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挽歌

#UDCアース #【Q】 #完全なる邪神

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#UDCアース
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#【Q】
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#完全なる邪神


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●理由は多々あれど
「感謝、陳謝。ジズは、召集に応じてくれた皆さんに感謝です。さて、まずは質問です。完全復活した邪神については既知です?」
 語りかけるは独特の口調で、グリモアベースに集った猟兵達に、ジズルズィーク・ジグルリズリィ(虚無恬淡・f10389)が、アンニュイながらどことなく神妙な面持ちで口を開いた。
 すでに猟兵たちは不完全に復活したUDC、邪神を滅ぼしてきた。しかし、そのほとんどは儀式を中途で阻止した結果、完全な状態のものではなかった。
「当然、必然。完全復活した邪神もいずこかに存在しているのではないか、というのは自然の疑問ですね。その答えは、この空間には存在していなかった、というのが正しかったのです」
 星辰揃いしときに始まるという「大いなる戦い」。
 その来るべき時のために邪神よりも遥かにおぞましき「何か」が、完全な状態の邪神を己が領域内で管理しているのだという。
「ずばり、今回皆さんにはUDCアースに赴き『完全なる邪神』を討伐してもらいたいのです」
 猟兵たちの儀式魔術【Q】により、その完全なる邪神が鎮座する「超次元の渦」へのテレポートが可能になった。かれらを「大いなる戦い」の前にひとつでも多く討伐し、戦力を削る。つまり、前哨戦といえる。
「完全なる邪神は、三つの形態に変身する強敵です。こちらの『鍵』で向かった先にて、即座にそれと戦闘に突入すると予測されるのです」
 そう言ってジズルズィークは開かないロケットペンダントを取り出した。これが「鍵」となるらしい。

 転移先である件の超次元の渦は、薄暗いトンネルのど真ん中のような開けた空間で、自身や他人のライフレビューの体験に近い省察に没入を余儀なくされる。記憶の捏造やあり得たかもしれない可能性、それらと向き合うということを口頭で端的に説明するのは難しい。
 ともあれ、討伐対象以外に気配は感じられないので周囲への被害は気にせず戦うことができるはずだ。
 説明によると、今回討伐すべき邪神は一柱のみ、だが、この完全なる邪神は三つの形態に変化する。
「第一、推知。邪神の第一形態は、分裂する特性を持つのです。すなわち完全なる邪神が、最初は無数に存在しているということを意味します」
 集団敵のように「大量に出現する」邪神。個体それぞれは多少能力が減衰しているが、まとめて相手取れるほど容易い敵ではない。
 幸い、敵対存在には肉体的ではなく心理的なダメージを与えてくる形態なので、工夫して一度に複数倒すことができればその後を有利に運ぶことも可能だ。
「第二、大事。邪神の第二形態は、融合する特性を持つのです。第一形態にダメージを与えることで、一つの強力な邪神に合体します」
 繰り返しになるが、第一形態でより多くの邪神を倒しておくことでこの形態が弱体化する。
「第三、清算。邪神の第三形態は、先制攻撃する特性を持つのです。この形態に変異した邪神は、ユーベルコードによる先制攻撃を必ず行うのです」
 対策を用意しなければまともにダメージを受け、こちらの行動もままならない。相手の攻撃を防ぎ、いかに反撃するかが肝要だ。この形態を突破すれば邪神を滅ぼすことができるので、ここで出し惜しみはせず全力で望むべきだろう。

「清聴、重畳。ジズの、説明は以上です」
 ぺこりとジズルズィークは頭を下げる。
「ジズは、あなたたちにいってらっしゃいと、おかえりなさいを言うことが幸せなのですよ。いってらっしゃい、どうかお気をつけて」


地属性
 こちらまでお目通しくださりありがとうございます。
 改めましてMSの地属性と申します。
 以下はこの依頼のざっくりとした補足をして参ります。
 今回は戦闘三本立てのボスラッシュ、捏造された過去や特殊なシチュエーションを交えながら戦闘描写をお楽しみいただけます。

 この依頼はシリアス系なので、ギャグやお色気なプレイングは十全に拾えない可能性があります。ご了承くださいませ。サポート参加については基本的に採用します。
 仕様上第三章を除き、あえて不利になる行為等でも狙い通りにことが運べば、🔵は得られますしストーリーもつつがなく進行します。思いついた方はプレイングにどうぞ。逆に第三章は「ユーベルコードの先制攻撃」への対策がなかった場合🔴を得る結果になります。

 続いて、判定について補足をば。
 このシナリオは難易度は『普通』相応ですが、普段より判定をシビアに参ります。

 では皆様の滾るプレイングをお待ちしています。
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第1章 ボス戦 『忘却恐れし偶像少女』

POW   :    どうかまたわたしを、愛してくれますか?
【再び愛されたいと願う抱擁】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    違うわたし、本物になれないわたし『たち』
【在り得たかもしれない別の自分たち】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
WIZ   :    あなたの望む、わたしのカタチ
対象のユーベルコードを防御すると、それを【胸部に刻まれた傷口へと取り込み】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。

イラスト:Shionty

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ユエイン・リュンコイスです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 暗闇。
 茫洋としてつかみどころのないその空間から、聞こえるはずのない足音が猟兵たちに近づいてくる。

「助けて」
「よかった。助けが来たんだ」
「わたしたちを助けに来た。そうなんでしょ。待ってたの」
「来ないと思ってた。もう全部手遅れなんじゃないかって」
「何も見えないの。胸に穴が空いてるの。やだ、やだよ。わたしの手を取って」
「助けて!」

 忘れられたくない。

 あなたたちは、助けられたはずだ。
 わたしたちを、助けられたはずだ。

 わたしたちは、視界に入るか入らないかの「モブ」なんかじゃない。
 だから。
飾宮・右近
生きていた頃から人形の様に愛されていたお嬢様方だったのでございましょうか。
人形の様に愛でられ良い様に扱われていたのでございましょうか。

己のある生者が人形の様に、と言うのは皮肉では御座いますが、偶像であるならば人形遣いのわたくしめとしては丁重に扱うべきでございましょう。

【POW】
彼女達が安心できるように抱擁を受け止める。
黒子たる私めは人形を愛でる存在で御座います。
お嬢様方が望む様に演じて魅せましょう。

黒子人形は意思無き人形。
黒子を囮にUCを無駄打ち狙い。

無機物である黒子人形を変形
その形状はジャンクめいたブリキのロボット

『とはいえ、我の従者に抱くのであれば、相応の対価は必要ではあろうがな。』



 かいなを眼前にて広げてやれば、我先にと、傍らの己を除ける勢いで押し寄せた。
 口々に懇願するような言葉も、光景と同様に要領をえない茫洋とした有様で。

 その様子を見て、内心にて自問する。
 生きていた頃から人形の様に愛されていたお嬢様方だったのでございましょうか、と。
 人形の様に愛でられ良い様に扱われていたのでございましょうか、と。
 口々に乞われる、壊れたような言葉から察するに、その姿は分体でありながら全てが本体。そしておそらく生贄として捧げられ、そのまま邪神そのものとなり果てたのだろう。

 しかし、ならば。
 忘れられたくない、とは?

