「儀式魔法【Q】が成功し、先の戦争を生き延びたジェネシス・エイトの行方が判明した」
グリモアベースで猟兵を迎える枢囹院・帷(麗し白薔薇・f00445)。
彼女が『アースクライシス2019』での傷は癒えたろうかと、集まった者達の爪先から頭の頂天まで見つめるのも無理はない。
つい数日前まで長きに渡る血闘を潜り抜けた猟兵は、然し疲労の色より、行方の知れた敵に対して新たなる闘志を見せ、帷を幾許にも驚かせた。
然して彼女は淡い咲みを浮べて言を続け、
「私が発見したのは、鋼神ウルカヌス――。アメリカ・ワシントン州シアトルの中心地区に聳えるランドマーク『スペースニードル』の頂上に、彼奴が居る事が判明った」
戦争を生き延びたジェネシス・エイトのうち「鋼神ウルカヌス」は、暫く身を隠し、自らの鋼と炎の神力で『神鋼兵団』を製造し、大規模な反撃作戦を行う算段だった。
「時間を掛けて強力な戦力を造ろうとしていた様だが、然うはさせない」
佳声に凛然を増す帷に、力強い首肯を返す猟兵。
儀式魔法【Q】によって、ウルカヌスの潜伏場所を予知できるようになった今、時を置かずしてウルカヌスの撃破に向かう可し――猟兵の意見は一致している。
俄かに雄渾漲る彼等の前に、帷は地図を広げて、
「君達はシアトルに向かい、『スペースニードル』に潜入して頂上を目指して欲しい。既に人の気配は無く、塔内は幽闃としているが、間もなく戦闘音で満たされよう」
地上フロアでは、シアトルの最先端企業で働いていたと思われるホワイトカラーのオブリビオンが猟兵の往く手を阻む。
彼等には無敵を誇る「神鋼の鎧」は行き届いておらず、通常の戦闘で撃破できるだろうが、とにかく数が多いから注意が必要だ。
「集団敵を倒したら、途中、ウルカヌスに『神鋼の鎧』を授けられた実業家風の男と戦う事になる筈だ。こいつは聖地の加護を得ていない為に完全無欠とはいかないが、高い防御力と強い耐性を得ているから手強い」
然し攻略の術はある。
先のモニュメントバレーの戦いと同じく、「鎧の隙間」を狙う行動が、今回も戦いを有利にしてくれるに違いない。
「最後は頂上で鋼神ウルカヌスとの決戦となる。こいつは必ず先制攻撃を仕掛けてくるから、十分に気をつけて欲しい」
ウルカヌスはオブリビオン故に、此処で倒しても何処かで復活する。
然し多くの猟兵が各地でウルカヌスを討伐する事で、復活を完全に食い止められるので、彼奴の「神鋼兵団」の製造計画も阻止される事となるだろう。
――ぱちん。
一同が目標を共有した時点で、帷は弾指してグリモアを喚ぶ。
花唇を滑る声は幾許にも荊棘を帯びて、
「潜伏して稼ごうとした時も、目論見も、奴の存在も。全て蹴散らしてやれ。完全なる敗北こそ、冥途の土産に丁度佳い」
と、勇敢に踏み出る猟兵らを眩い光に包み込んだ。
夕狩こあら
オープニングをご覧下さりありがとうございます。
はじめまして、または、こんにちは。
夕狩(ユーカリ)こあらと申します。
このシナリオは、『アースクライシス2019』を生き延びたジェネシス・エイト『鋼神ウルカヌス』を撃破する三章構成のシナリオ(難易度:やや難)です。
●戦場の情報
ヒーローズアース、アメリカはシアトル・センターにあるランドマークのひとつ『スペースニードル』が舞台です。
タワー上部にUFOを彷彿とさせる円盤状の展望台がくっついており、猟兵はその頂上に居るウルカヌスを撃破すべく、タワーを上っていく事になるでしょう。
●敵の情報
第一章(集団戦)『サラリーマン』
その身をスーツで包み、隠し銃で武装し、そしてカラテの技をも修めた、悪の企業戦士です。一見、一般人にしか見えないその凡庸さは、実はジャパニーズ・ニンジャの隠形の術理の一種であると言われています。
集団敵は「神鋼の鎧」の供給が間に合っていないため、普通に戦う事が出来ます。
第二章(ボス戦)『イヴィル・ボス』
嘗てシアトルで「富」「名声」「力」、この世の全てを手にいれた男。手段を選ばぬ巨悪であった故に必然的に正義とぶつかり、惜しくも破れ、笑って散ったビッグボスです。
ボスは「神鋼の鎧」を装備しているので、見た目は「スーツの上に更に鎧を着用した姿」をしています。
現在の戦場は聖地ではないので、完全無敵ではありませんが、それでも物理魔法精神攻撃に対する高い耐性を持つので、「鎧の隙間」を狙う行動は有利になります。
第三章(ボス戦)『鋼神ウルカヌス』
ウルカヌスは必ず先制攻撃をしてきます。
先の戦争で猟兵達を苦しめた「ジェネシス・エイト」の一人で、大変な強敵ですが、うまく先制攻撃への対処法を掛けられたプレイングには、プレイングボーナスが付与されます。
●リプレイ描写について
フレンドと一緒に行動する場合、お相手のお名前(ID)や呼び方をお書き下さい。
団体様は【グループ名】を冒頭に記載願います。
複数での参加者様は一括採用のみで、個別採用は致しません。
第一章のプレイングは、12月8日(日)17:00より受付致します。
以上が猟兵が任務を遂行する為に提供できる情報です。
皆様の武運長久をお祈り申し上げます。
第1章 集団戦
『サラリーマン』
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POW : シークレット・ガン
【手に持つアタッシュケースに内蔵された兵器】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : エンシェント・マーシャルアーツ・カラテ
【カラテ】による素早い一撃を放つ。また、【武器を捨て、スーツとネクタイを脱ぐ】等で身軽になれば、更に加速する。
WIZ : 情報解析眼鏡
【スマート・グラスで敵の情報を解析し、】対象の攻撃を予想し、回避する。
イラスト:炭水化物
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
――亥刻(よる)。
燦然と光を鏤める高層ビル群に、眠る緑が黒々と闇を落す、自然と調和した先進都市。
ダウンタウンの向こうにエリオット湾を眺む美しい夜景に、重厚な聲が染みた。
「ダークポイント、スーパープルトン、戦神アシュラ……それにスカムキングとジェスターも散ったか」
冷涼の風に運ばれる嗟歎。
聲主は鋼神ウルカヌス――遙か神々の時代に、不死の怪物から「鉱物」と「生命の礎」を取り出したという原初の鋼と炎の神は、光と闇の逍遥に寂寥を見ていた。
「ドクター・アトランティスまで敗れるとは……クローン技術が断たれては、クライング・ジェネシスの複製体を首領と立てて巻き返す事も叶わなくなった」
オブリビオンとして永遠を得た身も、今は果敢無し。
一時はカタストロフを予期させるほどヒーローズアースを脅かしたジェネシス・エイトだったが、空白期間に現れた新世代の進撃は凄まじく、我が戰友は敢無く散った。
「――レディ・オーシャンは那処(いずく)に逃れたか、沙汰も知れぬ」
敗残の兵には情報も届かない。
此度の血闘で勝利を得た者達ならば、レディの行方を突き止め、或いは既に追伐の兵を送り出しているかもしれぬ――。
「だが然し。我が野望は潰えた訳では無い」
まだ策は在る。
無敵の『神鋼の鎧』を量産し、数多のオブリビオンに行き渡らせ、完全無欠の『神鋼兵団』を編成する――然ればクライング・ジェネシス亡き今でも、巻き返しが図れるのだ。
己が策に道を見出した、その時。
ウルカヌスは、地上から此方に向かってくる黒影に瞠目した。
「――時の猶予も許さぬか」
いや、己も勝者なら然う為ただろう。
己の潜伏場所を割り出したか、次々とこの『スペースニードル』に向かって来る猟兵に唇を引き結ぶ。
其が再び開かれれば、諦観ではなく、覚悟を口にして。
「残党狩りと云った処だが、容易く陥落ちは為ぬ。
この地で集めた戰力を以て迎撃し、逆襲の狼煙と為てやろう」
云えば刻下、地上階から無数のスーツ男が飛び出し、走り来る猟兵に襲い掛かる。
満員電車から流れ出すように溢れた狂気は、軈て閃光火花を散らし、頂上に居るウルカヌスに開戰を告げた。
「貴様達が登り詰めたなら、この瞳が視た景色を見せてやろう」
――この瞳が何を視たか。
重厚にも寂寥の滲む聲が凍風に攫われた。
アルトリウス・セレスタイト
時間を掛けるまでもない
次もある事だ
敵へは顕理輝光で対処
攻撃へは『絶理』『刻真』で異なる時間に自身を起き影響を回避
全行動は『刻真』で無限加速し隙を作らず
攻撃分含め必要な魔力は『超克』で“外”より汲み上げる
破天で掃討
高速詠唱を『刻真』で無限加速、『再帰』で無限循環
『解放』を通じ全力で魔力を注いだ数百の魔弾を統合
天を覆うばかりの数の巨大な魔弾を嵐が如く叩き付ける
軍勢を纏めて巻き込む範囲攻撃で回避の余地を与えず
攻撃の密度速度威力で反撃の機を与えず
無理やり捩じ込んできても飲み込んで潰す算段
飽和攻撃による火力と物量で全て圧殺する
エル・クーゴー
●WIZ
躯体番号L-95、ヒーローズアース指定座標に現着
撃破目標_鋼神ウルカヌス
>敵追撃を開始します
●対リーマン
・周辺風景を取り込み生成(撮影+情報収集)した電子【迷彩】を体表に塗布、己はその辺に隠形
・そして【ウイングキャット『マネギ』】マックス300機を、数十ずつ戦線へ順次送り出す
・このマネギ達には【武器改造+メカニック】により、全機に「異なる個性」を持たせる
(ピストルとかテーザーガンとか搭載武装がちょいちょい異なることに始まり、体の模様も白猫・黒猫・ブチ猫・三毛・サバトラ等々、更にはスリムなやつマッチョなやつ劇画調の顔したやつetc)
・現れるだけでスマートグラスの処理能力をパンクさせる狙い
シキ・ジルモント
◆POW
ウルカヌスは文字通りの高みの見物か
…いいだろう。すぐに行ってやるからそこで待っていろ
敵からの数に任せた包囲を警戒
囲まれないよう常に動きまわり、接近してくる敵をピンポイントで迎撃する(『スナイパー』)
銃弾は周囲の壁や柱の『地形を利用』し遮蔽物として使い回避する
『援護射撃』で味方の支援を行いつつ敵を観察、反撃の為に敵の位置の把握に努める
位置を把握し、多数の敵を射程範囲に入れて本格的な攻撃を開始
敵の攻撃が一段落したら遮蔽物から離れて敵の前に姿をさらす
注意を引いて狙いを付けさせる事で敵の動きを一時的に止める為だ
周囲の敵全てを攻撃対象としてユーベルコードを発動、『範囲攻撃』で一気に数を減らしたい
メイスン・ドットハック
【SPD】
生き残りの神がろくでもないことを企んでおるようじゃのー
年明けまでには滅ぼしてやらんとのー
カラテの技を使われる前に、UC「星の海を制覇せし船」を発動し、大型宇宙戦艦を召喚
自身を収容して、天高く浮上して敵のカラテなど通用しない領域まで上昇
そして空からビーム機銃を連射、レーザー砲でサラリーマン集団をなぎ倒し、味方がいない範囲では広域破壊ミサイルを使って一気に掃討する
それでも巧みに侵入してこようとする敵には、ビーム機銃によるオートマティック射撃で応戦し、自身の【ハッキング・情報収集】技術を使い、船内の迎撃用兵器を持ってお出迎えして撃退を試みる
歩兵戦力など無力、大型火力こそ正義よのー
ベリル・モルガナイト
後顧の。憂いを。断つ
これも。戦においては。大切な。こと。ですわ
戦火で。疲弊した。人々たちの。生活を。脅かすことなど。させません。わ
私は。盾
民草を。守る者。なの。ですから
この世界の。人々を。守る。という。意志を。もって。己の。身体能力を。強化
あの。カバンの。中に。武器が。あるというのなら。射線は。ある程度。絞られ。ますわ
攻撃に。合わせて。盾を。構え。【盾受け】
【オーラ防御】と。組み合わせた。防御で。一気に。距離を。詰めます
数が。多いのなら。こうした方が。早そう。です
敵の。体を。掴みましたら。そのまま。敵の。数が。多い方へと。投げつけて。いきますわ
些か。はしたないですが。ごめん。あそばせ?
カイム・クローバー
残党狩りという程、気安い訳じゃない。原初の炎と鋼の神。大物中の大物…ま、足元救われないように動くさ。
只のサラリーマンじゃ…(ケースから兵器出て来る)デスヨネー。
二丁銃を用いて戦闘。【二回攻撃】で手数を増やし、【クイックドロウ】で射撃。銃弾には紫雷の【属性攻撃】を纏わせ、【範囲攻撃】でとにかく数を減らす為にUC。
【残像】を用いて駆けて、【見切り】でアタッシュケースの銃口が分かれば躱すことも出来るかも知れねぇ。立ち回るには十分な広さがあるみてーだし、上手く壁や机を盾にして動くってのもアリだろう。
こんな時間まで残業とは、随分と仕事熱心だな。身体に悪影響だ。骸の海で充分な休息を取る事を勧めるぜ!
宇冠・龍
由(f01211)と連携
手を変え札を変え様々な策を講じてきますね
先の大戦も多くのヒーローとヴィラン、そして猟兵の方々が手を取り合った結果
それを無駄にしないためにも頑張りましょうか
スペースニードル、随分と立派な建物です。中も広いですし、その分、配置されたサラリーマンの方々も多い。連携を取られても面倒です
私たち親子で百人くらい相手取れば、他の猟兵の方も楽になりますかね
【画竜点睛】で300を超える怨霊の腕を召喚
一人に対して3本の腕を向かわせ圧をかけます。床から壁から天井から、どこまでも這い伸びる腕で拘束
属性はないので効果は薄いでしょうけど、呪詛で動きを鈍らせます
宇冠・由
お母様(f00173)と連携
頂上の展望フロアまでひとっとび! ……できればいいんでしょうけれど、オブリビオンだって無視できませんの
私とお母様でなるべく多くのサラリーマンを相手取り、味方側の疲弊を押さえて次戦に挑めるようにしますわ
私がこの地獄の炎で注目を集め、お母様が拘束し、そして私が追撃する
完璧な作戦でしてよ
「レディースアンドジェントルメン。ここにおられますサラリーマンの皆様におきましては、ご機嫌麗しゅう」
空中でドレス端を摘まんで礼儀正しく一礼を
「猟兵としては一歩劣ります私達でございますが、どうぞご堪能下さいませ」
私が二度拍手するのが合図
お母様が目標にした全員の足元から火柱をあげて消し去ります
ラナ・アウリオン
大局での勝利を得たと言えど、危険の因子は看過できマセン。討滅に臨みマショウ!
さて、敵は優秀な解析デバイスを持つと聞きマシたが――
ユーベルコード起動。
現象〈水の辻風〉定義――発動。
敵の位置、あるいは移動経路を狙って噴出させマス。
照準を必要としマスから、敵に予測され、回避されるはずデス。
反撃は、弾道を察知して回避しマス。戦術演算補助を受けられるのは、ラナも同様デスので。
戦闘に“流れ”ができたら――重奏定義〈炎の雨〉、発動。
もちろん相手は、炎雨の軌道計算くらい、やってのけるデショウ。
しかし、あらかじめ発生させておいた水との接触、水蒸気爆発は二次的現象デスし……それ以前に、逃げ場などありマセンので!
御形・菘
はっはっは、怪我などよりも大切なものがある!
神を討つため塔を登る! 趣があって昂るのう!
ならば存分に、エモく素晴らしいバトルを繰り広げようではないか!
さて、お主らが最初の関門か
鞄から飛び出す兵器とは、これまた実にロマン溢れるな、実に分かっておる!
妾には真似できん、意図的にモブに徹する職人芸に敬意を払ってやろう
敵に応じて手は変えるのであろう? 好きに仕掛けてこい!
妾を物理でブッ飛ばせたなら誉れと誇れ!
だが出来なければ妾のターンだ!
高く跳び上がり、なるだけ頭数の多い場所目掛けて着弾位置を調整し…
纏めてブッ潰れろ、楽土裁断!
安心せい、最重要ポイント、タワーを崩壊させない程度にだけは手加減してやるぞ!
司・千尋
連携、アドリブ可
ジャパニーズ・ニンジャの正体は企業戦士だったのか…
『悪の』という事は『普通の?』企業戦士もいるのだろうか
常に周囲に気を配り敵の攻撃に備える
少しでも戦闘を有利に進められるように意識しておく
こちらからの攻撃は『錬成カミヤドリ』で全方位から攻撃する事で行動の阻害を狙う
足元や背後等の死角、敵の攻撃の隙をついたりフェイント等を駆使
確実に当てられるように工夫する
連携する場合は仲間の攻撃に合わせて同じ敵を攻撃
数を減らす事を最優先に
攻防ともに仲間の援護をする
敵の攻撃は可能なら相殺
難しいなら防御してダメージを減らす
ある程度のダメージは覚悟の上で攻撃を優先
本体さえ無事なら多少の傷は問題ない
穂結・神楽耶
数が多い。なるほど厄介ですね。
ではこちらは上を取り、数で応じましょうか。
──おいで、【焦羽挵蝶】。
三百超の蝶の瀑布にて、上空から圧殺致します。
多少の弾丸など高熱の前では飴細工に等しく。
逆に自在に動く炎蝶は、防御を貫き薙ぎ払ってせしめます。
わたくしを狙おうと、それで炎熱のオーラ防御を貫けますか?
やれるものならどうぞ。
無人の野を往くが如く、ただ粛々と参りましょう。
たとえ首魁を欠こうと。
目的とするものがあるなら挽回を目論み、企むのは当然でしょう。
ですが、今を生きる人を害すものを看過する訳にはいかない。
過去をあるべき海へと還す為。
今は推し通らせて頂きます──!
荒谷・つかさ
へえ、この世界にも忍者の末裔って居るものなのね。
……え、忍者じゃなくてジャパニーズ・ニンジャ?
それってどう違うのよ?
まあ、何が違おうと刀の錆にするのは同じだから一向に構わないんだけれど。
【荒谷流抜刀術・神薙の刃】発動
剣圧の刃を目くらましに放ち、その隙に敵集団のど真ん中に突撃
撃ったら同士討ち必須な状況を作り上げつつ、手近なヤツから膾切りにしていくわ
隠密武器は暗殺や不意打ちに使ってこそ真価を発揮するもの、こういう正面からの戦闘には明らかに不向き。
例え専用の訓練をしていたとしても、最大の利点を殺しているのに変わりは無いわ。
そもそも、こんな狭い戦場で取り回しの悪い銃器を振り回す時点で武装選択ミスよ!
ナギ・ヌドゥー
ウルカヌスとは何度か戦ったが殺し尽す事は出来なかった
奴を完全消滅させなければ……再びあの戦争が引き起こされるだろう
敗軍の将に従っても碌な報酬貰えないぞ?
