悔の無いように。――ええ、手の平に確かにあったはずのモノも零れ落ちる時は一瞬ですから

先にママ呼びされた年少組に気付かれ、飛び掛かられながらも優しく見送る感じでしょうか



《Day4 10:21 【家】》
 旅路は順調だ。朝食後、トラックの一団は、正午まで走り続けることを決めた。
 とはいえ、司令塔の役割を担う超大型トラックや居住コンテナには、適宜物資を輸送しなければならない。
 普段ならトラック間バギーで運ぶところだが、奪還組が調達した物資が多いこともあって、時間がかかりそうだ。
 そこで、フランチェスカ・ヴァレンタイン(九天華めき舞い穿つもの・f04189)は、空輸に勤しむことにした。
「たまには運び屋なども……ふふ、悪くはありませんわね」
 ワイヤーアンカーに吊るされた弾薬を中央の巨大トラックへ運搬しながら、呟く。天気がいいこともあって、彼女は上機嫌だ。
 楽しくはあるが、少々働き詰めか。着地したフランチェスカは物資をヘッドの部下に預け、休憩することにした。
 もらったコップ一杯の水を飲んでいると、ふと視線が気になった。
 ハルカだ。何やらじっとりとこちらを見つめている。
「あら。何か?」
「……別に」
 ふてくされたように言う彼女は、フランチェスカの顔ではなく、体を凝視していた。
 思わず、口元が緩む。スタイルが整っている自覚くらいはあるし、妬みの視線は慣れていた。
 が、口元こそ尖らせているものの、彼女の目は、羨望の眼差しだった。
 口には出さない。出さないが――彼女は三ヶ月間飢えてきた割に、少々、肉付きがいい。体質なのだろう。
 なにやら難しい顔をしているハルカだが、集まってきた年少組にまとわりつかれたことで、フランチェスカから目線を外した。
「ハルカお姉ちゃん! 遊んでよー」
「えぇ? さっき遊んだばっかりでしょ。アンナのところにいってきなさいよ」
「だってぇ、アンナ姉ちゃん元気なくて、つまんないもん!」
 男の子の言葉に、ハルカは一瞬黙ってから、「仕方ないわね」と、一番小さな子を肩車した。
 そして、再びこちらを見る。
「アンタも手伝ってくれる?」
「えぇ、構いませんよ」
 二人して、十人近い幼子の世話をする。翼を引っ張られるのは辟易したが、子供のすることだと我慢した。
 年少組と遊んでやっていると、ふとハルカが言った。
「私ね、アンナのそばにいてあげるだけでいいって思ってるの。それが今のあの子にとって一番だと思うから」
「懸命な選択と思いますわ」
 頷くと、少女はボブヘアーを揺らし、笑った。
「私なりに、あの子の――みんなの家族に、なれたらなって。やっとそれなりの答えが見つかったわ。まぁ、うまくできるかは分からないけど」
 張り切っているなと、フランチェスカは思った。出会った頃に比べればずっと明るくなっているところを見るに、いい方向に向かっていると言えた。
 だが、少々気負いすぎている感がある。その姿は、今のジニーに少し似ていた。
「……」
 微笑みながらも、それでは困ると感じる。彼女は、トーマスとは別のベクトルで、客観的かつ温かく仲間を見守る役割をしてほしい。
 そう、例えばそれは――母親のように。
 甘えてくる女の子を抱き上げながら、フランチェスカはなるべくさらりと言った。
「解決に向けての力になれずとも、悩みを共有するだけでもだいぶ違うとは思いますけどねー」
「共有? 一緒に悩むってこと?」
「えぇ。アンナさんだけでなく、ジニーさんやトーマスさんの悩みも。どうしようもない悩みでも、聴いて差し上げるだけで、『あぁ、一緒に悩んでくれている』という安心感は得られるものですわよ」
「そうかしら」
「そのままを受け止めてくれる人――場所を、人は求めるものですわ。背中を護ることだけが支える手段ではありませんし、帰る“家”があるというのは、思いのほか大事ですよ?」
「“家”……か」
 頬を撫でてくる二歳の子を見つめるハルカは、きっとアンナのことを考えているのだろう。
 三つ編みの少女が抱えるの心の闇は、今なお深い。むしろ、消えることはないだろう傷だ。
 受け止めていくしかない現実を、共に分かち合ってくれる人がいるというだけで、アンナはきっと、救われる。
 そこまで口に出して説明することは、あえてしなかった。考え込むハルカの姿を見て、彼女が決めるべきことだと思ったからだ。
 ボブヘアーの少除は、結局うまい答えが出なかったらしい。共に悩むということに、ピンとこないのだろう。
 それならそれでいいと、フランチェスカは変わらぬ微笑で言った。
「あなたの道ですわ。じっくり考えてお決めくださいまし。どうぞ、後悔の無いように」
 後悔。その言葉に、ハルカがハッとする。なぜ今そんなことを言うのか分からない、といった顔をしていた。
 明るさが見えた途端に、楽観視してしまう。幼さ故の心の振れ幅だが、彼女の選択を思えば、それは戒める必要があった。
 妖艶に目を細め、フランチェスカは変わらぬ口調のまま、続ける。
「――えぇ。掌に確かにあったはずのモノも、零れ落ちる時は、一瞬ですから」
 繋いでいた手が解ける時もまた。視線でそう伝えると、ハルカはにわかに表情を硬くさせた。
 しかし、怒りではない。怯えでもない。その硬さには、強さがあった。
「零さないわ。絶対に」
 そう言うや、彼女はフランチェスカに年少組を押し付け、「ちょっとごめん」と言って駆けだした。アンナのところへ向かったのだ。
 一斉に飛びつき甘えついてくる子らを宥めながら、巨大トラックの居住ブロックに駆け込む少女の背中を、フランチェスカは柔らかな視線で見送る。
「そう。優しく強く、ですよ。決して零さないように――」
 慈母の如き口元からの囁きに、抱いてやっている子供たちが、きょとんと首を傾げていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

セルマ・エンフィールド
引き続きトーマスさんと交流

これからどうするべきか、年少の子たちをどう扱うべきか、ですか。
そういうことであれば……私に助言できるようなことはありませんよ。
こう言ってはなんですが、私は戦闘が強いだけです。子供たちの集団を率いて荒野を進むなんて私にはできません。それを実行できたトーマスさんたちのことは尊敬しているんです……こう見えて。

ですから悩んだ結果、どのような選択をしても私はそれを尊重します。

一つだけ言えることがあるとしたら、あちらも落ち着いたらジニーさんやアンナさん、ハルカさんとも話し合っておくといい、くらいでしょうか。
独りで決めるときっと怒られてしまいますから。



