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冬の真昼は夕陽みたいだ

#UDCアース

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#UDCアース


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●イントロ
 Fマイナーが好きだった。サブドミナントがGになるから。そのままCのジミヘン・コードに飛んで素直にトニック。
 僕の書く曲はいつもそうだった。どれも同じだ。

 十二月の臨海公園は家族連れさえどこかまばらで、自己満足のステージにはうってつけに思えた。子供たちからふと手を離した父親が、幸せなふりに疲れたような顔をしている、そんな真昼。
 ――僕は歌う。
 なんとなくだけど、この曲が完成したら死のうと思っていた。これまでの駄作とそう変わらない音楽の何がそう思わせたのか、自分でも理解できないけれど。

 そんなささやかなカウントダウンは四分ちょっとで終わってしまって、アウトロに途中で飽きた僕はギターケースに目をやった。
 すぐそこに、少女がひとり佇んでいる。
「良いな」
「……はあ」
「気に入った。それをもっと歌ってくれ」
 父親と出かけるほど幼くもないし、デートの相手が居るようにも見えない――この場にはそぐわない年頃の少女が、僕を見降ろして薄く笑う。

 その『非日常』の違和感に思い至ったその瞬間。
 ほの紅い大気が、ぐにゃりと歪んだ。


「――偶発的邪神召喚」
 そのフレーズを口にするとき、臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)は珍しくUDCエージェントの顔をしていた。
「一般人の何気ない行動が、たまたま邪神召喚の儀式を成功させてしまう。そういう事例だね。……今回の場合、それは無名のストリートミュージシャンの新曲だった」
 和音、旋律、はたまた歌詞。そのいずれかが――あるいは全ての偶然の一致が、邪神にとってなんらかの意味を持ってしまったのだ。古今東西、歌と儀式というものは切っても切れない関係にあるし、そう突飛な話でもないのかもしれない。
「現場はそれなりに広い臨海公園だ。海水浴シーズンは過ぎたといっても、家族連れやカップル客はまだまだ多い。……少々面倒な話になるよ」

 資料の束を配りながら、夏報は作戦概要を説明する。
「ひとまずの標的は、『齢十四の災厄』、『御門・光流』、そう名乗っている少女型のオブリビオンだね」
 随分持って回った表現をする、と思うだろうが――猟兵たちが手元の資料に目を落とせば、そこにあるのは『田中良子』という少女の失踪事件の記録である。ごく普通の家庭に生まれた、妄想癖の気のある少女が、邪神と関わった痕跡を遺して姿を消す。そんなありふれた話だ。
「こいつはミュージシャンの青年をいたく気に入った……わけではないだろうけど、支配下において公園内を連れ回してるみたい。彼女を倒して、青年を保護してくれ」
 オブリビオンの側としても、青年をすぐに傷つけるつもりはないと思われる。――偶然とはいえ、自らを召喚する手段を確立した存在。おそらく『利用価値』を見出して確保しているのだ。それを幸いと言ってよいかは微妙だが。
「偶発的に召喚された邪神はさして強くないから、そこまでは多分簡単だ。問題は……その後だね」
 こうした事例では、決まって『迎え』が現れる。
「より強い邪神が、新たな仲間の気配に惹かれてやってくるはずだ。集団の眷属を引き連れて、……よりによって、一般人の多い場所にね。彼らを保護する手段についても考えておいて」
 グリモアから放たれるやわらかな光が、猟兵たちを包んでいく。
「激しい戦闘が続くことになる、と思う。――どうか、気を付けて」


八月一日正午
 こんにちは! 冬は居心地が悪い名前のほずみしょーごです。

 今回は戦闘続きのシナリオです。サポート・ガイド・おまかせの採用も積極的にやりたいなと思っております。
 各章、状況説明を兼ねた無人リプレイを冒頭にはさみます。それがプレイング募集開始の合図にもなります。詳細はマスターページにて告知しますね。

●第一章
 しょっぱなボス戦になります。敵オブリビオンは一般人の青年を連れていますが、利用価値があるため積極的に傷つけようとはしていません。具体的に言うと、彼を保護する方策があってもなくても、特にペナルティなどはありません。

●第二章
 集団戦になります。こちらは、周囲の一般人たちを保護する方策が必要になるかと思います。

●第三章
 ボス戦になります。混ざりっこなしの純戦闘です。
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第1章 ボス戦 『『齢十四の災厄』御門・光流』

POW   :    『理想の私あるいは心的外傷の発露』
対象の攻撃を軽減する【光の戦士として前世の記憶を取り戻した自分】に変身しつつ、【レベル×7回の高速射撃&高速装填】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
SPD   :    『魔弾の射手あるいは逃れられぬ死』
【回避や防御が極めて困難な魔弾を撃つ 】事で【視界内の標的を撃ち抜く魔弾の射手モード】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    『未来視の魔眼あるいはご都合主義』
自身の【窮地を逆転の布石に変えられる未来視の能力】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は黒玻璃・ミコです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●ヴァース
「もうすぐ運命の刻が来る」
 楽しげに語る少女の後ろを、僕はぼんやり歩いていた。
 光の戦士がどうだとか、前世の前世がどうだとか、そんな話が延々と続く。どうでもいいので聞き流す。彼女一人を綺麗に残してぐにゃりぐにゃりと歪む視界が、どんな言葉より明らかな『異常』を伝えてくる。
 あの曲が評価されたのだと、本気で信じているわけじゃなかった。こんな小さな子供相手にどうこうなんて気持ちもなかった。それでも、僕は、止まれない。

 思い出すのは、会社を辞めた時のことだ。
 誰かの言うことを聞かされるのが嫌だとか、確かそんなことを考えていたっけ。

 どうにもひどい間違いだった。あれからずっと、誰も命令してくれないことが怖くて怖くてたまらなかった。もっと昔に戻りたかった。時間割と教師の言うことを聞いて、『死にたい』なんてフレーズをひっそり飼い慣らしていればそれで良かった子供の頃まで。
 本当に死にたいわけじゃない。この胸の中の何もかもを無かったことにしたいわけじゃない。ただ少し考えるのを止めて、大きな流れに従って、楽になりたいだけなんだ。――隷属したい! その衝動こそすべてだった。
 信仰というものが実在するなら、きっとこういう気持ちだろうな。
「お前は歌え。それで私は強くなれるから」
 命じられるままに僕は歌った。狂ったように引き攣る肺がそれでも動いた。

『冬の真昼は夕陽みたいだ』
『五時になったら死ぬ今日も』
『置いてけぼりの子供みたいだ』
『夜になったら死ぬ僕も』


 ――昼下がりの臨海公園。
 それぞれの持ち場に転送された猟兵たちは聴くだろう。
 とおく、ちかく、叫ぶような歌を。
緋翠・華乃音
歌というものの良さは、正直なところ良く分からない。
――けれど、不思議と歌を聴くのは好きだ。

でも俺には君の歌を聴きたいとは思えない。
悲痛の叫び声にしか聞こえないから。
それとも――助けて欲しいと、叫んでいるのだろうか。


転移先は近くの小さなビルの屋上。
狙撃手として気配を消して戦況を窺う。

戦闘が開始されれば『瑠璃の瞳』で戦場を俯瞰。
常人離れした洞察力と観察観を以て敵の攻撃パターンや回避行動等の情報を収集・分析し、見切りを行う。
狙撃するのは敵の頭部や関節などの脆弱点。




 歌というものの良さは、正直なところ良く分からない。なにかひとつの言葉が特別に響いたりだとか、フレーズが後まで残ったりだとか、そういう感覚はあまりない。
 ――けれど、不思議と歌を聴くのは好きだ。
 静かな冬の昼下がりに、ないよりはあったほうが良いものだ。少なくとも、そうは思える。

 グリモアが俺を飛ばした先、――俺の受け持つ戦場は、臨海公園近くの小さなビルの屋上だった。気の抜けたデザインの看板が足元でちかちか輝いている。目立つようでいて目立たない、認識の死角。
 高く、遠く、蒼い水平線まで見渡せる。凡百の狙撃手からすれば、少しばかり無茶な位置だろう。
 俺にとっては、此処でいい。

 気配を消して戦況を伺う。瑠璃の瞳が、異理の血が、距離という条理を超えたその先を捉えることを可能とする。光。音。すべての事象。
 ……これは戦況というよりは、状況と呼んだ方がいいかもしれない。まだ、誰も何も始めていない。海岸沿いの遊歩道を、少女の姿をした敵と、歌う青年が歩いているのが視えるだけ。

 ――そう、歌を聴くのは好きだ。
 でも俺には、君の歌を聴きたいとは思えない。悲痛の叫び声にしか聞こえない――事前に説明を受けていなければ、戦場で助けを求める叫びと区別がつかなかっただろう。
 何から助けて欲しいんだ?
 そこにいる邪神からではないというなら、一体、何から。
 狙撃のための沈黙の中、――声に出すことのない問いに、当然のように答えはなかった。

 洞察する。観察する。敵の動きに集中する。
 少女が青年を振り返り、何ごとか言おうと口を開いた。
 青年も足を止めて彼女を見た。
 ――今だ。

 『to be alone』の弾丸が、正確無比に敵の左眼を貫いた。

 負傷を受けたその瞬間、少女は弾かれたように振り向いて――方向を特定できたのはさすが邪神というべきか――しかし、『視界』に俺を捉えることはできないらしい。残った右眼が輝いて、その全身が『何か』に変質していくが――魔弾といっても、撃てなければなんの意味もない。
 反撃が来るより先に、臨海公園のそこかしこで猟兵たちの気配が動く。あらゆる『戦況』が動き出す。その全てを俯瞰する位置で、俺はひとまず銃を下ろす。

 運命の刻とやらは、今から始まる。

成功 🔵​🔵​🔴​

ユキ・パンザマスト
◎ロク・ザイオンと
やれ、五時になったら夕焼け放送でしょうに。
……ある意味、悲鳴ですかねえ。
これだけ切々、胸のうちをシャウトしてるんすから。
……ロクさん?

(無理やり歌を掻き消すような大声に、目を丸く、けど)
(己の扱うサイレンみたいで、決して悪くなかった)

おお……こりゃまた、よく響くお声ですね?
ええ、お任せを!
ぶっ飛ばすのはロクさんに任せます!
【バトルキャラクターズ】でホロ椿生成。
半数を、青年を守る生垣に変える。
もう半数をロクさんの護りにつかせて、枝根を伸ばし、
[早業][マヒ攻撃]で逃げられぬよう妨害!

こっちの迷い子はユキが守りましょう。
どうぞそのまま、迷い子のお嬢さんを還してやってくださいな。


ロク・ザイオン
◎ユキ・パンザマストと

(その叫び声は。うたは、)
……あれは。
悲鳴なのかな。ユキ。
(きっとこの世界のことを自分よりよく知るキミに、問う)

……やっぱり、そう、か。

(それをもっと聴いていたいと思ってしまうから
もう、これ以上、聴くわけにはいかない)
――あああァアアア!!!
(歌を遮るよう、【恐怖を与える】【大声】を放つ
強き者に従うのが楽だとキミが言うのなら
どうかこの悍ましい声で竦んでくれ
己の命の為に、怯えて
夜が来る前に逃げてくれ)

ユキ。
お願い。

(弾丸の雨は【野生の勘】で躱し、或いはユキの操る椿に任せ
【ダッシュ】で肉薄、【早業】の「閃煌」を叩き込む)

お前は。
ひとに帰れないのなら。
……せめて、土に。




「やれ、五時になったら夕焼け放送でしょうに」
 地域によって曲目に違いはあるみたいですが、ユキにとってはもちろんパンザマストですね。
 いつまでも遊んでいたい子供たちにとっちゃ、確かに五時で『今日』は死んでしまうのかもしれませんが――そうしたら、また明日、って別れればいい話じゃあないですか。
 ……彼には、それが難しいんでしょうかね。それが大人になるということでしょうか。それとも、なれなかったということでしょうか。
 目の前で戦いが始まったっていうのに、まだ歌い続けているあの青年には、いったい何が視えているのやら。

「……あれは」
 お隣で、ロクさんがぽつりと言いました。
「悲鳴なのかな。ユキ」
 仮にも敵と向かい合っていたもので。後ろに佇む彼女の表情を、わざわざ伺ったりはしませんで――ユキはただ、質問の答えについて考えました。永く憶えてはいられなくとも、ロクさんよりは世界のことを知っていますし。
「……ある意味、悲鳴ですかねえ」
 そりゃあ、これだけ切々、胸のうちをシャウトしてるんすから。知った顔した評論家がそう表現したっておかしくないでしょ――そのくらいの気持ち、だったんですけど。
「……やっぱり、そう、か」
「……ロクさん?」
 絞るようなその声色に、ユキが振り向くより先に。彼女は、すうと、冬の冷たい空気を吸って。

「――あああァアアア!!!」

 無理やり歌を掻き消すみたいな大声で――ユキのことを追い越して、ロクさんは敵へと駆けていってしまいました。丸くなった目を瞬きさせるその間に、歪んだ顔だけがちらりと見えて。
 あんまりの形相でしたから、ちょっとは驚きましたけど。……きっと怒らせたわけじゃあないはずです。それに――鑢のよう、だなんて言われるその声だって――逢魔ヶ報の警告音によく似ていて、決して悪くないとも思ったので。ええ、常日頃からも。
「おお……こりゃまた、よく響くお声ですね?」
 少し茶化すような言い方をしても、彼女はそれに文句をつけたりしませんし。
「――ユキ。お願い」
 今度の声は小さな小さなささやきでした。
 全くもう、言葉少なにも程ってものがありますが――何を願われたのか、わからないユキじゃあないですよ。
「ええ、お任せを! ――ぶっ飛ばすのはロクさんに任せます!」

 さぁさぁ、藪椿。五時には少し早いですけど。
 楽しくて、ちょっとさびしい『放映』のお時間です。


 うつくしい、うたが聴こえた。

 けれどもあれは悲鳴だという。おれにはそうとわからなくとも、やはり悲鳴に違いないのだ。いや。本当は尋ねる前から知っていた――あの叫び声を、おれは、もっと聴いていたいと思ってしまったのだから。
 怖かった。その甘やかさが何より怖い。
 ――だからもうこれ以上、聴いているわけにはいかない。

「来たな猟兵! 見せてやろう、死しても消えない光の真実を」
 惑わすような色の光をその身に纏って、病葉がけらけら嗤っている。……その声は、耳障りだとそう思える。
 けれど敵の姿の向こうで、うつくしいうたは止まらない。ひとの叫びを、獣の叫びでいくら掻き消そうとしても――まるで何も視え聴こえていないかのように、彼はうたい続けている。
 やめてくれ。
 そうして強き者に従うのが楽だとキミが言うのなら、どうかこの悍ましい声で竦んでくれ。おれのほうが強いと示して、ひとを遠ざけてみせるから。
 己の命の為に、怯えて、夜が来る前に逃げてくれ。
 ……どうしてだ、どうしてそうしない? 『死にたい』筈がないだろう。
 だって、そのうつくしいうたは――『死にたくない』と叫ぶかつての悲鳴に、あんまりにも、似ている。

「こっちの迷い子はユキが守りましょう」
 ユキの操る幻の花が咲いて乱れて、動こうとしない彼の姿を覆っていく。願った通り、彼女はひとを守ってくれる。……おれには出来ないことは、頼んだ。
「――どうぞそのまま、迷い子のお嬢さんを還してやってくださいな」
 ああ。
 いつも通り、病葉を灼くのがおれの仕事か。

「『魔弾の射手』。喰らいたまえ……!」
「――――ッ」
 降り注ぐ鉛弾の雨は――もう避けられる距離ではない。ユキを信じて任せれば、しばらくは花が防いでくれる。
 その一瞬で肉薄する。
 地を蹴って避けようとした病葉の脚を、伸びた枝根が絡め取る。動きを封じたその隙を、一尺一寸の剣鉈をもって掬い取る。

 牙剥け、閃煌。
 灼き断て燹咬。

「お前は。ひとに帰れないのなら」
 ひとのかたちをした病葉が、最後に歌わないように。
「――せめて、土に」
 獣の時間が来る前に、在るべき処へ還さなければ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