ジャパニーズ・サラリーマンのブラック気質は恐ろしいな。
【第六感・野生の勘】で敵攻撃を【見切り】
【殺気】を帯びた【残像】を無数に作る【フェイント】で敵攻撃を回避
分身の術に見えてニンジャっぽいだろ?ジャパニーズ
そちらが加速するならこっちもスピードMAXだ
UC発動
刃に【呪詛】を込め超高速斬撃で皆殺しだ【早業】
少しでも傷付けば呪いの付与で苦しみスピードは落ちる
武器と防具を捨てたのは悪手だったな
地上に螺鈿を鏤めた様な美景を敷くシアトルの夜は、星灯りが遠い。
加えて厚みある曇雲が天蓋を覆えば、見上げる穹は墨を流した様に黒々として、塔の頂に居るであろう巨魁のシルエットを昏がりに秘(かく)していた。
姿影は視えぬか――否。
極めて視力に優れたシキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)ら猟兵なら、地上を睥睨する凶邪が聢と捉えられたろう。
「――ウルカヌスは文字通りの高みの見物か」
605フィート先に屹立する巨惡に炯眼を絞る。
距離にすれば遠くないが、先の戰争で攫み倦ねた難攻の将とは、皆々の記憶に新しい。
カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)やラナ・アウリオン(ホワイトアウト・f23647)らも、彼を敗残の将と見縊りはせず、
「相手は大物中の大物……残党狩りという程、俺達も気安い訳じゃない」
「大局での勝利を得たと言えど、危険の因子は看過できマセン」
彼こそ原初の鋼と炎の神、鋼神ウルカヌス。
暗中に佳聲を揃えた二人は、決して敵の器を見誤る事は無いと、漆黒の夜に暗澹を広げる魁偉に戒心を鋭くした。
「――幽闃が破れる」
全き靜寂の中、アルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)は鋼鐵を纏う怪腕が天に掲げられる瞬間を捉える。
端整の唇を擦り抜けた短い言は、間もなく数多の跫――大地を搖する程の靴音に揉まれると同時、不穏な騒めきに掻き消された。
『ハハハ、アフターファイブからが本当の仕事デスヨ!』
『さぁ、プレゼンテーションを始めようじゃアリマセンカ!』
スーツ、スーツ、眼鏡、スーツ。
刻下、ホワイトカラーの男達が灰泥の如く押し寄せ、猟兵の視界はネクタイでいっぱいになる。
彼等が只者でないとは、カイムが誰より先に勘付こう。
「只のサラリーマンじゃ……あぁアタッシュケースから銃口が出て……デスヨネー」
『デスヨー!!』
間隙を置かず無数の閃光火花が闇を裂くと、彼は『双魔銃 オルトロス』を引き抜き、隣するラナと左右に別れて彈道を遣り過す。
ラナは目尻に鐵鉛の旋回を見送りながら、幼な美唇に凛然を発して、
「既にこれだけの兵力を集めて……充分に警戒し、討滅に臨みマショウ!」
其の爪先が勇敢にも前へと彈かれれば、颯然たる風に頬を撫でられたシキが、『ハンドガン・シロガネ』の銃爪を引いて応戰に出る。
「……いいだろう。直ぐに行ってやるから頂上(そこ)で待っていろ」
「引き摺り降ろすより早いなら、招かれてやる」
其の冱彈にアルトリウスは魔彈の軌道を揃えて。
美し淡青『顕理輝光』を纏う器は、無尽の魔力を汲み上げて飛雨と浴びせ返した。
『ハハハ、エキサイティング!』
『ディスカッションはこうでなければ!』
忽ち硝煙彈雨が夜を烟らせる中、御形・菘(邪神様のお通りだ・f12350)は右腕の『八元八凱門』よりドス黒い鏖殺の気を迸らせて現れ、
「はーっはっはっは! 神を討つため塔を登る! 趣があって昂るのう!」
存分にエモく素晴らしいバトルを繰り広げてやろう、と四翅の魔翼を羽搏かせると同時、撮影用ドローンを高く穹へと飛び立たせた。
常に最高の画角を得るAIが軌道を變えたのは、己が硝子(レンズ)にエル・クーゴー(躯体番号L-95・f04770)も映り込ませた為。
「躯体番号L-95、ヒーローズアース指定座標に現着」
X=549,Y=1067,Z=20――座標の一致を確認したエルは、細顎を上向かせて敵性を視認し、最終到達地点と撃滅対象を入力する。
「撃破目標_鋼神ウルカヌス」
玲瓏の金瞳を隠す電脳ゴーグルは頻りに燐光を往復させ、指定座標を中心に放射状に周辺の景観をスキャンし始めた。
その間にも鐵彈は不断に撃ち込まれるが、ベリル・モルガナイト(宝石の守護騎士・f09325)は鞄の持ち方や角度、足の位置から射線を見切ると、目下スキャン中のエルや、間もなく頭上に大型宇宙戰艦『暁』を召喚するメイスン・ドットハック(ウィザード級ハッカー(引き籠り)・f03092)を、『煌宝の盾』に護り抜く。
彼女の魔導障壁に護られたメイスンは、被彈する事なく自艦に乗り込み、
「生き残りの神がろくでもないことを企んでおるようじゃのー」
「後顧の。憂いを。断つ。これも。戰においては。大切な。こと。ですわ」
「そうじゃのー、年明けまでには滅ぼしてやらんとのー」
「この世界の。人々に。本当の。平和を。届けたい。のです」
今度は礼とばかり敵群をレーザー砲で薙ぎ払い、ベリルに注がれる集中砲火を唯の爆風と變えた。
「何なら頂上まで行けそうじゃけど、そういう訳にもいかんしのー」
「展望フロアまでひとっとび! ……できればいいんでしょうけれど、この数、この兵力……地上に溢れるオブリビオンだって無視できませんの」
メイスンが上空で聲を交す相手は、闇夜に煌々と浮かぶ宇冠・由(宙に浮く焔盾・f01211)。
炎を噴き出す人型の器は、銃彈が貫通するより先に己が焦熱に誘発させ、爆ぜる風に炎を搖らしている。
メイスンや由なら、高度605フィートの天頂も直ぐに手が届こうが、地上に溢れた狂気にウルカヌスの野望――『神鋼兵団』の妖瑞を見れば看過出来ず。
宇冠・龍(過去に生きる未亡人・f00173)も、距離を違えて迫る銃彈とカラテを神速の体捌きに躱しつつ、彼等にウルカヌスの邪智を透かし見た。
「――手を変え札を変え、様々な策を講じてきますね」
蓋し龍ら猟兵には、数々の野望を打ち砕いてきた歩みがある。
此処では止まれぬと踏み込んだ龍は、昏い夜空に浮かぶ愛娘に呼び掛けて、
「先の大戰も、多くのヒーローとヴィラン、そして猟兵の方々が手を取り合った結果の勝利……それを無駄にしない為にも、頑張りましょうか」
「はい、お母様」
と、天地に佳聲を結んだ。
クライング・ジェネシスの死を以て先の大戰は一応の終結を見たが、未だ不穏は燻っていると、穂結・神楽耶(舞貴刃・f15297)は邪の根深さに柳葉の眉を顰める。
「――数が多い。なるほど厄介ですね」
戰争が収束してまだ日は浅い。
それでいてこれ程の兵を集めた巨魁――鋼神ウルカヌスの才腕は認めざるを得ないが、だからこそ、此処で必ず為留めねばならぬと凛然を萌す。
実際に鋼神と刃を交えたナギ・ヌドゥー(殺戮遊戯・f21507)なら、その思いは人一倍強かろう。
血色の無い端整の唇はそっと独り言ちて、
「ウルカヌスとは何度か戰ったが、殺し尽す事は出来なかった……奴を完全消滅させなければ、再びあの戰争が引き起こされるだろう」
未だ満足を得ぬ鉈『歪な怨刃』を握り締める。
鏖殺の気を迸らせたナギは、小袖を搖らして踏み出る神楽耶に続くと、刻下、颯然たる風が二人の艶髪を撫で、眼前に立ち塞(はだ)かる兇邪の群れに勢い良く斬り込んだ。
「へえ、この世界にも忍者の末裔って居るものなのね」
『チッチッチッ! ウィー・アー・ジャパニーズ・ニンジャ!!』
一陣の風は、荒谷・つかさ(『風剣』と『炎拳』の羅刹巫女・f02032)。
朱緋の鼻緒を踏み締めて突貫した彼女は、頗る頑強な『刃噛劔』に彈道を手折りながら敵に肉薄し、アタッシュケースより覗く銃口と鍔を迫り合せる。
「忍者じゃなくてジャパニーズ・ニンジャ? それってどう違うのよ?」
『そのディスカッションには長い時間を要するナァ……』
双方の力と武がギチギチと噛み合う中、司・千尋(ヤドリガミの人形遣い・f01891)は己が本体たる「飾り紐」の複製を敵の手首に絡ませ、抗衡からの反撃を封じる。
『ッ! 新手か!?』
彼は劔呑の瞬間にも淡然としていて、
「ジャパニーズ・ニンジャの正体は企業戰士だったのか……」
『イエス! 我々は惡の企業戰士、現代に暗躍するファイターなのダヨ!』
「待て、『悪の』という事は『普通の?』企業戰士も居るのか……?」
如何言う事だと、彼等を爪先から天頂まで見る位には余裕がある。
然ればサラリーマンは眼鏡越しに不敵な笑みを返して、
『フフフ……ユーは知ってはイケナイ秘密ダヨ!』
と、これ以上の会話を拒むと、アタッシュケースを棄てて自慢のカラテを閃かせた。
然し高速の手刀は、須臾に割り込んだつかさの刀を鍛えるのみ。
彼女が踏み込む間際に、千尋は飾り紐を絡ませて威力を削ぎ、
「まあ、何が違おうと刀の錆にするのは同じだから、一向に構わないんだけれど」
「――同感」
と、謎を謎の儘に沈める。
間隙を置かず別なる個体が拳を振り被れば、ナギは拳速を超える機動で懐に飛び込み、
「敗軍の将に従っても碌な報酬貰えないぞ?」
『ノー! このバトルに勝てば、我々にも神鋼の鎧が配給されると約束されてイル!』
「――そうか、やっぱり碌でもない」
掌打、蹴撃、刺突――!
閃々と繰り出るカラテを間際で見切る本能と直感、そして数多の血闘を潜り抜けて身に着いた経験則がカウンターを衝き入れる。
「ジャパニーズ・サラリーマンのブラック気質は恐ろしいな」
『グッ、ブ――!』
斯くしてもう一体が闇に沈んで。
其々の聲を聴いていた神楽耶は、敵との会話や互いの小気味良い連携に幾許の咲みを浮かべたが、それも一瞬の事。
「ではわたくしは上を取り、数には数で応じましょう」
長い睫に縁取られた真赭の麗瞳は、間もなく暗く渋い赤色を瀲灔(ちらちら)と揺らすや、炎を羽敲かせる蝶を宵闇に舞わせた。
「──おいで、【焦羽挵蝶】(コガレバセセリ)」
美し妖し炎の翅は主の指先の示す儘に――上空から一気に降下して敵群に襲い掛かると、一帯に炎を蹴立てた。
三百超の蝶の瀑布は、神楽耶の白皙を明々と浮き立たせ、
「無人の野を往くが如く、唯だ粛々と参りましょう」
と、闇に溶けた影をゆうらりと揺らした。
†
迎撃に放たれたオブリビオンは、『神鋼の鎧』を纏わぬスーツ姿の男達。
一見凡庸に見える彼等の強みは圧倒的人員――2,000体にも達する兵力は、それだけで猟兵を圧殺し得る、当に数の暴力で在った。
この数が完全無敵の『神鋼兵団』と成ったなら――。
ベリルは半分に割れた真白き仮面の素顔に凛然を萌すと、狂濤の如く押し寄せる凶邪に『煌宝の盾』を構える。
「戰火で。疲弊した。人々たちの。生活を。脅かすことなど。させません。わ」
――この世界の人々を守る。
確固たる意志に己の身体能力を強化する。
「私は。盾。民草を。守る者。なの。ですから」
己以外の者を守護する誓い【其れは脆くも儚き桜の城壁】(モルガナイト・フォートレス)によって強靭と堅牢を増したベリルは、繊麗の躯を燦然たるオーラに輝かせ、幾筋も迫る鐵鉛を凌いだ。
「スペースニードル、随分と立派な建物です。この広く大きな内部に、多くのサラリーマンの方々が配置されていると思うと、中々に手強い……」
連携されれば尚のこと厄介だろう、と敵群を見渡す龍。
空中に漂う由なれば、より敵の数が判明ったろうか。少女は銀の鈴を振る様な聲を降らせる。
「私とお母様でなるべく多くのサラリーマンを相手取り、味方側の疲弊を押さえて次戰に挑めるようにしましょう」
「ええ、私たち親子で百人くらい相手取れば、他の猟兵の方も楽になりますかね」
蓋し闇雲に打衝(ぶつか)っては数に捕われる――。
少々の会話で策戰を、其々の役儀を別った母娘は、先ずは穹に浮かぶ由が佳聲を澄み渡らせた。
「レディース・アンド・ジェントルメン。ここにおられますサラリーマンの皆様におきましては、ご機嫌麗しゅう」
『? ワッツ?』
『……ゴキゲン、麗しゅう?』
暗夜に浮かぶ地獄の炎は唯でさえ注目を集めよう。
由は『深紅のドレス』の端を摘まんで、恭しく一礼――淑女らしい嫋やかなカーテシーで敵を釘付けにする。
アタッシュケースから銃口が覗き、或いは身ごと武器にした連中が飛び掛かるやも知れぬ劔呑にあって、由は一縷と臆せず丁寧に語り、
「猟兵としては一歩劣ります私達でございますが、どうぞご堪能下さいませ」
合図は【拍手】(カシワデ)。
二度、拍手を打ち鳴らした由は、瞠目して己を仰ぐ男達の足下に「青白い花畑」が広がっていくのを視る。
其は龍の【画竜点睛】(ガリョウテンセイ)――。
「咲けよ徒花、一つ二つと首垂らせ」
『な、ん……!?』
『これは――!!』
脚を掴む蒼白の繊手は怨霊の腕――合計320本の腕は敵1体につき3本ずつ絡んで、掴んだ者を極端に弱体化させる呪詛を以て拘束した。
『オーマイガッ、動けな……い……!!』
先程の拍手が死の気配を連れたとは、今の瞬間にこそ悟ろう。
刻下、靴底を上げる事も叶わぬ足元から凄まじい火柱が立ち昇り、一瞬にして酸素を灼いて呼吸を奪った。
『ッ、ぐッッ――!!』
『ェ、ッッア……!!』
由が敵の足場を脅かせば、メイスンは頭上から。
「エンシェント・マーシャルアーツ・カラテ? この高度なら届かんじゃろ」
電脳魔術が特殊召喚した【星の海を制覇せし船】(オール・オーシャン)は、カラテが届かぬ高度まで上昇し、艦腹からビーム機銃を殷々と連射する。
『ガッデームッ! 戰艦は卑怯だぞ!』
『ヘイヘーイ、降りてコーイ!』
痛撃を怒りに變え、敵は悲鳴にブーイングを混ぜて寄越すが、メイスンは玲瓏の繊手をヒラヒラと振って聞き流す。
「なんか言うとるのー」
電脳AI搭載メガネ『MIYAJIMA』に隔てられた花紫の麗瞳は、ホログラムにサラリーマン達を投影しながら飄然と言ち、
「歩兵戰力など無力、大型火力こそ正義よのー」
蓋し美唇を滑るは儼然たる事実。
敵味方を充分に区別して撃ち分けられる高度を保ち、且つ彼女の電脳魔術に計算された精密射撃は、蒼白い光線に闇を裂いて敵を駆逐していった。
「数に押されて包囲されるのは避けたい」
「機動を削がれないよう動かないとな」
一握の砂は非力でも、流砂と成れば足元が掬われる。
集団の力を知るシキとカイムは須臾の裡に一瞥を交すと、其々の手に馴染む銃に饒舌を代わらせた。
「先ずは道を切り開くか」
「――援護する」
二人の射手は巧みに地形を利用して、カイムが往く先々で机を盾に銃彈を遣り過すと、後続のシキは常に柱や壁を背にしながら、進路を塞ぐ敵に鐵鉛を返していく。
カイムは鼓膜が破れる程の銃聲に諧謔(ユーモア)を交え、
「それにしても、こんな時間まで残業とは、随分と仕事熱心だな」
『ハハ、オーバーワークだと言うのカネ?』
「身体に悪影響だ。骸の海で充分な休息を取る事を勧めるぜ!」
ダブルアクション、【紫雷の銃彈】(エクレール・バレット)――!
駆け抜け様に照準を絞った紫瞳が見送るは、霹靂を帯びる銀の銃彈――半径64m内に存在する敵へ一斉に撃ち出された冱彈は、此方を向く銃口に精確精緻に飛び込み、アタッシュケースを暴発させた。
『ワッツ!?』
この隙を逃すシキでは無い。
此度、彼の牙は極めて靜かに――ドットサイトで命中率を上げ、サプレッサーで銃聲と閃光を抑えた手銃は、敵が瞠目した瞬間に眉間を撃ち抜いた。
『ッ、ッッ――!!』
『シット!!』
ずるり、痩躯を傾ける男の影から、別なる一体が銃を乱射する。
更に一体、二体……と彈幕を張れば、ここに菘が尻尾を波打たせて前進した。
「お主らが最初の関門か。ならば妾も壁と立ち塞がって見せよう」
――うおぉぉっ、邪神さんハチの巣になるか!?
――やめて! いくら邪神さんでも風穴は必至。
動画の視聴者達が思わず目を覆うが、盾と差し出た異形の左腕『五行玻璃殿』が狂気の鐵彈に撃ち抜かれる事は無い。
菘は怪腕の陰より金の炯眼を注いで、
「鞄から飛び出す兵器とは、これまた実にロマン溢れるな、実に分かっておる! 妾には真似できん、意図的にモブに徹する職人芸に敬意を払ってやろう!」
端麗の口角をクッと持ち上げた菘は、挑発を喊んで数多の銃口を集める。
「妾を物理でブッ飛ばせたなら誉れと誇れ! 好きに仕掛けて来い!」
『ッッんおおお、ファイヤー!!』
斯くも菘が敵を惹き付けるのは、動画映えを狙う以上の理由がある。
彼女は騒擾の中でも仲間の聲を聢と拾っており、
「>敵追撃を開始します」
そう言って繊麗の躯に周囲の景色を塗布・迷彩化したエルは、菘の際立った存在感を隠れ蓑に行動を起こしていた。
(「友軍を展開し、順次戰線に分遣します」)
召喚、【ウイングキャット『マネギ』】(エレクトロレギオン・オルタ)――。
合計300体の福猫は、此度全機に「個性」を付与され、あらゆる事象を解析するスマート・グラスに凄まじい情報量を読み込ませる。
『白猫は来福招福、黒猫は魔除け厄除け……ブチ猫は、三毛は、サバトラは……』
『第一部隊はピストル、後続機はテーザーガン……では、あの小判は……?』
スリムなやつ、マッチョなやつ。
更に劇画調の顔したやつの動きは――と、押し寄せる情報は宛ら洪水。
『おっとり型、オレオレ派、耽美系……くそうっ、処理が追い付かない……!!』
ボフッと煙が噴くのはお約束。
リーマンの【情報解析眼鏡】は、その優秀さ故に多大な情報を読み込み、機能をパンクさせてしまった。
『ファック! 自慢の眼鏡が台無しダゼ!』
『これじゃあ明日の天気も予測できナイ!』
俄に動搖する敵群に、追撃を掛けるはラナ。
可憐は敵の視線が泳いだ瞬間、兵器たる我が躯より厖大なる魔力を迸らせ、
「敵は優秀な解析デバイスを持つと聞きマシたが――情報の洪水の次は、事象の洪水で畳み掛けマショウ」
周辺環境走査。
世界律へのアクセス権を確立。
現象〈水の辻風〉を定義……形成……実体化。
発動、【最新鋭の創世神話】(ジェネリック・ジェネシス)――!
「地形情報を入力して予測した移動経路を狙って噴出させマス」
麗し藍瞳が注がれた正に其処に、渦巻き状の旋風が轟ッと立ち昇り、流動する水が刃と成ってスーツを切り刻む。
『くッ、おッッ!』
『アタッシュケースが手から離れてしまいそうだ……!』
蓋しアルトリウスは、連中が武器を手放すまで待つ程お人好しではない。
「――時間を掛けるまでもない。次もある事だ」
集団戰で最も懸念すべきは損耗。
自身がウルカヌスなら、地上階で猟兵の疲弊を狙うと炯光を鋭くしたアルトリウスは、其に対抗し得る物量攻撃を仕掛けた。
「密度、速度、威力。全てで戰場を飲み込み、反撃の機を与えず」
断絶の原理『絶理』は、己を異なる時間に置いて攻撃を回避し。
時の原理『刻真』は、全ての行動を加速して隙を作らず。
創世の原理『超克』は、敵を仆す魔力を外より導いて。
長躯に揺蕩う淡青は閑雅ながら、其より紡がれる魔彈は雨の如く嵐の如く、飽和攻撃を以て面を制圧した。
『ず、ッッアァ!!』
『ッ、ガフッ……!』
絶叫が絞られ、進む足が血溜りに滑る惨憺――。
シアトルのランドマーク、スペースニードルは今や殺伐たる軍庭と化したが、全く色気の無い戰場にも、神楽耶の【焦羽挵蝶】は艶々妖々と羽搏いている。
術者の聲は宛ら神楽鈴の如く、騒擾の中にも淸らかに澄み渡り、
「――その鞄の銃でわたくしを狙うと。やれるものならどうぞ」
盾も構えず、柱にも隠れぬ可憐は、然し血花の一片も散らせず。
彈かれるや直線的な軌道しか描かぬ鐵鉛は、自在に舞う炎蝶は射抜けず、その高熱を前に飴細工と形を解くのみ。
『銃彈が溶ける!? アンビリーバボーだぜ!』
『……クレイジー』
蝶は集まって炎の波濤となり、大いなる生命の如く逶(うね)り、スーツの男達を丸呑みにする。
神楽耶が悲鳴ごと灼き尽くすなら、躰から絶叫という絶叫を絞らせたナギ達の方が慈悲深かったろうか。
「分身の術に見えてニンジャっぽいだろ? ジャパニーズ」
『くっ……今のは残像……?』
冷艶の聲を追い、或いは殺気を手繰って手刀を衝き入れた兇邪は、虚空を斬る儚さに瞠目した瞬間、鋸刃を持つ鉈に腕を落とされる。
『ゲェァァアアッッ!!』
(「――嗚呼、佳い感触だ」)
肉の千切れる音に法悦を浮べたナギは、美唇の端に冷笑を湛えながら血滴を受け取り、どう、と斃れる骸を組み敷く。
その骸を踏み越えて襲い掛かる群れには、つかさと千尋が相対し、
「劔圧の刃を目晦ましに放ち、その隙に集団のど真ん中に突撃するわ」
「――面白い、手伝おう」
嘗て失伝していた秘技【荒谷流抜刀術・神薙の刃】(ゴッド・スラッシャー)が凄惨たる波動を衝き上げると、敵前衛が足を止めた瞬間に、千尋が「飾り紐」を放射状に放つ。
「本体さえ無事なら、多少の傷は問題ない」
器物(モノ)なら人間(モノ)より無理が出来る、と皮肉を奥歯に噛み砕いた千尋は、【錬成カミヤドリ】――合計37の複製体を鳩尾に食い込ませ、敵群に飛び込むつかさを援護した。
『ず、ァアッ!!』
『息が……ッ!!』
激痛に躰を折って無防備を晒したサラリーマン達は、吹き荒ぶ戰塵に恐怖と警戒を募らせ、一発でも彈けば同士討ちを始めよう。
斯くして銃聲が鼓膜を打ち、予想通りの景色が二人の炯眼に映った。
『ターゲットは何処だ……ギャァァッ!!』
『シット! これじゃあ数で勝る我々の方が不利じゃないか……グァアッ!!』
その騒擾の中、つかさと千尋は怜悧冷徹に聲を交し、
「手近なヤツから膾切りにしていくわ」
「俺もこの混乱に乗じて動こうか」
『――ギィヤァァァア嗚呼!!』
更に恐慌が膨れ上がるよう、敵の死角に回り込みながら死撃を打ち落としていった。
†
畢竟。
スペースニードル内部の地形をより巧みに利用したのは、“ホーム”に非ざる猟兵達であった。
「その腕は床から壁から天井から、どこまでも這い伸びる――」
『ヒー! イッツ、ホラー!!』
時に柱から首を攫み、時にカウンターから腕を攫んで。
龍の【画竜点睛】は、炎々(めらめら)と燃える愛娘に男達が引き付けられている間に呪詛を絡めて挙措を封じ、【拍手】の鳴り響く瞬間に躯を差し出した。
淸澄の聲は奇しくも重なって、
「敵の連携を禦ぐには、彼等に勝る連携が必要です」
「お母様が拘束(とら)えた全員を消し去ります」
『ノーッッ!!』
慈悲か無情か、地獄の炎は灰燼ひとつ残さぬ。
距離や場所の制約を受けず発生する火柱は、悲鳴を裂く息も飲み下し、猟兵が進む道を靜寂に整えた。
「私の地獄の炎で注目を集め、お母様が拘束し、私が追撃する――完璧な作戰でしてよ」
進む爪先は楚々と典雅に。
由はドレスの裾をふうわりと搖らし、尊敬する母の竜尾に続いた。
時に新手が続々と進路を塞げば、ベリルは閃光火彈も恐れず身ごと盾と踏み出て、
「数が。多いのなら。こうした方が。早そう。です」
突貫――!
