●L'alba del ghiaccio
寂しいところだった。
凍てついた闇にくるまれ、幾振りもの剣が立つそこは。
「ニンゲン……ニンゲンめ……」
誰かが囁く。
「ケンシ……ドコダ……剣士ハ……」
どこからともなく響く声は、憎悪に満ちた禍々しいものだ。
許せん、許せん、と呼応するように周囲からも震えが伝う。
かれらは夜よりも深い色に苛まれ、夜よりも遥かに淀んだ気配を漂わせていた。
そして次第に想念を膨れ上がらせ、積み重ねて、じわじわと世界を侵食していく。
もしもここに生者が迷い込んだなら。誘う死の油断を見澄まさなければならない。
しかしたとえ生に繋がる欠片を奪い取れたところで、あまりにも死を呼ぶ数は多い。
気持ちをしかと保たねば、永遠に明けない夜の寂しさに飲み込まれてしまうだろう。
「我ラ竜ノ、同胞ノ怨ミヲ……イツマデ、イツニナレバ……」
それでも死は素知らぬ顔でいる。
こんなにも寂しいところで、暁を得られぬ剣の嘆きを聞きながら。
●グリモアベース
「とても寒くて、寂しいところにいるのよね」
何処なのだろうと首を傾げ、ホーラ・フギト(ミレナリィドールの精霊術士・f02096)は薄く微笑み猟兵たちを見回した。
「群竜大陸に向かったっていう、勇者ご一行の痕跡を追ってほしいの」
勇者たちが渡ったとされる群竜大陸。そこは、帝竜ヴァルギリオスと共に蘇ったと言われる地。そして多くの勇者が運命を共にしたとも伝えられている地だ。噂の帝竜がオブリビオン・フォーミュラならば、やはり大陸をいち早く発見する必要があるだろう。
そこで今回ホーラが転送する先は、雪原と雪の森、そして雪山ばかりの巨大な島だ。
村もなければ、濃霧が度々発生するためか近海に船も殆ど通らず、住まう動物たちにとっては楽園とも呼べる。
その島で、陸海空それぞれから勇者の足取りを追うのが、此度の任務だ。
「島に一番近い港町の人にも、島の詳細はわからないのよ」
白紗をかけた忘らるる島──そう呼ばれるのみで、深い雪が積もる未踏の地を人々は気味悪がり、あるいは禁断の地だと恐れている。大陸の人々からそれ以上の情報は得られず、あとは現地調査のみとなった。
予知で見えた島の風景に、いくつかの生き物の姿があったとホーラは続ける。
「生き物たちの助けを借りて、島を調べましょ!」
一つ目は、翼のようなふさふさの長耳を持つ、愛らしさに溢れた羽耳兎。大きさは小型犬ぐらいで、彼らは野を駆け山を駆ける。好奇心旺盛なのか、島の動物以外にも積極的に近寄ってくれるため、触れ合うのは簡単だろう。
二つ目は、濃霧だろうと何のその、自由に大空を舞う小さな竜。翼を畳んだ状態だと馬ほどのサイズで、彼らの領域は空にある。人間や人型の生物にのみ、やや警戒心を見せるが、いきなり牙を剥く真似はしない。もともと心優しき竜たちだ。脅かさなければ近づけるはず。
三つ目は、大海原をゆく白鯨。しかも淡い光を帯びた鯨だ。全長およそ五メートルで、人間が近づくと歌を紡ぐように鳴きだす。彼らはのんびり島の周りを泳いでいる。鯨が放つ白の光に触れても何も起こらないので、安心して近づけるだろう。
いずれかの生き物と触れ合い、共に探索して勇者一行の痕跡を見つける。
最初の目的はそれだ。
「痕跡が見つかったら、それを辿ってほしいの」
勇者たちが関わった伝説や痕跡には、おそらく彼ら勇者の意志が残っている。その意志を少しずつ集めていくことで、いつか群竜大陸への道も切り開かれるはずだ。
「……雪降る未知の島に行くんだもの。装備も充実させてたはずよね」
止まない雪への対策や、雪中での野営により一層の注意を払っただろう。何日その島に留まったかも定かではないが、勇者たちのそうした冒険の痕跡が、もしかしたら残っているかもしれない。
ホーラはそこで話を区切り、ぱん、と軽く手を叩いた。
「大きな戦いが終わったばかりだから、羽を休めるのにもいいと思うわ」
生き物たちと一緒にのんびり散策していれば、勇者たちの手がかりもきっと見つかる。
せっかく行くのだから、美しい銀世界や野の美を味わい、英気を養ってほしいとホーラは付け足す。場所やタイミングによっては濃霧も薄れる。もちろん防寒対策は必要になるが、景色を堪能するには申し分ない島だ。
「それとオブリビオンについて、なんだけど……」
居場所は不明。わかるのは、剣を模ったオブリビオンの群れが、訪れた者へ死をもたらすべく待ち構えていること。
当然、放っておけばどう影響するかもわからない。見つけ次第、撃破してほしいとホーラは猟兵たちへ託した。
「寒さ対策はバッチリ? 用意ができたら声をかけてね、転送します」
愛らしい羽耳兎と一緒に、雪原を駆けるか。
心優しき竜の群れと共に、大空を舞うか。
美しき光を燈す鯨の歌を聞き、濃い海をゆくか。
──さあ、あなたはどのように過ごす?
棟方ろか
お世話になっております。棟方ろかです。
一章が日常、二章は冒険、三章で集団戦となっております。
●一章(日常)について
大海原に浮かぶ雪降る島で、お好きな生き物との時間をお過ごしください。
生き物と一緒に、勇者にまつわるものを探すことに専念するも良し、生き物とただただ戯れるも良しです。
もちろん、この章のみの参加も大歓迎!
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております!
第1章 日常
『冒険者達の旅路』
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POW : 羽耳兎の生息する陸地を歩む
SPD : 優しき竜達と共に自由な空へ
WIZ : 光る鯨が友を想い歌う海を渡る
イラスト:三橋
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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
サンディ・ノックス
皆魅力的だけれど、一種選ぶなら元々好きな竜と接触したい
竜と出会ったらまず穏やかな調子で挨拶
言葉が通じているかわからなくても話しかけ続ける
突然現れて驚かせてしまったかな?そうならごめん
昔この島に来たヒトたちの残したものを探しに来たんだ
俺は空から探そうと思ってて…空の案内をしてもらえないかな
乗せてもらえたら嬉しいけれど図々しいかなと思うし、ヒトを乗せて飛ぶのが大変かもとか考えてしまう
だから俺は自力で飛ぶよ、疲れるけど頼みごとばかりするよりずっといい
【解放・日蝕】で背中を竜に変化させて空へ
地上を観察
周りと見比べて違和感がある場所はヒトの手が入っていそう
その場所は覚えておいて今は竜と行く空を楽しみたい
昇る白に好奇の色を含ませて、サンディ・ノックス(闇剣のサフィルス・f03274)は銀世界の中で足を止めた。綿雪が降る景色の向こう側に、彼は目当ての竜を見つける。ぼんやりと浮かび上がったシルエットだけでも、引き締まった身とかたちが知れる。
近づく気配に感づいていたのだろう。竜の影はゆっくりと、頭をサンディへと向ける。
はじめまして、と開口一番にサンディが傾けたのは、至って平穏な挨拶だ。一歩ずつ踏み締め、頬を撫でる雪以外の感覚に──竜が放つ刺々しい気に、精神を研ぎ澄ませた。恐れからではなく、余計な刺激を与えぬために、探りながらも笑顔は忘れない。
「突然だったから、驚かせてしまったかな?」
そうならごめん、と彼は微笑みを僅かに曇らせた。申し訳なさそうな情を顔に塗るも、すぐに言葉を繋げていく。
「昔、この島に来たヒトたちがいるはずなんだけど……」
言語が通じているかわからない。だが訴えかけた姿勢は買ってくれるだろうと、サンディは凪いだ海のような穏やかさで話す。
「彼らの残したものを、探しにきたんだ」
鳴きも唸りもせず佇んでいた竜の、その顔立ちが見える距離まで到達する。近づいてサンディにもわかった。鈍い銀色の竜は話の続きを待っている。ひりつく警戒心がサンディに突き刺さりはするものの、全身で拒むような素振りは窺えない。
だからサンディは語りかける。元より竜は好きだ。その想いは彼の表情と同じく揺るがず、紡ぐ声音にも顕れる。
「俺は上空から探そうと思ってて……空の案内をしてもらえたら、嬉しいなって」
すると竜はサンディに背中を見せた。顎でくいと示す様は、まるで乗れと言っているようで。
考える時間を少しばかり作って、息を短く吐いたサンディは緩くかぶりを振る。
「ありがたい申し出だけど、俺は自力で飛ぶよ。ヒトを乗せて飛ぶの、大変だろうから」
彼の意思を汲み取ったのか、竜はサンディの頭からつま先までを確かめたのち、首肯する。
そして竜が羽ばたくのに合わせて、サンディも己の後背に熱を燈らせる。赤き竜の熱を。
降雪に圧されもせず、赤は竜の翼を模り、彼の身を遥か天へと飛び上がらせた。
白にくすむ世界から地上を観察するも、雪止まぬ島の上空はところによって強風も起こる。翼を酷使し続けるのはサンディにも辛い。だが。
──頼んでばかりよりかは、ずっといい。
ちらりと前方を飛ぶ竜を確かめる。竜にサンディを気遣う素振りは無い。彼の飛翔する力を疑っていないのだろう。期待に応える、と気負うわけではないがサンディも自然と目を細め、意識を疲弊よりも島の景色へ寄せはじめた。
雪で覆われてはいるものの、風光に恵まれた島だ。ヒトの手が入った場所を見つければ、島の姿と比べても違和感を覚えるはず。そう信じ、竜の案内を受けて飛び続けたサンディはやがて山の中腹、突き出した岩の影に残る幾つもの木の板を発見した。青のまなこを見開き凝視すると、原型は留めていないが、簡易的な風除けか雪除けを造った跡に思える。木板もすっかり朽ちていて、長い年月を思わせた。
サンディは細く息を吐いて、まだまだ島の空をゆく竜へついていく。
──今は、覚えておくだけにしよう。
せっかくの機会だと、彼の気持ちは銀竜と共に飛び続ける。
竜との空中散策を、思う存分こころに刻むまで。
大成功
🔵🔵🔵
ソラスティベル・グラスラン
おおーっ…雪がいっぱいです!白紗の名の通り、綺麗な場所…!
よぉーしっ、戦も終わり暫くぶりの羽根伸ばしですっ
今日も伝説を辿る、冒険を始めましょう!!
火の魔力で暖かい魔法のダガーを首から下げて【氷結耐性】
空を飛ぶこともできますけど、敢えて歩いて
歩くことでしか発見できないこともありますっ、地道に一歩ずつ~♪
禁地と聞いていますが…可愛い兎さんがいるではないですか!
【優しさ・コミュ力】で接して早速仲良く
【料理・おびき寄せ】で食料セットから食べられそうな野菜を出して、お近づきの印に
うふふ、可愛い旅のオトモさんができました♪
彼らならこの地の名所にも詳しそう、ついていきましょう!
あ、抱っこしてもいいですか?
光の粒が鏤められた白銀の上を、ひとりの少女がゆく。
忙しなく移ろうまなこが、見渡す限りの銀世界をめいっぱい映して輝いた。
「雪が……雪がいっぱいです!」
幼子のように無垢な感動を声に乗せて、ソラスティベル・グラスラン(暁と空の勇者・f05892)は歩を進める。
「よぉーしっ! 羽根伸ばししますよっ」
畳んであった竜の翼をのびのびと解放して、両腕を突き上げる。天を仰ぐも、滑らかなはずの陽光は雪の幕が覆っている。陽を浴びている感覚こそ無いが、それでも彼女は明るさを損なわない。
大戦を終え、久しぶりに訪れた休息だ。彼女の心持ちは既に、冒険譚の一ページ目を走りつつあった。
「今日も伝説を辿る、冒険を始めましょう!!」
吐く息がいかに白く凍てつこうとも、ソラスティベルから溢れ出す熱意は絶え間なく島の空気を溶かす。
そんな彼女の胸で燈るのは、魔力を帯びたダガー。首から下げた短剣は、火の加護を少女にもたらす。濃淡ばかりが目立ち、色彩の削げた島では、ソラスティベルも彼女のダガーも目映い光となる。
──空を飛ぶのも良いですけど、ここはあえて!
大空は彼女の領域。けれど大地を踏み締め突き進むのもまた、勇者が刻んだ歴史の一歩のようで、心も足取りも弾む一方だ。
「白紗の名の通り、綺麗な場所ですっ……あ!」
まもなくソラスティベルは、雪原の峰を駆ける何かを捉えた。こんもり積もったなだらかな丘は、生み出した陰影に動物たちの息吹を映し出す。動くものに目がいくソラスティベルは、それが兎であるとすぐに理解した。わあ、と思わず声にならない喜びを零す。
「可愛い兎さんがいるではないですか!」
羽根に似た長い耳を風に晒していた兎は、覚えの無い存在がいるのに気付いてか、ソラスティベルをじいっと見つめた。不思議そうに首を傾けて。
遠目に知っても愛らしい仕種で、ソラスティベルはとろんと緩む頬を、なんとか指の腹でむにっと押し上げた。
彼女は迷宮の恵みを詰め込んだ食料セットから、野菜を一掴みすると意を決して兎へ近づいていく。こんにちは、はじめまして、と挨拶を連ねて笑顔を向ければ、興味を示した羽耳兎が鼻先を揺らす。ソラスティベルが差し出した迷宮キャロットに、鼻を近づけて匂いを確かめ出した。はじめての香りに驚いてか、ぴん、と両耳がまっすぐ立つ。
「お近づきの印です。どうぞ!」
窺うような動きを示した兎へ、ソラスティベルが笑みを寄せる。すると兎は急に彼女の周りを楽しげに跳ね回り、色鮮やかな人参にかじりつく。
ふふ、と堪えきれない嬉しさを息に込めてソラスティベルは笑い、あっという間に人参を平らげた兎と目線を合わせる。
「可愛い旅のオトモさんができました♪ これで名所探しもバッチリ……あっ、待ってくださーい!」
一足先に山麓の方角へ駆け出した兎を、彼女が追いかける。
「抱っこ、してもいいですかっ??」
切なる願いを雪降る野原で聞き届け、羽耳兎がぴょんぴょこ戻って来る。
おかげでソラスティベルは双眸から光を零して、兎を抱き上げた。頬を擦り寄せると、ふわふわな毛と温かさにうっとりする。
そこで、キュッ、と微かな鳴き声と共に兎がどこかを示した。促されて見つめた先は、やはり山の方だ。
ソラスティベルは兎の導きにより、島に聳える雪山へと近づいていった。
大成功
🔵🔵🔵
レザリア・アドニス
雪の島、ですか…
素敵な場所、みたいですね…
防寒対策パッチリ
竜たちと一緒に飛びたい
高い所に佇んで、竜たちへ向かって両腕を広げ、敵意がないのを示す
近づいて来れば挨拶の感覚で指先で触ってみる
受け入れられたら、ふわりと飛び上がって、竜たちと一緒に青い空を翔る
自由自在に飛んで、たまに追いかけっこしたり、じゃれ合ったりして
そしてたまに一面の白い雪原に駆ける羽耳兎の頭の上に通過したり、海面に歌う鯨の側に一緒に進んだりする
勇者たちも、こうしてこの子たちの先祖と遊んだことがあったでしょうかね
動物たちと遊びながらも、空から勇者の痕跡を探す
特に野営に適する所や戦場など、活動の跡がないかを確かめる
──雪の島、ですか……。
話に聞いていた銀世界に佇み、レザリア・アドニス(死者の花・f00096)が感じたのは踏み締める雪の固さだ。
吐いた息が、ふわんと広がりながら消えていく。昇る吐息とすれ違って降る綿をちぎったような雪が、レザリアを覆う。風はさして強くないのに、防寒具だけでなく、雪国用のブーツのつま先、長い睫毛にまで雪片がのしかかる。それほどまで、降雪が多い。けれど木々の纏う雪衣や、山稜がかぶる帽子など、美しいものもたくさんあった。
「素敵な場所、ですね……」
うっとりと眦を和らげて、レザリアは一歩ずつ進んでいく。
すると多くの生き物たちが住まう島というだけあり、すぐに竜の影を発見するに至った。見れば見るほど巨大に思えるが、せっかく訪れたのだ。竜と一緒に飛びたい想いにくすぐられ、レザリアは切り立った岩へふわりと飛び上がり、両腕を広げた。もちろん両の手には何も持たない──元より、何も持っていない。
竜に逃げる気配はなかった。だが警戒心からか、視線をレザリアから外さない。
「……怖い、ですか……?」
白皙の頬に朱を乗せて彼女は笑む。尋ねながらも性急に詰め寄ることはしない。口数は控えめに、けれど穏やかさを湛えた眼差しで語りかける。
窺う素振りをした竜に気づき、レザリアはそろりと伸ばした指先で、冷えきった竜の鱗に触れる。こんにちは、と軽い挨拶をする感覚で。鱗を撫でていると、次第に強張りが溶けていく。だからレザリアは薄く微笑んだ。
「力を、お借りしたいです……空を……」
仰ぎ見た天にも白紗がかけられ、ひやりとした花がレザリアの瞼に落ちてくる。あまりの冷たさにぱしぱしと瞬いていると、短く鳴いた竜も、喉をさらけ出し彼女と同じ景色を見た。
それが合図となる。
竜が翼を広げたのに合わせて、レザリアも双翼ではばたく。白にも黒にも染まらぬ翼でふわりと舞い、果てしない空を翔ける。大柄な竜だが、恐らく無邪気さを有しているのだろう。レザリアが高く飛べば負けじと竜も高みへはばたき、レザリアが速度を上げれば竜も追い越す。
島も雪もよそに戯れていたレザリアは、ふと思う。
──もしかしたら、勇者たちも……。
眼下の雪原を駆ける、淡白い羽耳兎の群れ。海面で歌う鯨の、凍てつく波間も厭わない楽しげな泳ぎ。
景色のひとつひとつを確かめたレザリアのまなこに、冷えきった空気を温くさせる熱が燈る。
──こうして、この子たちの先祖と遊んだりしたのでしょうか……。
遠い過去へ想いを馳せていると、キュオォン、と竜が突然ひと鳴きした。想定よりも甲高い声につられてレザリアが雪山を見下ろす。すると。
「あれは……」
そびえ立つ雪山に幾つかの窪みを発見する。竜に一言断って窪みへ近づく。痕跡らしきものはないが、窪んだ岩影は、風向きの影響もあってか雪があまり積もっておらず、休むのに最適だ。数人程度なら、身を寄せ合うなどして雪も風も凌げるだろう。
「ここで野営とか、したのかも……?」
島だけでなく雪山も巨大だ。探索のため登るにしても、休憩地点を定めないと困難だっただろう。
風除けになる窪みを記憶に刻み終えた頃、共に遊んでいた竜が近寄ってくる。クルルゥ、と不思議そうに首を傾ぐ竜を振り返り、レザリアは再び翼を広げた。
竜と共に、遥かな空をゆくために。
大成功
🔵🔵🔵
エドガー・ブライトマン
勇者の足取りを追うだなんて、まるでおとぎ話のよう
ロマン溢れる旅になりそうだ
さあ、行こう。レディ、オスカー!
寒さ対策はバッチリだよ
見た目はいつもと変わらないけれど
衣装の中に、秘密の道具……カイロを仕込んだんだ
これはすごいねえ!貼るだけで温かいよ
因みにUDCの名店――“コンビニ”と呼ばれるところで手に入れたんだ
この店は私のお気に入りでね。ヒミツだよ
寒くない?レディ。 そう、よかった
竜とともに過ごしたいなあ!
私は《動物と話す》ことが出来るんだ
ひとに話しかけるように気軽に、穏やかに
私を背中に乗せてほしいなあ
私は飛べないから、キミたちに頼りたいんだ
お礼にこのパンをあげる
ああ、こんなに空が近いのは初めてだ
目映い白の上で光が跳ねる。エドガー・ブライトマン(“運命”・f21503)はその光を一粒ずつ目で追った。跳ねる光にも色がある。白銀ばかりと思いきや、光と彩りに満ちた島。そんな島で勇者の足取りを追うのだと考えたら、期待とロマンにエドガーの胸もふくらむ。
──まるでおとぎ話のようだ。
想像を巡らせながら掲げた左手に、一羽のツバメが止まる。彼の友オスカーだ。彼は凍えるような絶景の中でも、懸命に羽を震わせていた。自らを覆おうとする雪から、色艶を守るために。
足に纏わりつく雪をも退け、新しい白を踏み固めて道を生んだ。そしてエドガーの腕で息衝く色もまた、これから辿る道程を鮮やかに見据える。だからエドガーの眼差しも、深雪の世界で迷わない。
「さあ、行こう。レディ、オスカー!」
掛け声と共にエドガーは歩き出した。ふわふわ舞い降りる綿雪の先、まだ見ぬ地を目指して。
平然と進むエドガーの周りを、雪片を避けてオスカーが踊る。くるりと旋回してエドガーの前まで戻り、風が弱るとまた高く飛ぶ。それを繰り返す友と前方を交互に見やり、やがてエドガーは宿る赤へ問うた。
「寒くない? レディ」
問い掛けに風が鳴く。吹き抜ける風に乗り、エドガーの衣や肌へぱたぱたと触れていくのは清らかな白だ。けれど触れた途端に溶けていくその色をよそに、吐息だけでエドガーは微笑む。
「そう、よかった」
彼の瞳に映るのは、己に燈った赤の輝きのみ。
そんなエドガーへ、オスカーが嘴を寄せる。覗き込むような眼差しにエドガーがぱしりと瞬く。
「うん? ああ、寒さ対策はバッチリだよ、オスカー」
エドガーが眦を和らげると、不思議そうにオスカーが首を傾げた。見目に変化が見られないため、オスカーとしても気になるのだろう。友の懸念を払拭するべく、エドガーは衣服をぽんぽんと叩く。
得意げな面差しに違わず、装いの内側には、とっておきの秘密の道具が仕込んであった。衣の外側から手を押し当てるだけでも、じんわりと温かさが滲む。
誇らしげなエドガーの脳裏に、お気に入りの店で陳列してあった数々の品が蘇るっていく。エドガーにとって興味を引かれるものばかりで、いま思い返しても笑みがこぼれる。
「……ヒミツだよ」
片目を瞑ってエドガーが囁くと、オスカーが鳴き声を甲高く弾ませた。
友と他愛ない言葉を交わしているとやがて、白紗の向こうに竜の影を見つける。ぼやけた影は大きく、置物に似た重たさを霞む白に映す。けれど身の曲線が、生きる存在であると示すようになめらかに動いた。こちらを窺っているらしい。
しかしエドガーは物怖じせず歩み寄る。竜と過ごす時間を思えば、近づく足にも自然と力が篭る。
やあ、とかける声音は爽やかに。会釈する仕種は美しく。
挨拶もそこそこに竜の顔を間近に拝むと、降りしきる雪の中でも明瞭に伝わってきた──ヒトへの警戒心が。
「私を背中に乗せてほしいんだ」
エドガーは平時と変わらぬ態度で、言葉を傾ける。
「私は飛べないからね。キミたちに頼りたくて」
白んだ空を仰ぎ見るも、竜たちの領域であるそこはエドガーにとって知らぬ世界だ。
竜だからと構えることなく話を続けたエドガーは、やがてパンを取り出す。堂々たる姿にかエドガーの気質にか、竜の好奇が瞳に宿る。だからエドガーも、にっこりと微笑んで。
「このパンをあげる。お世話になるお礼にね」
対価を支払った。すると竜は彼へ背を向け、乗るよう顎で促す。有り難く背中を借りると、瞬く間にエドガーの身は遥かな高みへ舞い上がった。散策中に感じていた風雪の流れが嘘のように、一斉にエドガーへと圧しかかる。
ひとたび大空へと飛べば、島の全景が見えはじめる。地はすでに遠く、エドガーは徐に顔を上げた。
ああ、と零した吐息が夢色に艶めく。
──こんなに空が近いのは初めてだ。
大成功
🔵🔵🔵
紫谷・康行
寒いのには慣れている
雪が降れば少しだけ心が躍る
でも対策は十分にしよう
宇宙とは言わないけど極地用の装備を持って行こう
薄くても効果が高い断熱防水服
丈夫で機能的な靴
熱源に固形食
十分な水
あとはともに行く仲間に聞くかな
穏やかな顔で鯨の言葉を使い敵意がないことを話す
旅の目的を伝え一緒に来ないかと誘う
意味でなくても、心で通じることもある
じっくりと穏やかに話をする
小舟に乗り白鯨とともに海を行く
必要なら魔法の風を帆に当て
鯨の声を聴きながら
冷たい青空の下を
凍れる星空の下を
勇者の足跡を探しながら旅をする
何処かに誰かの記憶のかけらがないか探しながら
小さな島に、どこかの岩に
竜への道を探したものの想いを探しながら
とめどなく降る白き花を掻き分けて、紫谷・康行(ハローユアワールド・f04625)は小舟を漕いでいく。海は凪いでいるように思えたが、いざ漕ぎ出してから揺れの激しさを痛感した。
けれど康行の顔に動揺の色はない。むしろ懐旧の念さえ覚えるのは、おそらく。
──こういうのには、慣れてる。
吐く息の白さも、肌に突き刺さる冷たい空気も、すべてが康行にとって懐かしい。
思わず震わせた睫毛にかぶさる雪片が、白い世界を更に濃く染め上げる。面差しこそ平時と変わらぬものの、櫂を握る腕が微かに軽やかなのは、踊る心がそうさせているのだろう。
しかし浮かれて慎重さを欠く真似はしない。極地での活動に耐えうる装備は、康行の身を守る確かなものだ。薄手ながら断熱と防水に特化した服。刺々しい岩場で踏み締めたとしても穴の開かない丈夫な靴。当然、熱源と固形食、水も備えてある。探索が数日かかる可能性まで思慮した康行に、抜かりはない。
対策は充分だ。そして残るは。
──ともに行く仲間、かな。
波打つ動きと音の変化に、康行は櫂を止めた。
霧か海雲かわからぬ白んだ景色に、クォォオォン、と高い汽笛が響く──汽笛ではないと康行にはわかっていた。潮流に揺られ小舟が引き寄せられた先、優雅に泳ぐ白鯨が音の主だ。
舟のバランスを保ちながら、康行は巨躯を見る。平らな雪原を眺めたときと似た色の鯨。間近にすれば眩しすぎるだろうかと懸念した鯨の輝きも、澄み切らぬ海上では優しく映る。
鯨の瞳が小舟と、そして康行を捉えた。その視界から外れぬように舟を操って、康行が唇を動かす。鯨の言葉を、魔法を紡ぐために。
彼の声音を拒む素振りもなく、白鯨は穏やかに浮かぶ。だから康行もじっくりと意思を傾けた。旅の目的を丁寧に告げて、一緒に来ないかと誘う。
島の周りに詳しい鯨であれば、勇者の足跡も辿れると信じて。そして何より、心で通じることもあるのだと信じて。
降りしきる雪が、深い闇を湛えた海へと消えていく。その狭間で康行は白鯨を見つめた。暫しの沈黙が流れ、やがて鯨が朗らかに鳴く。
「……よかった」
ふ、と短く息を吐いて康行は導き手と共に海を進む。
凍てつく潮風に魔力を乗せて、帆の角度を整えた。魔法の風は康行の意思に沿う。あとは風に任せておけば、帆の角度も調節してくれるだろう。おかげで康行の意識は、他に囚われず鯨へ海へと寄っていく。
「島のどこかに、必ずあるんだ。誰かの、記憶のかけらが」
そう紡ぐ康行に、白鯨も同意するかのように呼応した。まもなく鯨は歌を口ずさみ、広大な世界に弾んだ歌声を伝わせる。康行が傍らを進むためか、鯨ものびのびと泳ぎ、そして出会った時より楽しげに歌う。友好的な鯨が奏でる音色を耳に溶かしながら、康行もまたのんびり船旅を満喫する。
はあ、と長めに吐いた息が昇るのを辿っていく。凍れる空が暗い白を招いた。元より純白ではない色だ。極寒の地で頻繁に望める、深くも重い白に満たされた空。勇者の足跡を探すにはあまりにも不透明な景色だが、康行の眼差しにも言葉にも迷いはない。
見つかるのだ。誰かの想いが。残っているのだ。竜への道を探したものの跡が。
ふと、鯨が何かを促してひと鳴きする。康行の双眸がやがて捉えたのは、島に聳える山の中腹、凍りついた一帯に埋もれた小さな穴だ。海からだと遠く、小振りに映る。
「あそこだ」
康行は躊躇いなく呟いた。
口にした言の葉に宿る力を、彼は誰よりもよく知っている。
大成功
🔵🔵🔵
アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
ふむ、此処は死の気配が濃いな
立ち止まっていては忽ち凍ってしまおう
先を急ぐぞジジ
一言多い従者を杖で小突き、その背へ
上空より海原を見下ろしていると、視界に留るは淡き光
導かれる侭に向ったならば白鯨に出会えるだろうか
傍らへ近付き、歌声に応える
…御安心を、害を為す心算はありません
貴方はこの島に詳しいのでしょうか
宜しければ一緒に散歩は如何です?
