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ニンゲンモドキ

#UDCアース

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#UDCアース


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「ハルト、じゃあなっ!」
「おー、またなー!」
 塾の帰り道。いつもの場所で友達と別れると、こっそり裏道に入る。
 冬場のこの時間になると、もうすっかり真っ暗だ。
 ぎょろっとした目の人型のシルエットが描かれた『不審者に注意』の看板は、いつ見ても慣れない。見る度に背筋がひやりとする。
 心臓がドキドキし始める前に、自転車のペダルに足を掛けて、漕ぎ出した。

 この道は街灯が少なくて、人通りもないからあんまり通るなって言われてるけど、家までの近道だからママには内緒で時々使う。
 左右を木に覆われた真っすぐな一本道。大通りに出るまで、自転車で4分ぐらい。
 真っ暗な道を、自転車をガンガン飛ばして駆け抜けるのは、秘密と緊張感が混じりあって楽しい。
 何も出るもんか。今までだって、何も出なかった。
 大人っていうのは、いつもそうだ。心配しすぎだよ。
 ぼくは、もう小学5年生だ。クラスでも身長は大きい方で、怖いものなんかそんなにない。
 何も出るもんか。目を瞑ってたってヨユー。
 ほら、もう半分過ぎた――、

『ねえ』

 びっくりして、急ブレーキをかけた。甲高い摩擦音がこだまのように響いて耳に残る。
 心臓がバクバクする。
 今、絶対に、誰かがぼくに声を掛けた。
「だ、誰……?」
 上擦る声で問い返す。ぼくは街灯の下から、恐る恐る振り返る。
 子どもの声だった。友達かも知れない。
『ねえ』
 また、同じ声がした。聞き覚えがない。友達じゃない。
「誰っ、だ、誰だよ……!?」
 暗闇から何かの音が近づいてくる。靴の音ではなかった。裸足で歩く音に混じって、カチャカチャと硬いものが地面を刻む。それから、バサバサと箒で履くような音もあった。
 音に合わせて、のろのろと来る人の影が目に入る。
 嘘だ。

 《今まで誰もいなかったじゃないか》。

 それに、あの影、何か変だ。
 人間にしては上半身が異様に大きい。よたよたと千鳥足で動いているのが、不気味だし、何より、声は子どもだったのに、身長は大人ぐらいある。
 不審者だ。絶対に、絶対にこいつが不審者だ。
 逃げなきゃと思うのに、足が固まって動けない。
『ねえ』
 影は近づいてくる。
「あ……ひ、ぁ……」
 ぼくは動けない。

『イ、たい……止めテ、おネがいだカラ……』

 『ソイツ』が、街灯の下に姿を現し、

 ぼくは、見た。

 落ち窪んだ眼窩口元から垂れる血滑稽に歪んだ口とむき出しの黄ばんだ歯体のあちこちから生えた翼――化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化け物化けもの化け物化ケもノ化けモノ化ケ物ばケものバけモのバケモノお化ケモノばケ物の化バkえ物化けケ物Bあけもn化バばけケケけけけケけケケケけけけケケけけケけけケけけケけけケケケけkkkkk――、

 そいつは ぼくを みて いっそう わらった。

『殺サないデ』

 子どもの声でそう言って。ケタケタと無邪気に笑いながら。
 そして ぼくは ――――――――――、


「やはやは、エブリワン。おそろいのようで何よりザマス」
 傘をくるくると回しながら、ノ・ノ(ノーナンバー・f05650)は人を模した口でニタリと笑った。
 カラフルな模様のついた白いレインコートの裾を翻して、軽い足取りでベース内を歩く。
 彼が歩いた後には、身体から流れ落ちた黒い液体が水たまりをつくっていた。
 その背面に映し出されたのは、見た事がある者もいるかも知れない。UDCアースの光景だ。
 ノ・ノは室内をうろちょろと歩き回りながら、説明を始める。
「UDCアースにゃ、邪神復活を目論む教団なんぞがいるのは、ご承知の通りじゃと思うけんどーー」
 だから詳しい説明は省くネと言外に伝えながら、ノ・ノは、瞳の存在しない顔で、猟兵たちを見返る。
「今回、その拠点の一つが、ぼっくんのレーダーに引っかかっちゃったんだよねダヨネ。それがもう――」

 めっちゃくっちゃに胸糞悪ィの。

 ベチャリ。笑い声と共に、黒い液が落ちた。
「わちしのスイートな一日が台無しで超ショックってぇ。まぁ、それは置いといても、見捨ててはおけんじゃん? うちら猟兵なんだしさー」
 くる、くる、
 絶え間なく傘は回る。飾りが光を反射して、チリチリと揺れた。
「っちゅーことで、いっちょミンナサマに潰してきてほちーワケれちよ。その教団を。跡形もなく、がっつりと」
 長靴で黒い水たまりを、ぐりぐりと引き延ばしたり、磨り潰したり。
 それを、目のない顔で見ている振りして、少年は言った。尚、続ける。
「拠点の中心的な教団員は、既に邪神化が始まっててですな。そいつが、クッソキモい子どもを喰う鳥人間型の怪異をわんさか生み出してるみてーで。教団周辺では子どもが少なくとも4人行方不明らしいッス」
 顔をあげる。
 ナイナイ尽くしには、表情もない。虚ろな液体がとぷりと揺れた。
「いなくなった子どもはね、もう、死んでるのだけどよ」
 それは確定事項なのだと、グリモア猟兵は淡々と告げる。今向かっても、もう遅いのだと……知性無き怪異と遭遇した時点で、避けられなかった過去なのだと。
「あの鳥の、あの顔が、ムカつくからね」
 妙に並びの良い歯が、柔らかな皮膚に食い込む感触、血生臭い吐息――、

「呼び出したゲスヤロウ共々、『過去』にもなれなくなるぐらい、粉微塵にしてきておくれよ」

 頼んだぜ、猟兵。と、子どもの姿を真似たブラックタールは、口を歪めた。


「あ、それはそれとしてぇ、仕事が上がったらもひとつお願いがありんす★」
 ぺかっと空気を切り替えて、ノ・ノは、ポケットから何かの袋を取り出して掲げて見せる。
 首を傾げる猟兵たちに、ちっちっちと指を振り。
「ディース イーズ TANE!」
 彼に英語は難しかったらしい。だが、その振る舞いはどこまでも誇らしげだ。
「ま、花の種でござるよ。コレを、植えてきてほしいんじゃい!」
 植えてほしい場所は、教団の拠点から然程離れていない裏道だと言う。
 道の両脇は舗装されておらず、地面が剥き出しになっている。蔓延る種類の花でもなければ、誰の迷惑にもなるまい。
「ワイちゃんは、お花とかカラフルなもんが好きだからにぃ。どこでも植えたくなっちゃうんだみゃー、こりが!」
 ケチャケチャと笑い声上げて。
 一瞬にして球体に姿を変えて、ゴムボールのごとくぽーんと弾んで後ろに跳び退き、再び人間の姿を模す。傘に種の詰まった袋を乗せて、くるくる回すは名人芸。いつもより多く回しておりますとばかり。

「花で心慰められたり癒されたりするのが人間ってモンしょ? ぼく様はそゆとこ、ちゃ~んとお勉強済みなワ・ケ!」

「ということで、レッツらヨロピコ★」
 緑色のウィッグの奥、ないはずのものが、ぱちりとウィンクしたような気がした。


夜一

 お世話になっております。夜一です。
 ノ・ノのイラスト披露も兼ねて、UDCアースの事件を出させていただきました。
 今回は前二本と比べ、1~2章はシリアス寄りです。
 なぜかボスより『嘲笑う翼怪』さんの方に重きが置かれていますが、デザインが凄いので仕方ない。

 本シナリオは
 第1章 集団戦
 第2章 ボス戦
 第3章 日常パート
 という構成になっております。

 何方様も、思いの丈をぶつけに来ていただければ幸いです。
 どうぞよろしくお願いいたします。

●ご注意
 ・マスターの執筆傾向。
 アドリブ色が強めです。
 特にご指定がなければ、基本的に他の参加者の方と行動を連携させます。
 ご参加いただいた方のキャライメージを損なわないことを最優先で連携を考えますが、ご了承の上参加いただけると幸いです。
 単独描写希望の方・アドリブ不可の方は、ステータスシート等にその旨を御記載下さい。
 文字数を圧迫するのが忍びないので、プレイングで「アドリブ・連携可」等、記載いただかなくても大丈夫です。
 お客様のキャラクターの行動・心情などに費やして頂ければと思います。

 ・その他。
 NPC(ノノ)は、第3章でお声かけがあった場合のみ登場いたします。
 特にお気遣いいただかなくても大丈夫ですが、お気軽にお声かけも嬉しいです。
 NPCへの声掛けプレイングを優先したりなどはしません。
 皆様のお好きなように。思い思いに遊んでいただければ幸いです。

 それでは、皆様の個性あふれるプレイングを楽しみにしております。
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第1章 集団戦 『嘲笑う翼怪』

POW   :    組みつく怪腕
【羽毛に覆われた手足】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    邪神の加護
【邪神の呪い】【喰らった子供の怨念】【夜の闇】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
WIZ   :    断末魔模倣
【不気味に笑う口】から【最後に喰らった子供の悲鳴】を放ち、【恐怖と狂気】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 猟兵たちが足を踏み入れたその建物の空気は、廃墟のそれを思わせた。
 邪神を崇拝する教団の活動拠点として転送された建物は、二階建ての簡素なビルだった。灰色の壁面は薄っすらと罅割れており、碌な手入れもされていないことが伺える。人間が存在している建物にある“体温”めいたものが、そこには存在しなかった。

 冷え込んだ空気と黴臭さ。

 埃が積もっていないことから、辛うじて今も『使われている』ことが察せるものの、『ここ』が『そういう』施設と知らなければ、単なる廃墟と勘違いしてもおかしくはない。
 ただし、この場所が廃墟と異なるのは、黴の匂いに混じる≪生臭さ≫。
 そして……、

『ぁ、マ』

『ママ、……た、スけて』
『う゛、エ。辛イ、痛い゛、ひドィよォ』
『誰ッ、ダ、誰、カ』

『 た゛ す ケ゛ テ゛ 、 ぇ 』

 目を覆い、耳を塞いでも、消えることは決してない、この『畜生共』の巣窟と化している事である――!!
ロカジ・ミナイ
僕が一番消したい臭いがする。
世の中から。僕の身体から。
……いや、だって、鼻に残るでしょ、この臭い。
花の香りが迷子になる。

うっわ、つーかキモ!
見慣れてないとは言わないけど、この手のは何度見ても
愛着が湧かない。今のところはまだ湧いてない。あーー無理。
パクった声しか出せねーのかよ。不器用な生き物だなぁ。

耳をつんざく様な響き、でも僕は耳を塞がない。
眉間に力は入るけど、目を逸らしたくない事実がある気がするから。

はぁーー滅茶滅茶イライラしてきた!
全部斬って殴ってツミレにしてトイレに流してやるからな!

使った奇稲田は綺麗に洗って消毒する。


シーラ・フリュー
まぁ、まるで地獄絵図…。なんだか気色悪いですし、見るのも嫌になってきますね…。
ですけど…これ以上の犠牲を出すわけには、いかないです…微力ながら、強力致します…。

判定は【POW】を使用します。
大型リボルバー(アサルトウェポン)で【2回攻撃】【早業】【クイックドロウ】を駆使して攻撃。
頭の中の【戦闘知識】を思い出しながら、なるべく安全に距離を取って戦闘できるよう、意識していきたいですね…。
知識だけでは、不安な事もあるので…【第六感】にも、頼っていきたいです…。
もし近づかれてしまったら、【猟犬の咆哮】。できれば、攻撃される前に撃ち落としたいです…間に合えばいいのですが…!


ミスティ・ミッドナイト
残されたご両親の方々の気持ちを考えるとやりきれませんね…。
無実の人間が無意味に殺されるということ、これ以上の最悪はありませんから。

半ば手遅れですが、これ以上の命が奪われる前に叩き潰さなければ。

●SPD
ステップ1 フック付きワイヤー(装備)、【地形の利用】、【罠使い】を使用し、建物の死角にトラップを仕掛けます。
ステップ2 【逃げ足】を使用しながら、設置したトラップ、ハンドガン(装備)で応戦します。時間をかければ、対象のスキルの代償によってこちらが有利になるはずです。
ステップ3 対象に対し、タクティカルライト(装備)で【目潰し】を試み、他の皆様の援護を行います。

それでは、取り掛かりましょう。


トラゴス・ファンレイン
……なんか、惨い話やな。いなくなった子らはなーんも悪い事してへんのに、教団が近くにあったばっかりに。
猟兵としてせめて仇討ちくらいはしっかりしてやらんと、出来る事なんてこれ位やし。

・行動
しかしシンプルにキモいなあこの鳥。
子供の声で鳴くんも胸糞悪いし動揺はせんけど耳障りや、鳴かんように主に頭部狙って攻撃しよ。
敵の攻撃は「野生の勘」と「見切り」で避けられるだけ避けていこ。避けられんようならスクラップシールドでガードや。
近距離戦闘はブレスレット握りながら拳で攻撃。
遠距離戦闘ならユーベルコード『精霊招致・鷲』で応戦や。同じ鳥でもな、俺の契約しとる精霊さんはお前らみたいのとは違うんよ。覚悟せえや!