 己のある生者が人形の様に。
 そのシニカルさ加減には漏らさないはずのため息を催してしまうが、それらが偶像であるならばとるべきことはひとつだ。
 その抱擁を受け、丁重に扱う。それに尽きる。
 求められるがまま手を取り、求められるがまま救いの言葉を述べ、求められるがまま愛を受け止めた。なんて重く、それでいてなんて空っぽなのだろう。まるで虚な目は人形遣いではなく、己自身しか映し出していないかのようだ。

 口々に言う。
 あなたが助けなかったわたしは、こうしてわたし『たち』を生み出したんだ。
 大仰に、胸を掻きむしり黒き瘴気と呪詛の言葉を存分に吐き出して、人形遣いに触れていない偶像少女たちは糾弾する。
 あなたが救うことを忘れなければ、わたし『たち』は忘れられずに済む。
 その言葉が人形遣いに反響して、空間に満ちる。耳を傾き続ければ正気を失いかねない、一方的な暴論。
 聞くに耐えない。取り合う必要もない。

「とはいえ、我の従者に抱くのであれば、相応の対価は必要ではあろうがな」

 我こそは主たる人形なり、と飾宮・右近(主の人形・f23981)は命じた。
 離しはしないと「忠実なるしもべ」は不動のまま自らをブリキでかたどり、ゼンマイとモーターを唸らせ、強く抱きすくめた。
 邪神の肉が張り裂け、骨が砕ける音。対価としては十二分に過ぎる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

角守・隆豊
邪神というのは良く知らんが、「神」の名を冠するくらいだからさぞ強いのだろう。強者と戦えるのは歓迎だが、流石にそんな奴らとまとめて戦うのは無理があるからな。各個撃破をしておこうというのは良い考えだ。

ふむ。こいつ自体がその邪神とやらなのか、その犠牲者なのか分からんが……オブリビオンであるというのなら倒さねばなるまい。助けを求めている相手を斬るのは気が引けるが、覚悟を決めるとしよう。
だが、その願いの一つは聞き届けよう。名も知らぬ少女だが、君の事は心に留め覚えておくぞ。

抜刀術の要領で逆袈裟斬りの【空間両断】を仕掛ける。
一撃で済めばそれで良し。仕留めきれないようなら水平斬りで首を狙おう。

※アドリブ歓迎



 邪神。
 すなわち「神」。
 それは一口で説明するにはあまりに難しく、理解するには強大な存在だ。
 だからこそ、それらを各個撃破し戦力を戦力を削いでいく方策に角守・隆豊(闘争こそ存在意義・f24117)もまた同意していた。よりよき闘争のため、その前段、かれらをどのように攻略していくか模索する、戦いはすでにそこから始まっているといっても過言ではない。
 しかし、この邪神があえてこのような姿に身をやつしているのは、理解の範疇を超えていたと言わざるを得ない。

「ふむ」

 ただひとつ確かなことは、眼前の存在たちがオブリビオンだということだ。件の邪神なのか、それともその被害者たちなのか判然としないが、溢れ出す禍々しいオーラは敵意と悪意に満ちている。まとめて一手に担うというのは無理がある。
 左下から右上へ。
 柔らかい右脇腹から斬り上げて、左肩まで裂く。
 非物質にも干渉する妙技《空間両断》。
「助け……あ ぎ、っ?!」
 その斬撃が。
「な、に……やだ、やだあっ」
 ちょうど胸のあたりで抵抗感を受け、止まったのは、その胸の傷辺りの瘴気が濃いからか、あるいは隆豊の意志がそうさせたか。またわたしを愛してくれますか? その問いの答えがこれなんて、と訴えかける瞳に。

「名も知らぬ少女よ」

 覚悟を、決めなければならない。
 斬る覚悟を。
 切り捨てる覚悟を。
 眼前の薄っぺらい偶像少女に惑わされない、剣のように鋭い意志。それを胸に抱き続けることもまた、闘争だと言えるだろう。

「君の事は心に留め覚えておくぞ」

 左肩から抜けた刀身が、翻って頸動脈にあてがわれる。
 一閃。支えを失ったようにぐらりと倒れていく。
 空間にするはずのないぼとっという酷く鈍い音がし、噛み殺した悲鳴がかき消される。

 その声音にわずかばかりの感謝が込められていたことに気付いた羅刹は舌打ちをする。
 逃げることはできない。ままならないことも、生きてその記憶に残すことも、戦いだ。
 手には妖刀があり、眼前にはまだ敵がおり、自分はしっかりと地に足をつけている。にわかに気分が高揚する。この戦いはまだまだ序の口だ。

 心の底より猛る。強者と戦えるのは歓迎だ、と。

成功 🔵​🔵​🔴​

四辻・未来
邪神が復活しないよう押し留めるのが仕事なのにまさかもう復活しているなんてね
まあ秘密裏に処理すれば復活してないのと同じことさ。やるぞー

さて、助けられたはずだ、なんて「もしも」を語られても困るんだよね。
どんな可能性を呼んでもそれは過去のもの。キミたちは助からなかった。それが結果さ。

僕はオルタナティブ・ダブルで妖刀を従えた未来の僕を呼ぶよ

仕込み杖を貸すからキミは動けないよう足を斬ってくれ
そこで僕がマスターキー……ショットガンでトドメを刺す。
とっておきの呪殺弾だ。確実に頭を吹っ飛ばすよ。

あ、囲まれてたらキミごと手投げ弾に巻き込むから気をつけてね

彼女たちは……まあ運がなかったんだよ。そういうものさ。



 多少なりとも自負はあった。
 全てのとはいわないでも多くの邪神復活を押し留め、阻止してきたという認識だった。それに猟兵の味方も数多くいる。
「まさかもう復活しているなんてね」
 まさか。
 今となっては、だが。この予想外の事態に対し秘密裏に処理をしようと、切り替えて行動に移さんとしているのが四辻・未来(FRINGE・f05564)だった。見方によってはドライに思えるかもしれない。やるぞー、と聞こえないように呟いた、その気合いに耳を傾けなければ。
 幸いにも、復活を遂げた邪神のスタンスは、「可能性」を前面に押し出したもの。すなわち、今まで予知すらされず予兆すらなかった名もなき偶像たちをあり得たかもしれない姿として自ら変じ、この空間にとどまっているに過ぎない。
「さて」
「猟兵さん……! よかった、わたしたちを」
「助けられたはずだ、なんて『もしも』を僕に語られても困るんだよね」
 え……? と、真意を聞こうとその後の言葉を紡ぐ前に、その姿勢がぐらりと揺らぐ。《オルタナティブ・ダブル》で呼び出された「未来の」未来が、その足を妖刀で斬りつけたためだ。たまらず声にならない叫びをあげて空間を転げ回る偶像少女。
 動く対象に慎重に照準を合わせショットガンのトリガーを引く。至近距離からの呪殺弾だ。ビクンッ! と一度胴体が大きく揺動し、沈黙した。
「ああ……わたしが……」
「違う、わたし。違う」
「もっと声が大きければ」
「もっと涙を流せば」「もっと肌を見せれば」
「もっと情に訴えていれば」「もっと親密であれば」「もっと理不尽であれば」
「もっと機会があれば」「もっと時間があれば」「もっと余裕があれば」
「そうでなければ、本物になれないから!」
 何かを言紡ぐ頭を残した偶像少女「たち」が、可能性という数の暴力に訴えかけ、満足いく答えを得るまでひたすら猟兵を苛み続ける。終わらない、涙ぐましい行いが、たとえ空っぽだと頭の中で断じていても心あるものの胸を突き刺す。

