11
優しく抱いて、そして殺して

#アックス&ウィザーズ

タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#アックス&ウィザーズ


0




 伸ばした手の先すら見えないような濃い霧が辺りにたちこめていた。
 男が1人、その中をふらふらとおぼつかない足取りで進んでいる。一歩進むごとに、ぐしゃり、と地面に咲いた無数の花が踏み潰されてゆく。
「ああ、ああ、お前」
 男は泣いていた。泣きながら目の前をしっかりと見据えて、何者かに話しかけている。
「俺、お前にずうっと謝りたかった。謝りたかったんだ」
 何者だろうか。濃い霧のせいで相手が見えない。男にははっきりと見えているようだが。
「俺、お前が死んだ時泣けなかったんだ。忙しさにかまけて、泣けなかった。でも、それは、忙しさが理由なんかじゃなくて、本当は俺、お前のことを愛していなかったんじゃないかって。ずっと、ずっと、後悔して」
 死者に男は話しかけているというのか。だとしたら男は狂っているのだろうか。身なりは立派な商人風だし、顔も狂っているとは思えないほどしっかりとしているというのに。
「許してくれるのか? おお、おお、お前。もう、ずうっと一緒だよ」
 姿も見えない。声も聞こえない。そんな相手をかき抱くような動作をすると男がその場にひざまずいた。
 やがて霧は濃度を増し、男の姿すら覆い隠してしまった。

●グリモアベース
「事件だよ全員集合ー」
 眼の前の猟兵達に通じるかどうか怪しいネタをかっ飛ばす藤堂・藤淵(40代男性)は、いやもう集合しとるわというツッコミを華麗にスルーして先に進む。どうやら今日は何時にもましてやる気が無いようだ。きっとナンパに失敗したのだろう。
「場所はアックス&ウィザード世界。ビキニアーマーとエルフの世界だな。目的は花畑の排除及びそこに屯しているゴブリンの排除」
 花畑にゴブリンとはなかなかシュールかつファンシーな話だ。どういうことか、と視線で問う猟兵達にとてつもなく面倒そうに藤堂が詳細を語りだす。
「あっちの世界でな、最近霧に飲まれて帰ってこねえって奴が続出してんだ。で、原因調べたらそれが霧じゃなくて特殊な花が出す花粉だったんだよ」
 人喰い草、なんて呼ばれているらしいと補足が入る。
 花粉には幻覚作用があるのだが普通はそんなに強いものでもない。一本二本分ならむしろ安眠の薬として重宝される。が、群生すると質が悪い。幻覚作用は強度を増し、安眠ではなく死の眠りをもたらす恐るべきものへと変貌する。
 花粉を大量に吸ってしまったものは皆一様に最も望むモノを見る。
 それは愛情溢れる家庭であったり、在りし日の優しい母親であったり、恋人であったり。さらに大量に吸い込んでしまった場合は睡眠欲、食欲、といった生きるための基本的欲求が麻痺してしまう。
 やがて被害者は心地よい夢を死ぬまでずっと見続けることになり、死に至る。その衰弱死した人間を養分にして花は更に咲き誇るのだ。
「まあ食虫植物の人間バージョンみてーな花だ。ん、で。その性質に目をつけたゴブリン共が人間の肉やら物やらを奪いに来ているらしい。ゴブリンにはきかねーようだな。馬鹿だからか? んっんん。まあ、ほっとけば被害はその花が群生している場所だけじゃなく、そこで増えたゴブリンが人里を襲う二次災害なんてーのも懸念されてるわけな。つーわけでお前さんらの出番」
 花を焼き尽くしたっていいだろう。
 その区画一帯を吹き飛ばしたって構わない。
「ただ気をつけろ。この花粉、なんでか知らんがだいぶ遠くまで飛んでやがるからな。完全に幻覚を見ること無くっつーのはできん。ゴブリン並に馬鹿なら効かねーだろうけど、そうじゃないならまあ覚悟してかかってくれ。ほいじゃいくぞー」
 そういえばさっきの予知で見えた相手はどうしたのか。
 問いただす猟兵に藤堂が笑って返した。
「あれはもう間に合わん。諦めろ」


サラシナ
 数あるOPの中から拙作をご覧になっていただきありがとうございます。
 サラシナと申します。

 このシナリオは要するに、貴方のキャラの大事なものを語る回です。
 例えば亡くしてしまった家族、恋人等の幻影に惑わされる、もしくは非情にもそれを振り払う。そういうロールをしたい方向けです。ですので一度は必ず幻影にかかるかどうかの判定が入ります。

 【注意】プレイングではいかに花を排除するかよりもどういう幻覚を見るのかに比重を置くとより楽しめるかと思います。

 一章では🔴の数に応じてどの程度花粉を吸ってしまったかを判定します。花粉を多く吸えば吸うほどその後の行動に幻覚が現れて貴方を願望の中へと引きずり込みます。
 勿論理詰めで被害を極小にすることもできますし、無計画に突っ込めば大量に吸い込むことになります。ご利用は計画的に。

 二章以降は戦闘。花粉を沢山吸ってしまった方は相手が大事な誰かに見えることでしょう。頑張って殺してください。

 貴方のキャラがどういうモノを本当に求めているのかをまず考えてみてください。
 酒池肉林みたいな物は割と表層の欲かとおもいます。もっと深い所に根ざした願望を貴方のキャラの中に潜って見つけてきてください。それを前にした時に貴方のキャラはどう行動するのか想像して、プレイングを投げてもらえると嬉しいです。

 それでは皆さんの求めるものが何なのか。首を長くしてお待ちしております。
86




第1章 冒険 『幻惑の霧を越えて』

POW   :    力に任せたり気合いで解決(自傷行為等)

SPD   :    見なければ惑わされない、かもしれない。ダッシュで走り抜ける等

WIZ   :    幻と現実の齟齬を見つける等

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

三岐・未夜
玄火を使って燃やしてみるよ。水分あるしちょっと燃えづらいかな、…………?

ぱちぱちと燃える花の向こうに。人影があった。
え、誰か巻き込んだ!?

…………母さん、父さん……?

三年も前に亡くした、だいすきな、
息が出来ない。動けない。
これは、幻覚だ。グリモア猟兵からそう聞いているから。これは、幻覚だ。幻覚。幻覚?これが?だって、優しく僕を呼ぶ声がするのに。僕の好物を作ってくれた時のように僕を呼ぶ母さんの声がするのに。ドライブに連れて行ってくれる時のように父さんが手招いているのに。
……これが、幻覚なの

泣きたくなった瞬間、左頬の魔術紋様が燃えるように熱くなる。しっかりなさいと母さんに叱咤された気がした。



 燃やすのが手っ取り早いだろう。
 そう考える猟兵はやはり多く、三岐・未夜もその内の1人だった。
 玄火。
 ユーベルコードを使えば容易な話だ。三岐の意のままに動き、燃やし、そして消すことすら任意に出来るのならばこのコード程うってつけの物はない。
 ゆっくりとだが確実に花畑が燃えていく。炎の色が霧をぼうっとオレンジ色に染めて中々に幻想的な風情が――。炎の中に人影。
(え、誰か巻き込んだ!?)
 慌てて消火をしようとした彼の目に写ったのは、はたして。
「……母さん、父さん……?」
 炎の中で優しく微笑んでいる在りし日の最愛の人達。
 幻覚だ。
 三岐はかぶりを振って甘やかな感情を振り払おうとした。
(これは幻覚。グリモア猟兵からそう聞いてる。僕はそれを消しに来たんだ。そう、あれからもう3年たってる。2人は死んだ。死んでしまったんだ。ここは故郷でもない。母さんと父さんが居るはずがない。ないんだ)
 必死に自らに言い聞かせようとするが、無駄だった。
 温かさと優しさを消しされる理屈なんてものは存在しない。理屈で納得出来るのならば人はそもそも後悔なんて感情とは無縁だ。
 人は、想い出からは逃れられない。
(幻覚。幻覚? これが? だって、優しく僕を呼ぶ声がするのに。僕の好物を作ってくれた時のように僕を呼ぶ母さんの声がするのに。ドライブに連れて行ってくれる時のように父さんが手招いているのに……これが、幻覚なの?)
 鼻の奥がつんとする。目頭が熱い。
 今すぐ火を消して、周りでなにかしている連中をぶん殴って止めて、2人の元へと走り出したい。
 おかえりと言ってもらいたい。
 沢山沢山抱きしめて欲しい。
 今まであったことを聞いてもらいたい。
 未夜と名前を呼んでもらいたい。
 それのなにがいけないことだというのか。
「ぁ……」
 左頬に熱。頬を引っ叩かれたような熱さに、三岐は甘い夢から覚めたような気分になった。
 しっかりしなさい。
 母さんに叱咤された気がした。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

上月・衒之丞
……ふぅん。一番大事なモノを映し出す、でありんすか。
どれ、よござんす。あちきに夢を見ささんす。

【POW】
映し出されるは、理想的なまでに幸せな一家。
強い父、優しい母、朗らかな姉、そして……腕白な少年。
失った、かつての家族。

これが俺の一番大事な……あちきの一番大事な?
そんな訳でありんせんなぁ。
口元を布で覆い、フォックスファイアで全て焼き払う。
「……興味ありんせん。今が一番でありんす」



「……ふぅん。一番大事なモノを映し出す、でありんすか。どれ、よござんす。あちきに夢を見ささんす」
 幼い頃から孤独を朋輩に、生き残ることに邁進してきた上月・衒之丞は幻覚を寧ろ楽しみにすらしていた。
 ただの幻覚なにするものぞ。逆にその程度を見聞してやろう、と。
 甘い夢如きでは己が揺らぐはずがないと、身一つで生き抜いてきた矜恃がその余裕を生んだのかもしれない。
 呼びかけに応えたかのように彼の前にも夢が、真実の望みが映し出される。
 強い父、優しい母、朗らかな姉、そして……腕白な少年。失った、かつての家族。そうであったら良かったという願望。
 1人は寂しかったのだろう?
 こうありたかったのだろう?
 幻覚が閨の中での囁きのように、甘やかに優しく耳朶を擽る。
 それはどこまでも理想的なまでに幸せな一家だった。かくあれかしと謳われる家族像がそこにはあった。其の中で生きられたらどれほど幸福だっただろう。
(これが俺の一番大事な……あちきの一番大事な? そんな訳でありんせんなぁ)
「……興味ありんせん。今が一番でありんす」
 轟。
 上月が炎を放ち、幻覚諸共に花を焼いていく。
 それはまるで頑なに否定せねばいけないかのような、否定しなければ何か不都合があるかのような、強い強い炎だった。
 口元を布で覆った上月に幻覚を見る前の余裕は、無い。

成功 🔵​🔵​🔴​

襲祢・八咫
やれ、人の子の心を惑わす幻覚剤とは。ろくなものではなかろうよ。
だが、……咲いているだけの花に罪はないのだがなあ。

浮かぶ赤鳥居の召喚陣、三本脚の大烏を喚び出して。
お往き、日輪の火で燃やして来い。

……嗚呼、幻覚とやらは、器物のおれにも夢を見せるんだな。

笑う声。
おれを作った職人が。おれを作らせた男が。初めておれの持ち主となった赤子が。
赤子は幼児に、幼児は少年に、少年は青年に、見守り続けたその生をなぞるように。
納められた神社の禰宜共が。遊びに来た子供達が。宮司が。舞い散る花が。雪が。
愛すべき、滅びた世界の全てが。

…………ただの夢だなあ、随分と都合の良い。
おいで、烏。その翼で花粉を散らせ。仕事の邪魔だ。



「やれ、人の子の心を惑わす幻覚剤とは。ろくなものではなかろうよ。だが、……咲いているだけの花に罪はないのだがなあ」
 花はただそう在るだけなのに。罪もなく悪意もなく、在るが儘に咲いているだけなのに。
 それでも滅ぼさねばならぬ。男が心底愛らしいと思う、今を生きる人種族の為に。
 それもまた理かと人の愛の中で時を刻んできたヤドリガミ、襲祢・八咫はぼんやりとかぶりを振った。
「お往き、日輪の火で燃やして来い」
 彼の背後に赤鳥居が浮かぶ。そこから召喚されるは三本脚の大烏。太陽の化身とすら称される烏が、行動を起こすより早く。
 笑い声が聞こえた気がした。
(……嗚呼、幻覚とやらは、器物のおれにも夢を見せるんだな)
 彼を作った職人が。彼を作らせた男が。初めて彼の持ち主となった赤子が霧の彼方に見えたのだ。
 赤子は幼児に、幼児は少年に、少年は青年に、見守り続けたその生をなぞるように。
 納められた神社の禰宜共が。遊びに来た子供達が。宮司が。舞い散る花が。雪が。
 愛すべき、滅びた世界の全てが。
 それはとても優しくて美しい世界。安らぎはここにあると手招きをしていた。なんで貴方はそちらにいるのかと。共に優しさの中で朽ちていくのが正しいのだと。
 けれど。
「……ただの夢だなあ、随分と都合の良い」
 常と同じくぼんやりと、マイペースにその夢を切って捨てる。そうできたのは彼が器物故に、生と滅びは同じものだと悟っているからか。
「おいで、烏。その翼で花粉を散らせ。仕事の邪魔だ」
 カミは惑わず。
 尽くを散らし、燃やす。

大成功 🔵​🔵​🔵​

八上・偲
(見えるもの、聞こえるものに、被るヴェールが僅かにざわめく)
……。
違うもん。わたし、そんな名前じゃないし、あなたたちのことなんか知らない。
わたしは偲なの。お父さんもお母さんもいないの。
……うるさい。
うるさいうるさい!
わたしは神様に祈ったことなんてない!
あなたたちの子供はもう死んじゃったの!わたしはあなたの子供なんかじゃない!
(『炎帝の審判来たりて』【属性攻撃】で焼き払おうとする)


※オラトリオとして覚醒後、吸血鬼による粛清を恐れた周囲に供物として差し出された娘
※拾われた時に過去は捨てた。死んだ己の灰を被って今も立っている。


(自分のヴェールに触れて)
……ヴァレリア、大人しくして。
わかってるから……



 見えるもの、聞こえるものに、被るヴェールが僅かにざわめく。
 それはかつての己の遺灰が震えたのか、それとも被っている八上・偲が……。言葉遊びだ。彼女は彼女でしか無い。彼女がどう言おうともそれは覆らない。
 じわりじわりと幻覚が、過去からの優しい手が幼子に捨て去った筈のモノを突きつけてくる。
「……。違うもん。わたし、そんな名前じゃないし、あなたたちのことなんか知らない。わたしは偲なの。お父さんもお母さんもいないの」
 否定。否定。否定。
 首を振って駄々っ子のごとく、それは自分のものではないと突き返す。
 けれどもこれは彼女自身の記憶が見せる夢。逃れられる道理はない。
「……うるさい。うるさいうるさい! わたしは神様に祈ったことなんてない! あなたたちの子供はもう死んじゃったの! わたしはあなたの子供なんかじゃない!」
 親と名乗るソレラから向けられる手が、愛しているというその声が、全てが逆しまな冷たい刃となって彼女を責め苛む。
 だったらなぜ、と。
 捨てねばならなかった。重すぎるそれを捨てたからこそ今健やかに笑えるというのに、どうして今更それを突きつけるというのか。
 偲の同居人が居たならばここまで取り乱すことも無かったかも知れない。今現在の”偲”を肯定する存在がいれば、まだ。
 けれどもそれはただの仮定の話。彼女は今1人なのだ。1人でこの過去を、駆逐しなければ。
「燃えて、燃やして、灰になるの。なにもかも!」
 そう、何もかも。過去も恐怖も愛も、すべてすべて灰にしてしまおう。
 16の薔薇の花弁が炎となって”敵”を駆逐する。
 ソレラは微笑みながら炎の中へと飲まれていく。温かな言葉をいつまでも囁きながら。
「……ヴァレリア、大人しくして。わかってるから……」
 轟々と燃え盛る花畑で、偲は彼女に触れた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ニコ・ベルクシュタイン
…俺は此の肉体を得てまだ日が浅い、人々との関わりもまだ始めたばかり。
「大切な人」と呼べるようなものなど、今はまだ。

…だが、此れだけは言える。俺の本来の姿が懐中時計という物品ならば
其れを大切に扱ってくれた者の事は、特別大切に思えるのだろう。

本体である懐中時計を丁寧に手入れして、結果的に自身の現界を手助けした未知(f00150)の幻を見る
幻の未知は言う、せっかくの人間としての人生なのだから
グリモア猟兵なんて辛い仕事、わざわざしなくてもいいんだよと

だが俺はその言葉に違和感を覚える
未知はいつでも俺を肯定してくれる、そんな存在ではなかったか

…どちらが本心なのか、見極められる程、俺達の付き合いは長くない…



 幻覚を敢えて見ようと思ったのは、モノである自分自身への興味からか。自身の内奥を暴き大切な人というものを視覚化したかったからか。
 ニコ・ベルクシュタインが霧に目を向ければ、そこに自分が現界する手助けをした人物、榎・未知を見た。
 だろうなと、彼の心には露程も動揺の色は見られなかった。
 それはそうだ。彼は今も元気に生きているし、仕事に来る前にいつもどおりにいつものように過ごしてきたばかりだ。
 幻覚の未知は言う。
 せっかくの人間としての人生なのだから。グリモア猟兵なんて辛い仕事、わざわざしなくてもいいんだよと。
 この霧は己の願望を投影する鏡だという。だとしたらこれは自分が未知に言って欲しい事なのだろうか。ひたすらに甘やかしてほしいと願っているというのか。
 違和感。
 願望の幻と現実の彼に齟齬が出るなんてことは当たり前だ。違和感を覚えたのは寧ろ、そうされたいと願っている自身に対して。
 彼は何時でも自分を肯定してくれる。そんな彼を自分は好ましく思っているし、今現在のこの関係に文句のつけようなどないのに。
 どちらが本心なのか。表層意識と潜在意識の矛盾をそういうものだと割り切れる程、ベルクシュタインは自身の心との付き合いが長くなかった。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
最も望む夢で殺すとは、また悪趣味な生態だなァ。
……いや、最期に望む夢を見られると思えば、救いになる連中もいるやも分からんか。

花粉を全て吸わないというのは厳しいが、なるべく呼吸を浅くすれば、被害は抑えられるかもなァ。
あとは、まァ、ハンカチか何かでも当てていれば、ある程度は遮ってやれるか?

