愛って何だ? 晦冥の城を灼く劫火!
●狂った太陽
「我が愛を受け止める者は誰だ!?」
「……私が知るわけないでしょう」
柳眉の根を不機嫌そうに寄せつつ、怠惰な魔女は読んでいた本から目を上げた。そこには、体の周囲に不快な光と熱を発する球体を浮かべる、血走った目をした男がいた。
「それで、他者(ヒト)の居城に勝手に入り込んだ上に読書の邪魔をしてくれたあなたこそ、誰なの?」
「お前は我が愛を欲するか!?」
「欲しないわよ、そんなもの。それより、質問に答えなさい。あなたは――」
「我が愛はどこに行くのだ!?」
「――……」
眉間のしわをさらに深め、ため息を吐く。実のある会話が望めるような手合いではない。そも、考えてみれば彼が何者かなどどうでもいいことだった。
「……もう答えなくていいわ。死んでくれれば、それで」
魔女が指をぱちんと鳴らすと、壁一面の本棚を埋め尽くしていた魔導書が、自ら意志を持ったかのように一斉にこぼれ出た。そしてめいめい、表紙の色と同じ妖しい燐光を放つ。
直後、虹色の魔力と灼光とが激突した。
●火に油を注ぎに征こう
ダークセイヴァーのオブリビオンの間で、『同族殺し』と呼ばれる存在がある。狂気に陥り、オブリビオンを殺すオブリビオンとなった者を指す。単体戦闘力でいえば猟兵を上回るそれは、オブリビオンにとって最大の脅威といえ、忌み嫌われている。
「まあ、オブリビオン同士潰し合ってくれるなら、放置でもいいって気もするけど……」
テーブルに広げた地図を指さしつつ、大宝寺・朱毘(スウィートロッカー・f02172)は言う。
「せっかくだし漁夫の利を狙う」
狙われるのは森深き山中に建つ古城にいる、女吸血鬼。殺戮の類にさほど興味がなく、引きこもって本を読んでいられればそれで良いという、比較的害の少ないオブリビオンだ――が、あくまで『比較的』であり、蔵書を増やすにあたっては人間などキウイの種ほどにも気に留めぬ、という程度の残忍さはある。
そして狂ったオブリビオンは、擬似的な太陽を操る力を持つ青年である。闇に支配されたダークセイヴァーにある存在としては、異端といえよう。理由は不明だが、我が愛、我が愛と叫びつつ狂奔している。
そんな暴走中の彼と、いわば共闘するような格好で、古城に巣くうオブリビオンらを討伐することになる。
「共闘っつっても、猟兵を味方と認識してるわけじゃないから、離れたところでおのおの勝手に戦うことになると思う。あと一応言っておくけど、城にわんさと詰めてる黒騎士っぽいオブリビオンは、数も質も相当なモンだから、ここで太陽野郎にもちょっかいなんか掛けてたら、間違いなく猟兵の方が全滅する。つまり、お触り厳禁。これは徹底してくれ」
黒騎士風オブリビオンを壊滅させた後に、女吸血鬼との戦いになる。これも青年オブリビオンとつかず離れず、共闘とも呼べぬような共闘によって討つことになるだろう。
そしてさらにその後に、青年オブリビオンも滅ぼさなければいけない。
「さっきも言った通り、味方してくれるわけじゃない。倫理観が『こっち側』寄りになってるってわけじゃなさそうだしな」
そこまで言って、朱毘は思案げに首を傾げる。
「同族殺しって、説得に応じて骸の海に還る可能性もあるにはあるっぽいんだが……悪いけど、今回の相手はどこに説得のツボがあるのかわかんなかった。強いて言えば……愛、か?」
言いつつ、しかし朱毘は首を横に振る。予知における彼の言動は終始支離滅裂だったし、狂者の語る愛というのが具体的にどのようなものを示すのか、確たることがいえない。
「……忘れてくれ。変に迷ってリスク冒すだけのメリットは何もねえ。スパッと斬って捨ててきてくれ」
大神登良
オープニングをご覧いただき、ありがとうございます。大神登良(おおかみとら)です。
同族殺しを利用しつつ、古城のオブリビオンらを一掃するのが目的になります。
第一章は、集団オブリビオンの殲滅戦です。オープニングでも述べられていますが、青年オブリビオンと分担しなければ突破できないほどの厚みがあります。青年オブリビオンを上手に利用してください。また、彼にダメージを与えて第三章の展開を楽に……などという行動は、即失敗につながります。
第二章は、古城の主たる魔導書好きな女吸血鬼との戦闘です。魔導書を利用した様々な攻撃を仕掛けてくる強敵です。また、青年オブリビオンに加害して両者をいっぺんに敵に回すような事態になれば、失敗の可能性は大幅に上がります。第一章と同様、彼には下手に触らぬようご注意ください。
第三章は、青年オブリビオンとの戦闘です。連戦によって弱体化していますが、ボスオブリビオンとして充分な戦闘力はあります。また、説得や語りかけによって消滅を促せる可能性もありますが、理性的な会話が困難なのでハードルは高めです。
それでは、皆様のご参加を心よりお待ちしております。
第1章 集団戦
『怪物に堕ちた黒騎士の群れ』
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POW : リピート・ナイトアーツ
【正気を失いなお残る、磨かれた騎士の武技】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
SPD : 無数の飢牙
【鎧】から【無数に伸びる蛇や狼、竜の首】を放ち、【噛み付きによる攻撃をし、拘束】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ : 鎧装転生・鋼獣群集
自身の【五体と生命力】を代償に、【吸収してきた生命の形をした鋼の生物たち】を戦わせる。それは代償に比例した戦闘力を持ち、【鋭い探知能力の下、生命力を吸収する牙や爪】で戦う。
👑11
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●深黒の騎士群
黒騎士。
怪物を討つために呪いの武具に心身を捧げ、自らも怪物となった悲壮の戦士。
そこに居並ぶのは、そんな戦士たちの成れの果てだった。呪いに、あるいは戦いに敗れて後、死してなお骸の海から迷い出た者たちである。
「ああ……愛が、無い!」
体から紅炎を吐き出しながら、狂った青年オブリビオンが怒号とも慟哭ともつかぬ叫び声を上げた。
炎に舐められた黒騎士の群れは、しかし悲鳴の一つもなく、剣を、槍を、戦斧を振るって青年に殺到する。何体が屠られようが、その怒濤は緩まる気配を見せない。
ゲートを抜けた猟兵たちの眼前に広がるのは、そんなような光景であった。
肆陸・ミサキ
いやテンション高いな
……まあ、別に、言われたから来たってわけじゃあないぜ
私はやっぱり、お前を見てると心がざわつくからな
ああうん、どうやら、そういう在り方を許せないのは、変わらないらしい
さて、まだ戦う時じゃないらしい
向こうが適当に暴れるって言うなら、僕だって好きにするさ
UCで力を解放するよ
【怪力】で握った大鎌を振り抜いて、【範囲攻撃】だね
五体不満足になってさ、生きる活力まで捧げて、それでも戦うっていうのは、なんだろうね
憐れに思うよ
おっとそれより僕はか弱いか弱いただの──ヴァンパイアなんだぜ?
もちろん仲間に頼らせてもらうよ、突っ込んだ後のフォローは任せるからさ!
リーヴァルディ・カーライル
…ん。確かに会話が出来るほどの理性は無さそうだけど、
此方の言葉は届くかもしれない…。
…あの同族殺しの求める愛が何か分かれば、
無用な戦いを避ける事ができる…かな?
