#サクラミラージュ
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●紅市への招待状
時は睦月、年明けの浮ついた空気の落ち着き始めた小正月に近い頃。
謎の人物「T」より、不可思議な招待状が帝都臣民に広く送られた。
「未だ蕾の梅なれど、その萼の色は鮮やかな紅の色。それにちなんだ催しを行いますのでお越しいただければ幸いです」、と。
見事な蕾の紅梅の並んだ庭のある洋館の大広間で、紅市と称して古今東西の紅色の品を展示、販売するとのこと。小物に装飾品、着物に絵画、道具や拵え。数多く取り揃えお待ちしております、と記されていた。
一例、と記載された品々のお値段もピンからキリまで、ちょいと花見がてら、と言うには渡りに船。
折しも帝都では紅色の贈り物が流行っているときた。
皆々様で誘い合い、さあ参りましょう、奇特な人もいるものだ──となればよかったけれど、そうは問屋が降ろさない。
ユーベルコヲド使い曰く、これは影朧の罠である。
故に招待状は回収され、集められた業者含む一般人にそこに行かぬよう言い含めめでたしめでたし、事件解決。
といかぬのが猟兵業でありまして。
●というわけで事件です
紅色の小梅柄の巾着を弄ぶ寧宮・澪(澪標・f04690)は、そんな語りを終えたあと、眠たげな目で猟兵達を見回した。
「えー、という、訳でー……影朧退治、お願いします、ねー」
件の洋館に帝都桜學府の者が業者として入り込むので、猟兵諸氏には招待状に招かれた一般人として、親しい人に、自分に、紅色の贈り物をするといった風情で紅市を楽しんでもらいたい。できたら奇矯な振る舞いをしてもらえるとなお良い。影朧はそのような人物に惹かれる節があるからだ。
「サアビスチケットも出てますので、お財布は気にせずにー……優雅に買い物を、楽しんで、ですねー」
そのうちに、業者が運び込んだ以外の何やら怪しい舶来品が会場や倉庫に忽然と現れる。甘やかな香りの紅色の飲み物、紅に染まったドレス、紅のはかれたギヤマンのグラスなど。それらに一般人がふれればすぐさま魅入られ、その場で取り殺されるような品々ばかり。
「そういうのを探してー……魅入られて死んだふり、してくださいー」
死に方は自由におまかせする。品に魅入られ気がふれて飛び降りる、怪しい飲み物をその場で煽って息絶える、ドレスとともに踊りだし、急に心臓麻痺を起こす、など。多少大げさでも構わない。なお猟兵なら大抵のことは大丈夫だろうが、何か死なない工夫があると安心だろう。ダイイングメッセージを残したりしてもいい。そうするうちに帝都桜學府の人員は怯えて逃げ帰る、振りをする。
「そんな感じに皆さんが死んだふりしてますとー……桜學府の業者さんが逃げ帰った頃合いで、影朧がやってきます」
謎の人物「T」ではないが、この事件の犯人役である影朧だ。うまく死んだふりをしてくれればペラペラと動機っぽいものやらなんやら語ってくれるだろう。
「そしたら説得、とかしながらー……倒して、くださいなー」
猟兵の中に桜の精がいなくとも、倒せば桜學府から派遣されるので問題ない。
注意点として、事前に誰も来ないように計らったり、舶来品で誰も死なないとなると、影朧は現れない。あくまで催しを楽しみ、舶来品の呪いっぽいもので死んだふりをするのが大事なのだ、と澪は念を押す。
「謎の人物の、情報は今回も出なそうですのでー……お買い物と、死んだふりー……楽しんでください、ねー」
そんなふうに言いながら、巾着から梅の飴を出して猟兵に差し出しつつ、澪は道を紡ぐのだった。
霧野
紅市は「べにいち」でも「くれないいち」でも。
よろしくお願いします。霧野です。
●シナリオについて
見頃にはちょっと早い紅梅にちなんだ紅色の物産展を楽しんでから、怪しい舶来品の品々に魅入られて死んだふりをして、現れた影朧を倒す。謎の人物「T」は謎のまま。
そんなシナリオです。
一章:紅色にちなんだ品々の市にて、優雅にエキセントリックにお買い物を楽しんでください。
「一癖も二癖もありそうな人物像」に本能的にひかれる個体の影朧なので、そんな感じに演じるとボーナスがあります。演じなくても大丈夫です。
日常です。
二章:そのうちに怪しい舶来品がどこからともなく現れるので、魅入られて死んだふりをしてください。死に方はお任せでもいいですし、記載いただいても構いません。
本当に死なない工夫にはボーナスが、派手に血しぶきを上げる、喀血してみる、ダイイングメッセージを残すなど見事な死に際には大きなボーナスがあります。
冒険です。
三章:無事現れた影朧を何となく説得しながら倒してください。桜の精がいらっしゃらないときには、帝都桜學府から桜の精が派遣されます。
ボス戦です。
●複数人で参加される方へ
どなたかとご一緒に参加される場合、プレイングに「お相手の呼び名(ID)」を。
グループ参加を希望の場合は【グループ名】を最初に参加した章にご記入いただけると、助かります。
●アドリブ・絡みの有無について
割とアドリブ入れることがあります。
以下の記号を文頭に入れていただければ、絡まなかったり、アドリブ入れなかったりさせていただきます。
◎ アドリブ・絡み歓迎。
△ アドリブ歓迎・絡みNG。
× アドリブNG・絡みNG。
〆 負傷OK。
第1章 日常
『くれなゐ浪漫』
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POW : ひと目で気に入る贈り物を見つける
SPD : 相手の好きそうな贈り物を見つける
WIZ : 不思議と心惹かれる贈り物を見つける
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●紅色に染まりて
紅色あふれる大広間。
化粧に小物、食器に飾り物、着物に装飾品、武具の拵えに家具なども。
種々様々に紅色をどこかに使った品々が値札をつけて並べられている。その割合も濃淡も様々。華やかな品も落ち着いた品も見受けられる。
どこから見るか、何を買うか。人に贈るか、自分に贈るか。全て自由に楽しむ時間の始まりである。
カビパン・カピパン
◎
「この試供品は貰っていっても良いですか?」
紅市の物産展、とある出店での駆け引き。
店主は獲物を逃した、という笑顔でカビパンを見送った。
なんとこの女、一時間以上も出店にいて店主から、商品説明を受けたのに何も買わずに出てきた。
カビパンはこの紅市で、物を買う気は一切ない。
サアビスチケットすらケチる貧乏性である彼女は真剣に品定めするが、冷やかしであった。
しかし女教皇として外見には気を使っており、その神秘性と気品は相まって店主達からは上客と思われることだろう。
ついさっきも、そこの出店の試食品で夕食を済ませてきたところであった。
(そこまでして手ぶらで出て来れないだろ普通!?)