薙殻字・壽綯
死んじゃだめだ。そんな、曲を作り終えたら死ぬだなんてあの子みたいなことを、……いえ。…駄目なのは……私、ですね
すみません。……過去の思い出を、重ねてしまいました。……ですが、やはり、死ぬことは…だめなんです。死ぬのは、悲しいことなんです

軽機関銃で制圧射撃を行い、救助の手助けをします。私は、少女を撃ち続けます。元を断たねば意味は薄いと思うので…
早撃ちには、自信があるつもりですが……当てなければ意味がありませんね。……魔弾は、受けましょう。しかし、貴方の寿命はもらいます。……奪います
変身が解除されたら、弾丸を叩き込みます。それまでは出来る限り、被弾を抑えて回避を実行したいですね……




「死んじゃだめだ」
 ……死を希うようなその曲に、思わず言葉が零れてしまって。
 病んだ想いが伝わってくる。伝わるような気がしてしまう。――そんな、曲を作り終えたら死ぬだなんて。まるであの子みたいなことを。
「……いえ」
 駄目なのは――私、ですね。
 敵の陰、こちらを一瞥もせずに歌い続ける青年は、けしてあの子ではないのです。
「すみません。……過去の思い出を、重ねてしまいました」
 貴方は、貴方です。そこに向き合わず目を逸らしたら――それこそ、あの子の時と同じになってしまうから。

「歌を止めようとしても無駄だぞ、猟兵」
 既に人の身には過ぎた傷を負っているように見える少女は、それでも四肢を動かしてこちらに銃を向けました。……歌によって強くなるというのも、あながち嘘ではないのでしょうか。
「こいつは、歌いたいから歌っている」
「……そう、なのでしょうね」
 私の言葉で癒せるものなど何にもなくて、結局のところ荒療治しかないのでしょう。この少女の形をした邪神は、目に視える病のようなもの。
 ふたつの意味で文字通り、――灸を据えて差し上げましょう。

 用いる弾薬《はり》は4.6x30㎜弾、この軽機関銃は医療道具……らしいです。耳を疑うような名目の支給品ですが、この状況には適するでしょう。
 青年のことは誰かが助けてくれると信じて。私はその手助けを。
 ――制圧射撃。
 少女を撃ち続けて動きを制限。早撃ちには、自信があるつもりですが……当てなければ意味がありませんね。
「喰らえ、『魔弾の射手』、あるいは『逃れられぬ死」」
 銃弾の雨を浴びながら、少女の姿が七色の光に包まれ――こちらに銃口を向けたとしても。ぎりぎりまで当て続けます。
「……ええ」
 喰らいましょう。……初めの魔弾は、受けましょう。
「――ッ、」
 重要な臓器は避けたものの、……痛い。痛いのは当然です。しかしその分、貴方の寿命はもらいます。……奪います。軽機関銃を一度収めて、被弾を抑えて回避に徹すれば――その間に、邪神の命は削れていく筈。
 貴方だって、いつまでも、輝く姿ではいられない。

「くそ、しぶとい……!」
 ――変身が解除されたその一瞬、今度こそ、本気の早撃ちをお見せします。
 次の弾薬《はり》は毒、麻痺、麻酔、各種効能を取り揃えて――少女の五臓六腑へと叩き込んで。

 それでも青年の歌は止みません。返事のひとつも返ってきません。
「……ですが、やはり、死ぬことは……だめなんです」
 綴るにも歌うにも値しない言葉だとしても。
「死ぬのは、悲しいことなんです」
 どうか、それだけは伝わりますように。

成功 🔵​🔵​🔴​

風見・ケイ
昼間の公園とは……後始末はUDCがつけてくれるのかな。
ああ、聴こえますね……まるで叫び声だな。
さて、悠長に構えてはいられない。
頼みますよ、魔弾の射手[スナイパー]

(顕れた螢が拳銃を引き抜く)
借りるぞ慧。アレ相手に止まって狙撃は厳しいから。

【終末を共に】

救出は他の連中に任せるわ。
オレは援護してやるよ……倒してしまってもいいんだろ。

困難とは不可能ではない。
『視えていれば』地形の利用で避けるなり右腕で防御なりできるはず。
4発撃って複数方向から銃弾を向かわせる。1発は緊急用に残してリロード。
救出狙ってる猟兵がいたら援護射撃する。

(舌打ち)……それが標的であれば、子どもでも何でも撃つだけだ。




 私達の持ち場は、遊歩道のあたりが見渡せる小さな丘。
「しかし、昼間の公園とは……」
 猟兵はやる事なす事気にされないよう出来ている……とはいえ、銃声と炎の気配がこうも続くと話は別。一般客も、徐々に『異変』に気付きつつあるようで。
「絶対したもん、変な音したもん」
「大丈夫、大丈夫」
 不安を訴える子どもを、父親がたしなめながら通り過ぎていく。すみません。お騒がせしますね。
 こういう場合のお約束として、後始末はUDCがつけてくれるのかな、なんてことを考えたり。……私の仕事ではないけれど、いつも大変そうだな、と。

 耳を澄ませる。普通の人間とさして変わらない『私』の聴覚でも、あるいは――。
「ああ。聴こえますね」
 意外とはっきり歌が聴こえた。銃器の音より、やはり人間の声がこの耳には馴染む。
「……まるで、叫び声だな」
 邪神を喚べてしまうというのも納得。個人的には嫌いではない曲調だけど――これ以上、悠長に構えてはいられない。
 父娘が去って、辺りに人目はなくなった。
「頼みますよ、『魔弾の射手』」
 その肩書きも、変身も、あの少女の専売特許じゃないんですから。


 まどろみが醒める。
 ……昼過ぎか。起きるにゃ不健康な時間だが――今さら文句を言うことじゃない。夢のあいだの『探偵』の記憶が、やるべきことは教えてくれる。

 一足早い夕焼け色の眼を細め、敵の様子を確認する。男は今のとこ無傷。その傍らに寄り添うように、傷だらけの少女の姿がある。
 会話は聞かない。聞く必要がない。
 アレを男から引き離す。邪神から人間を取り戻す。救出は他の連中に任せておいて、オレはその援護に徹すればいい。そのついでに、やれるなら。
「――倒してしまってもいいんだろ」

 臨海公園のバーベキュー場、その横の雑木林を利用する。まばらな幹のその向こうに――標的がいる。その流血に見合わない、子どもみたいな笑顔をして。
 舌打ちひとつ。
「……それが標的であれば、子どもでも何でも撃つだけだ」
 そもそもあの怪我で笑っているのが異常なんだ――第一、甘いことを考えるのはオレの担当じゃないだろう。
 少女の姿かたちの中に脳も臓器も詰まっていないのだとすれば、狙うべきは全身を支える脚か、武器を持つ右手。
 脚を選んだ。
 銃弾は四発――腕から生じた炎を纏って、『終末を共に』飛翔する。
 弾道は鳥のように自由自在だ。最初の一発はフェイントに使う。狙撃に対応しようと片脚を浮かせたのを見計らって、残り三発、その足首に叩き込む。

 敵がよろめくのを観察しつつ、一発は緊急用に残してリロード。
 ……『魔弾の射手』の反撃は、防御も回避も困難らしいが――困難とは不可能ではない。利用できる遮蔽物はいくらでもあるし、多少雑に扱ってもまた生えてくる腕まである。何とでもなるし、してみせるさ。

 まあ、勿論――オレの姿が『視えていれば』の話だが。

成功 🔵​🔵​🔴​

鎧坂・灯理
友人(f01612)と
なあ、匡よ この歌どう思う?
私は大嫌いだ 意志を感じない
同情に媚びる音 負け犬臭くてたまらん
耳が腐りそうでイラつく 殺してやりたい

ふぅん?そういうものか
安心してくれ、私は猟兵だ 流れ弾も当てん
代わりに敵へ叩き込むさ

ああ、行こう

ハ!我が友を前にして魔弾か
本物を見せてやってくれ
私は奴の弾を撃ち落とす事に専念する
弾速が上がるわけじゃないんだ、全て落とせるとも

連続起動:【MSスナイプ】
目標:敵の弾丸
『朱雀』を早撃ちに向いた形に変えて連射
一発も通さんよ

もしも、そのまま停滞を選んでいたら
私は同じように思っていたかもな
だが、おまえはそうしなかった
だから私はおまえの友だ

行け、匡


鳴宮・匡
鎧坂(f14037)と


同情してほしいわけじゃないんだと思うよ
ただ色々なものに疲れたってだけだろう
盲従は楽だからな、何も見なくていいし考えなくていい

……俺だって昔はそうだったぜ
殺してやりたいと思った?

――なんてな、冗談だ
ああ、そこは信用してるよ

それじゃ、行こうぜ

相手の動きから目を切らず
動きの癖を見切るのに終始
こちらへくる弾丸は視えている
“だから”回避はしない
俺に当たらないように、鎧坂がすべて“弾いて”くれるからな

ああ、完璧だ
よく見えるぜ
これで外しちゃ、さすがに立つ瀬がないな

射撃のために足を止める
その一瞬の隙を狙い撃つよ
魔弾、なんてのは一発でいいんだよ
その一撃で、過たず命を奪えるものをそう呼ぶんだ




 冬の日没がもう近いのは確かだけれど、潮風はまだ止んでいない。
 夕凪には、早い。

「なあ、匡よ。――この歌、どう思う?」
 一際強い風に煽られながら、鎧坂の真っ直ぐな背中が問った。
 ……歌、というものについて、俺が語れることは少ない。戦場に歌なんてものは――実のところ、ありふれてはいたのだけど。
 何かに忠誠を誓う手合いは、歌を使って精神統一をしていることがよくあった。死ぬ間際に突然歌い出す奴も一定数いた記憶がある。俺にとっての歌というのはそういうもので、……それはおそらく、彼女の求める回答じゃない。
「私は大嫌いだ。意志を感じない」
「好きか、嫌いかか」
「それ以外にあるか? ――同情に媚びる音。負け犬臭くてたまらん。耳が腐りそうでイラつく」
 吐き捨てるような感想をひとつひとつ積み上げて、最後に一言はっきりと。
「――殺してやりたい」
 もちろん、殺すのは邪神だ。あの一般人は救出する。それが猟兵としての仕事だろう。……けれど鎧坂は本来、生かす殺すを意志《こころ》で選ぶ『人間』だ。それ自体は、正しいことなのだろうと思う。
 それでも、ひとつだけ、違うと言えることがあるとしたら。
「同情してほしいわけじゃないんだと思うよ」
 俺が聞いてきた死に際の歌は、きっとそういうものじゃなかった。
「ただ、色々なものに疲れたってだけだろう」
「ふぅん? そういうものか」
「盲従は楽だからな、何も見なくていいし考えなくていい。――俺だって、昔はそうだったぜ」

 会話が、途切れる。

「殺してやりたいと思った?」
 鎧坂は、無言で戦場を見つめたままだ。……分かりづらいとよく言われるから、一応付け加えておくか。
「――なんてな、冗談だ」
「安心してくれ、私は猟兵だ。……流れ弾も当てん」
「ああ、そこは信用してるよ」
「……代わりに、敵へ叩き込むさ」

 互いの視線は合わせない。彼女の表情を読む必要も意味もない。――今視るべきは、その『敵』の姿だ。

「それじゃ、行こうぜ」
「ああ、行こう」


 演算の合間に思考する。
 腑抜けの歌は相も変わらず耳障りで、日本語として聴いてやる気も起きないが――友人殿の言葉には、思考を割くだけの価値がある。
 歌とはつまり伝達手段だ。原始的ゆえに強力な。それをわざわざ用いる以上は、何らかの変化を意図していると考えるのが筋だろう。

 しかし彼の言う通り、あれが同情を買うための歌ではないと言うのなら。
 伝える相手も、目的も、想定していないと言うのなら。
 ――あの人間は、どうして歌など歌うのだろうか。

「……邪魔をするな」
 ガキの姿をした邪神が、まるで男を守るかのように立ちはだかる。しかしこいつが守っているのは、自らを保つための召喚儀式にすぎない。
「理解できないなら――この歌の邪魔をするな。させるものか」
「如何にも貴様が好きそうな歌だな。それだけは認めてやろう」
「ッ、」
 返事代わりの弾丸とともに、邪神の姿が稚気じみた七色の光に包まれていく。……最初の一発を私へと向けたところはいかにもガキだ。無論、先のは挑発ではなく本音だが。
「貫け、『魔弾の射手』よ!」
「――ハ!」
 よりによって、我が友を前にして『魔弾』か。良いだろう、ならば――本物を見せてやってくれ。

 連続起動:マイクロセコンドスナイプ。
 目標:敵の弾丸。

 ――手首の『朱雀』を銃へと変える。。引鉄に指を添わせるのではなく、指に引鉄を添わせるような無茶変形――この上なく早撃ちに向いた形状だ。弾の軌道という名の未来は、相手が銃に手をかけた時点で既に読めている。
 回避や防御が困難といえど、弾速が上がるわけではない。続く『魔弾』、その全てを――必当の連射で撃ち落とす。
 その『攻撃』に専念する。
 一発たりと、この後ろには通さない。

 鳴宮匡についての全てを、私は知っている訳ではない。あの歌に対して見せたある種の共鳴を、その過去を、詮索するつもりは毛頭ない。
 けれど、もしも、おまえがそのまま停滞を選んでいたら。私は――同じように、『殺してやりたい』と思っていたかもしれないな。正直なところ、流れ弾という発想が過るくらいにはイラついた。
 だが、おまえはそうしなかった。
 だから私はおまえの友だ。
「――行け、匡」
 見ろ。
 考えろ。
 今のおまえを示してやれ。


 こちらへ来る弾丸は全て視えている――視えているからこそ、回避はしない。鎧坂が全て『弾いて』くれる。だからその先を視ることもできる。『魔弾』とやらを撃つ度に見せる動きを、余すところなく観察できる。
 指より先に瞼が動く。
 折れた足首を庇うようにして体軸がブレる。
 ああ、これだけ判れば完璧だ。
「――よく見えるぜ」
 これで外しちゃ、さすがに立つ瀬がないな。

 そしてまた、少女の体重が片脚に乗る。
 射撃のために足を止める、その一瞬の隙を――『異邦人』が狙い撃つ。前髪に隠れた片眼を、確実に。

 銃声とともに、風が止んだ。

「――魔弾、なんてのは一発でいいんだよ」
 その一撃で、過たず命を奪えるものをそう呼ぶんだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

カイム・クローバー
良い歌じゃねぇか。…歌詞は若干、後ろ向きみてーだが。(苦笑)
偶然とはいえ、邪神を『その気』にさせるんだ。才能だぜ、それ。

光の戦士だっけ?ようするにヒーローって訳か?折角だ、真の姿とやらを見せてくれよ。
銃を放つ相手に馬鹿正直に接近は危険だな。最初は銃撃で距離を詰めながら、魔剣の顕現を控える。【二回攻撃】で銃をぶっ放しつつ、紫雷の【属性攻撃】、手数を増やす【クイックドロウ】、【早業】のリロード。【残像】で駆けながら、銃口を【見切り】、【第六感】に従って躱す。
此処まで全てが【フェイント】。
本命は接近時の魔剣によるUCを叩き込む事。
ハッ、便利屋の仕事にヒーロー退治ってのを追加しとくのも面白れぇな!




