Operation:Hush a Bye Baby
#アポカリプスヘル
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●from filth
その要塞に連れ去られてきた人たちはみんな、不死者と化した野盗たちの餌なの。
彼らは拘束も拷問も重労働も課されていない。ただ要塞内部に閉じ込められて、餌として食べられてしまうその日まで生かされているだけ。
けれど、ここは楽園なんだって、囚われている人たちは口を揃えて言う。
たぶんそう思い込まないと、死ぬよりも苦しい絶望に飲み込まれてしまうから。
不死者たちに囚われた人々を解放するのが作戦の第一目標か、という猟兵の問いかけに、ニノ・クラコフスキー(猟兵・f14819)は逡巡する素振りを見せた。
「……ううん。わたしたちの一番の目的は、あくまでオブリビオンの撃破。助けられる限りの人は助けてあげたいけれど、それは難しいかもしれない」
そう言って、ニノは視線をそらした。
要塞内部に閉じ込められている人々は、百名を超すそうだ。要塞を牛耳るオブリビオンを滅ぼせば、彼らの生命を脅かす存在は当面のあいだ現れないだろう。
しかし、荒廃しきったアポカリプスヘルで希望を捨てずに生き延びるのは、容易ではない。
「不死者に食べられるのを待つ恐怖から逃れるために、みんな薬物やお酒に溺れてしまってる。理性を保っている人は極少数でしょう。オブリビオンを倒したとしても、彼らが元の生活に戻れるのかどうか、わたしには断言できない」
この要塞は元々、病院を改装して築かれた人間側の拠点だったという。備蓄された水や食料、医療用麻薬やアルコール類は膨大で、なおかつ不死者たちはそれらに興味を示さない。
皮肉にも外の世界では奪還者の力を借りねば得られない物資が、この要塞では労せず得られるのだ。
「外の世界でいずれ野垂れ死ぬかもしれないなら、いっそ食い殺されるまでの短いあいだ、空腹も忘れてクスリやアルコールの快楽に溺れて過ごしたい。そんな自暴自棄に陥ったとしても不思議ではないよ」
やるせない様子で息をついたニノは、予知で得られた要塞の状況について説明する。
要塞化された病院の出入口は厳重に封鎖されているが、猟兵の力を以ってすれば侵入は容易いだろうとニノは言う。
問題は内部の探索だ。
「予知ではボスの居場所が見えなかった。おそらく要塞の地下にいるんだと思う。だからみんなには、まず地下への道を探して欲しいの。けれど気をつけて。要塞内部にいる人たちは基本的に無害だけれど、なかには理性を失ってこちらに襲いかかってくる人や、騒ぎだす人がいるかもしれない。騒動になって不死者の野盗たちに感づかれたら、探索に支障がでちゃう。もし囚われている人に接触するなら、何らかの対策を練っておいてね」
現時点で得られた情報を共有したニノは、猟兵たちを戦場に送り届けるために、その手にグリモアを浮かべた。
「脅威を取り除けば、希望も取り戻せるんだって……わたしは信じたい。だから、完遂を期待してる」
扇谷きいち
こんにちは、扇谷きいちです。
リプレイの返却スケジュールを紹介ページでご連絡する場合があります。お手数をおかけしますが、時折ご確認いただければ幸いです。
●補足1
要塞内部に侵入した時点から開始します。
侵入経路を探るなどのプレイングは不要です。
●補足2
囚われている人から情報収集することも可能ですが、OP中で示唆している通り不利な状況が発生する可能性がありますので、試みる場合は対策を練っておいてください。
●補足3
冒険章における「POW」「SPD」「WIZ」の行動は一例です。
オープニングを踏まえて、自由な発想でプレイングをかけてください。
●プレイング受付について
12/22(日)の午前8時31分から受付開始いたします。
多くとも10名以内の採用の見込みです。
先着順ではありませんので、リプレイの返却が始まった後でも、執筆できるキャパシティに余裕があれば採用を検討させて頂きます。
仮にプレイングを多数頂いて選定が困難な場合は、抽選にて採用を決定させて頂きます。
第二章以降は、第一章にご参加いただいた方を優先的に採用いたします。
以上、皆様の健闘をお祈りしております。
よろしくお願いいたします。
第1章 冒険
『世捨て人の溜まり場』
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POW : 廃人達を殴って意識を失わせるなど、探索の邪魔をできないように物理的に排除する
SPD : 廃人達に気づかれないように素早く通り抜ける
WIZ : 廃人達に優しく言葉をかけたり、贈り物をする事で、大人しくしていてくれるように頼む
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
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吊るされた電灯が不規則に明滅している。
閉ざされた要塞内は明かり窓も乏しく、不安定な電灯が消えるたびに目の前は闇に閉ざされる。
だが、この暗闇は幸いだったかもしれない。少なくとも、要塞内に広がる血と汚物にまみれた光景を直視せずに済む。耐え難い汚臭だけは、防ぎようがないのが難点だが。
要塞内を探索するにあたって、気をつけねばならないことがある。
闇のなかを徘徊する者全てが、生きる気力を無くした廃人だと思い込まないほうがいい。
中には腹を空かせて餌を探し回っている不死者も極少数ながら紛れている。
そして、廃人と不死者の見た目上の違いは、驚くほど乏しいのだ。
アルバ・アルフライラ
人を救うべき聖域が
今となっては人喰らい共の巣窟か
天国と地獄は表裏一体と云うが
――何とも皮肉よな
明滅する灯りの中
髪の煌きが反射せぬよう闇に紛れる布で隠し
装備で鼻を覆い悪臭に耐え、進む
生の気配は乏しくとも
聞き耳で僅かな物音すら逃さぬよう
暗視で暗闇の世界を見渡し
徘徊者の様子を観察しつつ
常に警戒、慎重を期して道を探る
騒ぎを起こされては面倒故
不死者と確定時のみ高速詠唱の【女王の臣僕】で
それ以外で襲わんとした、騒ぎ出した者には
麻痺の魔術で声を出されぬよう無力化を試みる
もしも無害な者と遭遇が叶えば接触
怪我がある際は医術で治療を行い
怖かったでしょうと慰めるが如く声を掛け
情報の提供を仰ぐとしよう
*敵以外には敬語
●
要塞内部に侵入を果たしたアルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)は、頭からかぶった黒布を巻き直した。灯の乏しい要塞内部において、わずかな光でも煌めきを見せる彼の青玉の髪は何よりも眩い。
――天国と地獄は表裏一体とは云うが、人々の希望の城が人喰らい共の巣窟とは、なんとも皮肉よな。
ため息混じりに周辺を見渡したのち、アルバはすぐにその場を後にする。
要塞内部の通路は、お世辞にも歩きやすいとは言えない。あちこちに事務机や薬棚などの什器類、廃棄された弾薬箱などが散乱している。それらの物陰に身を隠しながら先へと進むアルバは、時おり足を止めて聞き耳を立て、夜目でも見通せない闇の奥の情報を拾う。
――人の声が聞こえるな。さて、亡者のうめきか、それとも生者の嘆きか。
騒動は避けたいが、厄介な存在を放ったまま先に進むのも不安が残る。アルバはしばし考えを巡らせたあと、咄嗟の襲撃に警戒しつつ声が聞こえてくる方向に進んで行くことにする。
壊れてしまったのか、電球が切れたのか、電灯もまともに点いていないエリアにアルバは足を踏み入れた。夜目だけではなく聴覚と嗅覚、触覚も駆使して手探りで闇の中を進む。床に這わせていた彼の指先が、不意に宙を掴む。
アルバの目の前には階段があった。そして、階下からは呻き声。相手が闇のなかで足を踏み外して階段から転落した生者であることは、すぐにわかった。
「階段から落ちたのですね。ご安心ください、私が診ましょう」
冱てる女王を灯り代わりに使うのは不敬だろうか、と内心で笑いつつ、青白い燐光を放つ蝶を数匹だけ召喚したアルバは、階段の踊り場で倒れていた男の容態を診る。出血はあるが、幸い打撲だけで済んだ様子だ。
応急処置を終えて楽な姿勢に直してやった男に「怖かったでしょう、もう安心してください」とアルバが声をかけてやると、髪も髭も伸び放題に伸びたみすぼらしい格好の男は、ぼろぼろと涙を零し始める。
あまり大声で泣くようならば麻痺の魔術を掛けるべきかと身構えたアルバだったが、男は静かに咽び泣くばかりで、それ以上の感情の起伏も見せず、また、何らかの言葉も発しなかった。しかし、彼は諦めずに機を見計らって問いかける。
「あなたの怪我は大したことはありません。痛みが引くまで安静にしていれば、すぐに動けるようになります。残念ながら私はもう往かねばならないのですが、地下へと続く道はご存知でしょうか?」
ゆっくりと、言い聞かせるように尋ねるアルバ。しかし男は相変わらず泣いてばかりで、問いかけには答えてくれない。
しばらく男の反応を待っていたアルバだったが、諦めてその場を離れることにした。蝶を帰して再び闇に包まれた階段を手探りで降ろうとしたところで、不意に服の裾を引っ張られた。
「……一階からは下には行けないよ。あいつらは……化け物どもは上から来るんだ。う、うっ……たぶん、やつらしか知らない道があって、そこから俺たちを狙ってるんだ……うぅ」
「ありがとう、助かります」
なるほど、ただの病院跡ではないのは確かなようだ。
互いの顔もまともに見ることの叶わない闇の中で、男はただ一言だけアルバの問に答えた。そして、再び啜り泣きを始めた。
男の肩を優しく叩いたアルバは、男の言葉を信じて上階へと戻っていく。これ以上の慰めの言葉は、きっと、無意味だろうから。
成功
🔵🔵🔴
モア・ヘリックス
・アレンジ、連携歓迎
手をさしのべる必要はない。
奴らは自分から噛みつくチャンスすら放棄したんだ。その時点で死人となにも変わりはしない。
俺らは敵を潰すことだけ考えりゃいい。その結果あいつらが助かるかどうかなんて知ったことじゃないさ。
行くぞ、まずはアタリをつける。この規模の施設なら監視カメラのひとつくらいはあるはずだ。狙い目はナースステーションだな。
地下の情報がなかったとしても、各所の様子や地上階の見取り図が得られれば今後動きやすくもなる。
『BAD』とケーブル接続した『クラッキングナイフ』は言うなれば端子だ。多少荒っぽいが回路に突き立てればそこが侵入口になる。
さあ、持ってる情報、全部寄越しな。
●
モア・ヘリックス(ブチハイエナ・f24371)にとって、要塞内部に広がる光景は取り立てて珍しいものではない。荒事をこなす生業のなか、幾度となく見てきた光景だ。
調査のために踏み入れた部屋に転がる亡骸の全てがただの亡骸であることを確かめたモアは、部屋を出る間際にふと足を止めた。
――腕もある。足もある。その気になりゃ、逃げることも噛みつくこともできただろうに。
注射器と酒瓶に囲まれて息絶えた亡骸たちを去り際に一瞥したモアは、ため息をつくでもなく、侮蔑の言葉を残すでもなく、ただ静寂の内にその場をあとにする。
例え彼らが生者であったとしても、モアは救助の手を差し伸べるつもりはなかった。戦う術が残されているにも関わらず、立ち上がることを拒んだのなら、それは生者であって生者ではない。己の足で立てなくなった時点で、それは死体と何ら変わらない。モアは、そう定義付ける。
ならば、この要塞内部で信用足りうるモノは限られてくる。ただ客観的に物事を記録した電子データのみ。
――これだけの規模の施設だ。監視カメラの記録は残っているはず。直近のデータじゃなくてもいい。人や亡者の流れさえ把握できれば御の字だ。
この要塞は元々人間側の拠点、その前は病院だったという。ならば、情報が集約するのはかつてナースステーションだった場所だろう。そうあたりをつけたモアは、それらしい設備を探して暗闇のなかを行く。
かくしてモアが辿り着いたのは、フロアの中央部付近にあった広い部屋だ。さすがに往年の病院の姿は残していないが、立地的に、ナースステーションを改修した警備詰所、或いは何らかの情報処理や通信用の部屋に思われた。
「よしよし。死体だらけの吹き溜まりだが、お前だけはくだばっていてくれるなよ。死ぬ前に、持ってる情報を全部寄越しな」
室内に誰もいないことを確かめたモアは、さっそく放置されたままの端末を起動する。電灯も危うい電力事情のなか、幸いにも設備は生きていたようだ。
しかし、そう長くは保たないだろう。モアは安堵することなくクラッキングナイフを端末のソケットに突き立てると、要塞内の監視カメラデータへのアクセスを試みる。
「ちっ、破損データばかりか。生きている動画も真っ暗闇ばかりで使い物にならねえ。……いや、まてよ」
新しい監視カメラの動画からチェックしていたモアは、急いでアーカイブを探り出す。出来る限り古い、まだこの施設がまともに機能していたであろう時期のデータだ。
モアが見つけ出した古い監視カメラのデータには、まだこの要塞が人間たちの手で運営されていたころの記録が残されていた。
今、モアの目の前に広がる闇に沈んだ光景とは違う、まだ人々が希望を持って絶望に抗っていたころの記録だ。
しばらく動画を眺めていたモアだったが、瀕死の電子機器は寿命を迎えたらしい。「……ふん」と小さく息をつくと、彼は何も映さなくなったモニターから視線を外した。そして、口に咥えた小型懐中電灯で室内に置かれていたフロアマップを照らし、監視カメラのデータから得た情報と摺り合わせていく。
「妙だな。監視カメラで見えた映像とフロアマップじゃ、廊下の縮尺に差異がある。マップに載っていない空間が存在するわけか。映像で見えたのはここよりもっと上の階層か……」
該当する区域にマークをつけたモアは、すぐにその場を後にする。
仲間の情報によれば、不死者は必ずしも下層階から現れるわけではないらしい。
探るべきは一階ではなく、もっと上層階だ。それを仲間にも伝えるべく、モアは再び闇のなかへと身を浸す。
「過去も現在も知るかよ。俺らが考えることは、敵を潰すだけ。それだけだ」
成功
🔵🔵🔴
スキアファール・イリャルギ
これは重畳
影人間なんで闇に紛れるのは得意
…でも身体には悪いなこの環境
ガスマスクつけよう
【Ainsel】で出来うる限りの距離まで無機物を変換
複数の影で広範囲を見渡し物音を聞き逃さない
勘は無いので虱潰しの捜索
存在感を消して目立たずに進む
常に自分の近くに数体影を忍ばせ
奇襲や尾行をされないよう気を付ける
騒がれる前に影で口を塞いで
…廃人なら殺さない程度に首絞めて気絶させよう
付け焼刃の心理療法はきっと役立たない
死と隣合わせの中で見つけた幸せ
そこへ溺れきった人の掬い方や
もう散々な夢に耐えられない身体での生き方は
この世界にあるのか?