という奇矯さを感じるはず…
●
紅を使った天然素材の化粧を取り揃えた店。濃淡様々な化粧の品がいくつも用意されている。
そこには詳細に一時間以上じっくりと商品の説明を受け、実際に試供品でもって店員に化粧をしてもらうカビパン・カピパン(女教皇 ただし貧乏性・f24111)の姿があった。
薄い頬紅、淡い口紅をつけ、最後に目元に鮮やかな紅を刷く。
「お客様、どれもお似合いです!」
店員が選んだものは確かにカビパンの顔立ち、色味に合わせた紅ばかり。彼女の清らかな風情を際立たせ、厳かな雰囲気を漂わす。
カビパンは鏡を覗いてにっこり満足げに微笑んだ。
「まあ、素晴らしい。腕も商品も、良いものですね」
「ありがとうございます! もちろんお客様の素地が素晴らしいのが一番の理由です」
店員の褒め言葉には余裕の笑みを返し、カビパンは紅で染まった唇を開いた。
「ああ、この試供品は貰っていっても良いですか?」
「ええ、構いません。他に必要なものはございますか」
「ありがとう。いいえ、必要ないわ。では、失礼します」
清廉かつ威厳あふれる指導者の笑みを浮かべ、カビパンは出店を後にする。
残ったのは陶然とした笑みを浮かべながらも獲物を逃した店主のみ、であった。
カビパン・カピパンは女教皇である。その笑みは誇り高く美しく、その物腰は優美にして清廉、その言葉は柔らかに耳に心地よくも威厳とカリスマでもって人を従える。
が、その中身は全てに等しく世知辛く、貧乏性かつ面倒くさがり屋。楽して生きていきたいはずなのに、貧乏性が故に回り道をして無駄に苦労している節のある女であった。
(ああ、めんどくさい……何もかもめんどくさい……)
常に浮かべる笑みを貼り付けて、カビパンは次の出店を覗いていく。しかし彼女は何も買うつもりはない。極度の貧乏性であるカビパンは今回支給されたサアビスチケットを使わず溜め込むつもりである。店を回り、説明を聞き、試供品を、試食を、貰えるものを全て貰いながら何も買わない。
女教皇として、人の上に立つ者として身だしなみや外見には気を使っているから、その神秘性と気品の仮面は彼女の内面とは裏腹に店主達からは上客と思われる。けれど何も買わない。
化粧品店に入る前にも紅茶店で紅茶を数杯試飲、ラーメン店で海老を練り混んだ麺を用いた赤味噌の紅ラーメン、点心の店で紅芋のあんまんを2個、燻製の店で紅鮭の燻製を試食し夕食を終えていた。無論それらの店でも説明をしてもらい、サービスも受けている。
そこまでしてもらいながら何も買わないというその神経は普通ではない。奇矯というか無粋というか。
そんな一般論も気に留めず、彼女はまた次の店を冷やかしに行くのだった。
大成功
🔵🔵🔵
リュアン・シア
◎
平穏なのか不穏なのかよく分からない事態ね……。
ともかく奇矯な感じを演出して影朧を惹き付けたらいいのよね? いわゆる囮捜査?
せっかくだし、素敵な紅色の品々を愉しませてもらうわ。
【真実を映す幻】で主人格シアの幻影を呼び出して、……んー、ただ二人で並んでいても双子に見えるだけかもしれないから、二人で同じ台詞をハモりながら紅市を巡ろうかしら。
「あらモダンで素敵な紅梅意匠の櫛ね」「こちらの鮮やかな夕陽を表現したびいどろも綺麗」「たまには紅い振袖なんてどうかしら」――着物を身に宛がってその場でくるくる回った後、振袖の陰に隠れたシアが、
「店主さん、お代は手品でいかが?」
次の瞬間には幻影は消えているわ。
●
二人、同じ顔、同じ出で立ちの女が二人、黒髪を翻して紅溢れる市をゆく。その足取りは同じ、振り返る仕草も同じ、目を止めるものも同じ。すれ違うもの達は不可思議な二人連れに目を惹かれ首を傾げる。
全く同じ仕草に出で立ちで振る舞う二人は双子ではなく、リュアン・シア(哀情の代執行者・f24683)の主人格と副人格、シアとリュアンが彼女らのユーベルコヲドでもって同時に実体を持った姿である。
(これは平穏なのか不穏なのかよく分からない事態ね……)
リュアンは思案しながらも紅に溢れる店先を練り歩く。隣のシアも同じ表情で店先の商品に目を止めた。
催しを開き、幾人も人を集めて害をなす影朧を倒すために催しを楽しみ怪しい品々を見つけて死んだふりをし、影朧を呼び寄せよという依頼。さてはて平穏なのか不穏なのか、リュアンには判断しがたいものであった。
(ともかく奇矯な感じを演出して影朧を惹き付けたらいいのよね? いわゆる囮捜査?)
兎にも角にも何とも変わった振る舞いをすればいいのだろう、と結論づけて幻影のシアを呼び出し、鏡にうつしたように同じ姿、同じ動きで紅市を練り歩き始めたのであった。
そうやって幾つかの店を同じ顔のリュアンとシアが全く同じ仕草で眺め歩く。
「あらモダンで素敵な紅梅意匠の櫛ね」
鮮やかな対比の紅と緑の紅梅柄のつげの櫛に二人で目を輝かせ。
「こちらの鮮やかな夕陽を表現したびいどろも綺麗」
隣の今まさに沈もうとする紅色の夕日を写したびいどろに 二人で手を添えて。
「たまには紅い振袖なんてどうかしら」
常には纏わぬような、濃淡が移り変わる紅地に金と黒を散らした華やかな振り袖を身に宛てがい、くるくる入れ替わり立ち替わり回って見せる。
その言葉は全く同じ速さ、全く同じ声音、全く同じ抑揚で発せられていて、どこか妖しい雰囲気を漂わせた。
何とも奇妙な二人連れに店主が目を白黒とさせていると、振袖の陰に隠れたシアがにぃ、と唇をたわませて。
「店主さん、お代は手品でいかが?」
そういった瞬間、振り袖の影の女は消えていた。残るのは同じ顔をした女が一人。
さて、今目の前で起こっている事態は夢か現か、幻か。
目を擦り、頭を振って己の目で見たものを信じられぬ店主の前へと蠱惑的な笑みを浮かべてからサアビスチケットをひらりと落とし、赤の振り袖を肩にかけてュアンは次の店へと歩を進める。
いつの間にか現れた、同じ振り袖を肩にかけたシアの幻影と同じ笑みを浮かべて肩を並べながら。
大成功
🔵🔵🔵
落浜・語
◎
謎の人物「T」って、確か巨大もふうさぎの時にも名前聞いたな…。
正体はわからないみたいだけれど、だからって起こる事件を見逃す義理はないからな。
それにしても、本当に紅色ばかりだな。色々とあって、目移りするというか。
何を買うつもりがあったけれではないけれど、金平糖の入った、紅色の巾着袋を一つ。
中身の金平糖も紅色してるんだな。これはこれで、綺麗だ。
あ…これ…。
手に取るのは、桜色に近い薄紅色の香水瓶。
大切な人が、もうすぐ誕生日だから贈ろうと思って。…喜んでもらえるかな。
……本当のことを言っただけなんだが、ある意味、フラグか…?
●
幾つもの品々が並ぶ店先に必ず見つける紅の色。必ずどこかに紅を持つ様々な品が、それぞれの魅力を活かすように飾られて購われるときをいまかいまかと待つ風情。そんな展覧会のような大広間を落浜・語(ヤドリガミのアマチュア噺家・f03558)はぶらりぶらりとそぞろ歩く。
見目が若い青年が一人着物姿で紅の中を歩く姿は中々に珍しいものがある。
(謎の人物「T」って、確か巨大もふうさぎの時にも名前聞いたな……)
依頼を聞いたときにもあったその名前。サクラミラージュで色々しているようだが、何を考えているのやら。此度も事件でも正体はわからないようで謎は謎のままである。
(だからって起こる事件を見逃す義理はないからな)
故に語は紅市を練り歩く。何を買う、と決めてきたわけではなかったが買い物を楽しめとも言っていたのだ、何か惹かれる品が見つかるかもしれない。
(それにしても、本当に紅色ばかりだな)
大きい小さい、濃い薄い、形も様々。けれど何処に目を向けても紅色が必ずある。色々あって目移りしてしまう。
きょろきょろと視線を移らせながら、ふと目に止まった巾着袋を手に取ってみる。鮮やかなちりめんの紅地と薄い桃色の絹を縫い合わせた丸っこい巾着の中には薄紅色の金平糖が紙に包まれて入れられていた。
(これはこれで、綺麗だ)
人形に持たせても、自分が使ってもいいかと語は店主に声を掛け、買うことにする。自分用にと包んでもらう中、ふと手に取るのは、会計のそばに飾られた桜色に近い薄紅色の香水瓶。
「あ……これ……」
「おや若い兄さんが珍しい。それは桜の香の香水でしてね。若い娘さんには人気の品でしてな」
こんな香りの、と近くに置いてあった紅色の薄紙にしゅっと吹き掛ければ漂う淡い桜の甘い香り。紅梅の時期には早いが、春の最中を思い起こすような香りだ。
語の好いた人にも似合うのではないだろうか、と思わせる微かな香りに買っていき土産とすることにする。
「大切な人が、もうすぐ誕生日だから贈ろうと思って。……喜んでもらえるかな」
「それはようございますな! 好いお人もきっと喜んでもらえましょう」
ならば可愛い包みにせねば、と店主は語の好い人をあれやこれや聞ける言葉を聞き出して、淡い紅の柔らかな透け紙と兎の飾り、紅い紐を花の形に結って年頃の娘が好みそうな包装にして「頑張んなさい!」と紙袋に入れて渡して見送ってくれた。
紙袋を下げながらまた会場を巡る語はふと思う。恋しい人に渡した時の言葉とか表情とか思いながら、戦う前のこういうのを何というのだったか。
(……本当のことを言っただけなんだが、ある意味、フラグか……?)