「良い歌じゃねぇか」
 仲間たちには賛否両論といった雰囲気だが、俺は正直、悪くないと思う。メロディ自体は、喫茶店にでも流しておきたい雰囲気だ。
「……歌詞は若干、後ろ向きみてーだが」
 そのへん、苦笑いは隠せないけどな。
「なあ、聞こえてるか?」
 ……ダチにでも話しかけるような雰囲気で、ゆったりと、俺は戦場へ近づいていく。気楽そうな態度に見えるかもしれないが――計算が全くないわけじゃあない。
 邪神は相当の手負いと見える。撃たれたばかりの片眼を押さえて、蹲ったまま動かない。片方の足首が折れているから、一度膝をついたら立ち上がるのが難しいんだろう。
 その傍らで歌う男は、……何を考えているんだろうな。猟兵に助けを求めるわけでもない割に、従っている少女が傷ついたって無反応だ。そもそもこっちの声が聴こえているんだかもわからないような状態だが――。
 ――助け出すなら、今がチャンスだ。

 さて、銃を放つ相手に馬鹿正直に接近するのは危険だ。手負いとはいえ、手負いだからこそ、何を仕出かすかわからない。
 最初に選ぶ武器は『オルトロス』――愛用の二丁拳銃だ。動かない敵だとしても念入りに、左右交互の牽制を放つ。
「えーと、なんだ。光の戦士だっけ?」
 その言葉に、少女の肩がぴくりと動いた。
「要するにヒーローって訳か? ――折角だ、真の姿とやらを見せてくれよ」
「……ああ」
 そりゃ返事なのか、単なる呻き声なのか――尋ねる暇もありゃしないだろうな。急いで専用マガジンをリロード。紫雷の魔力を纏わせて、思考を牽制から迎撃へ切り替える。

 虹色の光が見えた。
 足首を完全に砕きながらも、少女がゆらりと立ち上がり――銃を構える。
 良いだろう、ヴィラン役なら引き受けてやる。

 駆ける。月並みなんで口に出すのは控えるが、今お前が撃ったのは残像だ。また駆ける。その銃口から次の動きが読み取れる。読めなくたって勘で躱す。
「ハッ、」
 ムキになって撃っているところに悪いが、同じ武器を使ってみせたのはフェイントだ。――距離を詰め切ったその瞬間。俺が望めばその時に、『神殺し』の魔剣は顕現する。
「便利屋の仕事に――ヒーロー退治ってのを追加しとくのも面白れぇな!」

 聴こえるかい、可愛いヒーローさん。
 ――これが死神の嘲笑だ。

 少女に見える邪神の姿を、上半身と下半身へと両断したその一瞬――男の瞳が、揺れた気がした。
「なあ」
 もう一度、呼びかける。
「偶然とはいえ、邪神を『その気』にさせるんだ」
 UDCに関わっていた俺の勘では――邪神を呼び寄せるものには、必ず特別な『何か』がある。それは古い歴史だったり、良くも悪くも純粋な心だったり。……今回の場合。
「才能だぜ、それ」
「……駄作だよ」
 返事があった。それで上々。
 音楽の細かい良し悪しについちゃ、俺も詳しいわけじゃあないが――。
「そう思うんだったら、もちっと磨けばいいんじゃねえか」
 それだけの話じゃ、ダメなのかね。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジャガーノート・ジャック
◆アドリブ歓迎

(叫びのような歌が聞こえる。)

(――ザザッ)
相棒が聞いたらどう評価するだろうな。

ともあれ、仕事は仕事だ。
ミッションを受諾、これより遂行に移る。

(ザザッ)
SPDを選択。
本機の機動力と装甲を以ってしても防が事が難しい弾丸。
見事と言うに尽きる。

――が、回避と防御が難しければ両方しなければいい。

"Tempest":敵が狙った箇所の砂嵐化を実行。
回避も防御もしない。肉体を非物質(残像)化し"摺り抜けさせる"だけ。

受けた技はそのまま返そう。
複製実行、発射。(カウンター×スナイパー)

――相棒の評価はさておき。
本機はこの歌は気に入った。

また聞く為にもお前を破る。
オーヴァ。
(ザザッ)




 叫びのような歌が聞こえる。

 ――ザザッ。
 相棒が聞いたら、どう評価するだろうな。言葉をひとつひとつ拾って、意味が通じないと首を傾げるのかもしれない。あるいは――その声色だけを聴くのかもしれない。
 もしも今、彼女が隣に居たならば。その疑問も、答えも、受け止めることができるだろうか。
 本機が転送されたのは、そろそろ夕暮れ時に差し掛かる海岸だった。――歌詞の通りに解釈するなら、『今日』はまだ死んではいない。『僕』を死なせるわけにもいかない。本機の姿に似合わない感傷はともあれ、仕事は、仕事だ。
「――ミッションを受諾、これより遂行に移る」

 歌が、止んだ。

 ――ザザッ。
 状況を把握。青年は邪神降臨の儀式を中断し、他の猟兵に保護されつつある。討伐対象、――『齢十四の災厄』は、その身を上下に両断されて、遊歩道のアスファルトの上に横たわっている。
 並ぶ猟兵たちの顔ぶれを見た。
「――――」
 感想を殺せ、今はまだ――邪神に息がある。人間の形をしていても、断面から零れているのは骸の海の泥で――その手には、銃が握られている。視覚も余命も覚束ない中、過たず本機を狙う。
 ――これが最期の『魔弾』だろう。
 この機動力を以ってしても回避不能、この装甲を以ってしても防御不能――見事と言うに尽きる。が、回避と防御が難しければ、両方しなければいいだけの話だ。

 技量に対して技術を選択。
 肉体組成変更。
 複製嵐雷域"テンペスト"展開。

 ――ザザッ。
 そう、これは『回避』でも『防御』でもない。敵が狙った本機の頭部構造を、電子の砂嵐へと置換しただけ。魔弾が狙ったその箇所には、肉体ではなく非物質しか存在しない――当然の結果として『擦り抜ける』。その一瞬で、魔弾の構造を写し取る。受けた技は、そのまま返そう。

 複製実行《Ctrl + C》。

 再現過程で、その論理構造が把握できる。『私は強い』。『私は強い』。狂気に至るほどの自己暗示。ロールプレイ。それがこの邪神の根幹だ。
 止まったような時間の中で、彼女の唇が動くのが見えた。『うたってよ』。『もっかいうたってよ』。『ねえ』。
 ――感想を殺せ。動揺を殺せ。ああ、『齢十四』か――何も思い出すな。それでも、グリモアベースで見せられた簡素な資料が思い出された。『偶発的』だと、組織は言った。けれどこの邪神が、元は人間の子供だったというのなら――もしかしたら――もしかしたら。
 君は、単純に、あの歌が気に入ったのか?

 ――相棒の評価も、この場にいる誰の評価も関係ない。本機は、あの歌を気に入った。冬の冷たい風の感覚。素知らぬ顔の時間の流れ。取るに足らないかすかな絶望。その、すべてを。
 同じではないかと、思ってしまった。複製と類似が生んだ思考のノイズが、真実であろうとなかろうと。
「また聞く為にも、お前を破る」

 発射《Ctrl + V》。

「オーヴァ」
 ――ザザッ。

成功 🔵​🔵​🔴​




第2章 集団戦 『黄昏』

POW   :    【常時発動UC】逢魔ヶ時
自身の【黄昏時が進み、その終わりに自身が消える事】を代償に、【影から、影の犬などの有象無象が現れ、それ】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【影の姿に応じた攻撃方法と無限湧きの数の力】で戦う。
SPD   :    【常時発動UC】誰そ彼時
【破壊されても一瞬でも視線を外す、瞬きを】【した瞬間に元通りに修復されている理。】【他者から干渉を受けない強固な時間の流れ】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
WIZ   :    【常時発動UC】黄昏時
小さな【懐古などの物思いにより自らの心の内】に触れた抵抗しない対象を吸い込む。中はユーベルコード製の【黄昏の世界で、黄昏時の終わりを向かえる事】で、いつでも外に出られる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●ブリッジ
 突然、妙な少女が現れて。よくわからない人々が。彼女をよってたかって殺す。そんな『非日常』の光景を、俺はそれこそ夢のような気持ちで眺めていた。
 ――悲しいとか、痛ましいとか、そうした感情は不思議と湧いてこない。まるで物語を観ているような心地の中で――何ごとか声をかけられて、伸ばされてくる手があって。
 俺は『助けられた』のだと、ようやく気付く。

 死ねなかったな。
 ……なんて思ってはみたけれど、考えてみればおかしな話だ。何が起きたのかはともかくとして――今死ねなかったところで、家に帰ってから首でも吊ればいい話じゃないか。今から真冬の海に入ればいい話じゃないか。
 そういえば。
 死のうと思っていた割に、どうやって死ぬのかなんてひとつも考えていなかった。何の準備もしていなかった。
 もしかしたら、俺は死ぬつもりなんてなかったのかな――そんな無難な結論を出して、勇気を出して立ち上がったら、難しい話は全部終わりにできるんだろう。この人たちは、きっと俺のことを『助けて』くれる。あんな憂鬱な歌詞の通りにはならなくて、夜の次にちゃんと明日が来て。

 俺を殺してはくれなかった少女の死体が、きらきらと黒い影にほどけて消えていく。

 ――違う。
 彼女は何度も言っていた。『お前は歌え』。それがすべてだ。どんなに惨めな駄作でも、俺から歌を取って何になる?
 きっと俺は、最初からこうなるって知っていたんだ。死に方を考える必要なんてなかった。この曲さえ歌えば『死』が向こうからやってくることを本能的に理解していた! 自分が書いてしまった歌は、自分が一番知っている!
 声が、こぼれた。

『こんなに日々が速いのに』
『大人になれた気は、しないんだ』


 ――時が、止まる。
 昼下がりから夕刻へ移った風景が、最も強烈な橙色で凍り付く。

 猟兵たちは一斉に悟る。これが今回の本命、『迎え』の邪神が現れる予兆だと。――しかし、同時に、戸惑いを覚えるかもしれない。
 姿と呼べるものがないのだ。夕陽が落とす長い影から、不定形の獣のような有象無象が現れはする。しかしそれすら、本体と呼ぶにはあまりに希薄で。
 ただ、精神に染み入るような、郷愁の気配だけがある。
 ……『敵』よりも、『異界』と名付けたほうががおそらく近い。
 
 これは言わば、『黄昏』そのもの。夜闇の迫るこの時間帯に対して、人類がかつて抱いていた恐怖が――文明の光によって駆逐されたその幻想が、骸の海へと落ちて生まれたおぼろな邪神の眷属だ。
 幻想ゆえに壊せない。
 そして、幻想ゆえにいつかは消える。
 臨海公園の一帯を覆う『黄昏』への対処方法は、言うだけならば単純だ。『終わるまで待つ』。逃げ遅れ巻き込まれた人々を、もしくは自分自身の精神を、じわじわと侵す狂気から護りながら、である。
 幸い、冬の日は短い。
 もうじきに、夜が来る。
緋翠・華乃音
世界の終わりに立ち合っている。
それが黄昏を前にして抱いた感情だ。

何もかも燃やし尽くされて茜色に染まる黄昏の片隅、その狂気じみた"うつくしさ"を目にしてそう思ったのだ。

こんな"うつくしい"終焉を迎える事が出来るなら、世界の一つや二つ滅んでも全く惜しくない。

狂気に侵されている故の思考? ――ではない。

正気でそう思っているのだ。
人倫も道徳も解さない"うつくしい"化物は。

――しかし、この黄昏は一時の夢幻。
醒めることなき夢は現実かも知れないけれど、醒めてしまうのであれば単なる幻に過ぎない。




 遠い狙撃位置から移動して、臨海公園に足を踏み入れる。
 入場口は駅の改札から続く構造になっていて、料金を取るような設備も特にない。仮にあったとしても――今は、誰も居ない。
 一帯を覆う異常空間、その端にあたるこの場所は、見たところ完全な無人だった。事象の中心から遠かった人々は、あまり巻き込まれずに済んだということか。……自ら『黄昏』へと向かっている、俺以外は。
 影から染み出す獣たちも、数度『静かに《to be silence.》』と命じればその通りになる。どこからか、歌だけが聴こえた。

 戦う必要もない。
 守る必要もない。
 今この時は、俺は、ただの『俺』でいい。

 公園を貫くような大通り。その広い通路の向こうに、空と海だけが見えていた。並ぶ街灯はどれも暗いままで、人工の余計な光は存在しない。ぽっかり浮かんだ雲の表面で、紅と、蒼が、混ざりきらずに――あらゆる時が止まっている。
 誰ひとり、この均衡を乱さない。
 ――世界の終わりに立ち合っている。
 それが、『黄昏』を前にして俺が抱いた素直な感情だった。廉価な軽食を提供しているだろう店舗も、大した情報のない観光用の看板も。味気ない灰色のコンクリートも何もかも、夕陽に燃やし尽くされて――茜色に染まる黄昏、その片隅。
 その狂気じみた"うつくしさ"を目にして、そう思わずにはいられなかった。

 世界など、三十六個もあるらしい。その全てを零さず護ろうとして、猟兵というものは日々戦っているけれど。
 ……その果てにこんな"うつくしい"終焉を迎える事が出来るなら、世界の一つや二つ、滅んでも全く惜しくないではないか。

 他の誰かがこの場に居て、今の俺に目を留めたなら、この異郷の狂気に侵されている故の思考だと切って捨てたかもしれないが――そんなものでは、ない。正気でなければ、目の前のものを狂気と断じることができるものか。
 正気で、そう思っているのだ。
 人倫も道徳も解さない、"うつくしい"化物は。
 俺という、終ノ蝶は。

 ――しかし、この『黄昏』は一時の夢幻。
 醒めることなき胡蝶の夢ならいっそ現実かも知れないけれど、醒めてしまうのであれば、それはやはり、単なる幻に過ぎない。
 足を、止めた。ここは戦場ではないし、日常ではない。夜が来るまでの短い間、研ぎ澄まされた五感と直感にこの風景を焼きつけたっていい筈だ。

「綺麗だな」

 いつか、どこかの世界が、この色彩に染まることもあるのだろうか。
 その輝きに選ばれるのは、果たしてこの世界だろうか、それとも他のどこかだろうか。

成功 🔵​🔵​🔴​

石守・舞花(サポート)
とりあえず詳しい事情はステシ参照な無表情ダウナー女子なのですよー

●戦い方
UCで身体能力または武器を強化して、薙刀戦闘術または包丁を使ったアサシンっぽい戦法で戦います
【部位破壊】での行動阻害とかも積極的にやります
敵の攻撃は【激痛耐性】で耐えて、防御や回避よりも攻撃最優先です

戦闘では必ず【生命力吸収】します
可能ならば機械だろうが人型だろうが物理的に喰らいたいですが、そのへんの描写はMS様の裁量におまかせします
あくまで神石様への贄として義務的に食べてるだけなので基本的に美味しいとは感じてないです
むしろ食べ物系のやつ以外は全然おいしくないと思ってます

NG:エロ系、飲酒喫煙阿片




 はー、手応えもなければ食べ応えもないとは。
 時が止まった夕暮れ時の臨海公園――この『時空間』こそがオブリビオンの本体だとか。こちらから攻撃できない代わりに、夜さえ来れば消え失せる。……って、それじゃあ食べられないじゃないですかー。やだー。
「いしがみさん、がっかりですよ」
 そんな溜息も、風ひとつない真っ赤な世界に溶けていきます。
 時々襲い掛かってくる『影の犬』たちも、薙刀や槍で相手をすると一撃で消え失せてしまいますし。
 だからほら、今みたいにこうやって――ぎりぎりまで引き付けて、腕に咬みついてきたところを、魔切り包丁で一突き。そして一口。その犬耳を食いちぎってみるものの。
「……おいしくない」
 これはダメです。そもそも犬さんはあまり食べ物じゃないですし。影の豚さんや影の鶏さんならもう少しおいしいんでしょうかね……。どっちにしても生はだめかな。
 そして、消化吸収しようにも生命力が希薄すぎます。これじゃあ――この身体の『神石』様はとても鎮められやしません。もっと贄を。もっと贄を。そう命じてくるばかりです。
 ああもう、とんでもないところに来てしまいましたよ。

 おなかが満たせないとなると、身を呈してまで食べる意味もあんまりありません。『狐百合』の炎で獣たちをこんがり焼きながら、海沿いの遊歩道をぶらぶら歩いて過ごすこととします。
 もはや全日本帰りたい協会です。日が沈んだらおうちに帰る、この世界の子供にとっては当たり前の――。
「……子供」
 ベンチの向こうに、小さな女の子が一人いました。
 うずくまって泣く彼女に、影の犬が一匹、まさに飛び掛かろうとするところ。
 ああ、……こればっかりは助けなきゃ。

 包丁でも薙刀でも届かない。槍でも――槍のままじゃあ遅すぎる。となればやり方はひとつです。幸いさっき咬まれた腕をまだ拭いていませんでしたから――『ほたる』、この血でお願いしますよ。
 槍から転じたワニガメは、見た目の割に意外と早く動きます。女の子の元へ真っ直ぐ向かって、影の犬の喉笛をひと咬みで捕食。
 すんでのところで難を逃れた彼女のもとへ、刃物をしまって歩み寄ります。
「ひっ……」
「怖くないですよー。とって食いやしません」
 おいしくないでしょうし、なんて言ったら泣かせてしまうかな。
「お、お父さんっ、お父さん」
「いしがみさんはお父さんじゃないです」
「お父さん……」
 これじゃあ埒があかないので、視線を合わせて頭を撫でてあげることとします。防犯ブザーとか鳴らされないといいんですけど。……きっと、父親とはぐれてしまったんでしょうね。死にそうになった、怖かった、そういうことを上手く言葉にできないから、ただ親を呼ぶわけですか。
 子供って、そういうもののはずなのかな。

 十分ぐらい泣き喚いて、――そうしてやっと、彼女は『お父さん』以外の言葉を発してくれました。
「……おなか、すいた」
「わかる」
 それなってやつですね。

成功 🔵​🔵​🔴​

鳴宮・匡
◆鎧坂(f14037)と


自分と鎧坂、その他一般人に迫る影を
目についた端から殺していく

……雑談?
いいよ、このくらい目を瞑ってても出来る

叫び、か どうなんだろう
俺には人間はよくわからないから
ただ、ああしなきゃいけない何かがあるんだろう

感知はしてたよ 理解する前に捨ててただけだ
そしたらいつの間にか
自分に感情(こころ)があることもわからないし
他人に何を思うことも出来なくなって
……それでいいと思ってた

でも、今はそうは思わなくて
自分の心や、目の前の現実と向き合うのは苦しいけど
そこでしか得られないものもあるんだと思う
こうやって、お前と友達になれたみたいに

だから、これでよかったと思ってるよ
……らしくないかな?