《Day4 13:09 【尊敬】》
 トーマスの悩みは尽きない。ジニーと何度も話し合って、方向性は決まってきたように感じているが、やはり、年少組の答えが出ないのだ。
 有益な情報があるとヘッドに言われ、聞いてみれば、大規模拠点には孤児院があるらしい。
 小さな彼らを預けるか、否か。悩みはむしろ、増していた。
「……参ったなぁ」
 ため息ばかりが重なっていく。おかげで、昼飯のスープヌードルも二杯しか食べられなかった。
 アンナとハルカには、まだ話していない。彼女たちが預けるという案に反対するだろうことは、目に見えていたからだ。
 使った皿を炊事係の女性に渡して、休憩のうちにメンテナンスをしているトラックの間をトボトボと歩いていると、銀髪の少女を見つけた。
 セルマ・エンフィールド(絶対零度の射手・f06556)だ。スープヌードルの味が合わないのか、難しい顔をして食べている。
 猟兵の誰かに相談したいと思っていたトーマスは、迷わず彼女のもとに向かった。
「セルマさん」
「……ん、トーマスさんですか」
 ヌードルを飲み込んでから、セルマは少年に頷いた。腰かけている岩の端に寄り、隣に座るよう促す。
 年頃の少女と並んで座ることに躊躇い、辺りをやけに伺ってから、トーマスはおずおずと腰を下ろした。
「し、失礼します」
「どうぞ。私のものではありませんけれど」
「はは、そうですよね」
 なんだか汗をかいているトーマスに、セルマは暑いのかしらと首を傾げた。
 話があるのだろうが、伸びてしまうヌードルを先に食べさせてもらうことにした。食事を終えるまでの間はほぼ沈黙で、少年はなおの事所在なさげにしていた。
 やがて食べ終え、セルマはようやく尋ねた。
「それで、どうしました?」
「…………えっ、あっはい!」
 しきりに周りを確認していたトーマスは、上ずった声で返事をした。まるで今の自分を見られたくないかのようだ。
 そういえば、初日の車内で女子たちが、トーマスはハルカを云々言っていた。
 どうでもよさそうなので無視し、セルマは視線で本題を切り出すよう促す。咳払いなどしてから、トーマスは「実は」と語りだした。
 それは、これから進む道のどれを選んでもぶち当たる、年少組の問題だった。
 彼らを安全な場所に預けて、離れるべきか否か。
 突拍子もない話とは、セルマは思わない。現実の課題として、決めるべきことだ。
 そして、それに対してセルマが言えることは、一つしかなかった。
「そういうことであれば――」
 期待の籠もった眼差しで見つめられると申し訳ないが、隠しても仕方ない。
 セルマは淡々と、そしてはっきりと言った。
「私に助言できるようなことはありませんよ」
「う、そうですか……」
 見て分かるほどに肩を落とすトーマス。ここまでがっかりされると思うところがあるが、重要な問題なだけに、適当なことを言うわけにもいくまい。
 少し困ったように、セルマは頬を掻いた。
「……こう言ってはなんですが、私は戦闘が強いだけです。子供たちの集団を率いて荒野を進むなんて、私にはできません」
「そんなことないでしょう。セルマさんはすごくクールで落ち着いていますから、僕らよりよっぽど……」
「無理なのです。それでは」
 はっきりと分かる。悔しいと思うほどに。
 だからこそ、トーマスには知ってほしい。彼にしかない強さを、自覚してほしかった。
「私は、小さな子供たちを一人も欠けることなくここまで導くという難関を選び、それを実行し抜いたトーマスさんたちのことを、尊敬しているんです。……こう見えて」
 愛想がないのは自分でも分かっていたので、そう付け加える。
 やはりトーマスは想像すらしていなかったようで、口をぽかんと開けていた。
「僕たちを、尊敬……ですか?」
「えぇ。ですから、あなたたちが悩んだ結果、どのような選択をしても、私はそれを尊重します」
 太った少年は黙り込んで、地面を睨んでいた。選択を促されたと思ったのだろう。
 実際、そうなのだ。彼らがいかなる道を進もうと、それを責め立てる権利は誰にもない。
「ただ一つ、言えることがあるとしたら……あなたの仲間とも話し合っておくといい、くらいでしょうか」
 巨大トラックの方を――そちらから来る人物を見て、セルマは少しだけ、笑みを浮かべた。
「独りで決めると、きっと、怒られてしまいますから」
 トーマスが、顔を上げる。その先には、年少組を連れたボブヘアーの少女がいた。
「太っちょ! なに耳まで赤くなってんのよー!」
「ハルカ……」
 立ち上がったトーマスは、振り返らずに「ありがとうございました」と言って、ハルカの方へと歩き出した。
「ハルカ、話があるんだ」
「な、何よ改まって……」
「大切なことなんだ。とても」
「……! ちょ、待って。こ、心の準備が……」
 さして年の変わらない少年少女の声を聞きながら、セルマは空いた器を手に、その場を去った。
 空は、今日も青い。トーマスたちの心もこんな風に晴れたなら、などと考える。その手伝いができていたらいいな、とも思った。
 少しだけ自分の心も明るくなって、スープヌードルの微妙な味を、セルマはもう忘れていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

玖篠・迅
嵐は抜けたけど、これからどうするか。だよなあ…

騒ぎがあって運び屋の人たちも色々確認とか必要だろうし、見張りとか警戒で何か手伝えるか聞いてみるな
式符・朱鳥で鳥たちに手伝ってもらえば、離れてるとこを調べるとか暗いところで灯りのかわりになれるだろうし

折を見てヘッドの人に、この世界がどんな事になっているのかあの子たちに伝えてもらえるようにお願いしてみる
生きる事を諦めない気持ちはちゃんと持ってる子たちだけど、これからどうするのかを選ぶには知らないことも多いだろうし
あの子たちが少しでも悔いのない先を選べるように