 ああ……本当に。
 信じられないほどの気味悪さ。後味の悪さ。悪辣な振る舞い。
 これが、邪神か。
「……まあ運がなかったんだよ。そういうものさ」
 メッセージの相手の「キミ」とは誰だったのか。放られた手榴弾の爆風に吹き飛ばされた今では、未来にも、誰にも、もうわからない。

成功 🔵​🔵​🔴​

水鏡・怜悧
詠唱改変省略可
人格:アノン
「助けろって言われてもなァ……ロキはテメェらを助けろって言わねェし」
UDCを纏って黒狼の姿になる。
「なら喰ってイイってことだからな」
敵の集団から一人に狙いを定め、両手両足に風を纏って高速で突撃し噛みつく。噛みついたら全力でUCを発動。風属性の触手で竜巻を起こす。巻き込まれてバラバラになれば良し、ならなくてもダメージ(部位破壊)にはなってるだろ。敵UCが来たら風属性を駆使して、野生の勘で竜巻に乗り多少のダメージは空中浮遊で受け流しつつ激痛耐性で耐える。広範囲無差別攻撃だからな、複数個所で発動すればお互い巻き込まれて勝手に自滅するし、生きてるヤツが居れば更に連鎖するだろ。


ナインチェ・アンサング
【アドリブ歓迎】

少女の姿をした、既に終わったモノ
悲しみましょう。哀れみましょう。ですが――

「助けられた、等と思う程に傲慢ではありません」

そこに同情はありますが共感は、無いです
まして怨恨のままにヒトに仇為す邪神であるならば

手にした剣を抜き相対。月光の聖剣フェガロフォト
抱擁が来る寸前、物理的な事象に干渉されぬ刃で赤く暗い胸の傷口を斬り祓います
狙うは、その存在の寄る辺となる感情
即ち、『恐怖』を断ち斬ります

「自己満足でしか、ないですが」

終われば、由。終わらねば慈悲無く黒槍にて首を跳ねます
これは助けでも救いではありません
でも、二度死ぬ時にまで恐怖に震える事は無い、それだけ…です



 黒き獣が戦場に降り立つ。
 その猛る強靭な姿をひと目見て、偶像少女は行動を起こす。きっとそれはただちに眼前の存在を害するようなアクションではない。例えば両手を合わせ祈るような、例えば思わず手を伸ばすような、例えばはらはらと涙を流すような、例えば歓喜のため息を漏らすような。
 水鏡・怜悧(ヒトを目指す者・f21278)は、果たして、たまたま手近なところにいた少女に突進し、その頸を狂風纏う触手で掻き斬った。
「ひっ……」
 倒れる胴体を見て悲鳴をあげる「その他」の視線が、黒狼のそれと交錯する。
 ただ冷たく、ただ闇のように暗い。なぜ。どうして?
「あァ? だって助けろって言わねェし」
「なにを……あギっ」
 喰ってイイ、喰ってイイ、あいつも、こいつも、目の前のコレも!
 この手の判断はロキに任せている。ロキは、すなわち己である、内なる人格はこれを助けろとは言わなかった。それが全て。得体の知れないモノにまで手を差し伸べることなどできはしない。もし、そんなことができるとすれば、それは神の一柱をおいて他にはない。
「逃げ……ッ?!」
「助けられた、等と思う程に傲慢ではありません」
 少女の姿をした、既に終わったモノ。
 悲しみましょう。哀れみましょう。
 ですが――と。
 ナインチェ・アンサング(瀉と献のカリス・f24188)は偶像少女目掛けて聖剣を振り下ろす。血塗られし聖餐杯は、夜空に浮かぶ月のように突如茫漠たる暗闇の空間にあって抜群の存在感を放った。
「あなたの行動原理、それは恐怖……ですね?」
 不思議と、直感的に理解できた。完全なる邪神のこの形態はまさしく、何かを恐れているのだと。彼女たちは口々に忘れられたくないという。ではその恐れとは忘却のことか。
 しかしなぜ忘れられることを恐れているのだろう。
「チッおいボサッとするなよ!」
 ハッと我にかえったナインチェが飛び退ったところを、怜悧から触手を吸収した偶像少女がその制御を失って攻め立てる間際だった。眼前の少女と目が合う。胸の傷痕から触手を吹き出し、目は涙で赤く充血し、髪を振り乱し。
 それでも彼女は、「彼女たち」は笑っていた。
 笑顔のまま肉薄するソレに、ナインチェは刹那身を捩って躱す。
 もし、彼女たちがこの表情のまま骸の海に還ったとしたら、それは幸せなことだろう。むしろ過去でしかないはずの彼女たちにしてあげられる、たった唯一のことかもしれない。
「自己満足でしか、ないですが」
 これは助けでも、まして救いでもない。恐怖をその感情ごと刈り取り、その表情の由来を幾分か穏やかなものに変える。これは聖杯に宿るものとして、できることをしただけだ。助けられる、助けられた、そんな話をするつもりはない。
 怜悧は竜巻を足場に浮遊し、腕を、脚を、首を、胸をカマイタチと巻く烈風で刻む。食べ残すことはしないだろう。たとえどれほどの悪意であろうとも。この先、より困難な状況が猟兵たちを待っていようとも。
「グルゥ…ガアアァァ!!」
 咆哮は導く。偶像少女との別離、そしてさらなる困難の標へと。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第2章 ボス戦 『大善神ルチフェル』

POW   :    そんなユーベルコードで大丈夫か?
対象への質問と共に、【そこらへん或いは道端 】から【水着美少女や指名手配中の猟奇殺人鬼】を召喚する。満足な答えを得るまで、水着美少女や指名手配中の猟奇殺人鬼は対象を【通常だと攻撃すら出来ない理不尽な超展開】で攻撃する。
SPD   :    いらっしゃいませ!(怖い男の或いは可愛い娘の声)
戦場全体に、【普通にUCを使うとまずい理不尽な超展開 】で出来た迷路を作り出す。迷路はかなりの硬度を持ち、出口はひとつしかない。
WIZ   :    世界は今日も平和だった・・・・
【全身から理不尽なまでに躱せない弾幕光線 】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。

イラスト:あなQ

👑11
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種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠白石・明日香です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 再びの暗闇。
 数多の、可能性を自称するものたちは、消え去った。