これから死んだふりをせねばならぬ身としてはどうなのか、このフラグ。用心したほうがいいのかもしれない。
そう思いながらひと粒口の中に放り込んだ紅色の金平糖からは、甘酸っぱい梅の味がした。
大成功
🔵🔵🔵
ファン・ティンタン
◎
【WIZ】紅梅珠玉に魅入られて
たまには、一人で散策したくなる時もあってね?
いや、独り言だけれど
私も(一介のヤドリガミだから)、珍しい物品には興味があってね
その中でも特に、紅に関する物には、引かれる何かがあると言うか……
フラフラと、様々な品の中を彷徨い歩く内に、ふと、足が止まる
紅の揺らぎを湛えた、玉
手のひらには収まらないズシリと重いソレは、不思議と目が離せない何かがあった
玉の素材は、ふむ……
天然水晶じゃなくて硝子みたいだから、それほど高価でもないのだろうけれど……
この、内に閉じ込められた紅色が、気になる
とても、気になる
気になったからには、手に入れたくなるのが性というもの
……ねぇ、コレ、いくら?
●
「たまには、一人で散策したくなる時もあってね?」
白い服の女が誰もいない虚空に言葉を投げる。常ならばそれを聞く誰かが隣にいるけれど今はいない。
「いや、独り言だけれど」
また、虚空に言い訳をするように言葉を投げる。誰も彼女と連れたってはいないのだからそうだろう。言わなくてもいいかもしれないことをわざと言ってみせる。
濃淡様々、形も大きさも様々な紅色の空間に浮かぶ白い姿は、背景と合わせれば一種目出度いものと言ってもいいけれど、その言動はどうにも奇矯であったろう。
そんなファン・ティンタン(天津華・f07547)はふらふらと、彷徨うように紅色の品を眺め眇めつつ歩き回っていた。
紅色の品を買い求めれば、曰く付きの紅色の品と見えるというこの依頼。ファンにしてみればひどく興味深い代物であった。
ファンはヤドリガミである。であれば、珍しい物品には興味があるというもの。
(その中でも特に、紅に関する物には、引かれる何かがあると言うか……)
猫にまたたび、というほどではない。猫に猫じゃらしくらいかもしれない。兎にも角にも引かれるものなのだ。
そんなことをつらつら考えていたファンだが、ふと足が止まる。
視線の先には低い棚の中でやや大きめな硝子の玉が光を反射していた。ファンは屈んで彼女の手よりもゆうに大きいその玉を、落とさぬようにしっかりと手で抱える。
彼女の手のひらには収まらない大きさのソレはずしりと重い。素材は水晶ではなく硝子であろう。丁寧に研がれ磨かれたのだろう滑らかな表面は、今この場で光に照らされても傷一つ見えない。
そしてその中で揺らぐ紅梅の紅色は、不思議とファンの目を捉えて離さない。
そばにいた店主の怪訝そうな視線も介さずファンはひたすら玉を見つめている。
その玉はさして高価な品とは思えない。単なる硝子の球体に、水に紅を混ぜたものを詰めて磨いただけの代物かもしれない。
けれどその紅色が。
(この、内に閉じ込められた紅色が、気になる。とても、気になる)
一体何なのであろうか、ひたすらにファンを惹き付けて止まないのだ。
(気になったからには、手に入れたくなるのが性というもの)
首を動かし手を動かし、中の紅色が揺らぐ様を観察し。
「……ねぇ、コレ、いくら?」
じいっと己の目と同じような紅色とにらめっこしたあとで、勢い良く顔を上げた彼女の口から零れたのは硝子を求める言葉だった。
大成功
🔵🔵🔵
木元・杏
◎
真っ赤な振袖に梅の簪
手に持つうさみみメイドさんのうさみん☆も今日はお揃いの赤の振袖
からころと赤の下駄を鳴らし、踊るようにくれなゐの市を歩いてく
真っ赤な市での一日♪
手に取るぎやまんは紅色♪
咲き乱れるは紅蓮華♪
貴方の心を救済するの♪
歌いながら店を見て回る
おみやげ…わたしの住む村にも赤い花、咲かせたい
まだ球根だけど…ん、これ
赤の紙でラッピング
赤いリボンできゅっと結び
ふふ、大切に持って帰る
…招待状を出した「T」
目的は今は未だわからない
それに、今回の影朧
気になる事が多い…
……(ふんわり漂う匂いにぴくっと
かつおだし、おうどんの匂い
あ、あのね、赤しょうがの天ぷらを入れておうどんは2玉で
おいしい…(至福の顔
●
真っ赤な着物の波の向こう、童女の歌声が聞こえ来る。
ゆらゆら揺らめく黒髪には梅の簪刺してゆく。
「真っ赤な市での一日♪ 手に取るぎやまんは紅色♪」
合間に聞こえるからころからころ、紅の鼻緒の赤の下駄。
手にした兎の人形と揃いの赤の振り袖も、踊るように翻す。
「咲き乱れるは紅蓮華♪ 貴方の心を救済するの♪」
天下泰平700年、時は華やか大正の、日和も良いこの日。外の通りで子供らの遊ぶ声がするやもしれぬ。されども流石にこの市の中、親も大人も居らず、そしてたった一人で歌う童女は奇矯なり。
木元・杏(たれあん・f16565)はたいそう楽しげにうさみみメイドさんのうさみんを携えて、歌いながら紅の市を見て回っていた。
紅のぎやまん、紅蓮華の花の蜜、赤の着物にちりめんの巾着。愛らしいままごとのセットも紅色の模様があったり、紅色の茶碗であったりと、どこもかしこも紅に溢れる。
(おみやげ……わたしの住む村にも赤い花、咲かせたい)
その中でも杏の目当ては赤い花。華やかな紅色の花を求めて練り歩く。
花木園芸取り扱う店先に、見本に咲いた花の絵が飾られていた。そこに並ぶ紅色の花を見比べ、何にするかとうさみんと首を傾げて考える。
穏やかな紅色のチューリップ、珍しい紅色の百合、咲けば鮮やかな彼岸花。じっと絵と目の前の球根を見比べて、いくつか杏の心にぴんときたものを拾っていく。
「まだ球根だけど……ん、これ」
店主に選んだ球根を差し出せば、赤の紙で咲いた花のように包み、赤いリボンで結んで差し出した。
「はいよ、お嬢ちゃん。落とさぬようにね」
「うん。ふふ、大切に持って帰る」
笑顔で受け取り、また位置の中を歌いながら練り歩き。その最中にふと今回の事件を考える。
(……招待状を出した「T」。目的は今は未だわからない。それに、今回の影朧。気になる事が多い……)
何故、紅市なのか。紅に関わる舶来品なのか。謎の人物「T」との関わりは?