鎧坂・灯理
匡(f01612)と
行動は相手と同じ 念動力で殺す

夜が来るまで暇だし、雑談でもしようか
今更この程度は作業だろ

私はあの男が出す音に腹を立てた、媚びているようだと
おまえは違うと言ったな。疲れているだけだと
ならばなぜ歌うのか考えた

思うにあれは叫びなのかな
自分でもわかっていないから、ぶつける先も見つからず
だが我慢出来ないから、ああして吐き出す

なあ匡、おまえもそうだったのか
こころなんて無いって言ってた頃のおまえも
理解も感知も出来ない「もやもや」に悩まされてたのか?

……そうか。
いいんじゃないか?
大事なのは「らしさ」ではなく、「おまえがどう感じてるか」だ
少なくとも私は、おまえと友達になれて嬉しいぞ




 この手よりはいくらか大きい『掌上』を、私は自在に透かし視る。一般人へと迫る影の犬どもを『目』に捉え次第、念動力で縊り殺す。
 本気を出せば――否、過剰な手加減を止めれば、人々が影を知覚するより先に消し去ることすら可能だろう。しかしそれでは、彼らが自分の置かれた状況を認識することすらない。危険ではあるが、護られている。その両方の感覚を与える程度の速さで殺してみせる。それが一番、群衆の行動に纏まりが出てやりやすい。
 隣を歩み、こちらへと向かってくる獣を始末していく友人の銃弾も――本気と呼ぶには程遠い。彼が戦場で見せる、研ぎ澄まされた反射の速度には。
「夜が来るまで暇だし、雑談でもしようか」
「……雑談?」
「今さらこの程度は作業だろ」
「いいよ、このくらい目を瞑ってても出来る」
 夕暮れ時の海岸沿い。語り掛ければ答える相手。
 本当に、ただの散歩のようだった。

「私はあの男が出す音に腹を立てた、媚びているようだと」
 最初に抱いたその感想が、全てにおいて間違いだったと思い直した訳ではないが。
「おまえは違うと言ったな。疲れているだけだと。……ならばなぜ歌うのか考えた」
 伝える相手も、目的も、わからないのに歌う理由を。
「思うに、あれは叫びなのかな」
 ――わからないから、歌うのだろうか、と。
「叫び、か」
「自分でもわかっていないから、ぶつける先も見つからず……だが我慢出来ないから、ああして吐き出す」
「どうなんだろう。俺には、人間はよくわからないから。……ただ、ああしなきゃいけない何かがあるんだろう」
 もしかすると。
 彼自身も、あの『媚びた歌』を歌いたい訳ではないのかもしれない。自分が本当に歌いたいものに届かずに、それでも今ある駄作を叫ぶ以外にないのではないか。

 作業効率を上げようと思えば、足は自然とレジャー施設のある一角へと向いていた。壮年の男女が密集しているのが視えたからだ。バーベキュー用の設備で肉が焼かれた形跡もある。
 忘年会、という催しに思い至った。あの歌は一日の終わりを歌っていたが、そういえば一年ももうすぐ終わる。
 ――『こんなに日々が速いのに、大人になれた気はしない』。
 人間は加齢とともに体感時間が速くなる、という話を聞いたことがある。その流れすら操作できてしまう私は、その感覚を本当の意味で理解できるのだろうか。
 想像を、試みる。少女の自分と、今の自分を比べてみる。
「なあ匡、おまえもそうだったのか」
 並んで歩く彼へと問うた。
「こころなんて無いって言ってた頃のおまえも、理解も感知も出来ない『もやもや』に悩まされてたのか?」


 ……『もやもや』か。
 本題じゃないんだろうけど、その表現が耳に残った。
 鎧坂は、燃える炎を氷のかたちに固めたような奴だけど――時々、妙に子供っぽい単語を選ぶときがある。少なくとも、日が落ちる前にあの歌について話したときより、ずっと柔らかい言葉に思えた。
 昔の自分を思い起こす。あの頃の、そのひらがなで表されるような感覚を。
「感知はしてたよ」
 けれど、その感覚が感情と呼べるものになるその前に――。
「理解する前に、捨ててただけだ。……そしたらいつの間にか、自分に感情《こころ》があることもわからないし、他人に何を思うことも出来なくなって」
 今、こうして獣を撃つように――殊更意識をすることもなくひとを殺した。いのちは、落滴の音よりも軽かった。
「……それでいいと思ってた」
 こうして雑談を交わして歩くあいだも、引鉄から指は離さない。あちらこちらへ迫る影を、目についた端から殺していく。
 先も言った通り、このくらい目を瞑ってても出来る――いや、たぶん、目を瞑ったほうが速い。時間の止まった『黄昏』という異常な視覚を遮断して、判断を直感に任せたほうが、ずっと。
「でも、今はそうは思わなくて」
 俺がそうしていないのは、撃ってはならないひとたちが此処にいるからだ。
 もちろん、万が一にだって誤射なんかしない自信くらいはあるけれど。その万で割ったって、ひとのいのちはまだ重いんだ。

「自分の心や、目の前の現実と向き合うのは苦しいけど……そこでしか得られないものもあるんだと思う」
 敵の影が、途絶えた。作業に少しの暇ができた。鎧坂もまた、その気配を感じたんだろう。自然と視線を向け合って、互いの表情を確認する。
「こうやって、お前と友達になれたみたいに」
「……そうか」
「だから、これでよかったと思ってるよ」

 隣を歩く友人だって、間違いなく目の前の現実だ。

「……らしくないかな?」
「いいんじゃないか? 大事なのは『らしさ』ではなく、『おまえがどう感じてるか』だ」
 夕焼け色に染まった彼女の横顔は、思っていたよりも幼くて、確かに鎧坂『らしく』はない。
「――少なくとも私は、おまえと友達になれて嬉しいぞ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

風見・ケイ
――巡回で吉田のおばあちゃんに暑いからとアイス貰って公園でサボ休憩してたはずいつの間にか日暮れだし寒くて焼き芋食べたいし大体埼玉に海はないだろ先輩と来てみたいわけわかんないけどわかる影みたいなものがあのカップルを守らなければ撃つわけにもいかないしああもu

――たった今突然意識が生まれたような不思議な気分
心震わす夕焼けに邪神らしき影
見覚えある女がそれに喰われて――ああ『私』は『今日』じゃないのか

――『昨日の私』なら『わかる』よね。
君を拠点に一般人を連れてくる(必然囮も撒かれる)
助けて、逃がして、いざとなったら庇って――次は一昨日だ。
さよなら昨日。また明日になれば、今日が昨日になるんだ。
……ごめん。




 夏の真昼は、刺すように、いっそ包んで絞るくらいに暑かったはずで。
 コンクリートにじりじり焼かれて、地球の裏まで逃げたくなるよな炎天下。巡回中に、優しく声を掛けられたのは憶えている。
 今日はいちだんと暑いからねえ、なんて言って、カップのアイスを差し出して、吉田のおばあちゃんが笑ってた。沢山買っても全部は食べてもらえなくてね、って、ちょっとだけ寂しそうに。
 余り物なら仕方ない、そんな言い訳が有難かった。カップなら袖が汚れる心配もないし、どうせならゆっくり頂こうと、公園の木陰でサボって休憩をしてたはず。昔ながらの紙スプーンを綺麗に折るのに気を取られて――そしたら、いつの間にか日暮れだし。暑いどころか、寒くてむしろ焼き芋を食べたいくらいだし。そもそもアイスが手元にないし。
 此処は公園、いや、確かに公園っぽくはあるけどあの木陰じゃない。大体埼玉に海はないだろ。
 連綿とつづく海岸線に、心震わせる夕焼けの色。
 なんだか、恋愛映画のワンシーンみたいだな。いつか先輩と、こういうところに来てみたい――思わずそんな夢を見た。あまりに夢みたいな景色だから、それは夢の中で見る夢みたいなものだった。入れ子になった時間の中で視界が揺れる。
 ……わけが、わかんない。
 わかんないけど、ひとつだけわかる。逆光の向こうに見えるカップルの姿だけはきっと夢じゃなくて――あれは私と先輩じゃなくて――この夢のような世界のなかで、あの人たちは怯えている。影みたいなものが、今にも襲い掛かろうとしている。
 助けなければ。守らなければ。でも撃つわけにもいかないし――ああもう! 地面を蹴って、砂のやわらかさにふらついて、それでも走る。ああもう、ああもう。どうせ撃てないんなら、銃よりアイスが此処にあったらよかったのにな。寒くったって、甘いのは、すき、だし――

 そして、世界の始まりは夕焼けだった。
 ――たった今突然意識が生まれたような、不思議な気分だ。
 連綿とつづく海岸線に、心震わせる夕焼けの色。
 なんだか、恋愛映画のワンシーンみたいだな。一度でいいから先輩と、こういうところに来てみたかった――夢見た明日がもう来ないのを、今日の私は知っている。その影の名も知っている。
 見覚えのある女が、カップルらしき二人組をかばって、『邪神』に喰われる姿が見えて――ああ、私もか。『私』ですら、『今日』じゃないのか。

 振り返ればそこに今日が居た。
「――『昨日の私』なら『わかる』よね」
 ええ、もちろん。
 だけど貴女もおんなじだ。さよなら昨日。また明日になれば、今日が昨日になるんだよ。

 止まった時間の中に、呼び起こされる懐古の情の――取るに足らない思い出の中の、いくつもの『私』を撒き散らす。そのひとりひとりが、混乱する時系列の拠点であり、囮だ。見つけた人々の手を引いて。助けるべきを助けて。逃がすべきを逃がして。いざとなったら庇って――そうしたら次は一昨日だ。どうせ、大したことじゃない。夜さえ来れば、いくつかの些細な記憶を失った『私』がひとり残されるだけ。
「……ごめん」
 いつからいつへ、謝ればいいんだろう。

成功 🔵​🔵​🔴​

カイム・クローバー
こんなに日々が速いのに大人になれた気はしない、か。…人に譲れねぇ大事なモン掲げて。夢と現実の間で苦しんで。命を絶つことまで考えたんだろ?磨きゃ良いさ。声が枯れるまで。喉が潰れるぐらい。自分の感情をぶつけてみな。その歌を聞いた存在が世界を滅ぼすってんなら――世界の前に俺がそいつを滅ぼしてやるさ。

二丁銃を用いて【二回攻撃】と【範囲攻撃】で有象無象を撃ち抜いていく。カップル、家族連れ、お一人様まで。誰一人、被害は与えねぇつもりだ。
【残像】が残る速度で駆けて、UC。広範囲は得意分野。有象無象の雑魚だろうと邪神だろうとこの程度でビビるかよ。
今回、俺がビビるとすりゃ、依頼後の自腹の銃弾費用ぐらいさ




 カップル、家族連れ、お一人様。海沿いの公園ひとつ歩いてみても、この世界には色んな奴がいるモンだって気付かされる。
 ……そして、こいつもその一人なんだろう。普段通りすぎる駅前で、ギターを弾いてるような奴だ。思い返せば似たようなのをしょっちゅう見かけた気がするが――こうやって意識したことはなかったな。
 ワンコーラスを歌い終わって、そいつはぼんやり黄昏色の海を見ていた。……とりあえず、ゆるい拍手を贈ってみる。
「……いらないよ」
「投げ銭いるか?」
「もっといらない」
「だろうと思ったぜ」
 賞賛と報酬が欲しいなら、こいつは今もどこかの駅前にいるはずだ。

 波打ち際で膝を抱えて、男は静かにうずくまる。その姿は歌詞通りの大人になれない子供みたいで――しばらく好きにさせておくか、と俺は思った。幸い、影の犬たちはまたこっちへと目を向けていない。……襲われ次第、俺が動けばそれでいい。
「こんなに日々が速いのに、大人になれた気はしない――か」
 そういや、俺は大人なんだろうか。まだまだ若造だと笑われることもそれなりにあるし、カイムは大人だから、とむくれられることだってある。UDCの基準じゃ成人ってことになるんだろうが、いまいちピンと来ないのも事実だ。
「……書いたやつの前で歌詞を音読するんじゃない」
「そういうもんか?」
「されたら嫌だろ」
「歌詞、書いたことねえからな」
「……だろうと、思った」
 そういう意味でも、俺じゃあ、こいつの気持ちを全部わかってはやれないのかもしれないけれど。
「けどよ。……人に譲れねぇ大事なモン掲げて。夢と現実の間で苦しんで。命を絶つことまで考えたんだろ?」
「大事って程の、才能じゃない」
「だから、磨きゃ良いさ」
「――でも」
 止まったような時間の中で、影の気配がざわめいた。
 ……来る。男も何かを感じたのか、怯えたように身を竦めた。
「この歌で、君の言ってた邪神って奴が来るんだろ。本当は歌わないほうがいいんだろ。映画とかで見たことあるよ。記憶を消されたりするんだ。そしたら――、そしたら、もう、歌えないんだろ」

 ……そうら見ろ。
 取り上げられることを心配するくらい、その歌を手放したくないんじゃねえか。

 ――さあ出番だぜ『オルトロス』。この公園の誰一人にも、そして何よりお前にも。こんな有象無象を近づけさせやしない。
「その歌を聞いた存在が世界を滅ぼすってんなら、――世界の前に、俺がそいつを滅ぼしてやるさ」
 だからお前は気にせず歌え。
 声が枯れるまで。喉が潰れるぐらい。自分の感情をぶつけてみな。俺に音楽はわからんが、ステージの用意ぐらいはしてやるからさ。

 撃ち抜く。撃ち払う。銃弾の纏う紫雷の色は、一足早い夜の色だ。残像が残る速度で駆けて、この『黄昏』を染め上げてやる。逢魔が時の恐怖がなんだか知らないが――雑魚だろうと、邪神だろうと、今さらこの程度でビビるかよ。
 今回、俺がビビるとすりゃ、依頼後の自腹の銃弾費用ぐらいのものさ。……何せ、数が多いだけの有象無象に、わざわざ銀の銃弾の大判振る舞いだ。
 ちょっとぐらいは、投げ銭が欲しい。

大成功 🔵​🔵​🔵​

薙殻字・壽綯
……歌いたいのですね
生きたいのではなく、歌いたいのですね。…それで、いいと思います
歌には、ずっと耳を傾けます。私は…この歌は、好きです。……この歌が聞けなくなるのは、嫌です。……だから、私は勝手にやらせていただきます

……ここには、生き人しかいないんですね。生きている人には、私は手を差し伸べます。伸ばしてくれたなら、引っ張り上げます。逃げ遅れた人を探し、救助活動を

パニックになっていなければいいのですが、……そのような方がいれば、世間話を、したいと思います
……これは、ただの黄昏。稀にしか見れない不思議な景色です。もうすぐ、夜ですね
夜ご飯、何にしますか?