花は見つけ次第、燃やしてやればよかろう。死霊蛇竜の炎はこういうときに便利でいいな。

過去は過去だ。どれだけ望んだところで、もう骸の海の中にしかない。
私の望んだものは、全て私の目の前で燃えたのだ。もう二度と、夢見ることも出来やしない。
……それを知らん花粉なぞに、惑わされようがなかろうよ。



「最も望む夢で殺すとは、また悪趣味な生態だなァ。……いや、最期に望む夢を見られると思えば、救いになる連中もいるやも分からんか」
 普段から闊達で前向きな彼、ニルズヘッグ・ニヴルヘイムにも喪失の過去くらいある。焼け野原と化した故郷を忘れたことはない。だから、それに浸りたいと願う人の気持ちは理解出来る。
 自分がそうなるかは別としてだが。
 呼吸を浅く、口元にハンカチを当てて極力花粉を吸わないよう慎重に己の力を開放する。
(死霊蛇竜の炎はこういう時に便利でいいな)
 ユーベルコード、リザレクト・オブリビオン。
 死の園かそれとも骸の海か、ともあれ死者が行く先から召喚された騎士と蛇竜に花の駆逐を命ずる。
 忠実なる下僕達はオーダーをこなすべく霧の中へと進んでいき、直ぐ様蹂躙が始まる。
 蛇竜の炎が花畑を赤々と燃やし霧を幻想的に彩った。
 騎士の剣が振るわれればその超常の力によって地面ごと花が吹き飛ばされる。
 正に死霊術師の面目躍如だった。
(過去は過去だ。どれだけ望んだところで、もう骸の海の中にしかない。私の望んだものは、全て私の目の前で燃えたのだ。もう二度と、夢見ることも出来やしない。……それを知らん花粉なぞに、惑わされようがなかろうよ)
 オレンジに染まった霧の中に、うっすらと在りし日の故郷が見えた気がした。

成功 🔵​🔵​🔴​

ヘンリエッタ・モリアーティ
【POW】
……幻を見る、かぁ。
幸せな事なんて、何も無かったから私には関係ないと思うし……花粉をどうやって避けようかな……手で口を塞いで突っ切ってしまえば、なんでもない、かしら……。
『――教授』
…………『教授』?
『モリアーティ教授』
私じゃなくて、――私の中の、『マダム』が、喜んでいる気がする。……誰の声、あなたは、誰なの?
霧がかった景色、冷たい空気。
大きな時計塔と――月の光愛しい彼女の、影を伸ばして
――シャーロック。
『刺し違えてでも、君を殺す(愛す)』
っちが、違うっ!!『私は』あなたを知らないわ!!……モラン、噛んで。私を噛んで正気に戻して!



 手で口を塞いで突っ切ってしまおう。ヘンリエッタ・モリアーティのそれはあまりにも無謀な試みであった。
 自身に幸せな想い出なんて何もないから大丈夫だろう、とたかをくくったのかもしれない。もしくは、そう。彼女の中の誰かさんが唆したのかもしれない。幻でもいいから会いたいと願ったのかもしれない。
『――教授』
…………『教授』?
『モリアーティ教授』
 名を呼ばれて、”ヘンリエッタ”は愕然とした。知らない声の呼びかけに、自分の中の”マダム”が喜んでいる気がしたのだ。
 幻覚が酷く大きな渦を巻いて……。
 霧がかった景色、冷たい空気。霧の中で霧の景色を見るとはおかしな話だが、この霧は違うものだとはっきりわかる。霧が見せる霧の幻覚。霧が感じさせる別の場所の冷たい空気。
 いや、これは幻覚なのだろうか。それとも別人格の記憶なのか。それとも願望か。
 大きな時計塔と――月の光愛しい彼女の、影を伸ばして。
 思考と情報と感情と衝動で混線を起こす。何もかも混ぜこぜなシチューの様な有様。何がなんだかわかりはしない。
 ここはどこなのか。”私は”誰なのか。そして、彼女は。
――シャーロック。
『刺し違えてでも、君を殺す(愛す)』
 鮮烈なその幻覚――願望――に、飲まれる!
「っちが、違うっ!! ”私は”あなたを知らないわ!! ……モラン、噛んで。私を噛んで正気に戻して!」
 絶叫に、金目の這いずる竜は直ぐ様応えた。
 激痛。腕から脳まで火柱を突っ込まれたような。
 モランの牙が皮膚を破り、肉を穿ち、深々と彼女の腕に刺さって、おかげでキーを正しく差し込むようににして”私”が”私”を取り戻す。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

ファン・ティンタン
ヒトは、生き物は、自らの幻に溺れることが出来る
なら…刀である、私は…?

【WIS】幻に尋ねる

深く、望むモノに会える霧の地の噂、聞いたよ
刀のヤドリガミである私に、生き物じゃない私に、花の花粉が効くのかどうか分からないけど…

白木の鞘から自身の原点たる【天華】を抜き払ったまま、霧の地を征く
進むほどに【天華】の刀身に積もる細やかな“ナニカ”が鬱陶しい

私の他にも猟兵のヒト達が来ていたけど、彼らはどうなったのだろう
望むソレに、望みの影に、遭えているのかな

黙々と、行き止まりを求めてひた歩く

私は、私の主だった彼女の幻を―――


※勝手に精神損耗(苦戦)していれば主の幻覚と邂逅
精神が持てば(成功以上)2章はゴブスレ化



 人のようで人ではないのがヤドリガミという存在だ。
 物であると同時に者。その奇妙な在り方によって生じる揺らぎのようなものを人は不安や焦燥、憧憬とも呼ぶのかも知れない。けれども彼らヤドリガミはそれがそういうものであると識るには、物とし存在した年月が長すぎて、それに比べて者として生きた経験が少なすぎた。
 だから、彼らは自らが急に手に入れた心というものに恐る恐ると手をのばすのだ。

(ヒトは、生き物は、自らの幻に溺れることが出来る。なら……刀である、私は……?)
 望むモノに会えるという霧に、敢えて対策もせずに分け入っていく1人の女性。ヤドリガミのファン・ティンタンだ。
 花を燃やすでもなく、逃げるでもなく、渦中に入っていくのは自分が新しく手に入れたこの人のような心体に対する興味か、それとも。
(刀のヤドリガミである私に、生き物じゃない私に、花の花粉が効くのかどうか分からないけど……)
 効くのならば、どうか。
 そう願ったのかも知れない。でなければ態々ここに来る理由にはならない。
(私の他にも猟兵のヒト達が来ていたけど、彼らはどうなったのだろう。望むソレに、望みの影に、遭えているのかな)
 憧憬にもにた想いを、彼女は自覚しているだろうか。その心こそが物から外れた人そのものだとわかっているのだろうか。
 霧は応える。
 白木の鞘から自身そのものである刀を抜き放って霧の地を行く。
 進むほどに自身――刀身――に積もるナニカ。
 鬱陶しくも思うも振り払えぬまま、しんしんと雪のように、まるで道具が人の手に馴染む歳月のように少しずつ、積もって。
――天華。
 銘を。
 今のファンという便宜上の名ではない大切な銘を、呼ばれた。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

フォルター・ユングフラウ
【WIZ】

最も望むモノを見る、か…中々興味深い話だな。
我が望んでいたのは、この様な普通の…人間の父母と共に、ありふれてはいるが慎ましくも暖かな生活を送っていた事……だと言うのか?
馬鹿な、有り得ぬ。
我の住むダークセイヴァーに、この様な光景は有り得る筈も無い。
独りになろうとも、強く在らねば生きていけぬ…父母の愛など、そんな物で我は、…私は……。
……。
…、いや、我は殺したのだ。
自らの手で、父上を。
その父上は、母を殺した。
二人は、もう存在しない…あの陰鬱とした世界に夜の一族として生まれた時点で、我の生きる道は決まっていた。
父上、いや…UC:ノスフェラトゥ、その槍で我を刺し、逃れ得ぬ現実を思い出させろ!



 霧に飲まれていた。構うものかと彼女は王者の風格で受け入れていた。
 邪悪な世界に産まれ落ち、暗闇を産湯に、殺戮を子守唄に育った自分にそんな甘い夢など存在しないと。もし見るとしたらそれは血と絶叫に彩られる地獄そのものだろう。
 暇つぶしにでも一つ鑑賞してやろうと、思っていたのに。
「馬鹿な……有り得ぬ」
 声は震えていたのかもしれない。ユングフラウの網膜に映り、脳が受け入れているそれに恐れていたのかもしれない。 
 温かな家庭。
 ごく普通の父母のもとに産まれて、明るい暖炉を囲んで、穏やかに笑い合う。そんな光景が目の前にあった。
 なんて惰弱。
 唾棄すべき存在だと彼女は強く己に言い聞かせた。
 彼女の住むダークセイヴァーの世にそのようなものはない。あったとしてもそれは狩られる側の、家畜の見る夢だ。
 支配者として君臨してきた自身に、そんな願望があるなど許してはならないのに。
「我は……私、は……」
 父母の愛に惹かれている。穏やかな団らんをあたたかいと感じてしまっている。温もりの中でまどろむように生きていきたい。
 否。否。断じて否。
「父上、いや……ノスフェラトゥ!」
 甘い夢を蹴散らして、闇夜の波動が吹き荒れる。現れ出るは邪悪の権化ヴァンパイア、その死霊。
「その槍で我を刺し、逃れ得ぬ現実を思い出させろ!」
 衝撃。死霊の槍が腹を引き裂き臓腑を抉る。絶叫したいほどの激痛がふやけた脳髄を覚醒させて身体を、心を凍てつかせる。鎧わせる。
 そうだ。このようなもの、有り得ない。
 ユングフラウは無理矢理に酷薄に見える笑みを浮かべる。
 あの陰鬱な世界に生まれ時点で生きる道は決まっていたのだから。
 そうでなければ、ならない。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

神影・鈴之
幻覚だって解ってるのに惑わされるなんて…心が弱いだけでしょ
僕はひっかかったりしないから

けど念の為
「我招く、月夜の番人。契りを守り、護りたまへ。おいで、リン」
リンの毛並みに顔を埋め
獣奏器である鈴を鳴らしながら行くから
もし万が一鈴の音が聞こえなくなったら助けに来てね
そうお願いしてから道を行く

■幻
父様に母様
それに里の皆
巫女様って優しく呼ぶ隣のおじさんおばさんも
怒られても鈴野ちゃんって呼んでくれたあの子たちも
みんな元気で
楽しそうに笑っていて
幻だって強く言い聞かせても心は揺れる

リンの吠え声が聞こえはっとする
そうだね、リン
神様が助けたのは僕だけ
僕は里を護れなかった役立たずの巫女
だから…惑わされず進まなきゃ



「幻覚だって解ってるのに惑わされるなんて……心が弱いだけでしょ。僕はひっかかったりしないから」
 神影・鈴之は嘯いて、何でも無いふうを装う。それもこれも、己の弱さを自覚しているがために。普段からのひねた態度もなにもかも、恐れる弱さの裏返しだ。
「我招く、月夜の番人。契りを守り、護りたまへ。おいで、リン」
 念のためにと呼び出した神獣に顔を埋めるさまは、年相応の不安の発露のようにも見えた。
 鈴の音が聞こえなくなったら助けに来てね。
 神獣のリンに頼み、霧の中へと入っていく。
 はたして。少年の前にもそれは現れた。
「父様に、母様。……皆も」
 少年を囲むように現れたのは嘗ての里の人々と、父母の顔。
 巫女様と優しく呼びかけてきた隣の夫婦も。
 怒られても巫女ではなく名前を呼んでくれた子どもたちも。
 皆一様に生前同様に元気そうで、楽しげに笑っていて、これが幻だなんてとても思えないリアルな質感と温かさで神影の心を揺さぶるのだ。
 遠く、高く。神獣の吠える声が聞こえた。
 そうだ。これは嘘だ。
 神影は固く己に言い聞かせる。
(そうだね、リン。神様が助けたのは僕だけ。皆は、死んでしまったから。僕が無力なばっかりに。僕は皆を護れなかった役立たずの巫女。その罪から、逃げちゃだめだ)
 甘い夢に縋るのは簡単なことだろう。だがそれは、少年が背負ったモノに対する裏切りでもあった。
 幻を見据える瞳は強く、そして目的の為にまっすぐ前を見据えていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

レイジア・ピグマリオ
幻覚を見るならばきっと、自分が守れなかった在りし日の町をみるだろう。
絶望だらけの世界にあって俺を匿い、人形遣いとして育ててくれたというのに、俺の力が足りないばかりに滅びてしまった町。
もし俺が守れたのなら見れていたであろう町とそこに住まう人々の光景を。

しかし傍らにいる俺の人形は、あの頃まだ作り上げられなかった人形だ。
こいつがあの時完成していたら、と何度も空想して後悔した証だ。
どの程度花粉を吸ってしまうかはわからないが、幻覚から抜け出す事が出来るなら、きっとそれが切っ掛けになるだろう。

幻覚から抜け出せたのならば、懐かしく大切なものを見れたことに感謝しながら、花々を人形の爪で刈り取ることにしよう。



 ただの無力なだけの被害者であれば、また違ったのだろうか。
 今は手が届きそうだからこそ、かつての無力を自覚してしまうのはどれほど辛いことだろうか。
 レイジア・ピグマリオが見ているのは自身を匿ってくれた町だ。人形遣いとして、戦うものとしての基礎を教え育んでくれた、大恩の人々。
 今はもうその町は無くなってしまった。彼が無力であったから。
 そう思ってしまうのは何よりも彼自身の責任感の強さ故だろう。きっと彼らが生きていたらそんなことはなかったと言ってくれただろう。
 だけれども、彼らはもう居ない。死者は何も語らない。幻覚はただただ心地の良いかつての夢を見せるだけだ。
 絶望だらけの世界の中で、彼を受け入れてくれた優しい想い出。
 護りたかった。
 護れなかった。
 何度も後悔したその光景に、辛うじて飲み込まれなかったのは。
 傍らにある人形にピグマリオは笑いかけた。
 蒼石のキュクロプス。
 あの時無かった彼の力、武器。この人形があの時あれば、結果は変わっていたかも知れないと何度も夢想したのだ。
 故に。
 この夢は夢でしかない。現実は此方だ。生きていくべき罪も後悔も責務も、此方にしか無い。
「ああ、忘れはしないさ」
 蒼い宝石の埋め込まれた一つ眼の戦闘人形に語りかける。ミレナリィドールでもないそれは無論喋りなどはしないが、どこか満足気にその蒼い宝石が煌めいたような気がした。
「ありがとう。いい夢だったよ」
 夢からは覚めるものだ。どんなに見続けていたい良い夢でも。
 ピグマリオは蒼石のキュクロプスに命じて、甘い夢を刈り払った。

成功 🔵​🔵​🔴​

零落・一六八
【POW】
(自分そっくりの双子の片割れの幻影が、やさしく手を差し伸べてくる。その名前を呼ぼうと口を開きかけ、やめて、へらりとそれを両断する)
こんなもの見るなんて、ははっ、気持ち悪っ。
これが願望だって?反吐がでますね。
ボク達が分かり合うなんてありえないのに。
思い通りになる妄想なんて要らないんですよ。
……ボクはあいつの望むとおりにさせてやりたかったし、それでよかった。
どんなに非難されたってかまわない。
ずっとそう決めていたから、ボク等は後悔なんてしちゃいない。
(今は亡き自分の元になった人物を想い)
だからボクはこんなものには惑わされない。
(自分に苦無を突き立てて)
さて、目は覚めました。伐採開始ですよ。



 電子の精霊は夢を見るのか。
 0と1の厳密で静謐な父母を持つ彼らにも望むものはある。人工知能の推定などとは趣が異なる明確な意志が存在する。

 零落・一六八は、自身に伸ばされる鏡写しのような存在の手を黙って眺めていた。優しげな手だと感じた。そのまま触られても良いのかもしれないとも。
「……っ」
 思わずその名を口にしかけて、やめる。そんな無様な自身をあざ笑うように口をへらりと歪めて。
「こんなもの見るなんて、ははっ、気持ち悪っ。これが願望だって? 反吐がでますね。ボク達が分かり合うなんてありえないのに。思い通りになる妄想なんて要らないんですよ」
 死者が存在することをありえないと看破するように。彼は彼と分かり合うことをありえないと断じた。
 あり得なさすぎるから、どんなに精巧に作られていたとしても飲まれるわけにはいかない。
 それは彼だけではなく、自分自身への否定にもなるから。
「……ボクはあいつの望むとおりにさせてやりたかったし、それでよかった。どんなに非難されたってかまわない。ずっとそう決めていたから、ボク等は後悔なんてしちゃいない」
 甘いだけの願望などいらない。あの選択は間違ってなんか居なかった。高らかに宣言すると束の間彼は遠い目をした。
 願望の彼か、それとも別の誰かか。何を想ったのかは彼以外にはわかりはしない。
「だから、ボクはこんなものには惑わされない」
 おもむろに抜き放った苦無を自らの太ももに突き刺した。
 それは痛みによる覚醒の為という以外にも、どこか自身への罰のようにも感じられた。
「さて、目は覚めました。伐採開始ですよ」
 甘い夢はおしまいにしよう。これからはくだらなくて適当で、不確定でカオスな現実の時間だ。

成功 🔵​🔵​🔴​

雪生・霜逝
ウォーマシンは夢を見るか。自分に限って言えば、真だ。生体組織と機械神経の歪な接合痕から、思い出せない記憶が剥離して。氷華のような、曙光に溶けて消える夢を見ては、再び忘却する。
わたくしらしくもなく、思考ネットワークが自己参照的な物思いに耽れども、機械仕掛けの歩みは止まらず。ダミー人格に操縦を任せた身体は、適切な破壊行動を実行いたします。足元の花を【踏みつけ】て土ごと押し固め、叢を"記憶"――内蔵砲台からの【一斉発射】【範囲攻撃】で土壌ごと焼き払い。雪のように舞う燃え殻が美しかったので、わたくしは半ば夢見心地で、花園を踏み躙るのでございます。たとえ灰吹雪の中に、幾度も忘れた筈の亡霊を垣間見ても。



 カミも精霊も夢を見た。
 ならば機械は?