よくわからない
私だったら正気でいられただろうか
いや、そもそも今の私は正気か?
●
元より、闇と親しい存在だとスキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)は自己分析する。人ならざるその身は光を返さぬ黒包帯で覆われ、尋常ならざるこの地においてもなお異質な存在に映った。
しかし、「ガスマスクを持ってきてよかった」と独り言ちながら闇の中を進むその姿はなんとも人間臭く、仮に見る者が居れば可笑しみを覚えただろう。
そんなスキアファールの探索の手立ては至って堅実だ。
周辺の無機物を己と同じ影の存在に変異させ、斥候として用いている。仮に灯りで照らされていたとしても、侵入者に備えてわざと廊下の先を見通せない構造に造られている要塞において、向かう先の情報を先んじて得られるのは何よりの強みだ。
スキアファールが探索を始めてから、すでに廃人同然の生者との遭遇を二度回避することに成功していた。今も、十六メートル先の廊下の隅でドラッグを炙った煙を吸引している女の姿を、影を通して見ている。
相手はおそらく、目の前を素通りしてもこちらには気が付かないだろう。そう判断して、スキアファールは目先の快楽に没頭する女の前を、無言で通り過ぎた。
背後から聞こえてくる薬の吸引音が次第に遠ざかり、やがて暗闇のなかに消え失せた。
スキアファールは、辺りに何者の気配がないことを確かめると、知らぬうちに止めていた息をゆっくりと吐いた。
――救うことは出来ただろうか。救ったあとで、あの人たちが生きる術を示すことが出来ただろうか。
現在地を確認するために立ち止まったスキアファールの心中に去来するのは、オブリビオンの元へと通じる地下通路への道ではなく、これまで目撃してきた生者たちの姿だ。
この要塞には死と絶望が満ちている。どれだけ頑健な者でも、こんな環境に囚われていれば、死の恐怖を忘れるために堕落に救いを求めることも無理はないように思えた。
――もう散々な夢に耐えられない身体での生き方は、この世界にあるのか?
仮に生き延びたとしても、恐ろしいこの世界で彼らが生きる希望を取り戻し、再び立ち上がることが出来るのだろうか。
わからない。
スキアファールには、その答えが見いだせずにいた。
「……」
ふと視線を感じた気がして、スキアファールは後ろを振り返った。そこには、先ほど目の前を通り過ぎた廃人の女が立っていた。
騒がれる事態に備えて身構えたスキアファールだったが、すぐに身体の緊張を解く。女は確かにマスクに覆われたスキアファールの目を見詰めていたが、彼のことなどまるで見えていないかのように、涎の糸を床に落としながら通り過ぎていった。
女の足音が消え失せたあと、スキアファールはおもむろにガスマスクを外した。
途端、押し寄せる垢じみた汚臭と糞便臭、カビと吐瀉物と死体の臭いが鼻孔を通して脳を揺さぶった。
こんな環境に死の恐怖とともに囚われていれば、正気を保つことなど難しいだろう。こみ上げる悪寒から逃れるようにマスクを被り直したスキアファールは、再び影の従者たちを走らせて地下へと進む道を探す。
――正気を保てていただろうか、だって? いや、そもそも今の私が正気などと、誰が保証してくれるというのか。
頭を振って思考の魔手をほどいたスキアファールは、先の廃人の女が避けて遠回りをした区画に目をつける。もしかすると、不死者たちがよく出没するエリアなのかもしれない。
考えるのはあとだ。いま求めるものは答えではなく、道だけだ。
そのことを理解している限り、己は正常なはず。
スキアファールは、そのことを自らに言い聞かせながら影と共に先へと進む。
成功
🔵🔵🔴
矢来・夕立
まずは地下への侵入ルートを確保します。
《忍び足》で《闇に紛れる》
【紙技・渡硝子】も使う。
他の方との情報共有にも使えますからね。これ。
病院なら、大きめのエレベーターがありますよね。
いや、そこに乗るんじゃなくて。
扉の内側で、かつ、ゴンドラの外側です。
…エレベーターの裏側と言うのが正しいんでしょうか。
ワイヤーや他のゴンドラを伝って、一気に下までいけるかもしれません。
目的の場所を見つけられずとも“地下側から地上へ逆走してルートを解放する”という手も取れます。
障害があれば《だまし討ち》で静かに排除。
人助けなんかしませんよ。
解放したってのちの責任取れないし。
区別がつかないなら、それは危険なので。殺します。
●
仲間から共有された情報によれば、不死者の群は必ずしも地下から直接地上に現れるわけではないようだ。
どのようなルートで不死者たちが地上と地下を行き来しているのか不明だが、それを解き明かせば地下へと通ずるルートが開けるのは間違いあるまい。
式する"渡硝子"がもたらした周辺の様子を元に、矢来・夕立(影・f14904)は目当ての搬入用エレベーターへと向かう。まさか不死者がエレベーターに乗って行き来しているとは彼も思ってはいないが、地下へと向かうルートを探るのにこれほど手っ取り早い手段はないだろう。
――表示上では地下一階まで通じているようですね。秘匿された場所とは思えませんが、調べてみる価値はありますか。
エレベーターの昇降扉に手をかけるが、人の手では簡単に開きそうにない。仕方なく、夕立は得物を抜いて障害を切り開く。
電力は届いていないらしく、カゴもここにはない。だがお上品にエレベーターに乗るつもりなどなかった夕立は、周囲の暗闇よりもなお暗い奈落を覗き込むと、早速懸垂下降の準備を始める。
「ワイヤーアクションだなんて、映画で見るだけで十分なんですけどね」
念の為、渡硝子を先行させながら夕立はエレベーターシャフトを降っていく。
シャフト内は黴と埃の臭いに満ちているが、それでも表に充満する腐敗臭に比べれば随分と清浄な空気に感ぜられた。
おおよそ十メートルほど降ったところで、夕立はシャフトの底に墜落してひしゃげたカゴを発見した。破損して歪んでしまった昇降扉をこじ開けるのは一苦労したが、夕立はなんとかシャフトから外へと出る。
周囲に人影がないことを確かめた夕立は、回収したザイルを仕舞うと、改めて探索を開始する。
どうやらこのエリアは物資の搬入や備蓄倉庫として用いられていたようだ。積まれた収納箱を適当に覗いてみると、医薬品や保存食品がまだ残されていた。
ふと、渡硝子がこちらに近寄る存在を察知した。
夕立は手にした缶詰を振り向きざまに闇の奥へと投げつけた。鈍い音が鳴り、次いで短い悲鳴と人が倒れる音、最後に床に落ちた拳銃が暴発する発砲音が轟いた。
缶詰を投げたほうへ夕立がゆっくりと歩んでいくと、そこには鼻血を垂らしながら地面で伸びている男がいた。
「いきなり拳銃を取り出すとは物騒過ぎやしませんか。こちらを缶詰泥棒と勘違いしたのか、それとも不死者と勘違いしたのか」
どうあれ、襲いかかろうとしてきた相手を助けるつもりは夕立にはない。いや、例え無害な囚われ人が相手だったとしても、そうしただろう。その後の安全も保証できない以上、無責任な救済は不幸しか生み出さないのだから。
念のため男の脈拍を取り、相手がただの人間だと確認した夕立は、とどめを刺すことを中止して備蓄庫に繋がる道を探り始める。
先ほどの男の様子から見ても、囚われた者たちのなかでも一部の者しかここの備蓄品をあさりに来ていない様子だ。
――単にあの男が物資を独り占めしているだけとは思えません。不死者がよく目撃されるから、近寄る人が少ないと見るべきですかね。
ここを起点に探索すれば、不死者たちが行き来するルートも割り出せるかもしれない。
夕立は奥を探索する前に、備蓄庫と地上階とをつなぐ通路を探すことにする。単独で調査を続けるには、骨が折れる仕事になる予感があった。
大成功
🔵🔵🔵
勾坂・薺
うっ、くさい。
それにしてもほんとに世紀末みたい。
まぁとりあえず、地下への入り口を探さないといけないけど……
【Hello,world!】で動きを封じる準備だけはして
ちょっとやさーしく話しかけて
あとお菓子とか煙草とかで懐柔かな。
あげる代わりに要塞の情報教えてくれない?なんて。
悩みも聞いてあげるし。
まぁ人間嫌なことあれば
幸福感を与えてくれるものに頼りたくもなるよね。
わたしも煙草吸いたくなるし。結構。
でも、まぁ、これは余計なお節介だけど。
幸せになりたいんだったら
ちゃんと準備はした方がいいんじゃない?
機会が来ても、準備が出来てなかったら掴み損ねるから。
自分を幸せにしてくれるのは結局自分だと思うなぁ。
●
――うっ、くさい。
要塞内に侵入した勾坂・薺(Unbreakable・f00735)は思わず袖口で顔の下半分を覆った。廃人と不死者の巣窟ということで事前に覚悟をしていたが、それでも気が滅入ってしまいそうだ。
「OK、世紀末って言うのはこういうことなんだね。気合いれて頑張ろうか」
一呼吸を置いた薺は気を取り直し、改めて探索を開始する。
話によれば、囚われた者たちはなるべくスルーしたほうが良いそうだ。しかしこの要塞内部のことを良く知っているであろう人々から情報を得ることが出来れば、それに越したことはない。
薺はそう考え、あえて絶望に身を浸した者たちとのコミュニケーションを試みる。
「ハロー、いい席ね。隣、空いてる?」
薺が目をつけたのは、廊下に置かれたボロボロのビニールソファで膝立ちになって、外を眺めている若い男だった。この廊下は要塞の外壁に面しているらしい。窓を覆うシャッターの一部が壊れており、隙間から外の様子が伺えるのだった。
薺の言葉が聞こえているのかいないのか、男はぼんやりとシャッターの隙間から外を眺めているばかり。
返事は諦めてソファに腰掛けた薺は、目の前のテーブルに乗った不衛生な注射器に手が触れぬよう注意しつつ、持参した菓子や食料品を一つずつ卓上に置いていく。
「おっ、やっとこっち見てくれた。お菓子より煙草が好みなんだ。わかるよ、わたしもイヤなことがあったりすると、無性に煙草吸いたくなるし。結構」
それまで薺に対して何も関心を向けてこなかった男は、彼女が取り出した煙草
には反応を示した。薺は一本を自分の唇へ、もう一本を男に差し出してやると、ライターで火を点けた。
肺いっぱいに紫煙を吸い込めば、気分の悪い臭いも幾らかごまかせる気がした。男は煙草をふかしながらも相変わらず外を眺めたままだが、意識がこちらに向いていることを薺は感じていた。
あえて薺は情報を求めず、しばし無言の時間を男と共有する。男は灰をそのままリノリウムの床に落としていたから、薺もそれに倣う。それは奇妙な背徳感と開放感を伴う行為だった。
「いつ囚えられたんだ。今日か、昨日か」
「わたし? 自分から来たんだ。奪還者ってやつ。悪いやつらをやっつけにね」
「そうか」
二本目の煙草に火を点けてやるさなか、男が初めて口を効いた。薺の言葉に男は何の感動も覚えていない様子だ。彼女の言葉を信じていないのか、それとももはや何の希望も抱いていないのか、薺には判断がつかない。
「あんまり喜んでくれないんだね。でも、まぁ……これは余計なお節介だけど。準備しておくに越したことはないと思うんだ。ほら、よく言うでしょ。チャンスの女神は後ろ髪がないってさ。あなたがまだ幸せを求めているなら、心の片隅にでも覚えておいてよ」
男が眺めている外の世界は決して幸福の国ではないが、それでもこの暗闇より幾百倍もマシだと薺は信じている。
薺は残りの煙草とライターを卓に置くと、席から立ち上がった。
すると、男は外を見詰めたまま再び口を開いた。
「四階に抜け道があるんだ。元は緊急時の非常階段だったんだと思う。化け物どもが、そこからぞろぞろ這い出してくるのを見たことがある……」
「ありがとう、教えてくれて」
薺が礼を述べても、男はそれきり返事をしなかった。外の世界を眺め続ける男をその場に残し、彼女は廊下の奥へと向かった。
大成功
🔵🔵🔵
コノハ・ライゼ
きっと。いずれも死という絶望を、分かる事はできない
だから生きろと言うのも押し付けでしかないケド
【黒管】で仔狐を放ち目の届きにくい場所を重点に捜索
同時に数匹で囚われた人々を観察し障害となりそうな者が居たら仲間に伝える
基本的に事を荒立てず騒がれそうなら制止か仔狐嗾け牽制
ココで騒ぎ立てればアンタの恐怖は無くなンの?