第六感が危険を感じるまで同族殺しには手出しせず、
目立たない黒騎士達の魂の存在感を暗視して見切り、
左眼の聖痕に生命力を吸収してUCを発動
…戦場に倒れた戦士達の魂よ。
騎士の誓いがまだその魂に残っているのなら、
力を貸して。この世界を護るために…。
今までの戦闘知識から敵の殺気を読んで連続攻撃を回避し、
避けきれない攻撃は全身を覆う呪詛のオーラで防御した後、
呪力を溜めた大鎌をなぎ払うカウンターで反撃する
…愛、ね。貴方の語る愛って何?教えて?
ヴィレーヌ・フルーフ
主よ、中々見所のある供物がいますよ。フフフ…彼の愛に応えてあげましょう。
まずはあの黒騎士が邪魔ですね。猟兵の皆さんは供物に選ばれていないので耳を塞いでください。そこの愛のお方も塞いでいたほうがいいですよ。えーと、鈍化の祝福は…あった!
黒き心臓の聖典の詠唱で黒騎士たちを動きが遅くなる呪いをかけます。『□□◇◆~』
技能【呪詛】【範囲攻撃】【精神攻撃】
詠唱中の攻撃はUC【絶望の福音】で回避します。どこに攻撃するか分かっていれば呪いがなくとも避けられますよ。敵全体に呪いをかけ終えたら。引きましょう。皆さんいいですよ、好きにやってください。後は弱った黒騎士を呪泥で飲み込んで供物にしましょう。
アレンジok
●呪詛は踊る
青年オブリビオンは果たして、怪物に堕ちた黒騎士の群れと「戦っている」という意識があるのだろうか。
愛がどうのという妄言と苛烈な猛炎とをまき散らす様は、ただ無軌道に暴れ回っているだけのようにも見受けられる。明確に敵を敵と認識して攻撃しているのではなく、炎を放った先にたまたま敵がいるだけ、といったような。
(ん……確かに理性は無さそう)
リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)はそう断じた。会話は成立しまい。
だが一方で、彼の語る「愛」の何たるかを理解できれば、無用の戦いは避けられるのではないか、という期待もする。あれほど連呼している以上鍵がそこにあるのは間違いなかろう。
「フフフ……彼の愛に応えてあげましょう」
思案するリーヴァルディの横で、ヴィレーヌ・フルーフ(呪いの聖女・f24140)が恍惚と微笑する。
「! あなた、彼の愛が何かわかるの?」
「無論です。愛とは主の愛、主の祝福をおいて他に存在しません!」
「――……?」
リーヴァルディは返答の言を失った。度しがたい愛を語る者は、こちら側にもいたらしい。
「まあそれはともかく、あの黒騎士たちは邪魔ですね。えーと、鈍化の祝福は……」
言いつつヴィレーヌは、手にしていた本の項をめくる。
「あった! ああ、貴女は耳を塞いでおいた方がいいですよ」
嬉々とした様子のヴィレーヌに言われ、リーヴァルディは訝しみつつも耳を塞ぐ。
直後、ヴィレーヌの口から『音』が流れ出す。とても『声』などと呼べるものではない。人も動物も、あるいは無生物にさえ「不快」と感じさせ得るであろうそれは、別に何かの間違いというわけではなく、黒の心臓の聖典に記されてある正しくも呪わしき詠唱であった。
黒とも茶とも判別できない色の呪詛の染みが、空間に広がる。それに呑まれた黒騎士たちが、動きを鈍らせた。
その段になって、黒騎士らは新たな敵性存在――猟兵を認識した。
「――――」
鈍化した手足では思うように武器が振るえないからだろうか。鎧の隙間から狼、竜などといった、牙持つ獣の頭部が飛び出してくる。首と鎧は、鞭のような蛇身のようなもので連結していた。
ヴィレーヌは嗤った。獣の動きにも呪詛は利いているのか、さほどの速さはない。その上で、彼女の主がもたらしてくれる【絶望の福音】による先読みをすれば、回避など造作もない。
――と、彼女は思っていたのだが、福音によると十秒後の未来には、【無数の飢牙】の圧倒的物量によって回避する先など全くないらしい、とのことだった。
「……あへえ?」
ヴィレーヌが首を傾げるのと、第三の人物が彼女の前に躍り出るのとが、ほぼ同時。
「フォローしてもらうつもりが、僕の方がフォローするはめになるとはね!」
第三の人物――肆陸・ミサキ(孤独に苛まれる者・f00415)が、巨大鎌による【隔世血統・緋刃(スカーレット)】を放つ。何を狙ったともつかぬ力任せの一閃は、しかし獣の首を十も刈っても勢いを減じず、さらに十の蛇身を断ち、十の牙を砕いた。
なお勢いは余って、ミサキはぐるぐると二、三回ほぼ独楽めいて回ってから、たたらを踏んで止まる。自身の腕力と大鎌の超重に、体がついて行けてないような格好にも見受けられた。
「あんまり運動させないでくれよ。僕はか弱いただの――ヴァンパイアなんだぜ?」
「まあ、ご謙遜」
危地にあった割に緊張感の乏しい表情で、ヴィレーヌは言った。
「しかしどうも、これ以上私が前線にいたらかえって足を引っ張りそうですね。少々退きますので、あとは好きにやっちゃってください。援護射撃くらいは引き続き行いますので」
「むー? 仕方ないな。まあそう言うなら、僕だって好きにするさ」
ミサキは肩をすくめた。もっとも、呪詛によって周辺の黒騎士らの動きが鈍っているので、すでに充分といえば充分でもあった。
満足に動けない状態になってなお、無心に戦いに臨まんとする黒騎士らの様は、壮烈――と称するには、気配が空虚に過ぎた。いっそ、憐憫さえ感じさせるほどに。
そして、その鈍った黒騎士のただ中に、リーヴァルディはすでにあった。
その左目が――より正しくはそこに刻まれた聖痕が、邪悪な気配を漂わせつつ黒騎士らを見つめる。
「……戦場に倒れた戦士達の魂よ。騎士の誓いがまだその魂に残っているのなら、力を貸して」
【代行者の羈束・断末魔の瞳(レムナント・ゴーストイグニッション)】が黒騎士たちの魂を捕らえる。
それは、魂の生命力に咀嚼するというより、丸呑みして自らの精神と同調させるという形の、異質かつ容易でない呪法といえた。ただ、オブリビオン化したとはいえ元は黒騎士であった者の魂、同じく黒騎士であるリーヴァルディとは相性が良かった。
そのためリーヴァルディの得たパワー、スピードは最大効率のそれだった。
「――――」
吸収を逃れた黒騎士たちが、それぞれの得物を振るってリーヴァルディに襲いかかる。片手剣、両手大剣、鉾――リーチも呼吸もバラバラの連続攻撃は見切るに難く、防ぐも避けるも不可能であるかに思われた。
だが、リーヴァルディは翔るように駆け、闇色の刃を持つ大鎌を奔らせる。過去を刻むもの――過去の具現たるオブリビオンを斬るに相応しき号を持つそれは、動きの鈍化した黒騎士、そうでない黒騎士、区別なく薙ぎ払ってみせた。
そして己が速度に任せて猛炎の中心、青年オブリビオンにギリギリの距離まで近寄る。
「ちょ、ぉい!?」
ミサキが声を裏返らせる。
だがリーヴァルディは構わず、青年に声を投げかけた。
「教えて……貴方の語る愛って何!?」
「愛とは、何か、だと?」
青年はリーヴァルディに応じた……ようでいて、そうでもないような様であった。血走った目はあらぬ虚空を睨んだままで、リーヴァルディの方を一顧だにしない。
「愛を知らぬ者がいる――やはり足りんのだ、我が愛は!」
青年を中心に灼熱の光球が膨張するのと、駆け寄ったミサキがリーヴァルディの背後にあった黒騎士の群れを斬り払ったのが、同時。
ゆえにリーヴァルディはその刹那に逃げに徹することができ、すんでのところで炎の範囲外に出られた。
「無茶するもんじゃないよ!」
悲鳴に近い声で、ミサキが言う。
「言葉を届けるだけなら、と思って……」
「それにしたって、会話なんかできる状態じゃないだろ、あれは」
その通りだった。こちらの言葉を届けたところで、恐らく青年は意味を理解しない。また、青年からの返答もこちらが理解できるものではないだろう。
それでも、何かのヒントになるのではないかと、リーヴァルディは思うのだ。
(『我が愛が足りない』? 彼は、求める方ではなく与える方……?)