 雪生・霜逝の動揺の一切見えない滑らかな所作は実に機械らしかった。プログラムどおりの動きで遅滞なく花々を駆逐していく雪生に、幻覚に惑わされているような兆候は見えない。
 花々を踏みつけて土の中へと押し固め、内蔵砲台を展開して焼き払う。
 高温で焼き払われた花が舞い散って、小さく悲鳴のような音を立てながら燃え尽きていく。
 まるで彼自身が悪夢のような冷酷さだ。
 ウォーマシンは幻覚をみないのだろうか。いいや、そんなことはない。見るものが哀惜なのか、後悔なのか、慕情なのかはわからないかれど。踏み出す足の淀みのなさに見えずとも、無慈悲な火線に紛れようとも、それは確かにある。
 実際に彼の内部人格プログラムは大量のエラーを吐いていると言っても過言ではない。だからこそ、作戦への支障を危惧しダミープログラムを走らせるような真似までしているのだ。
 普段の仕事ならばそんな事はしない。彼は彼のまま敵に当たりその尽くを撃滅してきた。それが今はできない。雪生がいかに参っているかの証左であった。
 生体組織と機械神経の歪な接合痕から、思い出せない記憶が剥離して。氷華のような、曙光に溶けて消える夢を見ては、再び忘却する。
 記憶にない記憶。
 覚えられない美しいものたち。
 静止映画のようにぱらぱらと、高速で訪れる思い出せない何か。
 それは怨念のようだった。幾度も幾度も忘れた筈の亡霊が現れては消えていく。思い出せと。忘れるなと。嘆くように。
 舞い踊る灰吹雪の中、身体という檻の内側から雪生はそれを見つめ続けていた。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

ジェイクス・ライアー
厄介な代物が出てきたな。
花粉が原因だと分かっている以上、何も対策を打たないほど馬鹿ではない。ガスマスクを装備に加え、向かおう。

ーーー…
硝煙、肉の焼ける香り
弾幕、怒号、この戦場だ
血が沸騰する、心臓が脈動する。生を感じられるこの戦場こそ俺の居場所だ。

ああ、だが俺が求めていたのは、これではないのだ。
温かな光。…天国?
俺でもこれたのだ、この場所にようやく。
どこまでも美しい天使の広げる手に抱かれて

【WIS】
ーーー否。
この私が天国になど行けるはずがない。
天使を、神を殺す。
何度、何百度、神の教えを読んだだろう。自分の到達できる場所ではないと、何度絶望しただろう。
アルコールを巻き、火をつける。
夢などいらない。



 原因が花粉、物質である以上対策もまた容易に取ることが出来た。
 ジェイクス・ライアーは、顔面をすっぽりと覆うガスマスクを装着し事に臨む。
 どんな生・化学だろうと口から入るものであれば対策は万全であろう。
 だというのに何故か。
 マスクのレンズ越しに見え、感じるこれはなんだ。
 肉が焼け、銃声と爆音、悲鳴と怒号が渦巻く戦場がそこにあった。なんてリアルな幻覚だろうか。
 空薬莢の跳ねる澄んだ音まで耳に届く。撃った直後につんと鼻を突く無煙火薬の癖になりそうな臭いさえもがありありとこの場に顕現していた。
 だがそれは彼の居場所だ。なるほど、やはり自身はこの日常こそを望んでいたかと、冷笑しようとした刹那。
 天使が舞い降りた。
 比喩ではなく天使そのもの。神の御使い、許しと裁きの代弁者たる天使が今目の前に。
「おォ……」
 跪きたくなるような神々しさに知らず声が漏れた。彼らに手を引かれ神の国へと行ける時がついにきたのだ。
 天使の広げる手に抱かれ、今。
 否。
 ライアーは今度こそ冷笑する。そんな事はありえないと。
 自分はなんだ。自分はだれだ。ジェイクス・ライアーだ。俺ななんだ。なにものだ。猟兵、戦場を駆ける薄汚い野良犬。
 そこまではっきりすれば、ずしりと手に馴染む銃把の感触。
「It is what it is」
 囁きを祈りに代えて、発砲。
 ゼロ距離から放たれた散弾が、美しい天使の身体を粉微塵にすると同時に視界がクリアになる。思考が明確になる。
 仕事だ。神も天使も救いも、有りもしないモノよりも仕事が今日の糧となる。
 夢などいらん。そう吐き捨てて男は一帯に炎を放つのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

水衛・巽
これガスマスクレベルでも無理よね、絶対そうよね。
一応鼻と口元は覆ってから取りかかりますか。
気休めにしかならない気配満々…。

とりあえず、花なんだから燃やして駆除するのが一番?
風上から近付いて群生地の縁から丁寧に、延焼しないように。

性質上、サッと行ってパッと燃やして離れる、が
最適解な気がするけど…
たち悪すぎるし絶対繁殖力最強だろうし。
ジレンマだわ。

…ねえ、ちょっと待って。
どうしてただの一般人がこんな所にいるの。
私の父は猟兵でも、なんでもないのに。



「これガスマスクレベルでも無理よね、絶対そうよね。一応鼻と口元は覆ってから取りかかりますか。気休めにしかならない気配満々……」
 彼女、いや彼、水衛・巽の読みどおりそれはガスマスクですら気休め程度でしかない異界の花だ。魔の存在する世界において科学はそこまで万能ではない。だが気休めでも対策を積み重ねる事は大事である。
 奇抜な口調とは裏腹に水衛は実に堅実で的確な行動をした。呼吸器を守り、風上から攻め、任意で消火すら可能な己のユーベルコードの火を使う。およそ思いつく限りの最適解とも言える。
 呼び出した神鳥がいくつもの炎を生成して花畑をジリジリと燃やしていく。
 上手く言っている様に見えるが、水衛は安心しない。寧ろその不安はジリジリと身を焦がしていった。迫りくるナニカを予感して。
 悪い予感というものは往々にしてよく当たる。
 炎の中に、人影が揺らめいている。
「……ねえ、ちょっと待って」
 声は動揺を隠せない。
「どうしてただの一般人がこんな所にいるの。私の父は猟兵でも、なんでもないのに」
 そこには彼の人生の大半を決定づけたと言っても過言ではない、あの父が。
 いや、これは幻覚だ。水衛はかぶりをふって幻に囚われそうになる自分を叱咤した。術師がこの程度の幻影に惑わされてどうするというのだ、と。
 其のかいあってか、彼は幻覚に走り寄ったり声をかけるような囚われ方はしなかった。ただ黙って、己の父の幻影を見つめ続けた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

忠海・雷火
マスクを着用、更に縁を片手で抑え
もう片方の手は武器の柄を掴んだ状態で縛り付けておく

願望。普段は考えないようにしている、願望
学校から帰ってきて、お帰りを聞いて。あの日はそう、誕生を祝って貰う日で
そう、ただ家族と暮らせていれば良かった
平凡な家庭で、父と母と弟と一緒に、幸せに暮らせていれば、それで……

でも、この手に感じている感触こそ、幻と現実を隔てる明確な齟齬
光を放つ刻印は、家族を喪った時に刻まれたもの。掴んでいる武器は、喪った後に手にしたもの
私達だけ生き残るくらいなら、皆と共に死ねれば良かったのに、それすらも叶わぬ過去だと知っている!

何故なら私達は未だ現実に、武器を振るい、血を啜って生きているから



 願望。普段は考えないようにしている、願望。
 マスクをしっかり装着した忠海・雷火が見ているのは、在りし日のありきたりな風景だ。
 ただいま、おかえり、から始まるいつもの午後の一幕。邪悪に貪り食われ、絶えてしまったはずのその続きを彼女は今、目にしていた。
(学校から帰ってきて、お帰りを聞いて。あの日はそう、誕生を祝って貰う日で)
 家族一緒に食べるいつもより少し豪華な食事。
 弟が、父が、母が、一生懸命用意してくれた誕生日会。
 暗くした中で吹き消す蝋燭の火。
 中身は予想がついているけれど、それでも楽しみにしていた箱の中のプレゼント。
 ありきたりすぎて涙が出るほどのあたりまえが、今ではもうどれほど手を伸ばしても掴めないはずだった楽園がそこにある。
(お父さん、お母さん)
 伸ばそうとした手にかかる重み。学校の鞄などではない。鞄はこんな、金属のように重くは――。
 それは一振りの無名の刀。自らの手にしっかりと固定された、殺しのための利器だ。それを視認した時、忠海の楽園は一気に遠のいた。冷たい現実が、鋼の重みで蘇った。
 光を放つ刻印は、家族を喪った時に刻まれたもの。掴んでいる武器は、喪った後に手にしたもの。
「私達だけ生き残るくらいなら、皆と共に死ねれば良かったのに、それすらも叶わぬ過去だと知っている!」
 無情な現実へと叫び、力を開放する。
 コード、氷桜雪花。
 凍てついた桜の花弁が、花畑を無残に切り裂いていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

戒原・まりあ
私の見そうな幻覚は、分かってる
ひとの形にもならなかった赤ちゃん
だから
――ねえまりあ、力を貸して
【オルタナティブ・ダブル】

はーいっ、薔薇原まりあ登場だよっ
戒原まりあの見る幻覚は、私が見ても、分からない
だから
藤堂さんが手遅れだって言ってた男の人を、探しに、花畑の中へ
手遅れなくらいで救うの諦めないよね、ジン(f08098)さん?
ねえ、救い主はそうでなくっちゃ!
方々で赤ちゃんの泣き声がうるさい気もするけどそこはまあしょうがないかー。
ジンさんに霧を照らしてもらいながら、私は【救助活動】しまーす。
あっ勿論私が自由に探せる範囲までは1人目のまりあにも入ってきてもらうからね。覚悟決めてね。
よーし、いっくよー!


ジン・エラー
オレの願望?
そりゃ決まってる
オレが誰も救う必要のない
オレが暇を持て余す世界だ
天国
桃源郷
ユートピア

ああ、イ~ィ世界だ

でもな
そンな世界がありえねェことぐらい
オレが一番よくわかってるンだよ

だからオレは相変わらず救うぜ
諦めろと言われて、諦められることでもねェーンだわ
ちょっくら付き合えよ、まりあ(f00556)

オレの【光】で霧は晴らすし、多少はこのクソ粉もマシにはなンだろ
余裕だ余裕
さっさと探すぞ



「諦めろだぁ? そんなん言われたら救ってやるしかねェーだろ。いや、言われなくたって救い倒すがなァ!」
 どこか陰鬱で幻想的な霧の世界を、自身が放つ光で照らしながらズカズカと進んでいく男がいた。
 ジン・エラーだ。そしてその後ろを行くのは戒原・まりあ。
 彼らには幻覚が通用しないのか? 否、そんなはずはない。
 この霧、花粉は人種族に尽く通じる尋常ならざるモノ。真に望む物を見て足を止めないものなど居ないはずなのに。
「そういえばジンさんはなんで霧が効かないの? 私と同じ多重人格者だから?」
「イ~ィ質問だ、まりあ。別に効いてないわけじゃねェぜ。ただ、それを見たからって止まる理由がないってだけだ」
「どういうこと」
「お前には何が見える? いや、お前じゃない方のまりあか?」
「赤ちゃんだね。おぎゃあおぎゃあって、ずうっと煩いったら。だからもうひとりのまりあは、私の中でお留守番」
「そりゃまた賑やかでよさそうだ! 俺にはな、俺が暇な世界がみえてんだ」
「暇な世界?」
「そう、俺が救う必要もねェ、俺が走り回る必要もねェ天国、楽園、桃源郷、ユ~トピアさ」
 おどけたように語る顔半分しか見せていない男。その目はとてもキラキラと輝いていて、実際その素晴らしい世界を見ていることはなんとなくだが薔薇原にも伝わった。
「いいところだね」
「おう、いいところさ。だけどな、今まさにその幻に齟齬があるっつーんだから止まって鑑賞会とはいかねェわな」
「どういこと?」
「グリモア猟兵がいってた奴だよ。諦めろって言われた奴さ。諦めて、この楽園があるか? ねェだろ。だから助けに行く。シンプルだろ?」
「なるほど! 救い主はそうでなくっちゃ!」
 タガの外れた者たちのタガの外れた会話。救いなど、ありはしない。不可能なものは不可能だ。猟兵と言えど神ではないのだ。
 まともな者がいたならば眉根でも寄せてそう心の中で突っ込んだことだろう。
 2人は幻覚など気にすること無くずんずんと進む。光でてらし、2人で手分けして。見つからないなら見つけるまでやるまで。
 轟々と火の手が迫ってきている中で2人はそんなもの視界にすら入らないと被害者の男を探す。
 やがて。
「いた!」

 さて、なぜ諦めろと言われたのか。通常人は寝食をしなくとも即死するような弱い生物ではない。徐々に弱っていき緩やかに死ぬのだ。救助が早ければ多少の栄養失調か脱水程度だろうに、何故。
 答えは今、目の前に。
「GIGIGIGIGIGYA?」
「IGIIIGI!!」
 子供はよく生き物に対して非道な行いをする。羽をむしり、手足をもぎ、水攻めにする。火を覚えたら火攻めもいいかもしれない。
 つまりは、そういうこと。

 急な人の登場と、火の手が迫っていることに今気づいたのか、ゴブリンが男から離れて距離を取った。
 男は、生きてはいた。生きているだけだが。
「諦めろってそういう……」
「だーからその程度でハイソウデスカっていくわけねェだろ! 救うぞ! まりあ!」
「うん!」
 ジンとまりあは男を抱え、轟々と燃え盛る花畑から一気に脱出を図るのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

マレーク・グランシャール
【壁槍】出水宮・カガリ(f04556)と共に

花畑は燃やした後に鍬を入れて掘り返し根絶やしにした方がいいと思う
カガリが何か考えているようだからくっついていこう

カガリが幻覚に囚われたら齧り付いて痛みで目を覚まさせる
自分が幻覚を見てもカガリを喰うだろうな

俺の中にあるのは「こんな事ならいっそ俺が喰ってしまえば良かった」と言う後悔と深い悲しみ、そして「喰えば正も邪も全て俺の血肉となって生き続ける」という歪んだ思想だけ
胸の紋様と引き替えの記憶は戻ることはない

カガリは新米の俺にも親切にしてくれるいい先輩だが、いつまで壁として俺の前に立っているのだろう
いつか失うものならば、いっそ今ここで喰ってしまえばいい


出水宮・カガリ
【壁槍】マレーク(f09171)と

まる、まる(※マレーク)この湿った布で目から下を隠すといい
多少は防げると思う
花畑は、残念だが燃やしてしまうのに賛成だ
…もし、カガリが足を留めたら、何をしてでも連れ戻してくれ
お前が何かに囚われても、カガリがしっかり殴ってやる

…ヤドリガミとして生まれた日、カガリの都は滅んだ
城門は破られ、都は蹂躙された
ただ、残骸として残ったのがカガリだ
空虚と、後悔と、無念と
それが、今のカガリの根源

あの黄金の都の、栄華を想う
移ろう四季、季節の祭り、賑わう人々の、平穏な暮らし
今度こそは城壁の内に閉じ込めて
この腕の中へ一人残さず、囲い込んでしまえば
今度こそは、守れると――



 それは出水宮・カガリが生まれ落ちる前の記憶であり、栄華を誇った都の過去でもあった。
 黄金の都とすら称されたきらびやかな繁栄の日々が、今目の前に。
 幻は視覚だけではなく芳しい薫りと爽やかな風の音まで連れてきた。朝にはパンの焼ける匂い、昼には家々に干されたシーツを撫でた風が、夜には酒場の喝采が、失われたはずの物が触れられるほどにリアルに映し出されている。
 本当にそれは幻覚なのだろうか。もしかしたら、もしかしたら。
 やり直せる機会を誰かが与えてくれたのではないか。
 今度こそは城壁の内に閉じ込めてこの腕の中へ一人残さず、囲い込んでしまえば。
 今度こそは、守れると――。
 激痛が出水宮の意識を浮上させた。
 景色も匂いも音も、全て崩れ去っていく。まるであの日、蹂躙され尽くした時のように。
 守るべきだったのに。守ることが存在意義だったのに、出来なかった。
 空虚と、後悔と、無念に、出水宮は呆然とするしか無かった。