盾を中心に展開した魔導障壁ごと距離を詰める。
華奢ながら堅強な城壁の如く敵群を押し込んだ麗人は、衝撃に浮足立った男を掴み上げると、そのまま狂邪の塊へと放り投げた!
『――ぉぉぉおおっっ!!』
『ちょ待っウェイトウェイト……ギャー!!』
体勢を崩したスーツ姿の男達が、でんぐり返って仰様に轉ぶ。
彼等は股の間からベリルの淸澄なる聲を聴いて、
「些か。はしたないですが。ごめん。あそばせ?」
『ッ、ッッ――!!』
小気味佳く持ち上がる語尾に、ゾッと背筋を凍らせた。
――加えて。
盾も持たず、身ごと鋩と成って突貫するつかさにも大いに肝が冷えたろう。
指が千切れるほど彈幕を張って拒んだ筈が、冱ゆる霊気を肌膚に触れたサラリーマンは冷や汗を垂らして、
「――ジャパニーズ・ニンジャって言ったわね」
『ひぇえっ……』
刻下、鈴を振る様な佳聲に楔打たれる。
赫々と耀く麗瞳は、既に真っ二つに分かれたアタッシュケースの下半分が、虚しく零れ落ちる瞬間を追って、
「隠密武器は、暗殺や不意打ちに使ってこそ真価を発揮するもの。こういう真正面からの戰闘には明らかに不向き」
特殊な訓練を受けていたとしても、最大の利点を殺している事に變わり無い――最初から「利」は無かったのだと言い切ってみせる。
其の瑕疵が敗北を招くとは、神をも薙ぐ刃が示し、
「抑も、こんな狭い戰場で取り回しの悪い銃器を振り回す時点で、武装選択ミスよ!」
『ギャァァ嗚呼ッッ!!』
59mも飛ぶ劔圧の刃を零距離で喰らったサラリーマンは、己が躯を同距離飛ばした。
その先に居るのは――鈍器『鴗鳥』を構えた千尋。
「――距離、速度、タイミングもいい感じだ」
『ッッ、ッ!?』
常に周囲を、仲間の立ち回りを具に見ていた彼なればこそ、突然飛んできた敵を撃ち落とす事が出来よう。
渾身の力を振り絞った千尋は、見事に敵の脳天を殴り倒し、ここに妙々たる連携を完成させた。
『ッッ、ガッデーム! 同胞をボールの様に打ちのめす事は許さナイ!!』
『我等の武器だる“凡庸”を捨て、制裁を下す!』
発現、エンシェント・マーシャルアーツ・カラテ――!!
彼等を普通のサラリーマンと見せかけていた「装備」を取り払って、超スピードを得た男達が、千尋目掛けて爪先を彈いた。
然し須臾。
直ぐに射線に割り込んだナギは、指抜きの黒手袋に『ブーステッド・ドラッグケース』を取り出して微笑する。
「そちらが加速するなら、こっちもスピードMAXだ」
発動、【オーバードース・トランス】――!
過剰に薬物を摂取する事により「トランス状態」に陥ったナギは、反応と反射を鋭く、そしてスピードを爆発的に上げて敵と射線を結ぶ。
「武器と防具を捨てたのは悪手だったな」
『な、に――!!』
呪詛を込めた怨刃は、鋸状の刃を引っ掛けるだけで苦痛と鈍麻を与え、相手のスピードを殺す、悪魔の凶器。
そして、ナギの超高速斬撃は躱せよう筈も無く――夥しい血量が繁噴き、蒼白い麗顔が朱々と染め上がった。
――時に。
メイスンが乗艦する大型宇宙戰艦『暁』の凄惨たる制圧射撃に抗う者も居たは居た。
『一方的にヤラれてばかりじゃナーイ!』
『絶対に止めて見セール!』
アタッシュケースを捨て、スーツを脱ぎ、ネクタイを解き、愈々身軽になった男達が壁を蹴って戰艦にブラ下がる。
敵たる矜持と意地で戰艦に侵入した彼等は、勿論、メイスンの電脳魔術にサーチされた事だろう。
「……眼鏡は棄てんみたいじゃのー」
僅かに瞠目した凄艶は、繊麗の指を動かしてオートマティック射撃を起動、ビーム機銃を浴びせると同時、艦内に配置した迎撃用兵器を次々に展開して“お出迎え”する。
装甲より鈍く悲鳴が伝われば、メイスンは其の方向に佳聲を添えて、
「戰艦が強いんはガワだけじゃないけぇのー」
と、細指に深緋のアンダーリムを持ち上げた。
『どうなってるんだ、俺達は夢でも見てるノカ……?』
『だとしたら、とんでもなくクレイジーな夢だゼ!』
中指に眼鏡を押し上げ、全く予測していなかった事態を見る。
2,000体に迫ったスーツの群れは半減を繰り返し、今や当初の五分の一にも満たぬ。
猟兵が目指す地点であり、我等の最後の砦であるエレベーター付近に残存の兵を集めたスーツの男達は、残彈を惜しまぬ斉射に猟兵を牽制し、その接近を拒んでいた。
「既に“流れ”は決まりマシタ。――重奏定義〈炎の雨〉を発動シマス」
ラナは戰局を見誤らないし、其を誇張も矮小も為ない。
開戰から四半刻で自軍の優勢を見出した彼女は、敵に軌道が読まれる事を見越した上で再び属性と自然現象を合成し、炎雨を降り注いで敵戰線を搖るがす。
双方を間に烈風が逆巻くが、構わない。
『ッッここは撃ち負けられないゼッ!!』
「戰術演算補助を受けられるのは、ラナも同様デスので」
無数の彈道を見切り、肌膚一枚を掠めて躱すラナ。
繊躯を嫋々と翻した可憐は、間もなくその「時」を迎えよう。
「予め発生させておいた水との接触――水蒸気爆発は二次的現象デス。処理速度を落とした現状、回避の予知はありマセン!」
『ッ、なにを――』
互いの語尾が爆風に掻き消され、視界が一瞬、真っ白になる。
次いで襲い掛かった熱量と衝撃は、スーツの男達を圧倒し、不断の斉射を水蒸気に呑み込んだ。
『ッ、ッッ――!!』
『オーマイガー!!』
眼界不良、視程ゼロ。
双方が影を隠して攻め手に拱く瞬間だが、此処で次撃を継ぐシキとカイムは生粋の撃手に違いない。
常に遮蔽物を挟んで相対していたシキは、噴煙の中に身を躍らせると同時、朧な姿影を搖らめかせて敵の注意を引く。
『ッ、誰か向かってくるぞ!!』
『全彈、撃ち込めッ!! 狙え、狙え!!』
照準が定まらぬ裡が狙い目――。
シキは多機能ゴーグル越しに透徹の青瞳を目標へ疾らせると、【ブレイズ・ブレイク】――半径64m圏内に捉えた敵に靜かに鐵鉛を喰らわせ、真白き噴煙に血煙を混ぜた。
『ギャァ嗚呼ッ!』
『ォォ嗚乎!!』
敵の銃彈もまたシキの目尻を掠めるが、裂傷が血滴を躍らせようと彼は沈着を崩さず、その優れた嗅覚に爽涼なる香水を――カイムが動き出すのを察知して送り出した。
「そろそろ向こうの視界も晴れる」
「大丈夫、それ迄に済ませる」
燻煙噴霧、そして血飛沫が躍る空間を二筋の彈道が抉り推進する。
高速旋回した彈頭は、心臓に到達するや男達のスーツを鮮血に染め、一体、二体……と次々に血の海に沈めていった。
着実な仕事と云えば、エルが召喚した小型戰闘機兵『マネギ』も頗る精勤。
季節のオーナメントたるクリスマスツリーに潜んだ司令塔は、300もの尻尾にオーダーを発し、
(「――友軍は分隊を維持した儘、多段波状攻撃を展開」)
「NyaaaaAA!!」
「NYA-GO! NYA-GO!」
全て異なる個性を付された翼猫達は、マネギ式ブラスター、マネギ式機関砲、マネギ式アンチマテリアルライフルと、兵装に応じた距離から火砲を噴いて敵戰線を後退させた。
『シーット! 押し込まれてしまう……!!』
『オーマイガッ! こんなNEKOチャンに!!』
畢竟。
視界が晴れて暴かれた景色は、スーツ男達の濃い敗色。
「竟ぞ妾を押し返せぬとは……なれば、妾のターンだ!」
鐵鉛もカラテも、全て飲み下してやるつもりだった菘は、随分と肩透しを喰らった事だろう。
残念、と柳葉の眉を顰めたのも一瞬、蛇が跳ねる様に蜷局を巻いてジャンプした菘は、四翅の黒翼で着彈位置を微調整しながら墜下し、狂邪の黒叢を尻尾で薙ぎ払った!
「――纏めてブッ潰れろ、【楽土裁断】(ジャッジメント・テイル)!」
最重要ポイント、タワーを崩壊させない程度に手加減した安心の一撃。
然し其は鞭の如く撓って、敵の胴を打つや臓腑を絞る凄まじい死撃だった。
『ウーップス!』
『アーウチッ!』
桜唇より鋭い牙を覗かせて悲鳴を聴く菘。
塊を成していた敵群が分散すれば、彼女は「後は任せた」とアルトリウスに流眄を注ぎ、
「――塵は纏める必要も無い」
「然うか」
散った儘、圧殺する――と言い終えぬ裡に生成さるは【破天】。
循環の原理『再帰』を以て鼓動なる詠唱を無限加速・無限循環させたアルトリウスは、自由の原理『解放』を以て限界を超えた魔力を統合し、天を覆うばかり厖大な数の巨彈を嵐の如く叩き付けた。
「其は所作もなく現れ、存在の終わりとしての死を導く」
『ッ、ッッ!!』
『グ……ッア……!!』
爆炎と轟音が絶叫すら掻き消す――圧倒的火力と物量。
大地が揺れ、塔にも振動が駆け登っていく中、見上げた其処に飜々と舞う炎蝶は、息を飲むほど美しかったろう。
辺りが靜寂に包まれた時を以て、スーツの男達の完全沈黙を受け取った神楽耶は、丹花の唇をそうっと開き、
「仮令(たとえ)首魁を欠こうと。野心が燻るなら挽回を目論み、企むのは当然でしょう。――ですが、今を生きる人を害すものを看過する訳にはいかない」
今は視えぬ相手に、当初と變わらぬ意志を示す。
可憐は未だ武器を収めぬ仲間達と視線を揃え、
「過去をあるべき海へと還す為。今は推し通らせて頂きます──!」
上へ、上へ――。
円盤状の展望台を目指した。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
第2章 ボス戦
『イヴィル・ボス』
|
POW : 富
【自身の財】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【忠実なヤクザ】に変化させ、殺傷力を増す。
SPD : 名声
【振る舞い】から【威厳】を放ち、【カリスマ】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ : 力
【暴力で解決するのが一番という真理】に覚醒して【マッチョ】に変身し、戦闘能力が爆発的に増大する。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
イラスト:V-7
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠トール・テスカコアトル」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
高度492フィートにある展望台。
数多の超高層ビルが聳え立つようになってからは、些か高度は物足りないが、それでもこの塔がシアトルの歴史の礎――ランドマークである事に變わりは無い。
『――実に佳い街ダヨ』
宝石を鏤めた様な夜景を見ながら、或る男が言ちる。
上質なスーツの上に『神鋼の鎧』を纏った彼は、「富」「名声」「力」に加えて「不死」を手に入れたと、オブリビオンとして復活した我が身を悦ぶ。
名を『イヴィル・ボス』と改め、再びシアトルに降臨した男は、今は鋼神ウルカヌスに従順を示しているものの、この戰が終わったらどう動くか判明らない。
展望台の硝子窓に己の顔を映した男は、不敵に嗤笑って、
『先ずは、タワーを上ってくる連中を撃破しろと……ハハハ、中々に手強そうだ』
奇襲を嫌ってか、エレベーターと非常階段に別れて上ってくる精鋭の気配を気取る。
敵の強さを充分に警戒しているのだろう、猟兵の行動に満足を得た男は、竟に到達した跫――刃の様に鋭い闘志に振り返り、美しい夜景を背負う。
『君達は……慥か“猟兵”と言ったカネ。いや、そんな事は如何でも良い』
口端は歪に持ち上がって、
『タイム・イズ・マネー。君達が急いている様に、私も時間が惜しい』
云うや刻下、ぶわりカリスマを迸らせた男は、鎧の下の筋肉を一気隆起させてマッチョになり、己の周囲に侍らせたヤクザを差し向ける。
『目的は同じだ! さぁ、殺し合おうじゃないか!!』
イッツ・タイム・トゥ・ゴー!
双方が爪先を彈き、凄まじい衝撃に硝子が波打った。
メイスン・ドットハック
【SPD】
なるほど、悪のビックボスといったところかのー
それじゃ、お前の罪をちょっと僕に教えて貰おうかのー
予め電脳プログラムに仕込んでおいた、自身のホログラムを複数発生させて目くらまし
【ハッキング・暗号作成】で精度を高めて回避率を上げる
その間にUC「生者は微睡み、夢は過去に堕ちる」を発動させ、鏖殺剣ナイトメアを召喚
ナイトメアの過去断絶により、ボスとしての過去・経験をを一時断絶させることによって、源となる威厳を失わせカリスマを失墜させ、動きを取り戻させる
そして過去に干渉し、自身がかつて正義に敗れた時の傷を再度発現させて、ダメージを与えていく
どんな硬い鎧じゃろーと、自分の過去から逃れられんからのー
ベリル・モルガナイト
話が。早いのは。助かるの。ですけれど
貴方のような。方と。意見が。合って。しまうのは。あまり。嬉しく。ないわ。ね
ですが。時間が。惜しいのは。確かに
短い。間ですけれど。踊って。頂ける。かしら
建物の。中ならば。元には。困りません。わ
周囲の。床と。壁を。盾に。変換
【オーラ防御】と。共に。敵を。近づけ。させないように。攻撃を。【盾受け】
力で。解決できる。ことも。世界には。多いわ
ですが。本当に。大事なのは。力を。奮う。意志
ただ。力を。振り回せば。良いと。考えるの。ならば
貴方に。私は。砕けません
増やした。盾を。頭上に。展開
上からの。【シールドバッシュ】を。お見舞い。致します
【アドリブ、絡みは歓迎】
御形・菘
己の望むままに生きたからこそ、悪と断じられたか
実に真っすぐな在り方ではないか!
つまりお主は出すぎた杭、より強き悪に叩き潰されるのが自然の摂理というものだ!
はっはっは、妾が鎧の隙間を狙うなんて戦法を選ぶはずがあるまい
最強だとか無敵だとか、そんな強いワードに挑んでこその妾というものよ
妾の力で粉砕してくれよう!
まあ、真正面に陣取った妾に注意を引き付けられて生まれた隙を、皆が勝手に狙うのは自由であるがな?
取り巻きの手下どもの攻撃などガン無視よ
どのみち綺麗に連携など取れんであろうしな、好きにせい!
此度の妾は、この巨悪と思う存分にバトるので忙しい!
ロケーションも素晴らしい! 楽しく殴り合おうではないか!
白斑・物九郎
●WIZ
暴力が一番手ッ取り早いだァ?
気が合うじゃニャーですか
・魔鍵を担ぎ真正面から悠々接近
・【怪力】で魔鍵を取り回す
・敵攻撃を肉弾戦依存と見越し、魔鍵の【なぎ払い】による捌きと【武器受け】で防戦
・返す刀で殴打(気絶攻撃)/刺突(串刺し)で反撃
・応酬の最中「神鋼鎧隙間の開口」と「敵の寿命削減による負荷から来る動作遅延等の隙」が揃う瞬間を見出すべく【野生の勘】を傾注
・勘の報せを得第、狙える鎧隙間が窓側に向くよう敵態勢も誘導ざま【L95式火力支援】発動
・エルを硝子越しの外に出現させ、鎧隙間の狙撃を命じる
・演じて来た真正面からの白兵戦は、全て「真っ向戦う性質の猟兵」と敵に思わせてから不意討つ為の布石
シキ・ジルモント
◆SPD
話が早くて助かる、こちらも力ずくで突破させてもらう
…しかし神鋼の鎧とは面倒だな
敵の振る舞いで調子が狂わないよう、こちらのペースで攻撃を仕掛け続ける
味方の攻撃機会を作る為の『援護射撃』も兼ねるなら無駄もない
神鋼の鎧を警戒、隙を作って鎧の隙間を狙う
関節部分や手指、頭部周辺なら隙間があるはずだ
聖地ではないここならダメージは防いでも衝撃くらいは与えられるだろう
隙間以外の部分へ向けて連射、弱点以外への攻撃で油断を誘うと共に連続で衝撃を与える事によって体勢を崩す事が目的だ
体勢が崩れたら即座にユーベルコード発動
防御も回避も困難なこのタイミングで確実に鎧の隙間を狙撃し大ダメージを狙う(『スナイパー』)
男が言う通り、慥かに猟兵は急いていた。
戰争が終結して日も浅い裡に大兵力を集め、『神鋼の鎧』の量産化を図っていた巨魁、鋼神ウルカヌスにこれ以上の時を与える猶予は、此度の戰の勝者たる彼等にも無い。
蓋しこの男、『イヴィル・ボス』は双方の事情を知りつつ、主の為には働かなかった。
『聞けば君達は戰後直ぐにウルカヌスの行方を突き止めたと……実に面白い』
鋼神を逃がす為の時間を稼ぐ忠義も義理も無し、唯だ己が野心の為に動く。
故に手早く済ませよう、というのが男の都合で勝手だった。
「なるほど、悪のビックボスといったところかのー」
不敵な窃笑に広島弁のソプラノ・リリコが返る。
聲主たるメイスン・ドットハック(ウィザード級ハッカー(引き籠り)・f03092)は、男を嫌悪も侮蔑も為ない。
己が都合と勝手で動くとは、或いは此方も同じと――シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)とベリル・モルガナイト(宝石の守護騎士・f09325)も決して正義を振り翳さず、靜かに答えた。
「――話が早くて助かる」
「話が。早いのは。助かるの」
奇しくも科白が重なったが、密かに靴底を踏み締めるシキの隣、ベリルは「ですけれど」と言を継いで、
「貴方のような。方と。意見が。合って。しまうのは。あまり。嬉しく。ないわ。ね」
『ハハ、私はミスの様な美人と意見が合うのは嬉しいのだがネ』
片眉を上げて戯談を述べる、この男から視線を逸らせば尚のこと楽しませてしまうと、佳人は乙女色の瞳を繋いだ儘にする。
御形・菘(邪神様のお通りだ・f12350)は、この男の不遜なる威風に炯眼を絞って、
「己の望む儘に生きたからこそ、悪と断じられたか」
『嗤笑うカネ?』
「いや、実に真っ直ぐな在り方ではないか! 詰まりお主は出すぎた杭、より強き惡に叩き潰されるのが自然の摂理というものだ!」
『自然の摂理と……成る程、違いない。唯、出る杭を打って来たのは私の方だガネ』
互いに好戰的な視線を結び合う。
菘だけではない。猟兵らの闘志漲る瞳を集めた男は、満足げに皓歯を覗かせると、ぶわり鏖殺の気を迸らせて言った。
『――嘗てこの世の全てが「富」「名声」「力」で解決した』
骸の海を潜った今も其は變わらない。
世界が變わってないからだ、と幾許の皮肉を添えた唇が饒舌に語る。
『特に力――暴力は常に最高のレスポンスを見せてくれてネ。最も手っ取り早く交渉を纏めてくれる、優秀なツールなのダヨ』
金剛の鎧を纏った今なら、最高のパフォーマンスを魅せてくれよう。
全身に漲る超パワーに口の端を歪めたボスは、四体の屈強なヤクザを突貫させると同時、己も五撃目として床を蹴った。
『――この様にネ!!』
ターゲットは常時一人――多を以て個を蹂躙する、理不尽と不条理こそ暴力の効率美と拳を集めた男は、狙った“獲物”の炯々と冱ゆる金瞳に、一瞬、瞠目した。
「暴力が一番手ッ取り早いだァ? 気が合うじゃニャーですか」
『――!』
無愛想な聲を置き去りに影が疾走る。
次々と飛び掛かるヤクザの拳を悠々と擦り抜けた黒影は、ボスの鋼拳を魔鍵の頭で受け止めると、角逐の衝撃に前髪を掻き上げ、狭い額を暴いた。
「俺めも然う思う場面に多く立ち会いましてよ。異論ナシ」
『、ッ!』
其の男、白斑・物九郎(デッドリーナイン・f04631)。
決して筋骨隆々たる大男では無い彼が、猛牛の如き巨撃を止めた事に眉を蹴立てれば、他の猟兵も一斉に動いて開戰を告ぐ。
彼等は直ぐにも呼吸を合せて布陣し、
「短い。間ですけれど。踊って。頂ける。かしら」
「はっはっは、その惡――淘汰させて貰おう!」
優艶と語尾を持ち上げたベリルが『煌宝の盾』に魔力を注ぐ傍ら、菘は我が身を盾にと四翅の黒翼を広げて「邪神のオーラ」を漲らせる。
二枚の盾が堅牢を成せば、物九郎は強靭なる鉾と為るべく宙返りして戻り、
「眞ッ向勝負で仆してやりまさァ」
斯くして前衛が整えば、後衛も闘志は充分に練られている。
「此方も力ずくで突破させてもらう」
「めんどーじゃけど、やろうかのー」
シキが相棒『ハンドガン・シロガネ』を手に五感を研ぎ澄ませていく隣、メイスンは電脳世界を展開し、予めプログラムした電脳魔術を履行する。
ボスは彼等の妙々たる連係動作に今度こそ哄笑して、
『ハハハッ!! 時は刹那、血腥いエンターテインメントを楽しもうかッ!』
シアトルの夜景を背に両手を広げ、臓腑を掴み上げる様なカリスマオーラを放った。
†
「……然し此処が聖地で無いとはいえ、『神鋼の鎧』を纏っているのは厄介だな」
シキは先の大戰で『神鋼の鎧』を攻略した経験がある。
慥かあの時は、鎧の隙間を狙えば無敵が破られたが、今回は予知で隙間の部位が見えず――完全無欠でないと言っても、難易度は高い。
唯だ同じ鎧なら、何処かに隙間はあるだろう。
ならば探せば良い、と犀利な青瞳は戒心を鋭く敵影を映し、
「関節部分や手指、頭部周辺なら隙間がある筈だ」
と、狙った部位から順番に、的確に銃彈を撃ち込んで調べ始めた。
『ハハ、徒労だヨ。私の躰に傷はつけられない』
「だが衝撃は受け取って貰う」
ダメージは与えられずとも、彈が鋼を打てば躯は搖れる。
シキは不断に銃を彈きながら、ボスが特定の部位を狙われた瞬間に隠すか、庇いたてる瞬間がある筈だと洞察を鋭くした。
『全く時間の無駄だヨ。私は重厚な盾であると同時、強健な鎚でもある』
膂力を爆発的に上げた右腕を振るうだけで、カリスマオーラが烈風と逆巻く。
凄まじい威厳が無数の風刃となって襲い掛かるが、其はシキの肌膚を切り刻むより先、前衛に立ち塞(はだ)かるベリルが相殺に踏み出た。
「建物の。中ならば。元には。困りません。わ」
變換、【其れは誉れ堅き薄紅の城塞】(モルガナイト・シタデル)――!