と、彼女の思考を遮るように黒騎士の振るう戦斧の刃が迫る。
リーヴァルディは思索を中断し、戦闘に集中せざるを得なかった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
カタリアンナ・バソリー
※吸血鬼の血をひき、太陽に灼かれるのが非常に苦痛です
また。
私の世界に、また。
あの忌々しい輝きが…!
同族殺しから距離をとり、日傘も使って陽光から身を守りながら戦います。
使うユーベルコードは"千刃の奔流"。
既に倒された黒騎士が落とした武器や、鎧の一部。
一切合切を念動力で持ち上げて、
自身の苛立ち諸共に、まだ動く黒騎士達に叩きつけます。
不機嫌そうな表情のまま、身体に拘束を受けても気に留めず。
深紅の瞳を輝かせながら、念動力を操って眼前の敵を粉砕していきます。
いっそのこと、あの男も巻き込んでこの場で殺してしまいたいのですけれど。
流石に段取りを無視するわけにもいきませんわね。
※話しかけたりはしません
●鬱憤
「また」
カタリアンナ・バソリー(1/2の純なる血統・f12516)が、歯をギリリと軋らせた。
「また、あの忌まわしい輝きが……!」
それは即ち、青年オブリビオンの操る太陽の力である。吸血鬼の血を引く彼女は、陽光を憎悪していた。
常闇の隠れ傘を開き、青年から距離を取る。実害云々より先に、視界に入れたくないし、近寄りたくもない。
途端、ぼすぼすぼす、と異音が響く。
見ると、黒騎士の放ったであろう黒羽黒鏃の矢が、傘に幾本か刺さっていた。
「――ッ……っ!」
カタリアンナの深紅の瞳が、燃えるような光を放つ。
同時、黒矢のことごとくはカタリアンナのテレキネシスによって傘から引き抜かれ、従者がかしずくがごとくに彼女の周囲に漂う。
「分際もわきまえずに私を煩わせるな!」
苛立ちを乗せた【千刃の奔流(センジンノホンリュウ)】によって、黒矢が撃ち出された。飛来した際よりも速度は勝つ。当然、威力も。
対する黒騎士らの反応も、そう鈍くない。盾を構えるなり、あるいは練達の武技で叩き落としてみせる剛の者さえいる。
が、中には刃を弾かれるなり腕を刺し貫かれるなりして、得物を取り落とす者もあった。
そうやって落とされた得物は、再びカタリアンナによって操られるところとなる。
「――――!?」
かっさらわれた剣、槍、斧――矢と比べて重量に優れるそれらが、返す波となって黒騎士たちを呑む。
黒騎士たちは再び盾を構え、得物を振るうが、先より威力の上がった奔流に弾かれる。 得物を失った黒騎士たちは、しかし怯まず【無数の飢牙】を放った。数に任せて奔流の隙間を突破し、いくつかの獣の頭がカタリアンナに噛みつき、あるいは鞭めいた体を巻き付かせる。
「ちッ!」
舌打ちするが、身動きを封じられたとて念力を振るうに障りはない。三度薙ぎ払われた千刃は、飢牙を刻んで散らした。
――このどさくさに紛れてアレを殺してやろうか。
ふと、カタリアンナは青年オブリビオンの方を一瞥する。が、すぐに自らその考えを却下した。
段取りを乱すのは得策ではない――いやそれ以前に、未だ少しの衰えも見せぬ灼熱からして、彼女一人が仕掛けたところで万に一つの勝ち目もないのは明白だった。
「忌々しいッ!」
カタリアンナの鬱屈した感情は、黒騎士たちに向けられた。
成功
🔵🔵🔴
椿・サザンカ
己の愛の行く宛てに疑念を抱く彼には文豪がお勧めです。
まあともかくも、この場ではご本人には好きにしていただいて、オブリビオン群を結果的に彼と挟み撃ちできるような位置取りでまいりましょう。
敵方が深淵を覗き深淵と化した悲壮の戦士となれば……ここは真っ向勝負、戦士らしくその存在を全うさせるべきでしょうか。
【存在理由】で以て、黒騎士達に問う。「其方らは曾て何を守るために戦った?」――その答えが彼らの安らぎとなりますよう。
手にした文庫本から召喚するのは、とある国を守るために必死に戦った軍の精鋭部隊。各々敵方の攻撃を防ぎつつ、獣首及び攻撃の通りやすそうな鎧の隙間を狙って波状攻撃!
●いさおし
(文豪になればよさげな気がします)
己の愛の行く宛てを求め吼える青年オブリビオンを見やりつつ、椿・サザンカ(桜散華の召喚癒士・f24088)はそんなことを考えた。
考えはしても、それを実際に彼に提案してみるなどはしない。今は彼には好きに暴れてもらい、こちらはそれを利用するのみである。
特に大きな黒騎士の群れを認めたサザンカは、青年と挟撃するような立ち位置を取る――ただし。
「貴殿らに問う」
彼女の狙いは背後からの急襲などではなく、悲壮なる覚悟の果てに成ったモノに相応しく、戦士らしい真っ向勝負によって存在を全うさせること。ゆえにサザンカは彼らに【存在理由(レエゾン・デエトル)】を問うた。
「貴殿らは曾て何を守るために戦った?」
問われた黒騎士の群れが、ぴたり、と動きを止めた。
ありえるだろうか? オブリビオンに、怪物に堕して理性を失った彼らが、有り様を問われて考え込むなど。ましてや、生前の矜持を思い出しかけて、その身を震わせるなど。
だが、現にそれが起きていた。
そして、サザンカの持つ文庫本から、ぞろぞろと登場人物たちが喚び出される。
――嘘か誠か誰も知らない、昔々の物語。平和に暮ら王国が、些末なきっかけから隣国と戦争になりました。平和を愛する王国には、わずかの兵しかおりません。しかし、白銀の甲冑に身を包みし騎士団は、口を揃えて誓いました。
――『身命を賭して、この国をお守り致します』
――嗚呼、精鋭なるかな純白の騎士団!
「――ォ」
それまで無言であった黒騎士の群れの中から、声が上がる。
「オオオオォォ!」
オオオオオオオオオオオオオオオオ!!
重なった声は鬨となる。
それは、問いに対する答えとしては、不適といえる。だが、だから何だというのだろう?
生かすため、生きるため、守るため、勝つため、騎士が矜持を以て戦場に立ったのだ。
干戈を交えて尋常に雌雄を決する以外に、何が要るものか!