 腕に噛み付いていたマレーク・グランシャールが、漸くその顎を離しても、出水宮はまだ心ここにあらずといった状態だった。
 幻を見ていたときのような危うさからは脱したが、今はそれよりも、儚い。
 今にも崩れ落ちてなくなってしまいそうな虚ろな表情をする出水宮の感情を、正確にはマレークは理解できない。ただ辛いのだとしか感じることができない。慰め方もわからない。
 過去を想って心を患うという精神構造を竜の彼は持ち合わせていなかったから。彼の死生観は野生のシンプルさと力強さに根ざしている。だからこそ幻を見にくく、出水宮が完全に幻覚に囚われるのを阻止できたのだが。
 不意にマレークに魔が差した。
 この好ましい者を食ってしまえばいいのではないか、と。
 噛み付いた時に味わった感触。今にも消えてなくなってしまいそうな儚い表情。
――いつか失うものならば、いっそ今ここで喰ってしまえばいい。
 喰らってしまえば正も邪も全て血肉になって生き続けるのだから。この男と共に生き続ける、考えれば考える程いいアイデアに思えてきた。
 マレークは喉を鳴らして微笑んだ。獲物を前に獣がそうするように。

 丁度その時、他の猟兵達が放ち、花を喰らって成長した炎が2人を追い立てるように迫ってきていたのは、誰にとっての幸運で、誰にとっての不幸だったろうか。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『ゴブリン』

POW   :    ゴブリンアタック
【粗雑な武器】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    粗雑な武器
【ダッシュ】による素早い一撃を放つ。また、【盾を捨てる】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ   :    足払い
【低い位置】から【不意打ちの蹴り】を放ち、【体勢を崩すこと】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 花畑が燃えている。轟々轟々唸りをあげて。
 猟兵達は無事、全員がその外に到達することができたが、火に追われて現れたのはなにも猟兵たちだけではない。
 ゴブリン。
 醜悪で卑劣で低能で、けれども何故か駆逐できない化物。
 彼らは怒り狂っていた。
 折角楽に狩りができる場所だったのに。それを横からやって来てぶっつぶした人種族共。許せるわけがない。
 殺意に瞳を濁らせて、ゴブリンが猟兵達に襲いかかった。
「っ!?」
 誰かが息を飲む。
 別にやられたわけではない。ゴブリン程度にやられるやわな猟兵はいないはずだ。ではなぜ。
 ゴブリンではなかったのだ。その者の目に映っているのは。
 霧を吸った(🔴1以上)者にはゴブリンが大事なものに時折重なり。
 重篤な(🔴2以上)者には完全に大事な人が、武器を振り上げて襲いかかっているように映っているのだった。
 彼らは幻とは言え、本当に望んだモノに刃を向けねばならなくなった。
ヘンリエッタ・モリアーティ
【WIZ】(真の姿:マダム・ヘンリエッタ・モリアーティ)
……待って、待ってマダム!出てこないで、だめよ、貴女は、視ないほうがいいの。こんな光景、だめよ。だめなの……マダム、やめて!やめ――。
悪いね、『ヘンリエッタ』……君には、こんな運命を譲れないのだ。――ははっ、会いたかったよ、ホームズ!
私と滝に落ちたあの日から、君が死んでいないと思っていたさ!私だけが生き残ったはずがない!君は――私が殺すまで!死ぬまい!ああそうさ、君は私が殺すのだから!もう逃がさないぞ!
焔などに君を殺させはしないさ!ああ、君を――『愛(殺)したくてたまらない!』



 ゴブリンたちのこの群は、豊富な餌と安全が確保されていたがために巨大なものとなっていた。
 津波のような、と表現してもいい数のゴブリン達が猟兵達に襲いかかる!

 ヘンリエッタ・モリアーティはその軍勢を前に恐れるようにいやいやとかぶりを振った。
 ゴブリン達が舌なめずりをしてヘンリエッタへと殺到する。
 彼らゴブリン族は他種族の恐怖と絶望の気配に敏感だ。蹂躙し、奪い、穢す事こそが彼らの本分であるからこその嗅覚。
 だがしかし、彼らは1つ思い違いをしていた。恐れの感情は確かに外れてはいない。けれどもそれは、戦いでも、ましてやゴブリンに向けたものでもなかったのだ。
「……待って、待ってマダム! 出てこないで、だめよ、貴女は、視ないほうがいいの。こんな光景、だめよ。だめなの……マダム、やめて!やめ――」
 その変化をなんと言ったらいいのだろうか。見た目は変わらないというのに、完全に人が変わったような。昼と夜が瞬時に切り替わったような違和感を、見るものは感じたことだろう。
「悪いね、”ヘンリエッタ”……君には、こんな運命を譲れないのだ」
 口調が変わる。よく見れば目の色も、底なしに深く昏いタールのような禍々しいものに変わっている。
 今度はゴブリン達が恐れる番だった。矮小な彼らはいつだって生命の危機にも敏感だ。が、それに気づくのは少し遅かった。
「――ははっ、会いたかったよ、ホームズ! 私と滝に落ちたあの日から、君が死んでいないと思っていたさ! 私だけが生き残ったはずがない! 君は――私が殺すまで!死ぬまい!ああそうさ、君は私が殺すのだから! もう逃がさないぞ! 焔などに君を殺させはしないさ!ああ、君を――”愛(殺)したくてたまらない!”」
 ぬらぬらと蠢く触手が、彼女の後ろから急に湧いて出た。
 ゴブリン達が驚きに声を上げた。
 それが、殺戮の合図になった。
 まず最初のゴブリンは、わけもわからないうちに喉笛を引き裂かれた。とめどなく溢れる血を、抜けていく空気を、どうにか押し止めようとばたばたと藻掻きながら死ぬ。
 次のゴブリンはまだ慈悲があった。頚椎自体をぽっきりと折られた彼は、苦しむこと無く、苦しみを感じる感覚すら奪われて死ぬ。
 ゴブリンを殺して回っているのは犬だ。いや、犬のようななにか。
 それを正確に表現する言葉は人の中には存在しない。それほどに悍ましく冒涜的なナニカが、ゴブリン達の命を刈り取ってまわりはじめた。
 ヘンリエッタの形をしたナニカはその地獄のような様をただ高笑いして見つめている。
 彼女の目には愛しい誰かに見えているのだろう。それがゴブリンの数だけ、無数に迫ってきて尽くが噛み殺されて死んでいく。その様は正気では耐えることの出来ないものだろうに。
 彼女はひたすらに笑っていたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
……ああ、そうだろうよ。
最も望むものが見えるというなら、お前の他には何もないよな。

金の髪。紫の目。私とは似ても似つかない少女。
そうだ。それでも、お前は――正真正銘、私の片割れだ。

たとえその姿が重なるとしても、容赦はしない。【ドラゴニック・エンド】で仕留める。
召喚した蛇竜の炎で燃やし尽くしてくれる。
……なあ、本当にお前が私の片割れならば、懐かしいのじゃないか。
私たちの故郷を燃やしたのは――お前だものな。

片割れとして、お前を愛していた。今だって愛している。
……だが、許しもしないよ。絶対に。



 ニルズヘッグ・ニヴルヘイムの目にうつるのはかつての焼け野原。故郷の最期だ。轟々と燃える花畑のせいもあり幻覚とは思えぬリアリティがある。
 そして無論、それだけではない。
「……ああ、そうだろうよ。最も望むものが見えるというなら、お前の他には何もないよな」
 金の髪、紫の目をした少女。
 私とは似ても似つかないな、と改めて見てもそう感じる。片割れだというのに、まるで真反対の見た目だ。
(そうだ。それでも、お前は――正真正銘、私の片割れだ)
 彼の顔に浮かぶのは望郷、愛おしさ、そして……
 Ormar――黒々とした長槍が少女を容赦なく貫いた。
「GIYAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!?」
 次いで、コード、ドラゴニック・エンドを起動。
 槍が深々と貫いたそこから、巨大な竜が顕現し幻影をまとったゴブリンを内部から引き裂いて粉微塵にした。
 何時も通りの簡単な狩りだと未だに考えていたゴブリン達に動揺が走る。それはそうだ。いきなり目の前にドラゴンが現れたのだ。最上の捕食者を操るような者がただの餌なわけがない。
 逃げるべきだ。
 彼らの小さな脳味噌が生存のための最適解をはじき出すまでに要した時間はほんの数秒。だが、それは致命的な遅さだった。
「GI、GIGIGIIIIIII!」
 火柱があたりを包んでいる。
 ドラゴンの吐いた炎がゴブリン達を満遍なく焼き殺し始めた。最早逃げることはかなわない。炎に巻かれ、全身を焼き潰し、呼吸を殺されて、次々にゴブリン達が其の場に崩れ落ちていく。
(……なあ、本当にお前が私の片割れならば、懐かしいのじゃないか。
私たちの故郷を燃やしたのは――お前だものな)
 炎の際に立ち、焼け死んでいく少女の幻影を見つめながらニヴルヘイムは過去へと想いをはせる。なんとも皮肉な話だ。故郷を燃やした少女が、今こうやって故郷の幻影の中燃えて死んでいく。
 (片割れとして、お前を愛していた。今だって愛している。……だが、許しもしないよ。絶対に)
 金色の瞳が火葬場を冷たく見つめていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

フォルター・ユングフラウ
【WIZ】

忌々しい、実に忌々しい花粉だな…!
父上も母ももはや存在しない、あれはまやかしだ。
惰弱な、唾棄すべき夢…我は断じて、こんなものに屈する訳には…!
持てる技能を全て駆使して、纏いつくまやかしを斬り伏せてやる。
そうだ、父上…貴方が、私にこう在れと言ったのではないか。
人間は、貴方が愛した母ですら、家畜でしかないと。
だから私は、我は、そう在り続けてきた…我が歩んで来たのは血塗られた外道の道、今更父母の幻影程度で足を止める訳にはいかぬ!
視界が滲み、鎌を握る手が震え、膝を折りそうになっても…UC:トーデスシュトラーフェ、我自らの手で斬り捨てねば……っ!



 腹からの傷が癒えきっていないユングフラウに、ゴブリンが迫る。
 いや、彼女にはそれが無数の理想的な父母に見えた。それらが粗末な武器を手にもって襲いかかって来る様は中々に悪意的だ。
「……忌々しいっ!」
 腕を伸ばしてくる父母を、理想の両親を、ユングフラウは自らの手で引き裂いて殺した。
 絶叫。
 人のものとは思えぬ声を上げて倒れ伏す父母。それを見つめるユングフラウには常の余裕は欠片も無い。
 忌々しげに、痛ましげに、彼らの死骸を見つめるのだ。
「父上も母ももはや存在しない、これはまやかしだ。惰弱な、唾棄すべき夢……我は断じて、こんなものに屈する訳には……!」
 だったら何故、未だにその死骸から目を離せずにいるのか。何故、そんなにも自らに言い聞かせようとしているのか。
(そうだ、父上……貴方が、私にこう在れと言ったのではないか。人間は、貴方が愛した母ですら、家畜でしかないと。だから私は、我は、そう在り続けてきた……)
 悲劇だったのだろう。闇の中に産まれ、闇として生きることにあまりにも適正があったが故の。本当の望みに必死に耳目を塞ぎ抗う様は憐れですらある。
 無論、他の父母達がその隙を放って置くわけはない。わらわらと迫る彼らに向かって構える得物は、かたかたと震えていた。
 実父を手に掛けた時でさえこんな風にはならなかっただろう。今の彼女は恐怖の女帝ではなく、迷子の少女のようにおぼつかなく頼りない
 それでも抗うことが出来たのはひとえに実父に望まれた在り方故か。
「我が歩んで来たのは血塗られた外道の道、今更父母の幻影程度で足を止める訳にはいかぬ!」
 叫びをキーワードにして、ユーベルコード、トーデスシュトラーフェ起動。
 転移、斬撃。転移、斬撃、転移、転移。
 幾度も繰り返して、幾度も無邪気な願望を自らの手で引き裂いて。斬り裂いて。殺し尽くして。
 血に沈んでいく父母の姿が、滲んで歪んだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

レイジア・ピグマリオ
【SPD】
ゴブリン共とて、自分自身が生きるために俺たちに向かってくるのだろう。
ならばそれはきっと、あの日生きるために絶望に挑んだ町の人々と重なる部分もあるのかも知れない。

だが、それがどうしたのだという。
もしこれが幻でなく彼らの亡霊そのものであったとしても、俺がやることは変わらない。
救うべきものを救い、倒すべきものを倒す、それが彼らへの弔いだと決めたのだから。

やることは単純だ。【絶望の福音】でゴブリンの攻撃を回避し、【フェイント】と【2回攻撃】を駆使して人形の爪によるカウンターを叩き込む。
あえてカウンター戦法に徹するのは周りを見るため。もし他の誰かが苦戦するようなことがあれば、援護に向かう。



 自分に向かって来るゴブリン達を見つめるピグマリオの目には、憎悪や恐れは無かった。確かにゴブリン達にかつての恩人達の姿は重なるものの、それで揺れるほど彼の決意は甘くはないし、なにより隣りにいる頼りになる人形がそれを許しはしないだろう。
 もしこれが幻でなく彼らの亡霊そのものであったとしても、彼がやることは変わらない。救うべきものを救い、倒すべきものを倒す、それが彼らへの弔いだと決めたのだから。
「GIGI!」
 突撃してきた2体のゴブリンの攻撃を紙一重で避ける。
 お返しとばかりに繰り出したキュプロスの爪が、同時に彼らを引き裂いていた。
 攻撃をしている最中ならば隙もあろう。そんな事を考えたのか、同族を囮にしてゴブリンが背後から襲いかかる!
 が、先程同様に紙一重で避けられてしまう。まるで来ると分かっていたかのように。
 ユーベルコード絶望の福音の効果、未来視の如き見切りを可能とする技が発動していたのだ。無論ゴブリン達にはわからない。何故だからわからないが後ちょっとの所で当たらないとしか思わない。
 結果誘蛾灯に惹かれる蛾のように、殴りかかりに行っては人形の爪で無残に引き裂かれることになる。
(他は……辛うじて、といったところだが大丈夫か)
 こと近接戦闘においてこの技に比肩するものは少ないだろう。周囲の猟兵を気遣う余裕すらピグマリオにはあった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ファン・ティンタン
私の、主―――

快活な短髪を風に揺らす、
(飲食を求めぬ喉が渇く)
右腕に鈍色の義肢を纏う、
(血の通わない身体が早鐘を打つ)
カラカラとよく笑う、
(物を見るだけの目に熱がこもる)
首巻と黒い外套を靡かせる、
(開かぬこの右目にさえ映り込む彼女が)
彼女が、私を、白い一振りを振りかぶっていて―――

ごつり

雑な
精細のない一太刀が
一太刀と言うのもおこがましい衝撃が
在るかも分からぬ心を、凍てつかせる

―――あなた、誰?

箍が、外れる


【殺気】【恫喝】【力溜め】【残像】【2回攻撃】【生命力吸収】【鎧砕き】【恐怖を与える】【呪詛】【属性攻撃】
考えうる己の負の感情が破裂する
幾重の【天華(複製)】が刺し穿ち薙ぎ払う


おまえは、誰だ?



(私の、主―――)
 ファン・ティンタンの瞳に映るのはかつて彼女の所有者だった女性。
 快活な短髪を風に揺らす様を見れば、飲食を求めぬ喉が渇く。
 右腕に鈍色の義肢を纏うかつてのままの姿を見れば、血の通わない身体が早鐘を打つ。
 カラカラとよく笑うあのかんばせ。物を見るだけの目に熱がこもる。
 首巻と黒い外套を靡かせる、開かぬこの右目にさえありありとその姿が映り込む彼女が。
 彼女が、白い一振りを振りかぶっていて――。
 ごつり。
 雑な、精細のない一太刀が一太刀と言うのもおこがましい衝撃がファン・ティンタンの在るかも分からぬ心を、凍てつかせる。
(―――あなた、誰?)
 箍が、外れる。
 それはとてもとても純粋な、怒り。
 大切なモノを穢された時に感じる怒りだ。
 殺気が、怒気が、波濤となって主の紛い物に叩きつけられる。動くことすらままならないソレは次の瞬間には無数の剣に突き刺されて絶命していた。
「おまえは、誰だ?」
 刃よりも尚鋭い声が、ゴブリン達を震え上がらせた。彼らは虎の尾を踏んでしまったのだと気づいたが全ては遅きに失した。
 刃の嵐が、ゴブリン達の悲鳴すら飲み込んで吹き荒れた。

成功 🔵​🔵​🔴​

八上・偲
わたしは大丈夫、大丈夫だもん。
一人でもちゃんと出来るの。
負けない、もん。

『黒騎士を伴う残火の王女』で騎士を呼んで、手伝ってもらうね。
どちらかというと弱ってるのを狙って、数を減らす方を優先的に。
わたし自身も『炎帝の審判来たりて』で【属性攻撃】【援護射撃】したり。
【オーラ防御】で最低限の守りもしつつ。

あの人たちが見えたって大丈夫。ちゃんと燃やせる。
けど、でも、もし、
玖寂(f00033)が、わたしと、偲と一緒にいてくれている人が見えたら、
わたしの手が、止まってしまうかも。

……玖寂……。

ごめんね、ガイスト君、大丈夫。大丈夫だから。



(わたしは大丈夫、大丈夫だもん。一人でもちゃんと出来るの。負けない、もん)
 幻影が重なるゴブリン達を見つめて、八上・偲はそれでもしっかりと立っていた。
 ちゃんと燃やせる。燃やさなければ駄目なのだ。
「ガイスト君、お願い」
 ユーベルコードで召喚された全身甲冑の騎士が、姫に侍る従者のごとく恭しく、力強く前にでれば炎を放って父を、母を焼いていく。
 否、アレは知らない人だ。自分とは関係ない人達だから、燃やしても全く痛切には感じない。自分の大事な人とは違うのだから。
「う、そ」
 ならばお前の大事なものを見せてやろう。そんな意地の悪い何者かの笑い声が聞こえた気がする。
「……玖寂……」
 父でも無い、母でも無い、偲の大事な人。
 一緒に居てくれる彼が、今まさに目の前に現れてその手に持った粗雑な武器で偲の頭を叩き割ろうと――。
「GYA!」
 玖寂が、否、その紛い物が槍に貫かれてもがいている。騎士の放った槍だとは、偲には一瞬理解が追いつかなかった。
 様々な感情が心を埋め尽くして、上手く処理することが出来ない。
 まだ年若い少女には過去と向き合うことも、大事な人に武器を持って拒絶されることも、ましてや死んでいくことも全て荷が重すぎる。
 幻、幻だから。本当ではないから。何度もそう言い聞かせても心がバラバラになってしまいそう。
 気遣うように側にやってきた騎士に、そっと手を触れる。
「ごめんね、ガイスト君、大丈夫。大丈夫だから」
 その声は悲しいほどに震えていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