半径45m圏内に存在する無機物――此度は周囲の床と壁を「宝石の盾」に變えたベリルは、我が意志の強さに堅牢と耀きと増す盾を以て烈風を凌ぐ。
創痍は許さず、美し艶髪を靡かせるだけに留めた彼女は花唇を開いて、
「貴方の。攻撃で。悪意で。誰も。傷つけ。させない。わ」
『おや、随分と嫌われてしまったカネ』
ならば代わりの者をと、屈強なるヤクザを向かわせれば、之には菘が邪神の拳を突き合わせた。
衝撃の波動はズシン、と展望台を揺らし、
「妾の人気に嫉妬して、涼風でも寄越しに来たか」
『ムウッ! 生意気ナ……!』
『ッ袋叩キダ! 囲メ囲メ!!』
ヤクザ連中が数の暴力で圧倒せんとするが、撮影用ドローン『天地通眼』が最高の画角で撮り続ける限り、彼女は【逆境アサルト】――素晴らしい動画を創り上げるという固い信念によって斃れる事は無い。
事実、炯光を放つ黄金の麗瞳は冱々とボスを睨めており、
「最強だとか無敵だとか、そんな強いワードに挑んでこその妾というもの。神鋼の鎧は、妾の力で粉砕してくれよう!」
鎧の隙間は探らない。狙わない。
眞正面に陣取り、純然たる力で打倒して見せる、と不敵に丫の舌を覗かせる。
「まあ、妾に引き付けられて生まれた隙を、皆が勝手に狙うのは自由であるがな?」
美唇に咲みを差し、背後に動く気配を読み取る菘。
彼女がヤクザと角逐する間、後衛のメイスンは【生者は微睡み、夢は過去に堕ちる】(ブラック・ナイトメア)を発動――黒騎士アンヘルや黒の毘沙門刀の電脳データに接続し、呪われし鏖殺剣ナイトメアを召喚した。
「さて、それじゃお前の罪をちょっと僕に教えて貰おうかのー」
『罪――?』
メイスンの罪の暴き方は極めて特殊だ。
過去を破滅する鏖殺剣ナイトメアは、ボスとしての過去・経験を一時断絶させる事により、攻撃の源となる威厳を失わせ、カリスマを失墜させる。
『……私が積み上げた名声を奪う? 実態の無い物が奪われて、何故、苦しい……!』
咽喉を締められたように聲を絞るボス。
苦しみの原因は間もなく知れよう、ボスは嘗て正義に敗れた時の「傷」を鎧の下に再現され、肉体と精神を蝕まれた。
『莫迦な……無敵の鎧は強い耐性を持つ、のに……!』
「どんな硬い鎧じゃろーと、自分の過去から逃れられんからのー」
愧ッと睨まれてもメイスンは飄然と語尾を伸ばし。
硝子を隔てた紫瞳は、ここに慥かにボスが“左の脇腹”に手を遣るのを見て、直ぐにも追撃に掛かる物九郎に含みある流眄を注ぐ。
物九郎もその瞬間を視ていたか――僅かに頷いた彼は、左腕に刻印された白い虎縞模様を体表に励起させると、間もなく迎撃に出るボスの拳に魔鍵を嚙合せた。
『ッッ生憎、物騒な手段には慣れていてね。私に隙は無いのダヨ……!』
とは言うもの。
反応速度と威力が、会敵劈頭の角逐より「落ちている」と感触として得た彼は、ボスの巨躯を窓際に押し込んで言った。
「おたく、膂力を得る代わり寿命を削ってますわな」
『な、にを……』
その負荷は必ずや動作の遅延を見せると隙を伺っていた物九郎は、此処に野生の勘――狩猟本能に根差した洞察を鋭く、低く冷たいハイ・バリトンを置いた。
「――来い」
言えば須臾に“彼女”は鐵鉛を寄越そう。
展望台の硝子越しに【L95式火力支援】(エル・クーゴー・ファイアサポート)を呼んだ物九郎は、飛行用バーニアで夜景を滑りながら、銃砲火器を展開するエルの筒先を見る。
照準は勿論――。
「左腕を彈いて、抉じ開けた脇腹に全彈――ブチ込めェ!」
刹那、語尾に閃光と破裂音が交じる。
オーダー通りに軌跡を描いた冴彈が硝子を割り、無数の破片がシアトルの夜景を燦々と映し込む中、ボスの左脇腹に次々と衝撃が沈んだ!
『なッンだと……ッ……!!』
忌々しく唇を噛むが、遅い。
シキが全身に銃彈を撃ち込んで調べねば。
ベリルが烈風と吹き荒ぶカリスマオーラを禦がねば。
菘が取り巻きのヤクザ連中を一手に引き受けなければ。
メイスンが鎧の下の肉体と精神に揺さ振りを掛けねば。
そして、物九郎が眞ッ向勝負を持ちかけなければ――。
完全無欠の『神鋼の鎧』は、隙間の場所を暴かれる事なくボスを勝利に導いたろう。
然し全ての攻守が噛み合った瞬間、鎧は隙間――繋ぎ目とも言える左脇腹に鐵鉛火彈を沈められ、己を纏う者に痛烈な蹈鞴を踏ませた。
『クッ……やって、くれる……!!』
ボスが大きく体勢を崩しながらも、吃ッと睨んだ――この時。
殺意の波動に満ちた猟兵の顔貌が、彼を怜悧に冷徹に睨め返していた――。
†
巧みなる連携によって優勢を奪った猟兵は、其を決して渡さない。
名誉と矜持を脅かされたボスは、我が劣勢を拒むように突撃し、凄惨たる拳のラッシュに戰線を押し込まんとするが、ベリルの「薄紅の城塞」を砕く事は――叶わない。
『ッッ、全てを組み敷いた私の“力”が通らない……!?』
渾身の力を振り絞って繰り出す鋼拳が、罅を入れる事も出来ないとボスが瞠目すれば、ベリルは『愛しき残影』に麗顔の半分を隠しつつ、凛然と告げる。
「力で。解決できる。ことも。世界には。多いわ。
ですが。本当に。大事なのは。力を。奮う。意志」
『!! 意志などでは……“力”は奪えないッ!』
力無き者、力及ばぬ者を淘汰してきた男の矜持が全力で否定する。
然し優艶なる麗人は、聲はその儘、慥かな口跡で彼に諭し、
「ただ。力を。振り回せば。良いと。考えるの。ならば。貴方に。私は。砕けません」
『――!!』
不意に。
餘に燦然たる煌きにボスが上を向けば、先に増やした盾がベリルの頭上に展開し、幾重にも層を成して複雑な光を揺らめかせていた。
丹花の唇はそっと語尾を持ち上げて、
「貴方は。砕けようとも。立ち上がれる。かしら」
『――ッ、ッッズァァアア嗚呼ッッ!!』
頭上からの垂直シールドバッシュ――!!
ベリルの魔力が込められた盾は、鎧を強かに叩き、衝撃を躰へ伝えて――ボスの魁偉を竟に床に轉がした!
『私がッ! 靴に踏み荒らされた床にッ! 這い蹲うだとッッ!?』
認めない!
許されない!
直ぐに顛倒を否定して立ち上がったボスは、シアトルに君臨した男の威厳を、カリスマを放って猟兵を攻撃するが、其は既にメイスンによって攻略されている。
「それは僕のホログラムじゃけーのー、気が済むまで好きにしんさい」
繊麗の躯に秘められた魔力は厖大で、彼女は「鏖殺剣ナイトメア」を召喚する傍ら、常に電脳プログラムの実行を繰り返しており、今や相当な数に及ぶホログラムを並べて本体への攻撃を回避していた。
そして其の「ナイトメア」は、敵に行動を封じられる前に過去を断絶し、彼が手に入れたという支配者としての名声を塵同然にした。
『グッ……私の誇りが……何故、効かない……!!』
「眼に見えんもんを扱うのは得意じゃけーのー」
東洋の島国の神秘を馨らせる『アメジストドレス』が搖れる。
失墜したカリスマが影響を及ぼせるのは、最早この程度か――いや、その虚しさと儚さは誰よりボス自身が拒絶する。
『私はシアトルの全てを手に入れた男だッ! そして今後もこの街に君臨し続けるし、惡のコネクションをアメリカ全土に張り巡らせ、オブリビオン世界の頂に立つ!!』
敗色を靴底に踏み躙り、儼然と屹立する。
普く正義を組み敷き、惡を貫かんとする形相は悪魔か鬼神か、
「遂に野望を暴いたか――実に佳い表情だ」
実に佳い巨惡。
邪神がボコりブチのめすに相応しい、と艶麗の咲みを浮べた菘は、超常の域に到達した圧倒的存在感を溢流させながら突貫した。
「ロケーションも素晴らしい! 楽しく殴り合おうではないか!」
『させるかァ! 貴様はわっし等が止める!』
「忙しい!」
『ッどァア!!』
佳聲を一喝! 蛇尾を鞭の如く撓らせ、ヤクザ連中を一気に蹴散らす。
激痛に転輾つ連中を踏み付け、ボスに肉薄した菘は、野望を口にして愈々炎(ほむら)立つ巨惡に渾身の拳を閃かせた。
『故に鋼神も私の踏み台でしか無いのだッッ!!』
「はっはっは! その突き抜けた惡、嫌いではないぞ!!」
紫電、角逐――!
互いに繰り出た渾身の一撃は、凄まじい衝撃で塔を揺らした後――無双の鎧をぐわらんと揺るがし、男の巨躯を大きく仰け反らせた。
『ッ、ッッ……ッ!!!』
逆のくの字になった躰がシアトルの夜景を見て、ダンッと踏み込み、引き戻される。
企業街の帝王の意地が然うさせたか、ボスは間を置かず攻め込む物九郎に、渾身の拳打を浴びせんとした。
『富に、名声に、力に!! 這い蹲うのは君達の方だッ!!』
鋼拳が金瞳の光を断つか――否。
其は竟ぞ叶わぬ。
「一番手ッ取り早い方法でいきますでよ」
極めて靜かに当初の会話を持ち出した物九郎は、振り被る魔鍵を霹靂の如く、怪腕が伸び切る前に肘を突き落とし、体勢が崩れた隙に脇腹を殴打、そして肩口へ先端を刺し込む――神速の多段攻撃にボスを圧倒した。
「肉彈戰に依存すれば、こんなモンでしょっかや」
『グッ、ァア嗚呼!!』
終盤、両者の差異が歴々と顕れる。
眞正面からの白兵戰に専念していた物九郎は、其が「眞っ向気質の猟兵」と思わせる為の演技だったとは、鎧の隙間に撃ち込まれた鐵鉛火彈に知らされたボスである。
そして此度は再た近接戰で圧を掛け――とんだ役者に振り回されては、どれだけ命を燃やしても急速に疲弊していく。
その損耗を凄腕の撃手たるシキが逃す筈が無い。
「一彈一彈が重くなってきた頃だろう」
肩、腕、手首――的中させるのが難しい部位に敢えて鐵鉛を彈いた彼は、でんでん太鼓が左右に腕を揺らすように巨躯を泳がせると、今度こそ躰の中心へと冱彈を撃ち込んで体勢を崩していく。
ボスは蹈鞴を踏みつつ大声で喊び、我が身に滲む敗色を全力で否定した。
『ッッ、ッ……鐵の塊でこの鎧は……撃ち抜けないッ!! 絶対にだッ!!』
「――――」
蓋し答えはもう返らぬ。
硬質な五指で聢と愛銃を包み構えたシキは、無言で睨むと、息を止めて銃爪を引く。
極限まで集中した彼は、4,096m圏内の視認した対象の何処にでも精確な彈丸を置ける――故に、左の脇腹に決定的な死撃を置いて、無双の鎧を破砕した。
『ッッ!! こんな、事が――!!』
完全無欠の鎧の破片が床に零れるのを瞳に追い、戦慄くボス。
シキは此処に冷艶の聲を置いて、
「……壊れれば硝子と變わらない」
と、先に散らばった硝子の破片と共に、鎧の欠片を靴底に敷いた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アルトリウス・セレスタイト
大望を抱くのは生きている間に留めておくべきだろう
敵へは顕理輝光で対処
常時身に纏う故、準備不要
攻撃へは『絶理』『刻真』で異なる時間に自身を起き影響を回避
攻撃分含め必要な魔力は『超克』で“外”より汲み上げ、全行動を『刻真』で無限加速し隙を作らず
絢爛で目標周囲を支配
起点は神鋼の鎧
自戒の原理で神鋼の鎧着用者の力を内向きに変更
着用者を縛り戒め能力発露を封じ、同時にその力で自分自身を砕く拘束具にして処刑台へと「書き換える」
その自慢の力、自分でも存分に味わうが良い
無論支配領域を脱せば効果は消える
起点が鎧である以上、着ている限り抜けられないが
固定観念を捨てて新たな境地へ至る気概を持てるか
見届けてやろう
カイム・クローバー
『そんな事は如何でも良い』とは、随分な言い草じゃねぇか。これからアンタを骸の海に送る相手だぜ?綺麗な背景もあるんだ。記念写真ぐらいしてやろうか?
魔剣を顕現させて接近狙い。【二回攻撃】で振るい、刀身に紫雷の【属性攻撃】。単純な刺激だけじゃ飽きちまうだろ?って事で、周辺に紫雷を落として【範囲攻撃】。単純にならねぇように【フェイント】を交え、【早業】での斬撃。勿論、鎧の事を想定していない訳じゃない。
超至近距離からのUCなら分身体が背後を取る事が容易に出来るんじゃねぇか?隙間を狙い撃つには挟撃が効率的って事を先の戦争で学んでね。アンタの名声とやらは俺達、猟兵じゃなく、アンタの部下にでも効かせるんだな。
司・千尋
連携、アドリブ可
何時裏切るか分からない奴でも使ってくるとなると
ウルカヌスも意外と余裕はないのかもしれないな
常に周囲に気を配り奇襲を警戒
敵の攻撃に備える
少しでも戦闘を有利に進められるように意識する
蛟竜毒蛇の効果範囲に敵が入ったら『神鋼の鎧』を対象に即発動
鎧を霧に変換し防御力を奪う
以後常に効果範囲内に敵が入るように位置取り解除させない
無理なら近くの無機物を敵に投げ霧に変換し目眩まし
関節や鎧の隙間を突くように攻撃
死角や敵の攻撃の隙をついたりフェイント等を駆使
確実に当てられるように工夫する
敵の攻撃は可能なら相殺や武器で受け流す
難しいなら防御してダメージを減らす
ある程度のダメージは覚悟の上で攻撃を優先
穂結・神楽耶
時は金なり。ええ、同感です。
お互いの為、迅速に終わらせることに致しましょうか。
『神鋼の鎧』の弱点は僅かに存在する隙間。
そんなことは向こうも承知でしょう。
なので、そこを狙う為の隙を抉じ開けます。
【神遊銀朱】──
ボスを囲うように複製太刀を射出。
叶うなら四肢を壁や床に縫い留めて拘束します。
そこまで到らずとも、避けるなり払うなりの動きを取れば隙が生まれます。
複製はいくら壊されても痛痒にはなりませんので、
あとはどちらの集中力が先に途切れるかの勝負です。
さて。
何事も暴力で解決するのが最適と申しましたが…
暴力で解決しようとする者には、更なる暴力が襲い掛かるものですよ。
勉強になりました?