「突撃せよ!」
確かに誰かがそう吼えた。
刹那、ぞっとするほど整頓された動きで黒騎士たちが純白騎士団に雪崩れこむ。一方の純白騎士団も、隊伍をがっちりと固めてその突撃を受け止めた。
剣が舞う。槍が閃く。矢が飛ぶ。紛れもない殺意と破壊が、場を支配する。
それは、哀しいほどに勇壮で、心躍るほどに痛ましい光景だった。
一瞬のような永遠のような時間が過ぎ――ついに、黒騎士たちは壊滅した。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『『怠惰なる魔典の虫』アンフェール女公』
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POW : 魔導書(物理)―オンスロート・エッジ―
【苛立ちに任せて振り回した分厚い魔導書の角】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD : 自著魔典―エレメンタル・スプレッド―
レベル×1体の、【様々な色の表紙をしたギリシャ文字で背表紙】に1と刻印された戦闘用【の表紙の色に応じた属性魔法弾を放つ魔導書】を召喚する。合体させると数字が合計され強くなる。
WIZ : 戦術指南書―ウォーゲーム・ガイド―
戦闘用の、自身と同じ強さの【重厚な鎧と楯、鋭い槍を携えた重戦士の霊達】と【後方で魔法で砲撃と回復を行う魔術師の霊達】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
👑11
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●その城主、吸血鬼にして魔女
古城の上層、私室にて魔導書を読んでいたアンフェール女公は、ため息交じりに目を閉じる。
「思いの外、招かれざる客人が多いようね」
配下にして操っていた黒騎士らが壊滅したのは、気配で知れる。それでも彼女が焦っていないのは、つまり、それだけのことができる敵が相手であろうと、後れを取る気が全くないためである。
自惚れではない。事実、それに見合うだけの絶対的な実力を持つがゆえの自信であり、余裕だった。
「我が愛を受け止める者は誰だ!?」
扉を開けて、血走った眼をした青年が飛び込んでくる。太陽に似た、吸血鬼にとっては不愉快極まる光球をその身の周囲に漂わせながら。
「知らないわよ。そこらの猟兵どもにでも受け止めてもらいなさいな」
アンフェールは唾棄するように言うと、手にした魔導書を剣呑に輝かせた。
カタリアンナ・バソリー
引きこもっているだけの同胞と、積極的に戦う理由はないのだけれど。
あの太陽を確実に消すために、貴女を利用させてもらいますわね。
自身と同族殺しで魔女を挟むように立ち回り、
魔女を日除けに使います。
距離をとって同族殺しと魔女の戦いに巻き込まれないようにしながら、
ユーベルコード"サイキックウェーブ"で"鮮血遊戯の占い札"を操り、
魔女の周囲に浮かぶ魔導書を裁断。
同族殺しが優勢に立てるように(不本意ながら)加勢します。
魔女がこちらへ向かってきたら、"血染めの硝子綱"で足を縛って拘束。
"同胞殺しの杭"を突き立て、"串刺し"にします。
※吸血鬼の血統に誇りを持っていますが、他の吸血鬼との仲間意識はありません。
●血統
城主たる女吸血鬼にとって暮らしやすいようにだろう、晦冥の古城の城内は闇に満たされている。それは同じく闇を愛するカタリアンナ・バソリー(1/2の純なる血統・f12516)にとっても、快適な空間であった。
「ここに引きこもっているだけの同胞と戦うのは、気が進みませんけど……」
「今、同胞と言ったかしら?」
カタリアンナのつぶやきに、アンフェールが敏感に反応する。その顔には瞭然と「心外だ」と書かれていた。
「卑賤な混血が私たちに憧れる気持ちはわかるけど、身の程は知りなさい。鶏が鷹に向かって『同じ鳥』と呼ぶくらいの滑稽さよ」
「っ!」
嘲弄され、カタリアンナの顔に朱が差す。
そんなカタリアンナに、アンフェールは背を向けた。彼女の背中を守るように五、六冊の魔導書が飛来し、コウモリのようにバサつきながら滞空する。
要は、カタリアンナの相手はそれで充分、アンフェール自身は青年オブリビオンとの戦闘に集中したいということだろう。
(どこまでも私をコケにして……!)
カタリアンナは歯がみしつつ、トランプを宙にばらまいた。そして、一枚一枚が剃刀のような鋭利さを持つそれらを【サイキックウェーブ】で操り、険悪な刃の嵐と成して魔導書に殺到させる。
鋭いといって、分厚い魔導書、しかもオブリビオンによって強化されている代物をカード一枚で両断というわけにはいかない。だが、瞬く間に二枚、三枚――と幾重にも重なり合うように突き立っていき、どんどんボロボロになっていく。
次の刹那、破れた部位から魔力の光をあふれ出させ、魔導書は爆発した。魔導書が攻性魔術を放とうとしたところ、破損の影響で暴発したのだ。
軽く目を見開いたアンフェールがちらりとカタリアンナを一瞥すると同時、カタリアンナはアンフェールの足目がけて血染めの硝子綱を繰り出した。
狙い過たず足を拘束したところで、逆手に握った同胞殺しの杭を振りかざして突撃する。
「私を侮ったことを後悔なさい!」
機動を封じられたアンフェールは、しかし魔導書を盾のように構えて杭を防いだ。杭は魔導書を容易に貫通するものの、アンフェールの顔まであと二ミリというところで止まる。
「鶏の嘴など、所詮――」
この程度、とアンフェールは不敵に笑う。だが。
「愛よ!」
割り込むような雄叫びと、迫る炎熱。
足の止まっていたアンフェールは青年の放った爆発に呑まれ、悲鳴を上げる暇もなく吹っ飛ばされた。
成功
🔵🔵🔴
ヴィレーヌ・フルーフ
女性なのでお持ち帰りしたいですが、主が貴女を気に入ったみたいなので供物になっていただきます。
相手は手数が多そうですから後方からそれらを使えなくしましょうか。
まずは真の姿『呪いの使徒』になり呪いを強化しましょう。
WIZ『戦術指南書―ウォーゲーム・ガイド―』にUC『呪神の触手(WIZ)』発動して重戦士の装備を腐食の呪いで破壊し霊本体は精神破壊の呪いで消し去ります。フフフ…精神を留める肉体のないあなた達はどうなってしまうのかしらね?魔術師はゆっくり呪泥に沈めていきましょう。【呪詛】【精神攻撃】【範囲攻撃】
私に飛んでくる攻撃は呪泥の壁で【呪詛】を付与して黒き心臓のペンダントで吸収します。
アレンジOK
椿・サザンカ
壁一面の本棚、積み上がった書物! 素晴らしいお部屋ですわね! お邪魔いたします(いそいそ)
うーん、深窓の吸血鬼殿と愛の灼光殿……相性悪そうですけど、打ち消し合っていただけるんでしょうか。大宝寺殿が漁夫の利って言ってましたし。
いえ、わたくしはわたくしで頑張りますとも。でも本を攻撃するのはですね、そのぅ、なかなか……、ね?