どうせ選べぬ未来なら、なあひとつ賭けでもして楽しもうじゃナイ
チップは命、リターンは新しい選択肢……生きる可能性
その後の保証なんてねぇよ
今目の前の恐怖に屈するか否か、ソンだけ
死への『恐怖を与え』脅し、生への『誘惑』を
喰らう者として不死者は獣の鼻で嗅ぎ分け
遭遇したら「柘榴」で素早く応戦
●
一見すると通路を埋め尽くすバリケードは潜り抜けることが出来ないように思えた。だが、使役する黒管狐を通して、コノハ・ライゼ(空々・f03130)はこのバリケードには通り抜けるための"穴"が通されていることに気がついた。
仲間がもたらした情報によれば、恐らくこの先は物資搬入口と備蓄庫に通じているはずだ。この要塞に囚われている者たちは、こういった抜け道を通じて物資を得ているのだろう。
それに倣い、コノハも狭いバリケードの隙間を縫って侵入を試みる。
「こんな手の混んだモノを作っちゃって。ずっと前は、不死者に抗う人たちがいたのかネ」
こんな場所に囚われ、死を待つだけの絶望は如何なるばかりのものか、コノハにはわからない。ましてや牢獄の外もまた地獄なのだ。生きろ、という言葉はこの世界においては何よりも空虚な響きを持つように思えた。
バリケードをくぐり抜け、一階層分の階段を下ると、広い空間に出た。物資搬入口兼備蓄庫エリアだ。
――臭いが薄くならない。生者も死者も不死者もこの先にまだまだいるってワケか。
再び黒い仔狐を先行させて情報を探りながら、コノハは備蓄庫を通り抜けて通路に出る。電力供給が幾分安定しているのか、薄暗いながらも上階より視界は良い。
しばらく通路を歩いていくと、仔狐が廊下の角向こうからやってくる人間の気配を察知した。一本道ゆえ、鉢合わせは避けられそうにない。そして、騒動も。
「安心してちょーだい。怪しいモンじゃないからネ。なんて言っても、信じてくれないか」
「あがらぁ、ぇっべんがぁあ!! お、おえがわ、げれんだばぁああ!!」
角から現れた男は、血走った目玉をギョロギョロと忙しなく動かしながら吠えた。何か喋っている様子だが、理性を喪っているのかまともな言葉を成していない。男が着るボロボロの衣服は血で汚れきっている。おそらく、返り血だろう。
有無を言わさずナイフで襲いかかってきた男に対し、コノハは手刀で腕を打ち据える。ナイフを取り落した男はそのままよろけ、床に倒れた。
「怖がらなくてもいいンだって。それとも、ココで騒ぎ立てればアンタの恐怖は無くなンの?」
相変わらず大声で何事か捲し立てながら、なおもコノハに食って掛かろうとする男。その闘争心をポジティブなほうへ向けてくれれば、と思わないでもないが、コノハに男を責める気はない。
ナイフを拾い上げたコノハは、男の対面に腰を下ろす。そして、二人のちょうど真ん中に落ちていた男のバッグにナイフを突き立てた。
「どうせ選べぬ未来なら、なあ……ひとつ賭けでもして楽しもうじゃナイ」
生きるか死ぬか、二者択一の賭けだ。
このナイフを取って死を選ぶか、わずかな生の選択肢に残りの全てを賭けるか。
緩い口調ではあるが、男を見つめるコノハの瞳は鋭く、そして有無を言わせぬ力が潜んでいた。
男は「ひっ」と引きつった悲鳴を一つ上げると、ナイフもバッグも置き去りにして逃げていった。
「賭けの結果が勝ちか負けかはアンタ次第……少なくとも敵は倒してあげる。その後の保証なんてねぇケド」
立ち上がったコノハは、廊下の先へと進む。
倒すべき存在がこの先にいると賭けている。だからこれより先、何一つ見逃すつもりはなかった。
成功
🔵🔵🔴
鹿忍・由紀
あくまでオブリビオンの撃破で良いんなら気が楽だ
いちいち面倒見てられないし
運が良いなら生き延びるだろう
ってくらいの廃人達へ興味のない内心
なかなかに荒れてるね
暗視が効くから要塞内の惨状もよく見える
不快そうに僅かに眉根を寄せるもこんなの慣れたもの
迷いのない足取りで涼しい顔して先へと進む
出来るだけ踏みたくはないけど
追躡を先行させて廃人と不死者の場所を確認しながら
気配を消すよう出来る限り避けるルートを選ぶ
接触すると何かと面倒そうだし
聞き出すならそういうのが得意な人がやれば良い
出会ってしまったら気絶する程度に物理で対応
廃人か不死者か見分けるつもりはないから躊躇いなく
命を取るわけじゃないんだから我慢してね
●
「なかなかに荒れてるね」
要塞内を進む鹿忍・由紀(余計者・f05760)はその口振り通り、大した興味も抱いた様子もなく要塞内を見渡した。
生きているのか死んでいるのかわからない者が、あちこちに転がっている。夜目が利くのも考えものだ。見たくもないものをしっかりと目にせねばならない。不快感に僅かに眉を寄せながら、由紀はコートのフードをかぶり、ポケットに手を突っ込んだ。
話によれば、フロアマップにはない不自然な空間と、秘匿された非常階段が要塞の四階にあるのだそうだ。
大麻を燻らせている少年らがだらしなく床の上に投げ出した脚の合間を縫って、由紀は先へと進む。良識あるオトナであれば今すぐにでも取り上げてやるべきだろうが、生憎と可哀想な青少年のために由紀はなにか手を差し伸べるつもりはない。運が良ければ、この仕事が終わったあとで彼らも救われるだろう。
件の非常階段があるというエリアに到着した由紀は、召喚した黒猫と共にそれらしい場所を探る。周囲に人影はなく、廃人達がこの付近を避けているのは明らかだ。
程なくして防火扉に偽装された隠し通路を探しだした由紀は、下層へと降っていく。先行させた黒猫が送ってくる情報によれば、階段の途中で不死者と出くわす恐れは無さそうだ。
階段を下りきった先は、要塞内の配電や空調などを司る設備フロアだった。フロアマップなんて気の利いたものはないが、降りた階層分から察するにおそらく地下一階か二階に当たるだろう。ここからさらに下る階段があるのかもしれない。
ポケットから手を出した由紀は、金網床を鳴らさぬよう足音を潜めながら歩を進める。彼は周囲の臭いの質が上階とは違うことに気がついていた。なにか、人ならざる存在が発する禍々しい腐敗臭がまじり始めた――そんな印象があった。
「まったく」
パイプや電線の類が無数に集まった小部屋に差し掛かった由紀は、小さく息をついた。どうやら、ここは不死者どもの食餌場かゴミ溜めらしい。残飯としか言いようのないモノが床を埋め尽くしており、僅かに隙間から見える部屋の奥には、真っ黒に腐食した残骸がうず高く積み上がっていた。
――部屋から溢れ出していた肉片は腐りきっていた。古い廃棄場か。もし奥に行くほど新しい死体が捨てられているなら、興味深いな。不死者にも整頓や効率の概念が残っているってわけだ。
そんなことを考えながら奥へと進む由紀の耳に、悲鳴が聞こえてきた。見れば、通路の向こうから血まみれの男が駆けてくる。
考えるより先に身体が動いていた。どういう状況かはすぐに理解できた。
泣き叫びながら縋り付いてきた男には一瞥もくれずやり過ごすと、由紀はその後ろから迫ってくる一体の不死者に相対する。
「人じゃないんなら、遠慮はいらないだろう」
すかさずダガーを取り出した由紀は、襲いくる不死者の腕をかいくぐって急所を刺し貫く。絶叫もなかばに、不死者は倒れて動かなくなった。
振り返れば、先ほどの男はさっさと逃げたらしく、姿が見えなかった。
あれだけ元気なら、無事に上まで逃げられるだろう。
由紀は取り立てて男の行く末を案じることもなく、先へと進む。
今のアクシデントで、ここが下層に通じるルートであるという確信を得た。後ろを振り返る理由など、どこにもない。
成功
🔵🔵🔴
ラピタ・カンパネルラ
悪臭は、覚悟をしていた程ではなかった。
僕のいた地下は、実は、良くない環境だったのかもしれない。
暗さも、大丈夫。どうせ、僕の目は殆ど見えない。
僕とてきちんと、生きていられる。
集中する。
不死者は上から来ているのだったか。
僅かな隙間風を追う。壁をなぞり音の変化に耳を澄ます。裸足の足裏に着く汚物の厚み、ぬかるみ、乾きや痕跡で、不死者の経路を少しでも予測する。
生死は、呼吸音で聞き分ける。呼吸音の無い衣擦れは不死者だ、見つかったならば怪力と部位破壊で殴り潰していこう。
生きた人が大声をあげたり襲いかかってくるなら……抱き寄せて、肩でその呼吸器を塞いで、酸欠の気絶をさせる。
無力な君も、どうか未だ、生きていて。
●
存外、要塞内部の死臭はそれほど酷いものだとは感じなかった。
ラピタ・カンパネルラ(ランプ・f19451)にとって、それは幸いであると同時に、複雑に思えることでもあった。かつて自分が居た環境は、もしかするとこの要塞よりももっと酷い場所だったかもしれないのだから。
不死者たちが上階に出てくるための階段とやらは、仲間の誰かが見つけてくれたようだ。ラピタはその階段を降り、不死者やオブリビオンが潜む最深部目指して進んでいく。
暗さはさして問題ではない。どうせ、最初からあまり利かぬ視覚だ。なればこそ、ラピタにとっては都合がいい。
――大丈夫。僕とてきちんと、生きていられる。
金網床は靴を履いた足音をよく響かせる。要塞内の設備を動かす機械類が響かせる雑音に紛れて、カシャンカシャンと高い足音があちこちから聞こえてくる。時おり、何かが暴れる音や走る音、悲鳴も聞こえてくる。
嗚呼、とラピタは嘆息した。
鼻をつく重苦しい腐臭。粘り気を帯びた空気に全身を舐められる錯覚すら覚える。"地上"よりも"地下"のほうが酷いのは、この世界でも同じらしい。いま通り過ぎた部屋のなかに何が積まれているのか、きっと知らないほうがいいのだろう。
闇雲に進めば堂々巡りで迷ってしまいそうだったから、ラピタは悲鳴が聞こえた方角を目指して歩いていく。好んで戦いに臨むつもりはないが、察するに不死者たちは捕らえた人間たちをこのフロアに連れ込んでから捕食しているようだ。その先に、きっと最深部へと続く道があるはず。
奥に進むと、金網床がコンクリートの床になった。
ここに来るまでの間に乾いた液体や干からびた何かがラピタの裸足に触れることはあったが、今は確かに彼女の足裏を何かが濡らしていた。そしてブヨブヨとした何かが、辺りに散らばっていた。
鼻孔に染み込んでくる鉄錆びた匂い。まだ"新鮮"なその匂い。歩みを止めたラピタは、この先に居るであろう存在が何者なのか、視覚と味覚を除いた感覚で見極めようとする。
――弱い呼吸がひとつ。もうひとつは呼吸がない。でも、動いているのは二人。
不死者だ。
ラピタが拳を固めたのと同時に、通路の先から飛び出してきた不死者が彼女に襲いかかってきた。
「……!」
無言のうちに、ラピタは尋常ならざる膂力を宿す殴打を眼前に叩きつけた。見えないが、そこに敵がいることはわかっていた。
皮や肉ごと叩き砕いた骨片が拳に刺さる軽い痛みが走った。構わず、ラピタは腕を振るい抜く。冷え切った不死者の血糊と共に猛烈な汚臭が身体に纏わりつくが、構いはしなかった。
差し迫った脅威を取り除いたラピタは、不死者と共にいた弱々しい呼吸の主の元へと歩んでいく。もう一言も話す力も残っていないらしいその人は、弱々しい腕でラピタに縋りついてきた。
泣き叫ぶようならば呼吸を塞いで気絶させるつもりだったが、その必要はもうなかった。抱き寄せたその人は、ラピタの肩に顔をうずめたまま静かに息絶えた。
生きる道が残っているならば、生きて欲しかった。
そう願う暇も持てなかったことに、ラピタは一抹の虚しさを覚える。
だが、嘆く時間はないのだろう。
ここは敵地で、ラピタが居る場所の先に戦場がある。
数多の不死者が蠢く気配を、ラピタは感じ取っていた。
成功
🔵🔵🔴
第2章 集団戦
『ゾンビの群れ』
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POW : ゾンビの行進
【掴みかかる無数の手】が命中した対象に対し、高威力高命中の【噛みつき】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : 突然のゾンビ襲来
【敵の背後から新たなゾンビ】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ : 這い寄るゾンビ
【小柄な地を這うゾンビ】を召喚する。それは極めて発見され難く、自身と五感を共有し、指定した対象を追跡する。
イラスト:カス
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
猟兵達の個々の探索が実を結び、要塞の地下へと通じるルートが判明した。
一同が侵入を果たした地下五階。そこはかつてこの要塞の中央司令室が設けられていた、いわば人々の希望を守る最後の砦だ。
しかし戦いに敗れたいまでは、皮肉にも不死者たちの塒にして食餌場に成り果ててしまっている。
辺りには見るも無残な姿に変わり果てた亡骸が目立つが、このフロアは上階とは違い、不死者に監視されながら囚われている人々の姿も散見される。
おそらくこのフロアの最奥部にいる統率者へ献上するために、不死者たちが地下まで連行してきた者たちなのだろう。
猟兵たちを躊躇させるために、人質を盾にする戦術を取る知性が不死者たちにあるとは思えない。ゆえに、彼らが戦闘に巻き込まれないよう注意を払いつつ不死者を叩けば、彼らの生命を守ることが出来るはずだ。
不死者は撤退という選択肢を持たない。敵対する者を食い殺すまで、どこまでも追いかけてくる。だから、全ての不死者を殲滅する前に統率者に戦いを挑むのは無謀だ。
要塞に閉じ込めて飼い殺すなどという猶予も慈悲も、猟兵には必要ない。全ての敵を始末するのが猟兵の流儀である。
スキアファール・イリャルギ
わざと物音を立て存在感を際立たせる
なんなら気を引く為に歌いますか
ガスマスクでやりづらいですが
臭いが嫌なんで意地でも外しません
傍から見れば滑稽な奴ですね
構いませんよ
"敢えて"目立ち敵を私に群がせるのが目的なんで
私をその手で掴むには近づく必要があるでしょう?