 その闇を裂くようにして降臨したのは、海洋生物を綯交ぜにしたような緑の眼光鋭い怪物。
 自らを、「大善神」と名乗るその異形は。

 ――道を踏み外した、救う価値なき人間たちを盾として召喚する。

 例えば、それは楽して富を求め、色欲を満たそうとした少女たち。
 例えば、更生不能な極悪人。
 例えば、我慢弱くそのせいで他人の自由を脅かすもの。
 一般的には魔が差した、と形容するだけでよい者たち。

 そんな、ちょっと救いようはないけど、普通にUCを使うのも躊躇うような弱い人たちが闊歩する。
 世界は今日も平和だった。弱体化した「大善神」はこの世を謳歌したい。この世を破壊したくなるほどに。
 ならば破壊の時はすぐそばだ。第一、そんな悪人たち、いくら攻撃に巻き込んでも大丈夫か? 大丈夫だ。問題ない。だろう?
水鏡・怜悧
詠唱改変省略可
人格:アノン
「硬そうだな……喰えるかな」
引き続き黒狼の姿のまま噛みつきを試みるが人間が出てきたら一旦距離を取る。
「なんか人間がいっぱい出てきたな。どーすんだ?」
(第三形態まであることを考えると救うことは困難だと思いますが……なるべく巻き込まないように立ち回ってください)
「ちッ……しゃーねーか」
ロキの言葉に舌打ちする。UCの光線は光属性の触手で光の壁を作り、上へ反射させる。風属性の触手を足に纏って、圧縮空気の足場を作って人間たちの頭上を駆け、大善神に重力属性の触手を巻き付けて過重力で動きを止める。
「熱で焼き切れば喰えるか?」
火属性の触手を刃物のように変形させ、部位破壊を試みる。



 多くの場合、邪神を召喚する儀式は失敗する。猟兵たちが事前に察知して妨害したり、偶発的な召喚で術式が不完全だったり、ケースはその時々や場合による。例えば村一つ、町一つを生け贄に捧げた場合、神隠しに遭わせた場合、豊富な人的資材を投入することができれば、成功率は飛躍的に上昇する。ただし、それが認知され未然に阻止される可能性も比例して上がることになる。
 つまるところ、この形態が意味することは。
「あん? ぞろぞろぞろぞろと、なんか人間がいっぱい出てきたな」
 ならず者のような風体の男、はだけた衣装を着た女、どこか気品あふれるものの惚けた老人。
 社会的に、消えてしまったとしても捜索されないような悪人を片っ端から生け贄にし、その余剰は食料なり触媒として、神の管理下に置いていたのか。しかも、女は悲鳴を上げてその場から逃げ出そうとし、男はその女に刃物を突きつけて盾にしようとし、老人はきょろきょろと辺りを見回して状況を認識できないのか携帯端末を懐から取り出す。
 すなわち、阿鼻叫喚。
 地獄絵図が怜悧の眼前、この場に展開される。
「どーすんだ?」
 アノンが問うたのは、単にそちらの方が後々面倒を避けられそうだったから。この場を切り抜けるような指示を仰いだわけではない。ましてや、食い散らかしていいかというロキへの許可取でもない。
(第三形態まであることを考えると救うことは困難だと思いますが……なるべく巻き込まないように立ち回ってください)
「ちッ」
 一瞬、ほんの一瞬だが、やはりというか想像できたというか、わかっていた答えだけに苛立ちが募る。まァいいさ、と口端を歪め。
「……しゃーねーか。なら、こうするしかねえな!」
 吠え猛る。一旦はお預けだ。
 闇を縫うように白く眩いロープ状の物体がひたすら天へと絡み付きながら上っていく。そして健脚には風を纏いて高みへ、より高みへ。
「オオ……世界は今日も平和だった」
「るせえッ!」
 影から重力触手を邪神の首に引っ掛けるように伸ばすと、その場に縫い付けた。己が放った光線で視界が悪化したのか、振り解こうともがくたびにより縛は堅固に変わる。属性攻撃の連続、相応に疲弊するが、これも彼が選んだ道だ。
 そして、鉄が高温で赤く溶けるように。
 怪生物の触覚を噛み切ると、一跳躍でその場を離れる。
 人々の目にはそれがモンスター同士の争いに見えるかもしれない。その場から目をそらし、離れようとしたものから命を落としていく。人々にも、猟兵にも、邪神は己に視線を注ぐことを許さない。それは世界を統べるという欺瞞からか。
 双眸が碧に光る。戦いは終わらない。

成功 🔵​🔵​🔴​

ステラ・クロセ(サポート)
真紅の瞳。燃える炎。あふれる勇気。直情正義、元気全開、単純明快!
正しい心で悪しきを討ち、そして弱き者を救い、その盾とならん、我こそは義侠のスーパーセル!
スーパー純粋熱血、ハイパーテンプレ系ヒロイン、それがステラです。

一人称は「アタシ」ですが殆どの猟兵は先輩に相当するので話すときは「わたし、あなた」といった礼儀正しい振舞いとなります。
探索系はストレートな解決法を選び、
戦闘では正々堂々と敵の正面に立って攻撃を引き受け味方にチャンスを作る方が好みです。なお、近接戦闘派です。
ユーベルコードは状況に応じて使い分けます。
正義を大事にするので、他の猟兵の意図を阻害したり公序良俗に反する行動はしません。


アト・タウィル
なるほど、いくらでも生贄を呼び出せると
ふふ……力を蓄えるには一番ですね
ですが、私のやり方にも好都合
さぁ、お聞きください……皆さんのお手を拝借

フルートに口を付け、奏でるのは行進曲
狂気の操り人形を使い、操るのはすでに死亡した人々
彼ら彼女らを向かわせ、数の暴力といきましょう
力はそれほど無かろうと、邪神に傷をつけることくらいはできるでしょうから
回避不能の弾幕光線を放たれてもいいよう、私の周りには常に盾になるだけの数を残しておきます

死体は……生贄として用意したものは、いくらでもあるのでしょう?
……ならば、どれだけ使おうと、私の武器も盾も途切れません
どこまでも善なる神であることを、噛みしめるといいでしょう