「……歌いたいのですね」
 その意志が、確かに胸に届きます。
「生きたいのではなく、歌いたいのですね」
 その二つが似ているようで違うことを――私はよく知っています。死にたくたって歌うことはできますし――歌わなくても、生きていくことはできますから。
 けれど貴方はあの子ではない。
 そして勿論、私でもない。
「……それで、いいと思います」
 だから私はその歌に、ずっと耳を傾けましょう。
「私は……この歌は、好きです」
 私の日々は、貴方と同じで速いでしょうか。それともこの『黄昏』のように、止まってしまっているのでしょうか。
 そんな物思いに答えが出るのは、きっと、ずっと先なのでしょうから――この歌が聞けなくなるのは、嫌です。
「……だから、私は勝手にやらせていただきます」
 もののついでに、ひとつだけ。それこそ勝手に願わせて貰うとしたら。……貴方の抱く『歌いたい』が、いつか『生きたい』に繋がりますように。

 さて、風ひとつない夕凪のなかでも、冬の空気の冷たさは変わりません。
 雪のように舞い落ちる唐辛子の花びらは、影の獣たちにだけ、ひっそりと眠りをもたらしていきます。――そうすると、本当に静かなもので。
「――りか、」
 消え入りそうな声が、はっきりと耳に届きました。
 ふらふらと小径を彷徨うのは、幽霊や化生の類ではなくて――逃げ遅れたうちの一人でしょう。私より少し年上の、疲れた様子の男性でした。
「……ここには、生き人しかいないんですね」
 如何にも死者に逢えそうな、夢現つの景色だというのに。
「――りか、りか、」
 呼んでいるのは、名前でしょうか。その名の持ち主が生き人であるかどうかは、祈るよりほかにないですが――今生きている人が此処にいるのなら、私は手を差し伸べます。
「どうされました?」
「……娘が、娘がどこにも」
「娘さんを、探してらっしゃるんですね」
 そうして伸ばしてくれたなら、何に代えても、引っ張り上げます。

「……これは、ただの黄昏」
「たそがれ……?」
「夕暮れの、古い言い方ですね。ここまで綺麗に止まって視えるのは――稀にしか見れない不思議な景色です」
 獣たちを眠りに就かせているお陰でしょうか。安心させるようにそう言えば、男性は落ち着いたようでした。
 ……けれど、言われたことを言われたままに呑み込んでしまうのは、彼が弱っている証拠でもあるでしょう。
 パニックを起こす程ではないとはいえ、このような方には――異常な状況を忘れさせる、世間話が一番です。
「もうすぐ、夜ですね」
「……私がちゃんと見ていたら、」
「娘さんなら、必ず見つかりますよ。――夜ご飯、何にしてあげますか?」
 疲れの滲んだ彼の瞳は、滲むような後悔に揺れていて。
「今日は嫁も出掛けて居ないし、駅の、適当なチェーンで済まそうと」
「じゃあもう少し、美味しいものにしましょうか。きっと娘さん、それですっかり安心しますから」
「ええ。……ええ」
 そうしたら、今度こそ、その手を離さず帰るんですよ。

成功 🔵​🔵​🔴​

ロク・ザイオン
◎ユキ・パンザマストと

二十なのだという。
でも、それだけだ。
数字が増えて。酒が飲める。それだけ。
…おれがおとなに、見えるかい。
(小さなユキを庇い立ち
惑う人々よりも更に前へ
走る)

(その色は、病んだ葉の。
おれに灼かれる森の、炎の赫だ)

……ユキの音は。
ちょっと。
おれに、似てるな。

(ユキの椿と共に「惨喝」を放ち
咆哮ごとに【恐怖を与える】悍ましさを増して
影の獣達の注意を引き付け、人々を散らそう
病だ
炎だ
物皆この声に背を向けろ!!)

(ユキが吹き飛ばす有象無象に飛び込み追撃
【薙ぎ払い】の耐久戦
間に合わず黄昏に呑まれかける者があるなら
【ダッシュ】で割り込み【庇う】)

逃げろ。
この声が続く限りは、守るから。


ユキ・パンザマスト
◎ロクさんと
ロクさん、でっかいけどお幾つで?
(笑う)そっか。
ガワと中身なんざ大抵食い違うもんですが、
ユキの目にゃ、子どもの背なには見えませんよ。

さぁさ、獣が来ちまいましたよ!
誰彼時の【逢魔ヶ報】!
音量最大、途切れずの衝撃波でなぎ払い続け、
マヒ攻撃で修復や湧きの速度を鈍らせる。

はは、確かに。
ロクさんの声もユキの音も、
おそろの警報だ!

還れず、大人になれぬ身には、
まあ、歌に思うところもあります、が。
(おっかないほどに猛々しい)
こんなに命を生かそうとするシャウトを聞いたら
まだ、って思いませんか。
(最後まで生き尽くす事は、美しいから)
さぁほうら、サイレンは鳴った!
子どもだってんなら家に帰りましょうや!




 どこからか響くうたを聴いてか、ユキはふとおれを見上げて覗き込む。
「ロクさん、でっかいけどお幾つで?」
「……何の。数字が」
「ああ、――そりゃまあ御歳の話です」
 そうだろうとは思えたけれど、間違えないよう問い返した。おれもあのうたを聴いたから。人間は、『おとな』かどうかを歳で分けると知っていたから。
「二十なのだという」
「へえ」
 丁度の区切りだ。そうと知ってからというもの、ずっと待ち侘びた区切りだった。
「でも、それだけだ」
 ……踏み越えてしまえば、随分と呆気ないものだったけど。
「数字が増えて。酒が飲める。それだけ」
 二十という数字自体に意味はない。酒は熱くて楽しいけれど、きっと思っていたほどの価値はない。……ただ、その日、祝福を受けた記憶ばかりが、この喉の奥であたたかかった。
 悲鳴をうたったあの人間も、きっと酒が飲めるのだろう。
 ――けれど、それを、誰かに祝福しては貰えなかったのかもしれない。
「そっか」
 ほんの短く、ユキは笑った。その小さなからだには、おれが持つより多くの答えが詰まっているのだろうけど――彼女は全てを語らない。そうしておくのが、きっと善い。
「……おれがおとなに、見えるかい」
 それだけは、尋ねておきたいと思った。答えではなく、彼女の心を問うてみた。
「んん、ガワと中身なんざ大抵食い違うもんですが。――ユキの目にゃ、子どもの背なには見えませんよ」
「そうか」
 ほんの短く答えてみたが、彼女のように笑えたろうか。

 弱くて病んだ獣たちが吼え立てる。それより弱い人々が、惑うようにただ立ち竦む。
 おとなかどうかはわからなくても、この身体が大きいことは役に立つ。小さなユキの前に出て、その惨禍から遠ざける。
 止まった空の、その色は。
 低いところは、病んだ葉のような褐色で。高いところは――おれに灼かれる森の、炎の赫だ。
 端から端まで獣の時間だ。
 ――吼える。
 ひとであるなら、この惨喝の咆哮に怯えて逃げてくれ。

「さぁさ、……獣が来ちまいましたよ!」
 後ろから、風を洗うような音がした。ユキの咲かせる幻の花が、その裡から放つ歪んだ音だ。
 これは、何度か耳にしたことがある。サイレンというのだと。
 悲鳴ではない。歌でもない。森には馴染みのない響きだけれど――。
「……ユキの音は」
 それでも、わかる。
「ちょっと。おれに、似てるな」
 これは、強きものの放つ警告だ。

 何度も何度も咆哮する。重なる声と音の連なりに、影の獣は身を竦ませて動きを止め、人々は打たれたように散っていく。
 病だ。
 炎だ。
 ――物皆この声に、おれたちの音に背を向けろ!


「はは、」
 笑いがこぼれて、椿のホロが揺れました。
「確かに。――ロクさんの声もユキの音も、おそろの警報だ!」
 似ているだなんて、まあ。あなたも同じことを考えていたんじゃあないですか。
 なんだかちょっと嬉しいですし――だからこそ負けちゃあいられません。さあこちらだって何度でも、誰彼時の逢魔ヶ報! だんだんと悍ましくなるその声を、包むくらいに鳴らして差し上げましょう。
 音量最大、途切れずの音は、うるさいだけじゃあ済まされない衝撃波です。影の犬ども獣ども、――耳とはいわずその全身で、思う存分喰らいなさいな!

 逃げ惑う人々の間を縫って、ロクさんの背中を追うように走ります。
 敵を薙ぎ払って、吹き飛ばして。衝撃波で風という風を洗えば、後続が湧くのも抑えられる。そうして動きを封じていけば、すかさずロクさんが飛び込んで蹴散らしてくれます。
「逃げろ」
 ロクさんは時に、逃げ遅れた童のもとへ駆けつけ、割り込むように獣から庇って。
「――この声が続く限りは、守るから」
 だけど小さな手を取るのではなく、その足で逃げろと言って吼えるのが彼女です。
 ねえ、ロクさん。確かにあなたは、歳や見た目で決めつけられるほど大人じゃあないのかもしれません。その大きな体のわりに、自分は物を知らないと思っているのかもしれません。
 だけどユキには、その大きな背中が何より頼もしく見えますよ。
 それが一番、ってことにしといちゃくれませんかね。

 サイレン。咆声。
 ああ、こんなに騒いじゃ――流石にもう、あの歌は聴こえてきませんか。続きは少し、気になります。
 大人になると日々が早くなるってのは、思い出が増えていくからなんでしょうね。そういう意味じゃ、――還れず、大人になれぬ身には、まあ、歌に思うところもあります、が。
「あァ――」
 おっかないほどに猛々しい叫び声が、歌い手さんには届いているでしょうか。
 ねえ、こんなに命を生かそうとする、生きようとするシャウトを聞いたら、流石に『まだ』、って思いませんか。
 大人かどうかなんて、どうせ他人が勝手に決めることです。そもそも大人になれだなんて、他人が勝手に押し付けてきたことでしょう。
 なれないなら、なれないで。子どものままで最後まで、生き尽くしてみりゃいいじゃあないですか。
 ――そのほうが、きっと、美しいから。

 この禍時ももうすぐ終わり。そしたら静かな夜が来る。最後にダメ押しのもう一報。
「さぁほうら、サイレンは鳴った!」
 パンザマストが聴こえてますか。
「――子どもだってんなら、家に帰りましょうや!」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鳴夜・鶯
この異界から巻き込まれた一般の人達を救う
ソレがボクの目的-

黄昏の空を眺めながら目を細め、ギターケースを置いて
相棒を取り出します

ボクが出来るのもコレだけ
ボクが素直に自分の表現できるのもコレだけだから

ほんとボクらって人間は不器用だよね
Fマイナー、そのままCのジミヘン・コードに飛んで素直にトニックー
彼の曲はこんな感じだっけ?
さぁ異界に魅入られた彼にもこの曲が届けばいいな―

―――――
膝を抱えて鳴く君が 明日に向えるように 
始まりは君の心 一人じゃない 僕が居るから
明日を迎えるために、全力で走ろう
―――――

『明けない「黄昏」なんて無い 心から叫ぼう!!』

【Daybreak】で「黄昏」をぶち抜きます




 この『黄昏』が始まってからどのくらいの時間が経ったんだろう? 体感としては、もうそろそろ、夜になってもおかしくない時間かな。
 どっちにしても、この異界をこれ以上放っておうわけにも。巻き込まれた一般の人達を救わなきゃ。
「うん、ソレがボクの目的」
 今起きている不思議な現象そのものがユーベルコードの類なら――ボクの歌でどうにかできるかもしれない。
 戦いになるとてんで役立たずのボクだけど、そんなボクだからこそ、そんな大それた夢を見るんだ。

 臨海公園の小さな広場がボクのステージ。
 海岸線に背を向けて、街の方面、沈みそうで沈まない太陽を見る。
 ちょっとだけ青を残して、夕焼け色に染まった空は――怖いぐらいに、きれいだ。切り抜いたみたいに黒いビルのシルエットの群れが、どことなく寂しげでもあって。
 思わず、目を細めた。このまま時間を止めちゃいたい、って気持ちがわかっちゃいそうだ。だけどそれじゃあ、ダメなんだ。
 レンガの積まれた花壇の縁に、いつものギターケースを置いて。相棒のジャズベースギターを、そっと取り出す。

 歌うことしか出来ない、叫ぶことしか出来ない、名前も知らない彼を想う。
「ボクが出来るのも、コレだけ」
 泣き虫で強がりのボクが、素直に自分の表現をできるのも、コレだけだから――君と、ボクは、きっと同じ種類の人間だ。ミュージシャンなんて肩書は、ちょっと大袈裟かもしれないけど。
「ほんと、ボクらって人間は不器用だよね」
 戦うことでしか自分を示せない人もいれば、歌うことでしか自分と向き合えないボクらもいる。
 まずは丁寧にチューニング。聞き覚えた音楽をなぞるように、記憶の通りに鳴らしてみる。
「彼の曲は、こんな感じだっけ?」
 Fマイナー。
 ちょっとずらしてG。
 そしてCのジミヘン・コードまで飛んで。
「……ふふ」
 この音は、個性的だけどクセモノだ。ギターだと分かりづらいけど、鍵盤で鳴らしてみるとわかりやすい――ジミヘン・コードというやつは、それひとつだけで聞いたら飛んでもない不協和音なんだ。そもそも、綺麗に響きあう音の組み合わせっていうのは限られてるから、少し捻っただけで和音というものは歪んでしまう。
 だけどそこから素直にトニック。Fマイナーの音まで戻る。こっちは一転、調の全てを引き締める、澄み渡るような基本の音だ。
 泣くような、鳴くような不協和音のあとの素直なトニックは――まるで雨が止むような、夜が明けるような、目の前が開けるような――ドラマチックな展開になる。
 この響きと流れが好きなんでしょう。
 だったら君にも、もっときれいな明日が来るよ。

「さぁ――」
 君の歌は君のものだから、ボクはボクの歌をうたおう。選んだ曲目は『Daybreak』。よあけ。この黄昏をぶち抜いて――夜までぶち抜いて朝までなんて、ちょっと欲張りすぎるかな。でも、イメージは壮大なほうがいい。
 この異界に魅入られた彼にも、この曲が届けばいいな。

「膝を抱えて鳴く君が 明日に向えるように」

「始まりは君の心 一人じゃない 僕が居るから」

「明日を迎えるために、全力で走ろう」

 ――願わくば、この止まった時間を終わらせて。

『明けない「黄昏」なんて無い ――心から叫ぼう!!』

成功 🔵​🔵​🔴​

ジャガーノート・ジャック
【WIZ】
(ザ、ザ――――)

(「こんなに日々が早いのに、大人になれた気はしないんだ」)

……きっと、その通りだろうな。
(12/14を過ぎて齢を一つ、重ねたとして。)
(だって、夕暮れ時に声を掛けてくれる"ハル"の声が、思い出が、こんなにも懐かしい。)

……君の似姿に会うのは三度目だ、ハル。

なんの話だって?さあね。
いつもより朗らか?
そうだね。"この頃の僕"はもっと無愛想だったよな。

何で笑顔なんだって?
君がよく言うだろ。「ヒーローは窮地の時にこそ笑う」って。
(……笑顔でいないと、泣いてしまいそうだから。だからきっと、これは僕を奮い立てる為の笑顔。)

……ああ、もう黄昏時もお終いだ。
じゃあね、ハル。
またね。




 ザ、ザ――――。
 口を開けば、そのたびに潰れたようなノイズが混ざった。今の自分は――『本機』は――『僕』は――『ジャガーノート・ジャック』だろうか?
 たぶん、違うな。この声は、歌をうたうのには向いていないし。
「――『こんなに日々が早いのに、大人になれた気はしないんだ』」
「何の歌だよ?」
 隣を歩く君も、赤縁眼鏡のその顔も、僕らがただの子供だった頃のまま。

 大人になれた気はしない、か。
 ……きっと、その通りだろうな。バケモノじみた姿を、力を手に入れて。似合わない背広と格好つけたコードネームで、危険な仕事をいくつもこなして。十二月十四日を過ぎて、齢を一つ、重ねたとして。
「ジャック……?」
 夕暮れ時に声を掛けてくれる"ハル"の声が、思い出が、こんなにも懐かしい。