あの子たちが悩むことは多いだろうけど、どうしたいかとかの話を聞くことくらいは俺にもできるかな



《Day4 13:52 【立っている場所】》
 荒野を走るトラックキャラバンの中央、周囲から守られるように走る巨大トラックには、帆船のクロウズネストにも似た見張り台がある。
 この一団で、もっとも風を受けるところだ。そこに、玖篠・迅(白龍爪花・f03758)は立っていた。
「嵐は抜けたけど、これからどうするか。……だよなぁ」
 考え込みながら、青空を仰ぐ。上空には、何羽もの赤い鳥が飛んでいた。迅の式だ。
 移動中の見張りを頼まれた彼は、この見張り台で周囲を伺うことにした。式を飛ばしているのだから、彼自身が見張りにつく必要ないかもしれないが、念には念を、である。
 それに、ここからの景色は壮観だった。まだ目的地は見えていないが、荒野に切り立つ岩山の雄々しさは、なかなか心に迫るものがある。
「……観光なんてしゃれ込んでる場合じゃないけどな」
 自分で苦笑し、周囲に目を凝らす。昨日の当たりが嘘のように、今日はレイダーもいなければ廃墟の街も見られない。
 ただひたすらに進む一日。ヘッド曰く、思ったよりも早く到着できそうだとのことだった。
「もう、時間もないか」
 ジニーたちは、まだ決めかねている。昼食の際、彼らに「今後どうしたいのか」と聞いてみたら、帰ってきた答えは揃って、「まだ分からない」だった。
 しかし、そうも言っていられない時になりつつある。そろそろ背中を押してやりたいところだが、それは他の猟兵に任せると決めていた。
 それよりも、選択のための材料を用意してやりたかった。彼らはまだ、この世界を知らなすぎる。
 ドアの開く音がした。真下を見ると、ヘッドが巨大トラックのコックピット――そう呼べるほどに広い――から出て、煙草に火をつけていた。
 見張り台から降りて、彼のもとに向かう。紫煙を燻らすヘッドが振り返り、手を上げた。
「よう。どうだ、なんか見えたか」
「なにもないな。平和なもんさ」
「そうか。それが一番だ。収穫は昨日ので十分だしな」
 よほどの豊作だったのだろう、禿頭の黒人はとても上機嫌だった。
「お前らにも、散々世話になっちまったな。報酬は弾むぜ。あんたは何が欲しい?」
「物なら、特にないな。……それよりも、頼みたいことがあるんだ」
 アポカリプスヘルという世界について、特に生き方を教えるのは、猟兵以外の方がいいと思った。この世界出身の者ならまだしも、異世界の人間では、生きる方法そのものが違うこともあるからだ。
 まして教える相手は、自分たち以外の人間は滅びたと思っていた少年たちだ。荒廃した大地でこれだけの一団を構えている男ならば、師としては適任だと、迅は踏んでいた。
 諸々説明して、何やら渋い顔をしているヘッドに、迅は明るく言った。
「――というわけで、あの子たちに世界がどんな事になっているのか、伝えてほしいんだ。生きる意志はちゃんと持ってる子たちだけど、これからどうするのかを選ぶには、知らないことも多すぎるだろうし」
「おいおい……あんたらは、本当に変人揃いだな。俺ぁ報酬の話をしたんだぞ? 欲がないにもほどがあるぜ。空を飛んだり雷出したりする時点で、まともじゃねぇとは思っちゃいたが」
「そう褒めるなよ」
 笑いながら、ヘッドの肩を叩く迅である。「運び屋」の頭領は褒めたつもりはなかったのか、迅に半眼を向けていたが。
「まぁ確かに、生きていくために必要な知識ぁ、あいつらにはねぇな。てめぇの立ってる場所くらいは知っておかねぇと、野垂れ死にしちまうか……」
「そうなると、寝覚めが悪い。そうだろ?」
「……ったく」
 短くなった煙草を最後まで吸い切って、吸い殻を灰皿に押し込んでから、ヘッドはため息交じりに言った。
「分かった。これから夕方までは時間がある。それまで教えてやるさ」
「さっすが! 話が分かるぜ!」
「俺ぁこれから仮眠しようと思ってたんだがな。お勉強のセンセイなんざ、柄じゃねぇのによ」
 ぶつくさとボヤキながらも、ジニーたちがいるであろう荷台の後方に向かうヘッドの後ろ姿に、迅は「サンキューな」と声をかけた。
 振り向かずに手を上げて答える男の背中は、やはり頼もしい。そこには、戦う力とはまた違った強さがあった。
「……これで、前に進めればいいな」
 本心から、思う。彼らが少しでも悔いのない先を選べるように、迅は、願う。
「幸せになってほしいね。ホント」
 この地獄のような世界でも、どうか。
 空の遥か高みで、火の鳥が鳴いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

レッグ・ワート
そんじゃ急く答えから逃がそうか。

俺はドローンでの情報収集なり状態確認からの治療や身に着ける装備品の調整なり怪力で物運ぶなり修繕時のトラック支えるなり。まあキャラバンの雑用手伝いながら、年少組看て過ごすぜ。手間から逃がすのが機械なもんで。まあ人手足りなかったら前にも出るけど元気な奴沢山いるだろ。
そんで壊れた部品や何やらあったら年少組の勉強用に貸して貰う。計算と一緒に、部品や品物の役割やら本来の形やら添えて進める。残るにしろ離れるにしろ知っといて損無いしな。後はまあ馴染みの遊びとかあったら休憩がてら即席でやってみるか。守られてきたちび連中が気にするなら、年長組を思いっきり巻き込むのもたまにはなあ。