さぁ、此方へどうぞ
噛みつきは必然的に何度も食らうでしょうが、それでいい
倒れる前に頃合いを見て
【死有の焔】で全て焼き尽くすのみ
我ながら狂った行動ですね
命が削られて苦しいのに
……"正常"って、なんだっけ
先の女性は不死が出没する区画を避けた
人間としての本能か?
僅かに残っていた理性か?
絶望し快楽に溺れきっても生きたいと願ってる?
――この考えは楽観か?
●
地下階層を進むほど、不死者たちの数は増していく。狭い通路で仲間と共に乱戦を続けていくのは効率が悪い、とスキアファール・イリャルギ(抹月批風・f23882)は判断した。
十字路の横手から雪崩てくる不死者達の姿を認めたスキアファールは、仲間たちの前に立って声高々に歌をうたいはじめる。
――もう二度と此処の空気を直に吸いたくはありませんからね。滑稽に見られても、構いはしません。
ガスマスク越しに奏でられる歌声は酷くくぐもっていて、お世辞にも耳に心地よいとは言えない。だがその奇異なる姿と行動は、不死者たちの注意を惹きつけるには十分だった。
「みなさんは、先へ急いでください。あの群れは私が引き受けましょう」
あえてその身を囮にし、スキアファールは他の猟兵たちへの攻撃を全て引き受ける。
無論、ただの自己犠牲で悦に浸る趣味は彼にはない。仲間が先へ進んだのを確かめた彼は歌を止め、眼前まで迫る不死者たちと相対する。
不死者たちががむしゃらに伸ばしてくる無数の腕をかわし、致命的な一撃を避けながら、スキアファールは群れの中心へと突き進む。
――我ながら狂った行動ですね。わざわざここまでする必要も無いでしょうに。
顔を覆うガスマスクの下で、スキアファールは自嘲する。不死者のキレの悪い攻撃など少数であれば恐るるに足りないが、数に囲まれれば少なからず怪我は負う。もっと楽な戦い方だって出来るだろうが、それを選択しなかった己の不器用さ加減に可笑しみを覚える。
「さぁ、此方へどうぞ。もっと此方へ」
不死者の腕に押さえつけられ、床に押し倒されたスキアファールは、そう呟いた。その声音に焦りは見受けられない。
そして、スキアファールの手中に炎が灯った。今まさに彼の喉笛を食いちぎらんと牙を剥いた不死者の表情が固まった。
彼の短き命を燃やして生み出されたその業火は、一瞬で地下の闇ごと周囲に存在するものを焼き払っていく。不死者も、死者の残骸も、そしてスキアファール自身さえも。
炎が消え失せ、炭化した無数の亡骸の中心で起き上がったスキアファールは、身体を汚す煤と灰を手で払い落とし、仲間たちが進んでいった次の戦場へと向かう。
先ほど上階で出会った女性は、スキアファールの目には死を避けているように見えた。生物としての本能か、人としての最後の理性か、それはスキアファールにはわからないことだが……絶望し、快楽に堕落しても生きたいと願っている、そのように思えた。
そう思うのは、ただの楽観に過ぎないだろう。
けれどそれは至って"正常"な行動に違いない。自ら命を燃やして突き進むよりも、よほど。
成功
🔵🔵🔴
モア・ヘリックス
ここまで来ると流石に空気が悪いな
慣れちゃ居るが、我慢してやる理由もねえ
ゴーグルとガスマスクを装備
暗視で最低限の視界を確保して進む
ああいう手合いを相手にする時は
一度に相手する数を減らすのが重要だ
先手を取るため、音を殺して奇襲を狙う
人質に騒がれて失敗するのもくだらねえ
忍び寄る時は静かに
間合いギリギリに入ったら一気に距離を詰める
攻撃は全部頭狙いだ、死ななくても弱体化はするだろう
複数いるなら一方はショットガン
一方は噛めないように顎下からナイフで脳を貫く
倒したらすぐ周囲の警戒
転がってる死体含めて全てチェックする
安全が確認できるまで人質は放置だ
いいか、騒ぐな、邪魔すんじゃねえ
俺に無駄弾を使わせるな
●
上階に比べて、地下階層はより直接的な死の匂いが充満していた。慣れてはいるが、それに付き合う必要もない。ゴーグルとガスマスクを装着したモア・ヘリックス(ブチハイエナ・f24371)は、共に侵攻する仲間と一旦別れ、群れ成し襲い来る不死者の頭数を減らすために行動する。
――親玉の下へ着くまでに消耗しきったら元も子もない。ああいう手合いを相手にする時は、この手に限る。
幸い、地下階層は発電設備や熱供給設備や空調設備、その他諸々の配管類で埋め尽くされており、身を隠す場所は豊富にある。もっとも、そういったスペースには食い散らかされた死体が捨てられていたりするのが難点だが。
不死者たちの進行方向に先回りしたモアは、物陰で息を潜めながら彼らが目の前を通り過ぎていくのを待つ。数は七体。一人で一度に相手取るには、多少骨の折れる数だ。
――人質が近くにいないのは良かった。騒がれて失敗したら笑えねえからな。
死体の残骸を被って姿と体臭をカモフラージュしていたモアは、最後尾の不死者が通り過ぎたのを見計らい物陰から通路に踊り出る。
物音に不死者が反応するよりも前に、モアは手にしたショットガンで最後尾の不死者の頭を粉微塵に吹き飛ばしていた。相手が死んだかどうかは確かめず、その隣を歩いていた別の不死者の頚椎目掛けて、モアは反対側の手に携えていたナイフを突き立てた。
――脳を破壊すれば機能停止するとは限らん。が、頭を切り落せば噛まれる心配もねえだろ。
よく研がれた厚刃のナイフは少し力を込めて引くだけで、不死者の頚椎ごと首を断ち切った。
残りの不死者は五体。ようやく振り返り、モアの存在に気がついたところだ。反撃を受けるまでにあと二、三体は始末出来る。彼はそう判断し、躊躇なく歩を進める。
一体の頭を再びショットガンで粉砕し、さらにもう一体の頭部を顎下からナイフで貫いて動きを止める。腕を伸ばして距離を詰めてきた一体をショットガンの銃床で叩きつけて間合いを取り、そのまま頭部をトマトのように叩き潰した。
どうやら、心配せずとも脳を破壊すれば不死者はただの死者になるようだ。
残る不死者もこの状況では敵ではない。モアは全ての不死者を始末すると、ナイフとショットガンに付着した汚れを拭い取った。
念の為、周辺の死体に不死者が紛れていないかモアは確認していく。さっきの自分と同じやり口で後ろから襲われたのでは、たまったものではない。
すると、モアは不死者の代わりに地下に連れてこられた人質を発見した。その青年は恐怖と薬物のせいで前後不覚らしく、モアと不死者の違いも見分けられない様子だった。
「そのまま大人しく震えてろ。少なくとも、俺らが全部片を付けるまではな」
ただ膝を抱えて震える青年に一言だけ声をかけたモアは、次の獲物を仕留めるために闇の中へと戻っていく。
成功
🔵🔵🔴
鹿忍・由紀
上も酷かったけど、ここもまた酷いね
食べ残しの片付けくらいしたら良いのに
UC暁で敵からの攻撃を避けながら効率的に切り捨てていく
人質がいなければまとめて潰しちゃえば楽なのになぁ
わざわざ率先して助けにいくわけじゃないけど
進行方向に人質がいれば敵との間に割り入るように立ち回る
割り入れど人質には見向きもせず、ただただ敵を殲滅する
不死者を片付ければ結果的に助けることになるだろうけど興味はない
逃げたいなら勝手に逃げるでしょ
随分沢山いるんだね、うんざりする
まとまった敵には鋼糸を仕掛けて一網打尽に
動きが読めれば仕掛けるべき場所も簡単に導き出せる
バラバラになった不死者の一部だったものを表情も変えずに踏み潰しながら
●
「食べ残しの片付けくらいしたら良いのに」
辺りに散乱する死者の残骸の上に倒れた不死者を見下ろした鹿忍・由紀(余計者・f05760)は、そんな呟きをその場に残して先へと進む。
一体どれだけの不死者がいるのか、見当もつかない。一々数を数えるのもバカバカしいことに思えて、由紀はとっくに数えるのをやめていた。きっと奥に進めば進むほど、敵の数も増していくのだろうから。
狭い通路の向こうから、新手の不死者の群れが由紀目掛けて突き進んでくる。食事をしようとしていたのか、それとも統率者に献上しにいく途中だったのか、不死者は数名の人間たちを引きずったままこちらに襲いかかってきた。
心中で由紀は溜息をつく。この戦いに於いては人命第一などとは思っていないが、かと言ってわざわざ人間たちを殺させる理由も殺す理由も由紀は持ち合わせていなかった。
――まとめて潰せないのは、面倒だな。
そう声に出さずに独りごちながら、由紀は姿勢を低く保ったまま駆け出した。真っ先に標的として定めたのは、人質の腕を掴んで引きずっている個体だ。
由紀の俊敏な詰めに、不死者は対応することが出来ない。掴みかからんと伸ばされた不死者の腕を、由紀は無造作に振るったダガーで切り落とし、そのまま身体をぶつけて態勢を崩してやる。
素早く返した刃で不死者のこめかみをダガーで貫いた由紀は、後続の不死者と人質との間に身体を滑り込ませる。すぐ背後で人質が裏返った悲鳴をあげているが、それを気にする素振りは彼にはない。
不死者を全て倒せば結果的に助けになるのは、至ってシンプルな話だと由紀は思う。彼らが助かったあとのことまでは知らないが、その気があるなら勝手に逃げてくれることだろう。
だから由紀は、ただ淡々と眼の前の不死者を屠っていく。相手の攻撃パターンに大きな個体差はなく、複雑な駆け引きも動きの読み合いも不要だ。ただ相手が動かした手足を先に切り飛ばし、あとは頭部を刃で貫くだけ。
「呼び寄せることもあるんだろう。ここに来るまでに、一度見たんだ。うんざりするね」
目の前に現れた不死者を難なく始末した由紀は、背後から湧き立つ新手の不死者の気配を感知した。だが、彼は後ろを振り返ることなく、左手の指先に繋いだ鋼糸の端を無造作に引いた。
不死者がこちらの背後に同族を喚び出すのは知っていたから、先んじて鋼糸の罠を仕掛けていたのだ。背後から迫っていた不死者は、何も出来ぬままバラバラに刻まれて床に転がった。
助けられた生者たちの一人が由紀に礼を述べるが、彼はその言葉に振り返ることなく先へと進む。足元に転がる、数多の不死者の残骸を踏み潰しながら。
成功
🔵🔵🔴
コノハ・ライゼ
ああ、やり易くなったネ
生きてないモノだけを、狩ればイイ
生存者の位置を素早く『情報収集』
判断難しければ生気を嗅ぎ分けるヨ
亡骸が起き上がって……ナンてのも注意しとくねぇ
まずは派手にやってコチラヘ気を引きましょうか
「氷泪」から『範囲攻撃』で雷奔らせ敵意見せ『誘惑』するわね
伸ばされる腕は『見切り』躱しつつ「柘榴」で斬り落としてこうか
噛みつかれてもむしろ好機と
傷口から【黒涌】生み攻撃力重視でその口ン中食い荒らしたげる
『2回攻撃』で影狐か柘榴、早い方で『傷口をえぐり』にいくヨ
ねぇアンタ達も喰われたクチかしら
無念を、ナンて言うつもりナイけど
オレの「勝ち」の為に、
死ねないその命をくれないカシラ?(生命力吸収)
●
ここに至っては、理性を喪っていたとしても他者に襲いかかってくるような囚われ人はいないだろう。誰も彼もが疲弊して、恐怖に竦んで動けなくなっている。
やり易い、とコノハ・ライゼ(空々・f03130)は微かに口元に笑みを浮かべる。生きていない存在だけを狩り殺すのは、実にシンプルな行為だ。
「おかえり。ソウ、この辺りには人はいないんだネ。それは好都合」
周辺の様子を探って戻ってきた黒管狐を戻したコノハは、ならば、と黒刃の柄を手で撫でながら通路の横道に入る。
周囲の通路よりやや広い、施設設備に囲まれた十字路に陣取ったコノハは、闇の奥から現れた多数の不死者を迎え撃つ。
コノハの彩淡い玻璃色の瞳に一瞬、鋭い光が瞬いた。それは激しい雷となって、彼の血肉を貪らんと殺到してきた不死者たちの身体を貫いた。
まるでロウソクの火に群がって焼け落ちる羽虫のように、雷光に魅入った不死者たちの数体が無防備のまま絶命していく。
「ねぇアンタ達も喰われたクチかしら」
背後にも、横手にも新手の不死者が現れる。仲間がやられたことなど意に介さず襲いかかってくる不死者たちの腕をかいくぐりながら、コノハは答えを期待するでもなく彼らに尋ねた。
もし不死者の牙に食われることで新たなゾンビに変じてしまうのであれば、いわば周りにいる彼らもまた、本来ならば自分たちが救うべき存在だったと言える。
いや、オブリビオン・ストームが彼らを生み出している以上、やはり彼らもまた生前は自分たちとなんら変わらない人間たちだったことは間違いない。
――無念を、ナンて言うつもりナイけど。
不死者たちの振るう豪腕を紙一重でかわし、コノハは代わりに無機質な刃の閃きを与えていく。冷え切った不死者たちの体内に残った薄暗い血は、それでも"柘榴"に刻まれた血溝を熟れ崩れた果実のような色彩に染めていく。
「オレも自分自身と賭けをしていてネ。勝たないといけナイのさ。だから……」
死ねないその命をくれないカシラ?