 暗闇に燃え盛る気焔は、今にも消えかけていた。
 
 力無き者を、命を賭して守り抜く。集合し、大善神と化した「完全な邪神」にそう啖呵をきったステラ・クロセ(星の光は紅焔となる・f12371)と神であるルチフェルの相性はすこぶる悪かったという他ない。
 スパァン! と、肉の爆ぜる音がした。ほの暗い空間に、けたたましくその鋭い音が反響した。
「ふぐッ……ん!!」
 悲鳴を噛み殺すも波打つステラの身体が如実に痛みを訴えていた。しかし余韻には浸れない。
 ヒュンヒュン、風を切りながら、ルチフェルの尾が宙を舞う。竜のテールが巻くように一度ぐるりと円転させ、その運動エネルギーを余さず乗せて強鞭を振り抜く。
 ピシィッ! と鋭い音が響き渡った。
「っ!? うぁあっ!?」
 衝撃に、身を捩らせながら身悶える。閉じた片目に涙を浮かべ、くの字の体勢で苦しむステラ。痺れた感覚が戻るのに数秒かかったが、両手の刀を取り落としていないことに安堵する。
 大振りで隙だらけの攻撃。
 歴戦のつわものであるステラにはかわすのは容易い。しかし立て続けにその攻撃を受けているのは、ルチフェルが自ら召喚した水着美少女や猟奇殺人鬼を巻き込むように攻撃しているためだ。庇ってもらった一般人は、振り返ることも感謝することもなく、その場から逃げ出そうと悲鳴を上げて泣き叫んで走っている。
 本当の戦士になるという、《真紅と翠緑の誓い》。少女の覚悟を試すように神たるルチフェルは問いかける。問いかけ続ける。戦いが膠着すると一般人を呼び出し、その一般人と見境のない肉弾戦に移行しているのだ。
 助けなければ、守らなければ。
 そんな信念と決意を逆手に取る。善神として、その愚行を諫めるのだ。

「気が触れてしまったのですね」

 手にした魔笛が、怪音を奏でる。
「しかし、人を操るのは狂気。そうは思わないでしょうか」
 ショック死したらしき屍が、黒髪の人形に看取られて、静かに立ち上がる。炎は絶やさせない。戦いの流れを呼び戻すため、ここにアト・タウィル(廃墟に響く音・f00114)の忠実なる《狂気の操り人形(クレイジー・パペット)》が生まれた瞬間であった。
「さぁ、お聞きください……皆さんのお手を拝借」
 繰り返しになるが、物事には相性がある。アトにとってこの神はカモ、得手とするやり方に都合がいい存在であった。
 すでに戦いに巻き込まれ心神を喪失したもの、命を手放したもの、それらは持ち上げる手もその力もない。
 ならばその手はいかに使おうとも咎められず。
「おっと。危ないでしょうが」
 ルチフェルが放つ怪光線を、その身をもって盾になる操り人形たち。触手が光によって霧散し、屍自体もまたチリのように消えていく。
 しかし主人にはその余波すら届かない。
「さぁどうですか? 死体は……生贄として用意したものは、いくらでもあるのでしょう?」
 闇を光が灼く。
 闇から再び触手が波打ち、屍体を持ち上げ人形を立ち上がらせる。
 さらに肉薄させ、邪神の守りを傷つける決死兵として。
「……ならば、どれだけ使おうと、私の武器も盾も途切れません。今が隙ですよ。お嬢さん」

 ――言いたいことはあったかもしれない。
 しかし、ここは真っ向勝負。
「アンタは……アンタだけはッ!」
 言葉より俊敏に、振るうことしか知らないから。
「一太刀入れなきゃ、気が済まない! 行くよ!」
 尾が、気迫と共に一閃、ステラによって斬り落とされて霧散する。
「どこまでも善なる神であることを、噛みしめるといいでしょう」
 鮮烈な旋律が、一層高らかに鳴り響き、千切れた尾を復元不能に破壊した。

 神の、その命脈は、まだ断てない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

藍原・蒼夜(サポート)
 人間の學徒兵×力持ち、18歳の女です。
 普段の口調は「おっとり系(私、あなた、~さん、なの、よ、なのね、なのよね?)」
 偉い人には「敬語(私、~さん、です、ます、でしょう、ですか?)」です。

 ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。
また、例え依頼の成功のためでも、
公序良俗に反する行動はしません。

のんびり、おっとりした性格で、多少天然ボケな面もあります。
武器は主に退魔刀を使用して戦います。
好きな物は、可愛いぬいぐるみ、綺麗な花、静かな場所。
趣味は小説等の読書。
 あとはおまかせ。よろしくおねがいします!


外道・紫
人を盾にするか、良い方法だね
普通の人であれば、攻撃するのをためらうだろうよ
……もっとも、普通の人であればだがね
殺す事に躊躇いなどない者を相手した事はあるかい?

理不尽な展開か、何をやっても人死にが出るような状況だろう
なら簡単だ……人を殺してでも、敵を倒せば良い
殺戮刃物のメスを持ち、現れる人間もろとも切り刻んで進もうではないか
さあ来たまえよ、人間として殺してあげよう

……まあもっとも、私の体はそれほど強くはないからな
殴られればいくつかもげるのも、よくあることだ
ならば簡単、そこいらにいくらでも腕や足はある
必要に応じて私自身の体を切り捨て、彼らを繋ぎ合わせて戦い続けてやる
……本物の理不尽、見せてやろう



 悲鳴に次ぐ悲鳴。
 誰もが自らの命以外を顧みない異常空間。
 ここが神の寝床だというのならば、召し上げられて讃えられることもまた罰なのかもしれない。
「じゃあ、誰が誰を罰するかなんて、問題じゃない。君たちもそうは思わないかい?」
「な、な、何をっピギャ!」
「人を盾にするか、良い方法だね」
 たまたま手近なところにいた一般人を盾代わりにして攻撃を防ぐ。
 生温い触感と濃厚な死臭がぶわと周囲に広がるが、彼女は張り付いた笑顔のまま表情一つ変えない。正確にはボロボロのウサギの着ぐるみで外道・紫(きぐるみにつつまれたきょうき・f24382)の表情はよく見えない、と言ったほうがいいか。
「では君はどうかな?」
「私、かしら? さて、どうなんでしょう」
 藍原・蒼夜(蒼き宝刀・f23131)は話しかけられたことに驚いて首を振る。まさか自分が話しかけられるとは思わなかったとのんびりした様子の彼女は、質問の意図が汲み取れずただただ質問の内容を反復するのみである。
「とりあえず、悪い敵は倒すしかないと思うけれど」
「なるほど。だがこの条件ではどうだ。普通の人であれば、攻撃するのをためらうだろうよ」
「ああ、そうね。これは困ったことね。もうお手上げするしかないかしら」
 抜き放たれた蒼霊刀の刀身を見つめ、ほうとため息をつく蒼夜。
 抜き身の刀剣を、目についた悪人にグサッと突き刺す。呻いてその場に倒れ伏す彼を刺したのは《強制改心刀》。悪心のみを断つ霊剣である。しかし、これでも相当に抵抗がある辺り、筋金入りの悪党を揃えているということか。
 こんなところで人を見る目を発揮するのは、本当にお騒がせな神様である。
「このままじゃ日が暮れてしまいそう。ところで今いったい何時なのかしら?」
「もうすぐ4時らしいな。もっとも夜中の零時から数えたのか夜明けの話かはわからないがね」
 殺戮刃物のメスを振り抜いて対象の腕を執刀すると、ひょろひょろと不規則な軌道で飛んできたソレを空中でキャッチする。ご丁寧にはめられたギラギラとけばけばしい腕時計を見遣って、だ。紫にとってこれも貴重な戦力の一端。おいそれと簡単に明け渡す代物ではない。

「さあ来たまえよ、人間として殺してあげよう」

 ねじ切られた腕を縫合する。骨が、肉が、溢れ出る血が、新たな己と混ざり合って紫色を進化させる。「腕時計付きとは有り難いことだ」などと嘯けるほどの余裕で、紫は前進する。
 尽くを、人間として。
 邪神が繰り出してくる特異なシチュエーションを、一切の躊躇いなく執刀していく。哀れな被害者同士を繋げて作ったような怪物を、被害者の怨嗟をそのまま封じ込めたオブジェを、被害者が受けた苦しみを再現してくる怨霊を、殺戮刃物のメスひとつで切り刻んでいく。
 あれも、これも。
 人を人とも「思う」所業。
 分け隔てないという一点において、その精神は神のそれと比較して遜色ない。
 ルチフェルは慄いた――人が新たなステージへと上り詰めたその時、神の凋落が始まるのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

影山・弘美
ちょ、ちょっとやりずらいです、ね
で、でも、頑張りま……あわわ、ちょっと!?