――時を少し遡る。
高度492フィートの展望台に跫を揃えた猟兵らは、シアトルの夜景を背に影を濃くする『イヴィル・ボス』の口跡に様々な反応を見せた。
『君達が、先の大戰でクライング・ジェネシスを倒したという……慥か“猟兵”と言ったカネ。いや、そんな事は如何でも良い』
殺す相手の名を覚えても得には為らぬ、と言外に滲ませたか。
高慢に皓歯を覗かせるボスに、カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は硬質の手をひらり翻して、
「随分な言い草じゃねぇか。これからアンタを骸の海に送る相手だぜ?」
麗艶の手は親指と人差し指でフレームを作ると、ボスと彼が背負う美しい夜景を収め、片方の瞳を細めて見せる。
「綺麗な背景もあるんだ。記念写真ぐらいしてやろうか?」
『死の間際の表情を、と言いたいのカネ? ならば君達こそ如何だろう?』
飄逸(ユーモア)に諧謔(ユーモア)を返す――カイムもボスも殺気は鋭い。
小気味佳い会話を愉しんだボスは、今は『神鋼の鎧』を纏う左手首――腕時計の辺りをトントンと叩くと、歪なる嗤笑を深める。
『タイム・イズ・マネー。君達が敗残の将の首を獲らんと躍起になっている様に、私にも予定があってネ。時間が惜しいのダヨ』
最強の鎧を受け取る代りに猟兵の討滅を請けた、それだけの事。
直ぐに済ませて己の勝手にさせて貰う、と言い切るボスに、穂結・神楽耶(舞貴刃・f15297)は儼霜の如き凛冽の聲を返した。
「時は金なり。ええ、同感です。
お互いの為、迅速に終わらせることに致しましょうか」
敵を映して愈々輝く朱瑪瑙の麗瞳。
敵意が示されれば尚の事、ボスはその凛然を愛でよう。
『――ハハ、君の様な美人とは幾らでも愉しめそうだガネ?』
両掌を上に向け、肩を竦めて見せる――其の一筋縄では往かぬ風貌に、司・千尋(ヤドリガミの人形遣い・f01891)は端整の唇を引き結んだ。
(「――何時裏切るか分からない奴でも使ってくるとなると、ウルカヌスも意外と余裕はないのかもしれないな」)
其の読みは至当。
事実、ボスはウルカヌスが逃げる為に時間を稼ぐ訳でも無い。
(「戰争が終結して日も浅ければ、兵は集められても恭順までは得られないか」)
全き己の都合と勝手で動く男でも、シアトルで実権を握る彼の影響力を借りずしては、先の兵力を集められなかったか――何れにせよ、鋼神の新興勢力は決して盤石では無いと言える。
千尋がウルカヌス側の事情を探れば、アルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)はボスが言う「予定」とやらに冷艶のバリトンを置いて、
「大望を抱くのは、生きている間に留めておくべきだろう」
『――フム、其れは如何いう皮肉カネ』
「今に理解る」
美し淡青の光が漂い、長躯を包むロングコートが靜かに搖れる。
彼の言葉にか現象にか、一瞬、ボスが醜悪な笑みを隠すと、その須臾の時を以て猟兵が一斉に動き出した。
「名も知らぬ奴に殺される――巨惡のボスに相応しい最後を呉れてやるよ」
「疾く速く――黄泉路を彷徨う時間(とき)の猶予さえ与える程に」
カイムは『神殺しの魔剣』に黒銀の炎を從えて床を蹴り、その颯然たる風に濡烏の艶髪を靡かせた神楽耶は、己が本体たる『結ノ太刀』を連れて鼻緒を踏み込む。
二人が左右に別れれば、千尋とアルトリウスは間もなく突貫するヤクザ連中を狭霧に包むと同時、夥しい魔彈に迎撃した。
「此処がゴールで無し、今は少しでも損耗を少なく、有利に進められるように」
「全力を注ぐに値しない小器なら、直ぐに毀すべきだろう」
劔圧、刀閃、煙霧、冱弾。
あらゆる衝撃と波動が展望台を揺らし、夜の佳景を見せる硝子が大きく震える。
其に満足を得たボスは、クッと笑みを深めて喊び、
『嘗てこの世の全てを「富」「名声」「力」で解決してきた。其は今も變わらないッ!』
膂力を増した怪腕を一薙ぎ、カリスマオーラを烈風と疾走らせる。
鋭刃の如く飛び交った颯が全てを相殺すると、其処には不適な笑みに顔を歪めた巨惡が堂々、屹立していた――。
†
猟兵の中には、モニュメントバレーで『神鋼の鎧』を攻略した者も多かろう。
あの時は鎧の隙間が何処に在るか予知で判明したのだが、此度は現場で見つけるしかなく――聖地の加護が無いとはいえ、難易度は高い。
「『神鋼の鎧』の弱点は、僅かに存在する隙間。そんなことは向こうも承知でしょう」
白銀の太刀の鋩をボスに向け、【神遊銀朱】(シンユウギンシュ)――複製太刀を矢の如く飛ばす神楽耶。
無敵の鎧を砕く事は叶わずとも、四肢を壁や床に縫い留めて拘束する事は出来ようと、霊気滴る鋭刃を何度も放つが、ボスは之を怪腕で薙ぎ払い、或いは鋼拳に撃ち砕いて遁れる。
『これは君の空蝉カネ? 手折って君の美しい顔が歪むのを見たかったのだが』
「お生憎様ですが。複製はいくら壊されても痛痒にはなりませんので」
毅然と言を返しつつ、挙措を注意深く観察する。
避けるなり払うなりの動作にも、隙間を隠す部位が近ければ、別なる反応を示す筈だと緋瞳が鋭さを増せば、鼻梁を掠める香気――カイムも其を探り出す。
「大事な部分や弱い所は庇ったり隠したりするもんだ」
何なら五体全てに訊いても佳い、と彼は手間を惜しまない。
カイムがボスへ接近すれば、ヤクザ連中が直ぐにも射線に立ち塞(はだ)かるが、彼は紫電を帯びた魔劔を一閃、二閃――連中を激痛に薙ぎ払い、シアトルの夜景に稲光を躍らせる。
「近接一辺倒だと飽きちまうだろ? 時には刺激的に行こうか」
『な、にを――』
ボスの鋼拳を間際で躱し、悪戯な流眄を返す。
刹那、無数の紫電がフロアに疾走り、増員に来るヤクザ達をまとめて灼き切った。
鈍い悲鳴と絶叫が床に沈む間、カイムは小太刀『月烏』に威厳の風を切る千尋の聲を聴いて、
「最強の鎧も無機質なら、俺の【蛟竜毒蛇】が霧に變えられる」
「霧、か」
半径44m圏内に対象を確保すれば、其が無機物(モノ)である限り、如何なる武装も霧に變換する――その影響は『神鋼の鎧』も遁れられぬ。
文字通り、鎧が霧散すれば防禦力は激減しよう。
然し其が難しいとは、隣したアルトリウスも頷いて、
「状態變化を与えるには、鎧の耐性を弱めておく必要がある」
「ああ、効果範囲内に敵を捕捉しつつ、先ずは物理的に鎧の耐性を切り崩していく」
「――合せよう」
己もまた目的は同じだと、厖大なる魔力を溢流させる。
千尋が近くの無機物を霧に變換して進路を晦ませば、アルトリウスは己が魔力を結晶化して撃ち出し、周囲を爆炎と轟音に満たしていく。
『ハハ、彈幕か。これでは君達も何処から攻撃されるか捉えられないだろう?』
「捉える必要も無い」
顕理輝光――断絶の原理『絶理』と時の原理『刻真』を以て“異なる時間”に自身を置いたアルトリウスに攻撃は及ばない。
原理を操るに必要な魔力は、創世の原理『超克』で“外”より汲み上げれば無尽蔵に、また『刻真』は全ての行動を無限に加速し隙を作らず――。
『……君達は実に奇妙に立ち回る。これがクライング・ジェネシスを倒した実力カネ』
ボスは、この世の全てが「富」「名声」「力」の何れかに屈すると思っている。
然しそれらの強大な力を向けられながら、一縷と怯まず攻め来る彼等が理解できず――歪な嗤笑に翳が差す。
其が「恐怖」の萌しだったとは、心の機微に敏い神楽耶が諭そう。
佳人は小袖を翻して方向を示し、
「鎧の隙間を狙う為の“隙”を――抉じ開けます」
どちらの集中力が先に途切れるか、当に精神勝負。
神楽耶は心を強く強く、損耗と衝撃を堪えながら『結ノ太刀』の鋩に凶邪を示し続け、ボスの鋼拳が白銀の刃を砕くより疾く、彼を床に縫い留めた。
『シット!! 脚が……!』
幾ら無敵の鎧に包まれていても、機動の要を禦されては儘ならぬ。
ボスは直ぐに刃の叢を薙ぎ払わんとするが、僅かにも巨躯が屈めば、カイムが視界に飛び込み、紫雷を帯びる魔劔の鋩を一気に迫り出した。
超至近距離からの刺突――!
視覚的危機は不意に鋼の拳を左脇腹に――鎧の繋ぎ目に当たる部分へと向かわせた。
「ああ、其処か。衝かれたら困る所は」
『――ッッ!!』
何故だろう。
己が瞳はめいっぱいカイムを映しているというのに、犀利な聲は後から、ヒヤリとした低音を置いて背筋を凍らせる。
理由は間もなく凄まじい激痛となって知れよう。
『――ゼァァァアア嗚呼ッッッ!!』
其はカイムの分身体、【影に潜む自身】(ドッペル・ゲンガー)。
本人が一気に距離を詰めると同時、敵背に回り込んだ分体は、ボスがすかさず「守り」に入る動作を捉え、其処にもう一振りの魔劔を沈めたのだ!
玲瓏の聲は絶叫を挟んで零れ、
「隙間を狙い撃つには『挟撃が効率的』って事を、先の戰争で学んでね」
「それは俺に言わせろよ……」
意志を持つが故に煩いのが玉に瑕。
『ッッ、ッやってくれる――!!』
嚇怒の腕が両者を捕えんと振り被られるが、二人は直ぐに間合いを離れて空を掴ませるのみ。
足元には未だ神楽耶が放った白銀の刃が挙措を楔打っており、進退窮まった最大の隙に、冷ややかな幽光が肌膚を撫でた。
アルトリウスである。
「――煌めけ」
詠唱は起源――己が意で世界を超える権能【絢爛】が、『神鋼の鎧』を中心に周囲の空間を支配する。
「神鋼の鎧を起点に、自戒の原理で着用者の力を内向きに變更する」
『なっ、ん――ッッ!!』
「その自慢の力、自分でも存分に味わうが良い」
今、我が身を縛り、戒めるは我が力。
己を砕く拘束具にして処刑台へと書き換えられた『神鋼の鎧』は、状態變化に対する耐性を持つ故に全て彼に支配された訳では無いが、着実に確実に着用者を苦しめていく。
『劔も銃も彈く最強の鎧が……私に……ダメージを与える、だと……ッ!!』
莫迦な!
惡罵を奥歯に噛み砕くボスは、身に染む不条理に視界を狭めたか――いや、実際に視界の端から音もなく侵蝕する“霧”が、彼の可視範囲を狭めていたのは間違いない。
「――頃合いだ」
精神的にも物理的にも瓦解を始めた今が仕為め時。
翡翠色の冱瞳を鋭くした千尋は、この瞬間に【蛟竜毒蛇】を発動し、最強を謳う『神鋼の鎧』を霧へと變換する。
『ッッ!? 私の鎧が……消えて……いくッ!!』
鎧の隙間を穿たれ、また鎧そのものの耐性を揺るがされた今、鋼は脚部から腕部と次々に霧散して、実に七割もの部位を失った。
「全部は無理でも……これで最強の防禦は失われた筈」
『……ッッ!! こんな事はッ許されないッ!!』
屈辱――!!
其はシアトルの帝王と君臨した矜持に泥を塗られた瞬間でもあったろう。
餘りの恥辱に戦慄くボスの眞面には、千尋が飄然と立っており、
「――そのスーツも、上等そうで良いけど」
と、慰みの言葉を掛けた。
†
ボスにとって災難だったのは、『神鋼の鎧』の七割を千尋によって“霧”に變えられた一方、残る三割がアルトリウスの【絢爛】の支配から逃れられなかった事である。
『シット……ッッ! 鎧が拘束具となって私を追い詰める……!!』
強靭なる魁偉を苦しげに屈め、術者たるアルトリウスを睨めるボス。
煮え滾る様な視線を受け止めた彼は隠さず答えて、
「支配領域を脱せば効果は消える。起点が鎧である以上、着ている限り抜けられないが」
『……ッ……ッッ!!』
「固定観念を捨てて、新たな境地へ至る気概を持てるか。――見届けてやろう」
『見届けて、やる、だと――ッッ!!』
多くを踏み躙って来た男は、組み敷かれる事を極度に恐れ、激しく拒む。
歯切りして態勢を立て直したボスは、無数の白銀の刃が脚を斬るのも構わず床を蹴り、最も頼れる原始的な力――“暴力”を頼りに鋼拳を繰り出した。
『私は、先ず「力」でのし上がったッ! 暴力の効率美に敵うものは無いッ!』
最強の鎧を失ったとて、其に勝る鉾がある。
ボスが己の生命力を全て筋力と變えて拳打を閃かせると、千尋は周囲に漂わせた霧を活かして距離感を鈍らせつつ、『月烏』を咬み合わせて角逐する。
『ナイフ一本で私を斃そうなど……笑わせるなッ!』
「骸の海を潜った者だろうと、死の中心点を衝いて斃す――お前が知らない“猟兵”とは、そういう存在だ」
『ッ生意気な……!!』
剛拳が重い衝撃に硝子を揺らし、その中を青白く光る刀身が翻る。
ある程度のダメージは覚悟の上で、攻撃を優先に鋩を疾走らせた千尋は、竟にボスの拳に血汐が躍り、痛撃に止まる瞬間を視た。
『ッ、ッッ……私は私の名しか覚えない……頂点に立つ男は、然う在るべきだからだ』
己の名声を広めるには、他者の名が存在してはならぬ。
劣勢に追い遣られながらも、シアトルの王としての矜持――或いは意地に踏み止まったボスは、次撃を継ぐカイムを威厳の風に迎えた。
『私の名声は、カリスマは、未だ失われてはいない……!!』
「アンタの名声とやらは俺達、猟兵じゃなく、アンタの部下にでも聞かせてやるんだな」
「――もう骸の海を潜った、部下達に」
『グッッ!!』
美し銀髪を靡かせた二人のカイムが、魔劔を手に同時に迫る。
言を交さずとも意志を疎通させた両者は、片や接近戰で挙措を制し、片や周辺に紫雷を落として退路を奪う――二重の足止めにボスを翻弄した。
『ズッ……ァアッッ……!!』
鎧は堅牢を失って枷と成り。
上質なスーツは冱撃に刻まれ。
夜景を背負う其の姿には、もう新興企業街の帝王たる威風は無かったろう。
誰しもが逃れられぬ終焉を其処に視た神楽耶は、丹花の唇より丁寧に言葉を紡いで終幕を引き寄せる。
聲は變わらず淸冽として――、
「扨て。何事も暴力で解決するのが最適と申しましたが……暴力で解決しようとする者には、更なる暴力が襲い掛かるものですよ」
此度は訣別を告ぐ【神遊銀朱】――。
放たれる白銀の刃は靜かに霊気を滴らせながら、然しその圧倒的威力――彼が言う処の“暴力”を以て、全てを穿ち貫く。
『ァァァァアアア嗚呼嗚呼ッッ!!!』
不条理で理不尽、それ故に効率極まる美。
鏃はスーツも鎧も、更に彼の骨肉をも貫いて床に繋ぎ、凄まじい絶叫をシアトルの佳景に響かせる。
ボスは激痛に視界を歪ませながら、神楽耶の冷艶なる花顔を映して、
「――勉強になりました?」
ゾクリ、慥かな恐怖に身を震わせた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ラナ・アウリオン
神鋼の鎧。交戦経験はありマスが、先の戦争全体の記録によれば事例ごとに“隙間”は異なるようデス。
今回の鎧の隙間が、見た目どおりかは分かりマセン。注意は怠らず参りマショウ。
ユーベルコード起動。
現象〈砂鉄の吹雪〉定義、発動。
これほどの強敵が相手、さらに鎧もあるとなれば、直接の打撃力は期待できマセンが、
相手の膂力は脅威に値しマス。
よって雷撃を以って牽制。感電は筋力の発揮を妨げるはずデス。
雷は、防御と同時に磁界の形成を兼ねマス。躰にまとわりついた砂鉄に作用すれば、動きを阻害できマスし――
そして、磁力の影響の偏りから、鎧の隙間を特定しマス。
〈光の彗星〉定義――起点は屋外/数は壱/精度重点――発動、デス!
宇冠・由
お母様(f00173)と連携
鎧の隙間いったいどこに
(目や口元は勿論そうでしょうけど、不可視の鎧ではなかなかに見抜けませんわ)
ボスとヤクザ様方にはしばらく動けなくなってもらいましょう
二振りの火炎剣で両手や両足を攻撃。炎の熱、そして【七草繁縷】の力で動きや移動を鈍らせます
私は全身地獄の炎のブレイズキャリバーですから、相手から攻撃を受けても傷は回復し、そしてその炎でまた動きを鈍らせますの
攻守ともに舞い散る私の炎で雁字搦めにしたところでお母様へと交代
「神鋼の鎧」はあらゆる効果を薄めます
つまり、鈍らず動ける部位の中、動きの鈍ったところその付近が隙間
隙間へ火炎剣を投擲、あえて防御させて隙を作らせます
宇冠・龍
由(f01211)と連携
準備をするので、娘から少し遅れてフロアに到着
事前に【談天雕竜】で百匹の蜂を召喚
武器たる猛毒の針を装備して由と共に戦わせます
蜂一匹は私と同じ強さを持ちます。早々に遅れはとりません
娘が動きを封じ、私の霊が毒で弱らせる
相手は強敵ですので、そう簡単にはいかないでしょう
霊を出している間、私は戦闘行為ができませんが、それ以外なら問題ありません
実は展望体の下のフロアは、有名な高級料理店なんです
そこから一時的にお金を拝借。展望フロアに到着後、大金をボスへ向けてばらまきます
由の炎と煌めく財産、動きが止まったところで隙間に蜂を群がらせます
わずかな隙間でも巣を作る蜂なら、鎧内側への侵入も容易
荒谷・つかさ
ええ、互いに譲れないならぶつかり合うのみ。
そういう話の分かる奴、正直嫌いじゃ無いわ。
それに何より……良いじゃない、その筋肉。むしろ気に入ったわよ。
お礼に、私の編み出した剣を見せてあげる。
【荒谷流剣術・真伝『零』】発動
身体能力の強化と共に「大悪魔斬【暁】」を雷の属性に変異させ、電撃を纏わせる
まずはヤクザの群れを雷撃で牽制
ボスにも電撃を放ちつつ、正面、側面、背後……一ヵ所に止まらずに動き回りつつ斬りつけていく
どこかしら不自然にガードを固めた箇所に「鎧の隙間」はあるはず
それを見切ったなら、全身全霊の突きをお見舞いするわ
僅かな隙間であっても、それが存在するならば……私の剣は、その隙間に入り込む!
――展望台に至る道中の事である。
進路を分けた猟兵のうち、非常階段を駆け上がっていたラナ・アウリオン(ホワイトアウト・f23647)は、自身がモニュメントバレーで戰った記憶と、厖大に集められた戰闘記録から、『神鋼の鎧』攻略の糸口を探っていた。
「神鋼の鎧。交戰経験はありマスが、先の戰争全体の記録によれば、事例ごとに“隙間”の位置は異なるようデス」
形状も千姿万態、隙間の場所も事案により異なったと言うラナに対し、荒谷・つかさ(『風剣』と『炎拳』の羅刹巫女・f02032)は風の様に疾走りながら佳聲を添える。
「前回は予知によって部位が判明ったけど、今回は戰って探らないといけないのね……」
聖地の加護を受けぬ為に完全無欠でないにしろ、難易度は寧ろ前回より高い――と愈々戒心を増す。
跫は靜かに、聲は鋭く――。
これら猟兵の会話を耳に拾いつつ、タワーを上る間に内部の詳細まで把握した宇冠・龍(過去に生きる未亡人・f00173)は、展望台に至る直前で皆々と進路を違えた。
「――由は先に。私は少し遅れます」
「お母様」
艶やかな竜尾に続いていた宇冠・由(宙に浮く焔盾・f01211)が、そっと振り返る母の麗顔を見れば、何か考えが在る様で――。
「私の代わりに共に戰う者を。大丈夫、早々に遅れはとりません」
誘導灯が足元を照らすだけの空間に、ぼんやりと幽光が浮かぶ。
軈て光は形を得て――美し繊指を離れた羽搏きが、愛娘たる由の燃ゆる躰を包んだ。
――そして、今。
『な、んだ……この低く震える音は……』
『力には絶対の自信がある俺達だが、凄くイヤな予感がする……』
莫大な富に從って動く駒、ヤクザ連中が思わず突貫の足を止める。
其は本能的に拒絶する虫の羽音だと耳が危険を訴えるが、間もなく飛び掛かる警告色が激痛を刺し、屈強な男達を恐慌に陥れた。
『ギャーッ、やっぱり蜂だ!』
『ッッ、拳やナイフでどうこう出来る相手じゃねぇ!』
然う。
之こそ龍が由に授けた共闘者、【談天雕竜】に喚ばれた死霊蜂。
針に猛毒を付された彼女等は、集合と離散を繰り返してヤクザ連中を刺突し、フロア中を忽ち騒然とさせた。
「一匹でお母様と同じ強さを持つ蜂が百匹――まさに百人力ですわ」
先程は一気に百の益荒男(ジャパニーズ・ニンジャ)を蹴散らした母娘である。
由自身も二振りの『火炎劔』で動揺するヤクザ達を次々に灼き払い、シアトルの夜景に赫々たる炎を躍らせた。
『莫迦なッ、蜂ごとき叩き落とせ!!』
部下の不甲斐無さに焦れたボスが怪腕を振るって蜂を攻撃するが、彼女達は術者が傷を負わぬ限り、消える事は無い。
龍不在の今こそ最も厄介な蜂群は、ボスの鎧にも毒針を刺して其の堅牢を脅かした。
(「それにしても、鎧の隙間はどこに……なかなかに見抜けませんわ」)
火炎劔を振いながら、蜂達と連携してボスを攻めていた由は、ふと、彼女達の動きから妙々たるヒントを得る。
「――ボスの反応を見れば良いのですね、お母様」
答えは龍に代わってつかさが示そう。
「劔呑を前にすれば、弱い部分を護るか、大事な所は隠そうとする筈――!」
緋角の戰巫女は、母より譲り受けた冴刀『大悪魔斬【暁】』を手に霊気を走らせると、【荒谷流剣術・真伝『零』】(インフィニティ)――身体能力を飛躍的に増大し、握る刀に電撃を纏わせる。
床を蹴れば忽ちヤクザ連中が射線に割り込むが、先ずは彼等から。
冴刀一閃、蒼白い稲妻は狂邪の群れを豪快に薙ぎ払った。
『ギャァア嗚呼ッ!!』
『畜生ォォオッ!!』
絶叫と痛罵が縋り付くが、構わない。
疾風と化した躯は前へ、前へ――堂々屹立するボスと刃を噛み合わせ、角逐――!
閃雷帯びる斬撃が、鋼拳と衝突して凄まじい波動を衝き上げた。
『君は交渉せずに力で押し通るカネ。私という壁を!』
「ええ、互いに譲れないなら打衝(ぶつ)かり合うのみ」
正面、側面、背後……!
つかさはボスに肉薄しながら、巧みに位置を變えて無数の刃撃を打ち込む。
あらゆる角度から迫る冱撃に、細かに拳を合せて彈くボスも中々であろう、
『ハハ、全く其の通りだヨ。そうやって私は他者を淘汰し、この地位までのし上がってきた。この世界は富だろうと名声だろうと、“力”あるものが克つ――!!』
「そういう話の分かる奴、正直――嫌いじゃ無いわ!」
一刀一打がフロアを揺らし、夜景を映す窓硝子を波打たせる。
熾烈な相剋を見守っていたラナの肌膚もヒリつくが、彼女は血闘が烈しさを増すほど怜悧に冷靜に、敵の挙措を注意深く観察し続けた。
「今回の鎧の隙間が、見た目どおりかは分かりマセン。注意は怠らず参りマショウ」
龍の蜂霊と由の火炎劔、つかさの電撃刀によって戰場を忙しく動き回ったボスの全身を見て、戰術を組み上げる。
然れば少女の繊躯に秘められた厖大なる魔力は泉の如く溢流し、属性を帯びて自然現象との合成を果した。
「周辺環境走査。世界律へのアクセス権を確立。現象の新定義を形成――実体化」
発動、【最新鋭の創世神話】(ジェネリック・ジェネシス)――!