不明点はいくつも溢れてくる。
「……」
きりっとした顔で悩む杏の鼻にふんわりととある匂いが漂ってきた。ぴくり、くんくん嗅いでみればそれは馥郁とした出汁の香り。
(かつおだし、おうどんの匂い)
香る方向に進んでいけば、紅しょうがの天ぷらを乗せたうどんを商う店が一つ。
「あ、あのね、赤しょうがの天ぷらを入れておうどんは2玉で」
サアビスチケットを差し出し注文すれば、手早く茹でられたうどん2玉がたっぷりと出汁をかけられ、紅しょうがの天ぷらを2つ、おまけに1つ乗せられてカウンターへと置かれる。
いただきます、と箸を取ってすすれば、おいしい出汁の味とコシのあるうどんの歯に楽しい感触。もちもち小麦のうどんを飲み込んで、赤しょうがの天ぷらを齧ればしゃくっと歯ごたえに爽やかな梅酢と生姜の香りが口いっぱいに広がった。
杏は至福の顔でうどんをはふはふすすっていく。
「おいしい……」
事件が始まるほんの少し前、一時の休息であった。
大成功
🔵🔵🔵
クリュウ・リヴィエ
◎〆
サクラミラージュはあんまり縁のない世界だし、買い物楽しみだね!
いや、影朧退治だね。ワカッテルヨー。
一癖も二癖もありそうな人物を演じる…。
いつも持ち歩いてる刻印封じ用の包帯を顔に巻き付けて、顔を目と口以外完全に隠してしまおうか。
容姿は怪しく【変装】しつつ服装・言動は【礼儀作法】に則って、【威厳】と【存在感】と【恐怖を与える】
うん、怪しい怪しい。
これで買い物を楽しめばいいんだね。
おお、赤い物ばっかりで華やかだねえ。
自分用に気に入る物を買いたいんだけど、せっかくなら実用品で、サクラミラージュらしくて…。
キセルパイプとか?
なんかいわくのあるのとか、面白そうかな。
そういうのとかはあとからくるのかな?
●
此度の紅市なるもの、奇矯な人物は数居れど、見た目の奇矯さで言ったらかの人物が一番であろう。
その人物は顔にぐるりと包帯を巻きつけており、肌は目や口のほんの隙間から見えるか見えないか。もしやひどい怪我や火傷でも、いやいや鱗があるやもしれぬ、もしくは顔が無い故に包帯をして示すのか。
つばのある帽子を目深に被り、髪は一筋たりとも見えはせず。黒のとんびコートに藍の羽織に袴はお大尽か豪商か、といった良い品のもの。身のこなしは優雅かつ厳格にて、その存在感は見ては視線を逸らさねばならぬような、見続けなくては何をしでかすかわからぬような、何とも恐怖を抱く佇まい。
これが当世話に聞きたる怪奇人間か、それとも事件を起こす怪人か、と言わんばかりの怪しさよ。
しかしながら当人、クリュウ・リヴィエ(よろず呑み・f03518)の内心はたいそう呑気なものであった。
(サクラミラージュはあんまり縁のない世界だし、買い物楽しみだね! いや、影朧退治だね。ワカッテルヨー)
彼なりに一癖も二癖もありそうな人物を演じる、ということを考えた結果がこの包帯人間であった。全て変装であり、その下には怪我も何もない、いつも通りのクリュウの顔があるばかり。怪しい風情も演技である。
(これで買い物を楽しめばいいんだね)
意気揚々と恐怖や威圧を与えるような演技を心がけながら、クリュウは紅市を見て回る。
どこもかしこも紅色が見えない場所はない。大きさ形、濃淡は様々なれど、必ず紅色が品々にあしらわれている光景だ。
(おお、赤い物ばっかりで華やかだねえ)
ゆらりゆらり、足取りは重々しく店をぐうるり見て回る。視線の先に入った店主達は何とも居心地悪そうだ。
されど気にせずにクリュウは紅の品々を見聞する。
(自分用に気に入る物を買いたいんだけど、せっかくなら実用品で、サクラミラージュらしくて……キセルパイプとか?)
煙草用品を扱う店先に、紅色で塗られたキセルや、黒字に紅の差し色のキセル、紅の煙草入れなどが並べられているのを見つけてそちらにのそりと歩み寄る。
じっくり見比べ、漆の黒塗りに紅色の煙風の模様が入れられたキセルを持ち、サアビスチケットと一緒に店主へと差し出した。
「貰おうか」
「へ、へえっ!」
慌てて包む店主を尻目にクリュウは周囲の品々も見聞するが、特に怪しげなものは見当たらず。
(なんかいわくのあるのとか、面白そうかな、と思ったけど……そういうのとかはあとからくるのかな?)
包まれたキセルを鷹揚に受け取り、クリュウは再びゆらりと怪しげな足取りで紅の市を巡るのだった。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 冒険
『妖しい舶来品の捜索』
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POW : 水夫、運搬夫として紛れ込んで、目的の物に関わる情報を探す。
SPD : 保管された所に忍び込み、目的の物に関わる情報を探す。
WIZ : 鑑定士として招かれ、目的の物に関わる情報を探す。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●いとも怪しき紅の品
売り買い盛んな紅の市は盛況なり。賑わう人の顔にも紅が乗る。
すれば大事な商品への注意もそれるというもの。
倉庫に謎の人影が紅色のドレスをトルソーに飾り置いてゆく。
店頭の果実水の中に紅色の甘い香りの液体の瓶を混ぜ混んだ。
煌めく石の中に、紅色の宝石一つ埋もれさせる。
そこかしこにそっと、気づかれることなく、謎の人物の手で怪しい品々が紛れ込む。
それらは只の人であれば手にした瞬間に魅入られるような品々であった。
===
・紅市が賑わったので怪しい舶来品が紛れ込まされました。うまいこと見つけて死んだふりをお願いします。
・怪しい舶来品は人が一人で運べそうなものであれば、何をいくつ見つけても構いません。実物の戦艦や建物はないですが、それの模型やミニチュアなどはあるでしょう。
・フラグメントの行動指針は参考で構いません。
・死んだふりをしなければ影朧は現れませんが、仮の体でも本当に死ぬ必要はないです。
リュアン・シア
妖しい舶来品は……あら、あの紅いハイヒール、それらしい気配を感じるわ。紅の色合いが他のものより艶めかしい。
折角だから今回も【真実を映す幻】でシアに助けてもらいましょう。
皇女様って、何かあったときに自ら死を選べるように、奥歯に毒を仕込まれていたのよ。彼女もそう。今回は毒の代わりに紅い血――食紅とシロップで作った血糊を収めたカプセルを仕込んでおきましょう。
「とても素敵ね、この靴。履いてみてもいいかしら」
シアがハイヒールを履いた途端、本人の意思とは無関係に足が動いて踊り出し、止まることを許されず。やがてカプセルを噛み割った彼女が吐血とともに倒れ伏し。
……幻影だもの、元々心臓は動いてはいないわ。
●
赤い振り袖を翻し、同じ仕草同じ表情で紅市を闊歩するリュアンとシア。
誰かが買えば並ぶ品も変わり、先程見た景色と間違い探しのように僅かに変わる。
その中に紛れ込んだ妖しい舶来品をきょろり、黒い双眸が探していた。
「……あら、あの紅いハイヒール」
一度通ったはずの靴の店に新たな品が並んでいた。リュアンはそれに目を止める。
とろりと艶かしく、まるで生きているかのような錯覚さえ抱く紅色のハイヒール。高いヒールに尖ったトゥ、素晴らしいバランスで見るものの目を誘い、履いてみたいと思わせてくる。
(それらしい気配を感じるわ。紅の色合いが他のものより艶めかしい)
ちろり、リュアンはシアに視線を送る。シアも心得たように目で頷いて。
「とても素敵ね、この靴。履いてみてもいいかしら」
意気揚々店主に声を掛け、返事を待たずに足を靴から抜きとってハイヒールへと差し込んだ。
ハイヒールは優しくシアの足を受け止め、まるで予め彼女の足に誂えたかのようにぴったりと包み込む。
「あら?」
両足にハイヒールを履いた途端、まその足はくるりと動き出す。
戸惑うリュアンを置き去りに、驚愕の表情を浮かべたままシアの足は優雅にダンスのステップを踏み続ける。
「ああ、止まらない、止まらないわ」
「誰か、誰か。止めてくださいな」
辺りの柱に縋ろうと、互いに手を取り止めようと、声を聞きつけた辺りのものに押さえられようと。
全ていなして躱して受け流して、シアの足は止まらない。
踊り続けるシアの顔色は青白く息も荒く。今にも倒れてしまいそう。見守るリュアンの様子も同じ様。
そして破綻は訪れた。
「っ、こふっ」
一度閉じ、もう一度息を吸おうと開いた口から、咳の音と溢れた赤い液体。同時に足は静止し、受け身も取れずに倒れ込む。
「シア……シア!」
リュアンが駆け寄り抱き起こすも、その体に力が入ることはない。先程まで優雅に動いていた足ももう踊ることはない。
「……心臓の音が、聞こえないわ」
片割れを失ったリュアンの呆然とした声が、その場に通り渡った。
無論、シアはユーベルコヲドで呼び出した幻影である。
吐いた血のようなものは食紅とシロップで作った血糊。奥歯にそれを収めたカプセルを仕込み、ある程度踊って見せたところで割って見せたのだ。
皇女であった頃に自決用の毒を奥歯に仕込まれていたが故に思いついた策である。
鼓動が聞こえないのは当然だ、幻影の心臓は元々動いていないのだから。
曰く付きの靴の力を利用し、踊り続けて心臓が壊れたかのような見事な死にっぷりであった。
大成功
🔵🔵🔵
クリュウ・リヴィエ
んーと、舶来品を見つけて死んだふりすればいいんだね。
一応死に方は変装した時から考えてるけど。
とりあえず、水路か水辺の近くで火に関連する店を…。
あのランプ屋が丁度いいかな。
さて…?