最後に残された不死者たちが、数に任せてコノハの身体に牙を突き立てる。全身を噛み千切られる痛みに僅かに眉を寄せるコノハだが、次の瞬間に倒れたのは喰らいついた不死者たちのほうだった。
コノハの血肉は影の狐である。それを含んだ不死者たちは口内から、或いは腹の内側から影狐に食い破られて、皆その場で立ちどころに息絶えた。
不死者たちが宿していた仮初の命を吸い取ったコノハの身体には、傷一つ残っていない。周りに動く者が居なくなったことを確かめた彼は、再び地下最深部を目指していく。
"勝ち"を得るその時まで、後ろを振り返る理由などコノハは持ち合わせていなかった。
成功
🔵🔵🔴
矢来・夕立
【紙技・冬幸守】。
コレの問題は三秒見てなきゃいけないコトです。
《忍び足》で影から目視してますね。
その間のバックアタック対策には壁を使います。丈夫そうな壁に背を預けておく。
けどコウモリだけで全部殺しきれるとは思ってません。
《闇に紛れて》戦場を移動。
壁から離れるんで、ここからは自分の位置を気取らせないのが肝要ですね。
弱ったヤツや危険度の高いヤツを優先して《だまし討ち》で仕留めていきます。
例えば誰かの背後に出てきたゾンビとか、気づかれていないヤツ。
目についたら小さいゾンビも踏み潰しときます。
殺傷力は低そうですけど、なんかキモいんで。
サクサク殺しましょうか。隠れ鬼で忍びが屍鬼に負けるのも癪ですし。
●
ふと後ろを振り返った矢来・夕立(影・f14904)は、床を這っていた胎児のようなものを踏み潰した。ブチ、と張り詰めたゴムが切れた時とそっくりな音が靴の裏から響き、黄土色をした腐った粘液が辺りに飛び散った。
不死者のなかには知恵の働く者もいるらしい。もしくはただの本能か。どうあれ、こうした小型の不死者にこちらの動向を監視され続けるのは気分の良いものではない。何より「なんかキモい」から潰しておくことに越したことはあるまい。
靴裏に付着した腐肉を床の鉄網に擦りつけてこそぎ落とした夕立は足を止める。露見して困る作戦など画策していないが、見られた以上は不死者の群れに狙われるのは確実だった。
「一度も止まらずに先へ進もうっていうのは、流石に都合が良すぎましたか」
柱と配電設備の影に身を隠した夕立は、しばらくして集まってきた不死者たちの姿を確認してつまらなそうに呟く。
視界内の不死者の数はほんの数体だが、胎児型不死者の目を通して夕立の姿を捉えた周囲の不死者が、これから続々と集まってくることだろう。
ならば、敵に包囲される前に確実に仕留めていくだけだ。
即座に戦術を策定した夕立は、暗紅の眼に力を込める。すると彼が擁する式紙たちは数多の蝙蝠の姿へと変じ、音もなく暗闇のなかに飛び立っていった。
――コレの問題は三秒も見ていなきゃいけないってコトですが。鈍い連中が相手で良かった。
不死者たちが夕立の式する蝙蝠の群れに気がついたときには、すでに手遅れだ。静かなる捕食者たちは重鈍な不死者たちの身体を容赦なく切り裂き、磨り潰し、動くことが叶わなくなるまでその身を刻んでいく。
不死者たちの斥候とも言うべきグループに始末を下した夕立は、まだ式紙たちが乱舞する殺し間を突っ切って位置を変えていく。
相手がこちらを狙うというならば、その裏を掻いてやるのが最も効果を発揮するものだ。地下空間のあちこちに走る配管の裏に身を隠して移動した夕立は、通路を往く不死者たちを一体一体に式紙をけしかけ、その呪われた生命を奪っていく。
何が起こったのか、襲われた不死者もわかっていない様子だった。
他の猟兵の動向に気を取られて気をそらした不死者を。
逃げ出そうとしている人質を手に掛けようとした不死者を。
何の警戒もせずただ夕立の姿を求めて通路を往く不死者を。
尽く、夕立は暗殺していった。
――サクサク殺しましょうか。
なにしろ忍びなのだ。隠れ鬼で、屍鬼に負けるわけにはいくまい。
影のなかを歩む夕立が通り過ぎたあとには、ただの死者となった不死者たちの躯だけがあった。
そこに慈悲はなく、悪意もなかった。ただ、忍びとしての務めの結果だけが、闇のなかに残されているだけだった。
成功
🔵🔵🔴
勾坂・薺
うわ、不気味だなあ。ホラー映画でよくいるやつだけど
実際見るとホラーどころじゃなくてグロだよね。
食べられるのはごめんだから、食べられる前にやるしかないかあ。
【Unicorny】、出番出番。
いくつかしゃぼん玉を浮かせておいて
傷ついた味方を癒しながら強化していこっか
わたしもちょっとは戦うかぁ
浮かせたしゃぼん玉に属性をまとわせて【属性攻撃】。
まぁ、ビリビリくらいはするんじゃない?
でもわたしはそんなに超火力で
どうこう出来るわけでもないから
人質側のフォローメインに動こうかなあ
邪魔にならないような位置に誘導してあげないとね
ほら、こっち。
人質が傷ついてたら癒してあげたり
【オーラ防御】も使ってみようかなあ
●
「実際見ると、ホラーどころじゃなくてグロだよね」
地下深部へと進む勾坂・薺(Unbreakable・f00735)は、辺りに広がる陰惨な光景に眉をひそめる。無造作に散乱した亡骸に、生者に牙を剥く不死者の群れ。
ホラー映画などで見るぶんにはゾンビの類は不気味な存在で片付けられるが、いざ自分がホラー映画紛いの世界に踏み入れればそうも言っていられない。
薺の視線の先には、人質を引きずってどこかへ向かっている不死者の群れがあった。彼らがこの先で不死者たちにどんな目に遭わされるのか、言うまでもあるまい。
発電設備が発する騒音と排熱のなか、薺はあえて不死者たちの目の前に姿を晒した。不死者たちは闇のなかから現れた彼女の姿を見るや、新たな獲物を捉えんと一斉に襲いかかってくる。
相手の動きを見極めながら初手をかわした薺は、その唇に煙草の代わりに吹き具を咥えた。
「【Unicorny】、出番出番。やっちゃおうか」
そう呟いて、薺は吹き具から虹色に輝くシャボン玉を生み出していく。とてもこの場にそぐわない行動に思えるが、これこそが彼女の操る術式の媒体なのだ。
シャボン玉などお構いなく距離を詰めてくる不死者たち。だが、その身に触れたシャボン玉が弾けた瞬間、銃声よりもなお鋭い炸裂音が鳴り響いた。
「痛かったらごめんね。でも、わたしも食べられるのはごめんだからさ。わかってよ」
薺の複合現実魔術によって雷を宿したシャボン玉は、ふわふわと頼りなく宙を漂いながら、不死者たちに激しい熱傷と裂傷を負わせていく。
狭い通路に滞空するシャボン玉は、いわば空中機雷である。動きの鈍い不死者たちに、その機雷空間を突破する術はない。
「怖かったでしょ。ほら、こっち」
魔術に為す術もない不死者たちの隙をついて、薺は人質となっていた生者たちの腕を取ってその場を離れる。
助けた人質は三名。そのなかには、まだ十歳にも満たないだろう少年も含まれていた。彼は大人たちとは違い、絶望にも薬物にも冒されておらず、泣きじゃくりながらも理性を保っていた。
「怪我はないみたいだね。この道を戻っていけば上の階に戻れるよ。敵はもういないはずだから、そこで隠れていてね」
「お姉ちゃんも一緒に来て。ここは怖い……怖いよ」
懇願する少年の頭を、薺は安心させるように撫でてやる。
「ごめんね、わたしにはまだやらなくちゃいけないことがあるんだ。悪いヤツがこの奥にいるの。そいつをやっつけないと、みんな安心できないでしょう?」
だから、もう少しだけがんばって。
その言葉に少年は涙を拭ってうなずきを返してきた。薺は微笑みを浮かべると、再び迫り来る不死者たちを滅ぼすために立ち上がる。
成功
🔵🔵🔴
ラピタ・カンパネルラ
「やあ、生きている君達」
「声は出せる?出さなくたっていい。呼吸だけでも、話を。」
声をあげる。この声でゾンビの気を引けるならそれでいい。
かたらおう。
この声がきっと、生きる僕らを護るから
「ね、お酒や薬で、綺麗なものは見えるのかい。僕は、どちらもやった事がないから、少し気になるんだ」
話す。僕の声に耳を傾ける、微かな気配をひた探る。
話す。死なないでほしいなんて贅沢は言えない
それでも餌や虫ではなくて、人間がいる事を、感じさせて。
僕への攻撃は幸運にも角度が悪く、刺さらない。
かたる。周りにゾンビの壁が出来て、どこにも僕の声が届かなくなった頃
ゾンビ達を牙と枷、怪力と部位破壊で潰して。
ああ、やっぱ
少し、臭いや。
●
死と絶望だけが満ちる暗闇のなか、不死者の影に怯え、身を寄せ合いながら闇のなかで震える人々たちがいた。ラピタ・カンパネルラ(ランプ・f19451)は彼らに声を掛けると、その場で足を止める。
返事はない。けれど、視線は感じる。ラピタの鼻孔をくすぐる、嗅いだ経験のない化合物や酒精のにおい。生を諦め、闇のなかで仮初の幸福に溺れながら死を待つ人々の、濁った視線。
「……あっちへ行ってくれ。あいつらに見つかっちまうだろう……」
舌の回っていない調子で、一人の男がラピタを追い払おうとする。だがラピタはその場を立ち去らず、言葉を続けた。
「声を出せるなら、だいじょうぶ。かたらおう。この声がきっと、生きる僕らを護るから」
言い聞かせるでもなく、ただゆっくりとラピタは声を掛け続ける。男は彼女に対してどう接すればいいのかわからない様子だ。戸惑う気配があった。
隠れている人々らは、五名。気配から察するに、年齢も性別もバラバラのようだ。ラピタは側に腰を下ろすと、彼らが嗜んでいたモノを光を映さぬ瞳でじっと見つめる。
「ね、お酒や薬で、綺麗なものは見えるのかい。僕は、どちらもやった事がないから、少し気になるんだ」
「……おまえにくれてやる分はない。クスリが欲しけりゃ、他所へいけ……」
ラピタが口にした疑問に対し、先とは別の男が答えた。その回答はラピタが求めた言葉ではなかったけれど、この地にやって来てようやく出会えた、人らしい言葉のやりとりが嬉しかった。
話す。何気ない言葉が、素朴な交歓が、ラピタと人々に幸いを呼び寄せる。死なないでほしいなんて贅沢な願いを求めたりはしないけど、人が人である限り、きっと"僕らは死なない"はずだから。
「……見えないよ。綺麗なものなんて、こんなものでは見られない。本当に綺麗なものは、とっくの昔に……なくなってしまったから」
郷愁を含んだ声音で、一人の女性が呟いた。世界が崩壊する前の日々を懐かしむその声を、ラピタは静かに胸にしまいこんだ。
ふと、ラピタは別の気配を感じた。語らう声に引かれた不死者が、こちらに向かってきているのだ。
「話をありがとう。だいじょうぶ。君達は生き続けて。僕の言葉に呼吸だけでも、語り返して」
立ち上がったラピタは闇の向こうで息を潜める人々にかたりかける言葉はそのままに、誰も居ない寂しい暗闇の底へと向かう。
襲いかかってきた不死者の腕も、牙も、まるで見えない殻に包まれているかのようにラピタには届かない。そして彼女は、壁を成して己を阻む不死者たちをその身一つで葬り去っていく。
「ああ、やっぱ。少し、臭いや」
身を汚す返り血がラピタを黒く染めて、暗闇に飲み込んでいく。
成功
🔵🔵🔴
アルバ・アルフライラ
やれ盛大な歓迎よなあ
身形に関しては目を瞑ろう