天通・ジン
うぇ……気色悪い。
受けた以上はやらざるを得ないけど、正直直視に耐えないな。
たちのぼる吐き気を抑えながらも、俺は戦う。
だって猟兵だからな。戦う覚悟はできている。

戦場は廃ビルってことだけど、遮蔽物はあるのかな。取り残された机とか。
そういうのを盾にしながら、俺は熱線銃で銃撃戦をしかけよう。
UC【クイックドロウ】を用いた、早撃ちで【援護射撃】さ。

仕留めることより、まずは相手を拘束すること。
呪いや怨念がいくらあろうと、ビームという現実は止められないぜ。
味方が接近して攻撃する手助けが主目的。

もちろん、狙えるなら相手の不愉快な顔を吹き飛ばす。
いくら声だけ似せても、お前は犠牲の子じゃないよ

連携・アドリブ歓迎


未不二・蛟羽
子供の悲鳴、群がる異形……知らない
俺は知らない、けど…きっとこの光景を、俺知ってるっす……
覚えていない筈の何かが頭を掠め、振り払うように咆哮して【水守】を放ち、【氷属性】【マヒ攻撃】で相手の足止めをして
苦しいとか、悲しいとか……もう、終わったことだから。今は無いことだから。助けられないけど、終わりにするっす
トドメは尻尾を【ガチキマイラ】に変化させて攻撃っす
これが俺の、出来ることっすから

ごめん、と口から溢れた言葉と、怖いのか、悲しいのか、分からない感情に胸を押さえ
誰も助けられないなんて、ヒーロー失格っすね…
でも、こんな未来は、もうあっちゃいけないっすから
最後は笑顔で!その為に、倒すっす!




 教団拠点前に転送された猟兵たちは8名。
 既に犠牲者が出ているだけに、突入を待つ空気はどうしても重くなる。
「……なんか、惨い話やな。いなくなった子らはなーんも悪い事してへんのに」
 さしもの自由人と言えど、遣る方無さを思わずにいられない。
 トラゴス・ファンレイン(エスケープゴート・f09417)は、ぼそりと呟き首筋を押さえた。
 邪神崇拝の教団が近くにあった。
 子ども達が巻き込まれたのは、たったそれだけの理由だ。
 それだけのために、子ども達は理不尽にも殺された。
「残されたご両親の方々の気持ちを考えるとやりきれませんね……」
 レディーススーツに、乱れなく整えられたポニーテール。
 ミスティ・ミッドナイト(霧中のヴィジランテ・f11987)は、表情を崩さないままで、けれどビルの入り口を見て赤い目を細めながら同意する。
 『弱く善良な人達を助けたい』という強い想いを胸に有する彼女にとって、子どもという『弱く善良な』存在が害された今回の事件は、最悪と言っても過言ではなく、当然見捨てておけようはずもない。
「半ば手遅れですが、これ以上の命が奪われる前に叩き潰さなければ」
 この場に集まった猟兵たちの多くが、同様の気持ちであっただろう。
 ミスティの言葉に、全員の顔に決意が宿る。
「猟兵としてせめて仇討ちくらいはしっかりしてやらんと、出来る事なんてこれ位やし」
 トラゴスの声に、いつもの軽さは伺えない。
 獣の、横長の瞳孔が熱を帯びた。その手には既に愛用の大連珠が握りしめられている。硬く、堅く。

「それでは、取り掛かりましょう」

 猟兵たちは駆け出す。
 真正面から一直線に特攻し、ビルの扉を蹴り開いた


 中に犇めく怪、怪、怪が――一斉に振り返った。
 二つの空洞を浮かべた、数えたくもない薄気味悪い顔の群れ。その口からは彼等の犠牲となった者の声が、絶えず漏れ出している。壊れたラジオの方が、まだずっと愛嬌があるだろう。
 開いた瞬間に外気と入れ替わろうと中から逃げ出してきた臭気に、ロカジ・ミナイ(きまってない・f04128)は顔を顰める。
「……僕が一番消したい臭いがする」
 それは、単純な匂いの話ではなかったかも知れない。
 薬師である彼の好む花の香りが上から塗り潰されそうな、世の中を、彼の身体を、包み込む澱んだ臭い。
 鋭い嗅覚が侵蝕され麻痺してしまいそうだ。残したくもないのに勝手に人様の鼻に居座ってくれて、と、眉間に皺が寄った。
 自然、目を凝らすような表情になってしまい、改めてしっかりと異形どもを目にしたロカジは、思わず、
「うっわ、つーかキモ!」
 声を上げずにはいられなかった。
 細い指、細い手にメイスの柄をしっかりと握りしめて、巽・しづか(まほろばに微睡む・f05946)もぐっと唇に力を込めて、一文字に引き締める。
 予想していた通り、この中では飛ぶのは難しそうと、翼は隠したまま。
「うん、すっごく気持ち悪いけど……」
 負けまいと、しっかり開かれた琥珀色の隣、
「まぁ、まるで地獄絵図……。なんだか気色悪いですし、見るのも嫌になってきますね……」
 表情を変えぬまま、シーラ・フリュー(天然ポーカーフェイス・f00863)がアイスグリーンの瞳でじぃと翼怪の様子を覗う。
 薄暗い室内に、白に近い灰色の髪は、輝くように浮かび上がる。
「ですけど……これ以上の犠牲を出すわけには、いかないです……」
 その手に大型のリボルバー銃【リュミエール・デュ・ソレイユ】を構える。屋内の幽かな光に、太陽の印がちかりと反射した。
「うぇ……気色悪い」
 オリオンブルーが嫌悪に歪む。
 猟兵としての使命感を持ちながらも、この光景は直視に耐えないと天通・ジン(AtoZ・f09859)が苦虫を噛み潰したような表情で。
 ひとたび気を緩めれば、胃の中の物が洗い浚い出てきてしまいそうだ。
 意識を強く保とうと、拳を固く握る。手袋が摩擦するときに立てる聞きなれた音が、彼の心を今ある現実へと引き留める。
 大丈夫だ。戦う覚悟はできている。
 だって、俺は猟兵だから。
 仁上・獅郎(片青眼の小夜啼鳥・f03866)は左右で色の違う瞳を素早く、冷静に巡らせて室内の確認をする。
 敵の数、凡そ三十程であろうか。
 グリモア猟兵の予知通り、室内には一般人の姿はない。赤黒い染みが床や壁にこびり付いているだけだ。
(生存者ゼロで、害悪にしかならない怪物だけなら……)
 と、青年は考える。
 常ならば医師としての気質もあり、仲間のバックアップに回ることも多いのだが、今回ばかりは、
「暴れてみますか」
 制圧戦であり、殲滅戦。小銃は未だ、隠したままに。

 怪異への嫌悪の情胸中に込み上げる者が多い中、未不二・蛟羽(絢爛徒花・f04322)だけは、胸に、脳裏に、別種の想いが去来していた。
 多数の不気味な口から、言葉通り口々に発せられる子どもの断末魔。そして、群がり蠢く邪悪たち。
 知らないはずである。
 “未不二・蛟羽”は、過去の記憶を失ってしまっているのだから。
 けれど、この鼓動、胸騒ぎは一体――、
(俺は知らない、けど……きっとこの光景を、俺知ってるっす……)
 失ったはずの“過去”が、忘れたはずの光景が、内側から彼を呼ぶ。
 目の前で、何かが明滅した。
「っぐ、ガァアァァァァアアァァッ!!!!!」
 喉から振り絞るように。そして、明滅した何かを振り払うように上げられた龍の咆哮が、開戦を告げた。


「しかしシンプルにキモいなあこの鳥」
 ぼやきながらも、トラゴスは翼怪の声を止めようと、相手の頭部に狙いをつけて殴り飛ばす。敵の黄ばんだ歯が折れて砕ける――も、倒れ伏した後も、その声は念仏のように細々と垂れ流されていて。
 うっげと、思わず顔を顰める。
 軽く勢いをつけて、足を振り下ろし、ストンピングで止めを刺してようやく静かになると言う有様だ。
 耳障りやし、面倒やなぁと心の中で舌打ちする。
 少し離れた場所、同様のぼやきを零したのは、ロカジだった。
「見慣れてないとは言わないけど、」
 この手の奴らは何度見ても愛着が沸かないな。植物系ならまだしも。
 少なくとも、今のところはまだ沸いてない。
 自分自身の言い回しに吊られて、じゃあ今後愛着が沸く可能性はあるのかと、眼前まで近づいた怪異をしげしげと眺めてみる。
 知性のない化生は、近くへと来たものへと何の策もなく半ば翼となっている腕を伸ばし、組み付こうとする。
 ぞっとしないけど、ぞっとする。
「あーー無理」
 改めて沸いてきた拒否反応を確認をするや、ロカジは仕込簪《奇稲田》を素早く抜き取り、敵に突き立てた。
『い、イ゛タ゛いィィイ』
 痛みのためか、化け物が子どもの声を借りて悲鳴をあげる。この言葉も、偶々意味が通っただけで、単なる借りものだ。
「パクった声しか出せねーのかよ。不器用な生き物だなぁ」
 言うが早いか、敵の体はすぱりと二分に斬り離される。
 泣き別れとはよく言うが――、
「お前は鳴かなくていいよ」
 お前の立てる音にも、興味はない。
 男は、敵の体が地面に落下する前に簪を抜き取ると、不機嫌そうに眉間に皺を寄せた。
 前に立つ男二人を避けて、何かが幽かな風斬り音と共に空間を走る。
 黒く塗られた視認困難な鋼糸【黒糸】が、敵の体を封じ、締め上げ、切り落とした。
「全部片づけるのは、骨が折れそうですね」
 とはいえ、強さは然程でもない。
 1対1で向き合えば、まず負けることはないだろう。問題なのは数だけである。
 後ろを取られないために、互いに互いの死角を補って複数で行動するのが得策だろう。
「僕はお二人の後ろを守りましょう」
「んじゃ、俺は右やるわ」
「あー……左側しか残ってないじゃん」
 じゃあ、それで良いよと不機嫌も相まって気だるげに言いながら、その手は的確に敵の喉元を斬り裂いた。

「ミスティ、調子はどうだい?」
 柱の陰から陰へと移動しながら作業をしているミスティに、彼女をフォローしながら近づいてくる敵を牽制しているジンが声を掛ける。
 傭兵らしくトラップを設置することで、敵への攻撃と仲間への支援の両方を行おうとしているミスティは、手早くワイヤーを駆使して死角に敵の動きを阻害する仕掛け罠を作る。
 罠を避けるだけの知能もなさそうな化け物たちだ。この作戦は大いに有効であろう。
 ミスティは立ち上がり、先にジンだけでは手が回らず撃ちそびれた敵を撃ち抜いてから、
「ありがとうございます。設置完了しました」
 ミスティは手順が整ったことを返す。
 有象無象とはいえ、数だけは多い。ともすれば回り込まれることや囲まれることも考えうる。
 遮蔽物を駆使し、フォローし合う態勢が取れたことは互いに有益だった。
 設置された罠を見て、彼女の意図を察したジンは、力強く一度頷いた。
 ここからは、別行動を取った方が良いだろう。
 ジンも、味方の支援に動こうと、陰から飛び出すタイミングを伺いながら、
「それじゃあ、ミスティも気をつけて」
 揃えて立てた人差し指と中指、おでこに当てて。
「ええ、天通さんも」
 間も無く、敵は邪神の加護により強化されるだろう。それに先んじることを考えながらも、逃げ足を活かして逃げ切れるギリギリまで敵を引きつけ、
「3・2・1……」
 少年の声が、ゼロを刻んだ瞬間、二人それぞれ別の方向へと散開する。
「グッドラック!」
 直後、罠に掛かった怪鳥がバサバサと羽を撒き散らす音がした。