上月・衒之丞
はん……ちゃちい幻惑でありんすな。
その幻惑はもうあちきには通じなんし。
おんしが親でも何でも、人型であるなら殺し方は変わりんせん。

単分子ワイヤーを伸ばし、首へと絡ませて引き切ろう。
「無明弦月流・文月。おんしに見えんしか?」

跳ねる首が何に見えようとも、今更何の感傷を受けようか。
感傷など、余裕があるときに感じれば良い。
今のこの生活に、感傷に浸る余裕などない。

故に。

「ほんに、徒花が綺麗に咲きなんしなぁ。次に咲きんしはどの華でありんすか?」
せめて。
返り血を浴びて艶然と笑ってやろうじゃないか。



 強い父が、優しい母が、朗らかな姉が、手に手に鋤や鍬を構えて殺到してくるのを、上月・衒之丞は鼻で笑って出迎えた。
 実にちゃちな幻惑だ。そもそも彼は一度それを焼き払っている。今更だ。幻も、理想も、何もかも今更。
「おんしが親でも何でも、人型であるなら殺し方は変わりんせん」
 炎に照らされた戦場に、一瞬煌めくなにかが見えた気がした。
 刹那。父の姿をまとっていたゴブリンが首を綺麗に跳ね飛ばされて、大量の血を其の場にぶちまけた。
 刀か、それともレーザーか。上月の手にはなにも無いように見える。
「無明弦月流・文月。おんしに見えんしか?」
 正体は単分子ワイヤーだ。視認すら困難な切れ味の鋭いそれは扱いが他の武器に比べて格段に難しく、下手をすれば自分すら斬り裂く諸刃の刃だ。
 そんなものすら軽々と扱えるのは彼の地獄の日々の、研鑽の日々の賜物だ。けして温い夢のような生活では手に入らなかったものだ。
 それこそが彼の矜恃。自らの手で掴み取ってきたものの数々。
 跳ねる首が何に見えようとも、今更何の感傷を受けようか。
 感傷など、余裕があるときに感じれば良い。
 今のこの生活に、感傷に浸る余裕などない。
 上月は甘いだけの夢に別れを告げる。
「ほんに、徒花が綺麗に咲きなんしなぁ。次に咲きんしはどの華でありんすか?」
 返り血に彩られた彼は妖艶に笑って、残りの家族の偶像を血祭りに上げていくのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

忠海・雷火
普通は私より戦闘に長けた別人格と交代する所だけれど、彼女は繊細でもある
情で刃は鈍らせないと知っている、本人も出せと言っているけれど、その心に無理はさせられない

一先ずは未だ意識が朧な振りをし、ゴブリンを油断させる
侮って近付いてきた奴を騙し討ち。単体なら刀で叩き斬り、複数なら横に薙ぎ払う
飛び散る血飛沫、刀に付いた血を飲み血風餓犬を使用
あとはただ相手の動きをよく見て見切り、見切れずとも刀や刻印のUDCで反撃し、血を補給して更に強化

……先程振り払った幻覚、今も時折見えるわね
でも、これは幻。切り離せない、けれど確かに過ぎ去った過去だから
響く誰かの啜り泣きも、目の前の温かな光景も
全て纏めて飲み干しましょう



 この煙のような物を吸った人間は抵抗も禄にしない。
 ゴブリン達は数多くのここでの狩りでそう学習していた。故に、目の前でおぼつかない足取りでやってくる女性に、禄に警戒もせずに近づいたことは仕方のないことだったのかもしれない。
 孕み袋にしてやろか。それともその柔らかそうなししむらをくろうてやろか。
 一体のゴブリンが先んじて女性に飛びかかった。
 邪な笑みを貼り付けた彼を出迎えたのは、冷たい鋼の閃き。股下から脳天まで、骨などないかのようにすんなりと刃が通る。
 一拍。ゴブリンだけではなく、時すらその変化を受け入れられないかのような空白の後。
 血と臓物が溢れた。
 女は、忠海・雷火はシャワーでも浴びるかのようにその返り血を全身で浴びて、あまつさえ、それを嚥下する。
 こくり、こくりと。貪るように、焦がれるように。
 彼女はヴァンパイアだったのか? いいや、違う。これこそが彼女の異能にして戦闘スタイル、血風餓犬の発動条件なのだ。
 尖った長舌状に凝る煙が刻印から噴き出し彼女自身の戦闘能力を増大させる。が、彼女は内心不満でもあった。
(ゴブリン程度ではこの程度、か)
 量と、なにより血の質がこの力の効力を左右する。繁殖力程度しか評価されていない化物ではその力も思ったほど発揮されなかった。
 とはいえ、ゴブリン相手ならそれでも十分お釣りが出る。
(大丈夫だから)
 彼女は誰でもない、自分の中の自分に向けて言葉を紡ぐ。本来戦闘に向いているのは別人格の方だ。だが、同時に繊細でもあった。だから、無理はさせられない。この程度の相手、彼女に任せるまでもない。
 踏み込んで、斬りつける。
 仲間を目の前で派手に斬り殺されたのが効いているのか、ゴブリン達の動きには精彩が欠けていた。有り体に言えば腰が引けている。
 斬りつける度に血を啜りさらに己を強化する。そうすれば更に斬るのが容易になる。斬って斬って斬って――。
(……先程振り払った幻覚、今も時折見えるわね。でも、これは幻。切り離せない、けれど確かに過ぎ去った過去だから)
 響く誰かの啜り泣きも、目の前の温かな光景も、全て纏めて飲み干して。
 忠海は1人、悪鬼羅刹の如く全てまとめて斬り伏せていく。

成功 🔵​🔵​🔴​

出水宮・カガリ
【壁槍】マレーク(f09171)と

ゴブリンどもが、カガリ達に刃を向けている
守らなければ
まる(マレーク)が、カガリを連れ戻してくれたのだか、ら…

…どちらを、守れば、いい?

『…顕現せよ、去りし栄華。我が悔恨の寄す処(よすが)』
わからないまま、【鉄門扉の盾】を、ゴブリンを背に地に打ち立てて
『これは我が無念、我が執念…今は有り得ざる、我が、妄ね…ァ、ああああああ!!!』
真の姿、石柱の腕と金屋根を持つ城門となり、【虚想城壁】を成就する
ゴブリンか、まるの攻撃を受ければ、カガリも目を覚ますと思う
カガリのこの姿こそ、二度と還らぬ栄華の証ではないか、と

かつての蹂躙と重なろうと、カガリはこの腕で…ゴブリンを潰す


マレーク・グランシャール
【壁槍】出水宮・カガリ(f04556)と共に

俺の目にはゴブリン共がカガリの姿に見える
だが俺は壁となり前に立つカガリの背を見てきた
騙されんぞ、俺に刃を向けてくるのは全て花の名残の幻だ

立ち向かってくるゴブリンの群れには竜骨鉄扇による衝撃波の範囲攻撃を
それでも接近してくるなら破魔黒弓で射る
基本的に後方援護に徹し接近戦に持ち込ませないつもりだが、近づかれたら俺も碧血竜槍に持ち替えて応戦するぞ

カガリが混乱して俺の前に立ち塞がるのなら、カガリの目の前で自らを傷つけ【ブラッド・ガイスト】を発動する
カガリが自傷を嫌がるから使いたくなかったがやむを得ん
カガリを突破しゴブリンを皆殺しにして喰らわせて貰うさ



 今回、精神的な損耗が一番大きかった者といえば出水宮・カガリだろう。
 過去失ったものへの愛が深すぎるがゆえに、失ったことへの後悔があまりにも大きすぎた。
(……どちらを、守ればいい?)
 後ろにいるマレーク・グランシャールか、それとも目の前に迫ってきているあの輝かしい想い出の中の人々か。
 そう、出水宮は一度正気に戻されたとはいえ、未だ幻を完全に振り払うには至っていなかったのだ。
 幻はゴブリンに完全に重なり、緑色の汚らしい肌はきらびやかな都市の装いとなる。
 手を、出せるはずがなかった。守ると誓った人々を、自分の手になどかけたらそれはもう彼自身のアイデンティティの崩壊を意味する。ヤドリガミたる彼にとってそれは現実的な生死の問題にすら直結するのではないか。
 勿論、彼の背中を見続けてきたグランシャールには動揺が手に取るように判った。判ったが、どうすることも出来ない。
 敵の数が多すぎる。砂糖にたかる蟻のように2人に、否、出水宮に向かってゴブリンが向かってくるのだ。
 ゴブリンというのは化物の中では下から数えたほうがいい程に卑小な存在である。で、あるが故に自分からみた強者と弱者を見分ける嗅覚は鋭い。
 要は出水宮は与し易い餌として認識されたということだ。
 グランシャールは向かってくるゴブリンに向かって衝撃波で押し戻し、それでも突出してくるものには弓を放つ二段構えで対応する。
 彼は幻をみていないのかといえば、否。しっかりと花粉の影響を受け、ゴブリンではなく出水宮の姿となって襲いかかってくるという悪夢めいた光景を見ていた。それでも彼は惑わない。
 出水宮の背を見続けてきたからこそ、そんな幻に惑うはずがなかった。
「騙されんぞ、幻どもが」
 劣勢だが、共に戦う猟兵は他にも居る。こうやって時間を稼いでいれば救援の手も来るかもしれない。
 そんな儚い望みは、打ち砕かれた。
「……顕現せよ、去りし栄華。我が悔恨の寄す処(よすが)」
 出水宮が鉄門扉の盾を地に打ち立てる。ゴブリンを背にして、だ。
「カガリ……」
「これは我が無念、我が執念…今は有り得ざる、我が、妄ね……ァ、ああああああ!!!」
 出水宮が真の姿を開放する。その姿は石柱の腕と金屋根を持つ城門。さらに虚想城壁を成就して鉄壁の守りとなる。もう二度と中の者を失うまいとする彼の決意。
 味方と、ゴブリン、両方を相手取らなければならなくなってもグランシャールの心に乱れはない。
 この仕事に挑んだ段階である程度の覚悟をしていたから。だから。
「よくみろ、カガリ。目を覚ませ、カガリ」
 自らの腕を食い破り碧血竜槍へとその血肉を捧げる。彼はグランシャールのこの技を、自傷を嫌がったから。
 どくり。
 震えたのは槍か、それとも城塞か。どちらもか。
 反応があるのならば上々。強く踏み込んだグランシャールはその巨大な門を殴りあけ、その中にいるゴブリンたちへと襲いかかっていく。
 それは在りし日の焼き増し。
 蹂躙される都市の人々の如く。
 こんなものを見たら今度こそ出水宮の心は砕けてしまうのではないか。
 だが、グランシャールは聞いた。
「まる……まる……すまない。ありがとう」
 と。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ジン・エラー
とりあえずここまでくりゃコイツは大丈夫だろ
オレの【光】でマシにはなっただろォーしな
さて、じゃァ
お楽しみの時間だぜ【まりあ】

かかって来いよあンなのに頼らなきゃ生きていけねェー雑魚共!
オレがそンな生をまとめて救ってやるぜ!!

おォおォお前ら
死にたくねェーか?
死にたくねェーよな
【箱】で殴られるわ【拘束具】で縛られるわ
痛くて苦しくてたまンねェーよな
ほら、【光】をくれてやるよ

ところでお前ら
因果応報って知ってるか?
軽い気持ちとかそォーいうのじゃねェーンだわ

なァ【まりあ】
コイツらどう見える?


オレには
クソ汚ねェ畜生にしか見えねェーな


戒原・まりあ
続けてジンさんと!

相変わらず泣き声はすっごいけど、私には何のことかわからないもんね
【嘘吐き】で見えてる敵に斬りつけたり武器で軽く触れたりしてから
動かないでね、と宣告
……簡単だよね?
動かないならそのままジンさんに救われたらいいし
動いたらダメージ入るし
いやーん両得ってやつ??私って頭いい??

見える幻は私には関係ないけれど、気に食わないとは思ってるんだ
だからねえ、これは、その、御返し!ふふっ



「ン~だーい人気だなァ~」
「キャー、こんなに愛されちゃったらまりあ困っちゃうー」
 津波のごとく押し寄せるゴブリンの群。
 きっと奴らは遊びかけ、もしくは食べかけの獲物である男の身柄を狙ってのことなのだろう。野生動物だって自分のモノに執着する。多少なりとも知恵がある彼らに取ってみたら途中まで遊んだ玩具を取られるのは業腹なのだろう。
 死の腕からは逃れたとは言え、最早まともに生活すら出来なさそうな男を後方に安置したジンが、ゴブリンの群を眺めて目元だけでニタリと嗤った。
「さて、じゃァ。お楽しみの時間だぜ、まりあ」
「だね。お楽しみアンド御返しタイムだー!」
 ふざけた言動をしているがそれは別にこの状況に何も感じていないわけではないのだ。
 人を玩具にするような所業に、今もまだおぎゃあおぎゃあとざわめく幻覚の騒音に、彼らの腸は煮えくり返っていたのだ。
「かかって来いよあンなのに頼らなきゃ生きていけねェー雑魚共! オレがそンな生をまとめて救ってやるぜ!!」
 啖呵を切ったジンが身体から得体の知れない気を放ちながら突貫する。
「おォおォお前ら、死にたくねェーか? 死にたくねェーよな。箱で殴られるわ拘束具で縛られるわ、痛くて苦しくてたまンねェーよな。
ほら、光をくれてやるよ」
 それは傲慢である。驕傲である。不遜である。
 救いというには余りにも独りよがりで勝手気ままな押しつけの願いが、光という現象に昇華して男を覆っているのだ。
 美しいものではないかもしれない。優しくもないのかもしれない。
 無慈悲で容赦のない目を焼く様な光。
 だが恐ろしいほどにこのジン・エラーという男には似合いの光だった。
 背負った棺桶のような箱で殴り倒す。拘束具によって手足を拘束する。
 だが流石に多勢に無勢。数を頼りにゴブリンが押し込めば劣勢は必定だが。
「はいはーい、動かないでねー」
 ジンを圧し殺そうとしたゴブリン達が急にその動きを止めた。いや、動こうとはしているのだ。だが其の度に苦悶の悲鳴を上げて動くのをやめる。そして棒立ちになったところをジンに討たれていく。
 薔薇原・まりあの技だ。動くことを禁じる。その単純な制約を強制し、破ったものには特大の苦痛を与え、もしくは命を奪うという凶悪なユーベルコード。
 ユビキリと称されるそれで味わう苦痛は、正に針千本を飲まされるのに匹敵するのだろう。
 ジンから逃れようと動いた、動いてしまったゴブリン達は悶え苦しんで死んでいく。
「動かないならそのままジンさんに救われたらいいし、動いたらダメージ入るし、いやーん両得ってやつ?? 私って頭いい??」
 地獄絵図の最中けらけらと笑っている女も女で、まさにタガの外れたモノ。
 ゴブリン達から見たこの男女は暴虐の荒ぶる神に等しかった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

雪生・霜逝
貴方の食べる姿が好き。喉元まで血塗れにして、歓びを啜る美しい男。
死体を作るのは人殺しに生まれついた自分の役目。運命の糸は血で赤い。
…そういう夢を見たこともある。貴方の顔は視えなかった。
自分は檻の中だ。誰か解放してくれ。この身体という罰から。
外装を剥がし、生体組織を露出する。引き攣れた繊維から赤い循環液が沫く。
「おいでください―貴方の御食事は、ここに」
顔の視えない貴方を呼ぶ。激痛が身体に突き立てられる陶酔を甘受する。
「夢のようでございます。貴方の顔を思い出せないのに、貴方は来てくれた、だから」
結末も夢と同じにしよう。
骨、肉、臓腑。貴方の全ての部品を、この手に掛けて分解して。記憶の断片そのままに。



 猟兵達は万全とは言わずとも、それなりに幻をまとったゴブリンたちに対処出来ていた。
 ただ1人を除いて。

(貴方の食べる姿が好き。喉元まで血塗れにして、歓びを啜る美しい男)
 己の身体をまるでゴブリン達に捧げるように投げ出して、雪生は喜びらしき感情の中にあった。
(死体を作るのは人殺しに生まれついた自分の役目。運命の糸は血で赤い)
 夢だ。朧げでそれこそ霧の中の様な、失われた記憶データの残滓。貴方という者の顔すら思い出せはしない。
(自分は檻の中だ。誰か解放してくれ。この身体という罰から)
 有り得ないプログラム上のバグ。衝動という名のエラー。
 雪生は自らの外装を剥がし、生体組織を露出する。引き攣れた繊維から赤い循環液が沫く。
「おいでください――貴方の御食事は、ここに」
 顔の視えない貴方を呼ぶ。激痛が身体に突き立てられる陶酔を甘受する。
 ゴブリン達が間抜けな獲物にげたげたと笑い声をあげる。
「夢のようでございます。貴方の顔を思い出せないのに、貴方は来てくれた、だから」
 結末も夢と同じにしよう。
 最早ただのバラすだけのモノだと油断しきったゴブリンの身体を雪生が掴んで。
 分解。
 その巨躯に相応しい剛力で、肉と骨と臓物に、コードなど使わずに力任せに解体せしめる。
 嗚呼と、雪生は機械に似つかわしくない恍惚の溜息を漏らす。
 夢のようだと。まさに夢だと。ならばこのまま、思い出せない貴方の名前も顔も、思い出せるのではないかと、願って。