間もなく吹き荒んだ凍える颶風が「吹雪」と、叩き付ける細かな粒子が「砂鉄」とは、強靭なる鎧を打つ音で理解ったろう。
『ハハハ、こんな鐵の塵では、集まった処で最強の鎧を砕く事は出来ないヨ』
良いカネ、お嬢ちゃん? と不敵な笑みを注いで諭すボス。
然し元々の戰闘力に加え、『神鋼の鎧』を纏った強敵に直接の打撃力が即時効果を及ぼすとは、ラナも期待していない。
「無尽蔵の暴惡によって励起する膂力は脅威に値しマス」
彼女は反撃に繰り出る鋼拳を雷撃を以って牽制しながら、感電を狙って筋力の発揮を妨げた。
『ッッ鎧の中を攻めるだと……? クク、全く君達は面白い戰い方をする』
痛撃を受け取りながら嗤笑を浮べるボスには、まだ余裕がある。
彼は靴底にダメージを踏み付けると、須臾に爪先を彈いて突撃した。
『富ッ! 名声ッ! そして力ッ! 嘗てこの世の全てが私に平伏した。其は今も、未来永劫……變わらナイッ!』
巨岩の如き突貫が猟兵の戰列を蹂躙する。
ズシン、とタワー全体を搖らすと同時、その揺れさえも踏み締めて制したボスだったが、烟る噴煙の先、衝撃を往なして両脚で立つ猟兵を見て――愧ッと奥歯を噛み締めた。
†
圧倒的な防禦力を誇り、強い耐性を以て着用者を護る『神鋼の鎧』。
然し其は皮膚に非ず、必ず何処かに隙間があるのだが、戰場を同じくした猟兵は様々なアプローチで場所を突き止めようとしていた。
『暴力は理不尽で不条理だからこそ、速いレスポンスを返してくれる。この効率美こそ真理と思わないカネ』
「力を否定はしないわ。何より……良いじゃない、その鎧の上からも判明る筋肉」
暴力こそ真理と、鋼拳のラッシュにつかさを縫い留めるボス。
彼女は厚みある筋肉に裏打ちされる戰鎚の如き一打を【暁】に受け止めながら、返す刀に血潮を噴かせ、熾烈な競り合いを繰り広げていた。
「良い筋肉を見せてくれたお礼に、私の編み出した劔を見せてあげる」
『礼、だと……?』
「然う、先刻から左腕の可動域が狭いのが気になってて。其処に届けようと思って」
『――ッ!』
武闘派のつかさは、何合かの角逐によって既に敵の戰闘癖を読み切っていた。
左腕、いや左の腋か脇腹に何かを隠していると察したつかさは、云った瞬間にガードを固める左肘を紫電に楔打つと同時、奥部の隙間に全身全霊の突きを見舞う――!
「この刃は、どれだけ対象が狭く小さくとも、隙間があれば斬り込める――!」
真伝『零』はあらゆる可能性を斬り開く刃也。
極めて小さな――鎧の接合部とも言える繋ぎ目に入り込んだ刀は、ありったけの怪力に隙間を抉じ開け、ボスに痛烈な衝撃を与えた!
『ゼァァアア嗚呼嗚呼ッッッ!!』
この時、ラナがインパクトの瞬間を揃える。
ユーベルコードと属性魔法を其々にコントロールしていたラナは、雷が磁界を形成し、細かな砂鉄が漸う鎧に付着していく過程を具に観察していて、敵の動きを十分に阻害できるまで時を待った。
吹雪によって均等に付着した砂鉄が“脅威”と化けたのは、この時。
「磁力の影響の偏りから、鎧の隙間を特定しマス」
『なッンだと……!!』
其は客観的洞察に優れたラナならではの特定方法。
透徹たる藍の麗瞳が、左肘に隠れた磁力の異変に隙間を発見すると、つかさの雷撃が肘を撃つに合わせて稲妻を疾らせると同時、二発目の【最新鋭の創世神話】を発動した!
「現象〈光の彗星〉定義――起点は屋外/数は壱/精度重点――発動、デス!」
宝石を鏤めるシアトルの夜景より眩い光が、その燦然を帯と引いて射られる。
照準は左の脇腹――鎧を繋ぐ紐部へ沈んだ冱撃は、ボスを飜筋斗打って轉ばせた!
『――クッ、ッッォォォオ嗚乎!!』
龍が合流したのは、これより少し前の事だったか。
我が分身とも言える蜂の群れが由と共にボスを囲繞する――彼の挙措が炎の熱に機動を抑えられ、また猛毒が効いてきたか、挙措が鈍いとは術者ならば瞭然と知れよう。
シアトルの夜景を背に血闘を繰り広げる――その凄惨を視た龍は、直ぐに床を蹴って、
「霊を出している間、戰闘行為は出来ずとも、それ以外なら問題ありません」
『な、にを――ッ!』
由が花びらの如く舞い散らせた赫炎の中に、大量のドル札を――目を奪う大金をボスに向けてばら撒いた!
『なんという量の……これは、ッ!』
「展望台の下のフロアは、有名な高級料理店なんです」
『何ッッ! そこは私の息が掛かった店では……!!』
「一時的に拝借して来ました」
『!? ッッ!?』
炎の熱に揺らめく紙幣に、吃驚と驚愕、そして瞋恚がうねりと押し寄せる。
いや、何より刺激されたのは煌めく財産に対する欲望――ボスの根本に在る「富」への執着心で、鎧の下に隠された心が、僅かに慥かに「時」を止めた。
故にボスは、この瞬間に交された母娘の会話を聞き逃していたろう。
由は龍不在の間、ボスとの戰いで得た気付きを伝え、
「お母様。『神鋼の鎧』はあらゆる効果を薄めます。つまり、鈍らず動ける部位の中、動きの鈍った所――左脇腹付近が隙間です」
此処です、と言うより速く火炎劔が投げ入れられる。
ボスは咄嗟に左肘を内側に、脇腹をガードするが、娘の聲を聴いた母は敵より速く蜂を群がらせ、鎧の隙間に入り込ませた。
「僅かな隙間でも巣を作る蜂なら、鎧内側への侵入も容易」
『なッ……鎧が……ッ、ッッ!!』
毀れる、と喊ぶ前に激痛が全身を駆け抜ける。
つかさの紫電帯びる冱刀が、
ラナの光の彗星が、
由の火炎劔が、
そして龍の蜂霊が、
全ての攻撃が同時に隙間に届き、痛烈な衝撃を与えた事で、鎧は硝子の様に儚く砕け、ボスをその破片の上に轉がした。
†
『莫迦なッッ……鎧が砕けるなど……いや、私が床を這い蹲うなどッ!!』
許されないッ!
認めないッ!
シアトルの帝王として頂点に立った者は、猟兵が靜かに伏せた睫の下、透徹の瞳に見下ろされる屈辱を激しく拒む。
直ぐにも起きて体勢を立て直したボスは、今の瞬間を拒絶する様にカリスマオーラを放ち、帝王の颶風に猟兵を足止める。
次いで瞋恚に滾る脚は筋肉を増強して突貫し、
『私は何も失っていない! 富も、名声も、力も……まだ十分にある!!』
ボスの矜持であり意地である拳が、間近に居た由へと振り下ろされる――!
凄まじい拳圧が由の燃える躰に肉薄するが、可憐の少女は一縷と怯まず、
「私は全身地獄の炎のブレイズキャリバーですから、攻撃を受けても傷は回復しますし、そしてその炎でまた動きを鈍らせますの」
『――ッッ!』
普く人種、總有(あらゆる)人間を殴り倒してきたボスだが、全身を地獄の炎で燃やした少女と戰ったのは今回が初めて。
由は【七草繁縷】(ハコベラ)――ダメージを負う毎に地獄の炎を舞い散らせ、灼熱に触れた者の移動や攻撃動作を阻害してきたとは、生身になった今こそ気付こう。
『な、んだ……この炎はッ! 消えない……!!』
振り払おうとも我が肉体に延焼し続ける――まるで一つの生命を得た様な炎に、ボスの顔貌が酷く歪む。
其が「恐怖」の兆しであったとは、龍が諭そう。
彼女は靜けき麗瞳に赫炎を視ながら、白磁の繊指に蜂を操り、
「鋼神ウルカヌスが、あれだけの兵力を短期間で集められたのは、貴方の影響力を借りたのだと察せられます。そして貴方が、彼を踏み台にのし上がろうとしている事も」
『やめろ……ッ、その音を、止めろ……ッッ!!』
「先の戰いに直接関係が無いとはいえ、私達は貴方を此処で止めなくてはなりません」
『やめてくれ……ッ、ぁぁぁああ嗚呼嗚呼ッッ!!』
百の蜂群が毒針を一斉に刺し、今度は耐性の無い身で受け取る。
然れば猛毒はそれだけで激痛となって、ボスの矜持と意地を混迷に落とした。
巨躯を小さく縮こませて悶える――惨めな姿につかさは嘆息を添えて、
「暴力は一たび怯めば脆く萎む……とても危ういものよ」
己も力を頼みにする戰巫女なれば、その恐ろしさも覚悟して使っているのだが――この男は真理を見間違えたか。麗瞳を縁取る長い睫が伏せられる。
「いずれにせよ、お前は力に真理を視る事は無さそうね」
『ぐッッ……生意気なッ!!』
生命力の限りを振り絞り、嚇怒の拳を振り被るが、つかさは目尻の間際に遣り過ごすや懐を侵し、【暁】を一閃――真一文字に胴を薙ぐ!
「もう誰も組み敷けない」
『ゲェハァッッ!!』
慟ッと巨躯を轉がされたボスは、冷たい床の感触を否定するも、躰は動かず。
蛇の様に踠打った彼は、痛撃に歪む昏い視界に、ラナの蒼白く浮き立つ花顔を視たのが最後だったろう。
可憐なる桜唇は然し残酷を告げて、
「終わりにしマショウ。私達は此処がゴールではありマセン」
『ッ、ッッ……!!』
「私達は、この上に居る本当に倒すべき敵に、この場での勝利を携えて行かなくてはなりマセン」
最後は精度重視で暴走を抑える必要も無い。
華奢ながら対オブリビオン用決戰兵器として魔力を滔々と漲らせたラナは、その全てを〈光の彗星〉と變えて射出した――!
『――ォォオオオヲヲ嗚乎嗚乎ッッッ!!!』
これぞ終焉の刻。
兇眼を剥いたボスの顔貌が白み、光の波濤に包まれる。
シアトルの帝王は圧倒的光熱に影を灼き、その存在を骸の海へと沈ませていった――。
大成功
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第3章 ボス戦
『鋼神ウルカヌス』
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POW : 超鋼神装
無敵の【金色に輝く『神の鎧』】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する。
SPD : 鋼と炎の神
自身の身体部位ひとつを【自在に液体化も可能な超高熱の金属】に変異させ、その特性を活かした様々な行動が可能となる。
WIZ : 原初の神炎
自身からレベルm半径内の無機物を【使用者以外の全てを焼き尽くす原初の炎】に変換し、操作する。解除すると無機物は元に戻る。
イラスト:あなQ
👑11
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠山田・二十五郎」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
展望台の真上、夜風に曝された円盤部に立っていた鋼神ウルカヌスは、足元から伝わる衝撃と振動で猟兵の勝利を知る。
『――遂に孤将と成ったか』
無敵軍団『神鋼兵団』を組織する為の兵員は駆逐され。
其を集める為に影響力を借りたシアトルの帝王も散った。
我が野望の大成は、斯くして遥かに遠ざかった――。
『…………』
幽闃の夜を擦り抜ける風の冷たさに、暫し唇を引き結んだウルカヌスは、軈てタワーを駆け上がってくる猟兵の気配に気付き、振り返る。
『――これが勝者の覇気か』
保守用階段を昇り来る者。
展望台の割れたガラスから空を飛んで来る者。
肉体ひとつで這い上って来る者。
その誰もが凛然の瞳を炯々と、殺気を帯びて近付いてくる。
完全勝利の為に敗残兵を追伐するで無く、後憂を断つべく動いているとは、真っ直ぐに射られる瞳の色で知れよう。
ウルカヌスは猟兵の純然たる眼差しを受け止めると、然し儼然と口を開いて、
『……敗将の首に価値があるとは思えんが、然し易々と差し出す首でも無い』
原初の鋼と炎の神たる矜持の故に。
ジェネシス・エイトの一柱たる誇りの故に。
既に大勢は決したが、一撃も浴びせる事無く膝を付き、首を差し出す事は決して叶わぬと胸を張り、雄渾なる魁偉をシアトルの夜景に聳立させる。
然れば猟兵達は、辿り着いた足をそのまま蹴り出し、一斉に突貫する――!
巨壁と立ち塞がったウルカヌスは、カッと眼を見開いて大喝一声、
『新世代の者共よ! 原初の神たる鋼神の力をその身に刻めェッ!!』
争覇、角逐、相剋――ッ!!
今ここに、惨憺を極める血闘の幕が切って落とされた。
白斑・物九郎
●POW
誇れ、鋼神
おたくの首は安かねえ
なんせ『ワイルドハント』が直々に狩りに来たんですからな
●対先制
・敵攻勢を【野生の勘】で先読みざま回避専心
・敵の至近をすり抜ける都度、空間そのものに描画するフォースオーラ「モザイク状の空間」を敵の鎧へ塗布(早業+投擲+アート)
・超鋼神装への対抗手段として、無敵認識への疑念を煽って破るではなく、モザイク模様で侵すことにより「金色に輝く」という「神の鎧の立脚条件」の方を崩し戦力削減を狙う
●反撃
・【狩猟の魔眼(状態異常力重視)】発動
・回避に専心する間に見出した鎧隙間/開口部目掛け、魔鍵の切っ先を挿し込み【精神攻撃】、想像力を毀損させ超鋼神装の更なる減衰・不全を狙う
メイスン・ドットハック
【WIZ】
とても敗戦直前と思えん覇気じゃのー
じゃけど僕等には油断も慢心もないけー、このまま押し切らせて貰うけーのー
電脳魔術による防火壁を炎の侵攻上に割り込ませて敢えて捉えさせて、なるべく足止めを狙う
さらに壁内部に【罠使い・地形の利用】を駆使した爆裂型消化液トラップを仕掛けて炎対策
自身はホログラムアバターを展開して回避に専念
先制後はUC「紫炎よ、その根源を消し滅ぼせ」を発動し、鎧の隙間に滑り込ませるよう、鎧に纏わりつきながらもウルカヌスの身体に取り憑く
その後は、まずは戦いの意志・闘志を焼いて行動を鈍らせ、魂を灼き滅ぼして魂を侵食して内部から殺していく
アドリブ絡みOK
アルトリウス・セレスタイト
退場の時間は過ぎているぞ
敵へは顕理輝光で対処
常時身に纏う故、準備不要
先制含む攻撃へは『絶理』『刻真』で異なる時間に自身を起き影響を回避
攻撃分含め必要な魔力は『超克』で“外”より汲み上げ、全行動を『刻真』で無限加速し隙を作らず
絢爛で戦域全てを支配
起点は自身の眼前の空気
規模故に必要となる魔力は膨大だが汲み上げれば問題ない
『刻真』での加速により時間も一瞬で終わる
否定の原理で戦域内のオブリビオンの行う全てを否定
何を試みても何も起こさせず、炎も鎧も肉体変化も消え失せる
鎧が耐えてくるなら消えるまで魔力を注ぐのみ
神を名乗るものにはいつも言うのだが
俺は不信心でな
※アドリブ歓迎
亜儀流野・珠
逃げず動じず闘志は消えず。正に鋼と炎の心だな!
仲間だったなら心強かっただろうがな。
まあお互いの立場にこの状況…やることも結末も一つだ。
始めようじゃないか、戦士よ!
全てを呑むような炎!流石の火力だなウルカヌス!
貼った物を壁に変化させる「金璧符」を床に貼り炎の勢いを殺そう。
炎の材料にされるかもしれん。壁は複数張っておこう!
勢いを殺せたなら後は飛び出し、炎の中を突っ切る!
出来る限り炎は避けていくが、【火炎耐性】と根性には自信が有る!多少は焼かれても構わん!
ウルカヌスの許に辿り着いたなら奥義「纏い火」にて狐火を纏った「B.Kハンマー」で思い切り殴り掛かる!
敢えて炎と鋼で挑もう。そして圧し切って見せる!
シキ・ジルモント
◆SPD
この程度で怯む訳も無いか
今度こそこの世界から退場してもらう
真の姿を解放して挑む
(月光に似た淡い光を纏う。犬歯が牙のように尖り、夜の狼のように瞳が輝く)
金属化できる部位は一度にひとつだけのようだ
それを確実に回避し、反撃する
金属化以外の攻撃もできる限り回避するが多少の被弾は『覚悟』の上、金属化の発動と攻撃の軌道に集中して『見切り』、回避を試みる
回避行動を最小限にとどめる事で、金属化と敵の攻撃後の隙に即座に反応し反撃したい
金属化を回避したら別の部位を変化させる前にユーベルコードを発動
交戦中にできた傷へ攻撃を集中させる(『スナイパー』)
一度で駄目なら何度でも
諦めの悪さならこちらも負けてはいない
カイム・クローバー
会いたかったぜ、カミサマ。首の値打ちは分かんねぇが、アンタを逃すと後々面倒な事になるんでね。それに――見ろよ、この風景。雌雄を決するには最高のスポットだ
銃を使用し、【二回攻撃】【クイックドロウ】にて部位を狙う。鎧に覆われていない部位には攻撃が通るんだろ?顔面、剥き出しの手。狙える箇所が小さいのは問題だが弱体化を狙う為に【挑発】する切っ掛けとしちゃ悪くねぇ。
自慢の鎧が勿体ねぇな。ダンディな素顔も隠して、見せねぇ方が効果出るんじゃねぇか?
【残像】と【見切り】で駆けつつ、攻撃を躱していく。
鎧の弱体後は銃じゃなく、魔剣にてUC。
猟兵による神殺し。俺達もヒーローズアースの歴史に足跡の一つでも刻んでみるか
御形・菘
謹製の鎧とは幾度もバトり、漸く本人と対面できて嬉しいぞ
正義だの何だの語る気は無い!
妾がただ望むは、強き信念持つ剛神との素晴らしきバトルよ!
戦法は曲げん、むしろこここそ見せつけるべき瞬間!
左腕へ邪神オーラを集中させ全力でガード
横方向の攻撃には、勢いに任せ自分から吹き飛ぼう
縦であれば、叩き潰されんように全力で踏ん張る!
右手で眼前の空間をコンコンコンっと
はーっはっはっは! 原初の鋼と炎の神よ、妾の統べる世界へようこそ!
お主の権能で花は咲くか? 感動は生まれるのか?
さあ、見る者すべての心に永遠に刻みこもうではないか
己の力に疑念など感じてくれるなよ
無敵のまま、攻撃力を限界まで高めた妾の拳にブチ砕かれよ!
先の大戰では、多くの同志が血に塗れ土に膝付き、骸の海に還っていった。
彼等を征野に差向けた者が一縷の疼みも蒙らず、首一つ差し出して戰を畢らせたなら、彼等の血は、汙(よご)れは如何にして報われよう。
『将も又た戰塵に塗れ血を流し、戰士達への弔慰いと為る――其が戰を始めた者の責』
蓋し鋼神ウルカヌスは易く創痍を受け容れる訳では無い。
金髭を蓄えた唇は激語して、
『我等を敗北に陥れし者共の肉を斬り骨を断ち、その血を捧げて報いる可し!』
活現、【超鋼神装】――!
身に纏う鎧を暁の如く輝かせた巨邪は、真紅のマントを戰旗の如く翻し、一帯を野火の難に覆い尽した。
嘗て85万cdの光にシアトルの夜を輝かせた「スカイビーム」を思い起こす――光焔の叢に立った猟兵は、其々の顔貌を明々と闇に浮き立たせる。
透き通ったアメジストに生成されるメイスン・ドットハック(ウィザード級ハッカー(引き籠り)・f03092)の繊躯は特に眩かろう。
蓋し美唇を滑る広島弁は飄然として、
「とても敗戰直前と思えん覇気じゃのー」
「逃げず、動じず、闘志は消えず。正に鋼と炎の心だな!」
その隣、亜儀流野・珠(狐の恩返し・f01686)は炎叢に輝きを増す冱銀の狐尾をふわり揺らしつつ、花唇より皓歯を覗かせる。
「己が血ィ流す代わり、此方も血ィ流せと。随分な話じゃニャーですか」
其は将の理屈だと、拳をゴキリと鳴らす白斑・物九郎(デッドリーナイン・f04631)。
駒を動かすで無し、自ら狩りに来た王は、左腕を取り巻く白い虎縞模様――刻印を漸う肌膚に広げていく。
猟兵が殺気を研ぎ澄ませていくとは、シキ・ジルモント(人狼のガンナー・f09107)とアルトリウス・セレスタイト(忘却者・f01410)の聲色にも示されよう。
二人は炯眼を巨邪に繋いだ儘、冷儼と言を交して、
「追い詰めた程度で怯む訳も無いか」
「退場の時間は疾うに過ぎているのだが」
「……今度こそこの世界から退場してもらう」
「往く先が判明らぬなら、示してやらねばなるまい」
と、揺らめく赫炎に冷徹の相貌を白ませる。
肌膚を刺す焦熱に唇を引き結ぶ者が在れば、夭々と口角を持ち上げる者も居よう。
カイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は鋼神より迸る鏖殺の気を塊麗の微笑に受け止め、
「会いたかったぜ、カミサマ。塔を上り切った頂で面を合せたのがアンタなら、更にこの風景……見ろよ、雌雄を決するには最高のスポットだ」
両手を広げ、四方を見渡す。
シアトルの美しい夜景に炎を蹴立てる円盤状の展望台は、正にUFOの如く浮き立って、血闘の場を燦然と輝かせていた。
500フィート超の高々度に加え、炎叢が一面を覆い尽す惨憺が絶好の軍庭とは、生配信用ドローン『天地通眼』を飛ばす御形・菘(邪神様のお通りだ・f12350)も認めよう。
菘は「天地」に最高の画角を探らせながら、鋼神を指差し、
「謹製の鎧とは幾度もバトったものだが、漸く本人と対面できて嬉しいぞ」
と、好戰的な金眼を鋼神に射た。
『――塔頂に至りし勇者達の覇気や佳し』
居並ぶ精悍に炯眼を射られたウルカヌスは、赫々と燃える炎叢に雄姿を際立たせるや、左の怪腕を超高熱の金属と變えて振り被る。
『勇者達よ、私が此処に到る迄に視た地獄を味わうが良いッ!』
燃犀灼然――!