「えいっ!!」
 鈍い音が響いた。束の間、しづかは深く息を吐く。
 数の圧倒、狭い室内でのヒット&アウェイは想像以上に気を張ることが多く。
 敵の的にならないように、手近な敵を見つけては攻撃と離脱を繰り返していたしづかだったが、苦戦の色を滲ませる。
 離れた場所にいたトラゴスは、彼女の状況を把握すると、即座に《精霊招致・鷲(イーグルカチナ)》によって鷲の精霊を呼び出した。
 別方向からしづかへと伸ばされる怪腕。それとの間に精霊を割り込ませ、その間にしづかは後ろへと退く。
 戦闘力は大きくなくとも、95体にもなる精霊の群れは心強い。
「……あの、ありがとう」
 手短に感謝をトラゴスへと伝える。
 しづかが下がったことを確認し、続けて精霊を繰りながらトラゴスもまた彼女に頷き返すと、敵に向けて言い放つ。
「同じ鳥でもな、俺の契約しとる精霊さんはお前らみたいのとは違うんよ。覚悟せえや!」
 再び、敵に向けて、一斉に精霊を嗾けた。
 精霊の波に押し流され軽くはないダメージを受けてはいるものの、敵はまだ倒れておらず――、
 波が、敵の体を通り過ぎきった、その先、あるいは後に、
「……っ、お返し!」
 メイスを振り被るしづかが距離を詰めていた。
 鷲の精霊を目晦ましに、痛い一撃を脳天目掛けて振り下ろす!
 避けることができずに、床に倒れる敵。
 だが、まだ終わりではない。しづかの横を二発の銃弾が通り過ぎた。
 彼女の元へ近づこうとしていた怪異の一体を撃ち倒し、シーラが駆け寄る。
 発射したはずの銃弾は、既に装填が済んでおり、万全の状態だ。
「微力ながら、協力致します……後ろは、任せてください」
 彼女自身、慣れぬ戦場にどこか緊張している雰囲気がないではないが、それを補う手段は講じている。
 それに、決して一人で戦っているわけではない。
「うん……がんばろう」
「ええ……頑張りましょう」
 もう、一息。二人は互いに目配せすると、メイスを、リボルバー銃を、握りなおした。

 咆哮に滲むのは苦しさ。
 それは、身体的なものではない。きっと、心があげた苦痛の声だ。
 蛟羽が、《水守(ミズノカミ)》によって作り出した氷によって、視界内の複数の敵を一気に貫き動きを止める。
 ここに残る、苦しみも、悲しみも……全てはもう、終わったこと。今は無いこと。
 言い聞かせるような言葉を胸に収め、蛟羽は敵に駆け寄る。
 一方で、仲間であり、年の近い彼の苦しみを察したのだろうか。
 ジンが背後から《クイックドロウ》での援護射撃を行う。
 幾筋もの熱線が、蛟羽の動きをフォローして。蛟羽の攻撃から幸いにも逃れ彼に殺到しようとする怪異の脚を牽制する。
 序盤からずっと仲間の援護に回っていたジンは、天通・ジンは、“普通の少年”なのだ。
 スペースシップワールドの出で、戦闘が身近にあったとはいえ、彼は護衛等を主としていたパイロットで、前線で戦う兵士ではなかった。
 冷静沈着を常とする気質でもない。
 むしろそれは逆で、彼の中に流れる血は、情熱に赤く、熱く、滾っているのだ。
 それでも彼が支援に徹するのは、それが最も彼の望む事態の収束に近道だと知っているからだ。
 自分の拳が届かないのならば、それを仲間へと託して――、
 蛟羽が、自身の尾を蛇の頭から獅子の頭へと変じる。
 《ガチキマイラ》を発動し、敵に噛みつかせる直前、仲間へと伸ばされた魔の手を、光が撃ち抜き、弾き飛ばす。
 二撃・三撃・四撃・五・六・七八九十……一秒間に、十七ものブラスターを撃ち込まれた敵の顔は、残った部分を数える方が早い。
 開けられた穴の向こうに、オリオンブルーを湛えた星が輝く。
「いくら声だけ似せても、お前は犠牲の子じゃないよ」
 銃を構えたまま、ジンが怒りを滲ませた声で呟いて。
「うおおぉおおぉおぉ……!!!!」
 龍が吼える。
「行けぇ!! 蛟羽っ!!!」
 少年が咆える。
「助けられないけど、」
 助けられなかったけれど、
「終わりにするっす!」
 これが俺の、俺たちの、出来ることなのだ――!!
 獅子が怪異に絡み、噛みつき、その肉を食い破った。

 超強化された化け物たちを、振り切って駆け回り、ミスティは敵の攻撃を避けつつ時間を稼ぐ。
 ぼとりぼとりと血とは思えぬ黒い液体を流す怪もいれば、毒や呪に体を蝕まれている怪もいるのだろう。
 強化された分、罠でずっと食い止められるという訳ではないが、それでも味方の援護には十分だ。
 特に前衛陣は戦いの場慣れした面々が多いと見え、その姿は心強い。
「はぁーー滅茶滅茶イライラしてきた!」
 底はあるはずなのだが、斬ってもぞろぞろと近づいてくる気持ちの悪い鳥どもに、苛立ちを隠せていない猟兵もいるようであるが。
 ミスティの罠やタクティカルライトを用いた足止めと支援のお陰で、至近に近づく必要があるロカジは動きは、次々に簪を閃かせて敵を斬って捨てて行く。
 その快進撃は胸がすくようでもある。本人を除いて。
「全部斬って殴ってツミレにしてトイレに流してやるからな!」
 胸焼けするような、聞きたくもない呻き声。縋るように伸ばされる手。
 目を閉じ、耳を塞ぐことができたなら、どんなにか楽だろう。
 斬られた一体が絶叫して絶命する。
 どんなに耳障りでも、ロカジは頑として耳を閉ざすことはない。
 青い瞳を隠しもしない。
 この現実の中に、目を逸らしたくない事実がある気がするのだ。
 見届けなければいけないものを、しかと見る。面倒くさがりの薬師の本気が、その眼に垣間見え。
 ただ、この事実を彼が決して快く思ってはいないことは、彼の眉間に深く刻まれた皺が物語っていた――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

巽・しづか
…そっか。うん。
助けてあげる。
誰の記憶にも残らないように片付けてあげる。
そうすれば、もう泣かなくてよくなる。ね。
最後の最後まで使われ続けるの、可哀相だもの。

屋内だし、羽は邪魔ね。いつも通り畳んでおくの。飛ぶ必要ないし。
…跳ぶことはあるかもだけど。
乱戦で的になるのも嫌だし、殴れそうなのを殴る感じで動くよ。
ヒット&アウェイね。
武器は利き手に。もう片手は空けておく。
勢いを乗せた鈍器ってすごくて、いたいのよ。

なるべくならジャッジメント・クルセイドで止めを刺したい。
こう額に指をあててジュッと。
なんとなく、天に召されたかなぁって。イメージは大事。
「ハレルヤ」とか「光あれ」って添えると、それっぽくなるかも?




『う、ア……痛い゛ィ……クるしイよォ……』
 喰った子どもの断末魔を模した声が、猟兵の内にも存在する恐怖と狂気に訴えかける。
 しづかの脚が、ふと止まる。
 それは、その声が引き起こした作用のためだけではなく――、
 彼女の知る一般的な……搾取と隷属の存在する世界。
 能力に目覚め、移って来た世界でも、裏側を覗き込めばそこにはこんな悪意が存在する。
 “当たり前”であり続けることができなかった暗がり。
 その断末魔を、無視することが、できなかった。
 助けてと、怪異が呻く。
「……そっか。うん」
 それが単なる模倣であるのだと知っても。
「巽さん……っ!」
 怪異の接近に気づいたシーラが叫び、飛び出す。
 至近にまで近づけば、《猟犬の咆哮(ハウンド・ロア)》で応戦できるのだ。彼女がダメージを受ける前に。
(……間に合えばいいのですが……!)

「助けてあげる」
 誰の記憶にも残らないように片付けてあげる。
 彼らの声が、彼らの死後が、これ以上の辱めを受けずに済むように。
 泣き声を弄ばれ、泣き続けずに済むように。
 だから、しづかはそっと手を差し伸べる。
 近づいたために、より強く翼怪の断末魔に心を蝕ばまれながら、その額を指す。
 余りにもゆっくりと流れる時間の中で、敵の腕がしづかの肉を抉ろうと振るわれるのすらスローモーションのようで。

 洗礼にも似たその光景は、だから、こう言うのが良いだろう。
「光あれ」
 天から注いだ聖光が、使徒を包み込むと同時、射程距離まで詰めたシーラのリボルバーが、シーラに迫る腕を跡形もなく吹き飛ばした。
 しづかの緩やかなウェーブのかかった髪の毛が、大きく揺らめいた。

「け、怪我は……ありませんか?」
 見たところ、寸でで間に合ったとは思いながら、シーラはしづかに問いかける。
「ごめん。助けてくれて……ありがとう」
 ユーベルコードに囚われたとはいえ、危険を侵してしまったことをシーラに詫びて。
 しづかは、今しがたまで敵の立っていた位置を見下ろす。

 この異形が食べた子が天に召されてくれていたらいい――。

 最後の最後まで使われ続けるの、可哀相だもの。ね。

苦戦 🔵​🔴​🔴​

仁上・獅郎
邪神教団の制圧ですか。
生存者ゼロで、害悪にしかならない怪物だけなら……暴れてみますか。

廃墟に乗り込んで、堂々と殲滅しましょう。
【白熱縛鎖】……空間の歪みを『畜生共』の周囲に生じさせて、焼ける鎖で拘束とダメージを。
動けなくなったところを、鋼糸で[暗殺]。あるいは拳銃でヘッドショット。
攻撃が来るなら別の[敵を盾にする]事で同士討ち。
恐怖にも狂気にも、僕はとうの昔に浸りきっているんですよ。

たすけて?
ええ、助けましょう。
救われぬ魂に、死による贖罪と救済を。
手遅れになった命に僕が差し出せるものは、それくらいですから……。




 ついに、時は来た。
 犇めき合う敵共を薙ぎ払い、打ち倒し、残るは一体。
 数のみを脅威とする奴らであれば、最早、何の脅威が残ろう。
 さすがに、猟兵たちも多少息は上がっているものの、肉体的にはほとんど問題ない。

 未だ、自身の置かれている状況を把握できていないらしい翼怪は、相も変わらず不気味な薄ら笑いを浮かべ、一人の青年に向かって歩いていた。
 その目標となったのは黒髪の、柔らかな雰囲気の青年だ。
 仁上・獅郎は、小さな声で何かを唱えた。
 瞬間、敵周囲の空間に歪みが生じ、裂け目から白く輝く鎖が敵の体を四方八方から絡めとる。
 獅郎のユーベルコード《白熱縛鎖(アフォーゴモン)》が、敵の自由を奪い取り、激痛を与える。
 絶叫が響き渡る。
『助ケ、て……ああ゛、タ゛すケテ゛ェ!!!!』
「たすけて?」
 ひたり、ひたりと歩み寄る。青年の長い黒髪が、犠牲となった生者達を名残惜しむ様に靡いた。
 子どもの声は、恐らくは、死者となってしまった彼らの最後の願いは――けれど、残酷かな。
 怪異にとっては、何の意味も持たない発されただけの音声。彼等がその意を理解することもなければ、それを願う事もない。
 だからこそ青年は、歩きながら袖もとに仕込んでいた拳銃をその手に移す。
 弧を描く口から漏れ出す恐怖にも、狂気にも、彼の心は動じることがない。
「ええ、助けましょう」
 最後の一匹に銃口を向けた。
 最早『モドキ』と言うのも烏滸がましい醜悪な邪神の徒の眉間と思われる箇所に狙いを定める。
 青年の瑠璃と黒、二つの色が見ているのは眼前の、見えている悪ではない。
 生者でも、況してや死者ですらない者共に向ける心など――、

 救われぬ魂に、死による贖罪と救済を。

 犠牲者達への餞にと引かれた引き金。
 開けた室内に銃声が反響し、怪異の声を打ち砕く。
 断末魔を上げることも許されず、嘲笑う翼持つ怪異は膝を折り地面に落ちて――部屋の中に、一時的な静寂が訪れた。
「先に進みましょう。まだ残っているはずです……」
 この事件の黒幕が。
 生み出した静けさを破ったのもまた、青年で。
 とうの昔に恐怖と狂気に浸ったという男の……それでも死者を悼み、子どもを慈しむ『人』の心は確かにそこにあった。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『膨らむ頭の人間』