ですので、吸血鬼殿本人及び召喚された霊と相対したく存じます。
【御魂召喚】にて、秘された真名を小さな金時計に囁き、天狗の少年を召喚。彼のもたらす落雷により霊体や吸血鬼殿を感電、彼らを動かす回路をショートさせられないかしら。攻撃を受けた場合も、雷や竜巻で封じたいですわ。
●鷸と蚌を待つ
部屋に足を踏み入れた椿・サザンカ(桜散華の召喚癒士・f24088)は、一瞬そこが戦場であることを忘れそうになった。
壁一面の本棚、そこに隙間もないほどに詰め込まれた本、本、本。愛書家にとっては、金銀財宝が山と積まれている様に等しい。
「素晴らしい……!」
「気が合いますね。ええ、本当に素晴らしい!」
思わずつぶやいたサザンカ横で、ヴィレーヌ・フルーフ(呪いの聖女・f24140)が恍惚と微笑する。
「癖一つないロングヘア、絶妙に整った気怠げなお顔、細身ながら付くとこは付いた美しいボディライン……うぐふふふ」
ミクロン単位でも気の合った部分などなかった。
さておき、何やかんやで不機嫌絶頂となったアンフェールは傍らに大判の【戦術指南書―ウォーゲーム・ガイド―】を喚び寄せた。
「お前たち、下輩の相手をせよ」
彼女がそう号令すると、指南書の中から黒い全身甲冑に身を包んだ重装歩兵がわらわらと飛び出してくる。先の黒騎士団に似ていなくもないが、一律でタワーシールドとスピアを装備し、鎧のデザインも統一されていることからして、また別の存在であるようだった。
続けて、血のような宝石と付いた杖を持ち、黒いローブを纏った魔術兵の群れも出現する。
そして重装歩兵は前に張り出し、魔術兵は後方に控えて隊列を組んだ。そこそこの広さはあるとはいえ、各十数名ほども揃って構えたその様は、威容であると同時に窮屈そうでもあった。
(勇壮な……しかし)
サザンカにとっては、むしろ願ったり叶ったりといえた。操られた魔導書を相手に戦うというのは、それが敵の駒に過ぎないと頭で理解してはいても、愛書家としてはどうしても忌避感が先立ってしまうためだ。
「――Vere ac libere loquere」
金時計に正しく囁かれた名によって、山伏めいた姿の少年が自由を得て召喚される。鼻こそさほど高くないが、紛れもなき天狗。
彼が手にした羽団扇を一振りすると、同時に広範囲に雷撃がばらまかれ、盾を構えた歩兵の列に炸裂する。限界まで熱した油鍋に氷塊を投げ入れたような激しい音がして、歩兵たちが仰け反った。
「うふふ、主の抱擁をどうぞ!」
間を置かず、歪な笑みを浮かべたヴィレーヌが黒砂糖の水飴めいた呪泥を展開し、そこから【呪神の触手(ジュシンノショクシュ)】――百にも及ぶどす黒い炎の矢を放った。
炎熱に、ではなく炎に込められた呪詛に蝕まれ、堅牢を誇るはずの重装歩兵隊はあっさりと瓦解した。精神を留める肉体がない亡霊である以上、呪詛によって精神を破壊されることは即ち、彼らにとっては直接的な死を意味する。
前線の崩壊にもめげずにといおうか、気にも留めずにといおうか、魔術兵たちは隊伍を崩さず魔力のエネルギー弾を一斉砲撃してきた。
「あら?」
「むっ!」
ヴィレーヌは呪泥を壁のようにそそり立たせ、サザンカは【御魂召喚(ミタマショウカン)】によって布一枚のみを纏った美女――レーテを召喚して水の壁を生み出し、その砲撃を防いだ。
だが、そこまで。両者とも密度の濃い砲撃を前に反撃の機がつかめない。
「……なかなか、お近づきになれませんねえ」
ヴィレーヌはじんわりと汗をにじませている。霊の相手で手一杯で、直にアンフェール自身に攻撃を届かせられる余裕がない。お持ち帰りだの供物だのの以前の状況であった。
「そのようです。でも、こちらに神経を使わせている分、愛の灼光殿が深窓の吸血鬼殿を削ってくれる率が高くなります。大宝寺殿も漁夫の利って言ってましたし」
呼吸を荒くしつつも、サザンカは言った。
実際、彼女たちの奮戦によってリソースを戦術指南書に割かざるを得ないアンフェールは、動きは鈍いし注意も散漫だった。その分、青年オブリビオンの狂炎を捌ききれずに傷を増やしている。
間接的ながら、二人の粘りは確実にアンフェールを追い詰めていた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
肆陸・ミサキ
あのピカピカ……いや、まだ触らぬ神に祟りなしって状態か
ならまあ、せいぜい使わせてもらおうか、なんて、思ったけど
なんだか無性にあんなのと形だけでも共闘するなんて嫌だって心がざわつくね
だからまあ、好きに動こうか
UCで能力全開
武器は変えずに大鎌で、殴りと蹴りも含めようか
生憎と僕には攻撃を見切る力も察知する勘も無い
あるのはただ、ぶっ叩く【怪力】と、思い切り巻き込む【範囲攻撃】だけだからね
だから、敵が先か僕が先か……それとも、敵の攻撃に僕が耐えて反撃出来るか、だ
……じゃ、ヴァンパイアと神様とヴァンパイアの三つ巴ってやつを始めようか
いや仲間がいるならめちゃくちゃ頼るからフォローよろしくね
リーヴァルディ・カーライル
…ん。魔術を主にする吸血鬼とは珍しい。
生まれ持った能力に胡座をかく者ばかりなのに…。
…もっとも、私の為すべき事は変わらない。
吸血鬼狩りが貴女を狩りに来たわ、吸血鬼。
今までの戦闘知識から“夜闇の呪詛”を付与
同族殺しの攻撃を太陽属性攻撃耐性のオーラで防御する
必要なら他の猟兵にも施していくわ
…あの光は私達にとっても毒だもの。
これで余波程度なら防げるはず。
【吸血鬼狩りの業】と第六感を頼りに吸血鬼達の動線を暗視して、
敵の攻撃を紙一重で見切り【血の聖槍】を発動
瞬間的に吸血鬼化した怪力の踏み込みから、
呪力を溜めた掌打のカウンターを行い、
生命力を吸収する血杭で傷口を抉る2回攻撃を行う
…ここはまだ、私の距離よ。
●狂乱
吸血鬼にしては珍しい手合いだと、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)は思った。
先天的に優れた能力を持つ吸血鬼たちの多くは、それに胡座をかいて努力や研鑽などという発想それ自体を持たない。しかしアンフェールの魔術は、明らかに魔導書から得た知識に依拠する後天的なものだった。それと意識して身に付けたのか、単に愛書家――あるいは猟書家ゆえに勝手に身に付いたものなのかは、判然としないが。
(……どうであれ、私のすることは変わらないけど)
そんなことを考えつつふと傍らを見やると、肆陸・ミサキ(孤独に苛まれる者・f00415)が嫌悪感丸出しの目線を青年オブリビオンに向けていた。
「……今はまだ、あれと戦う時じゃないよ」
「わかってるよ、そんなことは」
ミサキは口を尖らせた。
「でも、無性に心がざわつくんだよ。あのピカピカと、形だけでも共闘しなきゃいけないなんて」
「……割り切って。二人一度には相手できないんだから」