持成しを無下にするなぞ礼儀に欠けるでな
何より存在感によって目立つ事を優先
窮屈な黒布を剥ぎ、光源として宝石を惜し気無く使用
ふふん、焦らずとも遊んでやる
狙うは囚われた者より離れた死者の群れ
威力を調整出来るとは云え人質が流れ弾を喰らわぬよう
予め我が魔力を込めた宝石より【妖精の戯れ】を発動
範囲攻撃で一度に片付けつつ周囲を観察
絶え間なく魔術を行使し、殲滅を図る
至近距離まで迫った敵は仕込み杖で斬り捨て
多少の傷も計算の内と激痛耐性で攻撃を凌ぐ
すまんなあ
貴様等にくれてやる肉はない
幾十、幾百もの不死者が現れようとも我が敵ではない
オブリビオンは等しく塵芥に変えてくれよう
●
もはやコソコソと隠れながら闇を進む必要もあるまい。
被っていた黒布を取っ払ったアルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)は、ひっつめていた髪を首を振るってほぐしていく。地下構内の僅かな灯りに照らされた青の髪が、冬の星空のように冷たく瞬いた。
アルバの視線の先には、通路を遮る不死者たちの群れ。ボロを纏った彼らを見渡しながら、アルバは「やれ盛大な歓迎よなあ」と笑う。
――差し詰め、統率者を守る親衛隊と言ったところか。それにしては身形が悪いが、彼奴らは不死者、目を瞑ってやろうではないか。
一斉に襲いかかってくる不死者の群れと相対したアルバは、その手に乗せた一握の宝石を掲げる。それは武器ではなく、彼の魔力を増幅させる触媒である。
込められた魔力に反応した宝石が明々と輝きを放ち、辺りに眩い光を投げかける。そして光量がある一点を越えた瞬間、それは無数の炎となって周囲を飲み込んだ。
「ふふん、そう我先にと駆けて来るな。焦らずとも遊んでやる」
通路の前後からアルバに迫っていた不死者たちは、炎に巻かれて瞬時に絶命する。死者を火に焚べるのがこの世界の流儀であることは知っていた。不死者を葬るには、これ以上のものはないだろう。
宝石と炎の灯りで照らし出された周囲の状況を、アルバは注意深く観察する。人質が周囲にいないことは確認済みだが、念には念を入れねばなるまい。流れ弾で巻き込んでしまったら、元も子もないのだから。
「恐れも迷いも抱かぬか。その愚直さは、主を守る兵としては実に優れた資質ではあるが……」
焼け崩れた仲間の身体を踏み越えて、なおもアルバに喰らいつかんと襲いかかってくる不死者の群れ。凍結の魔術で彼らの動きを鈍らせながら、アルバは妖精が生み出す炎を射掛けて不死者を一体ずつ始末していく。
数を頼りに圧殺を仕掛けてくる不死者たちの接近を許すこともあるが、アルバにとっては多少の接触が発生するのは織り込み済みである。
「すまんなあ、貴様らにくれてやる肉はない」
炎に焼かれながら腕を振るってきた不死者を、アルバは鞘走らせた仕込み杖の一刀で切り捨てる。指先一本すら触れさせぬ早業で相手を仕留めた彼は、すかさず返す刀で背後から迫っていたもう一体の不死者を屠った。
白月のように美しくも冷えたアルバの笑みが、新たに生み出された炎で赤く彩られた。再び宝石に魔力を込め始めたアルバは、残った不死者たちに告げる。
「どうした、終わりか? 数十では足りぬなら、次は数百引き連れて来るがいい。その尽くを塵芥に変えてくれよう」
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『ゾンビジャイアント』
|
POW : ライトアーム・チェーンソー
【右腕から生えたチェーンソー】が命中した対象を切断する。
SPD : ジャイアントファング
【無数の牙が生えた口による捕食攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ : レフトアーム・キャノン
【左腕の砲口】を向けた対象に、【生体レーザー】でダメージを与える。命中率が高い。
イラスト:タヌギモ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●
地下最深部へ到達した猟兵たちを待ち受けていたのは、見上げるほどの巨躯を誇る巨人の不死者だった。
巨人は食事の最中だった。
生きた者と死んだ者の区別もなく目の前に積まれた人体を摘み上げては、口元から胸元にかけてばっくりと縦に裂けた口に放り込んでいく。
オブリビオンの体内構造がどうなっているのか知る由もないが、巨人は食らったものを己の一部として吸収同化を図るようだ。
よく目をこらして見れば、巨人の表皮を覆う小さな腫瘍のようなものは、吸収された人間の顔や頭部が浮かび上がったものだった。驚くべきことに、その半数はまだ意識を保ったまま生きながらえている。最も、彼らを巨人から切り離して救出することは、もはや不可能だろうが。
猟兵たちの姿に気がついた巨人は、赤く裂けた口腔から赤黒い液体を撒き散らしながら吠えた。
脂肪と筋肉をアンバランスにつけた醜い躰をゆすり、両腕と同化した兵器を振り上げて、巨人は猟兵たちに襲いかかってくる。
理性や知性など皆無だ。
しかし、問題はないだろう。この巨人から引き出すべき情報も、汲み取るべき事情もないのだから。
ただ抹殺すべき存在。それだけだ。
ラピタ・カンパネルラ
(息も惜しんで、「意識」の気配に集中した。)
(生きてる?)
(魔力を通せど暗くて見えない)
(生きてる)
(人質?肉の盾?見えない。生きてる)
(駆ける。身一つ、巨躯を駆け上がった)
手を伸ばす。呼吸がある場所へ。
肉に埋まっている?手を伸ばしてくれ、掴めない
牙や刃が、肉の山を登る僕の身を喰らう
生きているなら、生きていてほしい。質素な願い。
語り掛ける。応答を求める、表皮に触れるーー
それから
手遅れだと、ようやく気付いた。
彼らに触れる。
一人一人違う呼吸の音、人相、それをせめて感じていく
食われた肉を代償に
内側から君達を焼く
随分膨れた代償と火力だ
痛みも無いほど焼いてくよ
(随分と軽くなった血達磨が、落ちていった)
●
巨人の右腕に埋め込まれたチェーンソーが雷鳴のような唸りをあげて、ラピタ・カンパネルラ目掛けて振り下ろされた。
けたたましい駆動音と巨体が揺れ動く気配は、目で確かめるまでもなく敵の挙動をラピタに教えてくれる。灰の髪の一房が無粋の刃で千切り取られたが、無論、易々と斬られる彼女ではない。
――静かにして欲しい。見たいものがあるんだ。静かにしてくれないと、彼らが"見えない"から。
生者でもなく不死者でもなく、生と死が綯い交ぜになった無数の気配をラピタは感じ取っていた。それは暴れまわる巨人と共に揺れ動き、巨人が吠えるたびに苦痛に泣き叫んでいた。
――生きてる。人質でも肉の盾でもない。そうか。呑まれてしまったんだ。
ラピタが感じ取っていたのは、巨人の身体に吸収された者たちの嘆きだった。恐れる素振りも見せず、ラピタは巨人の懐に飛び込み、その醜い体躯を駆け上がる。
手に得物も持たぬラピタは、巨人に一撃を加えるよりも先に、吸収同化された人々へと手を伸ばす。もしこの手を掴んでくれたならば、引き上げて助けることが出来るかもしれない。
けれど。
「ああ」
巨人の表皮に浮き出た人々の頬に触れた瞬間、ラピタは息を呑んだ。
不死者たる巨人にあろうはずのない体温が、たしかにラピタの指先に伝わってくる。けれど、語り掛ける言葉に答えが返ってくるよりも先に、もう手遅れなのだと彼女の魔力の瞳が答えを見通していた。
直後、激しい痛みがラピタの身体を襲った。動きを止めた一瞬の隙を突かれて、巨人の異形の牙に太ももから脇腹にかけての肉、それと左下腕部をごっそりえぐり取られてしまったのだ。
巨人の身体から転げ落ちたラピタは、蛆と腐肉にまみれた床を這いずって、なんとか追撃を回避する。巨人は他の猟兵の攻撃に対処するため、彼女から意識をそらしたようだ。
ラピタは片手で胸元を抑えた。その手に残る、かすかな温もりと感触を守るように。
息遣い、顔貌、触れる事ができたのはごく一部だが、彼、彼女らは確かにそこにいた。生きていた。生きたいという願いを抱いたまま、泣いていた。
けれど、そんなささやかな望みすら叶わないというのならば。
「導くことなんて、出来ないけれど、せめて」
――痛みもなく、悲しみを覚える間もなく送り出そう。
ラピタが心からそう願うと、巨人の身体が内側から燃え上がった。喰われた彼女の血肉はオウガと成り、冷めた炎で巨人ごと囚われ人たちを焼いていく。
それは猟兵としての攻撃ではなく、人としての葬送だ。
もはや動くことも叶わぬラピタが望んだことは、ただそれだけのことだった。
成功
🔵🔵🔴
スキアファール・イリャルギ
私の身体の怪奇とどちらが酷いですかね
私は目と口だけだからマシですか?
マシってなんだ?
噛まれた所が痛む
焼けた箇所が熱い
命を削ったからか息が苦しい
この世界に来てから可笑しい
なんでこんなに、正常とか異常とか正気とか狂気とか考えるんだろう
なんでこんなに、救えないことを悔やむのだろう
なんでこんなに、自傷して
呪瘡包帯で己を、窒息、させ、て、
あぁ、ほんと何やってんでしょうね
狂ってるなぁ
……元からか
任せます、"クイックシルバー"
救えないのならば、
撒き散らせ、燃やせ、蹂躙しろ
塵も残してくれるな、抹殺しろ
せめて、救える人は襲わないように祈ろう
身勝手だけどそれくらいならいいでしょう?
おやすみなさい、良い夢を
●
「まったく、酷いものですね。私の身体の怪奇とどちらがマシかな」
巨人と相対するスキアファール・イリャルギはガスマスクの奥で薄く笑った。見た目や存在の酷さに、マシも何もあるものではないか、と自嘲を含めて。
不死者の群れとの戦いを経て、すでに傷だらけだ。食いちぎられた箇所は数え切れないし、自らが放った炎で負った火傷はより酷い。
――なんでこんなに、自傷してまで戦っているんでしょうね、私は。
戦場に身を置きながらも、スキアファールの胸に去来するのは自問自答だ。
巨人のチェーンソーを避けて、相手の出方を観察する。その最中にも、スキアファールの意識は目を通して見る世界ではなく、己の内側に向けられている。
――なんでこんなに、正常だとか異常だとか、そんな区別をつけたがるんでしょう。おかしいな。この世界に来るまでは、こんなこと……確か、なかったはずなんですが。いや、あったのかな。
それすらも曖昧だ。スキアファールは誰も表情を確かめることの出来ぬマスクと包帯の奥で、眉間を寄せた。
巨人の放ったレーザーキャノンをかろうじてかわす。熱線が身体の一部をかすめたが、重傷ではない。こんなもの、自分が生み出す炎よりもよほどヤワだ。
攻撃をかわし、巨人の死角に潜り込んだスキアファールは、おもむろに己の身体に巻き付けた呪瘡包帯で自らの呼吸器官を締め上げる。途端、頭の奥が痺れるような感覚に襲われた。呼吸がせき止められ、息苦しさに意識が遠のいていく。
――救えないんでしょう、彼らは。救えない命なんて、無数にあるのに。どうして今は、この世界では、こんなにも私は……そのことを悔やむ? 自らを苦しめてまで、それを良しとしない?