鯨の言葉を私は解せぬが
ジジならば容易いであろうよ
何、雰囲気でも分れば良い
大きな背に降り立ち、澄み渡る海を往く
共にある歌声は心地好く
斯様に安らぐ旅はそうなかろう
従者の言に白い肌を撫でては
唇を開き、紡ぐ旋律
ふふん、鯨に私の「ことば」は伝わるだろうか
ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と
外套に積もる雪も息も白い
…止むことはないのだな
うむ、師父の年齢で冷やすのは良くないと聞く
外套の背に師を負って、翼で海原へ
どこからか響く詩と光を追って
美しい海の住人に会いに行こう
師父よ、俺に鯨の血は流れておらぬぞ
<動物会話>で鯨達の意思を組まんとしながら
浮かぶ白い巨体に
お前の背に降りても良いかと問うて
金槌、ならぬ石鎚の師が落ちぬよう支え
雪舞い散る海面をゆるやかに行きながら
…師父、かれらの言葉は歌ゆえ
礼に「ことば」を交わしてみては如何だ
銀世界に響く鯨と宝石の合唱
ものがたりの様な光景に目を細め
霧に霞む空と、小さな影行く島を眺めて
…嘗ての勇者達も
こうして此処を渡ったのだろうか
ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)は呼気を吐き出した。
そして外套に積もる雪を払い、白い息の行き先を見守る。昇りながら消えゆく熱に代わり、舞い散るのは白き結晶だけだ。
「……止むことはないのだな」
見上げても、見下ろしても、散る花びらに変化はない。風に踊り、煽られ降り続けるだけの白。そして綿をちぎったかのような鈍い雪片は、積もりながら足取りを重たくさせる。
ふむ、とアルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)が唸る。
「此処は死の気配が濃いな」
あらゆる生命の凍る地だと、目を眇めた。動くのを億劫に感じたが最後、忽ち凍ってしまいそうな寒さだ。
「うむ、師父の年齢で冷やすのは良くないと聞く」
無遠慮に告げた従者を杖で小突き、アルバは彼の背へ乗る。
「先を急ぐぞ、ジジ」
促す師をしっかりおぶさり、ジャハルは翼を広げて大海の空へと舞い上がる。風を裂き、冷気を熱に変えんばかりの勢いで遥かな高みへ上り詰めれば、島も海面も遠く掠れた。どこからともなく響く詩は、霞んだ白に反響している。おかげで歌のする角度が定まらない。
そのとき、きらり、と淡き光がアルバの目に留まった。眼下の海原は濃く、空気は白んでいるとはいえ、微かな光もアルバは見逃さない。白鯨に会えるだろうと踏んで、ジャハルへ位置を示し共に降下していく。輝きに近づけば近づくほど、風音にも聞こえた歌が鮮明になった。楽しげな歌声だ。けれど何処か、寂しそうで。
驚かせぬようゆっくりとジャハルが傍らへ近付き、歌声に応えたアルバが笑みを刷く。
「……御安心を、害を為す心算はありません」
一礼と共に手向けたのは、清々しい笑顔と目映い眼差しだ。
「失礼ながら、貴方はこの島に詳しいのでしょうか」
穏やかに紡いだ問いかけは、鯨の意識に届いたらしく「クォオォォ」と甲高い声が巨体から滲み出た。
言葉がきちんと届いているとわかり、アルバは礼を失することなく続ける。
「宜しければ、一緒に散歩は如何です?」
キュオォン、と鯨の応じるような鳴き声。
鯨が話す内容は解らずとも、なんとなく感じ取れるものはアルバにもあった。とりあえず鯨に敵意や警戒心の類は全くない。それどころか、好意的にふたりを見てくれている。
そこでアルバは従者を一瞥した。
「鯨の言語か、ジジならば容易いであろうな」
一拍の沈黙ののち、ジャハルが少しばかりの戸惑いを含んで口を開く。
「……師父よ、俺に鯨の血は流れておらぬぞ」
「何、雰囲気でも分れば良い」
軽々と放り投げられたアルバからの信頼を背負い、どうにか鯨の意思を汲もうとジャハルは浮かぶ巨躯の背と瞳とを交互に確かめる。友好的な存在だ。動物との対話と同じ要素で話せば、通じるかもしれないと期待は湧いている。
「お前の背に降りても良いか?」
ジャハルの問いに鯨は、ぷしゅうと背から潮を噴き出した。そして海中にやや身を沈めて安定させ、ふたりが着地しやすいよう待機する。
礼を告げて、アルバとジャハルは広い背に降り立った。触れた鯨の肌が柔く光り、辺りを見渡すと、どこまでも白光の幕がなびいている。温かそうな白に対し、海上の風や波飛沫はやはり凍てつく。吸い込むと身体の芯まで冷えそうだ。けれど、心地好い、とアルバは煌めく瞳を瞼で覆った。耳朶を打つ歌声が、肌身を震わせ心を揺さぶる。
──斯様に安らぐ旅は、そうなかろう。
アルバは艶めいた睫毛に風音を遊ばせて、鯨に身を委ねる。ざぶんざぶんと大海を掻き分け泳ぐ鯨は、ふたりを落とさぬようゆったりと進んだ。
そういえばと、金槌ならぬ石鎚の師が落ちぬようジャハルはアルバを支え、声がしかと届くよう囁く。
「……師父、かれらの言葉は歌ゆえ、礼に『ことば』を交わしてみては如何だ」
従者の言に、ふふん、とアルバが胸を張る。アルバの「ことば」が誠に伝わるならば容易いと、清らかな肌を撫でて唇を開いた。湿る潮風を飲み込んで、代わりに紡ぐのは光の旋律。素のまま輝く宝石が有する、色彩と光輝さ。それらが重なり凛として奏でる音色は、鯨の声ともまた異なる麗しきものだ。
そうして果てなき銀世界に、鯨と宝石の合唱が響き渡る。いつかに見たものがたりを思わせる光景に、ジャハルの双眸も自然と感情を湛えて柔らかく細まっていく。やがて彼の眼差しは、霧に霞む空を仰ぎ見、さらには小さな影行く島を眺める。吐息の白が先ほどよりも濃く感じるのは、自身に熱が篭った証だろうか。
わからずともジャハルの腕は師を支え続け、心は大海原をゆく。
──嘗ての勇者達も、こうして此処を渡ったのだろうか。
馳せた想いは波に浚われ、紡ごうとした言の葉の欠片は歌声に紛れた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
メリル・チェコット
わーっ、見渡す限りの銀世界!
こんな所、空から見下ろせたらさぞ感動的な景色なんだろうなぁ。
防寒着もちゃんと羽織って、準備バッチリ。
さて、痕跡を探さなくっちゃ!
竜を発見したら、驚かさないように、そーっと。わわ、警戒しないで!
敵意がないことをアピールする為に、持っている荷物や武器はその場に置いて、ゆっくりと近づく。
はじめまして、いきなりごめんね。探しているものがあるの。協力してもらえないかな?
背中に乗せてもらえそうだったら、空から痕跡を探したいところ。
見落とさないように、じっくりと目を凝らして。
美味しそうなフルーツや竜が好きそうな物があれば、収穫して竜にプレゼントしたいな。
協力してくれたお礼!
日だまりを燈した双眸に、きらきらと風花が映りこむ。
わあっ、と零した感嘆さえも光を帯びて、銀世界に溶けていった。見渡す限りの白銀では、疎らな木々さえ白衣を纏い、本来の色が窺い知れない。けれどそんな絶景の中に佇むからこそ、メリル・チェコット(コットンキャンディ・f14836)の胸は期待にふくらむばかりで。
──空から見下ろせたら、さぞ感動的な景色なんだろうなぁ。
隙間を抜けようとする風の通り道を塞ぐように、着ている防寒具をきゅっと引き寄せ身を縮こまらせる。羊にもふっと顔を埋めたときの温かさを思い出して、メリルは短く息を吐いた。
──うん、準備バッチリ。さてと!
竦めた肩をゆっくり戻す。温もりを絶やさぬよう歩みつつ、メリルは果てなき白紗の向こう側を見つめる。
純白ではない白に、雪や岩の影が浮かぶ。足元を見やれば纏わり付く雪塊ばかりだが、盛り上がった岩場が生む陰影も、樹木が織り成す綾も、メリルにとって新鮮だった。そして大きな影が現れる度、竜ではないかとそろりと近づく。切り立った岩だったり、折れた木や実が影が生む幻だったりと、すぐには目当ての竜にたどり着かず、慎重に歩みを進める。なんど見間違えようとも、メリルから滲む熱は消えない。彼女の足は弾み、胸は高鳴る鼓動に押されて呼気を繰り返す。そのとき。
あっ、と思わず零しそうになった声を両手でぱくりと飲み込み、メリルが足を止める。またもや雪の幕に影が出現した。今度こそ本物かもしれないと、そろりそろりと近寄る。
直後、影が素早く振り向いた。グルルゥ、と唸る声は明らかに警戒を示している。
「わ、わわ、警戒しないで! えっと、ええと……」
メリルは慌てて荷物と武器を後方へ放った。防寒用の装いだけで、少女は大きなまなこをぱしぱしと瞬かせて呼びかける。降りしきる吹雪の狭間から知れた──今度の影は、正しく竜だ。銀を溶かしたような艶やかな鱗。注ぐ光こそ少ないながら、雪の白さを反射して輝く巨躯。
何も予想できず遭遇したら、驚いてしまいそうだ。だが竜に会いにきたメリルには、待望の姿で悲鳴を挙げるような真似はしない。
「はじめまして、いきなりでごめんね。驚いちゃったよね」
様子を窺いメリルが話す。彼女の言を理解しているのか否か、肝心の銀竜はじっと佇むのみだ。しかし唸り声は治まりつつある。
「探しているものがあるの。協力……してもらえないかな?」
そっと竜を仰ぎ見ると、澄んだ双眸がメリルを射抜いていた。
綺麗な瞳に見入っていると、まるで話の続きを促すように竜が顎を引く。だからメリルは頬をふくりと上げて。
「よかったら、背中に乗せてもらえたら嬉しいなって」
逡巡するように視線を彷徨わせてから、竜が身を低めた。乗れと顎で示した竜に、メリルの瞳もきらきらと光を散らす。荷物を拾い冷えきった身に跨がると、しがみついたのを確かめて竜がはばたく。地へ吹き付けた風は強く、その勢いであっという間に空高くへ飛び上がった。
わあ、と何度目になるかわからない歓声をメリルがこぼす。天からだと雪山も見下ろせる。地上近くは雪原と森ばかりだが、標高の高さに応じて凍りついた部分があらわになった。雪で鮮明には見えないが、目を凝らせば窪みや穴らしきものもある。
──ああいうところも、探索できるのかな。
そこでメリルは不意に思い出す。ひとり探索中にもいだ木の実の存在を。
懐から取り出した実を、竜へ一言告げてぽんと投げる。すると竜は翻り、メリルからの贈り物を口へ放り込む。
「それ、協力してくれたお礼!」
頬を上気させて笑んだメリルに、銀の竜は高らかなひと鳴きで答えた。
大成功
🔵🔵🔵
リティ・オールドヴァルト
SPD
ゆうしゃさまたち
すごいぼうけんをされていたのですね
しみじみ
リリィ、竜さんがいるんだそうですよ
たのしみですねっ
それにしても霧が濃い…
ってわぁ…
竜を見つけて目を輝かせ
小さいって言ってもぼくたちよりもだんぜん大きいのですー
すごいのですっ!
あっこわくないですよっ
ぼくおともだちになりたいのです!
携えた果物差出し
竜さん、ゆうしゃさまのこと何か知りませんか?
霧が深くてよく見えないのです…
しょんぼり
えっ?
のせてくれるのです?
いいのです?
リリィはどうしますか?
わぁぁ!
高いのですー風が冷たいけど…気持ちいいのです!
しっかりマフラー巻いてフード被り
リリィもいつもこんな景色を見てるのです?
ふふうらやましいのです
故郷の森とも、村ともちがう一面の銀世界。沸き起こる好奇心を面差しに宿して、リティ・オールドヴァルト(天上の蒼・f11245)は風花舞う島をゆく。
──ゆうしゃさまたち、すごいぼうけんをされていたのですね。
極寒の島にはひと気もなく、白銀の濃淡ばかりが広がり色彩もおとなしい。何よりも凍てつく寒さが、動きを鈍らせる。こんな中を冒険する様を想像し、大変そうだとリティは考えた。もふもふの毛で肌をくるんでいるリティでも、寒さはしっかりと感じる。肌身を露わにした人間には、更に厳しいだろう。
思考を巡らせた後、リティは真白き子竜を招いた。
「リリィ、ここに竜さんがいるんだそうですよ。たのしみですねっ」
リリィと呼ばれた白竜が、キュァッ、と楽しげに鳴く。強い降雪の中でも平時となんら変わりないリリィの姿を前に、リティもふふと吐息で笑って歩みを進める。
舞い散る風花だけでなく、霧の所為で景色もだんだんと霞んでいく。けれどリティの弾む足取りは止まらない。ぼふぼふと雪に足跡をつけながら島の奥へと向かっていると、やがてリティの視界いっぱいに広がる白紗の先に影を見つけた。
わぁ、と思いがけず声がこぼれる。
改めて言葉で模らずともわかった。竜だ。竜と認識してすぐにリティはそわそわとひげを撫で付ける。小型の竜だと聞いてはいたが、間近で仰ぎ見るとケットシーであるリティよりも遥かに大きい。共に飛ぶリリィも、か細く鳴きながら巨躯に興味を寄せた。
「すごいのですっ!」
リティが声を発した瞬間、察知した竜がゆっくりと振り向く。
「あっ、こわくないですよっ、ぼくおともだちになりたいのです!」
怯えさせないように、そろりと果物を差し出してリティが告げる。二足歩行の身ではあるが、人間とは異なる姿だ。物珍しいのか、竜が顔を寄せてリティを確かめ出す。警戒よりも好奇心に澄んだまなこへ、リティの姿がはっきりと映りこんだ。
話はできると判断し、リティが自らの毛並みを梳かしながら口を開く。
「竜さん、ゆうしゃさまのこと何か知りませんか?」
グルルゥ、と竜が低く唸る。
「そうですか、よく知らないのですね」
伝え聞いている話では、多くの人間が訪れた時代もあったらしい。だが竜にとって、誰が勇者なのか区別はつかなかったという。竜から受けた話を考えながら、リティは先行きの見えぬ世界へ意識を向ける。
島はまだまだ広大だ。そびえ立つ雪山も大きく、すべてを知るには時間がかかってしまう。どうしようと困惑をにじませていると、竜がリティに背を向けた。くいくいと顎で乗るように促している。
「えっ? のせてくれるのです? いいのです?」
尋ねる声音も自然と撥ねる。嬉しさのあまり蕩けた音を隠す必要もなく、リティは双眸を細めて、周りで飛翔するリリィを振り返る。
「リリィはどうしますか?」
クォ、と応じてリリィが一足先に上空へ駆け昇っていく。そんなリリィを追いたくて、リティも竜の誘いに乗り、心身を預けた。
──それにしても、綺麗な瞳でした。
ふとリティは思う。警戒に至る事態さえなければ、きっと彼らは、純粋な眼差しを人間にも向けてくれるのだろうと。
思考はしかしすぐに中断された。凄まじい速度で舞い上がる竜に、しがみつくので精一杯だ。
「わぁぁ! うわああ、気持ちいいのです!」
ふわりと浮遊感を覚えたときには、もう上空にいた。雪に光がちらつき、風がリティのマフラーをはためかせる。解けてしまわぬようしっかり巻き直して、フードを目深に、リティは近くを飛ぶリリィへ問う。
「リリィ、いつもこんな景色を見てるのです?」
「キュウン!」
「ふふ、うらやましいのです」
微笑みを浮かべてリティは竜と共にゆく。果てのない空は、無邪気な彼女たちを煌めく風花で出迎えた。
大成功
🔵🔵🔵
薙殻字・壽綯
寒いのは得意ではありませんが……雪は、好きです。誰も踏まぬ、真っ新な白雪に跡を残すことは、背徳的な行為だと思います。雪地は…どんな感触を足先から伝えてくれるのでしょうね……
おや、うさぎ。……本当に、人懐こいのですね。……愛らしい、ですね
…道案内を、お願いできますか?
私自身、探し物が何かはわかっていません。ですが…形なき何かを明確なものにするには、貴方たちがヒントを握っていると、思います…。……この島から見える景色を見せていただけませんか?
歩幅は貴方たちに合わせます。走ることは……日課の走り込みで慣れて、いるつもりです。けわしい山は自信ありませんが、なだらかな野であれば。ご一緒させてください
ほう、と吐き出せば熱は冷気に紛れて消えた。昇るばかりの息に名残惜しむ暇もなく、はらはらと白き花が降りしきる。
風も雪も確かに肌身を冷やすが、薙殻字・壽綯(物書きだった・f23709)は口の端をほんのり上げた。
寒いのは得意ではなかった──だが雪は好きだ。
白銀はすべての色彩を覆う。濃い緑も、鮮やかな花や果実も、ひとつ残らず白で包んでしまう。そうして人々や動物たちが残した足跡も隠して、なだらかな雪原に変えていく。
広がる積雪の中を壽綯は一歩、また一歩と進んでいく。まだ誰も踏んでいない場所だ。真っ新な白雪に跡を残せば、それは深く刻まれる。振り返ると、自らの道行きにのみ穴が空いていた。
──背徳的な行為ですね。
ぞくりと背を駆け上がる感覚が、果たして寒さからくるものかどうかは、壽綯本人にもわからない。けれど抱いた感覚を流そうと摩ることもなく、壽綯はつま先や靴裏から伝っていく感触を満喫する。常に持ち歩いている紙とペンで、地形を記録しながら。
やがて壽綯は、鈍い白銀に埋もれていない存在を目にした。兎の群れだ。
おや、と呟き瞬く。兎だと気づいたときにはもう感づいていたらしく、相手の方からひょこひょこと飛び跳ねて近寄ってくる。羽のように長くふわふわした耳で、壽綯の動作や吐息が奏でる音を拾って、兎たちは足元までやってきた。
「……本当に、人懐こいのですね」
愛らしいとひとたび思えば、壽綯の眦も緩む。見上げる兎のまなこは、どうしたのと尋ねるかのような好奇心で壽綯を射抜いている。包み隠さぬ興味の的となった壽綯は、くすぐったそうに唇へ笑みを刷く。
「……道案内を、お願いできますか?」
誘いに、兎が首を傾いだ。
「探し物が何なのか、私自身にもわかっていません」
勇者の痕跡。勇者が残したもの。
漠然としていて壽綯には定められない。想像するだけなら無数に思いつくが、現実と物語とでは意味合いも異なる。だからこそ壽綯は、雪降る島で生き続ける彼らに、助力を請う。
「……形なき何かを明確なものにするには、貴方たちがヒントを握っていると、思います……」
想いの欠片は、間違いなく島に眠っている。たとえ積雪に埋もれたとしても、きっと。
「……この島から見える景色を、見せていただけませんか?」
そっと囁いた壽綯の声に、兎たちは話し合うかのように顔を見合せる。
しかし逡巡する素振りはなく、すぐにぴょこぴょこと駆け出した。こっちだよ、と誘っているのを感じて壽綯も少しばかり足をほぐす。
「大丈夫、歩幅は貴方たちに合わせます。ご一緒させてください」
走り込みが壽綯の日課だ。柔らかい雪を踏み締めていくのは、まだ経験も浅いが、それでもいつもの走りを思い出せば叶うだろう。
壽綯の意思を尊重し、兎たちが一斉に走り出す。吐く息は短く、しっかりと雪を踏み固めて壽綯も駆けた。足に纏わり付く雪片も多く、重しをつけている感覚だ。だが速度は緩めない。
山麓へ近づくにつれ、壽綯は兎たちの示すものを悟っていく。
雪の森を抜けた先、麓にはいくつか洞窟が続いている。真っ暗で灯りひとつないが、雪除けには適しているだろう。
──もしかしたら。
壽綯は目を細めた。どれかひとつでも、導いてくれる穴があるのかもしれない。
だが兎たちは、穴の奥までは入ろうとしなかった。何かを恐れているのか、あるいは慣れていないだけなのか。
そのため壽綯は、兎たちへ礼を告げ、ひとり奥を探ろうとする。
山のいずこかへ繋がっているのか、風音だけが壽綯を手招いていた。
大成功
🔵🔵🔵
火狸・さつま
コノf03130と
狸っぽい色合いの狐姿で参加
人語ムリ
きゅヤこヤと狐語で
『動物使い』で『動物と話す』狐
きゅヤーん!(わぁわぁ竜さん達…!お友達なりたい!)