《Day4 14:26 【知識と知恵】》
 なにやら妙なことになっているなと、レッグ・ワート(脚・f02517)は思った。
 群れを成すトラックの中央、土地と言ってもいいほど広い荷台を引く巨大トラックの居住コンテナで、レッグが年少組の衣服を取り繕ってやっている時だ。
 突然やってきたヘッドが、年長の四人を相手に講義を始める言い出した。曰く、「世界を教えてやる」とのこと。
 年少組の今後について激論を交わしていたジニーらは、世界で生きていくために必要な知恵を教えてもらえると知るや、食い入るようにヘッドの話を聞き始めた。
 三十分ほど聞いている限り、話の内容は敵と味方の見分け方や奪還時の心得、拠点での作法等々、なるほど実用的なものばかりだ。
 機械的に修繕作業を行ない、ついでにジニーのジャケットも繕いつつ、ヘッドの話を聞く。幼子に纏わりつかれながら裁縫をする姿は母のそれに近いが、人間を手間から逃す機械を自負するレッグは、微塵も気にならなかった。
 ひとしきりの作業を終え、次は装備の点検でもと立ち上がりかけたところに、七歳くらいの女の子が言った。
「レグ! あたしも勉強したい!」
 一人がこう言い出すと、もう大変だった。他の子らもわらわらと群がり、僕も私もと手を上げる。
 こうなっては、レッグが追い払おうが何をしようが、どうにもならない。仕事はまだまだあるのにと思いながらも、彼は両手を挙げた。
「分かった、授業をつけてやる。そんかわり真面目に受けろよ」
「はぁい!」
 年長組の邪魔にならないよう、レッグは子供らを引き連れて居住コンテナを出た。
 乾いた風が吹く中で、先程トラックの修理で交換した故障部品を保管箱から取り出す。興味津々に見つめてくる子供を少し押しのけ、それらを転がした。
「いいか。まずは数字の数え方からだ。物がいくつあるか分からないと、食い物も買えないからな」
「買えるもん! 馬鹿にしないでよね!」
 頬を膨らませる女の子に、レッグは「そうか」と頷いてから、ビスを七個とドライバーを二本、並べる。
「じゃあ、これは合計いくつだ?」
「簡単よ、九!」
「ほう、やるじゃん」
 正解だと頷いてやると、女の子は胸を張って威張り、周りの子たちが拍手を始めた。
 置いてあるものはそのままに、レッグは続けて問いを出した。
「じゃ、今度はこれからビスが二本、ドライバーが一本減ったら、どうなる?」
「え? えっと、ビスがふたっつ、ドライバが……」
 指折り数える少女。結局、彼女は間違えてしまった。泣き出しそうになったのを慰めてやりつつ、もっと少ない数から教えることにする。
 なんだかんだと日が傾くまで算数を教え、ようやく五歳児が十まで数えられるようになった頃、レッグは休憩を告げた。
 休めと言ったのに、子供たちはすぐさま彼を取り囲む。
「ねぇ、遊ぼうよ!」
「お前さん、俺が休憩って言ったの聞こえてた?」
「うん! だから遊ぼう!」
「体力無尽蔵かよ……どんなエンジンしてんだ」
 呆れながらも立ち上がると、同じタイミングで居住コンテナのドアが開いた。あちらも休憩らしい。出てきたジニーとトーマス、ハルカは、疲れた顔をしていた。
 アンナは、中にいるようだ。まだ気落ちから立ち直れていないと見える。無理もないと思った。
 最後に、ヘッドが出てきた。大きく伸びをしてから、子供たちの玩具と化しているレッグに苦笑する。
「よう、いい格好じゃねぇか」
「だろ。こんな色男はそういないぜ」
 冗談で返しつつ、ジニーらを手招きで呼ぶ。寄ってきた彼らに、レッグは尋ねた。
「お前さんらの馴染みの遊びって、何があるか? こいつらと遊んでやらにゃならなくてな」
「遊び……か。なんかあったっけ。トーマス?」
「僕らが拠点にいた時は、カードをやってたけど。でも、持ってきてないよ。ハルカは?」
「あるわけないじゃない」
 この三ヵ月、遊ぶ余裕もなかった彼らだ。期待するのは酷というものだろう。
 とはいえ、遊ぶと言った約束を反故にするのも、教育的によくない。即興で何かをと考えていると、ヘッドがにやりと笑った。
「……あるぜ」
 そう言って彼が取り出したのは、数字と模様が描かれた、トランプとは違うカードの束だった。ハルカが首を傾げ、ジニーとトーマスが、「それだ!」と声を上げる。
 カードを自慢げに見せびらかす禿頭の黒人に、レッグは頷く。
「いいな、それ。チビたちの勉強にもなる」
「おし、じゃあやるか!」
 知恵を授けに来た時よりもずいぶん気合いが入った様子で、ヘッドはその場に腰を下ろした。レッグも年少組の半分をハルカに預けつつ、座る。
 教えてくれたゲームは、いたって簡単な、神経衰弱に近いルールだった。小さな子らも楽しめて、その中でどんどん数字を覚えていく。子供は遊びの中で育つものなのだなと、レッグは感心した。
 ジニーたちも驚くほど夢中になって、幼い子らにも負けまいと本気で遊んでいた。ようやく、子供らしい笑顔が見れた。
 ふと、居住コンテナを振り返る。ドアからひょっこりと、アンナが様子を伺っていた。落ち込んではいるけれども混ざりたい、そんな風だった。
 なかなかに面倒な少女だなと思いながら、レッグは手招きをした。
「こっちに来いよ。お前が遊ぶことで怒る奴は、ここにはいないぜ」
「……はい」
 遠慮がちに出てきたアンナは、ハルカに手を取られ、また小さな子たちに抱き着かれながら、その場に座った。女子二人でチームを組んで、ゲームに参加する。
 一緒に遊んでいるうち、三つ編みの少女にも、徐々に笑顔が出てきた。その表情を見て、レッグはふと呟く。
「偉大だなぁ、遊びってのは」
「同感だ。娯楽は人類が生み出した最高の知恵だぜ。こんなクソみたいな世の中でも、楽しめてりゃ勝ちなんだからよ」
 カードを配りながら、ヘッドが答えてくれた。確かにと、頷いた。
 楽しむ心がまだあると知れれば、それが彼らの希望となるだろう。あるいはこの時の記憶を糧に、困難を乗り越えられる時が来るかもしれない。
「いいもんだな。あぁ、実にいい」
 今後の参考にと、ブレインの記憶領域に今の光景を焼き付ける。そしてふと、視線を落とした。
 レッグの手元に投げられたカードで、花の天使が四人、笑っていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

柊・はとり
そのうち再生するが内臓が痛む
労働は見張り程度に留め
ジニーやハルカと話が出来れば

まずはお疲れ
俺はおかしいのではっきり言うが
あんたらこの世界と戦ってく才能ないぞ
トーマスの親父を撃ってどう思った?
躊躇ったな
ならなぜ迷ってる
俺達がいなきゃ何回死んだか数えてみろ

下らない理由で身内を殺せる奴なんか
世界がこうなる前にも散々見てきた
優しすぎる、易しすぎる
どいつもこいつも

ま、そういう事だ
俺達が黒幕を炙りだすまで大人しくしてろ
探偵には謎をぶち壊す権利がある
だが希望のエピローグの主人公は
いつだって平凡な脇役なんだぜ
いないと困る