 考えなくとも夢だとわかる。
 一緒に歩いた通学路は、こんな海岸じゃなかった筈だから。

「……君の似姿に会うのは三度目だ、ハル」
 黄昏の呼び起こす『懐古』の情。僕にとって、その定義に当てはまる存在は君しかいないんだ。似たような手合いの邪神に遭うたびに、君のことばかり夢に見る。生まれて初めて出会った、価値のあるもの。どうしようもなく不可逆に、失われてしまったもの。
「なんの話だよ」
「さあね」
 笑って首をすくめると、ハルはますます怪訝そうな顔をした。
「どうしたんだよ。なんかお前、いつもより明るいっつーか……、朗らか?」
「そうだね。――"この頃の僕"はもっと無愛想だったよな」

 どうしようもない矛盾を指摘するように、空に夜色の亀裂が走る。
 もう刻限ということなのか。それとも他の猟兵が、『黄昏』自体を砕くことに成功したのか。……どっちにしても、ほんのささやかな優しい世界は、もうすぐ砕けて消えてしまう。

「……何で、そんな笑顔なんだよ」
「君がよく言うだろ。『ヒーローは窮地の時にこそ笑う』って」
 正確に言えば、これは窮地でもなんでもないのかもしれない。邪神のもたらす異常な空間に耐えきって、次に訪れる敵との戦いに臨めばいい。全部、順調だってことだ。何を悲しむ必要もない。
 だとしても。
 ……笑顔でいないと、泣いてしまいそうだから。
「君が教えてくれたんだ」
 だからきっと、これは僕を奮い立てる為の笑顔。次の、この次の、――最後の戦いまでずっと、僕を支える笑顔の魔法だ。

 割れる。崩れる。夜が来る。肌を刺す空気の冷たさだけが変わらない。
 ……ああ、もう黄昏時もお終いだ。

「じゃあね、ハル」
 思い出の中の彼は、戸惑うような顔をするばかり。
 今度会う時は、……本物の君に逢えた時は、あの日交わした約束の続きだ。ちゃんと決着をつけよう。勝ち越しなんて、させやしない。
「――またね」

 言葉が届いたか、届かなかったか――ハルは最後に笑ってくれたか。それを見てとる暇もなく――紅い世界は消え失せて。
 そこには夜の臨海公園と、静かに佇む『ジャガーノート・ジャック』だけが残されていた。

成功 🔵​🔵​🔴​




第3章 ボス戦 『死神少女』

POW   :    ノーライフレビュー
【自身に施した弱体化の術式】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【生物、非生物を問わず即死効果を与える身体】に変化させ、殺傷力を増す。
SPD   :    お迎え・レイ
レベル×5本の【生物、非生物、概念すら即死させる、死】属性の【接触した対象に即死効果を与える閃光】を放つ。
WIZ   :    エターナルケア
【自身の死の概念を即死させる事で】【驚異的な回復力を獲得する。また、自身に】【施した弱体化の術式を解除する事】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はアララギ・イチイです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●コーラス
 ひび入った夕焼け空が割れ砕けると、一足飛びに夜だった。
 海の向こうに昇り始めた満月が、波に白い光を散らして――その水面に、一人の少女が立っている。
 ひたひたと揺れる月光の上。こちらへ歩み寄りながら、彼女はあの出来損ないの歌を口ずさむ。

『言葉も涙も無意味なまま消えていくならそれでもいいさ――』
『痛みが怒りに変わる前に消えてくれたらそのほうがいいさ――』

 小さな足が波打ち際の砂を踏んで、澄んだ瞳が僕を見た。どことなく、さっきのあの子に似た瞳だった。
「だけど貴方は、……もう私を望んではくれないのですね」
 ――この非現実的な光景で、彼女が『何』を象徴しているのかは考えなくとも理解できた。
 そうだな、僕はきっと君を望んでいた。早く迎えに来てくれと泣いて喚いて歌っていた。けれどこうして、君を目前にしてみれば――。
 たぶん、触れるわけにはいかないんだ。
 だって本当に死んでしまったら、死にたいという気持ちすらもう歌えない。
 そうしたら――さっきのあの子みたいな、同じ気持ちの誰かに、何かを届けることすらできないじゃないか。
「ええ、わかりました」
 一言の答えも口に出してはいないのに、『死』は僕から視線を外した。まるで興味を失ったかのように――けれど、どうしてだろう、その微笑はどこか寂しそうだった。
「でしたらいつもと同じです。此処に生まれた『同胞』への迎えは間に合わなかったようですし……」
 大仰な武器を、僕以外の誰かへ向けて。
「私はただ、立ち塞がる者に絶対の『死』を」

 冷え切った大気が肌を刺す。
 ――夢から醒めろ、と言うように。


 死神と形容されるその少女は、つまりは死そのものである――言うなれば、自然現象の擬人化としてのシンプルな『神』だ。
 絵に描いたような悪意もなければ、押し付けがましい善意すらない。
 ただ、触れたものに死をもたらす。まるで、突然の交通事故のように。あるいは、長患いの末の大往生のように、無味乾燥なありふれた最期を届けて回る。
 そんな存在に芽生え宿った無垢な人格は――自身の招く結果を見ては、ただ悲しそうに俯いてみせるのだという。

 しかしそれらは、あくまで無力に生きて無力に死ぬ人々にとっての神話である。そこに感傷があったとしても、すべては骸の海が見せる夢。
 ――生命の埒外にある猟兵にとっては、『死神少女』は単なる一体の敵にすぎない。それさえ理解していれば、十分だ。
ロク・ザイオン
◎ユキ・パンザマストと
※他連携歓迎

死は。
終わって。朽ちて。繋がることは、
あるべきものだ。ととさまの御旨だ。
けれど――――そこに還るのは、今じゃない。

ユキ。
キミの花を貸して。
(さあ、凍える風で肺を満たせ
熱を吐き出せ、
死に、抗え!!!)

おれたちは、まだ、叫び足りないんだ!!!

(この声をユキが戦場に遍く届けてくれる
奮い立て、此処を生きるけものたち
あらゆる死を【野生の勘】で躱し
【焼却】の刃で終焉を【砕け】)

その時が来たら、誰もがお前の手を取るよ。
歌でも覚えて。待ってればいい。


ユキ・パンザマスト
◎ロクさんと/他連携歓迎
思うところ、思い出したことは、あるんですよ。
前の自分だったら、
不死すら攫う手は少し魅力的だったかも、と。
けど、もう。
ここじゃない。あなたの手じゃない。

ロクさん、ここに!
放映端末から椿樹を一本。
ライブも佳境です、叫びましょう!
さあ、生き物(けもの)の時間はまだ終わらない!
凍て夜を燃やし、明日まで届け、
吼えろ──【夕響降炎】!!
衝撃波は外し、そこにある声全てを増幅。
百舌の枝根で致死を防ぎ、鈍らすマヒ攻撃の刺突を!
聞こえますか、響きますか!!
まだ、還らない!!

良い考えですね、ロクさん!
道行きに歌は楽しいですから!
──ライブの熱、灯りましたか?
あったかくなって、かえりましょう。


カイム・クローバー
邪神で死神、オマケに少女と来たモンだ。いっその事、世界を滅ぼす悪意だけの大魔王でも来てくれりゃ剣も鈍らなくて済むってのによ。――分かってるさ。ここで手を抜くほど俺もマヌケじゃない。この仕事、完遂するぜ。

二丁銃での【二回攻撃】と紫雷の【属性攻撃】。即死効果、流石に死神名乗るだけの事はあるぜ。けどよ、身体に触れなきゃ良いんだろ?遠距離での銃弾なら距離を詰められねぇ限りこっちが有利だ。…なんて、【挑発】。
不用意な接近に対して【早業】で魔剣を顕現し、黒銀の炎の【属性攻撃】、逃げ場を無くす【範囲攻撃】を交えてUC。

――なぁ、歌えるか?あの死神少女の為に。
世界の敵である少女に鎮魂歌を送ってやって欲しい


風見・ケイ
いい夜です。
星が輝くには、月が少し眩しすぎるけど。
それくらいが、私なんかにはちょうどいい。

(外殻が剥がれ落ちて、真の姿があらわになる)

この腕を満たす『星屑』は、巡り廻る星のかけら。
きみが『死』の概念なら
わたしは『生』の具現だ
対岸にいるわたしたち
【きみのそら、わたしのそら】
同じ空には見えていないだろうな。

きみの空を見せて欲しい。
わたしの空を見せてあげるから。

『星屑』を展開。『生』を、星空をひろげる。[オーラ防御]
彼女の力を手に入れたら、状態異常力を願う。
彼女の真似をして水面を歩き、歌い、『星屑』から毒を創り、回復を阻害する。[空中浮遊・衝撃波・毒使い]

……わたしもきみを望んでいたはずだった。




 少女へ銃を向けてみた。
 放たれた弾は彼女の頬をほんの少しだけ掠めて、海上の光のほうへと消えていった。
 ――ああ。
「いい夜です」
「ええ。……私には似合いの挨拶ですね」
 寂しそうに笑う『死』と視線を交わす。――そう、考えてみれば、深淵が少女のかたちをしているのなんて珍しくもない話だな。特に私たちにとっては。
 それでも子供を撃つと思うと、指が震えてしまうから。大人ぶって澄まし顔の『私』のままじゃ、きっと貴女とは戦えない。
「星が輝くには、月が少し眩しすぎるけど」
 明るい夜が、銃を握った右手を照らした。
「――それくらいが、私なんかにはちょうどいい」
 止まった時の中を飛び回っている間に、手袋はどこかに落としてしまって――その下に隠した異形の腕が、今は露になっている。指先から順にひび割れて、黒い外殻が剥がれ落ちて、紫色の光が満ちた。

 一番星はぼやけて見つからなくたって。
 名前も知らない星屑みたいな夢だって。
 臆面もなく歌えるような、『わたし』が今夜に相応しい。


 頼りない銃声が聴こえて、星屑の淡い光が視えて、それがはじまりの合図のようでした。
 そいつが示す、敵と味方のいる場所へと――こんな夜中にまだ眠らない誰かの元へと。駆けてゆけばゆくほどに、何とも云えない気配が近付いてくるのを感じます。
 いえ。これを何と云えば良いのかなんて、本当はユキだって気付いていますけど。
「…………。死は」
 ロクさんが、その気配の名をぽつりと呼びました。
「終わって。朽ちて。繋がることは、――あるべきものだ。ととさまの御旨だ」
 ええ、と答えて頷くことを、ちょっと躊躇ってしまいます。……なんてったって、その『ととさま』というやつを、ユキは知りゃしないんですから。彼女が時折口にする『病』が何から何までを指しているのかだって、正直な処、わかりゃしません。
 ……わかりゃ、しませんが。
 それでもです。彼女の短い言葉から、細かな意味を引き摺りだして捏ねくり回す必要なんかはないんです。

 走り抜けた小径の突き当りには、背丈ほどの堤防がありました。ここを越えたら戦場です。
 無味乾燥なコンクリートの階段に、がさりと落ち葉が積もっています。――そう、今は冬ですから。この季節には死ぬ定めの草木が多くあるでしょう。
「けれど――そこに還るのは、今じゃない」
「――ええ!」
 乾いた落ち葉を踏み割って、段を登って、その向こうへと。
 ひらけた視界いっぱいに海が拡がって、一際強い夜風が肌を刺しました。――波に映った満月の真ん中に、『死』は静かに立っています。
 その姿を視た瞬間に、思わず、足が一度止まって。
「……思うところ、」
 正しく言い直すのなら。
「思い出したことは、あるんですよ」
 ピン留めで穴だらけになった、コルクボードの記憶の果てに。
 前の自分だったら。その前の、また前の、ずうっと前の自分だったら――この身の不死すら攫ってくれる、あの少女の手招きは。少し、魅力的だったかも、と。
「けど、もう」
 ……『そこに還るのは、今じゃない』。
「ここじゃない。あなたの手じゃない――」
 零れた言葉は、傍らに追いついてきたロクさんへ向けたものだったでしょうか。いきなりこんなことを話したところで、半分の意味も伝わらないのは判っています。
「ユキ」
 彼女は何も尋ねずに、立ち止まったままのこちらを追い抜いて。
「キミの花を貸して」

 伝わらなくていいんです。
 意味なんて有耶無耶だって、細切れの拙い言葉だって、――こんなに響くじゃないですか。

「――ロクさん、ここに!」
 放映端末が映す心から、椿樹を一本、彼女へと。
 ええ、この花は枯れません。まだ枯れる訳にはいきません!


 ――今日の明暗境界線は、とっくに街の向こうだよ。

 すべての殻が割れて砕けて、少女のわたしが息をした。
 もう、紫色の光をさえぎるものは何もない。この右腕を満たす『星屑』は、巡り廻る星のかけら。あらゆる元素が渦を巻く、命が生まれるよりずっと昔の、はじまりの熱。
「きみが『死』の概念なら、」
 銃なんてつまらないから放って捨てる。
「わたしは『生』の具現だ」
 腕をひろげて、きみのもとへと歩み寄る。
「そうですか。……生きているものならやがて死にますよ」
 背丈より大きな鎌をくるりと回して――そうしてきみが何をしてみせたのか、今のわたしの瞳には見える。抑え込んでいる『死』という本質を解き放って、自分の『死』に『死』を与えて、偽物の生命力を手に入れたんだ。
「星だって、いつかは燃え尽きます」
 その頬の傷がすうっと消えて。
 ――きみの刃が届くより先に、この手から零れるほどの『星屑』を一面に描きひろげる。
 きみの足元にあるのが冬の冷たい死の海なら、わたしが大気に満たすのは燃える命の星空だ。……触れたものすべてを殺すといっても、これだけの熱を殺しきるには時間がかかるよね。
「わたし、そんな遠い明日のことは知らないよ」
 宇宙が死ぬ日の話より、――今、同じ星空の下で、対岸にいるわたしたちの話をしよう。
「きみの空を見せてほしい」
 その寂しそうな瞳には。
「わたしの空を見せてあげるから」
 同じ空には、見えていないだろうな。

 きみの『死』を防ぎきった『星屑』が、その力を映して模倣する。――さあ、星に願いを。『死』の力は欲しくない。抑えた本質を解き放つ力を。相手にその本質を押し付ける力を。さらなる『生』を、わたしは願う。
 きみの真似をして、水面に足を付けて歩く。一歩、一歩近づいて、きみも口ずさんでいた、あの歌を唇に乗せてみる。
 ――ねえ、わたしも、この歌は好きだよ。
 大人になれないなんて言いながら、ホントは大人になんてなりたくないわたしたちのための歌だと思うから。だけど、きみがこの歌に惹かれた理由は、また別にあるんだろうね。きみのそらと、わたしのそらが違うように。
 その違いが、きみという『死』を否定する毒になる。

「……わたしも、きみを望んでいたはずだった」

 どうしてだろう、それでも生きようとしてしまうのは。この身体に、こんなにも熱が満ち満ちている。
 だってほら、声が聴こえる。
 心を鑢で削るみたいな、痛みに満ちた、声が聴こえる。


 さあ、凍える風で肺を満たせ。
 呼吸を呑んで、隅まで血潮に巡らせて、有り余る熱を吐き出して、示せ。
 これが命だ。
 絶やすわけにはいかない炎だ。
 ――死に、抗え!!!