 もし、周囲に気を配っている猟兵が居なかったら雪生は夢の中に溺れて取り返しのつかない事になっていたかもしれない。それほどに彼の傷は深く、エラーとバグにまみれたプログラムはずたずたになっていたのだから。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

ディスターブ・オフィディアン
第二章からの参加でも可能であれば
状態:重篤
死んだ親友、第三人格として取り込んだ男、村雨丸の幻を診ます
「どうしたその姿、オブリビオンに身をやつしたか!」
攻撃をかわしながら、全ての人格で順に語り掛けます
「名誉が足りぬならば、お前が秘した全ての功績をオレが暴こう」
「汚名が不服ならば、あなたが救えなった歴史は私が葬りましょう」
「この乱世を救いたいのならば、ボクが代わりに戦いましょう」

説得が聞かぬと見たら葬送の霖を発動
村雨丸の幻と第三人格が全く同じ構えをした後で反撃開始

葬送の霖解除後、村雨丸の幻へ
「百年後、ヤドリガミとして生まれるまでには下戸を治しておけ。
 今度こそオレの酒に付き合ってもらうぞ」



 ディスターブ・オフィディアンの目には若侍が映っていた。
 それはもっとも身近な、身近すぎる者。死した筈の親友であり、自らの心の欠片でもある。
 多重人格種族であるオフィディアンの人格の1つは、まさに彼を取り込んで成されたものなのだから。
 何故。
 満足して死ねる者など殆ど居ない事はわかっているが、彼は未練がましく化けて出るような奴だったかと、動揺せずにはいられない。
「どうしたその姿、オブリビオンに身をやつしたか!」
 幻覚は応えない。応えてくれない。ただ武器を構えてじりじりと迫ってくるだけ。
「名誉が足りぬならば、お前が秘した全ての功績をオレが暴こう」
 暴く者が真摯に声をかける。
「汚名が不服ならば、あなたが救えなかった歴史は私が葬りましょう」
 偽証する者が明るく歩み寄る。
「この乱世を救いたいのならば、ボクが代わりに戦いましょう」
 そして、彼自身。守護する者が正対する。
 まるで鏡写しのように、侍同士が向かい合う。装いも同じなら構える武器も……いや、相手の方が大太刀であるのにオフィディアンの構えるのは小太刀だ。これは一体どうしたことか。
「仁義礼智忠信孝悌――村雨丸、推して参る!」
 答えは今ここに。
 封印を解かれた村雨丸が相手と同じ大太刀の姿を取るのと、オフィディアンが踏み込んだのは同時だった。
 一閃。
 幻の侍は上下に分たれ、地に落ちた。
 火花を散らすような戦いなど有りはしない。
 幻は所詮幻。中身は理も術も解さぬゴブリン風情に過ぎないのだ。
「百年後、ヤドリガミとして生まれるまでには下戸を治しておけ。今度こそオレの酒に付き合ってもらうぞ」
 それは誰に向けての言葉なのだろうか。幻へか、それとも元の姿に戻った刀にか。
 納刀される村雨が、返事とばかりに僅かに音を立てるのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ニコ・ベルクシュタイン
此れはどういう事なのだろうか
未知は普段家に引きこもりがちで此のように外に出るなど
況してやこんな物騒な武器を振り回すなど

自身に向けて明確な殺意を持って振り下ろされる武器に
「カチリと時計の針が音を立てたかのように」
漸く応戦を決意、可能な限り見た目の殺傷力が低い【花冠の幻】で攻撃を
全ては幻であれ、そう願うように全力で戦う

撃退に成功したら、周囲の危険も顧みず暫し天を仰ぎ呆然と立ち尽くす
…所詮は仮初の身体、いっそ未知にくれてやっても良かったのではないか
我が身可愛さに恩人とも言うべき者を手に掛けるなど、こんな

…誰か教えておくれ、こんな時は、どんな顔をして
再びあいつの待つ家に帰れば良いのかを。



 此れはどういう事なのだろうか。
 ニコ・ベルクシュタインはその整った顔を苦悶に歪めて迫りくる脅威に向き合っていた。 
 彼の目に映っているのは未知という、自らを現界させた人の姿。
 未知は普段家に引きこもりがちで此の様に外に出てくるなど、況してやこんな物騒な武器を振り回すような人では無いはずだ。
 有り得ないという自らの直感は、けれども本当にそうかという疑問が押し止める。
 彼ではないという確証が得られない。そこまでベルクシュタインは未知という人を理解しきれてはいない。
 敵は、未知はベルクシュタインの迷いをいいことに間合いを詰めて、武器を振り下ろす。
 殺意を込めて。
 カチリと時計の針が音を立てたかのような感覚。
 やらなければやられる。単純な、生存の為の衝動が彼を動かした。
 己が異能、花冠の幻がその姿を現し、未知らしき者に襲いかかった。
 虹色の薔薇の花弁が嵐のように吹き荒れて、容赦も遠慮もなく未知を、未知の群を斬り裂いていく。いくら見た目が美しかろうとその威力は折り紙付きだ。
 悲鳴を上げて細切れにされていく大恩ある人、人、人。
 其の様を余すこと無く網膜に焼き付けて、やがて戦闘とも言えない虐殺は終わった。
 何という卑しさだろう。
 ベルクシュタインは己を恥じた。我が身可愛さに容易く恩人を害することの出来る己に絶望した。
 幻とはいえ、幻だからこそ。たかだかそんな理由で、いざ自身が危うくなれば殺すのか。
 ならば実際の彼も、そうしないという保証は一体どこにあるというのか。
(……誰か教えておくれ、こんな時は、どんな顔をして、再びあいつの待つ家に帰れば良いのかを)
 鳴り止まない炎の吠え声だけが、辺りを包んでいた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジェイクス・ライアー
私の御使はこの醜悪な化物か。私には似合いだな。
…来い。連れて行けるものなら連れていってみろ。

【POW】
何度も天使の幻覚が見えるほど、無意識下で精神的に不安定になるが表向きは整然と仕事をこなす。
心など乱されていないと証明するように淡々と。反面、得意とする効率的な暗殺とは違い、力任せで荒々しい戦闘スタイル(銃で頭を吹っ飛ばす、目をナイフで突き刺す、ワイヤーで首を撥ねとばす等)
(苦戦判定で怪我を負った場合)戦場の亡霊を発動し戦い続ける。

これはただの幻覚だ。なんの感傷もあってたまるものか。
元より行き着く先など知れている。



 天使が群なしやってくる。緑の小鬼がやってくる。
 天使の歌声が、下卑た笑いが、此方を飲み込もうと迫ってくる。
 なんて醜悪で冒涜的な光景だろう。
 ゴブリンに重なる天使の像を、表面上は無感動に眺めるのはジェイクス・ライアー。
「私の御使はこの醜悪な化物か。私には似合いだな。……来い。連れて行けるものなら連れていってみろ」
 けれどその目は、まるで追い詰められた獣のように怪しく輝いているのだ。
「La……GIGIGI!」
 飛びかかってきたゴブリンに向けて発砲。次いで迫るものにも発砲、発砲、発砲。
(これはただの幻覚だ。なんの感傷もあってたまるものか。元より行き着く先など知れている)
 彼を辛うじて支えているのは確信にまで至った諦観だ。それがなければとうに発狂している。こんな、救いの御手を自ら殺すようなこと。
 肉が、脳症が、頭蓋が、ばらばらになって散乱する。
 それでも敵の勢いが止まらない。同族の死体を踏み潰し、迫ってくるさまは鬼気迫るものだった。
 1人だけでは勢いを止めきれない。なにより弾には限りがある。
 ほどなくして、弾切れ。
 身体に染み付いた感覚で流れるように白兵戦へと移行する。
 飛び道具を使わなくなったと見るや、勢い込んで襲いかかってきたゴブリン達は後悔することになる。
 銃床で殴り殺す。ナイフを眼窩に抉む。単分子ワイヤーで首を飛ばす。
 銃弾などより余程惨たらしく死が量産されていく。
 無論の事、多勢に無勢だ。
 殺す度に斬りつけられる。殺す度に殴られる。それでも殺しの腕にいささかの衰えも無い。
 そこに平素の効率的な殺人技術は存在せず、ただただ荒々しく殺意をぶつけていく鬼が一匹。
 いや、二匹。
 ライアーの異能が、自身の危機に反応して現れたのだ。殺害の手が倍に増えた。それでも数だけは圧倒的に敵が上。
 どちらが先に死に絶えるのか。
 原始的な殺し合いが続く。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

襲祢・八咫
ふむ。緑鬼か。
……何やら、周囲の猟兵の様子が可笑しいようだが。幻覚の続きでも見ているか。
おれには、何も見えぬよ。
見えるのは、緑の小鬼共がぎゃあぎゃあと喧しく武器を振り上げる姿ばかりだ。

……当然だな。
おれの人化してから生きた全てが、おれの世界の喪失後だ。今のおれがおれである限り、何を見てもあの世界は遠い夢でしかない。
そして、おれはおれを変える気がないのでな。

烏、あれを灼き殺せ。
三本脚の大烏に【属性攻撃】【2回攻撃】を込めて命じ、己もまた扇子に神通力を流して薙刀へ。長柄物の勢いと【衝撃波】【なぎ払い】で近付く敵を吹き飛ばし、始末しよう。
……周囲で夢に囚われた猟兵がいれば【救助活動】でもしておくか。



 阿鼻叫喚の様相を呈す戦場でただ1人、襲祢・八咫の心は誰よりも凪いでいた。
 当然とも言える。
 彼がヤドリガミとして、人の器を得て経験した全てが、彼の世界の喪失後でしかない。心を得る前に見た世界がいくら広がろうと、それはただの記録であって記憶とは程遠い。遠い遠い夢のようなものには惑いようがない。
 なにより彼は自身を変えるつもりがないという確固たる個我があった。
「烏、あれを灼き殺せ」
 再度呼び寄せた三本足の大烏に、無慈悲な命令を下す。彼にゴブリンへとかける情けなどは存在しない。奴らは愛すべき人種族を脅かす敵だ。敵は排除しなければならない。単純にして真理。故にそこに淀みはない。
 轟々と地を舐める炎に追随するように、彼自身もまた扇子を薙刀へと変化させて追い打ち。
 雑草を刈り取るように薙いだそれが衝撃波を生み、ゴブリン達が汚い悲鳴を上げながら倒れていく。
 狂気もなく、願いもなく、本気で雑草をかるような効率的な所作はいっそ冷たさすら感じさせる。
 バタバタと倒れ伏していくゴブリン達の向こうに、見知らぬ猟兵が苦戦している姿を見つける。
 頼まれたわけでもないのに、率先して助けに向かう彼はゴブリンへむけた無慈悲なカミとはまた別の一面を見せていたのだった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『息吹の竜『グラスアボラス』』

POW   :    フラワリングブレス
【吐き出された息吹 】が命中した対象に対し、高威力高命中の【咲き乱れるフラワーカッター】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD   :    ガーデン・オブ・ゲンティアナ
自身の装備武器を無数の【竜胆 】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ   :    フラワーフィールド
【吐き出された息吹 】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を花畑で埋め】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ナイツ・ディンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 屍山血河。
 まさにそう表現するのが適当な、酸鼻を極めた光景が広がっていた。
 ゴブリンの死骸の山が陽炎のようにその内臓から発する湯気を立てている。赤々と空を染める炎と相まって地獄を連想する猟兵もいるのではなかろうか。
 戦いは終わったかにみえた。
 猟兵達の被害は少なくはないが、それでもあの雲霞の如きゴブリンを前に払った代償として見るなら軽微なものだ。
 だが、息をつく暇はない。
 炎の向こうから地響きをたてて1匹の竜が現れたのだ。
 燃え盛る花畑も、積まれた死骸も意に介すること無く竜は猟兵達を見つめる。
 その目は思いの外穏やか。
『何故』
 脳に直接響く声。いや、意志か。
『小さきものよ。瞬きの間に失われる者よ。何故抗う。夢の中穏やかに終わることを何故拒絶する』
 まるでこの現象を引き起こしていたのがこの竜であるかのようなものいいだと、誰かが思った。
『然り。この花は私が増やしたもの。全てはお前たちを救うために』
 意志を飛ばすだけでなく、此方の考えまで読むのか。
 言葉にするまでもなく竜が猟兵の疑問に応えてきた。
『未来に希望などは無い。あったとしてもそこにたどり着けるものはほんの一握り。残りの多くは辛酸を舐め無念のうちに果てる。私はそれを哀れに思った』
 だから、殺すというのか。
『救いだ。私はお前達を愛している。小さきその生命が絶望に沈むのを見ていたくはない』
 説得できるような相手ではなく、竜を倒さぬことにはこの事件は終わりそうにないと猟兵達は感じ取った。
『答えよ、小さきもの。何故抗うのか』
 意志は圧力を増した。
 力ある存在の問いは一種の呪いだ。伝承にあるスフィンクスのリドルのように。
 無視するにしろ、撥ね付けるにしろ、明確な意志を持たない限り飲まれる。そうなれば戦う以前に敗北するは必定。
 猟兵達は答えねばならない。
 猟兵達は打倒せねばならない。
 この甘き死を。
水衛・巽
何故抗う、って?
手前勝手なことばっかり言っておいて『愛している』?
馬鹿も休み休みとはこのことだ。

貴方のそれは愛なんて崇高で尊いものじゃない、
どこに出しても恥ずかしくない唾棄すべき邪悪って言うんだ。
未来に希望があるかどうかなんて自分で決めるし、
私は私自身の脚で歩く。その責任も自分で背負う。

もし貴方の愛が本物なら、
悲しみを乗り越えられるよう励ますべきだった。
途中で投げ出さずに、諦めずに。
それを怠った貴方に愛を語る資格なんてない。
何故抗う?
そんなもの決まっているでしょう、
それは『私達が愛されていたのを知っているから』!

さようなら、花盛りの傲慢なドラゴン。
私の心の棘を解き明かした事だけは感謝するよ。



 何故抗うのか。
 猟兵達は巨大な竜の問い、圧力を一笑に付した。
 確かに敵は強大で、1人の力程度では打倒不可能な化物だろう。圧力は膝を折りそうなほどに重い。けれども、そう。けれども、だ。
 未来に向かって歩み続けることに比べたら軽い。彼らは今も歩き続けているのだ。この程度の圧力に屈する理由がない。

 水衛・巽は竜の問いに不快感を露わにしていた。
 手前勝手に愛しているなどと嘯いて勝手に未来を取り上げるそのさまは、まるで子供から可能性を奪う親のような。
 それはけして愛などではない。優しさなどでもない。
「貴方のそれは愛なんて崇高で尊いものじゃない、どこに出しても恥ずかしくない唾棄すべき邪悪って言うんだ。未来に希望があるかどうかなんて自分で決めるし、私は私自身の脚で歩く。その責任も自分で背負う」
 凛とした声は、邪なる者を払う一振りの剣。
「もし貴方の愛が本物なら、悲しみを乗り越えられるよう励ますべきだった。途中で投げ出さずに、諦めずに。それを怠った貴方に愛を語る資格なんてない」
 人に好意を寄せていたのは本当なのかもしれない。
 実際に世界は糞ったれで、辛くて、ままならなくて、だから放っておけなかったというのもわからなくはない。
 だが竜は方向性を間違えた。人の強さを信じられなかった。共に立つことを端から放棄していた。
 何故か。
 きっと竜は悲しい一面しかみないでそれが全てだと信じてしまったからだ。他のモノを信じる余地もないほどに。
 ならば教育してやらなければならない。その身、その魂に刻んでやろう。
「何故抗うか、そんなもの決まっているでしょう」
 そう。何故なら彼ら、彼女らは。
「私達が愛されていたのを知っているから!」
 水衛の背後に朱雀が顕現する。
 赤々と、強く、優しく燃え盛る。人種族を祝福するように。敵を許さないとでも言うかのように。
「さようなら、花盛りの傲慢なドラゴン。私の心の棘を解き明かした事だけは感謝するよ」
 朱雀が飛んで竜を焼く。
 戦いの火蓋が切って落とされた。

成功 🔵​🔵​🔴​

八上・偲
何故。
……わたしは、過去をずっと眺めているなんて嫌。
欲しいものを欲しいままで耐えているのも嫌。
大切な人にいらないと言われるのも嫌!
未来に希望があるかどうかはわたし自身が決めるの。
邪魔するなら、殺すから。

真の姿を開放して、行くね。
(やや長めの金髪・大きめ翼に変化)

前から呼びっぱなしのガイスト君には死角を守ってもらって、
『炎帝の審判来たりて』の炎を一個にまとめて強化して投げつける!
【属性攻撃】【衝撃波】込みで少しでも怯んだり隙ができたりしたら
持ってる槍(残火)でわたしも攻撃しに行く。
相手がまだ燃えてても【火炎耐性】【激痛耐性】でそのまま突っ込む。