生きて、探偵なんかにはできない事をしてやれよ
…頼む

俺は自分の拠点に帰る
そっちも元気でやれよ



《Day4 15:10 【希望の主役】》
 内臓が痛む。ユーベルコードの代償で犠牲にしたのだから当然だが、さすがに少々、堪えた。
 誰にも見つからないようコンテナの陰で座り込み、柊・はとり(死に損ないのニケ・f25213)は息を荒げていた。落ち着きそうもない吐息が、風に流されて消えていく。
「参ったな。これじゃ、労働の一つもできやしない」
 情けなさが込み上げてくるが、元より死んでいる体だ。今更筋骨隆々に鍛え上げようなどとは思わなかった。
 早いところ落ち着いて、何食わぬ顔で皆に合流したい。そんなはとりの願いは、しかしすぐに打ち消された。
「……はとり?」
 呼ばれて、がっくりとくる気持ちを堪えて振り向くと、ジニーがいた。こちらの顔色を見るや、彼は血相を変えて飛んできた。
「おい、大丈夫か!? お前、顔が真っ青じゃないか……」
 もともとだ、とは言えなかった。とりあえず「大丈夫だ」とだけ告げて、なんとか呼吸を鎮める。
 ジニーは敵の強襲だとでも思ったのか、アサルトライフルで辺りを警戒し始める。ゾンビとの戦いでおかしな自信でもついたのだろうが、その動きは、やはり不慣れだった。
「ジニー、大丈夫だ。敵じゃない。ちょっと……疲れただけだ」
「そ、そうなのか? でもお前、昨日はあんなに」
「持病なんだよ」
 そう言われては、ジニーも納得するしかなかった。ライフルを下ろして、はとりの隣に座る。
 彼はきっと、はとりがここにいた理由を察したのだろう。男として、弱いところを見られたくないという気持ちは分かってくれるらしい。知られるのは、少々抵抗があったが。
 空を見上げる。少しずつ色が濃くなり、夕暮れが近づいてきていることを知った。旅が終わる時も、迫ってきている。
 このまま妙な決断をされても、寝覚めが悪い。言いたくはないが、はとりははっきりと告げることにした。
「なぁジニー。あんた、奪還者だけは止めとけよ」
「な、なんでだよ」
「……あのな、今から俺は死ぬほどはっきり言うが、これは俺がおかしいからであって、他の誰も面と向かってこのことを言う奴はいないからな。今だけしかジニーは知れない。だからよく聞けよ」
 訝しむ少年から目を逸らさず、はとりは正々堂々と真正面を切って、言った。
「あんたらは、この世界と戦っていく才能がない」
「……なんだと?」
「引き金を引くべき時に、それができない。センスがない証拠だ。運だけで生き残ったことを、実力と勘違いしたら、次は死ぬぞ」
「この野郎、言わせておけば――!」
 カッとなったジニーが立ち上がりかけたが、次にはとりが出した言葉で、動きが止まることになる。
「トーマスの親父を撃ってどう思った?」
「ッ!?」
 振り上げた拳が、緩む。膝から落ちて、アサルトライフルが荷台の床を叩いた。
 あの光景を思い出したのだろう、呆然とするジニーに、はとりはさらに続ける。
「あんたは躊躇った。なぜだ? 簡単な答えさ。自分が戦う人間だという認識がないからだ。俺達がいなきゃ何回死んでたか、数えてみろ」
「……いやそれは、でも……」
 反論しようとして、できない。親友の父を撃った感触が、今もジニーの手に残っていた。一生消えることのない感触だった。
 沈黙するリーダーの少年から目を逸らし、天蓋を見上げて、はとりはため息をついた。
「下らない理由で身内を殺せる奴なんか、世界がこうなる前にも散々見てきた。それが当たり前だと思ってたから、俺はあんたらと出会って驚いたよ。優しすぎる、易しすぎる」
 どいつも、こいつも――。
 そう呟いて、ジニーの反応を待った。彼は、自分が戦えない人間であるという事実を、強く認識してしまっていた。掌を見つめ、何も言えずにいる。
 それでいいと、はとりは思った。これは言うつもりはないが、彼は仲間のためなら、いつでも撃てる人間だ。
 いつか来てしまうその時まで、撃てないままでいてほしかった。
 立ち上がってズボンの埃を払い、ジニーに手を差し伸べる。
「ま、そういう事だ。俺達が黒幕を炙りだすまで大人しくしてろ」
「……黒幕?」
 手を取って立ったジニーが首を傾げる。多少は落ち着いたらしい彼に、はとりは頷いて、遠い岩山を睨んだ。
「そう。この世界の最大の悪意――オブリビオン・ストーム。あの黒い竜巻を、消さなきゃならない」
「あれを!? お前、正気か?」
「いいや、俺はおかしい。ハルカのお墨付きだ」
 ニヒルに笑って、はとりは肩を竦めた。
「探偵には、謎をぶち壊す権利がある。だが希望のエピローグの主人公は、いつだって平凡な脇役なんだぜ」
「なんだよそれ、よく分かんねぇ」
「正気でいる奴が大切ってことだ。普通でいることが最高の幸せって言うだろ? そういう奴がいないと、困るんだよ」
 微笑んで言うはとりに、ジニーはやはり憮然としていた。だが、本当は分かってくれていると思う。
 彼は、普通に暮らしていたのだから。失ってしまった正常な暮らしの尊さを、特に幼い子らにとって望まれるべきが、そうした平穏の日々であるということを、彼が知らないわけはない。
 はとりは、頭を下げた。
「生きて、探偵なんかにはできないことをしてくれよ。……頼む」
 その姿勢に嘘がないことなど、誰が見ても分かる。はとりは今、ジニーに希望の主人公になってほしいと願っているのだ。
 ややあって、ジニーが死した探偵の肩に、手を置いた。
「分かった。生きるためだもんな。できるだけ――やってみるさ」
「あぁ、それでいい。それで、十分だ」
 願いを受け取ってくれた少年に、最大限の感謝を捧げる。少ない言葉の代わりに、顔を上げたはとりは一度、冷たい顔に笑みを浮かべた。
 それは、ジニー少年が目を丸くするほど、優しい微笑みだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

入谷・銃爪
オーキと参加だが別描写でもOK

キャンプ中の見張りを引き受けよう。
俺なら2日程度なら寝なくても問題ない。

トーマスとジニーの銃の整備もしておこう。
まだ、必要だろうからな。
……彼等は、これからもこの引き金を引き続けながら生きていくことになるのだろうか。

トーマス、少し話をしようか。
いや、ただの昔話さ。
ある所に主人に見放された人形がいた。
人形に力は無く、有るのは拳銃が1つだけ。
人形は、その引き金を引く未来しか選べなかった。
守るものは無くても、漠然と死にたくなかった。

君達は、選べる。
大人に守られ子供として生きていくのか。
15人の人間として明日を歩くのか。
15人が別の道を選んでも間違いじゃないんだよ(微笑)



《Day4 17:39 【選べるということ】》
 一行は、赤く濁った川の傍で、夕食の支度に取り掛かった。
 ヘッドが言うには、残りの道程も少ないため、食事を終えたら出発し、夜のうちの到着を目指すらしい。
 拠点が近いとはいえ、警戒するに越したことはない。入谷・銃爪(銃口の先の明日・f01301)は、「運び屋」の奪還者らと手分けして、辺りを見回っていた。
 怪しい影は、見られない。何事もなく済みそうだと安堵していると、何やら慌てて走る太った少年が見えた。
 銃を抱えている。彼のショットガンと、もう一丁は、アサルトライフルだ。
「トーマス、どうした」
 声をかけると、トーマス少年は立ち止まり、銃爪に振り返った。
「あ、どうも。この先についてみんなで話してるうちに、銃の整備をしてもらうの、すっかり忘れてしまって」
「そうか。なら俺が見てやろう」
 手を差し出すと、トーマスは素直に銃を差し出した。受け取り、その場に座る。
 見てみると、全くメンテナンスが行き届いていなかった。使い込まれているわけでもないが、これでは暴発する可能性すらある。
「……」
「や、やっぱり酷いですか?」
「かなり、な」
 だが、手を入れてやればいいだけだ。銃爪は手慣れた様子でライフルとショットガンをバラし、パーツごとに調整を始めた。
 手際の良さに目を輝かせる少年の視線を、痛いほど感じる。まだ、彼には無垢な心が多分に残されていた。
 彼等は、これからもこの引き金を引き続けながら生きていくことになるのだろうか。
 それは、あまりにも――酷だと思った。
「トーマス、見ているだけでは退屈だろう。話をしようか」
 作業の手は止めず、銃爪が言った。突然切り出され、トーマスは驚いた様子で聞き返してくる。
「話、ですか?」
「あぁ。なに、ただの昔話さ……」
 銃爪は、静かに語りだした。