「だから、わかってるってば」
なおも不機嫌そうなミサキの肩を、リーヴァルディはつかんだ。
すると、ミサキの体を闇色のオーラが包んだ。
「夜闇の力……これで、あれの余波程度なら防げるはず」
「へえ、ありがたいね」
青年の灼光はもちろん猟兵にとっても脅威だし、戦い振りの見境なさからして被弾のタイミングを完全に把握するのは困難だった。防御力を底上げしておくに越したことはない。
「まあ、僕は好きに動かせてもらうだけだけど」
一つ肩をすくめてから、ミサキは床を蹴った。その姿は、白と黒の混じり合った長髪と背負った日輪が特徴的な、【隔世血統・太陽神(ソル・ザ・ヴァンパイア)】のものとなっている。
武器は変わらず大鎌。それを目一杯振りかぶり、目一杯の力で振り回す、それだけ。小洒落た技術の介在しないその動作は、ある種アンフェールよりも吸血鬼めいた癖のある戦闘動作であるかもしれない。
すんでのところで振り返ったアンフェールは、唸りを上げて迫る大鎌の刃を厚い魔導書で受け止めた。そして、ミサキの背負った日輪を見て顔をしかめる。
「何、あなた……何と混ざった?」
「知ったことか」
吐き捨て、ミサキはアンフェールの腹に蹴りを入れた。子供の癇癪めいた動作だが、ミサキは外見によらず規格外の怪力を持つ。
「が、ぁっ……!」
アンフェールの体がくの字に折れる。
呼吸一つを空けて、ミサキは再び大鎌を振り上げ、薪でも割るようにアンフェールを両断せんとする。
が、アンフェールが我を取り戻す方が一瞬だけ早い。もたれかかるように接近してからの【魔導書(物理)―オンスロート・エッジ―】の一撃がミサキのこめかみに炸裂し、体重の軽い彼女を真横に吹っ飛ばした。
「あがっ!?」
ミサキはもんどり打って本棚に激突した上、雪崩を起こした魔導書の下敷きになった――それでも無傷だったのは、自身の身体強化とリーヴァルディの夜闇のオーラの賜物か。
そしてミサキと入れ替わるように、リーヴァルディがアンフェールに肉迫する。
「貴女を狩るわ、吸血鬼」
「ッ――下輩が!」
アンフェールがとっさに魔導書を振り、リーヴァルディを打ち据えようとする。
だが、リーヴァルディはその動きを読み切り、半歩だけ脇にずれて回避、さらに鋭く踏み込んでアンフェールの胸に血染めの右手を添える。
「……刺し貫け!」
【限定解放・血の聖槍(リミテッド・ヴラッドパイル)】の掌打が、アンフェールを叩く。
「か、ぁ――!」
一弾指、掌打の当たったところに凝縮した魔力の込められた血の杭が伸びる。心臓を直撃すると思われたそれは、しかし紙一重でアンフェールが身をよじったため、肉と骨を破壊するだけにとどまる。
だが。
(ここはまだ、私の距離……!)
リーヴァルディが左手を振るい、追撃を狙う。
アンフェールとてそれは悟っている。対応しようとして――しかし。
「なぜ、争う?」
「!」
不意に、背後から青年オブリビオンが声を掛けてくる。ミサキとリーヴァルディを相手取ってもたついた時間、それは即ち致命的な隙だった。
「愛し合うなら、争う必要はないはずだ!」
「何を、わけが――!」
アンフェールが裏返った声を上げる――より早く、青年を中心に炎熱の暴威が膨れ上がる。
「っ!」
リーヴァルディはすんでのところで後方に跳ぶ。大ダメージを負っているアンフェールは、動けない。
「――ッッ!!」
断末魔をかき消すほどの暴音をまき散らす猛炎に包まれ、アンフェールは一瞬で炭に、二瞬で灰になって、消えた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『異端なる太陽神仰の寵児』
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POW : 陽の光を仰ぎ見ろ
【出現する太陽を模した小球の熱線】が命中した対象を燃やす。放たれた【高熱を孕んだ光の】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD : 陽の恵みに享受されるがいい
【超高温を全方位に放射する光】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ : 信仰による神の力
【異端の太陽神】に変形し、自身の【移動】を代償に、自身の【光球の操作数と射程距離】を強化する。
👑8
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●愛炎忌炎
古城の主は滅んだ。
だが、まだ終わりではない。絶望的な顔で虚空を睨む、異端なる太陽神仰の寵児が残っている。
狂える同族殺し。これまで猟兵らと奇妙な共闘を続けてきたとはいえ、彼もまたオブリビオンだ。
「我が愛は……なぜ、世界に満ちないのだ……?」
ぼそぼそと独白しながら、寵児は体の周囲にいくつかの擬似的太陽を旋回させている。
猟兵に対して、明確な敵意はない。だが、善意や正気も感じられない。捨て置けば、彼は恐らくまた誰かを、何かを破壊しに赴くだろう。それがオブリビオンであれ、猟兵であれ、無辜の人々であれ、見境など持つまい。
ゆえに、彼はここで滅ぼさねばならない。
討つか? あるいは狂気を承知で語らうか?
選択は、猟兵たち各々に委ねられている。
リーヴァルディ・カーライル
…ん。貴方の愛がその光を与える事だとするならば、
それは余人に受け止められる物ではないけれど。
…貴方は本当に、その光を誰かに受け止めて欲しいの?
その光で、世界を照らしたいのではなくて?
第六感が危険や殺気を感じるまでは手出しはしない
敵の太陽属性攻撃は維持している闇夜のオーラで防御して、
【吸血鬼狩りの業】の戦闘知識を駆使し【再殺の型】を発動
UCを発動する力を溜めた基点を暗視して見切り、
生命力を吸収する呪詛を纏う大鎌を残像が生じる速度でなぎ払い、
傷口を抉るカウンターで敵の怪力やUCの発動を妨害し続け、
他の猟兵が闘うのを支援するわ
…お前の手は既に見切っている。
叩くなら、今。私が光を封じている間に…。
椿・サザンカ
戦いばかりの世の中ですしね……灼光殿の言うように世界中が無償の愛で満ちれば安泰なのかもしれません。暴力反対。
「貴殿の愛を受けとめる大いなる存在は何でしょうか」――問いと共に【存在理由】を以て大きな満月を召喚。
月が輝くのは陽光ゆえ。闇に輝き道標となる月光は、貴殿の愛の光に照らされてこそ存在するのです。美しいでしょう。
言葉では無理でも現象でなら伝わるのでは。
……『現在』が輝くとすれば、それは『過去』の功績ゆえなのでしょうね。貴殿の愛がここで弾けず輪廻の海を巡れば、やがて光ある美しい未来を創るかも。
ちなみに戦闘になり月が攻撃されたら、多分反射して同ダメージ(もしくは愛)が灼光殿に還るのでは。
●愛って何だ?