POW   :    異形なる影の降臨
自身が戦闘で瀕死になると【おぞましい輪郭の影】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
SPD   :    慈悲深き邪神の御使い
いま戦っている対象に有効な【邪神の落とし子】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ   :    侵食する狂気の炎
対象の攻撃を軽減する【邪なる炎をまとった異形】に変身しつつ、【教典から放つ炎】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠山田・二十五郎です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 ごめん、と蛟羽の唇から言葉が滑り落ちる。
 伝えることも、受け止めることも叶わなかった謝罪は誰に対してだったろう。感情は綯い交ぜで、まるで折り重なる鳥達の死骸のように混沌としている。
「誰も助けられないなんて、ヒーロー失格っすね……」
 思わず、目を閉じそうになるその背に、ロカジが声を掛ける。
「僕は、別にヒーローになりたいとか、正義感に溢れる理念なんて持っちゃぁいないけどさ」
 薬箱から水筒を取り出し、念入りに仕込簪を洗浄する。
 それが終われば、今度は消毒液だろう薬品を取り出し丁寧に簪に塗布すると、朧な光源へと翳して出来を確認しながら、
「今、こいつらを片付ければ救われる子どもたちがいることは確かだよ」
 そして、喪失に嘆く家族が減る事も。
 戦いの最中、唯の一度も目を逸らす事がなかった男は、そうとだけ言った。独り言にも近い言い方だった。
「ええ、その為に、私達は来たのですから」
 コツコツと足音が響く。
 ミスティが銃弾を込め直しながら同意を見せる。
 会話を聞きながら、シーラはその感情を思い出そうとする。
 忘れてしまった感情と表情は、やはりそう都合よく思い出すことはできない。けれど、
「……行きましょう。上へ……」
 思い出したいのだ。
 だからこそ、シーラは皆を促す。例え、過去が切り捨てるものであったとしても、前へと進まなければ得られないものもきっとある。
 仲間たちの言葉を受けて、蛟羽は一瞬、驚きを浮かべるも、
「うん……うん、そっすね」
 バチンと自分の頬を叩いた。ほんの一瞬、痛みに目を閉じる。
 乾いた音が、室内を満たす。
「こんな未来は、もうあっちゃいけないっすから。最後は笑顔で! その為に」
 倒すっす!
 再び藍色が覗いたとき、そこにはもう揺れ惑う気持ちの姿はなかった。
「せやせや、その意気やで!」
 同じくキマイラの少年の様子に、トラゴスは敢えて声高らかに、軽い調子を取り戻してその背を叩く。
 巨躯の男がやや強い力で叩いたせいで、蛟羽はおっとっととよろける。
 すまんすまんと、言いながらも浮かべるのは笑顔で。
「今回の親玉に自分がやらかしたことのツケ、熨斗も利子も全部乗っけてぶん投げ返してやろうや」
「何なら、俺のレーションもオマケにつけてやってもいいな」
 味は保証しないけどね。と付け足して、ジンが常日頃から持ち歩いている携帯食料を見せながら、茶目っ気たっぷりに片目を閉じる。
 こんな時、こんな場所でもほんのりと空気は緩く穏やかに感じられた。
 それは気の緩みではない。戦いと戦い、狂気と狂気のあわいに訪れた、ほんの少しの息継ぎであり、友である。
 ゆっくりと死者へ祈る時間は全てを成し遂げた後として、猟兵たちは先へと進む。


 ビルの二階、事件の元凶の元となった元『ニンゲン』は、たった一人で立ち竦んでいた。
 『教団』というぐらいなのだから、一人であるのは、おかしいはずだ。
 階下にいた邪神の使徒は呼び出されたものであり、元が人間だったわけではない。

 猟兵たちは、その理由をすぐに知る事となる。

 1階のフロアにも血痕と思わしきものは所々に付着していた……だが、“ここまで”ではなかった!!
 壁、床、それどころではない。
 天井にすらも、血肉が散乱し、引き千切られた元は命だったものの破片が、あるいは原形を留めて、あるいは原形もなく、ぶちまけられている!!

『誰だ』

 異形と化し、最早人間の面影を喪失した『それ』が上がって来た気配に気づき、声を掛けた。
 だからといって、そいつは猟兵たちの存在に興味があるわけではない。
 反応として声を掛けただけであり、その実、彼らが何と答えようと、いっそ答えさえしなくとも構わないのだ。
『新しい、贄か』
 鉱物めいた赤い殻に覆われた頭部で、唯一人間らしさを残している口元が、歪む。
 だが、ギ、ギ、ギ、と音を立てる様は、やはり、『ニンゲン』からは程遠い。
 その『ニンゲンモドキ』とも呼ぶべき存在は、手に禍々しい気配を放つ本を持ち、猟兵たちに対峙する。
 彼らを、新たな贄とし、自身を更なる暗き高みへと向かわせるために――。

「誰だと問いましたか」
 敵の言葉に、涼やかな声が応じる。
「であれば答えましょう」
 その問いに答える役目として、今この場にいる中で、彼ほど適した者はいなかったであろう。
 猟兵でありながら、目の前の存在同様、狂気に心を浸したことがあるモノ――獅郎は、静かに告げた。
「貴方の狂気≪ゆめ≫を、終わらせるモノです」

「びっくり。……真っ赤ね」
 八方を真紅に囲まれて出たしづかの感想は、場違いと言ってもいいほど、あまりに直線的で――いや、彼女の言葉が場違いというよりも、現実の方がよほど“現実離れ”していたのかも知れない。
「下も相当悪趣味だったけど……それを上回るな、これは」
 ジンも同意を示し、室内を見る。先ほどの戦闘で多少耐えられるようになっているとはいえ、これはと首を左右に揺らした。
 染まっていない場所といえば、まだ光が差し込む程度には赤が垂れ落ちたのだろう窓ガラス程度で、後はどこも同じ色だ。“付着物”こそ様々だが……。
 それほど、その部屋に広がる光景は陰惨で醜悪だった。
 決意新たに階段を上った蛟羽ですら、その光景に瞬時、先ほど打ち消したばかりの感情が舞い戻りそうになる。しかし、
(もう、迷わないっす)
 もう、目は閉じない。この藍は、哀しみに逃れない。その矛先を、違えない。
 今の気持ちや、先ほど自分の心を締め付けた気持ち、分からないことがたくさんある。どちらかと言えば、記憶を失った彼とっては、分からないことしかないとも言えるだろう。
自身の足場となる部分が抜け落ちた不安とはどれ程のものか。それでも尚、少年は言える。言い切れる。
(でも、俺はやっぱり、未来を向いていたいから、)
「まずはこの悪趣味下衆野郎をブッ飛ばす!」

 一方で、しづかの琥珀色の瞳が、ほんの僅か細められる。
「あんな風になっちゃえるんだ……。こわいな……」
 彼はただの教団員で、『人間』だったはずなのに。
 しづかの指す『あんな風』とは、彼の外見のことだろうか、それとも――。
「ああ……こいつは重症だ」
 答えるように言ったのは、敵を値踏みするような視線で見ていたロカジだった。
「なぁんで口だけ残ってる? 食うためか?」
 だとしたら、これは食いカスの山ってわけか。行儀もへったくれもないなと吐き捨てる。
(目も耳も硬い殻に閉じ込めて、信者っていう糧を贄にしちまうほど自分を見失った、と)
 それで一体、こいつには何が得られたのだろうか。
 心を寄せられる者も傍になく、賑やかしといえば先の怪異だけ。

「ハハッ、……こうはなりたくないねぇ」
 絶対に。
言う声に滲んだのは、憐憫か嘲笑か。

「これ全部、あの方がやったんでしょうか……」
 シーラが誰に確認するでもなく、言葉を漏らした。
「なるほど、おおよそ人間の所業とは思えない」
 ほぼ同時に、ミスティもそう言葉を零す。
 言葉を発したその時点で、シーラはまだ無意識に、見据える先の紅の影が『人間』のように思えていた。
 けれど、ミスティの言葉を耳に拾って、改めて思う。
(……ええ、あれはもう)
 『人』ではない。
 人ならざる存在と成り果ててしまっていると。
 皮膚と一体化した教団服、その裾は変容しうねる何本もの触手が生える。手の魔導書、膨れ上がり硬質化した頭。
 相手の放つ禍々しい気配が空気をも汚染し、猟兵たちの肌をひりつかせる。
 一筋縄ではいかないだろうことは、経験の多少に関わらず、皆が感じていた。“感じさせられた”と言っても良いだろう。それでも、猟兵たちが気圧され退くことはない。
 むしろ、だからこそ此処で前に踏み出さなければならないと、本能で察している者もいた。

「残念、生贄やなくて猟兵ですー」
言葉遊びは彼持ち前の気丈さの表現だ。
 トラゴスは己の心から止め処なく湧く気力をもって、他の面々より一歩。前へと出た。その背はより大きく、頼もしく映る。 
 だが、それも次の瞬間、
「あのキモい鳥わんさか呼び出しとったのはお前やな?」
 その声は、低く重く姿を変える。巨躯のキマイラ同様に、威圧感を放つ。
「部屋中血生臭くて堪らんわ、こんだけ生贄貰っといてまだ足らんのか」
 ぶつけ返される視線はない。
 どこが目かも分からない有様の異形は、トラゴスの言葉に対し、猟兵たちへと初めて答えた。

『足りない』
 喋る度、ガチガチと岩のようになった歯が音を立てる。

『まだまだ』『足りるわけがない』『もっと贄を、力を得て』
『私は、我が身を神に捧げなければならない』
『必要な犠牲だ』『皆、本望だろう』
『貴様らも、本望だろう』
『“神の一部”となれるのだ』
 男は、熱に浮かされたような声音、演技掛かった動作で両手を広げる。
 舞台の上で喝采を浴び礼をする演者のようだった。
 狂信者とは、果たしてこういうものなのだろうか。
 その声には一片の疑念も感じられず、彼にとっては間違いなくこの行動は“道理にそった行い”であるのだという意思が伝わってくる。狂った笑い声が、反響で何重にも膨れ上がって聞こえる。
 高く無邪気な笑い声は、あの翼怪の声にも似ていた。
「狂っている……」
 ジンは悟る。最早、奴にはどんな言葉も届きはしないだろう。
 人間とは根本からして別種の存在となってしまった男を、顔を顰めて睨むように見つめ。
 ミスティは、ぐるりと視線を巡らせた。無惨な残骸。その数々の“名残”から見て取れる彼らの最期は、安らかとは程遠かったに違いない。
 元は、彼らも教団員だ。決してこの事件に関して無関係だったとは言えない。
 それでも、
「……猟兵になれたことを感謝します」
 本望などでは、決してなかっただろう――。この存在を、許す事だけはできない。
 握りしめたグローブから摩擦音が生じた。

「贄になるつもりは、全くないです……」
 邪悪を払う光を宿した、太陽のリボルバー銃のグリップを握りしめ、シーラははっきりと宣言する。
 人との交流があまり得意ではない彼女だが、人と助け合う大切さは知っている。
 助け合い、支え合い、そうして人間は生きているのだ。
 そういうものを、平穏と呼ぶのだ。かけがえのない、尊いもの。
 誰の手にもありそうに見えて、それを維持することの、何と難しいことか。
(あの人はわたしが一番大切にしたいものを壊すんだよね)
 恐怖はある。感じなかったなんて言えない。
 でも、怖がっていては守れないものがあるのだと、しづかは知っている。
 だから、しづかは強がることができる。細めた目を見開いて、きちんと、相手を見つめて。

「わたし、あなたなんて怖くないわ」
 あなたは、倒さなくちゃいけない人。


 空中を走り回るように跳ね、蛟羽が敵の攪乱を図る。
 片やしづかとトラゴスが左右から拳とメイスの挟撃を狙い、それぞれの得物を振り被って迫り。
 頭部を打ち砕こうとする拳。
 腹部に打ち込もうとする槌矛。
 人間で言えば首に相当する箇所へはレガリアスシューズの蹴撃。
 三点ほぼ同時に強襲が掛けられる。
 捉えた――と、確信するも、それらは滑り込んできた黒い根のような触手にあるいは絡めとられ、あるいは弾かれる。
 そのまま触腕は邪悪な炎を纏い、絡めとった手に足に傷みを与える。
 血で滑る床に踏みとどまって、二の撃を試みようとしたトラゴスに、しづかが無造作に放り投げられた。
 後方、男を狙い、銃を構えていたシーラには蛟羽が。
「っ……!」
 シーラ、トラゴスともに仲間を抱き止め、衝撃を緩和する。
「傷を見ます。お二人をこちらへ」
 獅郎が駆け寄り、医者の目で二人の傷を見る。軽いとは言えないが、動けないほどではない。
 後ろへと下がり、応急処置を施した。
 男を観察しようと遮蔽物から様子を窺っていたミスティには産み落とされた邪神の落とし子が向かい、観察の目を阻む。
(頭部は硬そうですし……あの本が怪しくはあります、が)
 狙いを定める隙を、なかなか与えてくれない。
 実際、シーラも敵の魔導書を撃つことで戦力を削れないかと考えてはいたが、それでもなお、攻め落としきれない。
 触手に落とし子。手数の不利を補う技が、
「厄介だなぁ」
 僅かに苛立ちを滲ませて、ロカジが悪態を吐いた。手に、長煙管を遊ばせながら。
 一進一退の攻防。
 されど、じわりじわりと、侵蝕するように敵に圧されていることを、猟兵たちは感じていた。
 ここぞという決め手が生み出せない。
 それは、無意識下に焦りを生ずる。そして焦りは、時に、行動に粗を生じさせる!
「このぉっ!!!」
 明かぬ埒を明かそうと、ジンが飛び出した。
 敵の周囲を回り込むように動きながら、熱線銃を撃つ、が――、
『無駄だ』
 半分邪神に身を明け渡したそれは、数歩、軽く動いて自分に迫るビームから身をかわし、反撃にジンを強かに打ち据える。
 ジンの体が後方へと吹き飛び、地面を転がる。
 起き上がろうとしたジンが、小さな声で何かを呻くように呟いた。

 男は、窓を背にして立つ。
 まだ外は明るく、逆光に浮かぶシルエットはやはり歪で、余計に人から遠ざかっているようにも見えた。
『そんなものか』
 男は笑う。笑っているのだと思う。
 表情などない顔が陰になれば、そこに浮かぶものは何もない。
 未だ余裕が感じられる態度で、男は背に光を受けて……まるで、自身に後光が射しているのだと言わんばかりに。
『戯れも飽いたな』
 男が言い、再び幾多もの落とし子を招来しようと動いた。

『そろそろ終わりにしよう』

「ああ、まったくもって同感だ」
 ジンが、よろめきながら立ち上がる。それから、仲間たち全員に視線を巡らせて――、
「みんな! 窓から離れろ!」
 叫び声が室内を揺らした。
 
 そのとき突然、窓の外に巨大な影が現れた!
天通・ジン
二階の小部屋でもなければ、窓はあるよな
……ということは

無線で戦闘機搭載のAIに連絡をしよう
操縦権を委譲。ビルの窓ごしに、怪人めがけて銃弾をぶちまけてやれ!