 いつかの話。ある所に、主人に見放された一体の人形がいた。
 人形に力は無く、あるとするならば、手元に残された拳銃が一丁だけ。
 ただの人形ならば、どれほど幸せだったろうか。しかし、彼は魂を宿していた。
 そして、人形の周りには、敵がいた。
 引き金を引く未来しか、なかった。生きるために、人形は銃を構え続けた。
 己が理想も信念も無く、ただただ引き金を引き続ける日々。意味などない。守るものも、ない。
 ただ漠然と、死にたくなかった。それだけのために、戦って戦って、歩き続けた。
 そして今も、どこかの彼方で、引き金を引いている。
 ただ、生きるためだけに。

「……なんだか、救いのない話ですね」
 素直な感想を言うトーマスに、銃爪は「そうだな」と自嘲気味に笑った。
 全くもって、その通りだと思う。あるいは道が他にもあったらと、何度考えたか知れない。
 たが、その思考は悉く無意味だった。いつだって、目の前に横たわるのは無慈悲な現実だけだ。
 整備を終えたショットガンを手渡してやりながら、銃爪は囁くように言った。
「なぁ、トーマス。選べるというのは――幸福なことだな」
「え……」
「俺は、そう思う」
 重い声だった。トーマスは、頷くことすらできなかった。
 銃爪から見れば、少年たちは希望の権化にすら見えた。このような世界であっても、彼らには無数の選択肢がある。
 今だって、そうだ。生きる道は無限にある中で、仲間と語らい、ぶつかりあって、選び取ろうとしている。こんな幸せが、他にあろうか。
「これは、君だけが知っておけばいいことだが――トーマスたちは、選べるんだ。実際、君たちは、幸せだ」
「……」
 言いたいことは理解してくれたらしい。トーマスは、やはり賢い少年だった。置かれた状況に悲観ばかりするような男ではないし、生き残れたことの意味を、彼はよく分かっている。
 夥しいゾンビの襲来で死んでいった家族たち。彼らは、何も選べず命を散らしたのだ。それに比べ、生きている自分たちはどうか。
 俯いていたトーマスが、「そうですね」と言った。
「僕らは、まだ、選べるんだ。生きているから。そういうことですよね」
「そうだ。君達は、選べる」
 ジニーのアサルトライフル――非常に古いものだった――を直し終えて、銃爪は顔を上げる。炊事をしている中央のトラックから、スープの湯気が立ち上っていた。
「大人に守られ、子供として生きていくのか。十五人の人間として、明日を歩くのか……。それは、君たちの自由だ」
「自由……」
「あぁ。十五人が別の道を選んでも、間違いじゃないんだよ」
 その道を正とするか誤とするか。それは、進む彼らの生き方で決まる。選んだ瞬間に決定されるものではない。
 だから、堂々と選んでほしい。銃爪は心からそう願って、微笑んだ。
 調子を取り戻したショットガンとライフルを抱え、トーマスが大きく息を吸い、吐き出す。
「いろいろ、考えました。最初は一人で、それからジニーと。今は、ハルカとアンナも一緒に。……でも本当は、もう決まっているんだと思います」
「そうか。ならば後は、踏みだすだけだな」
「はい、最初の一歩……。もう、進まないと」
 明るく強く言って、トーマスは仲間のもとへと走っていった。
 丸い背中を見送って、銃爪は少年が駆け込んだ居住コンテナの明かりを、優しく見つめる。
 あぁ、本当に――。
「――どうしてこんなにも、羨ましいのだろうな」
 思わず呟いた声は、荒野の風に攫われて、夕闇に溶けていった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

佐伯・晶
僕は奪還で物資回収を手伝う代りに
ヘッドに子供達が離れ離れにならない方法を相談
手持ちの機器や使い魔で効率良く探索できると思う

私は夜の見張りを手伝いますわ
望むなら静謐な夜を用立てますの
ついでにアンナ様とハルカ様と話してみましょうか

アンナ様、そんなに悲しいなら
心を凍らせて差し上げましょうか?
感情に振り回されず理性的に振舞えますわ
時間が欲しいなら石の身を差し上げますの
千年は保ちますわ

ハルカ様、友達の為に怒れるなら
何もできないという事はありませんの
アンナ様も全てを無くした訳では無い
という事は覚えておくべきですわ

二人ともごめんね
加護を与えるなら食料にしてくれ
保存はお前権能の中で穏当に使える数少ない一つだろ



《Day4 23:08 【拠点】》
 夜の行動は危険だが、トラックたちは宵闇の荒野を進み続けた。昼に比べればいかにも遅いが、それでも目的地が近いことが、「運び屋」たちの背中を押していた。
 そして、日付が変わる少し前に、彼らはようやくたどり着いた。
 近隣で最も巨大な、そして安定している拠点。夜も遅いのにも関わらず、バリケードの奥には煌々とした光を、佐伯・晶(邪神(仮)・f19507)は眺めていた。
 トラックの一団は、拠点まで目と鼻の先の検問所で停止を命じられた。ヘッドが警備の者と思しき男と話をし、何やら怒鳴り散らしてから、不機嫌そうに巨大トラックへ戻ってきた。
 穏やかではないなと思いながら、晶は煙草に火をつけるヘッドに尋ねる。
「何か、トラブル?」
「あ? いや、トラブっちゃいない。ただ、最近検問を強めたらしくてな。俺らが『街』に入れるのは、明日の朝なんだとよ」
「ありゃ。じゃあ、今日はここで泊まりなんだ」
「そうなるな。まぁ『街』の警備兵がいるから、見張りをしなくて済むのはいいが……。ったく、今日はしこたま飲めると思ったんだがな」
 苛立ちながら巨大トラックのコックピットに入り、無線で全トラックに現状を報告するヘッド。気のせいだろうが、晶には暗がりに浮かぶトラックから、元気がなくなったように見えた。
 紫煙を吐きながら外に出てきた「運び屋」の頭領に、晶は言った。
「ヘッド、こんな時で悪いんだけど」
「なんだよ、ガキどものことか?」
 さすがに猟兵から話題を持ちかけられることが多く、慣れてしまったのだろう。辟易した目でこちらを見られて申し訳なかったが、晶は頷いた。
「可能性の一つの話だけど、彼らがもし、『運び屋』で働くと言った時に――」
「ばらばらにならないようにしてくれ、か。それなら、あのデブにもう言われてるぜ」
「トーマスが……そっか。それで、どうかな」
 重ねて聞くと、ヘッドは煙草を消してから煙を空に吐き上げて、腕を組んだ。
「方法は二つだ。ジニーたちがてめぇのトラックを持って世話をするか、全員で同じ仕事につくか。まぁ、そんな仕事ぁねぇがな」
「実質一つだね。先の長い話だ」
 俯く晶に、ヘッドはにやりと笑った。
「そうでもねぇさ。あんたらがしこたま用意してくれた戦利品のおかげで、『家』を積んだトラックを三台は買える。もともとそんなつもりはなかったが――あんたたちへの礼は、しなきゃならんからな」
「ヘッド……。でも、ジニーたちに運転、できるのかな」
「そりゃあいつら次第だが、まぁ心配はいらねぇだろ。中には十歳でトラックを持った奴だっている。あいつらがここに残るって決めるなら、『街』にいる間に、俺たちが教えてやるさ」
 晶は心底嬉しくなった。もちろん、最後に選ぶのはジニーたち自身だが、この件は彼らの未来にとって、あまりにも大きい。
 思わず、頭を下げていた。
「ありがとう、ヘッド。本当に、感謝するよ」
「いや、礼を言うのはこっちだ。……短い間だったが、久々に快適な旅ができたぜ。ありがとうな」
 そう笑って、ヘッドはコックピットでの仕事に戻っていった。