「ライブも佳境です、――叫びましょう!」
 ユキの言葉に背を押されて、水際を蹴って海へと跳んだ。烙印刀が帯びた命の熱を、眼前の『死』に叩きつけるために。
「――――っ、」
 最初の一刀は防がれた。冷たい鋼が、鎌の柄が、こちらの刀身を受け止める。細っこい子どもの姿が、雛のように澄んだ眼でおれを見上げた。
 ……お前は本来、理であって、病ではないのかもしれない。だとしても今は燃えてくれ。
「おれたちは、まだ、」
 この喉は疾うに潰れたけれど、それでも、まだ。
「――叫び足りないんだ!!!」
 弾かれたように刃が離れる。相手の身体は水面の上でよろめいて、おれの身体は星空に跳ね上げられて宙へと浮いた。
「皆、そう言って死んでいきます……!」
 当然だ。最期まで生きたいと泣き叫ぶのが、おれの見てきた命だった。お前が見てきた命だって、それと同じだっただけのことだろう。

「――ああァア――!」

 この声は、胸に挿した枯れない花が戦場に遍く届けてくれる。言葉にならない啀呵の咆哮に、ユキが言葉を重ねてくれる。
「さあ、生き物《けもの》の時間はまだ終わらない!」
 奮い立て、此処を生きるけものたち。
「凍て夜を燃やし、明日まで届け、」
 あらゆる死を、終焉を砕け。
「咆えろ――夕響降炎《アンプリファイア》!」
 衝撃が、大気を洗った。その音は敵へは向かわずに、おれの腹の底へと響く。
 ――そのまま叫ぶ。叫びにすべての膂力を乗せる。地にも水にも足は付かない。あとは敵の元へと落ちるだけ。単純で重い一撃で決めてやる。
 刃を防ごうと振り上げられた――その鎌こそがおれの狙いだ。
「っ!?」
 細い腕から叩き落として、拾えないよう海へと沈める。……これで相手は、武器をひとつ失った。だからこそ、次はその手でおれに触れようとする筈だ。躱さなければ、と本能が訴える。蹴ることができない水面を蹴る。
 眼前に死の指先が迫ったその時、――小さな身体が、おれを後ろへ突き飛ばした。
「ロクさん……!」
 ユキだ。海上のおれの元へと飛び込んで、百舌の枝根で致死の手を払いのけて、……その勢いのままに、ふたり揃って海へと落ちながら。
「聞こえますか、……響きますか!!」
 おれだけではない、この戦場のすべてに向けて。
「――まだ、還らない!!」


 いい音楽だ。
 そう思った瞬間に、俺は男に肩を貸すのを止めていた。
 ……まずは、一番近くにいた俺が、一般人であるこいつを安全な場所まで避難させる。それがこの乱戦で求められてる役回りってやつだろう――途中までは、そうする気でいた。でも改めて考え直してみりゃ、そんなの全然俺らしくねえな。
「お前、もう自分で立てるだろ?」
「……僕は、」
 返事はいらない。大して長い時間じゃないが、海辺で語らった仲だしな。……あんたはそこで、最後まで、俺達が奏でるアンサンブルを聴いててくれよ。

 仕切り直して、戦場へと振り返る。……夜の海に揺れる満月の上。長い一日を締めくくる、最後の敵がそこに居る。
「さて、邪神で死神、オマケに少女か」
 武器を落として不安げなあの娘のほうが世界の敵で、俺が背中に庇うヒロインは、多分いくらか年上の冴えない男と来たモンだ――つくづく、この世界は一筋縄じゃあいかねえな。
 いっその事、何かの漫画や絵本みたいに、世界を滅ぼす悪意だけ抱えた大魔王さまでも来てくれりゃ分かりやすいのに。そういう奴が相手なら、この剣も鈍らなくて済むってのによ。
「――分かってるさ」
 ここで手を抜くほど俺もマヌケじゃないし、邪神連中の趣味が悪いのなんていつものことだ。
「この仕事、完遂するぜ」

 今日は取り分け大活躍の『オルトロス』を両手に構えて、死神少女に銃口を向ける。人型の敵、セオリー通りに行くなら最初に狙うべきは足だが――この場合は、違うな。
 避けられる前提で眉間を狙う。
 紫雷を纏った銃弾がふたつ、交差するように彼女に向かって――案の定、咄嗟に身体を沈めて潜り抜けられた。……それでいい。さあ、こっちを見ろ。
「即死効果だって? 流石に死神名乗るだけの事はあるぜ」
 だからその手を、他の奴らに向けるなよ。
「けどよ、身体に触れなきゃ良いんだろ? 遠距離での銃弾なら、距離を詰められねぇ限りこっちが有利だ」
「――銃を握れば、死が遠のくとお思いですか?」
 切羽詰まった少女の瞳に、ほんの少しの敵意が見えた。……自分が振りまく『死』を悲しんでみせる優しい死神様にも、どうせなら気に喰わない奴から先に、なんて考えはあるらしい。何にせよ、挑発に乗ってくれるなら大助かりだ。

「死を――受け取ってくださいな!」

 ああ、その接近は不用意だぜ。
 海の上、っていう地の利を自分から捨てることになるし――何より、魔剣の射程範囲だ。
「そっちこそ、」
 詠唱はちょいと略して魔剣を顕現。
「遠慮はいらねぇ――受け取りな!」
 迎え撃っての一振りが、死神少女の身体を焼いて――そして、身体だけじゃあ終わらない。戦場に響く歌と叫びが、黒銀の咆哮に熱を注いでくれる。
 少女の逃げ場を奪うように、辺り一面を炎が覆う。

「――なぁ、歌えるか? あの死神少女の為に」
「え……?」
「あんたの歌、気に入ってたように見えたぜ」
 暫く迷うような間があって、やがて、ぽつりと質問が返ってきた。
「歌って、いいのか?」
「駄目な訳ねえさ。なんなら組織のほうにも掛け合ってやるぜ? 飲み友達がいるからよ、多分なんとかしてくれる」
 そこまで含めて今日の仕事だ。あんたの歌は、俺達が守る。
「だから頼む。……世界の敵である少女に、鎮魂歌を送ってやって欲しい」

 甘い、かね。
 撃っても、斬っても、焼き尽くしても、結局こういうことを考えちまうのは――俺も大人になれないうちの一人、って事なのかもしれねえな。


 ああ、……ああ。
 誰もが私を拒みます。
 私が触れるその瞬間に、嫌だと言って泣くのです。

 今この場にも、私のことを否定する毒と炎が満ちています。だけどこんなの、慣れっこです。
 焼けた身体をゆっくり起こすと――ばしゃり、と、遠くの海水が跳ねました。

 その人は――私から武器を奪ったその人は、海面から顔を出して早々、ぶるりと震えて水滴を払い――なんだか寂しそうな目で、私のことを見るのです。
「その時が来たら、誰もがお前の手を取るよ」
 掠れて歪んだ、静かな声で。
「歌でも覚えて。待ってればいい」
「……歌、」

 耳を澄ませば、確かに歌が聴こえました。
 私を一度は望んでくれた、飾り気のないあの歌が。

「良い考えですね。ロクさん!」
 そう言って、もう一人も海から顔を出しました。同じように、私を見て。
「道行きに歌は楽しいですから! ――ライブの熱、灯りましたか?」
 凍えるように冷たいはずの冬の海の中で、歌と熱の話をしてみせるのです。

 そして同時に、くしゃみをひとつ。……それでも、ふたりは笑いあって。
「――あったかくなって、かえりましょう」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​

緋翠・華乃音
君の何処か寂しそうな表情は――
けれど、何処かもう覆らない決意にも似ている。


ダガーや拳銃を用い、蝶の羽搏きの如き不規則なヒット&アウェイ。
虚実を織り交ぜ変幻自在に仕掛け、敵の一挙手一投足や立ち回り、視線や行動全てから行動を予測・先読み。
触れれば死ぬ。ならば見切って回避すれば良い。
見えない糸に絡めるが如く、緻密に計算立てて戦闘を行う。


『死よ、驕るなかれ。お前は強く恐ろしいと誰かが言ったかも知れないが、お前はそうではないのだから』

『お前が打ち負かしたと思っている人は、死んだのではないのだから。可哀想に、お前は私を殺すことはできないのだから』

『死はもういなくなる、そして死よ、今度はお前が死ぬのだ』




 昼下がりとは打って変わって、一足遅れて辿り着いた戦場は既に大きく動いていた。
 蒼い月夜に、紫色の星屑と黒銀の炎が満ちている。火蓋は切って落とされている。――そしてまた、叫ぶような歌が聴こえてくる。
 ……どうしてだろうか。
 ビルの上で聴いたのと同じメロディーと歌詞なのに、前よりずっと、聴いていたいと思える歌だ。

「歌、が、聞こえますね」
 か細い少女の声がして、……炎の海のさなかから、傷ついた死神が立ち上がった。新たな敵を、俺の姿を、その澄んだ瞳に映して。
「貴方は、好きですか、この歌のこと」
 開口一番、そんな場違いな問いを投げかけてきた。
 考えてみる。たとえば昼に聴いた歌を、悲痛の叫び声のようだと感じたこと。今聴こえてくる歌を、どこにでもある音楽のように感じること。一体どちらが、『好き』と呼ばれる感情に近いのだろう。
「わからないな」
「そう」
 毒にも薬にもならないような俺の答えに、少女は眉尻を下げて微笑んだ。君の何処か寂しそうな表情は、共感の類を求めているようでいて――けれど、何処かもう覆らない、決意にも似ている。
 きっと俺は、君のように、他の猟兵たちのように、歌を歌おうとは思わないのだろう。蝶の羽搏きに、音はないものだから。
 それでも君に、似合いの言葉を贈ることなら俺にもできる。

『――死よ、驕るなかれ』

 小夜色の拳銃を、死神少女の姿に向ける。撃つより先に、銃口を向けられたこと自体に対する反応を『視』る。合理的な回避や防御を行う気配は感じられない。かといって、怯えてみせる訳でもない。
 ただ哀しそうに俺を見返す――その視線の先が、おそらく危険地帯だ。
 するりと身を沈めれば、さっきまで身体があった空間を光条が焼く。――ああ、これが君の『死』か。見せかけの武器を失い、回復も何らかの原因で間に合わず、切羽詰まって形振り構わず『死』を撒き散らす手段がこれか。
 しかし今の一瞬で、光を放つ寸前の身じろぎのクセは把握した。
『お前は強く恐ろしいと誰かが言ったかも知れないが、お前はそうではないのだから』
 触れれば死ぬと言うのなら、君はせいぜい銃弾と等価だ。撃たれる前に見切って回避すれば良い。
 そうやって、続く数発を同じように躱す。一挙手、一投足、立ち回りの全てを読み切れば――曲に合わせて踊っているかのようだった。これが音楽だとしたら、フレーズにはいつか終わりが来る。その時、君の動きも変わる。
「――――っ」
 来た。何度やっても光条が避けられることに焦れた少女は、その射撃範囲を拡げて面の制圧に切り替えた。確実に俺を捉えるつもりだろうが、見えない糸に絡められたのは君のほう。
 闇夜に光が溢れれば、こちらが身を隠す影も深くなる。
『お前が打ち負かしたと思っている人は、死んだのではないのだから』
 彼女の視界の死角に潜り、ダガーをひとつ投擲する。
『可哀想に、お前は私を殺すことはできないのだから』
 触れるだけで人を殺せてしまう君は、技術と経験を重ねた戦士のようには振る舞えない。虚実を織り交ぜ変幻自在に仕掛けるこの戦闘については来れない。細かな観察の結果をあえて一言で表現するなら、――君は、とても素直な女の子だ。足元にダガーが突き立てば、自然とそちらを見るだろう。

 けれど俺が居るのは君の後ろで。
 本命は、その背に向けた銃口だ。

『――死はもういなくなる、そして死よ、今度はお前が死ぬのだ』

成功 🔵​🔵​🔴​

ジャガーノート・ジャック
(――ザザッ)

(死の神。
容赦も慈悲も、また恩讐も怨嗟もなき、純然たる死の概念。
その光に触れれば、"僕"もまた死ぬのだろう)

――生憎と、本機はまだ死ぬわけには行かない。果たすべき約束がまだ残ってる。

その為にも
《―― 此は成し難きを知りつつ、尚心昂らせ挑む戦いである》
イエス
肯定。
《フラグメントE反応》
《Lv.4α―Mode:Ace》

ここで死ぬ訳にはいかない。

(高速飛空形態に移行する事で光線を空中回避(ダッシュ×空中戦)。
呼び寄せたファンネル数機で敵を誘導しつつ、熱線銃と融合したファルコンで攻撃。(援護射撃/力溜め×狙撃))

本機の命日は今日この夜ではない。
お前を倒し明日と、その先へと行く。(ザザッ)




 ――ザザッ。
 死の神、と名乗る討伐対象は、一見して幼い少女そのものであった。異形の殻を被るような真似すらしない。いや、異形が、少女の殻を被っているのか。
 武器を落とされ、焼かれ、撃たれ、それでも立つ細い身体に――先の『齢十四』のような傷ましさは、共鳴は、しかし不思議と感じられなかった。
 ただ『そうあるもの』として、微笑のままに存在する彼女の概念は。
 ゲームの敵キャラクターに、どこか似ている。

「始めましょう」
 まるで一日の終わりに、別れの挨拶でもするように。少女は静かに、本機の方角へ手をかざす。
「――終わりにしましょう」
 迫り来る光――面制圧で放たれる白い光条からは、熱や温度が感知できない。暴力と破壊の気配がない。その段階をひとつ飛ばして、ただ命の数をひとつ減らす処理をするだけのプログラムコードにも似ていた。容赦も慈悲も、また恩讐も怨嗟もなき、純然たる死の概念。その光に触れれば、『本機』もまた――
 否。『僕』もまた死ぬのだろう。
「――生憎と、本機はまだ死ぬわけには行かない」
 今は笑顔は見せねども。
「果たすべき約束が、まだ残ってる」
 なあ、そうだろ。

 ――ザザッ。
「その為にも、」
《―― 此は成し難きを知りつつ、尚心昂らせ挑む戦いである》
 ルールは単純。当たれば死。避けて避けて勝機を掴め。そうした類の戦いが嫌いと言えば嘘になる。視界に走ったノイズ混じりの二択の答えは、感じるままに定まっている。
「肯定《イエス》」
《フラグメントE反応》
《Lv.4α―Mode:Ace》
 本機は攻撃手段として、戦闘機型ファンネルの召喚を選択する。
「――ここで死ぬ訳にはいかない」
 Control-ON: Falcon《コントロールオン・ファルコン》。部隊編成、開始。

 その光条がいかに絶対的な死であろうとも、いかなる物量を以って世界を埋めようとも、――攻撃が直線であるならば、回避方法は単純だ。即ち、動き続けること。
 翔べ、と己に命じれば電脳体はその要求を即座に叶える。機械鎧の次なる姿は高速飛空形態だ。上へ。Z軸の先へ。『死』は爪先を通り過ぎる。そしてこちらの攻撃は曲線だ――ファンネル数機で死神少女の足元を撃ち、その動きを誘導する。
 彼女は少し眉をひそめて、地を蹴って跳んだ。
「死に、訳など、」
 そうして空を蹴ってまた跳んで、柔らかな手をかざして見せた。
「――ないのです!」
 彼女の側から空中に踏み込んで来るのも想定の内――水面を歩けるのだから、空を歩けるのも道理だろう――それでも、光条はやはり直線だ。三次元と化した射撃戦を、ほんの数秒回避に徹する。徹しながらも、残る翼達を集めて熱線銃へと呼び寄せる。
 融合開始。
 合算された数字の全てを叩き込む――最後の一撃は、こちらも直線で相手をしよう。

 熱線銃の耳鳴りの向こうに、誰かの咆哮が満ちている。
 名も知らぬュージシャンが死ぬつもりだったこの夜に、彼の音楽が満ちている。
 訳も理屈もそれで充分。こんな良き日が、誰かの最期であるものか。

「――本機の命日は今日この夜ではない」
 極限まで絞った熱の一射が――少女の足首を過つことなく狙撃した。翼ではなく跳躍で飛ぶというのなら、これで死神は地に堕ちる。
「お前を倒し明日と、その先へと行く」

 ――ザザッ。

成功 🔵​🔵​🔴​

石守・舞花
真の姿:背中から青い鉱石が生え両腕が黒い鱗に覆われた姿

骸の海から蘇った死神とか何ですかそれ。冗談キツいです
そんなに死がお好きなら一人で逝けばいいです

UCで速度強化して、薙刀で戦います
大丈夫です。ちょっと寿命が削れた程度で死ぬほど、いしがみさんは老い先短くないので

敵の放つ光を避けるように旋回しながら、薙刀のリーチを生かして攻撃
もし食らってしまったら、【激痛耐性】で耐えながら敵から【生命力吸収】して耐えます
いしがみさんは生命の埒外、どんなに痛くても苦しくても死なないのです
生命力を奪いながら牽制し、敵UCの切れ目を狙って近接
包丁で急所を狙って【部位破壊】します