【電脳補助下高速戦闘】で、飛行機をAIに動かさせて、機銃掃射するってことね
俺が実際に乗ってるわけじゃないから、精密には動けないけど、威圧と制圧には十分だろ
一発撃ったら空に退避させて、少し間をあけて再攻撃の【二階攻撃】だ

もちろん、俺も熱線銃を【援護射撃】の【クイックドロウ】(技能の方ね)
で前後から銃撃の挟み撃ち
敵が何を召喚しようと単純な圧力に応対しきれないさ
油断したら熱線銃で打ち抜くよ

それに銃撃は、味方の攻撃の支援にもなるよな

もち、アドリブ歓迎




 窓の光を遮ったものの正体は――白地に赤い星が描かれた、ジンの【宇宙戦闘機】だった。
 外に浮かぶ戦闘機には、既に中口径の【機搭載ガトリング銃】が展開されており、その銃口は室内に向けられている。
『!?』
 さしもの異形も突如として現れた予想外の位置からの乱入に驚き、振り返る。
 しかし、回避の行動を取るだけの時間はない。
 いや、回避などできようものか。機銃からの一斉掃射!! ガトリング銃が火を吹いた!!
 弾丸の雨霰から触手で我が身を庇おうとするも、その圧倒的な火力に触手は弾かれ、体にいくつもの穴が開く。
「「はっああああぁぁぁぁぁ!!??」」
 窓の外に突如として現れた応援こと、ジンの戦闘機に度肝を抜かれたのは、敵のみではなかった。
 トラゴスと蛟羽が目を丸くして驚愕の声を上げ、窓の外に釘付けになる。
「なんや、あれ!?」
「なんすか、あれ!?」
 面食らう二人に、ジンは片目を閉じて、
「俺の自慢の相棒さ」
 ジンが熱線銃で“相棒”との挟撃を忘れずにこなしながら、「してやったり」と笑みを浮かべた。

 階段を上っているときから考えていたのだ。『小部屋でもなければ、窓はきっとあるだろう』と。
 部屋に入り中を見て。まさしく外の光が差し込む窓があることを確認した彼は、敵が窓の正面に移動する好機を待った。なかなか移動しない敵に、じれったさはあった。最後は半ば強引な賭けもしたが、通信を誤魔化せるような態勢を取れたのは幸いだっただろう。……ジンは、呻く振りをして、相手に気取られないよう無線で機体に搭載しているAIに連絡を取ったのだ。
 操作こそ、自分が乗り込んで操るほどの精密さはないが、“窓ごしに、敵めがけて銃弾をぶちまけてやれ!”程度の命令であれば、雑作もない。
 『戦場は室内だけである』という敵の“人間的な先入観”を逆手に取った大胆不敵な策の結果は、御覧の通りである。
 銃弾を撃った戦闘機は、一度上空へと舞い上がる。音が止んだ合間に、ジンは仲間たちに声を掛けた。
「皆、手が止まってるぜ!」
 間隔を開けての二度目の銃撃。
 戦闘機が再び崩れた壁面を覗き込むように現れ、銃弾を撃ち込んだ。さすがに、二度目は敵も戦闘機を警戒していたために大きなダメージを与えることはできなかったが、十分に大きな成果だった。

 ガトリングの銃撃音が、猟兵たちの反撃の咆哮であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

仁上・獅郎
誰だと問いましたか。であれば答えましょう。
貴方の狂気(ゆめ)を終わらせるモノです。

基本は皆さんのサポートを。
落とし子は鋼糸で[敵を盾にする]ことで同士討ち狙いや、拳銃で排除を。
他の方が負った怪我は[医術]で応急処置をします。

相手が炎を纏った時には前線へ。他の方とは距離を取ります。
[高速詠唱]で招来させるは邪神の一部。
相手の炎ごと、影や落とし子ごと、全て[なぎ払い]ましょう。
狂気を望むのならば、それ以上の狂気で以て焼き潰すまで。
貴方という『人間』を火葬する術としては乱暴に過ぎますが、ね。

……深淵なんて、ヒトの手には余る代物だというのに。
本当、どうしようもないですね。貴方も、僕も。


巽・しづか
びっくり。…真っ赤ね。
それに、あんな風になっちゃえるんだ…。こわいな…。
でも、あの人はわたしが一番大切にしたいものを壊すんだよね。
なら、強がるわ。倒さなくちゃいけないんだもの。
だから、怖くないわ。

接敵して攻撃する。脚は動く方だもの。
基本的にメイスでの【2回攻撃】
1回目は普通に殴って2回目は【鈴蘭の嵐】で撹乱するわ。
【気絶攻撃】もできるし、銃火器も扱えるから色んなパターンで殴れるのよ。
鬱陶しいって思わせたらいい感じよね。
炎とかちょっとこわい攻撃もあるけど【オーラ防御】があるから多少の無理はできる…はず。
それに使えるなら羽だって使うわ。
出し惜しみは、しないの。


ロカジ・ミナイ
ああ……こいつは重症だ。
なぁんで口だけ残ってる?食うためか?
目も耳も硬い殻に閉じ込めて、
信者っていう糧を贄にしちまうほど自分を見失った、と。
ハハッ、……こうはなりたくないねぇ。

何でニンゲンやめちゃったの?

にしてもちょっとばかり行儀が悪いなぁ。
どうひっ散らかしたらここまでひっ散らかるんだか。
教祖様の数だけ儀式があるけどさ……、
……まぁいいや、どうでもいい。

手にはさっき磨いた簪ではなく長煙管。
サボってるわけじゃねーよ、これは仕事効率アップのためのアレソレよ。
そろそろしんどくってさ、血生臭いのが。
過去掃除の後に部屋掃除も待ってそうだし、
全部燃やしたくなっても仕方ないよねぇ。


トラゴス・ファンレイン
残念、生贄やなくて猟兵ですー。あのキモい鳥わんさか呼び出しとったのはお前やな?
部屋中血生臭くて堪らんわ、こんだけ生贄貰っといてまだ足らんのか。
・行動
散らばった云々に足取られんように「気合い」でしっかり踏ん張っていくで。
敵の攻撃手段は主に召喚系みたいやから、遠距離から攻撃するよりは的になるつもりでガンガン前に出て行きたいところやな。
召喚された邪神の落とし子とやらも目の前の敵も、俺の視界に入ったらユーベルコード『絡目手』で締め上げたるわ。
身動き取れなくなったところで接近して思いっきりぶん殴る。親玉は特に、あの膨らんだ頭に一発くれてやらんと気が済まん。

お前がやったことのツケ、お前の命で払って貰うわ。


ミスティ・ミッドナイト
なるほど、おおよそ人間の所業とは思えない。
恐らく殺された方々は苦しんで逝ったことでしょう。
…猟兵になれたことを感謝します。

化物とはいえ元人間。弱点があるはず。
ステップ1 【地形の利用】で遮蔽物に隠れ、ハンドガン(装備)で攻撃しながら対象を観察。弱点を探します。頭部は…硬そうです。あの本怪しいですね。
ステップ2 【フェイント】等を駆使し、フック付きワイヤー(装備)で手足の拘束を試みます。外しても動きを鈍らせることができるかもしれません。
ステップ3と4 弱点があるなら、そこに集中攻撃。もし接近できたのなら、口の中にハンドガンを突っ込み【零距離射撃】で撃ち込みます。

――次は貴方があの世へ行く番です。


シーラ・フリュー
これ全部、あの方がやったんでしょうか…。…いえ、あれはもう人ではないですね…。
なかなか、手強そうですが…贄になるつもりは、全くないです…。
これ以上、犠牲を出さない為に皆さんと一緒に、頑張ります…。

【POW】で判定
後ろからの射撃が主になります。リボルバーを使用して敵から距離を取って攻撃していきたいです…。
今回も【2回攻撃】【早業】【クイックドロウ】で数を重視して攻撃しますね。
相手が瀕死になって影を召喚したら、そちらを優先的に狙っていきます…。

そういえば、あの手に持った本…破くなり落とすなりできたら、何か変わったりしないでしょうか…?
物は試しです。余裕があれば、狙ってみますね…。


未不二・蛟羽
凄惨な光景に一瞬、先程の感情が蘇り顔をしかめるも、真っ直ぐに敵を見据えて
もう、迷わないっす
今の気持ちが何とか、何でこんな気持ちになるのかとか、分からないことはまだあるっす
でも、俺はやっぱり、未来を向いていたいから
まずはこの悪趣味下衆野郎をブッ飛ばす!

【スカイステッパー】で空中を飛び回り、相手の動きを撹乱するっす
影は【野生の勘】で回避
後衛に気をやる暇なんかあげないっすよ!

隙をついて【ブラッド・ガイスト】を解放し右腕の刻印を虎の腕へと変化
高く飛んで、相手の頭上から【捨て身の一撃】食らわせてやるっす

例え攻撃を受けても怯まないっすよ
俺自身の血が、この武器の力になるっすから

喰われるのは、お前自身っす!




「くっそ面白いことしてくれるやん」
 負けてられへんなと、トラゴスの目に活力が満ちる。
 負けるか。ガンガン前に進め。多少の怪我なんて怖いことあるか。
 走る前衛陣を、銃撃で後衛陣が援護する。
 男は、後方に意識を向けずにはいられない。それでも、近づいた者を排除するため、そして自身を守るために、書物から狂気の炎を呼び出し、纏おうとする。
「今です……」
 透き通った緑色が、煌めいた。
 静かな声は、リボルバーの銃声に掻き消される。
 シーラの放った弾丸が、敵の手から魔導書を弾き飛ばし、敵の攻守一体のユーベルコードの発動を阻んだ。
「やはり……」
 あの魔導書が敵のユーベルコードの一つの鍵であったのだと、シーラは確信する。
 そうなれば、当然、
『おのれっ!!!』
 敵は再びそれを取ろうと手を伸ばす。
 触手で取ることもできただろう。その行動は、咄嗟であったとしても、酷く人間じみていた。
 その手の前に、影一つ。
 紫煙を引き連れたその男は、まるで平然と一服し、煙を燻らせる。
 ふぅーと空に向け長く息を吐きだす。
「そろそろしんどくってさ、血生臭いの」
 誰に言い訳するわけでもないが、そう言った言葉は、雑談にも聞こえ。
 だが、異形は止まらない。ロカジの後ろにある経典であったものを取り戻そうと、ロカジへと迫る。
「そうはさせません」
 ミスティがフック付きワイヤーを放ち、注意が散漫になった敵の脚を絡めとった。
 手は、魔導書に届かず。その体はロカジの正面で停止する。
 眼前に、その赤い顔が来た瞬間、ロカジは問いかけた。
「何でニンゲンやめちゃったの?」
 何がニンゲンをここまで人外たらしめたのか。
 狐は問う。
 答えはない。
 青年は、じっと相手を見ていた目を伏せた。逸らしたのではない、
「……まぁいいや、どうでもいい」

 心底、どうでも良さそうな声音だった。

 言葉と共に、火種が落ちて。
 火種から火が燃え広がる。焔は見る間に七本の首を持つ大蛇に姿を変えて、身を護る邪炎を失った男の身を包む。
 悲鳴が響いた。
 過去と赤い部屋、掃除するには穢れ過ぎたこの二つ。そのどちらもが手遅れなほどに赤いのだから。
「……全部燃やしたくなっても仕方ないよねぇ」
 もっと赤に染めて真っ新に帰すのも、悪くはないだろう。