ああ、あったあった。
このランプ…亡霊ラムプってやつかな?
いい品だけど、危うい気配があるね。
ご主人、これはどういう由緒の品なのかな?
なんて聞きながら、買ったうえで、ランプに火を入れよう。
さっき買ったキセルから火を移したら、怪しく格好いいかな?
そしたら、マジックナイトとしての魔法で、顔の包帯に火をつけよう。
勿論、【火炎耐性】はしっかりと。
苦しんだふりして、そのまま水に飛び込もう。
●
紅の差し色のあるキセルから、ゆらりと紫煙が立ち上る。
(んーと、舶来品を見つけて死んだふりすればいいんだね)
次の行動を考えながら、一息試しに吸い込めば、先程詰めた刻み煙草の燃える煙が香りくる。常には嗅がぬ咽るような香りはどこか現実味を薄くするようですらあった。
「さて……?」
包帯人間と化したままのクリュウは大広間の庭へと続く大きな窓の向こうを眺め見る。
ちょうどそこには大きな池が見えた。深さもそこそこで、溺れてしまうことも容易そうだ。
そのそばの店を金の双眸で物色し──一つ、ランプを並べた店に目を止める。
(あのランプ屋が丁度いいかな……ああ、あったあった)
その中で一等紅色際立つランプが一つ。
まるで血を固めて作ったかのような色合いは、火を灯せば鮮血のような鮮やかさを見せるのではないか。あれに火を付けたい、そして眺めて持って歩きたい──そう思わせる魅力のあるランプだった。
(あのランプ……亡霊ラムプってやつかな? いい品だけど、危うい気配があるね)
キセルを弄びながらクリュウはそちらに足を運び、きゅっきゅと他のランプを磨く店主へと声をかけた。
「主人、これはどういう由緒の品なのかな?」
「へ、へぇ……いや、そんなランプあったかな……」
重めかしく恐ろしい風情を保ったまま件の紅いランプを手に取り、キセルの火をランプの中の燃え芯に移す。
それは怪人があたかも不思議の品で何か恐ろしいことをしでかすような有様で。
目の前の暴挙に泡食った店主であったが、それでもランプの灯りに魅せられたように一瞬動きを止める。
火のついたランプの透ける色はまさに今吹き出たばかりの血の色のよう。寂しい魂を慰めるという亡霊ラムプと言うにはあまりにも恐ろしく妖しいランプであった。
そして中の火が揺らめいた瞬間、クリュウの顔に巻かれた包帯に火が灯り、店主が叫び声を上げた。
「ひぃっ、火が、火が!」
「むっ」
慌てて叩いて消すも消えず、見る間に火は包帯を伝って広がって。そのうちに完全に顔の包帯が火に包まれ包帯に覆われぬ口から苦悶の呻きが上がる。
「あ──ぐ、ぅ! がっ!!」
いとも苦しげに悶えふらつくクリュウは大広間の大窓をあけ、側の池に飛び込み──そのまま上がってこなかった。
ランプ屋周辺は騒然とし、逃げるような足音が響いていた。
(うまくいったかな)
池の底で沈んだふりをしながらクリュウは首尾をうかがう。
実は包帯に火を着けたのはクリュウ自身である。マジックナイトとしての魔法で軽く行えることだった。
無論事前に火炎への耐性を魔法で上げており、包帯の下の顔には火傷どころか赤み一つもなく、包帯も多少焦げた程度で済んでいる。
念を入れて池にも飛び込んでみたが、うまいように騒ぎになった。
あとは影朧の訪れを待つだけではあるが。
(ちょっと冷たいかなー)
冬の庭の池の水はかなりこたえる冷たさで。
クリュウはできるだけ早く来てほしいなぁ、とも思うのだった。
大成功
🔵🔵🔵
木元・杏
◎
おうどんでお腹も満足
…ん、ごはんの後は、おやつ
赤いりんご飴に紅色の金平糖
きらきら光って宝石みたい
…赤い果実水?