烈々と溶けて伸びる腕は自在に、鞭の如く撓って炎叢を薙ぎ払う。
「やはり先制するか」
「大物は熟く急勝(せっかち)だぜ」
蓋しシキとカイムは幾許も怜悧で冷靜。
艶かなハイ・バリトンを揃えた二人は左右に別れ、片や『ハンドガン・シロガネ』を、片や『双魔銃 オルトロス』を、其々の愛銃を手に策撃を逃れる。
カイムが牽制に二挺の拳銃を哮らせる中、シキは月光に似た淡い光を纏い、真の姿を解放――犬歯を牙の如く尖らせ、夜を疾る狼の如く、瞳に炯光を帯びて炎の叢を駆けた。
『炎に灼かれつつ利用するか――中々に賢しい』
黄金の策撃が炎を花片と散らす中、「原理」を扱う異能者たるアルトリウスは顕理輝光――断絶の原理『絶理』と時の原理『刻真』を興起し、我が身を“異なる時間”に置いて回避する。
「己を世の理から切り離す。然れば影響は及ばない」
灼熱の鞭がアルトリウスを抜けて疾る――その奇妙に眉を蹴立てたウルカヌスは、更に左腕の膂力を増し、より延伸して範囲を広げんとした。
『鋼と炎の神を前に遁れられる者は居ぬ!』
「ああ、妾は逃げぬ! 寧ろ此処こそ見せつけるべき瞬間よ!」
『ッ!』
自在な腕でも、軌道上に障害があれば可動域は狭められると――否、菘はその様な打算より、「強き信念を持つ鋼神との素晴らしきバトル」を望んで前に出よう。
異形の左腕『五行玻璃殿』に邪神オーラを集中させ、全力でガードした彼女は、次いで容赦無く襲い掛かる鞭撃を悉く受け止める。
『其の心志に怯弱無し。双方、唯だ勇むのみ!』
その猛然を電脳AI搭載メガネ『MIYAJIMA』に映したメイスンは、電脳魔術を展開して防火壁を出力し、焦熱の風が肌膚に触れるや「爆裂型消化液トラップ」を発動させる。
「僕等には油断も慢心もないけーのー、相殺させて貰おうかのー」
『――笑止ッ!!』
鋼神は防火壁に囲繞され、消化液に熱が奪われる前に膂力を振り絞って破壊――!
トラップの爆風に更に衝撃が爆ぜ、シアトルの夜景が一瞬、白く浮き立った。
その堂々たる燦然を見た珠は、彼が仲間だったなら頗る心強かったろうと思うと同時、彼と鉾を交える今の瞬間こそ奮い立つ。
「まあ、お互いの立場にこの状況では、やることも結末も一つだ。始めようじゃないか、戰士よ!」
貼ったものを壁に變換する『金璧符』を床に向かって複数投げ、炎の勢いを殺す。
其も無機物なれば【原初の神炎】の火種となろうが、珠は鋼神へと至る道が消えぬ裡に床を蹴り、炎叢を吹き抜ける颯と成る。
『敗将の首ぞ、大戰が終われば価値も無し。それでも獲りに来るか』
金色に輝く超鋼神の鎧を纏い、邀撃に構えるウルカヌス。
その邪眼が珠へと繋がれる間、対角を疾った物九郎の左拳が側面を強襲する――!
「誇れ、鋼神。おたくの首は安かねえ」
『ムゥ……ッ』
咄嗟に肩部でガードし、怪腕に振り払わんとするが、ぶわり溢れるモザイク状の空間が両者を隔てる。
虚空を切るガントレットにモザイクを残した彼は、宙を翻って炎叢に降り立ち、
「なんせ『ワイルドハント』が直々に狩りに来たんですからな」
と、着地の風に焔を揺らした。
†
塔頂に至りし猟兵の顔貌を見た当初、鋼神はその勇壮に快哉を覚えた。
だからこそ、敗将の恥を晒して尚も彼は儼然と立ち塞がったのだろう。
黄金の巨魁は炎を敷いて赫々と耀き、
『勇者達よ、数多の軍庭で「神鋼の鎧」を破って来た力……今こそ我が眼に見せよ!』
と、彼等の燃える闘志に油を注ぐ。
鋼神が炎に映えるなら、「邪神」たる菘は眼前の空間をコンコンコンっと右手で敲き、【落花狼藉・散華世界】(イキナリクライマックスバトル)――殺伐たる戰場を花々が咲き乱れるエモい空間に変え、自身のテンションを爆アゲした。
「はーっはっはっは! 原初の鋼と炎の神よ、妾の統べる世界へようこそ!」
『ッ、これは』
「お主の権能で花は咲くか? 感動は生まれるのか? さあ、見る者すべての心に永遠に刻み込もうではないか!」
百花斉放、落英繽紛!
嘗ての「システム・フラワーズ」を想わせる佳景に、鋼神と邪神の拳が衝突かり、その波動に花が狂い踊る。
両者は凄まじい拳打を挟んで角逐し、
「己の力に疑念など感じてくれるなよ。無敵のまま、力の臨界を超えた妾の拳にブチ砕かれよ!」
『言いおるッ、堂々穿ち貫いて呉れよう!!』
拳閃――金剛の拳は菘の覚悟に相応しい衝撃を返すと同時、その余波に揺らぐ花を炎と變えて躍らせた。
時にカイムは遠距離から鎧に覆われていない部位――顔面や剥き出しの手を狙い、痛撃に牽制せんと銃彈を撃ち込む。
端整の唇は小気味佳く持ち上がって挑発し、
「自慢の鎧が勿体ねぇな。ダンディな素顔も隠して、見せねぇ方が効果出るんじゃねぇか?」
『その距離から精確に鐵鉛を彈くか――然し向かって来るなら易いッ!』
鋭い軌跡を描いて迫る彈丸を愧ッと睨めたウルカヌスは、左拳を液体化して盾と遮り、超高熱に鐵鉛を融かした。
熔融した怪腕はそのまま延伸すると、大きく撓って戰場一帯を薙ぎ払い、
『新世代の者達よ、刮目して視よッ! 神鋼の鎧を生み出した者の力を!!』
強襲、侵略、蹂躙――!
その姿こそ、正に神々の時代に不死の怪物から「鉱物」と「生命の礎」を取り出した神――原初の鋼と炎の神たる威容。
蓋し猟兵は神を畏れず、神殺しを恐れず。
「想像から創造しとるんじゃけーのー、能力に疑念を、意志が弱れば揺らぐかのー」
鋼神の“意志”に攻略を見出したメイスンは、此処に【紫炎よ、その根源を消し滅ぼせ】(ソウル・ドミネーター)を発動する。
彼女の電脳魔術によって紡がれた64個の炎は、魂・幽体といった非物質を灼くだけに非ず、意志や意識などの「魂が発する思念」をも灼滅する。
「これまで攻略した鎧の隙間は様々じゃったがのー、オリジナルに隙間はあるんかのー」
『私の隙を探ろうと言うのか』
鎧の隙間に滑り込まんと、鎧に纏わりつく紫炎を邪眼に射るウルカヌス。
我が身に取り憑く炎を除くべく、神炎を烈々と滾らせて飲み込めば、刹那、怒涛の炎を突っ切った珠が『B.Kハンマー』を手に夜空に躍動し、奥義【纏い火】を鎚頭に迸らせて迫った!
「全てを呑む炎! 流石の火力だ、ウルカヌス! 俺の炎も受けてみろッ!」
『この炎は……ッ』
狐火纏う鎚――炎と鋼を司る神に敢えて其を打衝ける覚悟に瞳を瞠ったウルカヌスは、僅かに微咲(笑み)を湛えて剛拳を突き返す!
『其の心意気や見事!!』
「ッッ、ッ!!」
互いに歯を食い縛って繰り出した一撃は、熾烈な波動を衝き上げた後、珠の小さな躰を神炎に包んで投げ飛ばす。
彼女ほどの強靭と炎に対する耐性が無ければ、一瞬で灰燼と化していたろう。
珠は宙で鎚を一振りして炎を掃うと、美し緋瞳に鋼神を射た儘、物九郎と代わる。
真上から音を殺して墜下した物九郎は、重力を乗算して楔の如く、モザイク模様を連れ立って左拳を打ち込む――!
『ッッ、無駄だ……ッ、我が超鋼神の鎧は如何なる攻撃にも屈さぬ……!!』
「の割にゃ、神の鎧の証たる金色の輝きが鈍ってまさァな」
『何ッ!』
拳圧を靴底に踏み抜いたウルカヌスが、つと我が両腿に塗込められたモザイクを見る。
鋼神の無敵に対する認識を、疑念を煽って破るでなく、モザイク模様で侵す事で「金色に輝く」という「神の鎧の立脚条件」を崩した物九郎は、ウルカヌスが息を呑む瞬間を聢と捉える。
其が「屈辱」という感情であったとは、アルトリウスが示そう。
彼は【絢爛】――己が眼前の空気を起点に半径65m圏内の無機物を支配し、否定の原理『無現』を以て、ウルカヌスの鎧が及ぼす全てを“否定”した。
「鎧が発する金色の輝きを消す。それから鎧自体を消す」
堅牢を誇り耐性も備う鎧を消すには、厖大な魔力と時間が必要となるが、問題ない。
アルトリウスは創世の原理『超克』を以て“外”より魔力を汲み上げつつ、時の原理『刻真』を以て行動を加速し、及ぼす影響と現象を可視化する。
『我が鎧が……耀きを失って侵蝕されている、だと……!!』
其は俄かには信じられぬ光景であったろう。
神々しい黄金の輝きが次第に翳り、光を失った部分から鋼が零れ落ちていく――鉱物の死にも似た寂寥の景は、鋼神に慥かな疑念を抱かせた。
そして、シキはその隙を決して逃さない。
闇夜を駆る狼の如く炯眼を光らせた彼は、ウルカヌスが不意に手を遣る部位に先んじて照準を絞り、
「光を失ったら隙間が明らかになる“部分”がある――然うだろう」
『ッッ!!』
硬質の指は須臾に閃光を彈き、【フルバースト・ショット】――彈倉内の彈を全て撃ち切る高速連射を以て、一気にゴルゲット(喉当て)の隅に鐵彈を沈めた――!
『くっ、ぉぉおおお雄雄――!!』
的中を得た銃彈が次々と隙間を押し広げ、罅を疾走らせる。
耐え切れず割れた喉部の装甲が落ちれば、青銅色の肌膚に覆われた首が晒され――正に大将の首が猟兵の目の前に暴かれた。
『ムゥッ、超鋼神装が、破れる……などッッ!!』
今こそ、先の大戰を真に終わらせる“首”を獲る可し――。
震える手で咽喉を抑える鋼神を前に、猟兵が一斉に視線を揃えた。
†
無敵の鎧が亀裂を広げる――。
この瞬間こそ勝敗が決したと言って良い。
双魔銃から『神殺しの魔劔』に持ち換えたカイムも形勢を読み切ったか、残像を焼かせて炎の叢を駆け抜けた彼は、ウルカヌスが両腕を交差してガードする上から、超高速且つ大威力の一撃を閃かせる。
「猟兵による神殺し。俺達もヒーローズアースの歴史に足跡の一つでも刻んでみるか」
『ッッ冒瀆を……!!』
其は内に秘める邪神の力を乗せた、神をも殺す斬撃。
人の身には過ぎたる力。
名を【終末の死神】(エンド・オブ・ジョーカー)。
「そら、黄昏が新しい歴史を連れて来る」
『くッッ、おッ……!!』
鋼神はタナトス(死神)の嘲笑を聴いたろうか――ガントレットを砕いた劔が鋭く深く肉を刻む音に、苦渋の聲が絞られる。
『超鋼神装が破られたとはいえ、まだ鋼と炎の力がある……ッ!!』
魔劔が沈む左腕を液体化して重傷を回避したウルカヌスは、超高熱を迸らせてカイムを振り払う。
怪腕は其の儘、長く伸びて周囲を激しく鞭打ち、猟兵の侵略と肉薄を拒絶する。
幾許か距離を置いたシキにも鞭撃が向かうが、常に沈着と観察を続けた彼は、複雑な軌道を見切って回避し、月光に似た幽光を帯と引いて疾る、走る。
僅かに開いた唇は鋭い犬歯を覗かせて、
「金属化できる部位は一度にひとつ。攻撃後か、變化が訪れた時が反撃の兆しだ」
『鐵鉛を彈くか……悉く超高熱に飲み込んでくれようッ!』
「一度で駄目なら何度でも――諦めの悪さなら此方も負けはしない」
素早く彈倉を装填し、凡百(あらゆる)角度から【フルバースト・ショット】を撃ち込むシキ。
彼が猛炎の征野を動き回って鋼神を翻弄すれば、菘は常に敵前に立ち塞(はだ)かって堂々激突――仲間の連係攻撃を直前まで隠す。
『最後に立っていた者が戰の正義なれば、貴様等より先に朽ちは為ぬッ!』
「正義だの何だの語る気は無い! 妾の拳が先にお主をボコり倒せばそれ迄よ!」
超高熱の左腕が水平に薙げば、邪蛇の躯は衝撃の方向に飛んで往なし。
巨躯の高みから右拳が鎚と降れば、叩き潰されぬよう全力で踏ん張る!!
菘は全身に創痍を受け、両腕を鮮血に染めながらも、鋼神をその場に足止めた。
『ッ進退叶わぬか……ッ!』
戰局を詳細に分析していたメイスンは、何十体と揃えたホログラムアバター全員に違う動きをさせながら、自身は電脳の炎を操作し、鋼神の意志を灼きに掛かる。
「このまま押し切らせて貰うけーのー」
『く、っ――!』
「魂を侵食して、内部から殺していく……これは遁れられんじゃろーのー」
優勢が覆らぬ裡、劣勢を突き付けた儘。
紫炎はウルカヌスの魁偉に取り憑き、執拗に鎧の罅に入り込んで、当に鋼神の根源たる闘魂を灼き滅ぼしていく。
『ッッ、ッ……我が鎧が破られようとも、我が魂は潰えぬ……ッ!』
巨躯の内部より更に深奥部、根幹を成す魂を灼かれた鋼神は、蹈鞴を踏んで激痛に耐えるが、心は慥かに敗北へと傾き始めている。
衰微が自覚出来ぬなら、珠が教えよう。
可憐なる妖狐は煌めく銀髪を結わえた赤いリボンを翻し、炎叢を駆け抜け一気踊躍ッ、振り被る鎚に狐火を帯と引きながら、大きく弧を描いて振り落した!
「多少は焼かれても構わん! 俺の炎と鋼で圧し切って見せる!」
『ぉぉぉおお雄雄ッッ!!』
再三の角逐――!!
その鎚撃は竟に原初の炎と鋼を淘汰し、聢と振り抜いて魁偉を炎叢に轉がした。
宙で其を見下ろした珠は大きな聲を張り、
「俺の炎が闘志を灼き、俺の槌が野望を叩き潰す!」
『ぐゥ……見事だ……!』
先と同じ言を絞るが、先と状況が變わったとは、本人こそ痛烈に感じよう。
眞正面から打撞(ぶつか)って打ち負けた事実は、ウルカヌスに慥かな敗色を知らしめ、その闘志と野望が砕かれようとしている――終幕を予感させる。
鋼神は立ち上がりながら、血の滲む唇に言ちて、
「遙か神々の時代から多くの者を見て来たが、神殺しを畏れぬ其の気概……其の存在が、いずれ己を引き裂く諸刃の劔と成るだろう……」
神の警告か暗示か。
然し人の肉体と精神を纏い“駆動”するアルトリウスには、先達の謦咳に接する程度の有難味も無い。
彼は變わらず冷然と淡青を漂わせ、
「神を名乗るものにはいつも言うのだが。俺は不信心でな」
と、己が「原理」の支配に置いた無機物を――神の鎧の権能を奪い、その堅牢と強靭、そして變異性に干渉して行動を禦し続ける。
『不信心……なればこそ、我等ジェネシス・エイトを悉く撃破し、クライング・ジェネシスも淘汰出来たのか……』
口周りの血を拭い、言の途中で噤み、拳を握り込めるウルカヌス。
血濡れた拳はその儘、炎叢の中から銅(あかがね)色の肌膚を輝かせて疾る物九郎へと繰り出て、両者を中心に突き上がる波動が焔を波立たせた。
『貴様も神殺しを畏れぬ者か……ッ!』
「悪魔の力を頤使(つか)う者が神を畏れは、まぁしませんわな」
衝撃を挟んで睨め合う二人は、然して拳を衝き合せた訳では無い。
物九郎は【狩猟の魔眼】(ザミエルシステム)――エルの電脳魔術を遠隔受領し、超高度な情報分析と予測を意識下にフィードバックする事で、ウルカヌスの鋼拳を回避すると同時、魔鍵の切っ先を咽喉に挿し込んだのだ。
冱撃を目尻に遣り過した金瞳は煌々。
薄く結ばれた唇は冷艶の聲を滑らせて、
「俺めのザミエルが、“七発目”を此処に置けと言うもんですからよ」
『ズッ、ァァア嗚呼……ッッ!!』
悪魔の恣意に從った死の一撃は、深く鋭利く沈み――激しく血汐を繁噴かせると共に、遂に鋼神を打ち破った――!
大成功
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ベリル・モルガナイト
真の姿を開放
貴方の。鎧は。身を。守る。盾で。あり。そして。敵を。打ち倒す。矛でも。ある
ならば。私も。また。盾として。貴方へ。挑みましょう
私の。背には。守るべき。世界が。あります。民が。います
貴方が。守る。ものは。なんでしょうか
己だけ。というのなら。貴方に。私は。砕けない
神の鎧。ただ。己を。守る。ことしか。叶わない。というのなら。とても。弱い。もの。ね
味方への。攻撃を。【かばう】。ために。前へ
【盾受け】と。【オーラ防御】で。攻撃を。受け止め。【激痛耐性】と。【火炎耐性】で。倒れず。耐え続け。ましょう
倒れぬ敵を。前に。したのなら。その力にも。亀裂が。入るのでは。ないでしょうか
【アドリブ、連携歓迎】
司・千尋
連携、アドリブ可
鋼神ウルカヌスか…
生かしておくと後々面倒な事になりそうだからな
悪いがここで消えてもらおう
常に周囲に気を配り敵の攻撃に備える
少しでも戦闘を有利に進められるように意識しておく
先制攻撃されたら超高熱の金属に変異していない部位を『錬成カミヤドリ』で複製した本体の飾り紐を引っ掛けて攻撃をそらし回避
基本的には攻防ともに『錬成カミヤドリ』で全方位から攻撃する事で行動の阻害を狙う
足元や背後等の死角、敵の攻撃の隙をついたりフェイント等を駆使
周囲の地形も使い確実に当てられるように工夫する
敵の攻撃は可能なら相殺か回避
難しいなら防御してダメージを減らす
ある程度のダメージは覚悟の上で攻撃を優先
宇冠・龍
由(f01211)と連携
※止めは他の方希望
文字通りの頂上決戦
力の限り戦います
※真の姿で瞳が青く輝きます
神は常に人を見守る隣人でありました。神に人に獣に、世界に住まうものは等しく巡り、上下などないと考えます
故に、神の鎧もまた、万物であるなら完全無敵ではないはず
攻略の糸口は必ずあるはずです
神装の根底は、絶対強者たる自信、天上の存在としての矜持
【魚質竜文】で不可視の霊にて迎撃、植物の属性を付与
相手は鋼と炎の神
魚を突撃させても、炎の前にそのまま灰になるでしょう
しかし灰はそのまま媒染に。鎧の金色を黒く染め上げ、呪詛で僅かでも動きを鈍らせます
そして灰は助燃触媒にもなります
鎧の黒色は、娘の炎の手助けに
宇冠・由
お母様(f00173)と連携
※止めは他の方希望
【七草仏ノ座】にて30Mの大鬼に変身。スペースニードルの約6分の1の大きさです
足の裏から炎を噴出させて、一時的に空を飛びながら戦います
建物を倒壊させたくはありませんので(乙女の体重的にも)
私は皆様の足場や、身を挺してかばう盾として、全力で力を振るいましょう
敵は原初の炎、地獄の炎として戦うにこれ以上の誉はありません
守るべき炎として真正面から挑みます
巨大化した火炎剣を振りかぶり、煤や灰で黒くなった相手に炎を浴びせ私の炎と力比べ
時間経過でより激しさを増す地獄、お母様の力も借りて鎧を焼き剥がします
他の方への攻撃は、もう一振りの火炎剣を操って炎の盾にして防御
穂結・神楽耶
孤将、されど原初の鋼神。
容易に討伐出来るとは思っておりません。
故、全力にてお相手申し上げます。
【朱華再燃】――真の姿を起動。
原初の炎には破滅の炎による《オーラ防御》を以て対抗する。
寸毫を防ぐことが出来れば構わぬ。
炎同士が競っていると見せる為の目眩ましだ。
我は炎の只中を抜けていく。
最高速の踏み込みと飛翔、刺突。狙いは鎧の隙間、急所たる首だ。
防ぐ? 構わんよ。
この距離なら直に焼ける上、
我が炎熱に対抗する間に他の輩の攻撃が刺さる。
猟兵はひとりではない。
これこそが新世代よ。
その身に刻んだか? 原初神。
――なら、疾く休むがよい。
荒谷・つかさ
威風堂々としたその覇気、ジェネシスエイトの中でも格が違うじゃないの。
面白いじゃない……とても殴りがいがありそうだわ!