質問に答えようにも、横から出てくる人たちに妨害されたりして答えられずにボコボコにされる
そ、そんな……パンツの色なんて、その……あう、ぐ、え……
最後には脇腹とかを猟奇殺人鬼に刺されて、意識を失う

そして、流れ出る血からもう一人の自分が現れ、手にした拷問具で八つ裂きにしていく
さっきは答えられなかった質問にも即答しつつ、周りの人も容赦なく殺しながら距離を詰める
白よ……まったく、飾り気のない物ばかりで、私には似合わないわ

逆に聞いてあげる
人間なんかを使わなきゃ何もできないあんたに、私を殺せる?
殺しきれるなら、やってみなさいよ



「ひやっ、ぎァっ……!」
 喉を焼くような自分自身の苦悶さえ、一枚隔てたベールの向こう側で響いているように聞こえる。
 これは己が絞り出した声だ。
 意識はたしかに目覚めているにもかかわらず、はっきりと何かが失われていくのを感じた。
 否、失われているのは意識のはずだ。手放しているのは生命力だったはずだ。
 肉体が絶叫する一方で、消えゆく意思は驚くほど静寂であった。自分から理性やら何やらが失われつつあるのだと、悲しいほどに理解してしまっていた。
「オレは死にたくねえ! 早くあっちへイけ! 頼むよやだよ!」
「(あわわ、ちょっと!?)」
 刃物が突き立てられる白い肌から沸騰した血液を噴いて、まだ年端もいかない少女が、猟奇殺人鬼に命を差し出した。
「汝、下着の色は?」
「(いや、最後その質問はなんすか邪神っ! というか、そ、そんな……パンツの色なんて、その……あう、ぐ、え……)」
 
 何も、この殺人鬼が邪神に命じられたわけでも、邪神が繰り出した質問が人を選んだわけでもない。ただただ出会いが、巡り合わせが彼女に不運を訪れさせただけ。彼女の生まれ故郷である世界であれば、日常茶飯事ともいえる光景。それがこの空間に現出しただけのこと。

 こうして、影山・弘美(吸血鬼恐怖症・f13961)の生は幕を下ろす――

 否、幕を開ける。

「まったく……」

 影が、液が、黒と紅が。
 最悪の寝覚めね、と。
 脇腹から溢れた血が重力に逆らい、形成していく。形作るのはもう一人の自分。そう。普段は微睡の中にいる吸血鬼としての弘美が召喚されたのだ。それは闇が際限なく伸びていくこの空間を塗りつぶすほどに異色だった。
 手近なところにいた水着女性を足蹴にして椅子にすると、どっかと座り込んで辺りを観察する。
「グラスの用意もないなんて、『私』が倒される前になんとかしてほしいものね」
「汝、下着の色は?」
「白よ……まったく、飾り気のない物ばかりで、私には似合わないわ」
 椅子にした水着女性の首を刈り取ると、そこから血を吸い出すように傾け即答する。さながら即席のジョッキのように手の内で弄びながら、弘美は笑っていた。

「逆に聞いてあげる。人間なんかを使わなきゃ何もできないあんたに、私を殺せる?」
 神を信じる人間がいないこの空間では、神は狩られる獣と同じだ。
「殺しきれるなら、やってみなさいよ」
 屍山血河と、血飛沫のカーペットを踏み抜いて、手にした拷問具を突きつけた。

 返事はない。
 ならば、こちらの答えもまた、一つである。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『歪神・嗚母以天』

POW   :    物心ついた頃から、そこに”ソレ”はいた。
予め【過去の記憶から今に至るまで共に過ごす】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
SPD   :    その時、君は誰も救えなかった。
【対象が忘れた危機に陥った過去の思い出】から【救いを求める誰かとして発した声】を放ち、【発生する災禍に巻き込む事】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ   :    問いましょう。あなたの罪は何時、何処で?
対象への質問と共に、【歪んだ浄瑠璃の鏡に映された忘却した過去】から【己を対象の犯した罪の被害者とした状況】を召喚する。満足な答えを得るまで、己を対象の犯した罪の被害者とした状況は対象を【忘却を責める呪詛】で攻撃する。

イラスト:久蒼穹

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は夷洞・みさきです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 偶像は集いて善神に召し上げられ、善神はその拠り所を人々の内部を映し出す鏡に求める。
 理不尽に次ぐ理不尽。己に降りかかったもの、他者に強制したもの、挙句。
 己も他者も、等しく平等に自らを打ち明ける理不尽に身を置いた。条件は互角、ゆえに尽く理解不能。

 今、猟兵の前にいるオモイデは問いかける。
 猟兵の記憶の中の誰かに成り代わり、その誰かに代わって罪の在処を。
外道・紫
『助け、て……』

……あれはいつだ、まだ人の構造がよく解っていなかった頃だな
私のいた世界ではよくある話だ、オブリビオンストームに崩れた建物の下敷きになる人間、その絞り出す声
足が潰された、腕だけが落ちている……頭がどこかへ、などもよくあったな
とにかく、その一人は足を

「助け、て……」

いや……これを言っているのは、誰だ?
私の声、か?
こんなか細く、人へ懇願する声が?
足を潰され、床に這いずる女が……

助け、て……

あぁ、そうだ
瓦礫に潰れた足を斬りとられ、繋ぎ合わされたのが、私じゃないか
なるほど……その再現か
ならば簡単だ
今の私なら、躊躇なく切り離そう
そして、メスを咥えた首を外して投げつけてでも、斬り捨ててやる



 血と臓物が飛び散り、息もできないような悪臭を放っている。
 いかに邪神であろうとも、人並みに血肉を通わせていたことは驚きだった。
 安らかに眠るように逝った彼女の、その生の終焉を確認すると、力尽きて横たわるソレにはもはや目もくれず、振り返る。
 帰ろう。