《Day5 0:11 【もう泣かない】》
 晶が女子用の居住コンテナ――女性に数えられているため――に戻ると、中からハルカの「ダメよ!」という声が聞こえた。
 扉の向こうから漂う邪神の気配に、慌てて駆け込む。見れば、アンナを抱えるようにして、ハルカが邪神少女と対峙していた。
 年少組は、布団にくるまれたまま動かない。寝息すら聞こえなかった。邪神が時を止めているのだろう。
「何してるんだ!」
「あら晶。どうしたのかしら、そんな怖い顔して」
 涼しい顔で答える邪神だが、血相を変えたハルカの顔と虚ろなアンナの目を見れば、この人ならざる少女が権能を用いようとしたことは明らかだった。
 晶に睨まれ、邪神は金色の髪をかき上げた。
「私はただ、あんまり悲しむアンナ様の心を、凍らせて差し上げようと思っただけですわ。そうすれば、悲しみに振り回されず、理性的に振舞えますもの」
「そんなの、ダメよ。アンナの心が凍るなんて、そんなの!」
 邪神が放つ気配から、それが可能であることを察知したのだろうハルカが、気丈に叫ぶ。彼女の手は、震えていた。
 アンナは、邪神少女に縋っているように見えた。悲しみを消したい一心なのだろう。
 だが、ハルカの言う通り、それを許すわけにはいかない。晶は邪神と二人の少女の間に立った。
「二人とも、ごめんね。……凍らせるなら、食料にしてくれ。保存はお前権能の中で、穏当に使える数少ない一つだろ」
「そんなつまらないことのために、私の力を使うつもりでして?」
「今やろうとしていたことの方が、千倍はつまらないよ。何を苛立ってるんだよ、お前」
 恐れず向き合う晶に、邪神少女はしばし睨み合ってから、実につまらないとでも言いたげに鼻を鳴らして、後ろを向いた。
「アンナ様が、まるで『すべてを無くした』ような顔をされていましたので、つい遊びたくなっただけですわ」
「……!」
「人間というのは、本当に矮小ですわね。憐憫に囚われるあまり、己のために怒ってくれる人にすら、気づかないなんて」
 そう言って、アキラは居住コンテナを出ていってしまった。
 二人の少女は怯えていたが、晶は妙な感覚だった。人間を見下すのは相変わらずだが、彼女の言動は、まるでアンナのためを思っていたように感じる。
 しばらく抱き合うようにじっとしていたアンナとハルカは、子供たちの寝息が正常に聞こえるようになるや、体の力を抜いた。
 ぽつりと、三つ編みの少女が呟く。
「ハルカ……ごめんね。私……みんながそばにいてくれたのに、自分のことばかりで、ちっとも気づけなかった。みんな、辛いのに。ごめんね……」
「いいのよ、気にしないで。私たち、家族みたいなものじゃない」
 そう言ったハルカの顔には、やっと言えたという安堵があった。顔を上げたアンナの目は濡れていたけれど、友達の言葉に、ふんわりと笑顔を咲かせる。
「うん……。ありがとう。私、もう泣かないから」
 アンナが慟哭の奈落から抜け出したのを、晶は確かに感じた。立ち直るにはまだ時間がいりそうだが、彼女らはまた一つ、大きな試練を乗り越えたのだ。きっともう、猟兵の助けはいらないだろう。
 思わず、腕組みをした。あの邪神が人の役に立つことがあろうとは、思いもしなかった。
「アンナとハルカに感化されたのか? 邪神が? ……いや、そんなわけがない」
 心を許すわけにはいかないと自分を戒めつつ、手を取り合った少女たちの暗がりの中でも分かるほど明るい笑顔に、肩を竦める。
「まぁでも。今回だけは、褒めてやるかな」
 素直に聞きやしないだろうけど。そんなことを考えながら、晶は邪神少女が向こうに立っているだろう扉を開けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

オーキ・ベルヴァン
銃爪、俺は残りの時間、ジニーと一緒に居るよ……そうしたいんだ、俺の意志で。
ジニーは、俺の背中を守ってくれた奴だから……。

あのさ、ジニー……。
最初は、悪かった。
お前には、お前のキツイ時間があって、似たような思いを知っていたとしても、それは同じじゃない。
俺は、今、此処に居ることも、今まで選んできたことも間違ってないって信じてる。
そうしないと前に進めないから。

お前はリーダーの前にジニーだ。
誰と一緒に生きていきたいんだ?
それとも、年少の子達だけ大人に預けて、お前だけ歩き続けるか?

お前が未来を選び取るしかないよな。
俺と一緒だな!

(夕焼け見ながら)
最後は、笑顔でサヨナラしたいって思うの、俺のワガママかな?