尻尾振りつつ、とたとた近寄り
目の前で、ぷわりと浮かべば、あんよちたぱた『空中遊泳』
きゅヤ♪
片前足挙げてご挨拶!
きゅっ(俺、さつま。一緒来た、コノちゃん、優し、よ!大丈夫!)
竜さん達の警戒とけば、コノを手招き手招き
おいも!!目輝かせキャッチ!
………きゅ(かわ、剥いて欲しい)
きゅ(俺達、ね、勇者さん達の痕跡、探してるの!何か知らない?)
きゅヤ!(手伝ってくれる、の?ありがと!)
背中に乗せて貰って
上着の中でぬくぬく御機嫌♪
空中からきょろきょろ情報収集
コノハ・ライゼ
たぬちゃん(f03797)と
わぁあ~竜!
竜に乗れるンだって!超浪漫じゃナイ?
人型は警戒するって話だから
たぬちゃんの少し後ろで敵意はアリマセン、と軽く両手あげ暫く待つヨ
大丈夫そうなら懐からカイロ代わりの焼き芋出して勧めてみる
たぬちゃんにもひとつ放り
餌付けじゃナイよ、お裾分けだもん
良ければ空を案内して欲しいンだ
背中借りれる?
群竜大陸ってのに向かった勇者の足取り
雪の山肌、濃霧の向こう
君達にしか見れない場所があれば連れてってもらえないかな
乗せてもらえたら
たぬちゃんを上着に収めて暖を取りながら遊覧飛行
何らかの痕跡が見付けれたらイイけど
それよりもあの空に少しでも近付けたら
きっと凄くイイ気分じゃない
燐にも似た光を散らせて、雪が舞う。
白銀の幕がどれほど分厚く視界を遮り、覆おうとも、そこに群れ立つ竜に来訪者が気付かぬはずもなく。
「きゅヤーん!」
竜の影と気配を前に、興奮したタヌキ──否、狐がちぎれんばかりにしっぽを振る。
龍と仲良くなりたい一心で、とたとた近寄る狸のような色味の狐は、火狸・さつま(タヌキツネ・f03797)の変じた姿だ。
竜の目の前で立ち止まると、ぷわりと浮かんで宙を泳ぐ。
「きゅヤ♪」
ふよふよ浮遊したまま、前足を片方、ひょいと挙げて明るく元気にご挨拶。見慣れない動物だったのか、竜が興味津々で顔を傾ける。
そうして竜と対面するタヌキツネの背を遠く望み、コノハ・ライゼ(空々・f03130)は手ぶらのままさつまよりも後方に佇んでいた。
──人型は警戒するだなんて。参っちゃうケド。
敵意はアリマセン、と言葉の代わりに軽く両手をあげたままコノハは様子を見守る。武器の類も持たないコノハを気にしつつも、竜の意識はさつまへ注がれて。
「きゅっ、きゅ」
鋭い視線を浴びながら、さつまは自分とコノハの分の自己紹介を竜へ手向ける。優しいから大丈夫だと、コノハについても丁寧に説明した。そんなさつまの姿に、くんと匂いを嗅いだ竜が不思議そうに見つめる。さつまの言に伴って、コノハへも目線をくれた。
先ほどまでぴりぴりと突き刺さっていた視線の鋭さも、徐々に解けていく。警戒が薄れた頃合いだと感じて、さつまは僅かに振り返り、待機していたコノハをちょいちょいと手招いた。
さつまの招きを合図に近寄ったコノハは、カイロの代わりに懐へ忍ばせていた焼き芋を取り出す。そうっと竜へ差し出せば、美味しそうな香りに引き寄せられた竜が、すんすんと鼻を鳴らした。しかも「あげる」と一言コノハが告げた途端、迷いなく芋を丸のみしてしまう。
「たぬちゃんにも、ほら」
もうひとつコノハの放った焼き芋に、さつまの両耳がぴんと立って反応した。そしてすぐさま跳ね、きらきらと瞳を輝かせてキャッチする。焼き芋を確かめ少しだけ間を空けたのち、さつまはじいっとコノハを見上げた。気づいたコノハが片目を瞑り微笑む。
「餌付けじゃナイよ、お裾分けだもん」
ふるふるとさつまが頭を横に振り、ほかほかの焼き芋を掲げた。
「……きゅ」
皮を剥いてとアピールする。訴えかける眼差しにコノハも「あっ」と手を叩いて、さつまが食べやすいよう焼き芋の皮を取り除いていく。
その間に、自分たちが勇者の痕跡を探していることを、さつまが懸命に伝えだす。
「きゅ、きゅう! きゅァ、きゅっ?」
「グルルァ、ゴァ」
すると竜は、唸るような鳴き声を長く低く吐き出した。
竜特有の音をさつまが受け取り、解明しようとその場でくるくる回る。しまいには、立ち止まってぺたんと腹ばいになってしまう。きょとりと瞬くコノハの視界では、すっかりタヌキツネの耳も平べったく寝ていた。
「きゅう……」
竜が何を言いたいのか、さつまにはわかった。
かつて多くのニンゲンが訪れたとは聞いている。だが勇者というニンゲンについては知らぬ──それだけだ。
なかなか進展しない様子を前に、コノハは大空を一度仰ぎ見てから唇を震わす。
「ね。良ければ空を案内して欲しいンだ。背中、借りれる?」
群竜大陸に向かった勇者の足取りは、世界中に溢れている。この島であれば雪の山肌や、濃霧の向こう。そうした人智の届かぬ世界は、空を領域とする竜の居場所でもある。だからこそ。
「君達にしか見れない場所があれば、連れてってもらえないかな」
ひとりと一匹からの切なるお願いに、考え込むような間を置いて竜が頭を垂れた。
グルルゥ、と低く落ち着いた声で鳴き、竜が広い背中を向ける。コノハとさつまは一度顔を見合わせてから、再び竜を見つめる。
「きゅヤ!」
頭を地にこすりつける勢いで礼を言い、もふんもふんと尻尾を弾ませてタヌキツネが跳ね回る。
そんなさつまに、ふふ、と吐息だけで笑ってコノハが竜の顔を覗き込む。
「ご厚意に甘えて」
笑みと共に穏やかな言葉も傾けると、竜は肯う仕種をしてみせた。
早速コノハが竜に跨がり、さつまもぽんぽんと跳ねて乗る。直後、竜は双翼を大きく広げ、はばたいた。地へぶつけた突風が雪を舞い上がらせ、なだらかな雪面を抉る、そして瞬く間に竜とひとりと一匹は、遥かな大空へ飛翔した。
「わぁあ~!」
胸弾む感覚に、コノハは歓声を溢れさせてばかりだ。
竜だって竜、とはしゃぐコノハの上着では、さつまが潜り込んで暖を取っている。コノハの声音を聞いて、耳をぴこぴこ動かしながらさつまが仰ぎ見た。
「超浪漫じゃナイ?」
「きゅ!」
顔を覗かせれば毛並みが風に遊ばれる。口を開けば大きな風をぱくりと飲み込める。
そうしてさつまは、ウキウキしながら大空を満喫した。上着の中というぬくぬくに守られているため、寒くもなければ、転がり落ちる心配もない。
もぞりと身をよじり、温もりを上着の主へ分け与えながら、さつまのつぶらな瞳は地を見下ろす。
さつまの好奇心が地上へ降り注いでいる間、コノハは果てのない空へ腕を伸ばす。
どこまでも空は高い。掴めそうで、掴めない。
──空にこんなにも近付けるなんて。
にぎりしめると、それまで冷たかった空気があっという間に人肌へ溶ける。
──凄くイイ気分。
コノハはうっとりと瞼を伏せて、遊覧飛行に身を委ねた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
オズ・ケストナー
リュカ(f02586)と
ゆうしゃだって
リュカはゆうしゃ、みたことある?
え、さぎし?
雪だっ
いっぱいつもってるね
ずぼずぼ足うめて
何かの足跡追いかけ
リュカもきてきてっ
手を引く
竜となかよくなりたいな
わたしたち、こわくないよ
ごきげんようっ(まねっこ)
あ、おやつたべる?
きょうりゅうはくだもの食べたけど
きみもすきかなあ
どうして人のかたちしてると
けいかいしちゃうのかな
人のかたちをした生き物としりあいなの?
返事は気にせずに撫で
いっしょに空をとびたいんだけど
のせてくれるかな?
わあ、上からみてもまっしろ
リュカ、なにかみえる?
ゆうしゃのこんせき…
やねがあるところできゅうけいしたとか?
わくわくしてるリュカを見てにこにこ
リュカ・エンキアンサス
オズお兄さん(f01136)と
勇者か。詐欺師にはあったことあるけど、本物は見たことないな
えーっと、自称勇者、みたいなの
本物なのかな。気になるね
きっちり防寒して出かけよう
…思ってた以上に雪だった
お兄さん元気だな…(寒い
…わ、竜だ
近くで見ると、やっぱり大きいな
人を怖がるのか。ええと…ごきげんよう?
(精一杯怖がらせないためのお声かけの仕方
……
お兄さん、まかせた
大丈夫になったら、そろそろ近づいて竜の鼻の頭をなでる
…結構固い(かわいい…
うん、上から調べよう
んー。白いね
いい景色だ
確かに。自然にはない人工物を探すとかから始めようか
上から真面目に探すけれども
竜に乗るとかなかなかないから若干テンション上がり気味
「ゆうしゃだって」
オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)は、呪文のように呟いて振り向く。
「リュカはゆうしゃ、みたことある?」
勇者、という単語に嫌疑の音を感じてリュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)は顎を撫でた。
「勇者か。詐欺師には会ったけど、本物は見たことないな」
「え、さぎし?」
ぱしぱしとオズの双眸が純真の光を纏って瞬く。
「えーっと、自称勇者、みたいなの」
──今回は本物なのかな。
気にはなるものの、伝承への好奇は薄く保ったままリュカは歩く。ゆっくり一歩ずつ進む彼をよそに、雪だっ、とオズの足取りも疲れを知らず弾む一方だ。
「いっぱいつもってるね」
ずぼずぼ足うめて、何かの足跡を追いかけるオズ。
その後ろでは、想定よりも遥かな深さを誇る積雪と、降りしきる白に震えるリュカがいた。彼とは反対に、オズは踊り出さんばかりにくるくる飛び回っている。平時と変わらぬオズの様子に、リュカは安堵の息をこぼす。
「お兄さん元気だな……」
「リュカもきてきてっ」
手を引かれた先でリュカは、わ、と思わず声をこぼす。
逃げる気配もなく、じっと佇む竜がそこにはいた。こちらを窺う瞳は鋭く、雪よりも凍てついている。
──近くで見ると、やっぱり大きいな。
人を怖がるとは聞いている。が、その恐れの原因がわからぬ現状、リュカは考えを巡らせるしかできない。難しげに眉根を寄せ、瞳を彷徨わせて思案したのち、リュカが見出だした答えは。
「ええと……ごきげんよう?」
精一杯怖がらせないためのお声かけは、丁寧なご挨拶から。
「ごきげんようっ」
オズもまねっこして挨拶すると、竜はどう反応したら良いのかわからないらしく、首を傾ける。
言葉通じずと痛感し、リュカはそろりと片手をオズへ向ける。
「お兄さん、まかせた」
リュカからのバトンタッチは、軽やかな音を奏でた。
ぱちんと合わせた手をそのまま突き出して、オズは楽しげな雰囲気を帯びて竜の間近へ寄る。
「わたしたち、こわくないよ。あ、そうだ、おやつたべる?」
ひと鳴きした竜に、よかったあ、と笑ってオズはおやつを差し出した。
強張っていた竜の顔つきが綻んできたところで、ふと抱いていた疑問を、オズがぶつける。
「人のかたちをした生き物としりあいなの?」
すると竜は、何かを訴えかけるように鳴く。たくさんの人が訪れた昔日を、咆哮と瞳が物語る。そうなんだ、と返しながらオズはおやつをまたひとつ口へぽんと投げていく。
しばらくしてから、そろりと近づいたリュカが竜の鼻を撫でる。すると竜はうっとりと目を細めた。
「……結構固い」
かわいい、とリュカが思わず呟く。そして呟いてから、上から調べようとオズへ告げた。
彼の言にオズも頷く。
「いっしょに空をとびたいんだっ。のせてくれるかな?」
声音すらきらきらと輝いている。オズとリュカのやりとりにもすっかり打ち解けたのか、竜は迷わず背を示した。クルルル、と鳴く言葉の意味は変わらず不明だが、通じるものがふたりにもある。だからこそ顔を見合わせて、ふたりは竜の広い背に身を預ける。
そして竜の助けを得たふたりが向かうのは、遥かなる空。果てしない天の、その途中。
「わあ、上からみてもまっしろ」
はしゃぐオズの動きに竜が呼応した。
きゃっきゃと笑う様相は、それを運ぶ竜にとっても誇らしいのだろう。
「リュカ、なにかみえる?」
そこでリュカは冷たい空気を吸った鼻腔が痛く感じて、鼻を押さえる。
「んー。白いね。いい景色だ」
右も左も白。すべてが同じ白ではなく、濃淡こそあるものの、雪に包まれた島は上から見ても同じ色合いが広がるばかりだ。
リュカもオズと同じ白しか見えず、ゆうしゃのこんせき、という魔法の言葉をひたすら繰り返して、オズが地上を望む。見渡す限りの白と銀。ところどころ、森の濃緑や岩のくすんだ灰色が覗いているが、彩りは至っておとなしい。静かな島だ。風花が舞い踊る音ばかりが、耳朶を冷やす。
ううんと、オズは大きなまなこと一緒に、思考もくるくる巡らせる。
「やねがあるところできゅうけいしたとか?」
オズの発言に、確かに、とリュカが首肯した。
大自然に溢れる島だ。いくら勇者と呼ばれた者たちが冒険者とはいえ、探索を続けるには休息できる安置所が要るだろう。オズの放ったワードを頼りに、リュカも上空から真面目に探す。けれどリュカの心身を流れゆくのは、竜に乗ったことで堪え切れなくなった嬉しさだ。なにせ竜に乗る機会など、滅多に巡るものではない。
喜びを含んで僅かに膨らんだ頬。微かに緩んだ眦。一見すると表情の変化は乏しいが、乏しいながらもオズには見えた。
わくわくしてる、と考えた途端、オズの面差しにも明るい光が射す。
次の瞬間、あっ、とリュカが声をあげた。つられてオズも地上を眺めると、雪山にいくつもある窪みのひとつに、凍てついた箇所を発見する。
氷だ、とふたり声を重ねた。
彼らが目撃したのは、被さる雪に隠された──氷の洞窟だった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
キトリ・フローエ
もこもこのコートに手袋、ブーツ
それから毛糸の帽子をかぶって
寒さ対策はバッチリよ!
おおきいみんなにはちいさくても
あたしには大きな羽耳兎さん、こんにちは!
あのね、よかったらあなたの背中に乗せてほしいの
一緒にこの、どこまでも真っ白な世界を駆けてみたいわ
あたし、ここに来るのは初めてだから
あなたの好きな所に連れて行って欲しいってお願いして
羽耳兎さんと一緒に島を巡るわ
冬の寒さの中でも、咲く花はあるかしら?
そうね、こんなに寒くて静かな世界で
…今を生きている人々からも、忘れられてしまった場所で
来ることのない誰かを待ち続けるのはとても寂しいわ
でも、オブリビオンはやっつけなくちゃ
この子達が安心して暮らせるように
寒空にかかった白の綾にも、星影が浮かびはじめる。
滑らかな雪原に足跡ひとつ残さず、キトリ・フローエ(星導・f02354)は空翔ける風と共に在った。星に手が届くほどの高さまでは昇らず、屈めば銀白の絨毯に触れられる程度の心地で。
──バッチリ対策してきて正解だわ!
厚めの手袋を、ふくふくと動かす。指先が冷えて動かなくなる感覚はない。コートを着込み、ブーツで脚部の守りも整えた。毛糸で編まれた帽子を目深に、キトリは意気込んで宙をゆく。
はらはらと舞い散る花が翅に触れるたび、色が生まれる。キトリの髪かはたまた翅の彩りか、花は色を映して音もなく積雪に紛れていった。
そうして輝きを景色に残していると、彼女の前に兎がひょっこり顔を出す。慣れないにおいを確かめる兎の耳は、羽のように長く、ふんわりしていた。
間近で見るとキトリより巨大だ。極寒の地で生きるための毛の厚さも相まって、細身のキトリと並ぶと体格も頼もしく思える。
「羽耳兎さん、こんにちは!」
好奇心を声にかえて挨拶すると、兎の両耳がぴこんと立った。
そして兎は、怯えるどころか興味津々に鼻先を寄せて来た。なになに、と尋ねる仕種に思えてキトリは笑みを零す。
「あのね、よかったらあなたの背中に乗せてほしいの」
森に生き、花や精霊たちの歌へ耳を傾けてきた少女にとって、未知の動物と対話するのも容易だ。兎にとっても同じらしく、頷く代わりに彼女の周りをぴょんぴょこ跳ね回る。
楽しげな兎の様子に、キトリも小さく笑って。
「あたし、ここに来るのは初めてだから……」
キトリはだだっ広い島を見渡して、兎へ言葉をつなげる。
「あなたの好きな所に連れて行って欲しいの」
好きなところ──その言葉に反応して、兎が雪を蹴り跳んでいく。あっ、と声をあげてキトリも後を追った。深雪も何のその、兎の足は速い。しかし浮遊するキトリも、足に雪が絡みつくことなく駆けた。
どこまでも真っ白な世界を。兎と一緒に。
そしてなだらかな丘を越えた先、山麓に着く。野原ほどではないが雪も積もり、ところどころ露出した岩肌があるだけの、山の裾。斜面には、恐らく兎たちの巣であろう小さな穴が、疎らにあいている。
それとは別に、彼女の視線を釘付けにするものが麓にはあった。人間が通れる大きさの洞窟だ。
洞窟の中へ向かうものとばかり思い、進もうとしたキトリへと兎がキュウキュウ鳴いて呼び止める。
「えっ、奥にいくのは危険なの? こわいのがいるのね?」
どうやらこの地に生きる兎たちでさえ、奥までは行かないらしい。キュッキュと必死に知らせる兎にキトリが耳を傾けていると、そこへ別の兎が近寄ってきた。案内してくれた兎の友だちだ。口にくわえた花を──氷の花をそっとキトリへ差し出す。兎はこれを見せたかったようだ。
兎に促されてキトリが雪山を仰ぐ。空をも突き抜けんばかりの山は、地上からだと頂どころか中腹すら窺えない。その高所から雪に混じって時おり落ちて来る花だと、兎は伝えた。きっと綺麗な場所が山の上にはある。だが、恐ろしくて山の上まで伸びているという洞窟には入れない。
彼らの話に、キトリは睫毛を震わせて、そうね、と囁く。
山のどこかに、オブリビオンがいる。キトリには見当がついていた。
──とても寂しいわ。今を生きている人々からも、忘れられてしまった場所で。
来るはずのない誰かを、待ち続けるのは。
意を決してキトリは洞窟を見つめる。
そして白花を纏いふわりと揺れる銀白色が、寒空に溶けた。
大成功
🔵🔵🔵
榎本・英
夢のような場所だ。
私の世界では見る事も出来ない不思議な光景。
いつもここは普通ではない何かで溢れている。
しかし、寒さはどの世界でも同じようだね。
嗚呼。寒い。
防寒具は着ているが、如何せん寒い。
夢のような景色を目の前に私は今眠っているのではないかと
そんな錯覚に陥ってしまうよ。
だって目の前に白鯨がいるのだからね。
白鯨に乗って旅をするなんて話は本の中では当たり前にある。
今日は少し夢に浸ってみようかね。
目的の勇者一行もこうやって白鯨と旅をしたのだろうか。
彼らは白鯨とどのような旅をしたのか。
私の得意とするジャンルでは無いがこうやって考えるのも楽しいものだよ。
白鯨。君の冒険譚を聞かせてくれ。
夢のような場所だと、榎本・英(人である・f22898)は感じていた。
白一色ではなく、銀や灰色、くすんだ青まで混ぜた風景が果てしなく続く島。どうにか顔を覗かせている岩や、冬の衣を纏った樹木もあれど、英の住まう世界では望めない光景だ。一般的、平々凡々、普通──そうした言葉から程遠い何かで溢れた場所は、刺激に満ちているがやはり夢か幻のようにも思えて、眼鏡を押し上げる。俯いてばかりで、ずり落ちてしまいそうだった。だが項垂れるのも無理はない。
「嗚呼。寒い」
思わず言葉で模り吐き出してみるも、熱が白煙となって昇るのみで温もりは生まれない。固まりかけた唇と顎を動かしたのだから多少の恩恵があっても良いというのに、今の英を守り温めるのは防寒具だけだ。
おかげで、寒さはどの世界でも同じようだと痛感する。
しかし、酷寒の島をゆく自分が現実の真っ只中にいるのかと問われれば、首を傾げてしまう。そうしてしまう部分が、少なからず彼にはあった。
「私は今眠っているのではないだろうか。寒さに耐え切れず意識を閉ざしている可能性はある」
己の状況を他人事のように捉える。物語の始まりか終わりにありがちな展開だと、英は考えた。降りしきる雪の中、若者が夢見るのは『日常』では有り得ない景色。それを目にした時点で、すでに生命は遠退いているはずだが、妙に冷静で居られる。こうして思考を巡らせる余裕はあった。
光り輝く白鯨を前にしているというのに。
僅かに眉根を寄せ、目を細めてみるも、やはり本物だ。雪の塊を鯨と錯覚したわけではない。
ひとを恐れもしない白鯨は、英を見つけて海岸へ沿うように身を寄せてきた。しかも楽しげに歌を奏でて。
キュオォォン、とひと鳴きした白鯨の感情が、飛沫に乗って英のもとまで届く。おいでと招く好奇心の化身へと、英はゆっくり歩み寄った。
白鯨に乗って旅をする。本の中で当たり前にある話だ。それが自身に起こったと想像してみると、興味が湧く。だから彼は、心打ち解けてくれた白鯨の背へ身を委ねる。
──今日は少し、夢に浸ってみようかね。
鯨が帯びる光に触れ、首筋まで覆った温もりの隙間から息を吐く。雪片とすれ違いながら消えていく白き熱を、名残惜しむ間もなく、彼は鯨に連れられ大海原を進みはじめた。海を割いて、波を作る。波飛沫こそ舞うが、海に埋もれて息苦しくなる事態には陥らない。まるで、ひとの呼吸を認識しているかのような鯨だ。
そうと認識した途端、英の脳裏をよぎるのは目的の勇者一行についてだ。彼らも、今の英と同じように白鯨と旅をしたのだろうか。白鯨に揺られ、どのような旅をしたのか。幻想あふれる話は、英の得意とするジャンルでは無い。だが、引き結んだ口の端は心なしか笑みを刷いていて。
「こうやって考えるのも楽しいものだね。嗚呼。そうだ」
歌声を響かせてばかりの鯨へと、英は穏やかに話しかける。
「白鯨。君の冒険譚を聞かせてくれ」
応じた鯨の声がこだまする。そして白鯨は、聞き手を霧の濃い海まで導く。降る雪さえも飲み込む霧の向こう、そびえ立つ雪山が辛うじてわかる場所へ。人間を乗せているのに慣れているらしい鯨は、まるで自分が運んだ先を示すように潮を噴き出した。体躯と同じ色に光った潮が霧を退け、偉観なる雪山を英へ披露する。
仰ぎ見て英は気づく。吹雪と濃霧に隠されていた中腹に、凍りついた穴がぽっかり口を開けていた。
あれは、と鯨へ問えば寂しげな鳴き声がこぼれる。言葉通じずとも察した。
「あそこに向かったのか。君の友人は」
大成功
🔵🔵🔵
第2章 冒険
『古の雪山』
|
POW : 新しいことに挑戦
SPD : 技巧を凝らし調査
WIZ : 魔力等で探知探索
イラスト:エンドウフジブチ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●氷の迷宮
雪と霧が綾を織り、その入口を隠していた。
氷雪が混じる山の中腹、寒そうにすぼめた口を開けて、穴は山の内側へ続いている。
内部は、細かく分かれた道や坂、よじ登るのが難しい氷の崖、行く手を阻む氷柱群など、いびつな世界が広がり迷宮と化していた。透き通る氷だけでなく、小さな鉱石が残った一帯もある。
かつては人間も行き来したのだろう。僅かながら土留めや採掘用の穴ぼこ、縄を引っ掛ける杭といった痕跡も窺える──あるにはあるが、永いこと人の手が入っていないためほんの滓かで、あるいは古くて脆い。
山の裾からのびる洞窟も、山の高いところにある穴も、すべて繋がっている。
だが凍りついているのは中腹部のみで、岩場ばかりだった麓付近の洞窟と比べると、このあたりは異様に寒い。
更には、どこからともなく恨めしげな声が響く。そこかしこの穴や道を通り、氷の壁だけでなく氷柱も震わせる嘆き。声を辿るにしても、複雑に入り組んだ地形の所為で根を掴むのは困難だ。
澄んだ氷は来訪者の姿を満遍なく映し、入って暫くは明るく感じた。それでも奥へ進むほど闇は深まる。誤って滑落しないためにも、視界を確保する必要があるだろう。
ある兎は話した。
高所から時おり落ちて来る氷の花と、穴の奥、山の上方に怖いものがいることを。
ある竜は告げた。
誰が勇者か区別はつかないが、多くのニンゲンが訪れた時代もあったと。
ある鯨は歌った。
背に乗せ運んだ友が、何らかの目的で雪山から覗く氷穴へ向かった昔日を。
太古より聳える雪山に刻まれた、氷の迷宮。
猟兵たちはそこへ、足を踏み入れようとしていた。
リュカ・エンキアンサス
オズお兄さん(f01136)と
お世話になりました、と竜にはお礼を言って
…寒いね
崩れそうで怖いな。気を付けて行こう
うん…?ああ…
うん(手を繋いで
(もう片方の手で、ランタンをもって日没前に灯りを確保する
本当だね。つららもきれいだし、
滑らないように歩くのも面白い
注意して進みはするけれど、楽しい
あー。登るのかな、どうなんだろう
人がいっぱい通ったなら、その跡は逃さずに
日が落ちてからはさらに慎重にいこう
…うん、冷えてきた
こたつ背中に乗せたら、背負ってる人はこたつに入れないんじゃなかろうかと若干突っ込むべきか突っ込まざるべきか悩みつつ
…夢があっていいと、思う
俺は熱い珈琲が飲みたいので、お兄さん入れてください
オズ・ケストナー
リュカ(f02586)と
ありがとうと竜に手を振り
中はもっとさむそうだね
リュカに手を差し出して
わたしの手はあったかくないけど
わたしの手袋はもこもこだもの、きっとあったかいよ
つららを指し
みてみて、リュカ
きいろが見える
自分が動けば色も動いて
ふふ、たのしい
くらくなってきたね
ひとが使った跡をなるべく追いながら奥へ
上にのぼるのかな?