わからない。考えてみても、自分を傷つけてみても、答えがみつからない。
違う、答えはある。だが、納得する言葉でそれを言い表せない。
「狂ってるなぁ」
それはきっと、元からなんだろう。スキアファールは暗転する意識のなかで、笑った。
酸欠でスキアファールが意識を失ったのと同時に、彼が召喚した"影人間"が闇の奥底から立ち上がる。それは猛るでもなく吠えるでもなく、スキアファールが望んだまま巨人へと迫る。
救えぬのなら、焼き尽くそう。悪しき者ごと、塵も残さぬように。
蹂躙し、抹殺しろ。
命を代価に業火は火勢を増して、巨人の身を飲み込んでいく。生白い腐った肉体が泡立ち、焦げ付き、炭化していく。その身に囚われた哀れな者たちの命と共に。
もはや救える命がないのなら、誰かを助けたいだなんて祈りごと、燃やしてやる。
「おやすみなさい、良い夢を」
大成功
🔵🔵🔵
勾坂・薺
沢山食べてそうだなぁ
生きたまま地獄を味わっている苦しみは
わかってあげられないけど
たぶん、つらいんだろうねえ
楽に殺してあげる、なんて約束も出来ないけど
今の生き地獄を味わうよりは
ちょっと楽になれるだろうからさ
生まれ変わりがあるなら
次は少し良い世界だと良いね
図体が大きいと
外からの攻撃だけだと厳しそうかなぁ
狙うなら、内側からドン、かな
最初は様子を見ながら、大きな口での攻撃で
隙が出来る時を狙って口の中へしゃぼん玉
砲口も邪魔だから狙い目かな
上手く入ったら【Jenga Code】を起動
適当にごちゃごちゃに書き換えたら、上書き
慰めにならないだろうけど
今まで会った人たちとの違いはさ
たぶん、運の有る無しだけだから
●
吹き具を指の間で弄びながら、勾坂・薺は相対した巨人を見つめる。
いや、巨人なんて本当はどうでもいい。彼女が心を傾ける先は、アレに取り込まれて生きたまま地獄の苦しみを味わわされている者たちだ。
「わかるよ、なんて言わないし言えない。でもね、やっぱりわかるんだよ。つらいんだろうなあ、って」
アンバーと同じ輝きを持つ瞳をまっすぐに巨人に向けながら、薺は脂でヌメる床を蹴って距離を詰めていく。
囚われた者たちに対して、楽に殺してあげるだなんて約束は出来ない。薺ができることは、ただ「少しだけ今より楽になれるはず」という道を用意してやることだけ。
接近する薺の姿に気がついた巨人が、砲撃を放ってくる。光線砲の狙いは重鈍そうな見た目に反して精密で、直撃こそ避けたものの薺は熱傷を負ってしまう。
――痛い。けど、泣くほどじゃあないね。
怪我にも構わず、薺はなおも加速して距離を詰める。振り回された巨人の腕を前転でかわし、その懐へと潜り込む。
意識したわけではないが、しゃぼん玉を生み出す吹き具を唇に咥える薺の所作は、どこか煙草をそうする時の所作と似ていた。
「――生まれ変わりがあるならさ」
大きく張り出した巨人の腹を踏み台に、薺は飛び上がる。彼女の身体を喰らわんと巨人が大きく口を広げた。
薺の太ももほどの太さを誇る牙列が彼女の身体を噛み砕こうとしたその瞬間、薺は両腕両脚を突っ張って喰われるのを防いでみせる。この図体だ。多少無茶をしてでも、体内に直接攻撃を加えねば効果は薄いだろう。彼女はそう判断する。
「次は少し良い世界だと良いね」
そう告げて微かに微笑んだ薺は、しゃぼん玉を吹いた。
とても攻撃には思えない、その一手。けれどそれは他のどんな攻撃にも劣らず無慈悲な、生体を書き換えるハッキング・ツール。
しゃぼん玉を飲み込んだ巨人が暴れ、口元から逃れようとした薺の身体を牙列が切り裂いた。皮膚に七本の裂け目がばっくりと開き、一拍遅れて噴き出した血が薺の身体を赤く染めた。
床に投げ出された薺はすかさず立ち上がり、追撃を防ぐために後ろへ飛ぶ。
大丈夫。骨は見えているけれど、骨は断たれていない。額に浮かぶ脂汗を拭った薺は、巨人と、巨人に呑まれた者たちを見やる。
生体情報を書き換えられた巨人の肉体が、ぐにゃりと歪む。身体のほうぼうが融解し、赤黒く変色していく。キャノンを内包する腕も、痙攣を始めていた。
「慰めにならないだろうけど。今まで会った人たちとの違いはさ……たぶん、運の有る無しだけだから」
誰に語るでもなく、誰に聞かせるでもなく、薺は宙に消えるまま囁きかける。
今は言葉というものに何の意味もないことを、彼女もわかっていたから。
成功
🔵🔵🔴
モア・ヘリックス
ったく、親玉でもコレかよ
大した戦利品は望めねえな
これなら木っ端レイダー相手してた方が実入りが良いまである
まあ、仕方ねえ。せめて憂さくらいは晴らさせて貰うぜ
随分物騒な両手だが、逆に言えば目立った武装はあれくらいってことだ
例の如く接近戦
まずは砲側の懐に滑り込んでチェーンソーの横薙ぎを誘発する
打ち合えばやべえが、腹を抑えちまえば何とかなる
ジャンプで回避、サベージでぶっ叩きつつ一瞬抑え込む
それで、作った隙でありったけグレネードをぶち込んでやるさ
食事の途中で悪かったな
辛気臭くてつまらねえもん散々見せてくれた礼だ
同じもんばっか食ってて飽きた頃だろ?
とっておきのスパイスをくれてやる
奪還者の務めとしては、さっさと要塞内に残っている物資を根こそぎ持って帰るのが正解だ。だが、モア・ヘリックスは結局こんな所まで踏み込んでしまった。
それは猟兵としての義務感か。それとも奪われる者たちへの憐憫か。
いや、とモアは舌打ちをする。
どちらでもない。ただ、奪い還る者として最大限の実入りを求めただけだ。それ以外の何かを期待するほど、この世界で生きる者は青いままではいられない。
「憂さ晴らしはさせて貰う。木っ端レイダー以下のババを掴まされたんだからな」
汚濁に塗れた床を蹴り上げて、モアは巨人の横手から間合いを詰めていく。遠くからチマチマ攻撃を加えても削り取れる相手ではないことを、彼は経験上承知していた。狙うは、至近距離からの致命傷だけ。
――武装は厄介だが、大振りすぎる。懐に飛び込んだら、警戒すべきは牙のみ……所詮は見た目通りか。
巨人の戦闘傾向をわずかな間に判断したモアは、なんの躊躇も見せずに前進していく。接近時に最も危険なのは、遠距離攻撃を担当するキャノン砲だ。モアはその一手を潰すために砲手から接近を試みる。
それは同時に、巨人の攻撃を更に一つへ絞らせるための戦術でもあった。
「だろうよ。砲撃も牙も使えない距離なら、そいつに頼るしかねえよな」
巨人の唯一の手段、振り払われたチェーンソーを回避するために、モアは床を蹴った。触れれば一発で身体を両断される得物が、足元からわずか六センチ下を通り過ぎた。
跳び上がる勢いで身体を捻ったモアは、回転の勢いを両手に握った散弾銃の殴打に乗せる。無茶な使い方だが、銃器と呼ぶには無骨にすぎる銃器の銃床が唸りを上げて、巨人の横腹をしたたかに打ち据えた。
この巨体だ。殴ったくらいでは堪えないだろう。だが、銃器のオーバーホール不可避の一撃を代償に、不死者は激しい衝撃を受けて動きを一瞬だけ止める。
「同じもんばっか食ってて飽きた頃だろ? とっておきのスパイスをくれてやる」
その僅かなチャンスを彼は逃さない。少なくとも今日は使い物にならなくなった散弾銃を躊躇なく放り捨てたモアは、取り出したグレネードを巨人の口の中にありったけ放り込んでやる。
炸裂した爆薬は、巨人の体内をズタボロに切り裂いていく。縦に裂けた口腔からは血が間欠泉のように噴き出し、肉片とも内臓ともつかぬ破片が辺りにぶち撒けられる。
爆発の勢いを利用して巨人から距離を取ったモアは、立ち上がりながら不敵な笑みを浮かべてみせた。
「辛気臭くてつまらねえもん散々見せてくれた礼だ。だが、まだ足りねえ。お前と、この要塞。全てから奪うまで終わらせるつもりはねえぞ」
成功
🔵🔵🔴
アルバ・アルフライラ
醜悪…ああ、醜悪だ
まるでこの世の悪意を全て喰ろうた様ではないか
――反吐が出る
…さて、それはオブリビオンに対してか
それとも…?