狂気と猛炎。
異端なる太陽神仰の寵児は、そんなものを『愛』と称してまき散らしている。世界にとって紛れもない危険物であり、害悪である。にも関わらず、リーヴァルディ・カーライル(ダンピールの黒騎士・f01841)の第六感は、彼に対して決定的な『危険』を感じられずにいた。
ゆえに彼女は、今は刃ではなく言葉を振るうべき時だと判断した。
「……貴方の愛がその光を与える事だとするならば、それは余人に受け止められる物ではない」
リーヴァルディがそう言うと、寵児はピクリと身を震わせた。機嫌を損ねたか? 一瞬、そんな不安がリーヴァルディの脳裏をよぎる。が、まだ彼からは危険の気配を感じない。
そこに椿・サザンカ(桜散華の召喚癒士・f24088)も進み出る。
「貴殿に問います」
サザンカの言葉に応じ、その手に持った文庫本から淡い銀色の輝きがこぼれる。
「貴殿の愛を受けとめる存在は何でしょうか?」
【存在理由(レエゾン・デエトル)】の問いによって文庫本から出現したのは、巨大な球体である。寵児と猟兵たちとの間の中空にふわりと浮かんだそれは、満月であった。
――嘘か誠かわからない、逸話。とある小洒落た先生が、「I love you」を何と翻訳するか質問されて、答えたそうな。
「――『月が綺麗ですね』か。気の利いたものを出してくれる」
寵児が言った。驚くべきことに、その声色からは先刻までの狂気は感じられなかった。
「満足な答えになるかどうかはわからないが……語ろうか、我が失敗談を」
●あばよ過去
「私はかつて、『博愛』と『相思相愛』が世界に満ちれば争いはなくなると仮説を立てた」
リーヴァルディとサザンカは目を丸くした。なるほど、世界中の人が愛し愛されることになれば争いはなくなるかもしれないが、いささか思考が荒っぽくないかとも思う。
だが、戦いの続く世界の中で平和の実現を目指すには、その程度には狂的でなければならなかったのかもしれない。
「そして、その愛の性質を『太陽』と定義した。太陽は愛する相手――つまりは照らす相手のことだね――を、選ばない。そして恵みをもたらす存在たる太陽は、誰からも愛されるはずだ、とね」
そこまで言ったところで、寵児は力なさげに笑いつつ手をパンと打ち鳴らした。
「そして盛大に失敗した。当然だよね、吸血鬼たちからの支持が得られるわけがないんだから」
それはそうだ、と二人は思った。ダークセイヴァーの支配層たる吸血鬼は日光を嫌う。彼の言う愛――太陽の光で世界を満たそうなどとすれば、反発して当たり前だ。
「それでもあきらめ悪く、私は最期まであがいたのだよ。いや、死してなお、こうしてあがいている。そう――私の愛を受け止めて欲しかった大いなる存在とは、世界そのものさ。私は、私の光で世界を照らしたかった」
その答えを聞き届けたがゆえにだろう、銀の満月は、砂糖菓子のようにサラリと崩れて消えた。
「……やっぱりね」
寵児の言葉は――その愛の性質は、おおむねリーヴァルディの予想した通りだった。
サザンカも納得したようにうなずきながら、真摯な眼差しを寵児に向ける。
「……『現在』が輝くとすれば、それは『過去』の功績ゆえなのでしょうね。貴殿の愛がここで弾けず輪廻の海を巡れば、やがて光ある美しい『未来』を創るかも――」
「それは駄目だ」
不意にきっぱりと、寵児が断言する。
刹那――殺気はなかった、危険と感じたわけでもなかったが――リーヴァルディはとっさにサザンカを脇に抱え、その場を横っ跳びした。
それと同時、彼女たちのいた場所に疑似太陽が落下してきた。着弾と同時に苛烈な熱を持つ爆発が発生するが、二人は範囲外に逃れている。
「亡霊に過ぎぬこの私が、君たちを差し置いて『未来』の創造に関わってはならない。それは今を生きる命への――『現在』への冒涜に他ならない。光ある美しい未来は、今を生きる君たちが創るのだ」
言いながら寵児は、逃げた二人を追うようにいくつもの光球を飛ばす。
リーヴァルディはその光球の軌跡を、【吸血鬼狩りの業・再殺の型(カーライル)】によって読み切る――いや、読み切れると思ったのだが、先刻までの狂った炎捌きとは明らかに精度が違う。カウンターを叩き込む隙を見出せず、大鎌で斬り払い、斬風で吹き散らすのが精一杯である。といって、無傷で切り抜けてみせるだけでも瞠目すべき腕前だが。
「私はついに持つことあたわなかった暗雲を斬り拓く力を示すが良い、猟兵たちよ。それを見届けられるなら私は、『死んでも可い』!」
まぶしい笑顔で、寵児は高らかに宣言した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ヴィレーヌ・フルーフ
理解されぬ愛の太陽…導くにしろ滅ぼすにしろ楽では無いでしょうね。
彼には少し大人しくしてもらいましょう。
手足に呪印を纏わせ呪泥の翼を生やして真の姿を現します。
UC【怨みの軍勢】で亡者は攻め骸骨騎士達は私の守りに集中してもらいます。亡者は呪いが発動しすれば良いので正面から突撃刺せます。【呪詛】【団体行動】
異端なる太陽神仰の寵児の【陽の光を仰ぎ見ろ】にたいして太陽の球を消失の呪いを込めた呪泥で包み呪泥ごと消し去ることで対処します。
【呪詛】
皆さんを呪泥を触手のように伸ばし出来るだけサポートしましょう。
さぁ、抵抗力はある程度奪いました後は皆さんお願いしますよ。
アレンジok
カタリアンナ・バソリー
はあ。ようやく、この輝きを消せる時が来たのですわね。
問答は無用。さっさと終わらせましょう。
"日輪隠しの守り衣"に身を包み、少しでも太陽の熱から身を守ります。
硝子綱を束ねて、"念動力"で操って太陽を模した小球に叩き込みます。
私には到底耐えられない熱ですが、硝子なら燃えずに溶けるだけ。
溶け落ちた高熱の硝子を再び操り、同族殺しに浴びせます。
高熱の硝子はそれだけで敵を傷つけ、冷えて固まれば動きを阻害する。
傷つき、動きの鈍くなった敵を"冥府の鳥籠"に閉じ込め、
"同胞殺しの杭"と"同族殺しの楔"で串刺しにしてとどめを刺します。
お前の愛も嘆きも、必要ない。
この世界は、暗闇が満たし、支配する。
●明日へ
異端なる太陽神仰の寵児の頭上に、黄金色の疑似太陽が出現する。
「陽光を仰ぎ見よ!」
馬鹿正直に直視していたら失明しかねない輝きを持つそれから、灼熱の光線が放たれる。
カタリアンナ・バソリー(1/2の純なる血統・f12516)は、それをすんでの所で横に跳んで回避した。特製の外套のおかげで光への耐性は上がっているとはいえ、直撃を受ければ厳しい。
攻撃動作を見切るために、あの忌々しい光をずっと視界に納めていなければならないというのは、彼女にとっては恐ろしいまでのストレスだった。だが、そのストレスもこの戦いが終わるまでと思えば。
「この世界に陽光なぞ必要ない」
カタリアンナは烏のロープを鞭のようにしならせ、疑似太陽を叩く。その鋭さは光の球を両断するかと思われたがしかし、凶悪な熱に負けてガラスが溶けた。
が、それもカタリアンナの想定内。どろりと液状化したガラスを念動力で操り、寵児に降り注がせる。
「暗闇が満たし、支配する」
「それはもったいない」
超高熱の液状ガラスを、寵児は無造作に手の甲で払った。余人ならば焼けただれるところ、太陽神仰の寵児たる彼にしてみれば、ぬるめのコーヒーも同然だった。
さらに一気の踏み込みでカタリアンナの眼前にまで迫り、言う。