 焦げた匂いが漂い始める。
 だが、元『ニンゲン』は、よろよろと立ち上がる。
 足元は多少覚束ないものの、人間を捨てたその体には、魔の加護が宿っていて。人間であれば楽に死ねたろう。だが、彼は死ぬことができない。
 それが、『ニンゲン』を捨てた者の末路だ。
『貴様ら、貴様ら!!』
 怒りに、紅の口がガパリと開く。
『許さんっ!! 高が、下等生物の分際で!!』
 黒い、不定形の存在がごぽり、ごぽりと湧き出して、猟兵たちに無差別に襲い掛かる。
 男自身も、自身を窮地へと追いやったジン、そしてシーラへと触手を伸ばしながら、一矢報いらんと怒り顕わに足を速める。
 その足元を、銃弾が穿ち、蛸の脚が絡みつき動きを封じる。
 トラゴスの視線が男を捉え、ユーべルコード《絡目手(カラメテ)》で捕捉したのだ。
 しづかが回転式拳銃【ひねもすくん】で二発目を撃ち込もうと、再び引き金を引こうと指に力を籠める。
 けれどそれは、その手の中で、拳銃から姿を変える。
 無数の鈴蘭の花が、しづかの手から溢れ出し、旋風を巻き起こして散らばり、琥珀に映る異形共を斬りつけた。
 拳銃を警戒していた男は再び、予想外の攻撃に翻弄される形となる。加えて気づいたときには、既にトラゴスの巨躯が距離を詰めていて――。
「お前には、一発くれてやらんと気ぃ済まへんかってん」
 ガチガチと。男の口とは異なる、硬質な物同士がぶつかる音が間近に迫る。
 拳に浮いた血管は、それそのまま、トラゴスの怒りの表れだ。
 大連珠がなければ、爪が掌に食い込みそうなほど強く握りしめたその手。
「お前がやったことのツケ、お前の命で払って貰うわ」
 鉄槌が下された。
 歪んだ頭に、亀裂が生じた。


 冷静さを失し、邪悪に侵されたその頭は、ますます膨れ上がり、今にもはち切れそうにも見えた。
 目障りな猟兵たちを一気に薙ぎ払おうと、触手を四方八方へと伸ばす!
 けれど、それは床にいる者たちを見据えた攻撃。“宙を駆ける相手”には、意味がない手であった。
「後衛に気をやる暇なんかあげないっすよ!」
 側頭部が強かに蹴り飛ばされる。
 蛟羽は、蹴った衝撃で後ろに跳び退き、再び宙を蹴って天井近くまで跳躍する。
 空を舞う蛟羽の右腕、【No.322】と刻まれた刻印が輝き、爪だけであった獣性が、腕全体へと広がって。
 空中は、敵の攻撃しにくい位置から攻撃を加えられるというアドバンテージがあるが、一方で、身動きが取りづらいというデメリットもある。
 蛟羽は、それを知っていながら、あえて頭上から真っ正直に飛び込んだ。
『ギ、ガァァアァァ!!!!』
 化生が叫び、龍が咆えた。
「喰われるのは、お前自身っす!!」
 爪が、邪に堕ちた者の血肉を引き裂く。黒い血がその胸から流れ出し、地面に新たな染みをつくる。
 最早、勝負は見えていた。
 だが、そこで話がつくのであれば、この事件はまだ違った結末になっていたかも知れない。
 自身の狂気のために全てを手放した男は、胸を、口を、黒に染めて、それでも己の愚かさを認めることはない。
『私は゛、わた゛しか゛……!!』
 呻く男の輪郭が、二重にぶれたかと思うと、影が動き出す。
 おぞましい、異形の分身は自分の主を庇うように猟兵たちの前に立ちはだかると、炎を纏い、落とし子を呼び出した。
 敵味方互いに限界が近い中、それでも猟兵たちは決して諦めず、その瞳が光を失くすこともない。
 ジンが、シーラが、援護射撃を行い、ロカジとしづか、蛟羽が落とし子を駆逐する。
「皆さん、少し後ろへ」
 【黒糸】で落とし子同士を同士討ちさせつつ、獅郎が禍々しい書物【悪辣にして禁忌なる死者の掟書】を手に、仲間たちへと声を掛けた。
 素早く異端の呪を唱え、ユーベルコード《神格招来・Cthugha(シンカクショウライ・クトゥグア)》を発動する。
 元『ニンゲン』である男が身に宿したものとは別種の、けれど同様に邪で強力な神の炎が、影を、落とし子を焼き潰した。
「狂気を望むのならば、それ以上の狂気で以て焼き潰すまで……」
 チリチリと、自身をも傷つけそうなほどの炎を、見届けて。
 青年は、その奥へと視線を移す。
 未だ残る紅と、そこへ詰め寄る一つの影――。
「貴方という『人間』を火葬する術としては乱暴に過ぎますが、ね」
 それでもまだ、『人間』だと言う同類の最期に、獅郎は背を向けた。
 分かっているのだ。追い求めるこの暗闇の先に、救いも光もないことを。
 『人間』の領分ではないことを。
「本当、どうしようもないですね。貴方も、僕も」
 頭でそうと理解していても、諦めがつかないのもまた……『人間』なのである。


『まだだ』
『私は、神となる』
『神となって――』
 譫言のように繰り返す男の言葉は、口に捻じ込まれた冷たい筒で、塞がれる。
 夜霧のように静かに、女は、『ニンゲン』にも『神』にもなれなかった男に、宣告した。

「――次は貴方があの世へ行く番です」

 感嘆のような吐息が漏れて、
 それが、最後だった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​




第3章 日常 『希望の花を繋ごう』

POW   :    体力を活かして、広範囲にいっぱい植える

SPD   :    花壇の縁にまっすぐ植える等、丁寧さが求められる部分を担当する

WIZ   :    デザインに工夫を凝らしてみたり、模様状に植えてみたりする

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 事件は解決した。
 少なくとも、これでこの教団が元となった事件事態は収束したと言えるだろう。
 事件の後始末を始めとする事後処理は、UDC組織が行ってくれるはずだ。
 教団のことも、被害者のことも、全てのことは文字通り、闇に葬られる――仕方のないこととはいえ、それぞれ思うところもあるだろう。

 被害者は、その死の真相を明らかにしてはもらえない。遺族にも何も伝えられることはない。
 それは、手向けの花の一つももらえないということだ。

 教団から少し離れた裏道。
 そこも、今回の依頼に関わる事件現場のひとつであったという。

 もし時間があるのであれば、事件前にグリモア猟兵が言ったように、道の両脇に花の種を植えてはもらえないだろうか。
 持ち寄った種でも、事前にグリモア猟兵からもらった種でも構わない。
 冥福を祈りに来ても構わないし、単純に花が好きだからという理由で種を植えても良いだろう。

 色とりどりの花で飾られればきっと、この道も何れ、思わず人が通りたくなる、明るくて美しい……寂しくない道になるはずだ。
天通・ジン
花を植える、か。
……あれだけ騒がせちまったし、ちょっとは手伝うとしようかな。
ガラじゃないけどね。

犠牲者の一人の名前は、ハルトくんだったかな。
なら、冬を乗り越え、春を祝う花がいいな。
取り出したるは、カレンデュラ。その一品種、【冬知らず】。
小さくて、ささやかな花かもしれないけれど、冬を乗り越える力強い花。
いつかまた冬が来ても、この花が咲いたらきっと彼らを思い出せるように。

……ちょっと臭かった気もするから、理由は俺の心に秘めようかな。

改変アドリブ歓迎。
一切合切ぜんぶ、お任せするよ


メーアルーナ・レトラント
ぴっぴっぴー、ぷっぴっ!
ちょっとしっぱいしてしまったのです。ひよこしゃんだいしゅうごう!
お花をうえるときいたので!
メア、お花だいすきなのでひよこしゃんといっしょにうえます!

ひよこしゃんたちにタネをうえるあなをあけてもらうのです。
あっ、あっ!つちあそびしちゃだめなのですよ!
タネ……あっ、メアもってないのです。
ノノしゃんはもってるかな? タネくだしゃーい!(ひよこひきつれて)
ノノしゃんもいっしょにうえるのですー!
これも、おべんきょうなのです!

あなあけて(指でずぼ!)タネおとして(ぽい)あとはふんわりやさしく。
ここがお花いっぱいになったらうれしいのです。
あっ、ひよこしゃん、ほりかえしちゃ、メッ…!


ミスティ・ミッドナイト
種を植える前に【掃除】で整地しておきます。
柵も立てておけば、踏まれることもないでしょう。
種を丁寧に植え、力強く芽吹くことを祈ります。
子供たちがここに生きていたことを証明するように。

可能なら、もっと早く駆けつけたかった。
…もちろん気持ちだけでは限界がある。
警察や猟兵がいつでも守ってくれるとは限らず、
例え清く正しく生きていてもこの子らのように死ぬときが、ある。
許しがたいけれど、仕方がない。

しかし、傷つけた者がのうのうと生きているなら、許さない。
笑っているなんて許さない。

「私が――。」
必ず、地獄の果てまで追い詰める。

「…では、次の任務へ向かいましょう。」


ロカジ・ミナイ
花はいい。
美しくて可愛くて、いい匂いで。

種を落とすのと同時に枯れ落ちて、それで終わり。
種は何事もなかったようにまた新しい花になる。
後腐れがない。

だから手向けるのに最適なんだろうと、僕は思う。
一生とは美しいものと賞賛し、
悲しい最期はもう二度と訪れない。
そしてはじまりの種には希望が詰まっている。

ね、花はいい。
役に立つのはたいてい根や葉なんだけどね。
それがまたいい。

……なんていう僕の話は横に置いても、
花が多いに越したことはない。

長くて無骨な指先に種をひとつずつくっつけて
チマチマと植えていく。
未来のお花ちゃんたち、キレイに咲いてたくさん褒めてもらうんだよ。


未不二・蛟羽
たむけ……ってなんすか?
他の人から説明を受けられれば、ふむふむと納得して
どちらにしても、花は綺麗っすもんね!
それで、見る人が、今回の事に何も関係無くても、良いなって……思って貰えれば、いいっす
【POW】でじゃんじゃん埋めるっすよー!力仕事的な穴掘りとか、任せるっす!
逆に、細かい事とかデザインとか、難しいことは苦手っすからそっちはお願いしたいっす!

過去には何にも残せないけど、未来には、何かは残せる。うん、それがいいっす!
植え終わった後は、こっそりと目を閉じて、胸の前に手を置いて祈り
いつか、この花が満開になりますように。それで皆が笑って、そんな未来が、作れますように……っす
【連携・アドリブ歓迎】


シーラ・フリュー
無事に解決して…よかったです…。
ですが、犠牲になってしまった方は…どうにもなりませんからね…。
せめてもの弔いに、花の種を植えるのを手伝います。

力仕事も得意ではないですし、デザインセンスもあまりありませんので…
私は【SPD】で植えていく方が、性にあっていると思います。
ですので、隅の方から丁寧に、植えていきますね…。

植え終わったら、黙祷を。
せめて、安らかに眠れますように…と、祈りを込めて。


トラゴス・ファンレイン
子供らは戻らんし、遺族も何があったか分からんまま、か。
そんなもんかっては思うけど、猟兵として出来ることはもう無いし。
後は花植えのお手伝いやな!

【POW】体力を活かして、広範囲にいっぱい植える
俺一人でもそこそこ植えられるけど手は多い方が良いし、ユーベルコードで『悪童衆』呼んで手伝って貰おか。チェーンソーと金属バットはスコップとシャベルに持ち替えてな!ノノちゃん、コイツらの分の種欲しいんやけど、まだ在庫ある?俺は自前で持って来たから大丈夫やで!
これ実家から持って来たやつな。キマイラフューチャーの花の種ってUDCアースに植えて良いんかな。めっちゃ派手な花やから、咲いたら目立つと思うんやけど。どう?