……思い通りになるほど、わたし、いい子じゃないの。



 朱雀の飛翔に続くように八上・偲が突撃する。
 その姿は常のものとは変わっている。大きな翼を広げた金髪の少女は、天の御遣いのようにさえ見えた。
 彼女の真の姿だ。
 その様は神々しく、力強く、けれども瞳に在るのは年相応の拒絶と未来を信じる色があった。
「……わたしは、過去をずっと眺めているなんて嫌。欲しいものを欲しいままで耐えているのも嫌。大切な人にいらないと言われるのも嫌! 未来に希望があるかどうかはわたし自身が決めるの。邪魔するなら、殺すから」
 薔薇の花の炎を投げつけつつ、疾走る。その死角をカヴァーするように騎士が並走する。
 炎が先に着弾。水衛の朱雀のそれを上書きするように炎の舌が竜を焼く。スキルによって威力を増したそれの威力は激しく、竜だけでなく周囲にも衝撃波を浴びせるほどだ。
 無論走り寄っていた八上も例外ではない。熱衝撃波と化したそれを正面からまともに浴びた。
 髪が焦げる匂い、皮膚がじりじりと焼ける痛み。
 だが其の程度。熱耐性を予め高めていた彼女の突進は止まらない。
 熱衝撃波を突き破り、燃える竜の熱にも負けず、槍の切っ先を深々と突き刺した。
「……思い通りになるほど、わたし、いい子じゃないの」
 おかしなモノを見せてくれた礼に、槍を抉り傷口焼き潰していく。
 彼女の槍、残火は灼炎を宿す魔槍だ。コードを使わずともこれだけで必殺の武器となる。
『おのれ!』
 竜の怒声。騎士による警告。
 即座に竜を蹴って切っ先を抜くと離脱。直後、八上の居た場所を竜のブレスが駆け抜けて行く。
 あの花が、人喰い草が、また生い茂りだした。

成功 🔵​🔵​🔴​

忠海・雷火
未来に希望がない? その可能性は否定しないわ
でも、貴方の勝手な哀れみで死ぬのは御免よ
答えは一つ。先に進む意志があるから
私達が歩む道を、勝手に決めるな


人格をカイラに切り替え
戦いながら竜の動きを観察
頭部の直線上に立たないよう動き回り、隙を見て飛び込み足の健を狙い斬りつける
一度で駄目なら何度でも。兎に角自由の効き難い状態まで持っていく
反撃は当然予想している
見切れるならばそれで、出来ずとも傷は軽減出来るよう、攻撃後はすぐ防御姿勢に移る

ある程度竜の動きが鈍ったら、宙舞う花弁に紛れるように近付き、胸元を狙いユーベルコードを放つ
この身に宿るUDC。煙の身体、針の長舌持つ餓えた猟犬よ
かの竜を喰らい、血道を拓け



 入れ替わるように忠海・雷火が距離を詰める。
「未来に希望がない? その可能性は否定しないわ。でも、貴方の勝手な哀れみで死ぬのは御免よ。答えは一つ。先に進む意志があるから。私達が歩む道を、勝手に決めるな」
 いや、今の彼女は雷火ではなく、別人格のカイラ。戦闘に長ける彼女は息吹の切れ目を縫って接近。
 竜の足元を通り抜けざまにその腱を薙いで行く。一度で浅ければ、二度、三度。
 無論、竜とて好きにさせているわけではない。ちょろちょろと足元を走り回るカイラをその足で追い払おうとする。
 寸での所で身をかがめて掻い潜る。と、竜がバランスを崩したように見えた。数度斬りつけられた足では踏ん張りが効かなかったのだろう。
 好機。
 膝を折るようにして伏せの姿勢になった竜に向けて。
「我が身に宿る餓犬よ。血道を辿り、内より喰い散らせ」
 連結召喚・餓犬之蝕、発動。
 刻印から放つ術式誘導用の血針が竜の胸元に刺さる。と、同時。竜の胸をおぞましい化物が引き裂いたのだ。
 この技は己の中にあるUDCを血針を媒介に対象に転移させ、内部から食い破らせるという恐るべき邪法だ。幾ら表面が硬かろうと内部からの破壊ならばその限りではない。
 竜の悲鳴は、そのまま反撃の息吹へと転じた。
 ハリケーンの如き風に、刃の鋭さをもつ花弁が混じる。喰らったら全身ずたずたに引き裂かれるのは目に見えている。
 伏せるかべきだ。
 が、カイラはそのまま受ける事を選択。風に逆らわずにバックステップ。全身を切り裂かれながらも其の場から離脱。
 直後、カイラが一拍前まで居た場所を竜の前足が踏み潰していた。
 己の選択の正しさを確認したのも束の間、直ぐ様息吹の第二波が放たれた。
 風で体を崩したカイラに、死の風が迫る。

成功 🔵​🔵​🔴​

出水宮・カガリ
【壁槍】マレーク(f09171)と

今もカガリは、あの花の竜が、都の城にでも、見えているのかも知れない
だが、今度は大丈夫だ
まる、マレーク
この脆い壁にもう少しだけ、付き合ってくれるか

真の姿で、猟兵を守る【虚想城壁】を維持したまま、竜へ
花畑は【追想城壁】で打ち消す

答えよう、惑わすもの
カガリは少しだけ、お前の言う事がわかる
人が壁の外に出て傷つくくらいなら、壁の内に閉じ込めてしまいたい
そうすれば、カガリが愛した人々は安らかでいられたと

だが、まるが教えてくれた
我らは過去をやり直せない
そしてカガリは、その後悔から、城門のヤドリガミとして生まれたもの
人を害するものを駆逐する、その在り方を変えるつもりは無い!


マレーク・グランシャール
【壁槍】出水宮・カガリ(f04556)と共に

敵の息吹が撒く花弁は鋭利な刃物となっているようだな
だが花弁の多くはカガリの壁が防いでくれよう
俺は息を吐き終えたと同時に【ドラゴニアン・チェイン】を成就
標的をオーラの鎖で捕らえたらそのまま【ドラゴニック・エンド】を成就して敵を穿つ
花弁の残りが俺を傷つけようがその血は我が槍に捧げるだけ

花の竜よ
俺が愛ゆえに喰らい血肉として取り込むのと同じに、お前は愛ゆえに美しい幻の中へと閉じ込めるのだな
だが俺はお前にカガリをくれてやる気はない
カガリも、そして恐らくは俺も、悲しみと後悔とから生まれた者だから

お前は慈しみ哀れむふりをして欲しがっているだけだ
失われることなき愛を



 だが、今度の風は彼女を斬り裂く前に城壁に阻まれて消滅した。
 出水宮・カガリの追想城壁だ。カイラを、猟兵達を背に庇うように前に出た出水宮の身体は真の姿である鉄門扉のままだ。
 傷つき果てた彼の心がそうさせるのか、その門は今にも崩れ落ちてしまいそうに儚い。
「答えよう、惑わすもの。カガリは少しだけ、お前の言う事がわかる。人が壁の外に出て傷つくくらいなら、壁の内に閉じ込めてしまいたい。そうすれば、カガリが愛した人々は安らかでいられたと」
 竜に話しかける出水宮のトーンには嘘偽りのない共感があった。ならば何故抗うのか、何故邪魔立てをするのか。
 竜が不思議そうにこの脆そうな門扉を見る。
「だが、まるが教えてくれた。我らは過去をやり直せない。そしてカガリは、その後悔から、城門のヤドリガミとして生まれたもの。人を害するものを駆逐する、その在り方を変えるつもりは無い!」
 守る者として、守るべきものに仇なすお前を討つと。今度こそしっかりと立った出水宮は宣言する。
 ならば今度こそ、その門を打ち砕いてくれようと竜が突進の姿勢を取る。
 刹那、無数の爆発が竜を襲った。
 致命傷ではない。けれども竜の身体のいたるところで鱗が剥げ、血を噴き出している。更には鎖が、犬にするそれのように首に巻かれているではないか。
 何事か。竜が視線を巡らせれば、鎖の先にドラゴニアンの男が居た。マレーク・グランシャールだ。
「花の竜よ。俺が愛ゆえに喰らい血肉として取り込むのと同じに、お前は愛ゆえに美しい幻の中へと閉じ込めるのだな。だが俺はお前にカガリをくれてやる気はない。カガリも、そして恐らくは俺も、悲しみと後悔とから生まれた者だから」
『ならばお前のその意志も、門ともども砕いてくれよう』
 竜が首を振れば踏ん張りきれずにグランシャールが釣られて前へ。否、その勢いを利用してグランシャールは突進していた。
 手には槍。竜の前足による薙ぎ払いを地を這うようにして避け、接近。
 カイラの開けた胸の傷に向けて剛槍一閃。深々と槍が突き刺さる。
「IIIIIIIIIIIIIIIGYAAAAAAAAAAA!」
 遂に竜が肉声での悲鳴を上げた。
「お前は慈しみ哀れむふりをして欲しがっているだけだ。失われることなき愛を」
 そんなものな無いのだと、哀れみすら込めてグランシャールは槍を抉りこむ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

ファン・ティンタン
夢の幕が降りれば、なんてことはない
これは戯れ、力に驕った者の仕組んだ劇場だ
たった一人の主催者が自己欲求を満たすために脚本する舞台だったのだ

滑稽に踊った役者を、“哀している”と、あなたは最上段の客席から見下ろすんだね

閉じた舞台で踊らされて、けれど、収穫は無かった
私の記憶を歪めた幻では、主の名前は終ぞ分からなかったのだから

劇は、もう終わりだよ

カーテンコールの向こう側、今まさに主催者は不服な結末に言葉も無く首を傾げている
けれど、不服なのは主催者だけじゃない
つまらない演技をさせられた役者の身にも、なれ
この手で、刃たるこの身で、その対価を毟り取らせてもらおう

御静聴ありがとう。出演料は―――あなたの命だよ



 それでも、まだ届かない。竜の巨体に見合うタフネスの前にしては、致命の一撃にはまるで足りない。
 遂には鎖も千切れる。深追いせずにグランシャールは離脱。
 させじと迫る息吹は再度、出水宮が相殺する。その死の息吹の合間を縫って。
「劇は、もう終わりだよ」
 ぬるりと、まるで気配を感じさせずにファン・ティンタン迫る。
 彼女は静かに怒っていた。それは先のゴブリンへ向けた衝動的なそれとは打って変わった刃のように静謐な、けれど危険な怒り。
(滑稽に踊った役者を、“哀している”と、あなたは最上段の客席から見下ろすんだね)
 人々を惑わし、殺し続けてその言いざま。脚本家でもあり観客でもあるこの竜を、誅さねばこの怒りは収まりそうもなかった。
 刃は惑わず。
 抜けば斬る、只それだけのもの。
 我が身は刃そのものなれば。
「御静聴ありがとう。出演料は―――あなたの命だよ」
 ファンの力の高まりを察知した竜が、胸の傷には近づけまいとその前足を振るう。迎え撃つファンは、何を思ったのか無手での直突き。
 派手な音はしなかった。
 ただ、風を斬る澄んだ音だけ。
 出血。悲鳴。
 竜の爪が全て根本から斬り飛ばされていた。
 刃そのものたる彼女が腕を振るえば、それは無手でさえ必殺の切れ味を持つ。
 かと言って彼女も無傷とは行かない。正面から血を浴び、苦し紛れに振るわれた指なしの足の一撃を喰らって弾き飛ばされた。

成功 🔵​🔵​🔴​

戒原・まりあ
救い!殺すのが救いだってさジンさん!
どう思いますか、救い主的には?

私の感想はねえ
馬っっ鹿じゃないの??
死んだ瞬間骸の海へ捨てられるこの世界で
希望を目指す自由さえあんたが、過去の絶望が、奪うんだ
生きてる私達の邪魔をしないで
『まりあ』からは以上でーす

これは言葉にする気はないけれど
私はまりあのいまの絶望から生まれたみたいなものだから
私は私の肯定の為に戦うよ
絶望から生まれた『私』がこんなに綺麗だって!

まず敵の息吹にあたらないように躱したり、
躱しきれなかったらオーラ防御で防いだりジンさんの棺桶の陰を使わせて貰ったりしながら
嘘吐きを仕掛けに行くよ
もしもあたって倒れたって
その時はまりあに焼き払ってもらうから


ジン・エラー
ああ、【まりあ】
まさに以心伝心ってヤツだ

バァ〜〜〜〜ッッッカじゃねェ〜〜〜〜〜〜の???

あ〜ァ〜〜…あァ〜〜〜〜
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!
『救う』!!??
救うと言ったかこのクソ野郎!!!

そンなことが、
そンなモンが"救い"なわけねェーーーだろォーーーが!!!

勝手にテメェで絶望して
挙句それを押し付けて
それを!!!救いだと!!!!!

テメェーは神にでもなったつもりかよ???

じゃあ見せてやる
これが、【オレの救い】だ

いいや足りねェ
【この姿】も使って
お前を、全部救ってやる

この【黒】は、外そう
光に影は、有り得ない

それは光そのものである

慈愛の心であり
神の御心であり
ただの親切心である

どこまでも彼は、ただの聖者だ



 そこに割り込むように影が2つ。
「救い!殺すのが救いだってさジンさん! どう思いますか、救い主的には?」
「ああ、まりあ、きっと同じこと考えてるぜ。まさに以心伝心ってヤツだ」
 ジンとまりあ、2人は息を揃えるように空気を吸って。
「馬っっ鹿じゃないの??」
「バァ〜〜〜〜ッッッカじゃねェ〜〜〜〜〜〜の???」
 痛みに悶える竜に真正面から罵声を飛ばした。これにはさしもの竜も呆気にとられたように彼らを眺めるしか無い。
「死んだ瞬間骸の海へ捨てられるこの世界で。希望を目指す自由さえあんたが、過去の絶望が、奪うんだ。生きてる私達の邪魔をしないで。まりあからは以上でーす」
「あ〜ァ〜〜……あァ〜〜〜〜あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!! ”救う”!!?? 救うと言ったかこのクソ野郎!!! そンなことが、そンなモンが"救い"なわけねェーーーだろォーーーが!!!」
 ゴブリンにも振るわれた凶悪な合わせ技、動きを封じるまりあの『嘘吐き』からジンの棺桶による殴打が竜を襲う。爪のなくなった足を思い切り殴られて竜が後退する。
「勝手にテメェで絶望して、挙句それを押し付けて、それを!!! 救いだと!!!!! テメェーは神にでもなったつもりかよ???」
 しかし腐っても竜。上位存在である竜には『嘘吐き』のダメージだけでは致死には至らず、遜色なくその尾を振るうと2人を纏めて薙ぎ払った。
 咄嗟にジンの棺桶の影に隠れ、オーラを張って直撃を免れたまりあ。
 だがジンはまともに受けた。転がった血を流して、何本も骨が折れていそうだというのに、彼はまったく気にした風情がない。
 そんなものを上書きする怒りが彼を動かしているから。
「見せてやる。これが、”オレの救い”だ」
 瞬間、後光が差した。それは光そのものである。慈愛の心であり、神の御心であり、ただの親切心である。
 文句のつけようもない、ただの聖者。
「お前を、全部救ってやる」 
「まりあの事も忘れないでね!」
 絶望になど染まってやるものかと。
 絶望より生まれし花は軽やかに舞い踊る。

苦戦 🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

ディスターブ・オフィディアン
第一人格で行動
【SPD】
回答⇒無念のうちに果てても、後を継ぐ者が現れる。哀れなどではない。
「無念のうちに果てる。それがどうした、哀れだと? ふざけるな」
「夢に向けて行動し、果たせなければ、道化と笑うか。星に手を伸ばす愚か者と」
「――オレの友、村雨丸は志半ばにして死んだ。
 故に奴の夢はオレが継いだ。オレが死ねばまた別の者が継ぐだろう。
 オレたちはそうやって星の向こう、異世界にまで手を届かせる」

オルタナティブ・ダブルで第三人格を召喚し、前衛後衛に分かれて連携攻撃
「竜よ、お前の夢は誰も継がぬ」

一応、第三人格の回答
「善意からの行動であっても、自分勝手に他人に死を押し付ける時点で邪悪でしかありえません」



「無念のうちに果てる。それがどうした、哀れだと? ふざけるな」
 ディスターブ・オフィディアンだ。竜の物言いに真っ向から反逆するその不遜な態度は、第一人格たる暴く者。
「夢に向けて行動し、果たせなければ、道化と笑うか。星に手を伸ばす愚か者と」
 そこにあるのは怒りだ。人の営みを哀れと見下す者への隠すことなき怒り。
「――オレの友、村雨丸は志半ばにして死んだ。故に奴の夢はオレが継いだ。オレが死ねばまた別の者が継ぐだろう。オレたちはそうやって星の向こう、異世界にまで手を届かせる」
 夢、志、技術、全ては繋がっているのだ。人から人へ。親から子へ。師から弟子へ。友から友へと。何千年もの時をかけて編まれる長大な織物のような物語を人は歴史というのだ。そこに1片足りとも、1人足りとも無駄に散った命などない。
 哀れだなどと片付けるなど笑止。
「竜よ、お前の夢は誰も継がぬ」
 オルタナイティブ・ダブル発動。現れるのは若侍。そう、志半ばに散った友の人格だ。
「善意からの行動であっても、自分勝手に他人に死を押し付ける時点で邪悪でしかありえません」
 若侍は斬るように断定。
 2人は前後衛に分かれて竜に立ち向かう。
 若侍がその体術で竜の攻撃をひきつけ、いなし、時に斬りつける。狙いは硬い表皮ではなく、仲間達が作ってきた傷口。胸でもいいし、腱でもいい。もしくは飛ばされた爪の根本でもいい。よりどりみどりだ。
 暴くものがその魔導でもって援護射撃を行っていく。息吹を吐こうとすればその口元を狙い撃つ。

成功 🔵​🔵​🔴​

ニコ・ベルクシュタイン
…お前のような輩とは問答をする間も惜しい所だが、
問われたならば答えよう
「未来に希望が有るか否かは個々人の生き方こそが決めるもの
決して他人に断じられるものではないからだ」

時を刻む針は本来意思を持たぬ、ただ淡々と其の役目を果たすのみ
今ひととき俺は己の本来の在り様に立ち返り、全力で敵に挑もう
【時計の針は無慈悲に刻む】を使用
双剣の切っ先を向け狙いを良く定め、連撃をぶつける