下の方はミルクの白
あ、中にさくらんぼが入ってる
どれも美味しそうで迷う
全部お買い上げする
ふと耳を澄ませば
聴こえてくる懐かしいような音色
ふらり覗くお店のディスプレイには
赤い宝石の散りばめられたオルゴヲルの小箱
そしてお店から香る匂いは甘くて
きれい
小箱も、奏でる音楽も
甘い匂いもふんわりといい気持ち
……何だか、眠い
目をごしごしこすってりんご飴ぱくり
果実水を一口、さくらんぼを食べて
金平糖……
ぱらぱらと口に含み
そのまますう、と眠るように倒れる
…何が原因かな
何かに毒、きっと入っていた
そのまま死亡
●
食べ盛りのお腹にもたっぷりのおうどんは十分な満足感をもたらした。さて、ご飯のあととくれば。
(……ん、ごはんの後は、おやつ)
素直に欲求を満たすため、杏はうどん屋を後にし、会場の広間のはずれあったカフェのような店の席へ。
ざわめきすらも少し遠いその店で、給仕に案内されてついた席にてメニュウを開けば、紅色の菓子や飲み物の絵が杏の目を誘う。
小さな赤いりんご飴は宝石のように煌めいて。
角を出した紅色の金平糖も柘榴石のよう。
真っ赤なソォスのかかった焼き菓子もおいしそう。
赤い果実水と下に沈んだ白いミルクの中にはさくらんぼが見え隠れ。
どれもこれも全てが美味しそうで迷ってしまう。
迷ってしまうなら、そう。
(全部お買い上げする)
食べ盛りのお腹には甘味はもちろん別腹である。
水を運んできた給仕に全て頼んで待つ杏の耳に、微かに聞こえる音があった。
耳を澄ましてみれば、懐かしいような音色と調べ。
ふらりと席を立ち、カフェの入り口を覗いてみれば、赤い宝石の散りばめられたオルゴヲルの小箱。
ぽろん、ことんと流れる音は異国の童謡だったか。店から香る甘い匂いと相まって、どこか郷愁めいた風情を感じさせてくる。
「きれい」
小箱も、奏でる音楽も、どちらも。そんな気持ちを乗せて杏はぽつりと呟いた。
店から香る甘い匂い、少し寂しげで、でも懐かしいきれいな音楽、きれいな小箱。紅市のざわめきも少し遠く、ふんわりといい気持ちになってくる。
ふぁあ。杏の口からあくびが漏れる。
(……何だか、眠い)
うさみんを抱え直し、目をこする。腹がくちくなっていたからだろうか。子守唄のようなオルゴヲルの音色のせいだからだろうか。
折角だ、食べてから休もうと、次々届く品へと手を伸ばす。
りんご飴をかりり、甘く硬い飴を囓ってから、しゃくりと甘酸っぱい実を齧るよ口の中で程よく混ざり合い、りんごの香りが広がってくる。
くるくるとついてきたストローでミルクと果実水を混ぜてから薄紅色を飲めば、さくらんぼの香りとミルクと果実水のやさしい甘み。
金平糖を口に含んてかりり、桜風味が広がった。
焼き菓子に紅いソォスをつけて口に入れると、ベリーの酸味とほの苦さ。
眠いながらもぱらぱらと口に運んでいた杏の手からフォークが滑り落ち、振り袖が揺れ、椅子から滑り落ち、。
紅いソォスの毒に当たった杏は、穏やかな夢を見るかのように息を引き取る。
外れの物静かなカフェに客は来ず、給仕も奥に引っ込んだまま。
テーブルの影に隠れてしまった杏は、影朧が来るまでそのままであった。
成功
🔵🔵🔴
落浜・語
◎
そろそろ怪しい物が混ざり始めた頃か
精々、本当に死なない様に気を付けないと
目についたのは紅色の綺麗なビードロ玉。それがどうしても気になった。
広間からでて、買った物と扇子を脇に置いて木陰で休憩。
にしても、綺麗な紅色だな。結局買ったビー玉を日にかざして眺めて居れば、手が滑って転がっていく。
別に対して値段もしなかった、子供の玩具。でも追いかけずにはいられない。
池ポチャしたのを追って、駆け込んだ先は思ったよりも深く。焦って藻掻いた体が沈んで、吐き出した息が泡になって浮いて。
まぁ、息が出来なくても死なないけれど、苦しい物は苦しいんだよ…
水から出たら本体である扇子と買った贈り物を回収。カラス、監視有難う
●
外の空にも紅の気配が漂う。高かった日も落ちて、そろそろ夕焼けが広がってきた。
一部騒がしく、足早に出ていく人が増えてきた紅市の会場になった広間にも照明に火が入れられる。
(そろそろ怪しい物が混ざり始めた頃か)
そんな中、紙袋を携えたままの語は改めて会場の品を見て回っていた。予知通りならば曰く付きの品が紛れ込んでいるはずだ。それを見つけて死んだふりをせねばいけない。
(精々、本当に死なない様に気を付けないと)
ぐうるりと語は市の中を見渡す。何かしら気になる品が紛れ込んできているはずなのだ。
その目が捉えたのは玩具を取り扱う店の品。
ベーゴマやめんこ、おはじきなど子供向けの品々が丁寧に並べられている。流行りのスタァのブロマイドも扱っているようだ。
その中でも紅色の、まるで紅をそのまま丸めたような、いっそ血の色をしたような、綺麗な綺麗なビードロの玉。硝子瓶に詰められて灯りを反射してきらめいた。
どうしてもどうしても気になって語はそれを購入する。
包むか、と聞いた店主の言葉にはそのままで、と返し、硝子の瓶を抱えて庭へと足早に急ぐ。
木陰に座って、先程の土産の紙袋と扇子を脇に置き、瓶からビードロ玉を一つ取り出した。
指先でくるりと回して、沈みかけた日へと翳して眺めやる。透き通った紅色のまあるい玉が夕日を通してきらりきらりと紅の光を投げかける。
「にしても、綺麗な紅色だな」
語は眩しげに目を眇めて宝物を見るような童の顔をした。
もう一度、とくるりと指を翻せば、ビードロ玉はその指からころりと転げていく。
「あっと」
別に対して値段もしなかった子供の玩具である。でも追いかけなければならない、あれを手放してはいけない。
そんな気持ちに駆られてすぐ側にあった小さな池へと落ちていくビードロ玉を追いかけて、水に踏み入る。
(あれ、足が)
その池は防火用の溜池であったのか、存外に深く。藻掻いた体は沈んでいくばかり。苦しくて苦しくて、口を開いてもごぽりと息は出ていくばかり、変わりに水が入り込んだ。
語の体は泡になって浮かび上がる息を見送ったまま、水に沈んでいくのだった。
語はヤドリガミであるからして、無論青年の体は仮初の体である。故に息ができなくとも死ぬことはない。
ないが、それが平気かというとそうでもなく。
(苦しい物は苦しいんだよ……)
息苦しさにたえつつ池に沈んで死んだふりをしながら、カラスに監視してもらっている荷物と本体を回収せねば、とこのあとの段取りを思うのだった。
大成功
🔵🔵🔵
ファン・ティンタン
【SPD】赤い人見、
アドリブ歓迎
しげしげと購入した紅玉を見つめていると、不思議な衝動に駆られる
この赤と同じ色をもっと見ていたい
この赤を、この赤……この赤の、正体は何なのだろう?
あの口紅の色ではない
そっちの紅染めとも、違う
花でも、油絵でも、ない
……ああ、そうか、アレか
紅玉を、ゴツリと頭にぶつける
額が割れ、滲む赤を指でなぞり、確信する
コレだ、この赤だね
ゴツリ、ゴツリと
鈍く響く度に赤が溢れる、増えていく
けれど、どうにもこれでは足りない気がする
嗚呼、もっと良い方法があるじゃない
我が刃は、この赤が映える為の白じゃないか―――
【異心転身】で演出
(……はぁ、狂人の振りも楽じゃないね)
(……振り、だよ……?)
●
ゆうらり、ゆらりと紅が揺れる。
手の中でくるりくるり、傾げて回して転がして。
会場の片隅でファンは購入した紅玉を飽きずにずっと眺めていた。その様に他の者から怪訝な眼差しを送られても全く気にすることなく、飽きずにひたすら見つめていた。
(この赤と同じ色をもっと見ていたい)
抗い難い不思議な衝動。目を逸らすこともできず、ただただこの紅を見ていたいと思う。
揺蕩う紅はファンの紅の目を捉えて離さない。見れば見るほど紅玉は紅く、ファンを魅了する。
(この赤を、この赤……この赤の、正体は何なのだろう?)
あの艶めいた口紅の色ではない。もっと深い紅だ。
そっちの紅染めとも、違う。もっと艶やかな紅だ。
花でも、油絵でも、ない。この玉の紅とは違う色だ。
この市の中にあふれるどの紅の色とも違う。この紅色は、赤は、一体何なのか。
(……ああ、そうか、アレか)
ああ、そしてファンは思ってしまったのだ。
白い手が抱えた紅玉を、ごつり、と思い切りよく額に打ち付けた。
皮膚が割れたところからじわりと滲んだ、赤。
それを指でなぞって、しげしげと見つめて見比べて、ファンは確信する。
「コレだ、この赤だね」
今まで何度も見てきた赤。そうだ、血の赤だ──と。
そして紅玉を額へと打ち付ける。何度も何度も、ごつり、ごつり、と。
その異様さに気づいた人々がざわめくが、ファンの手は止まらない。
打つ度に赤が溢れて、増えていく。
ああ、けれど、これでは足りない。溢れる端から黒へと変わっていく。溢れる量も勢いも、足りない。
(嗚呼、もっと良い方法があるじゃない)
打ち付ける手を止めて、左手を見つめる。仄かに黒い赤をまとった手をそのまま、首に添えて。
(我が刃は、この赤が映える為の白じゃないか―――)
刃の鋭さを宿した手で首を深く切れば、そこから吹き出し滴る赤、赤、赤。
白い髪に、装束に染み込んで鮮やかな対比を見せつけた。
そのまま床に倒れこんで、身動ぐことなく事切れる。
辺りは騒然、我先にと逃げ出すものまで出る始末。
そんな騒動を死んだふりをしながらうかがいつつ、ファンは思う。
(……はぁ、狂人の振りも楽じゃないね)
ヤドリガミであるファンならば、仮初の体が多少傷つき血まみれになっても死にはしないから、とこういう演技をしてみせたのだ。
先程見せた狂気はあくまでも演技である。振りである。と、誰かに、もしかしたら自分にも言い訳しながら死んだふりを続けるのであった。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『不退転浅鬼・遊蛾』
|
POW : 黄泉路をも照らすこの魅力!