出し惜しみはせず
高速の詠唱、渾身の魔力で術式を展開
魔方陣より召喚するは【死への憧憬】
デカブツの砲撃は避けるでなく死霊共で受止め、阻止
たとえ耐え切れずに朽ち果てようとも
幾度でも呼び戻し、蹂躙の限りを尽くす
噛み千切り、切り裂き
もう何も喰えぬ身体にしてくれる
己を正義の味方なぞ嘯く心算はない
私が成し得るのは、ただ殺す事
身に心に走る罅を気に留めず
慟哭も、呪詛も、全てを受止めて
私は、彼の敵を討つ
怪物に語る言葉はない
…然し、何故であろうな
自ずと幼き頃に聞き覚えた子守唄を口遊んでおるのは
●
様々な世界で様々な悪徳と様々な醜悪を見てきた。
だが、目の前の巨人ほど醜い存在がいただろうか。
――まるでこの世の悪意を全て喰ろうた様ではないか。
反吐が出る、とアルバ・アルフライラは相対した巨人に対して吐き捨てる。それは必ずしも、眼前のオブリビオンに対してだけに向けられた感情ではないことを、彼は心の片隅のどこかで認識していたのだけれど。
戦いの趨勢は猟兵側に傾いている実感はあったが、だからといってアルバは楽観視などしない。元より、人助けではなくオブリビオンを倒すために此処へ来たのだ。今更力を惜しむ道理があろうか。
「蹂躙の時だ。存分に励め」
呼吸と同等の無意識のうちに詠唱を唱えたアルバは、描いた魔法陣より死せる竜と首なき騎士を召喚する。
文字通り死屍累々の戦場において、その二体の死霊はあたかも此の地で果てた者たちの怨嗟の代弁者のようだ。死を恐れぬどころか、死に対する憧憬を体現する死霊たちは、巨人に向けて喰らいついていく。
――ふん、簡単には喰われぬということか。だが、抵抗など無意味と心得よ。
巨人のキャノン砲とチェーンソーで死霊たちは霧散する。それもアルバにとっては想定内だ。巨人の喉笛を掻き切ることが出来ぬのなら、掻き切ることが出来るまで幾度でも死霊を召喚するのみ。
魔力の出し惜しみなどしない。目の前の敵を噛み千切り、切り裂き、蹂躙の限りを尽くすのみ。それが叶わないならば、他の何を成すために此の地へやってきたというのか――。
「そら、後はないぞ」
幾度の召喚の果てか、アルバの使役する二体の死霊が巨人を間合いへと捉えた。首なしの騎士の繰り出す剣が巨人の腹を貫き、死竜の牙が巨人の首元を噛み潰す。
抗う巨人の反撃によって騎士は叩き潰されるが、死竜の牙はますます深く巨人の体内へと食い込んでいく。それを役するアルバの頬には、魔力の浪費による罅が浮かび上がっていた。
此処に至るまでの道中、そして此処に足を踏み入れてからずっと、声なき慟哭と声なき呪詛がずっとアルバの耳に聞こえていた。それはおそらく、悪しき環境に身を浸したゆえの幻聴などではない。確かに、彼はそれを受け止めていた。
――私は、彼の敵を討つ。
ゆえに、その信念は揺るがない。
死竜の牙が巨人の喉笛と思しき箇所を噛み砕くと同時に、死竜は巨人に食い殺された。アルバの心身にかかる苦痛は増す一方だが、彼は一顧だにせず新たな死霊を召喚していく。
知らぬ内に、ひび割れた唇から子守唄が紡がれていた。
幼き頃に聞き覚えたその歌は、誰のための歌なのか。
きっと誰のための歌でもない。アルバはそう己に言い聞かせる。
正義を成すために此処へ来たわけじゃないのだ。
だから、この歌は誰かの鎮魂のために捧げるわけではないのだ。
「なあ……そうだろう?」
そう囁きかけて、アルバは幽かな笑みを浮かべる。
成功
🔵🔵🔴
矢来・夕立
心臓部とか、脳を担当してるとこは……
分かんないから全部やっちゃいましょう。
あれだけ図体がデカければ《闇に紛れる》のも易い。況や《忍び足》も。
死体の山にでも隠れておきます。
一つ上の死体ないし人間、隠れ蓑がなくなる瞬間に合わせて《だまし討ち》。
【梔】で口の中を狙う。
風船爆弾の式紙を投げ込みます。
浅くても口をいくつか潰せますし、深く飲み込んでくれれば内臓…内臓?が破裂沢山あるでしょう。
ゾンビがどうかはわかりませんが、口の中って急所のひとつなので。
複数人まとめて掴んで食べる行儀の悪いヤツでもプランは狂いません。
捕まっていても、腕が使えなくても、爆弾を運ぶ手段はあります。
…蝙蝠の式紙、まだまだいますよ。
●
これだけの巨躯を誇る不死者だ。並のオブリビオンならば息絶えていてもおかしくはないほどのダメージを与えているが、まだ倒し切るには至らないらしい。
矢来・夕立は、「やはり脳か心臓を潰さない限りは倒せませんか」と巨人との間合いを計りながら呟いた。
――しかし、あの見た目ではどこが頭とも言い切れない。分からないなら、全部やっちゃうしかないですね。
作戦とは呼べない大雑把な作戦だが、それを可能とする手段を持ち合わせているならば、そんな総当りの攻撃も十分有効な戦術と言えるだろう。そして夕立はそれを短期間の内に実行する攻撃能力を有していた。
巨人の意識が他の猟兵へと流れた隙をついて、夕立は薄闇のなかに積まれた"食餌"の亡骸のなかに身を隠す。腐敗ガスと腐臭のせいで目や鼻孔の粘膜が酷く痛み、涙と鼻水が溢れ出てくるが、夕立はそれには一切構わずに汚濁の上を這っていく。
梔。
奇襲を以ってして威力極まるその式紙が、夕立の狙いである。
それを成すには、巨人が夕立の存在を完全に意識の外に置くことが絶対の条件だ。彼の姿を見た、という認識すら忘却されるほどに気配を殺さねばならない。
そして、その時が来る。
猟兵たちの打撃の傷を癒やさんとしているのか、巨人は積まれた亡骸に手を伸ばして貪り食い始める。その中に、夕立が紛れていることも知らずに。
「活きの良いエサは如何ですか」
肉の溶けかけた亡骸と共に摘み上げられた夕立は、笑みを浮かべぬまま冗談を口走り、巨人の口腔の奥に目掛けて式紙・梔を放つ。それは彼の狙い通りに巨人の体内の奥底へと潜り込み――炸裂した。
轟音と共に、巨人の腹の一部が吹き飛んだ。そのまま口から遡ってきた爆風と共に離脱できたならば良かったのだが、不幸にも夕立を掴んでいた巨人の手が爆発に対する反射で握りしめられる。
「……っ!」
ゴキ、と体内から響く不穏な音を認識してから一拍置いて、激痛が夕立を襲う。
右腕と肋骨、それに内臓をいくつか。口から溢れ出した血の量から、夕立は手痛い怪我を負ってしまったことを察する。
巨人の握力がすぐに緩んだのは不幸中の幸いか。床に落ちた夕立は痛む身体を奮い立たせ、そして目の前の敵を見上げる。
間合いを取ることも、追撃を逃れることもしない。逃げる理由など、なかった。
絶好の機会がまだ続いているのだ。目の前の巨人は見た目通りに愚鈍で、今の爆発が夕立の仕業だと未だに"気がついていない"のだ。
「……まだまだいますよ、ほら」
共に摘まれ、共に落下した腐乱死体と肩寄せながら、夕立は次の一撃を繰り出す。腕が使えない以上は梔を投げ込むことは出来ないから、彼は蝙蝠の式紙にそれを託した。
再びの爆音。身体を濡らしていく腐った血肉。悪くない音色と色彩だ。
そう思う。
成功
🔵🔵🔴
鹿忍・由紀
あんな風な死に方はしたくないなぁ
巨人の動きを観察しながら
腫瘍を見て他人事みたいにぽつり
的がデカいと狙いやすくて助かるよ
敵の攻撃を見切りやすいよう距離を保ちつつ
取り込まれた人の事も御構い無しで影雨を敵の身体全体へ
どうせもう助からないんだし躊躇い一切なしで
人の顔が潰れても表情はいつものまま
敵からの攻撃を避けつつ
影雨のダメージがより大きい部位や庇おうとする部位を確認
急所であろう位置に今度は集中的に叩き込む
ぐちゃぐちゃに削り取ってやる
こんな場所でも楽園って言われてんだっけ?
壊しちゃったら恨まれちゃうかな
まあ、どうでも良いんだけど
残された人達の未来はその人達だけのもの
他人の責任を負うなんて微塵も思わない
●
相対する巨人に対して、鹿忍・由紀は特別な感想を抱かない。ただ、的がデカいと狙いやすくて助かる……そんな単純な評価を下すだけだ。
それは巨人がその身に包み込んだ数多の人々を目にしても同じである。由紀の感情は凪いだまま、あんな風な死に方はしたくない、という思いだけが彼の頭によぎるのみ。
もしかしたら、そんな由紀の心中を知った者は彼のことを冷淡と呼ぶかもしれない。だが、世界を見つめる彼の視線には悪意も嘲笑も厭世も含まれない。ただ、目の前の事態を的確に処理するためだけに彼は動いている。大げさな主張も感情の吐露も、価値在る行動の前には無意味だ。由紀はそのことを体現してみせる。
なかば崩れかけた巨人だが未だ絶命には至らず、自暴自棄とも呼べる暴力の嵐の脅威はむしろ増す一方だ。
床と言わず死体の山と言わず切り裂いて振り回されるチェーンソーを、由紀はしっかりと間合いを見切って堅実に回避した。巨人の大ぶりの攻撃が過ぎ去った後は、大きな隙が生まれる。由紀はすかさず片腕を大きく掲げ、大気中に己が魔力を拡散させていく。
「貫け」
死が充ちる戦場に、影が満ちる。篠突く雨が如く降り注ぐ光なき刃の群が、巨人の体躯を、その身と同化した人々の命の残滓ごと削り取っていく。
救済だとは思わない。殺人だとも思わない。助からぬ命ならば、終わらせることに躊躇する理由などどこにもないだろう。
崩れかけた腕砲を振り回し、狙いも定めずに光線を乱射する巨人。目視してから避けるには困難な攻撃ゆえに、由紀とて無傷ではいられない。だが、身を焼かれる痛みに気を払うよりも前に、彼の思考は次にすべき行動に注がれていた。
痛みを感じぬ不死者の巨人は吠えこそせぬが、その身を腕で庇おうとする素振りは見せた。体の中心。火炎や爆撃で崩れかけた肉体の中枢に、どうやら弱点があるようだ。
そう判断した由紀は、光線で焼け爛れた腕を再び掲げる。
――壊しちゃったら恨まれちゃうかな。
ふと、そんな考えが頭をよぎる。こんな場所でも、生の希望を諦めた者にとっては楽園のような場所なのだという。それを奪うことは、もしかしたら"悪"なのかもしれない。
だが、そうだとしても。恨まれたとしても。残された者たちの未来は、残された者たち自身のものだ。その未来にまで責任を負う気は由紀にはないし、もしそこまで責任を負おうとするならば、それはただの傲慢に過ぎない。こんな環境でも、こんな世界でも、人は人として確かに生きているのだから。
由紀は腕を振り下ろす。
血の雫と共に、影の刃の嵐が巻き起こった。
目の前の障害を排除する、ただその一念だけが此の場における唯一の正義だ。
成功
🔵🔵🔴
コノハ・ライゼ
喰うならちゃんと味わえっての
そんな消化不良おこしちゃって、勿体ナイ
……雑に扱うならオレに頂戴
チェーンソーの間合い『見切り』僅か傷負う程度に避け
『カウンター』狙い流血で『マヒ攻撃』混ぜた【紅牙】発動
敵のに似せた鉤刃の一対で食われたと思しきモノを引き千切るよう喰らいつき
『2回攻撃』で『傷口をえぐる』ようまた喰らいつき『生命力吸収』
食いモン粗末にすんのは腹立つケド
切り離したら餌(オブリビオン)だかどうだか
ナンでやっぱてめぇで満足させてヨ
賭け金の前払いってヤツ
反撃は距離取らず身を捩り致命傷だけ避け
『オーラ防御』と『激痛耐性』で凌ぎ食事続行
ついでに生きる誰かの未来の選択肢が増えるなら儲けモン、ってネ
●
ボロクズのように成り果てた巨人は、辺りに散らばった亡骸を貪り食う。
最期の晩餐か。それとも、食らうことで得られる力があるとでも言うのか。
「喰うならちゃんと味わえっての」
どうあれ、コノハ・ライゼにとってその食事姿は嫌悪感以外の感情を起こさせない。雑に食らうくらいならば、こちらに寄越せ。腐肉を喰う趣味はないが、消化不良気味に貪り食らわれるくらいならば、よほどマシというものだ。
コノハが用いる力を最大限に活かすには、その血を己が得物に捧げねばならない。かと言って、自傷するのも致命的な一撃をわざと受けるのもバカバカしい
コノハは持ち前の眼力を以って巨人との間合いを見計らっていく。すでに、ここに至るまでの死闘で相手の攻め方は見極めていた。ゆえに、手負いの巨人が繰り出す一撃をかろうじてかわすことは、彼にとって造作もなかった。
「……痛いじゃナイ。恨ませてもらうヨ、存分にネ」
巨人の懐に踏み込んだ直後、繰り出された牙の一撃を計算した上で、コノハは僅かに受ける形でかわす。表皮を破られ血が溢れるが、骨肉に至るほどの怪我ではない。
流れ出た血はすかさず彼の飢えた佩刀が呑み下し、柘榴はその名の通り赤々と血色に染まった。
瞬く間にその本性を露わにし、紅の牙と化したコノハの刃が猛る。変異した鈎刃は残酷なまでに効率的に肉を切り裂く形状を成し、それは生物としての痛覚を有している者が相手ならば、死を願うほどの苦痛を齎したことだろう。
抵抗を試みる巨人の片腕をかいくぐったコノハの紅牙が、巨人の腹に空いた穴を穿つ。その腐った血肉の奥に隠された中枢を暴くように、鈎刃は巨人を解体していく。
――てめぇで満足させてヨ。賭け金の前払いってヤツ。
この期に及んで、もはや食事もなにもあるものでもないだろう。どうせ、切り崩せば餌だかどうだかもわからぬ相手だ。コノハの渇きを満たしてくれる興味は、すでに目の前の巨人から別の事柄に移っていた。
これから先、生きていくであろう者たちの未来。その選択肢。
例えば少し前に地下道で出会った狂乱した男だって、もしかしたら、正気を取り戻せばこの世界に希望を齎す一廉の人物になってくれるかもしれない。
――イヤ。それは考えすぎか。それでもネ、いーのヨ。それが賭けの醍醐味って奴デショ?
その身を腐った血肉で穢しながら、コノハは強引に巨人の腹を捌いた。
すでに仲間たちの猛攻によってグチャグチャに崩れた体内のなか、コノハは骨格に守られた心臓らしき器官を暴き立てる。
「不味そうだ、本当に」
思わず浮かんだ冷笑をそのまま残し、コノハは躊躇なく紅牙を巨人の心臓に突き立て、掻き回す。
暴れ狂う巨人の牙がその身を裂くが、それに構わずコノハはますます牙を心臓の奥深くへと突き立てた。
今更痛みや怪我を恐れて何になる?
いま、最高に不味い食事を、最高に愉しませて貰っている最中なのだ。
最期まで味わい尽くすのが、妖孤の嗜みという奴だろう。
●
猟兵たちの尽力により、要塞内に巣食っていた全ての不死者は滅ぼされ、統率者たる巨人の不死者も滅ぼされた。
その吉報はすぐに近隣の拠点にもたらされ、囚われていた者たちを救出するチームが続々と要塞へやってきた。
残念ながら、絶望に心を殺され、薬物やアルコールで心身をすり減らしてしまった者たちは、解放されたからと言ってすぐに立ち直れるわけではなかった。
彼らが再び人間としての生きる力を取り戻すには、長い治療と周囲からの継続的なサポートが必要となるだろう。
しかし、こんな絶望に支配された世界でも、命ある限りは希望が潰えるわけではない。その事実を、この事件の顛末は人々に知ら示した。
猟兵たちが去ったあと、要塞に残されていた死者たちは一人残らず丁重に弔われ、彼の地は再び人々を守るための拠点として復興したそうだ。
新たな脅威が、新たなオブリビオン・ストームが、いつ彼の地を襲うとも限らない。しかし、その時が来たとしても、人々は決して忘れることはないだろう。
八人の奪還者が成し遂げた希望の戦いの結末を。
それは、どんな愉悦よりもどんな物資よりも尊い、真の希望なのだから。
大成功
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