あれ、もしかしてさっきよりさむい?
リュカの息がしろい
こたつもってくればよかったねえ
こたつをせなかにのせれば動きながらこたつにはいれるっ
いいと言われたら得意げに
でしょっ
おわったら、あったかいものたべよう
コーヒー?
わかったっ
いれかたおしえてね
リュカが入れるコーヒーがおいしいんだもの
帽子を指先でつまみ、リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)が表した感謝の意は、白銀の大空を飛んだ竜の目を、ほんのり緩ませた。
「お世話になりました。空の旅、とても快適だった」
竜から望んだ景色も、全身で浴びた風圧も、まだ余韻としてリュカに残っている。
しみじみと感じ入る彼の傍らへ、ぴょんとオズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)が飛び降りた。
出会ってすぐは、鋭い目つきでふたりを見ていた竜も、すっかり心解れたらしい。リュカの前へ顔を突き出した竜が、コロコロと喉を鳴らす。仕種だけで訴えに気づき、リュカは竜の鼻を撫でて別れを告げた。
またねっ、とオズも元気に手を振り、竜を見送る。
そこで振り返ったリュカに突然襲いくるのは、氷穴という名の現実だ。きちんと着込んで、しかも竜を探して歩く間にも慣れたはずなのに、それでも。
「……寒いね」
吐く息の白さでリュカは温度をより痛感する。
なにせ雪山でひっそり眠っていた洞窟だ。地上を彷徨うのとも、竜に乗った興奮で寒さを忘れたのとも、意味合いが違う。見回せば艶めく氷ばかり。鋭利な氷が針山のように並ぶ一帯は、まるで迷宮が牙を剥いているようで、リュカは足元を警戒した。
崩れるなどして氷の針へと足を滑らせたら、軽傷では済まない。リュカは凍てつく天蓋には目もくれず歩き出した。彼の姿勢は決して縮こまっていないが、後背を眺めていると、なんとなく曲がっていると感じる具合で、オズがぱちりと瞬く。
──さむそう。
余分な言葉も混じり気もない、純一なる想いがオズの内に沸く。
オズの心境も露知らず、リュカは唇を震わす。
「気を付けて行こう。うん……?」
差し出された手に、リュカが気づく。
手袋に包まれているのは、極寒の洞窟だろうと固くも柔くもならない、いつもの手。
「わたしの手はあったかくないけど……」
子守唄でも紡ぐような静けさで、オズは言う。
「わたしの手袋はもこもこだもの、きっとあったかいよ」
オズの感覚が織り成す言い回しに、少しだけリュカの目が細まる。
「ああ……うん」
気恥ずかしさにか、惑いにか、行き場なく返事が漂う。そしてリュカは徐に、差し伸べられた温もりを繋ぐ。もう片方の手で、ランタンをもって。
思いのほか滑りやすい氷が張った洞窟内部が、いっそ平らだったならとオズのまなこが遊びはじめる。でこぼこも、穴も、崖も、突起物も無い平面であれば、きっと滑って進めただろう。澄んだ氷の上を滑りゆく楽しさをオズが想像していると、樹木のうろのような穴をくぐった先、開けた空間で前触れもなく大量の氷柱が現れる。天井がどこまで高いのかわからないほど、敷き詰められて下がる氷柱の群れ。
リュカがランタンをかざせば、光が踊った。氷の面を滑った光は、並ぶ氷柱の合間を抜けていく。長きに渡り闇で垂れていた青い氷たちは、懐かしい光にここぞとばかりに煌めいた。
オズはそんな氷柱へ近づくと、映りこんだ色彩を指差した。
「みてみて、きいろっ。きいろが見える」
自分が動くのに合わせて色も移ろい、たのしい、と意識せず笑うオズの声が反響する。まるで、はじめてのものを見つけた幼子のような無邪気さで。
背伸びをして次には屈んで、そうしたオズの彩りが氷柱や壁の中で踊る。リュカがランタンを右へ左へ動かせば、まろい光がふわりと飛んだ。リュカの内で弾む鼓動が、熱を生んであたたかい。
「本当だね。つららもきれいだ」
転ばないよう手はしかと繋いだまま、リュカが口の端へ笑みを寄せる。控えめな呟きでさえ、空洞の氷や空気が拾って響かせた。
一頻り光と音の共鳴を堪能したふたりは、氷柱に隠された横穴を見つける──覗き込むと、張られた薄氷の下、滑らかな急斜面がずいぶん高いところへと続く。
「のぼるのかな?」
首傾ぐオズに、リュカも唸る。潜り込んで登るには、あまりに狭い穴だ。匍匐で進むしかないぐらいに。
「あー。どうだろう、人が通るためのものには……」
跡を逃さずリュカが捉えた。覆う氷の膜が薄いからこそわかる。幾度となく摩擦を繰り返したことで、やすり掛けされた斜面だ。
「何か運んだのかな……上から下へ、滑らせて」
上から、と呟いたリュカの言を耳にし、オズが穴の奥をじっと見据える。上は真っ暗だ。そこで思い出す。探索に夢中になっていたが、外はもう夜だ。
あれ、と振り向いたオズがぱちりと瞬く。視線の先には、更に白さを増した息を吐くリュカがいて。
「もしかしてさっきよりさむい?」
「……うん、冷えてきた」
首を埋めたリュカは双眸も伏せ気味だ。暗夜にも負けないいつもの色が見えにくいと、オズは感じた。
「こたつもってくればよかったねえ」
「こたつ?」
思わぬ単語に、リュカが目を僅かに見開く。
「こたつをせなかにのせれば、動きながらこたつにはいれるっ」
オズの発言からリュカがその光景を想像してみるも、ちぐはぐな様相にしか思えず、難しげに眉を寄せた。背中に乗ったこたつに、果たして背負った本人は入れるのだろうかと、突っ込むべきかどうか悩みつつ。
「……夢があっていいと、思う」
結局は、無難な音に好意的な言葉を乗せた。
前向きの証でもある言の葉の並びに、オズは得意げに「でしょっ」と跳ねる。そして迎えるはずの未来へ心持ちを飛ばす。
「おわったら、あったかいものたべよっ」
一面に積もった白雪と氷で満たされた島だ。リュカも暖かい場所で、あたたかいものを食べて、のんびり過ごしたい衝動に駆られる。
ただひとつ、いま言えるのは。
「俺は熱い珈琲が飲みたい」
唐突な願い事を眼前に、迷いなくオズはガジェットを呼び出した。
ガシャコン、と痛快な音を立てて現れたガジェットは、繊細な意匠が美しいコーヒーセットだ。
「わかったっ。いれかたおしえてね」
召喚したガジェットを使って教えようとしたオズに、リュカは微かに頬を緩めた。
「お兄さん入れてください」
きょとんとしたオズが不思議そうに首を傾ける。
「リュカが入れるコーヒー、おいしいんだもの」
平然と、それも当たり前のように告げられては、リュカもくすぐったさを感じずにいられない。
星月夜はここにないけれど。
マグに湛えた温もりは、たしかにふたりの歩みを燈していった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
レザリア・アドニス
暖かいけど動きやすい服、滑り防止の靴にゴーグルを装備
ランタンを持って洞窟に潜る
うわあ…これは、本当に氷の迷宮なのね…
人間の残った痕跡があれば、辿って行ってみる
脆そうや崩れそう、足場の悪い所や、登りにくい所には軽く飛んで越える
狭い所は翼を収納
何の目印もない時は、
心を澄ませて、羽で空気の流れ、身で魔力の流れや残滓を感知
分岐点などに、リボンをつけて目印にする
穴の奥、山の上…ということは
ひたすら、深く、高く、目指せればいいでしょうか
他の猟兵に出会えれば、情報を交換する
同行も大丈夫、歩きにくい所は、必要なら連れて飛ぶ
メリル・チェコット
空の旅を終えて、いざ!
すごい経験だったなぁ、まだ胸がドキドキしてるや……!
せっかく協力してもらったんだし、ここからはりきって探索しなきゃっ。
空から見てる時に、窪みや穴が見えたのが気になったから、その辺りに向かうよ。
氷の洞穴……?
雪原とはまた違って、こっちもすごく綺麗……。
って、見とれてる場合じゃないよね! 調査調査。
道中で採集した木の棒を集めて火を灯して、簡易松明……になるといいけれど。
なんだか怖そうな声も聞こえてくるし……、【野生の勘】も発揮して警戒しつつ、【暗視】で目を凝らしながらゆっくり進んでいこう。
木の実の甘い香りが尾を引く。満足げな表情でメリル・チェコット(コットンキャンディ・f14836)を背から下ろした竜が、クァァッ、と挨拶した。
「空の旅もう終わっちゃった……またね!」
ふんわり微笑んだメリルに一度だけ頭を下げて、竜は再び雪に霞んだ空へとはばたいていった。
メリルは高鳴ったまま止まぬ鼓動を押さえるべく、胸へ手を当てる。
──すごい経験だったなぁ、まだ胸がドキドキしてるや……!
せっかく竜の協力を得て、空も満喫できたのだ。はりきって探索しなきゃっ、と意欲を拳に握りこみ、窪んだ箇所をひょこっと覗く。深い氷穴が、ぽっかり大口を開けてメリルを待っていた。しかし恐怖や不安は覚えない。むしろ沸き上がるのは期待と興奮で。
「いざ、迷宮!」
意気込んで突入したメリルはそこで、先を歩く少女──レザリア・アドニス(死者の花・f00096)の後ろ姿を見つけた。
わあ、とレザリアから意識せずこぼれる声が、氷の天蓋や壁を伝う。
「本当に……氷の迷宮……なのね……」
誰にも聞こえぬほど小さかった呟きも、氷が綺麗に響かせていく。
かざしたランタンのまろい光が、気配に感づき振り返る。声をかけようと近づくメリルを照らし、燈りの主は首を傾いだ。えへへ、とメリルがくすぐったそうに笑う。そのまま、一緒にいこうと誘うメリルに、レザリアも迷わず首肯する。ひとりで探索するには、あまりにも──寂しい場所だ。
おひさまの恵みに溢れた少女と、底のない暗夜を知る少女。
氷の迷宮をゆくふたりは、慎重に進みながらも、感に堪えない青の世界を味わっていた。
「雪原とはまた違って、こっちも綺麗……すごく」
束にした木の棒を松明に、メリルが隅々まで広がる氷を覗き込む。近づけた火の揺らめきも、自身の姿も、不思議なかたちの鏡が映し出す。青に透ける美しさはしかし、温度にも直結した。洞窟内は、雪舞う空よりもぐっと冷え込んでいる。氷結には多少の耐性を持つふたりでも、寒さは強く感じてしまう。
力を拝借した羊たちに感謝しつつ、もこもこコートを掻き寄せるようにつまんで、メリルはふるふると首を振る。
──って、見とれてる場合じゃないよね! 調査調査!
ふと松明を向けてみると、レザリアは黙々と何かを辿っていた。目へ容赦なくぶつかる冷気を塞いだゴーグル越しに、少女が発見したのは。
「氷の下……見てください……」
呼びかけられたメリルも、同じ箇所を覗き込む。
本来の洞窟に当たる岩肌が、分厚い氷に埋もれていた。燈りを近づけて目を凝らさねば気付かぬほどの底に、いつの物かも知れない朽ちた木の足場が連なっている。道を示すかのように、奥へ奥へと。
「お目当ての場所に続いてるといいね」
入り組んだ迷宮、猟兵たちが目指すオブリビオンの地へ続いていれば万々歳だが、氷の厚さから鑑みても遥か過去の物だろうと、レザリアもメリルも感じていた。おかげで、何のために設置されたのか、その目的がわからない。
ううん、と小さくレザリアが唸る。
「……少なくても、オブリビオンのいるところに……近づけはするはず、です……」
氷の迷宮の奥へと向かう木板だ。可能性の高さを覚えて、レザリアが呟いた。
顔を見合わせて、ふたり同時に頷く。どちらからともなく歩き出し、いびつな氷の道を進んだ。
不安定な足場や急斜面では、レザリアが滑り止めの備わる靴で踏み込んで支えとなり、メリルが彼女の手を取って越える。深い穴や狭い分かれ道は、メリルが好奇心の赴くままに窺ってきた。迷宮と称するだけあって、行き止まりも多い。
氷穴の入口付近はまだなだらかだったのだと、深層へ向かうほどふたりは痛感した。いつしか氷の下にあった木の足場もなくなり、垂直の崖や自然と高所にできたらしい横穴の群れなど、地形の歪みが激しくなる。幸いにも、歩いて進めるだけの広さは確保できていた──あるいは人が歩けるだけの道を、古の時代に誰かが掘ったのか。
不意にメリルが「あっ」と声をあげる。
木板の足場は無くなった代わりに、群がる氷の細柱の先、崖の上に黒っぽい何かを見つけた。
すぐにでも確認したいところだが、眼前の問題がふたりを阻む。びっしりと床から生えた氷の細柱が、まるで針山のようで。
「上を歩いて通るのは痛そうだね……えっ」
考えを巡らせようとしたメリルは、傍らから聞こえる声に視線を向ける。レザリアがぽつりと言葉をこぼしたのは、雪の雫への祈り。凍てつく洞窟にひっそりと浮かんでいた黒の身を、待雪草の希望で染め上げた。舞う待雪草の嵐が、彼女の姿を天使のものへと変化させた。
そして一瞬の出来事を眺めていたメリルへ、そっと手を差し出した。
「大丈夫……です。飛べますから……」
広げた双翼が風を生む。メリルがその手を取る。直後、レザリアはメリルを連れて氷の針がところ狭しと並ぶ一帯を、思い切り飛び越えた。羽ばたく度に、雪の結晶で織ったレザリアの翼が、きらきらと雪の花をこぼしていく。
わっ、わっ、とメリルが声をあげている間に、ふたりは危険地帯の向こう側、崖の上へと着地していた。
「すごいっ、飛んだ!」
あっという間だったが、あまりにもあっという間だったからこそ、終わってからメリルに込み上げてきた興奮が、笑顔をますます募らせる。
彼女の反応を見て、少しばかり気恥ずかしそうにレザリアが目線を落とす。ええと、とやり場のない呟きを口にしながら翼を畳み、先ほど発見した黒いものを間近で捉える。
氷の中に転がっていたのは、武器だ。細身の剣が数振り、少し先には矢まである。いずれも折れて使い物にならなくなっていた。
「……どうして、こんなところに。冒険者の持ち物かな」
口にしてから覚えた不穏を、メリルは飲み込む。
ふたりして辺りを見回したが、防具の類は見当たらない。単に壊れた武器を置いていっただけだろうか、それとも。
考えに沈みかけた意識を戻して、レザリアは洞窟の奥へ向き直る。
「このまま、深く、高く、目指せばいいのでしょうか……」
先の長さを感じながらレザリアが言う。メリルはそこで、ふと壁を見やった。
「そうみたいだね。怖そうな声、なんだか近くなってるし」
氷穴へ突入してから、絶えず伝う嘆き。肌身に突き刺さるほど増した声は、言葉がわかるほどに近い。ニンゲンめ、と繰り返される恨みがふたりの耳朶に嫌と言うほど届く。
レザリアはすぐさま、手近な氷の柱へリボンを括りつけた。色の限られた迷宮で、立派な目印となるだろう。
いこう、とメリルが明るく告げ、レザリアが静かに肯う。
暗く、凍てついた迷宮の誘いに、ふたりの姿は消えていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ソラスティベル・グラスラン
兎さんに導かれて来てみれば
ほぇー…これはこれは、如何にもという洞窟ですねっ
兎さんにお礼をして、名残惜しくも暫しお別れ
山の上にいる怖い者ですか…肝に銘じましょう、感謝します
うふふ、わたしなら大丈夫です!勇者ですから!
光の加護を纏い灯りに
魔法のダガーで【氷結耐性】を
【第六感】と【勇気】を頼りに、勇猛に進む
氷の迷宮は険しくも、
煌めく氷の風景や、嘗て人がいたでしょう歴史の痕跡が楽しませてくれる
採掘跡に鉱石の破片…ここにいた人々は?ここで何があったのでしょう?
大陸の人々も知らないほど昔か、それとも隠されていたのか
ふふふ…なるほど、禁断の地というわけですね!
【情報収集】しつつ目指すは山頂!今、参ります!
紫谷・康行
彼らの声を彼らの想いを探りながら進むとしよう
杖に明かりの魔法をかけ
滑り止めのついた靴底の靴で
竜を目指したものの記憶を探ろう
彼らの声を聴くため
彼らのあとを追うため
彼らとともに行くため
磁石と魔法で方向を確認しながら奥を目指す
人が何かした痕跡がある場所ではコード・イン・メモリーを使い過去に訪れた勇者の映像を見ようとする
雲をつかむような話だ
ここで何があったかの痕跡が少しでも見えればそれでいい
時間を遡りながら変化のあったところを見つけそこから再生する
必要なら魔法で宙に浮き
炎で氷を溶かしながら
奥に向かって進む
「遥か彼方の友よ
希望と信念を携えしものよ
今、そなたに問う
その願いは何か
語られれば
それを受け取ろう」
キトリ・フローエ
兎さん達に心配しないよう伝えてから、洞窟へ
光源に火の精霊の力を借りてきらきらの氷の風景を楽しみつつ
誰かと一緒に行くようだったら、先行して偵察もするわね
坂や崖の上なんかは、空を飛べるあたしが見に行ったほうが安全だと思うし
幾つもある分かれ道は、第六感でなるべくみんなが歩きやすそうな道を選択
いつ何が襲ってくるかわからないから警戒は怠らずに、奥へ進むわ
兎さんが見せてくれた氷の花、とても綺麗だったの
あんなに綺麗な花が咲いている場所なら、きっととても綺麗でしょうし
あたしも見てみたいなって思うもの
こわいのを追い払えたら、兎さん達も冒険に出かけられるかしら?
だから今は一刻も早く、嘆きの大元へ辿り着かなくちゃ
薙殻字・壽綯
SPD
外とはまた違った冷やっこさですね。それとは別に、背筋を凍らせる何か……。雪の国か、魔の国か。どちらが先ででしょうか…
夜目は利かないので、まずは明かりとなる光源を確保したいですね……。何か…採掘の際に使われた道具をお借りできないものか……あ。そういえばマッチ箱を持って…いたのを忘れていました
……では、入れ物探しを主に、このあたりの痕跡を調べるのが得策でしょうか
入れ物が見つからなくても、採掘用の洞窟に足を運びます。人が居たという事実は、少なからずここで時間を費やし…生活の一部として軌跡を残します。見つけて知るだけでなく、考えて……想像するのは、やはりむつかしいものです
ソラスティベル・グラスラン(暁と空の勇者・f05892)は目映い青に瞳を揺らす。
「ほぇー……これはこれは、如何にもという洞窟ですねっ」
道案内をしてくれた兎を振り返り、ソラスティベルはにっこりと笑みを咲かせる。
「山の上にいる怖い者、ですか。肝に銘じましょう、感謝します」
きゅうきゅうと、兎たちが鳴く。
音だけでもわかった。明らかに心配してくれている。
「うふふ、わたしなら大丈夫です! 勇者ですから!」
「ええ、大丈夫よ兎さん。心配しないで」
キトリ・フローエ(星導・f02354)も羽耳兎たちへ穏やかに語りかけた。
そして猟兵たちは、洞窟の奥へ奥へと進んでいく。振り返ると、普段は訪れない場所まで見送りにきた兎たちの姿が、あっという間に遠ざかった。
外とはまた違った寒さに、薙殻字・壽綯(物書きだった・f23709)が腕をさする。
──背筋を凍らせる何かが……あるようです。
突き刺すような寒さにではなく、伝う嘆きに震えた。美しい迷宮に満ちているのは、痛ましい念だと壽綯は感じる。自然と、迷宮の果てで待ち構えているであろう存在の居場所を考えた。
──雪の国か、魔の国か。
どちらだろうと想像すれば、より濃い寒さが総身を駆け巡る。
その近くで、くるりと宙に輪を描いた杖の先端へ、燈りがともった。紫谷・康行(ハローユアワールド・f04625)の杖に宿った魔力が、松明や携帯照明とは異なる不思議な明るさで洞窟内を照らす。暗闇が薄れた分、探索もしやすくなった。
──探ろう。竜を目指したものの記憶を。
康行は何気なく青の天蓋を仰ぎ見る。長い年月をかけて築かれた氷柱の群れが、康行たち猟兵を出迎えていた。
その少し前方、火の精霊を頼りに、広がる氷の絶景を楽しんでいたキトリが、ほぼ垂直と言っても過言ではない崖を見上げた。崖に登るか、辺りの横穴のどれかを抜けるかと悩んで。
「あたしが見に行くわね」
空も飛べて、小柄ゆえに機動力に富むキトリだ。安全面を優先し、偵察してくると彼女は宣言する。
提案を聞いて、天井から垂れ下がる氷柱群をソラスティベルも仰ぐ。でこぼことした氷の崖は、少し触れただけでひんやりし、一定値よりも低い温度の所為か、つるつると滑る。先を確かめる大事さを感じて、ソラスティベルは首肯した。
「はい、お願いします!」
「……あの……お気をつけて」
ソラスティベルに続き、壽綯も静かに見を案じる。
こうして仲間たちはキトリの背を見送り、そわそわと時を待つ。
氷の迷宮は険しい。行く手を遮る氷の谷や、氷柱の群れ、四方へと分岐する穴など、ただ探索するだけでも一苦労だが、そこに寒さが加わっている。けれどソラスティベルは頬を上気させていた。
「禁断の地に相応しい光景ですね!」
煌めく氷に移りこむ色彩も、揺らぎながら滑る光も、すべてが彼女の胸を高鳴らせた。
かつて人がいたのであろう歴史の痕跡も、辿れば辿るだけ、ソラスティベルを楽しませてくれる。
そこへ、崖上や、穴をくぐった先を確認していたキトリが、ひらりと舞い戻る。
「こっちの道が歩きやすそうよ」
手招きながら、キトリが導く。
目映い光の加護を纏って、ソラスティベルはダガーをにぎりしめる。氷をも裂く力を手に、そして輝く光で道行きを照らす。彼女の足取りに迷いはなく、ひたすら勇猛に進むだけだ。己の勇者理論に則って。
一方、採掘に使われた道具を求めて、きょろきょろと周囲を見回していた壽綯は、不意に「あ……」と微かな声をあげる。
──そういえばマッチ箱を持って……いました。
すっかり忘れていた箱を徐に取りだし、手際よく擦る。しかし思いがけないマッチの熱さに驚いて、壽綯が呆気なく熱を落とした。そこで俯いた壽綯は、氷の床が透かす底に気付く。分厚くてわかりにくかったが、氷よりも更に下、元の洞窟のものと思しき岩肌がうっすらと映る。
「……このあたりを……」
「この辺ですか?」
壽綯の呟きに、ソラスティベルが近寄ってぺたりとしゃがみこむ。氷の床を覗き込むと、そこにあったのは澄んだ青に沈む破片。明らかに人工物だ。おそらく武器か防具の一部分だろうと、ソラスティベルはじっと凝視した。
──ここで何があったのでしょう?