【自身の影からレベル×1体の傾国の鬼】が現れ、協力してくれる。それは、自身からレベルの二乗m半径の範囲を移動できる。
SPD : フアンの皆様お助けを!
自身が【身の危険】を感じると、レベル×1体の【支配された一般的な成人男性】が召喚される。支配された一般的な成人男性は身の危険を与えた対象を追跡し、攻撃する。
WIZ : 強制改心舞・悪
【世を魅了する美しさ】を籠めた【心への演舞】による一撃で、肉体を傷つけずに対象の【判断力】のみを攻撃する。
イラスト:FMI
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠ブライアン・ボーンハート」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●狂乱の紅の
血を吐いて転がる女性。
火に巻かれた包帯の怪人。
眠るように死んだ娘。
溜池に落ちた着物の青年。
頭を割った血塗れの娘。
あちこちに死体が転がる紅市には、もう動くものはいない。品物も設備も放り出して生きている者は皆逃げてしまった。
もう誰も訪れないだろう、そんな会場に現れたのは女性の姿。
宵闇に浮かぶ 肌は艶かしく白く、美貌は見るものを虜にす。香の香りも重く甘い。立てば芍薬、歩く姿は百合の花。座れば牡丹の華やかさ。見るものをその美しさで捕えて離さない、そんな毒すら感じる麗しさ。
「わっちは紅が好きなんし」
側にあった紅色の落雁を摘んで。
「それも艷やかな紅が」
眦に鮮やかな紅を塗りつけて。
「一等好きなのは」
飛び散った紅を見つけて。
「流れ出た血の紅」
紅色の唇をにぃ、と弛めた。
「なんであの不可思議なてぃー、とかいう御人の言に乗って策を出してみたけれど、予想より血が少ないなぁ」
そう、物足りなげに呟く影朧は手にした扇で自身を仰ぐ。
「品物も血も見れるいい策だと思ったなんしが……もう一度やりますかいなぁ」
もっと大きな市にしてもっと多くを殺すのだ。今度は舶来品でなんて迂遠なことはしない、自分が出てもいい。
そう呟いて影朧は会場を見渡す。
「またあの御人に渡りをつけたらやってくれましょうか」
品の手配やら会場やらは謎の人物「T」が用意してくれたのだからまたやってくれるだろうからと。
ここで止めねばこの影朧は同じことを繰り返すのだろう。
それを許さぬ者達がこの場にいることも知らずに影朧は紅市を物色し始めるのであった。
クリュウ・リヴィエ
◎〆
動機は「血の紅が見たかったから」?
それは…うーん。どう諫めればいいんだろ?
紅が好きなのか。
血の色、良い色だよね。
でも僕なら、それだけっていうのはつまらないな。
もっと色んな、圧倒されるような光景を見てみたい。
海や空の抜ける様な青、新緑の輝く様な緑、塗りつぶす様な雪化粧の白に、漆黒に宝石をばら撒いた様な星空。
ほら、紅だけじゃ勿体ないと思わないかな?
まあ、これで説得される程甘くはないかも。
戦闘が始まれば、トリニティ・エンハンスで攻撃力を強化。
「カミ砕き」で傾国の鬼を迎え撃つ…
って、傾国の鬼ってどんなの?
まあ目にしてるはずなんだけど…。
本人の周りに展開するだろうから、薙ぎ払って本人に肉薄しよう。
木元・杏
◎
…気配感じる
影朧、来た
ゆるり立ち上がり、こんにちは、と影朧と対峙
…ね、紅色好き?
わたしは銀に橙が好き
おとうさんとおかあさんの色だから
貴女は?何故好きなの?……紅の血
なるべく対話をして詳しい動機聞き出したい
鬼を出されたら、魅力には魅力で対抗
擬人化メイドさん、鬼を引き付けて?
…ね。想像してみるのはどう?
わたしの血、何色だと思う?
血の赤でも色々な色がある
…もしかしたら、赤ではないかもしれない
想像する楽しさは、見ることが出来ないから
血は、普段見えないから魅力的で
…「生命」の元だから、美しい
次に生まれる時に「生命」を想像し、紅色同様に愛おしく思えるなら、きっと転生出来る
日本刀にした灯る陽光で遊蛾を刺す
●
池の底で横たわっていたクリュウは、影朧の声を聞く。
それは己が血の紅を見たかった、という勝手な動機であって。
(それは……うーん。どう諫めればいいんだろ?)
まずは池から上がるか、と寒い池から浮かんで包帯を解いていく。
囀る声と気配に杏もぱちりと目を開ける。
(……気配感じる。影朧、来た)
未だ鳴り続けるオルゴヲル。その音を聞きながらゆるり、テーブルの影から立ち上がり、影朧へと歩んでいく。
あれもまあよし、これもまあまあ、と紅を物色していた影朧は庭から現れたずぶ濡れの青年と、片隅から現れた紅の着物の娘に気づけば手を止めて。おや、未だ生きていたかと袂を口元に当てて首を傾げる。
ずぶ濡れの当世風の青年に紅色尽くしの禿の年の娘。取り合わせは何とも奇妙。しかし何か不思議な気配に直ぐ様殺すことを躊躇わせる。
「こんにちは」
そんな影朧へと杏軽く頭を下げて、挨拶を交わす。
「……ね、紅色好き?」
「無論、好きでおざりんす」
「そうなの。わたしは銀に橙が好き」
杏は胸元に手を当てて微笑む。己の中に繋がる血を思いながら。
「おとうさんとおかあさんの色だから」
たとえ遠く世界が離れても、杏自身には宿らずとも、そばにいる大切な兄弟を見れば直ぐに見える。
快活な母にさばさばした父。橙の髪に銀の瞳。愛しい愛しい、家族の色。
「貴女は? 何故好きなの? ……紅の血」
その問いには、紅を掃いた唇が柔らかく綻んだ。
「その紅はなぁ、誰にでも流れる血の紅。大店の旦那も、貧乏人も、だあれも関係おざりんせん。かのさまもわっちも変わりんせん」
ひらり、自身の襦袢の紅を翻し、ほうと夢見るように呟く影朧。
「皆、同じ。全てに通じるほんに美しい色よ」
「血の色、良い色だよね。確かに皆違いはないかな」
クリュウにしてみれば馴染みの深い色。身につけた宝石にも、自身が力を解放する時の瞳にも写る紅色。今の彼には切っても切り離せない祝福であり呪いでもあろう色。
「でも僕なら、それだけっていうのはつまらないな」
濡れて張り付く髪をかき上げて金の瞳で揺蕩う影朧を眺め笑う。
「もっと色んな、圧倒されるような光景を見てみたい」
そう、例えば、と腕を自分が入ってきた窓を指し、外へと広げて。
「海や空の抜ける様な青」
何処までも続いていく広大な青。
「新緑の輝く様な緑」
動き出したくなるような鮮やかな緑。
「塗りつぶす様な雪化粧の白に、漆黒に宝石をばら撒いた様な星空」
全て包んできんとする空気の白、全て含んで煌めいている黒。
クリュウが目覚めてから見てきた、これから見るだろう景色を上げていく。
何も覚えていない彼だからこそ、求める光景がある。知らぬからこそきっとあるのだと希望を抱くのだ。
「ほら、紅だけじゃ勿体ないと思わないかな?」
ただ一つの色に満たされた世界などつまらないのだと笑い飛ばす。
「……ね。想像してみるのはどう?」
無垢な子供は思い浮かべて、とせがんで見せる。
「わたしの血、何色だと思う?」
「紅でおざりんしょう」
ふるり、杏は首を振る。
「血の赤でも色々な色がある……もしかしたら、赤ではないかもしれない」
影朧の思う赤と杏の赤は違うだろう。更に、もしかすると、別の色ですらあるだろう。