仁上・獅郎
はー……この一件で代償を支払いすぎましたか。
精神が邪神の方へと近づいていますね……。

……ああ、いえ、種植えでしたね。失礼、ぼうっとしていました。ノ・ノさんに頂いた種を植えましょう。
咲く花の色をお聞きし、五芒星が浮き上がるように配置を。
中心には違う色の花の種を一つを植えれば、旧き印……一種のお守りの印が出来ます。

植え終えたら、それらの前で祈りを捧げましょう。
犠牲となった子供達への哀悼を。
その子達を待つ、家族や友達の悲しみが癒える事を。
これ以上、悲劇がこの地で起きない事を。
何もできない僕が捧ぐ、ささやかな願いです。
……さあ、次の仕事が待っています。そろそろ行きましょうか。


巽・しづか
ひとまずは、終わったんだね。
これ以上は起こらないけど、尾は引きそう…かな。
植えるのはお祈りしてからにしたいな。
どうか安らかに。…アーメン。

お願いは種を蒔くことだけど、ちゃんと花壇として整備したいかな。
鉢植えを置いたり、灯りを置いたり。折角だし。ね。
素敵な小道にしちゃおう。
こんな風にしたいとかあったら、どんどん言ってね。
(領収書をUDC組織宛にしたから予算は気にしていない)

花の種も持ってきたのよ。
こっちはちゃんと自分のお小遣い。
カンパニュラ。冬に蒔いても大丈夫な品種らしいの。
(パッケージには涼姫と小さく書かれている)
春になったら、ちゃんと咲いてくれる…と、いいな。




 だれもいない裏道に一人、立っている少女がいた。
 他の者より少し早足で現場へ到着したしづかだった。

 不審者注意の看板。錆びたフェンス。手入れのされていなさそうな道路脇の地面。
 グリモア猟兵の話によるとこの辺りだろうかと、予想をつけたある街灯の下。罅入ったアスファルトの黒に、一際濃い部分があるように見えた。
 目の錯覚かも知れない。だが、しづかには、ここで祈るのが一番良いような気がした。

 胸の前で手を組む。
 祈りのポーズを取り、神の元に死んだ者の魂が無事辿り着くことを願うその刹那。
 脳裏には今回の事件のことが思い返されて。
(ひとまずは、終わったんだね)
 胸中で呟く。つい今しがた倒した、狂人、そしてあの真っ赤な部屋が眼前をちらつく。
(これ以上は起こらないけど、尾は引きそう……かな)
 それらの映像を、音声を、心から締め出して、しづかは目を閉じる。

「どうか安らかに。……アーメン」
 今はただ彼らの冥福を。
 その言葉を唱えた時、彼女の心にあるのは純粋な死者への追悼のみだった。

 ちょうど、琥珀色が再び開かれたタイミングで、
「巽さん、作業を始めましょう」
 到着した、ミスティをはじめとする面々が、しづかに声を掛けた。
「……うん。わかった。もう、大丈夫」
 一度だけアスファルトの色を見返して、しづかは皆に合流する。
 黒い色は、何だか先ほどよりも薄くなったような気がした――。


 種を植えるだけではなく、やるからにはきちんと花壇として整備したいという意見もあって、整地と簡単な縁石や庭小物を置くことになった。
 作業の前に、ミスティが落ち葉を払い去る。
 バーテンダーとして店の清掃もやるのだろう、手順は手際よく、無駄がない。
 さほど時間もかからずに落ち葉はきれいさっぱり片付いた。
 それでは、さて本題の種まきに入ろうかというところで……、

 ぴっぴっぴー!
 可愛らしい【ひよこさんほいっする】を吹き吹き、花植えの応援にやってきたのはメーアルーナ・レトラント(ゆうびんやさん・f12458)。
 ひよこしゃんを引き連れて、こっちですよーと列をなす姿は、かるがもしゃんのようでもあったけれど。
 ぷっぴっ!
 とまれーの音がはずれてしまったのもご愛敬。
 ちょっとしっぱいしてしまったのです、とほんのり染まるちびっこほっぺ。気を取り直して、
「ひよこしゃんだいしゅうごう!」
 ぴっ!
 ちっちゃなふわふわ黄色のひよたちが、メーアルーナの号令に合わせてとてちて動く。……何だか一羽、デカくて黒くて流動体っぽいひよこ型の何かもいる気がするが。
 一列に並んで、きをつけーっ。
「お花をうえるときいたので!」
 れいー。ぺこーっと、先に現場に来ていた猟兵たちに頭を下げた。
「メア、お花だいすきなのでひよこしゃんといっしょにうえます!」
 あげたお顔は、にっこりぺっかり満点すまいる。
 心強くて心が癒されるような可愛い仲間の登場は、猟兵たちの作業の追い風となるだろう。

「あ、ちなみに、黒いひよはアチキっすよん★」
 もう一人、メーアルーナのひよこに紛れて現場に到着したのは、お察しの通り。
 ミンナおちかれー、等と軽い調子で言って、黒デカひよこことノ・ノ(ノーナンバー・f05650)はぺぺっと人型に戻り挨拶した。


「子供らは戻らんし、遺族も何があったか分からんまま、か」
 釈然としない気持ちはどうしても拭いきれず、トラゴスが不機嫌そうに蛸の尾を揺らす。
 すっきりさっぱりとはいかないが、事実として自分たち猟兵にできることは無く、後は頼まれた花植えを済ませれば仕事としては万事終了である。
 煮え切らない想いはあれど、それでもまずは事件が収束したことに安堵しているのはシーラだ。
「でも、無事に解決して……よかったです……」
 些細な程度かもしれないが、それでも平穏を少し取り戻す事ができ、それに貢献することができた。
 全てが一件落着とはいえないが、猟兵としては被害を押さえられただけで大成功と言えるはずで。
 先ほどまで自分が握っていたリボルバー銃に刻まれた印のモチーフである太陽を見上げ、目を細める。

「花を植えるなんて、ガラじゃないけど」
 ジンが、グローブについた土を払い落としながら、道を見渡した。
「こうして綺麗になると、結構気持ちいいな」
 相棒でお騒がせしたお詫びも兼ねてと思って参加した花植えだったが、着々と整備されていく様を見るのは思った以上にすっきりとした気持ちになる。
 自身の故郷では、なかなかこうして土いじりなどできないこともあるだろう。新鮮という感覚が一番近いだろうか。
「折角だし、素敵な小道にしちゃおう。こんな風にしたいとかあったら、どんどん言ってね」
 現UDCアース住み猟兵の一人として、しづかは買い出し等も請け負っていて。
 頼もしくもあり、皆作業に夢中で気づいていないが、その予算はどこから出ているかと言うと――、
(領収書、UDC組織の名前で切ってもらったけど……大丈夫だよね)
 女の子は、意外と強かなのである。
 ここぞとばかりに、近くのホームセンターで買い込んできた品々を袋から取り出していく。
「やけに袋がでかいと思ったら……買いすぎじゃないか?」
 次々と出てくる品数に、ジンが驚いた声で問うも、
「いいのいいの。こういうときは、奮発しちゃおうよ」
 しづかはどこ吹く風で言って。
 何かに取り組むのは楽しいし、気持ちも紛れる。
 胸に秘めた事件の名残を口にせず、品物を手に、猟兵たちは暫し楽しい花壇のデザイン談義と洒落込むのだった。


「たむけ……ってなんすか?」
 石を運びながら、蛟羽が尋ねる。
「死んだ人に物や花を送って、死後の冥福を祈ることだよ」
 少なくともこの場で用いられている意味としてはね、とロカジが答えた。
 細く、長くも無骨な指先に、一つ一つ丁寧に種を乗せては穴に入れ、優しく土を被せ……面倒がる様子もなく、こつこつと作業をしている。
 答えた割に、蛟羽の方を振り向くわけでもなく、続ける言葉も、特に彼宛てというわけではないようだった。
「花はいい。美しくて可愛くて、いい匂いで」
 滔々と語る声は、陶酔の色を匂わせる。好きなものを語っているだけという調子。
 それだけ花が、植物が好きなのだろう。言葉を紡ぎ落す間も、手を休めたりはしない。
「種を落とすのと同時に枯れ落ちて」
 指を柔らかな土に突き立てて穴を作り、種を落とし。
「それで終わり」
 土をかける。
「種は何事もなかったようにまた新しい花になる。後腐れがない」
 まるで何も植わっていないように見える地面を、軽く、手で押さえ。そこでようやく、同じ姿勢に凝り固まった体を、うーんと伸ばした。
 肩を回しながら、そこでようやく蛟羽へ視線を送って、薄く口元に笑みを浮かべる。
 指先に新たな種を乗せ、細めた青い瞳をそれに向けて。
「だから手向けるのに最適なんだろうと、僕は思う」
 花の最期は、哀しみでも絶望でもない。
 次の希望≪花≫の始まりなのだと、ロカジは言う。
 美しい循環、命のサイクル。

 だからロカジは、本当に、植物が美しいと思うのだ。

 神妙な面持ちで頻りに頷きながらロカジの言葉を聞いていた蛟羽が、うーんと唸った。
 ロカジの言葉の全てが理解できたわけではないが、でも、分かるような気がする部分はたくさんあって。
「そうっすね。どちらにしても、花は綺麗っすもんね!」
 ならばやはり、自分も全力で植えるのがいいのだろうと改めて感じたのだ。……それで、

「それで、見る人が、今回の事に何も関係無くても、良いなって……思って貰えれば、いいっす」

 よね! と同意を求めるように笑みを浮かべた。
 ロカジが、頷いた。
「役に立つのはたいてい根や葉なんだけどね。それがまたいい……ね、花はいい」
 例え、実利的な面で有益でなくとも、人は花に心を寄せ、慈しむことができる。
 ロカジの言葉を頭の中で所々繰り返す。
 植えた瞬間から、未来に向かって連綿と続くサイクルに想いを馳せると、胸が温かく感じられた。
(過去には何にも残せないけど、未来には、何かは残せる)
 今、ここからそれが始まるのだと。思えば、いてもたってもいられず。
「うん、それがいいっす!」
 蛟羽が元気よく同意して、話の切りがついたところで、ロカジが自身の手を見下ろした。手が止まってしまったことに気づいた妖狐は、
「おっと、ごめんよ。お待たせ、お花ちゃん」
 指先に乗せた種に謝る長身という不思議な光景を繰り広げながら、再び作業に戻る。
 蛟羽もまた、溌剌として作業に取り掛かった。


 しづかが、ほら、と掲げて見せた。
 蛟羽が、へーっと声を出す。
「花の種も持ってきたのよ」
 これは自分のお小遣いからと言って微笑みながら、しづかが見せたのは、『涼姫』という品種名のカンパニュラだった。
「きれいな花っすねー」
 白色に近い薄紫色の、星の形をした花が、ひっそりと身を寄せ合うようにしている写真が袋に印刷されていて。
 名前の通り、涼やかで、可憐な花だった。
「カンパニュラっていって、冬に蒔いても大丈夫な品種らしいの」
「調べてたのか。しづかはマメなんだな」
 ジンも言って。褒められると、やっぱりうれしい。しづかは、えへへと顔を綻ばせた。
 ミスティは、紫色のその花の映るパッケージを、赤い眼でじっと見て、
「巽さん、もし宜しければ……私にも、種を分けていただいても良いでしょうか?」
 頼めば、グリモア猟兵から貰う事もできるだろう、けれど。
 言葉に籠る強さに、しづかはそれとなく、ミスティの心を察して、二つ返事で頷いた。
「うん、もちろん。ちょっと多めに買ってきたの」
 どうせ植えるなら、しっかり根付いてほしいものね。
 袋を開き、砂粒のように細かな種をお裾分けする。
 ありがとうございますとミスティはお礼を言って、種に視線を向けた。
 この小さな小さな粒の中に、命が眠っているのだという事実……それは、とても大切なことのように思えた。
 風で飛ばないよう、零れ落ちないよう、丁寧に守り、いつも通りの几帳面さで手順通りに植えていく。
(この種が、力強く芽吹きますように……)
 いや、きっと、力強く芽吹くに違いない。
 この種は、この子たちは、犠牲となった子どこたちがこの世界に生きていたことの証明となるのだ。
「春になったら、ちゃんと咲いてくれる……と、いいな」
 しづかが土を被せながら呟いて、
「もちろん」
 誰ともなく言った言葉は、誰の声だったろう。

(犠牲者の一人の名前は、ハルトくんだったかな)
 しづかとミスティのやり取りを眺めながら、ジンは、事前に得た情報を思い出し、視線をどこともつかない遠くへと向けた。
 ジンも植える花は自分で持ってきていた。
 被害者の名前にちなんで、冬を乗り越え、春を祝う花がいいと、カレンデュラの一品種『冬知らず』を自ら選んだ。
 キク科の黄色い花は、一見すると大人しい印象もある。
 けれど、ジンはその小さくて、ささやかな花に、冬を乗り越える力強さを感じていて。
 零れた種で増えていくという花なら、きっと、一年限りではなく、長い間この花壇を明るい黄色で満たしてくれるだろう。
(いつかまた冬が来ても、この花が咲いたらきっと彼らを思い出せるように)
 ジンが植えていると、ひょいと脇から蛟羽が顔を覗かせた。
「ジンさんのそれは何て花っすか?」
 知らないものがたくさんの少年は、人懐っこく興味津々だ。
 ジンは一瞬手を止めて、視線を彼方へ泳がせる。
 やがて、青色を戻すと、にっこり笑ってこう言った。
「さてね?」