神の鎧に対し、相手の反撃に気を付けながら殴りかかる
反撃の動作から鎧の可動範囲を調べる
発動可能になったら【超★筋肉黙示録】発動
今度は正面から殴り合いつつ
鎧の可動域が広かったなら関節技を、狭かったなら掴みからの叩きつけを狙う
どれだけ鎧が固くても、可動範囲内でなら変形するし、揺さぶれば中身は揺れるでしょう?
いくら鎧が無敵でも、中のお前は無敵じゃない。
一方で私は筋肉が最強無敵。つまり私自身が無敵。
お前が己の肉体以外に無敵を求めた時点で、私に勝てる道理は消え去ったと知りなさい!
ラナ・アウリオン
目標、鋼神ウルカヌス。本作戦も最終段階デスね。
敵能力は、何れも超級に値する危険度デス。
中でも、無機物を火炎に変じる神業〈原初の神炎〉……当戦場において無機物といえば、スペースニードル、この塔こそが筆頭デショウ。
ダメージも勿論デスが、足場が炎に変わるのは大問題デス!
巻き込まれないように塔内ではなく中空、ラナの浮遊砲を足場として利用、対処しマス。
火炎変換の射程は、恐らく数十メートルほど。距離の確保が最善と判断しマシた。
遠距離からの火砲支援と参りマショウ。
他の猟兵様に合わせ、攻勢に転じマス。
現象〈神炎の嵐〉――観測に基づき疑似定義――発動。
元より生半な火力では通じない相手、ならば敢えて同じ業にて!
――時を同じくして。
保守用階段を駆け上がり屋上に至った司・千尋(ヤドリガミの人形遣い・f01891)は、吹き荒ぶ凍風の先に屹立する巨影にスッと翠瞳を絞った。
『――来たか』
寂寥に染む重厚なバッソ・セリオ。
聲主は先の大戰で取り逃したジェネシス・エイトが一人――。
日も浅い裡に大兵力を集め、無敵の『神鋼兵団』を組織せんと画策していた将だ。
「これが、鋼神ウルカヌス……生かしておくと、後々面倒な事になりそうだな。
――悪いが此処で消えて貰おう」
漸う平和に向かいつつあるヒーローズアースには不要の存在。
千尋が殺気を凛呼と立ち昇らせれば、ウルカヌスはその勇姿を鋭眼に射て、
『……既に大戰は収束し、我が首に価値は無くなった。然し勝者に全てを与う道理も無し、この首、易く獲られは為んぞ』
云うや全身を暁の如く輝かせ、無双の鎧【超鋼神装】を纏う。
幽闃の風に濡烏の艶髪を梳りながら塔頂に至った穂結・神楽耶(舞貴刃・f15297)も、独り聳立する巨魁を敗残の将とは映さず、
「孤将、されど原初の鋼神。容易に討伐出来るとは思っておりません。
――故、全力にてお相手申し上げます」
と、丹花の唇を丁寧に結ぶや、【朱華再燃】(ハネズサイネン)――己が真の姿たる破滅の炎神「結火」に覚醒し、原初の鋼と炎の神に「神たる我」を相対させた。
『流石は塔頂に到りし精鋭よ。其の心志や佳し』
この時、鋼神に快哉を味わわせたのは彼女のみに非ず。
神楽耶の繊手が握る『結ノ太刀』が淋漓と神気を滴らせる傍ら、荒谷・つかさ(『風剣』と『炎拳』の羅刹巫女・f02032)は烈々たる闘気を蒸気の如く噴き出して、
「威風堂々としたその覇気、ジェネシス・エイトの中でも格が違うじゃないの。
面白いじゃない……とても殴り応えが、殴り甲斐がありそうだわ!」
純然たる力と武に触発されたか、握り込める拳が鋼鐵の如く硬度を増していく。
彼女達と跫を揃えたベリル・モルガナイト(宝石の守護騎士・f09325)は、雄壮と立つ鋼神の背後に広がる燦然――シアトルの夜景に耀く一灯一燈を見て、
「私には。守るべき。世界が。あります。民が。います。
私が。護られた。ように。私も。彼等を。守りたい」
鋼神の野望が無辜の命を踏み躙るなら、戰わねばならぬ。砕かねばならぬ。
構える『煌宝の盾』は淸冽なる魔力を注がれて宝石の如く煌めきながら、堅牢と強靭を増していった。
『――良かろう』
居並ぶ猟兵に炯眼を射られた鋼神も蒼鷹の眼に睨め返す。
ラナ・アウリオン(ホワイトアウト・f23647)は、鏖殺の気に煽られる美髪を白雪の項に送りながら、彼が有する能力に言及して、
「敵のユーベルコードは何れも超級に値する危険度デス……特に無機物を火炎に變じる神業は、スペースニードル、この塔を炎に變えられては大問題デス!」
ダメージは勿論、足場を脅かされては――と、懸念した矢先の事だった。
『私が此処に到る迄に視た地獄を味わって貰う!』
「――ッ」
「っっ!」
ウルカヌスはラナの分析が他の猟兵に伝わるより先、真紅のマントを戰旗の如く翻して【原初の神炎】を放ち、展望台の真上にあたる軍庭一帯を炎の叢に變える。
咄嗟に己の浮遊砲に飛び移るラナの右隣、宇冠・由(宙に浮く焔盾・f01211)ならば、猛然と炎を蹴立てる叢にも悠然と構えられたろう。
「敵は原初の炎――地獄の炎として戰うに、これ以上の誉はありません」
可憐なる姿容を地獄の炎に燃やす少女は、【七草仏ノ座】(コオニタビラコ)――身丈30mに及ぶ大鬼に變身し、巨魁ウルカヌスを優に見下ろす高さを得る。
「私は皆様の足場や、身を挺してかばう盾として、全力で力を振るいましょう」
「――ええ、もう損耗を抑えて出し惜しむ事はありません」
愛し娘が頭部も炎に包む異形の姿と成れば、宇冠・龍(過去に生きる未亡人・f00173)は真の姿を解放し、憂いを帯びた麗瞳を蒼く碧く、透徹の色に輝かせていく。
美し炯光を帯びる双眸は、鋼神が猟兵が至る間際まで見ていた景色を映し、
「文字通りの頂上決戰――力の限り戰います」
と、繊麗の指先に魔力を集めた。
†
シアトルの夜景に、一際の光が浮き立つ。
展望台の直上に神炎を敷かれたスペースニードルは、宛らUFOの如く宵闇に浮かび、其の上に立つ鋼神ウルカヌスは逞しき巨躯を黄金に輝かせ、猟兵を睥睨していた。
『神鋼の鎧を生みし神の力、刮目して視よッ!』
燃犀灼然――!
原初の炎を神領と敷き広げ、左腕を超高熱を帯びる液体金属と化して延伸し、瞳に映る全てを薙ぎ払うウルカヌス。
鞭撃一振りを以て、寂寞に眠る塔頂を一気に殺伐たる軍庭と變える――其は正に神々の時代に不死の怪物から「鉱物」と「生命の礎」を取り出した神の威容で在った。
――いや。
光量と火力、そして存在感では由も負けてはいない。
「お母様、猟兵の皆様。私を炎の盾として、また移動の足場にお使い下さい」
スペースニードルの約6分の1の大きさに相当する大鬼は、それだけで脅威。
そして彼女には、街のランドマークを倒壊させてはならぬと、足の裏から炎を噴出し、空に浮遊した状態で対峙する気遣いもある。
己の重みで塔が傾けば、日夜淑女を目指す由の乙女心も傷付こうが、炎の叢が敷かれた今の状況では、僅かに浮揚した彼女の巨躯が大いに役立った。
「相手が相手だ、遠慮なく行かせて貰う。悪いが手を貸してくれないか」
「勿論ですわ」
戰場を見渡す高さが欲しい、と千尋が願い出れば、由が言葉通り手を貸す。
仲間は灼かぬ炎の掌に乗った彼は、鋼神の超高熱の金属に變異していない部位を狙って【錬成カミヤドリ】――己が本体たる「飾り紐」を引っ掛けて、鋼神の挙措を阻む。
「自在に液体化できるのは、一度で身体部位ひとつ」
『ぬうっ』
「左腕が金属化している間、他は捕えられる訳だ」
『ッ小癪な……!』
本体を複製できる個数は、敵が金属化できる部位を優に超える。
沈着たる瞳に敵躯を見下ろした千尋が、飾り紐を全方位から放って挙動を奪えば、逆の掌に乗った龍が、烈風逆巻く征野にヒヤリとした霊気を漂わせた。
朱唇も涼やかに佳聲を滑らせ、
「神は常に人を見守る隣人でありました。神に人に獣に、世界に住まうものは等しく巡り、上下などないと考えます」
然う語る龍の周りに、悠々と尾を揺らして魚が泳ぎ始めたとは見えまい。
其は不可視の魚影、【魚質竜文】――音なく泳ぐ魚の霊は「植物」の属性を付与され、繊指が示す方向に從って一斉に流れ出す。
向かう先は――鋼神。
「神の鎧もまた万物であるなら、完全無敵ではない筈――攻略の糸口は必ずあります」
『視えぬ攻撃とは奇妙な……だが全て炎に呑み込んでくれよう!』
如何様な軌跡を辿ろうとも、己が帰着点なら直前で迎え撃つのみ。
ウルカヌスは己が周囲の炎を狂濤の如くうねらせると、寡黙なる魚霊を神の炎に灼き、ふうわりと漂う灰を受け取った。
而して鋼神は儼然と言い放ち、
『如何なる攻撃も無意味ッ! 我が鋼と炎の前に全ては灰燼と帰すッ!』
策撃一閃――!
明々と耀く超高熱の怪腕が、一気に延伸して炎の叢を薙ぐ。
原初の炎が花びらと踊り狂う中、神楽耶は右翼から颯爽と、つかさは左翼から轟然と、鋼神目掛けて疾走する。
『――ほう。炎獄に灼かれながら脚が出るとは殊勝な』
「寸毫を禦ぐことが出来れば構わぬ」
破滅の炎神「結火」と變生した神楽耶は、原初の炎に己が破滅の炎を以て対抗しつつ、灼熱の叢を絶影の機動で駆け抜ける。
其は炎同士が競っていると見せる為の目眩まし――赫々と燃ゆる灼眼は怜悧に犀利に、唯だその刀鋩を鎧の隙間、急所たる首に届けんと真直ぐに射られている。
突貫を合せたつかさは、神炎が小袖を灼くより疾く駆け、鼻緒を踏み込み宙を躍るや、巨躯の頭上から垂直に剛拳を突き落した。
「一瞬で灰燼になる訳じゃないから、燃やされる前に殴れば良い――!」
『ぬぅぅうんッ、その心意気や快絶ッ!!』
拳打角逐――ッ!!
金剛の拳と神速の拳が幾十幾百と衝突し、周囲の炎叢を轟ッと揺らめかせる。
そして此処に神楽耶の『結ノ太刀』が鏑矢の如くひやうと飛び込み、鋭い刺突が鋼神の眼前に迫った――!
『徒爾ぞ、超鋼神装は凡百(あらゆる)攻撃を禦ぐ!!』
「禦ぐ? 構わんよ」
鋼神は咄嗟に右腕で軌跡を遮り、無敵のガントレットに刃撃を彈かんとするが、猛然と吹き上がる破滅の炎が視界を隔てると同時、凄まじい焦熱に鋼神の時を止める。
「この距離なら直に焼ける上、我が炎熱に対抗する間に他の輩の攻撃が刺さる――!」
『ッッ、ッ!』
時に須臾。
何合かの打ち合いで鎧の可動範囲を見切ったつかさが、【超★筋肉黙示録】(ハイパー・マッスル・アポカリプス)を発動――筋肉最強理論に自己暗示を掛けて無敵を獲得した拳を、無敵の鎧の上から叩き付けたッ!
「鍛え上げた肉体……筋肉さえあれば、大体どうにかなる!」
『な、んだと……ッッ!!』
嘘だと脳は喊ぶが、深奥を打つ衝撃は慥かに体幹を崩し、蹈鞴を踏ませる。
ダンッと踏み込み顛倒を拒んだウルカヌスは、今の瞬間を拒むように左腕を振り被り、超高熱の液体金属を鞭と振って反撃に出る。
然し猛然たる策撃が神楽耶とつかさを打つより先、一足で間合いに侵入したベリルが、強盾を迫り出して二人を庇った。
『ッッ、魔導障壁か……!!』
「貴方の。鎧は。身を。守る。盾で。あり。そして。敵を。打ち倒す。矛でも。ある。
ならば。私も。また。盾として。貴方へ。挑みましょう」
『宝石が鋼に敵うか……面白いッ!!』
鋼神の矜持と意地が何度も左腕を振ってベリルの『煌宝の盾』を笞打つが、彼女は決して他者への創痍を許さない。
ベリルは、我が誓い――【其れは脆くも儚き桜の城壁】(モルガナイト・フォートレス)によって身体能力を増大しており、他者を守るほど強く逞しく、重い衝撃を彈き返す。
繊躯の麗人が城塞の如く立ち塞がれば、自在に伸びる超高熱の怪腕も可動域は否応にも狭められ、鞭撃の波及範囲を再計算・更新したラナが反撃に出る好機を生んだ。
「元より生半な火力では通じない相手、ならば敢えて同じ業にて!」
『な、に――!』
四基の『浮遊型火力投射外装・ウェヌス』を足場に、遠距離から火砲支援を続けていた少女が、その瞳に常に射続けていた敵の能力を“出力”する。
「現象〈神炎の嵐〉――観測に基づき疑似定義――発動!」
『ッッ! 神炎の嵐、だと――!!』
顕現、【最新鋭の創世神話】(ジェネリック・ジェネシス)――。
白磁の玉臂を照らし、厖大なる魔力を炎と紡いだラナは、嵐と合成して放つ。
炎の叢を蹴散らし、ウルカヌスに向かって轟然と迫った赫炎の颶風は、巨躯を足元から浮かす程の威力を以て、鋼神の神性を脅かした!
『ッッ、ッ……ッ……!!』
回避は叶うまい。
我が健脚は千尋が全方位から放った「飾り紐」に縛られ。
我が神炎は神楽耶の、いや「結火」の破滅の炎に牽制され。
我が鋼拳はつかさの筋肉最強理論と抗衡し。
液体金属化した左腕を鞭と振おうとも、ベリルが楔と立つ限り自在は得るまい。
――そして、龍が放った魚霊は、灰と化した今こそ攻略の鑰と成ろう。
「灰はそのまま媒染に。金色の鎧を黒く染め、染み入る呪詛が動きを鈍らせましょう」
『媒染……それは如何いう……ッ!』
無敵の『神の鎧』は、黄金に耀いてこそ鋼神の矜持を奮い立たせる。
その暁の如き燦然が黒く塗り潰された時こそ、能力に疑念を抱くと読んだ龍は、己の読みが相応の結果を連れる――次の瞬間に炯眼を絞った。
『我が最強の鎧がッ! 灰や煤に穢れるなど、あってはならぬ……!』
初めて目線を胸元まで近くし、鎧の翳りを確めるウルカヌス。
その翳りが矜持を揺るがし、鎧の防禦力と耐性を大幅に落したとは、動作の遅延で知れようか――由とラナは稟性の異なる猛炎を合せ、鋼神の慥かな弱体化を証した。
「原初の炎と地獄の炎、力比べと参りましょう」
「ラナの〈神炎の嵐〉も合わせマス!」
凄まじい炎の波濤が巨躯を呑み、混ぜ合って火柱を衝き上げる。
『――ォォォオオ雄乎雄乎ッッッ!!!』
絶叫が闇の帳を切り裂き、塔を揺るがす――。
其は幾度と戰った『神鋼の鎧』が、真に敗れた瞬間であった。
†
「――目標、鋼神ウルカヌス。【超鋼神装】を破った今、鋼神自身が撃滅対象デス」
本作戰も最終段階、最終局面に突入したと戰況を見るラナ。
決して慢心でなく、鎧の弱体化にウルカヌスの衰微を確認した少女は、四基の浮遊砲を次々と足場にしながら、不断に火砲を彈いて巨躯を制する。
「優勢を得た儘、劣勢を突き付けた儘、押し切りマス――!」
『くッッぉぉおおッ!!』
無数の冱彈が精確精緻に鎧を撃ち、重い衝撃に巨躯を揺るがす。
息継ぐ間もない火砲の斉射は、鋼神をその場に足止める屈辱を与えると同時、更なる連撃を喚び込んだ。
「灰は助燃触媒にもなります。鎧を黒色に塗り込めていきましょう」
『ッ、神の鎧を尚も冒瀆するか――ッ!!』
次撃を継いだ龍が再び【魚質竜文】を発動するが、不可視の攻撃ほど恐怖を煽るものは無い。
靜黙の魚は炎の叢に灼かれる儘、鋼神に突貫し、無双の証たる黄金を塗り潰すと同時、由の炎がより盛んに燃えるよう手助けをする。
「無敵の鎧を焼き剥がします」
然う言って炎々たる『火炎劔』を振り被る由は、30mを優に超えた猛威。
経過した時間に比例して戰闘力を、火力を増した地獄の炎は、シアトルの夜を明々と白ませ、眼下に敷く鋼神の言葉を失わせる程だった。
而して大振りになる由の炎撃を援くは千尋。
「足場を借りた礼だ、援護する」
少しでも戦闘を有利に進められるなら、如何なる地形も積極利用する彼は、此度は由の膝を借り、高高度から「飾り紐」を放って鋼神の巨躯をその場に縫い留めた。
「疾うに時間は過ぎている。退場して貰おうか」
『――ッッ、ッ!』
先の大戰で散るべきだったとは、鋼神が塔頂で幾度と抱いた寂寥。
冷艶なる聲に楔打たれたウルカヌスは、間もなく墜下する火炎劔を渾身の力で受け取り、
『ォォォオオオ嗚嗚嗚嗚ッッ!! この痛みを弔慰いと為るッ!!』
多くの戰士を征野に差向けた将としての責を負い!
そして聢と怨敵に返報し、その血を捧げて慰める――!!
『一矢も二矢も報いて呉れようッ!!』
――と、鮮々たる血飛沫を噴きながら、液体化した左腕で大きく軍庭を薙いだ。
炎の叢を撫で付けて疾走る鞭撃が猟兵を蹂躙する――いや、ベリルが前線に立つ限り、その様な惨憺は起こらない。
乙女色の凄艶は、痛撃が繊躯を打つのも構わず、前に踏み出て鞭を往なし、
「貴方が。守る。ものは。なんでしょうか」
『、ッ』
「己だけ。というのなら。貴方に。私は。砕けない。
ただ。己を。守る。ことしか。叶わない。というのなら。とても。弱い。もの。ね」
凄まじい衝撃と焦熱を受け取って尚、ベリルの聲は嫋やか。
如何なる殺意と敵意、そして凄惨を極める攻撃を受けても斃れぬ「盾」を前にした鋼神は、愈々我が心に衝撃を疾走らせた。
『弱い、か……成る程、我等の敗因が朧げにも見えて来たッ!!』
既に劣勢、敗色濃厚。
終焉が迫るこの機にあって、鋼神は猟兵に勝てぬ理由が理解りかけてきたか。
この瞬間、つかさは一陣の風と成って炎の叢を抜けると、我が闘気を練り上げた剛拳を突き出し、鋼神の胴を貫穿した。
「いくら鎧が無敵でも、中のお前は無敵じゃない。一方で私は筋肉が最強無敵。つまり私自身が無敵」
『ズッッ……ァアッッ……!!』
「己の肉体以外に無敵を求めた時点で、私に勝てる道理は消え去ったと知りなさい!」
剔抉――!
黒色に沈んだ鎧を砕き、更に衝撃は奥へ、臓腑を絞り上げる。
『ヌッッ、ォオッ……ッ!!』
あまりの激痛に膝を付けば、我が頭上から儼粛たる聲が降り落ちて、
「猟兵はひとりではない。これこそが新世代よ」
これが孤将に相対した勇者達の連携。
これが新たな歴史を刻む者達の戰い方。
「その身に刻んだか? 原初神」
と、雪白の小袖を翻した神楽耶――「結火」が長い睫を落とす。
炎立つ叢の上、白む闇に繊躯を躍らせた破滅の炎神は、さやかな霊気を滴らせる『結ノ太刀』を靜かに一閃――鋼神の首を斬り落とし、
「――なら、疾く休むがよい」
音も無く、聲も無く。
野望を手放した孤将を炎に灼かせ、塔上より望む景色に幽闃を染ませた――。
大成功
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