血の色を透かした頬でありながら、青かもしれない、緑かもしれない、と謳ってみせて。
「想像する楽しさは、見ることが出来ないから。血は、普段見えないから魅力的で……「生命」の元だから、美しい」
多くの世界には赤でない色の生命もいる。そんな生命の元を想像する楽しさは格別、と笑ってみせた。
そんな二人に影朧は眩しげな目で微笑んで。
「主らは自由でおざりんすなぁ。……篭の鳥には、過ぎたる夢よ」
影朧が見てきたのは狭い世界。知らぬ頃には夢見た世界は広けれど、知った時には狭く閉ざされた。
「色香で惑わせど、朝が来れば皆醒めて。全ては遠い外の世界。けれども同じ血の色ならばもしかして、と夢に遊ぶこともできなんす」
他の色を見たら自分の閉ざされた世界をより強く認識してしまうなら、紅を見て目を閉したほうが幸せ、と彼女は嘯く。
「わっちも同じ存在になれると──夢見る、いろよ」
だからこそ、紅が好きなのだと影朧は言うのだ。
その影からずるり、ずるりと人の手が現れる。たおやかな白い手から華やかな着物が続き、角の生えた額が、様々な美しい女性の鬼が現れる。
「主らの紅はどんな色か、確かめめるといたしんしょう」
傾国の鬼達が、クリュウを、杏を引き裂いて血を確かめようと迫りくる。
「まあ、これで説得される程甘くはないか」
クリュウのもとへやってきた麗しい鬼の手をカミ砕きが噛み砕き、殴り砕く。
「次は新しい世界が見れるといいね」
散らばる影を振り切って、未だ微笑む影朧へと肉薄し、大剣が殴り飛ばした。
「メイドさん、鬼を引き付けて?」
杏の元に向かった傾国の鬼には、すらりと背の高いうさみみのメイドが現れて鬼達を身軽に引きつけた。
その間に飛ばされてきた影朧へと、灯る陽光を日本刀に変えて両手で構えて。
「ねぇ、次に生まれる時に「生命」を想像して。紅色同様に愛おしく思えるなら、きっと転生出来るから」
そうしたら、きっと、自由だから──そう願って、影朧へと突き刺した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ファン・ティンタン
【SPD】お仕置きタイム
アドリブ可
……さて、演技はもういいかな
Tとやらに繋がる情報は無いみたいだし、サクッとやらせてもらうよ?
【天羽々斬】の解放、67振りもの刀身を宙へ
さて、一般人が召喚される厄介な技があるらしいけれど……狙いは、私でしょう?
宙に【念動力】で浮かせる刀身を重ね、足場に
一般男性では届かぬ高さに身を置き、召喚された男共を自ら十分に引きつけ隔離した後に、敵へ【天華】の複製数振りを【投擲】射出して攻撃する
戦闘力の高い何かが召喚されてたら、少し厄介だったんだけれど
ま、チョイスミスだね
そんなに赤が好きなら、私みたいに自分の赤(血)に濡れるといいんじゃないかな?
きっと、病みつきになると思うよ
落浜・語
ったくもう…。苦しかったし、びしょびしょだし…。
そんなに紅が見たいなら、自分の紅で我慢しといてくれねぇかな。
UC『誰の為の活劇譚』でもって援護を
「年の明けた小正月、帝都の片隅洋館で、行われますは紅市。見目美しい紅の中に、混ざりこむは影朧の罠。これを放置はできないと、乗り込みますは猟兵方。市を楽しみ、死の振りをして。これより語られますは、現れました影朧を、送り導くための物語でございます。」
世を魅了する美しさ、って俺の彼女の方が綺麗で可愛いから。
深相円環での、【マヒ攻撃】で演舞の邪魔もしようかな。
もっと別にいい色はあるだろうに。
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(……さて、演技はもういいかな)
黒く変わった血だまりからファンは身を起こす。
衣服や髪に纏わり付く黒が鉄臭く重たいが、今はまあいいだろう。後で洗い流せばすむことである。
(ったくもう……。苦しかったし、びしょびしょだし……)
語も訪れに合わせて溜池から浮かび上がる。
濡れた仮初の体はいつの間にやら洋装に。
冷えきった体を動かしながら室内へと駆けてゆく。
その間に影朧は耐性を立て直し、自身から滴る紅を指ですくい取ってとろり、微笑んだ。
「ああ、紅はやはり、美しい……」
茫洋とする彼女は人外の美しさを見せるだろう。けれどもこの場に立つファンや語にはその美は響かない。
黒に染まった白の娘は、顔にこびりついた黒を拭う。
「Tとやらに繋がる情報は無いみたいだし、サクッとやらせてもらうよ?」
服の裾をひるがえすその一瞬で、ファンの周りに六十七の刀身が浮かび上がる。
「そんなに紅が見たいなら、自分の紅で我慢しといてくれねぇかな。人を巻き込まないでもらいたいもんだ」
駆け込んできた噺家の青年は、げんなりとした顔でチャクラムを構える。
「紅にこだわらなくたって、もっと別にいい色はあるだろうに」
「主らにはあるのでおざりんすな。けれども、わっちに届いたのは紅しかなく。わっちが得られたのも紅のみならば」
悠々と、いつの間にか取り出された紅色の扇が、影朧の紅を塗った指先で広げられる。
「それをもっと見たいと願ったのでおざりんす」
それには、語は答えない。彼には理解できぬ理屈であったろうから。
掴めぬなら掴もうとするだけだ。いつかのあの人との約束を果たすために高みを目指し続ける、語の生き方とは相容れない。
だから語はただ、語る。
「年の明けた小正月、帝都の片隅洋館で、行われますは紅市」
しゃん、と深相円環をすり合わせ。
「見目美しい紅の中に、混ざりこむは影朧の罠。これを放置はできないと、乗り込みますは猟兵方」
この場に届けと声を上げ。
「市を楽しみ、死の振りをして。これより語られますは、現れました影朧を、送り導くための物語でございます」
ぐるりと威力を増した深相円環を投げつけた。
影朧は深相円環を扇と舞で払いながら、語へと手を伸ばす。
その舞はたしかに美しい、血にまみれた姿も相まって鬼気迫るものがあるが、その魅力は語には届かない。
「世を魅了する美しさ、って俺の彼女の方が綺麗で可愛いから」
愛しい恋人を思い浮かべれば舞の印象も霞むというもの。くるりと巡ってきた深相円環が影朧の手を足を切りつけて、動きを鈍らせる。
「そんなに赤が好きなら、私みたいに自分の赤に濡れるといいんじゃないかな?」
ファンも機を逃さじ、と天華を舞うが如く操って。
「きっと、病みつきになると思うよ」
刀身を螺旋の階段の如く並べ、高くへと飛び上がり。くるりくるりと影朧の頭上へ登っていく。
本当にこの影朧は自分の欲でだけ事件を起こしたのだろう。何度も事件を起こす謎の人物の情報は得られない。ならば興味は起こらない。
故に一息に仕留めるのみ。
「ああ、夢に溺れたからこそ、今も求めるのでおざりんす──」
傷つき血に塗れて、幸せそうな影朧は、危機を覚えることもなく。ただただこのあとの紅を予測して微睡むばかり。
そんな姿に、ファンは──。
「──」
何も、言うこともなく。ひと振りを手にして、飛び降りて。
高いところから、刀身が幾つも降り注ぎ。
鈍い音と紅が広がった。
大成功
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