 換えろう。
 
 振り返れば砂と埃の味がする空気と、それを運んでくる吹き下ろすような風。空には自然のそれとは程遠い分厚い雲がかかり、何よりひどく乾燥している。こういう時には見たくもない景色も、味わいたくない味も、臭いや音だって否応なしに感じ取ってしまう。
 それが、紫のいた世界、アポカリプスヘルで当たり前のように繰り返されてきた日常だ。

 ここは、アポカリプスヘルだ。

 ならば。
 ああ、あの、ああ――!
 血が、臓物が、皿の上のものを床にぶち撒けたようなあの惨状は、肯けようというものだ。

 ――助け、て……

 声が、聞こえた。
 一歩踏み出すと、地面が炸裂する。閃光と爆炎。天地がひっくり返り、曇天が眼下に広がってぐるぐる回って、空中散歩。やがてばたぼたと落とし物を地面に塗りたくって、重力で地面に叩きつけられた。地雷だ。そんなことはわかってる! 黙れ。違う。わかっている。やかましい。これは何だ。しつこい。駄目だ。
 声の主は誰だ?
 そうだ。探さなければ。
 探せ……探せ! 大切なものだろう?
 ふつふつと内からエネルギーがこみ上げてくるのを感じた。熱い。ただただ熱い。外界からの痛覚とは全く理由を異にする、この感覚は。

 まずは。ぐぐぐと首を傾け、視線をずらして。ああ。あった。腕だ。あの距離なら這っていけば届きそうなものだが、時間はかかるか?
 足は完全に潰れてしまった。もう使い物にならない。大地にこの体を背負って立つのはもう不可能かもしれない。よく、見えない。
 そうか、片目が塞がっているんだ。まぶたがべっとり張り付いて分厚くて赤い膜が世界を覆っている。べちゃべちゃして開かない。
 視線の先を、声の主を億劫になる気持ちを抑えて懸命に追う。
 どこだ。どこだ、どこだ?

「助け、て……」

 いや……これを言っているのは、誰だ?
 私の声、か?
 こんなか細く、人へ懇願する声が?
 足を潰され、床に這いずる女が……。

 あれは、いつだ。
 ――そうだ。
 よくある話だ。
 よくある話だった。

 強い風が吹き荒れ、肢体を、死体を、怪物へと変えた。全てを奪っていった。
 私の足は巻き添えで砕けた。
 砕けた瓦礫の、下敷きになった。

 なるほど……その再現か。
 ならば。

 あの時は、まだ人の構造がよく解っていなかった。今ならできる。今の私ならできる。やれるはずじゃないやるんだ。すすり泣くな。何のための体だ。この体は。嗚咽を止めろ。黙れ。違う。わかっている。やかましい。煩い。九度、言いつけて。
 言葉を紡ぐお喋りな口に、メスを咥えた。おそらくこれからは、医者にでもなろうか。人体には詳しいんだ。詳しく、なるんだ、これから。
 もう、止めよう。終わらせよう。

 助け、て……

「あぁ、安心したまえよ。君は人として生かしてやろう」

 さらば。

 ……歪神は猟兵に問いかけ続ける。満足な答えはまだ出ない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

飾宮・右近
創造主に成り代わられている。

アルダワの人形だらけの遺跡。

90年前、我は創造主の手により創られた。
主の右腕として使えるために。
主との忘れていた過去を思い出す。
慣れぬ我の失敗を宥めたり、呆れたり、指導したり、誉められたり。

80の年を越え、未だ主は我と共に在る。
違和が膨れ上がる。
主は人間だった。年を経、他者を厭う様な。
そんな笑顔を浮かべるような人であったであろうか。
そんなに80以上もの年月を共に在れる人であったであろうか。

我を”右近”と呼んだであろうか。

そう、我はニアライト。
主を看取った人形。

手に還った思い出に感謝を。
故に、お主をこの思い出から叩き出そう。


そう、貴方はそんな顔でありましたね。

アレ観



 真綿と歯車が飛び散り、目を覆うような醜態を曝け出している。
 邪神というものが、思考を持たない人形だったことは驚きだった。
 安らかに眠るように逝った彼女の、その生の終焉を確認すると、力尽きて横たわるソレにはもはや目もくれず、振り返る。
 帰ろう。

 還ろう。
 
 振り返れば、人形があった。
 パペットがあり、ギニョールがあり、マリオネットがあった。その中に人型の機械人形もあった。時折噴き出す蒸気が空間に充満しているせいもあり、汗ばむ体でなかったことはその点ありがたかった。どれもが思い思いに闊歩していた。名があり、個性があった。
 ここは90年前のアルダワ魔法学園である。

 ――座れ……右近。
「……はっ?」

 その声には聞き覚えがあった。
 否、否である。
 どうして今まで忘れていたのだろう。これはすでに過ぎ去った思い出であり、これからを歩んでいく未来への礎である。

「は――主様」

 慣れぬ我の失敗を宥めたり、呆れたり、指導したり、誉められたり。
 眼前に座していた創造主は、自ら立ち上がると座る我に向けて手を伸ばした。感覚というものがあれば頭を撫でつける仕草にいささかの意味を感じ取れたのかもしれない。
 我は創造主の手により創られた。主の右腕として使えるために。ならば今のあり方は疑うべくもない。

 ――こんなことしかしてやれないが、
 ――近頃は、よくやってくれている。
 ――お前は私の誇りだ。
 ――どうかこれからも支え続けて欲しい。

「もったいなきお言葉」

 その時、己には他のヒトガタとは違う、役割が与えられていることを知った。違いそのものを知り、違いがある理由を知った。意思があった。意義があった。それこそ御役目だ。主の片腕として、自我なき単なる一体ではなく、一本しかない右腕の二本目となるべく。
 なるべく。

 この80年あまりを共に歩んできた。

 その中で傑作だと言われたのは我だけであった。それが誇りでもあり。
 すなわち、違和を覚えたのも我たけだった。
 否、否である。

 嘘をついていたのは主ではない。
 己の方であった。

 見て見ぬふりをした。最初に気づいたのは80年ほど前のことである。故障だと思われたくなかった。バグをバグとすることを許さなかった。年月を経てなお膨れ上がる違和感を無理やり奥底に埋没させた。
 主は人間だった。年を経、他者を厭う様な。
そんな笑顔を浮かべるような人であったであろうか。

 我を”右近”と呼んだであろうか。

 主は今もこうして、笑みを浮かべている。立たせようとはしない。まるで十全に働くことを容認しないかのように。制止するかのように。

 だから己で気付くほかない。

 そう、我はニアライト。

 主を看取った人形。

 我はようやく、すくと両足に力を込め立ち上がる。
 立てる。
 当然だ。すべきことは、100年を待たずして、とうに思い出している。
 随分と時間はかかってしまったが、遅いということもないだろう。
 でも、最後は自らの手で。
 でも。

 最後に。

 挽歌を。

 ――手に還った思い出に感謝を。
 故に、お主をこの思い出から叩き出そう。

「そう、貴方はそんな顔でありましたね」

 ……歪神は猟兵に問いかけ続ける。満足な答えはまだ出ない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

アト・タウィル
『幸せですか?』

……人形である私を作った人は、人に愛される演奏人形として、私を作りました
明るい曲を覚えていき、それを吹くことで、幸せになれるようにと……

いつでしょうね……私のフルートから流れる音を聞くと、精神を病むと言われ始めたのは
明るい曲調は変わらず、それを聞いた人が幻覚を見るようになったのは
そして……製作者は責められ、詰られ、命を絶ったのは、いつでしょうね

……ふふ
今さら、今さらです
責められ、詰られ……その人の心が壊れるのを、知らなかったとでも?
今さら再現されて、私が苦しむとでも?