「全ての者が暗闇で目を覆われてしまったら、誰も貴女の美しさを讃えられないじゃないか」
「な、な――!」
カタリアンナの口の端がひくつき、熱源に寄られて熱苦しいにも関わらず体中に鳥肌が立つ。キラキラしいのが苦手なカタリアンナならずとも、その物理的でないまばゆさをうっとうしいと感じる者は、多いだろう。
「少し大人しくしてもらいます」
そこへ、やや離れたところから声が届く。
寵児が反射的にそちらを向くと同時、骨とボロ布で人型を作ったといった風情の亡者の集団が、次々に彼にすがりつくような格好で押し寄せてきた。
「ぬ!?」
寵児は慌てて自身の周囲に五、六個の光球を旋回させ、亡者たちを焼き砕いた。
しかし、亡者の灰を浴びた寵児は、己の体の動きが鈍ったのを感じた。その隙にカタリアンナは後方に跳び、間合いを切る。
「これは……呪詛か」
その影響で動作は鈍い。が、敏いままの意識を働かせ、寵児は光球を操って撃ち出す。標的は声の主。それは、手足に文字とも何ともつかぬ紋章を刻み、粘土細工めいた翼で身を包む、ヴィレーヌ・フルーフ(呪いの聖女・f24140)だった。
寵児の放った光球の砲弾はその翼に炸裂し、爆圧をもってそれを大きく削る。が、翼はすぐに再生――というより新たに生成されて、瞬時にして穴を塞いだ。
「無駄ですよ、私は主に守られていますので」
「その怨念の塊のことかい?」
寵児は苦笑いした。ヴィレーヌの翼をかたどる泥の性質を見抜いているようだ。
「私が言えた義理ではないが、いけないよ、邪神なんか信仰したら」
「誰が何と言おうと、主は我が救いですわ」
にいっと口を三日月型にして、ヴィレーヌが言った。狂的な光を目にたたえながらの祈りが、再び【怨みの軍勢(ウラミノグンゼイ)】を寵児にけしかける。
「むう……!」
寵児の繰り出す光球は再び亡者を蹴散らすが、やはり灰も残さずというわけにはいかない。浴びれば浴びるほど、呪詛によって体が鈍化する。
「抵抗力はある程度奪いました。後はお願いしますよ」
ヴィレーヌの言葉に、声こそ上げなかったがカタリアンナが応じる。
転瞬、口を開けた棺桶が寵児目がけ飛来する。常ならば何でもなく回避できる程度の速度に過ぎないが、鈍化した体がそれを許さない。
ばくん、と。
魚を呑む鯨のごとく、寵児は棺桶に閉じ込められた。そして次の刹那、カタリアンナの念力に操られた幾本もの杭や楔が、手品のショーよろしく棺桶に突き立っていく。無論、それと違って中身が無事に済むような種や仕掛けなどないのだが。
「とっ、た!」
カタリアンナが快哉の声を上げる。だが。
「猟兵などというのは夢と希望に満ちた存在だとばかり思っていたが、珍奇な命運に縛られた者もいるのだね。今更ながら、認識を改めさせられた」
棺桶の中からのんびりした声が響くのと同時、棺桶を包囲するように十数の光球が出現する。
そしてそれらは一斉に棺桶に殺到し、大規模な爆発を起こした。乱舞する熱波と爆風が頑強を誇る棺桶を蹂躙し、千々に裂いて散らす。
「そん――!」
「――なっ!?」
愕然とする二人の前に、ゆるゆると寵児が進み出る。その態度は悠々としたもので――しかし、間違いなく体中を穴だらけにされた挙げ句、自爆同然の手段で窮地を脱したその姿は、瀕死と称するのさえ生ぬるいほどの重傷だった。
「しかし、私としては『明日』とは『明るい日』と書くのだよ、と主張したいところなんだがね。まあどのみち、世界を光で満たすも、闇で満たすも泥で満たすも、ベクトルは違えど性質は同じだ。自他共栄が成立しにくいという点でね」
明らかに死にかけていながら、しかし寵児は馬鹿馬鹿しいほど爽やかに笑った。
「せっかく私という先達の失敗例があるのだ。学びたまえ」
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
肆陸・ミサキ
愛だ愛だと、君はうるさいね
与えているつもりで押し付けてたら意味無いんだと思うのだけれど
でもまあ、そんなに愛したいなら、愛してくれよ
ヒトでも吸血鬼でも神でもない僕をさ、愛してくれ
変わらず覚醒と鎌で応戦
自分は動かずに光弾を複数操るようだから、範囲攻撃で出来るだけ払いのけながら接近しようか
いい加減、気付かないフリも無いだろ、ある程度の熱光は僕の光で圧させて貰うよ
まあ、地力の差は……仲間に頼るさ
近づけたら怪力で抱き締めて、思いっきり吸血してみようか
僕も焼かれて塵になるかもしれないけど、お前を殺すまでは生きろと、あいつに言われちゃったしね
全力で、殺しにかかるよ
愛なんて、そこらへんに転がってるもんさ
●よろしく勇気、あばよ涙
――世界は我々だけで成り立ってるわけじゃない。
彼女は言った。
――自分を生かすためには他の命を生かさなきゃいけないし、他の命が生きるためには太陽の恩恵が要る。
なおしばらく、彼女は太陽を認めるべき理由を主張した。そして不機嫌そうな顔で、こちらを睨んだ。
――だから、
「愛だの未来だのうるさいね」
体格に釣り合わない巨大な鎌の柄を、己の肩でとんとんと弾ませる、肆陸・ミサキ(孤独に苛まれる者・f00415)。
「君が何をもって僕らを推し量る気か知らないけど、君の理想を僕らに押し付けても無意味だろう」
「それはそうだ」
異端なる太陽神仰の寵児は肩をすくめてみせた。
「だが、形はどうあれ君たちがこの世界を救う気なら、なくてはならないものがあるのも事実だ」
「……何だい?」
ミサキが問うや、寵児はその体を変貌させた。ずたぼろの青年の姿から、人型に燃えさかる松明のようなものへと。
「力だよ。オブリビオンを討ち倒せるだけの」
異端の太陽神と化した寵児は、大小数十もの疑似太陽を体から吐き出し、ミサキに向かって殺到させた。一つ一つが凶猛な灼熱を持つ光球を。
「はっ! お前を殺すまでは生きろと、あいつに言われてるんだ」
ミサキの背中が輝く。寵児の放つ光球にも劣らぬ苛烈な輝きを放つ、日輪が。
火山弾よろしく降り注ぐ光球のただ中を、ミサキは直進した。小さなものは日輪がかき消すにまかせ、大きなものは【隔世血統・緋刃(スカーレット)】の斬撃で薙ぎ散らす。
濃縮された熱量の詰まった時間は、長さでいえば呼吸一つか二つ。
ミサキが寵児の眼前に迫ったとき、熱を吐き出しきった彼は、真っ白に燃え尽きた青年の姿になっていた。
「愛の灼光などと称してもらったが、死にかけで張り切ってもこの程度か」
「そんなに愛したいなら愛してくれよ、ヒトでも吸血鬼でも神でもない僕を!」
嘆くように吼えるように叫びながら、ミサキは寵児につかみかかり、その首筋に牙を突き立てた。
「……さほど重要ではあるまい」
必殺なる吸血の牙を受けながら、なお寵児は穏やかに笑った。
「猟兵の中には機械生命体や妖精などもいる。そんな多彩な命が共存する中で、君程度の者が何を遠慮する? 自分に自信を持つのは勇気が要るが、だからといって自分は愛され難いと決めつけるのは、自分を愛してくれる者への侮辱になる」
――だから、
「『――君も、自分を愛しなさい』」
穏やかに言うのと同時、寵児は灰のように崩れて消えた。
「……やっぱり、オブリビオンの血はまずい」
ミサキはつぶやいた。
確かに寵児の血はまずかった。まずすぎて、涙が出るくらい。
大成功
🔵🔵🔵
最終結果:成功
完成日:2019年12月19日
宿敵
『異端なる太陽神仰の寵児』
を撃破!
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