 骸の海から蘇った死神――とか何ですかそれ。死の神様だって言うのに、昔に死んだってことですか? 死が死んだら一周して生き返ったりするんですかね。
 まさに頭痛が痛いみたいな話です。そんなものより、ただ食べて、そうして生きる、神石様の教えのほうがずっとシンプルでわかりやすい。……素晴らしい、とまでは言いませんけどね。
 何にせよ。
 そんなに死と屁理屈がお好きなら、一人で逝って黙ればいいです。

 指を鳴らして、すっかり暗い夜空を見上げます。……空中戦から撃ち落とされた死神さんが、こちらに落ちてくるところを。スピードも反応速度もいつも以上のいしがみさんには、もう、止まって見えるくらいです。絶好のチャンスじゃないですか。
 背中には、青く輝く神石様の姿を負って。
 伸ばした腕は、黒雲母の鱗に覆われて。
「――大丈夫です」
 こう見えたって、ぴちぴちの可愛い女の子。ちょっと寿命が削れた程度で死ぬほど、いしがみさんは老い先短くないので――
「あなたに用はありません」
 武器は薙刀、この『狐百合』で、掬いあげるようにまずは一撃。
「さあ、……いしがみさんのお通りですよ」

 刺すのではなく、焼くのではなく、――打ち据えて吹き飛ばすのが初撃です。敵が今のメイン武器にしているのは、あの妙ちきりんなビームです。
 薙刀のリーチを活かせる間合いに、まずは少女を転がしてやります。
「……貴女は、神ではなく巫女です」
「はあ。だから神様の自分より下だって言いたいんです?」
「――――」
 彼女は返事もせずに、転んだまま起き上がりもせずに、手のひらをかざす動きだけで『死』の光線を放ってきます。……神様ってズルい。それだけは理解しましたよいしがみさんは。
 こちらは真面目にアクションするしかないので、避けるように旋回です。今のいしがみさんの速度なら、薙刀の攻撃を交えることも、
「っ、」
 ……できます! 爪先に少し『死』を喰らってしまいましたけど、このくらい何ともないですよ。……いしがみさんは生命の埒外、どんなに痛くても苦しくても死なないのです。いや、これ、今まで食べて神石様に捧げてきた命のみなさんが、代わりに少しずつ死んでいるのかもしれません――なんだか、おなかが空いてきましたから。
 夕方はマトモな食事が摂れず、今度こそお夜食のはずがこれですか? やだー。
 死神ビームに耐え切って、『狐百合』の炎を一際燃え上がらせてもう一撃――せめて、少しでも生命力を取り返させてくださいよ。ああ、でも、やっぱり、直接かぶりつけないんじゃ高が知れていますかね。死神なんて『生』が希薄で全然おいしくもありません。

 まあいいです。
 あなたがどんなに喰えない相手であろうとも。
 ――私はあなたが気に喰わない。

 だからとっとと倒して帰りましょう。死ぬどころか生命力すら奪おうとしてくるいしがみさんに、相手も流石に恐れをなしたんでしょう――光はだんだん勢いを失って、ついに切れ目が出来ました。
 死神さんは、まだ立ち上がろうともしていません。巫女なんか座ったまんまで十分だって言うんでしたら――その足なんかいいですね。もう怪我してるみたいですし、徹底的に部位破壊してやりましょう。
「立てないようにしてやります、よ」
 霊体や機械すら貫くこの刃、――この魔切り包丁でトドメです。

大成功 🔵​🔵​🔵​

薙殻字・壽綯
夏の星空を思わせる夜ですね……。でも、この寒さは、まさしく冬のもの
…貴方からの贈り物でも、あるのでしょう
貴方を、否定しません。ですが、お帰り下さい
ここで貴方の手を取ってしまえば……ズルをしたと、怒られていまいますから…

手向けの花とともに、質問を
……自らを殺し、貴方を求めた者の最期は。安らかなものでしたか?悲痛なものでしたか?
どうか、聞かせて下さい。探し人のヒントが、欲しいのです

…君の最期はどれだったんだろう
憎らしげにランランと歌っただろうか。邪気にキャハハと笑っただろうか
子供のままでいられると喜んだか、大人になれないと泣いたか
僕はもっと君と遊びたかった。少女が、歌を聞いていたいと思うように




 月はあまりに明るいですけど、それでも今夜は、星が見えます。街の灯りがとても遠くて――深まる闇のその色が、朧気ながらにひとつひとつの光を際立たせます。
「夏の星空を思わせる夜ですね……」
 でも、身を刺すようなこの寒さは、まさしく冬の海のもの。
 この光景は、貴方の――『死』の贈り物でも、あるのでしょう。あの青年の歌が魔を喚び寄せて、貴方が顕れたことにより、この公園は暫し無人と化している。そうでなければ、人工の灯りが、星の光をそれこそ殺してしまうのでしょうから。

 ああ、いつだってそうですね。貴方のもたらすものは遍く美しい。
 多くの人が貴方を想って、拙い筆を走らせる。

「貴方を、否定しません」
 砂浜に座り込み、今や立つ力もない貴方に、手荒な真似は致しません。
「――ですが、お帰り下さい」
 この手に取った文庫本には、別れの詩歌のひとつもありません。黒く、黒く、塗潰された、これは創作の死骸です。或いは、一度生命を与えることすら叶わなかった形代です。それでも、手放すことはできません。
「ここで貴方の手を取ってしまえば……」
 そんな淡い衝動を、無かったことにしておかなければ。
「ズルをしたと、怒られてしまいますから……」

「――望んではくれないのですね」
 俯く彼女に、一歩たりと近づくことなく――黒む頁を開きます。
「望んでくれる人も、居たでしょう」
 あふれ出すのは、ただの花です。冬には赤い実になる筈の、遅すぎる南天の白い花ばな。貴方への手向けは黒と白。それがきっと、一番似合うでしょうから。
 ひとつだけ。
「……自らを殺し、貴方を求めた者の最期は。安らかなものでしたか? 悲痛なものでしたか?」
 どうか、貴方の愛を聞かせてください。
「探し人のヒントが、欲しいのです」

 ――君の最期はどれだったんだろう。神さまが見てきたうちの、どの最期になら似ていたのだろう。
 憎らしげにランランと歌っただろうか。邪気にキャハハと笑っただろうか。
 子供のままでいられると喜んだろうか、大人になれないと泣いただろうか。

 小さな身体を埋めるほどの花に、少女はそっと手を伸ばして。
「私が見てきた『死にたい』人は、みんな、心をふたつ持っていて」
 触れるたびに枯れ落ちる花を、悲しそうに見て。
「――喜びながら、泣いていましたよ」

「有難う、御座います」
 けれど――僕にはまだ、その答えを呑み込めそうにない。だって君が喜ぼうが、泣こうが、僕はもっと君と遊びたかったんだから。答えは最初から僕の内側で定まっていて、厭になるほど俗だった。
 だから、この花は貴方の身を――動きと痛みを鈍らせる、静かな毒で食み出すだろう。せめて、それが、その最期を安らかにしてくれたならいい。
 ただ、歌を聴いていたいと願った少女は。
 死にゆくものを眺めるだけのその姿は。
 ――きっと、いつかの僕に似ているから。

成功 🔵​🔵​🔴​

鎧坂・灯理
匡(f01612)と

あァ?何が「絶対的な死」だふざけるな
こちとらダークポイントの希死念慮も蹴っ飛ばしてるんだぞ
量産型の死神如きが図に乗るな 頭が高いんだよ

【銀月】起動、半竜モードへ移行し、全速で敵に隣接
ダチの援護もある、黄龍の近距離転移もある
これで近づけない方がおかしい
死を拒絶する炎を燃やしながら腹を蹴り飛ばし、そのままオブリビオンをはがい締めにする
さあ撃てよ匡、死を殺してやれ!
それですべて解決だ

さて。結局、あの男が何を考えて歌ったのか
私にはわからんままだった
匡はわかるか?……ふぅん
私はずっと独りだったから、それに耐えられないってのはよくわからん
だが今の環境を知った後だと……少し、キツいかもな


鳴宮・匡
◆鎧坂(f14037)と


神だろうがなんだろうが
“視える”のならそれは殺せるものだ
退けさせてもらうよ

“生きてない”ものは殺せない
閃光も相手の武器も、銃弾は防げないだろう
回避を最優先としつつ
攻撃動作を主に阻害する【援護射撃】で
鎧坂が近接するまでの時間を稼ぐ

まあ、あいつの意思を
あんなちゃちな光で掻き消せるとは思わないけど

動きを止めてくれたらこっちの番だ
【終の魔弾】で相手を穿つ
過去として生じたのなら、お前にも“死”があったんだろう
そいつを引きずり出せばことは済む――終わりにしようぜ

……なんで、か
俺にもよくはわからないけど、たぶん
誰にも理解されないままの“独り”は案外、息がしづらいものなんだよ




「あァ?」
 端末に表示された敵情報を一瞥して、鎧坂はいつものように顔を歪めた。……彼女のこの手の第一声は、もうだいぶ聞き慣れてきたな。
「何が『絶対的な死』だふざけるな。こちとらダークポイントの希死念慮も蹴っ飛ばしてるんだぞ」
「耐えたんじゃなく、蹴っ飛ばしたのか」
「は? 当然だろ」
 疑いがあるわけじゃなかったから、その背中へ向けて頷いておく。またも振り返らないところを見ると、向こうも本気で問い返しているわけじゃない――これは、たぶん、確認だ。戦闘行為を始める前に、銃器の状態を検めるのと同じこと。
 俺は俺で、お前はお前だ。だったら準備は万全だ。
 端末画面の明かりが落ちれば、真夜中を照らす光は月だけになる。そいつが示す敵の方向へ、俺たちは歩を進めていく。

「貴女もいつか――」
「御託は知らん」
 逆光の中で微笑む少女の言葉を、鎧坂は意にも介さない。
「量産型の死神如きが図に乗るな。――頭が高いんだよ」
 次の一歩で、鎧坂の後ろ姿が揺れた。月と同じ色の光が、炎が、敵の姿を映し出す。
 ――神だろうが、なんだろうが、『視える』のならそれは殺せるものだ。そもそも鎧坂が言っての通り、オブリビオンである以上はあれは『量産型』だ。死神が実在したとして、目の前に立っているものは骸の海から再生されたデッド・コピーにすぎない。
「……退けさせてもらうよ」
 俺の呟きは、敵まで届かなかったろう――両者の放つ白い光が、夜の臨海公園をまるで真昼のような輝きで埋めていく。常人には『明るすぎて』何も視えないだろう光景の先を、俺の眼は、それでも捉える。
 触れたら最後の死の閃光。だとしても、『生きてない』ものは殺せない。銃弾を防ぐことはできないだろう。まずは攻撃動作を阻害する。光を繰ろうとする指先を、正確に、弾くように撃つ。
 そうして稼いだほんの少しの時間のうちに、鎧坂のシルエットは半分ほどが竜に変じて――その全速で、一直線に、敵へと突っ込んでいく。

 殺すべき神の瞳を俺は視た。
 ……今までいかなる攻撃を受けても、微笑みを崩さなかったその顔が――動揺に染まるのを、視た。
 まあ、そうだろうな。触れるだけで死ぬ身体を持つと話に聞けば、まともな奴は回避に徹する。俺だって今そうしてる。なにか対抗策があるとして、できるだけ触れないようにはするだろう。
 けれど。
 ――そんなものを鎧坂・灯理に求めるなんて、お門違いにも程があるんだよ。

 一瞬のうちに、鎧坂は彼女の背後へと『飛んだ』。俺には理屈のわからない近距離転移だ。そのまま、小さな身体を後ろから羽交い絞めにする。
「っ、貴女、」
 触れられることがそんなに意外か、少女は首を振って叫ぶ。
「死にたいのですか!?」
「ふざけろ!」
 竜が、吼える。死神の腹を蹴り飛ばす。
「――死にたい奴などいるものか!」
 鎧坂の言う思念防壁というやつが、あの月色の炎が、『死』の概念を拒絶する――なんて聞かされはしたけれど。
 あいつは単に、死にたくないから死なないんだろう。そのほうが俺にはしっくりくる。あの意思を、さっきみたいなちゃちな光で掻き消せるとは思わない。
「さあ撃てよ匡、死を殺してやれ!」
 もちろんそうする、敵の動きを止めてくれたらこっちの番だ。
 骸の海から過去として生じたのなら、この死神にも『死』があったんだろう。……この狼狽えようからすると、その時も今と似た状況だったのかもしれないな。だったら尚のこと都合がいい。終の魔弾《フェイタル・ロジック》で、その因果を引き摺りだせばことは済む。
「――終わりにしようぜ」
「ああ、――それですべて解決だ」

 どうだろう。
 死を殺してやったとして、……死にたいと歌う誰かの心まで、『解決』することができるのかは。
 今の俺には、まだ、わからない。

 影が、光を穿つ。
 ――銃声の後には、静かな夜と、波立つ海だけが横たわっていた。


 十二月。
 師匠も走ると書いて師走。
 そんな季節は、名前の通りの速度で過ぎ去って――気が付けば年末年始の行事ごとがひと通り片付いて、一月も半ばに差し掛かっていた。
 浮かれた街が少しずつ落ち着きを取り戻していく日々の中。男の姿を見つけたのは――、三連休か何かだったか。

『冬の真昼は夕陽みたいだ――』
 駅前の雑踏、その片隅で、そいつは先月と同じ歌を叫んでいた。

「いいのかあれ」
「……いいんじゃないか? 元々UDCの職員が持ってきた案件だしな。誰かがどうにかしたんだろ」
 私も、匡も、あの件の『後始末』には一切手を付けなかった。UDC組織の中で如何なる処理が行われたのかは知らないが――今この場所で、『偶発的邪神召喚』が起きていないことは確かな事実。
 音の並びを情報として整理すれば、ギターによる伴奏が細かに改変されていることがわかる。儀式として成立しなくなるまで細工を施したのだろう。……歌を丸ごと隠滅した方が早いだろうに、面倒なことを押し通す連中が居たものだ。
「さて」
 帰るか、と踵を返す。
「結局、あの男が何を考えて歌ったのか――私にはわからんままだった」
 一応のところ、ギターを用いた音楽について調べてはみた。ただ掻き鳴らしているように見えるが、あれには意外と数学めいた作曲理論が存在している。その起源は中世以前の教会音楽にまで遡り……といった知識を得るのは正直とても面白かったが、あの男の歌は相変わらず面白くもなんともない。
「……なんで、か」
「匡はわかるか?」
「俺にもよくはわからないけど」
 匡はしばらく、相変わらずの朴訥な顔で男のほうを眺めていたが――少し間を置いて、私に続いて歩き出す。
「たぶん、誰にも理解されないままの『独り』は案外、息がしづらいものなんだよ」
「……ふぅん」
 そういう匡も、言いながら少し首を傾げている。……おそらくこの顔ぶれは、音楽を解釈するのには向いていないな。
「私はずっと独りだったから、それに耐えられないってのはよくわからん」
 よくわからんが、想定してみることは可能だ。
 もし、今、隣を歩く友人が。
 事務所に集う同業者たちが。
 ……何よりも大事な人が。たとえば――。
「今の環境を知った後だと、……少し、キツいかもな」
 たとえば、の先を想定するのを、途中で止めるくらいには。

『言葉も涙も無意味なまま消えていくならそれでもいいさ――』
『痛みが怒りに変わる前に消えてくれたらそのほうがいいさ――』

 少なくとも私には理解されないままの言葉が、背後へ遠ざかっていく。
 けれど一曲が終わろうというその時に――十二月のあの日には、無かったはずのフレーズが聴こえた。

『それでも――』

 足を止める。
 続きを待つ。

『それでも――』

「…………。はあ?」
 あれだけ大騒ぎしておいて、付け足したのはその四文字か? それを二回繰り返して終わりか? それでも何だって言うんだよ。接続詞の次が一番大事だろうが、続きはないのか続きは!
 ああもう、全くもって意味不明だ。もしかしてこの男、根本的に才能がないんじゃないか?

 まあ。
 ――『それでも』、こいつは歌うのだろうな。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2020年01月13日


挿絵イラスト