私の音を喜ぶ相手を、私は知っていますから

逆に聞きましょう
あなたこそ、幸せですか?
覗く人を苦しめる、あなたこそ



 聞くに耐えない、長い長い断末魔の叫びを上げる。
 邪神というものでも、死際には声を絞り出すものなのか。やがてそれも止まり。
 安らかに眠るように逝った彼女の、その生の終焉を確認すると、力尽きて横たわるソレにはもはや目もくれず、振り返る。
 帰ろう。

 皈ろう。
 
 動かない。
 身体が拘束されてイる。
 床、壁、柱。
 雑多な物置の中に、束縛されている。転がされている。閉じ込められている。いた。

『幸せですか?』

 自分で自分を抱き締めるような形でアトは拘束服を着せられている。腕を色とりどりのベルトで固定され、なおかつ足は開く事すら叶わない程何本もの革帯で一括りにされている。
 特に口周りは厳重に。これ以上は開くことも閉じることもできない有様で、もし自分が人であったなら何もかもを垂れ流してしまいそうな体勢。それだけで幾度となく死にたくなるような感情を催させることだったろう。
 
 これは、一体?
 いえ、それよりも。
 さっきの問いかけは……?

 空の小瓶が床で砕けた音がした。

『幸せですか?』

 まただ。

 そうだ。

 どうか幸せになれますように。

 ――“Guardian of the Gate”

 今もこの手にある魔笛を手にしたその時から、これまではただただ惰性だった問いかけに、初めて意味らしい意味が生まれた。笑みを与えた。このフルートが奏でる旋律は、人を幸せにする。
 幻を、ミる。
 ならば、この感触は目の前の光景は問責は叱責は詰問は質問は怨嗟は冤罪は苦悶は苦渋は悲嘆は悲哀は逃走は逃亡は自責は自戒は異質は異常は幸せになりたいという願いは、幸せにしたいという悲願は、この、幸せそうな、死顔は?
 
 ●●は?

 劇薬を呷っていたのは、私の製作者さんでした。

 もうこんな拘束に意味などない。ぶちぶちぶちぶち。年月の経ったゴムのように千切ると、魔笛に唇を当てる。不思議としっくりくる感触だった。今度は、場所を選びましょう。できれば、薄暗い倉庫の片隅で。

 訴えかけは、その命をもってしても、あり方の再確認でしかなく。
 ここでこの記憶は終わり、幕を閉じる。

 ……ふふ。
 今さら、今さらです。
 責められ、詰られ……その人の心が壊れるのを、知らなかったとでも?
 今さら再現されて、私が苦しむとでも?

 私の音を喜ぶ相手を、私は知っていますから。

 終わりですが?
 この瞳が、正気でない、とでも。

「あなたこそ、幸せですか?」

 ……歪神は猟兵に問いかけ続ける。満足な答えはまだ出ない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

水鏡・怜悧
詠唱改変省略可
人格:ロキ
手術台に拘束され、傍らには黒い白衣を纏った壮年の男性。それは人間として生まれた最初の私。
(あぁ、成程)
人格を移植する実験の一部。人格を受け入れる人体の確保。対象は自我の芽生えていない…胎児。間もなく彼のメスは私の下腹部に差し込まれるのでしょう。その臓器はありませんが。
(確かに忘れていました)
私は何の感慨も抱いていなかった。心など10歳にも満たない頃に壊れていた。淡々と人を殺し、壊した。
「UDCアース、50年程前のヨーロッパ」
胸の奥が疼くのは罪悪感なのだろうか。感情の把握は未だ苦手なのですが。
「進むと決めましたので」
UDC化して拘束を抜け、風の刃で過去の自分を殺します



 カラフルな薬品が撒き散らされ、吸えば喉が焼きつくような毒気を放っている。
 邪神というからには、その吐息は大気すら蝕む悪意に満ちていた。
 安らかに眠るように逝った彼女の、その生の終焉を確認すると、力尽きて横たわるソレにはもはや目もくれず、振り返る。
 帰ろう。

 変えろう。

 怜悧の感覚が遮断される。

 その違和はすぐに発露した。
 
 立てかけられた鏡に反射し全容が映し出される。無影灯に照らされ赤く染まっていた。黒いサージカルガウンは汚れを目立たせないためか、手術用手袋とゴーグルをした無表情の壮年の男が覗き込むように見下ろす。

 私がいるのは手術台の上でした。
 ですが、視線を向ける私もまた、人間として生まれた最初の私…….ですか?

 ――あぁ、成程。

 やがて、私に終わりの時が訪れようとしたが、その都度、生命維持の処置と夥しい量のトランキライザーを服用させられる。そちらの方がよほど、後々の副作用は大きいでしょうに。
 それに。
 対象には、まだ生命活動を営む体力も、壊れる心もないというのに。人格を移植する実験の一部。人格を受け入れる人体の確保。対象は自我の芽生えていない……胎児。
 点滴用チューブに取り付けてある鉗子が緩まる。もはや溢しているのではないかと勘繰るほどに投与される劇薬。間もなく彼のメスは私の下腹部に差し込まれるのでしょう。
 その臓器はありませんが。

 違和感は急速に膨れ上がる。
 ならば今思考している私、とは?
 私を私たらしめる私は?

 ――確かに忘れていました。

 はっきりと壊れたことを理解していることと、それの完全だった形を思い出せるのはまた別だ。正しいとはなんだろう。しかし、思考することさえも忘れていたとは。それほどまでに今は。
 満たされているのでしょうか。

 満たされているといえるのでしょうか。

 私は何の感慨も抱いていなかった。心など10歳にも満たない頃に壊れていた。淡々と人を殺し、壊した。
 器の形に合わせて中身が変化するなど痴がましいとかつてなら一笑に付したろう。

 清濁あわせて変化して。
 そういうものだと変容し。
 生きてきた。生きている。生きていく。

 ああ。
 この寝所はいささか窮屈すぎますね。白昼の微睡にしては随分……。
 ええ。
 はい。

「UDCアース、50年程前のヨーロッパ」

 胸の奥が疼くのは罪悪感なのだろうか。感情の把握は未だ苦手なのですが。

「進むと決めましたので」

 黒き疾風が圏域を撫ぜる。
 風をどうして縛められようか。

 ……歪神は猟兵に問いかけ続ける。その答えに満足すると、遺されたのは古鏡が一枚。


 ぱきリ。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年02月04日
宿敵 『忘却恐れし偶像少女』 を撃破!


挿絵イラスト