…時は等しく人々に未来を与え、また奪っていく
だが其れは誰も抗えぬものと知れ
そして此れは俺が「人になって」知ったことだが
特別に教えてやろう
人はな、とても強い。お前が思う程、憐れまれるべき存在ではないよ。



「……お前のような輩とは問答をする間も惜しい所だが、問われたならば答えよう」
 多重人格者達が入り乱れる戦場に、ニコ・ベルクシュタインも参戦する。
「未来に希望が有るか否かは個々人の生き方こそが決めるもの。決して他人に断じられるものではないからだ」
 お前が俺たちの先を勝手に絶望だなどと決めつけるな、と強い眼差しが語っていた。
 そこに先の幻覚で負った苦悩の影は見当たらない。敵に当たれば敵を討つことに注力する。その割り切りは戦う者の基本だからだ。
 彼が刻むコードは、時計の針は無慈悲に刻む。
 まるで彼本来の姿、時計のように淡々と定められた拍子に従って、その双剣が連撃を繰り出した。
 狙うはその足。
 幾度も傷をつけ、それでもまだ健在な足の腱。
「……時は等しく人々に未来を与え、また奪っていく。だが其れは誰も抗えぬものと知れ。そして此れは俺が”人になって”知ったことだが
特別に教えてやろう」
 竜の咆哮。息吹ですらその連撃を止められない。どれだけ身体を傷つけようとも彼の、否、時の動きを止めることは何人たりともできはしない。
「人はな、とても強い。お前が思う程、憐れまれるべき存在ではないよ」
(人を信じられないお前には言っても無駄だろうが)
 ベルクシュタインは竜を冷たく睨みながらさらなる連撃を加え、ついにはその片足の腱を完全に切断した。
 竜がバランスを崩し、地響きを立てて倒れ込んだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

雪生・霜逝
救えるのなら救ってくれ!
喉を衝く叫びを掻き切る。言葉の代わりに血反吐を吐いた。身体も精神も虫食いの穴だらけで空っぽ。大切にしていたはずの"過去(ゆめ)"が零れていく。
呼吸できない自分の音声出力を奪って、ダミー人格が吼えた。
「抗った?オレは何もしちゃあいない、どいつもこいつも殺した程度で死にやがって!あんたは違うんだろう?頼むよ、あんたの夢がオレの世界より強いって…証明してみろッ!」
【銀世界】。氷夷弾が乱れ飛び、灰の花園を白い荒野に塗り替える。朦朧と雪を蹴った。裂けた胸郭から、錆色の腕が生える。真偽不明なる姿、己が何本足の獣かもわからない。ただ奔り、突き刺し、引き裂く。血煙を酸素のように求めて。



 雪生・霜逝は唯一人、他の猟兵とは違い血を吐くような想いを吐露していた。
 救えるのなら救ってくれ!
 喉を衝く叫びを掻き切る。言葉の代わりに血反吐を吐いた。身体も精神も虫食いの穴だらけで空っぽ。大切にしていたはずの"過去(ゆめ)"が零れていく。
 呼吸できない自分の音声出力を奪って、ダミー人格が吼えた。
「抗った? オレは何もしちゃあいない、どいつもこいつも殺した程度で死にやがって! あんたは違うんだろう? 頼むよ、あんたの夢がオレの世界より強いって……証明してみろッ!」
 彼は既に常軌を逸していた。
 度重なるエラーとバグの嵐に、正常な思考、判断が出来なくなっていた。彼には何が見えているのだろうか。しっかりと竜は竜として見えているのか。
 ソレは彼ならぬ者にはわかりはしなかった。
 叫び声と共に吐き出された『銀世界』の氷夷弾は巨大な竜を撃つ事無く、周囲に白い荒野を作り出す。
 雪生はその中を歩き竜へと迫るが……。
 彼は何者なのか。開いた胸からは無数の腕が生えている。足も、いつのまにか増えているように見える。完全に異形の化物めいた姿。
 最早人には理解の出来ない叫び声を上げると、多足多腕の化物は竜へと踊りかかった。そこに技も理もなく、無様で恐ろしい1つの暴虐があった。
 ただ奔り、突き刺し、引き裂く。
 血煙を酸素のように求めて。

成功 🔵​🔵​🔴​

襲祢・八咫
お前のそれは、ただの傲慢だな。愛している?どの口がそれを言う。
(人の手により造られ、人と共に在り、人を見守り続けた器物には、大層不快なものだった)

人の子らは生きたいから生きるのだよ、死にたくないから生きるのだ。彼らは己の手で己の命を散らす権利も、等しく持っているのだから。
それをすることなく立ち続ける者の生死にまで関与しようなぞ、傲慢以外の何ものでもなかろうよ。
お前が、見ていたくないから?そんなもの、知るか。

三本脚の烏を喚び、【属性攻撃】【なぎ払い】【2回攻撃】。
日輪の火よ、灼き尽くせ。
小さき者は決して弱き者ではない。それを教えておやり。
おれも、あれを排する力となろう。天國烏を手に、前へ。



「お前のそれは、ただの傲慢だな。愛している?どの口がそれを言う」
 不満を露わに吐き捨てたのは襲祢・八咫。
 人の手により造られ、人と共に在り、人を見守り続けた器物には、竜の物言いは大層不快なものだった。
「人の子らは生きたいから生きるのだよ、死にたくないから生きるのだ。彼らは己の手で己の命を散らす権利も、等しく持っているのだから。それをすることなく立ち続ける者の生死にまで関与しようなぞ、傲慢以外の何ものでもなかろうよ。お前が、見ていたくないから? そんなもの、知るか」
 見たくないなら見なければいい。骸の海の中で丸まって、微睡んでいればよかろうに。態々出てきてちゃちゃを入れるなど言語道断。
 人種族を愛し、共に歩むカミだからこそ竜の存在は、否、言動は捨て置くことはできない程邪悪だった。
「日輪の火よ、灼き尽くせ」
 三本脚の烏、再び。
「小さき者は決して弱き者ではない。それを教えておやり」
 烏もこの邪悪を放ってはおけぬと火勢を上げて竜に挑みかかる。
 天高く上がり、そこから急降下。
 他の猟兵が届かない背からの攻撃に、竜は完全に意表を付かれた。 直撃。体の割に小さな羽根が焼け焦げる。下手人たる烏を追い払おうと竜の意識が逸れた隙に襲祢が接近。
 愛刀、天國烏が閃いて無事な方の前足、その爪の根元を斬りつけた。

成功 🔵​🔵​🔴​

上月・衒之丞
なぜ抗うか、でありんすか
こん塩次郎を見るのは久しゅうありんすな
ようざんす。人型で非ずとも主は必ず殺しなんす

生み出される花畑は全てフォックスファイアで焼き払う
燃やしきれない花は糸で刈り取ろう
これ以上幻覚を増やされても……まぁあちきには関係ありんせんが

狐火は花畑に使って、花龍は文月で削いでいく
人型ではないが、狙う場所は一つ
首を確実に刎ねるタイミングを待ちながら傷を増やしていく

主が人間の何を知ってござんせんか
思わず笑いしなんすな
生き過ぎた主にはわかりんせんが、人は儚いからこそ「生きてこそ」でありんす
死んで残せるものなど悲しみのみでありんすよ

故に
「あちきが生きる為、主は散りなんせ。無明弦月流……睦月」



 上月・衒之丞は嗤っていた。まるで自分は神だと錯覚している阿呆な竜に、もはやそうする以外にどんな顔をすればいいのかと。
「なぜ抗うか、でありんすか。こん塩次郎を見るのは久しゅうありんすな。ようざんす。人型で非ずとも主は必ず殺しなんす」
 手を振れば、生み出された炎が新たに生えた草花を焼き、残ったものは鋼糸が余さず刈り取る。
 幻覚は彼には最早通じないが、他の猟兵の妨げになるやも知れない。潰しておくことに越したことはない。
 本体を叩く時もけして深入りはしない。元より彼は暗殺者。正面切って戦うなどは愚の骨頂だ。
 他の猟兵が戦う様を眺め、ダメージの通りや敵の反撃をつぶさに観察し、少しずつじわじわと傷を与えていく。
「主が人間の何を知ってござんせんか。思わず笑いしなんすな。生き過ぎた主にはわかりんせんが、人は儚いからこそ”生きてこそ”でありんす。死んで残せるものなど悲しみのみでありんすよ」
 故に。
「あちきが生きる為、主は散りなんせ。無明弦月流……睦月」
 人知れず、勿論竜に悟られること無く周囲に張り巡らした鋼線がついに牙を向いた。
 焼け焦げた羽根をずたずたに引き裂いて、足の傷口をさらに開き、そして首。
 その首級を頂戴せんと迫った必殺の糸は、けれどもいくらか切ったところで止められる。骨か、それともその強靭な筋肉が止めたのか。
 流石は竜種。一度では仕留め切れなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

フォルター・ユングフラウ
【WIZ】

絶望に抗い、僅かな救いに光を求め、それすら捥ぎ取られて更に絶望に沈む…それを眺めるからこその愉悦、昂ぶりよ
これこそが、我が我である為の生き方だ
愛だと?哀れみだと?ふざけるな
我は弱者では無い、弱者であってはならぬ
まやかしの愛に屈し、微睡む事は許されぬ強者なのだ…!

攻撃も自己強化も兼ねるフラワーフィールドが特に厄介だな…だが、攻めあぐねていては押し負ける
ある程度の被弾は覚悟の上で、UC:ヒュドラにて接近戦をしかけよう
花畑であればそう狭くはないだろうが、他の者を潰さぬ様にはしておきたい
幸い、我らが数では勝る
吸血や生命力吸収を駆使して体力の減少を相殺しつつ、粘り強く立ち回りたいところだ



 かつて無くユングフラウは苛立っていた。
(絶望に抗い、僅かな救いに光を求め、それすら捥ぎ取られて更に絶望に沈む…それを眺めるからこその愉悦、昂ぶりよ。これこそが、我が我である為の生き方だ。愛だと? 哀れみだと? ふざけるな)
 舐められている。下に見られている。それだけならば構わない。そんな連中を高みから蹴り落とし、床を舐めさせる愉悦もまた彼女の良しとするところであるから。たが竜は哀れんだのだ。彼女を。竜なりの愛でもって手を差し伸べてきたのだ。
(我は弱者では無い。弱者であってはならぬ。まやかしの愛に屈し、微睡む事は許されぬ強者なのだ……!)
 本当に?
 幻覚の残滓が彼女の傷を抉る。
 硬いものほど脆いものだ。硬いだけの武器が用をなさないように。彼女の凍てついた心には確実にヒビが入っていた。
 だからこその怒り。苛立ち。
 自分が強く、相手の方が哀れむべき存在だと証明せねばならない。
「目に焼き付けよ。貴様に地を舐めさせるこの威容を!」
 巨大化し、多頭の蛇へと变化していくユングフラウ。
 瞬きの間に、天に向かって吠える巨大な大蛇がその姿を顕現させた。身の丈20mを優に超える。眼の前の竜に負けず劣らずの巨大さだ。
『散れ! 踏み潰すぞ!』
 ユングフラウが突進すれば、竜に張り付いていた猟兵達がぱっと離れる。
 激突。
 もはや移動も困難な体となった竜はまともに突進をくらい、甲高い悲鳴をあげた。
 それだけでは終わらせない。竜に巻き付き、首に噛みつき毒液を注入する。竜種とはいえ口は1つ。こうして噛み付いてしまえば息吹を封じることは可能だった。
 竜が足掻く。最早無事な足など殆ど無いその体で、身を捩り爪を引っ掛け、どうにか拘束から逃れようと必死に暴れる。
 大蛇の身体が音を立てて軋む。鱗が飛び、肉が抉れる。
(馬鹿力めっ)
 苦痛に声を漏らす代わりに更に毒液を注入してやる。どろどろに溶けた竜の肉と血を吸収して自身の回復にあてる。とはいえ、長くは持たない。流石は竜種の力。身体がバラバラになりそうになる。
 なにより、なによりだ。この变化は寿命を著しく削る。
 出来ることならこのまま喉を噛み潰してやりたいが、それまではたして身体が持つか。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヘンリエッタ・モリアーティ
【二ルズヘッグ(f01811)】と同行
ははは!!二ル!!君もいたのか!見てくれ!彼こそ私の宿敵だ!愛すべき殺すべき……うぐ!?

……き、君なぁ。私の美しい顔に容赦が無さすぎる!が――いい薬になった。
ブラッド・ガイストでモランを槍に――殺戮捕食形態に変える。
【怪力】でこの私自ら、【串刺し】にしてあげよう!
背は任せたよ。君の背も私に預けたまえ。

終わる夢ほど酷いものもないな。だがいい結論が出た。「私はこの現実を――今を、愛するほかにない」という事が証明された。ならば、これから愛するであろう未来を救うのも――彼女のいない未来を愛するのは、私への罰だからね。
さあ、お前など『無駄』だ!――過去に帰れ!


ニルズヘッグ・ニヴルヘイム
【ヘンリエッタ(f07026)】と共闘

おお、マダム、奇遇だな……おい、聞いているか?
全く、どれだけ花粉を呑んだのだ……戻って来い、頬を張り飛ばすぞ!

マダムが正気に戻ったところで、【三番目の根】で早期決着を図ろう。
味わう死は――目の前で自ら火を飲み死んだ、片割れのそれだ。
殺戮形態となった竜槍で、さっさと【串刺し】にしてやろう!
背中は任せるぞ。貴様の背は守ってやろう。

未来に救いはない?戯けたことを。
ならばこの私が証明してやろう。この世界に満ちる、愛と希望をな!
……救いとは、断崖を歩く者を崖下へ突き飛ばすことではない。その道の苦難にも足を折らないよう、その背を支えることだ。
分かったら――過去に帰れ!



 巨大生物同士の肉弾戦の最中、場違いな高笑いが響く。
 いや、この狂的な場においてはむしろぴたりと適合する笑いだったろうか。
 心底に嬉しそうに、タガが外れて嗤う女。ヘンリエッタ・モリアーティ。今彼女の前には竜がキチンと認識されているのか疑問だ。もしかしたらかの愛すべき君をまだ見ているのではないか。
「ははは!! 二ル!! 君もいたのか! 見てくれ! 彼こそ私の宿敵だ! 愛すべき殺すべき」
「おお、マダム、奇遇だな……おい、聞いているか? 全く、どれだけ花粉を呑んだのだ……戻って来い、頬を張り飛ばすぞ!」
「うぐ!?」
 殴り飛ばすぞの”す”と”ぞ”の間で繰り出された手が乾いた音を立て、モリアーティの顔が勢いよく明後日の方を向いた。
 視界が瞬く程の衝撃にモリアーティの灰色の脳細胞が撹拌機にかけられたようにシェイクされる。
「……き、君なぁ。私の美しい顔に容赦が無さすぎる!」
「背中は見えていないだろう? 十分容赦はしているぞ」
 そんなことになったら頚椎損傷で猟兵だって無事ではすまないだろう、なんて軽口を叩きながら彼らは己の武器を構える。油断は無く、余裕を見せて。実にこなれた戦士の所作だった。
「まあ、いい薬になった。ではいこうか、ニル。背は任せたよ。君の背も私に預けたまえ」
「ああ、戯けた事をいうドラゴンに証明してやろう。背中は任せるぞ。貴様の背は守ってやろう」
 モリアーティの武器はモラン。這いずる竜は主の腕から血を啜り、凶悪な槍へとその身を変貌させる。
 ニヴルヘイムの武器はOrmar。彼が救えなかった者、片割れの少女を包む炎の記憶がより竜そのものである槍を鋭く強くする。
 2人は同時に走り始めた。
 迎撃の息吹はもはや無い。
 足はどれもこれも半壊しておりまともに振るえはしないだろう。
 翼だって焼け爛れてボロボロだ。
 さらには大蛇によって身体を拘束されている。
 死に体というやつだ。
 更には皆が開けた胸の大穴が、2人を歓迎するようにその傷口をこちらに向けていた。
「終わる夢ほど酷いものもないな。だがいい結論が出た。”私はこの現実を――今を、愛するほかにない”という事が証明された。ならば、これから愛するであろう未来を救うのも――彼女のいない未来を愛するのは、私への罰だからね」
「未来に救いはない? 戯けたことを。ならばこの私が証明してやろう。この世界に満ちる、愛と希望をな! ……救いとは、断崖を歩く者を崖下へ突き飛ばすことではない。その道の苦難にも足を折らないよう、その背を支えることだ」
「さあ、お前など『無駄』だ!」
「分かったら」
「「――過去に帰れ!!」」
 2人の渾身の槍が竜の胸に吸い込まれていった。
「GYAIIIIIIYAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!?」
 肉声の悲鳴と、意味を成さない意志が空間をひび割れさせて。
 愛を謳った竜は、遂に倒れたのだった。

●後始末
 この大量の死骸をどうするか。
 放置すればやがてそれを目当てに獣やゴブリンが来かねないし、腐肉は病の元にもなる。竜種の肉ともなれば付近の人間に言えば高値で買い取りそうだが、連絡して取りに来るまででも大仕事だろう。なによりそんなコネも時間もない。
 少々勿体無いが残りの花と一緒に全て焼き払ってしまうことにした。
 素材に使うという者が作業を終えるのを待ってから処理を行う。
 火を使える者たち全員で放った異能の炎は、長い長い時間をかけてゴブリンと、竜、そしてこの地で果てた無数の人間の骸を飲み込んで燃えに燃えた。
 まるで巨大な送り火のようだ。
 その炎に何を見たのか。残った猟兵達は皆無言でそれを眺め続けたのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月20日


挿絵イラスト