大陸の人々も知らないほど、遠い昔に。あるいは、知られていないだけで隠されていた近しい過去に。考えただけで夢はふくらむばかりだ。ふふふ、とソラスティベルが笑って肩を揺らす。
そんな彼女のそばへ、然して興味など無いような素振りで佇んでいた康行が歩み寄る。埋まる欠片を認めて、ふうん、と唸る。
「彼らの声を探るとしよう」
ここで何が起きたのかを掴むのは、雲を掴むような話だと康行は考えていた。痕から様々に想像できるかもしれないが、微かにでも「見える」方が話は早い。
「ちょっとしかないみたいだけれど、探れるの?」
同じく欠片を覗き込んだキトリが尋ねた。すると康行はこくりと頷いて。
「想いの残滓があれば充分」
目線は合わせぬまま応じた。彼の意識はすでに、人が何かをした痕跡へ注がれている。
「再現しよう。時の果ての記憶、忘れられた星を」
言霊が構築するプログラムは、失われた記憶に接続した。凍てつく氷の迷宮に、やがて浮かび上がったのは立体映像。
わあ、とソラスティベルが思わず声をあげる。その間にも、目にも止まらぬ速さで遡る映像から、康行は目当てのものを探っていき、まもなくして再生を始めた。
それは魔術士たる康行が映し出す、いつかの出来事。
ばたばたと慌ただしく、奥からこの道へ駆け込んできたのは、大きな袋を手にした男たちだ。
戦士らしき見てくれで、剣を振り回している──そんなかれらを追ってきたのは、若者で。
術士が魔法で男を追い立て、誘導し、そこへ白銀の鎧を着た青年が飛び込んで腕を斬る。青年に迫る別の男の刃を、遠方から矢が射抜いた。瞬く間に、戦士たちが捕縛されていく。周囲には、かれらの袋が幾つも横たわり、転がり落ちた塊──布にくるまれ、黒ずんでいてよくわからないもの──がごろごろと散っている。
白銀の鎧を纏う青年が、転がる塊をかき集めていく。悔やむようにかぶりを振った彼のそばへ、弓使いが立った。そして弓使いは腰に挿していた花を、かき集めたその山へ乗せる。
やがて若者たちはその山に火を放ち、拘束した男たちを連れて去っていく。
映像はそこでプツンと途切れた。
記憶へのアクセスを続けていた康行が、ふうと息を吐いた。誰にも聞かれないほど、小さく。
一方でキトリはきゅっと唇を引き結び、兎に見せてもらった氷の花を思い出す。
──とても綺麗だった。
見てみたいと、ずっと感じていた氷の花。ただ今のところ、花が群生する地の発見には至っていない。
きっと今も雪山のどこかで咲いていて、風に吹かれて時おり地上へと降るのだろう。そう考えたキトリに過ぎるのは、花の美しさとは別のもので。
──なんだか、手向けの花に思えてきたわ。
記憶の映像から受けた衝撃が、キトリの胸裏で渦巻く。
静かに首を振り、彼女は氷の花を大切にしていた兎の表情を想起した。
──こわいのを追い払えたら、兎さん達も冒険に出かけられるかしら?
キトリの意識が向かう先は、嘆きの大元だ。ひどく冷たい迷宮の奥、どこかから伝う声は未だ止まない。
「……辿り着かなくちゃ」
ぽつりと零して、キトリも奥へと進んだ。
細く長い通路を抜けると、幾つもの横穴が通る開けた空間に出くわす。ひゅうひゅうと、どこからともなく聞こえる風の音。そして響く嘆きの声。
人が居た事実を残した空間に、壽綯の双眸がゆっくり動く。彷徨うのではなく、景色を捉えて、確かめるために。
──あれは、時間を費やした……生活の、軌跡。
近づいてしゃがんだ壽綯は、思わず氷の床をなぞった。細い道ばかりが続いたためか、開けている場所は休憩もしやすい。先人も同じように考えたのだろう。氷に覆われてはいるが、焦げた痕を囲うように置かれた石が窺える。焚火でもしたのだろうか。
周辺に埋まる数々の朽ちた箱や、平たい石の板からも、生活した様子が見て取れる。一日二日を過ごすには、少し大袈裟な量だ。
思い当たった考えに、壽綯が目を眇める。
──長期間、ここに留まった人たちが……いたのでしょうか。
先ほど目の当たりにした過去の光景を思い起こして、壽綯の瞳が揺れる。
複雑に絡み合う状況や出来事の欠片を、見つけて、知り、気づいて想像する。そこへ至るまでの道のりは、あまりにも。
──むつかしいものです。
ふ、とこぼした白い息が、壽綯の心境を物語るかのように掠れて消えた。
思惟に沈む壽綯はそこで、力強く穴を指し示すソラスティベルを見やる。
「もうすぐ着きますよ! 目指すはこの先! 今、参ります!」
燃えます、と本人が言わなくても燃えているとわかる。極寒の氷穴においてもソラスティベルの情熱は揺るがない。横穴のひとつに狙いを定めて、彼女が潜り込む。キトリは、ぐいぐいと突き進むソラスティベルの背を追い、壽綯も少々の戸惑いと共に辿りだす。
康行は仲間たちの後背を見送り、すっかり鎮まった記憶の残り香に視線を投げた。
「……彼方の友よ」
呼びかけは、閉ざされた氷へと降る。
「今、そなたに問う。その願いは、何か」
希望と信念を携えた者への手向けを紡ぐ。吐き出す息に、声に、真白の感情が乗る。哀れみの色も情けもない。そこに色をつけるのは、紛れもなくこの地に刻まれた記憶の欠片だと、康行は理解している。だからこそ彼は、迷宮に響き渡る嘆きをもくるむかのように、そっと囁いた。
「語られれば受け取ろう。それが……」
言霊を知る者の務めだと、滲む矜持を模る。そうして彼もまた歩き出した。
猟兵たちの足跡もまた、氷に溶けて記憶と化す。いつぞやここを通った、若者たちのように。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
コノハ・ライゼ
たぬちゃん(f03797)と
うわさっむ
イヤここまでも寒かったケドもっと寒っ!
たぬちゃんを上着の中に入れて暖を取りながら行くわネ
先に【黒管】でくーちゃん向かわせよう
危険な場所や行き止まりなんかを回避したいネ
暗いのは困っちゃうから、たぬちゃんのコ達貸して?
とくーちゃんに炎灯してもらい視界も確保
寒いケド、氷や鉱石が織り成す煌めきには心惹かれるねぇ
滑りそうなトコや大きな段差を登らなくちゃいけない時は
たぬちゃんにストール巻いて防寒してからフォローお願いするヨ
暖かくしないと戻った時寒いからネ……オレが
進みながら響く声にも耳を傾けよう
『呪詛』には心得があるし、内容を察せれば先への手掛かりにもなるかもだしネ
火狸・さつま
コノf03130と
狐姿参加
人語ムリ
上着の中から、ひょこっと顔覗かせて周囲きょろきょろ
きゅ……(お外、さむい…)
すぐに引っ込む
きゅヤ…(でも、景色、綺麗…)
ちらっと隙間から外眺めれば
きゅ?(ちょと、暗い?)
こヤぁー
【燐火】の炎の仔狐達わらわらと灯に
きゅ!
何匹かコノの管狐ちゃんのお手伝いして、ね
後は俺達の周りに!
延焼、駄目
きゅヤこヤ指示するよに操れば
自分はすっぽり収まりぬくぬく!
情報収集の手伝いもバッチシだし、無問題!
ありがと!と尻尾振り
ふわりふわふわ空中浮遊
刺す箇所見切り、早業・串刺し!
何本か杭を打ち縄引っ掛け
くぃくぃっと引っ張り安全確認すれば
こヤぁあーーー
さむいさむいさむい!っとダッシュで戻る
「うわさっむ」
開口一番、コノハ・ライゼ(空々・f03130)から飛び出したのは純一なる感想だ。否、感想と呼ぶまでもないほどに無垢なる感覚。
「イヤここまでも寒かったケドもっと寒っ! 外じゃナイのにっ」
窓も扉もないが、一応、洞窟の中だ。風が吹き付けることも、雪にまみれることもない。だが異常な寒さに満ちている。清冽な流れがそのまま固まったかのような青の世界で、コノハは身震いした。
そんなコノハの想いを知ってか知らずしてか、狸のような彩りの狐──火狸・さつま(タヌキツネ・f03797)が無邪気そのものの表情で、上着の中から顔を出した。
ひょこっと覗けばそれまで覆われていた視界は青々と広がり、澄んだ氷のにおいが鼻先をくすぐる。皓々たる氷柱が、ひとりと一匹の姿を映した氷の揺らめきが、深い闇の中にありながらさつまの心を奪う。奪いかけた。
「きゅ……」
当のさつまは、すぐに顔を引っ込めてしまった。
「たぬちゃん……」
ぬくぬくするさつまをちょっと羨ましく呼びながら、コノハは進む。
上着の中でさつまがもぞりと動けば、温かさは増した。おかげでコノハもなんとか暖は取れている。それでもやはり、外気に露出している分、コノハの方が寒さを痛感していた。
白煙があっという間に溶ける氷の迷宮で、コノハは素早く管狐を招く。小さな小さな黒の仔狐を、道の先へと放つ。分かれ道だけでなく、崖や滑り落ちやすい穴など、把握しておきたいものは多い。こんな極寒の洞窟では尚更、氷塊に触れる機会を控えたかった。たとえば尻餅をつくなどして、接する面が増えてしまうのをコノハは想像してみるも、恐ろしさに震える。
そしてもう一点、当面の問題がひとりと一匹にはあった。
「たぬちゃんのコ達、貸して?」
コノハからの提案に、きゅヤ、とくぐもった鳴き声が届く。ぴこん、と先に三角耳が飛び出し、次にもぞもぞと顔を動かして上着の隙間から外を窺う。
「きゅ?」
上着越しでも、迷宮の暗さはわかった。だからさつまは高々と鳴く。
「こヤぁー」
呼応して現れたのは、愛らしいかたちの狐火。燐火はやさしい燈りとなって、ふよふよと四方八方へ散っていく。
「きゅ! きゅヤ! こヤっ」
テキパキと指示を向けるさつまの意思に沿い、狐火たちは働きだす。コノハの上着にすっぽり収まったまま、指示を出し終えたさつまは誇らしげに鼻を鳴らす。
そんな狐に小さく笑って、コノハは管狐と燈りを頼りに、奥へ奥へと進む。当然、平たく歩める道ばかりではなかった。
まもなく出現したのは、首が痛くなるほど高い崖。試しにコノハが触れてみるも、つるりと滑る。僅かに双眸を泳がせたのち、コノハはもこっと飛び出したさつまへストールを巻きつけた。さつまに暖かくしてもらわないと、後々困るのは自分だと、コノハはよく理解している。
「フォローをお願いするヨ」
「きゅヤ!」
お安いご用とでも告げるのような明るさで答え、さつまはお礼を示すべくもふもふの尻尾を振り、宙へ浮かんだ。ふわりと漂った狐の身は、寄り道もせずそびえ立つ崖を眺め回す。
ヒビが入っても干渉しあって崩れたりしないよう、位置を見極め、そして。
「きゅヤっ」
勢いをつけ、杭を差し込む。
トンテンカンと次々打ち込まれる杭のリズムを背景に、コノハは響く声へと耳を傾ける。怨恨を滲ませるかのような声だ。絶え間なく氷面を伝い、迷宮すべてに届かせてしまうぐらいに、強く、重たく続いている音。
──難儀だネ。
どの世界にも呪いの類はつきものだ。ゆえに心得があるコノハは滲む声を、寂しいところで燻っている声の主を思う。来る者を拒むような崖を超えた先に、かの者はいるだろう。管狐を通して染み入った感覚は、間違いなく目当てのものを教えてくれている。
コノハが思考に沈む間、杭を数本打ち終えたさつまは、せっせと縄を引っ掛けていた。結び目をしっかり絞り、試しに縄をくぃくぃっと引いて、きちんと安全確認。これで大丈夫だと胸を張ったたぬきつねは、直後に現実を──寒さを思い出してしまい、ぶわっと毛並みが広がり立つ。
「こヤぁあーーーっ」
悲鳴にも似た叫び声を響かせて、一直線にさつまがコノハの懐へ飛び込んだ。
渾身の突撃をキャッチして、コノハがこほんと詰まりかけた息を吐く。視線を下げてみれば、すっかりさつまはぬくぬくモードだ。
「たぬちゃん……」
何度目かの呟きは、またしても儚く消える。
こうして寒さに堪えながらも、コノハは視界いっぱいに咲き誇る色彩に目も心も奪われつつあった。氷は青く透け、埋もれた鉱石の欠片がきらきらと色を添える。両者が織り成す煌めきは、幻想的な風景をコノハの立つ場所で生み出した。
氷柱が飾る天蓋も、靴音を奏でる床も、そして姿を映した凍てる壁も、すべてから光と色が零れる。
コノハが意識せず、口の端をあげてしまうほどに。
もちろんコノハの上着に守られたさつまも、艶やかな景色を時おり覗く。
「きゅヤ……」
綺麗だと感じて鳴く。
鳴きはしたが、やはり迷宮の冷えた空気には敵わずに。
「きゅ!」
一分も経たずに、またコノハの上着へと身を埋めてしまった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リティ・オールドヴァルト
きれいだけど…とてもさむそうなめいきゅうなのです…
それに何だか…変な声がするのです…
ぶるりと震えつつランタンしっかり握って
ううっがんばるのです!
リリィ、手伝ってくださいね?
人の通った痕跡を探し追いつつ慎重に奥へ
こわくないっ…こわくないのですっ
ランタン掲げ周囲照らし
よく見てよく聞いて(視力・聞き耳)第六感も利かせつつ
穴の奥山の上方に怖いもの…
杭があるのです…
下に道が?でも上…
うーんと悩んで
リリィ、見てこれそうです?
道がありそうならクライミング、ジャンプ等で慎重に
この先に何があるのでしょうかっ
ゆうしゃさまは何を見つけたのでしょうか…
こわいしさむいけど…どきどきしますねっ
さむい、と口にする度に震える気がして、リティ・オールドヴァルト(天上の蒼・f11245)は竦む足をどうにか前へと動かした。
眩みかけた勇気に、ぶるぶるとかぶりを振ってリティはランタンをしっかり握りしめる。ぎゅっと力を入れれば、自然と温かさが沸いてきた。
「う、ううっ……がんばるのです!」
ぺたんと倒れてしまった耳を、気合いと共に立たせる。
ひとり突き進むには心細く、氷の青をも飲み込まんばかりの白い竜と並んで進む。
「リリィ、手伝ってくださいね?」
声をかければ、きゅ、とひと鳴きで応じてくれる。そんな相棒を頼りに、ちいさな騎士は奥へと向かう。
道中では巨大な氷柱が低く唸る。ぴゃっ、と逆立つ毛並み。直後に周囲を見回し、誰もいないことを確かめリティは胸を撫で下ろす。
ひと気が無いのも恐ろしいが、何かがいてもこわい。そう考えてしまう頭をぽこんと軽く叩いて、リティは自らへ言い聞かせる。
「こわくないっ……こわくないのですっ」
呟きながら進んでいくと、やがてリティの前に穴が現れた。覗き込んでみれば、ずいぶん長い下り坂だ。傾斜も急で、くたびれた杭が至るところに突き立っている──上り下りに使われたのかもしれない。つまり坂を下りるのも、上って戻るのも大変なのだろう。そこまでリティが考えた途端、心ではなく耳が萎んだ。
藍色の瞳をころころ動かして、リティはやがてぽんと手を打つ。
「リリィ、見てこれそうです?」
遥かな高みを見上げる。崖上の先も続いているようで気になった。竜であるリリィが向かえば、飛翔は一瞬だ。
そうして、長いようにも感じた待ち時間の後、嬉しそうに鳴くリリィが頭上から姿を見せる。
「何かあるのですねっ」
意を決し、リティは壁の出っ張りへと飛び乗った。そして壁を蹴りながら素早くよじ登っていく。
やがてリリィに導かれた先で、リティは知る。開けた空間、氷に覆われた本来の洞窟らしき岩肌に残るものを。
円になるよう置かれた石と、朽ちた焦げ跡。厚い氷に阻まれ、間近で見ることは叶わないが、確かに野営か休憩地のものだ。
「ここで、きゅうけいしたのでしょうか……あっ」
ふと視線を外したリティは、つながる横穴を目にする。深い闇が満たす道だ。しかも恨みがましい声は、この奥から届く。
「ゆうしゃさまは、何を見つけたのでしょうか」
近づいていると実感し、またもやランタンを持つ手が震える。だが、氷の迷宮に入ったばかりのときとは違う。
──こわいしさむいけど……どきどきします。
目が冴えるほどの寒さの中、リティの面差しはきらきらと前を見据え、勇敢なる一歩を踏み出した。
大成功
🔵🔵🔵
榎本・英
彼の友が向かったと云う場所か。
もしかするとそこから何処かに繋がっていて
実は今もそこで平和に暮らしているなんて事はあり得ないだろうか。
なぜだろうね。
そんな夢物語に少し、望みをかけてみたくなったよ。
氷の迷宮。
ここで息絶えるのもあり得ない話では無い。
隅々まで観察をして手がかりを探そう。
寒さには慣れていてね。平気だよ。
ほんの少し指先が動かなくなってきたが問題ない。
氷の迷宮は使えるね。
現実でもあり得る事だ。
……いいや、これも現実だったね。
今見ている景色はやはり夢と勘違いしてしまうよ。
さて、余計な事は置いて彼の友達を探そう。
どこかで凍えているかもしれないからね。
生きとし生けるものすべてを拒むような青の内側で、榎本・英(人である・f22898)は短く息を吐いた。
進めど進めど、一向に景色は変わらない。道が分かれていたり、坂道や段差が阻んできたりと変化は確かにあるのだが、とにかく青く煌めく風景ばかりだ。目が痛むほど眩しくもないが、生命の元を閉じ込めてしまいそうな青は、英の想像力を掻き立てる。
よもや閉じ込めてはいまい。
そう思いはしたが、可能性が僅かにでも存在する限り、断言できなかった。
──ここで息絶えるのも、あり得ない話では無い。
巡る思考の種を連ねて、結わえて、けれど歩みは決して緩めず進む。
幻想に溢れる道行きを堪能するでもなく、己に降りかかる寒さはすっかり余所へ放っている。今の英を占めているのは、ゆるぎない興味の矛だ。そして矛先が向かうのは。
──彼の友が向かったと云う場所か。
白鯨の言を想起する。寂しげな音まで正確に。
だから英は壁の際、氷の柱が生えた一帯の底、そうした隅々まで目を配る。青一色で見逃してしまわぬように、じっくりと。
凍てついた壁の内にはしかし、岩肌が透けるのみだ。白を混ぜた氷柱は模様を描くだけで、手がかりを隠していない。
「氷柱に隠された手がかり、使えるね。大きさによっては氷柱が生み出す柄に紛れる」
問題は氷柱の出来方や構造にあるが、冷却する装置か場があれば、それっぽく演出はできるだろう。思わず物語へ考えを寄せた英だが、そこで息を長く吐き出しながらかぶりを振る。気付けば指先が動かなくなってきた。だがほんの少しだ、問題ない。
誰に弁解するでもなく決着をつけて、英は分厚い氷の床を見下ろした。
──凍った迷宮なら、現実でもあり得る事だ。……いいや、これも現実だったね。
低温が感覚を麻痺させたのか、あるいは神秘的な迷宮がそう思い込ませるのか。英は夢と勘違いしかけた意識を、幾度かの瞬きで取り戻す。
本題は彼の友だちだ。探し出すなら、なるべく早い方がいい。
──どこかで凍えているかもしれないからね。
竦めた肩の力を抜き、はたと立ち止まる。
寒々とした固い水底に、この場に不釣り合いなものを目にした。いかに氷が厚くとも、しゃがみこんで、じいっと目を凝らせばわかる──黒ずんでいるが革の肩当てだ。
微かに唸り、まなこを動かして脳を刺激する。そうしたおかげか、更に先で埋もれた防具を見つけた。青に紛れてわかりにくいが、鎧の一部らしい。ちぎれて落ちたのか、板金同士をつなぐはずの革のベルトが無残な形を成している。
「……こんな処に置き捨てるものではないね」
英は意識せず、眉根を寄せた。
ばらけて散った装備品が、ありのままの姿で青に沈んでいる。以降、誰も通らなかったのだろうか。それとも通過するひと気はあったが放置されたのか。気にかかる点が次々と湧き、しかし英は先へ進む。
もしかすると、と思わずにいられなかった。単純に、壊れかけの防具が移動の際に落ちてしまっただけかもしれない。
それか、奥へ奥へと突き進んだ果て、何処か温かな国に繋がる入口があって。
実は今もそこで、彼の友が平和に暮らしている、なんてことは──。
「……あり得ないだろうか」
尋ねる相手は己自身だ。確かめる相手も、自分自身だった。
「夢物語かな。嗚呼、夢物語だろうね」
わかっていても少し、望みをかけてみたくなった。
「……なぜだろうね」
ずっと感じていた寒さは、すっかり吹き飛んでしまったようだ。
大成功
🔵🔵🔵
エドガー・ブライトマン
氷の迷宮とは、まったくその通りみたいだ
ツヤツヤと煌めく氷柱はキレイだけれど、寒々しいよ
すこしは名ばかりであってもよかったのに
先ほど共に空を飛んだ竜のことを思い出す
彼、いい子だったねえ
オスカーはいつもあんな風に空を飛んでいたんだ
この島を出るとき、あの竜がまた迎えに来てくれないかなあ?
なんてね
――さて、迷宮探検だ
来てくれ、オスカー!キミの力が必要なんだ
小柄で小回りが利くオスカーの視界も借りつつ調査
ひとが訪れた時代もあった、と彼が言っていたっけ
ひとの痕跡を見つけたら、それを辿り進んでいく
あ!オスカー、私が足場の悪いところにいたら教えてくれよ
滑りたくないもの
やることが多いって?フフ、いつものことだろ?
氷の迷宮という名に違わぬ偉観の中で、エドガー・ブライトマン(“運命”・f21503)は大仰に頷く。
「まったくその通りみたいだ。いっそ清々しいほどに寒々しいよ」
エドガーの姿だけでなく張った声すら映して、氷から氷へと伝う。決して広くはない道だが、四辺を覆う氷にすべてが反響するため、開けた場所にいるかのような感覚だ。
思考に沈みながらも、何気なくエドガーはこめかみに触れる。
「すこしは名ばかりであってもよかったのに」
満ちる神秘も荘厳さも、ゆっくり見物するにはもってこいだが、エドガーの意識をいま奪っているのは──共に飛び、空を満喫した竜だ。
「いい子だったねえ」
しみじみと口にして、真っ向から受けた風や、はばたく翼の音と動きを思い起こす。大きくはばたき続けていたのに、騎乗したエドガーが激しく揺さぶられることもなかった。相手は飛ぶのに慣れているが、エドガーは違う。竜の飛び方は勇ましくも、そんなエドガーの身体にやさしかった。
そこでふと、友であるオスカーを懐かしむ。
──いつもあんな風に飛んでいたんだ。気持ちの良いものだね。
翼なき者の視点でエドガーは思う。
そしてすかさず片腕を掲げ、もはや懐かしく感じる名を呼ぶ。
「来てくれ、オスカー!」
凍える迷宮に名を刻む。吹き抜ける風と共に、一羽のツバメが彼の腕へと舞い降りた。
エドガーの友、ツバメのオスカーは首を傾けながらぴょんぴょんと腕で跳ね、肩の側へ近づいてくる。
「やあ、今回もキミの力が必要なんだ」
寄り添うツバメへ囁くと、了解の合図にひと鳴きしたオスカーが、再び空へ踊り出る。
エドガーの眼前に佇むのは、幾つかの分かれ道。道標があるはずもなく、しかもきょうだいのようにそっくりな口の開け方をした分岐だ。エドガーの足も止まる。
ひとつずつ徒歩で道の先を確かめるのが確実だろう。だが時間を要するうえに、一面に広がるのは不安定な氷の床。エドガーからすると、些か都合がよくない。しかしツバメであるオスカーならば小回りが利く。だから友に委ねた。
軽快に飛んで、オスカーがそれぞれの通路の奥を確かめる。
友の視界を借りて、エドガーが探すのはひとの痕跡だ。ひとが多く訪れた時代もあったのなら、閉ざされた青に残っているだろう。
そして彼の思惑は現実となった。厚い氷の下に、数振りの剣を見つける。氷に阻まれ直に手に取れないが、いずれも変色し、欠けて崩れつつある。よほど長い時間を過ごしたのだろう。もしくは、元から壊れかけていたか。真実は見えずとも、剣が示してくれる──ここから先は、より警戒が必要であると。
あ、とそこでエドガーが声をあげた。繋がる視界に集中していたが、目的地を定めて先ゆく友の元へ向かう。
「オスカー、私が足場の悪いところにいたら教えてくれよ」
歩きながら、エドガーは氷の迷宮へ声を響かせた。弾む声音が、輪をかけて撥ねる。
滑りたくないもの、と付け足したエドガーへと、甲高く鳴いてオスカーが何事かを訴える。その心情を覚り、エドガーは肩を揺らした。
「やることが多いって? いつものことだろ?」
吐息だけで笑えば、オスカーのはばたきが強まった。
気心知れた友とのみちゆきを楽しみながら、エドガーは奥を目指す。
ふたりが見せる明るさとは反対の位置にある、深い闇が待つ場所へと。
大成功
🔵🔵🔵
アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
…寒いな、ジジ
凍えてはおらぬか?
何、花灯りのお陰で足元は安定しておる
お前も居るのだ、ならば転ぶ危険なぞそうなかろうよ
果して誠に戯言か?
従者を軽く足蹴にして
――兎にも角にも進まねば話は始まらぬか
氷だけではなく、この玉体すら震わす慟哭の主は何処か
やれ、我が従者は無茶を云う
冷気を孕む魔力の軌跡を辿れるか試みる
容易にいかぬ場合は…そうさな
僅かな変化も感じ取らんとする竜を一瞥し
ジジ、お前はどちらが正しいと思う?
彼奴の第六感を頼らねばならぬ時もあろうよ
然し…歩を進める度、鯨のことばを思い出す
迷宮へ向った友に、奴は何を思っていたのだろうな
…っは、お前は私を誰と心得る
疾く終らせ帰還するぞ
ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と
うむ、このくらいは大丈夫だ
師父こそ足を滑らせぬよう
花灯る洋燈を掲げれば
光は師の身で一層明るく
…上に、「こわいもの」がいるらしいぞ
此処にもいるが――冗談だ
明かりの中、ひら降る氷の花を見出せたなら
花の落ちてくる方、吹き込んでくる方へと向かおう
乱れる風に首傾げ
師父、魔力の流れを読めぬか
どちらと問われれば、より冷気を感じる方を指差して
きっと、大変な方が褒美が待っている
かれらの想いは解らぬ
だが鯨は、友が迷宮へ向かったと言ったが
…帰ってきたとは言わなかった
帰らぬものらが氷に遺した
一方通行の見えぬ足跡
まぼろしの後ろ姿を辿るように一歩一歩
…安心しろ、師父
俺は必ず御身を連れて帰る故な
幽き光を青に映して、ふたつの色が凍てつく世界を進んでいた。
「……寒いな、ジジ。凍えてはおらぬか?」
言の葉に換えて吐き出してみるも、心地は熱にならない。それほどまでに空気が冷えているのだと感じて、アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)は双眸を細めた。
うむ、と顎を引いたジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)の眼差しが、そんな師を捉える。悠然と歩むように思えたが、何せここは氷の迷宮。降り注がんばかりの天蓋も然ることながら、足元から沸き立つ冷気も無視できない。うっかり滑ってしまいかねない氷の床が、そこに広がっているのだから。
「このくらいは大丈夫だ。師父こそ足を滑らせぬよう」
だからジャハルはそう返した。
肩を僅かに揺らして、アルバはそんな彼の懸念に笑みで応じる。
「何、足元は安定しておる」
言いながら見やったのは、ジャハルが手にした洋燈だ。真白の花咲くまろい光が、心許ない視界をやさしく、そしてどこか切なく照らす。反映した氷の壁にも、ふたりの姿とは別に花灯りが点る。強すぎない洋燈ゆえか、磨き上げられた刃のように凍てつく壁も、花灯りの光をふんわり眺めるばかりで。
「お前も居るのだ、ならば転ぶ危険なぞそうなかろうよ」
吐息に近い細さで、アルバが続けた。
当人にしてみれば事実を述べたまでなのだが、耳朶を打つ言葉にジャハルが徐に告げたのは。
「……上に、『こわいもの』がいるらしいぞ」
杳として知れぬ響きだが、わかりやすいかたちだ。島に住まう生き物が恐れる、こわいもの。雪山のどこかに存在するそれは、まるで子どもをしつけるときの決まり文句のような音で、ジャハルの唇を震わせた。
「此処にもいるが……冗談だ」
脅かす物言いにしてはあまりに淡々と告げた彼を、アルバが軽く足蹴にする。
「果して誠に戯言か?」
口元へ手を添え、アルバは小さく唸った。
島の生き物たちが、己の子や来訪者へ促す注意にしては、少しばかり妙だ。そもそも、火のないところに煙は立たない。こわいものが、何らかのかたちで生き物たちを怯えさせたことがあるのだろう。あるいは、漂わせる気配だけで怖がらせているのかもしれない。
様々に考えを巡らせて、アルバは四辺を囲う青の煌めきを見渡す。
迷宮へ入って以降、氷を伝い続ける声。姿無き慟哭の主は、何処にいるのか。
――兎にも角にも、進まねば話は始まらぬか。
短く吐いた息に、難しげな思考の欠片が乗る。
そうして無言のまま進むアルバをよそに、ジャハルは洋燈を掲げ、右へ、左へと翳しては、再び足元が明るくなるよう戻していた。高低も問わずのびる横穴が多い。分岐していると思いきや、奥でまたひとつの道に繋がっていたりと、余計な混乱を招く構造をした迷宮だ。しかも景色は殆ど変わらず、青く透ける分厚い氷が支配してばかり。
闇雲に進んでは、行き着くのに時間がかかるかもしれないと、ジャハルは微かな冷気の流れを掴もうとする。
ひらりと、花が舞ったのはそのときだ。
どこから入り込んだのか。そしてどこから飛んできたのか。氷の花はジャハルの疑問などつゆ知らず、気ままにはらはらと落ちて転がっていく。ふと顔を上げて奥を見つめるも、狭まった道の先を染めるのは仄暗い青──相変わらず景色に変化はない。
「師父、魔力の流れを読めぬか」
乱れる風を感じたジャハルが、そう口にする。
彼の意図を覚ったアルバも、先を見据えた。そして湛えた笑みを溶かすように、そっと瞼を伏せて。
「やれ、我が従者は無茶を云う」
澄み切った言い方を機に、魔力の軌跡を辿りはじめる。単に魔力を感じ取り、手繰り寄せるにはあまりにもか細い軌跡だった。それでも、洞窟内を満たす寒さに混じった力を、アルバはじっくり捕まえようとする。
しかし嘆く声は行き渡らせている割に、力の根源らしきものは、なかなか尻尾を出さない。沈黙の時間が暫く流れた。
「……そうさな」
このままでは際限がないと思えて、アルバは僅かな変化にも敏い竜を一瞥する。
「ジジ、お前はどちらが正しいと思う?」
問いに迷いや遠慮は当然ない。アルバの眼差しが示すのは、まるで双子のように並ぶふたつの道。吹き抜ける風──冷たい力の具合も、ほんのわずかに異なる質で、紛らわしさゆえにアルバも判断しかねていた。
問われたジャハルの双眸が、じいっと両方の道を探る。瞬きも忘れたかのように集中したジャハルは、やがて右の道を指差した。より寒々とした冷気を感じる方を。
「きっと、大変な方が褒美が待っている」
島の動物たちが近づくのを拒むものならば。ひどくさみしい場所にいるのならば。
きっとそうに違いないと、ジャハルのまなこが一片の曇りもなく訴える。だからアルバもすぐに頷き、右へ向かった。
相変わらず道は素直でなく、歪んだ氷が坂のように足取りを慎重にさせ、のびる氷柱や氷塊が行く手を阻む。だが確実に声へと、気配の主へと近づいているとふたりは感じつつある。
旅路の途中、アルバはふと鯨のことばを思い出していた。
「迷宮へ向った友に、奴は何を思っていたのだろうな」
歩を進めるたびにアルバの内で沸き上がる。友を見送る際の光景、それを一度想像してしまったがために、こびりついて離れない。
「かれらの想いは解らぬ。だが……」
ジャハルも思うところがあったのだろう。悩み考える素振りもなく、すぐに返答は届いた。
「……帰ってきたとは、言わなかった」
引っ掛かっていたのは、鯨のいう友のその後。
鯨が想うほどの相手ならば、たとえ別の出口から脱したとしても、鯨へ挨拶ぐらいしに行くだろう。出迎えることができなかっただけなのか、そもそも友が戻らなかったのか、真相はわからない。
ただ凍てつくみちゆきに遺されたのは、目に映らぬ足跡だけ。
だからジャハルは幻を辿る。
「……安心しろ、師父」
しっかりとした歩みで、背筋を伸ばして進んだであろう鯨の友の道程をなぞるようにして、ジャハルは口を開く。
「俺は、必ず御身を連れて帰る故な」
片道分の足跡だけ刻みはしないと、意思を言葉にかえる。
は、とアルバが大仰に笑いを吐いた。
「お前は私を誰と心得る。疾く終らせ帰還するぞ」
アルバは言い終えるや否や、ジャハルの腕をはたき強い調子で進む。
そんな師の姿と足元が闇にのまれぬよう、ジャハルが花灯る洋燈を掲げた。たとえ闇に飛び込んだとしても、輝きは損なわないだろうが、それでも。
ジャハルの傾ける光は、アルバの身に映り一際目映く、その姿を迷宮に刻み付けた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
サンディ・ノックス
島は寒いと事前に聞いていたから
先程まで肌着を何枚も重ねて厚い上着を着て肌も極力出さないでいた
ただ聴覚は万全にしたくて耳は出していたんだ
でもこれだけ寒いと厳しいから耳あても着けるよ
…まだ声が聞こえる気がする
寒い原因は冷気だけではないのかもな
声はグリモア猟兵が言っていたオブリビオンのものかなぁ
勇者の足取りを追うのが目的だけどオブリビオンの撃破も頼まれたし、恨みの念の発生源を探したい
俺は呪われた武具を扱う黒騎士だから、【呪詛耐性】【狂気耐性】が身につくほどそれに馴染みがあると思ってる
良く知るものに近付いていこう
…剣、なんだよね
好奇心が俺の奥から溢れ出そう
きっと俺の剣がひどく興味を持っているんだろうな
氷に包まれた青を、穏やかな青が射抜く。
外よりも一段と強い寒さの中、サンディ・ノックス(闇剣のサフィルス・f03274)は徐に耳当てを取り出す。
防寒対策は万全だった。島の寒さを聞き、しっかり着込んでいこうと決めていたのだから。ただ、思わぬ事態を察知するためにも、耳だけは出したままだった。風雪乱れる島でも、聴覚は研ぎ澄ませておきたかった。
だが氷穴に入ってしまえば、強風や白花に晒されぬ代わりに、ひどい冷気が襲いくる。さすがに、耳を露出していたら凍りそうだ。
ぼふ、と耳当ての位置を合わせて音を削ぐ。迷宮を吹き抜けていく音も、遮断したはずだ。だが。
──まだ聞こえる気がする。
分厚い氷を伝う、嘆きの声。
主が誰とも知れぬそれは、耳を塞いでもなおサンディの耳朶を震わせた。思わず吐き出した息の色も、より濃い。
──寒い原因……冷気だけではないのかもな。
声にはせず、思うだけに留める。熱として放出してしまうと、体温が内側から奪われてしまう予感がした。
そしてサンディは静かに、足元にも意識を向けながら迷宮を奥へ奥へと進んでいく。地響きにも似た震動をなぞりながら。
声を辿るのは難しくとも、サンディには暗く狂いゆく空気をも退ける力がある。暗夜に染めた剣を翳し、氷柱だけでなく纏わり付く冷たさをも切り裂く。揮う度、渦巻く思念の残滓に触れていると錯覚する。
果たして呪われた武具を扱う身ゆえか、それともサンディの揺らがぬ歩みゆえか。
いずれにせよ、馴染み深い呪いや狂気の類は、彼にとって掴むのも容易い。だからよく知る感覚を辿っていけば、いつかは着くという確信を得ていた。
本来の目的は、勇者の足取りを追うことだ。
だが、ここへ来て重要になるのはオブリビオンだろうと、サンディは考える。
──撃破するよう頼まれたのもあるけど。
任務として、仕事としてオブリビオンの元へ向かっているだけだとは、どうしても言いきれない。
オブリビオンのものと思われる声の発生源を探る己の心持ちは、「仕方なく」湧くようなものではなかった。探したいと、そう考えてしまったら、もう拭えない。後戻りができない。
「……剣」
思わず、声で模った。
サンディの剣も、まるで応じるかのように力をひしひしと感じている。
奥からにじみ出ているのは、気配というよりも恨みの念だ。サンディ自身は平然と進んでいたはずなのに、握る得物が高ぶっている。
──溢れ出そうだ。
ふつふつと湧く好奇心を、サンディは腹の底に感じた。このままオブリビオンと出くわせば、恐らく堪え切れずに飛び出してしまう。
落ち着いていたはずの気持ちを疼かせるのは、間違いなく。
「興味を持っているんだろうな、きっと」
返事はなくとも、剣をきゅっと握りしめれば答えは伝った。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 集団戦
『魔剣ドラクラ』
|
POW : ドラゴンクラッシャー
単純で重い【召喚した巨大な剣】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD : 禁忌の吸血剣
【吸血する】事で【衝撃波を放つ覚醒モード】に変身し、スピードと反応速度が爆発的に増大する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ : 不可視の霊剣
自身と自身の装備、【斬撃が命中した】対象1体が透明になる。ただし解除するまで毎秒疲労する。物音や体温は消せない。
イラスト:タロコ
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
種別『集団戦』のルール
記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
| 大成功 | 🔵🔵🔵 |
| 成功 | 🔵🔵🔴 |
| 苦戦 | 🔵🔴🔴 |
| 失敗 | 🔴🔴🔴 |
| 大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
●こわいもの
荷運びに使われたらしき穴、氷の下に埋もれていた野営の跡や幾振りかの剣、激戦でちぎれたと思われる防具の部品。
猟兵たちが発見したものは多い。そしてもうひとつ、手がかりから記憶を遡り得たのは、若者たちが男たちを捕縛する場面だった。
布に包まれ、黒ずんで不明瞭な物を大量に運ぼうとしていた、戦士らしき見てくれの男たち。そんなかれらを追い、懲らしめ、拘束した若者たち。
剣を振りかざす戦士を恐れもせず、術士が魔法で追い立て、別の青年が斬りかかり、遠くから矢が援護する。
そして男らの運んでいた荷を、若者たちは花を添えて焼いた──そんな場面だ。
報せを受けた、他の猟兵たちも情報を共有する。
猟兵たちは、自然と同じ場所へたどり着いていた。夜よりも深い闇が満ちた、洞窟の最奥地に。
訪れた猟兵たちに突き刺さるのは、異常な殺気だ。
単に殺しを愉しむような、純然たる殺気とは違う。年月をかけて積もりに積もったいくつもの負の感情が、それを止める存在も術もない場所で混ざったおかげで、ひどく淀んだ殺気だ。
滴る雫も、水が凍っていく過程の音も、何ひとつしない場所に、かれら──オブリビオンはいた。
かれらは奪われていった同胞のよすがを貪り、また奪い取ってきたものも、疾うにしゃぶり尽くしていた。けれど怨みは果てずに燻るばかり。消えるどころか減りもせず、ただただ募る一方の憎しみが、嫌悪が、洞窟の奥にずらりと突き立っていた。
外に広がる雪のように、迷宮を覆う氷のように、厚く、重たい声を漏らしながら。
ここに生者が迷い込んだなら。誘う死の油断を、見澄まさなければならない。
たとえ生に繋がる欠片を奪い取れたところで、あまりにも死を呼ぶ数は多い。
気持ちをしかと保たねば、明けない夜の寂しさに飲み込まれてしまうだろう。
「ニンゲンか……剣士ガ来タカ……?」
猟兵たちの気配に、剣の群れが俄にざわつく。
「ドコダ、後ドレダケ居ルノダ、我ラノ敵ハ」
「殺セ、ニンゲンモ……他ノ生キ物モ、全テ……同胞ニ捧ゲヨ」
凍てついた闇にくるまれ、幾振りもの剣が立つそこは。
そこはとても、寂しいところだった。
コノハ・ライゼ
たぬちゃん(f03797)と
あらまあ随分、募らせたコト
覚悟決めないとネ……懐からたぬちゃん出す覚悟……
うう、やっぱ寒っ!
見えなくてもソコには居るンでしょ?
【彩雨】を『範囲攻撃』で周囲を塗りつぶすよう降らせよう
敵の体の一部でも凍らせてしまえば見えたも同然
光でも映せば尚ヨシね
斬りかかられたら動き『見切り』避け
『カウンター』で来た時食べてた焼き芋の皮を貼り付けてやるわ
オレら獣の鼻にゃその甘い残り香で十分ってネ
氷の反射と甘い匂いで敵位置把握し畳み掛けるヨ
負傷は気にせず彩雨の間縫い「氷泪」の雷奔らせ
『生命力吸収』して補おう
どんなに呪っても終わりはねぇヨ
こんな寂しいトコからは帰るとイイ
送ってアゲルからさ
火狸・さつま
コノf03130と
ぬくぬく…名残惜しいながらも
ありがと!と、しがみついてから
コノの上着より飛び出て
すたりと着地すると同時に
ぶわりと人姿へ
狐姿でも手折る事は出来る
けれど…剣士を所望なれば
この姿でと<彩霞>を構えれば
早業・先制攻撃
破魔の聖属性纏わせて一気に薙ぎ払う
2回攻撃、返す刃が振るう斬撃は衝撃波の範囲攻撃
コノのUCに呼応し消える敵達にも警戒!
して、た、んだ…けど……
「え。コノ、その、皮……」
付けちゃう、の?!
おみみぴこぴこ
おはなすんすんっ
勘と嗅覚で見切り<雷火>の援護射撃
己への攻撃見切り躱し
オーラ防御で弾く
お返し…とばかりに【粉砕】
こんな寂しい場所は破壊して…
居場所はもう無い、よ
さぁ、お帰りよ
ぞわぞわと込み上げていく負の感情が、一帯に蔓延っている。
夜陰よりも深い闇の中、剣士を、ニンゲンをと呻き続けるオブリビオンの群れを前に、ひとりの猟兵が佇んでいた。
「あらまあ随分、募らせたコト」
どうせ募りに募らせるなら、もっとポジティブな感情の方が良かっただろうにと、コノハ・ライゼ(空々・f03130)が肩を竦める。
詮ない嘆きを繰り返すばかりのかれらに、未来がないことをコノハは重々理解していた。考えながら、凍てついた洞窟の奥でぶるりと身を震わせる。武者震いでも恐れからくるものでもない。ただただ寒いだけだ。
「覚悟決めないとネ……」
「きゅァ」
意を決するコノハの呟きに、もぞもぞ懐で温まっていた一匹の狐──火狸・さつま(タヌキツネ・f03797)がもふっと顔を出す。そして、ありがと、と礼を告げる代わりにコノハへしがみついた。たいへん残念ながら、非常に名残惜しいぬくぬくと別れるべく、さつまはコノハの上着から元気に飛び出す。
着地と同時にさつまの狐姿は一変する。つい先ほどまでコノハの上着の内で湯たんぽになっていた、その面影もどこへやら。長身のひと型がすらりと立つ姿に迷いはなく、敵を──オブリビオンをじっと見据える。
「うう、やっぱ寒っ!」
変身して出現するまでの僅かな時間を、しっかり決めたさつまの後ろでコノハが呻く。ストーブは贅沢かもしれないが、焚火ぐらいなら、さつまが脱する前に点けておいても良かっただろうかと、少しばかりコノハは悔やんだ。悔やむしかないほど冷える。
猟兵の覚えた寒さなど魔剣たちが知るはずもなく、恨みつらみを零すばかりだ。
さつまは短く息を吐いた。そうしてすらりと振り抜いたのは、一振りの蛮刀。俄に魔剣の群れが騒ぎ出す。
「剣士、剣士ガ……イル」
「オノレ、剣士ヲ……コロセ……ッ!」
──狐姿でも手折る事は出来る。だが。
剣士を所望なれば相手を致そうと、逸早くさつまが地を蹴る。ざわつく負の坩堝に飛び込み、呼気の調子に合わせて刀で薙ぐ。持ち主の想いに応えた刃が、破魔の輝きを落としながら一帯を払う。矢継ぎ早に返す刃で衝撃波を生み、近付こうとした剣をも弾く。
その後方、不可視の刃がコノハへと迫っていた。ヒュッと風を切る音も零れるが、他の剣の嘆きが響くおかげで紛れて判りにくい。だがコノハに躊躇はない。
「ソコに居るンでしょ?」
見えなくとも不都合など無かった。不敵な笑みを唇へ刷き、暗闇に水晶の針を解き放つ。コノハが持つ千よりも万の色を映す針は、闇特有の明るさをも吸い込んでいく。戦場となった一帯を塗りつぶすように降らせれば、魔剣の柄を、きらびやかな装飾を、刃の一部を、色が凍らせる。
そうなればもうコノハが色を操ったも同然、きらり、きらりと色彩が教えてくれた。
右方で青が光れば軽々と跳ね除け、左方で黄緑が瞬けば身を捻る。トントンと弾み踊るような足取りで襲いかかる刃を避けながらも、コノハは機を逸さずあるものを魔剣へ投げつけた。ぺし、ぺしと乾いた音を立てて剣の柄や刃に張り付けたのは──焼き芋の皮だ。
満足げに頷くコノハの一方で。
「え。コノ、その、皮……」
戸惑いが隠しきれず、ぴこぴことさつまの両耳が反応していた。すかさず焼き芋の皮で飾られた剣と、コノハとを交互に見やる。
付けちゃうの? 付けちゃったの? と眼差しで訴えてくるさつまに、コノハも片目を瞑り応じる。
「十分デショ」
コノハの一言を聞き、ぴこんとさつまが耳を立てた。すぐに鼻先をすんすんと動かして、動き回る刃の軌跡を辿る。
感づかれているとは知らずに、魔剣が闇中を巡り、ふたりの元へ攻め入る。召喚された巨大な剣が、重たい一撃で圧し潰そうと振りかぶる。
けれどさつまの鼻が焼き芋の仄かな香りを見つけ、尾を揮った。黒い雷が剣を──焼き芋の皮を打ち震わせた。居所が知れた上、雷に撃たれて動きを鈍らせた剣を、さつまは深い青の双眸で射抜く。そしてお返しとばかりにさつまが繰り出すのは、会心の一撃。
「居場所はもう無い、よ」
暗く、冷たく、寂しい場所もろとも叩き壊すように届けながら、崩れかけの剣へさつまが囁く。
「さぁ、お帰りよ」
そのまま朽ちていく剣へ別れを告げたさつまに続き、コノハが降り注ぐ彩りの雨の中を駆ける。
「畳み掛けるヨ」
かざすのは右目に深く刻まれた、コノハのシルシ。
氷牙から飛ぶ力は、凍てつく雷と化すした。それは意志を伴ったかのように、目映く輝いて剣の切っ先まで伝う。
「こんな寂しいトコからは帰るとイイ。……送ってアゲルからさ」
手向けの花は、鮮やかな光に彩られていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
メリル・チェコット
こんな、寂しいところで、そんな寂しい想いを抱えて。
……ずっといたんだね。それももう、終わりにしにきたよ!
あまりにも強い殺気をビリビリと肌に感じつつ、
気圧されないよう、負けないように、気を強く持って。
長居すると飲まれてしまい兼ねないし、なるべく早く終わらせよう。
不用意に近づいて攻撃を喰らわないよう、相手との距離を取りつつ弓で攻撃。
周りの状況もしっかり見て、必要に応じて【援護射撃】も。
隙を見て、ユーベルコード【牡羊座流星群】発動。
光の矢は、流星群のように敵に降り注ぐ。
あなたの抱えこんでいる闇は底知れないけれど。
わたしのこの光で、少しでも照らせるかな。
ソラスティベル・グラスラン
剣士…?それに貴方たちは、剣が喋っているのですか?
何と濃密な殺意…理由は分かりませんが、襲い来るのであれば!
【オーラ防御】を展開、【盾受け】で防御を固め
一つ訂正させてください
わたしは剣士でなく、『勇者』です!【鼓舞】
巨大剣の群を【見切り】、その一本を『見えざる竜の巨腕』で持ち手を掴む
良い剣ですね、お借りしますっ!
竜の【怪力】で己の武器とし、他の巨大剣を打ち払う!
真正面から只管に前へ進む、わたしに攻撃が集中させるように
この地の過去を見ました!
過去の勇者らしき彼らと、何かを手に逃げる男たちを
この地に何があったのですか、勇者たちはなぜ此処に
貴方たちは何故、それほどまでに憎悪を抱えているのですか…!?
レザリア・アドニス
過去のここには一体…何が起きたのでしょうか…
勇者とはどんな関係があるか…
あなたたちは、知っていますか…?
というか…剣士は、あなたたちに何をした、こんなに恨んでいるのか…?
待雪草の花で飛行能力を上げ、巨大な剣にしっかり注意、できるだけ迅速に回避
そして常に空間に鈴蘭の花吹雪を吹かせて、花びらの動きで不可視の剣の位置を判断し、その体を削る
自分の周りに不可視のものがいないかを常に警戒
余裕があれば炎の矢で攻撃
他の猟兵と連携
長く長くここにいて…寂しい、でしょう
でも、だからと言って見過ごすわけではないの
怨みも憎しみも、ここで打ち止めてあげます
さあ、おやすみ…
キトリ・フローエ
どんな光も呑み込まれてしまいそうな闇…
どうしてこんなになるまで放っておいたの、なんて
答えられるひとはもうどこにもいないのでしょう
きっとあなたは、元は違う形で
でも、ここに澱んで溜まってしまった想いが
あなたの姿を変えてしまったのなら…
あたしは剣士ではないけれど、あなたの敵
だから、あたし達の力でその想いを祓ってあげる
破魔の力を籠めた全力の黎明の花彩で範囲攻撃を
あなた達に贈る花はまだ手元にはないから
せめて、あなた達がこれまでに積み重ねてきた想いがどんな形であっても
きれいな花を咲かせてあげたいの
これは、あたしのわがままだってわかってる。でも…
大切なともだちを想う気持ちは、まだ残っているって信じたいわ
●魔剣の地
凍てついた筒闇が支配する空間は、ひどく冷えきっていた。
洞窟の奥、その空間に一歩踏み入ったレザリア・アドニス(死者の花・f00096)は、思わず宝玉を抱える。内なる死霊たちから、熱を分け与えてもらうかのように、きゅっと。
──ここで過去に……何が起きたのでしょうか……。
見渡しても、無数の剣が突きたった地には生き物の気配や残滓が、微塵も感じられない。かつては在ったのかもしれないが、もはや塵と化した生命の残り香を、手繰る術などありはしなかった。
ニンゲンを、剣士をと怨みに侵された剣の群れがさざめく。
幾度となく紡がれる「剣士」という言葉を聞き、ソラスティベル・グラスラン(暁と空の勇者・f05892)は僅かに目を細めた。
「貴方たちは、剣が……喋っているのですか?」
鉄か鋼か知れずとも、それらしき剣から響く声は確かにソラスティベルを驚かせる。
彼女たちのそばで、深々と身に堪える闇をキトリ・フローエ(星導・f02354)も見回す。どんな光も、あらゆる色彩も、すべてを呑み込んでしまいそうな闇だ。
単に灯りが無いだけ、とはキトリにも言いきれない。明らかに、この地で渦巻く情念による深い暗黒に思えて。
──どうしてこんなになるまで放っておいたの、なんて。
問うた後に緩くかぶりを振る。
答えられるひとは、もうどこにもいないのだと分かっていた。分かってはいたが、尋ねずにいられない。そんなキトリの言葉にも意識を傾けず、魔剣はただただ身を震わせる。だからキトリも、熱を息に換えて吐いた。
「……いきましょう」
終わらせるための一手を打つために、キトリが呟く。
レザリアとソラスティベルが、こくんと小さく頷いた。
戸惑うように視線を落としていたメリル・チェコット(コットンキャンディ・f14836)も、冷えきった唇を震わせて肯う。
「こんな、寂しいところで……」
満ちる殺気の強さが、ビリビリと肌膚を流れた。気圧されそうになった足で、しかと地を踏み締める。
夜の暗さはメリルもよく知っていた。それは星や雲の織り成す陰影も美しく、強風が吹こうとも嵐が訪れようとも、穏やかな暗がりだ。この場を満たす常闇とはだいぶ違うと、総身で痛感する。
──終わらせないと。なるべく、早く。
雰囲気に呑まれてしまう前にと、メリルは握る拳に力を込めた。
●闇の底で
「剣士……オノレ、オノレ……ッ」
「我ラノ宿願ヲ、今コソ……!」
増してばかりの怨みを耳朶に這わせて、レザリアは待雪草の花を綻ばせる。雪の結晶で織り上げた双翼が、レザリアのはばたきをより鮮烈に彩る。
目の前の剣と勇者の関係性も、まだ判明していない。気になることが多く、それがレザリアの睫毛を震わせる。
「剣士は、あなたたちに何をしたんですか……?」
問う声音は静かに、射抜く眼差しは熱を帯びた。
剣が刃をもたげる。映らぬ姿へと成り果てた剣は、レザリアの視覚を翻弄する。けれど雪纏う白の天使は惑わない。広げた透る翼が煌めけば、闇に蠢くものの気配を映さずに感じとる。すぐさま翼で風を起こし、不可視の霊剣から放たれた斬撃を、ふわりと避けてまた向き直る。
「あなたたちは、知っていますか……?」
尋ねる少女の切なる声に、魔性の剣が低く呻いた。
「同胞ヲ屠リ、辱メタ剣士ドモメ……許セヌ、許セヌ」
もはやレザリアたち猟兵が、剣士にしか見えていないのだろう。
「同胞を屠り、辱めた剣士……ですか……」
剣士が何をしたのか──断片こそ得られた気はするが、言葉届かぬ哀れな姿に、レザリアは細く息を吐いた。
闇黒は深く、濃密な殺意が渦巻いて止まない。そんな中で、ソラスティベルは闇に馴れ始めた視覚を頼りに、気力を漲らせていく。そのまま彼女は真正面へと突き進んだ。足音が勇ましさを奏でる。
──襲い来るのであれば、取る行動はひとつです!
滾った気で守りを固めた途端、彼女が放つ輝きか、あるいは勇猛な靴音に反応して、剣がすぐさま振るわれた。風を切る音がソラスティベルに聞こえた直後、暗がりから一瞬で迫った悪意が刃を振り下ろす。どこからともなく現れた巨大な剣が、彼女めがけて叩きつけられた。衝撃が辺りにまで広がり、足元が崩れかける。
けれどソラスティベルは跳ねて避け、這う地響きを纏った加護で弾いた。
「一つ、訂正させてください」
躊躇いのない剣たちへと、ソラスティベルが口を開く。
「わたしは剣士でなく、『勇者』です!」
剣の群れへ伝える叫びが、ソラスティベルの身を鼓舞した。そのとき。
「ユウシャ……?」
「勇者……勇者ガ、ココニ?」
ちょうどソラスティベルの眼前で、数振りの剣が不意に反応した。
思わぬ様相にソラスティベルの眉がぴくりと動く。ここで止めては何も解らず仕舞いだと察して、ソラスティベルは渇いた喉を鳴らす。
「この地の過去を見ました! 貴方たちは……」
彼女が想起した光景は、過去の勇者らしき者たちと、何かを抱えて逃げる男たち。
探索の際に視たものは彼女の胸裏から離れず、ずっと張り付いていた。
「勇者ガ居ルハズハ、ナイ」
「どうして言いきれるのです!」
ソラスティベルが懸命に向き合う間も、他の魔剣たちは負の情に溢れて動く。
別の個体がソラスティベルへ向けて振るおうとした刃を、鋭い矢が射抜いた。距離を保ったメリルの放った一矢だ。薄闇でも、羊の角を象った弓の曲線が艶めく。
ふと彼女は、佇む魔剣たちを見やった。
──寂しい想いを抱えて、ずっと此処にいたんだね。
何年も、何十年も。もっと長く、留まり続けたのかもしれない。
想像したメリル自身が震える。起きた事態を知っても尚、膝を折るわけにはいかないだろうと再び弓へと矢を番えた。
対話に勤しむ仲間を阻まれぬよう、近づく剣を片端からメリルが矢で威嚇する。
「勇者ト呼バレル者ハ、モウ我ラを助ケニナド来ヌ」
「助けに……?」
返答を耳にして、レザリアとメリルが顔を見合せた。じっと耳を傾けながら剣を追い払っていたキトリも、かれの一言に俯く。思うところは、あった。
憤り、怨み、悲しみ、そうしたすべてが雑じって複雑に絡み合ってしまった、なれのはて。
かれらの放つ情念さえ真っ当であったなら、きっと良い剣として扱われたのだろう。
そう考えながらも、キトリの思惟は別のところにあった。
「きっと、元は違う形だったのね。あなたは……あなたたちは」
剣を剣として見ずに、オブリビオンとして蘇る結果に至った過程を想う。暗く、冷たく、生き物たちの目も届かぬ奥地。ここで澱み溜まってしまった数々の想いが、かの者たちの姿を変じたのだろうと、キトリはやりきれなさから目を伏せる。
元のかたち。それを連想したソラスティベルが青ざめ、疼いた気持ちを確かめるため口を開く。
「勇者たちは、貴方たちを助けに来たのですね……!?」
魂をも震わせるソラスティベルの呼号に、しかし剣は意識を傾けない。
殺せ、ニンゲンを殺せと別の剣が憎悪を滲ませる。それに呼応したのか、彼女の眼前の剣もまた、「同胞に捧げよ」と繰り返し始めてしまった。
またもや闇げ世界を閉ざそうとしたところへ、白を連れたレザリアが羽ばたく。
少女が飛翔した軌跡に、氷の羽根が散った。その氷の輝きは、魔剣のかたちをほんのりと照らす。
微かな光を一瞥したキトリが、元に戻らない剣の嘆きを正面に捉える。そしてちらりと、ソラスティベルを確認した。
勇者の話を聞き、魔剣から零れだす死の色がソラスティベルを覆おうとするのを、目にしたからだ。
だが、間髪入れずメリルの射た矢が、ソラスティベルと魔剣の狭間を切り裂く。
ふるふると首を振ったソラスティベルが、ぺちんと自らの頬を両手で挟んだ。一連の仕種を目撃して、よかったとキトリは唇を引き結ぶ。
かれら魔剣の言から暗澹とした気配が滲むのを、ソラスティベルが見据えた。
──こうなっては、もう。
静かに呼気を整えたソラスティベルが、見えざる竜の巨腕を解放する。小柄に見えた彼女の影も、竜の威信を象るように大きく闇へと伸びる。そして腕は迷わず魔剣を一振り掴んだ。
「お借りしますっ!」
秘められた怪力をも武器に、一帯に群がっていた魔剣をなぎ払う。
常闇をも切り払う勢いの一撃に、メリルが続いた。剣士を、ニンゲンをと固執する魔剣の群生地を双眸に映す。そして。
「終わりにしにきたよ!」
魔力を篭めて弓を引いた。招いた数多の光の矢が、メリルの放った矢と共に洞窟の空を翔ける。流星群のごとく降り注ぎ、光に耐え切れず魔剣が次々と倒れていく。
しかし禁忌を冒した剣が数振り、流星をすり抜け目にも止まらぬ速さでメリルへ迫る。射撃したばかりのメリルを襲おうとするも、寸前でソラスティベルが気を引き、剣の軌道を逸らす。
バラバラと朽ちていく剣身を見下ろして、メリルは温もりを吐いた。魔剣が抱え込む闇は底知れない。それでも。
「照らせるかな。……照らせたら、いいな」
わたしのこの光で、少しでも。そう願わずにいられなかった。
その後ろで、贈る花を持たずに訪れたことを嘆かずに、キトリが手の平を剣へ向ける。
──せめて。きれいな花を。
かれらが積み重ねてきた想いを、拭い去る術はない。
それでも、咲かせたいものが彼女の胸にはある。
「あなたの花を」
差し伸べるように手向けた指へ、破魔の加護が集う。
そしてキトリが想いと力で模ったのは、澄み切った氷の花びら。
「きれいに咲かせてあげる」
これが彼女のクロレ・フローリア。
不可視の斬撃がキトリを捉えるより先に、無数の花びらが青く透けて剣をくるんでいく。暗黒に花を飾るように。込み上げる怨みを鎮めるように。
──あたしのわがままだってわかってる。でも……。
信じたいものがキトリの胸中でざわめいていた。まだ残っているはずだと、訴えかけるように花で彩る。すると彼女の燈した目映さに耐え切れず魔剣が溶け、崩れていった。
レザリアもすかさず花びらを呼んだ。己の武器を鈴蘭の花びらへ変え、暗闇に沈んだ空間を花吹雪で飾った。
花の美しさも疾うに忘れてしまった剣たちは、はらはらと舞う色など気にも止めず刃を振るおうとする。金属音を奏でもせず、風を切って迫りくる剣を前にしても、レザリアは動じない。姿勢を正して立ち、そっと瞬いて景色を──地深くにこびりつく怨念を追う。
「長く長くここにいて……寂しい、でしょう。でも……」
オブリビオンとして蘇った過去を、見過ごすわけにはいかない。
目に見えぬ剣の動きも、散りゆく花びらが教えてくれる。だからレザリアは襲いくる一撃を避け、鈴蘭の清らかな花びらでその刃を削いだ。
「怨みも憎しみも、ここで打ち止めてあげます」
おやすみ、とレザリアが囁く頃には、花びらにあてられ魔剣も安らかな眠りに就いていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リュカ・エンキアンサス
オズお兄さん(f01136)と
そうだね
シチューにしよう
なんか、家っぽいから
…この様子じゃ、碌でもないことが起こったんだと思うけれど
楽しい旅だったから
最後まで明るくいたい
だから、うん。倒そう
そうすればきっと終わる
オズお兄さんより後ろで撃つ
淡々と、向かってくる敵から順番に倒してく
なるべくなら刃を狙って砕きたい
…態々剣を手にするお兄さんを若干心配しつつ
お兄さんの背中を見ていると
それだけで温かい場所がどういうことかはわかる
俺には過ぎた場所だ
だからこそ、大事にしたい
…確かに、ここは場所が良くない
あなたたちの…寒さは、ここにいたら、きっと払うことができないよ
外は寒いけれども、風が気持ちいいよ
出れたらいいね
オズ・ケストナー
リュカ(f02586)と
布につつまれた、にもつ
花を添えて焼くと聞いて浮かぶのは、お葬式
わからない
ゆうしゃたちがどうなったのかも
たくさんの声を振り切るように
ねえ、リュカ
かえったら、なに食べようか
シチュー、いいねっ
みんなたおしたら、きっと声は止むよね
つめたいさみしい声
リュカとのんだコーヒーの味で
あったかいを思い出す
リュカに向けた攻撃も武器受け
リュカも、わたしも
ころされてなんかあげないよ
わたしに血はながれてないんだ
ガジェットショータイム
薔薇の意匠を凝らした剣
剣士をさがしているならわたしが相手をするよ
ずっとくらくてさむいところにいるから
かなしいきもちになっちゃうのかも
ね、ここから出よう
花をとどけるから
布に包まれた何か。花を添えて焼いた若者たち。
欠片を繋げていったオズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)の頭に浮かぶのは、お葬式という言葉。花を手向けて焼いたのは、何なのか。オズの中で不穏な音ばかりが湧く。
──わからない、わからないことがいっぱい。
勇者の行方も知れず、何が起きたのかも想像することしかできない。
黙考していたオズは、響く声を振り切るようにぐっと目を瞑り、そしてくるりと振り向く。
「ねえ、リュカ」
共に歩むリュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)を呼び、見つめる。
「かえったら、なに食べようか」
沈潜しかけた自らの思考を阻んで、オズが紡ぐ。つめたい声から逃れるように。耳をふさぐように。
縋りそうな音を微かながら滲ませるオズに、そうだね、と思いのほか優しい音でリュカが返す。
「シチューにしよう。なんか、家っぽいから」
「シチュー、いいねっ」
ぱあっ、とオズの面差しが晴れた。
冷えきった探索が続いたばかりだ。帰ってあたたかいシチューを味わえるだなんて、なんと幸せなひとときだろう。想い馳せていたら、リュカと飲んだコーヒーを思い出した。目が覚めそうな苦味は雑味もなく澄んでいて、なにより温かかった。
「みんなたおしたら、きっと声は止むよね」
きゅっと拳を握って、オズは胸裏に抱いた気持ちを温める。祈りにも似た想いを篭めて、オブリビオンの群れを見据えながら。
そんなオズが帯びる様相を気にしつつ、リュカはゆっくり肯った。
「うん。倒そう。そうすればきっと」
終わりが見えてくれば、ざわついていた剣たちの嘆きも鎮まるはずだ。
──この様子じゃ、碌でもないことが起こったんだと思うけれど。
そこでふとリュカが思い起こすのは、やはり旅の道中。楽しい旅だった。ひとりではきっと叶わなかったものだ。だからこそ最後まで明るくいたいと、リュカは銃に震動する蒸気の力を確認する。
「リュカも、わたしも、ころされてなんかあげないよ」
ふと顔を前へやれば、オズが零していった声が届く。
態々剣を手にし、篭めた気迫を黙したまま掲げて挑むオズの後背を、リュカがじっと見る。
いつでも、いつだって、リュカがお兄さんと呼び慕う彼の背は温かく、穏やかだった。
意識せず彼の姿から視線を逸らしてしまいそうな、そんな心持ちさえ抱くほどに。
──俺には過ぎた場所だ。
わずかに伏せた瞼の裏に、熱が染みる。渦巻く情を感じつつ、リュカは唇に決意を刷く。
「……だからこそ」
大事にしたいと吐息だけで囁き、リュカは銃口を闇へ向ける。
「星よ、砕け」
凍てついた暗黒をも切り裂く銃声が、星の瞬きと共に飛翔した。殺せ、殺せと呻く魔剣の刃を貫通した星が、その身を折る。
そのころ血を奪い力を得ようとしていた魔剣は、オズに痛みをもたらすこともできずにいた。
──わたしに血はながれてないんだ。
だから構わず振るえる威勢がオズにはある。血脈による鼓動も、内側を流れつづけて温もりを生む赤も、確かにないけれど。それでも、オブリビオンを見据えたオズの眼差しは、青くも熱い。握る剣には、薔薇の意匠が咲いていて。
「剣士をさがしているなら」
かざした剣がオズの意志に沿い、光を刃に滑らせる。
「わたしが相手をするよ」
「剣士メ……剣士メ……!」
怒りに囚われ、吸血叶わぬ魔性の剣へと、オズはためらわず花びらの軌跡を描く。流麗な剣裁きは緻密な装飾をひとつ、またひとつと剥いで地へ転がす。刃を受けながらも倒れない魔剣に、オズが一度は引き結んだ唇へ、熱を燈す。
溢れる悲しみも、恨みがましい言葉ばかり出てしまうのも、きっと。
「ずっとくらくてさむいところにいるから」
か細く搾り出した声を一度区切ってから、オズは再び口を開く。
「ね、ここから出よう?」
差し出した手の平が、薄い光を暗闇に浮かべる。生命の残滓を啜る魔剣は、諦めを知らず血を吸おうと身を震わせた。
「我ラノ……無念ヲ……」
ゆるくオズが首を振る。そして最後まで嘆きを絶やさない剣に、迷いなく切っ先を向けた。
──花、とどけるから。
オズは咲き誇る薔薇で怨念を覆い、黒闇に沈んだ過去の剣を消滅させた。亡骸にさえならなかった剣の残滓を見つめ、オズはそっと睫毛を揺らす。
ぱらぱらと破片がこぼれ、空間から喧騒がまたひとつなくなった。
オズの一手に続いて、リュカも流れ星を放つ。
「……確かに、ここは場所が良くない」
狙い澄ました魔剣は、ひたすら死を贈ろうとリュカへと飛ぶ。目にも止まらぬ速さだが、しかしリュカの撃った弾を避けるには至らず。
「あなたたちの……寒さは、ここにいたら、きっと払うことができないよ」
想いを届けようとリュカが呟く。
「外は寒いけれど。風が気持ちいいよ」
撃ち抜く星が、煌めきで刃を彩る。
きらりきらりと鏤められた星の証は、すぐに魔剣を跡形もなく闇から解放した。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
榎本・英
剣の群れ。
嗚呼。この感覚。良く感じるよ。
しかし、殺気がこんなに分かりやすくてはいけない。
これでは倒してくれと言っているようなものではないか。
さて、これだけの剣をどうするか。
そのうちの一本を鯨に見せる……そのような事は出来ないね。
ただの人である私ができる事は
せいぜいこの剣を死にものぐるいで
避けて、避けて、避けきって生き延びる事だ。
問おう
「君たちは私を見逃してはくれないのだろう?」
分かりきった答えだ。
あとは情念の獣が君たちを始末してくれる。
私は君たちの攻撃を死にものぐるいで避けて
そう、ただの人で在り続ける。
結末はどうであれ、
勇者達ならこの剣の群れに勇猛果敢に挑むのだろうね。
結末はどうであれ。
サンディ・ノックス
どう無念なのかわかれば気が済む戦い方をしてやろうかなと少しは考えていたけど
負の感情がこじれていることしかわからないや
「もう寂しくないように喰ってやろう」と俺の剣の囁きが自分の内から聞こえるから
まずは戦って敵が望んでるなら魂を喰うよと答える
胸鎧を基に、全身黒鎧の異形に変身
黒剣は大剣サイズに変形
剣士が来たよ、人間かどうかはよくわからないけど許してね
誰もいないより敵がいたほうがいいでしょ、遊んであげる
同胞って誰?同胞は君たちを置いて行ったの?ひどいなぁ
とか言いながら攻撃力を重視した【解放・宵】で1本ずつ叩き折る
剣の動きを観察して動きを見切り、攻撃は回避する
煽りすぎて反撃にあってもからかうのはやめない
紫谷・康行
見えなくとも恨みは有りか
恨みは生あるものに向かう
ならば耳を澄まして待てばいい
その恨みを受け止めよう
そして、それを無にしよう
目を閉じ
耳を澄まし
剣の気配と音を探る
自分を中心にもの探しの魔法をかけておき
近づく刃と恨みに反応するようにしておく
壁を背にして相手の来る方向を限定しておく
必要なものは自分を信じる勇気
目立たぬよう静かに佇む覚悟
【無言語り】を使い
近寄ってきた剣を無かったことにしようとする
魔術で張った網と自らの耳で相手を探し
虚無の言霊を浴びせていく
「お前の声を
お前の恨みを聞こう
受け止めよう
そして消し去ろう
お前達の遺志は受け取った
その心だけを残し
安らかに眠るといい」
龍への道は俺達が受け継ごう
リティ・オールドヴァルト
あの声は…
おまえたちの、声だったのです?
ふるり震えて
うらめしいのですね
でも負けるわけにはいかないのです
行くよっ、リリィ
槍握り締め
みんなと協力
敵倒す
属性攻撃で炎付与
ジャンプで間合い詰めフェイントで刃をなぎ払い
切っ先弾きその隙に串刺し
刃に熱を加え
後に高速詠唱からの全力魔法でそのまま刃に氷礫ぶつけ破壊試みる
攻撃は動きよく見てよく聞いて第六感も働かせ見切り
そんな重いものをよんだらすぐ分かるのです!
かなしいのですね…
いくらよんでも
ぼくたちはここでとどまるわけにはいかないのです
ダッシュで間合い詰めフェイント
そのまま串刺しと見せかけてジャンプし串刺し
当たればドラゴニック・エンド
もう、終わりにしましょう
●夜明けも知らずに
どうにも陰気に満ちた空間が重く、榎本・英(人である・f22898)はため息を吐いた。
見渡すまでもなく、もののけが出るか怪異と遭遇しそうな闇黒だ。相手が意識を突き刺すのに熱心でも、それが憧憬の眼差しでないことは英にもよく解る。仮に降り注ぐものが憧憬であったとして英の反応に差など生じないが、それにしても。
「嗚呼。この感覚。良く感じるよ」
闇に埋もれた剣の群れが、情を包み隠すつもりのないことに眉根を寄せる。
「しかし殺気がこんなに分かりやすくてはいけない」
緩くかぶりを振った英の意図も、恐らくオブリビオンと化した剣たちには届かない。
剣士が、人間がと繰り言のように吐き出すばかりで、魔性に浸みた剣は誰が訪れたとて態度も発言も変えないだろう。それが英にも分かっているからこそ、唸らずにいられなかった。
「これでは、倒してくれと言っているようなものではないか」
ちらりと、殺意の根源が寄り集まった一帯を英が見やる。
「剣士、剣士メ……ニンゲンヲ……」
「報復セヨ、我ラノ無念ヲ」
恨みがましく発してばかりのオブリビオンたちを前に、リティ・オールドヴァルト(天上の蒼・f11245)は目を丸くした。
「あの声……」
探索中、氷の迷宮に響き渡っていた嘆きを思い返し、リティはふるりと震えた。
「おまえたちの、声だったのです?」
理解した途端、ぞわぞわと背筋を駆け上がる冷たさ。無意識にリティは白い息を吐いて、自らの熱を思い出す。
一方で、顎を撫でながら考えに沈んでいたサンディ・ノックス(調和した白黒・f03274)は、足元へ落としていた眼差しを徐にオブリビオンへ向ける。
──どう無念なのかわかれば、と少しは考えたけど。
敵に向けるは黒の意志のみ。そんなサンディだからこそ、がんじがらめになったかれらへ寄せる心持ちもあった。
情けや優しさとは異なる、彼なりの信念に基づいた考えだ。晴れるかわからずとも後悔を削げるなら、気が済む戦い方をしてやろう。そう思っていた部分はあった。だが。
──負の感情がこじれていることしか、わからないや。
肩を竦めていると、内に伝い流れる囁きをサンディは感じとる。欲を包みもしない一言に、彼は苦味にも似た空気をかみ砕く。
「……まずは戦って、敵が望んでるなら」
魂を喰うよ、とサンディは静かに答えた。飲み込んだ感覚がひんやりと喉を流れ落ちていく間に、呼吸を整えて。
「同胞ノ無念ヲ、我ラノ宿願ヲ……」
蠢く不可視の剣を前にしても、紫谷・康行(ハローユアワールド・f04625)はただただ彼のまま佇んでいた。
開けた空間に響き渡る恨みの声。暗然たる様相を換えた言葉。姿を眩ませたとて、そうしたものは拭えないのだと康行は知っている。だから緩く瞬きをした後、辺りに漂う気配を探った。仲間たちの動きが織り成す音も、すべて。
──恨みは生あるものに向かう。ならば……。
耳を澄ますために、康行は瞼を閉ざした。聴覚に神経を集中し、嘆いてばかりの言葉ひとつひとつへ耳を傾ける。
「敵ヲ、剣士ヲ、殺セ」
止まぬ嘆きを前に、リティが目を細めた。
──うらめしいのですね。でも……。
俯けば手に熱がこもった。握った槍から伝う温もりか、あるいはリティ自身の温度か。
何がかれらを駆り立てるにせよ、負けるわけにはいかない。リティの内から、徐々に決意の光が湧く。氷の迷宮を通ってきたおかげで、すっかり冷えてしまった頬の毛並みをくしくしと撫でて梳かし、リティは幽暗に閉ざされた敵の群れと向き合う。そしてスーッと胸いっぱいに戦意を吸い込んだ。
「行くよっ、リリィ」
声は思っていたよりか細くも、言葉は明瞭に発して共に旅をしてきた相棒──白銀のドラゴンランスを握り締める。
己の心情を決意とあえて呼びはしないが、康行もまた壁を背にして立つ。杖先でコツコツと地を叩けば、辺りに乾いた音が転がっていく。音の行く先を確かめながら魔剣を見つめれば、暗がりでもかれらの動きが明らかになっていくようで。
──受け止めよう。その恨みを。
康行の心など届いているはずもないのに、近くで魔剣の刃が震える。
「そして、無にしよう」
静かに言い終えた康行は、剣舞が披露され始めた空間の片隅で、じっと息を潜めた。
●戦の中で
サンディは黒を纏う。線の細い彼の総身も、柔和な面差しも、黒き甲冑が覆った。握る黒剣と同じ、深い深い色に。
けれどサンディの口元に浮かぶのは笑みだ。黒剣で風を切り、重たい一撃を仕掛けてきた魔剣と真っ向から対峙する。
黒騎士が抱く力にとっては──お待ちかねの宴の時間だ。
「剣士が来たよ。人間かどうかは、よくわからないけど」
そこは許してね、と告げるサンディの声音は穏やかだ。しかし息を継ぐ暇さえ捨てて斬りかかる彼の姿は、闇に溶けながらも激しい。振り下ろしてきた敵の刃を跳ねて避け、今まで彼の居た地が崩壊する。それでも足元へ視線を落とさずに、サンディは駆けた。洞窟の地面を抉ったばかりの魔剣の横へと。
「誰もいないより、敵がいたほうがいいでしょ。……遊んであげる」
言うが早いか、黒剣で闇ごと標的を斬り裂いた。オブリビオンも決して柔い存在ではないはずだが、サンディが放った一太刀の前では脆い。
群れへ飛び込んできた彼を囲おうと、恨みと魔に魅入られた剣たちが動き出す。数が増えれば増えるだけ、サンディの唇は愉しさを刷いた。大きな剣の振りと斬撃の音で群れの注意を引く。
サンディがそうして敵を次々と倒しながらも、彼の元へ向かわぬ剣も多かった。
その内の一振りが、著作を手にしたまま立つ英を捉えて、飛んだ。
──さて、これだけの剣をどうするか。
思索に耽る英は、迫る凶刃を目視しながら後退していく。
「一本を鯨に見せる……そのような事は出来ないね」
鯨の反応は知りたいところだ。人間や外から来た者には判断つかない部分も、島の生き物であれば感づく可能性がある。難点としては、おとなしく連れていかれる性分でないのが、火を見るより明らかなことか。暗黒に棲息し続けた魔剣の心境や如何。
首を横に振り、英は著作を開く。滲んだ情念が瞬く間に集まり、彼の前へ立った。襲い来る敵をねめつける様は、正しく獣だ。
「問おう」
ぱたん、と本を閉じる。
「君たちは、私を見逃してはくれないのだろう?」
淡々と紡ぐ質問に、オブリビオンから返るのはまともな言葉ではない。
殺せ、殺せと繰り返すばかりだが、英に驚く素振りはない。
──分かりきった答えだ。
満足のいく答えは得られずとも、情念の獣から伸びた無数の腕が、禁忌に触れた魔の剣を掴んで暗闇へ引きずり込む。しかし黒に溶けた剣とは別の個体が、本をしまう英へと突き進んだ。剣は目にも止まらぬ速さで切迫した。当然、迷いや躊躇いなどないオブリビオンの放つ一撃は凄まじく、遮蔽物もない空間を英は走る。言葉通り、死に物狂いで。
そこへ、ストンと軽い音を零しながら槍が降ってきた。穂先は英を狙っていた剣の柄を的確に砕き、追いすがっていたものの動きを完全に止める。
「だいじょうぶです?」
みんなと一緒に、と考えて動くリティの槍だった。
「助かったよ、見事な一撃だった」
細長い息を吐き、英が返す。
戦況を確かめつつ攻勢にでていたリティは、よかったです、とだけ告げると槍を回収して再び剣の群れへ戻っていく。
仲間の後背を見届けた英は、壊れて消えゆく魔剣の名残を見下ろす。
あとはただひたすら、敵の攻撃を避けて、避けて、生き延びるのみだ──そう、英はいつだってただの人で在り続ける。
そのころ、戦線へ戻ったリティは槍を突き出した。白百合の刻印が入った刃で闇を裂き、矛先に燈した炎で視界を開く。
暗がりでも迷いなく、リティの小柄な身が跳ねた。剣が集った一帯まで飛び込んだ彼女は、勢いを殺さずに槍で薙ぎ払う。煌めいた炎の軌跡がリティの槍捌きを示し、魔剣の気を引く。
巨大な剣を敵が傾けたときには、もうリティの秘める感覚が、位置と距離を捉えていた。
「そこです!」
息を吐くついでに気合いを言葉へ転じ、魔性の切っ先を弾いたリティは生じた一瞬の隙に刺突する。緻密な装飾の狭間へ差し込んだ穂先を引っ掛けて、リティはぐっと握る腕に力を篭め、地を踏み締めた。
「そんな重いものをよんだら、すぐ分かるのです!」
言い終えるや否や、リティの唱えた魔法が瞬時に熱を刃から沸き立たせる。陽炎のように昇った熱の余韻は、すぐさま氷礫に換わった。それを敵の本体へと放ち、破壊する。
振りかざす剣。大きな刃が、地形もろとも康行を砕こうとする。しかし杖で距離を掴んでいた康行は、足元を崩されるより一瞬早く飛び退けた。
そして康行が紡ぐのは無言語り。近寄ってきた剣へ手向ける、言葉の魔法。在ることは無いのだと、言霊が宙空に踊る。
「お前達の遺志は受け取った」
虚無を込めた言霊は、言の葉の力をまざまざと見せ付ける。
「その心だけを残し、安らかに眠るといい」
魔術で張った網と自らの耳で相手の位置を把握したまま、康行は虚無の言霊を浴びせていく。
「龍への道は、俺達が受け継ごう」
あとに残るはただ、静寂のみ。
康行の目の前まで迫っていた剣など、はじめから「なかった」のだ。
静寂に包まれ消失した剣もあれば、言の葉の雨に降られた魔剣もある。
サンディが相対した数々の剣もそうだ。
「同胞って誰? 同胞は君たちを置いて行ったの? ひどいなぁ」
滝のようにサンディの口から飛び出す言は、いずれも敵を煽りに煽る。そうして負の情に苛まれた剣が、サンディに気を取られれば計画通りだ。サンディは火力を高めるべく精神を研ぎ澄ませ、解放した黒剣で叩き折っていく。一本、また一本と味わうようにじっくりと。
重厚な剣が為す此度の動きは、随分と大振りだ。動作を観察し続けたサンディには、避けるのも容易い。武器が何本襲い掛かろうと、黒騎士たる彼が攻めの手を止めることなど無かった。
「残されるのは悲しいよね、あっちへ送り届けてあげるよ」
声音は淡泊に、サンディは悪意が来た日からずっと戦い、喰らってきた力を揮い続ける。
一振りずつ減り、闇から賑やかさを失いつつあった。
けれど殺せと恨み言を吐く魔剣は、動揺しない。ただ人間を、生きとし生けるものを貪り死に染めようとするだけだ。
覚醒した剣の魔の手から逃れた英は、今もなお駆ける情念の獣が捕らえた刃を振り返る。ずるずると死へ引きずり込まれていく剣を直視し、物思う。
「……結末はどうであれ、勇者達ならこの剣の群れに勇猛果敢に挑むのだろうね」
勇者の名に相応しい勇ましさで。勇気をもって、諦めずに。
目映いほどの英雄譚が遍く受け入れられる理由を、英は痛感した。したのだが。
──結末はどうであれ。
その一点が、敵の猛攻を回避し続ける英の行動原理を表していた。
すぐ近く、突進して真正面から仕掛けていたのはリティだ。
直線状に穂先を突き出す素振りを見せながら、身を捻ることで敵の判断を眩ませた。飛んだリティは、招いた剣で迎撃を試みた魔剣の頭上へ舞う。
「とてもかなしいのですね……」
希望を宿した藍の瞳が、揺れる。
そして歎いてばかりの魔剣へと、天高くから槍で突き刺した。欠けた刃がぱらぱらと零れる中、抗おうとする魔剣を目の当たりにしてリティが白い息を吐ききる──留まるわけにはいかない。
だからこそ少女は竜を呼ぶ。彼女の穂先が貫いた塊を照らし、顕れたかたちを覚えて、過去が眠る海へと送るために。
「もう、終わりにしましょう」
朽ちた剣からは、恨みがましい声も聞こえなくなった。
大成功
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エドガー・ブライトマン
深々と積もり続ける怨み、憎しみ
うーん、重たい感情に満ちているらしい
私、呪詛だとかそういうのには疎い体質なんだけど
それでも伝わるほどに、本物なのだろう
暗く、重たい感情は自身さえも蝕む毒になる
暗い洞窟の奥底から、躯の海に還してやろう
……まあ、私にはそういう感情がわからないんだけれどね
忘れてしまうからさ
ごきげんよう、魔剣君
私は剣士ではないよ。確かに剣は使うけれど
私は、人間を守る王子様さ
あんなに大きな剣、レイピアでは適わないだろう
なら、ひとつしかないか
剣の重たい一撃は、なんとか捨て身でもレイピアで受ける
ちょっと無茶かな?いいんだ、間合いを詰められるなら
頼んだよ、レディ
“Eの献身”
これも手向けの花かもね
薙殻字・壽綯
かなしいですね、ここは。……憎悪は、否定しません。この地獄の釜の蓋を開けたのは私たち、敵です
……換気しませんか。外は綺麗でした。……空気も澄んでいましたよ
私に、死を誘いますか。……申し訳ありませんが、私はまだ地獄には行けません。筆を折るまでは。生きねばなりません。……今は、まだ、ずっと、しばらくは。物を書くつもりはありません。…人探しの途中ですので。捧げるのは、鉛玉の劇薬にします
戦闘は、周りに合わせて行動します。被弾しそうな方がいれば、救助活動として制圧射撃を、敵に
透明になるのですか。…疲労は、するのですね。……それでは、疲れているところに軽機関銃を使い、医術として気付薬の弾丸を撃ち込みます
闇黒を仰いで、薙殻字・壽綯(物書きだった・f23709)は小さな息を吐く。
「かなしいですね、ここは」
呟きもまたか細く暗がりに溶けた。
うーん、と唸ってエドガー・ブライトマン(“運命”・f21503)もまた、開けた空間を見渡す。深々と積もった怨みや憎しみが、この筒闇を生み出しているように思えた。
──呪詛だとか、そういうのには疎い体質なんだけど。
禍々しく呪う気配も、突き刺さる殺気も、エドガーからは程遠い存在だ。
なのに伝わってくるオブリビオンの、淀んだ感情。
それは本物なのだろうと、エドガーは唇を引き結ぶ。
「ごきげんよう、魔剣君」
恭しく見せた彼の挨拶に、敵は応じない。
剣士に執着するだけで、礼に礼を返すことすら知らないのだろう。あるいは、忘れてしまったのかもしれないが。
──随分と根深い毒だね。
洞窟を浸す重たさ。剣の存在を歪め蝕んだ暗いそれは、エドガーの肌身にもひしひしと伝わってきた。
知ったところで、肩を竦めるだけだ。
──まあ、私にはそういう感情がわからないんだけれどね。
すぐにでも忘れてしまうものだ。それは、双眸の輝きが失せない理由のひとつでもあった。
直後、不可視の刃が壽綯を襲う。だが壽綯は、言葉を伝える変わりに気配を手繰り、目に映らぬ一撃を避けた。
「……憎悪は、否定しません」
見えず触れられぬ壁が、壽綯と敵の間にそびえ立つ。距離を置きたい心と、死へ誘う嘆きを前にした想いが渦巻いた、彼の心境を現して。
「この地獄の釜の蓋を開けたのは私たち、敵です。ですが……」
深く息を吐き、かぶりを振った。
「申し訳ありません。私はまだ、地獄にはいけません」
筆を折るまでは、生きねばならない──物を書くつもりがあるかは別として。
剣士を殺せと漏らす怨言に揺らぎはないが、数が減ったかれらの動作に揺らぎが生じているのを、壽綯は見逃さない。頃合いを見計らい、蝟集めがけて壽綯が銃口を構えた。
けれど撃ち出すのは鉛玉ではない。
「私は、人探しの途中ですので」
告げた途端に壽綯は、自身の武器を無数の花びらへと変える。はらはらと零れる南天は色褪せて、しかも止まずに降った。壽綯の内で湧き続ける感情を示すかのように、ずっと。
強烈な劇薬と化した南天の花吹雪が、一振り、また一振りと剣から魔の力を消し去っていく。力を損なった剣は崩れ、あるいは倒れて闇に溶けた。
それでもまだ、残る積怨は拭えない。
「剣士ヲ……剣士ヲ殺セ、ニンゲンヲ……」
「私は剣士ではないよ。確かに剣は使うけれど」
エドガーは片目を瞑ってみせた。
「私は、人間を守る王子様さ」
そして空間に漂う冷気を払うような仕種で、彼は左腕をかざす。すると、腕に可憐なバラが咲いた。己の色艶を保ち続ける一輪のバラが。
微笑するエドガーの眼差しは柔く、憑依するバラの力を解放した。
「頼んだよ、レディ」
恨みつらみが募るばかりの戦場を茨が這い、花弁が舞い散る。記憶の断片を糧にした茨と花弁は、遺恨に満ちた剣を切り裂いていく。そっと寄り添う撫で方で、刃や装飾に触れたところから裂傷が刻まれた。
直後、欠けた刃も厭わずに、魔剣がそんなエドガーへ仕掛ける。現れた剣は巨大だ。エドガーどころか、辺りの造形をも断ち切らんばかりに。サイズを痛感したエドガーは、振り抜いたレイピアをちらと見やり、これでは適わないだろうと小さく唸る。
──なら、ひとつしかないか。
大きな剣が容赦なく、冷えきった空気ごとエドガーを叩き斬る──斬ろうとした刃を細身のレイピアで受け止め、滑らせた。
「……ちょっと無茶かな?」
流した刃はエドガーのすぐ脇、地面を砕く。破砕の勢いは凄まじく、エドガーの足場も含めその一帯を一瞬で抉り、崩した。おっと、と呟きながらふらつく身を保とうと、エドガーが跳ねる。地形に変化が生じたところで、寄せた間合いに変わりはない。
そのとき。
彼の前方、雲集していた剣へと銃弾の雨が降り注ぐ。無数の鉛が剣や辺りの地に痕跡を残し、かれらの動きを阻むのにも一役買った。
エドガーが振り向くまでもない。壽綯だ。
敵を牽制する壽綯の手には、軽機関銃が握られている。集弾性に優れた軽機関銃で、壽綯はまさに軽々と空間を制した。
「……換気しませんか?」
陰気な空間の最中、壽綯が剣へ告げる。
「外は、綺麗でした。……空気も澄んでいましたよ」
「綺麗……綺麗ナモノナド、何処ニモナイ」
「同胞ノ無念ヲ晴ラス事コソ……何ヨリモ澄ンデイル……」
応じたものの、やはり魔に魅入られた剣たちは揺らがない。
言いながら火力支援に勤しむ壽綯へと、エドガーが掲げた片手で礼を告げる。そしてすかさずエドガーは魔性の群れへと左腕を伸ばす。
「さあレディ、何度でも踊ろう」
朗々と紡いだエドガーの言に、腕のバラが応じた。凍てついた世界を再び茨が伝い、花弁が舞う。
暗がりであろうとバラは咲き誇り、怨嗟をのみ込んでも茨は瑞々しい。
エドガーの望むままに笑んだバラは、瞬く間に剣の一群から戦意を、そして今にしがみつく過去を奪う。骸と化してもなお嘆きに囚われ、行く宛てもなく留まる旧怨に与えたバラは、きっと。
──これも手向けの花かもね。
躯の海へと還る魔剣を見届けて、エドガーは薄らと微笑んだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アルバ・アルフライラ
ジジ(f00995)と
随分と血肉に飢えておるらしい
…ほれ貴様等の敵は此処ぞ?
見事心の臓を穿ち殺してみせよ
些か心配症な従者に苦笑して
闇を打ち払うべく【愚者の灯火】を召喚
満遍なく包めば敵の全容を知れよう
攻勢に転ずるのはそれからで良い
魔剣共を相手取るに足りぬならば、高速詠唱で新たに魔炎を召喚
憎悪ごと灰燼に帰してくれよう
不可視化した斬撃を避ける事は容易ではない
ならばと我が周囲に炎を配置
炎の揺れを手掛りとして剣の位置を推測、見切りを試みる
回避が遅れようと急所を突かれなければ問題ない
何より私の在処を弟子に伝えられる
肩に乗る柔い感触に瞬く瞳
…矢張りお前は心配症よな
澱みが消えたならば
彷徨える魂は、天へ還るのみ
ジャハル・アルムリフ
師父(f00123)と
…似合いの本能だな
斬るための道具であり
戦場で屍の上に立つ墓標としては
…師父
本当に狙われてはと挑発を諫め
庇い隠すように一歩前へ
希なる石を穿ちたければ
先ずは俺を貫いてみせよ
師の炎が統べる空間へ躊躇せず駆け
異質な揺らめき、風切る音を<第六感>で以て感知
<範囲攻撃>に<衝撃波>乗せた【竜墜】を叩き付ける
地に落ちる剣も音で知れよう
鈍ったものから黒剣で砕く
炎の中、一層輝く光だけは見失わぬよう
斬られようと血を流そうと
決して、あそこから見える場所で膝は突くまい
炎消えたあとは師に外套を
急な温度変化は貴石の身体に障る故
…奴等の飢えも癒えたろうか
天へ…か
…何処へ至ったのだろうな、彼らは
深い闇だけが、この場を支配しているのではない。
来る者すべてを拉ぐほどの怨嗟が、剣の群れを唸らせている。
殺せと繰り返す意は凄まじく、剣士への執着がオブリビオンを奮い立たせた。
似合いの本能だと、ジャハル・アルムリフ(凶星・f00995)は唇を引き結ぶ。
剣は斬るための道具だ。そして安らぐことのない戦場で、屍の上に立つ墓標にもなる。ジャハルが見渡せば、そこはもう戦場だ。佇む魔剣が数振り、自分たちへ憎しみを吐き出している。そのとき。
「……ほれ、貴様等の敵は此処ぞ? 見事、心の臓を穿ち殺してみせよ」
アルバ・アルフライラ(双星の魔術師・f00123)は、総身に浴びるかれらの飢えへ告げた。血肉を欲し、過去に縛られたかれらの生き様は、オブリビオンたる証。
「……師父」
遠慮のない挑発をジャハルが諌める。その片腕を、覆い隠すためにアルバへ伸ばし、前へ歩み出て。
「希なる石を穿ちたければ、先ずは俺を貫いてみせよ」
宣言は迷いなく。歩む足取りも力強く。
そうして進むジャハルの後背を双眸に映して、アルバは苦笑いを浮かべる。些か心配症な従者だと僅かに肩を竦め、無数の炎を細い指先から放つ。
──如何な暗黒であろうと、満遍なく包めば敵の全容を知れよう。
得意げに笑むアルバの判断に違わず、延焼していった炎の魔力が闇を払う。完全にではなくとも、洞窟内を仄かに明るくさせた。尚も蠢く闇はあれど、攻勢に転ずるのには適している。
アルバは弟子へかける言よりも速く、呼吸の繰り返しにも似た調子で、更に魔炎を召喚した。
「憎悪ごと灰燼に帰してくれよう」
ふふん、と唇に笑みを刷き、アルバは蝟集する剣たちを目で認める。
彼の炎が統べる空間へ、ジャハルは駆けた。彼の研ぎ澄ませた感覚が、風を切る音、異なる揺らめきを察知し、一撃を見舞うための力となる。
「墜ちろ」
一言は呼気のように。揮う拳は竜の力と呪詛を得て、刃を破砕する。砕いた勢いを削がず、衝撃が波打ち近くの魔剣を巻き込む。
そこへ、別の個体がジャハルを襲った。叩きつけた一撃は重くも狙いは外れ、ジャハルの身は軽やかに跳び退く。一帯の地形を崩そうとも、ジャハル本人に届かぬ攻撃に意味などない。
直後、不可視の斬撃がアルバめがけて迫りくる。闇の助けもあって避けるのも容易ではないと彼自身、油断せずにいた。
ならばとアルバが燈したのは、闇に劣らぬ炎。自身の周囲に浮かせれば、火影が踊り始めた。明るさを得た視界にも構わず、魔剣は飛び込む。
アルバは揺れる炎を手掛りに、位置を推測して瞬時に見極めた。
直後、気品溢れるアルバの青が剣の動作を映し、ちらつく刃を躱す。
そうして咲き誇る光を、ジャハルは見失わない。たとえ一瞬であろうと、遥か遠くであろうと。
けれどいま彼の目に映るのは、目映い輝きだ。周りが暗いゆえに一層強く見えて、ジャハルは短い息を吐く。安堵と決意が入り混じり、彼の手足へ更なる熱を燈した。
この身が斬られようとも。全身から血と痛みを流そうとも、ジャハルは決して。
──あそこから見える場所で、膝をつくまい。
星護る竜はそこで音を捉えた。からん、と欠けた刃が転がった音だ。崩れた均衡を整えようとした刃を、すかさずジャハルが砕く。向けた黒剣で、残る影をも喰らうように。
暗闇に最後の剣が溶けた。殺気の消えたあとの筒闇は、炎と光が照らすばかりだ。
夜のしじまにも似た静けさが、洞窟の奥にも蘇る。
凍てつく迷宮に響いていた嘆きも、もう聞こえない。満ちる不穏な気配も消え去った。
そんな中、沈黙を破るよりも先に、ジャハルはアルバの肩へ外套をかけた。柔い感触に肩背がくるまれ、アルバがぱしぱしと瞬く。
「急な温度変化は、貴石の身体に障る故」
端的に述べたジャハルの、あまりに真面目な顔を見つけてアルバは思わず目を細めた。
年齢云々と口に出さない分、小突く理由は無いのだが、言い返す理由ならばある。
「……矢張りお前は心配症よな」
頑として譲らぬ姿勢に、アルバは込み上げた笑いを飲み込む。
僅かに上下する彼の肩も知らず、ジャハルは静寂が漂う空間を眺める。
飢えも癒えたのだろうかと言葉にしてみれば、声音は思いのほか穏やかだった。情けをかけたわけでも、怨嗟に惹かれたわけでもなく、ただジャハルの秘める純一なる部分が、そう問わせる。
問いに賢答を授けるのが、師の務め。アルバは疾うに暮れた空の気配を手繰り寄せ、そっと答える。
「澱みが消えたならば、彷徨える魂は、天へ還るのみ」
ジャハルもつられて仰ぎ見るが、洞窟の空は未だ暗い。
「天へ……か」
呟きはか細く、清められた闇に落ちる。
「……何処へ至ったのだろうな、彼らは」
尋ねたい当人らの姿もなく、残らぬ跡は辿れない。
常闇が眠るだけの洞窟の奥で、ふたりは間もなくきびすを返した。
もはや居残る理由もなく、明けの空を拝むにはちょうど良い時間だろう。
長い時間をかけて募った行き場のない怨恨も、漸く夜明けを迎えようとしていた。
抱くはずのなかった暁を、洞窟に遺るものへ届けたのは、紛れもなく猟兵たちだ。
大成功
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