 一方、手の止まっている姿が一つ。
 天を仰いだ青年の口から、深い吐息が漏れる。
(……この一件で代償を支払いすぎましたか。精神が邪神の方へと近づいていますね……)
 じわじわと、再び自身の精神が狂気に蝕まれていることを感じ、獅郎はほんの僅か、顔を顰めた。
 獅郎が作業していた近くまで花を植えて来ていたシーラが、その様子に気づいた。
 声を掛けて良いものか少し迷って、でも、一歩分だけ歩み寄る。
 几帳面に、線を引くように等間隔で植えられた種。その手を休めて、声を掛けた。
「……仁上さん、大丈夫ですか……? 辛そうに見えますが……」
 シーラに声を掛けられて、我に返った獅郎は、再び穏やかな表情に戻り。
「……ああ、いえ、種植えでしたね。失礼、ぼうっとしていました」
 誤魔化すような笑みで、ノノから貰った種を取り出す。
「ええと、確か……こっちが赤で、こっちが白、でしたっけ」
 あの適当なグリモア猟兵のことなので、言っていることはちっとも当てにはならないのだが、種から色を判別できる術もなし。
 信じて植えるしかないか、と、苦笑交じりに袋から種を取り出す。
「……色が、関係あるんですか?」
 敢えて色を確認したのはなぜだろう。
 シーラは獅郎の隣にしゃがみ込んで、その手元を興味深そうにじっと眺める。
 興味を持たれて悪い気もしない。青年は、笑いながら頷いて、
「ええ、簡単なお守りをつくろうと思いまして。こうして、赤い花の種は五芒星が浮き上がるように配置を。中心には白色の花の種を一つを植えれば、旧き印……一種のお守りの印が出来上がりです」
 手際よく六つの種を植えてみせて、獅郎が説明すると、灰色髪の少女は、へぇ、と声を零した。
「……私はそういう、配置を考えるセンスはあまりありませんので……すごいですね」
 声こそ淡々としているが、種を植えられたばかりの地面を見る目は熱心で。
「いいえ、これはセンスと言うよりは、知識を活かしただけです」
 獅郎は、自分の持つ二色の花の種を、少量取り分けてシーラに差し出す。
「だから、知った今なら、貴女にもできますよ」
 今度は、誤魔化すのではない、自然な笑みで。
 五芒星を描いて、中央に植える。丁寧に、一つ一つ作るお守りは、寧ろコツコツと作業ができる少女にこそ向いているだろう。
 差し出された種を、静かに受け取り、少女は確かに頷いた。
「……がんばります」
 もうどうすることもできない、取り返せない犠牲者たちにできること。
 悪いものが近づかないよう、お守りの花をせめてもの弔いに……。


 少女というより幼女と言う方が適しているような、ちっちゃな女の子が土いじりする様子は、どこか一人遊びにも見えて。
 メーアルーナは、連れて来たひよこしゃんたちに種を植えるための穴を開けてくれるようにお願いをした。
 ツンツン、地面を突くひよこしゃんたちは、餌探しと勘違いしているのか、あちこち、近すぎたり遠すぎたり、なかなかうまい具合に掘ってはくれなくて。
「あっ、あっ! つちあそびしちゃだめなのですよ!」
 ぴっぴっ! 笛を吹いて注意する。
 それでも何とか完成したひよこしゃんを象った穴に、種を落とそうとするけれど、愛用のうさぎさんのバッグにはいつものおえかき帳だけしか入ってない。そこで、気づいた。
「タネ……あっ、メアもってないのです。ノノしゃんはもってるかな?」
 一緒に来たブラックタールのグリモア猟兵が、確か種の袋を一杯ぶら下げていたと思い出せば、メーアルーナはてってこと、ちっちゃな歩幅をめいっぱいに広げて、相手の元へ。
 カラフルド派手なレインコートは、探すまでもなくすぐ見つかって。
「タネくだしゃーい!」
 ひよこしゃん引き連れ、ぱたぱた手と羽を羽ばたかせる。
 ブラックタールも、うよんうよんと、関節も骨もない動きで手を振って応じる。
「アイヨー。たくさんいらはるから、たくさん持っていきー」
「ありがとうございます! ノノしゃんもいっしょにうえるのですー!」
「えぇん……ノノしゃん、グリモア回しっぱなしで疲れてるザマスがー?」
 折角だからと、にっこり笑って声を掛けたのに、対するブラックタールときたら、あからさま面倒くさそな声あげる。
 それでも負けじと、
「これも、おべんきょうなのです!」
 一生懸命なメーアルーナの様子に、天邪鬼なブラックタールはますます意固地になった様子を見せて。
 じだんだ、じだんだ。長靴がぽがぽ。黒液ぴちゃぴちゃ。
「ワイちゃんはおべんきょうはキライなんじゃい! 生意気なちびっこだにゃー!」
「ちびっこじゃないです! メアです! あと、ノノしゃんのほうが、ちびっこなのですよ!」
 つい言い返せば、「ピャーッ!!」と、やかんでお湯でも沸かしたみたいな音が響いた。
「うるちぇーうるちぇーっ! ノノは伸縮変幻自由自在であるからして、ちびっこノーカンなのね!!」
 うにょーんと、ずるして背を伸ばしている最中。ひょいとノノの体が宙に浮く。
 急に離れた身長差に、子ども二人がきょとんとしていれば、
「コラコラ、子どもら。ちゃんと仕事せぇよ」
 呆れ顔のトラゴスが、ノノの両脇を掴んで持ち上げていた。
「およ、ナイスタイミングね、トラちゃん」
 ニチャチャと笑い声あげるブラックタールに反し、
「むぅ……メアは、ちゃんとしてたのに」
 まじめだったのに怒られちゃったメーアルーナは、むすり。頬っぺた膨らませる。
 それを見たトラゴスも流石に慌てて。……大男でも、子どものむくれっ面にはちょっぴり弱い。
「おおっ!? そうか。そらすまんかったな。ほんなら、ふざけてたんはノノちゃんの方かいな」
 トラゴスがばつが悪そうに頭を掻くと、その腕をよぢよぢ、よぢ登って勝手に肩車なんぞしている黒液が誇らしげに。
「ベチャチャ! 当然トーゼン。オレちゃんはソレが取り得ですユエなー」
「ノノしゃん、いじわるなのです」
 お持ちのように、まっかになって膨らんだ頬っぺた。むすーん度MAX。
 お友達がいじめられたひよこしゃんたちも、口々にぴぃぴぃ抗議する。
 片やノノは、あかんべーっと特大のベロをつくって挑発し返した。
「こら。あかんて、女の子いじめたら。っと、ごめんな、メアちゃん。ちょっとノノちゃん借りてもええか?」
 尋ねられ、メーアルーナは、こくりと頷いた。
 ありがとな、と礼を言う声と、人を物みたいに扱ってーぃ! と抗議する声が続き、それを見送ってから、メアはひよこしゃんたちと作業に戻った。

 ノノを肩に乗っけたままで、トラゴスはユーベルコードで≪悪童衆(ギャングスタ)≫を発動し、動物マスクで顔を隠したガタイの良い霊たちを呼び出した。
 呼び出した時に手に持っていた武器の代わりに、スコップとシャベルを押し付ける。
 やや戸惑い気味の霊たちを尻目に、トラゴスはノノに向けて、霊たちを親指で指し示した。
「ノノちゃん、コイツらの分の種欲しいんやけど、まだ在庫ある?」
「おーん、なるほど。あるであるで! ガンガン持ってきたからみゃー」
 ほーれ受け取れーっと、高い位置から種の袋を豆まきの如くに放り投げる。
「トラちんもいる?」
 それと一緒に、トラゴスの鼻の先にも袋をゆらゆら揺らしてみるも、
「俺は自前で持って来たから大丈夫やで!」
 笑って断られ。あらそれは残念と、ブラックタールは素直にポッケに袋を戻す。
 これ実家から持って来たやつと、トラゴスが見せた袋には、何やら見慣れぬ色の種が収められていた。
 快活な声が、少し声を潜められる。
「キマイラフューチャーの花の種ってUDCアースに植えて良いんかな」
 トラゴスの実家とは、つまりキマイラフューチャーのことである。
 人工的に作り出したものを除き自然の物がなくなった彼の世界の種とはつまり、UDCアースには存在しない植物の種と言える。
「めっちゃ派手な花やから、咲いたら目立つと思うんやけど。どう?」
「Hmm……」
 思わせぶりに考え込む仕草は、クイズ番組の正解発表を焦らす司会者の如く。
 ピンポーン!
 どこから響かせたのか分からない電子音なぞ発しつつ、
「イイヨ!」
 適当なブラックタールは、その場のノリでOKを出した。
「よっしゃ! ありがとな!」
 そもそも一介のグリモア猟兵にその権利があるのかはさておき、でも楽しけりゃええわな二人組は、ニタニタ笑い。
 トラゴスの肩から降りたノノは、またてってけとふらつきに行って。
 トラゴスと悪童衆も体力の限りに、花を植えていくのだった。

 しゃがみ込んで種まきしていたメーアルーナは、
「あなあけて」
 指を子どもらしい粗っぽさで、ずぼり! 突きさし、
「タネおとして」
 またまた子どもらしいたどたどしさ。ぽいと種を穴に入れ、
「あとはふんわりやさしく」
 今度は、できるだけやさしく、やわらかく。土を被せていた。
 さて、横に動いてもう一か所と、メーアルーナが人差し指を準備したところに、
 ずぶ。
 横から伸びて来たカラフルな傘の先が、穴をつくる。
 きょとり、見上げると、さっきの意地悪アマノジャクが突っ立って傘で穴をほりほりしていて。
「ノノしゃん、お花うえるのですか?」
 メーアルーナが問いかける。
「べっつにぃー? おみゃーさんがいるとこが、傘で突くのにちょうど良かっただけですーん」
 あくまで、つっけんどんな物言いに、メーアルーナも思わず笑う。
 笑って、笑って、それから、自分の希望を告げる。
「ここがお花いっぱいになったらうれしいのです」
「ふぅん。それはノノと同じだぬ」
 ずぼずぼと、等間隔に傘を突き刺して穴をつくっていきながら、カッポカッポと長靴鳴らして歩き出し。
 メーアルーナが、種を埋め埋め、子どものマーチ。
 その更に後ろに続くのが――、
「あっ、ひよこしゃん、ほりかえしちゃ、メッ……!」
 ひよこしゃん。
 埋めたばかりのところを、誤って掘り返しちゃって。
 上から覗こうとしてバランス崩し、花壇に一歩踏み込んじゃったノノもまた、
「ノノしゃん、もっと、メッ!!」
 ふー! っとメーアルーナに威嚇され。
「えぇーん、今のワテ悪くないしー!? この子シンケイシツだワーっ! 付き合ってらんない、解散ヨー!!」
 ブラックタールがまた、やかましく騒ぎ立て……ぴぃぴぃちぃちぃ。子どもの戯れは続く。

 最初から最後まで、最も花植えに熱中していたのは、ロカジだった。
「未来のお花ちゃんたち、キレイに咲いてたくさん褒めてもらうんだよ」
 そういって、最後の種を植え、さすがに座り仕事は堪えたか立ち上がって背筋を伸ばす。
 ロカジの持ってきた種がようやく尽きれば、日はもう暮れかけ、裏道もすっかり見違えるようになっていた。
(ああ、花が咲いてるとこも見たかったなぁ……)
 なんて想いながら。
 きっと、花が咲けばそれは美しく生まれ変わるのだろう。
 人生の栄華をぎゅっと詰め込んだような彩で。

 やがて、誰からともなく、黙祷を始める。
(せめて、安らかに眠れますように……)
 と祈るシーラのように、死者の安らぎを祈るものもあれば。
 蛟羽のように、
(いつか、この花が満開になりますように。それで皆が笑って、そんな未来が、作れますように……っす)
 と、胸の前に手を置いて未来の平和を願う者もいる。

 獅郎は、まだ不安定に思える精神の中、それでも平静を引き留めて、犠牲となった子どもへ哀悼の捧げる。
 彼の祈りは犠牲者のみではなく、その家族や友人の悲しみの治癒、悲劇の再来のないこともまた含まれていて。
(何もできない僕が捧ぐ、ささやかな願いです)
 獅郎は、長く黙祷の時間を取って、一字一句しっかりと願いを心で唱えた。
 そして、この願いを叶えるためにも、彼は立ち止まっていられないのだ。
「……さあ、次の仕事が待っています。そろそろ行きましょうか」
 その言葉に、一人、二人と、踵を返して夕暮れへと溶け込んでいく。

 最後に残ったミスティは、誰もいなくなったその場所で、心に込み上げる悔しさを噛み締めていた。
(可能なら、もっと早く駆けつけたかった)
 彼女自身、全てを救えるなどとは思っていない。己の気持ちだけでは限界があることも、知っている。
 警察や猟兵がいつでも弱者を守ってくれるとは限らない。今こうしている間にも、きっとどこかの世界では、オブリビオンによる悲惨な事件が起きているのだ。
(例え清く正しく生きていてもこの子らのように死ぬときが、ある)
 ぎり、と、奥歯を噛む。
(許しがたいけれど、仕方がない)
 仕方がないなんて、本当は絶対に思いたくはないが、ミスティの腕の届く世界には、どうしても限りがある。
 そこから目を逸らすのは、ただの逃避だ。だから、

(しかし、傷つけた者がのうのうと生きているなら、許さない)
(笑っているなんて許さない)
 ミスティは、その悔しさを、赤の瞳で見据える。この怒りこそ、彼女の原動力の一つでもあるのだから。

「私が――」
 必ず、……続く言葉は、闇に飲まれる。
 夜霧の時間にはまだ遠く、紫の髪を靡かせて、女もまた、踵を返した。

「……では、次の任務へ向かいましょう。」

 そうして、この場には誰もいなくなり、彼らの残した心の欠片は土の中で目覚めを待つ。
 ただただ、幸せに。
 慈しまれる芽吹きの季節を。


 猟兵たちよ。
 ≪生命体の埒外にあるもの≫たちよ。

 『ニンゲンモドキ』のお話は、これでおしまい。
 そして、
 ≪ニンゲンモドキ≫達のお話は、まだまだ続く。

 これは、君たちが主役の物語――その名も、

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月20日


挿絵イラスト