《Day5 4:50 【旅の終わり】》
 もうすぐ、朝が来る。
 オーキ・ベルヴァン(樫の木のキング・f06056)は一人、超大型トラックの見張り台に立っていた。夜明けとともに訪れる清浄な空気が、体に染み込んでいくようだ。
 彼は、待っていた。長いようで短い旅路の最後に、どうしても話しておきたい者いた。
 共にこの世界へ降り立とうと誘ってくれた銃爪にだけ、このことを告げた。自分の意志でそうしたいのだとも、はっきりと言った。
 今もその想いは、微塵も変わらない。共に戦い、背を守ってくれた、友人への想い。
「オーキ、悪い。待たせた」
 見張り台に上がってきた声に、振り返る。隣に立ったジニーは、眠そうな様子もなく、とても清々しい顔をしていた。
「……もう、朝になるな」
 オーキが言うと、ジニーは「あぁ」と短く答えた。
 二人はしばらく、何も言わずに空を見つめていた。星々が輝く群青の夜空が、曙色の光と溶け合っていく。
 遠くを見つめたまま、オーキは口を開いた。
「あのさ、ジニー」
 並び立つ友人は、何も言わない。だが、言葉を待ってくれていることだけは、分かる。
 だから、オーキも自然と、なんの不安もなく、言うことが出来た。
「最初は、悪かった」
 初めてジニーたちを見た時の、忸怩たる思い。己の足で歩こうともしない連中に、手を貸すつもりはないと断じていた。
 だがそれは、自分の生き様を彼らに当てはめようとしていたからだった。
 本当は、全てを失い、それでももがいてきたオーキ自身が、ジニーたちの本当の姿を見ようとしていなかった。
「お前にはお前のキツイ時間があって、似たような思いを知っていたとしても、それは同じじゃない。……なのに俺は、知ったつもりになってたのかもな。ごめん」
 もう一度謝ると、ジニーが笑った。
「いいさ。オーキが怒るのも、当たり前だったと思う」
 隣を見ると、背の高い少年は明るさを増していく空を見たまま、目を細めていた。
「お前の仲間、猟兵……だっけ? みんなにもいろんなことを教えてもらって、やっと分かったんだ。あの時オーキが言ってた、『笑わないとダメだ』って意味。やっと、分かった」
「そっか。うん、よかった」
 オーキも、笑った。心がふっと、軽くなる。翼が生えて、飛んでいけそうな気がした。
 自分の歩いてきた道を振り返りながら、オーキは地平に走る光に向かって、手を伸ばす。
「俺は、今ここに居ることも、今まで選んできたことも、間違ってないって信じてる。そうしないと、前に進めないから」
 光を、握りしめる。こうして何度も、自分で掴み取ってきた。例えその先に苦しみが待ち受けていたとしても、後悔はしていない。
 過去にどんな闇が巣食っていようと、未来がどれほど暗闇に閉ざされていようとも、いつだって、前に進む。それが、オーキ・ベルヴァンの生き方だった。
「……お前はリーダーの前に、ジニーだ。俺は、ジニーに聞きたいことがある」
 隣を見れば、彼もこちらを見ていた。
 視線をぶつけ合い、互いにどのような答えがあろうと逃げないことを確かめ合ってから、オーキは真っすぐに聞いた。
「お前は、誰と一緒に生きていきたいんだ?」
「……決まってるだろ」
 見張り台の手すりから身を乗り出して、ジニーが下を見る。彼らの一団に与えられた二つの居住コンテナの、屋根が見えた。
 男子用コンテナの扉から、トーマスが出てきた。こちらに気づいて見上げ、手を振ってくる。ジニーがそれに返した。
「あいつら、全員だ。十五人の、俺の――仲間たち」
 彼の目は、とても愛おしそうだった。まるで家族を見ているかのような、温かな瞳だった。
 顔を洗いに行ったらしいトーマスを見送り、ジニーはオーキへと振り返った。
「決めたよ。俺たちは――このトラックキャラバンで生きていく。将来は分からないけど、今は、ここが俺たちの居場所だと思うから」
「……そっか。選んだんだ」
 悩んで、迷って、泣いて、怒って、話し合って。
 彼らはようやく、選んだのだ。ジニーたちはもう、自分の足で歩けない弱い連中などではない。
 それが、嬉しくないわけがなかった。
「そうだよな。ジニーたちの未来だもんな。お前が選び取るしか、ないよな」
 日が昇る。眩い光が二人を照らす中、オーキは明るく言った。
「俺たち、一緒だな!」
「そうだな。同じだ」
 そして、二人はまた、空を見る。
 地平から悠々と立ち上がった太陽が、大地を光で染めていく。その眩しさに心を温めながら、オーキは言葉を零す。
「なぁ、ジニー」
「ん?」
「……最後は、笑顔でサヨナラしたいって思うの、俺のワガママかな?」
 年相応の幼さでオーキが呟くと、ジニーはこれまでと違い、声を上げて笑った。
 なんだかバツが悪くてむっとしていると、未来を選んだ少年は、肩を揺らしながら、「いや、悪い」と頷いた。
「それがワガママなら、俺だってそうなるよ」
 ジニーが、拳を突き出した。オーキは彼に、向き直る。
 朝日に照らされた二人は共に、屈託のない笑顔だった。
「また会おうな、ジニー」
「あぁ。約束だ、オーキ」
 ぶつけ合った拳の、ほんのわずかな痛み。
 決して、忘れないと思った。




《Day5 8:11 【ぼくらのせかい】》
 結局のところ、彼らの正体についてはよく分からなかった。
 だが、そんなことはどうでもいい。彼らは友であり、師であり、また親であり兄妹だった。その時間を過ごせただけで、十分だ。
「お別れだね」
 アンナが言った。子供たちは皆、巨大トラックのリアゲートに集まっていた。
 その下では、猟兵と名乗る彼らが大地に立っている。こちらを見上げて、満足げだったり名残惜しそうだったり、様々な顔をしていた。
 大規模拠点の門で別れることを告げた彼らは、迷うことなくトラックを降りた。ジニーとトーマス、アンナ、ハルカは、誰も引き留めようとしなかった。
「また、会えるかしら」
 呟くハルカに、トーマスが「会えるよ、きっと」と返す。小さな声には、そうあって欲しいという願いが込められていた。
 拠点への進入許可を知らせる信号が灯る。ヘッドの掛け声で、全てのトラックが動き出した。
 遠ざかる、彼ら。四人と小さな子供たちは、門が閉められるまでの間、必死に手を振った。猟兵たちもまた、手を振り返してくれた。
 誰も涙を流さず、誰もが笑顔で、さようならと、またねと、元気でと、ありがとうを叫ぶ。
 やがて大きな門が閉まり、彼らは見えなくなった。本当にお別れなのだなと、四人は実感した。
 拠点のパーキングにトラックが止まり、「運び屋」たちが仕事にかかる。
 少年たちはしばらく門を見つめていたが、トーマスが、ジニーの背を叩いた。
「ジニー」
「あぁ……そうだな。よし、行こう、みんな!」
 ここからは、自らの手で選び続けなければならない。これまで以上に酷なこともあるだろう。
 だが、怖さはなかった。猟兵たちがくれた、たくさんの勇気と優しさが、ずっと胸に燃えているから。
 そして何より、仲間がいる。家族がいる。恐れる理由など、どこにもない。
 パーキングに降り立ったジニーは、ふと空を見上げた。不思議な光の柱が、天に昇っていくのが見えた。
 きっと、彼らだ。
 なぜだか、そう思った。

 旅は終わり、また始まる。
 生き方の岐路に立つたびに、彼らは迷い、そして思い出すだろう。
 強く、誇り高い戦士たちに出会った、あの日のことを。友と悩み語り合った、あの時間を。
 そして彼らは、また選び、歩き出すのだ。

 どこまでも、いつまでも――。
 少年たちは、止まることなく進み続ける。

 彼らの、世界を。

 fin

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年03月10日


タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#アポカリプスヘル


30




種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト