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⏰霧の街 ~切り抜かれた世界~

#ダークセイヴァー

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#ダークセイヴァー


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●シャッタード・ワールド
 ――ああ、いつまで、ここでこうしていればいいのだろう。
 街は死んだように静かだ。いや、或いはこの瞬間も、刻一刻と死に向かっているのかもしれない。

 いつの頃からか――この街はおかしくなった。
 笑えない話だが、外の静寂の原因は「眠り病」だと言われている。曰く、なんの痛痒もないような健康体だった人間が、夜に眠りこんだまま、目を覚まさなくなるのだという。
 息はしている。けれど、待てど暮らせど目を覚ますことはない。
 一人、また一人。覚めない眠りに落ちていく。
 流石にこれはおかしいと、領主の目を盗み、街の外に助けを求めに行こうとした者がいた。
 しかし、彼は帰らなかった。街の外にはいつからか、濃い霧が立ちこめていた。
 霧は、歩くものの視界を奪い、幻を見せ、欺き、森に獲り籠めて殺してしまう。
 この霧があるからこそ、外からの助けも、中からの助けを求める声も、どこにも届くことはない。

 私は窓の外を見る。遠く、高い丘の上に領主の屋敷がある。
 領主は今何を考えているのだろう。私は、いつまでこうして思索していられるのだろう。

 霧は晴れない。
 私の心のように。

●目覚めあれ、と猟兵は言った
「オブリビオン『パラノロイド・トロイメナイト』の発生が確認された。ダークセイヴァーだね」
 この世界の案内は初めてだな、と壥・灰色(ゴーストノート・f00067)は資料をめくる。
「パラノロイド・トロイメナイト……幻想術師は、比較的温厚な性質を持つオブリビオンだって聞いてるけど――今回のケースはやや悪質だな。領主を眠らせ、成り代わり、街を霧で囲んだ。霧で囲んだ街全体を、緩慢に永久に覚めない眠りに落とし続けている。霧は魔力を漏出させない、結界の役割も果たしてるようだね。だから街全体に眠りを蔓延させることが出来たんだろう。――ともかく、幻想術師の手によって、街の機能は既に半分が停止した」
 資料から目を上げ、並んだ猟兵らに作戦概要の説明資料を渡していく。
「作戦は三段階に分かれる。第一に、街を囲む魔力霧の突破。第二に、領主館の門の突破。最後に、幻想術師の撃破。領主館を守っているのは無辜の番兵なので、なるべく手荒なことはしない方向で頼みたいけど――まあ、仔細はお任せするよ」
 右手で立体パズル様のグリモアを弄くり回しながら、灰色は手元の資料に目を落とす。
「死ではない、眠りに落とすことで、この晴れ間のない闇の世界を生きる労苦から解放しよう、とでも言うつもりなのかな。もしそうだとするなら、そんな勝手な自己満足に街一つを巻き込むことは許せない。皆の力を貸してくれ」
 立体パズルが六面揃い、白く輝くグリモア。“門”が開く。
「現地に出れば、霧のただ中だ。そこから方位にして北に直進することで街に着く。霧に撒かれて帰らなかった街人もいるようだから、気を付けて。森には魔獣もいるし、視界も地面の状況も悪い。幻覚を見る事もあるようだ。相応の対策をしてかかってくれ」
 資料をテーブルに置きながら、灰色は話を結んだ。
「きみたちが払暁の光になれますように」



●TW2019新年オフ リアルタイム執筆用シナリオ●
 お世話になっております。煙です。
 OP情報が大体全てです。自由に行動して下さい。

 以下にちょっとした補足を。

 ・本シナリオにおいて、東京オフ会場現地で、書ける範囲でリアルタイム執筆を行います。
 ・おそらくリアルタイム執筆できるのは第一章ぐらいかな……と思っています。
 ・基本的に、成功判定が出たら終了とする縛りで行きます(オーバーキル抜き)。
  ・ですので第一章はおそらく六~七名(判定結果によりますが)の描写となります。
 ・それ以後も沢山いらして下さって構いません。が、スタンスは同様で参ります。
 ・第一章において、「幻」が見られます。「幻」は、以下のようなものです。
  描写をご希望の場合、どのような幻が発生するか、プレイングにご記載下さい。
  ・PCの興味を引くもの。
  ・消えない過去。
  ・拭えない傷。
  ・忘れられない人。
  ・怨敵。

 それでは、今回も皆様の熱いプレイングをお待ちしております!
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第1章 冒険 『五里霧中』

POW   :    大胆に行動する

SPD   :    慎重に行動する

WIZ   :    冷静に行動する

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●濃霧に映るは
 深い深い霧の内側に、いくつも影が映り込む。
 それは夢か、幻か。
 消せぬ過去か、消したい傷か。
 
 猟兵は走る。
 彼らが見据えるものは、これから立ち向かうべき敵に他ならない。
コーディリア・アレキサンダ
……。霧
確かに視界が悪い。それに加えて……

「……嫌な空気だ。懐かしい、街の」

大きな教会が市政を取り仕切る港町
優しい、穏やかな風の流れていた街
ボクを捨てた街
悪魔に占拠された――ボクの故郷


「こんな形で戻るつもりはなかったのだけれど――ああ、別に戻ってはいないのかな」
事前に聞いた限り、この街がボクの街であるはずがない
つまりこれは幻、というわけだ

落ち着いて、冷徹に
今を考えて前に進もう

友達、先輩、幼馴染み
街の人間全てから恐れられても、ボクはボクにしかできないことのために進む
街を救って、自分の居場所をなくしたあの日のように



●箱のうちに最後に残るは
 数メートル先の景色すら、見通せぬ。
 白い闇と形容すべきか、その異様を。
 コーディリア・アレキサンダ(亡国の魔女・f00037)は鼻を鳴らす。彼女が感じるのは、懐かしい匂いだ。
「――嫌な空気だ。懐かしい、街の」
 濃霧が揺らめき、像を結ぶ。
 そこは大きな教会が市政を司る港町。
 それは気のせいか、あるいは錯覚か。潮風までもが生々しい。並ぶ建物、吹く風さえ、コーディリアの記憶の中にあるままだ。
 優しく穏やかな風の流れる、コーディリアを捨てた街。
 ――悪魔に占拠された、彼女の故郷。

「こんな形で戻るつもりはなかったのだけれど――ああ、別に戻ってはいないのかな」

 コーディリアは歩く。
 事前にグリモア猟兵から聞いた話が正しいのならば、この景色はただの幻。自分の心が生み出した虚像。
 故に、彼女の歩みが揺らぐことはない。
(落ち着いて、冷徹に。今を考えて前に進もう)
 見るべきものは過去ではない、今なのだ。それを知るからこそ、コーディリアは足を止めない。北へ。ただ北へ。

 ぼやり、と彼女の前の空気が揺らぐ。
 いつしか、町並みの中には彼女の知った顔が再現されていく。
 友達。いつも一緒に本を読んでいた。あの登場人物はどうなるのだろうと、ともに語らったその時を覚えている。
 先輩。昔から、マイペースなところのあるコーディリアの世話を焼いてくれていた。仕方ないな、と言いながら、いろいろなことを教えてくれた。
 幼馴染。小さな頃からずっと一緒だった。格別、特別な思いはなかったけれど、長い時間をともに過ごして、いない感覚を知らなかったほどには、共にいた。
 彼らからの、怯懦と畏怖の視線が、霧より出て突き刺さる。

「――これは記憶、これは幻」

 コーディリアは、歩く。
 彼女はかつて悪魔を食った。街を襲った悪魔全てを、その体に全て封じ込めた。守るために。自分が接した全てを生かすために。
 歩くパンドラの箱となった彼女を見つめる目は、けれど決して優しくはない。英雄譚なんて、本の中にしかなかったのだ。悪魔を食った魔女を見る目は、頬を薙ぐ霧風よりも遥かに冷たい。
 けれど心を苛むようないくつもの視線を、彼女は跳ね除けるように真っ直ぐに歩いていく。
 彼女には、意志がある。
 ――恐れられても、構わない。
 町の人間全てから恐れられても、ボクはボクにしかできないことのために進む。
 街を救って、自分の居場所をなくしたあの日のように。

成功 🔵​🔵​🔴​

リネット・ルゥセーブル
[SPD]を使って進むとしよう。
方位磁針を準備し、常に北の方角に進めるようにする。
極力【目立たない】ように、【忍び足】で進み、また【暗視】で敵影や地形を見落とさないようにする。

常に直進できるとは思えない。
自分及び後続のために、進路上の木々に鋼糸を【ロープワーク】で張っていき、主に転進時のガイドとする。

いつか出会った人の影がちらつく。
救おうとして、結局死んでいった人たち。
……煩いな。「なぜ俺たちを捨てたんだ」なんて。

わたしはただの黒子。そんな期待<のろい>なんて寄せないでよ。
わたしも英雄面して悪かったけれど。

今日は殺しに来ただけ。
安心してよ。君たちは救わ<のろわ>ない。



●救い<のろい>
 はじめ、猟兵たちは付かず離れずの距離を保って霧に突入したはずであったが、いつしか自分の周囲から気配が消えていることにリネット・ルゥセーブル(黒ずきん・f10055)は気づく。
(方位は――北のまま)
 リネットは予め方位磁石を用意していた。準備を整えた上での、隠形の技術による単独行。敵影や地形を見逃さぬための暗視にも長けているリネットは、魔獣の気配、影を巧みに避けながら前進することが可能である。
(……この先はまずいな)
 北に直進する、という指針である以上、路々には通れない亀裂、跨ぎ難い障害物、魔獣の塒などが存在する可能性もある。
 リネットの予想通り、彼女の進む先にふいに見えるのは複数の魔獣の影だ。耳を澄ませば、複数の獣の息遣いも聞こえる。リネットは数歩後退り、傍らに手を伸ばした。指先に触れるワイヤーの感触。
 こうした、様々な要因により前進しかねる状態となったときに備え、鋼糸を進路上の木々に張り、ガイドとしておく。リネットの選んだ策である。
 やや後退し、魔獣の進行方向とは反対側に迂回。その間もワイヤーを張りながら進む。これが後進のガイドになればいい。
 
 霧の中を、ただただ前進する。霧の向こうを見通そうと目を凝らすリネットの目に、不意に揺らいだ影が映り込む。
 ――なぜ。
 影は問いかける。それは一定の形を取らない。男、女、子供。
 ――なぜ俺たちを捨てたんだ。
 影は哀切に訴える。風の吹く合間に、リネットの耳朶に、四方八方から。
 ――どうして助けてくれなかった。
「煩いな」
 リネットは振り払うように、ぴしゃりと言った。
「わたしはただの黒子。そんな期待なんて寄せないでよ。私も英雄面して悪かったけど、そういうのは主演に期待して」
 過ぎれば期待はのろいと同じ。二つはたやすく裏返り、いつしか互いの身体を裂く。
 リネットが跳ね除ける言葉を、霧幻の影は聴いていないかのように呪詛を続ける。リネットは肩を竦め、小さく息を吐いた。傍らの木に、ワイヤーを張ってまた一歩進む。
「今日は殺しに来ただけ。安心してよ。君たちは救わない」

 彼女の救いは、呪いの形に似ている。
 死霊術師、リネット・ルゥセーブルは、呪詛を掻き消すように次の木に鋼糸を伸ばした。

成功 🔵​🔵​🔴​

小日向・いすゞ
おぶしだんセンセと一緒
逸れぬ様にマントに手を

戦闘能力のない管狐故に、人にぶつけても平気っスよ
何かあれば
敢えてぶつける事で一般人と幻覚を見分ける事位は出来ると思うっス

大丈夫っスよ
センセは剣っスから
何でも斬ってくれるからあっしはセンセを呼んだンスよ
センセならあっしの迷いだって斬ってくれるっスよね
それに、センセのだって

幻は陰陽師の険しい顔の両親

喉を鳴らし笑う
嫌っスけど、斬られたら困るっスねェ
でも、今日は斬って好いンスよね?
アレは人じゃないっスよね管狐

…聞いただけっスよ、斬らないっス
霧だけに相手してちゃキリが無いっスよ

今日はあっしの斬って欲しいモノだけ斬って欲しいっス
あっしの剣なんでしょう
相棒

彼を手に


オブシダン・ソード
いすゞと同行
霧の中まで行かないと話にならないからね、どんどん行くよ
いつものにこやかな笑み

幻:これまで斬り倒してきた者達。夥しい数の欠損した人影

ねぇ、いすゞ
同行者に僕を呼んだのは失敗だったんじゃない?
そうだね、これは忘れないけど、覚えてもいない人達
僕と『あいつ』が、斬ってきた奴等だ

知ってる
僕が誰かの願いを叶える時、必ず誰かの願いは断たれる
それが武器ってものだからね
ああ、それでも、僕は誰かための剣で在りたい

いすゞ、君は何が見えてる?
嫌いなものだと良いけれど
そ、君も中々難儀だねぇ

酷薄に笑う

君がそう望むのなら、僕がそれを斬ってやる
だから、君もちょっと手を貸して

器物を、本体を彼女の手に

さあ行こうか、相棒



●劔を手に
 霧の中を二つの影が歩く。
 一方は長身の、フードを目深にかぶった青年。覗く赤い瞳が印象的である。もう一方は比較的小柄な癖っ毛の少女だ。頭の上で狐の耳が跳ねる。妖狐であろう。
 二人は――オブシダン・ソード(黒耀石の剣・f00250)と小日向・いすゞ(妖狐の陰陽師・f09058)は連れ立って歩く。オブシダンのフード付きマントの裾をきゅっと掴んだいすゞの手。オブシダンは彼女に合わせ、やや歩調を狭めて歩いているかに見える。
「逸れないようにするためっス」とはいすゞの言だが、こうしていると引率の保護者と子供かにも見える。
「ねぇ、いすゞ。同行者に僕を呼んだのは失敗だったんじゃない?」
 オブシダンは問いかける。彼は飽くまでにこやかだ。その笑みは決して崩れることはない。
 たとえ、今この瞬間、彼の周りを、無数の骸が取り囲んでいても。
 今この瞬間も、腕が、足が、首が、耳が目が鼻が――欠け落ちた影絵の死体が彼に向け呪詛を吐いていても。
 それは、彼の心に映った過去の形。ただ一本の黒曜石の剣が奪った命の数。それを今一度踏み越え、剣は笑みの形を作り続ける。
「大丈夫っスよ、センセは剣っスから。なんでも斬ってくれるからあっしはセンセを呼んだんスよ」
 いすゞは細い目をさらに細め、オブシダンのマントの裾に指を絡め直す。
「センセなら、あっしの迷いだって斬ってくれるっすよね。それに、センセのだって」
「君がそれを望むならね。いすゞ、君には何が見えてる? ――嫌いなものだといいけれど」
 にこやかな笑みで吐くセリフの真意は、それならば躊躇いなく斬れるだろう、と問いかけるかのようだ。応じて狐は喉を鳴らして笑う。
「嫌っスけど、斬られたら困るっスねェ。でも、今日は斬っていいンスよね?」
 アレは幻なのだから、と。いすゞは見えるものが何かを答えぬまま、前に管狐を飛ばす。オブシダンから見れば、有象無象の死骸らの映る霧を、管狐は突き抜けていすゞの手元に舞い戻った。
「人じゃないっスよね――」
 管狐を指先であやしながら、いすゞはささやくように確認。オブシダンの赤い瞳が、自分の横顔に注がれていることに気づいて、彼女は横に首を振った。風になぶられて揺れたかと思うほど微かに。
「訊いただけっスよ。斬らないっス――相手してちゃキリがないっすよ。霧だけに」
 おどけたように言ってみせるいすゞの表情には、暗いものは伺えない。内部にいくつもの懊悩を隠しているのかもしれないけれど、秘して見せなければ、それはないのと同じことだ。
「――君もなかなか難儀だねぇ、いすゞ」
 冗句に、オブシダンは小さく笑う。笑みはどこか酷薄で、それこそ『かれ』の刃先のようだった。
「ねぇ、いすゞ。僕が誰かの願いを叶える時、必ず誰かの願いは断たれる。それが武器ってものだからね」
 ――ああ、それでも。それでも、僕は誰かのための剣でありたい。
 形にならなかったオブシダンの言葉を、まるで知っているかのようにいすゞはマントを強く握る。皺の寄った布地に落とすように、小さくつぶやいた。
「――それを承知でね、センセ。今日はあっしの斬ってほしいものだけ斬って欲しいっス」
 彼女を向き直り、オブシダンは顎を引くようにして視線を合わせた。見上げる瞳は漆黒。その輝きは男の刃と、ほど近い。
「あっしの剣なんでしょう、相棒」
 刃の如き笑みで、オブシダンは応じた。
「ああ――いいとも。君がそう望むのなら。僕がそれを斬ってやる。……だから君の手を貸して、いすゞ」
 ひゅるり、とオブシダンは身体を翻した。まるで魔法のよう。いすゞの手の内側に収まった布地に、オブシダンの身体が収斂する。一瞬あとには、無骨で――原始的な、ただ一本の黒曜石の剣が残った。
 いすゞは一度試すように『かれ』を振るう。霧が裂け、道を示すように風が動いた。
“さあ行こうか、相棒”
 手の内側の剣から響く声に、いすゞは今度は確かに頷いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

レイラ・ツェレンスカヤ
まあ! ステキな趣向なのだわ!
幸せな幻、苦しい幻、終わらないが、生きることから逃がしてくれるのかしら!
そんな逃避、無様で可愛らしいのだわ!
レイラにはどんな幻を見せてくれるのかしら!

血が、肉が、臓物が踊るのだわ!
何人が死んで、何人が失ったのかしら!
うふふ、うふふふ!
とても綺麗で美しい光景かしら!
ずっとここで踊っていたいくらいに!
でもダメかしら
これはレイラの作り出したものでも、レイラ自身のものでもないのだわ!
だから壊すの!
血と恐怖を支配するのはレイラ!
傷付くのも傷付けるのも、許されるのはレイラだけなのだわ!
ほかの人が作り上げた血の宴なんて、レイラには許せないかしら!



●彼女はステキで甘い毒
「まあ! ステキな趣向なのだわ! 幸せな幻、苦しい幻、終わらない眠りが、生きることから逃がしてくれるのかしら! そんな逃避、無様で可愛らしいのだわ!」
 甘い甘い、シュガーシロップのような声で、心底おかしくてたまらないといった風にレイラ・ツェレンスカヤ(スラートキーカンタレラ・f00758)は一人、ステップを踏むように霧の中をくるくると踊りながら進む。進むほどに霧は深まり、白い闇の中で彼女はただ孤立していく。
「レイラにはどんな幻を見せてくれるのかしら! 楽しみだわ、楽しみなのだわ!」
 両手を掲げて跳ねる童女。彼女が進むほど、周囲の濃霧は異質にその形を変えていく。
 期待に応えるように、霧は徐々に――赤く赤く染まっていく。張り出した木の根は人の腕へ。樹木の幹は磔刑台へ。揺れる梢は吊るされた人間。木の葉擦れは死者の嘆き。周囲の景色はまるで処刑場に似ている。
「まあ、まあ、まあまあまあ――」
 臓物を結び連ねられた咎人らがラインダンスを踊る。血を際限なく吐きながらそれで文字を書く奇人がいる。この瞬間も幾人もが首を切られ、転がる首が喜劇的に泣く。
「素敵! 血が、肉が、臓物が踊るのだわ! 何人が死んで、何人が失ったのかしら! とっても綺麗で美しい光景かしら! ずうっとここで踊っていたいくらいに!」
 踊るレイラと死者が廻る。彼女を囲んだ死者の群れが、徐々にその環を狭めるように彼女に迫る。はらわたを揺らす動く骸に合わせてワルツを踊る、レイラの足が不意に止まる。
 まるで音楽を急に止められたように、ピタリ、と。
「でも、ダメかしら。ダメね、ダメダメなのだわ」
 畳み掛けるように否定、否定、否定。
 彼女は己がユーベルコードを発動し、その腕を一閃する。霧が割かれ、吹き散らされ、空に描かれた幻影が揺らいで藻掻く。
「これはレイラの作り出したものでも、レイラ自身のものでもないのだわ!」
 悲劇も、地獄も、何もかも。それを嘆く心はレイラにはない。彼女にあるのは、その地獄が自分の手によるものではないというその不満だけ。
「だから壊すの! 血と恐怖を支配するのはレイラ! 傷付くのも傷付けるのも、許されるのはレイラだけなのだわ!」
 傲然と言い放つ。傲慢、残酷、恐怖を司る咎人狩りにして、残虐無双の紅の華。
 それが、レイラ・ツェレンスカヤである。
「ほかの人が作り上げた血の宴なんて、レイラには許せないかしら!」
 レイラは最早、虚構の惨状を切り崩す小型の竜巻に等しい。彼女は己の力を限りを振るい、霧を引き裂きながら前へ跳んだ。赤い幻影が裂け、白い霧が混じり――
 あとに残るのは、静かに佇む濃霧のみ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御劔・姫子
【POW:大胆に行動する】
この霧…なんや不思議な感じがするなぁ…
ううん、こないなのに迷わされてたらあかんっ! 早く黒幕を倒して、街の人達を助けなっ!
視界が悪いさかい、道に迷ってしまいそうやけど、【第六感】を活用すれば霧の中を抜けられるはずやっ!
って…あれ…? 誰かおる? あれは…うち!?
いや、うちやない…!? でも…っ!?

(※幻覚を見てしまった場合、生き別れの双子の妹を見せて下さい。なお、姫子本人は妹がいるという事実を知りません。妹の容姿は姫子とほぼ同一ですが剣士ではなく忍者、口調は汎用関西弁です。他、細部のアドリブ等はお任せします)



●己の影は、いつも足下にある
 御劔・姫子(はんなり剣客乙女・f06748)は、持ち前の体力を活かして白い霧を踏破する道を選んだ。
 地面を蹴り、ひたすらに北へ、北へ進む。
(この霧……なんや不思議な感じがするなぁ。こないなのに迷わされてたらあかん、早く黒幕を倒して街の人を助けなっ!)
 姫子は地を縮めるが如く駆ける。第六感と見切りが冴え、彼女は行く道の揺れる枝や藪を抜刀して払いながらに前進する。最早視界は殆ど当てにならぬ。数間先も見えぬ有様となる頃、第六感を頼りに進む姫子の前に、ぼやりと灯りが滲む。まるで灯籠のように揺れる灯りに、姫子は思わず誰何の声を上げる。
「……誰かいてはるん?」
 剛刀『巌太刀』の柄に右手を添え、抜刀の予備動作。左足を下げ、揺れる灯に目をこらす。
 ――ぴたり、灯りが止まった。
 それとほぼ同時。突然に自由落下する灯り。そして、揺らぐ霧。
 灯りに気を取らせての跳躍と察し、流れるように抜刀して上段を守る。飛来した影が繰り出す銀閃を巌太刀を翻して受け、折れず曲がらぬその剛性を以てして、弾き返した。
 言葉より先の一撃、あまりに無礼。咎める言葉の前に、姫子は反射的に八相に構え直す。
 口を開こうとして、それよりも先に、彼女は目を見開くこととなった。
『簡単にはいかへんなあ……腐っても御劔、っちゅうとこやね』
(……うちが、おる!?)
 姫子は驚愕の声を噛み殺しながら、今の一足で相手が飛び込んできた分の間合いを計る。敵は相当に身が軽い。
 見れば諸手に苦無を二刀。口調もおっとりとした姫子のものとはかけ離れている。
 けれど、その顔かたちは自分そのものに見える。武器も、戦い方も異なる、もう一人の自分。
「あんた、一体何なん」
『さて、なんやろうね。覚えてへんなんて悲しいなあ』
 ひゅ、と風切り音。反射的に刀を跳ね上げる。ここでも姫子の第六感が生きた。跳ね上げた刀身が、予備動作なく投げ放たれた苦無を弾く。その防御の隙間にねじ込むように、謎の忍――『姫子』は距離を詰めてきた。取り回しが良い苦無による連続攻撃に、姫子は防戦を強いられる。
『覚えてへんなら、思い出してもらおか。うちはねえ』
 姫子に瓜二つの顔を寄せ、間近で唇を釣り上げ、笑う『姫子』。
 その先を、聞いてはいけない気がした。
 姫子は、撒くように引いた刀を身体の撥条で加速し、全力での一刀を放つ。裂帛の気合は『姫子』の声を引き裂き、刀はその身を深く薙ぐ。

「はぁっ、は、……、」

 気付けば、周囲の霧は随分と薄らいでいた。まるで悪い夢を見たあとのような心地。身体中に粘ついた汗が絡んでいる。
 姫子が放った刀は、正しく『姫子』を――否、ましらの如き魔獣を上下に両断、一刀のもとに葬っていた。幻に捲かれてもその技前は、些かも曇ることなく発揮された。
 しかし、姫子の心には苦いものが残る。
 今、魔獣に重ねた幻は、一体何だったのか。
 あれは、ただのまやかし、虚像の類だったのか?
 問うても、答える声は無い。
 刃を血振りし、最早言葉もなく、姫子は今一度歩き出した。

成功 🔵​🔵​🔴​

鳴宮・匡
【SPD】
周囲の様子を確認しながら慎重に
あまり闇雲に動かず、【聞き耳】を立てて風の音や葉擦れの音、移動音……
環境音から自分の位置や向かうべき場所を割り出して進むよ
誰かの移動の痕跡を見付けられれば【追跡】してもいい
【暗視】も多少ならできる、完全な闇って訳じゃないが多少は役に立つかな

霧の中に見えるのはあの日になくしたもの
俺を拾い、育てて
戦いのすべを教えて
……俺を庇って、死んだ師だ

――ああ、そんな顔するなよ
ちゃんと生きてるだろ、あんたの教えた通りだ

意識を囚われそうになったら、
最悪手持ちの武器で自傷してても意識を保つ
痛みはなによりも鮮明に、ここに自分が生きていることを教えてくれる



●今はもう彼方の師へ
 鳴宮・匡(凪の海・f01612)は、高いコンバットスキルとサバイバビリティを兼ね備えた戦場傭兵である。戦闘知識、尾行諜報の能力に優れた身体要素――秀でた聴覚、視力に恵まれている。
 彼は慎重に、視界が効かない周囲の環境を踏まえ、聴覚を頼みとしつつ前進する。獣の足音を察知すれば身を潜め、、風斬り音から地形の変化を察知して慎重に動く。そうする内に、目敏く木々の合間に張られたワイヤーを発見した。
「……ダークセイヴァーにあるにしちゃ、不自然だな」
 火器としてはマスケット銃程度しか存在しない文明で、このような細いワイヤーを惜しげもなく木々に張り、捨てるも同然に扱うのは不自然だ。
 おそらく先行した味方が張ったワイヤーだろうと匡は推察する。事実、それは先行したリネットが張ったワイヤーであり、匡の推理は的確であった。
 ワイヤーは北へ向け、導線を作るように続いている。方位も不自然ではない範囲だ。ありがたく使わせて貰う事にし、匡は鋼糸を手繰るようにしながら引き続き北上する。
 物理事象から生じる全てに対して、匡の備えは十全であった。
 ……しかし、この霧は、グリモア猟兵が語ったように幻覚を見せる。ワイヤーを左手にしながら、銃を構え歩く匡の前に、ゆらりと現れる影がある。
 その影を見た瞬間、匡は困ったように笑った。
「あんたか」
 白い霧が捩れて出来たその影は、かつて匡を育て上げた傭兵であった。
 銃の構え方、反動のいなし方、野戦の心得、喰える草木、敵を嵌める罠の作り方、ナイフの持ち方とそれを用いた格闘の仕方。
 今の匡が成り立つために必要な要素のおおよそ全てを教え、彼を育み、そして彼を守って死んだ者の姿だ。
「それ」は、ひどく悲しげな顔をしていた。声なき声を哀切に訴え、ゆっくりと匡に近づいてくる。
「――ああ、そんな顔するなよ」
 見つめれば見つめるほどに、死んでしまいたくなるくらいに、悲しい顔をしている「それ」に向かって、彼は歩く。それは容易いことではない。いっそ責めるほどに、「なぜお前は未だ生きているのか」と問うように見つめてくる。
 その幻影の視線には、向けられたものが自害を選ぶほどに痛烈な魔力が宿る。コツリと匡の爪先が蹴飛ばした白いモノ。それは、かつてそれと同類の視線に殺された人間の骨の欠片だ。
 ――彼が正気を保っていられたのは、たった一つの要因に他ならない。
「ちゃんと生きてるだろ。……あんたの教えた通りだ」
『……!』
 匡は近づいてくる幻影と、決然とすれ違った。幻影は、匡が歩いて起こした微風に嬲られて、揺らめいて消える。
 ――なぜお前は未だ生きているのか――
 そんな問いかけは、あの人らしくない。彼の師は、彼に生きるためのすべを教えたのだから。

 夢から覚めたように掻き消える幻影を背に、匡は幻覚に耐えるため、犬歯で噛み裂いた唇から漏れる血を親指で拭い去った。
 北へ進む。――霧が晴れるまで。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ネグル・ギュネス
此処は、何だ?
一先ず慎重に、SPDを重視に。

一先ず迷彩を使用し、敵にカチ合わないように。

───幻影が、見えた。
私の知らない景色。
燃え盛る家屋に、焼け落ちる何か。

聞こえたのは。

「にげて、──ル──。」

私に、呼びかける声。

そして嘲笑う何か。

激昂したくなるだろう。
刀を引き抜き、【剣刃一閃】で幻を狂うたように、斬る。

幻を振り払うように。

幻は何かわからない。
私には記憶がないのだから。

だが。
心に焼きついた何かが、忘れた何かが。

【思い出せ/思い出すな】と

強く叫ぶのだろう。

私は、誰なのか。
答える何かは、あるのだろうか。



●Lost of past days.
 ネグル・ギュネス(ロスト・オブ・パストデイズ・f00099)は濃い霧の中を惑いながら征く。
 白いカモフラージュパターンの衣服を纏い、彼は隠密に白い闇の中を歩いていた。濃霧があることは聞いていたし、それが幻覚を見せることも聞いていた。それでも彼が見たものは、常軌を逸していた。
 燃える、燃えている。
 広がる白い霧の全てが、彼には炎に見えている。
 燃えさかる炎の中で、
『にげて』
 掻き消えそうな声。
『にげて、――ル――』
 彼を呼ぶ声が、炎の中から聞こえてくる。
 それはなんだったのだろう。
 ――私には記憶がない。逃げてと私を慮るのは誰だ。聞き覚えがある声なのに、それが誰かすら解らない。嘲笑う何かの声が聞こえる。或いは虐殺者の声が聞こえる、その影が揺れる。それに対してだけは、明確に抱く感情がある。恐れではない。純粋な怒りだ。刀を抜いて、吼えながら斬りかかる。殆ど反射的に振るった刃は、しかしてその何者かを斬るには至らない。太刀筋を変え、速度を上げる。これならば。これならばどうか。幾度も、幾度も、斬り付ける。刃に手応えはなく、空しく刃が空を切る音ばかりが響く。
 見据えろ。それがなんなのかを思い出せ。眼を懲らす。敵は無限に続く炎の中にいる。見定めろ。像が僅かに明瞭になっては、弛緩するように霧散し、嘲笑う声ばかりが強く響く。いつしか逃げて、と自分を案じる声すら聞こえなくなり、憎しみに支配されるよう、ネグルは刀の柄を軋むほどに握った。
「……何がおかしい、何がおかしいッ!! 貴様――ッ!!」
 目をこらすほど。思い出そうとするほどに。
 心の中で誰かが叫ぶ。
 
 ――そうだ、思い出せ。その敵を見つめろ。
 ――駄目だ、それを見てはいけない。踏み留まれ。

 叫ぶ声は、自分の声によく似ている。
 ネグルは、どうしていいのかわからなかった。何に従えばいいのか。自分は何者なのか。答えは、どこにもありはしない。真っ赤に燃える景色の中で、刃を振るえど捉えられぬ幻影と、狂うたように踊りながら。
 吼えながら振り下ろした幾度目かの刃が、微かな引っかかりを手応えとして残し、何かを切り裂く。ずん、と響く轟音に、ネグルは反射的に顔を上げた。真っ赤に燃えていたはずの周囲の景色は一瞬で白く揺蕩う濃霧に戻り、彼の目の前には、彼自身が刀によって袈裟懸けに斬った大輪の木のみがあった。
 ――真っ赤に燃えていた、おそらくはかつての自分が知っていたはずの景色。自分を案じていたであろう、誰かの哀切な声。
 そして、自分が憎むべきであろう何か。
「……ッ」
 ぐら、と揺れる意識に踏鞴を踏み、ネグルはよろめいた。辛うじてバランスを維持し、はああ、と息を吐く。
 コンディションは、決して良くはない。しかし、進まずここに蹲ることは出来ない。

 ネグル・ギュネスは猟兵だ。救われるのではなく、救う側なのだ。
 
 歯を食いしばり、彼は往く。かつての己を知らずとも、彼の刀は誰かを救うことが出来る。
 ならば、今はただ前に進むのみ。

成功 🔵​🔵​🔴​

リュシカ・シュテーイン
悪質ぅ、ですねぇ
夢現ではない苦痛の感覚も現実のこの世界からぁ、逃げることを他人が押し付ける権利は無いんですよぉ
……私はあの世界で認められることが無くてもぉ、必ず戻ってみせますからぁ

カンテラに用意してきた【爆炎の法石】を入れ前方の明かりを確保しますよぉ
まずは領主の元へと辿りつかないといけませんのでぇ、冷静に歩を進めましょうぅ

……わかっていますぅ、私が元の世界に戻ったところでぇ、この魔術が認められることは無い事はぁ
即時行使が出来ない魔術など二流以下の出来損ないぃ、何度も言われましたねぇ
でも落ちこぼれでもぉ、魔女として不出来だとしてもぉ、"私の世界"はあの世界ですのでぇ
……必ず、戻ってみせますから



●落ち零れの宝石箱
「悪質ぅ、ですねぇ」
 リュシカ・シュテーイン(StoneWitch・f00717)は、静かに道を往く。
 独りごちるのはこの霧を敷き、街を眠りに落とさんとする幻想術師に対する怒りである。
「夢現ではない苦痛の感覚も現実のこの世界からぁ、逃げることを他人が押し付ける権利は無いんですよぉ」
 たとえ、眠ってしまえば全て忘れられるのだとしても。そうして眠るままに死に沈み、安らかに生を終えることが出来るのだとしても。
 それは、選ぶことが出来るべきだとリュシカは考える。押しつけられた救済など、求めていない者には無用の長物だ。
「……私はあの世界で認められることが無くてもぉ、必ず戻ってみせますからぁ」
 常日頃、強かな商人としてUDCアースで法石を商うリュシカの口元が、堪えるように歪む。
 カンテラの内側の『爆炎の法石』が霧景色を照らし、彼女の道行きを支えている。
 転ばぬよう、慎重に歩みを進めるリュシカの耳に、幾度も聞いた罵声が聞こえてくる。リュシカは、下唇を噛みしめ、前に進んでいく。

 ――失望する、その程度の魔術、一工程での即時起動が出来ずしてなんとする。

 ――足りぬなあ、それでは。二流を名乗ることすら烏滸がましい。

 ――出来損ないに注ぐ時間はない。どこへなりとでも失せるがいい、半人前め。

(……わかっていますぅ、私が元の世界に戻ったところでぇ、この魔術が認められることは無い事はぁ)
 あの頃よりも、ずっとこの魔術は磨き上げられた。
『法石』。彼女が魔術を刻むことで魔術的な触媒と化したる貴金属。これをスリングで撃ち出すことで、リュシカ・シュテーインはその狙撃能力を十二分に活かし、超遠距離から連続して敵を魔術で猛撃することが出来る。
(そんなことはぁ、私が……誰よりもぉ)
 その技能が、技巧が、如何に優れていようとも。
 霧に映し出され、今も彼女に罵声を浴びせる、いつか共にいた人々は――この技を認めてくれることなどないのであろう、と。リュシカは知っていた。
 だけど、それでも。
「知ってますぅ。でも落ちこぼれでもぉ、魔女として不出来だとしてもぉ」
 リュシカは引き結んだ唇を、滲んだ血でかすれさせながら、前だけを見て歩き続ける。
「“私の世界”はあの世界ですのでぇ。……必ず、いつか必ず、戻ってみせますから」
 決然と言い、カンテラを前に突き出して歩く。
 ――いつしか、霧は薄れ、晴れていく。否、晴れたのではなく――抜けたのだ。
 開けた視界。リュシカの前に、任務の舞台となる街が広がっていた。
 
 リュシカは霧を一度だけ振り返る。ただ一度だけ。
 胸に手を当て、歩き出す。それきり、二度と振り返らなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 冒険 『門を突破せよ!』

POW   :    騒ぎを起こしてどさくさ紛れに通り抜ける。

SPD   :    門番に気付かれないように隠れて通り抜ける。

WIZ   :    関係者になりすまして通り抜ける。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●眠りという死に沈む街
 霧を無事に抜けた猟兵らは、互いの無事を確認し合い、街を覆う石垣を越えた。
 一直線に駆けゆくは、丘の上にある領主の家である。
 街の外壁とは異なり、領主の家を覆う壁は高く、厚い。単純に破壊して越えれば、おそらく、音の出本に多くの衛士の到来を招くだろう。
 静かに越えようとも多くの衛士が、眼を皿にして夜闇を見つめている事には変わりはない。
 出来るならば、数人でもいい。気取られず、衛士にかかずらうことなく館内に入り――
 領主の部屋を目指さなくてはならない。
 
 猟兵らは、闇の中で息を潜めて作戦を練った。
 そして、奔る。
小日向・いすゞ
【終わったら焼肉】
さてこの壁をどう超えたモンっスかね…

あっ
ヤッター、えちかセンセがいれば百人力っス
エッ
おぶしだんセンセは…
えっと応援してて

えちかセンセの箒に乗って
狐変身で連れて行って貰うっス
ハイハーイアリガトっスよ~

多少兵は集まってくるかもしれないっスけれど
エチカセンセが見つかっていないなら狐のフリ
あっしそのものが誘惑の塊っス
一瞬狐解除、やるっス相棒
剣で斬り、武器を無効化して貰い
導眠符をペタペタ
少し眠って貰うっス

人姿は多くないほうが見つかりにくいと思うっスし…
後は剣を背負って狐で走るっスよ
こっそりひっそり
狐の肉球は足跡を消して、衝撃を緩和するんスよ

今忙しいから
相棒は黙って応援してて欲しいっス


鴛海・エチカ
【終わったら焼肉】

ふむ。お主ら、困っておるとみた
星海の魔女こと、このチカに任せるが良いぞ

剣状態のオブシダンと狐姿のいすゞを腕にぎゅっと抱え
『チェシュカの箒星』で浮遊し、空から突破じゃ
隙を見計らい、闇に紛れて目立たぬようさっと塀を越える

ふゃあ、疲れた。箒で飛ぶのも魔力がいるからのう
後はいすゞに任せたぞ、と一息
首魁は往々にして最奥に控えておるものじゃ
静かに内部を進みつつ閉まった扉には鍵開けでぴぴーん、じゃ

番兵が多いなら保険として『エレクトロレギオン』を
我らが向かう方とは別方向へ放ち、物音を立たせ時間稼ぎを試みようぞ

霧などいつかは晴れるものじゃ
それに醒めぬ眠りなどない
何より、我らが来たからにはのう!


オブシダン・ソード
【終わったら焼肉】
(真の姿、剣の姿のまま)

やあ、エチカも抜けてこられたようだね
手を組めるなら助かる。それじゃ相棒ともども、屋敷へ潜入しようか

邪魔な壁くらい僕が斬っ
あ、運んでくれるの? それじゃよろしくー
ちゃんと応援くらいはするよ。がんばれがんばれー(鼓舞)

衛士に邪魔されるなら僕が斬っ
あっ、眠らせる? そうだねオブリビオンと関係ない人かも知れないもんね…無力化にとどめよう
あとはよろしく相棒
がんばれがんばれー(鼓舞)

扉が開かないなら僕が斬っ
鍵開け…? うん…がんばれ…
無理なら僕が鍵だけ斬って…あげるから…

隠密時は大人しく雑談する

ねえ、何か不完全燃焼なんだけど?
僕も役に立ちたいなあ
聞いてる? ねえ?



●〆はカルビクッパで
「……さてこの壁をどう超えたモンっスかね……」
 高い壁。空でも飛べれば難なく越えられたろうが、小日向・いすゞ(妖狐の陰陽師・f09058)の背中には、残念ながら翼は生えていない。彼女の手の中で、黒耀石の剣……が光った。
“斬ろうか? いすゞ。こんな邪魔な壁くらい訳もない”
 オブシダン・ソード(黒耀石の剣・f00250)である。物騒なことをのたまう相棒に、なんと答えたものかいすゞが逡巡していると、後ろから華やいだ声が掛かった。
「ふむ。お主ら、困っておるとみた。この夜中に壁を崩す相談をするほどには」
 いすゞが振り向くと、そこにはミルク色の髪をした魔女がいる。鴛海・エチカ(ユークリッド・f02721)だ。
「えちかセンセ!」
“僕は大真面目だよ。やあ、エチカも抜けてこられたようだね、無事で何より”
 声をパッと明るくするいすゞ、平素と同じ調子で受け答えするオブシダン。
「お主らもな。あまり愉快な道行きではなかったが、抜けてしまえばお仕舞い、じゃ」
 互いに、何を見たのか彼らは聞かなかった。霧の話をすれば思い出さないでもなかったが、それを断ち切るようにぽん、と音低くいすゞが手を叩く。
「さすが! ヤッター、えちかセンセがいれば百人力っス!」
“手を組めるなら助かる。それじゃ相棒ともども、屋敷へ潜入しようか”
「ふふふ、良かろう。星海の魔女こと、このチカに任せるが良いぞ!」
 エチカは小さな身体を反らし得意げに言う。童女にしか見えぬエチカであったが、その実彼女もまた優秀な猟兵である。
“よし、じゃあ早速壁を斬ろうか”
「話を聞いておったかお主」
「おぶしだんセンセ、ちょっと応援してて」
“はい”
 厳しい。
 女子二人から突き刺さる容赦のないツッコミ。
「そうじゃの……では、いすゞや。狐に化けてくれるかの。オブシダンはそのままでよい」
 エチカは手に持つ箒型ガジェット――『チェシュカの箒星』を示す。魔導蒸気と魔力で空を飛ぶ魔女の箒だ。
「ハイハーイ、アリガトっスよ~」
 手に提げたオブシダンをひょいとエチカに渡して、いすゞは一度くるりと身を翻す。コン、と鳴き声一つ、彼女は瞬き一つの間に狐に化けた。ぴょいと飛び上がり、エチカの胸に飛び込む。
“あ、運んでくれるの? なるほど、そういう手筈か。それじゃよろしく。がんばれがんばれー”
「気が抜けるのう……」
 とはいえ高い鼓舞の力を有するこの黒耀石の剣の『声』には力が宿る。心なしか魔力の巡りがよくなり、複雑な顔をするエチカ。オブシダンといすゞを抱えたまま、彼女は箒星に跨がり、ふわりと地面を蹴り離した。
 ダークセイヴァーの蒼い月の下、星海の魔女が飛ぶ。いつものように軽快に、というわけにはいかない。オブシダンといすゞを抱えた分の重量増は馬鹿にならない。しかしオブシダンの鼓舞と、二人共が質量を減らす工夫をした事で、エチカの箒は辛うじて高い壁の上端に至った。月に雲がかかり闇に閉ざされる時を狙って壁を越え、速やかに高度を下げる。ふわり、地面に降り立って、エチカはいすゞを地面に降ろした。
「ふゃあ、疲れた。箒で飛ぶのも魔力がいるからのう。後はいすゞに任せたぞ」
「コン」
“疲れついでにもう一つ頼みたい。相棒の背に括ってくれないか”
「腕が疲れなくて万歳じゃが。潰れないかの?」
「コンコン」
“平気だそうだよ”
 通じるのか。エチカはいまいち釈然としない顔で、指示通りにオブシダンをいすゞの背中に括る。
 いすゞは数歩その場でくるくると周り、紐の調子を確かめてからエチカを一瞥。促すように歩き出す。エチカも息を潜め、それに続いた。

 いすゞの足音はひたすらに小さい。それは彼女が四足歩行によって体重を分散し、なおかつ肉球による衝撃緩和をしているからだ。狐とは本来狩猟動物である。隠密に行動し獲物を捕らえる生態となれば、それも頷けようもの。
 それに姿勢を低くしてこそこそついていくエチカ。忍び足の時ってなんかちょっと前のめりになるよね。そしていすゞの背中のオブシダン。
“相棒、衛士とかはいないかな? 邪魔されるようなら僕が斬っ”
「ココン!」
“あっ、眠らせる? そうだねオブリビオンと関係ない人かも知れないもんね……無力化に留めようね……”
「お主らなんでそれで会話が通じるのじゃ?」
「……そこで何をしている!」
「!」
 突然の怒声にエチカが身を竦めたときには、狐は走り出していた。身体を波打たせながら前進、ふわりと跳ねたその次の瞬間、狐は今一度、小日向・いすゞの姿を取る。忍び顔負けの手さばきで背からオブシダンを引き抜き、斬!
「は……???」
 振り抜いた剣閃は一瞬にして衛士が持つ槍を四つに分かつ。コロコロと転がる先程まで槍だった部分といすゞの間で、衛士の視線が往復する。いすゞはまるで人を欺き陥れる狐のように笑うと、その額にぺたんと『導眠符』を貼った。
「へゃ」
 奇妙な声を最後に頽れる衛士の身体を軽く受け止め、藪の陰まで引っ張って、一仕事終えた顔をするいすゞ。
「いい仕事じゃの」
「へへへえ、恐悦至極っス。……このまま本館まで行けるといいっスけど」
 賞賛の言葉を得意げに受け止めつつ、いすゞは背にオブシダンを納めながら、笑ってもう一度狐に化けた。なるべく人の少ない経路を辿り、本館に取り付く狙いである。
 再び踏み出すいすゞの後ろに、エチカが足音を潜めて続いた。
“……”
 オブシダンは、沈黙を保った。言いたいことがあるんだけど何とか呑み込んだ。そんな感じで。

 幸いにも、追加でもう一名の衛士を眠らせるだけで、一行は館の裏口にたどり着いた。
 最後の障害はその錠前。見るからに堅牢なその錠前を前に、
“そうだねそうとも、鍵が掛かってないわけがないね、館の防御が人だけだなんてあり得ない。任せて欲しい、扉が開かないなら僕が斬っ”ガチャカチャカチャッピピーン。
「ほれ、開いたぞ」
「ヤッター! 流石えちかセンセ! 頼りになる!」
 鴛海・エチカは鍵開けもできる。(イエーガーデータベースより)
 無邪気にぴょんぴょん跳ねて喜ぶいすゞ。その背中でぶらんぶらんゆれるオブシダン。
「この程度、猟兵として当然の嗜みじゃよ」
“……その、気になってることがあるんだ、二人とも。というか不完全燃焼なんだけど。僕ももうちょっと役に立ちたいんだけど”
「――霧などいつかは晴れるものじゃ。それに醒めぬ眠りなどない――」
“聞いてる? ねえ?”
「今いいところだから相棒は黙って応援してて欲しいっス」
“……はい”
「何より、我らが来たからにはのう!」
 キメるエチカ。あんまりうるさく出来ないのでやんややんやとジェスチャーで賑わすいすゞ。
 オブシダンの嘆きは、宵闇に静かに呑み込まれた。剣だしジェスチャーも取れないのであった。悲しいことに。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ネグル・ギュネス
「舐めた真似をしてくれたものだ。
オトシマエは、キッチリつけてやる。」

幻を見せた怒りは、最高潮。
されど冷静に、今は。

他の仲間に合流したならば、自らが出来ることを伝えよう
そして斥候を立候補する。

隠れて通り抜ける策を取る。
闇の中でも、【暗視】で様子を伺える
【迷彩】で周囲の景色に溶け込み、隙を見て【ダッシュ】で通り抜ける


索敵、斥候はお手の物だ
仲間にサインを送り、安全を知らせる役割を担おう

仮に鍵がかかった扉があっても、【鍵開け】はお手の物だ

全ては、あのクソッタレな幻を見せたヤツを叩き潰す為にだ

他仲間と協力歓迎
兎に角潜り抜け、部屋を目指すことを最優先とする


メア・ソゥムヌュクスス
人がいっぱいだね、これに気付かれずはちょーと難しいかもー?

だから、敢えて堂々と行くよー。壊す必要も隠れる必要もない。でも、誰にも騒がなかったらいいんだよねー。じゃあ、全員眠らせちゃえば解決だよねー。

「ああ、騒ぎなんて起きてないよ。
いつもどおり変わらないよ。だから、ちょっと居眠りしても大丈夫。起きたら全部終わってるよ、いつもどおりの明日が来るよ。

おやすみなさい、また明日。」
(【催眠術】を乗せた【歌唱】と、眠りを誘う【夢見の鐘】を鳴らし、ユーベルコードも使用し、周囲の衛士を昏睡させながら悠然と領主の家に向かう)

さぁ、夢に誘うモノ、私とおんなじカタチを持つモノに会いに行こうか。



●眠りの音色
「つくづく不快だ」
 ネグル・ギュネス(ロスト・オブ・パストデイズ・f00099)は唸るように呟く。町中を駆け抜ける間も彼の心は一向に晴れなかった。見た幻は重く、心に淀んで影を落とす。
「舐めた真似をしてくれたものだ。オトシマエは、キッチリつけてやる」
「気合が入っているのはいいけどねー、あまり力むと足下を掬われるよ」
 それに横手で窘めるような言葉をかけるのはメア・ソゥムヌュクスス(夢見の羊・f00334)である。偶然にも進む道行きが重なった二人は、侵入経路を協議しながら屋敷の周りを一周した。
「私はもう、正面からでいいかなと思ってるけど。見張りの数を見た感じ、気付かれず行くのはちょっと難しいかもだからね」
「正面から……何か策があるのか?」
「夢を扱うんだよね、少しだけど。――どうせ気付かれずに行くのが難しいなら、敢えて堂々と行くよー。壊す必要も隠れる必要もない。要は誰も騒がなかったらいいんだよねー。じゃあ、全員眠らせちゃえば解決だよねー」
 メアは薄く笑い、自身の力を語る。彼女は魔眼によって人を眠りに誘う。『眠り誘う月夜の魔眼』が彼女の両目にはある。視界に捉えた相手を一時的に催眠状態に陥れ、行動を封じるユーベルコードだ。
 能力を聞いた後、ネグルはしばし考えるように目を伏せる。
「……その場合、君の言うとおり、私達は遭遇する相手を全て眠らせることになる。しかし連絡が途絶えれば、屋敷の中から増援が出てこないとも限らない。それらを眠らせるためだけに見張って留まるというわけにも、やはり行かない」
 催眠の持続時間。催眠の成功率。万一騒ぎが大きくなった場合の、他の潜入メンバーへの影響。なるほど、メア一人で通り抜けるだけならば、催眠が全て成功すると仮定すればそれで問題はないはずだ。しかし、眠りこけて連絡がないとなれば他の衛士も不自然に思って現場を調べに来るだろう。
 ネグルは幻を見たときの怒りを胸にしたままであったが、しかし冷静であった。
「私は索敵と斥候の心得がある。迷彩や解錠についてもだ。その魔眼は要所の突破のみに使って、道を選ぶことで回避できる接敵は避けるということでどうだろうか」
 ネグルは理知的な口調で説明する。そうすることが他の仲間の役にも立つとあれば、ネアにも否やはなかった。
「そういうことなら、そうしようか。……入口は多分、斥候の技術じゃ抜けられないよねー?」
「出来ると言いたいところだがね。……お手並み拝見と行こう」
 ゆるりと返すネグルの言葉に、メアはハンドベル――『夢見の鐘』をちりりと鳴らし、唇の端を釣り上げた。

「そこの二人、止まれ。この深夜に何用か」
 屋敷の裏口には衛視が二人。門の前で槍を交差させ、行く手を阻む。
 メアは彼らの前に一歩進み出た。ベルを手挟んだ白い手を差し向けた。
「私達は眠りを覚ましに来たのさ。まあ、君たちにはほんの少し眠って貰うけど。――大丈夫だよ。何も怖い事なんてない」
 身構える衛士達の前でメアは息継ぎを一つ。ハンドベルを鳴らし、降り落ちる夜の帳そのもののような声で歌った。
「ああ、騒ぎなんて起きてないよ。いつもどおり変わらないよ。だから、ちょっと居眠りしても大丈夫。起きたら全部終わってるよ、いつもどおりの明日が来るよ」
「……なんだ、きさま、」
「……っく……、瞼が……」
 メアは、ハンドベルを鳴らしながら夜を歌い、夢を囁く。
「抗わなくていいんだよ。おやすみなさい、また明日」
 ――リン。
 ベルが動きを止めたとき、二人の衛士は地面に沈むように倒れ、寝息を立て出す。
「お見事」
「で、解錠は任せていいんだったよね?」
「無論だ。……まあ、ここはそうするまでもないが」
 ネグルは眠りに落ちた衛士の懐を探り、鍵束から鍵を拝借して、裏門の鍵を開けた。衛士の懐に鍵束を戻し、メアと共に中へ入って再び鍵を閉める。
「一度眠ったあとの持続時間は?」
「人それぞれって事になるけど、あの分だと朝まで眠ってるんじゃないかな。きっとね」
「そうか。……門は閉めた。誰かが見に来たとしても、衛士二人が居眠りしている他に特に異常はない。正門ほど頻繁に連絡も取らないだろう、時間は稼げる筈だ。今の内に急ごう」
「わかった。――じゃあ、私とおんなじカタチを持つモノに会いに行こうか」
 ネグルは頷き、闇の中に目を凝らす。
 その眼には今以て燃える怒りの炎。全ては、あの幻を見せたモノに応報せんがため。

 二人の猟兵は、闇を縫って駆ける。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

リュシカ・シュテーイン
鳴宮さん(f01612)とぉ、合流しますよぉ

ここからはぁ、鳴宮さんの侵入を手助けするために私は敵の誘導をしますよぉ
ここで取り出しますはぁ、爆破の法石ぃ
爆破は私の得意魔術ですので魔力量ルーンの描き方描く位置で爆発の熱量や衝撃の大きさなどなど組み合わせることがでぇ……あぁ、まだ終わってないですよぉ

仕方ありませんねぇ、ここからはマジメにぃ……
まずは私の【視力】でぇ、警備の薄そうな箇所を調べ鳴宮さんにお教えしましょぉ
その後ぉ、爆竹程度の威力にした法石を【スナイパー】を用いてぇ、館より離れた場所からぁ、門番の死角になるようスリングで打ち上げぇ、空中で爆破して視線誘導としますよぉ

……後はお願いしますよぉ


鳴宮・匡
リュシカねーさん(f00717)と合流


適材適所だ、手分けして行こう
……その前に、
「よし、ねーさん、あとでな。あとで聞くから」
セールストークを半分強引に切り上げて手筈を打ち合わせよう
ほっといたら幾らでも喋ってそうだ……

一先ず周辺の下調べから
邸側から見咎められないように気を配りつつ
侵入に易そうな地形や隠れるに適した場所を割り出しておく
ねーさんの視覚情報と照らし合わせ潜伏場所及び侵入ルートを選定
……そんじゃ、誘導頼むぜ

見咎められないように【迷彩】しつつ潜伏
【聞き耳】で状況把握に努め
誘導弾へ番兵の気が向いたら
予め選定しておいたルートで潜入
【迷彩】をできるだけ保ちつつ【忍び足】
【目立たない】よう心掛ける



●イントルーダー
 鳴宮・匡(凪の海・f01612)とリュシカ・シュテーイン(StoneWitch・f00717)が合流したのは、屋敷外壁から少々離れた藪の中であった。
 互いの無事を確認し合った後に、簡単に作戦の打ち合わせをする。あの濃霧をそれぞれが無事に越えてこられたならば、ここは連携して動くのが最適解であろう事は疑いない。
「俺は突入、ねーさんは援護ってことで、適材適所だな」
「そうですねぇ、ここからはぁ、鳴宮さんの動きの助けになれるよう尽力しますよぉ。……というわけで早速ぅ」
 ごそごそごそ、とリュシカは腰の雑嚢を漁る。
「爆破の法石ぃ~」
 秘密道具を出すように取り出されたそれ。生憎匡は全くさっぱりこれっぽっちもと言っていいほどマジック・アイテムに縁がない。彼は戦場傭兵。魔術だの魔法だのは専門外だ。
「……えーと。それで、どうすんの?」
「爆破は私の得意魔術ですので魔力量、ルーンの描き方、描く位置で爆発の熱量や衝撃の大きさなどなど組み合わせることができますぅ更にスリングで遠方に投射して任意の位置で炸裂させることで花火みたいに使うことも出来ますし爆発の衝撃の大きさを大きくすればそう、鳴宮さんの言うところの榴弾砲? みたいに使用することもできますとにかく応用範囲が広くてお得な私の得意法石の一つで」
「よし、ねーさん、あとでな。あとで聞くから」
 これ下手な曲のイントロよりずっと長えわ。どうどう、と宥める匡。
「あぁ、まだ終わってないですよぉっ」
 不満げに唇を尖らせるリュシカであったが、さりとて時間に余裕がないのもまた事実である。ぷう、と拗ねながらリュシカはスリングを持ち上げた。
「……言ったとおり、任意のタイミングで爆破できるのでぇ、物音を遠くで立てて警備が手薄になった隙に、鳴宮さんに侵入をお願いしようかとぉ」
「よしきた。得意分野だ。……エントリーポイントを決めよう」
 二人は頷き合い、藪を静かに出て、周囲の偵察を開始した。

 数分で、手分けして集めた情報を共有する。
 リュシカは木に登り、完全とは言えないまでも屋敷を俯瞰して、警備の厚いポイントを探り出した。匡は地形と、やり過ごすための隠れ場所を調査し、互いの情報を摺り合わせて精度の高いものへ変える。
 おおよその情報でいい。今は速さの方が大事だ。打ち合わせを済ませ、匡はアサルトライフルのスリングを確かめ直す。
「じゃあ、行くよ、ねーさん。誘導頼むぜ」
「お任せをぉ」
 匡が軽く突き出す拳に、リュシカも応じるようにやわやわな拳をぶつける。小さな音。
 それが、始まりの合図でもある。

 リュシカは屋敷を離れ、先程の木よりも高く、遠い木の上に身を隠した。まだ葉は茂っており、身を隠すのに丁度良い。爆破の法石を雑嚢から取りだし、五指に手挟むように持つ。
 まずは一発。それを合図に匡が動き出す。
 あとは相手の警戒を引くよう、
 最初の一発から、次の射撃までは三つ数える。匡との取り決めを忠実に守りつつ、リュシカは狙撃手としてその役割を忠実に履行した。
 その狙撃は、絶技の一言である。
 爆破の法石は彼女が爆破するまで爆発しない。それをいいことに、夜闇に紛れ無数の法石が投射される。ある一発は衛士の殆ど真横で炸裂し彼を大層驚かせ、またある数発は詰め所の裏手で炸裂しそちらに人手を集中させる。
 警戒がそぞろになった隙間を縫い、匡が駆ける。ルート選定は済ませてある。そのルートから警戒をもぎ離すのがリュシカの狙撃である。匡はフードとフェイスマスクを被り直し、夜間迷彩を施した服装のまま夜闇を縫った。

「……後はお願いしますよぉ」
 遠い、リュシカの呟きは匡には届かなかったが――勝手口に取り付いた匡が、親指を高く上げるのだけは見えて。
 リュシカは、遠い木の上で微かに微笑んだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

コーディリア・アレキサンダ
……まったく
懐かしいものを思い出させてくれたお陰で、少し気持ちが引き締まったよ
悪魔は悪魔らしく、冷淡に目的を果たさせてもらう

ありがとう――ああ、直接伝えないと意味がないかな?
《騒ぎ、翔けるもの》を使用
手元に魔法の箒――悪魔『ワイルドスピード』を召喚
さあ、感謝を直接伝えに行かせてもらおうか?

箒に跨り、闇の空へ
一般的な魔女――ボクの服装は黒。夜に溶けるもの
闇に包まれた上空を飛んでいけば、見分けも簡単ではないだろう?
よほど目がよく無ければね

領主の部屋――というぐらいだし、上のほうにあるのかな
一先ず屋根にとりついて……そこから入れる場所を探そうか



●魔女は全てを俯瞰する
 奇異の視線。恐怖の目。
 昨日まであった全てのものが、自分から離れていく感覚。
 喪失の実感。二度と帰らない日常。
「……まったく、懐かしいものを思い出させてくれたお陰で、少し気持ちが引き締まったよ。悪魔は悪魔らしく、冷淡に目的を果たさせてもらう」
 悪魔は――コーディリア・アレキサンダ(亡国の魔女・f00037)は尖った語調で独りごちると、指をくるりと翻す。招来されるは『騒ぎ、翔けるもの』。箒の形をしたその悪魔に跨がり、彼女は抵抗なく浮上する。
 エチカに然り、コーディリアに然り。古今東西、魔女というのは箒で飛ぶのが相場である。
 コーディリアは不遜に笑うと、空に駆け上がるように箒を駆った。楽々と高い壁を越え、更に夜空に飛ぶ。地上からは、その服装の色味の暗さも相俟って、殆ど見えることはあるまい。よほど目がいい連中が地上に集まっていたなら話は違うし、万が一、浮かぶ月をバックに注視されるようなことがあれば別だが――
 そこまでコーディリアが内心で独白した瞬間に、騒ぎが起きる。
 無数の破裂音が連なり、蜂の巣を叩いたように地上は喧噪に包まれた。
「……騒がしくしてるね。好都合だけど」
 下ではまさに絶賛、乱痴気騒ぎが開催中。魔力のこもった弾体がいくつも投射され、それが衛士らの注意を奪う形で連続して炸裂している。同じ猟兵の仕業だろう、というのは一目でわかった。……そして地上を走る、明らかに衛士達とは異質な一つの影。
(――匡も無事着いてたみたいだね)
 知己の姿を認めて少しだけ表情を緩めながら、コーディリアは高度を下げつつ、鋭角的な軌道で飛んだ。まずは屋根の上に取り付き、周囲を見渡す。出窓をいくつか発見し、そこに向かった。簡単な鍵ならば、応力魔術を内部に作用させることで鍵を――封印を解くことが出来る。
「――さあ、感謝を直接伝えに行かせてもらおうか」
 窓の一つから建物内部に身を躍らせる。
 感謝を伝えに行くには、些か彼女の声は尖りすぎていたけど。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『幻想術師『パラノロイド・トロイメナイト』』

POW   :    記録■■番:対象は言語能力を失った。
【夢幻の眠りを齎す蝶の幻影 】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD   :    記録■■番:対象の肉体は既に原型を留めていない。
完全な脱力状態でユーベルコードを受けると、それを無効化して【数多の幻想が囚われた鳥籠 】から排出する。失敗すると被害は2倍。
WIZ   :    記録〓編集済〓番:〓編集済〓
対象のユーベルコードに対し【幻惑し迷いを齎す蝶の群れ 】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠鶴飼・百六です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●ただまどろみだけが、全てを救うと思っていた
 この世に救いなどない。
 誰しもを助ける事は出来はしない。死んだ方がましだと泣きながら、苦しみ、ヴァンパイア達の愉悦の許で死んでいく人間達を見た。無数に見た。ヴァンパイアらは喜悦と愉悦を以て、人間を殺す。いずれ意思持つ人間が一人もいなくなるまで、あの享楽は続くだろう。

 ああ、ああ、
 救わなければ。
 私に出来るやり方で。
 出来るならば苦しまぬよう。
 最後は全て死んでしまうのならば、もう苦しまなくていい。

 眠りに落ちて、ただただ深く、
 私の呪いに抱かれて沈めばいい。
 ――そうすれば、もう、なにも恐れなくていいのだから。

 館のもっとも奥の居室。
 ベッドには痩せこけ、死を待つばかりの領主が眠っている。
 突入した猟兵らは、各々の武器を構えた。
 幻想術師『パラノロイド・トロイメナイト』が、流線型の体躯をきゅるり、捻って猟兵らに向ける。
“生は苦しみと、君たちは思わないか。私はこの町に安息を捧げたい”
 慨嘆げな声は、それを正義と信じ切っている者、特有のものだ。
“ヴァンパイアの畑にならぬよう、この街を霧で閉じた。安息から逃げ、森で死ぬ自由は残した。私は間違った事をしているだろうか? 皆、平穏に眠っている”
 なぜ、その平穏を乱すのか。
 なぜ、お前達にはそれがわからないのか。
 なぜ……。
“最後だ。解るのならば、去ってくれ、死神よ。君たちでは、この街の民を救えない”

 幻想術師は戦闘態勢に入る。
 最早、説得して通じる事もあるまい。

 思いを尽くし、貫け。猟兵達よ!
レイラ・ツェレンスカヤ
生は苦しみ! その通りかしら!
苦しんで苦しんで苦しみ抜いて無様に生きる!
だからこそ生きることは素晴らしいのだわ!
退屈な平穏を与えるあなたとは、趣味があわなそうかしら!

あなたも夢の中にいるのかしら!
レイラの大砲があなたの目を覚ましてあげるのだわ!
大きくて、鋭くて、とっても紅いのだわ!
退屈な夢を終わらせて、辛くて苦しい生に、みんなを帰すかしら!

レイラは眠くなったらお腹に槍を刺して目を覚ますかしら!
眠くなるたび、眠くなくなるまで、何度でも!
うふふ、うふふふ!
とっても痛いのだわ!
だってレイラは生きているんだもの!


ネグル・ギュネス


───ざけンなよ、テメェ。

表情は鉄仮面のように変えないまま、激昂
髪を黒く染め上げ、左眼を黄金に光らせる。
これが、真の姿だ

されど冷徹なまでに見定める
味方と敵傾向を【戦闘知識】で見定め、確実に殺せるように動く

【POW】で潰す
敵の幻影の蝶は、武器:桜花幻影で【衝撃波】を放ち【薙ぎ払い】で消しとばす
残っても【見切り】、【残像】でいなし、【ダッシュ】で詰める

そしてユーベルコード:剣刃一閃で叩き斬る

周りが怯えようが、ドン引こうが構うものか
コイツは、私の/俺の!!
触れてはいけない領域に踏み込んだ!

絶対生かして帰すものか!!

※他者絡み、歓迎



●怒れる嵐と狂乱の突杭
 振り向いた幻想術師に、まずはスカートをつまみ、脚を交差して優雅に一礼。
「生は苦しみ! その通りかしら!」
 レイラ・ツェレンスカヤ(スラートキーカンタレラ・f00758)は愛くるしい、人形のような顔を笑みに歪め、幻想術師の言葉を肯定する。
“ならば”
 ここは退いてくれるのかと、幻想術師が言う前にレイラは首を左右に振った。豊かな銀髪が揺れる。
「苦しんで苦しんで苦しみ抜いて無様に生きる! だからこそ生きることは素晴らしいのだわ! 退屈な平穏を与えるあなたとは、趣味があわなそうかしら!」
“理解出来ない。苦しみを何故是とするのか。安らぎに向かい人間は旅をしていくはずだ。この世はそうするには、昏すぎる”
「だから、死ぬまで眠らせるのか。街を一つ、その勝手な慈悲に巻き込んで、──ざけンなよ、テメェ」
 レイラの横に進み出るのはネグル・ギュネス(ロスト・オブ・パストデイズ・f00099)。彼の髪が、まるで憎悪がそこに顕れたかのように黒く染まり、左眼が金色に煌めく。怒気と共に真の姿を露わにしたネグルを前にしてさえ、幻想術師は声を揺らがせない。
“ならば、君たちはこの街の民をどう救う。遍く吸血鬼共が、数限りなく領土と愉悦を求め、至る所にひしめいている。その全てを打ち払おうとでも言うのか。この街を覆う霧はそれらからこの街を守ってもいる。それを――”
「あなたも夢の中にいるのかしら! なんだか話が通じていないのだわ! レイラはレイラの話をしたのだわ! 無様に苦しみ抜いてのたうち回る人間達が可愛くて可愛くて大好きかしら! それを眠らせて退屈なものにするのは、許さないのだわ!」
 レイラはもう、幻想術師の言葉を聞く気はなかった。そもそも、説き伏せなければならない謂われはない。ネグルに先んじて飛び込む。
“対話すら拒むか、死神らよ”
 嘆くような幻想術師の声。
 彼は両腕に該当する部分を左右に広げ、ざあああ、と無数の蝶の幻影を展開する。旋風に花弁が散る如く、羽ばたき舞う幻睡蝶の群を掻い潜り、レイラは近接戦闘を選んだ。
 しかし、やはり数が多い。間近へ接敵する過程で、二匹、三匹と蝶がその身体に吸い込まれる。一瞬、バランスを崩すレイラ。
「喰らい続けるな、少し下がれ!」
 援護するよう、ネグルは太刀『桜花幻影』を振るい、衝撃波を発した。レイラへ殺到する蝶を薙ぎ払い、舞う蝶の間隙を縫って駆け抜ける。彼もまた、敵へと迫る。怒ってはいるが、敵と味方の挙動を正しく読んだクレバーな動き。
 レイラはよろめき、動きを止めかけたが――不意に彼女は楽しげに肩を震わせ、顔を上げる。口の端から血が流れるのを、指で紅のように引いた。
「うふふ、うふふふ! とっても痛いのだわ! だってレイラは生きているんだもの!」
“なんと――”
 レイラは真っ赤に染まった槍を、自分の腹から引き抜いた。腹を穿ち、眠気を飛ばし、再び敵に向かう。それは最早精神が強靱であると言うよりも、異常であると言い切った方がしっくりとくる。瞠目し、その異様に気を取られた幻想術師の真横から声が飛んだ。ネグルだ。
「端から対話なんてする気がねぇンだよ。霧が晴れたらここにヴァンパイアが来る? ならそいつらも俺達が倒すだけだ。変わらねぇ、なにも。何度だってやってやる」
 またも太刀から放たれる衝撃波。調度が切り裂かれ、樫の木のテーブルが弾け、室内のありとあらゆるものを剣風で薙ぎ倒す様は怒れる嵐も斯くやという有様。幻睡蝶を切り払いつづけ、群の密度の低いところを掻い潜り、駆け抜け、跳び越え、至近まで迫る。
「――いいか。テメェは俺の――」
 そして、私の、
「触れちゃならねぇ領域に踏み込んだッ!!! 絶対にここで殺す、生かして帰さねぇ!!」
 普段の理性的な言動とは裏腹、ネグルの言葉は苛烈そのものだ。その気勢と語勢を嘲笑うか、愛おしむかのようにレイラは流れ出る鮮血を指先であやす。
「レイラの大砲があなたの目を覚ましてあげるのだわ! 大きくて、鋭くて、とっても紅いのだわ!」
 同時にユーベルコード『волшебство・пушка』を発動。彼女の右手を鮮血が這い上り、『大砲』の名の通りのサイズの血の杭を成す。
 レイラとネグルは、殆ど同時に突っ込んだ。
 一瞬ネグルが早い。『剣刃一閃』、振るった『桜花幻影』の刃が過たず幻想術師の右腕を飛ばす。
 そのまま駆け抜けるネグル。まさに交差するような軌道で、直後に正面からレイラが血の杭を繰り出した。
 胴に叩き込まれた血の杭が、パイルバンカーの如き初速で伸長し、幻想術師の身体を貫く。蒼い体液が飛沫を上げる。
“ぐ、ゥ……!”
「退屈な夢を終わらせて、辛くて苦しい生に、みんなを帰すかしら!」
「ああ。夢を見るのは、コイツの方だ。――悪夢だがな」
 飛び退き下がる幻想術師に、二人は己が獲物を振り向けた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

リネット・ルゥセーブル

ああ、そうだ。
わたしにこの街の民は救えない。
安らかな日々を与えるには程遠い。

……だから、きっとこれは、
君を否定せずにはいられない、わたしの僻みなんだ。

それでも、あえて言おう。

平穏だろうと何だろうと、自分で手に入れたものじゃないとどうせ大事に出来やしない。
だから、私は君の平穏を否定する。

【呪詛】弾での攻撃を仕掛けるが、読み負ける訳にはいかない。
最初は敢えて弾速を抑え、また当たりに行かないと当たらないような弾道で放つ。
油断した所で最高速で当てに行き、体力を削りにかかる。
一度当たれば【フェイント】も交え、常に力ませた状態を作り出すことを狙おう。

自覚すべきだ。既に君の望みは呪いに変わり果てている。



●朝日も差さぬ朝のために
 幻想術師は、肉体をぐにゅりと塑性変形し、胸に空いた大穴を埋める。ぞるん、と腕が生え、一見してノーダメージの状態に戻る。今度は言葉もなく、幻想術師は大量の蝶の幻影を放った。それこそ、部屋の中を埋める勢いでだ。
 巻き込まれぬよう素早く下がるネグルとレイラの後ろで、リネット・ルゥセーブル(黒ずきん・f10055)は二指を揃え、前に突き出す。
「ああ、そうだ。わたしにこの街の民は救えない。安らかな日々を与えるには程遠い」
“ならば、何故。何故私の眠りを否定するのだ。救う策もなく、この眠りから哀れな羊たちを覚まし。いつか来る捕食者達への贄とする。それが君の願いなのか”
 乱れ飛ぶ蝶を、リネットは『謂れなき呪詛返し』で牽制。ゼロコンマゼロ五秒に一発のペースで連射される呪詛弾は、彼女の呪術の技量と相俟って高い威力を持つ。
 呪詛弾は空中で蝶と相殺し合う。呪われ、死んだ極彩色の幻影蝶がはらりはらりと舞い落ちる。呪わしいまでに幻想的な光景。
「……解っている。この街の民の事を、君が考えている事は。けれどわたしは君を否定せずにはいられない、わたしの僻みなんだ」
 呪詛弾を耐えず連射しながら、リネットは幻想術師との距離を測る。幻想術師に向け照準を定めれば、敵もまたゆらりと水面に浮く木の葉のように照準の上から身を避ける。
 呪詛弾と蝶が飛び交う中で、まるで二人は問答しながら踊るかのようだ。
「それでも、あえて言おう。――平穏だろうと何だろうと、自分で手に入れたものじゃないとどうせ大事に出来やしない。だから、私は君の平穏を否定する。君が与えた、一方的過ぎる平穏を」
 リネットは急速に、手先に集中させる魔力の収束率を変更。呪詛弾の出力と初速を劇的に上げる。
“!”
 リネットの呪詛弾は、全くなんの前触れも音もなく、急激に加速した。それは繊細な魔力のコントロールに基づいたフェイントだ。初めから全速を見せず、相手にこちらの性能を悟らせない、心理戦。すぐに逃れようと敵も動きを早めるが、リネットの指先は逃す事なく幻想術師を追尾する。幻想術師の躰が、呪詛弾が突き刺さるたびに蒼い体液を散らす。
「――自覚すべきだ。既に君の望みは呪いに変わり果てている」
 リネットは、哀れむように言う。
 それはもう戻らぬ骸の海に堕ちる前の、いつかの彼に言い聞かせるような響きだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

鳴宮・匡
ルーンを刻まれた月長石を握り締める
託された分の仕事はするさ

戦いの喧騒に紛れるようにして身を潜め
動作・攻撃の隙、呼吸の瞬間
相手のあらゆる動きを見逃さず、狙撃の瞬間を待つ

届かせるのは一撃でいい
その一撃を限りなく研ぎ澄ませばそれでことは足りる

できれば完全に相手を沈黙させられるタイミングまで黙っていたいが
無理でも最低、相手の奥の手くらいは潰してやるさ

お前が語る救済なんて、どうでもいい
……たとえ幻とはいえあの人にあんな顔をさせた
(それは、自分の生と、何よりあの人の願いも否定されたようで)
それだけは許せない

感情で引き金を引くな、って言われたのはいつだっけ
……ああ
こんなとこ見られたら、また怒られんだろうなあ


コーディリア・アレキサンダ
――――そう。
救わなければ。
ボクに出来るやり方で。
救われた先で悲しみ、苦しんだとしても。
最後に死んでしまうとしても、その瞬間まで人間らしく生きるために。

「キミが間違えているとは言わない。ボクの救いは、きっと万人が求めているものとは違うから」

だけど、それでも
死んだように眠ったそれを、ボクは救いと認めることはできない

「だから、ボクはキミの救いを否定する。キミでは彼らを救えない」

お互い似た者同士ならやることも似ているという話
こそ最大火力《九王顕現・剣の王》で正面からぶつかろう
リスクを負わなければ仕留めきれない、ボクでは

「一つ、訂正しておくよ。ボクは死神じゃない。ボクは――悪魔、だ」



●悪魔に捧ぐ牙
 自分の躰に食い込み殺到する呪詛弾を前に、幻想術師は奇妙なほどに脱力し、黒き魔弾を受け入れる。
 同時に彼が持つ鳥かごの中が、黒く黒く燃え上がった。猟兵らが身構えたその刹那、幻想術師は鳥籠から、彼が喰らったのと同様の魔弾を四方八方に向けて解き放つ。調度が割れ、砕け、窓が吹き飛んだ。
“救うのだ。これこそが救済だ、呪いなどではない。断じて――断じて”
「――そうだね」
 呪詛弾を躱し、少女はひらりと降り立つ。
 調度の欠片を踏み、彼女は――コーディリア・アレキサンダ(亡国の魔女・f00037)は前に進み出た。
「そう、救わなければ。その思いだけは同じだよ。――ただしそれは、ボクに出来るやり方でだ」
 コーディリアと幻想術師の思考は、根底から異なる。幻想術師の言葉を否定しはしない。けれど、それに同意する事もしない。
「ボク達がそうして救った先で、悲しみ、苦しんだとしても。最後に死んでしまうとしても、その瞬間まで人間らしく生きてもらうために」
 コーディリアの目には、決然とした紅き意思の光。紅玉のような瞳が、真っ向から幻想術師と対する。
「キミが間違えているとは言わない。ボクの救いは、きっと万人が求めているものとは違うから――でもね、トロイメナイト、優しい夢の人。それでも――死に似た眠りを、ボクは救いと認めることはできない」
 拘束制御術式展開。大いなる剣の王に鎖をかけよ。
 コーディリアの周囲の空気が揺らめき、張り詰める。風もないのに彼女の髪が揺蕩い、スカートの裾がはためいた
。すぐさま、幻想術師が再び周囲に幻影蝶を舞わせる。飛び退き、今しばらくの時を稼ぎながらコーディリアは魔杖『大鷲の翼』を地にとんと衝く。
「目標の完全制圧まで能力行使を許可。限定状態での顕現を承諾。我が怒り、剣の王よ。――――滅ぼしなさい」
『九王顕現・剣の王』。宙に浮かんだ魔法陣より、這いずるように顕れたその悪魔――名をアスモダイ。限定顕現との言葉通りに、上半身のみしか存在しない異様であったが、その威圧感は並々ならない。
 悪魔は劫火の弾を吐き出してコーディリアに向かう幻影蝶を焼き祓う。振り回す腕が幻影蝶を薙ぎ払う。悪魔は眠りを知らぬ。格好の相性と言えた。
「――だからこそ、ボクはキミの救いを否定する。キミでは彼らを『救えない』」
 負担の大きい全力の魔術を行使しながら、コーディリアは意趣返しめいて幻想術師へと言告ぐ。
“死神が……!”
「一つ、訂正しておくよ。ボクは死神じゃない」
 アスモダイが吠え声を上げる。びりびりと震える窓枠をよそに、彼女は開帳する。
「ボクは――悪魔、だ」
 己が、何者であるかを。

 部屋のもっとも大きな、割れ砕けた窓。そこから離れること数十メートル。離れの屋根。猟兵の影が一つある。
 彼――鳴宮・匡(凪の海・f01612)は戦闘開始後、狙撃ポイントを定め、潜伏し、そこから全てを見ていた。
 たった今、コーディリアがその全力で敵を攻撃しだしたのも。悪魔が旋風の如く暴れ狂うのも。
 彼のコンバット・スキルは、近距離での格闘戦、中距離での射撃戦に留まらない。遠距離からの狙撃も得手の一つである。
「託された分の仕事は、するさ。大丈夫だよ、ねーさん」
 ポケットの中。ルーンを刻まれた月長石をお守りのように握りしめ、一度目を閉じる。次に開いた彼の目は、まさに戦場を俯瞰する鷹の目であった。
『千篇万禍』。敵の行動パターン。よく知ったコーディリアの呼吸。隙の生まれる前の動き。敵の癖。揺蕩う幻影蝶、焔を吐き散らす悪魔。振り回される悪魔の腕を掻い潜りながら動く、幻想術師の動きを学習する。

 届かせるのはたった一撃でいい。
 敵を穿つために極限まで研ぎ澄ました、たった一筋の弾道でいい。
 それで、全て事足りる。

「お前が語る救済なんて、どうでもいい」
 匡はリアサイトで切り取られた視界の彼方に映る幻想術師の面に向け、アサルトライフルを構えた。
 伏位射撃(プローン)。この程度の距離ならばバイポッドなど必要ない。
 ――たとえ幻とはいえあの人にあんな顔をさせたこと。それだけが、許せない。
 それは、鳴宮・匡の生を、或いは、彼を生かそうとして果てた師を……嘲弄する事に他ならない。

 匡は息をごく軽く吸った。肺が僅かに膨らむ程度。僅かに、息を吐いて調整。肺が膨らみも萎みもしない丁度の量に落ち着ける。ライフルの銃口がまるで石化したかのように止まる。呼吸、拍動、その影響を排除する。
 機を待つ。
 幻想術師が両手を挙げる。蝶を放つその前動作。
 匡はトリガーを引いた。ただ一発の銃弾が激発し、螺旋回転を帯びて、初速九九〇メートル秒で飛翔。音を聞いたときには手遅れだ。匡の銃弾は音よりも遥かに早い。つまり、それは敵には知覚できない攻撃。
 仮面の中心に銃弾が突き刺さり、攻撃が不発する。その瞬間を狙ったかのように、アスモダイのが劫火球で幻想術師を猛撃した。直撃、紅蓮の火柱の中で幻想術師の影が薄れる。

「感情で引き金を引くな、って言われたのはいつだっけ……ああ。こんなとこ見られたら、また怒られんだろうなあ」

 彼を叱る者は、もういない。
 霧の街で、凪の海が笑う。彼は涙を流さないけど、それは泣き笑うような独言だった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

メア・ソゥムヌュクスス
「もう、眠る時間だよ」

終わりなき夢は、悪夢に違いない。
私はそう教わった。
現実(ゆめ)に迷い惑う者がいる。
それならば、私はその者を救おう。

「夜の帳は落ちたよ」

救いの無い、世界かも知れない。
辛くて、苦しくて、逃げ出したい世界かも知れない。
でも、それでも人は明日の為に今日を生きてるの。
私達が勝手に決め付けて、救ってはダメなの。

「怖くないよ、安心して」

どんなに辛くても、一握りの可能性があるのなら、人はそれを追い続けるの。
人は夢に生きるんじゃなくて、夢を抱えて生きてくの。

「側にいてあげる」

それに、ほら

この世界にも、こんなにキボウ(猟兵)で溢れてるよ。

「だから」

「おやすみなさい。良い、夢を」



●孤独な夢に、最後の夢を
“あああ、ア、ああ……!!”
 コーディリアが――アスモダイが放った轟炎球による火柱。その中から苦鳴が響く。
 逃れるように、幻想術師は走った。
 彼がもたらすものは穏やかなる眠り。その矜持のみはあったのだろう。ベッドに今も眠る領主に目もくれず、幻想術師は割れた窓へと駆け、枠を吹き飛ばして室内を脱出した。ついぞ、その身体を直接には害する事なく。
 ――天には冴えた白蒼の月。
 燻る身体を再生しつつ、月下に躍り出た幻想術師の行く手に、一つの小柄な影が落ちる。
「もう、眠る時間だよ」
 メア・ソゥムヌュクスス(夢見の羊・f00334)は、いっそ優しく囁く。足を止めた幻想術師と彼女は、数メートルを置いて相対した。
 ――終わりなき夢は、悪夢に違いない。私はそう教わった。
 メアは思い出す。かつて聞いた言葉を。
 度重ね、刃により理想を否定されてなお、それに縋り盲信する幻想術師の顔を見る。穿たれた面の内側は窺えない。或いはその内側に顔などないのかも知れぬ。――けれども夢見の羊には、それは悪夢に噎ぶ者の姿に見えた。
 ――現実(ゆめ)に迷い惑う者がいる。それならば、私はその者を救おう。
「夜の帳は落ちたよ」
“世迷い言を、……この世界に夜もなにもあるものか。閉ざされた先のないこの世界に。私に眠りなど必要ない。私は眠りそのもの、救いを与える者なのだから”
 幻想術師の言葉に、メアはそっとかぶりを振る。
「確かに、ここは救いの無い世界かも知れない。辛くて、苦しくて、逃げ出したい世界かも知れない。でも、それでも人は明日の為に今日を生きてるの。私達が勝手に決め付けて、救ってはダメなの」
 メアは切々と訴え、す、と目を掌で隠す。それは涙を拭う動作に似ていたが、けれども彼女の頬に伝う雫はない。
「怖くないよ、安心して」
 言葉は静かに、夜の帳の上に落ちる。まるで淡雪のようなかそけき声。
「どんなに辛くても、一握りの可能性があるのなら、人はそれを追い続けるの。人は夢に生きるんじゃなくて、夢を抱えて生きてくの」
“可能性など! この閉じた世界にあるものか! だからこそ私はたった独りで、今もこうして――”
 こうして。孤独の果てで戦い続けている。いつから? 何度? 
 パラノロイド・トロイメナイトは、オブリビオン。骸の海から這いずり出た、いつかどこかにいた者の残滓。正確な記憶も、正しい人格も、骸の海は全てを歪める。彼は自分の存在の連続性と同一性を保証できない。
「――大丈夫、独りじゃないわ。側にいてあげる」
 ――それに、ほら。この世界にも、こんなに猟兵(キボウ)は溢れてるよ。
 メアは歌うように言う。また誰かが殺されそうなとき。その生を閉じそうなとき。希望はきっと、彼らを救うから。

「だから、おやすみなさい。良い、夢を」
 幻想術師の反駁を待たず、メアは目元を覆った手を払い。
『眠り誘う月夜の魔眼』を煌めかせ、その視線で幻想術師を射貫いた。
 幻想術師の膝が、砕けるように、震えるように揺れる。

成功 🔵​🔵​🔴​


●おやすみなさい
 膝から崩れ落ちかけた幻想術師は、眠りと常世の狭間に、辛うじて手を引っかけて止まっているかに見えた。ゆら、ゆらり、と揺れる身体。頼りない脚で地面に杭打ち、踏み止まる。眠りに抗うためにか震える手を挙げ、幻想術師は、今一度蝶を、嵐の如く召喚した。
“認められない、承認できない。否定される事を、許せない。私の救いが正しくないとしたなら、私はここまで何をしてきたというのだ。もう私にはこれしかない、ないのだ、たったこれだけしか”
 チューニングの合わないラジオのような声で幻想術師は言う。
 今まででもっとも激しい幻影蝶の群。何事かとやってきた衛士らが、次々と蝶に当てられて眠りに落ちていく。

“私は、間違えてなどいない、いないはずなのに”

 ――進み出た二人の少女の目は、それを糺すように光っている。
 月光を照り返し、黒耀石の刃が、敵の終わりを欲して煌めいた。
小日向・いすゞ
【焼肉の後はパフェ】
七星七縛符を手に
相棒と手をつなぐ
寿命が削れるの嫌いっスけど
UCを封じ斬れる様

アンタは優しいンスね
甘美な夢中で死を迎え入れられれば、心地よく死ねるとは思うっス
でも
苦しくとも人の選んだ幸せな死しか無い人生なんて
あっしは生きていると思えないと思うっス

だから
あっしは無責任に
無感情に
ただの正論を振りかざして
皆を目覚めさせるっス

そのまま死んだほうがマシだと思ったならば
自分で死ねと言うっス

それすら自分で選ぶ事の出来ない事は
ただのおせっかいっスよ

優しいおせっかいさん
申し訳ないっスけど、アンタにはお家に帰ってもらうっス
アンタは優しすぎるっスから

行くっスよ相棒、エチカセンセ!
合わせて貰うっス!


オブシダン・ソード
【焼肉の後はパフェ】
悪いんだけど、僕は普通の剣だからさ。救済とか興味ないんだ
そして僕の使い手が、相棒が、そう望んでいるから
僕は君の事をぶった斬る。いいね?

眠った誰かじゃなくて、ね。僕は、目を開けて、自分の意思で僕を求めた奴に応える
さあ行こうか、相棒
僕の手を取れ

いすゞの手の内で剣として戦闘
通常なら反撃が怖いところだけど…
誰かさんが寿命削ってるからね、早めに終わらせたい
手を貸してよエチカ
狙いを合わせ、好機に必殺の斬撃を叩き込めるよう立ち回ろう

蝶の群れが出てくるなら一時姿を見せて、炎の魔法で薙ぎ払う
僕達も眠れって? いやー、相容れないのがわかって嬉しいよ
身も蓋もなく真っ二つにしてあげる

じゃあおやすみ


鴛海・エチカ
【焼肉の後はパフェ】
トロイメナイトよ
どうやらチカとお主は価値観が違うようじゃ

自由とは自ら選ぶもの
二者択一のそれは自由などと呼べるものではない!

先ず『二律背反』で一気に攻め込むのじゃ
流星の矢を避けられても陣の上に立って力を溜めてゆくぞ

ほれ、いすゞにオブシダン
我が後ろから援護するゆえうまく立ち回るが良いぞ

ユフィンの星霊杖から放つ全力魔法が見切られ避けられるなら
『定言命法』で「動くでない」と命じて追加衝撃狙い
これが反射されても我が動かなければ痛みは多少和らげられる
普段はこの戦法は使えぬが此度は別
何せ、頼もしい者達が共におるからのう!

さあ往くぞ、二人とも
我が流星の矢と剣閃の煌めき、受けてみるが良い!



「トロイメナイトよ、どうやらチカとお主は価値観が違うようじゃ」
 鴛海・エチカ(ユークリッド・f02721)は「ユフィンの星霊杖」を構えながら、一喝する。
「自由とは自ら選ぶもの。二者択一のそれは自由などと呼べるものではない!」
 ましてや選択肢を用意してそこから選ばせる、前提が死である二択など。話にならぬと一刀両断する。
「えちかセンセの言うとおりっス」
 小日向・いすゞ(妖狐の陰陽師・f09058)は、凪いだ声で言った。そこにはエチカのような、叱りつけるような響きはなかったが――ただ、淡々と、切々と。幻想術師の過ちを、舌の先で転がすように。
「アンタは優しいンスね。そりゃあ確かに、甘美な夢中で死を迎え入れられれば、心地よく死ねるとは思うっス。――でも」
 言葉を切り、傍らを見る。そこには、ひとのかたちを取った黒耀石の刃――オブシダン・ソード(黒耀石の剣・f00250)がいる。彼の目は、――僕の手を取れ、そう言っているように見えた。
 いすゞは、手をつなぐ。自分より随分大きな彼の手を取って、きゅう、と強く握りしめる。
「苦しくとも、他人の――アンタの選んだ幸せな死しか無い人生なんて、あっしは生きていると思えないと思うっス」
 幻影蝶が渦巻く。幻想術師は頭を抱え、聞きたくないとでも言うかのように左右に身を捩る。
 届けるためにか、貫くためにか。いすゞの言葉が熱を帯びる。
「だから、あっしは無責任に、無感情に……ただの正論を振りかざして、皆を目覚めさせるっス。そのまま死んだほうがマシだと思ったならば、自分で死ねと言うっス。――それすら自分で選ぶ事が出来ないなら、ただのおせっかいっスよ」
 救いなどではない。誰も頼んじゃいない。選択肢を突きつけられる事も、ましてや殺して貰う事なども。
 いすゞは、強く唇を結び、真正面からトロイメナイトの仮面、弾痕に真っ直ぐに目を注いだ。
「優しいおせっかいさん。申し訳ないっスけど、アンタにはお家に帰ってもらうっス。アンタは優しすぎるっスから」
“うるさい、……うるさい、うるさい、うるさい!! 貴様らの言葉は、もう聞きたくない!! 眠れ、何もかも眠ってしまえ! そうすればきっと、”
 ――その時街は静寂に沈み、救済は果たされるのだ。
 続けようとした言葉に、男の声が割り込む。
「うるさいのは君だよ。……まったく、エチカもいすゞも優しすぎるな、律儀に付き合うんだから」
 オブシダンは真っ向から鋭い舌鋒で言葉を斬って捨てると、にこやかなまま言告いだ。
「悪いんだけど、僕は普通の剣だからさ。救済とか興味ないんだ。知ったこっちゃないよ。――そして僕の使い手が、相棒が、君の退場を望んでいる。――だから、僕は君の事をぶった斬る。いいね?」
 絶句する幻想術師を前に、オブシダンは涼しげだ。
 極論してしまえば、オブシダンは眠りに沈んだ誰かの願いを酌んでここに現れたわけでも何でもない。彼を求めた、ただ一人の狐の願いのためにここに立っている。
「さあ」
 オブシダンは、いすゞの手を握り返した。翻るマント、
“行こうか、相棒”
 風が吹き、それが止む前に、オブシダンは一振りの剣となる。
「行くっスよ相棒、えちかセンセ! 合わせて貰うっス!」
「任せよ。我が流星の矢と剣閃の煌めき、受けてみるが良い!」
 いすゞとエチカは頷き、最後の戦いの火蓋を切った。

 いすゞはまず、左手に扇のように広げた『七星七縛符』を投擲。まるで鋼鉄の板であるかのように、護符は真っ直ぐに飛び、幻想術師を狙う。
 最後の足掻きでもあるのか、幻想術師は横っ飛びにそれを回避。いすゞは構わず前進する。護符はまだある。それに、回避後の隙をエチカが狙っている。
「星の命題よ、因果と為って廻れ」
 エチカが星霊杖を振るなり、空中に流星が描かれた。文字通り流れ星の速度で進む流星の矢が立て続けに幻想術師の身体を穿つ。大量の魔力を使用し、全力での魔術行使に慣れたエチカ故に、その威力、速度共に申し分ない。
“ぐうッ”
 僅かに動きが止まる。その瞬間、エチカは多重詠唱を重ねる。
「常ならば使えん策じゃがの。此度は別よ――いすゞ、オブシダン、彼奴の動きを封じる! この星海の魔女が、お主らの背を預かろうぞ!」
“頼むよエチカ。なんせ誰かさんが寿命を削りかねないから。早めに終わらせたい”
「好きで削ってんじゃないっスけどね! それにまだ当たってねーっス!」
 軽口で応じつつ、いすゞはオブシダンを手にしたまま前進。幻影蝶の群れに突っ込む。視界を埋め尽くす幻影蝶、触れれば覚めぬ眠りに落ちかねない魔性の影を前に、いすゞは剣をふわりと浮かべるように手放す。
「酷い量だ、こんなに虫を見たんじゃ寝るに寝れない。――僕達も眠れって? いやー、相容れないのがわかって嬉しいよ」
 オブシダンは空中で身を翻し、焔の魔術を宿した手で周囲を一閃。或いはその一閃が魔剣の煌めきか。周囲を覆い尽くす蝶の群れに、確かに穴を開ける火力。瞬く間にオブシダンは空中で剣に戻り、いすゞはその柄を引っ掴んで走る。
 射線がクリアになる。狙いが通る。
「誂え向きよの」
 エチカは形のよい唇をゆる、と釣り上げ、練り上げた魔術を振るう。
「此れより紡ぐは、我が令ずる絶対的命法」
 ユーベルコード、『定言命法』。
 放たれる煌めきが、オブシダンの開けた蝶の嵐の穴を縫い、幻想術師に突き刺さる。
 下される命は――
『動くでない!』
 戦いの最中に動くな、と言われて動かないものなどいるまい。幻想術師もそれは同様であった。迫るいすゞから逃れようとし、身を捩った瞬間、
「そんな『簡単な事』も守れなんだか?」
 エチカが片目を閉じた。不可視の衝撃がべご、と幻想術師の身体を圧迫する。ガラスを引っ掻くような苦鳴をあげる幻想術師の眼前。
 そこには既に、駆け抜けたいすゞがいた。そして、“じゃあ、おやすみ”
 
 振るわれる一閃の、黒き『死』があった。

 幻想術師は頭から股までを唐竹割りに切り裂かれ、今度こそ再生も許されずに蒸発していく。
 死んだ幻影蝶が、空中で一斉に動きを止め、まるで舞い散る花弁のように地に落ちていった。

 ――猟兵達は、街を救った。
 幻想術師は、彼らに問いを投げかけた。
 終わりなき絶望が襲い来るこの世を生きるもの達を、死から救うのが正義なのか。
 仮に救ったところで、彼らはまた絶望に襲われる。それはきりがなく続く循環なのに。
 ならば眠らせ、穏やかな死を与えるのが救いではないのか。

 ――否だ。
 猟兵達は、己の答えを示した。それは彼らの中で、生き続ける答えだ。

 ああ、真っ暗闇のダークセイヴァーの空が、灰色に白む。
 きっと、猟兵達が救った朝に――霧の街も目覚めていくだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月27日


挿絵イラスト